ほむら「幸せのまどか様」(349)

◆◇◆◇

ほむら「全て―― 終わったのね」

 世界は救われたのだ
 まどかの願いによって、魔法少女が魔女になることはなくなった
 
ほむら「……」

 開け放たれた窓から、桜の花びらが病室へ舞い落ちる

ほむら「私はまたここに戻ってきたのね……」

 魔力を込めて変身しても、かつてのように時間を止めることができなかった
 契約は失効してしまい、二度と時間を跳躍することはできないようだ


 護りたかった大切な友達は、この世界のどこにもいない

 
 まどかは、私の手の届かないところに行ってしまった――

QB「奇妙な反応を感じてきてみれば…… キミは魔法少女なのかい?」

ほむら「ええ、そうね……」

 いつものように穏やかな口調でキュゥべえは話しかけてきた
 恐らく、私という存在がどのようなものかを確かめるためにきたのだろう
 
QB「どういことだい? ボクはキミと契約を交わした覚えはないよ」

ほむら「貴方のほかにも、魔法少女と契約を結ぶことのできる存在がいるのかもね」

QB「ありえない話じゃないけれど、非現実的だね
   この惑星はボクの管轄だ―― 人が文明を手に入れて以来、ずっとね」

QB「魔法少女ということなら、キミも魔獣と戦ってくれるという認識でいいんだよね?」

ほむら「……魔獣? 魔女じゃなくて?」

 まどかの祈りによって、魔法少女が魔女にならなくなった世界では
 魔獣というものと戦っているのだろうか……?
 
QB「魔女……? 君は一体何を言っているんだ」

ほむら「……その話、詳しく聞かせてほしいわ」

――高層ビル屋上――

QB「なるほどね 確かに君の話は、一つの仮説としては成り立つね
   だとしても、証明しようがないよ」
   
QB「君が言うように、宇宙のルールが書き換えられてしまったのだとすれば、
   今の僕らにそれを確かめる手段なんてない訳だし」

QB「君だけがその記憶を持ち越しているのだとしても――
   それは、君の頭の中にしかない夢物語と区別がつかない」
   
ほむら「……」

 私は覚えている、まどかのことを――
 彼女から託されたリボンを指に絡ませて、彼女のことを思い出す

QB「それじゃあ、頭の中の世界と現実の区別がつかなくなった
   妄想癖の魔法少女に、この世界のことを説明するよ?」

QB「……と言っても、キミの話した世界と大差はないんだけどね」
   
QB「大きな違いといえば、キミの言っていた魔女というものは存在せず
   人の世の呪いが具現化した存在である魔獣と戦っていることだけだよ」

ほむら(世界の歪みは形を変えて、今も闇の底から人々を狙っている――)

ほむら(悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界……)

QB「ボクたちの世界では、魔獣から得られるエネルギーでバランスを保っているわけだ」

QB「だからボクはキミの妄想世界のインキュベーターとは違って
   魔法少女同士の戦いなんて求めていないからね」
   
ほむら(キュゥべえがこんなことを言うなんて信じられない……
    コイツの言っていることを鵜呑みにするのは危険すぎる)

QB「っと、他の魔法少女が呼んでいるみたいだ……」

ほむら「そう、だったらこの話は終わりにしましょう」

QB「そうだね…… キミがボクたちの敵でないかどうかは、
   今すぐに見極めることは難しそうだし――」


 世界は変わった―― 魔法少女が魔女にならなくなった
 でも、ただそれだけではないようだった

 
 
 キュゥべえの話を信じるとすれば、インキュベーターは人に歩み寄り

 共生といっていいほど関係を築いている 
 
 
 魔獣という存在は、魔女が存在しなくなった矛盾を解消するために現れた……

 彼女のたった一つの願いが、この世界のあり方に影響を与えているというの?

 雲のように消え去さったキュゥべえを見送って、私は夜の街を見下ろす
 彼女が護った世界―― それを私は覚えてる


 私は再びリボンを自分の髪に結び、立ち上がる
 同時にソウルジェムが微かに震えるのを感じとった


ほむら「……キュゥべえの言っていた瘴気というヤツかしら
    なんだか魔女の気配と似ているわね」

ほむら(この世界での始めての戦いになりそうね)

ほむら「全く、惨澹たる世界だこと……」


 それでも―― それでもここは――


 かつてあの子が守ろうとした場所なんだ
 決して忘れたりしない だから私は――


 あの子の護り抜いたこの世界で戦い続けてみせる

――学校――

ほむら「暁美ほむらです、これからよろしくお願いします」

さやか「うわーっ、すっげー美人……」

仁美「素敵な方ですわね」

 教室を見渡してもまどかの姿がどこにもない
 当然だ…… 彼女はもうこの世界には――

早乙女「貴方の席は美樹さんの隣よ」

さやか「おっす転校生、あたしの名前は美樹さやか これからよろしくね」

ほむら「えぇ、よろしく頼むわ……」

 何度も繰り返したやり取りだが、今回ばかりは少し勝手が違う
 いつもならば、私達の間にはまどかがいたはずなのだ

早乙女「それじゃあ授業を始めたいと思います テキストの――」

ほむら(退屈ね……)

ほむら(学校なんて辞めてしまおうかしら……
    学校に通っていなくても魔獣退治はできるわ)

――――

さやか「おーい、転校生ー ちょっと待ってー」タッタッタ

ほむら「何かしら?」

さやか「一緒に帰ろうよ」

ほむら「べつに構わないけど……」

仁美「まっ…… 待ってください…… さやかさん」ハァハァ

さやか「だらしないぞぉ、仁美」

仁美「そんな…… さやかさんが急に走り出すから……」

ほむら「志筑さん、大丈夫?」

仁美「だ、大丈夫です お気遣い有難うございます」

――――
さやか「しっかし、転校生は凄いよっ 文武両道才色兼備……」

ほむら「そんなことないわ……」

仁美「謙遜なさらないでください…… 事実、高飛びでは県記録更新だと先生が――」

さやか「くぅ~ その才能の一つでもあたしにあればなぁ」

 3人で他愛のない話をしながら、私達は帰路に着く

仁美「それではお二人とも ごきげんよう」

さやか「おー、それじゃあまた明日ねー」

ほむら「さようなら」

――――
さやか「それじゃ、あたしはこっちだから」

ほむら「ええ、美樹さん さようなら」

さやか「んー、また明日ー」

ほむら「……」

 彼女の後姿を見送りながら、少し考える――
 この世界でも美樹さやかは魔法少女となるのだろうか?

ほむら(そうなったら、まどかは悲しむかな……)

――数日後――

さやか「ほーむらっ、そろそろ学校には慣れた?」

ほむら「気安く名前で呼ばないで」

さやか「そんなつれないこと言うなよー」

ほむら「……はぁ」

 これは彼女なりの気の使い方だ
 クラスに馴染めない私を思って、気にかけてくれている

ほむら(正直うんざりすることもあるけれど……)

さやか「仁美のヤツ、今日は稽古事ないんだってさ
    だから一緒に駅前のハッキンビーフバーガーいこうよ」

仁美「私も暁美さんとお話がしたいですわ……」

ほむら(放っておいて貰えるのが一番楽だけど……
    まどかの友達だった人の誘いは無下にできないわね)

ほむら「分かったわ」

さやか「おお、いつもクラスメイトのお誘いを断るほむら姫の了解が得られたぞっ!」

仁美「さやかさん、やりまわしたわね」

ほむら(やっぱり断っておけばよかったわ……)

――ファーストフード店内――

さやか「あー、ほむらのそれ新作?」

ほむら「そうみたいね……」

さやか「私にヤツと半分こにしない?」

ほむら「もう一つ注文してくればいいでしょうに」

さやか「流石のあたしもバーガー二つは食べきれないわー」

――――
さやか「それでさぁ、ウチの馬鹿犬がね――」

仁美「その話、前にも聞きましたわよ……」

さやか「あれ? そうだっけ…… ごめんごめん」テヘッ

――――
仁美「そういえばさやかさん、中間考査の対策は進んでますの?」

さやか「そんなこと聞かなくても分かるでしょ……
    ほむらはどうなの? 前の学校と違って勉強が難しかったりは―― 」

ほむら「何も問題ない」

さやか「……今度あたしに勉強教えてよー」

ほむら「本当にやる気があれば、教えてあげないでもないわ」

 女子中学生らしい会話に花を咲かせて店を後にする
 店の外に出たとき、私達は雨が降っていたことにようやく気がついた

さやか「うわっ、振ってきたか……」

仁美「私は折りたたみ傘がありますけど」

さやか「このくらいの雨なら、走っていけば平気だよっ」

ほむら「美樹さん」

さやか「なに?」

ほむら「そんなことをしては風邪を引いてしまうわ」

さやか「でも――」

ほむら「私の傘は大きいから、一緒に入っていけばいいわ」

さやか「……ほむらからそんな事言ってくれるなんて」ウルッ

仁美(キマシタワァ-)クネクネ

ほむら「志筑さん…… どうかしたの?」

仁美「い、いえっ 何でもありませんわよっ」

――――
仁美「甘いひと時を~」

さやか「……ごめんねー、仁美のヤツたまにあーなっちゃうんだよね」

ほむら「そう……」

さやか「悪いやつじゃないんだけど…… あの変な癖がなければなぁ」

ほむら(変わらないわね―― )

さやか「ん? 今なんか言った?」

ほむら「いえ、なんでもないわ」

さやか「ほんと~?」

ほむら「しつこいわね…… そんなことだから――」

 ……ソウルジェムが震え出し、瘴気の気配と魔獣の存在を感じとった
 私がこの世界にやって来てから、魔獣は引っ切り無しに現れている

ほむら「ごめんなさい美樹さん、急用ができたわ
    傘は持っていっていいからっ」
    
さやか「ちょ、ほむらっ どこいくんだよ――」

さやか「いっちゃった…… なんなのよアイツ……」

――路地裏――

QB「早かったね」

ほむら「近くをいたから―― 貴方こそ既に現場にいるだなんて仕事熱心ね」

QB「ボクは魔獣を感知して魔法少女たちに知らせなくちゃならないからね
   ……キミが駆けつけ来たから、その必用はなかったわけだけど」

魔獣「ティヒヒヒヒヒ――」
魔獣「イーヒヒッヒhッヒ――」
魔獣「アンマウェーーー」

ほむら「うじゃうじゃと目障りね……」

QB「ここのところ見滝原近辺で魔獣が大量発生している……
   いったいどうなっているだ……」

ほむら「ぼやいていても仕方がないわ」

ほむら(彼女の世界を乱すものは、私が排除する――)

――――
ほむら「ふぅ…… これでお終いかしら」

 私は最後の一体に矢を放つ 使い慣れた得物とは違うため
 以前よりも上手く立ち回れていないと実感させられる……

QB「どうやら魔獣は引いたみたいだ…… キューブを回収しよう」

魔獣「ティヒヒヒヒヒ」

ほむら(――!?)

QB「生き残りがいたのか!? ほむら、伏せてっ」

 咄嗟の事だったので、いつものように左手に意識を集中させてしまう
 今の私には時間操作の能力はなくなっているにも関わらず――

**「――詰めが甘いよ、ほむらっ」ザシュッ

魔獣「ギャズビゴー!」

 藍色の閃光とともに、見慣れた格好の少女が現れる
 白いマントを翻し、蒼の衣を纏い長剣を振るう魔法少女――

さやか「愛と正義の死者―― さやかちゃん、見参っ!」

ほむら「美樹……さやか……!?」

QB「さやかっ!」

さやか「間に合ってよかった」

ほむら「貴女…… 魔法少女だったなんて――」

さやか「んー? ま、ついこの間なったばっかりなんだけど」エヘヘ

QB「ボクは散々止めたんだけどね…… 
   何不自由ない人間が魔法少女になったって、いいことなんてないからって」

さやか「あたしは感謝してるよ? 恭介の腕が治ってさ……」

QB「ゾンビとなって、魔獣を退治する石ころにされたのにかい?」

さやか「恭介の腕に比べたら、あたしの価値なんて石ころにも満たないもの」

QB「ったく、本当に人間ってやつは愚かだよ
   どうして自分をもっと大事にできないのかなぁ……」

ほむら「貴女は最初から私が魔法少女だと知っていたの?」

さやか「……キュゥべえが暁美ほむらはイレギュラーだから気をつけろって言っていたけど
    同じクラスメート同士で魔法少女なんて、すっごい偶然だと思ってさ」

さやか「なんつーかこれって、運命ってヤツじゃないかと思って――」

ほむら「運命って…… 呆れたわ 貴女は正真正銘の馬鹿よ」

さやか「そいうわけだから、よろしく頼むよ―― 先輩?」」

ほむら「何よそれ……」

さやか「あたしよりずっと前から魔法少女やってるんでしょ? だから、先輩」

QB「彼女は新人だからね…… ベテランのキミが面倒を見てあげてよ」

ほむら「何を言ってるの? 魔法少女同士はキューブを奪い合って――」

QB「そうだね、魔法少女同士が衝突することは珍しくない
   でも今この街は異常な数の魔獣に狙われているから、獲物の心配は必要ないよ」

ほむら「……」

QB「そもそも美樹さやかみたいな何不自由ない少女と
   契約はしたくなかったのだけれど、猫の手も借りたい状況だからね……」
   
QB「戦力増強のため、泣いて馬謖を切ったわけだ――
   だからボクからも頼むよ、彼女を一人前の魔法少女に鍛えてほしい」
   
ほむら(この世界のキュゥべえは本当に何を考えているのか全然分からないわ……)

さやか「というわけで、魔法美少女コンビ結成ってわけで、おけ?」

ほむら「勝手にしなさい…… 足手まといになるようなら、見捨てていくわよ」

さやか「今さっきあたしに助けられてた癖にぃ~?」ニヤニヤ

ほむら「……」スタスタ

さやか「あれ? 怒った? ごめんごめん、まってよ~」

ほむら「…あ…り……と」

さやか「え?」

ほむら「助けてくれてありがと」

さやか「……」ニヤリ

ほむら「それじゃ、私帰るから…… 貴女も早く――」

さやか「待ってよ、ほむら~」ダキッ

 降り続いていた雨で冷やされた体に、彼女の体温が触れて妙にくすぐったく感じる
 彼女のぬくもりにあてられて―― 思わず悪態をついてしまう

ほむら「ちょっと、抱きつかないでよ鬱陶しいっ」

さやか「別にいいじゃん、照れんなよー」ウリウリ

QB「うんうん、仲良きことは美しき哉……」

――数週間後――

さやか「美樹妙見流、奥義―― 魂削りっ!」

魔獣「ティッヒィィィィー」

さやか「また…… つまらぬものを斬ってしまった」ドヤッ

ほむら「そういう無駄な動作がなければ合格ね…… 
   (美樹妙見流って…… 語呂が悪過ぎないかしら)」

さやか「えー、さやかちゃんのチャームポイントを全否定ですかっ」

ほむら「無駄口叩いてないでさっさとキューブを回収しなさい」

さやか「はいはい、わかりましたよー」

――――
ほむら「思った以上に上達が早くて安心したわ」

さやか「そ、そう? ほむらがあたしを褒めるなんて珍しいわね」

ほむら「……でも、あなたはもう少し状況判断できるようになったほうがいい――
    この前だって、魔力が底を突きそうな状況で人助けを優先していたわよね?」

さやか「この街の平和を護るのがあたしたちの仕事なんだから、当然っしょ」

ほむら「……あのね あなたが倒れてしまったら、誰がこの街を護るの?」

さやか「代わりなんていくらでもいるから大丈夫だって」

ほむら「私が言いたいことは、そういうことじゃなくて
    貴女が死んでしまったら、悲しむ人がいるっていうことを――」

さやか「あたしのことを心配してくれてるの?」

ほむら「そうね…… 貴女の両親や上条君や、志筑さん、貴女の友達がみんな悲しむわ」

さやか「……ほむらも?」

ほむら「当たり前よ…… さやかは私のともだ――」


 さやかが眼を輝かしながら私を見つめている
 私はバツが悪くなり、言いかけた言葉を飲み込みコホンと咳払いをする 

ほむら「――大事な戦力だからね…… いなくなると困るわ」

さやか「え゛ー 何よそれ さっき言いかけてた言葉は?」

ほむら「さてと、パトロールの続きに出かけましょうか」

さやか「ちょっと、待ちなさいよ!」

ほむら「さっさっとついてこないと、置いていくわよ?」

――ゲームセンター――

ほむら「この辺りに魔獣の反応はなさそうね……」

さやか「ねぇねぇ、ちょっと遊んでいかない?」

ほむら「遊びに来ているわけじゃないのよ」

さやか「デートでしたか……」

ほむら「違うわ」

さやか「えー、ちょっとくらい遊んでいこうよ」
    このガンシューティングで勝負っ」

ほむら「……本当に置いていくわよ?」

さやか「何? 負けるのが怖いって?」

ほむら「言ったわね…… 私が射撃の名手だとも知らずに――」

さやか「ふふふ、さやかちゃんはこのゲームをやりこんでいることも知らずに
    挑戦を受けるとは―― 飛んで火に入る夏の虫とは、あんたのことだっ」

さやか「え…… ハイスコア更新?」

ほむら「ざっとこんなものね」

**「おー、やるじゃん」

ほむら(ダンスゲームが置いてある方向から、聞き覚えのある声が――)

**「んじゃ、もうちょっと難易度上げていこうか」

ほむら(そういえばここは佐倉杏子がよく通っていた店だったわね)

さやか「どーした? ぼけっとして」

ほむら「いえ、なんでもないわ」

ほむら(この街に発生している魔獣を駆除するために
    キュゥべえが呼びよせていても不思議じゃないか……)

杏子「よっ、ほっ」タンタンタン

ほむら(態々こちらから声をかけて面倒を起こすのは避けた方がいいわね)

さやか「ほむらっ、次あれやらない?」

ほむら「だから、遊びに来てるわけじゃないって言っているじゃない……」

――ほむホーム――

さやか「いやぁ…… 遊んだ遊んだ」

ほむら「貴女には緊張感が足りない…… きっといつか痛い目を見るわ」

さやか「そのときはよろしく」

ほむら「よろしくって何よ……」

さやか「そして今晩とまっていくからよろしく」

ほむら「……そんなこと聞いてないわよ?」

さやか「うん、今言った」

ほむら「そのマイペースすぎる性格、どうにかならないの?」

さやか「無理だねー」

ほむら「はぁ…… これじゃあ誰も貰い手が見つからないわね……」

さやか「そのときはよろしく」

ほむら「着払いで送り返すわ……」

――バスルーム――

ほむら(美樹さやかの相手は疲れるわ…… 
    まどかはよくあの子と仲良くやっていけていたわね……)


 少し馴れ合いが過ぎているかもしれない――
 でも、純粋に彼女と一緒にいる時間が楽しいとも感じてしまう


ほむら「ねぇ、まどか…… 貴女のいない世界なんて、
    ユメもキボーもないと思っていたけれど」


 どうしてもまどかが美樹さやかのことを助けたかったのか、今なら分かる気がする
 一途で思い込みの激しい、優しくて正義感の強い、どこまでも真っ直ぐな子――


ほむら「それなりにうまくやっていけそうよ……」


 私の最高の友達が護ったこの世界を、そこそこの友達と歩んでいくわ


さやか「ほむらー、一緒に入っていい?」

ほむら「蜂の巣にされたい?」

さやか「……ああっ、愛が激しい!」

――――
ほむら「ずっと気になっていたんだけど、上条恭介との仲はどうなってるの?」

さやか「へ? 何よそれ?」

ほむら「貴女、彼のために願いを使って――」

さやか「あー、ほむらもあたしのことをそんな風に思っていたわけ? ちょっとショックだなぁ」

ほむら「……?」

さやか「別にアイツとはそんな関係じゃないし、望んでなんかないよ
    腐れ縁で親友、それ以上でそれ以下でもない」
    
さやか「強いて言うなら、あのバイオリンの音に恋をしていたのかもしれないなぁ……
    ほむらもね、アイツの音楽を聞いたら絶対に感動するんだから――」

ほむら「貴女がそこまで言うんだから…… きっとそうなのね……」

さやか「あー、信じてないでしょ…… いいよ、恭介が完全復活したら
    コンサートに連れて行ってあげるから覚悟しておきなさいっ」

ほむら「ええ、楽しみにしてるわ……」

さやか「……ん」

ほむら「どうしたの?」

さやか「なんかこいうの、懐かしいなぁって」

さやか「こうやって友達の家で一つの布団で寝泊りすることなんてなかったはずなのに
    どうしてだろう、なんだかとっても懐かしい気がして」

ほむら「……」

さやか「ごめん、訳分からないこと言っちゃって」

ほむら「貴女が意味不明なのはいつものことでしょ……」

さやか「そうそう、いつもの―― っておいっ」ビシッ

ほむら「程度の低い乗り突っ込みね……」

さやか「あーあー、いつになく真面目に話をしていたのになぁ」

ほむら「ごめんなさい……」

さやか「素直に謝られるほどのことでもないんだけどさー」


 まどかの存在は、綺麗さっぱりなくなったかと思っていた


 曖昧だけど―― 其処此処に残っているものなのかもしれない


 さやかの懐かしさの原因は、私の―― 私たちの大切な友達のことだろう

――――
ほむら「電気、消すわよ」

さやか「うん」

さやか「ありがとね……」

ほむら「何よ藪からスティックに」

さやか「恭介の腕のためとはいえ、やっぱり化け物と戦うなんてできるか不安だったから
    ほむらが居てくれて本当に助かった 一人じゃ心細くてやっていけてなかったと思う」

ほむら「いつになく弱気ね……」

さやか「小さい頃から、女だって舐められるのは嫌いだったし、
    男には負けないぞーって頑張ってきたから……」

さやか「だから本当のあたしは弱虫で――」

ほむら「貴女は強いわ 私なんかよりもずっとね」

さやか「そんなことないよ」

ほむら「ねぇ、さやか…… 私ね、貴女のこと疑っていたわ」

さやか「……?」

ほむら「キュゥべえと何か企んで、私のことを嵌めようとしているじゃないかって」

さやか「どうしてそんなことを?」

ほむら「イレギュラーである私に近づいてくる魔法少女なんて怪しいじゃない」

さやか「そう…なのかな…… 私は魔法少女になったばかりだから良く分からないけど」

ほむら「そんなのことは杞憂だったわけだけど」

さやか「信用してくれるの?」

ほむら「もちろん これからもよろしく頼むわよ」

さやか「おうっ、最高の相棒を手に入れたんだから、大船に乗ったつもりで居なさいっ」

ほむら「超ドレッドノート級?」

さやか「いや、流石にそこまでは……ちょっと自信ないかも……」

ほむら「ふふ、期待してるわ」

さやか「ぜ、善処します……」

ほむら「ねぇ、さやか ちょっと昔話、してもいいかしら?」

さやか「うん、聞かせてほしい」


 私は訥々とかつての世界について語った さやかは一言も聞き漏らすまいと真剣に頷いてくれる
 全てを語り終えるには時間が余りにも足りなくて、気がつけば既に朝日が昇っていた――

――数日後、学校――

さやか「ごめん、付き合わせちゃって」

ほむら「別に構わないわ」

さやか「それじゃ、とってくるからここで待ってて」

 休校日、私はさやかに付き添って彼女の忘れ物をとりにきた
 ついていく必用なんてなかったけれど、ここのところ常に一緒に行動していため
 なんとなくついてきてしまった

――――
 彼女の帰りを昇降口で待っていると、一人の少女が近づいてきた
 砂糖菓子のようにふわふわとした見た目とは裏腹な、鋭い視線を向けてくる――

ほむら(巴マミ……?)

マミ「ロングの黒髪に(奇抜な)桃色のリボン―― 
   貴女がキュゥべえの言っていたイレギュラーね」

ほむら「……だったら?」

 巴マミは私を舐めるように、頭から足のつま先まで念入りに睨み付ける

マミ「私達に危害を加えるようなら、何か手を打とうかと思っていたけど……」

マミ「一目見ただけでは、なんともいえないわね……」

ほむら「私は貴女たちと戦うつもりなんてないわ」

マミ「それは喜ばしいわ…… その言葉に偽りがなければね」

ほむら「嘘なんてつかない―― できることなら協力して魔獣を退治したいくらだわ」

マミ「素性のわからないイレギュラーさんとは共闘するつもりはないの……」

 ごめんなさいね そう付け加えて巴マミはその場から立ち去ろうとする
 しかし少し歩いたところで突然その足を止め、頭だけをゆっくりと振り向かせて――

マミ「そうそう、大事なことを訊きそびれていたわ」

ほむら「何かしら?」

マミ「貴女…… 聞いたことある?」



―――――――――――― 『幸せのまどか様』って ――――――――――――

ほむら「……」

マミ「何も言いたくないって顔ね……」

さやか「ごめんごめん、遅くなったー」タッタッタ

さやか「……ってあたし、お邪魔だった?」

マミ「いえ、そんなことはないわ……」

ほむら「それでは、私達はこれで失礼します」スタスタ

マミ「ごきげんよう、暁美ほむらさん」

さやか「ご、ごきげんよう……」スタスタ

――――
さやか「はぁ…… なんか緊張したー」

ほむら「……」

さやか「ほむら、あの人知り合い?」

ほむら「私達と同じ、魔法少女よ」

さやか「じゃあ味方なの?」

ほむら「それは―― 私にも分からない……」

――数日後、ファーストフード店内――

 何故、どうして? 頭の中に次々と疑問が浮かび上がる
 巴マミがどうしてまどかのことを知っている?

ほむら(いえ、知っていたようには思えない――)

ほむら(どちらかというと、探りを入れてきている…… そんな感じだった)

さやか「おーい、聞こえてるかー?」

ほむら「ご、ごめんなさい、考え事をしていて――」

さやか「ちょっとしっかりしてよー 最近ずっとこんな感じじゃない……
    そんなんじゃ魔獣退治のとき、あっという間にやられるわよ?」

ほむら「ええ、その通りね……」

さやか「本当にどした? あたしの忠告を素直に受け入れるなんて―― 熱でもある?」

ほむら「大丈夫よ…… 大丈夫……」

さやか「心配だなぁ」

ほむら「心配性ね」

さやか「パートナー想いなだけだよ」

ほむら「恥ずかしい台詞禁止……」ホムッ

――――
ほむら「そろそろ出ましょうか」

さやか「そだねー 今日は早く家に帰って休もう」

さやか「っと、その前に…… お花を摘んで参りますわー」

ほむら「黙っていきなさい、黙って」

さやか「はいはーい」タッタッタ

ほむら「ふぅ…… 本当に賑やかな子」

 彼女の帰りを待つ間に、トレイに乗っていた容器をゴミ箱に放り込む
 再び席に戻って、巴マミのことを考えながら時間を潰す

ほむら(一体どうして彼女はあんなことをいったのかしら)

ほむら(まどか―― 巴マミは、はっきりとそう言った
    でも、幸せってどういう意味かしら……)

さやか「おまたー」

ほむら「……さやか、念のために聞いておきたいんだけど」

さやか「何さ、改まっちゃって」

ほむら「私が話した与太話、誰かに言った?」

さやか「言うわけないじゃん」

さやか「……どうしてそんなこと聞くの?」

ほむら「……」

さやか「話してくれないんだ……」

ほむら「ちょっと、気になったから」

さやか「あたしが言うわけないじゃん…… 二人だけの秘密だもの」

ほむら「……ごめんなさい」

さやか「なんで謝るのよ……」

ほむら「貴女が、他の人に話してしまったのかと思って――
    ちょっとでも疑ってしまった自分が情けないわ……」

さやか「悩んでることがあるなら、何でも相談にのってあげるから――」

ほむら「ありがとう…… でも、これは私が解決しなくちゃいけないことだから……」

さやか「そっか、じゃあ深く追求しないであげる……
    でも、本当に辛くなったらいつでも話してよね?」ニコッ

ほむら「ええ、そうさせてもうらわ…… 本当にありがと、さやか」

――数日後、路地裏――

さやか「美樹妙見流、 秘技―― 鬼斬りっ」ズバッ

魔獣「ティヒヒヒヒヒィィヤアアアアアアア」

さやか「ふふふっ この程度の雑魚、さやかちゃの敵ではなぁ~いっ」

ほむら(この数日間、まったくといって手がかりを得られなかった……)

さやか(ほむらのヤツ、やっぱり元気ないな……)

さやか「元気出してよ――」

QB「美樹さやか! 随分上達したようだねっ」

ほむら「キュゥべえ……」

ほむら(コイツに聞いてみるのは……危険ね 何を企んでいるかわからないわ)

さやか「まぁね、師匠が優秀だからかな」

ほむら「実力よ…… 誇っていいと思うわ」

さやか「だってさ~ 聞いた、キュゥべえっ」

QB「うん、ほむらのお墨付きを得たわけだから、
   次からは別々に行動してみるのはどうだい?」

さやか「別行動を?」

QB「そうだね…… 原因は分かっていないんだけど
   魔獣の増殖速度が加速しているみたいなんだ」

QB「手分けして魔獣を退治したほうが、住人の被害も抑えることができる」

ほむら「……」

さやか「でも…… ちょっと自信ないかも」

QB「最初は、ほむらから少し離れた場所で活動すれば大丈夫だ
   そうすれば直ぐに援護に迎えるからね 少しずつ慣れていこうよ」

さやか「それなら…… やってみてもいいかな」

ほむら「私は反対よ……」

QB「どうして? さっきキミは言っていたじゃないか
   十分な実力がついているって――」

さやか「……あたし、やってみたい」

ほむら「さやか、本気なの?」

さやか「街の人が護れるのなら、ちょっとやそっとの危険なんて屁でもないって!」

QB「それじゃ、明日からは別行動ということでよろしく頼むよ」

さやか「見滝原の平和は、このさやかちゃんに任せなさいっ」

ほむら「……」


――ほむホーム――

さやか「……」

ほむら「コーヒー、淹れたわよ」

さやか「うん…… ありがと」

ほむら「元気ないわね……」

さやか「ここのところのアンタに比べれば、そうでもないよ」

ほむら「そんなに陰気だったかしら」

さやか「あたしは心配で心配でたまらなかった……」

ほむら「……ごめんね、さやか」

さやか「謝っても許してやらねーし」ベーッ

――――
さやか「……不安なの」

さやか「キュゥべえにはああいったけど、一人で戦うのはやっぱり怖い」

ほむら「私と出会う前は、一人で戦っていたんでしょ?」

さやか「最初の数回だけ…… その後、直ぐにほむらに出会ったから」

ほむら「……今からでもキュゥべえを呼んで、撤回する?」

さやか「それはダメ」

ほむら「本当にいじっぱりね」

さやか「だから、今日は一緒に寝てもいい?」

ほむら「ここのところ、貴女の家か私の家でずっと一緒に過ごしてるじゃない」

さやか「一緒に寝ていい?」

ほむら「……構わないわ」

さやか「えへへ……」

さやか「……ほむらー」

ほむら「何?

さやか「呼んでみただけー」ニシシ

ほむら「……貴女ねぇ」

さやか「ゴメンね……」

ほむら「何で謝るのよ?」

さやか「いつも迷惑かけてばかりでゴメンねって」

ほむら「別に、迷惑だなんて思ってないわ」

さやか「うん……」ブルブル

ほむら「寒い?」

さやか「ちょっと」

ほむら「もっとこっちに寄りなさい」

さやか「……」ギュッ

ほむら「貴女って本当に子供ね……」ナデナデ

――翌日――

ほむら「それじゃ、何かあったら直ぐに知らせるのよ?」

さやか「うん……」

ほむら「落ち着いてやれば大丈夫だから」

QB「さて、そろそろ準備はいいかな?」

さやか「よしっ、魔獣なんてあたしの剣の錆にしてやるっ」

ほむら「その意気ね」

QB「ボクは美樹さやかについていくよ、何かあったら直ぐに連絡するから」

ほむら「分かった……」


――――
ほむら(さやかとキュゥべえを二人きりにするなんて危険すぎる……)
    
ほむら(こっそり後からつけて行ったら、何か尻尾を出さないかしら?)

魔獣「ティヒヒヒヒヒ」

ほむら「チッ、邪魔よっ」ビュン

ほむら「貴方たちの相手なんてしていられないの
    さやかにもしものことがあったら―― 」

ほむら「!?」

 いない、どこを見渡しても――
 そんなはずはないっ だってさっきまでそこにいたはずだ

ほむら「さやかっ!」

 答えは返ってこない―― 私の眼を離した隙に
 さやかはどこかに行ってしまったのだろうか……

ほむら「気に…… しすぎよね」

ほむら(私に気づいたから―― 私に見守られていると気がついたから
    だから私から逃げ出したに違いない)

ほむら「だって、さやかは負けず嫌いだから、きっとそうに違いない……」

 集合時間になっても、約束の場所にさやかは現れなかった
 悪戯好きの彼女だ きっと私をからかっているに違いない

ほむら「キュゥべえ! さやか! いい加減にしてっ!」

 返事はない―― 二人はどこまでも私をからかうつもりらしい

ほむら(私の家にもいない、自宅にも帰っていない)

ほむら「次に会ったら、悪い冗談はやめるように言い聞かせないとね……」


―――――
――


ほむら「さやか!」

 一日経っても姿を現さない


ほむら「キュゥべえ! 出て来なさい!」

 二日経っても――


ほむら「さやかっ! お願いだから返事をしてよっ」

 何日経っても――

 見滝原を一日中探し回る
 私たちが普段行きそうな場所は全て確認した、何度も、何度も――

 仁美や上条君も捜索に手伝ってくれたのだが、一向に見つかる気配はなかった

 さやかの両親は捜索願いを出していたけれど、
 魔獣絡みならば、警察の捜査なんて何の意味もなさない



ほむら「いい加減にしてよ……」

ほむら「こんな冗談ってないよ……」



『さやかあああああああああああああああああああああああ』



 泣いて、走って、一目も気にせず町中を叫びながら駆けずり回る
 悪い冗談であってほしい、何かの間違いであってほしい、無事でいてほしい――



 私はまた護れなかったの? また、大切な友達を失ってしまったの――? 

――ほむらの部屋――

ほむら「……」

ほむら(ソウルジェムが濁ってきている…… 魔獣を狩らないと――)

 そんな気分にはなれないけれど、背に腹は変えられない
 私が死んでしまったら、誰がさやかのことを探すの? 誰がまどかのことを覚えていられる?

ほむら「私がしっかりしないと……」

 出かけようとしたとき、マンションのドアに備え付けられた郵便受けに
 手紙が入っている気がついた 今朝確認したときにはなかったはずだが――
 
ほむら(手紙……? 私宛てに来るなんて―― )

 手紙を手に取っと見るが、差出人の名前はない……
 無造作に封蝋を引き剥がし、中身を確認する

 『
    美樹さやかを預かっている 返してほしければ

            丑三つ時、××駅構内に来い


                      ■■■■■■■■■
                                     』
ほむら「……」グシャ

ほむら「誰れが―― 誰がこんなことを――」

――駅――


**「時間ぴったりね」

**「うん、あれだ、あれ、几帳面なヤツだ」

**「ごめんなさい、暁美ほむらさん……」


 三人の魔法少女が月明かりに照らされて、私を待ち受けていた
 線路を隔てて向かい合う私達―― 一人は良く知っている人物、残り二人は……


 ああ…… どうして巴マミがまどかのことを知っていた理由がわかった
 アイツがいたからだ…… 何が暁美ほむらはイレギュラーな存在だ……


 あの二人の方が、私にとってはイレギュラーな存在だ――


 『美国織莉子』
 『呉キリカ』


織莉子「初めまして、暁美ほむらさん」

ほむら「貴女たち、どうしてここに……」

織莉子「まさか、今のいままで気づいていなかったの?」

キリカ「イレギュラーって、案外ポンコツだったんだねー」

マミ「可哀相な子…… 」

QB「時間遡行ができない暁美ほむらなんて、所詮この程度の存在だったというわけだ」

ほむら「キュゥべえ…… 貴方も敵だったのね……」

 怒りが抑えきられない―― 衝動となって体を突き動かそうとする
 ダメ…… まだダメだ…… さやかの安否が確認できていない今、行動するのは――

織莉子「お探しの品はこれでしょう?」ポイ

ほむら「なによ……これ……」パシッ

 分からないわけじゃない―― 理解できないわけじゃない――
 受け入れがたい光景を目の前に、ただ自然と口から言葉がこぼれていた

マミ「何って…… 見て分からないの? 貴女って本当に鈍感ね」

キリカ「美樹さやかの腕だよ? 一緒に手を繋いで登校していた手だよ?
    そんなことも忘れてしまったのかい? キミってば薄情な人だね……」

 見慣れた制服の袖はぼろぼろになってる そこに納まっている腕は
 赤黒く染まっていて、爪の剥がされた指が2本しかついていなかった

 落ち着けほむら…… 冷静になれ…… 明らかに罠だ
 ヤツらの目的は何だ? 私にこんなものを見せ付けて何の意味がある
 
織莉子「何、その眼…… 気に入らないわ」

キリカ「ねぇ織莉子、ちょっと遊んでいい?」

織莉子「直ぐに殺してしまってはだめよ?」

キリカ「うんっ、約束だっ 殺しはしない!」

ほむら(ヤツの能力は速度低下のはず―― 射程圏に入らないようにすれば……)

キリカ「遅すぎるよっ!」

 私が身構えるよりも速く、懐に飛び込まれる
 一瞬の出来事に私は何をされたのかも分からなかった
 この距離ならば鈍化の魔法の範囲に入っていないはずなのに――

キリカ「あーあ…… なんだよコイツ…… つまらないってレベルじゃないよ」

ほむら「う゛っ……」ゲホッ

 体の要所要所が傷つけられている―― キリカの鉤爪の後だ
 体を支えいた腱や筋肉が引き裂かれ、地面に崩れ落ちる

 時間停止を使えない私は、こうも容易くやられてしまうのか……
 散々魔法力の弱いと嘆いた力に―― 私はどれだけ依存していたのだろう

ほむら(どうしよう…… このままじゃ何もできないまま――)

マミ「……とりあえずコレも返しておくわ」

 質量感のある丸い物体が眼前に落ち、ボトリと厭な音を響き渡る
 それはちょうどヘルメットのくらいのサイズで――

織莉子「目玉は早々に腐り落ちてしまったから捨ててしまったわ ごめんなさいね」

ほむら「……」ギリッ

 魔法少女はソウルジェムさえ無事ならば、肉体の再生など造作もない
 たとえ首を切られようとも、不死身なのだから慌てる必用は――

織莉子「お友達なんでしょう? 助けにこられると困るから先に潰しておいたわ」

マミ「彼女も貴女の知り合いじゃなければ、こんなことに巻き込まれなくて済んだのに」

ほむら「そんな、まさか―― 佐倉、杏子……?」

 彼女は関係ない―― この世界では、話しかけたことすらないというのに……
 どうして彼女まで巻き込まれなくてはいけないの?

キリカ「キミよりはまともに戦えていたけれど、流石に三対一だと勝負は見えていたね」

織莉子「彼女のソウルジェム、ちょっと力を入れて握ったら壊れてしまったわ
    案外もろいものなのね…… もっと丈夫にできていてもいいと思わない?」

織莉子「そろそろ仕上げに取り掛かりましょう」

キリカ「りょーかいっ」ポイッ

ほむら「……!?」

 呉キリカが懐から何か取り出すと、私に向かって放り投げた
 蒼く煌めくそれは放物線を描き、ゆっくりと私の方へ飛んでくる

ほむら「さやかの…… ソウルジェム!?」

織莉子「折角だから、貴女の眼の前で―― ね?」

マミ「これで終わり……」スチャ

 銃を構えて身構える巴マミ その狙いは明らかだった
 助けなきゃ―― さやかのソウルジェムを守らないと――
 
マミ「ティロ……」

 不自由な体に力を入れてジタバタともがくが、立ち上がることすらできない
 地面を這い蹲る芋虫みたいだと、呉キリカは指をさして笑った

ほむら「お願い止めて……」

ほむら「何だってするから! それだけは―― それだけは――」


マミ「フィナーレ!」

 目の前にさやかのソウルジェムだったものが散乱している
 砕け散ってしまった―― 私は守れなかった――

マミ「本当にごめんなさいね」ウフフ

織莉子「それにしても遅いわね…… 一体何をしているのかしら?」

ほむら「……して」

キリカ「えー? 何? なんて? 聞こえないよー」

ほむら「どう…して こんな……ことを……」

キリカ「んー、それじゃあ教えてあげようかな!
    こういうの、なんて言うんだったけなぁ…… 冥土の土産だっけ?」

QB「それはボクの役目だろ?」

キリカ「んだよー キュゥべえ……
    でも、まっ、キュゥべえがそういうなら仕方ないかぁ」チェッ

ほむら「インキュベーター…… 何が…目的なの……?」

 暁美ほむら…… キミが現れてからなんだよ この街に魔獣があふれ出したのは
 この街の平和を―― 宇宙の未来を護る身としては、これは死活問題だ

 
 このまま魔獣が生まれ続ければ、魔法少女と魔獣の均衡が崩れてしまい
 この惑星は魔獣に満たされてしまい、エネルギーを回収することは不可能になってしまう

 
 
 魔獣の蔓延った世界では、この惑星に住む生物も困るだろう?

 そういうわけで、全ての原因の可能性であるキミを滅ぼすことにしたんだ……

 
 
 でも、ただ殺すだけじゃキミが可哀相だという話になったんだ

 だから一つだけキミの願いを叶えてあげようと思ってね……

 
 
 そのためには、キミを絶望の淵に叩き落す必用があったんだけど、その点は心配無用だった

 美樹さやか―― 彼女には何の落ち度もないのだけれど、必用経費だったから問題はないよね?

 
 
 キミのいた世界でソウルジェム穢れが溜まり過ぎると魔女になるらしいけれど

 この世界ではそうじゃない  円環の理に―― まどか様に導かれるんだ


 キミはもう一度彼女に会いたかったんだろう?
 世界のために死ぬんだ…… せめてこのくらいの願いは叶えてあげようと思ってね

織莉子「貴女を殺すついでに、まどか様に会って言いたいことがあったの――」

マミ「私たち魔法少女を助けてありがとう」

キリカ「そして女神様の友達を殺してしまってごめんね、ってさ」

QB「……それにしても遅いね、まどか様」

キリカ「キミさぁ…… 見捨てられたんじゃないの?」

ほむら「……う゛ぅ………… う゛あぁ…… あ゛あ゛あぁ………………」

マミ「滑稽ね……」

ほむら「あ゛ああ゛あ……ああ゛、ああ゛あ、あ……ああ゛ああ゛あ……」

織莉子「こんなに友達が苦しんでいるのに、まどかは何をやっているのかしらねぇ
    魔法少女の死に目に現れて、希望と絶望の差し引きの帳尻合わせを行うんでしょ?」

マミ「幸せ―― しあわせ―― シアワセ―― 死合わせ」

織莉子「本当に遅いわねぇ…… 本当に現れるのかしら?」




―――――――――――― 死逢わせのまどか様 ――――――――――――

どうして―― どうしてこんなことになったの?


まどかは…… 心無い魔法少女たちを救うために犠牲になったというの?


私はまた救えなかった…… 私はたった一人の友人も救えなかった……


彼女の世界と供に歩んでいくことすらできなかった


意識が薄れる―― あれだけ憎しみに溢れていた心も、すっかり冷え切ってしまって――


ああ、きっと私は終わるんだ…… 


さやかと上条恭介のコンサートに行く約束だって果たせていないのに……


何も成し遂げられなかった私にも…… まどかは救いの手を差し伸べてくれるのかな?




懐かしい香りと穏やかな温もりを感じたかと思うと
暖かくて真っ白に輝く屍衣が全てを包み込み、私の意識を奪い去っていった

◆◇◆◇

――見滝原中学 3年×組教室――

キリカ「……」

男子A「おい、聞いたか? 2年にメチャクチャ可愛い娘をが転校してきたんだってよ」

男子B「まじかよ! 俺さっそくアタックしちゃおっかなぁー」ワイワイ

男子C「暁美ほむらっていうらしいぜ?」

男子B「まじかよ! なんかすげーカッコいい名前じゃん!」

キリカ(くだらない話)

女子A「うわっ、あの子まだ学校来てるの?」ヒソヒソ

女子B「もう来なくていいのにねぇ きゃ、今こっち見た? きもちわるぅー」ヒソヒソ

キリカ(……恋愛ごっこも、友情ごっこも 全部―― 全部くだらない)

キリカ(やっぱり学校になんて登校するんじゃなかった
    ここに私の居場所なんてないし、作りたいとも思わない)

教師「おーい、席に着け~ お前らも今年受験なんだから、そろそろ真面目に――」

キリカ(受験か…… そんなこと、私にはどうでもいいや…… )

――放課後――

 退屈な学校生活、適当な返事だけで済んでしまう会話
 何もかもがうんざり――

キリカ(……お腹空いたなぁ、コンビニで何か買おう)

店員「イラッシャーセー」

キリカ「……」トサッ

店員「105円がイッテェン! 126円がイッテェン! 」

キリカ(この人しゃべり方気持ち悪いなぁ…… えーっと、財布財布)

キリカ「あっ」チャリンチャリン

店員「後ろ支えてるんで早くしてしてくれませんかぁ?」チッ

キリカ(早く拾わないと)アセアセ

客A「うわっ、金持ち~」

客B「とろいなぁ、早く拾えよ鈍間」

客A「うはっ、いいすぎだって まぁ、確かにうざいけどさ」ギャハハハ

キリカ「……」

織莉子「大丈夫?」ニコッ

キリカ「えっ、あっ……」

織莉子「これで全部かしら」

キリカ「う、うん」

織莉子「それじゃ、私はこれで」スタスタ

キリカ「あ……」


――――
キリカ(綺麗な人だったな……)

キリカ(あの制服は確か、白女の――)

キリカ「……お礼、言いそびれちゃったな」

キリカ「また、どこかで会えるかな?」


キリカ(あ…… 名前聞いておけばよかった……)

 あの日以来、私は街で彼女を探すようになった
 もともとサボりがちだった学校には、もう殆ど行かなくなっていたが
 そんなことは気にもならなかった

 
――駅――

キリカ(私に優しくしてくれる人がいなかったから―― )
    だからこんなにも彼女に惹かれているのかな…… )
 
アナウンス「電車がホームに入りますので、危険ですから白線の内側に――」

織莉子「……」

キリカ(ようやく見つけた…… 今度こそ―― 今度こそ話しかけるんだ)

キリカ(偶然を装って話しかければいい、一度会ったことがあるんだし
    私のこと、覚えてますかって)
    
キリカ(大丈夫、勇気を出せ……)


 『あの娘って本当に何をやっても愚図ね
  本当に私たちの娘なのかしら? もううんざりよ……
  こんな娘と知っていたら、生まなければ良かったわ』

 (……やっぱりダメだ)


 『キリカちゃんはあっちいってよ
  鈍間がチームにいたら負けちゃうじゃない!』

    
 くだらないのは私だ 何にも興味がないふりをして――

 
 『お前って本当に使えないよな……
  もういいから、呉は見てるだけでいいから! 手伝わなくていいから!』
 

 皆を見下したふりをして、妬んでるんだ
 

キリカ(こんな私に話しかけられたら、迷惑だよね……)

 伸ばした腕は行き先を失い、スカートのポケットへ吸い込まれる
 彼女はこちらに気づかずに電車にのりこんでしまった

アナウンス「電車が発車します、駆け込み乗車はお止めください」

キリカ(……何をやっているんだろう、私)

 つまらない馴れ合いに混ざるつもりは無い
 くだらない人間と付き合う気はない

 
 
 本当に―― 本当にそうだった?

 ただ、周囲に溶け込めずに浮いていただけじゃないの?

 
 
 知っている…… そんなことは私が一番理解している

 私は皆が羨ましかった 嫉妬していたんだ
 誰にも相手にされなかった私は、そうすることで自分を守ろうとしただけなんだ――

 
 
 こんな私に、彼女に話しかけることができるわけがない――


――――――

キリカ「はぁ……」

 ホームに備え付けられた椅子に座り込み、ため息を一つ吐く
 憂鬱な気持ちに囚われていて、周囲から人の気配が消えていたことに気がつかなかった

キリカ(あれ……? この時間に誰もいないっては変…だな……)

キリカ(!? 体が動かない――)

アナウンス「レッシャガ、マイリマス、マイリマス、キオツケテクダサイ」

キリカ(気持ち悪い声…… 一体何が――)

キリカ「誰かっ、誰かいませんか?」

アナウンス「4バンセンニ、×××イキノ レッシャガ トウチャクシマシタ」

キリカ(体勝手に――)

アナウンス「ティヒヒヒヒ イチメイサマ ゴアンナイ ゴアンナイ」

アナウンス「ハッシャシマス ハッシャシマス ティヒヒヒヒヒ」


――列車内――

キリカ(何ここ、本当に電車の中?)

 車内の壁一面に鮮やかなピンク色をした筋が走っていて、
 壊れかけた照明の明滅に会わせ、とくん、とくん、と波打っている
 
キリカ(気持ち悪い…… なんなのここは……)

キリカ「寒い……」ガクガク

キリカ「誰かいませんかー?」

キリカ(……返事がない)

キリカ「夢なら覚めてほしいなぁ……」ブルブル

QB「こっちだ、こっち、早く!」

杏子「そんなに急かすなよ」ダッ

QB「既に民間人が囚われているみたいなんだ」

杏子「魔獣に誘われるバカを救っても、腹の足しにもなんねぇよ」

QB「君ってヤツは本当に冷たいね……」

杏子「ケッ、言ってろよ
   人間がどうなったって、お前らには関係ないだろ」

QB(悪態を吐いていても、どうせ助けるつもりなんだろうけどね
   まったくもって天邪鬼な性格だよ)ニヤニヤ

杏子「何が可笑しいんだよ…… 気色悪い」


――――
杏子「なんとか列車の中に潜り込めたけど――」

杏子「うへぇ…… 気持ち悪いなコレ
   まるで何かの生き物の内臓みたいだぜ」

QB「……この気配から察するに、列車を操ってる魔獣が車内にいるはずだよ」

杏子「だったらそいつをヤっちまえばいいってことか…… 楽勝だな」

**「ジョウシャケンヲ ジョウシャケンヲ ゴテイジクダサイ」

杏子「雑魚に構ってる時間はねぇんだよ」ザシュッ

**「イタイイタイヤメテヤメテ」

杏子「こいつら全然歯ごたえが無ねぇな」ダンッ

QB「運転席にいる本体を叩かないと無駄に魔力を消耗してしまうだけだ」

杏子「わーってるよ、そんなことくらい」


――――
キリカ(なんだか騒がしいな……)

キリカ(それにしてもここはどこなんだろう? 窓の外は真っ暗だし)

キリカ「幽霊列車とか……ね
    まぁ、そんなものあるわけないか……」

キリカ「……機械の体をもらいに行く列車とか、あるわけ――」

魔獣「ジョウシャケンヲ ジョウ シャシャシャサy ケンケン」

キリカ「わっ、 な、何!?」

魔獣「グヒヒヒヒ アヘヤヒャヒャハヤ ジョウサケン ティヒヒヒ」

キリカ「だ、だれか助け――」ヒッ

――――
キリカ(思わず目を瞑ってしまったけど……)

キリカ(痛くない―― 助かったの……?)チラッ

杏子「よっ」

 目に飛び込んできたのは真っ赤な衣装に身を包んだ少女
 ひらひらの可愛らしい衣装の―― コスプレイヤー?

キリカ「わっ…… えーっと…… あの……」

杏子「大丈夫か?」

キリカ「はい……」

杏子「命があったことに感謝しな――」

QB「やっぱり助けてるじゃないか」

杏子「あ゛ー、たまたま目の前に襲われそうなヤツがいたから助けただけだ
   別に最初から救おうなんておもっちゃいないよ」イライラ

QB「偶然、偶々ねぇ……」ニヤニヤ

杏子「なんか含みのある発言だな」

キリカ「動物が人語を話してる……」

杏子「ん? アンタこれが見えるのか?」

QB「これとはなんだい、これとは」キュィ

キリカ「はい……」

杏子「ふぅん…… なるほどね…… ちょっと失礼」ズイッ

キリカ(顔…… 近い……)///

杏子(……魔よけってのは得意じゃないけど、何もしないよりはましだろう)

キリカ「あ、あの…… 今のは……?」

杏子「アンタはそこで大人しくしてな……
   直ぐにこの気味の悪い列車から降ろしてやるから」

QB「さぁ、先頭車両に急ごうか」

キリカ「あ……」

キリカ(行ってしまった……)

キリカ「なんだったんだろうアレ……」

 見たこと無い電車
 奇妙な化け物
 
 人の言葉を話す獣
 コスプレ少女
 
キリカ「私…… 夢でも見てるのかな」

キリカ「ひとまず深呼吸して――」

――――――
―――


キリカ「あれ……?」

アナウンス「次はー○○、○○に止まります」

キリカ(普段どおりの電車だ……
    というかいつの間に乗車したんだろう)

キリカ(やっぱり夢でも見てたのかな……?)

アナウンス「○○の次は、××に止まります」

キリカ「……○○!? そんな遠くまで――)

キリカ(疲れてるのかな私…… 早く家に帰って休もう……)

――キリカのアパート――

キリカ「よ、ようやく帰れた……」ガチャ

杏子「おかえり~」

キリカ「た、ただいま……」

キリカ「え!?」

杏子「よっ!」

キリカ「えーっと、えーっと」オロオロ

キリカ(夢の中で会った女の子? なんで現実に? というか何故私の部屋に?)

杏子「まぁ、落ち着けって」

キリカ「は、はぁ……」

杏子「アタシのこと、記憶してるか?」

キリカ「昼間、奇妙な電車の中で――」

杏子「やっぱり素質ありだぜ? キュゥべえ」

QB「そうみたいだね」

キリカ「どうして私の部屋に?」

QB「君に大切な話が会って来たんだ」

キリカ「私に?」


―――― 僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ ――――


――――――
―――

QB「話は飲み込めたかな?」

キリカ「えと、その……」

QB「返事は直ぐってわけじゃなくてもいい」

QB「いい返事を期待してるよ それじゃあね」

キリカ「……」

杏子「……」

キリカ「その…… 君は帰らないの?」

杏子「んー、命の恩人にさ お礼の一つも無いわけ~?」ニヤニヤ

キリカ(え、と…… 客人に出せるものはないし…… 宅配でも頼もうかな)

――――

杏子「いやぁ悪いね 夕飯ご馳走になって」

キリカ「こんなことでよかったの? お礼……」

杏子「おつりが来るくらいだよ」

キリカ(私の命は宅配ピザ+ドクターペッパー以下なのかな……)ションボリ

杏子「それより、どうするつもりなんだ?」

キリカ「どうするって?」

杏子「契約するかどうかだよ」

キリカ「……どうしようかな」

杏子「はぁ? なんか曖昧だなアンタ 大抵のヤツは二つ返事なんだけど」モグモグ

キリカ「……」

杏子「私としては、魔法少女なんて全然お勧めしないけど……」ゴクゴク

キリカ(よく食べながら話せるなぁ……)

杏子「アイツの話聞いてただろ?」

キリカ「願い事を一つ叶えて上げる代わりに、
    この世界を守る魔法少女になってほしい」

杏子「本当に馬鹿げてるって思うよ、アタシもさ」

杏子「……しっかし、残念ながら実際に存在してるんだよなぁ
   というかアタシが当の魔法少女なんだから、わらっちまうよ」

キリカ「……」

杏子「エントロピーがどうだとか、魔獣と戦いやすいように
   魂をこんな石っころに移し変えるとか…… 信じられないだろ?」
   
キリカ「正直……」

杏子「そりゃそうだよな」ハハハ

杏子「つーかアンタの金なんだし、もっと食べなよ?
   そうじゃないと、アタシが全部食べちゃうぜ」

キリカ「う、うん……」

キリカ(誰かと食事するって、なんだか凄い久しぶりだな……)

杏子「ごちそうさまでした」

キリカ「ご、ごちそうさまでした」

杏子「それじゃ、アタシはこれで」

キリカ「もう行くの?」

杏子「ん? そりゃ、長居しちゃ悪いだろ」

キリカ「構わないよ、どうせ私はここにずっと一人だから」

杏子「ふぅん……」

キリカ「……魔法少女について、もっと詳しく聞かせてほしいんだ」

杏子「わかったよ」

杏子「何から話そうか……」

キリカ「わ、私の名前は呉キリカ」

杏子「そういえば、自己紹介がまだだったな 
   アタシの名前は佐倉杏子だ 歳も同じくらいだろうし、杏子でいいぜ?」

――――
キリカ「大変なんだ、魔法少女って」

杏子「だから、好んで魔法少女になんて
   なるべきじゃないけど――」
   
キリカ「けど?」

杏子「キュゥべえが目をつけたってことは、
   何かしら理由があるだろうな……」

キリカ「どういう意味?」

杏子「アイツは誰彼構わず勧誘を行っているわけじゃないんだよ
   ま、これは完全に私の想像なんだけどな」

杏子「……魔力の素質があるヤツ全員に声をかけているわけじゃない
   それに、魔法少女になったヤツには何かしら問題が抱えてるやつが多いし」

杏子「実際、救われたってやつも多かれ少なかれいるんだ」

キリカ「……杏子もその一人?」

杏子「さぁね…… どうかな」

杏子(あのとき魔法少女になっていなかったら、どうなってたんだろうなぁ
   家族仲良く飢えに苦しんで死んでいったとかかな……)

――――
キリカ「何でも願いが叶うか……」

杏子「叶えたい願いでもあるのか?」

 変わりたい
 違う自分になりたい

キリカ「いや……」

杏子「アタシには、そうはみえないけど?」

キリカ「……杏子は、なんでもお見通しなんだ」

杏子「そんなわけ無いさ」

キリカ「……」

杏子「話してみろよ…… アタシにできる範囲なら力貸してやってもいいぜ?」

杏子「ただし、それなりの報酬は弾んでもらうぜ?」ニヤニヤ

 何かの包み紙を外して、食べ物を頬張るジェスチャー
 つまり、私に食べ物を奢れという合図なのだろう……

キリカ「食い意地の張ったヤツ……」クスクス

――――
杏子「うっわー、くだらねぇ……」

キリカ「ひ、人の悩みを聞いておいて下らないなんて!」

杏子「だってさ、その人にあって『ありがとう』っていいたいって」

杏子「とんだヘタレだな……」

キリカ「うっ……」

杏子「人のことを見下したふりをしていながら、そのざまとはねぇ」

キリカ「う゛ううう……」グスッ

杏子「あ……、泣くなよ…… アタシが悪かった、悪かったからさ……」
   
キリカ「……」
   
杏子「違う自分になりたいねぇ
   そんなこと、魔法に頼まなくたってもできるだろうに」

キリカ「……そうかな?」

杏子「そうさ」

杏子「そろそろアタシも帰ろうかな」

キリカ「杏子ってこの辺に住んでるの?」

杏子「いや、ここから少し離れたところに住んでいたよ」

キリカ(……過去形?)

杏子「今はその辺ぶらぶらしてる」

キリカ「ぶらぶらって……」

杏子「魔法少女は訳アリが多いっていったろ?」

キリカ「その……」

杏子「なんだよ?」

キリカ「なんでも……ない」

杏子「そっか」

キリカ「助けてくれてありがと、杏子」

杏子「次はないからな 気をつけろよ」バタン

キリカ「……」

 『助けてくれたお礼に、よかったら泊まっていってよ』

キリカ(どうしてその一言がいえないかな……)

 魔法少女になれば変われる?
 愚図で鈍間な私ではなく、佐倉杏子のように強く――
 
キリカ「はぁ…… 魔法少女……かぁ」

 『くだらない』
 
 かつての私なら、その一言で片付けていたのだはずなのに――
 杏子の使ったグラスを洗いながら考える

 魔法少女になれば、違う自分になれる
 本当かどうか分からないけれど、世界のためにもなる…らしい……

キリカ「どうすればいいのかな……」

 彼女が口をつけたグラスの縁を指でなぞる
 振動が空気に伝わり、くぐもった音が部屋に鳴り響いた

キリカ「魔法少女……」

キリカ「佐倉杏子……」

――――
QB「やっと出てきた」

杏子「……」

QB「どうだい? 彼女は」

杏子「魔法少女には向いて無いな」

QB「残念だね…… 君が言うのだから間違いない 彼女の抱いている問題程度なら、
   彼女自信の力で打開できる可能性は高いし、ボクの力は必要ないだろう
   
QB「他の少女を探すしかなさそうだね……」

杏子「えらく信用されてるもんだ」

QB「まぁね」

杏子「けっ、別に嬉しいとも思わないけどさ」

QB「……しかし、それだと心配だな」

杏子「見滝原に集中発生している魔獣のことか?」

QB「うん…… 君を呼び寄せたのもそのためだ」

杏子「あの巴マミが管轄していても援護が必用なほどとはね……」

QB「こんな異常事態は初めてだよ」

QB「魔獣の増加も気になるけど、正体不明の魔法少女も気になるのに……」

杏子「暁美ほむらだったか?」

QB「彼女は――」

QB「……やれやれ、今日はこれで3度目だ」

杏子「またか……」

QB「近くに魔獣の反応を確認した―― しかも複数だ」

杏子「わらわらと湧き出てきやがって……」

QB「今からマミに連絡をいれるから、半分は杏子にお願いするよ」
   
杏子「はいはい、分かりました」

QB「キミをこの街に呼び寄せておいて本当に良かったよ」

杏子「お前に褒められても全然嬉しくねぇ」

QB「杏子は何時になったらデレになるのかなー」

杏子「なんねーよ、ばーか」

杏子「さてと、食後の運動と行こうか!」

――数日後――

キリカ「暇だなぁ」

 その後、私は魔法少女になるわけでもなく
 学校に行くわけでもなく、だらだらと生活をしていた

キリカ「うーん…… あれから恩人も見かけないし 杏子にも会う機会がないし」

キリカ「あー……」

キリカ「ゲーセンでも行こうかな……」


――――
キリカ「……」カチャカチャカタッ

キリエッ…エクステンドッ フッハッセイッココダッ コムニオッ
メサイア…ココダッココダッ…キリハラウ…イマイイチドキリハラウ

タスケテヨ…ソフィー

××「だっ~ コムニオまじ爆発しろっ!」ダンッ

キリカ(台バンだ…… 絡まれる前に逃げた方がいいかも……)

 クレジットが残っている格闘ゲームの台から離れて、私は逃げる準備をする
 リアルファイトに発展してしまっては私に勝ち目はない――

杏子「んっ? キリカか?」

キリカ「……杏子?」

杏子「……学校サボってゲーセンかよ
   つーかお前が対戦相手だったのか……」
   
キリカ「杏子こそ、昼間っからゲーセンにいるじゃないか」

杏子「私は魔法少女って仕事をしてるから問題ないんだよ」

キリカ「そういうものなの?」

杏子「そういうもんなんだよ」

杏子「で、恩人にちゃんとお礼は言えたのか?」

キリカ「それが、まだ言えてなくって」

杏子「はははっ ダメダメだなぁ」

キリカ「うぅ…… 返す言葉も無い」

キリカ「こ、これから暇ならさ、またウチでご飯食べていかない?」

杏子「そうだなぁ――」

杏子「あー…… わりぃ、用事ができた」

キリカ「また化け物が?」

杏子「まぁな」

キリカ「……私も契約すれば、杏子の手伝いができるかな」

 勇気を振り絞って、言ってみる――
 杏子は私が魔法少女になることを喜んでくれるだろうか?

杏子「止めとけ―― 何不自由ないヤツが魔法少女になる必用はない」

キリカ「そっか、そうだよね」

杏子「それじゃあ、もう行くから――」

 最後まで言い終わらずに、杏子は脱兎の如く駆けていった
 勇気を振り絞って言った結果がこれだよ……

キリカ「……」

キリカ「帰ろう……」

――キリカの部屋――

キリカ「……」

キリカ「本当、なにやってんだろ……」

 食事と入浴を終えて、ベッドに腰掛けて一時間
 特にすることもなくぼーっとして過ごす

キリカ「散歩にでも行こうかな…… もしかしたら、恩人に会えるかもしれないし」

キリカ(いい加減名前くらい知りたい……)


――――――
―――



――公園――

キリカ(この季節だと、まだ夜は肌寒いな……)

ゆま「キョーコー!? どこいったのキョーコ!?」

キリカ(小さい子が一人……)

ゆま「一人にしないで…… 私を捨てないで……」グスッ

キリカ(まさか杏子の知り合いなのかな……)

ゆま「そこのお姉さん」

キリカ「私?」

ゆま「真っ赤な髪で、髪を後ろで束ねてて、
   それからそれから、短いズボンを履いていて――」

キリカ(多分、私の知っている杏子のこと……だよね)

ゆま「見ませんでしたか?」

キリカ「昼間にゲーセンで会ったよ」

ゆま「ほんと!? 今どこにいるか知りませんかっ」

キリカ「ごめん、ちょっとわからないや」

ゆま「そうですか…… お騒がせしました」

キリカ「大変そうだね、私も手伝ってあげようか?」

ゆま「いいの? お姉ちゃんありがとう! 私の名前は千歳ゆまだよっ」

キリカ「よろしくね、ゆまちゃん 私はキリカっていうんだ」

―――――
―――

――――
魔獣「キヒヒャヒャハヤッ テヒィィテヒィィ」

杏子「畜生…… どうなってんだよ、この街はさぁ!」

杏子(キューブを使って魔力を回復する暇もない――)

QB「倒しても倒しても、魔獣が沸いてくる……」

QB(他の魔法少女たちも魔獣と戦闘中だ……
   直ぐに呼べる魔法少女はこの辺りにはいないし――)

杏子「どうやら、アタシもここまでのようだね……」

QB「そんなこと言わないでほしいな……
   今ここで君を失ったら、この街は魔獣に制圧されてしまう」
   
杏子「……適当に不幸な少女でも引っ掛けて契約迫ればいいだろ?
   習熟するまではマミに―― 最悪イレギュラーを使えばいい話だ……」」

QB「この前君が助けた子供も、魔獣にやられてしまうかもしれないよ?」

杏子「知らねぇよ、そんなこと…… アタシの知ったこっちゃないね……」

QB(仕方が無い…… こうなったら奥の手だ――)ダッ

杏子「おいキュゥべえ! どこ行くんだよ!」

杏子「信用しているって言ってたくせにさ 最後は見捨てるのかよ……」

――――
杏子「も…… だめ…… かな」

杏子(腹部の出血が止まらない…… 視界が霞んできやがった)

魔獣「ティヒヒヒヒヒヒイイイイイイイイイイイイイ」

杏子「そんなに盛んなよ…… もう相手できねぇっての……」

魔獣「残! 斬! 惨! ザン ザザザザザ 懺!?」

 頭を鷲掴みにされ、体が宙に浮く―― 
 魔獣の舌が鋭利な刃となって左眼に突き刺さり、抉り回す

杏子「ぐっ、あ゛ああぁ……」

魔獣「アッハァ! アァイ!」

 化け物の頭が割れて、その中から別の頭が現れる 二股になった頭の片方が右腕を―― 
 もう一方が右足をゆっくりと、リズミカルに音を立てて喰らう
 
杏子「あ゛あ゛…… い゛てぇな…… 焦らすんじゃねぇよ……」ハァハァ

魔獣「ティヒヒイイイイイイイマイウゥゥゥウウウウウウウウ」


杏子(あぁ、これ死ぬじゃん…… つまんない人生だったなぁ)


 全てを諦めた瞬間、アタシの意識は白の世界へと飲み込まれる――

 『えへへ、久しぶりだね。杏子ちゃん』

 辺り一面が白く染まって、明るい髪に純白のドレスを纏った少女が現れる
 やさしく語りかける声―― どこかで聞いたことのあるような……とても暖かい声

杏子「……だれだよアンタ なんでアタシの名前、知ってんだ?」

 『私のこと覚えてない? 当然といえば当然かぁ……
  でも、なんだかちょっと寂しいな……』
 
杏子「というか此処は何処なんだ… 三途の川とか?」

 『んー、だいたいそんな感じで合ってると思うよ』
 
杏子「ははっ、なんか適当だな パッと見、神様みたいな姿してるのにさ」

杏子「なぁ、アタシ……これから死ぬんだろ?」

 『そういことになるのかな』

杏子「はぁ…… かつて何度も祈った神様がこんな頼りないヤツだったとはねぇ」

 『神様なんて…… そんな大それたものじゃないよ』

 『ごめんね、杏子ちゃん』
 
杏子「なんで神様が謝るのさ、それに謝られたってアタシが困る
   こんなめちゃくちゃな人生にした神様を許すことなんてできないよ」

 『本当にゴメンね……』

杏子「……なんだよ、謝ってばっかりじゃねーか」

 『もう時間みたい……』

杏子「さっくりと人思いに頼むよ」

 『うん…… お疲れ様、杏子ちゃん』

 これでお終いか……

 なんだったんだろうアタシのやってきた事って…… 
 
 父さん母さん、モモ…… 今からそっちに行くよ 今度は――






「ちょっとまったあああああああああああああああああ」


 何かに体を押し戻されてる? 体が何かに引っ張られているみたいだ……
 白の世界はどんどん遠ざかっていく―― アタシの意識はもといた世界へ再び舞い降ちる

キリカ「ラディカル!グッド、スピィィィィィード!」ズバッ

魔獣「ギシュゥアアアアアアアアア」

キリカ「魔獣! お前に足りないもの、それは――
    情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてぇ なによりもおぉぉぉ 」
    
キリカ「速さが足りないっ!」ドヤッ

杏子「きっ、キリカ!?」

キリカ「危ないところだったね」

杏子「どうして、お前―― その格好は――」

キリカ「話は後にしようじゃないか 今は目の前の敵に集中しないと」
 
杏子「わ、わかった」ジャキン

杏子(あれ? あれだけ酷い傷だったのに…… 治ってる?)

キリカ「遅い―― 遅すぎるよ! あぁ、体が羽のように軽い!」ヒャッハァ

――――
キリカ「ちょっと調子に乗りすぎたかも」ゼェゼェ

杏子「デビュー戦で、そんだけ暴れられるならたいしたもんだぜ?」ハァハァ

キリカ「とりあえず、あれだ、うん、休もう」

 そのまま地面に座り込むキリカ
 燕の尾の様に伸びた魔法少女の衣装が土に汚れる

杏子「おい、戦いが終わったんだから変身を解いていいんだぞ?」

キリカ「そうだった 魔力が勿体無いんだっけ
    でもこんなに素敵な体、分かれるのが名残惜しいよ」

杏子「コントロールができるようになれば、
   変身していなくても、それなりに力が出せるようになるさ」

キリカ「……それじゃ、さよならカッコいいアタシ」ギュン

キリカ「あー…… 疲れたー」

ゆま「やっと追いついたよ…… キョーコ キリカ お疲れさま!」

杏子「お前…… ゆま、なのか……?」

ゆま「へっへっへー どう? 似合う?」

キリカ「うん、とっても似合ってるよ?
    目からビームが出せそうだし、語尾に『にょ』ってつけて――」

杏子「ちょっと待てよ! 何で魔法少女になってんだよ……
   それにキリカ、お前もなんで魔法少女なんかに」

ゆま「杏子が魔獣にやられそうだって……」

キリカ「キュゥべえが緊急事態だからって――」

杏子「キュゥべえ!」

QB「や、やぁ 杏子…… 元気そうでなによ――」

杏子「ドサクサに紛れて何契約してんだよ…… 
   しかも二人―― 片方はガキじゃねぇか!」

QB「この状況で君を失えば、この街の平穏が――」

杏子「だからって、いきなり二人も魔法少女にするなんて」

ゆま「キュゥべえを攻めないでよキョウコ……」

キリカ「そうだよ、私達が望んだ結果なんだ」

杏子「だとしてもだなぁ……」

杏子「って、お前ら…… 何を目的契約をしたんだ?」

ゆま「杏子がピンチだから助けたいって願ったの
   だからわたしの魔法は治癒能力なんだって」

キリカ「右に同じく 私は迅く助けにいけるようにって……
    まぁ、鈍間な自分が厭なだけだったんだけど――」

杏子「おい…… キュゥべえ」

QB「はい……」

杏子(他人のために願いを使うだなんて―― ろくな事にはならないのに――)

杏子「……これはあれか? アタシの責任なのか?」

QB「ボ、ボクに聞かれてもわからないよ……」

杏子「だから人助けはいやなんだよ…… こうやって面倒を被るんだ」

キリカ「迷惑、だったかな……」

杏子「べつに、お前らが悪いって言いたいわけじゃない……」

 他人のためにと願っても、その結果が悲惨なものに繋がりかねないことを
 アタシは身をもって味わったから―― だからせめて、他の魔法少女たちには――

杏子「今日アタシ助けたことで、もしかしたらお前らは後悔するかもしれない」

杏子「これから先、アタシがお前らの大切な人を奪ってしまったら――
   お前らは後悔するだろうな…… あの時アイツを助けなければってさ」

ゆま「キョーコ、悪い人だったの?」

杏子「そういうことじゃなくて――」

キリカ「杏子…… どうしてそんなこというのさ」

杏子「別に…… ただ、そういう可能性があるのに
   自分の人生を棒に振ってまで助けることはなかった――」
   
キリカ「ははん…… なるほど」ニヤニヤ

杏子「んだよ…… 気味の悪い笑い方しやがって」

キリカ「杏子はさ、私達のことを心配してくれてるんだ」

杏子「そんなんじゃねーよ」

キリカ「そうかな…… もしかしたら、杏子は誰かのために願って
    その結果が自分の思い描いたものとかけ離れた結果になったから――」

キリカ「私達に同じ轍を踏ませないようにって思ってるんじゃないの?」

キリカ「こんな感じなんじゃない? どう、当たってた?」

杏子「大はずれだ バーカ」ケッ

キリカ「じゃあなんで、そんなに怒ってるのさ」

杏子「大切な願いをアタシのために使った馬鹿どもには教えねーよ」

ゆま「キョーコ…… ごめんなさい」

杏子「謝るなよ、本当ならアタシがお礼を言わなければならない立場なのに……」

ゆま「うん……」

杏子「あーあー、結局どうすんだよ、この状況……」

ゆま「キョーコ」

杏子「なんだ?」

ゆま「お腹すいた」

杏子「……」

ゆま「オ ナ カ ス イ タ ー」ザビエ-ル

杏子「あ゛あああああああああああ」

キリカ「なに、どうしたの杏子!?」

杏子「キリカっ」

キリカ「はいっ」

杏子「お前が人生無駄にして助けたかった恩人の命令だっ
   今夜はパーッっといくぞ! パーッっと!」

キリカ「へ?」

杏子「返事は!?」

キリカ「わ、わかったよ」

杏子「口からクソを垂れる前と後にsirを付けろ!」

キリカ「サー!イエッサー!」

ゆま(杏子は女性だからMamじゃないのかな……)

杏子「ゆまっ! ぼさっとして無いでいくぞ!」

ゆま「わわっ、まってよキョーコぉ」

――キリカの部屋――

杏子「う゛う~ もう食えないし、飲めない」

キリカ「食べすぎだよ……」

杏子「今魔獣がきたらやられるかも」

ゆま「私が守ってあげるよ!」

杏子「ああ、頼んだ アタシはもう寝る……」

キリカ「食べて直ぐ寝ると、牛になるよ?」

杏子「魔法少女は太らねーんだよ 成長はするけどな
   というか変幻自在だってキュゥべえが言ってただろ……」

キリカ「そうだっけ……」

杏子「お前、キュゥべえの話聞いてなかったのか? やっぱ馬鹿だな」

杏子「……スースー」ZZz

ゆま「キョーコ、もうねちゃったね……」

キリカ「そうだね」

キリカ「ゆまちゃんも寝ていいよ?」

ゆま「うん、おやすみなさいキリカお姉ちゃん」

――翌朝――

杏子「ふぁあ……」

キリカ「おはよう杏子」

杏子「あ゛ー」キョロキョロ

ゆま「……」Zzz

杏子「この状況は――」

キリカ「昨日は私の家で雑魚寝しちゃったからね」

杏子「はぁ…… どうしたもんかなぁ ずっと気ままな一匹狼だったのにさ」

キリカ「僧侶と戦士が仲間になったね!」

杏子「仲間から外してぇ……」

キリカ「冷たいなぁ」

杏子「まぁ、不登校のお前はまともな人間じゃなかったからいいとして」

キリカ「うわぁ…… 何気に酷い発言だ」

杏子「ゆまのヤツ、どうしたもんかなぁ……」

キリカ「そういえばこの子は?」

杏子「両親から虐待を受けてて、でもその両親が魔獣にやられちまってさ」

キリカ「……そうだったんだ」

杏子「今更突き放すわけにいかないだろうし、
   魔法少女としての生き方を誰かが教えてやら無いと――」
   
ゆま「んん…… おはようキョーコ、キリカ」

キリカ「おはよう」

ゆま「殴られずに起きる朝って、清清しいね……」

キリカ「……」ナデナデ

ゆま「あはは、くすぐったいよキリカおねえちゃん」

キリカ「一先ず、ウチに置いておいたほうがいいかな?」

杏子「ああ、頼むよ……」

キリカ「杏子も泊まっていきなよ この部屋は私以外誰も尋ねてきたりしないし」

杏子「親御さんは?」

キリカ「お金だけ振り込んでくれるけど
    それだけだよ…… 最近はほとんど顔もみてないな」

杏子「悪い……」

キリカ「別に気にしなくていいよ……」

ゆま「キョーコ、キリカ、朝ごはんー」

杏子「こいつ…… アタシよりも食い意地はってるんじゃないのか?」

キリカ「ははは、これじゃあウチのエンゲル係数は跳ね上がりそうだ」

杏子「……なんだかなぁ」ハァ

キリカ「どうしたの? ため息なんかついて……」

杏子「いやさ…… こんな生活も」

ゆま「……?」

杏子(悪くないかな)

◆◇◆◇

――美国邸――


 私がお父様の一部というのなら――
 何故私は生きているの?

 教えてキュゥべぇ
 
 私は――
 私の生きる意味を知りたい


QB「契約成立だ――」

織莉子「……!?」


 魔法少女は魔女に――
 
 鹿目まどかと暁美ほむら……
 
 変革された世界――


織莉子「あぁ…… 私は、どうして――」

織莉子「そういうことだったの……」

QB「どうしたんだい? 納得のいく答えがえられ――」

織莉子「そうしましょう…… それがいいわ」

QB(無視ですか…… 今回はちょっと人選ミスったかも……)

織莉子「ねぇ、キュゥべえ」

QB「なんだい?」

織莉子「私の力は、あなたの役にも立ちそうよ」

――――――
―――


QB「なるほどね 実に興味深い それが魔法少女の消えてしまう理由か……」

QB(暁美ほむらの話した世界線と一致している……)

織莉子「そうでしょう? どちらに転んでも、貴方は損をしないと思うわ」

QB「君はそれでいいのかい?」

織莉子「構わないわ…… だってこの命は―― 私がこの世界にいる理由は――」

――路地裏――

マミ「あなたが新しくキュゥべえに選ばれた魔法少女ね」

織莉子「はい、美国織莉子です」

マミ「私は巴マミ、よろしくね」

QB「彼女の能力は戦闘向きではない だから当分の間サポートを頼みたいだけど……」
   
マミ「そうね…… ここのところの魔獣増加にはまいっていたところだし
   新たな戦力が増えることは素直に嬉しいわ」

織莉子「期待に添えるか分かりませんけど……」

マミ「頑張ってもらわないと困るわ…… だって、この仕事は命がけだからね」

織莉子「はい……」

マミ「まずは、魔力の使い方から説明しようかしら」

織莉子「お手柔らかにお願いします」

――――
マミ「驚いたわ……」

マミ「ねぇキュゥべえ、彼女本当に素人なの?」

QB「彼女と契約したのはつい最近の話だよ」

マミ「魔力で鉄球を精製する技術、それを自在に操る能力
   本当にただの素人なの? ちょっと信じられないわ……」

織莉子「お褒めに預かり光栄です」

マミ(キュゥべえ、彼女は信用に値する人物なのかしら……?)

QB(どういう意味だい?)

マミ(いざ戦闘になったときに、いきなり後ろから攻撃なんてされたら――)

QB(大丈夫だよ―― 彼女に敵意は無い
   今まで魔法少女同士の争い見てきたけど、織莉子はその類の人間じゃない)
   
マミ(貴方がそこまでいうのなら…… 仕方ないわね)

織莉子「あの…… 次はどのようにしたら……」

マミ「これだけ動けるのなら、私から教えることは余り多くないかもしれないわね」

マミ「うん、これなら直ぐに実戦に参加しても問題ないわね」

織莉子「ありがとうございます」

マミ「さてと、私はこれから家に帰ろうと思うんだけど…… 
   ちょっと私の家に寄っていかない?」

織莉子「門限が厳しいので――」

マミ「どうしてそんな嘘を吐くの? 貴女、美国議員の娘さんでしょう
   駅前の街頭演説で貴女が一緒にいるのを見かけたことがあるわ……」

織莉子「……知っていたんですか」

マミ「行く当てがないんだったら、ウチにこない?」

織莉子「……でも」

マミ「美味しいケーキが手に入ったの
   一人で食べるのは寂しいじゃない? お近づきのしるしに、ね」ニコッ
   
織莉子「それでは…… お言葉に甘えさせて――」

QB「僕の分ももちろんあるんだろう?」

マミ「ええ、特別なドッグフードを用意しているわ」

QB「はは、まいったな」キュィ

――マミの部屋――

織莉子「美味しい……」

マミ「気に入って貰えて何よりだわ」

織莉子(お父様が居なくなってから、
    こんなに落ち着いてお茶を楽しむ機会なんて無かった――)

マミ「大変だったみたいね……」

織莉子「……ええ」

マミ「結果として、魔法少女になるという選択肢が正しかったとは思えないけど……」

織莉子「後悔はしていません」

マミ「……」

織莉子「これでよかったと思ってます」

マミ「……私に手伝えることなら頼ってくれて構わないわ」

織莉子「……」



QB「僕の分のケーキは本当にないのかい?」

 私は間違っていたのだろうか?
 鹿目まどかの魔力に気づいたとき、本当に彼女を亡き者にすることが正しかったのか

 
 
 今更そんなことを考えても取り返しのつかないことで――

 結局のところ、彼女は全ての魔法少女を救うために世界を変革してしまった

 
 
 私のしたことは全て無意味だった



マミ「美国さん……?」

織莉子「あのっ、ごめんなさい…… 少し考えことをしていて」


 巴マミ…… 彼女たちと手を携えていれば、もっと別の結末があったのかもしれない

 
 
 見滝原中学で鹿目まどかを始末しようと

 ×××と協力して――

 
 ×××? 誰だったかしら……
 私、何か大切なことを忘れているような――

――――
マミ「ええと、見滝原中学の制服がそんなに珍しいかしら?」

織莉子「すいません、不躾にジロジロと見てしまって……」

マミ「別にかまわないけど……」

マミ「……白女に居づらかったら、見滝原に来てもいいと思うわよ?」

織莉子「当分は魔法少女として慣れることを優先したいと思っています」

マミ「そう……」

織莉子「でも、見滝原中学に大切なものを忘れてきてしまったような気がして……」

マミ「大切なもの?」

織莉子「思い出せないんです」

マミ「……どういう意味かしら?」

織莉子「キュゥべえと契約したときに願ったんです 私の生まれた理由が知りたいと――」
    
マミ「それが貴女の願い……」

織莉子「それで、断片的に記憶が流れてきて―― その中に見滝原中学が出てきたんです」

 鹿目まどかや、世界変革については触れずに私は巴マミと話を続ける――
 
マミ「なるほど……ね」

織莉子「上手く説明できなくて――」

マミ「実際に行ってみましょうか」

織莉子「え……?」

マミ「もう少ししたら休校日があるから、外部の人連れて行っても目立たないと思うわ」

織莉子「……そうですね 何か手がかりが得られそうですし」

マミ「何か分かるといいわね」

織莉子「何から何までお世話になって申し訳ありません……」

マミ「かわいい後輩が困っているのを放ってはおけないわ」ニコッ

織莉子「あ、ありがとうございます……」

マミ「あっ、後輩って言うのは魔法少女暦であって、同い年の――」


 他人から厚意を向けられたのは本当に久しぶりだ
 お父様の汚職事件以来、私の周りには誰も味方なんて居なかった……

織莉子「そろそろ、お暇します」

マミ「あら…… 帰るの?」

織莉子「……」

マミ「マスコミや心無い人があなたの家を取り囲んでいるのをテレビでみたわ」

織莉子「当然です 父は周囲の期待を仇で返したんですから……
    その父に陶酔して、何も知らずに手伝っていた私も同罪――」

マミ「……無理しなくていいのよ」ギュッ

 抱きしめられる―― 一瞬なにが起こったのか理解できなかった
 巴さんは、泣いている子供をあやすようにやさしく頭を撫でてくれる

マミ「お父さんの罪まで貴女が背負う必用なんてないわ……
   これ以上思いつめないで、誰かに頼ってもいいんだからね?」

 久しぶりに向けられる人の優しさに顔が熱くなる
 眼球の奥がキュッっとなって涙が溢れ出す

マミ「よしよし、お姉さんの胸で思いっきり泣きなさい」

織莉子「う゛ぅぅ…あ゛あ゛あぁぁ ぐすっ」ヒック

――――

織莉子「すいません、取り乱してしまって」

マミ「いいのよ」

織莉子「あの日以来、信用していた人たちからも冷たくされて……」
    
織莉子「だから、巴さんにこんなに良くして貰って」

マミ「マミでいいわよ」

織莉子「マミさん……」

マミ「なぁに?」

織莉子「本当に有難うございます」

マミ「どういたしまして」

織莉子「……」

マミ「それじゃ、今日は泊まっていきなさい」

織莉子「はい……」

マミ「これからのことは明日考えればいいわ」

――――
織莉子「マミさん、もう寝ました?」

マミ「……」Zzz

織莉子「……キュゥべえ、話があるの」

QB「なんだい織莉子?」

織莉子「契約したときの話、やっぱりなかったことにしていいかしら?」

QB「気が変わったのかい?」

織莉子「ええ、だから『まどか様』については――」

QB「いいよ、君がしたいようにすればいい」

織莉子「……ねぇ貴方、本当にキュゥべえなの?」

QB「哲学的な質問だね」

織莉子「そういう意味で言ったわけではないのけれど……」

織莉子(この世界のキュゥべえからは悪意が感じ取れない
    鹿目まどかの願いは魔女システムの崩壊のはず――)
    
織莉子(その改変がキュゥべえにも影響しているというのかしら?)

マミ(まどか様……? 一体何のことかしら……)

――数日後――


キリカ「行ってくるね」

杏子「んー」

キリカ「予備の鍵は下駄箱の上に置いておくからね」バタン

杏子(あれから何日経ったっけ…… 騒がしい生活ってのは
   時間が経つのも早く感じるもんなんだな)

ゆま「すーすー」Zzz 

 お菓子に囲まれている夢でも見ているのか、口から涎が滴っている
 その様子を眺めているとアタシにも睡魔が伝播し、思わず欠伸をしてしまう
 
杏子「ふぁあ~…… 魔獣が出てくるまで、アタシももう一眠りするか」



――――

キリカ(久しぶりの学校は緊張するなぁ……)

キリカ「でも、私は変わったんだ!」

キリカ「やればできる…… やればできる……」

――校内――

マミ「何か思い出せそう?」

織莉子「まだ…… なんとも……」

マミ「そうね、どこか案内してほしい場所はある?」

織莉子「放送室―― いえ、少し一人にしてもらってもいいかしら……」

マミ「分かったわ、気が済んだら昇降口に来て そこで待っているから」

織莉子「はい……」



――――――

織莉子「ここで…… 鹿目まどかを殺そうとして……」テクテク


 あの日、キュゥべえと契約して視た過去で――
 ここでたくさんの命を奪った 見ず知らずの生徒を何人も巻き込んだ


 僅かな命を犠牲にすることで、大勢の人々が救えるのなら
 それが正しいことだと信じていた


 もし再び同じ状況に立たされたら、私はどうすればいい?


 ふらふらと歩いているうちに、とある教室に足を踏み入れていた

織莉子(ここでもたくさんの人が死んだのね……)


 この学校を歩いていると、過去の記憶がどんどん鮮明に浮かび上がってくる
 辛い記憶に耐えかね、私は教室の後方にある強化ガラスの前に座り込んでしまう


 例えどんな姿になっても、私に尽くし護りなさい
 これは…… いったい誰に言った言葉だったかしら……?


 『アッレー なーんで誰もいないのー? 今日休みだっけ?』


織莉子(この声は…… なんだかとても懐かしい声――)



――――――

キリカ(久しぶりに学校に来たのに、休校日だったとは……
    不登校児に連絡網なんて回ってくるわけないか 友達いないし……)
    
キリカ(……せっかく来たんだから、教室だけでも見て行こうかな)

キリカ「私の机残ってるかな…… 引き出しにゴミとか詰められてたらどうしよう……」

キリカ「……」ガラッ

織莉子「あっ……」

キリカ「……」ピシャ

キリカ「……えーっと?」

キリカ(なんで休校日に学校に生徒がいるんだ? 部活動か何かな?
    そもそもウチの制服を着てなかったし…… 動揺して扉を閉めてしめちゃったよ……)
 
キリカ(あ…… さっきの人、もしかしてレジで助けてくれた恩人に似ていたような?)

 胸に抱いた疑問を確かめるためにもう一度扉に手を伸ばす

キリカ「……」ガラガラッ

織莉子「……あの?」

キリカ(やっぱり恩人だ…… どうしてこんなところに?
    いや、まずはあの時のお礼を言わなくちゃ)

キリカ(でもなんて話しかけたらいいんだ……
    あれだけ練習してたのに、咄嗟のことすぎて頭が真っ白に――)

キリカ(平常心平常心…… なに、フツーに話し駆ればいいだけだ)

――――

キリカ「どうしたのキミ、こんなとこで座り込んで ウチの生徒じゃないみたいだけど」
    
織莉子「私はたくさんの人を殺したの」


 ああ、そうだ……
 ようやく全てを思い出した――


織莉子「結果としてたくさんの人を救ったけど 私には重すぎて立てないの」

キリカ「ふーん、よくわかんないけど でっかい荷物を持ってるってことかなぁ」

キリカ(あれ……? 恩人はちょっと電波入ってる系?)

キリカ(でも、ここでカッコいいところを見せれば、恩を返すきっかけになるかも……)
    
キリカ「ンー、じゃあ! 私が半分持ってあげよう!


 私の護りたかった世界…… 私の―― 最高の友達―― 


キリカ「だから、一緒に行こう!」

織莉子「……」グスッ

 差し出された手を握ると、彼女は腕に力を込めて私を引っ張りあげる
 正面に立って、改めて彼女の顔を見つめていると自然と涙があふれてくる
 
キリカ「わわっ、どうしたのさ? 痛かった」

 彼女が慌てて謝ってくる姿をみていると、懐かしさがこみ上げてくる
 なんでもないの、なんでもないの、ただそう答えるのが精一杯だった

織莉子「……さっきの台詞が余りにも恥ずかしかったから」

キリカ「そんなに臭かったかなぁ」

織莉子「ええ、とっても」

 キリカは照れくさそうに、可愛い顔をあさっての方へ向けてしまったのだけれど、
 その仕草ひとつひとつが愛おしくて、ついからかってしまいたくなる――

織莉子「私の名前は、美国織莉子よ…… 以前どこかであったかしら?」

キリカ「一度だけ貴女に助けてもらったことがあって……
    ああっ、自己紹介が先だった えっと、私の名前は――」


 私は彼女のことを識っている―― 
 彼女が名前を言うタイミングに揃えて、心の中で唱える

――――
織莉子「お待たせしました」

マミ「あら、やっと帰ってきた
   そろそろ探しに行こうかと思っていたところだったんだけど――」

マミ「その表情から察するに、探し物は見つかったみたいね」

織莉子「はい…… 全て思い出しました」

キリカ「織莉子、この人は――」

キリカ(美味しそうな金髪の縦ロール、中学生とは思えない豊満なナイスバディ……)

織莉子「彼女は巴――」

キリカ「マミ……さん?」

マミ「あら、私のことを知ってるの?」

キリカ「杏…… 佐倉さんからお話を伺って――」

マミ「なるほど、貴女が杏子の言っていた新人ね……
   同業者同士なんだから、そんなにかしこまらなくていいわよ?」

織莉子「あら…… キリカも魔法少女だったの?」

キリカ「も、って…… まさか織莉子も?」

――マミの部屋――

キリカ「まさか織莉子も魔法少女になっていただなんて――」

織莉子「ええ、本当に吃驚したわ……」

織莉子(この世界では、普通に生きていてほしいと思ったけれど……
    そこまで都合よくは行かないものね……)
    
キリカ「……ねぇ、言いたくなかったら言わなくいいんだけど――」

織莉子「何かしら?」

キリカ「さっきの『たくさん人を殺した』っていうのは、魔法少女絡み?」

織莉子「だったら、キリカはどうするの?」

キリカ「どうもしないよ……」

織莉子「そう? 私がどうしようもない悪人かも知れないでしょう?」

キリカ「織莉子はそんなことしない…… と、思う」

織莉子「どうして?」

キリカ「なんと…なく……」

マミ「おまたせ、今回はキュゥべえの分もケーキがあるわよ?」

QB「やったあ! ここのケーキは美味しいよね!」

織莉子「残念だけど、私はどうしようもない悪人なの……」

マミ(……ケーキを持ってくるタイミング、失敗したかしら)

織莉子「マミさんには少し話をしたのだけれど、全てを話すわ……
    私はキュゥべえと契約して、世界の過去を垣間見たの」

キリカ「世界の…… 過去?」

織莉子「キリカは魔法少女になったばかりで知らないかもしれないけれど、
    マミさん…… 魔力の枯渇した魔法少女がどうなるかは知っているかしら?」

マミ「円環の理に導かれて、消滅するわ」

織莉子(円環の……理?)コホン

織莉子「…………そう、跡形もなく消え去るの」

キリカ「それなら契約のときにキュゥべえから聞かされたよ……」

織莉子「でもね、私の視た世界では――」

――――
マミ「魔法少女が、魔獣―― ではなくて魔女になる……」

キリカ「それで、史上最悪になるであろう少女を殺すために
    見滝原中学で事件を起こした――」

織莉子「ええ、私は殺人犯―― 血も涙も無い冷酷な魔女だったのよ……」

キリカ「でもっ、それでたくさんの命が救えたんでしょ?」

織莉子「結果的には、全てが無意味になったのだけれど、それはまた別の話で――
    そもそもたった一人の少女も救えない者に、大勢の命を助けることなんて不可能だったのよ」

マミ「現実は甘くは無いわ…… 貴女の判断は間違っていなかったはずよ
   普通の人ならできないことを、貴女はやってのけたのよ……」

織莉子「有難うございます でも、もっと他にやり方があったはずだと思います」

キリカ「……結果的に無意味になったっていうのは?」

織莉子「この世界では魔女なんて存在しない―― 魔獣という闇が巣食っている」

QB「人の心に潜む魔物…… そいつらから得られるエネルギーで宇宙はバランスを
   保っている そして、その魔獣を倒せるのは魔法少女だけだ」

織莉子「魔女システムを改変させて、今の世界を構築したのが、私の倒したはずの少女だった」

キリカ「えーっと? つまりそれは、どういうこと……?」

――――
マミ「あのイレギュラーが…… 時間跳躍の力を持っていたなんて」

織莉子「私も詰めが甘かった…… 世界は再び彼女の手によって廻り出したの」

織莉子「でも、そのおかげで私達はこうして出会えることができたのも事実」

キリカ「うーん、ややこしくて知恵熱が出そうだよ……」

織莉子「相変わらずね、貴女は」

キリカ「そうなの?」

織莉子「そうね……ちっとも変わってないわ」

キリカ「……えっと、そもそも何の話をしていたんだっけ?」

織莉子「私がどうしようもない悪人だったって話よ……」

マミ「それは貴女の視た過去の世界の話でしょ?
   だったら、今の貴女とは関係ないじゃない……」

織莉子「そう…… でしょうか?」

マミ「過去の話だって、もしかしたらキュゥべえが見せた幻覚かもしれないわよ?」

QB「酷い言いがかりだね…… ボクはそんなことしないよ」

QB「だいたい、織莉子の願いが曖昧なんだよ」

QB「存在理由、価値、そんなことボクには分かりっこない
   この星の生物の思考回路なんて、まったくもって理解不能だよ」

キリカ「難しいことは良く分からないけれど……
    こうやって皆と仲良くお茶会ができてるんだから――」

マミ「そうよ、過去に囚われていても仕方ない―― 前を向いて生きていかなくちゃ……ね?」

織莉子「はい……」

――――
織莉子「話が長くなってしまいました…… 申し訳ありません
    せっかくのお茶が冷めてしまいました」

マミ「お茶なんてまた淹れなおせばいいだけよ」

キリカ「私も織莉子と話せてよかった」

織莉子「二人とも、本当に有難う……」

キリカ「わっ、もうこんな時間―― 今日の夕飯の買出し、私の番だったんだっけ」

マミ「送っていきましょうか?」

キリカ「大丈夫! 私だって魔法少女の端くれだっ
    魔獣なんてあっという間にやっつけてやるよ」

織莉子「ふふっ、頼もしいわね」

キリカ「それじゃ! ……また遊びに来てもいい?」

マミ「ええ、いつでも遊びにいらっしゃい」

キリカ「やったぁ! 織莉子、マミさん、また今度っ」

キリカ(あ、本当に時間がヤバイ…… 杏子のヤツ怒ってるかなぁ)タッタッタ

織莉子「キリカっ!」

キリカ「何っ?」

織莉子「貴女、今幸せ?」

キリカ「んー、友達もできたし、織莉子とも逢えたし―― 幸せかな?」

織莉子「そう、それじゃあ気をつけて帰るのよ」

キリカ「りょーかーいっ」タッタッタ

マミ「慌ただしい娘ね……」

織莉子「ええ、本当に…… 困った娘です」

マミ「可愛くて仕方ない―― と?」

織莉子「……さぁ、どうでしょう」

マミ「大切な人―― なんでしょ?」

織莉子「……別の世界での話です」

織莉子「それに、彼女が幸せならそれで十分です」

マミ「大切な娘が、かつての敵にとられちゃったのに?」

織莉子「べ、べつに、そんなつもりはありません……」

マミ「ほんとに~?」ズイッ

織莉子「……からかわないでください
    それから、距離が近すぎます…… ちょっと離れてください」

マミ「あぁ、かわいいなぁもうっ」ダキッ

織莉子「ちょっとマミさん!? や、止めて下さい」

マミ「よいではないかっ よいではないかーっ」

QB「全く、魔法少女の友達できたからって浮かれすぎだよ
   マミはボクという友達をなおざりにしすぎじゃないかなっ」

織莉子「わ、私達も夕飯の準備をしたほうが――」
QB「じゃあボクはハンバーグがいいともうな!」

マミ「あらぁ? 丁度いいところにひき肉が……」

QB「はは、まいったな」グチャ

「必用」って「必要」の誤字だと思って指摘しようとしたら
ATOKがちゃんと「必用」とも変換すんだねぇ
ぐぐってみたら「必用」は物に対して用いるのが一般的で、
「体育の授業には体操服が必用です」とかって使うのが正しくて、
「慌てる必要は」とか「必要経費」とかはやっぱり「必要」が正しいみたいだ

――――
キリカ「ただいまー」

ゆま「おかえり~」タンタン

杏子「遅かったじゃねーか」カチャカチャ

キリカ「ちょっと学校でいろいろあってね」

 イルカサーン イルカサーン グレートヤマダアターック
 ジメンガナーイ ジメンガナーイ ナンデカテンカナー

ゆま「キョーコ弱いね…… ゲーセン通ってるのに」
杏子「言うなよ…… 自覚してんだから……」ショボン

キリカ「そうだ、学校でマミさんと会ったよ それから新しい魔法少女にも」

杏子「へぇ~…… どんなヤツだった?」

キリカ「私の恩人だった」

杏子「……世の中って、案外狭いんだな」

キリカ「そして難しいことを話す人だった」

杏子「馬鹿のお前じゃついていけないよな」

キリカ「小卒に言われたくない」

杏子「中学不登校もどっこいだろ……」

キリカ「今度二人にも紹介するよ、美国織莉子っていう子なんだ」

杏子「……魔法少女同士で争いが起こることは珍しくないから
   面倒には巻き込まないでくれよ?」

キリカ「大丈夫だよ、織莉子はキミと違って大人だし」

杏子「そーかいそーかい……」

ゆま「学校はどうだったの?」

キリカ「私の席に花瓶が置いてあった」

杏子「お前……」

ゆま「……」

キリカ「当面は魔法少女業に専念したい」

杏子「あ、あぁ…… わかったよ」

ゆま「キリカおねーちゃん ふぁいとだよ……」

キリカ「うん……」

――――
織莉子「お風呂、開きましたよ」

マミ「あら? もう上がっちゃったの? 一緒に入ろうと思ったのに……」

織莉子「……冗談ですよね?」

マミ「心境を打ち明けあえる仲になったのだから、
   そういうイベントが起こっても差し支えないかと思ったのだけれど」
   
織莉子「……まだまだ私を攻略するのには好感度が足りませんよ?」

マミ「そうなの? 超特殊能力がもらえるの確定してたと思ったのに」

織莉子「馬鹿言ってないで入ってください…… お湯が冷めますよ」

マミ「はいはい、わかりましたよー」

QB「よし、それじゃあボクが一緒に……」

織莉子「……つぶされるわよ?」

QB「それもまた一興」

織莉子(キュゥべえ、何が貴方をここまで変えてしまったの……?)

――――
マミ「織莉子…… 一つ聞きたいのだけれど」

織莉子「なんですか?」

マミ「この前キュゥべえと話していた『幸せのまどか様』についてなんだけど」

織莉子「ああ、やっぱり聞こえてましたか?」

織莉子(幸せ? そんなこといったかしら……)

マミ「盗み聞きするつもりは無かったんだけど……ごめんなさい」

織莉子「いいんですよ、あの話はなかったことになったんです」

マミ「詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」

織莉子「別に構いませんよ
    でも、この話をするならキュゥべえも呼んだほうがいいですね」
    
マミ「お風呂に入る前にトイレで流しちゃったわ……」

QB「やぁ! 二人ともボクを呼んだかい?」

織莉子(……本当に何なのかしら、この生き物)

――――――
―――

織莉子「分かっていただけましたか?」

マミ「なるほどね……」

QB「まったく、馬鹿げているよ……」

マミ「貴女……、とんでもないことを思いつくのね」

織莉子「そうすることが、私の生まれた意味なのではないかと感じたんです」

マミ「取りやめにした理由は?」

織莉子「えっと、その……」

マミ「ん?」

織莉子「父が罪を犯したことに絶望して…… もうだめだと思って――
    でも、マミさんに会えて、キリカのことも思い出したから……」

織莉子「大切な人ができてしまったから…… みんなを失うことが怖くて」

マミ「あらあら、まぁまぁ…… 嬉しいこと言ってくれるじゃない」

織莉子「この世界は何の問題もなく廻っている
    余計なことをしないほうがいいと思ったんです」

マミ「何の問題もないね…… でも、この見滝原に魔獣が溢れかえっている現状はやっぱり」

織莉子「あくまでそれは仮説です」

マミ「そうかしら…… 魔獣の出現が増加したのはのはイレギュラーが現れてからだわ……」

織莉子「確証はありません」

QB「彼女からは強力な魔力の残滓を感じる 
   事の発端に関与しているのは間違いないとボクは思うよ」

マミ「……」

織莉子「……」

マミ「計画が上手くいったとしても 魔法少女と魔女システムは復活を遂げるかもしれない」

織莉子「そんなこと、私は望みません マミさんやキリカが魔女になるなんて、考えたくもない」

マミ「貴女の使命なんでしょ?」

織莉子「それは……」



マミ「円環の理そのものである鹿目まどかを、私達のいる世界に引き摺り降ろすねぇ……」

織莉子「……」

マミ「大勢の命を救うために、一人の少女を
   犠牲にすることは間違っていた 貴女は言ったわよね?」
   
織莉子「……」

マミ「『たった一人の少女を救えないで、何が世界を救うだ』とも――」

織莉子「そ、そこまでは言っていません」

マミ「そう……」

マミ「だったらこの話はこれでお終いね それにしても……」

織莉子「……?」

マミ「私が大切になりすぎて計画に移せなくなっただなんて」

織莉子「そっ、それは」///

マミ「何? 今更照れているの?」

織莉子「……う゛ぅ」

マミ「感謝しなくちゃね まどかという魔法少女に」

織莉子「そうですね……」

◆◇◆◇

――数週間後 路地裏――

織莉子「佐倉さん そっちに行ったわ」

杏子「任せな!」ズバッ

魔獣「ティッヒーィィィ」グシャアァ

ゆま「二人ともお疲れ様ー 回復は任せてよー」

杏子「ありがとな、ゆま しっかし3人でもこの量は辛いな
   マミとキリカが手伝ってくれれば結構違うんだろうけど――」
   
織莉子「あの二人には学校に行ってほしいと言ったのは佐倉さんでしょ?」

杏子「……日常世界との繋がりが残っているヤツはそうするべきなんだよ」

ゆま「お節介焼きだね」

織莉子「そうね、私もそう思うわ」

ゆま 「ねー」
織莉子「ねっ」

杏子「あ゛ー うぜぇ…… 超うぜぇ……」

杏子「つーか、佐倉さんじゃなくて杏子でいいって言ってるだろ
   いい加減直せよ、その呼び方」

杏子「……」

 アタシは今、キリカの紹介で知り合った美国織莉子とゆまと三人で魔獣退治をしている
 隣町で一人で魔獣退治していた頃が、随分昔のように感じる

織莉子「わかったわ佐倉さん」

 増加の一途を辿る魔獣を倒すために手を組むことを了解した
 別にキリカの恩人だからという理由ではない 一時休戦というヤツだ

ゆま「オリコおねえちゃん…… 直ってないよ」

 キリカやゆまにしても戦い方を覚えたら一人立ちをさせるつもりだ
 魔獣の増殖が収まれば、キューブの取り合いになるのは目に見えている

杏子「……はんっ、人の名前もろくに覚えられないのかアンタ?」

織莉子「失礼ね…… 魔獣は退治したんだから、さっさと帰るわよ 杏子」

 織莉子は過去だか別の世界線だかでアタシたちと敵同士だったり
 世界を滅ぼす魔法少女と戦ったりしていたらしいが、どこまでが本当なのかアタシには分からない

杏子「……言われなくても帰るさ」

ゆま「早く帰ってオリコお姉ちゃんの淹れた紅茶が飲みたいなー」

織莉子「はいはい、マミさんたちが帰ってくる前にお茶の用意をしましょうね」

――マミホーム――

杏子「キリカたちはまだ帰ってきてないか」

織莉子「そうみたいね」

ゆま「おなかすいたよー」

 魔法少女になりたての頃は、この部屋によく訪れたっけな……
 懐かしい―― そんな気持ちと同時に父親の顔がふとよぎる

杏子(ここは昔を思い出すから…… あんまり来たくなかったんだけどなぁ)

――――
キリカ「あれ、鍵が開いてる」

マミ「織莉子たちが先に帰ってきてるのかしら」

ゆま「マミおねえちゃん おかえりー」

マミ「ただいま、みんな」

キリカ「この香り―― 織莉子っ、私にも」

織莉子「はいはい、ジャム三杯に砂糖が3個ね」

杏子「甘過ぎるだろそれ……」

キリカ「それがいいんじゃないかっ キミってば本当に理解が足りないな」

杏子「馬鹿で結構…… んで、お前ちゃんと学校行ってきたのか?」

キリカ「……私には織莉子や杏子の情報以外いらないよ」

ゆま「ゆまはー?」

キリカ「もちろんゆまちゃんもマミさんも――」

マミ「キリカさん 皆が魔獣退治に出てくれているから、
   この状況でも私達は学校に通えているのよ?」

キリカ「だって学校じゃ一人ぼっちだし……」

織莉子「昔とは自分になったし、変われたんでしょ? 頑張りなさいキリカ」

キリカ「うへぇ~ 私は魔獣退治の方がいいよー」

杏子「ははは、これじゃ先が思いやられるな
   魔獣の出現が落ち着いたら、ばらばらで活動することになるだからな」

織莉子「そうね……」

キリカ「キューブは無限にして有限だ……」

マミ「生き残るために、取り合う中になってしまうのかしら」

ゆま「それって、すっごいかなしいね……」

キリカ「私はそこまでして生き残りたくない 皆の命を奪ってまで――」

杏子「その前に、この魔獣増加を止めないと、いつかはアタシたちが殺られちまうかもな」

マミ「どちらにしても、魔法少女は短命よ…… つねに死と隣り合わせなんだから」

ゆま「……」グスッ

織莉子「ねぇ、こんな暗い話なんてやめにしましょう」

杏子「そうだな……」

キリカ「だったらさ、陰気な空気を吹き飛ばすほどパーッと遊びにいかない?」

織莉子「この前も行ったばかりでしょ?」

マミ「別にいいんじゃない?」

ゆま「やったー お出かけだー」

織莉子「まったく、杏子も何か言ってよ」

杏子「アタシはどっちでもいいよ」

織莉子「はぁ…… 魔獣が出てきたら直ぐに中止ですからね」

――映画館前――

杏子「……マミさんとキリカ、遅いな」

QB「やぁ!」

ゆま「キュゥべえ、突然どうしたの?」

QB「マミから伝言を預かってきたよ
   『キリカの補修に付き合うから、3人で楽しんできて』だそうだ」

織莉子「魔獣出現以前の問題ね……」

QB「それじゃ、確かに伝えたからね ボクはこれで」キュイ

杏子「どうする、織莉子?」

織莉子「私たちだけねぇ……」

ゆま「ゆま、アレが見たい」

杏子「魔女っ娘ミラクるん♪ か?」

ゆま「うん!」

杏子「はははっ、魔法少女が魔女っ娘ものって――」

織莉子「それじゃ、これにしましょうか」

杏子「え!?」

――――
ゆま「ゆっりゆっらっららゆるゆり~♪ 面白かったよー」

杏子「いつでも奇跡って…… 現実はそんなに甘くないけどな」

織莉子「誰でもにっこり笑顔にしちゃう……
    私にはそんなこと、到底できっこないわ……」

杏子「何? 今日から織莉子はそっち路線で攻めるわけ?

織莉子「なっ、そんなことしないわよ……」

ゆま「購買でステッキ買って来る?」

織莉子「いーりーまーせーん!」プイッ

杏子「冗談だって」

ゆま「うんうん」

織莉子「……酷いわ、二人とも」

杏子「んで、これからどうする? 補修組は帰りが遅くなるみたいだし」

ゆま「ゆまねー、ハンバーガーが食べたい」

杏子「じゃあハックよってこうぜ」

ゆま「うん!」

――ハッキンビーフバーガー店内――

杏子「混んでるな…… しょうがない、喫煙席で我慢するか」

織莉子「……」///

ゆま「オリコおねえちゃんどうしたの?」

杏子「注文だけして会計を素通りだもんなー」ニヤニヤ

織莉子「なっ、わ、私、こういうお店は初めてで――」

杏子「お嬢様育ちなんだねぇ」

ゆま「ゆまたちとは大違いだー」

織莉子(もうっ、マミさんといい杏子といい、どうして私をからかうのかしら……)


――――
 アタシたちは席についた ゆまはナゲットを笑顔で頬張る
 コイツは何を食っても幸せそうにしているから、見ているだけで和む

 アタシもフライドポテトを一度に二本掴んで口に放り込む
 そんな姿をまじまじと見つめてくる織莉子――

杏子「なんだよ? お前は食わないのか?」

織莉子「……フォークとナイフはどこかしら?」

――――
織莉子「そんなに大笑いしなくてもいいじゃない…… 周りの目が――
    酷いわ……杏子 私がこういう店が初めてなの知っていて楽しんでいたのね……」

杏子「悪い悪い…… 別にからかう気はなかったんだけど
   あははは…だめだ 思い出しただけでも笑えてくる……」

ゆま「ごちそーさまでしたー」

織莉子「……」プイッ

杏子「だから悪かったって……」

織莉子「ねぇ、杏子」

杏子「なんだよ、いきなり真面目な顔して」

織莉子「さっきのアニメみたいに、どんな奇跡でも起こったらいいのにね」

杏子「……」

織莉子「私、今の生活がとても楽しいわ」

杏子「ふぅん…… アタシにはちょっと騒がしすぎるかな」

織莉子「そんなことを言って、それなりに楽しいでるでしょ」

杏子「べつに……」

ゆま(おなか一杯になったら眠くなってきたなぁ)Zzz

織莉子「ねぇ、この前皆にも話した『まどか様』についてなんだけど」

杏子「円環の理に喧嘩を売ろうっていうあれか……」

織莉子「こうして生きていられるのは、全て彼女の願いがあってこそだから――」

杏子「実はアタシ、その神様と会ったことあるよ」

織莉子「本当!?

杏子「魔獣に殺されそうになったとき、目の前に現れたんだ」

織莉子「それで?」

杏子「悲しそうな顔で謝ってきたよ でも、その後すぐにキリカが助けに来てくれたんだ」

織莉子「……」

杏子「まどかってやつはさ…… 何もない真っ白な世界で
   ずっと一人で全ての魔法少女を見守ってるんだ……」

杏子「一人ぼっちはさ、寂しいよな……」

織莉子「そうね……」

織莉子「魔法少女は希望を振りまく存在でしょう?」

杏子「建前ではな……」

織莉子「たとえ可能性が低くても、孤独からまどかを救えるとしたら――」

杏子「いいよ、織莉子の計画にのっても」

織莉子「……失敗したら、最悪の事態を招くかもしれない」

杏子「この命はまどかってヤツのお陰で存在しているんだろ?」

織莉子「……」

杏子「こんな話をするんだ、織莉子には勝算があるんだろ?」

織莉子「考えがあるわ…… あっちの席を見て
    ロングの黒髪の子がイレギュラーよ 今、トレイのゴミを捨てているところね」

杏子「……へぇ、あれが噂のイレギュラーか」

織莉子「そして今、御手洗いから戻ってきたのが、その大切な親友よ」

杏子「詳しいな」

織莉子「杏子、彼女の顔をしっかりと覚えておいてね」

杏子「何でか知らないけど、分かったよ……」

――マミホーム――

マミ「織莉子…… ついにやる気になったのね」

織莉子「皆はこの作戦についてどう思う?」

杏子「触らぬ神に祟りなし―― とはいうけれど」

キリカ「こうして一同が会することができるは彼女の願いの賜物なわけだから」

ゆま「一人寂しくしているかみさまを放ってなんておけないよ」

織莉子「揃いもそろって馬鹿ばっかり……」

マミ「ふふっ、貴女が言い出しっぺの大馬鹿者でしょう?」

織莉子「……ですね」

QB「やれやれ、君たちには恐れ入ったよ……」

マミ「乗り気じゃないの? 貴女にとっては有益な話でしょう
   魔女システムが復活すれば、エネルギー回収なんてあっという間よ?」

QB「別にこのままのペースでも問題ないよ…… ずっとこの調子でやってきたんだし
   それに、ボクはずっとこの惑星で生きていくのも悪くないって思ってるからね」

織莉子「かつての貴方からは想像もつかない発言ね」

QB「ボクの惑星では、感情というものは特異な精神疾患だった」

QB「そしてボクがその患者」

杏子「驚いたな……(いや、別にそうでもない……かも 
   コイツ言動を省みてみると、結構思い当たる節があるような)」

QB「ボクならば、この未開の惑星の住人の心が手に取るように分かるだろう
   他の固体たちの提案で、ボクはこの惑星に来ることになったんだから」

キリカ「驚愕の事実だね」

QB「最初は厭で厭で仕方なかったね……
   事実上の左遷というか、島―― 惑星流しなわけだし」

ゆま「……」

QB「この世界の酔狂な住人と生活していて、いろいろあったなぁ
   たくさんの魔法少女を生み出して、その最後を見取っていったよ」

QB「仲間想いな少女、徹底的に利己主義に走った少女
   様々な魔法少女がいたよ…… 本当にいろんな魔法少女達と接してきた……」

QB「そうしていくうちにマミみたいな魔法少女と、お菓子を食べてお茶をのんで
   ペットみたいにだらだら過ごす生活でもいいかなって思えてきたんだ」
   
マミ「キュゥべえ……」

QB「そりゃ、最初は惑星のやつらを見返してやろうと躍起にもなったけどさ
   魔法少女達の奮闘をみてたら、そんな気分も吹き飛んでしまって――」

QB「っとと、ちょっと語りすぎたかな……」
   だからボクはその作戦、乗り気じゃないよ」

QB「ハイリスクノーリターンだ それに彼女の願いを無駄にする可能性だって――」

マミ「キュゥべえ、貴方言ったじゃない……
   魔法少女の魔法は希望を振りまくものだって――」
   
マミ「僅かな希望があるのならば、それに賭けたっていいじゃない?
   今この世界があるのは、彼女のおかげなんだから」

QB「はぁ…… 全く、どうなっても知らないよ?」

キリカ「それで、肝心の作戦の内容は――」

織莉子「……単刀直入に説明するわ」

――――――
―――


QB「……本当に馬鹿げているよ でも、たしかに可能性は零じゃない」

織莉子「ことを穏便にすすめるためには、美樹さやかの協力がほしいわ……
    杏子、貴女今すぐ彼女とコンタクトをとってきなさい」

杏子「だからアイツの顔を覚えておけって言ったのか…… って、どうしてアタシなんだ?」

織莉子「彼女と一番相性がいいのは貴女なのよ」

――さやかの家近辺――

杏子(なんでアタシが…… 織莉子のヤツ…… つーか相性ってなんだよ)

杏子「……そこのお前、ちょっとツラかしな」

さやか「誰、あんた……」

杏子「同業者だ、そういえば理解できるだろ?」

さやか「魔法少女――」

杏子「飲み込みが早くて助かるよ」

さやか「キューブを奪いに来たわけ……?」

杏子「そんなことしなくても街は魔獣だらけだ」

さやか「じゃあどうして」

杏子「暁美ほむら」

さやか「ほむらが…… どうしたっていうの」

杏子「それと、鹿目まどかについてだ」

さやか「――!? どうしてその名前を」

――――
さやか「過去を視る力ね…… それなら納得できるわ」

杏子「ふぅん、本当に物分りがいいな
   信じてくれるっていうのは楽でいいけどさ」

杏子「……それで、アタシたちに協力してくれるのか?」

さやか「……するわ」

杏子「だろうな、大切な友達を裏切ることなんて―― って、はぁ?」

さやか「あんたたちに協力するわ」

杏子「……へぇ、意外だなぁ こんな簡単に協力が得られるなんて」

さやか「……」

杏子「アタシたちを裏切んなよ?」

さやか「そんなことしない」

杏子「後悔すんなよ?」

さやか「……しない」

杏子「それじゃあ、また連絡する このことは他言無用だ
   絶対にイレギュラーに教えるんじゃないぞ」

さやか「ええ、約束してあげるわ……」

――――
杏子「というわけで、簡単に了解が得られたけど……」

織莉子「ここまで上手くいくとは思わなかったわ」

マミ「キュゥべえ、手筈は整っているかしら?」

QB「ああ、次からは一人で魔獣退治に赴くように指示したよ」

キリカ「そのときに私が美樹さやかを掻っ攫えばいいんだね」

織莉子「ええ、くれぐれもイレギュラーには気づかれないようにね」

ゆま「なんだかドキドキしてきたよ……」

マミ「それで、作戦名はどうするの?」

杏子「別にいらないだろ…… そんなもの」

マミ「オペレーション・ラグナロクってのはどうかしら!?」

キリカ「……え?」

マミ「いや、ここは幸せのまどか様でも…… それだと捻りがないわね」

織莉子(あぁ、マミさん…… 何かスイッチはいっちゃった……)

マミ「ねぇ、みんな 何かいい案は無いかしら?」

杏子「そんなこと言われてもなぁ…… 」

マミ「そうだ、この際みんなの必殺技名も決めた方がいいわ!」

キリカ「遠慮しておくよ……」

マミ「何いってるの!? だいたい彼方たちはねぇ――」


 殆どが他愛のない会話で構成されていたのだけれど、会議は夜遅くまで続いた
 自分達のやろうとしていることは非常に愚かなことだと思う

 
 上手く行く保証なんてないにに、必ず成功するんじゃないかと感じてしまう
 キリカと二人で共謀したあの時と違って、こんなにも大切な仲間がいるから――

◆◇◆◇
――キリカの部屋――

ゆま「……スースー」Zzz

マミ「暁美さん、今日も一日中街を探し回っていたわね……」

さやか「……」

キリカ「アイツに見つからないように魔獣退治するのは骨が折れるよ」

織莉子「……そろそろ頃合かしら」

杏子「手紙で呼び出すんだったよな でも、どうして駅なんだ?」

織莉子「そこが一番効果的なの」

マミ「手紙は私が書いていおいたわ」

 『
    美樹さやかを預かっている 返してほしければ

            丑三つ時、××駅構内に来い


                      放課後のジョーカー
                                    』

キリカ「放課後の…ジョーカー……」

杏子「……その差出人名は消しておけよ」

マミ「かっこいいじゃない」

織莉子「ふざけないでください、マミさん」

マミ「そんなつもりはないんだけど……」

杏子「キリカ、修正するものあるか?」

キリカ「ないや…… 買ってくる?」

織莉子「そこまでしなくてもいいわ…… マーカーで塗りつぶしておきましょう」

マミ「あぁ…… マミさんショックで腐り果ててしまうわっ」


杏子「はぁ……」
ゆま「あはは……」
織莉子「マミさん……」
キリカ「何それ怖い……」
さやか(何この人……)


マミ「何、なんのこの空気―― わ、私だって一生懸命考えているのにっ」

――――
ゆま「こんな感じかな?」

 魔力を練り、美樹さやかのソウルジェムそっくりの偽者を作り出す
 これを暁美ほむらの目の前で破壊し、絶望の淵においやる作戦だ

杏子「へぇ、上手いもんだな」

キリカ「これなら暁美ほむらも本物のソウルジェムと見間違えるだろうね」

マミ「あとは……」

さやか「……ん」

 美樹さやかは立ち上がると、おもむろに自らの腕を引き千切る
 一瞬、苦痛に顔をゆがめたが、直ぐに元の無表情へと戻す

杏子「おいっ、お前……」

さやか「魔力で一から精製するより早いでしょ……
    それに、あたしの魔法は治癒能力だから」

ゆま「……私も手伝う」

さやか「ありがと、おチビちゃん……」

杏子「……」

マミ「準備は整ったわね」

キリカ「暁美ほむらを依り代としてまどかを呼び出す ソウルジェムから光の柱が上がったら、
    杏子のときみたいに光へ向かって飛び込めば、まどかの結界に入れるはずだよ」

さやか「……」

織莉子「杏子、作戦当日はゆまと一緒に美樹さんについていて」

杏子「いいのか?」

マミ「ゆまちゃんと二人きりにしておくのは不安だわ」

さやか「大丈夫、逃げたりしないって……」

キリカ「自己嫌悪に落ちいって、ソウルジェムに濁りを溜めちゃって……
    キューブのストックはたくさんあるとはいっても、無限じゃないんだ」

さやか「……」

織莉子「美樹さんが先に導かれてしまわないか不安だわ」

杏子「わかったよ、コイツの面倒はアタシは見る」

マミ「まかせたわ」

キリカ「でも、それだと不公平だよ」

杏子「何が不満なんだ?」

キリカ「私たちばかり悪役になって、杏子だけ暁美ほむらを傷つけないじゃないか」

杏子「織莉子が残れっていったんだ、首謀者には従うもんだぜ?」

織莉子「……じゃあこうしましょう 杏子、貴女の首を差し出しなさい」

杏子「は? 何言ってんだ織莉子……」

マミ「関係のないはずの杏子が殺されたと知ったら、精神的なダメージを与えられそうじゃない?」

キリカ「なるほど、うん、そうだね それくらいはしてもらわないと釣り合わないよ」

杏子「お、おう……わかったよ それじゃ魔法で体の精製を――」

織莉子「首を落としたほうが手っ取り早いわ」

杏子「おい……冗談だろ?」

マミ「あら、貴女は直接暁美さんを痛めつける作戦に不参加なのだから、これくらはね?」

キリカ「回復のエキスパートが二人も居てよかったね、杏子」

杏子「ひっ、お、お前らちょっと待て 落ち着け、な?

キリカ「……」ジャキ

杏子「いやああああああああああああああああああああああああああああ」

ゆま「南無……」

――計画当日――

織莉子「そろそろ駅に向かうことにするわ」

ゆま「うん……」

マミ「頃合を見計らって、キュゥべえに連絡をさせるわ」

QB「魔法少女たちにテレパシーはプライバシーの侵害だから使うなって言われてたのに……」

杏子「今回は緊急事態なんだ、頼んだぜキュゥべえ」

QB「馬鹿な魔法少女に付き合うのが、ボクの役目だから――
   べ、べつキミたちのためじゃないんだからねっ 今回だけなんだからねっ」

キリカ「安っぽいツンデレだねー」

織莉子「馬鹿やっていないで行くわよ……」


――――
ゆま「……」Zzz

さやか「……」

杏子「なぁ……」

さやか「……何?」

杏子(やり辛いな…… ゆまのヤツはまた寝てるし……)

杏子「く、食うかい?」ポッキー

さやか「いらない」

杏子「そっか……」

さやか「……」

さやか「失敗しちゃったかな……」

杏子「ん?」

さやか「あんたたちの作戦に乗らなきゃよかった」

杏子「……」

さやか「今頃、ほむらはあたしを助けるために必死なんだ……」

さやか「あたしはその思いを知っていて、こんなところで蹲ってる……」グスッ

杏子「おいっ、な、泣くなよ また穢れが――」

さやか「あたしってほんと馬鹿だ……」

杏子「だったらお前 どうして協力する気になったんだよ……」

さやか「これ以上ほむらの顔を見ていられなかった」

さやか「ほむらはあたしのことなんか見てなかった――と思う
    あたしを通して、その先にある何かを見ていただけなんだ……」

杏子「……」

さやか「ほむらが一番楽しそうに笑っているときは、決まってまどかの話をしてるときだった」

さやか「あいつが楽しそうにしている顔が見られるのなら、あたしはそれでもよかった
    ……ほむらは無理をしてる 本当は今すぐにでもまどかに会いに行きたいはずなんだ」

さやか「まどかが助けられるかもってアンタから聞いたとき、嬉しかった すごく嬉しかった
    あたしにできることならなんだってできるって思ったよ でも、でもさ――」

さやか「ほむらは今、死んでしまうほど苦しめられているんでしょ!? ねぇ!?」

杏子「そういう作戦だからな……」

さやか「あたしには何もできない…… それどころかほむらを裏切って――
    ここで、ほむらが苦しむのただ待ち続けてるだけなんだっ!」

杏子「……」

さやか「あたしは…… あたしは……」グスッ

杏子「お前は暁美ほむらの笑顔を取り戻すために、この作戦協力してくれてるんだろ?」

さやか「……」

杏子「アタシはよくやっていると思うぜ、さやか」

さやか「……あんたなんかに褒められてもうれしくない」

杏子「んだよ、せっかく慰めて――」

さやか「あと、勝手に名前で呼ぶな」

杏子「はいはい、わかったよ」

さやか「……ねぇ、さっきのお菓子ちょうだい おなか空いたんだけど」

杏子「ほらよ」

さやか「ありがと杏子」

杏子「お前こそ名前で――」

ゆま「わっ、頭の中に声が――!?」ネムネム

杏子「おっと、お呼びがかかったか」

さやか(ほむら…… 今行くからね……)

◆◇◆◇

 ここはどこだ―― 真っ暗で何も見えない――
 何か音が―― これは声? 懐かしい声…… 誰かが私を呼んでいる? 

 ああ、そうだ 私は死んだんだ だからまどかが私を呼んで――

さやか「ほむらっ! ほむらっ眼をあけてよ!」

 さやか……? どうしてここに?
 そっか、彼女も死んだんだっけ…… だから一緒に死後の世界に――

ほむら「んん…さやか…… どうして泣いているの?」

さやか「ああっ、ほむら! よかった!」ギュッ

ほむら「ちょっと、なんなのいきなり……」

さやか「ごめんね…ごめんね…… 辛かったよね……」グスッ

 状況が飲み込めない…… さやかをなだめる為に頭を撫でる
 そうしながら辺りを見回すと、そこには見知った顔が――

杏子「よっ、はじめましてかな? それとも久しぶりでいいのか?」

 久しぶり? どうして彼女が私のことを……?
 それに彼女の手の中で、私のソウルジェムがキューブによって穢れを取り除かれている――

ゆま「ふぅ…… これで体のほうも大丈夫だよ」

杏子「お疲れさん それじゃ、ゆまのソウルジェムも回復しないとな」

 千歳ゆま……? 彼女も死んでしまったのだろうか……
 死んでしまったのにソウルジェムの穢れをとる必要ってあるの?
 そもそも死んだのにソウルジェムがあるってどういうことなのかしら……」

ほむら「ねぇ、ここはどこ? 私たちは死んでしまって天国にでも来たの?」

 白い広大な部屋に私たちがぽつんと染みのように存在しているだけで、周囲には何も見当たらない
 眼を凝らして遠くを見ても、がらんどうな空間がどこまでも続いているようだった 

織莉子「限りなく死後の世界に近い場所―― なんじゃないかしら?」

ほむら「……美国織莉子!?」

織莉子「あら、気がついたのね…… よかった、あのまま消え去って――」

ほむら「貴女、どうしてここに!?」

さやか「おちついて、ほむら! 大丈夫、美国織莉子たちは敵じゃない」

ほむら「敵じゃない? アイツはあなたを殺して――」

織莉子「ごめんなさい でも、こうするしか方法が思いつかなくて」

ほむら「この状況を説明してくれないかしら…… 一体何が起こっているの?」

――――


ほむら「まどかを神から引き摺り下ろすだなんて――
    呆れた……  なに、何なの? 馬鹿なの? 死ぬなの?」

杏子「そうだな、アタシたちは馬鹿だよ」

ほむら「さやかまで私を裏切って――」

さやか「まどかを救えるかもしれないんだ」

ほむら「そんなことしてまどかが喜ぶとでも思っているの?」

さやか「でも、ほむらはまどかと一緒にいたいと――」

ほむら「そんなこと微塵も思ってない!」

さやか「嘘吐き…… ほむらはずっとまどかのことしか考えてないくせに!」

――――
キリカ「ただいまー、この辺りを調べてみけど出口も何も見当たらなかったよ」

マミ「ぐるぐる同じところを回っているような感じだったわ……」

織莉子「そう……、それは困ったわ……」

ゆま「このまま出られなかったら、ゆまたち飢え死にだね」

ほむら「考えもなしに愚かなことをするからよ……」

 どうやらここは、まどかの作り出した結界のような場所らしい
 馬鹿な魔法少女たちの目論見で、私はこんなところに連れてこられてしまったようだ

ほむら「どうするのよ」

織莉子「杏子の話だと、直ぐにまどかが現れたって言うから」

杏子「アタシが悪いって言うのか?」

キリカ「喧嘩はやめなよ……」

マミ「もう一度周辺をくまなく探してみましょうか……」

 巴マミのその言葉に従って、おのおの辺りを調べ始めた
 しかし…… 何もない空間で探すといったって――

ほむら「……あるじゃない、扉」

 立ち上がって数分も経たないうちに、閉じられた大きな扉を見つけた
 何もない空間に扉だけがぽつんと―― 明らかに不自然な形で存在している

キリカ「あれ…… おかしいな……
    さっきみたときにはこんな馬鹿でかい扉なかったと思うんだけど」

さやか「ロダンの地獄の門みたい……」

マミ「貴女をまどか様が導いてるんじゃない?」

ほむら「……下らないこと言わないで」

 扉に手を伸ばそうとした瞬間だった
 不穏な気配を感じ取る―― 辺りにけたけたと気味の悪い笑い声が響く 

魔女「 ―― 」
手下「 ―― 」

ほむら「御菓子の魔女に…… 薔薇園の魔女……」

杏子「これが魔女か 魔獣よりも手ごたえがありそうじゃん」

マミ「ここは杏子と私が食い止めるわ…… 織莉子たちは先に行って」

ゆま「だったらわたしも残るよ」

織莉子「そいつらを倒したら、直ぐに追いつきなさい」

杏子「ははっ、無茶いうなぁ……」

ほむら「愚かな作戦に巻き込んで、挙句にこんなところまで連れて来られて――
    貴方達……あとでたっぷりと叱ってあげるから絶対に生き残りなさい」

キリカ「マミさん、杏子、ゆま 任せたよ」

杏子「あぁ、行って来い!」

――――
杏子「久しぶりだよな」

マミ「そうね、二人で戦うのはいつぶりかしら?」

ゆま「ゆまもいるよー」

杏子「そうだったな でも、あんまり前ににでるなよ」

ゆま「怪我したら直ぐに治すからね!」

杏子「なぁ、久しぶりに『アレ』をやるか」

マミ「できなくなったんじゃないの?」

杏子「大丈夫、今のアタシならできると思う――」

マミ「だったら援護するわ 一気に決めなさい!」

杏子「ゆま、アタシが必殺技を叫んだこと、他の皆にはナイショだぜ?」

ゆま「……?」

マミ「ティロ・ボレー!」

杏子「必殺 ロッソ・ファンタズマァアアアア!! 」

――――
 扉を抜けた先にあった螺旋階段を私達は駆け上がる
 この先にまどかが居るのだろうか そう思うと少しだけ胸が高鳴る

織莉子「あの三人、大丈夫かしら」

キリカ「マミさんと杏子はベテランだし、きっと大丈夫だよ」

ほむら「それで貴女達、これからどうするつもりなの?」

織莉子「どうするって…… 当初の計画どうり、まどか様に会うのよ」

ほむら「ねぇ、貴方達はどうやってまどかを神を辞めさせるつもりなの?」

キリカ「ずばり―― 色仕掛けだっ! 親友の頼みとあらば、神も断れまい!」

ほむら「……貴方たち正気なの?」

さやか「本気だよ」

ほむら「聞いたあたしが馬鹿だった……」

織莉子「だって他にいい方法が思いつかなかったんですもの」

ほむら「……」

ほむら「あははは はははははははは」

ほむら「ふざけないでよ! どうして私がこんなことに巻き込まれなくちゃいけないの?」

ほむら「そんな方法、上手くいくわけないじゃない!」

織莉子「やってみないとわからないわ」

ほむら「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…… どいつもこいつも底なしの馬鹿!」

ほむら「何が私たちを巡り合せてくれた神さまを救いたい? 寝言は寝て言いなさい」

キリカ「本来なら魔女になる私を助けてくれた神様に、一言お礼がいいたかったんだ」

織莉子「私は謝らないと―― 殺してしまってごめんなさいって」

キリカ「あははは、それどう考えても許してもらえないよねー」

織莉子「そうよね…… 焼き土下座で許してもらえないかしら……」

キリカ「っていうかこの状況ってさ、RPGのラスダンっぽくて燃えない?」

織莉子「あーるぴーじーって何? RPG-7?」

ほむら「……もういい…もう何も聞かない…… 
    さやか……どうしてこんな馬鹿に協力したの?」

さやか「……私も…馬鹿だから……かな」

ほむら「失望したわ…… 貴女とならうまくやっていけると思ったのに」

さやか「……ゴメンね…ほむら」

 階段を上りきると、再び開けた空間に出た
 最初の場所と同じように、不自然に大きな扉が一つあるだけだ

 ここまできたら前に進むしかない……
 私は目の前にそびえ立つ扉を見据える

織莉子「やる気になった?」

ほむら「……」

キリカ「嫌われちゃったね」

さやか「ねぇ、また何か出てきたよ」

 上半身が騎士で下半身が人魚の魔女と
 それに帽子を被った黒くて物質的な魔女

ほむら(この組み合わせ… 何か意図的なものを感じるわ)

キリカ「うわぁ…… なにあれ気持ち悪い……
    死んでもあんな化け物にはなりたくないなぁ」

織莉子(ごめんなさいキリカ…… 私の所為で貴女は一度ああなっているのよ)

織莉子「そんなことは二度とさせないつもりだけれどね」

キリカ「え、何か言った?」

織莉子「キリカ、今は目の前の敵に集中しなさい」

さやか「ほむら、ちゃんとけじめをつけてきて まどかに…… その想いを届けてきて」

さやか(ほむらが笑顔になれるのなら、あたしはほむらに嫌われてもいい――)

さやか「それから、ちゃんと無事に帰ってきてほしい」

 けじめをつける? 一体私に何をしろっていうの?
 さやかたちが魔女をひきつけているうちに、扉の前まで走り抜ける

オクタ「 ―― 」

さやか「ほむらには指一本触れさせないよ!」

ほむら「……」

さやか「行ってきてほむら!」

さやか(二人がゆっくりと話し合える時間を、あたしが稼ぐんだ)

さやか「さぁさぁさぁ、 この正義の死者さやかちゃんが相手だっ!」

織莉子「暁美ほむら、忘れ物よ!」シュ

 美国織莉子が帽子の中から何かを取り出して放り投げた
 私がソレを受け取った瞬間、やわらかい感触が手に広がる――

QB「奇跡の伝道師、キュゥべえ参上! お題は世界へのラヴで!」グチャ

――まどか神結界 最深部――

 先ほどまでの部屋よりもずっと狭い空間―― 中心に少女が一人佇んでいる
 彼女の頭上には巨大な天使のわっかのようなものが、ふわふわと浮かんでいた

まどか「……久しぶりだね ほむらちゃん」

ほむら「本当に…まどか……なの」

まどか「大切な友達の顔、忘れちゃったの?」

ほむら「騙されないわ… あのときインキュベーターは言っていた
    まどかの自我は無くなり、一つ上の次元の存在になったと……」

まどか「うーん…そのはずなんだけどね…… この結界の中――
    というよりも魔法少女を導くその瞬間だけは、人の形になる必要があってね」

ほむら「……それじゃあ、貴女は本当に」

 知らず知らずのうちに歩みを進めていた私は、彼女の目の前まで来ていた
 間近で見るまどかは、あの頃とまったく変わらない姿で存在してる――

まどか「私の創り出した世界と供に歩んでくれるんじゃなかったの?」

ほむら「その……これには…深いわけがあって……」

ほむら「まどか……」

まどか「全部お終いにしよっか」

ほむら「え……?」

まどか「外で戦ってる皆が力尽きるのも時間の問題……」

まどか「みんなまとめて私は導いてあげる」

ほむら「まどか…… 私、貴女に謝らないと……」

まどか「ううん、ほむらちゃんは悪くないよ
    まったく、さやかちゃんも杏子ちゃんもマミさんも馬鹿だよ……」

ほむら「でも、彼女達は貴女を――」

まどか「私がいなくなったら、一体だれが魔法少女を救うのかな?」

ほむら「それは……」

まどか「嬉しかったよ 皆が私のことを思って行動してくれて――」

 美国織莉子は、私の説得によってまどかを引き摺り下ろすといっていたが、
 そんなこと不可能だ いったい私にどうしろと言うのか……

 さやかはけじめを付けろ、想いを届けろと言っていた――
 今更まどかに何を伝えるというの…… 人間に戻れとでも言えばいいの?

QB「暁美ほむら…… ボクがいることを完全に忘れてないかい?」

ほむら「インキュベーター……」

QB「キミはイレギュラーな存在にもかかわらず
   この世界のため、忠実に魔獣を狩ることに専念してくれていた」

ほむら「何が言いたいの?」

QB「初めて会ったとき、言ったよね ボクはキミと契約を交わした覚えはない、と」

 ああ、そういうことなのか
 美国織莉子―― 全て彼女の思惑通りだったわけだ
 何が色仕掛けだ……私は彼女の手のひらで踊らされていただけじゃないか



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キリカ「それで、肝心の作戦の内容は?」

織莉子「簡単に説明するとね――」

 この作戦にはイレギュラーである暁美ほむらの協力が必要不可欠なの
 でも、彼女に素直に作戦を話しても協力を得られるはずがないと思う
 
 だから暁美ほむらのソウルジェムに穢れを溜めてまどかを呼び出すわ
 そうすればイレギュラーの意思に関係なく作戦に巻き込むことができる
 
 このとき光に向かって飛び込むことで結界内部に侵入できるはず
 これはキリカが体験してることだから、きっと上手くいくと思うの 

 結界に侵入した以上、暁美ほむらは否が応でも行動に移すしかなくなるわ


 進入が成功したら、実体化したまどかと暁美ほむらを引き合わせる
 杏子が会った事態化したまどかには自我があった このまどかに会うことがポイントよ


 あくまでも私たちの目的は鹿目まどかという人格のサルベージよ
 円環の理システムを壊すことは避けなければならない


 彼女の救ってくれた世界を再び壊すことは、彼女が一番望んでいない
 そんなことになったら、たとえまどかを助けられたとしても何の意味もないわ


 暁美ほむら 彼女はこの世界で魔法少女をやっているけれど、契約は執り行っていない
 対価である奇跡を彼女は受け取っていない これは貴女が言っていたことよねキュゥべえ?

 
 魔獣は強力な魔力の残り香に引かれているんだと思うわ
 もしかすると鹿目まどかが、私達の存在に危機を感じて魔獣を差し向けているのかも

 
 これは全て憶測よ…… だから、本当にどうなるか私にも分からないわ
 それでもこんな作戦を実行しようと思ってしまった私達は愚かなのかもしれない

 
 いえ、紛うこと無き愚か者…馬鹿の集まり―― でも、なんだかわくわくしない?
 私たちを救ってくれた神様への恩返しができる希望が残っているっているんだから――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ほむら(人の気持ちもしらないで……
    馬鹿げた作戦によくも巻き込んでくれたわね……)

ほむら(押し付けがましいのは大嫌い――
    私の考えは見透かしているから、了解を取らなくてもいいっていう考えなのね)
    
ほむら(気に入らないわ…… みんな、みんな気に入らない
    美国織莉子 呉キリカ 佐倉杏子 巴マミ 千歳ゆま それに美樹さやか)ギュッ

まどか「どうしたの、ほむらちゃん?」

 私は概念になったはずの―― 目の前に実体化しているまどかを強く抱きしめる
 その感触は昔とかわらない、柔らかくて華奢な女の子のものだ――


ほむら「私ね、ずっと後悔してた あのとき願うべきだった想いは
    まどかとの出会いをやり直すなんてことじゃない…… 私はの叶えたかった願いは――」

QB「ボクはキミの支払った魂の対価に見合う奇跡を叶えていない
   さあ、暁美ほむら―― その魂の代価にして、君は何を願う?」


ほむら「叶えてよ、キュゥべえ! 私の願いは――」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                 鹿目まどかと 仲間たちと一緒にいたい
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――
マミ「はぁ…はぁ…… 流石にこれ以上は相手できそうにないわね」

杏子「ん…… 何だ、魔女が消えていく――」

ゆま「これで終わりなの……? ゆまたちどうなっちゃうの?」


――――
キリカ「魔女は何処に行った――? うわっ!? 足場が崩れて――」

さやか「ほむら……」

織莉子「上手くいったのかしら―― 」


――――
まどか「キュゥべえ!? ほむらちゃん 一体何を―― 離して!」

ほむら「いいえまどか、私はこの手を二度と離さない!」

QB「契約は成立だ 君の祈りは、エントロピーを凌駕した」


 白の結界が音を立てて崩れ始める
 体を支えていた床が抜け、バランスを崩してしまう

 
 それでも、この手は絶対に離さない――
 さやかたちが繋いでくれたこの奇跡の糸を離してなるもか

――駅構内――

杏子「痛たた、一体どうなったんだ」

ゆま「眼が回るぅ……」

織莉子「ううん…ここは、駅のホーム……?」

マミ「私たち、無事に帰ってこれたのかしら」

キリカ「なんとか無事みたいだね」

さやか「ほむらはっ!?」

ほむら「まどかああああ 会いたかった…… ずっと会いたかった!」ギュッ

まどか「……痛いよほむらちゃん」

さやか「よかった……」

キリカ「あの子が神様の鹿目まどか?」

織莉子「元神様かしら 計画が上手く行っていればね……」

まどか「あれ? どうして私こんなところにいるの?
    たしかキュゥべえと契約して神様になったはずじゃ……」

    
    
QB(滅茶苦茶する魔法少女たちだなぁ…… 本当に面白い生き物だよ、人間と言うヤツは)

◆◇◆◇

 鹿目まどかです ずっとは前は人間で、ちょっと前までは神様でした
 今はまた魔法少女をやっています
 
 私が再び人間世界に戻ってから半年が経ちました
 最近はすっかり冷え込むようになり、なかなかベッドが出ることができません

詢子「まどかー さやかちゃん来てるわよー それに暁美さんもー」

まどか「うん、直ぐに行くから――」

 私はまた鹿目まどかとして生きていくことになりました
 といっても、神様だった間の記憶はほとんど無くなっていたので、あまり実感がわきません

 
 だから未だに疑問に思うときがあります 私、本当に神様だったのかなぁ……


 あの日―― 私が人間に戻った日は本当に大変でした 
 ほむらちゃんは泣いてばかりで、さやかちゃんは私達を見守っているだけで――
 私には何が起こったかさっぱりわかりませんでした

 
 
 そのうち、さやかちゃんも何かを思い出したかのような表情を浮かべたかと思うと

 私に抱きついて、私の名前を叫びながらわんわんと泣き出してしまって――

 
 
 そんな私達を杏子ちゃんとマミさんが笑顔で見守っていて

 他にも知らない子が3人いたりと、全く状況把握出ませんでした

――玄関――

まどか「お待たせ、二人とも」

さやか「遅いぞまどかーっ」


 ほむらちゃんとさやかちゃんが泣き止むのを待っている間に
 マミさんや織莉子さんに状況を説明してもらいました

 
 どうやら私は彼女たちの手によって人間に引き戻されてしまったみたいです
 危険を顧みず、私のことを助けようと頑張ってくれたみたいだけど
 ちょっと冒険しすぎだと思いました 失敗したらどうするきだったんだろう……


まどか「ごめんね……」

ほむら「急ぎましょう、マミさんとキリカさんが待っているわ」


 人間になった、といのは少し語弊がある表現です
 システムと化していた私の感情を抽出して、ソウルジェムに流し込む――
 こうすることで私は再び、個人としてこの世界に降り立つことができたわけです


 作戦は完全に成功しました 円環の理は崩壊することなく継続していることが確認できました
 だから今は魔法少女として、みんなと一緒に魔獣から世界を守っています

さやか「寒ぅ~ 早くマミさんちで温まりたーい」

ほむら「この季節を感じることができたのはどれくらいぶりかしら……」


 初めて家に帰ったとき、ママは私を笑顔で迎え入れてくれました
 私は最初からこの家で育った―― そういうことになっていたようです

 
 その日夕飯はカレーでした パパの料理を再び食べられることが嬉しくて涙がでてしまいました
 そんな私を見ながら食事をしていたママも泣き出してしまいました
 『おっかしなぁ 別に悲しくもないのに、なんだか涙が止まらねぇ……』


 そのうちパパも泣き出してしまい―― 嬉しいはずなのに、何故か何故かの涙の食卓です
 その日はママたちの寝室で家族四人で一緒に寝ました。狭くて苦しいとママは苦笑いでした


まどか「マミさんの家に行く前に、ダダマートでお菓子を買っていかないとね」

さやか「杏子のヤツが来るから山盛りかって行かないと」

ほむら「織莉子が言うには、相変わらず健啖な生活を続けているみたいよ」
 
まどか「杏子ちゃんと織莉子さんに会えるのは久しぶりだねー」

ほむら「美国織莉子…… 私は別に会いたいなんて思ってないわ」

さやか「本当はすっごい感謝してるくせにぃ」ツンツン

ほむら「冷たっ さやか、ちょっとやめなさい!」


 見滝原に増加していた魔獣も、日を追うごとに減少していきました
 問題は解決されたんだけど、そのお陰でキューブの回収が困難になりました


 キューブが枯渇するようになると、ゆまちゃんと杏子ちゃんと織莉子さんは他の街へ移り住みました
 この街に縁も未練もないアタシたちが出て行くのが一番だと杏子ちゃんはいいました


 本当はみんなと一緒にいたい 誰もがそう思っているんだけど――
 実際問題、5人でもキューブのやりくりが非常に厳しいです
 キュゥべえが私たちのために大きめの担当範囲を割り振ってくれているお陰でなんとかなっています


まどか「はやく皆に会いたいなー」


 今日は月に一度開かれる魔法少女たちのお茶会です
 マミさんの家に集まって夜遅くまでだらだらします
 
 特になにもしません ただ集まってお菓子を食べてお話をする
 ただそれだけなのに、そうしている時間が私にとってはたまらなく楽しいです

――――
『私の娘から出て行けっ! 魔女め……よくも娘を誑かしてくれたな!』ドカッ

「アタシは魔女じゃないよ、父さんっ信じてよ
 痛いよ…止めてよ…… ぶたないで…… お願いだから……」

『どうして私は気づいてやれなかったんだ…… すまない杏子……』

「何いってるのさ、アタシだよ? 杏子だよ? 父さんの娘の――」

『黙れ悪魔め、私の娘から出て行けっ 出て行けっ 出て行け』バギッ



――杏子と織莉子のアパート――

杏子「――」ガバッ

 あぁ、またこの夢だ…… 
 幻惑の魔力が戻ったの頃から、昔の夢を見るようになった

織莉子「……杏子、どうしたの?」

杏子「別に、何でもない」ガクブル

織莉子「嘘、震えているわ……」ギュッ

杏子「暑苦しいな…… 離れろよ」

織莉子「貴女が落ち着いたらね」

 キューブの回収が困難になったアタシたちは見滝原を出た 
 見滝原よりもずっと北にある街…… そこで織莉子と二人で暮らしている
 ここから少し離れたところに、ゆまが養子として貰われていった家もある


 移住するに当たって、戸籍等の諸々の問題にアタシは魔法を使ってしまった
 ゆまや織莉子が居なければ、こそ泥としてひっそりと生きていくつもりだったのに――


 両親を失ってしまった、仲の良い姉妹―― そういう設定だ
 我ながら馬鹿馬鹿しい嘘だと思う というか無理がありすぎるだろ……

 
杏子「一人のほうが気楽でよかった」

織莉子「強がりね」

杏子「そんなことない」

織莉子「一人ぼっちは寂しいくせに」

杏子「……」

織莉子「今日はキリカたちに会いに行く日でしょ? そんな顔で会いに行くつもり?」

杏子「分かってるよ……」

――――
織莉子「忘れ物はない?」

杏子「ああ……」

 空から雪がちらちらと舞い降りてくる 外は一面の銀世界だった
 どうせならもっと暖かい場所にいけばよかったな

織莉子「杏子、手袋は?」

 織莉子の質問には答えない…… 厭な夢をみたせいで気分が優れない
 寒さを紛らわすため、両手を上着のポケットにねじ込む

織莉子「困った子ね……」

 そう言いって織莉子は自分のしていた手袋の片方渡してくる
 いらないと断っても彼女は聞く耳を持たなかった

 仕方なく左手に手袋をはめる――
 その一瞬の隙を突いて織莉子にアタシの右手が捉えられる
 
織莉子「こうしていれば暖かいでしょ?」

 素早く手を繋ぎ、二人分の手を織莉子はコートのポケットに仕舞い込む
 ふわふわとしたポケットの中で、織莉子の指がアタシの指に絡んでくるのを感じた

杏子「うぜぇ…… 超うぜぇ……」

 アタシの人間強度は酷く脆いものになってしまった 馴れ合いが過ぎたんだ
 守りたい者が出来てしまったその時から、不幸は再び始まってるのかも知れない
 家族の夢を見るようになったのも、きっとそのせいだ

織莉子「貴女は他人のために幻惑の魔法を使うことを拒んでいたのに――
    今の生活があるのは杏子のおかげよ 本当にありがとね」

杏子「……べつに」

 途中の自販機で一本だけ缶コーヒーを買い、二人並んで歩く
 織莉子は半分まで飲み、残りを差し出してきた

杏子「回し飲みなんて、お前も変わったよな」

織莉子「そうね……」

杏子「……」ゴクゴク

織莉子「間接キスね」

杏子「だな」

織莉子「もっと感動してくれてもいいのに」

杏子「もう慣れたよ」

 見滝原に行く前に、ゆまの家に寄っていく
 皆で集まるときには一緒に連れて行くことになっている

――――
ゆま「それじゃ、行って来ます!」

養父「佐倉さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ」

――――
 ゆまの家に着くと、ぱたぱたと小さい体が駆け寄ってくる
 その手に異様なほど長いマフラーを持って――

織莉子「おはよう、ゆまちゃん」

ゆま「おはよー」

杏子「その無駄に長いマフラーはなんだ?」

ゆま「ぷれぜんとふぉーゆー」

織莉子「杏子と私、どちらにかしら?」

ゆま「ふたりに! こうやって二人ともいっぺんにぐるぐる巻いて――」

杏子「馬鹿ップルみたいでやだな……」

ゆま「ぐすっ、ゆまが一生懸命編んだのに」

織莉子「泣かすなんて最低ね、杏子」

杏子「……分かったよ、使えばいいんだろ?」

ゆま(計画通り)ニヤリ

杏子「……動きづれぇ」

織莉子「でもとっても暖かいわ ありがとね、ゆまちゃん」ナデナデ

ゆま「えへへー」

織莉子「それじゃあ駅に向かいましょうか」

杏子「おい、このまま歩いていくのか」

ゆま「……」ジーッ

 無言の威圧感を放ってくる少女
 これは絶対にとってはいけないという意思表示なんだろうな……

織莉子「ですって」

杏子「何も言ってないじゃん」

織莉子「一蓮托生、こけないように気をつけてね」

杏子「はいはい……」

ゆま「さぁ、早くキリカおねえちゃんたちに会いに行こうよー」

――――
 がたんがたんと小気味好いリズムを刻みながら電車は走る
 見滝原まではもう少し時間がかかりそうだ

織莉子「あれからもう半年も経ったのね」

ゆま「うん……」

 半年―― アタシたちはあとどれくらいの時間をこうやって過ごすことができる?
 あの時は大量にあったキューブのストックも、既に底を突いてしまった
 いずれはキューブを取り合い、この二人とも対立するときが来るのかもな……

杏子「……」

ゆま「キョーコ、暗い顔してどうしたの? 厭な事でもあった?」

杏子「なんでもないよ」

織莉子「随分とアンニュイ入ってるみたいね」

杏子「……そろそろお前らも一人で魔獣を狩るようにしろよ」

ゆま「どうして?」

杏子「いつまでも馴れ合っていられる状況じゃないんだ 察しろ」

織莉子「杏子、ゆまちゃんの前でそんな話は――」

杏子「ゆまだって十分に一人でやっていけるようになったんだ
   本来なら、魔法少女としての基本的な事を教えたら捨て置くつもりだったのに……」

ゆま「キューブは足りないし、キリカおねえちゃんたちと一緒にいられないけれど
   ゆまは今こうしていられることが楽しいよ」

ゆま「あの時、魔獣に殺されていた命を救ってもらっただけじゃなくて
   こんなにも楽しい時間を与えてくれたキョーコには感謝してるの」

織莉子「ゆまちゃん……」

ゆま「私達はいつか殺し合う仲になるのかもしれない――
   けど、そのいつかはいまじゃない……」

ゆま「ゆまはキョーコやみんなを絶対に裏切ったりしないよ
   キョーコは諦めちゃうの? みんなのこと嫌いになっちゃったの?」

杏子「嫌いになるわけなんてない
   みんな馬鹿ばっかりだけど、アタシの大切な仲間だよ……」

ゆま「ゆまたちは世界に喧嘩を売って、勝ったんだよ」

ゆま「奇跡も魔法もあるんだよ?」

杏子「はぁ……」

杏子「……こんなチビに説教されるなんてアタシも焼きが回ったもんだよ」

織莉子「諦めたらそこでお終い―― ゆまちゃんの言うとおりね」

杏子「アタシもっとしっかりしないとな」ナデナデ

ゆま「うん、みんなずっと一緒だよ」

QB「いやぁ……青春してるねぇ」

織莉子「盗み聞きとは感心しないわ」

QB「ボクはどこにいてもミキたち魔法少女のことを
   把握しておかなければならないからね」

杏子「魔法少女の観察が趣味なんだもんな」

QB「それがボクの生き様だよ」

ゆま「なんかカッコいい!」

杏子「ゆま、騙されるな…… コイツはただの少女趣味の変態だ」

QB「酷い言い草だね ボクがいなければキミたちは絶望に飲まれていただろうに」

ゆま「そうだよ、キュゥべえが居なかったら私達は出会えなかったんだから」

織莉子「それは一理あるわね」

QB「だろう? もっと褒めていいよ! さあ崇めよ奉れ!」

――――
織莉子(キュゥべえ、もしかしてこの場を和ますために態々来たの?)

QB(そんなつもりはないよ ボクはキミたちの監視を怠ってはいけないだけだ)

織莉子(貴方も本当に素直じゃないわね それなら姿を現す必用はないでしょうに)

――マミの部屋――

キリカ「『今日アタシ助けたことで、もしかしたらお前らは後悔するかもしれない』」

キリカ「あの言葉の意味を 今なら理解できる気がするよ……
    杏子を助けたら、織莉子を寝取られてしまった つまりこういことだったのか」キリッ

マミ「馬鹿いってないで準備を手伝うか、大人しく受験勉強でもしていなさい」コツン

キリカ「はーい」

マミ「……ねぇ、キリカ」

キリカ「なに?」

マミ「そんなに私とのペアは不満かしら 後輩組みとペア交換――」

キリカ「そんなことは全く思ってないよ
    さっきのはただの冗談だよ…… 私の相棒はマミさんがいい」

マミ「本当に? あの二人は呼び捨てなのに、私のことはさん付けじゃない」

キリカ「あー、考えてみればそうだ……」

マミ「気づいてなったの?」

キリカ「だって、マミさんは『マミさん』って感じだから」

マミ「何がいいたいかさっぱりよ…… 語彙が足りてないわ」

キリカ「マミさんはいつも優しくしてくれるし、大っ好きだ」

マミ「面と向かってそんなこと言われると、流石に恥ずかしいわね……」///

QB「何か今の愛の告白っぽくないかい?」

マミ「あら、キュゥべえいつからそこに」

QB「随分前からいたよっ! ボクへの扱いが日に日に悪化してないかい!?」

――――
まどか「おはようございまーす」ピンポーン

キリカ「あっ、まどかたちが来たみたいだ 鍵開けてくるね」

さやか「マミさんキリカさん、おっはよー」

マミ「おはよう、みんな」

ほむら「ケーキを作っていたところですか?」

まどか「私も手伝います」

キリカ「さやかっ、この前の続きだ」

さやか「おっけ~ぃ、さやかちゃんがフルボッコにしてやんよ」

ほむら「またゲームばっかりして…… 貴方達も少しは手伝いなさいよ」

――――
ほむら「そうなんです、まどかったらまたポカをして下着が丸見え――」

まどか「わーっ、それはナイショっていったのにー」

マミ「あらあら、それは可愛らしいミスね 貴方達は本当に仲が良くてほほえましいわ」

まどか「そ、そうかなぁ……」

さやか「おいっ、ほむら まどかは私の嫁だからな? 手を出したら許さないぞ」

ほむら「残念…… まどかの身も心も、全て私のものなんだから……」

まどか「ほ、ほむらちゃん」

さやか「貴様っ、まどかに何をした!」

ほむら「ふふふ、それは言えない……」

キリカ「まどかも大変だねー 馬鹿二人に囲まれてさ」

さやか「誰が馬鹿だって!?」
ほむら「誰が馬鹿ですって!?」

キリカ「あははは 二人とも息ぴったりじゃないか」

まどか「うん、二人はとっても仲良しさんだよね」

さやか「ほむらのことなんて大好きだし!」
ほむら「さやかのことなんてどうとも思っていな――」

ほむら「……え!?」

さやか「まどかが帰ってくる前から…ずっとほむらのことが――」

ほむら「ちょっと待ちなさい さやか、それは――」

さやか「ほむらはあたしのこと嫌い……?」

ほむら「別に…… き、嫌いじゃないわ」

さやか「好き?」

ほむら「さやかのことはもちろん す、好きよ―― でも私の最高の友達はまどかなの!
    た、確かに貴女も大切な友達よ…… 私のことを思ってまどかを助けようとしてくれて――」

さやか「ぷっ」

ほむら「……?」

さやか「あはははっ その反応いいよ! ちょっとほむら…狼狽えすぎ……面白すぎ……
    何本気にしちゃってんの? 冗談にきまってるじゃない あはははっあははっ、お腹痛い」

ほむら「……ちょっとさやか貴女 謀ったわね!」

キリカ「うわぁ……恥ずかしいヤツ」

ほむら「なっ……」///

マミ「ほむらさん、二股はいけないと思うわ」

ほむら「そんなつもりは―― 私の一番はまどかなんだからっ!」

まどか「えへへ、二人は本当に仲がよくって…… 少しやけちゃうよ」

さやか「あはははあはっ ちょっと、待って…… お腹痛い助けて……
    あはははは、あははあははっ、す、好きよって あははは、ヤバイもうだめっ」

ほむら「笑いすぎよっ さやか」

QB「どんまいどんまい!」

ほむら「五月蝿いわよインキュベーター! というか何時からそこに――」

QB「最初からいたよ……」

まどか(さやかちゃんがほむらちゃんののことは大好きなのは本当のことなんだろうけどなぁ)ニヤニヤ

さやか「ん? どうしたまどか そんなににやけて」

まどか「べっつに~」ニヤニヤ

――――
杏子「おーい、着いたぜー」ピンポーン

キリカ「杏子たちだ 出迎えてくる」

さやか「はやっ 今加速の魔法使わなかった?」

まどか「織莉子さんたちに会えるのが本当に嬉しいんだね」

マミ「魔力の無駄遣いはダメだった、あれだけ忠告しているのに……」

――――
織莉子「久しぶり、みんな」

マミ「元気にしてた?」

ゆま「うん!」

杏子「そっちこそ問題はないか?」

ほむら「特に問題ないわ ちょっとさやかがむかつくけれど」

さやか「ほむらに愛され過ぎててちょっとうんざりかも」

ほむら「さやかっ」イラッ

杏子「相変わらず仲がよさそうで安心したよ……」

――――
 みんなが集まってお喋りしている時間は、それはそれは賑やかです
 用意した御菓子の山もあっという間になくなってしまいました

ほむら「そこでマミさんが魔女を千切っては投げ、千切っては投げの大活躍――」

マミ「私、本当にそんなことをしていたの……?」

 近況報告をし合った後は、いつもどおりだらだらーっとお話をします
 最近はほむらちゃんによる別世界線の話が繰り広げられています

キリカ「織莉子はその過去を視た?」

織莉子「いえ、私は視ていないけど……」

ほむら「織莉子、そこは話をあわせてくれないと困るわ」

 多少脚色が入っているようです……
 というか魔女を千切っては投げというのは無理があるよ、ほむらちゃん

ほむら「じゃあ次は杏子とさやかの愛の死闘について――」

さやか「どうせそれも嘘でしょ」

織莉子「それについては私も垣間視たかも……」

杏子「え゛っ、冗談だろ……?」

まどか(もしかしてさやかちゃんが魔女化しちゃったときの話かな……
     いや、でも愛っていうのはちょっと違うような気がするんだけどなぁ)

――――
織莉子「ほむらさん、そっちのお皿取って下さい」

ほむら「はい」

キリカ「さやかももっと飲めよー」

さやか「えー、もうお腹一杯なんだけど……」

キリカ「なにぃ、私の酒が飲めないっていうのかー」

マミ「ただのジュースでしょうが……」


 目の前には、かつての世界からは想像もできない光景が広がっています
 みんなで楽しくお茶を飲みながら、楽しくお話ができる、そんな世界が――


「ほむらちゃん」

「なぁに、まどか?」

「魔法少女同士仲良くできないって言っていたけど、そんなことなかったね」

「これも全て貴女の願いの結果ね」

「織莉子さんやほむらちゃんの願いも、だよ」

「そうね、みんなの願いの結果ね」

「ほむらちゃんあのね……」


「私、こんな風に過ごせるなんて思ってなかった」


「これは夢じゃないかって思っちゃうときもあるくらいだよ」


「夢なんかじゃないわ、これは現実」


「うん、現実なんだよね……」


「私ね、こうやってみんなと楽しくしていられる今が――」





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                   とっても幸せだよ
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おしまい

支援して下さった方、最後まで読んで下さった方に感謝

久しぶりに書いたので楽しくて仕方なかったんだ 地の分を取り入れてみたり、
やりたいことが多すぎて冗長になってしまった感は否めないけど止められなかったんだ

それではまたどこかで

面白かったけど、それだけじゃなくて長い中断なしで終えたことも評価したいのです

レス数196はさすがとしかいいようがない。乙です!過去作品って何があるんです?

>>342-343 まだ見てるか分からないけれど一応

マミ「佐倉杏子が仲間になった」

まどか「杏子ちゃんが家族になった」

ほむら「ハッピーエンドがあってもいいじゃない」

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