『プ、プロデューサー、わ、私……』
赤らんだ頬、潤んだ瞳、
それは恐れではなく、目の前にあるそれをお預けされた犬のようなものだった
『どうした? 言ってみろ』
『そ、それは……うぅ』
欲しい、欲しいけど、
言いたくはない台詞を言わなければいけない屈辱的な表情
俺の下に横たわる雪歩は小さく息を吐く
緊張を和らげるように、
その言葉を口元へと押し上げるように。
『ゎ、私……スコップしか知らないし、掘ったことしかないんです……』
だから。と、
雪歩はつぶやいて俺を見る
その表情はもう、最高としか言えないものだった
涙目、紅潮した頬、汗によって光る肌。
そんな彼女の言葉が、俺の理性を吹き飛ばす
『私に、ドリルを教えてください……そのドリルで、ゎ、私を掘ってください!』
『ああ、掘ってやるさ。教えてやるさ。大丈夫、優しくするよ』
そして俺は――
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――ふぅ
「…………………」
………………。
………。
「い、良い汗かいたなーよーし、まだ深夜だけど冷水浴びて風邪引くぞー」
馬鹿なの? 死ぬの? 死にたいの?
いや、死ねよ、な? な?
雪歩で何してるんですか?
自分の担当アイドルで貴方は一体何をしたんですか?
「[はぁぁぁぁん]しました……」
くっ……これには海よりも深い事情があるんだ
許してくれ、俺の理性よ
「……と、とりあえずシャワー浴びてこよう。気持ち悪いし」
まさか、こんなことになるなんて。
久しぶりに抜こうと思っただけなんだ、悪気はなかったんだ
許せ……雪歩
事の発端があったのかと聞かれれば、
俺は首を横に振るかもしれない。
確かに、
仕事上、若い女の子と接することが非常に多い。
女子高なんて目じゃないくらいに……多分だけど。
でも、いつだって開放することはできたはずなんだ。
帰宅が夜遅いことがあったかもしれない。
毎日仕事で忙しかったかもしれない。
事務所に泊まり込むことだってあったかもしれない。
でも――……あれ?
そんなの溜まる一方じゃないか
そうか、つまり
『僕は悪くない』
……いえ、俺が悪いです
抜くのは良いが、自分のアイドルで抜いちゃいけないでしょう
イクだけに、イけない……ないな
「……マズイな、非常にまずい」
もちろん、すでに開放してあるから、
雪歩のことを思ったところで見事元気になるわけだが、
明日からどう接するべきかが判らなくなってしまった
雪歩は犬が嫌いなだけでなく、男も嫌いなのだ
そんな子に対して、
その女の子自身で性欲を発散するような男が、
近づいてもいいのだろうか?
いや、ダメだ
だってさ、
一度開放したくらいじゃまた勃ってしまうようなものなんだぞ?
雪歩のことを思ったくらいで勃たない?
いいや、勃つね
「くそっ……馬鹿だ、バカだよ、俺は……っ」
なんで雪歩を選んだ……って、そりゃ可愛いからだよなぁ
「とりあえず、一週間分くらいの性欲を開放しておこう」
じゃないと、
過ちを犯しそうで怖い
もうすでに犯しているのは言うまでもないが、
現実に手を出すことだけは絶対にダメだ
雪歩は俺を信頼してくれているんだ
その今でさえ、まだ少し距離があるようにも感じるのに、
それを壊すわけには行かない。
しかも、そんなことしたら、春香たちにまで……そんなの、
そんなの最悪じゃないか
「まだいつも起きてる時間までは十分にある」
教えてくれ、理性。俺はあと何人[はぁぁぁん]すれば良い?
俺はあと何回、雪歩を汚せばいいんだ……
「そんなの――考えるな。いつやるんだ、今だろ!」
俺は目をつぶり、そして――動いた
『プロデューサー……だ、ダメですぅ』
『大丈夫だって、な?』
『きょ、今日のプロデューサー……変です……』
雪歩が怯えて後ずさっていく
しかし、俺はそれを追っていく
後ずさり、追う
室内でのその行為は、
やがて後ずさる側が追い詰められて、
追う側は追い詰め、そして喰らう
『ひっ』
『雪歩……俺は』
追い詰めた雪歩の首筋に舌を這わせ、
鎖骨に溜まった微量の汗を舐めとる
『や、いや……違う、違うっ……これは、これは……』
『雪――』
『夢、こんなの、偽物、偽物……返して、返してっ! 本物のプロデューサーを、返してくださいッ!』
どこからともなく現れたスコップ
それは大きく振り上げられ、そして――頭に強い衝撃が走った
「ぐあぁぁぁぁぁあぁああぁぁ!」
風呂場のタイルッ!
痛いっ、めちゃくちゃ痛いッ!
って……寝ちゃってたのか!?
「くそっ……」
不十分な性欲処理。
だからこそ見てしまった雪歩との夢
「くそぉぉぉぉぉっ!」
性欲処理は不十分。
風呂場で寝たのに風邪を引けなかった
行くしかない雪歩との仕事……
「絶望した……どうあがいても絶望の現実に、絶望した!」
絶望していても、
時間はさらに針を進めてしまう
時刻は既に七時を回っているらしく、俺は
「遅刻だぁぁぁぁぁ」
40秒で支度する勢いで準備を終わらせ、
俺は急いで事務所へと向かった
もちろん、遅刻である
「大丈夫ですか?」
雪歩の言葉は直接耳へと飛び込んでくる
だって、直視できるわけないだろ
仕方ないよな……
「あ。ああ、寝坊しちゃったってだけだ……すまん」
「そ、そんな、わ、私達のために無理してるからで、その、えっと……ごめんなさいっ」
謝るべきなのは俺だ。
もちろん、なぜかは言うわけにはいかないが、
土下座して首をくくるくらいはしなければいけないような感じだ
でも、言えないからこそそんな謝罪はできない。
影で背負うその罪。
だから、俺は約束しよう
「雪歩」
「は、はい」
ひと呼吸おき、俺は雪歩を見つめ、告げる
「俺は必ず、雪歩をトップアイドルにする。約束する」
「っ――お願いします!」
あぁ、いい笑顔だ。
よし俺も心を入れ替えて頑張らないとな
ふむ……そうだな
「雪歩、少し一人でレッスンしててくれ」
まずはトイレに行くべきだろう。話はそれからだ
中断
そもそも、
雪歩はひんそーでひんにゅーでちんちくりんだとか言うが、
上から80-55-81……と、標準(春香)には少々劣るが、
それでも悪くない、むしろいいと思う
だって、ねぇ?
胸は大きさだけじゃないし?
ウエストだって細けりゃいいってもんじゃない
ヒップだってでかけりゃいいってもんじゃないし、
ぎゃくに小さければいいってものでもない
偉い人には、それが解からんのですよ
それに、
雪歩なんて抱き枕にしたら最高だと思う
良い匂いだし、柔らかいし、あったかいし……
その程よい容姿が抱きしめるときに見事マッチして、
最高の眠りをお届けしてくれると思うんだ
「っと、まぁ色々考えていたわけだが」
やばいなぁ
いつの間にか20分経ってたよ
「雪歩になんて言えば……」
雪歩のことを考えていたら20分経っていましたって?
ハハッ無理に決まってるじゃないか
仕方ない。
お腹を壊してるとか適当な理由にしておくしかない
正直に言ったら破滅するしかないしな
おそらく、20分も経ってるし、
雪歩はレッスンによって汗をかいているはず
……ゴクリ
「あー、あー……落ち着け」
あの夢みたいに舐めたりしちゃダメだぞ?
わかってるよね?
よし、行こうか
レッスン場の扉を開けた瞬間、
篭っていた雪歩の匂いが一気に吹き抜け、
俺の体を包み、
鼻、口、耳……あらゆる穴から体の中へと浸透していく
汗臭いはずのそれは、
嫌悪感など微塵も感じさせない
ふわりとして甘く、それでいて汗特有のツンとする匂いの織り交ざった
自分のニオイよりもずっと馴染み深い
そう、それはまるで生まれた時から傍にあったような
いや、人間が生まれる前から共に過ごし、
成長するに失われていく欠かしてはいけない。でも、欠けて行く有限のモノ
だからこそ、思考が止まる
目の前にいるその源が俺をみて、不安そうな表情をし、
「プロデューサぁ……」
そうつぶやくまで、俺は世界から隔離されたような感覚だった
「ゆ、雪歩、その……悪い、お腹を――」
「うぅっ、中々戻ってこなくて、不安で、心配でっでも……うぅっ」
「わ、悪かった! 今朝からお腹の調子が良くなくてな……」
「ほ、本当ですか? ゎ、私なんか指導するの嫌だとかそういうんじゃ――」
「それはないね。フッ、むしろ1から100までだなぁーっと」
アブナイ、アブナイ
「ま、まぁとりあえず雪歩」
「は、はい……」
「俺がいないあいだに無理して動いただろ」
さっきの夢のような感覚で忘れていたが、
ものの20分であん風になるなんて、
多少無理してなきゃありえない
「そ、そんなことは……ないですぅ」
「あーるーだーろー? 汗もすごいし、言い訳は無用!」
「ふ、不安だったんですっだから、その……紛らわそうと」
「うっ……うー」
そう言われると弱るなぁ
雪歩でイケナイことを考えていたわけだし、
それで不安にさせて、心配させたわけだし、
しかも、嘘をついたわけだし
「悪い……頑張ったなら少し休憩しようか。このあと営業も控えてるしな」
「ご、ごめんなさい」
「いやいや、悪いのは俺だから」
normal communication
そして、レッスンを終えた俺たちは
営業先へと向かったわけだが……
「ひっ」
「あっ……えー……」
取材や撮影もあるとのことで、
俺は一応「女性スタッフで」お願いしてあったはずなのだが、
なんの間違いか、
見事男性スタッフの構成となっていた
「ちょ、どういうことですか!?」
「いやぁ済まないね……ほかの事務所の方に取られちゃってさ」
「し、しかしっ女性スタッフ0というのはあんまりでしょう!?」
これでは、
雪歩が落ち着けないとかそういう問題じゃない。
「くっ……このような構成なら、辞退――」
「だ、大丈夫です!」
「雪歩?」
「わ、私、頑張ります……せっかく、プ、プロデューサーが、取ってきて、くれたから」
震えてるし、涙目だし、無理しているのは明白だ、でも
「解った」
涙が溜まるその奥の瞳は、揺るがない強さがあった
とはいえ……
「ゎ、わわわたしは……」
そう簡単に恐怖心が拭えるのかといえば
そんなわけもなく
「ほら、笑って笑って、笑顔じゃなきゃダメだぞ」
「あ、あはは」
撮影は見事にお固い笑顔のものしかなく、
取材に至っては会話が成立しないというまさかの事故
いや、わかってはいた。
だからこそ、女性スタッフでの構成を
無理そうならせめて少し多めにと頼んだにもかかわらず、
女性スタッフ0人だった
「こちらのミスですから……すみません。また次回お願いします」
「いえ……次回って言いますと来週ですか?」
「ええ、765プロさんがよければですが……もちろん、次回は必ず女性スタッフを交えますので」
こうして結局、今回の週刊誌では掲載されず次回へと回されることになった
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……っ」
雪歩はすっかり落ち込んでしまっていて、
車に戻るまでは俯いたままで、
戻るやいなやポロポロと涙をこぼした
「いや、今回はほら。運が悪かっただけなんだ」
「でも……私じゃなかったら、ほかのみんなだったら……」
「………………」
確かにそうだ
雪歩以外の誰かだったのなら、
たとえ男性スタッフばかりだとしても、
こんなふうには終わらなかった
頑張って全部終わらせられただろう――でも
「俺の担当アイドルは雪歩、お前なんだ」
「っ……」
「ほかのアイドルじゃダメなんだ」
ほかのアイドルなら成功していた?
でもな、今ここにいるのは。
俺のアイドルとしてここにいるのは雪歩、お前だろう?
「俺は雪歩をトップアイドルにしたいんだ。ほかの誰かじゃない、雪歩を。だ」
「でも……私」
雪歩はだいぶ……なら、
自信を持たせてあげればいい。
「貧相で貧乳でちんちくりんって言うのか?」
「え?」
「けど、それは違うと思うんだ」
「…………………」
いつも聞いていて思う。
いつもみんなを見ていて思う。
整形云々という噺聞いたり、見たりしていつも思う
もちろん、それが本当に正しいわけではないとは思うが――
「雪歩は貧相でも貧乳でもちんちくりんでもない!」
「っ」
「良いか? よく聞け」
雪歩の体をぎゅっとする
いい匂いだ
汗の匂いのない、清潔な香り
そして思っていた通りの
フィットするやわらかさ、心地いい温かさ……
「俺は雪歩の容姿が好きだ。あぁ、もちろん雪歩自身が大好きなわけだが」
「ふぇ!?」
「大きすぎず、小さすぎない、くわえて筋肉質で固いわけでもない」
すぅーっと雪歩の匂いを吸い込む。
頬が緩んでしまいそうだし、
ちょっと勃ってしまっているが、まぁそんなことは今どうでもいい
「雪歩、自信を持て! お前の体は低反発枕よりも優秀なフィット感のある最高の身体だぁぁぁぁぁ!」
「な、何言って――」
「自信がないなら認めさせてやるっ俺のやり方で、雪歩自身にその最高たる証をッ!」
「や、やめっ……止めてください!」
スパァァンっと大きな音が車に響いた
「ぉ、ぉう……」
「はぁっはぁっ……ぅぅ」
少しだけ乱れた服
熱い吐息、流れ出る汗
紅潮した頬、泣きそうな瞳……実にフヒッ
「ひどい、ひどいです、私……」
「貧相で、貧乳で、ちんちくりんだっていうなら……良いじゃないか」
「っ!」
「自分の体が認められないんだろ? 嫌いなんだろ? なら、何をされたっていいだろ」
いや、その理屈はおかしい
だが、あともう一息なんだ……これで嫌われようと。
雪歩が自分に自信を持ってくれるなら、俺は!
「でも、雪歩は拒絶した。守ろうとした。それは……大切だからだ、大事だからだ。認めてるからだ」
「………………」
「自分の体として、萩原雪歩。お前自身のものだって! なら自信を持てよ! 自分だと認めたそれを、誇って生きろ!」
「!」
「言いたいことは……それだけだ」
俺は雪歩に酷い事をした
自信を持たせるためとはいえ
男として、人間として、
やってはいけないことをした
「ごめんな、雪歩」
そう言い残し、俺はシートベルトを外す
既に事務所の近くの駐車場。
事務所には一人で帰ってもらおう
「抱きついたりして悪かった」
事務所はやめよう、雪歩たちとはもう――
「待って、くださいっ」
「雪、歩……?」
降りようとしていた手が掴まれ、引き戻された車内。
俯いていた雪歩が、顔を上げた
「……私、プロデューサーになら、良いんです」
「え?」
「抱きつかれても、平気、です……ただ、みんなと比べたら……」
なんということでしょう。
嫌われたと思っていたら、
全然嫌われていないようです
抱きついたのは不味かったと思っていたら、
許可されているようです……えっ?
「劣ってるから……でも、プロデューサーは」
雪歩が笑う。
嬉しそうに笑っている
落ち込んでいたのが嘘のような、笑顔
「私のこと、好きって言ってくれました……」
「え、あっ……うっかり本音を」
「ふふっ……私も、その、あの……好き、だから」
雪歩が好き? え? 誰を?
俺を……?
ここでボケればフラグを折れる
雪歩と俺はただのアイドルとプロデューサーでいられる!
「雪歩……良いのか? 俺は年上だぞ、襲っちゃうような野獣だぞ?」
……いや、無下にするわけには行かない
「襲うのはダメです……怖いから、でも。ちゃんと言ってくれれば」
「え――」
雪歩の匂いがふわっと動く。
助手席から運転席へと、
空気を割いて、雪歩自身が俺の方へと向かってくる
空気が風となって渦巻き、
通っていく雪歩の髪を靡かせて
柔らかな感触が頬へとぶつかる
胸のやわらかさではない。
ほんのりと湿っていて、艶のある唇だった
「雪歩?」
「プロデューサーが好きでいてくれるなら、私は……私を信じられます」
「っ……」
アイドルとプロデューサー
子供と、大人
ダメだ、断れ。
認めちゃダメだ、許されちゃいけないはずなんだ
「プロデューサー?」
寂しそうな瞳。
悲しそうな声。
抱きしめたい身体
大好きな女の子。
そこまで来て……いかねぇ男はただの男だ!
漢なら、そんなもん全部まるっとひっくるめて、
愛せよ雪歩を、どんな壁だろうと乗り越えてみせろよ!
「雪歩、好きだよ」
「プロデューサー!」
ギュッと抱きしめる
今度は俺だけでなく、雪歩からも抱きしめられる。
俺たちのあいだに空気はない、
完全に密着した抱擁だった
たとえどんな困難な道だろうと、
俺たちは2人ならきっと乗り越えられるはずだ
「かならずトップアイドルにしてあげるからな」
「はいっ頑張ります!」
雪歩の笑顔。
最高の笑顔、それさえあれば、俺はどれだけでも頑張れ――
コンコンッと窓が叩かれ、
その方向を見ていた雪歩がビクッと震えた
「雪歩?」
「 プ ロ デ ュ ー サ ー 殿 」
「ひぃっ!?」
まさに般若としか言えない姿がそこにはあった
「ゆ、雪歩」
「は、はいぃぃ」
「生きて帰ることができたら……もう一度、愛を誓おう」
そう言い残し、車を飛び出す
「三十六計逃げるにしかず!」
「待ちなさいッ!」
そして翌日、
俺は5時間の正座+説教を耐え抜き、雪歩とまた会う事ができたのだった
終わりです
徹夜テンションって怖い、冒頭酷すぎた
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