少女「だーれだ」青年「だれだっけ」 (66)
少女「いいかげん、おぼえてくださいよ」
青年「いやー。年を取るとどうも忘れっぽくなりまして」
少女「どう見ても20代前半ですけどね」
青年「お嬢さんは高校生でしたっけ?」
少女「もうそつぎょうしました」
青年「そうは見えないですね」
少女「どういういみですか?」
青年「可愛いってことです」
少女「うそ」
青年「僕は嘘つきませんよー」
少女「……」ペチッ
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青年「可愛い音が鳴りましたね」
少女「それってやっぱり、ばかにしてるんですよね?」
青年「そうなりますね」
少女「……」
青年「どうしたんですかー? むすっとしちゃって」
少女「同じことを言われたことがあるんです」
青年「そりゃあ、あれです。彼はお嬢さんのことが好きなんです」
少女「男の人だとはいってませんけど」
青年「顔が真っ赤です」
少女「……」
青年「お嬢さんは、嘘がつけない人なんですね」
少年「だーれだ」少女「だれでもいいよ」
を数日前に書いていた者です。
今回もちまちまと書いていこうと思います。
『甘いもの』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「わたしです」
青年「分かってます」
少女「チョコレートですか?」
青年「はい。そこの滑り台で遊んでいる可愛い子にいただきました」
少女「もてるんですね」
青年「はい」
少女「……」
青年「笑わないでくださいよ」
少女「本当にうれしそうなので」
青年「当たり前じゃないですか」
少女「すなおなんですね」
青年「はい」
少女「はいって」
青年「お嬢さんも食べますか?」
少女「いただきます」
青年「甘いもの、好きですか?」
少女「すきです」
青年「僕も大好きでした」
少女「今はちがうんですか?」
青年「うーん。いつからだったかなー」
青年「美味しいからもっともっと食べたいのに、その甘さ故に喉を通らなくなった」
青年「苦い、コーヒーが欲しくなったんです」
少女「大人になったということじゃないんですか?」
青年「そうですね」
少女「どうして泣きそうなんですか」
青年「どうしてでしょうね」
青年「ただ、甘いものが苦味無しでは食べられなくなっただけなのに」
少女「……」
青年「……」
少女「恋と同じ、ですか?」
青年「……」
少女「ごめんなさい。なんでもないです」
青年「いやー。ちょっとびっくりしました」
青年「こんな回りくどい言い方をしたのに、ちゃんと気づいてくれるだなんて」
少女「なんとなく、そう思っただけです」
青年「その『なんとなく』が大切なんです」
青年「ちゃんと伝わってるってことですから」
少女「辛い恋をされたんですか」
青年「直球ど真ん中。ちょっと痛いです」
少女「デッドボールでしたか」
青年「そうですね。でも忘れかけていたので、ちょっと掠っただけです」
少女「……」
青年「いつからだったかなー」
青年「もう絶対に、恋なんてしないって思ったのは」
『白い薔薇』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「わたしです」
青年「はい」
少女「その花束、もらったんですか?」
青年「いやー。さすがに薔薇をいただくほど色男じゃありませんよ」
少女「買ったんですか?」
青年「そうです。これは僕から贈ろうと思っているものです」
少女「白いバラって、きれいですね」
青年「そうでしょう? どこまでも純粋な感じがします」
青年「恋を知らない少女のようだ」
少女「恋をした人はじゅんすいじゃないんですか?」
青年「純粋の定義がなかなか難しいところですが」
青年「恋を知らない方が、どちらかといえば純粋なんじゃないかなー」
少女「わたしにはわかりません」
青年「恋をしてしまったからですか?」
少女「……」
青年「良いことだと思いますよ。お嬢さんが今、幸せなら」
少女「しあわせかと言われれば、今はそうじゃないです」
青年「おっと。彼には酷なことを言いますね」
少女「今は、しあわせになるためにがんばっている途中なので」
少女「彼も、わたしも」
青年「へえ」
少女「でも、彼に会う前よりしあわせなのは、たしかです」
青年「ほう」
少女「彼のおかげで、わたしは真っ黒にならずに済んだ」
少女「わたしはうそつきだったんです」
少女「自分にもうそをついて、ずっとひとりでいようと思ってました」
少女「でも彼は『だーれだ』なんて言って突然現れて」
少女「気がつけば、となりにいるのが当たり前の存在になっていました」
青年「だからお嬢さんも『だーれだ』って言うんですね」
少女「他の人はどんな反応をするのかなって、気になって言ってみただけなんですけどね」
少女「まさか『だれだっけ』と言われるとは」
青年「いやー。咄嗟にね。ちなみにお嬢さんはなんて言ってたんですか?」
少女「『だれでもいいよ』って言ってました」
青年「ははっ。そっちの方がずっと酷いや」
少女「わたしもそう思います」
青年「でも、彼は気づいてたんでしょうね。それが嘘だって」
少女「はい」
青年「素敵な彼ですね」
少女「わたし、なに言ってるんでしょうね」
青年「ほんとです。惚気なんて聞きたくありませんよ」
少女「のろけなんかじゃ」
青年「彼はどうして『だーれだ』なんて言ったんでしょうね?」
少女「それはわかりません」
青年「……」
青年「この薔薇、お嬢さんに差し上げます」
少女「だれかにあげるんじゃないんですか?」
青年「僕が白い薔薇を好きな理由。教えてあげましょう」
少女「……」
青年「モノクロでもセピアでも、白い薔薇は白いままなんですよ」
『きれいなもの』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「そう言うことに決めたんですか」
青年「はい。毎回お嬢さんのことは忘れていることにします」
少女「そうですね。そのうち本当に忘れてしまいますよ」
青年「悲しいことを言わないでくださいよ」
青年「こうやってここに会いに来てくれれば、忘れることもないでしょう」
少女「ずっとはむりですよ」
青年「どうしてですか?」
少女「どうしてもです」
青年「残念」
少女「わたしはただ、リハビリの帰りにここを通っているだけなので」
青年「僕に会うのはたまたまだ、と」
少女「そうです」
青年「僕がいなかったら、がっかりするんじゃないですか?」
少女「……」
青年「黙り込まないでくださいよ。困ります」
少女「がっかりなんてしませんよ」
青年「嘘ですか?」
少女「……」
青年「大丈夫です。たまにこうやっておじさんと話すくらい、許してくれます」
少女「おじさんじゃないですよ」
青年「毎日公園のベンチに座って、ぼーっとしているんですよ?」
少女「それはたしかにちょっとおじさんくさいです」
青年「でしょう?」
青年「でも、ここが好きだからいいんです」
少女「ただの小さな公園ですけどね」
青年「でも、ブランコの向こうに夕陽が綺麗に見えるでしょう?」
少女「はい」
青年「これが好きなんです」
少女「わたしも好きです」
青年「夕陽って儚くないですか?」
少女「儚いとはかけはなれていると思いますけど」
青年「そうかなー。夕陽に限らず、綺麗なものは大体儚く見えてしまいます」
青年「いや、儚いから綺麗に見えるのかもしれません」
少女「どうして?」
青年「それには終わりがあると知っているからです」
本日の更新は以上です。
本作だけでも読めるように書けたら良かったのですが、無理がありそうなので、前作のURLを貼っておきます。
少年「だーれだ」少女「だれでもいいよ」http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/lite/archives/1832422.html
続きというわけではないのですが、お話としては繋がっていく予定です。
乙でした
『線』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「わたしですよ」
青年「間違いないです」
少女「ひまですね」
青年「堅苦しい話でもしましょうか?」
少女「どうしたんですか? 急に」
青年「少し、付き合ってくださいよ」
青年「僕は○と×が曖昧なこの世界に、線を引きたがる人間なんです」
少女「どういうことですか?」
青年「大人とは一体何歳からなのか。何が良くて、何が悪いのか」
青年「どこまでが友人で、どこからが恋人なのか」
青年「どこまでが頑張るときで、どこからが諦めなければならないのか」
少女「そんなの人によってちがうじゃないですか」
青年「そうです。僕は自分勝手な人間なんです」
青年「自分が一番正しいと思い、自分の価値観を人に押し付ける人間なんです」
少女「……」
青年「初めて顔を合わせた人は、僕を優しいと言います。礼儀の良い、よくできた人間だと言います」
青年「しかし、親しくなればそれは一変します」
青年「『貴方は正論を掲げて、人を惨めにさせる。人の人間的な部分を見ようとしない。ただのロボットだ』と」
少女「……」
青年「自分のことより、他人のことを考えて行動しろ」
青年「そう自分に言い聞かせて僕は生きてきました」
青年「自分が何かしたことで誰かが喜んでくれると……『ありがとう』って言ってもらえると……嬉しかったからです」
少女「すてきなことです」
青年「でも、いつしかそれが当たり前になってしまったんですよ」
青年「僕が頑張ることに慣れてしまった人は、『ありがとう』を言わなくなりました」
少女「……」
青年「僕はそれを悲しく思い、友人などに強く当たりました」
青年「『君に人の心は無いのか』と」
青年「でも、ロボットはやっぱり僕だったんです」
少女「……」
青年「僕は自分のことばかりでした」
青年「他人のことを一番に考えている自分が大好きなだけでした」
青年「ある日、とある人が『何か甘いものでも買ってきます』と言ったんです」
青年「しかし僕は、玄関のドアを開けようとするとある人の腕を引き、『僕が行くよ』と言いました」
青年「すると、彼女は泣いたんです」
少女「……」
青年「彼女は言いました」
青年「『貴方の優しさで、私の優しさを無かったことにしないで』と」
少女「……」
青年「その日は僕の誕生日でした」
青年「彼女は、僕にわくわくして欲しかったそうです」
青年「『甘いものを買ってくる』という抽象的な言葉で、色んな妄想をして欲しかったそうです」
青年「『どんなものを買ってくるのかな』とか。『そういえば今日は誕生日だったな』とか。『何かサプライズでもあるのかな』とか」
青年「『それはとっても、楽しいんだろうな』……とか」
少女「やさしさは、甘いだけじゃないんですね」
青年「そうです。僕はそこでやっと、苦い味に気がついたんです」
青年「彼女は泣き止みませんでした。信じられないくらい、泣き続けました」
青年「でも、僕は……」
青年「今まで散々、いらなかったかもしれない優しさを振りまいてきたくせに」
青年「あのとき、彼女が一番、僕の優しさを欲しがっていたかもしれないのに」
青年「僕は彼女を……」
少女「……」
青年「抱き締めることすら、できなかったんです」
>>17
ありがとうございます!
『可愛い』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「きょうはコンタクトなんですか?」
青年「いえ。裸眼です」
少女「見えるんですか?」
青年「キャンバスに水をこぼしたような世界が見えます」
少女「それは見えていないって言うんです」
青年「たまにはいいんですよ。こんな世界も」
青年「見え過ぎるのは、よくないです」
少女「でも、眼鏡とっても似合ってましたよ」
青年「あ、お好きですか? 眼鏡」
少女「べつに」
青年「実は僕もお気に入りなんです。この黒のフレーム」
少女「やっぱり似合います」
青年「嬉しいですね。若い子に褒められるのは」
少女「だからあなたも若いです」
青年「どうしてこう、じじくさくなってしまったんでしょう?」
少女「だまっていれば、とってもかっこいいですよ」
青年「うーん。喜んでいいものか……」
青年「じゃあ、僕も言います」
青年「もっと笑えば、もっと可愛いと思いますよ」
少女「……」
青年「そうやって、むすっとしない」
少女「……」
青年「ああ。でも、その困った感じの眉毛も可愛いですね。癒されます」
少女「へんたい」
青年「眉毛可愛いって言って変態はないですよ。そりゃあ、太ももなんかを褒め出したら変態かもしれませんが。撤回を求めます!」
少女「今太もも見ましたよね。へんたい」
青年「うう……」
少女「……」
青年「あ、笑いましたね」
青年「うん。可愛いです。とっても」
『風船と少年』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「何をみてるんですか?」
青年「んー。空です」
少女「くもがないですね」
青年「そうですね」
青年「額縁で切り取ったら、ただ水色の絵の具をべた塗りしただけの絵みたいです」
少女「きれいじゃないですか」
青年「ここに赤い風船でも飛んでいれば、もっと良いと思います」
少女「赤いふうせんって?」
青年「僕が少し前に住んでいた家には、大きな窓があったんです」
青年「目の前は芝生の公園で、緑と青と無邪気に遊ぶ少年達だけの景色でした」
少女「そうぞうするだけで落ちつきます」
青年「そうでしょう?」
青年「僕は真っ白い窓枠で縁取ったその絵をなんと名付けようかな、なんて。ぼんやり考えるのが好きでした」
少女「どんな名前にしたんですか?」
青年「なんてことない。『休日』です」
少女「本当になんてことないですね」
青年「ひどいなー。休日ほど、人の気持ちが安らぐときはないでしょう」
青年「僕はその絵を見て、それほど癒されていたということです」
少女「なるほど」
青年「そんな風に、僕は絵が変わる度に名前をつけていました」
青年「そして今日のように雲のない空に」
青年「赤い風船が飛んでいくのを見ました」
青年「どこに辿り着くのかも分からないのに、ただ昇り続けていく赤い風船」
青年「それを泣きながら、ただ見守っている少年」
青年「僕はその絵を、なんと名付けたら良いのか分かりませんでした」
少女「どうしてですか?」
青年「さあ。どうしてでしょう」
少女「いじわる」
青年「そうですね」
少女「……」
青年「その少年は、泣きながら僕のところへ来ました」
青年「『もう届かない。割れないと戻ってこない』と」
少女「……」
青年「そして言ったんです」
青年「『あの子が空を飛びたがってたから、手を離したんだ』って」
少女「ふうせんが?」
青年「子供って凄いですよね」
青年「ただちょっと風が強く吹いただけなのに、風船が『離して』って言っているような気がしたんだそうです」
少女「自分からはなしたのに、泣いちゃったんですね」
青年「はい。でもその姿が当時の僕と重なってしまって……」
少女「……」
青年「とある人は風船のように自由な人でした」
青年「どうしてもやりたいことが見つかって、空を飛びたがっていました」
青年「最近、話しましたよね。僕がとある人を沢山泣かせてしまったと」
少女「彼女だと言っていました」
青年「おっと。そうでしたか。いやいや、それはただの三人称ですよ?」
少女「べつに彼女でいいじゃないですか」
青年「まあそれは置いといて、です」
少女「……」
青年「その日、彼女は泣きながら言ったんです。『離して』と」
少女「……」
青年「僕は彼女に触れていませんでした。抱き締めることすら、できなかったのですから」
青年「でも、『離して』と」
青年「それが何を意味するのかはすぐに理解できました」
青年「同時に、僕は離してしまったんです」
少女「……」
青年「彼女はもうどこにいるのか分かりません。まだ飛んでいるのか。それとも……割れてしまったのか」
青年「僕は少年と同じだったんです」
青年「自分から手を離したくせに、泣いていたんです」
青年「でも、全く同じじゃなかった」
少女「……」
青年「少年は、追いかけなかった」
青年「もう届かないとちゃんと分かっていたんです」
青年「それを見て、僕は自分を笑いました」
青年「窓辺に飾った白い薔薇を見て、笑いました」
少女「……」
青年「そして、僕は窓を飛び出して言ったんです」
青年「『泣くなよ! 少年!』」
少女「……」ビクッ
青年「『あの子はただ空を飛びたかった! 君を泣かせたかったわけじゃない!』」
少女「……」
青年「そして尋ねたんです」
青年「『あの風船は、一体どこまで飛んでいくんだろうね』と」
青年「そしたら、少年はなんて言ったと思います?」
少女「……」
青年「『どこまでも!』」
『やきもち』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「石なげってしたことありますか?」
青年「石? 川とかに?」
少女「そうです」
青年「あー。やりましたね。でも、ボールで遊ぶことが多かったです」
少女「ポケットに手を入れて歩きますか?」
青年「寒い日はそうします」
少女「穴があいたりとか」
青年「それはないです」
少女「サンタさんにおねがいしますか?」
青年「子供の頃はしてましたよ」
少女「たくさん書いたラブレターをわたさずに、ポケットの中に入れたままにしたことはありますか?」
青年「ないですよ。そもそもラブレターを沢山書くことなんて……」
少女「……」
青年「今日は随分、質問攻めをしてきますね?」
少女「あらためて、彼が変わっていることがわかりました」
青年「へえ。僕も今、彼が変わっていることを知りました」
少女「わたしは合っていたんです」
少女「彼はばかです」
青年「ばか?」
少女「今までたくさん、彼に言いました」
青年「なんと微笑ましい」
少女「彼はあえて、わたしの気もちをゆさぶることばかり言うんです」
少女「あれはそのための作り話だったのかもしれません」
青年「へえ」
青年「彼はお嬢さんの胸に石を投げていたわけですか」
少女「……」
青年「おっ。『今こいつ上手いこと言ったな』と思いました?」
少女「おもいません」
青年「うーん。なかなかだったと思うのですが」
少女「そういうくだらないところは似てます。彼と」
青年「えー。それは心外です」
少女「そのくだらなさに、いやされているのはたしかです」
青年「じゃあよかった」
少女「……」
青年「好きなんですね。彼のこと」
少女「……」
青年「もう、実は声出せるんじゃないですか?」
少女「そうかもしれません」
青年「聞きたいですね」
少女「……」
青年「あら。駄目ですか」
少女「だめです」
青年「残念」
少女「なんだか悪いことをしている気もちになってしまうので」
青年「彼に?」
少女「はい」
青年「大好きなんですね」
少女「……」
青年「……」
少女「はい」
少女「彼の名前をよぶより先に、あなたと声で話すなんて」
青年「んー。妬けるなー」
少女「え」
青年「お嬢さんに声をかけてしまったこと、後悔してる」
少女「……」
青年「またコーヒーを飲まなければ」
少女「わたしといるじかんは、甘いですか?」
青年「はい。とっても」
青年「でも、消さなきゃいけませんね」
少女「……」
青年「苦いコーヒーで、流し込むんです」
『隠蔽工作』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「あなたこそ、だれですか?」
青年「ははっ。やめてくださいよ。ほんとに」
少女「消えてしまうんでしょう? わたしはあなたから」
青年「……」
少女「だったらわたしもあなたを消そうかなって思っただけです」
青年「お嬢さんから消えて欲しいのは、僕じゃないんですけどね」
少女「……」
青年「……」
少女「……」
青年「うそです」
少女「だったら言わないでください」
青年「人間とはそういうものです」
少女「あなたはロボットなんでしょう?」
青年「はははっ。そうでした」
青年「ロボットとして生きていく方が、きっと、ずっと楽なんでしょう」
少女「……」
少女「あなたも、うそつきじゃないですか」
青年「……」
少女「『ぼくはうそつかないですよ』って、うそじゃないですか」
青年「……」
少女「あなたも、自分にうそついてるじゃないですか」
青年「分かったようなことを」
少女「わたしもそう思ってました」
少女「わたしも、彼がわたしのことを何でも知ってるみたいに話すので、初めは本当に本当に大きらいでした」
青年「……」
少女「でも、くやしいくらいに、彼はわたしを知っていたんです」
青年「それはお嬢さんが彼の言葉に流されただけですよ」
少女「……」
少女「それでもいい」
少女「たとえわたしが、彼の言葉に作られたわたしでも」
少女「わたしは、今のわたしが好きだから」
青年「……」
少女「あなたは好きなんですか? ロボットとして生きようとする自分が」
青年「はい」
少女「うそ」
青年「嘘をついた方が、良いことだってあるんです」
少女「……」
青年「嘘で隠してしまった方が良い気持ちだってあるんです」
少女「……」
青年「お嬢さんとはいつまでも仲良しでいたいです」
少女「……」
青年「でも、それは無理なんですよ」
少女「どうして」
青年「彼と会うときには、僕とのお話で使ったページはちぎって捨ててしまってください」
少女「……」
青年「隠蔽工作、です」
青年「無かったことにしてしまえばいいんです」
青年「思い出すきっかけを残してしまってはいけません」
少女「……」
青年「白い薔薇を窓辺に飾り続けた僕が言っても、説得力はありませんし」
青年「お嬢さんの方はそこまでしなくても、簡単に忘れられるのかもしれませんが」
少女「忘れる気はありません」
青年「僕は忘れられた方が楽なんです」
少女「自分勝手」
青年「はい」
少女「じゃあ、わたしも自分勝手になります」ガシッ
青年「え?」
少女「隠蔽工作なんて許さない! 私は絶対に忘れない!」
少女「貴方と話した言葉ひとつひとつが、私にとっては大切なんです!」
少女「私はそれを無かったことになんてしたくない!」
青年「……」
少女「私は貴方を……!」
青年「……」
少女「大切な人だと思っています……!」
青年「……」
少女「……」
青年「ははっ」
青年「……本当に、どっちもどっちですね」
少女「……」
青年「そんなことをされたら、余計に……」
少女「……」
青年「ありがとうございます」
青年「今日言ったことは全て、僕の嘘です」
もう話してる?
まだ筆談?
>>42
読んでくださってありがとうございます。
個人的に最後まで色々と想像しながら……ある意味、もやもやしながら読んでいただきたいなーと思って書いています。
ですので物語に関しての質問は、完結してからお答えしようと思います。
今日中に完結予定です。
『ばか』
少女「だーれだ」
青年「だれだっけ」
少女「ばか」
青年「おっ。僕もばかに昇格ですか。やった」
少女「いみがわかりません」
青年「彼と同格、ということでは?」
少女「ちがいます」
青年「んー。残念」
少女「……」
青年「声が出せるようになったんなら、そろそろ彼に会うんですか?」
少女「いえ。足の方がまだなので」
青年「そっちはもう少し時間がかかるでしょうね」
少女「がんばっているから大丈夫です」
青年「うん。わかりますよ」
少女「足が間に合わなくても、桜が咲いたら、約束の場所に行こうと思ってます」
青年「どんな場所なのかな?」
少女「ただの土手です。桜の木も少ししかありません」
青年「でも、大切な場所なんですね」
少女「はい」
青年「……」
青年「彼に会ったら、いっぱい『ばか』って言ってやってください」
少女「どうして?」
青年「僕の代わりに、です」
少女「……」
青年「嘘ですよ。いつも筆談で言っていた口癖を、お嬢さんの声で聞けたら、きっと喜ぶと思います」
少女「また『うそです』って、うそつきましたね」
青年「本当ですよ」
少女「うそですよね」
青年「あー。頭がごちゃごちゃになる」
少女「……」
青年「……」
少女「泣きそうな顔しないでください」
青年「……」
少女「わたしはあなたの優しい笑顔が好きなんです」
青年「お嬢さん」
少女「……」
青年「言いましたよね。僕は○と×の間に線を引きたがる人間だと」
青年「それは今もまだ変わっていないんです」
青年「僕は今、その線の上に突っ立っています」
少女「……」
青年「そんなことを言われたら……僕は、どちらに行けばいいんですか?」
青年「恨むなら、先日の自分の言葉を恨んでください」
少女「……」
青年「僕はお嬢さんのことが好きです」
少女「……」
青年「教えてください」
少女「……」
青年「この気持ちを! 線のどちらに持っていけばいいんですか……!」カチャン
少女「……」
青年「……」
青年「ごめんなさい。ペンが落ちてしまいましたね」
少女「……」
青年「はい。どうぞ」
少女「……」
青年「ごめんなさい」
少女「……」
青年「今、死んじゃいたいくらい……自分が愚かで、憎いです」
少女「……」
青年「こんなに泣かせてしまって」
少女「……」
青年「線の上に立っていられないなら、やっぱり消さなければいけなかった」
少女「……」
青年「でも、消したくない、甘さなんです」
少女「……」
青年「離したくない……風船なんです」
少女「……」
青年「……」
少女「本当に、自分勝手ですね」
青年「……」
少女「でも、とっても人間的です」
青年「え?」
少女「あなたは、ロボットなんかじゃないです」
青年「……」
少女「うれしいです」
青年「そんなことを言われたら、余計に好きになってしまいますよ?」
少女「それはこまります」
少女「でも、うれしいんです」
少女「そんな矛盾も、人間的な感情なんでしょうね」
青年「……」
少女「わたしも少し前までは、ロボットのように生きてました」
少女「あなたよりもずっと、ロボットだったと思います」
少女「ただじっとして、時がすぎるのを待って」
少女「だれも傷つけなかったし、自分も傷つかない生き方でした」
青年「……」
少女「『それでいい』と思っていたのに、彼が現れて」
少女「彼がいる世界を知ってしまって、もう戻れなくなってしまったんです」
少女「人は色なしでは生きていけない」
青年「ええ。寂し過ぎますね」
少女「それは、色を知ってしまったからです」
少女「音もそうです」
少女「今、失いたくないもの全てがそうです」
青年「……」
少女「知らなければ、失うこともなかったのにって、思うんです」
青年「そうですね」
少女「でも、むりやり消さないでください」
少女「消された方は……かなしいです」
少女「これは、わたしのわがままなんですが」
青年「はい」
青年「『気持ちには応えられないが、私のことは好きでいろ』ってことでいいですか?」
少女「ちがいますよ!!!!!」
青年「ははっ。びっくりマークがいっぱい」
少女「笑いすぎです」
青年「顔が真っ赤です」
少女「……」
青年「ありがとう」
少女「……」
少女「ふうせん、まだ追いかける気ありますか?」
青年「……」
青年「それは、もう……」
少女「白いバラ。もう枯れてしまいました」
青年「ああ。差し上げましたね」
少女「あれ、彼女におくるつもりだったんじゃないですか?」
青年「……そうかもしれませんね」
青年「でも、お嬢さんにあげたいと思った気持ちは嘘じゃないです」
少女「知ってます」
青年「そんな真っ直ぐな目で見ないでください」
少女「……」
青年「なんだか、僕も言いたくなりました」
青年「ばーか! ……なんてね」
『だーれだ』
青年「だーれだ」
少女「……!」クルッ
青年「……」
少女「……」
青年「彼が『だーれだ』って言い続けた理由、分かりましたね」
少女「……」
青年「きっと今、お嬢さんの頭の中は、彼の名前でいっぱいです」
少女「……」
青年「幸せ者ですね、彼は」
少女「……」
青年「お嬢さんも、早く名前を呼びたいでしょう」
少女「……」
青年「もうすぐ、桜が咲きますね」
『最後のページ』
少女「だーれだ」
青年「ーーちゃん」
少女「忘れるのはやめたんですか」
青年「はい。やめました」
少女「いいことです」
青年「この先も、ずっとですよ」
少女「はい」
少女「わたしも、ずっと忘れないです」
青年「嬉しいです」
少女「その白いバラは?」
青年「ああ。勿論、僕がいただいたのではありませんよ」
少女「わかってますよ」
少女「一本だけ、赤いバラがまじってますね」
青年「どういう意味かは、お嬢さんが考えてください」
少女「……」
青年「あ。そういえば、そのノートもうすぐで終わりですね」
少女「そうですね」
少女「大切な言葉がたくさん、つまってます」
青年「うん。良いことです」
青年「自分の言った言葉をそうやって振り返ることができるなんて」
青年「僕もやってみようかなー……なんて」
少女「……」
青年「多分、昔の自分の言葉を振り返ったら、心ない言動ばかりに腹が立って仕方なかったでしょう」
青年「でも、今なら」
青年「お嬢さんに言われて気がついた、今の僕なら」
青年「ただの正論で固めた言葉じゃなくて、本当の僕を、書けるかもしれない」
少女「ぜったいに、大丈夫です」
青年「じゃあ、そのノートをちょっと貸してくれませんか?」
少女「どうぞ」
青年「ペンもお願いします」
少女「……」
青年「怒らないでくださいね?」
少女「……」
青年「大切なノートの、最後のページに失礼します」
青年「あ、少し大きく書き過ぎたかな」
青年「自分でやってて恥ずかしいです」
少女「……」
青年「よし! お返しします」
青年「それと、この薔薇もお嬢さんに」
少女「……」
青年「僕の気持ちはまだ、そこにあるということです」
少女「……」
青年「あ! 僕がいなくなるまで、そのノートは開かないでくださいよ?」
少女「……」ピラ
青年「あー! 駄目だって!」
少女「……あ」
青年「去ります! 全力で!」タタッ
少女「……」
青年「お嬢さーん!」
少女「……」
青年「やっぱり、声でもお伝えしておきまーす!」
少女「……ばか。声、大き過ぎますよ」ボソッ
青年「じじくさい雑談が聞きたくなったら! いつでもここに来てください!」
青年「好きです!」
おわり
以上です。
前作の感想で「続きが読みたい」なんてお声を、嬉しいことにいただきました。
しかし、あのラストから続きを書くのはどうしても無理だなーという気持ちがあって、今回のお話に至りました。
前作より納得のできる出来だとは自分でも全く思えないのですが、書いてよかったと思っています。
少女が少年以外にも心を開く様子は、自分で書いていても嬉しかったので。
少女や青年の少し嫌な部分が目についたかもしれませんが、それも私の描きたかったことです。
では、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
乙です!!
>>58
ありがとうございます!
嬉しいです。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません