にこ「本心がわかる機械?」 (45)

にこ「ん? なにかしら、この商品」

にこ「ええと、商品名は『デレリンガル』? ひどいネーミングセンスね」

にこ「なになに、『気になってるあの娘の本音をこっそり聞いちゃおう! ツンツンしてるあの娘も実はあなたにデレデレかも?』」

にこ「うわー、これまたひどい説明ね。本当に売る気あるのかしら?」

にこ「……そうね、でもネタで買ってみるのもアリかもしれないわね。値段もあんまり高くないし」

にこ「そうよ! あくまでネタで買うだけよ! 決して真姫ちゃんの本音が知りたいとかではないわ!」

にこ「すいません、これください!」

店員「毎度!」

──翌日・放課後

にこ(今になって冷静に思うとなんて馬鹿な買い物をしたのかしら)

にこ(どうせただのおもちゃで、本音なんてわかるわけないのに)

にこ(でも買ってしまったものは仕方ないわ。少し遊んでみましょうか)

にこ(そうすれば本当にネタにはなるでしょ)

にこ「にっこにっこにー♪ 矢澤にこ、参上にこー♪」

真姫「あら、ニコちゃん。やっと誰か来たわね」

にこ「……真姫ちゃんだけ? 他のみんなはまだ来てないの?」

真姫「凛と花陽は飼育委員で遅れると聞いてるわ。他の人たちは知らないわ」

にこ「そういえば絵里と希も生徒会の仕事を済ませてから来ると言っていたわね」

真姫「穂乃果ちゃんたちは……まあその内来るでしょ。海未ちゃんがいれば連絡も無しにサボりなんてありえないでしょうし」

にこ「そうね」

にこ(私たち二人だけなんて、まるで誰かに仕組まれたみたいにお誂え向きの状況ね)

にこ(……使ってみるなら今がチャンスよね)

真姫「何、入り口に突っ立ってるのよ。早く座ったら?」

にこ「相変わらず素っ気無いわね」

真姫「そうかしら?」

にこ「…………」

にこ(ええと、確か使い方は相手に向けるだけでいいんだったっけ)

にこ(声を拾わないといけないから範囲は1メートル以内で、手の中に隠し持つのがいいとか)

にこ(……よし、準備できたわ。とりあえず普通の会話でまず性能を確かめてみよう)

真姫「今日は妙に静かね。調子でも悪いの?」

にこ「な、なんでもないニコ♪ それより真姫ちゃんの方の調子はどうニコ?」

真姫「別に、いいとか悪いとかないわね」

にこ(ええと、デレリンガルには……)

デレリンガル『熱が少しあって、風邪気味』

にこ(なにこれ……? ずいぶん具体的ね)

にこ(でもまあ一応訊いてみますか)

にこ「うーん、ニコの見立てでは、真姫ちゃん、ちょっと調子悪く見えるニコ。少し顔も赤く見えるし」

にこ(まあどうせ笑い返されるのがオチね)

真姫「うええ、やっぱりわかっちゃうの? 実はちょっと風邪気味なのよ」

にこ「……え、本当に?」

真姫「自分で言ったんじゃない。花陽たちは誤魔化せたから大丈夫だと思ったのに」

にこ(……本当なの? もしかしてこれって本物……?)

にこ(いいや、一度だけじゃわからないわ。もっと確かめてみないと)

にこ「真姫ちゃん、大丈夫? 今日はもう部活休んで帰ったほうがいいじゃない?」

真姫「……そうかもね。今日は集まり悪いし、そうしようかしら」

にこ(ええと、なになに……)

デレリンガル『頑張って来たのにつまらない、寂しい』

にこ(これが真姫ちゃんの本音……なのかな?)

にこ「もうちょっとだけ居てみたら? 誰か来るかもしれないし、体調もそこまで悪くなさそうだし、話くらいなら出来るんじゃない」

にこ(自分で言ってて何言ってるんだがわからないわ)

真姫「……そうね。まだ大丈夫そうだし、もうちょっとだけ居ようかしら」

にこ「嘘っ!?」

真姫「なによ、ニコちゃんが言ったんじゃない。それとも帰ってほしいわけ?」

にこ「ううん、そんなわけない! ……けど」

真姫「けど?」

にこ「体調悪くなったらすぐ言ってね。真姫ちゃんはすぐ強がるんだから」

真姫「……うん、わかったわ」

にこ(これも本当だったということだったのかな? 言ってみたらあっさりと意見を変えたし)

にこ(おもちゃだと思ったらすごいじゃない、これ!)

真姫「ニコちゃん、今日は妙に鋭いわね」

にこ「そ、そうかしら!?」

真姫「ええ、まるで心が読めてるみたい」

にこ(ぎくっ!)

にこ「そんなわけないじゃないの! 心が読めたら誰も苦労しないわよ」

真姫「……そ、そう? でもそうね、心が読めたら簡単なことも多いわね」

真姫「でも……少し怖いかも」

にこ「怖い?」

真姫「ええ、だってそうでしょ? 本当は隠しておきたいことも筒抜けになるもの。私だったら怖いわ」

にこ「……そうね、そうなのかもしれないわね」

にこ(確かに怖いかもしれない。心を読むなんて良いことじゃないし、これはもうこれまでにしておこうかな……)

真姫「それにしても、本当にみんな遅いわね」

にこ「ええ、そうね」

真姫「私たちだけでも部活始めとく? ──って、私は練習できなかったわ」

にこ「じゃあ会議とか? と言っても私たちだけで出来ることなんて多寡が知れてるわね」

真姫「そうよね……」

にこ「なら雑談? メンバー同士交流を深めるのも悪くないんじゃない?」

真姫「そうかしら? だけどまあいいわ。それくらいしかすることないし」

にこ「でもいきなり雑談って言ったって話題が浮かばないわね」

真姫「そうね……」

にこ「うーん……」

にこ(あ、そういえばデレリンガルをまだ手に持ったままだったわ。鞄にしまっておこう)

にこ(──あ、何か表示されてる。……最後にちょっとだけ見ておこうかしら)

にこ(えっと──って、えっ!?)

デレリンガル『あなたの本心が知れたらいいのに。そうすれば苦労なんてしないのに』

デレリンガル『あなたと二人きりになれて嬉しい。このまま誰も来なければいいのに』

にこ(……こ、これが真姫ちゃんの本心だって言うの!? とても信じられないわ……)

にこ(でも、これまでの結果と見ると性能は確かみたいだし……)

にこ(一体、私はどうすればいいのよ……)

真姫「ところでさっきから気になっていたんだけど、その手に持っているものは何? ちらちら見ているようだけど」

にこ「──えっ!? こ、これは、その……そう、ケータイよ!」

真姫「でもニコちゃんのケータイ、そんなに小さくなかったわよね?」

にこ「そ、そうだったかしら?」

真姫「そうよ。それに色も違うようだし」

にこ「……よく見てるわね」

真姫「そんなことないわよ」

真姫「で、それは何?」

にこ(どうしよう……。まさか『本心がわかる機械です』なんて言えるわけないじゃない……)

にこ(1、とにかく誤魔化す。2、話を逸らす。3、逃げる)

にこ(2は無理ね。とても逃れられそうにないわ)

にこ(1も同じ。となると3の逃げるか……)

にこ(だとすればどうやって逃げるか。まずは視線を逸らせて、その隙にダッシュか──)

真姫「なによこれ?」ヒョイ

にこ「──あ!」

真姫「スマホじゃないわよね。とするとおもちゃか何か?」

真姫「あ、裏に名前が書いてあるわね。『デレリンガル』? ひどい名前ね」

にこ(ヤバイ……ヤバイヤバイ!)

にこ(あ、でも商品名だけじゃどういうものかわからないか。それならまだ救いが──)

真姫「ケータイで検索してみましょう」

にこ(文明社会のバカァーーーー!!)

真姫「……出たわ。ええと、本心がわかる機械?」

にこ「…………」ダラダラ

真姫「『気になってるあの娘の本音をこっそり聞いちゃおう! ツンツンしてるあの娘も実はあなたにデレデレかも?』?」

真姫「なによこれ、馬鹿じゃないの?」

にこ(もうどうにでもなれ!)

真姫「なんでこんなの買ったのよ。ニコちゃん、馬鹿なんじゃじゃないの?」

真姫「……あ、まさか今日妙に鋭かったのってこれのおかげ?」

にこ「……はい、そうです」

真姫「はあ。さっき言ったわよね。心なんて読めないほうがいいって」

真姫「ニコちゃんだって賛同してたじゃない。なのになんでこんなのを使ったのよ?」

にこ「…………から」

真姫「えっ?」

にこ「だって真姫ちゃん、全然本音を漏らしてくれないから!」

にこ「真姫ちゃんはいつも見栄ばかり張って全然本当のことを言ってくれない!」

にこ「ニコはずっと真姫ちゃんのことを想ってて、ちゃんとアピールだってしてきた。その甲斐あってだいぶ仲良くなれたと思う」

にこ「なのにニコが精一杯頑張っても真姫ちゃんは素っ気無い態度を取るばかり」

にこ「好きだから我慢できたけど、少しずつそれも限界に近くなってきた」

にこ「そんなときにこれを見つけたの」

にこ「もちろんこんなの信じてたわけじゃない。でも、それでも藁にも縋る思いだった」

にこ「それだけニコは真姫ちゃんの本当の気持ちが知りたかったの!」

真姫「…………」

にこ「……あ」

にこ(ヤバイ……ついカッとなって言っちゃった……)

にこ「……に、ニコ帰るね!」ダッ

真姫「待って、ニコちゃん!」グイッ

にこ「──きゃ! いたた……」

真姫「あ……ごめん」

にこ「ううん、大丈夫……」

真姫「…………」

にこ「……真姫ちゃん?」

真姫「……ごめんね、ニコちゃん」

にこ「え? さっきもう謝ったじゃない?」

真姫「そっちじゃなくて、その前の」

にこ「前って……」

真姫「私、ニコちゃんの気持ちに気付いていた。私のことを好きでいてくれること」

にこ「え……?」

真姫「だってそりゃそうでしょ。あんなにわかりやすい態度でいればどんな鈍感な人でも気付くわよ」

にこ「そうだったんだ……」

真姫「でもね、私はそれに応えることができなかった。ほら、私って見栄っ張りだから」

真姫「本心では応えてあげたかったけど、自分の気持ちを表に出すことができなかった。それが恥ずかしいことだと思って」

真姫「それと少し怖い気持ちもあった。もし自分の気持ちを告げて望む答えが返ってこなかったらって」

真姫「今にして思うと本当に馬鹿よね。ニコちゃんはあんなに好きだと全身で言ってくれてたのに」

真姫「ニコちゃん、本当にごめんなさい。私のそんな態度がニコちゃんを傷付けていたなんて考えもしなかった」

にこ「真姫ちゃん……」

真姫「それでね、私の本心は……私もニコちゃんのことが大好き!」

にこ「え……ええええええええ!!??」

真姫「なによ、そんなに驚くこと?」

にこ「だって……真姫ちゃんはニコのこと鬱陶しいと思ってるんだと思ってたから……」

真姫「はあ!? そんなことあるわけないじゃない!」

真姫「でも、そうね。そう思わせるような態度を取ってしまっていたのよね……」

真姫「ごめんなさい……」

にこ「ううん、もういいの。真姫ちゃんの気持ちは十分に伝わったから」

真姫「……ありがとう」

にこ「真姫ちゃん」

真姫「なに?」

にこ「大好き」

真姫「……私もよ」



デレリンガル『大好き』

デレリンガル『私も、大好き』



終わり

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