唯「さばいばる!」(612)

生存に必要不可欠なものは何だろうか、水か食料か、衣服や住居、友情や勇気か。

否、断じて否ッ!!

生存に必要不可欠なものは……



遭難1日目!

最初は四肢がだらんと垂れていて、皮膚が冷たくなっていることだけはわかった。
数十秒、あるいは数分してからだろうか徐々に周囲の状況に気付きはじめる。
砂浜に打ち上げられた自分の身体、少し離れたところにムギと 律が倒れているのがうっすらと見えた
声をかけようにも喉はかれ、舌が動かない、立ち上がろうにも身体がなかなか動きだそうとしない……。

動かない身体はますます倦怠感を増して、すっかり眠くなってきた。憂ならここで寝れば怒るんだろうな。
そんな考えが頭をよぎる。でも、

(でも、すごく眠いよ、憂……)

(あれ、律っちゃん……?)

気付くと先ほどまでムギの横にいたはずの律の姿がない。どうにか頭を動かして視線をずらすと、
律が波に誘われ、砂浜から海へ引き戻されているのが見えた。
このままでは律の身体が海へと、沖へと流れ出すのがはっきりとわかった。

(律っちゃん……!律っちゃん……!)

唯の直感はこの潮が律を沖へ流せば二度とは戻れないことを察知した。
同時に紬が暫く起きそうにないこと、律が完全に意識を失い波にのまれようとしていることもわかった。
事実、唯の観察には一切の間違いはない。だが、その現実への理性的な対抗策まではみえなかった。

(どうしよう……律っちゃん……)

だが平沢唯は猶予のなさに気づくとまさしく正しい選択を選んだのだ。
瞬間、頭に靄がかかったような倦怠感は晴れて、身体にエンジンがかかる。
友達のためになら、律っちゃんのためにならいける。

「律っちゃあああああああんっ!」

喉を枯らして叫びながら律のほうへかけより身体を砂浜に引きずりあげる。
水の中まで体が浸かっていた律を引き上げるのはなかなかの難作業だった。
もともとそこまで力の強くない唯には律の重さを引きずるだけでもかなりの重労働。
腰に力をこめ、半ばおぶるようなかたちで律を抱えて水中の砂を踏みしめる。
やっと律は引き上げたが、やはり身体のどうしようもない疲労は無視できず、
律を引き上げたところで唯は力なくその場に倒れた。のどの渇きを感じる。

「ううっ、体中痛いよお……」

すでに身体は限界だったが、頭の回転はさっきの運動で急回復したようだった。
まず自分たちが合宿先の海で津波に浚われたことを思いだし、次に周囲の状況を整理を試みる。

打ち上げられたのは砂浜、胸にふれる砂がチリチリと熱いのがわかる。
相当の海水を飲んでしまったのだろうか、喉の痛みと腹部の妙な熱が気にかかる。
どうやら律もムギも息はしているらしいが、意識があるのかは唯からは判断できなかった。

「お腹が熱いよお……」

芯から冷えているはずのなかで妙に熱さを帯びる腹に唯はある種の危機感を抱く。
しかし、動かない体では 手の打ちようもなく、対処方法も判らない。

彼女は自分の衰退した能力でできるかぎり周囲の状況をつかもうとあたりに視線をやる。
まだ視界はみょうにぼやけていて、なかなか思うように景色を把握できない。

とりあえず浜には外の人影はない。エンジン音や音楽のような人工音もないし、
駐車場だとか海の家、船もみあたらない。海辺にしてはやけに静かで人の存在感がないのが気になる。

(どこなんだろう、ここ……?)

やや視線をあげて周りに目をむける。高い丘が浜の先に見えた

ポリタンクなどの数々の漂着物と丘の上に見える朽ちかけた赤い家。
視界が開けるにつれて閑散とした浜の様子が明らかになっていく。
漂着したゴミは雑然としていてほんの少しも仕分けられた様子はない。

体中の意識を振り絞る。こういう言葉はないのかもしれないがとにかく唯はそれをした。
うっすらと看板が見える。そのあたりだけなぜだか生前としていてゴミも少ない。
まるでそこにだけ朽ちていく運命から逃れられるかのように。

生命感がない。この島のゴミと看板は生活から切り離されたところにある。

この島のモノには命がない


そして極めつけは 数メートル先の白い看板にデカデカと青字で書かれた「この島国有地」の字。
人気のない島の無機質さをその看板がより一層際立たせる。

「そうか、ここは!!」


ここは人々に見捨てられて、国に押し付けられた島。

その国も管理を半ば手放した人のいない島。



「ここは無人島なんだね……!」

絶望からか失望からか、そこで頭の回転は急失速し、唯の限界の身体は気絶に近い睡眠を選んだ。

どうやったかは覚えていない。けれど律はどうやら気を失っている紬と唯の二人を砂浜の木陰に運べたらしい。

唯が砂浜に身体を持ち上げてくれたことで、ぼんやりと意識を取り戻ししばらくしてから肌が暑いと思ったのは覚えている。
ほんとうにそれだけの記憶の後で、気づいたら二人と一緒に日陰にいたわけだ。
直射日光の厳しさは予想外のもので、随分長い間海をさ迷っていた身体が熱を持つのに一時間かからなかった。

おそらく砂浜にあのままいれば、熱中症や日射病で身体が完全に動かなくなってしまっただろうという律の推測はおおむね正しい。
冷えた体で日陰に行けば低体温症のリスクもある。しかし、浜の熱さはそちらのリスクを完全に立つほどの高温。
結果としてだが律の判断と行動はグループの生命を救うことに成功したのだ。
サバイバルにおいては環境条件というのは実は生存における最重要ファクターでもある。
とりあえずだが唯の決心と律の判断は死者を出さないことに大きく貢献した。

律「とりあえず、日陰にきたのはいいが……」

凄まじい体力の消費と喉の乾き、突然の出来事への混乱と他二名の安否への焦燥。
どうにかしたい気持ちとどうにもならない身体が激しくぶつかりあう。
律の精神状態は物事を冷静に理解するにはあまりにも傷つきすぎていた。

グルグルグルグルグルグルと律のとりとめもない考えは自らの精神をかき乱す。
助けに行かなきゃいけないなどとつぶやいた後にライブの失敗を思い出したり、
中学の時のテストの赤点が急に恥ずかしくなったり、その後に紬の髪をなでてみたり、

とにかくその精神は深く疲弊していた

律(澪……、梓……)

一番の親友と後輩の不在は律の不安をいっそう掻き立て、気づけば律は涙が止まらなくなっている。

律「澪……、梓……、どうすりゃいいんだよお………」

焦燥に対し疲労した身体と混乱した精神はいつまでも何もできなかった。
涙はとめどなく溢れ、嗚咽は止まらない。

律「うっ……どうしよう……」

すると、そっと律の身体を後ろから何かが包んだ。

紬「泣かないで、律っちゃん……」

いつ目を覚ましたのか、ムギが 律を柔らかく抱き締めてくれる。
潮にあれだけ浸かったはずなのにムギの髪からは優しい匂いがした。

紬「大丈夫だから、律っちゃん」

優しく微笑むムギ。

律「ムギッ!ムギッ!怖いよおおお!」

律はムギに泣きつき、どうにもならない気持ちを少し軽くした。

紬「大丈夫、大丈夫だからね……」

なにが大丈夫かはわからなかったが、律は大丈夫な気がしてきた。

気付いたら律が泣いていた。だから慰めた。それだけのことをする余裕がムギにはあった。
律を抱き締めながら、ムギは自分たちが重大な局面におかれていることを瞬時に理解した。
律はなにがなんでも澪と梓を探したいと思っている。
だが、おそらく、この身体の疲労でそれがままならない状態に律は身を焦がしているはずだ。

それをなだめ、落ち着かせるのは友人としても生存の上でも大切なことだ。
精神的動揺、とくに嗚咽などは体力を過度に消費させてしまう。
ムギはこの木陰の三人の中で最も慈愛に満ちていて、同時に冷静だった。
紬は洞察力においては人を寄せ付けない何かがある。
彼女はまさしく母であり、他人の理性的な愛し方を知っていた。

律「澪と梓が!」

紬「大丈夫、二人とも無事に違いないわ」

律「でも、でも……!」

律の目に再び大量の涙がたまる。

紬「潮の流れを考えて、律っちゃん。私たちと一緒に流されたなら、近くの浜に流されてるはずよ」

律「でも、でも、浜には私たち三人しかいなかった!」

落ち着かないのか、律が大声を張り上げて反論する。

律「澪も梓もこの浜に流されて倒れてないじゃないか!」

律はついにヒステリックなかな切り声をあげて顔を真っ赤にしながら泣き始めた。
なんとか保たれていた心の平静はあっさりと崩れ、再び嗚咽が始まる。

紬「気を失った私たちがこの浜にたどり着いたのよ!」

律「だからなんなんだよ!!」

ますますヒステリックな狂気をおびる律の声は叫びと変わらない。

紬「もし澪ちゃんたちが死んだなら、この浜に遺体があがるはずってことよ!」

律「死んだなんて言うなああああああ!!」

いまにも殴りかかりそうな剣幕で律が泣きながら叫ぶ。

紬「絶対に二人は生きてる!!」

律「どうして!」

紬「この浜にいないからよ!」

律「!」

律は急に力が抜けたように地面にへたりと倒れた。何かに気付いたのか安堵で顔は穏やかな色を取り戻す。

紬「もし二人が死んだなら、気を失った私たちと同じように波に逆らわずにここに来てるはずよ!」

律はムギの説明に納得し、泣きつかれたのか。澪は生きてる梓は生きてるとポツポツ呟きながら眠りに入った。
ムギは優しく律の頭を撫でながら、先の見えない不安と律を騙した罪悪感に抗っていた。


でもねそれは嘘だ、全部嘘だ。嘘なの。律っちゃん。嘘、嘘、大嘘なんだ。


口ではああ言ったが澪と梓はほぼ間違いなく死んでいる。これは間違いないだろう。
本来、潮の流れを考えるなら五人は同じ浜に行き着くべきなのだ。
複雑な潮流の中で、都合よく陸地に向かって物を運べるような流れは数少ない。
三人はその都合のよい流れに乗り同じ浜に着いたのだ。それをとらえなければ浜に物はたどり着かない。

おそらく澪と梓は潮流に乗れずに大海に投げ出されたのだろう。
だが、非情な現実をいまの律に告げることはできない。

澪と梓のことを思うと胸が痛まないわけではない。いや、胸が痛まないはずがない。
しかし、ムギには今目の前で生きてる唯と律を生かすことのが重要だと割りきれるだけの冷たさもあった。
唯と律には澪たち二人が死んでいるだろうなどという現実はいらない。
生きるためには厳しい現実に打ち勝つ、甘い夢が必要なのだ。

紬「ごめんね、澪ちゃん梓ちゃん。私はあなたたちを……」

ムギは涙した。自分の情けなさに二人を探しにいけない情けなさに涙した。
本当は二人に生きていて欲しくて堪らない自分に暴力的に詰め寄る冷静な自分が怖かった。

しかし、泣いてばかりもいられない。水や食料、水着の自分たちが今後の衣料をどうすべきか、
木陰ではなく建物を探し屋内に入るべきか、火はどうするのか、ムギは冷静に尽きない課題へと目を向ける。

二人のことが大好きで大好きで仕方ない自分から、優しい自分から目を背けるのに他に方法はなかったから。

現実の冷たさに心を沈めなければ、すぐに死の灼熱に追いつかれる。
灼熱から隠れて生きるには、じっと心を沈めていくしかない。
寒さにまひしても、心をじっと沈下させる。それも生きるための手段だ。

サバイバルネタは受けないのかな……

不人気でおっさん悲しくなってきたよ

唯が目を覚ましたころには太陽が傾きかけ、夕方近くになっていた。
浜に漂着したころには多分昼前であったから、およそ6時間以上はぐっすり眠っていた計算になる。
体力はそれなりに回復したが、のどの渇きと腹部の熱はおさまらない。

横に目をやると律とムギは既に起きていたらしく、なにやら話し合いをしていた。
二人が無事に話していることで唯も一安心し、会話の輪に加わっていく。

唯「おはよう」

紬「おはよう、唯ちゃん」

ムギがいつもと変わらない笑顔で優しく返す。

律「お前、寝言でギー太が云々いってたぞ」

唯「いってないよぉ!」

良かった。無人島でも二人ともいつもの調子だ。唯はそんな幻想を信じ込み心の安らぎをえた。

唯「二人とも何の話をしてたの?」

紬「ええ、唯ちゃん、ここでこのままいるのは危険だって話をしてたの」

律「ああ、砂浜は朝晩の寒暖差が激しいし、津波がまたあるかもしれないからな」

唯は寒暖差など全く考えてもいなかった。いくら8月とはいえ海辺はやや冷える。
半乾きの水着しか来てない唯たちには厳しい環境であることは簡単に推察できた。
体温が変化しすぎる環境は生存には適さない。恒温動物にだって限界はある。

唯「どうするの?」

律「民家がみえるだろ?」

砂浜からは林の陰に隠れてはいるが、確かに民家の頭が遠くに見えた。

唯「あそこにいって、一晩明かすんだね」

律「ああ、それに家にいけばなにかしらあるだろうからな……」

なにかしら、おそらくは生存へのアイテムをさしているのだろう。
サバイバル体験のない唯には何が大切かなど皆目見当もつかなかったが、
律と紬はそれぞれ必要なものを頭の中で描いているようだ。

唯「じゃあ行こうか」

善は急げ、 太陽が傾いていくのが普段よりも敏感に感じられた。
おそらく、夜まで唯たちにはそれほどの時間は残されていないのだろう。

紬「ええ、そのつもりだけど……」

紬が言葉を途中で濁す。

唯「だけど?」

律「私たちは今水着で靴も履いてない。そんな状況で砂浜からはなれて足元が安全かわからない場所にいくのはな……」

紬「そう、誰か怪我しても治療の手立てがないの……」

怪我のリスク。病院は愚か包帯も消毒液もない状態での怪我は命にもかかわりかねない。
唯の頭の中にはけがのリスクがしっかりと刻み込まれた。
少しではあるが自分や周囲の行動をきにすべきだという自覚も芽生えたのだ。

唯「じゃあ、どうするの?」

律「あそこにあるのを使わせてもらおうぜ!」

律が示す砂浜の先には、赤ペンキで海のいえと書かれた看板がだらしなーくぶらさがったボロ屋が一件かたむいていた。

日光と潮風のなせる業だろうか、うみのいえの内部は思いのほかきれいだった。
いくらかほこりは積っていたし、天井もなかったが、それほど荒れていない。
奥には倉庫のような部屋があったので、三人で中に入り物色する。
海のいえの奥からビーチサンダルと比較的綺麗な布地と男物の短パンをいただき店をでる。

律「日の当たる店で風通しもよさそうだったから布や服に虫の心配はないな」

唯「どうだろう、いまいちわかんないけど、使うほかないよね……」

律「おーい、ムギ!捜索は終わったかあ?」

紬「うん、とりあえず店の中の鞄にいくつかの道具もいれて持ってきたから」

パンパンと手持ち鞄を叩いて、紬が奥から出てきた。

三人とも水着の上から短パンをはき、マントのように布地を羽織ってビーチサンダルをはく。
最初は布と短パンを潮水で洗おうかとも考えたが、体温の低下を避けるために三人はそれを避けて、
ビーチサンダルのみを軽く洗って、民家へ急ぐこととした。

紬「なんだかワクワクするわね!」

律「だな!」

唯「うん!」

唯は二人のテンションに後押しされるかのように先頭を歩いて民家の見えた先へと向かう。
砂浜にはSOSと石を並べて描き救助に無視されないようにと注意して三人は砂浜を離れた。

唯はともかく、律と紬の二人はSOSの石が慰みにもならないものだと気づいていた。
あれだけの大津波が起きたのだ。おそらくは全国的に津波災害が発生したに違いない。
そのなかで得体のしれない無人島に漂流した女子高生をさがすことなど誰も思いつかないだろう。
 
浜からの道はずっと砂利続きで、アスファルトと違いサンダルでの歩きにくさが目立つ。
看板の年数からでは推測しがたいが、この島は一体何年前から人が踏み入ってないのだろうか。
そこらに伸び放題の雑草はなぜか砂利道を邪魔することなく生えていたが、
相当な年数この島が人から見向きされていないであろうことを如実に物語る。

砂利道をてくてく歩きながらも唯の頭にはずっとひとつのことが気になっていた。
唯の下腹部の熱はますます強くなる。これは腎臓や肝臓のあたりだろうか。
唯には理由もよくわからないが熱はますます上がっていくばかりだ。

唯「なんか、お腹が熱い……」

律「お前もか……!」

紬「実は私も……」

三人は全員が同じ症状を持ったことに奇妙な不安を覚えた。

紬「そしてのどがすごく渇くんでしょう?」

唯「う、うん!」

律「海水の飲みすぎか……!!」

紬「ええ、多分……」

本能だろうか、医学的知識を持ち合わせない三人には根拠をもちだせなかったが、
潮水の飲みすぎをすぐに察知することができた。

律「急ごう……」

危機感が三人の足取りを速めていく。

十分ほどすると商店一軒と家が十軒ほどのちょっとした集落についた。
通りの退廃具合からして人はすっかり何年も前からいないのだろう。家々の庭は雑草パラダイスになっている。

示し合わせたように三人は散り散りになって集落を歩き回り何かないかを捜し歩いた。
何かとは、さっくりいえば水を飲む蛇口の類のモノである。
すでに三人ののどの渇きは口にこそ出さないものの相当ひどくなっていた。
そして三人それぞれがそれぞれの渇きを思って何かを必死に探す。

通り以外は雑草だらけで思うように探索も進まない。

律「おーい!二人ともー!こっちにこいよー」

家々の庭を観察していた唯たちに先駆け、律が何かを発見したようだ。

律「おいおい井戸があるぜ!!」



ついに水を発見した唯たち!果たして澪と梓は生きているのか!唯たちは生き残れるのか!唯たちのサバイバルは始まったばかりだ!!

完!!!!!!!!!!!!!

第二部

井戸があっても水がきれいかわからない。いや、井戸などそもそもかれてるかもわからないのだ。
しかし、唯の腹部の熱がますます強くなる。水が飲みたい。三人の本能は理性的な嫌疑をどこかに置き去りにして井戸に向かわせた。
この渇きのまえでは水が安全かどうかなどどうでもよかった。真水ならなんでもいい。

井戸は手押しポンプ式で少々錆び付いていたが、律が手でポンプを動かすと、水がでてきた。

唯「うう……」

律「はあ……?」







真っ赤に錆びた色をした水が

ポンプが錆びついていたからだろう。しばらくは赤い水がで続けた。
しばらくして真水がでてくると律は何も考えずにポンプの下に口をやり水を飲み始めた。

きれいな水と夕焼けの光が空中でキラキラとぶつかって、唯は思わず生唾を飲む。

律「うまい、めちゃくちゃうまいぞ!」

そんな言葉を聞かされては紬も唯も黙ってはいられない。律に習って二人もポンプからの水を浴びるように飲んだ。

唯「おいひいよっ!」

紬「おいひい!」


どことなく鉄くさい味もしたが、のどの渇きの前では大した問題ではない。
浴びるように水を飲み乾きを癒した三人は急にもじもじし始め、お互いの下腹部を意味ありげにチラチラ見る。

紬「みんな……、いきたくない……?」

律「だよな、ずっと我慢してたしな……」

みなが恥じらいの目で自分の股に目をやる。




唯「うん、おしっこしたい……」

気づけば三人の尿意はクライマックスに達していた。本当は最初からクライマックスだったが、
三人の緊張が解けて、水をのんだことでそれは思い出したように強さを増して三人を襲うのだ。
尿意からすれば、俺の必殺技パート2といったところだろうか。

唯「おしっこしようか……」

律「まて、紙がないし、そもそもトイレがないぞ……」

紬「それはねえ……、仕方のないことだし……」

律「野外か!野外なのか!」

唯「どうせだれもいないよ」

律「そういう問題じゃねえ!」

紬「じゃあ、どうするの?」

律「みっ民家のなかのトイレを!」

唯「民家のことはよくわからないし、危ないよ」

紬「じゃあ野外しかないわね」

唯「うん、もう我慢できないし」

紬「非常時だし」

律「ううっ……お嫁にいけない……」

唯が待ってましたとばかりに短パンを脱ぎ、肌にまとわりついた水着を全力で脱ぎだす。
それを見て紬も勢いよく短パンと水着を同時脱ぎし、二人は秘所をあらわにかがみこんだ。

紬「ツーピースで良かったあ!」

唯「うん、すばやく脱げるよ!」

律「ちょっとまて……お前ら二人で一緒にやるのか……!!」

唯「まっさかー」

律「だよなー」









紬「三人だもの!!」

律「ですよねー」

律「まっ待てよ!」

唯「したいの!?したくないの!?」

律「ううっ!やるっきゃない!」

紬「待ってましたあ!」

意を決したのか律も服を脱ぎ、三人は輪になってかがみ、標的をその輪の中心に定め、


放尿を開始した。

ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

クライマックスなどっとっくに通り越した膀胱がうなりをあげる!!

唯「はっ、はぁ、うっあああああああああああああ!!」

内在的な水分量にすでに三人の膀胱は破裂寸前!
つまりはこの排尿も大変なエネルギーをもつのだ!!

律「いやあああっ!!お、おなかがああああ!!」

まさしく苦行!まさしく試練!三人は襲い来る水分の暴力に必死に抗う。

紬「音、音がすごいの!!消せなくてっ!!ああ!!」

そう、静音の仕様がない野外放尿は流れ落ちる滝のように激しくうなる!!

ブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!1

律「見られてる!見られちゃってるう!!!」

唯「ふえっ、見られてするの!!!」

ぶっしゃあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!

紬「すっごく!!!!!!!!!!!」

ぶしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!111





律「……気持ちいい!!」

三人はしばらく全力を出し切り、お互いの放尿をしっかりとみつめながら、最後にはちょろちょろとそれを終えた!

さて、放尿を終えた三人の顔は勝利と悦楽に輝いていた。
紙がないこの状況では、清潔さを保つのに一つの方法しかなかった。
このあと、嫌がる律のまたを二人で丹念に井戸で水洗いしたり、
仕返しとばかりに律が二人のまたをきれいに洗ったりしたのだが、
さすがにその話は本編に関係ないうえ、狙いすぎなのでやめておこう。

落ち着いたころには太陽はほとんど沈みかけて、島を黄昏が支配しようとしていた。
まだ明かりのあるうちに探索を進めなければなるまい。
三人は井戸から離れて井戸に一番近い民家の探索にかかる

一軒目は古泉という立派な表札の平屋だ。
割りと保存状態がよかったのか畳はともかく、縁側や板の間は埃を被っていたが使えそうだ。
庭が広く、日当たりの問題か雑草もそこまで多くはなかった。

今夜はおそらくここの板の間あたりで寝ることになるのではないだろうか。

室内を探すと食料品は乾パンが台所にたんまりあったが他は全滅。
布団などは非常に状態が悪く使えそうなものはなかった。
あとはいくらかの調理器具と小説や聖書のような本があるくらいでほとんど何もない。
何十年も前に人がいなくなったようだったが、
缶詰の賞味期限はここ二三年前に切れたものばかり
このことに三人とも気がついたが、気にせずに缶切りを探しだした。

律「にしても、湿気た家だなあ、ったく」

紬「食料品と調理器具があるだけいいわ」

唯「とりあえず、当面の水と食料はなんとかなりそうだね!」

安堵に唯の顔がほころぶ。

が、

紬「どうかしら……」

紬が土間にあった古泉家のかまどを睨みながら、不安そうな表情をつくる。

唯「へ?」

唯が間抜けな声を出すと、律が紬の横に歩いていき相談を始めた。

紬「まず、私たちには調理器具はあっても火がない」

律「ああ、火を通さずに食材をとるのはなるべく避けたいところだ」

食中毒のリスクを下げるため、胃に優しい食事をつくるために
火は欠かすことのできないファクターである。

律「火はほかのことにも使えるしな」

唯はほかの事が何かはわからなかったが、二人の会話をじっと聞く。

紬「あとは靴ね、ビーチサンダルで畳が抜けたりしたら大怪我よ」

足を持ち上げ不満げにぶらぶらさせて、紬は律を見る。

律「だったら短パンに布だって改善したいとこだぜ」

対して律は大げさに布と短パンを強調してみせた。

唯「うーん、そういえば怪我しても医薬品もないし、じつは全然なんにもないんだね……」

律「ナイフやスコップもあってもいいだろう」

紬「うん、とにかく身の安全と健康を考えたら今すぐにでも欲しいものはたくさんあるの」

三人は水を手に入れた幸運になかなか気づいていないが、水こそ彼女たちの最大の発見、功績である。
水だけあれば三日は生き残れるのだから、なにもないなどとはサバイバル知識のある人間なら口にしなかっただろう。

三人は窓の外を見る。この家の窓には一応ガラスと網戸がかかっていた。
目を凝らすと夜が近いのが空の色でわかった。

律「まずは火だな……」

紬「ええ、いきましょう」

唯「ファイトー!」

紬「いっぱーつ!」

唯「マッチマッチー」

律「チャッカマーン」

紬「ガスバーナー」

三人は日が沈む前に火をつけるのが先決と各々集落内を駆け回り、火の元を探す。

唯「あっマッチあったよー!」

キョンと壁にペンキで書かれた、集落内でも一番ぼろぼろの家の仏壇からマッチを探し出した唯。
早速、紬と律は枯れ木を集めて、家のかまどに火をくべようとする。

長年の湿気のせいか、なかなか火をつけられなかったが、何とか日が沈む前にマッチをかまどに投げ込む。
かまどのなかでは徐々に徐々に火が燃え、燃え広がり、暖かな光が古泉邸をつつむ。
何本かの薪のストックを用意するまもなく、火がついて数分で 唯たち三人は睡魔にまけた。

玄関でくたくたになって横になる三人は、その瞬間だけは苦しさを忘れて安らかな表情を浮かべるのだった。



一日目終

とりあえずいったんお休み、今ちょっと澪とあずにゃん生かすか殺すか迷ってる。

遭難1日目!Bパートの予告!



こいつははずれをひいたなあと最初にわかったのは
水の中でおぼれかけながら意識を取り戻したら、、
砂浜に力なく座ってただ泣くだけの澪先輩が見えたときからだ。

必死に砂浜に向かって泳ぎながら、他の先輩と漂着したかったものだと思った。

ムギ先輩は案外クールだけど、みんな優しくて決断力がある。
この決断力のない女を引き当ててしまったのは不幸だ。



砂浜にたどりつく頃にはこんな気持ちはすっかり消えていた。
このときは、こんな暗い感情をさらけ出した自分が正直怖かった。
でも、この感情がまちがったものじゃないという確信がどこかでささやいていた気もする。







寝ます。残ってたら頑張らせていただきます。

熱した砂の上、梓があんなに遠くに見える。
とにかく混乱していた。澪は溺れている梓を助けようとしたが、
助けようにも声の出し方と歩き方がとっさにわからなくなってしまった。
こんなことが実際にあるのである。
後輩の命の窮地にも情けない自分が恥ずかしい。
恥ずかしいけど泣くことしかできない。それが恥ずかしい。堂々巡りだ。

「うわ、うあああああああ」

そんな自家撞着をよそに梓はなんとか砂浜までたどりついた。
体力を限界ギリギリまで浸かって何とか浜辺にたどりつく。
梓の眼に非難するような色はなかったが、失望はありありと描かれていた。
まあ、実際のところ助けに来ても二人とも溺れてしまう可能性だってあるのだから、
非難の仕様はないし、失望を抱いたのも自分勝手な気がして、
梓はとりあえずのところ澪をどうにかしてあげたいと思うようになった。

澪はそんな逡巡にも気付かずに泣きながら、やっと声の出し方を思い出したのか。

「梓、大丈夫か!?大丈夫だったか!?」

などと今更になって言い出し、梓の失望を少しよみがえらせる。
いい人だけど使えない。梓は無意識化で澪に対してそう判断を下した。
それは半分事実だったが、サバイバル化ではストレスはたまりやすいものだ。
否定的になりやすいし、それはいくらかの危険もはらむ。
この否定的判断が吉と出るか凶と出るかは、いずれわかるだろう。

澪「良かった、本当によかった!!」

澪は馬鹿みたいにその文句を繰り返すばかりでなにも考えられない様子だ。
梓はわかったわかったと手でその動きを制し、いきなり切り出す。

梓「三人を探しに行きましょう。」

その言葉を聞いて初めて、澪は三人の不在に気づいたようだ。
急にあたふたし始めて、なにやら二三ぼそぼそつぶやくと、
にっこりと笑顔を浮かべて、そのまま微動だにしなくなった。
面倒だなあ、と梓は口には出さないけれど、強く思った。

おそらく、意識を失うなりなんなりで潮水をあまり飲まなかったのだろう。
梓と澪は漂着してすぐに行動が開始できた。もっとも澪は再起動にずいぶんかかったが。
同じ浜に流されるなら同時に近い時間で着くはず、
という梓の意見でSOSの置き石を残して二人はビーチから早々に立ち去ることとした。
浜に流れ着いたゴミからサンダルを拾ってきれいに洗って履く。
澪は拾ったものを使うのが嫌そうだったが、後輩の前なので頑張った。

澪「どこをどう探すんだ?」

自分で考えてください、などと意地悪を言おうか迷ったが、正直に伝えた。

梓「とりあえず真水を探しましょう。」

澪「どうして水なんて探すんだ?」

梓「生存には水は不可欠ですよね?」

澪「水さえあれば、三日半は生きられるなんて言うよな」

梓「私たちには絶対必要です。つまり、」

澪「みんなにも必要か!」

梓の推理は非常に、論理的には正しいものだった。
生存に必要な水、それを得ると同時に仲間と再会する。
だが実際には唯たち三人にはそれでは会えない。
無人島であろうことは二人とも理解していたが、二人とも家を見ていなかった。
その二人がまさか井戸が生きている集落があろうなどと予測できるはずもない。

小さな間違えを抱えつつ二人は浜辺に沿って歩き、河口を探すこととした。

河口を探すと一口にいっても簡単なものではない。
梓の思惑に反して、すぐには河口にはたどりつけない。
浜の熱さにやられそうになりながら、二人はせっせと歩く。
この間、二人は一言も言葉を発することはなかったが、それは正しい。
熱と徒歩による疲労以外は最小限に抑えて行動することが本能的にできていた。
40分ほどわき目も振らずに歩くと、海にちょっとした川が流れているのが見えてきた。

澪「なんだか結構細い河だな……」

梓「支流ってやつなんでしょうか……」

二人は少しばかりのどが渇いていたが、下流の水はどうにも信用できず、
火照った皮膚を湿らせる程度で口には含めず、上流に向かって歩き出す。

上流に行くにはどうにも道が歩きにくく、サイズの合わないサンダルでは難行だった。
梓と澪はたがいに怪我のないように注意して、ゆっくりとだが確実に登っていく。

梓「上流に向かえば、この川がどういう構造か少しはわかりますね」

澪「ああ、唯たちも水のきれいな上流近くに向かうだろうし」

残念ながら井戸を手に入れた三人にはその考えでは外れである。
しかし上流を目指すという志向はサバイバルにおいて決して間違いではない。
きれいな水を手に入れるのは最優先の命題なのだ。
山に入って沢を探そうとするようなことは素人には無理だが、
上流をめざし比較的きれいな湧水を探すのは難しくない。

道なき道をかき分けていくと、水がたまっている地点へたどりついた。
ここから水がわいているわけではないが、見たところきれいな水が蓄えられている。
湿った川沿いを歩いてきた二人はそこまでのどが渇いていたわけではないが、
それでもやはり水を飲まないわけにはいかない。

澪「ここの水、きれいかな……」

梓「なんとも言えないですね」

見た目がきれいでも雑菌が繁殖している水など多々ある。
水溜りの近くに作業小屋のようなものがあるのに澪が気付き、
視線で梓を促し、とりあえずは小屋の中をみてみることにした。

作業小屋は八畳もない掘立小屋だったが、所狭しと道具が並べてある。
漁や採集に使うのか釣り具やナイフやマッチや薬缶など役立ちそうなものは多い。
安全靴や作業着のつなぎ、ブルーシートに蚊取り線香、石鹸まである。

澪「すごいな……」

どの道具も少々ふるいがつかいようはありそうだ。
澪は無人島でこのような道具と出会えたことが不思議でならかった。
どうしてこうも使える道具が都合よく並ぶのだろうか。
神秘を感じる澪に対し、梓は早々と道具の中から薬缶とマッチを取り出す。

澪「どうした、梓?」

梓「そうですよ、水が飲みたきゃ沸かせばいいじゃないですか!」

そういうと梓は枯れ木を探しに出ていった。
ワンテンポ遅れて澪も石を探しに出て行った

かまどは、熱効率を高めるために三方を石の壁で囲った「コの字形」がもっとも一般的なタイプである。
その際には、「空気が供給されやすいように、かまどの焚き口を風が吹き込んでくる側へ向ける事が鉄則」
そのような基本事項を知っていた澪はせっせとかまどを組み上げていく。
梓もそれにはくちだしせずにさまざまな太さの枝を拾ってきた。

なんだかんだで二人のコンビネーションは良好だった。
お互いが規則的に自分のやることを理解していたので、
問題もなくかまどと薪の用意はできた。

水溜り近くにあったのでマッチは湿っていた。
なかなかつかなかったが、しばらくしてどうにか弱弱しい火がついた。
それをダメにしたマッチにつけて、かまどの中で木々が徐々にが燃え上がる。

澪「や、やったあ!」

梓「ヤッテヤッタデス!」

澪と梓は手を取り合って我を忘れて喜んだ。
共同作業の達成は人間に喜びの感情を与える。
それは原初の人間が狩をしていたころからの本能である。
作業の中で梓は澪への否定的判断を払拭し、尊敬する澪先輩は帰ってきた。
澪の弱さと強さの両方を受け入れることができるようになったのだ。

共同作業は心の結びつきを強める。
ましてや、二人で生存のために作業するなど、最高の好機だ。

書きだめしといたテキストファイルが開けない……

やりゃあいいんだろ、やりゃあ

知恵袋先生ありがとうございました!

火は楽しみである。そう火遊びは楽しい。
それは少年少女はもちろん大人にも言えることだ。
ろうそくに火をつけたり、枯れ木を燃やすのに人は言い切れぬ高揚感をえる。
本能が火の慰みをもとめるのだ。

さっそく水溜りの水を薬缶に入れて煮沸を始める。
二人は作業着やら何やらをやや下流の水で洗って火干しを始めた。
梓も澪も火にまきをくべる作業が楽しくて仕方がないようで、
服を乾かす間にかまどをもうひとつつくり、予備の火として保存することとした。

梓と澪は火の楽しさを十二分に堪能し、薬缶の中身が沸騰すると、
かまどから薬缶をはずして、じぶんたちは食べられそうなものを探しに歩いた。

梓「たんぽぽがたくさんありますね」

二人があたりを散策すると、タンポポが群生しているのを見つけた。
梓が葉を何枚かつむと、虫食いもなく鮮度もいい。

梓「晩御飯はきまりましたね」

澪「ちょっと待て、たったんぽぽなんて食えるのか?」

梓「食べたことはないですけど、大丈夫らしいですよ」

中東などではタンポポは食用にされる。
日本でも揚げて食べるケースは多い。

澪「わざわざ食べなくても……」

梓「私は食べます。この暑さでお腹に物を入れてなきゃ、最悪死にます」

澪「そんな、大げさな……、第一おなかこわしたらどうするんだ?」

グウゥーと何とも間抜けな音が澪の腹から響く。

梓「とりあえず、二人分作りますから。食べたくなったら言って下さい」

澪「ううっ、私も一緒に作ってたべるよー」

素人にとって野草は簡単に取れる栄養源の最たるものだ。
獣や魚などをとれるなら、野草はサブの食糧だが。
大の大人でもそうかんたんに狩猟はできない。
ましてや女子高生の彼女たちには土台無理な話だ。

食糧に富んだ唯たち三人に対し、不利なように見える二人だが、
このタンポポ食は思わぬ点で唯たちよりも有利な状況を生み出した。

みおみおとあずにゃんの拾いものリョウリショー!!!

澪「というわけで、このタンポポをどう調理するんだ?」

梓「まずはきれいな葉っぱを選び、それを水を入れたなべにぶち込みます」

澪「豪快だな」

梓「いえ、決して豪快じゃないですよ。あく抜きですから、五分ごとに水を入れかえて苦みを抜きます」

澪「何回変えるんだ?」

梓「最低五回くらいです。多分」

筆者はあく抜きを怠ったがために苦い思いをしたのをここに付記する。
ドレッシングなどの調味料がない場合はあく抜きは必須だ。
タンポポは十分にあくをぬいても苦みがはっきり残るため、この作業は大事である。
水溶性ビタミンが溶け出してしまうことなど気にせず、
ひたすら水にさらしてえぐみをぬくことに専念すべきだといえよう。

澪「あく抜き終了!」

梓「ずいぶん早いですがまあ気にしませんよ。その間にわかしておいたお湯に葉っぱをさっとくぐらせます」

澪「葉がくたくたになるまでやってもいいぞ」

梓「今回はお腹に優しくなるようにくたくたになるまで火に通しました」

澪「で、次はどうするんだ?」

梓「終了です」

澪「へ?」

梓「だから終了です」

澪「味付けとかは?」

梓「醤油はおろか塩もないです。ですからこれで完成です」

澪「……」

料理名
たんぽぽのはっぱのあくをぬいてゆでたの

澪「じゃ食べてみるか……」

梓「見た目はいまいちですけど多分味もいまいちですよ」

澪「テンション下がるなあ……」

気づけば日もだいぶ下がり、昼の三時くらいだろうか、
とりあえずはおやつという名目でいいのだろうか。
かけた茶碗に入ったくたくたの葉っぱと湯呑には煮沸した水。
貧しい食卓ではあったが、とりあえずは食べられるものがそろった。

澪梓「いただきまーす」

澪「苦いし青臭いな、これ……」

梓「そうですか?思ったよりいけますよコレ」

くたくたの葉っぱは得体の知れぬ青臭さがあったが苦みはそこまでくつうではない。
山菜的な苦さで、好きな人は好きだろう。
長いあく抜きが功を奏したのか残るような苦さはない。
舌触りはしょうしょうざらついたが、奥歯でしっかり噛んで飲む。

当初抱いたほどの野草への嫌悪感もなく、案外食べ切れた。
なかなかの量をたべたことで腹も膨れて気分もよくなる。
水は生ぬるかったが渇いたのどは潤せたし、
冷たすぎる水はお腹によくないのでよしとすべきだろう。

澪「結構、食べたな」

梓「ええ、少なくとも飢餓の心配はなさそうですね」

タンポポには様々な薬効がある。調理法のせいでビタミンはあまりとれないが、
ありあまって十分の利尿作用と胃腸の調整の効果がある。
つまりは海水をのんだ腹からの排泄がよりスムーズにいき、
なれないストレスで極端に荒れるであろう胃腸の保護にもなるのだ。
筆者は三日間タンポポをたべて生活していたが、
胃腸がだいぶ強くなり、べ塗りやすくなったような気さえもする。

素人判断で野草を食すのは本来は危険である。
タンポポのようなよく知ってる草でも注意が必要だが、
知らない草を通ぶって食草とするべきではない。

梓「どうしますか?まだ太陽から昼ぐらいですが上流に向かって探索を続けますか?」

澪「いや、このさきどれだけあるのかも分からないし、靴や服が乾いてからでも行動は遅くない」

梓「ですね、暗闇をむやみやたらと歩き回っても探しようがないです」

澪「それよりも、小屋の中を探索して、周囲の食べられそうなものを探すのが先だろう」

梓「あと肌着もほしいですね、さすがに水着のままじゃあちょっと」

火でだいぶ乾いてはいたものの、水着は動きにくい。
食事が終わって、今後の予定を話した後、
二人はともに恥ずかしそうに川の下流で用を足し、
顔を真っ赤にしながら帰ってきた。
爆音は川の音にかき消され、ほとんど聞こえなかった。

川沿いは八月だろうと夜は冷えるものだ。
それを見越して二人は薪を用意し、
小屋の床を濡れたぼろ布できれいに拭いて寝場所をつくった。
スコップやナイフなどの便利そうな道具を部屋の隅に集めて、
自分たちは部屋の真ん中でビニールシートを掛け布団に寝ることとした。

あらったあとで針金で木と小屋の間に縛り付けて服と一緒に乾かしたもので、
ふたりはそれなりにきれいだろうとふんで寝床の調整をおえた。

澪「あいつら大丈夫かな?」

梓「大丈夫ですよ、きっと」

胃袋が満たされると心が落ち着く、二人の間の不安は一応おさまり、
寝る前に鍋にたっぷりの水をいれてかまどの近くに置き、
保存用にタンポポの根を天日干ししようと外の針金に吊るし終えると、
すでに日は沈んでいた。

明りもないなかで火だけが煌々とあたりを照らす。
二人は寝床でぐっすり眠った。澪もあっさり寝付いてしまった。

けいおんぶの長い一日目はこうしておわった。

遭難二日目!

思ったよりも早く目が覚めた。かまどの火は消えていて、
律と紬はすでに起きて作業を始めたらしく室内にはいなかった。
腹部の熱がまだ残っていることと、空腹が早起きの原因らしい。
潮水の飲みすぎは命にかかわる状態も招きかねない。
唯はのそのそと井戸までいきポンプから浴びるように水を飲む。

空腹と熱は一時的に抑えられたが、倦怠感が抜けない。
集落の中を歩いていると律と紬が向こうから歩いてきた。

唯「おはよーう…」

律「おはよう」

紬「おはよう」

声にあまり抑揚がなく、みたところ律と紬も体調がいまいちらしい。

唯「どこいってたの?」

律「いや、食べられそうなものを探しにな」

唯「へえ、なんかあった?」

紬「ほとんど何にも見つからなかったけど、乾パンがあるから今朝は大丈夫かな」

唯たちは三人とものそのそと覇気のない様子で食卓へ向かった。

乾パンというのは油っけと水分という概念を置き去りにした料理である。
ひとたび口の中に入れば、まちがいなく口腔中の油分と水分を奪って胃袋をめざす。
口の中はもっさもっさである。本当にもっさもっさである。もっさもっさカーニバルである。
紬はその点を考慮し、水でふやかそうかとも考えたが、
噛んで満腹感を得るほうを優先し、食卓には乾パンと水が並んだ。

唯「もっさもさだねえ……」

律「もさもさだなあ……」

紬「もっさりね……」

食糧的には恵まれているはずの三人だったが、いまいちの健康状態と
達成感にいまいちかける食事のせいかなかなか進まない。
大量の水と三人で一缶の乾パンを食べ終えると、食事は味気なく終わった。

三人は不潔な短パンと布嫌気がさし、誰が指示するでもなく脱いで
羽織っていた布と短パンを一緒に井戸水で丹念にあらい流して干す。
ついでに水着も脱いで乾かしておいた。

素っ裸で探索行動をするわけにもいかなかったので、
とりあえず周囲に水をまいてから丹念に体を洗った。
水をまいたのは打ち水効果を狙ってのことでもあるが、
とにかく当たりと体を水で包んで、熱さを避けようとした。

服もなく疲労が色濃く残っていたが、澪梓探索のためには行動しなければいけない。
とりあえず水着を再び着て行動を開始した。
古泉家のあたりは雑草も少なかったので、古泉家の板の間をを本拠地に作戦を考える。
もちろん、ぼろ布で床をふき、使えそうな布は回収して洗っておいた。

律「どうするか……」

紬「まず、ほかの民家を回って服とかを探しましょう」

唯「うん、使えそうなものがあったら回収すべきだよ。今は体力が全然追いつかなくて生きるのが精いっぱいって感じ」

律「たしかに下着はほしいな、食べ物もないし、それに探索に鉈とか必要だろ」

集落から少し離れたところにある茂みを指さして律がいう。

律「とりあえずは比較的ぼろくなさそうな家を探そう」

紬「でも床が抜けたりしたら大変だし、二人も気をつけてね」

唯「りょーかーい……」

下腹部の熱が加速度的にどんどん強くなるのを感じて唯は焦った。



まず間違いなく、自分は体調がかなり悪い。
だが対処法も分からないし、二人の体調も限界に近いはずだ。
その状況で具合が悪いから休ませてくれとはいえない。

どうにも今朝から尿の出も悪く、排泄系の不調だろうというのはわかる。
塩分のとりすぎかなにかだろうか。体が張るような感じで汗もうまく出ない。
腹部の熱を気にしながら、唯は涼宮という表札の家に入って行った。

なんだかごちゃごちゃした家で、本や衣服が乱雑に転がっていた。
ふと足元をみるとセーラー服が転がっている。

唯「へへ、服はここかあ……」

力なく笑って、目につく限りの衣服をかっさらいふらふらになりながら井戸のあたりに放って、

腹部の熱で、ころりと倒れた。

律はもう意識も絶え絶えだった。
下腹部の痛みは尋常ではなくなり、足元がおぼつく。
探索の途中で急に気分が悪くなり徐々に動けなくなった。

律「くそ、目眩が……」

水だ。水を飲まなくてはと意識を保ち井戸のあたりに行くと、、唯が倒れている。
落ち着きを失っていなかった律は衣服のクッションが唯を守ったことを確認すると、
意識があるのか問いかける。返事はない。

律「熱中症ではないな、朝の涼しさと水浴びの後だ間違いない」

そっと唯の脇の下と胸と腹部と足をさわって体温を確認する。
この方法は何となく思いついたものだが腹部の異常に気付く。

律「熱い……」

腹だけが妙に熱いのだ。

律「くっ、むぎいいいいいいいい!」

腹から声を出してムギを呼ぶ。すると通りの向こうから紬がかけてくる。
見たところ、紬は唯や律より健康なようだ。

律「全滅なんて洒落になんねーよな……」

律も意識を保ちつつ、ゆっくりと倒れこんだ。

気づくのが早くてよかった。律に説明を受けた後で、紬が二人を日陰に運ぶ
おそらくは潮水の飲みすぎが不調の原因だろう。
昨日から水を大量に飲んでいるが、塩分が抜けきったのかはあやしい。
おそらくは自分も軽度であれ潮水飲みすぎ状態にあると判断したあと、
紬は二人に水を飲ませると、かまどに火をつけてすぐに行動を開始した。

彼女が目指すのは現状で唯一問題につながりそうな野草。

そう、


ド ク ダ ミ !


である。

ドクダミはおそらく史上最悪の味の薬草である。
火を通せばおいしいなどという何ら根拠のない説が出回っているが、
それは大嘘である。火を通しても強烈にまずい。
それがドクダミのドクダミたる所以である。

生物兵器級の味を知らなかった筆者は、
家の庭に生えていたドクダミを生食し、
あまりの味に本気で祖母に泣きついたこともある。
これが17の夏休みの話だと記憶する。

祖母のドクダミの説明を引用しよう。

まずいが効き目は普通。

日本国内なら沖縄だろうが北海道だろうが竹島だろうが北方領土だろうが自生するドクダミ。
ほどよい温度の日陰ならばそこらへんで手に入るので比較的手軽な薬草といえよう。

紬「あった!」

谷口と書かれた家の庭に大量にあったドクダミの葉を摘み取る。
独特の臭気が鼻をつくがそれをも辞せずにこんもりと摘み、井戸水で洗う。
本来的には乾燥作業などを伴わなくてはとても食用には絶えない代物だが、
紬はここで荒業を使う。日本漢方でも禁じてとされるドクダミ直絞りである。
ドクダミは乾燥することで効用が弱まる(それでも手に入りやすい薬草内では上位である)が、
直搾りは強烈なまずさと劇的な効用を両立する諸刃の剣である。

このドクダミ直搾りは主に塗り薬としての使用が主だが、飲み薬としても使える。
筆者はこれを水で薄めたものを塗り薬として使用したが、そのときも鼻がかなり臭気にやられた。

生のドクダミを早々とてで引きちぎり、先ほど乾いた布に包んで液を濾す。
強烈なくささの液体が用意した湯呑の中に滴り落ちる。
大量の臭気に似つかわしくない少量の青汁のようなものが湯呑にたまった。

急いでこれをもって唯たちのもとに行く。
律は気を保っていたが、苦しそうにうめいている。
よこの唯も呼吸が乱れがちで相当苦しいようだ。

紬「ごめんね唯ちゃん!!」

申し訳なささえ生じる救命薬を口の中に投入する。

唯「…………………

律「うう、唯!!」

唯「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!ぐへぇ!うえ!」

のたうち回り井戸水を必死に飲み始める唯。

唯「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!くさあああああ!!!!!!!!」

それだけでは足りないのか、何度も何度も水を飲み、叫ぶ。

唯「生臭い………………」

しまいには水を飲みきれなくなり、そそくさと茂みへいき、尿を済ませてそこで倒れた。

その様子を見ていた律は戦慄とともに紬へ眼をやる。
にっこりと紬は微笑みとともにドクダミを飲ませて……。

後は覚えていない。

とにもかくにも三人はドクダミ汁で何とか体力を回復した。
三人ともしばらくは狂ったように水を飲んでいたが最終的にはあきらめた。
利尿作用があるといっても、そこまでの即効性はない。
おそらくは強制的に水を飲まざるを得ない状況が良かったのだろう。

紬「ドクダミは胃も整えるから、健康にいいのー」

唯「うん、目が覚めたよ……」

律「とりあえず、窮地はしのげたな……」

唯「民間療法っていうのかな?医薬品が見つかるまでは我慢だね」

紬「ドクダミなら消毒と入浴剤にも使えるし、料理にも使うこともあるのー」

唯「料理はやめとくにしても消毒液の代用品がみつかったのは大きいね」

律「ああ、服も乾いてきたし、本格的に探索を始める準備ができてきたな」

紬「そうねー」

唯「ムギちゃん、目の焦点が……」

三人は短パンに布をはおって着替えをおえた。
体調のすぐれない唯が涼宮宅の衣服を整理して、
紬がかまどに火をつけて食材を探しつつ調理を始め、
律は集落の外に出て何かないか探索する運びとなった。

唯「ばにーがーる?なんでこんなのがあるんだろ?」

涼宮宅はなによりとにかく衣服が充実していて、
食べ物や役立ちそうなは見つけられなかったけれど、
唯は多くの服を見つけて洗った。虫食いも少なく比較的清潔だ。

下着もいくつかあって、各種サイズが取り揃えてある。

唯「うーん、女性服のお店だったのかなあ?」

とりあえず真水で洗って、干せるだけの衣服を干しておいた。
石鹸や洗剤の類があればいいけど、そんなものは見つからない。

唯「とりあえず服はいいかなぁ、かわいいシャツもあったしぃ」

唯は胸にハイブリッドとかかれたシャツを手に、紬の手伝いに向かった。

ギコギコの人?

ちょっと休憩。さるさん面倒だし。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:04:22.43 ID:gKiOI2t80
>>9
アッーー!?
Vipに立てたんだもんな
じゃあ>>17送る
頼んだぞお前ら
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:16:26.95 ID:gKiOI2t80
再安価でいいのか・・?
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:20:46.83 ID:gKiOI2t80
>>26を送る
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:31:33.19 ID:gKiOI2t80
>>27
よし意味不明だ
送った
相手は黒髪ロングだぜ
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:35:22.58 ID:gKiOI2t80
>>32
誰だよそいつww
返事こねぇええ
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:38:50.92 ID:gKiOI2t80
女だよ
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:41:54.81 ID:gKiOI2t80
>>37
ああ、ありきたりなんだけど好きんなったもん仕方ない
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/08/29(日) 00:45:48.55 ID:gKiOI2t80
>>40
百合でもないです

http://hissi.org/read.php/news4vip/20100829/Z0tpT0kydDgw.html

>>156
こいつ誰だよwwwwwww

もしかして俺と同じのマンションの人?
俺は山との腹だけが友達の男だよwww

>>153
なにそれ、うまいの?

紬「ごっはん、ごっはん!!」

かまどに火をつけて出てきたのはいいが、正直言えば食べられる植物の特徴なんてほとんどしらない。
とりあえず勢いででてきたものの食糧など無人島では手に入る気もしない。
しかし、やるといったし、なんとかなりそうだし紬は集落のなかをかけていった。

朝比奈とかかれたなんだかかわいらしい門扉のうちの前、
そこでなぜだか急に気になって庭にはいって行ってみる。

紬「あらあらー」

庭には家庭菜園の跡がそこかしこあって、ハーブがいくらか自生していた。
ハーブは案外生命力のある品種が存在するので驚くほどのことはない
使う分だけを摘み取って、さらに庭を見渡す。
雑草も多いが、まだ生きている植物もあるかもしれない。
とりあえずはハーブを持ち帰って、誰かに暇ができたら探索しよう。

紬「塩とかないけど、まあいいかしら」

とりあえずセージの葉をそのまま鍋につっこんで火をかける。
多分セージティーとスープの親せきのようなものができるだろう。
塩味がどうしても出せないが、乾パンのともに飲めればいい。

唯「むぎちゃん、ただいま」

戸口で唯が立っている。

唯「服はいっぱいあったよ、ごはんはまだ?」

紬「ちょうどよかった。ちょっと一緒に食べ物があるか見に行ってほしいんだけど」

唯「うん、今日のごはんは乾パンと何かなぁ?」

セージ汁です。

紬「これからとれる食材しだいね」

庭の雑草をかき分けて入ると、裏手には畑の跡のようなものがある。
雑草が多い。もしかしたら植物が埋もれているかもしれないが、
道具も何もない今探すのは面倒なばかりでなかなか進展しないだろう。

紬「唯ちゃん、今日はハーブスープと乾パンにしましょ」

セージ汁です。

唯「うん、スープがあれば乾パンも食べられるね」

汁です。

紬「じゃあ、別の作業しましょうか」

唯「なにするの?」

紬「……塩、食べたくない?」

製塩、これも無人島生活では避けては通れない難題だ。
テレビ番組のように塩が最初から提供されるはずもない。
砂糖以上に生存に不可欠な調味料、無人島で手にはいるのだろうか。

どきどき!唯紬製塩ショー!!

唯「質問なんだけど、塩分は海水飲むだけじゃだめなの?」

紬「海水を飲んで塩分をとると肝臓などの内臓に負荷があるのでおススメできないの」

唯「じゃあ、どうするの?」

紬「ある程度の塩がほしければ、ビニールシート式塩田法ね」

唯「びにーる?」

紬「そう、ひなたに穴をほってそこに海水を汲んで流し込む」

唯「地面をお椀みたいに使うんだぁ」

紬「そして海水が少し蒸発するたびに海水をたして、お椀のなかの塩分量を高めていく」

唯「そうすると、最終的に塩がとけきれなくなって出てくるんだね!」

紬「正解!」

唯「でも、これって時間がかかるよね?」

紬「だから私たちは別の方法でいくのー」

紬「ちなみに>>174はあくまで理論上のことだから、最終的には煮詰めるの」

唯「結局煮詰めるんだね」

紬「こっちのがいい塩が出やすいのよ」

唯「じゃあ、私たちはどうするの?」

紬「煮ます!」

唯「結局煮るの?」

紬「うん、でもね割ときれいな塩がとれる方法があるのー」

唯「なっ、なんだってー」

まず、大量の海水とたくさんの布と大きな鍋を用意します。
海水を十枚ほどのぬのでろ過しながら鍋に移します。

紬「細かな不純物は塩ができるのに役立つから、粗めの布でのゴミ掃除をイメージしてね」

その後、鍋を火にかけて少し白くなってきたら鍋から海水をこしながら別の鍋に移します。
そのまま煮ていって塩の濃度を高めます。

唯「ビニール塩田と一緒だね」

その後、海水をにていき白い結晶が出て少したら火を消して30分ほど放置します。
ここでは煮詰めずに、白い結晶が出たら少しは火をとおしても煮詰めず放置です。

紬「煮詰めるとにがりも出ちゃうからね」

30分後には白い結晶をきれいな布で濾し結晶を布で三重ほどに縛って振り回します。
遠心力でよけいな水分が抜けたらこれが塩です。

唯「めっちゃ少ないね……」

筆者の経験上、5キロの海水で20から30グラムしかとれません。
これを繰り返して、塩を増やしていきましょう。

ttp://www.ajiwai.com/otoko/make/shio.htmのやり方に酷似しています。
しかし筆者はこんなに煮詰めずに水分がもう少し多い状態で遠心力します。

なぜかというと、筆者なんかは塩をにつめすぎるとお腹が痛くなってしまうからです。
これは原因はいろいろあるのでしょうが筆者はなぜだか分りません。

遭難二日目!りっちゃん無視してBパート!

澪「なあ、このベリー系の赤い実って食べれないのかなあ」

梓「ああ、ヘビイチゴですか、食べられますよ」

澪と梓は早朝に食糧探しに出ていき各々が成果をかごやらかばんやらにつめて持ち帰ってきた。
澪は山のようなヘビイチゴと少量の三つ葉、相変わらずのタンポポを
梓は数キロのコナラの実とわずかばかりのグミの実を持ってきた。

澪「へー、名前は怖いけど、かわいい色だし美味しいのかなヘビイチゴ」

梓「いえ、ゲロマズです。豚の餌にもなりません。ジャムにしてもまずかったです」

梓はそのあとの澪の悲しそうな顔も気にせずにコナラの実、ドングリの選別作業に入った。
虫食いがあるものはそこらへんに捨て、きれいなものだけを鍋の中に投げ込む。

梓「でもそれ薬になりますから水洗いして天日で乾かしといてください」

澪「ああ……」

澪と梓の二人は煮沸した薬缶の水とタンポポの葉っぱ汁を作業中に食べながら
互いに黙々と目の前の課題をこなしていった。

ヘビイチゴを洗い終えた澪はドングリの選別を手伝いに行く。

澪「なあ、そのドングリってもしかして?」

梓「ええ、食用です」

澪があからさまに敬遠する姿勢を示したので、
梓がすかさずドングリをフォローする。

梓「栗もドングリの仲間です。火さえ通せば食べられますから」

澪「そ、そうなのか」

栗が好きなのだろうか、まあ栗よりだいぶまずいがその点は避けておこうと梓は思った。
梓がなげこんだドングリのからを澪が破り、中身を別の鍋にいれ仕込みの準備をする。

澪「そういえば、無効にきれいな山百合が何本も咲いててな」

梓「ユリの根っこは食べられますから後で引っこぬきに行きましょうね」

澪「……………」

澪と梓はドングリを洗濯用のネットにいくつかに分割して入れて針金で気に括り付け、
水溜りよりも下流で川の水にドングリをにさらしておく。こうすれば三日であくが抜けるのだ。
二人は作業を終えてからグミの実をおやつとして食べる。久々の甘みは酸っぱさは格別だ。

澪「ムギたち元気かなあ……」

梓「私たちが生きてるんですから、あの三人が死んでいるはずがありません!」

澪「はは、そうだな!」

作業後ティータイムを終えて、日が高く昇る前に、
二人は砂浜へと向かって歩き出した。

塩と仲間の捜索のためである。

澪はSOSの石をもっとはっきりさせ、浜辺にもかまどをつくって煙を出すことにした。
砂浜に文字を書き、自分たちがどこを寝床にしているかもはっきりと書いた。
梓はその横で塩をつくるためにせっせとバケツに塩水を入れて、水溜りまで持っていく。
澪も途中で梓の作業に合流し、その日は一日中塩作りに精を出すことにした。

澪「煮詰めるだけじゃダメなんだ……」

梓「詳しいんですね」

澪「まあな」

少量だが塩も生成し、水がめに煮沸した真水と濃度の濃い塩水をそれぞれためた。
生活の準備はほとんど整ったので、二人は川を上ってみることにした。

梓「先輩たちはいるでしょうか」

澪「さあな、でも行ってみないことには分からない」

澪「上流にたどりつくのは無理そうだな」

思いのほか切り立った崖や鬱蒼とした木々の邪魔も入り、二人の思惑は見事に外れた。
上流に行くのは無理であることと、上流に人が住めないであろうことがすぐに判明した。

梓「ここにいないなら、どこにいるんでしょうか」

澪「見当もつかない、三人が一緒に安全な場所で行動してくれているなら幸いだけど……」

それ以上は言わずに、澪たちは自分たちの水溜りへと帰りつつ、
タンポポを摘みながら川の横を下って行ったのだった。

仲間の安否が分からない現状では手の出しようもない。
澪は秘策を一つ胸に抱えながら、その実行のために必要なものを考え始めた。

遭難二日目Aパート!

律「ただいまー」

律はこれといって何も見つけられないまま帰ってきた。
人の痕跡はまったく見つからず、澪と梓へ心配も募る。
しかし、唯と紬と生き延びることも重要事項である。
二人を探すために二人を犠牲にするわけにはいかない。

唯「おかえりー」

紬「おかえりなさい、じゃあご飯にしましょうか」

唯がセーラー服、紬がナース服で律を迎える。

律「これが見つけてきた服かよ?」

シリアスだった律の心情も二人のボケでだいぶ緩む。
板の間で乾パンと妙な色の汁を囲み、いよいよ飯だ
太陽の傾き具合からすると夕飯になってしまうのだろうか。
時計がないと規則正しい生活って不可能なんじゃないかなんて思いながら、
汁を手に持って飲む。味は青臭かったが独特のにおいが乾パンの単調さを打ち消す。

紬「おいしい?」

律「ああ、うまいよ、ムギ」

遭難二日目Bパート

澪と梓は帰ってからは塩で味付けしたタンポポ汁を飲んだ。
水にさらしたタンポポの葉を細かくちぎって塩と煮るだけの料理、まずい。

澪「思いのほかはらは膨れたな」

梓「明日の朝はユリの根っこたべましょうね」

澪「ああ、案外美味しかったりしてな」

この島の生活は澪に花より団子の意味を教えてくれたのかもしれない。
少女たちはたった二日で無人島生活で安定軌道に乗ることができた。

幸運に愛されて、五人の少女たちの二日目の受難は終わる。

遭難三日目!Aパート!

紬「畑を捜索するぞー!」

唯「おー!」

律「おー!」

今朝は乾パンは食べず、セージ汁をのむなり三人は畑探索へ向かった。
律は集落の探索でみつけた鉈を片手に雑草をばしばし薙いで進む。
当初紬が思っていたよりも畑は広そうだ。

それでも生きている苗があるかないかは微妙なところである。
注意深く草木を眺めて、野菜の苗をさがそうとする。

すると、

キュウリの苗が雑草に囲まれながらも雄々しく生育していた。
ナスやトマトといった近しい種も数は少ないが生えている。
それに気付いたのか律も薙ぐのやめて、きゅうりを見ている。

唯はキュウリをおそるおそる手にして、服でこすってから食べてみる。
ポキッとキュウリを途中で噛み折る動きはどこか官能的で、
シャリっという生野菜の音は三人の耳にはずいぶんと久しい。


唯「このキュウリ!おいしいよ!」

紬と律も一斉にキュウリに噛みつく、もっさもっさカーニバルの終焉である。

瑞々しさと利尿作用、体温の上昇を抑えるキュウリはすばらしい食材だ。
余談であるが筆者はキュウリが好きでも嫌いでもない。

唯はナスやらトマトやらキュウリやらを鞄につめて持ち帰った。
律と紬が残って、畑の様子を観察してみるが、
それらの他には生きている苗は見つからなかった。
ジャガイモやさつまいもがあるやもしれないので、
律のみ継続して畑を捜索し、紬は野菜を調理しに行った。

野菜を井戸水で洗って塩ふって以上。
団地妻のようないい加減な料理だがこれがうまい。
もともとトマトやキュウリは雑草の中でも生き延びやすい種だが、
雑草の生えるような環境だと実のしまりが良くなり、
より瑞々しくボリューム感のあるものが食べられる。

適当でうまい。これは調理の手間を省けることなどから考えると理想的だ。
芋探しを断念して帰ってきた律も加わり、キュウリとトマトを食す。

唯「もさもさしないね!」

律「このトマトの酸味、久々だなああ!」

紬「まだ作業はあるんだから、食べすぎはだめよ」

とりあえずは塩と野菜と野草と乾パンがある唯ら三人は、
たんぱく質と油以外の主要な栄養は取れている。
カロリー的にも乾パンのおかげで合格ラインだ。

無人島での生存に不満は残るが、及第点の食糧事情だろう。
毎日お腹いっぱい食べられる余裕があるというのは大きい。
精神的にも肉体的にも行動に余裕が生じる。

対して澪と梓の食事情は……

遭難三日目Bパート!

梓「今朝はたんぽぽの葉っぱ汁塩風味みつばいりです」

澪「なれてもまずいんだよなあ、これ」

梓「栄養を必要以上に逃さないためです。今日はみつばもあるし塩多めですよ!」

澪「うーん、ましっちゃましだが上手くはないよなあ」

ずるずると汁をすすり、付け合わせのタンポポの茎の塩お浸しをつっつく。
タンポポの茎をゆでて水にさらして塩をかけただけだが案外いける。
朝起きてすぐに何か食べたかったため今朝はタンポポ料理になってしまった。

澪「ユリの根は昼にしようか、梓」

梓「はい、ゆりの根ってどう調理するんですかね」

澪「うーん、蒸したりすんのかな?」

水がめから水を汲んで飲み食器を片づけて
澪は天日干しのタンポポとへびいちごの様子を見に行った。

澪と梓の食事情はタンポポと塩だよりという実に歪なもので
動物たんぱく質はおろか淡水化bつもろくに取れていない。
カロリー的に考えても基準値には足りようがなかった。

梓が拾ってきたグミの実以外はほとんど美味いものをたべていない。
一応つりざおはあったが、確実に食べるために二人は採集に力を入れ、
狩猟には見向きもせずに安定したタンポポに向かう。

それがますますジレンマを生むことには本人たちも気づかずに、
ただただいたずらに食が疲弊していくばかりだった。

タンポポの根やへびいちごはほどよく乾燥していた。
殻付きドングリを流水にさらしてから澪は梓の百合を手伝いに行った。
小屋からスコップを取り出して、山百合をそっと引き抜く。
ねっこっぽいものをとりあえず全体を洗ってから水をはった鍋に投げ込む。
見た感じはそこまでうまそうでもないが、食べられるだけましか。

梓「ややグロですね」

澪「怖くなるからやめてくれ!」

とりあえず、作業のひと段落として
水にさらしておいたタンポポの葉をおやつに食べる。

苦い。

甘いものが食べたくなった澪たちは二人揃ってグミの木まで行き、
そう多くない数を食べてから再びタンポポやドングリの採集へと戻った。
このときの二人の幸せそうな顔の無邪気な輝きは忘れられない。

こんな渋くて酸っぱい実を甘い甘いと喜んで食べるのだ。

生きていることの美しさか醜さか、彼らは仲間と酸っぱいグミの実を楽しみに生きていた。

遭難三日目!Aパート!

今日の晩御飯はトマトとナスのスープにセージティー、
乾パンとよく冷えたきゅうりと美味しい水だ。
律たちは熟れている実を優先的に選んだが、
それでも結構な量の晩飯となってしまった。
普段は三人一つの乾パンも今日は二つだ。

律「食糧も充実してきたし、本格的に澪たちを探しに行かないか?」

唯は少し考えるような表情をしてなかなか言葉を発さない。
紬は食器を下げつつけげんそうな表情をしてから、

紬「まだまだ、衣料品もないのよ?早すぎない?」

律「あいつらには、食事もないかもしれない」

律が間髪いれずにそう返す。怒りにも近い願望がにじみ出ていた。

律「明日の早朝出よう」

律が決定事項を伝えたとでもいうように部屋から出ようとする。

唯「ちょっと待ってよ」

唯「りっちゃん、明日の早朝はやめよう」

あからさまに不機嫌な態度をあらわにして律が唯を見る。

律「なんでだよ、いってみろ、唯」

紬は心配そうに二人のやり取りを見守る。
手に持っている食器がわずかに震える。

唯「だって明日なんて計画性がどこにもないからさ」

律「な!」

唯「明日以降食糧は用意してないよ?水筒もないのに水はどうやって運ぶの?」

律「それは!」

唯「行程や何が必要かもまるでわからないのに、どうやって助けるの?」

律が顔を真っ赤にして、反論しようとする。
しかし論理的なそれは顔を見せず、感情が先行する。

律「お前たちは!澪と梓が大切じゃないのか!!」

唯「りっちゃんは私とムギちゃんが大切じゃないの?」

一気に白熱していた空気が冷え込み、律が下を向く。

唯「私はりっちゃんとムギちゃんが大事だよ、死んでほしくない」

律「……ごめん」

泣き出しそうになった律を紬がそっと支える。
唯が二人に抱きついて全員半泣きになってしまう。

律「でも、二人を早く助けたいんだ!」

紬が最初に笑顔を取り戻した。
それに気づいて唯も笑う。

紬「明後日に行くために、今から会議ね!」

唯「りっちゃん隊長、私たちは明日一日で準備できます!」

律「お前ら……!」

現実的に最善をつくすことは決まった。
さいはなげられたのだ。
出会おうとすることは決定したのだ。
あとは、出会えるかどうかだけが問題である。

遭難三日目Bパート!

澪「うまかったなあ」

梓「ですねえ……」

昼に初めて食べたが、百合根は美味いものだ。
少し苦かったが、蒸して塩を振って食べただけでも美味い。
ふっくらとした豊かな素材の滋味が流れてくる。
二人も炭水化物を十二分に吸収して久々にお腹も膨れた。

晩飯は再びたんぽぽ汁だったが、
昼の喜びがまだ残っていて、
大した文句もなしに平らげた。

澪「そろそろ、ドングリも食べれるのか」

梓「ゲプッ、ええ、タンポポ茶もへびいちごも明日からいけますよ」

澪「なんだかんだで楽しみなんだよな、ドングリ」

梓「私もです!」

二人の短い間にずいぶん細くなってしまった肢体を月が照らす。
梓と澪の目つきは少しだけ暗くなっていた。

理論だけなら、人は水だけでも一週間以上生きられる。
だが、それはあくまで理論なのだ。

この二人の命も理論ならまだまだもつ。

理論通りなら、

遭難四日目Bパート!

朝起きてすぐに澪は百合根をほりにいった。
その間に梓がドングリの下ごしらえをする。
流水に曝した殻無しのドングリを鍋で一度煮込む。
すると黒いような茶色いようなあくが抜けるので、
冷水でざっとドングリを洗ってから再び煮てあくをぬく。
その後また水につけて渋皮を丁寧にむく。
それらが終わったらドングリを丁寧に潰し粉状にする。

そこで澪が持ってきて軽くあく抜きした百合根を細かく分けて、
それを塩をたっぷり使ってゆでる。
ゆで終えたらドングリの粉と一緒に丹念にすりあわし、
よく熱したフライパンで焼く。

二人は会話もせずに作業を続け、
ドングリと百合根の運命を見届けようとしていた。

暫くすると栗ごはんのようなにおいが二人の鼻をくすぐる。
それよりはずっと渋いにおいであったが、
二人にとっては久々の甘いにおいであった。

意図せずしてよだれが垂れる。

香ばしさをこれでもかと披露する目前の料理。
今すぐ食べたくてたまらないが少しだけ待つ。
そして、それから数分、完全体となったそれを二人は皿に盛る。
付け合わせのタンポポサラダと贅沢して盛った大量のグミの実。

澪「うまそうだな」

梓「うまそうです」

澪「じゃあ!」

梓「はい!」

い た だ き ま す !

幸福だった。たった三日間ろくなものが食えなかっただけでもこうも違うのか。
百合根とどんぐりのパンケーキはパサついていたし、苦かったが、
二人に底知れぬ福音をもたらした。あまくてしょっぱくてうまい。
パンケーキと栗ごはんがタッグで組んでも決して挑めぬ実力者がそこにはいた。
ソースのかわりのつもりだろうか、グミの実がまた憎い。
酸味が確実にどんぐりと百合根の甘みにスポットを当ててくれる。
付け合わせのタンポポサラダも普段とは違う顔を見せ、胃袋も大満足。

ドングリは少し消化に悪いが、よく噛んで食べたので心配はないだろう。
澪と梓はボロボロと涙を流しながら、これを食した。

食後のティータイムにはタンポポ茶を飲んだ。
日干ししたタンポポの根を細かく刻み、
弱火でじっくり焙煎してから入れる茶だ。
胃を強くしてくれるうえ、比較的飲みやすい。
サプリメントのように干したヘビイチゴを飲み込む。
これは腸に効くらしい。

澪「うまかったなあ、梓」

梓「うまかったです」

二人は既にタンポポティ-の苦さもほとんど気にならなくなっていた。

念のため

保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内                  

02:00-04:00 90分以内       
04:00-09:00 180分以内       
09:00-16:00 80分以内        
16:00-19:00 60分以内      
19:00-00:00 30分以内      

保守時間の目安 (平日用) 
00:00-02:00 60分以内    
02:00-04:00 120分以内    
04:00-09:00 210分以内    
09:00-16:00 120分以内     
16:00-19:00 60分以内    
19:00-00:00 30分以内.

昼と夜は再びタンポポ汁ですませたが、
軽くいったドングリなどもいれて、
栄養的にはだいぶ改善された。
えぐみも気にならなくなってきたので
積極的に汁に対するタンポポの量を増やした。

澪「やっぱり、うまくはないよなぁ」

梓「そうですか?」

小休憩

サバイバル経験はないけど
ガスと電気と水道止められて
タンポポとドングリばっか食べてた時期はあるよ

現代日本でほぼサバイバルできるなんて
>>1はどこ在住?

>>259
富士山近く、演習うるさい

とりあえず、次回に続く

落ちたならまあ完結ってことで

唯「和ちゃ~ん遭難しちゃったよ~!」
和「そう、じゃあ私生徒会いくね。」

保守ピタル

書きための大幅加筆修正を経てやってきました。

遭難四日目Aパート!

唯「服はどんぐらいもってけばいいんだろう?」

唯は塩作りの傍らで三人分の服の準備をしていた。
一日分か二日分か、はたまたもっと長いのか。
途中で休めるかどうかや清潔な水があるかでも話は変わってくる。
たくさん持っていっても損ではない。
服は傷の手当てや汚物の処理にも使えるのだ。
しかし、探索に大量の荷物を持っていくのは難しいだろうし。
見つくろって手に入れたいくつかの鞄はそすべてう大きくない。

唯「下着としゃつだけ二日分で、あとは置いてくかなぁ?」

質量と重要性の天秤はバランスが大切である。
どちらを見誤っても悲惨な結果につながりかねない。

唯「うーん、二日分じゃあやっぱり少ないかなあ?」

大量の服の山といくつもの鞄が目に入る。
どれも洗濯済みで、洗剤はないがきれいであろう。

唯「はっ、そうだ!」

唯は名案を思い付き、鞄に詰めていく服を吟味する。
嬉々とした顔で選んでいる服の量はとっくに二日分を超えていた。
多量の服を持っていくにしてもキャスターや大きなかばんはない。
唯は一体どうするつもりなんだろうか。

鉈やらナイフやらがごろごろと律の足元には転がっていた。
薬品とかその他という少々分類が投げやりな仕事をこなしながらも、
薬品はいつまでも見つからなかった。
軽いフライパンやまだ切れるナイフや包丁は見つかったが、
薬品だけはどうにも見つかってくれない。

律「ったく、なんで薬箱とかないかなー」

非常用の薬箱などがどこの家にもなかった。
ちょっとした消毒薬や風邪薬の類もない。

律「仏壇やマッチ、洋服や乾パンは放置して薬はないのかよ。」

マッチやろうそくを仏壇から奪いつつ、その違和感が増す。
まるでわざと薬だけが抜き取られたかのような感覚。

律「まあ仕方ない。ドクダミを搾ったやつと生の葉、ムギが乾かした葉をもっていこう」

万能薬ドクダミ、味はまずいしにおいもきついがとても体にいい。
虫刺されなどにも有効であるから覚えておいて損はない。
薬にはかなわないところもあるが健康にはとてもいい。
筆者もドクダミの葉にはとても世話になった。

フライパンや包丁を厳選して選び、
臭い液を生の葉から大量に濾して、
それらを詰めようと鞄をもつ唯のほうへと向かった。

まだ熟れきってないトマトもいくつか収穫して、
くわえてキュウリとナスを袋に詰めてムギも戻ってきた。
それなりの食糧と服、道具は揃った。

唯「食べ物はいっぱい用意があるね」

紬「多分、三日から五日は十分持つわ」

手元に乾パンや塩、野菜を並べてムギがほほ笑む。
半熟のトマトなどは持って歩いていく途中で
すっかり赤くなるのを見越してのことで食糧に不備はない。

律「水はどうするんだ?」

紬「一リットル入る水筒が十本あったけど……」

律「そんなに持ってくわけにはいかないよなあ……」

水筒は大きさも重さも探索の邪魔になるのは自明だ。
水を摂取する必要がある以上は手放せないが多くは持っていけない。

律「何リットル持ってくかが問題だな」

紬「一人一本?」

律「もう少しほしいかな」



唯「はい、秘策があります!りっちゃん隊長!」

唯「じつは鞄をたくさん持っていこうと思ってるんだよ」

律「はぁ?」

唯「一人当たり鞄を三個持ってくの!」

秘策。それはまさに奇策。
とりあえず鞄をたくさん持っていくという物量作戦。
服も食糧も水も道具も大量に持っていける。
すくなくとも物資面では最高の状態だ。
しかし、それでは

律「馬鹿だなぁ、そんなんじゃ重くてろくに行動できないだろう?」

パフォーマンスの低下は避けられない。

唯「そこで秘策なんだよ」

律「秘策?」

そう、この秘策は二段構え。

唯「かばんをどんどん捨ててくの」

瞬間、激震が走った。

紬「そうか、水筒や使った服を途中でパージして」

唯「うん、体力がなくなってからは軽くなったほうがいいよね」

つまりは活動範囲が広がるたびに身軽になり、
体力的にも最善が尽くせるというわけだ。

律「つかわなそうな道具は途中に置いていって」

唯「必要だったら戻ればいい!」

まさに名案。この行動方式をとれば、五日は集落に戻らなくてもいい。
五日もあれば見つかるだろうという律の目論見からすれば十分だ。

その日三人は乾パンと野菜スープでしっかりと昼と夜を食べて早めに休養した。

律「明日か……」

ドクダミ臭い手を何度も洗ってから律は深い眠りに就いた。

遭難五日目Aパート

早朝にナスのスープをたっぷり飲んで水分を補給し三人は鞄を持った。
荷物はずっしりと重かったが、日が昇り切る前に三人は、
集落からかつて人が浸かったであろう道を進み、出て行った。
ゴミだらけで唯たちが漂着した砂浜からの探索は厳しい。
どちらの方角に伸びているかも分からないが、
集落から伸びている道に従って歩いてみる。
その道はちょうど浜とは反対側で形としては山登りに近い。
坂は非常に緩やかであった。
集落から延びていた道ということはつまり、
その先にも集落のような生活スペースがあったであろうと推測できる。
三人は早朝の涼しさが残るうちにずんずん突き進んでいった。

驚いたことにこの間三人の会話はほぼ全くなく。
ほとんどジェスチャーだけで行動していた。
明るくて涼しいこの時間になるべく行動しようという
暗黙の了解が徹底され、無駄な動きはなかった。

探索には澪たちの命のみならず三人の生存にも深くかかわる。
決して生半可な気持ちでやっていいものではないのだ。
無謀な行動がそれすなわち全体の死となる。
口にもなにも含まずに三人はせっせと登って行った。

律(暑くなってきたな)

相当な距離をあるいた気がする。
実際は勾配が急だったり曲がりくねった道を歩いていたから、
そんなに歩いたわけではないのかもしれない。

太陽が完全に姿を見せているのも気になった。
まだ集落からでてそんなに立っていないはずだが、
日差しを見たところもう10時近い気もする。

実際自然の中では時間や距離の感覚がつかみにくい。
自分がどれだけ疲れているのかもよくわからなかった。
小休憩をとるべきなのだろうか、判断がつかない。

周りの風景はどんどん山のそれになっていく。
木々が日差しを時折遮るが、そこまでカバーしていない。
髪の毛が日光で熱を持つのを感じていった。

疲労が浅いからだろう。三人の歩調はいまは揃っていた。
しかし誰かの疲労がたまりすぎればすぐにでも崩れかねない。
集団でのサバイバルでは調和が大事な要素である。

日差しはますます強くなる。

唯と紬に目でサインを送って休むべきだろうかとサインを送る。
二人がうなずいた。
なかなか休むのに適した場所も見つからなかったので、
休むことは決まったがしばらく歩き続けた。
休むことが決まると体が早く休息をほしがっているのか、
パフォーマンスが低下した気もするが三人は歩く。

唯(暑いなあ、長袖より半袖のがよかったかなあ?)

紬(どのくらい歩いたのかしら……、日がずいぶん高くなっている……)

紬と律は太陽の高さが気になり、ちらちら見てみる。
しかし普段から太陽を観察しない限りは細かい時間はわからない。

律(早朝ではないか……)

しばらく歩くとお堂のようなものが見えてきた。

修正

唯と紬に目で合図を送って休むべきだろうかとサインを送る。
二人がうなずいた。
なかなか休むのに適した場所も見つからなかったので、
休むことは決まったがしばらく歩き続けた。
休むことが決まると体が早く休息をほしがっているのか、
パフォーマンスが低下した気もするが三人は歩く。

唯(暑いなあ、長袖より半袖のがよかったかなあ?)

紬(どのくらい歩いたのかしら……、日がずいぶん高くなっている……)

紬と律は太陽の高さが気になり、ちらちら見てみる。
しかし普段から太陽を観察しない限りは細かい時間はわからない。

律(早朝ではないか……)

しばらく歩くと先にお堂のようなものが見えてきた。
律が二人に指さしてそれを伝える。
最初の休憩地点は決まった。

律「ったく、いま何時くらいなんだろうな……」

紬「りっちゃんはどう思う?」

律「11時前後じゃないかなぁと思うんだ。すごい暑いだろ?」

紬「私も同感。だけど……」

律「そう、だけど集落から七時間近く歩いた記憶はない」

クモの巣だらけのお堂で律と紬が相談する。
キュウリを少しずつかじりながらお堂の外に目をやる。
太陽はぎらぎらと元気なご様子で、
だいぶ向こうに集落の屋根らしきものが見えた。
距離感がいまいちつかめないがそれほど歩いたとは思えない。

紬「歩いての感じだとせいぜい四時間ぐらいしか……」

律「そうだな。4時半に出てきたとして8時が妥当なラインかもしれない」

外の熱さと体力の消耗は大きかった。
だいぶゆっくりだが荷物を背負って休まず移動するのは体力を使う。
少なくとも律と紬は暫く歩けそうにない。

唯はお堂のはじでどの荷物を置いていくかの判断に時間にあたまをやっていた。
思った以上に歩いて行くのは暑い。
すでに三人とも衣類は汗まみれである。
お堂についてすぐにぼろ布でふいて着替えたが、
このペースでいくと服は案外大量に使うことになるかもしれない。
だが歩いてみると服は結構重いのだ。

唯(こんなときに憂がいてくれたらいいのになあ……)

三人の使用済みをまとめて、鞄から出した風呂敷で包む。
とりあえず使った服は置いていこうと決め、
律と紬の会話に入って行った。

律「どの服を置いてくか決まったのか?」

唯「とりあえずは使ったものを置いてくよ」

紬「思いのほか脱ぎ着するものね」

食糧はともかくとして、
律もいくつかの必要のなさそうなものを置いていった。
出刃包丁や錐などといった使い道がないこともなさそうなものは隅にやる。

三人はキュウリで水分補給と腹ごなしを終えて、
(紬は暑いときは火をなるべく使わない生がいいと踏んでいる)
お堂の中で昼寝休憩をすることにした。
ちょうど木陰になっていて、風も通るので、
この快適な環境で熱さをのりきることにしたのだ。

足はサイズもいまいち合わないし歩きにくかたったが、
三人ともそこまで問題はなく、
お堂で寝ている間はドクダミを湿布にして保護した。
このドクダミ湿布は臭気は最悪だがそれなりに効く。

三人は起きたらお堂付近を少し探索して、
道が続く限り山を再び登っていくことにした。

遭難五日目Bパート!

遭難者の朝は早い。澪と梓は起きてすぐにタンポポ茶を入れて、
蛇苺を錠剤のようにして飲んだ後、タンポポの茎で歯を磨いて
かまどに殻無しドングリをくべてあくをぬいてから再び煮、
しっかりあく抜きしたたんぽぽの葉のサラダと一緒に食べる。

澪と梓にも作業着と安全靴がだんだん板についてきた。
ストレスやカロリー低下で体はほそくなったが、
健康食品のようなものばかりを食べているせいか、
ハングリーさと腹はつよくなったようだ。
本来なら消化に悪いドングリも、
しっかりゆでてしっかり噛むことで食べやすくし、
タンポポの有効成分が胃を強くする。

蛇苺も、錠剤のようにのむことの効果かはたまたプラシーボか。
二人の健康状態を好転させているようだ。

澪「日が昇る前に食糧を補充しに行こうか……」

ドングリでもさつく口を水で潤しながら澪はドングリの選別を行っている。

梓「百合根は取るのやめましょう。数に限りがありますから」

そのよこではせっせとドングリを網に入れて、梓も水に曝す作業を手伝っている。
時折、鍋の中の塩の様子を観察しながらドングリを川に持っていく。
ドングリの選別と水さらしは労力の割に取れる量が少ない。
塩の生成といっしょにやらなくては割に合わないものだ。

澪「じゃあ、何にする?タンポポはすぐにとれるぞ?」

梓「澪先輩」

澪「何だ?」

梓が片手に何かを持って澪の隣まで来る。

梓「むしって食べれますかね」

そのてにつかまっていたバッタを見て、澪は卒倒した。

イナゴだとか種類は梓にはわからなかったが。
水溜りの近くの草むらに目を凝らせばそこらじゅうにいる。
いままでは気にしていなかったのだが急に美味しそうに見えた。
何かが急に食べたくなる状態は身体のサインである。
余談だが、筆者は公園でバッタをたくさん捕まえていた時期がある。


澪「それだけはやめろ!」

梓「なんでですか?おいしそうですよ」

澪「そんな気持ち悪いもの食えるかー!」

梓「でもたんぱく質の源になるんじゃないですかこれ?」

澪「ダメ!絶対ダメ!無理!キャラ的にもまずいよ!」

梓「いまさらキャラとかどうでもいいじゃないですか、私は食べます」

手につまんでいたバッタを口に持っていく。

澪「生はだめえええええええ!」

とりあえずは梓は後ろ足をとって動きを封じ、
黙々とフライパンにバッタをぶち込んでいった。
あまりに大きくて梓でも引くようなもの以外は、
どんどん捕まえて炒ることにした。

澪は横で失神していたが、気にせずに作業する。
香ばしい香りと少しの青臭さがする。
揚げものをしている時のにおいと少しだけ似ている。
塩をおおめにまぶして、焦げない程度に炒る。
さすがの梓も冷静になるとバッタが全部グロいことに気づいたが、
ここで食べるのをあきらめるわけにもいかない。

だがフライパンの上のバッタを一匹ずつ食べる勇気はない。
タンポポの葉をかじって一休みしながら考えをめぐらす。
タンポポ……、タンポポ……。


梓「そうだ!タンポポ!」

香ばしい香りとタンポポ汁の匂いで目を覚ます。
むこうで梓が昼飯の準備をしてくれている。
どうして自分は寝ていたのか。
何も思い出せなかった。

澪(いやな夢を見た気がする)

内容は思い出せないがグロテスクなイメージが頭の中に去来する。

澪「おはよう梓」

梓「やっと起きてくれましたね、澪先輩」

澪「悪い悪い。いいにおいだな」

梓「ええ、お昼ごはんできましたよ」

梓が二人分の汁をよそって、ドングリを二つよこした。
なんだかとっても腹が減っていたので汁を勢いよく飲む。

何ともいえぬまろやかさだ。

芳醇なまろみが口に広がる。
いままでのそれよりも明らかに美味い。
出汁のうまさ、あるいは脂のうまさとでもいうのか、雑草料理が華やぐ。
口のなかのいくつかの固形物を噛む。
タンポポは心なしか苦みが弱く、噛みやすいように感じた。
何かはサクサクしていてクルトンのような味わい。
絶妙の塩味がいい味出している。

澪「きょうの汁はうまいな……」

梓「ええ、材料が違いますから」

梓「なんたってバッタタンポポ汁ですからね」

澪「そうか、道理で」

梓「出汁が出てるんですかね、なんだかまろやかです」

澪「そうだな、まろやかだな」

梓「結構グロい作業でしたよ、ほんとに」

澪「そうだな」

梓「思ったよりもいけますね、薄緑のタンポポ汁の中だとキモいですけど」

澪「そうだな」

澪はそのまま箸を進めて、
すべて食べ終わったあたりで、
白目をむいて動かなくなってしまった。

遭難五日目Aパート!

三人もしばらくして目を覚ます。
そこで太陽が頭の真上にあるのを確認し、
昼であることがはっきりとする。

おそらく三時間は寝ていたろうから、
ここに着いたのは九時前後だったのだろうか。
外はすっかり炎天下で、これから更に暑くなる。
律はここで休むべきではなかったと後悔した。
休まずに歩き続けて、ちょうど昼に休憩をとるべきだったからだ。

しかしかつての過ちはどうしようもない。
紬と唯もどうするべきかと思案に暮れている。

律「どうするか……」

紬「日があるうちに、先に進みましょう。日が暮れてからは暗くて行動できなくなる」

唯「うん、お堂の周りにはこれといって何もなさそうだし、登っちゃおうよ」

律「でも、この日差しだぜ?とてもじゃないが重労働は避けたい天気だ」

重い湿気と日差し、外の体感気温はこれ以上ないくらい高いだろう。

紬「たしかに、あんまり暑いと体調と食糧にも影響が出てくる……」

この探索をどこかで無駄だと思う紬としても、この島の構造は気になる。
できれば島内を早く探索したいが、二人の体調を崩させるわけにもいかない。

唯「山の奥に入れば涼しくなるかも、それにここには井戸もないから水の浪費になるよ」

律「そうだな、早く登っちまおうぜ」

紬「ええ、なるべく少量の消費で進みたいものね」

三人は塩をペロペロしてキュウリを食い、探索を再開した。

山の中は日差しや照りかえしが少ないせいか
当初予想していたそれよりもだいぶ涼しい。

しかしそれでも暑い。
汗の流れを最小限にするために日陰を歩いても
無意味だと言わんばかりに汗がどんどんしたり落ちて来る。
足場が少し悪くなってきた。山特有の湿った足場だ。

律(川が近くにあるのか……)

しかし、耳を澄ましても聞こえてくるのは三人の呼吸ばかり、
そんなあるかないかの可能性を気にするよりも今日の寝どこだ。
律はしっかりと確実に山を登って行った。

集落からずっと続いていた道も遂に山道の様相となる。
ずいぶん前までひとが歩いたこともあったかな程度に踏みならされた道。
同時に周りの木々も増えていき鬱蒼とした景色が続く。

律(ずいぶん涼しくなってきたな、やっぱり近くに水源があるのか?)

唯と紬も少しだが確実に涼しくなった山の中、空気をしっかり吸い込む。
気づけば集落で感じたような潮くささがこの辺りにはなく、改めて距離を感じる。
この海と自分たちの距離感が一つの疑念をよびおこすのだ。
海からの救援が来たときや澪梓が海辺にいたらこの探索は大変な失敗かもしれないと。
すぐにこの考えを捨てて、唯は足元に注意を払う。
どのみち探索にはこの道しかないのだ。
今自分たちが澪と梓にできるのはこの程度のことだろう。

唯(まっててね、二人とも!)

山を歩いて行くと、祠のようなものがあるちょっとした広場に着いた。
三人は足を止める。
紬の提案でここでご飯を食べることにした。
火を起こせそうな場所が次にいつあるか分からない。
確実に先に進むためにもこの場所での休息は必須だ。

唯と紬は枝を拾いに行き、その間に紬が時調理の準備をする。
唯のパージ作戦やこうした調理はここに人がいた証拠にもなる。
彼らは身軽になりつつ痕跡も残すという最高の手法をとっていた。
唯が小さい枝、律が大きい枝を集め終えて食卓に向かった

唯(なんか、水の音みたいなのがしたなぁ。あとで二人に話してみよう)

気の制で太陽の様子がいまいち分からないが、
たぶん今は昼の二時くらいではないだろうかと紬は推測した。
昼はナスに塩をばらばらと振っていためるだけのシンプル料理だった。
だが外でかまどもなしにつける火というのはどうにも不安定で、
すこしばかり調理には時間がかかった。

律「那須塩原……」ボソッ

紬「なんか言った?」

律「い、いや、なんでもない。」

唯「あのさあ……」

唯が水の話を出すと律もそれに反応した。
紬も川があれば水を使いたいと言い出し、
三人は登りつつ川を探すことを決めた。
この時点ではだれも澪と梓が川沿いにいることには気づかなかった。
ナスは疲れた腹には一瞬でおさまり、
三人は祠にお参りした後でまたすぐ歩き始めた。

もうすでにお堂や集落からはかなり離れている。
お堂でさえも日が沈む前にたどりつくのは大変だろう。
ともなれば日が沈む前に休憩場所を見つけなくてはなるまい。

疲労で足取りは重かったが、懸命にそれを動かした。

>>373
木のせいね

遭難五日目Bパート!

澪は恨みごとを言いながら水を飲んで口の中を清めた。
事実、久々の動物性たんぱく質は美味かったが、
一度食べた後でも思い出すだけで怖くてたまらない。
梓はのりのりで、また食べるなどと言っていたが勘弁してほしい。
しばらくして落ち着いてからは、
澪は延々とたんぽぽの葉を摘んで水に曝す作業を続けた。

澪(この作業は楽しいんだけどなあ。味はいまいちだよなあ)

以前ほどの不満はないものの、澪はやはりまだ苦さが好きではない。
最近では文句も感じないが、くせの少ないものを食べたいのも事実だ。

梓は流石にバッタの解体作業が後になって精神にきたのか。
今晩はもうバッタを調理する気にはなれなかった。
でもタンパク質は食べたいにゃん、そんな矛盾が心の中で起きる。
どうするにゃん、自問自答しても梓の中に答えは出ない。

途方に暮れて上流に向かって歩いて行くと、ぴちゃんと音がする。

梓(にゃ……、なんだいまの音)

注意して目を凝らすと川には小さいが魚がちらほら見えた。
川は思ったよりも深さがあるようで、悠々と泳いでいる。
これにゃ!梓の中で何かがはじけた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

こういう単純作業は気持ちを落ち着けるのにいい。
それに楽だし、確実に食えるし、タンポポカーニバルである。

梓「澪先輩!こんなとこにいたんですね!」

梓がすさまじい速度で駆け寄ってくる。
しかし澪はかまわずタンポポを摘んでいた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

梓「ええいっ、目をさませいです!」

梓が目の前に立って釣り具をこれでもかと見せびらかす。
ぼろい作りの木竿だが、糸も針も健在である。
それを見て初めて澪は梓の存在に気づく。

澪「ああ、すまん、タンポポに夢中になっていてな、どうしたんだそれ?」

梓「小屋にありました!」

澪「あったなあ、餌がないから仕舞っちゃってたけど。どうすんだそれ」

梓「餌ならあるじゃないですか!」

梓が自信ありげに餌を取り出した。


バ ッ タ !である。

倒れた澪をよそに梓はさっき魚を見たあたりに行く。
水はきれいで水底まで見渡せる。
梓につりの知識はないがいけるようなきがしてきた。
川釣りというのは難しい釣り方もたくさんある。
アユ釣りなどはその最たる例だが、
梓のような適当な釣りなら難しくもない。
しかも、この川は何年も手つかずで魚も少なくない。
釣れるまでやれば何かが釣れる。

梓は自らのにゃん的な要素を信じ、釣りを始めたにゃん。

じたばたするバッタを針にぶっ刺して、
針を水中にそっと投げ込み糸を垂らす。
このとき使ったバッタは梓もドン引きのラージサイズ。
よくわからないが大物が釣れるような気がしてきた。

以外にも最初の感触はすぐに訪れた。
竿がぐぐっとひかれるのを感じる
大きいのか小さいのか初めてなので良くわからないが、
食いついたことはまず間違いなく確実であろう。

サバイバルでは挑戦精神が重要である。
よくわからないを逃げ道にせず、チャレンジするのが重要だ。
知識もないのにキノコを食べたりする無謀ではなく、
生存の可能性を高めるために行動を広げる。
梓はこの点において一番たくましい存在だろう。
筆者もバッタを食した時から日常的にサバイバルを意識し始めた。

梓「どっせいやああああああああああああああ!」

力比べなどという考えは梓にはなかった。
食いつき云々などとホビーで釣りをやってる人間ではない。
とりあえずいけそうだと思ったら引く。
それがへたくそな素人なりの釣りである。
だがにゃんということだろう。
にゃにが起きたか最初はあずにゃんもわからなかったにゃん。

魚が川底からお天道様のもとい引きずりだされる。

梓「ちょっと待って、なにこれ……」

踏ん張りとスナップで引き揚げた獲物は、

デカイ

梓「ちょっとまって、なにこれ!」

魚は大きさ約55cm、リアルな大きさなのでかえって怖い。
とりあえず釣りあげたがバケツも何もない。
なんかすごいビチビチ言ってるしどうすればいいかも分からない。

梓「ふん、そいやあ!」

とりあえず釣りあげた魚をつかんで、
ぬるぬるするので大変だったが、
近場の岩にたたきつけた。
まだ少しビチビチ言っていたが二三回やったら死んだ。
今となっては少し後悔している。

口から針を引っこ抜き、口を持って運んで行く。
一匹釣れたが、釣った後の対応が分からないのと
調理できるるのか、食えるのか、
澪に報告と相談をしたいので急いで帰った。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

こういう単純作業は気持ちを落ち着けるのにいい。
それに楽だし、確実に食えるし、タンポポカーニバルである。

梓「澪先輩!こんなとこにいたんですね!」

梓がすさまじい速度で駆け寄ってくる。
しかし澪はかまわずタンポポを摘んでいた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

梓「ええいっ、目をさませいです!」

梓は釣れた巨大な魚を目の前に持っていく。
デカイ。なんというか生魚特有のグロさとデカさに澪は気絶しそうになった。
しかし、目の前の褒めてほしげなかわいらしい梓と
久々に魚が食えるという結構な喜びが意識を保たせる。
まるで餌を前胃にした猫のように梓が物欲しげにこちらを見る。

澪「梓、よくやったな!」

梓「えへへ、ヤッテヤッタデス!」

なにこれかわいい。

梓「でも一つ問題がありまして、私魚の調理法が分かんないんですよ」

澪「そもそも、これって食えるのか?」

目の前の魚は忘れたころにまた少しビチビチした。
奇怪な見た目ではなかったが見たことはない。

梓「澪先輩って、お魚さばけます?」

澪「いや、さばくまえにまず締めるってのが必要なんじゃないか?」

梓「締めるってなんですか?」

澪「なんかあるだろ、殺してさ、血抜きとか」

梓「知りませんし、できません!」

澪「私もだ!」

にっちもさっちもいかない状態だったが、
魚を食べたいという二人の真剣な欲求はほんものだ。

梓「とりあえず、なんとかしましょう!」

澪「とりあえず、できる範囲でやってみるか!」

梓「魚って釣ったあと陸地でビチビチさせて大丈夫ですかね?」

澪「バケツに入れてみよう。なんか釣りってそんな感じだよな」

梓「はい。水をはったバケツに入れときます!」

澪「鱗だっけ、あれってとらなきゃいけないんだよな」

梓「鱗なら、やり方なんとなくわかりますね」

澪「おぼろげながら、とりあえず梓は石かなんかで鱗とってくれ」

梓「はい!でも洗ったりしないんですか?ぬるぬるしますよ?」

澪「そうか、最初は洗うんだ!!!!!梓きれいな水で洗っといてくれ、そのあとは待機だ」

梓「やってやるです」

まさしく右往左往、魚のさばき方を知らない現代人は多いだろう。
それは彼女たちとて例外ではない。
食の魚離れの原因はこんなところにもあるのかもしれない。

梓はとりあえず表面を丹念に洗ってからバケツに入れることとした。
結構な量の水を使ってぬめりを取る。そのあとでバケツにぶち込んだ。

梓「このあとどうします?」

澪「鱗は取らなきゃだめだよな、間違いなく」

二人はそこらへんのギザギザしたのや硬い石で、
鱗をバケツに入れたまましっぽのほうから落としていく
何回かごとにバケツの水を替えてせっせと落とす。

澪「これって落ちてるのか?」

梓「不安を抱えたままよりはいいです。とりあえず落としましょう」

鱗はとりあえずとれてぬるぬるもない。

梓「このあとどうしましょう?」

澪「まて、調理法はどうするんだ?」

梓「もちろん、まるかじりでしょう」

澪「生はだめええええええ!」

梓「なんでですか?」

澪「なんかいろいろあるだろ、寄生虫とか病気とか」

梓「たしかに川魚は生で食べるなとか聞いたことありますね」

澪「魚の臭みとかえぐみをとるには焼いたほうがいいんだ。消化にもいいし」

生はだめ、夏などは生で肉や魚は基本的に食べるべきではない。
一部の海の魚を除けば寄生虫や病気のリスクがあるからだ。
焼いた場合ビタミンなどの一部の栄養素と水分が犠牲になるが、
食中毒のリスクを大幅に下げ、消化しやすくなる。

梓「じゃあさっそく焼きましょう」

澪「ちょっと待て」

澪「エラ……エラってなんだっけ……」

梓「エラがどうしたんですか?」

澪「そうだ、エラだ。エラをとらなきゃいけないんだ」

エラ、これはあまり知られていないが魚の鰓袋は多くの場合取るのがべたーだ。
海魚や料理では基本中の基本でもあるが、
ぶっちゃけ川魚や焼くだけの場合はではどうでもいいという人が多い。

梓「エラですか。とりあえずこのブニっとした袋をぶちっと!」

梓は器用に石でエラを取り除く。
そのあと再び水で洗っていおいた。

なんというか非常にグロテスクな光景だったが、
集中を前回まで高めている澪はそれに気づかない。

澪「はらわただ。次にはらわたをとるんだ」

梓「はらわたですか?なんか食べられそうですけど」

はらわたは食べられる場合が多いらしい。
筆者はくわしくないのでいつもはらわたをとっている。

澪「駄目だ。ママがそこに注意しろって言ってた」

梓「ママ?」

澪「!、お母さん!」

お腹をナイフで少し開いて内臓を取り出す。
はらわたをとったあとやはり入念に水洗いした。
きれいに洗った木の枝を口から通して固定する。
その上にこれでもかと塩をかける。

梓「刷り込むぐらいの勢いでいきましょう」

澪「そうだな。たぶんそのほうがいい」

大漁の塩をかけて、かまどの火の近くに刺す。
直火の熱でしっかり中まで焼きこむためだ。

澪「勢いだけでやったけど、案外なんとかなりそうだな」

梓「ええ、焼きあがりが楽しみです」

それからしばらくして魚の脂の匂いがしてきた。
塩の香りと相まってえもいわれぬ野性的な匂いだ。

梓「少しだけ泥臭くないですか?」

澪「しっかり焼けば泥臭さがとれると思う」

これは大正解。
「臭けりゃ焼け」とは筆者の曽祖父の言葉であるが、
澪は助けもなしにこの真理に自らたどりついた。
天性のサバイバラーであることがうかがえる。

その後もしばらくじっくりと焼きあがりを待つ。
この間に二人は塩作りやグミの実摘みも並行しておこなった。

表面が焦げる寸前で魚を引き上げて食す。
身はそこまでしまっていなかったが脂が乗っているのか、
はらはらと崩れて塩味がきいたうまみが広がっていく。
少しだけ臭みが気になるが食べるのに問題はない。
塩味がしっかり効いているので食が進む。
付け合わせのタンポポの汁の苦みがいい感じに臭さを消す。
小骨がかなり多かったが、身はうまく。
55cmほどの大きさだったので食べきるころには満腹だった。

澪「百合根とどんぐりとは違ってなんというか……」

梓「wildですね」

澪「ああ、wildうまいな」

梓「wildうまかったです」

二人は魚のうまさに感動しつつ、
初めてだらけの魚をばらす作業で疲れたのか
食べ終えてすぐに小屋に入って休憩し、
タンポポ茶と蛇苺と水を飲んで寝た。

遭難5日目Aパート!

最悪の状況だった。日はすでに大きく傾き、相本は暗くなってきている。
三人は休まずに歩きとおしたが、一向に休憩可能な場所にはたどりつかない。
ますます足が速くなるが、荷物の重さや足場の悪さで、
三人が思っていたよりも歩くスピードは上がらない。
鞄をいくつも背負ったりかけているため腰や背中も痛む。

せめて平らな場所を探そうと苦心するが、
三人が寝れるようなスペースは見つからない。

道は続いている。
続いているが、どうにも次の地点にたどりつけない。
いたずらに体力を消費しているのかもという焦り、
焦燥感はさらなる徒労を生み出し、体力をすり減らす。

三人は口には出さなかったが、そろそろ限界である。

どこまで歩けばいいのだろうか。すでにお堂はずっと下だ。
これから先にどれだけ行けば建物があるのか。
すでに山は勾配をきつくしていて、建物の雰囲気はない。

紬(山越え……)

紬の頭にある想念が浮かび上がる。

このままいけば、自分たちが休憩できる場所にたどりつくのに山を越えなくてはならないのではないか。

登っても山頂まではなにもない。
つまりはこのまま一気に登山しきってしまい、
休憩所目指して下山するという具合だ。

やみくもに進み続ければ体力を消費する。
律の焦りは無謀に近いその行程を選ぶかもしれない。
何とかして休ませなければならない。

だが、休ませる口実がない。
休まない原因はあってもy住む原因がない。

結構な長さの登山道にもかかわらず、
山小屋はおろか休憩所や水道も井戸もない。

道の感じからして、かつてはここを通った人間も多数いたはずだ。
なのに、いまのここにはあまりにもなにもなさすぎる。
畑の跡や民家の跡もない。

なぜこの道を使用した痕跡があるのに、
それに付随するあらゆる条件の痕跡がないのか。

この島は歪だ。

この島は本当に人が住んでいたのか。
隠したかのようにみつからないものがあれば、
わざと用意したように揃いすぎているものもある。

この島はまるで、まるで……。

先頭を歩いていた律が止まる。紬もそれに合わせて静止。
足元ばかり見ていたが初めて周囲と頭上に目を凝らす。

唯「鳥居?」

そこには巨大な鳥居があった。
10mはくだらないであろう。
この小さな島に似つかわしくない巨大な鳥居。
こんな山奥になぜ鳥居があるのだろう。

森の緑のなかで夕暮れとシンクロするように朱色の鳥居。
どう考えても不気味であるが、鳥居があるなら、

律「この先に神社があるかもしれないな……」

紬と唯も同じ見解に達し、小走りで先を目指す。
山道は相変わらずだが、空のほうはすっかり夕闇だ。
いそがなくてはならない。

三人がお互いの顔をやっと認識できるぐらい日は沈んでいた。
もうほとんど足元も見えていない。
マッチで火をつける余裕もなかったので、
構わず走る。

一気に周りの木々が晴れて、
海に日が完全に落ちたのが見えた。

そこにはどでかい鳥居とは対照的に
ポツンと薄汚れた神社と社務所が並んでいた。

律がなにもいわずに小型の鉈を取り出す。
暗闇の中で刃の先がきらりとあやしく光った。

唯「りっちゃん……?」

律が社務所のドアノブを鉈の背でたたき、
二人に向かって二コリと笑う。

律「やっと、休めるな……」

律は荷物を投げ出して倒れるように寝込む。
緊張の糸がほぐれたのか、唯と紬も倒れこんだ。

三人ともかなりの肉体的疲労がたまっている。
おたがいろくに話すこともできず精神も疲弊した。
極限状態の中で三人はまさしく倒れるように寝た。

これは実はのちにかなりのダメージとなる。

最初に気付いたのは唯だった。
次いですぐに紬が気付き、
律も二人の話声で目が覚める。

律「どうしたんだ?お前ら?」

窓の外に目をやると、まだ日は昇っていない。
ともすると、倒れるように寝込んだ数時間後だろう。
こんな時間に二人は一体何を話しているのか。

唯「まずいよ、りっちゃん」

唯「ここは寒すぎる」

言われて律も始めて気がつく。
ペットリと肌にまとわりつく衣服は冷たく、
ドアから入る風もかなりひんやりしている。

律「やばいな、これは……」

体温の低下は免疫、体力、食欲の低下でもある。
低体温症や凍死でなくとも、冷たさは人を殺す。

紬「とにかく、着替えて乾パンを食べて!」

三人は疲れた体をどうにか動かして、
濡れきった服を脱ぎ体を布でふいて着替えた。
乾パンと水をほおりこんでから大量のぼろ布にくるまる。

火をつけたり薪をさがせる余裕もないので、
とにかく食べ物による体温上昇と
ぼろ布による低下の阻止ぐらいしかできることはない。

三人は身を寄せ合って互いの体を温め、
少し落ち着いたころになって再び寝付いた。

寝付いたとは言っても鋭利な冷たさが肌に沁みる。
気温は決して低くはないが、疲労が熱を奪っていく。

これだけの疲労はめったなことでは回復しない。
登山は甘くない。小さな山でも甘くはないのだ。
その体力消費と天気の厳しさは顕著である。

その点、三人は見通しが甘かったとしか言いようがない。

山の中の危機は一つではないのだから。

遭難六日目!Aパート!

唯「寒……」

起きたころにはすっかり体が冷えていた。
皮下脂肪の多い女性でなければヤバかっただろう。
澪と梓が小屋の中でビニールシートで体を覆い、
かまどを近くに作ったのに対して、
唯たちは今まで睡眠に無防備だった。

いままで、比較的快適な集落で行動していたため、
断熱性などを考えずに心地よさだけを考えてきたからである。

すぐさま枯れ木を集めて火をつけたが、
思ったよりも風で火が消えてしまいそうになり焦る。
これもかまどを作ったことのない唯たちの弱点だった。

大量の薪の供給で火が消えるのは防いだが、効率は悪い。

お腹の具合が悪くなるなんて事態を防ぐために、野菜は食べず。
少しばかりの水と乾パンを朝に食べた。

日が昇ってすぐだったが三人はひどくむくんだ足と全身の痛み、
そして体温の低さのせいかあがりきらない体調のせいで、
すでに今日の探索はあきらめていた。

体が重く感じられた三人は昼ごろまで寝ることにした。
眼はすっかり濁り、自然の前での無力感に暮れる。

いままでは仕組まれたように順調だった無人島生活。
無人島での挫折から立ち直るのに、時間が必要だった。

澪「うめー」モグモグ

この澪、ノリノリである。

遭難六日目!Bパート!

二人は早起きして魚を釣り、
ドングリと一緒に魚の塩焼を食べた。
タンポポは飽きるといけないので今朝はやめて、
タンポポ茶と蛇苺をとる。

梓「澪先輩、お魚好きなんですね」

澪「ああ、山椒とかスダチとかあればもっとうまいよな、これ」

梓「ちょっと臭いですよね、やっぱり」

食後少ししてグミの実を食べ始め、
タンポポの葉とグミの実を片手に洗濯や塩作りをする。

梓は釣りとバッタとり、魚の解体に精いっぱいで、
起きてからほとんどまったく家事はしていないが、
食事の中でのタンパク質の充実はひとえに彼女の尽力である。

梓「やってやるです!」

今朝からすでに10匹以上の魚が彼女にやられている。
梓がとっているのは、昨日のも含めすべてウグイという魚だ。
煮ても焼いても美味くないので雑魚として釣り人に嫌われている。

きれいな川という条件が大きく味方したのか、
しっかり塩でやいたここのウグイは美味かったらしい。

澪梓「いただきまーす!」

今日の昼飯はドングリとタンポポ汁の塩焼ウグイ入りである。
このタンポポ汁が存外美味い。
タンポポの苦みが臭さを美味く消していて飲みやすいのだ。
かつウグイの出汁は苦みを和らげる。
無人島ではなかなかの御馳走である。

澪「この魚うまいなあ」

梓「ですね、これってひものとかにできますかねえ?」

澪「できるんじゃないか?そしたら最高だ」

梓「保存食ができたら、行動範囲が広がりますもんね」

澪「あいつらを探す余裕も出てくるかもしれない!」

彼らもまた、いくら順調であっても生きるだけで精いっぱい。
仲間たちを探しに行くような余裕は残念ながらなかった。

澪「ひものか、あいつらにも食わせてやりたいなあ……」

梓「燻製とかにもできますかね?」

澪「燻製はどうだろうなあ、作り方もわからないし」

二人は水だしタンポポ茶と蛇苺を飲んで再び各々の作業に戻った。
二時間ほど続けてから、魚を火の近くにおいて二人は探索をしてみることにした。

探索といっても食べ物を探す程度で、
持っているのは鉈とナイフぐらいのものだ。

海のほうには食べれるものがあまり見つかりそうにないので、
水たまりから比較的山中の歩ける道を選んで歩いていくことにした。

梓「なんかあるといいですね」

澪「だなー」

遭難六日目!Aパート!

唯たちはドクダミ汁を体のあちこちにぬり、
特に体の痛いところには生の葉を貼った。
乾いた葉で出した煎じ茶を苦い顔して飲む。

律「にがいなあ……」

昼飯には同じく乾パンを食べて水を少し飲んだ。
体力の消費をおさえるために、
誰もが半分寝たような状態で倒れている。

誰も次の日の計画の話を始めなかった。
ミイラ取りはミイラになってしまうのだろうか。

遭難六日目!Bパート!

澪「なんか、ここらへんの地面は開けてるな」

梓「はい、なんだか畑だったみたいですね」

澪「トマトとかはえてないかなあ」

梓「この荒れようじゃ流石に無理じゃないですか?」

澪「うーん、なんか野菜生えてないかなあ……」

梓「あれ、向こうに見えるのって……」

梓が指で指し示す先にはどこかで見たような赤い実がなっていた。

澪「あ、あれは!」

唐辛子である。

澪「唐辛子か……」

近くまで近づいて赤くかわいらしい実をなでる。
雑草の中で赤い色は際立っていた。
この前見つけたみつばは摘んだ分で終わってしまったが、
こちらの唐辛子はこんもりと実っている。

梓「料理のレパートリーが増えますね」

澪「こちらとしては野菜のほうが嬉しいんだけどなあ」

塩味に変化が付けられる簿は結構だが、
これではあまり腹の足しにはならない。
辛いものは辛すぎるとお腹にも悪いとう。

澪「あれ、よく見りゃ近くにピーマンも生えてるな」

緑のごっつい実がかげにこそこそとなっている。
ピーマンと唐辛子は仲間であるという。
同郷のよしみで唐辛子が庇っていたのだろうかなどと澪は考えた。

梓「メルヘンですね」

澪「人の考えを読むなー!」

よーく見てみると畑にはピーマンがそれなりにあるらしい。
唐辛子も大量にあって、新しい食材は簡単に獲得できた。

澪「タンポポ以外の野菜が久々に食えそうだ!」

梓「あれ、なんか向こうに赤いものが見えません?」

澪「赤いものってなんだよ、はっきり言ってくれなきゃまた期待しちゃ……

鳥居のようなものが目に飛び込んできた。
木々のグリーンの中で朱色が強烈なコントラストとなる。
澪の脳内で幾千もの鳥居のイメージが飛んでいる。

澪「行かなきゃ……」

梓「へ?」

梓「ちょっとまってくださいよ!いきなりなんです!」

澪「あそこに行かなきゃならない……」

梓「いきなりわけのわからないこと言わないでくださいよ!」

澪「あそこに鍵があるんだ!」

梓「鍵?なんですかそれ?ちゃんと落ち着いて日本語で説明して下さい!」

澪「行くぞ!」

梓「ちょっ、待って!」

澪は手に持っていた唐辛子を投げ捨てて鳥居に向かって駆けていく。
梓もわけのわからぬまま澪を追いかけて行った。
澪にもなにがなにがなんだかわからない。
しかし、あそこにいかなければならないという危機感ばかりが募る。

鳥居まで来ると、なんでここに来たのかは分からない。
しかし経験がここを目指す必要を告げている気がした。
暫くすると梓も追いつく。

梓「あれ、ここって……」

澪「お前もか……」

デジャヴュ。二人はここに来たことがあるような気がして仕方ない。
この鳥居の朱色が頭から離れようとしないのだ。

気づくと二人は無言で道を駆け昇っている。

木々が開けて日の光が照る。

まぶしい輝きのずっと手前。


そこには三つの人影が……。

素っ裸でドクダミを貼りあっていた。

澪梓「……」

唯「あれ、澪ちゃんあずにゃん!!!」

律「お、おまえら!生きてたんだなあ!」

紬「そんな、二人とも……!!!」

なぜだろうか、先ほどまでの高揚感に似た胸騒ぎはどこにもない。

澪「お前ら……」

梓「みなさん……」

澪梓「こんのおおおお、ド変態があああああああああああああああ!!!!!!!!!」

何回も八月が来れば、人間時折はじけてしまう。
初めてのサバイバルの手際の良さもつまりはそういうことである。
終わらない夏休みが救った命もあるのだ。

感動の再会については多くは語るまい。
全員が全員涙し、ともに笑いあった。
繰り返されるコントのような会話は、読者の想像にお任せしたい。
澪と梓の介抱で三人の体力も回復した。
このあとも島で五人は探検を繰り広げる。




だがとりあえずは筆者が語る物語はいったん幕である。


サバイバルに大切なのは友情や勇気ではない。
そんなくさいセリフを吐くためにサバイバルは存在するのではない。

サバイバルに必要なのはサバイバルである。

この言葉を理解できたとき、真のサバイバラーへの道は開ける。
若人よ。恐れるなかれ、サバイバルせよ。


第二部 完

第2.5部

「ねえ、キョン!あたしたちが夏に遊び呆けてる間に不思議が起こったみたいよ!」

遊び呆けるとはなんだ。お前が誘ったから遊んでいたのであって呆けるために遊んだのではない。

「どうせ、呆けてるだけの夏休みなんだから関係ないじゃない」

まったくもって気に食わないやつだ。実際そうなのだから言い返せないのだがな。

「その不思議とは、一体なんのことでしょうか?」

調子に乗らせるなサイキックニヤケめ。お前のせいで毎回毎回こいつは暴れやすくなるのだ。

「聞きたい!?」

聞きたくない

「あんたには聞いてないわよ」


「涼宮さん、不思議なことってなんなんですかぁ?」

オー、マイエンジェル朝比奈、あなたの純真無垢なお声をこの傍若無人人間に聞かせる必要などないのですよ!

「みくるちゃん、これよ!」

新聞を広げるのはいいが俺に近すぎてなにも読めんぞ。

「あら、読まないんじゃなかったの?」

言葉のあやだ。

ハルヒの持っていたスポーツ新聞にはでかでかと女子高生遭難救助の文字が躍る。

女子高生遭難も五名全員無事。

XX県Y市の海岸で起きた局地的な津波で行方不明になっていた女子高生ら五人が昨日未明救助された。
五人は同じ高校に通う生徒で、部活動の先輩と後輩の関係である。
この海難事故は奇跡的に五人が同じ島(19xx年より無人)に漂着し、厳しい島内の自然環境の中で生存というかつて類を見ないものである。
女子高生らは「体がおぼえていました」などと多少動揺した発言をしているものの健康体。
昨日中に全員が健康診断を受けて、本日中には退院の見込み。

記事を読み終えると、古泉がこちらを見てニヤける。こっちを見るな。
そこで長門が本を閉じ、今日の活動もつつがなく終わった。
帰り道、団長は朝比奈さんにに熱心にサバイバルの極意を伝えていた。

「これは僕も予想外でした。まさか涼宮さんが人助けを並行していたとは」

新聞を片手に古泉が話しかける。

「もしかして、終わらない夏休みが女子高生を救ったてのか?」

「ええ、おそらくそうでしょう。無意識化でのきゅうさいですかね」

「んな、あほなことが……」

俺は援軍がほしくて、長門のほうに目をやる。

「……彼女たちが助かるのは今回が初めて、一回目で夏が終われば死んでいた」

長門、お前もか。

終わらない夏休みが救った命もある。そう考えると俺も呆けていたわけではないだろう。
顔も見たことのない赤の他人だが、あんたたちの健闘を称えるよ、女子高生。
救済か。恩を着せる気はないが、その事実を知って、このくだらない坂道もなんだか愛らしく見えてきた。


EEネタはおとしどころがつかなかったから書きました。
思ったよりも日数がかかってしまって申し訳がない。

漫画の打ち切りエンドだとでも思って勘弁してくれ。
とりあえず書くのがつらいんでこれで終了。

リーネちゃんペロペロ

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