C.C.「ボク、チーズクンダヨ!」ルルーシュ「えっ?」 (82)

■クラブハウス ルルーシュ自室 ─────

C.C.(カチャッ…)「……ん、何を見ているんだ、ルルーシュ?」

ルル「ああ……昔の写真だ」

C.C.「ふむ?」

ルル「本棚を整理していたら、隙間からこれが落ちたのさ」ヒラッ

C.C.「……小さい頃のお前か、ナナリーと……」

ルル「……スザクだ、シンジュク騒動の時の……」

C.C.「あの男か……」

ルル(……シンジュク騒動での一件から、スザクの消息について色々と手を回し調べてみた)
   (しかし、情報は全く入って来ない……)

C.C.「ところでルルーシュ、今日は非常に喜ばしい報告があるんだ」
   「念願のチーズくんを手に入れたぞ!」ニコニコ

ルル(ブリタニア内の一兵卒、しかもイレヴンだ)
   (存在自体、誰も気にかけてなかったのだろうか……)

C.C.「ようやっとポイントが溜まってな、毎日3食、ピザを食べた甲斐があったというものだ!」
   「この私の涙ぐましい努力、お前も少しは見習うべきだと思うぞ?」

ルル(奴にはいろいろと聞きたいことがあった)
   (あれからどうすごしていたのか、それに、一体どういう経緯で軍に入ったのか……)
   (奴にとっては、にっくき敵(かたき)であるはずのブリタニア軍などに……)

C.C.「ほら、どうだ、チーズくんの現物は……かわいらしいだろう?」
   「たとえ殺されようと、お前には絶対渡さないからな?さあチーズくん、ご挨拶だ……」
   『コンニチワ!ボク、チーズクンダヨ!』フリフリ

ルル(しかし……奴の生死すら不明だというのが腑に落ちない、なぜだ?)
   (いかにイレヴンとはいえ、所属があるなら行方不明などということで済ますはずが)

C.C.「おいルルーシュ、こら」ペシ

ルル「ぃたっ!なんだC.C.!ん?どうした、その人形は?」

C.C.『ヤア!ハジメマシテ!ボク、チーズクンダヨ!ヨロシクネ!』フリフリ

ルル「…………えっ?」

C.C.「……素で返すな……恥ずかしいじゃないか……///」

ルル「あ、ああ…………どこで買ったんだ?」

C.C.「……私の言葉を全く聞いてなかったのか、お前は」

C.C.「それよりも先に、言うべきことがあるだろう、かわいいな、とか……」

ルル「…………お前も、そういう所は可愛げがあるのにな……」ハァ…

C.C.「誰が私のことを聞いた、チーズくんを褒めろ」

ルル「…………」

C.C.「……おい、」

ルル『ヤア、ボクルルーシュダヨ!』

C.C.「うわっ!」

■前回までのあらすじ ─────

シンジュクゲットーで親衛隊に囲まれ、死を覚悟したルルーシュ。
だが、封印状態から回復したC.C.より"力"を得て窮地を脱した。

無事租界に戻ることができた彼は、これまで同様の日常生活を送る。
違うのは、左目に宿した"王の力"───そして、C.C.という奇妙な存在。

アッシュフォード学園を卒業し、全てのしがらみから解放されるまで、
行動は起こさないと決めていたルルーシュ。
しかし、C.C.を逃したクロヴィス達が、それをなおざりにするはずがなかった。

たとえ望まざるとも彼は、運命の輪から逃れることはできない……
事態は……ゆっくりと、しかし抗い難き力を込めて、動き始める……

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■エリア11 軍病院 ─────

ジェレミア「しかし、先日からヴィレッタの姿が見えないと思っていたら……」カツカツ

同志A「はっ、シンジュク騒動のさなかに発見はされておりました」カツカツ
     「ただ、著しく情緒が不安定だったもので、ある程度落ち着くまで隔離を……」

ジェレミア「うむ」

同志A「……この病室にいます」シュイーン

(……そこにいたのは、ヴィレッタだった……)
(ただし、私の知っていたヴィレッタとはかなり違った風であった)
(拘束衣を着せられ猿轡もかまされ、革のベルトでベッドに縛り付けられていたのだ)


ヴィレッタ「あ……あが……」

ジェレミア「……なんと……これは!」

ヴィレッタ「……あああ!がああああぐがあっ!」ガチャガチャ
      「あがっ!がああああああああッ!」ダラダラ…

同志A「……ご覧の有様です……一体、何があったのか……」

ジェレミア「純血派の同志に対して、この扱いは……まるで、囚人ではないか?」

同志A「はっ、しかしこうしないと、自殺を図るのです」

ジェレミア「自殺だと!?」

同志A「はっ……ヴィレッタから何があったのかを聞き出そうにも、」
    「何かに憑りつかれたかのように死を欲するばかりで……」
    「こうしておかねば、舌を噛む恐れすら……」

ジェレミア(あの誇り高き女、ヴィレッタが……何という……!)
      (猿轡からよだれを垂らす姿など……見たくもなかった……!)

ジェレミア「……で、医者は何と言っているのだ?」

同志A「外見および内臓には特に異常もなく、知能も問題なし、」
    「ただ、偏執的な自殺願望がある、と……それだけです」

ジェレミア「シンジュク騒動以来、ずっとこのままか……」
      「強力な薬物を使用されたのかもしれんな……」

同志A「……これは、先に強奪された、我が軍の毒ガスの影響という噂も……」

ジェレミア「馬鹿者ッ!口を慎め!」
      「それは極秘情報だ!軽々しく口にするな!」

同志A「ははっ……!」

ジェレミア「しかし……このまま回復が見込めないようでも困る、バトレー将軍に報告してみろ」
      「あの方は、クロヴィス殿下の下で様々な研究をされているらしい」
      「あるいは、こういった症状への対処法をご存じかもしれん」

同志A「イエス、マイロード!」

ジェレ(最近、強力な麻薬が巷に出回りつつあると聞く……その実験台にされたのか?)
    (あるいは、純血派の瓦解を狙ったものか?油断はできんな……)

■アッシュフォード学園 校門前 ─────

??(……アッシュフォード学園……私の、偽りの人生の舞台……)
   (まさか、こんなに早く舞台を降りることになるとは思わなかったけど、)
   (みんなもじきに、私のことは忘れるだろう……)クルッ
   (……その程度の関係だったしね……)テクテク…

??「……もういいのか、カレン?」

カレン「……うん、いいよ……十分に見納めたわ」
    「アッシュフォードにはちょっと仲のいい子もいたけど……」
    「所詮は作り物の世界だった」

    「これから私は、全てを日本解放のために捧げる……」
    「作り物でない、私の世界のために」

??「……すまない、オレが……オレの脚さえ動けば……」
   「こんな、車椅子の姿……ナオトに申し訳がたたないよ……」

カレン「いいんだって、扇さん……気にしないで」
    「あの戦闘で生き残れただけでも儲けものよ?」

扇(……あれは……明らかにオレの指揮ミスだった……)
  (ブリタニア側の対応を見誤った結果、仲間たちは包囲され、連中の的当てにされた)
  (無線の向こうから響く仲間たちの絶叫が……今も耳にこびりついている……)

カレン「扇さんはこれまで通り、私たちに指示をすればいいの」
    「私が、扇さんの分も動くから……ね?」ニコッ

扇(……こうして、オレが守るべきカレンにまで頼り切って……)
  (オレは、これから一体どうすればいいんだ…………)

カレン「さあ、いくわよ……帽子を深めに被ってて」カチャッ…


─ ─ ─ ─


リヴァル「いやあーっ、また圧勝しちゃうんだから困ったもんだよ、この男は!」ブイイーン

ルル「しようがないだろ、勝ってくださいと言わんばかりの手筋だったしな」

リヴァル「そうかぁ?相手は、お前の手におったまげた後、投了までずっと唸ってたぞ?」

ルル「よく勉強はしてたみたいだが、イレギュラーに弱かった……」
   「だから、唸るしかできなくなるんだ」

リヴァル(イレギュラーに、ねえ……)
     (会長にからかわれてるお前の姿が目に浮かんだよ……)

リヴァル「……で、どうするルルーシュ、」
     「この調子だと、そろそろ誰もお前とチェスしなくなっちゃうぜ?」

ルル「そうだな……賭場はイレヴンの各地にあるし、旅打ちってのもいいかもな」

リヴァル「旅打ちかぁ……じゃあオレ、車の免許を取らないとなぁ」

ルル「ああ、それは助かる、なるべく早めに頼む」

リヴァル「……ルルーシュぅ、お前、免許取る気ないの?」

ルル「お前がいるのに、取る必要ないだろう?」

リヴァル「……なぁんだか、嬉しいような嬉しくないような……」

ルル(ほう?……珍しいな、手押しの車椅子か……)
   (……え?…………あれは、まさかッ!?)


カレン(……アッシュフォードの生徒か……)チラッ
    (あのサイドカー、確か生徒会のやつだ……ふん、お気楽なものね)プイッ…

扇「…………」


ルル(あの女、生きてたのかッ!?)クルッ!!
   (……間違いない、シンジュクで見たときの、あの跳ねた髪型、後姿……)
   (貧相な服装を着ていて、学園の連中にはわからんだろうが、あれは彼女だ!)

リヴァル「ん、どうしたルルーシュ?」

ルル「いや……手押しの車椅子は珍しいな、と思ってね……」

リヴァル「そういやそうだねえ?」

ルル(そうか……レジスタンスの連中、まだ生き残っていたか……)
   (あの車椅子の男も、おそらく彼女の仲間だろう)
   (ということは……なるほど、もう学園には戻ってこないつもりか?)

   (しかし、家族もいるだろうに、彼女はどうしてレジスタンスに参加を……)
   (しかも死んだはずだったのにな……色々と事情があるようだな)

   (よし、"力"の練習がてら、彼女のことを調べてみるか……)

■エリア11政庁 特派トレーラー内 ─────


ロイド「相変わらずいい数値を出してるねえ~!」
    「素晴らしいデバイサーだねぇ、君は~!」ニコニコ

??『このランスロット自体が、素晴らしい機体だからだと思います』

ロイド「うんうん、いい事言うね~!」
    「僕のランスロットが、君に合わせてあげてるんだからねぇ?」
    「そこを忘れちゃだめだよ?」

セシル「だけど、彼向けにカスタマイズしたとはいえ……」
    「反応値が99.5%にまで達するのは驚きですね」

ロイド「実戦なら、スラッシュハーケンを同時に4本まで躱せるレベルだねぇ~」
    「もういいよ~!出ておいで~!」


ガシュン!シュウゥ……!


スザク「ふう……」

セシル「お疲れさま、枢木一等兵」

スザク「ありがとうございます!」

ロイド「こないだのシンジュク騒動の時は、機会を逃しちゃたけど……」
    「いまイレヴンって、なんだかキナ臭い感じがするからねぇ~……」
    「そろそろ、出番があるかもよぉ~?」

スザク「ですね……でも、僕は僕の力を出し切るだけです……」

ロイド「うんうん~!」
    「君なら、全力を出し切ってくれると思ったから、特派に引き抜いたんだからねぇ~!」
    「シュナイゼルちゃんに無理いった手前もあるしー、」
    「期待通りのスペックを出してくれないと、困るよぉ?」

スザク「はい!自分の任務は承知しています……!」

セシル「脅かしちゃダメでしょう!」
    「……枢木一等兵、ここは軍隊ほどかしこまる必要はないわよ」
    「ただ、お偉いさんが来た時は、ちゃんと敬礼を忘れずにね?」

スザク「イエス、マイロード!」ニコッ

    (……僕を撃った親衛隊の連中は、廃屋でみな殺されていたらしい……)
    (もし僕がルルーシュを撃ってたら……連中と一緒に死んでたんだろうか?)
    (トレーラーで隊長に撃たれて気絶したけど、思えばあれも幸いだったことになる)
    (正しいと思うことをやり通せ、という天啓かもしれない)

    (しかし……ルルーシュ、君は今、アッシュフォード学園の学生だったんだね……)
    (幼いころに別れてから心配だったけど、平穏な生活をしているようで安心したよ)
    (ナナリーも一緒なんだろうか?)
    (今度、休暇が取れたら、アッシュフォード学園へ行ってみようかな……)

■夜半 クラブハウス ルルーシュ自室 ─────

ルル(ガチャッ)「ふう……」

C.C.(モグモグ)「むぐ……おかえり、ルルーシュ」
   「最近はお帰りが遅いな……お疲れか?」

ルル「ああ、ちょっと色々と調べものをしててな……」

C.C.「ナナリーがお前の帰りを待ちわびていたぞ」

ルル「わかってる、さっきすぐ食堂へ行くと言っておいた」
   「なあC.C.、この俺の"力"を、お前はどう呼んでいるんだ?」

C.C.「ん?どうって……"力"は"力"だろう?」モグモグ

ルル「いろいろ文献を調べていたんだが、この"力"……いや、ギアス、と呼ぶべきか?」

C.C.「!」ピク

ルル「……そうか、これは魔術の一種なのか?」

C.C.「…………さあな」モグモグ

ルル「ふむ……まあ、調べてたのはそのことじゃない」
   「お前を毒ガスだと思って強奪した連中、まだ生きてるぞ、」
   「クロヴィスのローラー作戦でも全滅を免れたようだ」

C.C.「ほう?……ドジな奴らだと思っていたが、悪運は強いのか」

ルル「悪運の強さも美徳のうちさ」
   「俺のクラスにいた女が、実はその一味だったのを偶然にも知ってな、」
   「その線でいろいろ調べてみたら、非常に面白かった」

ルル「カレン・シュタットフェルト……いや、紅月カレンと呼ぶべきか、」
   「俺がお前と出会った時にも現場にいたんだが……お前は知らないか」

C.C.「多分知らないな」

ルル「まあいい、奴は、シュタットフェルト家の者とイレヴンのハーフだ」
   「先のシンジュク騒動で、彼女がテロリズムに加担していたことが家にバレたらしい、」
   「家名を守るため、表向きは彼女は死んだことにして家から追い出したようだ」

   「先日、その女が、車いすを押している場面に遭遇してな、」
   「目立つ組み合わせだ、調べるのはたやすかった」
   「女が属しているレジスタンスのアジトの、大まかな位置も把握できたよ」

C.C.「……それで?」

ルル「それで、だと?……いいチェスの駒を見つけた、ということさ」ニヤ

C.C.「???」キョトン

ルル「夕食をとってくる、続きはその後だ」テクテク…バタン

C.C.(……なるほど……ようやっと目覚め始めたか?)パク
   (このまま、学校を出るまで平凡な日々を過ごす気かと思っていたが……)モグモグ

   (……うむ、今日のピザは格別にうまいな)モグモグモグモグモグモグ

■クラブハウス リビング ─────

ナナリー「……お兄様!お待ちしておりました」

ルル「今日も遅くなったな、ごめん……さあ食べようか」

ナナリー「はい!」

咲世子「先ほどまで温めておりました、いまお持ちいたします」カチャカチャ


(たったひとりの肉親……ナナリーとの食事は、俺にとっては数少ない、心安らぐひと時だ)
(ナナリーの、何気ないしぐさや言葉のひとつひとつが……)
(ともすれば気が滅入ってしまう俺の気持ちをほぐしてくれる……)

(心優しいナナリーは、C.C.も食事に誘ってはどうかと俺に度々言うのだが、)
(幸いにして、ピザしか眼中にないあの女は俺たちと同じ食卓につく気がない)
(そう、幸いにして、だ……この最高の時間まで、奴にひっかき回されては堪らな)


カチャ…

C.C.「これはこれは……食事の最中だったか」

ルル「!!!!」ガチャッ

ナナリー「あら……ひょっとして、C.C.さんですか?」

C.C.「ああ、C.C.さんだよ」

ルル「……C.C.、何か用なのか?今、見ての通り遅い夕食を取っているところでな」ピク…
   「何なら、一緒に食べ……ああそうか、ピザしか食べないんだったなお前は、ハハハ!」

C.C.「そうだな、いささか腹も減っている、
   「たまにはご相伴にあずかるかな?」ニコリ

ルル「ハハハそうかそうか、って何だとおッ!?」ガタァ!!

ナナリー「あら!本当ですか!?」パアッ!

ルル「いやいや、無理しなくてもいいぞ、C.C.!」ピクピク
   (どういう気だ……さっきまで部屋でピザを食ってたくせに!)

C.C.「無理などしてないさ、それに、いつもナナリーのお誘いを断るのも悪いしな」

ルル「何ッ、誘っていたのか、ナナリー!?」

ナナリー「はい、せっかくここにいらっしゃるのですし……」
     「それに……ご家庭に複雑な事情がおありだと聞いてます、」
     「せめて、ここにいらっしゃる間は、くつろいでいただきたいな、って……」

ルル(くそッ、しまった、やりすぎたか!家庭でDVを受けてるとか設定しなければ良かった!)
   (奔放な放蕩女だという程度にしておけば……!)

C.C.「優しい子だな、ナナリーは……いいお嫁さんになれるかな?」ニコッ

ナナリー「そんな……///」

ルル「……」ピクピクピクピク

C.C.「さて、では私も」ガタッ

ルル「おい、なぜ躊躇なく俺の隣に座る?」

C.C.「当然だろう?」キョトン
   「お前とは、将来をt」ルル「わかった!わかったわかった!」

ナナリー「???」

ルル「わかったから……座ったら黙って食ってくれ……」ガックシ

C.C.「黙ってないとならないのか?そういう家訓なのか、ナナリー?」

ナナリー「いえ、いつもおしゃべりしながらいただいています」

C.C.「そうか、では遠慮なくおしゃべりをしながらいただこうか」
   「ルルーシュの意外な一面などについて、楽しく話そうじゃないか?」

ナナリー「えっ、お兄様の……ふふっ、そうですね、楽しみです♪」

C.C.「ところで早速だが、ルルーシュは人形が好きなのを知ってるか?」

ナナリー「ええっ、本当ですか!?」

C.C.「ああ、こないだも、私のチーズ君にすこぶる元気な挨拶をしててな……」ニヤリ

ルル(俺の……俺の平穏な食卓があアアァァァ……!)プルプル

■租界周辺ゲットー 扇たちのアジト ─────

カレン(カチャ…)「ただいまー」

玉城「遅ッせえよカレンッ!オレぁ腹ァ減って死にそうだぜ!」

カレン「ったくもーわかってるわよ!ちょっと待ってて、すぐカレー作るから!」パタパタ

南「玉城、もう少しカレンのことも考えてやれよ~」フゥ
  「カレンだって忙しい身なんだぜ?」

玉城「ンなこと言ったってよぉ~、井上も帰るのが遅せェしよ~、腹減ったしよ~」ブツブツ

カレン「あれ、扇さんは?」

南「奥で支援者と話をしてるはずだぞ?」


─ ─ ─ ─


カレン(パタパタ)「……ただいま、扇さん」

扇「……そっ、そんな……!まっ、待ってください……!」

カレン「ん?」

扇「……はい……それは、もう……はい……」
  「……少し時間を…………では」カチッ

カレン「どうしたの?」

扇「……ああ、カレン、おかえり……」ドヨーン
  「……ちょっと、他の二人も呼んでくれ」

カレン「えっ、ああ……わかったわ」


─ ─ ─ ─


扇「単刀直入に言う……」
  「……支援を打ち切られるかもしれない……」

カレン「ええっ!?」

玉城「マジかよ?」

扇「先日の戦闘で、俺たちが殆ど戦力にならない状態にまで潰されたことを知ってた」
  「……オレは、ナオトとは比べ物にならない、と言われたよ……」

南「……」

カレン「そんな……ひどい……!」

扇「いや、事実さ……自分で歩くこともできないリーダーか……笑える話さ」
  「別の指揮官をよこしてチームを立て直すつもりらしい」

南「別の指揮官って……誰だ?」

扇「それはわからん……まだ確定事項でもない」
  「ただ、オレも……このチーム、他の奴が指揮すべきだと思ってるんだ……」

カレン「ちょっと、やめてよ扇さん!」
    「お兄ちゃんのためにも頑張るって、言ってくれたじゃない!」

扇「……済まない……ッ」
  「しかし、今のオレは、どう考えても足手まといだ……ッ!」ググッ

玉城「扇ィ……」ウルッ

カレン「わたし、絶対認めないからね!扇さん以外の人になんてついていけない!」
    「扇さんだから、ここまでついてきたのよ!?」

玉城「オレだってそうだぜェ!」
   「おめェ、オレらを置いて逃げるつもりかよォ!?」ウルウル

南「……扇、まだ井上が戻ってきてないしさ、」
  「戻ったら、改めて話さないか?」

扇「ああ、そうだな……」

■コードR研究所内 ─────

バトレー(この女……名は、ヴィレッタ・ヌウ、か)
     (ジェレミアの配下で、シンジュク騒動以来おかしな状態にあると聞いていたが……)

ヴィレッタ「ウガウウウ!フウウゥゥゥ!」ガチャガチャ

バトレー(外見は異常なし、内臓も問題なし、か……精神異常の発作ではないのか?)
     (これが脳波のグラフか……うん?……この脳波、どこかで……?)

バトレー「おい、このグラフ、分析にかけてみろ」

研究員A「はっ!…………分析しました、プリントアウトはこれです」
      「これはいつのサンプルですか?」

バトレー「いつの?最近とった、この女の脳波のはずだが?」

研究員A「……将軍、これは例の女のそれにかなり近いですが……」
      「本当に、この女のサンプルですか?」

バトレー「なに!?見せろ!」バッ
     「……なんだこれは?偶然か!?」

研究員A「……偶然と仮定すること自体が困難ですね」

バトレー「むむむ……おい、ジェレミアを呼べ!」
     「この女について、詳しく聞きたいことがあるとな!」

■アッシュフォード学園 校門前 ─────

門番「……待て、通行許可証を出すんだ」

スザク「許可証はありません……ここにいる僕の友達に用があって……」

門番「友達だと?イレヴンが、ここの学園の生徒と知り合いだと?」

スザク「はい、彼の名前はルルーシュと言います、僕は枢木スザクです」

門番「身分証はあるのか?……ふむ、軍属の名誉ブリタニア人か……」
   「ちょっと待ってろ、事務局に問い合わせる」

スザク(セシルさんが、ここはフランクな学校だと言ってたけど……)
    (やはり日本人に対しては風当たりがきついのかな)

門番「……ここで待っているんだ、いま呼び出しをしてもらった」

スザク「すいません、中に入らせていただくことは……?」

門番「許可証がないのに入れるわけがないだろう?」
   「ただのイレヴンなら門前払いだ、呼んでもらえるだけ有難いと思え!」
   「思い上がるなよ!」

スザク「……すいませんでした、ここで待ちます」ペコ
    (ルルーシュ、いるのかな……)

随分の後─────


スザク(……来ない、のかな……今日は学園に出てきていないのかな?)
    「……すいません、今日は帰ります」
    「ご迷惑をおかけしました」ペコ

門番「ああ……」

スザク(久しぶりに話をしたくて来たけど……でも考えれば、彼にとっては迷惑だったか……)
    (イレヴンの知り合いなんて、公にしたくないだろうしな)
    (甘い考えだった……二度と)

ルル「……スザクッ!」ハァハァハァハァハァハァハァハァ

スザク「ル……ルルーシュ!?」

ルル「……済まなかった……待たせた、な……」ハァハァハァハァ
   「この学園、だだっぴろくてな……」ハァハァハァハァ

スザク「いや、ぜんぜん待ってなかったよ」
    「いきなりでごめん……」

ルル「何を言ってるんだ、俺らの仲じゃないか……」ハァハァ
   「よく来てくれたな……今日は時間あるんだろ?中に入れよ」

スザク「えっ?でも、許可証が……」

門番「こいつは通行許可証がないからダメだぞ」

ルル「許可証?ああ、それなら俺が持ってます、代理で身分保証します」ゴソゴソ…パッ

門番「ん?おい……」(ただの手帳じゃ……)

ルル「こいつ、これからは顔パスで通してください」キィィィィン!!
   「毎回、俺がいちいち出迎えるのも面倒ですし」

門番「…………わかった、そうしよう」

ルル「ありがとうございます……さ、スザク、中に入れよ」

スザク「えっ!?大丈夫なのか……?」

門番「早く行け、お前は顔パスだ」シッシッ



■クラブハウス 生徒会室 ─────

シャーリー「あれ?会長、ルルはまだきてないんですか?」

ミレイ「さっきまでいたんだけどねー」
    「事務局からの電話があって、慌てて飛び出してったわよ?」

リヴァル「シャーリーも、見てたらきっとびっくりしたぜ、」
     「あいつが猛ダッシュしたのって初めて見たよ!」

シャーリー「ええっ!?あのルルが?」

ニーナ「すごかったよ、私もびっくりした……」

ミレイ「あの慌て方は、只事じゃないわよねえ~……」
    「……女絡み、かな?」ニヤニヤ

シャーリー「ちょっと……会長っ!?」ガタッ!

リヴァル「ルルーシュって、女っ気ぜんぜんないじゃないスか~」
     「それはどうかなぁ……」

ミレイ「まあそうだけどね、でも意外と、私たちの知らない所で……」ニヒヒ
    「ねね、シャーリー、どうするどうする!?」

シャーリー「どっ、どうするって……!」

ミレイ「今日はもう、こっちに出てこないって言ってたわよ~?」
    「どうしてルルーシュが慌ててたのか、気にならな~い?」

シャーリー「そりゃ……ちょっとは……///」

ミレイ「行動しないと、何も変わらないわよぉ~?」キラキラ

シャーリー「会長……最近、私をからかって遊んでるでしょ?」ムス-

ミレイ「あはは、そんなことないわよ~?」

■クラブハウス ルルーシュ自室 ─────

ルル「いつもは門番なんていないんだけどな、」

   「先日のシンジュクゲットーの騒ぎがあっただろ、」
   「あれでテロの警戒のために、政庁が要所に兵を配備したらしい」
   「落ち着いたら、また自由に入れるようになるだろう」

スザク「そうだったのか……」
    「しかし、安心したよ、君が無事で……」

ルル「お前のおかげだよ、そっちこそ、俺をかばったりしなきゃ……」

スザク「借りを返しただけ……7年前の、ね」

ルル「……」

スザク「……あっ、あの子は……?」
    「ほら、カプセルの……?」

ルル「…………戦闘のどさくさで、離れ離れに……」
   「そっちの方がわかるんじゃないのか?」

スザク「いや、親衛隊以外は、誰も知らなかったみたいだ……」

ルル「そうか……」
   (やはり極秘事項か、C.C.の存在は……)

ルル「……じきにナナリーも帰ってくると思う、会っていくだろ?」

スザク「うん、ぜひとも……」
    「ナナリーも、だいぶ大きくなったんだろうな……」

ルル「お前を見たら、大喜びするだろう、」
   「本当に久しぶりだしな……」

スザク「そうだね……ふふ、7年ぶりか……」
    「……ここは素敵な環境だな」

ルル「ああ……あの頃からは想像もつかない、平和な環境だ……」

スザク「…………」


─ ─ ─ ─


ルル「なあ、スザク……どうして、ブリタニア軍なんかに……?」

スザク「……僕には、体力しかないからね」
    「それに、規律ある生活環境にいないと、ダメになってしまいそうで」

ルル「そんなつまらない理由じゃないだろ?」

スザク「……別に、そう楽しい話でもないさ」
    「生きてくためには、食っていける場所を探すしかなかったからね」

ルル「嫌じゃないのか?もっと、ましな場所があるだろう……」
   「今の俺なら、お前にもっといい場所を探してやれる」

スザク「名誉ブリタニア人にもなったんだ……」
    「日本人だった頃よりは、随分とましな待遇だよ」

ルル「スザク!?本当か……?お前が、名誉ブリタニア人……?」

スザク「ああ、名誉ブリタニア人になって、ブリタニア軍に入った……」
    「……組織の中から、組織を……ブリタニアを変えるために」

ルル(いつの間に……お前、そんな考えを持つように……)
   (あれから、何があったんだ……?)

   「……ブリタニアがどれだけ大きな組織か、わかってないだろう?」
   「お前が中に入ったくらいで変わるものじゃない、」
   「変えられるとすれば、より大きな力しかありえないよ」

スザク「……それは、テロリズムのことか?」

ルル「違う、テロなんかじゃない、テロは子供じみた嫌がらせに過ぎない」

スザク「じゃあ僕らに、他のどんな大きな力があるというんだ?」
    「僕は国を失い、君は国を追われた、普通の方法じゃ、どうやったって変えられない」
    「なら!……敵の中に飛び込むことで、活路を見出すしかないじゃないか!」

ルル「お前だってわかってるだろう?名誉ブリタニア人というものが虚仮に過ぎないことを!」
   「イレヴンの支配を盤石なものにするための装置に過ぎない……」

スザク「それでも!……それでも、それが今は一番正しい方法だから……」

ルル「お前……!」

スザク「それに、君だってただの学生じゃないか?」
    「僕のことで、君にまで迷惑をかけるわけにはいかない……」

ルル(その愚直さ、頑迷なところは、昔と一切変わっていないんだな……)
   (元イレヴンが軍にいれば、真っ先に前線に放り込まれ死んでしまうというのに!)
   (お前は失いたくない……失うには惜しすぎる男だ……)

   (……言ってしまうか?今の俺は、違うんだということを……)
   (ギアスを持っていることを……言えば……スザクは!)

ルル「……スザク、聞け……!」ガシッ
   「俺は、昔とは違うんだ!俺は……俺はな……」

スザク「ルルーシュ……?」


コンコン、ガチャ!


シャーリー「ルルー!ごめんね、会長が、この資料を…………」

ルル「え?」

スザク「ん?」

シャーリー「……あれっ、ルル?どうして男の人の肩を…………え?えっ?」

ルル「……あっ?」パッ

シャーリー「二人きりで、って…………えっ?」
      「え…………そんな……ルル、まさか……ホ、ホ……///」プルプル

ルル「ホ!?」

スザク「ほ?」キョトン


バタン!


C.C.「おいお前たち、一体さっきから何を騒いでるんだ、うるさいぞ」
   「隣の部屋で寝てる身にもなれ、馬鹿者が……」テクテク

ルル「なっ、し、シーツゥッ!?お前、なんて恰好で……!」ギョッ

シャーリー「ええっ!?誰ですあなた!?ていうか、ええええっ、シャツ1枚!?///」

スザク「あれっ、君は確か……?」

C.C.「おいルルーシュ、私は今朝、ようやっと桃鉄100年縛りの偉業を成し遂げたんだぞ?」
   「どれだけ眠いか、わかるだろう?」

ルル「そ、そんなことよりお前、このタイミングでその恰好で……」プルプル

C.C.「ん?ああ、お前のシャツを借りたぞ、いいだろう?」
   「しようがないじゃないか、拘束衣は咲世子が洗濯してるのだから」

シャーリー「ルッ、ルルのシャツを……無断で……!?///」プルプル

スザク「ルルーシュ、彼女はあのシンジュクの……」
    「さっきの話と違うぞ?なぜここにいるんだ?あれからどうやって……」

シャーリー「ねえルル、どういうこと、どういうことなの!?」
       「まさか3人で同棲なの!?まさか二人とも……その……」
       「ルルって、まさか……バ、バ、バ……///」カァァァ!!

C.C.「ルルーシュ、ここに友達を連れてくるな、うるさくてかなわない」
   「悪かったと思うならカードを寄越せ、新作のピザが今なら30%オフで」

ルル「だっ……黙れお前らアアアァァァッ!!」グオオ!!

(……シャーリーと、スザクと、C.C.が一堂に介するという異常事態!)
(しかし俺は、ギアスを使わずに状況を制圧するという、極めて困難な作戦を敢行した!)
(混戦でのセオリーは、各個撃破の雷撃戦だ!)


(俺は、まずは戦略上最も不安定要素となるC.C.を戦場から排除する!)
(こいつは、味方のくせに俺の背中に迫撃砲をジャストミートさせるタイプだ、)
(こんなものの援護を頼りにするくらいなら、とっとと戦線から離脱させる方がよい!)

(後でスパイシーハラペーニョピザをとってやると言って、無理やり隣の部屋へ追い出す)
(奴はぶつくさ言っていたが、眠気の方が勝ったのかおとなしく引き下がった、)
(ハハハ単純なやつだ、よし第一条件はクリア!)


(次に陥落すべきはシャーリーだ、しかし、こちらはC.C.ほど単純ではない!)
(何しろ俺がホ……男好きだと勘違いした上に、C.C.を同棲している女だと思っている)
(ヘタに言葉を遮ればそれが肯定だと勘違いしますます状況は悪化する!)

(そこであえてシャーリーのターンを取り、勘違いを言うに任せる)
(男好きだとは思わなかった、いやそれも別に嫌いじゃないけど……などと、)
(蒼ざめたり赤らめたりと必死に自分の気持ちを訴えるシャーリー……)
(かわいいよシャーリー……それがとんでもない勘違いに基づかないのであれば!)

(ドレッドノート・シャーリーの熾烈な砲撃を、なだめながら耐え忍んだ俺はその後、)
(スザクと共同戦線を張りそれは勘違いであると猛然と反攻を行う戦術をとった!)
(事前の打ち合わせなどないが、スザクもホ……男好きだと言われるのは心外のはず!)

(想定通り、俺の目くばせを瞬時に察した奴は、両翼からの猛然たる逆襲に加担!)
(俺とスザクの息の合った反撃を受け、さしものドレッドノートも沈黙した!)

(C.C.については、ナナリーにした説明をそのまま言い、クラブハウスを私物化してると)
(思われたくないので黙っていてほしい、奴はいずれ出て行くから、とお願いをする!)

(スザクが何か言いたそうなのを必死に目線で黙らせつつの作戦は危ういものだったが、)
(シャーリーは「ルルの秘密かあ……」となぜか嬉しそうに呟きながら出て行った、)
(やれば何とかなるものだ、これで第二条件もクリア!)


(……そして、最後にスザクが残った)

ルル「ふう……」

スザク「……今の子も、ここの生徒かい?」

ルル「ああ、俺と同じく生徒会の子だ」

スザク「ふーん……君のことが好きみたいだね」

ルル「なっ!?……彼女は、ただの友達だよ、あっちだって……」

スザク「君が"男好き"なのを、理解しようとしていたよ?」ニコニコ
    「相変わらずにぶいんだな、君は」

ルル「スザクっ……!」


─ ─ ─ ─


スザク「…………ルルーシュ、僕にはちゃんと説明してほしいんだ」
    「"彼女"は、なぜここにいるんだ?なぜ、軍に届け出ない?」

ルル「…………」フゥ…

   「……うまく説明できない、俺も、なぜ今彼女がここにいるのかが不思議なくらいなんだ」
   「ただ、彼女は……お前が言う"正しいこと"が、必ずしもそうでもないことの証ではある」

スザク「どういうことだ?」

ルル「軍は当初、お前らには化学兵器が奪われた、と言ったんだよな」
   「しかし実際は、彼女だった……彼女、それほどの女に見えたか?」
   「"そういう扱い"を受けそうな女に見えたか?」

スザク「……いや、普通の女の子にしか見えない」

ルル「彼女は……クロヴィスの女だ」

スザク「何だって!?」

ルル「彼女は、クロヴィスとバトレーの秘密を知りすぎた」
   「連中は極秘裏に、彼女を始末するつもりだったようだ」
   「俺は、彼女からそれを聞き、匿うことにした」

スザク「……なんだって、そんなことを……」

ルル「スザク、俺はな……」

(一瞬、先ほど言いかけたギアスのことが、脳裏をかすめた)
(しかし、やはり今はまだ言う時期ではない……俺は、言葉を飲み込む)

ルル「……ブリタニアを、ぶっ壊すつもりなんだよ」

スザク「ルルーシュ!?君は……」

ルル「フッ……俺は、あの頃から変わってないのさ」
   「彼女の握る秘密は、総督府を混乱させるに足るものだ」
   「ようやっと訪れた、チャンスなんだ」

スザク「殿下の……そうか、いまの、妙に高飛車な態度はそういうことか……」
    「……秘密、というのは、一体……?」

ルル「聞くか?聞きたいか……それを?」
   「あまりにひどい秘密だ……聞けばお前は、軍に戻れなくなるぞ?」
   「俺としては、むしろ言い聞かせたいくらいだがな」

スザク「…………!!」

ルル(さあ……決めろ、軍をやめる決断をしろ!)
   (ブリタニア軍など、お前にとっては微塵の価値もない組織だ!)
   (お前は、軍にいてはならない……俺と共にいるべきだ!)

スザク「……」キッ
    「いや、聞かないことにするよ」

ルル「…………何?」

スザク「今の僕には……軍しか居場所がないんだ」

ルル「何だと、お前!?……軍が"居場所"だって?」
   「元々ブリタニアは、お前にとって敵(かたき)じゃないか!?」
   「それに居場所なんて、俺がいくらでも……俺といれば」

スザク「君の今の居場所だって、君のものじゃないだろう?」ジ…ッ

ルル「……!」ハッ

スザク「君はどう思うか知れないけど、僕もそれなりに悩んだ上で決めたんだ、
    「ブリタニア軍に入る、ってね」

    「別に、軍がすばらしい場所だとは思ってはいない……」
    「でも、変えることにしたんだ、僕が……価値ある場所に……」

    「それに、軍の中にはいい人もいる、」
    「ブリタニア人の皆が、君が忌み嫌うような人ばかりじゃない」
    「その人たちのためにも……」

ルル「スザク……お前……」

スザク「……彼女のことは黙っているよ」
    「ただし、クロヴィス殿下の秘密は絶対他言しないよう伝えてくれ」
    「洩らしたら……その時は、僕が真っ先に殺しに来ることになる」

    「彼女だけじゃない、勿論……君もだ」

ルル「な……!」


(俺を殺す、と言ったスザクの目は……全く冗談の気配もない、本気の目だった)
(一体、何がスザクをそこまで変えたのか……)
(昔、姿を消したナナリーを一緒に探してくれた、あのスザクだとは思えなかった)


ルル(……イレヴンへの迫害や軍での経験が、お前をここまで変えたのか……!?)

スザク「……久しぶりに話ができて嬉しかったよ、ルルーシュ……」ニコッ
    「でも、もうここに来ることはないかもしれない」
    「僕がここに通うことで、彼女の存在がバレる可能性があるからね」

    「それに君たちもだ、生存がブリタニアに知られるとまずいだろう?」
    「ナナリーには、よろしく伝えてくれ……それじゃ」


(寂しそうな微笑みを残し、スザクは部屋を出て行った……)
(しかし、その微笑みは……7年前の、あの別れの時と同じものであった)

ルル「スザ……ク……」

─ ─ ─ ─


C.C.(カチャ…)「……ルルーシュ、良かったのか、奴をあのまま返して?」

ルル「…………」

C.C.「ああ言っても、奴は軍で喋るかもしれんぞ?」

ルル「……そもそも、お前が出てこなければ良かったんだろうがッ!」

C.C.「済まなかった……あまりに騒がしかったのでな」

ルル「くそッ……!」
   「……奴は絶対喋らない、お前の事は死んでもしゃべらないはずだ……」

C.C.「なぜそう言い切れるんだ?」

ルル「それが、枢木スザク……」
   「…………俺が信じている男だからだ……!」

C.C.「…………」

■エリア11政庁 総督執務室 ─────

クロヴィス「それは事実か?」

バトレー「はっ……どうしてあのような状態になったのかは不明ですが、
      「ヴィレッタは例の女と遭遇した可能性があります」

クロヴィス「ふむ……」

バトレー「当日の足取りを調べたところ、シンジュクゲットーの掃討作戦中に、」
     「サザーランドを放棄し、車にて租界に戻り、その後軍に発見された……」
     「発見当時は、まるで夢遊病者のようだった、と」

     「その、サザーランドを放棄した場所は……」
     「親衛隊が全滅していた場所です」

クロヴィス「!」ピク

バトレー「彼女は、検問を車で通過後、とある病院に立ち寄っています」
     「発見時、特に怪我などはしていなかったようですので、別の理由があったかと」

クロヴィス「病院の連中は?」

バトレー「はっ、ヴィレッタのことは知らない、と……みな一様に否定しています」

クロヴィス「ふむ……しかし、妙な話だね……?」

バトレー「おっしゃる通りです」
      「現在は病院の関係者をみな捕え、尋問をしている最中です」
      「民間人なので手荒なことはできませんが、何らかの結果は出るかと……」

クロヴィス「そこではない……」
      「……なぜ、サザーランドで戻らなかったのだろうね?」トン、トン
      「なぜ、わざわざ車を調達した?……彼女は、一人ではなかったのか?」

バトレー「!!」

クロヴィス「ヴィレッタは、例の女およびその脱出を手助けしたテロリストどもと遭遇、」
      「その際に女が何らかの"力"を行使したため、ヴィレッタは正気を失った」
      「そのヴィレッタを操り、検問を通過した……であれば…………」

バトレー「女とテロリストは……トウキョウ租界に潜んでいる、と!?」

クロヴィス「道理で、周辺ゲットーをいくら掃除しても出てこないわけだ……」
       「租界では、さすがに荒事はできないね?」

バトレー「はっ、手立てを講じます!」

クロヴィス「しかし、逆に好都合だな」ニヤッ
      「租界は、私の庭だ……どこにいようと、必ず見つけ出せるだろう……」

■夕刻 租界周辺ゲットー ─────

カレン(……どうしよう、本当に支援を打ち切られたら……)トボトボ…

    (わたしたちの活動は、その大部分がキョウトからの支援によって支えられてる)
    (それがあるから、日々の生活もかろうじて成り立ってるんだ)

    (もし、支援がなくなれば……ゲットーでの日本人の生活は悲惨を極める)
    (わたしや玉城さん達はともかく、扇さんのことが心配だわ……)

    (……ああっ、もう!なんで負けたのよわたしたち!)
    (毒ガスの強奪も失敗したし、わたしのグラスゴーも失うなんて……!)

    (気が付いたらブリタニア軍に包囲されてたとか、ほんっと最低だわ!)
    (キョウトも、もっと支援をよこしなさいよ!勝ってほしいんじゃないのっ!?)ボリボリ

    (…………今日も、カレーでいいよね……)ハァ…

??「……随分といらついてるな、紅月カレン」

カレン「!?誰っ?」バッ!


(ゲットーのうらびれた廃墟の中で、私の名を聞くことは殆どあり得ない)
(にも関わらず、背後から私の名を呼ぶ声に……私は驚いて振り向く)

(そこには、うず高く積み上げられたガレキの上に腰掛け、)
(微笑みながら私を見つめる、学生服の少年が……)
(そしてその傍らには細身の少女が、長い緑色の髪をたなびかせながら佇んでいた)

ルル「……さて、俺は誰だろうな?」

C.C.「……」

カレン「……誰よ、あんたたち?」

ルル「覚えてないのか?アッシュフォードで、同じクラスメイトだった男だよ」

カレン「……副会長の、ルルーシュ……?」

ルル「そうだ、ルルーシュ・ランペルージだ」

カレン「……何の用なの?」

ルル「死んだはずの君が、生きているのを偶然にも見かけてね、」
   「ずっと気になっていたのさ」ニコッ

カレン「そう……でも、あんたに関係ないでしょ」
    「第一、ここはあんたみたいなお坊ちゃまの……」…ハッ

    「…………今、あんた……紅月、って呼んだわね?」ギロ

ルル「ああ、無駄を省こうと思ってね」

カレン「ふうん……」(…チャキッ)
    「わたしのこと、随分と知ってるみたいね?」カツ、カツ…

ルル「ああ、色々と調べた」
   「カレン・シュタットフェルトこと、紅月カレンのことは、ね」
   「学園にいた頃はネコを被っていたようだな……実態と大違いだ」…ニヤ

カレン(こいつ、どこまで知ってるんだ……?)カツ、カツ…
    (こんなとこで待ち構えているってことは、わたしたちのグループのことも……)
    (……まずい、ここで逃したら)

ルル「……自分たちのことがバラされるかもしれない、かな?」

カレン「!!」ピタ

ルル「密告が目的なら、とっくの昔にしている……後ろ手に構えたナイフは収めてくれないか?」
   「俺が今日、君を待っていたのはほかでもない……」
   「俺たちを、君らの仲間にして欲しいんだ」

カレン「………………はあ!?」キョトン
    「何言ってんのよ、あんた……?」

ルル「そんなに意外か?」

カレン「意外も何も……あんた、ブリタニアの貴族サマじゃないの……」
    「仲間って、どういうことよ……」

ルル「どうもこうもない、ブリタニアをぶっ壊すのさ、俺は……なあ、C.C.?」

C.C.「……」プイ

カレン「…………はいはい、お坊ちゃまの空想には付き合ってらんないわ」
    「二度と私の前に現れないで……」クルッ…

ルル「先日のシンジュクゲットーでの戦闘、指揮したのは扇要か?」スッ…

カレン「!!!」ピタ

(無視して去ろうとしたところに、またしても意外な名を聞き……)
(私は、驚愕のあまり足が止まった)
(振り向くと、奴は、胸の内ポケットからメモ帳らしきものを取りだしていた)


ルル「調べたんだが、まあひどいものだ……」パラパラ…
   「包囲陣を敷き、退路を断って圧倒的火力で殲滅……ブリタニアの貴族が好む戦術だが」
   「フッ、あんな子供騙しの戦術すら打ち破れないとはな……」

カレン「……あんた……」ギュゥゥゥ…

ルル「本来、市街地戦は地理に詳しいゲリラ側が有利な情勢となる……」
   「部隊の運用に失敗しない限り、だがな」
   「結果は雄弁だ……お前らの指揮官は、部隊運用の才覚が欠如している」

   「記録では、化学兵器は奪われた、とあるが……ふむ、嘘だろうな」
   「それだけの戦果を挙げていれば、お前もそれほどしょげてなかろう」ニヤ

   「おまけに、随分と仲間を失った、か……」
   「手弁当でテロをしてたわけじゃなかろうが、これじゃ支援も打ち切られるだろうな」

カレン「…………」プル…プル

ルル「……どうするんだ?」パタリ
   「このままでは、日本を解放するどころか、自分たちが解散するしかなくなるぞ?」

   「お前たちも、俺と大して変わらぬ空想の世界に生きているようだな?」ニコッ

(……目の前に銃口を突きつけられたこともないような男が、)
(命がけで戦ってきた私たち、そして殺された私たちの仲間を罵る……)
(それも、微笑みながら、抉るように、核心を突いて、だ)

(これ以上ないほどの怒りに震えていた私はようやく、言うべき言葉を見つけた)


カレン「……なんで、あんたがそんなことを知ってるんだ……」

ルル「それに答える義務はないし、言う意味もないだろう」
   「"お坊ちゃまの空想"ではないことさえ理解してもらえたら、目的は達せられる」
   「どうだ、理解できたか?」

カレン「…………」

■前日の夜 クラブハウス ルルーシュ自室─────


C.C.「……しかし、レジスタンスの連中を使わずとも、」
   「ギアスで随時兵隊を集めればいいんじゃないのか?」

ルル「それは俺も考えたのだが、ギアスには大きな弱点がある」

C.C.「ほう?」

ルル「一度しか命令ができない、だから一人を一度の作戦にしか使えない」
   「試しに、『俺の言うとおりにしろ』というギアスを使ってみたが……」

C.C.「が?」

ルル「俺が言ったことしかできなくなった」
   「命令の条件があまりに漠然となると、自律的行動ができなくなるようだな」

C.C.「なるほど」

ルル「それに、万が一左目を失ったら、俺は全ての力を失うことになる」
   「例えギアスを失ったとしても恒久的に使える、俺の駒が必要だ……」
   「……何者も、俺やナナリーを踏み躙ることのできない場所を作るために」

C.C.「……スザクとやらの言葉か?」

ルル「ああ、そうだ」
   「今いるこのクラブハウスも、アッシュフォード家の力により存在する」
   「力がなくなれば、俺たちはここを追われ、また路頭に迷うことになる……」

ルル「……目が覚めたよ、奴の言うとおり、俺は安穏とした生活に知らずと慣らされていた」
   「虚構なのにな、この生活も……」フッ

C.C.「……」

ルル「俺のものだと言える場所を……世界を、俺は早急に手に入れてみせるぞ、C.C.」
   「それが、ナナリーもスザクも救える、唯一のルートだからな……」


─ ─ ─ ─


カレン「……よくわかったよ……」

ルル「そうか……」ニッ

カレン「……お前が、危険な存在だってことが!」シャッ!!

ルル「!!」バッ


(突如きらめいたナイフの切っ先を、俺はかろうじてかわした)
(ガレキから転げ落ちた俺を、C.C.が驚いた表情で見る)


C.C.「ルルーシュ!?」

ルル「くそッ、想定以上の短絡バカだな!」

カレン「紅月カレンをなめると、こうなるんだよッ!」ジャッ!!


(何度も繰り出されるナイフに、俺はよろめき転がりながら避ける)
(その俺の腹に、カレンは強烈な蹴りを食らわせた)
(胃がひっくり返るような衝撃と共に、口から胃液が溢れだす)


ルル「ぐえ……ッ!」

カレン「死になッ!」ブン!!

ルル「く!!」


(仰向けになった俺の胸をめがけ、振り下ろされたカレンのナイフ───)
(瞬間、己の胸に突き立ったナイフを想像し、俺は身を固くする)
(だが刃先がめり込んだのは……俺の胸ではなかった)


C.C.「ぐあ……っ」

カレン「!!!」

ルル「C.C.!」


(すんでの所で、俺に覆いかぶさるように飛びかかったC.C.……)
(その背中には、カレンのナイフが深々と突き刺さっていた)

C.C.「間一髪だ……くそ、これは痛いぞ……」

カレン「チッ!」タタッ…


(カレンは、小さく舌打ちをすると、その場から走り去った……)


ルル「おいッ、大丈夫かッ!?」

C.C.「くっ……ルルーシュ、いい加減にしろ……っ!」
   「その身を危険に晒すな、私が痛い目に遭うんだよ」
   「死なないと思って、盾代わりにするつもりか?……いたたた……」

ルル「済まなかったな……」
   「直情型だと推測していたが、あれほどとは思わなかった」

C.C.「とりあえず、抜け……背中に手が回らない」

ルル「わかった、いいか……むっ!」ヌポ

C.C.「ぐあああっ!」

ルル「おい!しっかりしろよ!」

C.C.「はぁっ、はぁ…………こら、ルルーシュ……」
   「こういう時こそ……言うべき言葉が、あるだろう?」

ルル「……ありがとう、C.C.」

C.C.「ふふ……このまま、しばらく……抱きかかえていろ……」ハァハァ
   「どうせ、あの女の行き先はわかっているんだろう?」

ルル「お見通しか……今だけだからな、落ち着くまでだぞ……」




■エリア11 兵舎隣接駅構内 ─────

バトレー「……先日、我々の化学兵器を奪ったテロリストどものアジトが判明した!」
     「シナガワゲットーの鉄道車両倉庫の廃墟近辺だ!」

     「我らブリタニア軍は、これから連中の息の根を止めるための夜襲を敢行する!」
     「周辺には名誉ブリタニア人にもなれぬ、低レベルのイレヴンどもがいるが、」
     「任務の邪魔になるなら殺しても構わん!」

クロヴィス「……諸君、私は戦果を期待している……」
      「ブリタニア帝国に相応しい、華々しき戦果を、輝かしき戦果を上げてくるのだ!」

ジェレミア「各隊、ナイトメアと共に列車に分乗せよ!行動開始ッ!」

      「軟弱なテロリストどもでは準備運動にもならんだろうが……」
      「フッ、ヴィレッタの仇だ、猫がネズミをいたぶるようにもてあそび、」
      「容赦なく地獄へ叩き込んでやろう……」

─ ─ ─ ─

ロイド「……さぁてと~、それじゃ、僕らもいこうかね~」

スザク「行くって……品川ですか?」

ロイド「他に行くとこ、あるぅ?」ニコッ

セシル「スザク一等兵、夜間作戦は経験ある?」

スザク「いえ……初めてです」

ロイド「そこんとこは心配ないよ~、何しろ君には、僕のランスロットがついてるんだから~!」
    「共同作戦の許可はすでに殿下にとってあるから、」
    「君はデバイサーとしてのスペックを存分に発揮するんだよ~?」

スザク「はい……全力でいきます!」

    (テロリストか……この間のことが気になるけど……)
    (まさかルルーシュがテロリストに関わってるとは思い難いし……)
    (きっと今頃は、クラブハウスで眠ってるだろう……)

■租界周辺ゲットー 扇たちのアジト ─────

『……"燈竜"、戻れ!火線を集中しろッ!』
『だっ、ダメだ!ナイトメアが暴れてる!そっちに行け……ぐあ』ザー
『仁科!弾持ってこい、仁科アァァ!』
『にっ……仁科は……死にました……くそおっ!加々美が行きます!どこですか!』
『…………』ザー
『しっ、白いナイトメアが……なんだよこいつ、なんだこの動きああァァァァ』ザー
『畜生があああァッ!落ちろ、落ちろおおおおッ!』
『"白鳳"、隊長が!…………誰か……誰かああァッ……!』


(その夜、私たちは、遠方で戦闘中の仲間たちが交わす無線を傍受していた)
(無線の向こうから途切れ途切れに聞こえる、爆発音、そして仲間たちの断末魔……)
(先日の、私たちが経験した悲惨な戦闘の情景が思い起こされるその音に、)
(私は胃をねじ切られるような……いたたまれない気持ちになった)


扇「……ちっ……畜生ッ……くそおっ!!」ポロ…ポロ…

玉城「これじゃ、品川の連中も……全滅じゃねェか……!」

井上「うっ……ううっ……」ポロポロ

南「ひでえ……」


(普段は温厚な扇さんが、それを聞きながら悔し涙を流している……)
(脚まで失った今の身では、きっとその悔しさは人一倍だろう……)

(…………でも……)


   (……お前たちも、空想の世界に生きているようだな?)


(……先ほどの、あの憎らしい男の言葉を思い出し……そしてふと気づいた、)
(これが、この悲しみが一体、何度目の繰り返しになるのか……)

(扇さんでは……私たちでは、ダメかもしれない)
(そう思った瞬間、言葉が思わず口をついて出た……)


カレン「…………世界は、変わらないよ……」

玉城「……ぁあ?」

カレン「今のままじゃ……ぜんぜん変わらないよ……」ポロ…

扇「……カレン?」

カレン「だって、私たち……勝てないもん……」ポロポロ

    「グラスゴーも失って、吉田さんたちも死んで……」
    「でも、敵はサザーランドをたくさん持ってて……」
    「私たちよりはるかに整ってた品川の拠点も、こんなに……」

    「…………無理だよ、こんなの……」
    「私たち、勝てない…………勝てないよぉ…………ッ!」ポロポロポロ

玉城「何言ってンだてめェ!」
   「勝てる!オレたちは勝てるに決まってンだろおッ!」ウルウル

井上「……」ポロポロ

南「……カレン……」

扇「……済まない、カレン…………俺が」

カレン「違うの!違うのよッ!そんなこと言ってるんじゃないの!」
    「気持ちなんかじゃないの……わたし……勝ちたいのよ……ッ!」
    「こいつらに…………絶対に……勝ちたいの……ッ……!」ポロポロポロ

井上「……カレンちゃん……」ポロ…

カレン「こんなの…………イヤだよおぉ……!」
    「わたし勝ちたいッ!……本当に、勝ちたいよぉ…………ッ!」
    「お願い……お願いよ……勝たせて……誰かあ……ッ……!」ポロポロポロ

扇「…………」ググッ…

(肺の中の空気を、すべてしぼり出すかのように……)
(私は、私の中に満ち溢れた悲しみを、悔しさを吐き出す)

(それを聞いて、皆がどうにかできるわけもないことを知っていて、)
(でも私には、もうそれしか手立てが残っていなかった)

(無線から時折聞こえる、射撃音、爆発音、そして絶叫……)
(それらに押し潰されそうな空気の中、誰も何も言えず、私はただ嗚咽していた……)


??「…………勝とう、カレン」

カレン「……!」ガバッ

扇「だ……誰だ……!」


(突如、背後から発せられた声に、全員が驚いて振り向く)
(……そこには、夕方に出会った学生服の男が、いつの間にか部屋の入口に立っていた)
(その背後には、私か刺したはずの女も……)


ルル「……俺が、お前を勝利に導く」

カレン「!!」ゾクッ…!


(私の、心からの訴えに呼応するかのように現れた、その男……)
(先ほどとは打って変わった真剣なまなざしは、自信に満ち溢れていた……)

玉城「なんだぁてめえ!ここにどうやってきたんだぁ!?」

南「誰だ、お前?……」

ルル「ルルーシュ……ルルーシュ・ランペルージ」
   「君たちの仲間になるために来た」

C.C.「……」

カレン「あんた……ここまで……!?」

玉城「おいっ、セイガクぅ!」
    「いきなり来て仲間だとか何とか、勝手にわけわかんねェ事言ってんじゃねえぞッ!」

ルル「……扇要は、お前か?」

扇「…………そうだ」

ルル「扇、お前はこのまま、シナガワの連中のようにブリタニアに潰されるのを待つ気か?」
   「それとも、紅月カレンに面倒を見てもらいながら、」
   「いつともわからぬ日本解放を、死ぬまで待ち続ける気か?」

扇「!!!!」ググッ

井上「な……なによ、こいつ……!」

南「てめえ!」

ルル「行動しなければ結果は得られんッ!」
   「扇要、脚を失ってからお前は、日本解放のために何かしてきたか!?」
   「ただアジトに籠り、災厄が自分たちの上を通り過ぎるのを待っていたんじゃないのか?」
   「リーダーが……キングが動かなければ兵は動かんッ!」

扇「……お前……」プルプル

玉城「やろう……扇が好き好んで動けねェと思ってんのかよッ!」
   「扇はなぁ……扇は、いつだってオレたちのことを考えて……」

ルル「だから、扇の代わりに俺が動いてやる」

扇「なに?」

ルル「資金は俺が用意した……」ズルッ…


(そう言うと、彼は背後に置いていたボストンバッグを開き、私たちの前に無造作に転がす)
(その中には、札束がぎっしり詰め込まれていた)


カレン「えっ……!」

扇「……!」

南「おっ、おい……こりゃ一体……」

ルル「作戦立案も遂行も俺がやる、お前たちは、俺の指示通りに行動すればいい」
   「そうすればお前たちを、必ず勝利に導いてやる」

扇「おっ……お前は、一体……?」

ルル「フッ……ブリタニアの学生さ」
   「ただし、ブリタニアとは少なからず因縁のある身だがな……」


(全くの予想外の来訪者……そして、予想できなかった提案……)
(あまりに急な展開に扇さんは、しばらくの間呆けたように彼を見ていたが……)


扇「…………君、実戦経験は?」キッ

ルル「ない」

扇「部隊を指揮した経験は?」

ルル「ない」

扇「オレたち以外の戦力は?」

ルル「ない」

扇「……本当に、全くないのか?」

ルル「ない、だが、ブリタニアを倒さなければならない理由がある」
   「その点で、俺とお前たちは共闘が可能のはずだ」

扇「……」ジ…ッ
  「……カレンのことは、前から知ってたのか?」

ルル「元、クラスメイトだ」
   「彼女の存在が公安に漏れているとか、そういうのではない」

扇「ふむ……」チラッ

南「……?」

扇「……南、玉城、井上……この近辺を探ってきてくれ」
  「こいつの仲間が潜んでる可能性がある」

南「……わかった」


(3名がアジトを出る……部屋には、私と扇さん、そしてこの2人が残った)
(扇さんは、天井を見上げて小さくため息をつく)


扇「フウ……たぶん、いないだろうな、君の仲間は」

ルル「さすがにわかってるな、組織のリーダーだけはある」ニヤッ

カレン「扇さん……?」

扇「……あまりに突然すぎてオレも混乱気味だが、お遊びじゃないということはわかった」
  「英雄症候群でもないことは、このカネが証明している」

ルル「……」

扇「ただ、オレたちを見くびっているのが気に食わない」
  「オレたちは、ただのテロリストじゃない……日本解放を目指す、同志の集まりだ」
  「お前の物言いは、オレたちをまるで将棋の駒のように思っている風にしか聞こえない」

ルル「それは否定しない……作戦の机上では、全てのものが駒となる」
   「俺自身も含めて、な」

扇「その駒にも、いろいろな事情や理由があるということがわかってるのか?」

ルル「紅月カレン、君はどういう理由でレジスタンスに参加した?扇要、君はどういう理由で?」
   「俺にだって理由がある、一人ひとりに理由があるのはわかっているさ」

   「だが、作戦遂行上ではそれらに無駄に拘るほど、敗北の足音が近づいてくる」
   「戦争は……精神論だけでは勝利できない」

カレン「……」

ルル「そして、扇要、俺の戦略にはお前も必要だ……協力してくれ

扇「なに!?……お前、オレの代わりにリーダーになる気じゃ……?」

ルル「結束力の強いチームに、いきなり入って統率できるなどとは思っていない」
   「それに、俺を信頼できると思えなければまとまるわけがないだろう?」
   「最初の作戦で、お前たちを信頼させよう」

扇「……」

ルル「これを持っていてくれ、連絡はこちらから入れる……それと、手付金も置いていく」
   「今日の所は引き上げる……顔見せ、ってやつだ」ニヤ

(そう言い、彼は転がしていたボストンバッグを拾い上げると、)
(中から札束1つと携帯電話らしきものを取り出し、扇さんに投げて渡した)
(そしてバッグを背中に担ぐ……振り向きざまに、呆然としている私と目が合うと……)


ルル「……」ジ-ッ

カレン「あ……あの……」

ルル「……C.C.を刺したことは気にしなくていい」
   「一機しかなかったグラスゴーを君が操縦してたということは、才能があるんだな?」

カレン「えっ?」

ルル「期待している……俺を信じろ」


(そう言い残し、去っていく彼の表情は、心なしか微笑んでいたようにも見えた)
(その後を、私が刺した女がついていく……私には、ちらりと目配せをした程度だ)
(……その背中は、鮮血で染まっていた)


カレン(やっぱり……!)

扇「な……!」


(……ブリタニア軍に蹂躙され、壊滅してゆく品川部隊……突然に現れ、仲間になると)
(宣言したあの男、ルルーシュ……そして、私に刺されながらも平然としていたあの女……)
(私は……何が起こっているのか、どうしたらいいのか、全くわからなくなった)

■租界とゲットー間の地下道内 ─────

C.C.「……お前は、天性の詐欺師だな」テクテク

ルル「人聞きの悪いことを……生まれながらの革命家だと言ってくれ」カツカツ

C.C.「ふふっ……で、作戦とやらは決まっているのか?」

ルル「ああ……真っ先にやらねばならんことが一つある」
   「クロヴィスのやつ、未だにお前を追いかけているだろう?」

C.C.「そうだな……そうだろうな」

ルル「それを止めさせる……奴を、暗殺するぞ……!」

C.C.「…………」

ルル「連中は陽動に使える、その混乱に乗じ、奴を引きずり出して始末する」

   「総督の暗殺は、連中の誰にも為し得なかったことだ」
   「しかし、俺ならできる……できる"力"がある」

C.C.「ふむ……」

   (……そうか、クロヴィスを殺す気か)
   (これで、さすがにシャルルにバレるな、私のことも……)
   (こいつが思うようにやらせはしたいのだが……さて、どうしたものかな……)

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