シャーリー「最悪の…」ルルーシュ「学園祭だ…!」ミレイ「そう?」(705)

前スレ:C.C.「わ、私がショタコンだと!?」マリアンヌ「クスクス」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/internet/14562/storage/1391267265.html)

これまでのまとめ:http://geassfun.at.webry.info/

 01 ルルーシュ「お前のせいなんだろうッ!」C.C.「私のせいですぅ!」
 02 C.C.「ボク、チーズクンダヨ!」ルルーシュ「えっ?」
 03 シャルル「いーむゎあぁ……」神官「えっ?」
 04 スザク「死なせてよ!」ルルーシュ「えっ?」
 05 ルルーシュ「デートか……」/ユフィ「デートです!」
 06 C.C.「デートねぇ……」/コーネリア「デートだと!?」
 07 カレン「わたしの紅蓮弐式!!!!!1」ゼロ「うむ」
 08 カレン「やっぱりわたしの紅蓮弐式!!!1」ゼロ「そうだな」
 09 ニーナ「ホモォ……」スザク「違うから!」ニーナ「ホモォ……///」
 10 ルルーシュ「マオ無双だと!?」
 11 C.C.「わ、私がショタコンだと!?」マリアンヌ「クスクス」

彡 ⌒ ミ 
(´・ω・`) はげるほどに!

.
■Intermission ─────

フクオカ基地が黒の騎士団に奪取され、ランスロットも奪われたとの一報は、
周防灘で中華連邦側とにらみ合いを続けていたコーネリアに衝撃を与えた。

 コーネリア「な……何だとッ!?」

 セシル『……現在、パイロットの消息は不明です』
      『その後の状況も一切……』

 コーネリア「バカな……連中と合流をせず、フクオカ基地を奪っただと!?」
        「しかも、我々が気づかぬ間に、だと……!?」

.
 コーネリア(キュウシュウブロックにいるのは騎士団の弱小シンパばかりだ、)

        (中華連邦軍を襲撃できるようなセクトは存在しないはず!)
        (それに、セクト間の連携もカントウブロックに比べれば貧弱、)
        (急ごしらえの集団にやられるほど中華連邦も愚鈍ではない!)

        (……まさか、ゼロ自身がカントウからここまで部隊を率いた!?)
        (我々がいる海峡を、潜水艦で突っ切ったのか!?)
        (なぜわからなかった!おのれ、黒の騎士団め……!)ギリッ…

現在、前線に出ていたギルフォードとダールトンの両名は、通話機能でこの話を
傍受していたが、彼女の思考をすぐに察した。

 ギルフォード『……総督、申し訳ございません!』

 ダールトン『今すぐに、全力を挙げて敵陣営を叩き潰します!』

.
 コーネリア「当然だッ!」

        「防衛ラインを突破したら、そのままフクオカ基地へ向かい、」
        「騎士団もまとめて叩き潰せ!」

 両名『イエス、ユアハイネス!』

間をあけずして、周防灘の九州沿岸のいたるところに、激しい火の手が上がり始める。
本陣を失い完全に烏合の衆と化していた中華連邦軍に、コーネリアの怒りを具現化
したかのごとくブリタニア軍は容赦なき打撃を加える。

と、そこへプライベートチャンネルでの通信が入った。
「ユーフェミア」と表示された呼び出しサインをコーネリアはタッチする。

 コーネリア「何事だ、副総督!」

.
 ユフィ『総督!いまそちらで、TVの映像を確認できますか?』
     『大変なことが……ご確認を!』

 コーネリア「何!?」

ユーフェミアの言葉を聞いた彼女は、素早くパネルを操作し、トウキョウ租界のTV局の
映像を映し出す。そこには……!

 ゼロ『私は、ゼロ……』
    『力ある者への反逆者であり、力無き者の味方である……』

 コーネリア「これは……!」

 ゼロ『日本人よ、そしてブリタニア人よ……私の言葉は、届いているだろうか……』
    『我々、黒の騎士団は、新たな日本の侵略者をここに捕縛した……』

.
映像は明らかに、フクオカ基地内の司令室で撮影されているものだった。
騎士団のメンバー10名程度を従えたゼロ達の前には、澤崎や曹将軍ら中華連邦の
兵士たちが縛られ、床に転がされていた。

 コーネリア「……特派!この映像の出どころはどこだ!」

 セシル『少しお待ちください……特定を……』
     『……フクオカ基地からです!』

 ロイド『それを租界で受信して、電波ジャックで放映しているようですねぇ……』

 コーネリア「おのれ……!」

.
 ゼロ『サワサキ……貴方は確か、日本再興を謳ったはずだ』
    『なぜ、中華連邦の将軍がここに同席を?』

 澤崎『……私の志に、同意してくださったのだ……』

 ゼロ『つまり、協力を仰いだ?ふむ、そういう見方もあるだろう……』カツ、カツ
    『……しかし私は、もっと妥当な見解を有している』…ピタ
    『君が、神輿に担がれた、という見解だ……どうかな?』クルッ

 澤崎『…………』ググッ…

 ゼロ『君の考えがどうであろうと、とった行動はそれにそぐわない』
    『サワサキ、君は戦後の混乱時に日本を脱出した、そして独力では敵わない』
    『相手なので中華連邦に縋った……それが全てだ』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

フジ鉱山の裾野にある桐原産業の中枢部では、電波ジャックによる海賊放送を
桐原ら六家の面々と神楽耶が見ているところだった。

 神楽耶(さすがゼロ様ですわ……)

      (あっという間に中華連邦軍を打ち破ってしまわれるなんて……!)
      (次にお話をお伺いできる時が楽しみですわ!)キラキラ

 公方院「ふっふっふ、あの、澤崎の顔……」
      「ネズミが大それた野望を抱くから、こうなるのじゃ……」

 宗像「しかしこれでは、コーネリアの面子も丸つぶれになるではないか」
    「……桐原よ、それも考慮した上での策なのだろうな?」 

 桐原「……」

.
宗像の疑念に、彼は全く反応を示さないまま、黙って放映を見つめる。
頭の中では、この"予定になかった放映"の真意を必死に推し量っている
最中であった。

 桐原(どういうつもりなのだ、ゼロよ……)
    (黒の騎士団への世論の支持はすでに十分得られておるはずだ)
    (いま以上を望むとなると、総督府との武力闘争は避けられぬ……)
    (そのことがわからぬお主ではあるまい……)

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ『……コーネリア総督、後のことは貴女にお任せしよう』カツッ
    『この地での警察権は、今はまだ、あなた方にあるがゆえに……』カツ、カツ…

.
カメラの前でゼロは、背中で手を組んだ格好でゆっくりと歩いてみせる。
視聴者に、己が思慮深げに見える効果を狙った動きだ。
やがて、足を止めると、カメラの方へ向き直る。

 ゼロ『……私は、いかなる侵略者をも認めない』
    『コーネリアよ……もし貴女が、この者たちと同様、この地の支配体制を』
    『維持することにのみ汲々とするのならば……』

    『……私は、貴方を侵略者だと見做し、これを打破する!』バッ!!

 コーネリア「!!」

マントを翻し、初めて明確に、ブリタニアに対し敵愾心を露わに示したゼロに、
コーネリアを始めとする視聴者たちは息をのんだ。
しかし、彼は続けて……

.
 ゼロ『だが……そうでないならば、』
    『すなわち、弱者への配慮も欠かさぬ治政を行うならば、』
    『この通り、我々もそれに協力を惜しむものではない……』

政庁でゼロの放映を見ていたユーフェミアは、彼の今の言葉に目を見開いた。

 ユフィ(えっ……ゼロが、私たちブリタニアに協力を?)

     (それはつまり、今の体制を認める、っていうことなの?)
     (では、今のエリア11の混乱を彼が収める……と、いう意味?)

もしかすると、平和な日々が来るかもしれない、という期待感に、ユーフェミアの顔が
自然とほころぶ。だが、周防灘にいるコーネリアの表情は変わらず固いままであった。

.
 コーネリア(フクオカ基地の占拠が"協力の証"だと……ふざけたことを!)

        (軍事力の示威と、テロリズムの続行を宣言しただけではないか!)
        (しかも、新たなテロが起きれば、その責任はブリタニアにある、)
        (という責任逃れもおまけに付けてな……!)

       「……いつまでこの茶番を私に見せつける気だ!」
       「イワクニ基地から重爆撃機を投入しろ!中華連邦も、騎士団も」
       「一兵たりとも生きて帰すな!」

.
■Intermission ─────

ブリタニア軍が中華連邦軍を打ち破り、先陣がフクオカ基地に到着した頃には、
すでに騎士団の姿はなかった。代わりに、ゼロの言葉通り、澤崎と中華連邦の
兵士たちが縛られ、放置されていた。

澤崎と中華連邦による、キュウシュウブロックの分離・独立計画は失敗に終わった。
澤崎はエリア11で受けるはずであった軍事裁判からの逃亡罪で投獄され、曹将軍
らは中華連邦との取引材料としてブリタニア本国へ護送された。
フクオカ基地およびキュウシュウブロックは、再びブリタニアの支配下となった。

.
……公にはされなかったが、ランスロットとそのパイロットの行方はわからぬままであった。
おそらく、騎士団が奪っていったものと思われるが、まだ就任していなかったとはいえ、
ナイト・オブ・スリーに相当する実力のあるパイロットが、テロリストに敗北した、ということは、
決して公表できないことであった。
特派の出撃は、公式の記録からも抹消された。

式根島での敗北で、一時期は組織の存続も危ぶまれた黒の騎士団は、未だ健在で
あることを内外に示した上、ついにブリタニアの支配体制への抵抗を明言した。
キュウシュウの平定により、表面上は落ち着いたかにみえたエリア11内だが、
その情勢は以前よりも緊迫の度合いを増していたのだった……

……だが、そのようなさ中にも。
モラトリアムという"空白期間"は、存在するのであった。

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■アッシュフォード学園 ─────

 ミレイ『……みっなさーん!お待たせしましたぁ!』

     『トウキョウ租界でいちばんオープンな、アッシュフォード学園の学園祭を』
     『はじめまあーっす!』

校内放送で響き渡る、租界の閉塞感を打ち破るようなミレイの弾ける声。
と同時に、学園の上空でいくつもの号砲が、ポンポンと打ち鳴らされる。
年に一度の、アッシュフォード学園祭の始まりの合図であった。

.
学園祭の間は、学園の部外者も自由に敷地内に入ることができる。
周辺の住民や、あるいはその賑やかさで租界内でも有名な学園祭を一目見ようと
遠方から訪れた人々で、園内は朝からごった返していた。

 ルル「……何とか、無事に始めることができましたね」フゥ

 ミレイ「そうねぇ~!」
     「1週間前は、さすがの私もヤバいかなって思ってたけどねぇ!」ニコニコ

園内に会長の号令が轟いてしばらくの後、生徒会室では生徒会メンバー達が、
ひとときの休息を楽しんでいた。

学園祭が始まるまでは様々な準備で忙しく働いていた彼らも、始まってしまえば
後は何らかのトラブルでも起きない限り、手放しでいられるのだ。
部屋の窓から、学園内の喧騒を眺めながら、めいめいが安堵の溜息をつく。

.
 リヴァル「ヤバいどころじゃなかったって!」
      「臨時予算通せ、って各クラブから鬼のように催促されてたし!」

 ニーナ「リヴァル、ずっと校内で追いかけられてたね」ニコニコ

 シャーリー「今回、大活躍してたよね、リヴァルって」ニッコリ

 リヴァル「今回だけじゃない、いつだって大活躍してるの!」ムスッ
      「……ルルーシュ、どうしてもっと早く来てくれないんだよぉ……」
      「副会長のお前がそうなるべきだっただろぉ~!」フウウゥゥゥ…

 ルル「悪かったよ、代わりにイベント中は俺が裏方に徹するよ」ニコッ
    「リヴァル、後は俺がやるから、学園祭を楽しんでこいよ」

 リヴァル「まぁ、そうするつもりだけどさ……」…チラッ

.
 ミレイ「遠慮せず、楽しんでらっしゃい!」ニッコニコ!!

 リヴァル「ええっ!?会長は行かないんですかぁ!?」ウルウル

 ミレイ「んー、副会長だけに仕事させちゃ、ねぇ……?」

 ルル「…………」ポリポリ
    「会長……しばらくは俺一人でも十分ですよ、」
    「みんなで行ってきてください」

 ミレイ「そうお~?」…チラッ
     「……って、本当は、シャーリーと二人っきりになりたいのかな?」ニマ

.
 シャーリー「な!!!///」ピク

 ルル「……」ゴホン

 リヴァル「ああ!なるほど!」
      「じゃあ後は若い二人に任せて我々は!」ニカーッ!!

 ミレイ「んー、そうね、じゃあいこっか、ニーナ?」ニコッ

 ニーナ「えっ、私……?」

 リヴァル「えっ、ニーナをご指名っすか……?」ウルッ…

 ミレイ「たまには、一緒にお祭りを楽しもうよ!ね?」
     「大丈夫よ、わたしずっと一緒にいるから!」

 ニーナ「うん…………」…コクリ

.
 ミレイ「……ん!」ニコッ
     「シャーリーはどうする?ここに残る?」

 シャーリー「あっ……えっと……」…チラッ

 ルル「……俺はどこへも行かないよ、」ニコッ
    「存分に楽しんだら、戻ってくるといい」

 シャーリー「……うん、わかった!」ニッコリ

 リヴァル「あの、ミレイさん?オレは…………」

 ミレイ「どっちでもいいわよ?」キョトン

 リヴァル「い、行きます!!ぜひご一緒させてください!!!!!」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル(……やっと一人になれたか)フゥ

……生徒会の面々が部屋を後にするのを待ち、彼は溜息をひとつつく。
生徒会の業務も含め、今日は普段以上に劣悪なスケジュールをこなさないと
ならないのだった。

 ルル(いま咲世子は俺の代わりにナナリーを迎えに行っている、それが戻って)
    (くるのがそろそろだが、そこからはナナリーと一緒に学園祭を巡るつもりで)
    (いた……しかし、今の話でシャーリーとも共に過ごす案件が発生した……)

    (しかも、それだけではない!)
    (カレンに、おまけにユフィまでもが……!)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……数日前の深夜、騎士団アジト。
ルルーシュ……ゼロは、騎士団が決起しトウキョウ租界を侵攻することになった際の
戦略を、会議室で藤堂らと共に練っていた。

 藤堂「……やはり、報道関係の抑え込みは急務となる」

 ゼロ「うむ、不要なパニックを起こさぬためにもな」
    「そこは扇とディートハルトに任せてある」

 卜部「このエネルギー集積所は、ブリタニア軍のものか?」

 朝比奈「そこも抑えることができれば、補給の問題がクリアされるね」
      「戦略ポイントに加えとこう」

.
 千葉「しかし、実際に周辺ゲットーから租界へ侵攻するとなると、」
    「租界の階層構造がそのまま障壁となりますね……」

 藤堂「そうだな……」
    「そこをどうやってクリアするか……」

その時、午前0時を知らせるアラームが小さく鳴った。
ゼロは、目の前に広げていた巨大なファイリングを閉じる。

 ゼロ「その部分の攻略は、私が考えておく」
    「今日はここまでにしよう」…バタム

 藤堂「うむ」

.
会議の参加者がそれぞれ席を立ち、部屋から出てゆく。
と、それと入れ替わりにカレンが入ってきた。

 カレン「……あの、ゼロ?ちょっといいですか?」

 ゼロ「ん?カレンか?」
    「まだ帰ってなかったのか」

 カレン「はい……」

彼女は、すれ違いで出てゆく藤堂らを見送りながら、曖昧な返事を返す。
彼らがみな部屋を出たのを確認すると、書類を片付けているゼロに声をかける。

 カレン「……ルルーシュ、」

 ゼロ「……なんだ?」バサバサ

.
 カレン「あのさ、もうじき、学園祭だよね……?」

 ゼロ「学園祭?」ピタ
    「ああ、アッシュフォードのか?」

 カレン「うん、それそれ」
     「ルルーシュ、生徒会メンバーだから、今そっちも忙しいんじゃないの?」

 ゼロ「ああ、忙しいな」
    「だが、失敗しても人が死ぬわけじゃない、気楽なものだ」

.
仮面の下の、彼の微笑が透けて見えたような気がして、カレンも微笑んだ。
ルルーシュが続けて言う。

 ゼロ「で、学園祭がどうしたんだ?」

 カレン「……わたしね、学園祭、楽しんだことがないのよ」

 ゼロ「ふむ?」

 カレン「わたし、学園じゃ病弱な女子って"設定"だったし、」
     「学園祭の日は学校を休んでたしね」

 ゼロ「ほう……」
    「……それはわかったが、何が言いたいんだ?」

.
 カレン「……学園祭、行くと思う」

 ゼロ「そうか、警察には気を付けろよ……ん?」
    「ちょっと待て、君は確か、学園では死亡したことになっていただろう?」

 カレン「もちろん変装するわよ、わたしだってわかんないようにね」

 ゼロ「ふむ……」
    (まあ、彼女が潜入捜査で培った技術が役立つだろうが……)
    (だがなぜ、彼女はそこまでしt)

 カレン「だからね、ルルーシュ、わたしを案内してよ」ニコッ

 ゼロ「……なんだと?」

.
 カレン「学園祭が始まれば、ルルーシュも時間がとれるんでしょ?」
     「一緒に回ってよ」

 ゼロ「バッ!……何を考えているんだ!?」

 カレン「別に、1日中付き合えってことじゃないわよ、」
     「2時間くらい、付き合ってくれたらいいわ」

 ゼロ「いや待て!俺は当日は、生徒会室でナナリーと……」

 カレン「そうそう、ナナリーちゃんにも会ってみたいし」
     「挨拶くらい、してもいいでしょ?わたしの事は知らないでしょうし」

 ゼロ「確かにナナリーは中等部だから、君の事は知らないだろうが……」
    「生徒会にはシャーリーらもいる、クラスメイトだったから君を知っているだろ!」

.
 カレン「その子らがいたら、姿を隠すわ」
     「いない時だけ、ね、当日よろしく!」

 ゼロ「おい、カレン!」

 カレン「紅月カレン、帰宅しまーす!」テクテク…バタン

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル(……あれから今日まで、学園祭のことについて彼女と話す時間が)
    (できなかった……今日、カレン襲撃がある可能性が、極めて高い!)

    (しかし、黒の騎士団の総司令たるこの俺に、学園祭を案内しろだと!?)
    (一体何を考えているッ!)
    (カレンについては、籠絡するほど逆に俺の負担となるようだ、今後の戦術を)
    (修正せざるを得ないな……!)

 ルル(……そして、ナナリーからうちの学園祭の賑やかしさを聞いたユフィまでもが)
    (ここに来たいと言っていた……!)
    (コーネリアに睨まれていたが、ユフィが懇願すれば護衛付きでのお忍びを)
    (許してしまうだろう、なぜならそれがコーネリアだからだ!)
    (可能性は80%以上、これも回避不可能なルートだ……)

    (つまり最悪の場合、俺は、ナナリーの車椅子を押しながらシャーリーとカレンと)
    (ユフィと、おまけにブリタニアの護衛を引き連れ学園内を練り歩くことになるッ!)
    (何てことだ、こんなバカな話があるか……ッ!)

.
こういう時こそ咲世子を影武者として用いたい所だが、同じ学園内で彼が2か所で
同時に目撃されることになると非常にまずい。
また、さすがの咲世子も、この5名を同時に相手にしながらルルーシュを演じきるのは、
至難の業となるだろう。

 ルル(……結局、最後に頼れるのは己のみか……!)ギリッ…


■同時刻 アッシュフォード学園 敷地内 ─────

 カレン「……久しぶりだわ、ここに来るの……」
     「相変わらず、呑気な校風ね」テクテク

.
 C.C.「それがここの"売り"だろう」テクテク
    「それよりも、その帽子、決して外すなよ?」

 カレン「わかってるわよ……」テクテク
     「でもどうせ、誰も私のこと、覚えちゃいないわ」

 C.C.「そうだな……そうならいいがな」テクテク

カレンとC.C.の2名は、広大な敷地内を生徒会室へ向けて歩いていた。
学園近くのコーヒーショップで一旦待ち合わせをし、連れだってきたところだ。

.
カレンは、シンジュク事件の際にテロに巻き込まれて死んだことになっている。
つばのある帽子に大きめのサングラスをかけ、顔が見えないよう配慮していた。
C.C.はといえば……

 カレン「……それ、学園の制服じゃないの」テクテク
     「どうやって手に入れたのよ」

 C.C.「奴が、いとも簡単に手に入れたぞ」テクテク
    「それに学園の中を歩き回るんだ、これ以上の変装はあるまい」

 カレン「まあ、確かにそうだけど……」
     「あんたが一緒にいるなら、私も目立たないだろうしね」

.
 C.C.「そうだな、私に比べると、お前は存在が地味だしな……」

 カレン「……そういう意味じゃないんですけど!!」…ピタ
     「服装のバランス的な話よ!」

 C.C.「ああ、そういう意味か」ニコッ
    「自分を卑下することはないと、励まさねばならないかと思ったよ」

 カレン「余計なお世話よ!」プンスカ

 C.C.「ところで……」
    「世界一のジャンボピザは、いつ出来上がるんだ?」

.
 カレン「さっき校門で貰ったパンフに書いてあったわよ、えっと……」カサカサ
     「……午後からの出し物みたい」

 C.C.「ふむ、午後か……」ジュルル
    「まあ楽しみは、後になるほど喜びが大きいからな」
    「それまでは、ルルーシュをからかって遊ぼう」

 カレン(ナナリーちゃんもいる、って言ってたわね、確か)
     (あと、シャーリー……)カツカツ

     (……ルルーシュと、どのくらいの関係になっているのか、見極めさせて)
     (もらうわよ……場合によっちゃ、"処置"しないとね……)カチッ…

.
彼女は、下げたポーチの中身を確認するフリをしながら、飛び出し式ナイフの感触を
確かめると目を細める。

 カレン(ルルーシュがゼロだと見破られる可能性、もうだいぶ減ってるはずだ)
     (なら、あの子ももう用済みのはず……)
     (これ以上、あいつのあんなだらしない姿を見たくないし……)

     (……ふふ、大丈夫よ、ルルーシュ……殺しはしないわ)
     (彼女にはちょっとおびえてもらうだけよ、貴方には、得体のしれない)
     (裏の顔がある、ってね……これも、騎士団のためよ)カツカツ…

彼女は顔を上げると、C.C.に微笑みかける。

 カレン「……そうね、楽しみだわ」
     「あんたも一緒だから、きっと驚くわよ?」ニコッ

 C.C.(……どうしたものかな)…チラッ
    (何か騒動を起こすのなら、ピザができた後にしてもらいたいのだがな……)

.
■同時刻 政庁 通用門 ─────

いま、一台の黒塗りの公用車が、政庁から静かに走り出るところであった。
それは、総督や副総督専用の公用車……窓ガラスにはスモークがかかっていて
中が見えないが、その車内には、当然のことながら……

……否、ルルーシュにとってはより悪いことに。

 ユフィ「……お姉様、本当にご一緒されるとは思っていませんでしたわ……」

 コーネリア「キュウシュウの件が片付いて、丁度一息つけた所だ」

        「ユフィ、エリア11に来て以来、まだどこにも共に出かけて」
        「なかっただろう?」

 ユフィ「ええ、お姉様はずっと公務でお忙しい身でしたものね……」
     「……でも、ほんとに学園祭でよろしいのですか?」

.
 コーネリア「ルルーシュらもいるのだろう?」
        「……アレの、学生らしい姿を見ておくのも一興だ」ニヤ

 ユフィ「ふふ……ルルーシュ、きっと驚くでしょうね」ニコッ

そう、事もあろうに、コーネリアまでもが学園祭に向かっているのであった。
今日はお忍びということで、ボディガードが数名のみの付き添いであった……
が、その少し後方からは、不測の事態に備えて数十名の兵士が十台以上の
ワゴン車に分乗し、彼女らにしずしずと付き従う。
学園到着後、彼らはいつでも出動できるように園外で待機する予定であった。

ユーフェミアは、朱色のジャケットにフリルのついたキュロットという軽装、
そしてコーネリアも珍しく、ボディラインを強調したワンピースに胸元には大きなリボンを
あしらうというカジュアルな装いであった。
注視しなければ、彼らがエリア11の総督と副総督であるとは誰も思わないだろう。

.
 ユフィ「お姉様、学園祭では、ヤタイというものがあるそうですわ」
     「それが、ずらりと並んでいて、とても賑やかなんだそうです!」

 コーネリア「ヤタイ?」
        「なんだそれは?」

 ユフィ「学生たちが運営する、小さな模擬店舗だとか……」ニコッ
     「ジャンクフードやグッズを売っているって、ナナリーが言ってましたわ」

 コーネリア「ふむ……しかしそれは、無許可営業ではないのか?」ギロ
        「安全や衛生管理の責任はどこに属しているのだ?」
 
 ユフィ「た、たぶん学園から総督府に届けは出ているのでは……」アセアセ
     「お姉様、あまり細かな所まで規則で縛り上げるのはいかがかと……」

.
 コーネリア「ふふ……冗談だよ、ユフィ……」ニコッ

        「私もそこまで堅物ではない、無礼講くらい心得ているさ」
        「……だが、ジャンクフードにはあまり手を出すなよ?」

 ユフィ「はい、控え目にします!」ニッコリ


■同時刻 アッシュフォード学園 敷地内 ─────

 ジェレミア(ふふ、今日は学園祭などという催しの最中だったか?)
       (まことにホリディ、これだけ騒々しいなら、私も風景の中に)
       (溶け込んで目立たぬこと水の如し……)カツカツ

.
ヴィレッタら"特捜隊"から離れたのち、追走をかわすためしばらくは地下に潜んで
いたジェレミア。

ルルーシュに接近する機会をずっと伺っていたのだが、ここしばらくは彼への世間の
注目度が高かったため、思うようにいかなかった。だが、そのほとぼりも冷めてきて、
しかも本日は部外者の立ち入りも全く問題ないという学園祭だ。
彼は、喜び勇んで学園の敷地内へ足を踏み入れたのだった。

当然のことながら、衆目を全力で集めるほどに目立つ彼だが、これまたお構いなしに
敷地内をずんずんと歩く。

 ジェレミア(今、あのお方には忠節の騎士がニードユー……)カツカツ
       (私が陰もしくはひなたで、お守り申し奉り候わば……)

       (何しろ、ここには危険なR反応が多数接近……)
       (あそこにも、ここにも、そこにもどこにもあちらにも……)

.
……そこまで考えて、ジェレミアはふと、あることに気づく。
歩みを止め、祭りの喧騒を見回しながら……

 ジェレミア(……反応が、以前より増えリング?)キョトン

       (いや、今日はこれだけの人数がこの狭い区域内にいるのだ、)
       (あるいは、コードRと接触したことのある人間が他にいても、)
       (不思議はノーカウント……)

       (……しかし待てジェレミア、忠義の男よ)
       (もし、これがそうではない、とするならば……?)

.
人ごみの中、油の切れた機械のようにピタリと立ち止まったまま、ジェレミアは
頭部を小刻みに震わせ始める。やがて、

 ジェレミア「ぬぬう、ぬぬうううぅぅ……まさか……!」ガクガク
       「ぬうううううう……ぬおおおおおおッ!」ガアッ!!

突如、彼は咆哮を上げ、周囲の人々を驚かせる!
と同時に、顔を左右に素早く、何度も振ったかと思うと……!

 ジェレミア「……ルルーシュ様の居場所、知らずにアンノウンであった!」
       「どこですか、一体どこなのですかルルーシュ様アアァァ……!」ドカドカ…

.
■同時刻 租界 環状モノレール車内 ─────

……ラッシュアワーは、すでに過ぎていた。

6両編成のモノレールの車内は、空席が目立つ状況だ。そのうちのひとつに、
枢木スザクは一人で座っていた。
車両の穏やかな揺れに身を任せながら彼は、今朝アジトにて扇から聞いた話を
思い起こしていた……

 スザク(……え、紅月隊長が?)

 扇(そうだ……かつて彼女もいた学園の催し物を見に行く、と言っていた)
   (だが、彼女は、そういうことができる立場にないんだ)

.
 スザク(というと?)

 扇(その学園では、カレンは死亡、除籍したことになっている)

 スザク(!!……そこに向かう、よほどの理由があるのですか?)

 扇(わからない……何らかの関係があるとすれば、彼も……)
   (ルルーシュも、そこの学生である、ということくらいだ)

 スザク(アッシュフォード学園ですか!?)

 扇(そうか、それも知ってたか)
   (なら、話が早い……)ガタッ

   (……枢木君、カレンを追ってアッシュフォード学園へ向かってくれ)
   (少し、嫌な予感がするんだ……)

.
眼下を流れ去るゲットーの風景を眺めながら、彼はカレンの行動について
いろいろと推測をしてみる。

 スザク(どうしてだろう……学園が、恋しくなったのかな?)

     (それにしても、まさか自分を死んだと思っている友達に逢いにいくとは)
     (思えない……ルルーシュくらいしか、逢える相手はいないはずだ)

     (となると、とりあえずはルルーシュの所へ行ってみるしかないか)
     (事前に、彼にも伝えておいた方がいいかな?)…カチ

.
彼は、そう考えながら胸元のポケットから折り畳んだ状態のケータイを取り出す。
それを開き、ボタンをいくつか押したところで、少し考え直す。

 スザク(……彼も知らないのだろうか、紅月隊長の行動のことを?)
     (もし彼女の独断なら、後に組織の亀裂の要因になる可能性もあるのか?)
     (彼女の性格を考えると、彼には言ってないかも……)

しばらく画面を眺めたのち、スザクはケータイを再び閉じた。
胸ポケットにそれを収めると、窓枠に肘をつき、窓の外の風景に視線を戻す。

 スザク(……ルルーシュの傍に潜んで、監視していよう)
     (それが一番、良い結果が出せそうだ)フゥ…

.
■アッシュフォード学園 ─────

カレン、C.C.にユフィ、コーネリア、そしてスザクにジェレミアまでもが同時に
ルルーシュに迫りつつあるという危機。
もしこれが一堂に会した場合、一体どれほどの破滅的状況に陥ることに
なるのか……だが、

 ナナリー「今日は、ずっとお兄様と一緒にいられますね!」ニコニコ

 ルル「ああ、一緒に学園祭を楽しもうな……」ニコニコ

 咲世子(お二人とも、本当に嬉しそう……良かった……)ニコニコ

当のルルーシュは、つい先ほど生徒会室に到着したナナリーの笑顔を見つめながら
この日はずっと一緒に過ごせる喜びで胸をいっぱいにしている真っ最中であった。

.
 ルル「しばらくしたら、シャーリーも戻ってくると思う」
    「彼女も俺たちといっしょに回りたいらしいんだが……」
    「戻ってきてからでも、いいか?」

 ナナリー「ええ、大丈夫です」ニコッ
      「それより……わたしが、お邪魔じゃないんですか?」

 ルル「何をバカなことを!」クワッ!
    「お前との約束が遥かに先だったし、彼女はついでだ!」

 ナナリー「……お兄様、そういうことを言ってはいけません」

 ルル「えっ?」

.
 ナナリー「シャーリーさんは"彼女"でしょう?」キリッ
       「もっと大切になさらないと、いけないと思います」

 ルル「うっ!……だ、だが、俺はお前の事が……」

 ナナリー「私は、お兄様がご一緒してくださる時があれば、それでいいんです」
      「私はお兄様を愛していますし、お兄様も私を愛してくださっている……」
      「その想いだけでも、十分です」ニコッ

 ルル「ナ……ナナリー……!」ウルッ…

 咲世子「ナナリー様……」ウルッ…

彼女の言葉に、改めて妹への愛情が迸る感覚を覚えるルルーシュ。
迫りくる危機を敏感に察知する肌感覚が、今は完璧に鈍っていたのだった……

.

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄彡⌒ ミ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        ―――― と(´・ω・`)        ̄ ̄ ̄ ̄
   ̄ ̄ ̄  ――――‐/  ⊂_ノ    ―――__    ――
      ――     ./ /⌒ソ
     ̄ ̄       -'´       ̄ ̄ ̄
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      俺たちの戦いはこれからだ!(脱毛

はげ乙!

ハゲ復活してたのか
おつ

彡 ⌒ ミ   >>52>>53 
(´・ω・`)  おつありです!ハゲは決して死なぬ!(毛根除く

.
と、その時。
生徒会室の扉をノックする音が響く。

 ルル「!」ピク

 ナナリー「あら、どなたでしょう?」

 咲世子「誰でしょうか?……どうぞ、お入りになってください?」

彼女の言葉に、カチャリ、と音が鳴りドアがゆっくりと開かれる。
そこから顔を覗かせたのは……

 シャーリー「……早く、戻ってきちゃった……///」

 ルル「シャーリー……!」

.
 ナナリー「こんにちは、お邪魔しています!」ニッコリ

 シャーリー「あー、ナナちゃん!久しぶりだね!」ニコッ!!
        「今日はずっと、こっちにいるの?」

 ナナリー「はい、お兄様が、学園祭を案内してくださるとおっしゃったので……」

 シャーリー「そっか、良かったね!」
        「……って、あれ?じゃあ、ルル、ひょっとして今から……?」

 ルル「あ、ああ……」…プイ
    「その、……前に、ナナリーと、約束を……」

.
 シャーリー「……」
        「…………」

視線を逸らしながら、そう呟いたルルーシュ。
その態度を見て、シャーリーは状況を瞬時に悟る。

 ルル「……あ、いや、君がもし良ければ、妹も一緒に」

 シャーリー「……あちゃー!そっか!」パシーン!!

.
突如、大変なことに気づいたとでもいうように、せいいっぱいの笑顔を作って
自分のひたいを叩くと、

 シャーリー「ごめん、ナナちゃん!お邪魔だったね!」

 ナナリー「えっ、あ、いえ!?」

 シャーリー「ルルもちゃんと言ってよ、先に約束があるならあるって!」

 ルル「いや、ちょっと待ってくれ……」

 シャーリー「ああっ、さっきのたい焼き、限定販売だったぞ、そう言えば!」バアン!!
        「わたし、あれ買わなきゃ!ごめんねルル、また後でね!」バタバタ!!

 ルル「おい、シャーリー!」

.
早口でまくしたてた彼女は、全く止める手立てもなく……
扉を勢いよく開くと、つむじ風のように駆け抜けていった。

 ナナリー「……お兄様……」

 ルル「…………ナナリー?」
    「後で一緒に、シャーリーを探しに行かないか?」

 ナナリー「ええ、そうしましょう」コクリ

 咲世子「ルルーシュ様、あの方をお探しの間、私が留守番をいたします、」
      「お気兼ねなく、行ってらっしゃいませ」ニコッ

 ルル「ああ、済みません……」
    「もう一人、来客があるかもしれないんだ、それを待ってから行きます」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「……ん?あの娘……?」

 カレン「え、なに?」

 C.C.「いや、今あそこを歩いてる娘、確かシャーリーという娘だ」

 カレン「!!」ピクッ
     「どこ?どこにいるの?」

 C.C.「ほら、あそこ……」

.
C.C.が指差した先には、クラブハウスの方からこちらへ向かって、俯きながら
とぼとぼと、寂しそうに歩いているシャーリーの姿があった。

 カレン「……ああ、あれが……例の"彼女"ね」
     「覚えがあるわ」

 C.C.「ふむ……おおかた、ナナリーに奴を奪われた、という所だろう」
    「奴は、今日は朝から妹と一緒に過ごすと嬉しそうに言っていたからな」

 カレン「相ッ変わらずのどシスコンね」ハァ
     (……ナイスタイミングだわ、あの子が一人でいる方が都合がいいし)

カレンは、周囲に素早く目配せをすると、明るい声でC.C.に言う。

 カレン「……ちょっと、さっき気になる店があったのよ、」
     「あんた先に、ルルーシュんトコに行っててくれない?」

.
 C.C.「ん?ああ、わかった……」
    「……あまり浮かれるなよ?」

 カレン「わたしはいつだって冷静沈着よ」ニコッ

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……その頃、学園の正門近辺には、黒塗りの公用車が停止していた。
ドアが開き、ユーフェミアとコーネリアが連れだって降りてくる。

 コーネリア「ふむ、ここか……」

 ユフィ「ナナリーの言っていた通り、とても賑やかですね!」ニコニコ

 コーネリア「うむ……市井の集いというのも、良いものだな」
        「特に、反政府組織ではない、ごく普通の市民の集いはな」

.
 ユフィ「もう、お姉様ったら……」
     「今日は、そういったことはお忘れください!」

 コーネリア「ふふ、そうするさ」
        「さあ、まずはルルーシュ達を驚かせに行こう」

 ユフィ「はい!」ニコッ
     「えっと、確か、クラブハウスは……」キョロキョロ

コーネリアは、彼女らの背後から近付いてきたボディガードの方を振り向き、
命令を下す。

 コーネリア「お前たちは、私たちの少し後ろからついてこい」

.
 ガード「……それでは、総督や副総督を完全にお守りすることができません」
     「お断りいたします」

 コーネリア「無粋な奴だな……」
        「来るな、というのではない、少し離れて来いというのだ」

 ガード「しかし、我々の任務は……」

 コーネリア「私が、そんじょそこらの男に組み伏せられる女だと侮るか?」ニッ

 ガード「いえ、そのようなことは……」

 コーネリア「私が良いと言っているのだ」
        「是も否もなかろう」

.
彼女の意外な命令内容に、ガードたちは困惑した風に互いに顔を見合わせるが、
改めてコーネリアの方を向き、返事をする。

 ガード「……では、即応可能な距離で護衛いたします」

 コーネリア「うむ、それでよい」コクリ

彼女がボディガードとそのようなやりとりをしていたちょうどその時、ユーフェミアは、
正門を通り抜けようとしていたとある人物の姿を見かけた。
その瞬間、思わず身体が硬直する……!

 ユフィ(……えっ、あれは、スザク!?)ビクッ

.
 スザク(……相当、偉い人たちっぽいな)…チラリ

彼は、ユーフェミアらの集団の方をちらりと見たが、まさか総督と副総督がこの学園祭に
来ているとは夢にも思っていない。彼女にも気づかず、黒服の男たちの姿を認めると、
少し足を速めて園内に入っていった。

ユーフェミアは、もうずいぶんと彼と言葉を交わしていなかった。
スザクのケータイもいつしか解約され通話不能となっており、ユーフェミアは内心、
押しつぶされそうな孤独感を常に感じていた。

彼に嫌われたならそれでもいい、しかしこのような、不完全燃焼のような"別れ"は、
彼女にとってはとてもやりきれず、陰で思い悩んでいたのだった。

.
それが突如……降ってわいたかのような"出会い"のチャンスだ。
ユーフェミアは、今日こそは必ずスザクと顔を合わせ、疑念をはっきりさせようという
決断を密かに抱いた。彼女は、弾けるような笑顔でコーネリアの方へ振り向く。

 ユフィ「お姉様、さあ行きましょう!」
     「早く、早く!」ニコニコ

 コーネリア「おっ、おい、ユフィ!?」
        「そう強く腕を引くな……おい?」キョトン

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ジェレミア(ふむ、ルルーシュ様は生徒会の役員であったか)カツカツ
       (さすがはマリアンヌ様のご子息、既に王者の風格を備えたキング……)

その辺の生徒を捕まえ全力で道を尋ねた末、ルルーシュがいるであろう場所を
突き止めたジェレミアは、生徒会室へ向かっていた。

 ジェレミア(……しかし、これはどのような奇妙な奇天烈、)
       (生徒会室へ近づくほどに、私の感知能力がギンギンである……)

       (……まさか、ルルーシュ様の傍に、恐るべきテロリストが潜んでおられる?)
       (すべてが手遅れとなるならば、益々私の能力が……)

.
ついに、生徒会室の扉の前に立つジェレミア。
彼は、誇らしげな笑顔をたたえると、ゆっくりと2回、ノックをした。

 ジェレミア「……ルルーシュ様、ルルーシュ様ァ!」ドンドン
       「忠節の騎士ジェレミア・ゴッドバルト、只今参上でありました!」

室内にいたルルーシュらは、それに気づく。
が、その来客は、もちろんルルーシュの予定にないものであった。

 咲世子「……お待ちの方ですか?」

 ルル「いえ……騎士候の来客予定はありません」
    (ジェレミア?ジェレミア……あッ、あの時の!?)

.
クロヴィスの誘拐時にギアスをかけ、スザク処刑の阻止作戦ではレジスタンス達を
無抵抗で通過させたジェレミア……"反逆者"のぬれぎぬを着せられ、すでに処刑
されたものと思っていた男の、突然の登場。

瞬間、ルルーシュの表情が僅かに険しくなったのを悟った咲世子は……

 咲世子「……不審な方のようですね、」
      「私が応対いたします、ここでお待ちください」ニコッ

 ルル「あ、ああ……お願いします」

扉を静かに開き、外に立つ者の姿を確認した咲世子。
だが、ジェレミアの異様ないでたちに、さすがの彼女も瞬間、身を固くした。

.
 咲世子「……あ、失礼いたしました」

      「ルルーシュ様とのお約束はお伺いしておりません、」
      「ここでご用件を承ります」

 ジェレミア「……君は、ルルーシュ様のベッドルームか?」ギロ

 咲世子「ベッ!?……」
      「……わたくしはベッドルームではございません」…ピク

 ジェレミア「ああ、そうではなかったのだ」コクッ
       「君は、ルルーシュ様のベッドルームですか?」

 咲世子「……わたくしは、ベッドルームではございません、メイドです」ピキッ

.
 ジェレミア「なるほど、それである」コクコク
       「しかし意外のようだ、君は"できる"者だと感じるが……」

 咲世子「!」
      「……失礼ですが、ご用件は?」

 ジェレミア「うむ、それだ、ではルルーシュ様と伝言をお願いする、」
       「忠節の騎士が、貴方をお守りいただくためにライジングです、と」

 咲世子「かしこまりました……少々お待ちくださいませ」…カチャリ

彼女はそっと扉を閉めると、背後のルルーシュの方に振り向き近づく。
その、これまで見たことのない咲世子の不快げな表情に、彼らのやりとりを聞いていた
ルルーシュも無理はないと思った。彼らは小声で話をする。

.
 咲世子「少し頭がおかしそうな方ですが……」ボソボソ

 ルル「俺もそう思いました」
    「……追い返しましょう」ボソボソ

 咲世子「不在にいたしましょうか?」
      「それとも、会う気はないと?」

 ルル「今は不在だ、ということにしましょう」

と、その時、扉の向こうからジェレミアと思しき男の怒号が上がった。
二人は、ハッとして扉の方を向く。

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ジェレミア「……ンな!なああああッ!」クワッ!!
       「女ッ!お前は……女アアアアアアアアアッ!」ブシュウウ!!

 C.C.(……なんだ、こいつは?)テクテク…

ドアの前で突っ立っていたジェレミアは、その女……学生服姿のC.C.が近寄ってきた
瞬間、彼の頭部の"コードR"センサーが全力で振り切れ、はじけ飛んだ感覚を覚えた。
それが意味するのは……彼女が"コードR"そのものであるということ!

きょとんとした顔つきでこちらへ歩いてくるC.C.に対し、頭部の接合部から
何かの液を吹き出しつつ、ジェレミアは啖呵を切る!

.
 ジェレミア「貴様、さっそくルルーシュ様をかどわかしにいらっしゃいましたアァ!」

 C.C.「なに?かどわかす?」
    「誰だ、お前?」

 ジェレミア「私はルルーシュ様の、忠!義!のジェレミア・ゴッドバルトオッ!」ビシッ!!
       「お前を探し求めて4千年、このような場で会いまみえる幸せと幸福ッ!」

 C.C.(ジェレミア、といえば、確か……)
    (……あ、マズいぞ?)…クルッ、タタッ!!

.
その名を聞いたC.C.も、クロヴィスを誘拐する時に彼と顔を合わせていたことを
思い出した。自分を捕まえにきたものと思った彼女は、その場できびすを返し、
猛然と走り始める。

実際には、彼はヴィレッタと同様、ロボトミー手術により多くの記憶を失っていたのだが、
どうにしろ"コードR"である以上、彼にとっては追うべき存在である。

 ジェレミア「ふはははははは、逃げる福音、追う恐怖ッ!」プシュープシュー
       「お待ちください、私の人生ッ!」ドダダダダ…

 C.C.(どうしてあんな奴が、こんなところに……!)タタタタタ…

 咲世子(一体、何事……)カチャ…
      (……えっ、C.C.様!?)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ルルーシュと二人きりで学園祭を過ごすことができると思っていたシャーリーだったが、
先ほどの生徒会室での彼の態度を見て、自分はやはり、彼にとっては妹の次の存在で
しかないのだ、ということを思い知らされた。

その場をごまかし、部屋を飛び出したのはいいが、ミレイ達にもルルーシュの所へ戻る
と言った手前、また彼らの所へ戻るわけにもいかず……
どこへ行くともなく、人目につかない場所をとぼとぼと歩く。

 シャーリー(……そうだよね、ルルにとってナナちゃんは、かけがえのない)
        (兄弟だもん……それに、すごく性格のいい子で……)トボトボ…

        (ナナちゃんと比べたら、わたしなんてガサツで、大ざっぱで、)
        (無神経で、かわいくもなくて……)
        (……やっぱり、ナナちゃんを選ぶよね……)トボトボ…

.
 ??「……シャーリー・フェネットだよね」

 シャーリー「……えっ?」ビク

突如、背後から自分の名を呼び掛けられ、シャーリーは驚き立ち止まる。
声の主が誰なのかを確認しようと、振り向こうとした瞬間……

 ??「こっちを向くな!」バッ!!

背後からの、鋭い声。
と同時に、彼女の首に腕が巻き付き、背中に小さな、しかし鋭い痛みが走った。

 シャーリー(痛ッ!……え、なに?)
        (背中に何か……な、ナイフ!?)

.
 ??「動かないで!……コレがずぶりと刺さるよ?」

 シャーリー「……!?」

耳元で囁く相手の声は、女だった。
男ではなかった、という本能的な安堵感と同時に、かつてルルーシュが彼女に
告げた警告が、ふと脳裏に浮かぶ。

  ====================
  ……もし、俺の事を誰かに喋ったりすると……
  その時は、たぶん、俺ではない誰かが、君を殺すことになる

  また、喋らずとも、君が俺の事を知っているようだと知れたら、
  君は支配者に狙われることになる……
  そして、全てを喋るまで、拷問を……
  ====================

.
 シャーリー(うそ……!)

        (わたし、誰にもしゃべってない!一言も言ってないよ!)
        (じゃあこの人、ブリタニアの……!)

シャーリーを拘束した女……カレンは、彼女がぶるぶると震えだしたのを知ると
その背中で密かにほくそ笑んだ。

 カレン(なんだ……意外と楽勝じゃん?)
     (ちょっとナイフをチラつかせただけで、こんなに震えちゃってさ)
     (やっぱ学生なんて、ちょろいもんね……)

     「……その先に、倉庫のドアが見えるでしょ?」
     「そこに入りなよ」

 シャーリー「……」ブルブル…

 カレン「……安心して、殺しはしないわ」
     「ちょっと、お話がしたいだけだからさ?」…クスッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

その少し前……

ルルーシュの所へ行く前にとりあえずカレンの姿を探してみようと、
スザクは人ごみの中、学園の鐘楼へ向かって歩いていた。

 スザク(あの上からなら、学園全体を見渡すことができるだろう)カツカツ
     (ここの地理を、ある程度頭の中に入れておかないと……)

 ??「……あ、あの!」
    「スザクさん……!」

 スザク(……ん?誰だ?)…ピタ

.
背後から、優しそうな響きのする女性の声が、彼の名を呼んだ。
彼が足を止めて振り向くと、そこには何と……!

 ユフィ「……やはり、スザクですね……!」

 コーネリア「…………」ジー

 スザク「い!……ユーフェミアさま……!?」
     「それに、総督も……!?」

結局、別れの言葉を告げることもなく、そのまま連絡が途絶えていたユーフェミア!
それに、傍にはコーネリアまで付き、彼をじっと睨んでいた!

.
コーネリアは、驚愕のあまりその場に硬直しているスザクの傍まで、まるで徐々に
畏怖を高めついには押し潰さんとばかりに、ゆっくりと歩み寄ると……

 コーネリア「…………枢木スザク、」ボソッ
        「今日はお忍びだ、我々を公衆の面前で呼ぶな」ボソボソ

 スザク「い……イエス、ユアハイネス……!」ボソボソ

 コーネリア「正直に答えろ、」ボソボソ
        「貴様、ユフィとここで逢う約束をしていたのか」ギロ

 スザク「いいえ、一切しておりません……!」ボソボソ

 コーネリア「では、これは全くの偶然だというのか」ボソボソ

 スザク「完璧な偶然です、総督……!」ボソボソ

.
 コーネリア「ふむ……」…チラッ

 ユフィ「……」…ソワソワ

コーネリアは後ろを振り返り、彼女とスザクの様子を心配そうに見つめている
ユーフェミアの表情をしばらく読んでいたが、溜息をひとつつくと、スザクの方へ
向き直る。

 コーネリア「……共謀の気配もなかったしな、」
        「その言葉を信じてやる」ボソボソ

 スザク「ありがとうございます……」ボソボソ

.
 コーネリア「……10分だけ時間をやる」…ギロ

 スザク「はっ?」

 コーネリア「その間、もし何者かがユフィに襲い掛かるような事があれば、」
        「死ぬ気で守り通せ……守れなかったら、お前を殺す」ギロッ

 スザク「は……え?な??」
     「少しお待ちを、どういうお話でしょうか!?」
 
 コーネリア「ユフィが、どうしてもお前と言葉を交わしたい、と言うのだ」
        「久しぶりに逢う、お前とな……」

 スザク「僕と、ですか?」

.
 コーネリア「不服かッ!?」ギッ!!

 スザク「光栄ですッ!」ビクッ

 コーネリア「……我々の目を盗んで二人で姿を消しても、殺す」

        「10分以内に終わらなければ、超えた時間の分だけ、」
        「貴様の指をへし折る」

 スザク「は……」ヒクッ

 コーネリア「わかったな?」
        「では今から……10分間だ」…ピピッ

.
彼女は胸のポケットから小型端末を取り出しタイマーをセットすると、背後の
ユーフェミアへ向けて微笑みながら小さく頷き、そのさらに後ろに控えた黒服の集団の
所まで戻った。代わりに、眩しいほどの笑顔のユーフェミアが駆け寄ってくる。

 ユフィ「……スザク!逢いたかったです!」パタパタ

 スザク「ああ、そうだね……」ニコリ
     (……まずいな、紅月隊長を探さないとならないのに……!)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シャーリーが、カレンに指示されて入った薄暗い倉庫の中には、学園で
用いられる資材が山積みになっていた。

シャーリーは、倉庫の奥へ、どん、と突き飛ばされる。
危うく転びそうになった彼女は、つんのめりながら身体を支えると背後の何者かを
その目で確かめようと振り向くが、天窓からの日光の差し込みしかない室内では、
相手の風貌や表情などはよくわからない。

カレンは、いつの間にか手の内の武器をナイフから銃に持ち替え、その銃口を
シャーリーに向けていた。

.
 カレン「……最初に言った通り、抵抗しない限りコレを撃ったりしないわよ」
     「そこの袋に腰かけて」

 シャーリー「……」…スッ

指示された通り、シャーリーが傍にあった資材袋の上に腰かけるのを見たカレンは、
自分も傍らの資材の上に飛び乗った。

 シャーリー(……どうなるの、わたし……?)

 カレン「……さて、と」カチッ、
     「何から話そうかな……」…カチッ

カレンは、ややうつむき加減で手の中の銃を見つめる……
親指の先で、銃の安全装置をカチリ、カチリとかけたり外したりを繰り返していた。

.
 シャーリー「……あなた、誰ですか?」

 カレン「!」ピタ
     「……誰だと思う?」

 シャーリー「…………」
        「……わかりません」

 カレン「わたし、あんたの命の恩人なんだけどね……」

 シャーリー「えっ!?」

 カレン「正確には、わたしの仲間が、だけどね」
     「カワグチ湖で、人質になってたあんたらを救ったの、誰だったかしらね」

.
 シャーリー「……黒の、騎士団……!」ゴク

 カレン「そう、正解」

相手が黒の騎士団のメンバーだと知り、シャーリーはますます混乱する。
自分が襲われる理由が全くわからなくなった。

 シャーリー(じゃあやっぱり、わたしから秘密が漏れるのを防ぐために……!)

        (ううん、でもわたし、本当に今まで誰にも、喋ったことはない!)
        (その事はルルだって判ってるはず、ならどうして……!?)

 カレン「…………ふう、だめだわやっぱ」

 シャーリー「……?」

.
 カレン「ぐだぐだと説明すんの、苦手なのよね、わたし……」ニコッ
     「単刀直入に言うわ、ルルーシュ・ランペルージと別れてくれない?」

 シャーリー「え!?」

 カレン「あんたには想像もつかないだろうけど、」
     「彼は騎士団にとって、重要な人物なのよ……」
     「彼もテロリストだ、って言えば、理解できるよね?」

 シャーリー「…………」

 カレン(……あら、黙っちゃったか)
     (やっぱりショックを受けるわよね、恋人がテロリストだった、なんてね)
     (でも、意外と信じやすい子なの?わたしなら、そんなの嘘だと思うけどね)

.
彼女の沈黙を、事実を知ったショックだと捉えたカレンは、心の中で微笑む。
だが、実際はシャーリーは別のことを考えていた。

 シャーリー(……ルルがゼロなのを私が知っていることを、この人は知らない)

        (じゃあ、この人はわたしがルルから色々聞いていることも、)
        (ひょっとして知らない……?)

 カレン「……学生は、仮の姿よ」
     「本当は、黒の騎士団のメンバー……」
     「あんたは彼の、偽りの人生の飾りみたいなものなの、」
     「当局を欺くための、ね」

 シャーリー(ルルの秘密が知られそうになったから、じゃないんだ)
        (この人が来たのは、別の理由だ……!)

.
シャーリーは頭の中で、思考が渦巻くのを感じた。
自分がどこまで知っていることを言っていいのか、あるいはまったく無知であると
装う方がいいのか……だがそれよりも、彼女の目的が理解しがたい。

俯き加減で、銃を手の中で弄びながら黙っているカレンに、シャーリーはおずおずと
尋ねる。

 シャーリー「……別れろ、って……どういうことですか」

 カレン「……いいの、あんた?」チャ
     「騎士団の関係者と付き合ってるとか、もし官憲に知られたら、」
     「タダじゃ済まないでしょ?」…ニッ

 シャーリー「…………」

.
 カレン「これは、忠告よ……」
     「もしあなたが、このまま彼から身を引き、彼の事を一切忘れるなら、」
     「あなたは今まで通りの生活を送ることができる……」
     「このままブリタニアの学生として、毎日を楽しみなさい」

 シャーリー「………………」

 カレン「でも、もし、そうしないなら……」
     「……あんたにはこの先、破滅が待ち構えている」
     「もしかしたら、すぐあとにね」…カチャッ!!

 シャーリー「!!」ブルッ!!

.
そう言ったカレンは、銃の弾倉を叩くと銃身をスライドさせた。
今にも撃たれるかもしれない、というショックに、シャーリーは口から心臓が
飛び出そうなほどの激しい動悸を覚える。が、しかし……

 シャーリー「……あ、あなた、ルルとどういう関係ですか!」

 カレン「!!」ピク

彼女の放った質問は、カレンの意表を突いた。震えながら命乞いをするか、
その場にへたり込むかと思っていた女が、意外にも気丈な振る舞いを見せたのだ。
カレンは、ゆっくりと顔を上げる。

.
 カレン「……わたしは、彼の部下よ」

 シャーリー「!!」

 カレン「これでわかったでしょ……これは冗談なんかじゃ」

 シャーリー「ルルはこのことを知ってるんですか!?」

 カレン「!!……ええ、知ってるわ」ジロ
     「当然でしょ、彼の命令なんだから」

 シャーリー「…………!」

.
聞かれたくないことをいちいち聞いてくるシャーリーに対し、苛立ちを覚えたカレンは
強烈な悪意を込めた嘘で返す。その嘘に、シャーリーはショックを受けたようであった。
彼女はカレンを睨みながら、再び押し黙る。

……重苦しい沈黙が支配する倉庫の中とは対照的な、外の祭りの騒々しさ。
カレンはその雰囲気に対し、軽く舌打ちをする。

 カレン「……こんなやかましいとこ、長居したくないのよ、」
     「返事を聞かせて?」

 シャーリー「……」

 カレン「言うとおりにしてくれるかな、シャーリー・フェネット?」
     「それとも、今ここで」

.
 シャーリー「……違う」

 カレン「わたしに撃た……え?」

 シャーリー「ルルじゃない……」
        「……ルルは、そんな命令をしない」

 カレン「……ふふ、生憎ね、彼の命令よ」…クスッ
     「あんた、もう用済みなんだって……邪魔だってさ?」

 シャーリー「……違う……っ」ググッ…

 カレン「そう……信じたくない気持ちはわかるわ、でもこれは、事実なの」
     「……同情するわ、同じ"女"として……かわいそう」クスクス…

.
 シャーリー「違うの……本当にそうなら、」
        「ルル自身が私を"消す"はずだもの……」

 カレン「そんな手間をかけるほどの女じゃない、ってことでしょ」
     「わたしで十分……随分とうぬぼれてんのね、あんた?」クスッ

 シャーリー「違う……あなた、全然わかってない……」

 カレン「……何だって?」ピク

 シャーリー「ルルのこと……彼の苦しみとか、悲しみとか、」
        「何も知らないんですね……」

 カレン「……!!!!」バッ!!

.
彼女のその言葉に、カレンは思わず激昂した。
座っていた資材から飛び降りると、銃口をシャーリーに向ける。

 カレン「あんたこそ!!」チャッ!!
     「彼の事を、どれだけ知ってるっていうのよ!!」
     「何も知らないクセに……ッ!!」

 シャーリー「……」ググッ…

カレンは、銃を構えた腕をさらに上げ、照準でシャーリーの顔面を狙う。
そのまま、全く逸らさないままに、怒鳴りながらシャーリーに足早に近づく

.
 カレン「あんた知ってたの、彼がテロリストだってことを?」カツカツ…
     「彼のためなら、こうして平気で人を殺す仲間がいるってことも?」

     「日本を取り戻すため、みな命がけで戦っているってことも?」…カッ
     「そのために、彼やわたしたちがどれだけの犠牲を払ってきたかってことも?」

     「……なあ、おい!」ガシッ!!
     「答えなよ、ブリタニアのお嬢さん!」

カレンは、左手でシャーリーの胸倉を掴み締め上げると、反対の手に握った銃の先を
彼女のこめかみにぐりぐりと押し付ける。

.
死が目前にぶら下がった恐怖で、涙をこぼし身体をがくがくと震わせながらもシャーリーは、
その内に秘めた強い意志でカレンの顔を睨み返す。

 カレン「ルル、ルルって……ムカつくんだよ!」
     「お気楽な学生生活を過ごしながら、わたしが何も知らないだって!?」
     「ふざけやがって……そんなに死にたいの、あんたは!」

 シャーリー「しっ、死にたくない……っ!」

 カレン「ならそのふざけた態度を改めな!」グリッ…!
     「いいか、ルルーシュから離れろ、今後一切近づくな!」

.
 シャーリー「……!」グスッ…

 カレン「返事は!……返事はどうしたっ!」

 シャーリー「……い、」
        「いいよ……」…ポロ

 カレン「……」ニヤ

 シャーリー「……撃ちなさいよ……!」…ボロボロ

 カレン「……何?」

.
|ω゚ ) 以下後日ッ

こんな展開大好きです

超待ってた(T-T)

良かった、戻ってきてくれて。

続き着てたのか
前スレ落ちたからエタったかと思ったぞ

>>106
俺も大好きです!

>>107
お待たせしました、遅筆で申し訳ありません!

>>108
エタりません完結までは!(予定)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「何?C.C.が?」

 咲世子「はい、たった今……」

 ルル「くそッ、まずいな……!」キッ…

ジェレミア達が走り去った直後、ルルーシュと咲世子は扉の外で、たった今発生した
想定外の事態への対応策を考えていた。

 咲世子「あの方は、一体……?」

 ルル「……俺が昔、罠にはめた男だ、その時にC.C.も共にいた」
    「だが……少し妙だな?」

.
 咲世子「とおっしゃいますと?」

 ルル「C.C.は覚えていたのに、俺の事は忘れていたのか?」
    「あるいは、覚えていないふりをしておびき出す作戦だったのか……?」

 咲世子「いま会話をした限りでは、そのような策略を巡らせるほどの」
      「知能はお持ちでなかったようですが……」

 ルル「うむ……」
    「……実は今日、紅月カレンがここに来るかもしれないのだ」

 咲世子「はい」

.
 ルル「何を浮かれたのかは知らないが、あの女が生存していることが」
    「ここで知られるのは好ましくない」
    「俺はここを動けない、咲世子、代わりに奴らを追ってくれないか」

 咲世子「C.C.様の救助でしょうか?」
      「それとも、あの方を葬りますか?」

 ルル「さすがに学園内で始末するのはまずい」
    「あいつを逃がすことができれば良しとする」

 咲世子「かしこまりました」コクリ
      「失礼いたします……」バアッ!!

.
彼女はひとつ頷くと、メイド服の腰紐を思い切り引いた!
途端に、彼女のロングスカートが大きく翻り、視界を遮るようにはためいたかと思うと、
そこには顔を大きなマスクで覆った、純白のボディスーツ姿の咲世子が現れる!

 咲世子「……では、のちほど」シュタッ!!

彼女はその言葉だけを残し、身体はすでに廊下を飛び去っていた。
まるで重力が存在しないかのような軽快な身のこなしで、彼女はC.C.とジェレミアの後を
追っていった……

……それを見送っていたルルーシュの傍の扉が、かちゃりと開く。

 ナナリー「……お兄様、先ほどの方は……?」

.
 ルル「ああ、このお祭り騒ぎで、少しおかしな男が来たようだ」

 ナナリー「ええっ!?」ビクッ

 ルル「大丈夫だ、咲世子さんが追い返してくれたよ」ニコッ
    「ついでに、通報をしに行ったようだ」

 ナナリー「そうですか……」ホッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ディートハルト「中継の準備はどうなっていますか?」

 AD「まーだ、全然できてないよ」

    「世界一のピザは午後からでしょ?」
    「ディートハルトさんも、それまではゆっくりしてたらいいんじゃない?」

 ディートハルト「ははは、そうですね……」
       (……何というだらけた連中だ!)
       (私が現役の頃なら、こんな奴らは即クビにしている!)

.
学園内の一角には、TV局の中継車が一台、止まっていた。世界一のジャンボピザ
の製作過程を、TVにて生中継するという特集のためだ。ディートハルトは、その番組
でのレポーター役としてここを訪れていた。

ディートハルトは最近、黒の騎士団の一員という素顔を隠しつつ、メディア業界への
復帰を果たしていた……ただし今度は、フリーランスのレポーターという肩書で、だ。
マスメディアには、業界の外に決して出ない情報が渦巻いている。それをいち早く
得ることが、そもそもの目的であった。

 ディートハルト(だがそのために、このようなつまらない仕事まで受けなければならん……)
        (ディレクターとしてでなければ、制限が多くてたまらんな)

.
中継車の外の喧騒を眺めながら、彼はぼんやりと考える。
最近、扇と共に活動することが増えているのだが、自身が彼のマネージャーのように
なりつつあることも、いまディートハルトが秘めている不満の一つであった。

 ディートハルト(日々を、あの愚鈍な男と過ごす苦痛……)
       (あれに比べれば、まだこの仕事の方が面白いのだから困ったものだ)

       (……何か、ハプニングでも起きないものか……)ハァ…

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

雑然とした学園の人ごみの中にも拘わらず、人の目を盗むほどの素早さで
駆け抜ける咲世子。

その姿……遥か昔の将軍のお庭番に端を発するという、篠崎家直系の者としての
面目躍如とも呼べるほどの、まさに現代によみがえったニンジャであった。
咲世子の気配を感じた者がいても、その瞬間にはすでにそこには存在しない。
常人では、この雑踏の中に咲世子がいるということにすら気づけないであろう……

だが、その存在に気づく者があった。
ルルーシュと同様、咲世子のことを知る者、ミレイ・アッシュフォードである。

.
 ミレイ(……あら?咲世子さんじゃない?)
     (隠密の姿をしてるなんて、久しぶりに見たわ?)

学園のテラスで、リヴァルたちと談笑していた彼女は、目の前を咲世子が走り抜け
ていったのに気づく。
何か、異常が発生したことを察した彼女は、リヴァルらにお手洗いに行くと言って
席を立ち、急ぎ放送室まで行くと、校内放送でシグナルをひとつ鳴らした。

そのシグナル、知らぬ者には小さなハウリングノイズにしか聞こえない。
間違って放送機器のスイッチが入ったか、と思うようなものだ。
だが、それは咲世子にだけ理解できるコールサインであった。

.
 咲世子「……お嬢様、どうかなさいましたか?」…シュタ

ノイズが鳴ってきっかり1分後、彼女は放送室のミレイの元に出現した。
ミレイはにこにこと微笑みながら彼女に尋ねる。

 ミレイ「どうしたの、そんな恰好して?」

 咲世子「不審者が、学園に紛れ込んだようでして……」
      「それを追っていたところです」ニコッ

 ミレイ「なんだ、不審者かぁ……咲世子さんなら、すぐ終わっちゃうわね」
     「面白いことが起きたのかと思ったのになぁ~」ハァ…

.
 咲世子「問題が起きなければ、それが宜しいかと」ニコニコ

 ミレイ「ま、そだけどね~……」

と、その時、咲世子はふと何かに気づいたように、口に手をあてる。
彼女の珍しい素振りに、ミレイは興味をひかれた。

 ミレイ「……ん?どうしたの?」

 咲世子「……お嬢様、面白いことになさいますか?」ニコッ

 ミレイ「んーふーん?」
     「……いいわね、面白いこと、大賛成よ!」ニコーッ!!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シャーリーは、死の恐怖に震えながらも、カレンの言葉に嘘があるという直観に、
かろうじて自我を支えられていた。
こめかみに当たる冷たい鉄の感触に必死に抗って、彼女は、己が信じているモノを
カレンに訴える。

 シャーリー「……わたし、ルルを信じてる!」

 カレン「だから!彼はあんたの事なんか!」

.
 シャーリー「今、わたしがここで死ぬのは、」
        「ルルの考えじゃないって信じる……!」

 カレン「……!」

 シャーリー「だって、だってわたし……知ってるもの!」
        「ルルは、ルルは……!」

そこまで言ったシャーリーだったが、後はもう激しい嗚咽ばかりで言葉にならない。
しかし、彼女が必死の抵抗を見せたことで今度は逆に、カレンが追いつめられていた。

.
 カレン(……くそ、くそっ!ここでマジで殺したらマズいのよ……!)
     (ルルーシュに確認もとってないし、脱出路もない!)
     (そもそも、殺す気なんてなかったのに!)グッ…!!

     (でも、このナメたマネは絶対に許せないし……)
     (何なのよ、こいつ!ほんと……本っ当にッ!)

     「……ルルって言うの、やめろってんだよ!」バキッ!!

シャーリー「あぐ!」

カレンは、銃把でシャーリーの頬を横殴りにした。
はずみで口内を切った彼女の口許から、血の筋が流れ落ちる。
内心の焦りを誤魔化すかのように、カレンは銃口を彼女のひたいに強く押し付ける。

.
 カレン「いい度胸してるじゃん!」
     「お望み通り、今ここで頭をブッ飛ばしてみようか?ええっ!?」グリグリ

 シャーリー「うぐ、……っ!」

 カレン「わたしが撃てないと思ってんの?なあ!?言ってみなよ、」グッ
     「お前はわたしの頭に風穴を開ける度胸もないクソ女だ、ってな!」
     「そう思ってんだろ!?おい!」ガッ

 シャーリー「…………」…グッ

 カレン「…………ところでさ、確認なんだけど?」
     「今ここで、あんたが死んだら……それは、あんたのせいだよね?」
     「わたしは…………ちゃんと、忠告、したんだし、さ……!」グリ、グリ…ッ

 シャーリー「……ッ!」ブル…

.
カレンの目に点った、怒りの炎。
何度も死線を潜り抜けてきた彼女が全身から放つ怒気は、平穏な生活を過ごす普通の
学生なら、震えながら許しを請うような迫力があった。

が、不幸なことにシャーリーも、身を引き裂かれるような絶望を味わったことのある
人間であった。しかも、ルルーシュの秘密は死んでも明かさないという覚悟もある。

 カレン「……わたしが、ルルーシュを怖がってる、とか思った?」
     「残念ね、言い訳なんか、いくらでも立つわ……」
     「あんたが、いなければ、ね」

 シャーリー「……!」ヒク…

.
 カレン「そう言えばさ、ここにはあんた以外、誰もいないよ……」
     「なんだ、今ここであんたが死ぬ方が、わたしにとって都合いいじゃん!」
     「……あんたも、そう思うよね?」…ニッ

 シャーリー「う、う…………!」プル…

 カレン「どう……見える?ちゃんと見えてる?銃の引き金が……?」
     「そろそろ終わりにするよ……」
     「……自分が死ぬ瞬間、しっかり見届けな……っ!」ギリ…ッ

 シャーリー「ひぐ!う……!」ブルブル…!!

.
……状況は、"誰も望まぬ惨劇"という奈落の底を目指す、精神的チキンレースと
化していた。

カレンは懸命に、凄惨な笑みを作りながら、歯車の歯を一つずつ数えるように、
ゆっくりと、引きたくもない引き金を絞ってゆく。
シャーリーも、涙で顔をぐしゃぐしゃにし、自我がへし折られる程の絶望に必死に抗う。
このままでは数秒後には、可憐な少女の死体が地面に転がっていることは、ほぼ
確実だろうとしか思えない……

……と、その時、倉庫の扉が勢いよくバタンと開く。
驚いた彼女らが、扉の方を振り向くと……!

.
 C.C.「……こんなとこにいたのか!?」…バタッ、チャ

こちらも同様、室内の意外な先客に驚いた様子のC.C.であった。
彼女は後ろ手で扉を閉めカギをかけると、室内をきょろきょろと見回す。

 シャーリー「あ……あなたは!?」

 カレン「あっ、あんた!?」ギョッ!!
     「今ちょっと取り込み中なのよ、邪魔しないで!」

 C.C.「そうもいかない、今とんでもない奴に追われているんだ」
    「ここに、別の出口はないか?」タタタッ

 カレン「ちょ、おい入ってくんな!」

.
だが次の瞬間!
今度は扉がバアンと勢いよく弾け飛び、高笑いをする異様な出で立ちの男が姿を現す!
目をらんらんと輝かせた、ジェレミアであった!

 ジェレミア「───ふははははははあ!」
       「センサーは壊れたが、お前ほどのビンビンな"コードR"なら、」
       「私は目だけでも追えるのでしたアッ!」

 C.C.「くそ、やはりダメか!」

 カレン「な、何よ今度は!?」

 シャーリー「まさか、この人も騎士団の人っ!?」ビク

 カレン「こんな奴、仲間にした覚えはないわよ!」

.
ジェレミアは、いま入ってきた入口を塞ぐように、両腕を大きく広げ立ちふさがると、
彼の姿に明らかにビビっている女性3名に向かい、獲物を追いつめた獣のような
笑みを浮かべてみせる。

 ジェレミア「ふふふ、出口は私の背後だけ、退路は消失ッ!」
       「するとお前は私のご褒美!」
       「さあ、今こそ……いただきます……ッ!」ニジリニジリ…

 C.C.「じわじわと迫ってくるな!気持ち悪い!」ジリジリ…
    「おい、カレン、こいつを何とかしろ!」

 カレン「何をしろってのよ!」
     「こんなとこで銃が撃てるわけないでしょ!」

.
 シャーリー「えっ、撃てないの!?」
        「あなた、今さっきまで、あれだけ私を」

 カレン「いや撃てるわよ!!撃つ!」
     「撃つに決まってんでしょ、わたしをナメんな!」チャッ、パン!!

乾いた破裂音を立て、心臓を狙った一発の銃弾がジェレミアの胸部をとらえる。
が、直後にガイーンという反射音が響いたのみ。
彼は、にやりと笑いながら、銃弾が当たったらしき部分をコリコリと掻く。

 カレン「……何よ、今の音!?」

 C.C.「まさか、こいつ……!」

.
 ジェレミア「うふふふふははあはははは!」
       「私の身体の半分は機械の身体!傷ひとつつかない上に、」
       「毎日が幸せですッ!」クワッ!!

 シャーリー「騎士団って、こんな変な人ばっかなんだ……!」ブルブル

 カレン「違うっつってんでしょ!」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ユフィ「……スザク、最近はどうしていたの?」テクテク

 スザク「はは、相変わらずだよ……」
     「今はゲットーで、友達の手伝いをしてるんだ」テクテク

 ユフィ「そう……」
     「……連絡が取れなくなったでしょ?ずっと心配だったの」ヒソヒソ

 スザク「ご、ごめん……ちょっと、トウキョウを離れてたりしてたんだ」ヒソヒソ
     「ケータイも、借りてた人に返したから……びっくりしたよね?」

 ユフィ「うん……でも、無事で良かった……」ニッコリ

.
 スザク「ユフィ……」ニコッ

 コーネリア「………………」ギロギロギロッ

 スザク(……ものすごい殺気を感じる)ヒク…

コーネリアの監視の下、ユーフェミアと即席のデートタイムを過ごすことになったスザク。
任務のことや、自分が騎士団に所属したことを悟られたくない彼は、本当は彼らから
離れたかったのだが、コーネリアがデート(?)を許可した以上、それに逆らう方が
恐ろしい結果を招きそうではあった。

とはいえ……
彼女とは、別れを告げなければならないという決意を抱いていた彼だったが、こうして
久しぶりに出会うと、彼女への想いが自然と溢れ出てくるのを感じる。
改めて、自身にとってユーフェミアという存在がどれほど大切なものかを思い知らされる
形となった。

.
 スザク(やはり、素敵な女性だ……)
     (変な男がつかないよう、総督が目を光らせる気持ちもよくわかるな……)

 ユフィ「……ねえ、スザク?」テクテク
     「前に、ルルーシュのことを話してたでしょ?」
     「ルルーシュが生きてたこと、知ってた?」

 スザク「うん、僕もTVで見て、びっくりしたよ」

 ユフィ「今日はね、彼と、彼の妹に逢いに行くところなの!」
     「スザクも一緒に行かない?きっと、驚くわ!」ニコッ

.
 スザク(……どうするべきなんだ?)
     (彼とはすでに再会している、というべきか?それとも、今日久しぶりの再会を)
     (演出すべきか?)
     (彼はきっと、どちらでもうまく対処できるだろうが、今後の事を考えると……)

     「……実は、今日ここへ来た理由は、それだったんだ」ニッコリ

 ユフィ「えっ!?」キョトン
     「まさか、スザクもルルーシュに逢いに……?」

 スザク「今日は、誰でもここに入れる日だからね」

 ユフィ「ああ……!そうですね、なるほど!」パアッ!!
     「ふふっ、ナナリーから今日のことを聞いてて、本当に良かった……!」

.
 スザク「うん?」

 ユフィ「だって、ルルーシュたちと楽しい時間を過ごせるだけじゃなくて、」
     「こうして、スザクにも逢えて!……何だか、運命を感じます……!」ウルッ…

 スザク「ユフィ!?」

 ユフィ「…………ふふ、今日は、最高の日になりそう!」グスッ
     「私が大好きな人たちに囲まれて過ごせるなんて!」

.
大きな瞳を潤ませたユーフェミアは、満面の笑顔でそう言うと、スザクの腕に
自分の腕を絡ませた。
その瞬間、スザクの背後から、その身を貫かれるほどの殺意が放たれる。

 コーネリア(枢木スザクウウゥ!……貴様アアァァッ!)ギリギリギリ…

 スザク(こっ、これは……まずい……!)ヒクッ
     (どうする、紅月隊長のことも、ルルーシュのこともあるのに……)
     (どうしたらいいんだ!?)ヒクヒク…

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ジェレミア「ふははははははは!」ジリジリ…
       「もう背中は壁とくっつきましたか!?まだですか!?」

 C.C.「くそ……ショックイメージも効かないなんて!」ジリジリ…
    「こいつ、不幸な記憶がないのか……?」

 カレン「なんでもいいけどさ、どうしてわたしまで巻き込んでんのよ……」ジリジリ…
     「すっごい迷惑なんですけど……」

 シャーリー「もうやだあ……」グスグス
        「最悪の学園祭だよお……」

.
C.C.ら3名は、ジェレミアによりついに倉庫の片隅にまで追いつめられていた。
サイボーグ人間・ジェレミアの前では、彼女らもただの女でしかない。
彼は今、追い求めていたターゲットをついに見つけた至福で、心が満たされていた。

 ジェレミア「さあああ……そろそろ最期でした!」クワッ!!
       「私の"コードR"よ、覚悟はデスティニー!?」

 C.C.「やだなあ……また拷問の日々が始まるのか……」ジリジリ…
    「まだ奴を味わい尽くしてないのに……」

 カレン「そんなの、今はどうでもいいでしょ……って、奴?」
     「やつ、って、まさかルルーシュ!?」キッ
     「ちょっとあんた、"味わう"ってどういう意味よ!?」

.
 C.C.「聞いての通りだ……意味はわかるだろう?」ジリジリ

 カレン「な、に……?」ピキ

 シャーリー「ふええ!?」ウルッ…

 C.C.「奴が寝ている所をいじるのが、これまた楽しかった」ジリジリ
    「ああ、それもまた、全て良き"経験"と化すのか……」

 カレン「なんだそれぇ!こんな時になに言ってんだ!///」
     「捕まれ!捕まってしまえこのバカ女!」

 シャーリー「うそだ……嘘だああぁ……!」ウルウル
        「そんな、ルルを、わたしのルルをおおぉ……!」ウルウルウルウル

.
 C.C.「何をそう怒っている?」
    「お前たちも、チャンスがあればすればいいだろう」ジリジリ

 カレン「すれば!って……そんな、できるわけ、ないじゃん……///」
     「わたしだって、は、恥じらいってものがあんのよ……///」
     「……あいつから、誘ってくんなきゃ……///」モジモジ

 シャーリー「わ、わたしは……」モジモジ
       「……ルルが、喜んでくれるなら……///」

 カレン「何ぃ!?」キッ!!

 ジェレミア「お前たち!私の存在はアンビリーバブルか!?」
       「複雑な事情をおやめください!私の頭がサドンデスします!」

.
と、その時であった。
ジェレミアの背後から何かが飛んできたかと思うと、瞬時に彼の首に絡まる。
それは、細いワイヤーのようなものであった。

 咲世子「婦女暴行の現行犯っ!確保!」ギリギリ…!!

 カレン「こっ、今度はニンジャぁ!?」キョトン

 シャーリー「……うう、もう何が何だかわかんないよう……」ウルウル

 C.C.(……咲世子か!)ニッ

純白のニンジャ、咲世子がすんでの所で間に合った形だ。
彼女は、C.C.の無事を確認すると、目で微笑みかける。

.
 ジェレミア「ふっ……婦女暴行だとぉ!?」プシュー
       「誰ですか、そのような不埒なふしだらは!?」

 咲世子「あなたです!」グイッ

 ジェレミア「私か!」クワッ!!

ジェレミアはゆっくりと背後を振り向き、咲世子の姿を確認するとニヤリと笑う。
首を絞めつけているワイヤーも苦とならないようであった。

 ジェレミア「ほほう……君は先ほどの、ベッドルームですか?」

 咲世子「!」ピキッ

.
 ジェレミア「さては君も、ルルーシュ様をかどわかす者であったか……」
       「只者ではない気配は正解です」ニヤリ

 咲世子「……二度と私を、そう呼べないようにして差し上げます」ギリッ…

 ジェレミア「…………」
       「……はて、なぜ怒ってアングリー?」

 咲世子「そう呼ばれて、怒らない女性はいません!」
      「……神妙に、お縄を頂戴なさい!」

 ジェレミア「ふむ、君にできるかな?」
       「……ジェレミア・パアアアアアアンチ!」グワッ!!

 咲世子「!!」

.
腰のモーターの電磁力により、常人の数倍の速さで繰り出されたジェレミアの、
しかし残念なほどに大振りのパンチを、常人を凌ぐ反射神経を使うまでもなく
ひらりと躱す咲世子。

 ジェレミア「ぬう!お待ちください!」ガバッ

 咲世子「ハッ!」シュタ!!

咲世子に誘われる形で、ジェレミアは倉庫の外へ飛び出していった。
彼女のおかげで危機(?)を脱した3名は、その場にへたり込む。

 カレン「もう……一体何なのよ……」ハァ…

 シャーリー「次から次へと、わけわかんない人ばかり……」
        「こんな学園祭、イヤすぎるよぉ……」ヘタヘタ

.
 C.C.「ふむ、どうやら助かったな……」…ペタリ
    「……それよりもお前たち、いつの間に顔見知りになってたのだ?」

 シャーリー「……え?」…チラッ

 カレン「……」…ジロ

C.C.にそう言われた二人は、改めて互いの顔を見あわせる。
彼女らは先ほどまでは、死ぬか、折れるかという極限の諍いをしていたが、
結局はジェレミアにより、"興を殺がれた"形になってしまった。

.
先ほどよりも幾分か落ち着きを取り戻したシャーリーは、カレンの顔をまじまじと見つめ、
相手が元クラスメイトだったことにようやっと気づいた。

 シャーリー「……あれ?あなた、ひょっとして……?」

 カレン「……ええ、そうよ、カレン・シュタットフェルト……」
     「本名は、紅月カレンだけどね」ポリポリ

 シャーリー「そうなんだ……」

 カレン「……死んだはずの人間が生きてるのに、」
     「あんまし驚かないんだね?」ジロ

.
 シャーリー「……もう、今日は、驚き疲れたから」ショボン

 カレン「何だそれ……」フゥ-…

 C.C.「なんだ、今知り合ったのか?」
    「よくわからないな、それが今日の目的だったのか?」

カレンは、大きくため息をつくと、C.C.の言葉を否定する。

 カレン「……違うわよ、この子を殺そうとしてたのよ」フン
     「ルルーシュと別れなければ、ね……」

 C.C.「なに?」

.
 シャーリー「……」…グッ

 カレン「でも……もういいわ」ジロリ
     「こいつ、最後まで別れるって言おうとしないんだもの、」
     「ほんとにやるしかなくなっちゃうじゃない?」

 C.C.「ふむ……」…ジー

 シャーリー「……撃つ気、なかったんですか?」ジー

 カレン「私がそこまでバカに見える?」ジロ
     「あんたのクソ度胸には負けたわ……」

.
カレンが肩をすくめるのを見たシャーリーの目に、みるみるうちに涙が溜まってくる。
やがて彼女は、顔を手で覆ったかと思うと、しゃくりながらぼろぼろと泣き始めた。

 シャーリー「うう……うううう~……!」ヒックヒック
        「怖かったのに、ほんとに怖かったのにぃ~……!」グスグス 

 カレン「当たり前でしょ、そのつもりで脅してたんだからさ……」ハァ…

 C.C.「……なるほど、そういうことか」
    「本当に撃っていたら、ルルーシュが怒り狂っていただろうな」

 カレン「だからぁ、そんな気はなかったっつってんでしょ……って、あ、そうだ!」ガバッ
     「あんた、C.C.を知ってたの?さっき、そういう感じだったけど?」

.
 シャーリー「……知ってた」グスングスン

 カレン「……じゃあ、ルルーシュのことも!?」

 シャーリー「……」コクリ

 カレン「……はぁ!?」
     「ちょっと待って、まさか、その……彼が、アレだってことも?」

 シャーリー「……」コクコク

.
 カレン「…………」
     「……なんでそれを先に言わないのよ!」
     「わたしがまるっきり、バカみたいじゃないの!///」カアッ!!

 シャーリー「言っちゃ、いけないから……」グスグス

 カレン「…………!!」ポカーン…
     (じゃあ、この子、本気で死ぬ気だったの?)
     (あいつの秘密を抱えたまま?)

カレンの呆然とした顔、そして未だしくしくと泣いているシャーリーの姿を交互に見つめて
いたC.C.だったが、ふと目を逸らすと、憂鬱そうな表情を浮かべる。
それは、彼女たちのこの先の運命に対してのそれであったのか、それとも……

.
 ??『……おおっとおー!?これはどうしたことだあ!?』
    『みなさん、校舎の時計台にご注目を!』
    『何やら大変なハプニングが発生したようだぞぉ!?』

突如、校内放送を通じ、何者かがアナウンスを行った。
やけに上機嫌の、浮き浮きと弾むようなその声を聴いたシャーリーは、驚いて顔をあげる。

 シャーリー「……これ、会長の声!?」

.
⌒ ミ 
ω・`) 続きは後日!

いい感じにゴタゴタしてきてる

オレンジはせめて言語がまともに使えればな・・・w

乙!
期待期待


今回もいいハゲでした

>>157
一体どうなっちゃうのオレ、って感じですね!

>>158
基本イケメンですからね!

>>159
ハゲるほどがんばっております!

>>160
ありがとうございます!脱毛が止まりません!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ディートハルト(……ん?ハプニングだと?)

中継車内のモニター群の前で、椅子に座り退屈そうに背もたれに身体を預けきっていた
ディートハルトは、園内に流れた校内放送に耳を傾ける。
学生の言う"大変な"は大したことではない……とは思ったものの、無視しても他に何か
あるわけでもないと彼は思い直し、中継機器のスイッチを操作する。

 ディートハルト(時計台……確か、このカメラだったな)パチパチ
        (……ん?これは、何だ?)

時計台を映していたモニターには、校舎の屋根の上に2名の男女の姿が捉えられていた。
片方は、純白のボディスーツに身を包んだ女性、そしてもう片方は……

 ディートハルト(……軍人か?)
        (にしても、妙な出で立ちだ……)

.
 ミレイ『どうやら、学園を襲う悪漢と、学園を守る正義の味方の登場のようですっ!』

     『さあ~、一体どちらが勝つのかっ!』
     『ダークネス・ブラックか、それともジャスティス・ホワイトか!?』
     『筋書きのないガチンコ勝負が、いま幕を開ける~~~っ!』

 ディートハルト(……ふん、筋書きありの演出ですか)ニヤッ

彼は、手元にあった学園祭のパンフレットを手に取り、パラパラとめくってみたが、
このような催し物は予定の中にはなかった。
ハプニングを演出するため、わざと載せなかったのだな……と彼は考える。

 ディートハルト(学生にしては、凝ったことをしますね……)

        (……ふむ、一応録画しておきますか)…パチ、パチ
        (出来が良ければ、今日の特番で使いましょう)…ピッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 スザク「ハプニング?」

 ユフィ「って、言いましたね……何かしら?」キョトン

 コーネリア「ふむ、何事か……?」

同じく、校内放送を聞いた彼らは、時計台から少し離れた場所で校舎を見上げる。
そこでは、放送で言っていた2名が、高い屋根の上という危険な場所にも拘わらず、
丁々発止の戦いを繰り広げていた。
周囲で見る人々は、やんやと喝さいを上げている。

.
 スザク「うわ、すごいなぁ……」

 ユフィ「見てるだけで怖いわ……」ブルッ
     「あの方たち、あんな場所で怖くないのかしら?」

 スザク「あれはきっと、サーカスの団員だよ、」
     「ああいう場所でも平気で運動できる訓練を積んでいるのさ」

 ユフィ「すごいわ……!」パチパチ

スザク達の背後では、コーネリアらも"屋根の上の演舞"を鑑賞していた。
だが、スザクらとは違い、コーネリアは顔をしかめている。

.
 コーネリア「……あの男、ブリタニアの軍服を着用しておるな?」

 ガード「は……ここからでは、はっきりと確認できませんが……」
     「一般的なものではない、特務の系統のものに似ておりますな」

 コーネリア「けしからん……ああいうのが、帝国の権威を失墜させるのだ」ギロ
        「見ろ、何かわけのわからんことを怒鳴りおって……」

 ジェレミア「ぬおおおお!帝国臣民の敵めがぁ!」
       「お前はちょこまかとちょこざいです!」ブンブン!!

総督に見られているとも知らず、彼女の目の前でジェレミアは咆哮を上げた。
足場の悪さに加え、咲世子の動きがすばしこくて、折角のマシンパワーを揮えない
苛立ちが募る。

 咲世子「……もう少し、本気をお出しいただけますか?」ヒョイヒョイ
      「貴方の攻撃は単調なので、退屈を持て余しております」スタッ

 ジェレミア「私は常に常時全力のマキシマムだアアッ!」ブオンブオン!!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

咲世子がジェレミア達を追って走り去った後、ルルーシュは再び生徒会室で、
ナナリーとの楽しい語らいのひと時を過ごしていた。
天使の微笑みのごとく眩しい彼女の笑顔、醸し出される和やかな空間……

しかし、ルルーシュの頭の中では、先ほどの出来事について、僅かな手がかりを元に
した推測が、反証を伴いながら継続して行われいた。

.
 ルル(解せん……ジェレミアはなぜ、C.C.には気づけたのだ?)
    (ギアスをかける前後の記憶は消失する、つまり、かけた俺のみならず、)
    (その時同時にいたC.C.のことも記憶から消え去っているはず……)
    (それに、ここに来た目的は俺のようだった……C.C.との遭遇は偶然だろう)

    (では、なぜ奴は突如、偶然に出くわしたC.C.を追い始めたのだ?)

    (……クロヴィスの事も考え合わせれば、軍は依然としてC.C.の行方を)
    (追っていた、と考えるのが妥当だろう)
    (つまり、クロヴィス達の目的は、他の誰かに引き継がれたのだ)

    (すなわち、ジェレミアはC.C.の追手だった……?)
    (いや、追手は奴でなくとも構わないはずだ、そのために生かしておく理由がない)
    (第一、俺たちを覚えているわけが……)

.
 ルル(……待てよ、しばらく前に会長が言っていた、俺を尋ねてきた妙な連中と)
    (いうのが、ジェレミアのことではないのか?……なるほど、情報が符号するぞ)
    (間違いない、理由はわからないが、ジェレミアは俺たちの追手だ)

    (しかしそうなると、わざわざ名乗りを上げて扉を叩く意味がわからん……)
    (先ほど、奴は何と言っていた?確か、俺を守るとか……?)
    (捕えに来て、守るだと?一体何なんだ、奴の目的は……?)

と、その時、彼の思考を遮るかのように、何者かによる校内放送が流れ込む。

 ミレイ『……おおっとおー!?これはどうしたことだあ!?』
     『みなさん、校舎の時計台にご注目を……』

.
 ナナリー「あら?この声は……」キョトン

 ルル「……会長だな?」ピク

 ナナリー「なんだか、すごく楽しそうなお声ですね!」ニコッ

 ルル「ああ、すごく……嬉しそうだ」ヒクッ

ルルーシュは経験上、よく知っていた。
彼女がこういう、ハイテンションな様子の時は、そのテンションの高さに比例して
彼にとってより好ましくないハプニングが発生している、ということを。

先ほどのジェレミアの件の後に、ミレイのこのテンションだ。
どう考えても、これは……

.
 ルル「……ナナリー?」
    「ちょっと外の様子を見てくるよ、ここで待っててくれないか?」

 ナナリー「はい、お兄様のご報告をお待ちいたします♪」ニッコリ

内心の焦りをナナリーに気取られないよう、いつもと変わらぬ足音になるよう
ルルーシュは慎重に歩み、扉から外に出てそっと閉めた……その次の瞬間!

彼は血相を変え、猛然と外へ走り出す!
やがて、時計台が見える位置まで一気に駆けてくると、少し休んで呼吸を整える。
そうして彼は、杞憂が杞憂で済むことを願いながら、ゆっくりと顔を上げた……

.
だが、杞憂は現実となっていた。
そこでは、大柄の男と、遠目に見ても咲世子としか思えないボディスーツの女性が、
周囲の大観衆の前でチャンチャンバラバラと戦っている真っ最中であった。

 ルル(……一体、何がどうなるとこうなってしまうのだ!?)
    (俺が何か、咲世子に間違った指示を出してしまったのか?)
    (いや、ただ単純に、ジェレミアの手からC.C.を逃すように言ったはずだ!)
    (それがなぜ、どうして、こんな見世物になってしまったんだッ!?)

いくら考えても答えは出ない。
ルルーシュが呆然としている間にも、彼らの"演技"はより迫真に迫るものと
なりつつあった。ミレイのマイクパフォーマンスにも熱がこもってくる。

.
 ミレイ『パワーはダークネス・ブラックの方があるようですが、』

     『俊敏なジャスティス・ホワイト相手では思うようにいかないようだぞぉ!?』
     『しかぁ~し、しかしひとたび捕まってしまえば、彼女も危機に陥ることにっ!』

     『目が離せないこの戦い!さあ~、どちらか勝つのか!?』
     『ブラックか、ホワイトか!』
     『みなさん、もっと盛大に、応援をどうぞ~!』

咲世子なら、誰にも知られぬ内にジェレミアを排除してくれるだろうと期待をして
いたところに、この大騒動である。
ルルーシュは、開いた口が塞がらなくなった。

 ルル(……さ、最悪の、学園祭だ……ッ!)ギリッ…

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

倉庫から姿を現したC.C.ら3名も、先ほどの男とニンジャが校舎の上で戦っている
状況を呆然と眺めていた。
周囲で湧きあがる、学園祭に来ている人々の大歓声に圧倒されそうだ。

 カレン「……一体、何がどうなったと思う?」

 C.C.「さあな……」

 シャーリー「あのニンジャさん、どこかで見たような……」ジー

 C.C.(……そうか、この娘は咲世子を知っていたな)チラッ
    (一応、黙っておくか)

    「……さて、カレン、どうするのだ?」

.
 カレン「ん?何が?」

 C.C.「今のこと、ルルーシュには黙っててほしいか?」ニッ

 シャーリー「……」チラッ

 カレン「……条件は……?」ギロ

 C.C.「無いよ」

 カレン「えっ?」

 C.C.「思わぬことで、お前の正直な気持ちがわかったからな」
    「その"乙女心"に免じてやる」ニコッ

.
 カレン「なにをっ!?///」
     「いや、あのねC.C.、わたしは組織のためにね……」

 C.C.「シャーリー、お前も、このことは黙っているがいい」
    「カレンはお前をライバルと認めたのだ、もう殺そうとはしないだろう」

 シャーリー「……」ジー

 カレン「いや、ちょっと待ってよ!ライバルとか何とか、」
     「なに言ってんのかわたしさっぱりわかんないんですけど……///」

 C.C.「……」ジー

.
 カレン「……つーかなんであんたが話をまとめてんの!?」
     「すっごく誤解してるみたいだけど、わたしは、その……///」

 シャーリー「…………」ジー

 カレン「…………何よ、あんた?」…ジロ

 シャーリー「何でもないです」…プイ

 カレン「……何だってのよ……」ムスッ

.
と、そこへ彼女の背後から、何者かが軽くぶつかった。
カレンは照れ隠しに、小さく舌打ちしながらその相手を睨む。

 カレン「ちょっと!気を付けなさいよ!」キッ

 スザク「あっ、ごめんなさい!不注意でし……」

 カレン「…………え?あんた?」

 スザク「……あれ?隊長、こんなとこに……」

時計台の戦いを眺めながら歩いていたスザクが、前にいたカレンに気づかず
ぶつかってしまった格好であった。

.
カレンは、ここに来るとは全く思ってもいなかった相手の突然の登場に、
そしてスザクは、この広大な学園内では探すのに苦労するはずであった相手に
身体がぶつかった偶然に、互いにポカンと口を開く。

 シャーリー「あれ、スザク君だ?」

 スザク「……あれっ?シャーリーさんも?」
     「あれ?あれれ?」

 カレン「……はぁ?シャーリーさんだってぇ!?」

 ユフィ「スザク、どうしたの?」キョトン

 スザク「……え?あれ?あ、その……」

.
シャーリーは、ある程度の秘密を共有するスザクと出会った偶然に。
カレンは、C.C.のみならずスザクまでもがシャーリーと知り合いだったという事実に。
スザクは、ユフィに彼の知られたくない交友関係を見られたという衝撃に。
それぞれが、それぞれと出くわしたあまりの"偶然"に、しばし沈黙をする。

そしてC.C.は……

 C.C.(……うわ、何だか、先ほどよりも大変な場面に出くわしてしまった気がする)
    (午後のジャンボピザまで、どこかで時間を潰すかな……)…ソロリソロリ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……会長ッ!」バアン!!

 ミレイ「……あら、ルルーシュじゃない?」
     「どうしたのかにゃ~、そんなに慌てて?」ニコニコ

ルルーシュは、せめてマイクパフォーマンスだけでもやめさせようと、放送室の
ミレイの元へと駆け込んだ。案の定、ミレイはこの騒動を、最大限に楽しんでいる
様子である。
だが、やめさせるにも、まさか彼らが自分の関係者だと言うわけにもいかない。
彼は、"副生徒会長らしいキレ方"で、何とか事態の修正を図ることにした。

 ルル「あっ……あんな出し物、俺は聞いてませんよッ!」
    「どういうことですか、これは!」

.
 ミレイ「んー、わたしも聞いてなかったのよねぇ……」
     「咲世子さんが、なんか不審な侵入者を見つけた、って」

 ルル(くそッ、咲世子の仕業か!)
    「不審者って……あれ、不審者ですか!?それは警察を呼びましょうよ!」
    「それにあの白い人、一体誰です!あんな警備、ウチにいましたか!?」

 ミレイ「あれが咲世子さんよぉ?知らなかったっけ?」

     「彼女、実はSP警護もできるような、すっごい人なのよ~」ニッコリ
     「そういう家系なんだってー!」

 ルル「なっ……!?」

.
それは既に知っていることであったが、表向きは知らないことにしておくべきなので
一応驚いてみせるルルーシュ。
その頭の中では、この先の"ルート"の構築を急ピッチで行っていた。

 ルル「……それはわかりましたが、なら尚更まずいでしょう!」
    「あれが演技でないなら、咲世子さんが怪我でもしたら……!」

 ミレイ「ま、そこは大丈夫よ、多分」ニコッ
     「さあさ、この特等席で、いっしょに結末を楽しみなさーい♪」ルンルン

 ルル「何をバカなことを!」クワッ!!
    「皆が演出だと思っている間に、どうにか止めさせないと!」

 ミレイ「どうやって止めさせるの?」キョトン

.
 ルル「…………警察」

 ミレイ「却下!」プイ

 ルル「んな!?」

 ミレイ「せっかく盛り上がっている所に、水を差すようなことは許可しませーん」プイーン

 ルル「水を、って……!」
    「じゃあ、他にどうしろと!」

 ミレイ「だからぁ、咲世子さんなら大丈夫だから!」

     「彼女に任せておけば無事終わるわよ」ニッコリ
     「……それとも、あんたがキレイに片をつけるぅ~?」ニヤニヤ

.
 ルル「…………」
    「……いいでしょう」キッ

 ミレイ「おっ?」

 ルル「俺が、この事態を収拾しましょう」
    「……その代わり、アナウンスで俺のすることの邪魔をしないでください」

 ミレイ「ふーん、黙って見てろ、ってことね?」ニマ
     「……いいわよ、副会長殿のお手並みをじっくり拝見させていただくわ」ニヤーリ

 ルル「契約成立ですね……」
    「いいですね、何が起ころうとも、黙っててください!」…ダッ!!

.
彼は、会長から事態への不干渉の確約を得ると、放送室を飛び出し再び駆ける!
今のところ、彼の計画通りの流れになりつつあった。

 ルル(よし、これで会長に茶々を入れられる危険を回避したぞ!)
    (後は推測の実証、そしてしかる後の状況のコントロールだ……!)
    (小道具が必要だ、この"祭り"に相応しい小道具が……!)

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 スザク「……あ、ああ、シャーリー!」ニカッ!!
     「それに、カ……カレンも一緒なのか!」

.
 シャーリー「へ!?」

 カレン「あ!?」

突然、ぎこちない笑顔と共に、彼女らを親しげに呼ぶ努力を始めるスザク。
彼にそう呼ばれ、訝しげな表情をした彼女らにスザクは、隣に立つユーフェミアの
方を見ろと必死に目で合図をする。
そんな彼らの様子に、全く気付いていないユーフェミア。

 ユフィ「あら、お友達だったの?」ニッコリ

 スザク「あ、うん!そうだよ!」
     「えっと、君たちも、学園祭にいたんだね、久しぶり、元気だったかい?」
     「こちら、えっと……その……」

.
 ユフィ「ユーフェミア・リ・ブリタニアと申します、初めまして!」ニコッ

 スザク(う、嘘だろ、ユフィ、直球で名乗っちゃった!?)ギク

 シャーリー「ユーフェ……え、ええっ!」
        「ふっ、副総督さま……!?」ギョッ

 カレン「!!…………へぇ……」ジー
     (ユーフェミアだって?確か、スザクとつながりがあったっけ……)
     (……ふうん、まだ繋がりがあるんだ)ジロー

 スザク「ユフィ、まずいよ!き、今日はお忍びだろう?」
     「周りの人に、わからないように……」

.
 ユフィ「あ、そうでした!」テヘペロ
     「あなた方もここでは、ユフィって呼んでくださいね」ニッコリ

 シャーリー「あ、はい、わかりました……」ポカーン

 カレン「……はいよ」ジー

ユーフェミア以外の3名は、かなり微妙な空気の中に佇んでいた。
そんな彼らの様子に……

 コーネリア「……どうしたのだ?」カツカツ

 ユフィ「あっ、お姉様……!」
     「こちら、スザクのお友達だそうです!」

.
 コーネリア「ん?」
        「……ふむ」ジロ

 シャーリー「おねえさま、って……」
        「……そっ、そう、とく……!?」キョトーン

 カレン「……」ピク
     (コーネリアまでいるの!?どうなってんだ?)

 スザク(うわ……せ、背筋が凍りそうだ……!)ヒク…

 コーネリア「ユフィ、そろそろ約束の時間だぞ……もう十分だろう?」
        「そろそろ失礼しよう……なあ、枢木スザクよ?」ニッ

 スザク「はっ、もう時間ですね!」ビシ

.
 ユフィ「あっ、そのことですけど……」

     「今日は、スザクもルルーシュに逢いにいくそうなんです!」ニコッ
     「3人で一緒に、彼を驚かせにいきませんか?」

 コーネリア「何ィ、枢木もだと?」ジロ

 スザク「はい!申し訳ありません!」ビクッ

 シャーリー「えっ!?ルルの所に!?」

 カレン「……マジで?」

.
 ユフィ「……あら?」キョトン
     「まさか、あなた方もルルーシュのことをご存じなの?」
     「って、あなた……あら、TVに出てた、ルルーシュの……」

 シャーリー「あっ……」

 カレン「あー……」

 スザク(うわあ……もう何がどうなっているのか……!)

 ユフィ「……」キョロキョロ

どうやら、この出くわした全員がルルーシュと何らかの関係があるらしいと
いうことにユーフェミアは気づいた。

.
イレヴンであるスザクとブリタニア人のシャーリー、そしてハーフらしき赤毛の女性。
彼らがどういうきっかけで、どのように知り合い、そしてルルーシュとも知り合う
ことになったのか……

俄然、興味の沸いたユーフェミアは、その場の全員に笑顔で提案をする。

 ユフィ「こんなことが起きるなんて……今日は本当に、すてきな日だわ!」ニッコリ
     「せっかくですから、皆で一緒に、彼のところにいきましょう!」

 一同「ええっ!?」ギョッ

彼らの驚愕と同時に、わあっ、という歓声がその周囲で湧きあがった。
驚いて校舎の上を見ると、戦いの状況が一変していた。
ジャスティス・ホワイトが、腕を押さえて膝をついていたのだ……!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 咲世子「まさか、そのような攻撃方法をお持ちとは……」ハアッ、ハアッ

 ジェレミア「私も紳士である、女性相手に、この手段は採りたくナッシング……」
       「であるが、君はできすぎた……」

 咲世子「やむを得ず、ですか?」
      「光栄ですわ……」ニッ

 ジェレミア「誇り高き男、ジェレミア・ゴッドバルトにここまで追いつめて下さった、」
       「あなたの能力に感謝いたします……」ニヤリ
       「……ジェレミア・ビイイイイイイイイッ!」キッ!!

.
 咲世子「!!!!」

彼がそう叫ぶと、なんと彼の眼球から光の筋が迸った!
咲世子は、相手の視線だけを頼りに、光が脇腹をかすめるほどのぎりぎりの所で
それをかわす。肌が焦げた臭いが微かに立ち昇り、彼女の鼻腔を刺激する。

 咲世子「くっ……!」

 ジェレミア「素晴らしい、君はまことにワンダフル!」
       「この攻撃をも躱すことができるとは!」
       「だが残念……私は最大3連射が可能なのでした!」クワッ

 咲世子「!!」

.
ジェレミアの言葉に、彼女の顔はさっと青ざめた。
1発ずつでかろうじて躱せるものを、3連射されれば躱せる可能性はほぼゼロに等しい。
間近に迫った死を覚悟すると共に、相手を侮った不覚を恥じる。

 咲世子(……申し訳ございません、ルルーシュ様、ミレイ様───)

 ジェレミア「ふふふうふふふふふふふははははは!」
       「わが忠義は滅びぬ!ただ老いさらばえるのみッ!」ビシッ!!

ダークネス・ブラックは、満面の笑みで決めポーズをとる。
それに対し、明白に不利な状況に陥ったジャスティス・ホワイト……

.
しかし、それを見た周囲の観衆からは、猛烈な怒号が上がり始めた。

 「こらあ!今のは卑怯だろ、ブラック!」
 「何してんのよ、このブサイク!」
 「女性になんてことをするんだ、お前は!」
 「降りてこい卑怯者!」
 「そんなだから女にモテないのよ!」
 「ホワイト、がんばれがんばれえ!」

やがてそれは、ホワイトの名を連呼する盛大な声援となって渦を巻く。
ジェレミアはその渦の中心で、先ほどまでの優越感に浸った表情からは一変、
呆然とした面持ちで突っ立っていた。

.
 ジェレミア「…………」
       「……なぜ、帝国臣民の皆様は私にアンコールが届かない?」

 咲世子「世間の方々は、よく見ていらっしゃるということ……」ニッ

 ジェレミア「バカな!?」
       「私が、帝国の敵だとおっしゃいますか!?」

 ??「そうだ、ジェレミア・ゴッドバルトよ……」

 ジェレミア「むっ?」

.
彼の背後から、何者かの声が低く響いた。
ジェレミアが後ろを振り返ると、そこにいたのは仮面をかぶった黒服のマントの男……!

 ジェレミア「ゼ……ゼロぉ!?」クワッ

 咲世子「!!」

 ゼロ「久しいな、ジェレミアよ……」
    「処刑場以来かな?」

 ジェレミア「……!」

.
校舎の屋根の上に、マントをはためかせながら突如出現したゼロの姿に、
周囲の群集も騒然となった。それを見たカレンやスザクらも、同様に……

 シャーリー「ええっ、ゼロ!?」

 カレン「うっそ……」ギョッ

 スザク「……バカな!?」クワッ

 ユフィ「どうして、こんなところに?」ポカン

 コーネリア「何ィ、ゼロだと……!?」ギリッ

.
……だが、ゼロをよく知るカレンが、違和感に真っ先に気づいた。
遠目には確かにゼロの姿だが、随所が本物と異なる。

 カレン「……あ、口が見えてる?」

 シャーリー「…………ああっ、」
        「あれ、屋台で売ってたお面だ!?」

 スザク「あれは、誰かの変装か……?」
     「マントの下は、学生服に見えるぞ……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

屋根の上から、校舎を取り巻く観衆を見下ろしながらルルーシュは、
状況が想定通りであることを素早く確認する。

 ゼロ(学生服の上に羽織るマントは本物、だが仮面はあえて屋台で購入した……)
    (これで、この事態が学生らしい演出の一環であることになる)
    (そして校舎の上では、大声で叫ばぬ限り、話し声は観衆にはわからない)
    (……よし、ここまでは問題ない)

 ジェレミア「ゼ、ゼロ……!」
       「わたしは、お前のために、このような身体があああ!」プルプル

.
ルルーシュは、こちらを見ながら怒りで身体を震わせ叫ぶジェレミアの方に
顔を向ける。ニヤリと笑い、言葉をつづけた。

 ゼロ「私のために?」
    「はて、君は我々に、快く協力してくれたではないか、」
    「このバッジを持つ者として……」…チラ

ルルーシュは、マントを少し広げ、胸につけていた小さなバッジを、彼から見える
ようにちらつかせる。それは、かつてジェレミア達が派閥を作り、スザク処刑時の
失態により壊滅させられた……

 ジェレミア「それは、純潔派の……!」クワッ

 ゼロ「そう、君の仲間だ……そうだな?」

.
 ジェレミア「……な、仲間、だと!?」

 ゼロ「……」ジー

 ジェレミア「……な、ななな仲間ではノットオオオオオオオ!」グワッ

 ゼロ「!!」

咆哮と共に繰り出されたジェレミアの大振りパンチを、ルルーシュはさっと躱して
相対する方へ駆ける……咲世子の傍へ。
彼は、小声で咲世子に話しかける。

 ゼロ「ったく……お前は、何をしているんだ!」ボソボソ
    「身体は大丈夫なのか?」

.
 咲世子「大丈夫です、」
     「申し訳ございません……」ボソボソ

 ゼロ「いいか、この事態を収めるぞ、」ボソボソ
    「俺に合わせろ」

 咲世子「しかし、あの光線が……」

 ゼロ「落ち着け、奴は発射毎にしゃべっているだろう、」
    「あれはチャージする時間が必要だ、連射などできん」

 咲世子「!!……はい、御意に!」

.
ルルーシュは、再びジェレミアの方へ向き直ると、今度は大声で叫び始める。

 ゼロ「ホワイトから連絡を受け、急ぎ救援にかけつけた!」
    「ブラックよ!今度は、この学園を混沌へ陥れる気か!」

 ジェレミア「こっ、混沌ですと!?」
       「何を言うか、貴様こそがこの世のテロリストです!」

 ゼロ「私はテロリストではない!」
    「私は、弱き者の味方であり、そして……!」バッ!!

.
そう叫んで、ルルーシュは仮面をもぎ取り、投げ捨てる。
仮面の下から現れたのは、当然のことながらルルーシュ本人の素顔……!

 ルル「……アッシュフォード学園の味方である!」
    「生徒会副会長、ルルーシュ・ランペルージが、見参ッ!」ビシッ

"舞台"への、思わぬ人物の登場により、周囲の観客……特に、彼のファンである
女子生徒の黄色い歓声が一気に沸き上がる。
普段はクールな彼だけに、このギャップが相当に受けたようだ。

少し離れた場所で見ていたミレイも、彼の姿にニヤリと笑う。

 ミレイ「ふ~ん……」
     「……祭りの盛り上げ方、わかってきたみたいね?」

.
だが、これが偽のゼロとはいえ、本当のゼロの正体を知っている者、それを疑う者に
とっては、かなり衝撃的な演出だ。"舞台"の下の方では、それを見ていたカレン達が
呆気にとられていた……何も知らない、ユ-フェミアを除いて。

 シャーリー「ええっ、ルルがあんなことを!?」

 カレン「ルルーシュ本人、って……!」

 スザク「……何が、どうなってるんだ……?」

 コーネリア「ルルーシュ、だと……!」ジロ

 ユフィ「あら……ルルーシュだわ!」
     「ふふっ、彼がこんな役者を演じるなんて……」ニコニコ

.
そして中継車の中では、仮面を脱いだ偽ゼロの正体に、ディートハルトが興味を示す。
彼は、モニタの中に映る少年の顔を見て、それが誰かを思い出した。

 ディートハルト(これは……しばらく前に騒ぎになった、元皇太子とかいう者では?)
        (そうだ、確かこの学園の生徒ということだったな……)

        (……ふむ、これは意外に面白いネタかもしれない)
        (録画を回しておいて正解だったな)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ジェレミア「なっ、なんと、怨敵はルルーシュ様……!?」

 ルル「……」

仮面を脱いだルルーシュの素顔に、ジェレミアは驚愕し思考が真っ白に消し飛ぶ。
普段から混沌としている彼の言葉が、さらに混迷を増す。

 ジェレミア「つっ、つまり私は、ブリタニアのテロリストの忠実なる騎士?」
       「いやしかし、ルルーシュ様は皇帝にしてもはや副会長であるから、」
       「ブリタニアに騙された私はイレヴンのスケープゴート……」

 ルル「ジェレミアよ……」スッ…

.
 ジェレミア「!!」

うろたえているジェレミアに向け、ルルーシュはその右腕を上げ、指で指し示す。
彼を見据えるその目が、怪しく輝く。

 ルル「……なるほど、君はどうやら、サイバネティクス手術を受けたようだな」
    「面白い、実に面白い……」

 ジェレミア「わ、わたしは……」ブル…
       「わたしは、マリアンヌ様の忠実な騎士であり……」ブル…ブル…

 ルル「……フハハハハハ!」
    「どうやら、副生徒会長の登場に怯んだようだな、ブラックよ!」
    「会長が出るまでもない!今ここで、決着をつけようッ!」

.
 ジェレミア「けっ、け、け……!?」

 ルル「私がいる限り、学園に悪の芽は育たせぬ!」
    「ダークネス・ブラック!我が威光を食らうがよいッ!」バアッ!!

屋根の上にひときわ強く吹いた風に乗せ、ルルーシュはマントをはためかせる。
瞬間、彼の表情やしぐさが、周囲の観衆やその背後に立つ咲世子からも隠れる
形となった。その機を逃さず……

 ルル「……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、」…ィィイイイ
    「その忠義、我に捧げよッ!」キイイィィン!!

 ジェレミア「……!!」

.
ルルーシュは、ジェレミアに聞こえる程度の声で"命令"を下した。

登場時の不自然な振る舞いや、明らかにサイバネティクス機器を装備したその姿、また
純潔派の証であるバッジにも反応を示さない彼を確認したルルーシュは、手術により
ギアスの影響を取り除かれたことを確信した。
また、記憶能力自体は失われていないこと、そのため、不完全ながらも再度ギアスの
影響下に置ける可能性が高いことも見抜いた。

 ルル(ラクシャータは、元サイバネティクス技術者だ)
    (ランスロットにはさして興味を示さなかった彼女だが、)
    (これは面白がるだろう……いい土産になる)ニッ

 ジェレミア「ぬお!……お……!」ピク…ピク…

.
ジェレミアは、彼の読み通りの反応を示した。身体が硬直し、がくがくと震え始める。
それを見て取った彼は、すかさず大声で叫ぶ。

 ルルーシュ「栄光のアッシュフォードの名の下に命じる!」
        「ひれ伏し、おとなしくお縄を頂戴せよッ!」
        「……ホワイト、今だッ!」

 咲世子「はっ!!」バアッ!!

咲世子は、目にも止まらぬ早さで、震えながら硬直するジェレミアをワイヤーで
ぐるぐる巻きにした。その鮮やかな手際に、周囲から拍手の嵐が巻き起こる。

.
ルルーシュと咲世子は、縛り上げられたジェレミアを挟む形ですっくと立ち、
彼らを取り巻く観衆に腕を力強く、高々と上げてみせた。
要領を得たミレイのアナウンスが、すかさず流れる。

 ミレイ『どうやら、悪党ブラックは無事捕えられたようです!』

     『一時はわたくしが直々に、と思っていましたが、さすがは副会長!』
     『こういったハプニングもそつなく解決する手腕が、女生徒たちの憧れの的と』
     『なっている理由のひとつですかねえ~!』

 ルル(……余計なことを……)ゴホン

 ミレイ『こうして、アッシュフォード学園に再び平和が訪れたのであります!』

     『みなさ~ん、副会長とホワイトさん、ブラックさんにもう一度盛大な拍手を!』
     『そして、ぜひ最後まで、学園祭を楽しんでくださ~い!』

.
ひときわ大きくなった大歓声に手を振って笑顔で応えながら、結果としてミレイの
思い通りに学園祭が盛り上がった形となったことに、ルルーシュは内心で苦笑した。

 ルル(あの人には敵わないな……)
    (しかし、いい経験にはなった、これもいつか使える手になるかもしれんな)

 咲世子「ルルーシュ様……」…ボソッ

 ルル「ジェレミアはもはや、俺の支配下に落ちた」ボソッ
    「色々と聞きたい話もある、地下水路へ連れておけ」

 ジェレミア「マ……マジェスティ……マジェスティ……」プルプル

 咲世子「かしこまりました」ボソッ

.
|⌒ ミ
|ω・`) ひとまず。


果たして本当にギアスにかかってるのかなこれは

これはルルーシュえらい目に遭いますねぇ…

おっつん

>>218
それは今後のお楽しみです!

>>219
その通り!早速遭います!

>>220
乙ありです!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

やや不本意ながら、想定外の事態を無事収めたルルーシュは、再びミレイの元へ
行くと、今回はあくまで演出だった、彼らは密かに雇った役者ということで通すことに
同意させた。

 ルル「全く……咲世子さんには、あの不審者を所轄の警察署まで、」
    「内々に連れてゆくようお願いしましたからね」

 ミレイ「それでいいんじゃなーい?」
     「ま、今回はわたしが内緒で計画した、ってことで、泥を被ったげるわ♪」

 ルル「当たり前ですよ!」
    「どうして俺が、あんな恥ずかしい思いをしてまで……」

.
 ミレイ「んー、そうお?」
     「意外と楽しんでたように見えたわよぉ?」ニヤリ

 ルル「だっ、誰が!///」

騒動の間、ナナリーを生徒会室に一人でいさせていることがずっと気にかかって
いた彼は、ミレイとの話を終えると急ぎ生徒会室まで戻る。
が、部屋の前まで来ると、扉の向こうが妙に騒々しいことに気づいた。

 ルル(……ん?リヴァル達が戻ってきたのか?)
    (きっと今の騒動を見ていただろうが、どう説明したものか……)…ガチャ

    「……ナナリー、ごめん!遅く……ッ!?」

.
扉を開き、生徒会室へ入ったルルーシュは、室内の集団を見た瞬間、身体が硬直し
思考が凍り付いた。その部屋の中には……!

 リヴァル「おおっ、我らがヒーローのお戻りだぜ!」ニカー

 ナナリー「お兄様、お帰りなさいませ!」ニコッ

 シャーリー「ルル……」オドオド

 スザク「……ル、ルルーシュ!久しぶりだね!」ビクビク

 カレン(何言ってんの、こいつ……)ジロ

.
 ユフィ「あっ、ルルーシュ!お疲れさまでした!」ニッコリ!!

 コーネリア「……」ジー

 ガードたち「……」ジー

 ニーナ(ユーフェミアさま……//////)ホワホワ~

 ルル(な……んだと…………?)
    (こっ、これは……!)ポカーン…

彼に関係するブリタニア側および騎士団側の人間と、ついでに生徒会のメンバーが
生徒会室に一堂に会し、彼の帰還を待ちわびていたのだった!

.
一体、自分はどの立場でいるべきなのか。
全く見当がつかず、呆然としているルルーシュに、彼らは口々に話しかける。

 ユフィ「ルルーシュが、あんな演技をするなんて初めて知ったわ!」
     「すごかった……いつ覚えたの、ああいうことを?」ニコニコ

 スザク「いっ、いきなりでびっくりしたよね?」
     「君がこの学園にいると聞いて、いてもたっても……」

 カレン「……あんた、ちょっと黙っててくれる?」
     「わけわかんないのよ、さっきから」ギロ

.
 ニーナ「あのユーフェミア様、覚えてらっしゃいますか?///」
     「あのわたし、ユーフェミア様に助けていただいた……///」
     「あのその、ニーナ・アインシュタインです!」
     「わたしあの、ニーナかもしくは、忠実なしもべってお呼びいたd」

 コーネリア「ルルーシュ、お前がああいう"遊び"もするとはな……」ニッ

        「……だが、ゼロの恰好をしたのは気に入らんな」
        「迂闊だとわかるだろう?どういう積りだ?」

 ガードたち「……」ジー

.
 ナナリー「お兄様、みなさんの前で役者を演じられたのですね!」
       「みなさん、白熱した舞台だったとおっしゃってましたよ!」ニコニコ

 リヴァル「ナナリーにも内緒だったんだって?」ニヤニヤ
      「お前、ノリノリっぽく見えたけど、ほんとは恥ずかしかったのかあ?」

 シャーリー「あ、あの……ルル?」
        「ひょっとして、混乱してる……?」オドオド

 ルル「……」
    「…………」

めいめいが勝手に話しかけてくる姿に、目を丸くしながら立ちすくんでいた彼だったが、
目の前に立つシャーリーの不安げな表情に視線を止めると、その腕をがっしとつかんだ。

.
 ルル「……ちょっと来い!」グイッ

 シャーリー「あっ、え!?ちょ……!」

室内の他の人々をそのままにして、ルルーシュは有無を言わさず彼女を部屋の
外まで連れ出した。荒々しく扉を閉じると、小声で詰問する。

 ルル「一体、何がどうなっている……!」ボソボソ

 シャーリー「あ、あのね……何から言えばいいんだろ……」オロオロ

 ルル「あまり待たせられない、急いで、端的に説明を!」

.
 シャーリー「うん、えっと……わたしがカレンさんに首を絞められて、」

        「そしたらC.C.さんが変な人に追われてて、」
        「白いニンジャさんが助けてくれて、」
        「スザクくんとユーフェミア様に出会って、」
        「じゃあみんなでルルに会おう、って……」

 ルル(…………壊滅的に、理解不能だ……!)ギリッ…
    「……ひとつだけ確認だ、みな、"学生の俺"に逢いに来たんだな?」

 シャーリー「う、うん……きっと……」オロオロ

彼女の、かろうじての肯定を聞いたルルーシュは、己のひたいに強く拳をあて、
かつてない勢いで思考をフル回転させる。それは、ほんの僅かの間であったが、
彼にとっては十数分の思考を凝縮した、極めて濃厚な間であった。

.
 ルル「……よし!」バッ

次の瞬間には、彼は意を決して顔を上げる。
1~2秒で心を落ち着け、再び生徒会室の扉を開いた。
室内の全員が、再び入ってきた彼を一斉に凝視する。

 ルル「……」カツカツ…ピタ

 一同「…………」ジー

 ルル「…………」
    「……何が、どうあろうとッ!」ダン!!

 一同「!!」ビク

.
 ルル「今から俺は、ナナリーとの約束を果たす!」キッ!!
    「ナナリーを祭りに連れ、かけがえのない大切な思い出づくりに励むッ!」
    「それが本日の、俺の第一戦略目標だからだッ!」

 一同「…………」

 ルル「何者であろうと、我が綿密なる計画をこれ以上阻むことは断じて許さぬッ!」
    「異議ある者はいるかッ!」

 一同「…………」
    「……」…フルフル

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

悪夢のような……
いや、悪夢であればよいほどの、奇妙な現実。

ルルーシュ・ランペルージは、祭りの会場の中、ナナリーの車椅子を押しながら、
右にはシャーリー、左にはユーフェミアを配し、その前方にはニーナとリヴァルとミレイ、
その背後にはスザクとカレンとコーネリアを従え、さらに彼らの周囲をコーネリアの
ガードたちが付かず離れずの距離で付き従うという、今朝の想定を遥かに超えた
状況の中で……

.
 ルル「ナナリー、あそこでわたがしを売っているよ」
    「昔、好きだっただろう、食べるか?」ニコニコ

 ナナリー「ふふ、匂いでわかりますよ、お願いします!」ニコニコ
       「あっ、でも、顔にべったりとついちゃうかも……///」

 ルル「俺が食べさせてあげるよ、遠慮するな」ニコッ

 ナナリー「お兄様……///」

……と、もはや現実逃避レベルでシスコンぶりを発揮しまくっていた。
そんな彼の姿に、カレンは誰ともなく呆れ顔で呟く。

 カレン「……なんだかバカらしくなってきたわ」ハァ

.
 スザク(久しぶりに、彼らしい姿を見るなあ……)
     (子供の頃を思い出す)ニコニコ

 コーネリア「ルルーシュは昔から、あの妹かわいがりだけは」
        「私も顔負けのレベルだったからな……」テクテク

 カレン「へえ……ふだんの彼からは、想像もつきませんね」
     (……わたし、なんでコーネリアと普通に話してんだろ)

 コーネリア「……枢木スザクのことは私も知っているが、」
        「お前は、ルルーシュとどういう関係なのだ?」

.
 カレン「……なんですかね」ボソッ

 コーネリア「ん?」

 カレン「腐れ縁の、トモダチですかね……」
     「……彼に聞いてください」ムスッ

 コーネリア「???」キョトン

ルルーシュの隣を歩くユーフェミアは、すっかり上機嫌で祭りを楽しんでいた。
先ほど買ったりんごあめを舐めながら、うきうきと彼に話しかける。

 ユフィ「ルルーシュ、もう少ししたらジャンボピザを焼くんでしょう?」
     「わたし、出来立てを食べてみたいわ!」ニコニコ

.
 ナナリー「それ、私も楽しみにしてたんです!」
       「わくわくしますね、お兄様!」

 ルル「ああ、ギネス級の大きさにするらしいぞ」
    「楽しみだな」ニコニコ
    (……ん、ピザ?何か嫌な予感が……)

 ニーナ「あっ、ピザいいですよね、ピザ!」
     「ユーフェミアさま、わたしも大好きなんですよピザ!」
     「好みが色々と合いますね、わたしなんだか、運命を感じてます!」
     「どんなのがお好きですか?わたしは、ユーフェミアさまと同」

.
ルルーシュの楽しげな横顔を見つめながら、その横にいるシャーリーも一緒に微笑む。
これだけの、通常ではおおよそ相容れるはずのない人々が集まって、彼を中心に
ともかくにも共に行動しているのだ。こういう所が、彼の人徳というものかもしれない。

 シャーリー(二人きりにはなれなかったし、色々とひどい目にあったけど……)
        (……ルルも何だか楽しそうだし、まあいいか!)ニコニコ

 ルル「……シャーリー?」

 シャーリー「ん?なに?」

 ルル「その、朝のことだけど……」
    「君を邪険にしたわけではないんだ、ただ、ナナリーと先に」

.
 シャーリー「わかってる、もういいって!」ニコッ
        「今はこうして、みんなで楽しく、一緒にいるんだからいいの!」

 ルル「……そうか」ニコッ

そう言いつつもシャーリーは、頬を少し赤らめ、車いすを押しているルルーシュの
学生服の裾を、指先でそっとつまみ、軽く引いた。
その素振りに気づいた彼は、シャーリーと目を合わせると小さく微笑んでみせ、
再び知らんぷりをする。

たったそれだけの、誰もが見過ごしそうな、ささやかな心の通じ合い……
それが、今のシャーリーには、最高の幸せな瞬間であった。

.
……だがしかし、もちろんカレンはばっちり気づいている!

 カレン(……ぬううううう……)メラメラ

 スザク「どうしたの?」ニコニコ
     「そんな怖い顔w」

 カレン「ンだと!誰が鬼女(おにおんな)だコラあ!」ガッシ!!

 スザク「ぐう!ちッ、ちょ……くび、キマってます……!」ピク…

.
彼らの先頭を歩く、リヴァルとミレイ。

自分たちの背後で繰り広げられている騒ぎを聞きながら、彼は横を歩くミレイの表情を
盗み見る。ルルーシュらのおかげもあり、すっかり盛り上がっている学園祭に、彼女は
随分と上機嫌でいるようであった。

これまで二人きりになれたことはないが、今は状況的に"二人きり"と言っても差し支え
ないだろう。自分たちの間柄を、もう少し意識してもらえたら……
……リヴァルは、この機を逃さずチャレンジ精神で状況の打開に臨むことにした。

 リヴァル「…………」
      「……会長~?」テクテク

 ミレイ「んー、なあに?」テクテク

.
 リヴァル「……オレらって今、周りからどういう風に見られてるかな?」

 ミレイ「アッシュフォード生徒会とそのご一行に決まってるじゃない!」ニッ
     「これだけ個性豊かな集団、他にいないわよ~?」ニコニコ

 リヴァル「そうだねぇ……周囲の視線が痛いくらいですよ……」
      「って、いやそうじゃなくて!」

 ミレイ「??」

 リヴァル「オレらだよ、オ・レ・ら!僕たち!」
      「今こうして、並んで歩いてる……」

.
 ミレイ「生徒会長とその手下~」ニコッ

 リヴァル「手下ぁ!?」
      「……せめて、けなげな後輩とか……」ウルウル

 ミレイ「それはそうとリヴァル、」
     「そろそろ司会の準備しないといけないんじゃない?」

 リヴァル「あ、そういやそうだ……」
      「……会長?それルルーシュに任せ」

 ミレイ「却下!」プイ

     「副会長、身体張ってまで学園祭を盛り上げたのよ?」
     「あんたもいっちょ、キバってやんなさい!」ギロ

.
 リヴァル「へえへー……」
      「……ああ、もうちょっとこうして、一緒に……」ブツブツ

 ミレイ「TV局も中継に来てんだからね、失敗したら承知しないわよ?」
     「……その代わり、しっかり盛り上げたら、なんかご褒美あげるわ」ニッ

 リヴァル「おっ、おほ!?それ早く言ってくんなきゃ!」
      「男リヴァル・カルデモンド、ビシッとキメてやるぜえ~!」ビシッ!!

祭りを楽しむ人々の中でも、さらにひときわ騒がしく。
楽しげにおしゃべりをするルルーシュらの姿を後ろから見ながら、
コーネリアはひとり、微笑んだ。

 コーネリア(……モラトリアム、か)

        (社会に出れば、そのような時間は二度と得られなくなるのだ)
        (今のうちに楽しむといい、学生たちよ……)…ニッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「……面白いな」

 ディートハルト「でしょう?」ニコッ
        「この学生、ゼロの動きをよく観察しているように思われます」

 C.C.「ふむ……」

……ドアを閉め、照明を消した中継車の中。
壁面に並ぶ液晶モニターのカラフルな色に照らされながら、ディートハルトとC.C.は、
彼が録画した"演劇"の映像を共に見直していることろだった。

.
ディートハルトは、映像の中のルルーシュがゼロ自身だとは全く気付いていない。
にも拘わらず、ルルーシュの言葉や素振りに、ゼロとの共通点が感じられると
彼女に語る。

 ディートハルト「例えば……」
        「……彼が、ゼロだという噂を流します」

 C.C.「……」

 ディートハルト「もちろん、突拍子もない話ですし、学生は即座に否定するでしょう」

        「ですが、当局は今、黒の騎士団に対し神経質になっている……」
        「彼を捕え、取り調べくらいはするでしょう」

 C.C.「……ふむ」

.
 ディートハルト「元皇太子が、テロリストの疑いをかけられ、逮捕される」
       「これは、もし事実であればブリタニアにとっては青天霹靂、」
       「しかし事実ではないがゆえに、その結果は間違いなく、」
       「総督府の大きな失態となります……」

 C.C.「……」

 ディートハルト「……政情不安をさらに煽る、よい手段ではないかと」

 C.C.「……なるほど、」
    「面白いアイデアだな」…スック

.
パイプ椅子に腰かけていたC.C.は、腰を上げるとディートハルトに微笑んでみせる。
そうして、モニターに映し出されている、屋根の上のルルーシュの姿を見つめながら、
抑揚のない調子で語る。

 C.C.「……今の話、今夜にでもゼロに提案してみよう」

 ディートハルト「今日は、彼とは別行動ですか?」
        「それにその服装は……?」

 C.C.「隠密活動だ、学園内の協力者と接触する」
    「……学園に潜入するのに、これ以上の変装はないだろう?」

 ディートハルト「ごもっともです……」ニコッ

.
 C.C.「……この映像を預かりたいのだが?」
    「ゼロにも見せたい」

 ディートハルト「マスターですか?」
       「これは、今夜のニュースで」

 C.C.「それはやめておけ、」
    「……作戦に使うなら、機が熟すまで秘匿すべきだ」

 ディートハルト「……わかりました」コクリ
        「マスターは後ほど、アジトでお渡しします」

 C.C.「頼むぞ、ディートハルト」…カツ

.
彼女はそう言い残すとドアを開き、全てがさんさんと輝く眩しい日の中に足を踏み出す。
もうじき、世界一のジャンボピザの催し物が始まる時刻だ。
会場には既に、どこからともなく大量のピザの材料の匂いが漂ってきている。

C.C.は、その視界の隅でルルーシュ達を捉えた。
ナナリーを連れて楽しそうにしている彼や、その周囲で彼を取り囲む人々の
姿を確認すると、彼女は物憂げな表情を浮かべながら、会場とは反対の方向へ
足を向ける。

やや俯き加減で、ゆっくりと歩みを進めていた彼女だったが……
やがて顔を上げると、そこにはいつもの、遠くを見るような目のC.C.がいた。
彼女は、何者も意に介さぬ、悠々とした様子でその場を立ち去る。

.
 C.C.(……あの奇妙な男は、シャルルの差し金ではなかった)カツカツ…
    (きっと、シュナイゼルの手の者だったのだ)
    (ルルーシュがそれを捕えたということは、バトレーの研究のことも)
    (奴に知れることになるだろう……)

    (……機は熟しつつある、お前の望む・望まぬに拘わらず)
    (巨大な混沌の渦が、行く手に待ち構えているのを感じる)

    (お前は、やはりその中に飲まれ、泡のごとく消えてしまうのだろうか……)
    (それとも、がむしゃらに櫂をかき、かろうじて生還を果たすのか?)

.
そこまで考えた彼女は、あることに気づいた。
彼に興味がある。己の願望と、関係がなく。

人ごみの中でつと立ち止まり、しばし空を見上げていた彼女だったが、
ふんと鼻を鳴らすと、再び歩き出した。

 C.C.「……まだ、過ちと決まったわけじゃないさ」

彼女は、微かに微笑む。
大味そうなジャンボピザよりも、咲世子の作る丁寧なマルガリータがいい。
これもひとつの選択、それもまた、ひとつの選択だ。

.
彡 ⌒ ミ  モラトリアム期間、完了であります!
(´・ω・`) 続きは、しばらく先になると思います。悪しからずご了承を……


時間軸では、ようやっと本編でのSTAGE 21終了時に到達。

以降、おそらくどんどん本編から離れた展開になると思われますので、この時点での
本編と異なる部分を簡単にまとめておきたいと思います(主に自分のため)。



■本編と違うポイント(登場人物編)

・ゼロ
  本編での桐原以外にも、藤堂と騎士団創設時メンバー、シャーリー、
  咲世子に正体を知られている。
  シュナイゼルに正体がバレかけた。現在咲世子を影武者として活用中。

・ルルーシュ
  生存が全世界に知られている。シャーリーへの気持ちの自覚あり。
  最悪の場合を考え、ナナリーを医療施設に託す。

・スザク
  名誉ブリタニア人の地位をはく奪され、しばらくはゲットーで復興事業に従事、
  マオにトラウマをえぐられリフレイン中毒になった後、黒の騎士団に入団。
  でも気持ちはユフィの専任騎士。

・ナナリー
  現在は、エリア11の医療施設からアッシュフォードに通っている。
  たまに咲世子がルルーシュを演じていることに気づいている。

.
・カレン
  ルルーシュへの気持ちを自覚し始めた。零番隊隊長の立場と恋心の板挟み。
  複座化した紅蓮のテスト中、ゼロにおっぱいをもまれる。

・扇
  車椅子に乗る騎士団代表。メディアでチヤホヤされ浮かれ気味らしい。
  マネージャーはディートハルト。ヴィレッタとは出会えていない。

・シャーリー
  一時期、腐女子に。ゼロやルルーシュのことをだいたい知ってる。
  ルルーシュとは全世界公認の仲(しかしいちゃいちゃできず)。

・ニーナ
  かなり腐女子。

・咲世子
  既にルルーシュの影武者、各種いろいろ承り(騎士団には入団していない)。

・ジェレミア
  将軍による魔改造済み。ルルーシュの配下となった。

・ヴィレッタ、キューエル
  将軍による魔改造済み。今は本国へ帰還。

.
・シュナイゼル
  ゼロの正体に肉薄、ルルーシュ=ゼロの疑いをまだ解いていない。
  でもちょっと優しい?

・コーネリア
  ルルーシュが生きてて結構うれしい。彼がゼロだとは信じたくない風。
  ナリタでギアスをかけられ済。

・ユーフェミア
  ルルーシュが生きてて超うれしい。彼がゼロだとは微塵も思っていない。
  スザクとは状況によりくっついたり離れたり。

・ジノ
  スザクの代わりにランスロットのデバイサーに。
  カレンに惚れつつも現在行方不明。

・C.C.
  早めにマオを撃つ。自分の気持ちも早めに自覚。

・V.V.
  神根島でルルーシュの邪魔をせず。まだ傍観中。

・吉田、杉山
  すでに死亡

.

■本編と違うポイント(ストーリー編)

・シンジュク事変 ⇒ シンジュク事件(クロヴィスが暗殺されなかった為)
 この時に扇は下半身不随に

・ヴィレッタは自殺するようギアスをかけられる(実行直前に軍に捕らえられる)

・シンジュク事件が原因でカレンと母親はシュタットフェルト家を追い出された

・ルルーシュは顔出しで扇グループに接触、
 自身の能力および本気で反逆を行うことの証明のため、
 カレンらと共謀しクロヴィスを誘拐&殺害
 ついでにジェレミアらにギアスをかける

・濡れ衣で公開処刑されるスザクを救うため、解放戦線に接触
 片瀬にギアスをかけ支配下に置く

・シャーリー、こっそりルルーシュにキスするもC.C.にガン見される

・スザクは牢獄で、ユフィと運命の出会いを果たす
 救出された後、スザクはしばらく皇家で幽閉状態に
 ジェレミア、ゼロ達を見過ごした件で本国送還

・ルルーシュ、ダミーの貿易会社を設立

・カワグチ湖の事件でスザクとゼロが共同作戦

.
・ルルーシュとカレンがデート、スザクとユフィがデート
 スザクはユフィに心酔し、ルルーシュに協力しなければ正体をバラすと仄めかす

・シャーリー、ニーナの影響で腐りまくる

・マオがC.C.と直接接触
 一緒にオーストラリアへ行くよう口説くがフラれる

・ナリタ事件の後、ルルーシュはシャーリーへの気持ちを自覚

・ヴィレッタ、ジェレミア、キューエルがバトレーにより魔改造
 コードR探索のためエリア11へ

・スザクとシャーリーをいじったマオ、ナリタでシャーリーに射殺される
 ルルーシュ、シャーリーにギアスをかけられず

・スザク、リフレイン中毒になってた
 ルルーシュ遠征中、シャーリーがスザクの面倒を見ることに

・神根島で、シュナイゼルがゼロにルルーシュと呼びかける
 マリアンヌのことを聞けなくなる

・ルルーシュ、どうにか誤魔化さなければと焦る
 が、C.C.に鼻で笑われ激昂、首を絞めた後にオレ何やってんだ状態
 最終的に捨身の境地に

.
・ルルーシュとナナリー、コーネリアらと再会する
 ナナリーはエリア11の医療施設に入る

・シュナイゼル、それならばと衆目がルルーシュを監視する状況に陥れる
 しかし咲世子が影武者に、ルルーシュの自由度は以前と変わらず

・黒の騎士団が、中華連邦に占拠されたフクオカ基地を奪還
 ついでにランスロットとジノを浚う

・学園祭に大集合



                       彡⌒ ミ
こうして見ると、随分と違ってた件。(u´・ω・)

.
■Intermission C.C.の"楽しみ" ────────

ルルーシュと何らかのつながりがあり、且つ普段は敵対関係にあるという人々が、
どういうわけかルルーシュを目当てに一堂に会するという、悪夢のような事態。
しかし彼は、シスコンパワー全開でナナリーと二人の世界に耽溺するという、
まさに彼を知る人々相手にしかできない荒業で、最悪の事態を乗り切った。

あの白いニンジャや悪役が咲世子とジェレミアであったことや、カレンとスザクが
騎士団のメンバーであること、そして当然、自分がゼロであることなどを、誰にも
知られずに(質問させる余裕も与えずに)済ませることができた。

学園祭が終わった、その夜。
クラブハウスのルルーシュの自室にて……

.
 ルル「…………疲れた……」ガチャ

 C.C.「……おかえり、色男」モグモグ

部屋に戻ってくるなり疲労を表明する彼を、C.C.はいつものように、ベッドの上で
ピザをぱくつきながら出迎えた。
ルルーシュは肩をこきこきと鳴らしながら、室内のソファを目指す。

 C.C.「ナナリーを送っていたのか?」

 ルル「ああ、医療施設まで送ってきた」
    「……って、色男とは何だ」カツカツ

 C.C.「モテモテだったじゃないか、今日は」

.
 ルル「見てたのか……」ムス
    「今日のような事態は、迷惑千万だ」

 C.C.「人々に慕われるという特殊能力だと思えばいいじゃないか」
    「……もしかすると、それもお前の持つギアスかな?」ニヤ

 ルル「ハッ、馬鹿馬鹿しい……!」…モスッ
    「制御できんギアスなど、無価値も同然だ……」

 C.C.「……ふふ、そうだな」

ソファに寝ころび、全体重を預けながら言い放ったルルーシュの言葉に、
C.C.はふと、昔のことに思いを馳せる。自分がまだ"コード"ではなかった頃、
ギアスを保持し、やがてそれが暴走していた頃の、自分自身の思いを……

.
 C.C.(…………無価値だったな、全ての歓心が)
    (皆が愛してくれたが、私は誰も愛せなかった……)

    (……いや、今でも私は、愛というものが、よくわからない)
    (誰もが知っているという、得体のしれない、不合理な感情のことを)

    (愛してくれていた、と思っていたシスターも結局は、自分のためだった)
    (私も今は、自分を終わらせてくれる者として、こいつを育てている)
    (それが愛などとは、微塵も思ってはいない……)

    (……だが、最近のこいつへの興味は、何なのだろう?)
    (ルルーシュのすることが、愉快であり、期待もあり、心配でもある)

.
 ルル「……お前は時々、」
    「そういう"ズルい顔"をする」ジー

 C.C.「……!」

いつの間にか、ルルーシュが自分の表情を観察していたことに、彼女は気づく。
まるで映画の批評家のような、その言葉を聞きとがめた。

 C.C.「どういう意味だ?」

 ルル「言った通りだ……」フン
    「シャーリーもたまに、そういう"ズルさ"を見せる」
    「平気ではないくせに、強がってみせたりな」

.
 C.C.(こいつ……!)
    (元々、人の心の機微に鋭い男だったが、最近は人の心の中にまで)
    (土足で入るコツを掴んできおって……)

それもシャーリーとの付き合いの影響かもしれない、とチラリと考えた彼女は、
いつも通りの反撃を行うことにする。

 C.C.「……あの娘と一緒にするな、」
    「お前の歓心など、私は全く必要としていないんだよ、童貞坊や」フン

 ルル「またそれを言うか……」ハァ
    「お前、俺がいつまでそうだと思っている?」

.
 C.C.「ん、童貞か?いつまでも、だろう?」ニヤ
    「まさか、最近経験した、などと言うなよ?」

 ルル「言うわけがないだろう、お前に言う必要も、責務もない!」
    「……まあ、いつその過ちに気づくか、楽しみにしているぞ……」ニッ

 C.C.「お前が童貞かどうか、私にはよーくわかるんだよ」
    「あまり強がるな、チェリーボーイ?」ニコッ

 ルル「…………お前は、とても不愉快だッ!」スック
    「俺がシャワーを浴びている間に、とっとと自分のベッドに戻れ!」テクテク…ガチャ

 C.C.「……」ニヤニヤ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

全てが寝静まる深夜、丑三つ時……

ルルーシュが眠る部屋の隣、C.C.の部屋に通じる扉が、音もなく、ゆっくりと開く。
密やかに扉を潜り、ルルーシュの部屋へ忍び込んできたのは……

 C.C.(……私には、わかると言っただろう、ルルーシュ?)クスクス

……下着姿にその上から男物のシャツを羽織っただけの、随分とラフなC.C.であった。
片手には何か細い棒を、もう片方の手には懐中電灯を持っている。
その表情は彼女には珍しく、少し紅潮しているように見える。

.
 C.C.(お前が、泡を食って驚く姿を見ることなく、今日奴らに捕まっていたら、)
    (どれだけ悔やんでいたか)ソロリ、ソロリ

    (今晩もこうして、ルルーシュのふとんに潜り込める喜び……)
    (お前に語ってやれないのが残念だよ……)ニヤニヤ

彼女は抜き足差し足で、ルルーシュの眠るベッドの足元あたりまで移動すると、
その安らかそうな寝顔をじっくりと観察する。

普段は、大人すら打ち負かすほどの強い意志で行動する彼も、眠っている間は
その表情に年相応の幼さを感じさせる。それを見下ろす彼女の目は、心なしか
うっすらと潤んでいた。

.
 C.C.(ふふ、カレン達にはひどいことを言ったかな?)
    (こんな"楽しみ"、実際は私にしか味わえないのだからな……)…ペロッ

己の唇を軽く舐めるとC.C.は、ベッドと並行になる目線までゆっくりと腰を落とし、
おもむろにルルーシュが眠るふとんの足元にそっと両腕を差し入れる。
その間、この気配に彼が気づかないか、彼女は彼の顔を凝視していたが、
今日の日中は相当に疲れていたのか、彼はぴくりとも動かない。

C.C.は満足げに、そして妖しく微笑むと、今度は大胆に、頭までふとんの中に
するりと潜り込んだ。ちょうど、彼女の顔のあたりに、ルルーシュの足の裏がくる
位置まで侵入する。

彼の体温で暖まっているふとんの中、彼女はその急な進軍で彼が驚き起きて
しまわないよう、小休止をとることにした。

.
 C.C.(……む?ほんのりと、良い香りがするぞ?)
    (さてはこいつ、コロンをたしなみ始めたか?)

    (このエロガキめ……お前にはまだ早いぞ)
    (後日、羞恥で頬を染めるまで小馬鹿にしてやろう)

しばらくの間、ルルーシュの香りとふとんの温かさを十分に楽しんだ彼女は、
いよいよ"本番"にとりかかる。

まるで重さを感じさせない動きで彼女は、ついにルルーシュの腰のあたりまで
潜り込むことに成功する。神聖なるふとんへの闖入者にも、彼は全く気付いて
いない様子だ。

.
C.C.はほくそ笑みながら、彼が着るパジャマのズボンのゴムにそろそろと指を
かけ、彼に決して異常を悟られないように慎重に、ゆっくりと……
下へ、下へと引き下ろしてゆく。

規則正しい呼吸に合わせて、ゆっくりと動くなまめかしい下腹が姿を現す……
そして、このままゆけば間違いなく、C.C.の眼前に隆々とした男性自身が……!

……が、見える寸前のところで、彼女は手の動きを止める。

 C.C.(私は、こちらには用がないんだ)
    (それに、自身のアレを私に見られたと知れば、こいつはきっと女生徒のように)
    (さめざめと泣くだろうからな……)ニヤリ

.
そうしておいて今度は、彼のつま先の方へ少し戻ると、彼女の細い指先で
彼の片足の裏側を優しく、さわさわと触り始める。

 C.C.(こいつの、このクセに、いつ気づいたのだったかな……)サワサワ
    (……そうだ、確か事務所で、こいつが靴を脱ぐなりソファに飛び込み、)
    (そのまま寝入った時だ……)サワサワ、サワサワ

足の裏から伝わってくる、痒くもありくすぐったくもあるような、微妙な感覚。

疲れ果てて眠っているルルーシュも、直接与えられた五感にはさすがに反応を
示した……むずがる赤子のように、小さく唸りながら、C.C.とは反対の方向へ
寝返り、横向きになった。

.
今回も、例外なく完璧に、自分と反対の方向へ寝返ったルルーシュに、
C.C.はある種の感動すら覚える。

 C.C.(こいつは必ず、くすぐった足と反対の方向へ寝返りを打つんだ)
    (全く、どこまでも計画的に、ルール通りに動くやつだよ……)

彼女の愉悦は、ついに最高潮を迎える。
再び、彼の腰のあたりまでそろりそろりと戻ったC.C.は、彼のズボンをさらに下へ
引き下げると、ふとんをかぶったままの状態で、用意した懐中電灯のスイッチを
入れる。

真っ暗な寝具の中、突如輝いた白い光に照らされ、ルルーシュの、ぷりっ、と
膨らんだ……すべすべとした小ぶりの臀部が、彼女の視界に飛び込む!

.
 C.C.(くそ……相変わらず、かわいらしい尻をしている!)
    (こいつのコレだけは、私も敗北を認めるしかない……!)

彼女は、背徳に身を焼かれるような感覚と共に、自身の頬をそっと、
彼の臀部に擦りつける。そのなめらかな肌触りを味わいながら、彼女は一瞬、
このまま彼を手籠めにしたい衝動すら覚える。

 C.C.(おっと、いかん……"本業"に戻らねば)

わずかの後、冷静さを取り戻したC.C.は、一緒に持ってきていた棒を取り出す。
それは……サインペン!

C.C.は、懐中電灯で彼の臀部をじっくりと観察する。
やはり思ったとおり、"印"は消えかけていた。

.
 C.C.(ここの所、チェックしてなかったものな……)
    (さて、と……)カキカキ…

彼女が彼の臀部の上にサインペンをそっと走らせた後には、彼が童貞である"印"が
尻丘の左右に分けて再び刻印されていた。


  「検品済」  「C.C.」


彼女は、その出来栄えに満足すると、再び元通りに彼にパジャマのズボンを穿かせ、
気づかれないように静かに、且つ迅速に、戦場からの撤退を完了させた。

.
……事務所からクラブハウスへ戻って以降、断続的に続けているC.C.のこの作業。
ルルーシュはどうやら、今でも本当に気づいていないようであった。

 C.C.(奴が、鏡の前で自分の身体を隅々まで眺めるようなナルシストなら、)
    (アレにもすぐ気づくだろう)
    (ところが、人からそう見られているほど、奴は自己愛が強くない……)
    (おまけに、最も気づくタイミングである入浴時も、鏡で自分の尻を見ながら)
    (洗うやつはそうそういまい……)

    (……つまり、奴単独では、アレに気づけない)
    (アレに最初に気づくのは、奴と同衾をする女だと決まっているのだ)
    (そして、女にそれを指摘されれば、奴は烈火のごとく怒り狂い、)
    (と同時に私の遠大な策略を思い知り、降伏するしかなくなる)

.
自分のベッドに潜り込み、頬に残る彼の尻の感触を楽しみながらC.C.は、
その時の彼の反応を色々と想像しては楽しむ。

 C.C.(未だ、血相を変えて怒鳴り込んで来ない、ということは……)
    (すなわちお前は、明々白々に現在も童貞なのだよ、ルルーシュ)ニヤリ

    (……さて、誰が奴の"アレ"に気づくのかな?)
    (順当にゆけば、シャーリーか、カレンか……あるいは神楽耶かな?)
    (ダークホースでラクシャータ、咲世子という線もあるぞ)

    (千葉は……藤堂に切られそうだな)

.
    (……もしスザクなら、ちょっと微妙な線だな)ムムム

    (一緒にシャワーを浴びていたなら知られることもあり得るのだが、)
    (奴らが一緒に浴びる環境がない……意図して一緒に浴びない限り、な)
    (……まあ、今のところ、その気はなさそうだが)

    (……ナナリーは、どうだ?)
    (いや、さすがにそれはないか……第一、目が見えないのだからバレない)

    (しかし、あれも色々と鋭いところがあるからな、触れればあるいは、)
    (「お兄様、お尻に何か書かれていますか?」などと聞くかもしれん)
    (だが、初めてが妹相手だとさすがに引くな……契約解除したくなってくる)

.
    (…………まあ、誰でもいいか)

    (相手が誰であれ、事に及んだが最期だ……)
    (……楽しみだなあ)クスクス



※参考資料
http://image.webryalbum.biglobe.ne.jp//026/512/55/10/kenpin.jpg?&fn=aph

.
|⌒ ミ  書き忘れを上げときました。
|ω・`)  本編(?)の続きは、しばらく先に……

.
■アッシュフォード学園 生徒会室 ─────

……先日の学園祭以降、ニーナはよく、周囲の人々が気になるくらいにぼおっとした
表情で物思いにふけることが多くなった。そういう時は、話しかけても生返事が返って
くるだけ、そしてしばらくするとまた、猛然とPCに向かって何かを始めるのだ。

今日の放課後、窓から夕焼けの温かい光が差し込んでくる時間になっても、ニーナは
何事かに集中していて、机から離れる気配がない。

 ミレイ「……ねえニーナ、最近だいじょうぶ?」

 ニーナ「……何が?」カタカタ

 ミレイ「何かに没頭してるのはいいんだけど……」
     「たまに、考え事をしてる風に……」

.
 ニーナ「だいじょうぶ……気にしないでミレイちゃん」カタカタカタカタ

 ミレイ「そう……」
     「……じゃあ、私たち行くわよ、後の戸締りはお願いね?」ニコッ

 ニーナ「うん」カタカタ

目まぐるしく変化するモニタの情報に集中しながら、彼女はミレイの方を向くこともなく
適当に返事をする。ミレイは、少し寂しそうな表情をしたものの、すぐに背後で待って
いたリヴァルたちに笑顔を向け、部屋を後にした。

.
ニーナは自分ひとりだけが残った部屋で、せわしなくキーボードを叩いていたが、
ふと指を止めると画面を覗き込み、やがてゆっくりと微笑む。

 ニーナ「……分裂したわ!」…ニコッ
     「やっと実験段階に入れる……」

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル「……それは、どんな技術なのかな?」

 ロイド「んー、サクラダイトが元になった技術ではあるんですが……」

帝都宮殿、シュナイゼルの応接間で彼は、ロイドから「面白い子がいる」という
話を聞いている最中であった。
面白い子とは、ニーナのことである。

.
 ロイド「……サクラダイトのエネルギー変換率が低いのはご存知ですよね?」

 シュナイゼル「最大で20%程度、だったかな?」

 ロイド「です、でも彼女は、それをほぼ100%で変換する方法を発明したんです」ニコッ

 シュナイゼル「ふむ……まだ学生の女の子が?」

 ロイド「びっくりでしょう?」

     「面白いので、僕がずっと面倒を見てるんですけどねぇ……」
     「なにしろ発想がすごいんですよぉ、サクラダイトの持つ質量を、」
     「軸の転移で反粒子化して対消滅による莫大n」クドクド

 シュナイゼル「そのあたりの、詳しい話は遠慮させてもらうよ……」ヤレヤレ
       「……それで、彼女の研究を、私も面白がるだろう、と?」

.
 ロイド「はい~」ニマー

 シュナイゼル「うん、確かに面白いね」ニコッ
       「でも、100%というのは、簡単には制御できないのではないかな?」

 ロイド「おっしゃる通りで、変換過程の制御は、ちょっと難しいですねぇ……」
     「動力機関などへの応用は、随分と先の話になるかと」

 シュナイゼル「ふむ……」

 ロイド「……でも殿下、兵器への応用であれば」

 シュナイゼル「…………」
       「……私が、前から君に望んでいたものができるのかな?」

.
彼は、そう言ってロイドの表情を静かに見つめる。
それに対し、満を持してロイドは返事をした。

 ロイド「はい~!残念ながら~!」ニコニコ

 シュナイゼル「……そうか、残念だな」ニコッ

       「いいだろう、彼女を全面的に支援してほしい」
       「望むなら、ここへ招いて研究に専念してもらってもいい」

 ロイド「わかりました、彼女に希望を聞いてみますね~!」ニコニコ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 リヴァル「……ニーナのやつ、大丈夫かなぁ?」テクテク

 ミレイ「集中してる時は、いつもああだけどね……」
     「最近は、何か空気が違うわね」テクテク

 シャーリー「ですよねー……」テクテク

 ルル「……見つけた、とか言ってたな」テクテク

 シャーリー「見つけた?」キョトン
        「何を見つけたの?」

.
 ルル「さあ、何かはわからないけどな」
    「一度彼女に説明されたんだが、俺にもよくわからなかった」

 シャーリー「ルルがわからないなら、私にはさっぱりだね……」

ニーナを生徒会室に残し、彼らは連れだって街へ出ている最中であった。
先日の学園祭の大成功(?)を祝した打ち上げと称し、皆で食事をしに出る
ことにしたのだ。
もちろんニーナも誘ったが、やることがあると言って断られた。

 ミレイ「やっぱ、あれかなあ……」 

 リヴァル「あれ?」

.
 ミレイ「こないだの学園祭よ、憧れのユーフェミア様にお会いしたじゃない?」

 リヴァル「ああ……有頂天になってたな、ニーナ」

 ルル(やはりそうか、今日もそのことが話題になるか……!)

学園祭、という単語を聞いて、ルルーシュは顔をわずかにしかめる。
先日のそれは、彼にとっては思い出したくもない経験であった。
その横顔をちらりと見たシャーリーは、それと察して慌てて話題を変える。

 シャーリー「あっ、会長!」
        「予約してたお店、何時までに行かなきゃいけないんですか?」

 ミレイ「んっと、6時までだっけかな……」
     「あら、もうあと10分?」

.
 リヴァル「げげっ!?」
      「生徒会室でダベってたのがまずかった?」

 ルル「間に合わなくてもいいんですか?」

 ミレイ「予約だから、多少は大丈夫だと思うわよ?」

 ルル「……連絡を入れておきます」フゥ…

 ミレイ「さっすが副会長!」
     「こういう時も、そつがないわねえ~」ニヤ

 ルル「おだてても、もう何も演じませんよ?」ジロ

.
■黒の騎士団 アジト ─────

深夜、アジト内のナイトメア格納庫……

薄暗い倉庫内にずらりと居並ぶ"無頼改"の群れ。
その中に混じって、朱色の機体、"紅蓮弐式・改"と、その横には漆黒に塗装し
直されたランスロット──"黒蓮"というコードネームが与えられた──が、
並んで静かに佇んでいる。

いま両機の中には、それぞれのパイロットが乗り込み、クローズドの回線で
二人だけの会話をしている最中であった。紅月カレンと、枢木スザクである。

.
 カレン「……帰る間際に呼び出して悪かったね、」
     「ここしか、他の人に100%聞かれない場所ってないからさ」

 スザク「……」

 カレン「なんか用事でもあった?」

 スザク「いえ、ありません」
     「アーサーのごはんを用意することくらいで……」

 カレン「アーサー?」

 スザク「ネコです、野良猫」

.
 カレン「ふん……まあ、飢え死にしたりはしないでしょ?」
     「話はすぐ終わるわ」

互いに、モニタに顔は映していない。音声だけでのやりとりだ。
彼女も、スザクが入団した当初よりは彼に対する物言いが柔らかくなってきたが、
親しくする気は毛頭ない、という意味だろう。

 カレン「この間、学園祭に来たでしょ、あれ、なんでよ?」
     「あんた、アッシュフォード学園とは何の関係もないよね」

 スザク「……扇代表に、あなたを探すよう指示されました」

 カレン「やっぱ扇さんか……」ハァ…

.
マイク越しに、彼女の溜息が聞こえてきた。
少しの間の後、続けて声が入ってくる。

 カレン「……で、何て報告したのよ?」

 スザク「別に、何事もなかった、って……」

 カレン「……そうね、何もなかったしね」
     「ていうか、あんたが来たせいで余計にややこしくなってたんだしさ?」

 スザク「……」

.
 カレン「…………ほんっと、」
     「よく誤魔化せたもんだよね、ルルーシュの奴」

 スザク「ええ……」

声の響きから、紅蓮の中でカレンが微笑んでいるのがわかった。
スザクも、あの時の状況を思い出し、小さく笑う。

 カレン「……あんた、騎士団で破格の扱いを受けてるの、わかってる?」

 スザク「自覚しています」

.
 カレン「その機体もさ、ゼロの指示で与えられたけどさ……」

 スザク「はい」

 カレン「いくら枢木首相の子供だからって、後から入ってきた奴がなんで、って」
     「思ってる連中はいるのよ」

 スザク「……」

 カレン「……わたしは、あんたが嫌いだけど、実力は認めるわ」
     「でも、そういうのがどうしても認められない連中もいる」
     「まあそういうもんよね、人ってのは」

 スザク「はい」

.
 カレン「だから、疑われるようなことや、弱みはない方がいい……」

 スザク「??」

 カレン「……ユーフェミアとは、まだ付き合いがあるの?」

 スザク「!!……」

彼女にそう尋ねられたスザクは、ふとあの後のことを思い出す。
学園祭の騒動の後、周囲に気取られないようにしながら……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ユフィ(……ねえ、スザク?)
     (私の番号、もう忘れちゃった?)

 スザク(覚えてるよ……もちろん)

 ユフィ(良かった……)ニコッ
     (あなたが忙しくない時でいいから、私にかけてね)

スザクからの電話を、待つ……それまで彼女は決して口にしたことがなかったし、
立場上、それは言えないはずの言葉であった。

.
彼は驚き、ユーフェミアに聞き返す。

 スザク(……いいの?)

 ユフィ(うん、待ってる……)

その言葉の意味は、もはや誤解しようもなかった。
彼女にとっての自分は、友達を超えたものである、とスザクは悟った。
と同時に、いま自分の立つ位置が、彼女からはかけ離れた場所であることも……

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……スザクは、少しの間の後に、カレンに答える。

 スザク「……いえ、電話で話す程度です」

.
 カレン「それ、ゼロは知ってるの?」

 スザク「知ってます」

 カレン「ふうん……」
     「……まさかとは思うけど、」

 スザク「勿論、騎士団のことは一切喋ってません」

 カレン「即答だね……いいわ、そこは信じる」

 スザク「…………あの、紅月隊長、」
     「この間、学園祭に行かれたのは……?」

.
 カレン「わたしの行動を、あんたに説明する義務がある?」

 スザク「いえ、ありません」

 カレン「なら、聞くなよ……」チッ

 スザク「……」

今度は、カレンがその後の事を、嫌々ながらに思い出す。
学園祭の騒動の後、アジトでゼロ(ルルーシュ)に呼び出された彼女は総裁室で、
ソファーに深々と腰かけながら彼女を鋭く睨む彼と対峙することになったのだった。

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……一体、どういうつもりだ?」

 カレン「何がよ?」ムスッ

 ルル「学園祭のことだ……」
    「あの瞬間、俺がどれだけの窮地に立たされたと思っているんだ?」

 カレン「ちょっと、遊びにいっただけじゃない……」

当然、そのことで呼び出されたことをわかっていた彼女は、最初から反抗的な
態度を示していた。

.
子供の言い訳のような言葉に、ルルーシュは怒りをあらわにする。

 ルル「ただ遊びに来ていたならまだいい!」
    「君の生存が学園中に知られるという危険があったがな!」

 カレン「……」

 ルル「だが、生徒会室にまで来るのはどういうことだッ!」バン!!
    「リヴァルらに悟られなかったのは、本当に奇跡みたいなものだ!」

 カレン「そうね……」

 ルル「そうね、だと!?」キッ!!
    「わかっていたのか、わかってて来たのか!」

.
 カレン「……そういうつもりは、なかったのよ」ムス
     「ただ本当に偶然、あのお姫様に引っ張られる形で……」

 ルル「隙を見て逃げ出せば良かっただろうッ!」

 カレン「できればやってたわよ!」キッ
     「わたしが、そこまでバカだと思ってる!?」

 ルル「そういうことを言ってるんじゃない!」
    「自分が、どれだけ無謀なことをしたのか、判っているのかと言っている!」

 カレン「……」…プイ

.
ルルーシュの叱責に全く反論のしようがないカレンは、もはやそれには答えずに
顔をそむけた。その態度に、彼はさらに激昂する。

 ルル「……カレンッ!」ダン!!
    「こっちを向けッ!」

 カレン「……」
     「…………」

 ルル(…………クソッ!)
    (怒鳴りたくないのに、この女は……!)

.
頑なな態度に変化した彼女の姿に、ルルーシュは何とか気持ちを落ち着かせる。
叱責するのをやめ、静かに言い聞かせる手段に切り替えた。

 ルル「……わかった、カレン、済んだことはもう問わない」
    「しかし、こういうことを今後も繰り返されると本当に困るんだ」

 カレン「……」

 ルル「俺も別に、未練があって学生を続けているわけではない」
    「そうせざるを得ない理由というのがある」

 カレン「…………」
     「……わたしだって、」

 ルル「……なんだ?」

.
顔をそむけながら何事かを呟くカレンに、ルルーシュは静かに尋ねる。
彼女は、目線を落としたまま、しばらく黙っていたが……

 カレン「……悪かったわ」ボソッ

 ルル「……」ジー

 カレン「もうしないから、あなたを困らせるようなことは……」
     「……学園には、二度といかない」

 ルル「……わかった」

カレンの宣誓を、ルルーシュは了解する。
しかしその言葉の響きに、微かな憐憫を感じた彼は、続けて問いかけた。

.
 ルル「…………戻りたいのか、」
    「アッシュフォードに?」

彼のその問いかけに、カレンは静かに顔を上げる。
黙って正面から見つめてくる彼女に、ルルーシュは言葉をつづけた。

 ルル「……君だって、本来はまだ学生の時分だ」
    「今の生活が、君にとっては大変なものだということは理解できる」

 カレン「……」

 ルル「アッシュフォードというわけにはいかないが……」
    「もし望むなら、君が通っても問題ない学校を探そう」

.
 カレン「…………違うの、そうじゃない」
     「わたしは、ただ……」

 ルル「ん?」

目を伏せ、言いよどんだ彼女の様子に、ルルーシュは訝しげな視線を向ける。
何かを逡巡しているようなそぶりを見せていたが、やがてぽつりと言葉を漏らす。

 カレン「……ここ以外のどこにも、わたしの居場所なんてない」
     「ここが……あなたがいる、ここが、唯一の居場所よ」

 ルル「……」

.
再び、カレンはルルーシュを見つめる。
それまでの、妙に強がるような調子や頑なな感情が消えているように、
彼には感じられた。

 カレン「……ねえ、教えて?」

 ルル「何だ?」

 カレン「今も、日本の独立が目標だよね?」

 ルル「勿論だ、それが打倒ブリタニアの第一歩となるのだからな」

 カレン「……もし、ここが戦場になるなら、」
     「あの子はどうなるの?」

.
 ルル「あの子?」

 カレン「シャーリー・フェネット」

 ルル「!」

彼女の口から意外な名を聞いたルルーシュは、視線をわずかに落とし、しばし沈黙する。
カレンは、さらに言葉を重ねた。

 カレン「彼女だけじゃない、アッシュフォードはどうなるの?」

 ルル「……」

.
 カレン「……だから戦えない、って意味じゃないから」
     「わたしはいつだって、あなたが命じた通りに戦うわ、」
     「たとえわたしひとりになっても、他に何を失おうともかまわない……」

 ルル「…………」

 カレン「……ただ、あなたはどうなんだろう、って思ったの」

 ルル「…………」
    「ククッ、なるほど」

ルルーシュは、喉をひとつ鳴らして笑う。
彼が、唇を歪めた笑みを浮かべていることに、カレンは気づいた。

.
 ルル「フフ、俺の覚悟……か」ニヤ
    「まさか、そのためにアッシュフォードへ出向いたのか?」

 カレン「……」

 ルル「君は、俺の覚悟の有り無しを、どうやって判断する気だ?」
    「アッシュフォードを退学すればいいのか?」
    「それとも、シャーリーを捨てればいいか?」

 カレン「そ!……そういう意味じゃ……」

 ルル「…………」

.
彼女を、正面から睨んでいるルルーシュ。
おそらく彼は、カレンが何をしようとしたのか気づいてしまったのだろう。
これ以上は、何を言っても弁解にしかならない……カレンはそう感じた。

 カレン「……ごめんなさい」…ショボン

 ルル「今後、繰り返すことがないなら良い」…フゥ
    「ひとつ、言っておこう」

 カレン「……?」

 ルル「それらは俺のためではない、ナナリーのために必要な世界なのだ」
    「いま破壊することはできない……今は、な」

.
 カレン「今は?」

彼の言葉に、訝しげな視線を向けたカレン。
しかし、彼は仮面を手に取ると手早く被り、ソファーから立ち上がる。
腕組みをしながら、いつものゼロらしく彼女に命令を下した。

 ゼロ「……話は以上だ、持ち場に戻れ!」
    「私はこれから、藤堂らと作戦会議だ」

 カレン「はい……紅月カレン、戻ります」

 ゼロ「うむ」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 スザク「紅月隊長……?」

黙ったまま、考え事をしていたカレンに、スザクは呼びかけた。
その声に、彼女はハッと我に返る。

 カレン「!!」
     「……彼はあんたに、期待をかけてんだ」
     「ゼロを裏切るようなマネは、絶対にするな」

 スザク「……はい」

.
 カレン「ユーフェミアの事、ゼロも知ってるんならいいわ、」
     「あんたもわたしの事を、他の連中にベラベラ喋んないでよ」

 スザク「はい、言ってません」

 カレン「……なら、話は以上よ」
     「ネコにエサやるんでしょ?」

 スザク「はい……お先に失礼します」

ぷつり、と通話が切れる音がした。
カレンは、紅蓮の隣に立つ黒蓮の機体が開く音を聞くと、ふうとため息をついて
コクピット内に寝そべった。

 カレン(裏切るな、か……)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 リヴァル「……お、おお、お見合いイイ!?」ガタッ!!

 ミレイ「うん、どうしても、しなくちゃいけなくてね~……」

 シャーリー「ほえー……」
        「相手は、誰なんですか?」

 ミレイ「んー……アスプルンド家の、伯爵よ」

 ルル「アスプルンド……確か、ブリタニアの名門でしたね?」

 ミレイ「うん……」

 リヴァル「見合い……そ、そんな……!」プルプル…

.
予約をしていたレストランの席でミレイは、彼女にしては珍しく、最近抱えていた
悩みを彼らに打ち明けた。テーブルに肘をつき、スプーンでカップの中のコーヒーを
カラカラと混ぜながら、彼女は静かに微笑む。

 シャーリー「もしかして、結婚……とか?」

 ミレイ「そうなるかもねー……」

 シャーリー「うわ、すっごい……///」

 リヴァル「うっそおッ!?うそ……え、マジ?ほんとに?」
      「ミレイさんが、他の奴の、お、お嫁さんに……!?」ブルブル

 ルル「しかし、気が進まないようですね」

.
 ミレイ「……んー、だって、まだ会ったことすらないんだしね?」ニコッ
     「今度のお見合いが、初顔合わせよ?」

 ルル「それなら、そうでしょうね……」
    (ふむ、アッシュフォード家再興のため、か……)

巨大な施設、アッシュフォード学園を運営しているとはいえ、かつてのそれと比べれば
アッシュフォード家は没落した家系であることは確かであった。
今度の見合いは、一族の要求によるものだろう、とルルーシュは見当をつける。

そんな彼の表情を、覗き込むようにしながらミレイは話しかけた。

 ミレイ「……ねえ、ルルーシュ?」

.
 ルル「何ですか?」

 ミレイ「わたし……ルルーシュが止めるなら、お見合いやめよっかな……?」ニッ

 リヴァル「止めましょう!止めてください会長ォ!」
      「会ったこともない貴族より、すぐ傍のオレですよオォォ!」ウルウル

 ルル「えっ……?」

    (……なぜだ?なぜ俺が止めると見合いをやめる、と?)
    (俺が、コーネリアらに己の存在を明かしたことと関係するのか?)
    (確かにアッシュフォードにすれば、折角ここまで俺たちの存在を秘匿してきた)
    (意味が無くなる行動ではあったが、それと今回の見合いは何の関係も……)

.
突然に、意味深な発言をしたミレイ。
だがそう言われたルルーシュは、どうして自分が止めると見合いをやめるのか、
本気で理解できなくて瞬間、言葉を失った。
代わりに、それを瞬時に理解したのはシャーリーであった。

 シャーリー「えっ……か、会長って、まさか……?」

 ミレイ「ふふっ、さあーて、どうでしょお~?」ニマニマ

 シャーリー「うそぉ……そんな、会長まで……!」ウルウル

 ミレイ「……んー、いい顔ね、シャーリィ~!」
     「ルルーシュをひとりじめしたいー、って感じ、出てるわ~!」ニヤリ

.
 シャーリー「え?……ええっ!?」
        「ちょっと……会長?からかったんですか!?」ムスッ

 ミレイ「ふふ、そういうことにしといたげる!」ニッコリ

 リヴァル「そういうことにしましょう、嘘ってことで!」
      「オレの気持ちがわかっててお見合いって、ちょっと泣けるっていうか!」
      「むしろヤバいっす、ほらほら、マジで涙溢れてきちゃって!」ポロポロ

 ルル(……まさか、会長は俺に、皇位継承権の復活を望んでいる?)
    (いや、確かにアッシュフォード家がそれを望んでいたのは間違いない、)
    (だから俺が名乗り出た時も理事長はさほど咎め立てることもなかった、)
    (しかし会長はそれについて、どうこうできる立場では……)ブツブツ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ラクシャータ「……ふーん、なるほどねぇ……」カタカタカタ
      「知らない間に、技術って進歩してるもんだねぇ……」

 研究員「驚くほど小型化できていますね」

 ジェレミア「んむむ……まじぇすてぃ……」Zzz…

騎士団のアジト、R&D区域では、ジェレミアの身体に取り付けられたサイバネ機器の
構造を、ラクシャータらが解析している所であった。

バトレー将軍麾下の研究チームは、サイバネティクスではおそらく世界でも最先端を
ゆく集団である。その技術がそのまま、ラクシャータらの手に渡ったわけだ。彼女が
興味津々になるのも無理はなかった。

.
 ラクシャータ「んー、しかしバトレーの研究班ねぇ……」
      「あそこでこういう、医療方面のことをしてる意味がわかんないけど」

 研究員「この人も、人体実験にされた、としか言ってませんでしたね」
      「やはり人体の兵器化が目標では?」

 ラクシャータ「それなら、脳をいじくるより身体をいじくる方が先でしょ?」
      「なんで真っ先に、脳なのかねぇ……」

 ジェレミア「ん……お、おはよ」
       「……ございません……」Zzz…

 研究員「……しかも、成功しているようには見えませんよね」

 ラクシャータ「まあねぇ……そこが一番不思議だけどね?」
      「ま、折角のゼロのお土産だし、有効活用させてもらうわぁ~」ニッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ロイド「……えっ?」
     「まだ学生でいたい、って?」

 ニーナ「あの、学生、というか……」モジモジ

アッシュフォード大学の研究棟の一室。
そこでロイドとセシルは、シュナイゼルからの話をニーナに伝えていた。
今ニーナがしている研究を支援してもらえること、望むなら本国に専門の施設も
設け、そこで研究に専念できること……だがニーナの答えは、意外なものだった。

 ニーナ「……できれば、ここに作っていただければ……」

.
 ロイド「ここぉ?」

 セシル「アッシュフォードに、ということ?」

 ニーナ「いえ、あの……」
     「……エリア11の、総督府に……///」

 ロイド「ぇへ?」キョトン

 セシル「それは、勿論希望として殿下に伝えるけど……」
     「どういうことかしら?」

.
彼らにそう聞かれ、ニーナは顔を真っ赤にして俯く。
だが、少しの後……

 ニーナ「……あの!」…ガバ!!
     「わ、わたしの……あ、いえ、私をユーフェミア様の、直属に……!///」

 セシル「えっ?」パチクリ

 ロイド「ほ?」パチクリ

 ニーナ「あのっ、もちろんユーフェミア様のお考え次第ですがっ!」
     「私、ユーフェミア様を心から敬愛しています!」
     「私のような者を救ってくださった、あのお方に……」
     「ユーフェミア様に、私のすべてを捧げたいんです!」
     「そうしていただけるなら、今すぐ学校をやめたって構いません!」
     「お願いです、お願いします!どうか、私の望みを……!」

.
 ロイド「ほー……」

 セシル「……」

堰を切ったように、己の気持ちを迸らせるニーナの姿……
今まで見たことのないその様子に、ロイドとセシルはしばし呆然としたものの、
互いの顔を見合わせ思案顔になる。

 ロイド「……ふうん」ポリポリ
     「さぁてと……どうしたものかなぁ……」

 セシル「殿下もだけど、ユーフェミア様も、ですね……」
     「あと、総督もか……」

 ニーナ「……///」

.
 ロイド「………………」
     「……まぁ、」クルッ

ロイドはおもむろに口を開くと、ニーナの方を向く。
いつも通りの緩い笑顔をたたえながら、彼は緩く答えた。

 ロイド「とりあえず、伝えとくよぉ~」ニッコリ
     「通るかどうかはわからないけどねぇ?」

 ニーナ「はい……お願いします……///」

.
 セシル「……皇族の方々は、独自で研究機関をお持ちになられる事もあるけど、」
     「ユーフェミア様の場合は、まだご自分の領地もお持ちでないわ」
     「研究機関の運営は、総督の援助が不可欠でしょう」

 ニーナ「……」

 セシル「だから、あまり期待はしないでね?」
     「……でも、あなたの気持ちは、ちゃんと伝えます」ニッコリ

 ニーナ「はい……!///」ニコッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ディートハルト「……却下、ですか?」

 ゼロ「ああ、そうだ」

 C.C.「……」

騎士団アジトの総裁室。
ディートハルトはそこで、先日C.C.に提案した"作戦"が一蹴されたことを聞かされた。
机を挟み、ゼロと向かい合わせに座るディートハルトは、その理由を尋ねる。

 ディートハルト「……なぜでしょう?」
        「混乱を巻き起こす引き金としては、申し分ない対象かと……」

.
 ゼロ「コーネリア率いる総督府も、馬鹿の集団ではない」
    「元皇太子がテロリストなどという噂をたてれば、即座にそれを否定するだろう」
    「そして我々は、世論を納得させる証拠を作らなくてはならなくなる」

 ディートハルト「……」

 ゼロ「もし、そのねつ造がバレてみろ、どうなると思う?」
    「今度こそ、騎士団は世間からの支持を失ってしまうぞ?」

 ディートハルト「バレないようにする方法はいくらでもあります、」グッ
        「私は、そういうことについては精通しておりますし……」

 ゼロ「ディートハルト、君の役割は何だ?」

.
 ディートハルト「!!……」

前のめりで"方法"を説明しようとした自分の言葉を遮るように放たれる、ゼロの問いかけ。
ディートハルトはそれを聞いて一瞬、言葉を失う。

 ディートハルト「……広報活動です」

 ゼロ「その中には、戦略及び戦術も含まれているのか?」

 ディートハルト「いえ、含まれておりません……」

 ゼロ「ならばわかるな、私の言いたいことは?」

 ディートハルト「ゼロ、しかし……」

.
 ゼロ「君が映像に収めた男は……いま、我々の手の内にある」

 ディートハルト「……えっ?」
       「あの、妙な男ですか!?」

 ゼロ「そうだ、今ラクシャータにあれを調査させている」

 ディートハルト(何だって?調査だと?)

        (あれは、ただの演劇じゃなかったのか?)
        (私が見ていたあれは、一体何だったのだ……?)

ゼロの言葉に、思考が混乱するディートハルト。
ゼロは、彼の様子からその内心を推し量りながら、彼を納得させるために
方便を語る……事実にギリギリ近い、嘘を。

.
 ゼロ「……あの学生は、我々の協力者だ」

 ディートハルト「……な、なんですと?」
        「元皇太子が、我々に……?」

 ゼロ「協力とは言っても、シンパという程度だがな」
    「あの学園内での、セクト形成に協力してもらっている」

 ディートハルト「はあ……」

 ゼロ「だから、君の作戦を実行に移し、もしそのことがバレるとマズいのだ」
    「彼にはまだ、利用価値がある」

 ディートハルト「ふむ……では、C.C.の当日の要件、というのも?」

.
ゼロの横に並んで腰かけていたC.C.に、彼は尋ねる。
彼女も軽く頷いて肯定した。

 C.C.「まあ、そういうことだ」
    「彼の事は秘匿する必要があった」

 ディートハルト「……なるほど、わかりました」

一応は、彼も納得できたようだった。
しかしそれでも残る疑問点を、彼は遠慮なく尋ねる。

 ディートハルト「あの男は、そしてあのニンジャは一体、何者ですか?」

.
 ゼロ「ニンジャの恰好をしていた者は、私がプライベートで用いている諜報員だ」
    「騎士団の業務とは関係させず、私の命令だけを遂行させている」

 ディートハルト「ふむ」

 ゼロ「あの男は、学生の背後に探りを入れてきた」
    「それで諜報員に、彼の身辺を警護させていた」
    「まさか、あのような行事の最中に来るとは思わなかったがな」

 ディートハルト「むう……」

 ゼロ「今のは、もちろん他言無用でな……ランク0の者しか知らない話だ」
    「面白いアイデアを持ち込んだ君への、報酬だと思ってくれ」

 ディートハルト「……わかりました」…ガタッ
        「失礼いたします……」

.
とりあえず、承服した形でディートハルトは部屋を後にする。
仮面を外し、深くため息をつくルルーシュ。

 ルル「ふう……」

 C.C.「……今の話、奴は納得したか?」

 ルル「下手な嘘だ、疑っているだろう……」
    「だが、得られる情報は限られている」

 C.C.「ふむ」

 ルル「まあいい……録画のマスターも提出させた、」
    「この件については奴は何もできまい」
    「それよりも、為すべきことが山のようにある」

.
そう言うとルルーシュは、書類を片手に、机上のモニタに映し出される様々な情報に
視線を泳がせ始める。
C.C.はそっと席を立ち、彼の傍を離れようとしたが、数歩歩いたところで足を止め、
彼の方を振り返った。

 C.C.「……何も、聞かないのだな?」

 ルル「…………何の話だ?」カタカタ

 C.C.「あの男から聞いたのだろう、私のことを?」

 ルル「ああ……」カタカタ
    「……尋ねれば、答えるのか?」

.
 C.C.「お断りだ」プイ

 ルル「だから聞かない」フン
    「……それに、聞いてもしようがない、今はお前に構ってなどいられん」カタカタ

 C.C.「……」
    「先に帰るぞ?」クルッ…カツカツ

 ルル「ああ……咲世子に、今日も遅くなると伝えてくれ」カタカタ

キーを叩きながら、部屋を出るC.C.の背中に声をかけるルルーシュ。
彼女が姿を消すとキーを叩く指を止め、彼は思考の海に沈み込んだ。
あの男、ジェレミアから聞き出したことを思い出しながら……

.
 ルル(……コードR、か)
    (確かに、俺がかつて調べた伝承にその端緒はあった)
    (だが実際に、前の大戦の記録にも残っていたとはな……)
    (数百年も生き続ける、不老不死の女……奴は間違いなく、魔女だ)

    (奴は、何かの目的があって俺に接触し、ギアスを与えた)
    (だが、それが何なのかはどうでもいい、問題は、それが俺の目的の障害と)
    (なるのか否か……それだけだ)

    (……奴は、己の目的のためなら俺を裏切るだろうか?)
    (奴を、どこまで、いつまで信用できるのか……?)

.
彼はふと、マオとの対峙の後、事務所で見せた彼女の"素顔"を───それが、
演技でなければ、だが───思い出した。
殺しはせずとも、己が撃ったマオのことを「忘れなければならない」と言ったC.C.の、
瞬間に見せたその、悲しげな表情を……ルルーシュは、軽く舌打ちする。

 ルル(……バカなことを、俺にシャーリーを撃てと示唆するような女だ)
    (奴も結局は、自分のため、が行動原理だろうさ)
    (それまでは、せいぜい利用させてもらおう……俺のためにな)

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……夜更けにもかかわらず、下方からサーチライトに煌々と照らされ輝いている、
エリア11の不夜城、総督府政庁。

その一室、ユーフェミアの部屋では、彼女がプライベート回線でシュナイゼルと話を
している最中であった。

.
 ユフィ「……では、近々許可をいただけるのですか!?」パアッ!!

 シュナイゼル『うん、何とか実現できそうだよ』ニコッ

       『これは帝国にとっても、面白い試みになるだろう』
       『ユフィ、君の発想力には驚かされるばかりだよ』

 ユフィ「そんな……///」
     「私だけの功績ではありません……」

 シュナイゼル『例の、日本人だね?』

 ユフィ「は……はい!」

.
シュナイゼルの言葉に、彼女は一瞬戸惑いを見せたが、すぐにモニタの中の彼を
正面から見ながら、はっきりと肯定する。シュナイゼルは、ほんの僅かの間、真顔を
見せた……が、またすぐに、いつもの柔らかな笑顔を浮かべる。

 シュナイゼル『……彼は、今どうしているんだい?』

 ユフィ「今も、ゲットーで生活しているそうです」

 シュナイゼル『そうか……』
       『…………ユフィ、もうコーネリアには相談したのかな?』

 ユフィ「いいえ、まだ……」
     「……あの、やはりお姉様にも、早くお話をしたほうがよろしいですか……?」

.
 シュナイゼル『いや、まだいいよ』
       『今彼女は、エリア11のことで手いっぱいだ、』
       『そちらが多少でも落ち着かないことには、冷静になれないだろう』

 ユフィ「そう、ですね……」

ユーフェミアは、そう呟くと俯いた。
何もない、平穏な時であっても、コーネリアがこの話を聞けば悪い冗談はやめろと
言うだろう。ましてやこの時期に聞けば、怒り狂うかもしれない。

しかし、今だからこそ、でもある。
彼女は再び、決意を秘めた顔を上げる。

.
 ユフィ「……あの、私自身が必ず、お話をします!」

 シュナイゼル「うん?」

 ユフィ「だから!……言うべき時期が来たら、そうおっしゃってください」

 シュナイゼル「ああ……わかったよ、」
       「その時期が来たらそう言うから、君から説明してくれ」ニコリ

 ユフィ「わかりました……!」

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……資料がない?」

.
 政庁高官「はっ、なにぶんイレヴンについては、先の戦争で多くの資料が」
       「焼失しておりまして……」

 コーネリア「ふむ……まあ、さほどの期待はしていなかったがな」

同じ頃、総督の執務室でコーネリアは、命令していた調査の報告を受け取って
いた所であった。学園祭で顔を合わせた、カレンの調査である。

 コーネリア(……あの眼光、学生のそれとは思えない鋭さがあった)
        (ルルーシュや枢木スザクと、どういう関係にあるのか……)

彼女の、相手がユーフェミアやコーネリアと知っても殆ど動じない態度といい、
コーネリアは何かひっかかるものを感じていた。
それで、政庁にあるイレヴン関係の資料で、彼女に関することがないか
調べさせていた。しかし……

.
 政庁高官「コウヅキ、という名で目ぼしいのはいませんな……」
       「日本名で、HIGHにMOON、でしたね?」

 コーネリア「そう言っていたな」

 政庁高官「……高月、高月……」
       「ありませんなあ……」

 コーネリア「偽名かもしれん、まあよい」…パサッ

彼女は溜息をつきながら、手に持っていた資料を机の上に投げる。
ちらばった紙面の間には「紅月」の項目があり、かつてはレジスタンスのリーダーで
あったカレンの兄、紅月ナオトの名もあったが、漢字を読み慣れない彼らはそれが
同音であることには気づけなかった。

.
 コーネリア「……そう言えば、ハーフのようにも思えたな」

 政庁高官「ハーフですか?」
       「ブリタニアンとイレヴンの?」

 コーネリア「ああ、そうだ」

 政庁高官「でしたら、政庁のデータベースで調べてみましょう」
       「イレヴンよりは手がかりが得やすいかと」

 コーネリア「うむ……そうだな、そうしてくれ」
       「何か得られたらすぐ報告を」

 政庁高官「イエス、ユアハイネス」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……そうか、兄上も了承されたんだね」

 ユフィ『ええ、やっと実現できるかも……』

夜更けのクラブハウス。
ルルーシュは自室で、ユーフェミアと電話で話をしていた。
再会以来、彼らはこうして時たま、電話などで連絡を取り合っていたのだ。

ユーフェミアはルルーシュに、まだ秘密にして欲しいと言いながら、行政特区の
構想を打ち明け、相談をしていた。
ブリタニア人や日本人の区別のない世界、皆が平和に暮らせる世界……

.
 ルル「……ということはユフィ、」
    「君は本当に、皇位継承権を……」

 ユフィ『ええ、まだ誰にも言っちゃだめよ?』
     『そのことは、まだお姉様にも話してないの』クスクス

 ルル「……君は、もう一度、考えなおすべきだと思う」
    「俺だって、自ら捨てたわけじゃないんだ」

 ユフィ『でも、継承権がなくったって、ルルーシュはルルーシュのままだったわ』
     『私もそういうものには、拘らないことにしたの!』

 ルル「…………そうか」
    「そのこと、スザクには話したのか?」

.
ルルーシュがそう言うと、電話の向こうのユーフェミアは口をつぐんだ。

 ユフィ『……ううん、まだ彼からは連絡がないの』

 ルル「ふむ……」
    「会うことがあれば、俺からも言っておこうか?」

 ユフィ『いいの、彼もきっと、忙しい身だと思うし……』
     『それに……』

 ルル「ん?」

 ユフィ『…………ううん、何でもないわ』
     『ルルーシュ、いつも相談に乗ってくれてありがとう!』

.
 ルル「礼にはおよばないよ」
    「話が進んだら、また教えてくれ」

会話を終え、回線を切断した途端、ルルーシュの表情は険しくなる。
彼女の、まさに恵まれた皇族ならではの思考に、怒りすら覚えていた。

 ルル(俺が、俺のままだった、だと……!)
    (そう演じていることすら気づかないか!相変わらずだな、ユフィは!)

    (行政特区構想について、俺が事前にできる妨害はもはや尽きた)
    (できるわけのない、皇位継承権の放棄まで提案したが、まさか彼女が)
    (そこまでやるとは思わなかった……)

.
    (……いや、それがどれほどの意味を持つのか、彼女は全く想像できて)
    (いないのだろう、俺が、これまで幾千もの屍を見てきたにも拘わらず、)
    (変わっていないように見えることにも疑問を持たない……)
    (だから、そういうことも平気で言えるのだ)

    (しかし、シュナイゼルまで味方に引き入れていたとはな……)
    (あの男が賛同する理由は火を見るよりも明らか、まさに俺が恐れて)
    (いることを為すためだ……民衆の、黒の騎士団へのシンパシーを殺ぎ、)
    (孤立・瓦解させることが目的……奴が絡んでいるならば、行政特区は)
    (ほぼ実現されると考えるべきだろう……)

    (……だが、そうはさせん!)
    (俺が、和解や屈服の意図で姿を現したのだと思うなよ、シュナイゼル!)
    (実力行使も厭わぬ、どのような手段を取ろうとも、俺は黒の騎士団を)
    (存続させ、ゆくゆくはブリタニアを破壊し尽してやる……!)

.
■枢木神社 ─────

夕刻、柔らかなオレンジ色の日差しが、全てのものを包み込む中……
スザクは、ルルーシュの言葉に従い、ここ枢木神社で彼の到着を待っていた。
ここは、スザクが生まれ育った地であり、また彼らの関係が始まった、重要な
意味を持つ場所でもある。

当主が死去し、そしてスザクが去って以降、神社は周辺の住民により維持
されてきた。境内は掃き清められ、雑草や植木の手入れも行われている。
数年ぶりに神社の様子を見たスザクは、そのことに感慨を得た。

 スザク(……昔のままだな、ここは)
     (静かで、落ち着く場所だ……)

.
ルルーシュがわざわざここを指定したということは、何か大切な話が
あるのだろう。それも、自分たちの間だけでしか話せない、何か、だ。

彼が赤い鳥居の下で佇んでいると、眼下に伸びる神社の長い階段を、ゆっくりと
登ってくる学生服姿の者を見つけた。言うまでもない、ルルーシュだ。
彼はやがて階段の最上段を登りきり、スザクの姿を認めると優しく微笑んだ。

 ルル「……スザク、待たせたな」ニコッ

 スザク「ああ」ニコッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……彼らは、拝殿の木製の階段に並んで腰を下ろした。
他に人気のない境内は静寂に包まれており、やがて訪れる夜を迎え入れる
空気が漂っている。

 ルル「……懐かしいな、ここは」

 スザク「ああ、昔と、ちっとも変っていない」
     「俺たちが過ごした蔵も、そのまま残っていたよ」

 ルル「あの蔵か……」フッ

.
 スザク「……ルルーシュ、どうしてここに呼び出したんだ?」
     「話なら、騎士団でもできるだろう」

 ルル「理由か……そうだな、再確認とでも言うべきか」

 スザク「再確認?」

 ルル「ああ……ここから、俺の戦いが始まった」
    「そして今、第1目標への道筋が、概ね組みあがったからだ」

 スザク「どういうことだ?」

.
スザクに尋ねられたルルーシュは、少し顔を上げ、遠くを見つめる。
慎重に、言葉を選んでいるかのように、彼はゆっくりとスザクに語る。

 ルル「……近々、総督府が重大な発表を行うはずだ」
    「お前も知っている、行政特区構想の発表だ」

 スザク「本当か!?」

 ルル「ああ……確かな筋の情報だ」

 スザク「……そうか、そうなのか……」
     「すごいな、本当に実現してしまうのか……!」

.
ルルーシュの話に、スザクは目を輝かせながら独り言をつぶやく。
その表情をちらりと横目で見たルルーシュは、視線を再び正面に戻し、
淡々と言葉をつづける。

 ルル「……それがきっかけとなり、エリア11全土で暴動が勃発する」

 スザク「……え?」

 ルル「式典の壇上で、俺はブリタニア側から撃たれる」
    「行政特区そのものが、ゼロを罠にかけるための巨大な仕掛けで」
    「あったことに、会場に集まった民衆から怒りの声が湧き上がる」

 スザク「何だって!?」

.
 ルル「だが、それはブリタニア側にとっても予想外の事態だった……」
    「面子を失ったブリタニアは強硬手段に出る、暴徒の鎮圧だ」
    「しかし暴動は瞬く間にエリア11全域に及ぶ」
    「トウキョウ租界が、ブリタニア側の最後の砦となる……」

 スザク「ルルーシュ、ちょっと待ってくれ……!」

 ルル「砦の防御を崩すための仕掛けはすでにしてある」
    「租界の防衛線は崩壊し、騎士団の総攻撃により重要拠点が」
    「次々と陥落してゆく……」

 スザク「おい、ルルーシュ!」

.
 ルル「……なんだ?」

スザクの強い口調に、ルルーシュは彼の方を向きながら尋ねる。
まるで、何か問題でもあったか、というような、軽い反応であった。
その違和感にやや混乱を覚えつつも、スザクは彼に言う。

 スザク「……ユフィの考えている行政特区は、そんなものじゃない!」
     「彼女は本当に、日本人とブリタニア人が共に生きていけるような、」
     「そういう社会の実現を考えているんだ!」

 ルル「……」

 スザク「罠だとか、そんなの言いがかりじゃないか!」
     「お前もわかるだろう、ユフィはそんな人間じゃないと!」

.
 ルル「ああ、知っている」

 スザク「なら、なぜ……」
     「……いや、待て……」

いまの話を思い起こしたスザクは、ある一つのことに思い至った。
それは、推測を語る口調ではなく、計画を説明する口調であったことを。
スザクは、ルルーシュの顔をまじまじと見つめながら、改めて問う。

 スザク「……君が、撃たれるというのは、どういう意味だ?」

 ルル「言った通りだ、俺は、撃たれるのさ」

.
 スザク「撃たせるのか!?」
     「お前は、自分の暗殺を演出するのか!?」

 ルル「いや、撃つのは間違いなく、ブリタニア人だよ」
    「それも、騎士団による買収などはあり得ない人物だ」

 スザク「……それが、なぜ判るんだ?」
 
 ルル「推測による結論が、そうなるからさ」

 スザク「…………推測だとしても、」
     「なぜ、君は、それを見過ごすんだ?」

.
スザクは、ルルーシュの表情を真正面から見据える。
彼は、微かな冷笑を浮かべながら、その問いに答えた。

 ルル「その方が、都合が良いからだよ」

 スザク「都合?」

 ルル「……もちろん、ユフィは気づいていない」
    「シュナイゼルの狙いは、な」…スック

そう言ってルルーシュは立ち上がると、己の尻を軽くはたく。
傍らに座るスザクを見下ろしながら、彼は続けて語った。

 ルル「……行政特区構想は、シュナイゼルの肝いりとなった」
    「奴が絡んだ以上、構想は必ず実現する」

.
 スザク「……」

 ルル「だが、奴の狙いはユフィとは異なる」
    「行政特区の設立により、日本人からの騎士団への支持を失わしめ、」
    「エリア11を従順な支配地域に変えることが目的だ」

 スザク「…………」

 ルル「そうなれば、日本人は永遠にゲットーから抜け出せなくなる」
    「いや、一か所だけ出口が設けられる……」
    「行政特区という、さらに狭い檻への通用口がな」

 スザク「……そんな……」

 ルル「そのような真似はさせない」
    「行政特区は……俺が、必ず、ぶっ潰す」

.
 スザク「なに……!!」ガバッ

ルルーシュの最後の言葉に、スザクは憤りを覚えた。
彼もまた、その場に立ち上がると、傍らに立つルルーシュと真正面からにらみ合う。

 スザク「……お前は……嘘を、ついたのか?」キッ…

 ルル「嘘?……俺は、特区構想への協力など口にした覚えはない」フン
    「お前の希望は希望として聞いただけだ」

 スザク「何ィ?」ギリッ…

 ルル「ならば聞こうッ!」
    「ユフィの夢物語に賛同する者が、ブリタニア側に一人でも存在すると」
    「お前は思うのか?いるならば、名を挙げてみろ!」

.
 スザク「ぐ……!」

 ルル「一人も賛同する者がいなければ、どうやって実現させるんだ!」
    「言え、賛同者の名を挙げてみろ!」

 スザク「……」

 ルル「…………言葉に詰まったな、スザク」ニヤリ
    「そうだ、それが全ての答えだ……」

 スザク「だ……だからといって!」グッ
     「お前は、夢を追うことが間違っているとでもいうのか!?」

.
 ルル「実現への道筋を描けぬ夢など、寝言に過ぎん!」
    「スザク、お前はどうやってユフィの夢を実現させる気だ!?」

 スザク「そっ、それは…………!」

 ルル「目を覚ますんだ、スザク!」キッ!!
    「力のない者が描く夢は、いつだって権力者に利用され、捻じ曲げられる!」
    「それが世の常だろう!」

 スザク「……」

 ルル「……それにお前は、他に為すべきことがある」
    「お前にしかできないことが、な」

 スザク「……何だ、それは?」

.
 ルル「……スザク……」
    「お前は、新生日本の首相になれ」ジッ…

 スザク「な……!?」

前触れもなく……あまりに唐突な彼の発言の内容に、スザクは言葉を失う。
故首相の息子であったにも拘わらず、彼は自分が国のトップに立つことなど、
全く考えたことがなかった。いや、おおよそ自分にはそんなもの、向いていない
と思っていた。なるべきでないとも考えていたのだ。

だから、ルルーシュの言葉に、彼は一瞬思考が停止したものの……

 スザク「……は、はは……」

 ルル「……」

.
 スザク「……ははっ、ハハハハハ!」
     「アハハハッ、ハハハハハハハ……!」

 ルル「…………」

 スザク「ハハ、ハハハッ……」
     「……なんだそれ、お前も冗談を言うようになったんだな!」
     「ハッ、ハハハハハハ……!」

 ルル「………………」

腹を押さえながら笑うスザクの姿を、ルルーシュは何も言わず、ただ黙って
見つめている。
スザクは、涙を浮かべるほどにひとしきり笑い、やがて笑いすぎて
腹が痛みを訴え始めたことで、ようやっと笑い声を止めることができた。

.
激しい痙攣で痛む腹をさすりながら、彼はルルーシュの表情を見る。
だがルルーシュは、笑い始めた時と全く表情が変わっていなかった。

 スザク「…………」

 ルル「……俺は当初、扇をその役につけるつもりだった」
    「だがお前が騎士団に入った以上、お前が首相の椅子に座るのが」
    「最も望ましい結果をもたらす」

 スザク「…………」

 ルル「俺は、このまま騎士団を率いて反ブリタニア連合の構築を急ぐ」
    「お前がここ、エリア11……新生日本を治めるんだ」

 スザク「……」

.
 ルル「そうすれば、お前もようやっと力が得られる」
    「お前が言う、"夢"を実現するだけの力が与えられることになる」

 スザク「…………誰が、支持するものか」
     「オレなんかが、国のトップになどと……」

 ルル「支持するさ……」フン
    「亡き首相の遺志を継ぎ、独立国日本を率いる若き指導者……」
    「……扇などより、よほど人望を得られる」

 スザク「……」

.
 ルル「それに、日本が再び独立を果たしても、既にここにいるブリタニア人や」
    「ブリタニアの企業を、全て追い出すことなどできない」
    「むしろ、復興のために彼らに協力させる必要があるのだ……」
    「わかるか、俺の言っている意味が?」

 スザク「…………」

 ルル「……お前は、嫌でも日本人とブリタニア人の共生を図らなければ」
    「ならなくなるわけだ」
    「ユフィの夢物語よりも遥かにリアルで、より残酷な現実として、な」

 スザク「……」

 ルル「俺はこの後、EUに遠征をし、ブリタニアに苦戦している連中を助勢する」
    「やがて、反ブリタニアの旗の下、世界連合が出来上がるだろう」

    「お前はそれまでにこの国を、一大抵抗勢力に築き上げろ」
    「俺とお前で、世界を変えるんだ……ッ!」

.
……ルルーシュの語る未来は、スザクにも現実的なものに感じられた。
雲の上の理想郷ではない、政治のバランス上に成り立つ現実社会として、だ。
これまでも、その頭脳を頼りにここまで成し遂げてきた彼が、その未来を実現するのは
必然なようにも思われた。

だが、ひとつ……
スザクは、どうしても納得できないことを口にする。

 スザク「……ルルーシュ、君はつまり……」

 ルル「……」

.
 スザク「……ユフィの夢を踏み台にして、」
     「さらにオレを操り……」

 ルル「…………」

 スザク「……お前のための世界を作る気か……?」

 ルル「……違う、」
    「ナナリーのための世界だ」

 スザク「!!!!」

その言葉に、スザクは目を見開く。
ルルーシュがこれまで語ったこと、行ったことが、全て、妹のため、だと……?

.
彼の、妹への想いをスザクは良く知っているだけに……
その言葉は、到底許せるものでは……決して、許してはならないものだった。
彼は、ルルーシュを強く睨みながらつぶやく。

 スザク「…………お前は、お前という奴は……!」
     「妹まで、利用するのか……ッ!」グッ…

 ルル「……何だと?」ピク

 スザク「ナナリーが……お前の、その行為を喜んでいるというのか?」
     「日本の独立という代償に、数多の血を流す行為を……」

 ルル「……!」

.
 スザク「……あの子が、そんなものを望むわけがないじゃないか!」
     「お前はナナリーを、お前の野望の免罪符にしているだけだッ!」

 ルル「き、貴様……ッ!」ギリッ…

スザクの言葉が、ルルーシュの臓腑をえぐるように突き刺さる。
他の誰でもない、唯一の親友と思っている彼だからこそ、それは最も触れて
欲しくない場所であった。
これまでの、冷徹を装ったルルーシュの仮面がボロボロと剥がれ落ち、
内に秘めていた怒りが剥き出しになる。

 ルル「スザクッ!お前がナナリーのすべてを知っているとでも言うのか!」
    「ナナリーがこの世界にどれだけ苦しめられてきたかも知るまい!」

.
 スザク「なら、ナナリーにすべてを打ち明けてみろ!」
     「お前がゼロだということを!」
     「騎士団を率いて争いを起こし、罪のない人々の命をも失わせたことをッ!」

 ルル「…………ッ!」

 スザク「……言えないのか?言えるわけがないよな?」
     「それを知ればナナリーはきっと、嘆き悲しむからな!」
     「あるいは、悲しみの果てに、自らの死を選ぶかもしれない……」

 ルル「クソ……ッ!」ギリッ…!!

.
 スザク「……ルルーシュ、オレに首相になれ、だと?」
     「ならその前に、お前はナナリーにすべてを話すんだ……」
     「……彼女が許したなら、オレもお前の望み通りにしてやる」

 ルル「…………」ギリ、ギリッ…

 スザク「……言えないなら、オレから言おうか?」ギロ

 ルル「スザクウウッ!貴様アアッ!!」バッ!!

瞬時に湧き上がった激情に、ルルーシュの表情が醜く歪む。
彼はスザクの胸倉を掴むと、その顔を強引に引き寄せた。
すぐ間近で、互いの意志が……視線が、真向からぶつかり、睨み合う。

.
 スザク「……」キッ…

 ルル「…………スザク、」…ギロ
    「俺は……いや、俺が……」

 スザク「……なんだ?」

 ルル「……俺が、こうやって、お前に語っている意味を……」
    「……よく考えて、答えろ」

 スザク「…………」

.
 ルル「……お前は、首相にはなりたくない、と言うのか?」

 スザク「……オレよりも、扇さんが相応しいだろう」

 ルル「……それが、お前の理想とする社会の実現への、」
    「最短距離だとしても、か?」

 スザク「ユフィの想いを踏みにじって実現する理想など、」
     「オレには不要だ……」

 ルル「……」グッ…
    「……どうしても、協力できないと言うのか……?」

.
ルルーシュは、スザクの顔をさらに引き寄せ、その瞳の奥までも覗き込む。
スザクも負けじと、ルルーシュの瞳を睨み返しながら、吐き捨てるように言葉を返す。

 スザク「……人の心を、暴力で捻じ曲げられると思ったら大間違いだ……」
     「俺は、首相の座などいらない……ッ!」

 ルル「!!…………暴力……暴力、か……」
    「クッ……クク……!」

 スザク「…………?」

 ルル「そうだな、暴力だ……」
    「まごうかたなき、暴力だよ……クク……ククッ……!」

 スザク「……ルルーシュ?」

.
突如、ルルーシュは己の肩を小さく震わせ始めた。
スザクの言葉に対し、顔を歪め、引き攣った笑顔を浮かべる。
彼の変貌に、スザクは若干の戸惑いを覚えた。

 ルル「フハハ……ハハハハハッ……!」

 スザク「おい…………どうした?」
     「どうしたんだ、ルr」

 ルル「……枢木スザクッ!」ギン!!
    「この、わからずやがああッ!」

 スザク「!!」ビクッ

.
ルルーシュの左目に、朱い紋章が浮かび上がったのに彼は気づいた。
空へ羽ばたかんとする鳥のような……血の色をした、紋章。

初めて見る、その神秘的な美しさに、スザクは言葉を失い……
……幾人もの"犠牲者"がそうであったように、彼もまた、吸い込まれるように
それに見入る。何が起きているのか、これからどうなるのか、一切考えることも
できないままに……

……彼が、その瞳にうっすらと浮かべていたものは、涙であったのか。
だが、スザクがそれに気づくことは、一生なかった。

.
 ルル「……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……ッ!」キュイイィィィ…!!

 スザク「うあ……ぁ……!」

朱い鳥は、翼を大きく広げ、飛翔した……
……スザクの瞳の中へ!

  :
  :
  :
  :

.
……我に返ったスザクは、自分が先ほどと変わらず拝殿の前に突っ立っている
ことを知った。その傍らには、こちらも先ほどと同様、ルルーシュが自分を静かに
見つめている。
なぜか、しばらくの間、自分の意識が失われていたことに気づき、スザクは驚いた。

 スザク「……あれ?」
     「オレは、今……?」

 ルル「…………」

呆然とした様子のスザクを、ルルーシュは黙ったまま見つめていたが、
やがて視線を鳥居の先へ向ける。

 ルル「……お前の考えはわかった」…プイ
    「帰っていいぞ」

.
 スザク「オレの、考え……?」

 ルル「首相になりたくない、という話だ」

 スザク「あ……ああ!そうだ!オレは、首相なんか……」
     「……え、いいのか?」

 ルル「それがお前の考えなんだろう?」
    「それはわかった、どうするかはまた考える」
    「行政特区のことも含めてな」

 スザク「……」

.
 ルル「俺が、わざわざここに呼び出した意味はわかってると思うが……」
    「今日の話は、絶対に誰にも喋るなよ」

 スザク「ああ……わかってる……」
     「……じゃあ、オレは戻るよ……?」

 ルル「ああ」

夢から醒めたばかりのような、茫洋とした面持ちのまま、スザクはルルーシュを
残し、枢木神社の石畳を歩いてゆく。その後ろ姿を見つめるルルーシュの表情は、
いつしか苦悩に満ちたそれに変わっていた。

 ルル(……使いたくなかった、この"力"……奴にだけは……!)
    (あの、バカが・……ッ!)

.
スザクが姿を消した後も、拳を固く握りしめながらその場に佇むルルーシュの背後から、
静かに忍び寄る者があった。拝殿の奥から姿を現したのは……拘束衣姿のC.C.だ。
彼女は奥の間で、彼らのやり取りをじっと見ていたのだった。

ルルーシュは、すぐ背後に立ったC.C.の方を向くこともなく、言葉を発する。

 ルル「……マオは、人の心が読めるギアスだった」

 C.C.「……」

 ルル「俺のギアスは、人の心を踏みにじる……」

 C.C.「…………」

.
 ルル「……お前は、"何も聞かないのか"と言ったな」
    「では、問おう……」

 C.C.「……」

 ルル「お前は、そうやって……」…ジャリ

 C.C.「……!」

脚を回し、背後のC.C.へゆっくりと振り向くルルーシュ。
その表情を目にした彼女は、己の顔をほんの少し強張らせたようにも見えた。

 ルル「……ギアスに囚われた者達の、絶望に彩られた顔を、」
    「いくつも見てきたのか?」

.
 C.C.「……確かに私が力を与えた、」
    「だが、行使するのはお前の意志だ」
    「そのくらい、わかって……」

 ルル「違う……間違っているぞ、C.C.」
    「俺は、お前を責めているのではない」

 C.C.「……?」

 ルル「そうやって何度も、いや、何百年もの間、」
    「数えきれないほどの失意と悔恨を味わい続けながら……」
    「なぜお前は、人々にギアスを与えるのだ?」

 C.C.「!……」

.
 ルル「……お前は、何を期待している?」

そう言って、冷ややかな目でC.C.を見つめるルルーシュ。
彼女はしばらくの間、黙ったまま彼を見つめていたが、やがて拝殿の階段にそっと
腰を下ろすと、膝を抱えて俯く。

 C.C.「……」

 ルル「…………」

 C.C.「……目的は、ある」

 ルル「……」

 C.C.「……だが、なぜなのかは、私にもわからない」

.
俯いたまま、そう呟いたC.C.の傍に、ルルーシュもゆっくりと、静かに腰を下ろす。
片膝を立てた彼は、空の天蓋がすっかり夜の色に染まった下界を眺めながら、
彼女に語りかけた。

 ルル「わからないのか……」

 C.C.「…………」

 ルル「……そんなものかもしれないな」

 C.C.「……?」

さらに問い詰めてくるのかと思いきや、ルルーシュが納得した様子であることを
C.C.は意外に感じた。
俯き加減であった頭をもたげ、ルルーシュの横顔を見つめる。

.
 ルル「全ての行為に、理由があるわけではないだろう……」
    「そのくらいは、俺にもわかる」

 C.C.「……」ジー

 ルル「最後に残る可能性は、お前が人々の絶望を最高の愉悦とする悪魔である、」
    「ということくらいだが、それもないと判断した」

 C.C.「……」
    「私が、失望し続けてきた、だと?」

 ルル「ああ……」
    「お前はまだ、一度たりとも望みが叶ったことがないのだろう?」

.
 C.C.「……どうして、そう思うんだ?」
    「私はそのようなこと、一言も言った覚えはない」

 ルル「……」

 C.C.「お前にしかできない、などと思うなら、自惚れに過ぎるぞ」…プイ
    「お前にできなければ、私はまた、別の者と契約するだけだ」

視線をそむけ、再び俯くC.C.……
それに対し、ルルーシュは言葉を返す。

 ルル「……あるいは、できるよう誘導すべきだな、お前は」
    「だが、そうはしない……お前は、俺の好きにさせるし、」
    「俺に干渉しようともしない」

.
 C.C.「……」

 ルル「そこからの推論で、ギアスの暴走は必須なのだとわかった」
    「お前の目的を果たすためにな」
    「だが、暴走後、お前の目的を達成してくれた者が、」
    「これまでいないのだろう」

 C.C.「…………」

 ルル「……だからお前は、迷っているのだろう?」

そこまで言うとルルーシュは、身体をねじりC.C.を見る。
彼女はいつの間にか、抱えたひざの間に顔をうずめていた。

.
 C.C.「……私が、迷っている、だと?」
    「……大した推測だな……」

 ルル「何に迷っているのかは知らん」
    「お前の矛盾を説明できるのが、"迷い"であるというだけだ」

 C.C.「…………」

 ルル「……」

他に人影のない境内はすっかりと暗くなり、空気も冷えてきた。
租界とゲットーの区別もなく、夜は平等に訪れる。
彼らはそれきり黙ったまま、闇の中へと溶け込んでいった……

.
彡⌒ ミ 本年度中の暖かいご支援・ご声援、誠にありがとうございました。
( ´ω`) 来年度もさらに頭頂に磨きをかけて頑張りますので、宜しくお願い申し上げます。

.
■Intermission ─────

学園祭から数週間後……

エリア11の総督府は、これまでブリタニアでは前例のない、重大な発表を行った。
このエリア内に、行政特区を設立する、というのである。

行政特区には、事前登録をした者であればブリタニア人であろうと日本人であろうと
自由に出入りができ、またイレヴンに課せられた様々な制限も区内では大幅に緩和
される。ブリタニア人と全く同等……とまではいかないのだが、これまでに比べれば
遥かに文化的な生活ができる環境が整えられるのである。

.
勿論、すでに当局に顔が割れている騎士団のメンバーやそのシンパについては、
登録などできないどころか、姿を現せば即刻逮捕となってしまう。
だが、ある条件さえクリアするなら、彼らも受け入れる、とも付け加えられた……
ゼロを始めとした騎士団の幹部らの祝賀式典への出席および、その場での
総督府との和解の宣言である。

シュナイゼルはここにきて、その目的をあからさまにしてきたのだった。そしてそれは、
狙い通りの効果をもたらした。世間では言うに及ばず、騎士団内部でも行政特区への
賛否で対立が目立ち始めたのだ。
騎士団のトレーラーでは、そのことについて幹部が集まり、相談をしていた。

 藤堂「事態は深刻だ……」
    「支持者だけではない、団員の中にも特区に賛同する人間がいる」
    「無視できない人数になるのも時間の問題だ」

.
 ディートハルト「黒の騎士団と違って、特区にはリスクがありませんしね……」フゥ…

 ラクシャータ「それに、帝国のお墨付きのお姫様と、正体不明の仮面の男じゃ、」
      「どう見てもあっちのが良さげだしぃ?」ニッ

 南「……キョウトも、向こうに協力するって話だ」

 玉城「なんだそりゃ?」アアーン

 井上「平等、って言われたらねぇ……」ハァ…

 カレン「平等なんて、口だけで信用できないって!」

.
 朝比奈「サンセイ……でも今は、早急に対応を決めないとね……」
      「……扇代表は、どう思う?」

皆の会話を聞きながら瞑目していた扇であったが、朝比奈に声をかけられると
静かに目を開いた。そして、周囲を驚かす発言をする。

 扇「…………騎士団ごと、」
   「特区に参加する手もあるな……」キリッ

 玉城「はぁ!?」

 カレン「ええ……?」

.
 藤堂「……」

 ディートハルト「……」フゥ

それを聞いた周囲のメンバーは、様々な想いで扇を見る。
数秒間、微妙な空気が彼らの間を流れた後……

 南「……お前、ブリタニアの言う事を信用しようと言いたいのか?」

 扇「そうではない、あちらが妥協案を示してきたんだ、」
   「それを利用する方法を考えてみるのも……」

 千葉「まず間違いなく、平和という名目で武装解除が行われるぞ……?」

.
 扇「……ああ、平和になるならそれm」 

 ラクシャータ「抵抗できなくなっちゃうわよぉ?」
      「それって、すっごく困るんじゃなぁい?」

 藤堂「その通り……」
    「我々は体制に取り込まれ、独立性が奪われる」

 ディートハルト「しかし、参加しなければ"自由と平等の敵"となる……」
       「これは巧妙な、袋小路の仕掛けなんですよ、扇さん」

 扇「だ……だったら、参加する方が、まだ……!」

.
 ディートハルト「何の保証もなく、ですか?」

 扇「でっ、でも……!」アセアセ

幹部たちから反撃を受け、まともな反論もできないでいる扇。
さすがにそれを見かねたのか、藤堂は横から助け船を出した。

 藤堂「……全ての可能性を考える、という意味では、」
    「代表の言う事も一理ある、と私は思う……」
    「検討する前から、選択肢を排除する必要はないだろう」フゥ

 扇「……そ、そう!それだ、オレはそれが言いたかったんだ!」パアッ!!

.
 扇「それに君たちは知らないだろうが、実際、スタジオに届けられる視聴者の」

   「声の中には、争いが終わることを待ち望んでいる人々が少なからずいる!」
   「その声をむげにするなんて、オレにはできない……!」
   「双方の妥協で対立が終わるなら、それも一つの道であると思う!」キッ!!

 ラクシャータ(……騎士団は、戦うための組織だってのを、)
      (ひょっとしてわかってないのかねぇ、この男……)ニッコリ

 朝比奈(藤堂さんは、そういう意味で言ってないだろ……)
      (せっかくの助け船に、自分で穴を開けるかぁ?)ジー

 ディートハルト(……本当に、なんとつまらない男だ……)ハァ…

.
 カレン「……あ、そういえばゼロは?」キョロキョロ

 井上「今日は、他に要件があるって話よ」
    「こっちへは来ないって」


■クラブハウス ─────

その頃ルルーシュは、眩しい日光が窓から差し込むクラブハウスの洗面台で、
蛇口から出る水流に頭を突っ込んでいた。冷水で頭を冷やしている風だ。
それを、通りかかったC.C.が見かける。

 C.C.「……なんだ、ここにいたのか」
    「どうした?熱でもあるのか?」

.
 ルル「……お前か、」ジャー
    「日中に、あまり部屋から出歩くな」

 C.C.「今の時間は、生徒はみな教室にいるだろう」
    「風邪でも引いたか?」

そのまま、冷水で顔をばしゃばしゃと洗ったルルーシュは、やがてタオルで
髪や顔をぬぐいながら彼女に答える。

 ルル「……いや、ちょっとな」フキフキ
    「頭が熱っぽかっただけだ、風邪ではない」

 C.C.「ふむ……」

.
 ルル「……まあ、どうということはない」
    「この所、疲労が若干溜まっているからな」…フウ

そのまま彼らは、連れだってルルーシュの自室に戻った。
彼はタオルを頭から被ったままベッドに腰掛け、C.C.はソファに寝そべる。

 C.C.「そういえば最近、まともに睡眠をとっていないだろう?」
    「……倒れないように気を付けろ」

 ルル「フッ、珍しい気遣いだな……」ニッ
    「今夜あたり、隕石でも落ちてくるか?」

.
 C.C.「契約成就の前に過労死という、」
    「前例なくみっともない結果になるなと言いたいだけだ」フン
    「……それと、幹部たちが待っているぞ」

 ルル「ああ、行政特区の件だろう……」
    「……どうするか、思案どころだ」

タオルで頭を拭き終わると、彼はそれを机の上に投げ、ベッドに寝転んだ。
ルルーシュの返事を聞いたC.C.は、不思議そうな顔をする。

 C.C.「ん?思案するのか?」
    「もう計画は確定したと言っていただろう?」

.
 ルル「その計画通りに事を進めるかどうか……」
    「……それが思案どころだ」

 C.C.「……この間の、スザクの件か?」

彼女のその言葉に、ルルーシュは目頭を指で軽くマッサージしながら答える。

 ルル「……ああ、それもある」クリクリ
    「別の事もある……」

 C.C.「……ふむ」

 ルル「計画通りに事が進めば、ナナリーの安全を確保する必要に迫られる」
    「そのタイミングが難しいところだ」

.
 C.C.「……早くても遅くても駄目、ということか」

 ルル「そうだ」
    「それと……いつ、ナナリーに明かすか、だ……」

 C.C.「…………」

.
■総督府政庁 執務室 ─────

 コーネリア「そうか、一網打尽にできたか」

 ギルフォード「はっ、総督が予想された通りでした」
       「総督府内でNACと繋がり、便宜を図っていた連中は、この度の件で」
       「自身の地位を保全しようと色めきだったようです」

 ダールトン「連中から、NACとキョウトについても言質を得られました」
        「やはり、桐原産業を中心とした組織でしたが……」

 コーネリア「うむ、彼奴らをどうするかだがな……」

.
執務室では、コーネリアと2名の専任騎士が、総督府内にはびこる腐敗の温床と
なっていた集団───NACから利益供与を受け、代わりに便宜を図ることで
互いの特権を維持していた───を特定、全員を一気に逮捕したこと、および
今後の計画について論じている最中であった。

 ダールトン「桐原には、司法取引を持ちかけるのはいかがでしょうか?」

 コーネリア「ふむ……どうする?」

 ダールトン「奴も当面、サクラダイトの採掘には必要な存在……」

        「今後は、反政府活動への支援をすべて打ち切ること、並びに」
        「純粋な採掘企業として活動することを確約するのであれば、」
        「これまでの支援活動……特に、騎士団への支援については」
        「不問にしよう、と……」

.
 コーネリア「……そういうところだろうな」

        「それと、今回の行政特区の設立にかかる費用、全て桐原に」
        「負担させることも飲ませろ……奴が破産しても構わん」

 ダールトン「イエス、ユアハイネス」ニッ

 ギルフォード「……これで、エリア11の治安も安定することでしょう」
       「さすがはユーフェミア様です」ニコッ

 コーネリア「ユフィ、か……」

ギルフォードがユーフェミアの名を口にしたとたん、コーネリアの表情が曇った。
素直な賞賛の意図で発言した彼は、その反応に少し戸惑う。

.
 ギルフォード「……総督、何か?」

 コーネリア「……いや、お前の言う通りだ」
        「我が妹も、皇族としての自覚が目覚めたのだろう」

 ギルフォード「はい、喜ばしいことです」ニコッ

 コーネリア「うむ……」

.
■2週間ほど前 政庁 空中庭園 ─────

 コーネリア「……特区だと?」

 ユフィ「はい、お姉様……」
     「このエリアに、人々を国籍による区別なく統治する区域を設けたいのです」

 コーネリア「何をバカなことを……」フッ

        「ブリタニアの方針と矛盾する政策ではないか」
        「誰からも賛同を得られぬ」

.
政庁屋上の空中庭園では、その穏やかな空気の中、コーネリアがいつものように、
ユーフェミアのひざの上に頭を乗せて寝そべっていた。
だが、ユーフェミアが少し思いつめたような表情でいるのに気づき、どうしたのかと
尋ねたところに、行政特区という"告白"を受けたのであった。

彼女はしかし、それを一笑に付した。

 ユフィ「……いえ、相談したら、賛同してくださる方もいました」

 コーネリア「ふむ、面白いな……」ニコッ

        「ユフィが相談した相手は誰かな?当ててみせよう」
        「賛同した、ということであれば……オディッセウス兄様か?」

 ユフィ「いえ、兄様にはまだ……」

.
 コーネリア「そうか、ユフィのその話に賛同しそうなのは、兄上くらいしか」

        「いないが……他には、誰だろうな?」ニコニコ
        「ギネヴィア姉様か?いや、であれば私に先に話すだろうな?」

 ユフィ「はい」ニコッ

 コーネリア「ふふっ、さて、ますます難しくなってきたぞ?」
        「ふうむ…………さては、ルルーシュか?ナナリーか?」

 ユフィ「ナナリーには、話してません」ニコッ

     「ルルーシュは……最初は考え直せと言われましたが、」
     「最後には応援している、と」

.
 コーネリア「先にルルーシュに話をしていたか……まあいいだろう」ニッ

        「それで、"賛同者"は他にもいたのか?」
        「ギルフォードらであれば、奴らは私に話をしているだろうし……」

 ユフィ「…………」
     「……シュナイゼル兄様も、賛同してくださいました」

 コーネリア「…………何?」

ユーフェミアの口からその名が出た途端、コーネリアの眉がわずかに上がる。
彼女は身体をすっと起こすと、ユーフェミアの顔をまじまじと見た。

.
 コーネリア「ユフィ……兄上が、賛同された、と今言ったか?」

 ユフィ「はい……」

 コーネリア「それは勿論、余談として、だろうな?」

 ユフィ「いえ、夢の実現に、ご支援もいただける、と……」

 コーネリア「……私には、全く話がなかったぞ」

 ユフィ「いま、お姉様がおっしゃった理由で、」
     「兄様からまだ言ってはいけない、と……」

.
 コーネリア「……」
        「ユフィ……行政特区は、すでに決まった事なのか?」

 ユフィ「……はい」…キッ
     「それを、私からちゃんと説明するようにと言われました」

 コーネリア「…………」

明らかにショックを受けているコーネリア……
数秒の沈黙が流れた後、己を不安げに見つめるユーフェミアに、ゆっくりと
言葉を返す。

 コーネリア「……なるほど、」
        「兄上は、私のこのエリアでの施政が失敗であると……」

.
 ユフィ「いえっ、違います!」
     「そのようなことは一言だっておっしゃっていません!」

 コーネリア「だが、そうだろう?」ニッコリ
        「認めてくださっているなら、特区など必要ない」

 ユフィ「お兄様は、私の特区構想をテストケースにしたいと、」
     「そうおっしゃられたんです!」

 コーネリア「……ユフィ、もうよい、」
        「後は兄上から直接聞こう」…スック

 ユフィ「お姉様……!」

.
 コーネリア「大丈夫だ、お前からはちゃんと聞いたと伝える」

        「だが仔細は、兄上が最も良くご存じのはずだからな」
        「話は、その後にしよう……」…テクテク

……その後、彼女はシュナイゼルから、行政特区の構想について説明を受けた。
さすがに、ユーフェミアとは異なる彼の理由──騎士団を始めとするエリア11の
反政府活動を弱体化させ、治安を安定させるため──を聞いて、彼女もしぶしぶ
納得をした。

だが、その代償としてユーフェミアが継承権を失う、ということを聞いた瞬間、
彼女は仰天する。

.
 コーネリア「なッ!?……なぜですか、兄上ッ!」クワッ!!

 シュナイゼル「彼女が選んだ道だからだよ、コーネリア……」

 コーネリア「それでは理由になっておりません!」
        「なぜユフィが、皇族の系譜から外されなければならないのですか!」

 シュナイゼル「彼女はね……」

シュナイゼルはそこで一呼吸を置く。
そして、コーネリアの目を見ながら、ゆっくりと答える。

 シュナイゼル「……特区で、共に過ごしたい人がいるそうだ」

.
 コーネリア「……そのようなこと、一言も……」

 シュナイゼル「言えなかったそうだ、君を困らせると思って」

 コーネリア「何者ですか!」

 シュナイゼル「君も知っている人物だ」
       「私も、直接会ったことはないが、知っている」

 コーネリア「……?」

 シュナイゼル「……イレヴン、枢木スザクだ」

 コーネリア「く、枢木……ッ!?」

.
■深夜 ゲットー騎士団アジト ──────

 扇「ほ、本当か!?」

 玉城「ええっ、マジかよ!?」

 ゼロ「ああ……私は、式典に参加するつもりだ」

騎士団アジトの会議室で、ゼロは集めた幹部たちにそう告げた。
彼の言葉に、一同はどよめく。

 藤堂「それが、八方塞がりの現状の、打開策ということか?」

 ゼロ「そうだ」コクリ

.
 朝比奈「……ゼロ、」
      「本気でブリタニアの旗に下ろうってえの?」

 ゼロ「そう思うか、朝比奈?」クルッ

自分の方を向いたゼロにそう問われた朝比奈は、観察をするような目つきでゼロを
見ていたが、やがてニヤリと笑う。

 朝比奈「…………いいや、あんたはそんなことはしないだろうね」ニッ
      「なるほど、"私は"、ってことか」

 ゼロ「察しがいいな、さすがだ……式典には、私だけが参列する」
    「他は全軍、行政特区の周辺域に潜んで様子を伺う」

.
 南「奇襲を仕掛けるのか?」

 ゼロ「状況次第では、それもあり得る」
    「だが、もし本当に、彼らが政策の転換を図る気なら、それは受け入れる」

 ディートハルト「……騎士団の解散を、ですか?」

 ゼロ「自己否定をする気はない」
    「我々の組織の存続は、最低限の条件だ」

 藤堂「つまり……」
    「……特区を人質に取り、交渉を行うつもりか?」

 ゼロ「形としては、そうなるな」

.
 玉城「ええッと……要するに、どうなるンだァ?」キョトン

これまでの話の流れが、いまいちつかめていない玉城。
代わりに、井上が簡単に説明をする。

 井上「密かに特区を包囲した状態で、ゼロが単身で乗り込んで、」
    「ブリタニア側と条件闘争をする、っていうことよ」

 玉城「あァ、なるほどねェ……」コクコク

 ラクシャータ「ねぇ、それって……随分と無茶な計画じゃなぁい?」
      「あんたが捕まったら、それでご破算よぉ?」

.
 ゼロ「だが、そうなれば君らが式典会場を襲撃する名目が立つ」
    「ブリタニアが裏切った、とな」

 扇「……むう……」

 ゼロ「それに、ブリタニアと交渉する気など元々ない」
    「テーブルには着いたが交渉は決裂した、という結末で十分だ」

 扇「えっ、そうなのか!?」

 藤堂「ブリタニアの面子をたて、こちらの筋も通す」
    「政治的な決着を図るわけか」

 ゼロ「うむ」

.
 カレン「…………あの、」
     「……殺される可能性も、あるんじゃないの……?」

白熱する議論に割って入ったカレンの言葉に、一同は一斉に彼女を見る。
全員の視線を浴びた彼女は、びくりと飛び上がった。

 ゼロ「さすがにそれはないだろう……」
    「式典会場で私を殺せば、ブリタニアの面子は丸つぶれになる」

 藤堂「……だが、万が一も考えるべきだ」
    「君が単独で参列するのは、危険きわまる」 
    「君だけではない、騎士団にとってもだ」

.
 ゼロ「わかっている、しかし事態は逼迫し、取り得る選択肢は限られている」
    「君達には、他にもっと良いアイデアがあるのか?」

 藤堂「うむ……」

 朝比奈「……」

 ディートハルト「ふむ……」

 扇「……オレは、ゼロの案に賛成だな」キリッ

 一同「…………」

.
■トウキョウ租界 新設の研究所 ──────

ニーナの希望であった、ユーフェミア直属の研究施設の設立は、残念ながら
通らなかった。
だが、コーネリアの支援により政庁の近くの建物に新しく、ニーナのための
研究所が設けられ、ユーフェミアがその責任者、ニーナは室長として登用される
こととなった。
ニーナは研究所の設立以来、アッシュフォードに通う傍ら、研究所で研究に専念
する日々を過ごしていた。

 ミレイ「……ニーナ、がんばってる~?」ニコニコ

 ニーナ「あっ、ミレイちゃん、それにみんなも!」パアッ!!

.
 シャーリー「差し入れ、持ってきたよ!」ニコニコ

 リヴァル「うっわー、すげえ部屋だなぁ……」キョロキョロ

研究所に通うようになってしばらくして、ニーナは研究所で生徒会メンバーの
訪問を受けた。どんな所か興味があるという彼らの言葉に、いつでも来てくれと
言っていたのだ。

様々な新品の研究機器が並び、スチール棚には各種のファイルや輝きのある
実験器具が収められている様を、彼らが眩しそうに眺めているのをニーナは
微笑ましく見守る。

.
 ミレイ「しばらく前から黙々と打ち込んでたのは、このためだったのねー……」

 ニーナ「うん……ごめんね、ミレイちゃん……」

 ミレイ「いいんだって!」
     「一足先の内定、おめでとうって感じ?」ニコッ

 リヴァル「ああっ、そういやそういうことじゃん!」
      「いいなあニーナ、将来安泰かぁ……」

彼らは、研究室のデスクの上に差し入れのケーキを並べた。
ニーナは、人数分の紅茶を淹れながら、彼らに尋ねる。

 ニーナ「……あれ、ルルーシュはいないんだ?」コポコポ…

.
 シャーリー「うん、今日も忙しいんだってー」

 リヴァル「あいつ、最近は学校にも姿を見せないんだぜ?」
      「ッたく、何してんだか……」

 ミレイ「まあ、肝心な時にはちゃんと来て、生徒会の仕事はこなしてるし……」
     「せいぜい進級できなくなるくらいだから、いいんじゃなーい?」ニヤー

 シャーリー「……最悪ですよ、それ……」ムスー

彼らは、デスクの周りに座り、ケーキをつまみながらおしゃべりを楽しむ。
さながら、アッシュフォード生徒会室をここに再現したかのようであった……

……と、そこへ突如、更なる訪問者が。

.
 ???「ねえねえ、ウランの方が効率いいってー?」ガチャ!!

 ニーナ「あっ、こんにちは!」
     「はい、濃縮でより臨界が起こしやすくなりますし、」
     「濃縮の工程もサクラダイトに比べれば……」クドクド

 ???「ふんふん、なるほどねぇ……でも、遠心分離でしょー?」
     「純粋に、回転胴の長さでプラントが巨大化しちゃうよー?」
     「サクラダイトでいいんじゃないー?」クドクド

 ニーナ「いえ、まずは実験のため、少量のウランから……」
     「ガス拡散なら、時間はかかりますが小規模で……」クドクド

.
同じく研究者らしき男の、ノックや挨拶すら省いた突然の乱入にもニーナは全く
驚く様子もない。
即座に専門的な会話を始め、それに集中する二人。

 シャーリー「……ふえー……」ポカーン

 リヴァル「……ほえー……」ポカーン
      「…………あのさ、ニーナ?」
       「オレら、帰った方がいいかな……?」

 ニーナ「ですから、天然ウランの……あっ、ごめん!」
     「ロイドさん、こちら、同じ学園の生徒会のメンバーです!」
     「シャーリーは、大学でお会いしたことがあったよね?」

.
 シャーリー「うん……お、お久しぶりです、シャーリーです……」

 ロイド「んー?誰だったっけ~?」ニッコリ

 シャーリー「おろ!?」ガクッ!!

 リヴァル「お、オレはリヴァル・カルデモンドです!」
      「お邪魔してます!」

 ロイド「はいはい~」ニコニコ

 ニーナ「リヴァルもシャーリーも、私の同級生です」
     「こちらは、生徒会長の……」

.
 ミレイ「……あの、アスプルンド伯爵も、こちらの所属で?」

 ロイド「んー、伯爵なんて呼ばれるの、久しぶりだねぇ~」
     「今日は、約束の日じゃなかったよねぇ?」ニコニコ

 ミレイ「いえ、まだ先の……」

 ロイド「お・め・で・と・う~!」ニッコリ

     「今日も仕事が山盛りでねぇ~!」
     「時間ないんだぁ、良かったねぇ~!」

.
ミレイとロイドの奇妙なやり取りに、他の3名は不思議そうに顔を見合わせる。
彼らの関係について、ニーナがおずおずと尋ねてみると……

 ミレイ「あー、あのね、この方が今度、お見合いする方なの……」

 ロイド「うん、そうなんだ~」ニッコリ

 ニーナ「ええっ?」

 シャーリー「ほええ!?」

 リヴァル「何いいいいい!?」ガタッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

深夜の政庁……
明かりを消したユーフェミアの自室では、暖炉にくべた薪がパチパチと燃えている。
彼女は、机上のランプの暖かなともしびの下で、就寝前の日記を付けていた。
屋上庭園での告白以来、コーネリアが自分を避けているように感じており、
彼女は小さなため息をつきながら、今日もそのことを日記に記す。

 ユフィ(……これでもう、2週間以上になる)カキカキ

     (お姉様はやはり、特区には反対なのだ)
     (本当にこのまま、進めてもいいのだろうか……)

.
と、その時、傍らに置いていたケータイが静かに鳴った。
こんな時間に誰だろうか、と液晶表示を見ると、そこには

 >>> Suzaku

の名が表示されていた。
彼女は、息をのむ……次の瞬間、笑顔がパアッと花開いた。
諦めかけながらも、待ちに待ち焦がれていた時がついに訪れたのだ。

彼女はあたふたと、しかし間違って切ってしまわないよう慎重に、ケータイを
その手に取ると、そっと耳にあてた。

 ユフィ「…………もしもし……?」ピッ

.
 スザク『あ、あの……枢木、スザクです』
     『夜分、ごめんなさい……』

 ユフィ「……スザクっ!…………う……!」…グスッ

 スザク『あ!あの、ごめん!邪魔だったかな!?』
     『ごめんなさい、また次の』

 ユフィ「あっ、待って、だめ!切らないで!お願いっ!」

 スザク『えっ!?……』
     『……あの、迷惑じゃない、かな……?』

.
 ユフィ「そんなことないです……」
     「……スザクからの電話が嬉しくて、ちょっと涙が出ただけ」ニコッ

 スザク『……そうか……ごめん』

 ユフィ「ふふっ、嬉しい……ずっと待ってたの、ありがとう」

 スザク『そんな、僕の方こそ……待っててもらえて、すごく嬉しいよ』

 ユフィ「うふふ……っ」

彼女はそっと日記を閉じると、暖炉の傍に座りながら、スザクに嬉しそうに話をする。
先日に発表された、行政特区"日本"の話だ。

.
かつて彼らが旧都庁跡で語り合った夢が、本当に実現すること。
それは、想像していたのとは少し違うし、日本人に完全な自由を約束するもの
ではないが、それでも本国からの了承を得て、実現となったこと……

 スザク『僕も、それでおめでとうを言いたくて電話したんだ』
     『……君は、夢を本当に実現してしまったね』

 ユフィ「あら、スザクはできないと思っていたの?」

 スザク『僕たちがおじいさん、おばあさんになる頃だと思ってた』

 ユフィ「ふふっ、そうね……」
     「でも、それまで待てなかったの」クスッ

.
 スザク『ふふ……』
     『すごいな、ユフィは……』

 ユフィ「……これも、あなたのおかげです」

 スザク『僕は、何もしてないよ』
     『全て君の力で……』

 ユフィ「ううん……」
     「…………あなたがいてくれたから、できたんです」

 スザク『!!…………』

.
ユーフェミアのその言葉に、回線の向こうにいるスザクは口を閉ざす。
その沈黙は、彼もその意味を正確に受け止めたことを示していた。
だが、会話の途切れを怖く感じた彼女が、口を開きかけた時。

 ユフィ「……あのね、スザク」

 スザク『……ユフィ、僕は……』

 ユフィ「……えっ?」

 スザク『……えっ?』

そしてまた、二人は同時に口を閉ざす。
そのタイミングの良さに、二人とも思わず笑い声が漏れた。

.
 ユフィ「……ふふっ!」

 スザク『……あははっ!』
     『いいよ、お先にどうぞ?』

 ユフィ「うん、じゃあ、私からね」ニコッ
     「あのね、スザク……もしも、だけどね?」

 スザク『うん?』

 ユフィ「もし、私が副総督じゃなくて……」
     「それに、ブリタニアの皇族でもなかったら……」

 スザク『…………』

.
 ユフィ「……それでもスザクは、私と友達になってくれた?」

 スザク『……もちろんだ』
     『僕は、君の肩書や血筋と友達になったんじゃない、』
     『ユフィだから、友達に……』

 ユフィ「……?」

 スザク『……いや……好きに、なったんだ』

 ユフィ「……!!」 

彼の"答え"に、ユーフェミアは胸が、どくん、と高鳴ったのを感じる。
それは先ほどの彼女の言葉への、明確な返事であった。

.
ユーフェミアは、ゆっくりと顔をほころばせる。

 ユフィ「……良かったぁ……!」…ニッコリ

 スザク『えっ?』

 ユフィ「……私ね、あなたに、私を好きになってほしかったの!」

     「もし……あなたが私の騎士だったら、好きになりなさい、って」
     「命令をしてたかも!」

 スザク『ユ、ユフィ!?』

.
 ユフィ「うふふっ……」
     「…………枢木スザク、私も……あなたが、大好きです……」

 スザク『…………ありがとう、ユフィ……』

電話の向こうの微笑みが見えるような、スザクの言葉。
言葉を交わさずとも、気持ちが通じ合える……そんな瞬間を、
ユーフェミアは感じていた……

と、その時。
部屋のドアが、軽くノックされる。

 コーネリア「ユフィ……まだ起きているか?」

.
 ユフィ「!!!……はい、ちょっと待ってください」
     「……スザク、ごめんなさい、今日は……」

 スザク『あ、うん、また……』

ユーフェミアは慌てて通話を切り、ケータイを日記の傍らに置くと、扉まで静かに
歩いてゆき、そっと開く。
扉の向こうには、やや沈痛な面持ちのコーネリアが立っていた。

 コーネリア「……中に入っても良いか?」

 ユフィ「……どうぞ、お姉様……」

.
ユーフェミアの手招きで、コーネリアは室内へと入る。
机の上に置いてある日記とケータイをチラリと見るが、それを気にかけた様子もない。
ユーフェミアが後ろ手で扉を閉めてもなお、彼女はそこへ立ったままだった。

 ユフィ「……お姉様、どうぞソファーをお使いください」

 コーネリア「いや……ここで良い」

彼女はそう言いながら、暖炉の傍まで行くと腰を下ろし、ひざを立てる。
きっと、行政特区に関する話があるのだ……ユーフェミアはそう考えながら、
同じようにコーネリアの正面に脚を折って座ると、その顔を見つめる。
それでもしばらくは黙っていたコーネリアであったが、やがて口を開いた。

 コーネリア「…………本当に、驚いた」

.
 ユフィ「……」

 コーネリア「お前が、そこまで考えていたとは……」
        「私にはわからなかった」

 ユフィ「お姉様……」

 コーネリア「お前のことは、何でも知っているつもりだったが……」
        「……いつの間にか、秘密を持つ年頃になっていたのだな」

 ユフィ「!!……秘密だなんて……!」

驚いたユーフェミアが口を挟もうとしたのを、コーネリアは手で制す。
そうしてゆっくりと、その視線を暖炉の炎へと移した。

.
 コーネリア「……責めているのではない」
        「ただ、知らなかった、というだけだ……」

 ユフィ「……」

 コーネリア「……ゼロをも受け入れるため……」
        「そして、枢木スザクを迎えるため……」

 ユフィ「!!」…グッ

 コーネリア「……お前は、皇位継承権を放棄するのか?」

.
暖炉の炎から、視線をユーフェミアへと戻しながら、彼女はそっと尋ねる。
その目には、怒りや苛立ちの色は全く浮かんでいなかった。
ただ静かに、ユーフェミアの考えを尋ねているようであった。

緊張で、膝に置いた両手に力が入っていたユーフェミアであったが、
姉のその様子を見て少し緊張を解く。彼女もまた冷静に、姉に答えた。

 ユフィ「……はい、これまでの敵対関係を不問にするという条件であれば、」

     「騎士団も特区に参加しやすくなるでしょう」
     「そうすれば、このエリア11の治安も、きっと安定するはずです……」

 コーネリア「……だが、参加しなければ、無駄骨だ」

.
 ユフィ「彼は先日、より良き統治のためなら協力を惜しまない、と明言しました」
     「行政特区構想は、その言葉と矛盾しません」

 コーネリア「これまでの我々との確執を、奴らが捨て去ると思うか?」
        「奴らは、我々と敵対することに、その存在理由を求めてきたのだ」

 ユフィ「……もし、捨て去らないのなら……」
     「……その時は、わたくしの負けです……」

彼女らは、黙ったまま互いの目を見つめる。
コーネリアの、全てを見通し暴き出す視線と、ユーフェミアの、全てを認め許容をする
視線がぶつかり合う。
やがてコーネリアは、目を伏せながらため息交じりにつぶやく。

.
 コーネリア「……負けなどと、」
        「軽々しく口にするものではない……」…フゥ

 ユフィ「…………」

 コーネリア「……枢木スザクのためにも、というのは、どういう意味だ?」
        「お前が継承権を捨てようが、奴には何の関係もなかろう」

 ユフィ「それは……」

 コーネリア「…………?」

スザクのことを尋ねられた彼女は、そこで言いよどむ。
訝しげな視線を向けるコーネリアに、どう返事をするか思い悩む風であったが……

.
 ユフィ「……これは、まだお兄様にもお話をしていません」

 コーネリア「うむ……」

 ユフィ「スザクは、多分……」
     「……騎士団に所属していると思います」

 コーネリア「……ふむ」

 ユフィ「彼が、どのような活動をしているのかはわかりませんが……」
     「おそらく、カワグチ湖での一件以来、繋がりができたのでしょう」

 コーネリア「…………」

.
 ユフィ「でも、彼は、今でもブリタニアを憎んではいません」
     「何かの理由があると思うのです」

 コーネリア「……それで?」

 ユフィ「彼を、自由にしたいのです……」

 コーネリア「………………」
        「……自由、か」

騎士団が特区に参加し、組織を解体すれば、スザクも普通の日本人に戻ることが
できる。そして他の人々と同様、特区内の人権を保障された環境で生活できる。
その意味で、是が非でも騎士団を特区に参加させたい、そのためなら継承権も
捨て去ろう……そういう意味だと、彼女は悟った。

.
コーネリアは、さらにその先の……行政特区という世界での、スザクとユーフェミアの
姿に思いを馳せる。だが、それはうまくイメージすることができなかった。
彼女は、かぶりを振りながら言葉をつづける。

 コーネリア「…………わからぬ」

 ユフィ「お姉様……」

 コーネリア「私は、行政特区も、お前が継承権を放棄することも反対だ」
        「だが兄上が決めた以上、必ず実現させる」

 ユフィ「……」

.
 コーネリア「……男のためでなく、自分のために決断せよ」

        「お前が思い描く、理想のために……」
        「……ユフィ、何者からも独立した個人とは、そういうものだ」

 ユフィ「……はい、お姉様」

 コーネリア「……」

 ユフィ「…………」

しばらくの間、彼女らは口を閉じたまま、それぞれが暖炉の炎を見つめる。
これまでの、保護する者・保護される者という立場からほんの少し、めいめいが
自立した存在としての会話をした戸惑いが、互いにあった。
その沈黙を、先に破ったのはコーネリアであった。

.
 コーネリア「……お前が、扉を開けないかもしれない、と思っていた」

 ユフィ「……えっ?」

 コーネリア「……怖かった」

ぽつりとつぶやいたコーネリアの、意外な一言。
ユーフェミアが目を丸くしながら振り向くと、彼女はうっすらと微笑んでいた。
表情のどこかに気恥ずかしさを感じたのは、気のせいであっただろうか。

.
コーネリアは、再び静かに、ユーフェミアを見つめる。
それはいつもの、優しく、深い愛情を秘めた姉の顔であった。

 コーネリア「私は……いつだって、ユフィを愛している」
        「それだけは忘れないでくれ」ニコッ

 ユフィ「……私も、お姉様を愛しています……」ニコッ

.
⌒ ミ
ω・`) ひとまず。

.
■行政特区 式典会場 ─────

……その日は、ついにきた。

特区への転入申請の受付は祝賀式典の1週間以上も前から始まっていたのだが、
希望者があまりに殺到したため、一旦中断せざるを得ないほどの状況であった。

いち早く申請を受理され、いま特区内にいるイレヴン……日本人は、おおよそ5万人。
特区の外で待ち構えている希望者は、おそらく10万人を超え、いずれ20万人にも
達するのではないかと見られている。

祝賀会場は、特区内のスタジアムに設けられた。
いま、そこには、まさに黒山の人だかりと言うべきほどの日本人たちが、整然と
並べられた椅子に座り、式典の開始を今か今かと待ち構えているところであった。

.
会場の壇上には、コーネリアを始めとするブリタニア政庁の重要人物および、桐原を
代表とするキョウト重鎮の面々が、居並ぶ主賓席に座っている。
そして、檀上の脇、やや高い位置にある招待客の席には……

 貴族「……ふむ、学生がこういう場にいるのは珍しいな」
    「ん?君は、確か……」

 ルル「ルルーシュ・ランペルージと申します」ニコッ
    「ユーフェミア皇女殿下の格別のお計らいを賜りまして、ここにおります」

 貴族「ああ……元皇太子の……」

.
ユーフェミアは、彼を招待客としてこの式典に呼んだのであった。
隣に座る貴族に簡単に自己紹介をしながら、彼が檀上を見ると丁度、ユーフェミアも
こちらを見ていた。にこにこと微笑みながら、彼女は小さく手を振ってみせた。
ルルーシュも、微笑みながら軽く手を振る。

 ルル「……ご機嫌麗しいようですね」…フリフリ

 貴族「何の酔狂だか……」フン
    「このようなことをせずとも、イレヴンは叩いて躾けておけばよいのだ」

 ルル「……」

.
 貴族「こうやって甘やかすから、連中は思い上がる……」
    「……これが、厄介事の種にならなければよいがな」
    「そう思うだろう?」

 ルル「……そうですね、そう思います」…ニッ

会場にいる者の中で唯一、ゼロの正体を知る者、桐原は、招待席に座る
ルルーシュの姿を認めると、若干の安堵を得る。

 桐原(……ぬしがそこにおる、ということは、特区を認めたということか……)
    (まさか、復讐を断念したか……?)

.
 桐原(……じゃが、今はそれでいい)
    (ぬしがゼロだと知られたが最期、全てはご破算となる)
    (ゼロの正体さえ秘匿しておけば、いずれまた道は開けるじゃろう……)

そして、傍らに並ぶ空席に視線を移す。
そこは本来、ゼロが座る予定の席であったが、誰も座ることはないだろう。
空席を挟んで座るダールトンは、桐原の素振りに気づき、声をかける。

 ダールトン「……やはり、ゼロは来ないようだな」

 桐原「……うむ」

 ダールトン「まあ、どちらにせよ、これで騎士団は終わりだ……」

        「貴様も、今後は我々に忠誠を誓うことだ」
        「桐原産業を、根こそぎ潰されなくなければな」…ニッ

 桐原「……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 玉城『……なァ、オレ達いつまでここにいりゃいいンだよ?』

 井上『……動け、って指示が出るまでよ』
    『さっきから何ぶつぶつ言ってるのよ』

 玉城『だってよォ……』

特区を見下ろす位置にある小高い山……その森の中に、騎士団のナイトメアが
集結し、息をひそめていた。
ゼロは、現在持てるすべてのナイトメアを、この特区の周辺域に配置したのだ。

.
 扇『……ゼロが、ブリタニア側の真意を確かめるのを待つんだ、玉城』

 玉城『へえへ……』フウー

 南『……扇、そのナイトメア、乗り心地はどうだ?』

 扇『ん?ああ、問題なく扱えるよ』
   『さすがはラクシャータだ』

 南『お前も、こうして現場に出れるようになるとはな……驚きだよ』

.
ラクシャータは、ジェレミアに用いられていた技術をナイトメアにフィードバックした。
神経と機器の接続により、身体に障害があっても遜色なくナイトメアを扱える
操縦系統を構築したのだ。いずれは、身体による操作という遅延なく、神経から直接
全てをコントロールできるシステムを作る目論見である。
今回、扇がそのテストパイロットとして乗り込んだのだ。

 扇『オレもみんなと同じように、最前線で戦いたかったからな……』
   『ありがたいよ、本当に』

 玉城『あンまりでしゃばンなよ、おめェ実戦は久々なンだしよォ?』

 扇『ああ、みんなのサポートに徹するよ』
   『……まあ、実際に戦うことになるとは思わないけどな』

.
 藤堂『……それは、どうかな?』

 扇『えっ?』

 藤堂『ここに全機を配置したということは、彼は総力戦を想定している』
    『おそらく……交渉決裂以上の事態をも見越しているはずだ』

藤堂の指摘に、一団の通話が静まり返る。
それ以上の事態と言えば、彼が捕えられるか……

 朝比奈『……ゼロは、コーネリアやユーフェミアを殺す気かもね』

 スザク『!!』

.
同じく、黒蓮を茂みに隠しながら彼らの通話を聞いていたスザクは、朝比奈の
言葉に息をのむ。先日の、ルルーシュの話が思い出された。

 スザク(……彼は、自分が撃たれるだろうとは言ったが、なぜ撃たれるのかは)
     (言わなかった……そうだ、もし彼がユフィやコーネリア総督を撃てば、)
     (必然的に撃たれるじゃないか……!)

思わず、ユーフェミアが会場でゼロに撃たれる場面が思い浮かぶが、彼は必死になって
そのイメージを打ち消す。

 スザク(バカな……ルルーシュが、ユフィを殺すわけがない!)
     (暗殺ならまだしも、脱出路もない会場の中だ!)
     (それに、式典にいるのは特区に賛同している人々ばかりだ、)
     (もし彼がそこで殺せば、それこそテロリストの烙印を押される……!)

.
 朝比奈『……全ての可能性、って、深い意味があるよね』ニッ

 扇『断定は危険だ!』

 藤堂『断定ではない、可能性だ……』
    『どちらにせよ我々は、おとなしく待つしかない……』
    『……ゼロと、紅月君からの連絡をな』

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン「……あー、だめだわ!今、わたし、すっごく嬉しい!」
     「なーんか、役得って感じ?」ニマニマ

.
 ゼロ「何を浮かれているんだ、君は……」ハァ

 カレン「だって、欲しかったのが全部手に入ったんだもの!」
     「気分最高よ!」ニマニマ

同時刻、藤堂らの位置からさらに離れた地域の上空を飛翔している機体があった。
新開発のフロートシステムを装着した、紅蓮二式・改である。
そのコクピットには、タンデム状態のカレンとゼロがいた。

 カレン「ねえ、これってアレでしょ?スザクのやつに付いてた……」

 ゼロ「ああ、あのフロートシステムを改造し、紅蓮に装着できるようにした」
    「今回の作戦でどうしても必要だったからな」

.
 カレン「スザクので来ても良かったんじゃないの?」

 ゼロ「複座式の機体が、紅蓮しかないだろう」
    「それに、黒蓮はブリタニアから奪った機体だからな、」
    「アレで乗り付けたら、ケンカを売っているのかという話になる」

 カレン「そうね……」
     「……ま、わたしは満足だからいいけどね♪」

 ゼロ「……浮かれすぎて、作戦を忘れてないだろうな?」

.
 カレン「大丈夫よ」ニマ
     「式典会場の近くまできたら、低速で滑空してこっちに気づかせる」
     「そこからゆっくりと、会場のど真ん中に降りる」

 ゼロ「ど真ん中じゃない、祭壇の脇に、だ」…フウ

すっかり浮き浮き気分のカレンに、彼は若干の不安を覚えた。
ため息交じりに、彼女の間違いを訂正する。

 カレン「そうそう、そこそこ」ニコッ
     「で、全部終わるまでそこで待機、終わったらあんたを乗せて撤収ね」

.
 ゼロ「……危険だと思わせないための侵入地点なんだからな、」
    「絶対に間違えるなよ?」
    「少しでも怪しい素振りを見せれば、集中砲火を食らうぞ」

 カレン「大丈夫だって!」
     「……それよりもさ」…クルッ

突如カレンは、自分の背中に抱き付いているゼロの方へ顔を向けた。

 ゼロ「なんだ?」

 カレン「……あんたも、間違えてわたしの胸を掴まないでよ?」ジロ

 ゼロ「いつの話をしているッ!///」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 アナウンサー『……レスリーさん、ゼロは姿を現すのでしょうか?』

 レポーター『いえ、現時点まで何の連絡もないようです』
        『警戒をして姿を現さないだろう、という見方が大勢ですね』

 アナウンサー『なるほど……』
          『引き続き、レポートをお願いします……』

租界の医療施設の一室では、ナナリーが一人で、ラジオの中継に耳を傾けていた。
実は、ユーフェミアはルルーシュと共に、ナナリーも式典に招待していた。
だが……

.
 ルル(ナナリー、式典は俺だけで行ってくるよ……)
    (お前はここにいて欲しい)

 ナナリー(えっ?ええ、構いませんけど……?)

 ルル(特区や会場には、バリアフリーの設備がないらしいんだ)
    (急ごしらえだし、イレヴン相手のものなので、そこまでの考慮を)
    (していなかったらしい)
    (本当は、ナナリーも連れていきたいんだが……)

 ナナリー(大丈夫ですよ、お兄様)
      (私はここで、ラジオを聞いてます)

 ルル(済まない……)

.
それに加え、咲世子も今日は所用があり、ここに来られないということであった。
先ほどから彼女は、室内で一人寂しく、ラジオでの中継の模様を聞いている
のであった……と、そこへ、扉をノックする者が。

 ナナリー「……はい?どなたですか?」

 ???「ナナちゃん、わたしだよ!」
      「お邪魔してもいいかな?」

 ナナリー「……シャーリーさんですか!?」

声の主に驚くナナリー。
扉を開けて顔を覗かせたのは、まさしくシャーリーであった。

.
 シャーリー「ルルがね、ナナちゃん一人だと寂しいだろうから、って……」
        「いっしょにラジオ、聞いてもいいかな?」

 ナナリー「ええ、勿論です!」ニコッ
       「お兄様が、そうおっしゃってたんですか?」

 シャーリー「うん、『君はヒマだろう?なら、お願いしたいんだが……』だってさ!」
        「ルルってどうしてああいう言い方するんだろ、確かにヒマだけどさ!」

 ナナリー「ふふっ……ご迷惑じゃなかったですか?」

 シャーリー「ううん、気にしないで!」
        「ほら、クッキーを持ってきたの、一緒に食べながら聞こっ!」

 ナナリー「はい、ありがとうございます!」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

式典会場では、時間になってもゼロが現れないことに、観衆の間に諦観と安堵が
入り混じった空気が流れていた。
コーネリアは、再度時計を確認する。間違いなく式典の開始時刻に達していた。
彼女は、隣に座るユーフェミアを軽く促す。

 コーネリア「副総督……時間だ」

 ユフィ「……はい」

 コーネリア「これで良いのだ……」
        「お前のせいではない、気に病むな」

 ユフィ「……」

.
ユーフェミアは、自分に頷いて見せたコーネリアに寂しそうな笑顔を向けると、
ゆっくりと席から立ち上がる。檀上から改めて見渡せば、数万人の日本人が式典の
始まりを今や遅しと待ちかねていた。
ゼロのために、彼らをこれ以上待たせるわけにはいかない。

ユーフェミアが立ち上がると、ざわついていた式典会場がすうっと静まり返る。
彼女は宣誓に備え大きく深呼吸をすると、凛とした声を会場内に響かせた。

 ユフィ「……わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアはこれより、」
     「行政特区"日本"設立の、記念式典を……」

と、そこまで言いかけた時、彼女は式典会場の遠方上空からこちらへ向かい、
飛来してくる朱色の物体を見つけた。
飛行機とは明らかに異なる、そのフォルムは……

.
 ユフィ(……ナイトメア?)
     (あれは、確か……?)

宣誓を途中で止めたユーフェミアの様子を見て、コーネリアらも彼女と同じ方角を見る。
彼らも、それが何であるかすぐにわかった。

 コーネリア「……あれは!」キッ

 ギルフォード「どうやら、来たようですな……」

 ダールトン「ふん、敗北を認めたか……!」ニヤ
        「警備!相手はゼロだ、少しでも不審な動きをしたら、容赦なく撃て」

 警備兵たち『イエス、マイロード!』

.
朱色のナイトメア、紅蓮は、式典会場へ近づくにつれ、速度を落とす。
会場の中継をしていたレポーターたちも、それに気づいて早口でまくしたてた。

 レポーター『あ、あれはたしか、騎士団のナイトメア……』

        『現れないと思われていたゼロが、なんと姿を現したようです!』
        『ナイトメアの出現に、会場内はざわめいております!』

 アナウンサー『驚きですねぇ……』
          『どうでしょう、ゼロが現れたということですが、その目的は?』

 コメンテーター『行政特区で、騎士団は追いつめられていたはずですからねぇ……』
       『彼の、これまでの行動から推測すると、そう簡単に参加するとは』
       『思えなかったのですが……あるいは、司法取引のようなことを考えて』

.
医療施設でラジオを聴いていたナナリーとシャーリーも、ゼロ出現の報道に
驚いていた。

 ナナリー「ゼロが……!」
       「……一体、式典はどうなるんでしょう……」

 シャーリー「……大丈夫だよ、きっと……」ニコッ

        「ゼロは、弱い者の味方だって言ってたじゃない?」
        「式典を邪魔するようなことはしないって!」

 ナナリー「そうですね……」

 シャーリー(……ルル、このために行ってたんだ……)
        (どうするんだろ……)

.
同時刻、ペンドラゴンの軍空港に停留するアヴァロンのデッキで、やはりTVの報道を
見ていたロイドとセシル。
彼らは、ゼロ出現云々よりも、紅蓮の姿に驚く。

 セシル「あらっ、これって、私が作ったフロートユニットじゃ……!」キョトン

 ロイド「んー、改造したみたいだねぇ……」
     「そう簡単には、流用できないはずなんだけど……」

 セシル「……さすがは、ラクシャータさん、ですか?」

 ロイド「んーふー?」ニマ
     「まあ、この様子だと量産までは程遠いみたいだけどねぇ?」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

紅蓮は、式典会場の祭壇の脇に、ゆっくりと着地をした。
ユーフェミアがその近くまで走り寄ると、コクピットハッチが開き、
中からはゼロが姿を現す。

 ゼロ「……ユーフェミア副総督、お初にお目にかかる」
    「私が、黒の騎士団総裁、ゼロだ……」

 ユフィ「お待ちしておりました!」
     「必ず、来ていただけるものと信じておりました!」ニコニコ

 ゼロ「フフ、随分と信頼されたものだ……」

.
彼はそう言うと、紅蓮のコクピットから乗降ケーブルを使い、軽やかに地面へ降り立った。
紅蓮のハッチは、ふたたび静かに閉じる。中に残ったカレンは、藤堂らに報告をした。

 カレン「こちら紅蓮、会場に無事到着……」
     「ゼロは会場へ降り立ちました」

 藤堂『そうか……そっちの様子はどうだ?』

 カレン「当然、警備は厳重……でも空中からの侵入は、考えてなかったみたいですね」
     「周囲にナイトメアがいますけど、とりあえずは睨み合い、ってとこかな」

 藤堂『油断するなよ』

 カレン「了解!」

.
降り立ったゼロが、ユーフェミアの方へ歩み寄ろうとすると、周囲にいた護衛兵らが
泡を食ったように走り寄ってくる……しかし、

 ユフィ「……止めなさい!」

 護衛兵ら「!!……副総督、彼は危険です!」

 ユフィ「彼は、最重要な貴賓です!拘束は許しません!」

 護衛兵ら「……はっ」

ユーフェミアの言葉に、護衛兵らはゼロの周囲で足を止めた。
入れ替わりに、傍にいたSPの一人が、機器を携え彼の前に立つ。

 SP「所持品検査をさせてもらいます」

 ゼロ「いいだろう……」

SPは彼の身体全体を機器でくまなく走査するが、爆発物や金属反応などの、
危険だと思われる結果は得られなかった。
ゼロのつま先まで調べたSPは、立ち上がると背後のユーフェミアに報告をする。

 SP「……特に、問題はなさそうです」

.
 ユフィ「わかりました」
     「……失礼いたしました、ゼロ」ニッコリ

 ゼロ「構わない」
    「そのくらいの用心は、想定済みだ」

 ユフィ「ふふっ……さあ、あなたの席をご用意しております、」
     「こちらへどうぞ」

ゼロは、彼女の手招きに従い、壇上を歩くとユーフェミアの傍に並んだ。
その瞬間、マスコミのストロボが激しくフラッシュする。

 レポーター『……驚きです、このような場面、誰が想像できたでしょうか!』パシャパシャ

        『今、ゼロが副総督と並び、祭壇の中央へと歩いています!』パシャパシャ
        『歩きながら何か言葉も交わされているようです……!』パシャパシャ

.
 ゼロ「……遅れて申し訳なかった」カツカツ

 ユフィ「いいえ、今始めようとしていた所ですので」ニコッ

 ゼロ「……しかし、もし私が来なければ、どうするつもりだったのだ?」
    「君も知っていただろう、私が来ない可能性が高かったことを」

 ユフィ「そうですね……騎士団まで呼びに行ってたかもしれません」

 ゼロ「そうか……この行政特区といい、」
    「貴女はいつも、破天荒なことをお考えになる」

 ユフィ「えっ?」

.
そこでふと、ゼロは立ち止まった。
彼の方を振り向いたユーフェミアは、ゼロがマントの中へ手を入れているのに気づく。

 ゼロ「ユーフェミア副総督、」
    「公衆の面前で、貴女にお渡ししたいものがある」ゴソゴソ

 ユフィ「なんでしょう?」

 ゼロ「フッ、中身には大して意味はない」
    「この行為が、総督府と我々の、和解のサインと……」

……と、その時。
場内に、パアン、という破裂音が響き渡った。
それと同時に、ゼロの動きがぴたりと止まる。

.
 ユフィ「……え?」

 ゼロ「……ぐお……ッ」

短く一言呻いたかと思うと、彼の身体が、ゆらりと揺れる。
ゼロは、身体全体が突如脱力したかのように、その場に、ゆっくりと崩れ落ちた。
彼は、手で胸を押さえたまま、ぴくりとも動かない。
目の前で何が起きたのか、ユーフェミアは理解ができなかった。

 ユフィ「…………ゼロ?」

 ???「ふふ……ハハハハハ!」
      「この、痴れ者がああッ!」

.
次の瞬間、何者かの哄笑が静まり返った場内に反響する。
驚いた人々が声の主を見ると、手には銃を握り、憤怒の表情で床に伏せたゼロを
睨み付けているコーネリアがそこにいた。

 ギルフォード「ひっ、姫様……!?」

 ダールトン「これは……!」

 コーネリア「クロヴィスを殺し、あまつさえ私の目の前でユフィをも殺そうとするか!」
        「そうはさせんぞ、ルルーシュゥゥッ!」クワッ!!

 ユフィ「え……ルルーシュ!?」

コーネリアのその言葉に、ユーフェミアらは驚愕しながら招待席の方を振り向く。
そこでは、他の招待客と共にいたルルーシュが、やはり驚きの表情で壇上を見ていた。

.
 ダールトン「姫様!」

 コーネリア「ダールトン、ギルフォード!」
        「全てはルルーシュの策略であったのだ!」

 ギルフォード「お待ち下さい、弟君は、あそこに……!」

 ユフィ「お姉様、一体どうなされたのです!」

 コーネリア「ユフィ、お前は私の後ろに控えよ!」

        「貴様ら、イレヴンを即刻排除せよ!」
        「これは命令だ!全てのイレヴンを排除せよ!」

.
そう言いながらコーネリアは、ユーフェミアの腕を掴んで乱暴に引き寄せる。
紅蓮の中で事態の推移を見守っていたカレンは、目の前でゼロが撃たれ、
その場に倒れたのを見た瞬間、コクピットの中で絶叫した。

 カレン「な!……ゼロオオオオっ!!」

 藤堂『どうした、紅月君?何が起きた?』

 カレン「ゼロが……ゼロが、コーネリアに撃たれたっ!」

 朝比奈『何だって!?』
      『ゼロが撃ったんじゃないのか!?』

 カレン「違う!撃ったのはコーネリアだ!」

.
 スザク(まさか……彼の言った通り、本当に撃たれた!?)
     (しかも、撃ったのは総督だと……!?)

 カレン「ゼロを助け出す!」

 扇『なに!?おい、カレン、ちょっと待て……!』

そう言うが早いか、カレンは扇の制止の言葉が届くよりも早く機体を稼働させる。
祭壇の傍で静かに沈黙をしていた紅蓮が突如身体を震わせたのを見て、
コーネリアはヒステリックな笑い声をあげる。

 コーネリア「ハハハハ!見よ!やはりイレヴンどもはユフィを狙っていたのだ!」

        「貴様ら何をしている!すべてのイレヴンを排除せよッ!」
        「発砲も許可する!刃向うなら撃ち殺せ!命令を遂行せよッ!」

.
 ギルフォード「姫様……ッ!」…ギリッ
       「…………報道局!今すぐ放送を止めよ!」
       「別の映像に切り替えるのだッ!」

 ダールトン「……全軍!会場からイレヴンを排除せよ……ッ!」ギリ…ッ
        「抵抗するならば射殺しても構わん……ッ!」

 ユフィ「そんな……お姉様……っ!」

紅蓮は、舞台中央で倒れているゼロをめがけ、猛然と突撃をする。
それを防ごうと、周囲に配されていたサザーランドが紅蓮へ飛びかかるが……

 カレン「邪魔をするなああアアアっ!」

.
紅蓮は、体当たりをかけてきた機体の頭を右手でわしづかみにし、そのまま振り
回して他の機体に叩きつける。彼女を取り囲もうとする一団が銃撃を仕掛けるが、
それを輻射波動ではじきながらゼロの元へ駆け寄り、左手の中に彼を抱きかか
えた。
瞬時にフロートユニットが作動し、紅蓮は即座に大空へと飛び立つ。

手のひらの中のゼロを、落とさないように両腕で抱えながら彼女は、機体の
拡声器越しに叫んだ。

 カレン『ねえ、大丈夫!?しっかりしてっ!!』

 ゼロ「……大声を出すな……十分、聞こえる……」

.
紅蓮の通話モニター越しに、弱々しくも彼の声が聞こえた。
カレンの顔がぱっと明るくなった。

 カレン『!!……良かった!』
     『少しだけ我慢して、今すぐトレーラーの所へ……』

 ゼロ「……カレン、指示を、伝えろ……」

 カレン『えっ?』

 ゼロ「ブリタニアは、日本人を……排除……」
    「全軍、式典会場へ……助け……」……グフッ

.
紅蓮の手のひらの上に横たわるゼロの仮面の下から、血の筋が流れ落ちる。
それを見たカレンは、コクピットの中で怒りの叫びをあげた。

 カレン「くそ……くそおっ!」
     「……藤堂さん、全軍突撃を!!」

 藤堂『何だと!?どういうことだ!』

 カレン「ゼロは今、救出したわ!」
     「会場から日本人を追い出そうとして、ブリタニアが銃撃を始めたの!」
     「死人も出てると思う!ゼロが、みんなを助け出せって!」

.
 玉城『何だとおおッ!?』
    『くそッ……やッぱ嘘じゃねェか!ハナからゼロが目的だったんだ!』
    『やろおッ、やってやろうじゃねェか!』

 扇『そんな……だまし討ちだったのか……?』
   『やはり、俺たちを罠にかけるための……そんなバカな……』

 朝比奈『……藤堂さん、大義は我にありです!』
      『同胞を救出しましょう!』
 
 藤堂『……よしッ!全軍、式典会場に突撃せよ!』
    『日本人を救い出すのだッ!』

 団員たち『オウッ!』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……数分前までは、厳かな雰囲気の中、粛々と執り行われていた祝賀式典。
それが今や、会場は数多の阿鼻叫喚に満ち溢れた地獄と化していた。

黒山の群れの中、出口も全く見えないような状況下、四方からブリタニア兵の
銃撃音を浴びながら……あるいは、実際にその身を銃弾に貫かれながら、
つい先ほどまでは希望に胸を膨らませていた数万人のイレヴン達は、恐怖で
絶叫しながら会場内を右往左往と駆けずり回っていた。

.
ブリタニア兵に撃たれないまでも、身体の弱い子供や老人は群集になぎ倒されたが
最後、幾千もの足に踏みにじられ、血反吐を吐いて絶命する。
我が子を見失い、泣き叫ぶ母親。口から泡を吹いている男、金切り声を上げる女性に
蹴り倒される児童。真黒な眼孔から血の涙を流す老人……

 コーネリア「まだ排除できないのか!いっそナイトメアで皆押し出すがいい!」
        「ったく……何を愚図愚図と!」パァン!!

 日本人「ぐえ……っ」ドサッ

 コーネリア「ええいッ、この下衆どもを早く追い立てろ!」

        「ユフィの安全を確保するのだッ!」
        「……そうだ、ゼロは、ルルーシュはどこへ行ったあッ!」

.
 ギルフォード「ゼロは、赤いナイトメアが浚っていきました!」

 ダールトン「弟君は、こちらに……!」
        「姫様、どうか気をお鎮めください!」

ダールトンの声にコーネリアが振り向くと、そこには蒼ざめた顔のルルーシュが
立ち、彼女を呆然と見つめていた。

 ルル「……姉上……」

 コーネリア「おお、ルルーシュ!無事だったか!」

        「ユフィが危うくお前に殺されるところであったが、」
        「すんでの所で防いだぞ!」

.
 ユフィ「……!」

 ギルフォード「……姫様……!」ギュ…ッ

 ルル「……姉上、なんですって?」
    「俺が、ユフィを殺そうとした……?」

 コーネリア「そうだ!お前が……いや、ゼロが……」
        「……待て、お前はゼロ……え?」

 ダールトン「…………」…グッ

.
 コーネリア「……お前は、今、ここにいただろう……?」

 ユフィ「…………お姉様、」
     「ルルーシュは、最初からずっと、招待席にいました……」

 ルル「…………」

 コーネリア「いや、ナリタでお前は……私と……」
        「……えっ…………お前は、誰だ……?」

彼女の頭の中で思考が徐々に白濁してゆく。
先ほど彼女が見た"情景"と現実の情景がシークエンスを成し、
やがて意識は朦朧と……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

紅蓮は、式典会場の祭壇の脇に、ゆっくりと着地をした。
ユーフェミアがその近くまで走り寄ると、コクピットハッチが開き、
中からはゼロが姿を現す。

 ゼロ「……ユーフェミア副総督、お初にお目にかかる」
    「私が、黒の騎士団総裁、ゼロだ……」

 ユフィ「お待ちしておりました!」
     「必ず、来ていただけるものと信じておりました!」ニコニコ

こちらへ歩み寄ってくるゼロ。
そしてユーフェミアも、微笑みながら彼へ近づく。

.
と、その時だった。

 コーネリア(……ぬう……ッ!?)

その様子を睨んでいたコーネリアは突如、眼孔の奥で激しい光を感じた。
実際に光を浴びせられたのではなく、まるで目の奥で閃光が爆発したかのような、
何も見えなくなるほどの強烈な光であった。

 コーネリア(な、何事だ……ッ!)

あまりの眩しさに思わず両手で目を覆うが、光圧は全く変わらない。
次の瞬間、彼女の脳裏で"情景"が爆発し渦を巻いて、思考を混濁させる……
……それは、彼女が今まで完全に忘れ去っていたはずの、ナリタでの情景であった。

.
息も絶え絶えに、パイロットシートにもたれかかる彼女の前に立ち、見下ろすゼロ。
その仮面の下から現れたのは、素顔のルルーシュ……

 (……姉上、母上を殺したのは貴女か?)

 (……奴が、シャルル・ジ・ブリタニアの子供だからだ)

 (皇帝の下で俺たちは、互いに競い合い、殺し合う宿命にある……)
 (それがブリタニア皇族の宿命……)

そう、彼は、自分たちが互いに殺し合う運命にある、と彼女に告げたのだった。
その記憶が唐突に蘇ったことで、コーネリアは激しく混乱をする。

.
 コーネリア(そうだ、ゼロはルルーシュだった……!)

        (どうして私はそれを忘れていたのだ!?)
        (ルルーシュは確かに、我々に憎しみを抱いていたのだ、)
        (しかし、なぜ奴は、私を生かして……)

その時、現実でのゼロがその場に立ち止まる。
彼はおもむろに、ふところに手を伸ばした。

 ゼロ「ユーフェミア副総督、」
    「公衆の面前で、貴女にお渡ししたいものがある」ゴソゴソ

 ユフィ「なんでしょう?」

.
きょとんとするユーフェミア。
しかしその情景は、コーネリアに更なる記憶を呼び覚ます。
ゼロが……ルルーシュが、己に銃を突きつけた時のことを!

 (そういえば、貴女もそうでしたね……)チャキッ

 (……だが、貴女には生きていてもらいたのです、)
 (最初に申し上げたとおり……)

ブリタニアへの復讐を口にし、また自らがクロヴィスを殺したと告げた彼が、
母親を殺した犯人であると思っていた自分に、一度は銃口を向けながらも
その場では殺さなかったこと……
今、ゼロはあの時と同様、無防備なユーフェミアの前に立ち、マントの下から
何かを出そうとしていること……
それが全て、瞬間的に繋がった感覚を彼女は覚えた!

.
 コーネリア(……ま、まさか?ユフィを……)

        (いや、そういうことなのか!?そうだったのか!?)
        (私が愛するユフィを、私の目の前で殺してみせることで、)
        (ルルーシュは私への復讐を遂げる気であったのか!?)

現実の情景と、記憶の情景が混然となり、彼女はもはや冷静な思考ができなく
なっていた。否、それこそが……彼女にかけられたギアスであった。

 (姉上……今、見知ったこと全てを、記憶の底に封印せよ)
 (だが、ゼロがユーフェミアの前に立つ時は、その封印を解くがいい……)
 (そして恐れおののくのだ、我が怒りを、その憎しみの強さを……!)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

式典会場の地下からは、桐原産業の採掘場へと通じる通路が作られていた。
桐原らキョウトの重鎮および神楽耶は、それを利用して混乱する会場からの脱出に
成功していた。
地下へと降りてゆくリフトに乗りながら、彼らは今後の事について話す。

 桐原「これで、振り出しに戻ってしまったな……」

 公方院「まさか、ゼロを撃つとはのう……」

 宗像「あれが狙いだったのか、コーネリアは?」

.
 刑部「わからん……」
    「罠にしてはあまりに大がかりだ」

 公方院「……ゼロは、無事かのう?」

 桐原「……正直、わからぬ」

 神楽耶「無事に決まっています……!」…キッ

割って入った神楽耶の口調の強さに、桐原らはやや驚いて彼女を見る。
正面を見据えたままの彼女の表情は、不安げな少女のそれではなかった。
一族の代表としての、強い意志が現れている。

.
 神楽耶「油断とは無縁のお方です、」
      「あの事態も想定し、必ず対策をされていたはず……」

 桐原「……だが、もしもということもある」
    「ゼロが亡き後のことを、真剣に考えねばなるまい」

 刑部「ふむ」

 神楽耶「それよりも、特区にいる日本人はどうするのですか?」

彼女の、素朴な……しかし当然の疑問。
だが、桐原はそれにかぶりを振る。

 桐原「……今の我々には、どうにもできぬ」

.
 公方院「彼らも、望んでここに来たのじゃ、」

      「その結果には、甘んじてもらうしかなかろうのう」
      「……まずは、我々が安全な場所へ移ってからじゃ」

 神楽耶「……とどのつまりは、」
      「我が身可愛さ、ですか……」

 桐原「!!」

 宗像「……口が過ぎますぞ、皇(すめらぎ)の……」ギロ

 公方院「……我々は、何があろうと生き残らねばならぬ」
      「日本の未来のために……のう?」

.
 神楽耶「我々だけが生き残って、どうするというのか……」
      「……情けない」…グッ

 刑部「……控えよ!家の格だけの女子(おなご)が!」

 神楽耶「今動かずして、何がキョウトか!」キッ!!

彼らを睨み付ける神楽耶。
その気迫みなぎる言葉に、さすがの重鎮達もたじろぐ。

 刑部「!……」

 桐原「……ゼロの安否を、早急に確認しよう」
    「全てはそれからじゃ……よいな、神楽耶」

.
 神楽耶「……」

桐原の言葉に、神楽耶は黙り込む。
だが、彼は同時に、別のことを考えていた。

 桐原(……あのゼロは、偽物か……)
    (なるほど、最初からブリタニアの下につく気はなかった、ということか……)
    (だが、コーネリアの銃撃を、奴は想定しておったのか?)

    (……あるいは、それを伏せて替え玉を使い捨てたか?)
    (紅蓮がいち早く浚っていったのも、それを隠すため……)
    (……ふふ、まさに修羅の道よの、ルルーシュ……)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……こ、これは……一体、何事だ……!?」

 ユフィ「……おねえ、さま……」

 ギルフォード「……」ググッ

騒然とする場内で、ギアスの効力から解放され意識がはっきりと戻ったコーネリアは、
自分がつい先ほどまで見ていた状況とのあまりの違いに呆然とした。
場内には未だに銃声が鳴り響き、見渡す限りに人々の死体が散らばっている。
会場の外からも爆発音がとどろき、地響きがここまで伝わってきた。

.
 ダールトン「……総督、騎士団の襲撃です」

 ギルフォード「ご命令を、姫様……」

 コーネリア「なぜ、騎士団が……?」
        「先ほどまで、ここにゼロがいただろう……?」

 ユフィ「……お姉様……何も、覚えていらっしゃらないのですか?」

 コーネリア「!」

彼女の背後からそう問いかけたユーフェミアの声は、コーネリアがかつて聞いたことも
ないほどに乾いたものであった。

.
背筋に寒気を覚えた彼女は、ゆっくりとユーフェミアの方を振り向く。

 ユフィ「……ひどい……」ボソッ

 コーネリア「……ユフィ……!」ブル…ッ

己が愛する姉に、"夢"を木っ端みじんに打ち砕かれたユーフェミア。
その、あまりの絶望に、彼女の表情は能面のように凍り付いていた。
ぼそりと呟いた、その一言の重さに、コーネリアは恐怖を覚える。

 ルル「……姉上、これは……この事態は、俺のせいだと?」

 コーネリア「!!」バッ!!

.
今度はルルーシュの、陰鬱な声。コーネリアは驚いたように彼の方を振りむく。
彼もまた、苦々しげな表情でコーネリアを見つめていた。

 ルル「そこまで、俺をお疑いに……」ギリ…ッ

 コーネリア「い、いや……それは……」

 ルル「…………逮捕されるなら、いつでもどうぞ、姉上……」
    「租界へ戻ります……ナナリーのことが、気がかりですから」

狼狽えているコーネリアに、彼は冷たく告げる。
言葉を返せない彼女の代わりに、ダールトンが重々しく返答をした。

.
 ダールトン「……招待客を、安全に租界へ移すための準備が整っている」
        「それに乗り、戻ると良いだろう……」

 ルル「感謝いたします……」…カツカツ

ルルーシュは一礼をすると、きびすを返し壇上を足早に去る。
後には、予想だにしなかった事態に、為す術もなく立ち尽くしているコーネリアらを
残したまま……

だが、ルルーシュ……変装をした咲世子もまた、内心では不安を抱えていた。
ナナリーではなく、撃たれたルルーシュの安否についてだ。

 咲世子(やはり、私がゼロを演じるべきだった……)
      (どうかご無事で、ルルーシュ様……!)カツカツ…

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

行政特区へ突撃を仕掛けた騎士団とブリタニア軍との戦闘により、いまや特区内の
全域が戦場と化していた。
きれいに整備されていた街区は荒れ果てたがれきの山と化し、あちこちで爆炎と
煙が立ち上る……まるで、日本侵攻の再現のようであった。
その中を、スザクは黒蓮を駆り、式典会場を目指す。

 スザク(そんな……どうして総督が、ルルーシュを撃ったんだ!?)
     (なぜだ!?)

ルルーシュの言葉通り、式典でゼロはブリタニア側から銃撃され、行政特区は
ご破算となってしまった。しかも、その引き金を引いたのがコーネリアだ。
どう考えても偶然の一致では済まないし、もはや推測や計画という言葉ですら
納得できないことが起きていた。

.
自分が、黒の騎士団に所属することが知られる危険を冒してでも、彼は納得が
できる答えを求めてコーネリアらを探す。

 ??「……その機体、ランスロットではないか!」

 スザク「!?」ザッ

突如、自分を呼んだ声に黒蓮は足を止め、振り向く。
そこには、ランスを構えた専任騎士のグロースターが、仁王立ちをしていた。

 スザク(……これは、確かギルフォード卿の……!)

.
 ギルフォード「……フン、その身、悪の色に染めたか」
       「貴様らにはその機体、到底使いこなせるものではないぞ」…チャキ
       「今すぐ投降せよ、さもなくば……」

 スザク「……ギルフォード卿!」
     「なぜ、総督はゼロを撃ったのですか!」
 
 ギルフォード「!!」
       「……答える義理、無しッ!」

その叫びと同時に、スピアを構えたグロースターが猛然と突撃を仕掛けてくる。
黒蓮はブレイズ・ルミナスでそれを受け流しながら、同時にMVSを抜いてなぎ払う。

 ギルフォード「ふん、多少はできるか!」

.
 スザク「やめてください!今は戦いたくない!」
     「オレは、なぜこんなことになったのか、その答えを知りたいんです!」

 ギルフォード「答えだと!?何が、答えだ!」
       「今の、この現実が答えでなくて何だというのだッ!」

 スザク「違う、ちがうんだ!教えてください!」
     「どうして総督は、ユフィの夢を……」

 ギルフォード「!!……まさか、枢木スザクか!?」
       「貴様…………そうか、やはり騎士団のスパイだったか……!」

 スザク「違います!」
     「オレはただ、ユフィの夢を護りたくて……!」

.
 ギルフォード「聞く耳持たん!」
       「テロリストは、殲滅あるのみッ!」

 スザク「ギルフォード卿ッ!」

~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

紅蓮は、行政特区の近くで潜んでいた、騎士団のトレーラーの傍に着地する。
中からは、担架を抱えた者達とC.C.が飛び出してきた。

 C.C.「ゼロを担架に乗せろ、早く!」
    「指令室へ運び込め、私が手当てをする!」

 団員たち「はっ!」カチャカチャ

.
紅蓮のコクピットが開き、中からカレンが飛び出してきた。
地面に降り立つと、C.C.達の下へと駆け寄る。

 カレン「C.C.、わたしも手伝う!」ダダッ…

 C.C.「全軍突撃と指示が出ただろう?」
    「お前も会場へ行け、後は私に任せろ」

 カレン「でも……!」

その時、担架に乗せられたゼロが、微かに呻いた。
カレンが傍へ駆け寄ると、彼は言葉少なに呟く。

 ゼロ「……行け、カレン……彼らを、救出するんだ……」
    「それが、日本の独立に、繋がる……」

.
 カレン「…………!」

彼の言葉に、カレンはこみ上げてくるものをグッと堪えた。
ゼロの手を握ると、力強く答える。

 カレン「……紅月カレン、出撃します!」

 ゼロ「……必ず、成功させろ……」

 カレン「はいっ!」

再びカレンが搭乗した紅蓮は、フロートシステムで行政特区の中央部へと
飛翔をする。その姿を見送ることもなく、C.C.らは慌ただしくトレーラーへと
戻った。

.
トレーラー内では、ディートハルトとラクシャータ、それに数名のスタッフが
モニタの群れを前に忙しく働いていた。

 ラクシャータ「妨害、うまくいってるかい?」

 スタッフ「大丈夫です、こちらから逆に映像を流してます」カタカタ

 ディートハルト「ふふ、上出来ですな」
        「この混沌、ぜひとも全世界に楽しんでいただかないと……」

彼らも、中に運ばれてきたゼロの担架に気づいた。
C.C.に声をかける。

 ディートハルト「C.C.、ゼロの状態はどうですか?」

.
 ラクシャータ「あたしも手伝おうか?」

 C.C.「問題ない、意識もある」
    「お前たちは、今の状況の放送を続けてくれ」

 ディートハルト「それはお任せください……」
        「最高の舞台を、余すところなく流しますよ」ニッ

会場の中継をやめるよう、ギルフォードが命じたにもかかわらず、租界を始め
状況を放映していた世界の各局では、未だに現場の映像が流れてきていた。
フクオカ基地の時と同様、彼らが電波ジャックを行っていたのだった。

.
C.C.は、ゼロを司令室へ運ばせると、団員らを部屋から出し、ロックをかける。
そして、つらそうにあえぎながら担架の上に横たわるゼロの仮面に手をかけると、
ゆっくりと外した。

仮面の下からは、苦痛に歪んだルルーシュの顔が現れる。
彼の頭の真上からその表情を見下ろしながら、C.C.は冷ややかに言った。

 C.C.「……お前は、本当に馬鹿だな……」
 
 ルル「……」ハァハァ

 C.C.「どうして、そう死にたがる?」
    「私に何度、死ぬなと言わせる気だ?」

.
 ルル「……言っただろう、これが最善の手だと」ハァハァ
    「防弾服のテストまでは間に合わなかっただけだ」

C.C.は彼のマントをほどき、胸元を見る。
コーネリアの放った銃弾は、彼が着用していた防弾服にめり込み潰れていた。
幸いにして、貫通まではしていない……おそらく、余った威力が彼の肋骨を
折ったか、あるいはひびを入れたか。

服を開き、手早く防弾服を脱がすと、白いなめらかなルルーシュの胸板に、
真っ赤なあざができていた。彼女はそこを、そっと押さえる。

 ルル「ぬう……ッ!」

 C.C.「……折れてはなさそうだな、良かった」
    「後で精密検査はする必要があるだろう」

.
 ルル「お前、いま強く押さえただろう……?」ハァハァ

 C.C.「死にたがる馬鹿への、軽いおしおきだ」フン

 ルル「死にたくないから、これを着ていたんだ……」ハァハァ
    「……もういい、今は言い争いなどしたくない……」

彼はそう言うと、口の中から何かを床に吐き出した。血のりのようなものだ。
そうして、担架の上でゆっくりと身体を起こすと、あざの部位をさすりながら、
恐る恐る深呼吸をする。

 ルル「……よし、何とか動けるな」スーハー

 C.C.「咲世子の言う通り、もう少し厚手の防弾着にすれば良かったろうに」

.
 ルル「衣類の下への違和感を感じさせたくなかった」
    「それに、多少は痛みがなければ真実味も薄れる」
    「銃弾を受けながらも奇跡的にも無事だった、という演出には、リアリティが」
    「必要だからな……」

 C.C.「藤堂たちは、特区内の制圧にかかっている、順調だそうだ」
    「コーネリアらは、特区から脱出した」

 ルル「……うむ、それでいい」スーハー

 C.C.「それと、キョウトの連中を地下シャフトで確保したそうだ」
    「どうする?」

 ルル「こうなった以上、キョウトはもはや、我々と一蓮托生だ……」
    「……制圧を完了したら、式典会場で独立国の宣言をする」
    「エリア11内の全セクトに檄を飛ばし、一斉蜂起をするぞ」

.
担架からそっと床に足を下ろしたルルーシュは、はだけていた胸元を閉めると
再びマントを羽織る。胸に痛みが走る度に顔が歪むが、仮面をつけていれば
十分に誤魔化せるだろう。
C.C.は、健気ともいえる様子の彼に、優しく微笑みかけた。

 C.C.「……全て、計画通りか?」ニコッ

 ルル「ああ……この上なく、パーフェクトだ」…ニッ

    「あるいは、現地でユフィにギアスをかける必要があったが、」
    「推測通りコーネリアが式典に参加した……」
    「……しかも、周囲にもコーネリアが錯乱したと思わせることができた」

    「当初の構想を遥かに超える成果だ……」
    「……フッ、これもシュナイゼルのおかげだな」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル『……一体、君は、何をしたのだ』

 コーネリア「申し開きはいたしません……」
        「……いかなる裁きも受け入れる覚悟です、宰相閣下……」

 ユフィ「……」

式典会場から飛び立ち、租界の政庁へ向けて一路飛行するVTOL機の中では、
コーネリアが本国のシュナイゼルへ、事態の報告を行っている最中であった。
モニタの向こうにいる彼の表情は険しく、ピリピリと張りつめた空気がこちらにも
伝わってくるようであった。

.
ユーフェミアは、まるで抜け殻のように窓の外の風景をぼんやりと眺めている。
その隣でコーネリアは、額に汗を浮かべながら苦悶の表情で彼と向き合う。

 シュナイゼル『裁きなどは後の話だ、』
       『君は何をして、どうなったのかを聞きたい』

 コーネリア「…………今から、申し上げることは……」

        「ギルフォードらから聞いた話です……」
        「……私はそれを、無意識のまま行ったようです」

 シュナイゼル『……続けたまえ』

 コーネリア「私は……ゼロをルルーシュだと言いました」
        「ルルーシュが、ユフィを殺そうとしていると……」

.
 シュナイゼル『ふむ……』

 コーネリア「……それで、ゼロを撃ちました」

 シュナイゼル『殺したのか?』

 コーネリア「……それは、わかりません」
        「赤いナイトメアが、ゼロを浚っていったそうです……」

 シュナイゼル『……続けて』

 コーネリア「はっ……」

        「……私は専任騎士らに、イレヴンを即刻排除するように命じました」
        「ユフィの安全を確保せよ、発砲も許可する、と……」

.
 シュナイゼル『……』

 コーネリア「……以上を、私は無意識のまま行っておりました……」
        「意識を取り戻したのは、すでに命令が実行された後です」

 シュナイゼル『……そうか……』
       『ルルーシュの居場所は?』

 コーネリア「その時、ルルーシュは……招待席におりました……」
        「それは、私も知っていたのに…………」ググッ…

 シュナイゼル『……仇になったか』ボソッ

 コーネリア「……はっ?」

.
 シュナイゼル『ルルーシュは、今も君と一緒にいるのか?』

 コーネリア「いえ……招待客らを租界へ送る機で、先に……」

 シュナイゼル『そうか……』

彼はそう呟くと、机の上で指を組み、目を伏せ黙り込む。
シュナイゼルのこの沈黙は、心の中をどこまでも深く沈み込みながら熟考を重ねて
いることを示す。いかなる者も、それを妨げることは許されなかった。
息が詰まるような空白の時間が過ぎた後、彼は顔をあげる。

 シュナイゼル『……総督、』

 コーネリア「はっ……」

.
 シュナイゼル『エリア11の全土で反乱がおきるだろう』
       『72時間以内に、本国から援軍を送る準備を整える』

 コーネリア「イエス……ユア、ハイネス」

 シュナイゼル『エリア内の全軍の指揮は、君の専任騎士に任せたまえ』

 コーネリア「…………!」

項垂れながら彼の言葉を聞いていたコーネリアだったが、その言葉に目を見開く。
彼女はゆっくりと顔を上げると、震える声でモニタに懇願する。

 コーネリア「……どうか、わたくしに、指揮を……」

.
 シュナイゼル『君は、政庁からすぐさま、本国へ帰投するんだ』

 コーネリア「……せめて、この事態の、収拾を……わたくしに……!」

 シュナイゼル『これは命令だよ、総督……では』…プッ

通話が、向こうから切断された。
一切の反論は許さない、ということだ。

.
コーネリアは、何も映っていない真っ黒な画面をしばらく呆然と見つめていたが、
やがて己の膝に置いていた手に力が入り、指が食い込むほどに握りしめる。
彼女は、身体を震わせながら、嗚咽していた。

 コーネリア「く……おおッ……ぐう……ッ」ギリ…ギリ…
        「グオ…………ッ……!」

瞳を潤ませながら、押し殺した声で呻き続けるコーネリア。
その隣に座るユーフェミアはしかし、そのような彼女の姿を見ることもなく、また
一切の反応を見せなかった。雲を抜け、さらに小さくなってゆく富士周辺の風景を、
ただ無表情に見つめているのであった……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……コーネリアがゼロを撃ってから、数時間後。

行政特区を祝う場であった祝賀会場は、数多の死体と血だまりを内包したまま封鎖された。
その会場の正面の大広場には、特区の外で待機をしていた人々も含めた大群衆が、
不安と期待を胸にここへ集結していた。

彼らの正面には急遽設けられた壇があり、その上にはキョウトの重鎮達と神楽耶、
それに騎士団の幹部らが勢ぞろいで並び立っている。

……だが、ゼロの姿はない。
彼が、式典会場でコーネリアに撃たれたという話は、会場から脱出できたイレヴンたちから
集団全体に広がっていた。

.
 (ゼロは生きてるのか……?)ザワザワ

 (倒れたまま、動かなかったそうよ……)ザワザワ

 (コーネリアが何発も身体に打ち込んだ、って聞いたぜ)ザワザワ

 (ひでえ……完全に罠だったんじゃねえか……)ザワザワ

 (もし……彼が、死んでたら……)ザワザワ

 (……どうなるんだ、この国は……)ザワザワ

その不安は、檀上にいる彼らも同様であった。
特区の制圧に成功した頃、C.C.から藤堂に、人々を広場へ集めろ、という指示が
あったきりだったのだ。

.
 藤堂「……紅月君……」ボソッ

 カレン「はい?」ボソッ

 藤堂「……彼は、無事な様子だったか……?」

 カレン「……きっと、大丈夫です……」…グッ
     「だって、ゼロですから……」

 藤堂「……ふむ……」

 神楽耶「……C.C.様と共にいらっしゃいますわ、」
      「私にはわかります」ニコッ

 藤堂「……御意」

.
と、その時。
会場の後方から、どよめきが湧き上がった。
彼らがその方を見ると、一台の大型トレーラーが会場の最後方から、ゆっくりと
群集の中へ進み出てくるところであった。

 玉城「あれ、オレらのトレーラーじゃねェか……!」

 南「おっ……おい……!」

 桐原「むっ……!」

それは、玉城の言う通り、騎士団のトレーラであった。
そして、その屋根の上には……!

.
 カレン「……ゼロだ……!」パアッ

 藤堂「生きていたか……!」ニッ!!

マントをはためかせながら、会場の壇上を真っ直ぐに見据えるゼロ。
凶弾に倒れたにも拘わらず、いささかも気迫の後れを感じさせぬその姿に、
周囲の群集から、わあっ、と歓声が上がった。

まるでモーゼの十戒のように、群集の海は自然と二つに割れる。
その間を、トレーラーはゆっくりと、壇上へ向けて進んだ。
トレーラーを包み込む集団からは、怒号とも喝采ともつかない、様々な想いが
入り混じった叫びが湧き上がり、空気を震わせる。

.
やがて、トレーラーが壇のすぐ手前に到着すると、彼は檀上へひらりと飛び移った。
トレーラーは再び、後方へと下がってゆく。
彼の無事な姿を見た群集の歓喜は、最高潮に達していた。

 藤堂「無事だったか……」

 ゼロ「待たせたな、藤堂……」
    「特区の迅速な制圧遂行、感謝する」

 藤堂「コーネリアや政庁の関係者らは、すでに脱出を図っていた」
    「ブリタニアの残存兵も多くは脱出した、投降した者は捕虜にしている」

 ゼロ「問題ない……」
    「さあ、いよいよ始めるぞ……ブラック・リベリオンの幕開けだ……」バッ!!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

政庁のヘリポートでは、本国へ向かう機体が準備を終えていた。
そのデッキの前に立つ、意気消沈したコーネリア……
彼女の前には、専任騎士2名と、ユーフェミアが立っていた。

 コーネリア「……すまぬ、」
        「私の失態の尻拭いをさせることになったな……」

 ダールトン「我々は、いついかなる時も、姫様のための騎士であります」ニコッ

 ギルフォード「反乱軍は、我々で鎮圧いたします」
       「総督がお戻りになられるまで、ここはお任せ下さい」ニコッ

.
 コーネリア「……頼む……」

ギルフォードへ弱々しく頷いてみせた彼女は、ユーフェミアの方を見る。
彼女は視線を落としたまま、無表情に佇んでいた。

 コーネリア「……ユフィ……」

 ユフィ「……はい」

 コーネリア「……お前は、ここに残るのか……?」

.
 ユフィ「……わたくしは、副総督です」

     「総督の代理を果たす責任があります」
     「この地を離れるわけにはまいりません」

己の義務を、感情もなく、淡々と語るユーフェミア。
そのあまりに痛々しい姿に、コーネリアは思わず顔をそむけた。

 コーネリア(私が……こんなことに……!)

 ギルフォード「……ユーフェミア様のことも、どうぞ我々にお任せ下さい」

 ダールトン「命に代えましても必ずや、お守りいたします」

 コーネリア「…………すまぬ……!」グッ…

.
 警備兵「……コーネリア様、お時間です」…チャッ

彼らの傍にいた2名の警備兵らは、彼女へ向けて何かを取り出し見せる。
それは、銀色に鈍く輝く、太い手錠であった。
ギルフォードらは、それを見て激昂する。

 ギルフォード「きっ、貴様、不敬であろうッ!」クワッ!!

 ダールトン「畏れ多くも皇女殿下に手錠などと……!」

 警備兵「はっ、しかしこれは、シュナイゼル殿下のご命令で……」

.
 コーネリア「よいのだ……」ニコッ
       「……さあ、この手にかけるがよい」…スッ

 警備兵「……失礼いたします」

そう言うと警備兵は、コーネリアの両手首に手錠をガチャリとかけた。
金属製の枷の重みに、彼女は空を見上げて自嘲する。

 コーネリア「……総督として赴任をし、出る時は罪人か……」
        「ままならぬものだな……」…フッ

 ギルフォード「姫様……ッ!」グッ…

.
……彼女を乗せたVTOL機は、出力を上げて上空へと飛び立つ。
重苦しい表情で、小さくなってゆく機体を見つめる専任騎士ら。
だが、ユーフェミアはすぐにそれへ背中を向けた。

 ユフィ「……私たちには責務があります」
     「それを果たしましょう」…カツカツ

 ダールトン「イ、イエス……ユアハイネス……」

ユーフェミアの変貌ふりは、彼らをして戸惑わせるものであった。
まるで無感情にも拘わらず、判断は極めて冷静……
コーネリアの手前、ああ言ったものの、ギルフォードは嫌な予感がしていた。

 ギルフォード(今までのユーフェミア様が嘘のような……どうして、ここまで……)
       (……特区での戦闘中、スザクらしき者に出会ったことは、)
       (今は伏せておくか……)


彡 ⌒ ミ  次回、ブラックリベリオン編は、しばらく後になります。 
(´・ω・`)  あしからずご了承下さい……

.
■アッシュフォード学園 クラブハウス─────

とある春の日、穏やかな日差しの中……

ルルーシュはクラブハウスのテラスで、ナナリーと共に語らいのひと時を楽しんでいた。
彼らの傍らには、ナナリーに付き添う形で、二人の様子を微笑ましそうに見つめる
咲世子がいる。

 ルル「ふむ、こう折って、こう……か?」
    「む、全然形が違うな……」

 ナナリー「ふふっ、お兄様、こう折るんですよ」オリオリ

 ルル「むう……ナナリー、もう少しゆっくりと折ってみせてくれないか?」

.
 ナナリー「しようがないお兄様ですね」ニコッ
       「いいですか、こう……」オリオリ

 ルル「そう折って、ふむ……」

彼は、ナナリーから折り鶴の折り方を習っている所だった。
彼女の細い指先が、手順を見せるように丁寧に、ゆっくりと折り紙を折ってゆく。
それを見つめるルルーシュの少し照れくさそうな表情に、咲世子は優しく微笑む。

だが、教わった通りに何度も折ってみるのだが、出来上がったものは鶴には似ても
似つかぬものになってしまうのだった。
ナナリーは、己の失敗作を見つめ唸っているルルーシュの様子に、くすくすと笑う。

 ナナリー「お兄様の鶴は、随分と独創的ですね?」クスクス

 ルル「……むう、なぜうまく出来ないんだ……」ムスッ
    「手順は合っているはずなのに……」

 咲世子「間違ってはいないように見えます……」
      「不思議ですね?」

.
 ナナリー「……あら、お兄様、」
       「この紙ではうまく折れないのでは?」

妹の指摘に気づいて見れば、ナナリーが使っている紙は真っ白で薄いものだが、
自分が手にしている紙は真っ黒でゴワゴワした材質なのに気づいた。

 ルル「ああ……これのせいか」
    「道理で苦労すると思ったよ」ニコッ

 ナナリー「お兄様、こちらをお使いになってください」ニコッ

彼女は、自分が手にしていた紙を微笑みながらルルーシュに差し出す。
その心遣いにルルーシュは軽く礼を言いながら、純白の紙に手を伸ばした。

.
だが、それに指が触れる直前……
自分の掌に、おびただしい血痕がこびりついているのに彼は気がついた。

 ルル(……いや、これに触れてはいけない)
    (ナナリーに気づかれてしまう!)

いつの間につけてしまっていたのか。
滴りがテーブルに落ちそうな程に血に濡れた手を、彼はゆっくりと戻しながら、
ナナリーに苦笑いをしてみせる。

 ルル「違った……俺が、紙を汚していたみたいだ」
    「俺はこっちの紙でいいよ、それはナナリーが使うといい」

 ナナリー「そうですか……」

.
彼女は、ルルーシュのその返事を聞くと、悲しそうな声を発した。
その表情は暗く、憂鬱そうだ。
折角の気遣いを無下に断った故かと彼は思い、慌てて言い直す。

 ルル「あ、いや、気持ちは嬉しいんだ」
    「ただ、それはお前のための紙だから……」

 ナナリー「お兄様の手のそれ、血の跡ですね……?」

 ルル「!!」
    「い……いや、これは……!」

気づかれないように隠したつもりだったが、ナナリーは気づいていた。
彼女の断定の口調に、誤魔化しようのなくなったルルーシュは口ごもるが、
その様子にナナリーの表情はますます悲しげなものに変わった。

.
 ナナリー「……私の目が見えないから、ですか?」

 ルル「違う!俺は決して、そんなことは……!」

 ナナリー「お兄様、私には見えるんです……」

そう言って彼女は、ゆっくりとまぶたを開いた。
数年ぶりに見る彼女の瞳は、昔のままの透き通るような美しさを保っていた。
だが、その瞳はいま、彼の心を射抜くように己の瞳を見つめ返している。

 ルル「な……ッ!?」
    「ナナリー、それは……ッ!」

 ナナリー「お兄様、私はずっと、お兄様のことを見つめてきました……」
       「でも、気づいてくださらなかった……」

.
 ルル「知って……いや……確かに、知らなかった……」ググッ…
    「……だがいつだって俺は、お前のことだけを考えて!」

 ナナリー「でも、何も話してくださらなかった……」
      「その方々のことも……」

そう言ったナナリーが、自分の背後に視線を向けているのに気づいたルルーシュは、
後ろを振り返るとさらに驚愕する。
そこには、カレンと藤堂を筆頭とした騎士団の面々が、いつの間にか隊列を組んで
静かに控えていたのだった。

 カレン「ルルーシュ、早く命令をちょうだい!」
     「わたし、連中と戦いたくてウズウズしてんのよ!」ニッ

 藤堂「今こそ好機だ!日本独立の準備は整った!」キッ!!
    「君の号令一下、我々は租界を塵と化すまで破壊し尽すッ!」

.
 ルル「きッ、貴様ら……!」
    「よりによって、ナナリーの目の前で……ッ!」ギリッ…!!
    「今すぐここを立ち去れッ!」

己の秘密がナナリーに知られそうになった焦りに、ルルーシュは拳を強く
握りしめながら命令を下す。その様子に、彼女はひそかに瞳を潤ませた。
傍らにいた咲世子も、やはり悲しげな表情をしながら、ナナリーの車椅子を
そっと押す。

 咲世子「ナナリーさん、部屋に戻りましょう」

 ナナリー「はい……」

 ルル「えっ……おい、ナナリー?」
    「咲世子さん……?」

突如、部屋に戻り始めた彼女らにルルーシュは面食らった。
しかし、彼の呼びかけにも応えず、ナナリーらは部屋の中へ戻ろうとする。

.
その先の、薄暗い部屋の中には……
ナイトオブラウンズの軍服をまとい、彼を睨んでいるスザクの姿があった。
ルルーシュは、驚愕と共に勢いよく席を立ち上がる。

 ルル「スザク!なぜお前がそこにいる?なぜそんな恰好をしているんだ!?」
    「いや、その前にお前、ナナリーの目が見えることを知っていたのか!?」
    「なぜ教えてくれなかった!俺に秘密にした理由はなんだ!」

彼女らが部屋へ入ると、スザクは冷酷な表情のまま、こちらへ走ってきた
ルルーシュの鼻先でテラスの窓を閉め、鍵をカチリとかけた。
部屋の中にいる彼らに呼びかけながらルルーシュは窓を強く叩く。

 ルル「おい、スザク!開けてくれ!」ドンドン!!
    「俺は理由が知りたいんだ!なぜだ!どうしてなんだ!」

.
 スザク「……」ボソボソ

 ナナリー「……」ボソボソ

 咲世子「……」ボソボソ

彼らはルルーシュの呼びかけにも応じず、互いを見ながら何か喋っている。
会話の内容が自分のことだと感じたルルーシュは、さらに大きな声で怒鳴りながら
ガラス窓を叩く。

 ルル「ナナリー、頼む!鍵を開けてくれ!」ドンドン!!
    「スザクの言うことを信じるな!」
    「俺がいなければ、お前はまた心無い連中に苦しめられてしまうッ!」
    「お前を守れるのは俺しかいないんだ!開けろ、ここを開けてくれ!」

.
……気付けば、窓の向こうの部屋は、かつて母親が殺されたアリエル宮の踊場に
なっていた。

踊場から階上へ伸びる純白の階段には、憎々しげに彼を睨むコーネリアの姿や、
涙を流しながら彼を見つめるユーフェミア、虚ろな表情で佇むクロヴィス、そして
唇を歪めながら彼を見下すシャルルや優しく微笑む彼の母、マリアンヌの姿も見えた。

しかし、段上に立つ彼らの誰もが、何も言わない。
ルルーシュが窓の外で孤独を訴える様を、ただ冷たく見つめていた。

 ルル「なぜだ!なぜ誰も答えてくれないッ!」
    「俺の声が聞こえているだろう!」
    「答えろ!なぜ俺だけが窓の外にいるんだッ!」
    「頼む、入れてくれ!お願いだ……ッ!」

彼は、いつの間にか自分が、ゼロの衣装をまとい仮面をかぶっていたことに
気づいた。これのせいかと彼は、苛立たしげに仮面を外すとそれを足元の床に
叩きつける。
仮面はにぶい音と共に、真っ二つに割れた。

.
その瞬間。
背後から、何者かが彼の肩を強く掴む。
驚いて振り向くと、そこには……!

 シュナイゼル「やはり、君がゼロだったのか……」

 ルル「……シュナイゼル……!」

シュナイゼルが薄く浮かべる微笑が、彼の視野全てを覆い尽くす。
ついに己の正体が彼に知られてしまったという恐怖に、ルルーシュは
声にならぬ悲鳴をあげた。

彼が積み上げてきたものが、全て奪われ崩れ去ってしまう恐怖……
スザクが彼の敵となった恐怖。ナナリーが彼の下を去る恐怖……

それらの耐え難い恐怖が一斉に去来し、彼は喉が裂けるほどの、
身も世もあらぬ叫び声を……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……ルルーシュは艦長席の上で、びくりと身体を震わせた。
ハッと気づくと、彼はブリタニアから奪った陸戦艇G1のデッキで、一段高い位置にある
艦長席に座り、コンソールに向かって各方面への指示を出している団員たちの背を
見下ろしている所であった。

ごく短い間だったのだろう、仮面を被り肘をつきながら、彼が軽くうたた寝をしていた
ことに気づいたものは、誰もいないようであった……彼のすぐ横に立つC.C.を除いては。

.
彼女は、周囲に聞こえない程度の小声を発する。

 C.C.「……じき、カナガワブロックを抜ける」…ボソッ
    「ブリタニア側の妨害は軽微だ」

 ゼロ「……うむ」

 C.C.「シャワーを使え、ひどい汗の匂いがする」

囁くような声での、彼女の指摘。
いま見ていた"悪夢"の影響か、ルルーシュは全身汗だくになっていたことに気づいた。
努めて平静を装いながら、彼は席を立つと団員らに告げる。

 ゼロ「……少し席を外すぞ、」ガタッ
    「何かあればすぐ私に報告しろ」

 団員たち「了解!」

.
.⌒ ミ
ω・`) ぬるりと再開……ッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

行政特区を出発し、租界へ向けて侵攻を続けるゼロの本陣……
その露払いとして、カレンら零番隊はブリタニア側の妨害を先んじて排除していた。

 カレン「この日を……わたしはこの日を、ずっと待ってたのよ!」ゴオオォォォ

 隊員『オレらも同じ気持ちでさぁ!』ゴオオォォォ
    『政庁の屋上に、日の丸の旗をおっ立ててやりましょう!』

 カレン「いいね!」ニヤッ
     「租界攻略が始まったら、誰が政庁に一番乗りするか、競争だよ!」

 隊員ら『応ッ!』

.
すっかりと意気の上がったカレンらに交じり、スザクは複雑な心境のままでいた。
これまでのことが疑念となり、ずっと頭から離れないのだ。

 スザク(ギルフォード卿に知られたということは、オレが騎士団にいることは)
     (もうユフィにも伝わってるだろう……)
     (……でも結局、総督がなぜゼロを撃ったのかはわからなかった)

     (なぜ、こんなことに……?)
     (なぜルルーシュは、こうなることがわかっていたんだ……?)
     (オレは……オレは、ユフィと、戦わなくてはならないのか……?)

 カレン『スザクっ!』

そこへ唐突の、無線でのカレンの呼びかけ。
スザクも即座に返事を返す。

 スザク「はい!」

.
 カレン『あんた、自分が"日本人"だってことをここで証明しなよ!』
     『覚えてるよね、わたしが前に言ったこと!』
     『裏切れば、わたしは躊躇しないよ!』

 スザク「……わかってます!」

 カレン『覚悟を決めな!』
     『ゼロと共に死ぬか、ゼロと共に生きるかだ!』

 スザク「はいッ!」

 隊員『…………隊長!2時の方角、迫撃砲ッ!』
    『ブリキの襲撃です、ナイトメア4、車両多数!』

 カレン『はっ、屁でもないね!』ニッ
     『各自散開っ!やられたら承知しないよ!』

 隊員たち『アイサーッ!』

.
カレンの号令で、零番隊の布陣は即座に左右へ展開した。鶴翼、即ち正面衝突で
こちらが優位な場合の王道の陣形だ。加えて、勢いは騎士団側にある。ぶつかれば
敵側は身もふたもなく破砕されるだろう。

にも関わらず、ブリタニアの防衛部隊は突撃をかけてきた。
おそらく決死の抵抗であろう……彼らは、逃げ帰れば"弱き者"の烙印を押される。
名誉の死こそが唯一の逃げ道なのだろうか。

レーダーに表示される、悲壮感すら感じられる彼らの試み……それを見ながら、
スザクは苦々しい表情を浮かべる。

 スザク(無駄なことを、こんなこと……無意味だ……ッ!)

.
■ブリタニア王宮 宰相執務室 ─────

同じ頃……
シュナイゼルは王宮の執務室で、帝都に到着したコーネリアについて、
バトレーから報告を受けていた。

 シュナイゼル「……コーネリアはどうしている?」

 バトレー「はっ、今は薬でお休みいただいております」

 シュナイゼル「今回のことで、何か言っていたかい?」

 バトレー「いえ、何もおっしゃられません……」
      「あまりにおいたわしいお姿で……」

 シュナイゼル「そうか……手錠をした事については、後で私が詫びよう」コクッ
       「……それで、結果は?」

.
 バトレー「はっ、畏れながら……」
       「コーネリア様も、"力"の影響下にありました」

 シュナイゼル「……そうか」

彼は、そう呟くと黙り込む。
その沈黙の裏では、今回の事態に至るまでの、あらゆる記憶を呼び起こしては
整理され、ひとつの結論を導き出す推論が目まぐるしく行われていた。

 (ゼロがルルーシュである推測は、ほぼ外れた)
 (逆に、ゼロがもう一人の"コードR"である可能性は99%となった……)
 (しかし、不合理が多い、多すぎる)

.
 (ゼロが彼女に"力"を行使した場面は、ナリタ以外に考えにくい)
 (だが、どうやって彼は、彼女を錯乱させたのだ?予め与えた暗示を、式典会場で)
 (解き放ってみせたのか?数万の観衆が見守る中で?)

 (いや、その前にゼロは、なぜそのような回りくどい方法を取ったのだ?)
 (接触がナリタであれば、そこで殺せば事足りたはずだ)

 (それに彼女は、ルルーシュがユフィを殺そうとした、と言った……)
 (錯乱中の虚言にしても妙に具体的だ、なぜ、ルルーシュだと思ったのだ?)
 (それが暗示の効果であるなら、なぜゼロは自分をルルーシュだと思わせたのか?)
 (もしそうであるなら、彼は神根島以前から、ルルーシュの事を知っていたのか?)

.
 (あるいは……やはり、ゼロはルルーシュであり……しかも"コードR"なのか?)
 (影武者をゼロに仕立て、何らかの方法でコーネリアを錯乱させ、影武者を撃たせた)
 (もしくは、最初からゼロは別人であり、ルルーシュがそれを操っていたのか……)

 (だが……ルルーシュが"コードR"だと?……バカな、それはあり得ない)
 (そのような能力の片鱗、私は一度たりとも見た覚えがない……)

 (……もしかすると私は、"コードR"の能力を見誤っているのか?)
 (不死性、催眠以外にも、何か別の能力があるのか?)

彼の目の前に立つバトレーとカノンは、彼が再び口を開くのをじっと待っていた。
やがて視線を上げたシュナイゼルが呟いた一言は、意外なものだった。

 シュナイゼル「……神根島で弟の名を出したことが、仇になったようだね」フゥ…

.
彼にしては珍しく、深いため息をつく。
カノンはそれを、言下に否定しようとした。

 カノン「あれは、もし弟君であれば、と思われての……!」

 シュナイゼル「それをゼロに利用されてしまったのだろう」
       「……私もまだ、甘いようだ」ニッ

 バトレー「殿下……」

 カノン「……」…ギュッ

 シュナイゼル「……ゼロは、やはり"コードR"だ」

       「彼がどのような方法で人々を支配下に置くのかは不明だが……」
       「バトレー君、きみの研究成果が役にたつと期待しているよ」

 バトレー「はっ!必ずやご期待にお応えいたします!」

.
 シュナイゼル「カノン、ニーナ君はどうしている?」

 カノン「いま、こちらで保護する手筈を整えております」
     「もうしばらくでトウキョウを出るはずですわ」

 シュナイゼル「うむ……特派にエリア11への出撃命令を」
       「ガウェインを派遣してくれ」

 バトレー「イエス、ユアハイネス!」

 シュナイゼル「騎士団には航空戦力がない」
       「彼らが行けば、十分に持ちこたえられるだろう」コクリ

バトレーは敬礼をすると、足早に部屋を後にした。
残ったシュナイゼルは、カノンに微笑みかける。

 シュナイゼル「さてと……私は、これから政治の話だ」ニコッ

 カノン「誰も、火中の栗に手を出そうとしないでしょうね……」

.
エリア11での反乱に関しての緊急会議が、この後すぐに行われる予定であった。
その様子を想像したカノンが苦笑しながらそう言うと、シュナイゼルは涼しげな
微笑みを返す。

 シュナイゼル「それでいいんだよ……それは、私かコーネリアの役割だから」
       「尤も、私は火傷を負わない方法を選ぶけれどね」ニッコリ

 カノン「殿下、この事態に、皇帝陛下は……?」

 シュナイゼル「…………任せる、と仰せだ」
       「まるで興味がない、というしかないご様子だよ」

.
シュナイゼルの顔から、微笑がすうっと消えたのにカノンは気づく。
皇帝であり父親でもあるシャルルの最近の言動について、彼が内心、強い不満を
抱いていることは、側近中の側近であるカノンしか知らぬことである。

 カノン「……心中、お察し申し上げますわ」…ニコッ

 シュナイゼル「ありがとう、カノン……でも、大丈夫だよ、いつものことさ」
       「ああ、それと……」

 カノン「はい」

 シュナイゼル「専任騎士がいるとはいえ、ユフィも心細いことだろう」
       「私が信頼できる参謀を彼女につけよう」ニコッ

 カノン「はっ?」

.
■総督府政庁 総司令室内 ─────

 将官A「……騎士団の本隊は、ヤマトシティの防衛陣を突破しました」
     「防衛隊は全滅です!」

 将官B「推定では、連中はあと1時間ほどでタマガワリバーを超え、」
     「租界の周辺域まで達します!」

 部隊A『司令部ッ!こちらエドガワゲットー守備隊!』ザザッ
     『チバから侵攻してきた反乱軍に押されております!援軍を!』

 将官C「ならん!これ以上租界の防衛を手薄にはできん!」
     「7号ハイウェイでアラカワリバー手前まで後退、橋を落とせ!」ピッ

 部隊B『ネリマゲットー、ダメだ!敵の数が多すぎる!』ザアー
     『北方の反乱軍が全てここに押し寄せてきている!どうか撤退指示を!』

.
 将官D「貴様ァ!そこから逃げたら全員兵卒に降格だぞ!」
     「死にもの狂いで抵抗しろォ!」

 部隊B『…………了解……ッ!!死守いたします!』
     『上官殿、クソ食らえです、オーバーッ!』ブチッ

 将官D「何だと貴様!?おい、コラ!」

政庁内にあるエリア11の司令室では、多方面からの報告や指示の要請に対し、
将官たちが半狂乱で応対していた。

部屋の中央に配する巨大なテーブルには、租界を中心とした戦況図が表示され、
刻々と移り変わる状況をリアルタイムに映し出す。
テーブルの傍に立ち、それを睨む2名の専任騎士たちの表情は苦悩に満ちていた。

.
 ダールトン「……このままでは、租界が完全に包囲される」

 ギルフォード「まさか、連中は包囲殲滅戦を仕掛けるつもりだろうか?」

 ダールトン「いや、租界の構造は城塞都市に等しい」
        「単純な包囲では攻略は不可能だ」
        「ましてや時間が経てば、本国から援軍が到着する……」

 ギルフォード「……必ず、短期決戦を挑むか」

 ダールトン「うむ……」
        「基本は、籠城で十分だろうが……」

 ギルフォード「……」

 ユフィ「……騎士団は……」

 ダールトン「はっ?」

.
彼らの会話に割って入ったのは、その横で同じく戦況図を眺めていたユーフェミア。
だが、この緊迫した状況下でも彼女は特に心を乱された様子もない。
冷たささえ感じられる表情で、彼女は続けて言う。

 ユフィ「……ここを占領するのが目的ですか?」

 ダールトン「おそらく……」

 ギルフォード「政庁が奪われると、指揮系統が全て麻痺してしまいます」
       「我々も、それだけは絶対に……」

 ユフィ「政庁の非戦闘員の方々の避難はいつ行うのですか?」

 ダールトン「は?……いえ、ここは租界の中で最も安全な場所です」

 ユフィ「でも、目標がここであれば、いずれは戦場となります」

.
 ギルフォード「ユーフェミア様、ここ以上に安全な場所はありません」
       「後は国外への移送しか……」

 ユフィ「では、国外へ」

 ダールトン「!!」

その言葉に、ダールトンは息を呑んだ。
彼女は、ここが陥落する前提で事態を捉えているとしか思えなかった。
己のプライドをも傷つけられた怒りを抑えつつ、彼は言葉を返す。

 ダールトン「…………副総督、我が命に代えましても、ここは死守いたします」…グッ
        「政庁にいる誰一人として、連中に指さえ触れさせはしません」

 ユフィ「……」

.
 ギルフォード「……畏れながらユーフェミア様、幾分かお疲れのご様子では……」
       「どうかお部屋で、ゆっくりとお休みください」ニコッ
       「その間に反乱は鎮圧いたします、ご安心を」

やや険悪な雰囲気を感じ取ったギルフォードが、すかさず言葉を発する。
微笑みながら、彼女を安堵させるような気づかいをみせたのだが、彼女はそれを
にべもなく断る。

 ユフィ「わたくしは副総督です」
     「戦場では兵士の方々がみな、大変な思いをされています」
     「そのような時に、わたくし一人が休息を取るなど許されません」

 ギルフォード「……はっ」

 ユフィ「非戦闘員の避難の件は了解いたしました」
     「ダールトン、あなたの言葉を信じます」ジッ…

 ダールトン「……イエス、ユアハイネス」ググ…

.
■租界 医療施設 ─────

 『……繰り返します、まもなく租界に戒厳令が敷かれます』
 『市民の皆様は、自宅あるいは指示された避難場所で待機してください』

 『戒厳令下では、許可なく移動することが禁止されますのでご注意下さい』
 『また、身分証の提示を求められたら速やかに提示してください』

 『戒厳令の発布後、軍には必要に応じ現地で裁判を行う権限が与えられます』
 『戒厳令下で犯罪を行った者は、軍法により処罰されます』
 『なお、処罰を不服とする場合は1両日以内に政庁の関係部署に……』

.
ナナリーの自室、机の上に置かれたラジオからは、緊迫した様子のアナウンサーが、
やや上ずった声で政庁からの情報を繰り返し伝えている。
不安そうな様子でその前に座るナナリーは今、ケータイでルルーシュと話をしていた。

 ナナリー「……お兄様は、今どちらに?」

 ルル『俺は大丈夫だ、近くには避難場所もある』
    『もうじきナナリーを迎えに、咲世子さんが行くから……』

 ナナリー「お兄様はご一緒ではないのですか?」

 ルル『ああ、済まない……』
    『先に学園に戻っていてくれ、俺も必ず戻る』

 ナナリー「もうすぐ戒厳令が敷かれる、って、今ラジオで言っていました」
      「無理をなさらないでください……」

 ルル『大丈夫だよ……』
    『……ナナリー、ちょっとシャーリーと代わってくれないか?』

.
 ナナリー「あ、はい……」
      「シャーリーさん、お兄様です」

彼女の傍らに立ち、話している様子をやはり不安げに見つめていたシャーリーは、
ケータイを手渡されると回線の向こうの相手におずおずと話しかける。

 シャーリー「……代わったよ?」

 ルル『シャーリー、咲世子さんが来たら君も一緒に学園へ戻ってくれ』
    『学園の安全を確保する手筈はすでに整えている、心配するな』

 シャーリー「うん……わかった」

 ルル『君には迷惑をかけ通しだな』
    『これで、全てが変わる……もう少しの辛抱だ』

 シャーリー「……いいんだよ、そんなの」

.
 ルル『ありがとう……じゃ、学園で』

 シャーリー「うん……クラブハウスで」

ルルーシュの優しい言葉を聞き、シャーリーは少し安堵を覚えた。
通話を切ると、小さく微笑みながらそれをナナリーに返す。

 シャーリー「ナナちゃん、ありがとう……」ニコッ
        「咲世子さんが来たら、みんなで学園まで戻ってくれって」

 ナナリー「はい……」
      「咲世子さん、戒厳令までに間に合うのでしょうか……」

.
その時、室外からドアをノックする音が響いた。
2人とも、やや驚きながらドアの方を見ると……

 咲世子「……お待たせしました」ガチャ

 シャーリー「咲世子さん!」
        「今ちょうど、ルルから話を聞いたとこだったんですよ!」

 ナナリー「ごめんなさい、咲世子さん……」
       「こんな時なのにご迷惑をおかけして……」

 咲世子「お気になさらないで下さい」ニッコリ
      「外出許可証も取りました、お二人とも、急いで学園に戻りましょう」

 シャーリー「そうですね、急がなきゃ!」
        「ナナちゃん、忘れ物とか無い!?」

 ナナリー「はい、大丈夫です!」

.
机の上にあった小さなポーチを手に取りながら、ナナリーも急くような返事をする。
と、ポーチの傍に置いた電話が再び鳴り始めた。

 ナナリー「あれっ、またお兄様から……?」

 シャーリー「どうしたんだろ?」

ナナリーが持つケータイは、ルルーシュしかその番号を知らない。
訝しげな表情でそれを手に取った彼女は、そっと耳にあてて通話をオンにする。

 ナナリー「……もしもし?」

 ???『ナナリー、わたしです、ユーフェミアです』

 ナナリー「……ユーフェミアお姉様!?」キョトン

.
意外な電話の相手に、口をぽかんと開くナナリー。
彼女の発したその名に、シャーリーと咲世子も驚いて互いに顔を見合わせる。

 ユフィ『緊急の要件なので、電話番号を調べさせてもらいました、ごめんなさい』
     『あなたは、まだ医療施設にいるの?』

 ナナリー「はい、今から学園に戻るところでした」
       「どうされたのですか?」

 ユフィ『良かった……ナナリー、政庁へ来て、今すぐに』
     『ルルーシュもあなたも、私たちが匿います』

 ナナリー「ええっ!?」

 ユフィ『政庁なら、どんな大軍でも持ちこたえられるそうです』
     『戒厳令が敷かれるまでに、急いで来てほしいの』

.
 ナナリー「えっ、え!?」
       「でも……私は、お兄様と学園で待ち合わせを……」

 ユフィ『今、人を出してルルーシュも探させています』
     『じきに見つけられると思うわ』

 ナナリー「そう、ですか……」

 ユフィ『……ナナリーのお母様の時は、わたし、何もできなかった』

     『でも今度は、絶対にあなたたちを守ってみせるわ』
     『わたしを、信頼して……!』

 ナナリー「……!」

.
ユーフェミアの、これまでにない力強い口調に、ナナリーは戸惑いを隠せない。
彼女の狼狽する様子に、シャーリーは心配になってそっと尋ねた。

 シャーリー「ナナちゃん、どうしたの……?」

 ナナリー「あの……政庁に、来るようにと……」

 シャーリー「政庁!?」キョトン

 咲世子「!!」ピク

 ナナリー「政庁が一番安全だから、と……」
       「どうしたらいいのかしら……」オロオロ

 シャーリー「うーん……」

.
どうすべきか答えを出しかねている彼女らの傍で、咲世子は素早く考えをめぐらす。

 咲世子(有難迷惑なお話しですね……)

      (ナナリーさんが政庁にいるとなると、人質も同然の恰好になる)
      (私が、もう少し早く租界へ戻ることができていれば……)

      (……しかし、これを断ると怪しまれますね)
      (ルルーシュ様には後で連絡するとして……)

 ナナリー「……咲世子さん、どうしましょう?」オロオロ

 咲世子「……折角のお話です、有難くお受けいたしましょう」ニコッ

 シャーリー「…………」

 咲世子「ナナリーさん、できれば私もご一緒できるよう、」
      「お願いしてみていただけませんか?」

 ナナリー「はい!」
      「……もしもし?あの……」

.
彼女が再びユーフェミアと話し始めた間をぬって、咲世子はシャーリーの耳元に
口を近づけて小声で話しかける。

 咲世子「……シャーリーさん、私たちは政庁へ向かったことを、」ボソボソ
      「後でルルーシュ様にお伝えいただけますか?」

 シャーリー「えっ、わたしが?」

 咲世子「はい、私たちはきっとこの後、連絡を取ることができなくなります」

      「ルルーシュ様は今、"大変忙しい状況"にありますが、」
      「これは何よりも知りたい情報のはずです」

 シャーリー「……!?」

咲世子が今しゃべった内容、そして"大変忙しい状況"という意味深な言葉の響きに、
シャーリーは彼女が言外に訴えている意図を感じ取った。
まさか、という思いと共に、やや身体を引きながら咲世子の顔をまじまじと見つめる。

.
 シャーリー「……?」

 咲世子「……」コクリ

 シャーリー「…………!?!?」

小さく頷いた咲世子の素振りに、シャーリーは咲世子の言わんとする事を悟る。
思わず驚きの声を上げそうになる彼女に、咲世子は微笑みながら自らの唇に
人差し指をあててみせ、大きな声を出さないよう示す。

 シャーリー「……い、いつから……」ボソボソ

 咲世子「それはいずれ」ボソボソ
      「お願いいたします、シャーリーさんは一刻も早く学園へ」

 シャーリー「……わかりました」ボソボソ
        「必ず、伝えます」コクリ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シャルル「……エリア11のことは、あやつに任せておけば宜しいでしょう」

 V.V.「そうだね……」
    「……ルルーシュは、どうする?」

黄昏の間……
当然、彼らもすでに、ルルーシュが起こした反乱のことは知っていた。
いや、来たるべき日ということで、待ち構えていたというべきか。

石段に腰かけ、頬杖をついているV.V.は、その傍らに立ち巨大な"思考エレベータ"を
見つめるシャルルに声をかけるが、彼は表情を一切変えずにつぶやく。

 シャルル「兄さんの、お好きに……」

.
 V.V.「……じゃあ、ロロあたりを使おうかな」

 シャルル「ロロ……アレですか?」
       「ふむう……しかし、暗殺をすると、C.C.がまた姿を消すのでは?」

 V.V.「暗殺じゃないよ、誘拐させるのさ」

 シャルル「誘拐……?」

 V.V.「そう、ナナリーをね」
    「彼は、追ってくる……C.C.も、彼についてくる」

 シャルル「……なるほど」
       「しかし、ここまで持ちますかな……?」

 V.V.「持たなければ、それでいいよ」
    「……欠陥品だしね、使い捨てる」

.
つまらなそうに、さらりと言ってのける彼に、シャルルはわずかに顔を向ける。

 シャルル「…………」
       「……兄さんが、直接行っては?」

 V.V.「……そうだなあ……」

シャルルの言葉にV.V.はそう呟くと、おもむろに顔を上げ彼の方をチラリと見る。
が、彼はすでに再び、"思考エレベータ"を見つめていた。
自分の方を見ていたことに、V.V.は気づかなかった。

シャルルの後ろ姿をしばらく見つめていたV.V.だったが、やがて口を開く。

 V.V.「……ロロに行かせよう」
    「このくらいの仕事はできるはずだよ」
 
 シャルル「お任せします……」

.
■Intermission ─────

……行政特区は黒の騎士団に制圧され、ゼロはその場で、"合衆国日本"の独立と、
ブリタニアの支配を即刻排除することを宣言した。

ゼロがエリア11全土に飛ばした檄に応じ、各地至る所に潜んでいた反政府組織は
一斉に蜂起し、互いに連携をとりながらそれぞれの地にあるブリタニアの行政組織を
潰していく。
勿論、コーネリアはこの事態は既に想定済みであり、サド地区に配備していた
重爆撃機を主体とする主力軍を各地に派遣し反撃に出る計画であった。

……しかし、これを機とばかりに、中華連邦が介入した。

彼らはサド地区への侵攻を開始し、それへの防戦のため身動きが取れなくなった。
勿論これも、ゼロの謀略によるものである。フクオカ基地の件で一度は中華連邦と
黒の騎士団は対立をしたが、独立の暁には親中華連邦の政権を樹立することを
条件に、彼らの反乱への助勢を密かに結んでいたのだ。

.
……斯くして、独立宣言から24時間後。

行政特区から出陣したゼロ率いる騎士団の主力軍は、租界周辺の地域からの
更なる援軍を加え、その戦力は租界を圧するに十分なほどに増大していた。
彼らは、ゼロや藤堂達がかねてから計画していた租界制圧作戦、"ブラック・
リベリオン"に従い、租界の包囲網を形成しつつあった。

対する総督府は、租界周縁部に防衛部隊を配備し、ゲットー内を接近してくる
騎士団の部隊に対し砲撃を加える態勢を取った。
租界の階層構造は、そのまま城壁の役割を為す。騎士団が租界を攻略するには、
雨あられと降る砲撃を躱しながら、フロア上まで登らなければならない。

周縁部の先頭に陣取り、ゲットーの遠方から徐々に近づく土煙を睨みながら、
ギルフォードはひとり呟く。

 ギルフォード「……姫様のためにも、ここは必ず……!」ギリッ

 ダールトン『落ち着くのだ、この態勢では連中も突撃はできん』
        『グラストンナイツも配した……勝利は盤石だ』

 ギルフォード「……わかっている」

.
偵察から、ブリタニア側の布陣の報告を受けたゼロは、全軍に指令を発す。

 ゼロ「……全軍、敵の射程圏手前で停止せよ!」
    「臨戦態勢を維持!」

……やがて、騎士団の進軍は、租界を取り囲む形で止まる。
互いに先に手を出すことのない、膠着状態が必然的に生まれた。

"月下"のコクピット内で、スコープ映像に映し出されている租界上に並ぶ
ブリタニアの部隊を睨みながら、藤堂は誰ともなく呟く。

 藤堂「千日手か……」
    「しかし、あと2時間、か」

 朝比奈『……本当に、ゼロの言った通りになるんですかね?』

.
 藤堂「わからん……」
    「だが、そうならなければ、攻めあぐねる状況であるのも確かだ」

 千葉『……』

 玉城『オレは信じてるぜ!』
    『奴は今まで、1回たりとも俺達を騙したことはねェからな!』  

 扇『ああ……そうだな』

 井上『そういえば、ゼロはあれから?』

 藤堂「うむ、艦長室で状況をモニタリングしている」
    「撃たれた傷が気にかかるところだが……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……くそッ、どういうことだ!?」
    「なぜコールに応答しない?」イライラ

 C.C.「……」

その頃、G1の艦長室では、ルルーシュが咲世子に連絡を取ろうとしていた。

本来であれば、今の時点で既にナナリー達は生徒会室に到着していなければ
ならない。だが、先に租界に戻った咲世子から「これからナナリーを迎えに
行く」という報告があって以降、全く連絡が取れなくなっていた。

 C.C.「生徒会室に連絡をしたらどうだ?」

 ルル「エリア11は先ほど全域で通信管制が敷かれた、通話不可能だ」
    「用意しておいた無線機でのやり取りしかできない」

 C.C.「ふむ」

.
 ルル「くそ……ッ!」
    「もしナナリーがまだ医療施設にいるなら、計画の変更が必要だ」
    「施設も保護の対象にせねばならん」

 C.C.「……困ったな」

 ルル「ああその通りだ、いちいち言う必要はない!」
    「くそ……シャーリーにも無線機を渡しておくべきだったか……!」

苛立ちを隠しもせず、ルルーシュは何度も咲世子の無線機へのコールを続ける。
C.C.は彼と向かい合わせのソファに座りながら、その様子を無感情に見つめていた。
やがて……

 ルル「……駄目だ……!」
    「何かトラブルが起きたとしか思えない……!」

.
彼はそう呟くと、手にしていた無線機を机の上に乱暴に置く。
背もたれに身体を思い切り預けながら、ため息交じりに天井を仰いだ。

 C.C.「……どうする?」

 ルル「…………」ギリッ
    「……今は、手の打ちようがない……」

脂汗が滲むほどの苦悩の表情を浮かべながら、彼はぽつりと呟く。
妹の安否について楽観できる材料が一切ないこの状況では、彼の内心の
焦燥は推して知るべしである。

 ルル「……ともかく、今は計画通りに租界攻略をする」
    「咲世子もいるんだ、最悪の状況だけは避けられると信ずるしかない」

 C.C.「そうだな……」

.
……と、その時。
机の上に置いていた、彼のケータイが静かに振動した。
その瞬間、ルルーシュの表情が険しくなる。

 ルル「……なに?」

 C.C.「彼女らからの連絡か?」

 ルル「……無線機からケータイにはつながらない」
    「それに今は、通話不可能な状態のはずだ」

ルルーシュは、振動し続けるケータイにゆっくりと手を伸ばすと液晶表示を
確認したが、そこには何も表示がなかった。

 ルル(非通知すら表示されないだと?)
    (……まさか……)

.
彼はケータイをそっと耳に当てると、通話をオンにする。
そして、彼独特のしっとりとした深い声で、静かに応答をした。

 ルル「……もしもし?」

 ??『やあ、ルルーシュ……久しぶりだね』

 ルル「……誰だ、お前は」

 ??『ああ、これは失敬……』
    『私は、シュナイゼル・エル・ブリタニアと申します』

 ルル「!!!!」キッ…!!

.
相手の名を聞いた瞬間、ルルーシュのまなじりが鋭く上がる。
脳裏には、先ほど見た"悪夢"が蘇っていた。
彼は声色をガラリと変え、軽い感じを装い言葉を返す。

 ルル「……なんと、兄上ですか」

 C.C.「!」

その言葉に、C.C.はやや驚いたように目を見開く。
彼女に目配せで沈黙を促しながら、ルルーシュは言葉をつづけた。

、ルル「お久しゅうございます……8年ぶりでしょうか」

 シュナイゼル『あまり、驚いていないようだね?』

 ルル「いいえ、十分に驚いていますよ」フッ
    「今の租界の状況と同様に……」

.
 シュナイゼル『とてもそうは思えないよ……』
       『さすがは私たちと同様、皇帝陛下の血を受け継ぐ者だ』

 ルル「…………久しぶりに兄上のお声を聞けて嬉しいのですが、」
    「この事態のさ中に一体、どうされたのでしょうか」

あまり意味のない会話をしながら、ルルーシュは机上にあったPCとケータイを
素早くケーブルで繋ぎ、キーボードを叩く。
画面上には瞬時に世界地図が表示され、「ANALYZE」の文字が浮かび上がった。

 シュナイゼル『ユフィから、君が見つからないと連絡があってね』
       『今、租界は通信管制で通話ができないだろう?』
       『本国のシステムから、強制的に割り込みをかけたのさ』

 ルル「ユフィが、俺を?」
    「なぜ……」

.
 シュナイゼル『おや、まだナナリーから話を聞いていなかったのか?』
       『君たちを政庁で匿うという話だよ』

 ルル「それは有難いお話ですね……」

シュナイゼルの言葉で、ルルーシュはナナリー達が今どういう状況にあるかを
瞬時に悟った。慎重に言葉を選びながら、彼は問いかける。

 ルル「……ナナリーは、既に保護されているのですか?」

 シュナイゼル『らしいね』
       『君も、一刻も早く政庁に向かいたまえ』

 ルル「折角ですが、政庁に向かうよりは、」
    「手近の避難所に向かう方が早いです」

.
 シュナイゼル『ふむ……今、どこにいるのだ?』
       『ユフィに連絡をして、君に迎えを……』

 ルル「兄上、ナナリーを保護していただいたことは感謝いたします」
    「ですが、恐縮ながらそれ以上の不要な援助はお断りいたします」

 シュナイゼル『……援助?』

PC上の世界地図には、ブリタニアから伸びる複数の線が表示されていた。
彼はそれを睨みながら、語りの口調を変えないように努める。

 ルル「俺は、どうなろうと生き延びます」
    「7年前の日本侵攻でも、しぶとく生き残ったようにね……」

 シュナイゼル『……』

.
 ルル「この騒動が終わったら、宜しければゆっくりとお話をさせていただければと」
    「思います……その時を楽しみに」

 シュナイゼル『ルルーシュ……君は、勘違いをしている』

ルルーシュが話を打ち切ろうとした時、シュナイゼルはそう言って言葉を遮った。
それまでの穏やかな口調から、ほんの少し真剣味を帯びていることに気づく。
シュナイゼルの言葉を、彼は問い直した。

 ルル「勘違い?」
    「どういう意味でしょうか?」

 シュナイゼル『ナナリーは保護だが、君については保護だけではない』
       『ひとつ、我々のために力を貸してほしいのだよ』

 ルル「なんでしょう?」

.
 シュナイゼル『ルルーシュ……』
       『君に、ブリタニア軍の指揮を任せてみたいのだ』

 ルル「…………えっ?」
    「今、なんと……?」

 シュナイゼル『……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』
       『君を、エリア11の臨時参謀として迎える』
       『政庁へ向かい、ユフィを助け、黒の騎士団を打ち破ってくれたまえ』

 ルル「なァ……ッ!?」ギョッ!!

シュナイゼルの申し出は、彼にとって完全に予想外のものであった。
その突拍子もない話に、ルルーシュは一瞬息をのむが……

 ルル「…………兄上、この非常時に、そのような戯言をおっしゃるために、」
    「わざわざ俺にご連絡を下さったのですか?」

かろうじて、冷静な態度を崩さずに答える。
シュナイゼルも、穏やかな口調を崩すことなく言葉をつづけた。

 シュナイゼル『私は本気だよ?』
       『君なら、私やコーネリアの代わりに立派に指揮を……』

.
 ルル「俺はただの学生ですよ?」
    「政庁には、俺よりももっと相応しい人がいくらでもいるでしょう?」

 シュナイゼル『……ここだけの話だが、』
       『残念ながら、コーネリアの専任騎士たちでは、』
       『ゼロには太刀打ちできないと私は睨んでいる』

 ルル「……!」

 シュナイゼル『ゼロは、戦術をよく研究している……』

       『特に、ブリタニア軍の伝統的な戦術教練は、多分全て知っている』
       『彼らのようにテロリストだと侮っていては、きっとその裏をかかれる』

 ルル「……」

.
ルルーシュはゼロとしての登場以来、様々な方法でブリタニア側の思惑を覆す
行動に出てきたのだが、それが余計にシュナイゼルをして警戒をさせる結果を
もたらしたのだろう。

神根島で彼がルルーシュの名を口にした時点でそれは感じ取ってはいたが
こうして明確に、自分たちが不利だと語ったのは、ルルーシュにとって
意外でもあった。

 シュナイゼル『こういう場合、相手が想定しない有能な者を起用することが重要だ』
       『それが即ち、君だ……ルルーシュ』

 ルル「……バカな……!」

 シュナイゼル『……君の知略は、子供の頃から鋭かった』
       『年端もいかぬ君が魅せるチェスの手腕に、私も舌を巻いたものだ』

 ルル「……」

.
 シュナイゼル『最近の君の事については、コーネリアからも色々と聞いている』
       『頭脳は子供の頃よりもさらに明晰、だが成績は芳しくないとか……』
       『……まだ、本気を出す気になれないのかい?』

 ルル「……買いかぶりですよ、兄上」

 シュナイゼル『そうかな?』

回線の向こうで、シュナイゼルが薄く微笑む表情が見えるようだった。
黙り込むルルーシュに、彼はさらに語り掛ける。

 シュナイゼル『……今の君が本気になったところを、ぜひ見てみたいのだよ』
       『コーネリアの専任騎士たちには、私から話を通しておく』
       『君は気兼ねなく、采配を揮ってくれたらいい』

 ルル(……何だ?こいつは、何を言っている……!?)
    (学生の俺に、本気でブリタニア軍の指揮を採らせるつもりなのか……?)

.
まさしく、想定外からの奇手。学生に軍の指揮を採らせるなど、完全に予測不可能。
だが、もしルルーシュがゼロであるなら……これ以上に、合理的な手はない。
ルルーシュは、シュナイゼルの奇抜な発想に、内心で呆然とする。

 ルル(俺がゼロであると疑い続けていたなら……)
    (そしてそれを隠したまま、反乱が起きたとするなら……)
    (……俺でも、同じ手法を採っただろうか?)

    (いや、できるわけがない、リスクが大きすぎる!)
    (俺がゼロでなければ、ブリタニア側に混乱をもたらすだけだ……それに、)
    (もし俺がゼロならば、逆に混乱をもたらすだろうとは考えなかったのか?)

    (……そうか、ナナリーか……そこまで読まれていたのか……?)
    (いや、成り行きもあるだろう、全てが計算ではあるまい)
    (だが……)

.
脳裏で目まぐるしく走る彼の思考を、しかしシュナイゼルの放った一言が遮った。
それは、ルルーシュの琴線に触れる言葉であった。

 シュナイゼル『……うまくいけば、皇位継承権の復活も望めるだろう』
       『これは、君にとっても大きなチャンスだと思うよ』

 ルル「!!!」…キッ
    「……俺は、そんなもの、全く望んでいません!」
    「第一に!……軍隊の指揮などッ!」
    「経験もないし、チェスとは全く違う!そんな大任、お断りだッ!」

 シュナイゼル『似たようなものだよ……』
       『いや、君ならすぐに共通点を見出せるだろう』

 ルル「兄上ッ!…………いえ、宰相閣下、」
    「畏れながら申し上げます」

.
さらに言葉を続けそうなシュナイゼルを遮り、ルルーシュは低い声で呟いた。
そして、平静を装うのが困難なほどの憤りを、彼は言葉に込めてみせる。

 ルル「……ご自分がどれだけおかしなことをおっしゃっているのか、」
    「ご自覚がないようですね……?」…ギリッ

 シュナイゼル『……!』

 ルル「そうやって、俺たち兄弟の気持ちなど意に介さず……」
    「帝国のために日本へ追いやった時と同様に、」
    「帝国のためにまたもや利用しようということですか……」
    「変わってない……何一つ、変わっていないッ!」ググ…

 シュナイゼル『…………君が、そう捉えてしまう気持ちは、よく判るよ』

 ルル「他にどう捉えろと言うのだッ!」
    「それに学生が軍の指揮など、正気の沙汰ではない!」
    「兄上、これは俺にとって、更なる辱めと何ら変わりないッ!」

.
 シュナイゼル『ルルーシュ、落ち着いてくれたまえ』
       『嫌だという者に、無理強いをするつもりはないよ』

 ルル「…………」ハッ、ハッ…

 シュナイゼル『……ただ、これは私にとって、罪滅ぼしの意味でもあるのだ』
       『どうか私に、償いをさせてもらえないだろうか』

 ルル「……償いだと?」

 シュナイゼル『君たちに近しかった兄弟はみな、母親を失った君たちが旧日本に』
       『送られたことに対し、自分が何もできないことに心を痛めていたのだ』

 ルル(……フン、見え透いた嘘を……!)

.
 シュナイゼル『君は知る由もないが、クロヴィスがエリア11に赴任したのも、』
       『君たち兄弟に対する想いからだよ……』

 ルル「……何?」

 シュナイゼル『彼は、せめて君たちの骨でも拾いたいと申し出たのだ……』
       『……もともと政治には疎い彼だったが、彼なりにエリア11を』
       『良くしたいと願っていたのだよ……』
       『不向きだという自覚も彼にはあった、あえて総督に名乗り出たんだ』

 ルル「な……?」

 シュナイゼル『だが、疎いがゆえに政治の腐敗にも気づかなかった』
       『側近であったバトレー君も、色々と腐心していたようだがね……』
       『コーネリアが赴任して、ようやっと政権内の寄生虫ともいえる官僚を』
       『排除できたのだが……』

.
 ルル「……」

 シュナイゼル『……心半ばにしてゼロに殺された無念、』
       『さぞかしだろうね……』

シュナイゼルが語る内容は、ルルーシュにとってにわかには信じがたいものであった。
だが、いくつかそれに符合する記憶があることに気づくと、彼は全身から汗が
噴き出るような感覚を覚えた。

 ルル(バカな……!)
    (では俺は、無駄にクロヴィスを殺しただけだというのか!?)
    (いずれはエリア11も統治ランクが上がっていたと!?)
    (嘘だ……信じるな、これは嘘だ……ッ!)ギリ…

 シュナイゼル『……あの時は、私も大した権限を持っていなかった』
       『皇帝陛下のご決断に異を唱えることなどできなかった』
       『だが今はそうではない、宰相としての力がある』

.
 ルル「…………」ググ…

 シュナイゼル『どうだろうか……』
       『ユフィが贖いの意味でナナリーを匿ったのと同様、』
       『君も私に、罪滅ぼしをさせてはくれまいか』

 ルル「…………」
    「何を……今更…………ッ」ギリッ…

俯きながら、ようやっと、それだけを呟いたルルーシュ……
ケータイを耳から離し、ゆっくりと顔を上げると、先ほどから彼の様子を静かに
見つめていたC.C.の視線に気付く。
彼女は、彼をじっと見つめながら、心なしか悲しげな表情を浮かべていた。

.
 ルル(……俺が、俺自身の手で騎士団を潰せ、だと!?)
    (シュナイゼル、お前はやはり、俺がゼロだという確証があるのか……!)

    (……ナナリー……そしてやはり、俺は愚かな兄だった……)
    (お前を守るつもりが、お前をまた取引の道具にさせてしまった……)
    (何を言おうと、償うことはできまい……)

    (……だが、俺は…………!)

しばらくの間、押し黙ったまま苦悩していたルルーシュだったが、
やがて再び、ケータイをゆっくりと耳にあてると、ぽつりと喋った。

 ルル「……ひとつ、お伺いいたします」

 シュナイゼル『いいよ、何かな?』

.
 ルル「…………兄上、なぜあなたは……」
    「……なぜ、俺達の母を、殺したのですか……?」

 シュナイゼル『!』

ルルーシュのその言葉に、電話の向こうにいるシュナイゼルの表情が
強ばったのを感じた。
答えに期待をしたわけではない。事実がどうであろうと、彼は否定するしかない。
だが、否定をするまでにかかる時間で、おおよその事を測れると彼は睨んでいた。

 シュナイゼル『……』
       『…………』

 ルル(……なに?)
    (なぜ否定しない?)

.
意外なことに、あれだけ饒舌だったシュナイゼルが、その一言で口を閉ざした。
否定するのにさほど抵抗のある問いではない。ましてや肯定はできない。
答えに窮するはずがないにも関わらず……

 ルル(殺したなら即座に否定するはずだし、)
    (殺していないなら否定をしない理由がない……)
    (……何を考えている?なぜ黙っている?)

 シュナイゼル『…………………………』

しかしそれは、数秒の沈黙であっただろうか。
シュナイゼルが再び口を開いた時、出た言葉は否定でも、肯定でもなかった。

 シュナイゼル『……真実を、知りたいかね?』

 ルル「……え?」

.
 シュナイゼル『私も、その答えを求めている』
       『だが、それについて語るのは今は相応しくない……』

 ルル「……何を知っているのですか」

 シュナイゼル『それは、君と会った時に話そう』
       『今は他にやるべき事がある』

シュナイゼルは、うまい具合に答えをはぐらかしたのか……
だが、彼の返答は、ただのハッタリや誤魔化しとは思えない。
母の死に関して、シュナイゼルはやはり何かを知っているのだ。
ルルーシュはそう確信した。

 ルル「やるべき事、ですか……」

 シュナイゼル『そうだ、租界を守り、治安を安定させないとならない』
       『君にも是非、手助けをお願いしたい』

.
 ルル「…………」
    「……失礼します」ピッ

彼が通話を切った瞬間、目の前の机上に置いていたPCの画面に「LOST」と表示された。
画面上の世界地図には、ブリタニア本国からの複数の線が、租界およびその近辺の
十数か所の地点を示す所まで伸びていた。

 C.C.「……」

 ルル「……懐柔しながら逆探知、か」
    「兄上らしいことだ……」

彼は疲れたような表情を浮かべながら、わずかに潤んだ瞳を彼女に向ける。
C.C.も、傍から会話を聞いていておおよその事は理解していた。

.
 C.C.「……先に言っておくが、」
    「私はブリタニアには行かない」

 ルル「…………」

 C.C.「行くならお前だけが行け」

 ルル「……騎士団に残るのか?」

 C.C.「お前がいなければ、ここにいる意味がない」
    「どこへなりと行くさ」

 ルル「そうか……」

.⌒ ミ
ω・`) ひとまず!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月04日 (木) 18:15:17   ID: vrr7jCVG

続き気になるな~

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