C.C.「わ、私がショタコンだと!?」マリアンヌ「クスクス」(565)

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前スレ:ルルーシュ「マオ無双だと!?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385470723/)

これまでのまとめ:http://geassfun.at.webry.info/

 01 ルルーシュ「お前のせいなんだろうッ!」C.C.「私のせいですぅ!」
 02 C.C.「ボク、チーズクンダヨ!」ルルーシュ「えっ?」
 03 シャルル「いーむゎあぁ……」神官「えっ?」
 04 スザク「死なせてよ!」ルルーシュ「えっ?」
 05 ルルーシュ「デートか……」/ユフィ「デートです!」
 06 C.C.「デートねぇ……」/コーネリア「デートだと!?」
 07 カレン「わたしの紅蓮弐式!!!!!1」ゼロ「うむ」
 08 カレン「やっぱりわたしの紅蓮弐式!!!1」ゼロ「そうだな」
 09 ニーナ「ホモォ……」スザク「違うから!」ニーナ「ホモォ……///」
 10 ルルーシュ「マオ無双だと!?」

彡 ⌒ ミ 
(´・ω・`) はげるほどに!

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■Intermission ─────

……マオという予測不可能な因子による混乱も、からくも収めることができた。
しかし、俺のシャーリーに対する特別な感情は、後程禍根と成り得る事態を残して
しまった。
最後は、彼女から記憶を奪うつもりで、贖罪の意味も込めて彼女に全てを語ったが、
ギアスをかける寸前の彼女の言葉に、俺は怯んでしまった……
俺は、彼女を排除することに失敗したのだった。

復讐の完遂を望むならば、情けや容赦など捨てるべきだったのか。
彼女が拒否しようとも、彼女を精神的に、あるいは物理的にも"殺す"べきで
あったのか……
だが、それは俺のレゾンデートルであるナナリーの存在をも否定することに繋がる。

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俺は、シャルルとは違う……俺の都合で弱者を切り捨てることなど、絶対にしない!
それでも復讐は成し遂げてみせる……否、それでこそ復讐は、真の意味で成し遂げ
られるはずだからだ……!


■租界 貿易商事務所 ─────

 C.C.「……で、私がクラブハウスに戻る段取りはできたのか?」
    「今度はまともな理由だろうな?」

 ルル「そんなもの、もうあきらめた……」ハァ…

 C.C.「なに?では戻るなというのか?」

.
 ルル「いや、戻ってこい」
    「部屋は咲世子が用意してくれた」

 C.C.「……どういうことだ?」

 ルル「今回の件で、咲世子が俺のことに感づいた」

 C.C.「なに?」

 ルル「シャーリーを入院させた時、俺のそぶりに違和感を感じたらしくてな」
    「俺は全く気付いてなかったんだが……」

 C.C.「ほう?」

.
 ルル「……で、俺のことをしばらく探っていたらしい」
    「お前、篠崎という家系で思い当たることはないか?」

 C.C.「……さて?」キョトン

 ルル「だろうな、俺も初めて知ったが、彼女は篠崎流という武芸に秀でた一族の、」
    「第37代当主らしい……代々、優秀なSPを輩出してきた家系だそうだ」

 C.C.「なんと……とてもそうは見えないな」

 ルル「だから、優秀だということだろう」
    「で、俺の部屋で先日、自分を騎士団に入れろと言われてな」

 C.C.「ふむ、直球だな」

.
 ルル「何の冗談かと誤魔化そうかと思ったが、彼女は本当に、俺がゼロだと」
    「いうことを調べ上げていた……咲世子曰く、今の俺は隙だらけだそうだ」フッ…
    「それでも、1~2週間の間での話だからな、本当に優秀だ」

 C.C.「ふうん……」

 ルル「ただ、マオの件がなければ俺がゼロだとまでは想像できなかっただろう、」
    「とは言っていたが……」
    「まあ、咲世子にも俺の正体がバレてしまった」…ギシッ

.
俺は、そこまでを一息で説明すると、椅子に深々と腰かけ天井を見上げた。
そのそぶりを見ていたC.C.は、やや訝しげに尋ねる。


 C.C.「……それにしては、随分と気楽そうだな?」

 ルル「フフ……わからないか?」

 C.C.「??」

 ルル「おかげで、彼女にナナリーのことを完全に任せられるようになった……」
    「結果論だが、もっと早く咲世子を引き込んでおけば良かった」ニヤ

 C.C.「なるほど……」

.
 ルル「彼女も、騎士団にシンパシーを感じていたことが幸いした」
    「やはり正義の味方は、演じておくものだな……」…ギシッ

    「……お前の部屋は前のように、俺の部屋の隣だ」
    「だが、ナナリーに対してはこれまでと変わらず、俺達の事については」
    「一切説明をしていない……」
    「接触はなるべく避け、あくまで遊びに来ているふりをしろ」

 C.C.「よかろう、そのくらいは妥協しよう」

 ルル「しかし……なぜ戻りたがる?」
    「別にここでも構わないだろう」ギイッ

.
俺がそう尋ねると……C.C.は、見透かすような視線で俺を見た。


 C.C.「……お前があの娘に溺れないよう、監視しないとならないからな」
    「放っておくと、どこまでのめりこむやら……」ジー

 ルル「!」ピキッ
    「……人を色情狂のように言うな、この間だって、俺は」

 C.C.「俺は?…………なんだ?」

 ルル「!!……とっ、ともかく、俺とシャーリーはそういう関係ではない!」
    「学生らしく、清く正しい交際に徹している、余計なお世話だッ!」

.
 C.C.「顔が赤いぞ、ルルーシュ?」

 ルル「黙れ!お前こそ、この間のは何なんだ!」
    「むしろお前こそ……」

 C.C.「この間?何のことだ?」

 ルル「なッ……!?」
    「こっ、この間、俺にのしかかって、その……」
    「……無理矢理、しただろうがッ!!」

 C.C.「した?何をしたというのだ?」

.
 ルル「!!!…………」
    「……もういい」ガバッ

 C.C.「耳まで赤くなっているぞ、ルルーシュ?」

 ルル「いちいち言うなッ!出かけてくる……!」テクテク…バタン!!

.
ルルーシュが荒々しく扉を閉めると、C.C.はしばらくの間の後、小さくため息を
ついた……と、ふと何かに気付いたように顔をあげる。


 C.C.「……違う、嫉妬などではない……私を誰だと思ってるんだ?」
    「全く……すっかりお目付け役のつもりか……?」

    「……ああ、そうだよ、ルルーシュは自ら困難な道を選んだ、」
    「無理に止めても、聞きはしないだろうしな……お前と同様に、な」

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■租界 民間TV局 控室 ─────

扇とディートハルト、それに数名の騎士団メンバーは、これからこの局で収録される
公開討論会に出席するため、控室で準備をしていた。
先日の、湾港でのサクラダイトの爆破事件を総督府に黒の騎士団の仕業だと
断定されたことに対する反論や騎士団側の主張を、番組内で行うことが目的だ。


 扇「……しかし、本当に大丈夫なのか?」
   「収録の間に官憲が踏み込んでくることは……」

 ディートハルト「大丈夫ですよ、これは私の仕込みですから……」
       「収録は極秘に行います、それに、討論会の形をとっていますが、」
       「出演者には台本を渡してありますので……」ニヤ

.
 扇「台本?やらせか?」ギロ

 ディートハルト「演出と言ってください、扇さん……」
       「くれぐれも、収録中にそんな険しい顔をしないように」

 扇「あ、ああ……」

 ディートハルト「……これは、遊びではないのですよ?」キッ
       「可能な限り最短距離で我々の目的に到達するための、手段です!」

 扇「……」

 ディートハルト「我々は絶対に、負ける危険は冒せないのです……」
       「たとえ、TV番組の討論会であっても!」

.
 扇「……わかってる、わかってるさ」

 ディートハルト「それにあなたも、本当にガチンコの討論会はマズいでしょう?」
       「百戦錬磨の論客を言い負かす自信がおありで?」

 扇「い、いや、それは……!」キョドキョド

 ディートハルト「……」フゥ

.
と、そこへ番組のディレクターが、扉を開いて入ってきた。
扇たちの姿を認めると、大声で呼びかける。


 番組D「あ、ディートハルトさん!準備できましたよ!」

 ディートハルト「そうか……今日は、よろしく頼むぞ?」

 番組D「任せといてください!」ニカッ
     「扇さん、こちらへどうぞ!」

 扇「ああ!今いきます!」ニカッ!!

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……先ほどまでの、頼りなさげな雰囲気が瞬時に失せ、自信に満ち溢れた笑顔で
扇はディレクターに応えた。車椅子を操り、迅速にドアの向こうに消えて行く。


 扇「ははは、TV出演なんて初めてだから、緊張します!」シュイイン…

 番組D「ぜんぜんそうは見えませんよ?」
     「大丈夫です!あなたならイケますよ!私が保証します……」…バタン

 ディートハルト(……あの変わり身の早さだけは、目を見張るものがある)
       (ゼロは「役柄を演じることはできる男だ」と言っていたが、)
       (まさしくその通り……ふふ、脱帽ですよ、ゼロ……)ニヤリ

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■アッシュフォード学園 昼食時 ─────

最近、俺とシャーリーは、学園での昼食を二人で一緒に取るようになった。
学園以外では忙しくて彼女と一緒にいられない代わりの、せめてもの心がけだ。
今日は、比較的暖かな日差しだったので、二人で屋上に出てみた。


 シャーリー「うわー……今日は、あったかいねー」

 ルル「ああ、上着もいらないくらいだな……」ニコ

 シャーリー「うん!」ニコッ

.
 シャーリー「ねね、ルル、今日はちょっと、お弁当作ってみたの……」

 ルル「ん?」


俺は、屋上の段差に腰掛けながら、隣に座った彼女が差し出す弁当を見た。
トマトや野菜の盛り付けがカラフルな、女の子らしい、可愛らしい中身だ。


 ルル「……いいな、美味しそうだ」

 シャーリー「本当!?良かった!」

 ルル「ん?良かったって?」

.
 シャーリー「これ、ルルが食べてくれないかな?」

 ルル「えっ、それ、シャーリーの弁当だろ?」

 シャーリー「私のは別に作ってあるから……」
       「……って、いきなりだったね……良かったら、その……///」モジモジ

 ルル「……本当にいいのか?」

 シャーリー「うん、いいよ!」ニコッ!!

.
満面の笑顔で応えるシャーリー……それを見て、俺も思わず笑みがこぼれる。
あの時、もしシャーリーの記憶を奪っていたら、こんな笑顔は二度と見ることが
できなかったかもしれない。

奴に何と言われようと、俺は、できる限りシャーリーの気持ちに応えるつもりだ。
それが、どれほど困難であろうと……彼女が望んだ、俺が為すべき贖罪だから……


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シャーリー「……ルル、最近は授業が終わったらすぐいなくなるよね?」
       「すごく忙しいんだ?」モグモグ

.
 ルル「ああ、ますます忙しくなってきてる」モグモグ
    「俺がもう一人欲しいくらいだよ」

 シャーリー「ふーん……」モグ…

 ルル「総督府からの締め付けが厳しくなってくる中、」
    「人々の信頼を得ないとならないからな……大変だ」モグモグ

 シャーリー「そうかー……」ジー…

 ルル「……ん?」モグ…
    「どうしたんだ?」

.
 シャーリー「ルル、あのね……わたしに、手伝えることとかないかな?」

 ルル「……」


……そのシャーリーの問いかけについては、俺はすでに返答を決めていた。
彼女は、決して騎士団に関わらせない。ナナリーと同様に、だ。


 ルル「シャーリー……」

 シャーリー「あっ、もちろん、無理にってことじゃないよ!」
       「どんなことでもいいから、ルルがちょっとでも楽になるなら……」

.
 ルル「……ありがとう、でも、俺の"仕事"は、俺自身でやるしかないから……」
    「ごめん……」

 シャーリー「そっかあ……」ショボン

 ルル「……」


俺は、しょぼくれたシャーリーの肩に腕を回し、そっと抱きしめる。
すると、彼女は俺に向かってにこっと笑いかけ、そのまま俺の肩に頭をのせた。


 シャーリー「ふふ、ルル……」

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 ルル「……今度、時間がとれたら、1日使って一緒に出掛けよう」
    「それまでに、どこに行きたいか、計画をしておいてくれ」

 シャーリー「……どこでもいいのかな?」

 ルル「!!……1日で往復できる距離だぞ?」

 シャーリー「うん……考えとく」ニコッ

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━━━━ 区切り用しおり 彡 ⌒ ミ ここまではげた ━━━━

カレン「・・・私も混ぜてくれない?」

>>30

彡 ⌒ ミ ごめんなさい、 いま現在、サミタの期間限定C.C.アバター欲しさに
( ;ω;) 禿げ上がるほどにデスマーチ中です……もうちょっとだけお待ちを……

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■学園 理事長室 ─────

 ミレイ「……えっ!?ルルーシュのことを?」

 理事長「うむ、以前お前に、彼を探してくれと頼まれたことがあっただろう?」
     「その件で彼らが立ち寄ったらしい」

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理事長室でミレイは、彼女の祖父である学園の理事長から奇妙な話を聞いた。
シンジュク事件の折、行方知れずとなったルルーシュを密かに探してもらうよう、
彼女は祖父に頼んだ。
そして祖父は、軍でつながりのあったヴィレッタにその事を依頼していたのだった。

だが、依頼後、彼女自体が消息不明となり、またルルーシュも無事に戻ってきたため、
その件はそのまま忘れ去られていた。

.
 ミレイ「……おじい様、でも、何でいまさら……」

 理事長「それがまた不思議でな……」
     「あの時の学生の名を、忘れたから教えろと言うのだ」

 ミレイ「えっ?」

 理事長「しかも、ヴィレッタだけでなく他に2名を連れていたのだが、」
     「みな揃って頭に変な機械のようなものを付けておった……」

 ミレイ「……機械?」

 理事長「そういえば、喋り方も妙でな……」
     「……一応、学生の名はわしも忘れた、と言っておいた」

.
異様な姿の3名を想像し、眉をひそめるミレイ。

彼女も、そして理事長も、ルルーシュのいわくについては知っている。
それもあり、あまり公にならないようヴィレッタだけに捜索を依頼していたのだが、
改めて尋ねてきたとあらば、嫌な気配を感じざるをえない。


 ミレイ「ありがとう、おじい様……」
    「彼にも言っておいた方がいいかな?」

 理事長「……うむ、そうした方が良かろう」
      「ああ、それと、例の件じゃが……」

 ミレイ「あ、ああ……うん……」

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理事長に"例の件"と言われたミレイは、やや表情が曇る。
そんな彼女に気付かないのか、理事長はそのまま言葉を続けた。


 理事長「アスプルンド家は、非常に良い家柄だ……」
     「それに伯爵も、やや変わり者だが穏やかな性格の方だと聞いておる」

 ミレイ「うん……」

 理事長「お前の気持ちもわかるが、そう悪い話ではないと思うぞ?」
      「一度、お会いしてみてはどうかね?」

 ミレイ「……お母さんからも同じことを言われてる、」
    「でも……まだ、そんな気になれないのよ……」

.
■学園 正面アーチ ─────

 ジェレミア「ふむ……成果はなかったか?」カツカツ

 ヴィレッタ「理事長も忘れているのでしたか……残念のようです」カツカツ

 キューエル「……」カツカツ


コードRの手がかりを求め、アッシュフォード学園の理事長を尋ねた特捜隊。
だが、彼からは手掛かりは得られなかった……

.
今は昼食時、学園の生徒たちは思い思いの休息をとるため、校舎の外に出ていた。
正面の門から伸びたアーチの通路を歩く彼らの周囲では、生徒たちが彼らの異様な
姿に興味津々といった様子で見つめ、あるいはひそひそと話をしながらすれ違って
ゆく。だが、彼らはそんな周囲の様子を全く気に留めていない風だった。


 ヴィレッタ「……しかし、学生が関わっていたとは考えにくかったのです」
       「ましてや、黒の騎士団などという大規模なテロ組織を……」

 ジェレミア「先入観は排しようか?」
       「それに、この学園はどうも怪しいのか?」

 キューエル「……」

.
 ヴィレッタ「どういうことでしょう?」

 ジェレミア「いますれ違った学生のうちに、コードRに近い反応を感じた?」

 ヴィレッタ「本当でしたか!?」

 キューエル「!!」


彼ら3名は、"コードR"を捜索するにあたって、研究所で特殊な機能を授けられて
いた。実験的な意味で授けたものであったが、うちジェレミアには、脳波を音響のように
感じることができる機能が備わっている。

.
 ジェレミア「うむ、1・2名くらいだが、似た"音"だったか?……」
       「影響を受けた者がいるような?少し、探ってみた方がよさそうか?」

 ヴィレッタ「今は、他に手がかりはありませんでした……」
       「確かに、ここを探るのがよいかと」

 キューエル「……」コクコク

 ジェレミア「……キューエル、君は朝から一言も発していないようだ」

 ヴィレッタ「どうしたのでしょうか?」
       「具合でも悪かったのですか?」

.
 キューエル「しゃっ、しゃやややっしゃしゃしゃああああアアアッ!」
        「……口を開くと必ず興奮する癖が治らないので、黙ってることにした」

 ジェレミア「……将軍に、調整し直してもらうようお願いする」

 ヴィレッタ「何とも不憫な……」

 キューエル「のっ、のおおおおおおおろろおおおおおおおおおッ!」
        「……能力さえ使えれば私は問題ないのだ、気にしないでくれ」

 ジェレミア「うむ、君の能力には期待しているか?」

 ヴィレッタ「先を急ぎました……」カツカツ

.
■黒の騎士団 トレーラー ─────

 カレン(今日のミーティング、どうしてゼロはいなかったんだろ……)カツカツ


ゲットー内のアジトで行われた今朝の幹部ミーティングでは、気になる報告が2つほど
上がってきた。
ひとつは、キュウシュウ方面。東シナ海にいる中華連邦軍に、きな臭い動きがみられる
とのことだ。部隊が集結しつつあり、あるいはキュウシュウへの侵攻が行われるのでは
ないか、との見通しがある。
もうひとつは、ブリタニアの宰相、シュナイゼルの動きだ。理由はわからないが、
ここエリア11へ来る日程が組まれたらしい。

.
わたしは、それを直接報告するため、トレーラに戻ってきていた。
トレーラー2階のゼロの個室の前に立つ。


 カレン「……カレンです、よろしいですか?」コンコン

 ??『今開ける……』シュイ-ン

 カレン「ゼロ、朝比奈さんから気になる情報……」カツカツ
     「……って、あれ?C.C.だけ?」キョロキョロ


部屋に入ると、ゼロの姿はなかった。
ソファに座り、TVを見てたC.C.はわたしの方に目を向ける。

.
 C.C.「……何だ?」

 カレン「いや、ゼロに報告があって……どこに行ったの?」

 C.C.「人と逢う約束があると言って出た」
    「私が代わりに聞こうか?」

 カレン「いや……後でまた報告するわ」クルッ

 C.C.「そうか」
    「……ああ、そうだ、ついでに聞くが」

 カレン「……ん?何?」…ピタ

.
C.C.がわたしに質問を投げかけるなんて、珍しい。
わたしは足を止め、彼女の方に向きなおす。


 C.C.「お前たち、あれから逢引きは何度くらいしたのだ?」ニヤ

 カレン「……その、逢引き、って表現、やめてくれない?」ムカ
     「すごくいかがわしいことみたいに感じるし、そんなことしてないから」

 C.C.「まあ呼び方はどうでもいい」
    「あれから奴とデートには行ったのか?」

.
 カレン「……そんなプライベートなことはお答えしません」

 C.C.「なんだ、行ってないのか」

 カレン「!!……行ってるにしろ行ってないにしろ、」
     「あなたには関係のないことでしょ?」クルッ


実際、行ってない。
というか、確かにルルーシュとはあれ以来、プライベートに関することでもよく話を
するようになったけど、別に、デートを重ねるような関係じゃないし……
それにあいつ、いつだって忙しいじゃない、誘ったってそんな時間取れないでしょ。

.
また何かケンカでもふっかけてくる気なのかと思い、わたしはきびすを返した。


 C.C.「私はどうでもいいのだが、お前には、関係あるかもな……」


てっきり、わたしを茶化すのかと思っていたところに、C.C.は何か意味ありげな
言葉を発する。
わたしは再び足を止め、C.C.へゆっくりと向き直した。


 カレン「……なんの話よ?」…ジッ

.
 C.C.「お前、ルルーシュのことが好きなのか?」

 カレン「!……尊敬してるわ、それが何か?」

 C.C.「そうか、ならいい、行っていいぞ」

 カレン「……なんか引っかかる言い方ね」
     「尊敬してるし、好きよ、それで?」

 C.C.「愛情か?」

 カレン「好意!」
     「……何が言いたいのよ、一体?」

.
 C.C.「ふむ……ならよい、それ以上に発展させるな、」
    「最近、奴には相手ができてな……」

 カレン「……相手?」
     「相手って、何の相手よ?」

 C.C.「恋人……というのかな、まだそう深い仲ではないようだが」


……え?うそ……?
恋人……って……マジで?なんで?

.
 C.C.「私も止めたのだが、奴は強情だからな」
    「しようがないので、関係しそうな者には事前に……」


こないだ、付き合ってる相手とかいるのか聞いたら、しれっとした顔で「そんなのを
作る時間はない」とか言ってたくせに……!
なによそれ、わたしには隠しておきたかった、ってこと?
というか、騎士団のトップが色ボケとか、シャレにならないわよ!?


 C.C.「私としては、これ以上のトラブルは避けたい」
    「早めに教えておくのが……」

.
最近って、いつからなの?どのくらいの関係なの?
相手は誰なの?騎士団の中?それとも外?
あれだけシスコンのくせして、彼女とか……


 C.C.「お前のことは、奴も買っているからな……」
    「このことはお前にだけ言っておく、他の奴には……」


……まさか、妹じゃないでしょうね?って、さすがにそれはないか……
相手が誰なのか、調べてみなきゃ……!

.
 C.C.「……カレン?おい、どうした?」

 カレン「!!」


わたしはふと、C.C.の言葉が耳に入らないほど硬直していたことに気付いた。
彼女に見透かされないよう、あわてて取り繕う。


 カレン「……あ、ああ、ありがと……」

.
 C.C.「礼にはおよばない、どうした、大丈夫か?」

 カレン「大丈夫よ……問題、ないわ」
     「じゃあわたし、やることがあるから……」カツカツ

 C.C.「ああ、また後でな」

.
■租界周辺ゲットー スザクの部屋 ─────

先日のマオの件以来、スザクとは連絡がとれないままとなっていた。
俺が電話をしても出ない……ケータイは破棄したわけではなさそうだが……
時間を取って、俺はスザクの部屋があるアパートまで足を運んだ。

扉の前に立ち、聞き耳を立ててみるが、扉の向こうからは特に物音は聞こえない。
思い切って何度かノックをすると、室内から足音が近づいてきて扉が薄く開かれた。
俺は、ドアのチェーン越しに奴の顔を見る……やはり、随分とやつれた様子だ。

.
 ルル「スザク……俺だよ」

 スザク「……」

 ルル「電話を鳴らしても出ないから、来てみたんだ」
    「いま、大丈夫か?」

 スザク「……ああ」

 ルル「……中に、入っても?」

.
そう言うと、視線を落としたスザクだったが、ガチャガチャとチェーンを外す音が
したかと思うと扉はゆっくりと開いた。


 スザク「……入れよ」

 ルル「ああ……」


俺は、スザクに促され、殺風景な和室の中に入った。

.
現在、ゲットーに住むイレヴンは、物欲を満たすことがほとんどできない状況に
あるのだが、俺からの若干の支援があるとはいえ、スザクもそれはほぼ同様だ。
部屋の中には、家電はかろうじて冷蔵庫があるだけ、他は着替えやふとん、
机がある程度だ。

机の上には、昔の写真……俺がまだ幼かった頃、枢木家の世話になっていた
時の写真が置いてあった。微笑むナナリーとスザク……そして、仏頂面の俺が
色あせたフレームに収まっている。
俺はそれを手に取り、眺めた。


 ルル「……この時の写真、持ってたんだな?」

 スザク「……」

.
 ルル「懐かしいな…」
    「確か、日本侵攻の少し前に撮ったんだったかな?」

 スザク「……」


俺の問いかけに、スザクは応じない。部屋の片隅に腰を下ろし、うつむいたまま
ぼうっとしている。とりつくしまもない、という感じだ。
俺はスザクの傍までゆき、その前に腰を下ろした。


 ルル「……何があったんだ?」

 スザク「……」

.
 ルル「……俺にも、相談できないことか?」

 スザク「…………」


……見れば、スザクのあごには無精ひげが目立っていた。頬も削げ落ちたように
なっている。マオの件以来、まともに食事もとっていなかったのではないか。


 ルル「何も……食べてないのか?」
    「何があったのかは知らないが、食べるくらいはした方がいい……」

 スザク「……」

.
 ルル「……おかゆでも作ってやるよ、」
    「台所を使うぞ?」…スック

 スザク「……いいんだ」

 ルル「ん?……何がだ?」

 スザク「オレは……もう、いいんだよ……」

 ルル「……」

.
立ち上がりかけた俺に、スザクはうなだれたまま、力なく、そう答えた。
俺は再び腰を下ろし、奴に優しく話しかける。


 ルル「何が、もういいんだ?」

 スザク「……」

 ルル「お前がそんな調子だと、俺も気になってしようがないんだ」フッ
    「言ってみろよ……秘密なら、絶対に守るから」

 スザク「…………」

.
 ルル「……」

 スザク「……いい……」

 ルル「……ユフィにも、そういう態度なのか?」

 スザク「!」ピク

.
ユフィの名を出すのは卑怯だったかもしれないが、スザクの煮え切らない態度に
俺は多少苛立ちを感じ、つい口にしてしまった。
わずかに反応を見せたスザクだったが……


 スザク「…………」

 ルル(……やはり、だんまり、か……)フゥ…

.
おそらく……
以前、藤堂から聞いたことと、先日シャーリーから聞いたことを併せて考えれば、
枢木ゲンブ自害の真相は、スザクが彼を殺した、ということなのだろう。
そして桐原翁が隠ぺいを行ったため、それが公にならなかったのだ。
確証はないが、当時の状況から推測すれば、それでほぼ間違いないだろう。

己の手で父親を刺し殺した、幼い頃のスザク……
それほどまでに父親を憎んでいた理由はわからないが、憎む理由があっても
おかしくないことは俺もよくわかる。

だが、俺がクロヴィスを殺した時に感じた罪悪感を、こいつは幼い頃に味わった
のだ……どれほどのショックだったか。そのトラウマを、マオに抉られたのだろう。

.
 ルル(……わからないでもない、この変化は)

 スザク「……」


どうにかして気持ちを吐き出させないと、精神が自壊してしまう。
俺は、再びスザクの前に腰を下ろし、言葉を慎重に選びながら、スザクの口を
開かせようとする。


 ルル「スザク……黙って聞いててくれ……ッ?」

.
……その時、俺はふと、膝を抱えているスザクの腕に視線が止まった。
彼の腕には……何かの注射をした後が、ぽつり、ぽつりとついていた。
注射といっても、針ではなく何らかの、インジェクションを利用したような……


 ルル「お前、それは……」
    「……いや、お前まさか!?」

 スザク「……」

.
その注射跡が意味することを察した俺は、ガバッと立ち上がり、部屋の中を見回す。
殆ど物のない部屋だ、"それ"は見当たらない。ということは、入れている場所は
ひとつしかない……写真の立ててあった、机の引き出しの中だ。

俺は机まで駆け寄ると、引き出しを勢いよく開く。
そこには、インジェクション方式の注射器と、すでに使用済みのアンプルのビンが
いくつか転がっていた……

.
 ルル「おい……これは、何だ!」

 スザク「……」

 ルル「まさかお前、"リフレイン"を……!」

 スザク「…………」コクリ

 ルル「……!」

.
━━━━ 区切り用しおり 彡 ⌒ ミ ここまではげた ━━━━

.
彡 ⌒ ミ  申し訳ございません、多忙により1か月ほど更新を停止いたします!
(´;ω;`) 3月末の再開を目指します、何卒ご容赦をお願い申し上げます……

.
⌒ ミ
ω;`) ありがとうございます、必ずや……!

.
彡 ⌒ ミ
(´;ω;`) 忘れておりません、もうしばらくのご辛抱を……

.
■エリア11政庁 空中庭園 ─────

エリア11の厳しい冬も、じき終わりを告げつつある頃……

……トウキョウ租界の中央に位置する巨大な建造物、総督府政庁。
その屋上には、クロヴィスの指示により、ブリタニア本国にあるアリエスの離宮に
模した庭園が設けられている。
庭園では、サクラダイトを利用した気温調節システムが構築されており、冬にも
関わらず至る所で鮮やかな花が咲き誇るという不思議な風景を生み出していた。

その庭園で、ユーフェミアはひとり、芝生の上に腰を下ろしていた。
彼女は先ほどから、周囲の気配を気にしながらこっそりと、耳にケータイをあてて
いたのだが……

.
 ユフィ(……今日も出ないわ……)
     (スザク、一体どうしたのかしら……)フゥ…


"CALLING..."と表示されたままのケータイを切り、ため息をついた。

……1週間ほど前から、スザクに電話をしても彼が出なくなった。
その前あたりから、電話の向こうから聞こえる彼の声に生気がなくなったことを
気にかけていたのだが、彼が電話に出なくなったことでますます心配になった。

.
本当は、スザクの所に直接行って様子を見てみたい。
しかし、それはさすがにできなかった。

ゲットーの旧都庁での件以来、コーネリアは彼女に対し、強力な監視を強いていた
からだ。隙を見て抜け出すことも叶わない。
かろうじて、彼女が公務で政庁を出る時に、あらかじめ彼に連絡をし、行く先で
ほんのわずかの間に顔を合わせることくらいしかできなかった。あるいはこうして、
ケータイで連絡を取り合うくらいだ。

だが、そのケータイにスザクが出ない。
この1週間、ユフィは、自分が何か嫌われることをしたのだろうかとずっと気に病んで
いる状態だった。

.
 ユフィ(やはり、スザクにとって私って、迷惑なのかしら……)
     (夢みたいなことを言って、彼も巻き込んで……)

     (行政特区の件、シュナイゼル兄様は応援してくださるけど、お姉様にはまだ)
     (話せないままで、ぜんぜん前に進まない……でも、スザクは「あせらないで、)
     (ゆっくりと実現しよう」って、励ましてくれていたのに……)


スザクが、旧日本の首相の子息だということが、行政特区のアイデアに繋がって
いた。彼がイレヴンの人々の信頼を集め、やがては行政特区の日本側の代表として
日本人たちを率い、ブリタニアの代表である自分と手を携えることを夢見ていたのだ。
そのために、彼がゲットーの復興を指導する立場となれるよう、色々と配慮をして
きたのだった。

.
 ユフィ(……大丈夫なのかしら、スザク……)

 ??「やはりここにいたのだな、ユフィ」


突然、何者かに背後から声を掛けられた。ユフィは驚き、振り向く。
そこには、微笑みながら彼女に近づくコーネリアの姿があった。
ユフィはにっこりと微笑み返しつつ、そっと後ろ手でケータイを隠し持った。


 ユフィ「お姉様、今日はもう公務はお済みですか?」ニコッ

 コーネリア「いや、合間の休息だよ」テクテク
        「ユフィにひざまくらをしてもらおうと思ってな」…トスッ

.
そう言いながらコーネリアは、ユフィの傍に腰を下ろすと、そのまま寝そべって
頭をユフィの膝の上に預け、目を瞑った。
ユフィは、そんな彼女の顔を優しく見つめながら、そっと頭をなでる。


 コーネリア「久しぶりだな、こういう時間は……」
       「エリア11に来て以来、予想外の事が多すぎた……」スッ…プニプニ

 ユフィ「……きゃっ!?」
     「お姉様、おなかをつままないでください!///」

 コーネリア「ん?デスクワークばかりで、太ったんじゃないか?」ニヤ

 ユフィ「んもう、お姉様ったら……///」

.
……ユフィによるスザクへの援助は、コーネリアも知っている。
勿論快く思っているわけではないが、イレヴンの慰撫にも繋がっている事、そして
スザクとは直接には会っていない(ということにしている)事で、かろうじてお目こぼしを
得ている状況だ。


 ユフィ(電話で話してることを知られたら、取り上げられそうだわ)
     (ましてや、スザクの様子を見に行きたい、なんて言ったら……)
     (……やっぱり、何とか理由を作って抜け出さないと)

.
 コーネリア「……ユフィ、兄上が近々、このエリア11に来られるそうだ」

 ユフィ「シュナイゼル兄様ですか?」

 コーネリア「うむ、何やら、式根島という島に用があるそうだ」
       「その島で、久しぶりに会おうという話になった」

 ユフィ「式根島……聞いたことのない島ですね?」

 コーネリア「ああ、私も初耳だよ、聞けば単なる無人島らしい」
       「兄上がなぜそんな島に興味を示されたのか……」

       「……ユフィはどうする?一緒に来るか?」

.
それを聞き、ユフィはチャンスだとひらめいた。
気にかかっているスザクの様子を見に行く、絶好の機会だ。


 ユフィ「ごめんなさい、あまり気が進みません……」

 コーネリア「そうだな、ユフィはそんな島に行く必要はないさ」
       「兄上をここに連れてくるよ……待っているがいい」ニコッ

 ユフィ「ええ、お待ちしていますとお伝えください」ニッコリ

彡 ⌒ ミ 
(´・ω・`) ゆるりと再開いたしました。

.
■租界 貿易商事務所 ─────

過去の幸せだった頃の記憶を幻視として見せる麻薬、"リフレイン"……
最近、イレヴンの間で急速に広まりつつあるものだったが、まさかスザクがそれに
手を出しているとは思わなかった。

スザクの部屋でそのことを知った俺はその日の夜、密かに奴を貿易商の、この間まで
C.C.が使っていた部屋に連れてきた。いや、正確にはそこに監禁することにしたのだ。

.
ベッドに寝かせられた状態のスザクは、麻薬が与える多幸感がまだ持続しているのか、
時折微笑んでは何事かをつぶやく。


 スザク「……フフ……小鳥は、オレに任せろって……」

 ルル(一体、何を思い出しているんだろうか……)


本来、薬物中毒患者は病院で治療するのがベストだ。
だがそれには専門の知識を備えたスタッフを持つ医療機関が必要であり、今の騎士団
にはそんなツテは全くなかった。エリア11でそれが期待できる所は、総督府が運営を
する警察病院しかない。

.
それに、スザクの症状はまだ軽いものと思われた。今なら、誰かの付き添いがあれば、
比較的早期にリフレインを断てるかもしれない。

……実を言えば、行政特区の件でスザクが言った脅しの言葉は、今でも俺の頭の中に
こびりついている。
このままこいつが廃人になれば、ゼロが俺であることやそれをナナリーにバラされる
という心配はなくなる、という考えも浮かんだ。しかし……


 ルル「……スザク、俺に任せてくれ」ニコッ

 スザク「……」

.
己の父親に対し、激しい憎悪を抱いていたということについて、俺はスザクへの
新たな共感を感じていた。奴の今の姿は、俺がギアスという"力"を持たなかった
場合に、なっていたかもしれない姿のように思えたのだ。

スザクを捨てる、というルートは、排除した。

とはいえ、ゼロとスザクに個人的なつながりがあることを、他の誰にも知られては
ならない。だから、俺自身がスザクの世話をするしかなかった。
一応、念のため、万が一ということもあるかもと思い、C.C.にもそのことを話して
みたが……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……というわけだ」
    「俺以外で奴の世話をできる人間は、お前かシャーリーしかいない」

 C.C.「……」モグモグ


俺の部屋で、勝手にベッドへ寝そべりながらピザをつまむC.C.に、俺は先日からの、
スザクにまつわる問題を説明した。
ひととおり話し終えた俺はひと呼吸を置き、改めて彼女に尋ねてみる。

.
 ルル「……C.C.、俺が忙し」

 C.C.「お断りだ」モグモグ

 ルル「い時……そう言うだろうと思った」ハァ

 C.C.「シャーリーとやらに頼め」
    「あの娘なら、喜んで手伝うだろう」モグモグ

 ルル「彼女には、俺の仕事は手伝わせないと決めている」

 C.C.「"仕事"ではないだろう?」モグ…
    「お前の個人的な関係じゃないか」ジー

.
 ルル「……」

 C.C.「あの娘といいスザクといい……」…ムクッ
    「……お前は最近、少しおかしいぞ?」

 ルル「何だと?何がおかしいと言うんだ」

 C.C.「クロヴィスを撃った時の覚悟が、今は失せている」
    「まるで、ただのアッシュフォードの学生だ……」

 ルル「!!…………」プイ

 C.C.「……その自覚はないのか?」

.
 ルル「…………」
    「……今は、騎士団の運営も順調だ、ハデな戦闘もしていない」
    「だからお前には、俺がヒマそうに見えてるだけだろう?」ニッ

 C.C.「……」フゥ


俺の言葉に、C.C.は小さく溜息をつく。
その時俺は、彼女がたびたび、俺の前でため息をつくことに気付いた。

.
……思えば、ナリタでこいつは、曲がりなりにも"矜持"を見せた。
かつては家族のように過ごしたという者に銃を向け、引き金を引いたのだ。
契約の成就のためとはいえ、俺の「腹を決めた」という言葉に従って……

……だが、ここ最近の俺は、どうだろうか?
こいつの言う通り、覚悟に鈍りが出ているのだろうか?


 ルル「……」ジ…ッ

 C.C.「……なんだ?」

 ルル「いや……何でもない」プイ

 C.C.「??」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……ナリタでの決断、そして今回のスザクに対する対処も、別に間違って
いると思ってはなかった。
だが、あの時のC.C.の言葉は、俺の心の底にずんと重く沈み込んでいた。


 ルル(……やはり、アッシュフォードを卒業し、全てのしがらみを断ち切ってから)
    (行動を始めるべきだったのだろうか?)
    (であれば、シャーリーも俺の問題に巻き込まれはしなかっただろう)
    (あるいはスザクも、こうなる前に救いがあったのかもしれない……)

.
スザクが眠るベッドの傍らで、椅子に腰かけながら物思いに耽っていると、
ポケットの中のケータイが鳴った。騎士団との連絡用のケータイだ。
液晶には「P1」と表示されていた。


 ルル「……どうした?」

 扇『ブリタニアに動きがあった』
   『情報どおり、コーネリアが式根島へ向かうようだ』

.
 ルル「そうか……ラクシャータは予定通り合流できそうか?」

 扇『ああ、明日の朝にはトウキョウ湾の沖合に到着するそうだ』

 ルル「わかった、私も後ほどそちらへ戻る」
    「部隊に召集をかけておけ、我々も式根島へ向かうぞ」…ピッ


ケータイを切った俺は、思わず唸った。
このタイミングで、コーネリア達が動くとは……!

.
 ルル(くそッ……幸いにして、スザクの中毒症状はまだ軽いから良いものの、)
    (誰も見る者がいなければ再びリフレインに手を出してしまうはずだ!)
    (シュナイゼルがエリア11に来るという絶好のチャンス……)
    (この機は絶対に逃せないが、しかしスザクも放置できない!)
 
    (C.C.を置いていくか?……だが、奴は世話をしないと言い切った以上、)
    (置いても何の役にも立つまい……)
    (となると……あるいは、咲世子か?……いや、咲世子は今回も、)
    (俺が留守をする間のナナリーの世話を任せるつもりだ、)
    (スザクの世話まで見切れまい……)

.
俺は、限定されたルートの選択に苦慮していたが……
やがて、ため息をひとつつき、ケータイでとある番号をプッシュした。


 ルル「……俺だよ……遅くにごめん、いま大丈夫か?」
    「詳しいことはまた明日言うけど、ひとつ、頼みがあるんだ……」

⌒ ミ 
ω・`) ゆるゆると。

シャーリーって腐女子だっけ

.
■アヴァロン内 デッキ ─────

シュナイゼルが新たに建造させたフラッグシップ、「アヴァロン」は、翌々日に行われる
初の外洋航行へ向けて、ブリタニアのドックで最終調整中にあった。
そのデッキでシュナイゼルは、エリア11の政庁執務室にいるコーネリアと、オンラインで
通話をしていた……


 シュナイゼル「……そうか、随分と早い出発だね?」

 コーネリア『はい、宰相をお出迎えするのに、こちらも警備体制を整える必要が』
       『ありますから……急いで手筈を整えます』

.
 シュナイゼル「我儘を言ってしまったかな?」

 コーネリア『いえ、お気になさらず』ニコッ
       『……それよりも兄上、なぜ式根島に御来訪を?』

 シュナイゼル「ちょっと、調べものがあってね」ニコッ

 コーネリア『調べもの?』

 シュナイゼル「詳しい事は、現地で話すよ」
       「君にも関係がある……と、言えるかもしれない」

.
 コーネリア『私にも、ですか……?』
       『……ならば、現地でのお話、楽しみにいたします』ニッ

 シュナイゼル「うん」コックリ
       「それでは、式根島で……」

 コーネリア『良き船旅を』…ピッ


通話を終えたシュナイゼルは、消えたモニタを見つめながら少しの間考え込んだ。
やがて、艦長席に腰掛けると、傍らに立つカノンとバトレーに話しかける。


 シュナイゼル「明日の朝には準備が整うのだったね?」

.
 バトレー「はっ、夜間も作業を行いますので、ご予定は滞りなく……」

 シュナイゼル「そうか……」
       「カノン、出発を1日遅らせたいのだけど、どうかな?」ニコッ

 カノン「ええっ!?」ギョッ
     「それは……し、少々お待ちを、予定を確認いたします!」パラパラパラ…

 バトレー「殿下、準備は無理のないよう行っておりますが……?」

 シュナイゼル「そうではないよ、別の理由だ」
       「変更が無理なようなら、予定どおりに……」

.
 カノン「えー……帰国直後にオディッセウス様との会食が入っておりますが?」

 シュナイゼル「兄上か……なら、お願いしてみてくれないか」
       「きっと快く、変更を受け入れてくださるはずだ」ニッコリ
       「ああ、できれば私が戻るまでは、そのことを内密に、と」

 カノン(確かに、あの方なら何の問題もないわね……)ンムー
     「かしこまりました、早速その旨をお伝えいたしますわ」カツカツ…

.
足早にデッキから姿を消すカノンの後ろ姿を見送るシュナイゼルに、
バトレーはそっと耳打ちをする。


 バトレー「……殿下は、あの遺跡を早くご確認されたい、というお考えだったと、」
      「私は記憶しておりますが……」ボソボソ

 シュナイゼル「うん、そう慌てなくても遺跡は消え去りはしないと思い直したんだ」
       「……それよりも、私の動きを誰が把握しているかを知りたくなってね」

 バトレー「なるほど……」
      「では、配下の者たちにも、計画通りだと思わせておきます」

 シュナイゼル「そうだね、それがいい」コクッ

.
⌒ ミ 
ω・`) >>110 この世界では腐です。主にニーナのせい。

.
■黒の騎士団 潜水艦内 艦長室 ─────

 ゼロ(このタイミングで、ラクシャータが潜水艦を引き連れて我々に合流できたのは)
    (幸いだった……おかげで、式根島にナイトメアを持ち込むことができる)カタカタ

    (コーネリアは今頃、島に相当の防衛体制を敷いているだろう)
    (だがゲフィオンディスターバのおかげで、探知されずに上陸が可能だ)

    (ククク……シュナイゼルが到着したその鼻先で、祝砲を打ち上げてやる)
    (フフ、連中の驚く顔が想像できるぞ……)カタカタ

.
少し前に俺は、潜水艦内のミーティングルームで、騎士団の組織構成の変更を
発表した。
桐原翁という資金面での強力なバックアップに加え、ラクシャータという強力な
技術開発部門を手に入れたことで、騎士団は本格的な軍隊として機能できる
ようなったからだ。

これまでの、ゲリラ戦を前提とした細胞方式を一新し、即時のトップダウンが可能な
組織構成に変更。各部門には代表を配置し、それら全てを俺が統括する形にした。
つまり、今までは何事を諮るにも最終的には俺の裁可が必要だったのだが、
この変更により、部門単位であれば独断での行動も可能になったのだ。
言ってしまえばオーソドックスな組織構成だが、今後騎士団がますます巨大化する
ことを考えれば、標準的な構成にするのがベストだろう、という判断による。

.
俺は、艦長室のデスクに向かい、コーネリアおよびシュナイゼルを捕縛するための
戦術を練っていた。
ここで連中を捕えることができれば、ブリタニアの名声に計り知れないダメージを
与えることができ、加えて母上暗殺の真相に肉薄できるはずだ。


 ゼロ(さて、どういう布陣でゆくか……)
    (シュナイゼルは旗艦から出ることはあるまい、ならば旗艦を孤立させ、)
    (乗り込むしかないか……?)カタカタ

 C.C.「……スザクはどうしたんだ?」

 ゼロ「!」カタ…

.
デスクの横のベッドに寝そべっていたC.C.は、唐突にそう尋ねた。
俺は奴の方を向き、冷ややかに答える。


 ゼロ「……気になるか?」

 C.C.「別に……」

 ゼロ「別に、という程度の関心なのに聞くのか?」

 C.C.「私は、お前にしか興味がない」

 ゼロ「……どういう意味だ」

.
 C.C.「お前が、どういう選択肢を選んだかが気になっただけだ」
    「言いたくないなら別に構わない」

 ゼロ「……」
    「スザクの事は、シャーリーに任せた」

 C.C.「ふうん……」

 ゼロ「…………」

.
仰向けになり、パイプが多数這っている天井を見つめながら、気のなさそうな
生返事を返すC.C.……
僅かの間、その意図をいくつか想定してみた俺だったが、考えるだけ無駄だという
結論に即座に達し、デスクに向きなおす。

しばらくの後……


 C.C.「……気になるか?」…ゴロリ

 ゼロ「……」カタカタ

.
……彼女は、身体をねじり俺の方を向くと、そう尋ねた。
俺は、PCに向かい式根島での戦術を組み立てながら、その言葉を無視する。


 C.C.「……シャーリーのことが気になるか?」

 ゼロ「答える義務はない……」カタカタ

 C.C.「……」ジー…

 ゼロ「……お前は、俺達が上陸した後もここに残っていろ」カタカタ

 C.C.「なぜだ?」

.
 ゼロ「なぜ、だと?」
    「ナイトメアの操縦もできないのに、上陸する気だったのか?」カタカタ

 C.C.「私は、お前から離れない」ジー

 ゼロ「なら本気で、操縦の練習をしろ!」カタッ
    「玉城も言っていたぞ、お前がまともに練習しないとな!」

 C.C.「……」プイ

 ゼロ「……お前のために、"無頼"を1台余分に用意したんだからな」
    「島から戻ったら、千葉から操縦を教わるんだ」

.
 C.C.「嫌だ、どうして私が、あんな格好悪いものに……」フン

 ゼロ「恰好などどうでもいいだろう!」バン!!

 C.C.「どうでもよくない、恰好こそ重要だ」
    「……ふふっ、しかしカレンも、よくあんなものに嬉々として乗るものだ」
    「ドラマなら悪役だぞ、あの見た目は……」クスクス

 ゼロ「…………お前、カレンに決してそれを言うなよ?」
    「彼女は"紅蓮"を愛しているんだからな……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン「……っくしゅん!」

 玉城「おッ、カレン、珍しく風邪でも引いたかァ?」

 カレン「違うわ、ちょっと鼻がむずむずしただけよ……」グスン
     「って、珍しくって何よ!」

 玉城「べえーっつにィー?」ニヤリ
    「頼りにしてるゼェ、零番隊の隊長さンよォ~!」カツカツ…

 カレン(……なんか今、誰かが"紅蓮"をバカにしたような気がする……)
     (誰よ?私の紅蓮にケチつけたら許さないわよ……?)グスグス

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「人の好みまで否定はしないさ」
    「……そうだ、ルルーシュ、ランスロットを強奪してこい」
    「あれなら乗ってやらないこともない」

 ゼロ「……き……貴様という奴は……ッ!」ギリッ…

 C.C.「それか、私も一緒に乗れるナイトメアを作れ」
    「操縦がへたくそなお前を、私が助けてやろう」ニヤ

 ゼロ「なぜ教習車のようなナイトメアを作らねばならんのだ!」
    「いいな、お前は潜水艦に残ってろッ!」

 C.C.「しようがないな……」ゴロン

.
■租界 貿易商事務所 ─────

……オレは、ふと、自分が今寝ているベッドの置かれたこの場所が、どこだったかを
思い出せないことに気付いた。

どこかのビルの一室に思える……10畳以上の大きさはありそうな、白い壁の部屋。
室内には生活感があった。前に、誰かが暮らしていたかのような、様々な生活用品が
目に付く。ほんのりと、何か香木のような残り香を室内に感じた。


 ??「あっ……起きたんだ?」
.

.
ベッドの傍らから、誰かに声をかけられた。
オレは、声を発した存在へゆっくりと顔を向ける。
そこには、学生服姿の女の子が、椅子に座りニコニコと微笑みながらオレを見ていた。


 スザク「……」

 ??「具合、どうかな?お腹すいてない?」
    「何か食べたかったら、冷蔵庫のものを好きにしていいってルルが言ってたよ」

 スザク「……君は……」
.

.
その時、ようやっと思い出した。
"リフレイン"の効果を楽しんでいた所をルルーシュに見られたオレは、ここの一室に
連れてこられたことを。確かここは、彼の事務所だ……
目の前の女の子は、オレの様子にやや不安そうな表情をした。


 ??「……えっと、スザクくん……大丈夫、かな……?」
    「わたし、誰だかわかる……?」

 スザク「…………シャーリーさん……」 

 シャーリー「!!!」
        「良かったあ、知らないって言われたらどうしようって思ってた!」パアッ!!
.

.
オレに名を呼ばれた彼女……シャーリーは、一気に破顔した。
それから彼女は、自身がここにいる経緯を、かいつまんで説明しようとする。


 シャーリー「えっとね、ルルは今、どこかへ出張に行ってるらしいの」

        「数日の日程らしいんだけど、その間、スザクくんの様子を覗きに」
        「きてくれ、って頼まれてね、さっきここに来たとこだったの」

 スザク「……」

 シャーリー「スザクくん、聞いたよ……中毒性のあるクスリを使ったんだって?」

        「ダメだよ、そういうのは……ルルもすっごく心配してたよ?」
        「もっと症状が重かったらどうしようもなかった、って」
.

.
 スザク「……」

 シャーリー「あっ、でもね、私もずっとはいられないの」

        「学校も行かなきゃいけないし、お母さん心配させられないしね」
        「だから、時間のある時しか来れないんだけど……」

 スザク「……」

 シャーリー「今、具合はどう?大丈夫?」

        「もし、またクスリが欲しくなったら、これを飲んでくれ、って言ってたよ」
        「中毒症状を緩和するんだって……よくわからないけど……」

 スザク「……」
.

.
オレは、オレがあの銀髪の男に心を切り裂かれた時のことを思い出していた。
彼女はあの時、オレ同様に、認めたくない事実を知らされたはずだ。
あれからどうしたんだろうか……オレのように、誰にも言わず、苦しんでるのか?
それを、ルルーシュにも明かさずに……?


 シャーリー「スザクくん、2・3日の辛抱だからね?」

        「ルルが戻ってきたら、ちゃんと面倒見るって言ってたよ」
        「病院も手配してるとこだって、だから安心して……」

 スザク「……シャーリーさん、君は、もう知ってるのか?」

 シャーリー「えっ、何が?」
.

.
 スザク「……………………」
     「…………」

 シャーリー「……」


……あの、銀髪の男から聞かされた"真実"……
ルルーシュがゼロであり、彼女のお父さんはゼロの作戦によって命を奪われた、
ということを、彼女は理解しているんだろうか。それを、尋ねてもいいんだろうか。
でも、彼の手伝いをしているということは、やはり知らないんだろうか……

……オレの沈黙の意味を、彼女は悟ったようだった。
寂しそうな微笑みを浮かべ、彼女は答える。
.

.
 シャーリー「……うん、知ってる……」

 スザク「……」

 シャーリー「あの時、スザクくん、言えなかったんだよね?」
        「私のお父さんのこと……」

 スザク「……」

 シャーリー「でもね、ルルが、ぜんぶ教えてくれた……」
        「済まなかった、って」

 スザク「!!」
.

.
 シャーリー「全部、言ってくれたから……」
        「もう、いいんだ……」


済まなかった?……それだけ?
もしかして、それだけで、彼女は父親が殺されたことを許したのか?
たった一言の謝罪で?告白だけで?本当なのか?

怪訝そうなオレの表情に気付き、彼女はうなだれながら答える。


 シャーリー「………………本当はね、」
        「……もうね、わかんないの、わたし」
.

.
 スザク「……」

 シャーリー「ルルがしてきたこと、そして今してることも、だいたい知ってる」
        「できれば、やめてほしい……って思ってる」

 スザク「……」

 シャーリー「今でも、あのことが突然頭の中に浮かび上がることがある」
        「そのたんびに、動悸が激しくなって、吐きそうになる……」

 スザク「……」

 シャーリー「……でもね、わたし……」
        「……嬉しいの、その、こと……が……」
.

.
 スザク「……?」


そう言って、彼女はゆっくりと顔を上げた。
大きな瞳に、うっすらと涙を浮かべながら……


 シャーリー「……変だよね、でも、すごく、嬉しいの」
        「ルルがいろいろ、話してくれたことが、嬉しく、て……」

 スザク「…………」
.

.
 シャーリー「……あれから、ルルはね、できるだけ、話してくれる」

        「全部じゃないだろうけど、言えることは、教えてくれてる」
        「たぶん、それが、私へのつぐないだって、思ってる……」
        「……そう感じるの」

 スザク「……」

 シャーリー「……だからね、」グスッ
        「スザクくんのことも、ちゃんと見にくるからね?」

 スザク「……」
.

.
 シャーリー「ルル、スザクくんを、ほんとに、心配してた……から……」
        「クスリに逃げちゃ、ダメだよ……?」ニコ…

 スザク「……!」


微笑んでみせた彼女の潤んだ瞳から……ひとつぶの涙が、溢れ出て頬を伝った。
逃げるな、という言葉にオレは、身体を刺し貫かれたような衝撃を受ける。


 スザク「……逃げ……」

 シャーリー「…………えっ?」
.

.
 スザク「…………」

 シャーリー「……あっ、そ、そういう意味じゃないよっ!?」
        「スザクくんが逃げてるって意味じゃなくてね……!」

 スザク「……」

 シャーリー「酒は飲んでも呑まれるな、っていうよね!そういう意味だから!」

        「適量を超えたらダメだよ!……っていうか、クスリの適量って」
        「どのくらいなのか知らないけど、そういう意味だよ!?」

 スザク「……」
.

.
 シャーリー「あのっ、その……ご、ごめんね、変なことばかり言って!」
        「スザクくんこそ今、すごく大変なのに……!」

 スザク「……」

 シャーリー「その……き、今日はとりあえず、帰るよ!」

        「お薬はベッドの傍に置いておくから!」
        「お腹がすいたら冷蔵庫!出歩くのはノーグッド!」

 スザク「……」

 シャーリー「何か読みたい本でもあったら、教えてね!」ガタッ!!

        「代わりに買ってきてあげるから!」
        「じゃあ……また明日!しっかり休んで!」パタパタ…バタン!!
.

.
彼女は、何やら慌ただしく喋ったかと思うと、いきなり帰る宣言をした後に
足早に部屋を出て行った。

ふたたび孤独になったオレは、部屋のベッドにうつぶせになっていた。
何もする気になれなかった。また、眠りにつこうと思った。

しかし……
.

.
 スザク(…………"リフレイン"が欲しい)
     (あの、幸せな瞬間をまた感じていたいな……)

     (ルルーシュや彼女の言うとおりだ、これ以上続けていたらダメになる)
     (もう二度と使うつもりはない……でも、最後に1回だけ……)
     (そうだ、1回くらいなら……それを最後にするから……)

     (……租界だと、どこで手に入るかな……)
     (イレヴンの多い地区に行けば、あるいは売人が……)


……いつの間にかオレは、自分が"リフレイン"のことばかり考えているのに気付いた。
その瞬間、彼女が先ほど語った内容を思い出し、急いで傍に置かれた薬を飲んだ。
.

.
喉を掻きむしりたくなるほどではないが、気を抜いた瞬間にふらりと買いに行って
しまいそうな……そんな心地悪い焦燥感。これがまさに、禁断症状なのだろう。
アパートに一人でいた時は、この欲求には全く逆らえなかった。欲求を感じた途端、
ふらりと、"リフレイン"を求めてゲットーをさまよい歩いていたのだ。

薬を飲み、そんな抑えがたい欲求を必死に思いとどまる努力をしていたが、
十数分も経過すると徐々に、欲求が行動を促さなくなってきたことに気付く。
ルルーシュが置いて行った薬は、確かに効果があるようだ。


 スザク(……すまない、ルルーシュ……)
     (君には、助けてもらってばかりだ……)
.

.
■式根島 ─────

 コーネリア「……なに?兄上は遅れる、だと?」

 司令官「はっ、先ほど司令部にてご連絡を……」
      「式根島への到着は予定よりも多少遅れる、とのことです」

 コーネリア「ふむ……」
        「警備体制は、すでに整えたのだな?」

 司令官「はっ、ぬかりはありません」
      「いつご到着されても問題はありません」

.
 コーネリア「そうか……念のため、島内に偵察を派遣せよ」

        「兄上がここに到着され、再び発たれるまでの安全を、」
        「完璧に保証できる体制を維持するのだ!」

 司令官「イエス、ユアハイネス!」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……先発で式根島に送った偵察からの報告によると、コーネリアの乗った軍艦は
すでに港に到着しているものの、シュナイゼルのものと思しき船は未だ見当たらない、
とのことだった。

.
潜水艦のブリッジでその報告を聞いた俺は、出撃準備を終えてここに集まっていた
各部隊長の面々を見回す。


 ゼロ「予定が狂ったのか……」
    「常に緻密な計画をし行動に移すシュナイゼルらしくないことだな……」

 藤堂「……どうする、ゼロ?」
    「今回の目的は、シュナイゼルの捕縛にあるのだろう?」

 ゼロ「ああ、それと特派のランスロットの強奪も、だな」

.
 ラクシャータ「あんなの、別にいらないと私は思うけどねぇ……」
      「まぁ、ゲフィオンディスターバのテストを兼ねて、」
      「とっ捕まえてみようかね……」ニヤ

 カレン「敵の警備は、どんな感じです?」

 ゼロ「ほぼ想定通りだ、我々が、潜水艦でナイトメアを持ち込んでくることは」
    「前提条件にない警備状況だな」


元々、式根島は戦略拠点として殆ど価値のない島だ……
設置されている基地も、本土防衛としての機能よりも、訓練施設としての側面の
方が遥かに強い。攻めるのはたやすい話だ。

.
……だが、そのような島をシュナイゼルが訪問する理由が、現時点でも全く
つかめていなかった。あの男が、大した理由もなくエリア11の島に来るはずが
ないのだ。何か、重要な案件があるはずだが……それがわからない。

俺は先ほどから、その不快感を内心で持て余していた。


 ゼロ「……ラクシャータ、艦のステルスはどのくらいの時間まで有効だ?」

 ラクシャータ「時間制限なんてないよ、アレが機能し続ける限り、」
      「あちらからはこっちを探知しようがないさ」

 ゼロ「ふむ」

.
 ラクシャータ「ただ……音響までステルスできるわけじゃないのよ、」
      「あまり相手に近づくと、見つかっちゃうだろうねぇ」

 藤堂「接近してきたら、こちらは停止するしかないわけだな」

 ラクシャータ「そういうこと」

 ゼロ「……状況が始まれば、迅速に作戦を展開し迅速に去る」
    「ステルスについてはその程度で十分だ」
    「だが……作戦開始は、しばし待つ」

 朝比奈「シュナイゼルがいないうちから始めても、意味ないよね」ニッ

 仙波&卜部「うむ」コクリ

.
 千葉「では、開始は事態に応じて、ということか?」

 ゼロ「そうだ、全員臨戦態勢を維持したまま一時待機せよ」
    「私は艦長室にいる、偵察からの報告は随時上げてくれ」バッ…カツカツ


……シュナイゼルは、なぜあの島に来るのか?しかも、なぜコーネリアと
落ち合うのか?なぜ、政庁ではないのか?なぜ、あの男はそのような、
奇妙な選択をしたのか……

他の者が相手ならそんなことは気にしない、どういう思惑であろうと、
こちらの戦略に相手をはめ込んでしまえば結果が出せると確信して
いるからだ。

.
だが、シュナイゼルは別だ……俺は、チェスですら奴に勝てたことがない。
奴はいつでも、掴みどころのない曖昧な笑顔の下でこちらの手の内を全て読み、
思惑の外から不意に仕掛けてくる。

今回の想定外の状況も、肝心な部分の情報が手に入らないことも、もしそれが、
奴の戦略のうちであるならば……!


 ゼロ(何かが引っかかる、まるで、重要な案件を忘れているような感覚だ……)
    (……ええい、くそッ!奴を捕まえさえすればいい話だ!)
    (早く来い、来るんだ、シュナイゼル……!)

.
|⌒ ミ 
|ω・`) 気づいたらGW…

GWだから30レスぐらい書こうかハゲ

.
■租界 貿易商事務所 ─────

……ルルーシュの置いて行った薬のおかげで、オレは久しぶりに、安らかな眠りを
手に入れた。起きて時計を見れば2~3時間の、ごく短いものだったが……それでも、
身体が休まった感はあった。

目が覚めると、窓の外は夕刻となっていた。


 スザク(……おなか、すいた、な……)


先ほどシャーリーが言っていたことを思い出し、オレは室内にある冷蔵庫の扉を開く。
中には、レンジで調理できるレトルト食品が、数多く収められていた。

.
オレはその奥に、ピザの箱を見つける。


 スザク(ピザか……わけて食べられるし、丁度いいかな……)


箱を取り出し、フタを開ける。
そこにはピザの形をした───しかし全体が緑色の毛のようなカビで覆われた、
ふわふわした物体が2・3切れ入っていた───!


 スザク「なんだこれぇ!」ポイッ

.
オレは驚愕と嫌悪感のあまり、箱を投げてしまった。
緑色のモノは、勢いよく箱から飛び出すともんどりうって床に投げ出され、
くたりと寝そべった。


 スザク(ぇええ……これ、ルルーシュの仕業なのか?)
     (とても彼らしくない不始末だ、後で注意しておかなくちゃ……)


床の上のモノを掃除できる道具が何かないか、オレは部屋の中を見回す。
と、突如、よく聞きなれた音が、どこからか流れ始めた。

.
 スザク(この音、なんだっけ……そうだ、オレのケータイの音だ!)
     (どこから鳴っているんだ?)


オレは、音の出所を探して回る。
それは、オレの着替えが詰めてあったバッグの中からだった。
ルルーシュがオレをここへ連れてきた時、一緒に詰めたのだろう。

バッグを見つけたとたん、音は止まってしまった。
オレはバッグを開き、中からケータイを取り出すと、着信履歴を見る。
そこには、ユフィの名が表示されていた。


 スザク(……ユフィ……!)

.
"リフレイン"に手を出して以降、何度か彼女からのコールがあったが、電話に
出ることが怖くて、どうしても取れなかった。今の惨めな状態を、彼女には知ら
れたくなかったのだ……
オレはしばらく、手の中でケータイを、開いてはまた閉じたりを繰り返しながら、
じっと考えこんでいた。

今のオレを取り巻く状況、そしてユフィを取り巻く状況。
ユフィとの出会いという夢のような出来事から一転、過去という沼の中に引きずり
込まれ、その苦痛から逃れるために"リフレイン"にまで手を出した自分。

しかし、そんなオレでも、彼女はきっと許し、共に目標を目指そうと励ましてくれる
ことだろう……そういう女性だから。だが……

.
 スザク(……これ以上、彼女から"逃げ"るのはだめだ)
     (はっきりと言うべきだ、オレは彼女が思うほど立派な人間ではない、)
     (そして彼女と到底釣り合うような身分でもない……)

     (……彼女は大好きだ、できればオレは、彼女の騎士になりたかった)
     (でも、それはやはりできない話だ……オレはイレヴンで、父親殺しで、)
     (しかも日本の進む道を捻じ曲げてしまった男だ)
     (これ以上、オレと関わるのは、ユフィにとっても不幸だ……)

     (……次に電話があったら、必ず取ろう)
     (そして、感謝の気持ちと……さよならを、伝えよう……)

.
もっと早くに出会っていれば……あのまま、ブリタニア軍の中にいたままなら、
オレは今よりももっと長い時間を、彼女と一緒に過ごせたのかもしれない。
あるいは、いずれは本当に、彼女の騎士にも……


 スザク「……"リフレイン"が欲しいなぁ……」


……オレは思わず、ぽつりと独り言を漏らす。
その、自分の言葉のあまりのひどさに、オレは大きな部屋の中でただひとり、
ヒステリックな笑い声をあげた。
それは、知らず溢れる涙と共に、一向に止む気配がなかった……

.
|⌒ ミ 
|ω;`) >>160 遅筆で申し訳ない…

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■式根島 未明 ─────

 ラクシャータ「ほら玉城、なにしてんだい、搬送を急ぐんだよ!」
      「太陽が顔を出すまでに準備を終えないと!」

 玉城『わーッてる、わかってるッてンだよッ!』
    『……ッたく、特務隊っつーから期待すりゃ、要するに雑用じゃねェか……』

 南『ぼやいてるヒマがあるなら動けよ!』
   『隊員にいいトコ見せんだろ?』

 カレン『期待してるわよ、特務隊のた・い・ちょ・う・さん?』

 玉城『うっせえ!ッたくよォ……!』…ピッ

.
 藤堂『紅月隊長、ちょっといいか?』
    『我々の取り得る戦術のオプションについて、打ち合わせをしておきたい』

 カレン『了解です、そちらに向かいます!』ピッ


……シュナイゼルの動きが判明しないまま、俺達が式根島に到着してから2日目を
迎えようとしていた。
このまま何もせず、租界へ引き返すという手もあったが、俺は一つの賭けに出た。

.
 ゼロ(コーネリアの動きから推測すれば、シュナイゼルが到着するのはおそらく、)
    (本日の午前中になるはずだ……コーネリアはそれ以降の予定があるため、)
    (租界に帰らざるを得なくなる、彼女に逢うために呼んだのであれば、たとえ)
    (僅かでも顔を合わせる時間を設けるはずだ……)

    (いかに宰相とはいえ、エリアの総督に対し完全な待ちぼうけを食わせること)
    (はできまい……それに照準を合わせよう)


夜明けを前に、黒の騎士団の面々は数時間後に行われるであろう戦闘の準備に
追われている。俺は、潜水艦のデッキで各方面からの報告を受けながら、同時に
ブリタニア側の動きを逐一追っていた。

.
そこへ、艦長室から出てきたC.C.が俺の所まで歩いてくる。


 C.C.「……ゼロ、後で少し話がある」テクテク

 ゼロ「なんだ?今済ませられないのか?」

 C.C.「……お前とだけ話したいんだ」

 ゼロ「なら、作戦終了まで待て、」
    「俺もじき、"無頼"で島に上陸を……」

 C.C.「その前がいい」

.
 ゼロ「……時間があれば、な」

 C.C.「時間を作れ」テクテク…


それだけ言うと、彼女はまた艦長室の方へ向かった。
俺は、その後ろ姿をため息交じりに見送ると、しばしの間業務をデッキスタッフに
伝え、足早に艦長室へ戻った。

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ「……なんだ!俺が忙しいのは分かっているだろう!」バタン!!


俺は、艦長室に入り、後ろ手でドアを閉めるなり、ベッドにねそべっているC.C.を
怒鳴り上げた。この状況で、我儘にも程がある……!


 C.C.「結局、シュナイゼルは来るのか?」

 ゼロ「ああ、そのはずだ!」

.
 C.C.「そうか……」
    「……お前、あの娘が言った言葉を覚えているか?」

 ゼロ「あの娘?誰だ?何のことだ?」

 C.C.「ナリタ山で、シャーリーが言った言葉だ」

 ゼロ「シャーリーが……?」
    「何と言ったことだ?一体、お前は何が言いたい?」

 C.C.「ルルーシュ、お前、シュナイゼルを捕まえて何を話すつもりだ?」

 ゼロ「何を、だと?……分かっているだろう!」
    「母さんが殺された真相を……!」

.
 C.C.「……シュナイゼルは、見逃すんだ」

 ゼロ「……なに?」


俺は、C.C.が放った意外な言葉に、思わず奴の顔を凝視した。
仰向けの彼女は、俺の方を見ようともせず、言葉を続ける。


 C.C.「奴を捕まえても、何もわかりはしない」

 ゼロ「……どういう意味だ?」

 C.C.「言いたかったのはそれだけだ」…ゴロン

.
奴は、それっきり壁の方を向いてしまった。
その、あまりの勝手な言いぐさに、俺は我を忘れ激昂した。


 ゼロ「貴様、俺に母親の死の真相を調べるなと言いたいのかッ!」
    「俺がどれだけ、母親の仇を追い求めているのかを分かってそう言うか!」

 C.C.「……」

 ゼロ「いや、それよりも……」
    「……なぜ、シュナイゼルを捕まえても意味がないなどと言えるんだ?」

 C.C.「…………」

.
 ゼロ「……フン、例によってだんまりかッ!お前はいつもそうだな!」
    「言いたくないと言っては肝心なことを……ッ?」


……その時、俺はふと思い出した。C.C.は元々、クロヴィスに捕えられていたことを。
そして俺がクロヴィスを誘拐した時も、こいつはクロヴィスを殺さないように言った。

クロヴィス、コーネリア……そしてシュナイゼル。
さらに、こいつに出会ってからの、さまざまな出来事……
俺の頭の中で、それらが全て繋がりそうな……奇妙な感覚を覚えた。

.
 ゼロ(……なんだ、この感覚は?)
    (式根島に来てから、ずっと感じていた違和感はこのことだったのか?)

    (クロヴィスは、なぜこいつを捕まえていたんだ……?)
    (コーネリアも俺と同様、暗殺事件の真相を探っていたと言っていた、)
    (ではシュナイゼルは、なぜこの島に……?)

    (なぜ、こいつは……俺にギアスを与えた……?)
    (マオには与え、クロヴィスには与えず、俺には与えた……)
    (なぜだ?なぜ……)

.
言いかけた言葉を飲み込み、そのまま考え込む俺を、C.C.は静かに見つめる。
その時、机上のマイクロホンから声が流れた。


 団員『ゼロ、もうじき夜が明けます!』
    『式根島へ上陸されるなら、今のうちにお願いいたします!』ピッ

 ゼロ「……わかった、すぐ戻る!」カチッ


応答スイッチを切った俺は、ベッドの上のC.C.を一瞥して小さく舌打ちをする。
そのまま何も言わず、部屋を飛び出した。

.
 ゼロ(くそ……クソッ!どうもこの島は好かん!)
    (とっとと作戦を終わらせ、租界に戻るぞ……!)カツカツ


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.(……V.V.の意識を感じる)
    (あいつも、この事態に注目している……間違いない……)

    (ああ言って釘を刺しておけば、ルルーシュも考えるはずだ)
    (シュナイゼルを捕えることに、それ以上の意味があるということを……)

.
……この先のことを考えていた私は、"声"に気付き身体を起こした。
しばらく黙って聞いていたが、少し腹立たしさを覚える。


 C.C.「……うるさいな、何度言われようと同じだ」
    「お前たちだけですればいい……」
    「……別に妨げる気はない、私の目的を邪魔しない限りはな……」

.
■式根島 ─────

黒の騎士団の強襲部隊は、夜陰に紛れて式根島に上陸し、森の中に潜んだ。
夜が明け、そして昼になるまでにはシュナイゼルが来るはず……
その時を、全員が息をひそめて待ち構えていた。

やがて……


 卜部『……接近する敵航空機あり、距離3000……』
    『どうやら、あれがシュナイゼルの機体のようだな』

 仙波『しかし……妙に大きくないか、これは……?』

.
 朝比奈『……大型輸送機?』
      『いや、それにしても……確か、船だという情報のはず……』

 千葉『……藤堂さん……これは?』

 藤堂『……』

 ゼロ『……全員、そのまま待機だ』
    『開始は私が言う、それまでは絶対に動くな』

 カレン『……了解』…ゴクッ

.
その機体が徐々に近づくにつれ……騎士団のメンバーはみな、息をのんだ。
航空機かと思いきや、それはなんと……空中戦艦だった……!


 ゼロ(……な、なんだこれは!?)
    (シュナイゼルは、こんなものを作らせていたのか……!?)

 ラクシャータ『……やられたわ……フロートシステムを完成させてたなんて……』

 玉城『おッ、おい……どうすンだよゼロォ!?』
    『とりあえず、ミサイルでも撃ち込ンでみッか……?』

 ゼロ『やめろッ!攻撃した途端にこちらの位置が把握されるッ!』
    『ゲフィオンディスターバの効果を台無しにする気かッ!』

 玉城『あ、ああ……』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……兄上も、相変わらずだな……」
       「このようなおもちゃを作らせていたのか……」ニヤッ

 ロイド「セシル君、きみの理論が空を飛んできたねぇ~」ニコニコ

 セシル「こうして目の当たりにすると、さすがに感慨深いですわね……」ハァ…

 ジノ「……ロイドさん、あれに新型のナイトメアも積んでるんだろ?」

 ロイド「うん~」
     「複座型のナイトメアだよ、ここで使うんだってー」ニコニコ

 ジノ「ふーん……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ(おのれ……船ならば、潜水艦からの魚雷攻撃という手が使えたが、)
    (空中の、しかもあれだけ巨大なものに対しては、小型VTOL向けの)
    (対空ミサイルでは効果が全く期待できない!)

    (ましてやこちらは、奇襲を前提とした構成……)
    (闇雲に攻撃を仕掛ければコーネリアらから総攻撃を受ける!)
    (あの空中戦艦の攻撃力が不明だが、あれで上空からの絨毯爆撃でも)
    (行われた日には、こちらの壊滅的打撃は必至……!)

    (想定外だ……あんなもの、完全に想定外……ッ!)
    (指をくわえて見ているしかないとは……)
    (おのれ、おのれシュナイゼル……ッ!)ギリ…

.
彼ら黒の騎士団が全く動きをとれない中、シュナイゼルが乗る空中戦艦は、
式根島の基地滑走路に静かに着地した。
基地所属の兵士たちやコーネリアらが出迎える中、降ろされたタラップの上を、
微笑みながらゆったりと歩くその人物は……


 朝比奈『……スコープでシュナイゼルを確認』

 藤堂『きたか……!』

 ゼロ(兄上……!)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル「……コーネリア、遅くなって済まなかったね」ニコッ

 バトレー「……」カツカツ

 コーネリア「全く、とんでもないもので乗り付けられたものです、兄上……」ニコッ

 ロイド「ほんとに作っちゃったんですねぇ、殿下~」
     「実用化は、データを取ってからって、言ってませんでした~?」ニコニコ

 シュナイゼル「うん、君たちが作るものは皆興味深いからね……」ニコッ
       「つい実現したくなるんだよ」
       「どうかな、セシル・クルーミーさん……君が、そうだよね?」

.
 セシル「はっ、はい……!///」
     「初めてお目にかかり、大変恐縮です……///」

 シュナイゼル「そうかしこまらずに……」ニコッ
       「君の理論通り、このくらいの大きさでも十分実用化できたよ」
       「もっと大きなものも建造できそうだね」

 セシル「はい……」
     「翼による揚力が不要になりますから、形状も自由になります」

 シュナイゼル「その通りだ……これは本当に素晴らしい技術だよ……」ジー

 セシル「あ、ありがとうございます……///」

.
 ロイド「殿下~、あのー、僕の理論の方は……」

 シュナイゼル「ああ、アヴァロンに積んできたよ」ニッコリ
       「早速、神根島に持ち込んでみよう」

 コーネリア「ところで兄上……話というのは?」

 シュナイゼル「それは、あちらについてから話そう」
       「君もいっしょについてきてほしい」カツカツ

 コーネリア「はっ……」
       「……ギルフォードとダールトンは戦艦の護衛を」カツカツ

 ギルフォード「はっ!」

 ダールトン「イエス、ユアハイネス!」

 ジノ「……あのー、殿下、私はどうすればよろしいでしょうか……?」

 シュナイゼル「ジノ、君もここで待っててくれないかな」
       「要件が終わったら一緒に本国へ帰ろう」

 ジノ「イエス、ユアハイネス!」
    (……あ、アーニャへのお土産を買うの、忘れてた……どうしよ……)

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 藤堂『……二手に分かれたぞ』
    『シュナイゼルらは、ここからまた隣の島に移動するようだな……』

 ゼロ(ククク……あちらから状況を作り出してくれるとは!)
    (しかも、お供は少ない……いいぞ、シュナイゼル!)
    (歯軋りしながら辛抱した甲斐があったというものだ!)

    『……これは好機だ!我々も二手に分かれる、藤堂らはここで待機!』
    『零番隊は私と共に、シュナイゼルを追うぞ!』

 藤堂&カレン『了解!』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ゼロたちは、シュナイゼルを追って神根島へと移動をする。そして、そこでようやっと
シュナイゼルたちの目的が判明した。彼らは、とある洞窟を目指していたのであった。

洞窟へ到着したシュナイゼルらは、新型ナイトメアを始めとした様々な機器を、
洞窟の中へ設置し始める。準備で慌ただしい中、コーネリアは彼に尋ねた。


 コーネリア「……兄上、ここは……?」

 シュナイゼル「クロヴィスが、生前に発掘していた遺跡だよ」

.
 コーネリア「クロヴィスが?」
       「……こんなところを、いつ、なぜ……?」

 シュナイゼル「それは、わからない」
       「偶然か、あるいは必然なのか……」

 コーネリア「必然?」
       「……兄上、ここは一体何なのですか?」

 シュナイゼル「それが、私もわからないんだよ」ニッコリ
       「古い遺跡であり……父上の研究の一部らしい、ということしか、ね」

 コーネリア「……皇帝陛下の……?」

.
 ロイド「ンでも殿下~、僕は考古学は得意じゃないんですが……」
     「特に、"超"のつくようなのは……」ハァ…
 
 シュナイゼル「そう嫌がらないでくれよ、今、ガウェインをちゃんと使えるのは、」
       「君しかいないんだから」

 ロイド「まぁ、そうですけどねぇ~……」

 バトレー「……殿下、準備にもうしばらくかかります、」カツカツ
      「どうかお待ちを……」

 シュナイゼル「そうか、ではそれまで私は、コーネリアと少し話をするよ」
       「コーネリア、いいかな、こちらに……」カツカツ

 コーネリア「はっ……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シュナイゼルたちは、式根島からVTOL機で運んできた機材やナイトメアを、
洞窟の中へと搬入し始めた。
シュナイゼルの訪問の目的は、この洞窟の中にあると見てほぼ間違いないようだ。


 ゼロ(……しかし、洞窟だと?)
    (外からは何の変哲もない洞窟にしか見えないが……)

 藤堂『……ゼロ、式根島はあれから動きがない』
    『ステルスも十分に効いているようだ』

 ゼロ「こちらは、宰相の目的が把握できた」
    「頃合いを見計らい、同時に行動を起こすぞ」

 藤堂『承知!』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……ゼロが?」

 シュナイゼル「うん、おそらく、皇族に相当な恨みを持っている、あるいは……」
       「……彼は、元皇族だろう」

 コーネリア「怨恨の線は、ダールトンも把握しておりましたが……」
       「元皇族?まさか……!」

 シュナイゼル「皇族と一言で言っても、傍流も含めれば人数は相当数になる」
       「どこかの地方で、冷や飯を食わされてきた者かもしれない」

.
 コーネリア「……しかしそうであっても、このエリア11に関係する者となると、」
       「相当限られてくるのでは?」

 シュナイゼル「すでにその線は洗ってみた……残念ながら、特定に至る者は」
       「いなかったよ」

 コーネリア「むう……」

 シュナイゼル「……コーネリア、嫌な事を思い出させるけど……」

 コーネリア「何でしょうか?」

 シュナイゼル「君は一度、ゼロと接触していたね?」

.
 コーネリア「……はい、ナリタで」

 シュナイゼル「彼は、君を放置して逃げた、と報告書にはあったけれど、」
       「あの時のことを何も覚えていないのかい?」

 コーネリア「はい……全く……」
       「恥ずかしながら、私は失神をしておりました……」

 シュナイゼル「そのことを疑っているわけではないよ」
       「ただ、何か妙なことはなかったかな、と思ってね」

 コーネリア「妙なこと?」
       「……そういえば、奴が私に向かって歩いてくる途中で、」
       「私は気を失ったようなのです」

.
 シュナイゼル「途中で?ふむ……」

 コーネリア「それから、ギルフォードが駆けつけてくるまでは……」
       「……ですが、そこまでは意識がはっきりとしていて、
       「記憶も確かなのです、それが不思議で……」

 シュナイゼル「そうだね…………」
       「……困ったな、ますますわからなくなってきたよ」

 コーネリア「というと?」

.
 シュナイゼル「ゼロの正体として最も疑わしい人物がいたのだが、」
       「もしその人物なら、間違いなく君を殺していたはずだ」

 コーネリア「……」

 シュナイゼル「それに……その人物は、もう死んでいるはずだからね」ニコッ

 コーネリア「えっ!?」


と、その時、遠方で地響きのような爆発音が響いた。
シュナイゼルとコーネリアは、ハッとして洞窟の出口を見る。

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 司令官「なっ、バカな!黒の騎士団だと!?」
      「一体どこから現れたんだ!?」


ゼロの合図により、藤堂らの部隊はステルス範囲から飛び出し式根島基地を
襲撃した。基地のレーダーでは、複数のナイトメア部隊が突如近辺の森に出現
したような形になった。


 藤堂『この島の守備連中は大したことはない!』
    『陽動に徹し、連中を混乱させろ!』
    『だが例の白兜には気を付けろ、現れたらケースRだ!』

 四聖剣『承知ッ!』

.
"無頼"に乗り、歩兵部隊を率いていた特務隊の玉城は、ランチャーを抱えて
空中戦艦、アヴァロンに狙いをつける。


 玉城「へへッ、お前の初めてはオレのモノだぜ……ってな!」
    「……ウラッ、食らいなッ!」ポヒュ!!


ランチャーから放たれたロケット弾は、煙の尾を引きながらアヴァロンの喉元に
喰らいつこうとした……だが、本体に着弾しそうに見えた瞬間、アヴァロンが
眩しい緑色の光に包まれたのが見えた。
そしてロケット弾の爆発後……船体には一切のダメージを与えてない様であった。

.
 玉城「おッ、おい南、これッて……!」

 南『ブレイズ・ルミナスの、バカでかいやつかよ……!』
   『こんなのに空を飛ばれたら、かなわねえぞ!?』

 玉城「チッ、しゃあねェな……どうやら特務の出番らしいなァ?」
    「……オウ、おメエら!あのデカブツを乗っ取るぞッ!ついて来いッ!」

 団員ら「アイサー!いくぞォッ!」

.
混乱した戦況の中、滑走路を走りアヴァロンに接近する玉城たちの部隊を見て、
基地の司令官は半狂乱に陥った。


 司令官「ばっ、バカ者どもがあ!」

      「殿下の船が乗っ取られたら我ら全員絞首刑だぞおッ!」
      「船を死守するんだ、絶対にッ!」

 守備隊「イ、イエスマイロード!」
     「全軍、殿下の船をお守りしろおおおお!」

.
個別に応戦をしていた基地の守備隊は、泡を食ってアヴァロン周辺に集結する。
それを見て、朝比奈はニヒルに笑う。


 朝比奈『へえ……玉城って人、意外とやるじゃん?』ニヤッ

 仙波『敵は、どうやらアレを奪われると本気で困るようだな……』
    『少佐、あそこに集中砲火を?』

 藤堂『うむ、特務隊を護衛しつつ、敵防衛に応戦せよ!』
    『船を乗っ取れば、こちらの勝利だ!』

 団員たち『了解っ!』

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

式根島の方から、にぶい爆発音が時折響いてくる中……
神根島では、洞窟の中と外でシュナイゼル達とゼロ率いる部隊が対峙していた。

洞窟の入り口を守っていた連中はカレンら零番隊の奇襲により殲滅。
シュナイゼルらは、中に入ろうとするゼロたちに掃射を浴びせ、侵入をかろうじて
防いでいた。しかし……


 コーネリア「……兄上!このままでは、じき弾薬が尽きます!」ダダッ、ダダダッ!!

 シュナイゼル「それは困った……ものだ!」カチャッ…パァン!!

.
 団員「ぐは!」…ドサッ!!

 ロイド「一撃必殺ですねぇ、殿下~!」ニコニコ

 シュナイゼル「ロイド、君は早く、ガウェインを起動してくれ!」カチャカチャ

 ロイド「さっきから、そう思ってるんですが~……」
     「あそこまで行くのに、身を隠すものが……」

 バトレー「貴様、こういう時こそ奉公の真心であろうッ!」
      「今すぐあそこまで走れ!弾丸など気合いで避けろッ!」

 ロイド「……じゃあ、将軍がお手本を見せてくださいよ~」ジトー

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン『ゼロ!どうしますか、全員で一気に突っ込みましょうか?』

 ゼロ「だめだ、突入時に集中砲火を浴びてしまう!」
    「あの新型と思しきナイトメアの性能もわからない状況で、うかつに突入を」
    「するのは危険極まる!……くそッ、奴らを中に閉じ込めたのはいいが、」
    「こちらも中に突入できないとは……!」


煙幕を投入すれば突入そのものはたやすくできるだろう。
だが、それだと誤って作戦目標……シュナイゼルを殺害してしまう恐れがある。
シュナイゼルだけは決して殺すわけにはいかない。今は、母親殺害の真相を知る
可能性のある者は奴しかいないのだから……!

.
そして、時間をかければかけるほど騎士団側は不利になる、式根島からの応援が
来る可能性が高まるからだ……これ以上、手をこまねいているわけにはいかない。


 ゼロ「……撃ち方、やめえッ!」


通信機を通し、シュナイゼル達を銃撃していた騎士団のメンバーに号令が飛んだ。
彼らは一斉に銃撃を止める……洞窟周辺に、静けさが戻ってきた。


 ロイド「……静かになりましたねぇ……?」…ヒョイ

 コーネリア「頭を出すな!撃たれるぞ!」

.
 ロイド「うわ!」アタフタ!!

 シュナイゼル「…………さあ、彼らはどう出てくるかな?」…フッ


シュナイゼルのつぶやきの直後、洞窟入口から何者かの声が響く。
ナイトメアの拡声器を通しての声ではあるが、彼らにとっては、犯行声明のビデオや、
あるいは直接に面と向かい、聞いた覚えのある声……ゼロの声だった。


 ゼロ「……洞窟の中にいる者に告げる、何者も今いる場所から動くことを禁じる!」
    「動いた途端、その者を蜂の巣にする!」

 バトレー「……こしゃくな……!」

.
 ゼロ「……シュナイゼル・エル・ブリタニア、」
    「そこにいるのは把握している、大人しく出てきたまえ!」

 シュナイゼル(……なるほど、君の目的は私か……)

 コーネリア「我が国の宰相を呼び捨てにするとは、いい度胸だな、ゼロ!」

 ゼロ「コーネリア……君には呼びかけていない、黙っていてもらおうか!」

 コーネリア「!!」
        「……貴様ァ……」

 シュナイゼル「……申し訳ないが、その要求には応じかねる!」

.
 ゼロ「ほう……では、この洞窟を己の墓穴にする、と?」

 シュナイゼル「……君にはわかっているはずだね、そちらが不利だということが!」
       「君には道が2つしか残されていない……」
       「私を殺すか、私をあきらめるか、の2つだ!」

 ゼロ「それは、私が選ぶ道ではない!君が選ぶべき道だ!」
    「私に服従するか、死を賜るか、二つにひとつだ!」

 シュナイゼル「……どうやら、妥協点は見いだせそうにないね!」

 ゼロ「ふむ……では、君が虐げてきた民衆に死を以て贖っていただこうか?」

 シュナイゼル「それで君の気が済むのなら……!」ニッ

.
 コーネリア「兄上!?」

 バトレー「でっ、殿下!」

 シュナイゼル「……コーネリア、君はナリタでゼロに殺されなかった」ボソボソ
       「つまり私を殺すのも彼の目的にはないはずだ」

 コーネリア「……しかしこちらには、弾薬が……」
        「もし、弾が尽きたことが知られたら……」

 シュナイゼル「その時は、覚悟を決めよう」
       「ブリタニアの総督、そして宰相として、ね」ジッ…

 コーネリア「……はっ」ゴクリ

.
 シュナイゼル「……だけど、多分その覚悟は必要ないだろう」ニコッ


シュナイゼルがそう言うと同時に、再びゼロの声が洞窟内に響く。


 ゼロ「……宰相閣下、私は、あなたに危害を加える気はない」
    「ただ、少し話をしたいのだ、姿を見せてほしい」

 コーネリア「!!」

 シュナイゼル「ね、そういうことだよ」ニッ
       「…………話をしたいなら、このままでさせてもらおう!」

.
 ゼロ「内密の話なのだ、あなたと、私だけの……!」

 シュナイゼル「……内密の話?」ピク
       「……コーネリア、彼と話をした覚えは?」

 コーネリア「いえ……ああ、カワグチ湖の事件では少し……」
       「ですがあの時は、囚われていたユフィのことで……」

 シュナイゼル「ふむ……」
       「……ゼロ、君はわざわざ私と話をするために、」
       「こんな所まで来たのか!」

 ゼロ「そうだ……話をしたいのだ!」

 シュナイゼル(……どういうつもりだ?)

.
ゼロの言葉を訝しむ彼らの方へ向けて、何か小さなものが床を滑ってきた。
一瞬緊張が走るが、すぐ近くで止まったそれは通信機のようであった。


 ゼロ「それを耳にあててくれれば通話ができる!」
    「話くらいはしてもよいだろう、シュナイゼル!」

 シュナイゼル「……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン「……ルルーシュ、このあたりでいい?」ボソボソ

 ゼロ「話くらいはしてもよいだろう、シュナイゼル!」
    「……ああ、ここでいい」ボソボソ


ゼロとカレンは、紅蓮で洞窟のちょうど真上あたりの地表に来ていた。
洞窟の入り口でナイトメアに乗り喋っていると見せかけ、実際は紅蓮の通話転送を
用いていたのだった。
紅蓮の遠隔モニタで見る限り、洞窟内のシュナイゼルたちにはまだ動きはないようだ。

.
見たところ、洞窟の天井はさほど厚くもなさそうだった……地面にパイルを撃ち込み、
紅蓮の輻射波動で天井を打ち砕いて突入、内部にいるナイトメアを破壊する。
ナリタの戦術の応用編といったところだ。


 ゼロ(それでチェックメイトだ……)
    (シュナイゼルを浚ってしまえば、後はこちらの思うがまま……)

 カレン「パイルの撃ち込み、けっこうでかい音がすると思う……」
     「すぐ輻射波動で破壊しないとバレちゃう気がするわ」ボソボソ

 ゼロ「うむ、俺の合図で迅速に行ってくれ」ボソボソ
    「……む、奴がつけたようだな」

.
 シュナイゼル『……これでいいかな?』

 ゼロ「感謝する、宰相閣下」
    「周囲に誰かいるのか?」

 シュナイゼル『コーネリアがいるが』

 ゼロ「ふむ……まあいいでしょう」
    「今さらですが、あなたがこの島に来た目的は、この洞窟だったのですね」

 シュナイゼル『……隠してもしようがなさそうだね』
       『ここは、君が殺した我が弟の、いわば忘れ形見でね……』

.
 ゼロ「ただの忘れ形見のために、公務の時間を割いて来るような貴方では」
    「ないでしょう……この洞窟には、何があるのです?」

 シュナイゼル『さあ……それを調べに来たのでね』

 ゼロ「ふむ……」

 シュナイゼル『こちらからもひとつ、聞きたいことがあるのだが』

 カレン「……そろそろいく?」ボソボソ

 ゼロ「何でしょうか?」
    「……よし、」

.
 シュナイゼル『……ルルーシュ、』

 ゼロ(……な……に……!?)


カレンに合図をすべく、手を降ろそうとしたその瞬間、通信機の向こうから聞こえて
きた己の名に、ゼロは……ルルーシュは、息をのんだ!
シュナイゼルは、まるで通話機を通してこちらの表情を読んでいるかのように、
少し間をあけた後に言葉を続ける。


 シュナイゼル『……どうしてクロヴィスを殺したのだ?』

.
……だが、次の瞬間にはルルーシュは、内心の驚愕を見事に抑え込んでいた。
ゼロらしさを崩さないよう、慎重に答える。


 ゼロ「民衆の敵の、必然的末路ですよ」
    「それと、私はルルーシュなどという名ではない、ゼロだ」

 カレン(え!?なに、今ルルーシュって……!)
     (シュナイゼルにバレてたの!?)

 シュナイゼル『そうか……私の推理は外れたようだね』

 ゼロ「どのような推理をされたのかお伺いしてみたいものだが、」
    「今はそういう時ではないですな……」

.
 ゼロ(くそ……くそッ!)
    (このタイミングで母上暗殺のことを尋ねれば、俺がルルーシュだと告白を)
    (するようなものじゃないか!)
    (……いや、逆だ!俺の名を出してくれたおかげで、奴が俺の正体に)
    (肉薄していたことがわかり、今バレてしまう事態を避けることができた!)
    (だが……これで、うかつに母上のことを聞けなくなった……!)

 カレン「……ちょっと、何かこっちに来る!」
     「式根島の方角からよ……すごく速い!」

 ゼロ「なに?」


レーダーが示す方向の上空を見ると、一機のナイトメアがこちらに飛翔してくる姿が
見えた。いや、ナイトメアが飛ぶなど、あり得ないはずだが……!?

.
 カレン「なに、あれ……って、白兜じゃん!?」

 ゼロ「空中戦艦の奴と同じだ!」
    「くそッ、ナイトメア向けのユニット化にも成功していたのかッ!」

 ジノ『……あら~、予想通り包囲されてるじゃないの!』

    『さてと、次期ナイト・オブ・スリーの実力を、殿下にもしっかりお見せして』
    『おきますかね!』ニコニコ

 セシル『ヴァインベルグ卿!』
     『そのフロートシステム、まだ改良途中だからフィラーがすぐ切れるの!』
     『片道分しかないと思って!』

 ジノ『片道ありゃ十分だよ!』
    『……っと、こりゃついてる……ゼロを発見ッ!』ニヤリ

.
 カレン「!!……見つかったわ!」
     「ルルーシュ、ここは任せて!」

 ゼロ「カレン、気を付けろ!」
    「決してやられるなよ……!」ダダッ!!

 カレン「わたしはあんたの親衛隊隊長よ!負けるわけないでしょ!」ニッ

     (…………ったく、空飛んでるなんて卑怯だわ……!)
     (スラッシュハーケンみたく、紅蓮の腕も飛ばせたらいいのに……)ググッ…

 ジノ『ハッハァー!ネズミを狙う鷹の気分だぜ!』
    『覚悟しな、赤いの!』ゴオオォォォ!!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シュナイゼルは、やはり侮れぬ敵であった。

洞窟の天井を破壊・侵入しシュナイゼルを浚う作戦は、実行直前に式根島から
飛来してきたランスロットに急襲されたことで失敗に終わった。
カレンは、フロートシステムをつけたランスロットに翻弄され、機体は大破した。
洞窟入口を包囲していた部隊も式根島からのミサイルの飽和攻撃で損害を被った。
我々は、かろうじてカレンを救い出し、隠していた船で島を脱出する有様であった。

式根島では、藤堂たちの部隊はアヴァロン奪取に失敗していた。
そもそも、アヴァロンを奪取する必要はなかったにも関わらず、それに攻撃を集中した
ことで防衛側も戦力を集中することができ、撃退されてしまったのだ。
危ういところで追っ手をゲフィオンディスターバの包囲陣の中に誘い込み、何とか
活路を見出したものの、藤堂達もほうほうの体で潜水艦まで逃れるという始末。

.
今回の作戦は、大失敗だったと言わざるを得ない……
ブリタニア側の捜索をかいくぐり、トウキョウ租界へ向かう潜水艦の中で我々は、
重苦しい空気に包まれながら総括を行った。
組織改編の直後の敗北というのは、あまりに堪える……


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……俺は、かつてないほど憂鬱な会議を終えた後、艦長室へ戻った。
部屋に入ると、行く前と変わらない様子で、ベッドに寝転ぶC.C.の姿があった。


 C.C.「……おかえり、ルルーシュ」ムクリ

 ゼロ「……」バタン…カツカツ

.
 C.C.「……お疲れのようだな?」

 ゼロ「ああ……本当に疲れた」…ギシッ


そう言いながら椅子に座った俺は、仮面を外すと背もたれに身体を預けきり、
天井を見上げる。
今回、俺は望む物を何ひとつとして手に入れることができなかった……それが、全て
シュナイゼルの策略のためではないのだが、奴がいなければあるいは、とも思う。


 C.C.「シュナイゼルはどうした?」

 ルル「……逃した」

.
 C.C.「そうか」…ゴロリ

 ルル「…………お前の望み通りの展開か?」

 C.C.「私の望みは、契約の成就だけだ」

 ルル「……」
    (そう言うだろうと思った……)

 C.C.「先ほど、廊下でカレンが騒いでいたようだったが?」

 ルル「……紅蓮を失ったんだ」

 C.C.「それでか……」

.
ただ単に失ったわけではない。
今回のランスロットは、ナリタの時とは比べ物にならないほどの機敏さで、紅蓮を
五寸刻みにしてみせた。明らかに、別のパイロットだ。
プライドまでずたずたにされたカレンは、先ほどまでずっと泣き叫んでいたのだ。


 ルル「ラクシャータも随分とショックを受けていたようだ」
    「あのフロートシステム、おそらく今後ブリタニアのナイトメアの標準装備に」
    「なるだろう……早急に対応策をとらないとならん」

 C.C.「……」

 ルル「……それよりも……」
    「シュナイゼルは、俺の正体に薄々気がついている」

.
 C.C.「ほう?奴と話したのか?」…ムクリ
    「お前をルルーシュだと?」

 ルル「そうだ、奴に、ルルーシュと呼びかけられた」
    「……あまりに唐突だった」

 C.C.「……騎士団の幹部に、裏切り者がいるのか?」

 ルル「いや、奴も確証のなさそうな様子だった」
    「情報漏れではなく、調査や推測による答えだろう」

 C.C.「……」

.
……公的には、俺はブリタニアの日本侵攻時に死んだことになっている。
しかしシュナイゼルが、ゼロの正体を俺であると疑っているならば、奴は必ず
俺のその後の消息を調べ直すはずだ。


 ルル「……くそッ……!」
    「俺とルルーシュの繋がりを断つ必要がある……!」
 
 C.C.「お前が、ルルーシュではないフリをするわけか……」
    「だが、お前はすでに多くの人間に知られ過ぎているだろう?」

 ルル「いや……最も問題となるのは、シャーリーとスザク、桐原翁くらいだ」
    「その誰にも、俺はまだギアスを使っていない」
    「最悪、忘れさせる手もある……」

.
 C.C.「……ふふ、最初からそうしていれば良かったんだ」

 ルル「!!」ガタン!!


奴の言葉が、俺の癇に障った。俺は身体を起こし、C.C.をキッと睨みつける。
だがC.C.は、俺の反応を全く意に介さず、冷ややかな目で俺を見つめていた。


 C.C.「ギアスか、銃か……」
    「そのどちらも選ばないから、こういうことになる……」

 ルル「……何を……」

.
 C.C.「シャーリーに正体を正直に明かして、お前は何を得られた?」
    「何も、だ……いや、ひとつだけ得たな、自己満足を」…クスッ

 ルル「貴様……」

 C.C.「お前は何者だ?ルルーシュ・ランペルージか?ゼロか?」
    「それともルルーシュ・ヴィ・ブリタニアか?」

    「……私には、今のお前はそのどれでもないようにしか思えない」
    「ふふ、ただの……ガキだ……」

 ルル「……黙れ」

.
 C.C.「いいや黙らない」
    「シュナイゼルは、必ずお前を追い詰めるだろうな……」
    「あるいは、お前の名を尋ねたのは、奴なりの優しさかな?」
    「早く自首しろ、とな……」クスクス

 ルル「……だ……だまれ……!」プル…

 C.C.「お前はできる奴かと期待していたが……」
    「ふっ、正体がばれそうになると結局記憶を消すのか……」
    「消せなければ、殺す……か?……私はそれでもいいのだけどな」

 ルル「……」ギリ…ッ

.
 C.C.「……お前はいつか、ナナリーを殺すことになるのかな?」ニッ…

 ルル「だ!……だまれえええええッ!」ガバッ!!


ナナリーの名を出された俺は、瞬時の激昂を抑えきれなかった。
椅子から飛び上がると、ベッドに腰掛ける奴に猛然と襲い掛かった。
そのまま奴の両肩をつかんで乱暴に押し倒す。


 ルル「き……貴様にッ!」
    「貴様に、俺の、俺達の何がわかるというんだッ!」ギュウッ…!!

 C.C.「……」

.
 ルル「俺が、ナナリーを殺すだと……!」
    「そんなことをするくらいなら、俺が死んだ方がマシだ!」

 C.C.「……ナナリーからお前の存在がばれそうになったら、どうする?」

 ルル「!!…………そんなことは……」

 C.C.「あり得るだろう?」

 ルル「……いや、ナナリーは……」

 C.C.「……そうなる前に、対策を打つべきではないのか?」

.
 ルル「!!…………た、対策……?」
    「対策……と、言ったか?…………ッ!」ブル…ブル…!!

 C.C.「…………」

 ルル「……お前は……俺が……俺が!」
    「俺が、ナナリーを殺すことを望んでいるのかアァッ!」バッ!!

 C.C.「!!!」


その瞬間、俺の視界は赤に染まり、視野は失われた。
これまでにない激情が、俺を突き動かした。

.
  :
  :
  :
  :

.
  :
  :

……しばらくの後、俺は、俺の両手が、C.C.の白く細い首を力任せに締め付けている
ことに気付いた。
奴の顔は膨れて紅潮し、苦しげに、弱々しくもがいていた。


 ルル(……俺は……俺は今、なにをしている……!?)

 C.C.「……ぐ……」プル…プル…

 ルル「……!!」

.
厚ぼったく腫れたC.C.の唇から漏れた、苦しげな呻き声を聞いた瞬間、俺は、自分が
今、何をしていたのかを理性で把握した。

それまで昂ぶっていた感情が一気に醒めてゆくと同時に、得体のしれない恐怖感が、
まるで背中を這い上がるかのように俺の心の中に潜んでくるのを感じ……
俺は、恐る恐る、ゆっくりと、手を奴の首から離した。
ようやっと呼吸のできたC.C.は、胸を大きく上下させながら激しくせき込み、荒々しく
息継ぎをする。

もし、このまま締め続けていたら……俺は、この手でC.C.を"殺した"ことだろう。
俺は、呆然とした面持ちで、ぽつりと呟く。

.
 ルル「……俺は…………ガキ、か……?」

 C.C.「…………」ハアッ、ハアッ…

 ルル「……ガキ、だよな……」
    「こんな…………愚かな、ことを……」

 C.C.「……」ハア…ハア…

 ルル「…………くそ…………!」ポタッ…

 C.C.「……!」ハア…

.
……知らず、涙がひとつぶ、こぼれた。

手痛い敗北を喫した上、これまで俺が良かれと思ったことが今、裏目に出かねない
状況にあることを把握しながら、その場しのぎの策で逃れようとする。
あまつさえ、激昂し共犯者の首を絞める己の愚かさに……


 ルル「……くそ…………ッ……!」

 C.C.「…………」
    「……ルルーシュ、」…スッ


……その頬に俺の涙を受けたC.C.は、静かに呼びかけながら俺の頬に手をあてる。
声色には、先ほどまでの冷酷は響きはなくなっていた。

.
優しく言い聞かせる母親のような暖かさで、彼女は語る。


 C.C.「…………お前は、欲張りすぎなんだ」
    「何もかもを手に入れようとするな……」

 ルル「…………」ポタ…

 C.C.「よく考えるんだ、お前が、本当に欲しいものを……」

 ルル「……ぐぅ……ッ」ポタ…ポタ…ッ

 C.C.「お前は、優しい男だ……しかしそれは、お前の首を締めかねない」
    「そのことを自覚しろ……」

 ルル「…………くそお……ッ!」ポタ、ポタ…

.
止めどもなく、涙を溢れださせる俺の頭を、彼女は両腕の中に包み込み、
その胸の中に静かに、優しく抱きよせた。
彼女の、精霊の響きを持つ声が、俺の耳元で密やかに囁く。


 C.C.「租界へ戻るまで、このまま、休むといい……」
    「……良いひと区切りだよ、ルルーシュ」

 ルル「ぐ……ぐう……ッ……!」

 C.C.「その後で、この先どうするかを、一緒に考えよう……」
    「共犯者である、私と共に、な……」

……屈辱と後悔と恥辱と焦燥に同時に苛まれながら俺は、先ほど己が絞め殺そうと
していたC.C.の胸の中で、ただ呻くことしかできなかった。

彼女の表情まではわからなかったが……


 ルル「うう!…………く……ッ!」

 C.C.「……私は、いつまでもお前の傍にいる……」
    「契約を果たすまでは……」


……多分、C.C.は、微笑んでいたのだろう。
それが余計に悔しいと同時に……そうであって欲しい、と俺は思った。

.
■エリア11 総督府執務室 ─────

 コーネリア「……東シナ海での動きはどうなっている?」

 ダールトン「はっ、現状では上海沿岸にいくつかの部隊が集結しているものの、」
        「中華連邦が公式に発表している軍事演習の想定規模を超える動きは」
        「今のところありません」

 ギルフォード「何らかの動きがあれば即応できるよう、警戒態勢は上げております」

 コーネリア「うむ……奴らは決して信用するなよ、」
       「宦官どもは笑顔を見せながら、背を向ければ刃を突き立てる連中だ」
       「騎士団の動きはどうだ?」

.
 ダールトン「はっ!」
        「現在のところ、エリア内の各拠点は……」


……先日の、式根島での襲撃に失敗をして以来、黒の騎士団は目立った動きを
していなかった。あの戦闘で騎士団側は、相当な痛手を負ったとの分析もある。


 コーネリア(中華連邦が動く前に沈静化してくれて助かったぞ……)
        (二方面作戦となると、今のエリア11の防衛力ではやや手薄に)
        (なる恐れがあったからな)

 ダールトン「……先日、騎士団の扇代表をTV出演させた局の件ですが、」
        「治安維持の名目で捜索を行い……」

.
 コーネリア(……しかし、あの時は驚いた)
       (兄上が、まさかゼロをルルーシュだと……)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル「コーネリアがいるが?」
       「……バトレー、君は下がっていてほしい」ボソボソ

 バトレー「はっ……」…ゴソゴソ

 シュナイゼル「……隠してもしようがなさそうだね、ここは、君が殺した我が弟の……」

 コーネリア(……何の話だ?)
       (奴は、兄上の目的を聞いているのか……?)

.
 シュナイゼル「……ルルーシュ、」
       「……どうしてクロヴィスを殺したのだ?」

 コーネリア(……え?)
       (ルルーシュ……と、いま兄上は……?)

 シュナイゼル「そうか……私の推理は外れたようだね」


そう言ったシュナイゼルは、コーネリアの方を向くとにこりと笑う。
その目は言葉とは裏腹に、愉快なことを見つけた時の彼の目そのものだった。

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア(……あの後、兄上に話を聞いたが、「あてずっぽうだよ」と、)
       (笑顔で答えられただけだった)
       (……そうだ、ルルーシュ達は、エリア11進出の際に死んだはずだ、)
       (それが、生きているなど……ましてや、ゼロなどと……)


その時、執務室の通話機が静かにコールを鳴らした。
ダールトンはすぐ応答スイッチを押す。


 ダールトン「何事だ?今会議中だぞ?」

.
 警備兵『はっ、申し訳ございません!』
      『私どもでは判断つきかねることがございまして……』

 ダールトン「なんだ?」

 警備兵『はっ、その……総督へのお目通しを、という……』

 ダールトン「何をふざけたことを……」
        「どうせアポイントもないのだろう、追い返せ!」

 警備兵『そ、それが……』
      『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだと言えばわかる、と……』

 ダールトン「ルルーシュ?何者だ……」

.
 コーネリア「……!!」
        「ギルフォード、通用門の映像を出せ!!」

 ギルフォード「は?……はっ」カチカチ…ピッ


ギルフォードが手元のリモコンを操作すると、壁にかけてあるモニタに
政庁の通用門の現在の様子が映し出された。
そこには、警備兵に止められた様子の人物が……車椅子に乗った少女と、
それを押してきたと見られる少年の映像が映し出された。


 コーネリア「顔をアップだ!」

 ギルフォード「はっ……」ピピッ

.
……モニタいっぱいに映し出された少年の顔……
それを見た瞬間、コーネリアは確信した。


 コーネリア(……ルルーシュ…………間違いない、ルルーシュだ!)
       (幼い頃の顔立ちが残っている……!)


彼女はギルフォードの手からリモコンを奪うと、今度は車椅子の少女に
カメラを向ける……
ぼやけた焦点が合った瞬間、やはり同様に確信を得られた。


 コーネリア(……ナナリー!お前も、生きていたのか……!)
       (マリアンヌ様の面影……間違いない、ナナリーだ……!)

.
 ギルフォード「……殿下?」

 コーネリア「……」


彼女は、数秒の間思案をめぐらしていた様子だったが、通話スイッチを押すと
警備兵に命令を下す。


 コーネリア「……その者達を、面会室に通せ」

 警備兵『イエス、ユアハイネス!』

.
コーネリアの意外な命令に、2名の専任騎士はやや驚いた様子だった。
彼等は、不思議そうに尋ねる。


 ダールトン「殿下、今の者は……?」

 コーネリア「…………」
        「亡霊、かもしれんな……」

 ギルフォード「はっ?」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……面会室に通されたルルーシュとナナリーは、警備兵からそこでしばらく待つように
言い渡される。
ナナリーは、兄が今まで避けるようにしてきた総督府へ自分を連れてきたことに対し、
不安が隠しきれない様子だった。


 ナナリー「お兄様……」

 ルル「……大丈夫、悪いようにはしないよ、絶対に」ギュ…


妹の手を取り、強く握りしめてやるルルーシュ。
彼も、ナナリーの内心の不安はよく理解していた。

.
 ルル(……だが、これが最善の道なんだ……)
    (俺を信じてくれ、ナナリー……)

 ナナリー「はい……」…ニコ


今回の"作戦"で一番の問題は、自分たちをコーネリアに合わせてくれるかどうか
であった。通常、アポイントもなく要人でもない者を、通していいかどうかと直接
総督に尋ねるバカはいない。優秀な門番であればなおさらだ。

……だが、それは彼にとっては問題にならない事だった。

.
 警備兵A「……なにい、総督にお会いしたい、だと?」

 ルル「はい……」ニヤッ

    「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが来た、面会を望んでいる、」
    「と総督にお伝えください」キュイイィ
    「あなたたちには判断できないことですから……」ィィィ…
    「……ですよね?」

 警備兵A「!!……ああ、判断できないな」

 警備兵B「オレにも判断できない……ちょっとここで待つんだ」
      「………………はっ、申し訳ございません……」

.
……おそらく先日神根島で、コーネリアはシュナイゼルから何らかの話を聞いて
いるはずだった。であれば、このタイミングで自分が姿を現せば必ず興味を示す。


 ルル(……ここまでは読み通りだ)
    (この先も、おそらく……)


そこへ面会室の扉が開き、事務員らしき女性が現れた。
身なりから察するに、総督の秘書にあたる人物だろうか。
秘書は、手で今入ってきた出入口を指した。

.
 秘書「……こちらにいらっしゃって下さい、総督がお待ちです」

 ルル「ありがとうございます」
    「……ナナリー、いくよ?」

 ナナリー「はい……」


車椅子を押しながらルルーシュは、秘書の後をついて、政庁の廊下を歩いてゆく。
クロヴィスを誘拐した時、すでに記憶していた通路ではあるが、彼は物珍しそうに
周囲をキョロキョロと見回す。


 ルル(通用門から今の瞬間まで、コーネリアはずっと俺たちを観察している)
    (俺が本当に本人なのか……そして、ゼロなのか……)
    (その判断材料を求めているはずだ……)

.
やがて、彼らは執務室の、大きな扉の前に着いた。
秘書は軽くノックをすると、少し間をあけて扉を押す。


 秘書「……総督、ルルーシュ様をお連れしました」

 コーネリア「うむ」


扉の向こうから聞こえる、コーネリアの声。扉はさらに大きく開かれる……
ルルーシュは、意を決したように、ナナリーを押しながら室内に入った。

ブリタニアの貴族の好みらしい、重厚な装飾で覆われた執務室の窓辺には、
巨大な書斎机が配置されている。その向こう側に、コーネリアが座っていた。
左右には、専任騎士であるダールトンとギルフォードを従えている。

.
机の上の小さなモニタを眺めている風の彼女は、こちらも向かずに声をかけた。


 コーネリア「ご苦労……用があればまた呼ぶ」

 秘書「かしこまりました」スッ…カチャッ


秘書は扉の向こう側へ姿を消した。
コーネリアは何も言わず、小さなモニタを無言で眺めている。
ナナリーの背後に立つルルーシュは、不安そうな表情を浮かべ……てみせた。


 ルル(……想定通りの"空気"だ、これでいい……)

.
だがナナリーにとっては、全く想定外の"空気"だった。
室内の誰ひとりとして何も言わない状況に、彼女は本当に不安そうな表情を
浮かべていた。ルルーシュは、安心させるように妹の頭をそっとなでる。

コーネリアは、モニタから目を離すと彼らの方を向いた。
だが、その眼つきは鋭かった。


 コーネリア「…………」
        「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……」

 ルル「はい……!」

.
名を呼ばれた彼もまた、コーネリアの顔を強く見返す。
互いの視線が空中でぶつかった。
瞬間、えも言えぬ緊張が室内に走る……だが、


 コーネリア「…………」
        「ナナリーをかばう時は、いつもその目をしていたな……」

 ルル「……!」


そう言うとコーネリアは、口元をほころばせる。
彼女の中で、ひとつの心証を得られたようだった。

.
 コーネリア「……久しぶりだな、ルルーシュ」ニッ

 ルル「はい……お久しぶりです、姉上」ニコッ

 コーネリア「うむ、元気そうで何よりだ」
        「ナナリー、お前も元気そうだな」

 ナナリー「はい、お姉様……」
       「今までご心配をおかけしました」ニコッ

 コーネリア「うむ……」コクリ
        「今は会議中でな……じきに昼食の時間だ、」
        「案内させるので、屋上の庭園で待っていてくれ」

.
 ルル「よろしいのですか?」
    「お邪魔なら、また次の機会に……」

 コーネリア「是非ともだ」
       「積もる話もある、ゆっくりしてゆけ」

 ルル「では……お言葉に甘えさせていただきます」ペコリ

 コーネリア「うむ」ニッコリ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……アリエス宮を模した屋上庭園で、彼らはかつて過ごした日々のように、
草むらの上で輪を描いて座っていた。
コーネリアと、ルルーシュ、ナナリー……それに、コーネリアから話を聞いて
慌てて飛んできたユーフェミアの4名だ。
ユーフェミアは、ルルーシュらの姿を見ると泣きそうになっていた。


 ユフィ「……二人とも……生きていたのね……!」ウルッ…

 ナナリー「ユフィお姉様……」ポロ…

 ルル「ユフィも、久しぶりだね……」

 ユフィ「はい……!」ニコッ

.
ルルーシュは、これまでのことをかいつまんで話した。
日本が消滅して以降、アッシュフォード家が自分たちの面倒を見てくれていたこと、
そのおかげで何一つ不自由なく、学生としての生活を過ごせていること……


 コーネリア「そうか……」
        「アッシュフォードも義理堅いものだな」

 ルル「彼らがいなければ、僕らはあのままのたれ死にでした」
    「返し尽くせない恩義があります」

 コーネリア「うむ……」

 ユフィ「ナナリーも、ルルーシュと一緒に暮らしてるの?」

.
 ナナリー「はい、学園のクラブハウスをお借りしているんです」

 ユフィ「そうか……よかったね……」ニッコリ

 ナナリー「はい!」ニコッ

 コーネリア「ルルーシュ……聞きたいことがある」

 ルル「なんでしょうか?」

 コーネリア「なぜ、もっと早くに出て来なかったのだ?」

.
誰でも抱く、想定通りの質問だ。
彼女のその疑問に、ルルーシュは憂鬱げな表情で答えてみせる。


 ルル「……僕たちがエリア11へ来ることになった理由と同じですよ」
    「うかつに出れば、皇位継承の争いにまた巻き込まれるかと……」

 コーネリア「ふむ」

 ルル「でも……もう"日本"は消滅しましたし、」
    「おかげで人質という立場ではなくなりましたからね」
    「今の僕らは、ただの民間人ですよ」ニッ

 ユフィ「……」

.
 ルル「それに、アッシュフォード家にはすでにご迷惑をおかけしている状況で、」
    「さらにナナリーの治療までお願いするわけには……」

 コーネリア「…………それが目的なのだな?」

 ルル「…………はい」

 ナナリー「お兄様……」


ナナリーは、自分がそこまで兄の負担になっているのかと思い、不安な声を漏らす。
そう考えるであろうことは予測できたが、"作戦"のために今回はあえてそれを避け
なかった。

.
 ルル「ナナリー、違うよ……」ニコッ
    「もし俺が突然いなくなっても、ナナリーが生きてゆけるようにしたいんだ」
    「だから……」

 ナナリー「そんなこと!」
      「……そんな、怖い事を言わないでください……」

 コーネリア「……俺、か……」
       「いつの間にか、ルルーシュも男らしくなったものだな……」ニッ

 ユフィ「私もそう感じました」クスッ

 ルル「姉上!……二人とも、からかわないでください!///」

.
 コーネリア「ふふっ……」
        「……ルルーシュ、ナナリーの治療を望むのか?」

 ルル「……俺たちの立場では、無理な望みなのはわかっています」
    「ですが、俺はもはや、姉上にしかおすがりする事ができません……」

 コーネリア「……精神的なもの、と聞いている」
       「あの頃からは医学も進歩していようが、治せるとは限らないぞ?」

 ルル「それも承知の上です……」
    「姉上、なにとぞ……」

 コーネリア「…………」
       「……私の権限内で、ということになるがな……」

.
 ルル「!!!」

 ユフィ「お姉様!」パアッ!!

 ナナリー「……ありがとうございます!」ポロポロ

 コーネリア「泣くな、ナナリー……」
       「これもマリアンヌ様の恩義への、わずかなお返しだ」ニコッ

 ルル「姉上……」ウルッ…

    (……そうだ、ナナリーに対する心証には何らの瑕疵もない)
    (姉上の性格から、こうなることは容易に推測できた……)
    (さあ……もうひとつ、聞くべきことがあるだろう、コーネリア?)

.
 コーネリア「……ルルーシュ、お前にはもうひとつ聞きたいことがあるのだ」

 ルル「……なんでしょうか?」ゴシゴシ

 コーネリア「先々週、お前は2・3日ほど、どこかへ旅行に出かけたか?」

 ルル「旅行?……いえ、行っていませんが?」キョトン

 コーネリア「どこへもか?」

 ルル「はい、ここしばらくは、どこへも……」

.
 コーネリア「……ナナリー、本当か?」ジー

 ナナリー「はい、お兄様は先々週はどこへも……?」キョトン

 コーネリア「ふむ……」

 ルル「姉上、なぜそんなことを?」

 コーネリア「……」


ルルーシュはともかく、ナナリーのごく自然な反応に、彼女は少しの間沈黙した。
こうなる事も推測済みであった。

.
 ルル(咲世子には、俺がいない間、可能な限り俺の代役を務めてくれと言ってあった)
    (長期に渡る遠征だと無理だっただろうが、幸いにして2・3日の間だけ……)
    (彼女は見事に、俺が学園にいたと周囲に思わせてくれた)
    (むしろ、ナナリーをどうやって信じ込ませたのか聞きたいくらいだった)

    (このことを知るのは、学園にいる者ではシャーリーだけ……)
    (もちろん、彼女からこれが漏れる可能性はない)
    (そして、ナナリーの反応を見て、姉上は……)

 コーネリア「……いや、バカバカしい話だがな、」
        「兄上は、お前がゼロだと思っていたようだ」

 ルル「兄上?」
    「……オディッセウス兄様ですか?」

.
 コーネリア「!!!……い、いや違う!!」
       「シュナイゼル……兄様、だ……!」プル…プル…


オディッセウスの名を出され、コーネリアは吹き出しそうになった。
そう思うのも無理はない、という感じだった。


 ルル「シュナイゼル兄様が……意外です」

 コーネリア「……ゴホン」
       「うむ、兄上も、あてずっぽうだ、と言っていたがな……」

 ルル「あてずっぽうにしても、方向性というものがあります」

 コーネリア「ふふ、兄上にそう伝えておこう」
       「オディッセウス兄様の推理かと思った、とな」ニッ

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……ルルーシュ、」

 ルル「何でしょうか?」

 コーネリア「……皇位の復活は望まぬのか?」ジー

 ユフィ「…………」ゴクリ

 ルル「……」

 コーネリア「復活すれば、私にすがらずとも妹の治療を行うことができよう」
       「お前にとっても、悪い話ではないはずだ……」

.
 ルル「姉上……」

 ユフィ「お姉様から、おとりなしをされるということですか?」

 コーネリア「ああ、無論だ」コクリ
       「私やシュナイゼル兄様から、皇帝陛下にとりなしを諮ってみる」
       「陛下のお考え次第ではあるがな……」

 ルル「……いえ、それには及びません」
    「皇帝陛下が一度お決めになったこと、そう容易には覆らないはずです」

 ユフィ「ルルーシュ……」

 ルル「……それに俺には、今の生活が合っています」
    「民間人だと言ったのは皮肉ではなく、本当の気持ちです」

.
 コーネリア「……」

 ルル「……姉上の、愚弟へのお心遣い、感謝いたします」ペコッ

 コーネリア「気に病むなよ……?」
       「身分に関係なく、お前は私の愛する弟なのだ」ニッコリ

 ユフィ「私もよ、あなたたちは私の兄弟なんですから!」ニコッ!!

 ナナリー「ありがとうございます……!」ポロッ…

 ルル「ありがとう……」ウルッ…

.
……彼女らの気持ちに対し、俺は自然と目が潤んだ。
そうだ、その気持ちと善意への感謝自体は嘘ではない。
コーネリアはナナリーのために、療養施設に空間を設け、そこから学園へも
通わせてくれることを約束したのだ。偽りなく、感謝の気持ちで胸が詰まりそうだ。

だが俺は、今までどおりクラブハウスに居住する。皇位など不要だ。
ナナリーとは離れてしまうが、学園でも、そして療養施設に足を運べばナナリーに
いつでも会うことができるのだ……しかも、エリア11の中では最高度に安全な
領域で、だ……何も問題はない。

本当に大事なものは、遠ざけておくもの……
かつてC.C.が俺に言った忠告を、俺は実践してみせた。
俺は、俺から論理的に最も遠い場所、ブリタニアの施設内に、ナナリーを預けた。

.
■帝都 ペンドラゴン宮殿 宰相執務室 ─────

ルルーシュらがコーネリアを訪ねてから数日後……
シュナイゼルは帝都の宮殿で、彼女からそのことの報告を受けていた。


 シュナイゼル「……それは、本人なのか?」

 コーネリア『はっ、後で調べさせましたが、』
       『間違いなくルルーシュとナナリー本人です』

 シュナイゼル「……」

 コーネリア『ルルーシュは、妹の庇護を求めてきました』
       『兄上……私の裁量で、ナナリーに治療を施すことを決めました』

.
 シュナイゼル「……そうか、疑わしさを感じなかったんだね?」

 コーネリア『はい、二人とも、私やユフィが知る、あの二人のままでした』
       『……いや、ルルーシュは幾分、男らしさが身についた様子でしたが』

 シュナイゼル「そうか……」

 コーネリア『………………』


こうして報告をしてくるのは勿論、神根島でシュナイゼルが言った言葉が
彼女の脳裏にあったことを、そして、にもかかわらず独断で動いたことに対し、
コーネリアなりの確固たる確証があったゆえであることを暗に示していた。

.
シュナイゼルも、今の時点ではゼロ=ルルーシュであるという確証は殆どない。
可能性としては、8%くらいだった……それも、他の者より行動の理由が強いという
だけであり、今回の彼らの行動はそれを3%くらいまで落とすものだ。

彼は、モニタの中のコーネリアに微笑んでみせる。


 シュナイゼル「……コーネリア、言った通り、この間の事はあてずっぽうだよ」ニコッ
       「彼にそのことを言ったのだろう?どう言っていた?」

.
 コーネリア『……オディッセウス兄様の推理かと思った、と』

 シュナイゼル「ふふ、兄上の、か……」ニッ
       「変わっていないようだね、ルルーシュも」

 コーネリア『はい』ニコッ

 シュナイゼル「皇位復活も望まない、か……」
       「陛下に『皇位などいらない』と言い切った、彼らしいな……」

 コーネリア『……………………』
       『……兄上……』

.
彼女の、返事を急かすような呼びかけに、シュナイゼルはやれやれといった風だ。
しばらくは思案顔であった彼だが……


 シュナイゼル「………………」
       「……君の裁量の範囲だろう?」…ニコッ
       「私は何も言うことはないよ、最善を尽くしてあげてほしい」

 コーネリア『……はっ、ありがとうございます!』

.
コーネリアとの通話を終えると、シュナイゼルは傍らのカノンに目配せをする。
彼は微笑みながら答えた。


 カノン「……殿下、見立てを下げられましたね?」

 シュナイゼル「君は逆のようだね?」

 カノン「タイミングが良すぎますわ」
     「私の所感では13%に上がりました」

 シュナイゼル「ふふっ……君は厳しいね」ニッ

 カノン「私は殿下の補佐ですから」ニコッ

.
 シュナイゼル「……では、両面作戦を展開できる案があるかな?」

 カノン「はい!彼の事を話題にさせましょう」ニッ
     「行方不明の元皇太子、エリア11で生存、と」

 シュナイゼル「ふむ……」

 カノン「耳目を集めれば、彼も動き難くなります」
     「そうすれば、ゼロか否かの判断もよりし易くなりますわ」

 シュナイゼル「……彼がゼロでないとしても、名乗り出た以上は、」
       「そのくらいのリスクは覚悟してもらうべきだ、ということだね」

.
 カノン「ええ、おっしゃる通りです」
     「弟君への教育上も、ノーリスク・ハイリターンは好ましくないかと」ニッコリ 

 シュナイゼル「うん……その案を採択しよう」ニッコリ

       「カノン、彼らの現状などを調査し、メディアへ適切にリークしてくれ」
       「元皇太子の現民間人、というキーワードがよいだろうね」

 カノン「かしこまりました!」ニコッ

.
■アッシュフォード学園 理事長室 ─────

 ルル「……事前の相談もなく行動をしました、」
    「申し訳ありません……」

 理事長「いや、わしらは気にしなくてもいいんじゃ」
      「君らの生き方は、君らで決めるべきなのだからな」

 ルル「ありがとうございます……」ペコリ

 ミレイ「でも、ほんとに良かったわね、」
     「総督がナナリーちゃんを見てくれるって……」

 ルル「ええ……覚悟をして思い切ってみましたが、結果が出せて幸いです」ニコッ
    「勿論、ナナリーへの恩義は忘れておりません、いずれは何らかの」
    「形で、お返しを、必ず……」

.
 ミレイ「それは気にしなくていいんだって!」
     「ね、おじいさま?」

 理事長「うむ……」コクリ

 ミレイ「それよりもさぁ……」
     「……ねえ、ルルーシュ?」

 ルル「何ですか?」

 ミレイ「…………このことも、覚悟してたの?」チラッ…

 ルル「ああ……」チラッ…

.
彼らが横目で見た理事長室の窓の外には、学園の生徒たちが物珍しそうにピタリと
貼りつき、中を覗き込みながらわいわいと騒いでいた。

先日の報道で、死んだと思われていた元皇族であるルルーシュが生存していて、
妹と共に政庁を訪れたことが報じられて以降、ずっとこんな状態なのだ。


 ルル「……してなかったですね……」ハァ…

 ミレイ「どうする?」
     「クラブハウスからよそに移る?」

 ルル「それはいいです、寝床にまで入って来るわけじゃないですし」
    「俺は、今までどおりの生活をするだけですよ」ニコッ

.
 ミレイ「そうお?」
     「ン……ならいいけどね……」ニコッ


元々、生徒会の副会長でもあり、またそのキャラクターとルックスから人気のあった
彼だが、その上元皇太子ともなれば人気が加熱するのは当然ともいえた。
今では、彼の一挙手一投足が話題の的であり、連日彼に好意を寄せる女性が
押し寄せては騒ぎをおこす有様。

……当然、シャーリーはそれが面白くない。


 シャーリー(……私だけのルルだったのに……)ブチブチ

 ルル「……何をスネてるんだ?」

.
 シャーリー「スネてません!」プイ!!

 ルル「わからないな……」フゥ…
    「今もこうして、お昼は屋上で君とだけ過ごしてるし……」

 シャーリー「……ルルは鈍感だからねー、」
        「ちょっとわかんないかもねー!」ムスッ

 ルル「……その卵焼き、うまそうだな」
    「ひとつくれないか?」ニコッ

 シャーリー「あげません!」プイ

 ルル「なぜだ……前はくれたじゃないか……」

.
 シャーリー(……この屋上を、何十人もの生徒に双眼鏡とかで見られてて、)
        (どうやってイチャつけっていうの!)プンスカ!!


そう、彼女との仲は公認状態だったため、それを邪魔する奴は許さないと彼が
言いきったおかげでこういう時間も今までどおり維持できたのだが、その代わりに
周囲にはものすごい数のギャラリーが渦巻くようになってしまった。


 シャーリー(うー……ルルとイチャイチャしたい~……)

 ルル「シャーリー……」ス…ッ

.
いつも通り、自然に彼女の肩に腕を伸ばすルルーシュ。

その途端、周囲300m四方に存在するものすごい人数から発せられた、悲鳴の
ような、呪怨のような空気が屋上をもわあっと包み込む。


 シャーリー「……」ペシッ

 ルル「いて!」

.
■ゲットー内 騎士団アジト ─────

 玉城「……プッ!今あいつ、手をはたかれたゼェ!?」ケラケラ

 藤堂「うむ……」

 扇「おい、彼もおふざけでやってることじゃないんだ!」
   「そういう見方は控えろよ?」

 玉城「わーッてるッてェ!」アヒャヒャヒャ

 カレン(……シャーリーが、ルルーシュの恋人だったのね……)ムスッ

.
いま彼らは、トップクラスの幹部専用のミーティングルームで、租界のTV局が報道して
いるニュースを皆で見ていた。
今日の昼間、屋上でルルーシュが彼女に手をはたかれたシーンは、その晩には
「元皇太子 恋は前途多難!?」というタイトルでニュースのワンカットで放映される。

……もちろん、そう仕掛けたのはシュナイゼル達だ。
最初は彼の生存を報道させ、その生い立ちや今の状況などを公表させた。

だが、これが実際に話題になりスポンサーもつき始めると、TV局は新たなスターを
発掘したかの如く、彼の日常を勝手に追い始めたのだった。
今ではこうして、番組内に「元皇太子コーナー」までできているのだ。


 カレン(「イレヴンをビックリドッキリ!」よりタチが悪い番組だわ……)ムスッ

.
 藤堂「改めて言うまでもないが、彼がゼロだという事は今ここにいる我々しか知らない」
    「決して漏らさぬよう、肝に銘じてくれ」

 扇「勿論だ」

 玉城「あいよッ!」

 南&井上「……」コクリ

 カレン「でも、ほんとにここまでの騒ぎ、予測してたのかしら……」
     「……ったく、あんなにデレッとして……!」ムスッ

.
映像では、そっぽを向いたシャーリーに必死に話しかけるルルーシュの姿が、
愉快なBGMやナレーションと共に流れていた。
カレンの顔を見た玉城は、例によって彼女をからかう。


 玉城「……おやァ?随分と不機嫌そうじゃねェの、カレンちゃーン?」

 カレン「わたしは、騎士団の総司令の、あんな姿を見たくないって言いたいの!」

 扇「……カレンがそう思うほどなら、彼の計画通りってことだな」フッ…

 藤堂「うむ」コクリ

 カレン「……まあね」ムスッ

.
 扇「……」ニヤッ
   「彼の目論見通りなら、いずれはこのバカ騒ぎも収まるだろう」
   「それまでにやらなければいけないことがある」

 藤堂「うむ……ゼロは?」

 扇「ああ、もうじき……」


その時、部屋の壁の一部が音もなく滑って開き、中からゼロとC.C.が姿を現した。
彼等は何も言わず、すぐそばにあった席に座ると、皆と一緒にTVを見る。


 ゼロ「ふむ……今日は卵焼きだったのだな」

.
 玉城「え!?ンまさか、アレも影武者なのかァ?」ギョッ!!

 ゼロ「そうだ」コクリ

 藤堂「大したものだ……」
    「もはや、本人以外にはわからないな」ニヤリ

 カレン(……そっか……)
     (今日は"お仕事"に集中してたのね……)ジー

 ゼロ「会議を始める前にひとつ確認をしておきたい」
    「ディートハルトはどうしている?」

 藤堂「やはり相当不満に思っているようだ」
    「常に君の傍にいたがってるからな」

.
 ゼロ「ふむ……だがこれまで同様、彼は"ランクA"だ」
    「"ランク0"をこれ以上増やす気はない」

 玉城「……おう」


ゼロの言葉に、神妙にうなづく玉城。

ランクは、彼の正体にどれだけ近い存在であるかを示す、新しい区分けだ。
ランク0(ゼロ)が、今この部屋にいる者達……その正体を知り、彼に忠誠を
誓う者のみが得られるランクであり、ゼロが今言ったようにこれ以上増える
ことはあり得ない。

.
組織内での限りない特権があるが、秘密が漏れる危険が訪れた場合は
真っ先に殺される存在だ。ランク0の存在自体、ごく限られた者たちにしか
知らされていない。

そして、その他の団員が成れる、公式のランク最高位がランクAだ。
この部屋に入れないこと、ゼロの正体を決して知ることができないこと以外は、
ランク0にかなり近い権限を与えられる。
ディートハルトはランクAとなったが、0でないことが不満というわけだ。


 ゼロ「理由を言う必要もないからな、」
    「当然だ、とだけ答えろ」

 扇「わかった……」コクリ

 ゼロ「……さて、"とある学生の日常"はもういいだろう」…プチッ
    「今日の議題は、中華連邦の動きだ……」

.
■クラブハウス 深夜 ─────

アジトでの会議を終えたゼロとC.C.は、地下水路を通ってアッシュフォード学園の
クラブハウスまで戻る。廊下の明かりもつけないままに、二人は静かに、二階の
ルルーシュの部屋の前までゆくと扉を開け、中に入った。

部屋の中のベッドでは、誰かが眠っていた……ルルーシュだ。
彼は、人の気配に目を覚ますと、やはり明かりをつけないままそっと身体を起こす。
部屋に入った二人の姿を認めると、彼らは互いに頷きあい、隣のC.C.の部屋へ
入っていった。

……C.C.の部屋は間取りが小さく、また窓がない。元々、ルルーシュの部屋の
物置の扱いだったからだ。彼等は静かに扉を閉めると、部屋の明かりをつける。
三人は、互いを面白そうに見ていた。

.
 ルル「……お疲れ様です、今日の会議はどうでしたか?」

 C.C.「……」クスッ

 ゼロ「君の言う通り、現状の確認と報告だけだった」
    「内容は録画があるので、後で確認してくれ」コクリ

 ルル「そうですか……」コクリ
    「……すっかり板についたな、そのしゃべりも」ニヤリ

 ゼロ「だいぶ成りきれてきました」
    「でも、やはり緊張しますね……」…カポ

.
ゼロはそう言うと、仮面を外した。中から現れたのは……咲世子だった。
今日、学園にいたルルーシュは本物で、騎士団にいたゼロが偽者だったのだ。


 ルル「こちらは、結局シャーリーの機嫌をとれなかったよ……」
    「やはり一度、デートを立案しなければ状況の好転は望めないようだ」
    「次に俺になる時は、その前提でいてくれ……」
    「あと、卵焼きは食べたそうにすることも忘れずにな」ニッ

 咲世子「騎士団では、どなた様も、私が偽物だとは思わなかったようです」ニコッ
     「映像のルルーシュ様が偽物だと信じこまれたようですし……」
     「藤堂様は『もはや本人以外にはわからない』とおっしゃっていました」

.
 ルル「そうだ、彼の言う通りだ」ニヤリ
    「それこそが目的だからな……」

 C.C.「全く……お前の代わりはともかく、ゼロの代わりまでさせるとはな……」
    「ゼロとしての判断を仰がれたらどうするんだ?」

 ルル「考えておく、でもいいし、お前が助け船を出せるなら出せばいい」フン
    「尤も、そういうことがない時に限るけどな」

 咲世子「C.C.様も、ゼロを演じられる時があるというお話ですが?」

 ルル「C.C.に頼む時は、存在していればいい時だけだ」
    「こいつに演技は期待できんからな……」…チラッ

.
 C.C.「……言うじゃないか、坊や?」ムカ

 ルル「咲世子みたいに、声色まで真似できないだろう?」ジロッ

 C.C.「物の言い方というのがあるだろう……」ギロッ
    「……年上への礼儀というものを教えてやろうか?」

 咲世子「お二人とも……お静かに願います」コホン


思う通りに事態が進んでいるのが楽しいのか、彼らはまた、前のように口ゲンカを
することが増えてきた。咲世子は軽くたしなめる。

.
 C.C.「……ふん」

 ルル「……フン、まあいい」
    「ここしばらくの"実験"は、ほぼ成功だな」

 咲世子「はい……」ニコッ
      「ルルーシュ様ご自身は勿論のこと、私がルルーシュ様を演じたり、」
      「あるいはゼロを演じた場合でも……」
      「……偽物か、本物かを見破った人物は、皆無でした」

 ルル「……C.C.、お前はどうだ?ん?」ニッ

 C.C.「……いちいち癇に障る男だ」フン
    「私も、二人が同じ室内にいる時は、ゼロの中身がどちらなのか、」
    「判断に困る時があるよ」

.
 ルル「そうか……最高の確証だよ、C.C.」ニコッ
    「これで俺は、俺であることを知られながら、同時に俺ではなくなった……」
    「……身柄を拘束されない限り、な」

 C.C.「ゼロは元々、その心配はない」
    「そしてルルーシュ・ランペルージも、メディアに姿をさらけ出したことにより、」
    「当局に秘密裡に拘束される可能性は限りなく低くなった」

 ルル「ああ……全て、計画通りだ……」ニヤッ

.
神根島から帰路についた潜水艦の中で、彼が得た挫折感および危機感は、
彼に変革をもたらした。

彼は、かけがえのない存在であるナナリーを"捨てる"ことで、代わりに咲世子という
オールマイティを存分に活用できる環境が整った。
彼は、ルルーシュ・ランペルージとゼロが同時に別々の場所に存在する、という
状況を……あるいは、二人のゼロが同時に別の場所に存在することをすら、
演出できることになった。

こうなると、捕まえて正体を確かめてみるしかない。
だが、ルルーシュ・ランペルージというただの学生を……しかも、元皇太子を、
いかに帝国とはいえ簡単にさらうわけにはいかない。ましてや彼は、自分たちが
世間に晒し出してしまったのだ。相応の理由というものが必要になる。

.
 ルル(おまけに……だ、万が一俺が捕まっても、咲世子やC.C.も同時に)
    (捕まらない限り、ゼロは出没し続けるのだ)
    (そうなると、いつまでも拘留するわけにいかなくなる……)

    (俺が敗北する時は、本物のルルーシュであり、且つゼロの正体である俺が)
    (捕えられ、さらに他の偽ゼロを偽ゼロだと言い切れる証拠すら奴が手に入れた)
    (場合のみだ……)

    (クク……そんなもの、俺自身にすら不可能だ)
    (もはや盤石……狂いなし……!)

.
……ルルーシュは、今この瞬間に初めて、シュナイゼルにチェスでチェックメイトを
かけた気分であった。盤上ではキングが追い詰められているように見えるが、実際は
キングは盤外におり、盤そのものを包囲しようとしているのであった。


 ルル「咲世子、これも数奇な運命、と言うべきなのだろうな……」
    「……君がいなければ、この作戦は成立し得なかった、感謝している」

 咲世子「勿体なきお言葉です……」ニコッ
      「さあ、もう夜も更けました……お二人とも、そろそろお休みになられては?」

 C.C.「ふあああ……私はすぐにでも眠るよ」
    「ルルーシュ、部屋を出る前に私にも感謝の気持ちを示していけ」ニヤッ

.
 ルル「何だと?何かあったか?」ジー

 C.C.「……ほら、あれだ、大事なものは……」

 ルル「……真っ先に食べろ、か?」
    「お前はいつもそれだな……」フゥ…

 C.C.「違うそれじゃない!///」
    「ほら、ナナリーの…………ってお前、わかっているだろ!?」

.
 ルル「咲世子、静かに目立たないように出るぞ」テクテク、ガチャ

 咲世子「電気を消しますね」パチコン
      「お休みなさいませ、C.C.様」テクテク…パタム

 C.C.「あっ、ちょ……おい……!」
    「…………くそっ、感謝くらいしろ、バカが……」


ふてくされたC.C.は、寝る前に隣の部屋側の壁に本をぶん投げる。
だが、本が当たった音にも何の反応も示さないので、むくれた表情のまま、
ベッドに潜り込むのだった……

.
■租界内 貿易商事務所 夕刻 ─────

ルルーシュの置いていった薬と、様子を見に来るシャーリーのおかげで、スザクは
"リフレイン"の中毒から逃れつつあった。
ここに入れられた時はいつも"リフレイン"の事ばかりを考えていたが、今朝などは
起きてしばらくTVを見ていて、そういえば薬をまだ飲んでなかった、と気づいたくらい
である。

彼女とは、ここ数日で色々なことを話した。
中でも彼が一番気になっていた、ゼロに対する"赦し"の気持ちについて、彼女に
尋ねてみたところ……

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シャーリー「ううん、許してないよ?」キョトン

 スザク「ええっ!?」

 シャーリー「でもわたし、ルルが好きだし……」
       「ルルの、世界を変えたい、って気持ちはすごくわかったの」

 スザク「……」

 シャーリー「……だから今は、しっこうゆうよ?ってやつ?」
       「ルルが、ほんとに世界を変えちゃったら……」
       「その時初めて、ほんとうに許してあげるの!」ニコッ!!

.
 スザク「そうか……」

 シャーリー「それまで、ルルをずっと傍で見続けるつもり……」
       「……実はね、ルルを主人公に、お話を書いてるんだけどね、」

 スザク「お話?記録ってことかい?」

 シャーリー「ううん、お話!作り話だよ!」
       「子供にも読めるような童話!」

 スザク「へえ……面白そうだね」ニコッ

 シャーリー「ふふっ……これは、ルルには内緒だよ?」
       「ルルがどうなるかで、お話も変わるから……」
       「私も、どういう結末になるのか、まだぜんぜんわからないの!」

.
 スザク「……ハッピーエンドになるといいね」ニコッ

 シャーリー「うん!」ニコーッ!!


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……彼女なりの"ケリのつけ方"を聞き、スザクはユーフェミアのことを想った。
もし、別れを告げたら、彼女はどう思うのだろうか……
嘆くだろうか、それともシャーリーのように、強い心で前に進もうとするだろうか。


 スザク(ふっ……いつまでも、何を考えているんだ、オレは!)
     (もう答えは出ている、彼女とは……)

.
その時、事務所の扉のカギががちゃりと回る音がした。
続いて電子ロックの解除音も響く。少しの間の後で、扉が開いた。

扉を開けて入ってきたのは……サングラスをした、金髪の学生だった。
アッシュフォード学園の制服を来た彼は、肩までかかる髪を手ではらうと、黙って
スザクを見つめた。


 学生「…………」ジー

 スザク「……あの、誰、ですか……?」

 学生「……ふむ、これだけでも意外といけるな」ニヤリ

 スザク「え?」

.
スザクの反応を見て笑った学生は、サングラスを取り、髪を両手で持ちあげた。
金髪だと思っていたのはカツラ……中身は、ルルーシュだった。


 ルル「……本当に俺だと思わなかったのか?」

 スザク「いや、だって君、金髪でも長髪でもないし……」

 ルル「まあそうだな」ニッ
    「近々、ある"作戦"があるのでな、ちょっとお前で試させてもらった」

 スザク「変装か……」

 ルル「実際はもっとすごいことをやる」
    「……スザク、待たせたな、調子はどうだ?」

.
 スザク「ああ、おかげさまで……」
     「君にも、シャーリーさんにも迷惑をかけて……済まなかった」

 ルル「いいさ、俺たちの仲じゃないか」ニッコリ

 スザク「……」ニコッ


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ルルーシュは、コーヒーを二人分淹れると、テーブルにつく。
カップを貰ったスザクも、その前に座った。

.
 ルル「この事務所だが……近日中に閉鎖する予定だ」

 スザク「随分と急だね?」

 ルル「ああ……風雲急を告げる、という奴だ、」
    「じきにここには足を運べなくなるからな、勿体ないが、店じまいをする他ない」

 スザク「???」

 ルル「お前が今持っているケータイは返してくれ」
    「代わりにこのケータイを渡す……ブラックカードってやつだ、」
    「多重債務した破産者が契約したもので、身元はバレない」スッ…

 スザク「……わかった」パシッ

.
 ルル「………………スザク、」

 スザク「……何だ?」

 ルル「…………」
    「……俺は、ナナリーを連れ、コーネリアに逢いにゆく」

 スザク「……え!?」
     「そ……それは、一体どういうことだ!?」

 ルル「……身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ、って言うだろう?」ニコッ
    「ただ、その影響でここも潰すことになる」

 スザク「……」

.
 ルル「そして、お前のことだ……」ジッ…


ルルーシュは、そこで言葉を止めると、スザクの顔を静かに見つめる。
彼が何を言いたいのか、スザクには全くわからなかった。


 スザク「……オレのこと?」

 ルル「……道を選べ」
    「俺につくのか、それともブリタニアに……ユフィにつくのか……」

 スザク「!?」

.
 ルル「もし、お前がユフィにつきたいと願うなら、俺がコーネリアに」
    「とりなしてもいい……あるいは、お前はまた、ブリタニア軍に」
    「戻ることができるかもしれん」

 スザク「き、君は……!?」

 ルル「ただしその場合、お前との関係はそこまでだ」
    「今までお前が俺について知ったことは、"忘れてもらう"……」
    「……お前は、俺にとっての、ただの幼なじみに戻る」

 スザク「……」

.
彼はそう言うと、目を閉じた。
自分の言葉の意味を、スザクが頭の中で理解するのを待っているようだった。
やがて、ルルーシュは瞼を開くと、言葉を続けた。


 ルル「……そうでなく、俺につくのならば、俺は歓迎する」
    「騎士団では"ランク0"の扱いをするし、お前のために部隊を設ける」
    「いま開発中の新たな機体も、お前に真っ先に回す」

 スザク「……」

 ルル「カワグチ湖のホテルの件で思ったが、お前は、間違いなくエース級の」
    「腕前を持っている……」
    「すでにいる俺の精鋭たちと合わせれば、騎士団はこれまでになく、」
    「強力な戦闘力を保持できるはずだ」

.
 スザク「……ただし、その場合?」

 ルル「ああ……ユフィとはお別れだ」
    「だが、元々お前は、名誉ブリタニア人の地位もはく奪された者だ……」
    「このままでは、どう足掻いてもユフィの味方にはなれまい」

 スザク「…………」


冷酷に、スザクの悩みを切って捨てるルルーシュ。
その口調に、今までの彼とは違う響きをスザクは感じた。


 スザク「……何があったんだ?」

.
 ルル「……言っただろう、スザク?」
    「どちらかを選ばない限り、俺はそれに答えることはできない」

 スザク「……君がゼロだってことがバレたのか?」

 ルル「…………」プイ…ッ


ルルーシュはその問いに答えることなく、静かに窓の外に目を逸らした。
彼の性急な行動や自分への決断の迫り方から、スザクはただならぬ事態が
起きているらしいことを察する。

しかし……

.
 スザク「……決めろ、と言われても……」
     「今までのオレのやり方を続けることはできないというのか?」

 ルル「できなくなる」

 スザク「……それは、君が名乗り出るからか?」

 ルル「そうだ」
    「だから、その代わりにとりなしをしてみると言っている」

 スザク「……オレは、別に……」

 ルル「決断しろ、スザク!」
    「贖いのためでなく、人のためでもなく、お前のために決断をしろ!」

 スザク「!!」

.
極めて強い口調でスザクに迫るルルーシュ。
彼の気迫にスザクは気圧され、自然と視線が落ちた。
そのようなスザクの様子に気づき、彼は少し優しい口調に戻る。


 ルル「……俺が、ナナリーを大切にしていることは知っているよな」

 スザク「ああ……」

 ルル「これまでも俺は、そのことを第一に考え、行動してきたつもりだった」
    「……でもな、もう行き詰ったんだ」

 スザク「……」

.
 ルル「どうしようもない、と絶望に陥ったんだが、その時に思ったのさ、」
    「俺がいなくてもナナリーが幸せであるなら、それでいいじゃないか、と」

 スザク「……お前……!」

 ルル「コーネリアには、ナナリーのことを本気でお願いするつもりだ」
    「その意味を、彼女が察するかどうかはわからないが、」
    「少なくともナナリーだけは大切に扱ってくれるだろう……」
    「……そういう覚悟なんだ」

 スザク「……そういうことか……」

 ルル「ああ……だから、お前も決断をしてくれ」
    「ただし、傍観者を気取るのは俺が許さない」

.
 スザク「……」

 ルル「俺は、お前が欲しい」
    「だが俺の下に来ないと言うなら、その意思は尊重する」


ルルーシュはそう言うと、スザクの目を正面から見据えた。
どうやら、返事を後日まで待つ気はないようであった。
スザクは、俯きながらルルーシュに尋ねる。


 スザク「……お前、オレが必要なのか……?」

 ルル「そうだ」

.
 スザク「……なぜだ」

 ルル「なぜだ……だと?」
    「……フフ……」

 スザク「……?」

 ルル「……それは、想定外の質問だった」ニヤリ

    「ふむ、そうだな…………同情?……友情?……意地?」
    「いや、どれも一部でしかない……」

 スザク「……」

.
 ルル「…………こう言うべきかな、」
    「俺は、お前と組めば、できない事は何もない、と信じているからだ」


スザクは、その言葉にハッとする。
ゆっくりと顔を上げると、ルルーシュの力強い視線とぶつかった。
彼は、あの日……人質として日本に送られた日、スザクと出会った時の……
自分が妹を守るんだ、という強い意志を秘めた、あの目をしていた。

と同時に、スザクの脳裏には、ユーフェミアの笑顔が再びよみがえる。
ここで決めたら、本当に二度と、彼女には会えなくなるかもしれない。
それどころか、騎士団に入ることになれば完全に敵となる。
己の手で、彼女の胸に、剣を突き立てる日が来るかもしれないのだ。

.
……スザクは、再び視線を落とすと、深い懊悩の中に沈み込んだ。
ルルーシュは何も言わず、彼の答えをただ待ち続ける。
静かな夕暮れの中、時計の秒針が刻む音だけが、ひそかに室内に響く……


 スザク「……ルルーシュ、」


10分も経過しただろうか……スザクはようやっと顔を上げた。
今から口にする言葉に、全ての責任を負う覚悟ができた顔だった。

どういう答えであろうと、ルルーシュはその意思を尊重する気であった。
だから、何も言わず、ただ黙って聞いていた。

.
 ルル「……」

 スザク「オレは……」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「……息を吹き返したな、奴は」
    「まさか、妹をブリタニアに預けるとは……」ポーン ポーン


……クラブハウスの、誰もいないルルーシュの部屋の中でC.C.は、ベッドにねそべり、
チーズくん人形を高い高いしながらひとりごとを……否、明らかに誰かを相手にして、
楽しそうにお喋りをしていた。

.
 C.C.「……同じ、か?……お前たちと同じ道を選んだ?」
    「私には、全く異なるように見えるが……」

    「…………まあ、わからないだろう」クスッ
    「それがわかるなら、お前たちの所に戻るよ」クスクス


彼女はそう言うと、落下してきた人形をキャッチし、腕の中に抱きしめた。
そうして、うっすらと微笑を浮かべながら、己の首筋に、そっと指を触れる。

.
 C.C.「ふふ、今思い出してもぞくぞくする……」
    「あいつは、私の首を絞めたんだ……激情に任せ、力に任せてな……」

    「……恐怖?もちろん感じたさ、」
    「"死"は何度経験しても慣れるものじゃない……」クスッ…

    「だが、我を失っていたことに気付いた時の、奴の顔……」
    「そして、奴が悔し涙を流したのを見た途端、そんなものは消し飛んでいたんだ」
    「ああ、やはりこいつなんだな、って思ったのさ……」

.
天井を見つめているC.C.の目が、さらに細くなった。
うっとりとした表情で、彼女は小さく呟く。


 C.C.「……ルルーシュに、殺されたい……」


……しばらくの後、C.C.は"相手"が去ったことに気付く。
彼女は小さく笑うと、人形を抱きかかえたまま横向きに寝転がる。
いつもルルーシュが座っている椅子を見つめながら、誰ともなく言葉を口にする。


 C.C.「……いつ、話そうかな……」
    「私の、望みを……」

.
彡 ⌒ ミ  C.C.覚醒篇、完了です。
(´・ω・`) 次セクションもここで継続いたします。 脱毛!


スザクの分岐が気になる

乙です

カレンがコンクエスターとはいえジノに負けるってのは考え難いなぁ(;^_^A

c.c.もなかなか狂ってるね

乙です。
スザクがルルーシュを選んだと信じてます。

>>361
どっちにつくかで展開がガラリと変わりますね!

>>363
Kill me softly with his geassって感じですね!

>>364
そのままwktkでお待ちください!

>>362


■Intermission カレンとルルーシュの反省会 ─────

神根島からの帰途、潜水艦内のとある人気のない区域にて……


 カレン「…………うう、ぐれんんん~……」グスグス

 ルル「……君が身を挺してくれたおかげで助かった、」
    「礼を言うぞ……」

 カレン「うう……ンなのわかってるわよぉ……」スンスン
     「あんたのためにやったのよぉ……」ウルウル

.
 ルル(ランスロットが俺を狙って上空から掃射した際、紅蓮がとっさに盾となり、)
    (俺をかばった……おかげで俺は射程外に逃れることができたが……)

 カレン「……ふぇ……ぐれえええええええん!」ブワッ!!

 ルル(……紅蓮はダメージを受け、ランスロットの餌食となった……)
    (彼女にとっては屈辱にも等しい敗北だろう)フゥ…

    「……もう泣くな、カレン」
    「幹部がそんな姿を晒していたら、部下に示しがつかないだろう……」

 カレン「……わたしが泣いてるの、あんたのせいよ!?」キッ!!
     「ルルーシュ、もうちょっとチャッチャと走って逃げられなかったの!?」

.
 ルル「いや、それは無理だろ!無茶を言うな!」ギョッ
    「高速で飛来する戦闘機の機銃掃射を努力で躱せるわけがないだろう!」

 カレン「……ぐすっ……わかってるわよぉ……ふええぇぇ……」ポロポロ

 ルル(わかってるなら言うなよ……)フウゥ…

 カレン「……あんたも一緒に紅蓮に乗ればよかったのよ……」ウルウル
     「それならわたしも全力を出せたのに……」ウルウルウルウル

 ルル「また無茶を……」フウウウゥゥゥ…
    「紅蓮のコクピットに二人も入るのは物理的に無理だろう……」

 カレン「……わかってるわよおぉぉ……ううう~……」ポロポロ

.
 ルル(カレンは一体、何を求めてるんだ……)
    「…………」
    「……済まなかった、カレン」

 カレン「…………」ウルウル
     「……」

 ルル「……ラクシャータに、今回の戦闘をフィードバックした紅蓮を作ってもらおう」
    「そうすれb」

 カレン「空を飛べるようにして!!」

 ルル「……そら!?」ギョッ!!
    「それは、一応希望として言ってみるが……」

.
 カレン「あと腕を撃ち出せるようにして!!!」

 ルル「う、撃ち出すのか!?」
    「まあ、スラッシュハーケンの応用でいけそうだが……」

 カレン「あと複座よ、絶対に!!!!」
     「あんた、戦闘中はわたしの後ろに乗ってろ!!!!」キッ!!!!

 ルル「複座!?」
    「いや、それは無用だろう、今回の事態はイレギュr」

 カレン「複座にしろっ!!」ガシッ
     「ふ・く・ざ!!!!ふ・く・ざ!!!!」グググ

.
 ルル「くっ、首を……はな……して……」ググググ

 カレン「ふーくーざー!!ふーくーざー!!」グググググ
     「ふくざふくざふくざふくざふくざ!!」

 ルル「わ、わかった……耳元でどなるな……!」
    「複座だ……紅蓮を、複座にする……」
 
 カレン「……」…パッ

 ルル「……」ゲホッゲホッゲホッ

 カレン「……あんた、ナイトメアの操縦もそんなうまくないんだし、」
     「わたしの後ろで指揮してればいいじゃん」…ジロッ

.
 ルル「どこの軍隊に、突撃兵の背中に乗って」
    「前線を駆ける司令官がいるというんだ……」ゴホゴホ

 カレン「いいわよ、わたしの後ろは、あんたのために空けとくだけだから」
     「わたしと一緒に行動する時は、後ろに乗ってよ?」

 ルル「いいだろう……」…ゴホン

 カレン「……よし、後はあの白兜のヤツに返しをするだけだわ」
     「見てなさいよ、10倍返しだからね……!」

     「……ラクシャータさああん!ゼロから許可でたんですけどー!」
     「わたしの紅蓮ですけどおー……」カツカツカツ…

 ルル(……そんなに複座にしたかったのか?)
    (無駄なことを……)ハァ…

.
■黄昏の間 ─────

 V.V.「……シャルル」…カツカツ

 シャルル「……兄さん……」
       「どうしました……?」

 V.V.「ルルーシュは、ナナリーを捨てたよ……」

 シャルル「ふむぅ、あやつがぁ……?」
      「……諦め、ですかな……?」

 V.V.「悪あがき……かな?」ニコッ

.
 シャルル「ふふ……」ニヤァ…
      「……シュナイゼルも、賢しい事をしているようです……」

 V.V.「うん……しようがないよね、」
    「彼らには、真実が見えてないんだ」

 シャルル「……放っておきましょう……」
      「どうせ、奴らには、何も変えられはしないのですから……」

 V.V.「ふふ……」

.
■租界 アキハバラ 下町 ─────

トウキョウ租界の中でもここ、アキハバラは一種独特の雰囲気を持っている。
他の地区では租界とゲットーは厳密に隔てられているのだが、ここだけはその境界が
あいまいな状態で残っているのだ。

細い路地裏、薄暗いビルの通路の奥、壁の穴……そこかしこにゲットーとつながった
場所があり、至る所にひしめく怪しげな露店を潜り抜けていると、気づけばゲットーに
出てしまっている、といった風にだ。

バトレーの指示の下、エリア11に派遣された特捜隊の3名は、アッシュフォードからの
線を辿っていたのはよいのだが、このアキハバラの袋小路に行き当たってしまった。
辿るべき線は錯綜し、消失してしまったのだ。

.
 ジェレミア「どうやら、黒の騎士団が関係しているようだが……」ズルズル

 ヴィレッタ「しかし、騎士団の内偵までは、我々にはさすがに無理です……」ズルズル

 キューエル「……」フゥフゥ

3名は、街の食堂で肩を寄せ合いながら食事をとっていた。
あからさまなブリタニア軍人達が、店のカウンターに並んでラーメンを啜っている姿は、
カオス然としたこの街の中でも全力で目立つ。その異様な出で立ちに周囲では、
人々がひそひそと話をしているのだが、彼らはそれを一向に気にする様子はない。

 ヴィレッタ「一度、将軍にこれまでの調査報告をしに戻ったのですか?」

 ジェレミア「そうだな、それがよいか?」
       「キューエルのこともあるしな……」

.
 キューエル「……」

 ジェレミア「だが、きっと失望されるだろう……」
       「我々は、解体されるのか?」

 キューエル「!!」ビクッ

 ヴィレッタ「……それは……」

 ジェレミア「……?」
       「…………な、なにッ!?」

……と、その時、ジェレミアの視線はTVのニュース番組に釘づけになった。

.
番組では、行方不明であった元皇太子がここエリア11で生存していたことを
報道していた。

 キャスター『……第17皇位継承者であったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア氏です、』

        『彼は、先の日本征伐の際に死亡したと見られておりましたが、』
        『先日、総督の下へ姿を現し……』

 ジェレミア「……ンな!?」

 ヴィレッタ「……どうしたのでした?」

 キューエル「??」

 ジェレミア「……マリアンヌ様のご子息が……ご存命あそばれていた!?」

.
 ヴィレッタ「え?」

 ジェレミア「またとない……またとない……!」プル…プル…

 ヴィレッタ「……大丈夫でしたか?」
       「ジェレミア……もしもし?もしもし?」コンコン、コンコン

彼女は、ジェレミアの頭部をノックしてみるが反応はない。
彼は頭を小刻みに震わせながら何かを呟いていたが、やがて頭部の機械の接合部
から何かの液を垂らしながら、やおら立ち上がった。

 ジェレミア「…………私には使命ができたッ!」バッ!!

 ヴィレッタ「はあ!?」

.
 キューエル「しっ、しししシシシシシシ指名ッ!?」

 ジェレミア「将軍へのご報告は貴殿らだけでよろしく頼む!」
       「私はこれから、我が忠義のため主(あるじ)の下へ、」
       「急ぎ馳せ参じノンストップ!」

 ヴィレッタ「お、お前は何を言ったのか!?」
       「主だと?我々の主は、将軍であった!」

 ジェレミア「誰があのようなヒゲダルマに忠義を示した覚えはノープロブレム!」
       「私は、マリアンヌ様をこそ我が主としていたかッ!」バアッ!!

 キューエル「きっ、キキキキキキキキキキキキキサキサキササキサマキキサマ」

.
 ヴィレッタ「うるさいキューエル!」ボグゥ!!

 キューエル「キへぁ!」バッタリ

突如、目の前で始まったブリタニア軍人同士の言い争いに、同じく食堂内にいた
イレヴンやブリタニア人のゴロツキたちは、愉快な見世物が始まったと歓声を上げる。

 ヴィレッタ「マリアンヌ様は既にこの世にいらっしゃいません!」
       「お前の言う主とは誰のことだった!?」

 ジェレミア「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様……!」
       「即ち、マリアンヌ様の遺児により、我が主に成り果てたッ!」

 ヴィレッタ「ルルーシュ?」
       「……今、ニュースで言うことの……」

.
 ジェレミア「そうだ……」ニヤッ
       「誰の庇護もない今、私があの方をお守りしてコンフュージョン!」

 ヴィレッタ「でっ、では将軍のご命令は……!?」

 ジェレミア「もはや時間がパッシング!さらばッ!」ズドドドド…

 ヴィレッタ「おっ、おいジェレ……!」
       「……なんてことだった……!」

 キューエル「……」キュー…

.
⌒ ミ 
ω・`) もう少しだけお待ちを!

.

⌒ ミ  現在多忙につきお待たせ中で大変恐縮です
ω;`)  頭頂がテカテカになるほどがんばります!

.
■租界 医療施設 ─────

ナナリーが学生であること、また長期の治療が想定されることを鑑みて、コーネリアは
彼女に、病室ではなくごく普通の個室……勉学のための机なども室内に用意されて
いる部屋を与えていた。

あれ以来、ナナリーはここで、平穏な日々を過ごしていた。
彼女のなごやかで愛らしい雰囲気は施設の他の入院者達にも好かれており、彼女が
入所当時に抱いていた不安感も徐々に薄れてきていた。

 ナナリー(……お兄様、今日はいらっしゃらないのかしら)フゥ…

……が、ルルーシュが傍にいないことが、やはり寂しかった。
机に向かい、点字の本に指を滑らせながら彼女は、小さな溜息をつく。

.
兄がここへ足繁く通ってくれているのは嬉しいのだが、それが逆に兄の負担になって
いるような気がしていた。特に、"ある事"について気になるだけに……

 ルル「……ナナリー、今日も来たよ?」…ガチャ

 ナナリー「あっ、お兄様!」パアッ!!

扉を開け、入ってきたルルーシュの声に、ナナリーはせいいっぱいの笑顔で応える。
"兄"が来てくれることは、やはり嬉しいのだ。
ルルーシュは、ナナリーの机の傍らに座ると、ナナリーが読んでいた本を見る。

 ルル「……それは、何の本だ?」

 ナナリー「ふふ、学校の教科書です」
      「今日の授業の、復習をしてました」

.
 ルル「そうか、えらいな、ナナリーは……」

ルルーシュは優しい響きのする声で褒めながら、ナナリーの頭をそっとなでた。
その感触に、ナナリーは心から安堵する。

 ナナリー(あ……今日は、お兄様だ!良かった……!)

……実のところ、ルルーシュが度々咲世子と入れ替わっていることを、彼女は
すでに悟っていた。
普通の人なら、偽ルルーシュの声色や表情、そぶりに違和感を全く感じないだろうが、
ナナリーは目が見えない代わりに触覚や聴覚が異常に鋭かった。式根島への遠征時
にルルーシュが咲世子に己の代役を頼んだ2日後には、偽ルルーシュの正体が
咲世子であることをわかっていたのだ。

.
だが、ナナリーは兄を心から信頼しており、また変装中の咲世子にも全く悪意を
感じないことから、彼女は何か、口にできない事情が兄にはあるのだということをも
悟っていた。
そうしてしばらくすると、兄はそれまで徹底的に避けていたブリタニアの政庁に
自分を連れていき、コーネリアに会う。プライドの高い兄が、嫌悪していた皇族の
兄弟に頭を下げたことは、彼女にとってもショックであった。

 ナナリー(……お兄様、私は、ここにいる必要があるのですね……)

政庁の屋上庭園で話をしていた時、すんでの所で出そうになったその言葉を、
彼女は飲み込んだ。

兄がどのような秘密を隠しているのかは、まったくわからない。
だが、日本敗戦後の混乱した状況下でも、足手まといでしかない自分を決して
見捨てなかった兄のことだ……彼女は、最後まで兄を信じよう、と思っていた。

.
 ルル「……どうした、ナナリー?」

 ナナリー「……えっ?何がですか?」

 ルル「今、何か考え事をしているような表情だったぞ?」
    「学校で何かあったのか?」

 ナナリー「あっ、いえ……///」
       「……お兄様が傍にいない時が、寂しいなあって……」

 ルル「……大丈夫か……?」

ルルーシュの言葉に不安そうな響きを感じたナナリーは、内心でしまったと思う。
今の自分の言葉を聞いて、多分兄は幼い頃の自分の姿を思い出してしまったの
だろう、ルルーシュが傍にいなくなると、不安のあまり我を失ってしまっていた頃を。

.
ナナリーは、慌てて言いつくろう。

 ナナリー「……ふふっ、冗談です、お兄様!」
      「少し、困らせてみたくなっただけです!」ニコッ

 ルル「……今日は、お前が眠るまで傍にいるよ」…ギュッ

そう言ったルルーシュの手が、ナナリーの手を優しく包み込む。
ナナリーは、彼の深い愛情に感謝しながら、にっこりと微笑んでみせた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……ふうむ……」

 ギルフォード「やはり、変わりないようですな……」

.
 コーネリア「うむ、監視があることはわかっていようが、」
       「少なくともナナリーの傍では振る舞いに変わりないな」

 ダールトン「学園の監視員からも、特段の報告は上がっておりません」
        「聞き取り調査でも、以前と変わりのない様子らしい、とのこと」

 コーネリア「うむ……」

総督の執務室ではコーネリアらが、施設でのルルーシュとナナリーの様子を
モニタリングしていた。
いかにコーネリアとて、シュナイゼルの考えを完全に無視することなどできない。
あれ以来、こうしてルルーシュの監視を継続しているのだった。

しかし……

.
 コーネリア「……フッ、やはり、か……」

 ギルフォード「は?」

彼女は、モニタの中で椅子から立ち上がり、ドアに向かおうとしたルルーシュが
瞬間、カメラの方を鋭く睨んだのに気付いた。わかっているぞ、という意思表示だ。

 コーネリア「……ルルーシュがここに来るかもしれん」

 ダールトン「はっ?」

しばらくの後、ルルーシュが総督への面会を求めている、との連絡が入る。
彼女は鷹揚に、執務室へ連れて来るように伝えた。

.
……執務室の扉を開けて中に入ったルルーシュは、彼女を睨んでいた。

 ルル「……姉上、お忙しい所を……」

 コーネリア「世辞はよい、まあそこに座れ」カツカツ…

 ルル「……」テクテク

彼女に示されるままに、ルルーシュは執務室の重厚感のあるソファーに腰を下ろした。
コーネリアも彼と向い合せに座り、背もたれに身体を預けきった。
自然、彼を見下すような形で、彼女は言葉を続ける。

 コーネリア「監視カメラのことだろう?」ニッ

 ルル「そうです……まだ、お疑いなのですか?」
    「俺が、ゼロではないのか、と」

.
 コーネリア「兄上も、伊達や酔狂でお前を疑ったわけではないのだ」

 ルル「でしょうね……」

 コーネリア「それに……頭の良いお前のことだ、」
        「こうなることもわかっていたのだろう?」

 ルル「あの話を聞いた時から、わかっておりました」

 コーネリア「ふむ……」
        「監視は、やめて欲しいと?」

 ルル「ナナリーへの監視は、必要ないでしょう?」

 コーネリア「……」

.
彼女は身体を起こし、ルルーシュの表情を見る。
静かな怒りを内に秘めた彼の顔つきに、コーネリアはある一つの疑念を
ぶつけてみることにした。

 コーネリア「……ルルーシュ、私らを恨んでいるのか?」

 ルル「!!……」

 コーネリア「お前とナナリーが皇位継承権をはく奪され、日本へ送られることに」

        「なったのを、私たちは誰ひとりとして止めることができなかった……」
        「……いや、止めない方が得だと考えたものが大多数だった、」
        「と、言うべきだろうな」

 ルル「……」

 コーネリア「……そのことを、恨んでいるか?」

.
 ルル「……いいえ、それはありません」

落ち着いた声で、コーネリアの言葉を否定するルルーシュ。
それに対し、彼女が口を開こうとしたその瞬間、それを遮るように彼は言葉を続けた。

 ルル「……ブリタニアの皇帝に逆らう?フッ、そんな"力"がありましたか?」
    「姉上や、兄上や、あるいは他の誰かに……」ジッ…
    「誰ひとりとして無かったし、今だって無い」

 コーネリア「……!!」

 ルル「力なき者は、力ある者に虐げられ、踏み躙られる……」
    「それこそが、ブリタニアの国是なのですから、問題ない」
    「……そうですよね、姉上?」

.
感情を表わさず、淡々と皮肉を放ったルルーシュに、彼女は驚愕した。
再会以来、彼が初めて見せた"敵意"は……痛烈なものであった。

 コーネリア(……私たちへの恨みだけではない!)

        (ルルーシュは……ブリタニアという存在自体への恨みを)
        (抱いているのか!?)

 ルル「でも……姉上は、そうではないことを示して下さった」
    「妹に救いの手を差し伸べてくださっています」
    「……感謝こそすれ、恨む筋合いはありません」

 コーネリア「……ふむ」…ガタッ

.
彼女はソファーから立ち上がり、ルルーシュに背を向けたままゆっくりと窓辺へと
歩み寄る。そうして、窓の外の風景を見るふりをしながら、彼女は考えをめぐらす。

 コーネリア(……やはり、兄上の言うように、ルルーシュはゼロなのか?)
       (だが、もしそうであるなら、今の時点で私に恨みを明かす理由がない)
       (そんなことをしても、何の得もないというのに……)

       (……純粋に、妹への監視に対する怒りなのか?)
       (己が疑われ、試されたことへの憤りなのか?)
       (その感情を抑えきれなかったのか……?)

……しかし、結論は出ない。
合理と非合理の齟齬……彼女は、その考えが今一つ、理解しきれなかった。

.
コーネリアは溜息をつくと、彼の方へ振り返る。

 コーネリア「……お前が、直接兄上に頼め」

 ルル「!」

 コーネリア「私は、兄上に命ぜられたようにしているだけだ」
        「お前がゼロなのかどうか、私にはわからない……」

 ルル「……姉上」

 コーネリア「兄上も多忙の身だ、お前といつ話ができるかは分からぬが……」
        「……希望だけは伝えておく」

.
 ルル「……わかりました」スッ…
    「ありがとうございます」

彼女の言葉に、ルルーシュはソファーから立ち上がる。
そして、一礼をして部屋を後にしようとした所で、コーネリアに呼び止められた。

 コーネリア「ルルーシュ、ナナリーの監視は解いておく」

 ルル「……」

 コーネリア「勉学に励め、社会の役に立て」

 ルル「……肝に銘じます」ペコリ

.
■クラブハウス 夜半 ─────

ルルーシュは、医療施設からクラブハウスに戻ると、ダイニングで遅い夕食を取る。
咲世子の給仕を受けながら、彼は今後のことなどについて話をする。

 ルル「……そうか、君にも監視がついたか」

 咲世子「はい、あえて尾行を放置しましたが……」

 ルル「それでいい、君はただのメイドでないと困るからな」

 咲世子「承知しております」ペコリ

      「あと、盗聴ですが、現時点でもクラブハウス内はセーフティです」
      「やはり人目の多い場所だと、彼らも動きにくいようですね」

.
 ルル「ふうむ……こうなると、早く状況を進めないと……」

 C.C.「ああ、それで思い出した、扇からの伝言だ」
    「とりあえず奴の"無頼改"も調達したそうだ」

ルルーシュの背後、窓からは見えない壁際の位置に腰を下ろしてピザをぱくついて
いたC.C.が、彼の背中に声をかける。
彼もまた、そちらを見ずに返事をする。

 ルル「そうか、そちらは順調だな」
    「後は中華連邦か……」
 
 C.C.「そちらも予定通り……いや、推測通り、じゃないのか?」

 ルル「ああ、イレギュラーは発生していない」
    「じきに始まる……始めてもらわないと、こちらが困る」ニヤッ

.
⌒ ミ 
ω・`) ぬおおお

.
■Intermission カレンとルルーシュの阿鼻叫喚 ─────

カレンが希望を出していた改良型紅蓮が仕上がった、との連絡をラクシャータから
受けたゼロとカレンは、早速騎士団の開発部をたずねていた。
整備を終え、いつでも乗れる状態だという紅蓮弐式・改を見たカレンは……

 カレン「……あれっ?」
     「前とほとんど変わってないんじゃ?」

 ラクシャータ「こないだの要望のうち、輻射波動機構のスラッシュハーケン化と複座は」
      「実現できたわよ、ンでも空を飛ぶってやつは、無理だねぇ……」

 ゼロ「それについては、フロートユニットを強奪する計画を策定中だ」
    「アレがあれば、君の開発の助けになるだろう?」

 ラクシャータ「ちょっとシャクに障るけどねぇ……」
      「まあ、アレは素直に負けを認めるしかないね」

.
 カレン「マニュアル、これですか?」パラパラ
     「どんな感じに変更されてるんだろ……」

 ゼロ「ほう、確かに右腕が射出可能になっているな……」
    「しかし、寸法は以前よりわずかに大きくなっている程度だが?」

 カレン「これで、本当に二人乗れるの……?」ガサゴソ
     「……え?」

 ゼロ「ん?」

 ラウシャータ「……ね、乗り方、図面に書いてるでしょ?」ニコニコ
      「ちゃんと乗れるわよぉ?」

 カレン「これって……!」

 ゼロ「……こ、これはッ!?」

.
 ラクシャータ「その複座のテストのために、あんたたち呼んだんだからねぇ!」
      「ほら、とっとと乗んなさい!」ニコニコ

 カレン「え……っと……今?」

 ゼロ「……ラクシャータ、乗るのは君でもいいのではないのか?」

 ラクシャータ「乗ることになるのはカレンとゼロでしょ?」
      「あんたが乗らなきゃ、意味ないわよ~?」

 ゼロ「……これは、想定の外だったな」

 カレン「……(スーハースーハー)……うん、いいわ、テストしなきゃ!」
     「ゼロ、ほら早く!」

 ゼロ「ん、あ、ああ……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ラクシャータ『紅蓮の最大の能力、機動力を生かしたまま、パイロットの操縦にも』
      『影響を与えない方法が結局それなんだけど……乗り心地、どう?』

 カレン「……い、いいんじゃないかと……」

 ラクシャータ『そう?良かったぁ……んで、ゼロはどうなんだい?』

 ゼロ「……問題ない」ドキドキ

 ラクシャータ『問題ないのはわかってんのよぉ』
      『乗り心地はどうか、ってこと』

.
 ゼロ「……い、いいと思うぞ……」ドキドキ

 カレン「……」ピク

 ラクシャータ『んー、なら課題はクリアだねぇ』ニコッ
      『カレンちゃん、それで実際に戦闘することになると、多分ゼロが』
      『しがみつくことになるけど、大丈夫そうかい?』

 カレン「ええ……やってみないとアレだけど……多分大丈夫です」

 ゼロ「……」ドキドキ

改良型紅蓮の新たな機能、複座式……
それは、ちょうどバイクのタンデムと同様、コンソールにまたがったカレンの後ろに
ゼロも同様にまたがり、背中からカレンに抱きつくような形で乗るものだった。

.
カレンの腰に回した腕にあまり力を入れないように、カレンにあまり密着しないように、
腰と背中の筋肉で何とか体勢を維持しつつもゼロは、彼女の複座の要望を聞いた
ことをかなり後悔していた。

 ラクシャータ『カレンちゃんの言ってたように、緊急時の装備ってことだからね、』
      『二人とも、それで我慢してよぉ?』

 ゼロ「ああ、わかっている」ドキドキ
    (……今後は、これが必要にならないような戦術を採ることにしよう)

 ラクシャータ『じゃ、カレンちゃん、ちょっと実際に暴れてみてくれるぅ?』
      『ハッチ開けるわよ~』ピピピピ

 ゼロ「何ィ!?」

.
開発部の壁にある巨大な扉が大きな音をたててゆっくりと動き、そのままゲットーの
広大な廃墟へとつながる長い通路が現れる。
扉が開いている間、カレンは背後のゼロの方に顔を向けた。

 カレン「……ねえ?」ボソッ

 ゼロ「何だ?」ボソッ

 カレン「なに恥ずかしがってんのよ」ボソッ

 ゼロ「だ、誰が!///」

 カレン「……もっとしっかり抱きついてなさいよ」ニッ 

 ゼロ「な!?」

.
 カレン「紅蓮弐式・改!出ます!」

カレンは、そう叫ぶが早いか、ハンドルを一気に最大まで押し出す!
紅蓮の強烈な加速力に、ゼロの身体は瞬時に背面のコクピット壁面に押しつけられ、
後頭部を思い切りぶつけた!

 ゼロ「ぐおおッ!」

 カレン「あ、これ……前よりも速い!?」

 ラクシャータ『もちろん、基本動力もパワーアップさせてるわよぉ』
      『タンデムでも問題ないようにね?』
      『こないだの戦闘のフィードバック、ちゃあんとしてあるからね』ニヤリ

 カレン「ラクシャータさん、これ最高です!」
     「やっぱり最高だわ……わたしの紅蓮弐式っ!」ニコーッ!!

 ラクシャータ『んー、いい感想、もらっちゃったねぇ』ニコニコ

.
能力が向上した紅蓮にすっかり興奮したカレンが操る紅蓮は、廃墟の中を思うが
ままに飛び跳ね、駆け廻る。
その度に、カレンの背後のゼロはコクピット内でシェイクされていた。

 ゼロ「ふお!んが!ぐあああああッ!」
    「いた、いたいッ!カレン、ちょっと……しッ、死んでしまう!」

 カレン「ゼロ、なに腕を離してんのよ!」
     「わたしにしがみついてなさいよ!」

 ゼロ「くッ、くそおッ!」ジタバタ!!

ゼロは、紅蓮の動きに翻弄され踊り狂う自らの身体を必死に動かし、カレンの身体に
ガッシとしがみついた。
だがしかし、そこは腰ではなく……彼女の、ふっくらとした胸の周りッ!

.
 カレン「ちょ……!!///」

 ゼロ「ふおおおおおおッ!」ブルブル!!

 カレン「ちょっと、ねえちょっと!///」

 ゼロ「ぬううううううッ!」ギュウウ!!

 カレン「違うって、場所違う!下っ!もっと下だから!///」

 ゼロ「うあああああああ!死ぬ、死ぬううッ!」ギュウウゥゥゥゥ!!

 カレン「そこ違うって言ってるでしょ!聞きなさいよ、聞けっ!///」

 ゼロ「死から逃れるのに、そこもあそこもあるかああッ!」

.
突如、胸を抱きしめられたカレンは、顔を真っ赤にしながら抱きつく場所が違うことを
ゼロに教えようとするが、まるで一瞬でも離すと宇宙へ放り出されるかのような必死さで、
痛烈なGに耐えながらしがみつく彼には、それが理解できていないようだった。

 カレン「やめ、ちょ……ねえ、離して……ねえってば!///」

 ゼロ「離れん、絶対に離れんぞおおおッ!」

 ラクシャータ『離しちゃダメよぉ、そんな設計してないんだからね?』

 カレン「違うんです、ゼロが……わたしの……!///」

 ゼロ「ムオオおおおおおッ!」

 カレン「いやああっ!そこまで許してないのにいっ!///」

 ゼロ「平時は許されざることも緊急時なら許されるッ!」
    「カルネアデスの板を知らないのかあッ!」

 カレン「そんなの知るかあああっ!///」

.
⌒ ミ 
ω・`) 閑話休題。

.
■Intermission ─────

ルルーシュの思惑、そしてシュナイゼルの思惑により起きた、元皇太子の存命発覚と
いう騒動は、エリア11内のみならず世界にも少なからず話題を与えた。
第17位だったとはいえ、皇族の系譜に属した者が、戦乱を経た後に今は民間人に
なっている、というのは、面白おかしい話のネタとしては丁度良いものだからだ。

だが、彼の生活がひととおり知れ渡ると、マスメディアの過熱ぶりも徐々に醒めてくる。
いかに元皇太子とはいえ、要するにただの妹想いの学生だ。それよりは、世界の
各地で勃発しつつあるブリタニアと反ブリタニア勢力の対立をカメラに収める方が、
それらに無関係で暇を持て余す人々により楽しんでもらえる。

.
シュナイゼル達も、人の目に晒されそれを嫌いながらも、ある程度の覚悟と共に
甘んじて受け入れているルルーシュの様子に、いま以上の注目をする必要は
ないのかもしれない、と考えつつあった。

実際のところ、医療施設で彼が妹と過ごしていた間も、ゼロは変わらず活動をして
いたのだ。ゼロがルルーシュと別人であるのは確実であり、またそれがルルーシュの
指示によるものではないかと疑いつつも、彼は監視下でそういうそぶりを一切
見せないので、疑う理由を失いつつあった。

……キュウシュウブロックのフクオカ基地が、中華連邦の支援を受けた澤崎ら
旧日本政府の関係者に襲撃、占拠されたのは、そのような時期であった。

.
■騎士団トレーラー内 ─────

 ───澤崎は、戦後中華連邦に亡命していましたが、ゼロの活動による昨今の
 内情不安につけこみ、暴動を起こしたものと思われます。
 黒の騎士団が関与しているかは調査中ですが、先日のレーダー基地爆破の……

 玉城「……関係ねエっての!」
    「ま、こうなることは知ってたけどなァ?」

トレーラーに集まっている騎士団の幹部らは、フクオカ基地占拠に関するTVの報道を
見ていた。玉城の言う通り、中華連邦できな臭い動きがあったことは既に知っていた
ので驚きはなかったが、元日本政府の官房長官が先導をしていたことはこの報道で
初めて知った。

.
 扇「……キョウトは何と言っているんだ?」

 ディートハルト「彼らは知らなかったようです」
       「サクラダイトの採掘権に関して、一方的に通告してきたと……」

 藤堂「ふむ……」

 カレン「……ゼロは?どこ?」

 南「上で、キョウトと話をしてるはずだ」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ「……中華連邦の傀儡、ですな」

 桐原『当然だ……あの馬鹿に、そこまでの知恵はない』
    『奴は、儂がサクラダイトを独占したくて降伏を受諾したと思い込んでおった』
    『その恨みを、今晴らす気だろうて……』

 ぜロ「そう見られる覚悟は、おありだったのでは?」

 桐原『…………』
    『お主、まさか奴と同調する気ではなかろうな?』

 ゼロ「その気はありませんよ」
    「傀儡が何するものぞ、です」

.
 桐原『ふむう……ならばよい』

 ゼロ「……」

 桐原『……奴には乗るな、よいな』…ピピッ

 ゼロ(クク……知恵はない、か)
    (あなたが騙しておいて、よく言えたものだ……)

キョウトの桐原との通話が切れた。ゼロは……ルルーシュは、被っていた仮面を
外して大きくため息をつく。
部屋のソファーに寝そべっていたC.C.は、身体を起こすとルルーシュに話しかけた。

 C.C.「……どうするんだ?」

.
 ルル「当初の計画通り、乗る気はないさ……」
    「澤崎は、中華連邦にとってのエンショウだ、かなり貧弱だがな」

 C.C.「エンショウ?」キョトン

 ルル「三国志を読め」ニヤリ
    「それに、澤崎は俺には必要のない駒だ……」

ルルーシュはそう言って、同じモニタ内に映っている騎士団アジトの様子を見る。
そこには、他の団員と共に、緊張した面持ちで騎士団の制服を身にまとっている
枢木スザクの姿があった。

 C.C.「……そういえば、まだお前に聞いていなかった」

 ルル「ん?」

.
 C.C.「枢木スザクをようやっと仲間にできた感想は?」ニヤッ

 ルル「……」…チラッ

ルルーシュは、自分の反応を楽しみに見ている彼女の方を横目で睨む。
再びモニタに目を戻すと……

 ルル「……BESTではないルートだ」
    「だが、まだBETTERではある」

 C.C.「ベストではない?」
    「あれだけ仲間にしたがっていたのに?」

 ルル「……仲間になるのが遅すぎた」

 C.C.「ふむ」

.
 ルル「それに……奴には、これから変わってもらわないとならないからな」

腕組みをし、モニタの中でナイトメアの整備をするスザクの姿を見つめながら、
そう呟いたルルーシュ。
彼は、事務所でのスザクとのやりとりを思い出していた……



■租界内 貿易商事務所 夕刻 ─────

 ルル「……」

 スザク「オレは……」
     「……彼女にだけは、手を出したくないし、出す気はない」
     「彼女の夢だけは、叶えたい」

 ルル「……」ジー

.
 スザク「……それでもいいなら、君の仲間にしてくれ」

 ルル「……彼女の夢、とは?」

 スザク「行政特区を設立する夢だ」

 ルル「…………」

スザクの言葉に、ルルーシュは一瞬、寂しげな微笑みを浮かべた。
その表情の意味を捉えかねたスザクは、怪訝そうに彼を見る、が……

 ルル「……いいだろう」ガタッ
    「枢木スザク、黒の騎士団への参加を歓迎する」

.
ルルーシュは、席を立つとスザクに手を差し出した。
その言葉を受け入れた、という合図に、スザクは安堵の表情を見せた。
彼もまた、ルルーシュの手を強く握る。

 スザク「ルルーシュ……」グッ

 ルル「……スザク、頼りにするぞ」ググッ…



~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……騎士団に入ったからには、奴は利用させてもらう」

 C.C.「……」

.
 ルル「それに……」
    「叶わぬ夢に、いつまでも執着されても困る」

 C.C.「叶わぬ夢?」

 ルル「元々、実現できるわけがないのさ、行政特区など」
    「ナンバーズへの峻烈な差別は、ブリタニアの国是に則ったものなのに、」
    「それと矛盾する政策を実行できるわけがないんだ」

 C.C.「ふーん……」

 ルル「奴が言った通り、ユフィがエリア11の総督になるしか方法はない」
    「尤も、それでやっと実現は30%程度の確率になるが……」
    「残念ながら、その機会すらも永久に来ない」

.
 C.C.「なぜだ?」

 ルル「……俺が、じきここに、独立国を作ることになるからだ」…ギシッ

 C.C.「……」…クスッ

ルルーシュの、大言壮語とも思える言葉に、彼女は小さく笑った。
彼はそれを見咎める。

 ルル「……なんだ?」ジロ

 C.C.「お前らしい言葉だ、と思っただけだよ」

 ルル「……フン」

.
その時、モニタに呼び出しのアイコンが表示された。メールの絵の上には、
「神楽耶」の名が付記されている。ルルーシュは手早く仮面を付けると、
呼び出しに応じた。
突如、モニタいっぱいに、はじけるような笑顔の、黒髪の少女が現れる。

 神楽耶『……ゼロ様!やっと応じていただけたのですね!』
     『お久しゅうございますわ!』パアッ!!

 ゼロ「神楽耶様、大変失礼をいたしておりました……」
    「しかし、1週間程度の間ではございませんか?」

 神楽耶『わたくしにとって、ゼロ様とお話のできない1週間がどれほどの辛さか、』
      『そろそろご理解いただきたいものですわ!』プンスカ

.
 ゼロ「申し訳ございません、私も色々と多忙でございますので」

 神楽耶『それは重々承知しています!』
      『しかし、将来の妻の気持ちを、少しは慮ってくださいませ……』イジイジ

 C.C.「……」

神楽耶の言葉に、ゼロの傍らで様子を見ていたC.C.が微妙な表情をする。

少し前、神楽耶はC.C.に対し、「あなたもゼロ様の正妻の座を狙っているのですね」と
一方的にライバル宣言をしたのだった。
C.C.はそれを否定しようとしたのだが、恥ずかしがらなくてもいいとかフェアに勝負
をしましょうとか、神楽耶の"恋する少女パワー"に押し切られる形で、なぜか彼女と
ゼロを取り合うライバルということになってしまった。
以来、神楽耶の、ゼロへの愛情のアピールを聞くたび、C.C.は微妙な表情を
するようになった。

.
神楽耶が騎士団の重要なスポンサーの代表格であることに加え、C.C.のその
顔つきを妙に面白く感じたルルーシュは、彼女らの対決(?)をあえて放置する
ことにしていたのだった。

 ゼロ「……その件はまた、後程にいたしましょう」
    「本日はどのようなご用件で?」

 神楽耶『あの、ゼロ様?……本当にスザクを、仲間にされたのですか?』

 ゼロ「ええ、彼は有能な人物ですので」

 神楽耶『でも、彼は裏切り者……いえ、もっとひどいわ、』

      『背負った責任から逃げだすような男ですよ?』
      『その事はご承知の上なのですか?』

.
 ゼロ「……事情は伺っております、神楽耶様」
    「それでも、御親族をそう悪しざまに評されるのは宜しくないかと……」

 神楽耶『私は、後々ゼロ様がスザクに裏切られることになるのでは』
      『ないかということを……ずっと気に病んでおりますの』
      『親族だからこそ、わかる事もございましてよ?』

 ゼロ「お心遣い、痛み入ります」
    「フフ……しかし、それは私が杞憂にいたしましょう、ご安心を」
    「彼もいずれ、私の立派な右腕となることでしょう……」

 神楽耶『…………ゼロ様がそうおっしゃるなら、そうなるのでしょうね』ニコッ

      『わかりました、妻として、夫の言葉を信じますわ!』
      『そうでなければ、C.C.様に勝てませんものね!』ニコーッ!!

 C.C.「…………」

 ゼロ「……その件は、また後程に……」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

スザクは騎士団のアジトで、自分に与えられた"無頼改"の整備のために
忙しく働いていた。彼は、当面は零番隊に編入されることになった。即ち、
紅月カレンの部下だ。
ルルーシュは彼に、ここで功績を上げて皆に自分を認めさせろ、と言った。
今回のキュウシュウの騒乱は、その絶好の機会だった。

メンテナンスカバーを開き、4つんばい状態でボックスの中に上半身を
突っ込みながら、彼はずっと考え事をしていた。

 スザク(早く功績を上げて、上に登らないと……)カチャカチャ
     (ユフィと戦うことになる前に、それを避けるよう提言できる立場に……)

 ???「……何チンタラしてんの!」バシッ!!

 スザク「ぐ!……っごほ、ごほ!」

.
突然、何者かに背中をどやされ、スザクは激しくせき込む。
ボックスから身体を引き抜いて振り向くと、そこには仁王立ち状態のカレンが、
腕組みをしながら彼を見下ろしていた。

 カレン「他のメンバーはもう終わってるわよ?」

 スザク「あ!ごめん……」

 カレン「……?」ギロ

 スザク「……なさい、すぐ済ませます」ペコ

 カレン「あんたナイトメアに乗ってたんでしょ?」
     「ったく……頼むわよ、ほんと?」

 スザク「すみません……」

.
彼女のかなり強い口調に対し、スザクは弱々しく返事をする。
カレンは軽くため息をつくと、おもむろに腰を下ろし、スザクの顔を覗き込みながら
小声で尋ねた。

 カレン「……あんた、シナガワでレジスタンスの仲間を殺しただろ?」ボソボソ

 スザク「!!……」

 カレン「クロヴィスの命令だったんだし、そのことであんたを責める気はない」
     「他の団員にも言ってないわ」ボソボソ

 スザク「……ありが」

 カレン「勘違いするな」グッ

.
礼を言いかけたスザクの胸倉を、カレンはがっしと掴んだ。
そのままぐいと引き寄せ、彼の目を覗き込む。

 カレン「わたしは、仲間の恨みを忘れてないってことだから」ボソボソ

 スザク「!!」ビク

 カレン「ゼロの肝いりだから受け入れたけど、ほんとはあんたみたいな」
     「コウモリ野郎、蜂の巣にしたい気分なのよ、わたしは」ボソボソ

 スザク「……」

.
彼女は、スザクの顔をさらに引き寄せると、その耳元に触れんばかりに唇を近づけ、
彼への嫌悪感をその耳孔へ注ぎ込むかのように言い聞かせる。

 カレン「……虫唾が走るわ……あんたみたいな男……」ボソッ
     「日本人の、しかもゲンブ首相の息子なのに、ブリタニアの犬になって……」
     「追い出されたら、また日本人に逆戻り……お気楽なもんだよね?」

 スザク「…………」グッ…

 カレン「……知ってる?戦場での、勇敢な奴と、そうでない奴の見分け方を?」

 スザク「いえ……知りません」

 カレン「死体を見ればわかるわ」ニヤ…
     「胸に穴が開いてれば勇敢だった奴、背中に穴が開いてたら卑怯者よ」

 スザク「!……」

.
 カレン「あんた、今までずっと逃げ続けてきたんでしょうけど、それもここで終わりよ」
     「この先は、ゼロと一緒に死ぬか、ゼロと一緒に生き残るか、」
     「その2つしか道がない……」ググッ

 スザク「ぐう……ッ!!!」

彼女はそう呟くとさらに強く、ぎりぎりと首根っこを締め上げた。
うっ血して苦しそうなスザクの耳元で、子供を諭すようにゆっくりと、優しく、囁く。

 カレン「……もし、道から逸れて逃げようとしたら、わたしはあんたの背中を撃つ」
     「そン時は、一瞬もためらったりしないわよ、わたしは……」
     「たとえゼロが……ルルーシュが止めようとしてもね、わかった?」

 スザク「……わかり、まし……た……」

 カレン「そう……じゃあ、背中に穴を開けられないよう、しっかりがんばってね」
     「あと、二度とわたしにタメ口をきくなよ」…バッ

.
投げるようにスザクをつき離すと、カレンはすっくと立ち上がり足早に去ってゆく。
ルルーシュが「遅すぎた」と言った理由、スザクをすぐに"ランク0"にできない理由が
これであった。

黒の騎士団はすでに成熟した組織となっている。そしてスザクは、完全に新参者で
あり、またカレンの言う通りかつては敵だった人間だからだ。
加えて、ゼロがルルーシュであることを知っているのは、"ランク0"の者たち以外は
いない……当然、ゼロ(=ルルーシュ)との個人的な関係も、他の団員には伏せた
ままとなっている。
彼にとって、騎士団の中の味方はルルーシュと藤堂しかいなかったのだ。

 スザク(コウモリ野郎、か……)フッ…
     (……オレが居るべき場所って、どこにあるんだろう)
     (いや、本当に、この世にあるのかな……)

.
■アッシュフォード学園 ─────

 リヴァル「会長~、ルルーシュのヤツ、知らない?」

 ミレイ「ああ、今日もナナちゃんの所へ行くって言ってたわよ?」

 リヴァル「またあー!?」ガクー
      「学園祭の準備、オレだけじゃ間に合わないッスよお!?」

 ミレイ「ぼやかない、ぼやかない!」ニヤニヤ
     「ぼやくヒマがあるならさっさと働く!」

 リヴァル「へえへえ……」
      「しかし、ほんとに学園祭、やってていいのかなぁ……」
      「キュウシュウブロックが戦争になるっていうのに……」

.
 シャーリー「えっ、戦争……なのかな?」

 ニーナ「戦争だと思う、相手は中華連邦の軍隊だし……」

 ミレイ「いいのいいの、今のうちモラトリアムを楽しまなきゃ!」

……2週間後に控えた学園祭のため、ルルーシュ以外の生徒会のメンバーは
その準備に追われていた。
先日、ナナリーが施設に入って以来、彼は週に2~3日は、放課後になると
妹の所へ足を運んでいた。今日も彼は、その訪問のため生徒会には顔を出して
いなかった。

 ミレイ「けど、ルルーシュって、ほんと妹のことになるとマメよねぇ……」
     「学校でも逢えるのに……」

.
 ニーナ「クラブハウスを出たから、やっぱり心配なのかな?」

 リヴァル「そのマメさを、こっちに向けて欲しいもんだよ……」ブツブツ

 シャーリー「……そうだよねぇ……」ブツブツ

 ミレイ「……ん?」ピクッ

 リヴァル「……お?」ピクッ

何気ないシャーリーのつぶやきに、敏感に反応した二人。
自分に向けられた彼らの視線に、シャーリーは気づく。

 シャーリー「……な、何ですか?」

.
 ミレイ「今の言葉、ちょっと意味深じゃなかった~?」ニマー

 リヴァル「でしたねぇ~」ニマー

 シャーリー「……なにが!?」

 ミレイ「で、どうなの、最近のあなたのルルちゃんは?」

 シャーリー「……元気ですよ、たぶん」ムスッ

 リヴァル「おおっ!?」
      「あなたの、を否定しなかったぁ!?」

 ミレイ「そりゃ、全世界公認の仲だもんねえ~!」
     「成長したわねぇ、シャーリィ~」ニマニマ

.
 シャーリー「全世界って!……やめてくださいよ……///」カアー

 ミレイ「いいじゃんいいじゃん!」ニコニコ
     「……で、たぶん、ってどゆこと?」

 シャーリー「……最近、あまり話せないから……」

 リヴァル「ほうほう?」
      「それは、倦怠期、ってことかな?」

 シャーリー「まだ倦怠期が来るほど時間たってないし!!」ムキー!!

 ニーナ「……ナナちゃんばかり構ってる、ってことだよね?」ニコッ

 シャーリー「…………うん、まあ……」ショボン

.
 ニーナ「シャーリー、あのね、いい考えがあるの!」
     「今度ね、ルルーシュに頼んでみようよ、」
     「ナナちゃんの所へ、いっしょに連れてってくれ、って!」パアッ!!

 シャーリー「えっ!?」

 ミレイ「へ?」

シャーリーをいじって遊んでいた彼らの輪の中に、突如加わってきたニーナ。
彼女らしくもない打開策(?)の提案に、彼らは少し面食らった。
そんな彼らの様子などおかまいなしに、ニーナは楽しそうに話し続ける。

 ニーナ「シャーリーが積極的になれば、彼もきっと言う事を聞いてくれるって!」
     「それに、ルルーシュってユーフェミア様のご兄弟だったんでしょ?」
     「できれば私もいっしょに行って、お会いしたいなって!」ニコッ

.
 シャーリー「あ、うん……?」

 ニーナ「スザクって人、結局約束守ってくれないし……」
     「いい人そうだったけど、やっぱりイレヴンはダメね!」ニッコリ

 リヴァル(うわ、彼のこと、あっさりと……!)

 ニーナ「ルルーシュの友達ってことなら、ユーフェミア様もきっと逢ってくださるわ!」
     「ね、シャーリー、いっしょに頼んでみよ!?カワグチ湖のことのお礼もまだ」
     「お伝えしてないし……そうだ、最近遊んでくれないお詫びに、って言って」
     「みたらどう?そう言われたら彼も、断りづらいと思うの!だって、彼女を」
     「放っておいて自分は妹のことばかり構ってるのって、彼氏として問題ある」
     「んじゃないかって思うし、そう言われたら彼も反省するんじゃないのかな、」
     「その証にってことで、ね、言ってみたらいいんじゃない?今すぐ電話で彼」

.
……普段は寡黙なニーナの突然の暴走に、他の3名は目をぱちくりとさせた。

すっかり興奮した彼女は、スザクをバッサリと切り捨て、気付いてるのか気付いてない
のか、ルルーシュに自分の目的を手伝わせようと訴える。
その姿に、シャーリーはやや引き気味になりつつも、ニーナを落ち着かせようとする。

 シャーリー「うん、わかった……」
        「とりあえず、ルルが来ないことにはどうしようもないから……」

 ニーナ「シャーリー、彼の電話番号を知らないの?」

 シャーリー「ううん、知ってるけど、施設に行ってる時はなるべく控えてくれ、って」

 ニーナ「ダメよシャーリー!」
     「そんな調子だから、彼が逃げてくのよ!」

 シャーリー「逃げ!?」ギョッ!!

.
 ミレイ「あー……っと、ニーナ?ちょっと落ち着いて?」

 ニーナ「なに?ミレイちゃん?」ジロ

 ミレイ(うっ……怖っ……!)
     「……ほら、ねえ、ルルーシュって、すっごいシスコンじゃない?」ニコ…ッ
     「妹といる時間は、きっと邪魔されたくないんじゃないかなあ、って……?」

 ニーナ「だったらシャーリーがつらい思いしててもいいの!?」
     「シスコンを許すの!?いつまで甘やかすの!?」

.
 リヴァル「ニッ、ニーナおい、ちょっと待てよ!?」
      「一体どうしたんだよ!?」オロオロ

 シャーリー「あのね、あの、わたし、そこまでつらいワケじゃないから……」オロオロ

 ニーナ「もどかしくって、見てらんなくなるの!」
     「ちょっと電話貸して!わたしが電話してあげる!」

 シャーリー「いやっ、ちょっと待って!」
        「言うから、明日絶対ルルに言うから!」オタオタ!!

.
⌒ ミ 
ω・`) ニーナェ…

.
■キュウシュウブロック スオウケープ ─────

中華連邦の部隊は、強い勢力を誇る台風の発生に合わせ、それがキュウシュウ
ブロックに達する前にフクオカ基地への侵攻を行った。コーネリアは直ちに基地の
奪還へ向かったのだが、その頃には上陸した台風に阻まれた形で、思うように
動けない状況となっていた。

夜半を迎えた周防灘の沖合の戦艦で、コーネリアは艦長席に座りながら、
こう着した戦況をいらだたしげに眺めていた。

 コーネリア「……いまいましいな、このタイフウという奴は」

        「こんなものが毎年いくつも襲ってくる場所に住もうというのだから、」
        「エリア11の連中の気が知れん」

 ダールトン「今回のものは、特に強いようですな」

.
 ギルフォード「タイフウの通過まで、3時間程度はかかる見込みです」

 コーネリア「ふん、自然の猛威には逆らえぬか」ギシッ
       「どうせ連中は今頃、天命が我らにどうだと、呆けたことをぬかして」
       「おるだろうな」

 ダールトン「連中のオカルトも、タイフウが過ぎ去ればそれまでです」ニッ

 コーネリア「当然だ……」ニヤッ

        「この世の全ての理(ことわり)は、得体の知れんフウスイではなく」
        「高貴なる暴力が決めることを、あの脆弱な連中に叩き込んでやるぞ」

 ギルフォード「イエス、ユアハイネス!」ニッ

.
 オペ男「……総督、アヴァロンから入電です、繋ぎますか?」

 コーネリア「アヴァロン?兄上か……?」
        「つなげ!」

オペレータが回線を接続すると、艦橋のモニタいっぱいにロイドの笑顔が浮かびあがった。

 ロイド「あっは~!総督、ご機嫌うるわしゅうございます~!」

 コーネリア「…………切れ」

 セシル「あっ、ちょっとお待ちを!」
     「ロイドさん、わたしが代わります!」グイグイ

 ロイド「え~、立場として僕が言うべk」ムギュムギュ

.
画面横から彼を押し出すようにしながら、セシルが代わりに出てきて笑顔を作る。

 セシル「……あの、総督、シュナイゼル殿下からお話はございませんでしたか?」
     「私たちも戦線に参加するように、との……」

 コーネリア「……嫌な事を思い出させてくれたな」
        「で、間に合いそうなのか?」

 セシル「あと3時間弱で戦闘空域に達する予定です」

 コーネリア「ふむ……ならば、先導を務めよ」
        「実験機を出すのだろう?」

 セシル「はい、殿下の命にて」

.
 コーネリア(包囲陣への突撃、か……パイロットは誰だ?)

        「うむ、貴様らが突破口を開いた後、それを足掛かりに我々が」
        「敵布陣を打ち破る……心してかかれ」

 セシル「イエス、ユアハイネス!」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

その頃……

ブリタニアの戦艦が密集する周防灘を抜け、関門海峡の海底スレスレを、這うように
潜行している一隻の潜水艦の姿があった。
ゼロ率いる、黒の騎士団の部隊である。

.
 藤堂「これだけ接近しても気づかれないのだから、ゲフィオンディスターバの」
    「ステルス能力というのはすごいものだ……」

 ラクシャータ「姿そのものや音響まではステルスできないよ」
      「夜で、しかも嵐の最中だからできることだけどねぇ」

 扇「ゼロ、出発時の話のことだが……本当に、合流目的ではないのか?」

 ゼロ「ああ、我々のスポンサーであるキョウトもそれは望んでいない」

 カレン「わたしたちは日本独立を目指す、って話も?」

 ゼロ「それはまだ言っていない」

.
 朝比奈「……あの話、キョウトはどう出てくるかなあ……」

 ゼロ「状況次第だ、彼らは状況に応じて態度を変える」
    「だがその本質は……常に、保身だ」

 藤堂「……辛辣な言葉だな、ゼロ」

 ゼロ「君も、ナリタで身を以て体験しただろう?」
    「キョウトの"本質"は?」

 藤堂「……うむ」

 千葉「ゼロ、今後の予定はどうなる?」

.
 ゼロ「この海域を抜ければ、ハカタケープまでひといきだ」
    「そこから上陸をはたし、フクオカ基地を急襲する」

    「中華連邦の主力部隊は、スオウケープ沿岸に広く展開している」
    「本陣が奇襲により潰されたとなると、連中は浮足立ち各所で敗北するだろう」
    「だがコーネリアらが中華連邦の布陣を破り、フクオカ基地に到着する頃には」
    「そこはもぬけの殻だ……」

    「……その時、コーネリアはどんな顔をしているかな?」

ゼロの言葉に、デッキに集まっていた騎士団の面々から笑い声が漏れる。
先の式根島での手痛い敗北の意趣返しという意図も、この作戦には含まれていた。

.
 玉城「黒の騎士団、ここにありッてトコを、見せつけてやンねえとなァ!」

 ゼロ「その通りだ、期待しているぞ、特務隊隊長」

 玉城「おうさ!任せとけッて!」ニカッ!!

 ゼロ「……ハカタケープに到着するまで、各自待機だ」
    「カレン、話がある、艦長室まで来てくれ」カツカツ…

 カレン「はい!」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ゼロから少し遅れて、艦長室の前まで来たカレンは、小さくため息をつくと
扉をノックする。

 カレン「……紅月カレンです!」ドンドン

 ゼロ『入れ』

 カレン「失礼します!」ガチャリ…テクテク

艦長室の中には、机の前で椅子に座るゼロと、ベッドに寝そべりこちらを見るC.C.の
姿があった。ゼロに促されるまま、カレンは艦長室の扉を閉めて来客用の小さな
腰掛け椅子に座る。C.C.の方をチラリと見てから、カレンはゼロの方に顔を向けた。

.
 ゼロ「……枢木スザクはどんな様子だ?」…カポ

ゼロは……ルルーシュは仮面を外しながら、カレンにそう尋ねた。
話とはそのことだろうと予想していた彼女は、神妙な顔つきで応える。

 カレン「どうってこともないわよ」

 ルル「そうか」…ギシッ
    「作戦でも、問題なく使えそうか?」

机にひじをつき、あごを支える形で机によりかかったルルーシュは、
カレンの表情を見つめながら質問を続ける。

 カレン「大丈夫よ」

 ルル「……」ジッ…

.
 カレン「……なに?」

 ルル「正直に言え、うまくいってないだろう?」

 カレン「作戦には影響しないわよ」

 ルル「当然だ、君にはそれ以上を期待している」

 カレン「……勝利以上の、何を期待しているのよ?」
     「わたしはオトモダチでもないし、それどころかアイツ嫌いなのよ」

 ルル「……」

ルルーシュはカレンから視線を逸らし、何事かを思案しながら指で机をコツ、コツと
軽くたたく。
直情的に言い過ぎたか、と思ったカレンは、少し気持ちを抑えて言葉を続ける。

.
 カレン「……団員としての教育は、キッチリさせてもらうけどね」
     「それに、作戦の遂行中に、個人的な感情は交えないわよ」

 ルル「…………」コツ、コツ…

 カレン「…………不安に思うなら、アイツを私の部隊から外してよ」
     「評価が下がるとか、わたし気にしてないからさ」

 ルル「…………」
    「……スザクはな、」ギシッ

ルルーシュは再び背もたれに深く背を預けると、静かな声でそう切り出した。
彼が枢木スザクのことを、「スザク」と言ったのは初めてだ、とカレンはすぐ気づいた。

 ルル「……俺が、奴の人生を狂わせたようなものなんだ」

.
 C.C.「……」

 カレン「え?」

 ルル「奴は、義侠心のある男だ」
    「カレン、スザクを正当に評価してやってほしい」

 カレン「!!」
     「……わたしが、色眼鏡で見てる、ってこと?」

 ルル「君ではない……世間が、だ」
    「そして君も、今はその世間の中に含まれている」

 カレン「……そうですか」

.
他に人のいない場所で、カレンがルルーシュに対し敬語を返した時は、それは
自分の考えと全くそぐわないという感情を含んでいる。

 ルル(……想定パターン6、か)
    (しようがない……)

ルルーシュは、柔らかな微笑みを作ってみせながら、カレンに語りかける。

 ルル「……カレン、俺は、君だから期待しているんだ」ニコッ
    「玉城でもない、扇でもない、君だから、だ」

 カレン「……」ジー

 ルル「スザクと藤堂は師弟の関係だったらしい」
    「本来なら、藤堂の下につけるのが最も妥当だろう」
    「だが、今回はカレン、君でないとダメなんだ」

.
 カレン「……どうしてですか」

 ルル「君が、騎士団の中で最も人望のある幹部だからだ」

 カレン「……」

 ルル「藤堂とは違い、君は設立当初からの騎士団の幹部であり、また」
    「ナイトメアの操縦でも随一の腕前を誇っている」
    「加えて、部下からの信頼も厚い」

 カレン「…………」

 ルル「それに、藤堂がスザクを認めていても、彼らの元からの関係があるから」
    「それは他の者には伝わらない……贔屓目だろう、とな」
    「君が認めることで、初めてスザクはここで認められる存在になれるんだ」

.
 カレン「……それはわかってるわよ……」
     「でも、アイツが」

 ルル「カレン…………」…ギシッ
    「……頼む、これは、君にしか頼めないんだ……」ジッ…

 カレン「……!」ドキ

身を乗り出したルルーシュの真剣な眼差しが、カレンの顔を覗き込む。
その、懇願するような口調に彼女は、心臓がひとつ、高鳴ったのを感じた。
ベッドの上で、顔を上げ目を丸くしているC.C.の様子にも気づかなかった。

 ルル「……カレン…………」ジー…

.
 カレン「……アイツのことについては、」…プイ
     「公正に評価するつもりよ、最初っから」

カレンは視線を逸らしながら返事をする。
その答えに、ルルーシュは満足げな笑みを浮かべた。

 ルル「そうか……」ニコッ

 カレン「あなたが言った言葉でしょ、黒の騎士団は実力主義だ、って」
     「わたしはその言葉通りにするだけ」

 ルル「ああ、それでいい」…ギイッ

 カレン「……他には?」…ジロ

.
 ルル「ない、以上だ」…カポッ

 ゼロ「……状況を開始するまで待機だ」

 カレン「わかりました」ガタッ

ルルーシュは、仮面を被りながら彼女に指示を出す。
カレンは椅子から立ち上がり、背後にある艦長室の扉の方を向きかけたが、
ピタリと動きを止め、再びルルーシュの方を向いた。

 カレン「……初めて、お願いされた気がするわ」

 ゼロ「ん?」

 カレン「持ち場に戻ります!」クルッ

.
彼女はそう言うと、今度こそ扉の方へ向かい、外へ出て行った。
ルルーシュは……ゼロは、彼女が出て行った扉をしばらく見つめていたが、
ベッドの方から注がれる視線に気づいてそちらを向く。
C.C.は、まだ目を丸くしながら彼を見ていた。

 ゼロ「……なんだ?」

 C.C.「お前……今、カレンを口説こうとしたのか?」

 ゼロ「口説く?なぜ俺が彼女を口説かないとならないんだ?」

 C.C.「今のそぶりは、明らかに口説き落とすものだったぞ」

 ゼロ「違うな、勘違いだ、C.C.」フン
    「想定された彼女の心理パターンに従い、心情を操作したのだ」

.
 C.C.「……それは、一般的に口説くと言うのだ」
    「というか、まさか今の、お願いするような口調も意図的にやったのか?」

 ゼロ「当然だ、これまで彼女には懇願したことがないという前提がなければ、」
    「ここ一番での効果的な戦術として用いることができまい」

 C.C.「お前……カレンの気持ちを弄ぶ気か?」

 ゼロ「…………弄ぶ、か」ギシッ

彼女の言葉に、ゼロは相好を崩した。
椅子を回転させてC.C.を正面に捉える。

.
 ゼロ「……俺の行為が"罪"だという気か?」
    「お前が、それを言うのか……?」

そう問い返したゼロの仮面の中に潜む、ルルーシュの冷酷な笑み……
それを察したC.C.は、やがてにっこりと微笑んだ。

 C.C.「……いいや、好きにすればいい」ニコッ

 ゼロ「当然だ……俺は、俺が思うが儘にさせてもらう」
    「俺が思う通りの世界に創り変えるためにな……」クルッ

 C.C.(……大衆のみならず、身近な個人の心までも操り始めたか)
    (己の目的のために……しかも、ギアスを使わずに、だ)
    (ふふ、この萌芽がどう育つのか……楽しみだ……)

.
■フクオカ基地 ─────

フクオカ基地を占拠した中華連邦の兵士たちは、台風の強烈な風が吹きすさぶ中、
ナイトメアに乗り基地の周辺を警戒していた。
だが、ブリタニアに対しての奇襲攻撃による圧倒的な勝利の快感を得た上に、猛烈な
嵐の最中とあって、彼らの警戒心は極度に落ちていた……

 中華兵A『……そっち、敵はまだ来ないか?』ガガッ

 中華兵B『来るわけがないでしょ……』
       『あの高慢ちきなブリタニア軍が、こんな嵐の中、泥だらけになって』
       『戦うわけがねえッスよ』

 中華兵C『ハハハ、言えてる!』

.
 中華兵A『油断するなよ、窮鼠猫を噛む、だ』
       『白人共も、切羽詰まれば糞の中にだって飛び込むだろうからな』…ピッ

 中華兵B『はいはい……小うるさい隊長殿だ』

 中華兵C『……おい、お前、ブリタニアの女、もう味わったのか?』

 中華兵B『まだだよ、ブリタニア人はみな地下の倉庫に閉じ込めたままだ』
       『一応、サワサキの顔を立ててやらにゃならんらしい』

 中華兵C『面倒だな……女もサワサキも、やっちまえばいいんだよ』
       『中華連邦軍の吹き溜まり、杭州愚連隊の名が泣くぜ……ヒヒッ』

 中華兵B『こんなクソみたいな役回り、役得でもなきゃやってらんねえよな……』
       『後でこっそり、一人二人さらってくるか?』

.
 中華兵C『いいねぇ……殺して海にでも投げ捨てればバレねえだろ』

 中華兵B『ヘヘ……なら、とっとと見回りを済ま…………?』

 中華兵C『…………惊悚!?(マジかよ!?)』

 中華兵B『卧槽!』(クソッ!)

中華連邦のナイトメア、ガン・ルゥ2機は異様な気配に気づいたものの、応戦体勢を
取る間もなく、コクピットを紅蓮の特斬刀と無頼改の廻転刃刀で貫かれた。
操縦者を潰されたガン・ルゥは、そのままその場にへたり込むように崩れ落ちる。

.
ガン・ルゥから特斬刀を抜き取ったカレンは、自分の背後でもう片方のガン・ルゥを
仕留めたスザクの方を向く。

 カレン「……いいの、持ってんじゃん?」

 スザク『ラクシャータさんが、僕にこれをテストしろって渡してくれたんです』

 カレン(ったく……なに考えてんのよルルーシュは……)…ハァ
     (他の団員の手前ってもんがあるでしょ……)

 スザク『……あの?』

 カレン「それに見合った結果を出しなさいよ」
     「出せなきゃその剣、取り上げるわよ」

 スザク『……はい!』

.
 カレン「……ゼロ、道は開いたわ」ピピッ

 ゼロ『良しッ!"ブリッドメイデン"作戦、開始だ!』

 藤堂『承知!』
    『黒の騎士団、見参ッ!』

 四聖剣『見参ッ!』

藤堂の号令一下、新型ナイトメア"月下"を操る四聖剣とその部隊がフクオカ基地の
敷地内へ躍り出る。

けたたましいサイレンと共に、四方からガン・ルゥの大部隊が現れ包囲をしかけた。
その数、優に50機を超えると思われるほどの量……対する騎士団側は、20機前後!
包囲・一斉掃射されれば押し潰されてしまう差だ。

.
しかし……

 仙波『弐番隊、車掛りだ!敵を翻弄しろッ!』シャアァァァ!!

 朝比奈『月下、いい出来じゃない!気持ちいい動きをするねぇ!』ズシャアァァァ!!

 千葉『……ぬおおおっ!』シャシャシャキキキィン!!
    『ふっ、鈍重に過ぎるぞ、中華連邦のナイトメアは!』

 卜部『取柄は物量か、中華は変わらないなッ!』ドドドドッ!!

 藤堂『油断するなよ、押されたら引けッ!』キイン!!

……ブリタニア軍の標準機、サザーランドにも劣る性能をカバーするための中華連邦の
物量作戦も、黒の騎士団の最新鋭機が相手ではただ布陣を削られ続けるだけであった。
ましてや、ブリタニア側への防衛のため、80%近くの戦力をスオウ沿岸に配置している
状況では、その物量すら欠けた状態だったのだ。

.
藤堂と四聖剣の指揮の下、騎士団の部隊は、式根島での遺恨をここで晴らすべく、
猛烈な攻撃を繰り広げた。

 澤崎「ば……バカな……!?」
    「あれは、黒の騎士団じゃないのかッ!?」

 曹将軍「サワサキ、彼らにもコネクションを行った、と言っていませんでしたか……?」

 澤崎「は、はい……ですが、まさか裏切ったのか……」ギリッ…

    (くそ……九州地方のレジスタンスと同調し、ブリタニアの反撃が始まる前に)
    (九州を独立国と化す計画が……!)
    (やはり、桐原の差し金か……サクラダイトの採掘権を、黙って渡す気はない、)
    (という事か……!)

.
 曹将軍「黒の騎士団が反旗を翻せば、他のレジスタンスも我々には付かない……」
      「……サワサキ、我々は、貴方を信じてここまで来たのですよ?」

 澤崎「もっ、もちろん……曹将軍、少し時間をください!」
    「ゼロと直接、話を……」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

その頃ゼロは、潜水艦のデッキで各所からの報告を受けながら、戦況図で状況の
進捗に従い、矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。

 ゼロ「……A地点、予定より5分遅滞している!何事だ、玉城!」

 玉城『すまねェ!格納庫周辺に敵がウジャウジャいてよォ……!』

.
 ゼロ「……零番隊、格納庫へ突撃を仕掛けられるか?」

 カレン『任せてくださいっ!みんな、いくよ!』

 隊員たち『応ッ!隊長を援護しろオッ!』

 ゼロ「藤堂、カレンがA地点へ突撃を仕掛ける!援護を!」

 藤堂『承知!』

 ゼロ(クソッ!これ以上の遅延は何が何でも避けないとならん!)
    (ブリタニアが気付くよりも早くここを占拠しなければ、計画が水泡と帰す……!)

その時、オープンチャンネルでのコール音が響いた。
オペレータが通信内容を素早く確認し、ゼロに報告する。

.
 オペ子「艦長、オープンチャンネルです!艦長を呼び出しています!」
     「相手は……澤崎、と名乗っています!」

 ゼロ「サワサキ?……ふむ、いいだろう」バッ!!
    「受話器につなげ!」カツカツ…

ゼロはオペレータに指示をすると、艦長席に戻って腰掛け、傍らの受話器を上げた。
やや興奮した状態の男の声が耳に入ってくる。

 澤崎『ゼ……ゼロか?ゼロなのか!?』

 ゼロ「私が、ゼロだ……」
    「降伏の宣言にはまだ早いのではないですかな、サワサキアツシ……?」

 澤崎『そんな、ふ、ふざけたことを言ってる場合じゃないッ!』
    『ゼロ、お前もブリタニアの支配に抵抗しているのだろう!』
    『なぜだ、なぜ同志である我々を攻撃するのだ!?』

.
 ゼロ「……私の同志は、黒の騎士団のメンバーのみだ」
    「何か、勘違いをしていらっしゃるようですな……」

 澤崎『いいから、戦闘をやめろ!やめさせてくれ!』
    『これ以上、無駄な争いを続けていたら、日本独立の計画が……』

 ゼロ「偽りの国名を呼ぶのはいかがなものかな?」
    「中華連邦キュウシュウ自治区を設立する計画が、でしょう?」

 澤崎「!!…………」

ゼロの言葉に、回線の向こうにいる澤崎が口を閉ざした。
少しの間、何かぶつぶつと呟いていたが……

 澤崎『…………桐原か?……やはり桐原なのだろう……?』
    『奴の指示で、我々の計画を潰すために来たんだな……!』

.
 ゼロ「桐原氏も、我々の考えに賛同してくれたのですよ、」
    「傀儡を頭にいただく気は毛頭ない、とね」

 澤崎『…………』

 ゼロ「……我々は、自力での独立を果たすつもりです」
    「貴方の手助けをする気も、していただく気もありません」

 澤崎『…………お前か、ゼロ!』
    『貴様、自分が日本のトップに立つためn』

 ゼロ「フッ、フフ……ハ、フハハハハハハハ……ッ!」

突然、デッキにゼロの笑い声が響きわたる。
団員たちは、何事かと思いゼロの方を見た。

.
 ゼロ「ハハハハハ、ハハ……ッ!」
    「なるほど、小物は相手もみな、自分と同じ小物だと思うものだな」

 澤崎『な!?小物……?私が、小物だと!?』
    『貴様……ッ!』

 ゼロ「私は力ある者への反逆者であり、力なき者の味方である!」
    「日本の首相の座などは求めていない!」
    「誰が新しい日本国の首相になろうが、どうでもいいことだ!」

 澤崎『な……!?』

 ゼロ「だが今は、新生日本の代表として貴様よりも適した男がいる」
    「いずれ日本が独立を果たす日が来るだろうが、首相の椅子は、」
    「そいつにくれてやる積もりだ……」

.
 澤崎『おのれ……!』

 ゼロ「……というわけです、ですが、貴方が日本のためにできることもある」
    「それは、後30分以内にわかるでしょう」

 澤崎『……なに!?』

 ゼロ「今、私は非常に忙しいのです」
    「失礼する」ガチャ!!

そこで会話を打ち切ったゼロは、再び席から立ちあがるとデッキのモニタに映し出された
戦況図を睨み、怒号を上げる。

 ゼロ「……カレン!状況はどうなっている!」

 カレン『うっさい!意地でも突破してみせるわよっ!』

 ゼロ「フッ、良かろう!」
    「道を切り開いたら、零番隊および藤堂の部隊は基地内部へ突入し、」
    「迅速に制圧せよッ!」

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 曹将軍「……はい、そうです、閣下……」
      「状況は、限りなく悪化しています…………」…チラ

 澤崎「……くそ、くそ……ッ!」ガサガサ
    「どうして、なぜ黒の騎士団が……!」ガサガサ

ゼロとの直接対話による状況の打開にも失敗してから約10分後……

ブリタニアに奇襲をかけた自分たちが黒の騎士団の奇襲を受けるという、
全くの予想外の事態に、中華連邦側の司令部は混乱に陥っていた。
指令室の中では中華連邦の兵士たちが怒鳴り合い、叫ぶ声が渦巻いている。

.
そんな中、曹将軍は取り急ぎ、本国へ状況の変化を伝える。
澤崎は、基地からの脱出および再度の亡命に備え、ブリタニア側の資料を漁れる
だけ漁っていくつもりで、片端からひっくり返していた。

 曹将軍「……そっ、そんな、閣下……!?」
      「同郷のわたしを、お見捨てになるのですかッ!?」

 澤崎「!?」ピタ

 曹将軍「…………いえ、はい……はい、わかっております…………」
      「……はい、おっしゃる通りです……」

電話で本国の上司──おそらく、書記長だ──と話す曹将軍の声のトーンが、
低く、小さくなったのに澤崎は気づいた。

.
 澤崎(見捨てる……見捨てる、だと?)
    (まさか、中華連邦の将軍を捨て駒にするというのか……!?)

 曹将軍「……はい、勿論です……」

      「…………かしこまりました……」
      「中国联邦万岁……」…カチッ

通話スイッチをカットした曹将軍は、しばらく押し黙る。
どういう内容であったのか聞いてよいものかと澤崎が逡巡していると、彼はおもむろに、
傍にあった椅子をゆっくりと抱え上げた。

 澤崎「えっ?」

 曹将軍「……狗东西!」(クソったれが!)

顔面を紅潮された彼は、頭上の椅子を力任せに通信機に叩きつける。
通信機は、破片をまき散らしながら破損した。

.
 澤崎「曹将軍!……一体何事ですか!?」

 曹将軍「……サワサキ……」ニコッ
      「どうやら我々は、井陘(せいけい)に来ていたようだ」

 澤崎「はっ!?」

 曹将軍「背水の陣だよ」
      「キュウシュウを独立させるか、ここで死ぬか、どちらかを選べと言われた」

 澤崎「そんな……!」
    「本国は、いまこの状況をわかっているのですか!?」

 曹将軍「我々が受けた命令は、君を首長としてキュウシュウを独立させることだ」

      「状況は、我々がコントロールすべきもの……」…チャキ
      「それを達成しない限り、私は国へ戻れないのだ……」

 澤崎「……!」

.
悲壮な表情を浮かべた将軍が、静かに構えた銃口は、澤崎の額を正面で捉えていた。
澤崎を含めた周囲の者たちが息をのむ中、彼は、ひっそりと微笑んだ。

 曹将軍「あるいは……」

      「……我々は、君を代表とする日本国人民の救援のため行動を起こした、」
      「だが、君は、戦場で命を落とした……」…カチッ

 澤崎「!!」

 曹将軍「……そうなると、我々は名分が失われる」
      「撤退せざるを得なくなる……」

 澤崎「し、将軍……!」

 曹将軍「サワサキ、君はよい友人でもあった……」…ニッ
      「戦争とは、悲劇をもたらすものだね……」

.
口角を上げる将軍、カッと目を見開く澤崎。
そして次の瞬間……室内に乾いた銃声がこだまする。
だが、それは曹将軍の放ったものではなかった!

 ??「……動くなッ!」パァァン!!

 曹将軍「!?」

 ??「黒の騎士団だッ!」
    「フクオカ基地はたった今、我々により制圧された!」
    「諸君らは今後、一切の抵抗を試みることを禁じる!」

 澤崎「……と、藤堂……!」クワッ!!

 曹将軍「バカな!……もうここまで制圧されただと……!?」

.
澤崎にその名を呼ばれた男、藤堂は、構えた銃の照準を曹将軍に合わせていた。
その左右には騎士団の団員たちがサブマシンガンを抱えて並び、いつでも
室内の全員を射殺できる態勢でいた。

少しの間、驚愕の表情を浮かべていた澤崎だが、やがて無理矢理に笑顔を作る。
身体を震わせながら、藤堂に語りかけた。

 澤崎「……そ、そうか、そうか!私を助けに来たのだな……!」ニコ…
    「いい、タイミングだった……もう少しで、私は」

 藤堂「……全員、直ちに拘束せよッ!」

 澤崎「な!?」

.
さらに別の団員たちが室内へ駆け込み、一人の例外もなく手足を縄でしばり
上げ、床に転がした。
藤堂は、やはり同じく身動きできないように縛られ、床に転がされた澤崎を見下ろし
ながら、ぽつりと呟く。

 藤堂「……どうして、戻ってきたのだ……」

 澤崎「藤堂……!」

 ??「……藤堂隊長、全員拘束しました」カツカツ…

 藤堂「よし、ならば君は、ゼロの指示通りに待機だ」

 ??「はい!」

.
藤堂の傍らに歩み寄り指示を仰ぐその団員を、床から見上げた澤崎は、
更なる驚きに打たれる。それは、枢木ゲンブの息子、枢木スザクだった。

 澤崎「きっ……君は、枢木スザク……!」

 スザク「……澤崎さん……」

 澤崎「生きていたのか……」
    「いや、それどころか、君も黒の騎士団にいたのか……!」

 スザク「……」ジー

 澤崎「……き、君は、いいのか?」
    「ゼロなどという、得体の知れない男の下についていても……」
    「父親の無念、晴らそうと思わないのか……!?」

.
 藤堂「枢木、行け……」

 スザク「…………失礼します」…クルッ

澤崎の問いに答えず、藤堂に促されてきびすを返したスザク。
自分が完全に虜囚となったことを悟った澤崎は、冷たい床の上でもがきながら
去ってゆくスザクの背中に言葉を投げつける。

 澤崎「こっ……この、裏切り者があッ!」
    「お前が父親を裏切らなければ、日本は、日本は……!」
    「貴様ら、聞け!枢木家が、こいつが日本を狂わせた全ての元凶なんだッ!」
    「死ね、死ねえッ!お前も死んで我々に詫びろオッ!私を解放しろオオオッ!」

 スザク「……」カツカツ…

.
 藤堂「黙れッ!」バッ!!

藤堂は、澤崎に馬乗り状態で飛び乗り、その首を締め上げる。
頸動脈を抑えられた澤崎は少しの間抵抗を見せたが……

 澤崎「あ……が…………」

 藤堂「……父親が、全ての元凶だ……」ボソッ
    「彼もまた、被害者なのだ……」グググ…

 澤崎「………………」
    「……」…コトッ

.
彼が完全に"落ちた"のを確認した藤堂は、腰を上げて曹将軍の方を見る。
彼は、拘束されて以降ずっと藤堂を睨み続けていた。

 曹将軍「……我々を、どうする気だね?」

 藤堂「貴方たちの身柄は、ブリタニアへ委ねる」
    「君たちの本国との関係上、彼らも邪険に扱うことはできまい」

 曹将軍「……」ギリッ…

 藤堂「作戦終了後、我々は撤退する」
    「それまではここで、大人しくしていてもらおう……」
    「見張り3名はここに残れ!諸君、行くぞ!」バッ!!

 団員たち「了解ッ!」ダダダッ!!

.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……黒の騎士団が、中華連邦軍を打ち破りフクオカ基地を制圧して、約30分後。

台風がちょうど過ぎ去った頃、空中戦艦「アヴァロン」は、事前にコーネリアへ伝えた
通り、スオウケープ上空域に到達していた。
準備を整えたランスロットの通話モニタにセシルが現れ、パイロットに最終確認を
伝える。

 セシル『……作戦内容を再度確認します』
     『当艦は高高度から敵の前線を突破し、発艦ポイントまで移動中』
     『嚮導兵器Z-01ランスロットは、フロートユニットを使用し、敵司令部、』
     『フクオカ基地を強襲せよ』
     『なおフロートは、エナジー消費が……』

.
 ジノ「はいはい、わかってますよセシルさん、任せとけって!」
    「貴女の言葉は、一言たりとも漏らさず覚えていますよ?」ニカッ

 セシル『あら、そうですか?』ニコッ
     『ではヴァインベルク卿、最初から復唱をお願いできますか?』

 ジノ「……フクオカ基地をぶっ潰す!」ビシッ!!
    「オーケー?」

 セシル『……随分と省略されましたわね?』ニッコリ

 ジノ「そだっけ?」ポリポリ

    「あと、その仰々しい呼び方、やめてほしいんですけど~?」
    「ジノって呼んでくださいよ、もしくはハニーでもいいですよ?」

.
 セシル『畏れ多いですわ、ヴァインベルグ卿』ニッコリ

 ジノ「あら~?恥ずかしがる必要はないですよ、セシルさん?」ニッコリ

 ロイド『でも良かったねぇ~、ジノ君~!』
     『陛下からのラウンズへの任命、まだだってねぇ~!』

 ジノ「良くないよ!」
    「おかげでまた、こんな辺鄙なとこに駆り出されて……」ブツブツ

ランスロットのコクピット内で、ジノは全く物怖じしない様子で不満を漏らす。
シャルル皇帝が相も変わらず公の場に姿を現さず、ゆえにジノの任命式も繰り延べ
の状態となっていた。
そこへ今回の事態が発生し、シュナイゼルの一存でアヴァロンとランスロットを投入
することになり、結果として今回もジノがパイロットに選ばれた、というわけであった。

.
 ジノ「……今度は、ちゃんとおみやげを買って帰らないとなぁ……」ブツブツ

 セシル『……あと10秒でポイントに到着します』
     『ランスロット、発艦準備!』

 ジノ「あいよ!」

カウントダウンが始まると同時に、ジノは不敵な表情を浮かべる。
たった一機での突撃作戦だというのに、彼は何の恐怖も感じていないようであった。

……死地を求めているのか、と、かつてその戦いぶりを見た人に問われたことが
あった。だが、彼がそれに返した答えはたった一言、

 「いや、面白そうだから?」

.
驚異的なまでに楽天主義のパイロット。
そのくらい"壊れた"部分がないと、良いデヴァイサーになれない、というロイドの
考えにもぴったり当てはまる人間だった。

 ロイド(スザク君とは正反対の性格のデヴァイサーだ)

     (彼もあのままウチにいたら、いい比較対象のサンプルに)
     (なったんだけどなぁ……)

 セシル『……ランスロット、発艦!』

 ジノ「発艦ッ!」ガシッ!!

M.E.ブーストによる強烈な加速力で、ランスロットはカタパルトから飛び出した!
改良されたフロートシステムのウィングが開き、後部の噴射口が眩しく輝く。
ランスロットは、爆撃機にも勝る速度でフクオカ上空を、切り裂くように飛翔する!

.
だが……

 ジノ「……セシルさん?何も反応ないねえ?」

 セシル『おかしいわ……』
     『とっくに、向こうのレーダーに捉えられているはずなのに……』

想定では、フクオカ基地の防衛システムを乗っ取っている中華連邦側は、
対空防衛機能を作動させるはずだった。ところが、防衛ラインを突破したにも
関わらず、フクオカ基地は沈黙したままだった。

 ロイド『つまんないなぁ~』
     『空中戦でも、圧倒的な強さを誇るとこを見せ付けたかったのに……』

 セシル『何だか、気持ち悪いわ……』

 ジノ「まぁ、基地にはさすがにいるでしょ……」

.
……地上からの妨害を全く受けないという不気味な静けさの中、ランスロットは
フクオカ基地周辺の上空に到達した。
相変わらず、ランスロットへの攻撃が行われる気配がない。

 ジノ「はいっ、基地が見えてきたぜ~……やはり敵はいない模様だな」

 セシル『まさか、いつの間にか撤退したのかしら……?』

 ジノ「っと……あれは?」
    「…………セシルさん、前言撤回だ、敵がいた」ニヤッ

ランスロットのスコープが捉えたもの、それは……
……フクオカ基地の滑走路のど真ん中でただ一機、こちらを睨みながら戦闘態勢を
とっている紅蓮の姿であった。

.
 セシル『あれは、黒の騎士団の……!』

 ジノ「そう、オレにケチョンケチョンにされた機体だ」
    「どうやら、仕返しするために待ってたようだぜ」ニヤニヤ

 ロイド『ってことは……』
     『黒の騎士団が、フクオカ基地を占領してるぅ!?』

 ジノ「有象無象のガン・ルゥ相手より、面白くていいじゃん!」ガッ!!

 セシル『待って、ジノ君!あれは罠だわ!』

彼女の叫びを背に、ジノはスティックを一気に全開にする。
改良されたフロートシステムがフル稼働し、ランスロットは一気に最大戦闘速度まで
加速した。そのまま、紅蓮へ向けて一直線に飛翔する。

.
紅蓮の中でカレンは、全く警戒する様子もなく真っ直ぐに向かってくるランスロットの
姿に、ニヤリと笑う。

 カレン「……ったく、どんだけ自信家なのよ、こいつ……!」
     「ほんっとにムカつくわ……!」ニヤ…ッ

 ゼロ『予定通り、ユニコーンが来たぞ……』ニヤッ
    『……作戦第2フェーズ、開始ッ!』

ゼロの号令を合図に、フクオカ基地の防衛システムがうなりを上げて作動し始める!
数えきれないほどのミサイルと雨のような対空砲火が、ランスロットおよび
その後方に控えるアヴァロンへ向けて放たれた!

 セシル『フクオカ基地からのミサイル発射を確認!』
     『約1分後に着弾予定!』

.
 ロイド『こっちは問題ないよ~』
     『ジノ君、僕のランスロットにうっかりぶつけないでよ~?』

 ジノ「大丈夫だって!」

アヴァロンに向かったミサイル群は、全てブレイズルミナスの防壁に着弾・無効化
されてしまった!そしてジノも、その言葉通り、目の覚めるような操舵によって
弾幕を躱す!

空中にシュプールを描きながら駆け抜けるランスロットの姿に、物陰から上空を
見ていた藤堂らも思わず感嘆を漏らす。

 藤堂『……美しいな』

 千葉『きれいですね……』

 カレン(紅蓮だって、空が飛べたら、あんくらいやってみせるわよ……)ブツブツ

.
 ゼロ『……カレン、今だ!行けッ!』

 カレン「はいっ!」ガッ!!

ゼロの合図で、紅蓮は猛然と走り始めた……ランスロットとは正反対の方角、
基地の司令塔の方へ向かって!

 ジノ「あら?逃げるのか、ブサイクちゃん?」
    「そのお尻を切り刻んでやろうか!?」

 セシル『……ミサイル群の第2波、第3波を確認!』

 ロイド『あれぇ、またぁ?』

     『今ので、無駄だってわかったはずなのにぃ……』
     『…………あー、アヴァロンをここへ足止めする気なのか……?』

.
 ジノ「助けはいらないから!」

    「ロイドさんらは、安全なとこで見物してなって!」
    「それとセシルさん!」

 セシル『はい?』

 ジノ「さっきの『ジノ君』、すっごく良かったぜ!」ニカッ!!
    「今度からそれでよろしく!」

紅蓮を追い、司令塔へ近づいたランスロット目がけ、建物の物陰から騎士団の
ナイトメア群による一斉掃射が浴びせかけられる。
ランスロットはそれを軽やかに躱しながら、あるいは展開したブレイズ・ルミナスで
弾幕を叩き落とす。

 ジノ「無理無駄無謀ッ!」
    「嚮導の名はダテじゃないぜ!」

.
その言葉通り、ハトでも撃ち落とせそうな程の対空砲火を、彼は軽く躱し翻弄する。
……だが、先ほどから延々と続く対空砲火に、ランスロットも攻めあぐねる状態となった。
合間をぬって上空からのヴァリスの銃撃を試みるが、効果は芳しくない。

───否、この現状こそがゼロの作戦であった。

.
 ゼロ『切れ目なく弾幕を浴びせろッ!』
    『奴の弱点は、空を飛んでいることそのものだ!』

    (……式根島では、アレはわずか2~3分程度しか飛行できなかった)
    (あれから改良を重ねたとしても、この短期間で飛行時間が10倍も伸びて)
    (いるとは思い難い……)

    (加えて連中は、こちらが中華連邦だという前提で飛んできたはず)
    (おそらく、ランスロットよりも遥かに劣るガン・ルゥを相手に白兵戦を行い)
    (基地を混乱に陥れ指揮系統を麻痺させることがその作戦目的……)

    (となると、だ……)
    (想定外の長時間、空中に滞在せざるを得ない状況に陥った場合……)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 セシル『……あっ、だめ!ダメだわ、今すぐ戦線を離脱して!』
     『もうじきエナジーが、復路の消費量に満たないところまで……!』

.
 ジノ「……あっ、気付いちゃった?」ニカッ

 ロイド『ええっ!ジノ君、帰ってこないつもりかい!?』

 ジノ「こいつらを潰せば帰りのエナジーはいらないよ?」
   「それにね……」

 セシル『それに?』

一度は引いたと思われた紅蓮が、再びこちらへ向かって滑走路を走ってくるのが
見えた。どうやら、こちらのエナジー切れを待ち構えていたらしい……それに気付いた
ジノの表情が、精悍に変貌した。

 ジノ「……ヴァインベルク家の辞書に、撤退の文字はないッ!」

.
彼はそう叫ぶと、約30mほどの上空にいながらフロートシステムを切り離した。
残存エナジーを全て戦闘に回す……それで、おそらくこの基地を制圧するまでの
間はもつはずだ。

フロートユニットと分離し、空中を落下しながら、ジノは素早く戦術を組み立てる。

 カレン「落ちてきたね!」

 ジノ「落ちたと思っただろ!」

ランスロットは空中で器用に身体をねじりながら、基地の鉄塔へスラッシュハーケンを
撃ち込み絡みつけた。振り子の要領で、ランスロットは落下地点に待ち構えていた
騎士団の連中を避けて着地する。

 ジノ「さあて、反撃開始だ!」

.
ランスロットは素早く振り向くと、襲い掛かってくる無頼改の一団へ向けてヴァリスを
放つ。うち2機が、かわし切れずにヴァリスの餌食となった。

 団員『うあ……!』

 玉城『中野オォッ!……くそ、てめエッ!』

 ジノ「水平射撃は避けにくいよな!」
    「そら、もういっちょ!」

散った蜘蛛の子を追うように、散らばった騎士団の部隊へ向けてヴァリスを重ねて
発射する。建物の陰に隠れたナイトメアも、建物ごと撃ち抜かれてしまう状況に、
状況は混乱し始める。

.
 カレン「わたしに任せて!」
     「いくよ、新入り!」

ヴァリスを避けるため散開した一団の間を縫って、紅蓮と無頼改の2機が飛び出した。
ランスロットがヴァリスを構えた途端、その手前で左右に分かれる。

 ジノ「ふうん、挟み撃ちする気か?」
    「でもこっちは最大、4機の相手ができるんだぜ!」ガシッ

ランスロットは、ハーケンブーストを用いて4本のスラッシュハーケンを射出した!
近距離でハーケンを使用されると、回避はきわめて難しい。
紅蓮は驚異的な跳躍を見せてそれら2本を躱す。だが、機動力に劣る無頼改は……

 ジノ「……あれ?」

 ??『ぬうッ!』

.
その無頼改は、腰に差していた短剣を瞬時に逆手に構え、2本のハーケンを叩き
落とした!その反応速度もさることながら、まるで左右同時に攻撃できることを
知っていたかのような……!

 スザク『カレン隊長、僕が囮になります!』

 カレン「わかってるわよ!早く行け!」

スザクが操る無頼改は、逆手のまま短剣を眼前に構え、ランスロットの前方へ
回り込むように近づく。
仕留めたと思った無頼改が無傷なことに、ジノの好奇心が刺激される。

 ジノ「こいつ……面白そうだ!」

 スザク『こいッ、ランスロット!』

.
ジノは、ヴァリスを背負い、無頼改に猛然と襲い掛かるとMVSを横なぎに振り払う。
その刃先を短剣で受け止めたスザクは同時にジノに殴りかかるが、その拳は
ブレイズ・ルミナスであっさりとはじかれる。

 スザク『クッ……!』

 ジノ「いいパイロットだけど、機体が負けてるな!」

互いに、ぶつかるほどの距離で、猛烈な勢いで斬り合う。
防戦一方なのは無頼改の方なのだが、ランスロットの筋を見切っているかのように、
短剣だけで全てを受け流してみせる!

 スザク『ぐ……ぬおッ!』キンキンキン!!

 ジノ「ヒューッ!すげえぜ!すごいパイロットだ!」
    「だが……油断大敵!」

.
今度は超近接戦での、スラッシュハーケン!
無頼改はそれを躱しきれず、片腕を叩き壊された勢いで機体がぐるりと回った!

 ジノ「やった、残念ッ!」ニッ!!

 スザク『……そこだッ!』

だがそれが、ジノの一瞬の隙を誘う罠だったことに、彼が気付いた時は遅かった。
スザクが、回転しながら鋭く振りかぶった短剣の刃先は……

……ランスロットの腕に装着されているブレイズ・ルミナス発振器のど真ん中、
唯一防御壁が弱まってしまう箇所を、正確無比に貫いた!
一瞬、まばゆいばかりの光を放ったルミナスは、次の瞬間にはかき消える!

 ジノ「なんだとッ!?」

.
 スザク『隊長ッ!』

 ジノ「くそッ!」

ランスロットは、MVSで無頼改の脚をぶった切った。さすがのスザクも、脚まで
奪われてはどうしようもない。無頼改は、ガアンという重量感を伴う金属音をたてながら、
その場に転がる。

 ジノ「こんな弱点、ありかよッ!?」

 ロイド『なんで弱点を知ってるのおッ!?』

その直後、後方から接近した紅蓮が振るった特斬刀を、ランスロットは横っとびで
かろうじで躱す。

 カレン「これで終わりよ、白兜っ!」

.
右腕を大きく振りかぶった紅蓮の姿……それを見た瞬間、ジノは脳裏に、
針が落ちたような、微かな……しかし鋭い恐怖感を覚えた。

 ジノ(まずい……こいつはまずい!)
    (間合いをとって、ヴァリスで……!)

MVSを構えながら全速で後進をかけるランスロット。
だが、ジノが見たものは、紅蓮の凶悪な鉤爪が、こちらが急速に後進しているにも
関わらず、まるでマンガのように自分へ向かって瞬時に拡大してくる姿だった。

 ジノ「な……!?」

 カレン「この間合いなら、100%逃さないっ!」

.
スラッシュハーケンと同様の射出機構を備えた上に、ブースターにより対象を
追尾する機能まで備えた鉤爪が、まるで生き物のように、MVSを握るランスロットの
腕に食いついた!

 ジノ「くそッ、切り落とせないッ!」

 カレン「捕まえた!」ニヤッ

飛ばした右腕がランスロットを掴んだ瞬間、カレンは即座に「G.D.」と書かれた
スイッチを押した!

紅蓮の右腕から緑色の放電が迸ると同時に、突然、ランスロットのコクピット内の
全てのパネルやランプが消滅し、非常灯が点灯した。
非常灯の赤い光に照らされたジノは、何が起きたのか把握できない。

 ジノ「あれ、どうした!?まだエナジー切れするはずは……!」カチカチ、カチャカチャ
    「セシルさん、ロイドさん?」

.
 『…………』ザザー…

 ジノ「……まさか、妨害電波!?」
    「くそッ、どうすりゃいい!?どうしたら……!」

……紅蓮の右腕に掴まれたまま、動きを停止したランスロットを取り囲むように、
騎士団のナイトメアが集結する。紅蓮のコクピットから身体を乗り出したカレンは、
拡声器でランスロットに呼びかけを行う。

 カレン「……出てきなさい、ランスロットのパイロット!」
     「第1駆動系以外は動くはずよ!」

 ジノ「!!……」

.
 カレン「捕虜の扱いについては、国際法に則り……っていうか、」
     「大人しくしてるならそれなりに扱ってあげるわ」ニヤリ

     「もし、出てきたくないってなら、それでもいいけど……」
     「……あんたの乗ってるコクピット、ぶった切って引きずり出すわよ」
     「そん時、身体が真っ二つになっても文句言わないでよ?」

 ジノ(……万事休す、か……!)ギリ…ッ


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ「……うまくいったようだな」

 ラクシャータ「ゲフィオンディスターバを紅蓮の腕に装着してどうするのかって」
      「思ってたけど、こういう使い方だったとはねぇ……」

.
 ゼロ「今回、ランスロットはフロートシステムごと無傷で手に入れたかったからな」
    「輻射波動ではダメージが大きすぎる」
    「それに、式根島の時と違い、ユニットを多数設置するほどの時間もない」

 ラクシャータ「確かに、特定の機体をパラライズしたいのなら、」
      「これが一番効率がいいやり方だねぇ」

 ゼロ「まあ、今回のような場合にしか使えない装備だがな……」
    「枢木スザクがブレイズ・ルミナスを無効化するという前提もあって、」
    「成立した作戦だ」

 ラクシャータ「……ああ、それなんだけどさ?」

 ゼロ「どうした?」

.
 ラクシャータ「……アレ、本当に枢木スザクにあげるの~?」
      「他の団員から不満が出るんじゃない?」

 ゼロ「君は、そういうことは、気にしないタチだと思っていたがな……」

 ラクシャータ「あたしは別にどうだっていいわよぉ、アレ、興味ないし~?」

 ゼロ「今回、フロートシステムを手に入れることができたのは、」
    「カレンと奴の手柄によるものだ……」
    「……カレンには既に改良機を与えている、奴にはランスロットを与える」
    「元々、アレに乗っていたのだしな」

 ラクシャータ「ふ~ん……まあいいさ」ニッ

 ゼロ「急ぎ、基地へ上陸する」カツッ!
    「戻ってきたら、ランスロットも含めてメンテナンスを頼むぞ」カツカツ…

.
 ラクシャータ「はいよ」ニコッ

 ゼロ「……ああ、それと」…ピタ

 ラクシャータ「んん?」

 ゼロ「ランスロットは黒に塗装し直すぞ、」
    「騎士団の機体らしく、な」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……ランスロットのコクピットを開き、手を頭の後ろに回した状態で姿を見せたジノ。
彼は、ナイトメアの上から周囲を見回しながら、大声で怒鳴る。

 ジノ「……たった一人のために、これだけ集めたか!」
    「騎士団ってのも、随分と臆病者の集まりのようだな!」

.
 カレン「!!」カチン
     「大人しくしろって言ったの、聞こえてなかったの!?」
     「今からでも、あんたを蜂の巣にしてやろうか!?」

紅蓮の上にまたがり、拡声器で怒鳴りつけてきたカレンの姿を見て、
ジノは目を丸くした。

 ジノ(え……パイロットは、女……だったのか!?)

 カレン「……なに素っ頓狂な顔つきで見てんのよ!」
     「ぐるぐる巻きにしてやるから、とっとと降りな!」

 ジノ(ブサイクなナイトメアだから、中身もゴリラみたいな男だと思ってたら……)

.
 カレン「……おい、人の話、聞いてんのか!」ムキー!!
     「あと10秒以内に飛び降りろ!降りなきゃ今度は輻射波動を食らわせるぞ!」
     「じゅー!きゅー!はち!……」

 ジノ(……結構かわいいじゃん…………)
   「あー、わかった、悪かった、いま降りるさ!」

ジノは、両手をあげてひらひらさせながらそう答えると、ランスロットからピョンと飛び、
空中で軽やかに1回転しつつ着地した。

 ジノ(……決まった!)ビシッ!!
    (ヴァインベルク家最高峰の空中回転!)

 カレン(……なんで空中で回転してんの、こいつ?)

.
彼を拘束しようと、団員数名が駆け寄ろうとした途端、ジノは腰につけていた銃を
抜いて彼らを威嚇した!

 カレン「!!銃を下ろせ!」

 ジノ「オレが負けたのは黒の騎士団じゃあない、そこの!」ビシッ!!
    「赤いナイトメアのパイロットである、君に、だ!」

 カレン「……は?」

 ジノ「だから、君が、君自身がオレに手錠をかけてくれ!」
    「それこそが筋と言うものだろう!」ニカッ!!

 カレン「…………はあ?」

.
土壇場での言い逃れなのか、それとも本気でバカなのか……
ジノの、わけのかわらない要求に、カレンは少しとまどったが……

 カレン「……あんたが負けたのはわたしじゃない、チームに負けたんだ」ニッ
     「新入り!こいつを拘束しろ!」

 スザク「……はい!」

スザクは、丁度破壊された無頼改から抜け出してきたところだった。
わずかの間、命令に躊躇したものの、意を決して集団の中から歩み出る。
己に近づいてくる彼の姿を見たジノは……

 ジノ「……あれ、お前……?」

 スザク「……また、逢いましたね……」カツカツ…

.
 ジノ「……あ!枢木スザクか?スザクなのか!?」
    「じゃあ、あのナイトメアに乗ってたのは、お前だったのか!?」

 スザク「そうです」コクッ
     「……国際法に則り、貴方を捕虜として拘束します」…チャッ
 
 ジノ「そうか……ってことは、偶然じゃないんだな、」カチャカチャ
    「あのブレイズ・ルミナスの破壊は……」

 スザク「でも、成功するかどうかは賭けでした」

 ジノ「格下の機体でも、あれだけ切り結んでみせるとはね……」
    「……ロイドさんが言ってた通りか」

 スザク「えっ?」

.
二人が何事かを話し続けている姿に、カレンは再び拡声器で怒鳴りつけた。

 カレン「何を仲良くおしゃべりしてんのよ!」
     「そいつを早く司令塔まで連れてけ!」

再び、団員数名が彼らに近づき、今度こそジノを連行する。
彼らに連れていかれる間際、ジノは振り向きざまにスザクに言葉を残す。

 ジノ「……二人とも、寂しがっていたぜ!」
    「お前が姿を見せない、ってね!」

 スザク「!!」

 ジノ「まさか、騎士団に入っていたとはね……驚くだろうな!」
    「まあオレは、その方が楽しくていいけどさぁ……!」

 スザク「……」グッ…

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