商人「義賊?」盗賊「はい!」 (63)

商人「……で、その義賊さまがこんな道端でなにしてるの?」

盗賊「いえ……路銀が尽きまして……。あ、あなたすごい”くま”ですね。疲れてるんですか?」ピクッ、ピクッ

商人「これは素よ。ほっといて。それより、あんたの方がやばそうだけど?」

盗賊「す、すみませんが、なにか、食べ物を……」グゥゥゥゥ

商人「食用マンドラゴラならあるけど……」ゴソゴソ

盗賊「マ、マンドラゴラって食べられるんですか?」

商人「わりとおいしい」

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盗賊「はむ……あぐ……むぐ……」ガツガツ

商人「食べ方汚いなぁ……」

盗賊「あなたはテンション低めですね……」

商人「一応それ、商品だから」

盗賊「なんと! ならば、恩は返さないといけません」

盗賊「しかし、私にはお金がない。……そうだ!」

商人「……?」

盗賊「あなたの行商を手伝わせてください!」

商人「……まぁ、それなら……」

盗賊「契約成立ですね!」

盗賊「私は恩に報いるため、あなたについていきます!」

商人「……ま、いっか」

盗賊「商人は、どんなものを売り歩いているんですか?」

商人「……野菜とか果物」

盗賊「あ~、いいですよね。野菜に果物。健康にいいって聞きますし」

商人「食べるのは私じゃないけどね……」

盗賊「あ、そうですね……」

商人「うん……」

盗賊(話が続かない……)

商人(う~む。話題が思い浮かばない……)

盗賊「そういえば、目下の目的地はどこですか?」

商人「北の村」

盗賊「北の村といえば、人参が……」ペラペラ

商人(連れてきたの失敗だったかなぁ……)

<北の村>

北商人「こんにちは、儲かってますか? くたばれ」

商人「ぼちぼちです。くたばれ」

盗賊「な、なんですか、今の挨拶」

商人「商人は敵同士。互いに潰しあいたいから、本音が出るのは必然なのよ」

盗賊「そ……そういうものなんでしょうか?」

商人「そんなことより、取引相手のところに行くわ」

盗賊「あ、はい!」

商人「こんにちは」

男「お待ちしておりました。商人さん。はは、今日も麗しい」

商人「あ、そういうのいいんで、巻きでお願いします」

男「はい……」

盗賊「すごく……ドライです」

男「ええと、今回の品は食用マンドラゴラ。葡萄苺他、十二品目ですね?」

商人「はい……」

男「いや~、なかなかね。商人さんの品はどこよりも素晴らしいんですが、その……値段がですね?」

商人「嫌なら、他をあたりますけど?」

男「い、いえいえ、滅相もない! 我が食堂で使用させていただきますとも!」

商人「交渉成立ですね」

盗賊(すごい強引ですね……)

商人「あとは……ここで得たお金を妹たちに……」

盗賊「妹さんがいるんですか?」

商人「うん。四人。うちは、両親いないから、私が養っていかないと……」

盗賊「……」ブルブル


商人「盗賊?」

盗賊「感動しました! 妹のために一生懸命働く姉! なんと素晴らしいことでしょうか! あ、小銭落ちてる」

商人「……落ち着きなさいよ」ジトー

盗賊「あ……あはは。お、お見苦しいところを……」

商人(私に食べ物もらったのは見苦しくないのかなぁ?)

盗賊「商人の家は、どこにあるんですか?」

商人「西の町」

盗賊「そこはあんまり詳しくないです、私!」

商人(詳しかったら、なんだったんだろう)

商人「……マンドラゴラ畑があるわ」

盗賊「へー! 阿鼻叫喚な感じになりそうですね!」

商人「まぁね」

盗賊「では、しゅっぱ~つ!」

商人「あれ? あんたが指揮とるの?」

商人「あ、あれなんだろう?」

キノコ「赤いぜ!」ズォォォオォ

盗賊「ああ、これは紅天狗ですね。猛毒ですよ」

商人「なんだ、売り物にならないのか」

盗賊(この子の判断基準はそれだけなんでしょうか……)

少女の声「いやー! 離して!!」

貴族「へっへっへっ! てめーら平民は俺たち貴族の慰みものになってりゃいいんだよ!」

取り巻き「ほっほっほ」

商人「……!」

盗賊「待ちなさい!」

商人「あ……」

貴族「なんだぁ、てめぇは!? 面妖なお面しやがって!」

少女「お面の人……」

商人「お面? ……あ、いつの間に」

盗賊「ふん! 悪党に名乗る名前などありません!」オメーン

貴族「悪党だぁ? おいおい、貴族にそんなこと言って、許されると思ってんのかよ!」

商人「許されないのは、あなたたちの方よ」

貴族「あ?」

盗賊「商人?」

商人「そんな小さい子を寄ってたかっていじめるやつらが、悪党じゃなくてなんだって言うのよ!」

貴族「くく、面白れぇ! 野郎ども、やっちまいな!」

取り巻き「はっ!」

商人「待っててね、すぐ助けてあげる」ニコ

少女「う……うん」ポッ

商人「……」チラ

盗賊「……? (……ああ、なるほど)」コク

商人「行くわ」スチャ

取り巻き「ふはは! 我等に勝てるとで……」

商人「うるさい」ヒュッ

取り巻き「は、速い! ぐぁぁ!!」ブシュッ

商人「次!」

取り巻き「お、女に遅れを取るなぁ!」

商人「時代遅れな連中ね」

商人「風 塵 壁!」ゴォォォォォォォ!!

取り巻き「こいつ、魔法まで! ぬぉわぁぁぁ!!」ヒュゥゥウゥ!!

商人「……」ギロ

貴族「ふ、ふふふ、な、なかなかやるようだな。だが、これはどうだ!」スチャッ

少女「ひっ!」

商人「女の子人質にとれないと戦えないとか、哀れな人ね」

貴族「な、なんとでも言え! 口でなんと言おうと、俺の有利はかわらない!」

商人「はぁ……」

貴族「どうした、観念したのか?」

商人「逆よ。気づかない?」

盗賊「な~んで、私目立てなかったんでしょうね?」ゴリッ

貴族「お面やろう!」

盗賊「野郎じゃないです。……その子を話しなさい。さもなければ、私の銃弾があなたを貫きますよ」

貴族「くっ!」バッ

商人「こっちに来て!」

少女「う……うん」タタタ

商人「よしよし、もう大丈夫(この子、よく見たら角が生えてる。魔族?)」ギュッ

盗賊「ま、そういうことです」

盗賊「で、これからどうするんです?」

商人「そいつふんじばって、森の中にでも捨てましょうか」

盗賊「物騒ですが、いい提案です。まぁ、私もそういう心得はあります。はっ!」

貴族「なっ!? 近場の木が蠢いて!?」

盗賊「土魔法には、そういった系統のものもあります」

木「……」ヒュンッ

貴族「ぐぇっ!!」

盗賊「さて……ここからは早く逃げた方がいいですね」

少女「どーして?」ダキッ

商人「~~!!」ドキドキ

盗賊「悪徳貴族は別の組織と繋がってたりしますから。ただし、もらうものは頂いて……って商人、どうしたんですか?」

商人「な……なんでもない」カァァ

少女「お姉ちゃん、どきどき?」

商人「え?」キュン

盗賊「はいはい、行きますよ」

商人「う……うん」

盗賊(ツッコミがない……さびしい)

盗賊「有り金はす~べていただいて~っと」ゴソゴソ

盗賊「ふふふ。一割は私のものに……」

商人「義賊じゃなかったの?」

盗賊「お、調子が戻ってきたみたいですね。……ふふふ、甘いですね」

少女「?」

盗賊「義賊と言えども、私生活があるんです!」パカッ

商人「まぁ、そうね」

盗賊「あ、はい。(……仮面とって大振りアクションまでしたのに、反応が薄い……)」

商人「あなた、お家は?」

少女「お家、ないの。悪い人に焼かれちゃった……」

商人「……私の家に来なさい」

少女「え?」

商人「私があなたを養ってあげる」

少女「いいの?」

商人「似たような子、いっぱいいるから」

少女「煮たような子?」

商人「うん。みんな家も、親もいないの。……大丈夫。大人になるまでは私が養ってあげるから、ね?」

少女「う……うん」コクッ

盗賊「なんか、私より義賊っぽいです……」

商人「……盗賊も、少しは見直したよ」

盗賊「ああ、、やっぱり最初の評価悪かったんですね。とっ、早くここから離れましょう!」

商人「うん」カカエ

少女「うわ!?」

商人「あ……ごめん。でも、私が抱えて走るからね」

少女「うん」

盗賊(商人は子供相手には優しい顔を見せますね……)

盗賊「はっ! まさかロリコン!?」タタタ

少女「ろりこん?」

商人「なにそれ?」タタタ

盗賊「え? 少女は予想できてましたけど、商人も知らないんですか?」タタタ

商人「知らない」

少女「知らな~い」

盗賊(案外、商人は純情な子なのかも……)

盗賊「……とっ、ここまでくれば大丈夫でしょう」キュッ

商人「じゃあ、あとは私の家に向かおう」

少女「むかう~!」

盗賊(すっかりなついてる。はっ! 天然たらし! ……いや、私が汚れすぎなだけですね)

盗賊「おや? この道端に見えるのはもしや?」

マンドラゴラ「ゴルァ!!」ジー

商人「うん。マンドラゴラ。少女、危ないから目を合わせちゃダメだよ?」

少女「え?」ズボッ

マンドラゴラ「ギャァァァァア!!」

少女「うわ、すごい声!」キィィィィィン

商人「盗賊、大丈夫?」キィィィィィン

盗賊「な、なんであなたたち平気そうなんですか……?」ビクッビクン!

商人「慣れてるから」

少女「わたしはね、たいせーがあるんだって」

盗賊「そ、そうですか……」ビクンビクン

少女「あ……でも、二人とも、魔族は嫌い?」

商人「私をあんなやつらと一緒にしないでよ。あなたの種族なんか関係ないわ。困っている子がいたら、助ける」ニコッ

少女(かっこいい……)

盗賊「私は、前から魔族の友人がいますよ」

商人「あんた、意外と交友関係広いのね……」

盗賊「意外とはなんですか、意外とは」

少女「あはは」

盗賊「その子は今は連絡取れませんけどね。ま、生きていればまた会えるでしょう」

少女「とーぞく、前向き」

盗賊「人間、前向きが一番です」ナデナデ

少女「ん……」タタ

盗賊「あ……」

少女「おねーちゃん、あれやって、とーぞくがやったの」

商人「あ、頭撫でればいいの?」ドキドキ

盗賊「はは、ふられましたか」

商人「……」ナデナデ

少女「気持ちいい」

商人「それはよかった」

盗賊「ま、よしとしましょう」

盗賊「しかし……私は仮面をしていて身元が割れていないのですが、少女と商人は顔を知られてしまいましたね」

商人「追ってが来るかもしれない……ってこと?」

少女「こわい人たち……」ブルブル

商人「大丈夫、お姉ちゃんがついてる」ナデナデ

盗賊「しかし、そうなった場合どうするんですか?」

商人「その時考えるわ」

盗賊「商人って、意外と楽天家ですよね」

商人「あんたに言われたくはない」

少女「ないー」

盗賊「うう……少女の無邪気さが私を傷つける……」

盗賊「まったく、名誉毀損です! 訴えますよ?」

商人「……」

盗賊「ど、どうしたんですか?」

商人「あんた、それでも義賊よね?」

盗賊「そうですけど?」

商人「なら、あんたを役所に突き出せばお金がもらえるんじゃ……」

盗賊「うわぁ! すごくドライな関係! 悪魔ですか!?」

商人「いや、元々そんな深い関係でもないし……」

盗賊「ひぃ!」

商人「ま、冗談よ。あんた捕まえさせても、その後あんたが夢で襲ってきそうだし」

盗賊「私のことなんだと思ってるんですか……」

盗賊「あーもういーですよーだ! 貴族の館荒らしに行きますー!」

商人「いや、そんなすねなくても……。……あ、でもいいわね、それ」

盗賊「取引相手の危機が起きてもなにも感じないなんて、商人は行商人としては失格みたいですね」

商人「あんた、もしかして、商人が全部悪徳貴族やら領主とつながってると思ってるの?」

盗賊「違うんですか?」

商人「違う」

少女「ちがうー」

商人「それに、人間失格になるくらいなら、行商人失格でもいいわ」

盗賊「商人、かっこいいです……。少女が惚れるのもわかりますね」

少女「……!」ドキッ

商人「え? なんのこと?」

少女「むぅ……」ガスッ

商人「いたっ! 少女、すね蹴らないでよ……」

盗賊(すごく鈍感ですね……)

商人「あ、でも少女を送り届けてからじゃないと……」

少女「おねーちゃんと一緒がいー!」ギュッ

商人「でも、またあの怖い人たちに会っちゃうかもしれないんだよ?」

少女「……」ビクッ!

少女「お、おねーちゃんがいるから大丈夫。あととーぞくも!」

盗賊「わ、私も数に入っているんですか?」

少女「うん! おねーちゃんもとーぞくも、すっごく強いから!」

商人「ちょっと、照れくさいなぁ……」モジモジ

盗賊「わっかりました! そういうことならこの盗賊! しっかりと期待に答えましょう!」

<???>

大貴族「……娘を逃がしたと?」

貴族「は……はい……」

大貴族「ふむ、今日のワシは機嫌がいい。お前とは別のルートで二人も娘を手に入れた」スチャッ

貴族「は……はぁ……。大貴族さま、それは?」

大貴族「む? ああ、これは写真というらしい。一瞬を一枚の紙に記録するそうだ」レロォ

貴族(うわっ、キモ)ヒキッ

大貴族「ふん。いつワシの気が変わるか知れん。とっとと失せろ!」

貴族「はっ、はい!」ソソクサ

大貴族「ふむ。なるほど、この娘もなかなか……」レロ…レロォ

商人「路銀は……行商しながら稼ぐとして……しょうがない、配達業者に頼むかなぁ……」

盗賊「配達業者?」

商人「知らないの?」

少女「しらなーい」

商人「いや……少女は仕方ないけどさ」

盗賊「私は仕方なくないんですか?」

商人「……簡単に言えば、荷物を本人の代わりに届けてくれる人よ。色々手続きが面倒だから頼りたくはないけどね」

盗賊(あ、スルーされた)

少女「ごめん……」

少女「少女は気にしなくていいのよ」ナデナデ

盗賊(むぅ……。撫でるのがすっかり板についてますね。というか、初めから慣れた動きだったような……)

盗賊「さすがに、四人の妹がいると貫禄があるということでしょうか」

商人「?」

盗賊「いえ、なんでもありません」

<町>

配達業者「では……、西の村までですね?」

商人「はい。よろしくお願いします」

配達業者「かしこまりました!」タタッ

商人「ふぅ。後は、あの貴族の大元を探るだけね。でも、どうやって?」

盗賊「ふふふ。私を侮ってはいけません! ここらへんの悪徳者のことなど、すでに調べ尽くしています!!」

少女「わー、とーぞく、すごい?」パチパチパチ

盗賊「そうです。私はすごいんです! もっと褒めてください!」

商人「そういうのはいいから、話進めてよ」

盗賊「商人、やっぱり冷たいです……」シクシク

少女「とーぞく、きっといいことあるよ」ポンポン

盗賊「うう……。ありがとうございます。少女は優しいですね」ズビー

商人(小さい子に慰められる義賊……)

盗賊「ま、ともかくですよ? 場所はわかっているということです」

商人「じゃあ、さっそく殴り込みに……」

盗賊「ダメです」ガシ

商人「……なんでよ?」ムッ

少女「なんで~?」

盗賊「昼間は警備が厳重です。夜に行くのがいいでしょう」

商人「なるほど……」

盗賊「それまでは、どこぞの宿で時間を潰しましょう」

商人「了解」

少女「りょーかい」

商人(なんだか私たち、少女に悪影響を与えているような……)

>>28おっけい!(ずどん)

<宿>

商人「……」ゾゴゴゴゴ

受付「え、えっと大人二名、子供一名でよろしいでしょうか?」

盗賊「はい、お願いします」

少女「……」ゾゴゴゴゴ

受付「で、ではどうぞごゆっくり……」

盗賊「ありがとうございます」

商人「……」スタスタスタ

少女「……」スタスタスタ

受付「は、般若面?」

<部屋>

商人「ぷはっ」カポッ

少女「ぷはぁ」カポッ

盗賊「ふぅ。バレずに済みましたね」

商人「盗賊、もっとマシなチョイスなかったの?」

盗賊「あいにく、持ち合わせがそれしかなくて……」

商人「かえって怪しまれた気がするけど……」

少女「はんにゃ、あやしい?」

盗賊「大丈夫です! 怪しまれても、正体がバレなきゃいいんですよ!」

商人「……そうだけどさぁ」

盗賊「つべこべ言わずに寝なさい!」

商人・少女「は~い」

少女「……」スピー

商人「やっぱり、子どもは寝るのが早いわね」

盗賊「健康的です」

商人「ねぇ、盗賊?」

盗賊「なんですか?」

商人「少女は連れてかない方がいいんじゃ……」

盗賊「心配なのはわかりますが、一人にしておいた方が危険ということもあります。結果的には連れて行った方が安全でしょう」

商人「……うん。ところでさ」

盗賊「今度はなんですか? そろそろ私も寝ますよ?」

商人「義賊って言っても、あんたは無職よね」

盗賊「それは言わないお約束です……」

<朝>
受付「さくばんはおたのしみでしたね」

盗賊「誤解を招くようなことは言わないでください」

商人「楽しいこととかする前に寝ちゃったけど……」

少女「うん。すぐにねた~」

盗賊「いや、そういう意味じゃ……ま、いっか」

受付「では、ご利用ありがとうございました(二度と来るな!)」

盗賊「はい。またいつか!」

受付(またいつかじゃねぇよ)

商人「……盗賊、まだ般若面つけてないといけないの?」

盗賊「当然です! バレたら元も子もありません!」

商人「その理論だと、私と少女は一生これつけてないといけなくなるんだけど……」

少女「やだ~!」

盗賊「それは……仕方なかったと思うしかないんです」

商人「私も絶対やだ」

盗賊「それはともかく、さっそく貴族のところへ潜入しましょう!」

商人(盗賊って、なんでついてきたんだっけ……)

<郊外の森>

盗賊「あそこから見えるでっかい建物が、貴族の居場所です」スッ

少女「みえな~い」キョロキョロ

商人「ああ、少女はまだ、夜目が効かないのね……」

盗賊「私も商人も、旅をしていると、夜を過ごすのは必然になりますからね……」

商人「ねぇ、少女、おなかすかない?」

少女「すいた~」

盗賊「夜食は感心しませんよ?」

商人「まぁ、ちょっとだけよ。おなか減って動けません、じゃ洒落ににならないでしょ?」

盗賊「まぁ、それも、一理ありますね」

商人「じゃ、ごはんたべよっか」

少女「わ~い!」

商人「はい、できたよ。受け取って」ホカホカ

盗賊・少女「は~い!」

盗賊「さすがにできたては熱いですね」

少女「あつい……」

商人「ゆっくり、冷ましてからでいいよ」

盗賊「しかし、商人って、なんかそっち系のキャラだと思ってたから、料理できるのって意外です」

商人「そりゃあ、一人旅してるんだから、できるようにもなるでしょ。あんたもそうなんじゃないの?」

盗賊「いや~、私は悪徳者からくすねた金の一部で生活してますから」アハハ

商人「おい、義賊……」

商人「……」トッ、トッ

盗賊「商人。なんですかこれ?」

商人「ん? ああ、私が旅の途中で作った調味料。味は保証するよ」

盗賊「つまり、おいしいってことですね!?」

少女「おいしい~!」ガツガツ

商人「ああ、ダメだよ、いただきます言ってからじゃないと、あと、もう少しきれいに食べた方が……」

盗賊(いやぁ、お姉ちゃんですねぇ)ホクホク

商人「……」

商人「ごちそうさまでした。ほら、少女も」

少女「ごちそうさまでした?」

商人「うん。そうそう。よくできました」ナデナデ

少女「えへへ」

盗賊「私も、ごちそうさまでした」

商人「うん……」

盗賊「どうしたんですか? 暗い顔して……」

商人「盗賊、少女、ごめんね」

少女「え?」

盗賊「あれ……なんか、体が痺れて……」ピリピリ

少女「わ、わたしも……」ピリピリ

商人「……行ってくる」

盗賊「しょ、商人。待ちなさ……い」

少女「おねえ……ちゃ」

商人「そこは、誰にも見つからないと思うから……」タッ

出かける!

<貴族の館・周辺>

商人(見張りは……それなりってとこね)

商人「なら……飛行魔法」ボソッ

商人「上から行けば、外に見張りがいようと関係ないわ。ちょうど暗くて見えないだろうし……」フワフワ

商人「……。一応、大丈夫だとは思うけど、あの二人になにかないか心配だなぁ」フワフワ

商人「よし、屋上に到着!」トッ

商人「うん、さすがに階段くらいはあるよね……」

商人「あんまり、こういう手は使いたくないんだけど……」

商人「風に、眠たくなる粉を乗せてっと……」ヒュォォォ

商人「……」タッタッタッ

兵士「……ぐー」スピー

商人「よし、眠ってる……」

商人「無計画に来ちゃったけど、貴族はどこにいるんだろ?」スタスタスタ

商人「……。うわ、なんか落ちた!?」ガタッ

商人「とぉ!」ガシ

商人「ふぅ~、セーフ。でも、なにこれ、水晶?」

水晶「……」ジー

商人「ま、よくわかんないけど、戻しとこ」コトッ

<郊外>

盗賊「しょう……にん、早まっちゃいけません」タンッ!

盗賊「あぐっ!」

少女「とーぞく!?」

盗賊「これくらいどうってことないです……。私は、これから、商人のところに向かいます」

盗賊「あなたはどうしますか、少女?」

少女「いく! いかなきゃいけないの!」

盗賊「決まりですね」ガシッ

少女「とーぞく?」

盗賊「抱えて走ります。なぁに、商人ほどじゃないにしろ、体力には自信がありますよ」ニコッ

少女「うん!」

商人(それらしい部屋があった……)コソッ

貴族「ええ、まだ捜索中でして……」

商人(貴族の声! ……誰かと話してる?)

大貴族「ふん、この娘どもも、いつ飽きてしまうかわからん。とっとと連れ戻して来い」

貴族「はっ、はい!」

商人(この娘ども? ……誰かいるの?)

貴族「まったく、……大貴族さまは……」ブツブツ

商人(貴族の声……近づいて来てる……」

貴族「……」ガチャ

貴族「ん? 誰か……ふぐ!」

商人「動かないで」パタン

商人「動くと命はないわ、OK?」チャッ

貴族「……」コクコク

大貴族「だれぞ、おるのか?」

商人(なんとなく、人質が有効なタイプとは思えないけど……)

大貴族「だれぞ、おるのかと聞いておる!」

商人「……」ガチャ

大貴族「ほ~う。面妖なものをつけおって……」ジロジロ

商人「明らかに視線が私の方を向いてないけど?」

魔少女「……」プルプル

魔翌幼女「……」プルプル

大貴族「ふはは、怪しげなものより、男は華を好むということよ!」

商人「その子たちを、どこかに売り飛ばすの?」

大貴族「ふはは! 察しがいいではないか、と言いたいところだが、少し違うな……」

貴族「ん~! ん~!」

商人「あんたは黙ってて」トッ

貴族「んぐっ!」ガクッ

大貴族「ほぉう? 人質をあっさり解放したな?」

商人「人質とって止まるタイプでもないんでしょう?」

大貴族「ふはは! まぁな!!」

商人「で、その子たちをどうするつもりよ」

大貴族「くくく……仮面越しでも怒りが伝わってくるな……」

大貴族「魔族が人間と比べ、力が強い、とうことを知っているか?」

商人「まぁ、この世界の一般教養ね……」

大貴族「そうだ。だが、そんな魔族でも、人間に力で及ばぬ時がある」

商人「子どもの時……」

大貴族「ふふ。面妖な被り物をしているわりには、察しが早いではないか……」

商人「好きでつけてるんじゃないわ」

大貴族「ともかく、その子どもの時に、”しつけ”を済ませておくのだよ。逆らえないようにな」グィッ

魔翌幼女「あう!」

商人「あんた!」

大貴族「きさまの相手は、わしではない……」

魔少女「……」ザッ

大貴族「この娘が相手よ。貴様も、娘が相手では手を出せまい?」

商人「……卑怯者!」

大貴族「そう呼ばれるのは、実に気分がいい」

大貴族「自分が相手より優位に立っていると、認識させてくれる! やれ!」ギョロッ

魔少女「ひっ! ご、ごめんなさい……」ドゴッ

商人「うぐっ……」ガクッ

大貴族「そして、その娘は魔族。子どもとはいえ、無抵抗の相手を制することくらいはできる」

魔少女「……」ドゴッ

商人「あう……」ガクッ

大貴族「ふふふ。正義ごっこのあしらい方とは、こうするものなのだ」ニマァ

商人「あ……」ドサッ

――

商人「う……」ボーッ

大貴族「くく……目が覚めたか?」

商人「あんたは!」ジャラッ

商人(鎖? 般若面も外されてる……)

大貴族「ふふ、勇ましいことよ。もう少し大人しければ売り物になったものを……」

大貴族「いや、これから売り物にすればいいだけか……」スチャッ

商人「その水晶は……」

大貴族「ん? ああ、これか? 映像記録水晶といってな、その名の通り、映像をその身に記録する水晶だ」

商人「それで、どんな映像を記録するつもり?」

大貴族「ははは、現実から目を背けるなよ?」バシィ!

商人「……」ビリビリビリ

大貴族「わしの平手ごときでは声ひとつあげぬか」

大貴族「貴様は顔だちはいい。その顔立ちに悲鳴をそえれば、美しくなると思うのだがな」

商人「全てがあんたの思惑通りにいくとでも?」

大貴族「わしは今までいかせてきた。貴族! 手伝え!」

貴族「はい!」

大貴族「まぁ、つまりは、そういうことだ」ヌッ

貴族「ははは、大貴族さまにたてついたお前が悪いんだ。大人しくしな」ヌッ

商人(やだ……。怖いよ……)ジワ

盗賊「そこまでです!」バンッ

少女「です!」ババンッ

商人「盗賊、少女!? どうして!?」

盗賊「どうしてもなにも、一人で無茶する馬鹿な子を助けに来たんですよ」

少女「おねーちゃんいなくなったらかなしい!」

大貴族「お仲間が増えたか、構わん。魔少女、やれ!」

魔少女「はい……」ビクッ

少女「……」ゴゴゴゴゴ

魔少女「……」ビクッ

魔翌幼女「……」ガクガク

貴族「あ、あの娘が昼間のです……。面妖な被り物をしていますが……」ボソッ

大貴族「ふむ……」

盗賊「……なるほど、だいたい事情は飲み込めました。商人がそんなことになってるのは、そういうことでしたか」

大貴族「わかってなんになる? この小娘と貴様らが同類な以上、どの道、貴様らもこうなる」グリッ

商人「あぐっ……」

盗賊「はぁ……私は商人と違って、甘やかす主義はないんですよ。そ・れ・に……」

少女「……おじさん、おねーちゃんいじめた!」スッ

大貴族「なっ!? こいつ、いつの間に懐に!? 魔少女はなにをしている!?」

盗賊「あ~、怖いですねぇ。あなたの恐怖なんかより、もっと上の恐怖を感じたのでしょう」

魔少女「あ、あう……」ガクガク

魔翌幼女「ひっ……」ガクガク

盗賊「よーするに、です。あなたは、開けてはならぬものを開けてしまったのですよ」

少女「……」ギュム

大貴族「な、なにを……」

少女「ふん!」ブチィ!

大貴族「ひ、ひぎぃぃぃぃ!!」

貴族「な、なぜ! 昼間は些細な抵抗しかしなかったこいつが!」

盗賊「恐怖なんて、さらに大きな希望の前では、無力なんですよ?」スッ

盗賊「まったく、あなたはこんな無茶して……一人で危険な目に遭って……」ガチャガチャ

商人「ごめん……」

盗賊「取れました……」パキッ

盗賊「こういう時に……言う言葉は……ごめんじゃないですよぉ……」ボロボロ

少女「おねーちゃんがぶじなら、それでいいよ!」

商人「うん。盗賊、少女。……ありがと」

貴族「ひっ、ひぃ!」

盗賊「……逃がしませんよ」

商人「うん、そうだね」スッ

商人「私は甘いけど、あんた相手なら、気兼ねなくやれる!」ガッ

貴族「あごっ!」ドサッ

商人「……あなたたちはどうするの?」

魔少女「え?」ビクッ

魔翌幼女「私たち?」

商人「あなたたちを縛るものは、もうなくなったわ」

盗賊「う~む。私は面倒見きれませんね」

魔少女「私たち、行く場所がない……」

商人「んじゃ、決まりね」

魔翌幼女「え?」

商人「私の家は、魔族でも人間でも大歓迎! あなたたちが大人になるまでは、私が養ってあげる!」

少女「わ~い!」

魔少女「で、でも……」チラッ

大貴族「……」ビクッ、ビクッ

貴族「……」シーン

商人「ああ、そいつらなら大丈夫」スッ

盗賊「それは?」

商人「映像記録水晶って言ってたわ。映像を記録するんだって」

盗賊「まんまですね……。あ、それって!」

商人「そ。あとで修正入れるつもりだったか知らないけど、こいつらの悪事は全部この中に入ってるわ」

盗賊「では、商人がそれをこいつらと一緒に届ければ……」

商人「全部解決ってこと」

商人「じゃ、改めて、どうする?」クルッ

魔少女「ふ、ふつつかものですが……」

魔翌幼女「よろしくおねがいします」

盗賊「その言い方は誤解を招きかねないですね……」

――

<西の村>

盗賊「ふぃ~、後始末も全部終わりましたね~」

商人「盗賊はさ、これからどうするの?」

盗賊「そうですね……義賊をやっていても厳しい気がしますし、ここは警察にでもなりますか!」

商人「ぶふっ!」ブッ

盗賊「わ、笑わないでくださいよ……」

商人「いや、笑いたくもなるでしょ。似合わないって」

盗賊「言いましたね!? 私が警察になったら、なにかおごってくださいよ?」

商人「おっけー、おっけー」

盗賊「似合わないついでに言いますが、私は、そう遠くないうちに、魔族と人間が肩を並べて笑い合える日が来ると思うんですよ」

商人「それは、あんたらしいわ。来たらいいわね」

盗賊「否定しないんですね」

商人「私も、そんな世界が来てほしい、だから否定しないわ」

盗賊「あ、そうそう。商人」

商人「なに?」

盗賊「”くま”、とれてますよ?」

 数年後、商人は世界を救う勇者パーティの一員となり、盗賊もそれに手を貸す形になるが、それはまた別のお話。

 今、魔族と人間の少女たちが一人の姉の元、仲良く暮らしている。

 それが世界中で起こることになるのを、まだ誰も知らない。

おわり

 どっかで書いたSSに続くかもしれない話。

さあそれを教えるのだ

>>62

女勇者「魔王だけど勇者になってみた」

後半微妙になってますが……

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