関裕美「願い事手帳」 (31)

「そういえばこれ、随分前に書いてたなぁ…」

机の奥底から飛び出して来た一冊の手帳。

「…じゃないじゃない、お部屋の掃除をしてたんだったね…」

アイドルとしての、慌ただしい夏休みも今日で終わり。
明日からはまた学校が始まります。

「その前に少しお部屋の整理くらいはしておかないとね」

お仕事も学校も両立出来ないと『お姉さん』にはなれそうにないし…。

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「で、でも、流石にセクシーなお姉さんはまだ無理かな…?」

愛梨さんみたいな色気は私にはまだ早いみたいです。
プロデューサーさんにも止められちゃったし…。

そんなことを考えながら私は手を動かします。

「…うさぎさん、また着たいかも…」

新しい自分に挑戦…出来た気がします。
ちょっと…ちょっとだけ露出が多かった気もするけど……。

「うぅ……」

あはは、やっぱり根っこの部分は私のまんま変わらないかな…。

「だ、大丈夫、大丈夫!」

それでも良いって思ってくれた人たちが私を支えてくれてる。

「これもどこかに一回仕舞っちゃわないとかな…かさばるし…」

机の引き出しの中には沢山のアクセサリー。
全部私が作ったものだ。

「…結構数あるなぁ」

昔から手持ち無沙汰になるとつい作っちゃうから…。

「思ったより最近のが少ないかな?」

出てくるのはどれも古いものばかり。
それもアイドルになる前のもの。

「…あっ、これ、ハロウィンの時の髪留め…」

ハロウィンをモチーフにして作ったんだっけ…。

「懐かしいな、柚ちゃんに木場さんたちとお仕事したんだっけ」

「あの時も木場さんみたいに大人の女の人になりたいって言ってたっけ…」

やっぱり根っこは変わらないや、昔も今も。

「柚ちゃんみたいに元気で可愛い女の子に…」

「木場さんみたいに大人でかっこいい女の人に…」

なれるかな?
考えてることも一緒。
あはは…大人の女の人はまだ早いって言われたばっかりだけど。

「こうして見るとスペインの時のアクセも思い出が一杯…」

沢山あるアクセサリーの中でも思い出の詰まったアクセサリーは一段と輝いて見えるかも…。

「考えすぎ…じゃないよね」

楽しく、笑って。
子供みたいだけど新しい私。

「こうやってゆっくり、ゆっくり変わっていくんだよね」

目つきが悪いのを気にしてた頃からゆっくり、ゆっくり。

「流石にプロデューサーさんをアンタなんて言ってたのは忘れたいけど…」

あそこでプロデューサーさんが折れてたら…なんて思うと寒気がする。

「でも、あそこで折れてたら先はもっと大変だったかも…?」

カチコチのロボットみたいな表情の頃から私を見ててくれた人だ。
思い返すと苦笑いしか出てこない。

「…本当、物好きなプロデューサーさん」

プラスチックのケースにひょいとアクセサリーを移していく。
…思い出が詰まったアクセサリー以外のものだけを。

「ま、また使うかもしれないし…」

これが物が片付かないって人の考え方なのかも、なんて。

「…そういえば手帳……」

パチンとプラスチックのケースの蓋から小気味良い音がして閉まります。
うん、これで大丈夫。

「願い事手帳…アイドルになりたての時に作ったんだっけ…」

確かお父さんに真っ黒の手帳を貰って…
あんまり可愛くないなぁ、なんて思いながら作ったんだったっけ。
そんなこと、くれたお父さんに言えないけど…。

「結局作ったまま忘れちゃったんだね…」

黒い手帳はそこにあるだけで文句なんて言う訳無いのに少し申し訳なくなります。

「えっと、お願いごとをもう起こったみたいに書くんだったっけ…?」

薄っすらと覚えていた手帳の作り方を思い出します。

当時は半信半疑で結構適当に思いついたことをポンポンと書いていた気がします。

関裕美(14)
http://i.imgur.com/TSErjjD.jpg
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書き溜めここまで。
溜まったらまた来ます。
次から多分願い事手帳に触れていきます。
触りだけ考えてたけど誕生日来たばっかりで油断してた。
はぴはぴしてます。

書き上がった!
…けどちょっと今回あっさりしてます。

「なんか変なこと書いてたら嫌だなぁ…」

薄っすらと内容自体は覚えてるけど…。

少し埃でサラサラする手帳を一撫でして捲ってみます。



【・友達が沢山増えた】

チラリと中を覗いてパタンと閉じます。

「うっ、覚悟はしてたとはいえ我ながら凄いマイナス思考だね…」

正直このまま忘れてた方がいいレベルかも…。

「昔のこと、昔のこと……」

そう自分に言い聞かせて再び黒い手帳と向き合います。

「よ、よしっ!」

気合が入りました。

……手帳見る程度で何やってるんだろう、私。

覚悟を決めて再び手帳を開きます。

【・友達が沢山増えた】

うん、増えた。

沢山、沢山。

事務所のお姉さんにも、…こんなこと私が言うようになるとは思わなかったけど後輩の子にも。

後輩の子からは私はお姉さんに見えてるかな?
…お姉さん、出来てたらいいな。

それに学校でも友達が出来るようになって…。

「…うん!○あげよう!」

なんだかちょっと偉そうかな?

……えへへ。

【・友達が沢山増えた】○

「せっかくだから叶ったお願い事の変わりに新しいお願いごとを追加しようかな」

……今度はもう少しポジティブなお願い事を。


「……」

………。

むぅ、思ったより願い事って浮かばないんだね。

「…今年も元気で一年過ごせますように?」

…いやいやいや、初詣じゃないんだし…。

「よし!」

前の願い事の真下のスペースにボールペンを走らせます。



【・みんなときれいなお月さまが見れた】

「うさぎさんだもんね、目指せ、月のうさぎ、なんて♪」

今度、のあさんに天体観測の仕方、教えて貰おうかな?

「案外すぐに叶っちゃうかな?」

そうしたらまた○を付けて新しく願い事を書き加えよう。

ふと、書き足したずっと下を見てみると横線で消してある文字。

「あれ?」

間違えちゃったのかな?

「ア…ドル……たい…?」

……違う、これ…。



『アイドルやめたい』

ぐっと唇を噛む。

これは私だ。
私の泣き声だ。
昔の、私の泣き声。

「そうだね、大変だったよね」

今でこそ笑っていられるけど、そうだね。
泣きたいことも、怒られたことも沢山あった。

「でも…」

打ち消すように引いてある横線。

そして、その真下にあるのがその時の私の答え。

【・せめて精一杯頑張る】

大丈夫、私は折れなかった。



「…保留…かな?」

○を付けて終わらせてしまうには勿体無い気がする。
きっと本当の意味でこの願い事が叶うのはずっと先になりそう。

……なんとなく、だけど。

「次、次!」

なんだか少し気恥ずかしいな。
なんて思いながらページを捲る。


【・誰か、大事な人が喜んでくれた】

「大事な人…うん、大丈夫」

頭の中でその人が振り返り、私に笑いかける。

「プロデューサーさん」

もっとプロデュースしてもらいたいの!
なんて、思うようになるとは、流石に昔の私も思わないだろうな。

キラキラと光を放ちながら生きてる人たちに囲まれて。

そんな人たちと競争する。

そんなことまで考えるようになったのは本当に最近。

「でも、やっぱりそういうの向かないかな?」

あんまり考えると混乱しちゃうし。

「これからも、私はプロデューサーさんに……」

ついていく。

プロデューサーさんが喜んでくれるならきっと大丈夫。
そんな気がする。

「うん、大丈夫」

今なら自信を持って言える。


【・誰か、大事な人が喜んでくれた】○

「新しいお願い事は…」

握りこんだままのボールペンは自然と踊り出して、文字を刻む。


【・プロデューサーさんが喜んでくれた】


「あ、あれ…?あんまり変わってない…?」

誰かが具体的になっただけのような…?

「むぅ、正直なのはいいことだよね、多分……」

こういうのはやっぱり素直に書いたほうがいいよね。

「昔みたいに捻くれてるよりは…うん」

決まりです。
でも、意識しちゃうとなんだかドキドキするなぁ…。

「なんか少し願い事考えるの、楽しくなってきたかも…」

スペースだらけの手帳にサラサラと思いついた願い事を書き連ねていく。

「あんまり書いてなかったんだね」

二、三個、美味しいものが食べられたとか可愛い服が着れた、なんて
お願い事があったきり、真っ白なページになる。

「結構叶ってるね」

なんてことのないお願いばかりで少し頬が緩む。

「あ…」

最後の願い事のページ、その隅に書かれたメモ書き。

【今、楽しい?】

「…うん」

自信無さげにページの隅っこに書かれた文字から当時の私の顔が浮かんで来ます。

「楽しいよ、ずっと」

「多分、これからも」

ページの隅っこに大きく○を付けて。

今度は真っ白なページを新しく開きます。

「ページ目一杯使っちゃおうかな!」

書き足すのは願い事じゃなくてメモ書き。

ページの半分を占領するように大きく書かれた質問。



【今、楽しい?】

「次に開く時は目一杯大きい○付けなくちゃかな?」

あはは、また恥ずかしくなってきちゃった…。
机の引き出しを大きく開いて一番奥に手帳を滑りこませる。

「よし、頑張って片付けるよ!」

そろそろ進まなかった部屋の片付けを再開しようかな。


END

終わりです。
見てくれた方に感謝。

書きたいの吐き出したらスッキリしました。
謎の感慨を感じます。

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