おつ

セイバー：神楽坂明日菜、　マスター：間桐臓硯
アーチャー：鹿目まどか、　マスター：遠坂凛
アーチャー：エミヤ（消滅）、　マスター：衛宮切嗣　→　暁美ほむら
バーサーカー：ピカチュウ（消滅）、　マスター：イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
ランサー：クーフーリン、　マスター：言峰綺礼（死亡？）
ライダー：マリオ、　マスター：間桐慎二（死亡）　→　衛宮士郎
キャスター：高町なのは、　マスター：マジカル協会派遣員さま？
アサシン：野比のび太、　マスター：間桐桜

「相当に強力なものでな。下手な文言を誓えば己の首を絞めることになる」

薄暗い照明が作り出す陰影が、臓硯の身体の皺を強調する。
人の形をとっていても、どこか蟲の印象が残る。浮き出た骨が甲殻のよう。

「基本的には否定の言葉で誓うのがよかろう。まずは互いの目的を害さないこと、これについて異論はあるまい」

「それほど強力なら、曖昧な表現は危険か。改めて聞くが、お前は何を目的としている？」

「儂の目的はな、永遠よ。朽ちることの無い肉体、老いることの無い精神。
だが主にそこまで付き合ってもらおうとは思わん。ただソウルジェムをこの手に収めれば満足よ」

「分かった。私達の目的はあくまで暁美ほむらということだな」

「今の段階では、な……」

蟲の蠢く地下室への道を、臓硯は嬉しげに、言峰は顔をしかめて下る。
始めは鼻をつまみ、ある程度降りたあとで頭を振りながら指を離した。

「誰もが初めはそういった反応を示す。儂の愚息らとてそうだ。それが当然の反応だろう。
じゃがな、三日も漬け込めば身体は慣れてしまう。精神が慣れるまでには個人差があるが、長くかかる者ほど上手く溶け込む。
這い上がる見込みがあるから、壊れてしまうことができない。壊れることができんから、より深くに落ちていく」

「今は、誓約の話を……」

「ふふっ。揺れたな」

臓硯が振り返る。少し力を込めれば折れてしまいそうな腕が、言峰の首元に伸びていく。
細枝よりも、甲虫の足を思わせる、水気の無い腕。それを反射的に振り払うと、臓硯の表情筋が動く。

ただその笑いだけが、臓硯の中で水気を残している。ねっとりと、脳裏で跡で引く。

「言ったじゃろう。愉悦と言うものを、教えてやろうと」

言峰の顔をじっくりと、各パーツごとに見ていく。眉/繭から、眼/芽から、歯/葉から……。
その鉄面皮の裏側の、生まれ出ようとしている悪心を、見ていく。

「カッカッカッ。愉快愉快」

笑い声を残してくるりと回り、地下室の奥へと消えて行った。

「鵬法璽か。流石に始まりの御三家だけはある」

臓硯が持ってきたものは、鷲の像。台座の上に立った鷲が、両翼から天秤をぶらさげている。
ενν?μο? αετ?σσφραγ??――。台座に刻まれた文字が、像の内側に法の概念を縛り付ける。
神代の魔導具。最上級のギアススクロールである。

「もともとは雁夜のために用意してやったものなのだがな。アレは契約を果たせなんだ」

「間桐雁夜、か……」

「中途半端に手を出したものだから、中途半端な終わりを迎えることになった。
どうせ手を出すのなら、もっと盛大に壊せばよかろうものを」

「知っていたのか」

「勿論よ。お主には期待しておったというのに」

「……」

言峰の表情の幽かな変化を捉えて、臓硯はその都度笑みを深めていく。
直接見て楽しみ、鵬法璽の金属面に映り込んで歪んだ像を見て二度楽しむ。

「さて、誓約を定めるとしようか。互いの目的の不可侵と、その後の取り決めだけでいいかの？」

「互いの目的を害しない、という消極的な誓いでは、たとえば動くべき時に動かないことで間接的に相手を害することが可能ではないか？」

「並の契約ならそうじゃろうが、鵬法璽ではそうはならん。下手に『互いの目的のために最大限を尽くす』などと言おうものなら
儂らはその目的以外のことを考えられない人形に成り下がりかねん」

「ほう。ならばその認識の差を活かして私を傀儡にしようとは思わなかったのか？」

「なぁに、お主は人であった方が面白いと、そう思っただけのことよ」

背筋にそって、生暖かい水が流れ落ちていくような。
これまでどこまでも無感動だった言峰の心を、切嗣とは別の方向から揺さぶってくる。

魂が、早く手を切れと警鐘を鳴らす。だからこそ、その振動が気になって、言峰はこの場を離れられない。

「儂はこの聖杯戦争が終わるまで、儂が暁美ほむらのソウルジェムを奪うことと言峰綺礼が衛宮切嗣を殺害すること
にとって損となると思われる行動を取らないことを誓約する。
この同盟関係において、ソウルジェムと魔術刻印を暁美ほむら・衛宮切嗣からの戦利品とする。……これでいいかの？」

先に言峰の側からの誓約を迫ってきたなら、それを理由にこの同盟関係を見直せたかもしれない。
けれど臓硯は先に誓約を済ませてしまう。真実は最強の論理武装だ。疑う余地がないから、言峰は臓硯から離れられない。

「待て。目的達成後に寝首をかかれてはたまらない」

「ふむ。またソウルジェムと魔術刻印を得た後から三日まで、言峰綺礼を物理的・魔術的に傷付けない。約束しよう」

天秤が光り輝く。臓硯が口にした言葉がラテン語に直され、発光する文字列が帯となって天秤の片側に乗る。

「さて、ではお主にも誓ってもらおうか」

「私はこの聖杯戦争が終わるまで、儂が暁美ほむらのソウルジェムを奪うことと言峰綺礼が衛宮切嗣を殺害すること
にとって損となると推測される行動をしないことを誓約する。
この同盟関係において、暁美ほむらのソウルジェムと衛宮切嗣の魔術刻印は間桐臓硯の取り分とする。
また暁美ほむら・衛宮切嗣を殺してから三日間、間桐臓硯を物理的・魔術的に傷付けない」

「それでは時間がずれる。殺害と戦利品の配分の間の時間の差、いさかいの種を残すこともあるまい」

「……改めて誓う。間桐臓硯がソウルジェムと魔術刻印を得た後から三日まで、間桐臓硯を物理的・魔術的に傷付けない」

「よかろう。契約はここに結ばれた」

天秤のもう片側に置かれた言葉の帯が、対となるもう一つと共に消えていく。
表層の言語表現が消えても、言霊は魔力の層となって像の中に残る。

臓硯の固有結界エスポワールとはいったい……。

おやすみなさい。

・鵬法璽
契約を強制する魔導具。おじさんと蟲爺が「聖杯戦争に勝ったら桜を解放する」契約をかわした。
おじさんと蟲爺が召喚の触媒に用いたりした。第四次で優秀なのが来たからと蟲爺が使ってみたらものすごい使い辛いセイバーが出た。
デュナミス配下がネギパーティに対する降伏を誓うもの。大量の候補の中から明日菜が選ばれたあたり、長寿とそれに伴う精神の摩耗という点で意外に縁が深いのかもしれない。

そういえばここって濡れ場書いてもいいの？
蟲爺が固有結界を使うために言峰とモニョモニョするとかそういう展開はやっていいんだろうか。
多分書かないけど。

夜の大橋。この時間にもなれば歩道橋を歩く姿はもう無く、道路を走る車も疎らだ。
人工照明に照らされた歩道を歩いているのは、士郎だけ。人の気配はまるで無い。

夜風には磯の香りが混じっている。冷たい風が、火照った頭にちょうどいい。
聖杯戦争のこと、切嗣のこと、桜のことで頭はもういっぱいだ。アサシンが来るまでに、少し冷静になっておきたい。

聖杯を悪い奴の手に渡すわけにはいかない。私利私欲のために聖杯が使われれば、ろくなことにならないだろう。
だからできれば遠坂に勝って貰いたいと思っていた。

この点は、悩む必要は無い。信用ならない奴は倒す。信用できる奴なら放っておいていい。
遠坂とアーチャー、派遣とキャスター以外に主従共に見知った相手はいない。
だから今考え込んでも仕方無い。会ってみてから、その相手を推し測る。その時までは、聖杯の行方を考える必要は無い。

――いや、もう一組。桜とアサシンのことを考えないといけない。
俺はアサシンの言葉を信じることにした。だから桜はアサシンを召喚し、聖杯戦争に参加しているものと考えなければいけない。

アサシンは言っていた。桜は間桐臓硯って奴に命を握られてる。
なら、桜はそいつの言うことに逆らえない。

逆らうような場面に追い込んではならない。桜なら、もしかすると俺のために臓硯に逆らって死ぬかもしれない。

ならどうすればいいのか、考えてみてもちっとも思い浮かばない。
そもそも桜の中に巣くっている蟲を駆除する方法を一つも知らないのだ。思考が進むはずがない。

考え事をしながら、気づけば橋の中ほどまで来ていた。

そういえば、アサシンはこの橋のどこで待っているんだ？
結構な長さがあるし、待ち合わせるにはアバウトすぎる。サーヴァントであるアサシンなら橋の端から端まで見通せるのだろうか。

と思って振り返ってみる途中。

「あれ？」

歩道の上、自動車道のガードレールのところに、特徴的なシルエットがあった。
右腕の肘を足につけ、手首を折り曲げて首を乗せる。少し前のめりな姿勢で座りこんだ人影。
ガードレールに座る形なのと、白衣がはためいているのとで細部は変わっているが、考える人のポーズだ。

「アサシンか？」

声をかけてみるが返事は無い。
もしアサシンなら気付くだろうし、やはり人違いだろうか。

「ノゥノゥ。オーイェイ！」

ライダーが手招きしてくる。何だろうか。

「ライダーの声は特徴的だから、あんまり人前で叫ばないでほし……」

ライダーが俺の腕を掴み、その場で回って俺を背に乗せる。
それが背負い投げの動きに似ていて、何か気に障ったかと思った刹那。

強烈な重力を感じた。高層ビルのエレベーターを、ずっとずっと激しくした感覚。体内の圧がずれて、圧し掛かる重力が痛い。
ライダーが跳んだのだ。10m近く跳びあがって、今度はジェットコースターよろしく落ちていく感覚が気持ち悪い。

意外に着地の衝撃は少なく、無意識のうちにつぶっていた眼を開けば自動車道の上にいて、考える人ポーズのアサシンが眠っていた。

サーヴァントに睡眠は要らないのではなかったか。というか何故ここで寝るのか。
ともかくアサシンに近寄ってみると、寝惚けた藤ねぇみたいな声をあげてアサシンがもぞもぞと動き出した。

「何だ。地震かと思ったらマリオのジャンプか」

「アサシン！　何でこんなとこで寝てるんだよ」

「何でって、睡眠ほど大切なものは無いよ。睡眠は記憶の整理に不可欠だし、夢は発想を生む。
元素周期表もベンゼン環も空気ピストルも、寝てる間に思いついたものなんだよ？」

「へー。っていや、サーヴァントって眠らないんじゃなかったのか？」

「眠る必要が無いことと眠らないことは結びつかないよ。つまり端的に言うと、僕は寝るのが好きなんだ。
朝方布団の中で貪る惰眠は良い。シエスタも良い習慣だと思うし、夕陽を眺めながらうつらうつらするのもまた気持ちいい」

「本当に英霊らしくないな……」

「ところで、まだ早く無いか？　もう三十分くらいはぼーっとしている予定だったんだが」

「ああ。ヨッシーに乗ってたから結構早くついたんだ」

「なるほど。じゃあ僕はもう少し……」

再び考える人のポーズを取ろうとしたアサシンの頭を、ライダーが軽く叩く。
寒空の下、軽妙な音が鳴る。あまりにも良い音だったので、思わずにやけてしまった。
ここ最近の俺の周りは、いまいち緊張感に欠ける。

>45　あってる

「仕方ない。君がそんなに生き急ぎたいなら、まあ付き合ってあげるとしよう。
僕たちの目的は、間桐桜の救出の一点に絞られる。その方法について、君は何通りまで考え付いた？」

「えっ……いや、俺は魔術師としては未熟で、使い魔をどうこうする魔術なんて一つも知らない」

「はぁ……君は実に馬鹿だな。材料は揃ってるだろうに、どうして考えないんだい？」

アサシンが心底飽きた風に深いため息をつく。そのまま右手を額に当ててやれやれと首を振った。
正直、ちょっとムカつく。俺は俺なりに考えてみたつもりなのだが。

「まず一番単純な方法は、聖杯を手に入れて願うことだ。聖杯戦争の参加者なんだから、これくらいは簡単に思いつくだろ？」

「あっ、そうか」

「そうか、じゃないよ。しっかりしてくれ。まあ聖杯を手に入れるなら他のサーヴァントを全て敵に回すことになるし、
その他もろもろの理由からいってこの方法は回りくどい。できれば他の択を取りたいね。じゃあ次、どんな手がある？」

「心臓にくっついてる蟲を倒す魔術を探すしかないんじゃないか？」

「考えが浅いなあ。蟲を取り除くにも二つ方法があるだろう？
桜の身体を傷つけずに取り除くか、傷ついても平気なように桜を強くするか。
前者の方法としては、アーチャーの宝具が理想的だ。あれなら蟲によって変質した過程を撒き戻しつつ蟲を除去できる。
幸い君の得意分野は解析・強化・投影の系列だろう？　アーチャーの宝具に近いものを作るか、桜を強化すればいい」

「いや、俺は簡単な魔術ですらろくに成功したことないし……というかそもそも、なんでアサシンがそんなこと知ってるんだよ」

「なんでって、君の記憶を大雑把に見たからだよ」

「んなっ。見たって、いったい俺に何をしたんだよ」

「言って無かったかい？　僕の魔術は、電子機器へのアクセスが主だ。でもって脳は人にとって一番身近な記憶装置だ。
覚醒している相手の思考を読み取るのは難しいけど、気絶した人間が相手なら断片的に読める」

「っ……！」

甘く見ていた。この男のどこか間の抜けた雰囲気に?まれていた。
この男は英霊だ。しかもライダーを瞬殺した暗殺者のサーヴァント。

「それに、投影された電子レンジなんかに入ってみたりもしたよ。あれは見事だった。
細かい機能こそ再現できてないが、世界の修正を跳ね除けて確たる存在を保っている。
魔術は苦手だなんて言っていたが、あれだけの投影ができるんだから強化はお手のものだろう」

計画していたんだ。俺の記憶を読んで、俺なら桜のために動くと確信していた。
いや、あるいは桜の記憶を読んで、初めから俺とライダーの手を借りることを決めていたのかもしれない。

けど。

「俺、強化もからっきしなんだけど」

おやすみなさい。いつになったらセイバーの戦闘シーンに入れるのだろう。

四次鯖考えるのが楽しいです。

アサシン
筋力E　魔力D　耐久E　幸運B　敏捷D　宝具C　(石ころ帽子有りだった場合)

「えっ……」

アサシンが目をつぶって動きを止める。「うにゃー」と子供みたいな声で唸る。
息が切れたのか一度声が止まったあと、今度は「あー」とか「うー」とか唸りだした。

「大丈夫か？」

「いや、あんまり大丈夫じゃない。君が解決できなかった場合には大変まずいことになる……と思う」

「まずいことって、何さ」

「それより今は目の前の問題に集中したい。今の僕は話しながら考えるのは無理だから、ちょっと時間を……」

そういってしばらく両手で頭を抱えたあと、アサシンは急に飛びあがってこっちに向かってきた。

「あー……いや！」

俺の目の前で止まって軽く飛び跳ねる。軽く俺の頭を叩こうとしてくるアサシンの手を振り払う。

「そもそも君、霊子世界で宝具を投影してたじゃないか。
あれ負担を減らす方向の補助しかしてないし、やっぱり能力的には可能だろう」

「そうだ、あれは何だったんだよ。急に知らないはずのことが頭に流れ込んできて。お前がやったのか？」

「そうなるように仕向けたのは僕だけど、騎士王の聖剣を投影したのは君に他ならないよ」

「あの変な場所は一体どこで、俺が作ったのは何なのか。説明してもらえるか？」

「うーん、じゃあ説明するためにもう一度霊子虚構世界にアクセスするから、そのまま動かないでいてくれるかな。
今度こそしっかり落とすから、安心してくれ」

アサシンの言葉が終わるや否や、身体の感覚が遠くなる。
五感が鈍くなる。視界が濁って良く見えない。触られているのかいないのか。
アサシンに支えられて地面に寝かせられたような気がしたけれど、三半規管さえも信用ならないから
本当にそうだったのかどうか俺にはもう分からない。

視界が途切れたのは、瞼を閉じられたからなのか、それとも視覚が飛んだのか。

「じゃあライダー、僕の意識の一部はこっちに置いておくから何かあったら僕を揺さぶってくれ」

最後にそんな言葉が聞こえて、俺の意識は完全に落ちた。

――

　　――

　　　　――

何の前触れも無く、気づけば俺はまたあの部屋にいた。
六畳一間。電灯の光が無機質で、少し気持ち悪い。窓の外には０と１の羅列が流れ行くばかりで、何も無い。

「ようこそ。二回目だし、ちょっとは慣れたかな」

「全然慣れない。前回みたいな差し迫った危険が無い分、やたらと異常が目につく」

「そうか。出来の悪いプログラムで申し訳ないな」

部屋の隅に座り込んでいる俺の身体を動かす。
心と身体がずれているような、違和感。前回よりも動きづらい。

意識して視線を動かして、アサシンを見る。

何か灰色をした半球状のものをいじくっていた。時折、窓の外にあるような情報の列が表面に浮かぶ。
少し持ち方を変えて、片手で表面を撫で、その後に情報列が流れていく。また持ち方を変えて、別の個所を撫でる。
しばらく繰り返した後、白衣のポケットの中にそれを仕舞い込んだ。

「さて始めようか」

「これは人類が到達する技術であり、同時に人類に隠された秘蹟だ。
基本構造は純粋な科学。地球の魔術基盤を離れても通用する理論だ。けれどその実現のために、魔術を用いている。
多分この世界でも、アトラス院ではもう研究が始まってるんじゃないかな。月のあれはこっちにもあるはずだし」

アサシンが話している間に、空中に何か人型ができていく。初めに青い線で輪郭ができて、その中に臓器が描かれていく。

「これ、科学なのか。拡張現実って奴？」

「どちらかと言えば仮想現実の方が近いかな。君の存在骨子をずらして、人工繊維に乗せた情報群に変えてある。
情報螺旋はユビキタスに存在するものだけど、こうして空間として知覚できるのはエーテライトのおかげだ。
ん、分からないって顔してるね。そうだな、この世界の魔術師風に言えば、ここは僕が作り出した異界だ。
魔術師が空間を切り取って神秘で満たすことで自身のフィールドを創るように、僕は霊子世界を作り上げて君を招いた。
僕は魔術師としては半人前だけど、この空間の中でならそこそこマシな振る舞いができる」

「良く分からないけど、ここで何やっても現実に影響は無いのか？」

「現実というならこれも現実なんだけど……。細かい定義にこだわると話が進まなくなるから置いておこう。
結論から言うと、外に影響するよ。もしもここで死んだら外でも死ぬ。普通は強制ログアウトからバックアップで
修正をかけるものだけど、残念ながらこの時代の情報端末では性能が低すぎて安全装置を設けるスペースが無かった」

アサシンが答え終えるころには、空中の人型が変化をやめている。
青い直線で囲まれた板が組み合わさって、立体を形作る。３D映像に似ていた。ただ、細かさが段違いだ。

「見えるかい？　赤色の線で作られた、鞘と剣。青い線が人としての君で、赤い線が剣としての君だ」

目を凝らしても、大量の青い線に阻まれて内側は見通せない。最初の頃に作られつつあった内臓すら見えない。

「はぁ。本当に強化もできないのか。眼に魔力を込めて視力を上げるの、やったこと無い？」

「強化が失敗して壊れたら大変じゃないか。そんな危険なことやれるわけないだろ」

「じゃあ解析でいい。流石に構造把握も無しに投影してたわけない……よねー？」

「ああ。解析なら得意だ」

空中に手を伸ばして、線に触れる。生糸みたいな感触を想像していたけれど、予想に反して何も触った感じがしない。
空中に浮かんだ虚像。大きくて見やすいけれど、そこに実体は無い。

「君、ロンドン系の魔術をやってるみたいだけど、アトラス院の方が向いてるかもね。
せっかくだからあとで分割思考・高速思考も教えてみよう」

目をつぶって、余計な雑念を振り払って頭の中に線を引く。
一本一本、あれが作られる過程をなぞり、直線で輪郭を作る。

人の身体なら見慣れているし、その構造も大体分かっているつもりだ。
意識して解析したことは無いけれど、一番身近にあるものなんだから人体構造が解析できないわけがない。

外も内も脳内で再構成し、それまで目の前にあったものを頭の中に完成させる。

だが、足りない。これでは、この身体は未完成だ。
あるべき線が足りない。基本理念が抜けている。だから理論が欠けている。
この造形に至った理由のうち、半分が無い。鞘が、柄が、刀光が――。

おやすみなさい。いつになったら作中の一日が終わるのだろう。


全員版権キャラの鯖になったけど、史実・神話勢を妄想するのも楽しいと思うの。
メディアさん系の宝具が使い辛いってレベルじゃないので、このキャスターがいる四次を書きたいとはあんまり思わないけど。

四次キャスター

【ステータス】筋力E　耐久D　敏捷D　魔力B　幸運B　宝具A

【クラス別スキル】

陣地作成：A
魔術師にとって有利な陣地を作成する技能。
“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。

道具作成：B
魔術的な道具を作成する技能。

【固有スキル】

浄眼：EX
本来人には見えないものを視認できるスキル。霊体化したサーヴァントを視認したり、そのステータス・真名を看過することができる。
集中すれば相手の表層心理や過去、起源に至るまで見通すことも可能。眼の方は死そのものも見えるが、キャスターの脳は死を理解していないため直死にはならない。
死ぬ気でやれば根源を見ることも可能だろうが、眼以外に魔術回路を持たないキャスターは根源の中で存在を保つことができない。

千里眼：A
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
このランクに達すると、未来視や透視も可能になる。

魔術：C+
魔術を習得していることを表す。キャスターの場合は、洗礼詠唱のエキスパート。
魂を座に還すことを基本とするため、座から呼び出された英霊に対して強く作用する。
キャスター自身に魔術の才は無かったが、神の名を借りることで限定的に術を使うことができる。

信仰の加護：D
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
キャスターの場合、信仰の強さが自分の弱さを自覚する方向に働いているためにランクが低い。

だがおかしい。人の身体に剣などあるわけがない。
一般人としての常識も、魔術師としての非常識も、それを異常だと見做している。

「どうして剣なんだ……？」

「見えたか。その鞘、少なく見積もってもAランクはある宝具だ。
剣から染み出る魔力を元に、持ち主の存在を少しずつ書き換えていっている。相当な名品だね」

「書き換え！？　それってまずいんじゃないか？」

「まずいね。君、間違いなく人生狂わされてるよ。なんだってこんなもの入ってるだろうね。
まあ悩んでも仕方ないし、体に害は無いから深く考えないのがいいんじゃないかな」

え……？　君？

――いや、本当は分かっていた。ただ、確信がもてなかっただけで。ただ、深く考えないようにしていただけで。
この構造は紛れも無く衛宮士郎のものだ。存在骨子から構成材質、蓄積年月に至るまで全てが俺。

胸に手を当てる。皮の上から肋骨を触る。心臓の鼓動が早い。けれどそんなものより深いところに、剣と鞘がある。
気付いてしまえば当然のことで、これまで何も感じていなかったことが不思議なくらい。
俺の中には、剣と鞘が入っている。痛んだ剣と、完全な鞘。それが俺に、根ざしている。

本来の自分はもう欠片ほどしか残っていなくて、そのわずかな自分が磨かれていく。

気持ちが悪い。

鬼ごっこで擦りむいた傷が、遊び終わったあとになって痛み出すように。
テストが終わった直後、急に思い違いに気付くように。

「大丈夫かい？」

気付いてしまえば、もう戻れない。

「どういう影響が出てるかは分からないけど、君の魔術特性はそれに引かれると思う。
『切る』とか『納める』とか、そういったところじゃないかな。特性の把握は魔術の基本だから、あとで実験しよう」

アサシンの声が頭上から聞こえる。いつの間にか、その場にうずくまっていたようだ。

「相当ショックだったみたいだけど、どうする？　こっちで休む？　それとも戻る？」

思考がまとまらない。何か言葉を思い浮かべると、それが剣で断ち切られていく。
輝く刀身が美しくて、星の光が瞬いた。ちかちかと光が眩しくて、考えることができない。

「おーい、大丈夫？」

何か答えなくては。けれど何を。剣が美しい。鍔に刻まれた青い紋様は何を表しているのだろう。
何を、何を、何を――。広がる仮説と理屈の糸が、絡み合って気持ちが悪い。

「あまり長くこちらに入れておくのも危ないけど、このままにしておくのも良くないか……。間取ってスリープかけとくかな」

剣が美しい。だから光に?まれていって。白く意識が濁る。いや、この光を濁りと表現するのはおかしい。
どこまでも純真で、けれど借り物の理想が美しい。


剣が綺麗で、きれいで――。

士郎って鞘だけじゃなくて剣も入ってるんだっけ？

身体が熱い。今日はアサシンへの魔力供給が普段よりも多かった。
だから蟲が魔力を求めているのだろう。

「あ……んっ」

ベッドの中で寝返りを打つ。汗に濡れて張り付いた寝間着と肌との間に空気が通るのが気持ち良くて。
気持ち良くて、そちらに流されてしまいそうになる。

時間の感覚が分からない。外は暗いから、まだ深夜。
けどそんなことは関係無い。夜が明けても、何も変わらない。それどころか、もっと酷くなるだろう。

兄さんが死んでから、一度もシてない。このまま我慢し続ければ、狂ってしまうかもしれない。
狂ってしまえば楽になるのかもしれない。欲に身をゆだねて、オトコにねだる。
セイバーさんは私に幻滅し、アサシンは愛想をつかす。嘘をつくのとやめてしまえば、きっと楽だろう。
優しいだの可愛いだの言うのとやめて私を蔑みの眼で見てくれたなら、私もセイバーさんを嫌うことができる。

けれど、それは駄目だ。先輩にこんな姿を見られてはならない。

結論は出ているんだ。お爺さまの精をすするしかない。
お爺さまの機嫌が良い時を見計らって私から申し出るしかない。

「は……ア……っ……」

私の荒い息に混じって、幽かに水音がする。私の音じゃない。蟲の音だろう。

お爺さまが見ているんだ。なら私は、お爺さまを満足させないと。

「ぅ……ぁ……」

胸のボタンを外す。それだけで、いやらしい声が漏れる。

「あ、はぁ……ん……」

嬌声を抑えなくては。今のこの家にはセイバーと言峰神父がいる。
それに、あのどこにいるか分からないアサシンが気になる。彼には絶対に見られたくない。

ブラの上から掴むだけで、電流が走る。身を反らしながら布団を噛む。
少し遅れて身体の内側から快楽が反響する。蟲が喜んでいるのだ。
いつものように、兄さんに襲われているのだと勘違いして、蟲が動き出している。
そんな風に動いてみても兄さんはもういないのに。胎の内側で這う蟲があわれで、左手を腹に当てる。

そのまま手を押しあてると、私の中の蟲がより強く感じられて気持ちいい。

「あっ、はぁんっ」

右手で胸を押しつぶして、左手は奥へ。私から染み出した液をつけたあと、もう一度お腹に手を戻す。
濡れた指が身体を這うのが、蟲を思い出させて私を高める。

「んん、あ……」

一度スイッチが入ってしまえば、あとはもう意識しなくても体が動く。
勝手に動く手を、勝手にこすりあわされる太ももを、ただ甘受するだけ。

私の意志はもう受け付けない/私の心はここにはない――。

濡れて、乱れて、喘いで。

兄さんのものを待ちかねてひくひくと動くソコが、あわれで。

悶えている私と、それを冷ややかに見る私がいる。

指を咥えこむ私がいやらしい。肉壁が蠢いて、ひだが絡みついていく。
奥へ奥へと導こうとする動きは、もう生理反応と化している。

「かっ……あ……」

息もできないほど胸が苦しくて、身体の熱が身を焦がす。
その熱源に浮かされて、秘所に指を追加する。

奥に達した中指の先が、子宮から出てきた蟲に触れる。足りない長さを補うように、指が合わせて蟲が動く。

熱くて/寒くて

飢えて/満ちて

――そこにはたくさんの気持ちいいがあって、いっぱいいっぱい貪った。

――飛びついて溶かすと暖かくて、その間だけは満たされる。

――だからもっと。

――もっと。

――

聖者ってルーラー限定のような気がしてたけどそんなこと無かった。クラススキルなだけでした。
四次キャスター案の人は間違いなく聖人だわー。

おやすみなさい。

・聖人
聖人に認定された者。このスキルの効果はサーヴァントとして召喚された時以下四つの効果から一つ選択される。
秘蹟の効果上昇　HP自動回復　カリスマを1ランクアップ　聖骸布の作成
キャスターは秘蹟の効果上昇を選択した。

>>97
原作だと鞘だけ。エミヤさんが死を覚悟して作った型落ちカリバーが一緒に入れられた。

切嗣、言峰に続いて士郎までも家を出た。今衛宮家にいるのは遠坂、アーチャー、イリヤ、キャスターの四人。
事情を知る遠坂は空気ピストルに撃たれて気絶し、残る三人は下手に動けず。

遠坂が目覚めるのを待つしかないので、朝まで休むことになった。

――それで、朝になって。

「リン、大丈夫？」

「魔術の痕跡はないけど、呪いでも受けたみたいに顔色悪いよ？」

返答の代わりにゾンビみたいな声を残し
死んだ魚のような眼で洗面所へと向かう遠坂の姿が観測された。

「凛さん朝は弱くて、いつもこんなですから大丈夫です」

「へ、へぇー……」

少しして遠坂が戻って来る。
髪は整えられたものの、相変わらず目が死んでいた。

「これだと話を聞くのはまだ無理そうね。先に朝ごはんにしちゃおっか」

「じゃあ三人で食べてて。みんなが食べ終わる頃には目が覚めるはずだから」

士郎に代わってキャスターが担当した食事が並ぶ。

カリカリに焼いて胡椒を散らしたベーコン。半熟の目玉焼きに初めから醤油がかけてあるのは、彼女のこだわりなのだろうか。
同じ皿の上、卵にかけられた醤油はベーコンのところにまで届いている。固まり切っていない黄身に箸を通せば、黄身が流れ出て
醤油と絡み合った黄身が自然とベーコンをコーティングする。

だしの素と味噌だけの味付けに、万能ネギと細切り大根だけのシンプルな味噌汁。
透き通った大根が柔らかくて、小さなネギが控え目で、優しい味に仕上がっている。

千切りのキャベツと輪切りのきゅうりに、自作のドレッシングがかかったサラダ。
遠坂の持ちこんだ酒と酢、オリーブオイルや胡椒などから作られた和とも洋とも言えない味。

良く言えばおふくろの味。悪く言えば単調。全体では調和性に欠けている。

けっしてまずいわけではない。おいしいかまずいかで言えばおいしいと即答できる。
だが、士郎や遠坂のものと比べるとどうしても見劣りする。

盛り上げ役の藤村先生やライダーがいなかったもあり、あまり会話がはずまなかった。

士郎がいれば調理技法の話になったのかもしれないが、朝食を抜いた遠坂の他に料理を嗜む者はおらず。
この統一性の無いメニューの原因が、和食用の食材が残っているにも関わらず食料を買い込んだ
自分にあることを分かっている遠坂では意見し辛い。

士郎とライダーの存在を前提として購入されたネギやベーコンは積極的に利用しなくてはならない。
結果として今一つ足りない出来になったが、主婦としては大健闘したと言えるだろう。

――

「ついつい家の感覚で醤油かけちゃったけど、良かった？」

そのとき、アーチャーに電流奔る。脳内を駆け巡る数多の平行世界の記憶。
半熟か、固焼きか。塩か醤油か。両面焼きか片面焼きか。弱火でやるか、あるいは余熱か。
卵焼きを語る先生の表情は常に鬼気迫るものだった。

黄色と白のコントラストは、憧れの彼女を思い出させる。生きることの尊さを教えてくれた、思い出の人。
ケチャップだとあの光景の再現のようになるから、卵焼きにケチャップは嫌いだ。
けどそれ以外に細かいこだわりはない。正直に答えればどちらでもいい、となるが……。
しかし先生はどちらでもいいと考えていたために破局した。醤油に賛同するのが正解かもしれない。

キャスターの瞳から視線を外しつつ悩む。世界の歴史を読み取ったことで大きくキャパシティを増した脳をフルに使う。
「家の感覚で醤油」ということは普段から醤油派ということ。賛成するのが無難に思える。
だが横のイリヤは外国人。醤油に慣れ親しんでいるわけがない……！

キャスターとしては話題の途絶えた食卓に当たり触りの無い話を持ち込んだつもりだったが
アーチャーは悩みに悩み抜いていた。

表面の白身の膜は、専業主婦の父が作ったものに似ている。蓋をして余熱でやるタイプだろう。
つまり、弱火でやる派の先生とは逆。この点を辿れば、先生と逆の選択を選ぶのがキャスターに対しての正解だろうか。

いや、先生だけを基準にするのは危険。ここは人類の目玉焼きに対するスタンスを一つ一つ読み解いていくべきだ。
目玉焼きに関してなら、魔法少女のみを対象とした統計でも偏りは生まれないだろう。
直接自分の手で終わらせた魔法少女の人生なら、ほとんどノータイムで記憶の底から引き上げられる。
キャスターに不審に思われるよりも早くデータを作成し、その上で最大限安全な選択をする！

A++に達している蔵知の司書スキルを無駄使いするアーチャー。にわかに空気が変わり始める。

そこへ、イリヤの声が割って入った。

「流石はジャパニーズが誇る万能調味料ね……。塩胡椒より美味しいかも」

イリヤがキャスターに賛成してくれれば、あとは障子に身体を預けてぐだーっとしている遠坂の反応だけが問題。
だがアーチャーの表情は晴れない。褒めるのはいいことだが、その際に他の調味料を下に置くのはよくない。

不審に思われない、キャスターの視線がイリヤに向いているのを確認してから遠坂を見るアーチャー。
少し目に光が戻っている。体勢が変わった。これは、話題に入ってくるつもりだっ！

塩派、胡椒派、ハイブリット。この状況で問題となる派閥についての情報をまとめる。
有史以来、日本出身の塩派魔法少女は全体の二割を占める。江戸時代以降、醤油が普及してからは減少傾向にある。
性質は主として温厚、他の派閥を認める者が多い。だが拘る者はとことん拘りぬく。
――駄目だ、他派閥まではリストアップが間に合わない。

「私は」

鼓動が高まる。さあ、どうなる……！

「半熟で作って具入りのラー油を黄身に混ぜるのが好きよ。一回試してみるといいわ」

――斜め上だった。

おやすみなさい。

根源に触れて魔術基盤刻み直したことに由来するスキルの効果が決まらない。

蔵知の司書：A++
根源に触れて世界を書き換えたためにこの世の全事象を記憶しているが
人類の精神構造ではこの情報量を処理しきれないために、記憶の奥底に封印して思い出さないようにしている。
LUC判定に成功すると、任意の物事にまつわる知識・情報を、認識していない部分まで明確に記憶に再現できる。
情報量に処理能力が追い付いていないため、使いすぎると精神的なダメージを受けることがある。

妙な空気の朝食を終え、食器を下げたあとの居間に四人が座っている。
状況を説明し、それぞれが情報を交換し合う。

「今は大切なのはやっぱり正体不明の自称アサシンよね。
マスターでない切嗣さんのことは優先順位が落ちるし、どこまで関与してるか分からない言峰もそう」

「ううん。言峰神父は聖杯戦争に参加してる。容態を見る時に、令呪も確認したわ」

「言峰は監督役よ。予備令呪を持っていても何もおかしくないわ」

「ええ。でも一画残ってることがおかしいの。凛ちゃんの話によると、不意打ちでやられたわけじゃなくて、
言峰神父はもう一人のアーチャーと真っ向から戦い合った。　なら令呪を出し惜しみする余裕なんて無いはずでしょ？
なのに一画を残し、結果として重傷を負ったなら、残す理由があったことになる」

遠坂とて、考えなかったわけではない。ただ、考えたくなかっただけ。

「そう……ね。言峰は、サーヴァントを従えている。そう考えるのが自然か。
うん。分かってたかもしれない。それなのに分からない振りをして、心の贅肉ね」

「でも、それっておかしくない？　コトミネがマスターなら、どうしてサーヴァントを使わないで自分で戦うの？」

「たぶん、使ってたんだと思う。私とあの赤いアーチャーとの戦いを止めたランサーが、きっとそう」

「なら、どうしてそこまでして凛ちゃんを助けたのかが謎ね。聖杯戦争に参加すること自体が凛ちゃんと争うことなのに」

「あいつはろくなヤツじゃないけど、昔から約束を破ることはしなかったわ」

思い起こすのは言峰から聞いた話。あるいは魔術刻印から流れ込んだ、父の最期の記憶。

――「綺礼。最後に３つ、頼みたいことがある」

――「謹んで承りましょう」

――「私の死後、凛の面倒をみてやってほしい。後見人となり、私の魔術刻印を引き継がせて欲しい」

遠坂時臣は、自身の介錯を言峰に頼みつつも、その悲願を言峰に託そうとはしなかった。
望みは血のつながった弟子に託し、一番弟子である言峰にはその世話だけを頼んだ。
魔術師としては何も間違っていない。けれどそれは、少し悲しいことだと思った。

――「遠坂凛を、一流の魔術師に」

言峰は語らなかったけれど、刻印から流れ込んだ記憶で知っている。
プレゼントとして言峰から贈られたアゾット剣が、父の心臓を貫いたものであると。

「だから言峰は、私を殺さずにアーチャーだけを倒そうとするんじゃないかな。
そして私の代わりに聖杯を手に入れて、私を笑うつもりなんだと思う」

「聖杯の話が出たから、今のうちに言っておくけど」

キャスターがそう言って言葉を切る。一同を順に見て、それから続きを話す。

「私はキャスターのサーヴァントだから、魔術の解析は大得意。
でもってイリヤちゃんと対面しちゃったから聖杯の仕組みは大体分かってる。
だから聖杯の本来の機能も大方分かってると思う。だから聞いておきたいんだけど、凛ちゃんはどっちが目的？」

息を呑む遠坂とイリヤ。そして話が分からずに目をぱちくりさせるアーチャー。

「私は御三家の一つ、遠坂の当主よ。答えは決まってるわ」

「そう。良かった」

「良かったって、どういうことキャスター？」

「私なら、イリヤちゃんを極力傷付けずに聖杯降臨の儀式ができると思う。
でも、凛ちゃんも私もそっちの使い方をするなら、最後に残った私とアーチャーが戦う時に面倒になるから。
凛ちゃんが勝ったら凛ちゃん一人で儀式をやることになって、イリヤちゃんのことまで手が回らないと思う。
けど凛ちゃんが大本の使い方をするなら安心。たとえ凛ちゃんが勝っても、アインツベルンの人が補助してくれる。
それならイリヤちゃんは悪いようにはならないだろうし、どちらにしてもイリヤちゃんは犠牲になる必要はない」

「はぁ。キャスターは御人好しだね。そんな風に魔術師らしくないこと言ってると、リンに負けちゃうよ？」

「そんなことないよ。これは私のため。悩まなくて済むから、全力で戦いに打ち込める」

満面の笑みでそんなことを言ってのけるキャスターは、これで魔術師らしいのかもしれない。
彼女は一直線に突き進んでいく。周りのことなんて無視して、自分の目的を貫き通す。
人生を材料にして自分の生き方をはっきりと示してみせた、魔術使いの大英雄。それがこのキャスター。

その様を前にして、間接的に遠坂時臣を殺した前回のキャスターとはまるで真逆だなと、遠坂は思った。

「えと、お話が読めないんですが」

「あら？　てっきりスキルで聖杯の情報なんて入手済みだと思ってたから話さなかったんだけど」

キャスターと遠坂の眼が合う。頷いて口を閉じたキャスターに対して、遠坂が首を振る。

「どうせ黙ってても近いうちに分かっちゃうでしょ？　だから話すわ」

「聖杯は二つある。アインツベルンが一回ごとに用意する小聖杯と、そして大本の大聖杯。
願い事をかなえるだけなら小聖杯を使う。けど、御三家の目的、根源への到達を目指すなら大聖杯を使うことになる」

「間桐か遠坂から勝者が出たら、私は勝者に手を貸して天の杯を完成させることになってる。
インキュベーターからもう一度第三魔法を奪い取る術式は、私が礼装を着ないと完成しないからね」

「ん。大体読みましたから、あとの説明は大丈夫です。けど、イリヤさんはそれでいいんですか？」

こめかみを抑えながら、アーチャーがイリヤに問いかける。
自分を犠牲として根源に至る道は、アーチャー自身が通ったもの。暁美ほむらが開いたもの。
だから問わずにはいられない

「気にしてないわ。初めからそういうものとして生まれたから、諦めはついてる」

「それ、嘘」

キャスターがイリヤを小突く。

「イリヤちゃんは諦めてなんていないよ。少なくとも、切嗣さんとは会わないといけないと思ってる。
というわけで、約束通り切嗣さんに会う方法を教えちゃうね！」

指を立てて、教師がテストに出そうと思っている項目を解説するように口を開いた。
けれどその言葉はだんだんと抑揚が無くなっていく。

「私のマスターに聞きなさい。あの人ロリコン気味だからイリヤちゃんの言うなら多分聞くと思う」

「えっ」「えっ」「えっ」

深く溜め息をついて、続きを説明する。

「魔術特性は窃視。二つ名は鏡界の出歯亀。第二魔法の一端に辿り着いた一流の魔術師よ。
別世界まで覗き見るくらいだから、同じ街の中の魔術師を見つけるくらいわけ無いと思うわ」

話すうちに段々と声のトーンが落ち、言い終わる頃にはオクターブ半分は低くなっている。

「あー……聞いたことある。というかそれ……うちの遠い親戚だ……」

「凛さん、世間って意外に狭いですねー」

「そうね。私もそう思うわ」

段々と一回の文量が減っている気がする。あーうー。おやすみなさい。


歌川軒永
海鳴市出身の魔術師。魔術特性は窃視。趣味はなのはさんウォッチング。
たまたま高町なのはを目撃し、たまたま一目惚れし、たまたま次元転移を観測した。
その後は第二魔法の研究に専念し、ついには平行世界の観測に成功する。マジカルの名は伊達ではない。

研究の資金を稼ぐために派遣員として精力的に活動しており、魔術協会でも一目置かれる実力者。
秋葉原霊脈に当てられて魔術回路が目覚めてしまった人に魔術の基礎を教える仕事も担当している。

聖杯に懸ける願いは、時空管理局職員として人生をやり直すこと。

召喚に使った触媒は、平行世界を記録した立体映像投影機。
「なのはさんの貴重な入浴シーン(ミッドチルダ・８１番)」と題されていた。後にキャスターに破壊された。

童貞のまま30歳過ぎたら魔法を使えるようになれるからな
第二魔法極めるまで後一歩なんだろう

乙!!中身がアレ吹いたｗｗｗｗ
歌川ってオリジナル？なんて読むの？

一通りの話を終えて、アーチャーとイリヤが衛宮家を出る。

朝食はすっきり片付いたので、残り物は無し。派遣員へのエサはコンビニで調達することになった。

「わー。随分と狭い所に商品を詰め込んでるのね。日本は土地が狭いとは聞いてたけど、ちょっと異常じゃない？」

「一つのお店にいろいろ揃ってて便利だよ？」

「私はちょっと、圧迫感があって嫌だなあ……」

と愚痴を言う割にノリノリで買い物かごに商品を放り込んでいくイリヤ。
スイーツ関連をかたっぱしから入れていこうとするイリヤをアーチャーが止める。

「だ、だめだよ。凛さんのお財布なんだから、無駄使いしたら怒られちゃう」

「だってどれも凄い安いよ？」
　　　　　　　　　　　　 　ｵﾚ
「安くないの。特にその我のスイーツシリーズはちょっと高くて、月末に残ったお小遣いで買うものなんです！」

「だって100円で1ドルだとして、このエクレアが約3ドルでしょ？　全然安いじゃない」

「イリヤさんは金銭感覚がおかしいだけです！　こらっ！　もどしなさいー」

「むぅ。そのお姉さん口調好きじゃない。馬鹿にされてる気がする」

「大体、派遣さんに持っていく分が全然無いじゃない。クリームパンだけじゃかわいそうだよ」

「だってロリコンなんでしょ？　あんまり関わりたくないなー」

「その気持ちはとってもよく分かるけど、派遣さんだってお腹すいちゃうよ」

「断食でもしてた方がいいんじゃないかしら。欲求階層理論って知ってる？
基本的な欲望が叶えられないうちは、文明的な願いをもてないのよ」

「難しい言葉知ってるんだね……」

「ふふっ。私はこれでも物知りなんだから！」

「わ、私だって……」

アーチャーが対抗して蔵知の司書スキルを使い出して頃を見計らって、イリヤがかごをレジに持ちこむ。
一つ一つ商品のバーコードを読み取っていくのを興味深げに見つめるイリヤ。
音がするたびにレジの数字を見て、店員の手元を見て。それから思い出したようにレジ前の和菓子を追加する。

気付いて頃には時すでに遅し、店員がバーコードを読み終わってから商品を戻すなんてことはアーチャーにはできず。
仕方なく大量のスイーツ類を前にサイフを開くことになった。

「派遣さん、おはようございます」

「おはよう。今日は随分早いね。なのはさんはまだかい？」

明らかに憔悴していながら、精一杯の笑顔を作って対応する派遣員。
一週間以上の宙吊り状態でこけた頬を無理に釣り上げようとするのが痛々しい。
無駄な肉が取れてヒゲが伸びた中年の姿は仙人染みていて、いわゆる変態っぽさは大分薄れていた。
　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｸﾚﾌﾟｽｺﾛ･ｶﾞﾘﾚｲ
「そっちの銀髪幼女は始めましてかな。僕は歌川軒永。歌川家の当主にして、異世界望遠鏡の異名を持つ魔術師さ！」

「あれ？　キャスターさんは出歯亀って言ってましたけど」

「うむ。そっちはかっこ悪いから嫌いなんだ。僕の弟子には呼ばせないことにしている」

見た目が改善されたところで、中身が変わらなければそう問題は解決しない。
さっきからちらちらとアーチャーの胸元に視線をやっているのが筒抜けである。

「じゃあ、どっちが食べさせるかでじゃんけんしよう」

「せっかくだからそのイリヤちゃんにお願いしたい。背伸びしてあーん、とかそうそう無いイベントだ」

「……いや、やっぱり私がやる」

「別にアーチャーちゃんが嫌ってわけじゃないんだ！　純白のロングスカートとか良く似合ってると思うよ」

「気にしてませんから、黙ってこのクリームパン食べてください」

「いや、口の中がカラカラなので水がほしい。あ、一応言っておくと口移しはやめてほしい。
君たちに魅力が無いわけじゃない。ただ僕は上も下も最初はなのはさんと決めているんだ」

問答無用でクリームパンが押し込まれる。閉じられた唇に当たってパンがひしゃげ、仕方なく派遣員が口を開く。
クリームパンは、菓子パンの中では水気が強い方だ。これが焼き菓子系であれば、容赦なく少ない水分を口内から奪ったことだろう。

だが、クリームパンとてパン。空洞を減らすための空気抜きとして作られた切れ目は同時にクリームの湿気を逃がし
クリームの甘さとふわっとしたパン生地の両立をやってのけるが、しかしその心遣いが派遣員を苦しめる。

カラカラに乾いた口でパンを食べる苦しみ。口にものが詰まっているために呻き声すら出せない。
クリームだけでは口を潤すには至らず、けれどパンの辛さを和らげる。だがそれは救いでは無く、さらなる苦しみ。
単調な甘みは、パンといっしょに食べることを前提としている。クリームを味わえば、パン部分を食べずにはいられない。
結果、余計にパンを咀嚼する時間が伸びて苦しみが引き延ばされる。

「うん。美少女の食べさせてくれる食事は格別だなあ……」

軽く涙目になりながら、派遣員はしみじみと感想を述べた。

おやすみない。

・我のメルス
コンビニで商品案の公募をやったら来た。古代メソポタミアの菓子を再現したものとして考古学的に高い評価を得ている。
練ったパン生地にナツメヤシを埋め込み、香辛料と共に焼き上げて蜂蜜でコーティングしたもの。金ぴか。
ライオンの形に型で切りぬいてタテガミの部分には少量の金箔を混ぜた飴がかけてある。

小さめにも関わらず一つ598円という値段で衝撃のヒットを飛ばし、コンビニスイーツの常識を塗り変えた。
企業の手でシリーズ化され、その後は値段を下げて広く親しまれている。発案者は不明。

>>176　うたがわのきなが　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾕﾉｷ　 ﾅｶﾞﾒ
軒は見に、永は眺に通じる。視ることに重きをおいた歌川家らしい名前。姉の柚軒、永芽から一字ずつ取ったとか。

>>175
平行世界の観測は魔術特性にそっていたから行えた。ここから先は軒永さんには無理。諦めたから聖杯に頼った。
なのはさんと同じものを作ればいいんじゃね(橙子的発想)、万物の要素を整理して世の全てからなのはさんを感じ取れば天国(阿頼耶識)
俺自身がなのはさんになることだ(ネロ的発想)　なのはさんいないけどいることにしてしまおう(無の否定)
みたいな他のアプローチだったら観測することの意義が強いので、もっと先までいけたかもしれない。今から方法を変えたら寿命的に無理。

どうにも書く気力が出ないので書き溜めた設定だけおいて寝る。
この分だとCCC発売までにセイバー戦いかないかも。


イメージカラー：象牙色
特技：あやとり、射撃、早寝
好きなもの：どら焼き、昼寝
苦手なもの：努力
天敵：荒耶宗蓮、セワシ、ジャイアン

装備：拡張霊実眼鏡、白狼礼装、エーテライト

目標のために自分の死が必要なら迷うことなく死ぬ。そう身体が動いてしまう。
「ドラえもんを作る」ためであれば、弟子を作って劇的な最期と共にドラえもんの設計図を託すことになるかもしれない。
「ドラえもんに再会する」という目標であれば生存が必要条件になるため目標達成まで死ななくなるわけではあるのだが。

サーヴァントとしては滅茶苦茶扱い辛い上に強くも無いという最低の部類。
性格的には志貴みたいなのと、性質的には桜やイリヤと相性がいい。

到達しえないことをもって魔法を定義するため、魔術とは相性が悪い。
のび太はけっして魔術師にはなれないし、魔術使いとしても一流には届かない。
星の開拓者スキルが入ったことで魔術との相性が改善されており、魔術の才は生前より鯖状態の方が秀でている。
アサシンとして呼ばれたため分割思考・高速思考が外れてどっこいどっこいだけど。

セイバー：神楽坂明日菜
（マスター：間桐臓硯→言峰綺礼<偽臣の書>）
筋力Ｂ　耐久Ｂ　敏捷Ｂ　魔翌力Ａ　幸運Ｄ　宝具Ａ＋＋　　（間桐臓硯）
筋力Ｃ　耐久Ｃ　敏捷Ｃ　魔翌力Ｂ　幸運Ｅ　宝具Ａ＋＋　　（言峰綺礼<偽臣の書>）
保有スキル：対魔翌力(EX)　京都神鳴流(Ｃ)　究極技法・咸卦法(Ａ)　黄昏の姫御子(??)
宝具：―

アーチャー：鹿目まどか
（マスター：遠坂凛）
筋力－　耐久－　敏捷－　魔翌力－　幸運－　宝具－
保有スキル：蔵知の司書(Ａ＋＋)
宝具：『完全なる半月輪廻』

ランサー：クー・フーリン
（マスター：言峰綺礼）
筋力Ｂ　耐久Ｃ　敏捷Ａ　魔翌力Ｃ　幸運Ｅ　宝具Ｂ
保有スキル：対魔翌力(Ｂ)　戦闘続行(Ａ)　仕切り直し(Ｃ)　神性(Ｂ)　ルーン魔術(Ｂ)　矢避けの加護(Ｂ)
宝具：『刺し穿つ死棘の槍』『突き穿つ死翔の槍』

ライダー：マリオ
（マスター：間桐慎二→衛宮士郎）
筋力Ｂ　耐久Ｅ　敏捷Ａ＋　魔翌力Ｃ　幸運Ｅ　宝具Ａ
保有スキル：騎乗(Ａ)　自己改造(Ｄ)　※宝具の特性により対魔翌力は打ち消される
宝具：『死は最良の教師なり』『神の与えし我が揺り籠』『煉獄の一輪花』『神のものは神に、カエサルのものはカエサルに』

キャスター：高町なのは
（マスター：歌川軒永）
筋力Ｃ　耐久Ｃ　敏捷Ｃ　魔翌力Ａ＋＋　幸運Ｂ　宝具Ａ＋＋
保有スキル：陣地作成(Ｄ)　道具作成(Ｅ)　分割思考(Ｂ)　魔翌力放出(Ａ)　魔翌力収束(Ａ)　指南の心得(Ｂ)
宝具：『魔導の杖・砲煙弾雨』『星の終わりを告げる光華』

バーサーカー：ピカチュウ
（マスター：イリヤスフィール・フォン・アインツベルン）
筋力Ａ＋　耐久Ｂ　敏捷Ｂ　魔翌力Ａ＋　幸運Ａ　宝具Ｂ
保有スキル：―
宝具：『避雷神・静電鬼』

アサシン：野比のび太　　　　混沌・悪
（マスター：間桐桜）
筋力Ｅ　耐久Ｅ　敏捷Ｄ　魔翌力Ｄ　幸運Ｂ　宝具Ｃ
保有スキル：星の開拓者(EX)　破壊工作(Ａ)　道具作成(Ｃ)
宝具：『四次元ポケット』

アーチャー(四次)：エミヤ
（マスター：衛宮切嗣→暁見ほむら）
筋力Ｄ　耐久Ｃ　敏捷Ｃ　魔翌力Ｂ　幸運Ｅ　宝具??
保有スキル：対魔翌力(Ｄ)　単独行動(Ｂ)　千里眼(Ｃ)　心眼[真](Ｂ)　魔術(Ｃ‐)
宝具：『無限の剣製』

ステータスにおける－ってどういう扱いになるんだ？EX以上ってこと？

自分の中に線を引く感覚と、そうアサシンは言った。
違う。線を引くなんてものじゃない。これは自分自身の切断。

まず初めに、自分自身をイメージする。あの作られた世界の中でアサシンが見せてくれた俺の姿を思い描く。
その物質的な外枠を離れ、魂の形を視る。そして慎重に、衛宮士郎の存在を壊さないように俺を切り刻む。

刃は既に俺の中に用意されている。輝く黄金の刀身は、俺の魂を難なく切断していく。

俺が二つになれば思考が二つになる。二つの論理は互いに絡み合い、二倍以上の思考速度を生む。
三分割で約十倍、四分割なら三十倍近い思考速度が得られる。せっかく早まった思考が痛みで埋まるのがもったいないが、それでも十二分に役立つ。

アサシンが立ち去ってからまだ三時間ほど。
アサシンは一週間で二分割を覚えられれば十分だなんて言っていたが、これならまだまだ先へいけそうだ。

分割思考とやらは大丈夫だろう。次は高速思考だ。
心の無駄を削ぎ落とす、という説明は分かりやすい。切るのは得意だ。
繋がりの無い欠片、意味状のバグを切り捨てて行けばいいのだろう。

無数に繋がり合ったラインを傷つけずにその中の欠片を刺すのは大変だが、やり甲斐がある。

魔術をこれほどしっかりとものにするのは初めてだ。切嗣に教わった強化はほとんど成功しなかった。
できたのは解析と投影だけで、それも教わってできるようになったというよりも初めてからできることに気付いたのに近い。
魔術を教わって理解するというのが、これほど楽しいものだとは思わなかった。

針の孔を通すように、刀身を線と線の間に通していく。衛宮士郎の概念核を傷付けないように、そっと俺の塊を剣の側面で押す。
そうして隙間を広げ、俺の中の無駄に切先を届かせる。黄金色の輝きが黒い塊をスライスし、俺の中から外に出す。

思考がクリアになっていく。
過程と結果の一致。やり遂げたことの達成感が心の広がる。

自分の内側から外側へと視点を移す。
そうするとせっかく分割した俺はくっつき始め、心の中の黒いところがすぐに増えていってしまう。

前言撤回。まだ実戦で扱うのは難しそうだ。この状態を維持できるまでにはまだまだかかる。
もっと細かく切るか、それとも定期的に手早くやるか。あるいは半分で内側を見続けて作業を続けるか。

ともかく、外を認識してしまうと寒さが耐えられない。橋の上には遮蔽物がなく、風に当たり続けることになるのだから当たり前だ。
身体を動かしていれば気にならない風も、一か所に留まっていると見る間に体温を奪っていく。

だから気が付けば俺の身体は凍えていて、どころか小刻みに震えていた。
ライダーが身体をさすってくれているようなのだが、触覚が鈍くてライダーの手の暖かさすら感じ取れない。

立ち上がって四肢に力を入れる。始めは感覚がなくて、ただ視覚によってだけ変化が分かる。
手を握ったり開いたりしているうちに段々とピリピリした痺れが伝わってきて、自分の身体がどれほど疲れていたのか分かった。

日が昇り始めている。もう少しすれば日陰が消えてこの場所も暖かくなるのだろうが、しかし疲れた身体を放置しているのも良くない。
それに段々と車の数も増えてきている。そのうち橋を歩く人も出てくるだろう。一人うずくまっていれば怪しまれてしまう。

このまま橋に留まり続けるのはまずい。けれど遠坂と袂を分かった今、一人で家に戻るのも危ないだろう。
アサシンは「じゃ、ちょっとマスターいじってくるから」とか言ってどこかへ行ってしまい、いつ帰ってくるのか分からない。どうしようか。

>>260

おやすみなさい。CCC発売後はしばらく連載が止まります。

・ピカチュウ
最適クラスはモンスター。高い理性に加え、野性的な直感で戦場を支配する。
また666匹の6Ｖポケモンを生贄に捧げてビーストとして降臨させることで世界を終わりに導く。

ポケモンは娯楽として広まってるけど、オリジナルは別世界に実在。マリオは意図的に逸話を作られた人工英雄。
なのはは同世界出身で別世界に移動、ネギま勢はこの世界にもＥＸＴＲＡ世界にもいるけどＥＸＴＲＡ世界の明日菜は英雄ではなく反英雄。
四次でアインツベルンが聖杯の召喚設定いじったせいで変なのが混じってくるようになったらしい。素直にハサンで満足しておけばいいものを。

>>233　未公開部分の模様

そうだ、寺へ行こう。

エイプリルフール・二龍騰飛(アルトリアvsノビタニヤン=アトラシア)
本編とはいっさい、まるで、なんにも関係が無い。残念だったな！

「辰のゴールドヒロインの座、返してもらいます！」
「ああ。そういえば君はかつての辰のゴールドヒロインだったか」

セイバーの振った剣は、紙一重のところでアサシンに届かない。完全に剣の長さを見極められているのだ。
剣を振り抜いた直後を狙ってアサシンの指先が動く。空気ピストルの射線上に立たないよう、セイバーは即座に飛び退いた。

既に仲間が三人あの魔弾によって倒れている。威力こそ少ないが、気絶させるというのは戦闘からの離脱に他ならない。
傷が治らない、当たれば必殺、といった技より余程恐ろしい。燃費と結果が釣り合わない、破格の宝具だ。
逃げようとすれば既に部屋中に張り巡らされたエーテライトに絡まり、逆に動きを止めれば即座に空気ピストルが飛んでくる。
その戦略の前に、三人は突入と同時に気絶し、一匹は行動を封じ込められたのだ。

「解せません。あなたはそもそも男性ではないですか」
「それを言うなら、そこで寝てるウェイバー君だって男じゃないか」
「くっ……彼は例外です！　zeroには女性鯖が少なすぎたんです！」

指先を動かしただけで準備が整う空気ピストルに対し、構えて溜めて振り払う必要がある約束された勝利の剣では分が悪い。
解放に必要なフレーズをとっても、エクスカリバーの名を叫ぶ間に３度は「バン」と口にできる。

神がかりな直感で空間に張り巡らされたエーテライトを避けて戦うセイバーだが、少しずつアサシンに追い詰められていく。

「セイバー、君の考えは分かるよ。バーサーカーを宙吊りにしている糸を切り、あの電獣を解き放てば逆転できると思ってるんだろ」

セイバーが後退しながら少しずつバーサーカーに近付いていっていることを、アサシンは看過してみせる。

バーサーカーは電流によって自身を磁石化できる。それによって金属製の空気ピストルが引き寄せられ、僅かに照準がずれるのだ。
ほんの少しの誤差だったが、その少しの差に直感スキルを重ねてセイバーは空気ピストルを避け続けている。
加えて、セイバーの奮戦により、アサシンはバーサーカーに空気ピストルを当てることができていない。

「ええ。あの絡まり合った糸だけを切断するのは至難の業でしょうが、私ならできます！」

アサシンが投げ付けてくる糸を避け、前進。セイバーは一気にアサシンの前まで出る。
柄による打撃と見せかけて、かろやかに構えを変えて横薙ぎに移行する。
だがそれも、アサシンはぎりぎりのところで身をかわす。

セイバーが剣を振るう度に、エーテライトが切れる。だがそんなものは無限に近い糸を用意された部屋の中では気休めにしかない。
アサシンが少し手元の糸を引くと、そのスペースに糸が補充される。
それどころかアサシンは、糸の切れ方から剣の長さを知ることに成功している。

「アサシンだというのにこの機動力……！　捉えきれない」
「君の間違いはそこだよ。いつから僕がアサシンだと錯覚していた？」
「なっ！？」
「今の僕はアサシンとセイバーのダブルクラスだ」

一歩。これまでよりも早く、確実に。アサシンの踏み込み。
セイバーが剣を引き戻す間も無く、間合いを詰め切る。
　ｽﾞｨﾙﾊﾞｰﾝ ﾃﾞｰｹﾞﾝ
「夢と高嶺の白月剣っ」

その腕には白銀に輝く剣。握る手には籠手がつき、頭を兜が覆っている。

完全にセイバーの間合いの内側に潜り込んでいる。
白銀の剣が煌いた。もはやここから体勢を変えて避けることは不可能。
セイバーの剣は、姿勢をかがめたアサシンの頭上。ここまで近づかれてしまえば、剣での迎撃は間に合わない。

白銀の剣が迫る。

対する相手の持つ剣は、理想で編まれた黄金の剣。
ならばアサシンの持つ剣は、夢が育てた白銀の剣。

銀は金より軽く、夢は理想より身近にある。

その剣閃がセイバーよりも早いのは当然のこと。

だが。
ｲﾝﾋﾞｼﾞﾌﾞﾙ ･ ｴｱ
「風王っ！　結界――！」

これまで決して攻めきらず、奇襲に備えて余裕をもった動きを続けてきたアサシンがはっきりとトドメを刺しにきたこの瞬間こそが、
セイバーが狙っていた逆転の機会に他ならない。

剣を取り巻く風は糸の間をすり抜け、反動でセイバーを後方へと吹っ飛ばすと同時に真空が糸を切る。
剣を振り払ったあとを狙う発想は互いに同じ。このタイミングなら糸を張り直す余裕は無い。バーサーカーが自由になる。

「バーサ――っ！？」

だが。
攻め切らない相手に対して隙を伺っていたのはアサシンも同じだ。あえて自分から仕掛けた以上、そこには十分な勝算と、終幕のイメージがある。

夢と高嶺の白月剣。妖霊の王を滅した伝説の剣には、ある逸話があった。
すなわち、その剣は自らの意志をもって敵を裂き、相対する相手に合わせて巨大化するのだと。

「が、ふっ……」

風王結界をもってしても吹き飛ばせないほどの重力。
ありし日の決闘、この男と同郷のアサシンが使った物干し竿も及ばぬほどの長さ。

白銀の剣がセイバーの胸を串刺しにして、元の長さへと戻っていく。

「伸びる剣とは……」

その一撃はまだセイバーの命を奪うには至らなかったが、胸を抑える頃には既に空気ピストルの弾が撃ち込まれている。
気絶の中に夢は無い。理想の黄金はここで折れた。

「次は、あれか」

アサシンが視線を向ける先では、次なる黄金が雄叫びをあげている。

「ピィィイィガァ！」

黄金の座と奪われた者の戦いは、まだ終わらない。

もっとふざけた内容にするはずが、久しぶりの戦闘シーンで張りきったせいでギャグの欠片もないよ！　これ需要あるんだろうか。

おやすみなさい。

限定版買いそびれてヤル気失せた俺…
クリアしたら感想聞かせてくれ>>1よ

そろそろ美人で強い冬木の虎に会いたいですね

こんばんは。今日はケイネス先生の誕生日だそうですが、まだCCCが終わってないので今日もお休みです。

>>323
通常版と初回限定版の差など気にならぬ、って赤様がマイルームで言ってました。
発売日に通常版を買ったけど、我慢できずに後で限定版まで買ってしまったぞっ！

>>325
CCCは藤村先生(偽)に始まり藤村先生(偽)に終わるらしいですよ。


赤ランサーの歌が作業用として凄く捗る。恋はドラクル。


【CLASS】四次ランサー
【性別】男性
【身長・体重】190cm・78kg
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B　耐久C　敏捷A　魔翌力D　幸運D　宝具A
【クラス別スキル】
対魔翌力：A
Ａランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

【固有スキル】
神性：A
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
ランサーは軍神の子であり、半神であるために高い神性を持つ。

カリスマ：B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

直感：B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
狼に育てられたことによって得た野性的な感覚によるもの。

皇帝特権：C
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで短期間だけ獲得できるというもの。
Cランクでは、技術的なスキルの一部を獲得可能。

宝具は槍一本。ホームグラウンドで召喚されていれば、結界宝具×３で待ちガイル戦法に入るとか。

赤様の命日と聞いて。

山中を駆けていく途中で珍しくヨッシーがへばってしまい、その先は自分の足で歩くことになった。
ライダーの先導に従い、山の中を進んでいく。

木立ちから零れ落ちる光が、歩みに合わせて表情を変える。
優しかった幽光が、一歩を境に真上から降り注ぐ閃光となり、そこからまた一歩進めば背後に消える。
そんな光の変わりようを目の当たりにする度に、俺は少しだけ歩みを止める。
一方ライダーは帽子のおかげか光に気を取られることは無く、一定のペースで歩き続けていく。
そんなライダーと距離が開かないように、立ち止まったあとは足早に追いかける。

歩き出したのは日の出の頃。そこから次第に陽射しが強くなっていく。
二重に変わる明るさが楽しくて、山道は辛くなかった。

そうしているうちに、見慣れた階段に辿り着く。
始めから階段を登っていれば良かった気がしなくもないが、まあライダーにも考えがあったんだろう。
早朝とはいえ、ヨッシーを他人に見られたら困るし。

階段を登りきり、山門に辿り着く。
思っていたより階段を登る時間は短かった。
ヨッシーに乗っている間に大分上まで来ていたようだ。

仏閣特有の凛とした空気。
魔力感知はさっぱりの俺でも、山門の中と外とで何かが違うことが分かる。
柳洞寺には何度も来ているが、やはりここは特別な場所だと思う。
魔術師らしい言い方をすれば、霊地というヤツだろうか。

「ふっ！」

そこに、声が響いている。

境内に足を踏み入れてみれば、そこにいたのは葛木先生だった。

拳は弾丸のように速いのに、何故か空を切る音がしない。
足捌きも劣らぬ速さだというのに、石畳は無言のまま。

「はっ！」

服の擦れる音すらさせず。一定のテンポの掛け声だけが聞こえる。

ライダーが見られたかと思って振り返れば、そこにライダーの姿は無し。
俺に言われるまでも無く霊体化してくれたようで、安心した。

葛木先生は構えを解いて一呼吸おいてから話しかけてくる。

「衛宮か。弓道部に所属していたはずだが、朝練はいいのか？」

「弓道部なら、退部しました」

「そうか。ならいい」

それだけ言って、葛木先生は俺に背を向けて本堂の方に歩いていってしまう。

なぜここに来たのか、と聞かれるものとばかり思っていたから、その素っ気ない反応に驚いた。
驚きが先行したものだから、逆に葛木先生がここにいる理由を聞きそびれた。

「ここから徒歩での登校となると、いささか時間がかかる。遅刻には気を付けなさい」

返答をしようとする時には、既に葛木先生の姿は消えていた。
足音は静かなのに、歩くのは早いのだ。

hollowやり返して零観さんのキャラ見てきたけど、良い単語が見つけ出せないから寝よう。

書こう書こうと思いながらいざキーボードを前にすると書けなくなる症候群。
でも今回こそはちゃんと完結させたいし、三回くらいは蘇る覚悟でいこう。

一成は全身から生徒会長オーラを発散させる秩序と規律の化身。
聖杯戦争のことを隠したまま説得するなんて、とても俺にはできそうにない。
必要があればちゃんと融通を効かせてくれる奴だが、嘘で誤魔化し通せる相手では無い。
「理由は言えないけど、しばらく学校を休んで寺にこもる」なんて言ってら叱られるに決まっている。

なので先に零観さんに話をすることにしよう。
零観さんは柳洞寺の住職代理。現在の寺のトップだ。それに何より、柳洞零観は一成の兄。
零観さんの許可が下りていれば、さしもの一成も俺を追い出すことはできまい。

戦略を確認し、寺に入る前に零観さんとの会話内容を考えておく。

「衛宮か。待っていたぞ！」

……あれ？

「こんなところで立ち止まってどうした？
せっかく寺に来たのだから、思索にふけるなら法堂で禅を組めばよかろう」

あれ？

「衛宮、聞こえていないのか？　よもやそこまで深い瞑想を……」

「いや、大丈夫、聞こえてる」

間違いようもなく、俺の前には柳洞一成その人がいる。
シミ一つ無い学生服。シワ一つ無い着こなし。容姿端麗、品行方正。
眼鏡の端できらめく優等生の輝き。うん、一成だ。

迂闊だった。葛木先生も言ったように、ここから学校へは遠い。一時間ではまるで足りないくらい遠い。
そして一成はチャイムの鳴る5分前には席について教科書を並べている類の人種。

早朝といえど、この時間に登校を始めるのは当然のこと。むしろ一成としては遅い方だ。

「えー、コホン」

こうなったら以上、一成を説得する他ない。
この程度の苦難で挫けていては、まだ見ぬセイバーを引き連れた黒幕と戦うどころではない。

「実は俺は今、人生の一大事にぶちあたっていてだな」

どう言葉を続けるか悩み、少し言葉を切ったところに一成のおもわぬ一言が差しこまれる。

「話は藤村先生から伺っている。
仏門は来る者拒まず去る者追わず。答えが見つかるまで好きなだけ居ると良い」

「ん、藤ねえが？」

「ああ。『衛宮くんは大切なものを探しにいったのでお休みです。
しばらく出家するので、帰ってきたら温かく迎えてあげてねー！』と昨日のホームルームで」

出家するなんて言った覚えは無い。そもそも柳洞寺にお世話になろうと思ったのもアサシンと別れた後だし。
野生の勘は未来をも見通すと言うのか。それとも家出と出家の区別がついていないのか。
どちらも同じくらいありそうだから困る。

「大体合ってる。それで、俺はここにいていいのか？」

「勿論だとも。今時寺で己を磨かんとするとは感心感心。
零観兄も歓迎すると言っていた。好きなだけ修行するといい」

よく分からないが、藤ねえのおかげで問題が一つ解決したらしい。
しかし、それでいいのか我らの生徒会長。やってることは家出+不登校だぞ。

「世俗との繋がりを切ってこその出家。
これからは、生徒会のことで衛宮をわずらわせることはしないから、安心して励むといい」

それは突然のことだった。

「Worning!」

窓をぶち抜く光条。叫ぶ赤い宝石。
白い戦闘服をまとったキャスターが、遠坂の元に駆けつけた。

ここが衛宮家離れの二階であり、したがって窓から入ってきたキャスターが空を飛んでいた、
ということなど驚くには値しない。本当に驚くべきは、そのあとのキャスターの言葉だ。

「結界が壊された！　凛ちゃん、逃げて！」

「嘘っ。魔翌力干渉なんて――」

衛宮家の一画に、不審な魔翌力は感じられない。
ただ、達人の域に至った者だけが持つ迫力、覇気が伝わってくる。

魔翌力を隠せば、隠すために張った膜が持つ魔翌力に勘づかれる。
魔術師である以上、できるのは外側の魔翌力を限りなく小さくし、自然にある量の範囲内に収めることだけだ。

一切の魔翌力を感じさせないというのは、そういった隠蔽工作と次元が違う。
隠蔽が小数を掛けて数を小さくすることなら、これはマイナスを持ってきてゼロを作ること。

意識を集中させれば感じられるはずの、空間上のマナが減っている。
それに気付けるだけでも、遠坂の魔術師としての才は卓越していた。

「Area Serach was dispeled」

だが探りをいれようにも、そこに魔翌力を近づけただけでキャスターの術式が消滅する。
まして遠坂にできることなど、あるはずもなく。

キャスターに抱えられ、部屋にぶちあけられた穴から地面に降りる。

「私が出る。凛ちゃんは全速力でここから逃げて」

これは単なるディスペルではない。打ち消されているのは術式ではなく魔翌力そのもの。
魔術とは相容れないナニカ。魔術師の天敵。
キャスターにとって最悪と言える相手だが、遠坂にとってはなおのことだ。
だから遠坂はキャスターの言うとおり、逃亡を決めた。

「合流場所は、私の家で。正午までは待つわ」

口に出さずとも、それが「正午まで待ってキャスターが来なければ敗退したものと考える」
という意味を含んでいることは明らかだった。

ようやくキャスターさんのバトルシーンへ。
もうすぐ出番あるよ、とか言ってから約四か月……。

これまでの状況ってどんな感じだったっけ

1つだけ突っ込むとwarningじゃないのか

>>427-428
ぎゃー！！！　よりにもよってCCC始める前にちょっとだけ書いてた部分に限って……！
やはり書き溜めは信用ならない　これからもその場の勢いで書いていく方向でいこう

サーヴァントはサーヴァントの存在を感じ取れる。
最初に存在に気付いてから実際に対面するまでの間を計れば相手の速度が予想できるし
単純に力の大きいサーヴァントならそれだけ存在を大きく感じられる。

今衛宮家の結界を破った相手は、存在を感じ取った次の瞬間には結界破りを終えていた。
超速度を誇る英霊か、または気配遮断系のスキル持ちか。

神速の英霊であるなら、遠坂に危険を訴える間に何の攻撃も受けなかったことがおかしい。
加えてもっとも速さに優れたクラスとされるランサーと、キャスターは既に交戦している。
ランサーはルーンの使い手だった。結界を破ることは可能だろう。だが魔力を消し去る特性は無い。

また、相手は索敵魔術を無効化した。
同様にサーヴァント同士の気配察知に干渉してもおかしくない。
サーヴァントがサーヴァントの存在に気付けるのは、始めからそういう風にルールができているから。
聖杯聖杯という儀式によって生まれたルールなのだから、それは魔術の範疇に入る。
魔力無効化で支障をきたす可能性も無いとはいえない。

だからこの特性自体は、気配遮断としても機能しているのかもしれない。
それは話に聞いた、一般人にしか見えないアサシンとも重なって見える。

そこでキャスターが考えるのをやめていれば、相手はアサシンだと結論を下していたかもしれない。

だが彼女はキャスターであり、魔術師を超えた存在だった。

「ブラスターモード、リミットワン、ツー！　リリース！」

彼女の持つスキル、魔力収束は周囲の魔力を吸収する能力。
それはつまり、周囲の魔力の流れを理解しきり、害が無い形で受け入れられるということ。
並はずれた魔力感知は、霊脈の乱れや魔力の渦から、相手の通ってきたルートの理解を可能にする。

(間違いない。単純な直線速度ならランサーさんに匹敵する。
ううん。これはそれ以上かも。身体能力は、完璧に私の上をいってる……)

「Bluster Set」
ﾃﾞﾊﾞｲｽ
魔導杖の変形。内部プロセスを変更。
星態炉のオーバーヒートを防ぐリミッターを解除、術者の魔術回路の保護を終了。
優先順位を改訂、術式行使を第一位に置き、他の全ての要請を棄却。
かくしてキャスターは、魔術の本義、命懸けの世界に回帰した。

突撃槍に似た長い穂先から桃色の翼が伸びる。
キャスターから発散される魔力の奔流を風になぞられて、桃色の翼が大きく羽ばたいた。

「せぇい！」

構えたばかりのキャスターにむかって振り下ろされたのは、巨大なハリセンだった。
速度は想定していたより遅く、キャスターでも十分対応できるもの。

レイジングハートを掲げて受け止めようとした瞬間、桃色の羽根が散った。
次いで身体を覆う重圧。経験と直感に従って受け止めるのはやめて、前に飛び込む形で避ける。

遅れた回避は間に合わず、ハリセンはバリアジャケットを切り裂いた。キャスターの背中が露わになる。

「バリアジャケットがまるで機能してない……。いや、それより！」

攻撃を受ける直前に感じた重圧を思い返して戦慄する。
相手を中心に存在する球形のフィールド。その中に入った途端、ブラスターモードによる自己強化が打ち消された。

限界を超えた自身とデバイスのブースト、キャスターの切り札であるブラスターモードは戦闘が始まった瞬間に打ち破られたのだ。

「えーと、キャスターだよね？　一応確認しておくけど衛宮さん宅であってる？
他にもサーヴァントがいるって聞いてたんだけど、何で一人なの？」

そんなキャスターの気も知らず、フレンドリーに話しかけてくる相手。

「敵に内情を教えるお人好しなんて、いると思う？」

「冷たいなー。教えてくれたっていいじゃない」

まるで子供だ。これが戦争であることを理解していない。
キャスターが動揺している間にもう一度ハリセンを打ち付けていれば、きっと致命傷を与えられただろうに
友達にお菓子をせびるような気楽さで、質問を続けてくる。

「あ、初対面だから一応名乗っとくわね。対魔力の高さで分かってるだろうけど、私セイバーだから」

魔力結合をほどくだけのAMFとは比べ物にならない未知の力。ゼロエフェクトより性質の悪い異能。
セイバー、対魔力EX――。

相手の脅威を感じ取り、始めから全力でいく選択は正しかった。
だがキャスターの持つ手札は、致命的なまでにセイバーと相性が悪かった。
魔術しか無いキャスターと、魔術では傷つかないセイバー。勝敗は闘う前から見えているようなものだ。

「Drive Off」

桃色の翼を消し、デバイスの出力をダウン。キャスターの身体強化だけを継続。
セイバーを見つめながら後ろに下がる。

髪型はキャスターと同じツインテール。鈴のついた髪飾りは古ぼけていて、長く使われたものだと分かる。

(……ちょっと、似てるかも)

ブレザーにチェック柄のミニスカート。学生服にしか見えない格好に、身の丈ほどもある長大なハリセン。
冗談のような姿だが、その身を覆う魔力無効化のフィールドが持つ威圧感がキャスターの表情をひきつらせる。

「セイバーさんか……。完全な格上と戦うなんて本当に久しぶり。
これはもう、全力全開でいくしかないね！」

「Let's enjoy ourselves(お楽しみですね)」

「ん。まあどちらにせよサーヴァントは倒すつもりだったしね。
ふふん。かかってきなさい！　最優のクラスの力を見せてあげるわ」

「W.A.S Unlimited Driving. Accel Shooter is ready」

広範囲の索敵魔術ワイド・エリア・サーチと、誘導性の高い光弾アクセル・シューターの同時使用。
前者については、既に同系の術が無効化されたのを確認している。
後者についても、まさか索敵魔術が通らないのに攻撃が通用するとは思っていない。

(まずは情報収集。どんな能力だろうと、完全な無敵はありえない。
落ち着いて観察すれば、必ずどこかに突破口があるはず……！)

事前に魔力を物質に溜めておき、あとでそれを使って瞬間的に魔力量を上げるアイテム、カートリッジは節約しておく。
ランサー戦でも数個を消費している。ここでむやみにカートリッジを使ってしまえば、たとえセイバーに勝てても聖杯戦争に勝てない。

「シュート！」

「悪いけど、そういうの一切効かないから」

キャスターの周りに漂う光弾の一つがセイバーに向かって飛んでいく。
光が尾を引き、残像を残した軌道はレーザービームのよう。

だがそれは、セイバーに触れることすらできずに構成魔力ごと打ち消される。

そのまま向かってきたセイバーのハリセンが襲い掛かる。
済んでのところで避けて下がるが、キャスターの周囲に展開していた光弾がいくつかかき消された。

同じような攻防が続く。キャスターは光の弾で四方八方から攻めるが、いずれもセイバーに触れられない。
キャスターの攻撃を無視してセイバーのハリセンが振るわれ、それをキャスターがかわす。

ブラスターモードによる身体強化は、セイバーに近寄られない限りは有効。
回避に専念していれば、セイバーの攻撃に対応することは可能。
そして分割思考スキルに秀でたキャスターは、攻撃に集中し、分析に傾注し、
同時に回避にも専念するという離れ業をこなしている。

(あの魔力無効化のフィールド、どの角度から攻めても隙は無し。
魔力量を変えてもいつも一瞬で消されるし、時間的にも空間的にも穴は無い……)

「大丈夫？　私、用があるのは遠坂凛と衛宮士郎って子の方だし、邪魔しないなら逃げてもいいわよ？」

「冗談！　まだ決定打はもらってないし、こっちはこれからだよ！」

マスターの方が目的だと言われたら、なおさら逃げるわけにはいかない。
キャスターがあえて空中に逃げずに戦っているのは、遠坂を守るため。
距離を取りすぎれば、まだ近くにいる遠坂を攻撃されてしまう。だからキャスターは逃げられない。

ハリセンをかわして再度下がる。縁側に飛び乗り、そのまま屋敷の中へ。
追っていくセイバーのハリセンが障子を突き破り、木枠を壊していく。

キャスターが言ったように、まだキャスターは致命打を与えられてはいない。
ハリセンの攻撃はほとんど全てかわしているし、当たった分もジャケットを破られた程度。
肩口胸元、背に腿、膝まで、バリアジャケットはぼろぼろだが、血は出ていないし骨も折れていない。
大部分はジャケットにかすっただけ。打たれた部分も少し痛むのみで、動くのに支障は無い。

だがブラスターモードは使うだけでキャスターの身体を蝕む。

ミッドチルダ式魔術は術者の安全を徹底している。だからこそミッドチルダの魔術は広まった。
始めから術者が傷つかないように作られているし、もし負荷が高くなれば人工知能が警告する。
開発済みの魔術を扱う分にはまず術者の魔術回路がダメージを受けることは無い。

だがキャスターは、他の魔術体系の要素であるカートリッジシステムを採用。
　　　　　ﾛｽﾄﾛｷﾞｱ
出所不明、古代遺産とも噂される彼女の魔導杖は時に限界を超えることを良しとするし
彼女自身、周りの人間の安全には気を使うが自分が傷つくことには無頓着なところがある。

いってみればブラスターモードとは、一度得た安全性を捨てて爆発力を選ぶというだけのこと。
この世界の魔術の基本原則、相応の対価と引き換えの常識破壊。システム的に見れば、むしろ退化とも言える。

セイバーから受けた傷は少なくとも、自らの魔術で身体が壊れていく。
かつて犯した過ちの繰り返し。キャスターは確実に追い込まれていく。

けれど。

「いくよ、レイジングハート！」

「Yes, my master.」

反撃はこれからだ。

開戦直後から使い続けていたエリアサーチの目的は、もちろん相手の動きを探ること。

経験と才能、デバイスの計算力の合わせ技として、キャスターは魔力の流れから相手の行動を先読みできる。
魔術を行使しようと思った瞬間に身体が取る備え、あるいは筋肉の動きに付随するオドの流れ。
そういったものから、一秒先の行動を予測する。

本来生体のオドの動きやマナへの働きかけを感知して相手の居場所を探るだけに過ぎない魔術が
キャスターの手にかかれば、簡易的な未来予知にまで昇華するのだ。

とはいっても直接敵を探れば無効化されるのは承知の上。それでも使い続けたのには理由がある。

最初に相手の接近を魔力消失から感知したように、魔力が掻き消されることをもって逆に相手の存在を知る。
それを突き詰めて、キャスターは魔力無効化フィールドからセイバーの動きを読む。

(基本は球形、でもあのハリセンの周囲数cmにはより強力なフィールドがある。
さらに球形のフィールドに加えてセイバーの身体を覆うようにもう一つフィールドがある。
この三種のフィールドの重ね合わせのせいで、魔力消失にはコンマ以下のわずかなズレが生まれる。
本当に少しだけの差、誤差にも見える微力の魔力差だけど、それでも……！)

これまで、キャスターの攻撃はアクセルシューターのみ。魔術で攻めながら、常に回避行動を取り続けていた。
それが、ここに来て――。

(この感じは、上段からの振りかぶりっ！)

「あれ？　ちょっと早くなった？　ここまで全力を出さないでいるなんて……」

「本番は！　ここからッ！」

セイバーの初動に一歩先んじて避け、その上でハリセンを振りかぶったあとの隙に突っ込む。
槍に似た杖先がセイバーに向かって一直線に奔る。

接近すれば、魔力無効化によって身体強化は消える。だが一度ついた勢いは残る。
そして物理的な攻撃ならセイバーも打ち消すことはできない。

「はぁああああ！」

キャスターの初めてのちゃんとした反撃は、けれどセイバーに避けられる。
横へのステップでキャスターの突撃を避けたセイバーに対し、キャスターはそのまま前方で加速。
突撃の勢いのまま進むことでセイバーの魔力無効化フィールドを素早く抜けて構え直す。

「避けたってことは、武器そのものの打ち消すは無理ってこと。当たれば効くってことだよね」

「正解。でも、当たらないわよ！」

セイバーの言は厳密には間違いである。
セイバーは、やろうと思えば宝具そのものの打ち消しも可能だ。
どころか、サーヴァントを現世に繋ぎ止める働きすら抹消できる。

だがそれをやってしまえば、セイバー自身もまた被害を受ける。
今のセイバーは正規の契約を偽臣の書で書き換えられた形。
彼女のスキルは、その偽臣の書による契約を認めていない。

だからもし相手宝具の打ち消しをやろうとすれば、偽臣の書によって現世に繋ぎ止められたセイバーの宝具も消えてしまう。
サーヴァントそのものを消してしまおうとすれば、セイバー自身も現世に留まれなくなる。

このセイバーは、サーヴァントとしては破格の存在。相手が同じサーヴァントであるなら、まず敗北するはずの無い化け物だ。
だが偽臣の書によってスキルを封じられ、さらに二重契約による魔力不足でステータスが落ちた彼女なら、あるいは。

(理由は分かんないけど、キャスターのやつ段々早くなってる。
反撃してくる頻度がどんどん増えてきてる！)

(そろそろブラスターモードの反動が本格的に響いてくる。早く決めないと……！)

戦いは、佳境を迎えようとしている。

大部屋の中、ふすまをぶち抜き畳を駆ける。
畳目に沿って走る際の滑りがセイバーの動きを少しだけぶれさせる瞬間を
滞空状態のキャスターは的確に捉えて反撃する。

急速反転から、アクセルシューターを連ねて目くらましに。
側面に回り込んで杖で突えば、セイバーは横っ飛びで杖を避ける。
それを予想しきった上で、着地点をアクセルシューターで穿つ。

「とっとと！」
「そこッ！」

畳に足を付けることなく浮遊しているキャスターの動きは、重力の拘束に抗える。
突きをかわされた状態から、身体をまわして方向転換。三次元的な追い込みこそ空戦の要。

「ディバインバスターっ！」

杖先を後ろに向けての砲撃で、前方に加速。着地直後のセイバーに突っ込む。
キャスターの代名詞とも言える直射砲撃魔法は、セイバーに当てることができないが、
それは決して砲撃が使えないことを意味しない。

数km先まで精確に撃ちぬくコントロールが、空中方向転換からの急突進の照準を合わせ
山をも穿つ大威力はそのまま柄の一点に集約される。

「おおっ！？」

セイバーの着地予定地点には穴が空き、背後のふすまは三角跳びを行うには脆すぎる。

(いける――！)

杖先から轟音と閃光を放ち、疾走する姿は彗星の如く。
巨大なハリセンを前方の床に叩きつけてセイバーが跳びあがることも予想済み。
１秒後の勝利を確信しつつ、床を蹴ってキャスターも高度を上げる。

ブーツは光速で擦り切れて、底の青色は魔力に戻って散っていく。
薄紅色の光撃の中へ切れていく青は、黄昏の空模様を思わせて。

「はぁああああああああ！」

けれど流星は、届かない。

加速に加速を重ねた体は、屋根をぶち抜いて空にある。
バリアジャケットの損傷具合も悪化し、全身の痛みが思考を覆う。――余分な思考を分割。

完全に『入った』と思った上での失敗。

理由は、そう。『加速に加速を重ねた』のが異常。
セイバーの魔力無効化フィールド内に入った瞬間にディバインバスターの加速は失われるはずだった。
それが、今回は無効化が行われていない。この差がセイバーに紙一重で当たらなかった理由だ。

「あの能力、任意で出力の調整まで出来るの！？」

見切ったと思っていた。けれど、セイバーはまだ手の内を明かしてはいなかった。
これからは、魔力無効化フィールドの出力変化まで予測しなければならない。
完全に消すことはできるのか。これまで一定の出力だった無効化フィールドは、上限状態にあったのかどうか。
考えれば考えるほどに無謀。もともと針の穴のように小さかった勝機は、さらに霞んでいく。

(この突進で、セイバーから距離が取れた。逃げるのも一つの選択肢。だけど……！)

エリアサーチによる情報。セイバーはキャスターの追撃を無視して、衛宮家を出ようとしている。
――「凛と士郎が目的」だと、セイバーはそういった。ならキャスターは、ここで退くわけにはいかない。

「ぁ……ぐッ……！」

血の塊を吐き捨ててから、空から衛宮家へ降りる。

この状態のキャスターを放っておいて、凛あるいは士郎を探しに出るというのは異常だ。
サーヴァントは時間を置けば回復する。今は確実にトドメを刺すべき場面だったし、それができる状況だった。
凛・士郎がキャスターのマスターだったならセイバーの行動にも筋がとおるが、マスターは絶賛餌付けされ中だ。

相手は、聖杯戦争とは別の行動原理で動いているとしか思えない。
ならばその理由を知らなければ、キャスターは納得できない。

「ねえ、セイ……バー。今のは、どう、して……」

そのためなら、息も絶え絶えの身体に鞭打って、いくらでも話してみせよう。
納得のいく解答、相互理解に至るまで彼女の舌は止まらない。

「どうして、って何が？」
　　　　　　　　　 ｷ　 ｬ　 ｽ 　ﾀ ｰ
なにしろ彼女は言の葉を紡ぐ者なのだから。

間桐家は暗い。それは照明が悪いとか窓が少ないとかいった話ではなく、
間桐の人間の性質を反映しているのだろう。家は住人に似る。あるいは逆もまたしかり。

「随分と回りくどいことをするのだな」

アサシンに話しかける言峰の声もまた暗い。
「私、凛ってのと話してくるから、桜ちゃんの面倒みてやってよ」
と言って飛び出したセイバーが凄まじい量の魔力を吸い上げていったからだ。
あわてて念話で力を抑えるよう伝えたが、一度吸われた分はもう戻らない。
どころか、減る勢いこそ落ちたが魔力の消耗は未だ続いている。
くたびれたコートもあいまって、酷く憔悴しているように見えた。

「マスターの扱いなら、僕よりあの妖怪の方が上手だ。それでもってセイバーを動かすなら僕のマスターが便利だ。
必要に応じて最短ルートを選んでいるだけだよ。僕はできるだけ楽したいからね」

「楽、か。ならばセイバーと一緒に戦ってやったらどうだ。２対１なら楽に勝ちえよう。
私の魔力ではランサーまでは動かせんが、お前は自由に動けるはずだ」

「ああ、僕だって動くよ。サボりたいのは山々だが、そういうわけにもいかないしね」

「なら、なぜこんなところで油を売っている」

「言われなくても、今から行くところだよ」

一度歩き出してから立ち止まって振り返る。アサシンは言峰を見て静かに笑った。
サイズの合っていないコートをなんとか体に合わせようと、上半身を奇妙に動かすさまが、ひょうきんだった。



家を出てから、アサシンは誰に言うでもなく呟いた。

「君の方こそ、なんでこんなところで油売ってるんだろうね。
あのとき妖怪ジジイが出てきさえしなければ、君はとっくに――」

彼は最短の方法を取る。周りはいつだって回り道をする。アサシンはそれが少し羨ましい。
最短と最善は必ずしも一致しないことを、アサシンは知っているからだ。

「さて、今僕が行くべき場所は……>>465」

キャスターのマスターが凛か士郎と勘違いしてる可能性だってあるんじゃないのか？
それとも協会派遣員はもう虫親父の監視下なの？

圧倒的不利な状況で足掻く方法を考えるのは楽しい。
このまま延々とキャスターの健闘を書き続けたい気すらする。
でも話を進めるために周囲の状況に移ります。

バトルの結末に悩みつつおやすみなさい。

>>460
アサシンがランサー・セイバー・アサシンの同盟関係ばらしてるし
監督役の言峰がランサーのマスターってことまで思い至ったら
そこから派遣さんの存在はばれてると考えるんじゃないかな。
あとは判明してる分の主従対応から消去法で凛士郎２鯖使役の可能性が消える……はず。

うん、ここらへんは考えが甘かった。許せ。

柳洞寺

竹とんぼに吸盤をくっつけたような構造のものを頭につけて、アサシンが飛ぶ。
ﾀ ｹ ｺ ﾌ ﾟ ﾀ ｰ
黄象牙の風車塔。アサシンが持ってこれた数個の宝具の一つだ。
彼が特に入れ込んだ発明の一つで、自由に飛ぶことをコンセプトにして何度も仕様変更がされた。

初期のものは魔術的な重力操作に頼った礼装もどき。現実では使えない未完成品。
そこから二重反転ローターをつけて純科学性に改良するも、頭部に負担がかかりすぎる問題に突きあたる。

『魔力場不均衡性の重力レンズ的解析とその利用』によって魔力の枯れつつ現実での重力操作を達成するも
すぐにまた魔力のさらなる消失という壁が再び立ちはだかる。

彼の発明の歴史は、タケコプターの歴史だったといってもいいだろう。

今アサシンが使っているものは、最初期の仕様。魔術で重力を操作し、科学で推力を操作する。
霊子空間内でしか機能しなかった、空想の産物だ。

彼の宝具は、発明品の発想そのものだ。だからその場その時に合わせて仕様が変わる。
音速の引鉄は、指にはめる筒状にもトリガーの無い拳銃にも腕につける大砲にもなる。

同じように、アサシンが生きた時代には無かった豊潤なマナに応じて黄象牙の風車塔も作りが変わったのだ。
魔力供給を動力源にした結果、最終的な完成品と遜色の無い機動性に加えてバッテリー切れの心配がなくなった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾀ　ｹ ｺ ﾌﾟ ﾀ ｰ　　
エネルギー効率で見れば、数ある黄象牙の風車塔の中でも最高かもしれない。
彼が科学者なら魔力に頼ることを改悪と取ったかもしれないが、
発明家にすぎない彼はその仕様変更を素直に喜びつつ空を駆ける。

柳洞寺に到着して宝具をしまう。

少しも立ち止まる素振りを見せない足音は、どこに士郎がいるか知っているかのよう。
事実アサシンは裏の森でライダーと組み手をしている士郎をすぐに探し当てた。

「やあ。なかなか良い場所を拠点に選んだようだね」

「アサシンか。よくここが分かったな」

「サーヴァントはサーヴァントを感じ取れる。ライダーの気配を辿ればここに来るのは難しくないよ」

その説明には、何故柳洞寺にいると分かったのかが欠けている。
アサシンの説明にはそういうことが多い。一瞬分かったような気になるが、少しするとまた疑問がわいてくる。
結論に至るのが早く、過程が足りない。あるいは過程の説明が、よく考えると上手く繋がっていない。相手を置き去りにして進んでいく。

「前から思ってたんだけど、お前って……」

「分かってるよ。分かってるからそんなことより、僕に話させてほしい。
――キャスターのマスターは、どこにいる？」

書いてる時は読点足りないと感じて、読み返すと読点多すぎに感じる現象。

おやすみなさい。

ｴﾝｼｽ･ｴｸｿﾙｷｻﾞﾝｽ
ハマノツルギ　A++
魔法無効化の力が凝縮されたハリセン。真名解放によって大剣へと姿を変える。
特に召喚されたものに関しては、大剣の刃が触れた瞬間に問答無用で元の場所へ送り帰すというサーヴァント殺しの宝具。
送り帰されるまでに令呪を使うなどすればその場に留まれるが、抗魔力が低いサーヴァントはその猶予時間さえ無く一瞬で送還される。

完全なる半月輪廻の場合は座に送り帰したり存在を抹消したりするところまでいきかねないが、
ハマノツルギの場合は英霊をサーヴァントに落とし込んだ機構である聖杯のもとに送り帰すため、聖杯完成の支障にはならない。

ハリセン状態でもサーヴァントを構成する霊子・魔力を容赦なく剥ぎ取っていくため、クリーンヒットすればやっぱり一撃必殺になる。
魔術礼装や魔力で編まれた装甲はほぼ全て無視できるため、並のサーヴァントが相手ならハリセン初見殺しで構わない。
むしろ燃費を考えればハリセンの方が有効な場面も多いだろう。

「お前、俺の記憶を読んだとか言ってなかったか？　なんで今更そんなこと聞くのさ」

「おおまかにしか読めないって言わなかったっけ？」

「ああ。言ってた……けど」

アサシンの声が、いつもより真剣な気がする。
普段の軽妙さ。余裕にあふれてるというか、どうでもよさげというか、そういった色合いが薄い……かもしれない。
勘違いならそれでいい。何事も無いならそれが一番だ。

だから。

「それを聞いてどうするんだ」

しっかり正面からアサシンの眼を見据える。アサシンが一歩下がる。
アサシンの眼鏡に木漏れ日が反射して、表情がよく見えなくなった。

俺はこの男を信じると言った。それは今も同じだ。
けど、信じるってことは一から十まで頷き続けるだけじゃないと思う。

「答えろよ、アサシン」

「そうだね。嘘を吐く必要もないし、人を騙すのは好きじゃない。
だからはっきり言ってしまうと――」

何でもできるんだって顔をして、いつも大丈夫だって見せかけて、
自分はもう一人でも平気だって誰かに必死に訴えている。
桜はそういう奴だった。

アサシンの余裕っぷりも、そんな強がりに似ている気がしたから、俺は――。

「僕はこれから、キャスターのマスターのところにいって襲撃をかける。
あまり時間が無いから、できるだけ早く居場所を教えてもらいたいな」

信じるってことは、きっと嘘を本当にしてやることだ。
「大丈夫です」って言うなら、大丈夫にしてやろう。
「正義の味方なんて夢は、幻だったんだ」って言うなら、俺がその幻を形にしてやろうと、そう思った。

「駄目だ、って言ったらどうする？」

「そうだなあ……」

そう言いながら、アサシンは手をポケットに突っ込んだ。
ただのポケットじゃない。あの白衣についたポケットは、アサシンの宝具だ。
かたわらのライダーが片足を前に出す。重心をずらす。ジャンプの構え。

アサシンの手が動く。
ポケットから引き抜かれた手にもし武器が握られていたら、俺達の関係は終わる。

だからそれよりも早く、俺は答えた。

「教えるよ。それも桜のために必要なんだろ？」

「……鋭いのか単純なのか。いや、余計なことを言った。続きを頼む。」

「まだ答えを聞いてない。俺は、桜のためなのかって聞いたんだ」

「ああ、その通りだ。僕は基本的にあの馬鹿なマスターのために動いている。ところで……」

溜め息混じりにそう答えてから、アサシンはポケットから取り出したものを俺に投げつけてくる。

「昨日から何も食べてないだろう。僕にキャスターのマスターの隠れ家を教え終わったら、食べるといい」

どら焼きだった。

半オリジナルなだけあって、他鯖の数倍の設定txt量を誇るアサシン。
最初は自由にやれるから他鯖より書きやすいと思ったけど、これはこれで難しかった。
方向性を確かめる時に原作に頼れないから段々不安になってくる。

おやすみなさい。

再び宝具によって空を飛びながら、アサシンはさきほどの会話を思い起こす。

キャスターのマスターの居場所は、それほど重要な情報ではない。
それは彼が以前に士郎から読み取った記憶によるものと同じであるし、
さらに前に魔術師の拠点になりうる場所として目星をつけていたうちの一つとも合致した。

時間に関してもなんとか間に合うだろうと思っている。

臓硯に情報と物証を渡して桜を煽らせ、セイバーが動くのに合わせて行った先で
派遣員及びイリヤ、アーチャーとの接触に失敗した際の焦りは既に拭い去られている。

それよりも士郎の振る舞いそのものの方が、アサシンの心に残った。
自分のことを一切考えずに、桜と、そしてアーチャーのマスターのことを案じていた姿が。

「自分のことさえままならないのに、本気で他人の心配をする。
そんな馬鹿の一人や二人、いても悪くはないな……」

アサシンが士郎から情報を得るにあたって、士郎は一つ条件を出した。
「言えないことは言わなくていい。代わりに、面倒がって話さないでいることを全部話すこと」

予想通りといえば予想通りだ。
「俺もついていく」なんて言い出さないようにわざわざどら焼きを渡した。
ヨッシーの上は大分揺れるから乗りながら食べるのは難しい。
かといって少し焦りを見せていたアサシンに対して食べ終わるまで待てとは言えない。

勿論そんな理屈だけで人の心を計り切ることはできないが、
このアサシンが目的をもって布石を打った以上、過程はどうあれ必ず結果はついてくる。
　　　　　　　　　　　ｵﾓﾆ
けれどそんなアサシンの能力とは関係なく、士郎は素直にどら焼きを食べただろう。
あれは人の好意を分かっていて突き返せるような人間じゃない。

「まったくもって、馬鹿ばかりだ」

溜め息が途切れる頃、アサシンはサーヴァントの気配を感じ取る。
しばらく前にここに訪れた時にはなかった、アーチャーの反応。

「実に優秀な結界だ。この域ともなると、魔術特性からして隠れることに適していないとできないだろうね」

士郎の記憶から場所を知ったにも関わらず、実際に訪れるとそこには何も無い。
アサシンを焦らせたトリックの正体は、家主の魔術結界だ。

その場所を既に知っている人間から合意を得て教えてもらうまで認識できない。これはそういう力をもった魔術。

認識阻害系の弱点である、内側にあるものは隠せても結界自体の存在が残ってしまう点も
霊脈に沿って結界を張ることで巧妙にカモフラージュしてある。
それにアサシンの技量ではたとえ気づいても解呪できないレベルに達していた。

派遣員歌川軒永の魔術特性は窃視。すなわち隠れて視ること。
見つけることと、見つけさせないこと。認識に関するエキスパートだ。

だがそれも。

「なのはたんが！　なのはたんがああああああ！」

アサシンが士郎と手を結んだ時点で崩れた。

どんどん作中での一日が長くなっていく。
次に日が昇るまでにどれだけの文字数が費やされるのだろう。

おやすみなさい

>>422
自分でも曖昧になることが。総集編が欲しい。タイムテーブルとか欲しい。年表も欲しい。
あらすじとか既出設定まとめとか作ったら需要あるかな？

階段を上って二階の大部屋に入る。

壁には絵画や皿が飾られ、厚みのあるカーテンが窓を覆っていた。
他にも値の張りそうな調度品が部屋のあちこちにある。
どれもその価値を強調するのではなく、いずれもさりげなく置かれているあたり
この屋敷を建てた人間が良い意味で貴族であったことが良く分かる。

もっとも、今アサシンが立っている絨毯は、
米粒が潰れていたりケチャップが染みを作っていたりで残念な状態だったが。

向かい側には暖炉、そのすぐ前にイリヤ・アーチャー・派遣員の三人。両脇にアームチェアとソファ。
ちょうど家具と壁とで動きが制限される位置にいるのは、アサシンにとって好都合だ。

「簡潔に言おう。10分ほどここで何もせずに待機していてもらいたい」

キャスターの拘束から解放されたものの、派遣員は長期間の拘束で筋肉が衰えて上手く歩けない。
イリヤはほふく前進を試みる派遣員を押さえつけ、アーチャーが二人の前に立ってアサシンと向き合う。

「僕が要求するのはそれだけだ。守ってもらえれば、この場は引き下がろう。
僕を攻撃するそぶりを見せたらまずそこのキャスターのマスターを殺す。
それでも止まらなければ次はイリヤスフィールだ」

イリヤと派遣員は戦闘向きの魔術師ではないが、それはアサシンとて同じ。
射手としての能力を比べるなら本職のアーチャーに分がある。
部屋の端から端までを走ってきて近接戦を挑もうとすれば、
その間にアーチャーの矢がアサシンを貫くことだろう。

「君はやはり馬鹿だな。この聖杯戦争に勝ちたいのなら、さっさと僕を撃てばいいんだ」

だがアーチャーはアサシンの要求を跳ね除けられない。理由は大きく分けて三つ。

一つ。イリヤと派遣員を守り切れる自信が無いから。

「僕は宣言通り後ろの二人を攻撃するだろうが、それは君にとってむしろ有益だ。
僕を倒し、その上でキャスターと合流してセイバーを倒す。マスターを失ったキャスターは弱体化しつつも魔力収束で留まる。
残る敵はライダーとランサー。どちらも対人向きのサーヴァントだから、二対一なら有利が取れるだろう。
そしてこれら二騎を倒す頃には、キャスターはマスターを失ったことで大幅に弱体化しているか、あるいは消えている。
君にとって理想的な展開だろう？」

「そんなことするわけないだろう。アーチャーちゃんはわりとリリカルでマジカルな少女だぞ！」

「アーチャー。敵対を選ぶなら早い方がいいわ。
この変態の拘束が解けたってことは、キャスターにはもう余裕が無いってこと。
リスクを背負って助けにいったのに間に合わなかった、じゃ笑えないわ」

派遣員がこの戦いで殺された場合、結果としてアーチャーにとって有利な情勢が完成しうるのは事実。

一度共闘を約束した相手を踏み台にした勝利なんてものを、アーチャーは認めるわけにはいかない。

この世の全員を幸せにするなんて科学にも魔術にも実現不可能だと、そう知った上で
なお可能な限り理想を貫いた。最大限幸せで、そして傷の少ない世界を作り上げた。
それでも納得がいかずにわざわざ聖杯戦争に参戦したのがアーチャーだ。

誰かのために誰かが傷つくのが嫌いだ。救いに代償が必要なら、少なくともそれは互いの理解の上でなされるべきだ。
その思いが彼女の英霊としての原点である以上、アサシンにこんなことを言われては止まらざるを得ない。

二つ。前回対面したとき、アーチャーはアサシンにしてやられた。
油断していたのは確かだが、意図的に油断させられたのも確か。
戦いは単純なステータスの比べあいでは決まらない。

そしてアーチャーは、騙し合いが不得手だ。
生前に戦っていた魔女たちは搦め手などほとんど使ってこなかったし
何度も繰り返した絶望は、いつだってインキュベーターに騙された結果だった。

「イリヤスフィールの言うとおりだ。動くなら早い方がいい。
逆に言うなら、ここまで動けなかった君は、きっとこれからも動けない」

アサシンの目的が分からない。動かせるのが狙いか、動かせないのが狙いか。
言動からはどちらにも取れるし、時間の経過によってキャスター側の状況は変わっていってしまう。

そして三つ。アサシンの提案自体に疑問が残っている。

アサシンの基本戦術は奇襲のはずだ。ライダーもそうやって倒した。
なら何故今回は奇襲を選ばなかったのか。咄嗟の対応ならライダーの方が早い。
ライダーは襲い、アーチャーには駆け引きをやる。その選択の意図が分からない。
　　　　ﾐ
「……捉えた。なのはたんをいじめてる外道はセイバーで間違いない。しかも大分チート染みてる」

「へぇ。その感じだと視覚共有じゃなく、その場で座標指定からレンズの構築まで無詠唱でやったのか。
ここの結界といい、随分とハイスペックなマスターだね。キャスターの強さの一因もそこにあるのかな？」

さらにこれだ。
アサシンはキャスターの相手のクラスをばらした。アーチャーたちはそれを知らなかったし、
派遣員に知る手段があることをアサシンは知らなかったはずなのに、だ。

「アーチャー。私のことはいいわ。魔力量には自信があるし、足手まといにはならない。
派遣の方もアサシンが言った通り並以上の魔術師みたいだし、簡単にはやられないはず……だと思う」

「評価してもらえるのは嬉しいけど戦闘はさっぱりでござる！　死にたくないでござる！」

アサシンは未だに武器を取りだしてすらいない。殺意どころか戦意すら感じ取れない。
アーチャーが悩んでいる隙を突こう、といった考えをもっていない証拠だ。

まるで戦いたくない、とでも言うよう。それがなおさら、アーチャーを縛り付ける。

ここまでの流れまとめみたいなのは作ったけど凄まじいネタバレの嵐になったので個人用になりそう。

書き続ける労力より、一度中断してから再開する労力の方が大きいことがあると痛感しつつおやすみなさい。

散々インキュベーターに騙されたなら騙しかどうかくらいは見抜けそうなものだが

正体不明の英霊を前にして、蔵知の司書を使い出すのは当然のこと。
　　　　　　　　　　 　　　　　　　ｵﾓｲ
だが以前にアサシンのことを調べ出そうとした時、アーチャーはその存在の重みを知って、深入りを避けた。
複数の存在を統合した英霊であるバーサーカーや、因果を束ねて生まれたアーチャーに匹敵する厚み。
到底、一人の人間が持ち得る歴史の量ではない。

――「ぼくはバカだからさ、ものごとのむずかしさすら分からないんだ。
――　もんだいを見て、むずかしいのを後回しにしてかんたんなのから解いていく
――　そんな器用なことはできないし、しようとおもったこともないよ。
――　たださ、やりたいこと、あきらめたくないこと、やめられないことくらいは、ぼくにもある」

流し読みであっても、この情報量に目を通していくのは時間がかかりすぎる。
精神的な消耗も相当大きいものになるだろうし、読んでいる間は周りへの意識も薄くなる。
相手のことを知ってしまえば戦いに迷いが混じってしまうだろう自分の性格のことも分かっている。

だからアーチャーは、これまであえて調べようとはしなかった。
それを今更になって、リスクを理解した上で読み始める。

アーチャーの視線が目の前のアサシンから遠い記憶に移ると同時、
アサシンが心底面倒くさそうに溜め息をついた。

――「わかるようにおしえてくれない先生がわるい」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「ぼくがわかるまでまってほしい」――

　　　　　――「先生が断言しよう。その努力は、いずれ必ず実を結ぶと」

　　　　　　　　　「もう少しで、わかる気がするんだ」――

それが逃げ、消極的選択であることはわかっている。
アサシンの情報は多すぎる。そして魔法少女システムとの関連もほとんど無い。
索引のない紙束から目当ての情報を見つけ出すよりも、アサシンのいった10分が過ぎる方が早いだろう。

――「みんなが追いつくのなんてまってられないよ」

　　　　　　　　　　　「のび君。その才能を科学に向けるのはもったいないよ。
　　　　　　　　　　　　西欧財閥は技術の発展を望まない。だから、いっしょに文転しよう」――
　　　　　　――「さい、のう……？」

アサシンの狙いを探るなんて理由は、自分を騙すためのもの。
わざわざ時系列順に見ているのは、アーチャー自身そう分かっているからなのだろう。

――「知れば知るほど分からなくなる。100年程度で、文明はそれほど発展するのだろうか」


　　　　　　　　――「初めまして博士。電脳空間へようこそ。殺す前に一言断っとくのが俺の流儀でね。
　　　　　　　　　　　どうして殺されるのか、依頼主は誰なのか、分からないと死にきれないだろ？」

――「僕を止めるのなら、財閥なんて無くなってしまえ！！！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「僕が……殺したんだ……。この手で――！」――
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――「大丈夫。大丈夫だから。のび太さん落ち着いて」

一つの噂が生まれた。

　　――「奴を狙いにいったヒットマンは全員返り討ちだ」
　　　　　「こりゃもう上と繋がってるとしか思えねえ。仕事を任せる振りして俺達を始末してるんだ」――

そのときの彼はまだ、数えるほどしか道具を完成させていなかった。
そのうち戦闘に用いることが可能な道具はさらに少なかった。

だからアサシンとして召喚された彼のポケットに入っている道具は、わずかに四種類だけ。
逆にいえば、四種類あれば十分だった。

「これでいい。自分を捨てたら、戦争なんてやってられなくなる。
じゃ、約束通り僕は帰るよ。背後から襲い掛かるなり、尾行してみるなり、好きにするといい」

「えっ……？」

現実に戻ってきた拍子に、その場に座り込んでしまう。

派遣員のほふく前進が多少進んでいる以外、周囲に変化は無し。
ただ蔵知の司書による疲労感が強いだけ。

「アーチャー、大丈夫！？　急に反応しなくなったけど、アサシンに何をされたの！？」

「大丈夫。大丈夫ですから……」

アーチャーが思った通り、情報は多すぎてまるで読めていない。
この後、中東のゲリラに所属することも、聖杯戦争のバックアップに回ることもアーチャーはまだ知らない。
魔術協会との全面戦争やら、後の大河小説で必ず描かれる「悪いなのび太、この戦闘機は二人乗りなんだ……」もまだ先の話。

意味を理解するに至らない情報の破片が多すぎて、混線した頭は上手く回らない。
絨毯が暖かくて、代わりに身体が冷たい。けれどこうして休んでいるわけにはいかない。
立ち上がって無事なのを示す。

アサシンは宣言通り、踵を返して階段を下り始めた。

「はやく、はやくなのはたんを助けにいかないと！　そしてかっこ良いところを見せて好感度を上げないと！」

アサシンが階段を下りる足音が止まって、アサシンが派遣員に声をかける。

「いや、それはやめた方がいい。君が拘束されていた理由は、君が近くにいるとキャスターが不利になるからだろう？」

「な、何故それを！　あのことはなのはたんしか知らないはず。男女の秘密を覗き見る輩はお姉さまに蹴られて地獄を見るぞ！」

「わざわざ魔力を割いてマスターを拘束する理由を考えれば明らかだろう。大方、その令呪でアレなことでも命じたんだろう？」

「えっ、何をやったんですか？」

その問いかけには派遣員もアサシンも答えない。階段からの足音が遠くなっていく。

「今は変態を尋問してる暇はないわ！　どうせ一人じゃどこへもいけないだろうし、放っておいて早く動かないと！」

立つことすらままならない衰弱具合。アーチャーの足にしがみつこうとする派遣員をイリヤが容赦なく蹴り飛ばし
イリヤがアーチャーの手を引いていく。

「で、でも一人おいていったところにアサシンさんが戻ってきたら……」

「あー、もう！　じゃあ私が残るから、アーチャーだけでも早くいきなさい！」

「それはそれで危ないんじゃ……」

「うるさい！　三人いっしょだとさっきみたいに動けなくなるでしょ！」

イリヤに押し切られる形で、アーチャーは洋館を出る。

のび太らしさってなんだろう。おやすみなさい。

>>516
英雄の死因はそのまま弱点になる。鯖が真名を隠す理由の一つ。

直感持ちのセイバーがルルブレあっさり喰らったりするのも
裏切りの象徴であるルルブレが、身内に裏切られたのが死因(まだ死んでないけど)なセイバーに
有利だったからなのかなー、とか思ってます。特にソースの無い考察にすぎないけど。

まど神様の死因とはまたややこしい

前スレでほむらと凛の戦闘に言峰が介入してきてたけど監督役は介入しちゃダメだったんじゃないの？
誰か教えろ。

深山町の丘の上。
その屋敷は終始薄暗く、人の気配が感じられないという。
雑然とした植え込み、古めかしい門は幽霊屋敷のイメージにぴったりであったし、
人気が無いにも関わらず埃と蔦の侵略とは無縁であったことも噂を盛り上げた。
　　――内情はともかく、外観は10年前のそれを保とうとしていた。

物理的な薄暗さは家主の涙ぐましい節電の成果でもあるし、
電灯の光が目立つ時間には地下室にこもって鍛練に励んでいたからでもある。

そして、近付く者の精神が感じ取る暗さと重圧とは屋敷を覆う結界によるもの。
二重、三重どころではない、要塞級の多重結界だ。
攻撃性のものは勿論、位相改層による対外遮蔽、反転結界に概念拒絶とより取り見取り。

認識阻害系も、派遣員には及ばないものの十二分に高度なものが使われている。
サーヴァント召喚などのハイレベルな魔術が使われていようと、他人に気付かれることはない。

たとえば、今のように。

敷地内に浮き出る青い光は、幾何学的であっても法陣ではない。
楕円形の大枠にも意味はないし、数ミリおきに並ぶ数百もの曲線が作る翼のような形も式ではない。

光が胎動するごとに、この無意味な図面は大きく、細かくなっていく。
大胆で繊細。直線は太さを変えて力強く伸び、その縁の曲率が白銀曲線を真似る。

たとえば富士の稜線が指数曲線に重なるように、自然のデザインは数学的だ。
だから冬木で二番目に上等な霊地である遠坂邸の霊脈が美しいのは、当然のことだった。

「Es offnet sich.(解放、)Ｓchliesung．(閉塞)」

遠坂の詠唱に合わせて、光が生物のように動く。
蛇のように地表をうねり、魚のように地面から跳ねる。

飛びあがった青線は再び地面に飛び込んで、そのまま長い尾を引いて潜っていく。
動きに合わせて飛び散った魔力の量は凄まじく、光は空間そのものを淡く染めていく。

光の線が跳ねて、他の線とぶつかり合う。
勢いの良い接触のわりに、意外と優しい高音が響く。

ぶつかりあった二本から光が溢れ出して、青い光の粒が浮かび、ゆっくりと落ちていく。
たとえばそれはダイヤモンドダスト。たとえばそれはマリンスノー。

「っ……！」

けれど美しい見た目に反してそれは彼女の望むところではなかったようで、
表情は曇り、艶やかな唇の端を噛みつつ少し反省する。

心を落ち着かせて、作業を再開。次に口を開くときには自信に溢れた声色が呪文の続きを紡ぐ。

「Ausbeutung,Es setzt sich in Verbindung. (開通、再接続)」

そうしてまた、青い線が地中に潜っていく。

遠坂がやっていることは、霊脈の放棄だ。

狭い国土の中でレイラインが絡み過ぎていて、極東の土地は魔術に向かない。
魔力量はあっても、安定して魔術を使える場所は多くないし、そういう場所の多くは神社仏閣が抑えている。

この遠坂邸は、西欧魔術師が所有する中では国内トップクラスに恵まれた土地だろう。
安定性で優っていることを考えれば、秋葉原霊脈に匹敵するかもしれない。

その貴重な財産を、遠坂は一つ一つ丁寧に取り上げて、捨てていく。

「Fixierung(固定)――！」

否、捨てると言うと語弊があるかもしれない。
彼女自身に、そんなもったいことをするつもりはない。

今行われているのは霊脈の割譲。孔を開き、レイラインを別の場所へ通す作業。
ただ、古来より陰陽師が百人がかりで行っていた作業を一人でこなそうとした結果
大部分が冬木全体へ散ってしまって、結果として捨てているに等しかった。

それでも、たった一人の魔術師が挑んだにしては、善戦している方だ。

青光が轟き、光を散らして潜っていく。
小規模であっても、世界の変革はかつて神々の仕事だったもの。
青のアートグラフはこの世のものとは思えないほど幻想的で、観客がいないことが惜しまれる。

最後の一節をもって、遠坂邸の青い幾何学模様は消える。

「Eine Stromung wird kontrolliert, und es rebootet.！(再建、脈動を確認)」

レイライン自体は残っていても、今は作られたばかりの支流へながれていっており
遠坂邸への供給が落ち着くまではまだしばらくかかる。

後に残るには蛍の群れでも遊んでいるような光の粒子ばかり。
にわかに曇りだした空とは裏腹に、遠坂邸の天は青かった。

「ここまでやっといて負けたら許さないんだからね、キャスター……！」

一仕事終えて額を拭う。飛び散った汗に青い光が映り込んで、まるで彼女の大好きな宝石のようだった。
この光がみんな本物の宝石だったら……と、風情の無いことを呟いたあと
たとえそうだったとしても採算合わないなー、とこれまた趣の欠片も無い結論を出して遠坂は酷く落ち込んだ。

イリヤ可愛かったです。でも空気が違うので書く前に見るのはよくないかもしれない。
おやすみなさい。

>>528-529
平行世界の魔女化する自分を撃って回るとかいうこれまたややこしいことをやって回ったんだろうなあ……。

>>531
表向きは中立ってことになってるけど、第四次から監督の言峰パパは遠坂家に勝たせるつもりでいた。
破壊的な願いもった奴が聖杯取って暴れるとまずいので、トッキーに勝ってもらって穏便に済ませようっていう算段。

現在の綺礼も自分の目的のために介入を躊躇わない。介入したからって別にペナルティがあるわけでもないし。
余命わずかなので不正がバレたとしてももう関係無い。

柱を誘導弾で折り、天井を落とした隙に攻める。
距離を取っては砲撃の音と光に紛れて再接近し、一撃と同時に素早く逃げる。
衛宮家そのものまで利用して、キャスターはセイバーに食らいついていく。

バリアジャケットの傷と肉体の傷、レイジングハートの傷を合わせれば、そろそろ三桁に届く頃。

それだけの傷を負いながら、全てかすり傷までに留めてぎりぎりで回避しきってきたキャスターが達人なら
それだけの傷を与えながら、未だ無傷のセイバーはもはや人外の域だ。

ここまででキャスターが得たのは、いくつかの発言・情報のみ。
曰く、『コトミネがやわだから』『桜ちゃん泣いちゃったじゃない！』『みんな遠坂凛ってのが悪いらしい』などなど。
何かしらの誤解がありそうだったが、セイバーはそれ以上の対話には応じなかった。

キャスターの粘り強さが、セイバーに危機感を持たせた。
今なら勝てるが、次に会った時もそうとは限らない、と。

セイバーは魔術師を知っている。
自身の特性が魔術師に対して圧倒的優位に立つものであると知っている。

セイバーは魔術師を知っている。
新たな魔術を学び、道具を揃え、仲間を集め、不可能の壁を越えていく。
時の速度をずらした中での修業、精神の加速を用いた訓練は、わずか一日で飛躍的な成長を可能にする。
そんな魔術師――あるいは魔法使い――を知っている。

サーヴァントは成長しないものとはいえ敵の対策を立てることはできるし、
陣地作成・道具作成を持つキャスターは長期戦でこそ活きるクラス。

それを踏まえてセイバーは、今キャスターを倒しておかなければ危険だと判断した。
――逆にいえば、ここまでセイバーは一切の脅威を感じていなかった。現時点での差はそれほどまでに大きかった。

言峰の負担を考えれば咸掛法は使えないし、宝具の解放も望ましくない。
それでも意識の変化ははっきりと戦いに現れる。

踏み込む足は一歩深く、切り込む動きはより鋭く。

キャスターの攻撃は、杖による打撃しか通らない。しかも一撃の威力に差がありすぎる。
セイバーに先んじて一撃を入れられる状況はあっても、一撃で倒しきれなければ反撃で負ける。
だからキャスターは、攻撃と同時に回避ができるタイミングでのみ仕掛け、そしてセイバーに避けられ続けてきた。

セイバーがそのことを理解した上で、キャスターの攻撃を一撃受けることを前提としての一撃必殺を狙い出す。

袈裟切り。大振りの攻撃には隙があり、構え直す瞬間に突くチャンスがある。
だがその攻撃でセイバーが怯まなければ、次の瞬間にはキャスターは負ける。

だからキャスターは避けるしかないし、それを分かっているからセイバーも同じ二択を続けてくる。
避け続ければいずれ限界が来る。後ろに壁が来るか、あるいは崩れた床に足を取られるか。
いずれにせよ、速度・手数・火力の全てで劣るキャスターが負けるのは必着に思われた。

ハリセンが来る。下がる。次の一撃を宙に飛びあがって避け、ジャンプして追ってくるセイバーの横をすり抜ける。
戦いの中で屋敷の柱は折れ、支えを無くした天井が軋む。戦いの終わりを暗示するような不吉な音が響く中、
キャスターはこの状況をチャンスだと思った。

なるべく距離を離そうとはしていても、倒れた柱やら跳ね上がった床板やらに注意を払っていては、
どうしてもセイバーに追いつかれる瞬間が出てきてしまう。近距離では魔法無効化の出力の読み合いが必要。
魔力によるブーストが消されると見て直前に加速して慣性を得るか、残るとみて速度を保つか。
失敗すればいずれも過剰魔力による制御ミスや、速度不足での回避失敗に繋がって即ゲームオーバー。

魔術による飛翔に、魔力放出を加えて始めてセイバーの早さに追いつける以上、
キャスターはこの分の悪いじゃんけんを続けるしかない。

だが、それがいい。キャスターにはもう避ける以外の選択肢が無く、
隙を伺って逃げるしかないのだとセイバーが思い込んでいる今がいい。

「レイジングハート！」

「All ready to go」

一撃必殺はキャスターの得意技でもあるのだと、宝具をもって思い知らせる――！

第四魔法にと考えていたものをBBがやっちゃってる気がするけど
作中ではあんまり関わらないし気にしないことにしよう。

おやすみなさい。

戦闘開始から走らせ続けたエリアサーチで、屋敷内の構造は事細かに把握できている。
どの柱が折れ、どの床板が外れ、どの天井が落ちているか。それによって重力のかかり方はどう変わったか。
そして、この限界状態の家を効率良く壊すにはどこを突けばいいか。

レイジングハートは既に計算を終えている。
屋敷内の数か所で待機状態の光弾はキャスターの指示一つで爆破解体を始める。


横薙ぎのハリセンを避けて上方へ逃げる。

丸めた身体のすぐ下をハリセンが掠めていく。流れるような動きでセイバーの身体が沈む。ジャンプの前動作。
ハリセンが振り抜かれる間にその先端が下がっていくのは、セイバーがキャスターの回避を読んでいた証。
振り切った直後にハリセンは向かう先を変えて再動し、屈みこんだセイバーは飛びあがって追撃をしようと――

「シュートッ！」

セイバーが今まさに勝負を決めようと思ったとき、畳は揺れて天井は轟いた。

「っ！？　何のつもりよ」

サーヴァントに神秘の無い攻撃は通用しない。

たとえ屋敷の中に生き埋めになろうが、それによって酸素供給が断たれようが、
この発破解体でサーヴァントを倒すことはできないし、ろくなダメージを与えることもできない。

できるとすれば足止めだろうが、それも大した効果は期待できない。
高層ビルならともかく、ここは武家屋敷。敷地が広くても高さが足りない。面積あたりの重みが足りない。
いくら内側に倒れ込むように崩したとしても、瓦と木材でセイバーを止めるのは難しい。

だからこれによって得られる時間は、足元が崩れることによってセイバーが一瞬動きを止める間だけであり、
その間にキャスターが次の一手を打つのは必然のこと。

「ブラスタースリー、フルドライブ！」
　　　　　　　　　　　　　　　 　　
　　　　　　　　　ｶｰﾄﾘｯｼﾞ
レイジングハートは空薬莢を読み込んだ端から投げ捨てていく。

「Stardust Fall」

セイバーのスキルによって周囲の魔力は枯渇している。　　　　　　　　　　　　 ﾏｶﾞｼﾞﾝ
魔力収束はろくに機能していない。その分を補うため、カートリッジ六発を装填した弾倉を追加使用する。
ありったけの魔力をつぎ込んだ物理操作の魔術が発動し、周囲の木材と瓦と漆喰に尋常ならざる物理エネルギーを注ぐ。

対AMF用――魔力攻撃が効かない相手のための技。
もっとも効果的な場面で使うために、ここまで温存してきた物理加速系の魔術だ。

数瞬遅れて跳びあがるセイバーの目的は、キャスターへの追撃から全方位包囲弾の回避に変わっている。
それが魔術である以上、近付けば加速は消える。だが一度ついた速度がそのままなのはセイバー自身よく分かっている。
まともに喰らえば対応しきれない。致命傷とはならないだろうが、一時的に重量に押しつぶされれるのが怖い。
この瓦礫の中に閉じ込められれば、稼いだ時間でキャスターは何かを試してくるとセイバーの戦闘経験が告げている。

「っらっしゃあああああッ！」

ハリセンの一薙ぎで前方を空けて、出来た道へと飛び込んでいけばキャスターが目の前で待ち構えている。
構え直したハリセンを、接敵よりも一瞬早く振る。刀を抜くときのように構えた右手を滑らせていってハリセンの先へ。
左手を添え直せば、ハリセンの前後を反対にした状態で大上段の構えが完成している。

セイバーの予想外の行動にキャスターの対応が追い付かない。
ハリセンをかわしながら一撃を加えて地上に叩き落とす目論みは失敗する。

「っ！？」

突っ込んでいくセイバーの頭を狙って振るわれたレイジングハートに、ハリセンの柄が当たる。
本来なら容易くレイジングハートを引き裂いただろう一撃だが、ハリセンの魔法無効化は柄部分にはない。
レイジングハートに柄をぶつけた反作用でセイバーはさらに高く跳びあがり、追ってくる瓦礫の群を引き離す。


レイジングハートは、既にこれまでの戦いで表面の装甲部に無数の掠り傷をつけられている。
セイバー自身が纏う魔法無効化フィールドの中、魔術的な防御を許されずに柄をぶつけられたことで、
レイジングハートの全体におびただしいひび割れが入った。

「よっし！　ちょっと焦ったけど、なんてことないわ！」

負けた、と思った。

セイバーを甘く見ていた。単純なスペック差に甘んじてハリセンを振り回すだけだと油断していたかもしれない。
実際は、自分の獲物の特殊性を理解して使いこなすに至っていた。情報を隠していたのはお互いさまだったようだ。

次は負けない、と誓った。

たとえサーヴァントと英霊本体が別個の存在であるとしても、それに何の関係があろう。
今この瞬間に高町なのはのお話する予定リストに刻まされた名前が１つ増えた。

レイジングハートのダメージによってスターダストフォールは止まり、あと少しすれば重力が慣性を上回る。
空中の瓦礫を足場にして接近してきたセイバーに、キャスターはできる限りの賛辞を込めて笑いかけようと――。

「It seems that late reinforcements came. (諦めるのはまだ早いようですよ)」

謎を残したまま駆け足で終わっちゃったけど、なんだかんだネギまも結構好き。
途中で魔法語録講座がなくなったのが残念でならない。

おやすみなさい。

その到達に音は伴わない。
常人なら何も知覚できないし、魔術師であっても集中していなければ直前まで気付けないことだろう。

遠坂凛の霊脈改変はたった一人でやったとは到底思えない出来であり、
レイラインの安定性を捨てて霊脈の大半を失うことと引き換えに、土地の奥深くを超速で奔る。

戦場が空中に移っていたこともあって二人は共に察知が遅れた。
結果としてエリアサーチを尚も維持し続けていたレイジングハートだけが、霊脈の活性化に気付き、それを利用するに至る。

「Chain Bind!」

魔力で編まれた鎖が何本も作り出され、瓦礫に絡みつく。それらは大きな塊にまとめ上げられ空中に固定された。
塊の中には、レイジングハート自身の破片も混じっている。始めから魔力の宿った破片は、座標特定に都合が良かった。

「しつこ……っ！　これもあんたの仕業？」

落下中の瓦礫を足場にしてキャスターへと向かっていたセイバーの足が止まる。

頭の中に描いていたルートが崩れた。目の前に立ちはだかる壁を飛び越えることはできるが、
霊脈の爆発、魔力の噴水に押し上げられて真下から飛んでくる方の障害物が避けられない。

鎖に繋がれた壁を飛び越えようとすればその間に下からの攻撃に当たる。
その場に留まっても勿論同じ結末を辿るし、後ろには足場が無い。自由落下に入れば身動きが取れなくなる。

「ごめんレイジングハート、凛ちゃん。最後の最後まで諦めない方が私らしいよねっ！」

「I know you don't know "give up". (死んでも諦めない、でしょう？)」

魔力の飛沫が空を満たす。
急造の魔力バイパスはそう長くはもたないが、レイラインを荒らすほどの強大な魔力だからこそ戦況を変えられる。

「ロードカートリッジ！　スターダストっ！　フォール！」

その場に留まって魔力無効化フィールドを最大にするセイバーを今度こそ瓦礫の雪崩が押しつぶしていく。

重力によって遠坂とレイジングハートの連携が完成するのは、引力が繋がりの力であるゆえか。
瓦礫の山には小さな円状に集まり、高い塔を作ってセイバーを押しつぶす。
細かく積み重なった瓦礫に隙間は少なく、山の下のセイバーはもう見えない。

キャスター側はようやく、セイバーに初撃を与えたのだ。

　　ﾏｶﾞｼﾞﾝ
残り弾倉は無し。今使ったのが最後、残り5発のカートリッジを残すのみ。
ここで使い切るのは賢い戦い方ではない。霊脈改変による援護は遠坂が無事に遠坂邸に着いたことを意味している。遠坂を守る戦いは終わった。
レイジングハートの傷も決して無視できるものではないし、セイバーが瓦礫に埋まっている間に一旦退くべきなのは明らか。

「Let's shoot it!」

「残りカートリッジ全弾ロード、非殺傷設定で結界破壊に特化。最速でお願い！」

「All right. Count nine, eight, seven……」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｻｸﾗ
魔力の噴水をそのまま取り込んで、暖かな自分色に変えていく。
青い彩光の集まる中、その中心に明るく淡い赤が咲いた。

「six, five. ……」

集う花弁は数え切れず、けれど未だに五分咲き程度。

集めた魔力に耐えきれず、剥き出しの回路から火花が散る。ひび割れにそって装甲が剥がれていく。
大丈夫か、とは聞かない。その答えは何年も前にもらっている。あとはただ信じて、二人がやりたいようにやるのみ。

「four, three,two,one」

青空に舞う花びらは、出会いと別れの季節の景色、儚さの象徴だ。
けれど彼女が見せる桜色はむしろ、散る度により鮮やかな花をつけて千年を生きる大樹のそれ。

「count zero」

壊れかけのレイジングハートをあまり強く握りしめるわけにはいかない。
だから心を強く持ち、決意をこめてレイジングハートを握り直す。

瓦礫の山が少し、動いた。

　ｽ ﾀ ｰ ﾗ ｲ ﾄ
「星の終わりを――ッ」

桜色の透光が無限に重なり合い、超大な魔法陣の前に直視しがたいほどの閃光を形作る。
その炉心は星そのもの。１つの終焉を見つめた紅玉は、究極の魔砲をもって星の結末を再現する。

　ﾌﾞ ﾚ ｲ ｶ ｰ
「告げる光華ァァアアア！」

この世の法則を撃ち抜くそれは、もはや光ですらありはしない。
標的に命中するまで無限に加速する砲撃は条件次第で光速を超え、エネルギー変換効率は100％を誇る。
磨き上げれば『魔法』に至る。あるいは既に片足を踏み込んでいるといってもいい。

一撃必倒。純粋な火力に関して言えば、世界最強の宝具の一つ。
相手の動きを封じ込めて、射抜く。単純にして完璧な連携はいつだって勝利をもたらした。

無限大の輝きは、過たず標的を捉える。

セイバーの魔法無効化フィールドが彼女を起点とした移動式結界であり、
スターライトブレイカー＋の結界破壊の対象になるというキャスターの予測は正しい。

けれどそれは、『魔法』無効化。人の領域を踏み越えた異能同士が、衝突する。

始めはインフレに注意しようとか思ってたはずなのにいつの間にかリミッターが外れていた。
四次にも魔法使い混じってるし、五次は魔法多すぎだし、こんなはずでは。

レイハさんの「three,three,three……」はリリカルなのはで一番好きなシーンでした。

おやすみなさい。

神秘と神秘の衝突。これまでの術式がほどけていく感覚とは違う、確かな手ごたえ。
キャスターの魔術が効いている。だが逆に言えば、はっきりと抵抗されている。

全力全開の必殺技が、いまだにセイバーの結界を破れないでいるのだ。

このままいけば結界の破壊まではいけるだろう。問題はその後倒しきれるか分からないこと。

A.C.Sの展開、魔力刃をつけての突進追撃を考える。
駄目だ。相手の行動を封じ続けるために非殺傷設定にしたのが裏目に出ている。

通常なら物質の中に微量含まれる魔力に反応して、純魔力系攻撃も物理現象を引き起こす。
だがセイバーの魔法無効化によって魔力が消されているために、瓦礫の山はびくともしていない。
それはキャスターの砲撃がほとんど減耗無しにセイバーにぶつかることを意味すると同時に
動くことのない瓦礫の山が物理攻撃に大してセイバーの盾になりうるということでもある。

障害物越しの突進攻撃では、サーヴァントに致命傷を与えるのは難しい。
一度瓦礫を吹っ飛ばしてからの攻撃では、セイバーに脱出の機会を与えてしまう。

細かい制御を抜きにして瓦礫の山に突っ込んでいき、そのまま体当たりするのも一つの手だが
もしセイバーの宝具にぶつかることになれば、おそらくキャスターは一瞬で霊核を破壊されて消滅する。

星の光が無を削る。あと少し。既に収束・爆発させた魔力の大半は使い果たしている。
数秒後、砲撃は終わり、結界は壊れ、そしてなお戦いは終わらない。
だからそれまでに、結論を出さなければならない。

「もう一発いける？」

「No problem」

「よし、じゃあもうひと頑張り。いくよレイジングハート！　ブラスタービット展開！」

空中に魔導具が２つ現れる。金色のフレーム。紅玉の核。桜色の魔力翼。
それは小型化した魔導師の杖そのものだ。

原理から言えば、ブラスタービットの展開はスターライトブレイカーと変わらない。
違う点は、再生する対象が星ではなくレイジングハート自身だということだが
レイジングハートもスターライトブレイカー同様に宝具である以上、その魔力消費は最上級の宝具に匹敵する。

「Divine Buster」

霊体を形成する魔力すらも砲撃に回し、スターライトブレイカーの上からブラスタービットでダメ押し。

星の引力に従って魔力が引き寄せられる。レイラインが押し広げられ、霊脈が再度活性化する。
魔力収束の限界行使、この場の魔力は勿論、周囲の魔力も、遠坂邸の魔力も使い切る。

「これで決められれば、ぎりぎり魔力は持つ――！　マスター、レイジングハート、耐えて！」

追い打ちの砲撃が発動するのは黄昏の姫御子が破られるのとほぼ同時。
スターライトブレイカーを撃ち終わる直前だ。

結界破壊だろうが術式破戒だろうが、黄昏の姫御子が魔力で破られることはありえない。
それは星の修正力と同等。もしこれを突破できるなら、条件次第で根源への穴さえ穿ち得る。

彼女が地球的な意味の魔術師であったなら、聖杯を求めるのは回り道ですらある。
だがキャスターの魔術は戦闘技術であり、その魔砲は強敵を撃ち落とすためのもの。
そしてこの星の光は、戦場で磨いたからこそこの域に達したのだ。

「これが私の全力全開！」

最強の矛と最強の盾がぶつかり合うのが、聖杯戦争の醍醐味。

「左手に魔力、右手に気。心を無にして……」

「っ！　第五要素の鎧！？」

究極の幻想の競い合い。これこそが聖杯戦争だ。

魔力と気の合成、非実在の元素が爆発した。発動しただけで周囲のものを吹き飛ばす。
物質も魔力も関係ない。第一要素から第六要素まで、毒も光も気も音も、どんな攻撃だろうと耐性を持つ。
　　　　　　　ｱﾙﾃﾏ･ｱｰﾄ
これをもって、究極技法。

｢魔力不足？　知らないわよ、気合でなんとかしなさい！　アンタ悪運強そうだし、多分へーきだって！｣

双方ともにマスターの魔力限界超えながらの決戦。
真正面からの来る二重のディバインバスターの中に、セイバーが突っ込んでいく。

後から始まったワカメスレが先に完結して流石にちょっと焦った。
まあ、三回くらいは生き返るからまだ大丈夫だろう。

型月的な意味でもキャスターは魔法少女なのだが
そのあたりの設定をふざけた方のスレで先に出すことになるとは思わなかった。

セイバーに翼は無い。飛翔能力は無いし、浮遊術式すら使えない。
けれど、ただ地面を蹴るだけで空の向こうにその手が届く。

その跳躍は地響きを起こし、裂かれた空はわなないた。

直線にキャスターへ向かう。砲撃を身体で受け止めて、最短ルートで愚直に進む。
ダメージと咸卦法の負担の差を考えれば、この突進はあながち間違いでも無い。
戦闘時間が一秒伸びるだけで、言峰の消耗は激増するのだ。

「せぇぇぇいっ！」

マスターへの負担など視野の外。だが、思考に寄らずして正答を得るからこその英雄。

幾度と無くキャスターの肌を掠めたハリセンが、改めてキャスターに迫る。

これまでの戦いで、あのハリセンをまともに受ければ一撃でやられることは良く分かっている。
だが魔術による防御は通用しない。あれだけの全力で破った魔法無効化さえも、既に再生が始まっている。

スターライトブレイカーを撃ち終わった直後、急に動くのは無理。
火力の高い攻撃は出が遅いし、速射砲では足止めにもならない。

そもそも、既にフレーム全体が罅割れてシステムに異常を来しつつあるレイジングハートでは、
次の攻撃を撃つこと自体ままならない。

なら――

「Release physical lock」

「レイジングハート！？」

今撃っているディバインバスターの反動抑制を解除。
キャスターのすぐ前にあるブラスタービットが、反動で飛んでくる。

主にぶつけるつもりはない。受けるのは自身でいい。
既に壊れかけの体から大きく魔力の翼を伸ばし、飛んでくるブラスタービットを受け止める。

「こんなことしたら！」

反動で飛んでくるブラスタービットに吹っ飛ばされることで、無理やりに戦域から離脱する。
こんな無茶な回避が、レイジングハートが一番確実だと判断したやり方だった。

「Res_tric_...t lo_...」

キャスターの言葉には答えない。最後にセイバーに対して放った拘束魔術は発動することなく、
フレームは全て細かな破片となって宙へ散り、次いで紅色の宝玉が同じように砕け散る。

空は曇天だというのに、あたりはレイジングハートから解放された魔力の渦に満たされて青く
もはや色が分からないほど粉々になったフレームが、紅色の玉から解放された光を拡散する。

瞬間、辺りは青い背景に塗りつぶされて、赤い光が輝いた。

相手も自分ももはや見えず、意志ある宝具――英雄の最後だけが眩しかった。

セイバーに飛行能力は無い。だからもう追撃は無い――はずだった。

「なにこれ。まぶしっ！」

視界を遮るようにハリセンを顔の前に構えたかと思うと、両手でハリセンを広げる。
弧の真中を握り直して、逆さ持ちの扇としてハリセンを振るえば、轟風が空を揺らす。

空中に残っていたレイジングハートの跡は、それで飛んでいってあとは消えてしまう。
だがレイジングハートを失った感傷に浸っている場合ではない。

「流石にちょっと難しかったかあ……」

セイバーがやろうとしていたのは、ハリセンの風起こしによる移動。

それは失敗してセイバーはあらぬ方向に飛ばされることになったが、
視界を晴らしてからのリトライで今度は素早く地上に落ちることに成功している。

空中に取り残される時間のロスを大きく省き、視界の隅に残るキャスターに向かって、跳躍の構えを取る。

それを阻止するのは、もう一つの桃色の光。

「遅くなって！　ごめんなさいっ！」

反射的に矢を弾こうと振り上げたハリセンに、その一矢で穴が空く。

あらゆる魔術を無効化する奇跡と、あらゆる奇跡を無に返す魔術。
真っ向から対立する概念の結果は純粋に力の勝負に持ち込まれ、飛翔中に力を蓄え続けた矢が圧勝した。

ぼろぼろのキャスターを抱えて飛翔するアーチャーに対して、セイバーが冷静に撤退を選ぶことができたのは
宝具が傷ついたことの驚きで戦いから意識が逸れたタイミングに、言峰の掠れた声が届いたから。

かくして戦いは幕を閉じる。

今日はここまでー。

弓を引き絞るほどに威力が上がるのはアーチャー全般の特性とかいう話が出てきたけど
流石に上限はあるはず。でないと無制限に威力が上がる完全なる半月輪廻の立場が危うい。

俺のために用意された部屋で、味噌汁を飲む。
この歯応えのある大根、おそらく温め直したものではない。
かといってぬるいわけでもなく、温かくて美味しい良いお味噌汁だ。

と、すると藤ねえは俺が来る時間の予想まで零観さんに伝えていたのだろうか。

野生の直感恐るべし。
日常的に教卓に頭をぶつける癖に、地震で落ちてきた電灯は何故か持ち歩いていた虎のぬいぐるみ越しに
完璧なキャッチを決めて拍手を浴びるというあの不思議な生徒防衛システム。

かつての虎の栄光を回想しつつ、沢庵と野菜炒めに味噌汁だけの質素な食事を平らげる。

食後、修行僧たちの中に入って掃除を手伝う。
汗を流してから戻ってくると、部屋の中からアサシンの声がした。


「さて、じゃあどこから、何を話そうか」

驚きで一瞬固まってしまった。

「面倒だから話したくないこと、というと生前の細かい話まで全て話すことになってしまう。
流石に時間が足りなくなってしまう。だからあの約束は、君の質問に答える形で果たそうと思う」

「ああ。お前には聞きたいことだらけだ」

この唐突な現れ方も、会話の主導権を握るアサシンのテクニックなのかもしれない。

返事をしてから思ったが、質問をする形ではまた情報を隠されてしまいかねない。
そもそも、もとからアサシンは質問に答えてくれている。ただ、答え方に難があるのだ。

部屋の中に入って、アサシンと向き合う。

一旦深呼吸。まず何を聞くべきか考える。
アサシンの行動の意図、切嗣のこと、アサシンの正体。
そんなことより、今俺が一番聞きたいのは――。

「桜は――」

「待った。その前にいつものように電脳空間に移動させてもらっていいかな。
今回は少し気合を入れて改修してあってね。思考を数倍に加速させて話せる。時間短縮ってやつだ」

気合を入れて話しだそうとしたところでアサシンに遮られた。
天然、というわけでもないだろう。なんとも油断ならない協力者だ。

「さて、今日はもう少し安全に落とそうか。思考を心の中に集中して。分割思考を制御する感覚。
光る糸近づいてくる感覚がしたら、抵抗しないでいること」

今日はここまでー。

ちなみに今、FateSS作者でオリ鯖を持ち寄って聖杯戦争を書く企画に参加しており
>>336のランサーが採用されてます。もともと四次では使えなかった予定の二番目の宝具が解禁されて強キャラ化。
「西洋なら、西洋でなら負けなかった」とか言いながら涙目で徒手空拳する役から大出世してスレによってはラスボスに。

自分をイメージする感覚はもう慣れたものだ。
それよりも、俺を切り分ける剣をもっと強く作りたいと思う。

柄の青色の深さが足りない。刀身へと繋がる部分がはまりきっていない。
輝きが足りない。質量が、密度が、構造が違う。刀身部分はもっと駄目だ。
刃に刻まれてた文字に力が無い。切れ味が全然足りない。刃の作り込みが弱い。

だが、どうして俺は、これが贋作であることを知っているのだろう――。

迷った心は美しくない。疑問を剣で引き裂いて、心を走らせ剣を想う。

そうしているうちに、俺の魂は蒼白く光る糸に取り囲まれていた。
繭に包まれるように、糸が俺を覆い尽くす。

巻きついてきた糸が、剣の刃を隠してしまうのが寂しかった。
きっと本物なら、剣先に触れただけであの糸を切り裂いてしまえただろうに。

落ちていく。

始めは何も無い真っ暗闇。空気の抵抗すら感じられず、それなのに落下速度は一定のまま。
落ちているのか沈んでいるのか、いずれにせよ下に進んでいるのだと妙な確信があった。

しばらくして、輝く輪の中を抜けた。あんなに明るいのに何故か眩しさを感じない。
違和感の堆積は、夢を夢だと気付いてしまった時のそれに似ていた。

そう、十年前に大災害の後は、良く夢を見ていた。
愚かな自分に後悔し続ける、厭な夢を見ていた――。


光る輪を抜ける度に、周囲の闇も明るくなる。それを何度も繰り返す。
随分と長い落下に、何かアサシンが失敗したんじゃないかと不安になって来た頃、一際強い光にのまれた。

「良かった。無事降りてきてくれたようで何よりだ」

気付くと、例の部屋の畳の上に寝転んでいた。
身体を伸ばして手足に力を取り戻していきながら、アサシンの言葉を咀嚼する。
ちょっと待て。「無事に降りてこれて良かった」って、まるで無事じゃないケースがあるみたいだぞ。

「妙に時間がかかってると思ったら、やっぱり何か失敗してたのか？」

「失敗？　何のことだい？」

「今までと全然違う。これまでは一瞬で意識が無くなって、気付いたらここにいた。
なのに今回はうんざりするほど長い間暗闇に取り残されたから、お前が何か失敗したんじゃないか？」

俺が立ち上がって文句を言うと、アサシンは壁に背を預け、返事をしないまま目を閉じた。

「うーん……」

「そういう反応をされると不安になるんだが、やっぱり何か失敗したのか？　俺のことだろ。答えろよアサシン」

壁に寄り掛かった体勢から、ずるずると身体が落ちてそのまま座り込む。
あぐらをかいて、片手で頭を支えながら唸りだした。

「おい！　何か言えよ」

ひどく気怠げな溜め息をついて、ようやくアサシンは話しだす。

「別に、霊子化に関しては何も失敗しちゃいない。
君を連れ込むのにも慣れてきたから、今日はむしろ普段よりスムーズにできたくらいだよ」

「スムーズって、じゃあなんであんなに時間がかかったんだよ」

「先に言っておいたはずだ。今回は思考を加速させて、短時間で用事を済ませる、って」

「短時間どころかいつもと比べ物にならないくらい時間かかってたじゃないか」

「当然だろう。思考の加速は、相対的には外界の遅延と同じ意味を持つ。
作業が進むほどそれをゆっくりに感じていくわけだから、当然入る瞬間は長く感じるさ。
でも絶対時間で言えば前回の半分程度の時間で終わってるよ」

「じゃ、じゃあさっきの反応は何だよ。明らかに何かやらかしたって態度だったじゃないか」

眼鏡を位置を軽く直して、俺と視線を合わせてくる。
いつもおちゃらけた風に振る舞う反動か、こうして真面目な顔をしていると、アサシンが少し怖い。

「聞かれたことには答える約束だから、言ってしまうけど、やらかしたのは君の方だ」

気付くと、一歩後ろに下がっていて。

「君が分割思考だと思っているそれは、まるで別物の、遥かに高度で危険な技だ。
君が割っているのは思考じゃない。魂そのものだ。普通なら痛みで発狂してもおかしくないはずだよ。
なのに痛みを一か所に割り振ってフタをするなんて、そんなことを続けていたらいつ魂が壊れてもおかしくない」

「え……？」

「でもまあ、リスクに見合った価値はある。それを使いこなせれば、思考速度は、僕の数段上になるだろう。
そうなれば英霊と対等に戦えるかもしれない。肉体のスペックで負けていても、思考で優っていればやりようはいくらでもあるからね。
ましてや、君のそれは魂の強制進化だ。肉体の方がそれに追随する可能性もある」

「え？」

「君が望むなら、その方向で稽古をつけてもいい。
僕としては、不確定要素が増えるのはあまり歓迎しないけどね」

アサシンの言っていることの意味が分からない。
いや、要旨だけは分かっている。俺は力を持っていて、でも使い続ければ死ぬのだ、と。

「ああ。一応謝っておくよ。これは君の失敗でもあるが、僕の過失でもある。
まったく、どうしていつもこう……」

今日はここまで。

エミヤさんが死ぬ気で作ったカリバー・イマージュにダメ出しする士郎。

「さて、どうする？　使うつもりが無いなら、もうそれは封印した方がいい」

「それだけじゃ決められない。もっと、俺に分かるように説明しろよ。
結果だけじゃなくて、これがどういう作業で、どういう風にリスクがあるのか」

こんなのは逃げているだけだと、自分でも分かっている。

悩むことなんて無いはずだ。この戦いに参加しようと思うなら、力が要るのは明らかだ。
それに、俺が犠牲になることで誰かを助ける力が手に入るなら、それは本望だったはずなんだ。

なのに、決断ができない。切嗣のいなくなった朝が頭にちらつく。

自分の命が惜しいなんて、そんな人間らしい悩みを抱えているわけじゃない。
自分の進んでいる方向が不安なだけ。闇の中、ふと方位磁針が壊れているのに気付いたよう。

俺が戦って、死んで、それを切嗣は喜んでくれるだろうか。
気付けば俺は、アサシンの良く分からない解説を遮って疑問を口に出していた。

「正義ってなんだろう」

「随分と難しいことを聞くね。悪いけど、大した解答はできないと思うよ。約束だから、一応考えてみるけどさ」

こんな子供のような質問にも、答えを考えてくれるアサシンの変な几帳面さに驚かされる。
何を馬鹿なことを、と一蹴する方が彼らしい気がする。いまだにアサシンの考えはよく分からない。

「歴史的に言えば勝てば官軍、勝者が正義。個人レベルでなら正義の逆はまた別の正義。
使い古された表現だけど、このあたりはなかなか真理をついた言葉だろうけど、そういうのが聞きたいわけでもない、か……」

目まぐるしい速度で流れていく数字の群で青く染まった空を、眼鏡越しに見つめる。
そこに書いてある答えを読み上げるような調子で、アサシンは続きを話す。

「僕はバカでノロマで臆病でろくな人間じゃなかったけど、それでも僕の人生の中で正しかったと言える点があるとしたら
それは反省したことだ。ただ後悔するんじゃない。もう少しくらいはマシな人間になろうと、僕なりにみみっちい努力を続けたことだ」

アサシンは、本気でそれを恥ずかしがっているようだった。照れているんじゃなく、恥じている。
生前の偉業を讃えられて英霊の座についた存在だというのに、まるで自分を誇っていない。

「たまに悟ったような気になったこともあったけど、墓まで勘違いを持って行くことだけはなんとか避けた。それが僕なりの正義だろう」

「アサシンは、正義なんて無いって、そう言いたいのか？」

「それも良くある勘違いだ。分からないのと、無いのとは違う」

「じゃあ結局、何の答えにもなってないじゃないか」

「そう思うならそれでいいんじゃないかな。だって君、この前はちゃんと見えてたみたいだったろ。
ただでさえ馬鹿なんだから、無理に考え事を増やしても処理落ちするのが関の山さ。とりあえず一番大切なことだけ見ておくといい」

一番大切なこと、か……。朝は必死だったから、自然と桜のことだけ考えていた。
そもそもアサシンについていくことになったのも桜のためだ。

「今答えが出せないならそれでもいい。別に君が戦力にならなくても、ライダーだけいてくれればなんとかなるはずだから」

そしてこいつも、桜のことを一番に動いているらしい。

「もう一回確認するけど、お前は何のために戦ってるんだ？　お前も何か願いがあって来たんだろう」

「願いは考えていないし、考えないようにしている」

「なんだそれ。じゃあ、お前はなんで来たんだよ」

「今回は聖杯の強制力が強いしね。願いが無いからって参加を断ることはできないんじゃないかな。
だから、特に聖杯に懸ける願いは無いよ。来た理由を聞かれても、馬鹿に呼ばれたからとしか言いようがない」

「お前、桜のこともいつも馬鹿呼ばわりしてるのか？」

「ああ。そうだね、マスターの方も同じくらい馬鹿だと思うよ。何をやってるのか分かってないあたりが、特にね」

そこで一度言葉を切って、アサシンは畳に手をついて起き上がる。

「で、他に質問は？」

俺が聞きたいのは……　>>637-639

真名
聞いてたなら下

話し合う度に余計に分からなくなる、この英霊のことを知りたい。知らなくてはいけないと思う。
説明のつかない直感にすぎないけど、こいつの存在は、何かとても大切なことに繋がっている気がする。

「まずお前が誰なのか、それが知りたい。お前の正体、真名はなんなんだ」

その質問を予想していたように、アサシンは抑揚のない声で淡々と語る。

「名前はいろいろあるし、クラスによって変わったりもする。
一番良く使った名前で言えば、野比のび太。そしてこの聖杯戦争における真名なら、ノビタ・ノビ・アトラシアだ。
五つの魔法を根絶やしにして、魔術師から目標を奪った裏切り者。その癖、一人だけ変わらず魔術を研究し続けた僕に対する蔑称だ。
もっとも、これは別の世界の歴史だから、君が英霊ノビタと会う機会は今回だけだろうけどね」

「別の歴史？　それに魔法を根絶やしにって、どういうことだよ。現にいま、お前だって魔術を使ってるだろ」

「まとめて質問するのはやめてほしい。どこから説明したものか困る。
とりあえず、魔法の説明からすればいいのか？　いや、多元時空の説明の中で魔法の例を出した方が分かりやすいか……？」

ある種の天才は、一分野に秀でる代わりに他の能力が欠けていたりするという。

どこから説明したものか真剣に悩むアサシンは、見ていて少し不安になるものがあった。
妙に無防備というか、馬鹿っぽいというか――誰かが側にいてやらないといけないような気がした。

「じゃあ、別の歴史ってのから頼む」

「うん、事柄を絞ってくれれば僕も答えやすい。まず一番基本的なことだけど、世界は一つじゃない。
三次元的に外側にある世界を外宇宙と呼び、魔術的に外側にある世界を異界と呼ぶ。
そして時間軸において外側にある世界を並行世界と呼称する。……とはいえ、この定義は魔術理論によって変わるけどね」

「平行世界？」

「漢字を聞いているのなら、別に『並び行く』でも『平ら』でも構わない。
そして並行世界の要素は、他の異世界に比べて元の世界と近い。
この理由は僕の世界での統一理論を用いて説明できるんだが、ここも明確に話した方がいいかい？」

「それ、何分かかる？」

「レポート用紙にして三冊くらいにまとめてあげよう」

「……お前、やっぱ俺の質問に答えるの嫌なんだろ」

「当たり前だ。生前から苦手なんだよ、こういうのは」

「さて話を戻すけど、僕の世界は1970年代の火星での戦争を境に、この世界と別の歴史を辿っている。
儀式の暴走から始まる魔法世界の崩壊を防ぐために、お姫様は地球に放り出されて、結果として地球の魔力は枯渇した」

「急に新しい用語を出されても困るんだが。火星での戦争って、こっちじゃ火星に生き物なんていないぞ」

「いるさ。君たちが知らないだけだよ。地球で根源を目指すことに行き詰まりを覚えた連中が、ずっと前から火星に移住してるんだ。
実際、修正力の一部を閉じ込めることに成功したかの地は、地球よりも研究に適していただろうね。残念ながら、火星の主はそれを望まなかったけど」

「あー。一言話す度に新しいことを言われても、わけが分からないぞ」

「なら何が分からないのか言ってくれ。僕に分かる範囲で説明するから」

「俺が分からないことを並べたら、また『質問は一つにしろ』って言うんだろ。もっと簡潔にまとめられないのか？」

「始めからそのつもりだ。僕は僕なりに話をまとめているのに、君が細かいことを突っ込むからこうなってるんじゃないか」

今日はここまで。　アサシン先生の説明パートの冗長さが留まることを知らない。

「で、別の歴史についての話はまだ続けた方がいいかい？」

「それはもういい。とにかく、お前は俺の知ってる世界の住人じゃなくて、俺の知らない英雄だってことはわかった」

「なら次は、魔法の話をしよう。君は魔法と魔術の違いをどこまで知っている？」

「たしか魔術のもっと凄いヤツって聞いたような」

「それは正しくないな。魔術は魔法と根源を目指す手段であって、同一物なんかじゃない。
何かを使って何かを得る、そういう技術のうち、文明の理に沿わない方法をとるのが魔術。
そして、その時代の文明では絶対に到達できない奇跡を魔法と呼ぶ」

「そのくらいは大体分かってる。俺だって魔術師だ」

「それも誤用だ。根源を目指す以外の目的で魔術を扱う者は魔術使いでしかない。そもそも魔術とは――」

「あー。細かいとこはいいから話を進めてくれ」

「じゃあ、思いっきり端折るけど、今この世界に存在する魔法は５つとされている。
一方、僕の死んだ世界に存在する魔法は０だ。魔法と認定された事象は全て、科学の発展で魔術に格下げされた。
大部分は僕のせいだよ。僕の研究は魔法を脅かし、世界の安定を揺るがした。おかげでかなり恨まれたよ」

「凄いな。大英雄じゃないか」

「凄いことさ。けどアサシンとして呼ばれた僕はどちらかといえば反英雄じゃないかな。
文明の段階を引き上げる作業は慎重にやらなくちゃいけない。それを、自分の都合で踏みにじったんだ。

たとえば戦争中に、作るのに失敗したら百人死んで、成功したら一万人殺せる爆弾の案があったら、作るだろ？
僕はそういう危ない案を矢継ぎ早に投げかけて、死体の山で文明を押し上げた。

それに、そんな僕を殺しに来た相手を何人も返り討ちにした。
一人殺せば犯罪者だが、千人殺せば大英雄……そういう観点でいえば、確かに大英雄だろうね」

いつものように淡々と話すのでもなく、口籠ってしまうのでもない。
一言一言、絞り出すようにして言葉を紡ぐ。苦しそうな語り口だった。

これが、アサシンの正義、反省し続けるということなのだろうか。
一度死んでもなお苦しみ続けることになるなら、そんな正義はどこか間違っていると思う。

俺が憧れたあの日の切嗣は、きっとそんなところにはいない。

「僕の自己紹介の話は、こんなところでいいかな」

「いや、他にももっと聞きたい。お前の友達のこととか、話してくれよ」

「それは君がこの聖杯戦争を戦い抜くために必要な情報なのか？
この空間の維持にだって魔力は使うし、脱線はほどほどにしてもらいたいんだが」

「お前の友達の話を聞けば、お前との付き合い方が分かるかもしれないだろ？」

アサシンはきょとんとした顔で俺を見つめ返してきた。
即座に切り返してくる時と、変な間を空けるときの落差が激しくて、こちらのペースまでおかしくなる。

「なるほど。それは、うん。興味深い考え方だ」

こころなしか、アサシンの表情が明るくなった気がした。

「幸い、友人の数なら結構自信があるんだ。子供の頃、それこそ世界中に友達を作ったくらいだよ。
けど、そうだね。僕の友達ということなら、やっぱり最初に話すのは――」

顔を伏せて眼鏡を外す。けれど、右手の袖を顔にこすり付ける動作から、アサシンが涙ぐんでいるのは簡単に分かった。
涙を拭って眼鏡をかけ直しても、アサシンはまだ顔を伏せたまま。

今日はここまで。

「俺が代わりになってやるよ」「ああ、安心した……」→切嗣永眠
の流れを経験していないので正義の味方狂いの度合いが足りない士郎。

「悪いけど、ちょっとこの話は無理みたいだ。平静でいられる自信が無い」

そう言ってアサシンは深く頭を下げた。俺がもういいって言うまで、頭を下げ続けた。

「生前の過ちを繰り返すことだけはしたくない。僕が寂しがってたんじゃ、また心配をかけてしまう。
けど僕はこの通りの馬鹿で、いまだに感傷に溺れたままなんだ。ごめん」

俺じゃない誰かに謝っているアサシンは、やっぱり桜に似ていると思った。

誰かに触れたら傷つけてしまう。だから誰にも近寄れない。
臆病で、自分勝手で、優しい悩み。他人が怖いんじゃない。自分が嫌いなだけ。

「他の質問を頼む。次は、ちゃんと答えるつもりだから」

「ダメだ。そういうのはよくない。悲しいから忘れようとするなんて間違ってる」

「間違ってる、か……それはそうだろう。間違ってるんだ。始めから。
僕みたいのが呼ばれた時点で、今回の聖杯戦争は始めから狂っている」

「そんなことない！　お前は桜のために戦ってたんだろ。それが間違いだっていうなら、俺まで間違ってることになる」

「なにをいまさら。まったく、君は実に馬鹿だな」

そう言って笑うアサシンに、怒りは湧いてこない。代わりに焦燥感が渦を巻く。
こいつは俺を馬鹿にすると同時に、自分のことも馬鹿にしている。それがなんだか、無性にやるせない。

「なら馬鹿でいい。何か一言、その友達についての話を聞くまでここから帰らないからな」

「君、一人じゃ帰れないだろう。何を言ってるんだ」

「それは、やってみなきゃわからないだろ」

「それはやめた方がいい。無理に抵抗されると魂に傷が残るかもしれない。
僕は魔術師としてはあまり優秀じゃないんだ。取り返しのつかない失敗になりかねない」

「じゃあ話せよアサシン」

目を瞑って首を左右に振ったあと、心底飽きれたようにアサシンは白旗をあげた。

「仕方ないなあ……」

何を話すのか待っていると、アサシンはポケットの中を引っ掻き回し、どら焼きを取りだした。
二つに割って片方をこちらに差し出してきたので、慎んで辞退する。

「ここで食事ってできるのか？　身体は外に置いてきてるんじゃなかったのか？」

「これは単に魔力回復に当たる作業のテクスチャを張り替えているだけだよ。いくら食べても太らないから安心していい」

「ん、そこまで言うなら」

またもどら焼きを差し出してくるアサシンに折れて、どら焼きを受け取る。

「甘い奴だった。僕の、家庭教師のような役割と言ったらいいのかな。
でも僕に甘くてね。いつもズルして楽しようとする僕につきあってくれて、おかげでこの様だ」

アサシンはあぐらをかいていた足をずるずると畳の上に滑らせて、倒れ込んで寝転がる。
精魂使い果たしたように、大の字になって手足を伸ばした。

「人間臭い奴だった。僕に、大切なことを教えてくれた」

「大切なことって？」

「……それを言語化するのは、僕には難しい」

今日はここまで。アサシンの過去はどこまで出したものか難しい。

「もういいかな」

「何が？」

「言っただろ、一言。これでいいかって聞いてるんだ」

「ああ。ありがとう、アサシン」

「どういたしまして……質問はもうこれでいいのかい？」

アサシンは疲れているように見えた。今回のこの空間はいつもより手が込んでいるそうだし、その分消耗も大きいのかもしれない。
あまり長く質問責めにするのも気が引ける。辛い思いを振り切ってアサシンはちゃんと答えてくれたし、もうそろそろ休ませてやってもいいだろう。

ただ、その前に一つ、思いついたことを聞いておこう

「こういう空間を作ったり、人の記憶を読んだり、お前のそういう魔術教えてもらえないか？」

「可能だ。魔術回路があるなら練習次第で霊子ハックは習得可能だろう」

「本当か！？　じゃあ教えてくれよ」

「しかし、この聖杯戦争の期間中に僕を上回ることはないだろう。
記憶を読むのは相手の意識を奪ってからになるから、戦闘で勝てなければ使いどころが無い。
そして戦闘時にはなるべく僕も手助けしてあげるつもりだから、それなら僕が記憶を読めばいい」

「ならこういう世界を作るのは？　お前、結構これ作るの大変なんだろ？　俺が手伝ってやれればと思って」

「それこそ無駄だ。外部の未使用領域を少しずつ借りてようやくこの空間を確保し、危ういバランスで使っている最中なんだ。
君がこの作業を手伝おうと思ったら、まず未来の電子工学を学ぶところから始めないといけない」

「う、それは確かに無理そうだ」

「けど、エーテライトなら作れるんじゃないかな。あれは元から幻想寄りの素材だから、君の魔術との相性は悪くないはずだ。
また僕が手伝ってあげるから、ちょっと作ってみなよ」

「えーてらいと、ってなにさ」

「糸だよ。僕が使ってる奴。ライダーを転ばせたやつって言えば分かりやすいかな」

「あれか！　でもあれはイメージし辛いんだよな」

「へぇ。聖剣は綺麗に作ってみせるのに、あれはイメージし辛いのか。
不思議だな。君の魔術特性の偏りの問題か？」

「あの剣は度々夢に出てきたから、見てる期間が違うんだよ」

「じゃあこっちも良く見ればいい」

アサシンが手を上げて、顔の前を薙ぐ。
人差し指と親指を合わせて、何かをつまむような形の手が空を横切った。

その指の間から、光が漏れて糸になる。
アサシンが手を振るだけで、空中に一本の糸が紡がれていく。

思わずアサシンの指先に視線が吸い寄せられる。糸が出来上がる瞬間、形の光に心奪われた。
七色なんてものじゃない。白色の揺らぎの中にありとあらゆる色が見える。
硝子細工のように崩れやすい無色の煌めき。それがアサシンの指先によって細い細い糸になる。

今日はここまで。　人間らしすぎた不良品と、人間のふりをするロボット。
意外なところで接点が生まれるのが安価の面白いところ。

無形の輝きはいくら見つめても構造が解析できない。
絶えず変わり続ける存在域、流動する骨格。光はアサシンの指先を離れる時になってようやくその形を定められる。

これが作れたなら、何も糸に限らずもっといろんなものができそうな気がする。

「君、どこを見てるんだ？」

「どこって、だから光を」

「君が作るのはモノフィラメントだ。エーテルの渦なんてどうだっていいだろう」

「エーテルノーズ、って言うのか、それ。もっと見せてくれよ。糸に変えないで、きらきらしたままのを見たい」

「意味を与えずに放置すれば、使いようのないエーテル塊になるだけだ。そのまま固定するのはかなり高度な技でね。
一ヶ月ほど使って専用の設備でも作らないと、僕にはそれはできないだろう」

「というか君、エーテルを知らないのか？　投影の基礎要素、のはずなんだけど」

「知らない。投影は効率が悪いからって言われて、強化の魔術を中心に練習してた」

「そうなのか。でも、前回聖剣を作ったときもエーテルは使ってたじゃないか」

「え、あ……そう、だったっけ？」

言われてみれば、そうだったかもしれない。
あのとき、確かに俺はこの光を使っていた。俺が作った外殻の中に、光が集まっていった。

そのときを思い出して、アサシンのように親指と人差し指を合わせて宙をつまむ。
イメージするのは完成後の形。細く細く滑らかなライン。

気合を入れて手を動かした。

はっきりと見えた。光が集まって、手の中で一本の糸になる。
紡績するのとは違う。始めから型ができていて、そこに材料を押し込んでいく。

それは、凄く無駄じゃないだろうか。

この無形のエネルギーをそのまま捩って紡いだなら、きっともっと細く作れる。
実際、アサシンのやっているのはそういうことなんだと思う。
だって、俺のやり方なら手を動かす必要なんてない。

「なんだ、できたじゃないか」

「いや、もっときれいに……」

糸を紡ぐイメージ。構造は先には決めず、指先で調節したい。
けれどそれではいつまでも光が取りだせない。

目をつぶる。イメージするのは糸車。綺麗に輝く光のかたまり。
ﾄﾚｰｽ ｵﾌ
「投影完了――」

できた、と思った。けど目を開けてみれば、そこにあるのは糸なんかじゃない。
ごくごく自然に手を閉じて、冷たい柄を掴んでいた。

刃と言うことさえできない、歪な塊が柄から伸びている。
熱に耐えられず溶けだして、内側の空気で膨らんでは弾ける金属のよう。
ぼこぼこと弾け飛んでは、その度に濁った液体を散らしていく。

今日はここまで。アサシンと出会ったせいで変な方向に成長していく士郎。イーブイ。

「うわ、なんだこれ」

元は光沢のある白っぽい金属だったのが、黒く濁った泥になっていく。
柄の方も同じようなどろどろとした液体に変わっていった。見た目に反して、熱くないし手にくっつくこともない。
綺麗に全部手から流れ落ちて、手には湿り気すら残らない。

「何って、エーテル塊だよ。一部の魔術に失敗するとできる、意味を手に入れ損ねた元素だ。
しかし、君のそれは酷いな。ここまでリソースを使われるとは思わなかった。健全な部分のサルベージもできそうにない」

「投影なら何度かやってるし、大体失敗してたけどこんなの見たこと無いぞ」

「それは致命的な失敗をやってなかっただけの話じゃないか？」

「そうか？　こんなことになるの初めてだし、それに、何か言い辛いけど、失敗したって気はあんまりしなかったんだが」

「霊子空間で魔術を再現しているだけだから、多少感覚が違うのは仕方ない。
術式の編成速度を上げる練習や構造の改善には便利だけど、やはり外とは違うところもあるんだろう」

「しかし、こんな失敗を繰り返されてはかなわない。空間のリソースが足りなくなる。
失敗したのは造形部分のようだし、そっちの成功してる方の観察でもやればいいんじゃないかな」

「成功って、全然ダメだろ。太いし、その割に強度が足りない」

「ん、内部構造に変な空洞ができてるのか。外見は上手くできてるのに」

「基本骨子も解析が甘かった。成功してるとはいえない。
だから、アサシンのやつ少し貸してくれないか？　もっとちゃんと見たらできるかもしれない」

「じゃあ外に出たら僕のをあげよう。それでいいかい？」

「ありがとう。練習すればできると思う。機械の投影を試してみた時よりは、ずっとやりやすかった」

「ここでの魔術行使は、僕が手伝ってもいるしね。魔力面では外より大分楽になってるはずだよ」

「ああ、そうなのか。じゃあ外だと上手くできないかもしれないな」

「コツをつかめばできるようになるさ。自転車に乗る前に補助輪をつけて練習するようなものだよ」

「じゃあ質問はもういいかな」

「ああ。ありがとう」

アサシンが起き上がる。首を振って、目をぎゅっとつぶってから開け直す。

「さて、次は僕から君への提案というかお願いかな。
まず、セイバーとキャスターの交戦の結果、共にかなり消耗することになった。
セイバーのマスター、言峰綺礼はぎりぎりまで魔力を消費している」

「だから今攻めようって言うのか？」

アサシンは少し考え込んでから、目をこすりつつ返答する。
いま、こいつはきっと「実に馬鹿だな」系列の言葉を?み込んだ。

「うーん。半分正解かな。けど、できれば話は最後まで聞いて欲しい。
このままでは言峰綺礼がランサーとセイバーの二騎を御するのは無理だ。
おそらくあの妖怪ジジイは、ここで言峰に提案するだろう。ランサーを預けろ、とね」

「マスターが代わってランサーが本調子になる前に攻めたい、ってことか？」

アサシンは息を吸い込んでから一拍置いて首をかしげた。
悔しいので続けて発言してみたが、これも外れだったようだ。

「間違いじゃない。けど、僕が提案するのは、ランサーが言峰綺礼と契約を断った時点での奇襲だ。
何かの媒介にマスター権を埋め込むにしろ、一度契約を断ってから野良鯖となったランサーと再契約するにしろ
一時的にランサーが自由になるタイミングがある。そこで動けば、きっとランサーがあの妖怪ジジイに敵対してくれるだろう」

アサシンが例のポケットを、白衣から剥ぎ取った。ポケットを目の前でぶらぶらと揺らす。

「ライダーにこの宝具の中に入ってもらいたい。この中ならサーヴァントの気配が外に漏れることはない」

今日はここまで。　まどかと凛ならついさっきセイバーとキャスターの戦闘中にも登場してたじゃないですかー。

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　　　　　　 ／　　 /／￣ﾉ＼::::::::::::: /＜ﾉ　 ==　　//　∧　l i |:::　|
　　　 　 ／　 ／ /　 ll　l　l　ﾉ　l　 .ﾉ　　　＼ /￣,'ｲ　/　ゞ,l l i::::/ﾑ＿
　　　／// /--l/　　l:l　l　l,======l ／　 ＞r y ｲ　 // / /　/　／ ＜ }

耳を疑った。その宝具名はランサー達の予想通りだ。

あらゆる物を吸い込み、そして吐き出す性質をもった瓶。竜吉公主はその瓶に海そのものを入れ、津波で攻撃する。
威力の調節は可能だが、生半可な威力ではランサーにダメージを与えられない。
そして十分な威力を確保したなら、今度はキャスター自身まで巻き込まれることになる。

まだセイバーやライダー、イレギュラーのナイトが残っている今、せっかく手に入れたサーヴァントの駒を手放すとは思わなかった。
発動タイミングに合わせてキャスターを盾にしうる形での一撃必殺、これに成功すれば、四海瓶を使われることはないと思っていた。

負けを認めて、ランサーを道連れにすることを選んだ？　違う。
これは発動に少しの溜めが要るタイプ。槍を受ける前から、自分をまきこむつもりで発動しなければ、天に聳える緑の穂先の解放に間に合うはずがない。

ぎゃー、自スレに誤爆した。

お祭り企画の方が終わったらまた書くよ！

あけましておめでとうございます

枯れ果てた身体と言えば、萎んだ身体に骨が浮いている様子を思い浮かべるだろう。
だが、ここで枯れているのは鍛え上げられた肉体。服の下に隠れた筋肉はそのままだ。

たとえるなら、地を踏みしめて今にも跳ぶ瞬間を写し取った彫像。
隆々として張り詰めた筋肉はどこか美しく、そしてどこまでも不自然だ。
まるで死後の硬直のように色が悪く、次に動き出すところが想像できない。

――限界を超えた魔翌力供給の結果として、言峰綺礼は死にかかった。

今は持ち直してきているものの、土気色の顔を見ればその容態は明らかだ。

「ごめんね」

「謝ることはないよ。君と契約した時点で、こうなることは予想がついていたはずだ」

「それ、私のこと慰めてくれてる？」

「一応、そのつもりだけど」

間桐邸の中では、こうして枯れ果てた姿が良く似合う。似合わない後悔をしているセイバーもまたその仲間。
対して、アサシンのくたびれた白衣が、今は何故か、白く見える。

「君がここにいて出来ることは何も無い。むしろ蟲汁の回復力が落ちる」

「分かってるわよ。でも今はここにいたいの」

これは桜の血忌みで育てただの、これは雁夜の髪で育てただの
臓硯は、一匹ずつ嬉しそうに蟲を手に取り、セイバーに見せてから磨り潰していった。
できれば見たくない光景だったが、それでも綺礼の部屋に居続けたのは、セイバーにも思うところがあったからだろう。

アサシンによれば、蟲汁の治療効果は確かなものだそうで
磨り潰した蟲を飲んだ後、心なしか綺礼の顔色も少し良くなったようだった。

作業が終わったあとは臓硯はすぐにどこかへ消えて行ったが、その場に残る厭な臭いだけはそのままだ。
秘蔵の蟲たちの悪臭なのか、それとも臓硯自体がまとっていた臭いだったか、あるいはその両方か。

セイバーとアサシンの間に会話が続かないのも、この特徴的な残り香のせいかもしれない。

「ねえ、アサシン」

長い沈黙のあと、セイバーは努めて明るく切り出した。

「私、いつも周りを見ずに突っ走ちゃうからさ。アンタ、ときどき私のこと引き留めてよ。
　そういうストッパー役みたいのがいないとダメみたいなの。
　自分ではかなーり抑えてたつもりだったんだけど、マスターはこれだし」

「それは君のマスターの役目だろう。それに、キャスター相手にあれ以上手を抜く余裕はなかったのだろう？」

「それは――そうだけど……」

実際、セイバーは生前の一割ほどの力も出していない。ただ、魔術を否定する能力と、聖杯戦争の相性が悪すぎるのだ。
ただでさえサーヴァント契約から送られる魔翌力を減衰してしまうのに、偽臣の書を介したことで効率が最悪になっている。

生前はマスターに恵まれており、加減を知らずに魔翌力を使っていけた。
それがこの聖杯戦争を直に体験してみて初めて、自分がいかに聖杯戦争の枠からはみ出した存在なのかをようやく少し理解した。

生気の無いマスターを見ているのは、令呪で抵抗を禁じられた上で蟲責めを受けていた時より辛い。
それでも、自分の過ちまで含めて「忘れたくない」と言えるからこそ、彼女は英雄なのだろう。

「君はあれだ。『反省はしている。後悔はしてない』というやつだろう？」

「してるわよ」

「でも誰が引きとめたってどうせ同じことをするんだろう？
　学習能力の無い馬鹿の一つ覚え。一週間後には同じような物語を紡いでるわけだ」

「なによ、人のことみんな分かってるみたいに」

「つまりさ、僕らは今更変われないんだよ。
　僕は道には迷えないし、君も人を巻き込む癖は直せない。英霊とはそういうものだ」

顔を背けて、壁に向かって。返ってくる自分の言葉に耳を傾けるように目を閉じて。
アサシンの言葉を最後に、二人の会話はまた途切れてしまった。

今日はここまで。INAKAが終わったらすぐこっちをやると言ったが、あれは嘘であった。すまぬ。

目に見えるところには、もう傷は残っていない。
サーヴァントの存在自体を破壊する刃による傷も、因果を遡って無かったことにしてしまえば問題無い。

とはいえ使った魔翌力までも回復できない。サーヴァントの中でももっとも魔翌力が重要なキャスターにとって、これは致命的だ。
今の状態では到底戦闘はできないだろうし、状況によっては足手まといになりかねない。

そしてなにより、キャスターは何よりも大切だった相棒を失っている。


何も無かったみたいに「もう大丈夫だから」と嘯くさまからは、キャスターとレイジングハートの関係を感じ取ることはできない。
魔術礼装に情が移るなんて、この世界の魔術師からすれば馬鹿げたことだろう。たとえ人であっても必要なら使い潰すのが魔術師だ。

けれどアーチャーは識っている。親友との別れがどれだけ辛いものか。それが人をいかに狂わせるか。
知っているのに、どう言葉をかければいいのか分からない。

だから、大丈夫だと言われてしまえば頷くしかない。大幅に魔翌力を消費したまま起きて来るキャスターを止めることもできない。
特訓をしようと言われたら素直に従う。けれど、アーチャーの心はここにあらず。成果はまるで見られない。

アーチャーの宝具は強い。強力な一撃にも細かい牽制にも使える。防御は難しく、応用の幅は広い。
スキルにも恵まれている方であるし、基礎ステータスもアーチャーとしては十分だろう。

だが、アーチャーは弱い。
それはもう、キャスターから身体強化を受けただけの凛にさっきから何度も投げられている程度に。


「もうちょっと本気出してくれてもいいのよ？　私、まだ少し余裕あるから」

「一応、これでも真面目にやってるつもりなんですが……」

自分のマスターを傷付けてはならない、という義務感もあるだろう。
アーチャーの弓は、本来の使い方をしてしまえば令呪や魔術回路を抹消しかねない。

だがそれを差し引いても、アーチャーの動きは落第点だ。

対人戦闘の経験が少なすぎる。戦術・戦略を持たず、本能的に暴れるだけの魔女との戦いとはわけが違う。
ほむらと違い、魔法少女同士で戦ったこともほとんど無い。

無限に連なる平行世界を知ってはいても、身体に染みついていない知識は実戦では役に立たず
力を技でねじ伏せる類の武術を前にすれば、こうして何度も投げ飛ばされることになる。


動きにフェイントが足りない。その割に無駄がある。
いくらその鏃が空を切り裂く音が鋭くとも、その前動作に隙があっては意味が無い。
腕に凛の手が絡みつき、片足が自然と浮き上がる。

何が起きているが理解できていても、どうしたらいいのか分からない。
無理矢理魔力をまき散らす。素早く羽ばたき凛ごと地面に落ちる。どちらもマスターを思えば却下。

結果、衛宮邸の道場に、また仰向けに転がることのなる。

「ねえキャスター。これ、もっと別のやり方をした方がよくないかしら？
　たとえば、私やアーチャーがキャスターの魔術を学ぶとか、そういう形の方が効果的だと思うの」

「うーん。それもやるつもりだけど、アーチャーちゃんにはこれでいいんじゃないかな。
　ちょっとずつだけど成長の兆はあると思うの。一旦休憩にして、また後で再開しよ」

今日はここまで。自分の文章読み返す作業が辛い。

指南の心得スキルが神授の知恵の下位互換と化している現状。
やはり二次創作はもっと早く書き切らなくてはならなかった。

キャスターがお茶を用意する間に、凛が天井裏に隠されたお菓子を持ってくる。
妙に手際が良いところを見るに、以前から気付いていたようだ。
虎の隠し場所をいくつか回ってどれにするか思案していたあたり、凛とタイガーは思考回路が近いのかもしれない。

お皿に並べられたのは、少し値の張りそうなお菓子の詰め合わせ。袋には「今流行りのバビロニア風」だと書いてあった。
飴で薄くコーティングされた焼き菓子の表面がきらきらと輝いている。

そのキャンディコートと同じくらい目を輝かせながら、何故かアーチャーはなかなか手を伸ばそうとしない。

「やっぱりお茶とは合わなかったかな。和菓子もあったんだけど、ついこっちを選んじゃって」

「あ、いえ。そういうことじゃなくて。キャスターさんの淹れてくれたお茶は美味しいですよ」

もともと気分転換のための催しだ。
各人、現在の状況に思うところはあるだろうが、あえて今それを口に出すこともない。
だからアーチャーに振る舞いには何も言わず、代わりにクッキーに手を伸ばす。

チョコ味の生地に細かく刻んだドライフルーツが嵌め込まれ、１つ１つ異なる星座を描いている。
手の込んだクッキーが一枚ずつ減っていき、やがてぴくりとアーチャーが動き出そうとして、止まる。

「なに我慢してるのよ。英霊にダイエットもなにもあったものじゃないでしょうに」

「その、家主に無断で食べてしまうのは良くないというか。
　凛さんにやめろって言ってるわけじゃなくて、ただ私の気持ちの問題で……」

「ああ、そういうこと。アーチャーちゃんは良い子だね。
でも大丈夫。凛ちゃんもアーチャーちゃんに似て律儀な子だからね。ちゃんとお返しはするつもりだと思う。そうでしょ？」

「勿論。藤村先生の食べ物の恨みは怖そうだから、１ランク上の菓子折りが必要ね」

「さ、食べて食べて。甘い物は元気の源。
　恨めしそうに見てるより、食べて笑ってもらう方がお菓子も喜ぶよ。私が言うんだから間違いないって」

ようやく一枚クッキーを口に入れ、何か大事な儀式にでも望むように目を瞑る。
神妙な顔で、時間をかけて一枚を味わう。

食べ終わってお茶を口にしたところでキャスターが切り出す。

「はい。このお菓子を食べてもいい理由を述べよっ。
たとえば、賞味期限が一週間後に迫ってる、とかね。これも訓練だと思って、真面目に考えてみて」

「えーと。でもですね。藤村先生はしっかり賞味期限を把握していて
最近組の人にお紅茶をたかっていたりしてですね。その、結構楽しみにしていて……」

「そうそれ。今自然と蔵知の司書を使ってたでしょ。それを戦闘に活かせないかなって思ってるの。
　相手の動きを読むこと。近接戦でアーチャーちゃんに一番合ってるスタイルは『見切り』だと思うの」

先程の組み手の時点から、凛の技を理解することはできていた。
ただ、技をかけられてからでは、相手を傷つけるような形での脱出しか思いつかなかっただけ。
受け身は的確だった。だからこそ、安心してぽんぽんと投げていけた。

同じ英霊相手では、やはり攻撃をくらってから対処を考えるのでは間に合わないだろう。
だが、あと１テンポ早く先を読めれば。膨大な知識から必要な情報だけを素早く選び取っていけたなら――。

今の力を得てからの戦闘経験が欠けている不完全なアーチャーと、
生前から教導を生業としてきたキャスターの組合せには、可能性がある。



「ちなみに、キャスターが考えた答えはどうなの？　私は賞味期限くらいしか見てなかったけど」

「にゃはは。私も、緑茶派なお家だから洋菓子は出すタイミングが無かったんだろうな、ってくらいしか考えてなくて。
藤村先生には悪いことしちゃったねー……。同じもの、どこで売ってるのかな」

ここまでー　ここまでの流れを読み返さないまま書いてるから設定間違ってないか不安で仕方ない
でも頭の中で筋が出来ちゃってる時よりも、勢いで書いてく方が楽しい

早朝の交戦などという非常識な行動を察知できたのは、彼らだからこそ。
勝つこと以外は考えまいと自分に言って聞かせているのに、偵察に出ればいつも同じ場所を気にせずにはいらない。
そんな弱さが、今回だけは彼らに良い方に働いていた。

ほむらか切嗣か、どちらか片方でも開き直っていれば、もっと早く気付けただろう。
戦闘に介入してセイバーを倒すことができたかもしれない。アーチャーの――ほむらの弓にはそれだけの力がある。
そうなればランサーを奪う機会は減らすことになりかねないが、それでも早く察知できればそれだけ選択肢が増える。

だが実際は、戦闘の結果を確認しただけ。
固有時操作をフルに使えば決着までに戦場に間に合う可能性もあったが、それより確実に結果を見ることを優先した。
あるいは、そこで冷静に動く自信が無かったのかもしれない。衛宮邸で戦闘が起きているとほむらが伝えただけで
切嗣は僅かに、そして確かに目の色を変えた。それは、戦場に飛来するアーチャーを見たときのほむらも同じだ。

中途半端に情を残すのがどれほど危険なことか、二人とも分かっている。
冷徹に自分を殺すか、いっそ狂ってしまうか――いや、そもそも前者は狂い方に一例にすぎない。

あの頃の自分はもっと研ぎ澄まされていた、と。昔を思う瞳の色は、二人ともよく似ている。
互いの眼を覗きあうだけで反省会が終わるのは残酷なことで、彼らにとっては便利なことだ。
お互いを模範に。お互いを反面教師に。無益な言葉は胸に秘めて、次にやるべきことを考える。

「こうなると、もう今夜の再戦は望めないでしょうね」

「だろうな。この状況ではランサーも満足な戦いはできないだろう」

「逆にもし今夜出てきたなら、間桐臓硯の罠が濃厚。相手をするわけにはいかなくなる。
　間桐陣営が出陣を許可しようとしまいと、ランサーが望む真っ向勝負はできないわね」

整然とした室内は、思考をまとめるのに向いていると思う。個性が薄く、清潔で、どこか非人間的な空間。
それは、ほむらが改めて戦いの覚悟を決めたあの病室に近いものがある。
だから、まだ詳しいことを知らない言峰綺礼という人間を、暁美ほむらは好ましく思う。

この教会は、自分を押し殺すのに適している。
教会とはそういう場所であった方がいい。そこを履き違えると、悲劇が始まる。

暗い過去が心を抉る。冷たい刃先に安心する。感傷で感情を削ぎ落とし、会話を進めていく。


「キャスターの宝具が破壊され、セイバーも魔力を消耗している状態は僕らにとって好都合だ。
　こちらから攻め込むのも１つの手として考えていい。敵地で戦うのは不利だが、人目を気にしないなら
　君の完全なる半月輪廻で工房を解体してから攻め込むこともできる」

「中立でない監督役に、監督役としての権限は認められない。もはや聖杯戦争は無法状態になりつつある。
　たとえ神秘の秘匿に反することになっても、それでサーヴァントの奪取ができるなら悩む必要は無いわね。問題は成功率だけ」

「三騎が控えている以上、早い段階で敵マスターを殺すか、契約を崩すかしないとならない。
　怖いのは残る陣営に背後を突かれる展開。負傷したキャスターはすぐには動かないだろうが、ライダーの動きが読めない」

「そして、それをまとめて解決できるのが衛宮士郎との――待って、この気配」

形を持った絶望、舞台装置の魔女に匹敵する存在感。
魂の厚みにおいて、ただの人間とは隔絶した力を持つ究極の個。

知っている。その相手とは戦い合ったばかりだ。
英霊の魂の揺らぎは、魔女のそれほどはっきりと感じ取れるわけではないが、それでも確信できる。

「――どうして、今ランサーが動くの！？」

「っ！　遠距離主体の僕たちでは室内戦は不利だが、やるしかない」

「英霊相手だと、あなたは足手まといになりかねないわ。私がひきつけて外に出るから、前回のような援護を――」

「この場合、まだ宝具が再生されきっていない君の方が問題だ。後ろで援護していてくれ」

確かに、まだ完全なる半月輪廻は、先日の戦いで壊れた幻想を使った反動から回復し切れていない。
自動再生は未だ進行中。使えないことはないが、チャージ速度を始めとした問題が残っている。

「僕だってこの十年、ただ漫然と過ごしてきたわけじゃない。そう簡単にやられはしないさ」

今日はここまでー。以前に思い描いていた展開からずらしていってるけど、
前もって書いていた兄貴の輝かしい勝利に繋がることはあるのだろうか。

弓は閉所に向かない。狭い室内では、前衛が邪魔となって使い辛いのだ。
槍使いもまた閉所では不利なものだが――そんな常識はランサーには通用しないだろう。
かといって開けた場所ではランサーの早さに対応しきれそうにない。

前回の戦場、海に突き出した埠頭はまさに理想的な地形であった。

代わりに切嗣とほむらが選んだのは、教会内の中庭。
正方形の戦場は見通しが利き、外周の柱や樹木を利用してほむらが隠れることもできる。

切嗣が手にするのは、前回の狙撃銃ではなく、二丁の拳銃。
コルト・ガバメントの改造品を２つ。セーフティグリップを外して片手でも撃ち易くしたもの。

重い銃を構え続けるのには体力を使う。
一度構えを取ったあとは、両手を下してランサーを待つ。

これからの戦い、少しでも体力を温存し、全てを使い果たすつもりで臨まなければならない。
ランサーの性格からすれば、構えすら取っていない相手に襲い掛かることはないだろう。
ランサーのスピードからすれば、とうに戦闘が始まっていてもおかしくないのに
わざわざ切嗣とほむらに準備する時間を与えてくれていることが、その証拠だ。

穂先が床をなぞる音が聞こえる。足音はゆっくりと、着実に。
緊張が高まる。時間が濃くなる。空気のわずかな振動が肌越しに伝わる。
風を視る感覚――いや、これは狙撃用の集中だ。これではない。

息を吸う。息を吐く。肺の意識から始め、身体の内側をイメージする。
全身を武器に。寸分の狂いも無く動かせ。目指すのは、十年前の戦を勝ち抜いた相棒の二刀。

「よう。この機会を逃すと、しばらく戦えそうに無かったんでな。
　約束よりちいと早いが、ここで決着とさせてもらうぜ」

「魔力は大丈夫か？　二重使役に加えて、セイバーの戦闘後だ。
　言峰綺礼の魔力では、連戦には支障が出るはずだ」

「それがいいんじゃねえか。今は爺さんも、アイツの看病で手一杯だ。今なら邪魔が入らずに済む」

赤い魔槍には白い筋が点在している。壊れた幻想による攻撃を受けたダメージ。
細かな亀裂が残っている状態では、その能力を解放し切ることはできないだろう。
ランサー自身のステータスも魔力不足で落ちている状態だ。

だというのに、その迫力はまったく衰えることなく、むしろ一段と強い覇気を感じさせる。

「俺のことなら心配すんな。腹に穴でも開いてた方が、気合いが入るってもんだ。
　さあ、始めようぜ。あんまり長引くと、また茶々を入れられるかもしれない」

「ああ。僕も年なのでね。短期決戦といかせてもらおう。　Time alter ――　」

今日はここまでー。
現状まとめ、ありがたい。気が効くな。これには余も応えなければなるまい。

先に動いたのは切嗣。だが、ランサーの槍は詠唱より数段早い。
一歩にて距離を詰め、その足が地に着く前に魔槍は切嗣に迫る。

回避は間に合わない。たとえ二倍加速があっても避けきれないほど、その槍術は冴えわたっている。

だから避けない。二発の弾丸を同時に発射する。体勢を整えないどころか、腕を振りかぶりながらの発砲。
反動は全身を揺らし、痛覚が脳を染め上げる。意識すら曖昧になるほどの衝撃の中、両腕は想定通りに踊る。

「―― double accel」

銃身がぶち当たり、槍を弾き返した。その事実を確認して、ようやく呪文詠唱が終わる。

これが衛宮切嗣の編み出した戦い方。
打撃に用いれば銃にダメージが残るし、反動を受け止めなけれど内部機構が狂っていく。
固有時制御による負荷と、反動による肉体損傷が重なり合い、あっと言う間に体力が削れていく。

だが、この骨董品染みた拳銃も、老い衰えた肉体も、マガジン１つ分の戦闘時間なら耐えられる。
７+１発の装弾数。極短い時間においてのみ、衛宮切嗣の瞬間速度は、最速のクラスであるランサーに追い付く。

「瞬間速だけなら嬢ちゃんより上か」

切嗣に答える余裕は無く、そしてランサーも余裕を与える気は無い。
その戦闘法が肉体と武器に多大な負担を強いていることを理解した上で、ランサーは相手の望む短期決戦に乗る。

「ただの囮ってわけじゃ」

槍を握る手を緩めれば、弾かれたばかりの槍が手の中を滑っていく。
穂先の近くで握り直したとき、そこにはまだ弾き返された際の力が残っている。柄の部分が勢いよく回る。
その場で一回転した槍が再び襲い掛かるとき、まだ切嗣は初撃を弾いた際の体勢のままだ。

「ねぇみてえだな！」

ほむらの援護が無ければ死んでいた。どれだけ瞬間速度で肉薄しても、地力が違いすぎる。
ランサーに対する光の矢はあっさりと回避されたものの、切嗣に対する攻撃が止まった。

しかし、ある程度の魔力充填を済ませ、陰に潜み、相手の攻撃の瞬間に合わせた一撃ですらこの結果。
始めからほむらの位置が分かっていたのか、それとも攻撃を視認してから避けたのか。
どちらにせよ、矢避けの加護が二人にとって絶望的な脅威であることを再認識させられる。

ランサーが改めて槍を構え直す間、切嗣は動かない。

銀の弾丸には出来る限りの魔力を込めてあるが、それでもサーヴァント相手では殺傷力はほとんど０に等しい。
フルメタル弾は貫通力に優れる分、相手に当てた際に動きを止める力は弱い。
拳銃で殴ったところで、近代兵器による殴打がサーヴァントに通じるはずも無し。

つまり、今の切嗣にランサーを倒す手段は無い。
起源弾なら可能性もあるが、銃を捨てて懐からコンテンダーを取り出す時間は無いだろう。

「今の連携は良かったが、あくまで本命はそっちの弓か」

「……っ！」

弾丸には限りがある。リロードする暇はおそらく無いし、銃も身体もそこまで持つか分からない。
無駄玉は使えない。狙うのは、ランサーの攻撃を捌き、なんとしてでも隙を作って完全なる半月輪廻を決めること。

だが数秒待ちに徹しただけで、作戦は見破られてしまう。

今日はここまでー　最近、募集鯖聖杯でいろいろ採用されてて嬉しい

乙ー

最近のは覗いてないな
他の作品から鯖募集してるのある？

次の一撃は突き。点の攻撃は範囲が狭く、それゆえに対処が難しい。
このまま真っ直ぐ来るか、それとも直前で動きに捻りが加わってくるのか。
上下左右に、不動の択。いや、ランサーであれば予想もしない動きを見せてくるかもしれない。

二丁の拳銃では、その全ての選択肢に対応することは不可能。
そして二倍の時間を得ていても、槍の動きを見極めてから動いたのでは間に合わない。

引き鉄に命が懸かっている実感。そんなことは、いつだって当たり前だったはずなのに。
セーフティを外して反応を良くしたはずの引き鉄が、どうしてこれほど重いのか。

「迷うな」

ぎりぎりの一瞬でのランサーの言葉。反射的に指が動いた。

撃ったのは右の一発だけ。
身体に奔る衝撃は、銃の反動なのか槍撃のそれなのか、すぐには区別が付かない。

骨がバラバラに飛んでいくような錯覚の中、それでも赤い魔槍だけがはっきりと見える。
自分が今どういう体勢を取っているのかすら理解できないまま、今度は左の拳銃を撃つ。

一拍遅れて、耳の中で音が爆ぜる。発砲音と打撃音を個別に認識することは適わない。
視界はぐらつく。いや、実際に身体が倒れ込みそうになる。だがその時には既に次の一撃が迫っている。

できれば二丁同時にぶつけて防御したいが、それでは次の一撃に対して反応できない。
一撃に対して一発。このペースで防御していって、はじめてランサーの攻撃を捌き切れる。
それも、ほむらの援護射撃を勘定に入れてようやく防御し切れるだけだ。

時間の濃厚さは二倍どころの話ではない。
心臓の鼓動が遅くて、既に止まってしまったのではないかと心配になるほど。

「その調子だ。このままもっと上げていっていいぜ！」

刹那ごとの運試し。選ぶ時間は短すぎ、答え合わせは長過ぎる。
四発、五発、六発目。耳は麻痺して使えない。手首の痛みは感じない。

ここまでほむらの矢は無し。一度壊れた影響がそれほど大きいのだろうか。
切嗣に分かるのは、あと数回で、この打ち合いが限界を迎えるということだけだ。

一撃ごとのインターバルは、明らかにランサーの方が短い。少しずつ切嗣の応手が遅れていく。
あと二回。あと一回。大きく振りかぶる攻撃は、受けた直後に手のうちで回転し、即座に石突が襲い掛かる二段攻撃。

最初に見たその攻撃に対して、自分がやるべき動きは分かっている。
分かっているのに、身体が追い付かない。

今日はここまでー。

>>807
募集式の聖杯戦争スレでは、ほとんどがオリジナル鯖(史実・神話)
たぶん版権英霊は余が投げたものだけだと思うぞ。

あと、あまり最近のところではないが、
ここに近い感じでサーヴァントを安価で決めるスレがある。

ブレた写真のような視界で、何故か槍だけくっきり見える。
コマ送りの時間は、十年前の五倍加速よりも遅く感じた。


銀を主とする合金を弾丸に使っているのは、ただ銀が魔力を込めるのに適していたから。
汚染された聖杯から召喚される反英雄の中には、銀弾が有効な相手も少なくないと予想していたが
それは、この戦いにおいては意味を成してはいない。

フルメタルジャケットの弾丸が跳ねやすいといっても、銀を使った弾は通常のそれより柔らかい。
ランサーとの戦闘は開けた場所を想定していたし、何より切嗣自身何が起こったか分かっていない。
このチャンスがありえない理由は数あれど、逆は１つも見つからない。

だから、柱に当たって跳ねた弾が、背後からランサーの霊核を狙う軌道にあったのは偶然であり
――言い方を変えれば、死力を尽くして手繰り寄せた奇跡だった。

既に切嗣の命を貫く直前まで達していた槍が、次の一刹那に翻っている。

銃弾が往復する合間の打ち合いは、当に音速を超えている。
ならば、それよりも短い刹那に瞬く槍は、人知を超えていた。

ランサーの槍が神技であったからこそ、背後からの弾丸は弾かれた。

並の相手なら――いや、並の英霊であったなら、霊核への軽傷は避けられず
そして、その一撃と引き換えに切嗣は死んでいたはずだった。

弾倉は七発分。初めから薬室に一発入れた拳銃を二丁で、計１６発。
その半数以上は既に使い果たした。肉体の方は、残りを使い切るまで持ちそうにない。

状況は分からなくとも、その事実だけで十分。
これまで防戦に徹していた切嗣が、自分から仕掛ける。

発砲。左腕を大きく振る。相手の視界を隠すことが目的。
後ろに一歩、上体を反らして腕を避けるのと、反撃の槍が突きだされるのはほぼ同時。

右の一発で槍を打ち払えば、そこで切嗣は手詰まりになる。
動きのあとの硬直。瞬間と瞬間のインターバルで、切嗣は動けない。

「うぇ゛ッ」

反動が身体を駆け巡る。舌を噛み千切ることも恐れずに「撃て」と叫んだつもりが
それすらまともな言葉にならず、口を切って鉄の味がした。

輝く光は見えていない。発射の瞬間を引き延ばされて空中に待機する４本の存在は知らない。
ただ、その矢が自分ごとランサーを貫くことを、祈っている。

「Reverse alter」

停滞から加速への転換。自身と矢に四倍の加速。
術式の始動がブレるのは逆に好都合。攻撃に時間差が生まれる。

「square accel！」

矢の一歩後ろから、ほむら自身も走り出す。

目的はランサーの撃破では無く、契約の打ち消し。一撃で倒すわけにはいかないし、その威力も無い。
ここで一撃入れ、動きを止め、さらに正確にサーヴァント契約を切り裂く必要がある。

目標を確認しようにも、ちょうど切嗣自身が壁になっている状態。
ほむらが隠れるための配置だったが、ランサーには一瞬で見抜かれてしまっていた。

それでも僅かな隙も見逃さないために、真っ直ぐ前を見て――。

今日はここまでー。

聖杯戦争スレ増えてた。
聖杯、サーヴァント、Fateあたりで板内検索すれば全部ひっかかると思っていたが
マスターで検索しないと見つからないものもあるのだな。

家ぶっ壊してるのにお茶菓子勝手に食べて悪いなあもないなと思いました　まる

切嗣はできる限りのことをした。
槍の打ち払った直後、切嗣のものに比べれば一瞬に過ぎずとも、そこには確かに一瞬の間ができる。
だから、槍を切嗣がひきつけたその瞬間には、ほむらにとっての突破口ができていると

――そう誤解してしまっていた。

英雄クーフーリンといえば、光の剣に鮭跳びの法、神の盾などの数々の逸話を持つ大英雄。
その戦闘術は、槍をもって完成する。この事実は、ランサーが槍無くしては戦えないことを意味しているのではない。

「俺が槍に魔力を込め続けてた理由を――ッ！」

拳銃で弾き上げた槍に引っ張られるように、ランサーの重心が高くなる。
眼前でランサーが大きくなったよう。体が浮き上がる。足が伸びる。

それはただの膝蹴りにすぎない。この基本動作の一つが、完全に想像の範囲外だった。

「教えてやるよ！！」

傷ついてなお存在感を漲らせる槍先。曖昧な意識の中ではっきりと見えた軌道。
切嗣に向けるのは槍撃に絞り、意識を刃だけに集中させていく。
そして今、切嗣は思考の外からの攻撃に反応するどころか、それを理解することさえできずに吹っ飛んでいく。

この仕込みは無駄だったかもしれない。
何も言わず、ただ最速の攻撃を繰り出し続けていれば、きっと戦いはそれだけで終わっていた。

英霊の人間の壁を越えて、全力で戦うべき相手だと思ったからなのか。
それとも、ある種の教導であり、相手の全力に付き合ってあげていたのか。
――ともかく、それは全力の死合であったことだけは確かだ。

ほむらがまっすぐ前を見据えていたのは幸運だった。

切嗣ごとランサーを射抜くプランは通らない。
並走する矢に手を伸ばし、その一本を掴んで跳ぶ。

自身に向かってふっとばされてくる切嗣とすれ違う。
意識もろとも固有時制御が解けだした切嗣に対し、四倍の時を翔けるほむらは
容赦なく切嗣の体を踏み台にして空中で二段階目の加速をつけてランサーに肉薄する。

とうに限界を超えている体に対するトドメ。粉砕音が骨の叫びなら、歯車が軋むような音は押し潰される命の悲鳴。
空中に残された矢が切嗣の肉を裂き、術式を解き、そして衝突によって軌道がずれ、ランサーをわずかに外れていく。

拳銃を手放したのは衝撃に耐えられなかったから。その手が懐に伸びたのは、訓練と習慣の賜物というより、執念によるものだろう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｺﾝﾃﾝﾀﾞｰ
血の生温かすら感じ取れないほど希薄な感覚で、愛銃の冷たさと、猛る槍の美しさだけを感じ取った。