モバP「賢き貧者の一灯」 (65)

モバマスSSです。

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卯月「おはようございまーす」

ちひろ「あ、おはよう卯月ちゃん」

卯月「はい。おはようございます。あれ?」キョロキョロ

ちひろ「プロデューサーさんなら営業に行きましたよ」

卯月「あ、そうなんですか」

杏「うん。そーだよ。杏を事務所に放り投げてどっか行ったよ」

卯月「あ、杏ちゃんおはよー。飴あげようか」

杏「お、ありがと。むむ…これはあんず味?」

卯月「そうだよっ!好きかなって」

杏「んー嫌いじゃないかな」

凛「あ、おはよう卯月」

卯月「あ、凛ちゃんおはよー!」

凛「おはよ。これからレッスン?」

卯月「うんっ。凛ちゃんは?」

凛「私も。ついでに言うとここにいる杏も」

杏「いや、杏には仮眠室で寝るという仕事があるんだけど」

凛「プロデューサーに言いつけるよ?」

杏「う…。うーん、言いつけられても特に困らないかも」

卯月「そ、そんなこと言わずに、ね?」

杏「分かってるって行くよ。でも、まだ時間には早いとは思うけど」

凛「そうだね。ちょっと早く着き過ぎたかも」

卯月「それじゃ、何かお話でもしようよ」

杏「…島村卯月のすべらない話。わー」パチパチ

卯月「え、わ、私ですか。え、えーと…」

杏「大丈夫本気にしないで。嘘だから」

卯月「よ、よかったぁー。それじゃ、凛ちゃんお願い!」

凛「私は特に話すネタがないんだけど…」

卯月「あ、そうだ。それじゃあさ、Pさんと初めて会った時の話聞かせてよ」

凛「初めて…?スカウトされた時の話?」

卯月「うんうん」

凛「別に。特に面白いことはなかったけど。ただ、声掛けられてそのまま…」

杏「面白いかどうかは杏たちが判断するよ」

卯月「お、元気出て来たね杏ちゃん」

杏「元気と言うかなんというかね…」

杏(話を長引かせれば、レッスンの時間減らせないかなぁ…)

凛「ま、まぁ、そう言うなら…」

車内

P「二人共お疲れ様」

幸子「ふふーん。今日もボクはバッチリでしたね」

周子「あたしはいつも通りかな」

P「その割には得意げな顔だな」

周子「っ!、こ、これは幸子ちゃんの癖がうつっただけだよ」

幸子「そこはかとなく傷つきますね…」

周子「大丈夫大丈夫。幸子ちゃんはカワイイから」

幸子「そ、そうですかね…」ポリポリ

幸子「……♪」

周子「なにしてんの?」

幸子「ちょっと、スケジュールの確認を」

周子「ふーん。大変そうだね。ってかこれ万年筆かなんかで書いたの?」

幸子「そうですよっ!よく分かりましたね」

周子「いや、単純にボールペンとかサインペンじゃない感じの筆跡だから、万年筆以外思い浮かばなくてさ」

幸子「そうですか。そうなんですよ、万音筆で書いてみたんです。今は持ってないですけどね」

周子「そら、インクもないだろうしね」

P「おー、使ってるのか」

幸子「はいっ、勿論ですとも」

周子「ん?Pさんがあげたの?」

P「結構前にな。買ってやったんだ」

幸子「そうなんですよ」

周子「ふーん。あたしには?」

P「お前は使わないだろ」

周子「まぁねー」

周子「ってかさ」

P「なんだ?」

周子「結構色んな子にそういうことしてるの?」

P「そんなことはないぞ」

幸子「本当ですか?」

P「幸子までどうした?」

幸子「いや、ボクは別に…」

周子「きっと、幸子ちゃんは『ボク以外の人も何か買って貰ってたら嫉妬しちゃいますよっ!』って言いたいんだと思うよ」

幸子「なっ、何をいきなり…!」カァァ

P「ははは。そうなのか幸子?」

幸子「え、いや、その、何と言いますか…別にうーん」

P「あ、思い出した」

周子「お、誰かに買った記憶があったみたいだね」

幸子「…え?」

P「あれはどうなのかなぁ、んー」

周子「まぁまぁ、まだまだ事務所までは長いから、どうぞ思いっきり語っちゃいなよPさん」

幸子(誰かにあげたってことはボクが入る前ですから…誰でしょう?)

P「まぁ、大分前のことだから曖昧だけど許してくれよ?」



P「――おはようございます」

ちひろ「あ、おはようございます」

P「…連絡は来ましたか?」

ちひろ「……いえ」

P「そうですか」

P(これで、何人目かなぁ…)

ちひろ「そ、そんなにしょげないで下さい!」

P「そうは言ってもですね」

ちひろ「ほら、スタドリあげますから頑張っていきましょ!」

P「そうですね。ありがとうございます」

P「それじゃ行ってきます」

ちひろ「はーい。頑張って下さい」

ちひろ「…今度オーディションの日時調べておこうっと…」

ちひろ(尤もこういうオーディションは強いプロダクションが幅を利かせてて、いい子は取って行っちゃうから正直期待は出来ないんですよねぇ…)

P「スタドリの勢いで外に飛び出してきてしまったがどうしよう…」

P「妥協をする気はないって考えが問題なのかなぁ」

P「うーん。頑張ろう。千川さんも応援してくれてるんだし」

P「あ、すみません」

?「…なに?」

P「あの、私、プロデューサーをやらせて頂いているPという者ですが…」

?「…今日は、そういうの流行ってるの?」

P「はい?」

?「さっきからプロデューサーやってる誰々ですって言って名刺くれる人が多いんだけどさ」

P「あ、そうなんですか」

?「うん。見る? どうせいらないから」パラッ

P(それなりに、俺の所よりも大きい事務所の名刺だ…)

?「どうしたの…?」

P「いや、別になんでもないです」

?「反応的に自分のトコより大きいのがあったんだ。図星?」

P「……はい」

?「まぁ、そういうこともあると思うよ。それじゃ」

P「あ、待って下さい」

?「なんですか?」

P「せめて名刺だけでも貰ってくれませんか?」

?「貰うだけなら。それじゃ」

P「……失敗したなこりゃ」

P(まぁ、アイドルに興味なんてなさそうだったし、しょうがないか)

P「…さて、他にビビっと来る子を探さなきゃな」

P(そう簡単にいるとは思えないけど)

P「…結局いなかったかぁ」

P(ただ、ちひろさんに言い辛い…)

P「そうだ。何か手土産でも買って場を乗り切ろう」

P(なんだろう…花でも買っていけばいいのかな)

P「でも、少し気障ったらしいか?」

P「いや、四の五の言ってられないな」

P「すみませーん」

店員「あ、はい。どうされました?」

P「いや、花を買いにきたんですけど、何がいいか分からなくてですね…」

店員「どのような花がご希望でしょうか?」

P「…そうですねぇ。女の人が喜びそうな感じですかね」

店員「あら、デートですか?」

P「い、いえ、そういうわけじゃなくてですね…同僚の気持ちを和ませたいと言うか…」

店員「あぁ、なるほどそれじゃ、薔薇って感じじゃないですね」

P「薔薇なんて渡そうものなら私がその薔薇で殴られますよ」

店員「そうですか。…それじゃ、千円程度で見繕ってみますね」

P「お願いします」

ワンワンッ

P「…ん?」

店員「あら、ハナコ。ダメよお客さんなんだから。すみません」

P「あ、いえ。別に平気ですよ」

P「お、どうしたハナコ」ナデナデ

ハナコ「ワンワンッ!」

P「お、よーしよし」

?「お母さん、ハナコが吠えてるけどどうしたの…?」

店員「あ、凛。いやね、このお客さんにいきなり近づいていってね」

凛「お客さん来てたんだ」

P「おー、よしよし。ハナコは可愛いなぁ」

凛「……あ」

P「よしよし。…あ、どうも」

凛母「あら、知り合い?」

凛「…知り合いってほど知らないかな」

凛母「そうなの。あ、すみません。もう少し待って頂いていいですか?」

P「あ、はい。ごゆっくり。その間ハナコと遊んでますんで」

ハナコ「ワンワンッ!」ブンブン

P「お、おっ、元気だなぁ」

凛「……動物好きなんですか?」

P「はい?あぁ、そうですね。好きですよ勿論。それに向こうからも好かれるみたいで」

凛「ふぅん」

P「なんででしょうね?」

凛「さぁ?知らないけど」

P「ですよね。失礼しました。あ、もしかして散歩に行かれるつもりでしたか?」

凛「行こうと思ったけど。ハナコも楽しそうにしてるし、また後にするよ」

P「…すみません」

凛「謝らなくていいよ別に」

P「はい。えーと…凛さん?」

凛「なにそれ?あぁ、お母さんが名前で呼んだとこしか聞いてないからか。私は渋谷凛って名前だから。ま、もう関係ないだろうけどね」

今更ですが、古典シリーズです。

凛母「あ、出来ましたよ。これでどうでしょうか?」

P「…随分と豪華なように見えるんですが、千円でいいんですか?」

凛母「えぇ、ちょっとだけサービスしときます。ハナコがご迷惑を掛けてしまったみたいなんで」

P「迷惑だなんて。こちらとしても楽しかったです」

凛母「そう言って頂けると幸いです。それじゃ、ありがとうございました」

P「こちらこそありがとうございます。じゃあなハナコ」ナデナデ

ハナコ「ワンワンっ!」

P「これで、ちひろさん許してくれるかな…」

P(花を買って許しを請う暇があったらアイドルをスカウトしてきてくださいって怒られるかもしれない…)

P「そうなったらそうなっただ」

ワンワンッ!

P「ん?」

凛「……こんばんは」

P「こんばんは」

凛「たまたま散歩する道が一緒だっただけですから」

P「そうですか。お、ハナコまた会ったなー」

ハナコ「ワンワンッ!」

凛「それじゃ、これで」

P「あ、夜道は…」

凛「心配しないで下さい。慣れてるんで」

P「そうですか」

P(知り合いでもないし、これ以上は野暮だな)

P「それじゃ、お気を付けて」

凛「…さよなら」

凛「…しつこいんですけど」

P「すみません。私もこっちの方面なんです」

凛「このまま行くと公園なんだけど」

P「公園を突っ切ると近道になるんですよ」

凛「なら仕方ないかな。こら、ハナコさっきから向こうに行こうとしない」

凛「本当に動物に懐かれるんですね」

P「そうですね…」

凛「いっそ動物モデルの事務所でも作ったらどう?」

P「次の仕事先の候補に入れておきたいと思います…」

凛「冗談のつもりだったんだけど、そんなに貧乏なの?」

P「お金はそこまで余裕があるわけでは…」

凛「私に話しかけてきた他の事務所は大違いだね」

P「…でしょうね」

凛「あ、別に、嫌味を言ったわけじゃ…」

P「いえ、事実ですから。あ、私はここで」

凛「そうですか。さよなら。あ、一ついい?」

P「はい?」

凛「もう一回名刺貰っていい?」

P「えぇ、どうぞ」

ポツポツ

P「あ、雨ですかね?」

凛「花が傷むから早く帰った方がいいよ」

P「そうですね。あ、これ」ヒョイ

凛「なんですか?」

P「傘です。使って下さいそれじゃ」

凛「あ…」

凛(行っちゃった…)

P「とりあえず、傘差してと。二個持ってて良かった」

P「さてと…待つ事務所に帰るか…」

事務所

P「ただいま帰りました」

ちひろ「あ、お帰りなさい。雨平気でしたか?」

P「はい。平気です。それより…ちひろさんっ!」

ちひろ「ひゃい!」ビクッ

P「すみませんでしたっ!」

ちひろ「は、はぁ…?」

P「今日もアイドルをスカウト出来なかったような気がします。これは俺の気持ちです」

ちひろ「そうなんですか。それはそれは…。って気持ちですか?」

P「はい。花屋さんで見繕って貰いました」

ちひろ「これを私に?」

P「はい」

ちひろ「…その、なんて言うかありがとうございます」カァァ

P(あれ?反応が予想してたのと違う)

ちひろ「き、綺麗なお花ですね。飾ってもいいですかねプロデューサーさん」

P「任せますよ」

ちひろ「あ、でも、私物置いてたら締まらないんで自宅に飾ることにしますねっ」

ちひろ「あ、お茶淹れて来ますんでデスクにでも座ってて下さいな」

P「あ、ありがとうございます」

P(怒られなくて済んだみたいだ…)

ちひろ「理由が釈然としませんけど、花なんて貰ったの初めてだから嬉しいなぁ…えへへ」

ちひろ(頬が緩んでないか確認してと…♪)

花屋

凛母「あら、凛、傘持っていってたの?」

凛「貰った」

凛母「貰った?」

凛「うん。さっきまでここにいた人が雨降ってきたからって」

凛母「随分親切な人もいるものなのね」

凛「そうだね。悪い人じゃなさそう」

凛「ほら、ハナコ。足拭いて」

ハナコ「ワンワンッ!」

凛(でも、明日返しに行こう。貸し借り作りたくないし)

事務所

ちひろ「プロデューサーさんそちらはどうですか?」

P「どうですか?って仕事がないですからね。いつアイドルが入ってきてもいいように
トレーナーの方にアポはいつでも取れるようになってます」

ちひろ「あとはアイドルだけなんですね」

P「…すみません」

ちひろ「べ、別にプロデューサーさんを責めてるわけじゃないですって」

P「ありがとうございます」

ちひろ「それじゃ、帰りましょうか」

P「そうですね」

翌日

P「さて、気を取り直して今日も頑張ろうか」

?「随分来るの早いんだね」

P「ん?」

凛「おはよ。これ。ありがと。それじゃ」

P「わざわざこんな早くに来てくれるなんて」

凛「ただ、散歩に来ただけだけど」

ハナコ「ワンワンッ!」

P「お、おはよう。今日も元気だなー」ナデナデ

凛「わざわざ、夜なのに遠回りして事務所に帰る人には敵わないけどね」

P「はい?」

凛「この名刺に書かれてた住所、どう調べてもあの公園より前の道で曲がるんだけど」

P「いやぁ、そうでしたっけ」

凛「ま。別にいいけど。それじゃ。ハナコ行くよ」

P「わざわざ、朝からありがとうございました」

凛「……あ、そうだ」クルッ

P「何か忘れ物ですか?」

凛「違う違う。なんで私に声掛けたの?」

P「ビビッと来たからです」

凛「…?」

P「こう見た瞬間にこの子ならいけると確信したんですよ。それに、ステージで輝く姿が見えたんです」

凛「ふーん。そうなんだ」

P「伝わり辛くてすみません」

凛「別にいいけど。まぁ、理屈をこねくり回してくる所よりはいいかもね。それじゃ」

ちひろ「おはようございまーす」

P「あ、おはようございます」

ちひろ「早いですね」

P「少しでもちひろさんを助けられればと思いまして」

ちひろ「あ、どうもありがとうございます」

P「とりあえず経理関係や、ちひろさんじゃないと出来ない所以外は終わらせておきました」

ちひろ「す、凄いですね…。事務員代わりますか?」

P「たまにやるから早いんですよ」

ちひろ「そうですかね…?あ、これ見て下さいよ、昨日あれから花瓶買って生けてみました」

P「…部屋綺麗ですね」

ちひろ「ちゅ、注目するところが違いますよっ!」カァァ

P「あ、ちょっと備品買ってきますね」

ちひろ「あ、領収書持ってきて下さいね」

P「はい。分かりました」

一度中座します。

P「これだけあれば平気かな」

P「ちゃんと領収書も貰ったし」

P「今度こそ、この公園通れば近道だな」

P「…ん?あそこにいるの渋谷さんか?」

P(誰かと話してる…?)

凛「誰…?」

スカウトA「えーと、昨日お会いしたAと言う者ですが…」

凛「あぁ、それで?」

スカウトA「えぇ、ウチでアイドルをやっていただけないかと」

P(スカウトされてるのか…。しかも大手に)

凛「私、詳しくないんだけど、そこってどのくらい凄いの?」

スカウトA「規模ですと業界一位ですね。勿論、悪いようにはしませんよ」

凛「へぇ、凄いね」

スカウトA「えぇ。キチンとした設備にトレーナーが付いています」

凛「なるほどね。それじゃ、もう一つ聞いていい?」

スカウトA「どうぞ」

凛「なんで、私に声を掛けたの?」

スカウトA「そうですね、まずルックスに惹かれまして、この容姿ならアイドルになれると思いまして」

凛「…なるほどね」

スカウトA「納得して頂けましたか?」

凛「いや、そういうわけじゃないけど。あ、もう一つ聞きたいんだけど」

凛「この近くにもそういう事務所があるでしょ?そこはどうなの?」

スカウトA「あー…あそこは大きくないと言うか、現在アイドルはいないはずですね。
もし、そこのプロデューサーにも声を掛けられたのでしたら災難でしたね」

凛「災難…か」

スカウトA「して…いかがでしょうか」

凛「考えさせて下さい。もし、受ける場合は連絡するから」

スカウトA「はい。それでは」

凛「…それで、わざわざ聞き耳立ててた感想は?」

P「いや、別にないですよ」

凛「荷物を見る限り偶然っぽいけどどうなの?」

P「偶然ですからね」

凛「それより、今の見た?」

P「見てました」

凛「それじゃ、一プロデューサーとして、あの人の事務所はどうなの?」

P「設備も整ってるし、トレーナーがいるのは事実だし、凄いと思いますよ」

凛「ふぅん」

凛「私は嫌いですけどね」

P「え?」

凛「そっちの事務所の話を出した時の顔が気に入らなかったかな。災難呼ばわりだよ? 当人がいない所で悪口を言う人を私は信用したくないなぁって」

P「気持ちは…分かります」

凛「気持ちは、か…。多分さ、気づいてたと思うけど、私、アイドルとか興味なかったんだ」

P「…はい」

凛「そもそも縁なんてないと思ったし」

P「縁はあったと思いますけどね」

凛「そうかな?」

P「そうですよ」

凛「それじゃあね。大変だろうけど頑張って」

P「はい。さよなら」

凛「…あ、そうだ。忘れてたんだけど、ハナコも懐いてるみたいだから偶に店に来てもいいよ」

P「そうですか。分かりました」

数日後

P「……いい天気だなぁ」

P(スーツは流石に暑いけど、どこか行く時はスーツじゃないと印象が悪いし…)

ワンワン

P「ん?」

凛「あ、どうも」

P「どうも。…あれ学校は?」

凛「今日は休み。何してるの?」

P「ちょっと、外回りの途中の休憩ですね」

凛「ふーん。そうなんだ」

P「あ、そう言えば、ウチの事務所から、アイドルが誕生しましたよ」

凛「そうなんだ。良かったね」

P「えぇ、やっとプロデュースが出来ます」

凛「おめでとう」

P「まぁ、まだ、渋谷さんをスカウトするのを諦めたわけじゃないですけど」

凛「そうなんですか」

P「えぇ。渋谷さんにはそれだけの価値があると思いますし」

凛「そこまで入れ込まれると少し気遅れしそうだよ」

P「嘘は言ってませんけどね」

凛「ちなみにさ、どんな子がアイドルになったの?」

P「えーとですね、まだ宣材が出来てないんで…あ、これです」

凛「ふーん。可愛い子だね」

P「えぇ、ビビッと来ました」

凛「前から思ってたけどそれってなに?」

P「個人的な感覚なんで説明が難しいんですけど、なんとなく見えるんですよ」

凛「なにが?」

P「この子だったらこういう風にプロデュースしたらきっと輝けるに違いないって言うのがですね」

凛「凄いね」

P「まぁ、当たってる確証はないですから何とも言えませんけどね」

P「勿論、そうやって直感的に分かる子なんてほとんどいませんから、ウチの事務所は、アイドルが少ないんですけどね」

凛「それってどうなの?」

P「どうなんでしょう。もしかしたら、間違ってるかもしれませんね。ただ、勿論、当人と話し合ってから、プロデュースの内容は決めますけど」

凛「……」

P「どうかしましたか?」

凛「あのさ…前に会った時、私、アイドル興味ないって言ったよね」

P「そうでしたね」

凛「あの時は、興味なかったけど、今なら、ちょっとやってもいいかなって思えるんだよね」

P「そうなんですか。やはり、あの時話していたあの事務所で?」

凛「……」ハァ

凛「察しが悪いね」

P「…え?」

凛「一灯は万灯に勝るってね」

P「…貧者の一灯ですか」

凛「名前は知らないけど」

凛「とにかく、アナタの言葉が最後まで残ったんだよね。私の心に火を点けたんだ。赤よりも熱い、蒼い火を」

凛「だから、もしやるんだったらアナタの事務所かなって思っただけだよ」

P「それって…」

凛「まぁ、アナタがプロデューサーだったら悪くないと思うし。あそこまで言いのけたんだしね」

P「いいんですか?」

凛「くどいね。決めたからいいの。もしかしたら、この選択は間違ってるかもしれないけどね。そうだね…ビビッと来たのかな。この人になら付いていってもいいって」

P「ははっ、分かりにくいですね」

凛「説明し辛いからね」ヤレヤレ

P「これから、よろしく頼みますね」

凛「そうだね」

P「周りから見たらさ」

凛「うん?」

P「渋谷さんの判断は愚かと捉える人の方が多いと思う。だけど、数か月後、或いは数年後になるかもしれないけど、この選択が正しかったと言わせてみせますよ」

凛「…まぁ、少しくらいは期待してあげるよ」

車内

P「――ってな話があったんだけどさ」

周子「なんだか初々しいね」

幸子「そうですね。あれ?何かあげましたか?」

P「あれ、そうだな。そう言えば…」

周子「ちひろさんに花買ってたじゃん」

P「言われてみればそうだな。でも、それだったかなぁ…」

P(違った気がするけど…)

幸子「そうなんですか」ホッ

周子「幸子ちゃんが、『それくらいなら別にいいです。何故ならボクはカワイイのでっ!』って言いたそうにしてるよ」

幸子「なっ……!」

P「ははは」

P(あ、そう言えば、頼子に絵巻あげたな…)

事務所

凛「――と言う話なんだけどさ。別に面白くなかったでしょ?」

杏「いやいや」

卯月「ううん。自信持っていいと思うよっ!」

凛「いや、別に自信とかそういうわけじゃないけど」

卯月「って言うか、そんなことがあったんだね。私が事務所にいたら、いきなり凛ちゃんが入ってきたのは覚えてるなぁ」

ガチャ

P「お疲れ様です」

周子「ただいま帰りまーした」

幸子「お疲れ様です」

杏「意外と初々しかったんだね」ニヤニヤ

P「…どうしたんだ杏」

杏「いや、別に。ただ、杏の時とは対応が違うなーって」

P「…何の話だ?」

凛「ちょっと昔話をしてたんだ」

P「昔話?」

凛「私がスカウトされた時の話」

杏「あー、いいなー、杏もそんな風に言われたかったなぁ」ゴロゴロ

P「なにを言ってるんだお前は…」

卯月「あっ、そろそろレッスンに行かなきゃ!」

杏「げっ、忘れてたのに…」

凛「それじゃあね」

P「おう。いってらっしゃい」

凛「あ、そうだ」クルッ

P「ん?どうした忘れ物か?」

凛「あの時の言葉忘れないでね」

P「お、おう」

凛「それと…、私の心に火を点けた責任は取って貰うから。それじゃ」

古本屋

頼子「こんばんは」

店員「あ、どうも…」

頼子「今日も…店番やってるんですね」

店員「叔父は本の蒐集に余念がないようですから」ハハ

頼子「…テレビを点けてるんですか?」

店員「えぇ、丁度古澤さん達が出ないかなって…」

頼子「…個人的には、余り見られたくないんですけどね」

店員「そうなんですか?」

頼子「恥ずかしい…ですから」

店員「確かに、私には無理そうです。あ、この人は…」

頼子「…渋谷さんですか。私の事務所で有名なアイドルです

頼子「…そう言えば」

店員「はい?」

頼子「この間、事務所に来たみたいですね」

店員「そうですね。ちょっと叔父に頼まれごとをしてプロデューサーさんに本を届けに」

頼子「…そうなんですか」

店員「えぇ、人前で話したので緊張したことだけ覚えています」

頼子「そういうものは慣れないと辛いですね」

店員「そうですね」

あ、>>52 の最後の一文。

頼子「…渋谷さんですか。私の事務所で有名なアイドルです」

に変更です。『」』が抜けてました。

店員「そう言えば…」

頼子「なんですか?」

店員「プロデューサーさんが全てのアイドルの方たちをスカウトしたんですか?」

頼子「恐らくは…。尤も私より前にいる方たちについては…分かりませんけども」

頼子「それが、どうかしましたか?」

店員「いえ、今こうして皆さんが活躍しているのを見ると先見の明があるのではないかと思いまして…」

頼子「言われてみれば、そうかもしれませんね」

店員「プロメテウスかもしれませんね」フフッ

頼子「それでは、帰ります。遅くなっては親が心配するので」

店員「はい。お話出来て嬉しかったです」

頼子「あ、そうだ。一つ忘れていました」

店員「はい、なんでしょうか?」

頼子「ここって朝早くからはやってないんですね」

店員「えっ…」

頼子「それじゃ、失礼しますね、鷺澤さん」

終わりです。
見て下さった方ありがとうございました。

さて…今回の解説です。

大体分かってると思いますが、『貧者の一灯』という故事です。

金持ちが捧げる多くの灯明より、貧しい者が真心を込めて供える一つの灯明の方が、伝わるということです。

大事なのは量や金額ではなく、誠意の有無だという教え。

阿闍世王が釈迦を招待したとき、祇園精舎へ帰る道を、たくさんの灯火でともした。

それを見た貧しい老婆が、自分も灯火をしたくてなんとかお金を工面し、やっと一本だけ灯すことが出来ました。

結局、王の灯火が消えた後も、老婆がともした一本の灯火は朝になっても消えなかったというお話です。

出典 阿闍世王受決経

次いでにもう一つの解説です。

プロメテウスはギリシャ神話に出てきた一人です。

その名前から、先見の明を持つ者とされています。

天界の火を盗み、人々に火を与えたと描かれています。

現在、他の話も考えていますが、そういう時に限って、一度書いたキャラメインの話を書きたくなるんですよね…。

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