アルミン「こんなにおいしいさくら肉!」(392)

深夜 宿舎外

アルミン「はっ……! はっ……!」タタタッ


僕は極めて静かに、だが素早く、寮内の廊下を移動していた。

目指しているのは寮外の暗い森の奥だ。

同室の皆が寝入ったのを見計らって出てきたのだ。

消灯時間を過ぎたあとの外出は当然厳禁で、

口頭での注意で済めばいいが最悪厳罰も有りうる。

僕は極めて注意深く移動していた。

教官がどこかで見回りをしているかもしれない。極力足音を出さないように。

なにより僕は、この耐え難い衝動を早く収めたかった。

だから、注意深く、だけど素早く、素早い移動を。

アルミン「はぁーっ! はっ! はぁーっ!」ダダダダッ ザザッ


寮を出て、森に入った。

更に奥を目指し、駆ける。駆ける。

ここからは巡回の範囲外であるはずだ。

野生の獣や虫の鳴き声、風で木々がざわめく音に紛れて、僕は更に速く駆け出した。

暗い視界に、背が高い草や枝葉が僕の手や頬に当たり、痛い。

息が上がり、頭がそのことしか考えられなくなっていくのがわかった。

早く終わらせたい。感じたい。果てたい。

アルミン「はぁっ! ……はぁっ!」フゥーッ フゥーッ カチャカチャ


目的地に着き、呼吸を整えることもそこそこに、

薄い生地のパジャマの、ズボンとパンツを一緒にずり下げると、

利き手で自分の性器をにぎった。


アルミン「は……! はっ……!」ギュッ


まぶたを閉じて、そこからすぐに、僕の頭の中で虚像が動き始める。

僕の親友が、エレンが、僕のすぐ正面で、膝立ちでそこに居た。

アルミン「……っ!」ガシガシガシッ


彼の口内に、自分の性器を突き刺し、出し入れする。

僕は自分の性器を激しく擦った。

たぶん数分も経っていないんじゃないか。

僕は果てた。

アルミン「……」フーッ フーッ


既に彼の虚像と、先程まで僕を狂わせていた衝動は掻き消えていて、

僕はしばらくその場でじっと立っていた。


アルミン「うっ……。うぐっ」


代わりに、惨めさと、後ろめたさが押し寄せてきた。


アルミン「うあっ、ううっう」ポロ


それだけが僕の中に残った。

アルミン「ううっ、うぅーー……」ポロポロ


僕は、自分の中のどうしようもない、抱えきれない感情の、

置き場所も、取り扱い方も、何もかもがわからなかった。

どうしていいかわからなくて、どうしようもなくて、

ただ自分が惨めで、薄汚い人間にしか思えなかった。

言い忘れてました。ホモ注意です。

翌日 食堂

エレン「今日は立体起動あったけ?」テクテク

アルミン「うん。あっちの山間部の訓練場を使うらしいね」トコトコ

アルミン「あそこは今までと環境がちょっと違うかな」トコトコ

エレン「そうなのか?」テクテク

アルミン「うん。おなじ針葉樹林帯だけど、木の質というか、太さが違う」トコトコ

アルミン「こっちに比べると幹の細い樹木がほとんどだから、アンカーの射出に注意する必要があると思う」トコトコ

エレン「なるほど……。あとは木々の隙間とか、まてよ。そうするとルートのとり方も……」

アルミン「……」

エレン「……まあ、本番でどうにかするしかねえか」テクテク

エレン「なんとかするしかねえ」テクテク

アルミン「うん」トコトコ

アルミン「あ、ミカサ。おはよう」

ミカサ「……おはよう」

エレン「よぉ」

ミカサ「席はとっておいた」

エレン「んじゃ、さっさとメシ取りに行くかー」

アルミン「うんっ」

ミカサ「……」

エレン「はむっ。……むー、そへにひへも」モグモグ

ミカサ「エレン。口にものを入れて喋っては駄目」

エレン「うっへーな……」モグモグ ゴクン

エレン「そんで、えっと。最近、なんか、厳しくねーか?」

アルミン「んー……。そうだね。今回の訓練場が変わった件もそうだし」

アルミン「馬術とか、格闘術もだね。ちょっと難しくなってきてるね」

ミカサ「……講義も内容が高度になってきている」

エレン「俺も頑張らねーと……。アルミン、今日やった内容教えてくんねーか。頼む」

ミカサ「私もお願いしたい。予習しておきたい部分がある」

エレン「げっ……」

アルミン「うん。じゃあ……、食事が終わって、15分経ったら図書室に集合でいいかな」

エレン「お、おう」

ミカサ「わかった」

エレン「……くそっ。まだまだかよ……。負へへらんへー……」モグモグ

アルミン「自分のペースで頑張ろうよ」

ミカサ「その通り。あと食べながら喋っては駄目」

エレン「うるへーっ!!」ブババッ

アルミン「うわぁーっ!!」ベチャベチャ

ミカサ「ア、アルミンっ!」

エレンとミカサは幼馴染で、大切な僕の親友だ。

よくいじめられていた弱い僕を、何度も何度も助けてくれた、僕のかけがえのない親友。

支えたい親友。

僕のお父さんとお母さんは、領土奪還作戦のときに亡くなった。

もう僕の家族はおじいちゃんだけだ。

もし二人がいなくなったら、僕はどう生きていけばいいかわからない。

僕なんかが二人の親友、なんて名乗るのはきっと相応しくない。

けど、僕は二人の役に立ちたかった。

訓練兵団に入っていくらか経った頃、僕は思春期を迎えた。

より正確に言えば、第二次性徴を迎えた。

知識としては知っていたし、物語の登場人物がそういった変化に戸惑う場面も記憶にはある。

僕の場合、最初の頃はそれに気恥しさを感じつつも、それを受け入れていた。

周囲の人たちも次第にそういう会話をするようになった。

彼らの用いる、あるいは想像するそれは、当然女性に関するものだった。

だけど僕は、自然に、ごく自然と、親友のエレンが、行為のとき、頭に浮かぶようになっていた。

僕はそのことを徐々に自覚し始めた。

ときおり、何故と、強い疑問が浮かんだ。

何故男性で、親友の、エレンが。

時が経つごとに、行為の際のイメージは明確になっていった。

僕はエレンをそういう目で見ている。

そのことを思うと必ず酷く陰鬱な気分になり、それが表情に出てしまうことがあった。

そんなとき二人は、とても心配げな顔で僕をいたわった。

それがとても嫌だった。

僕は皆と過ごすとき、その考えを頭から振り払い、努めて平静を装った。

最近はその成果が出たのか、二人のその顔は見ることがなくなったように思う。

いつか僕も正常な、普通の人間になれる筈だ。

たぶん、僕はエレンに恋愛感情は抱いていないと思う。

彼と指を絡めて街に出かけるのは、自分でもちょっと気持ちが悪いと思う。ぞっとしない。

僕が抱いているこれは、思春期にありがちな、そういうものだろう。

僕はそう思うことにした。

そう思うと、少し罪悪感と、自己嫌悪みたいなものが薄れて、

彼らとも笑って話せるようになった。

僕は大丈夫だ。

今までと同じように、二人と共に歩んで行ける。

そしていつか、彼らに、僕が貰った色々なものをかえせたらいいな。

同日 深夜 森

アルミン「はーっ! はーっ!」タッタッタッ フゥフゥ

アルミン(そうだ)

アルミン(だから、これからもずっと、僕らは一緒にいられる)

アルミン(今はこんなでも)

アルミン(僕は……)


アルミン「……ぅうっ」

アルミン「あぅう。ひっ……」ポロ

アルミン(嘘だ)

アルミン(違う。そうじゃない)

アルミン(違う……!)

アルミン(いつまでも、三人で……!)

アルミン「うえぇ……」ポロポロ


ザザッ

アルミン「!?」

アルミン(え……!? 人!? まさか……!!)


クリスタ「あ……」


アルミン「え……」

アルミン(なんで。なんでここに彼女が)

アルミン(あ……)

アルミン「み、見た……!? 見たの!?」

クリスタ「あ……。あ、あの」

アルミン「見たの!? 見てないの!?」

アルミン「どっち!? どっちなの?」

クリスタ「えと。その」

クリスタ「あの。アルミン? ちょっと落ち着いて……」ザッ

アルミン「来るなっ!!」ガァッ


クリスタ「ひっ!?」


アルミン「あっ……」


クリスタ「あ、あの」

クリスタ「ごめんなさい……」


アルミン「あ、う」

アルミン「ぐ」ダダッ


クリスタ「アルミン?」


アルミン「ううううっ!!」ダッダッダッ

僕はなにをしたらいいのかわからなくて、その場から逃げ出した。

たぶん、彼女は僕の行為を見たわけじゃない。

でも僕は、何故だか取り繕う素振りすらすることが出来なかった。

僕は二人と話しているとき、後ろめたさを忘れることが出来たつもりだったけど、

それはやっぱり嘘だった。だから今彼女から逃げ出したんだ。

やっぱり僕はどうしようもない人間だ。

どうしようもなく矮小で、惨めで……。

頭がうすぼんやりしていく感覚があって、

闇雲に走っていた僕は、なにかに足を引っ掛けて転んだ。

勢いがついていたせいで、何度も木や石に体を打ち付けた。

すぐに立ち上がって、また走り出した。

いつの間にか部屋に戻っていて、僕は静かにベッドに潜り込んだ。

じっと震えていると、痛みと共に、後悔や恥や、わけのわからないものが蘇ってきた。

僕はまた泣いた。それが堪らなく嫌だったけど、やっぱり涙が止まらなかった。

その夜、僕はただ、自分がこのまま世界から消えてなくなることを望んだ。

嘘です いつか適当に続きを書きます

投下

翌日 食堂 

アルミン「……」

エレン「体きちぃなー……。昨日の訓練が……」


エレン「……でな。……っておい。アルミン?」

アルミン「え?」

エレン「……」

アルミン「あ、ごめん。聞いてなかった」

エレン「大丈夫か? やっぱアルミンも疲れてんのか?」

アルミン「え?」

エレン「……おお」

朝食を終えて、午前の訓練を済ませて、昼食を三人で食べている今この時も、

僕はこの日、まともに人と話すことができなかったと思う。

くらぼったい表情を隠すことも出来ず、頭が回らなくて、

陰鬱な空気を周囲にまき散らしていたように思う。

なにより、二人に後ろめたかった。

自分の気持ちも誤魔化して、そのくせエレンを自分の薄汚い欲望のはけ口にしている。

昨日、そのことをはっきり自覚できた。いや、前からわかっていたはずだ。

さっきからクリスタが僕を見ている気がする。

本当は僕の行為を目撃していたかもしれない。

まさか、でも違うとは言い切れなかった。

僕はたぶん、混乱しているんだと思う。

自分のことや、クリスタに見られたということに対して。

だから、いつもは出来ているはずの、感情のコントロールができないんだ。

二人も、僕の今の心情を読み取ったのだろう。

心配げな、あの目が僕を見つめる。

僕はなるべく口を開かずに、早めに食事をとり席を立った。

そして、抑揚のない挨拶を告げて、二人を置いて早足でドアに向かった。

二人の視線はまだ僕を追っていたと思う。無視した。

一旦寮に戻り勉強道具を持って、図書室にこもった。

今日はひたすら勉強して、本を読みたい気分だった。

僕は手馴れた所作で勉強道具を広げ、手を動かし続けた。

こうしていれば、気がまぎれた。

アルミン(ウォールマリアの……、巨人……)ブツブツ パラパラ

アルミン(……宗教……)ブツブツ パラパラ

アルミン(……よし)ガサッ

アルミン(次……)パラパラ

アルミン(……固定砲の、うーん)カリカリ

アルミン(……なるほど)カリカリ

アルミン「……」カリ

アルミン「……」

アルミン(なんで……)

アルミン(僕は……、こんななんだ……)

アルミン「ふっ!」バチッ

アルミン(……えっ、と)ヒリヒリ

アルミン(走行性、それに入射角、と)カリカリ


カララ……


アルミン「ん……」


クリスタ「……」

アルミン「え……!?」


クリスタ「……」


アルミン(な、なんで彼女がここに?)

アルミン(たまたま? まさか僕を? ……いや)

アルミン(……)

アルミン「やあ」

クリスタ「う、うん」

アルミン「クリスタも勉強しに? それとも本を借りにきたの?」

クリスタ「いや、えっと。違うの」

クリスタ「昨日の……」

アルミン「」ピクッ

アルミン「ああ、昨日の」

アルミン「昨日はごめんね。びっくりさせちゃって」

クリスタ「え……」

アルミン「たまにああやって、ストレスが溜まったときは外に出るんだ」

アルミン「ほら、最近訓練きつくなってきたじゃない?」

クリスタ「……」

アルミン「夜の森の空気とか、そういうのが好きなんだよね」

アルミン「巡回に捕まっちゃったかと思ってさ。おっきな声出しちゃったんだ」

アルミン「今だってきついのに、営倉にでも送られちゃったらどうしようかって思っちゃって」

アルミン「ごめんね」

クリスタ「う、うん……」

アルミン「じゃあ、僕勉強するから」

クリスタ「あ、うん」

アルミン「……」カリカリ

アルミン(……しまった。つい喋りすぎた)カリカリ

アルミン(不自然だったかな)

アルミン(いや、集中しろ)カリカリカリカリ

アルミン「……」ペラペラ

アルミン(かたまっていた場合……。連続性……)ボソボソ ペラペラ


ガタッ


アルミン(ん?)

クリスタ「私、ここで本読んでもいい?」

アルミン「え? えっ、と」

アルミン「ど、どうぞおかまいなく?」

クリスタ「ありがとう」クスクス


クリスタ「……」ペラ

アルミン(なんで? なんでこんな近くに)パラパラ

アルミン(やっぱり昨日の。さっきのは信じてない?)パラ

アルミン(いや、今日の僕の様子を見れば誰でも……)

アルミン(……)

アルミン(! 集中しろ! 手が止まってる)パラ

アルミン(えっと、組織的な運用法。……場合によって用いる人員と目的が異なるわけか)

アルミン(まず何通りあるか。えっと……)カリカリ

クリスタ「……」ペラ

アルミン「……」カリカリ ボソボソ

クリスタ「……」

アルミン「……」カリカリ

クリスタ「あの、アルミン?」

アルミン「ん?」

クリスタ「……」

アルミン「……どうしたの?」

クリスタ「ちょっと、いいかな」

アルミン「……なにか聞きたいことがあるの?」

アルミン「ひょっとして前の講義のこと? あ、そういえばエレンが」

クリスタ「そうじゃなくて! ……えっと」

アルミン「うん」

クリスタ「……今日の、アルミンがね」

アルミン「うん」

アルミン(……? 今日の?)

クリスタ「エレンと話すとき、とっても辛そうな顔してるように見えたの」

アルミン(……!)ドクンッ

クリスタ「だから……。私は、私ね。アルミン……」

アルミン「……」

クリスタ「……アルミン?」

アルミン「……ん? どうしたの」

クリスタ「……」

アルミン「そっか。でも大丈夫だよ」

アルミン「心配してくれてありがとう」

クリスタ「……」

アルミン「……?」

クリスタ「……違う」

アルミン「……違うって」

クリスタ「私には、わかる」

アルミン「……なにが?」イライラ

クリスタ「あの顔は」

クリスタ「……友達に向ける顔じゃない」

クリスタ「対等の人間に向ける顔じゃなくて」

クリスタ「……そう。相手に対して、後ろめたいことがある人がする、表情だったよ」

アルミン「……」

僕は何も言えなかった。

全部彼女の言ったとおりだったからだ。

言うべき言葉が見つからなくて、僕はうなだれた。

しばらくそうして、掠れるような音が聞こえて、僕は視線を上げた。

彼女、クリスタは、僕と同じようにうなだれて、涙を流していた。

何故彼女がそうなったのか、僕にはわからない。

けど、なぜだか僕も、涙が溢れてきて、止まらなくなった。

ときどき、思わず大きな声がでそうになる。

僕達は、ふるぼったい図書室の一角で、お互い小さくまるまって、

ひたすら声を押し殺して、馬鹿みたいに涙を流していた。

嘘です 15分?くらいしたらあげます

投下

僕達はしばらく、お互いに涙を流して、

やがてそれは収まっていき、僕は、気恥ずさしさを感じ始めていた。


クリスタ「私もね、よくそんな顔してたの」

アルミン「今の僕みたいな?」

クリスタ「今は違うよ。可愛い顔で泣きはらしてる」

アルミン「……」

クリスタ「?」

アルミン「可愛いって言われるの、好きじゃないんだ」

クリスタ「……そっか。ごめんね……」

アルミン「ううん」

アルミン「昔からさ、近所の奴らに女みたいな奴だって、よくからかわれた」

クリスタ「うん」

アルミン「すぐ手が出る連中でね。僕がなんて言い返そうが、力ずくで黙らされて」

クリスタ「うん」

アルミン「でね、そんな時はいつもエレンとミカサが来て、あいつらを追い払ってくれた」

アルミン「二人とも凄く優しくて、まっすぐで、とても強いんだ」

アルミン「……でも、二人とも僕のこと優しいって」

アルミン「辛くて……」

クリスタ「……うん」

アルミン「わかってる。二人は何も悪くないんだ」

アルミン「だけど、だけど……」

クリスタ「……」

アルミン「……怖い。怖いよ」

クリスタ「うん、……うん」

アルミン「……」

クリスタ「……」

今まで、自分の胸の中だけに秘めてきた、ドロドロした膿みのようなこの感情を、

僕は生まれて始めて誰かに吐き出した。

それは暗くて、おどろおどろしくて、まるで呪詛や怨念のような言葉だと、言いながら自分でふと思った。

僕の口から出てくる言葉は支離滅裂で、とぎれとぎれで、

自分でもなにを喋っているのかわからなかった。

けれど、クリスタはとても真剣に僕の話を聴いてくれて、

しまいに、僕達はまた泣いていた。

僕の中で培われてきた膨大なそれは、自分でも止める方法が見つからなくて、

結構な時間、一方的に話していたように思う。

話し終えたあと、しばらく僕らはボーッとした。

驚くほど、自分の心が軽くなっているのがわかった。

エレンに対しての後ろめたさが消失したわけじゃない。

寄り添える相手を見つけたからだ。

僕は寂しかった。

最近はあの二人と、心を通わせたと思えることがなかった。

今思えば僕は、まるで人形のように彼らと話していた気がする。

結局それは僕が悪いのだけれど、

やっぱり僕は寂しかったんだ。

僕があれだけ自分の思いをぶちまけることができたのは、

彼女のまとう空気が、僕のそれに近いと感じたからだと思う。

彼女は僕と同じ表情をしたことがあると言った。

クリスタにも、なにかあったのかもしれない。

なんとなく、それを聞くことはためらってしまった。

クリスタ「……」

アルミン「……」


僕も、たぶん彼女も、

この世に自分の居場所が見つからなくて、フワフワしてるんだ。

だから、僕たちは、こんな……。


クリスタ「ねえ」

アルミン「ん……」

クリスタ「私も、私も怖い?」

アルミン「え……」

クリスタ「私は怖くないよね?」

クリスタ「だって、私は、こんなに……」

アルミン「クリスタ?」

クリスタ「ねえっ!」ガタッ

アルミン「っ!」ビクッ


彼女は立ち上がって、興奮気味に僕に近づいてきた。


クリスタ「ねえ。手、手を」

クリスタ「私の、手を握って」ス

アルミン「あ……」

手を差し伸べてきた。

彼女の目がぎらぎらしていて、怖い。


アルミン「ひ」

クリスタ「あっ」ビクッ

クリスタ「ご、ごめん……」

クリスタ「ごめんなさい……」

アルミン「あ……」

彼女はまた、頭を下げてうなだれた。

僕はまたもかける言葉が見つからなくて、

白々しい謝罪を繰り返しながら、乱雑に勉強道具をまとめ、図書室を後にした。

彼女はずっと、視線を下に、苦しそうな表情をしていた。

僕はあのとき、彼女を恐れてしまった。

彼女がなにを考えているのかわからなかった。

……いや、違う。

本当は気づいているくせに、お前は……。

頭ががんがんうるさい。

頭痛がする訳じゃないのに、色々な言葉や感情が湧いて出てきて、頭がひどく重たくなった。

たぶん、今の僕の表情は、人に見せられたものじゃないと思う。

僕はよろよろと歩いて、そのままトイレにこもった。

ひどい臭いのするそこで、休憩時間が終わるまで過ごそうと決めた。

よかったらこっちも見てください
コニー「酸っぱいのか」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/lite/read.cgi/internet/14562/1372062598/)

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また何日か過ぎた。

あれからも、僕ら三人はどこかぎこちなくて、

でも、それが当然だと思った。

夕食を終えた僕は、一人でふらふらと、気が付いたら廊下を歩いていて、

どこに向かっているか決めていなかった僕は、また図書室にこもろうと決めた。

勉強道具を取りに、またふらふらと歩いていると、

ふと、僕の目の前に、クリスタが立っていた。

僕は面倒臭くなって、彼女の横を通り過ぎようとしたけど、

すれ違うとき肩をつかまれて、僕は気怠いまま振り返った。

アルミン「……なに?」

クリスタ「あの……、アルミン」

アルミン「……」

クリスタ「えっと……」

アルミン「なにもないなら行っていいかな」

クリスタ「……」

アルミン「あ……」

アルミン「そういえば、ごめんね」

クリスタ「……?」

アルミン「図書室でさ。君の手を、そのね」

クリスタ「……」

アルミン「悪かったよ。……でさ」

アルミン「行っていいかな? 勉強したいんだ」

クリスタ「待って……」グッ

アルミン「……っ!」

アルミン「やめろよっ!!」バチンッ

クリスタ「いっ!」

アルミン「……!」ハッ

アルミン「……ごめん」

クリスタ「……」

アルミン「じゃあ……」スタスタ

クリスタ「……」

図書室

アルミン「……」カリカリ

アルミン(曲線……。微分係数、瞬間の速さ)ボソボソ ペラペラ

アルミン(グラフ、あと式の形は……。変数、関数、定数がどこに関連してるか……)カリカリ

アルミン(よし。次は問題と解法を一旦覚えて……)カリカリ


ガラッ!


アルミン「?」


エレン「……」

エレン「……」コツコツコツ

アルミン「……どうしたの?」

エレン「……どうしたの、じゃねえだろ」

エレン「なあ、最近どうしちまったんだよ」

アルミン「……」

アルミン「そっか。ごめんね」

エレン「ごめんねって……」

アルミン「最近いっぱいいっぱいでさ。ね、訓練が厳しくなったって話もした……」

エレン「そうじゃねえだろうがっ!!」

アルミン「……」

エレン「……なんて目してんだよ。なあ……」

エレン「……さっきクリスタとなに話してたんだ?」

アルミン「……見てたの?」

エレン「たまたまな。……そういや前からお前らの様子おかしいと思っててよ」

エレン「クリスタとそんなにつるんでたとこ見たことなかったけどな」

エレン「仲良かったのか? お前ら」

アルミン「……」

エレン「まただんまりかよ……!」

エレン「俺たち、し、親友だろうが……」

アルミン「……!」

エレン「クソッ、恥ずかしいこと言わせんな……」

エレン「とにかくよ、なんか悩みがあるなら話してくれよ」

エレン「どんな話だって聞くよ」

アルミン「……」

エレン「……頼む。俺が話を聞きてえんだ」

エレン「どうしても話せないってんなら、愚痴聞くだけでもいいんだ」

エレン「こんなときに何もしてやれないなんて、胸張って親友だなんて思えねえんだよ」

エレン「頼むよ……」

アルミン「……」

アルミン「……そっか」

アルミン「うん。エレンの言うとおり、僕には悩みがある。今、結構まいってるんだ」

アルミン「それで、お願いというか、頼みがあるんだけど、聞いてくれるかな」

エレン「! お、おお! なんだってきいてやる!」

アルミン「ありがとう」クスッ

アルミン「結構恥ずかしいことかもしれないんだけど、大丈夫かな?」

エレン「なんだよ、勿体ぶるなって」

エレン「今だったらなんだってしてやるぜ〜! 今日は特別だ! 今の俺はなんでも出来る!!」ヒョイヒョイ

エレン「なんだったら教官の頭にジャンのパンツかぶせてくるか!?」バッバッ

アルミン「なんだよそれ〜」クスクス

エレン「はははっ! っと、真面目な話だったか。すまねえ」

アルミン「いいんだよ」

アルミン「むしろ不真面目な話だからね」

エレン「ん? そうか?」

アルミン「お願い、そろそろ言ってもいい?」

エレン「おう」

アルミン「じゃあさ、エレン……」

エレン「……」グッ

アルミン「服を脱いでよ」

エレン「は」

アルミン「だから、服を脱いでって言ってるの」

エレン「……服、服って?」

アルミン「今君が身に付けているもの全部だよ。下着も一切ね」

アルミン「脱いだものはそこの椅子に置けばいいんじゃない? で、そこの中央に立って。僕に全部見えるように」

アルミン「ちなみに今ここでだ。……いや、場所は替えたほうがいいのかな」

アルミン「ここじゃいつ誰が来てもおかしくないし……。トイレにでも行く? それとも教官に鍵付きの部屋でも貸してもらおうかな」

エレン「え、いや……、おい」

エレン「な、なんで……?」

アルミン「なんでって、君がなんでもきくって言ったんじゃないか」

エレン「……」

アルミン「これでも譲歩してるつもりなんだけどな……。それで君をどうこうするつもりはないし」

アルミン「ああそうだ。じゃあさ、キスしてよ」

エレン「……」

アルミン「確かにさっきのはちょっと恥ずかしいかもね。これならいいでしょ?」

エレン「アルミン……。お前……!」

エレン「俺はマジだったのに、てめえふざけてんのかよ……! おい……!」

アルミン「ふざけてるのはエレンの方だろ」

エレン「……!?」

アルミン「僕は悩みがあって、精神的にまいってる。だから慰めて欲しい」

アルミン「君はそれを聞いて、自分がなんでもするからと言って、僕はお願いをした」

アルミン「なにが間違ってるっていうの?」

エレン「違うだろうが!!」

アルミン「……」

エレン「なんで慰めてほしいから服を脱げとか、キスしろとかって話になるんだよ!!」

エレン「気色わりぃこと言いやがって、馬鹿にしてんのかよ……!!」

アルミン「だから違わないんだって」

アルミン「僕は慰めて欲しいから、君の裸が見たいし、キスしたいんだよ」

エレン「……?」

アルミン「僕が君をそういう目で見てるってことだよ」

エレン「……え」

アルミン「……」

エレン「……マジで?」

アルミン「うん」

エレン「……」

あれから室内には非常に微妙な空気が流れた。

エレンは居心地悪そうにしていて、

僕はあのあとさっさと勉強道具をまとめて、エレンを残して自室に向かった。

親友を失ったっていう喪失感がぽっかりと胸を開けていて、

僕は情緒不安定というより、無気力に近い状態になった。

ほとんど人と話すことはなくなり、淡々と訓練をこなした。

食事のときも、同室で皆と過ごすときも、僕は輪に加わらず、

物理的に、適当に距離をとり、一人で過ごすようになった。

エレンも、クリスタも、僕に話しかけようとすることはなかった。

ミカサもなにか察したのかもしれない。僕に近づくことはなかった。

僕の心はほとんど動かないようになった。

それは思ったより居心地がよいというか、疲れることがなかった。

僕はみるみる落ちこぼれていって、それもどこか心地がよかった。

もっと、もっと、いつまでも一人でいたいと、僕はそう思うようになった。

ないです

たぶん18時くらいに続きをあげます

投下

そうやってまた、数週間ぐらいだろうか。

とても曖昧に時間が経っていった。

僕はというと、また図書室にこもって勉強をしていた。

僕はこれくらいしか皆に勝るものがない。

訓練兵を無事卒業して兵団に入るためには、できる努力をするしかなかった。

どうしても認められないことがあるから、僕は……。

将来について頭を巡らせようとしたとき、また頭がぼんやりと重くなった。

皆の顔が頭にちらつく。

これすらまともにこなせないなら、僕の居場所は……。

僕はなにも考えないように、手と口だけ動かすようにした。

体に染み付いた所作は、僕に時間が経つのを忘れさせてくれた。

だから、彼がそこに立っていた事にも、僕は気がつかなかった。


ガシッ


アルミン「……?」


唐突に、鉛筆を動かしていた僕の手が止められた。

誰かの手が、僕の手首を掴んでいた。

誰かがそばに立っているようだった。僕はのそりと上を見上げた。

エレン「……」



アルミン「……エレン?」

エレン「来い」グイッ

アルミン「……」


エレンに手を引かれ、僕はのろのろと立ち上がった。

エレンはそのままどこかに向かって歩きだした。

僕はそれに引かれるまま、こうべを垂れてよろよろと歩く。

なにかに抵抗するためのエネルギーが僕にはなかった。

僕は、早く終わらせて勉強に戻ることを考えて、

無感動に彼についていった。

エレン「……」ガラッ スタスタ

アルミン「……」

エレン「……着いたぞ」

アルミン「……医務室?」


僕を連れて、医務室になんの用があるんだろう。

がちゃりと音が後ろから聞こえた。

考える前に、それが鍵を締めた音だとわかった。

エレン「……」グイッ

アルミン「……」トテトテ


ひょっとすると暴力でも振るうつもりか。

で、説教でもして、いや、男同士殴りあってハッピーエンドか。

別に、それならそれでいい。

エレンの中で、それで話が丸く収まるのなら、面倒臭い心配もかけられなくなる。

ベッドも前まで連れられて、エレンの足が止まった。

エレン「……おい、アルミン」

アルミン「……なんだい」

エレン「お、俺、こういうとき、どうすりゃいいかわかんねえんだ」

アルミン「……?」

エレン「は、初めてっつーか……」

アルミン「……」

話が見えない。

こういうとき、エレンの要領が悪いのは今に始まったことではない。

僕はいつものように、状況と、彼の言葉を頼りに、彼が言いたいことを推測した。

それから、ほとんどすぐにわかった。

でも、これは、あまりに陳腐な妄想にしか思えなくて、

僕はいつもの、確認のために返すはずの言葉を飲み込んだ。

アルミン「……君がなにをさせたいのか、僕にはわからないよ」

エレン「……! あ、そ、そうか」

エレン「す、すまねえ。そういやなんも言わずに連れてきちまった」

アルミン「……」


よくよく彼を観察すると、視線があっちこっち向いて挙動不審気味だし、

疲れている様子もないのに前髪をひたいに貼り付けている。冷や汗をかいているようだ。

さっき思いついた可能性もあいまって、僕はいらいらしながら彼を急かした。

アルミン「で、なにがしたいんだい」

アルミン「……さっさと終わらせて勉強に戻りたいんだけど」

アルミン「僕の成績が落ちてるのは君も知ってるだろ」

アルミン「開拓地送りにはされたくないんだ」

エレン「……!」グッ

エレン「……」

彼は一瞬張り詰めた表情で僕を見ると、辛そうに眉をしかめて下を向いた。


アルミン「それで、なに?」

エレン「お、俺……さ」

エレン「お、俺と付き合ってくれ!」

アルミン「……」

アルミン「……は?」

エレン「〜〜〜!」モジモジ


一瞬思考が凍った。

エレンは実に恥ずかしそうに顔を赤らめ、落ち着かない様子で、上着の上から体をしきりに掻いていた。

僕は、ある衝動が、胸の奥から急激に湧き上がっていくのを感じた。

これは、知っている。そう、

怒りだ。


アルミン「……」

エレン「な、なんだよ……! 早く返事してくれ……」

アルミン「エレン……」

エレン「な、なん……。うわっ!」ポスッ

アルミン「……」

エレン「きゅ、急に押すなよ!」

アルミン「……」スッ

エレン「ア、アルミン? な、がっ……」


僕はエレンを押してベッドの脇に座らせ、

そのまま両手を彼の首に回して、体重を掛けて首を締めた。

彼は体をひねってそれを逃れようとしていたが、

それにあわせて動いて、馬乗りになって体を押さえつけた。

エレン「かっ……、か」

アルミン「……」


彼は涙目で、よだれを口の端から垂らした。

僕はなんとなくそれに興味が沸いて、彼にくちづけした。


エレン「うんっ! むふ……」フーッ フーッ

アルミン「む……、ん……」チュルチュル


体勢を変えたせいで、体重の掛かりが弱くなり、彼は少し表情を柔らかくした。

それに気がついた僕は、彼の下唇を思いっきり噛んだ。

エレン「ふぐっ! ううぅ〜〜〜……!」


血の味がして、僕はそれを舌でチロチロ舐めた。

呼吸を忘れていた僕は、首にかけた力を緩めて、上体を起こした。


エレン「うっ……、ふっ……」フゥフゥ


エレンが涙に濡れた目で僕を見ている。

僕はとても高揚していた。

もっと彼の顔を歪ませたくて、僕は……。

そこで僕の動きが止まった。

アルミン「ふざけんなよ……」

エレン「……?」フゥフゥ

アルミン「別に僕のことが好きでもなんでもないんだろ」

アルミン「なんで……」

エレン「……」フゥフゥ


僕は、また何も考えたくなくなった。

ふと、図書室に勉強道具が置きっぱなしだったことを思い出して、

勉強に戻ろうと、ベッドから立ち上がろうとした。

そこで彼に、袖を掴まれた。


アルミン「……離してよ」

エレン「……」フゥフゥ

アルミン「……そう」ググッ

エレン「ぐっ!」


また彼の首に手を掛け、思い切り体力を掛ける。


アルミン「こうしたいってことでいいんだよね?」

エレン「うっん……!」

アルミン「……?」

エレン「うんっ……!」

アルミン「……」スッ

エレン「がはっ! えほっ!」ゲホゲホ

アルミン「何か言いたいの?」

エレン「……」コホッ

エレン「ごめん……」

アルミン「……?」

エレン「ごめんよ……」ヒクッ

アルミン「……」

エレン「なんでもするから……」ヒクッヒクッ

エレン「謝らせてくれよぉ……」ポロポロ

エレン「ごめん……」ヒクッヒクッ

アルミン「……」

エレンは泣いていた。

それは、僕らがほんの小さなときに見た、彼の泣き顔を思い起こさせた。

それを見て、申し訳なさが込み上げてきて、

そんな資格もないくせに、僕の目から無様に涙が垂れてきた。

それから僕らは、ポツポツとお互いの気持ちを話した。

エレンは、僕が離れてしまうのがどうしても耐えられなかった、と言ってくれた。

僕はそれが気恥しくて、でもとても胸が暖かくなった。

だからと言って、自分の体を簡単に売り渡してはいけないと説教した。

彼は大いにへこんだ。僕はどの口で言っているんだろう。

ここには僕とエレンしか居なかったから、それを突っ込む人はいなかった。

僕は、自分の弱さに耐えられなかった。

昔から暴力に屈服させられて、そのたびに二人に助けられてきた。

君たちに依存して、二人が居なければ外に出ることもためらわれた。

いつのまにか、僕は二人と、本棚があるだけの小さな世界に閉じこもるようになった。

僕は自分の幼少期を、今の自分の言葉で振り返った。

エレンは真剣に話を聞いていた。

訓練兵団に入ってしばらく経ってからも、僕の価値観は大して広がることはなかった。

もっと限定的に言えば、女性が怖かったんだと思う。

だから、手近にいた、力強い君に惹かれたんじゃないか。僕はそう分析した。

君たちに優しいと言われるのはとても苦痛だった。

そういうと、またエレンは顔を歪ませて、僕に謝罪の言葉を告げようとした。

それを止めて、だから僕は強い人間になりたかったんだ、と続けた。

そして、僕を助けてくれた君たちに、少しでもなにか返せたらいい、そう思っていた。

それをいうと、エレンは真剣な顔つきになって、僕に告げた。


エレン「お前、俺たちが今まで、どんだけお前に助けられてきたのか……」

アルミン「え……?」

エレン「ちょっと前だって勉強みてくれたしよ」

アルミン「いや、そういうのとは違うんじゃ」

エレン「なにか違うのか? あれがなかったら、俺は落第してたかもしれねえだろ」

アルミン「えー、っと……?」

エレン「とにかくよ。……お前が居ないと、俺が困るんだ」

アルミン「あ……」

エレン「だから、一緒に居てくれよ」

アルミン「……」

エレン「俺ももう、お前を傷つける真似はしないから……」

エレン「もう、お前がいないのは嫌なんだよ……」

僕たちはまた泣いた。

最近どうも涙腺が緩くなっている気がする。

泣き疲れて、エレンの首筋にあとが残っていることに気づいた。

下唇も大きく腫れている。

どうしようかと考えていると、

エレンが「別に、あったことをそのまま話せばいいんじゃねえの?」とか言った。

たぶんそうすると僕が教官に捕まる。

自分でやった手前、彼に嘘を言わせることにも抵抗があり、僕は冷や汗を流した。

次はエレン調教編です 嘘です
次の展開を考えなければならないので、
仮に次を落とすとすると結構間が空きます

22時くらいに投下する可能性があります

投下

食堂 朝食

アルミン「……」ボーッ

アルミン「……」ゴシゴシ

アルミン(眠い……)

アルミン「……」ボーッ

アルミン「……」

アルミン「……」コックリコックリ

エレン「アルミンっ!!」

アルミン「ぇへえっ!?」ビクッ

エレン「おい、そんなに眠いのか?」

ミカサ「大丈夫? 今から立体起動がある。途中で寝ないか心配」

エレン「おお。飛んでる最中に寝たらヤバいからな」

ミカサ「そのとおり。しっかりしてアルミン」

エレン「とりあえずメシ食っちまえ。後でまた顔洗い行こう」

ミカサ「それがいい」

アルミン「いや……、流石に立体起動中に寝たりは……」

エレン「まあまあまあ。とりあえず食えよ」

ミカサ「食べて」

アルミン「……」

エレン「食えって」

ミカサ「食べて」

アルミン「……うん」

僕がエレンに襲いかかってから、翌日が今日だ。

ミカサは僕たちが仲直りしただろうことを察して、

何事もなかったように僕を迎えてくれた。とてもありがたいことだ。

それはいいけど、凄く空気が生暖かい。

さっきからちょっと二人の気づかいっぷりが過剰だ。仕方ないけど。気持ちはわかる。

エレンの首には包帯が巻かれて、唇は昨日よりもっと大きく腫れている。

場所が場所なだけに、ガーゼなどで覆うこともできない。剥き出しで痛々しいままだ。

当然周囲はそれなりの反応をしたが、僕とエレンのやり取りを見て、やたら生暖かい感じで接してきた。

あのミカサさえもだ。

本当に勘弁してください。ホント恥ずかしい。

仕方ないけれども。僕が逆の立場ならそうするけれども。

僕が今凄く眠いのは、言うまでもなく昨日のエレンとのやり取りが原因だ。

ほとんどレ○プ気味な感じで彼を襲ってしまったのは、

あのときの僕が情緒不安定で一見無気力かつ、彼の発言が僕の怒髪天を突かせてしまったからだ。

タイミングのせいだ。

だってどう考えても同情からくる発言だと思っちゃったし、

彼が簡単に自分の貞操を捨てるようなことしたのも物凄いむかついた。

あの発言のせいで、僕の怒りと欲求不満が爆発しちゃったんだ。

誰のせいだよ。うん。僕のせいだよね。

大体全部僕のせい。今物凄く死にたい。

あのあと、僕たちは自室に戻ってそれぞれダラダラ時間を過ごしたあと、適当に床についた。

僕はベッドの中で懊悩していた。

エレンの「付き合ってくれ」発言の真意がはかりかねたからだ。

どういう意図で言ったのだろうか。

「僕と離れたくなかった」という気持ちからあの発言にいたったのは、

昨日の話し合いからみても間違いないだろう。僕たち親友だしね。えへへ。

問題は、どこまで彼が考えて「付き合ってくれ」と言ったかである。

彼のことだから、深く考えずに言ってしまった可能性を考慮しなければならない。

なにせエレンの言うことである。

僕のホモ宣言を聞いて、勢いで言ってしまった可能性がないわけでもない。

ていうかある。むしろその可能性の方が高いと思う。

だってそういう関係になったとすれば、

付き合うというか、突き合う関係になるわけでしょ?

そこまでエレンが想像ついてるかどうかかなり怪しい。

僕と彼の付き合いは、幼少期から今にいたるまでずっと続いている。

そういう会話をした試しってあっただろうか。記憶にない。

そもそもそういう知識って彼にあるのか?

いや、単に恥ずかしくて口に出してないだけだろう……。気持ちはわかる。

流石にこの年になって精通してないとか……、いや、その可能性も否定できな……、

やめよう。この考え。

まあ、仮にエレンがそこまで考えてなかったとしても、別にそういう関係にはなれなくもない。

プラトニックな恋愛というやつだ。

でも前にも思ったけど、彼と恋人繋ぎとかして街に躍り出るとかしたい? したくない。

結局今までと変わんないままじゃないの?

でも、あのときのエレンの怯えた表情はかなりそそった。

僕って実はSなのかもしれない。妄想もだいたい、彼を強引な流れでやっちゃう傾向が多いし。

ああ。じゃあエレンにそういうことをじっくり仕込んでけばいいのか。

言質はとったんだし、彼も嫌とは言わないだろう。言っても強引にいけばなんとかなる気がする。

皆に隠れて、訓練中に物陰でキスとかしたい。きっと恥ずかしがって、それはそれはいい顔をするだろうなあ。

で、夜はもちろん彼を人気のないとこに誘って、彼の服を僕が脱がせながら、その顔をじっくり、

やめよう。この考え。

問題はまだある。

ミカサだ。彼女がどう出るかわからない。

彼女のエレンに対してのポジションはちょっと特殊だ。

役割的に言えば、姉という立場がもっとも適当だと思う。世話焼き的な意味で。

あれは完全に弟扱いだと思う。事情知ってるからなんとも言えないんだけど。

だが恋する乙女であるという部分が見えない訳でもないのだ。

どっちだろう。

どっちでもある気がする。

どっちにしろ彼女にことが知れたら、ただではすみそうにない。

……。

あー! もう寝よう! そもそも、今日明日で解決する問題じゃない!

……。

あ、エレンが寝てる。寝息が可愛い。睫毛長いなあ……。


こんな感じで昨日は一睡もできなくて、今に至る。

なんでエレンは熟睡出来たのかは謎だ。

一旦小休止します
0時までには続きを投下します

ごめんやっぱもうちょい待って

投下

僕はこのあと、かなり眠い状態のまま立体起動、兵站行進とハードな訓練をこなした。

どっちも途中で寝ちゃいそうになったのは二人には内緒だ。

そして、僕には目下解決すべきことがらがあった。

それをしないまま、うわついたことなど考えていることなど出来ない。

クリスタだ。

彼女に、どうしても謝罪と、それからお礼を言わなければ、

僕は前に進めない気がする。

三日後

夕食後 自由時間


アルミン「……」

アルミン(タイミングがあわない……)ズーン

アルミン(よく会う食堂とかじゃ、だいたいユミルが一緒なんだよなぁ……)

アルミン(……)

アルミン(ユミルがいると、絶対話がこじれるもんなー……)

アルミン(……)

アルミン(……)

アルミン(図書室、行ってみるか……)

アルミン(最近めっきり図書室で会わなくなったけど、たぶん僕のせいで)

アルミン(一昨日も昨日も居なかったし……)

アルミン(……)

アルミン(……)

アルミン(よし、行こう)

図書室 ドアの前

アルミン「……」ドキドキ

アルミン「」ガラ……

アルミン「……」ソーッ……


クリスタ「……」カリカリ


アルミン「」ガラ…… ピシャン

アルミン「……」

アルミン「……」

アルミン(居た!)

アルミン(すごい緊張する! 落ち着くんだ僕!)ドッキンドッキン

アルミン(今の音気づかれてないよな……)ドッキンドッキン

アルミン(……)ドッキンドッキン

アルミン(大丈夫!! 内容は考えてあるんだ!!)ドッキンドッキン

アルミン「」スゥーッ ハァーッ

アルミン「」スゥーッ ハァーッ

アルミン「……」

アルミン(よし! 行くぞ!!)

ドア「」ガラッ


クリスタ「……」カオアゲ


アルミン「……」


クリスタ「あ……」


アルミン「やあ……」

アルミン「先日はどうも……」


クリスタ「……こ、こちらこそ」

アルミン「……」テクテク

アルミン「……ここ、座っていいかな?」

クリスタ「……うん。どうぞ」

アルミン「ありがとう」ガタッ ストン

アルミン「……」

クリスタ「……」

アルミン「……」

アルミン「あの……」

クリスタ「ん?」

アルミン「えっ、と」

クリスタ「……」

クリスタ「二人とは、仲直りできたのかな?」

アルミン「え!? う、うん。おかげさまで」

クリスタ「そっか……。よかった」

クリスタ「心配してたの。余計なお世話かもしれなかったけど」

アルミン「そ、そんな! 余計なお世話だなんて!!」

クリスタ「そう? ならよかったかな」クスクス

アルミン「あ……、う、うん」

アルミン「……」

アルミン(先手取られた……)ズーン

アルミン(うわぁ、勝手に落ち込んで勝手に怒ったのは僕なのに、なんだこれ……)

アルミン(男としてっていうか、人としてどうなの……?)

アルミン(器の大きさの差が……)

アルミン「……!」ブルンブルン

クリスタ「?」

アルミン「」スゥーッ ハァーッ

アルミン「……君に、言いたいことがあるんだ」

クリスタ「……?」

アルミン「君を傷つけるような態度をとったりしてごめんなさい」

アルミン「それで……」

アルミン「君のおかげで二人と仲直りできた」

アルミン「君が僕の話を聞いてくれたとき、僕にも居場所があるって思えたんだ」

アルミン「あのとき話を聞いてくれて、ありがとう」

クリスタ「……」

アルミン「……」

クリスタ「……ぅえっ」ポロ

アルミン「!?」

何故かこのタイミングでクリスタは泣き出した。

前のしんしんと静かに泣いたときとは違って、子供みたいにわんわん大泣きした。

人が来なかったのは奇跡に近いと思う。入って来れなかっただけかもしれないけど。

僕はワタワタしながら彼女をなだめて、

そのうち泣き疲れた彼女は、目を真っ赤にしていたけどなんとか落ち着いてくれた。

そのころは僕もとても疲れていた。無駄にワタワタして。

彼女と僕は似た空気を持っている。

前のときも今回も、何故彼女が泣いたのか、何故あのとき森にいたのか。

また、何故彼女があのとき図書室で僕に話しかけてくれたのか。

僕には未だにわからない。

理由は聞かなかった。

必要なら、彼女がいずれ話してくれると思う。

理由はわからない。

けど彼女はあのとき、間違いなく僕を助けようとしてくれた。手を差し伸べてくれた。

ひとりぼっちじゃないって、僕に寄り添おうとしてくれたんだ。

きっと彼女は危うい。

だから僕の危うさに、誰よりも早く気がついたんだ。

彼女は、間違いなく僕のあのときの気持ちを理解してくれていた。

だからきっと、彼女には居場所がないんだ。

きっと今も。

アルミン「あの」

クリスタ「……?」スン

アルミン「今度皆で、街に行かない?」

クリスタ「……」スン

アルミン「……どうかな?」

クリスタ「……行く」スン

今度は、僕が彼女を助けてあげたい。

彼女が苦しんでいるとき、今度は僕が手を差し伸べよう。

だから今は、君の友達になりたい。

あと、次かその次あたりでラストになると思います

投下

クリスタと僕が和解して、ていうか僕が一方的にトチ狂ってた訳だけど、

まあそれは置いといて、あれから二ヶ月ほど経った現在。

僕たちは、なにかとつるむようになった。

休日で一緒に買い出しに行ったあと、

お昼ご飯を食べて、露天をぶらぶら回ってみたり、

格闘術で組んでみたり、座学の講義で身内でまとまって座ったり、

食事のときに今日あったこととか色々おしゃべりしたり、

まあ普通に友人として仲良くやっている感じだ。

僕たち、とは、必然的に僕の友人とクリスタの友人を指すことになる。

なぜかは察して欲しい。流れでそうなった感じだ。主にユミルとかのアレだ。

僕の交友関係といえば、エレンとミカサの二人だけど、

クリスタはクリスタで、意外な交友関係を築いていた。

ユミルとかサシャが着いてくるのは予想してたけど、

コニーとベルトルトとも彼女は仲が良く、

最近はもっぱらこの面子でつるむことが多い。

コニーは女性陣に可愛がられてるポジションで、

本人はそれに困惑してる感じだけど、まあ楽しそうだ。

ベルトルトは何考えてるのかよくわからない人だ。

普段はボーッとしてる風で、唐突に意味深で、特に意味のない発言をする。

成績優秀で文武両道だから、皆も僕も彼をよく頼りにするけど、未だに謎が多い人だ。

二人がどういう経緯で女性陣と仲良くなったのかは知らないけれど、

とても意気投合している。すごく不思議だ。

休日の買い出しは、男連中はユミルさんの命令で荷物持ちとして使われている。

洋服だの家具だの、どこからそんなお金が出てくるのかわからないけど、

とにかく女性というものは、男性と趣味嗜好が違うと実感した。

その点ミカサってすごい。反応が僕たちと同じなんだもの。

今まで僕とエレンとしか遊ばなかったもんね……。

女性陣にその辺りのことをご教授して貰ったほうがよさそうだ。

立派な淑女にしてみせるよ。僕はひっそりと、カルラおばさんに向けて誓った。

ユミルは一見トゲがあるように見えて、実はすごく誠実な考えの持ち主だと知った。

まあ確かにいちいち選ぶ言葉がキツい。あれは人を怒らせても仕方がないと思う。

気遣いが形を変えちゃっただけなんだよね、うん。

サシャはいい感じにハイテンションだ。常に。若干うっとおしいときも、ままある。

あと物を食べるとき凄く汚い。こぼしたりはしないけど、なんか食べ方が見てて不愉快になる。

でもまあサシャだし……。みんななぜか許す。なぜだろう。

クリスタとは……、相変わらずの距離感だ。

彼女はふと、憂いを帯びた表情を見せる。

休日の飲食店で、僕たちで談笑している。

そういった場面のちょっとした間で、気がつくと彼女は、そういう表情をしているのだ。

どこまで彼女に踏み込んでいいものかわからない。

機会を図りかねている感じだ。もやもやする。

色々あるけど、最近の生活はとても楽しい。

クリスタと知り合って、ユミルやサシャと話すようになって、

もともとコニーやベルトルトとは知らない仲ではなかったけど、

なんというか、共通の話題が増えた感じだ。

食堂や図書室で、とめどなくだべったり、

試験前にあーだこーだ言いながら話し合ったり、なかなか面白い。

うん。僕今凄い充実してるんじゃないかな。客観的に見て。

幼き日の僕に話してやりたい。

ここで、僕がホモセクシャル(エレン限定)だという事実が

僕の青春に影を落とす。幼き日の僕ごめん。

最近のもっぱらの悩みは、エレンについてのこと、

それと、僕自身の性衝動についてのことのふたつだ。

一ヶ月ほど前、この間特になにも進展はなく、

休日にエレンのほうから持ちかけ、僕らは話し合うことになった。

〜回想〜

休日 公園

アルミン「……」ギーコ

エレン「……」ギーコ

アルミン「……」ギーコ

エレン「おー、うん。俺はさ」ギーコ

アルミン「へ? ああはい」

エレン「アルミンが望むようにしてやりたいんだ」

アルミン「……」ギーコ

エレン「だから、前みたいに……」ギーコ

エレン「……」カアァ

アルミン(……かーわいーい。は、置いといて)

アルミン(前っていうと、僕が強引にキスとかしたアレのことかな……)

アルミン(……)

アルミン「いやさ、ぶっちゃけね」ギーコ

エレン「?」

アルミン「僕も色々さ、妄想はするんだよね」

アルミン「エレンにあーしたいだの、こーしたいだの。うん」

アルミン「ホモだからね」

エレン「……」ギーコ

アルミン「でもねぇ……」

エレン「な、なんだよ……」

アルミン「……やっぱよそう。この話は」

アルミン「君にはまだ早い」ギーコ

エレン「……んぁ?」

アルミン「エレンは子供だからね、うん」

エレン「な、なんだよっ! アルミンまで俺を子供扱いすんのか!?」ギーコ

アルミン「それより、エレンは僕と付き合ったとして、どうしたいとかあるの?」ギーコ

エレン「え」

アルミン「……」

エレン「そ、それは……」

アルミン「……」ジーッ

エレン「……」モゾモゾ

アルミン(……どういう反応なんだ? これ)ジーッ

アルミン「あー、じゃあ、街に二人で出かけたり?」

エレン「……それは今までもやってるだろ?」ギーコ

アルミン(お?)

アルミン「じゃあ、エレンの想像する恋人同士って?」ギーコ

エレン「……あー」モゾモゾ

アルミン(歯切れが悪い。これは……)

アルミン「じゃあキスはしたから……」

エレン「……」ウツムキ

アルミン(あ、これはまずい)

アルミン「ごめんね。いじめすぎた」

エレン「お……」

アルミン「なんか食べに行こう? さっき美味しそうな屋台があったよ」スタッ

エレン「おう……」スタッ

〜回想終了〜

やり取りを省みる限り、あれは色々考えていた上での発言だった。

つまりエレンは、少なくとも、こう、棒とか穴を使ってアレコレすることを想定した上で、

「僕と付き合う」と発言したということになる。

初々しくてとてもよい。実はあのとき、僕が軽く勃起していたのは内緒だ。

まあエレンの反応はしょうがない。

唐突にそういう、生々しい会話っていうのは、気心知れた仲でもなかなか出来るもんじゃない。

正直僕も抵抗はあった。あんまディープな話はまだキツい。

それとは別にこれと関連して、ある問題が発生してくる。

これは、僕の問題と言っていいのか、エレンの問題と言っていいのかわからないが、

つまり、エレンを同性愛という修羅道に導いちゃっていいの? という話だ。

今更という気もするが、考えないわけにもいかない。

僕がさきの会話で言いかけたことはこれだ。彼に直接言うわけにもいかない。

なにしろエレン自身は覚悟を決めちゃってるらしいので、僕が今更どうこう言おうと、彼はそれを曲げないからだ。

しかし、エレン自身は恐らく、まだノーマルと言っていいはずだ。

以前、男連中でダラダラ話をしていたときに、誰を彼女にしたいか云々という虚しい話題になったことがあるが、

彼は至極どうでもよさそうな反応をしていた。

気心知れた僕たち三人の会話でも、主な話題は技術を高めるにはどうだかとか、社会問題がどうだかとか、

とてつもなく真面目な内容になることが多い。

つまりエレンは、今まであんまり彼女がどうだかとか考えたことすらないのだろう。

生真面目で目的意識の強い彼らしいが、

裏を返せば、どっちにでも染まっちゃえるポテンシャルの持ち主ということでもある。

ベルトルト(彼は、ここにいたのか……)

ベルトルト「……」

ベルトルト(しかし、これで皆がいなくなった理由がわかった……)

ベルトルト(あの教官を見たら、誰だって逃げ出してしまうだろう)

ベルトルト(部屋が開かなかったのも、きっと皆どこかに隠れてるんだ)

ベルトルト(……)

間違えた 上の無しで

これは決して飛躍した考えではない。なにしろ僕という実例がいるのだ。

仮にミカサが僕と同じ行動をとったとすれば、今の僕の立ち位置にミカサが収まるのではないか?

この場合、彼はノーマルということになる。

つまり、エレンが修羅道に落ちるかどうかは、

僕自身の問題ということにもなる。

僕がノーマルになれば、エレンもノーマルになれるのだ。

ここで、僕自身の性衝動という問題に移る。

僕自身の過去を、行動心理学なんかの文献と照らし合わせて分析する限り、

僕のホモセクシュアルは、コンプレックスの肥大による女性不信からくるものでないかと考えられる。

ならば、コンプレックスを解消すれば、少なくともバイセクシュアルになれるのではないか?

というのが、僕の考えた筋書きだ。

要は、女の子といっぱいおしゃべりとかして、そうしたら、うわー、勃起してきた!

という話だ。

この辺りは、既に問題を解決するための土台は出来つつある。

ご存知の通り、僕の交友関係は拡がって、クリスタ、ユミル、サシャなどとよく付き合うようになった。

ゆくゆくは彼女達をそういう目で……、あれ? 無理っぽい……?

なんかすごく抵抗がある……。

あー……、なんか僕の中で、ミカサと同じポジションに入っちゃったのか。

まあ、既に複数の女性と仲良く交友することが出来ているのだ。

これにより、エレンは無事、ノーマルな性嗜好の人間としてまっとうな道を歩むこととなり、

僕は親友を修羅の道に突き落とさずに済むわけである。そういう可能性がある。

まあ正直、すごく悶々としてる。

だってエレンの反応見る限り、普通に最後までいけそうだし……。

でもなあ、親友をそういう道に引きずり込むのはなあ。

うーーーーーーーーーーん……………………。

あー、また思考がループしてるぞ。


こんな感じでよく悶々とする。

しょっちゅうある。よく寝不足になる。僕って成長しない人間だなあと思う。

まあそういう話は置いといて、

明日は皆が待ちに待った、特別配食の日である。

詳しい内容は知らされていないが、なんでも調査兵団が訓練兵のために、

普段ではお目にかかれないような物資を支給してくれる、訓練兵団の恒例のイベントらしい。

そういった、さわりの部分だけ教官から伝えられたので、

最近の僕らの、というか訓練兵団の間ではその話題で持ち切りだった。

午後 休憩時間 食堂

アルミン「いよいよ明日だねー」

クリスタ「楽しみだなあ」

サシャ「お肉ですかね? お肉ですか! お肉……」

ユミル「ぶっ壊れてんのかコイツ? まあでも、肉かなあ」

エレン「まあな。こんだけ盛り上げといて、野菜とか穀物とかはねえだろ。流石に」

コニー「つっても、肉料理っつっても色々あるよな?」

サシャ「ありますねー。牛、豚、鹿、羊、鶏、雉……」

クリスタ「サラサラ出るね……」

ベルトルト「新鮮な牛肉なら、鍋に軽く油を敷いて、胡椒、一拍置いて塩をして、表面をさっと色がつくまで焼く」

ベルトルト「中までは熱を通さない。これでレアステーキができるね。赤身の旨味が楽しめるよ」

ミカサ「……」ゴクリ

サシャ「あああああ〜〜〜〜〜〜、ステーキなんて、最後食べたのがいつ以来のことか……」ジュルジュル

アルミン(今のですごくハードルが上がったな……。うまそうだけど)ゴクリ

ベルトルト「あとは赤ワイン煮もいいなあ」

コニー「ワイン煮? なんだそれ」ゴクリ

ユミル「お、それなら作ったことあるぞ」

ユミル「牛の……、ほほ肉とかか? まあ赤身だな。あと人参だとか玉ねぎが入るな」

ユミル「鍋で肉焼いて、いったん肉出して、みじん切りの玉ねぎぶっこんで、飴色になるまで炒めて、他の野菜ぶっこんで炒めてー」

ユミル「で、肉と赤ワインと、あとは香草だのスパイスだのをぶち込んで、三時間ぐらいじっくり煮込む」

ユミル「あとは塩胡椒で味整えて完成だな。これがまた旨い!」

エレン「……」ゴクリ

ベルトルト「そのあと肉取り出して、スープ煮詰めてもいいよね」

ユミル「あー、私はもう面倒臭くなっちゃってな。でもそれなら、トマトとか入れてもいいな」

ベルトルト「安い肉でも美味しくなるんだよね」

ユミル「煮込み料理は色々誤魔化せるからいいよな! あとは、牛以外ならなんかあるか?」

ベルトルト「うーん。豚、羊……、鶏。鶏もいいよね。ローストチキン」

ベルトルト「マリネしておいた鶏のお腹を割いてから、穀物だの野菜だのを詰めて、そのまま丸焼きにするんだ」

ユミル「おおっ! 豪華だなっ! 詰め物は飯、玉ねぎ、ニンニク、人参……、なんでも入るな」

ベルトルト「下処理した鶏のお腹に具材を詰めて、オーブンに入れて具合を見ながら弱火でじっくり焼く」

ユミル「皮はパリッと、中はジュワっとなるな。レモンなんかかけてもいい」

ベルトルト「ナイフを入れると、鶏やニンニクの旨みが染み込んだご飯がフワッと、香りがいっぱいに拡がって……」

ユミル「味付けに悩むとこだなー。なにがいい?」

ベルトルト「西洋風か、東洋風か……。スパイスなんか使っても趣向が変わりそうだね」


アハハハハハ!!


みんな「……」

エレン「腹減ってきたから、寝るか……」

アルミン「うん……」

ミカサ「……」コクリ

サシャ「……」

クリスタ「サシャが、なんか……」

コニー「遠い目をしてるな……」

ついに、待ちに待ったその日がやってきた。

ちなみに今日は休日だが、街へ遊びに出かけたり実家に帰ったりするムードはまるでない。

あ、ダズがなんか出てったのは見た。早朝に。

なんか親がどうとか、そんな感じのことを言ってた気がするけど、

まあ凄い泣きそうだった。

可哀想に。

まあそれはそれ。これはこれである。

僕は今を楽しもう。肉が出るのかなあ。

本日はとても晴れ晴れとした気候で、絶好の肉日和である。

窓を開けると青い空が目に入り、心地よい涼しげな風が頬を撫で、とても晴れやかな気分だ。

こんないいお天気の日に肉を食べることができるなんて、僕たちはなんて幸運なんだろう。

いやまあ、肉が出ると決まったわけじゃないんだけど。

さっきから周囲で肉、肉ってうるさいので、

なんか僕もいつの間にか肉が出ると思い込んでる。

まだ日がそう高くもない時間に、みんなは既に目を覚ましていた。

僕も例外ではない。これは仕方のないことだろう。

前日の夜遅くまで、僕たちは飽きもせずに今日の食事のことをダラダラと話し込んでいたわけだが、

案の定布団に入ってもまだ興奮してて、こんなに早くに目が覚めてしまった。

仕方のないことだ。なんせ肉が出るのだ。

僕たちは揃いも揃って、この日を待ち望んでいたのだ。

特別配食は、普段の昼食の時間帯と合わせるらしい。

なので、朝早くに起きた僕らは時間が空いてしまっているわけだが、

街に出かけたりするには時間が中途半端だし、

よって、自然と室内でどのように時間を潰すか考える必要があった。

早朝、起床してから身支度などをして、

僕たちは次の行動というか、暇つぶしの手段を考える必要に迫られた。

みんな肉のことしか頭に無いのだが、

昨日までその話題で話し込んでいたため、特に真新しい話があるわけでもなく、

かといって、今部屋を出て食堂に行っても誰もいないであろうから、

僕たちは口数少なく、なんとなく部屋の掃除とか、そういうことをモソモソと始めた。

適当な時間帯になって、僕たちは食堂へと向かった。

質素な朝食を受け取り、例の面子で集まって食べる。

ところで今日はライナーも一緒だ。

僕・エレン・ベルトルトと彼は同室で、今回は流れで一緒に食べることになったわけだが、

ライナーは若干居心地が悪そうだ。

そもそも、ベルトルトがいるのに、彼がこの面子に加わらなかったのが不自然な話なのだが、

理由は僕たちには明らかだった。

まあ、クリスタが好きだというありきたりの理由である。

実は以前から、ちょこちょこ彼が加わることはあるのだが、

こう、なんとなくぎこちなさが目立つ。

今も席に着いたとき、ポジショニングが対面のみっつ右にクリスタがいる席で、

彼の右隣がベルトルトという、なんかもう、考えてることが大体わかっちゃう選び方だ。

僕は彼の対面だったので、彼がベルトルトと話してる時に、

会話そっちのけでチラチラ横目で見てるのがわかる。

ベルトルトもその辺の事情はわかっているので、

彼はライナーと会話するフリをしながら、

整式を(x−α)で割って変数がαだと、余りがP(α)になるよね。だから余りが0だと、因数には(x−α)が含まれるよ。

とか、そんな話を延々としていた。

剰余定理と因数定理の話だと思うが、たぶん僕以外誰も聞いてない。数学の話にしてもチョイスがマニアックすぎる。

ちなみにライナーは、クリスタに恋慕の情を抱いていると公言してはいない。

まあでも、彼の所有するスケベ本に、それっぽいモデルが出てる割合が多いというのは、

日頃スケベ本の貸し借りをしている僕ら男子の中では有名な話だ。

たぶんライナーはそれに気づいていない。

僕もその関係でエロ本を所有しているが、これは当然ポーズである。

正直ライナーを応援したい気持ちはあるが、僕からなにかできることもないし、

まあ、陰ながらひっそりと応援しよう。

会話の少ない朝食を終えた僕らは、またやることが無くなった。

誰となくトランプでもしようか、という流れになり、

僕たちはババ抜きをモソモソと始めた。

……

エレン「……」グッ

ユミル「……」ユラユラ

エレン「……」グーッ

ユミル「……」ユラユラ

エレン「……」

ユミル「ど、れ、か、な〜っと……」ユラユラ

エレン「……」ソワ

ユミル「……」チョイ

エレン「」ビクッ

ユミル「……」ギャクヲトル

エレン「あっ」

ユミル「あ〜がりっと」バサッ

エレン「……」


アルミン「……そろそろ席順かえない?」

クリスタ「うん。そうしようよ」

ミカサ「それがいい……」ガタッ


ユミル「う〜い……」ガタッ

エレン「……」

エレンの隣がユミルで、彼は今までやった5回戦のうち、3回程負けていた。

ちなみに数えると九人でやっている。

こう、なんかちょっと可哀想な雰囲気が場に流れ始めていたので、

みんな空気を読んだ。

このあと大富豪をやったあと、みんな徐々に飽き始めて、

その場にかたまりつつも、それぞれが適当に行動し始めた。

……

サシャ「こう、肉がですね。肉が食べたいです」

ミカサ「そう」フンッフンッ

サシャ「昔はまだ羽振りがよかったんですけどねぇ」

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「狩りに出ると、何日も森に潜ることになるわけですけど」

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「獲物が獲れたら結構な期間楽しめるんですよー」

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「獲物によるんですけど、まずは内蔵を食べますね。新鮮な肝臓は生で……」ジュルル

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「で、捌いた肉は新鮮なうちに食べます。刺身でもよし、焼いてもよし」

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「多少悪くなったら煮込むことが多いですね。秋に食べたシメジと猪のスープは、トロトロしてて美味しかったなぁ……」ジュルジュル

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「そうだ。保存を利かすために干肉にするんですけど、この干肉もですね、煮込み」

ミカサ「サシャ」

サシャ「はい?」

ミカサ「ポーズを変えたい」

サシャ「あ、はいはい」

ミカサ「こう、足を上げるので、両足を抱えてほしい」グーッ

サシャ「こうですか?」モソ

ミカサ「そう。この状態を維持したいので、そのまま両膝に乗せれば楽、だと、思う」

サシャ「はいはい」イソイソ

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「……」

ミカサ「……」フンッフンッ

サシャ「……これって、さっきのと鍛えてる場所が違うんですか?」

ミカサ「……腹筋にも、大まかに分けて腹直筋と外腹斜筋がある、が」フンッフンッ

ミカサ「どちらもとても大きな筋肉。なので、負荷を加える箇所を変えている」フンッフンッ

サシャ「へぇ〜。すごいですね」

ミカサ「そう」フンッフンッ

……

ベルトルト「それで、前回やった自己相似図形なんだけどね」

クリスタ「うん」

ベルトルト「まず一回三角形を描くじゃない」カキカキ

ベルトルト「で、手順どおりに、正三角形の中に逆三角形を描くだろ?」カキカキ

クリスタ「……」カリカリ

ベルトルト「これを第2回目の試行と考えて、その前の三角形を第1回目の試行でできた三角形とする」

参考
http://i.imgur.com/GRtqo6N.jpg

ベルトルト「三角形の面積比を整理しておこう」

ベルトルト「第1回目の三角形の面積を1とすると、2回目の面積はそれぞれ4分の1だ」カリカリ

ベルトルト「これは直感的に導けるね」

クリスタ「……」フムフム

参考
http://i.imgur.com/EUQEmcd.jpg

ベルトルト「第3回目を試行してみよう。全ての正三角形の中に逆三角形を描く。逆三角形の中には描かない」カキカキ

ベルトルト「一番小さい三角形に注目して面積比を考えると」

ベルトルト「4分の1の三角形を四分割したわけだから、これは16分の1だ」カリカリ

参考
http://i.imgur.com/YjYUYVO.jpg

ベルトルト「とすると、第4回目の一番小さい三角形は64分の1ということになる。書いてみよう……」カリカリ

ベルトルト「16分の1の三角形の4分の1、つまり64分の1だね。これは視覚的にもわかるはずだ」

参考
http://i.imgur.com/hpgXTbh.jpg

ベルトルト「ここまでのことを整理して……」カリカリ

クリスタ「……」カリカリ

ベルトルト「第n回目の三角形の面積比の一般化が出来るわけだ」

参考
http://i.imgur.com/xc7FC7B.jpg

クリスタ「……」ジーッ フムフム

ベルトルト「うん、素晴らしいね」

ベルトルト「お子様でも取り組むことができるうえ、一般化の概念まで学ぶことのできる素晴らしさ」

ベルトルト「自然科学は意味わかんなくて素晴らしい。なにこの三角形? 馬鹿にしてんだろ」

クリスタ「奥が深いね……」ウンウン


ライナー「……」

ライナー「なあ、なんの話してんだこいつら?」

コニー「知らん」カリカリ

ライナー「そうか……」カリカリ

……

エレン「……」グーッ

アルミン「……」

エレン「……」

アルミン「いやエレン。そんなに力むもんじゃないんじゃないかな」

エレン「……」


ユミル「……」ボケーッ

アルミン「ほら、リラックスしよう」

エレン「……」

アルミン「……」チョイ

エレン「」ピクッ

アルミン「……」ギャクヲチョイッ

エレン「……」

アルミン「……」ソノギャクヲトル

エレン「あっ」

アルミン「……」

ユミル「もう手の施しようがないだろ」

エレン「……」

ユミル「よしアルミン。こっちこい」チョイチョイ

アルミン「?」ノソノソ ←(いわゆるハイハイで移動)

ユミル「はいわしゃーっ」アタマワシャワシャ

アルミン「うわぁーっ!?」

アルミン「え!? なに!?」

ユミル「いや、なんか苦労多そうだったし」

ユミル「ねぎらい?」

アルミン「あ、そうなんだ……」

アルミン(……え? そんな目で見られてたの?)

ユミル「まあ、あれだな」


エレン「……」ボケーッ


ユミル「……トランプタワーでもつくるか」

アルミン「……」

アルミン「うん。エレン、トランプ持って来て」チョイチョイ

たぶん次で終わります

ケツミン
http://i.imgur.com/hpUtnSN.jpg

計り知れないものを身近なものに置き換えて 解った気になろうとする人は好きじゃない
人間は極大にも極小にも到達し得ないので そうするのも仕方ないのだけど
でもやっぱり 途中で答えを出す人より 答えに到達できなくても向かい続けている人の方がカッコイイ

この>>1 SSだけじゃなく絵も上手い 何者だ

>>306
http://i.imgur.com/FVsUZNg.jpg

投下

そんな感じで、全体的にまったりと時間が過ぎていった。

僕たち三人は、最初60段ぐらいのタワーつくろうぜ! というノリだったが、

トランプがひと組みしかないため、6段のタワーをつくるのにちょっとパーツが足りない感じの

中途半端なタワーが完成した。

そのあとも適当にダラダラしていると、外から沢山の馬が駆ける音が近づいてきた。

調査兵団だ!

エルヴィン「〜〜〜〜〜〜」ビシッ

キース「〜〜〜〜〜〜」

リヴァイ「……」


エレン「調査兵団のトップ、エルヴィン団長だ……!!」キラキラ

アルミン「凄い……!」

ライナー「……でも、その団長が、教官に対してやけに腰が低いな」

ベルトルト「教官はその調査兵団の、元団長だからね」

クリスタ「……なんだかこうやって見ると、改めて教官って凄いんだね」

コニー「あの、横で突っ立ってるちっこいオッサンは誰だ?」

ユミル「お前とたいして変わらないだろうが」

サシャ「目が怖いですね……。あっ、こっち見た!」

リヴァイ「……」ジーッ


ミカサ「……」ジーッ

アルミン「ぼ、僕たちがいたら邪魔になるよ。ほら行こう、ミカサ!」グイッ

エレン「睨んでんじゃねえよ……」グイッ

ミカサ「そんなつもりは……」

アルミン「わかってるから! とにかく行こう!」グイグイ


リヴァイ「……」ジーッ

……

しばらくして、調理場からザワザワと騒がし気な音が響いてきた。

何事かと思っていると、教官による説明があった。

特別配食は、調査兵団の皆様が直々にこしらえてくれるらしい。

僕たちは大変驚いた。

エレンなどは体を小刻みに震えさせ、マジか、マジかよとぶつぶつ呟いている。

ハハハ。大袈裟だなあエレンは。

けどこれは大変名誉なことだぞ。僕は思わず襟を正した。

なんか場が異様な緊張感と期待感に包まれつつ、

僕たちはまたトランプタワーをつくるなどして時間を潰した。

それからおおよそ二時間ほどして、待望の配食の時間が来た。

……

サシャ「は、ははは、はあああぁあぁ〜〜〜!!!!」ダラーッ

ユミル「オイ……! 待てだぞ芋女……!!」ヒソ

コニー「声でけえよ……」ヒソ


リヴァイ「……」ジーッ


エレン「うぐっ。ちょ、サシャ、頼むから静かにしてくれ……」

アルミン「あはは……」

サシャこうなるのも無理はない。

僕たちの目の前には、沢山の肉料理が並んでいた。

普段僕たちが口にしている食事のメニューは、肉とその他の割合が、

だいたい平均して0.5:9.5ほどである。

壁崩壊後、僕たちの食料事情は更に悪くなり、このような残念な食事内容になっている。

いや、文句はないんだけどね。ホントはあるけど……。

それに対して、この特別配食は、まず品数からして半端なく種類がある。

例えばハンバーグひとつとっても、昔母さんにつくってもらったデミグラスソースのハンバーグだとか、

エレンの好物のチーズハンバーグ。これはトマトベースのスープで煮込んだやつ。

それにこれは……、生の肉だろうか? 見たことがない。

荒いミンチ肉で、平たいボールみたいな形だ。テカテカしていて、味が想像できないのに、なぜかとても食欲がそそられる。

こっちのは……、刺身みたいだ。平皿に黒っぽいタレが添えてある。

他にも露天で見るような串焼きだとか、とにかく数え切れないくらい種類がある。

どれも小ぶりだ。沢山の種類を食べられるような工夫だろう。

全種類食べてみたいけど、食べきれるだろうか。

種類も多いのだが、量もそれに負けないくらい多い。

僕たちが全員サシャだったと考えて、ようやく食べきれる量なんじゃないか。

いや、それはさすがにありえないんだろうけど。

雰囲気に飲まれて盛っちゃった。

とにかく皿、皿、皿。広い食堂に並んだ机いっぱいに、所狭しと並ぶ皿の数々に圧倒させられる。

普段があまりにも貧相というか、質素な生活の僕らにとってはあまりにも非日常的な光景である。

なんだかくらくらしてきた。

僕たちはそれぞれ、大きめの皿を一枚手に持って、机の前に立っていた。

好きなものを好きなように取って食べる、いわゆるバイキング形式だ。

ちなみに、手にしている皿にはなにも乗っていない。

なぜかというと、エルヴィン団長のありがたい挨拶が先にあるからだ。

早く済まして欲しい。

エルヴィン「えー、訓練兵の諸君」

エルヴィン「今日までの厳しい訓練によく耐えてくれた。ありがとう」

エルヴィン「訓練に耐えかねて、開拓地に戻っていった者もいるのだろう」

エルヴィン「兵士になる以前、つい最近までの君たちの生活は、そういったものとは無縁だった筈だ」

エルヴィン「訓練中に命を落とした者もいたと聞いた。大変痛ましいことだと思う」

エルヴィン「だが、我々兵士は強くあらなければならない」

エルヴィン「君たちの知る通り、およそ三年前の話だ」

エルヴィン「ウォール・マリアの崩壊……。人類の活動領域は、ウォール・ローゼより内側まで後退してしまった」

エルヴィン「100年続いた安全神話は崩れた」

エルヴィン「その原因である超大型巨人の出現……。鎧の巨人と言われるものもそうだろう」

エルヴィン「安全神話の崩壊は、人類にとっての未知の驚異が生んだものと言ってもいい」

エルヴィン「我々調査兵団は、未知なるものの探究が使命だ。これは調査兵団の敗北とも言えるのだろう」


これ絶対話が長くなる流れだろ。

僕は結構こういう感じの話、真面目に聞く方だけどさ。

流石に空気読めないのこの人? とか思っちゃう。ちょっとだけ。

そりゃ、あなたくらい偉い立場の人なら、いくらでも旨いもの食べれるんだろうけどさ。

せっかくのお肉が冷めちゃうじゃないか。

まあうん。凄く尊敬はしてる。ある意味、僕の憧れの人でもある。

僕みたいな若輩者でも、エルヴィン団長の評判は知っている。

歴代の調査兵団団長の中でも評価が高い。在任中にこれだけ評価されてるって結構稀なことだ。

教科書や著書なんか読んでも、既存の用兵術を是正してみたり、とにかくよく動いて、よく考える人って印象だ。

こういう人は、とても尊敬に値する人だと僕は思う。

思うけど、今はそういう時間じゃないだろ。

ほら、ユミルが小さい声でぶつぶつクリスタに文句言い始めてるし。

クリスタ困ってるじゃないか。止めてあげなよ。

コニーはアホみたいに口を開いて虚空を見つめているぞ。

エレンはちょっとだけソワソワし始めている。可愛い。

ベルトルトは平気そうだけど、たぶん彼は多分最初から話を聞いていない。

ライナーとミカサは割と平気そうだ。

サシャは言うまでもないだろう。

このままじゃ食堂が、阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまうぞ!

早くするんだ!! ここには爆弾が仕掛けられている!! 

サシャだ!!

彼女が爆発すると、およそ三秒間で食堂内の飲食物は壊滅する!!

ここは僕が処理しよう!!

みんな、食堂から出るんだ!!

……よし。みんな出ていったみたいだな。

よーしよし。サシャ、落ち着くんだ。ほうら、ここにハンバーグがあるぞ。

それっ、あっちにいったぞ! 取ってこい!

おーっと予想通り天井からザルが落ちてきたぞ! 

ククク、まんまと罠に引っ掛かってくれちゃって……。

よし。これで爆発物が処理出来るようになったぞ。

慎重に、慎重に……。よし、上着のボタンは取れたぞ。

中は……、やっぱり、ずいぶん複雑な構造になってるみたいだ。

ここのネジを外して……。おっと、こっちの歯車は触らないように……。

がたり。

ん? 後ろから音が……。

……なんでここに居るんだよエレン!?

なになに? ……僕が心配だった?

……バカッ!! 君がここに残ったってなんにもならないのに!!

……死ぬ時は一緒に死にたいって?

バカだよ……。ホントにバカだよっ……。

……だったら、手を握ってて欲しいな。

それなら僕も、一生懸命頑張れるだろ?

うん。一緒にサシャの解体をしよう。

僕と君なら、きっとできるよ。

……君の手は冷たいね。ひんやりしてる。うん、ほっとする。

よし……。やろう……。

二人で!!


お、話終わりそうかな?

エルヴィン「というわけだ。我々調査兵団は人材を求めている。優秀な兵士なら尚更だ」

エルヴィン「君たち訓練兵諸君には、今日という日を満喫して貰って、明日への英気を養って欲しい」

エルヴィン「っと、随分話が長くなってしまったな。それでは……」

エルヴィン「これをもって乾杯の挨拶とさせていただく!」

エルヴィン「諸君!! 乾杯!!」


「「かんぱーい!!」」


サシャ(白目)「」ダダッ

……

アルミン(デミグラスハンバーグと、付け合わせに丸パンをちょこっと)

アルミン(あとはちょっと怖いけど、刺身だ)

アルミン(ハンバーグから……)

アルミン「……」モグモグッ

アルミン(……旨いっ!! 凄い……!!)ジーン

アルミン(こんなに油を惜しげもなく使ってるなんてっ。噛むと肉汁が溢れる……!!)ジュワジュワ〜

アルミン(すごく味が濃厚だっ! パンが進む進む)モグモグ

アルミン(もう無くなっちゃった)

アルミン(刺身は……)プリッ

アルミン(……〜〜〜〜!! 舌の上でとろけたぞ!?)モニュモニュ

アルミン(うわ、うわ! なんだこの感覚!! こんなの初めてだ……)モニュモニュ

アルミン(独特の風味が堪らない……)ゴクン

アルミン「……」ゴクゴク

アルミン(ぶどう酒も美味しいっ!! 最高だ!!)プハッ

エレン「これうめえよっ!! すげえ……!!」ジーン

アルミン「なに食べてるの?」

エレン「すげえ……!! な!? オイ!!」

アルミン「だからなに……。あ、チーズハンバーグか。エレン好物だもんね」

エレン「すげえ!!」ガツガツッ

アルミン(語彙少なっ)

ミカサ「……」ジーン

ミカサ「……美味しい、美味しい」モグモグ

アルミン「ミカサは……、ミカサもチーズハンバーグね」

ミカサ「……」コクリ モグモグ

ミカサ「……アルミン」

アルミン「?」

ミカサ「これは、とても凄い」

アルミン「そうだね」

特別配食もとい宴会は順調に進んでいった。

皆のテンションがかつてないほどハイになっている。

かくいう僕もそうだ。

食事内容もさることながら、普段は飲まない酒なんかも飲んでるせいか、

さっきから無駄に笑いが止まらない。

ちょっと足元がおぼつかなくなってきてる気がするぞ。

クリスタ「……」モグモグ

クリスタ「」パアアッ

アルミン(可愛い)

アルミン「……」モグモグ

アルミン「でもこれ、なんの肉だろうね?」

ベルトルト「?」

アルミン「たぶん、どの料理も同じ種類の肉を使ってると思うんだけど……」モグモグ

エレン「……そういや、食ったことない感じだな」モグモグ

ミカサ「……」モグモグ コクリ

ライナー「……豚や猪じゃないよな。牛か?」

クリスタ「んー? どこかで食べたことある味だよ?」

クリスタ「なんのお肉までかはわからないけど……」モグモグ

コニー「……」ゴクゴク ブハァッ

コニー「……うめえっ!! なあこのぶどう酒うめえなっ!?」

ライナー「お前話聞けよ……」

コニー「だって酒飲んだことなんかないからよぉ」

ユミル「コイツは飲みやすいように、普通のぶどうジュースとブレンドしてんだよ」

コニー「え?」

ユミル「純粋なやつはもっと苦くて酸味がキツく感じるぞ。まあこれはこれでイケるけどな」グビリッ

コニー「そうなのか?」

ユミル「まあお子ちゃまにはキツいなっ!! フハハッ!」ザリザリ

コニー「撫でんなよ!!」

ユミル「だって気持ちいんだもんよ。いいじゃねえか」ザリザリ

ユミル「ほらクリスタ! お前も飲め飲めっ!!」ガボッ

クリスタ「うえ、ちょ……」ブハッ

ユミル「うわっキタねっ!! 食いもん粗末にしちゃダメだろ〜?」ケラケラ

クリスタ「うえっほっ!! ごっほっ!!」ゲッホゲッホ

ライナー「……」ジーッ

ベルトルト「……」

ベルトルト「アルミン。君飲みすぎたのかい?」

アルミン「ん?」グビッ

ベルトルト「いや、君なら想像ついてるかなって」

アルミン「……? なにが?」

ベルトルト「肉の話だよ」グビッ

アルミン「……。……? ベルトルトは食べたことあるの?」

ベルトルト「無いけどね。……コレ旨いな」モグモグ

アルミン「ね。舌の上でとろけるんだよ〜」ウットリ

ベルトルト「このタレがまた、たまんないよね。どう作ってるんだろ」モグモグ

ベルトルト「こっちは食べた?」ズイッ

アルミン「あっ、コレ気になってたやつだ!」

ベルトルト「一口どうぞ」

アルミン「これはどうも。……では一口」モグッ

アルミン「……! これも美味しい!」パァッ

ベルトルト「凄い舌触りだよね」

アルミン「もうちょっとちょうだい……」パクッ モグモグ

アルミン「うんうん。タマネギとか、ニンニクの風味がするね」

ベルトルト「荒みじんした肉をオイルで絡めて、みじん切りのニンニク・玉ねぎ・ピクルス、塩胡椒ってところかな」モグモグ

ベルトルト「……」グビリッ

アルミン「……」グビリッ

二人「うま〜い」ニコニコ

ベルトルト「で、生の肉だよね。コレ」モグモグ

アルミン「あ、そうなんだよね。大丈夫かなって思っちゃったんだけど」モグモグ

ベルトルト「文化圏によるんだよね。そうか、アルミンは生の肉って初めて?」グビッ

アルミン「うん。……シチューとパンも合うなあ」モグモグ

ベルトルト「また腹にたまるのをいくな……。うーんそっか。興味の範囲の問題なのか」ブツブツ

ベルトルト「えーとね。まずこれは四足獣の肉だろ?」モグモグ

アルミン「そうだね。鳥類や魚類ではないだろうね」チビチビ

ベルトルト「で、寄生虫なんかの問題で、豚と猪は無い。牛もちょっと厳しいかな」グビグビッ

アルミン「ふんふん」モグッ 

ベルトルト「白もイケるな。むしろ白がいい。……で、ヤギやヒツジは刺身で食べる文化があるそうだ」グビッ

アルミン「飲むペース早くない? そうなんだ。知らなかった」

ベルトルト「ビールいこう。なになに? ライトエール……。軽い? なにが軽いの?」

アルミン「わかんない。あ、僕も欲しい。ちょうだい」ズイッ

ベルトルト「ほいほい。……とっとっと」トクトク

アルミン「ありがとうございます。……んー! 苦いねー!」ブハッ

ベルトルト「そうかな? 普通に飲める……。ほら、こっちのほうが食事に合わない? ほらこの串焼きとか」モグモグ

アルミン「……んー。僕は苦手かも。でもせっかくだから飲もうかな」モグモグ

ベルトルト「おっ! この串焼き合うよ!」モグッ グビグビ

アルミン「……わっ、ホントだっ! これは塩だね。うわ、凄い合う……」モグッ グビッ

アルミン「……で、どこまで話したんだっけ。そうだ、ヤギとヒツジは刺身で食べれるとか」モグ グビッ

ベルトルト「あ、そうだね。……こっちの甘ダレも合うな」モグモグ グビッ

ベルトルト「あー、そんで、これらは生食できるんだけど、独特のニオイがするらしいんだ」モグモグ

アルミン「へえ。あ、刺身にも合うなあ。食べたことあるの?」モグ チビッ

ベルトルト「いや無い」ゴクゴク

アルミン「ないの? あ、サラダいこうサラダ。食べる?」

ベルトルト「食べる」

ベルトルト「大根うまーいなー。シャキシャキしてて。歯ごたえいいね」シャキシャキ

アルミン「レタスもいいね。ちょっとお腹膨らんでたから」シャキシャキ

ベルトルト「かかってるのはシーザードレッシングっていうやつだね。確か」チョイチョイ

ベルトルト「乳製品とかオイルとか酢を絡めたやつ。ミルキーで旨いな」シャキシャキ

アルミン「……? この四角いやつなんだろ?」ヒョイッ

ベルトルト「あーそれなんだっけ……」

ベルトルト「ああ、確かクルトンっていうんだ。賽の目に切ったパンを揚げたやつ」

アルミン「サクサクしてタンパクだね。サラダに合うなあ。作った人天才だと思う」シャキシャキ

ベルトルト「あー。で、もうこの肉がなにかわかったでしょ?」

アルミン「え? え〜っと……」ムーン

アルミン「……」ムーッ

アルミン「……」ムーーッ

ベルトルト「……」

アルミン(え!? わかんない! なんだろ、ここまでヒントあるのに……)ウーン

アルミン(……やっぱり酔ってるのかな。悔しい……)

ベルトルト「……あー、ごめん。いや、仕方ないのかも」

ベルトルト「僕たちじゃまず食べたことないし。あ、コニーやサシャなら食べたことあるかな」

アルミン「……そうなの?」

ベルトルト「あとは、ほら、調査兵団と言えば?」

アルミン「……あ! わかった!」

リヴァイ「そうだ。馬肉だ」モグモグ

アルミン「あっ。も〜、答えたかったのに……」

寝落ちした

ベルトルト「……」

アルミン「……」

リヴァイ「……」グビッ

リヴァイ「ぷはっ、うめえな……」モグモグ

ベルトルト「……ええ。ですね」グビッ

アルミン「……とても」モグモグ

エレン「……あ、あの」モジモジ

リヴァイ「ん?」グビッ

エレン「よろしければ、お名前をうかがっても……。お、私は調査兵団希望でして、ぜひ……」モジモジ

アルミン(うわあ……)

ベルトルト「……」

リヴァイ「……」モグモグ

リヴァイ「リヴァイだ」

エレン「……えっ!?」ビクンッ

アルミン(この人が人類最強……!?)

アルミン(僕より背が低いじゃないか……。あ、でも目付きが尋常じゃない。怖い)

リヴァイ「……」グビグビ

エレン「……!!?? …………!!??!??」

アルミン(エレンの顔面が崩壊している……。たぶん喜びとか驚きとか畏れ多さとかで)

リヴァイ「……うまいなコレ。コレなんだ?」

ベルトルト「シーザーサラダですね。……野菜お好きなんですか?」

リヴァイ「好きだな」シャキシャキ

ユミル「おっ、なんだ? ……げっ」

クリスタ「……」

ライナー「……」ソッ……

コニー「あ、さっきの人だ」

ミカサ「……」ドスッ

コニー「うぇっ」

アルミン(人が集まり始めた)

リヴァイ「……コレうまいな。コレうまいぞ。飲めよ」

ベルトルト「エールビールですね。頂きます……」トクトク

リヴァイ「で、ミカサっつう奴を見にきたんだが、どいつだ?」

ミカサ「私です」

リヴァイ「お前か。……まあ後でいいか。それでな」

リヴァイ「馬肉の話だ。どうせ後で説明があるんだが、気づいたやつもいるみたいだしな」

クリスタ「えっ……?」

ユミル「ちょ、ま」

アルミン(え? クリスタ……)

アルミン(あ、馬……)

ベルトルト「となると、やはりこれは兵団の馬ですかね」

リヴァイ「そういうことだ。こいつはバカみてぇに値が張るんだが、こういう時代だからな」

ベルトルト「引退していただく……、ということでしょうか」

リヴァイ「そうだ。ありがてえ話だぜ全く。利用できるもんは利用させてもらうってことだな」モグモグ

アルミン(ちょ、この流れまずい)

ベルトルト「これを僕たちが頂いてるということは……」

リヴァイ「察しがいいな。近いうち、お前らには研修をしてもらうことになる」

クリスタ「え……」フルフル

ユミル「……」

ベルトルト「どこまでですか?」

リヴァイ「んーそうだな。俺ん時は、老いた馬が連れてこられて、そいつを屠殺して解体」

リヴァイ「んで、バラした肉やら内蔵を自分らで調理して食べた。脳ミソ食ったのはあれが初めてだったな」モグモグ

ベルトルト「へえ、興味深いですね。脳ミソは見たことないんですよ」グビッ

アルミン(なんでさっきからベルトルトはちょいちょいノリ気なの!?)

クリスタ「……」フルフルフル

アルミン(ヤバいヤバいヤバい!! 頼むから空気読んで!!)

リヴァイ「あれピンクだぞ。こう、頭蓋骨をこじ開けるんだが……。頭頂部をうまいこと叩くとパカッと割れるぞ」グビッ

ベルトルト「へえ。あ、コニーちょっと来て」チョイチョイ

コニー「ん?」グビッ

ベルトルト「コニーは狩猟で生活していた地域の出身なんです」グビグビ

リヴァイ「ほう」モグモグ

アルミン(馬鹿が増えた!!)

リヴァイ「なら詳しいはずだな。色々教えてやれ」グビッ

コニー「?? ……はいっ!!」モグモグ

ベルトルト「いや、君わかってないだろ。えーと〜〜〜」


クリスタ「……」ボソボソ ボソボソ


アルミン(ヤバい。なんかうわごとみたいになってる……)

アルミン(ユミル……!)チラッ


ユミル「……!」チョイチョイ


アルミン(フォローしろと……)スタスタ

アルミン「……」ヒョイッ

クリスタ「うん。こんな時代だもん。そうじゃなくても、私は命を頂いて生きてるわけで」ボソボソ

クリスタ「お馬さんだって同じだよね。でも、とってもいい子達だし……」ボソボソ

クリスタ「そういうのって欺瞞って言うんだよ? わかってて言ってるよね?」ボソボソ

アルミン「……」


アルミン「……怖いんだけど」ヒソヒソ

ユミル「お嬢様育ちなんだろ……」ヒソヒソ

アルミン「そういう問題なの?」ヒソヒソ

アルミン(そういや僕んときもいきなり泣いたな……。直情型というか、周りが見えないのか?)

クリスタ「でもでも、ブラシで撫でてあげるとね。とっても気持ちよさそうな顔になってね」ボソボソ

クリスタ「でも美味しかったもんね。美味しい美味しいって言ったじゃない。言ったでしょ?」ボソボソ

クリスタ「うん。だから、でも、それで、本当に私を信頼してくれてるってわかって、それがすごく嬉しくて」ボソボソ

クリスタ「でも豚や牛は平気で食べてるじゃない。なんでお馬さんだけ特別扱いしてるの……?」ボソボソ

クリスタ「そうだよね。こんなに身近にいて、一緒に頑張ってきたから……」ボソボソ

クリスタ「……」

クリスタ「……」


アルミン「……」

ユミル「止まったな……」ヒソ

クリスタ「」クシャ


アルミン(うわ! しちゃいけない顔を!!)

ユミル「……」


クリスタ「」クシャー フルフルフル


アルミン「あれは、泣くのを我慢してるんだよね……」ヒソヒソ

ユミル「泣くのは欺瞞だって思ってんだろ……」ヒソヒソ

アルミン「あ、そういう……」ヒソヒソ

サシャ「はれ、ほうしはんへうはフヒフハ? ブフゥッ!!」ブウゥゥッ


クリスタ「」ベチャベチャー


アルミン(うわっ馬鹿っ!! なにしてんだこの女!!)


サシャ「うげっほっ!! おっほっ!! クリスッげっほ!!」ゲッホゲッホ

クリスタ「……」

クリスタ「……」フルフルフルフル


アルミン「……」

ユミル「……」ゴクリ

クリスタ「ほまふにひないれよぉ……」クシャー

クリスタ「あめへよ、おねあいだかあぁ……」クシャクシャ フルフルフル

クリスタ「あいせふにしてあげへぇ……」クシャクシャ フルフルフル

サシャ「ふひっ、げっほっ!! やめて、やめげっ、おえっ」ゲッホゲッホ ウプッ


アルミン(えーと……、「粗末にしないでよ。止めてよ、お願いだから。大切にしてあげて」だな)

アルミン(顔面に吐瀉物かけられたことを怒ってるんじゃないのか。流石クリスタ……)

アルミン(だけど顔が面白すぎるし何喋ってるかわかんないし、サシャは笑いすぎて吐きそうになってるし)

アルミン(なんだこの状況)

サシャ「うふっ、う、おえっ、ぅ、げえええぇぇぇぇぇぇ」パシャーッ

クリスタ「」タパッタパタパタパッ


アルミン「ああ……」


クリスタ「うーーーーっ(低音)、うーーーーーーっ(低音)」フルフルフル

クリスタ「うーーーーーーーーーーーっ(低音)」フルフルフルフルフルフル


アルミン(怒りで気が触れそうになってる……。あんなに歯をムキ出しにして……)

アルミン「ユミル……」フルフルフル

ユミル「なんだ……」フルフルフル

アルミン「なんかもうぶっ、笑えてきたんだけど……」フルフルフル

ユミル「私はとっくにだぜ? ぐっ正直ハラ痛い」フルフルフル

アルミン「ぷすっどうしよう……。止める?」フルフルフル

ユミル「もうちょっとぐふっ待とうや……」フルフルフル

アルミン「そうだね……」フルフルフル

みんなで馬鹿みたいに騒いで飲んで、こんなに楽しい時を過ごしたのは初めてだと思う。

またいつか、こんな時間が訪れることがあるのだろうか。


「馬の赤身、正肉はね、空気に触れると赤い色が淡いピンクに変わる」

「これが桜の色に似ていることから、東洋ではさくら肉と呼ばれていたんだ」


さくら肉、さくら肉か。

桜の花の色の名前。いい名前だ。

これから僕は桜を見るたび、この出来事を思い出すのかもしれない。

春、春だ。

春になるたび、きっと何度でも、僕たちはこの出来事を繰り返し話すのだろう。

僕たちで共に分かち合った、この青春のときのことを。

きっと何度でも思い出す。

このクリスタの面白い顔のことを。春が来るたびに。

クリスタにとっては苦い思い出になるのだろう。

きっと将来もずっと、延々とこのネタでからかわれ続けるはずだ。可哀想に。

まあそういのも含めて全部青春だし。

ちょっと前の僕のも、うん。正直思い出したくない行動でいっぱいだけどさ。

あ、ヤバい。今僕の中で、春とクリスタの顔と僕の黒歴史が融合した。

今後春が訪れるたびに、延々と自分の黒歴史が想起されるのか。

勘弁してください。普通に死にたくなる。

いつか笑って流せる日が来るのかなあ? 少なくとも、今後何年かは悶々としそうだ。

とにかく、今は楽しい。楽しく過ごしたい。

青春といわれる時期は短いし、それに僕たちは兵士だから、

あと何年生きれるかなんて誰も保証してくれない。

エレンが調査兵団に行くなら、僕も着いていきたいなあ。

死ぬときは一緒に死にたいよね。うふふ。自分の発想が怖い。

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