幼「……はぁ、はぁ」タッタッタ
ガラッ
幼「男っ!!」
男「うわっ!」
幼「良かった……男無事だった……」
幼「私……目の前で、男、轢かれて……血が……」
男「あ、う……えっと……」
幼「ひぐっ……良かった、うぇぇ……」
男「あ、あのっ……すみません」
男「えっと……知り合いなんですか?」
幼「……えっ」
男「うんと……何かどうも僕、記憶喪失みたいで」
幼「きお……く?」
男「あのだから……『男』についてのこと何も知らなくて」
幼「……しら、ない?」
男「それで……僕の友達とかですか?」
幼「そんな……そ、なっ」
幼「わ、わたし……分かんない?」
男「……すみません、その、全く」
幼「私だよっ、ねぇ、男っ!」
幼「いつも一緒だったよね、私たちいつも一緒で!」
幼「……っ、ぐぅ……やだよぉ……忘れちゃやだよ……」
男「ちょ、ちょっと落ち着いて」
幼「……ごめ、んねっ、取り乱して」
男「い、いえ……」
幼「…………」
男「…………」
幼「…………」
男「……い、いつも一緒って」
幼「…………?」
男「僕の家族とか……えっと妹とか……ですか?」
男「でも《お母さん》はそんなこと言ってなかったけど……」
幼「っ、違……わ、私は幼馴染でっ」
男「幼馴染……って、えっと」
幼「私の家と、男の家が隣で……親同士が仲良くて」
幼「私たちはちっちゃいころから一緒に遊んでて……」
男「そうなんですか」
幼「うん……そうだったの」
幼「そうだったのに……う、ぁ……」
幼「男、思い出せない?」
男「はい、ぼんやりとも思い出せなくて」
幼「遊んだ思い出も……全部……」
幼「……大切な……大切な、消えちゃった」
幼「……うぅぅ、ぇ……ひっく……」
幼「ごっ、め゛んね……男の方が大変なのに゛」
男「…………」
幼「今日はもう……帰るね」
幼「お大事に……」
男「……さようなら」
幼「記憶……戻るといいね……」
ガラ パタン
今日はおしまい
――――――
――――
――
コン コン
男「はい? どうぞ」
幼「男……」
男「あ、えっと幼馴染……さんでしたっけ」
幼「……うん、そうだよ」ニコ
幼「お見舞いに来たの、ほら、果物持ってきた……」
男「ありがとうございます」
幼「……うん」
幼「何か食べる? 剥いてあげるよ」
男「いえ、今は大丈夫です」
幼「そっか」
男「…………」
男「あ、の……大丈夫ですか?」
幼「……何が?」
男「えっと……ひどいクマが……」
幼「あぁ、これ?」
幼「えへへ……ちょっと、寝不足なだけだから」
男「…………」
男「……幼馴染さん」
幼「大丈夫だから」
幼「あとちょっとで、立ち直れるから」
男「…………はい」
幼「ほら、それよりさ」
幼「男は覚えてないだろうけど、私たち仲良いんだから、そんな敬語とか使わないで、楽にしていいよ」
男「は……い、じゃなくて……えっと、うん」
幼「そうそう」
幼「怪我の調子はどう? まだ痛い?」
男「まだ動くのは危険らしいけど……痛みは無いよ、沈痛剤打ってるから」
幼「そうなんだ」
幼「どれぐらいで退院できそう?」
男「回復の度合いによるけど、最低三か月だって……」
幼「そっか、早く良くなるといいね」
幼「……えと、男」
男「どうしたの?」
幼「何か、思い出した……?」
男「……ううん、残念だけど少しも」
幼「…………」
幼「……思い出せるよね」
男「……分からない、です」
幼「…………うん」
幼「大丈夫、きっと戻るから! それに男、口調が元に戻ってるよ」
男「あ、えっと」
幼「リラックス、リラックス」
男「う、うん」
幼「あ、っと……もうこんな時間だ」
幼「また明日も来るから」
男「うん、また明日」
幼「お大事に、ばいばい」
ガラ、パタン
――――――
――――
――
コンコン
幼「男、起きてる?」
男「うん、起きてるよ」
幼「おはよ」
男「おはよう」
幼「じゃん」ドサッ
男「なにこれ?」
幼「アルバムだよ、おばさんに言って借りてきた」
男「アルバム……ってなんで?」
幼「記憶を辿ってったら無くなった記憶も思い出せるかもと思って」
男「辿る?」
幼「そう、私が覚えてる思い出をアルバム見ながら話していくの」
幼「まずは一冊目」ペラ
幼「わ、男が赤ちゃんだ! 可愛いね」
男「こんなだったんだ」
幼「っと、だけど私もこんな小さな時は覚えてないからなぁ」
男「えっと、この隣のが幼馴染?」
幼「うん、そのはず、赤ちゃんのときから一緒だったんだ」
幼「これは、幼稚園だね」
男「みどり幼稚園、か」
幼「そ、みどり幼稚園」
幼「私が月組で、男が星組だったかな」
男「……ふぅん」
幼「どう? 何か、引っかかる?」
男「いや、さっぱり」
幼「そっか、まぁまだいっぱいあるし」
幼「これは……遊園地に遊びに行ったときかな」
幼「男が怖がってメリーゴーランドに乗れなかったんだよ?」
男「んー」
幼「あはは、半べそかいてたなぁ、あははは」
男「…………」
幼「あははー…………うん」
男「思い出せないよ、全然」
男「無理だよ、もう」
幼「そ、そんなことっ!」
男「だってさぁ、自分が分からないんだよ?」
男「『男』って名前も、僕の家族だって人も、幼馴染の君もみんな、僕からすれば赤の他人じゃんか」
幼「……っ」
男「そんな人たちに慰められても、励まされてもなんも響かないんだよ」
幼「う、ぐ……うぁ……」
男「君たちに僕の気持がわかるのか? ねぇ?」
幼「っ……ひぐ……うぇ……」
男「……ごめん、言い過ぎた」
幼「う゛うん、男は悪く゛ないよ……ひっく……」
幼「わっ、わだしは……こんな゛ことしか、言えないけど……」
幼「大丈夫、だよっ……き、きっと、思い出せるからっ……」ニコ
男「…………」
幼「っぐ……今日は、帰る、ねっ……」
ガラ パタン
本日はおしまいです
――――――
――――
――
男「…………」
男「……来ない、な」
男「…………」
男「言い過ぎたか……な」
男「心配、してくれてるんだよな」
男「…………はぁ」
男「幼馴染、ねぇ」
男「長い付き合いっても……なんも覚えてねぇのにさ」
男「いくら隣の家だからってこんなことしてくれなくてもいいんだけど」
男「なんで気遣ってくれるんだよ」
男「僕とあの子どんな関係だったんだよ」
――――――
――――
――
男「……今日も来ないな」
男「もう、一週間は来てないな……」
男「…………」
男「アルバム、置きっぱなしだ……」
男「…………」
男「…………」ペラ
男「…………」ペラッ
男「…………」ペラ
コン コン
男「あ、はい」
幼「……男、入っていい?」ソロッ
男「幼馴染……」
男「うん……いいよ」
幼「……おじゃまします」
幼「具合は……どう?」
男「快調に回復してるよ……体だけは」
幼「っ……良かった、ね」
男「…………」
幼「…………」
幼「あの……ごめんね来られなくて……忙しくて」
男「あ、あぁ……気にしなくていいよ」
幼「…………ぅ」
男「…………」
幼「…………」
男「…………」
幼「あの」
男「あのさ」
幼「……っ、えと……先にどうぞ」
男「う、うん……」
男「……この間はごめんっ!」
幼「……え、えぇっ」
男「気持がぐちゃぐちゃ纏まんなくて、八つ当たりしちゃって」
男「心配してくれたのに、ひどいこと言ってごめん」
幼「そ、そんな……謝らなくてもっ」
幼「頭上げてよっ、男は自分のことで大変だったんだからっ」
幼「私は……気にしてないよっ」
男「でも、泣いてた」
幼「……っ」
幼「……でもっ」
男「ごめん」
幼「…………」
幼「……うん」
男「ごめん、それと心配してくれてありがとう」
幼「……うん」
男「諦めずに頑張るから、僕」
幼「私もなんでも手伝うからね」
男「ありがと」
幼「ううん、男のためだもん」ニコ
幼「……アルバム、見てくれてたんだね」
男「何か少しでも思い出せるかなと思って」
幼「……どう、だった?」
男「…………まだ」
幼「…………」
男「でも、なんか懐かしい感じはした」
幼「っ!! それはっ……」
男「少しは、進んでるのかな」
幼「うんっ、うんっ」ジワッ
幼「頑張ろうっ……ぐすっ……絶対思い出せるよ」
幼「んっ……もう帰らなきゃ」ゴシゴシ
幼「また明日来るねっ」ニコッ
男「うん、ばいばい」
幼「ばいばいっ」
ガラ パタン
――――――
――――
――
幼「もう一か月半だね」
男「ギプスとかはあとちょっとで全部取れるみたい」
男「まだ絶対安静だけど」
幼「退院はどれぐらい?」
男「後一カ月で退院はしていいって、それからは定期通院だって」
幼「わっ、あと少しだね」
男「先生も『流石に若者は回復が早い』って言ってた」
幼「学校のみんなも心配してたよ」
男「あー、そっか高校かぁ」
幼「えっと、男が仲良かった友君とか女ちゃんとか」
幼「友君はいつも明るくて面白い男の子で、女さんはお喋りできれいな女の子だよ」
男「友君と女ちゃんか」
幼「退院した後って……男はどうするの? 高校って」
男「そのことは≪お母さん≫とも話したんだけど」
男「何か思い出すきっかけになるかもしれないからって、もちろん行くことになった」
幼「そっかぁ」
幼「でも男、勉強は大丈夫なの?」
男「記憶喪失っても、忘れちゃったのは思い出とかだから知識は残ってるんだ」
男「……まぁ、ここ三カ月の勉強はさっぱりだけど」
幼「んぅ、私が教えてあげるからがんばろっ!」
男「うげぇ……みっちり勉強かぁ」
男「はぁ……あ、そういえばさ」
幼「なぁに?」
男「前から疑問に思ってたんだけどさ」
男「幼馴染って僕のことすごく気にかけてくれてるけど」
男「もともと、どんな関係だったの?」
男「いつも一緒に遊んでたって言ってたけど……」
幼「え……ぁ」
幼「そ、それは……」
男「それは?」
幼「…………」
男「…………」
幼「私と」
幼「私と男は……その、付き合って……たの」
男「……っ、うええぇぇっ!?」
男「ま、まじで……」
幼「……そ、そうだよっ」
男「幼馴染が、彼女?」
幼「……うん」カァァ
男「…………えぇぇ」
幼「……えっと、えと」
幼「こっ、こんな時間だっ! もう帰るねっ!」ワタワタ
男「え、ちょ幼馴染?」
幼「ばいばいっ、お大事にっ!!」
ガラッ バタンッ
幼「……嘘」
幼「……ついちゃった」
幼「男は大変なのに……ごめんなさいっ」
幼「……でも」
幼「少しくらいは……いいよね」
幼「…………」
幼「私と男が付き合ってる」
幼「えへへ……男が彼氏」
今日はここまで
たくさんの支援ありがとうございます
幼「……やっぱ、駄目だよね」
幼「男の記憶喪失に付け込んで、付き合ってたなんて嘘」
幼「今付き合ってなんて言ったら……男困るだろうし……」
幼「……でも……正直に言わなきゃ」
幼「…………」
幼「……もうちょっと」
幼「もうちょっとだけ、いいよね……」
――――――
――――
――
コンコン
男「はい……っあ」
幼「…………」テクテク
男「…………」
幼「…………」ポスン
幼「えへ……おはよ」
男「お、おはよう」
男「…………」
幼「…………」
男「あー……えっと」
幼「……な、なにかな」
男「いやっ……なんでもない」
幼「…………」
男「…………」
幼「あのさっ……」
男「ん、ん……?」
幼「手……つないでもいい?」
男「手!?」
幼「だっ、駄目かなっ」
男「別……にいいけどっ?」
幼「…………」
幼「…………」ギュ
男「うぁ……」
幼「……ん」ニコ
幼「…………えと」
男「…………」
幼「…………」
幼「すぅぅぅ……はぁぁぁ……」
男「ぬ……ぅ?」
幼「……よしっ」
幼「あーあ、駄目だねぎくしゃくしちゃって」
男「いや、別にえっと……」
幼「もぅ、顔あっついなぁ」パタパタ
幼「別にこのぎくしゃくも悪くないけど、やっぱいつもの雰囲気の方が楽しいしね」
男「まぁ、それは」
幼「あはは、男も顔真っ赤だよ」ピト
幼「うわぁ、熱い」
男「幼馴染の手だって熱いよ」
幼「それは……しょうがないよ」
男「…………ふっ、はははっ」
幼「……んふ、ふふふ」
幼「いやーなんだろうねこのやり取り」
男「まったくだ」
男「……それにしても、幼馴染と付き合ってたとは」
幼「……っ」ビクッ
男「んー、幼馴染には悪いけど実感わかないなぁ」
幼「……そう?」
男「ていうか……つまり」
男「幼馴染って、僕のこと……その、いいと思ってるってこと?」
幼「今肝心の部分ごまかした」
男「うぐっ」
男「だ、だから……幼馴染は僕が、すっ、好きなのかって!」
幼「…………」コクン
男「そうかっ……」
幼「……男は?」
男「僕は」
男「僕は、『この僕』はまだ幼馴染と付き合いが短くて……よくわからない」
幼「……うん」
男「でも、一緒にいてなんか温かくなる」
幼「そ、そっか!」
男「ん」
幼「あぅ……もう遅くなっちゃった」
男「また明日来ればいいよ」
幼「もちろん来るけど」
男「じゃあ、ばいばい」
幼「その前に」
幼「……んっ」チュッ
男「へ? …………へっ!?」
男「ほ、ほほ……ほっぺに……き、きす……」
幼「んんぅ……ばいばいっ」
男「…………」ポカーン
――――――
――――
――
男「あ゛あ゛ぁぁぁ……」
幼「大丈夫、男?」
男「つっかれたぁ……リハビリがキツイ」グダッ
男「絶対安静だったから、体動かしてなくて……こんなに衰えるんだな」
幼「……むぅぅ」ギュ
男「何やってんの?」
幼「男にパワーを送ってるの、頑張れるように」ギュゥ
男「……ありがと」ナデナデ
幼「あぁ、髪型がぐしゃぐしゃになるぅ」
男「じゃぁやめる?」
幼「もっとやって」
幼「あとちょっとで退院?」
男「傷としてはもう大丈夫、あとはリハビリで体がまともに動かせるようになったら」
幼「そっか! じゃぁ、退院したらお出かけしよ!」
男「お出かけ?」
幼「私が町を案内するの、実際に現地に行けば何か思い出せるかもしれないし」
男「おぉ、なるほど! よっしゃ行くか!」
幼「うんっ」
幼「えへへー、男とデートだっ♪」
男「で、でーと……って幼馴染」
幼「違うの?」
男「違くないけど」
幼「ふんふふーん♪」
男「じゃぁ、なおさらリハビリ頑張らないと」
幼「私は応援しかできないけど、頑張ってね」
男「応援だけで十分だよ、それがあれば百倍頑張れる」
幼「うわー、今のセリフ臭いね」
男「余計な御世話だ」
幼「でもうれしいよっ」
男「それは光栄で」
男「ふ、ぁぁ……疲れたせいか眠い」パキポキ
幼「ひゃ、関節すごい音なってるよ」
男「筋肉が張っちゃってるからね」
幼「じゃぁ、マッサージしてあげるよ」
男「あー、ありがたい」
幼「このくらいかな、よいしょ、んしょ」モミモミ
男「あはは、幼馴染力弱いなぁ」
幼「…………」ギュゥゥ
男「ぐあっ! ちょ、たんま! 悪かった、悪かったから!」
幼「まったくまったく」モミュモミュ
男「んー、きもちぃぃ」
幼「あ、やばい腕疲れる」モニュモニュ
男「無理しなくてー……いいぞー……」
幼「頑張るもん」
男「あり……がと……なー……」
男「……くぅ……」スヤ
幼「あ、寝ちゃった」
男「……すぅ……すぅ……」
幼「ふふっ、可愛い寝顔」ナデ
幼「…………」
幼「私、いいのかなぁ……」
幼「嘘ついちゃったのに、こんな幸せで」
男「ん……おさな、じみ…………」スヤスヤ
幼「…………」
幼「許してくれる?」ナデナデ
本日はここまで
皆様良い眠りを
――――――
――――
――
男「ということで」
男「退院いたしました」
幼「……良かったね」グスッ
男「ちょ、泣くなって」
幼「だってぇ……」
幼「事故あったとき……男死んじゃうかと思ったんだもん……」
幼「だから……ホッとして」
男「ありがとな」
幼「ん……なんにせよ、退院おめでとう」グイッ
幼「おかえりっ、男」
男「ただいま、幼馴染」
男「……へぇ、これが僕ん家か」
幼「あ、私の家が右のあれね」
幼「実は私の部屋から男の部屋が丸見えだったりします」
男「つまりこっちからも見えるってことだよな」
幼「見ちゃ……めっ、だよ?」
男「良いじゃん、別に見られて困るようなものないだろ?」
幼「…………」
男「え、あるの!?」
男「さて、僕の部屋」
男「なんか不思議な感じだ、初めて見る部屋なのに懐かしい感じがする」
幼「落ち着くよねぇ」
男「おい」
幼「うに?」
男「何で居るの?」
幼「来たかったから」
男「お、おぉ?」
幼「はぁ、男が入院してたから三カ月ぶりの男の部屋に来たよ」
男「そんなしょっちゅう来てたのかよ」
幼「そりゃぁ……か、彼女ですし? 幼馴染ですし?」
男「幼馴染関係あるのか?」
幼「んぅぅ……男の匂いが薄い」クンクン
男「え!? 僕臭い?」
幼「ううん、臭いわけじゃないよ……なんていうか落ち着く香り」
男「ぜ、全然わかんねぇ」クンクン
男「で、どっか出かけるんだろ?」
幼「え、でも……男、少しくらいお家で休んだ方が」
男「リハビリ以外は寝てばっかだったんだから休む必要なんてないよ」
男「むしろ早く外の世界を見て回りたい」
幼「そう? じゃぁ、学校休みだから明日行こうね」
乙~
ところで作者さんて前に男と幼馴染と後輩が出てくるSSとか放課後の幽霊のSS書いてた人?
放置して申し訳ない
>>99
男幼後の方は分からないけど、放課後の幽霊はそうですよ
それでは始めます
――――――
――――
――
男「で……ここは?」
幼「ここはね、大切な場所」
幼「この公園は、大切な思い出がいっぱい」
幼「嬉しい時も、悲しい時も……ここに二人で来てた」
男「……そうなんだ」
幼「えへへ、ここの話はしない……ここは男に自分で思い出してほしい」
男「うん」
男「すっごい景色だな」
幼「うん、この公園は一番高いとこにあるから町が見渡せるんだ」
幼「海も山も町も、全部見えるから私のお気に入りの景色」
男「あぁ、僕も気に入った」
幼「……良かった」
幼「さてと、じゃあこの後はどこに行こうか?」
男「あー、なんだろうな……僕が良く行ってたところとか」
幼「んぅ……男が良く行ってたとこか」
幼「それなら海かな」
男「海? なんで?」
幼「男の趣味が釣りだったんだよ」
男「釣りかぁ……」
幼「中学生のときなんか『ちょっと湘南に釣り行ってくる』とか言って4日も帰ってこなかったよ」
幼「あの時はもう大騒ぎで! もう警察が大きく動くかって時にひょっこり帰ってきて」
幼「『いやー楽しかった』とか言って、おじさんにすっごく怒られてたよ」
男「僕そんなにやんちゃだったのか!?」
幼「私もねぇ、男について行くときあったけど……」
幼「どうも釣りの面白さは理解できなくってね、いっつも寝落ちしてた」
男「釣りの面白さか……」
幼「起きたら満面の笑みの男がクーラーボックス握りしめてるんだもん、笑っちゃったよ」
男「へぇ……よし、じゃぁ海行くか」
幼「ん、いこっ」
ざぁぁぁ……ざぁぁ……
男「……うっはー、海の匂いがする!」
幼「そりゃぁ海だもん」
男「ひゃっほー! やー、なんか海ってテンションあがるよなぁ」
幼「湿った風が気持ちいいよね」
幼「……後で服がべたべたになるのが難点だけど」
男「お! あそこの店、釣り具貸してるってよ」
幼「やってみよっか、釣り」
男「……よい、っしょ」ピュゥ
幼「おぉ、ナイススイング?」
男「いや、僕も分かんない」
幼「さぁ、あとはかかるのを待つだけー」
男「かかるかな」
男「……あ、なんかしっくりくる」
男「いつもの感じっていうか、すっと落ち着く」
幼「おぉ、その調子だよ男」
男「波の音とさわやかな風、いいわぁ」
男「なんか僕釣り好きかもしれない」
幼「記憶が刺激されてるのかな」
ざざぁぁ……ざぁぁぁ……
幼「…………」
男「…………」
幼「ふ、くぁ……やばっ眠くなってきた」
男「お日様あったかいしね」
幼「んふ……ぽかぽかだかぁね……」ウトウト
男「別に寝ちゃってもいいぞ、起こしてあげるから」
幼「だめだよ……このあともいろんなところいくん、だもん」
幼「ねちゃ……ねむくらいもん……」
幼「…………くぅ……」コテッ
男「おやすみー」
男「おーい、幼馴染起きろー! もうカラスが鳴いてるぞー」
幼「んみゅ……はれ? なにこれ」
男「もう夕方だ、いやー釣り楽しかったなぁ」
幼「ん? んー…………えっ!? 夕方!?」
幼「わっ、私寝ちゃってたの?」
男「うん、ぐっすりと」
幼「うわぁぁ……せっかくのデートが、デートが……」
幼「あぁ、馬鹿だ私ぃ」
幼「はぁ……」
男「そんなに落ち込むなって」
幼「せっかくの……初めての……デートだったのに」ボソッ
男「せっかくの何だって?」
幼「な、なんでもない」
男「ほら、帰ろうぜ? 帰りが遅くなると≪お母さん≫が心配するし」
幼「そうだねっ、帰ろうか」
幼「これ以上心配かけるとおばさんが倒れちゃうからね」
男「それはまずいからなぁ」
男「おっ一番星」
幼「ほんとだ」
男「ん? 記憶的には一番星見るの初めてだ」
男「うげ、なんか気持ち悪い……『一番星を見るのが初めて』って変な感覚だ」
幼「あはは、これからはそういうことばっかだよ」
男「そう考えると気が滅入るな」
幼「大丈夫大丈夫、私がついてるし」
男「よろしく頼むよ、幼馴染さん」
幼「任されました、男くん」
幼「そういえば、男が学校に復帰するのって今度の月曜?」
男「そうだな明後日だ」
幼「そっか、友君も女ちゃんも待ってるよ」
男「僕は初対面だけど、≪僕≫は初対面じゃないんだよね」
幼「……不安?」
男「……いいや、平気だ」
男「それに幼馴染が居てくれるから」
幼「……まったく、まったくもう」カァァ
男「顔真っ赤」
幼「うるさい」
本日はここまでー
皆様の御閲覧恐悦至極
――――――
――――
――
男「すぅぅぅ……はぁぁぁ……」
幼「頑張れっ」
男「よ、よしっ」
ガラッ
男「お、おはよう」
「「「………………」」」
男「あ、あれ?」
「お、男くん?」
「ほんとだ……男だ!」
「おおおおおっ! 男が帰ってきたぞ!」
わぁぁぁ わぁぁぁ
男「な、なんか……すごいことに」
幼「うわぁ……」
「男君、事故って聞いたけど大丈夫だったの?」
「うっはー、三か月ぶりだな!」
「いやぁ、男居ないとなんか物足りなかったんだよね」
「……おかえり男くん」
男「あは、あははは……」ヒクヒク
幼「お、男っ! 笑いがひきつってるよ!」
友「どぉぉおおぉぉん!」
男「ぐはっ!」
友「おーおー、久しぶりじゃねぇかMy friend!」
男「あー、えっと……」
友「お?」
男「ごめん幼馴染、これ誰?」
幼「友君だよ」
友「……あーそっか、記憶喪失なんだったな」ズゥン
男「ちょ、そんな落ち込まないでください!」
友「話聞いて覚悟はしてたんだけどなぁ、実際に会うと結構クるなぁ……」ズゥゥン
男「げ、元気出してください」
友「敬語……」ズズゥゥン
男「……どうしよ、幼馴染」
幼「いや、私も友君の気持が痛いほど分かるから何とも言えない……」
女「やっほー男君」
男「あ、おはようございます」
女「何で他人行儀なのさ……いつも通りでいいよ」
友「おい、こないだの先生の話聞いてなかったのか? 男記憶喪失なんだって」
女「へ? 本当に?」
男「あ、はい」
女「いやぁ、先生の話とか私聞いてないから」
男「……えっと、女さん? ですか?」
女「ありっ? 覚えてんの?」
男「いや、幼馴染が話してくれて」
女「ほぅほぅ……なーる」
女「んじゃまぁ、久しぶりあーんど初めまして男君」
男「うん、よろしく」
女「よろしくねー」
幼「…………」
女「にしても……記憶喪失ねぇ」
女「いろいろ気になるけど、男君も思うところあるだろうし根掘り葉掘り聞いたりしないから安心してね」
友「良い子ちゃんぶらなくていいだろうが、ただ単にめんどくさいだけだろ?」
女「ばれちった?」
友「ばればれに決まってる」
男「なんにせよ聞かないでくれるのはありがたいよ」
男「僕もまだよくわかってないから」
幼「…………」
幼「……男」
男「ん? どうした幼馴染」
幼「んー……いやなんでもない」
幼「それより男、授業は大丈夫なの?」
男「うん、入院中に幼馴染がしっかり教えてくれたから大丈夫だって」
友「へぇ、通い妻してたんだ」
幼「かっ、通い!?」
男「変な言い方するなよ」
友「いーじゃんいーじゃんらぶらぶ御夫婦で」
男「た、確かに幼馴染とは付き合ってるけど……夫婦ってのは止めてくれよ恥ずかしい」
友「あれ? 二人って付き合ってたっけ」
男「え? でもさっき友君が夫婦って――」
幼「そ、その話はどうでもいいじゃん!」
女「……?」
幼「ほ、ほらもうすぐ朝のホームルームが始まっちゃうから! 席について!」
男「う、うん」
友「おう? 分かった……」
女「……ふぅん」
キーンコーン カーンコーン
男「ぅ……ふぁ、つっかれた」パキポキ
幼「そんなに?」
男「いやぁ、授業なんて体感的には初めてだし精神ががりがり削られたよ」
友「にしては先生に当てられても慌てずに答えてたじゃねぇか」
男「ま、そこは幼馴染のおかげですよ」
友「ほぇー……幼馴染ちゃん、俺にも教えてくれない?」
幼「…………」
幼「まぁ、別にいいけど……」
友「おっしゃ、じゃぁ――」
女「馬鹿じゃないの友」ゲシッ
友「痛っ、何すんだよっ」
女「君をひっぱたいたの」
友「聞きたいのはそういうことじゃねぇ!」
女「まったく……ちょっとこっち来なさい」
友「ちょ、襟を引っ張るな!」
男「いつもこんな感じ?」
幼「だね」
女(ったく、もう)
友(何なんだよ、いきなり連れ出して)
女(勉強教えてくれなんて聞くからよ)
友(何で駄目なんだよ)
女(そういう女心がくみ取れないからモテないのよ)
女(さっき頼んだとき幼馴染ちゃん、渋々って感じに答えてたでしょ?)
友(そういえば……確かに)
女(せっかくの二人の時間に割って入られちゃ迷惑だからよ)
友(あ、そっか!)
女(それに……何かあるみたいだしね)
友(何があるの?)
女(気にしない方がいいわよ、君馬鹿だから)
友「いやぁ、ごめんごめん」
女「この馬鹿、用事があって忙しいから勉強は教えてくれなくていいって」
幼「そう? そっか、それなら仕方ないよね!」パァァ
友「そういうことだ、頑張れよ」ニコッ
男「その温かい眼差しは何なんだ……」
友「はっはっはっは」
男「……おう」
友「さて、男君……」
友「放課後は暇かな?」
男「ん? 放課後は……」チラ
幼「……ん」コクリ
男「別になにもないけど?」
友「そうかそうか……」
友「それじゃぁ、ゲーセンにでもいこうじゃあないか」
男「おー、ゲーセンか! 行く行く、久しぶりに遊ぶぞっ!」
幼「……久しぶりに?」
幼「……っ!? ちょっと待って男!」
男「おぅ? どうした?」
幼「い、今『久しぶりに』って言ったよね!」
男「……あ」
幼「お、思い出した? 何か思い出した?」
男「あー、いや何も……でもなんとなく久しぶりな感じがしたんだけどな」
女「きっとどこかに記憶はあるんだよ、だから感覚的に分かるものもあるのかもね」
幼「……良かったぁ、良かったよぉ」
男「こんなとこで泣くなよ……」
幼「でも……思い出す可能性が少しでも増えたからぁ……」
友「実際遊んだらもしかしたら記憶戻るかもな!」
男「うーん、記憶戻るかぁ」
女「どうしたの?」
男「なんか、記憶戻るって良く分からないからさ」
男「戻るも何も、元をあんまり知らないからさ」
友「あんまり考えない方がいいぜ、行き当たりばったりで良いんだよ」
女「良くないわよ」
男「あはははっ」
幼「…………」
幼(なんか男、私より友君と女ちゃんといる方が生き生きしてるなぁ)
友「それじゃ、さっそく――」
女「まだホームルーム終わってないわよ」
友「ですよねー……あ、はい、座ってます。俺は座ってますよ先生。だからそんなに睨まないでください」
男「なんか僕までとばっちりで睨まれてるんだけど」
友「ちっ……何でこんなかったるいことを――やらなきゃだめですよねー、はい。分かってますって先生」
男「墓穴を掘るなら僕を巻き込むなって」
友「さぁ! 今度こそ行くぞ!」
女「暑苦しいから少し落ち着いて」
男「ゲーセンか、格ゲーとかやりたいな」
友「ふっふっふ、望むところだ……まぁもっとも? この俺に傷一つ負わせることが出来ないだろうがな」
女「失敗フラグね」
友「そう言うな、今回は良い策があるんだよ」
幼「悪い笑顔だね」
友「ふっふっふ、ふははは」
男「で」you win!
友「かはっ……」you lose!
女「きれいなフラグ回収ね」
幼「フルボッコだったね」
友「なぜ、記憶喪失のくせにそんなに強い……?」
男「格ゲーのコマンドは知識だから覚えてるんだ」
友「なんだよそりゃ……ずるいじゃねぇか」
女「記憶喪失を頼りに嬲ろうとした奴の言うことではないわね」
友「確かに」
更新終了
放置すみません
幼「それで、男は何か思い出した?」
友「いいじゃん幼馴染ちゃん、こまけぇこたぁ気にしなくても」
幼「そうだけど……」
男「まぁまぁ、ありがとな幼馴染気にかけてくれて」
男「とはいえ、まだ何もピンときてはいないんだよな」
女「さっきのはまぐれみたいなものだったのかしら」
幼「……そっかぁ」
――――――
――――
――
男「うー一週間も終わりっ」
男「新鮮なことだらけですっげぇ疲れた」
友「あはは、お疲れー」
女「ふぅ、明日は休日ねぇ」
友「ん! そうだそうだ、男明日暇?」
男「明日? 明日は特に何もなかった気がするけど」
友「遊びに行こうぜ!」
男「遊び?」
友「いっえーす、遊びに行こうぜ! パーっとボウリング行ったり、カラオケ――は歌えないにしても……」
友「何にせよ、どっかいこうぜ!」
女「おーいいわね、私も行きたい」
友「えーっ、せっかく男同士の友情を育もうと思ってたのに」
女「二人でボウリングなんてはたから見て憐れよ」
友「憐れは言い過ぎだろう」
男「僕は別に構わないよ、人数いたらいたで楽しいだろうし」
女「んじゃ、そういうことで! よろしくね」
幼「男ー、帰ろうー」
男「おう、今行く」
友「一緒に帰るたぁらぶらぶしてますねぇ」
男「家が隣だから一緒に帰りたくなくても一緒なんだけどな」
友「けっ、うらやましいねぇ」
男「そうか?」
幼「はぁやぁくぅ」
男「おまたせー」
幼「まったく、友君たちと何話してたの?」
男「僕たちが一緒に帰っててうらやましいなって言ってた」
幼「あは、私たち的にはこれが普通だけどね」
男「そうそう、昔っから――昔っから?」
男「あ、なんか昔っからこうだった気がする」
幼「また思い出したの?」
男「雰囲気だけだけどな」
幼「良い傾向だよ」
男「この調子でちょこちょこ思い出してけば、記憶もすぐ戻るな」
幼「早く戻るといいね」
男「しかも今回はイメージが浮かんできた」
幼「イメージ?」
男「こう……夕暮れの中、幼馴染と手をつないで学校から帰ってる風景みたいな」
男「まだ背も低くてがきんちょだったころの」
幼「あぁ、懐かしいなぁ……小学校のころかなそれは」
男「そんくらいかな」
幼「中学校入ったころから男が恥ずかしがって手は繋がなくなったけどね」
男「あー、僕そういう奴だったのか」
男「たぶん友達にからかわれたせいだと思う、それ」
幼「あはは」
男「人と手を繋ぐことなんかもうこの年になるとないもんなぁ」
幼「…………」
男「ん、どうした?」
幼「…………ん」スッ
男「ん?」
幼「……ん!」
男「手なんか出してどうした」
幼「……ここで察してくれないのは、むしろわざとかと思うよ」ギュッ
男「あ、手繋ぎたかったのか」
男「僕は経験少ないから、そういうのは察しなれてないよ」
幼「私だって経験すくないよ!」
幼「もう、私を経験豊富な不良少女みたいな言い方してひどいよ」ギュ
男「そんなつもりはないって!」ギュ
幼「まったく、まったく」
男「ごめん、ごめんてば」
幼「…………しょうがないから許してあげる」
男「おう、ごめんなさい」
幼「いいよ」
幼「そうだ、今度の週末どこいこっか」
男「え? あ、週末は」
幼「えっ」
男「週末は……友たちと遊びに行く約束してて」
男「えっと、駄目だった?」
幼「あ、いや……べ、別にいいよ! 言わなかった私が悪いんだし」
幼「え、えへへ……何も言わずに遊ぶつもりになってた私が悪いんだし……」
男「そうか、ごめんな」
幼「い、いいんだよ! 男が謝る必要はないんだから」
男「それより、幼馴染も一緒に行こうぜ」
幼「わ、私は……」
男「ボウリングとかカラオケだから人数いた方がいいしね」
幼「う、ん」
男「行こう」
幼「……行こうかな」
男「よし! 四人めいっぱいはしゃごう!」
幼「……うん」
男「ボウリングかー楽しみだなー」
幼「…………」
幼「あ! あのっ、よ、用事を思い出したから先帰るねっ!」
男「え? あ、ちょっと」
幼「じゃ、じゃあねっ!」
男「行っちゃった」
幼「はぁ……自己嫌悪」
幼「デートに行くのが当然とか、やな女じゃんかぁ」
幼「やっぱり……男を騙してこんなことするから……」
幼「…………」
幼「……でも、好きなんだもん」
今日はここまで
スランプに陥り、書いても書いても駄文しか生産できなかったため放置してしまっていました
すみません
幼「ん」
ぴんぽーん
幼「…………」ソワソワ
男「はいっ」ガチャ
幼「あ、男おはよっ!」
男「おう、おはよう幼馴染」
男「あー、えっともうちょっと待っててもうすぐ支度終わるから」
幼「うん」
男「お待たせー」
幼「それじゃぁ行こっか」
男「楽しみだな」
幼「……そう、だね」
男「確か、駅に集合だったな」
幼「そうだ、ねぇ男」
幼「新しい服買ったんだけどどうかな」
男「ん? おー、可愛いんじゃないか? 似合ってるよ」
幼「えへ、ありがと」
男「すっきりしてて爽やかな感じで僕は好きだよ」
男「お、二人共もう着いてた」
友「お、男と幼馴染ちゃん」
女「やー、おはよう」
幼「おはよう」
男「おはよう女さん……あと、友」
友「オマケみたいに言うなよ」
女「ちょっと友、オマケのことを馬鹿にするんじゃないわよ」
友「え!? なに、俺オマケであることすら許されないの?」
男「よっし、それじゃ行こうか」
幼「最初は何処に行くの?」
女「ふっふっふ、最初は……」
女「ボウリングよ!」
幼「おーボウリング!」
男「楽しみだな、ストライク取れるかな」
カコォンッ!
男「おー、ナイススペア!」
女「いえーい、どうだ見たか!」
男「女さんボウリングうまいなぁ」
女「いやぁ、それほどでも……あるわね」
男「あはははっ!」
女「次は男君のばんよ、頑張って」
男「よし、ストライク取ってやるぞ」
幼「…………」
カッコォン!
男「おっしゃあ! ストライク取ったぞ!」
幼「男すご――」
男「女さん、いえーい」
幼「え」
女「いえーい!」
男「見たか幼馴染!」
幼「……え? あ、うん凄かったね! 流石男」
男「だろ?」
友「くそぉ、次は俺がストライク取ってやる」
女「あはは、精々頑張んなさいよー」
幼「…………」
女「私の勝ちー」
男「いやぁ、強いな女さんは」
女「結構得意なのよボウリング」
女「そういう男君だって《初めて》の割には随分と良いスコアを」
男「運だよ運」
女「そういうものかしら」
友「次はどうすんのー?」
女「そうね……お昼食べたらカラオケかしら」
男「昼飯かぁ、そういや腹減ったね」
女「何処行こうかしら」
友「ファミレスで良いだろ、気楽に駄弁れるし」
女「んー、そうね手短に済ませようかしら」
友「ふいー疲れた」
女「情けないわね、男の子のくせに」
友「はいはい、所詮モヤシ野郎ですよ」
女「そこまで言ってないじゃない……まあ言おうと思ったけど」
友「うわあああん、助けてよ男! 女が虐めるよぉ」
男「うわ、キモいくっ付くな!」
女「あはははっ」
幼「…………」
幼「…………」
女「そういえば、男君と幼馴染ちゃん」
男「ん?」
幼「え!? あ、なに?」
女「……どこまでやったのよ」
男「はぁぁ!?」
幼「えぇぇ!?」
女「こらこら、二人とも五月蠅い」
幼「いやでも、だって」
友「……お前オヤジ臭いこと聞くなよ」
女「だって気になるじゃない」
女「付き合ってるお二人さんが目の前に居たら弄るのが基本でしょう」
友「Sだ、S以外の何者でもねぇ」
女「それで、どこまで?」
男「いや」
幼「あの」
男「その」
幼「えっと」
幼「そ、それより二人はどうなのさ! 女ちゃんは可愛いしモテるんじゃない?」
女「…………」
女(なんか隠してるのよね、幼馴染ちゃん……露骨に話逸らすし)
女「まぁ、今は誰とも?」
友「あれ? この間コクられてなかったっけ」
女「何で知ってるのよ……断ったわよ」
男「……女さん、聞きにくいんだけど今まで何人と付き合ったことあるの?」
女「6人かな」
友「うわー遊んで――ないっすよね、まじすんませんでした、だからその手を下ろして」
女「まぁ、とっかえひっかえってわけじゃないけど……結構荒かったわね」
女「最近はちょっと落ち着こうと思ってね」
友「やーい、非リア充め!」
女「まぁ友君は彼女いない歴が0よね」
友「ぐはっ……」
女「万年独身のくせに喧嘩売るとかいい度胸よね」
男「まぁまぁ……」
女「そういえば、このメンバーで友君だけが恋人無しなのね」
友「」
今日はここまで
駄目だ……書く気力が……
女「最近はちょっと落ち着こうと思ってね」
友「やーい、非リア充め!」
女「まぁ友君は彼女いない歴が年齢と同値よね」
友「ぐは……っ」
女「万年独身のくせに喧嘩売るとかいい度胸よね」
男「まぁまぁ……」
女「そういえば、このメンバーで友君だけが恋愛経験無しなのね」
友「」
男「ほら……喧嘩売ったりするから……」
女「私、喧嘩は買って倍返しする主義なの」
幼「倍で済んでない気が……」
友「」シクシク
幼「あぁ、すっかりへこんじゃって……ほら友君ポテトでも食べて」
友「」モグモグ
女「育ちすぎて不細工になったハムスターのようね」
友「」グサッ
男「さてと、腹も溜まったことだし。そろそろいきますか」
女「そうね」
友「」ニョキ
幼「あ、復活した」
友「かーらーおーけーぇーっ!」ドーン
友「ふははは、ついに俺の出番がやってきたか! 愚民共! この俺の美声に恐れおののき、酔いしれるがいい!」
男「……友って歌上手いの?」
女「……いや、知らない」
――――――
――――
――
友「センキューッ!」ジャン
男「おー!」パチパチ
女「言うだけのことは一応あったわね」パチパチ
幼「友君すごいね!」パチパチ
友「くはは……これが俺の実力さ」
女「じゃ、次は私ね」
友「ふっ、まぁ精々頑張ることだな」
女「…………」ニヤ
――――――
――――
――
女「――――っ♪」ジャン
男「…………」ゴク
幼「……すご」
友「」
幼「カラオケでビブラートを使いこなす人初めて会ったよ……」
女「――♪ ――――っ♪」ジャンジャン
女「――っ♪」
女「っと! 疲れたっ!」
男「いやぁ! すげぇ、すごかったよ!」
女「たはは、そこまで褒められるのもねぇ……」チラッ
友「」ハハッ
女(……ちょっとばかし、からかい過ぎたかな)
女「ったく……しょうがない」
女「ほら友」
友「はい、小手先の技術程度で調子に乗っていたこの愚かな私めに、奇跡の歌姫こと女様がなにかご用でしょうか」
女「卑屈過ぎてウザいわ!」
女「ほら、そんな端っこでうずくまってないで」
友「……今更俺に歌えと」
女「いや……確かにムカついて全力出しちゃった私も悪いけどさ」
友「カッコつけたのに盛大に滑っておいてもう自信ねぇよ」
女「私、君の声結構好きだけどなぁ」
友「へ?」
女「滑ったなんて言ってるけどすごく上手じゃない」
友「……女」キラキラ
女「一緒に歌お?」
幼「なるほど、絶望に叩き落しておいてから手を差し伸べることで心を掴むのか」メモメモ
男「何真面目に考察してんだ」
友「――っ!! ――!」
女「――――♪」
男「あはは、盛り上がってる」
幼「男は歌わなくていいの?」
男「あぁ、流石に記憶がこれじゃ何も歌えないな」
幼「そっかぁ……」
男「そういう幼馴染はいいの?」
幼「わ、私そんなうまくないから……特にこの二人のあとに歌う勇気なんてないし」
男「それもそうか」
友「あ゛ー、疲れた゛ー」グデェ
女「久しぶりに全力で歌ったー」クタッ
男「お疲れさん」
友「おーう」
男「……にしても、今日はすっげぇ楽しかったよ」
男「新鮮で、興奮して、こんなに楽しいことってあるんだなってくらい」
友「そいつは良かった」
友「……だがしかし、こんなもんで『遊び』について分かった気になってもらっちゃあ困るな」
男「なにっ!?」
友「ぐははは! このようなこと未だ足を踏み入れた程度! 深遠には程遠いわ!」
友「この俺が直々に手ほどきをしてやるから覚悟しろ!」
男「望むところだ!」
【帰路】
男「あー楽しかった!」
幼「良かったね男」
男「来週は友ん家でゲームやるらしいんだよな!」
幼「えっ」
男「ん?」
幼「来週は……私と……」
男「どうした?」
幼「……ううん、なんでもない」
幼(……男は)
幼(みんなと遊んだ方が楽しいのかな……)
幼(そうだよね、私とデートするよりもみんなでワイワイした方が……)
幼(…………)
幼(うそついた罰かな……)
幼「ねぇ、男」
男「何?」
幼「記憶戻るといいね」
幼(それで)
幼(私の嘘がばれたほうが楽になれる……)
本日ここまで
こんなに保守続けていただきありがたい
ちょっと感涙モノですね
【数週間後】
――――――
――――
――
男「それでさ! 友が――」
幼「ねぇ……男」
男「ん?」
幼「毎日、友君たちと遊んでばっかりだよね……」
男「そうだね」
幼「…………」
幼「記憶……まだ戻らないんだよね」
男「……そうだけど」
幼「記憶戻すために、何をやってるの?」
男「んー、特に何も?」
幼「なっ!?」
男「何か戻る気配も無くなってきたし、今のままで満足してるから別に良――」
幼「良くないよっ!!」
男「……そんなに怒鳴るなよ」イラッ
幼「だ、だって! そんなのダメだよ、記憶なくてもいいなんて!」
男「…………うるさいな」イライラ
幼「ねぇ頑張ろうよ! 私も方法探すからさ!」
男「……あぁ、もう!」
男「お前には関係ないだろッ!」
幼「っ」ビク
男「あ、そっかお前は前の《男》がいいんだろ。だから必死に戻そうとしてんだ」
幼「ち、違っ! 私は男が心配でっ……」
男「そうだよな、お前が付き合ってたのは《男》だもんな! 僕じゃないよな!」
幼「う、あ……それは……」
男「だいたい恋人同士だなんて言われてもよく分かんなかったんだよ」
男「僕は《僕》と違って別にお前なんて」
男「好きじゃないんだよ」
幼「あっ……」ズキ
ぎゃああああああああああああああああああああああああ
ゴキが出たああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
うあああああああああああああああああ
飛んだあああああああああああああああああああああああ
すみませんちょっとゴキから避難するんで
今日はここまで
くぅぅ
ゴキ強襲の所為でシリアスな場面が台無しじゃないか!
それでは始めます
【数週間後】
――――――
――――
――
男「それでさ! 友が――」
幼「ねぇ……男」
男「ん?」
幼「毎日、友君たちと遊んでばっかりだよね……」
男「そうだね」
幼「…………」
幼「記憶……まだ戻らないんだよね」
男「……そうだけど」
幼「記憶戻すために、何をやってるの?」
男「んー、特に何も?」
幼「なっ!?」
男「何か戻る気配も無くなってきたし、今のままで満足してるから別に良――」
幼「良くないよっ!!」
男「……そんなに怒鳴るなよ」イラッ
幼「だ、だって! そんなのダメだよ、記憶なくてもいいなんて!」
男「…………うるさいな」イライラ
幼「ねぇ頑張ろうよ! 私も方法探すからさ!」
男「……あぁ、もう!」
男「お前には関係ないだろッ!」
幼「っ」ビク
男「あ、そっかお前は前の《男》がいいんだろ。だから必死に戻そうとしてんだ」
幼「ち、違っ! 私は男が心配でっ……」
男「そうだよな、お前が付き合ってたのは《男》だもんな! 僕じゃないよな!」
幼「う、あ……それは……」
男「だいたい恋人同士だなんて言われてもよく分かんなかったんだよ」
男「僕は《僕》と違って別にお前なんて」
男「好きじゃないんだよ」
幼「あっ……」ズキ
幼「…………ごめんね」ジワ
男「……?」
幼「そうだよね……別に私とは仲良くないもんね」ポロポロ
幼「……関係、ないもんね……ぐす」
男「……泣くなよ」
幼「ごめんね……彼女面しちゃって」ポロポロ
幼「ごめん……ごめ、ごめんね゛……」
男「……ちっ」
男「先に……学校行ってる」
幼「……う、ぇ」
幼「ううぅ、うああっ……」
幼(罰が当たったんだよ、きっと)
幼「ひぐ、おとこ……うぁあ……」
幼(人を騙したりなんてするから)
幼「でも……」
幼「胸が痛いよ……」
友「あ、男おはよー」
男「……おはよう」
友「お? どうした元気ねぇな」
男「……いや、何でもない」
女「おはよー男君」
女「って、あれ? 幼馴染ちゃんは?」
男「……」イラ
男「僕はあいつの保護者じゃないよ」
女「……?」
男「それより、ちゃんと漫画持ってきてくれたんだよな」
友「お! おうよ、しっかり持ってきたぜ!」
友「めっさ面白いぜ!」
男「へー? そんなにハードル上げて大丈夫か?」
幼「…………」ガラッ
女「あ」
幼「…………」トボトボ
女(んー……何かあったのかな?)
女「……幼馴染ちゃん」
幼「あ、女さん。おはよう」ニコ
女「おはよう……」
幼「…………」
女「ねぇ、目真っ赤だけど大丈夫?」
幼「あ、あっ! これ? ちょっと砂が入っちゃってね!」
幼「もうとれたから平気だよ! ……えへへ」
女「そう……」
キーンコーン カーンコーン
幼「あ、もう先生来ちゃうね……席に戻りなよ」
女「あぁ、うん」
男「あ」
幼「っ!」ビク
男「…………」
幼「…………」
幼(隣の席……気まずいな)
今日はここまで
……ありがちですよねぇ
テンプレから抜け出せないー
幼「…………」ズゥン
男「…………」イライラ
幼「…………」
男「…………」
友「……なぁ、あれって」
女「何かあったことだけは確かね」
友「うわぁ、周りの席まで巻き込んで空気が重――先生待って! 私語は慎みますからチョーク構えないで!」
女「なにやってんだか」
友「いてて……で、何かあったのなら今朝だよな」ヒリヒリ
女「いや、まぁ……最近幼馴染ちゃんが悩んでた気はしてたのだけど」
友「え? マジで?」
女「そんなだからモテないのよ」
女「最近、暗い顔してる幼馴染ちゃんを良く見たのよ……遊びに誘っても反応悪かったし」
友「そーいえば」
友「……ん? でもなんで悩んでたの?」
女「そんなのわからないわ」
友「オイ、肝心なとこがオイ」
女「無茶言わないでよ、本人に話を聞いたわけでもないのに」
友「はぁ……」
男「…………」
幼「…………」
友「あの雰囲気、なんとなく男が悪い気がするんだが……どう思う」
女「決めつけるのも良くないけど……そんな感じはするわね」
友「問い詰めてみるか」
女「やめておいた方がいいわ」
女「って言っても、どうせ聞かないんでしょ」
友「わかってんじゃん」
女「良い方だろうが悪い方だろうが、どちらかに転んで話は進むんだから、やっても損は無いかしらね」
友「俺を生贄にするのか」
女「君を犠牲にするのをなぜ躊躇わなければならないのかしら」
友「相変わらずひっでぇ――ちょ!? 先生なんで俺ばっかり! 女だって、ぐはっ!」スコーン
女「日ごろの行いね」
友「お前の行いが良いとは思えないんだが」
女「あら、ばれた?」
――――――
――――
――
友「男ー、ちょっといいか」
男「ん? なんだ」
幼「…………」ビクッ
女「はーい、幼馴染ちゃんもここにいてね」
幼「え、ぇ……なんで?」
男「…………?」
友「さてと、それじゃぁ少し話を聞きたいんだが」
友「明らかに深刻な空気だが、空気を読まないことには定評のある俺だ。気にせず質問させてもらおう」
男「もったいぶってないで……なんだよ」
友「お前、幼馴染ちゃんと何があったの?」
幼「っ!!」
男「……なんにも」
友「んなわけないだろ、どう見ても幼馴染ちゃん泣いてるよな」
友「一体幼馴染ちゃんに何して――」
幼「私が悪いのっ!」
友「え?」
女「……?」
幼「私が、悪いんだよ」
幼「男は全然悪くないんだよ」
友「いやでも、幼馴染ちゃん」
幼「私は大丈夫だから、ね」
友「…………」
友「否定してくれることを願って聞くが、男」
男「……ん」
友「てめぇ、幼馴染ちゃんに口止めとかして」
幼「友君は黙っててよッ!!」ゴォッ
友「なっ」
幼「友君には関係ないの!」
幼「さっきから私が悪かったんだって言ってるじゃない!」ジワッ
幼「口出ししてこないでよッ!!」
幼「……っ!」ダッ
友「幼馴染ちゃん!」
女「私が追いかけるから、君は男君に」
友「……ちっ!」
女「あと……最悪な方に転んだわね」
男「…………」
友「なぁ男」
男「…………」
友「俺には幼馴染ちゃんがお前を庇ってるようにしか見えなかったんだが」
友「なにしたんだよ」
男「…………」
友「……はぁぁ、頭冷やせよお前」
友「幼馴染ちゃんが悪いんだとしても、確実にお前あの子傷つけてるぞ」
友「…………話す気はないと」
男「…………」
友「まぁいいや、どう考えても俺たちがどうこう出来るレベルを超えてるし」
友「お前らで解決しなきゃダメだろこれ」
男「…………」
友「絶対解決しろよ」
女「……友君」
友「どうだった?」
女「何も話してくれなかった」
友「そっちもか」
女「こっち〝も〟……ね」
女「とりあえず、授業とか受けられる精神状態じゃなかったから保健室にぶち込んでおいたわ」
友「こっちは見ての通り」クイ
男「…………」
女「……ふぅん」
女「たぶん、だけど」
友「何か分かったのか?」
女「男君の記憶に関係がある気がするわ」
友「記憶……か」
女「進展が……ないじゃない?」
女「それでかな」
友「…………」
女「とにかく、時間をおいて少しは落ち着いてから、それからもう一度」
友「あぁ」
【翌日】
――――――
――――
――
「幼馴染……は休みか?」
「誰か連絡あったりしてないか?」
男「…………」
友「…………」ギリ
女「…………」
今日はここまで
ありがたやとか、こっちの台詞です
男(幼馴染……)
男(…………)
『ごめん……ごめ、ごめんね゛……』
男「……ちっ」
友「……最悪だ」
女「学校にも来られないほどか……」
友「ミスったな」
女「えぇ、ここまで酷い問題だとは思ってなかった」
友「何より……男に解決するつもりが無いってのが一番悪い」
友「とにかく、何してでも聞きだすぞ」
女「やめない? 他人が関われるような問題じゃなかったのかもしれない」
友「だからってこのままじゃ解決しない」
女「……くっ」
【昼休み】
――――――
――――
――
ガシャンッ
男「痛っつ……」
友「さてと、しっかり話を聞かせて――」
女「やり過ぎよ、このどアホーーっ!!」スパーン
友「ぐへっ!?」
女「ったく、フェンスにぶん投げるとは流石に予想してなかったわよ」
女「頭に血が上り過ぎ。そんなんじゃ男君だって話すのを渋るでしょうが!」
友「だけど!」
女「だけどもなにもあるかい! 君はちょっと引っこんでて、私が話きくから」
男「…………」
女「さて、男君」
男「…………」
女「……色々男君にも言い分はあるんだとおもうけれど、とにかく話を聞かせてもらおうかしら」
男「…………」
女「まずはこっちを向いてくれる?」
男「…………」
女「こっち向けって言ってんだよ」ギロ
男「っ! ……わ、わかったよ」
友(あぁ、口出しできる空気じゃねぇや)
友(てか、女さん怖ぇ)
女「……聞き方が難しいんだけれど、まぁまずは」
女「なんで、幼馴染ちゃんは泣いてたのかしら」
男「……それは」
女「妙にあの子があなたを庇ってるんだけど」
男「……きじゃないって」
女「ん?」
男「お前のことなんて好きじゃないって、僕が言った」
女「…………へぇ」
男「お前が好きなのは、記憶が消える前の《男君》だろうって」
女「なるほど」
友「やっぱてめぇが悪いんじゃ――」
女「君は黙ってなさい」
友「はい、すみません」
女「……なるほどね」
女「随分なことを言ったわね」
男「…………」
女「きっかけは、男君が努力しようとしないのをあの子が咎めたってとこかしら」
男「……そうだよ」
女「確かに最近は遊んでばかりだったわね……それについては私も悪かった」
女「なんとなく思いつめた雰囲気は前々から気が付いていたけれど放っておいたから」
男「……僕だって、不安だよ」
男「でも、どうすれば記憶が戻るかなんて分かんないのにどうしろって言うんだよ」
友「…………」
女「それでも、やっぱり男君が悪いと思うわ」
男「…………」
女「酷い事を言ったっていうのはもちろんだけど、それ以前の問題」
女「男君、自分から記憶を戻そうと何かしたかしら」
男「それは……」
女「男君から言い出して、何かしたことはあったのかしら」
女「幼馴染ちゃんは、毎日毎日良く頑張るわねって思うくらい色々提案してきたけれど」
女「君から提案したことを、私は見たことないわ」
男「…………っ」
女「もしかしたら私たちの知らないところで何かやってるのかもしれないけれど」
男「…………」
女「その様子をみると、違うようだし」
男「…………」
女「私と友君にどうこう出来る問題ではなかった、というか当人たちが解決しないといけない問題だと思うから、何かない限り手は出さないわ」
女「ただ、ひとつ言っておくことは」
男「……?」
女「幼馴染ちゃんは、誰よりも君を心配していたってことを忘れないで」
男「…………」
女「それじゃ」
友「え? おしまい? いや、まだ言いたいこととか沢山!」
女「はいはい、戻るわよ」ズルズル
友「自分で歩くから! 引きずんなっ!」
友「これでいいのかよ」
女「良いんじゃない? 少なくとも、解決の兆しは見えたけど」
友「俺には見えなかった」
女「観察眼が無いわね」
女「……ただ、一つ気がかりなのが」
友「気がかり?」
女「なんで幼馴染ちゃん、男君のこと庇ってるのかしら」
友「あぁ、確かに話を聞く限り、そこまで幼馴染ちゃんだけが悪いってわけじゃないし」
女「私が悪いって言ってたのもそうだし」
女「妙に、悪い方に物分かりがいいっていうか、自分を責めてるって言うか」
友「うん」
女「何か引け目でもあるのかしら」
友「引け目、ねぇ」
女「あるいは嘘、とか」
友「まぁ、そこは俺たちにゃわかんねぇな」
女「何もかも、すっきり解決してくれることを願って、それで終わったら聞きましょうか」
友「そうだな」
女「ところで友君」
友「はい?」
女「こんな時間だけど、お昼ごはんはもう買ってあるのかしら?」
友「」
女「購買、売り切れてるんじゃないかしら」
友「う、おおおおおおおおおおおおおおっ!! しまったーーー!」ダダダダ
女「今から行って買えるとといいわね……って行っちゃった」
今日はここまで
男「…………」ソワソワ
ピンポーン
「はーい、ってあら男君じゃない」
男「こんにちは、おばさん……えっと」
男「……幼馴染は」
「あの子? あの子は今日は出かけてるわよ?」
男「っ」
「もしかして何か約束してた?」
男「い、いえ」
「それで、何のご用事かしら」
男「いえ、幼馴染がいないなら良いです」ビクッ
「そう? ごめんなさいね」
男「大丈夫……です」
「男君、あの子のことこれからもよろしくね」
「何か最近思いつめてるみたいで」
男「っ!?」
「表面的には普通なんだけど、あまり笑わないし、部屋にこもりがちだし」
「何があったか知ってる?」
男「し、知……らないです」
「あ、ごめんなさいね……男君も自分のことで大変だったわね」
男「あ、えっと……」
男「僕はこのへんで」
「あぁ、引きとめちゃってごめんなさい」
男「いえ、平気です、それじゃ」
男「…………」
男「……あぁ、くそっ」
男(あの時、言い過ぎたのは分かってる)
男(鬱陶しいからって酷い事言ったってのも分かってる)
男(でも……恋愛感情って言われても分からない)
男(何度もお見舞いに来てくれたのは感謝してるし、一緒にいると落ち着くし、何かを感じなかったわけじゃない)
男(それでも、圧倒的にすごした時間が短すぎて)
『ごめん……ごめ、ごめんね゛……』
男「謝りたい……」
【???】
幼「…………」キィコキィコ
幼「……はぁ」
幼(昼間っから高校生がブランコなんか漕いで……何やってんだろ)
幼「……ん、く」ポタポタ
幼「あぁ、もう。泣くのやめようって思ってるのに」
幼「気ぃぬくと……駄目だな、ぁ……ひぐ」
幼「男と《男》……」
幼「私は…………」
「ねぇねぇ! あっちであそぼーっ!」
「うんっ! いこういこう!」
幼「あ……」
幼「私と《男》もあんな風に……遊んだなぁ」
幼「男は……覚えてないんだよね」
幼「……あの事も」
『ねぇねぇ! おさななじみっ!』
幼「あはは……懐かしいなぁ」
【回想・公園】
『ねぇねぇ! おさななじみっ!』
『なぁに、おとこ?』
『おさななじみってすきなひといる?』
『え、えぇっ! すき、なひとっ!?』
『うん!』
『え、えっとね? わたしはね? ……おとこのことが、すき』
『ほんと! わぁ、うれしいなぁ!』
『お、おとこは?』
『ぼくはおさななじみがすきだよ!』
『やった! じゃありょうおもいだね!』
『りょうおもいかー……だったらけっこんしようね』
『けっこん?』
『おとうさんとおかあさんみたいに、あいしあってるふたりはけっこんするんだって』
『そうなんだ! じゃあおとことわたしはけっこんしようね!』
『やくそくだよ!』
『うん! それじゃ、ゆびきり!』
『ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのます!』
『ゆびきった!』
幼「――あーあ」
幼「子供の頃の約束なんて信じちゃって、ばっかみたい」
幼「ほんっと……ばかみたい」ポロポロ
幼「その為に嘘ついて……」
幼「記憶喪失に付け込んで……最低だな」
幼「最低な人間は……」
幼「駄目だよね」
男「…………」
男「幼馴染のこと、僕は好きか?」
男「……好き、なんだろうな」
男「でも……なんか、好きって言いきるには、足りない気がして」
男「何かが、ぽっかり無くなってる気がして」
男「記憶喪失で……何か」
ピンポーン
男「ん?」
男「はい、今行きます」
ガチャ
「お、男くん!」
男「おばさん? どうしたんですかこんな時間に」
「幼馴染が! 幼馴染が!」
男「え?」
「幼馴染が帰ってこないの!」
男「っ!?」
「電話しても出ないの!」
男「あいつ……」
「男くん昼間訪ねてきたわよね! 何か聞いて無い!?」
男「……すみません、知らないです」
「そ……そう」
男「あ、あの……僕も探します!」
「お願い! お願い、あの子を……お願い」
男「……っ」ダッ
男「あぁもう! ……なんっ、で! あんなこと言ったんだよ僕は!」
男「かっとなったくらいで、好きじゃないだなんて!」
男「遊びが楽しいからって面倒なことはやらないで、子供かよ!」
男「ごめん、ごめん幼馴染」
男「謝らせてくれ! 頼むから、なぁ」
――――――
――――
――
友『はぁ!? 幼馴染ちゃんが帰ってこないぃ!?』
男「あぁ! 友、何か心当たりないか?」
友『……すまんがお前の所為しか思い浮かばない』
男「僕もだ」
友『っと、とにかく、俺は俺で探してみるから! 女さんにも連絡しとく!』
男「あぁ、ごめん、ありがとう!」
友『なんにせよ……男、さっさと決着付けろよ』
男「……あぁ」
友『じゃ』ピッ
男「……ここもいない、どこだ」
男(このまま、見つからなかったら)
男「っ」ゾッ
男(それだけは、いやだ)
男(幼馴染がいなくなるなんていやだ)
男(いまさら、図々しいかもしれないけれど)
男「頼むから……それだけは!」
男「海にはいない、高校も、後はっ」
男「思いつくところをがむしゃらに探しても……」
男(……くそ、記憶があったら、もっと何か分かったのか?)
男「…………」
男「っ、公園……?」
『ここはね、大切な場所』
男「公園はっ!」ダッ
男「はぁ……はぁ……」
男「幼馴染っ……」
男「…………んっく……」
『嬉しい時も、悲しい時も……ここに二人で来てた』
男「……ぜぇ……はぁ」
男「ぐ!? 頭いてぇ……」
男「けど、んなこと……どうでもいい」
男「今はっ」
幼「…………」キィコキィコ
男「……っ!」
男「幼馴染っ!」
幼「っ!」ビクッ
男「いた! 良かった! 良かった!」
男「待ってろ! 今、そこまで――」タッ
ビカッ パーーーッ!
男(しまっ、トラック!)
男「轢かれ、っ」
幼「男っ!」
男「避けきれ――」
今日はここまで
男の突き放し方がクズすぎて回復がむずいぃ
なんかどんな展開考えても「今更何言ってんだよ」になる
そしてお待たせしました、ありがとうございます
男「――――っ」ドサッ
男「っ、ぶねぇ……!」
男(死ぬかと思った……)
幼「おとこぉっ!」ガバッ
男「うわっ!?」
幼「おとこ、おとこっ、怖かった、すっごく、こわかったぁ」
幼「またたおれるんじゃってっ! こんどは、死んじゃうんじゃないかって!」
幼「ひぐ、でもっ……よかったぁぁぁあああっ、うえぇぇぇぇんっ!」
男「ごめん、幼馴染」
幼「ひっく、ひぐ……うぇぇ」ギュ
男「大丈夫だから、ほら、怪我してない」
幼「ほんと? もういなくならない?」
男「うん、心配させてごめんな」
幼「ん……」
幼「って――あっ」バッ
幼「ご、ごめんなさ……抱きついたりなんて」
男「良いよ」
幼「へ……?」
男「その……あの時のは」
男「色々面倒臭くって、かっとなって言っちゃって」
幼「…………」
男「だから、ごめん」
幼「え!?」
男「酷い事言ってごめん、僕のことを心配してくれたのに」
幼「そんな、ちょ、頭上げてよ!」
男「いや、幼馴染を傷つけてしまったんだから、それは――」
幼「だって……だって、私も」
幼「私も謝らなきゃいけないことがあるの」
男「謝ることって」
幼「……私と、男が付き合ってるって」
幼「嘘なの」
男「……どういうことだ?」
幼「私がね、記憶喪失の男に嘘のこと教えたの」
幼「何も無くなっちゃったところに偽物を植え込んだの」
幼「私、男のこと大好き」
幼「記憶があっても、無くっても、それは変わらないよ? 大好きなの」
男「…………」
幼「でも……下らない『約束』のために、やっちゃいけないことしちゃった」
幼「だから、もう……ね」
男「約束ってなんだよ」
幼「ん? 約束?」
幼「……ほんと、くだらない、ちっちゃかったころの約束だけれどね」
幼「簡単だよ……結婚しようって約束したの」
幼「ここ、この公園で手をつないで」
男「公園……っ」ズキッ
幼「そんなのを後生大事に抱え込んで、人としてやっちゃいけないことして」
幼「だから、私も謝らなきゃいけないの」
男「約束……公園……結婚」ズキズキ
幼「……男?」
幼「ん? 約束?」
幼「……ほんと、くだらない、ちっちゃかったころの約束だけれどね」
幼「簡単だよ……結婚しようって約束したの」
幼「ここ、この公園で手をつないで」
男「公園……っ」ズキッ
幼「そんなのを後生大事に抱え込んで、人としてやっちゃいけないことして」
幼「だから、私も謝らなきゃいけないの」
男「約束……公園……結婚」ズキズキ
幼「……男?」
男「頭……いっ、てぇ」ギィィィン
幼「ちょ、男、大丈夫!?」
男「なんか、これ、やば」
幼「どうしよう!? やっぱりさっき頭打ったり!?」
男「――あ」
男「おもいだし――」
『あ! けっこんするときにはいわなきゃいけないことがあるんだよ』
『いわなきゃいけないこと?』
『えっとね』
『……?』
『わたしおとこは、いついかなるときも――』
男「幼馴染を愛することを誓います」
『おさななじみをあいすることをちかいます』
男「そう……だ」
男「おもいだした……ぞ、ぜん……ぶ」ドサッ
今日はここまで
ん……まぁ、聞かれたので
ツンデレ「やだ、別れたくないよぉ……二番目でもいいからぁ」
友「世界で君と二人きり」
幼馴染妹「男は私といるの!」幼馴染姉「いいえ、私とよ!」
女魔法使い「人前で魔法が使えない」
男「幼馴染に拉致監禁された」
女「放課後の教室で一人ぼーっちー」男「僕もいるんだけど」
幼馴染「へぇ、私のこと好きなんだ……」
あと、秋のss短編祭で友「……お幸せにねっ」
ですかね
まいどご愛読ありがとうございます
おっと
良ければこちらも
天使「飲み会」悪魔「飲み会」
欠陥製品「戯言だけどね」人間失格「そいつは傑作」
あとは文才晒そうぜスレとかっすね
幼馴染『――――――!』
あれ? なんだこれ?
幼馴染が怒ってる?
幼馴染『――! ――――っ!』
……どっかで、見た光景だ。
えっと……。
あぁ、そうだ。
これ、交通事故の前だ。
幼馴染『――っ!』
怒らないでくれよ、幼馴染。
泣かないでくれよ、幼馴染。
確か、この喧嘩は些細なことがきっかけだった。
遊びの約束をすっぽかしたとか、そういう。
幼馴染『――』
いつもなら、謝って許してもらえて。それで終わりだったはずだけど。
この日は何か気持ちがすれ違って、仲直りができなくて。
幼馴染『――――、――!』
そのままイライラしながら歩いてて、家までの道は同じだから少し後ろに幼馴染がついてきて。
そんな幼馴染を振り切ろうとしたのかは覚えてないけれど、注意力散漫なまま道路に飛び出てしまった。
そこで……、
轢かれたときに思っていた。
『幼馴染の顔なんて、見たくない』
――――――
――――
――
男「…………」モゾ
幼「……? おとこ……?」
男「…………」パチ
幼「……おとこ、男っ!」
男「おはよう……幼馴染」
幼「良かったっ! 目覚まして!」
幼「大丈夫!? どっか痛いとことかない?」
男「幼馴染」
幼「えっ」
男「……全部、思い出した」
幼「思い出したって、記憶が?」
男「うん」
幼「幼稚園から小学校から、高校まで……全部?」
男「うん」
幼「わ、私の名前は?」
男「幼馴染」
幼「……う、ぅ……うえぇぇん」
男「心配掛けて、ごめん」
幼「良かった、よぅ……ひっく……」
――――――
――――
――
友「男! 記憶戻ったってホントか!」
女「男君、私のこと、ちゃんと思い出した?」
男「うん、皆にもいろいろ迷惑かけた」
女「いやいや、別に迷惑なんて思ってないわよ」
友「そうだな。……まぁ、一つばかし思うところはあるけれど」チラ
幼「?」
友「丸く収まってんなら、いいか」ハァ
女「何はともあれ……『久しぶり』男君」
男「! うん、久しぶり女さん」
女「よーし、じゃあ私から言うことはもう無ーい」
幼「……なんだか男と女ちゃん仲が良い」
女「あら、嫉妬かしら?」コソッ
幼「っ!?」
女「友くーん、どうやら私たちお邪魔みたいだから購買にでもいきましょう」
友「え、ちょ、ひっぱらないでくれよぉぉぉああああああ」ズルズル
男「あはは、なんだあいつら」
幼「…………」カァ
幼「ね、ねぇ……男」
男「何?」
幼「私さ、男に嘘のこと教えてたけどさ……」
幼「……あれ、ほ、ホントに出来ないかな?」
男「え、っと」
男「全部、思い出したんだ」
男「……約束、も」
幼「あ」
男「僕の気持ちは、あの時から変わってない」
男「好きだ、幼馴染」
男「良ければ、僕と付き合ってくれない?」
幼「…………」
幼「……はいっ!」ニコッ
幼「……えへへ、へへへ」
男「おーい、顔が崩れてるぞ」
幼「でも嬉しくて、勝手に……えへ」
男「……微妙に僕も恥ずかしいんだけど」
幼「いいじゃんか、それにさ」
幼「約束、ってことは……結婚も?」
男「あー……うん、頑張ります」
幼「……はふ、だめだ、嬉しすぎる」
幼「わ、私たちも購買いこっ!」
男「あ、ちょっと待てよ」
幼「先行ってるねー」タッタッタ
男「あぁ、もう」
男「……結婚か、なんだか今はまだ遠いけれど」
男「うん……」
男「私、男は――いついかなる時も」
男「幼馴染を愛することを誓います」
完・結
ここまでです
長らくの保守、支援
本当にありがとうございました
このSSまとめへのコメント
記憶喪失者の立場を考えてくれる人がいたら良かったのに。
駄作駄作アンド駄作