少女と猫の散歩道(73)


少女「雨、止みましたよ」

猫「うむ。そうだな」

少女「ここは何処なのでしょうか」

猫「私に聞かれても困る」


少女「急に外に出たいというから付き合ってあげたのに、酷い言いぐさですね」

猫「雨の日の散歩だぞ?なかなか趣があってよかったじゃないか」

少女「濡れるのは嫌いだったはずですけれど」

猫「熱い水に入るのが嫌なだけだ」

少女「……帰ったらお風呂入りますからね」


猫「……はて、何の話か」

少女「さぁ帰りましょう。もう十分でしょう?」

猫「うむ。少々腹が減ったな。今夜は魚が食べたいぞ」

少女「…昨日もそうだったじゃないですか」

猫「むぅ。そうだったか?」


私は彼と(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)、
昼下がりの雨のなか、ふらりと外の散歩と洒落込んでいるのである。

彼は、私が生まれたと同じくらいに生まれ、私と同じ家で育ち、私と同じ飯を食った。

猫の割に口が上手く、私はいつも喧嘩になると負けてしまう。
妙にプライドが高く、ゆっくりと撫でてやらないと怒る。

私は彼と同じ道を進み、彼も私と同じように寄り添って生きてきた。


雨で濡れた道がやけにキラキラと輝いているので、彼は終始ご機嫌であった。

彼の機嫌のいい日は決まって夕飯に魚料理を要求する。

私はそれほど料理に自信はないのでいつも困ってしまう。



彼は雨の日が好きだ。しかし、私は雨の日が嫌いだ。


私はそのことをあえて口にしない。

こんな感じで、短くちょこちょこ書いていきます



【歩き方】



彼は、私の少し後ろをテクテクと歩く。

私は彼の歩き方が好きで、たまにじっと観察したくなるけれど、


私が彼のほうをちらりと見ると、決まって彼は立ち止りそっぽを向く。
彼、というか、猫の悪いところだと思う。


少女「あの、ちょっと私の前を歩いてもらってくれませんか?」

猫「どうしてだ?」

少女「……たまには違った目線で景色を見ると、新しい発見があるかもしれませんよ?」

猫「私は、この景色が好きなのだ」

少女「景色って…私の背中しか見えないじゃないですか」

猫「なんども言わせるな」

少女「……むぅ」


彼は、結構ガンコである。
猫のくせにプライドだけは高い。

自分で言ったことを忘れてしまうことなんてしょっちゅうなのに、
自分の言ったことを曲げようとしない。猫のくせに。猫背なのに。


よし。私はいつか、彼の背中を舐めまわすほどじっくりと観察してやろう。


余談だが、私の歩き方を見て彼はいつも笑う。

なんかネタ頂ければ、頑張って書くかもしれませんニャ。

【小学生と猫】


彼と私の年は同じである。
私が産声を上げたとき、彼もまた、ニャーと鳴いた。

私が初めて言った言葉は、パパでもなく、ママでもなく、【ニャー】だった。
親からしてみれば、化け猫の生まれ変わりなのではないかと心配であっただろう。

ハイハイで彼の後を追い、いつの間にか私が、二足歩行という霊長類の優位を手に入れると、彼は私の後ろをついてくるようになった。

彼と話すようになったのは、私が小学生の頃である。


少女「ねぇ…なんでついてくるの?」

猫「いいではないか。今日は空がやけに焼けているのだ」

少女「…ねぇ。なんで私あなたの声が聞こえると思う?」

猫「私に聞かれても困る。それにお前は私と話すのが嫌なのか」

少女「嫌じゃないけど…みんなと違うから」

猫「気にすることはない。他人と比べても得るものなんてありはしないぞ」

少女「うん。わかった」


猫「…その、手に持っているちくわは私のおやつか?」

少女「ちくわじゃないよ!リコーダー!」

猫「なんだ。ちくわではないのか」

少女「明日テストなんだよねー…」

猫「どれ、1つ私にも食べさせてくれないか」

少女「だからちくわじゃないってば!これは楽器!」

猫「がっき?」

少女「息をふーってはくと音が出るの。見てて」


私は一息をすぅと吸って、リコーダーを鳴らす。

彼は、同じようにすぅと目を閉じてその音を聞いていた。


私はこの音を聞くと、なぜだかいつも悲しい気持ちになってしまう。

それは、お祭りの終了のアナウンスだったり、
おいしいものを食べ終わった後のごちそう様によく似ている。


私の大切なリコーダーは、ソの音を出そうとするといつも情けない音が出る。

それが嫌で、何回も何回も練習するのだがやっぱりうまくいかないのだ。


猫「うむ。なんだかちくわが食べたくなったな」


だから食べ物じゃないってば…、と私は悪態をつきながら、
彼を脅かせようと思い切り吹いてやった。


やっぱりソが出なかった。

【こい】

雨に濡れた彼の背中は、いつもより艶やかに、美しく見える。
誰にも真似できない美しさを、私はいつも羨ましく思っている。

彼は、自分を猫だと思っていないのかもしれない。

歩く姿はまるでヒョウのようにしなやかであるし、(実際にヒョウの歩く姿を見たことはない)
欠伸をする姿は、ライオンが雄たけびを上げる姿に似ている。(ライオンもまた然り)


私は、彼の姿を見ると悶えてしまうほど愛しくなってしまう。
(もしからしたら、いわゆるこれが恋というものなのでは…?)


少女「あの…猫も恋ってするんですか?」

猫「ん、こいか?好きだぞ」


私は、不覚にも赤面した。


猫「私も、昔はよく仕留めたものだ。あれは、大味だがなかなかいけるぞ」

少女「まぁ、そうですよね」

猫「ん?食いたいのか」

少女「知ってます?鯉って結構、高級食材だったりするんですよ」

猫「ほう…よし、今日の晩飯は鯉にしよう!」

少女「却下です」



これは、恋ではない。たぶん。

今日はここまで、ありがとうございました。


私が学校から帰る頃になると、彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)との散歩の時間が始まる。

彼と私は目的地のないまま、ぶらぶらと歩きまわる。
それが一日のまとめであり、私と彼にとっての大切な習慣の1つである。


彼は少し距離を開けて、私の後ろを歩く。
そして、一言二言の会話を繰り返し、お腹が空いたら家に帰る。

その時間が私は好きだ。


少女「今日は何処に行くんですか?」

猫「うむ。どこにいこうか」

少女「ちゃんと決めてくださいよ」

猫「私の前を歩いているのは君だろう?」

少女「…散歩に行きたいって言ったのは、私じゃないですよ」

猫「細かいことは気にするな…あ」


彼はそういうと、私の横をすり抜けて走り去ってしまった。


少女「……えー、どこいくんですか…」

呆然と立ち尽くしていると、彼がいた方向から小さな女の子が大きな声で話しかけてきた。


「おねーちゃん!こんにちは!」

「はい、こんにちはひなちゃん」

「今日は、猫さんと一緒じゃないの?」

「あー…そうだねぇ。猫さん帰っちゃったかも」


キラキラした目で、こちらを見つめてくる。
この子は近所に住んでいる女の子で、彼を見つけては追いかけているらしい。

前に彼が愚痴を言っていたのを思い出した。彼はどうやら逃げたようだ。


「えー…残念だぁ…」

女の子は、しゅんと肩を落とした。

この子も、彼の魅力に惹かれている女の子の一人なのだ。


「…たぶん家に帰ってくると思うから、猫さんと遊ぶ?」

「え、いいの!?」

「暗くなるといけないから、ちょっとだけね」

「うん!!」


女の子が手を差しだしてきたので、私はそっと手を繋いだ。
きっと、彼を探して走り回っいたのだろう。汗で少し湿っていた。

柔らかく温かい小さな手を、握りつぶしてしまわないか心配になったが、女の子はぐっと、私の手を握っていた。


「…猫さん、好き?」

「うん!大好き!おねーちゃんは?」

「私も大好きだよ」

「えへへ。私も好きー」


私と女の子は手を繋いで家まで帰った。

夕暮れの空と、どこか懐かしい匂いに、なぜだか少し切なくなった。

きっとこういう時間はいつか消えてしまうのだろう。
そう考えると、また切なくなった。


家に帰ると、彼はリビングで優雅にテレビを見ていた。

女の子は彼を見るや否や抱き着き、わしわしと頭とお腹を撫でた。
ムスッとした表情で私のほうを見ていたが
私も知らんふりをして、一緒にわしわしと撫でてやった。


散歩の時間をサボった罰である。


【私と女の子】

こんなSS書いてますが、私自身は猫アレルギーで猫飼ったことありません。ちくせう。


【彼の好物】


彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)の好物は3つある。

ひとつ目は魚介類、

ふたつ目は魚介類の練り物、

みっつ目はうまい棒である。


彼は、自分のことを猫界切ってのグルメと名乗っているが、うまい棒が大好きである。

ちなみに私も大好きだ。


猫「ん。なぁ、駄菓子屋に寄っていかないか」

少女「別にいいですけれど、財布持ってきていませんよ」

猫「まかせておけ」


彼は、得意げに鼻を鳴らし自動販売機の下に潜り込んで10円玉を一枚咥えてきた。


「ほれ、これで頼む」

「…これはドロボウにならない…よね」

「早く買ってきてくれ」

「それで、何味がいいんですか?」

「チーズ味だ。決まっているだろう」

「えー、普通サラミ味でしょう…」

「何を言う。チーズ味こそ至高じゃないか」

「…絶対サラミ味」

「チーズだ」

「……」

「……」


結局、サラミもチーズも売り切れていてめんたい味を買うことになった。

2つに分けて、彼と私は無言でサクサクとうまい棒を齧った。
我ながら奇妙な光景である。


「……」

「……」

「あの」

「なんだ?」

「めんたい味、結構イケますね」

「うむ」

上手い棒はぐしゃぐしゃにして食べる派です。


【思春期と猫】


彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)が昼間に何をしているのか、私はよく知らない。

一日中昼寝をしているわけではなさそうだし、
他の猫とおしゃべりをしている姿も想像できない。


当たり前のことだが、私は彼のことについてほとんど知らない。

毎日散歩をして、好きな食べ物を聞いて、他愛のない会話をする。
それだけでこの関係は成り立っている。

この簡単に壊れてしまうような関係が私は好きだし、深く掘り下げようとも思っていない。

でも、いずれ彼のほうが先に死んでしまうだろう。彼に寄り添うことはできない。
一人になると、そういうことをいつも考えてしまう。


友「昼休みに屋上で黄昏る姿が似合ってるね」

少女「…あ、美香だ」

「どーも、美香です。どうしたの、なんか元気ないけど」

「別にー…なんでもない」

「恋の悩み…?」

「バカ」


友「いいね、青春だね。で、相手は誰?高松君?」

少女「だーかーらー違うって…、なんで高松君が出てくるのよ」

友「えっ、あっ、まだだったんだ」

少女「なにがよ」

友「えっと…まぁ、なんか噂があって」

少女「噂?」

友「でも、これ言ってもいいのかな…?」

少女「正直に言いなさい」


友「そんなに睨まないでよぉ…えーっと、高松君がほーちゃんに告白するって聞いたから…」

少女「…私に?」

友「まぁ、噂だからね!どうなるか分かんないけど…」

少女「ふーん…高松君ねぇ…」

友「…もっ、もし本当に高松君が告白してきたら、ほーちゃんOKするの?」

少女「うーん、どうかなぁ…確かにカッコいいけど」

友「確かに。高松君カッコいいよねぇ…」

少女「…美香、どうしたらいいと思う?」


友「えっ!?そこでわたしに聞くの!?」

少女「もし、私が高松君と付き合うことになったらどうする?」

友「……ほーちゃんのいじわる」

少女「あはは、心配しなくてもいいよ。私、好きな人いるし」

友「え!!嘘、初耳!!」

少女「あ、まぁ人っていうか…まぁいいか」

友「私の知ってる人!?ねぇ教えてよ!!」

少女「だーめー」


きっと男の子を好きになって、恋をして、そうしていくのが普通なのだともう。
しかし、私にとって今はまだ毎日の散歩のほうが大切なのだ。

こんな気持ちも含めて、彼は私のことをほとんど知らないのだと思う。

一応、少女の年は15~17歳をイメージして書いています。

今日はここまで、ありがとうございました。



家に帰ると、彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)の姿がなかった。

いつもは玄関の前で私を待ち、散歩の催促をするのだが今日はいないようだ。
かばんを置き、制服を脱ぐ。

汗を流すためにシャワーを浴びて、彼の帰りを待つことにする。


学校で美香に聞いた話についてぼんやりと考えていた。

誰かから好意を持たれることが、嬉しい反面どこか面倒くさい。

もしかしたら、私はどこかで彼のことを真似しているのかもしれない。

彼は、自分に好意を持つ人から良く逃げる。

二人で散歩をしていると、誰かが彼の興味を引くために寄ってくることがある。
彼は2~3秒ほどじっとそちらを眺めた後、わざとらしくプイと踵を返し歩き去ってしまうのだ。


私はこの彼の態度がとても気に食わない。

でも、彼のそういうところが大好きで惹かれてしまう。

誰かに媚びることはせず、
自分の気高さを理解しており、
しかしそれを見せつける素振りもしない。

彼は、とても卑怯な猫なのだ。


猫「おい、起きないか」

彼の声でハッと我に返った。
どうやら眠ってしまったようだ。

少女「…どこ行っていたんですか?」

猫「散歩だ。たまには一人で行くのもいいかと思ってな」

少女「……そう、ですか」

猫「ん?どうした。具合でも悪いのか」

少女「……別になんでもありません」

猫「?」


私は怒っているんですよ。

きっと彼は私が寄り添うことを望まない。
近づこうとしたら、きっと彼は離れてしまう。

少女「…次、ひとりで散歩に行ったら許しませんから」

猫「……あぁ、そうか。すまなかったな」

少女「いえ、別に…もういいです」



私は子供だ。だけど、彼はもう大人なのだろう。

その差が、私をこんな気分にさせる。



【思春期と少女】

短いけど、今日はここまで。

猫の年は、15過ぎると人間の80歳くらいに相当するらしいですね。
おじいちゃんェ…


学校での噂は広まっているらしく、ここ最近私の周りが少々騒がしい。

私も気になっていない訳ではないが、
ここまで周りがうるさいと、高松君が困ってしまうのではないかと心配(というか同情?)してしまう。

まぁ、我ながら他人事だと思う。


友「なんだか、すごいね。みんな」

少女「まぁ、人気者の高松君だし。分からなくはないけど」

友「いつにもまして、クールだねぇ」

少女「クールって言うか…別に単なる噂に右往左往したくないって言うか…」

友「でも、もし本当に高松君と付き合えるなら、どうする?」

少女「人気者に好かれるっていうのも、正直悪い気はしないけど…」

友「ファンクラブもあるって噂だよ?」

少女「…ふーん」


友「…話変わるけどさ、この前言ってたほーちゃんの好きな人って誰なの?」

少女「えー?」

友「いってたじゃん!ねぇ、少しでいいからさ、教えてよ」

少女「うーん…好きって言うか。なんていうか…」

友「え、片思いとかなの?」

少女「そうとも言えるし…そうでないともいえるし…」

友「…あー!!はっきりしないなぁ、いつものほーちゃんらしくないよ?」


彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)と姿を想像して、直ぐに消した。

この気持ちが好きなのかどうか別として、まだ美紀に話すつもりはない。


少女「いつもの私ですよーだ」ガタッ

友「えーもう帰っちゃうの?」

少女「待たせちゃ悪いし」

友「もしかしてデート!?」

少女「違うって。じゃまた明日ね」

友「あーん、ほーちゃんのいけず…」


お散歩、デート。もしかしたらそう捉えることもできるかもしれない。
私は、小走りで家まで帰ることにした。


家に帰ると、彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)が玄関の前で、丸まっていた。

猫「おかえり、さて、散歩にでも行こうか」

少女「今、帰ってきたばかりなんです。ちょっと待ってくださいよ」

猫「どのくらい待てばいい?」

少女「……」クンクン

少女「シャワー浴びたいので、30分くらいで」

猫「…ふむぅ」


彼は少々むすっとした顔をし、家の中に入っていった。

私は制服を脱ぎ、シャワーを手早く浴びて軽装に着替えた。


リビングに行くと、彼は小さく丸まってスゥスゥと寝息を立てていた。

彼は、ここ最近よく寝るようになった。

少し前までは、家の中をテクテクと歩き回り、
散歩に行こうか、うまいものを食おうか、もっと優しくなでろ、などいろいろ催促をしてきたのに、最近はそれもせずにいつも横になっている。


私は、そっと彼の隣に座り柔らかく艶のあった背中を撫でた。
彼の瞼がぴくりと動き、鼻を2~3回ヒクヒクと鳴らし、身をゆだねるようにそのまま眠っていた。


……私は、あなたが好きなんですよ?


言い聞かせるように、小さな声で囁いてみたが、途中で恥ずかしくなって声に出すのを辞めた。

彼の背中は、以前よりゴワゴワになっていたし、
歯も抜けて、黒い毛に白いものが混じり始めていた。

それでも、私は彼のことが好きだった。
それだけに、とても寂しく、悲しい。


私は、一人で散歩に出かけることにした。

今は寝かせてあげよう。
それぐらいしか、優しさを伝える方法が思いつかなかった。


書きながら展開を考えているので、難しいです。

あまりgdgdにならないように、急ピッチで終わらせようか悩み所です。
兎も角、読んでくださった方、感謝感謝です。

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