水神「…」ｺﾞﾎﾟ

ザバッ

少女「うひゃっ」

水神「またお主か」

少女「あ、ど、どうも。えへへ」ﾍﾟｺﾍﾟｺ

水神「すさまじい音がしたが、何を落とした」

少女「洗濯物の…カゴを…」

水神「…昨日も落としていた」

少女「そうですね」

水神「水辺で走るなと何回言った？」

少女「…いち、にー、さん、し、…ごー」

水神「もういい分かった。いいか、二度と走るな」

少女「はい」

水神「自分が落ちたらどうするのだ」

少女「…死ぬ？」

水神「そうだ」

少女「怖いですね」

水神「そうであろ」

少女「…洗濯物…」

水神「…はあ。分かった。私が拾ってこよう」

少女「お手数おかけします」ﾍﾟｺ

ザバッ

水神「これか」

少女「あ、は、はい！」

水神「愚か者め。泉の底にすっかり沈んでおったぞ」

少女「ありがとうございます、ありがとうございます」ﾍﾟｺﾍﾟｺ

水神「五月蝿い。早く用を済ませて出て行け」

少女「は、はい」

ジャブジャブ

少女「ふんふーん」

水神「…」ｼﾞｰ

少女「ふんふん」

水神「…」

少女「よいしょ」ｷﾞｭｰ

水神「そんなに捻っては着物が皺になるだろう」

少女「…あ」ｸﾞｼｬ

水神「また母者に叱られるだろうが、少しは学習をせぬか」

少女「すみません…」ﾊﾟﾝﾊﾟﾝ

水神「要領の悪い娘じゃ」

少女「よし」

水神「終わったか」

少女「ええ、もうすっかり」

水神「そうか。ならば早く立ち去れ。お前がいると五月蝿くてかなわん」

少女「いえ、その、まだ用事が」

水神「…」

少女「母さまから、そろそろ汚いので身を清めておいでといわれまして」

水神「川に行け」

少女「あそこは水が冷たすぎるし、流れが早いのです」

水神「下流まで歩け」

少女「幾日もかかってしまいます…」

水神「…水を汲んで家の前でやればよかろ」

少女「水はけが悪いのでできません」

水神「…はぁ…」ｻﾞﾊﾟ

少女「そのう、入ってもよろしいでしょうか」

水神「勝手にしろ」

少女「ありがとうございます」ﾍﾟｺ

水神「私はこの岩の上にいる。終わったら声をかけろ」ﾊﾟｼｬ

少女「ご迷惑おかけします」ﾍﾟｺﾍﾟｺ

少女「…」ｿｰ

チャプ

少女「ふふっ」

水神「何を笑うておる」

少女「冷たくて」

水神「当たり前じゃ。どこぞの酔狂が冬に真水につかるか」

少女「お湯を沸かすと叱られてしまうので」

チャプ

水神「早くしろ。乾く」

少女「は、はい。善処します」ｼﾞｬﾌﾞｼﾞｬﾌﾞ

水神「…」

少女「そのう、」

水神「なんじゃ」

少女「あなたは寒くないのですか？」

水神「うん？」

少女「いつもいつもお水に浸かっていますが、寒くないのかなあ、と」

水神「平気だ。お前とは違う」

少女「はあー。お強いのですね」

水神「…」ﾑｯ

少女「ずっとお水の中にいるなんて、逞しいことです」

水神「早く洗え」

少女「は、はい」

男娼の人はハロハロの前科持ち

>>10男娼じゃないぜ

少女「…はくしゅ」

水神「終わったか」

少女「はい、くしゅ。はい、終わりました、っしゅ」

水神「…だから手短に済ませと言ったのだ。鼻が鳴っている」

少女「だいじょ、ぶです。くしゅ」

水神「早う体を拭いて、日向で乾かせ」

少女「…あ」

水神「はあ？」

少女「て、手ぬぐいを…。体を拭く手ぬぐいを間違って洗濯してしまいました」

水神「…」

少女「はくしゅっ、くしゅん」

水神「馬鹿者め」

少女「ずびばせ、っくしゅん！！」

水神「ではこのまま帰れば良い。家まで水濡れで帰るのだな」

少女「そうします、っきしゅ」

ザバ

水神｢…」

水神「おい」

少女「はい」

水神「こっちへ来い阿呆」

少女「え？」

水神「本当に帰るやつがあるか。病気になるぞ」

少女「でも、帰れと」

水神「来い」

少女「…お水に入ればいいのですか？」

水神「そうだ。私は動かんぞ。お前が来い」

少女「…ええと、服は？」

水神「衣を着て泳いだら溺れるであろうが！素のままでいいから来ぬか！」

少女「ははははい！！」ｼﾞｬﾌﾞ

少女「こ、ここら辺は深いですね」

水神「それくらい泳げ軟弱物」

少女「はあ、はあ」ﾋｼ

水神「岩の上に上がれ」

少女「は、はあ」ｷﾞｭ

ズル

少女「ひゃ！！？」

水神「…」ﾊﾟｼ

少女「すっすみませんすみません」

水神「…鈍い人間だ。嫌気が差す」

少女「すみません…」

水神「目を閉じて座れ。いいか、開けるのではないぞ」

少女「は、はい」

水神「…」

フワ

少女「…あ、あたたかいですね？」

水神「開けるな」

少女「はいっ」

水神「…良いぞ」

少女「…」

少女「か、乾いています」

水神「ああ」

少女「はあー、すっかり温かくなりました！やっぱりあなたは凄い方ですね！！」

水神「ああ、そうだな」

少女「この間も不思議な力で私を水から引き上げてくださいましたよね！」

水神「昨日だな」

少女「やはりあなたは…。普通の人とは違う…？」

水神「…」

水神「そうだ」

少女「…」

少女「ま、…さか」

水神「…」

少女「あなたは…」

水神「…」

少女「あの噂に聞く、」

水神「…」

少女「河童、…という者ではありませんか…？」

水神「…」ｶﾞｼ

水神「帰れ！！！！」ﾌﾞﾝ

少女「きゃああああああああああああああああ」

ドサ

少女「は、はあ、はあ」

水神「無礼者め。私のどこがかような妖怪に見える」

少女「お、怒っているのですか？」

少女「河童は嫌でしたか？でもお水にいる不思議な力を持つものといったら、やはり」

水神「帰れ」

少女「も、申し訳ありませんでした。その、帰ります」

水神「…」ｼﾞｬﾌﾞ

少女「あの！」

水神「なんじゃ」

少女「その、また明日」

水神「…」

少女「…」ﾆｯｺﾆｯｺ

水神「ああ、…明日、な」

少女「ええ！」

タタタ…

水神「…」

水神「娘がちゃんと服も着ずに…。しかもまた走りおって」

水神「はあ、忙しい人間なぞ嫌いだ。頭が痛い」ｻﾞﾌﾞﾝ

ガラッ

少女「た、ただいま帰りました！」

母「なにやってんだい、遅いじゃないか！」

少女「す、すみません」

母「洗濯物を干して、それからお昼の支度をするんだよ！休んだりしたら承知しないよ！」

少女「はい！」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ

母「ったく…。服もちゃんと前を合わせて着なさい！みっともない」

少女「あ、…うわああ」ﾊﾞｯ

母「そんなんだから何時までたっても嫁の貰い手もつかないんだよ！」

少女「う、…はい…」

母「なにやってんだい！しゅんとする暇があんのかい！？」

少女「はいい！」ﾀﾞｯ

少女（…ん？）

少女（そういえば、茶碗を踏んで足の裏を切って怪我していたけど）

少女「…」ｼﾞ

少女「痛く、なくなってる？」

少女「…」ﾊﾃ

母「少女！！！！！」

少女「たっただいま！！！！」

カーカー

少女「はあ…」ﾍﾀ

少女「つかれた…」

母「家事は全部終わったのかい」

少女「はい、母さま」

母「ふん、じゃあ奥の間にひっこんでな。あの人が帰ってくるから」

少女「分かりました」ｶﾞﾗﾗ

トン

少女「ふー、」

少女「…」ﾄﾞｻ

……
…

ゴポ

ゴポ

「ひっ、だれか」

「だれ、か。たすけ」

「だれか！！」

ザバッ

「ご、ほっ！ごほっ、ぐっ…」

「…あ、ありがとう、ございます…」

「あの、」

「…あ、あなたは…？」

少女「…」ﾓｿﾞ

少女「ん、」

少女「んん…」ﾑｸ

少女「…あ、寝てた」

少女（夢見てた、気がする…。あのときの夢…）

「あははっ、やだぁ～、お前さん」

「なんだよ、いいじゃねえかよ」

「やだあ…」

少女「…」

少女（あら、男さんもう来ていたのね）

少女（困ったな。おなかが空いたから、台所に行きたいのに。居間は通れないし）

少女「…」

少女「う」ｸﾞｰ

少女「……」ｸﾞｰｰ

「ああ、おまえさん…おまえさん…」

少女（早く終わらないかな）ﾎﾞﾌ

水神「…」

「おい」

水神「ん」

「何水面なんか覗いてんだ。何してんだい、おいらにも見せろや」

水神「…なんだ。風神か」

風神「よっす。なあ、なにやってんの」

水神「別になにもしとりゃせん」

風神「うそつけ、水鏡を覗いてただろ。何見てんだよー」ｸﾞｲｸﾞｲ

水神「下界の様子だ。離れろ、暑苦しい」

風神「ちぇ。相変わらず水のように冷たい」

水神「何か用か」

風神「用がなきゃダチのところ来ちゃダメなのかい」

水神「ああ」

風神「…」

風神「いや、えーと。そうだ、ちょっくら下界に女でも攫いにいかない？」

水神「行かぬ」

風神「はい…」

水神「毎度毎度盛んなことだ。火神も立腹しておったぞ」

風神「え、なんであいつが」

水神「そりゃあ、お前が神隠しと称して女子を攫っておるからだろう」

風神「い、いいじゃん別に…。おいら神だぞ」

水神「女子との間に子どもまで成しているのが問題なのだ。奴は神の血を人に分けたくないからな」

風神「そういわれても…。勝手に女の子が孕むからいけない」

水神「屑め」

風神「がー、ん」

水神「とにかく人攫いは控えろ。人間に教えてやってもいいのだぞ」

風神「待ってやめて、なんか悪いイメージついちゃう。風のように爽やかな神のイメージ崩れちゃう」

水神「しょうもない…。もうすぐ贄の祭りもあるというのに」

風神「おっ、やっぱ水神も気になるの」

水神「…」

風神「前の祭りではなぜか男を生贄に捧げられたもんなあ」

水神「男であろうと女であろうと、生贄なぞいらぬ。邪魔だ」

風神「ふー硬派ー」

ゴッ

風神「あべし」

風神「てて。でもさあ、生贄っても人間が勝手に捧げてくるもんだし」

水神「ああ」

風神「おいらはー。ま、貰ったものは有難くいただくよ。げひゃひゃ」

水神「迷惑だ。私はただここの土地を守り、静かに暮らしていたい」

風神「ジジイみてえなことを」

水神「お前こそいつまで若造のような気持ちでいるのだ？」

風神「ひどい」

水神「話はそれだけか？早く去れ」

風神「待ってよ、これだけ伝言。天神からのお達しなんだけど」

水神「ほう。それを先にいえ」

風神「あさっての昼に、祭りについての話し合いがあるそうだ。ちゃんと来いよ」

水神「言われなくても毎回行っている。顔を出さぬのは大体お前だろう」

風神「あ、だからおいらに伝言を…なるほど」

水神「…ああ、了解した。だからさっさと帰れ」

風神「はーい。じゃあねマイブラザー」ﾋｭｯ

ビュウ

水神「…はあ」

水神「…」ﾁｬﾌﾟ


「すー…、すー…」

水神「風神め、長居しおって…」

水神「…寝てしまったではないか」ﾎﾞｿ

少女「あああ！！」

ボチャーン

水神「…」

コツン

水神「…はあ」

水神「今度は洗濯板か…」

ザバ

少女「ああー！お、おはようございます！」

水神「…また走ったな」

少女「違うんです！今日はゆっくり歩いていたんですけど、その、石に躓いて」

水神「…」ﾎﾟｲ

少女「あ、板…。ありがとうございます」

水神「毎回毎回、お前はやはり頭の部品が足りていないようだな」

少女「あはは、よく言われます。どんくさい馬鹿だって」

水神「妥当な評価だ」

少女「その、お洗濯してもいいですか」

水神「ああ」

少女「…？」

少女「今日は岩の上には座らないんですね」

水神「別に私がどこにいようと関係ないだろう」

少女「そ、そうですね。ごめんなさい」ｺﾞｼｺﾞｼ

水神「…」

少女「ええと、お水かかるかもしれませんよ。少し離れていてください」

水神「結構だ。私に命じるな」

少女「は、はあ」

水神「…」

水神「おい」

少女「はい？」

水神「近々、ここらで祭りがあるな」

少女「あ！そうなんです！土地神さまをたたえるお祭りなんですよ」

水神「ああ。お前、行くのか」

少女「…えと」

少女「母さまが、…恋人と一緒に行くのです。私はお留守番かもしれません」

水神「左様か」

少女「えへへ、頑張って働いたらお土産一個買ってくれるそうなんです」

水神「ふむ。…」

少女「あなたは？行くのですか？」

水神「私？…私は行かぬ。ここから出られないしな」

少女「はあー。何回か聞きましたけど、どうしてここから出られないのですか？」

水神「ここの主だからだ」

少女「はあ。…地主ってことかな」

水神「…」

少女「河童…？」

バシャッ

少女「ひ！ごめんなさい！！」

水神「…はあ」

少女「でも、何年に一度のお祭りなんですよ？行くべきです」

水神「…」

少女「地面の上も気持ちがいいですよ、さあ！」

水神「行かぬ」

少女「あー…。どうしてです？あ、まさかあなた、人魚…」

水神「足はある。何度も見ているだろう」

少女「あ、そうでしたね。長くて綺麗な足です。いいな」

水神「…」

水神「私が泉から出たら、水害が起こってしまうかもしれないのだ」

少女「へ？」

水神「そういうものだ。土地の精が騒ぎ、不安がり、洪水や水の濁り、果ては干ばつまで起こす」

少女「…え？」

水神「…」

水神「お前、いい加減分からぬか」

少女「なにがです」

水神「私はこの土地の神だ。水神だ」

少女「…」

水神「いつになったら察する。いや、もう自分で言う方が早かったな」

少女「…」

水神「…おい？」

少女「かみさま？」

水神「ああ」

少女「…あの、人間に神様は見えないのですよ」

水神「力のあるものになら、見える」

少女「私？」

水神「ああ」

少女「…本当ですか？」

水神「そうだ」

少女「…」ｼﾞｰ

少女「でも、泉に祭られている神様は、女神さまではありません」

水神「は、」ｻﾞﾊﾞ

少女「となるとあなたは嘘つきです」

水神「待て。一寸待て」

少女「はい？」

水神「私が、女人と申すか」

少女「は、はい。お綺麗な姉様です」

水神「…」

水神「何故」

少女「髪がこう、不思議な銀ですっと長くて…。それにお顔もお美しいですし」

水神「…」

水神「ふざけているのか？」

少女「いえ、大真面目です」

水神「男だ」

少女「は」

水神「よもや今までずっと女人と思って接してきたのか…？」

少女「…」

水神「お前は、…男を見たことがないのか？」

少女「あ、ありますよ？知り合いだっています」

水神「なら見て判別はつくであろ」

少女「…」

少女「え、男…？」

水神「お前は筋金入りの阿呆なのか？」

少女「はあー、気づきませんでした。ずうっと、女の人かと」

水神「…だからあんなに素直に裸をさらしていたのか」

少女「あ！…そ、そんなこともありましたねあはは」

水神「無礼なことだ」

少女「…ごめんなさい。まさか、男の人だとは。はあ、どうりで背が高いと」

水神「…私はそんなに女々しいか？」

少女「…」

少女「はい」

水神「…」

少女「ご、ごめんなさい！だって髪の毛長いし、一人称も私でしょう？勘違いしますよ！」

水神「…」

少女「ああ、待ってください！行かないで！私が悪かったです！」

少女「はあー、じゃあ、あなたは神様なのですね」

水神「そういっている」

少女「では、私は今までとんだご無礼をしてきたのですか…」

水神「そういうことになる」

少女「し、しかも神様のお家で洗濯を…」

水神「そうだ」

少女「し、死んで詫びれば許してもらえるでしょうか？」ﾊﾞｯ

水神「そんな命いらぬ。もうよい、おい、洗濯板で死ねるわけなかろう。阿呆」

少女「私、…ええと、どうしたら…。お洗濯も川でしたほうが？」

水神「ふむ。…川にも神はいるのだがな」

少女「あ、そうですね…」

水神「それにお前の家からでは遠いだろう」

少女「はい」

水神「…別に好きに使え。泉はいくらでも沸く。私がいれば汚れることはない」

少女「でも、恐れおおいです」

水神「ほう、お前にも一般的な感情があるのだな」

少女「ありますよ！」

水神「まあ、神が良いといっているのだから従え。背くほうが無礼だ」

少女「？…は、はあ。それもそうですね」

水神「…しかし、いまいち驚きが足りぬのだな」

少女「はい？」ｺﾞｼｺﾞｼ

水神「恐れ多いと口ではいいつつも、遠慮なく洗濯をしている」

少女「え？…だって、良いと」

水神「…。分かった、もういい」

少女「あの、水神さま」

水神「何だ」

少女「後ろに何かおります」

水神「は」

風神「…」ﾆﾔﾆﾔ

水神「…」

少女「わあ、浮かんでる。まさかこの方も？」

風神「なあああああるほどおお」

水神「何だ」

風神「うんうん何も言わなくていいんだよお水神！おいら分かってるからあ」

水神「…邪推しているようだな。こやつはただの小娘だ。面白いから野放しにしている」

少女「こんにちは！」ﾍﾟｶｰ

風神「よっす。おいらは風神ってんだ。こいつの親友」

水神「信ずるな少女。ただの同属だ」

少女「いいな、お友達…」

水神「おい、聞け」

風神「しかしなあ」ﾌﾜ

風神「ふーーーーーん？？」ｼﾞﾛｼﾞﾛ

少女「え、」ﾋﾞｸ

風神「こういうチマいのがタイプなの？」ｸﾙ

水神「水に沈められたくなければ、邪推をやめろ」

風神「こわ。いやでも良いと思うよ？垢抜けないけど、かわいいし」

少女「え？そ、そんな」

風神「うんうん。結構体もいいしね。お肌白くてすべすべ」ｸﾞｲ

少女「あはは、くすぐったい」

水神「おい、触るな」ﾊﾞｼﾝ

風神「ってー！！！」

水神「おい、お前下がれ。こやつに近づくな。簡単に人を食らうぞ」

少女「えええ！？」ﾊﾞｯ

風神「あ、やめて離れないでかわいこちゃん」

水神「何の用だ、お前は」

風神「いや、天神がそろそろ来いって」

水神「もうそんな時間か」

風神「いやあ、あんたもだらしないねえ。娘といちゃいちゃするのに時間を忘れちゃｔ」

バシャン

風神「がぼぼぼぼぼぼ」ﾌﾞｸﾌﾞｸ

少女「お、溺れていますよ？」

水神「気にするな」

風神「死ぬかと思った」ｻﾞﾊﾞ

水神「死ね。では、行くか」

風神「さらっと罵倒しないで…」

少女「…」ｼﾞ

水神「…しばらく留守にする。お前も、家に帰れ」

少女「どこに行くのですか？」

水神「神の集まりだ」

少女「神の…」

風神「一緒に行く？おいらが抱っこして飛んでやろうか」

水神「…」ｶﾞｯ

風神「いだいいだいいだいいだいい！！髪の毛引っ張らないで！！」

少女「…あのう、留守にすると水害がおこるのでは？」

風神「ああ、大丈夫よ。どうせすぐ終わるから、害はないよ」

少女「そうなんですか」

水神「おい、もう行くぞ。間に合わん」

風神「いたいって。じゃあね、かわいいおちびちゃん」ﾌﾜ

ブワッ

少女「きゃ、…」

少女「…」

少女「きえ、た…」

少女「本当に神様なんだ…」

トン

水神「もう皆集まっているのか」

風神「そうみたいね」

風神「おーい！水神と風神が来たぞー！おくれてごめんねー！」

水神「待たせたな」

火神「…遅いぞ。何してやがった」ﾑｽ

風神「いやあ、迎えに行ったら水神が娘といちゃいﾌﾞﾍﾞﾗｯ」

水神「時間を検討違いしていた。申し訳ない」

火神「ああ、まあいいが…。おう、中に入れ」

水神「ん」ｽﾞﾙｽﾞﾙ

風神「…」ﾋﾞｸﾝﾋﾞｸﾝ

＝神の社

天神「あらあ、遅かったじゃないの」

水神「すまなかったな」

天神「あなたが遅刻なんて珍しいこともあるものね。明日は台風かしら」

土神「え…。困るんだけど…」

水神「これで全部か？」

天神「ま、サボったのは抜かしたら全部ね。始めましょうか」

風神「…」

天神「あれ？風のやつ泡吹いてない？」

火神「どうでもいいからさっさとやろうぜ」

天神「お祭りまであと数日を切ったわけだけれども」

火神「ああ」

天神「今年も生贄の選抜が行われているそうなの」

土神「またですか…」

天神「確かにあたしの担当区域は荒れてたから、妥当かもしれないわね。あたしは甘んじて受けるわ」

火神「俺も拒みはしない」

風神「おいらも！」

土神「まあ、…返すのも面倒だし…」

天神「水神は？」

水神「いらん」

風神「わおキッパリ」

火神「お前のところはいつもそうだ。食うなり呪物の糧にするなりすりゃいいだろ」

水神「結構だ。むしろ迷惑なくらいだからな」

天神「でももう選考は始まってるみたいよ」

水神「…また適当に里に返すさ」

風神「やっさしい」

火神「日和すぎだと思うがな」

天神「はいもう水神に絡まない。生贄をどうしようが勝手でしょ」

天神「問題なのは、生贄の質よ」

土神「…毎度毎度、根拠のない儀式で決めてる…」

天神「そうよ。間引きの子どもとか寄越されても、ただの押し付けじゃない」

火神「そうか？食えば一緒だ」

土神「こわ…」

風神「おいらもさあ、もっとおいら好みの女の子がいいんだよねえ」

水神「…」

天神「水神はどうおもう？」

水神「…ああ」

水神「そうだな。…別に、気に入らなければ記憶を抜いて里に返せば良い。それだけのことだ」

天神「そうだけどお」

水神「大体、私たちは何か贄がなくては仕事ができない、というわけでもあるまい」

水神「人が生まれようが、私達の使命は変わらんだろう。この土地を守り、続けることだ」

水神「それが私たちの仕事であり、生であろ。特別何かを要求しなくてもよい」

土神「…」

土神「流石」ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

火神「はん、穏健派が。あのなあ、人間に恩恵授けてんだちょっとくらい対価貰ってもいいだろ」

天神「考え方は人それぞれよ。分かった、そうよね」

天神「…そうねえ。あたしはそろそろつがいが欲しいし、今年は男を選んでみようかしら」

火神「恐ろしい。お前、男でなく女を選べよ」

天神「なんでよ！！！あたしは男がいいの！！」

風神「選ばれる人かわいそ…」

水神「で、どうするのだ」

天神「んーーーー、ま、今年も好きにしなさいってことで」

天神「ただ、生贄を受け入れること。不要なら受け入れた後で記憶抜くなりして返す。ってことで」

風神「あいあいさー」

土神「了解…」

火神「なんだ、じゃあわざわざ会合しなくても良かったじゃねえか」

天神「るせーな！おい風神！あんた遅れてきたんだから、会議の内容来てないアホどもに伝えなさいよ」

風神「えええええ！おいらが！？」

天神「じゃ、あたし帰る」ﾊﾞｯ

火神「俺も」

土神「さよなら…」

水神「また」

風神「え、お前も遅れて」

バタン

風神「…」

風神「ええ…」

少女「ふー、ふー」

パチパチ

少女「ふう。よし、あとは煮るだけ」ｺﾞｼ

ザッ

少女「…」

少女「あ」

男「んー？あれ、あいついないの？」

少女「こんにちは。母さま、今お買い物に行っています」

男「あっそ。ふうん」ﾄﾞｶｯ

少女「あの…お昼召し上がりましたか？今煮焚きしてるんですけど」

男「ああ、もらおっかな」

少女「はい！」

男「…」

男「…」ｼﾞｰ

少女「少し待っていてくださいね」

男「あー、うん」ｽﾞｲ

少女「…あの？」

男「…」ﾆﾔ

少女「あの、お茶碗が取れません」

男「なあ、あいつ何時帰ってくるの」

少女「ええと、夕方ごろです…」

男「ふうん…」

少女「あの…？」

男「やっぱ、メシはいいや」

少女「え、そうですか？でも」

男「それより、ちょっとこっちおいで」ｸﾞｲ

少女「え、わ」

男「あいつが居なくて好都合だったな。たまにはお前と２人きりもいいだろ」

少女「あ、あの？あの？」

男「…」ﾆﾔﾆﾔ

少女「え、と」

スル

少女「ん、」

少女「…え？」

男「大きい声出すなよ。いいな？」ｼｭﾙ

少女「あの、帯が」

男「押さえんじゃねーよ。手、どかしてろ」

少女「あ、あの…。私、服汚れてますか？」

男「おーおー、汚れてる。俺が脱がしてやるからじっと…」

グツグツ

少女「…？」

少女（あれ、水場の水が…）

男「…やっぱ若いな。思ったとおり、良い体して…」

ザバッ

男「！？」

少女「…！」

男「ぎゃあああああああああああっ！！！」ﾊﾞｯ

少女「きゃ！」ﾄﾞｻ

男「あ、っち…！！いでええええ！！！」ｺﾞﾛｺﾞﾛ

少女「だ、大丈夫ですか！？」

男「なんだよこれ！！水が勝手に…」

少女「こ、これ普通のお水です！お湯じゃないですよ！」

男「腕が、腕が…っ、いてえ…！」

少女「み、見せ…」

男「！ひっ！」

少女「…な、何この模様…」

男「う、うわぁああああああああ！！！！」ﾀﾞｯ

少女「あ、待っ…」

少女「…」

少女「いっちゃった」

少女「…火傷してた。ヘンな模様の…」

少女「…」ｿｯ

チャプ

少女「…普通の水だ」

少女「なんで？急に水が勝手に…」

ガッ

少女「き、きゃああああああああああああああああああ！！」

「五月蝿い」

少女「な、なにこれ！離して、離して！！！」

水神「五月蝿い！耳が痛いわ」ｻﾞﾊﾞｯ

少女「ひ、あれ？」

水神「全く。ぎゃあぎゃあ喚くでない」

少女「…なんでここに？え？ここ、水場で…」

水神「移動してきたのだ。狭いな」ｻﾞﾊﾞ

少女「……はあ。すごいですね？」

水神「…お前、こっちへ来い」

少女「はい」

水神「…この」

水神「愚か者！！！！！！！！！！！」ﾊﾞｼｯ

少女「いった！？」

水神「何が“服が汚れていますか？”だ！！大馬鹿者！！何されるか分かっていなかったのか！？」

少女「え、え、え？」

水神「前からあの男、気に入らぬと思っていたのだ！へらへらしおって…。まさかお前に…。おい、お前はいくつだ！！」

少女「じゅ、１７です」

水神「それくらいの娘ならもっと自分で気をつけておけ！！」

少女「ご、ごめんなさい…？え？なに…？」

水神「あの男がお前を手篭めにしようとしておっただろうが！」

少女「てごめ？」

水神「もういい！無事だったのだからそれでいい！」

少女「何で怒ってるんですか…？」

水神「……っ」

水神「怒ってなどない」

少女「でも、あんな大声」

水神「黙れ」

少女「…はい」

水神「全く。私がいなかったらどうなっていたことか」

少女「あの、あの火傷みたいな傷は…」

水神「私がやった。呪いの一種だ。不能の呪い」

少女「ふのう？」

水神「そう。生殖機能を奪う呪い…どうせ分からないであろ」

少女「赤ちゃんできなくなるってことですか」

水神「…」ﾊﾞｼﾝ

水神「ああ」

少女「それはダメです。かわいそうです」

水神「黙れ！！いいのだ！あれでいいのだ！！本当はモノを切ってやってもよかったのだぞ！？」

少女「治らないですか？」

水神「そうだ！！」

少女「何で怒ってるんですか…」

水神「…はあ、ああ…」

水神「もうよい。帰る」

少女「あ、待ってください」

水神「なんだ」ﾑｽ

少女「お友達とお話してきたんですよね？」

水神「…。ああ、まあそうだ」

少女「お祭り、いけそうですか？」

水神「行かぬ」

少女「…」

水神「なんだ」

少女「…あ、あの」

水神「ああ」

少女「…一緒に」

水神「はあ？」

少女「…」

水神「…」

少女「…私も行きたいんです」

水神「知らん。一人で行けばいい」

少女「…」

少女「１人じゃ、危ないって…。皆、友達や恋人と一緒に行くのです」

水神「ほう、そうか。お前ろくに友人もいなかったのだな」

少女「……えへへ」

水神「…」

水神「…別に、誘えば付いてきてくれる男の１人や２人、いるであろ」

少女「いないです」

水神「年頃の娘のくせにか」

少女「あはは」

水神「…はあ」

水神「…何故私だ？」

少女「あなたしか思いつかなかったのです」

水神「それは…どういう」

少女「保護者をしてくれそうな人、あなたしか思い浮かばないんです」

水神「…」

水神「断る」

少女「ええええ！」

水神「誰が祭りなんぞ。しかもお前と行くものか」ﾊﾞｼｬ

少女「待って、行かないでください！お願いします」

水神「黙れ」

ザバッ

少女「あ」

少女「…あーあ…」

少女「そんな…」