勇者「魔族のスパイが潜入しているだと?」 (125)

村民「そうだべ!だから、オラ、急いで勇者様に伝えようとここに来たんだ!」

勇者「うーむ、確か君は南の端の村から来たんだったよね?」

村民「んだ!」

勇者「ここまでに7日か…、その事は他の人にはしゃべった?」

村民「いや、まずは勇者様か国王様かにと思って誰にも言ってないべ!」

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勇者「よし、その方がいい。下手に噂で国中が混乱すれば、魔族の思う壺だからな。よく黙って、伝えてきてくれた。ありがとう。」

村民「いえ、オラはただただ怖くてしゃべれなかっただけだ。」

勇者「大丈夫、恐怖はもうすぐ無くなるさ。」

村民「頼みます、勇者様。」

勇者「お安い御用さ、ところで君。これからはどうするんだ?」

村民「村には寝たきりの母がいるんだ。だから早く帰らないと。」

勇者「そうか。なら俺が送っててあげよう。」

村民「いや、そんな勇者様にご迷惑じゃ…。」

勇者「安心しろ、一瞬で送ってやるよ。」

村民「え?」

勇者「瞬間移動みたいなものだ、だから早くこっち来いよ。」

村民「だ、大丈夫…?」

勇者「安心しろ、怖いのは一瞬だ。ほら、こっち来いよ。」

村民「…わ、分かった。」

タタタ…

勇者「よし行くぞ?いいな?」

村民「だ、大丈夫だ。」

勇者「…[ピーーー]。」

ザッ…

村民「え…な、なんで…。…。」

勇者「…よし、死んだな。ほら言っただろ、一瞬だとな。」

勇者「悪く思わないでくれよ、これは国王様の命令でな。…あの世で母親のお迎えでもすることだ。」

勇者「さてと、誰もいないとは言え、この死体どうにかしないとな。…やっぱり、あいつに頼むか。」

―教会

僧侶「またですか?」

勇者「あぁ、そうだ。安心しろ、今回は一人だけだから手間もかからないだろ。」

僧侶「そりゃあそうですけど。この前なんて、勇者様が村一つ潰したんで大変だったんですよ!」

勇者「そういうこと言うなよ。秘密を知る人間は、早めに芽を取れって、賢者が言ってたじゃないか。」

僧侶「あのエセ警官にですか?」

勇者「エセも何も、警察は全員国王側さ。賢者だけがエセじゃない。」

僧侶「まぁ、どっちでもいいですけど。とりあえず、この方は旅行中の不慮の事故にでもしときましょうか?」

勇者「それでいい。」

僧侶「ところで、国王様はいかがでしょうか?」

勇者「相変わらずだ。それがどうした?」

僧侶「村民が言ってた魔族の件ですが…。」

勇者「何の使者だったんだ?」

僧侶「魔族側で粛清が行われるそうです。なんでも魔王に反逆したとかで。」

勇者「反逆?つまりこちらと和睦しようとした一族がいたということか。」

僧侶「そういうことです。ですから、慌ててその一族の首領を処刑したので、一族の他の連中が色々やらかす可能性もあると。」

勇者「つまり残りは俺たちに頼むということか?」

僧侶「ええ。」

勇者「なんでいっぺんにしないのかな、馬鹿だろ、魔王も。」

僧侶「馬鹿のほうがありがたいでしょう?」

勇者「確かに。どちらにしろ、俺と剣士が出れば充分か。」

僧侶「あの予備軍大将も行かれるんですか?」

勇者「たまには出番を与えないと怒るだろ。」

僧侶「…終わったら、またパレードでも考えているんですか?」

勇者「あぁ。あれはいい。それに参加させてあげないと怒るだろ、あいつ。」

僧侶「確かにそうですね。…頼みますよ、教会に沢山お布施を呼び込んで下さいね。」

勇者「守銭奴め、任せろ。」

タタタ…

僧侶「ふぅ、相変わらず国王様の狗ですか。熱心なようで。」

僧侶「ま、国王のやることは我々教会にも利益につながりますから、結構ですけどね。しかし、国の体制を守るために、あえて魔族を存在させて全ての悪を押し付けていると知ったら、国民はどうしますかね…。」

僧侶「…その時は、我々教会が民を導くべきですが。」

僧侶「?」

僧侶「…気のせいですかね。」

タタタ…

少女「…!」

私はこの時、10歳。まだ世界を知らないこの時に、世界のある真実を知ってしまった。
誰にも知られてはならぬ真実を。

ただただ、友達とかくれんぼをしていただけだった。私はかくれんぼに自信があった。
広い敷地の中で、どこかしらに隠れるのは得意だった。
その特技は、天性の才能だったかどうか走らない。
しかしだからこそ、国の近衛隊長である勇者様と教会の司祭長を務めていた僧侶に存在を知られないままやり通すことが出来たのだろう。
存在に気づかれていたら、私はもうここにいない。この大地のどこにも。それぐらいのことは、まだ幼い私でも分かった。だから、この話を誰にも言うことは無かった。
それが私の秘密。

少年「少女、今日も訓練?」

あれから5年後。私はもうすぐ孤児院を卒業することになる。

少女「うん。一緒に行く?」

少年「やめとくよ、こてんぱてんにされるのは分かってるんだから。」

少女「だから訓練するんでしょ!」

少年「それは分かってるんだけど、少女が強すぎるんだもん。」

少女「私が強いんじゃないの。あなたが訓練をサボるから弱いんでしょ?」

―そう、私は孤児だ。親は知らぬ。教会に置いていかれたらしい。一通の手紙とともに。

『この子を御願いします』

ただそれだけしか書いてなかった。薄情なのか、切羽詰まっていたのだろうか。それは、誰も知らない。

15歳になると、私達孤児は孤児院を卒業しなければならない。
つまり、この世の中にとって、手に職をつけることが出来るのが15歳だという認識があるからだ。
私は、あの事件からまもなく、剣技を習うことにした。それは、自分の命は自分で守ると幼い心ながら思ったからだろう。
幸い、孤児院には人の出入りが多いことから、簡単に師匠を見つけることが出来た。

師匠「少女、もっと集中だ。」

少女「はい。」

師匠は無駄を嫌う。私達弟子への指摘に、感情を運ばせないのもその一つだろう。そして、剣技もだ。

師匠「もっと素早くダイレクトに突け。」

少女「はい。」

私の返事もあっけない。返事は剣で表現すればいい。
こうしていつの間にか、私の剣技は上達していった。同期に敵はいないほどであった。

少年「はぁはぁ。…舞のようにやられたら、悔しいの声も出ないよ。」

少女「そんなに私は綺麗?」

少年「剣技だけね。顔はまぁ…うわ、やっべ。け、剣もってこっち来んな!」

少女「こ、この野郎~!」

生来のおてんば娘である私は、剣を持っている時とそうでない時との差が激しかった。
兎にも角にも、私は15になる。孤児院を出て、自立しなければならない。いくつかから声がかかった。特に王国からは、

『兵士として、いや、士官として入隊して欲しい。もしよろしければ、近衛隊でも構わない。』

という誘いもあった。これは、私が出場した剣技大会で近衛隊長の眼に止まったからであった。
しかし、私は丁重にお断りをした。近衛隊長…それはあの勇者。

勇者の秘密を知る私が近くに居れば、何かと感付かれる恐れもある。そして、もう一つの思いが私にはあったからだ。






勇者は私が倒す。この腐敗した国は私が倒す…。

―数ヵ月後

少年「で、少女、お前はこれからどうするんだよ?」

少女「旅に出る。」

少年「おいおい、王国軍に入った方がよっぽど楽じゃん!」

少女「だって、入りたくないもん。」

少年「もったいないよな~。」

少女「嫌なもんは嫌なの。…少年は商人になるんだってね?」

少年「そう!俺は金持ちになるんだから!」

少女「まだ見習いでしょ?お金持ちなんて遠い夢だよ。」

孤児院の卒業式、これが終われば私もこの教会とおさらばだ。

僧侶「聖霊様はあなたのことを見守っているでしょう。」

よく言うよ。見守ることすら出来ないくせに。教会の言うことは嘘八百だ。養ってもらった人に言うのも変だけど、結局教会は権力に魂を売っているゴミみたいなものだ。少なくとも、信じられる存在ではない。

僧侶「聖霊様と大地に感謝を。」

少年「じゃあ、俺は一足先に出発するよ。商人ならどこにでも行くんだから、またどこかで会えるさ。」

少女「そうね。…じゃあこれあげる。」

少年「え?…50G?」

少女「そう。今度会うときは、50000Gにして返してね。」

少年「なんでだよ!」

少女「いいじゃん、お金持ちになるんでしょ?だからその投資。きっちり増やして返してね~!」

少年「ち、ちくしょー!…じゃあまたな。」

少女「うん。」

こうして、孤児院と仲の良かった少年と別れた私は、出発の挨拶に師匠の元に向かった。
最近の師匠は、病気がちになってきている。師匠を置いていくのはどうかと思い、旅の延期をしようとしたら、

師匠「その時間は無駄になる。お前はさっさと出発しろ。」

との言葉に、私は反論することが出来なかった。

少女「…師匠。」

師匠「あぁ、少女か。孤児院を卒業したか、おめでとう。」

少女「はい。」

師匠「行くんだろう、これから。」

少女「…はい。」

師匠「泣くな。」

少女「…はい。」

声になったかどうかは分からないが、嗚咽を必死に抑える私に、師匠はいつもと同じように無駄の無いアドバイスをしてくれる。

師匠「少女、これは私の形見だと思って貰って行ってくれないか?」

少女「え、これは…?」

師匠「クレセントソード。三日月の剣だ。」

少女「こ、これって師匠が言ってたあの大事な剣じゃないですか!も、貰えません!」

師匠「持っていくんだ。知り合いの鍛冶師に磨いでもらったのだ。お前が扱えやすいようにな。」

少女「わ、私に?」

師匠「そうだ。私が持ってても、もう使うことは無い。だからお前が持っていくんだ。」

少女「で、でも…。」

師匠「私はお前がしたいことをある程度は把握しているつもりだ。」

少女「…!?」

師匠「そんな驚くこともあるまい。剣には、感情が残るのだからな。師匠である私がわからなくてどうする?」

少女「…。」

師匠「安心しろ、これは私だけの秘密だ。」

少女「…。」

師匠「泣くな、これからが始まりだからな。」

少女「…ん、はい。」

師匠「お前は、自分で険しい道を行こうとしているんだ。そんなこと、誰だって出来るものじゃない。」

私は必死に涙が出てこないように耐えようとしていた。しかしそれでも心の奥から、涙がこぼれてしまう。

師匠「頑張れよ。」

その言葉は、師匠からかけてもらった最後の私への激励であった。
私は知っていた。師匠が不治の病である事を。そして、これが今生の別れになることを。

少女「…ありがとうございました。」

師匠「うむ。」

こうして、私は街を出て修行の旅に出た。15歳、まだ寒さの残る春の時期であった。

―王国

大臣「というわけでありまして、このように事業を薦めたいと思います。」

国王「そうか、そちの勝手にするが良い。」

大臣「はっ。」

国王「朕は休む。そのまま続けておくれ。」

一同「はっ。」



将軍「随分とおたくの人形はお疲れのようだな。」

大臣「将軍殿。それは不敬罪に値しますぞ。」

将軍「それは失礼。ですが、人形なのは事実でしょう。」

大臣「そういう表現はよしてもらいたいものだ。私はただこの国のためを思って…。」

将軍「それでいて私腹を肥やしているのだから、それはそれは随分と謙遜な発言ではないか?」

大臣「…私腹ではない。教会にも寄付しておる。」

将軍「同じようなものだと思いますがね。ところで、その崇高なる大臣殿に御願いしたい。」

大臣「何の用だ?」

将軍「勇者殿をお借りしたい。」

大臣「断る。」

将軍「なぜだ?勇者は我々軍の所属。現に近衛隊長と言う職務を得ている。」

大臣「しかし今は別の任務のために、軍とは独立して動いてもらっている。」

将軍「何故そのような事を、勇者に押し付ける!」

大臣「国のためですから。それ以外には申しあげられませぬ。」

将軍「この石頭め!勇者を再度魔族討伐に派遣すれば、今度こそ討ち取ってくれように!」

大臣「今はその時期ではない。」

将軍「この分からず屋が!お前は国王の親戚というそれだけで、その職を手に入れたのだろ!少しは軍の言う事を聞け!」

大臣「何を言う、軍は国王様に統帥権があると定められている。その範疇を超えないで頂きたい。」

将軍「その国王を操っているのは貴様ではないか!」

大臣「操るとは人聞きの悪い。正しい方向を提示していると申していただきたい。」

将軍「正しい?何を言う!現に魔族が野放しにされてるんだ。それを正しいと申すのか!」

大臣「ただ単純に討伐隊を送ればいいわけではありませんぞ。我々には、情報が少ないのですから。」

将軍「ああ言えば、こう言いやがって!」

大臣「ですが、事実でございます。よろしいですかな、将軍殿?」

将軍「くっ…お前とは話にならん!」

タタタ…

大臣「愚かなことよ…。」

大臣「書記官!」

書記官「は、はい!」

大臣「今の将軍と私の発言は削除せよ。」

書記官「よろしいのでしょうか?」

大臣「(ギロリ)…不満か?」

書記官「い、いえ、出すぎたマネをしました。」

大臣「では削除してくれるな?」

書記官「お、仰せのままに。」

タタタ…

?「よろしいのですか?」

大臣「誰かと思えば、今話題の勇者ではないか。」

勇者「皮肉はやめて下さいよ。」

大臣「皮肉も何もあるものか。突然、勇者を差し出せとはお主も人気者だな。」

勇者「さぁ、どうだか。しかし、そのままでよろしいのですか?」

大臣「彼は元々、頭よりも腕力で今の地位を得ている。このような戦略に、口を挟む必要性は無い。」

勇者「いや、それもそうですが、このような暴言を許していいのですかという事です。議事録から削除する必要がありますか?」

大臣「ああ、彼にはまだ残っていただく必要があるからな。」

勇者「?」

大臣「彼は、軍のトップだ。」

勇者「頭の悪い人間がトップなのは嫌ですがね。」

大臣「そのようなことは、私にとってはどうでもいいことだ。」

勇者「その発言を聞いたら、軍は叛乱するでしょうな。」

大臣「もしそのような事態になったら、責任は彼に取ってもらう。いや、それ以外の事態であってもだ。」

勇者「なるほど…。」

大臣「ところで何用だ?」

勇者「いや、気になる情報が一つ入りましたので、是非お耳に入れておこうと思いまして。」

大臣「なんだ?」

勇者「…後継者。」

大臣「?後継者は、姫君の婿である君しかおらんはずでは。」

勇者「一般的にはですね…ですが、その血筋を持っているものはゼロではないでしょう。」

大臣「そのような者を見つけたというのか?」

勇者「いえ、今のところの調査では確定できておりません。しかし、おそらく居るだろうという情報を手にしまして。」

大臣「どういうことだ?」

勇者「今の皇帝陛下の祖父君の3番目の弟に、隠し子がいたようです。その者は亡くなっておりましたが、どうやら結婚していたようです。」

大臣「…まだ分からぬのか。」

勇者「ええ、どうやら家出をしているようです。誰なのか検討がつかぬ状態でして。」

大臣「勇者、君はこれからその件をどうしたいと思っている?」

勇者「ほっとくのは愚策かと。」

大臣「…自分が次に座る玉座を危うくしたくないということか?」

勇者「…そういうつもりで言ったわけではありません。ですが、我々に歯向かう勢力が、もしこの者を利用するとなると厄介ごとになります。早めに対処すべきかと。」

大臣「任せる。」

勇者「は?…はっ。」

大臣「その件は自由に対処して構わん。もし、後始末に人手が居るのならば進言してくれ。善処いたそう。」

勇者「ありがとうございます。」

大臣「その件よりも魔族とのことのほうが大事だ。後でその事について話したいことがある。夜に私の屋敷に来てくれるか?」

勇者「承知いたしました。」

タタタ…

勇者「さて、これからどうなるかお楽しみだ。」

タタタ…

大臣「さて、これからどうなるか。…興味深いの。」

私は旅に出た。行き先も決まらぬ旅。
とりあえずはと南の港町へと向かうことにした。港町なら、情報も多く入るかもしれない。そう思ったからだった。

旅人「姉ちゃん、これ食べるか?」

少女「ありがとう。」

剣使いの私が、お金を稼ぐ方法。それは護衛として旅人とお供をすることである。一種の傭兵とも言うべきなのだろうか。

厳しい統治があるこの国であっても、護衛無しに移動するのは危険である。だから商人や旅人達は、お金で護衛を雇う必要があった。私はその護衛を行いながら、港町を目指すことにした。

旅人「いや、ありがとうはこっちのセリフだ。先程は本当に助かった。」

少女「あれぐらい、安い仕事よ。」

旅人「いやいや、守ってもらいながら姉ちゃんの剣を見ていたが、実に綺麗だった。」

少女「そう?ありがとう。」

旅人「おまけに、他の連中より安かったんだ。本当にありがたい。だからこれはお礼だと思ってくれ。」

少女「フフ、分かったわ。」

必要以上のお金なんていらなかったから、私は相場の半額ぐらいの護衛料で雇ってもらった。

最初は多少不安そうに私の事を雇った旅人だったけど、先程山賊に襲われた際にあっという間に片付けたら、私の事を信用してくれたみたいだった。

山賊頭「お前さんたちが持っているもの全て出してもらおうじゃないか。」

旅人「おい、護衛なんだろ!なんとかしてくれ!」

山賊A「そんな綺麗な女の子が護衛なのかよ!ハハハ…」

少女「私って綺麗なの?そう言ってくれてありがとう。」

旅人「おい、冗談はよせ!」

山賊B「それはこっちのセリフだ。さっさと姉ちゃんも持ってるもの全て出してもらおうか。」

少女「断るわ。」

山賊A「それはこの状況を分かっていて言ってるのか?」

少女「ええ。」

山賊A「では痛い目に合わせないと分からないようだな。」

少女「それはこっちのセリフだわ。」

山賊A「何を…グフッ!」

山賊C「てめぇ、何しやがった。」

それからは後は、無造作に襲ってくる山賊たちをかわしつつ、流れる様にあしらった。それが、旅人にとって『綺麗な剣』の動きだったのだろう。剣と言っても、全く相手を斬る事はしなかったけど。

旅人「よし、休憩はもう終わりだ。歩くとしよう。」

少女「ええ、分かりました。」

旅人「もう襲われるのは勘弁なんだけどなぁ。」

少女「そうね。」

旅人「ま、その時は頼むよ、姉ちゃん。」

少女「ええ。」

ここからあと2日ほど歩いたら、間もなく港町に着く。
港町に着いたら何をするか、どうしたらいいのか、そんな事は全く考えてなかったから少し不安を感じる道中であった。

旅人「…姉ちゃん、あんたは悪運を持っているから安いのかい?」

少女「いえ、そんな理由で安くはしていないわ。」

旅人「…あれから5回も襲われるなんて予想してなかったぞ…。」

少女「その度に悲鳴を上げてたら、声が潰れちゃうわよ?」

旅人「あんたのその度胸を見習いたいわ…。」

あれから色々あったけど、そんなことお構い無しに私達は突き進んで行った。そして、予定通り、港町に着いたのである。

旅人「姉ちゃんは、港町は初めてかい?」

少女「ええ、私は今まで王都を出たこと無かったから。」

旅人「そうかい。ここは商都の街だ。王都とは違って色んなものがあるからな、楽しんできなよ!」

少女「ええ、ありがとう。」

旅人「お礼はこっちのセリフだ。ともかく助かったよ。またどこかで会おう。」

少女「その時は悲鳴を上げないようにしてくださいね?」

旅人「ハハ…。」

少女「さて、どうしようかな…。」

誰にも聞こえない独り言を囁きながら、私は歩き出した。
こんなセリフを喋ってはいるけども、行くところは決まっている。

―市場。

まだ昼時、多くの情報源を集められる場所といえば、商人で賑わいを見せる市場が一番に挙げられる。
ここからは街の中央にある市場まで歩いて20分ぐらいである。それにしても、活気のある街だ。

作業員A「おーい、それはこっちだ!」

作業員B「ほれ、落とすなよ!」

あれは新たな教会の建設現場らしい。まだ途上ながらも、私が過ごした王都の教会よりもすでに大きい。
ノスタルジックな建築様式に、教会の腐敗さを知る私であってもその華麗さに心踊るものを感じてしまう。

それだけでもこの街には魅力があるのだが、何か人々に羽ばたいてしまうような自由さを感じることも出来る。
思ったことを喋ることの出来る陽気さを。

薬屋「それはここが商業で成り立つ都市だからさ。」

その疑問を、市場の薬屋に聞いてみたところの答えがこれである。

薬屋「要するに、ここの連中のほとんどが自分の力でのし上がってきたという自負がある。だから、人には遠慮が無いもんなんだよ。」

少女「そんなものなのかなぁ。」

薬屋「そんなもんさ。ほれ、薬草は10個でいいな?」

少女「ええ。ところで、何か面白い話は無いかしら?」

薬屋「面白い話?」

少女「そう、国の事でも魔族の事でも。」

薬屋「あぁ、それなら今度ここから東に数日歩いた所で、ドラゴンの被害が出ているらしい。」

少女「ドラゴン?」

薬屋「そうだ、ドラゴンさ。本当だと思うかい?」

少女「…さぁ、見たわけではないしね。」

薬屋「そうだ、誰も見たわけではない。あくまでも推測の話に過ぎないものだよ。」

少女「…どういうこと?」

薬屋「つまりだな、結局誰もドラゴンなど見ていないがその被害規模が大きすぎるわけさ。だから、ドラゴンが来ていると噂が立ってるんだ。」

少女「ふーん。…その被害ってどんな感じなの?」

薬屋「あぁ、その被害が出ているのが東の茶畑の村と言うのだが、そこの畑の一画が全て荒らされていたんだ。…完全に燃やされたらしい。どう思う?」

少女「燃やされたのなら、確かにドラゴンの可能性もあるけど、でも普通に山賊団とかに荒らされたとか考えられるでしょ?それに、ここから東に数日程度なら魔族の領地からは遠いし、考えにくいわ。」

薬屋「あぁ、そうだ。だからさ、不思議に思えるんだ。いつの間にやらそんな噂が立ったんだろうなって。」

薬屋「どうだ、興味の湧く話だと思うけど。」

少女「えぇ、そうね。ところで現地の人はここには来ないのかしら?」

薬屋「あそこの村は基本自給自足の村だからなぁ。来る時もあるけど、今は誰か来ているって噂は無いだろうな。それに…。」

少女「それに?」

薬屋「それに、そんな噂があれば新聞社の記者が真っ先に取材しに行くだろうよ。」

少女「新聞?」

薬屋「あぁ、噂では茶畑の村に取材しに行こうとしているらしい。」

少女「熱心なのね。」

薬屋「そうだな。ま、でも一番手というのは無理になりそうだけどな。」

少女「どういうこと?」

薬屋「軍が調査のためにその村へ行くらしい。」

少女「軍がわざわざ?」

薬屋「そうだ。ほれ、これ見てみろよ。」

少女「ええっと…『軍の調査における薬草提供の御願い』?」

薬屋「この街の薬屋の全てに、ギルドからこの紙が送られてきたんだ。つまりだ、軍が調査に向かうから、薬草を提供してくれとよ。」

少女「まさか無料で?」

薬屋「いや、それは流石に無いだろう。けど、今までの経験からすると6割から7割ほど安くではあると思うさ。」

少女「商売人としてはたまったものじゃないわね。」

薬屋「しかし、逆らうわけにはいかないさ。だから、ある程度は交渉させてはもらうけどな。」

少女「横暴ね。」

薬屋「しっ!声が大きい。いくらこの街だからって、軍を大っぴらに批判するのはまずい。殺されちまうぞ。」

少女「…。」

薬屋「新聞屋の記者達だって、ある程度はオブラートに包んでるんだからな。」

少女「…そうなのね。」

薬屋「ごほんっ、とりあえず大丈夫だ。ここには私以外誰もおらん。商品を買ってくれる人間を売ることなど、商売人として絶対にしないから安心してくれ。」

少女「ありがとう。」

薬屋「で…その軍のことだけどな、調査隊の隊長は誰だと思う?」

少女「?」

薬屋「これは噂だけどな…勇者だ。」

私は彼の話を聞きながら、無意識に警戒をしていた。

言葉も少なく、じっと相手の視線から眼を外さない。剣を構えている時はそれでいいのだけれども、今は逆に相手に違和感を感じさせてしまっていたのだろう。
しかし、薬屋はその事に気付いていたであろうけど、声の調子を変化させること無く、その話を丁寧に続けてくれた。

少女「どうして、そんなこと知っているの?」

薬屋「情報屋が教えてくれたのさ。」

少女「情報屋?」

あぁ、そうだ、と薬屋は続けた。私の3倍以上は長く生きているであろう彼は、時折高翌揚した質問攻めにも淡々と答えてくれる。

―情報屋とは誰か?

そう質問したら、彼は同じように淡々と答えてくれるのだろうか?一瞬の迷いを見せた私を見逃さないかのように、間髪置かずに彼は話を続けた。

薬屋「こういう情報を教えてくれるのは、ほとんどが記者って奴だ。」

―薬屋を離れてから、数時間。太陽が沈みかけ、夕焼けの光が道しるべのように照らしている。

あれから、すぐに記者の所へと向かわなかったのは理由がある。
薬屋曰く、記者は根が不真面目だが仕事はそれなりにするので、今は取材に出かけているだろうとのことであった。
彼と職場で会おうとするならば、夕方から夜にかけてが一番チャンスということらしい。

それにしても、根は不真面目とはなんとまぁ酷い評価であろう。
このことに関しては、

薬屋「そりゃあ、新聞に載せる前に俺たちに情報を流してるのが常態化している奴を、真面目だと評価するのは難しいだろ?それにだ、慈善事業ではなくそれをダシに酒を奢ってもらおうとしているのだから、余計タチが悪い。」

とのことである。

しかもお酒だけでは事足りず、女性との交流も要求するらしい。これは別人からの情報であるが。

私はあれから、市場で他にも何か気になる話は無いかと聞いて回った。
しかし、そのような情報が都合良く舞い込んでくることは無かった。

そこで、記者と言う人間がどのような人物なのか尋ねてみると

売人「あいつはお金に弱い。」

防具屋「女たらしで仕方ない奴だから、会うなら気をつけとけ。」

銀行員「不真面目。」

とのことだ。

少女「…何か、不安になってきたわ。」

思わず、独り言をつぶやいてしまう。まるで嘆いたら嘆くほど夕焼けの光が暗くなり、お先真っ暗とでもなってしまいそうだ。

兎にも角にも、彼の働く新聞社はもうすぐである。

―新聞社

編集者「で、何だこれは?」

記者「何を言っているんですか、読んだとおりですよ?それとも文字が読めなくなったんですか?」

編集者「安心しろ、俺はお前の汚い字ですら読める能力を持っているんだ。ほれ、『王女、勇者からプレゼントされたルビーの指輪を紛失…か?』『教会で賽銭泥棒し御用になった男の親族が、突然金持ちになっていた!』ってな。」

記者「おぉ関心、関心。それなら紙面に載せることなんて簡単じゃないか。」

編集者「これのどこが載せれると思っているんだ!」

記者「全部。」

編集者「んなわけねーだろ!どこのゴシップ紙の記事だ!いやそれよりも低俗な記事で酷い!」

記者「そんな娯楽だけの記事よりはマシだと思いますがね。」

編集者「似たり寄ったりだろ!」

記者「それに、批判しているところは真面目にしてますよ?」

編集者「だから余計タチが悪いんだよ!こんなん載せたら、あっという間にうちは発行停止処分だ。何人かは牢屋行きだろ!お前もそうだ!」

記者「そして、いつの間にやら渦中の人物は居なくなるってわけですか…おぉ、怖い怖い、身の毛もよだつ怖い話ですね。」

編集者「だったら、さっさとこんな記事かいてないでまともなのを書け!」

記者「ヘイヘイ、分かりましたよ。」

編集者「ったく、分かっているならさっさと行け。」



記者「はい、じゃあこれをお願いしますねー?」

編集者「なっ!?早過ぎだろ、お前。まさか最初からフザけてさっきの記事を出したのかよ!」

記者「まっ、第3候補って奴ですねー。」

編集者「お前、さっきの記事は何様のつもりで書いたんだ!?」

記者「いやー、いつも忙しい編集者殿の血圧が上がるといいなーって思って。」

編集者「[ピーーー]気か!?」

記者「死んでくれたら、俺も楽になるんですがね。」

編集者「お前が先に[ピーーー]!その時はご祝儀弾んでやるわ!」

記者「まっ、簡単にはくたばりませんよ。では、第3候補君をよろしくー!ではでは、さよならー。」

編集者「お前、どこに行くんだ!」

記者「取材ですよ。素敵なね…。」バタンッ

編集者「くそっ、また一杯喰らわされた。ちくしょ、何々?『東の茶畑の村、ついに軍の調査…勇者派遣か?』ってこれ本当な…ちっ、行っちまいやがった。」

記者「いやー、いつも忙しい編集者殿の血圧が上がるといいなーって思って。」

編集者「殺す気か!?」

記者「死んでくれたら、俺も楽になるんですがね。」

編集者「お前が先に死ね!その時はご祝儀弾んでやるわ!」

記者「まっ、簡単にはくたばりませんよ。では、第3候補君をよろしくー!ではでは、さよならー。」

編集者「お前、どこに行くんだ!」

記者「取材ですよ。素敵なね…。」バタンッ

編集者「くそっ、また一杯喰らわされた。ちくしょ、何々?『東の茶畑の村、ついに軍の調査…勇者派遣か?』ってこれ本当な…ちっ、行っちまいやがった。」



(フィルターミスったんで、再投稿w)

―新聞社玄関

記者「ふん~ふんっ~♪っておっと、失礼。」

少女「あ、すみません!ついつい、余所見してて。」

記者「いいよ、別にね。ケガは無いかい?」

少女「えぇ、ぶつかっただけだから。」

記者「そっか、それならいい。では、失礼するよ。」

少女「…あ、あの!?」

記者「なんだい?」

少女「実は記者って人を捜しているんですが、ご存知無いですか?」

記者「うーん、記者って言われてもここには大勢の記者が居るしなぁ。」

少女「そうですか…。」

記者「うーん、その記者って人間はどんな人なんだい?」

少女「えっと…仕事が出来る優秀な人で…。」

記者「ここには優秀な記者がいっぱいいるから、そう言われてもねぇ。他に特徴が無いのかい?僕みたいに背が高いとか、ハンサムだとか。」

記者って職業は、全員一度鏡を見直した方がいいと思う。

少女「それは知りませんが、不真面目とか女性とお酒に眼がないとか聞きましたが…。」

記者「うーん、あまりパッと浮かんでこないな。どうやらお力になれなさそうだ。」

少女「そうですか…。すみません、突然。」

記者「いやいや、では申し訳ないが失礼するよ。」

少女「ええ。」

タタタ…

記者「そうだ、もしかしたら時事部の記者の事かもしれない。」

少女「本当ですか!?」

記者「本当かどうかは分からないから、実際に会いに行くがいい。時事部はこの建物の7階にあるよ。」

少女「ありがとうございます。」

記者「いやいや、その人に会えたらいいね。では、また!」

少女「はい。」

>>54
少女の最後のセリフを「はいっ!」にしてください!そんな冷たい子じゃありません笑

―新聞社屋上

少女「くっ!」

どうやら、あの男に完全にはめられたらしい。

―新聞社

少女「あの!」

編集者「うん、どうしたんだいお譲ちゃん?」

少女「ここに!記者って人が!いると聞いて!」

編集者「記者?あぁ、さっき出て行ったよ?俺に面倒事残してな。」

少女「そんなこと知ってます!!!」

編集者「…へっ!?」



編集者「それで、7階に行ったら屋上だったわけか。そりゃあ、完全に一杯喰らわされたな。」

少女「ここが本当は2階だったなんて、平気で嘘ついて!」

あー!まだ煮えくり返る!本当に最低っ!剣を振り回さなかったことだけ、私はまだ自制心があったと褒めてあげたいものだ。

編集者「ま、記者はそんな奴だ。…俺だって、さっきあいつに騙されたしな。」

少女「本当に信じられないっ!」

腹立たしさを感じながらも、まだまだ私も甘いことを痛感させられていた。
まったく、それまで会った事ない人を愚直に信じすぎるなんて、私もまだまだだ。

少女「で、その記者って人は今どちらにいるんですか?」

編集者「お怒りのところ申し訳ないが、俺にも分からんのさ。」

少女「えっ?」

編集者「あいつは突然来ては記事を俺に寄越してくる。この会社はよくもまぁ、そんな奴をクビにしないと感心させられるよ。」

少女「じゃあ、いつここに戻ってくるかも分からないという事ですか?」

編集者「2、3日したら来るはずだけどね。」

2、3日、ここで待つなんて、時間が勿体無い過ぎる。東の茶畑の村の情報は早く欲しい。

編集者「ちなみにどこに住んでるかも不明だ。情けないことにな。」

腹立たしさを感じながらも、まだまだ私も甘いことを痛感させられていた。
まったく、それまで会った事ない人を愚直に信じすぎるなんて、私もまだまだだ。

少女「で、その記者って人は今どちらにいるんですか?」

編集者「お怒りのところ申し訳ないが、俺にも分からんのさ。」

少女「えっ?」

編集者「あいつは突然来ては記事を俺に寄越してくる。この会社はよくもまぁ、そんな奴をクビにしないと感心させられるよ。」

少女「じゃあ、いつここに戻ってくるかも分からないという事ですか?」

編集者「2、3日したら来るはずだけどね。」

2、3日、ここで待つなんて、時間が勿体無い過ぎる。東の茶畑の村の情報は早く欲しい。

編集者「ちなみにどこに住んでるかも不明だ。情けないことにな。」

>>59なんかミスった。すみません。

なんとかして彼(あいつ)の居場所を知らないかと聞いたものの、

編集者「俺は知らない。」

との一点張りであった。その時の表情を考えると、確かにそうなのかもしれない。
先程は騙された私だけど、彼の言う通りかもしれないと思った。

少女「失礼しました。」

時事部の部屋を去る私は、思案に暮れていた。この話とは別の話題を探すか、いや勇者が絡んでいるのだから何としても彼を探してみるか。

この時、宿を探すことをすっかり忘れていた私は一生の不覚である。

少女「…片っ端かぁ。」

やる事は決めた。やっぱり探すことにしよう。彼から聞きだせる事は全て手にしたい。
そんな要求が頭の中を支配していた。

…とは言え、ここは初めて来た場所だ。右も左も分からぬ場所で探すのは容易じゃない。
しかし、何も全く何も無い状態で探すことになるわけではない。

「酒好き」「女好き」「情報屋」と、わずかばかりの情報はあるのだから、それを手掛りにすればいい。
この港町に、お酒が飲めるお店は約50はある。それを一つ一つ潰せばいい。

剣研ぎ屋「うーん、すまんがあいつが今日どこにいるかは知らんなぁ。」

バーテンダー「向かいのお店にはいなかったのか?」

武器屋「この前…3日前だけど、会ったのはこの通りの端の店だったぜ。」

お店を見つけては探し、居なかったら聞いて回る。少しずつながら、断片的な情報を手に入れつつあった。

呼び屋「お、姉ちゃん、うちの店で働かな…って、その胸ではうちに呼び込めなグフッ!」

…よ、余計なこと言ってるんじゃないわよ!

―2時間経過

少女「…ここね。」

この前に寄ったお店で、この店にいるという手掛りを得たのだ。



女主人「記者?今日はここに来てないわ。今どこにいるかは、知らないわね…。」

雑貨屋「おっ、べっぴんさんが2人いるじゃないかー。2人に見えるとは、俺も酔って来たのかなー。」

女主人「はいはい、ちゃんとここには綺麗な女性が2人いるわよ。」

雑貨屋「うーむ、自分で綺麗と言ってしまうとは自信がお有りだねー。」

女主人「はいはい。…雑貨屋さん、今日は記者君は見かけてないの?」

雑貨屋「記者ー?」

少女「ええ。」

雑貨屋「あいつ、女性にまた追われることしたのかー。ようやるわー。」

女主人「違うわよ。で、知らないの?」

雑貨屋「あぁ、あいつならさっき見掛けたよー。」



それがここだという。雑貨屋曰く、そのさっきと言うのが1時間前のこと。まだ彼が居るか分からないけど…。

―ガチャ

記者「よっ!」

はい?

記者「どれだけ待たせるんだよ~。」

少女「ま、待ってたって…。」

記者「あぁ、そうだよ。探してたんでしょ?」

少女「た、確かにそうだけど…。」

記者「でしょー。いやー、こんな可愛い子にモテるって嬉しいな~。」

少女「…ちょっと!勝手に決め付けないでよ!」

記者「まぁまぁ、そう照れなくていいからって。怒ったらその可愛い顔が台無しだよ?」

少女「誰のせいだと思ってるんですか!」

…最悪だ。そういえば、最初に会った時もこんな軽い感じであった。すっかりそんなこと忘れていた。

記者「はいはい、そんなこと気にしなくていいから、再会の祝杯を挙げようじゃないか。」

少女「さ、最初から自分だって名乗ってくれたらこんな苦労しなくて済んだのに!」

記者「苦労した方が、達成感も違うって言うじゃないか。」

少女「それとこれとは違います!」

記者「まぁまぁ、盃持ってね!」

少女「人の話を聞いてください!!と言うか、私未成年なんですけど!」

記者「分かってるよ?」

少女「分かってるなら何で飲ませようと!」

記者「安心してよ、俺だって少しはオレンジジュースにしてあげる事ぐらいのささやかな気遣いは出来るよ?」

少女「~っ!ほ、本当にオレンジジュースって、さっき嘘付いたばかりの人を信じられないんだから!」

記者「それ本当なんだけどな~。」

記者「それでは乾杯ー!」

少女「…。」

記者「乾杯!」

少女「…乾杯。」

記者「何、むすって顔をしてるんだよ。」

少女「誰のせいでこうなったと思うの?」

記者「まぁまぁ、水に流そうよ。」

少女「被害者と加害者では、事件の重さが違うと思うんですけど。」

記者「おぉ、それはそうだね。俺も事件いくつも取材してきたから少しは分かってるつもりだけどね。」

少女「なら、なんであんなことしたんですか!」

記者「そりゃあ、君がどれだけ僕の事を追いかけてくれるか試してみたくてさ。」

少女「用事が無かったなら、絶対に追いませんでしたけどね。」

記者「でも、あったんだろ?」

少女「…。」

記者「東の茶畑の村の事だろ?」

彼の質問に、コクリと私は頷いた。
まだ、彼に対して怒りもあったけども、警戒もあったのだろう。

記者「気になるか?」

少女「…えぇ。」

記者「勇者が出てくる、田舎の辺鄙の村からしたらそれだけでも大事だからな。」

少女「どこでその情報をつかんだのですか?」

記者「噂…と言ったら嘘になるな~。なぁ、情報ってのはどういうものだと思う?」

少女「情報ですか?…うーん、真実につながるものみたいな…。」

記者「うん、それも確かにある。けれど、情報にはまず質の良いものと悪いものがある。」

少女「事実と嘘ですか?」

記者「その通りだ。では、事実は本当にいい情報だと思うかい?」

少女「えっ?」

記者「うーん、じゃあ発想を変えよう。嘘の情報は、事実が全く無いものだと思う?」

少女「全く…全くではないと思う。」

記者「そうだ、嘘にもその多くは事実が混ざっているわけだ。スパイスのようにね。」

―彼はどこかの偉い講師のようにではなく、気さくな話し方で私に教授していた。
そう、真面目な話なのに、まるでお遊びについて解説するように。

記者「逆に言えば、本当とされる情報にも嘘が紛れてる事は多々ある。」

少女「…。」

記者「だからこうしたスパイスには、ほんの僅かだが整合性が欠けているんだ。まぁ、それを読み取って見抜くのは困難だけどね。」

少女「…じゃあ、何故あなたにはそのことを見抜くことが出来るの?」

記者「うん、こうしたスパイスが加わるには発信者の意図があるから、それを意識すれば自ずと分かるものさ。情報が外部の人間に漏れても仕方ない…と考えるのではなく、むしろ漏れてしまう事の方が都合がよろしいというのがな。」

少女「意図的なもの…。」

記者「あぁ、情報には必ずと言っていいほどベクトルがあるものさ。それに気付けなければ、後は発信者の思いのままってわけだ。」

少女「それに気付いて、あなたは勇者が出てくるのに気付いたってわけね。」

記者「チッチッ、違うよ。今回の勇者が出てくるっていう話は、国の意図的な発信のものだよ。俺はそれを聞いただけに過ぎない。少し早めにね。」

少女「えっ…じゃあ、なんでこんな話を…。」

記者「それは、君に少し協力を仰ぎたくてね。」

少女「え?」

記者「そう驚いた顔しなさんなって。」

少女「突然協力って言われても…。」

記者「なーに、簡単なことだよ。俺を警護してくれればいいんだ。」

少女「警護?」

記者「そうだ、東の茶畑の村に行くんでね。」

少女「え…でも、東の茶畑の村までの道って、軍によって閉鎖されたんじゃないの?」

記者「だから、君に護衛してもらおうと思ってるんだけどね。」

少女「つ、通行証は?」

記者「出るわけないじゃん。」

少女「じゃ、じゃあ犯罪の片棒を担げと言う事!?」

記者「うちの国の法律ならそうなるな。」

少女「それを今さっき出会ったばかりの人に、それも騙した相手にお願いするのはどうなの?」

記者「確かに君にとっては異論があるかもしれないが…けれど、君にも興味はあるだろう?」

少女「えぇ、あるわ。そうじゃなきゃ、あなたに会おうなんて思いもしないわ。」

記者「それはそれは、俺はドラゴンに感謝しなきゃいけないのかな?」

少女「勝手にすればいいわ。」

記者「まったく、手厳しいお嬢さんだ。」

少女「ふんっ。」

記者「腕を見込んでのことなんだけどね。」

少女「…腕?」

記者「王都から港町の街道で、山賊一味をコテンパテンにやったのって君だろ?」

少女「な、なんでそんなことを…!」

記者「やっぱりね~。」

少女「えっ?」

記者「確証はなかったんだけどね、やっぱり君だったんだね~。」

…なんか、さっきから一歩も二歩も先読みされて、さらに馬鹿にされているようで腹立たしい。

記者「こうやって、ホラ吹くのも情報源獲得のための手段だよ?」

少女「っ~!」

記者「ドラゴンの話、気になるだろ?」

少女「…えぇ。」

記者「なら、いいじゃないか。俺はこういうのに興味を持つ人間は好きなんだ。世の中の流れに合わせようとするんじゃなくて、自分で真実を知ろうとしている人間がね。」

少女「なにもそこまで…。」

記者「いーや、そんなことないさ。君、機械文明の事は知っているだろう?」

少女「それは、確かに孤児院で勉強したから話は聞いたことはあるけど…。」

記者「それが本当だと思うかい?」

少女「さぁ、見たわけじゃないから。」

記者「そうだろ、どこまでが真実なのかは、結局教えられても信じきれないところがあるもんだ。でも、人はそれを面倒だと思い鵜呑みにしてしまうところがある。けど、君はドラゴンの話を聞いて実際はどうなのかと疑問に思った。それが大事なことさ。」

先程まで、お酒のせいか顔を赤めていた彼が急に真剣な素顔を見たような気がした。でも、それは一瞬の事で私には確認することも出来ない。けれど、彼の意見に多少のニュアンスはあれど、少なくとも真剣であることは、こんな私にも分かる。

記者「そんな君だから御願いしたい。助手と言う形でいい、護衛をしていただけるかい?」

―彼の求めに私は応じることにした。

記者「契約成立ってことね。」

少女「…それはいつまでなの?」

記者「そうだな、茶畑の村を救うまででいいかい?」

少女「救う?どうやって、新聞社の記者が村を救うって…。」

記者「さぁな、記事になって救うことが出来るかもしれないよ?」

少女「でも編集者が言ってたわ。検閲で引っかかる時があるって。下手に記事にしたら、牢屋に入ることもあるって言うじゃない。」

記者「…ま、確かに彼の言うとおりだよ。なら、他の人が救えばいいじゃない。」

少女「他の人?」

記者「例えば勇者とか。」

少女「…。」

記者「ま、どうなるかは行ってみてからだ。いいかい?」

少女「えぇ、いいわよ。」

記者「うん、じゃあ出発は3日後。いいね?」

少女「3日後!?もっと早く出発は出来ないの!?」

記者「いや、出来るんだけどさ。これには色々と訳があってね。」

少女「訳?」

記者「あぁ、あと2日で勇者がここに来る。ま、すぐに出発するだろうから彼らの1日遅れというわけさ。」

少女「なんでよ!?先回りした方がいいじゃない!」

記者「うんうん、それもそうなんだけどね~。」

少女「じゃあ何で!」

記者「まずこの街で、彼を待ち構えて突撃取材するからだよ。」

少女「呆れた!茶畑の村はドラゴンがいてピンチなのに!」

記者「ドラゴン、本当に居ると思うかい?」

少女「だって、あなたそれを記事にしたっていうじゃない!」

記者「あぁその通りだ、したよ。」

少女「じゃあなんでこんなこと聞くの!?」

少女「3日後!?もっと早く出発は出来ないの!?」

記者「いや、出来るんだけどさ。これには色々と訳があってね。」

少女「訳?」

記者「あぁ、あと2日で勇者がここに来る。ま、すぐに出発するだろうから彼らの1日遅れというわけさ。」

少女「なんでよ!?先回りした方がいいじゃない!」

記者「うんうん、それもそうなんだけどね~。」

少女「じゃあ何で!」

記者「まずこの街で、彼を待ち構えて突撃取材するからだよ。」

少女「呆れた!茶畑の村はドラゴンがいてピンチなのに!」

記者「ドラゴン、本当に居ると思うかい?」

少女「だって、あなたそれを記事にしたっていうじゃない!」

記者「あぁその通りだ、したよ。」

少女「じゃあなんでこんなこと聞くの!?」

少女「3日後!?もっと早く出発は出来ないの!?」

記者「いや、出来るんだけどさ。これには色々と訳があってね。」

少女「訳?」

記者「あぁ、あと2日で勇者がここに来る。ま、すぐに出発するだろうから彼らの1日遅れというわけさ。」

少女「なんでよ!?先回りした方がいいじゃない!」

記者「うんうん、それもそうなんだけどね~。」

少女「じゃあ何で!」

記者「まずこの街で、彼を待ち構えて突撃取材するからだよ。」

少女「呆れた!茶畑の村はドラゴンがいてピンチなのに!」

記者「ドラゴン、本当に居ると思うかい?」

少女「だって、あなたそれを記事にしたっていうじゃない!」

記者「あぁその通りだ、したよ。」

少女「…じゃあなんでこんなこと聞くの!?」

なんか3連投されたwたびたびミスって申し訳ないw

私は彼の言うことに連携を感じることが出来なかった。そう、何を言おうとしたいのか全く分からなかったからである。

記者「じゃあ、もしドラゴンが…ドラゴンが勇者が来てから活動を始めたら?」

少女「えっ…?」

記者「ま、これは仮説だけどね。…それにしても、君、勇者の事嫌いかい?」

少女「えっ、まだそんなこと言ってないじゃない!…あっ。」

記者「やっぱりね。」

少女「ふんっ。」

記者「俺が勇者って言う度に、口をへの字にするからね。」

少女「…。」

記者「気付いてなかったようだね。まっ、こういう大事に好き嫌いを持ち込まないのはいい事だ。」

少女「…だって、今は茶畑の村の事の方が大事だから。」

記者「うんうん、それはいい事だ。古来から好き嫌いと私事を持ち込んで、滅んでいった馬鹿な連中なぞ沢山いるからな。それと比べたら立派立派。」

少女「…そんなことないわよ。」

記者「じゃあ、取材する時に脇にいてくれないかい?」

少女「えっ…でも、もしかしたら勇者は私の事知っているかも。」

記者「それなら、深くフード帽でも被ってしまえばいい。…殺気だけは出すなよ。」

少女「分かった、そうする。」

記者「なら、2日後の昼にまたここで会おう。それまでは雑貨屋に頼めばよくしてくれるさ。」

―2日後

記者「で、では、東の茶畑の村の噂は本当なんですね!」

勇者「だから、それは行ってみてからでないと判断できない。」

記者「封鎖はいつ頃解除されるのですか!?」

勇者「安全と分かってからだよ。」

―ユウシャサマ!コチラ…

―コッチモ!

―シャシンヲ!



港町駐屯長「準備出来てます、勇者様。」

勇者「あぁ、分かった。ご苦労。」

駐屯長「ご苦労なのは勇者様です。…ちっ、うるさい蠅どもめ。なんであいつら、勇者様が出てくることを知ってるんだ?」

勇者「誰かがつい漏らしたとしか思えないな。」

駐屯長「まったく…。そ、そういえば今回は剣士殿はお連れにならないのですね?」

勇者「あぁ、そこまで必要ないかなって。では行って来る。」

駐屯長「どうぞご無事で。」



記者「どうだい、うまく撮れたかい?」

少女「…撮れてると思う。け、けど、なんでこんな…。」

記者「君に、機械文明の遺産を少しぐらいは触れとくのもいいかなと思ってね。」

少女「いきなりここを押してシャッター落とせって言われても、何のことかと思ったわ。」

記者「ま、助手ってことにしたんだから仕事ぐらいはして貰わないとね。」

少女「それぐらいならいいけど…。」

記者「おかげで勇者は君に全く気が付かなかったようだけどね。」

少女「本当?」

記者「だって、俺たちの姿を嫌そうに見ていたじゃないか。あれは、どんな奴かと探る気なんか全く無かっただろうな。」

少女「確かにそんな感じがしたけど…。だからこんなに人を沢山呼び寄せたのね。」

記者「うんざりするぐらいが都合いいしね…それに他の記者たちも仕事が増えて一石二鳥さ。」

少女「…呆れた。」

記者「呆れるのはこっちだよ。日に日に君から殺気を感じてたんだから。だからこうやってカモフラージュしたわけなのに。」

少女「…し、取材の時は無くしてた…と思うんだけど。」

記者「…無理だっただろうな。」

雑貨屋「出来たぞ!」

記者「ほう、どれどれ…。何枚かはぶれてるけど、基本ちゃんと写ってるね。うんうん問題ない。」

少女「本当?」

記者「あぁ、この写真見てみなよ。」

少女「す、すごい。私カメ…ラだっけ、初めてだったから。」

雑貨屋「元々、昔の文明の時に出来たものだからな。基本中古だし、めったに出会えるものじゃないからな!」

少女「…不思議ね。」

記者「あぁ、確かに不思議だ。」

少女「…?」

記者「奴がいない。」

雑貨屋「予備軍の大将閣下か。」

記者「なんか聞いてるかい?」

雑貨屋「いや、まったく。」

少女「予備軍大将閣下?…剣士って人の事?」

記者「お、知ってるのかい?」

少女「む、昔、耳にしたことあって…。」

雑貨屋「確かにここ最近は一緒に居ることが多いが。別の仕事をしてるんじゃないのか?」

記者「さぁね、そんな情報は全く聞いてないさ。」

少女「この隣のひげの生やした人は?」

記者「あぁ、この町の駐屯長だよ。好みかい?」

少女「んなわけ無いでしょ!こんな筋肉ダルマ!!」

記者「ハハ、冗談だよ。しかし、筋肉ダルマは傑作だ。」

少女「もうっ!」

記者「ごめんごめん、でもね、実は彼が今回の情報源なんだよ。」

少女「え?」

記者「酔ってる時についつい本音が出ちゃうタイプみたいだよ。『勇者が来るから胃がキリキリしてくる~』なんて言ってたんだ。」

少女「…そんなところから…。いつか本音で言ってもらえなくなるわよ。」

記者「それは困るな~。…おい、雑貨屋。いつまで腹抱えて笑ってるつもり?」

-同時刻、教市国政教庁

大主教「で、首尾はいかがか?」

枢機卿「万事、問題なく事は進んでおります。」

大主教「では、そのまま物事を進めたまえ。」

枢機卿「はっ、そのようにさせていただきます。これも聖霊様の御心に従いまして。」

大主教「うむ…。…ところで、今日の議題にはあと義王国の件があったな。」

枢機卿「…ええ。しかし、その事に関しては大主教閣下の御身に気を使わせるような、とても大きい問題では無いかと…。」

大主教「…枢機卿、寡人は問題ない。そのようなことは気にしなくてよい。」

枢機卿「…大主教閣下、御身を煩わせてしまい申し訳ございません。」

大主教「…そちは不満か?」

枢機卿「いえ、滅相もございません。」

大主教「…本音で語られよ。」

枢機卿「…失礼ながら申し上げます。義王国の件に関しては、司祭長である僧侶が全てを仕切っております。彼は確かに有能であり、かつて勇者のパーティの一員として功を挙げました。ですが、司祭長という重職には些か力が足らぬのでないでしょうか。」

大主教「そちは彼のことを有能と申したが、すぐにその能力を否定するのか?」

枢機卿「そ、それは、それは能力にも使い道がございまして…。」

大主教「ふふふ、そちの詭弁にはからかい甲斐があるの。」

枢機卿「で、ですが、彼は明らかに大主教閣下の地位を危うくする存在ですぞ!」

大主教「そちは寡人が僧侶の野望を見抜けぬと申すのか。…安心したまえ、彼の眼の奥にある心の思いには気付いておる。」

枢機卿「では、どうして彼を重用されるのですか!?」

大主教「それは、虎を預かるには庭で放し飼いをするよりも家屋で檻の中に入れた方が安全だと言うことだ…。」

枢機卿「…。」

大主教「野望の強い者は、近くにいたほうが良い。遠ざけてしまうと、何をやらかすやら…。…それは、そちのこともかな?そちはこの椅子が欲しいか?」

枢機卿「め、滅相もございません!」

大主教「ふふ、まぁ何にしても今は義王国の情報は必要だ。そのためにも彼から話を聞く必要がある。ここに呼びたまえ。」

枢機卿「…はっ。」



僧侶「僧侶が大主教閣下に拝謁いたします。」

大主教「うむ、面を上げよ。」

僧侶「はっ。…義王国について意見具申させていただきます。」

大主教「よろしい、述べたまえ。」

僧侶「はっ。義王国の現在の状況でありますが、表面上では治安維持に問題なく、また隣接する諸国との諍いもございません。また、魔族との戦いは現状問題なく進んでいるという状況です。」

枢機卿「問題ないか、よく言ったものだ。」

僧侶「民衆にはそうした形式にすることで、納得を頂いておりますから。」

枢機卿「…。」

僧侶「ですが、強権政治の因果と申しましょうか、そのような下ではどうしても反発する者も出てきてしまいます。」

大主教「仕方あるまい。多少の反発は想定内であろう。」

僧侶「ですが、それは希望的観測だった模様です。」

大主教「なに?どういうことだ、申してみよ。」

僧侶「この反発した者たちが、烏合の衆では無くなりつつあるようです。」

大主教「…つまり、たった一つのための目的のために完成された組織が出来たという事か。」

僧侶「その通りです。各地に散らばっていて、なおかつ様々な思惑を持つ人間を、纏めたカリスマ的人物が登場したということです。」

枢機卿「その人物は分かっておらぬのか。」

僧侶「ええ、検討がつかぬ状態のようです。」

大主教「…そのような人物が欲しいものだ。」

僧侶「ですが、誰だか分からぬ現状では籠絡することも不可能です。」

大主教「ふむ…、それで義王国はどう動く?」

僧侶「それは先の書簡でも報告させていただきましたが、掃討作戦を実施するようです。まずは手始めに、一つの村を…。」

大主教「確か反政府の重用拠点と睨んでるのであったな?」

僧侶「その通りでございます。」

大主教「それで、義王国はその作戦に成功すると思うか?」

僧侶「…この作戦の先頭に立つのは、義王国軍近衛部隊隊長…勇者。」

枢機卿「ほほぅ、それでは作戦は成功が確約されたものだ。」

僧侶「さぁ、それはどうでしょうかね。」

枢機卿「何?それはどういうことだ?」

僧侶「実体が分かっていないものを掃討するのは中々大変なものですよ?」

枢機卿「しかし、勇者はあの魔族の地を平定した男であるぞ。」

僧侶「…あの時、魔族のことに関しては今よりは情報が少ないとはいえ、それなりにありました。しかし、反政府団体…義国民民主戦線と名乗っておりますが、その構成の実態は義王国もそして我々もですら掴めておりません。勇者と言えども苦戦する可能性が高いです。」

枢機卿「ふんっ。なら、破門の詔を出したらどうか?」

僧侶「そんなに破門を乱発するようでは、その効果は有名無実のものになってしまいます。」

枢機卿「聖霊様の御心を粗末に扱う奴め。」

僧侶「(そのセリフ、どの口が言うのですか…。)…破門の詔は、またの機会でよろしいかと思います。事態が非常に悪くなったときにです。」

枢機卿「…そんな事態になるとは思わんがな。」

僧侶「一寸先は闇と言います。先程も述べましたが、勇者が勝つ確証など、どこにもございません。」

大主教「…。」

枢機卿「我らが勇者が、簡単にくたばると貴殿はお思いか。」

僧侶「…。」

枢機卿「そもそも、貴殿は元々勇者のパーティの一員にいた。しかも、この教会と我が教市国を代表してだ。それなのに、勇者を敬ぬ言動はどうして許されようか。貴殿はまだ若く、時に言動が過激になるのは仕方あるまい。しかし、道理は守るべきだろう。」

大主教「枢機卿の言うこと、もっともである。我々は道理を大切にしなければならぬ存在。節操の無い行為は慎むべきである。」

僧侶「…分かりました。」

大主教「そちは職務に従って、勇者をサポートしたまえ。」

僧侶「…御意。わたくしからは以上ですが、退室してもよろしいでしょうか?」

大主教「うむ。」

僧侶「はっ。失礼します。これも聖霊様の御心に従いまして。」

タタタ…

枢機卿「聖霊様の御心を粗末に扱う奴め。」

僧侶「(そのセリフ、どの口が言うのですか…。)…破門の詔は、またの機会でよろしいかと思います。事態が非常に悪くなったときにです。」

枢機卿「…そんな事態になるとは思わんがな。」

僧侶「一寸先は闇と言います。先程も述べましたが、勇者が勝つ確証など、どこにもございません。」

大主教「…。」

枢機卿「我らが勇者が、簡単にくたばると貴殿はお思いか。」

僧侶「…。」

枢機卿「そもそも、貴殿は元々勇者のパーティの一員にいた。しかも、この教会と我が教市国を代表してだ。それなのに、勇者を敬ぬ言動はどうして許されようか。貴殿はまだ若く、時に言動が過激になるのは仕方あるまい。しかし、道理は守るべきだろう。」

大主教「枢機卿の言うこと、もっともである。我々は道理を大切にしなければならぬ存在。節操の無い行為は慎むべきである。」

僧侶「…分かりました。」

大主教「そちは職務に従って、勇者をサポートしたまえ。」

僧侶「…御意。わたくしからは以上ですが、退室してもよろしいでしょうか?」

大主教「うむ。」

僧侶「はっ。失礼します。これも聖霊様の御心に従いまして。」

タタタ…

枢機卿「このままでよろしいのですか?」

大主教「何を言いたい。」

枢機卿「僧侶は職務に忠実ではありますが、腹の底で何を考えているか分からぬ男。それを野原に放すことは、災いが降りかかるかもしれませんぞ。」

大主教「うむ…だが、簡単に彼の職務を剥奪するわけにはいかぬ。義王国の港町での大聖堂建設も彼の功である。能力あるものを追い出しては、我々の度量が問われるだろう。」

枢機卿「確かにそうではありますが…。」

大主教「彼はまだ若い。そうそう早く、我々の地位を脅かすわけではあるまい。…その間に何かあれば…分かるな?」

枢機卿「…はっ。」

-政教庁廊下

僧侶「ふぅ…。」

従者「どうかされましたか?」

僧侶「いや、なんでもありませんよ。お気にされずに。」

従者「分かりました…。」

僧侶「(しかし、敵意を隠そうとせずに私の意見を否定されるとは…もう少し、やんわりと否定すると思っていたのは甘かったと言うことでしょうか。)」

僧侶「(ですから、あんな状況下ではもっと強烈な意見を具申することは出来ませんでしたね…。)」フッ

僧侶「勇者が…。」

従者「?勇者殿がどうされたのですか?」

僧侶「いえ、特に何もありませんよ。」

従者「はぁ?」

僧侶「(勇者を切り捨てるべきだと…。)」

タタタ…

僧侶「…長いですね。」

従者「えぇ、まだ300mは歩かなければなりませんから。」

僧侶「(まだ慌てる必要はありませんか。この先はまだ長いでしょうから。…彼らは知りませんが。」

-東の茶畑の村への道

少女「この先に検問所があるのね?」

記者「あぁ、だからこっちに行こう。」

少女「この道は?」

記者「南へと向かう道だよ。1日もしないうちに工房の街があって、その先は森と砂漠があるんだ。普通に歩いたら1週間程度で南の端の村に着くんだよ。」

少女「…南の端の村…。」

記者「そう、そこから先は我々の土地では無いと言うわけ。近くは無いが、遠くも無いってことだね。けれど、その距離を果たしてドラゴンが移動するものか疑問を感じるわけだけどね。」

少女「…確か、ドラゴン自身はどちらかと言えば保守的で、自分の縄張りを侵略されるのは嫌がるとは聞いていたけど…。」

記者「うん、だからこそ、わざわざこちらまでやって来るとは想像出来ないのさ。」

少女「噂は…本当だと思う?」

記者「それは行ってみてのお楽しみさ。」

「南の端の村」と彼の口から出てきた言葉に、私は動揺していた。
5年前のあの日、かくれんぼで聞いてしまった言葉。…勇者と僧侶の秘密の言葉。
思い出される光景に、私は時に意識を無くしかけていたかもしれない。彼の言葉が、なかなか頭の中に入ってこないことを感じていた。

記者「休むかい?」

少女「私は大丈夫。」

記者「本当?さっきから、俺の意見にうなずくだけじゃないか。」

少女「えっ…。」

南へと向かう道の途中で、山への獣道に入った私たちは、少なくとも日が沈む前には東の茶畑の村へと着かねばならない。もし途中で夜になろうとすれば、私たちの匂いを嗅ぎ付けて、ジャッカルやオオカミに襲われかねないからだ。

少女「大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。」

記者「頼むよ~。もし兵士たちに襲われたら、君に助けてもらわないとならないんだからね。」

少女「もしかしたら、自分を守るだけで精一杯かもしれないわ。」

記者「それは困る。…君は山賊を壊滅するぐらいの器量はあるんだから。」

少女「それは秩序の無い攻めをされたから、各個撃破することが出来ただけだから。訓練された兵士とは異なるわ。」

記者「そんなもんかね。…確かに君みたいな胸の慎ましい子だと、山賊たちが襲うの少しためら…うぐっ。」

少女「次それ言ったら斬るわよ?」

-夕方

少女「はぁはぁ。」

記者「大丈夫かい?」

少女「ええ。でも、流石に疲れてきたわ。」

記者「そりゃあ、強行軍だから仕方ないさ。けど安心してよ。ほら、明かりがもうすぐそこにあるだろう。」

少女「え!?もしかして、あれが東の茶畑の村?」

記者「あぁ、そうだよ。」

ほとんど休まずに私たちは獣道に山道と、道なき道を1日中歩き、やっとの思いで東の茶畑の村に着いた。それにしても、記者はあの軟派な姿とは異なり、意外にもこの強行軍を易々とこなしていた。

記者と言う職業は、体力もかなり求められる職業なのかもしれない。私は彼の姿を見ながら、そんなことを思っていた。

記者「じゃあ、少しここで待っててくれないか?」

少女「待つって、じゃああなたは何するの?」

記者「ちょっと、ここからこっそりと山を降りて様子を見てくるさ。」

少女「じゃあ私も…!」

記者「ノーノー、2人いたら目立つでしょ?それに見張りをして欲しいからね。」

少女「見張り?」

記者「そう、軍とドラゴン、ちょっと厄介なんだけど頼んでいいよね?」

少女「…分かったわ、一応契約してるんだから従うわ。」

記者「素直じゃないなー。」

少女「誰のせいよ!」

記者「まぁまぁ。じゃあ行って来るから、くれぐれも無理しないでくれ。」

少女「あなたもね。」

記者「あぁ、そうするよ。」

-1時間後

だんだんと暖かくなる時期とはいえ、日が沈むとまだ身体へ冷たい風が吹きつけてくる季節である。
そんな時に、じっとして待機するのは中々骨が折れてしまう。もし、師匠との修行が無ければ、私はさっさとこの場から逃げていたであろう。

記者「お待たせ。」

少女「…村の様子はどうなの?」

記者「あぁ、村の人たちは無事だよ。でも、村の周りはしっかり兵士に囲まれてる。」

少女「囲まれてる?…どういうこと!?軍は助けに来たのでは!」

記者「しっ、あまり大きな声出しちゃだめだよ。さぁて、彼らは何をしようとしていることやら…。そっちは何かあったかい?」

少女「あれを見て。…何気なくカメラを回していたら、ふと気がついたのよ。」

記者「どれどれ、1、2、3…ざっと10人ぐらいはいるか。」

少女「で、カメラをもっとズームにしてみてよ。何か運んでるように見えない?」

記者「あぁ、見えるよ。」

少女「何を運んでるのかしら?」

記者「…あれは…そうか、ドラゴンの卵だ。」

少女「卵…って、どういうことよ!」

記者「だから、興奮しないってば。…簡単に言えば、人質だよ。」

少女「人質?卵を人質って、軍は何を考えて…。」

記者「しっ!」

少女「…な、何?」

記者「聞こえないかい?」

少女「え?」

…耳を澄ませると、空が切り裂かれるような僅かな音が、かなりのスピードでこちらに近付いてくるのが分かった。
彼が、意外にも平然とした顔で呟いた。

記者「…ドラゴンだ。」

突然空から舞い込んできた漆黒の翼を持つものは、真っ直ぐ卵へと向かった。
この時、人間の倍ぐらいの大きさの丸いものが、本当にドラゴンの卵だと言う確証を得た。

兵士A「ぎゃぁぁぁ!」

兵士B「あつい!あつい!た、助けて、ああああああ!」

兵士C「うぎゃああ!」

卵を運んでいた兵士たちは、突然の訪問者に気付くまでも無く、ドラゴンの口から放出された火炎放射によって自らの身体を燃やされた。その尋常ではない攻撃に、息苦しい状態でありながら絶命への叫びを放っていった。

それもすぐに絶えてしまう。

記者「よし、逃げるぞ…っておい!」

彼の進言よりもわずかに早く、私は駆け出していた。

ドラゴンの下へ。

このままでは、村の人たちが!そんな気持ちだったに違いない。

自分でもした行動が、時々何故したのか分からないことすらある。きっと、脳の中はアドレナリンの放出で手一杯であったのだろう。

ドラゴンが私のことを気付いたとき、その距離はまだ少しあった。ここから飛び込んで攻撃するには、まだ距離がある。

その瞬間、ドラゴンの口からまた火炎放射が放たれた。しかし、その攻撃は予測済みだ。

私は右に右にとドラゴンから円を描くように避けて行った。瞬間的に、左利きと判断できたからだ。

しかしながら、足場は緩い。もし足元がすくわれてしまうような事があれば、私はあっという間に先程の兵士と同じ運命を辿っていたであろう。

180度ほど移動したところで、ドラゴンはその攻撃を一瞬止めた。私はその瞬間を狙っていた。

今だ!そう思うと一気に距離を詰め、ドラゴンへと飛び掛った。…この時、周りが一瞬光ったことに気付いた。しかし、その事に構っている余裕など無い。軍の兵士の誰かが、発光信号でも放ったのだろう。

剣をすっと持ち直し、ドラゴンへと斬りかかる。まだ、私に対して正面をつけずにいたドラゴンは面を喰らったに違いない。

右腕に斬りかかると、立て続けに背中に斬りかかる。真っ赤な返り血を浴びながらも、火炎放射の餌食にならぬようにと正面にならないよう移動しつつ攻撃する。

-いける!

そう思ったとき、横から不意に鈍い攻撃を喰らい、私は吹き飛ばされた。ドラゴンは火炎放射をやめ、尾による肉弾戦を仕掛けたのだった。

吹き飛ばされ一瞬気を失いかけたものの、何とか立ち上がろうとすると、ドラゴンが私に向かって火炎放射を放つ瞬間であった。

-まずい

そう思った瞬間、また光が私の周りを支配し、火炎放射の攻撃が弾かれていた。

-えっ?

振り返ると、記者が何かを放ったことに気付いた。…これは、記者の…魔法…?

その瞬間、

小隊長「あっちだ!」

軍の兵士たちが、逆方向からやって来た事に気付いた。それは私だけでなく、ドラゴンもそうであったのだろう。

魔法で自分の攻撃を弾かれたからだろうか、あるいは気まぐれなのだろうか、数10m先の相手は私に背を向け、-つまり兵士へと向かっていった。

記者「大丈夫か!?」

その言葉が耳に入るか入らないかぐらいで、私は気を失った。

-しばらくした後…

勇者「…ふっ!」

ギャオオオオオオ!バサッ!

勇者「…これで、この件は良し…か。」

勇者「よく言ったものだ、こちらは俺以外全滅、村は焼け野原。普通だったら非難されても仕方あるまい。」

勇者「(普通だったらな…。)」

勇者「骨も残さぬ灼熱地獄か、残虐なドラゴンにはお似合いだ。…まぁ、これもどれも大臣の作戦だ。」



(大臣『全てを残酷に見せてから、ドラゴンを排除せよ。』)



勇者「やはり、周囲に人影はおらぬな。面倒な連中は全ていなくなったという事か。」

勇者「(綱紀粛正に欠ける兵士を統率するのは、疲れたものだ。もうそれからは開放されるか…んっ?)」

勇者「(ドラゴンの屍骸…右腕と背中の傷…これは俺のものではないぞ…。)」

勇者「兵士の誰かか…それとも…。…!…魔法の痕跡が、少しあるか…。」

勇者「…。」

勇者「しかし、誰もおらんか。…逃げた後か、ドラゴンに燃やし尽くされたか。」

勇者「(…まぁ良い。後の処理は大臣に任せよう。…それが役目だろう。)」

-山の中にて

少女「うぅ…。」

記者「…気がついたかい?」

少女「う…ん…、こ、ここは…?」

記者「村から少し離れた山の中さ。」

少女「そっ…か、私…やられて…。」

記者「無理にしゃべらなくていい。」

少女「あなたに…助けられて…。」

記者「護衛が真っ先にやられるとは、大した職業魂だよ。」

少女「皮肉を言わないで…痛っ。」

記者「ほら、まだ痛みがあるんだから、無理するなって。横になってなよ。」

目を覚ますと、それまで感じてなかった痛みが全身を駆け巡る。
考えるのも嫌になってしまうけど、頭の片隅には少しずつながら起きたことを思い出していく。

少女「そ、そういえば…、あの光、あなたが…。」

記者「ま、そんなこともあったかな。」

少女「魔法…使えたのね。」

記者「少しだけどね。…昔、俺を育ててくれた人がいてね、その人が少しだけ教えてくれたのさ。」

少女「…ご両親は…?」

記者「いない。もう昔からさ。」

少女「じゃあ孤児院には…。」

記者「孤児院に行かずに済んだんだ。でも、たらい回しにあってな。そしたら、とあるお人好しが無料で魔法を教えてくれたのさ。」

少女「…なぜ、そんな人がこんな軟派な人を育てたのかしら。」

記者「助けてやったのに、それは酷くないかい?」

少女「ふふっ、冗談。…ありがとう。」

少女「ところで、村はどうなったの…?」

記者「あぁ…まぁあっちだ。」

少女「あっち?…えっ。」

思わず、私は声が出てしまった。彼の指す方向、つまり村は炎に支配され闇を照らしていた。

少女「む、村が…。」

声にならぬ悲鳴が、私の中の全身を駆け抜けていく。痛みを失うが如く。

少女「どういうこと!?」

頭の中では分かっているのに、思わず記者に問いかけてしまう。

記者「ドラゴンが火炎放射で一帯を燃やし尽くしたんだ。…そのドラゴンも悲鳴がここまで聞こえたのだから、勇者にしてやられたんだと思う。」

少女「そういうことじゃない!村が…村の人たちが…!」

記者「…。」

少女「村の人を救うって言ったじゃない!なのに、なんで…!」

記者「とりあえず、落ち着くんだ。」

少女「これのどこが落ち着けるのよ!」

記者「君の気持ちは分かる。けれど、その傷で何をしようっていうの?」

少女「…。」

記者「とりあえずは港町に戻って、傷を何とかしないとね。」

少女「…。」

記者「…泣いてからでも、出来ることはあるさ。」

まだ立ち上がれぬ私は、彼の介抱のなかで涙した。…今までに無いぐらいの量を。

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