【シャニマスSS】浅倉透「プロデューサーの家のルール」【R-18】 (264)

最近『ファイト・クラブ』を観たのと、浅倉透PSR【聞こえててよ、babe】が可愛かったので書きました。
R-18です。

最初に同じルールを2回挙げるのは、そのまんま『ファイト・クラブ』のオマージュです。



――プロデューサーの家のルール。


1.プロデューサーの家について口にしてはならない
2.プロデューサーの家について口にしてはならない


透「ん……んっ、ぁ、あっ、んっ……」

透「はっ、はっ、んっ、んっんっんぅ……」



3.行っていいのは私一人だけ
4.家に行くのは週に一回まで


透「んっ――んむっ、あむ……んふふっ。……やば、ちょっと照れる、かも」

透「……っ、え――ちょ、待っ……んんっ、はっ、や、待って、そんなっ、急に――」



5.どちらかが音を上げるか、『やめて』と言ったら終わり
6.制服とスーツは脱いで____する


透「んっ、んっんっんっ……うっ、く、はぁーっ、はぁーっ……あっ!!」

透「――あっ、あっあっあっ……! や、やめ……だっ、やめ、ない、でっ……!!」



7.時間制限は無し
8.プロデューサーの家に来たら、必ず____をしなければならない


透「あっあっやっ、だめっ、気持ちいっ……だめだめだめっ……いっ……!!!」

透「~~~~~~ッッ!!!」ビクッ


******



透「――はっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁぁ……っ」

透「ふぅー……」

透「あー……。……ふふっ」

透「死ぬかと思った」



P「――えっ」

P「……痛かったか?」

透「ううん。そうじゃなくて」



透「さっきのプロデューサーが、いつものプロデューサーと全然違って」

透「腰掴まれて、すっごいがくがく揺さぶられて」

透「このまま殺されるかも、って。ちょっとだけ思った」



P「……ごめん。気を付けるよ」

透「え。いいよ、このままで」

透「さっきのプロデューサー。おらーって感じで、恐くて」

透「かっこよかった。次もよろしく」



P「次もよろしく、じゃないんだけどな……」

透「えー。やってよ。なにとぞ」

P「ああ、うん……善処するけどさ」

P「……あんまり来るものじゃないぞ」

透「わかってる。だから」



透「……来週、また来るから」

透「居てね。ここに、ずっと」



******



――2か月前、ショールーム。

『あなたに一途なお部屋、あります』


透「……オーブン、オフ」

透「エアコン、オフ」

透「ブラインド、下がれ」

タッタッタッタッ




P「透、すまん……なぁ、透――!!」

P(――ショールームが暗くなっていく)

P(透の足音が、逃げるように遠ざかる)

P(……せっかく、CMで知ったショールームを観に来たのに)

P(仕事の連絡ばかり気にして、透を蔑ろにしてた)

P(……追いかけなきゃ)


P「はっ、はっ……はぁっ……」

P(……ここは、浴室か。真っすぐ走っていったなら、たぶん、ここにいる)

P「……透? ここにいるのか? 透――」



透「――入って」

P「――え」

P(ブラインドから漏れる日光だけが光源の、薄暗い浴室)

P(空っぽで小綺麗な浴槽の中で、透が寛いでいて)



透「終わった? メッセ」

P「ええと……うん。もう、これで完了」

P「……ごめんな」

透「ううん。じゃ」



透「入って、一緒に」

透「置いて。スマホ」

P「……透」

P(浴槽の中から、透が呼んでいる)



透「オフにして。で――」

透「一途、オン」



P「……スマホ、切ったよ」

P「本当にごめん」

透「んじゃ、置いて。ここに」

P「ああ」



透「で」

透「入る」

P「…………」

P「…………。さすがに二人は狭いよ」

透「入れるって。おっきいし」

P「……だめだよ」

透「えー」



P「ほったらかしにしちゃったのは、謝るよ」

P「お詫びに何か……後で、甘いものでも買いに行こう」

P「だから、そろそろ出てきてくれ」

透「やだって、言ったら?」

P「……言われたら」

P「困っちゃうな。かなり」



透「じゃあ、困って」

P「おいおい……」

透「今、一途オンだから」

透「悩んで。たっぷり」

P「うー…………」



コツコツコツ……

P「!」

スタッフ「いらっしゃいませ。ご見学ですか?」

P「あ、いえ! すみません、間違えて降りてしまって……」

スタッフ「はは、大丈夫ですよ。昼食で席を外しておりまして、申し訳ございません」

スタッフ「よければ今からでも、内装のご案内をしましょうか」



P「いえいえ、すぐに出ます――ほら、透」

透「…………」

透「……ん」

P「よし、行こう。……すみません、お邪魔いたしました――」

透「…………」



******


P「……ふぅ」

透「…………」

P「……はは、昼食で誰も居なくなるなんてこと、あるんだな」

P「どこの業界も、人手不足は一緒なんだなぁ」

透「…………」



P「……えっと」

透「…………」

P「……何か食べたいもの、あるか」

透「……いらない」



P「そう、か……」

透「…………」

透「……んー」

透「…………甘いやつ。ものすっっごく」

P「!」



透「本当の本当に、甘くて」

透「……頭が痛くなるくらい甘いのが、いい」

透「あと、ミルク」

P「ミルク……入りのコーヒー、じゃなくて?」

透「うん」

透「甘いミルクが、ほしい」



――だって、さっきから。
ずっと胸の中が苦いから。



******


――1か月前、事務所。

『本日は、午後から夕方にかけて激しい雨になるでしょう』



ザァァ……

P「……また強くなって来たな、雨」

P「円香たち、ちょっと遠いロケだったよな……帰る頃には止んでるといいけど」

P「……雷も鳴ってるな。PC作業はやめておくか」

P「…………」

P「電源、オフ」



シーン

P「……なんてな」

P「はい、シャットダウン、と」

P「書類の整理でもするか……お?」ヴーン ヴーン



P「電話……誰だ」ヴーン ヴーン

P「……え、透? ……平日だよな」ヴーン

P「……もしもし?」

透『……あ、もしもし。浅倉です』



P「どうしたんだ、透。……授業中じゃないのか」

透『午後から休み。警報出たから』

P「ああ……最近は、そういうのあるんだっけ」

P「わざわざ伝えてくれたんだな、ありがとう」



透『あ、うん。それもあるけど……違くて』

P「うん?」

P(なんか、声が聞き取りづらいな)

P(……もしかして、外にいるのか?)



透『今日、早く終わって。みんなは仕事だったから、暇だなって』

P「うん」

透『バス、乗ったんだ。いつもと全然違う路線の』

P「うん?」

透『適当に降りたら、バスの中に傘忘れちゃって』

P「おいおい、おい」

透『雨宿りできるとこ探して、走ってたら――』



透『――迷っちゃった』

透『帰り方、わかんない。ヤバい』

P「何やってるんだ……!! 親御さんに連絡は!?」

透『今日、家、誰もいないから。たぶん、電話しても来てくれない』

透『くしゅっ! ……寒。……ねえ、どうしよ』



P「ああ、もう……!! 今は雨宿り出来てるのか!?」

透『一応、木の下』

P「近くに道路はあるか!?」

透『えっと。ある』



P「じゃあ、すぐ地図アプリで現在地送ってくれ! あと周りの写真も!」

P「すぐ迎えに行くから、絶対に動くなよ! いいな!?」

透『うん』

透『……ごめん』

P「……そういうのは後で聞くよ。一旦切るからな」



ガチャ バタン

ザァァァァ……!

P「うっ……本当にすごい雨だ……」ピロン

P「! ……透か」

P「場所は……結構遠いな。車でも30分くらいかかるぞ……」

P(……ここ、俺の家の近くだな)

P「……とにかく、急がないと」


******


ザァァァァ ピカッ ゴロゴロゴロ……

P「――この辺り、だよな……」

P(木の下、木の下……)

P(一度電話するか)



『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか――』

P(電池切れ……か、水たまりに落としたとかか)

P(……変な事に巻き込まれたり、してないよな)

P(……あっ、あそこにしゃがんでるの、もしかして――)

バタン



P「――透!!」バシャバシャ

透「……あ……」

P「透! 大丈夫か、寒かったよな。立てるか?」

透「うん……んん……ごめん、しんどいかも」

P「わかった、手、出してくれ」

透「ん……」



ガシッ グイッ

P(っ、冷たっ――)

P「……とにかく、車に入ろう。タオル積んできたから」

透「うん……ねえ」

P「ん?」

透「…………ごめん。濡れた?」

P「……いや、大丈夫だよ。透が無事でよかった」


******


P(……ええと、暖房付けて、タオルも……ああくそ、着替えも持ってくるべきだった……!)

P「ごめん透、先に車の中で身体だけ拭いてくれ。俺はすぐ外にいるから」

透「ん……」

透「……一緒に居てくれないの? 中」

P「…………」



P(……そりゃあ心細い、よな。こんな状況で)

P(信頼してくれてるのは、嬉しいよ)

P(……でも)

P「だめだ。……ごめんな」

透「……わかった」

ガチャ バタン



透「…………」ガシガシ

言いたい事が、あって。
迎えに来てくれて、ホッとした。
でも一緒に入ってくれなくて、キュッてなった。



透「…………」ガシガシ

プロデューサーは、私から近づこうとすると、別の人みたいに硬くなる。
一緒に寝たら、きっと朝には別人になってる。



透「…………」ガシ……ガシ……

寒い。凍える。皮膚の下が固まってる。
ぐっ、て堪えてる。言いたい事。言うのが難しい事。言葉は難しいから。



透「…………」

心を覗き込むのは、苦くて、痛い。
アルカリ性の痛みは、人を正直にさせる。
正直で、居たい。



コンコン

透『……もういいよ』

P「ん……!」

ガチャ バタン

P「ごめんな、まだ寒いだろ。すぐ家まで送るから」



透「あー……むり」

P「なんで?」

透「カギ忘れた。今日」

P「うお、マジか……」

透「まじ」



P「んん……そうだ、円香の家は? お母さんが居れば」

透「仕事じゃない?」

P「そうかもだけど……一度電話してみよう」



プルルル プルルル プルルル

『ただいま留守にしております。音が鳴りましたら、メッセージを――』

P「……だめだ、誰もいない」

P「仕方ない、ちょっと遠いけど事務所に行こう」

P「30分くらいかかるけど、頑張って我慢してくれ」



透「…………」

透「ねえ」

透「プロデューサーの家って、どの辺?」

P「…………」



P「……教えないよ」

透「もしかして、近く?」

P「違うよ」

透「嘘っぽい」

P「本当に違う。ここからだと、最低でも1時間はかかるな」



透「じゃあ、それでもいいや」

P「よくない」

透「連れてって」

P「行かない」

透「……だったら」



透「凍死する。このまま」

P「っ」

P「……冗談でもそんな事言うな。怒るぞ」

透「する」

P「しない」



透「事務所に着いても、車から出ないから」

P「じゃあ車の中に置いて帰るぞ」

透「いいよ。それで」

透「私の死体、後で見つけてよ」

P「――っ、いい加減にしろ!!」



ザァァァァ

透「…………」

P「…………」

P「……あんまり困らせないでくれ……」

透「――困らない、っ……でしょ」

透「プロデューサーが……うんって、言えば」



透「……っ、ふぅ、ふうっ……」ブルブル

P「っ、透――」

P(唇が、真っ青だ……)

P「透、頼むから事務所に送らせてくれ……!」

透「やだ……!」



P「じゃあもういい、このまま連れて行く」

透「――じゃあ、私も」

ガチャ

透「もういい」

P「――っ!? 待て、透!」

透「っ……!!」

タッタッタッ



P「透! 待ってくれ、透!!」ダッ

透「来ないで……! もういいから!!」

P「良くない! なんで、そこまで……!!」

透「……っ!!」

ダッ



透「はっ、はっ、はっ」

タッタッタッ

透「はっ……はっ、はっ……」

タッタッ

透「はぁっ、はぁっ――あっ」

ズルッ ドサッ

透「いっ……つぅ……」



P「透……!!」タッタッタッ

P「透、大丈夫か……」

P(転んで、またびしょ濡れになった透に近づく)

P(さっきみたいに傘を差しだそうとして……車に置き忘れていた事に気づいた)

P「――透」



透「……はっ、はは。びしょびしょだ」

P「…………」

透「ね」

透「やっと、一緒に濡れてくれた」



P「……透」

P(透はアスファルトの上で仰向けになって、両手を差し出した)

P(抱き起こして欲しいみたいに。あるいは)

P(……抱きしめて欲しいみたいに)

透「もう、ぜんぶ……びしょ濡れ」



透「……置いて帰る? 私のこと」

P「……そんな事、出来ない」

透「じゃあ」




透「……シャワー、貸してよ」




******


透「……ここ?」

P「ああ」

透「……車で1時間って言ってたの、嘘じゃん」

P「……悪かったよ」

P「見つからないうちに入ろう。タオルは被ったままだぞ」

透「容疑者みたい。ウケる」



ガチャ パタン

P「……」

透「おー……家だ。すごい」

P「普通のマンションだよ」

P「シャワーはあっちだ。着替えは適当に用意しとくから、早く入っておいで」



透「プロデューサーは? 濡れたでしょ」

P「後で入るよ」

透「一緒じゃなくて?」

P「放り出すぞ」

透「おっと。はーい」



シュルッ パサッ

透「ふぅ」

洗面台。髭剃り1本。歯ブラシ1本。
知らない鏡。に、映ってる、私の裸。

透「……えっちー」

身体を隠した。なんとなく。



******


透「シャワー、いただきました」

P「おう。とりあえず、ソファで寛いでてくれ」

透「ん。ありがと」

透「……ここ、リビング?」

P「うん」

透「ふうん」



私の家のリビングと同じか、ちょっと広いくらい。
本棚、DVDがいっぱい。テレビ、おっきめ。
窓際に私の制服。サーキュレーターの上でゆらゆらしてる。
ソファーは二人がけ。でも片方はクッション置き場。居心地、良さそう。

P「……じゃあ、俺も軽く浴びてくるよ」

透「はーい」



透「……」キョロキョロ

透「……」ゴソゴソ

透「んー……」ペラペラ

P「……何探してるんだ?」



透「ね。どこ? エロ本」

P「ないよ」

透「えー、なんで?」

P「…………」

P「動画派だから」

透「……なんだってー」



******


P「上がったよ」

透「うい」

透「……あ。借りてます、充電器」

P「ああ……ご自由に」

P(……だいぶ、落ち着いたみたいだ)

P(飲み物入れてくるか)



P「……コーヒーで良かったか?」

透「あ、うん。ありがと」

P「シュガースティック、よければ使ってくれ」

透「ん。……いただきます」



サラサラ ズズッ

透「ふー……あったまる」

P「ああ」

ズズッ コトン

P「……」

P「……で、さ」



P「今日、カギ忘れたんだよな」

透「あ。うん」

P「だから暇つぶしで、普段と別の路線に乗った」

透「そう」

P「傘を忘れたから、雨宿りしようとして迷っちゃって、どうしようもないから俺に電話した」

透「うん」

P「そこまでは……まあ、いいよ」



P「でも、その後だ」

P「家に連れてって欲しいとか、凍死してやるとか。そんな事を言い出したのは、看過できない」

P「……結局家に上げといて、こんな事言うのもなんだけど」

P「何で今日は、こんな事したんだ」



透「……あー」

透「んー……」

透「……えっと。……ごめん。なんて言ったらいいか、わかんなくて」

P「ゆっくりで良い」

P「順番に、思った事を口にしてくれたら」



透「……この前、ショールーム行って」

P「ああ、うん」

透「スマホ、切ってくれて」

P「うん」

透「……でも、入ってはくれなくて。お風呂」

P「……うん」



透「分かってるんだ。プロデューサーの、出来ない事。……したくない事、かもだけど」

透「……でも、プロデューサーは、優しくて」

透「優しいから……お願いしたくなって」

透「だめだよって言われるのは、分かってて」



透「でも……」

透「分かってても、胸がきゅってなって」

透「それで……なんかさ。ワガママ、言いたくなったのかも。たぶん、そう」

P「…………」

透「怒ってる?」



P「……まあまあ、な」

透「怒鳴ったりしないんだ」

P「そういうのは……あんまり好きじゃない。それに」

P「透にだって、どうしようもない気持ちというか……譲れない部分があったんだろ。それは理解してる」

P「やった事には怒るけど、気持ちを蔑ろには……したくないから」



透「……いつも、許してくれるよね。プロデューサーって」

P「んん……そうかな」

透「うん。でも」

透「それじゃ、変わらない。なんにも」

コトン



P「透――……」

P(ぶかぶかな寝巻きを着た透が、身を寄せる)

P(薄い布ごしの、繊細な柔らかさ)

P(湿った細い髪が頬をくすぐる)

P(ガラス細工みたいな無垢の右手が、俺の脚に乗せられる)



透「ねえ――」

P(左腕が、俺の腰を回り込もうとして――)

P「……透。だめだ」

透「違う。……ねえ。聞いて」



透「……怒らないってさ、何も引っかかってないってことじゃん」

透「なんか、それもやだ。だから、ちゃんと見て。で、ちゃんと……怒ってよ」

P「このままこんな事続けるなら、本当に怒るぞ」

透「そうして。私もそうするから」



透「今日は私の事、許さないで。乱暴になって」

透「今日だけでいいから、優しいの……やめてよ」



P「……俺に、何を求めてるんだ」

透「……」

透「プロデューサーと」

透「____、したい」

P「透」



P「今のは、聞かなかったことにする」

P「だから、二度と、同じことを言うな」



透「……っ」

透「……なんで」

透「なんで、だめなの」

P「俺がプロデューサーで、透がアイドルだから」



透「じゃあ、プロデューサーやめてよ」

P「やめない」

透「じゃあアイドルやめる」

P「やめさせない」

透「やめる。辞表出すから」



P「――いいか、透」

P「もしそんな理由でアイドルを辞めたとしても、俺は透とセックスなんてしないし」

P「もしそんな理由でアイドルを辞めたとしたら、俺は」

P(………………)

P「……透の事を、嫌いになる」



透「――」

透「――……っ」ギュッ

P(服が、強く掴まれている)

P(……一人の女の子が、俺の胸元で震えてる)

P(でも)

P(慰めちゃいけないし、謝ってもいけない。……そんな資格はないから)



P「……そろそろ服、乾いただろ」

透「乾いてない……」

P「そんなわけない」

透「でも」



P「透」

P「……透の気持ちの強さまでは、俺にはわからない」

P「でも、透の気持ちがどっちを向いているのかは、分かってる」

P「その上で言うぞ。――今日はもう、帰ってくれ」



透「――――――」

透「なに、それ」

透「だって、さっき……言ったじゃん」

透「なに、それ……」

透「…………」

P「…………」



透「…………」

透「…………わかった」

透「着替える。で、送ってもらって、帰る」

透「……それで、いいんでしょ」



P「……ん。そうだ」

P(酷な事、言ってるよな。……ごめんな)

P「一旦、出ていくよ」

透「――待って。まだ」



透「ここに居て。……見てて」

P「……着替えを?」

透「うん」

P「見ないよ」

透「目、離したら」

透「またどっか行っちゃうかも。ううん、行く。絶対。窓から」



P「ここ、三階だぞ」

透「うん。分かってる」

P「…………」

P「はぁー……」

P「……見てるだけだからな」

透「ん」



透「今だけでいいから」

透「一途、オンで」



P(――そして透は、本当に服を脱ぎ始めた)

P(ガラスのように割れそうな、シミ一つない柔肉)

P(中にある骨を幻視してしまうほどの、細い腕。直角に近い肩)

P(ゴム紐に指をかけて屈みこむと、手のひら一つ分の乳房が小躍りするように揺れる)

P(スウェットの下から現れたのは、径の小さい臀部。まっすぐな大腿部。華奢な下腿)

P(……一糸まとわぬ姿を晒すと、透は俺の方へ身体を向けた)



透「焼きつけといてね。目」

透「オカズにしてもいいよ」

P「しない」

透「えー。動画より、本物の方がいいって」

透「あ。ムービー撮る?」

P「絶対撮らない」



透「むー……じゃあ、触ってみる?」

P「あと三分で制服着ないと、裸のまま追い出すからな」

透「おっと」

透「……そういうアレも、ありか」

P「やっぱり動画撮って親御さんに送ろうか?」

透「それはやばい。すぐ着ます」



******


ザァァァァ

P「…………」

透「…………」

P「……思ったより、混雑してるな。ちょうど帰宅ラッシュの時間だし」

透「あー……うん」

P「親御さん、なんて言ってる?」



透「『ご飯作ってのんびり待ってる』って」

P「そうか」

透「……お腹空いた」

P「だろうな」

P「夕食、なんなんだ?」

透「おでん、だって」

P「お、いいな。俺も買って帰ろうかな」

透「いいね」

P「だろ」



P「…………」

透「…………」

P「……なあ、透」

透「ん。なに?」

P「……今日は、俺も焦ってたし、透の心の中をちゃんと分かってなかった」

P「だから、最終的には家に上げてしまったけど」



P「次は迎えに来ないし、もう家には招かない」

P「……今日あったことは全部忘れてくれ。ちょっと良い白昼夢を見れたくらいに思っててくれ」

P「そうじゃないと、俺は透をこれ以上プロデュース出来ない」

P「……返事は聞かないよ」



透「…………」

プロデューサーは黙って、ハンドルを握り直した。
車は、家に着くまでずっと飼い殺されていた。



いっそ、ハンドルから手を離してくれたら良かった。タイヤのおもむくままに、どこまでも。
だって車も本当は、別の場所に行きたいのかも知れないのに。

国道は、嫌でもまっすぐに伸びている。



******


――1週間前、テレビ局。

『ノクチルのみなさん、ありがとうございましたー!!』



雛菜「は~~~~……やっと終わった~~~~!!!」

小糸「き、緊張したね……久々の、生放送だったし」

円香「まあ、一曲歌うだけだったけど」

小糸「そ、それでもだよ! 後半、緊張でちょっとフラフラしちゃって……」

雛菜「あ~、やっぱり~? 見えてた~!」

小糸「ぴえっ……」



円香「……それ、緊張とは違うんじゃない」

雛菜「へ~~?」

円香「今日はまあ、それなりに大きな仕事だけど」

円香「先々週はショップのイベントの手伝いと、半分ボランティアみたいなキャンペーン係」

円香「先週は私たちじゃなくても良さそうなファッション誌の撮影と、夜七時からの二時間ぶっ通しのラジオ」



円香「ついでに来週は、期末テスト」

雛菜「あは~、そうだっけ~?」

円香「……」

円香「……どう考えてもおかしいでしょ、仕事のペース」

円香「ちゃんと高校と両立出来るようにって話だったのに、今は」

円香「……正直、しんどい」



小糸「う、うん……」

小糸「でも! プロデューサーさん、何か考えがあるかもだし……!」

円香「ちゃんと筋の通った考えがあるなら、説明するでしょ」

円香「でも最近のあの人は……送迎の時以外、顔も合わせようとしないみたいに見える。明らかに、何かがおかしい」

円香「……何か知ってる?」



透「ん」

透「あー……」

透「……わかんないや」

雛菜「雛菜もわかんな~い」

円香「そっちには聞いてない」

雛菜「へ~?」



円香「……とにかく、いい加減一度くらい問い詰めるべきだと思う」

円香「今日はタクシーで帰れって言われてるから、また明日にでも。それでいい?」

小糸「う、うん……」

透「――んーん」

透「今日。聞きに行く」



円香「……」

円香「今日は流石に会えないと思うけど」

透「わかんないじゃん。やってみなきゃ」

円香「誰がやるの?」

透「わたしがやる」



透「事務所行って、待ってみる。ダメなら、電話する」

透「やるから。わたし」

円香「……何かあったの? あの人と」

透「んー……まあ、ちょっとだけ」

透「どっちにしろ、会う必要あったから。任せて」

円香「……わかった。任せる」



円香「何か言い訳されたら、こっちにも教えて」

透「いえっさー」

円香「……それは男」

透「あれ。じゃあなんて言うんだっけ」

小糸「えっと……イエス、マム……じゃない、かな?」

透「おー。じゃ、イエスマム」

円香「ん。頼んだ」



******


コンコン ガチャッ

透「……お疲れ様でーす」

はづき「お疲れ様です~」

はづき「……あら~。今日は直帰ではなかったですか?」

透「あ、はい。そうなんですけど」

透「プロデューサー、いますか」



はづき「今はいないですね~」

はづき「営業に行ってるみたいですが……何か大事な用事ですか?」

透「えっと、はい」

透「プロデューサー。待ってたら、事務所に帰ってきますか」



はづき「う~ん、たぶん一度は立ち寄るとは思いますが……」

はづき「夜の何時になるか、わかりませんよ~。それに、私ももうすぐ帰りますから……」

透「…………」

透「じゃあ、いっこお願いしても、いいですか」

はづき「……?」



透「――鍵、借りたいです。事務所の」

透「明日の朝まででいいから」



はづき「……どうして、ですか?」

透「……」

透「……話したいこと、と……渡したいものがあるから。です」

はづき「…………う~ん」

はづき「それは、どうしても必要なことですか?」



透「はい」

はづき「う~ん……」

透「お願いします。なにとぞ」

はづき「……」



はづき「ダメですね~」

透「……そっか」

はづき「はい。なので~」

チャリン

透「…………」

透「え」



はづき「明日の朝九時までに、ここに持ってきてください~。それなら、なんとか誤魔化せます」

透「……おぉ」

はづき「本当は、ダメなので」

はづき「……社長には絶対、内緒にしてくださいね~」

透「――ふふっ」

透「イエス、マム」



******


「ふーふふん、ふんふふん、ふんふんふふふん……」

真っ暗で、ちょっと寒い。
手元のノートを握りしめて、鼻で歌う。
空気は湿っていて冷たい。透明な雪景色みたいに。



「ふふんふふふーふんふふん……」

あの映画の結末は、たしか。
たくさん仕掛けられた爆弾を、結局一つも解除できなくて。
自分で自分を撃った後、ビルが崩れていくのを、好きな人と一緒に眺めていた。



「ふんふふふん、ふふふんふふふふーふん、ふんふんふふん」

私も、自分を撃っちゃう。
そしたら、爆発する。全部崩れる。
アイドルとか、想いとか、そういうのが。
だから、そうなる前に。



「あいわなびー、ふりー」

私を空まで殴り飛ばしてほしい。
そしたらきっと、爆発なんて見えなくなるから。
前までみたいに笑って、話して、私を天国に連れて行ってよ。
ねえ。



「ねえ――」

“ねえ彼女 その銃を手放すなよ
多忙でも退屈じゃ仕方ないしさ
フェンスの向こう また誰かのイマジネーションが床を汚してる
アイワナビーフリー”



「――ばーーーーーん!!!!」



P「うわああああああっっっ!?!?」

P「はっ、はっ、はっ……透!?」

透「おかえり。プロデューサー」



P「な……なんで、事務所に……」

P「いや……そもそも、こんな時間までいたらダメだろ! 何時だと思ってるんだ!?」

透「えっと……22時46分、だって」

P「わかってるなら尚更だ! なんで残ってるんだ!?」



透「日誌」

P「え?」

透「書いたから。読んで」

P「…………」

透「読んでよ、私の」

透「言葉にしたから。全部」



P「……とりあえず、電気つけるよ」

透「あ、うん」

カチッ

P「ふぅ……」

P「……で」

透「はい」



P「色々、言いたい事はあるんだが」

透「うん。……私もあるよ。たくさん」

透「仕事、無理やりたくさん入れて。レッスンも見に来てくれないようになって」

透「――避けてたでしょ。私のこと」



P「…………」

P「……ああ。そうだよ」

透「やっぱり」

透「……そっか」

P「うん」

P「わかるだろ。理由は」



透「わかるよ」

透「でも、わかって、終わりじゃない」

透「そうならない」

P「……何で、そうならないんだ」

透「人の気持ちって、ちょっとくらいはわかる時もあるけど。全部は絶対、わからないから」

透「だから。それ、読んで」



透「それでも、全部じゃないけど」

透「読んで……その後で、教えて。プロデューサーの考えてることも、出来るだけ。たくさん」

透「そうじゃないと」

透「……苦しい」

透「気持ちが通じないのって。息が、出来なくなるくらい……苦しい」



P「…………」

P「……読めば、いいんだな?」

透「うん」

P「…………」

ペラッ



P(最初の文章は、2ヵ月前)

P(ショールームを見に行った時の事だ)

P(……『一緒にお風呂に入ろうって言った。断られた』)

P(『悲しかった。すごく』)



P(次は……およそ1ヵ月前)

P(雨の中、迎えに行った日)

P(……『迎えに来てくれた。嬉しかった』)

P(『でも、私の思ってること全部、だめって言われて』)

P(『遠ざかっていくみたいだった。悲しかった。すごく』)



P(最後は、直近の日付だ)

P(『ずっと、プロデューサーは話してくれない。たぶん、避けられてる』)

P(『悲しい。すごく』)

P(『わたしは』)



P(『憧れてる、と思う。____に』)

P(『気持ちを言葉にするのは、難しくて』)

P(『頑張って言葉にしても、伝わらない時も、嘘を吐かれる時もある』)

P(『だけど____の中には、きっと気持ちだけがある』)



P(『何も見間違えない距離で、二人でくっついて』)

P(『難しいことはぜんぶ忘れて、息を切らして、手を繋ぎながら』)

P(『プロデューサーと、キスをしたい』)

P(『朝に目を覚まして、隣で寝ているプロデューサーを見たい』)



P(『そればっかりをずっと、考えてる』)

P(『ちゃんと、伝わってほしい。知ってほしい』)

P(『それで、もし、嫌じゃないなら』)

P(……日誌は、そこで終わった)



P「…………」

透「プロデューサーってさ」

透「嫌い? 私の事」

P「そんなわけないよ」



透「じゃあ、何とも思ってない?」

P「……そんなことも、ない」

透「じゃあ」

透「しよう。____」



P「透」

透「うん」

P「好きとか、嫌いとか、そういう問題じゃないんだ」

P「……認めるよ。透の事、少し、意識してる。他の子よりも」

透「……!」

P「だから……断り切れなくて、家に上げちゃったんだよな」



P「――でも。それでも」

P「セックスは、しない」

P「ルールとか、法律とかじゃない」

P「俺たちを信じてる周りの人や、将来の透自身のためだ」

P「……分かってくれよ」

透「……」



透「やっぱり、全然分かってない」

透「……いいよ。じゃあ」

透「見せるから。心の中」



バタン カンカンカンカン......

P「っ、透――」

P(声をかけるより前に、透は踵を返して)

P(階段を降り……いや、登ってる……?)

P「――――!?」



P(俺は急いで後を追った)

P(ものすごく、嫌な予感がしたから)



******


――屋上。


P「はっ、はっ、はぁっ――透!?」

P(透は、屋上にいた)

P(……落下防止の柵を乗り越えた、その向こうに)

P「透!! ……っ、何やってるんだ!!」



透「え。……ちょっとー」

透「プロデューサーが上がってきたら、意味ないじゃーん!」

P「何が……っ!?」

透「飛び降りながらー、窓に向かって言うつもりだったんだからー!」

透「――『愛してる』、って!」



P「そんなことしなくても――分かってる! 伝わってるよ!!」

P「……でも、応えられないんだ!! 透も本当は分かってるだろ!?」

P(叫びながら、ゆっくり近づく。透が驚かないように)

P(あと数歩で、手を掴める。そんな距離まで来た時)

透「……分かってるよ」

P(――透の何かが、爆発したように見えた)



透「――知ってるよ! プロデューサーはプロデューサーで、私はアイドルだから! いけないことだって!!」

P(――気圧されてしまう。足が止まりそうになる)

P「わかってるなら、なんでっ……!」

透「――人を殴るのは、悪いことで」



透「でも……殴る人はいるじゃん! 捕まる事より、我慢する事の方がつらいから!」

透「捕まるって分かってても、殴らないと納得できない時があるから!!」

透「私は……納得してない!! できない!!」

透「落ちて死ぬよりも……納得できないままの方が、嫌!!」



P(透はそういうと、身体を後ろに傾けて)

P(柵を掴んでいた指を、離そうとする――)

P「透っ!!!」



P(夢中で伸ばした腕は――届いた)

P(だけどそのまま引きずられて、柵にぶつかる)

P(透は俺に手を掴まれたまま、空中に背中を預けている)

P(――透の命は今、俺の腕一本に支えられていた)

P「透……っ! 危ないから、本当にやめてくれ……!」

透「じゃあ、選んでよ」



P(俺の手が滑ったら、本当に死んでしまうというのに)

P(そんな事をまるで気にせずに、透は俺の目だけを見ていた)

透「私を突き落として捕まるか、それとも」

透「私と____して、捕まるか」

透「……選んで。ここで」



******


……今になって思えば。
普通に、脅迫だ。
でも脅迫って、大事なものじゃないと成り立たないから。
つまり、そういうことでしょ。

透「ね」



P「ん……?」

透「毎日行っていい? プロデューサーの家」

P「それは普通に困るからやめてくれ」

透「えー。死んじゃおっかな」

P「……心臓に悪いから、本当に勘弁してくれ。運転中だぞ」



透「んー……じゃあ、週一?」

P「多くてもそれくらいで頼むよ」

P「……こうなった以上、もう……透の事を拒否したりはしないけど」

P「ちゃんと、ルールを決めておこう」



透「ルール?」

P「うん。例えば、そうだな」

P「ルールその1。俺の家について口にしてはならない」

透「ふむ」



P「ルールその2は――」

透「『プロデューサーの家について口にしてはならない』」

P「……そうだな。あとは――」



1.プロデューサーの家について口にしてはならない
2.プロデューサーの家について口にしてはならない
3.行っていいのは私一人だけ
4.家に行くのは週に一回まで
5.どちらかが音を上げるか、『やめて』と言ったら終わり
6.制服とスーツは脱いで____する
7.時間制限は無し
8.プロデューサーの家に来たら、必ず____をしなければならない


P「……後半はもう、セックスのルールだろ」

透「いいじゃん。それっぽいし」

P「…………」

P「服を着たままするのは、無しなんだな」

透「…………」

透「えっ」



P「…………」

透「…………」

キキィ

P「……着いたぞ」

透「うす」



ガチャ バタン

P「……」

P「……なあ、透」

透「ん」

P「もし、このルールを守れなかったら」

P「……次は、透を突き落とすよ」



透「……」

透「……いいよ。それでも」

P「……」

P「……入ろうか」



******


シャワーは、一緒に入った。お風呂も。

透「え、ムキムキだ。鍛えてる?」

P「それなりに。何もしないと弛むからな」

透「かっこいいじゃん。細マッチョだ」

P「そこまで行かないと思うけどなぁ」



ザブン

透「ね、後ろからぎゅってしてよ」

P「あぁ」

透「……ふふ」

透「のぼせそう」

P「上がるか?」

透「やだ」



透「ちゃんと、天国まで連れてって」



バスタオルで身体を拭いたら、服を着ないままキスをした。
心臓を抱き締めるみたいに、胸の中に柔らかい波が広がっていった。
ちょっと強めに肩を抱かれて、それだけで動けなくなる。動きたくなくなる。
首とか鎖骨とかも、無音のキスをされて、ハンコを押されたみたいに達成感が残っていった。



透「んっ。……慣れてるんだ。やっぱり」

P「慣れてるってほどではないよ」

透「何人目? わたし」

P「……ほら、ソファ行くぞ」

透「あ。はぐらかした」



リビングに行って、横並びで座る。全裸のまま。
脚と脚を、ぴたってくっつける。
長さも太さも、全然違う。大人と子供だ。

透「……ん」

じっとしてると、頭を撫でられた。
身体同士もくっつけて、触れてる場所がどんどん増えていく。
身体が、熱くなってく。



P「透こそ、どうなんだ」

透「んっ……なにが……?」

P「経験。こういう事の」

透「ない。……他に好きになった人、居ないから」

P「……そっか」

また、おでこにキスが降った。



プロデューサーが腰を下ろした拍子に、そいつが目に入る。
画面には映らないやつ。わたしには無いやつ。バナナみたいな形をして、張り詰めたみたいに真っ直ぐで、目を惹かれる、そいつ。

透「ね、これ……触ったら痛い?」

P「ん、ああ……。痛くはないけど……あんまり触られると、アレかな」

透「じゃ、ちょっとだけ」



重力より強い力で上を向いてるそいつに、指で触れる。
熱い。血と同じくらいの熱さ。
それと、思ってたより硬い。骨が入ってるみたいだ。あれ、本当は筋肉なんだっけ。

透「ムキムキだ」

かっこいいじゃん。
目をつぶって、先っぽにキスをした。



P「……っ、ふ」

透「ん……ごめん、痛かった?」

P「いや、大丈夫……ビックリしただけだよ」

笑いながら、抱きしめられた。
ちょっと汗をかいた胸板が、わたしの胸を潰した。
背中に回された腕が、脊髄の周りを溶かして、骨の中まで掴もうとしているみたいだった。



と、思ったら、そのまま体重が乗ってくる。ゆっくりゆっくり仰向けにされる。
プロデューサーの目を見上げた。

透「ねえ」

P「ん」

透「……もう、入れるの?」

P「いや。もう少し」

P「初めてだから、時間かけないと」



それから。
それからは、三十分くらい記憶がない。
あんまり覚えてないくらい――指と舌で、ぐちゃぐちゃにされた。
プロデューサーの触ったところが全部導火線みたいにヒリヒリした。
身体が溶けてるみたいに水がびしゃびしゃに溢れてた。
頭の奥が震えて壊れそうなくらいにビリビリしてた。
足を閉じようとしてもぐいって開かれて両手をまとめて掴まれて体重かけられて逃げられなくて何も逆らえないままでぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃってされた。



『やめて』って言うと終わりになっちゃうから、それだけは言わないようにして。
自分じゃないみたいな高い声を聞きながら、天井が白と黒にチカチカするのを見ていた。

透「はあっ、はあっ、はあっ……あっ、っ、ぁあ――はあっ、はあっ――」

P「……大丈夫か。息、出来るか」

透「はぁっ、はぁっ――ん――」

頭真っ白のまま、頷いた。
今、最高に、息してたから。



酸素が足りなくて、そこまでの記憶は飛びそうだったけど。
そこからの事は、覚えてる。

透「はぁっ、はぁっ、はぁっ――は、んっ――」

扉を閉じるみたいに、キスで口が塞がれて。

透「――あ――」

最後の出口も、プロデューサーが閉じようとしていた。
大きくて硬い、乱暴なそいつを使って、優しく。



透「――ねえ」

P「ん……?」

透「好きって、言って」

背中に指が食い込んだ。
ぐいっと押し広げられた身体の一番奥まで、一気にそいつに塞がれて。

P「透」



P「好きだよ」

わたしの気持ちは、プロデューサーに閉じ込められた。
今夜が終わっても、きっと、ずっと。
たぶんそこに、永遠があった。



******


「ん……んっ、ぁ、あっ、んっ……」

「はっ、はっ、んっ、んっんっんぅ……」

「んっ――んむっ、あむ……んふふっ。……やば、ちょっと照れる、かも」

「……っ、え――ちょ、待っ……んんっ、はっ、や、待って、そんなっ、急に――」



「んっ、んっんっんっ……うっ、く、はぁーっ、はぁーっ……あっ!!」

「――あっ、あっあっあっ……! や、やめ……だっ、やめ、ない、でっ……!!」

「あっあっやっ、だめっ、気持ちいっ……だめだめだめっ……いっ……!!!」

「~~~~~~ッッ!!!」ビクッ



「――はっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁぁ……っ」

「ふぅー……」

「あー……。……ふふっ」



「死ぬかと思った」



******


透「……来週、また、来るから」

透「居てね。ここに、ずっと」

P「……」

P「そういえば、もう日付変わってるけど」

P「家族には、なんて言ってるんだ」



透「雛菜の家で朝まで映画観てる、って言った」

P「すぐバレるだろ……」

透「大丈夫だって。雛菜、口硬いし」

P「まあ……上手くやってくれそうではあるけどさ」



P「じゃあ、朝まで居るのか」

透「うん」

P「そっか。来週も来るのか?」

透「たぶん」

P「そっか。……ははっ」

透「?」



P「じゃあ……パジャマくらい買っとくか」

透「あ。……うん」

透「……ふふっ」

透「なんか……上手く言えないけど」

P「ん?」



透「いいな、って。思った」

なんか、いい。
説明出来ないけど、ただ幸せってだけじゃなくて、もっと、ずっといい気分。
ずっと前から、こうなりたかった。これが続けば、もっといいなって思った。



だけど。
来月で、これは、終わった。



******


P(当然のことだ)

『――アイドル浅倉透、関係者と逢引か』

P(最初に身体を重ねた日から)

『未成年淫行』『真夜中のスクープ』『事務所や仕事場から家まで直行』『毎週足繁く通う姿』『透明な少女の濁った関係――』

P(こうなる事は覚悟していたし――どうするかも決めていた)



P(週刊誌にスキャンダルが載った、その次の日)

P(俺は、自分から社長室に向かった)



天井「――記事を書いた週刊誌には、誤報として謝罪と訂正の記事を書かせる」

天井「飛び火した関係者は全員黙らせる」

天井「幸い、浅倉も口を噤んでいる。真相は彼女の家族すら把握していない」

天井「多くの手間がかかるが……口裏を合わせれば、まだ揉み消せる段階だ」

天井「掛かる経費は……貴様のこれまでの働きに免じて、大目に見るとしよう」



天井「ゆえに」

天井「――この辞表は、受け取らんぞ」

天井「貴様は必要とされている。このプロダクションにも、彼女自身にもだ」

天井「貴様が辞める理由など……辞めてもいいと判断され得る理由など、一つもない」



P「――いいえ」

P「受け取ってもらいます。社長」

天井「何故だ。理由を言え。納得するに足る理由を、だ」

P「自分の担当アイドルに手を出したから。……それ以外の理由が必要ですか」

天井「二度も言わせるな。そんな事は幾らでも揉み消せる」



P「事実を揉み消して、無かったことにしたら」

P「踏みにじられた人の気持ちも、無くなるとお思いですか」

天井「…………」

P「たとえ口裏を合わせても、家族の中に疑いは残るでしょう。そんな噂の立つプロダクションに娘を預けていたのかと」



P「ノクチルのメンバーだって不安になるでしょう。幼なじみが、自分たちの知らないところで汚されていたかもしれないと知ったら」

P「……私が283プロに残り続けるなら。透も含めて、彼女たちはアイドルを辞めるかもしれない」

P「そんな事はさせないと……して欲しくないと、言ったんです。透に」

P「……もう、今更遅いですが。それでも、少しでも彼女たちの道行を邪魔したくないんです」



P「だから私は、283プロを去ります」

P「……今まで、本当にお世話になりました」

天井「…………ッ」

天井「なら尚更、お前は……!!」

天井「…………」

天井「…………いや」



天井「……貴様の言い分は理解した」

天井「ならば、出て行け。今すぐに」

天井「二度と私に、その不愉快な顔を見せるな」

P「……はい」

P「失礼します」



ガチャ パタン

天井「…………」

天井「………………」

天井「………………愚かな男だ」



******


はづき「っ!」

P「あっ……あー……」

P「……どうも」

はづき「……おはようございます」



P「…………」

P「……仕事増やしちゃって、すみません」

はづき「……ほんとですよ~」

はづき「社長のお陰で落ち着きましたけど、昨日は電話対応で大変だったんですから」



P「はは……」

P「……本当に、すみませんでした」

P「それでは、失礼しますね」

はづき「はい」

はづき「……ちなみに、これからどうされるんですか?」



P「とりあえずは地元に戻って……一度、親父に殴られてきます」

P「それから、そっちで仕事を探す感じですね」

はづき「なるほど~。お引っ越しですか」

はづき「じゃあ……落ち着いたら、お手紙でもください」

P「……いいんですか?」



はづき「……だって」

はづき「これで一生のお別れなんて、あんまりじゃないですか」

P「…………」

はづき「……後悔してるんです」

はづき「こんな事になるなら、あの日、彼女に鍵を貸すべきじゃなかったって」



P「……ああ、なるほど」

P「……はづきさんは何も間違ってませんよ」

はづき「でも」

P「はづきさんは、透のために鍵を貸して」

P「透も、自分のために動いた」



P「でも俺だけが、透の将来のためになれなかった」

P「……それだけの話です」



******


P「よいしょ……っと! ……はは」

P(思ったより、荷物多いな。あと何日かかるやら)

P「……あ」

P(透と一緒に買いに行ったパジャマ)

P(結局、二回くらいしか使わなかったな)

P「……捨てるか」



ピンポーン ピンポーン

P「!」

P「……」

P「……」

ピンポーン ピンポーン ピンポーン



ガンガンガン

『ねえ、居るんでしょ』

『出てきてよ、プロデューサー』

『ねえ!』

P「…………」



ガンガンガン

『出てきて……出てきてってば!!』

『…………』

P「…………」

『出てきてくれないなら』



『――今から、飛び降りるから!!』

『ごー、よーん!!』

P「…………」

『さーん!!』

P「…………」

『にー……!!』



ガチャ

透「い――」

P「透」

透「――……」

P「大声出すな。近所に迷惑だろ」

透「……やっと、出てきた」



P「…………」

透「なんで、辞めるの」

P「透とセックスしたから」

P「それがバレて、周りに迷惑がかかるなら、俺が全部の責任を負う。そういう風に、最初から決めてた」

透「違う、そんなの……待ってよ。勝手に、決めないでよ」



透「言ったじゃん。ずっとここに居て、って」

P「ああ、言ってたな」

P「――でも」

P「俺から約束をした覚えはないよ」

P「いつかこうなるのが、わかってたから」




P「俺は、こうなる事も覚悟で透を家に招いた」

P「雨に濡れた透を見て、こうする事しか思いつかなかった」

P「……良いか悪いかで言えば。悪い事だった」

P「こうなったのは全部、俺のせいだよ」



透「ちがう。そんなこと聞いてない」

透「ちがう。ちがう、ちがう!!」

透「こんな……」

透「こんな事になりたかったんじゃ、ないのに」



P「じゃあ」

P「どうなりたかったんだ」

P「どうなれば、良かった?」

透「それは――――っ」



言葉が、出ない。出来ない。苦しい。昨日まで、幸せな気持ちだったのに。
なりたかったのは、こんなのじゃない。
ちがう。ちがう、でも。



透「――――っ」

なんで……出ないの、言葉。
なんで、分からないんだろう。言葉が。気持ちが。



…………。
私はプロデューサーに、気持ちを教えてってお願いしてばっかりで。
私からは、嫌な気持ちばっかり言葉に変えて。

私の言葉で、好きだよって伝えてなかった。一番大事な事なのに。
だから、一番大事な時に言葉が出てこない……の、かな。



透「――ねえ、だったら」

透「私のこと、突き落としてよ。いま」

透「このままさよならって言うより、ずっと、その方がいい」


――だから、出て来る言葉はこんなのばっかりで。
プロデューサーは、困った顔で笑った。



P「…………」

P「……はは」

P「透」



P「だめだよ」



まだ何か言わなきゃって思った、その前に。
プロデューサーの扉と、鍵が閉まった。



******



******

******

******



******



――数年後、コンビニ。

『お騒がせグループ【ノクチル】、解散宣言』



「……えっ」

思わず、スポーツ新聞を手に取った。



『色々とお茶の間を騒がせてきたアイドルグループ【ノクチル】が、来月のライブを最後に解散すると発表があった』

『メンバーは今や全員大学生。福丸小糸が勉学に専念したい事や、樋口円香のソロ活動が増えてきたことから、グループでの活動を終了する事になったとのこと』

『市川雛菜は既に配信者として個人の活動が増えてきており、《ライブが無くなる以外は今まで通り》とのコメント』

『リーダーである浅倉透については、これからの活動内容を検討中と事務所から解答が……』



「…………」

夕食の弁当と一緒に、その新聞も買った。
……新聞を立ち読みするのは、行儀が悪いと思ったから。



******


「…………ん」ピリリリ ピリリリ

「もしもし。――こんばんは、はづきさん」

「……ええ、ちょうど見ました」

「ええ。……ええ。……やっぱり、そうですか」



「全員――やりたいことをやるために、グループって形をやめただけですよね」

「彼女たちは変わらず、幼馴染の彼女たちのまま。【ノクチル】じゃなくなっても、何も変わらない――」

「……ええ、よかったです。俺が言えたことじゃないんですけど」



「――そういえば、年賀状ありがとうございました」

「ええ、妹さん達も元気そうでなにより――え?」

「……住所を見られた? 俺の、ですか?」

「いったい誰に――」



???「……あ」

???「みーつけた」



「え」

「誰――わっ!?」



ドンッ ドサッ

「いっ……てて……」

「なん……だ、よ……っ」

『――――? ――――』ピッ

「っ、はづきさん――」



???「電話、オフ」

???「で。一途、オン」

???「……こっち、見て。プロデューサー」



「――――」

「――――え」



透「――あんまり変わってないね。プロデューサー」

透「すぐわかった。遠くからでも」

「…………」

「…………」

「……透は……少し、変わったな」

透「どの辺が?」



「髪は、伸ばしてるのか」

透「うん。ちょっとだけ」

「そのコート、自分で選んだだろ」

透「え、うん。……え、似合ってない? もしかして」

「そんなことない。すごく、似合ってるよ」

「透のものだな、って感じがしたから」



透「…………」

透「やっぱり変わってないね。プロデューサー」

「ああ」

「俺は……全然、変わってないよ。あの頃から」

「……なあ、透」

透「うん?」



「ノクチル、解散したんだってな」

透「うん」

「円香も、小糸も、雛菜も、やりたいことが決まってるんだよな」

透「らしい」



「透は」

「これから先、どうなりたいんだ」

「……もし決まってるなら。今ここで、聞かせてくれないか」

透「――――」

透「……うん」



透「今なら言えるよ。……語彙力、増えたから」

透「私がどうなりたいのか」

透「わたしが、どうしたかったのか」



私も、私の周りも、変わっていく。
だけど私がしたかったことは、プロデューサーがいた時から、ずっと変わってない。
色んな歌をうたって、色んな人と話をして、たくさんのファンに手を振って。
ようやく、言葉に出来るようになった。



透「私ね。プロデューサー」

突き落とすんじゃなくて、一緒に落ちたかった。
プロデューサーの顔を見るんじゃなくって、プロデューサーと見つめ合いたかった。
____をするんじゃなくて、____よりも真っすぐに、言葉を伝えたかった。
それが、今なら出来る。
わたしだけじゃなくて、プロデューサーもここにいるから。



透「私が幸せになる、だけじゃなくて」

透「――私と、プロデューサーと」



透「二人で、一緒に、幸せになりたかったんだ」

終わりです。
途中で出てきた『ねえ彼女 その銃を手放すなよ』はPEOPLE1の『アイワナビーフリー』という曲からの引用です。
YouTubeに公式MVあるので是非。


過去作です

283P「歯医者のタオルってエロくないですか?」

【モバマスSS】志乃「Pさん、本当はお酒苦手なんでしょう?」

【モバマスSS】モバP「まゆ、腕の骨を折らせてくれないか」
【モバマスSS】モバP「まゆ、腕の骨を折らせてくれないか」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1656001840/)

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