「私は喰らい、殺されるしかない」 (26)

少女は、廃墟となった病院でつい15分程前まで生きていた少年の肉を喰らう。

本来なら熟成させてから食べるつもりだったが、40キロもある肉を運びながら逃げられる訳もないし、熟成を待つ前に飢えて死んでしまう。

ふと足音が聞こえる、恐らくこの少年を探しにきたのだろうか、足音から察するに3人か、相手が丸腰で、こちらに武器があれば殺せるだろうが生憎、ナイフは少年を解体する為に使ってしまい切れ味が落ちている。

仕方ないので比較的長持ちする部位だけをタッパーに詰めて、鞄へと仕舞い、天井裏を伝って廃墟から逃げ出した。


彼女は人食い、食屍姫ネクロフィリア。

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血肉の臭いというものは簡単には消えない、しかし古来より人を食い続ける一族は、その臭いを消すための技術を作り出した。

香水である。

表の歴史では中世西洋で貴族達が己の体臭を隠すために生み出させたと言われているが、違う。

人の肉を喰らう、暗黒儀式を行っている事を隠す為である。

そして数百年の時を経てもまたその芳香は、恐ろしい真実を塗り隠すのであった。

花の匂いを纏った少女が街を行く、久々のごちそうに満足したい所ではあるが、今日の収穫では1週間持つかどうかといったところだろう。

できれば処理しやすい大人の女を二人くらい欲しい、そうすればしばらくは外に出なくてもいける、と彼女は考える。

では、どうすればいいだろうか……酔った風俗嬢でも持ち帰るか?
だが、風俗嬢はタバコのせいでマズくて仕方が無いし、薬物や病気持ちだったら最悪だ。

レズビアンでも狙うか?割と現代社会は同性愛者には優しい、そういう場所に行くのもいいかも知れない。

そんな思考に集中するあまり、彼女は電信柱に頭をぶつけ転倒してしまった。

「大丈夫です?」
塾帰りであろう女子学生が、手を差し出す、これはしめたと心の中で舌なめずりをする、塾通いの学生といえば親が共働きの一人っ子というのがよくあるパターンだ。

うまく取り入れば、家族まとめて私の食事だ。

「ちょっと……つらいです……」
全く、痛くはないのだが痛そうに演技をする。
さあ、家に案内するんだ。
「こんな時間じゃ…病院やってないしなぁ……じゃあ…ちょっとうちで簡単な手当てをするからさ」
よし来た!自分の思惑通りに事が進み、食屍姫は心の中で快哉を上げる、だが
「君達、こんな時間に何をしているんだ」
巡回中のお巡りさんだ、全くいい時代になったものだ、クソ!
心の底から込み上げる殺意を押し殺し、彼女は起き上がった。
「いえ、すみません…ちょっと電信柱に頭をぶつけちゃって…介抱してもらってただけです……ご心配ありがとうございます……家族が待っているので……では失礼します」
家族なんて居ないが、そういえば大体の人間が納得してくれるので、家族というのは便利な存在である。

結局、少女の邪悪な欲望は一人の職務に忠実な警官によって阻止されたのであった。

一応の自宅に戻り、少女は「肉」を空っぽの冷蔵庫へとしまう。

彼女の一族はある神を崇め始めた代からずっと、人肉以外の食物では生きられなくなってしまった。
しかし、代わりに普通の人間よりも強い生命力を持つ。


ただ、それが圧倒的な優位性であったのも昔の話である。

現代では発達した銃火器であっというまにおだぶつである。

故に闇と人の世に潜み、細々と生き続けるしかないのである。

「諸行無常ですなー」
一人そう呟くと、少女は骨をくわえて、携帯端末でニュースサイトを巡る。

自分の犯行に対する世間の反応を見て、行動を起こさねば、厳重に警戒されてしまっては飢え死にだ。

両親を食べてからもう随分立つが、特に寂しさを感じる訳でもなく彼女は彼女の平穏を過ごす。

深夜2時を回る頃、少女は冷蔵庫にしまった肉の一部を取り出し、棚から香料を取り出し。

いわゆる「料理」を始めた

まず、人間離れした握力で肉を強く握り、タッパーの中に血を搾り出す。

そしてその血と黒い葉を火にかけ、その間に肉を切る。

材料が人肉になっただけで、料理というものは暗黒の儀式となる。

異様な空気の中、13歳の少年だった肉は焼かれ、煮られ、3時を回った頃にはもはや牛や豚と同じようにただの食物と化していた。

「いただきます」

この少年がどういう人生を歩んできて、どういう人と関わり、今、食べられている……それを想像するだけでゾクゾクする

食屍姫は恍惚とした表情で食事を続けた。

彼女にとって、人を食う事は食事であり、性行為であり、儀式であり、生きる事なのだ。


宴は料理を完食する事で終わりを告げた。

「ご馳走様でした」

感謝の言葉も忘れてはいけない

この少年、その両親、友人、そしてこの少年と出会ったシチュエーション…運命にも感謝だ、これでまだしばらく生きられる、生き物は皆、食べた物に生かされてる、だから感謝を忘れない、その食べ物の分まで生きる、それが手向けだ。

少女は食器を片付けた。

一旦食事休憩

時既に遅しだが、カニバスレ注意

シチュエーションとか書いてくれると使わせていただきます

ある神の件でクトゥルフ思い出したな。クトゥルフ神話にも信者に魔術を与える代わりに人食の生活を強制させる神がいたような

>>13
モルディギアン神すな

再開いたします

日が昇り、新しい朝が来た、いつもならこの自然公園はジョギングや散歩をする人々でそこそこ人の気があるが、今日は違った、封鎖されているのだ。

「うわ……ひでーもんだなオイ……干物じゃねえか……」
青いシートを退けた中年の刑事はあからさまな嫌悪の表情を見せる
「持ち物から、恐らく被害者は二日前から行方不明になっていた会社員の女性です」
「はぁっ!?二日でこんなになるわきゃねえだろ!?」
「何かしらの道具を使用したんじゃないでしょうか?乾燥機みたいな……」
「けどよ、タイヤの跡は無かったんだろ?って事はここで死んだって事だろ?……それになんだ……この首の穴は…?」
20年もの間様々な事件を担当してきた、時には不可解な事件だってあった…だがこんなのは始めてだ、不自然を通り越した、超常現象だ。

「ったく……この間のバラバラ殺人の次はミイラかよ!…この街に妖怪でも引っ越して来たのかよ!?」

しかし彼の発言は半分真実だった、この街には人間の常識の通じない存在が居る、ただ一つ違うのは、それはずっと昔から、この街に存在し続けていた事だ。

―――――――――――――
一人の青年が公園の高台から夕暮れの街を眺める、彼の足元にはミイラ化した死体があった。

生前の姿すら感じさせないその屍を踏み潰し、青年はその場から立ち去った……

うまい具合に、近くを通りかかった女子高生を家の中に引きずり込み、首の骨を折り黙らせる事に成功した食屍姫は非常に満足げな表情で包丁の手入れをする。

肉付きもいいし、美人、清潔感もある、そしてほぼ無傷で手に入れられた、素晴らしい成果だ。

包丁の手入れを終えて、涼しい地下室へと運んだ獲物の服を脱がす、綺麗な体であった。

まずは肌を拭いて、下準備をする、きちんと肌も食べる為だ、次に包丁で腹を綺麗に裂き、内臓の取り出し、そして血抜きを始める、その間に内臓の処理を進める、今日の食事は昨日の少年と、この娘の臓物だ
この娘の肉はしばらくおいて熟成させるとしよう。


処理した臓物を綺麗に切り、少年の肉と共に煮込む

待っている間にいつものようにニュースを見る、どうやら昨日の少年の件はニュースにはなってないらしい。

くだらないニュースを読みながら時間を潰しているとタイマーが鳴る、頃合いだ。

レトルトの白米を器へと移し、二人の人間の命が溶け合ったものをその上にかける。

「さしずめ義姉弟丼かな…?」
「いただきます」

食屍姫はスプーンで器の中身を掬い頬張り、咀嚼する。

彼女は二人の人間の肉を同時に食べる事が好きだ、特にその二人が赤の他人なら更によい。

材料となった者で勝手な物語を想像する事で更にその食事を満足の行くものにできるからである。

今回はこうだ『少年とその兄の恋人である少女が禁断の恋に落ちた、しかし少年は突然姿を消した、悪い化け物に食べられたからである。そして少女は兄の為と偽り少年を探すがその少女もまた化け物のエサとなったが、化け物の胃の中で少年と一つになれたのでした、めでたしめでたし』

「ご馳走様でした」
妄想と食事の二つに満足した食屍姫はまた失われた命に感謝した。

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