二宮飛鳥「嗚呼素晴らしきこの日常」 (14)

【露出と嗜好】


飛鳥「………」ジーー

心「あっすかちゃーん☆ 何見てるの? アルバム?」

飛鳥「あぁ、心さん。今までアイドルとして身につけてきた衣装を振り返っていたんだ」

心「へえー、復習とは感心感心♪」

飛鳥「別に、そんな大層な考えじゃないさ。暇を潰すのが目的だから」

心「はぁとも見ていい?」

飛鳥「あぁ。見られて恥ずかしいものでもない」

心「そりゃ、ステージで大勢の前に披露した格好だもんねー……ていうかこのアルバム、自作? 衣装を着た写真だけ集めた感じ?」

飛鳥「ナルシストだと嗤うかい?」

心「そんなわけないっしょ☆ 嬉しい想い出を残しておくなんて当たり前だし♪」

飛鳥「心さん……」

心「はぁとも今までのステージ衣装着た写真、全部金の額縁に飾ってるんだ~」

飛鳥「そのうち部屋が額縁で埋もれそうだな」

心「そのくらいお仕事出られれば幸せだよねー♪ アイドル人生冥利に尽きるっていうか?」

飛鳥「そうだね。すべて終わって振り返った時、笑顔でいられるに違いない」

心「それなー☆ 引退ライブを終えて楽屋に戻った時、今までの出来事が頭の中を駆け抜けてきて」

心「………」

心「うっ……ぐすっ……」

飛鳥「えっ、泣いてる? 引退の日を想像して泣いている?」

心「ごめん……年取ると涙腺がゆるゆるになって……」エグエグ

心「誰が年取ってるって!?」クワッ

飛鳥「年を取ると独り言が増えるらしいよ」

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梨沙「独り言の多さじゃ飛鳥も負けてないでしょ」

飛鳥「自問自答と言ってくれ」

心「お、梨沙ちゃん。いつからいたの?」

梨沙「ついさっき。部屋に入ったらいきなりハートさんが泣いてるからびっくりしたわよ」

心「恥ずかしいとこ見られちった♪」

梨沙「それで、なんで泣いてたの?」

心「飛鳥ちゃんが………あ、やっぱ話すと長いからカットで」

飛鳥「その出だしだけ語られるとボクが悪者に聞こえるんだが」

心「こんなに泣いたのお正月終わりに体重計乗った時以来だなぁ」

飛鳥「ダイエット、頑張ってくれ」

梨沙「よくわかんないけど、喧嘩してるわけじゃないならいいわ。これ、飛鳥の写真?」

飛鳥「あぁ。今までの衣装をまとめているんだ」

梨沙「へー……いいわね、こういうの! アタシも作ってパパと一緒に見ようかな~♪」

心「なんかいろいろ脱線しちゃったけど、改めて飛鳥ちゃんのアルバム見ていい?」

梨沙「アタシも見ていい?」

飛鳥「お好きにどうぞ。ボクはコーヒーでも飲んで待っているから」

梨沙「アタシ砂糖3杯ね」

心「はぁとはオトナのブラックで☆」

飛鳥「キミ達のぶんまで淹れるとは一言も言ってないんだが」

梨沙「………2杯で!」

飛鳥「オトナという言葉に踊らされて、意地を張る必要なんてないよ。砂糖に罪はない」

梨沙「べ、別に意地なんて張ってないし!」

飛鳥「そうかい?」

梨沙「そ! ……まあ、でも? 今日は甘いのが飲みたい気分だから」

飛鳥「ふふっ」

梨沙「砂糖4杯で」

飛鳥「3杯の時点で意地を張っていたのか」

心「あ、はぁとやっぱり豆乳で」

飛鳥「それは自分で買ってきてくれ」

心「ん~……」

梨沙「こうしてひとつひとつ見てると、飛鳥の衣装って脚出してるのが多いわね」

心「脚っていうか太ももかな? 膝から下はむしろ隠してる時の方が多いくらい」

梨沙「あ、アタシ知ってる! これゼッタイリョーイキって言うのよね」

心「それ☆ 男心を掴む魅惑の15センチだぞ☆」

飛鳥「ボク自身も普段からこの部分を出している自覚はあるけれど、案外Pの方からこういった衣装を提案してくることも多いんだ」

梨沙「ふーん」

心「それってつまり、プロデューサーは飛鳥ちゃんの絶対領域が好みってことなんじゃない?」

梨沙「うわ、ヘンタイチック……」

飛鳥「それは些か短絡的じゃないか? P自身というよりは、ファンに対するウケを考慮したものだろう」

心「でもでもぉ、プロデューサーは最初のファンだって言うじゃん?」

飛鳥「まあ、それは確かに……しかし屁理屈の域を出ないぞ」

梨沙「………」

梨沙(アタシの衣装……肩も脚もおへそもよく出てるような)

梨沙(それってつまり、アイツはアタシの全身があますとこなく好きってこと!?)ガーン


P「ただいまー」

梨沙「このロリコン! ヘンタイッ!!」

P「いきなり!?」

飛鳥「P。キミ、ボクの太ももに興奮する変態なのかい」

P「飛鳥まで急にどうしたんだ……?」オロオロ

心(この子、自分の見解よりもプロデューサーをからかうのを優先したな?)

梨沙「いくらアタシが魅力的だからって、全身にコーフンするなんて……まあ、だからこそアタシの魅力を色々引き出せてるのかもしれないし、そこは感謝してるけど……」

心「ツンデレは独り言が多いらしいぞ☆」

梨沙「誰がツンデレよ!」

P「………ええと、よくわからないけど。それより心さん、新しい仕事のお知らせです」

心「え、マジ? やった♪ なになに?」

P「雑誌の撮影なんですけど、これは心さんに絶対似合うと思って」

心「おおー!」

梨沙(あ、これでプロデューサーがハートさんのどこが好きなのかわかるかも)

心「なに着るの?」

P「十二単を着てもらいます」

心「十二単……」

飛鳥「露出ゼロ」

梨沙「めちゃくちゃ厚着」

P「……心さん? どうかしましたか」

心「………プロデューサー。それって、それって……」ゴゴゴ

P「?」


心「はぁとの柔肌は誰にも見せたくないってこと~~!? やぁん、愛されちゃってる? でもダメよ、はぁとはアイドル、みんなのしゅがーはぁとなんだもの~☆」

梨沙「ポジティブ!!」

飛鳥「恋愛脳」

P「な、なんなんだ? 飛鳥、どうして心さんはこんなにはしゃいでいるんだ」

飛鳥「体重だけじゃなくて、愛にもダイエットが必要だとボクは思う」

P「???」

【脚本と混沌】


梨沙「んー………」

梨沙「あ、そうだ。ここでこういう展開にすれば!」カキカキ

梨沙「アタシってやっぱり才能あるんじゃないかしら!」

飛鳥「随分ご機嫌のようだね。何を書いているんだい」

梨沙「脚本よ!」

飛鳥「脚本? なんの」

梨沙「『怪盗公演~美しき追跡者(チェイサー)~』の続編よ」

飛鳥「怪盗公演……確か、世間を賑わす怪盗リサと大泥棒ヒカルの対決、そしてそれを追う刑事ワカバ達――そんな感じの物語だったか」

梨沙「そうそう! みんなカッコよくセクシーにキマッてたし、これは人気フットー続編間違いなしと思ったのよ」

梨沙「なのにいつまで経っても企画が来ないから自分で書くことにしたの。これをプロデューサーに見せれば間違いなくプロジェクト再始動だわ♪」

飛鳥「彼にそこまでの権限があるかはともかくとして、キミのそういった行動力の高さは賞賛に値すると思うよ」

梨沙「でしょー?」

飛鳥「それで、脚本の進み具合は?」

梨沙「まあまあってところね。シリーズ2作目ってことで、新キャラを出しながらも前作の雰囲気を壊さないように気をつける感じ?」

飛鳥「意外と考えているじゃないか」

梨沙「ちょっと、意外とってなによ」

飛鳥「おっと、これは失敬。よかったら、冒頭だけでも聞かせてくれないか」

梨沙「しょうがないわね、特別よ?」

飛鳥「あぁ」

梨沙「特別なんだから心して聞きなさいよ?」ウキウキ

飛鳥(構想中の創作を誰かに話す時に舞い上がってしまう気持ち……理解るとも、ボクも同じだからね)←趣味:漫画を描くこと

梨沙「時は20XX年。技術の進歩で人類は繁栄の一歩をたどっていた――」

飛鳥「繁栄の一途だね」

梨沙「しかし、光あるところに必ず影はある。華やかな生活を送るために搾取をする側、その犠牲となる搾取される側――世界の歪みもまた、大きくなり続けていた」

飛鳥「なかなかダークな世界観だ」

梨沙「しかし! その影を照らすスーパーセクシーなビューティフル怪盗がここにひとり!」

飛鳥「急に横文字が増えたな……」

心「そして光に包まれたセクスィースウィーティーな超美人令嬢がここにひとり☆」

梨沙「ふたりが紡ぐ物語の行方は……って! ちがーうっ!!」

梨沙「ちょっと、勝手に割り込まないでよ! 思わずナレーション変えちゃったじゃない!」

心「てへぺろ♪」

飛鳥「しかし新キャラとしては心さんくらいアクの強い人物を投入するのはアリじゃないか? 途中参戦のキャラクターはそれくらいの方が埋もれずに済みそうだ」

梨沙「それはそうなんだけど、世界観壊れそうなのよねー」

心「そんなことないない☆ はぁとにかかればみーんなスウィーティー☆」

梨沙「それが世界観壊すって言ってるのよ」

心「はぁとは、ただみんなを幸せにしたいだけなのに……この暗く染まった世界をスウィーティーに変えたいだけなのに……そのためならなんでもやるのに……」

飛鳥「思考がラスボス型に染まり始めているぞ」

梨沙「こういう役なら組み込めそうね……どうせだし、飛鳥も出る?」

飛鳥「ボクも? 枠、余ってるのかい」

梨沙「怪盗側に新キャラがもうひとりくらい欲しいのよね。新しい風ってヤツ?」

飛鳥「しかし、怪盗リサにはオトハという優秀な右腕兼執事がいただろう。彼女、プライドが高いうえに独占欲強そうなキャラだったし、新顔が加わるのに難色を示すんじゃないか?」

梨沙「そのオトハに気になる男ができるところからお話が始まるのよ。愛を育むことに集中してほしいリサは、怪盗業からオトハをクビにするの。どうしても食い下がるなら執事も辞めさせるわよって」

心「意外とストーリー練られてるね」

梨沙「だから意外とってなによ!」

飛鳥「不器用な優しさが演者によく似ているね」

梨沙「アタシ不器用じゃないけど?」

飛鳥「………」

心「………」

梨沙「なんで黙るのよっ!」

飛鳥「自分を客観視するというのは難しいものさ」

心「わかるわ」

梨沙「よくわかんないけど、馬鹿にするなら脚本手伝いなさいよね!」


翌日


怪盗リサ「今回のお宝は、一筋縄じゃ奪えない代物だわ……でも、あんなこと言った以上オトハには頼れないし……」

アサシン・アスカ「震えているのかい、ファントムレディ」

魔法少女まじかるはぁと「うまくいくこともうまくいかなくなっちゃうぞ☆」

リサ「震えてなんてないわよ。アンタ達こそ、ヘマしないでよね。怪盗業じゃアタシの方が先輩なんだから」

アスカ「理解っているさ。ただ、暗殺業も暗闇の中を静かに生きる仕事でね……ボクのやり方、活かせると思うよ」

まじかるはぁと「みんなまとめてスウィーティー☆」

リサ「そこの話聞いてない魔女。置いてくわよ」

まじかるはぁと「魔法少女だぞ☆」

リサ「なんでこんなヤツがついてきてるのかしら……ていうか魔法ってなによ」

アスカ「古代に滅びたとされる古の術式……まさか現存していたとはね。どこから発掘したんだい」

まじかるはぁと「乙女のヒミツ☆」

アスカ「フッ、まあいいさ。ボクはただ、ボクの役目を果たすだけ。この左腕に眠る『雷帝』と共にね」バチチチチチ

リサ「……ねえ、アサシン」

アスカ「なんだい」バチチチチイ

リサ「そのバチバチ鳴りながら光る腕、一切盗みとか暗殺に向いてないと思うんだけど、目立ちまくるんだけど」

アスカ「目撃者は全員仕留めれば実質ゼロだ」

リサ「余計な血は流さない主義なんだけど!?」

アスカ「そうは言っても、コイツが疼くのさ……ひとたびこの包帯を取れば、ほら」


『受けよ、神の雷! エンドレスライジングクラッシャー!!』


アスカ「奥義が発動する」

リサ「なに今のうるさい音!? もう自分から名乗りにいってるようなもんじゃない!!」

アスカ「これもひとつの存在証明……」

リサ「結果で証明してくれない!?」

アスカ「しかし蘭子がどうしても声を当てたいと言って聞かなくて」

心「はいカットカットー☆ メタ発言禁止~」

飛鳥「しまった、つい素で釈明を……」

梨沙「聞き覚えのある声だと思ったら蘭子が録音してたのね……」

心「じゃあ気を取り直して最初っから~♪」



ありす「………」

晴「………」

ありす「いやリテイクの前にいろいろと振り返るべきところがあるでしょう!!」

晴「不思議だよなー。梨沙はかわいいし、飛鳥はかっこいいし、はぁとさんもセクシーなのに……3人固まるとすっとこどっこいっていうか」

ありす「世界観が食い合うからじゃないですか?」

晴「腹減ったな」

ありす「食うという単語だけに反応しないでください」

梨沙「アイス」

飛鳥「プリン」

心「お団子~」

晴「オレもアイス」

ありす「買ってきませんよ!」

【生誕と祝福】


ネネ「今日も寒いですね」

飛鳥「まったく、半年前はあれだけ暑かったのに今度はこれだ。少しは加減してほしいものだけど……この地に生まれた者の宿命なのかもしれないね」

ネネ「日本は四季が豊かですからね。寒暖の差が激しいのも、自然を楽しむための代償と思えば我慢できるのかも」

飛鳥「かもしれないね。しかし、今はまだ1月の終わり……2月中は冬との我慢比べが続くだろう」

ネネ「風邪、引かないようにしてくださいね」

飛鳥「ネネさんこそ。人の心配ばかりしないようにね」

ネネ「ふふっ、わかってます♪」


飛鳥(もうすぐ今年に入って1ヶ月……早いものだ)

飛鳥(2月に入れば、すぐに3日がやってくる。その日は――)


ネネ「コーヒーの味わい方、だんだんわかってきた気がします」ニコニコ

飛鳥「……ネネさん。ひとつ、聞いてもいい?」

ネネ「なんですか?」

飛鳥「誕生日、という概念について、アナタはどう考えている?」

ネネ「誕生日……」

ネネ「………」

ネネ「はっ!?」

ネネ「………」ガサガサ←メモ帳を取り出す

ネネ「………」ジーーー←カレンダーを見ている

ネネ「………」パタン


ネネ「飛鳥ちゃん、今欲しい物ありますか……?」

飛鳥「いや違うすまないそういうつもりで話を振ったわけじゃない」

ネネ「なんでも言ってくださいね。私、ワガママ言ってくれる方が嬉しいな」

飛鳥「………M?」

ネネ「Nですけど」

飛鳥「イニシャルの話じゃない……というより、カレンダーにボクの誕生日は記されていたんだね」

ネネ「お友達ですから♪ でもいきなりお誕生日の話を出されたから、『もしかして今日だったかも!?』って驚いちゃった」

飛鳥「なるほど、それで焦っていたのか……」

ネネ「ちゃんと3日にはプレゼントを用意して、お祝いしますね」

飛鳥「………」

飛鳥「ネネさんは、誕生日がめでたいことだと思うかい」

ネネ「? まあ、そうですね。親しい人がこの世に生まれてくれた記念日ですから」

飛鳥「そうか」

ネネ「飛鳥ちゃんは、そうじゃないんですか?」

飛鳥「そうじゃない……わけじゃ、ないけど。ボクは、ボクが生まれた日のことを知らないから。赤ん坊が、何も覚えているはずがないだろう?」

ネネ「それは、確かに。私も、自分が生まれた瞬間のことはなんにも覚えていません」

飛鳥「だからボクは、毎年誕生日が来るたびに考えるんだ。この一日に、どんな意味を込めるべきなのか」

ネネ「………」

飛鳥「……いや、すまない。変なことを聞いてしまったね。この話はこれで」

ネネ「どうして、込めるべきだと思ったんですか?」

飛鳥「え?」

ネネ「飛鳥ちゃんは、どうしてお誕生日に『意味を込めるべき』と思ったんですか?」

飛鳥「それは……そうだろう」

飛鳥「皆が祝ってくれるんだ。祝われる側が意味を見出せないのは、不義理だと思って………待て。何故そんなにニコニコ笑っているんだ」

ネネ「いいえ~?」

飛鳥「笑ってるだろうっ」

ネネ「飛鳥ちゃん、やっぱりいい子ですよね」ナデナデ

飛鳥「わっ、急に撫で……」

ネネ「いい子いい子♪」

飛鳥「………何故だ。逆らえない」

飛鳥(これが本物の姉力なのか……?)

ネネ「いーっぱい、お祝いしますからね!」

飛鳥「いや、だからボクは」

ネネ「遠慮はダメよ? だって飛鳥ちゃん、他の子の誕生日は普通に祝ってるじゃないですか」

飛鳥「それはだな、ボクが好きでやっているだけで」

ネネ「というわけで、私も好きに祝います♪ みんな同じなんですよ? 相手のことが好きだから、お祝いするんです」

飛鳥「……前から思っていたけれど。ネネさん、意外と頑固だな」

ネネ「お姉ちゃんですから!」

飛鳥「姉は強いんだな……」

ネネ「飛鳥ちゃんも妹になります?」

飛鳥「遠慮しておくよ。栗原妹から、大切なお姉ちゃんを横取りしたくはないからね」

ネネ「飛鳥ちゃん……」ナデナデ

飛鳥「だから頭を撫でるのはやめてくれ……くすぐったいから」

後日 飛鳥の部屋


飛鳥「最近、ネネさんがやたらアグレッシブに感じるんだ」

P『妹さんが病気治ったからな。喜びもひとしおなんだろう』

飛鳥「ボクの見立てだと、ネネさんの今まで妹に注ぎ続けていた姉力の行き場が一部なくなっているんだ。妹が元気になったぶん、手がかからなくなっただろうから」

P『それで、余った姉力の行き場が飛鳥に向かってるって?』

飛鳥「何故ボクなんだろう」

P『ははっ』

飛鳥「今どうして笑った?」

P『いや、なんでもない』

飛鳥「電話越しでも、キミの意地の悪い笑顔が透けて見えるようだ」

P『まあまあ……ネネも、時間が経てば落ち着くところに落ち着くと思うぞ?』

飛鳥「だといいけどね……まあ、不思議なことに。彼女に世話を焼かれるのは、悪い気はしないんだ」

P『それ、本人の前で言ってあげればいいのに』

飛鳥「言ったが最後、妹にされる」

P『そこまで強引じゃないだろう』

飛鳥「どうだろうね。キミは見ていないから知らないだろうけど」

P『あ、ちょっとストップ』

飛鳥「ん?」

P『今、ちょうど日付が変わったから』


P『お誕生日おめでとう、飛鳥』

飛鳥「………」

P『このタイミングなら一番乗りで祝えたことになるな』

飛鳥「まさかとは思うけど、やけに遅い時間に電話してきたのはこれが狙いだったのかい」

P『作戦成功だ』

飛鳥「まったく、子供みたいなことをするな、キミは。担当アイドルの安眠を妨げるなんて」

P『俺が電話しなくてもどうせ起きてるだろう、飛鳥は』

飛鳥「フッ、よく理解ってるじゃないか。ボクの夜更かし癖に感謝することだね」

P『威張るな威張るな』

飛鳥「P」

P『なに?』

飛鳥「ありがとう」

P『……素直だな』

飛鳥「電話越しだからね。直接顔を合わせていたら、また違っていたかもしれない」

P『それは……感謝、なのかな』

飛鳥「あぁ。ボクも、自分の顔が見られないことに感謝しているよ」

P『?』

飛鳥「フフッ」

飛鳥「通知が思ったより多いな」

P『お祝いが多いってことだから、いいことじゃないか』

飛鳥「これは心さんからだ」

P『なんて書いてるんだ』

飛鳥「意図不明のラップ」

P『何やってるんだあの人』

飛鳥「若者=ラップのイメージで動いているのかもしれない」

P『絶妙にありそうな線だ……っと、あまり長話すると本当に安眠妨害になっちゃうな。そろそろ切るよ』

飛鳥「あぁ」

P『プレゼント、明日渡すから』

飛鳥「おっと、事前申告とは大きく出たね。ハードルを自ら上げるとは男らしいな」

P『え、いやそういうつもりじゃ』

飛鳥「期待しておこう。きっとキミなら、ボクの望んだ贈り物をしてくれるんだろうね」ニヤニヤ

P『これ、期待外れだったらどうなるんだ』

飛鳥「明日一日中鬼となって豆をぶつけられることになる」

P『きっつ!? いくら節分だからってきつすぎる!』

飛鳥「もちろん冗談だ」

P『顔が見えないと冗談かどうか見抜きにくいんだからやめてくれ……』

飛鳥「すまない。でも、楽しみにしているのは本当だ。他ならぬキミからのプレゼントだからね」

P『……光栄だな。明日をお楽しみに』

飛鳥「あぁ、おやすみ。P」

P『おやすみ、飛鳥』




飛鳥「………」

飛鳥(誕生日にどんな意味があるのか。祝う価値のある、特別な日なのか。結局のところ、答えはまだ見つからなくて)

飛鳥(ひょっとしたら、今日という日は特別でもなんでもない普通の日なのかもしれない。日常の1ページに過ぎないのかもしれない)

飛鳥(ただ、仮にそうだとしても)


飛鳥(今日という日は。いつも通りの、得難く価値ある日常なんだろう)


飛鳥「………なんて、ね」


翌朝


心「おっはよー飛鳥ちゃん☆ アンドお誕生日おめでとー☆」

飛鳥「………」ゲッソリ

心「えっなんでそんな死にそうなの?」

飛鳥「ラップを解読しているうちに夜が明けていた……」

心「あ、これはぁとのせいなヤツ?」

ネネ「飛鳥ちゃん、やっぱりいい子ですよね?」

梨沙「変なところで義理堅いのよね」



おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
飛鳥誕生日おめでとう

シリーズ前作:的場梨沙「お正月」二宮飛鳥「ハジマリノ」佐藤心「スウィーティー☆」

その他過去作
北沢志保「メイドの土産に教えてあげます」

などもよろしくお願いします

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