いつかの月が君に微笑む (34)
深夜の鎌江浜には絶世の美女の幽霊がいて、暗闇の海へ人を誘う。
そんな言い伝えをばあちゃんから聞いたのは、まだ俺が小学生だった頃だ。高校生にもなってそんなものを信じているわけではないけれど、当時は親と一緒でも夜の海には近付かないように気をつけていた。
夏休み初日にこんな深夜に海辺を散歩しているのはとても浅い理由がある。
「あの噂、本当かどうか確かめようぜ。毎日一人ずつ、海辺に行って確認しようぜ」
幼馴染の佐々部の発言だ。幼馴染と言っても、狭い岸辺島にいる同級生は十人程度で、高校全体でも三十人はいないくらい。学校全員が幼馴染と言っても過言ではない。つまり、学校全員がそれをしてしまえば、夏休み期間はほぼ毎日確認をすることができる。大がかりな話にしたものだ。
ともあれ、佐々部の提案をなぜか全員が受け入れてしまい、今日が俺の出番になった。娯楽の少ない田舎では、こうやって自分達で何かを考えないと遊ぶこともできない。夏休みにできることで思いつくのは、他には釣りと、来週に開かれる夏祭りくらいだろうか。
つまりは、俺もかなりの暇人ということだ。暇つぶしには、まあ悪くない。
街灯もない夜の砂浜は今でも少し不気味で、親のお古のスマホで足元を照らしながら歩いて行く。島の中は携帯圏外で、島外に働きに出ている父親が買い換えたものをおもちゃで使っている。
佐々部の指定した浜辺を端から端まで進んで行った、そこで。
遠目に一か所、堤防の上が少し明るく見えた。この時間には住居以外には光るものなんて思いつかず、不審に思いつつも歩みを進めていく。
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