【艦これ】摩耶「カンパリソーダよ、ウィスキーフロートたれ」 (51)




このSSは漫画「今宵もサルーテ!」の設定を流用しています。




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1943年8月2日。

ソロモン諸島の西部・ブラケット海峡にて、日本の駆逐艦「天霧」とアメリカの魚雷艇「PT-109」が衝突しました。

基準排水量1,680tの天霧に対してPT-109は38t。

おまけに船体は木製とあって、PT-109は真っ二つに引き裂かれ沈没しました。

意図的な体当たりだったとも、回避失敗による事故とも言われていますが、真相は定かではありません。







PT-109の乗員13名の内2名が死亡。

しかし、残りの11名は生存していました。

この生存者の中にPT-109の艇長、ジョン・F・ケネディがいました。

そう、後にアメリカ合衆国第35代大統領に就任する人物その人です。







ケネディは負傷した部下を励ましつつ5時間泳ぎ続け、やがて小島にたどり着きました。

しかし、この島には水も食料も見当たらなかったため、島から島へ泳ぎ渡り、5日目に上陸した島で原住民と遭遇しました。

ケネディは椰子の実にナイフで文字を刻み、友軍へ届けるよう言葉の通じない原住民に身振り手振りで伝えました。

これがオーストラリア軍兵士に届いたことで、ケネディら11名は無事に救助されたのです。







時は流れ、戦後。

1951年、下院議員となっていたケネディは日本を訪れました。

そして、福島県塩川町(現:喜多方市)の町長となっていた、衝突当時の天霧艦長、花見弘平との面会を希望しました。

スケジュールの都合上面会は実現しなかったものの、これ以降両者の間で手紙のやり取りが行われるようになりました。

また時に、ケネディの上院議員選や大統領選に際し、天霧の元乗員らが激励の色紙を送ったり、直接アメリカへ応援に出向いたりという出来事もありました。

この交流は1963年、ケネディが遊説先のダラスで暗殺されるその日まで続きました。







花見とケネディの交わした手紙の中に、両者の関係をもっとも的確に表した「ある言葉」があります。

1953年2月、上院議員就任直後のケネディが花見に送った手紙。

同封されていたケネディのサイン入り写真には、こう記されています。


『To Commander Hanami late enemy and present friend(昨日の敵であり、今日の友人へ)』







* * *







───── 鎮守府内 倉庫地下のバー



摩耶「……ここか?」ガチャ ギイイイ……



羽黒「お待ちしてました、摩耶さん」


摩耶「んあ、羽黒?」

摩耶「……」キョロキョロ

摩耶「アタシはタシュケントの奴に呼ばれて来たんだが───」


タシュケント「あたしならここだよ」ヒョコッ


摩耶「んだよ、そんなとこにいたのか」

タシュケント「呼びつけておいて悪いんだけどまだ準備中なんだ。羽黒とお喋りでもしながら待っててくれるかい?」

摩耶「おう、別に暇だから構わないぜ」

タシュケント「Спасибо(ありがとう)!」サッ







羽黒「……という訳らしいので、良かったらこちらにどうぞ」

摩耶「んじゃ、失礼するぜっ……と」ギイッ


摩耶「にしても、ここが『伝説のバー』か。やっぱ洒落た場所なんだなぁ」

羽黒「あ、摩耶さんもご存知だったんですね。ここのこと」

摩耶「あぁ、噂で聞いてただけだけどな」

摩耶「ってかあれだな、酒が欲しくなるよなー……こんなとこに座ってると」

羽黒「ふふっ、そうですね」







羽黒「あぁ、でもお酒なら後ほどガンビア・ベイさんが振る舞ってくれるそうですよ?」

摩耶「お、マジか! へへっ、そりゃ楽しみだなー♪」


羽黒「摩耶さんは、ガンビアさんと普通にお話できるんですか?」

摩耶「ガンビア? あぁ、あのおどおどした奴か……あ! そーいや───」








………
……………


摩耶「……」フラ……フラ……

摩耶(だーっ、提督のクソが! 重いんだよこの荷物……)


「荷物運ぶの手伝います!」ヒョイ


摩耶「おう、助かる」

摩耶「ありがとな!」


ガンビア・ベイ「……!!」ガタガタガタガタ


摩耶「?」



ボトッ パリン



ガンビア・ベイ「……」

摩耶「……」


ガンビア・ベイ「……」

摩耶「……」



ガンビア・ベイ「やっぱり不意打ちはむりむりむりぃ~!!」ピューッ

摩耶「待てコラ!!」


……………
………








摩耶「ってなことがあってよ! 何なんだよアイツは!」


羽黒「な、なるほど……」

羽黒「……」


羽黒「まず……種明かしと言いますか、本当のところは、この場の主催はガンビアさんなんです」

摩耶「ハァ? どういうこったそりゃ?」

羽黒「『摩耶さんに謝る場を設けたい』とのことで、私も協力を頼まれまして」

摩耶「アタシに謝るって……それにしちゃ仰々し過ぎだろ。タシュケントまで使いっ走りにしてよ」







羽黒「うーん……」

羽黒「多分、そうじゃないと思います」

摩耶「そうじゃない、ってのは?」

羽黒「ガンビアさんにとっては、こういう場を設けるのも……そもそも私たちと面と向かって会うことすら、大変なことでしょうから」

摩耶「? なんでだよ?」


羽黒「ガンビアさんは艦だった頃、1944年10月のサマール沖海戦で沈められているんです」

羽黒「───『栗田艦隊』と戦って」


摩耶「……そういうことか」

摩耶「んん? 待てよ、44年の10月ぅ? アタシにはそんな覚えは……」

羽黒「あ……その、その時にはもう摩耶さんは……」

摩耶「……沈められた後って訳か」







摩耶「でも、だとしたら余計に分かんねぇよ。完全に筋違いじゃねぇか。アタシまで怖がるのは」


羽黒「……」

羽黒「……摩耶さんは、アメリカの艦娘の皆さんをどう思います?」

摩耶「へ? どうって……」



羽黒「では、アメリカの潜水艦の皆さんは?」

摩耶「!」ピクッ


羽黒「特に、デイスさんやダーターさんは?」








………
……………


「愛宕がやられた!」

「高雄もだ!」

「右前方に怪しき音源」

「右か、左か!?」

「右です!」

「面舵一杯! 両舷前進一杯!」

「魚雷音、左30°! 近づく!」

「雷跡視認!!」

「と、取舵一杯っ! 急げ!!」

「魚雷2、本艦に命中!!」

「消火急げ! 右舷注水!」

「また左110°、雷跡! 近い、近いっ!」

「左舷、新たな魚雷2、命中!」

「1番弾庫注水!」

「総員右舷に寄れ!」

「傾斜復旧の見込みは……ありません」

「総員上がれ、総員退去!!」


……………
………








摩耶「……」


羽黒「……摩耶さん、デイスさんたちの名前が出る前、『アメリカの潜水艦』という時点で顔が強ばっていましたよ」

摩耶「……あぁ、やっと分かったよ。言いたいことが」



ガチャッ



タシュケント「やぁ、お待たせ!」

コマンダン・テスト「さ、ガンビーさん」

ガンビア・ベイ「うぅ……」







摩耶「……」

ガンビア・ベイ「……」

摩耶「……」

ガンビア・ベイ「ぁ……あの……」




コマンダン・テスト「ガンビーさん……」ハラハラ

タシュケント「……」







ガンビア・ベイ「あぅ……」

ガンビア・ベイ(謝らないといけないのに……怖くて、言葉が……)

ガンビア・ベイ(……やっぱりだめだなぁ、わたし)



羽黒「ガンビアさん」



ガンビア・ベイ「!」ハッ

ガンビア・ベイ「は、羽黒さん……」



羽黒「……」コクッ



ガンビア・ベイ「……」


ガンビア・ベイ「……!!」


ガンビア・ベイ「あ、あのっ! 摩耶さん!」







摩耶「……ん?」


ガンビア・ベイ「この間は、本当にごめんなさい」

ガンビア・ベイ「その場ですぐに謝るべきだったけど、でも……わたし、その、栗田艦隊の皆さんが怖くて……」

ガンビア・ベイ「でも、謝らないままにしてしまうのはいけないことだし」

ガンビア・ベイ「それに今は同じ鎮守府の仲間だから、逃げずに向かい合って、そして───」







ガンビア・ベイ「仲良くなりたかったから」


摩耶「……!」







ガンビア・ベイ「あの、それで、『謝罪の気持ち』と『オチカヅキの印』としてこれを」スッ



ガンビア・ベイ「『清流』です!」



摩耶「セイリュー?」


タシュケント「『清い』『流れ』と書くのかな」

コマンダン・テスト「『L'eau claire』デスね」

摩耶「あぁそっちか。『青い』『龍』かと思ったぜ」




???「やだやだやだぁ!」





摩耶「ん?」


タシュケント「まぁ、とりあえず飲んでみておくれよ」

摩耶「おう。おっと、そういや、どうしてアタシにこの酒なんだ?」

ガンビア・ベイ「えぇと、色が摩耶さんの制服みたいだなと思って」

摩耶「あー……確かにな。緑がかった青って感じだな」


コマンダン・テスト「それだけじゃないデスよ?」

摩耶「え?」







ガンビア・ベイ「この『清流』は、ブルーキュラソーとレモンジュース、それにライムジュースと、それからSAKE……日本酒を使ったカクテルなんです」

摩耶「はー! そんなのあるんだな。アタシ酒はさして詳しくないから知らなかったぜ」

コマンダン・テスト「そして、その日本酒というのが……」


ガンビア・ベイ「『摩耶山』という銘柄の日本酒なんです」

摩耶「!」







タシュケント「どうだい? 摩耶、君にぴったりだろう?」

摩耶「……はっ、はは、何だか気恥ずかしいな。でも、あんがとよ。わざわざ買いに行ってくれたのか?」

ガンビア・ベイ「は、ハイ! 摩耶山があるYamagata Prefecture(山形県)の酒造まで頑張って買い物に行きました!」


摩耶「あ? 山形ぁ?」


タシュケント「道中でガンビーが何度迷子になりかけたことか……」

ガンビア・ベイ「わああぁぁっ!! 言わないでください~!!」

コマンダン・テスト「ちょっとした旅行みたいで、楽しかったですけどね」フフフ







摩耶「あー……」

摩耶「言い難いんだけど、アタシの名前の由来になってる『摩耶山』ってのは兵庫の山だぞ?」




ガンビ/タシュ/コマ「「「……」」」




ガンビ/タシュ/コマ「「「え!?」」」







正:摩耶山(標高702m、兵庫県神戸市の山)

誤:摩耶山(標高1,019m、山形県鶴岡市の山)







ガンビア・ベイ「You must be joking(ウソー)!」ガーン

コマンダン・テスト「お、同じ名前の山があったのデスね……ワタクシ知りませんでした」

タシュケント「あちゃあ……あたしたち以外に日本の艦娘にも聞いておくべきだったね」


羽黒「ま、摩耶さん! 怒らないであげてください! ガンビアさんたちも悪気があって間違えた訳じゃないですし……」アセアセ

羽黒「こ、ここは鶴岡の山繋がりで羽黒山が由来の私に免じて(?)許してあげてください!」ペコペコ







摩耶「……」



摩耶「ぷっ」

摩耶「わっははははははは!」


ガンビア・ベイ「! ……摩耶、さん?」


摩耶(『仲良くなりたかったから』……か)

摩耶(過去はなかったことにはならない)

摩耶(だけど、囚われ過ぎだったのかもしれないな、アタシは)

摩耶(こいつらみたいに、時に飛び越える大胆さをアタシも持つべきなのかもな)







摩耶「……じゃあ改めて」

摩耶「いただくぜ」クイッ


ガンビ/タシュ/コマ「「「……」」」ドキドキ


摩耶「……」

摩耶「……うん」



摩耶「美味い!」ニッ







ガンビア・ベイ「あ……」


コマンダン・テスト「ガンビーさん!」

タシュケント「やったね、ガンビー!」

羽黒「ガンビアさん!」


ガンビア・ベイ「……」ウルッ


ガンビア・ベイ「はい!」ニコッ







* * *







───── 後日 作戦中 どこかの海域



サミュエル・B・ロバーツ(曳航中)「ガンビー大丈夫?」

ガンビア・ベイ「う、うん。何とか。ごめんね、簡単に被弾しちゃって……」

ジョンストン(曳航中)「That’s life(仕方がないわ)……この海域の敵の航空攻撃はちょっと異常なくらいだもの」


サミュエル・B・ロバーツ「……あれ?」

ガンビア・ベイ「? どうしたの、サム?」

サミュエル・B・ロバーツ「SA(対空)レーダーに……っ! 敵編隊接近!」







ジョンストン「そんな! またなの!?」


ガンビア・ベイ「……」


ガンビア・ベイ(このままじゃ、3人とも……)

ガンビア・ベイ(……怖い、怖いよ)

ガンビア・ベイ(でも、でも)

ガンビア・ベイ(……Brace yourself, USS Gambier Bay(覚悟を決めろ、ガンビア・ベイ)!)キッ



ガンビア・ベイ「サム、ジョンストン、towing line(曳索)を離して」







サミュエル・B・ロバーツ「何を言ってるの!?」

ガンビア・ベイ「わたしがシンガリを務めるから、2人は早く鎮守府へ」

ジョンストン「I can't do that(そんなことできないわ)!!」

サミュエル・B・ロバーツ「そうだよガンビー!!」

ガンビア・ベイ「いいから、早く!!」


ガンビア・ベイ(でないと、3人とも……!)







「良い覚悟だぜ、ガンビア」







ガンビア・ベイ「!」


サミュエル・B・ロバーツ「マヤ!?」

ジョンストン「来てくれたの!?」



摩耶「艦隊の『盾』、防空巡洋艦摩耶さまの力───」

摩耶「甘く見るなよ!!」ダダダダダダ



ガッ ドオオオン ドンッ



サミュエル・B・ロバーツ「……Amazing(すごい)」

ジョンストン「本当、showを見てるようね」







摩耶「ふぃーっ! 一丁上がりっと」


摩耶「悪いな、遅くなった。全員無事か?」

ガンビア・ベイ「ま、摩耶さん!」

摩耶「ん?」



ガンビア・ベイ「Thank y……じゃない、アリガトウゴザイマシタ!」

摩耶「おう! えーと……ユアウェルカム!」







ガンビ/摩耶「「……」」


ガンビ/摩耶「「ぷっ」」


ガンビ/摩耶「「あははははは!」」



─────────
─────
──







友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実である

(ドイツの劇作家、アウグスト・フォン・コッツェブー)







* * *







こんごう型に始まる日本のイージス艦は、全てアメリカのアーレイ・バーク級駆逐艦をそのタイプシップ(原型)としています。

しかし、司令部施設などを充実させた結果艦橋構造物が原型より大型化し、その偉容は時に旧海軍の高雄型重巡洋艦に例えられることもあります。



護衛艦「まや」は、奇しくも高雄型重巡から艦名を受け継いだ海上自衛隊7隻目となるイージス艦です。

海自護衛艦初のCEC(共同交戦能力)搭載艦となる彼女は、アメリカのイージス艦や航空機などと情報を共有し、自身のレーダーでは捉えていない目標すら迎撃可能です。

姉妹艦「はぐろ」共々、摩耶山の古称「八州嶺」が如く、あらゆる方向を見通す隙の無い「眼」を注ぐことでしょう。




まや型護衛艦 DDG179「まや」

基準排水量:8,200t
長さ:170m
幅:21m
馬力:69,000PS
速力:30kt
主要兵装:イージス装置、62口径5インチ砲×1、高性能20mm機関砲×2、VLS装置、SSM装置、3連装短魚雷発射管×2、哨戒ヘリコプター×1







* * *







───── さらに後日 鎮守府内



羽黒「あっ、摩耶さん。お疲れ様です」

摩耶「おう羽黒。お疲れさん」


羽黒「これから射撃訓練でしたっけ?」

摩耶「あぁ、対空のな。金剛さん、霧島さん、ウチの愛宕姉と鳥海、それにお前んとこの姉さん2人。……凄ぇ面子だよな、改めて言うと」

羽黒「ふふっ、そうですね。妙高姉さんも足柄姉さんも張り切ってました」







羽黒「そう言えば、その後ガンビア・ベイさんとはどうですか?」

摩耶「あー……ついさっき廊下で会ったな。挨拶もされたぞ」

羽黒「本当ですか!」

羽黒(良かった……ガンビアさん、着実に栗田艦隊を克服してるんだ)








………
……………


ガンビア・ベイ(パペット)「摩耶さん、おはようございます!」ペコリ


……………
………








摩耶「……人形越しだったから、顔は見てねぇけど」


羽黒(ガンビアさん!! 頑張って……!!)




────────── 終わり




以上になります。

作中に登場する日本酒「摩耶山」は、摩耶山(山形県)の麓、越沢地区で収穫された米「はえぬき」を使用した、温海地域限定販売の銘柄です。
「羽黒山」という日本酒もあるようなので、揃えて飲んでみたいところですね。

さて、海上自衛隊が公開した「もうひとつの観艦式」という動画内で素敵な言葉を発見しました。
そちらをご紹介してこのSSを締めたいと思います。



『全ての艦に命は宿り 全ての艦に物語がある』

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