【艦これ】春風「その時、海は歴史を見つめておりました」 (32)



1945年、敗戦により大日本帝国海軍は解体。

名だたる艦はその殆どが戦いの中で喪失。

激戦を潜り抜け戦後まで生き残った艦も、解体され復興資材になるもの、復員輸送に使われるもの、実艦標的になるもの、賠償艦として他国へ引き渡されるものと様々な形で消えていきました。

その後1952年、海上交通の安全確保のため海上警備隊が発足。

これが発展し保安庁警備隊、そして海上自衛隊となっていきました。



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しかし、その装備はと言えば、アメリカから貸与してもらったお古のフリゲートや駆逐艦、あるいは旧海軍時代に建造された掃海船艇が中心でした。

国産の艦は「はるかぜ型護衛艦」の登場まで待たれることになります。

時に1956年、戦争が終わって既に10年が過ぎた頃でした。


――――― 2001年 広島県江田島市 海上自衛隊第1術科学校

はるかぜ「……そうですね、当時は色々と手探りなことも多くて大変でした」

はるかぜ「本当の妹はゆきかぜさんだけでしたけど、苦楽を共にしたあけぼのさん、いかづちさん、それにいなづまさんも、わたくしにとっては実の姉妹のように思えました」



………
……


――――― 1958年


あけぼの「ハワイに行くですって!?」

はるかぜ「えぇ、何でも遠洋練習航海ということで、色々と知見を得ようということのようですね」

いなづま「はわわっ、遠いのです」

いかづち「まさに『憧れのハワイ航路』って訳ね! はるかぜさん頑張って!」

はるかぜ「はい、皆さんのご期待に添えるよう頑張り――」

あけぼの「駄目よ!」

いかづち「だ、駄目って……どうしてよ?」

あけぼの「ハワイと言ったらアメリカの島じゃない! 日本の艦がそんな所に行ったら何をされるか……。『りめんばーぱーるはーばー』とか言われるわよ、きっと!」

はるかぜ「まぁ、そうなのですか? どうしましょう……」

いかづち(……もう一般人が旅行に行ってる時代なんだけど……)



……
………



はるかぜ「まったくお恥ずかしい限りです……外国のことにはどうにも疎くて」

はるかぜ「幸い、アメリカ生まれのくす型の皆さんやあさひ型のお2人からお話をうかがえて誤解は解けたのですが」

はるかぜ「この後半年ほどしてもう一度練習航海に出かけましたので、この年は少々忙しかった覚えがありますね」

はるかぜ「……あぁ、そう言えばこの時はまだわたくしの艦種は『警備艦』でした」

はるかぜ「『護衛艦』に変わったのは就役して4年ほど経った頃でしたね。当初はどうにも呼ばれ慣れなくて」

はるかぜ「ですが、護衛任務を生業としていた春風時代のことを考えると、この艦種呼称、わたくしは結構気に入っております」



………
……


――――― 1965年


はるかぜ「でぃーでぃーじー……。はて、どのような艦種なのでしょう?」

あまつかぜ「平たく言うと『ミサイル護衛艦』ね。このターターくんから発射される対空ミサイルで艦隊の空を護るの」

あきづき「おぉ艦隊防空! 以前の私のような任務に就かれるのですね」

むらさめ「うーん……私たちも対空重視の艦だけど、砲しか積んでないもんなぁ」

ゆうだち「ミサイルはよく分かんないけど、あまつかぜちゃんいいなー! それに昔より大きくなったっぽい?」

あまつかぜ「そうね、排水量は一回り増えたみたい。その分対潜装備はまた後でって話になっちゃったけど……。あ、でも、足はこの中で一番速いのよ?」

はるかぜ「ふふっ」

あまつかぜ「なぁに?」

はるかぜ「……あ、いえ。あまつかぜさんから『足が速い』と聞くと、島風さんを思い出してしまいまして」

あまつかぜ「島風ね……。ま、すぐにまた逢えるでしょう。今度はあの子が私の正真正銘の妹にでもなるかしら」



……
………



はるかぜ「ところが取得費用の問題から、でぃーでぃーじーの建造はあまつかぜさん以降しばらく行われませんでした」

はるかぜ「2隻目のでぃーでぃーじーとなるたちかぜさんが就役したのが1976年のことです」

はるかぜ「その間10年以上に渡って、あまつかぜさんは海自の虎の子として、たったお1人で活躍し続けました」

はるかぜ「忙しいというのもそうですが、それよりも寂しいという思いの方が強かったのではないでしょうか……」

はるかぜ「1988年にやっとしまかぜさんが就役して、あまつかぜさんと同じ護衛隊を組むことになりました」

はるかぜ「お2人のその時の様子ですか? ……えぇ、それはそれは微笑ましいものでしたよ」



………
……


――――― 1973年


はるな「DDH、ヘリコプター搭載護衛艦はるな、着任しました! よろしくお願い……あら?」

たかなみ「はるかぜさん、これで大体片付いたかも、です。あとは、はるかぜさんの身の回りの物だけかもです」

はるかぜ「ありがとうございます。しかしこうして片付けていると迷ってしまう物が多いですね」

はるかぜ「例えば、この爆雷投射機、これはどうなのでしょう?」

たかなみ「いらないかも……です。はるかぜさんはこれからもう、直轄艦になられる訳ですから」

はるかぜ「……直轄艦? はて?」

はるかぜ「あ、そう言えば上からこれ(潜水艦娘用の水着)が贈られてきたのですが、これは……」

たかなみ「着ている内に似合うようになっていく……かも、です」

はるかぜ「わたくしが着るのですか!? わたくしに潜水艦になれと!?」

はるな「お2人は何を?」

しきなみ「あー……気にしなくっていいよ。はるかぜさんが第1潜水隊群に異動して潜水艦の訓練支援をやるんで、引っ越しの準備してるだけだから」

はるな「は、はぁ……」



……
………



はるかぜ「このことについてもあまり聞かないでいただければ……」

はるかぜ「コホン、えぇと……、この頃は潜水艦の皆さんも数が多くなかったので、水上艦艇のわたくしが訓練支援を担当することとなりました」

はるかぜ「異動になる直前まではゆきかぜさんと護衛隊を組んでおりました」

はるかぜ「わたくしたち姉妹が護衛隊を編成するのはこれが初めてで、肩肘張らずに職務に当たることができておりましたから……異動の際は寂しかったですね」

はるかぜ「ゆきかぜさんは実用実験隊という部署で装備の試験を行うことになりました」

はるかぜ「……そうですね、この時点でわたくしたちは第一線からは退いたといったところでしょうか」



………
……


――――― 1985年


「「「はるかぜ(さん)、長い間お疲れ様でした!」」」

はるかぜ「ありがとうございます、皆さん」

あさかぜ「はるかぜもお役ご免かー。私の就役が遅かったせいで結局あまり一緒には働けなかったわねぇ」

はるかぜ「えぇ……残念です。ですが、これからはあさかぜさんたちの時代。あとは頼みました」

しらゆき「は、はいっ! お任せ下さい!」

ゆうばり「頼まれました♪」

はつゆき「頼まれ……いや、きっと妹たちが頑張ってくれる……はず」

しらゆき「えぇっ!?」

あさかぜ「あははっ! ……あぁそう言えば、はるかぜ貴方、引退後はどうするの?」

はるかぜ「江田島の方に特設桟橋として置いていただけるそうです。時折、停泊訓練などで使うのだとか」

あさかぜ「あら、それなら良かったわ! はたかぜが就役したら顔を出すように言っておくわね」



……
………



はるかぜ「思い返せば30年近く現役だったのですね、わたくしは……」

はるかぜ「そうそう、余談ですが除籍時点でのわたくしの艦種は『特務艦』でした」

はるかぜ「艦番号も101から7002に変わりました。ゆきかぜさんは7003でした」

はるかぜ「7001がどなたか……お分かりになりますか?」

はるかぜ「それは、つがるさんです。わたくしたちのような護衛艦ではなく、敷設艦の方で、自衛艦という括りでは初の国産艦だったのです」

はるかぜ「ゆきかぜさんは……はい」

はるかぜ「除籍の翌年に実艦標的として……」



………
……


――――― 1993年


こんごう「はるかぜはいますカー?」

はるかぜ「はい、わたくしがはるかぜですが? ……あら、貴方はもしや」

こんごう「ふっふっふ……そのもしやデース! 私はUnited Statesの技術を基に産まれたイージス艦の――」

とね「相変わらずお主は煩いのう、こんごう」

こんごう「What's!? Hey、とね! 私の自己紹介を邪魔しないで下サーイ! それにウルサイっていうのは――」

とね「吾輩たちもやっとこさ就役したのでな、今日は挨拶に来たのじゃ」

こんごう「無視はやめるネー!」

はるかぜ「うふふ……それにしても、皆さん就役する度にわたくしの所へお越しになるのは何故なのでしょう? 皆さんのお話を伺えて、ありがたいことですが」

こんごう「ンー、誰が言い始めたのかは分からないケド、はるかぜをお参りするとfortunateということらしいネ」

とね「まぁ吾輩たちが久々にはるかぜの顔を見たかったから、というのもあるがな」

こんごう「Of course!」

はるかぜ「あらあら、そうでしたか。それならばわたくしもより一層精進しなければいけませんね。ふふっ」



……
………



はるかぜ「この1990年代には護衛艦隊の規模もかなりのものとなりました」

はるかぜ「1個護衛隊群が護衛艦8隻と哨戒ヘリ8機で構成されておりましたので、『八八艦隊』なんて呼ばれることもありました」

はるかぜ「そうそう、艦の大きさ自体も大きくなったのです」

はるかぜ「一番小柄なはつゆき型の皆さんでさえ、わたくしより大きくて……」

はるかぜ「こんごうさんに至っては満載排水量が9,500トンと、かつての軽巡か重巡並みの大きさを誇ります」

はるかぜ「こんごうさんと言えば……以前は紅茶をよく飲まれていましたが、今はコーヒーもお好きなんだとか。アメリカの影響……でしょうか?」



………
……


――――― 2000年


あけぼの「……それにしても、まだアンタがいたとはね」

はるかぜ「今はここで神社の真似事をやっています」

あけぼの「じ、神社?」

いかづち「もうっ! あけぼのったら、まーたそんな口聞いて! 本当ははるかぜさんに早く会いたくて急いで来たクセに」

いなづま「あけぼのちゃんはまだ進水したばかりで就役してはいないのです」

あけぼの「なっ!?」///

はるかぜ「まぁまぁ、それはそれは……。ありがとうございます、あけぼのさん」

あけぼの「うぐぐぐぐ……」

いかづち「否定したいけど否定できないって顔ね」

はるかぜ「ですが急いでいただいたのは宜しかったかと。今年か来年中にはわたくしも解体が決まるようですので」

いかづち・いなづま「「ええっ!?」」

あけぼの「……流石の甲型国産第一号でも保存はしてもらえないのね」

はるかぜ「とうの昔に除籍された身ですし、寧ろここまで置いておいていただけたことに感謝しています」

いなづま「うう……はるかぜさん健気なのです」

いかづち「そうね……あけぼの? 貴方も見習わないとダメよ?」

あけぼの「やかましい!」



……
………



はるかぜ「そして、現在に至るという訳ですね」

はるかぜ「思い返せば色々なことがあったものです」

はるかぜ「有事に直面することは現役の頃も、この状態となってからも、幸いにしてありませんでした」

はるかぜ「ですが『災派』の機会……災害への対応は幾度となく……」

はるかぜ「わたくしはチリ地震津波の際に派遣されておりますし、ゆきかぜさんも第十雄洋丸事件において派遣されました」

はるかぜ「記憶に新しいのは阪神淡路の震災でしょうか」

はるかぜ「わたくしは既にこの状態でしたから、まったく役には立てず……とても口惜しい思いをいたしました」


はるかぜ「『自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけ』とは、よく言ったものだと思います」

はるかぜ「平和な時、わたくしたちは日陰者です」

はるかぜ「張り子の虎……酷い時には税金泥棒とまで言われました」

はるかぜ「それでも……それでもわたくしは、この30年弱のこれまでに胸を張れます」

はるかぜ「殺めた数より助けた数の方が多い軍艦なんて、素敵ではありませんか?」

はるかぜ「少なくともわたくしは今日まで、それを誇りに生きて参りました」




はるかぜ「もし『次』があるのなら……ですか?」


はるかぜ「そうですね、その時もまた、静かな海の守人として働かせていただけるなら……」







―――――――――――
―――――――
―――



はるかぜ「……」

はるかぜ「……ここは?」

はるかぜ「どこか懐かしいような……あぁ、そうですわ」

はるかぜ「以前もここを訪れたことがありましたね」

はるかぜ「とすれば、こちらの方に……」

はるかぜ「……」

はるかぜ「……あぁ、やっぱり」


「……あらっ? 誰かと思ったら春風じゃない!」

「おぉ! 春風の姉貴も帰って来たな」

「春風さん! 響と雷と電は元気にしてる? お姉さんとして妹たちのことは気にかけないといけないから」

「あの、曙ちゃんのことも良かったら……」

「ぼのたん一回戻って来たのにまた出稼ぎに行ってしまいましたからねぇ……いい加減復☆活したいですε-(/・ω・)/」

「村雨も夕立も春雨も五月雨も出番があって良いよね~。復活するならいっちばーん……と思ったのに」

「どうだ春風、下ではとうとう航空戦艦の時代が来ているのか?」

「航空母艦はどうなのかしら? そろそろ私も……」

「ども、戻って来て早々恐縮です! 下の世界について取材させていただいても?」


はるかぜ「あぁぁ……皆さん落ち着いてくださいませ」ワチャワチャ


******


はるかぜ「ふぅ……やっと一息つけますね」

「……」チョンチョン

はるかぜ「あっ、はい……あら!」

「えへへっ!」

はるかぜ「ふふふ……お久しぶりですね。月並みですが、お変わりありませんか」

「もちろん元気ですよ! こっちには皆もいたので退屈しませんでした!」

はるかぜ「確かに退屈はしなくて済みそうですね。それではまた皆さんの所へ戻りましょうか」

「いえ、どうせなら姉妹水入らずでお話して来なさいと陽炎が」

はるかぜ「そうでしたか……せっかくですからお言葉に甘えましょうか、ゆきかぜさん」


ゆきかぜ「はい!」







――――― 20XX年 某県 造船所






その日の日中は朝の肌寒さが嘘のように暖かくなりました。

また、数日前にはこの季節の到来を告げる強い南風も吹きました。

雪が溶け、緑が芽を出し、別れがあれば、出会いもある。

そんな季節のある一日。



船台の上には灰色の船体を鈍く光らせた大きな艦が。

角張った艦橋と艦首に描かれた艦番号。

誰もが一目で海上自衛隊の護衛艦だと分かるでしょう。



今日はこの艦の命名・進水式が行われるようです。

艦名が書かれた幕が吊り下げられていますが、当然まだ隠されています。

素敵な名前を付けてもらえると良いですね。



あ……いよいよ命名のようですよ?






「本艦を――」









「『はるかぜ』と命名する!」





これにて終わりです。

いよいよ今年は新型イージス艦の命名・進水式が行われます!
さぁ誰が戻ってくるのやら……
去年は「はつひ」の流れを「しらぬい」で覆されたので、予想が難しい難しい。

それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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