提督「沈みかけてから、摩耶の様子がおかしくなった」 (131)

 摩耶と俺は悪友だった。





鳥海「こらっ! 二人とも待ちなさい!!」タッタッ


提督「へっ、待てと言われて待つ奴が……」タッタッ


摩耶「いるかってえのっ!」タッタッ


提督「摩耶、こっちだ!」


摩耶「おうっ!」


高雄「逃がさないわよっ!」


摩耶「姉貴っ!」


提督「くっ、先回りされてたか」


鳥海「さあ、追い詰めたわよ。大人しく返しなさい」


提督「万事休すか…」


摩耶「……いや、まだだ。提督っ、飛ぶぞ!」ガシッ


提督「へっ?」

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摩耶「行くぜっ! うおりゃああああ!!」バッ


提督「摩耶ここ3階いぃぃぃ!!」バッ


鳥海「窓から飛び出した?!」


高雄「ふ、2人とも?!」









バシャーンッ





摩耶「……ぶはぁっ! 提督、生きてるか!」バシャバシャ


提督「な、なんとか…」バシャバシャ


摩耶「よし逃げるぞ!」




高雄「う、海だったのね……」


高雄「無茶して…もうっ」

ーーーー
ーーーー



摩耶「逃げ切れたかな……」


提督「はぁっはぁっ……無茶するなあ、お前も」


摩耶「あはは、悪い悪い。それで例のブツは無事か?」


提督「ああ。もちろんだ!」ゴトッ


摩耶「姉貴達に奪われた!」


提督「俺秘蔵の酒!」


摩耶「は、早く飲もうぜっ!」


提督「ああ……よし。ほら」


摩耶「へへっ、サンキュ。それじゃあ……」


提督「乾杯っ!」

摩耶「んぐんぐっ……ぷはぁー!」


提督「美味いっ!」


摩耶「いやあ無茶した甲斐があったなぁ」


提督「ああ、これは飲まなきゃ罪だな」


摩耶「本当だよ。全く、一週間に一本とか姉貴達は鬼だよ…」


提督「酒は飲みたい時に飲む!」


摩耶「よっ! 提督、その通り……………へくしゅんっ!」


提督「ん、大丈夫か?」


摩耶「濡れたままだと冷えるな……ちょっと上脱いで絞るか」


提督「俺も寒くなってきた…」ヌギッ

摩耶「ん……張り付いて脱げない。提督、手伝って」


提督「ん」ヌギッ


摩耶「さんきゅ………んしょっ」ギューッ


提督「…………」ギューッ


摩耶「……提督少し太ったか?」


提督「あ? んー、どうだろ」


摩耶「酒ばかり飲んでるから肥えてきたんじゃないかぁ?」ムニムニ


提督「やめろくすぐったい。摩耶も人の事言えんのか? 腹回りにバルジがついてるぞ」ムニムニ


摩耶「は? ついてねえし。くすぐってえから触んなし。つーか提督。相変わらずデリカシーがねえな。だから彼女ができないんだぞ」


提督「うるせぇ。というか、デリカシーってお前、そういう風にあつかって欲しいのか?」ニヤニヤ


摩耶「嫌だよ気持ち悪い」


提督「真顔で言われるとなんか傷つくな…」

摩耶「へっ、そういうのはあたしのキャラじゃねえよ」


提督「ふっ、違いねぇな」


摩耶「そういや、バルジといえば……最近、愛宕姉さん太ったよなあ」


提督「お、やっぱり」


摩耶「提督も気づいてたか」


提督「何か隠れて食ってんのか?」


摩耶「ふふ、案外食いしん坊だからな。あり得るかもな」


提督「食いしん坊って……愛宕が聞いたら怒る…」


愛宕「胸が大きくなっただけよ〜」


提督「………」


摩耶「………」


愛宕「うふふ」


提督「………」ダッ


摩耶「………」ダッ


愛宕「逃げちゃだめよ」ガシッ

ーーーー
ーーーー


提督「…………」


摩耶「…………」


高雄「何か弁解はありますか?」


摩耶「……提督にそそのかされた」


提督「な?!」


愛宕「摩耶ちゃん嘘は駄目よぉ」ツンッ


摩耶「うぎゃあ?! あ、足を触るなぁ!」


提督「ふん、天罰だ」


愛宕「提督も威張ることじゃないですよぅ」ツンッ


提督「うぎゃあ、痺れる!?」


鳥海「言いましたよね。今週はもう禁酒だって」


提督「さ、酒は飲みたい時に飲むのが一番なんだ」


摩耶「そうだそうだ!」


愛宕「えいっ」ツンッツンッ


提督「うぎゃあ?!」


摩耶「あひぃっ?!」


高雄「……これは、少しお仕置きが必要ですね」


愛宕「そうねぇ」ワキワキ


提督・摩耶「ひいいぃ?!」

ーーーー
ーーーー


提督「……はぁっ………はぁっ……ま、摩耶。生きてるか…」


摩耶「ああ……何とか……」


提督「くそっ……酷い目にあった……」


摩耶「………提督の所為だ」


提督「ああ?! 摩耶も共犯だろうが! そ、そういやさっき俺を売ろうとしてたよな!」


摩耶「う、うるせえ! つーか、提督の癖して何で姉貴達より弱いんだよ! このヘタレ!」


提督「う、うるせえな。摩耶こそ妹の鳥海に逆らえねえじゃねえか!」


摩耶「し、しょうがねえだろ。あいつ…本気になるとヤバイんだから」


提督「ふんっ、ビビりが」


摩耶「あん?! やんのか!」グッ


提督「おう、やったんぞ!?」グッ


提督「…?! ぬ、ぬああ?!」ビリビリ

摩耶「ひ、ひゃあああ?!」ビリビリ

提督「ま、まだ足が……」


摩耶「畜生動けねぇ……」


提督「………今日の所は勘弁してやるよ」


摩耶「こっちのセリフだクソが…」


提督「ちょっとソファーで寝よ」


摩耶「あ、てめえ。あたしにも休ませろよ!」


提督「しょうがねえな……じゃあソファーを4分の1貸してやるよ」


摩耶「狭すぎるだろうが! 半分貸せ半分!」


提督「贅沢な野郎だ。この線から入ってくんじゃねえぞ」


摩耶「こっちのセリフだ! 線はみ出したら突き落とすからな!」


提督「ちっ…めんどくせえ」


摩耶「ふんっ」


提督「………」


摩耶「……くしゅんっ」

提督「何だ、風邪ひいたか?」


摩耶「ひいてねえよ」


提督「どれ」ピトッ


摩耶「ひいてねえってば……」


提督「熱はないか……」


提督「………ほらブランケット貸してやるよ」


摩耶「………」


摩耶「……提督のは?」


提督「一枚しかねえんだよ。勝手に使え」


摩耶「………ふんっ」


摩耶「….…」


摩耶「………なあ」


提督「……」zzz


摩耶「寝るの早っ!」


摩耶「………」


摩耶「……ちっ」パサッ

ーーーー
ーーーー


愛宕「摩耶ちゃーん。そろそろご飯よー」


愛宕「んー、提督のお部屋かしら」


愛宕「提督、失礼します」コンコン


愛宕「摩耶ちゃんがここに……」ガチャッ

愛宕「…………」


愛宕「あらあら……」









提督「………」zzz
摩耶「………」zzz




愛宕「うふふ」


高雄「あ、摩耶はいました…」


愛宕「しーっ、ほら」


高雄「あ………寄り添って寝てる……」


愛宕「……そっとしておきましょう」


高雄「…ええ」


提督「………」zzz
摩耶「……てぇとく………くそ…が……」zzz

 摩耶を女として意識した事はなかった。向こうもそうだったろうしな。摩耶がサバサバした性格だった事も有り、そういう感じにはならなかったのだ。


 ただ、良い友人ではあった。悪友とでも言うのだろうか。悪さをしては、愛宕達にとっちめられたもんだ。


 今の関係を変えるつもりはなかった。おそらく摩耶もそうだろう。悪友。この距離感が何よりも心地よかったからだ。ずっとこのままの関係が続くと思っていた。…………思っていたんだ。




ーーーー
ーーーー





「第一艦隊戻ったぞ!!」


「医療班急げ!!」


提督「……はぁっ…はぁっ…」タッタッ


愛宕「提督!」


提督「愛宕! ま、摩耶は?!」


愛宕「こっちよ!」

提督「摩耶!!」


摩耶「う……あ…………」


摩耶「て………とく…………………」


鳥海「提督、下がってください!」


「急げ! 運ぶぞ!」

「せーの!」


摩耶「うぐっ……」


提督「ま、摩耶……」


高雄「提督……大丈夫です。摩耶を信じましょう……」


提督「あ、ああ……」

ーーーー
ーーーー


提督「……すまない、摩耶」


摩耶「…だから、謝るなって。提督は悪くないんだから」


提督「だ、だが……」


鳥海「指揮は提督のが最適解でした。……原因は予想外の敵と…」


高雄「摩耶が先行し過ぎたのが原因ですね……」


摩耶「わ、悪い……」


愛宕「そうよ〜、全く摩耶ちゃんは」


摩耶「愛宕ねえ………?!」


愛宕「…………」ギュッ


摩耶「ね、姉さん…?」


愛宕「今度したら……許さないんだから」ギュッ


摩耶「……ごめん」


提督「愛宕……」


愛宕「…………さて、辛気臭いのも終わりにしましょう! 摩耶ちゃんも無事だった。それを祝いましょうか」


提督「……そうだな。よし、そうだな!」


提督「摩耶! 早く直して一緒に酒飲もうぜ!」ガシッ


摩耶「あ………」


摩耶「?!」


摩耶「……っ」バッ


提督「あ、悪い…痛むか」


摩耶「あ………あれ。ち、違……」


提督「………どうした?」


摩耶「……な、何でもない」


提督「?」


摩耶「………」

ーーーー
ーーーー


摩耶「………」


提督「おーい、入るぞ」ガチャッ


摩耶「て、提督?」ビクッ


提督「どうした慌てて?」


摩耶「な、何でもねえよ。……あれ1人か?」


提督「ああ」


摩耶「そ、そうか。1人か…」


摩耶「………」モジモジ


提督「どうした? モジモジして小便か?」


摩耶「し、小便?! ち、ちげえよクソが!」


提督「そ、そんな怒んなよ」


摩耶「あ……悪い///」


提督「……?」

提督「もう、体は大丈夫なのか?」


摩耶「………」


提督「摩耶?」


摩耶「へ? あ、ああ。体はもう大丈夫だぜ」


提督「そうか。なら……少し飲むか?」


摩耶「お、それは!」


提督「ふふ…秘蔵の一本だ」


摩耶「流石は提督!」


提督「今日は俺がお酌をしてやるよ」スッ


摩耶「へ?!」

摩耶「と、隣り座るのか?」


提督「は? そりゃあ…じゃないとつげないだろ」


摩耶「そ、そうだよな」


提督「? じゃあ失礼」


摩耶「あ……う///」


提督「どうした? 顔赤いぞ。熱でもあるのか」


摩耶「ね、ねえよ……」


提督「本当か? どれ」ピトッ


摩耶「?!」


摩耶「ひゃ、ひゃあ!?」


提督「うおっ?!」


摩耶「冷たっ!」ビチャッ


提督「わ、悪い」


摩耶「い、いや。悪い、驚いちまった」


提督「けど、摩耶が酒まみれになっちまったな……」

摩耶「あー、でも丁度これから着替えて体拭こうかと思ってたから大丈夫だ」


提督「まだ、風呂は駄目なのか?」


摩耶「明日からだな」


提督「そうか…………よし、じゃあ背中拭いてやるよ!」


摩耶「は、はあ?!」


提督「1人じゃ拭きにくいだろ。手伝ってやるよ」


摩耶「い、いらねえよ」


提督「遠慮すんなって」


摩耶「いいってば…」


提督「ふっ、摩耶の裸見ても襲いやしないって」




摩耶「……っ。いいっつってんだろ!!」

提督「え…」


摩耶「あ………」


摩耶「…………悪い。でも、本当に大丈夫だから」


提督「い、いや俺も悪かった。すまない」


摩耶「うん……」


提督「酒、また持ってくるな」


摩耶「あ、ああ。楽しみにしてるぜ」


提督「じゃあ、そろそろ帰るよ。またな」バタンッ


摩耶「うん……また」









摩耶「…………」


摩耶「提督…………」


摩耶「あたしは…………」

提督(摩耶の奴……何か変だったな)


提督(………)


提督(んまあ入院中だしな。ちょっとナイーブだったんだろ)



ーーーー
ーーーー


コンコン


提督「どうぞ」


摩耶「提督…」ガチャ


提督「おお、摩耶。退院おめでとう」


摩耶「め、迷惑かけたな」


提督「はは。摩耶がいなくて寂しかったよ」


摩耶「え? あ、あたしがいなくて寂しかったのか」


提督「おう、なんせ俺1人じゃあの3人に叶わないからな。やっぱ悪さは摩耶とじゃないと」


摩耶「あ、ああ……悪さね………やっぱりそうだよな……」


提督「ん、どうした?」


摩耶「何でもない…」


提督「もちろん、戦力としても摩耶の復帰は待ち遠しかったぞ」


摩耶「そ、そうか」


提督「頼りにしてるからな! 摩耶!」


摩耶「た、頼り。………提督があたしを頼りに……」


摩耶「…………///」


提督「……摩耶?」


摩耶「……///」


提督「おーい、摩耶ってば」ペチペチ


摩耶「え?! な、何だよ?」


提督「何って……急にボーッとしだしから」


摩耶「え、あ……わ、悪い悪い」

提督「お前大丈夫か。まだ治ってないんじゃ」


摩耶「だ、大丈夫だ。うん、大丈夫大丈夫……」


提督「なら良いが…無理はするなよ」


摩耶「う、うん…」


提督「じゃあ、今日は訓練と演習だ。勘を取り戻してってくれ」


摩耶「分かった。じゃあ行ってくる」


提督「おう」


摩耶「………」


摩耶「あ、あのさ」


提督「ん?」


摩耶「し、心配してくれて……あ、ありがとな///」


提督「え?」

摩耶「いやだから……心配してくれて…ありがとなって///」


提督「…………」


提督「……摩耶」


摩耶「な、何?」


提督「やっぱ治ってないんじゃないか?」


摩耶「……っ。う、うるせえバーカ! ま、摩耶様が感謝してやったんだからありがたく思えよクソ………あ」


提督「な、なんだとてめえ?!」


摩耶「…………」


提督「……?」


摩耶「あー……もう何で…」クシャクシャ


提督「摩耶?」


摩耶「い、行ってくる」ガチャッバタン


提督「あ、おい……」


提督「やっぱ変だよな…」

ーーーー
ーーーー


あきつ丸「提督殿。改装、無事完了したであります」


提督「おお、あきつ丸。お疲れ様。ほぉ、随分と変わったな」


あきつ丸「航空兵力が充実したであります。これはもう……空母であります」


提督「はは、ちげえねぇ。その、ランプみたいなの綺麗だな」


あきつ丸「これでありますか? これは走馬灯でありますよ」


提督「へぇ……それが俗に言う、死に際に走馬灯が見える、の走馬灯か」


あきつ丸「そうでありますね」


提督「俺の走馬灯は何が見えるんだろうな……。初めて飲んだ酒や……あの時の酒も思い出しそうだなぁ」


あきつ丸「俗が多い走馬灯でありますね……」


提督「う、うるせえな。酒の弱いお子様には良さがわからないんだよ」


あきつ丸「なっ、聞き捨てならないであります! 自分は弱くなどないであります!」

提督「よく言うぜ。宴会で真っ先に寝落ちする癖に…」


提督「はっ…自分、落ちていたでありますか!? なんつって」ニヤニヤ


あきつ丸「むきー! じ、自分の真似をするなであります!」


摩耶「…何騒いでんだお前ら」


提督「あ、摩耶」


あきつ丸「摩耶殿、退院おめでとうであります」


摩耶「おう、さんきゅ」


あきつ丸「そして報告が一つ。提督殿は俗物であります」


摩耶「おう、全くだ」


提督「即答すんな!」

摩耶「お、そのランプ綺麗だな」


あきつ丸「これは走馬灯でありますよ」


摩耶「そ、走馬灯?」


あきつ丸「死に際に見るアレでありますよ。提督は俗な走馬灯を見る俗物であります」


提督「うるへえ!」


摩耶「走馬灯……」


提督「んー、摩耶はどんな走馬灯を見るんだろうな? もしかして俺とか」


摩耶「え?!」


あきつ丸「うぬぼれるなであります」


摩耶「………」


あきつ丸「摩耶殿?」


摩耶「え? わ、悪りい。用があるからそろそろ行くわ! じゃっ」


提督「お、おう」

提督「どうしたんだあいつ」


あきつ丸「提督の想像を絶する不愉快な言葉に気分を害したでありますよ」


提督「なんかお前どんどん毒舌になるな……」


あきつ丸「……冗談であります。推測ですが、摩耶殿はこの前沈みかけたでありますよね」


提督「…あー」


あきつ丸「もしかしたら走馬灯の話しで気分を害してしまったかもであります。ああ……自分、軽率だったであります……」


提督「いや、俺が悪い。しくったな……」



ーーーー
ーーーー


提督「摩耶、いるかー?」コンコン


「て、提督?」


提督「入って良いか?」


「ち、ちょっと待て!」ガタガタ


摩耶「い、いいぞ!」ガチャ


提督「どうした慌てて? 何かしてたのか?」


摩耶「な、何でもねえよ」

提督「じゃ、お邪魔するぜ」


摩耶「ど、どうしたんだいきなり来て」


提督「ん? んー………」


提督「その、何だ。昼間は悪かったな」


摩耶「昼間?」


提督「ほら、あきつ丸と走馬灯の話をしてただろ」


摩耶「う、うん」


提督「それはちょっと摩耶に対して軽率だった。すまん、悪かった」


摩耶「よ、よしてくれよ。別にあたしはそんなの気にしてないよ」


提督「そうなのか? でも、急にどっか行ったからてっきり…」


摩耶「あれは……違う。ほんとに用事があったんだ」


提督「ほんとか?」


摩耶「ほ、ほんとだ」


提督「なら良いが……」

摩耶「………」


摩耶「あのさ、走馬灯の……話なんだけど」


提督「うん?」


摩耶「提督はさ………走馬灯に…何を…見そう?」


提督「俺? うーん………なんだろ。酒の思いでかな」


摩耶「酒……」


提督「あきつ丸に俗だって言われちまったけどな」


摩耶「………そっか」


提督「何だよ、摩耶もそう思うのか?」


摩耶「………」


提督「摩耶?」


摩耶「あ……さ、酒ね。あはは…俗な野郎だな」

提督「う、うるせえな。摩耶も案外俗な走馬灯なんじゃないか?」


摩耶「あたしは………」


摩耶「………」


摩耶「へへっ……そうかもな!」


提督「はは、摩耶らしいな」


摩耶「……っ。そ、そろそろ寝て良いか?」


提督「ああ、悪いな。おやすみ」ガチャバタンッ


摩耶「明日なっ」


摩耶「…………」


摩耶「走馬灯に……俗な野郎が出て来たには違いねえな………ばかやろ…」

ーーーー
ーーーー


提督「お、今日のカレーなんか、まろやかで上手いな」


愛宕「はいはーい。今日の当番は私で〜す」


鳥海「何か隠し味を入れたんですか?」


愛宕「自前のミルクを足したのよ〜」


鳥海「ちょ?!」


高雄「え?!」


提督「あ、愛宕……?」


愛宕「あらあら…皆どうしたの? 自前で牧場から取り寄せた特製ミルクを入れただけよ?」


提督「な、なんだ……」


愛宕「うふふ」


高雄「提督…」


鳥海「いやらしいです…」


提督「お前らも吹き出してただろ?!」


摩耶「………」ボーッ


提督「ん? 摩耶、食わないのか?」


愛宕「冷めちゃうわよ~」


摩耶「えっ。あ、ああ…食べるぜ」パクパク

提督「それにしても、同じ姉妹なのにカレーにそれぞれ個性があって面白いよな」


鳥海「確かにそうですね。皆、違いますよね」


愛宕「じゃあ、提督は誰のカレーが
1番好きですか~?」


提督「俺か? うーん……」


提督「……摩耶のかなぁ」


摩耶「?!」ゴホッ


提督「おわっ?!」


高雄「ま、摩耶?!」


摩耶「わ、悪りいむせた……」

摩耶「あ、あたしのカレーが1番好きなのか?」


提督「んー、まあそうだな」


摩耶「そ、そうか……そうかそうか///」


提督「なんつーか、男の味って感じがするんだよな」


摩耶「お、男?」


提督「ああ、男が作る男のカレーって感じがしてな」


鳥海「…デリカシーが皆無な褒め方ですね」


高雄「ええ、だから彼女がいないんですよ」


提督「あ? な、何でだよ?」


愛宕「摩耶ちゃ~ん。提督を殴っていいわよ~」


摩耶「………」


愛宕「…摩耶ちゃん?」

摩耶「……ごめん。先…上がる、ごちそうさま」ガタッ


提督「摩耶?」


摩耶「……」スタスタ


提督「ま、摩耶……」


鳥海「提督……?」ジャキッ


提督「ま、待て。確かにデリカシーはなかったかもしれない。でも、俺にデリカシーがないのは前からだろ」


高雄「確かに……摩耶にしては変な怒り方ですね」


提督「何か最近変なんだよ……話してると挙動不審になったり、怒ったり」


愛宕「んー…………ああ。そうなのかな」


提督「愛宕?」


愛宕「私、ちょっと話してみるわ」

ーーーー
ーーーー


摩耶「………」


 鏡を見ると、目つきの悪い奴が不機嫌そうにあたしを見ていた。


摩耶「………」


摩耶「………」ムニムニ


摩耶「………」グイグイ


摩耶「………」ニコー


摩耶「………」


摩耶「……女らしくない可愛げのない顔だ。クソが…」


愛宕「摩耶ちゃーん!」ガチャッ


摩耶「おわっ! ね、姉さん。突然入ってくんなよ!」


愛宕「あら、摩耶ちゃん。鏡に向かってるなんて珍しいわね」


摩耶「あ…こ、これは」

愛宕「摩耶ちゃんもお化粧したくなったの~?」スチャッ


摩耶「どっから出したんだよ…」


愛宕「摩耶ちゃんの為にいつでも用意してるのよ~。せっかく可愛いんだから、お姉ちゃんは摩耶ちゃんにお化粧してもっと綺麗になって欲しいんだけどな~」


摩耶「……いいよ。あたし可愛いくなんか無いし」


愛宕「摩耶ちゃん。そんな事ないわ」


摩耶「……ううん。分かってるんだ」


愛宕「え?」


摩耶「鳥海も高雄姉さんも愛宕姉さんも、みんな女らしいのに……あたしだけ違うって」


愛宕「摩耶ちゃん…」


摩耶「はは…提督も男っぽいって言ってるしよ……失礼な奴だよなあいつ」グスッ


摩耶「ほんっと………デリカシーの…っ……ない……うっ……やつ……だよっ」グスッグスッ


愛宕「……」ギュッ


摩耶「姉…さん」


愛宕「摩耶ちゃん…提督の事が好きなのね」


摩耶「………うん」コクッ

摩耶「あたしさ……この前沈みかけただろ……」


愛宕「うん」


摩耶「その時にな、走馬灯をみたんだ」


摩耶「鳥海や姉さん達との思い出が浮かんできたよ。……提督の奴との悪ふざけもな」


愛宕「摩耶ちゃん…提督と仲良しだもんね」


摩耶「理由は分からなかったんだ。最初はただ一緒につるむのが楽しくて……それだけだったんだよ」


摩耶「でも……沈みかけた時、無性に悲しくなったんだ。もうあいつと会えなくなるんだって。それだけは嫌だった。もっとあいつと…ずっとあいつといたいって強く思ったんだ……」


愛宕「大事な人、って気づいたのね」


摩耶「うん……気づいちまったんだよ。ああ……あたしは提督の事が好きなんだって」


愛宕「そっか……」

摩耶「でもよ、今までが今までだから…提督の奴、あたしを女扱いしねえんだよな……あはは」


愛宕「摩耶ちゃん…」


摩耶「あたしも今まで通り触られたりすると……なんか変な感じになっちまうし…」


摩耶「急に女っぽくなんかなれねえしよ……まいったよ、ほんとに。どうすりゃいいかわかんねえ…」


愛宕「…………」


愛宕「摩耶の気持ち、正直に伝えるしかないわよ」


摩耶「えっ。で、でも……」


愛宕「伝えられる時に伝えないと……二度と会えなく。私達はそういう場所にいるわ。いつかは……なんて考えたら後悔しちゃうわよ」


摩耶「でも提督はあたしの事なんか……」


愛宕「いいえ…決してそんな事はないわ。ただ、今までは近すぎただけなのよ」


摩耶「近すぎた?」

愛宕「2人は近すぎてお互いの大事さに気づけなかった。摩耶ちゃんは気づけたでしょ。なら、提督も気づいてくれるわ」


摩耶「そう…かな」


摩耶「…………」


摩耶「でも、気づいてもらうにはあたしの気持ち…伝えるしかないよな」


摩耶「分かった……やるよ。あたし、気持ちを伝える」


摩耶「姉さん、ありがとう」


愛宕「いいのよ。私の大切な可愛い妹だもの。どんな力でも貸すわ」


摩耶「姉さん…」


愛宕「うふふ……よーし、じゃあメイクの練習するわよ!」


摩耶「え?!」


愛宕「可愛くおめかしすれば、提督もイチコロよ!」


摩耶「そ、そうかな……よ、よし。やるぞっ!」


愛宕「おー!」


ーーーーーーーー
ーーーー
ーー


摩耶「………ふー」


摩耶(メイクっつうのは中々難しいもんだな。慣れねえや)


摩耶(……でも、少しでも可愛げのある顔になれるなら…)


摩耶(あ、あの野郎が少しでも……か、可愛いと思ってくれるなら…)


摩耶「………」


摩耶(そろそろ伝えねえとな……)


摩耶「……あ。愛宕姉さんの化粧道具持ってきちまった。返さねえとな」ガチャッ


提督「ん?」


摩耶「て、提督?!」


提督「お、摩耶か。どうした慌てて?」


摩耶「な、何でもねえよ」

提督「つーか、摩耶よぉ。最近付き合い悪くねえか」


摩耶「そ、そんな事ねえよ。てか酒臭せえな」


提督「ちょびっと飲んだだけだよ。よーし、これから一杯付きあ…………ん?」


摩耶「な、なんだよ? あんまみんなし///」


提督「摩耶、メイクしてるのか?」


摩耶「え?!」


提督「ふーん、ナチュラルメイクか」


摩耶「わ、悪りいかよ…」


提督「なんだ、急に色気づいたのかぁ?」


摩耶「……あ?」

提督「急に女みたいになりやがって……もしかして男でもできたのか」ニヤニヤ


摩耶「……っ」


提督「いやー、なんか最近摩耶らしくねえからよぉ、もしかして……なんてな…」


摩耶「…らしいって何だよ」


提督「え?」


摩耶「あたしらしいって何なんだよって聞いてんだよクソ野郎!!」


提督「ま、摩耶? 何そんなに怒ってんだ。こんなんいつものやりとりだったろ……やっぱ、最近変だよ摩耶」


摩耶「変?! あたしが変だって言ったな?! 何も分かってない癖に変だって言ったな!!」


提督「分かるって何をだよ。俺にはさっぱりわかんねえよ」


摩耶「そうだよな! 分かるはずねえよな! お前はあたしをそういう風に見てないもんな!!」


提督「そういう風に見てない……?」

提督「急に女みたいになりやがって……もしかして男でもできたのか」ニヤニヤ


摩耶「……っ」


提督「いやー、なんか最近摩耶らしくねえからよぉ、もしかして……なんてな…」


摩耶「…らしいって何だよ」


提督「え?」


摩耶「あたしらしいって何なんだよって聞いてんだよクソ野郎!!」


提督「ま、摩耶? 何そんなに怒ってんだ。こんなんいつものやりとりだったろ……やっぱ、最近変だよ摩耶」


摩耶「変?! あたしが変だって言ったな?! 何も分かってない癖に変だって言ったな!!」


提督「分かるって何をだよ。俺にはさっぱりわかんねえよ」


摩耶「そうだよな! 分かるはずねえよな! お前はあたしをそういう風に見てないもんな!!」


提督「そういう風に見てない……?」

摩耶「ちっ……うっ…っ……バカ……野郎が…」グスッ


提督「ま、摩耶。泣いているのか?」


摩耶「誰のせいだと……っ……思ってんだ……っ。あたし……あたしはなぁ…」












摩耶「提督が好きなんだよ」ポロポロ


提督「俺が……好き?」


摩耶「……」コクッ

提督「…………い」


提督「いやいや冗談だろ! そ、そんな俺の事を好きだなんて…」


摩耶「……………」


提督「好きだなんて……」


提督「…………」


提督「………本気なのか」


摩耶「…………」


摩耶「あたしな、気づいちまったんだ」


提督「気づいた?」

摩耶「前にあたし…沈みかけただろ」


提督「ああ…」


摩耶「そん時にな、走馬灯をみたんだ」


摩耶「鳥海や高雄姉さん、愛宕姉さんの姿が浮かんできたよ」


摩耶「不思議と怖くはなかったよ。怖くなかったんだ」


摩耶「…………」


摩耶「……でもな、お前が浮かんできたら……」


摩耶「急に怖くなったんだ」ポロポロ


提督「摩耶……」

摩耶「もう二度とお前と会えない」ガタッ


提督「ま、摩耶?」


摩耶「二度とお前に会えない! お前と喋れない!」


提督「お、落ち着け摩耶!」ガシッ


摩耶「…………」


摩耶「そう考えると、死ぬのが怖くてたまらなくなったんだ」


摩耶「何で怖くなったか…………それは生き延びて気づいたよ……あたしは提督の事が好きなんだなって」


摩耶「気づいて以来、あたしは確かにおかしくなっちまったよ…………ほら、わかるだろ」ガシッグイッ


提督「ま、摩耶?! 胸が当たって…」ムニュ


摩耶「どうだあたしの鼓動は? 前は触られても何も感じなかったのに、今は提督に触られてるだけでこんなにドキドキしちまう」


摩耶「……なあ、提督はどうなんだ? あたしの事好きじゃないのか? 今までずっと一緒にいただろ?」

提督「俺は……」


提督「…………」


摩耶「ちっ……何だよ…はっきりしねえな」


摩耶「………」シュルッパサッ


提督「摩耶?!」


摩耶「あたしの…裸見て……どうなんだ?」


提督「ま、摩耶やめろ」


摩耶「なぁ、提督。あたしの事好きにしていいよ。望むことなら何でもしてやるよ」


提督「摩耶…」


摩耶「どうなんだよ…提督」


提督「……….」


提督「分から…ない」


提督「でも今、俺は……摩耶にそういうことは……できない…」


摩耶「………」

摩耶「………そうだよな。分かってたよ」


提督「…………」


摩耶「あたしがお前にそういう風に見られてない事ぐらい……分かってたさ」


摩耶「ふっ……何たってずっとお前といたからな。よく分かってるよ、お前の事は」


提督「摩耶…」


摩耶「……もうお前と悪さはできねえわ。ごめんな」


提督「え…」


摩耶「喋ってるだけで……っ………うぐっ……辛いんだ…」ポロポロ


提督「ま、摩耶……」



摩耶「あはは……何だか泣いてばかりだな。………変なもん見しちまってごめんな! あたし、もう行くわ!」


提督「摩耶!」


摩耶「くるな!!」


提督「……っ」


摩耶「頼むからっ…こないでくれ」


提督「………」


摩耶「………じゃあな」

ーーーー
ーーーー


コンコン


愛宕「は~い」


摩耶「……」


愛宕「あら、摩耶ちゃ………摩耶ちゃん?」


摩耶「………」ギュッ


愛宕「……何か、あったのね」


摩耶「全部……終わちまった。終わっちゃったんだ」


愛宕「摩耶ちゃん…」


摩耶「……っ…うっ……うあっ……終わっちゃった……終わっちゃったよ……」


摩耶「うぐっ……うあ…うわああああああああああん!!」


ーーーー
ーーーー


提督「…………」


 ――提督が好きなんだよ。


提督「…………っ」


提督「……くそっ……」


コンコン


提督「…………」


コンコン


提督「……入れ」


愛宕「失礼しま~す」


提督「…何だ」


愛宕「提督、そろそろ休憩してお茶でもどうですかー?」


提督「…………」


愛宕「提督?」

提督「……用は摩耶の事だろ」


愛宕「……ええ」


提督「悪いが話す事は何も無い。出てってくれ」


愛宕「………」


愛宕「提督は摩耶ちゃんの想いを聞かされて、何も思わなかったの?」


提督「……っ」


愛宕「気持ちわは分かるわ。今まで近すぎて意識してなかった。だから、摩耶ちゃんの想いを告げられて戸惑っている」


愛宕「でも次は提督が気づく番よ。自分の気持ちに向き合って」


提督「うるさい! で、出て行け!!」


愛宕「……扉は閉じてしまったけど、まだ開けられるわ。それができるのは……提督だけよ」ガチャッバタン


提督「…………」


提督「……くそっ」ガンッ


提督「俺は……」

 自分でもどうすれば良いか分からない。摩耶が俺の事が好き……なら俺はどう思っている? 愛宕の言っていた通り、今まで近すぎたのだろうか。俺は酷く混乱していた。自分の気持ちが分からない。

 そして何もできないまま、その時が来てしまった。


ーーーー
ーーーー


提督「ま、摩耶が転属?」


大淀「はい。今朝、大本営から指令が届きました」


提督「み、見せろ」


提督「…………っ。夢じゃなさそうだな……」


提督「………拒否は?」


大淀「む、無理です。新型改装のテストもあり、直々に指名が来てますので…」


提督「…………」


提督「摩耶を呼んでくれ…」

ーーーー
ーーーー


摩耶「あ、あたしが転属?」


提督「そうだ……今朝、大本営から指令が来た。新型改装の対象に、直々に摩耶を指名だ」


摩耶「あたしが転属……あ、あはは……マジかよ……」


提督「………」


摩耶「い、嫌だと言ったら?」


提督「直々に指名があったといったろ。それは……できない」


摩耶「……そっか。そうだよな……うん」


摩耶「…………」


提督「摩耶……」


摩耶「っ……せ、世話になったな! 提督!」

摩耶「つーか、直々指名とか摩耶様が優秀だったからだろ! 栄転じゃねえか!」


提督「………」


摩耶「そんなシケた顔すんなよ! 摩耶様の門出、パーッと祝ってくれよな!」


提督「あ、ああ…」


摩耶「バッチリ準備してくれよな! じゃ、あたし姉さん達に報告してくるな!」ガチャッバタン

摩耶「…………」


摩耶「う、うぐっ……うあ……うあああ……」


摩耶「嫌だ……っ………転属なんかっ……したくねえよぉっ………」


摩耶「……提督っ………うっ……提督、提督っ………」


摩耶「う、うああああああ…」

ーーーー
ーーーー


愛宕「……摩耶ちゃんの転属、決定事項なんですね」


提督「ああ…俺じゃあ止められない。悪い……」


愛宕「いえ、提督が謝る事じゃないわ。それに、栄転ですもの。姉として…誇らしいわ」


提督「…あいつは腕っ節がいいからな。思いっきりが良いし、度胸もある。少しそれが危なっかしくも、あるんだが」


愛宕「ふふ…最初の頃は大変だったわね」


提督「ああ。とんだじゃじゃ馬だったよ」


愛宕「……でも、提督とは凄く気が合ってたわね」


提督「………そうだな」

愛宕「摩耶ちゃんとは、もういいの?」


提督「……もう今更話しても仕方ないだろう。離れ離れに…なるんだから」


愛宕「……摩耶ちゃんも同じ事言ってたわ」


提督「そっか……なら、これでいい。これでいいんだ」


愛宕「…………本当に」


提督「ああ」


愛宕「ならどうして泣いてるの?」


提督「え……あ」ツー


提督「あ、あれ…俺泣いてんのか……」


提督「…何がそんなに悲しいのかね」

愛宕「提督……あなた」


提督「ちっ……ダメだ、とまんねえや……」ツー


愛宕「……」


提督「くそっ……何だよもう。くそっ…くそっ……」ツー


愛宕「ハンカチを」


提督「あ、ありがとう」


提督「っ……ごめんな。愛宕。俺もどう整理つけりゃ良いか分からないんだ」


愛宕「…うん」


提督「俺は…摩耶にいなくなって欲しくないんだろうな」

提督「でも、もうどうにも出来ない。何をしても摩耶を傷つけちまうしさ………俺はとんでもねぇクソ提督だ」


愛宕「提督……」


提督「自分の気持ちを整理できなくて……っ、摩耶を……摩耶傷つけて……うぐっ」


愛宕「……提督もういいのよ」


提督「俺は…俺は……うっ?!」


愛宕「提督?!」


提督「うぐっ…おえっ……げほっ、げほっ!!」


愛宕「血?! 提督! しっかりして! 提督!!」

ーーーー
ーーーー


摩耶「い、胃潰瘍?」


愛宕「ええ、突然」


摩耶「……何やってんだ。あいつは」


愛宕「提督も……色々考えてて…それで」


摩耶「…………」


愛宕「ねぇ摩耶ちゃん。もう一回提督と」


摩耶「話さねえよ」


愛宕「摩耶ちゃん……」


摩耶「話しても意味ねえよ。……もう、時間切れだ」


摩耶「お互い話しても…苦しむだけだ。だから話さねえ」


摩耶「………ごめんな、姉さん」


愛宕「……ううん」

ーーーー
ーーーー


愛宕「摩耶ちゃんは、明日出発よ」


提督「そうか……明日か」


愛宕「退院は…」


提督「10日後だ」


愛宕「そうですか……」


提督「………」


愛宕「…摩耶ちゃん、ここには来ませんよ」


提督「ああ、それで……いい」


愛宕「……」


提督「いいんだこれで……」


提督「もう……いいんだ」

ーーーー
ーー


「よ! アタシ、摩耶ってんだ。よろしくな!」


 あれ、摩耶。何で……ここに? お前は転属だろ。


「んんー? なーんか頼りなさそうな提督だなぁ……」


 ……ああ。夢か。これは夢なのか。


「大丈夫なのかぁ……この摩耶様の提督なんだから、しっかり頼むぜ!」


 懐かしいな。思えば着任して来た時から生意気な奴だったな。本当に高雄型なのかと疑ったぐらいだ。


「んだよっ、姉さん達は関係ないだろ! アタシはアタシだからな!」


 そうだな。摩耶は摩耶だったな。クソ生意気な重巡の摩耶だ。

「くんくんっ……なんかここから酒の匂いがすんな…。あっ、こんな所酒が!」


 何と無く摩耶は俺と同類な気がしたんだ。悪い奴の匂いと言うか…。


「提督………中々やるじゃねえか! 提督も何と無く悪い奴だと思ってたんだよな! だから、あたしもなっ……ほら! 酒、持ってきたんだ! 一緒に飲もうぜ!」


 だから、杯を交わす仲になるのにはそう時間はかからなかった。


「いやー、提督といると楽で良いな。姉さん達は口うるさくて仕方ないからな……。いやまあ、アタシの為を思ってだってのは分かってるんだけどな……」


「やっぱ、同類といるのが一番心地よいのかなぁ……へへっ」


 ……俺もだよ。摩耶。お前といるのが一番心地よかった。

「あたしは……提督が好きなんだよ」


 ……っ。好き……か。摩耶は俺の事が好き。戸惑ったよ。そんな風にあいつに思われるなんて考えてなかったから。


「提督は………どうなんだ?」


 俺は…正直分からなかった。摩耶といる時の心地よさ。その源泉が俺には分からなかった。





 ……でも、摩耶がいなくなってしまうって分かった時、凄く悲しかった。それこそ……胃に穴が空くくらいな。


 そして分かった……悲しみと心地よさの源泉は同じ場所だったって。俺は……俺は……。












 摩耶の事が好きなんだ。


 

 俺も摩耶が好きなんだ。摩耶にいなくなって欲しくない。摩耶とバカやってたい。摩耶に……一緒にいて欲しい。摩耶が……好きなんだ。


「なら、伝えなきゃ」


 ……もう、遅い。もう時間切れなんだ。俺の……所為だ。


「……提督がすべき事は悔やむ事ではないわ」


「扉を開く事が出来るのは提督だけよ」


 ……その扉には錠がかかったんだ! もう二度開かない!


「扉は一度開けられたわ。泣き叫びながら、その扉は向こう側から開けられた。それを知り、提督がすべき事は何? 諦める事?」


 ……っ。……俺は。俺のすべき事は。


 ――よっ、提督!

 ――頼りなさそうな提督だなあ。

 ――やっぱお前も悪だなあ!

 ――提督と飲む酒が一番美味いな!
 ――提督、お前といると落ち着くんだ……へへっ。




 ――提督、お前の事が好きなんだ。




 ……俺のすべき事は、錠を叩き壊す事だ。血まみれになりながらも、錠を壊し扉を開かなければ。


「なら、行って。まだ、間に合うわ!」


 ……ああ!

ーーーー
ーーーー


鳥海「ま、摩耶……っ…う……げ、元気……でね……うぐっ…」グスッ


高雄「お、落ち着いて……」


摩耶「ち、鳥海。そんなに泣くなよ……」


愛宕「いいのよ……悲しい時は泣のよ」グスッ


高雄「愛宕……うっ……ぐすっ」グスッ

摩耶「高雄姉さん……」


摩耶「………」


摩耶「皆。今まで、ありがとう。あたし、皆と戦えた事。一生忘れないよ」


鳥海「うん……うん……私も…忘れない……」


摩耶「………愛宕姉さん。提督の事、よろしく頼むな」


愛宕「……ええ」


「時間です。駅までお送りします」


摩耶「ああ……それじゃ」


ブロロッ

高雄「摩耶っ……うっ……摩耶…」


鳥海「ううっ……うあ……」


愛宕「………摩耶」


ピピピッ


愛宕「……電話?」


愛宕「はい…………え!?」


愛宕「て、提督が?!」

ーーーー
ーー


摩耶「…………」


摩耶(もう、この海を見ることもないんだよな)


摩耶(…………)


摩耶(……提督。これでよかったんだよな……)


「え? う、うわあああ?!」キキッ!


摩耶「うおっ?! き、急ブレーキすんなよ……」








提督「はぁっ………はぁっ……」


摩耶「てい………とく?」

「な、何だお前は!」チャキッ


摩耶「ま、待ってくれ! こいつはアタシの提督で…」


提督「頼む」ガシッ


「うわ!」


摩耶「提督!」


提督「少しで良い……摩耶と話しをさせてくれ」


「し、しかし時間が…」


提督「頼む」


「……っ。……3分だ。それ以上は待たない」


提督「分かった。恩に切る」

提督「摩耶……」


摩耶「な、何でこんな所にいるんだよ。そんな病院服で……抜け出してきたのか?」


提督「ああ」


摩耶「ああって……何をしに」


提督「摩耶、話したい事がある」


摩耶「……っ。な、何だよ。話すことなんて何もねえよ」










提督「俺は摩耶の事が好きだ」


摩耶「え……?!」

提督「俺……気づいたんだ。摩耶といて心地よい気持ち。摩耶がいなくなって悲しい気持ち」


提督「自分の心と向き合って……それは摩耶の事が好きだからって、気づいたんだ」


提督「摩耶、お前の事が好きだ」


摩耶「……っ」


摩耶「……んのっ、クソ野郎がああああ!!」バキッ


提督「うぐっ…」


「お、おいっ!」


提督「だ、大丈夫だ! 大丈夫だから!」

摩耶「あたしが好きって………そんな事言ってもっ…」


摩耶「もう遅えじゃねえかよぉ…」ポロポロ

摩耶「今更言われても…もう……もう遅えんだよ……」


「…………時間です。行きますよ」


摩耶「……っ。馬鹿が……あばよっ」






提督「迎えに行く」


摩耶「……は?」

提督「俺は…もっと戦果を上げて、もっと偉くなって、お前を迎えに行く」


摩耶「む、迎えに? そ、そんな事出来るわけ……」


提督「必ず迎えに行く!!」


摩耶「……っ」


提督「酒もタバコも辞める! 泥を啜ってでも、血まみれになっても! どんな事をしてでものし上がって……お前を必ず迎えに行く!!」


提督「だからっ……待っていてくれ」


摩耶「………っ」


摩耶「……っそんないつになるか分からない、身勝手な約束を信じろってのか!!」


提督「…………」


摩耶「く、クソがっ………」


摩耶「………」


摩耶「………ってやるよ」


提督「え……」


摩耶「待っててやるよ!!」


提督「ま、摩耶…」

摩耶「そ、そんな事言われたら。待つしかねえじゃねえかよ……うっ……うぐっ」


摩耶「あたしは……あたしはなぁ、お前の事が……好きなんだから」


提督「摩耶……ありがとう」


摩耶「ま、守れよ約束! あたし、いつまで待ってるからな!」


提督「…ああ」


摩耶「勝手に死にやがったら、ぶっ殺すからな!」


提督「…ああ!」


「……そろそろ行きますよ」


摩耶「じ、じゃあな提督。必ず、迎えに来いよ!」


摩耶「いつまでも好きでいてやるから――迎えに来いよ!!」

ーーーー
ーーーー


提督「………」


愛宕「……提督?! ど、何処に行ってたの?! 体は大丈夫?!」


提督「摩耶と……約束して来た」


愛宕「……! 摩耶ちゃんと……あったのね」


提督「もっと偉くなって、摩耶を迎えに行くって約束したんだ」


愛宕「……迎えに」


提督「俺はどんな事をしてでものし上がる。偉くなって摩耶を……迎えに行く」


愛宕「そっか……摩耶ちゃんに伝えたんだね」


提督「ああ、俺は……必ず――」







 迎えに行く。
















ーーーー20年後














摩耶「………」


摩耶「悪りい、ここで降ろしてくれ」


「……えっ、もう直ぐですが」


摩耶「ちょっと歩きたいんだ」


「わ、分かりました」


摩耶「おう、さんきゅ」ガチャッバタン


摩耶「ふぃ……」


摩耶「…………」テクテク


摩耶「…………」


摩耶「この辺りは変わってねえなあ……」


摩耶「………」


摩耶「20年……か」

摩耶「……….」テクテク


摩耶「………!」













提督「…………」


摩耶「てい………とく」


提督「摩耶……見違えたな…」


摩耶「………」


摩耶「お前は…老けたな」


提督「ああ…」


摩耶「何だその顔の傷。ヤクザみたいだぜ」


提督「色々あってな…」


摩耶「…へっ。あんまり遅いから改二になっちまったよ…」


提督「悪い……遅くなった」


摩耶「……」

摩耶「…………」


提督「摩耶…」


摩耶「………」ダッ


提督「?!」


摩耶「……ふんっ!」ガシッ


提督「うおっ?! ま、摩耶?」ドサッ

摩耶「……」ギュッ


摩耶「………っ。……うっ……ううっ」グスッ


提督「…摩耶」


摩耶「お、遅えんだよバカ野郎! も、もう迎えに来ねえと思ったぞ! クソが!」


提督「……ごめん」

摩耶「……ま、まったく……クソが……」ギュー


提督「ま、摩耶。苦しい」


摩耶「う、うるせえ…20年…20年だぞ……」ギュー


摩耶「これから20年分……その……」


提督「?」


摩耶「あ、愛してもらうからな///」


提督「……ああ、もちろん」ギュッ


摩耶「あっ……ふあ……うう///」


摩耶「ゆ、許して…やる……よ///」


摩耶「約束は……守ってくれたしな/// あ、ありがと。提督」


提督「ああ、摩耶も待っていてくれてありがとう」


摩耶「ふふ…いいって事よ/// ……あ、まだ言ってなかったな」


摩耶「………」


摩耶「ただいま、提督」


提督「……おかえり、摩耶」




ーー完ーー

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月28日 (月) 15:59:27   ID: 08M09o2X

20年は長すぎ

2 :  SS好きの774さん   2016年03月29日 (火) 03:28:04   ID: w3_PcKEA

せめて5年だろ

3 :  SS好きの774さん   2016年03月29日 (火) 20:35:34   ID: gQHBp5Xo

20年も思い続けるなんて最高じゃないか

4 :  SS好きの774さん   2016年03月30日 (水) 02:50:05   ID: ru9TZktm

うーん俺はこれ好きだけどなぁ
確かに20は長いけど過程が良かったからそこまで気にならない感

5 :  SS好きの774さん   2016年03月30日 (水) 06:05:51   ID: RnDAp0am

5年じゃ短すぎて感動の再会感ないし二十年は長すぎるから10年くらいが妥当じゃないかなぁ。まぁそれはいいとしてガチで泣いた

6 :  SS好きの774さん   2016年10月02日 (日) 05:06:56   ID: _X571PSO

50年にして再開と同時に絶命すればもっとw

7 :  SS好きの774さん   2019年01月14日 (月) 10:07:28   ID: Xey5Dgxx

数字だけリアルすぎたな

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