【アイマス ×鬼滅】煉獄「強さ」 (40)

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の続編です
良ければこっちもどうぞ

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「煉獄さん!今日の僕はどうでしたか!?」
「うむ!最高にかっこよかったぞ!」

 音楽番組の収録を終えた俺の担当あいどる、菊地真が語りかけてくる。

「もう!僕は女の子ですよ!?可愛いって言ってください!」
「よもや!」

 よもやよもやだ。俺は菊地はかっこいいと思ったからかっこいいと言ったのだが…いやはや女性の扱いは難しいな。

「それはすまなかった。乙女心を介さない俺の責任だ!」
「いや、何もそこまで謝らなくても…」
「責任をとって腹を切る!」
「いや、何もそこまで謝らなくても!」

 こうしてからかっていると菊地はコロコロと表情を変える。そんな一面は彼女の『可愛い』ところだ。しかし、同じ台詞なのに一度目と二度目では与える印象が違うのは流石の表現力だ。

「何、ちょっとした冗談だ!」
「…冗談になっていませんよ」

 うぅむ、機嫌を損ねてしまったか。よもやよもやだ。

「あははは!悪かった、菊地!お詫びに昼食を食べに行こう!俺の奢りだ!」
「え?本当ですか!?やっりぃ!」

 そう言ってやると菊地は、今度は少年のように笑う。その笑顔には性別を超えた美しさがある。男女問わず人気があるのも頷ける。鬼殺隊にも女性は居た。その中には目を惹かれるような容姿をしているものもいたが、何分命のやりとりをしている連中だ。一癖も二癖もあった。

「へっへーん、何食べようかなー♪」

 その点、菊地には裏表がない。単純に人として接しやすい。こういうところも人気の所以か。

「うーん…」

 長い…店に着いてからかれこれ30分は悩んでいる。普段から即断即決、疾風迅雷の動きを見せる菊地にしては珍しい。というより異常事態だ。まさか俺に遠慮しているのだろうか?

「どうした?何でも食べたいものを食べるといい!遠慮はするな!」
「あ、いえ、遠慮しているわけではなくて…」

 それもどうなのだろう。そんなことを思っていると、菊地は意味のよくわからないことを言ってきた。

「その…何を食べれば女の子らしいか、迷っていたんです」
「ん?」

 意味がわからなかった。いやはや、不勉強で恥ずかしい。穴があったら入りたい限りだ。

「食べるものによって女らしいか男らしいかが決まるのか?」
「だって…その…例えばですけど、男の人は自分より食べる女の子は苦手でしょう?」
「そうか?」

 他人の食べる量など、全く気にしたことがないからわからない。

「そうですよ、それにお肉よりも野菜とか、果物とか、そういう可愛い食べ物の方が…」
「ふむ…」

 食べ物に可愛いという感情を持ち合わせたことはないが、俺はこの時元継子の甘露寺のことを思い出した。思えば彼女も、己の食べる量を気にしていたな…なるほど、女性というのはそういうものか。食べ物の可愛さも、日頃からときめきの多い彼女なら何かわかるのだろうか。

「それにここは、割と開けたというか…個室じゃないですから…誰に見られているか…」

 なるほど、イメージを壊さないようにということか!そのプロ意識は流石だ!感服した!しかし…

「うーん、雪歩ならどうするかなぁ…メールして聞いてみても…」
「気にしなくていい!」
「え?」

 菊地が親友である萩原に連絡を取ろうとしたところでつい口を挟んでしまった。けれど、後悔はない。

「気にする必要はない!食べたいものを食べたいだけ食べれば良い!」
「え?煉獄さん、話聞いてました?」
「店主!このはんばぁぐせっとなるものを十人前いただけるだろうか?」
「煉獄さん!?」

 店主と見られる男が何度も確認してくる。注文に間違いはない。

「そんなに注文して…大丈夫なんですか?」
「うむ!金ならある!」

 今の俺たちは765プロダクションの社長である高木殿に給金を頂いている。現代の娯楽はよくわからないものが多いので、給金の大半を食費に費やしているのだ。

「いや、お金もですけど…食べ切れるんですか?」

 なんだ、心配していたのはそちらの方か。食べ物を無駄にするのを良しとしないのは躾の行き届いている証拠だ。きっとご両親が良い人たちだったのだろう。

「それこそ心配はない。この程度の量など朝飯前だ!」
「…なんかややこしいですね」

 うむ、今は昼餉にも関わらず朝飯前だと確かにややこしいか。

「さて、菊地は『これより多く』食べるのかな?」
「!?」

 悩みの一つはこれで解決するだろう。この量を超えて食べる人間など、甘露寺くらいのものだろう。

「煉獄さん…まさか、僕のために…」
「否!俺が食べたいからだ!食べたいだけの量を頼んだ!」

 しかし、これで誰も菊地の食べる量など気にはなるまい。

「そして菊地も食べたいものを食べるといい!野菜や果物が食べたいのならばそれでもいい!けれど、そこに嘘はなしだ!」
「煉獄さん…」

ピロリン

 短く、甲高い音が響いた。菊地の携帯というものから聞こえている。俺たちの鎹烏のようなものらしい、いやはや未来は便利なものだ。

「ふふ…そっか…ありがとう雪歩」

 どうやら、先ほど萩原に送った相談の返事がきたようだ。どういう仕組みなのだろう。おそらく烏よりも早い。

「お兄さん!焼肉定食一つお願いします!」

 画面には2人のやり取りが残っていた。

『雪歩なら、プロデューサーがご飯を奢ってくれるとしたら何を食べる?』
『うーん、私なら…焼肉かな?』

 うむ、菊地は良い友達をもっている!

「もう、本当に恥ずかしかったんですよ!」
「うむ、すまなかった!」

 あれから、運ばれてきたはんばぁぐせっとなるものを口にした俺はあまりの美味さについ

「わっしょい!!」

と叫んでしまった。結果衆目を集めてしまい、今こうして菊地に怒られている。

「しかし、菊地の両親はしっかりした方なのだな!」
「話を逸らさないでください!」
「いやいや、これは本音だ」

 あまりにも彼女が食べ方を気にしていたので、つい見てしまった。彼女の所作は美しく、見惚れるほどだった。一体何を恥ずかしがっていたのだろうかというほどに。

「え?そうですか?」
「あぁ、あれほどの所作は知り合いで言えば胡蝶くらいのものだろう」

 胡蝶姉妹はたしか薬師の家系だったはず。幼い頃から厳しく躾けられてきたのだろう。それと同じくらい美しい所作だった。

「これからはそういう仕事をしてもいいかもしれないぞ?」
「どんな仕事ですかそれ?」

 口ではそう言いつつも菊地は少し嬉しそうにはにかんだ。笑顔に勝る化粧なしだ。

「ご両親に感謝だな!」
「はぁ…そう言われると複雑ですけどね…」

 途端に菊地の表情が曇る。

「どうかしたのか?」
「いや、僕実は…父とうまくいってなかったんです…」

 頭を殴られたような衝撃を感じた。菊地は話を続ける。

「父さんは、男の子が欲しかったみたいで…僕のこともまるで男の子みたいに育てたんです」

 空手が得意なことも、一人称が『僕』なのも、紳士然とした振る舞いも、全ては父の影響だそうだ。

「けど僕だって女の子ですから!可愛いって思われたいじゃないですか!」

 それは自然な感情だろう。かっこいいことが悪いわけではない。けれど、そうではないのだ。

「アイドル活動にも反対されました」
「ほう、では何故今こうして菊地はアイドルを続けているのだ?」
「最初のうちは、無理やりやってました。けど、プロデューサーと…煉獄さんの前の人ですけど…一緒に説得したんです」
「…」

 似ている。父に振り向いてほしい。父に立ち直ってほしい。そこに僅かな差異はあれど、この子と俺は似ている。いや、そこに差異などないのかもしれない。俺は、俺のことを父上に見ていただきたかったのかもしれない。

「しかし、最終的には理解してもらえたのだな?」
「うーん、そうなんですかね…最後はもうほとんど殴り合いの喧嘩でしたけど」
「よもや!?」

 思わず声が出た。

「ち、父上と…喧嘩をしたのか?」
「へ?そりゃあしますよ、今だってします」

 だって家族でしょう。という菊地の顔を俺は見ることができなかった。何が一緒だ。何が似ているだ。この子は俺と違って『戦っていた』のか。

「あ、噂をすれば父さんから…って空手の組み手!?僕もうやらないって言ったのに!煉獄さん、ごめんなさい、ちょっと電話しますね!」
「あ、あぁ…」

 向き合っていたつもりだった。父上の傷を理解していたつもりになっていた。けれどどうだろう。自分は彼女のように気持ちをぶつけていただろうか。

「父さん!僕もう空手やらないって言ったよね!?…そんなこと言ったって嫌なものは嫌だから!」

 歳下だからと侮っていたつもりはなかった。しかし、確かに一つ教えられた。

「よもやよもや…だな…」

 もしも帰ることができたなら、一回喧嘩をしてみよう。自分は柱になったが、相手だって元柱。負けるつもりもないが、お互い無事では済まないかもしれない。そうなれば誰に止めてもらおうか…

「千寿郎…頼んだぞ…」

 うむ、よく考えてはみたものの、やはり千寿郎しかいまい。なんせ俺の弟だ。やる時はやってくれるさ。

「それはその…いや…でも…」

 そんなことを考えている間にどうやら菊地は劣勢になっているようだ。携帯からは父親らしき人間の涙声が聞こえてくる。なるほど、優しい菊地には泣き落としは有効だろうが…少々卑怯に感じるな。

「うぅ…」
「ほら、菊地、負けるな!嫌なことは嫌だと言えばいい!」
「煉獄さん!?」
「俺が味方だ!だから…」

 続けて俺は、自分に言い聞かせるように叫んだ。

「心を燃やせ!胸を張って生きろ!」

終わり

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