男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 3スレ目 (925)


この話はクラスメイト丸ごと異世界召喚された主人公の高校生『男』が元の世界に戻るために奮闘する冒険ファンタジー時々ラブコメな話です。



以下、物語序盤の簡単な流れ。

クラスメイト全員と異世界に召喚された男

召喚された際に全員不思議な力を授かっていて、男はその中でも特異な魅了スキルを授かっていた

そのスキルを誤って発動させるとクラスメイトの『女』とその親友『女友』が虜になる

しかし男は恋愛がトラウマになるような過去を持っており、二人に迫られるその状況から逃げ出してしまう

逃げ出した先に現れたのはクラスメイトの『イケメン』。イケメンは魅了スキルを持った男を、女性を支配出来る道具として見ており、力でもって男を屈服させようとする

抵抗も出来ず男が諦めかけたそのとき女が助けに入る。その身に授かった力でイケメンを退ける。

男は助けてもらった恩として、女の求めに応じパーティーを組むことを了承。女友も加えて三人で元の世界に戻るため異世界での冒険が始まった。



と、大体こんな感じです。
気になった方は下の1スレ目から読んでください。このスレは3スレ目です。
男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541083316/)


この作品は『小説家になろう』でも投稿しています。なろう版はこちらです。
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ここからは既に読んでいる方向けの振り返り用の人物・キーワード紹介です。
紹介文は全て現時点、五章途中時点での内容です。


帰還派……元の世界に戻るため宝玉を集めるクラスメイトたち。古参商会がバックアップしている。


この作品の主人公。どんな異性も虜にして命令に従わせる魅了スキルを持つ(条件あり)恋愛アンチだが、徐々に改善されている様子も見られている。


この作品のヒロイン兼第二主人公。その身に授かった竜闘士の力は、比類する者がほとんどいない強さである。
男のことが異世界に来る前から好きなため、魅了スキルの条件により虜にならなかったが、それを明かすと好きであることがバレるため、虜になっているフリをしているというややこしい状況である。

女友
女の親友でパーティーの一員。魔導士であり、様々な魔法を使える。
女の事情を全て分かっておりからかったりアシストしたりする役得かと思えば、放っておくとすぐに悩みを抱える二人のサポートに忙しく実は苦労人である。

気弱
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少年。騎士の職を持つ。
気が弱いがやるときはやる。姉御に想いを伝えて現在ではカップルに。志を新たにして元の世界に戻るために奮闘している。

姉御
4章武闘大会で出会ったクラスメイトの少女。職は癒し手。
姉御肌の豪快な少女とみせかけて、乙女な一面も持つ。気弱と付き合ってからはその面が顕著に表れるようになった。


駐留派……授かった力でもって異世界で好き勝手して生きていこうというクラスメイトたち。男の魅了スキルを狙う者たちとイケメンに協力するよう囁かれた者たちがいる。
異世界での地盤を確保するため『組織』という犯罪結社の一員になっている。



イケメン
駐留派の中核。男の魅了スキルを手に入れて、女を支配することを狙っている。
職は影使いで普通のクラスメイトとは一線を画する力を持つ。しかし女の竜闘士はその更に上を行くため、対抗するために宝玉を集めて悪魔を呼び出そうとしている。

チャラ男
4章武闘大会で登場、イケメンとは親友。職は盗賊。
面倒なことは御免がモットー。恋愛観も同様のため、付き合ったり別れたりを繰り返している。そこが一人の女に執着するイケメンとは決定的に違う点。

ギャル
イケメンの彼女で心底から惚れているが、当のイケメンは見てくれだけはいいからキープしているという扱い。
『組織』の仕事として以下の三人と共に独裁都市に出張っている。

デブ
クラスメイトの一人。魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。

メガネ
クラスメイトの一人。イケメンに騙され協力中。

レズ
クラスメイトの一人。女でありながら女が好きなため、魅了スキルのおこぼれに預かるためイケメンに協力中。


復活派……宝玉を使って現在虚無の世界に封印された魔神を蘇らせようとしている。



魔族
太古の昔、魔神と共にこの異世界を滅ぼしかけた一人。魔神が封印された後、元いた世界に戻った他の魔族とは違ってこの世界に一人残った。
種族として固有スキルという他とは一線を画す力をそれぞれ持つ。この魔族が持つのは『変身』で看破することが不可能な隠蔽スキル。
濃い褐色肌で頭には二本の角が付いている女性。



傭兵
先の大戦で英雄的な活躍をしたが、その後行方不明となっていた。武闘大会にてその姿が久しぶりに確認される。
職は竜闘士で、同じ力を持つ女と力は同等。
最終的に世界を滅ぼすつもりの魔族に協力している。
歳30は過ぎたおっさん。

滅んだ故郷、王国との関わり、魔族とどう出会ったのか、などは今後語っていく予定。


キーワード



女神
太古の昔、仲間と協力して魔神を封印した一人の女性。魅了スキルの持ち主だった。
その功績から女神教という彼女を称える宗教が存在する。
男たちクラスメイトをこの世界に召喚したその人。



魔神
太古の昔、この世界を滅亡寸前まで追い込んだ存在。そのときの出来事は『災い』と呼ばれている。
現在魔族が復活させようとしている。



世界
男たちが元いた世界、召喚された異世界、その他にも世界とは数多に存在する。



宝玉
世界を渡る力を持つ物質。数を集めることで力が増すという性質から、一カ所にまとめて保管しては危険と、各地の教会の女神像につけられて分散管理されていた。

二つからゲートを開くことが出来るが、繋がる先の世界を指定することが出来ない。
四つで繋がる先の世界にどれだけの力があるのか、繁栄しているのか指定できる。
六つで完全にどの世界に繋がるか指定できる。しかし不安定のためわたれる人間は一人か二人が限度。
八つでゲートが安定して多数の人間でも通れる。
十個で高位存在を呼び出せる。
十二で神も呼び出すことが出来る。



強さ
異世界での強さは職に依存し、大まかな階層がある。

伝説級……女や傭兵の竜闘士が該当。
最強級……女友の魔導士やイケメンの影使いが該当。
達人級……その他クラスメイトが該当。
一般級……異世界の一般人の強さ。

男は戦う力を持っていないためさらにその下となる。


というわけで振り返りはここまでです。

ここからは本編、5章独裁都市編の二スレ目からの続きになります。



それではどうぞ。


男(現れた事態の元凶とクラスメイト二人)

男(近衛兵長は俺に問いかける)



近衛兵長「竜闘士……手紙によってこの都市を出て行った姿は部下に確認させていた」

近衛兵長「なのにどうしてこの場にいる? 貴様が何かしたのか?」



男「俺がしたことはちょっとした仕掛けだけ。後は全部女の功績だ」



男(手紙に関係なさそうな命令を追加することで、自分の陥った現状を知らせ助けに来れる状況を作ったが)

男(女の助けたいという気持ちが無ければ全部水泡に帰していた)



女「も、もう……そんな照れるよ~」

男(らしくない俺の褒め言葉にこそばゆそうにしている女に)



メガネ「女……あなた本当に変わったわね」

男(メガネは苦々しい面持ちだ)


女「変わったってどういうこと?」



メガネ「それも分からないようじゃ重症よ!」

メガネ「どうしてそんな冴えない男に惚れている現状がおかしいと思わないのよ!」



女「……」



メガネ「魅了スキルが全部あなたを狂わせたんだわ!」

メガネ「私が駐留派に入ったのは一番にイケメン様のため、そして二番目はあなたを解放するというその意志に賛同したからよ!」



男(おそらく異世界に来る以前の女と交流があったのだろう)

男(メガネの叫びに、俺は心の中で「さもありなん」と同意する)



男(俺が冴えない男だというディスリは俺自身が認めるし)

男(そんなやつに惚れさせられてる状況を見れば助けようという気持ちは分かるところだ)



男(俺だって魅了スキルが解除出来るなら今すぐにでも解除を………………うん、まあ)




女「そうね、私が魅了スキルにかかっているってことを考えればメガネの気持ちも納得出来る」



男(心の中で言い淀んでいると、女は正面からメガネを見据えていた)



女「でもね。それを差し引いて考えても……他人の想いを否定する権利なんて誰にもあるわけが無いのよ!」

メガネ「だからそう思っていること事態が魅了スキルの影響だわ!!」



男(女の主張は納得できる)

男(しかし、俺の魅了スキルはその想いすら変えてしまうため、メガネの主張も否定できない)





女「……ごめんね、メガネ。私が悪いのに心配させて」

女「本当は事情を明かすべきなんだろうけど、今のあなたとは対峙する立場だから……」



男(女が何かぼそっと呟くが聞き取れない。苦渋の表情を見るに自嘲の言葉だろうか)




デブ「そんなことより近衛兵長さん! 司祭はどこに行ったか聞いていないか!」

デブ「あの人が警備の誘導をしてわざと穴を作る予定だったはずだ!」

デブ「なのにその仕事を放棄したせいで、部下が想定以上に損耗している!」



男(太った少年が近衛兵長に食ってかかる)



男(その言葉に俺も結婚式始まってからずっと司祭の姿を見ていないことに気付く)

男(同じ陣営なのにこのタイミングで聞く少年からして、俺たちの前には三人一緒に現れたがちょうど合流直後で話す時間が無かったというところだろうか)



男(少年の激しい剣幕も何のその、近衛兵長は涼しい顔して衝撃の言葉を吐いた)




近衛兵長「司祭か……やつは死んだぞ」

デブ「……なっ!?」



近衛兵長「正確には私が殺した、だがな」

デブ「ど、どうして……」

近衛兵長「さあな。事情を教えることは契約に含まれていないはずだ」





男「……」

男(独裁都市と『組織』が一枚岩ではないとは思っていた)

男(しかし、近衛兵長が司祭を殺したとなると独裁都市内も一枚岩では無かったようだ)



男(近衛兵長はこれまでに何人も殺しを行ってきた。それが今さら一人増えたところで驚くことはない)

男(だが、どうして司祭を殺したんだ? 付き従っていたのはフリなのか? 裏切るにしてもどうしてこのタイミングで……?)



男(考えても分からないことばかり。そして近衛兵長も説明するつもりは無さそうだ)




近衛兵長「竜闘士の乱入は予想外だったが、やるべきことは変わりない」

近衛兵長「姫様、あなたの命を貰い受けます」



姫「ひっ……」

男(近衛兵長の殺気に姫は短く悲鳴をあげて、俺の後ろに隠れる)



男「いや、俺を盾にされても庇いきれないんだが……」

男(おそらく俺ごと貫かれるのがオチだろう)



姫「そ、そう言われましても……!」

男(震える姫が後ろから抱きついてくる。それだけ恐怖を覚えたのだろうが、動きにくい上に……)



女「ねえ男君、よく分からないけど敵の狙いって姫様なんでしょ。今からでも差し出して逃げようよ」



男(女がじとーっ、とした目で見てきて何とも罪悪感を刺激される)

男(その言葉は冗談のはずだ…………本気じゃないよな?)



男(戦場でいちゃついてるとも取れる行動に怒っているのが半分、もう半分はヤキモチだろう)




近衛兵長「何を言っている。私の狙いはそちらの少年もだ」

近衛兵長「魅了スキル、その規格外の力に我が主の覇道が邪魔される可能性を摘んでおくためにもな」



男(近衛兵長が俺にも殺意を向ける)

男(監禁していた間は構うのも面倒だから殺すという感じだったはずだが、今は明確に俺相手に殺意を向けている)



男(我が主……殺された司祭ではないはず。一体誰なのか?)

男(近衛兵長に何らかの背景があることは間違いない。色々と聞き出してみたいが……)





デブ「どういうことですか、男を殺すって!?」

男(その発言に敵対する陣営であるはずの太った少年の方が動揺していた)



メガネ「何言ってるの、デブ。どうせあいつは魅了スキルの力で女に命令していかがわしい行為をしたに違いないわ」

メガネ「汚らわしい……そんなハレンチなやつ、死刑よ、死刑」



男(メガネをくいっと上げ、俺を見下すメガネ)

男(全くの濡れ衣なのだが、思春期の少年が異性を好き勝手出来るとあって何もしていないと主張しても信じられないだろうことは理解している)


男(しかしあのデブが動揺している理由は……そうか、やつはおそらくイケメンと同じ目論見なのだろう)

男(俺の魅了スキルを手に入れて女性を好き勝手支配したいと)

男(だから近衛兵長に俺を殺されては困ると)



近衛兵長「……いいだろう。可能ならばあの少年は生け捕りにする」

近衛兵長「『組織』に借りを作っておけば今後も便利だろうしな。交渉は後ほどだ」



男(近衛兵長はそれを汲み取ったのかは分からないが、方針を変更した)





女「さっきから勝手なことを」

女「男君を殺すだったり、生け捕りにするだったり……そんなことさせるわけないでしょ!」



男(女が激高する。俺を守るように前に立って絶対に退かない覚悟のようだ)



近衛兵長「二人とも下がれ。少女の方は結界の維持に努めろ。やつらに逃げられたくない。少年はその護衛だ」



男(近衛兵長もデブとメガネの前に立つ)

男(どうやら一騎打ちの様相のようだ)




男(女が拳を構える。近衛兵長が剣を構える)

男(緊張感が高まる中、女が口を開いた)



女「構えを見ただけで分かります。厳しい鍛錬を積んできたことと相当な強さを」

近衛兵長「竜闘士に言われると皮肉だとしか思えないな」

女「あなたの力は正道の物です。なのにどうしてこんなに人を殺して……邪道なことをしているんですか!?」

近衛兵長「知りたければ勝ってこの身を拷問にでもかけろ。吐くつもりは無いがな」



男(近衛兵長が冷たく言い放つ。会話はここまでのようだ)






女「分かりました。その行動には納得行きませんが、力に敬意を表して名乗りを。竜闘士の女、参ります!!」



近衛兵長「……いいだろう。聖騎士の近衛兵長、参る!!」





男(こうして竜闘士と聖騎士。この独裁都市の運命を賭けた一戦が始まった)



続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
次は水曜日に投下します。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


男(竜闘士対聖騎士)

男(初動は竜闘士からだった)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」

男(女は指向性の衝撃波を近衛兵長に向けて放つ)



近衛兵長「っ……!」

男(近衛兵長は左手に装備した盾で防御をする。少し押されて後退したがダメージは無さそうだ)



男(勝負前に言っていた近衛兵長の聖騎士という職)

男(名前からして騎士の上位職だとすると、防御は得意なのだろう)

男(武闘大会で竜闘士傭兵の猛攻を粘り強く耐えた気弱のことを思い出す)




女「防御は固そうね……でも、一気に勝負を決めさせてもらうよ!」

女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」



男(追尾するエネルギーの球体をばらまいて、自身は特攻する女)



近衛兵長「くっ……」

男(近衛兵長はその一つ一つの対処に追われて女の接近を止めることが出来ない)





男「明確な力量差があるな……」

男(俺の見立てではあるが近衛兵長はかなり強い。魔導士の女友や影使いのイケメン同様に最強級の力はあるだろう)

男(しかし、女はそのさらに上を行く伝説級の力の持ち主だ)



男(武闘大会では同格の傭兵さんに敗北こそしたものの、その敗戦によるショックは些かも感じられない)

男(俺を守るという意志の元、気力も十分のようだ)

男(いわば完全体である女が近衛兵長に遅れを取るとは思えない。赤子の手を捻るように勝ちを拾うだろう……なのに)




男「どうして近衛兵長はこの勝負を受けたんだ……?」



男(力量差は本人こそが一番に自覚しているはずだ)

男(連携を取るような性格ではないだろうが、それでも複数人ではなく一人で挑むのは無謀としか言いようがない)

男(ならばこの状況を覆す手が何かあるというのか……?)



男(疑問に思う間も戦況は推移する)

男(近衛兵長がブレスを裁ききったそのとき、女は大分接近していた)

男(女は拳をめいいっぱい引いて『竜の拳(ドラゴンナックル)』を放つ構えだ)



男(その拳が飛んでくるまでに近衛兵長には一手ほど打つ時間はあるが、何をしようにも叩き伏せて女は拳を届かせるだろう)

男(それでも何もしないわけにもいかなく、近衛兵長が起こした行動は)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(スキルの使用と同時に剣を振ることだった)



男(まだ女が接近していないタイミングのため空振りするが、それでいいようだ)

男(剣の軌跡をなぞるように半円状の光が形成されて飛ぶ。いわゆるソニックブームというものだろう)



男(遠距離攻撃で女の接近を阻止する狙い……だと最初は思ったが、それにしては狙いがおかしい)

男(女の脇を通るような軌道で光は飛んでいるため、当然女は無視して接近して――)




男「危ないっ……!」

姫「きゃっ!」



男(咄嗟に俺は姫を抱えて横っ飛びに体を投げ出した)

男(そうだ、デタラメな方向に放たれたと思われた近衛兵長の攻撃)

男(それが実は女ではなく、俺たちに狙いをつけた攻撃だったのだ)



男(俺たちが先ほどまでいた空間を光は通り過ぎる)



女「なっ……!」

近衛兵長「ちっ、外したか」



男(女もその状況に気付いたようだ。驚いて振り向く女と舌打ちする近衛兵長)


女「まさかあなたの狙いは……!」

近衛兵長「私の狙いは最初から姫様の命だ」

近衛兵長「少年の方も……別に可能ならば生け捕りするくらいにしか考えていない」



女「ひ、卑怯ですよ!」

近衛兵長「弱者が強者に勝つためには弱点を突くしかない。『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長は目の前にいる隙だらけの女ではなく、またも俺たち目掛けて光を放つ)

男(そちらの方がさらに有利になると判断してだろうか)



女「っ……『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」



男(剣を振り終えて無防備な近衛兵長だが、女は攻撃せずに翼を生やしてトップスピードで後退する)

男(そして今まさに俺たちに襲いかかろうとしていた光の前に身を投げ出して庇う)




女「いたっ……!」

男「女っ!!」

女「大丈夫……だから!」



男(衝撃に顔がゆがむ女に俺が反射的に声をかけると、心配をかけさせまいとニッと口の片端をあげた)



近衛兵長「まだまだ行くぞ」

近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!! 『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!!」



男(剣を振り光を連射する近衛兵長。その狙いは全て俺と姫に向けてのものだ)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



男(俺たちを守るため回避を封じられた女は防御スキルを発動する)

男(しかし、このスキルは使用した後少し動けないため、反撃の行動に繋げられない。このままではジリ貧だ)




男「くそっ……近衛兵長のやつ、最初からこれが狙いだったのか!」



男(格上である女が抱えた一つの弱点が俺たちを守らないといけないということである)

男(そこを存分に突いてきている。最初女の接近を許させたのも、俺たちから離すためだったのだろう)



男(聖騎士という職。そして使用するスキルの『聖なる一振り(ホーリーワン)』)

男(近衛兵長の力は聖に属するもののようだ)

男(なのに戦い方は弱者を狙い続けるという外道もいいところ)



男(だが、その手段が効果的であることは否定できない。このままでは女はこの場を離れられないからだ)

男(遠距離攻撃で応戦するのは、最初の攻撃を防がれたことからして互角だろう)



男(ならば俺たちがここから離れて安全な場所に向かうべきかというと、それも不可能だ)

男(結界のせいで広場からは出れないし、広場内には安全地帯が未だ存在しない)

男(そこかしこで近衛兵と『組織』の構成員が戦っている最中だからだ)

男(戦う力を持たない俺と姫が巻き込まれては危ないことに変わりない)


男(こうして女に守られているこの場所が一番安全だと……分かっているからこそ歯痒い)

男(俺の想定が甘かったせいでパレードのときに近衛兵に捕らわれた)

男(そのため女はわざわざ俺を助けに来ないといけなくなった)

男(こうして助けに来てもらったその場でもまた女の枷になってしまっている)



男「俺は……どれだけ女に負担をかけさせてるんだよ……!」

男(悔しくて、情けなくて、泣きたくなってくる)



女「そんなことないよ」



男(女が防御を続けながらも背中越しに俺を慰める言葉を告げた)



女「私は男君のことを負担になんて思ったことはないから」

男「でも、こうしてわざわざ助けに来させてしまって……大変だったんじゃないのか!?」



女「全然。それどころか少し嬉しかったくらいだったよ」

男「……え?」




女「だってあの手紙のSOSって私が魅了スキルの外で助けに来ることを想定して……私のことを信じての行動でしょ」

女「やっと私のことを頼ってくれたって、嬉しかったんだよ」



男(言葉の間も近衛兵長の攻撃が連射されている。守られている俺は女の表情を見ることは出来ない)

男(それでも声音から……女が本当に喜んでいることは分かった)



男(分からない。どうしてそんなことで嬉しいのか)

男(手紙だって駄目で元々の精神で出したものだ。女を信じるなんて気持ちは………………)



男(いや、逆なのか?)

男(女を信じる気持ちが僅かにも無ければ、手紙を出そうという手段を思いつきもしなかったはずだ)



男(女が俺を助ける行動に何の得も、理も、意味も無かった)

男(それでも助けてくれるかもしれないと思って行動に移した)

男(これが……信じるということなのだろうか)




女「それで一つ提案があるんだけど」

男「……何だ?」



男(渦巻く感情の中、女の真面目な声に俺は思考を切り替える)



女「男君が私を信じてくれるなら、あの近衛兵長さんを倒す方法があるの」

男「……どういうことだ? 俺が応援してくれるならって精神的な意味か?」



女「ううん、違うって。助けに入る直前のことは見ていたよ」

女「男君あの人相手に魅了スキルをかけようとしていたでしょ。避けられてたけど」

男「ああ、そうだが……って、まさか」



男(言わんとすることを察知して、女もまさにその通りのことを言う)






女「私が魅了スキルをかける隙を作る。そして虜にしてしまえば、その時点でこっちの勝ちでしょ?」





続く。

次回決着。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


男(竜闘士対聖騎士の現状は女が決め手を欠いている)

男(近衛兵長が俺と姫を狙って攻撃するという邪道な策を使っているからだ)

男(そのせいで防御に回らないといけない女は接近出来ず、遠距離攻撃の撃ち合いはやつの防御能力の高さからどうしてもジリ貧になってしまう)

男(竜闘士は近距離攻撃の方が火力が高いのだ)



男(その足りない火力を補うために女が提案したのが、魅了スキルをかける隙を作るというもの)



男「本気か?」

女「うん。私的には一対一のつもりだったけど、先に男君を巻き込んだのはあっちの方だから」

女「といっても男君が反対するなら他の方法を考えるけど」

男「……ちょっと考えさせてくれ」



男(成功して近衛兵長を虜にすれば、武装解除、降伏を命令してたちまち勝利が確定するだろう)

男(しかもそれだけでなく、勝負前に言っていた気になる情報についても「嘘を吐かず俺の質問に答えろ」と命令して聞き出すことが出来る)

男(一石二鳥の策)


男(ただしそれが成功するかどうかと言われると微妙だ)



男(魅了スキルの条件、効果対象である『魅力的な異性』に近衛兵長が当てはまるかというとギリギリだが大丈夫なはずだ)

男(やつが俺たちを脅かしていた敵だとか、何人も殺してきた大罪人だということからは必死に認識の外に追いやろうと先ほどから努めている)



男(問題なのはやつが魅了スキルを詳細まで知っているため警戒していること)

男(先ほど女が助けに来る直前に発動したときは、光を見てから効果外に出るという身体能力の高さも見せられた)



男(女が隙を作ったとしても、そんな相手に魅了スキルを当てられるだろうか?)



男(それだったら他の策……例えばこっちもやつの弱点、結界を張っているメガネのクラスメイトを攻撃するとかはどうだろうか)

男(結界を解除させれば女が俺と姫を抱えて飛んで逃げればいい)

男(そもそもこちらに積極的に戦わないといけない事情はないのだから)



男(だが……近衛兵長は気にせず俺たちに攻撃を仕掛けてきそうでもある)

男(俺と姫と違って、あちらのデブとメガネのクラスメイトは戦闘能力があるという点も違うしな)

男(女の攻撃くらいなら耐えられるだろうと考えるとますますその可能性は高くなる)

男(そしたら攻撃の隙を突かれてさらに女が不利になるだろう。却下だな)


男「……」

男(他にも色々考えてみるがいい方法が思いつかない)



男(これまで宝玉を手に入れる方法などの行動方針は基本的に俺が決めてきた)

男(だが女は竜闘士の力と同時に戦闘センスなども授かっている。そうでなければ普通の女子高生がここまで戦えるわけない)

男(だとしたら戦場において従うべきは俺の方で、女の提案に乗るべきなのだろう)



男(別にそのことに異論は無い。気になっているのは……)



女『男君が私を信じてくれるなら……あの近衛兵長さんを倒す方法があるの』



男(俺が女を信じられるなら……信じることが出来るのだろうか?)



男(自分のことなのにまるで他人事であるかのように想像が全く付かない)


男(だが、近衛兵長の攻撃は激しさを増す一方でおちおちと考えている余裕は無さそうだ)

男(対案も出せないのに否定するのは良くない)



男「分かった、女。とりあえずその提案の中身を聞かせてくれ……」

女「うん、えっと……」



男(そのためまずは話だけでも聞こうとしたところで)



近衛兵長「のんきにおしゃべりとは……その余裕無くしてやろう」



男(近衛兵長は剣を腰に構えて体を大きく捻った。大技を放つつもりであることが俺でも分かる)



女「あれは…………でもチャンスかも! 男君、よろしくね!」

男「よろしくって……いや、まだ俺了承してないし、何をするかも聞いてないんだが!?」

女「大丈夫、大丈夫! 男君なら察せるって信じてるから!」



男(そんな無責任なことを言うと女は正面の近衛兵長を見据えて相手の動きを窺っている)

男(その集中を崩すわけにもいかず、どうやら抗議の機会は失われたようだ)


男「ったくマジかよ……俺が合わせられなかったらどうするんだよ。何考えてるんだ?」

姫「何も考えてないんだと思いますよ」



男(俺と同じく女に守られている姫が口を開く)

男(女と姫は犬猿の仲だ。そのため悪態を吐いたのかと思いきや、姫の顔は真剣だった)



男「姫……どういうことだ?」

姫「分かるんです。女さんは男さんが合わせられなかったときのことを考えていません」

姫「何故なら男さんなら絶対に合わせられると信じているから」

男「本当に無責任なんだな……」



姫「ですが信じるということはそういう面も含みます」

姫「誰も信じず一人ですることは良く言えば全ての責任を自分で負うということでもあります」

姫「信じて誰かに託すということは悪く言えば誰かに押しつけるということでもありますから」



男「……そうだな」

男(姫の言葉がストンと俺の胸の内に入ってくる)




男(自己責任。思えばその言葉が俺は好きなのだろう)

男(俺のトラウマ。からかわれて本気になって告白して玉砕して、心を守るために自己否定から恋愛アンチとなった)





男(別の選択肢もあったはずだ)

男(あの子のことを心の中で悪者に仕立て上げて『あいつが思わせぶりだったのが悪い、結局悪意を持って騙してたんじゃないか、くそっ死ね』と悪態を吐くことで心の均衡を保つことだって出来たはずだ)





男(なのにそうしなかったのは……もうそういう気質なのだろう。他人ではなく自分にばかり重荷を背負わせると)





男「俺は誰も信じない。そうやって今までも……そしてこれからも生きていくんだ」

男「だってその方が誰にも迷惑をかけないだろ」



姫「……そうですね。誰にも迷惑はかけないかもしれません。でも何かを成せるとも思えませんね」

男「え?」




姫「私の母は立派な執政者でした」

姫「この都市を常に良くするように考えていて……しかし何もかもを自分でしようとはしていませんでした」

姫「今思うと自分一人で出来ることなんて、たかがしれていると分かっていたからでしょう」

姫「だから人を信頼して色々と託す。そうやって大きなこと、この独裁都市の運営をやっていたんだと思います」



男「そ、そうかもしれないが……別に俺は偉くなるつもりなんてないし……」

姫「男さんの意志がそうでも、現実は向こうから困難がやってくることもある場所です」

姫「今だって女さんが一人で近衛兵長に勝つことが出来るんだったら、男さんを頼りにしたりはしなかったでしょう」



男「で、でも……俺が女の期待に応えられるか分からないんだよ! そしたら迷惑がかかるだろ!」

姫「いいじゃないですか、迷惑かけたって」

男「は?」



姫「そもそも女さんに信じられて勝手に頼りにされて、男さんは既に迷惑がかかっているじゃないですか」

姫「だったら男さんだって女さんに迷惑かければいいでしょう」



男「そんなことしたら……」




姫「二人はそれくらいで壊れる関係だって言うんですか?」

姫「迷惑をかける女さんのこと男さんは嫌じゃないんですか?」

姫「女さんが迷惑をかけられたくらいで男さんのことを嫌いになると思うんですか?」





姫「男さんは……本当に一人で生きていくつもりなんですか?」

姫「少なくとも私は本当の自分を誰にも明かせず、ワガママな姫様としてひとりぼっちで生きてきたこの二年間はとても寂しくて辛かったですよ」





男「……」

男(姫の言葉に俺は惑い)




近衛兵長「食らえ!! 『聖なる全振り(ホーリーオール)』!!」



男(そのとき近衛兵長は限界まで体をひねり蓄えた体のバネを一気に解放)




男(剣がこちらまで聞こえるほどの風切り音を発しながら振られ、その軌跡に形成された先ほどまでとは比べものにならないほどの大きさの光が俺たちを押し潰さんと迫った)



続く。

想定より長くなり決着ならず……次こそは。

乙!

毎回こんな引きで区切りだと無駄に引っ張ってCM挟んで引き伸ばすTV番組みたいで萎える

乙ー

乙、ありがとうございます。

>>47 執筆にいっぱいいっぱいで区切りについてまでは意識が行ってませんでした。今後は精進します。

投下します。


男(迫る巨大な光にこれまで待ちの姿勢だった女は一転)



女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」



男(竜の力を宿した拳を突きだしながら臆することなく光に飛び込む)

男(力では竜闘士の方が上。とはいえ相手の大技に対して、こちらのスキルの出力は普通でちょうど拮抗する)



女「くっ……!」



男(女は痛みに耐えている。スキルで相殺しているとはいえ、相手の攻撃に腕を突っ込んでいるのだ。何もダメージが無いということは無いだろう)



女「だ……らぁぁぁっ!!!」



男(それでも女は気迫を絞り、拳を振り切って光を両断。割れた光が俺と姫の左右の地面を削り轟音を発する)




近衛兵長「っ……破られたか!」

女「今だっ!!」



男(近衛兵長が驚いている間に、女は全速力で接近する)

男(大技を打った直後で隙が出来ている様子の近衛兵長は、俺たちを攻撃することで女の接近を封じることが出来ない)



男(大チャンスと見えたが、しかし女も拮抗した際にスピードが落ちたのが痛く、距離を詰め切ることが出来ない)

男(これだと女が拳を届かせる前に近衛兵長が体勢を整えて俺たちを攻撃するだろう)

男(そうなると防御に戻らないといけなく振り出しだ)



近衛兵長「甘かったな」



男(俺と同じ想定に至ったのだろう。近衛兵長がフッと小馬鹿にするように笑って)




女「ううん、ここまで接近すれば十分!! 『竜の尾(ドラゴンテール)』!!」



男(女は不敵に笑うと、まだ近衛兵長との距離があるのに右手を振りかぶった)

男(俺が初めて見るそのスキルはどうやらエネルギー状の鞭を発生させるようで、半円軌道を描いた鞭の先端が近衛兵長にグルグルと巻き付く)



近衛兵長「何を……」

女「いっけえぇぇぇぇっ!!」



男(そのまま女は鞭を後方に向かって振り上げると、その動きに従い竜闘士の膂力によって近衛兵長が空中高くに放り出された)


男(遠距離でも近距離でも駄目なら中距離)

男(女の接近の狙いは鞭の届く範囲に近衛兵長を捉えることだったようだ)



男(宙にいる近衛兵長はなすがままなあたり、聖騎士はどうやら空を飛ぶようなスキルは持っていないようだ)

男(ならば絶好の的である……かというと、そうではないようだ)



近衛兵長「考えたな……だが、みすみすやられたりはしない」



男(近衛兵長は鍛えられた体幹によって空中で姿勢を立て直す)

男(投げられた勢いで飛んでいるのは変わらないものの、あの状態なら攻撃も防御も十分に行えそうだ)



男(となると女が『竜の潜行(ドラゴンダイブ)』を当てに行こうとしても、近衛兵長は俺と姫を攻撃して防御を強制することが出来る)



男(この問題を解決しない限り俺たちの勝利はない)




男(だからこそ女は俺に提案をして、近衛兵長を後方に放り投げたのだ)



男「なるほどな」

男(女の意図が読めた)



男(近衛兵長が飛ぶ方向の先にいる俺)

男(魅了スキルは効果範囲こそ周囲5mだが、光の柱と表現出来るように上空にはかなり長い射程がある)

男(そして近衛兵長は空中のため満足に動くことが出来ない)



男(つまり)



男「今の近衛兵長は魅了スキルを避けることが出来ない……!!」



男(女は提案通り見事魅了スキルをかける隙を作って見せたのだ)


男(当たれば一撃必殺の魅了スキルが百発百中で絶体絶命の近衛兵長)

男(飛んでる勢いからしてあと少しで俺の上空を通過する)

男(俺はそのタイミングで魅了スキルを発動するだけでいい)



男(だが、一つだけ心配事があるのも確かだ)



近衛兵長「『聖なる一振り(ホーリーワン)』!!」



男(近衛兵長が空中で剣を振るいソニックブームを俺目掛けて放つ。不安定な空中なのに見事な照準だ)



男(女が後方に放り投げたため、位置関係として俺たちと女の間に近衛兵長がいることになる)

男(しかも魅了スキルの範囲に入りそうなほど俺に近くから攻撃出来るというわけだ)

男(近衛兵長は当然絶好の攻撃機会を逃さなかった)



男(近衛兵長の攻撃が迫る。回避行動を取るべき……だが、そんなことをしていたら魅了スキルを発動する余裕も無くなる)

男(だったらどうすればいいのか)




男「簡単だ。女を信じればいい」



男(あれだけ忌み嫌っていたその言葉なのに不思議とすっと出て来る)



男(女の俺なら察せるという無茶振りに応えてやったんだ)

男(だったら今度は女が応える番だ)



男「…………」

男(決めたからには俺はもう動じない)

男(光からは目を切って、近衛兵長が上空を通るタイミングを計ることだけに集中する)




姫「男さん……」



 集中する男は隣で姫が名前を呼んでいることも気付いていない。

 近衛兵長の攻撃が迫る中、危険なのは姫も一緒だ。

 魅了スキルに関与しない姫はこの場から逃げ出してもいい。

 だがそうやって逃げ出すのは負けを認めるようで……意地だけでその場に留まる。



 そして無防備に立つ二人に光が届こうとする――その直前。



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



 女の発した衝撃波がピンポイントで近衛兵長の攻撃を打ち落とした。




近衛兵長「くっ……ここまでか」



 近衛兵長は次の攻撃体勢に入りながらも、既に負けを自覚しており。

 そのとき男から5mの範囲に到達した。



男「魅了スキル、発動!」



 男はスキルの発動を宣言。



 ピンク色の光の柱が宙の近衛兵長を捉え――その瞬間勝敗は決した。



続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女友「結界が晴れましたか」



女友(先ほどから神殿前広場を囲っていた結界が消失したことを確認します)

女友(私は何ら関与していないので、中の女がどうにかしたのでしょう)



女友「無事だとは思いますが早速安否を確認しないとですね」

女友(急いで私はそちらに向かおうとして)



ギャル「待……て……」



女友(後方で弱々しい声と共に立ち上がる者がいました)



女友「……まだやるんですか、ギャルさん」



女友(本気で戦うことの練習台)

女友(そういって始まった戦いは言葉通りのものに、私一人でも十分に戦えると自信を持てるようになりました)

女友(その結果倒れ伏して気絶しているレズさんと満身創痍のギャルさんが生まれたのですが……立ち上がれるとは正直驚きでした)




ギャル「言ったでしょ……アタシは――」

女友「イケメンさんのために、とでも言うんですか? だとしたら滑稽ですね」



ギャル「……何が言いたいのよ」

女友「だってそうでしょう? 命令する者と従う者の関係が愛であるならば、王と奴隷は恋人だってことになるじゃないですか」



女友(イケメンさんが彼女であるギャルはキープで、本当は女に執着しているという話は男さんから聞いています)

女友(だとしたら彼氏だからと盲目的に従うギャルは体よく操られているだけです)

女友(男さんが魅了スキルを使ってしていることを、スキル無しでやってのけているのは才能なのでしょう)

女友(ちっとも羨ましくはありませんが)



女友(さて、ギャルさんは立ち上がりこそしたものの追ってこれるほどの体力はないでしょう)

女友(自分たちの関係を馬鹿にされて激昂される前にその場を去ろうとして)


ギャル「分かって……るわよ」

女友「……?」





ギャル「馬鹿にすんな!! アタシだって分かってるわよ!!」

ギャル「イケメンが本当は……私のことを愛していないってことくらい!!」

ギャル「それでも……仕方ないのよ!! こうでもしないとイケメンは……私のことを見てくれないんだから……!!」





女友(私は足を止めて振り返ります)

女友(ギャルさんの表情は苦渋に満ちたものでした)

女友(私はそれを意外に思いながらも、ここで待ってやる理由にはならないと判断して)



女友「だったらなおさら自分のことを大事にしてください。あなた自身のために」



女友(敵としてかけられる最大限の慰めの言葉をかけて私は広場に向かうのでした)


女友(広場に入ると戦いは終結しているようでした)

女友(そこかしこで『組織』の構成員たちが近衛兵によって拘束されています)

女友(私は人の集まっている広場の中央を目指して歩いていると)



近衛兵1「止まれ!!」

近衛兵2「何者だ、貴様は!!」



女友(近衛兵に制止の声を掛けられました)

女友(私のことを不審者だと思われているようで、どう釈明すればいいものか迷っていると)



姫「おぬしら、待つんじゃ」

近衛兵「姫様、不用意に出てこられては……」

姫「いいから黙っておれ! そこの少女、もしかして名を女友と申すのではないか」



女友(近衛兵に引き止められながらも、パレードでもその姿を見た独裁都市の姫が私の名前を口にします)



女友「そうです、私の名前は女友ですが……」

姫「ならば余の客人じゃ。無礼を働くでない」



女友(戸惑いながらも頷くと、何故か私は姫様に招待されるのでした)




女友(近衛兵たちが事態の収拾にあくせくと動く中、私は姫様の隣でこれまでのことを話してもらいました)



女友「そうですか……パレードの後、男さんと姫様はそんなことに」

姫「はい。女友さんのことは男さんから聞いていたので。姿を見たときに、もしやと思いまして……」





女友(どうやら私たちと別れた後、男さんは想像以上に大変な目に遭っていたようです) 

女友(先に行かせた女は間一髪のところで男さんたちを救い、結界のせいで逃げられなくなり)

女友(首謀者である近衛兵長近衛兵長なる人物との勝負を避けられず、しかしそれも魅了スキルで虜にしたことで決着したと)





女友(その後は男さんが虜にした近衛兵長に命令をして、それに女も協力して残っていた『組織』の構成員を一掃、ほとんどを拘束したようです)

女友(その中には見覚えのある顔もいます。私は姫様に少し見てくる旨を伝えてからそちらに向かいました)





女友「デブさんですか、久しぶりですね。駐留派、『組織』の一員になっているとは聞いていましたが」

デブ「女友さん……」



女友「結婚式襲撃部隊の方にいて捕まったということですか。逃げなかったんですね」

デブ「……ああ。竜闘士と聖騎士、バケモン二人から逃げられるわけないだろ」

女友「それもそうですね」



デブ「それに部隊には俺を慕っている部下がたくさんいるんだ」

デブ「やつらを置いて俺だけが逃げ出すわけには行かねえ」

デブ「殺されたやつがいることも考えると生きているだけで丸儲けだ」



女友(構成員が捕らわれている方を見るデブさん)

女友(元の世界、教室にいた頃には何も努力せず自分だけが不幸だと思いこみ世界を恨んで呪詛をかけるような、そういう陰湿な人間だったと記憶していますが……どうやら環境によって変わったようです)






女友「クラスメイトのよしみとして、罰が軽くなるようにかけあっておきますよ」

デブ「助かる。それと図々しい頼みだが、そっちもどうにかしてやってくれないか?」



女友(デブさんの指した方にいるのはもう一人のクラスメイト、メガネです)

女友(女と交流があることから、私も良く知る人物ですが……)



メガネ「私を捕まえたからっていい気にならないことね!」

メガネ「絶対にイケメン様が助けに来るんだから!」

メガネ「そうよ、私はイケメン様に大事と言われた女なんだから……!」



女友(メガネはちょうど通りかかった近衛兵に文句を吐いているところでした)

女友(聞くとどうやら先ほどから誰彼構わず言っているようです)



女友(その内容については考えるまでもなく実現しないだろうと判断しました)

女友(イケメンさんがわざわざ危険な橋を渡って、駒の一つを回収しに来るとは思えません)





女友「駐留派はあなたのように魅了スキルを狙っている者とイケメンさんに騙されている者によって構成されていると考えていいですか?」



デブ「……知っていたのか。そういうことだ」



女友「なら理解している通りですよ。イケメンさんがメガネを助けに来ることはなく、ずっと叫び続けることになるでしょう」

女友「私にはどうにも出来ません」



女友(私は一つ頭を下げるとその場を離れて姫様のところに戻りました)


姫「知り合い……共に異世界召喚された者との語らいは終わりましたか?」

女友(姫様は女神教の関係者、いや一番事情を知るものであり私たちが異世界から来たということも知っているようです)



女友「はい。それで姫様にお願いがあるのですが……」

姫「分かっています。あの者たちの処遇については一考します」

姫「彼らもまたいきなり呼び出された被害者であるとは理解していますので」



女友(姫様は聡明な方で、すぐに私の意図を察しました)



女友「ありがとうございます」

姫「それに……これからの独裁都市はそんな些事に構っている暇が無いくらい、忙しくなるでしょうから……」



女友(憂いの表情で呟いたことが気になりましたが、聞き出す前に)



姫「そんなことより女友さんに聞きたいことがあるんです」



女友(と話題を転換されました)






女友「何でしょうか?」

姫「女さんのことです。彼女、本当は男さんの魅了スキルにかかっていないんでしょう?」



女友「……まさかそんなことないですよ。私と一緒でしっかり男さんの虜です」



女友(いきなり出された話題に内心ビックリしながらも、私の口はすらすらと嘘を述べていました)

女友(親友の秘密を私が暴露するわけには行きません)



姫「そうですか? 男さんからここまで異世界でどういうことがあったのかは聞きました」

姫「あのときは特に疑問に思いませんでしたが……本人に出会って分かったんです」

姫「女さんは虜になっていないと。そうすれば数々の疑問にも説明が付くと」



女友「違いますね。全部魅了スキルが中途半端にかかっているせいです」



姫「それも疑問に思っていました。魅了スキルについては女神教の大巫女である私が一番知っています」

姫「しかし、伝承の中には中途半端にかかった事例など一つもありませんでした」

姫「ならば嘘だと判断するのが合理的でしょう」



女友(姫様は詰め将棋のようにどんどんと寄せてきます。私は徐々に逃げ場が無くなっていくのを感じ)




姫「どうしても認めないなら、この話を男さんにします」

女友「っ!? それは……」



姫「魅了スキルの使い手で当事者である男さんに意見を仰いだらきっとすごい参考になると思うんです」

姫「私としても男さんに手間をかけさせて心苦しいですが」



女友(こちらの事情を見透かし、完璧な王手を決められます)



女友(詰みだと判断した私は……ええ、こんな初対面の姫様に見抜かれる女が悪いんです、と心の中で言い訳してから、被害を減らすための最善手を)



女友「分かりました、認めます。女には魅了スキルがかかっていません」

姫「やはりそうですか。詳しく聞かせてもらえますか?」

女友「……はい」



女友(親友の秘密について洗いざらいぶちまけることにしました)




姫「召喚される前から好きで、しかし行動には移せず、そんな折りに魅了スキルの効果範囲にいてしまって、誤魔化すために嘘を吐いたと……」

女友「そういうことです」

姫「その後は虜であるという偽りで男さんにアタックを仕掛けて……卑しい、卑しいです」

女友「否定は出来ませんね」



姫「………………」



女友(話を聞いた姫様は女のことを非難していましたが、ふと考え込み始めました)

女友(そして決心したように顔を上げます)



姫「女友さん、親友の秘密を勝手に暴くような真似申し訳ありませんでした」

女友「いえ、全部女の落ち度です。私は悪くありません」

姫「その開き直りはまた清々しいですね……えっと、それなのに図々しいですが私の話も聞いてもらえないですか?」



女友「……ええ、いいですよ」



女友(その表情には心当たりがある。悩みを抱えている顔だ)

女友(この異世界に来てから男さんと女相手に何度もやってきたお悩み相談。何の因果か今回は姫様が相手のようだ)




姫「私は男さんのことが好きなんです」

女友「『まあ魅了スキルがかかっているからな』……と、男さんが聞いていたら言うでしょうね」



姫「私と男さんは魅了スキルによって引き合わせられましたから、理解はしています」

姫「それでも私は魅了スキルなんて関係なく好きだと信じていて……今日女さんと出会いました」



女友「……」



姫「最初の印象はいけ好かない人でした。まあ同じ殿方を取り合う以上、好意的には見られません」

姫「ですがその後、男さんと女さんのやりとりを聞いている内にビビッと来たんです」

姫「この人には魅了スキルがかかっていないと」



女友「女の直感……ですかね」



姫「たぶんそうです。それだけではなく女さんの想いの深さも実感して……」

姫「魅了スキルがかかっていなかったら、私も本当に同じように想えただろうかと疑問が浮かびました」



女友「……」




姫「男さんの方もです。あれだけ偉そうに私の想いはストックホルム症候群だと指摘した癖に……」

姫「実際は男さんの方こそ私に対して、同じく軟禁された立場としての連帯感や好意を抱いたに決まっています」



姫「だってその証拠に……女さんといるときはあんなに自然に振る舞っているじゃないですか」



女友(姫様の視線を追うと、そういえば未だ姿を見ていなかった二人を見つけます)

女友(女と男さんは広場中央の鐘のところにいて――)





女「男君、ねえこの鐘って」

男「女神教の伝統なのか、結婚式のときに二人の関係が永く続くようにって鳴らすやつだ」

男「俺も姫と一緒に鳴らしたが……その直後に襲撃されたんだったか」



女「……ねえ、私も一緒に鳴らしてみたい」

男「いやそれよりまず被害の復旧が先だろ」

女「もうこんなに頑張ってるんだから、ちょっとくらいサボったっていいでしょ! ほら、行こっ!」

男「ああもう、引っ張るな……ったく」



女友(女が男さんの手を引いて鐘まで導きます。悪態を吐きながらも男さんの表情も満更では無さそうです)




女友(久しぶりに見た男さんの元気な姿にホッとし、そして女とよろしくやっていることを嬉しく思いながらも、隣の姫様の相談中であるということは忘れていません)



女友「二人はここまで様々な苦難を乗り越えることで今の関係となりました」

女友「見守ってきた者として贔屓の感情が含まれていますが、男さんには姫様より女の方がお似合いだと信じています」

女友「申し訳ありませんが」



姫「……いえ。素直なところを言っていただきありがとうございます」

姫「私も……心の奥底ではそう思ってしまっているのでしょう」

姫「だからさっきもあんな後押しするような言葉を……」



女友「…………」





姫「女友さんに相談できて決心が付きました。私はこの気持ちを諦めます」

姫「ええ、そうですよ。ただでさえこれから独裁都市の再建のため私は頑張らないといけません」

姫「司祭と近衛兵長の二人がいなくなった今、私は自由に羽ばたけます」

姫「やりたいこと、やらないといけないことは山積みです」

姫「トップに立つ者として恋愛にうつつを抜かしている暇はないんです」



姫「私は母が愛したこの都市が、民が好きなのですから」



姫「だから……」






女友「別にそれが恋を諦める理由になるとは思えませんね」

姫「え……?」





女友「親友の恋路のことを思うなら、恋敵が身を引く姿を素直に見送るべきだと……分かってはいるんです」

女友「しかしそんな苦しい顔をしているのを見過ごせるわけないじゃないですか」



姫「苦しい顔って……違います! 私は独裁都市のためにむしろ誇らしくこの想いを捨てて…………ひぐっ、ぐすっ……」



女友「ああもう、ほらついには泣き出したじゃないですか。意地を張らないでください」



女友(私は姫様の頭を抱えて、赤子をあやすように背中をポンポンと叩きます)






姫「初めての恋だったんです! 初めて好きになったんです、男さんのことを!」

姫「でも……私が好きになったのは女さんによって変わった男さんなんです!」



姫「私の居場所が無いことは分かっています!」

姫「それでも……好きになってしまったんです! 仕方ないでしょう!」



女友「ええ、そうですね」



姫「女さんがいなければ良かったのに……女さんの代わりに私が男さんと出会っていたら……」

姫「そんな意味のない仮定が沸き上がっては心を乱して!」

姫「こんなに苦しいなら誰かを好きになりたくなかった!」



女友「でも好きになったからこそ幸せも感じたんですよね」



姫「男さんと結婚式をしたときは……それが敵の策略だと分かっていても、私は嬉しくて!」

姫「この幸せがずっと続けばいいのにって……でも……」



女友「分かります、分かりますから……全部吐き出してください」



女友(相手は一つの都市の長である姫様です)

女友(その立場だけでなく、今まで軟禁されていたこともあって、誰かに弱みを見せることなんて今まで出来なかったのでしょう)



女友(それでも潰れなかった精神的な強さは、トップに求められる資質です)

女友(だからといって何も溜め込まないわけがないのです)



女友(私は一人の少女がその思いの丈をぶちまける姿を、隣で優しく寄り添いながらしばらく聞くのでした)

続く。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


男(波乱と策謀の結婚式から一夜が明けた)



男(独裁都市の宝玉を手に入れたので次の町に向かうべきでもあるのだが)

男(都市の内情に関わりすぎたのと新たに判明した事実を整理するため俺たちはまだ留まっていた)

男(神殿の最上階、昨日まで軟禁されていた部屋には俺と女と女友、姫に近衛兵長の五人がいる)



男(新たな収穫というと一番は近衛兵長から聞き出した話だろう)

男(やつは俺の魅了スキルによって虜となっている)

男(嘘を吐かず全てを話せ、という命令で今回の事態の裏側に潜むもの、近衛兵長が王国の工作員であったことも含めて全てが明らかとなった)

男(今回逐一話を聞くため手を出せないように命令して同席させている)



姫「王国……ですか!?」

男「姫、何か知っているのか?」



姫「先の大戦の覇者で、ここらでは一番の領土と軍事力を持つ大国です」

姫「最近また領土拡大のため怪しい動きをしているとは聞いていましたが……」




近衛兵長「我が主、王の目的は全てを支配することだ」

近衛兵長「私はそのためにこの独裁都市の弱体化を狙って潜入した」

近衛兵長「結果は上手く行き過ぎたと言っていいだろう。これもあの愚かにも自身が王となろうとした司祭のおかげだ!」



男(先に話は聞いていた。司祭が自分が王になるため、姫を執政者失格の烙印を押させるためにしたことの数々を)

男(その過程で独裁都市の力が弱まったのだ)



男(近衛兵長の言葉に同意できるところがあるのも確かだった)



男「ああ、そうだな。女の子一人犠牲にしておいて何が王だ」

男(司祭が姫にやっていたことは許せるわけがない)



姫「男さん……」

女「むっ……そんなことより、このままじゃ独裁都市が危ないのよね?」



男(姫が頬を赤く染め、女は少々苛立ちと共に話題を変える)




女友「神殿の黄金化計画のために集めていたお金は、実のところ司祭さんが王になった後に軍事拡大をするために残していたと」

女友「しかし、その隠し場所を近衛兵長にも明かしてしまったため用済みとなり殺されたんでしたね」



近衛兵長「金は既に他に潜入していた部下の手によって運び出されている」

近衛兵長「私に命令しようとも取り返せないだろう。ありがたいことにな」



男(女友の確認に近衛兵長は腹正しいことを言ってくる)

男(虜になり俺への好意こそあるのだろうが、女友のようにコントロール出来ることは証明されているし)

男(命令に従うと言っても心までは変えられないので王国を崇拝する気持ちは健在だ)





姫「司祭と近衛兵長がいなくなった以上、これまでの愚策を撤回、新たに改革していくことで独裁都市の再建を果たすつもりではありますが……先立つものがないのは不安ですね」



女友「それでしたら当てが無いわけではありません」

姫「……?」




女友「今回の事態を昨夜の内に早速古参商会に相談したところ、商会が独裁都市に融資をしてもいいという解答をもらえました」

姫「本当ですか!?」



女友「ええ。元々独裁都市の人口は多く、大きな市場となっています」

女友「高すぎる税により一度は支部を引き上げましたが、それも後ろ髪引かれる思いだったそうです」

女友「都市運営が健全化するならば、新たに支部を再開してもいいですし、そのための融資も惜しまないだそうです。ただ……」



姫「この苦難のときに助かります! ええ、交換条件は分かっています」

姫「官が発注するものは優先的に古参商会に回すようにします」



女友「分かりました。では返事を古参商会にしておきます」



男(女友はいつだって何もかも見透かしたように動いているがここまで用意周到だとは。久しぶりに会う俺も驚きだ)



姫「ありがとうございます、女友!」

女友「いえいえ、姫のためならばこれくらい」



男(礼を言い合う二人だが、どちらも名前が呼び捨てだ)

男(信頼感のようなものも見えるが、二人ともいつの間に仲良くなったのだろうか?)




男「次は王国についても話しておきたいんだが」

女「そうね。この世界の統一……そのために各地で動いていて……」

女友「他にどのような動きがあるか知らないんですか?」



男(女友が近衛兵長に問う。近衛兵長には俺以外の質問にも嘘偽り無く答えるように命令してある)



近衛兵長「知らないな。私は一工作員でしかない。情報漏洩を避けるため、他の者の動きを教えられているわけないだろう」

女友「……なんでこの人こんなに偉そうなんですか?」

男「まあまあ、抑えろ。とりあえず分かることが一つ。こいつら、王国は宝玉に関心は無いということだ」



男(軟禁していたこの部屋に隣接する祈祷室の女神像に付けられていた宝玉)

男(もし近衛兵長が求めているならば、いくらでも取る機会はあったはずだ)



女友「宝玉の奪い合いこそ無いですが、各地に手の者を向かわせているとなると、今回みたいにまた対峙することがあるでしょうね」

男「帰還派、駐留派、復活派に続くとすると……支配派でいいか。第四の勢力だな」



男(前者三つはクラスメイトだけでなく魔族も含めて実のところこの世界の外から来た者たちである)

男(対して支配派はこの世界に元からいた者で、宝玉も求めていないと対照的だ)




女「近衛兵長さん。王国が傭兵さんに昔やった表舞台から消し去ったって話が気になるんですが、詳しくは知らないんですか?」

近衛兵長「断片的な情報しか聞いていない。司祭ならもしかして詳細を知っていたかもしれないが闇の中だ」



男(女の質問に対する近衛兵長の答え)

男(同じ竜闘士として戦ったことのある身だ、気になったのだろう。俺も別れ際の言葉は印象に残っている)





傭兵『それに……個人的にこんな世界など滅ぶべきだと考えている』





男(あの言葉は、その出来事が原因なのだろうか?)




女友「ところで話を聞く限りこの人の罪はかなり重いと思うんですが、罰の方はどうするんですか?」

姫「それについてはまだ考慮中ですが……」



男(女友が近衛兵長について姫に聞く。被害を受けた独裁都市の法に則って罰されるべきなのだろうが……)



男「なあ姫、こいつの処遇について俺に任せてもらうってことは可能か?」



姫「……近衛兵長がしてきたことはまだ表に出していません」

姫「全部包み隠さず明かせば、王国はそんなやつ知らない、言い掛かりだと因縁を付けてきて争いになるでしょうから、どうにも慎重に協議しないといけないので」



姫「正直未来について考えたいことが多すぎるので、過去を引きずっている場合じゃないと頭を悩ませています」

姫「そういうところもあって今なら私の一存で動けますし、男さんが対応してくれるならありがたいですが……一体どうするつもりなんですか?」



男「ちょっと考えがあってな」



姫「まあ男さんなら悪いようにはしないとは思いますが……」

姫「あ、そうです。では交換条件を呑んでくれたらってことでいいですか?」



男「俺に出来ることならいいぞ」

姫「大丈夫です。男さんは了承するだけですから」



男(交換条件、了承するだけ。姫が俺に求めることは何だろうかと……まあ姫のことだから悪いようにはしないだろうと――)








姫「えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?」



男「……は?」







主人公死亡からの打ち切り完結エンドォォォォ!!



……嘘です、普通に続きます。
あと二話くらいで五章が終わる予定です。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。




女「ううっ……男君……」

女友「女……悲しまないでください」



女「女友……でも無理だよ。私には受け止めきれない」

女友「そんなの私も一緒です。しかしそれで天国の男さんが喜ぶんですか?」



女「それは……」

女友「私たちは犠牲になった男さんの分まで前に進まないといけないんです」



女「うん、そうだね! 私、頑張るから! 男君どうか見守っていてね……」



女は天を仰ぐ。想いよ届けと願いながら。






男「……俺はここにいるぞ」



男(茶番に耐えきれなくなった俺は女の隣から声をかけた)



女「待って、男君の声が聞こえる……!」

女友「本当ですか!」

女「うん。えっと……『すまんな、女。でも俺は一生おまえのことを愛してるから』だって!」

女友「もう……死んでからやっと素直になったんですか。本当あまのじゃくですね」



男(二人は幽霊になった俺から声が聞こえた、と茶番を続行する)

男(どうでもいいが死んだのに一生っておかしくないか?)


男「はぁ……」

男(二人が何故このような茶番をしているかというと、俺が独裁都市内では死んだことになったのを茶化してだろう)



男(昨日の話し合いの最後に出された姫の『えっと男さんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?』という提案)

男(あれは本当に殺すというわけではなく、死んだ扱いにさせて欲しいという提案だったようだ。それを了承したためこうなっている)



男(現在俺たちがいるのは結婚式の会場ともなった神殿前広場だ)

男(あのときは満員だったが、今日は人がまばらにしかいない)

男(とはいえ死んだことになっている俺の顔を見られてはマズいのでローブに付いたフードを深く被り、女、女友と合わせて三人で聴衆としてこの場にいる)





男(さて何故姫が俺を死んだ扱いにしたかったのかというと、ちょうど壇上で話をしているところだった)




姫「一昨日の結婚式。余の伴侶となるはずだった男は襲撃者の手に掛かって……死んでしまった」



男(姫が壇上でワガママな姫様モードながら悲壮感たっぷりに話す)

男(俺が姫と結婚したことは独裁都市中の住民が知っていることだ)

男(実態は司祭と近衛兵長によって強制された結婚なのだが、民はそのことを知らないし姫は今後も明かすつもりもないようだ)



男(俺は宝玉を集めるために今日の午後にもこの都市を出て行くつもりである)

男(となると姫が、あれ旦那さんはどこ行ったの? と疑問に思われるのは当然だ)



男(そのため面倒が無いように俺は死んだということにするらしい)

男(幸いにも結婚式に来ていた観客は襲撃が起きた時点で逃げ出したので俺が最後どうなったかは知らない)

男(近衛兵には姫が直々に事情を説明したようだ)



男(というわけで無事死んだことになった俺だが、これには一石二鳥の効果もあって)




姫「余のことを良く思わない輩の犯行に最初は激怒した。それならばさらに民から搾り取ってやるかと」

姫「じゃが、余の腕の中で息も絶え絶えとなった男が言ったんじゃ。『彼らを恨むな。悪いのは姫おまえだ』と」

姫「自分の命が危ないというときに生意気にも余に説教をして」



姫「……じゃが、そうじゃ。男の言ったことは間違っていない。全部悪いのは余じゃと」

姫「すまぬ……今さら謝っても遅いかもしれない。じゃがこれから余は民のための政治を行う」

姫「死んだ男も愛していた、この独裁都市を守っていくために」





男(姫が感情を込めて語るデタラメな話)

男(中々に演技が上手いと思ったが、そもそもワガママな姫自体が演技であることを考えると納得だ)



男(『組織』のやつらは『姫の政治に不満を持って襲撃』と装っていた)

男(それに乗っかり死んだことになった俺との約束で改心したということにする)

男(それで今後は独裁都市のための政治をしていくつもりのようだ)

男(女が助けにくる前に俺が提案した死からの蘇生で改心したことにする策の改良版ということだ)


女「でも本当のこと言っちゃ駄目だったの?」

女「今までの行動は司祭さんと近衛兵長さんに強制されていたんです、私は悪くないんです、って」

女「近衛兵長さんが王国の工作員だったって明かすと面倒だからそこだけは伏せておくとして」



男(茶番に飽きたのか普通に話しかけてくる女)



男「独裁都市の民は高い税金や連発された愚策のせいで姫に恨みを持っている」

男「私は悪くなかったんですと言われて納得するやつも中にはいるかもしれないが、『知るかボケ』ってキレる方が多いだろ」



男「それにそもそも釈明して何の得になる。姫が精神的安寧を手に入れるだけでしかないだろ」

男「民には一銭の得にもならない、過ぎた二年間は戻らないんだよ」



女「それはそうかもしれないけど……でも姫さんが悪い印象のままなのはかわいそうだよ」

男「だとしてもあいつはそれを背負っていくって決めたんだ。外野がとやかく言う必要はねえ」



男(結婚式前夜、魅了スキルで聞き出した姫の覚悟は固かった。茨の道だとしても姫ならやれると信じている)


女友「まあでもここまで敵意剥き出しだと辛いですね」

男(女友が聴衆を見渡してつぶやく)



男(今まで姫が演説するときはこの広場に詰めきれないほどの人が集まったらしい)

男(というのも集まらなければ処刑だと担当者を脅して必死に集めさせていたからだ)



男(今の姫は当然そんなことはしない。そのため聴衆はまばらだ)

男(集まったのも自主的に演説を聞きに来ようと思った人か、いざ心変わりしたといっても本当は変わっていなくて、行かなければ悪いことが起きるんじゃないかという猜疑心の強いものなどである)



男(そんな中改心したという姫に聴衆から罵声が飛ぶ)



市民1「独裁都市を良くしたいっていうなら、まずおまえが辞めろ!!」

市民2「おまえのせいで何人が死んだっていうんだ!!」

市民3「今までの責任を取れ!!」



男(一人が堰を切ってしまえば後に続くのはすぐだった。壇上の姫に向かって誹謗中傷が雨あられと降り注ぐ)


女「酷い……みんなで寄ってたかって……」

男「そう思えるのは俺たちが裏側を知っているからだ」

男「俺たちだってパレードの前、何も知らないときは姫様を悪者扱いしていただろ」



女「それは……」

男「ここまで虐げられてきたんだ。正当な権利だとは言わないが、罵声の一つや二つを投げてしまうのは正直仕方ねえだろ」



男(女を諭しながら、俺は姫の反応をうかがっていた)

男(どんなに辛くても諦めないとは言った。だが、それが現実目の前に起きても貫けるか)





男(見守る中、姫が壇から横に出る)

男(それは聴衆に見えるようにするためだったのだろう――自分が土下座する姿を)



男(流石に土下座しているところに罵声を浴びせるほどの畜生はいなかったようだ)

男(静かになったところで、姫はそのまま口を開く)




姫「本当に、本当に申し訳なかった」

姫「どれだけ言葉を尽くしても許せないじゃろう」

姫「責任を取って辞めろという声も当然分かる――」



男(と、そこで姫が身体を起こす)



姫「じゃが辞めるつもりはない。責任を取るつもりが無いわけではなく、逆にここで辞めては無責任だからじゃ」

姫「余のせいで傾いた独裁都市を、余の手で立て直してこそ責任を取ったと言えるじゃろう」



姫「もちろんそれを気にくわなく思う者もおるじゃろう。じゃから余がこの独裁都市のトップとしてふさわしいかは民に直接問う」

姫「定期的に投票を行い、民の半数が余のことをふさわしくないと出た時点で即刻余はこの座から降りる」

姫「余は気づいたんじゃ。この独裁都市を愛していることを。先代、余の母のように独裁都市を今度こそ導いてみせる」



姫「余がワガママ姫と呼ばれているのは知っておる」

姫「そしてこれが余の生涯最後のワガママじゃ、どうか聞き入れてもらえるとありがたい」



男(姫は正面を力強いまなざしで見ながらそこまで言い切ると再び頭を地面に付けた)


男(姫の迫力に押されたのかしばらく聴衆は無言だった)

男(しかし時が経つに連れて、発言の意図を理解していくにつれ声が溢れ出す)



市民1「結局権力に縋り付きたいだけじゃねえのか?!」

市民2「投票はいい、だがその結果をどこまで信じられる! どうせ票の不正を行うんだろ!」

市民3「おまえに取れる責任はすぐに辞めることだけだ!!」



男(反発の声は少なくない。どれだけ言葉を飾っても執政者を続けようとするのは、姫の表したとおりワガママだ。許せない者がいて当然)

男(しかし)



市民A「そこまで言うなら……ねえ」

市民B「今の感じからして上っ面だけの言葉だとは思えないし……」

市民C「ちょっとは信じてもいいかも……ちょっとだけど」



男(姫を擁護する声もちらほらだがあるようだ)


男「まあこれなら大丈夫だろ」

男(少しだとしても味方がいるなら十分だ)



男(実際姫には王としての資質がある)

男(時間が経つに連れ姫が本当に独裁都市のことを思っていることは民に伝わっていくだろう)



男「これで独裁都市の住民も困らなくなる。女も心配じゃなくなるよな?」

女「あ……男君覚えてたんだ。うん、本当に良かったよ」





男(正常に回り始めた独裁都市)

男(これなら後顧の憂い無く旅立つことが………………いや、一つだけ)





男「そうなるとここでお別れってことだよな」





男(俺の視線の先には聴衆の言葉に真摯に答える姫の姿があった)

続く。

次が五章最終話です。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

5章最終話投下します。


女(姫様の演説の後、時間を置いてから私たちは神殿最上階の執務室に向かっていた)

女(これから私たちはまた次の目的地に向かう)

女(その前に姫様がお礼とお別れの言葉を述べたいということで招かれていたのだ)

女(ただ)



女「そんなの無視して出発すればいいのに……」

男「何言ってんだよ、女。世話になったのに何も言わずに去るのは礼儀知らずだろ」



女(男君が至極真っ当なことを言う)

女(私だってそんなことは分かっている。男君が生き残ることが出来たのも、姫様と二人で協力したおかげだ)

女(そのことについては感謝している)



女(しかし、姫様は男君のことが好きだ。魅了スキルのせいだとしても、私のライバルであることには変わりない)

女(お別れの際に何かするのではないかと私は戦々恐々していた)



女友「はぁ……女も大人げないですね」

女「ど、どういう意味よ!?」

女友「そのままですよ。あまりおどおどせず、どっしりと構えてください」

女「……?」



女(馬鹿にされたと思ってつい声を荒げたけど、女友はどちらかというと呆れているようで首をひねる)

女(しばらくして執務室にたどり着き中に入った)


男「よっ、姫邪魔するぞ」

姫「男さん!」

男「演説聞いたぞ」

姫「私も壇上から男さんの姿は見えていました!」



男「そうか。内容も中々良かったんじゃないか。もちろんこれからが大事だとは思うが」

姫「分かっています。この後も早速関係各所との話し合いがあって……」

姫「これでお別れなのにあまり時間が取れないのが残念です。もっとたくさんお話したいのに」



女(来客を感知した姫様がそそくさと立ち上がり男君の元に向かう)

女(んー、何か二人のムードが……)



男「二人で軟禁された一週間で十分満足するくらい話したと思うが。あのときは本当一日中暇を持て余していたし」

姫「それでもまだ足りないんです! ……ねえ、男さん。やっぱり考え直しませんか?」

男「その話こそ何回もしたじゃねえか」

姫「だとしても諦めきれないんです。男さん、これからも独裁都市に住んで、私と一緒に――」




女「駄目ぇぇぇぇっ!!」

女(今にも抱きつこうとしていた姫様と男君の間に私は割って入った)



女「そんなの絶対駄目だから! 男君はこれからも私と一緒に旅をするの!」

姫「それを決めるのは男さんでしょう。何の権限があって男さんの行動を強制するんですか?」



女(良いところに邪魔が入った姫様はムッとした表情でこっちを見てくる)



男「コラコラ、二人とも争うなって」

男「すまんが姫、何度言われても俺の答えは変わらない」

男「俺は女たちと共に宝玉を集めるためこの都市を出て行く」



女「男君……!」

姫「っ……そうですか」



女(歓喜に染まる私と落胆する姫様)


男「元の世界に戻るためだ、分かってくれ姫」

姫「……そんなの分かっています。でも、だとしたらこれが今生の別れということに……」



男「え、何言ってるんだ?」

姫「え?」



男「元の世界に戻る前にまた会いに来るに決まってるだろ。独裁都市がどうなるかも気になるしな」



姫「本当ですか!?」

女「ちょ、ちょっと男君!? 何言ってるの!?」



女(歓喜に染まる姫様と焦燥する私)



男「いや、宝玉を集めるのは駐留派と復活派がいることから急務だろ」

男「でもだからって集めた後に戻ることまで急がないといけないわけではない」

男「今まで回ってきた町を再訪するくらいのことはしたいって最初から思ってたし」



女友「そうですね。独裁都市だけでなく、最初の村や商業都市あたりもでしょうか」

女友「私たちを支援してくれた村長さんや古参商会長にもお礼を言いたいですし」

男「おお、そうだな。女友の言うとおりだ」



女「女友っ!?」

女(親友に背後から撃たれた格好だ)




姫「分かりました! ではまた男さんが会いに来る日をお待ちしています!」

姫「もちろんそのときになって独裁都市に住みたい、私と一緒になりたいと心が変わったとしても、私は全然オーケーですからね!」



女「またそんなことを言って……うふふっ、知ってる? しつこい女は嫌われるのよ?」

姫「知ってますよぉ、嫉妬深い女が嫌われるってことくらい」



女(ぶちっ、と頭の中で何かがちぎれ飛ぶ音を幻聴した)



女「……ねえ、男君。ちょっとの間席を外していてくれない?」

姫「奇遇ですね、私も頼もうと思っていました」



女(醜い言い争いになることを予想した私は、それを見られないように男君に提案する。姫様も同じようだ)



男「お、おう……それくらいいいけど。あまり熱くなるなよ。女友はもしものときのブレーキ役頼む」

女友「頼まれました。その間男さんはどちらに?」

男「ちょうどいいから独房区画に行ってくる。出発前には戻ってくるつもりだから」

女友「なるほど、分かりました」



女(男君が執務室を出て行く)

女(バタン、とその扉の閉まる音が開戦のゴングだ)




女「じゃあ言わせてもらうけど――」

姫「何でしょうか、本当は魅了スキルにかかっていない女さん」

女「な、何を言って……!?」



女(先制のジャブを放とうとした私は、カウンターのストレートにいきなり被弾した)



姫「あれ、違いましたか? てっきりその話をするために男さんを追い出したのかと思いましたが」

女「そんなわけないでしょ! だ、大体何を勘違いしているのか知らないけど、私は『状態異常耐性』スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているだけで」



姫「それが嘘だとは女友の口から聞いてますよ」

女「ちょっと、女友!?」

女友「私は悪くありません。姫に悟られる女が悪いんです」



女(くわっと目を見開いて親友を睨むと、口笛を吹きながらそっぽを向いているところだった)

女(そういえば昨日から二人が名前で呼び合っていて気になったけど、二人が何らかの理由で親しくなっていてそのときに私の秘密の話をしたのかもしれない)


女友「姫も女をあまりいじめないであげてください。その役目は私のものです」

女「あんたのものでも無いわよ!!」

姫「了解です。しかしここまで反応が面白いといじめたくなる気持ちも分かりますね」

女「分かるな!!」



女(私の頭上ごしに広げられる勝手な会話)

女(気づけば先ほどまでの緊迫ムードが霧散している)



女「で、でもどうして私が魅了スキルがかかってないって分かって……」

姫「見れば分かります。だって二人ともお似合いなんですもの」

女「お似合いって……」

姫「なのに私がちょっかいかけたくらいで取り乱して……本当大人げないです」



女(呆れたように首を振る姫様。展開に付いていけずポカンとなる私)


女「どういうこと、女友?」

女友「女だって気づいているんでしょう。結婚式で助けて以来、男さんといい感じなことを」

女「それは……」



女(女友に言われるまでもなくだった)

女(男君との距離が近くなった感じはしていた)

女(ただ本当にそうなのか、私の自意識過剰かもしれないと表には出していなかったけど……)



姫「一緒に軟禁されている間も、男さんは女さんが助けに来るかずっと気にしている様子でした」

姫「それが本当に助けに来たものだから心を開いたというところでしょう」



女「……もう男君ったら」



女(この期に及んで男君は私に裏切られるかもしれないと不安に思っていたようだ。そんなことあるはずないのに)






姫「お似合いの二人の強固な関係に、私は自ら身を引くことにしたんです」

姫「だからというわけではないですが、ちょっとくらいイジワルしてしまったのも流してください」





女(姫様が頭を下げる。そういうことなら私も正妻の余裕として流してやっても――)





女友「あれ? でもこの前姫も諦めないという話をしたばかりですよね?」

女「どういうこと?」





姫「――てへっ、バレましたか」

女(顔を上げた姫様は舌を出している)




姫「男さんがまた会いに来るって話ですし、女さんを油断させておいてそのときに奪おうと思ったんですが……」

女「ふふっ、再訪するときには私と男君はラブラブな恋人になってるでしょうから」

女「姫様……いや姫さんの割り込む隙はありませんよ」



女(こんな人を食ったような少女に様をつけるのもバカバカしくなりさん付けで呼ぶ)



姫「それはどうでしょうか。未だに魅了スキルにかかっていると男さんに嘘を付いているような女さんに成し遂げられるとは思いませんね」

女「ぐっ……それは……」



姫「武士の情けで男さんには告げ口しないであげますが、また会うときに男さんがフリーなら本気で落としにかかりますからね」

女「……分かったわ」



女(姫さんの言葉は本気なのか、中々一歩踏み出せない私への発破なのか……判断は付かないけど、私の心に火が付いたのは確かだ)




女友「さて。それはそれとして、戻ってくるまで男さんの話でもしませんか」

女友「軟禁中男さんがどんな様子だったか気になりますし、姫も男さんの話が聞きたいでしょう?」



女(女友が柏手を打ってから提案する)



女「それは気になるけど……」

姫「私もですね。一通りは本人から聞いたんですけど、自分の恥ずかしいところは絶妙に隠している様子でしたし」

女友「話が付きましたね。ちょっとミニキッチン借ります、お茶を入れたいので」



女(それからは女友の入れてくれたお茶を片手に、同じ人を好きになった者同士話が弾み)

女(先ほどまで言い争っていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていった)






近衛兵「はっ、男殿。何か御用でしょうか!」

男「そんな敬礼までしなくても。この先の独房に用があるんですが」

近衛兵「承知しました。鍵を開けます!」



男(敬礼する近衛兵に若干引きながら俺は用件を伝える)

男(市民には死んだと伝えられたが、近衛兵は俺が生きていることを知っている)

男(姫がどのように伝えたのかは分からないが、俺の扱いは独裁都市トップの姫同様なほどであった)

男(ここに来るまでにあった近衛兵にも敬礼されたし)



近衛兵「全員房の中にいるので危険はないと思いますが近づきすぎないようにしてください!」

男「分かっています。それと近衛兵長については……」

近衛兵「兵長もまた男殿と同様に死んだ扱いになっているため、夜になって人目が少なくなってから動くつもりですが」

男「それなら大丈夫です。俺たちはこの後出発するつもりなので全ておまかせします」

近衛兵「はっ、承知しました!!」



男(一々リアクションの大きい近衛兵を置いて俺は独房が並ぶ通路を歩く)


男(神殿内にあるこの独房は政治的に明るみに出せない者など特別な者を収容するために市民にも極秘に存在するそうだ)

男(結婚式のときに捕まえた『組織』の一般構成員は都市内にある普通の刑務所に入れられているが)

男(団結されないように離す意味でまとめ役であったクラスメイトたちや近衛兵長はこの独房に入れられているという。



男「つっても捕まったクラスメイトは二人だけだったんだよな……」



男(俺たちに対峙した太ったクラスメイトとめがねをかけたクラスメイトだけで)

男(女友が対峙したらしいギャルともう一人には逃げられたそうだ)



男(ということは宝玉を奪い争う相手である以上、また会う可能性はあるだろうが……)



男「そういえばギャルについては、女友が気になることを言っていたな……」



男(イケメンに騙されて利用されているだけかと思いきや、そのことを分かっている様子だったと)

男(そうでもしないとイケメンに見てもらえないからと言ったそうだが)



男「だとしたら…………まあ、今は関係ないか」


男(近衛兵長は独房の最奥に収容されているようだ。かなり歩かされる)

男(一人で話す相手もいないためつれづれと思考が流れる)



男(そういえば次の目的地に行くとは言ったが、まだどこに行くかは聞いていないな。後で女友に聞いておかないと)

男(まあどんな場所だろうと大丈夫だ)

男(竜闘士の女と魅了スキルを持つ俺、幅広くサポート出来る女友の三人が入ればそう簡単に遅れを取るとは思えない)



男「………………」



男(女……女には今回の出来事を経て俺の中で大きく心象が変化したことを自覚している)

男(これまでだって信用はしていた。だが今は信頼できている。女にだったらためらわずに背中を預けられる)



男(そうだ、今回はわざわざ俺のために助けに来るなんてこともしたのだ)

男(しかも魅了スキルの命令をものともとしなかったことから、女自身が助けに来ようと思ったというわけだ)

男(そんな相手に騙されるなんて想像する方が馬鹿げている)



男(ただ一つ残念だとしたらその好意が魅了スキルによるものだということだ)

男(もし本当に女に好かれていたとしたら…………俺は……)




近衛兵長「ニヤニヤしながら歩いてどうした?」

男「っ……!」



男(冷やかすような声をかけられる)

男(いつの間にか目的地に着いていたようだ)



男「おまえには関係ないだろ、近衛兵長」

近衛兵長「察するに恋愛ごとではないのか? だとしたら関係あるだろう。私はおまえの虜なのだからな」

男「……命令だ、これ以上下らないことを話すな」

近衛兵長「やれやれすぐ命令か。まあいい、ならば本題に入ってもらおうか」



男(近衛兵長は房の中から俺を揶揄するように笑っていた)




男「ここに来たのは最終確認だ。これからおまえにしてもらうことのな」

男(近衛兵長に急かされるまでもなく、こいつと無駄話をするつもりはない。俺は早速本題に入る)



男(こいつを使って何をするつもりなのか、それには一つ警戒しているものが元になっている)

男(今回争うことになった王国。この世界の支配をもたらす彼の国とは、今後も関わることがあるかもしれない)

男(なのに無警戒でいるわけにはいかない。やれることはやっておく)

男(どのように動いているのか、その手の内を探るために――)





男「近衛兵長、おまえを逆スパイとして王国に潜入させる。王国の黒い部分には詳しいだろうしな」

近衛兵長「最初はこのまま処刑されるかと思っていたが……本当こうなるとはな」





男(俺は近衛兵長を見下ろす)




男「もちろん拒否権は無い。おまえには徹底的に王国を裏切ってもらう」

男「そのためにありとあらゆる命令を既に施してある」



男(工作員としておそらく敵に囚われた場合の想定はあるのだろう)

男(何らかの符丁で自分の状況を知らせたり、助けを呼んだりなど)

男(その全てを魅了スキルの命令で封じる。姫から近衛兵長の扱いを預かって以来、時間を見ては命令をしておいてある)



近衛兵長「やれやれ手厳しい。王国に忠誠を誓った私が裏切り者になるとは」

近衛兵長「だが王国の方は裏切り者を始末することを躊躇しないぞ、私が魅了スキルで操られていることなどお構いなしだろう」



男「だろうな、だからおまえには最大限努力して王国を探るように命令する」

男「手を抜いてわざと捕まり王国のために命を殉じることも許させない」



男「それでも相手の方が上手で捕まってしまった場合は――そのまま死ね」




男(こいつは独裁都市を混乱させただけでなく、何人も殺した極悪人だ。その命令をすることに躊躇いは一切無い)




近衛兵長「承知した、新しき主よ」



男(殊勝に従っているように見えて、こいつの心は未だに王国を崇拝しているだろう)

男(命令は解釈の余地が無いくらいに雁字搦めにしておかないと寝首をかかれるかもしれない)

男(その確認にやってきたのだ)



男(これまでにかけておいた命令を近衛兵長の口から復唱させる)

男(基本的には王国のことを調べさせて、俺たちに定期的に連絡するようにという命令だ)

男(だがあらゆる状況に対応できるように命令は多岐に渡っている)

男(考え得る限り大丈夫だと判断した俺は確認を終了した)



男「じゃあ今日の夜から行動開始だ。近衛兵の手引きに従って王国を目指せ」

男「有用な情報を少しでも掴めるようせいぜい頑張るんだな」



近衛兵長「人使いが荒いな。これなら前の職場の方がホワイトなくらいだ」

男「恨むなら魅了スキルにかかった自分を恨め」




近衛兵長「……本当にそうだな。実際食らっても私が虜になるとは思っていなかった」

近衛兵長「もう少し本気で対策しておくべきだったか」



男「……?」



男(食らっても虜になるとは思わなかった……とはどういうことだろうか?)

男(いや、そういえば俺と姫が軟禁されているときに、やつはやけに強気にかからないと言っていた)



近衛兵長『それに……どうせまともに食らっても、私が貴様の虜になるとは思えん』



男(やつには何らかの虜にならないと思う理由があったとしたら……)



男「それはどういう意味だ? 魅了スキルの効果対象のことか?」

男「自分が『魅力的な異性』に当てはまらないと思っていたとか」



近衛兵長「何を言う。私ほど魅力的な女はいないだろう。柄ではないがハニートラップをこなしたこともあるぞ」

男「そんなこと知らねえよ。だったらどうして虜にならないと思ったんだ?」



男(近衛兵長の自信の源が気になり聞き出そうとして――)






近衛兵長「『状態異常耐性』スキルだ」

近衛兵長「聖騎士に備わっているスキルで……そういえば貴様の仲間の竜闘士も持っていたんだったか」



近衛兵長「このスキルのおかげで私は並大抵の状態異常にはかからない」



近衛兵長「だから虜状態にもならないと思っていたが……」

近衛兵長「いや、そもそも固有スキル相手に普通のスキルで敵うと思ったのが間違いだったか」





男「………………は?」

男(俺の思考は完全に停止した)








男「………………」



男(『状態異常耐性』スキル)

男(そのスキルは竜闘士の女に俺の魅了スキルが中途半端にかかっている理由のはずだ)

男(それなのに同じスキルを持っている近衛兵長には完全に魅了スキルがかかっている)



男「おまえっ!! それは本当なのか!?」

近衛兵長「……? 本当だが……何故動揺している?」



男(激しく狼狽えている俺に、近衛兵長の方が困惑しているようだ)




男「………………」

男(落ち着いて考えろ)



男(女と俺の事情を知った近衛兵長が騙している……この可能性はない)

男(近衛兵長が俺たちの事情を知っているなら手紙のからくりに気付いただろうし)

男(女や女友が近衛兵長にわざわざその話をするとも思えない)



男(そもそも魅了スキルがかかっている近衛兵長が俺に逆らうことが出来ない)

男(近衛兵長自身も特に意図することがあってスキルのことを話したのではないようだ)





男(だとしたら――信じたくない、考えたくもない)

男(だが残された可能性は……)









男「女が俺に嘘を吐いている……のか?」







男(女なら信じられると……共に進んでいくその先には輝かしいイメージがあったのに)

男(今や暗雲がかかっていた)


5章『独裁都市・少女姫』完結です。
開始からちょうど三か月かかって、約17万文字とこれまで以上に長い話となりました。

今回の話は『まさかヤンデレなのか!?』と『結婚式に乱入する主人公(ヒロイン)』をやりたくて構成しました。
姫様とはここで一旦お別れですが、その内また出番がある予定です。



6章は3歩進んだのに4歩戻りそうな男と女の関係にクローズアップして描く予定です。
8月を目標に戻ってくるつもりです。



乙や感想などもらえると作者がむせび泣いて喜ぶのでどうかよろしくお願いします。

乙!
この章も楽しませてもらいました!
次の章も楽しみに待ってます!!

乙ー

乙ー
ネガティブな男さんが帰ってきたな!
次の章に期待


ついに、魅了スキルにかかっていないことがバレてしまうのか!

乙、ありがとうございます。
8月になったので6章開始します。

>>137 期待に応えられるよう頑張ります。

>>139 ここ最近ポジティブでしたからね。

>>140 どうなるか!

章の開始でしばらくはスローペースで進むことを先に謝っておきます。
というわけで投下します。




 犯罪結社『組織』本部、幹部に与えられた一室にその二人はいた。

 魅了スキルを追い求めるイケメンとその彼女であるギャルだ。

 この異世界に留まり好き勝手する事を目的とする駐留派の中核メンバーである。



ギャル「この前の任務どうだったの、イケメン」

イケメン「……ああ、散々だったよ」



 ギャルが恭しく聞くと、イケメンはソファに寝転がったまま「はぁ」と溜め息を吐いた。



ギャル「苦労したってのは聞いてるけど」

イケメン「僕たちは今、魅了スキルによって掌握した仲間を持つ男たち帰還派と宝玉を奪い合っているというのは知っているだろう?」

ギャル「うん、それくらいは」

イケメン「ただ敵はそれだけじゃない。魔神復活のために動く魔族と伝説の傭兵のコンビ、復活派。彼らとかちあったのさ」

ギャル「っ……!」




イケメン「全く、竜闘士を圧倒するために悪魔を呼び出そうと宝玉を集めているのに」

イケメン「その過程で竜闘士と争っていたんじゃ意味が分からないね」



ギャル「そ、それでどうなったの!?」

イケメン「もちろん敵うわけないだろう。目的としていた宝玉は復活派に奪われた。骨折り損のくたびれ儲けさ」



ギャル「復活派は……報告によると今まで宝玉を二つ集めていた。ってことはこれで三つ目よね」

イケメン「ああ、対して駐留派は僕もギャルも奪取に失敗したけど、もう一つ別働隊が手に入れたおかげで、どうにか四つ目だ」

ギャル「そして帰還派が持っている宝玉は五個……必要量が一番少ないのもあってこのままだとマズいよね」


 二人が話している通り、現在それぞれの勢力が持つ宝玉の数は、帰還派が五個、駐留派が四個、復活派が三個だ。



 そして宝玉は数が集まるほどにその力を増す。



 二つならランダムな世界に通じるゲートが、

 四つである程度指定してゲートを、

 六つで完全に指定できるが強度の低いゲートが開けて、

 八つでその強度が上がり、

 十で高位存在も召喚することが出来て、

 十二で神さえも呼ぶことが出来る。






イケメン「帰還派の必要数は僕らクラスメイトを全員帰還させることだから8個」

イケメン「対して悪魔を呼び出したい僕たちが10」

イケメン「魔神を呼び出したい復活派は12のはず」



ギャル「そうなるとそれぞれ集めないといけない残りは3個、6個、9個……」

ギャル「復活派が一番遠いけど、だからってギャルたちが近いわけでも無いか」

イケメン「『組織』の力も借りて各地でどうにか集めているけど……目標達成は遠そうだな」



 イケメンは思考する。

 このまま順当に行けば、帰還派が一番最初に宝玉を必要数まで集めて、元の世界に戻る準備を整えるだろう。

 そうなれば魅了スキルによって、自身がこれまであった女の中で一番だと確信する女を支配する機会は永遠に失われる。

 だったらどうすればいいか。

 逆転するための一手は――。




イケメン「これしかないか」

ギャル「イケメン……?」



イケメン「そうと決まれば行動だな。ギャル、僕は行くよ」

ギャル「行くって……ど、どこになの!?」



イケメン「偵察隊によると、どうやら今度はやつらがかち合うようだからね。ちょっとそこに行ってくるよ」



イケメン「そう――――」






魔族「――以上が今回の段取りだ」

傭兵「承知した」



 某所にて。

 魔族の語った今回の計画について、伝説の傭兵は頷く。



魔族「変更があればその都度連絡する。何も無い間は自分の判断で動け」

傭兵「分かっている……ただ今回は予測不可能なところが多そうだな」

魔族「ああ……やつらも来るんだったな」



 魔族が思い浮かべるのは、あの忌々しい女神の力、魅了スキルを引き継いだガキの顔。

 女神教の力も削ぎ、ようやく魔神様復活のために動き出した自分たちを妨害する女神の悪足掻き。

 だが宝玉の多くをやつら召喚者に抑えられている現状を考えるとその策は成功している。






傭兵「この前はあの少年少女とは袂を分かったらしい『影使い』の少年と争ったが……」

傭兵「彼は見事に力に溺れていたな。昔を思い出した」



魔族「昔というと……私と出会う前のことか」

傭兵「ああ。力さえあればどうにでもなると、何をしてもいいと……腹正しい」

魔族「私としてはそちらの方が御しやすいがな」



傭兵「……まあいい。私情を挟むつもりはない。好きに命令しろ」

魔族「それはありがたい」






 魔族には余裕があった。

 固有スキル『変身』、絶対にバレない隠蔽スキルを使って各所に潜入できる彼女は様々な情報を持っており、当然それぞれの勢力が持つ宝玉の数も把握していた。



 復活派と呼ばれる自分たちが集めた宝玉の数で出遅れていることは分かっている。

 それでも他の二勢力が誤解していることから、最後に勝つのは自分たちだと信じていた。



傭兵「さて、ここからは別行動だな。武運を祈るぞ」

魔族「ああ、任せろ」



 そして二人が進む、その地は――。








女「いやー、長旅だったね!」

女友「ほら、男さん、着きましたよ」

男「……そうか」





 女と女友の後を付いてくように男も馬車を降りる。

 三人が次に求める宝玉があるその地にたどり着いたのだ。








女友「学術都市……ここに次の宝玉があるんですね」





続く。

6章『学術都市』編もよろしくお願いします。

乙ー

乙!
新章待ってました!!

乙一

乙、ありがとうございます。

投下します。


女友(私たちが今回訪れたのは学術都市なる場所です)



女友(この世界における魔法学の権威とも言える大学がここには存在します)

女友(附属として初等部から、中等部、高等部もこの都市にあり、一貫した教育がそのレベルの高さを生むようです)

女友(町造りも学園を中心として成り立っています)



女友(私たちは古参商会の紹介で、その内の一つの研究室を訪れていました)



室長「これがこの町にあった宝玉だ」

室長「女神教の教会を取り壊す際に、作業員が回収したものがこの研究室にまで回ってきたもので」

女友「拝見します」



女友(室長が差し出した青い宝石を私は手に取って見つめます)

女友(中に魔法陣が刻まれた、私たちにとって馴染みが深い宝玉そのものです)




室長「それで君たちも宝玉を持っているって話を聞いたんだけど……」

女友「はい、女出してもらえますか?」

女「あ、うん。ちょっと待ってね」



女友(代表して管理している女がこれまでに手に入れた宝玉五個を取り出して室長に渡します)



室長「おおっ、宝玉が五個も!? 最初は三個だと話は窺っていたのですが……」

女友「それから新たに二つ手に入れた分ですね」

室長「なるほど、そういうことですか」



女友(古参商会は随分前からアポを取っていたようで、私たちが独裁都市で手に入れた分と仲間のパーティーが手に入れた分の二つは勘定に入ってなかったようです)

女友(仲間が手に入れた分はここにたどり着く前に、古参商会を伝って私たちに届けられたため、帰還派がこれまでに手に入れた宝玉は全てがここにあります)




室長「宝玉を一箇所に集めると…………やっぱり!! 中の魔法陣の輝きが増して……!」

室長「この仕組みを解明すれば新たな魔法理論の構築も可能に…………」

室長「うおおおっ! テンション上がって来たぁぁぁっ!!」



女友(室長が吠えるように叫びます)



女友「申し訳ありません、話をしてもいいですか?」

女友(このままでは進まないので私は水を差します)



室長「……あ、すいません。研究者として未知を既知に出来る機会につい……」

女友「お気になさらず」



女友「では確認です。私たちの持つ宝玉五つを研究のため貸し出します」

女友「そして研究が終われば、元からあなたたちが持っていた一つも含めて六つを返してもらうと……」

女友「この条件で構わないでしょうか?」



室長「ああ、もちろんさ!」



女友(室長が勢いよく頷いて、これでこの町の宝玉を手に入れる算段が付きました)

女友(宝玉を貸し出して待つだけ。これまで苦労してきたことを考えると何とも簡単なものです)


室長「ただ、ちょっと研究に時間がかかりそうだけど……」

女友「どれくらいでしょうか?」

室長「そうだねえ…………かっ飛ばして不眠不休で研究して…………二週間くらいは見積もってもらえると」



女友「分かりました。では一ヶ月待ちます」

室長「え……? いいのかい?」



女友「大丈夫です」

室長「……恩に着るよ!! おおっ、君は女神だ!!」



女友(室長に過剰に感謝されます)



女友(もちろん本音としては急かしたいところです)

女友(誰かが奪いに来る可能性を警戒するために、私たちは宝玉を預けている間もこの地に留まる予定です)

女友(その間に駐留派と復活派が各地で宝玉集めを進めていくでしょう)

女友(それを考えると足踏みしている余裕はありません)



女友(しかし、急いては事を仕損じるです)

女友(ここまでハイペースで宝玉を集めてきた私たちには、一旦休憩が必要だと独自に判断しました)

女友(というのも)




女友「二人もそれでいいですね?」



女友(同行者の二人、女と男さんに確認を取ると)



女「私は構わないよ。ね、男君」

男「…………」



女「男君、聞いてる?」

男「え、あ、すまん……何の話だ?」



女「だから宝玉の研究に一ヶ月かかるって話。その間私たちもこの地を離れられないけどいいかな、って女友が」

男「…………うん、まあいいんじゃないか」

女「そう……」



男「…………」

女「…………」






女友(ぎくしゃくしたやり取りをする二人)



女友(少し前……正確には独裁都市を出発した日、それも私と女と姫姫が談笑しているところに独房から帰ってきたときから、男さんの様子がおかしくなっていました)



女友(軟禁状態のピンチから女が救ったことで、二人の仲も急接近したと傍目には見えていたのですが……一体何があったのか)



女友(親友、女は既に問いつめて特に何もしていないと言質は取ったので、問題はおそらく男さんにあると踏んではいますが……)



女友(ちょうどいいのでこの一ヶ月の間にどうにか解決したいところです)






室長「しかし一ヶ月の間ただ待たせるのも悪いよな……あ、そうだ!」



女友(そのとき室長が何か思いついたようにポンと手を打ちます)



女友「どうしましたか?」



室長「君たち、魔法額に興味は無いかい!?」

室長「もし良ければだけど、学園に一ヶ月の間体験入学出来るように取り計らってみるよ!!」



×魔法額 → 〇魔法学
ミス申し訳ありませぬ。

続きます。

乙!

乙ー
敵にさらわれて救出されたと思ったら新事実発覚で拗らせてたものぶり返しちゃうとは
ホント男さんのヒロインっぷりは半端ねーぜ

乙ー

乙、ありがとうございます。

>>166 ヒロイン力限界突破!!

投下します。


先生「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」

生徒「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」

先生「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」

生徒「はーい!」



男(学術都市、初等部の教室。)

男(先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと)



男「…………」

男(同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた)



男(周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ)

男(魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった)


男(俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと)

男(俺たちが持つ宝玉を貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう)

男(交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした)



男(この学園には初等部から大学まである)

男(体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した)



事務員「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」

女友「ありがとうございます」



男(事務員は女友のステータスを見て興奮していた)

男(どうやら女友ほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい)

男(女友は大学で専門的な教育を一通り受けた後、宝玉の研究について手伝うことに決まった)

男(『これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね』と女友が言っていた)


事務員「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」

女「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」

事務員「となると実戦魔法コースですね」



男(女もとんとん拍子に決まって)



事務員「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」

男「可能ならばそれでお願いします」



男(随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた)

男(元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう)



女友「初等部とは……大丈夫ですか、男さん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」

男「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」



男(と、心配する女友に対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった)


男(先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった)

男(異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい)

男(その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた)

男(だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?)



生徒「出来た!」

先生「あら、すごいわねー!」



男(しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた)

男(大人しく試行を繰り返す)



男「…………」

男(正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない)

男(今練習している初級魔法『火球』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法だ)

男(しかし衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか)



男(分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう)


男(独裁都市での一連の出来事により、女への心証が変わってきた矢先の出来事)

男(王国のスパイ、聖騎士の近衛兵長が、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ)

男(それによって虜状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている)



男(そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているという女の発言がおかしくなる)



男(……おそらく女が嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない)

男(その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた)

男(思っていた以上にダメージは大きかった)



男(すぐにでも女を問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる)

男(というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに)


男(状況を整理しよう)

男(まず近衛兵長の発言により、女に中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される)



男(となると女の本当の状態として考えられる可能性は二つ)

男(魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ)



男(どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した)

男(これまでに何度も女は命令を無視した実績があるからだ)

男(魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない)



男(ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない)

男(というのも女は現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ)


男(その嘘を吐く意味が理解出来ない)

男(魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない)



男(逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら)



男(そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと)

男(決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている)



男(相手が女でなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない)




男「…………」



男(とはいえすぐに今まで通り接することは難しい)

男(昨日も女とのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している)



男(幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりも女とは顔を合わせずに済む)

男(日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ)



男(女が抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?)



男(一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった)

続く。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


女友「本当の、本当に心当たりはないんですね?」

女「もう、だから何回も言ってるでしょ。私だって訳が分からないのに」



女(学術都市女子寮の二人用の部屋にて)

女(私は、ここ数日何度も同じ質問をする女友に辟易していた)



女友「男さんも地雷が多いですから知らずに踏んでしまったとか」

女「……それも無いと思う。女友の方こそ、男君に何かしたとか無いよね?」

女友「私も心当たりありませんよ」



女(女友は力なく首を振る)

女(話題はここ最近の男君の様子についてだ)

女(私と接する際に明らかにぎくしゃくしている状況。女友とはそんな様子は見られないのに)



女(独裁都市で男君を助けて以来いいムードだったというのに、急転直下の展開に私は失望よりも困惑の方が大きかった)

女(男君の変調の理由が全く検討付かなかったからだ)



女(女友とは普通に会話出来ているのに、私とだけはぎくしゃくしてしまう理由)


女「もしかして……」

女友「やっぱり何かミスしてたんですか?」

女(口を開いた瞬間失礼なことを言い放つ女友)



女「どうして女友は私が失敗した前提で話すの?」

女友「今までの経験からです」

女「……とにかく、私分かったの! 男君がおかしくなっている理由!」



女(もうこれしかないというほどドンピシャの理由に思い当たった私は興奮しながら女友に話すが)



女友「……何の手がかりも無い状況ですからね。女の戯れ言に付き合ってもいいでしょう」

女(女友は塩対応だ)

女(まあでもこの名探偵女の見事な推理を聞けば『素敵!』と態度を翻すだろう)



女友「それで女の考える理由とは何ですか?」



女(先を促す言葉に私は自信満々に答えた)






女「独裁都市の時に颯爽と助けに来た私を見て、男君は私のことが大・大・大好きになっちゃったんだよ!」

女「だから私と話すときも意識しちゃってるんだって!!」





女友「…………」

女(女友は無言で頭を抱えている)

女(きっと私の考えの素晴らしさに感銘を受けたのだろう)



女「好きな人の前で緊張するなんて、男君もお茶目なところがあるよね!」

女友「……どちらかというと男さんの様子は照れているというよりは、陰がある感じでしたが」

女「それはあれだよ! 『陰のある男はカッコいい』ってことで私の気を引こうとしてるんだよ!」

女「はあ……ひとまず謝ってください。男さんはあなたほど単純な人じゃないです」



女(女友は何だか不服そうだ)

女(……あ、そうか。私と男君がいい感じになると、三人で旅している以上女友が仲間外れみたいになってしまう)

女(独りぼっちになるのが嫌なのだろう)


女「大丈夫だよ、女友。もし男君と付き合うことになっても、親友であることには変わりないから!」

女友「……一応ありがとうと言いましょうか。そしてよく分かりました」



女「でしょ? 男君の変調の理由は……」

女友「そうではなくて、女。あなたがすごい浮かれていることに」



女(女友がビシッと私を指さす)



女「浮かれるってこんな感じ? 『竜の翼(ドラゴンウィング)』」

女友「狭い部屋なのに翼を出さないでください! ああもう、そうやってノリが軽いのが浮かれている証拠ですよ!!」

女「はーい」



女(女友に怒られて、私は翼を引っ込める)


女友「女が浮かれるのも分かります。ようやく男さんと上手く行きそうだったんですから」

女友「今まで応援してきた私も本当なら手放しで賞賛したいところです」

女「でしょ!」



女友「ですが。だからこそ一転して今の状況に陥ってしまったことに危機感を覚えているんです」

女友「よっぽどの理由があるはずですから、対処を誤れば男さんとの関係はご破算ですよ」



女「だからその理由は男君が私のことを好きになったからじゃないの?」

女(私の再三の言葉に女友は考え込む)



女友「正直急な変調という点だけを見ると、状況からして女の考えも有力なのが悩ましいところなんですよね……」

女「ほら!」

女友「いえ、惑わされないでください、私。この単純野郎に引っ張られています。男さんの今の状況を見るに違うのは明らかです」



女(女友が自分の頭を握りこぶしで叩いて正気に戻るように努めている)

女(私が人を堕落させる何かのように扱われていて酷い話だ)


女「そんなに私の意見を否定するなら、女友の方こそ何か意見を言ってみせてよ」

女友「そうですね……女の嘘が男さんにバレたとしたら今の状況も分かるんですが」

女「嘘……っていうと、私が魅了スキルにかかっているという嘘?」



女友「はい。過去のトラウマから人に裏切られることを極端に恐れている男さんですから、女が信頼できる人物だと思った矢先に騙されていることに気付いたらショックを受けるでしょう」



女「それは……いつか打ち明けないといけないと思っているけど……」

女友「ええ分かっています。ですが女も不自然な点ばかり晒していますから」

女友「前回も魅了スキルの命令を無視して助けに行きましたし。男さんが自力で気付くのはあり得る可能性です」



女「そうは言うけど、今まで何だかんだバレなかったのに、そんな急に露呈するかな?」

女友「……やっぱり延々と考えても埒が明きませんね」

女友「よし、分かりました。私が直接男さんに話をします」



女(決心したように女友が立ち上がる)




女「……でも、大丈夫かな。男君、私が昼ご飯一緒に食べようって誘っても、まだ学校に慣れなくてなって断るし」

女「放課後一緒に遊ぼうとしてもちょっと復習したいって……明らかに避けられてるし」



女友「大丈夫なはずです。女と違って私とは普通に話せていましたし」



女「おおっ! じゃあ、任せるからね!」

女「もし男君が私のこと大好きで止まらないって言ってたらこっそりと教えてね」



女友「こっそりと教えるだけでいいんですか?」

女「というと……?」



女友「私なら男さんから女に告白するように仕向けることも可能です」

女「……女友様っ!!!!」



女(私は現人神の顕現に拝み倒す)




女友「苦しゅうない、苦しゅうない」

女友「やっぱり女も女の子ですからね。告白は男の子からされたいでしょう」



女「はい、その通りです!」



女友「何か女と話していると本当に男さんが女のことを好きで避けているのだと思い始めてきました」

女友「となればサクッと付き合わせて祝福することにしましょう!」








 翌日。昼のこと。





男「ちょうど良かった。俺も女友と話をしたいと思っていたんだ」

女友「話とは……?」



 学園の食堂にて、待ち合わせをした男と女友。



男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



 現実はそう甘くないのだった。

続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。




男「女は本当のところ魅了スキルにかかってないんじゃないか?」

女友「…………」



女友(険しい表情で口を開いた男さんに、私はさてどうしましょうか、と半ば思考放棄していました)



女友(現在私たちは学園の食堂にいます。初等部から大学まで、大勢の生徒が利用する食堂です)

女友(私は朝の内に男さんとここで会う約束を取り付けていました)

女友(女友一人だけならいい、と暗に女の同席を避ける発言をされたのは想定内です)



女友(そして午前の講義を終えて昼になり食堂に向かい、料理を持って二人座れるところを探し、落ち着いたところで先の発言をされたという流れです)




男「――というわけで女に魅了スキルがかかっていないと思ったわけだ」



女友(さて、今までの流れを思い返す現実逃避を終えたところで、男さんの説明もちょうど終わりました)

女友(どうやら近衛兵長が『状態異常耐性』のスキルを持っているのに魅了スキルにかかったことから、私の吐いた嘘が見破られたことが原因だったようです)



女友(近衛兵長と私が直接対峙していれば、そのときに相手がどのようなスキルを持っているか看破して、この事態を避けることも出来たでしょうが……そんなこといっても詮無きことですね)





男「率直に聞く。女友、おまえは女の事情を知っているんじゃないか?」



女友「……そんな、私も知らなかったんですよ! まさか女が魅了スキルにかかっていないなんて! 状態異常耐性スキルのせいでないとしたら一体何が理由で――」








男「………………」

女友「――と言っても信じてもらえなさそうですね」



男「ああ。今思い返してみると、状態異常耐性スキルのことを言い出したのは女友だろ」

男「おまえは女に魅了スキルがかかっていることにしようと奮闘していた」

男「つまり、そのときから女の事情について知っていたんだろ」



女友「実際にはあのときは疑い程度でしたが……ええ、今の私は女の事情について知っていますよ」



女友(誤魔化せる雰囲気ではなく、私は真実を打ち明けます)


男「…………」

女友「軽蔑しないんですか? ずっと男さんのことを騙していたのに」



男「そう、だな。……女友が嘘を吐いたのは女の事情を汲んでのことなんだろ」

女友「まあそうですね」



男「だったら女が嘘を吐かせていたようなものだし……」

男「それにその状況を女友が良しとしていたのは、女のためでもあるんだろうが、俺のためでもあるんだろ?」

男「それくらいにはおまえの人となりも分かっているつもりだ」



女友「……はい」



女友(男さんの言う通りです)

女友女が男さんのことを好きであることを私が言えなかったのは、もちろん女の意向もありますが、男さんが好意をトラウマに思っていることも考慮してのことです)



女友(といっても言い訳にしかならないと、罰を受けるつもりだったのですが……男さんは私のことを許しているようです)




女友「でしたら女は?」

男「女は駄目だ。あれだけ人のことを信じろって言いながら、騙していたとか無しだろ」



女友「まあ、そうですね」

男「大体女はだな――」



女友(そこから男さんが女に対する愚痴をつらつらと述べるのを、ほぼ全面的に同意しながら私は考えます)



女友(男さんは新たな街にたどり着く度に宝玉を手に入れるまでの道のりを私たちに指示して来たことから分かるように、状況把握の能力が高いです)



女友(今回も女に疑いを向けるや否や、魅了スキルにかかっていないとまで推理したのは流石です)



女友(だからこそ男さんがその先に気付いていないことは少々不可解でした)






女友(女は一番最初に召喚された直後に魅了スキルを暴発させた際、しっかりと効果範囲にいました)

女友(男さんも女のことを魅力的に思っていたはずです)

女友(それなのに失敗したとなれば……その理由は対象が特別な好意を抱いている場合くらいしかないと分かりそうなものなのに)




女友(ですが男さんはその可能性を思い浮かべることすらしていなさそうです)



女友(その理由は…………ああ、そうですか)



女友(男さんは魅了スキル抜きに自分が好意を向けられることは無いと……呪縛に囚われている)



女友(トラウマから心の傷を癒すのに使った自己否定が、男さんの自己評価の低さを生み出し)

女友(そのせいで『自分が好かれる事なんて無い』と思いこませている)




女友(その一方で)



男「大体女はいつも自分勝手で……聞いてるか、女友?」

女友「ええ、聞いてますよ。本当苦労しています」

男「だろ」



女友「それでこちらから質問なんですが、男さんは今後どうしたいんですか?」

男「今後……?」



女友「はい。女は男さんを長い間騙していました。ごめん一つで済む問題ではないでしょう」

男「ああ、その通りだ」



女友(頷く男さんに私は吹っかける)




女友「ですから……そうですね、罰として女は死刑とか」

男「死刑!? いや、重すぎだろ!? おまえ女は親友じゃないのか!?」



女友「親友だからこそ厳しく当たるんです。これまで男さんを騙していた罪……万死に値します……!!」

男「それだと女友にも当てはまるような…………じゃなくて!! とにかく死ぬとかは無しだろ!」



女友「じゃあそうですね、騙していたのにのうのうとこれからも一緒に旅とかあり得ませんし、このパーティーから追放しましょう、追放」

男「……いや、それも無いだろ」



女友「もうだったらどうすればいいんですか? 男さんの問題なんですよ」

女友「ほら、私が手伝いますから、女をどうするべきか考えてください」






男「女を…………俺は、どうしたいんだろうな……」



女友(考え込む男さん)

女友(トラウマから来る拒絶反応が出ていたとしたら、そうやって悩むことすら無かったでしょう)



女友(最初、魅了スキルにかかっていないことに気付かれたときは正直終わったと覚悟していましたが、どうやら状況は思っていたより悪くないようです)



女友(それどころか女と男さんの間に立ちはだかる問題を解決するいい機会ですらあります)



女友(学術都市にいる間は宝玉を手に入れることも考えずに済みますし、時間が十分にあることも追い風で、この機会に二人の関係を急接近させようと――――)






男「ん、何だか騒がしいな」

女友「え…………あ、確かにそうですね」



女友(男さんの呟きに思考を中断すると、食堂が不自然に賑わっていることに気付きました)

女友(昼食時間に入ったばかりならばお腹の減った学生の歓声という可能性も考えられますが、もう十分に時間が経っています)





女友「え……?」

女友(だとしたら一体何が……と、騒ぎの中心にいる人物を見て私は気が遠くなりました)





生徒1「わあ、本物だ!!」

生徒2「講演に来てくれるのは聞いてたけど……」

生徒3「近代史に残る偉人、先の大戦を終結に導いた立役者――」





女友(生徒に囲まれるその人物は)






生徒「伝説の傭兵さんですよね!!」



傭兵「その通りだが…………この時間に来たのはマズかったか」





女友(魔神復活派コンビの片割れ、伝説の傭兵その人でした)

続く。

ぼちぼち縦軸も動かしていきます。

乙!

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


男(放課後)



女「どうしてあなたがここにいるんですか!? 説明してください!!」



男(俺と女友は食堂で伝説の傭兵を見つけたことを昼休みの内に女に伝えた)

男(放課後になってから三人で傭兵の姿を探し、そしてこの職員室で見つけるや否や女が突っかけた次第である)





男(俺の気持ちが定まっていない中、女と一緒に行動をするのは避けたいところだったのだが)

男(復活派の出現は宝玉の、俺たちの使命の問題だ)

男(駄々をこねている場合ではないくらいの分別は付いている)




傭兵「君の名前は……確か女君だったか。職員室では静かにと習わなかったか?」



男(女の剣幕も何のその、傭兵はたしなめてみせる)



女「そんな教師みたいなこと言わないでください!」

傭兵「いや、今の私はこの学園の講師だ。臨時ではあるがな」



男(胸元に付いているプレートを見せると……確かに臨時講師と書かれてある)



女「どういうつもりですか……まさかこの学園に何かするつもりで……!」

傭兵「そう激昂するな。この事態は私が意図したところではない。逆に学園の方から申し出た話だ」

女「ふん、どうだか。本当は――!!」



男(女はさらに声を張り上げようとするが)




男「女、ちょっと落ち着け」

女友「そうです、声を抑えてください」



男(俺と女友がそれを止めにかかる)



女「どうしてなの! だってこの人は……」

男「いや、気持ちは分かるが……ここは職員室だぞ」

女友「さっきから周囲の視線が集まって……居心地が悪いです」



男(女に周囲を見るように促す)

男(実際教師たちもちょうど訪れていた生徒たちも『何かあったのか』と興味の視線をこちらに向けている)





女「あはは、すいません。何でもないんです、つい声を荒げてごめんなさい」

男(状況に気付いた女は両手を左右にあわあわと振りながらその場で頭を何回も下げる)

男(一旦は視線の集中も落ち着くが、それでも周囲の人たちはこちらの様子を窺っている雰囲気が感じ取れた)





傭兵「……仕方ない。付いてこい、おまえたち」



男(助け船を出したのは、敵であるはずの傭兵であった)


男(誘導されるままに俺たちは場所を職員室から生徒指導室に移す)

男(ここなら他の教師や生徒もいないので注目されることも無さそうだ)



傭兵「気になることは聞くがいい。答えられることなら答えよう。予定があるからそれまでの間に限るが」

女「じゃあ、どうしてここにあなたがいるんですか!! 経緯を説明してください!!」



男(傭兵の寛大な態度に、あれだけ恥ずかしい目にあったのに女は先ほどまでの剣幕を維持したまま同じ事を問いかける。精神が強い)



傭兵「別段に語ることはない。旅を続けていれば先立つものは必要だ」

傭兵「この学術都市に入る際何か仕事は無いか聞いたところ、この学園で臨時講師として講演などして欲しいという要請に従っただけだ」



男(伝説の傭兵の勇名はこの世界の人々のほとんどが知っているほどだ)

男(そんな人の話を教育者として生徒たちに聞かせたいと思ったのだろう)

男(学園の意図は分かるところだ)



男(問題は――)




女「何か裏の意図があるんじゃないですか?」



男(女が聞いたとおり、傭兵自身の思惑だ)



傭兵「この都市に宝玉があることは当然把握している。私が宝玉を奪いに来たと……そう言いたいのだろう」

女「その通りです」



傭兵「ならばこの際言っておこう。今回、私が直接宝玉を奪うことはないと」

女「そんな言葉信じられません」



傭兵「考えれば分かることだ。私は伝説の傭兵として数多くの民に顔を知られている」

傭兵「そのようなものがコソコソと動ける訳がないし、もし宝玉を盗むというような悪行が直接露呈すれば瞬時に知れ渡り私は往来を歩くことが出来なくなるだろう」

傭兵「そのようなリスクを背負ってまですることではない」

傭兵「武闘大会のような私が私であるままに宝玉を手に入れることが出来たのは例外中の例外だ」



男(傭兵の言葉には一理あると思った)

男(伝説の傭兵の名は伊達ではない。実際食堂に顔を出しただけであれだけ騒がれたではないか)

男(つまり目の前にいる男、傭兵は宝玉を奪いに来たわけではなく――)




男「復活派のもう一人、魔族が宝玉を奪うつもりだと……そう言いたいんだな」



傭兵「……ああ、その通りだ。既に魔族はその姿を変えて、この学術都市に潜入している」



男(俺の問いかけに傭兵はあっさりと白状した)



男「魔族の姿のままなら角も生えてるし目立つだろうが、やつの固有スキルは『変身』……潜入するにはピッタリの能力か」



傭兵「私も誰に化けたのかは聞いていないから教えられない。もっとも知っていたとしても答えないだろうが」



男(『魔導士』の女友ですら見抜くことが出来ない『変身』スキル)

男(そんな厄介なやつが宝玉を狙っているなら警戒しないといけないが……)


女「だったら研究室に言って警備の人を増やしてもらわないと!」

女「あそこには学術都市の宝玉だけじゃなくて、私たちが今までに集めた宝玉もあるし!」



男「待て、女。それは逆効果だ」

女「逆効果……?」

男「ああ。魔族は誰にだって化けられる。宝玉の周囲に人を増やすことは、つまり化けられるターゲットを増やすのと同義だ」



男(だからこそ傭兵も魔族が潜入していることを普通に明かしたのだろう)

男(警戒するのも難儀な『変身』スキル)

男(きっと俺の『魅了』スキルより宝玉を手に入れるのによっぽど役に立っているだろう)



女「男君……」

男「だが対策しないといけないのも確かでどうするか……って、どうした女?」

女「え、あ、いや、今は関係ないことで」

男「何だ女らしくないな。気になることがあるなら言っていいぞ」





女「でも絶対関係ないことだよ。……だって久しぶりに男君と普通に会話出来ているなあ、って思っただけだし……」

男「そ、それは……ああもう、今は真面目な話をだな……」

女「だ、だから関係ないって言ったじゃん!」



男(女が顔を真っ赤にしている。場違いなことを考えていた自覚はあるのだろう)


傭兵「どうした少年、彼女と喧嘩中か?」

男「……つかぬことを聞きますが、その『彼女』とは三人称代名詞のことですよね?」



傭兵「いや、恋人である女性のことだ。魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人は付き合っているのだろう?」

男「付き合っていません!!」

傭兵「む、そうか。これは失礼な邪推をした」



男(俺は声を張り上げて否定する)



傭兵「……しかしそれほど想い合っているのに付き合っていないとは……最近の若者はよく分からん…………」

女「た、確かにそうだけど……ムキになって否定しなくてもいいじゃん……」



男(傭兵と女、竜闘士二人がぶつぶつ何か言っているが俺の耳にまで届かない)


男(傭兵まで変なことを言い出して、完全に場の雰囲気が緩くなってきた)

男(宝玉を奪うつもりが無いとはいえ敵同士だ)

男(馴れ合う必要もないと、そろそろその場を去ろうとして)



女友「一つ質問をいいですか?」

傭兵「……どうした、魔導士の少女よ」



男(女友が真剣な声で傭兵に問いかける)



女友「あなたの過去についてです。先の大戦が終わった後、王国はあなたに何をしたんですか?」

傭兵「知ったのか……王国の名が出てくるとはな」



女友「王国は不明な点が多い勢力です。教えてもらえるならありがたいのですが」

傭兵「我が主に不利益が被る話ではない。特に隠すことも無いが……残念ながら時間だ」



男(時計を見て傭兵がタイムアップを告げる。そういえばこの後予定があると言っていたか)



傭兵「言ったように私はしばらく臨時講師としてこの学園に勤めている。時間のあるときにまた訪ねるといい」



男(傭兵はそのように言うと生徒指導室を去るのだった)

続く。

投下遅くなり申し訳ありません。
また書き溜め尽きたので、今後の更新も不定期になります。
ご了承ください。

乙!
待ってるぜ!

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。
大変遅くなって申し訳ありません。

投下します。


男(生徒指導室を後にした俺たちはその足で宝玉を貸し出している研究室に向かう)

男(その道中で俺は謝った)



男「いや、その……すまんな、女友」

女友「いきなりどうしたんですか?」



男「さっきの傭兵との会話だ。やつの過去、王国の所行について聞き出すのは必要なことだったのに、俺はすっかり忘れていたから」

女友「ああ、そのことですか。別に気にしていませんよ。男さんも魔族のことについて聞き出してくれましたし」



男「いや、それでも俺が気付くべき事だったんだ……」

男「戦闘で役に立たない俺はせめてこういうところだけでも頑張らないといけないのに……そうだ、関係ない事なんて考えている余裕は……」



男(女に関する問題と宝玉に関わる問題は別物だ。切り替えて対処しないと)



女「男君……」

女友「はぁ……分かりました」



男(心配げな女の声が聞こえたかと思うと、先導していた女友がその場で立ち止まる)




女友「研究室には私一人で行きます。二人は付いてこなくていいです」



男(そして冷たい声で宣告した)



男「一人でって……でも、宝玉に関わる問題だぞ!」

女「そうだよ、どうして!」

男(俺と女は異を唱えるが女友は動じることなく続ける)



女友「私一人で十分だからです。魔族によって宝玉を奪うことを防ぐ対策、人を増やしたからって上手く行くような話でもないでしょう。それにあまり多くで押し掛けても迷惑でしょうし」



男「そうかもしれないけど……だったら俺が!」

女友「以前、研究室に訪れた際に魔法式トラップが仕掛けられていることを確認しています」

女友「そういう専門的なことも話すだろう事を考えると、代表して『魔導士』の私が出向くのが一番です」

男「それは……」


男(授業を受けているのに、未だに魔法の一つも使えない俺にその言葉は重くのしかかる)




女「だったら私は……!? もし魔族が力押しで来た場合、竜闘士の私がいた方がいいでしょ! その確認のためにも私は行った方が……」



女友「いえ、竜闘士の傭兵さんが加わるならまだしも、魔族一人相手取るなら私だけで事足ります」

女友「もし傭兵さんが嘘を吐いていて奇襲したとしても、この学園には警備員もしっかりいますし、実戦魔法教育を受けた生徒もいていざというときの戦力はかなり高いですし、女が遅れてでも駆けつけるなら十分に対処できます」



女「だとしても……何もしないでいるのは……」





女友「――というのは全部建前です」





男「な……?」

女「え?」



男(一気に前言を翻した女友に俺と女は付いていけない)




女友「何もしないで? 今、そう言いましたね。そんな遊ばせるわけ無いでしょう」

女友「当然女にしてもらわないといけない大事なことがあります、宝玉に関する問題以上に大事なことが」



女「それって……」



女友「決まっているでしょう。男さんとの関係修復です」

女友「どうやら男さんは女に魅了スキルがかかっていないことに気付いたみたいですよ」



女「……っ!?」



男(昼間に相談したことを、女友はあっさりと女にバラす)


男「女友、おまえ……」

女友「ごめんなさいね、男さん。でも特に口止めもされていませんでしたし、それにこちらの方が話は早いでしょう?」

男「……だとしても、これは俺の個人的な問題だ。俺たちの使命に関わる宝玉問題より優先されるとは――」

女友「いえ、優先すべき問題です。パーティー内に不和があって大きな事をなせるでしょうか? そんなはずないと私は考えます」



男「……」

男(確かに今の俺は女との問題のせいで気もそぞろになっている)



女「男君にバレて……」

女友「ええ、詳しくは省きますが魅了スキルにかかっていないということだけに気付いて、女の事情は分かっていないようです」

女「……」

女友「事情を明かすかはあなたの判断に任せます」



男(女の事情……俺が皆目検討付かないそれについて目の前でやり取りが行われる)



女友「さて、二人とも状況を理解したようですね。私は研究室に向かいますから後はお願いします。それでは」



男(俺たちが反対しないことを確認して、女友は研究室に向かって歩き出した)




男「………………」

女「………………」



男(残された俺と女の間を沈黙が支配する)

男(俺は何を話していいのか分からなかったし、女は騙していたことがバレて気まずいようだ)



男(正直に言うとこのまま対話を放棄して寮の自室に逃げ出したかった)

男(ただそれではあまりに女友に不誠実過ぎる)

男(今まで俺たちの意図を汲んで何度も助けてくれた女友がここまで強引に事を運んだのは、その荒療治が必要だと判断したからだろう)



男(だが、未だに考えがまとまっていないのに女と何を話せばいいのか)

男(……いや、逆なのか? これまでずっと一人で考えて結論が出ないんだ)

男(ならばこれ以上考えても堂々巡りになるだろう。だったら元凶の女に当たるのが正解なのかもしれない)

男(……どちらが砕けるのかは想像も付かないけど)





男(と、冷静に思考できたのはそこまでだった)




女「ごめんなさい」



男(先に口を開いた女)

男(いつになくしおらしい態度を目にして、俺は自然と口が動いていた)



男「どうして謝るんだ?」

女「私が男君のことを騙していたからです」

男「ああ、そうだな。まさか人を信じるようにあれだけ言ってた女が俺のことを騙しているとは思ってもいなかった」

女「……本当にごめん」



男(女が一層に萎縮する)

男(……違う、俺はこんなこと言いたいんじゃなくて……)



男「それでどうだったんだ? まんまと騙されている俺を見るのはさぞかし楽しかったんじゃねえか?」

女「そ、そんなことないよ!」

男「本当か? なら罪悪感の一つでもあったっていうのか?」

女「罪悪感はもちろんあったけど……最近は……」

男「忘れてたっていうのか、なるほどな」

女「……ごめん」



男(言葉が、感情が収まらない)


男「さっきからごめん、ごめんって、それしか言葉を知らねえのかよ」

女「……」

男「ごめんって言うにしても普通はさ、こういう事情があったんです、ごめんなさいだろ。なあ、どんな事情があったのか言えないのかよ」

女「……ズルいことは分かってる。でも、まだ言えないの……ごめん」



男「そうか……そんなに俺のことが信頼できないのか」

女「ち、違うって! それは私の勇気が無いからで…………」



男「意味分からねえよ!! 結局俺のこと信頼してないから秘密にするんだろ!!」

女「それは……」

男「俺は……やっと女のこと信じられそうだと……そう思ってたのに……」



男(自覚できるほど頭に血が上っているのに、涙で視界が霞む)

男(怒りと悲しみ、相反する感情が俺の心を散り散りに裂いていく)



男「っ……!」



男(これ以上この場にいられないと俺はこの場を離れようとして……何でもない段差に躓いて派手に転んだ)




女「男君!」

男「来るなっ!」



男(心配そうに駆け寄ってきた女を俺は拒む)



女「で、でもすりむいて血が出ているし……早く保健室に行かないと……」

男「……だからもう騙されていることには気付いているって言っただろ」

女「え……?」



男「もういいんだよ。魅了スキルにかかっているフリは、俺に好意を持っているフリをするのは」

女「フリって……そんなんじゃ……」

男「そうやってまた騙す気か? 懲りないんだな」



男(俺はよろよろと一人で立ち上がる)



男「女友に言われたこともあるしな。宝玉に関することには協力する。でもそれ以外のときは話しかけるな」



男(吐き捨てるように言って俺は意地を張るように女に一瞥もくれないまま去る)

男(それなのに女が今どんな表情をしているのか気になってしょうがなかった)




男(夜)

男(保健室で怪我の手当を受けた後、俺はそのまま寮の自室のベッドに体を投げた)

男(夕食を取っておらず腹の虫の主張がすごい。なのに全く食欲が沸かなかった)



男「………………」



男(しばらくぼーっとしていた)

男(ただ呼吸するだけの物体となって、何時間経っただろうか)

男(ふと思考が浮かび上がる)







男「これで女にも嫌われただろうな……」



男(女にも非があったとはいえ、さっきの俺の発言は酷いものだった)

男(言い返せないところに付け込んで、ネチネチと嫌味を言って……)



男(あんなこと言うつもりじゃなかった………………じゃあ、どんなことを言うつもりだったんだ)

男(自分の中に存在しない言葉を口に出すことは不可能だ。つまりあれは俺の中にあった言葉)

男(感情のままに振る舞って、子供のように喚いて……俺は……)




男「……全部もう過ぎたことだ」



男(終わったことを悩んだってしょうがない)

男(あれだけ拒絶したんだ。女が今後俺に関わることはないだろう)



男(そもそも魅了スキルがかかっていないってバレたんだ。好意を持ったフリをするために俺に絡む必要も無い)

男(ていうか、さっきのもおかしいか)

男(嫌われたって……何好かれている前提で話しているんだ)

男(今までのことは全部幻、夢が覚めたんだ)



男(だとしても別にそう悲観することでは無い)

男(戻っただけだ。異世界に来る前、ずっと独りで生きていた頃に)



男(ただそれだけ)








幼女『お兄さんも一人なの?』





男(声が聞こえた。幼い女の子の声だ)

男(いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。妙に思考の制御が出来ず思ったままの言葉を返す)





男「ああ、俺は独りだよ」

幼女『……変なの。お兄さんの近くにはいっぱい人がいるよ?』



男「学生寮だから周囲の部屋に人がいるだろうな。でも俺の心の中には誰もいない……いなくなった」

幼女『よく分かんない。心って何なの?』



男「難しい問いだな。俺にも分からねえ。こんなものがあるせいで怒ったり悲しんだりしないといけないんだから面倒だよな」

幼女『そっか、大変だね』



男「大変だよ。あんたはそういう経験無いのか?」

幼女『……覚えてない。昔あったかもしれない。でも今この世界にいるのは……一人だから』






男「世界に一人か、それは大変だな。でも俺もそんな世界に行ってみてえな」

幼女『ほんと?』



男「ほんとだ、ほんと。誰もいなければ……最初から独りならこんなに悩まなくても、傷つかなくても済んだのにな」

幼女『……だったら一人になればいいんじゃないの?』



男「なれたらどんなに楽か。俺は一人で生きていけないことを知っているからな。独りになったって言いながら、怪我の治療も自分で出来ないから保健室の先生を頼った。この異世界でだって独りじゃ身を守ることも出来ないから……あいつたちと……」

幼女『……?』



男「……まあおまえも大きくなれば分かるさ」

幼女『お兄さん面白いね』

男「そんな面白いことを言ったつもりはないんだが」

幼女『うーん、っと。久しぶりにいっぱい話したら疲れちゃった。お兄さんとリンク出来たのは………………のときの………………が…………また………………話…………』





男(意識が途切れ途切れになる、うとうとなってきた)

男(あれだけのことがあっても人は変わらず眠くなる)

男(俺は意識を手放そうとして……)



男「夢の中でまた眠るってのも……おかしな話だ…………」



男(生じた違和感は微睡みの中に霧散した)

続く。

次は早めに届けたいです。

乙ー
待ってた。

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。




男(それから数日経った)



男「………………」



男(授業を終えて放課後、俺は学園の図書室にいた)

男(学園の規模同様に図書室も広く、それでいて雰囲気が生み出す静けさが気に入っているスポットだ)

男(本の虫である俺は圧倒的な蔵書数に目を輝かせていただろう)

男(いつもならば)



男「はぁ……」

男(机に置いた本はさっきからページがめくられていない)

男(頬杖付く俺の視線の先は窓の外、中庭で修練している実戦科コースの生徒たちに向けられていた)

男(二チームに分かれて模擬戦をしているようだ。女子の姿しか見当たらないので、男子はどこかで別のカリキュラムを行っているのだろう)


男(と、そんなどうでもいいことを考えていた)



男(ここ数日、俺の生活は全く変わり映えの無いものだった)

男(日中は初等部に交わり魔法習得の授業)

男(無心に頑張った結果、俺も魔素を取り込み魔法を発動させる事に成功していた)

男(一度コツをつかめば後は早いもので、火球(ファイアーボール)だけでなく初級レベルの魔法は大体使えるようになっていた)



男(そして放課後は授業で躓いたところがあれば図書室で復習を、そうでなくとも図書室に来てぼーっとしていた)

男(夜になれば寮の自室に戻り何もすること無くただ眠る)



男(繰り返しの日々は時間の進みを早く感じさせてくれた)

男(時間とは万能薬だ。どれだけ傷ついたとしても癒してくれる)

男(あれだけ重かった俺の心も今ではすっかり元に戻った)




幼女『本当に?』



男(すっかり聞き慣れた幼女の声が俺の核心を突く)



男「……ははっ、そんなはず無いだろ」

男(俺は疑問に思うことなくそれに答えて)





??「ここにいたのか」

男(そのとき現実に声がかかった)





男「っ!?」

男(あわてて振り向くとそこにいたのは)




傭兵「探したぞ少年。それにしても妙な気配を感じるが……」



男(伝説の傭兵であった)


男「くっ……!」

傭兵「そう身構えるな、少年。この場で争うつもりはない。図書館ではお静かに、だ」



男(イスを倒れそうな勢いで引き飛ばしながら立ち上がった俺に対して、傭兵は両手を広げて戦う意志が無いジェスチャーを取る)

男(……まあそうだな。もしやつが俺をどうにかするつもりなら声なんてかけないし、そもそも竜闘士相手に俺ごときが抵抗して何になる)



男「だったらどういうつもりだ?」

男(俺はイスに座り直して聞いた)



傭兵「様子を見に来ただけだ」

男「偵察か」

傭兵「そうとも言う。しかしこの気配は……」



男(思案顔になった傭兵はいぶかしげな視線を最初俺に向けて、次に俺の後方の何もない空間に向ける)


男「そういやさっき妙な気配とか言ってたな。言っとくけど俺は何もしてないぞ」



男(両手をホールドアップしてこちらも戦う意志が無いことを示す)

男(何か反攻の意志ありと見なされて竜闘士の逆鱗に触れたら一巻の終わりだ)



傭兵「それくらいは分かっている。私が気になるのは………………ふむ、消えたか? しかし……」



男(傭兵は首を捻っている)

男(その雰囲気からして俺自身ではない何かが気になっているようだが……)

男(あいにくまるで心当たりが無い)





傭兵「まあいい。ところで少年、こんなところで燻ってていいのか?」

男「何の話だ?」

傭兵「……何だ、知らないのか。今や学園中の話題となっているぞ、ある研究室から研究物資と研究員一人が忽然と消えたと」

男「それは……」



男(抽象的に話しているが……やつの口から出てきたという事はつまりそういうことだろう)

男(魔族が化けた研究員によって宝玉が盗まれたと)


傭兵「魔導士の少女の提言により厳重に警戒していた中での犯行だ」

傭兵「犯人は物理的にも魔法的にも痕跡を残していない」

傭兵「躍起となって消えた犯人を追っているそうだが、果たして見つかるかどうか」



男「他人事のように言うが、あんたはその裏側を知っているんじゃないのか?」

傭兵「いや。今回私たちはそれぞれ独立して動いている。魔族の思惑は知るところではない」

男「……まあ知っていたとしてもそういうだろうし、意味無い問いだったな」

傭兵「そうだな」



男(傭兵が返答して……しばらく無言の空間が続く。再び口を開いたのは傭兵の方だった)



傭兵「行かないのか?」

男「どこに」

傭兵「研究室に。少年たちが所持する宝玉が奪われた事態、一大事だと思うが」

男「あー……そうだな。行くべきなんだろうが……」

傭兵「……」



男「まあ、女友ならすぐ気付いて取り返すだろ。消えた人間が一人じゃなくて、二人であることくらい」



男(話を聞いただけで俺が解ける問題に、女友が気付けないとは思わない)


傭兵「信頼……もあるのだろうが、ただの投げやりにも見える」



男「そうだな……正直言うと今は宝玉のことすらどうでもいいと思ってしまってる」

男「というか逆に質問だ。どうしてそう俺のことを気にする?」



傭兵「理解できない挙動をする敵に気を付けるのは当然だろう」

傭兵「腑抜けた様子に見せて裏では、と警戒したがどうやらそうでもないようだな」



男「ああ、演技でもなく今の俺は腑抜けてるだろうよ」



傭兵「ここ数日竜闘士の少女、魔導士の少女どちらとも話していないのは、何らかの策や別行動でもなくただの仲違いであると」



男「……あんた意外と目敏いんだな。もっと豪快な性格だと思っていたよ」



傭兵「状況を掴めない者は戦場で生き残れない。当然のことだ」



男(傭兵に言われたとおり、あの日拒絶してから俺は女、女友どちらとも一度も話していない)

男(今さらどのような口を聞けばいいというのか)

男(その点では敵でありどう思われてもいい傭兵の方が話しやすいくらいだ)




傭兵「なるほど、理性的な言動をするから忘れていたが少年は15、6くらいの歳だったな。青春真っ盛りだ」



男「知ったような口聞くんだな」



傭兵「何、十分に知っている。理屈的でない行動をしてしまう。それが若者の特権であり、青春だ。輝かしいばかりだ」



男「大人は大変なんだな」



傭兵「少年も大きくなれば分かる」



男「そうなんだろうが…………俺が知りたいのは未来じゃなくて、今だ」

男「俺はどう行動するのが正解だったんだ? 正解なんだ?」



傭兵「考えの出発段階から間違っているな。この世に正解なんてものは存在しない」

傭兵「とはいえそのような問答をしたいのではないのだろう」



男「……ああ、その通りだよ」



男(やけに真摯に答えてくれる傭兵に、つい俺は心からの訴えをしてしまう)

男(そして)




傭兵「そうだな……ちょうど約束していたしいいだろう」

男「何の話だ?」



傭兵「私が経験してきたことを話そう。少年たちの現状の参考になるかは分からないがな」



男「本当に関係なさそうだが」

傭兵「まあ聞いておけ、年寄りの昔話を聞くスキルは社会に出てからも役に立つぞ」



男(長話をするつもりなのか傭兵は近くの机のイスを二つ引いてその内の一つに座る)



男(そうして唐突に紐解かれるのだった)

男(伝説の傭兵と呼ばれる男の、過去が)

続く。

過去編はそんな長くならない予定です。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


 さてまずは私の生まれから話そうか。

 聞いたこともあるかもしれないが、私は貧しくも平凡な村の平凡な家庭に生まれた子供だった。

 唯一の例外と言えば、竜闘士の力を持っていたことだろう。



 ……何、竜闘士の力って持って生まれたものなのかと?

 その通りだ、聞いたこと無かったのか?

 そもそも竜闘士の力が量産できるようなものであれば、各国は競って増やしただろう、どんな手でも使って。

 少年の魅了スキルが属する固有スキル同様に、竜闘士もまた突然変異的に生まれるものだ。



 私は今思うとやんちゃなガキだった。馬鹿なことをする度に両親に叱られたものだ。

 そのときには既に竜闘士の力を十分に使いこなせたから、やろうと思えば普通の力しか持たない両親を上回ることが出来ただろう。

 しかし、両親はそんなこと気にせず叱った。竜闘士である前に親と子であったということだ。

 そんなこともあり私は力に溺れることもなく成長していった。




妹『ねえ、お兄ちゃん! また空中散歩したい!! 背中に乗せて飛んでよ!』

傭兵『もうしょうがないなあ』



 特筆するとすれば、私には妹がいた。

 妹もまた両親同様に私が竜闘士であることを気にせずに、いやそれも含めて慕ってくれたものだ。



 そうして私が少年になったころに先の大戦が起きた。



 幸いにも私の住む村は戦火から遠いところにあり、直接巻き込まれることはなかった。

 しかし戦費としての特別税により村は一層貧しくなった。



 このままではこの村は立ち行かなくなる。

 何もない村、だが私には立派な故郷だ。



 だから。




傭兵『僕が……戦場に行くよ』



 元々村の中でまことしめやかに話されていたことだった。

 竜闘士の私が戦場に出向けばいいと。竜闘士なら十分に活躍できるだろうと。

 ただ少年でしかない歳である私を戦場に送るなんて馬鹿なこと出来るかと否定されてきた。



 そんな優しい村民が私は好きだった。

 みんなのためならば、私は戦場に立つ決意が付いた。



 戦場はこの世の地獄だった。

 尊ばれるべき命が軽々と散る。

 少年だった私の精神は未熟だった。震える私とは裏腹に力だけは成熟していた。

 初陣は今思うと酷い有様だった。泥臭い特攻でどうにか勝利を勝ち取った。


 それからも地獄で過ごす日々だった。

 竜闘士の力は各地に伝わった。こぞって私を雇おうという話に、私はただ提示された金額の多寡だけで判断した。



 少しでも多くの金を故郷に。

 私が私であるように繋ぎ止めていたものは、その意志だけであった。



 がむしゃらに戦い、戦い……ひたすらに戦い続けて。

 永遠に続くかと思われた大戦にも終わりが告げられた。王国の元で力を振るった私のおかげで。


 大戦が終わってもしばらくは忙しかった。

 王国によって私は英雄として祭り上げられたからだ。

 祝賀会、戦勝パレード、あらゆる催しに呼ばれる日々は、ある意味戦場にいたころよりも疲れた。



 私は英雄なんて柄じゃない。

 大切ものを守るために戦っただけだ。

 それも一段落したころ、久々に故郷の村に帰った。

 村のみんなは私を暖かく迎えてくれた。



 しかし、両親だけは私の頭にゲンコツを落とした。



父『ったく、おまえは危ない橋ばかり渡りよって!』

母『ちゃんと連絡は寄越しなさいって言ったでしょうが!』



 私に対して怒る両親。

 ああ、この人たちの前では私は英雄でもなく、伝説の傭兵でもなく、ただの息子でいられる。



妹『もう、本当に心配したんだからね!』



 私に抱きついて泣きじゃくる妹。

 ただの兄となった私は久しぶりにその言葉をつぶやいた。



傭兵『ごめん。それとただいま』




 こうしてただの人となった私だが、世間からの評価は変わらない。

 あるとき私は伝説の傭兵として、王国から話があると呼ばれていた。

 そのため村を発つ前日。



傭兵『おまえももうそろそろ年頃だろ? いつまでもお兄ちゃん、お兄ちゃん言っていないで、結婚したらどうだ?』

妹『もう、お兄ちゃんまでその話? いい人が見つからないんだからしょうがないじゃん』

傭兵『いや、おまえが選ぶ立場なのか? おまえみたいなおてんばは選んでもらう立場だろ』

妹『はぁ? 何言ってんの? 私だって結構モテるんだよ』

傭兵『ははっ、それはどうだか』

妹『……ふんっ、もうお兄ちゃんなんて嫌い!』



 よくある兄妹喧嘩だった。

 しかし、へそを曲げたのか妹は翌日の見送りの際も一言も口を聞いてくれなかった。

 帰ったら謝らないとなあ、まあおみやげに王国名物でも持って帰れば許してくれるだろう。



 そう思いながら私は王国の地を踏み、そして連れられた王宮でとんでもない提案を受けた。






傭兵『王国による……大陸全土の支配……その片棒を私に担げと?』



 その場に集まった王国の重鎮、そして王はそのような絵空事を本気で実現させるつもりだったようだ。

 伝説の傭兵である私が協力すればその実現も早くなる、その暁には莫大な富や権力も約束しようと。

 私の答えは一つだった。



傭兵『そのようなこと私には出来ません』



 過ぎた富も権力も私には必要なかった。

 故郷のあの村さえあればそれでいい。




王『そうか……残念だ』



 王は嘆くように言った。



王『まあいい、もとよりそなたに首輪を付けられるとは思っていない。ゆえにそなたは今このときより……王国の敵だ』

傭兵『敵……ならば排除するとでも? 無理だ、それが出来ないからこそ私は伝説の傭兵と呼ばれている』



王『何も……直接戦うだけが戦争ではない』

傭兵『……?』

王『相手を戦意を挫くことも……また戦争だ』

傭兵『なっ……!?』



 私は衛兵が取り囲もうとする中、急ぎその場を脱出し故郷へ帰ろうとした。

 嫌な予感しかなかった。

 そしてたどり着いた故郷の地は――。



 炎に包まれていた。




 世間には不幸な山火事が起きたと発表されたようだ。

 村一つの壊滅。

 しかし、不自然なほどにその続報は無かった。



 その日以来、私は表舞台から姿を消し、細々と生きることにした。

 王国に見つかるわけには行かなかったから。



 竜闘士としての力を使って王国に復讐することはもちろん考えた。

 しかし、大国相手にはいくら強大とはいえ私一人では分が悪い。



 いや、そもそも幼い頃の教えが私に復讐という手段を奪っていた。


傭兵『どうして、お父さん!! あいつは妹を泣かしたんだ! だったらあいつも同じ目に遭うべきだろ!』

父『そうやって復讐してどうなる? おまえはスカッとするだろう。だがそれだけ、空しいだけだ』

傭兵『でも……っ!』

父『大丈夫、話し合うんだ。同じ人間……分かりあえ無いことなんて滅多にない』



 両親は幼い私に復讐の空しさを教えてくれた。

 だが……どうしようもないほどの悪意、それとの対峙方法は教えられていなかった。



傭兵『…………』



 腑抜けたように姿を隠し生活する私。

 こんなことになるなら、王国の話を受けるべきだったか。

 ……いや、たとえ何回繰り返したとしても私は断っただろう。

 だから、後悔することがあるとしたら。



傭兵『あいつに……謝っとくんだったな』



 胸の内に秘めた気持ちを伝える機会は永遠に失われたままだ。


男(伝説の傭兵の昔語りはそこまでのようだ)



男「その後はどうしたんだ? 今の話だと魔族は一切出てこないじゃないか」

傭兵「魔族とはつい最近、一年ほど前に出会ったばかりだ。その話については……本人もいないところでするわけにもいかないだろう」

男「ふーん……まあいいけど」



男(気になるか気にならないかで言うと前者だが、わざわざ詮索までするほどではない)



男「随分と壮絶な人生だったんだな」

男(話を聞いての感想を端的に述べる)



傭兵「竜闘士、強大すぎる力を持って生まれた時点で、私の人生が平穏無事に終わる可能性はほとんど無かっただろう」

傭兵「私はあの村、故郷で家族とともに慎ましく暮らせれば…………いや、傭兵として戦に関わってきた者としてそんなこと望む資格もない。忘れてくれ」



男(昔のことを思い返して口が緩くなったのか自身の言葉を撤回する)


男「…………」



男(平穏に暮らしたいというその思いには共感しかない)

男(俺だって元の世界で誰とも関わらずずっと過ごしたかった)



男(だが異世界召喚に巻き込まれ、魅了スキルを授かって、その力に課せられた使命を果たすしかなかった)

男(そして激動の旅の果てに、一度は誰かを信じられるようになったのに…………俺はまた独りになった)



男(俺はどうするべきだったのか、どうしたいのか……正解の行動は……)






傭兵「さて、話を聞いてくれたお礼だ。悩む少年に正解を教えてやろう」

男「え……?」



傭兵「正解とはすなわち多くの人が支持するものであろう」

傭兵「誰にも何も望まれない人ならばともかく、少年は幸いにも宝玉を集めることを望まれている」

傭兵「ならば少年が取るべき行動はそれを達成することだ」



男「……」



傭兵「そう考えると宝玉を集めようと競う敵がいる以上、強い味方がいる方がいい」

傭兵「つまり少年は竜闘士の少女と仲直りしてまた味方に戻ってきてもらう……それが正解だ」



男「……」



傭兵「少年がずっと望んでいた正解だ。さっさと実行すればいい」



男「……」



男(傭兵の言ったことはぐうの音が出ないほどの正論だった)

男(ガキのように駄々をこねている場合ではない)

男(その通りに行動するべきで…………でも)




傭兵「でも……そうしたくない何らかの理由があるのだろう?」

男「え……?」



傭兵「今のは外から見た他人である私が出した正解だ」

傭兵「ただ理屈的にどう行動するべきかという話」

傭兵「大事なのは少年がどうしたいのか、だろう」



男「……言いたいことは分かる」

男「だけど俺は、俺自身がどうしたいのかも……分からないんだ」






傭兵「そうか。ならば――――死ね」

男「は……?」



男(傭兵は立ち上がると俺の正面に立ち)



傭兵「『竜の拳(ドラゴンナックル)』」



男(気迫を放ちながら、竜の力をまとう拳を正面から振るった)

男(当たれば一瞬で俺の頭がザクロのように赤い中身をぶちまけるだろうその一撃)



男「っ……!」

男(すっかり油断していた)

男(そうだ親身に話を聞いてくれたがそもそもやつとは敵同士)

男(厄介な魅了スキルを持つ俺を始末しようとしないはずがない)



男(今から避けることは不可能)

男(死が迫る刹那の時間に脳裏によぎったのは後悔……こんなことになるなら俺は――――)




傭兵「……と、まあこれは冗談だ」



男(傭兵は気を霧散させて、俺の眼前で寸止めした拳を元に戻す)



男「わ……笑えない冗談だな」

傭兵「ああ、冗談は得意でなくてな。それで……少年は今、何を後悔した?」

男「それは……」



傭兵「後悔したことが少年のするべき事だ」



男「…………」



男(どうやら傭兵がしたかったことは殺すフリをして、俺の心の奥底に潜む物を暴くことのようだった)

男(何ともシンプルな手段だが……そのおかげで自覚する物があった)




傭兵「若い内は時間は無限にあると勘違いするものだ」

傭兵「意地を張って、結論を先延ばしにする……」

傭兵「それは明日も変わらぬ今日が来るという甘えからの行動だろう」



傭兵「だが少年も少女もその立場は不安定だ」

傭兵「魅了スキルと竜闘士の力、宝玉を集める使命、一寸先も分からない状況」

傭兵「だからこそ少年は後悔の無いようにな」



男(後悔を引きずり生きている先達の忠告はずっしりと重い)




男「ありがとうございます」

男(俺は深く頭を下げた)



傭兵「礼はいい」

男「いえ、させてください。本当は敵であるはずの俺にここまでしてくれて……」



傭兵「あまり絆されるな。今はこうしているが、魔族の意向があれば私は少年に手をかけることも躊躇わない」

傭兵「昨日の味方が今日の敵になることもあるのが傭兵だからな」



男「それをわざわざ忠告することがあなたの優しさですよ」

傭兵「……やりにくいな」



男(傭兵は困ったような顔をしている)



男「それじゃ俺は俺のするべきことをしてきます」

傭兵「……行ってこい」



男(俺は立ち上がると図書室を出て、女がいるはずの女子寮に向けて駆け出すのだった)






 …………。

 …………。

 …………。





 一人図書室に残された傭兵。

 男が出て行って姿が見えなくなったことを確認すると、立ったままその口を開く。





傭兵「さて、そろそろ出てこないか――竜闘士の少女よ」



 先ほど過去話を始める前に二つ引いたイス。

 その内、自分が座らなかった方のイスの方を向いて声をかける。



女「……やっぱり気付いていたんですね」

女「最初からですか? 妙な気配がするって言ってましたし」



 すると今まで何もなかったように見えていた空間に、突如女の姿が現れた。






傭兵「当然だ。だが妙な気配は少女ではない何か別の…………」

女「……?」



傭兵「……いや、まあいい。ところでその力は竜闘士の物ではないな。魔導士の少女にあらかじめかけてもらったものか?」

女「はい、魔法『不可視(インビジブル)』だそうです」



傭兵「そうか。わざわざそんなことをしたのは少年の様子が気になって…………いや、少年の警護のためか?」

女「一応どっちもです。8:2くらいですけど」

傭兵「正直に言われると取り繕った意味がないな……警護にしては私が少年に寸止めしたときも動かなかったようだが」




女「あなたは気迫こそ放っていましたが、そこに殺気がないことは分かってましたから」

傭兵「……」



女「男君も言ってましたが、あなたは優しい人です」

女「だからこそ……どうして魔族に手を貸して世界の滅亡を望んでいるのか理解できません」

女「魔族に手を貸せば世界を、王国を滅ぼすことが出来るから……とも考えましたが、さっきの様子からすると別に復讐は望んでないようですし」



傭兵「……ああ、そうだ。私の使命は世界を滅亡させること――ではない」

傭兵「それはついでだ」



女「そうですか。だとしたらあなたの目的は……」




傭兵「私のことはどうでもいいだろう。少女も話は聞いていたな?」

女「……はい」



傭兵「だったら少女も後悔しないように。お節介かもしれないが」

女「いえ、そんなことありません! ありがとうございました!」



 女は頭を下げると男が行った後を追う。





「…………」

 傭兵は二人が去った方角を見る。





司書「あの、傭兵さん……ですよね。何か本でも探しているんですか?」

 その背中から司書が声をかけた。

 立ち尽くしていることから何か困ったことが無いかと思ったのか。



 ――否。




傭兵「魔族。戻ったのか」

魔族「……よく気付いたな」

傭兵「当たり前だ。音もなく忍び寄る司書がいるものか」



 傭兵が振り返ると司書は全身から光を発した後、金髪褐色角付きの姿に戻る。



魔族「最初からおまえを欺けるとは思っていない」

傭兵「そこはかとなく不機嫌なところを見ると、どうやら作戦は失敗したようだな」

魔族「……ああ。あの魔導士の少女に今回は『変身』を見破られてな。あと一歩で宝玉を盗めたんだが」



傭兵「そうか。では次はどうする? この地で粘るか、それとも別の場所に向かうか」

魔族「ああ、それに関しては……とある連中から提案があってな」



傭兵「提案?」

魔族「触りだけ聞いたが悪くない話のようだ。これから交渉に向かう。付いてこい」

傭兵「了解した」



 そして伝説の傭兵と魔族も図書室から去るのだった。

続く。

触りの使い方が誤用なのか意図してなのか判断に困る

>>279
「話の最初部分」のつもりで書いてたんですが調べたら誤用なんですね
本来は「話の要点」でほぼ真逆の意味ですか……勉強不足でした

参考
http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_07/series_08/series_08.html

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。




女友(どうもみなさんこんにちは。名探偵の女友です)



女友「……なーんて、女を馬鹿に出来ない思考してますね」

女友(女子寮のベッドに大の字であおむけに寝転がりながら、私は随分と失礼な言葉を吐きます)



女友(とはいえ私の功績を思えば名探偵と呼ばれてもおかしくないはずです)

女友(数日前、魔族が宝玉を狙っているという事を知った私は、研究室長にセキュリティの強化を進言しました)



女友(その結果、研究室は物理的な出入りを禁止して、中で研究員は泊まり込みで作業をすることになりました)

女友(元々宝玉の反応を一日中見るために研究員は二交代制で働いていたため、そこまで反対は多くありませんでした)



女友(そして内部での魔法発動の痕跡を記録する装置をセットして、仮に誰かが魔法を使って盗んだとしてもすぐにバレるようにして)

女友(完璧な密室が出来上がりました)



女友(一抹の不安があるとしたら固有スキルの発動は判別出来ないことくらいでしょうか)

女友(魔族が変身で既に研究員として潜り込まれていても見抜くことは出来ません)



女友(それでもこの警備の中盗むことは不可能だと……私は確信していて)






女友(今朝、宝玉がすべて盗まれていることに気付きました)





女友(すぐに研究員を全員集めた結果、一人の研究員の姿が見当たりませんでした)

女友(しかし研究室の物理的閉鎖は解けておらず、魔法使用の記録も確認しましたが怪しい点は何も見つかりません)



女友(つまり人一人と宝玉が忽然と密室から姿を消したのです)

女友(騒然となる現場。それは私も例外ではありませんでした)



女友(一体、何が起きているのか。どうやって姿を消したのか、変身を使ってもこんな芸当は出来ないはず)



女友(考える私に対して、室長はそのいなくなった一人がどうにかして宝玉を持ちだし逃げたのだと判断してその人の行方を追います)

女友(私もその捜査に加わるべきと思いながらも……何か引っかかるところがあって……そして推理が繋がりました)






女友(結論から言うと宝玉は研究室から持ち出されていなかったのです)

女友(魔族は宝玉を研究室の中の見つからない場所に隠し、研究員一人の姿を消させてそいつが持って逃げたのだと外に注意を向けさせて、ほとぼりが冷めた頃に宝玉を持って逃げるつもりでした)





女友(さて、一人姿を消させるといっても密室からどうやって姿を消したのかという話です)

女友(簡単なことでした……魔族は最初から一人二役を演じていたのです)



女友(二交代制の表の時間で働く研究員Aと裏の時間で働く研究員B)

女友(どちらも魔族が変身した者でした)



女友(そうです、消えた人間は一人ではなく二人だったのです)

女友(危うくAという最初から存在しない幻像を追い続けて騙されるところでした)



女友(私がそれに気づけたのも思えばAとBが一度も同じ場所に姿を現して無いことに気付いたからです。見事な探偵っぷりでしょう)



女友(そして魔族を追いつめて、宝玉をどこに隠したか吐き出させて……事件の解決です)

女友(武闘大会の時は『変身』スキルに煮え湯を飲まされましたが、今回はしっかり見抜くことが出来ました)



女友(残念ながら最後は逃げられて身柄の確保は出来ませんでしたが、魔族の悔しげな顔は、思い浮かべるだけでご飯三杯いけそうです)

女友(女が帰ってきたら武勇伝として今日の顛末を聞かせることにしましょう)


女友「さて……」



女友(研究もちょうど終わったようで、元から研究室が持っていたのも合わせて宝玉六つが私たちの手に戻りました)

女友(これで元の世界に戻るまであと二つです)

女友(明日にでも次の目的地に向かうとして……しかし、まだ問題があるとすれば……)





男「失礼する!!」

女友「わっ! 男さん!? ちょっとノックくらいしてくださいよ!」





女友(そのとき突如として部屋の扉が開いて男さんが入ってきました)

女友(私はあわてて起き上がります)



男「あ、すまん……ちょっといてもたってもいられなくて……」

女友「全く私が着替えでもしていたらどうするんですか」

男「ごめんなさい……」

女友「それで何か用ですか、男さん……あ、そういえば宝玉についてですが、ちょっと騒動があってその話も……」



女友(自分の活躍を誰かに自慢したかった私は話を切り出そうとして)




男「すまん、話は後で聞く! それより女はいないのか!」

女友「女ですか? ええと……分かりませんね」



女友(男さんの質問に私は周囲の気配を探ります)

女友(事件に立ち向かう私のところを訪れた女は、自分に『不可視(インビジブル)』の魔法をかけてほしいということで、合間の時間で対応しました)

女友(そのため男さんの近くに姿を消しているのだろうと思ったのですが……見当たりませんね)



男「そうか、じゃあどこに行ったのか心当たりはないか?」

女友「すいませんちょっと分からないですけど……しかし、いきなりどうしたんですか?」

女友「そんなに女のことを気にして。あ、もしかして何かヤバいことが起きたとかですか?」

男「いや、個人的な用事なんだが……そうか、いないならいいんだ。他を探してみる」



女友(男さんはぽりぽりと頭をかくと踵を返そうとします)




女友「――!」



女友(私のセンサーにビビッと来るものがありました)

女友(女と男さんは魅了スキルにまつわる嘘で対立していたはずです)

女友(それなのに男さんから女のことを探して……いてもたってもいられない様子……個人的な用事……これはもしかして……もしかすると……!)





女友「女はたぶんそろそろここに戻ってくると思います」

男「そうか。なら待っていた方が」

女友「いえ、男さん。察するに女と大事な話をするつもりではありませんか」

男「……本当鋭いな、女友は」



女友(図星だったのか苦笑する男さん)



女友「だったらこの場所はマズいでしょう。女子寮の部屋はあまり防音も良くないですし、話を他の人に聞かれるかも知れません」

男「いや、でもそんな聞き耳立てるような人いるわけ」



女友「ですから人が来ない場所に……そうです、校舎の屋上に場所を移しましょう! ええ、そちらの方がムードがあります!」

男「あー確かに人は来なさそうだが……ムード?」



女友「とにかく男さんは先に行ってください! 女が帰ってきたらそちらに向かうように伝えておきますから!!」

男「え、あ、いや……まあ、はい。じゃあ頼んだ」



女友(男さんは釈然としないながらも私に伝言を託して部屋を去ります)




女友「まさかいつの間に……何がきっかけで……しかしチャンスであることには……」



女友(私が事件に挑んでいる間に何かあったのでしょう、見逃したのは残念ですが……)

女友(いえいえ、メインイベントはここからのはずです)





女「ねえ、男君ここに来なかった!?」

女友(しばらくして、女が扉を開けて部屋に戻ってきました)





女友「ええ、来ましたよ」

女「やっぱり! ……あれ、でもいないけど」



女友「ちょうど入れ違いになったみたいですね。男さんも女を探していたようで……」

女友「ですから校舎の屋上で待っておくように言っておきましたよ」



女「屋上ね! 分かった!」

女友(女は事情を尋ねることなく、居場所を聞くとすぐに再び出て行きました)




女友「ずいぶんと急いでいましたが……どうやら女にも何か心境の変化があったみたいですね」

女友「となれば、何か起こるのは確定でしょう」



女友(だとしたら私がするべき事は何か)

女友(大事な話をするとしたらそれを覗くのは無粋な行為です)

女友(それくらい私だって分かっています)

女友(事の顛末は終わってから二人に聞くべきです)





女友(だから私はこの部屋で大人しくして………………)




女友「……。……。……」

女友「そういえばちょっと散歩したい気分ですねー……」

女友「何か誰にも見られたくない気分ですし、姿を消していきましょうかー……」



女友「『不可視(インビジブル)』!!」

女友(魔法を発動して姿を消します)



女友(散歩の目的地は当然、校舎の屋上です)





女友(……いえ、別に他意はないんですよ。今の時間夕日が沈むところが見られる絶景スポットですし、散歩コースに最適です)

女友(……そこに誰かがいたとしても私には関係ないですしね、はい)

続く。

6章、一気に大詰めへと向かっております。

乙です

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


男「はぁ……はぁ……ここか」

男(校舎の階段を駆け上がって、女友に提案された屋上に俺はやってきていた)

男(いつも開放されているこの場所は昼休みに外でご飯を食べる生徒に人気のスポットだとは聞いたことがある)

男(だが放課後を迎えた今はちょうど誰もいないようだった)

男(設えられたベンチに座り女を待つ)



男「…………」

男(俺はずっと女に騙されたことに傷付いていた)

男(嘘を吐いていたこと、それ自体は絶対的に女が悪いと思う)



男(だが、どうして女が嘘を吐いたのか……女が抱える事情について俺は本気で考えてこなかった)



男(あれだけ人を信じることの素晴らしさを説いてきた女が嘘を吐かないといけなかった事情だ)

男(よっぽどのことに違いない)

男(それでいてどうやらその事情のせいで魅了スキルがかからなかったわけだ)



男(そんな特殊な事情にあてはまるものは何かと考えて……思い当たる物があった)



男(女はもしかして本当は…………だとしたら女友の役割も…………そうだ、そうだとしか考えられない)

男(だとしたら俺が取るべき行動は……)




女「男君!」



男(そのとき上から声がかかった)



男「女か……」

男(見上げるとそこには竜の翼を生やした女がいた)

男(どうやら階段を駆け上がるのではなく、飛んでこの屋上までやってきたらしい)



男(女は次第に降下して俺の目の前に立つ)

男(俺もベンチから立ち上がった)



男(そして)





男「すまなかった!」

女「ごめんなさい!」





男(俺と女は同じタイミングでお互いに謝った)


男「……どうして女が謝るんだ? 悪いことをしたのは俺なのに」

女「男君こそ……悪いのは私なのに」



男「俺は……正直今でも女が嘘を吐いたことは悪いと思っている」

男「でも女は謝ったのに、俺はネチネチと嫌味を言っただろ」



女「私も男君の言葉はグサグサ刺さって辛かったけど……」

女「でも事情も言わずにちゃんと謝ったわけじゃないんだから、それは嫌味も言われて当然だし」





男「……」

女「……」





男「ははっ……何してんだろうな」

女「ふふっ……ほんと、おかしいね」



男(俺たちはどちらからでもなく笑い合っていた。同じようなことを考えていたからだろうか)


男「こんなささいなことなのにいがみ合って……馬鹿だな、俺たち」

女「男君は悪くないよ、悪いのは私だけだって」



男「……だろうな、嘘を吐かれたのは正直マジかって思った」

女「いや、まあそうだけど……え、そこは俺も悪いじゃないの?」

男「ははっ、まあその後の対応は俺が悪かったとも言えるけど…………あ、そうか」



男(梯子を外されて頬を膨らます女の表情を見て、ふいに自分の気持ちをしっかりと自覚した)





男「俺は女にだけは嘘を吐かれたくなかったんだ」

女「……え?」





男(突然の言葉に女はきょとんとした表情になっている)




男「いや、この言い方だと女友に悪いか?」

男「……でも女友のやつを信じてないってわけじゃないんだが、飄々とした言動で掴めないところがあるし……」



女「今は女友のことなんてどうでもいいから!」

男「それは酷くないか?」

女「ど、どうして……私にだけは嘘を吐かれたくないって思ったの?」



男(顔を真っ赤にして問いただす女)



男「それは……こう今まで一緒に旅して来たことを通じて……女のことなら信じられると思って……」

女「うん、それで?」



男(言いながら『あれ、これめっちゃ小っ恥ずかしいこと言ってね?』となりどもる俺だが、女は先を促す)

男(仕方ないのでそっぽを向きながら続ける)






男「だから嘘を吐かれたときに余計に傷ついたというか……」

男「いや、まあ今まで散々『俺は誰も信じない』とか言ってた癖に、都合が良いなってのは分かってんだよ」

男「でも……それが俺の本心で……」



女「私は嬉しいよ」



男(両手に暖かいものが触れる)

男(視線を正面に戻すと、女が俺の両手を握っていた)






男「女……」

女「ねえ、男君。私が抱えている事情ってやつ……教えようか?」



男「……いきなりどうした? それは隠しておきたかったことじゃないのか?」



女「そうだったけど……いや違うか。私はその事情を話したい」

女「信じてくれた男君に応えるためにも、嘘偽り無く私を明かすのが当然で……いや、それも違くて」



男「……」





女「私はもう我慢出来ないの。この気持ちを伝えたい……!」





男(女の訴えに俺は)






男「いや、正直なところ女の事情には当たりがついているんだ」

女「え……?」





男(女が来るまでに考えた通り、俺は気づいている)



男「人に言うことが出来なくて、俺の魅了スキルもかからなかったなんて事情……」

男「考えてみれば一つくらいしかないもんな」



女「そ、それって……い、いつから気づいて……!」



男「気づいたのは正直さっきのことなんだ」

男「……いや、そのすまんな。こんなに長く一緒にいたのに今まで気づいてやることが出来なくて」



女「いや、その……え、じゃあ私の気持ちがバレて……!?」



男「? 気持ち、ってのは分からないけど……まあ言い出しにくいことだよな」

男「でも俺も分かったから……これからは偽らなくてもいいから」



女「男君……」



男(顔を真っ赤にする女に俺は…………女が言い出せなくて、魅了スキルにかからなかったその事情を指摘する)














男「女……おまえ本当は男性なんだろ?」



女「………………………………………………は?」



続く。

乙!
此は酷いww

うんうん………うん?

乙ー
女さんこれは切れていいwwww


これは死んだな…

乙ー

乙、ありがとうございます。

狙ったところで狙った反響が来てとても嬉しいです。
創作モチベが上がりました。

投下していきます。




男『女……おまえ本当は男性なんだろ?』



女(男君のその言葉を、私の脳は完全に理解を拒んでいた)

女(オマエホントウハダンセイナンダロ……って、どういう意味だっけ?)



男「大丈夫、大丈夫。全部分かってるから」

女(思考停止した私に対して、男君は理解者面をしている)



男「魅了スキルの効果対象は『魅力的な異性』だ」

男「俺が魅力的だと思う人でも同姓ならかからないのは、観光の町のバーテンダーで明らかになったことだ」



女(バーテンダー……? あー、そういえばあの女装していた……)






女「えっと、つまり私も女装している男性だと思われているわけ?」

男「その通りなんだろ?」



女(したり顔の男君)

女(いや私は正真正銘、本物の女性なんだけど……)



女「これが男性の顔に見えるの?」

女(自分の顔を指さしながら聞く)



男「ああ、中性的な美少年なんだろ?」

女(好きな人から容姿を褒められているのにちっとも嬉しくない)




女(どうすればいいのか全く思いつかないでいると、男君は解説を始めた)



男「本当のところ女は大富豪の生まれなんだろ?」

男「それで家の古めかしいしきたりのせいで男性なのに女性のフリして生活しないといけなかった」

男「そういう設定の物語は何作品も読んだことがある」



女(普通の家の生まれなんですが)

女(というか私詳しくないんだけど、そんな特殊な設定の物語が何作品もあるものなの?)



男「とはいえ、男性が女性のフリをしたところでそんなに上手く行くのかという疑問が浮かぶだろう」

男「トイレだったり、体育の着替えの時間だったりで普通ならすぐに状況は破綻するはず」



男「だが協力者がいればその可能性は減らせる」

男「そう、女友だけは女が男性だってことを知っていたんだ」

男「女友のやつ女の事情を元から知っているって言ってたしな、うんうん」



女(勝手に協力者にされ話に巻き込まれる女友)


男「女友の家系は代々女の家系に仕えているんだろ?」

男「女と女友、お嬢様と近侍の関係でありながら、妹と姉のような関係で育ってきた二人」

男「女友は女の学校生活をサポートするために同じ学校に入学したんだ」



女(女友が姉なんだ……まあ私が姉って柄じゃないけど)



男「ん? そういえば女友の家は大富豪だって聞いたことあるな」

男「……そうか、誘拐対策に対外的には女友と女の立場を入れ替えているのか」

男「なるほど計算されている」



女(男君の計算が怖い)



男「しかし、そんな折りに俺たちは異世界へと召喚されて俺が魅了スキルを暴発させてしまった」

男「男性である女には魅了スキルがかからなかったが、そのことを明かしてしまうと今まで男性として生活してきたことがクラスメイトにバレて大問題になってしまう」



女(いや、みんなは普通に私が男君に好意を持っているんだ、って考えると思うけど)



男「だから女は男性であることを隠すため、魅了スキルにかかったフリをするしかなかったってことだ」



女(ドヤ顔で解説を締めくくる男君)

女(全く間違っているのに妙に筋が通っていて自信満々に言い切られると信じてしまいそうになる)




男「だからこれからは男同士……ははっ、改めて口にすると恥ずかしいけど、親友としてよろしく頼むな」



女(男君は右手を私に差し出す)





女「………………」

女(男君の誤解は私にとって都合の良いことなんだと思う)



女(これに乗っかれば今までのような生活を続けることが出来る)

女(魅了スキルにかかっているせいだからとしていたところを、私は男性だからと置き換えればいい)

女(男性だから仲良くしようよだとか、男性だからこれくらいのスキンシップ普通でしょだとか)



女(もちろん男君には嘘を吐いてしまっているけど、それにまた気づかれるまでは同じように過ごすことが出来る)


女(対して否定したらどうなるか)

女(当然のことながらどうして魅了スキルがかからなかったのかという疑問が再燃するだろう)

女(そうしたら男君も私が元から好きだったのだと気づくはず。……流石に、うん、きっと)



女(つまり告白したも同然で……今までの関係では絶対にいられない)



女(もしOKされれば晴れて恋人同士だ。今までよりも深い関係を男君と築けるようになる)



女(男君とは異世界に召喚された当初よりは心が通じ合っていると思う)

女(そう考えるとOKされる可能性は高いと考えたいが……しかしそれが恋愛的なものなのかと聞かれるとよく分からない)

女(男君が持っている感情が親愛だったり、冒険の相棒的なものでしかなかったとしたら致命的だ)

女(告白が断られる上に、男君は恋愛にトラウマを患っている)

女(好意を持つ私が得体の知れない何かのように見えてきて距離を取って接するようになるだろう)



女(そんな賭けに出るくらいなら……ここは安全に……)




傭兵『だったら少女も後悔しないように』



女「………………」

女(伝説の傭兵のアドバイスが思い起こされる)



女(後悔ならこの数日間の内に数え切れないほどしてきた)

女(どこかで男君に本当のことを打ち明けられなかったのか、このまま仲違いしたまま終わるなんて嫌だ、と)

女(男君の手を握れば、いつかまた同じ後悔をすることになるだろう)



女(いや、それだけじゃない)

女(男性として親友として一緒にいるなら、男君が誰かと恋人になったとしても私は文句を言うことも出来ない)

女(独裁都市の姫様は未遂だったけど、今後もそんなことが起きないとは限らないのだ)



女(だからといって動けば絶対に後悔しないとも限らない)

女(告白を断られて気まずくなって……決断した私に後悔するかもしれない)



女(それでも……同じ後悔はしないで済む)






女(どっちにしろ後悔するかもしれないなら……より積極的な方に、前向きな方に)

女(それが私の考え方だ)

女(だから……私は今の感情に素直になって)





女「ねえ、男君」

男「おう、女」








女「歯を食いしばってくれない?」

男「………………え?」



女「ふんっ!!」

男「痛っ!!?」



女(男君の頭にゲンコツを落とした)

女(竜闘士の全力で殴ったらヤバいのでかなり手加減して、それでも痛みを感じるくらいには力を入れて)



女「ふぅ……スッキリした」

男「いきなり何するんだよ、女!?」



女(男君が頭を押さえながらこっちを睨む)

女(目尻にすこし涙が浮かんでいるところを見ると、よっぽど痛かったようだ)




女「何したのかって……分からないの?」

男「分かんねーよ!? どうして差し出した手の返しにゲンコツを落とされるんだよ!?」



女「私、怒ってるんだよ」

男「怒るって…………俺に?」



女(男君は自分を指さす)



女「当然! だってこんな美少女に対して『本当は男性なんだろ』なんて侮辱言われたんだよ!?」

女「酷いと思わない!? 私はどこからどう見ても女性に決まっているじゃない!」

女「どうして男性だって思うのよ! 何が悪いの……胸なの、胸なの!?」

女「男性にも間違えられるくらいの胸の大きさだって言いたいの!?」



女(溜まった鬱憤が爆発して噴き出す)




男「え、えっと……でも、だったらどうして魅了スキルは……」



女(男君はすっかり私に怯えながらも気になることを聞いてくる)



女(ずっと前から夢描いていたものとは全く違った)

女(一方がキレていて、片方が怯えていて)

女(女性に言わせるのもマイナス)

女(勢いで口走ったような感じになるだろうこともマイナスだ)

女(女友が誘導してくれたこの場所、沈みゆく夕日の背景が本当最低限のムードを保ってくれているくらいだ)





女(それでも臆病者の私がこの機会を失ったら永遠に口に出来ないだろうことは想像が付いたから)



女(だから私はその想いを伝える)








女「ずっと……ずっと前から男君のことが好きだったの!!」





続く。

乙ー

乙!此も酷いwwww

乙ー
男はもちろんだが、男性説受け入れることもちょっと検討しちゃう女さんもなかなか酷いwwww

乙、ありがとうございます。

>>329 か、考えるだけならタダですし……

投下します。




女『ずっと……ずっと昔から男君のことが好きだったの!!』



男(好き)

男(好意を伝えるその言葉はこの異世界に来てから魅了スキルにかかっている女の口から何度も聞いたことがあった)



男(今やその嘘は暴かれたというのに……また聞くことになるとは)

男(正直に言って、一番最初に浮かんだ感情は困惑だった)

男(だから)



男「すまん、女。俺ちょっと状況が分かっていなくて……整理させてくれないか」

女「うん、いいよ。何だかんだ唐突だったことは自覚しているし」



男(女は微笑を浮かべながら頷く。先ほどまでの怒気は霧散しているようだ)


男「まず……俺のことを好きって、魅了スキルにかかったフリを続けようとしている……わけではないんだよな?」

女「もちろん。これはスキルに操られていない私の純粋な気持ち」



男「ずっと昔、異世界に来る前から俺のことを好きだったから……」

男「だから魅了スキルの『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』に触れてかからなかった……ってことだよな?」

女「そういうこと」



男(女は優しく肯定する)

男(気持ちを打ち明けられて、俺もそこまではすぐに察することは出来た)



男(ここまではほとんど確認作業で……しかし、その先が本当に分からない)




男「でも……俺は女と異世界に来てからしか関わってこなかったはずだ」

男「学校にいる間はそれこそ一言もしゃべらなかったはず」

男「それなのに俺を好きだなんて……おかしいだろ?」



女「違うよ」

男「え?」



女「私と男君は一度だけ話したことがあるんだよ」

男「……本当か?」



男(記憶を遡ってみてもまるで覚えがない)




女「あれは一年くらい前のことだったかな」

女「あのころの私は誰からも好かれようと必死だった」

女「……いや、誰かから嫌われることに怯えていたんだと思う」



男(嫌われることに怯える……人間関係を気にしなかった俺とは真逆で、普通にありふれた思い)



女「とにかく八方美人で会う人に合わせて仮面を付け替えて……ついさっきと全く反対の考えを言っていることもよくあることだった」

女「でも当然のことだけど、そんな一貫性の無い人は嫌われやすくて……私何しているんだろうな、って悩んでばかりだった」



男(今でこそ学級委員長を務めて教室の人気者の女だが、昔はそうではなかったらしい)



女「そんなときのこと、私はしょぼくれながら教室を歩いていて、ちょうど男君の席の前を通りかかった」

女「男君は本を読んでいて全くこっちに注意を払っていない様子だった」

女「私もそのころは……失礼かもしれないけど男君のことは全然眼中になかった」

女「……いや、ちょっと違うかな。いつも独りでいる男君の姿にこうはなりたくないって思っていた」



男(女は申し訳なさそうに言うが、別に普通の感情だと思う)

男(孤独が一般的に避けたいことなのは俺にだって分かっている)




女「だから特に気にも留めることなく通り過ぎて……後ろからボソッと『そんなに人間関係に苦労して馬鹿みたいだな』って聞こえて」

女「慌てて振り向くと男君はちょうど本に目を落とすところで……直前まで私のことを見ていたことから幻聴じゃないことは分かった」



男(女が状況を具体的に教えてくれるが……それでも俺には覚えがなかった)

男(いや、ありすぎたと言うべきだろう)

男(嫌味や皮肉を本人に聞かれないようにつぶやく……周囲の人間を馬鹿ばかりだと思いこんでた俺はそんな馬鹿なことをよくやっていた)

男(その内の一つ、女に対してのものが聞こえてしまっていたのだろう)


女「最初はそんなこと言われてイラッとした。私の努力も知らない癖に何言ってるんだって」

女「……でもその一方で私の心の中にストンと落ちるものもあって」



女「そんな言葉を言ったのがどんな人なのか知りたくなって、それからしばらく男君のことを目で追っていた」

女「見ている内に男君は独りぼっちかもしれないけど、どんなときも自分を貫いて生きていることに気づいた」



女「どんなに周囲に人がいても、自分の定義が迷子になっている私とは反対で……私もそんな風になれたらいいなって思うようになった」

女「そうして自分を貫くように生活するようになって……もちろんケンカする事になった人もいた。離れていく人もいたけど、それ以上に私の周囲に人は増えた」



男(これまでの旅を通じて、俺は女によって自分を変えられた)

男(だが、それよりも前に女は俺によって変わっていたようだ)






女「今の私があるのは……全部、全部男君のおかげ」

女「私に大事なことを教えてくれた……そんな男君のことが好きなの」





男(女の告白が終わる)





男「すまん、それだけ聞いてもそのときのことしっかり思い出せねえ」

女「いいよ。別にそれはただのきっかけでしかないし」

女「今の私はそれ以外にもたくさん男君の好きなところを持っているから」

男「…………」




女「それより……その、返事は? 私、男君に告白したんだけど」

男「……ああ、そうだな」



男(好きだと告白されて返事をする)

男(迷うべきはYESかNOであるべきだ)



男(なのに俺は……この期に及んで、女の言葉が本当なのか嘘なのか悩んでしまっている)

男(人を信じられるようになって俺の中から無くなったのだと思っていたが……告白されて、人の好意を意識したことで再び鎌首をもたげたのは、今や呪縛となった恋愛アンチだ)



男(女の話が全部もっともらしい作り話で、返事をした瞬間に嘘でしたーって言われて、俺なんかが好かれる訳なくて…………)


男「………………」

男(顔を上げていられない)

男(だんだんと俯いてしまう)

男(今度こそ傷を負わないように)

男(心の自己防衛が女の告白を否定していく)



男(別に女のことが嫌いなわけじゃないんだ)

男(想いを打ち明けられた今も、信頼できる人物だという評価に変わりはない)



男(……このまま聞こえなかったことに出来ないだろうか?)

男(たぶん女のことだから、俺が無かったことにしたら合わせてくれると思う)



男(そうだ、どうして告白に答えてシロクロはっきりさせないといけないんだ)

男(いいじゃねえか、今まで通り同じ目的を共にする仲間ってことで)

男(現状を維持すれば誰も傷つかないで済む)






男「そんなの嫌だ」





男(それが自分の口から漏れ出た言葉だと気づくのに時間がかかった)



男(……そうだ、トラウマに飲み込まれていてすっかり忘れていた)

男(伝説の傭兵によって引き出された俺の後悔、反転して願望)



男(それは――お互いが心の底から愛し合う関係を作ること)



男(女となら俺の理想の関係を作れるはず)

男(いや、女と作りたい)

男(だったら傷つくことを恐れて現状維持していちゃ駄目なんだ)



男(女の気持ちに応えないと)

男(俺の気持ちを示さないと)



男(覚悟を決めて俺は顔を上げたところで――)






女「男君……!!」



男(突然、女が抱きついてきた)



男「何を……!?」

女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」



男(驚く俺に対して、女は竜の翼を生やして俺を抱えたまま飛び上がる)

男(返事を待つことに我慢できなくなった女が行動に移したのかと、一体何をするつもりなのかと)



男(そんな思考は――)








男(先ほどまで俺たちの立っていた位置に着弾する衝撃波と地面から突き出した黒い槍を見て真っ白になった)










男「………………え?」



男(あれは……おそらく俺たちを狙った攻撃だろう)

男(女は間一髪で気づいて俺を抱え回避したのだ)

男(でも、一体誰が……)





女「どういうつもりですか?」





男(少し離れた場所に着地した女は臨戦モードに入りながら威嚇する)

男(その視線の先にいる襲撃者は)




男「伝説の傭兵……?」



男(ほんの数時間前に俺の悩みを打ち明けて、真摯に相談に乗ってくれたその人)

男(……そうだ、さっきの衝撃波は竜闘士のスキルによるものだ)

男(女以外の竜闘士となるとこの人しかいない)



男(でも何で俺たちに攻撃を…………いや)



傭兵「流石に戸惑っているか」

傭兵「まあ戦場でも同じ日の内に敵対するのは珍しいことだ、恥じることではない」



男(傭兵はあくまで仕方ないというニュアンスではあるが、依然として臨戦態勢を解く気配はない)

男(その様子を見て本当に敵に回ったのだと、俺は理解した)


男「………………」

男(元々帰還派と復活派で敵対する関係だ、いつかこうなることは分かっていた……)

男(でも、ここまで早いとは)



男(状況が動いたということだとしたら一体…………ヒントがあるとしたら…………先ほどの攻撃、衝撃波と同時にもう一つの攻撃が…………黒い槍、あれは、あの材質は、見覚えがある)





男(影で造られた槍だ)






イケメン「どうやら気づいたようだね」



男(傭兵の影から人が浮かび上がった。その姿は俺にとって因縁深い相手)





男「イケメン……っ!!」

イケメン「やあやあ、久しぶりだね。武闘大会以来か」





男(俺たちと袂を分かったクラスメイト、異世界で授かった力で好き勝手することを選んだ駐留派のリーダー、影使いのイケメン)


男「どうしておまえがここに……!?」



イケメン「おいおい、今さらそんな疑問がいるのか?」

イケメン「当然、君の魅了スキルを奪いに来たに決まっているだろう?」



男「ちっ……懲りないやつめ」

イケメン「それよりもっと気にすることがあると思うけど」



男(一々気に障る言動のイケメンだが……確かにそれ以上に気にしないといけないことがあった)

男(最初の攻撃、影に潜んでいたこと、そして今も隣に立っていること)



男(どうしてイケメンと傭兵が行動を共にしているのか)



男(駐留派と復活派はどちらも俺たちの敵だが、しかしその両者だって宝玉を奪い集める目的上、敵対関係にあるはずだ)



男(なのにこの事態は……)








男「まさか……おまえ、復活派と手を組んだのか!?」

イケメン「ああ、そうさ。全ては目的を達成するためにね」





続く。


やはり邪魔が入るのね
頑張れ女

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

>>350 このタイミングでくっつかれても困るので邪魔してもらいました。

投下します。


男(イケメンら召喚者を中心に犯罪結社『組織』のバックアップを受ける異世界駐留派)

男(伝説の傭兵と魔族からなる魔神復活派)

男(両者が手を組んだという事実は――)



女友「考え得る限り最悪の事態ですね」



男(いつの間にか俺たちの隣に姿を現した女友の言う通りだ)

男(……って、あれ? 本当いつの間に?)



女「女友……やっぱり覗いてたんだ」

女友「すみません、叱責は後からいくらでも聞きますから」

女「……まあ、探しに行く手間が省けたと見るべきかな」



男(女と女友のやりとりから、女友は女の告白をどこかに隠れて覗いていたということのようだが、そのことに構っている余裕も無い状況だ)


男「復活派と手を組んだことは分かった」

男「だけどどうしてどちらも宝玉を求めているはずのおまえたちが組めたんだ?」



イケメン「君の言うとおり、僕らも彼らも宝玉を求めている」

イケメン「君たち帰還派と違って必要な宝玉の数が多いことから、獲得した宝玉を分配する条件にしたとしても折り合いが付かないだろう」

イケメン「だが、僕はふと思い直したんだ。僕たちはそもそも何のために宝玉を求めているのか、とね」



男(イケメンはジェスチャーを交えながら話している。かなりの上機嫌のようだ)



イケメン「僕の目的は君を道具として魅了スキルを自由に使えるようにすることだ」

イケメン「そのために君の側を離れない邪魔な竜闘士、女を一時的にでも排除するために宝玉で悪魔を呼びだそうとしていた」



イケメン「つまり宝玉の収集はただの手段でしかないんだよ」

イケメン「別に竜闘士をどうにか出来るなら、悪魔を呼び出す必要も宝玉を集める必要も無い」

イケメン「そう考えると……おあつらえむきに女を圧倒した存在がいることに気づいたんだ」



男「まさか……!」


イケメン「それが伝説の傭兵と呼ばれる彼さ」

イケメン「試合形式とはいえ武闘大会では女に勝ったことから実力は十分」

イケメン「彼に協力してもらえるなら、僕らはもう宝玉も必要ない」



イケメン「だから僕らが現在持っていた宝玉四つ全てを差し出すという条件で、この場でだけ手を組んだというわけさ」



男(説明されてみると何とも簡単な発想の逆転だ)

男(一つ問題点があるとしたら)



男「復活派が宝玉を集めきり魔神が呼び出されこの世界を滅ぼされるのはおまえたちだって避けたいことのはずだろ」

男「なのにその復活派はおまえたちが宝玉を譲ったせいで今や7個所持している」

男「俺たちが持つ6個も奪われたら12個のラインを超えて魔神が復活するぞ」



イケメン「ああ、そうだけど……まあそのときはどうとでもするさ」

傭兵「…………」



男(一瞬イケメンと傭兵の間の空気がピリッとする)

男(完全な一枚岩では無さそうだが、突き崩すほどの隙では無さそうだ)


イケメン「そもそもその問題は君たちが宝玉を奪われた場合の話」

イケメン「僕のとりあえずこの場での目的は魅了スキルのみだ」



イケメン「どうだい女と女友。男一人置いていけばそれ以上は追わないと約束するよ」

イケメン「宝玉を持って逃げてもらえると面倒が無いんだけどさ」



女「そういえば私が男君を見捨てるとでも?」

女友「舐められたものですね」



男(イケメンの提案に女も女友も乗るつもりは毛頭も無さそうだ。何とも頼もしい)


イケメン「はぁ……これだから虜になった人たちは厄介だ」

傭兵「影使いの少年よ、ここは想定通り正面突破しかないだろう」

イケメン「そうだね、ちょうど二人の準備も終わったようだし」



男(イケメンと傭兵が視線を向けた先)

男(ダッ、ダッ、と何か打ち付けるような音……壁を走って登りこの屋上にやってきた二人が現れる)



ギャル「警備室の攪乱は終わったよ、イケメン」

魔族「これでしばらくは介入できないだろう」



男(ギャルと魔族)

男(それぞれイケメンと傭兵のパートナーとも言える二人が加わり、敵の人数が四人となった)


イケメン「ご苦労様、ギャル」

傭兵「全員揃ったか」



男(復活派は魔族と傭兵の二人のみだが、駐留派には他にも多くのクラスメイトと『組織』の構成員がいるはず)

男(しかし、この地に赴いているのはイケメンとギャルの二人のみのようだ)

男(それは助かる一方で、やつらの言葉が正しいとすれば、魔法学の権威であるこの学園に常駐する腕利きの警備員の助けも望めないようである)



女「戦力として私と傭兵さんが互角で、女友が魔族さんと互角……」

女友「そこにイケメンさんとギャルの二人も加わるわけですから……かなりきついですね」

女「戦いに付き合う必要もないし逃げの一択だけど……」

女友「それすらも許してもらえないでしょうね」



男(女と女友の戦力算用。聞けば聞くほどに絶望的だ)

男(さらに気を使っているのか、二人は俺の存在に触れないでいる)

男(戦闘中お荷物でしかない俺を庇いながらという条件も加わると…………これは、もう)




男「なあ二人とも……ここは俺が……」

女「駄目だよ、男君。自分を犠牲にするのは」



男(俺の提案は最後まで言う前に女が遮る)



女友「そうですよ、男さんを引き渡せばそれ以上は追わないと言いましたが所詮口約束です」

女友「守るとも思えません」

女「男君を危険な目に遭わせる訳にも行かないからね」



男「でも……」

男(それでも申し訳なさが振り切っている俺に)



女「大丈夫、私が男君のことを絶対に守るから」



男(女は宥めるように言って)




男(そして機は熟したようだ)



イケメン「さあ、やろうか」

ギャル「了解っと」

傭兵「少々心が痛むが……これも使命のために」

魔族「ちょうどいい、先ほどの借りも返させてもらおうか」



男(駐留派、復活派混成チームと)



女「男君しっかり掴まっていて!!」

男「あ、ああ!」

女友「サポート出来るときはしますが宛てにはしないでください!」

女友「私も自分のことでいっぱいいっぱいになるでしょうから!」



男(俺たち帰還派三人)



男(各勢力の中枢メンバーによる決戦……絶望の戦いが始まった)

続く。
短めですが、明日も投下するということで勘弁を。

乙ー

毎度毎度話の展開がご都合主義出来レース感が拭えんな

乙!
王道モノにご都合主義なんて今更だわ
其を含めて面白く魅せるのが作者の腕の見せ所。
毎回、続き楽しみにしています。

乙、ありがとうございます。

>>364 はい。

>>365 ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります。

投下します。




傭兵「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」

女「くっ……!」



男(傭兵が発した衝撃波を空中にて紙一重で避ける女)

男(その背中にしがみつく俺もすぐ近くを通るゴウッ! という音にヒヤヒヤする)



女「こっちもお返しよ……!! 『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



男(女が衝撃波を放つが、既に距離を十分に取られていて攻撃が迫る前に余裕を持って避けられる)


女「っ……でも、この隙に……」



男(竜の翼で飛び続けるのもどうやら体力がいるらしい)

男(一旦、学園の建物の屋上に着地して少しでも女は休めようとして……)

男(床と近づくにつれ大きくなる自分の影が不自然に蠢いた)



男「女……! こっちに来ている!」

女「分かってる!」



イケメン「『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



男(女は着地せずに急上昇。こちらの身体を絡め取ろうとする影からどうにか逃げる)



イケメン「ちっ……逃したか」

男(術者、影使いのイケメンは舌打ちすると、また影に潜んだ)


男(戦いが始まってすでに十数分)

男(先ほどから同じような応酬の繰り返しだった)



男(やつら駐留派、復活派混成チーム四人の役割は明確だった)

男(まず俺を抱える竜闘士の女には同じく竜闘士の傭兵をメインに当ててきている)

男(女友はどうやらギャルに追い回されているようだ)

男(魔族魔族は魔法を使ってその両者のサポートをして)

男(影使いのイケメンは影に潜みチャンスを伺いながら、遊撃や奇襲で女と女友どちらとの戦いにも絡んでくる)



男(立ち回り方はとても慎重で、まず第一に俺たちの逃走経路を封じ、協力されないように女と女友を分断してきて、絶対に深追いをしてこない)

男(遠巻きに削り続ければいずれは勝てるという算段だろう)



男(俺たちは学園の上空を広く使いながら、どうにか逃げられないかと試すが上手く行かないところだ)

男(離されているため女友が現状どうなっているかも分からないがあちらも手こずっているだろう)



男(当然地上の学園は騒ぎとなっていて、戦っている俺たちを何事かと見上げている生徒たちの姿が散見できる)

男(不用意に介入する者も巻き込まれた者もおらず、直接的な被害は出ていないようではあるが)


傭兵「『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』」

女「なっ!? ……ぐっ!」



男(飛行経路を読まれ上昇するタイミングで上から衝撃波が降ってくる)

男(回避が間に合わず女に攻撃がかする)



男「女!!」

女「大丈夫……だから!」



男(傭兵は攻撃の手を緩めない。続く追尾エネルギー弾を女はどうにか縦横無尽に飛行して回避する。俺はしがみつくだけで精一杯だ)


男「………………」



男(武闘大会での女と傭兵の力はほとんど同じだった)

男(なのに今回こうも攻防に差が出るのは、女が俺を背中に乗せているからだ)

男(丸々人一人分の重りを付けているのも同じで、そんなデバフを受ければ差が出て当然)

男(しかし、敵の目的が俺である以上安全地帯はどこにもなく、こうして女は俺を守りながら戦わないといけない)



女「男君が気にする必要は無いんだからね」



男(俺が自己嫌悪するのを感じ取ったのか、女は戦いの手を止めないまま言う)



女「大丈夫、私は男君から告白の返事を聞くまで絶対に倒れないから」



男(告白……あんなにドキドキした出来事も今はすごい昔のことのように感じられる)



女「それで……もしよければ、私の理想……お互いがお互いを思い合う関係を男君と築きたいんだ」



男(戦場に似合わない願望の吐露に……)




男「っ……」

男(俺は動揺していた)



男(その理想が俺と完全に一致していたからだ)

男(こんな偶然あるだろうか?)

男(いや、あるはずがない)



男(だとしたら……これは運命だ)



男(果て無き未来を同じ思いを持った二人で歩む……そんな姿を幻視する)

男(そのためにもこんなところで躓くわけには行かない)




男「俺だってこの学園で遊んでたんじゃねえぞ」



男(そうだ、授業で教わり放課後何度も練習したプロセス)

男(大気中の魔素を集めて、魔力に変換し、魔法として放つ――)



男「『火球(ファイアーボール)』」



男(成功した)

男(火の玉一つが傭兵に向けて飛んでいく)

男(衝撃波や多量のエネルギー弾が飛び交う戦場で何とも貧弱な攻撃だが、これで倒せるなんて当然思ってもいない)

男(だが防御なり回避なりして少しでも隙が出来れば――)




傭兵「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』」



男(俺の思いも儚く)

男(傭兵は迫る火球を特に気にも止めずエネルギー弾を放った)

男(そのため直撃した火球は……特に影響は無さそうだ。竜闘士の魔法耐性が完全に打ち消したのだろう)



女「男君、しっかり掴まっていて!」



男(魔法を放つため片手を離していた俺に女が忠告する)

男(俺はその言葉に従い掴まったところで、女がエネルギー弾を避けるために飛び回って)



女「痛っ!」

男(今度は一発当たってしまった)

男(しかし女は避けきれないと悟った瞬間に背中ではなく正面から当たるように調整したようで俺は無傷だ)


男「………………」

男(俺はどうしようも無いほどに無力だった)

男(少しでも戦う力があれば女の負担を減らせるのに)

男(現実には全くの役に立たなくて……そんな俺を庇うせいで女が傷付いていく)



男(お互いがお互いを想い合う……愛さえあれば何とでもなると、そんな言葉がまやかしであることは今日日、子供でも知っていることだ)



男(俺の自惚れでなければ女は俺のことを思ってくれている)

男(俺だって女のことを思っている)



男(だがそれだけではどうにもならない現実が目の前に存在している)



男(……俺に女の隣にいる資格はあるのだろうか?)

男(俺に力さえあればこんなことにならなかったのに)



男(大それたことは望まない)

男(俺の手の届く範囲だけでいい)



男(女を守るための力が欲しい)










幼女『どうしたの、お兄さん?』







男(どこからか声が聞こえた)

男(幼女の、すっかり聞き慣れた声)




男「すまん、今忙しいんだ」



男(この幼女とはこの数日間幾度と無く話してきた)

男(話すことで俺の気が楽になることもあった)

男(だが、今がそんな場合でないことくらいは分かっている)



幼女『ええー、せっかく繋がったからお兄さんといっぱい話したいのに』

男「だからすまんって、また後でいっぱい話してやるから」

幼女『もう、今話したいのに』



男(声しか聞こえないが、幼女がぶうたれる姿が想像付いた)




男(そんなことより現状をどう打破するかだ)

男(俺の魔法が全く効かずに絶望仕掛けたが、女が頑張っているのに俺だけ諦めるわけには行かない)

男(俺に力があれば楽だったが、無いものねだりをしてもしょうがない)

男(どうにか糸口のようなものでもないか思考して――――)



幼女『ねえねえ、お兄さん』

男「ああもう、だから何だ!」



幼女『聞き間違いかと思ったけど……お兄さんちょっとおかしなこと言ったよね?』

男「…………」



男(話すことを止めない幼女に俺は無視をしようとして)






幼女『力が無いって言うけど…………お兄さんの中には、私を封印したあのお姉さんの力があるよね?』





男「……え?」

男(到底無視できない言葉が飛び込んできた)



幼女『だってそれを起点にリンク出来たはずだし』



男(俺の中の力……魅了スキル……女神と一緒の力…………女神が封印したのは………………だとしたら、この声の主は……)



男「おまえまさか……っ!」

幼女『私のことはいいから! お兄さん立て込んでるんでしょう?』



男(幼女の声が聞こえた瞬間、俺の心の中に不思議な感覚が起きて――――)




男(……アア、ソウダ)

男(コノコエノショウタイナンテドウデモイイ)



幼女『お兄さんには力がある。なのにどうして使わないの?』



男(俺の力は人を狂わせるから)



幼女『だから遠慮するの? 他にも同じような懐かしい力を感じるけど……みんな全然遠慮してないよ』



男(同じ力……そうだ。イケメンやギャルはもちろん、女と女友だって異世界に来て授かった力を存分に使っている)

男(なのにどうして俺だけ、魅了スキルだけは遠慮しないといけないのか)



男(……いや、違う。魅了スキルが本領を発揮すれば他とは桁外れの力で――)






幼女『お兄さんの大事な人を守るんでしょ! なら迷っている暇は無いって!』





男(………………)

男(………………)

男(………………)








男「アア、ソウダナ」





男(俺のやるべきことが明確になっていく)

男(迷うことはない)



男(女を守る)

男(これ以上傷つかせない)



男(そのためならば――――)










 ガチャリ、と。

 そのとき男の心のリミッターは外れた。

 否、外された。










女「男君! さっきからどうしたの!!」



 女は戦闘しながら、男に対して呼びかける。

 先ほどから独り言が止まらない男に対して、流石に無視できなくなったのだ。



男「女。今から指定するポイントに向かってくれ」



 しかし、男はその心配に応えず、女に指示する。



女「っ……」

 その声を聞いて女に悪寒が走った。

 いつもなら男の声を聞くと安心するはずなのに……どこか違うように感じられたからだ。




女「……分かったっ!」



 その違和感が気になりながらも、女は男の指示に従う。

 意図は全く掴めない。それでも男の指示を信じる。それが女という少女だ。





 そうしてやってきたのは図書室から望める中庭の上空だった。





実戦科生徒A「あの人たち……」

実戦科生徒B「竜闘士……?」

実戦科生徒C「もう一方は……」



 眼下にこちらを見上げる女子生徒たちの姿が女の目に入った。



女(この時間だと……確か実戦科コースの人たちが模擬戦をしているんだっけ)

女(私たちの戦いに気が付いて手を止めているみたいだけど)



女(実戦科というだけあって、生徒たちの実力はそれなりにあるはずだ)

女(この数の生徒たちが味方してくれたらこの戦いも五分かそれ以上に戻せるだろうけど……)

女(全く関係ない人たちを巻き込むわけにも行かない。あまり近づかないようにしないと)




男「ここだ」



女(背中の男君の呟きが耳に入った)

女(ここって……ちょうど女子生徒たちが真下に入ったけど……それが何の……)



女「まさか……ねえ、男君! 止め――」






 その瞬間、男の意図を察して制止の声をかけることが出来たのは世界中を探し回っても女だけだっただろう。

 急いでその場を離れようとしたが――もう遅かった。



 魅了スキルの効果範囲は周囲五メートルしかない。

 しかし、光の柱として現れる効果は上空にも……下空にも伸びる。

 つまり眼下の女子生徒たちも圏内で。





男「魅了スキル、発動」





 瞬間、ピンク色の光が戦いと無関係の少女たちを染め上げた。

続く。

次が6章最終話となる予定です。


どうしても展開が読める時はあるだろうけどそれ含めても面白いからずっと読んでる

乙!

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

>>389 ありがとうございます。

6章最終話投下していきます。




女「男君……どういうつもりなの?」



女(私には男君の真意が掴めなかった)



女(男君は今まで魅了スキルを使うことに消極的だった)

女(そのためかこれまでの長い旅路に反して、虜になっているのは女友、古参商会の秘書さん、独裁都市の姫、王国のスパイで近衛兵長の四人だけしかいない)

女(それも私たちの使命である宝玉を手に入れるために止むを得ずということがほとんどだし、その場合でもなるべく多くの人にかけないようにした結果が4人という少なさなのである)



女(なのに今の魅了スキルによって地上の戦術科の女子生徒数十人が一度に虜となった)

女(今までの男君とは全く違う行動)




傭兵「これは……」

女(敵対する伝説の傭兵も驚きの表情だ)



女(意図を問われた男君はというと)



男「女、傭兵の相手を頼めるか? 俺は下のやつらを使って女友の状況を確かめてくる」

男「何人か支援に残すつもりだからイケメンの横槍も含めて対処してくれ」



女(そんな戦闘指示を飛ばしてきた)



女「今はそんな――っ」



女(反射的に怒鳴り返そうとして私は押し留めた)

女(先ほどまで驚いた様子だった傭兵さんが攻撃態勢に入っている)

女(今は戦闘中だ、下らない話よりも目先の脅威に対処しないといけない)


女(……と、頭では分かっているのに)



女「どうして魅了スキルを発動したの!? どうしてあんなにたくさん虜にして巻き込んだの!?」



女(気づけば私は男君に対して叫んでいた)

女(その質問自体の答えは分かっている)

女(虜にした生徒たちの力を使って戦況を一転させるためだと)

女(あのままでは私たちは負けていただろうから)



女(私が本当に聞きたいことは男君の変化の理由だった)

女(先ほどまでと一変した男君の様子に私はとても距離を感じていた)

女(それだけではなく、このままでは男君がどこか遠くに行ってしまうような予感さえも)



女(しかし、そんな心配も今の男君には届かないようだった)




男「女……戦えないのか?」

女「……え?」



男「なら仕方ない……下の生徒たち全員を傭兵に当てて時間稼ぎしている間に、新たに虜に出来るやつを探して戦力を補充する」

男「女はどこか狙われないように身を隠して――」



女「……大丈夫。戦えるから」



女(さらに他人を巻き込もうとする男君に私はそう言うしかなかった)

女(どういう訳かは分からないけど、今の男君にはこの窮地を乗り切ることしか頭にない)

女(それ以外は全てノイズでしかない、ゴチャゴチャ言い出した私を戦えない状態だと判断するくらいには)




男「そうか。なら頼んだ」



女(男君は言って、私の背中から飛び降りた)

女(未だ竜の翼によって空中にいるのにそれは自殺行為だ)

女(いつもなら慌てる私なのに……なんかもう全てが麻痺していた)

女(飛び降りた男君はというと、下の生徒に命令して風の魔法を使わせ、難なく着地し無事なようだ)



女「………………」

女(風魔法による着地の補助……どうして生徒の中にそんなことを出来る人がいると男君は知っていたのか?)

女(不可視(インビジブル)で男君の行動を追っていた私には、放課後になって男君が図書室でぼーっと戦術科の生徒たちの模擬戦を見ていたことを知っている)



女(そのときのことを覚えていたのか……だとしても手際が良すぎる)

女(もしかしたら最初からこういう事態になった場合を想定していたのだろうか?)

女(こうして魅了スキルによって他人を巻き込む選択肢も常に考えていたのだろうか?)


女「…………」

女(分からない)

女(でも、私がやるべきことは分かっている)



傭兵「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』」



女(傭兵がエネルギー弾を放つ)

女(その標的には地上の男君や命令されて敵意を向ける生徒たちも含まれている)

女(操られているからといって容赦するつもりは無いようだ)



女(私が任された役割は彼を抑え込むこと。それを遂行しないと)

女(男君は窮地をどうにかしようとすることに囚われている)

女(逆に言えばこの状況を脱しさえすれば、話を聞いてくれるはずだから)




女「『竜のはためき(ドラゴンウェーブ)』!!」



女(エネルギー波を放ち攻撃を相殺する)



女「うらぁぁぁぁっ!」



女(男君が降りて心とは裏腹に身体だけは軽くなった)

女(さっきまでと段違いの速度で私は特攻する)








女(それから30分ほど経った)





女(エネルギー弾に衝撃波、ピンクの光や氷柱の雨が飛び交う)

女(そんな熾烈を極めた戦いにも終止符が付いた)



女(男君が虜とした生徒たちは、練度こそ劣るものの数十人という数は圧倒的で、おかげで余裕の出来た女友が私と合流。魔導士のバフを受けた竜闘士が戦場を蹂躙した)

女(追い詰められた駐留派・復活派チームは)



魔族「義理は果たした。頃合いだろう。失敗した場合の取り決めは無かったな、宝玉はそのままもらっていく」

傭兵「……そういうことだ。続けたいならそちらだけでやってくれ」



女(復活派の二人、魔族魔族と傭兵が先に離脱を宣言)

女(二人はそもそも協力しているだけで、私たちと積極的に戦う理由がない)



イケメン「こんなはずでは……っ!」

ギャル「イケメン、逃げようって! 流石にヤバいよ」

イケメン「ちっ……覚えていろよ」



女(駐留派の二人。悔しげなイケメン君にギャルが必死に逃げるように提案)

女(その後影に溶け込むように消えていった)



女(こうして私たちに訪れた危機は何とか回避することに成功した)


女友「何とか無事にやり過ごせましたが……これは……」

女「…………」

女(ホッと一息を吐いたものの、女友も私も安堵まではしていない)



男「戦闘終了。傷ついた人員に回復魔法をかけてくれ」



女(回復魔法使いに指示する男君)

女(戦術科といっても未だ修学中の身。無理矢理高いレベルの戦場に連れ出され戦わされた生徒たちの消耗は大きかった)

女(幸いと言うべきか命を落とした者はいないみだいだけど)



女友「私と離れて戦っている間で男さんに何があったんですか、女?」

女「分かんない。突然独り言を言い始めたかと思ったら、あの生徒たちのところに向かうように指示して、そこで魅了スキルを使って……」



女友「……ふむ。ちょっと見てみましょう。『真実の眼(トゥルーアイ)』」

女(女友が看破の魔法を発動する)


女「あ、そっか」

女(男君の様子が急におかしくなったのは何か内的要因があったのかとばかり考えていたけど、この異世界では外的要因もあり得る)

女(いつどこでかという疑問は残るけど、もし様子をおかしくするようなスキルを食らっていたとしたら、この事態も理解できるわけで――――)





女友「やっぱり……男さんには今スキルがかかっていて…………」

女友「『囁き』? この固有スキルは……まさか……!?」





女(どうやら女友の予想通りだったみたいだけど……何を驚いているんだろう?)


女「ねえ、女友。『囁き』って何?」

女友「それは――」



男「手が足りんな。女友、命令だ。こっちに来てこいつらの回復を手伝え」



女友「っ……分かりました」



女(普段の様子のせいで忘れそうになるが、女友は男君の虜となっている)

女(魅了スキルの効果によりその命令は絶対だ)

女(私の側から離れ、負傷者のところに向かっていく)



女「………………」

女(今だって命令しなくても、言ってくれれば女友も手伝っただろう)

女(感じが悪い)

女(でもどうやらそれは『囁き』ってスキルのせいでおかしくなっているだけ)

女(だったらどうにかして呼び戻して……)




女「ねえ、男君」

男「……何だ、女」



女「えっと……ほら、何か今の自分に違和感とか覚えない?」

男「…………」



女「女友が言うには『囁き』ってスキルが男君にかかっているみたいなの。そのせいでいつもの自分と違うって思うでしょ?」

男「別に」



女「……認識まで改竄するスキルなのかな? とにかくどうにか解除してみせるから」

男「その必要はない」






女「男君……自分が言っていることちゃんと認識出来ている?」



男「ああ。『囁き』ってスキルは初耳だが……そうかあいつのものか」

男「そのおかげで頭がスッキリして……やるべきことが明確になった」



男「今の俺はいつも以上に俺だ」

男「まあ、女が戸惑うことも想像が付くけどな」





女(自嘲気味に呟く男君にこれは本心なのだと直感で理解した)

女(理由はない……いや、いらない。好きな人のことが分からないはずがない)



女(スキルによって操られているわけではない……あくまでスキルはきっかけで、これが本来の男君なんだ)

女(こんなときでなければ、好きな人の新たな一面を知って嬉しく思えたんだけど)




女「うん、分かったよ。今の男君が男君だって。でもだったらどうして無関係な人たちをこんなに巻き込んだの?」

男「巻き込んだらいけないのか?」



女「少なくとも私が知る男君はそんなことをしない」

男「じゃあ、知らなかっただけだな」



女「勉強不足だったね、ごめん」

男「俺は他人なんてどうでもいいんだ。ああ、そうでもなければボッチなんて出来るはずがない。俺は俺さえ良ければいい――」



女「……」

男「そのはずだったのに……女。俺はおまえが傷つくことに耐えられない。もう見たくないんだ。女が危険な目に会う姿を」






女「でも宝玉を集める以上それは仕方ないことでしょ?」



男「これまではそうだった。ここからは違う」

男「俺が宝玉を集めるから。全て集めてみせるから」

男「だから女……おまえはもう全部終わるまでどこか安全な場所でゆっくりしていてくれないか?」



女「私の代わりに男君が危険な目に遭うってこと? その言葉に私が頷くと思う?」

男「思わない。だからこうする」



女(男君の言葉と同時に、背後から何か掴みかかる感触があった)

女(見ると女子生徒たちが私の行動を封じるように両手両足にしがみついている)




女「いつの間に……っ!?」



男「戦いの最中にだ。新たに魅了スキルで虜にした普通の生徒たち。そいつらには死んでも女を離すなと既に命令してある」

男「竜闘士の力を使えば振りほどくのは簡単だろうが……そんな剛力使えば生徒たちも無事ではないだろう。女はそんな酷いことをしないって俺は信じている」



女「くっ……」



女(男君の言うとおりだ。私を拘束する戦術科ですらない生徒たち)

女(吹けば飛ぶような力しかない者たちが、必死に私の行動を制限しようとしている)

女(無理矢理に引き剥がせば傷ついてしまうだろう)

女(一人一人時間をかければどうにかなるかもしれないけど…………男君はその間に――)




男「回復は終わったようだな」

女(男君は私に背を向けて、虜とした者たちの様子を確認する)



女友「男さん!! 一体どういうつもりですかっ!!」



男「話を聞いていなかったのか、女友?」

男「全ての宝玉を集める」

男「おまえは……そうだな、その力は役に立つ。俺に付いてこい」



女友「『森の鳥(フォレストケー)』――」

女(女友の判断は迅速だった。反射的に魔法を使って、男君を拘束しようとするが)



男「俺に反抗的な行動を禁じる、命令だ」

女友「……っ!?」



女(男君は女友の自由を無慈悲に奪う)

女(相手が熟練の魔導士だろうと関係ない。これが本来の魅了スキルの力)



男「命令だ、行くぞ」



女(男君は戦術科の生徒たち、そして親友の女友を連れて去ろうとする)

女(私は未だに力なき者にしがみつかれて追うことが出来ない)

女(声を上げることしかできない)




女「ねえ、男君。私……こんなの嫌だよ。ずっと、ずっと隣にいたかったのに……どうして?」



男「今までの俺にも、今からの俺にも……俺にはおまえの隣にいる資格がないんだ」



女「資格って……」



男「だから……すまんな。気持ちは嬉しいけど、さっきの告白は無かったことにしてくれ。俺なんかが答える立場にあるはずが無い」



女「……」





男「女、おまえの気持ちは……俺以外のもっと大事だと思える人のためにとっておけ。……大丈夫、女ならきっとすぐにそんな人に出会えるだろうから」











女(別れを切り出した男君の姿は遠く、私の声はもう届かない)

女(しばらくして私は自由を取り戻したが、そのときには学園の職員たちに取り囲まれていた)

女(事情を知らない者に善悪が分かるはずがない)

女(イケメン君たちから仕掛けてきた戦いだが、第三者から見れば私だって学園に騒動を巻き起こしたものだ)

女(事情の説明、潔白の証明には時間がかかった)

女(それから空を飛び周辺を探したが、男君たちの姿を見つけることは叶わなかった)



女(途方に暮れた私は帰還派のみんなに事情を知らせる手紙を送った)

女(男君だけではない。私の隣には女友もいなかった)

女(いつもなら女友がこなす連絡も私がやらねばならず、かなり手間取ったことでいつも助けられていたことに今さら気づいた)



女(そうして空虚さを覚えながらも、徐々に状況が落ち着いてきたのは騒動から一週間後のこと)








女(ちょうどその日、大陸全土を震撼させるニュースが触れ回った)





女(先の大戦の覇者)

女(王国)

女(大陸一の武力を持ち、この大陸の盟主ともいえる)





女(その王国が陥落した)










女(この革命の首謀者――男君は体制の崩れた王国を乗っ取り、新たに自身が王になると宣言した)





女(王国を陥落させた新たな王)

女(男君は強大な王国を崩壊させた畏怖の念により、いつしか民からこう呼ばれるようになる)





女(魔王と)








 6章学術都市編完結です。



 6章は当初の予定では魔族が変身で忍び込んだ中、誰が宝玉を盗んだのかというミステリー的な展開にする予定だったのですが、思ったより男と女の関係の亀裂が深かったのとミステリー展開がいくら練っても面白くならなさそうだったことから急遽変更してバッサリカット。女友にダイジェストで語らせました。
 どうにか二人の関係が復活して告白した矢先に、やつらが急襲してきて……急転直下な展開になりましたね。



 さて、物語の続きは最終章・王国編へと移っていきます。最終章です。
 風呂敷を畳みつつ、魔王となった男と一人になった女の行く末を描いていくつもりなのでよければ見てやってください。
 最終章ですがたぶん今までより長くなるのでまだすぐには終わりません。



 最終章の構想も既に出来ているので、そんなに間を開けずに投下できるよ思います。



 乙や感想などもらえると作者のモチベアップするので、どうか協力してもらえると助かります。




女神の祝福受けた魔王…

乙です

乙!
とうとう、最終章か……最終章も楽しみにしている!!

乙ー

乙ー
魔王でもありヒロインでもある男さんマジぱねえっす

乙です。
6章の最後で怒涛の展開ですね!
魅了スキルが効かないのは女しかいないように思えるけど、
男性陣との共闘もありえるのかな?
ワクワクしながら待ってます。

祝連載開始一周年&最終章開始!!

応援レスの数々ありがとうございます。
皆さんのおかげでここまで走ることができました。
このまま最後まで向かっていこうと思います。


というわけで『終章 王国』編を開始です。






女(独裁都市)

女(支配から開放された姫姫により復興が急ピッチで進むこの都市の中心、神殿最上階の執務室に)

女(私はいた)





女「ありがとう、姫さん。こんな場を用意してもらって」

姫「いえ、こちらも詳しい状況を窺っておきたかったですから。対岸の火事でもありませんし」

女(この場の主催者、姫さんに礼を言うとお気になさらずと返される)



女「秘書さんも参加ありがとうございます」

秘書「会長からは古参商会の持つ全ての情報の提供、ならびに必要ならば物資の準備もするように言われています。遠慮なさらずに」

女(私たち帰還派をバックアップしてきた古参商会からは会長秘書の秘書さんが参加している)

女(元はスパイであったが男君の魅了スキルにより暴かれた結果今は改心している)



女「他のメンバーが集まるまでは時間がかかりそうだけど……近くに気弱君と姉御だけでもいて助かったよ」

気弱「え、えっと……期待に応えられるように頑張ります!」

姉御「正直アタイはまだ状況も掴めて無くてねえ……まあ足を引っ張らないよう頑張るよ」



女(気弱君と姉御……武闘大会で共に戦い、その途中でカップルとなった二人がこの独裁都市の近くにいるということで集まってもらった)

女(他の帰還派メンバーが集まるまで待ちたかったが、その時間ももったいない事態だ)



女(私、姫さん、秘書さん、姉御、気弱君で五人)

女(それぞれが帰還派、独裁都市、古参商会の代表者で、今の私に集めることが出来る最大の勢力)

女(これでどうにかして男君を止める方法を考えないと)




姫「それではこれから現在大陸中を騒がせている世紀の事件、俗に魔王君臨と呼ばれる事件への対策会議を始めます」



女(司会進行は主催者ということもあり姫さんが取るようだ)



姫「まず時系列から確認しましょうか」

姫「この事件の首謀者……男さんが学術都市にて敵対する駐留派、復活派に襲われたのが八日前でしたよね?」



女「うん」



姫「その後女さんを置いて行方をくらまし、次に表舞台に現れたのが一週間後の昨日」

姫「王国を乗っ取り、自身が王になると大陸全土に対して宣言しました」



女(未曾有の宣言からは一日開けているが、それでも騒動による混乱は収まっていない)



姫「宣言と同時に女神教の教会があった場所に対して宝玉を引き渡すように要求がありました」

姫「要求に応じない場合いかなる手段を取ることも辞さないとも同時に記されています」



女(姫さんから大筋の説明が終わる)


姉御「順を追って確認したいねえ」

姉御「まず学術都市での襲撃ってやつだけど……駐留派の目的、魅了スキルを手に入れたいってのは分かっている」

姉御「襲撃をどうにか凌いで、なのにどうして女が置いてかれたのかい?」



女「男君自身の発言が根拠だから確証は無いけど、自分自身に素直になるスキルってのをかけられたみたいで」

女「宝玉を集めようとすることで傷つく私が見ていられなくて、自分一人で宝玉を集めるから私は追いていくって」



姉御「……はぁ? 意味分かんないねえ。そんなに大事なら隣で守ってやればいいじゃないかい」

気弱「まあまあ抑えてください」


姉御「で、それから一週間後の昨日に王国の乗っ取りを宣言したと」

姉御「でもそんなこと有り得るかい?」



姉御「王国の強大さは異世界の情勢に疎いアタイでさえ知っていることだ」

姉御「女友とその戦術科の生徒たちってのを連れて行ったとはいえ、一週間で攻略できるはずないだろ」

姉御「何かの間違いじゃないかい?」



女「そうかな? 私は男君なら可能だと思うよ」

女「さっき言ったスキルの影響のせいで、今の男君は魅了スキルを使うことに躊躇しないから」

女「全ての女性、世界の半分を支配できる上に、男君の指揮があれば簡単なことだよ」



女(今まで宝玉を手に入れるため率先と私たちを導いてきた男君の力について今さら疑うところはない)



姫「加えて近衛兵長……元この独裁都市の近衛兵長にして王国のスパイに、魅了スキルを使って逆スパイをさせて王国の情報を探らせていました」

姫「女さんと別れた後コンタクトを取り、その情報も使って攻略したのでしょう」

女(姫さんが補足する)



姉御「……二人とも男への評価が高いんだな。まあやるときはやるやつだったか」

女(姉御も納得したようだ)


姉御「で、男は王国を支配した……けど、なんでそんなことをしたんだい?」

姉御「王様になりたいなんて願望を持つやつじゃなかったと記憶しているけど」



女「男君の目的は簡単だよ。宝玉を集めること」

女「でもこれまで通りわざわざ教会の跡地を訪れて探すなんて面倒だと思った」

女「だから王国を乗っ取り強大な武力を嵩にして各地に宝玉を差し出すように言った」



姉御「ああ、そうかい。それが宣言と一緒に為された要求ってやつか」

姉御「…………ってことはなんだい? 宝玉を集めるためにわざわざ王国を支配したと」

姉御「何か目的と手段の大きさの違いがえらく歪だねえ」



女(言われてみればそうだけど……そんな手段もやすやす取れるくらい今の男君には力がある)

女(王国を、支配派を乗っ取った男君は今や帰還派、駐留派、復活派に一人で肩を並べる存在になったのだから)


姉御「まあ概要は分かったよ。アタイからの質問は以上だ」

姫「では、次は私から」



女(納得した様子の姉御に代わって、今度は姫さんが手を挙げる)



姫「先ほど女さんは男さんに何らかのスキルがかかっていたと話しましたが、実際いつどこで誰にどんなスキルをかけられたんですか?」



女「えっと……言われてみると私も疑問ばかりで。いつなのかって言うと駐留派と復活派との戦闘中だと思う」

女「でも男君を守るために背負いながら空中で戦っていたから、簡単にかけることは出来ないはずなのに……いつの間にかって感じで」



姫「戦闘中で警戒度MAXの竜闘士にも気付かれずですか。俄には考えにくい事態ですね」

女「その直前に男君は独り言を呟いていたんだけど、何か関係あるのかな?」

姫「独り言ですか。分かりませんが…………あ、ちなみにそのスキルの名前は何ですか?」



女「言ってなかったね。『囁き』ってスキルなんだけど――」




姫「『囁き』ですか……!?」



女(ガタン!! と、姫さんはイスを弾き飛ばしながら立ち上がった)



女(スキルの名前を聞いただけでこの反応。どうやら何か知っているみたいだけど…………でもそんなに驚くほどのことなのか?)



女「知っているの、姫さん?」

姫「当然です! だってそれは――魔神が持っている固有スキルなんですよ!?」



四人「「「「っ…………!?」」」」

女(姫さん以外の四人が息を呑む)


女(魔神)

女(太古の昔にこの異世界を滅ぼしかけた存在)

女(女神様によって別の世界に飛ばされ封印されたはずの存在が……どうして男君にスキルを……?)



女(同時に姫さんが知っていた理由も納得する)

女(彼女は女神教の大巫女。女神様にまつわる情報についてはこの世界で一番知る存在だ)





姫「私も自由を取り戻してようやく訪れることが出来た神殿の地下に秘蔵されていた書物から得た知識なんです」

姫「だから男さんにも話していなくて……」

女「今後のためにも魔神について知っていることを教えて欲しいんだけど」

姫「いいですよ。しかしちょっと待ってくださいね、私も整理してから話さないといけませんから」



女(姫さんは言うと思案顔になって、少し経って口を開く)




姫「魔神と呼ばれる存在。その始まりはこの大陸の小さな農村の平凡な夫婦、その間に生まれた一人の女の子だったそうです」



女(語り出したその内容は、最初から私の前提を破壊した)



女「女の子……え、でも? 魔神って……あれ、もしかして……」



女(この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。知性を持たない獣で、度々人間に被害を及ぼす存在だ)

女(商業都市近郊で戦ったドラゴンもその一種と言える)



女(だから魔神とはその親玉、得体が知れず破壊を振りまくモンスターだと思っていた)

女(復活派が世界を滅亡させると言っていたこともそのイメージを補強した)



女(しかし……考えてみればそうだ。神と呼ばれる存在……女神様だって元は人間)

女(だったら魔神も――)








姫「はい。魔神も元は偶然固有スキル『囁き』を授かった人間の女の子なんです」





続く。
状況説明のためスローペースなスタート。

書き溜め尽きるまでは隔日更新で進行します。

乙!
待ってました!!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(魔神が女の子である)

女(衝撃的な情報ではあるが、各自どうにか飲み込むことは出来たようだ)



姉御「まあ女神様も人間ってくらいだからねえ」

姉御「それは分かったけど、疑問はまだまだある。話を続けてもらえるかい?」

姫「もちろんです」





姫「その女の子が授かった固有スキル『囁き』」

姫「その効果の全貌は不明ですが、明らかになっているものでいうと他人の秘めていた欲望を解放させて、それに従って生きるように唆すことが出来たそうです」



姉御「欲望に従って……つまり精神攻撃の類でいいのかい。そんなんで世界を滅亡させることなんて出来るかね」

姫「簡単ですよ。人間、誰だって欲望を理性で押し込めて生活しているんです」

姫「個々人がそれぞれの欲望だけに従って生きたら、社会は立ち行きません」

姫「直接破壊するよりもよっぽど簡単に世界を滅亡させることが出来ます」


女(姫さんの話はなるほどだ)

女(例えば何かを食べたいという欲があったとして。その欲を手っ取り早く満たそうとしたら、それを持っている人から奪えばいい)

女(しかし人の物を奪うのは良くないという理性があるから、お金を出してそれを買う。そういう風に社会は出来ている)

女(誰かが憎い。だから殺す。そんなことが横行する社会に未来はない)



女(男君の『今の俺はいつも以上に俺だ』という言葉もなるほどだ)

女(自分の欲望に従って行動する、それはある意味一番素に近い状態だから)


姫「さてそんな『囁き』のスキルを持った女の子ですが、幼き彼女にスキルの制御は出来ませんでした」

姫「周囲の人間に見境無くスキルをかけてしまう状態だったようで……」



姫「最初の犠牲者は女の子の父親でした」

姫「『囁き』を受けた母親が日頃の不満から来る仄暗い欲望を解放させて父親を刺したんです」

姫「次の犠牲者はその母親でした。父親を刺してしまった自己嫌悪をスキルが肥大させて自殺したようです」



姫「不幸中の幸いであるか災いであるかは判断が付きかねますが、幼き女の子には自分がしでかした事の大きさを理解する力も、善悪を判断する知性もまだ備わっていませんでした」



姫「そのため、二人を心配して様子を見に来た村人たちにも『囁き』はかかってしまい、悲劇は連鎖的に広がっていって……最終的にその村は女の子一人残して全滅しました」




姫「もちろんその時点で時の世の中も対処に動き出しました」

姫「大規模な被害を把握していて、その女の子をどうにか確保する算段は付いていたとも言われています」



姫「そういう意味では姉御さんの言ったとおり『囁き』だけでは世界を滅亡させるのは難しいというのも当たっていますね」

姫「しかし、ここで人類にとって最悪の出会いが起きました」

姫「女の子と魔族の集団が出会ってしまったんです」



姫「魔族は別世界の住人です」

姫「それがどうしてこの世界にいたのか……書物には推測として誰かが呼び出してしまったのだと書かれていましたが、真偽は不明です」



姫「その出会いによって魔族にも『囁き』がかかってしまい、その破壊衝動を思う存分に振るい世界が滅亡するか………………」

姫「といった直前、女神様とその仲間たちが立ち上がり魔神を封印した」



姫「これが太古の昔に起きた『災い』の全貌だそうです」


女(『囁き』。欲望を解放するスキルを持った女の子を中心とした悲劇が語り終えられる)

女(そう考えると魔族も巻き込まれた側ではあるのだろう)

女(欲望を持っていたことだけで罪になるわけではない)



女(しかし疑問が残る。私たちが出会った復活派の魔族。彼女が言っていた言葉)



魔族『魔族の悲願は一つ。太古の昔、封印された魔神を復活させてこの世界を滅ぼすことだ』



女(そのような大層な使命感はどうにもちぐはぐに思えてくるんだけど……)


秘書「大昔の出来事は分かりました。現代の話に戻りましょう」

秘書「話によると男さんに『囁き』がかかっていたということですが、しかし魔神は封印されているはずでしょう?」

秘書「ならば不可能ではないですか?」



姫「これは私の推測ですが、学術都市で女さんたちは宝玉を提供して研究に手伝ったそうですね」

姫「つまり集まれば集まるほど力を増す宝玉を長期間一カ所に留めてしまった」

姫「そのせいで周囲が他の世界と繋がりやすい状態になっていたのかもしれません」



姫「そして女神様の『魅了』と魔神の『囁き』は表裏一体のような存在です」

姫「愛を広める前者と欲を広める後者で」

姫「魔神と女神様は何度も戦場で相見えたそうです……そのときにスキル同士に繋がりが生じたのでしょう」


秘書「スキル同士に繋がり……そのようなことがあるんですか? 聞いたこともありませんが」



姫「ですから推測です。そもそも固有スキルは絶対数が少ないせいで不明なところも多く、女神様自身にも分からないところがあるとは書物に書かれていました」

姫「それでスキル同士の繋がりを起点に魔神は別の世界から男さんに語りかけて『囁き』のスキルをかけた」

姫「女さんが聞いたという男さんの独り言ももしかしたら魔神に対する応答だったのかもしれませんね」



女(言われてみると男君の独り言は誰かと話している……そんな感じだったようにも思える)

女(話をまとめると魔神は封印されたまま男君にスキルをかけることが可能だったというわけだ)



姫「『囁き』と魔神についての話はもう大丈夫でしょう。次は……」

秘書「私から話してもいいでしょうか」

姫「どうぞ」



秘書「話というのはこの一週間について。私はちょうど王国支部の方に視察の形で出向いていたんです」

姫「ということは……男さんがどのように王国を転覆させたのか見てきたんですか?」

秘書「ええ、その通りです」


秘書「商会というところは様々な情報が入ります。最初はちょっとした違和感でした」

秘書「いつも時間通りに来る人が来ないだったり、兵舎が騒がしい、武器の発注が多いなど」



秘書「それでも平穏は保っていて……しかしある朝方突然鳴り響いた爆発音に私は飛び起きました」

秘書「報告を受けるとどうやら王都内で兵士同士が戦っているようだと」



秘書「これは後の調査で分かったのですが、男さんは最初王国内で暗躍していたようです」

秘書「魅了スキルを使い軍の下の方から支配を出来るだけ広げていった」

秘書「女性兵士には問答無用、男性兵士には賄賂なりなんなりで寝返らせていく」



秘書「ですがあるラインからは国への忠誠心が高くなって工作が効かなくなった。だから直接の武力で打って出たと」



秘書「結果、王都で起きた内戦は凄まじいものとなりました」

秘書「流れ弾が罪もない民を襲い……万は下らない数の民を男さんは間接的に殺したと思います」



秘書「内戦は終始男さん側が優勢でした」

秘書「勢いのまま王都にある王城に雪崩れ込み、王とその臣下を虐殺して……こうして王都内乱は終結したようです」






女「………………」

女(語られた男君の所行に私は……)





姉御「話だけ聞くとよほどの大悪党だねえ。魔王と呼ばれるのも分かるというか」

気弱「姉御!!」

姉御「あっ……わ、悪い……」



女(気弱君が姉御の名前を呼ぶとハッとなって謝った)

女(二人は私が男君のことを好きだと知っている)

女(好きな人のことを悪く言われて、私が良くない想いをしないように配慮したのだろう)


女「ありがと。でも、大丈夫だから」

姉御「いや、でも……ほら、あれだ! 今の男は『囁き』のせいでおかしくなっているだけだし!」



女「違うよ。『囁き』はその人の本来の欲望を解放する」

女「今の男君はいつもと違うけど、おかしくなっているわけじゃない」



姉御「それは……」

女(姉御が二の句を継げなくなる。代わりに気弱君が質問する)



気弱「女さん。思えば話し合いが始まってから、ずっと違和感がありました」

気弱「男さんが魔王になって、離ればなれになって」

気弱「なのに今の女さんは落ち着きすぎている……と、僕は思うんです」

気弱「男さんとの間に何かあったんですか? 今の女さんは何を思って行動しているんですか?」



女「………………」

女(気弱君の質問は核心を突くものだった。本当に聡い子である)

女(気付けば私に注目が集まっている)

女(あまり本題に関係ないと思って黙っていたけど……こうなったら話すしかないだろう)






女「そうだね、これはまだ言ってなかったよね。駐留派と復活派の襲撃を受けた直前のことなんだけど……」



女「私、男君に告白したんだ」





続く。

今回投下内の補足で、種族としての魔族と、現在復活派で傭兵と共に行動している個体の名前としての魔族は別です。
ss化にあたって一般名詞に置き換えた影響でちょっとゴチャついてますね。
雰囲気で理解してもらえると助かります。

乙!

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


姉御「ほう……告白かい」

気弱「お、思い切りましたね」

姫「…………」

秘書「青春ですね」



女(私が男君に告白したと明かすと、姉御と気弱君はなるほどと頷き、姫さんは顔を伏せて表情を窺えなくて、秘書さんは暖かい眼差しになっている)



姉御「で、返事はどうだったんだい?」

女「それがね、本当ちょうど返事をもらえるってときに駐留派と復活派が襲撃をかけてきて」

姉御「ああもう酷いタイミングだねえ」



女「で、さっきも言ったようにその戦闘中に男君は『囁き』にかかったんだと思う」

女「それで戦闘の後、男君は私に言ったんだ」

女「私が傷つく姿を見たくない、宝玉は自分が全て集める、私の隣にいる資格がない、告白は無かったことにしてくれ、私の気持ちは他の人のために取っておけ…………って」



姉御「………………」



女「私は……男君に拒絶されたんだよ」


女(この一週間何度も思い返した男君の言葉)

女(資格なんて必要ない。ただ隣にいてくれるだけで良かった)

女(一緒に居れるなら私はどれだけ傷ついても構わなかった)



女(なのに、男君は私を一人置いていった)

女(私と男君が通じ合えていると……そう思ったのは幻想だったのだろうか?)



女(この会議に参加しているのも異世界を混乱させている事件に対処しないといけないという義務感から行動しているだけで、特に何か思いがあるわけでもない)



女(大事な会議で個人的な悩みを打ち明けたこと、未曾有の事件にどうにか頑張ろうとしているみんなに対して冷めている私)



女(何だか何もかもが申し訳なくて謝ろうとしたそのとき)




姉御「えっと……それはノロケかい?」

女「……え?」



女(姉御が顔を赤くして、頬をかきながら言ったことに理解が追いつかなかった)

女(気付くと気弱君も同じで、いつもクールな秘書さんでさえ少し赤くしている)



姉御「いやだから、女と男はこれだけお互いのことを思い合っている……って自慢なんだろ?」

女「ど、どうしてそうなるの!? 私は真剣に悩んでいるんだよ! 男君に拒絶されたって!!」

姉御「いや、その拒絶っていうのも…………ああもう、アタイには無理だ! 気弱頼んだ!!」

気弱「ええっ!? 僕ですか!?」



女(今にも顔から火を噴き出しそうな姉御が気弱君にバトンタッチする)


女「どういうこと、気弱君!!」



気弱「え、えっと……どう説明すればいいんでしょうか」

気弱「……そうですね、仮にですけど女さんは男さんが傷付く姿を見たらどう思いますか?」

女「そんなの見たくないよ!」

気弱「じゃあそれを防ぐための手段があるとしたら?」

女「迷わず実行する!」



気弱「それと全く同じ事を男さんもしているんですよ」

女「…………え? あれ…………そうなるの?」



女(好きな人の傷付く姿なんて見たくない。当然のことだけど……あれ、もしかして男君も同じで……)


気弱「そして確認なんですけど実際男さんは女さんのことを置いていった」

気弱「それは事実なんだと思いますけど……そのとき別に一緒にいたくないだとか嫌いだとか言ったわけじゃないんですよね?」



女「う、うん。俺には隣にいる資格が無いって言っただけで……告白の方も気持ちは嬉しいけど、無かったことにしてくれって」

気弱「いや、もう答え言ってるじゃないですか。気持ちは嬉しいって……嫌いな人から好かれて嬉しい人なんていませんよ」



女「……え? ……えっ!?」

女「で、でもだったらどうしてその気持ちは他の人のために取っておけなんて言ったの!?」



気弱「そのとき既に男さんは魔王になる決心をしていたんだと思います」

気弱「魅了スキルをフル活用しても茨の道であることは想像が付くその手段」

気弱「結果的に成功しましたけど、途中で倒れる覚悟もしていて」

気弱「そのときに好きな人の気持ちをずっと自分に縛り付けたくないからそう言ったんだと…………」



気弱「ああもう、解説する僕の方が恥ずかしくなってきたじゃないですか!!」



女(珍しく声を荒げる気弱君。姉御同様顔から火を噴き出しそうなくらい真っ赤だ)




女「ってことは……男君はそれだけ私のことを好きだってこと!?」

女(そう思うだけで、私の心は小躍りしたくなるくらいに舞い上がる)







気弱「はぁ……どうしてこんなことも分からなかったんでしょうか?」

姉御「……あーそういえば、女は元々恋愛においてはクソ雑魚メンタルだったねえ」

姉御「そして男は女友も一緒に連れて行ったんだろう? そのせいで外から指摘する人がいなかった」

気弱「なるほど……ってことは、女友さんはずっとこんなことしてきたんですか」

姉御「ということだろうねえ。今度会ったら労ってやろうか」

気弱「ですね」



女(気弱君と姉御が何か言っているけど、私の耳を素通りしていく)




姫「なるほど指摘はもっともかもしれませんが……現実問題として、女さんが男さんに置いて行かれた事実は変わりませんよね?」



女(そのときずっと黙っていた姫さんが口を開いて……その言葉は素通りしなかった。私は突っかかる)



女「聞いてなかったの、姫さん? 男君は私が好きだからこそ置いていったんだよ」

姫「ただの推測でしょう。本当は女さんに呆れて置いていった可能性だって否定できません」

姫「男さんは優しいですから言葉をオブラートに包んだだけです」



女「そっちこそ推測じゃない。男君は私のことが好きなの。それが決定事項なの」

姫「告白に答えてもらえなかったのに、ですか?」

女「ぐっ……それは……」



女(言い詰まる私に、姫さんはさらりと言った)




姫「結局男さんから直接言葉にされていない限り、状況証拠でしかありません。確証にはなり得ません」

姫「ですからさっさと告白の返事をもらってきてください」



女「……え?」

姫「女さんがさっさとフラれないと私がアタックしにくいじゃないですか」



女「で、でも……男君は告白を無かったことにしてくれって」

姫「そんなの聞いてなかった、で済ませればいいんですよ」

女「ご、強引すぎない……?」



姫「大体乙女が勇気を出して告白したのに、答えない方が悪いんですよ」

姫「男さんが100で悪い上に勝手なこと言ってるんですから、こっちだって勝手なこと言えばいいんです」



女「…………」

姫「何ですか、黙って」

女「えっと……ありがとね」

姫「礼を言われる筋合いはありません。私は私のために動いているだけです」



女(姫さんはそう言ってのけるとプイと顔を背ける)




気弱「あれ、姫様ってもしかして……」

姉御「あーそういえばあいつら独裁都市でも騒動に巻き込まれたって言ってたねえ」

姉御「何か支配されてた姫様を助け出したって話も」

気弱「そのときに男さんが姫様に惚れられた……ってことでしょうか?」

姉御「状況的にそうなんだろうよ。何とも罪作りな男だねえ」






女「……うん、そうだね。私、決めたよ!」

女「男君に告白の返事をもらいにいく!!」

女「そのため王国に、魔王城に乗り込む!!」



女(決意新たに私は宣言する)



姉御「まあ前向きになったことはいいことだよ。ただ、一人で乗り込むなんて言うんじゃないよ」

気弱「そうですね。今の男さんは王国の全てを掌握しています。いくら竜闘士といえど正面突破出来る勢力ではありません」

姫「そのためにも準備は整えないと、ですね」

秘書「古参商会もバックアップ出来ると思います。男さんの宣言以降、各地で起きている混乱は早めに静めたいところですから」



女(姉御、気弱君、姫さん、秘書さんの四人もそう言ってくれるのだった)

続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(魔王城に、男君のいるところに乗り込む)

女(今後の大きな方針が決まった)



女(そうだ、私は何をごちゃごちゃと悩んでいたんだろう)

女(はっきりとした言葉で拒絶されたならともかく、あんなふんわりとした言葉で私の長年の想いを否定されてたまるものか)



女(男君に告白の返事をさせる。返ってくる言葉は絶対にYESだ、みんなもそう言っているし)

女(そして恋人同士になった私たちは、色んな場所に一緒に行って、同じ気持ちを共有して、二人の思い出を紡いでいく)

女(そんな日が来るのが楽しみで…………楽しみすぎて……)



女「ねえ、今すぐ魔王城に乗り込んじゃ駄目なの?」



女(抑えきれずに私は提案していた)


姫「はぁ……話を聞いてましたか?」

姫「男さんは今や王国の持っていた軍事力を保有しているも同然なんですよ」

姫「内戦による同士討ちで少しは削れたかもしれませんが、いずれにしても竜闘士一人で敵う相手じゃありません」

姫「各所から対抗できるだけの戦力を集めるしかないわけで、それまでおとなしく待ってください」



女「その理屈は分かっているんだけど……実際そんな正面衝突になるのかなぁ、と思って」

姫「……はい?」

女「いや、だからね。男君は私のこと大事に思っているわけでしょ?」

女「だから案外私だけで王国に向かったら、叩き潰すようなこと出来なくて、魔王城までスルっと到達できるんじゃないかな……って」



姫「断言します。有り得ませんね」


女「いや、まあ姫さんがそう言いたいのは分かるけど……」

姫「鼻に付く言い方ですね……先ほど神妙に振る舞って損した気分ですよ」

姫「それと別に嫉妬で言っている訳じゃありません。男さんは女さん相手に手を抜くことは無いでしょう」

女「え、どうして?」



姫「その程度の覚悟で王国を支配するなんて出来るはず無いからです」

姫「女さんを置いていくことが正しいと思ったなら、簡単に翻すとは思いません」

姫「元々男さんは頑固な人ですから」

姫「私のときだって自分が犠牲になることが正しいと、どれだけ説得しても聞く耳持たずに貫こうとしましたし」



女「……そっか、そうだよね」

姫「加えて『囁き』がその思いをさらに強固にするでしょうから……本気で対抗してくると思いますよ」




女(男君は思いこんだら頑ななところがある)

女(そのせいで私と男君は何度も衝突してきて、それを乗り越えることで絆を深めてきた)



女(今回もそれと同じ……いや、それ以上だ)

女(『囁き』の影響だけじゃない、今まで男君は私に魅了スキルをかけてしまったという負い目をいつだってどこか感じていたはずだ)

女(しかし、今やその嘘も暴かれた)

女(本気でぶつかってくる男君はとても厄介になるだろう)



女(でもそれが私には嬉しかった)

女(障害が大きければ大きいほど、乗り越えた時の報酬も大きくなる……そう思うから)


姫「といっても男さんも今はまだ王国内外の対応に忙しいでしょうし、しばらくは私たちに何かする余裕も無いと思いますけど」

女「そっか、その内に準備を進めておきたいね」



女(男君がどんな手を打ってくるか、想像も付かない)

女(出来ることは早めにやっておかないと)



秘書「女さんが前向きになったようで何よりです」

秘書「古参商会としても各地で混乱が起きているこの状況では商売上がったりです」

秘書「何としてでも解決するよう尽力いたします」



女(秘書さんの言葉にふと疑問が沸く)


女「そういえば魔王君臨における各地の混乱って具体的にはどういうことなんですか?」



秘書「まずは単純に王国を乗っ取る勢力の登場による恐怖ですね」

秘書「王国の武力は誰でも知っていましたから、それを圧倒する力への畏怖が一つ」

秘書「もう一つは男さんの出した宣言、宝玉を差し出すように迫ったことによるものです」



女「宣言がですか? 王国が手段を選ばないって言っている以上、抵抗するのも難しいですから、みんな普通に差し出して終わりだと思ってましたけど」



秘書「ええ。宝玉の所在が分かっている地域はその通りの対応ですね」



女「……あ、そっか。私たちが観光の町で体験したように、宝玉がどこに行ったのか分からない地域もあって……」



秘書「そういう場所では血眼になって宝玉を探す者や、急ぎ避難しようとする者、行政に対してさっさと差し出すように詰めかける者もいて……軽いパニックになっていますね」

秘書「場所が分かっていても、所有者が首を縦に振らない場所などもあるようです」

秘書「安全のためとはいえ、宝玉は高価な宝石です」

秘書「差し出せと言われて、はい分かりました、とは行かないのが人間ですから」



女「思ったより大変なことになっているんだ……」

女(他者に迷惑をかけることを嫌がる男君らしくない手段…………いや、そういう遠慮を取っ払ったのが今の男君だ)


秘書「……。……。……」

秘書「とりあえずこれまでの会議の内容と急ぎ対抗戦力を集めるよう進言するため、私は一度商会に戻ろうと思います」



女(秘書さんが窓の外を眺めながら言った)



姫「はい。お願いします」

女「本当にありがとうございます!」

秘書「いえいえ、私に出来ることはこれくらいですから。それでは」



女(姫さんと私が礼を言うと、秘書さんはお辞儀をして執務室を出て行った)


姫「古参商会が全面的にバックアップしてくれるのはありがたいですね」

女「私たちが宝玉を順調に集められたのも、最初に商業都市で古参商会とのパイプが出来たおかげです」

姫「独裁都市としても復興にとても協力的で助かっていますね」



女「でも商売上がったりなのにそんな協力してもらって……何か悪い気もするね」

姫「まあそれこそが古参商会がここまで繁盛した本質なんでしょうけど」

女「……?」



姫「本来なら商会にとって今は絶好の稼ぎ時なんですよ」

姫「王国に武器を売って、不安になった周辺諸国にも武器を売って、緊張下で不足した物資を値段を釣り上げて売って……」

姫「お金を稼ぐだけならこんなにも楽なことはありません」



女「そっか古参商会も色々手広く商売しているから……」

姫「ですがそうやって一時的に儲ける代わりに顧客の不興を買えば、長期的に見るとマイナスになるに決まっています」

姫「商売に大事なのは信用。それを分かっているからこそ、この非常時に多くを助けるように活動しているんでしょう」



女「私たちに協力するのもその一環ってことか……なるほど」

女(古参商会の裏にある打算……とても暖かいものに触れて、私も嬉しくなる)


姫「とにかく早めに古参商会と連携を取れたのは助かりました」

姫「秘書さんを会議に呼んでくれてありがとうございます、女さん」

女「いえいえ、そんなこと。呼んだのは姫さんでしょう。こちらこそ助かりました」



姫「何言ってるんですか。秘書さんが女さんに誘われたって言ってたんですよ」

女「そちらこそ間違っています。姫さんに誘われたって言ってました」



姫「とにかく私は秘書さんに声をかけていません」

女「こっちこそ声をかけていません」



姫「………………」

女「………………」





二人「「………………?」」





女(二人とも首を傾げる)

女(この齟齬は……一体どういうことだろうか?)


姉御「何だい、何だい? 結局どっちが正しいんだ?」

気弱「ちなみに言っておくと僕たちも違いますよ。連絡を受けてこの独裁都市に急ぎ向かうので精一杯でしたから」

女(気弱君の補足)





女(誰も声をかけていないとしたら……秘書さんはこの会議のことをどこで知ったのか?)

女(どうして参加したのか?)





女(ちょうどそのとき執務室の扉がドンドンとノックされ、答える前に扉が開けられた)



古参会長「秘書!! 秘書はここにいるのか!!」



女(ドタバタと慌てた様子で入ってきたのは意外な人物。古参商会の長、古参会長だった)

女(商会の本部がある商業都市にいることが多いと聞いていたので、わざわざ独裁都市まで足を運ぶのが意外ということである)


姫「いつもお世話になっています。それにしても急な訪問ですね」

女(姫さんが立ち上がって一礼する。予定にない来客のようだが、復興の世話になっている恩もあって歓迎して当然だ)



女「秘書さんならさっきちょうど出て行って……あれ、タイミング的に鉢合っていると思ったけど」



古参会長「おぉ……良かった、良かった……! 秘書……生きておったのだな!!」



女(古参会長は感極まって涙まで流した)





女「……?」

女(事態がうまく飲み込めない。涙? 生きていて? でも……)


姫「ええと、事情を窺ってもいいですか?」

姫「思えば先ほどもノックに答える前に扉を開けるほど慌てていて……古参会長らしくない振る舞いでしたが」



古参会長「ああ、そうだな。説明すると……事の始まりは秘書が一週間ほど前から王国支部に視察に行っていたことからだな」

古参会長「四日ほど前から連絡が取れなくなって――王国で内戦が始まったからであろう」

古参会長「私はいてもたってもいられなくて、秘書の安否を確認しようと王国には入れないでも、周辺諸国で情報でも集めるためにこの辺りまでやってきて……」

古参会長「そしたら秘書がこの地にいると聞いてすっ飛んできたのだ」



女(この独裁都市はわりかし王国から近い位置にある)

女(思えば秘書さんは内戦に巻き込まれたと他人事のように語ったが、実際かなり危険だったということだ)

女(だからこうして古参会長も心配した)



女(なるほど…………と納得しそうになったが、そうなるとまた一つ疑問が浮かび上がる)

女(姫さんも同じ事を思ったようでそれを指摘する)


姫「おかしいですね……」

姫「秘書さんはこの状況をどうにかするためにも古参商会として私たちをバックアップすると言っていたので」

姫「既に会長には連絡を付けて話くらいはしているのだろうと思ったんですが」



古参会長「どういうことだ? もちろん協力をするのは吝かではないが……」

古参会長「秘書がそのような大事なことを私に相談せずに決めるとは思えん」

古参会長「あくまで私の秘書であって、商会の長ではないのだからな」



女(いくら古参会長が秘書さんのことを大事に思っていたとしても、そういう公私混同はしないだろう)



女「そもそも会長が心配していることを想像して、真っ先に連絡を取るはずだよね」

古参会長「そうだな、秘書はそこまで気を回せる人だ」



女(私の言葉も頷かれて……ますます分からなくなる)


女「………………」

女(私は思考する)

女(秘書さんが去ってようやく気付いた違和感の数々)

女(これが意味するものは……ただの勘違いで済ましていいのだろうか?)





女(いや、そういえば秘書さんは去る直前窓の外を見ていて…………………………)





女「……そっか。そういうことか」

姫「何か分かったんですか、女さん」

女「うん。姫さんも見ていたと思うけど、秘書さん執務室を去る直前、窓の外を見ていたでしょう?」

姫「そういえばそうでしたね。……って時間的に考えると秘書さんが見たのは」

女「古参会長がこの神殿にたどり着いたのを見たんだと思う。だからこの場から去った」



女(商会に報告をするためという理由は、ここまで連絡していないことを見るに嘘だろう)




古参会長「どうして私を見て去ったんだ?」

女「それは古参会長と出会えば、嘘が暴かれて自分が商会に連れ戻されることが分かっていたからです」



古参会長「……? 当然だろう、秘書は商会長である私の秘書だ」

古参会長「連れ戻すも何も、商会は帰ってくる場所だ」



女「ええ。ですがそれでは今の秘書さんは困るんですよ。だって――――」



女(私はその可能性を――早速打たれていた手を指摘する)





女「それでは命令を遂行出来なくなるじゃないですか」






姫「なっ……!?」

気弱「それは……」

姉御「なるほどねえ……既に一本取られていたってことかい」



女(会議で話していた三人はすぐにその意味を察知する)





女(秘書さんが王国にいたという時点で怪しむべきだったのだ)

女(王国にいる人のことを、そして彼女自身この異世界で二番目に魅了スキルをかけられたという事実を)





女「…………」

女(どうしよう、今からでも追ってその身柄を確保するべき?)

女(いや、秘書さんは商業都市で最初居酒屋にいたとき周囲に全く気づかれなかったほどの隠蔽スキルの持ち主だ)

女(だから古参会長に見つからずに神殿を出ることが出来た。今さら追ったところで捕らえられないだろう)


古参会長「命令とは……まさか王国を支配した者の正体は……」

古参会長「少年がそんなことをするはずがないと、嘘だと思っていたが――」



女(古参会長のところまではまだ情報の真偽について、確証高い物が届いていなかったようだ)

女(私はその人の名を呼ぶ)





女「はい。王国を支配した魔王、男君」

女「秘書さんはその手の内にいるんだと思います」





女(本気の意味をその身で思い知る)

女(想像していたよりも一手も二手も速い)






 二日後、王国。

 王都の中心、かつては王城と呼ばれ、現在は魔王城と呼ばれるその建物。

 最上階に位置する謁見の間にて。





秘書「潜入調査してきた女さんたちの動向について報告します」

 休み無く行軍して独裁都市から王都へと帰還した秘書は、現在の主の前で膝を付く。










男「ああ、聞かせてもらおう」



その主……男は座ったまま尊大な態度で先を促した。





続く。

男の魔王ムーブ開始。

乙!

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

随分間が空いて申し訳ありません。

投下します。


女友(魔王城、謁見の間にて)

女友(女たちの動向を探っていた秘書さんの報告を、王座に座って聞く男さんの横で)



女友「はぁ……」

女友(私は周囲に気付かれないようにため息を吐きました)



女友(どうしてこんなことになったのか)

女友(一週間ほど前からずっと思っていることです)




女友(学術都市で駐留派と復活派の襲撃を退け、様子の変わった男さんによって女を一人置いて連れ立ち、そこからの日々はもう大変の一言で表せないほどでした)



女友(先に逆スパイとして潜入させていた近衛兵長さんの情報も使って、どうやって王国を転覆させるかを男さんは考え、命令して私たちに実行させる)



女友(裏で暗躍するのはもちろんのこと、男さんが持っている駒の内、魔導士の私は最強格の駒として戦闘にも参加させられる)



女友(王国の上層部はまあ世界征服なんて事を本気で考えている連中で腐っている人たちばかりでしたから、体制を破壊しても心こそ痛まなかったのは幸いでしょうか)



女友(そうして王国を制圧して少しは楽になるかと思えば、今度は内部の統治と外部への対応とさらに忙しくなって……もう本当に大変です)




女友(そんな折りに飛び込んできたのが、現在なされている帰還した秘書さんによる報告でした)



女友(数日前、王国の支配を完了する前から先を見越して男さんが女の動向を探るために、秘書さんに命令していたようです)



女友(古参会長がその場にやってきて、それ以上は嘘が露呈して調査の続行が不可能になると判断して帰還したようです)

女友(そのため報告されたものは対策会議における発言だけでしたが十分な収穫でした)



女友(男さんの言葉に惑わされていた女が、みんなの力も借りて前向きになり事態を解決しようとしている)

女友(久しく聞いていなかった親友の様子に、つい私は涙腺が緩みそうになりました)



秘書「報告は以上です。失礼します」



女友(さて報告を終えた秘書さんを下がらせて、謁見の間に残ったのは三人です)

女友(王座に座る男さん、その左に立つ私と、右に立つのは――)




女友「それにしても未だにあなたが殊勝に協力していることが信じられません」

近衛兵長「今さらだな。そろそろ信用してくれていると思ったが」



女友(王国のスパイにして、元独裁都市の近衛兵長です)

女友(聖騎士の職を持つ彼女は、強さこそ私と同等のためこうして並び立つのもおかしくはないと言えますが……)



女友「あなたは王国に忠誠を誓っていたじゃないですか」

女友「王国を転覆させた私たちに従っているのはおかしなことです。魅了スキルの命令でも心までは操れませんし」



近衛兵長「それなら簡単なことだ」

近衛兵長「私も終わってから気付いたが、忠誠を誓っていたのは王国というとてつもない力に対してだったようだ」

近衛兵長「ならばそれ以上の力を持つ新たな主に従うのは自明のこと」



女友(そんな理屈で近衛兵長は現在男さんに忠誠を誓っている)

女友(腹の内で本当はどのように思っているのかは分からないですけど)


女友(まあ今それは置いといていいでしょう)

女友(気にするべきは先ほどの報告。私たちへの対策会議とやらは、秘書さんによって一言一句逃さず報告されました)



女友(それは男さんが未だに女のことが好きであるだろうということ)

女友(女が告白の返事を聞くために魔王城に乗り込むという言葉もです)



女友「………………」



女友(あの日、『囁き』がかかってから男さんは己の感情を全く表に出すことが無くなりました)

女友(表情はいつも能面のように無で、口を開くのは命令をするときくらいです)



女友(とはいえ流石にこの報告を聞いて何も思わないはずがありません。私でさえ少し顔が赤くなりましたし)

女友(久しぶりに今までの男さんらしい様子が見れると期待して)






男「想定の範囲内だな」





女友(一言、つまらなさそうに言った男さんに裏切られました)





女友「…………っ!」



女友(どういうつもりですか!)

女友(反射的にかけようとした言葉が音になることはありませんでした)



女友(自由に動いているように見えて、私は今も魅了スキルの虜となった身)

女友(命令によって男さんの胸の内を問いただすことや説き伏せようとすることを禁じられています)

女友(命令までしてそんなに自分が言い負かされるのが怖いんですか…………という言葉を発することも、今の私には出来ないのです)




近衛兵長「あのとき戦った竜闘士か」



女友(近衛兵長は偽りの結婚式の際、助けに入った女と一戦交えています)





近衛兵長「個人としても伝説級の力を持つ竜闘士に、大陸最大の古参商会と着々と力を取り戻しつつある独裁都市のバックアップ」

近衛兵長「王国にとって最大の反抗勢力となると思うが、どうする我が主よ」





男「対処法は考えている。おまえが心配することじゃない」

近衛兵長「これは失礼、承知した」





女友(男さんの厳しい言葉にも近衛兵長は動じた様子はありません)






男「女……やはりおとなしくはしてくれないか」

男「まあいい布石は……秘書によって嘘の情報も流させた」





女友(男さんが漏らしたつぶやき)

女友(秘書さんに流させた嘘の情報……確かに報告された会議の様子で私も一つ気になるところがありましたが……しかしあんな嘘を吐かせて何になるというんでしょうか……?)




女友「………………」

女友(分かりませんが……私も覚悟を決めました)

女友(男さんに今まで協力していたのはもちろん命令で強制されていたというのもありますが、私が協力しなければ途中で死んでもおかしくないくらい無謀なことをしでかしていたからです)

女友(様子が違っていても仲間を、親友の好きな人を死なせるわけには行かせませんから)



女友(正直なことを言うと、現在の男さんの目的は分かりません)

女友(ただ宝玉を集めて元の世界に戻る……それだけで無いことは確かです)



女友(だって私たちの手元には今までの旅で集めてきた宝玉六個があります)

女友(元の世界に戻るためには八個必要なので残りは二個)



女友(それを集めるだけならこのように王国を支配するのは大がかりすぎます)

女友(適当に宝玉のある地を二つ訪れて、魅了スキルを駆使して宝玉を手に入れる方が楽です)



女友(ですからおそらく男さんは宝玉を八個以上手に入れたいのだと……それが私の読みです)






女友(その先に何を見ているのかは分かりませんがもう付き合いきれません)

女友(王国の支配も盤石となってきた今、私の協力ももう必要ないでしょう)





女友(ここから脱出して女たちと合流する)





女友(もちろんそのようなことは魅了スキルの命令で禁止されています)

女友(ですけどね、男さん。あなたの命令を一番聞いてきたのは誰だと思っているんですか?)



女友(何度も命令無視する姿を見せた私には警戒されて今まで以上に雁字搦めな命令をされていますが……)

女友(それでも抜け道はありますから)


女友(私が決意を新たにしていると男さんは次の事を考えていました)



男「もう一つ対処しないといけないことがある。復活派だ」

男「今朝各地に張り巡らさせた諜報員から、やつらと思しき二人組に宝玉を奪われたと報告があった」



女友「復活派……ですか?」



女友(私の口から純粋な疑問が漏れます)

女友(魔神復活派。その目的は名前の通り魔神の復活です)



女友魔神の固有スキルである『囁き』。男さん一人にかかっただけでこんな大惨事を引き起こして……いや、男さんだからこそとも言えますが……とにかく魔神が復活すればこれ以上の事態になることは容易に想像が付きます)



女友(しかし太古の昔に虚無の世界へと飛ばされた魔神を呼び戻すには宝玉が十二個も必要です)

女友(学術都市で駐留派に協力したことから、復活派の所持している宝玉は七個)



女友(新たに一個入手したところでまだ状況は変わらないはず)






男「やつらの最終目的は魔神復活。だが当面必要な宝玉は八個のはずだ」

女友「……え?」





女友(私の思考を読んだかのような男さんの言葉)

女友(どういうことでしょうか? 復活派も私たちと同じ八個必要?)



女友(宝玉八個で出来ることは指定した世界に多数の存在が通れるゲートを開くことです)

女友(そんなことをして復活派に何の得が…………)








女友「まさか……」



男「復活派の魔族。太古の昔、この世界に一人残った『魔族』で……別の世界にはやつと同じような『魔族』がたくさんいる」

男「それも種族特性として、各々が固有スキルを持っているわけだ」



女友「…………」



男「それらを呼び出して集団となりこの世界を蹂躙して、宝玉を奪い今度こそ魔神を復活させる。これが俺の読みだ」

男「いくら王国の勢力が巨大とはいえ、固有スキル持ちを複数人も相手にするのは面倒」

男「だから――俺が出る」






女友(私たち支配派のブレインであり、魅了スキルにより支配を維持する要)

女友(万が一でさえあってはならない存在。であるからこそ王国に侵攻して以来、男さんは裏方に徹してきました)



女友(そんな男さんが直接出るほどの事態)





男「近衛兵長、おまえと何人かを連れて護衛しろ」

近衛兵長「はっ!」





女友(近衛兵長は異を唱えることもなくその命令に従います)



女友(近衛兵長の名前だけが呼ばれたということは……私は留守番をしろということでしょうか?)

女友(まあトップが不在なのもマズいですし、せめて私を残しておくと)





女友(だとしたらこれはチャンスです)

女友(男さんがいない間に何としてでも命令を破って女たちと合流して――――)










男「ああそうだ。女友、おまえにも命令がある」



女友「……何ですか?」



男「おまえの手で女たちを潰せ」










 魔王君臨事件から数日。

 世界は落ち着くことなく、新たな騒動に巻き込まれていく。





続く。

次の更新もまた間が空くと思います。

乙!

乙ー

ご無沙汰しております。
期間が空いてきたので途中報告です。

最近リアルが忙しいのと、次が傭兵と魔族の過去編でぶつ切り投稿も良くないなーと書き溜めしている関係で投稿が滞っています。
もうしばらくお待ちくださいm(_ _)m

待っとるよー

待ってるぜ!

舞ってる

お久しぶりです。
長い間待たせて申し訳ありません。

投下します。






 復活派の魔族は思い返す。

 太古の昔の記憶を。





魔族(種族としての魔族は元々この世界の住人ではない。魔界と呼んでいる世界の住人だ)

魔族(なのにどうしてこの世界にいるのかというと、酔狂な人間により宝玉を使って呼び出されたのが始まりだったと聞いている)



魔族(その人間には復讐したい者がいたそうだ)

魔族(同じ町に住む者に恋人を奪われたとか、そんなどうでもいい理由らしい)

魔族(そのために固有スキルと強大な魔力を持つ魔族の集団を呼び出した)




魔族(復讐は成った)

魔族(町一つ、魔族を呼び出した者も含めて全て滅ぶという形で)



モブ魔族「ははっ、何だ! この人間とかいう弱っちい種族はよっ!」



魔族(人間と魔族の力には圧倒的な差があった)

魔族(後に魔神と呼ばれる存在と出会ったことを契機に、魔族は欲望のままにこの世界にて破壊の限りを尽くし始めた)

魔族(それを止める者はいない……と思われていた)



魔族(しかし、人間は後に女神と呼ばれる存在を中心に団結した)

魔族(人間にあって魔族にないアドバンテージ、数により魔族は徐々に劣勢に陥る)

魔族(そして奉っていた魔神様が人間たちに封印されたことで敗走する羽目となった)


モブ魔族「ちっ……人間どもめ……!」



魔族(木々生い茂る森の中を駆け抜けながら誰かが舌打ちした)

魔族(ここも既に包囲されている。生き残るための手段は一つだけ)

魔族(集めておいた宝玉8つを使い、ゲートを開いて魔界に戻ることだった)



魔族(しかし、そうなればこの世界に二度と戻ることは出来ない)

魔族(魔界は世界を渡る手段もないほどに荒廃した世界だったから)

魔族(もう一度この世界に召喚されるような偶然が起きるとも思えない)



魔族(この世界への未練と生存することが両天秤に乗る)

魔族(そしてまた生存することを選んだ場合にも一つ問題があった)

魔族(この数が通る場合、宝玉八つを使ったゲートの容量では足りない)

魔族(おそらく一人はこの世界に残らないといけなくなると)


魔族(ではその一人をどうするか? 争って誰か蹴落とすとでもいうのか)

魔族(危機が迫る中、内部分裂している場合じゃないと誰もが分かっているが解決策は出てこない)

魔族(緊張感を持ってそれぞれが迷う中、私は手を挙げた)



魔族「私がこの世界に残ります! そしていつの日か必ず姉様たちをこの世界に呼び戻します!」

姉魔族「そうか……おまえがいたか」



魔族(答えたのは姉様。この魔族集団のリーダーにして、血のつながりこそないものの私が姉のように慕っていた人)

魔族(偶然異世界召喚に巻き込まれて、右も左も分からない幼い私に色々と教えてくれた人)



魔族「私一人なら『変身』を使って人間に紛れてこの窮地も脱せるはずです!」

姉魔族「ああそうだな。何とも都合が良い。私たちの使命は分かっているな」

魔族「はい! 魔族の使命は世界滅亡です!」

姉魔族「…………ははっ、では頼んだぞ」


魔族(その後姉様たちはゲートを開き、魔界へと戻って行った)

魔族(私は変身を使い人間へと化けて包囲網を何とか脱出)

魔族(そこまでは上手く行って……そこからが大変だった)



魔族(魔神様を封印した集団が女神教なるものを興し、『災い』の驚異の伝承や宝玉の分割保管を進めたからだ)

魔族(伝承により魔族はどこに行っても警戒されて、分割により物理的に集めるのが難しくなった)



魔族(私は途方に暮れた。しかし、諦めるという選択肢は無かった)



魔族(姉様に教えられた魔族の使命『世界滅亡』を果たすためにも)

魔族(姉様の期待に応えるためにも)




魔族(だから『変身』を使って一つ一つ出来ることをやっていった)

魔族(女神教の信仰を落とすために高名な人に化けて不祥事を働き女神教の信仰を落として、『災い』も魔族の存在も何もかもが風化した現代)

魔族(ようやく宝玉の収集、本命に取りかかれると…………その思いが気の緩みを招いたのだろうか)





魔族(一年ほど前)

魔族(私は一人、王国領の森を駆けていた。追っ手から逃げるために)





魔族「マズったな……」

魔族(現代で動くに当たって避けられない相手。大陸最大勢力の王国)

魔族(その状況を見極めるために忍び込んで……予想以上の警戒により侵入がバレてしまった)


魔族(どんな看破スキルでも見破れない『変身』にも二つの弱点がある)

魔族(それは一回姿を変えるごとに魔力を多く消費すること)

魔族(もう一つは化けた姿のステータスそのものになることだ)



魔族(兵士の詰め所に侵入していた私はそこから脱出するために何度も変身を使ったため魔力がもう無くなっていて)

魔族(兵の油断を誘うために変身した村娘の姿から戻ることが出来なくなっていた)

魔族(運動能力が低く、このままでは追ってくる兵士に捕まってしまう)



兵士「見つけたぞ! 怪しいやつめ!!」

魔族(その懸念は現実となり、森の中で私は王国の兵士たちに囲まれてしまった)



兵士「ほ、本当にこの村娘が侵入者なのですか?」

兵長「警戒を怠るな! 姿を発見して以来、こやつは何度も姿を変えている! おそらく化け物の類だ!」

兵士「了解しました!」



魔族(日和った様子の兵士も兵長の檄に立て直す。どうやら演技をしても無駄だろう)


魔族(森の中、人間に囲まれる。太古の昔を思い出すシチュエーション)

魔族(しかし私は一人で、『変身』も通じないと来ている)



魔族(後少しだったが……ここまでか)

魔族(太古の昔生き延びてから、ずっと使命を『世界滅亡』を果たすことだけを考えてきた)

魔族(だが私の力ではあと一歩足りなかった)

魔族(仕方ない、諦めよう)





魔族「誰か……助けてください!!」





魔族(そう覚悟を決めていたから、次の瞬間発せられた言葉が自分の口からであることに気付くのに時間がかかった)



魔族(助けて……私はそう言ったのか?)

魔族(何とも往生際の悪い言葉だろうか)



魔族(私は魔族。この人間の世界における異分子)

魔族(世界全てが敵)

魔族(分かっていたから太古の昔よりずっと一人で活動してきたのだ)



魔族(だというのに……どうして助けを呼んだ?)

魔族(誰かが魔族の私を助けると思ったのか?)

魔族(私は……本当は誰かに助けてもらいたかったというのか?)




兵長「確保………………ぐはっ!!」



魔族(迷いを押しつぶすように兵長の号令によって兵士が私に殺到して…………次の瞬間その全てが吹き飛んだ)





魔族「え……?」

魔族(何が起きたのか分からなかった)

魔族(私が何かをしたわけではない。未だ魔力は枯渇し力の無い村娘の姿のまま無様に地べたに座り込んでいるだけだ)



魔族(だからそれを為した人間は空から降りてきた)



傭兵「助けるつもりは無かったのだが…………」



魔族(竜の翼をはためかせ着地する)

魔族(その姿には見覚えがあった)

魔族(人間社会の隅で生活する私でさえ存在を知るその人)

魔族(先の大戦を終結させた英雄)



傭兵「そうだな……大丈夫か?」



魔族(魔族の私に人間の手が差し伸べられる)



魔族(これが私と伝説の傭兵の初邂逅であった)


魔族(私と傭兵は更なる追っ手を警戒してすぐにその場を離れた)

魔族(落ち着ける場所にたどり着いたところで傭兵が口を開く)



傭兵「君はどうして兵士たちに襲われていた?」



魔族(当然の疑問であった)

魔族(それを予想して既に返答は考えてある)



魔族「それが……分からないんです。急に襲われて……」



魔族(私の現在の姿は普通の村娘である)

魔族(何か派手な言い訳をするよりも巻き込まれたとする方が信じられやすいだろう)


傭兵「……そうか」

魔族(傭兵は頷く。それが本心なのか、ポーズからなのかは表情から全く読みとれない)



魔族「………………」

魔族(一難去って、また一難といったところか)

魔族(未だ枯渇した魔力は回復しない。『変身』で元の姿に戻ることが出来ない以上、この戦闘力0の村娘の姿を続けるしかない)



魔族(だが魔族としての力を取り戻したとしても、目の前の男に敵うとは思えなかった)

魔族(伝説の傭兵……話には聞いていたが、実際相対してみると想像以上に凄まじい力を感じる)



魔族(だからといってすぐにこの男の側を離れるのも良くない)

魔族(この森には魔物が出るため今の状態で襲われてはひとたまりもないからだ)



魔族(魔力が回復するまでの間、この男に怪しまれないように過ごすしかない)

魔族(とにかく絶対に正体がバレてはいけない。魔族だと……世界の敵だとバレた瞬間、私はそこで終わりだ)


傭兵「ところで君はどこに住んでいるんだ?」

魔族「あ、えっと近くの村に住んで……といっても、逃げている間に森の深いところまで来てしまったんですけど……」

傭兵「そうだな……辺りが暗くなってきた。今日はこれ以上動くのは危険だろう」

傭兵「今夜は野宿して、明日の朝村まで送り届ける。それでいいか?」

魔族「助けてもらう立場で文句なんてありません」

傭兵「……分かった」



魔族(傭兵から渡りの船の提案。明日の朝なら魔力も回復しているだろう。となれば今夜凌ぎさえすればいい)



魔族(それから二人でたき火を囲み、傭兵の取り出した食料を分けてもらい夕食を取る)

魔族(意外というか傭兵はイメージとは違って、その間も黙ることなく私と会話を続けていた)


傭兵「そうだ、君は王国の司令について知っているか」

魔族「えっと軍のトップですよね?」

傭兵「ああ。私は大戦の時に王国に付いていたから彼を知っているんだが」

魔族「え、そうなんですか!? その勇ましさから民からも支持も高い有名人と!?」

傭兵「勇ましい……か」

魔族「違うんですか?」

傭兵「まああいつが絶対に話す訳ないか。初陣の時敵にビビって、小便を漏らしたことなんて」

魔族「ええー!? そんな一面があったんですか!?」



魔族(取り留めもない話題で盛り上がる)



魔族「………………」

魔族(一体何をしているんだろうか?)

魔族(内心で自問する)



魔族(自分の反応は考えてやっていることではない)

魔族(これまでも『変身』を駆使し人間社会に溶け込んでいた経験から、化けた姿でどう振る舞うべきかはもう骨身に染みついた動きだ)

魔族(バレたらマズい状況であるというのに、端から見れば楽しんでいるような状況に、一番歯噛みしたいのは自分自身である)


魔族「こんな私なんかの話を聞いて面白いんですか?」

魔族(会話が一段落したところで、私は自然とそんなことを聞いていた)

魔族(別に事情に踏み込みたい訳ではないが、逆に聞かなければ不自然といった雰囲気になってしまったからだ)



傭兵「……ああ」

魔族「どうしてですか?」

傭兵「そうだな……人と会話すること自体が久しぶりだからだろうか」

魔族「人と会話を……えっともしかして、大戦の後しばらく行方不明だったことと関係して……」

傭兵「………………」

魔族「あ、ごめんなさい」



魔族(傭兵は口を噤むが、実のところ噂レベルであれば話を聞いたことがある)

魔族(大戦を終えて王国から何らかの勧誘を受けた)

魔族(それを突っぱねた結果、故郷が報復として焼き落とされたと)

魔族(王国に目を付けられては表舞台に出るのも難しい)

魔族(またその知名度から正体がバレればすぐに騒ぎになる)



魔族(だから人目に付かないように細々と……大戦が終わって数年も経つのにその間もずっと……この男『も』一人で生きてきたのだろう)




魔族「………………」



魔族(だからどうした)

魔族(情に絆されるな)

魔族(仲間だと思うな)



魔族(私も彼も同じような境遇なのかもしれない)

魔族(だからといって手を取り合えるというわけではないのだ)

魔族(彼は人間で、私は魔族だ。種族の隔たりは厳として存在して、その正体がバレては排除されるに決まって――)




傭兵「さて……そろそろはっきりさせよう。君が姿を偽り何をしていたのかを」

魔族「……!?」



魔族(先ほどまでの雰囲気は霧散していた)

魔族(全てを見通すような視線が我が身に突き刺さる)

魔族(数多の戦場を制圧してきた英雄の油断も隙もない佇まい)



魔族「な、何を言っているんですか?」



魔族(そのプレッシャーに屈しそうになりながらも、どうにか言葉を絞り出す)


傭兵「勝手ながら『鑑定』スキルでステータスを確認させてもらった」

傭兵「何の変哲もない数値で……だからこそおかしい。君からは戦場の雰囲気が感じ取れる」



魔族「……そんな勘違いですよ! いやですねえ、傭兵さんも冗談が上手で……」



傭兵「とぼけ続けても構わない」

傭兵「世間は私を大戦を早期に終わらせた英雄、ともすれば聖人のように語るが……別にそのようなことはない」

傭兵「その活躍と比べて数は少ないだろうが……誰も殺さなかったわけではないからだ」



魔族「………………」



傭兵「元々君だって助けるつもりはなかった」

傭兵「今さらこんなことで王国を敵に回すなんて馬鹿げている」

傭兵「……白状しないならば、今からでも君を先ほどの兵士の詰め所に引き渡す」

傭兵「そこで君がどのような目に遭おうが私の知るところではない」


魔族(冷徹な宣告)

魔族(それには誇張も嘘も含まれておらず、言うとおりにしなければ実行するという確信を私に抱かせた)

魔族(故に私に出来るのは)



魔族「『変身』解除」



魔族(戻ってきた魔力を使いスキルを発動することだけだった)

魔族(元の魔族の姿に戻るが、これでまた魔力が空になったため魔法一つ使うことすら出来ない。無力なのは一緒のままだ)



傭兵「その姿……頭に生えた角は……」



魔族(呟く傭兵からは僅かに動揺が感じられた。失われた伝承にしかない魔族の姿を見たからだろうか9






魔族「『変身』を見破られたのは初めてのことだ」

魔族「流石は伝説の傭兵といったところか」

魔族「私は魔族。太古の昔より生き、この世界の滅亡を使命としている」






魔族「さあ、やるならさっさとやれ」



魔族(私は身体から力を抜き覚悟を決めた)

魔族(『変身』を見破られた時点で私は詰んでいたのだ)

魔族(正体を明かさねば怪しいやつだと誅され、明かせば魔族として人類の敵として殺される)

魔族(この男、伝説の傭兵に会った時点で運の尽きだった)



魔族(しかし)



傭兵「私の要求を聞いていなかったのか?」

魔族「は?」

傭兵「君がすることは覚悟する事ではない。何をしていたのか説明することだ」

魔族「……どうせ話した後で殺すつもりだろう。面倒だ」

傭兵「そうか……ならば話せば命の保証はしてやる」


魔族(傭兵からの提案)

魔族(真っ先に思ったのは『どうせ嘘だろう』だった)

魔族(だとしても1%でも可能性があるならば、私は諦めるわけには行かない)



魔族「話せばいいんだな?」

傭兵「ああ。言っておくが経緯・発端も含めてだ」

傭兵「そうだな、君が本当に伝承の魔族であるならば、太古の昔から現在に至るまでも語ってもらおうか」

魔族「……本気か? どれだけ長くなると思っている」

傭兵「本気だとも。幸いにもまだ夜は長い」



魔族(奇妙な話になった)

魔族(傭兵はどうして私の事情を聞きたがるのだろうか?)

魔族(分からないが……やると決めたことだ)



魔族「いいだろう、ならば『災い』から現在に至るまでを話してやる」






魔族(そのまま太古の昔からこれまでにやってきたこと、その果てにある使命『世界滅亡』についても伝説の傭兵に語った)



魔族(それは私にとって初めてのことだった)

魔族(使命のためにずっと前へ前へと進んできた私が過去を振り返ることも)

魔族(一人で世界相手に戦ってきた私が誰かに胸の内を打ち明けることも)

魔族(傭兵は時折相槌を打ちながら話を聞いていた)



魔族(全て話し終えたのは何時間も後、夜も終わりかけて、空が白み始めた頃だった)



傭兵「なるほどな」



魔族(傭兵は静かに頷く)


魔族「これで全てだ。満足したか?」

魔族(寝ずにずっと話していたのだ、流石に疲労感が漂う)

魔族(しかし、私の内にはそれ以上に充足感であった)



魔族(満足したというのか……どうして?)

魔族(ずっとずっと一人で戦ってきた。それが当然だった)

魔族(別に苦に思うことも無かった)

魔族(だが、それは錯覚で……本当はこの思いを誰かと分かち合いたかったのだろうか?)



魔族「………………」

魔族(駄目だ、調子が狂う)

魔族(何が悪いのか、目の前の男だ)



傭兵「ふむ……」

魔族(今を持って何を考えているのかよく分からない、この男のせいだ)


魔族「本当にここまで長話をさせおって……まあいい」

魔族「約束は果たした。これで命は保証されるんだろうな?」



魔族(やれやれと呆れた雰囲気を出しながら、実のところ傭兵の動きに意識を集中させていた)

魔族(話している間に魔力もある程度回復した)

魔族(万全には程遠い状態だが、どうせ万全でもこの男には敵わない以上関係ない)

魔族(約束を反故にしてこちらを襲う動きを見せたなら徹底的に抗うつもりだった)

魔族(逃げの一手に全力を注げばどうにか……)



傭兵「……ああ、そういえばそんな約束だったな」

傭兵「魔力も戻っただろうし、付近の魔物も一人で十分対処できるだろう」

傭兵「どこへでも行け」



魔族(だが、傭兵の反応は予測に無いもの)

魔族(上の空のまましっしっと追い払うように手を振ったのだ)


魔族「………………」

魔族(こちらの魔力の回復に気付いているほどだ。抜けているわけではない)

魔族(だったら何を考えて上の空なのか)

魔族(分からないが絶好のチャンスだ。この隙におさらばして――)



魔族「本当にいいのか?」

魔族(気付けば口が開いていた)



傭兵「……何が?」

魔族「私は使命を語った。世界を滅亡させると言ったのだぞ」

傭兵「…………」

魔族「ならばそれを防ぐことが普通だ。そのための力もおまえなら持っている。なのにどうして見逃す?」



魔族(余計なことを言った。なのに口は止まらない)

魔族(思い直してしまったら私は終わる。なのにどうして)


傭兵「そうだな……それが普通の反応なのだろう」

魔族「…………」



傭兵「だが生憎私は世界の行く末に興味など無い」

傭兵「……いや、それどころかこんな世界など滅んだ方がいいとも思っている」

傭兵「だから君のすることに口を出すつもりはない」

魔族「そうか」





傭兵「もっとも私一人程度に敵わないような者に世界を滅ぼせるのかは疑問だがな」

魔族「……はあ?」

魔族(奇特な人間だと思いながらも頷いていたら、付け足すように心外な発言が飛び出した)


傭兵「悪いことは言わない、使命など忘れて静かに生きた方がいいぞ」



魔族「馬鹿にするな! 世界滅亡は魔族の悲願だ!」

魔族「私はそのために今まで生きてきたんだ!! それを捨てろだと!?」



傭兵「ふむ。だが……いや、これも絶好の……そうか」

魔族(こちらを慈しむように、圧倒的上から目線のまま傭兵は)



傭兵「ならばその使命、私も手伝おう」

魔族「貴様、それは本気で言っているのか?」

傭兵「本気だとも」

魔族「今さっき使命を忘れろと言ったばかりだろうが」

傭兵「だが忘れるつもりはないのだろ? このまま死なれては寝覚めが悪い、それくらいなら私が側にいた方がいいという判断だ」

魔族「………………」

傭兵「安心しろ。協力する振りして邪魔をすることなどはしない。先ほど述べた世界など滅亡するべきだという言葉は本心だしな」



魔族「………………」

傭兵「………………」



魔族「嘘は吐いていないんだろう。……だが気に食わん、拒否する」

傭兵「残念だが私より弱い君に拒否権はない」

魔族「ちっ……」

傭兵「分かったな?」

魔族「……仕方がない。いいだろう、だが邪魔をしたら承知しないぞ」




魔族(それから私は傭兵と行動を共にした)

魔族(最初こそどういう意図か分からず警戒したが、傭兵に妨害の意志はなく、それどころか私の命令全てに従った)



傭兵『傭兵として主の命令に答えるのは当然だ』

魔族(とは傭兵の意見だが、いつの間に私が主になったというのか)

魔族(しかしながらやつがこちらを主として行動を続けた結果、こっちも主として振る舞うようになってしまった)



魔族(宝玉集めは順調だった)

魔族(最強の武力による力押しと『変身』による搦め手)

魔族(女神教の教えも絶えて邪魔をする者も……いなかったのは最初だけで、途中から女神の遣いを称する召喚者に邪魔されることとなったが……)



魔族(それでも使命達成のための第一段階には到達した)


<現在>

魔族(帰還派の一人、あの忌々しい女神の力『魅了』を継いだ少年による王国の乗っ取り)

魔族(それによって大陸全土が混乱する最中を狙い手に入れたもの)



魔族「これで宝玉も八個目だ」

魔族(人里から離れた場所にある洞窟。今回の行動の拠点としていたその場所まで戻り戦果を確認していた)



傭兵「今回は拍子抜けするほど楽だったな、魔族」

魔族「ああ。これもあの少年が起こした騒ぎのおかげだ。敵である私たちに利してしまったとは思ってもいまい」

傭兵「…………」

魔族「どうした、傭兵」



傭兵「いや、どうして少年が今回のような行動を取ったのか気になってだな」

魔族「そういえば学術都市では接触して直接やりとりしたと言っていたな」

傭兵「こんな大それたことをするとも出来るとも思え…………いや、力だけならば可能か」

魔族「そうだな。話によると王国を陥落させたのもあの『魅了』の力を駆使してとのことだ」

傭兵「ならばその精神に何らかの…………」

魔族「気にしても仕方あるまい。それよりも今回の収穫の方が大事だ」


魔族(改めて宝玉を眺める)

魔族(魔神様を復活させるためには12個必要)

魔族(そのため他の勢力は私たちが12個集めようとしているという勘違いの隙を狙っていた)

魔族(八個。これだけあればかなりの規模のゲートを開くことが出来る)

魔族(姉様たち全員を呼び戻すことも可能なはずだ)



傭兵「早速呼び出すのか?」

魔族(傭兵が問う)

魔族(当然ながら傭兵も姉様たちを呼び出す計画のことは知っている)



魔族「『災い』の起きた太古の昔より幾久しい時が経った。これ以上待たせるのも忍びないだろう」

傭兵「そうか……予定外だったが事が楽に運んだおかげで力も存分に残している。いいだろう」

魔族「……?」



魔族(力を残す……? 傭兵が何を懸念しているのかは分からないが……まあいい)

魔族(この男は時折私にも分からない振る舞いを見せる)

魔族(そのときに限ってはいくら命令をしてもその意図を明かしたりしない)

魔族(つまり気にしてもキリがないだけだ)


魔族(洞窟の奥、だだ広い空間に場所を移す)

魔族(これから姉様たちが出てきても大丈夫なスペースを確保してから作業に取りかかる)

魔族(宝玉八個を一カ所にまとめると中の魔法陣の輝きを増し始める)

魔族(それに手を置いてイメージする)

魔族(繋ぐべき世界、呼び出す者)

魔族(そして――)



魔族「ゲート開放!!」



魔族(その宣言した瞬間、薄暗かった洞窟内が目映い光で溢れた)

魔族(目を閉じるだけでは足りずに顔を伏せて光をやり過ごす)

魔族(凄まじい魔力の奔流が収まると共に、明るさも落ち着き始める)


魔族(目を開けて最初に目に入ったのは力を失った宝玉だった)

魔族(中の魔法陣が消えて、ただの青い宝石のような見た目になっている)

魔族(徐々に目線を上げて、そこにいたのは)



魔族「姉様……」



魔族(太古の昔に離ればなれとなったとき以来だが、そのときと姿は全く変わらなかった)

魔族(魔族の証としての巻き角、褐色の肌。私よりずっと自身に満ちあふれている顔つきの姉様)

魔族(他にも男性と女性が半々の魔族十数人、あの日ゲートの向こう側へと消えていったその全員を呼び戻すことに成功した)

魔族(その一人一人が最強級の使い手である。これだけの戦力があれば人間たち相手に力押しする選択肢を取ることも可能だろう)





姉魔族「これは……ん?」

魔族(突然召喚されたことに状況がつかめない様子だった姉様がようやくこちらに気付いた)





魔族「………………」

魔族(何と言われるだろうか?)

魔族(姉様に教えてもらった使命を果たすためこれまで頑張ってきたことを賞賛されるか)

魔族(それとも呼び戻すのに時間がかかったことを叱責されるだろうか)

魔族(気にすることなく、魔神を呼び戻すための行動に移るように言われるか)



魔族(何が来てもいいように私は心を構えて――)






姉魔族「は? おまえまだ生きていたの?」



魔族「………………え?」





続く。

次こそ早めに投下したいです。

乙ー

乙!

お久しぶりです。
本当に遅くなって申し訳ありません。

投下します。




姉魔族『は? おまえまだ生きていたの?』



魔族(太古の昔より再会した姉様は心底から呆気に取られた表情でその言葉を放った)



魔族『………………え?』



魔族(予想もしていなかった言葉に私の思考もフリーズする)





チャラ魔族「ん、どしたん? って、そいつは……」

魔族(姉様と同じく召喚された、一人の魔族の男が姉様に声をかける)



姉魔族「ねえ、聞いて聞いて! あの子が生き残っていたみたいなのよ!」

チャラ魔族「え、マジ!? ていうか置き去りにしたのいつだって言うんだよ!」

姉魔族「私だって分かんないってば! いやもう本当生きて、しかも私たちを呼び戻すとかさ……」

チャラ魔族「じゃああのとき本気で言ってたってわけ!?」



魔族(ゲラゲラと笑いながら交わされる言葉)

魔族(意味が、全く、分からない)


魔族「ね、姉様……」



魔族(声が震える)

魔族(どうして笑われているのか?)

魔族(思考の焦点が定まらない)

魔族(それでもどうにか振り絞って言葉を紡ぐ)



魔族「わ、私はやり遂げました。ね、姉様たちを呼び戻しました」

魔族「こ、これから使命を果たすためにどう動いていくか、き、教示してください」



魔族(膝を付き、首を垂れて姉様の指示を待つ)

魔族(姉様はいきなりの出来事に混乱しているだけ。すぐに状況を理解してくれるはず)

魔族(そして使命を果たすために必要なことを、あの頃のように私に教えて――)




姉魔族「……? えっと使命ってなんだっけ?」

魔族「冗談はよしてください! 使命『世界滅亡』は姉様が私に言ったことです!!」

姉魔族「あー……そういえばそんなことも吹き込んだんだっけ? うわあ、懐かしー」

魔族「……っ!?」



魔族(あっけらかんと放たれた姉様の言葉に私の思考はフリーズする)





チャラ魔族「世界滅亡? 何言ってんの?」

姉魔族「いやね、こいつがさ、前の召喚の時右も左も分からない年頃だったのよ」

姉魔族「それで私がリーダーとして面倒見てたんだけど、ただお守りするのもつまんなかったからさ」

姉魔族「魔族の使命は『世界滅亡』だって吹き込んだらまるっと信じちゃったのよ」

チャラ魔族「何だよ、それ。めっちゃ面白いじゃん」

姉魔族「本当にね。ずっとそんなこと信じてたなんて……ぷっ!」




魔族「姉様……」

魔族(私はその場にへたり込む)



魔族(ガラガラと何かが崩れ落ちる音がする)

魔族(崩れ落ちるのは私という存在の根底)

魔族(太古の昔からずっとずっと使命を果たすために生きてきた)

魔族(その使命が空虚であったと知って……私はどうすればいいというのか)




姉魔族「ところで気になってたけど、その隣のイケメンは誰なん? めっちゃタイプなんだけど」

チャラ魔族「でもそいつと行動一緒にしてたって事は、それなりの仲なんじゃねえの?」



姉魔族「……ねえ、そんなやつ捨てて私の物にならない? こう見えて私結構尽くすほうよ?」

チャラ魔族「いや、一目惚れすぎない? 俺は、俺はどうなの?」

姉魔族「鏡を見て出直してきな」

チャラ魔族「酷くね?」



魔族(二人の会話にハッとなる)

魔族(傭兵は今どのような表情をして、どのような胸中なのだろうか)

魔族(隣にいるのだ。ならばそちらの方を向けばいい。なのに怖くて見れない)



魔族(……いや、そんなこと気にしてどうする)

魔族(出会ったときから得体の知れないやつだった)

魔族(『世界滅亡』を聞いても有無を言わさず勝手に付いてきた男)

魔族(これで離れられるならせいせいして――)


魔族「………………」



魔族(私が使命を唯一打ち明けた人)

魔族(使命のために。そう言って協力してくれるのが嬉しかった)

魔族(だが……その使命が空虚であると分かった今……彼が私と一緒にいる意味は失われて)



魔族「傭兵……」

魔族(焦がれるようにその名前を呼びながら、隣に立つその人を見上げる)



傭兵「はぁ……」



魔族(姉様たち、そして私。全員の注目を浴びる中、傭兵は一つため息を吐いてから)




傭兵「言っておくが……私の使命は『世界滅亡』などではない」



魔族「……。……?」



魔族(私と手を切る前の最後の言葉……だと思ったが、よく考えてみるとそうではないようだ)

魔族(すぐにはその言葉の真意を測ることが出来ない)



傭兵「勘違いされてることは分かっていた。そちらの方が都合が良いから訂正してこなかったが……」

魔族「っ、だったら傭兵! おまえの使命とは一体……」



魔族(すがりつくように問いかける私に、傭兵はこの期に及んでマイペースで話し始める)




傭兵「私たちが初めて出会った日のことを覚えているか?」

魔族「……は?」



傭兵「君は力のない村娘の姿で王国の兵士から逃げていたな」

傭兵「私には力がある、助けることは容易だ」

傭兵「だが王国に目を付けられることは避けたかった」

傭兵「それに王国ではあのような事は日常茶飯事だ」

傭兵「だからそれまでと同様にあの日も心を殺してスルーしようとして……君の助けを呼ぶ声が聞こえた」



魔族「…………」



傭兵「それがそっくりだった。私の妹に。気が付いたら体が動いていた」




魔族「あの村娘の姿が……? だがあれは私の『変身』の一つ……ただの偶然で……」



傭兵「ああ。その後話す内に君が姿を偽っていることを暴き素の君と相対して……」

傭兵「ますます妹にそっくりだと思った」

傭兵「妙に勝ち気な態度、一度言ったことは曲げない頑固さ……本当に生まれ変わりかと思った」



魔族「……そうか」



傭兵「あの日ケンカをしたまま王国に赴き、私があいつに謝る機会は永遠に失われた」

傭兵「ずっと、ずっとそう思っていた」

傭兵「だが、ここに妹そっくりの世界相手に一人で奮闘している者がいて」

傭兵「チャンスだと思った。罪滅ぼしをする」



魔族「…………」




傭兵「死者に生者を重ね合わせて……妹にも、君にも失礼なのかもしれない」

傭兵「だが不器用な私にはこんな方法しか思いつかなかった」





傭兵「私の使命は――魔族、君の望むことを何でも叶えることだ」





傭兵「教えられた使命が虚構だと分かった今、君はどうしたいんだ?」

傭兵「君自身が考えるんだ。何でもいい――」

傭兵「それこそ、酷い裏切りにあってもなお『世界滅亡』を成し遂げたいというなら私はお供しよう」



魔族「私は……」

傭兵「…………」

魔族「私は……私は……っ!!」

傭兵「何だ?」




魔族「……分からない。ずっとずっと信じていたことが崩れ去って……」

魔族「何をしていいのか、今すぐには分からない」

魔族「だから…………一人でゆっくり考えさせてほしい」





傭兵「『一人でゆっくり考えさせてほしい』……か。承った、我が主よ」





魔族(へたり込む私の頭の上にポンと手を載せて、傭兵は正面の姉様たちを見据える)






傭兵「ならば、こいつらは邪魔だな」



姉魔族「ちっ……何勝手に美談を繰り広げてやがるのよ」



傭兵「姉様……といったか。悪いがそういうことだから君の物になることは出来ない。断らせてもらおう」

姉魔族「律儀か。うっせえな」




チャラ魔族「あはははっ! すげえ、やっべえ! あれだけ上から言ってて、フられてやがんの!」

姉魔族「……はぁ? おまえ、今何て言った?」



魔族(姉様がギロリとそちらを睨む)



チャラ魔族「え、あ、いや、やばっ……」

姉魔族「私さ、人に笑われるのが一番嫌いって言ったよね?」

チャラ魔族「そ、それは……」



姉魔族「『規律(ルール)』発動。自殺しろ」

チャラ魔族「ちょ、ちょっとマジでそれは――――」





魔族(『規律(ルール)』)

魔族(姉様が持つ固有スキル)

魔族(チャラ魔族は顔面蒼白になりながら手のひらを自分の顔に押し当てて魔法を発動)



魔族(ボシュ! と顔から上が消し飛んだ)


魔族「ひっ……」

魔族(魔族の世界は荒廃している。そのため弱肉強食で資源を、食べ物を、命を奪い合う)

魔族(戯れで命が奪われる……よくあることだったのに……人間の世界に慣れきった私は情けない声を上げてしまった)



姉魔族「あーもうムカつく、ムカつく、ムカつく……」



魔族(姉様は一つの命を、それも味方の命を奪ったことから既に関心が失われている)

魔族(その頭の内を占めるのは自身の不快感だけのようだ)





姉魔族「私の物を奪うやつはいらない。私の物にならないやつもいらない」

姉魔族「『規律(ルール)』発動。おまえら、あの二人を襲え!」





魔族(その感情の矛先が私と傭兵に向く)

魔族(味方にするべく召喚したその力が、そのまま反転して強大な敵へと変わる)




傭兵「ふっ、全く舐められたものだ」



魔族(だが本当に頼れる味方……傭兵は珍しく不敵に笑う)



姉魔族「何がおかしいのよ。それとも戦力差に笑うしかなくなったってわけ?」



傭兵「おまえらはこの世界に来たばかりだから知らないのか」

傭兵「自ら名乗るのも面映ゆいが言っておく」



傭兵「私は先の大戦を終わらせたこの世界の英雄、伝説の傭兵」

傭兵「おまえらのような力に酔ったゴロツキに負けたりはしない」



姉魔族「うっざ、ほざいとけ」








姉魔族「『規律(ルール)』更新。塵も残すな!」



傭兵「『竜の翼(ドラゴンウィング)』」





魔族「てっ、なっ、傭兵! 下ろせ! 私は自分の魔法で飛べる!」

魔族(私を抱えて飛んだ傭兵に抗議する)



傭兵「静かにしていろ。それよりも自分が何をしたいのか考えておけ」

魔族「……だが私を抱えたままで戦えるのか?」

傭兵「気にするな、私を誰だと思っている」

魔族「そうだな……余計な心配だった」



魔族(そして始まる激しい戦闘)

魔族(だが私は力強く支えるその腕に全てを委ね、安心感すら持ってこれからどうするべきかを考えるのだった)


続く。

明日も更新します。

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


傭兵(戦況を分析する)

傭兵(種族としての魔族は生まれつき魔力が強く、戦闘力が高い)

傭兵(一人一人の力はあの少年や竜闘士の少女の傍らにいた『魔導士』の少女と同じ程度、最強級といったところか)

傭兵(伝説級と分類される竜闘士の相手ではない)



傭兵(だが、それはもちろん一対一に限った話)



姉魔族「行けっ!」

傭兵(号令に従い四方八方から襲いかかってくるのは十数を越える)

傭兵(これだけの数に囲まれてはひとたまりもない)



傭兵(ならばどうするべきか)

傭兵(既にここは戦場。その渡り歩き方において、私の右に出る者はいない)


傭兵「はっ……!」

傭兵(私はそれらに取り合わず引いた)

傭兵(この地で動くための拠点としていた洞窟。その中は戦場として狭すぎる)

傭兵(包囲されることを避けるために、広く使える場所に出ないといけない)



姉魔族「あれだけ威勢の良いことを言っておいて逃げるつもりなの!? まあ、逃がさないけどね!」



傭兵(当然敵も追ってくるが、こちらの方が洞窟の出口に近い)

傭兵(そのような配置になるように、召喚前から気を付けていた)


傭兵「………………」

傭兵(最初からこの結末は分かっていた)

傭兵(私は魔族がこの世に来てからの話を聞いている)

傭兵(その時点で偽物の使命に取り憑かれた洗脳状態であることに気付いた)



傭兵(なぜ使命を果たさないといけないのかと聞いても、使命だから果たさないといけないと答えるばかり)

傭兵(そんな使命止めた方がいいんじゃないかと聞いても、どうして使命を止めないといけないのかと答えるばかり)



傭兵(重度の洗脳に陥っている者に外から働きかけることは難しい)

傭兵(却ってその支配を強固にしてしまう可能性があった)



傭兵(必要なのは自分から気付くこと)

傭兵(故に私は決別することを分かっていながら、召喚することを見守った)

傭兵(その結果は半分の成功といったところだろう)



傭兵(魔族は自身の呪縛を解こうとしている。だが呪縛がまだ残っていることも事実だ)

傭兵(揺れる心を定めるその時間を確保するのが私の仕事)


モブ魔族「ちっ……出口か!」



傭兵(ようやく洞窟の出口が見えてきた。差し込む光めがけて私はスピードを落とさず進む)



モブ魔族「逃がすか!」

傭兵(どうやら洞窟内の方が地の利があると判断する程度の頭はあるようだ)

傭兵(決死で逃走を阻もうと一人が突出してきて)





傭兵「ああ、逃げないとも」

モブ魔族「っ……!?」

傭兵「『竜の拳(ドラゴンナックル)』」

モブ魔族「ぐはっ……!!」



傭兵(私は突如反転。近づいてくる魔族相手にカウンターの要領で拳を放った)

傭兵(冗談のような勢いで吹き飛んでいく姿に、他の敵も思わずその場に制止する)




傭兵「この場所が一番いいからな」



傭兵(洞窟の出口近くは狭く、人一人がようやく通れるような場所だ)

傭兵(ここに陣取れば敵は一人ずつしか私を襲うことは出来ない)

傭兵(一対複数ではなく、一対一が複数回になる)

傭兵(そして一対一ならば、何回連続しようとも私は負けるつもりはない)



姉魔族「へえ……中々考えてんじゃないの」



傭兵(先行していた味方に追いついた姉様とやら魔族が、状況を見て一言呟く)

傭兵(彼女が『規律(ルール)』とやら固有スキルで全体を指揮する将だろう。どのような指揮を執るというのか)




姉魔族「言っとくけど、もう対処はしてるわよ。やりなさい……!」



傭兵(彼女の命令と共に――背後から襲われる)



傭兵「なっ……!」

傭兵(驚きながらも戦場に絶対が無いことを知っている体が反応した。間一髪で避けるが……これは)



姉魔族「固有スキル『跳躍(テレポート)』よ」

姉魔族「忘れたの? 私たちは魔族。一人一人がそれぞれ違う固有スキルの使い手よ」



傭兵「……なるほど、それで洞窟の外に出て。……ならばこの位置に陣取る意味もないな」



傭兵(背後を取られるならばこの作戦は無効。すぐに破棄を選択する)

傭兵(刻一刻と状況の変わる戦場において、一つの戦法に固執することは死を招く)


傭兵(洞窟の出口から外に、そして振り返り)



傭兵「『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』」



傭兵(今し方出てきた場所に向かって衝撃波を放った)

傭兵(未だ洞窟内に敵はいる。洞窟を崩壊させて生き埋めにすれば少しは時間を稼げるはず)

傭兵(出口の破壊が洞窟中に連鎖して行って――)





姉魔族「『規律(ルール)』更新。『防護(プロテクト)』で洞窟の崩壊を守りなさい」





傭兵(新たな指示、新たな固有スキル)

傭兵(洞窟の崩落が止まったのを見た瞬間、私は森の中へと飛び込む)

傭兵(姿を隠しヒットアンドアウェイ、あるいは隙を見て逃走することを狙って――)





姉魔族「『規律(ルール)』更新。『印(マーク)』で敵の位置を示して」





傭兵(光の糸が私の腕に絡みつく。それ自体に攻撃力は無いようだが、辿ればこちらの位置がはっきりと分かる)

傭兵(隠れても無駄だと悟り高く飛び上がって)





姉魔族「『予測(フューチャー)』の読み通りね。『規律(ルール)』更新。取り囲みなさい」

傭兵(行動が読まれていたようだ)

傭兵(飛び上がったところで四方八方を取り囲まれる)




傭兵「固有スキル……本当にでたらめな力だな」

傭兵「……だが、それを最大限に発揮出来るのも束ねる者がいてこそか」



姉魔族「あら、お褒めに与り光栄だわ。もっとも手を緩めるつもりはないけれど」



傭兵(それぞれの固有スキルも強力だが、そのタイミングを『規律(ルール)』で管理する姉様……敵軍の将が優秀だ)

傭兵(思えば太古の昔この世界は滅びかけた)

傭兵(しかし使命『世界滅亡』は虚構の物)

傭兵(故にこいつらが好き勝手したその余波で滅びかけたということが真相なのだろう)



傭兵(だが本当に好き勝手するだけの集団ならば、団結した人間の敵ではないはず)

傭兵(おそらくこいつが、太古の昔も『規律(ルール)』でまとめ上げて、対抗するべき時は対抗したという事だろう)




姉魔族「さて最後の通告よ。魔族、今なら許して上げる」

姉魔族「私たちの仲間に戻るって言うなら、その命を保証して上げてもいいのよ」



傭兵(完全に優位に立ったと確信した姉様が私の腕の中の魔族に呼びかける)



魔族「傭兵」

傭兵「そうか」



傭兵(その声で全て察した私は魔族を下ろす)

傭兵(魔族は魔法を発動して、中空に自らの足で立った)


魔族「姉様。私、考えてみたんです。その結果、姉様には感謝しかないことを理解しました」

姉魔族「へえ、分かってるじゃない」



魔族「この世界に呼び出されて右も左も分からない私に色々と教えてくださりありがとうございました」

魔族「『世界滅亡』という偽物の使命についても、振り返ってみればそれがあったこそここまで長い間頑張る原動力になったと思います」

姉魔族「最初からそのつもりだったのよ。よく分かったわね」



魔族「今までありがとうございました。……でもここからは私一人で歩いていけます」

姉魔族「……は?」



魔族「未だに今後どうするかは思いつきませんが、少なくとも姉様の言葉に縛られて生きるのは止めようと思います」



傭兵(魔族は軽く頭を下げた。決別の意味を込めて)


傭兵「………………」

傭兵(仲間になる。そう言えばこの場は見逃す)

傭兵(これが姉様とやらの罠だったのだろう)



傭兵(固有スキル『規律(ルール)』)

傭兵(最初見せたように、自殺すら強制させるその力)

傭兵(ならば浮かび上がる当然の疑問)

傭兵(どうして私たちに直接命令しないのか?)



傭兵(おそらくしないのではなく、出来ないのだろう)

傭兵(ルールとは同じ共同体を縛るためのもの)

傭兵(やつの強制力は味方にしか発揮することが出来ない)

傭兵(だからもし味方になると宣言した瞬間『規律(ルール)』により魔族は操られただろう)



傭兵(だが魔族はその手を拒んだ)

傭兵(呪縛を完全にはねのけた)

傭兵(魔族はもう一人でも生きていける)




傭兵「そうか……」



傭兵(感慨深くなるが……ここは戦場。浸っている暇はない)

傭兵(さて、最期の仕事だ)



傭兵(敵に完全に囲まれたこの状況)

傭兵(正直に言って部が悪い)

傭兵(今まで見た固有スキルも五個ほど。敵の数は十数いて、その数だけ固有スキルが存在する)

傭兵(まだ見ぬ力に対処しながら、戦えると奢るつもりはない)



傭兵(だからせめて)

傭兵(魔族だけでもこの戦場から逃がす)



傭兵(誰がどの固有スキルを使用したのかは把握している)

傭兵(狙うは『印(マーク)』の使い手だ)

傭兵(あれに残られてはどこまで逃げても尾けられる可能性が残る)

傭兵(戦闘用の固有スキルでも無いことも鑑みて、この選択がベストで……)




魔族「傭兵、私一人だけでも逃がそう……などと考えてはいないよな?」

傭兵「……いえ、そのようなことは」



魔族「おまえほどのやつでも、図星を突かれると言葉に詰まるんだな」

傭兵「どうして分かった?」

魔族「何となくだ。捉えどころがないと言っても、流石にこれだけ一緒にいればな」

傭兵「………………」



魔族「私がいつそのような命令をした?」

傭兵「……自分の判断だ」

魔族「なるほどな。私が一人で歩いていけると言ったからか」

傭兵「………………」




魔族「語弊があったな。私は一人では生きていけない」

魔族「姉様の言葉に、掲げた使命に依存してきて生きてきたように……何かに支えられないと生きていけないんだ」

魔族「姉様にはもう付いていきたくない。傭兵、おまえと共に歩いていきたい」

魔族「別に利用してくれても良い。私が勝手に断言する、おまえが私に尽くせば、妹に対しての罪滅ぼしになると」



傭兵「魔族……」



魔族「分かったら命令だ。この場を二人揃って切り抜けろ。私の傭兵ならば叶えて見せろ」

傭兵「……承知した、我が主よ」



傭兵(臨戦態勢に入る私の背中にこつんと魔族の背中がぶつかる)

傭兵(背中合わせで360度対応出来る)



傭兵(数多の戦場を渡り歩いてきた私は判断する)

傭兵(これは完璧な布陣だと)




姉魔族「……はぁ、残念ね。最後のチャンスだったのに。仲間になるって言ってくれたら……楽に殺して上げるつもりだったのに」



傭兵(姉様とやらはため息を吐いて呆れている)



姉魔族「私、壊れたおもちゃには興味ないのよね」

姉魔族「ていうか何、背中合わせになって? 二人で本当にこの状況をどうにか出来ると思っているわけ?」

姉魔族「ここまで対峙してそっちの男が凄まじい力を持っているのは分かったけど、魔族の方が完全に穴じゃない」



傭兵「おまえの目は節穴だな」



姉魔族「……それが最期の言葉? いいわよ、だったらお望み通り殺して上げる」




傭兵(そして姉様は上げた手を振り下ろしながら)



姉魔族「『規律(ルール)』更新!! 全員突撃!! 固有スキルもフル解放してこいつらを殺しなさい!!」



傭兵(包囲していた敵たちが突っ込んでくる)

傭兵(戦闘に有用な固有スキル持ちはそれを発動しながら、そうでないなら魔法を発動しながら)

傭兵(迫り来る猛威。対峙出来るのは背中にいる存在のおかげだ)



傭兵「魔族」

魔族「傭兵」



傭兵(そして始まろうとした絶望の戦場を――――)












傭兵(ピンク色の光が全てを包み込んだ)










傭兵「なっ」

魔族「これは……!」



傭兵(見覚えのある色)

傭兵(そのスキルの特性は知っている)

傭兵(上か、下か)

傭兵(素早く確認して……上から降りて来る乱入者を発見した)





姉魔族「っ、何が……!」





傭兵(想定外の出来事に敵の将、姉様は付いていけないようだ)

傭兵(包囲する魔族たちの行動も停止する中、乱入者は一言)






男「男性が半分……か。全てを戦力としていただけるなんて、ムシの良い話はないか」





傭兵(王国を転覆させ、支配した魔王)

傭兵(少年がそこにはいた)

続く。

次で復活派パート終わります。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


傭兵(現れた第三勢力)

傭兵(数人の護衛を付けた少年、男は上空から降りてきた)

傭兵(少年に魔法の心得は初歩的な物しかなかったはずだが……どうやら護衛の一人の魔法によって浮いているのだろう)



傭兵(この場所にいるのはおそらく宝玉が盗まれた報告からだろう)

傭兵(王国を支配したなら、各地に監視の目を敷くのも容易だ)

傭兵(私たちが宝玉を使い召喚することはバレていて対応するために現れた、と)



傭兵(そしてピンクの光、魅了スキルを私たちを囲んでいた魔族相手に発動した)

傭兵(ならばこれから起きるのは――)





姉魔族「何よいきなり現れて上から目線で……誰だか知らないけど、そういうのムカつくのよね」





傭兵(この世界に召喚されたばかりの姉様は情勢など知る由もない)

傭兵(目の前にいる少年が大陸最大勢力の王国を転覆させ、魔王と呼ばれ民から恐怖されている存在であるという事も)

傭兵(その身に宿る力の事も)






姉魔族「『規律(ルール)』更新。そこの乱入者もまとめて殺し尽くせ!!」

男「命令だ。招かれざる者ども、味方同士殺し合え」





傭兵(姉様と少年、異なる力を源泉とする二人の命令が同時に為される)

傭兵(結果起きた光景は……)





姉魔族「なっ、おまえたちどうした!? 何をやっている!!」

姉魔族「『規律(ルール)』更新、同士討ちを止めろ! ……どうして聞かない!!」



傭兵(虜となった魔族の女性たちが、男性の魔族を攻撃する)

傭兵(どうやら『規律(ルール)』でもその行動を止めることは出来ないようだ)

傭兵(予期せぬ出来事に姉様は混乱している)




男「支配型の固有スキル『規律(ルール)』か……」

男「馬鹿だな。当然のことだ、ルールで愛が縛られてたまるか」



姉魔族「私の『規律(ルール)』を上書きしただと……っ!?」

姉魔族「そんなのが、そんなのがあってたまるか!!」





傭兵「優秀ではあるが……二流止まりの将か」

傭兵(一流ならばどのような出来事が起きても対応できる)

傭兵(今だって『規律(ルール)』が男性には効くことに気付いて、まとめ上げれば対抗できただろう)

傭兵(だがやつは自分の『規律(ルール)』が絶対だと思っていた。それが崩れて取り乱すことしかできない)




姉魔族「あり得ない、あり得るはずがない!」

男「まだうるさく喚くのか」



傭兵(少年はそんな姉様の前まで赴く)



姉魔族「おまえたち、一体何なんだ!!」

男「一人だけ魅了スキルの範囲外にいたみたいだな」



姉魔族「く、来るな!!」

男「あっちの同士討ちの戦況も拮抗している」



姉魔族「折角召喚されたんだ! 今度こそ私はこの世界で思うがままに生きる!」

男「この場で召喚された者たちを全滅させる、そのためにもおまえは――」



姉魔族「欲しい物全てを手に入れて、逆らう者を全て殺して……この世界を支配して……!!」






男「魅了、発動」

姉魔族「…………あっ」



傭兵(姉様は虜となる。こうなってはおしまいだろう)





男「命令だ、一人で死んでおけ」

姉魔族「はい!」





傭兵(虜となった者への命令は絶対)

傭兵(姉様は宙に浮かぶための魔法を切って……地上へと真っ逆様に落下していった)




傭兵(そうして私たちと少年は空中にて対峙する)



男「お久しぶりです、傭兵さん。あと魔族さんも」

傭兵(少年は以前に会ったときと同じような態度で、軽く私たちに挨拶した)



傭兵「変わったな」

男「……よく言われます」



傭兵(少しバツが悪そうにする少年)

傭兵(その態度にはやはり変わりがない)



傭兵(直前に召喚された者同士を殺し合わせて、姉様に自殺を強要したその姿を見ていなければ、異常だとは感じなかっただろう)




近衛兵長「ところであいつらはおまえら味方じゃなかったのか?」



傭兵(少年の傍らに控える女騎士――魔族の情報にあったな、元王国のスパイである近衛兵長か――が問いかける)



傭兵「やつらとは袂を分かれた。正直危ないところだった、救援感謝する」

近衛兵長「別にそのつもりはない。王国としてもあいつらに好き勝手されると面倒だったからな」



傭兵(近衛兵長が述べる言葉には本当に邪魔だったから排除したという以上の意味は無さそうだ)

傭兵(だとしたら次に排除されるのは)




男「近衛兵長、止まれ」



傭兵(剣に手を伸ばそうとした近衛兵長を、少年は制止する)



近衛兵長「どうしてだ、我が主よ? 竜闘士と『変身』の魔族。ここで排除するつもりで赴いたのだろう? それだけの戦力は準備して……」

男「勝手に俺のことを分かったつもりか? 命令しないと分からないのか?」

近衛兵長「……失礼した、出過ぎた真似お詫びする」



傭兵(近衛兵長は手を戻して引っ込む)


傭兵「どういうつもりだ、少年?」



傭兵(少年は権力などを求める性格ではなかったはずだ)

傭兵(だとすると王国を支配した少年の目的は正直なところ想像も付かない)



傭兵(だが現在の状況は分かる。少年の護衛として背後に控えるのはそれぞれがかなりの使い手のようだ)

傭兵(近衛兵長の言っていたように竜闘士と戦うことを前提にした備え)

傭兵(だというのにどうしてこの土壇場で翻すのか)





男「この前、学術都市で相談に乗ってくれたお礼です。この場は見逃してあげます」





傭兵(顔を背けながら告げられた言葉。嘘だとすぐに分かる言葉)

傭兵(いや、相談自体はあったことだ)

傭兵(竜闘士の少女との関係に悩む少年にアドバイスをして…………)

傭兵(そういえば、ふむ、報告には無かったから勝手に思いこんでいたが……)




魔族「竜闘士の少女はどうしたんだ?」



傭兵(同じ事を疑問に思ったのか、ずっと黙っていた魔族が口を開く)



男「女とは袂を分かった」

男「……おまえたちには関係ないことだろう。それ以上ゴタゴタ抜かすなら、先ほどの言葉は撤回するぞ」



傭兵(急に早口になり魔族の言葉を否定する少年)

傭兵(……そのときだけ、真に依然通りの少年の姿が垣間見えた気がした)



魔族「おお、怖い怖い。ならば傭兵、行くぞ」

傭兵「……そうだな。気が変わらない内に」



傭兵(見逃してくれるというならばその言葉に甘えておこう)

傭兵(そうして別れる直前)



魔族「変身、発動」



傭兵(魔族がその身に宿る、固有スキルを発動した)

傭兵(何をするつもりかと訝しむ間も無く――――竜闘士の少女の姿に変身した魔族は)




魔族(女の姿)「ありがとね、男君!」

男「……っ!!」



傭兵(少年にそんな言葉を投げかけた)



魔族(女の姿)「あははっ、やっぱり。ねえ私分かっちゃった」

男「おまえ……っ!!」



傭兵(目に見えて動揺している少年)



魔族(女の姿)「男君が王国を支配したのって……私が理由なんでしょ?」

男「その顔で、その声で……!! これ以上、話すな!!」





傭兵「魔族、挑発するな! ……くっ」

傭兵(一触即発の気配を感じて、私は慌てて魔族の手を引きその空域を離脱する)

傭兵(猛スピードで進んでからおそるおそる振り返るが……こちらへのプレッシャーは感じるが追いかけてくる様子はないようだ)


魔族「どうして逃げた、傭兵」

傭兵「それはこっちのセリフだ。全くどういうつもりだ、魔族」

魔族「これからは使命に囚われずやりたいことをする……それに従っただけだ」



傭兵(変身を解除していつもの姿に戻った魔族はそう調子の良いことを言う)



傭兵「だとしても時と場合を選んでだな……」

魔族「少年のことだ、自分から言い出したことを反故にすることは無いと判断した」

魔族「それに……何かあっても私の傭兵が守ってくれるという確信もだな」

傭兵「……その結果がこの逃亡なんだがな」



傭兵(呆れながらも今し方の光景の意味を考える)

傭兵(危険を冒した価値はあったとも言えるだろう。派手に動く少年のその目的は……)




傭兵「どうやら学術都市の時以上に拗れているようだな」

魔族「魅了スキルの少年と竜闘士の少女、二人が仲違いをして数日ほど口も聞かなかったという話か」



傭兵「後悔しないようにとはアドバイスしたが、その結果がこの事態だとしたら……」

傭兵「魔族、早急にすることがないなら、二人の行く末を見守るという方向で動きたいのだが」

魔族「いいだろう。私も気になるしな」



傭兵「感謝する。となると少年にはケンカを打ってきたばかりだし、そうでなくとも受け入れられないだろう」

傭兵「接触するなら少女の方だが……この前こちらから襲撃したことで心証が悪くなっているだろうな」

魔族「駄目で元々だ。第三者の立場で追う方法もある」



傭兵「それもそうだな。しかし……少女が現在どこにいるかだが」

魔族「確か王国の反抗戦力が独裁都市に集まっていると聞いたことがある」

魔族「少女がいるかは分からないが、人が集まっているなら情報収集にもうってつけだ」

傭兵「承知した、そちらの方に向かう」



傭兵(言葉を受けて進路を変える)






 復活派。『世界滅亡』を為すため、魔神復活を掲げていた傭兵と魔族。

 しかし今やその胸の内には何も使命はない。

 四つの勢力の内、こうして一つの勢力が脱落していった。











 魔族と傭兵が去って。





近衛兵長「追いかけなくていいのか?」

男「……見逃すと言っただろう、撤回するつもりはない」





近衛兵長「承知した……ではこの場所にももう用はないな。一応確認のために散開するがいいか?」

男「ああ、そうしてくれ」



近衛兵長「それと先ほどの……」

男「…………」

近衛兵長「……いやいい。作業を開始する」



 連れてきた戦力にも命令して、打ち漏らしがいないか確認する近衛兵長。




 一人その場に残った男はポツリと。



男「羨ましいな……」



 脳裏に浮かぶのは背中合わせに戦おうとする傭兵と魔族の姿。



男「俺にも力が、自信があれば……」



 自分の手を見つめながら握ったり開いたりを繰り返す。



 そしてふと中空に視線を移してつぶやいた。



男「ああ、すまん。ありがとな。……分かってる。もうすぐだ、もうすぐだから」



続く。

次回より新展開。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


 時を少し遡る。

 魔族と傭兵が宝玉を使用したその少し前の頃。

 独裁都市の神殿の一室にて。



女「はぁ……」

姉御「そんなことしていると幸せが逃げちまうよ」

女「あ、姉御」



女(私は訪れた姉御に声をかけられた)



姉御「それにしても何だい? 随分と腑抜けている様子だねえ」

女「そんなこと無いって。今すぐにでも魔王城に突撃して、男君のところに向かいたいくらいだから……でも準備が終わるまで駄目なんでしょ?」



姉御「会議でも言われただろ。竜闘士といえど一人で王国を相手出来るはずがないって」

姉御「準備も順調なんだから、少しくらい待っておけって」

女「分かってるからこそ、こうしてすること無いなーって暇してため息を吐いているんでしょ」



女(はぁ、ともう一回ため息を吐く)


女(魔王君臨対策会議から少し経って)

女(合流した古参会長は商会総出でバックアップをしてくれることを約束してくれた)



女(姫さんも周辺地域を回って協力を募っているため現在は不在)

女(各地に宝玉を寄越せと宣戦布告紛いの通達をしたことによる混乱や、単純に王国を転覆させたという力への恐怖ということから、王国をどうにかしたいという気運は高く、協力は順調に取り付けられそうだ)



女(とはいえ誰かと戦うような段階ではないため、竜闘士の力も役立つところがない)

女(一人の少女として大人しくしているしかないというわけだった)




女「あーでも、こういうとき女友だったら何か色々して準備を早めたりしたんだろうなー」

姉御「女友か。そうだねえ、交渉事とか得意そうだし」



女(姉御が同意する。姉御は元の世界にいたときから女友とも知り合いだ)



女「いや、こういうことはあろうかもって既に準備を完了させているまであるね」

姉御「分かる、分かる」

女「こっちの世界に来てからずっと頼りにしていたし……いや、それは元の世界でも同じだけど」



姉御「そういや女友と女はいつからの知り合いなんだい?」

女「高校になってからかな。妙に波長が合ってすぐ仲良くなって……考えてみれば一回もケンカとかしたことないかもなあ」

姉御「それは仲良いことで」



女「あ、でもこっちきてからはずっと恋愛相談に付き合ってもらって……煮え切らない私にもしかしたら不満が爆発する寸前だったかもしれないけど」

姉御「まあこの前みたいな沈み方に毎回付き合っていたとしたら、本当その苦労は相当なもんだろうよ」

女「その節はごめんって」




女「それにしても女友は今頃何してるんだろう……」



女(男君と決別したあの日、女友は男君に命令されて連れて行かれた)

女(それ以来、一度も会っていない)

女(魔導士で戦う力もあるわけだし、男君の命令で王国を転覆させる手伝いをさせられただろう)



女(それも完遂した今、男君だったら何をさせるか?)

女(女友だったら何が出来るか?)

女(その力と頭脳を見込まれて、おそらく何らかの重要な命令を任されているに違いないだろうけど…………)




 コン、コンと。

 そのとき部屋の扉がノックされた音が響いた。



女「鍵なら開いてます、どうぞ」

職員「失礼します!」



女(声をかけると同時に扉を開けて入ってきたのは神殿に勤める職員だ)

女(ここまで走ってきたのか少々の息切れを整えることもなく入ってきて……焦っている様子が見えるけど)



女「何かあったんですか?」

職員「独裁都市と王国の境界線上の詰め所から連絡です!!」



職員「重要警戒対象の『魔導士』が現れました!」



女「……っ!! 分かりました、すぐ向かいます!!」

姉御「アタイも行くよ!!」



女(端的な報告で全てを理解する)

女(部屋を飛び出し駆けながら、職員が見せてくれた地図でその場所を確認する)


女(そして神殿の外に出て)



女「私は現場に早速向かいます! 『竜の翼(ドラゴンウィング)』!! ほら、姉御も掴まって!」

姉御「『浮遊』!! あんがとね、頼むよ!!」



女(後の対応を職員さんに任せて、私と姉御は空を飛び現場に向かう)

女(姉御の職は『癒し手(ヒーラー)』だ)

女(回復魔法の使い手だが、初歩の浮遊魔法は使える。それで浮いたところを私が手を繋いで引っ張っているという形だ)



姉御「ほう、これは速いねえ!」

女「現場には十五分もあれば着くと思う」



姉御「そうかい……にしても本当に現れたねえ。『魔導士』……女友が」

女「…………」




女(男君、王国にとってこの独裁都市は反抗戦力を集めている目下の問題勢力として捉えられているだろう)

女(だからこの前は秘書さんを使って状況を探りに来て……今回は女友を差し向けた)

女(もちろん予想はしていた。だからこそ重要警戒対象と呼ばれたのである)



女(男君は私がこの地にいることを分かっている。それなのに女友を向かわせた理由は……)



姉御「分かっているだろうけど、一応言っておくよ」

女「……うん」

姉御「女友が魅了スキルにかかっているのははっきりと分かっている」

姉御「アタイたちと敵対する男の支配下にある以上、どんなことがあっても敵だよ」

女「大丈夫、油断はしないから」



女(魔導士と竜闘士)

女(力の差ははっきりとしている)

女(女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事)

女(情に訴える騙し討ちに引っかからないように気をつけて……)


女「着いたみたい、降りるね」

姉御「ああ!」



女(目的のポイントであることに気付いた私は高度を下げてそのまま着地する)

女(そこで)





女友「あ、女! この人たちをどうにかしてください! さっきから話も聞いてくれなくて!」

兵士「動くな! 大人しくしろ!」





女(兵士に取り囲まれ、両手を上げて反抗の意志がないことを示す女友と久しぶりに出会ったのだった)







女「…………」

女(目の前の親友は魅了スキルによる虜である)

女(男君の命令に従うしか出来ないはずだ)



女友「女!」



女(王国と反目している私たちとは敵対している…………そのはずだ)

続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(独裁都市と王国の境界線上の詰め所にて)

女(親友、女友と久しぶりの邂逅を果たす)

女(その状況は兵士に囲まれていて、私に助けを呼ぶという中々難解な状況だ)



姉御「演技だね」

女(姉御は即刻その可能性を示す)



女「……うん、分かっている」



女(女友は魅了スキルによる虜状態だ)

女(男君の命令でこの地に赴いた)

女(ああやって私に助けを呼んでいるのは油断させるための演技に決まっている)



女(だとしても……)


姉御「どうするかい?」

女「女友と話をするよ」

姉御「だからねえ、それは……」



女「大丈夫、油断はしない。近づいた瞬間に攻撃とかされても、元々竜闘士の私の方が強いんだし取り押さえることは出来る」

姉御「……分かっているならいいさね。まあ話でも聞かなければ状況も進まないことだし」



女(注意するべきことを確認してから近づく)

女(兵士たちは私たちのことを知っているため囲いを通してもらって、女友と距離を置いて対面するのだった)



女友「いやあ、良かったです。ようやく知り合い、それも女に出会えて。姉御も久しぶりですね」



女(警戒する私たちと打って変わって女友は呑気に再会を喜んでいる)


女「女友」

女友「どうしたんですか、女、姉御。そんな怖い顔をして」

女「…………」



女友「……なんてね、分かっていますよ。状況からして私が警戒されることも」

女友「だって男さんの魅了スキルにかかっているんですからね」



女(女友は自分からその問題点に触れた)



女「だったら話が早いね。どうしてこの場に現れたの? 男君の命令によるものじゃないの?」

女友「白状します。私は男さんに独裁都市を叩くように命令されました」

女友「王国に反逆する目障りな勢力の力を削ぐために」


女「…………」



女友「ですが目下の問題は一つじゃありませんでした」

女友「復活派が動き出したため、男さんはそちらの対応にも迫られたんです」

女友「問題の大きさからして男さん自身がそちらに出向くしかなくて……チャンスだと思ったんです」



女「チャンス……?」


女友「ええ。女なら知っていますよね。私が魅了スキルの命令を何度も無視したことがあるのを」

女「うん、そうだね」



女友「その抜け道の一つを今まで温存していたんです」

女友「魅了スキルは本人が命令を自覚するのが必要ですから、自分が命令されているわけではないという意識を強く持てば抵抗できるんです」



女「そんな方法が……」

女友「でも男さんの目が届く場所では抜け出しても、すぐに新たに命令がされるのがオチですから、ここまで待っていたんです」



女「だから今の女友は男君の命令に従っているわけではないと……そう言いたいの?」

女友「はい、そうです。そして女たちの力になりたいと思ってここまでやって来たんです」

女友「……証明する手段が無いのがもどかしいですが」



女(女友は悔しそうにして俯く)


女「どう見る?」

姉御「女友が本当のことを言っているならとてもありがたい話だねえ」

姉御「魔導士としての戦力も、王国の事情にもかなり通じているはずの情報も得られるって点で」

女「そうだね」



姉御「問題は……ここまでの言い分含めて、まるっと嘘である可能性もあるってことだねえ」



女(その通りだ)

女(考え出すとキリがないことは分かっている)

女(でも考えないわけには行かない)



女(問題なのは女友自身が言ったように証明する手段がないということだ)

女(女友の言い分が本当であるか、嘘であるか確認するその方法は……いや、そうじゃないか)

女(この状況で大事なことは――)




女「私は女友の言うことを信じるよ」

女友「本当ですか、女!」



女(女友が私の言葉に目を輝かせる)



姉御「ちょっと本気かい?」

女「本気だよ」

姉御「だけどさっきの言葉が嘘だったら……」

女「裏切られるね。……でもそんなの魅了スキルがあろうと無かろうと一緒なんだよ」

姉御「……へ?」



女「嘘か本当か分からない言葉なんてどこにだってある」

女「そんなときに根拠にするのは、それを発した人が信じられるかどうか」

女「私は女友を信じている。だからその言葉も信じる。それだけだよ」



姉御「……まあ、そうか」


女友「ありがとうございます、女」

女「ううん、今まで助けてくれた女友を疑って、こっちこそごめんね」

女友「いいんですよ、状況が状況ですから」



女(そして私は女友に近寄って手を差し出す)



女「あ、言い忘れてたね、女友。久しぶり、元気だった?」

女友「女……いえ、もう本当クタクタですよ。男さん本当人使いが荒くてですね」



女(女友もそれに応じて、ガッチリと固い握手が交わされるのだった)






女友「さて、協力するとは言いましたが、何から始めればいいでしょうか?」

姉御「とりあえずアタイの希望としては、王国の状況について知っていることを全部話して欲しいところだけどねえ」

女「そうだね。独裁都市でもどうにか王国の状況を探ろうと手を尽くしているみたいだけど、成果は上がっていないみたいだし」



女(来たときと同じように私は姉御の手を引いて神殿に向かう)

女(女友は身体を軽くする魔法と風を呼び起こす魔法を組み合わせてそのスピードに付いてきていた)

女(その途中)



女「……っ、あれは!!」



女(私はその存在に気付いて空中で急停止する)




魔族「これはちょうどいい」

傭兵「探す手間が省けたな」



女(魔族と傭兵。復活派の二人)

女(あちらも『竜の翼(ドラゴンウィング)』で空を飛び移動していたようだが、こちらに気付いて中空に止まる)



姉御「まさかこんなところに……」

女友「傭兵と魔族……復活派の二人組……男さんが対応していたはずですが……」



女(警戒する姉御に、浮遊魔法に切り替えて疑問符を浮かべる女友)

女(私は一歩前に出て問いかけた)






女「お久しぶりですね、傭兵さん。何のつもりでしょうか?」

傭兵「警戒する気持ちは分かる。だが、私たちに争うつもりは無い」

女「……そうやって油断させるつもりですか? 学術都市での所行、忘れていませんからね」



女(この二人が駐留派に協力して襲撃したことが、男君との決別の引き金を引いた)

女(傭兵さんは両手を挙げるポーズまで取っているが、気を許すつもりは毛頭無い)



女友「それよりどうしてあなたたちがこんなところにいるんですか?」

女「どういうこと?」

女友「先ほど少し触れたように、復活派は男さんが直々に対処に向かったはずなんです」

女友「それこそ討つつもりで戦力を揃えて。なのにここにいるということは……」



女「男君が逃がしたってこと?」

女友「それならまだマシで……もしかしたら返り討ちにあった可能性も……」

女「まさか……男君を……!?」



傭兵「違うな。私たちは少年に見逃された方だ」

魔族「別れ際のあの反応はおまえたちにも見せてやりたかったな」

女友「見逃す……ですか? 男さんに限ってそんな甘いことを……」



女(傭兵さんに魔族さんも加わり、入り乱れ始めた話を打ち切ったのは姉御だった)




姉御「だぁっもう、まどろっこっしいねえ!」

姉御「ストップだ、ストップ!」

姉御「そうやって言い合ってたら何の話もまとまらないだろう!」



女「だけど……」

姉御「だけども何もない! こんな空中でする話でもないだろう! 落ち着ける場所に移動するよ!」



女(食い下がろうとする私にピシャりと言い放った後、姉御は傭兵さんの方を向く)



姉御「本当に戦う意志は無いんだろうね?」

傭兵「ああ。魂に誓って」

姉御「だったら案内するよ。正直あんたたちの持っている話も気になるところだ」

傭兵「感謝する」



姉御「……あ、でも、気が向いたらでいいからアタイと一戦交えてくれると助かるねえ」

姉御「武闘大会の予選の時は不甲斐ないところをみせたけど、あのときから成長したからさ」

傭兵「いいだろう。あのときは結局拳を交えなかったからな」



女(姉御は話をまとめながらも、ちゃっかり傭兵さんと再戦の約束を取り付ける)




女(そうして行きは二人だったのに、女友、傭兵さん、魔族さんと三人を加えた一行で、独裁都市の中心、神殿前に着地して)



チャラ男「ようよう、やっと帰ってきたやな。入れ違いだったみたいで待ちぼうけ食らったで」



女(軽薄な調子の声が私たちを出迎えた)



女「チャラ男君……? でも、どうしてここに……」

女(最初は気弱君と姉御と一緒にパーティーを組んでいて武闘大会に出るべく向かった町で出会ったけど、何だかんだあって大会の後は私たちを裏切り駐留派に合流したクラスメイトの名前だ)



女(そう、駐留派であるから本来は敵であるはずなのだ)



チャラ男「ちょっと『組織』からアンタたちに話を付けて欲しいってことで、クラスメイトの中から暇している俺が選ばれてな」

姉御「……。だとしてもあんた、よくアタイの前に顔を出せたねえ?」

チャラ男「ははっ、やっぱり宝玉を盗んだことを怒っているんやな? まあまあ、そんな昔のことは水に流そって。俺は『組織』から大使やぞ、ちゃんと丁重に扱わなければ問題に……」

姉御「問答無用!!」

チャラ男「いたっ……!?」



女(姉御がチャラ男君に駆け寄り頭にゲンコツを落とす)




女友「まあまあ、姉御。気持ちは分かりますが、そこらへんにして……」

女(女友がその対応に走るのを横目に私は率直な感想を呟いた)





女「敵なのか、味方なのか……分からない人がたくさん集まったなあ……」



女(帰還派の私たち、駐留派からの大使、復活派の二人、支配派から抜け出した女友)

女(何の因果か、ここに全勢力の人間が揃った)



女(そしてそれぞれが話を用意している)

女(力押しで解決する問題ではないからこそ、情報は大事だ)

女(何としてでも男君の元に辿り着くために)

続く。

乙ー

乙!

毎度毎度、乙ありがとうございます。
励みになります。

投下します。




女(私は神殿に集まったメンバーを見回す)

女(私、姉御、女友、傭兵さん、魔族さん、チャラ男君に加えて)



チャラ男「よっ、久しぶりやな、気弱」

気弱「わっ、チャラ男さん。久しぶりです」



女(神殿で事務作業を手伝っていた気弱君が合流して七人だ)



チャラ男「何や、普通の反応やな。姉御みたいに怒られるかと思ったけど」

気弱「今から大事な話し合いなのに邪魔するのも申し訳ないですし……それに僕の分まで姉御が怒ってくれたのは見て取れるので」

チャラ男「ほんとやで、ああもうまだ痛い……」



女(チャラ男君はしきりに頭のゲンコツされた部分を撫でている)



姉御「さっきのでも足りないくらいだよ。全く、持ってきた話ってのがしょうもなかったらもう一発……いや関係なく後でもう一発だね」

チャラ男「酷くない?」



女(姉御はまだ癇癪が収まらないようだ)


女友「はいはい、静かにしてくださーい」



女(女友がパンパンと手を叩きながら呼びかける)

女(話し合いの進行は女友が率先して取ってくれることになった)

女(久しぶりに見る女友らしい姿に私は感慨深い気持ちになる)



女友「さてそれでは四派閥情報交換検討会兼王国対策会議の方を始めて行きますが……」

チャラ男「何や、その名前?」

女友「私は今決めました。ってどうでもいいところで引っかからないでください」



女(開始早々チャラ男君が横槍を入れる。いやでも長くて気になるところだ)




女友「名前の通りそれぞれが持ち寄った情報を交換検討して、どうにか王国に対抗する方法を考えようということです。そのためにも最初は……」



傭兵「私が話そうかな」

女友「傭兵さん」

傭兵「私の情報が一番直近で知らない者の方が多く顛末も気になっているだろう」

傭兵「それに一番この場で信頼されていないようだからな」

傭兵「情報を開示することで協力するつもりがあるところを早めに示したい」

女友「うーん、そうですね……分かりました、ではお願いします」



女(挙手した傭兵さんに女友が発言権を譲る)



傭兵「ありがとう。では話そう」

傭兵「事の始まりは私たちが八個目の宝玉を手に入れたことで――――――」


女(そして傭兵さんは語った)

女(宝玉によって戦力を呼び出し、しかし敵対することになって、その後男君によって蹂躙されて、今は使命も何も無い、と)



女「…………」

女(気になる情報が渋滞している。一つ一つ確認しないと)



姉御「宝玉で呼び出して戦力の増強ねえ。魔神復活ばかり言ってたから盲点だったよ」

女友「そうですね、私も見落としていました。男さんが気付かなかったらヤバい事態になっていたかもしれませんね」

女(私も同じだ。まあ女友も気づけなかった計画に私が気づけるはずがない)



チャラ男「でも最後には全員死んだってか。良い女もおったやろうに残念やな」

気弱「もう、チャラ男さん! ……えっと、魔族さんでしたか。失礼なことを……」

魔族「別に気にしていない。ただ同じ種族のやつらが死んだというだけだ。それに今の私には傭兵一人さえいればいい」



女(チャラ男君の軽薄な言葉に、気弱君が気を遣うが、魔族さんは気にしている素振りもない)

女(……っていうか二人の関係って、結構……その……)


傭兵「そうだ、気になることがある」

傭兵「魅了スキルの効果対象が『魅力的だと思う異性』というのは間違いないな?」

女「はい、その通りです」



傭兵「だが、今回少年は当然のように女性の魔族たちを虜にしていた」

傭兵「話を交わしたことすらない者を魅力的だと思うようなものなのか?」



女「あ……言われてみれば……」



女(そうだ、魅了スキルは女性をお手軽に支配できるスキルのように見えて、意外と色々な条件が存在する)

女(そのせいで私と男君の関係も拗れたわけだし)




女友「それなら私も同じ事を疑問に思って聞いたことがあるんですが――」

女友「男さんが言うには『どいつもこいつも俺の駒になると思えば魅力的だろう』ということみたいです」



女「それは……」



女友「実際女と別れてから魅了スキルを失敗したことは一回もありませんでしたし、本当のことなんでしょうね」

女友「というかその段階で手間取っていたらこんなに早く王国を転覆させることは出来せんよ」



女「……それもそうだけど」

女(魅力的かどうかには本人の認識が大きく関わる)

女(男君はそこまで割り切った考えをして……いや、でも)


傭兵「だとしたらどうして魔族は虜になっていない?」

傭兵「先ほどの戦闘、囲んでいた魔族を対象に放った魅了スキルの範囲に魔族もいたぞ」



女友「あっ、それもそうですね。以前の老婆に化けたときの記憶に今も引っ張られているとか……?」

女友「いや、でも王国では普通に年配の市民にも魅了スキルをかけていましたし……」



魔族「確か術者に特別な好意を持っている場合も無効だという話だったが、当然私は少年にそのような好意を持っているわけではないぞ」



女(魔族さんも口を挟む)



女「…………」

女(他は虜になったのに、魔族さんだけならなかった理由)

女(それは魅了スキルの条件から考えて、男君が魅力的だと思わなかったからとしか考えられない)

女(駒という考えからすれば、変身を使えて強い魔族さんは魅力的なのに……それでも思えなかったのは)




女「傭兵さんと魔族さんのことをよく知っていて……それでいて二人が特別な絆で結びついていると思ったから……なのかな?」

傭兵「どういう意味だ?」



女「男君はお互いがお互いを想い合う関係が恋愛の理想なんです」

女「話によるとそのとき背中合わせで戦い抜くつもりだったんですよね」

女「それで男君は自分の理想の関係を体現している二人を見て……魔族さんをそこから奪うなんて出来なかった」

女「うん、いくら表面上変わっていても男君はそんなこと出来ない」

女「だから魔族さんだけ虜にならなかった……」





傭兵「……いや、それは間違っているな」

女「え?」

女(傭兵さんの否定に思わず顔を上げると、呆れたように溜め息を吐いていた)


傭兵「私と魔族がお似合いの関係だと? 少年も少女も節穴だな」

傭兵「私の好みはお淑やかな女性だ。気の強い魔族も悪くはないが、もう少し落ち着いて欲しい」



女「え?」



魔族「言うじゃないか、傭兵よ。私だっておまえの何を考えているか分からないところは苦手だ」

魔族「いざというときに頼れるのは良いところだがな」



女「え?」



傭兵「言葉使いももう少し直して欲しい。まあ姉様に啖呵を切ったときは愉快だったがな」



女「……」



魔族「それを言うならそちらこそ私を抱えて飛ぶとき全く配慮してなかっただろう。お陰で揺れが酷かったぞ」

魔族「まあそれでもおまえに包まれている安心感の方が大きかったが」



女「……」




女(きょとんとした顔で周りを見回す。どうやら二人以外は私と同じ反応のようだ)

女(そして二人はというと至って真面目な顔つきでのろけているわけではないようだ)



女「え、えっと……それではお二人はお互いのことをどのような存在だと思っているのですか……?」



女(私はおずおずと二人に問う)





傭兵「共に生きていくと決めた者だな」

魔族「ああ、果てるそのときまでずっと一緒だ」





女(当然という顔つきで答える二人) 



女「………………」

女(それって実質結婚じゃないんですか?)

女(とはその場にいる誰も口に出すことが出来なかった)



女(傭兵さんと魔族さん)

女(唐突なのろけ話に困惑する私たちだが、ある意味それで分かったこともあった)



女「傭兵さん、あなたを味方だと認めます」

傭兵「急にどうした?」

女「理屈はないです。話して、触れ合ってみての私の直感です」



傭兵「そうか……学術都市の件はすまなかったな。使命のためとはいえ、あのようなことをしてしまって」

女「もう過ぎたことですから」

傭兵「お詫びになるかは分からないが、必ず少女が少年のところまで辿り着けるよう協力しよう」

女「ありがとうございます」



傭兵「もっともその後どのような結末になるかは二人次第だ」

女「良い報告が出来るように頑張ります」



女(傭兵さんが差し出した手を私は握り返す)


女友「さて、これで元復活派からの報告が終わって……そうですね、次は私から話しましょうか」

女(女友は進行をしながら、次の話し手に進み出る)



姉御「そうだねえ、男の元にいたアンタには色々聞きたいことがある」

姉御「まず率直になんだけど、今の男の目的は何なんだい?」



女友「……先に断っておきますが、私は知らないことの方が多いです」

女友「今の男さんは命令以外に話すことはめったになく、私に何かを打ち明けたり相談したりなんてしませんでしたから」

女友「それでも今までの行動などから察するに……今の男さんの目的は元の世界への帰還では無い、のだと思います」



姉御「今までそれを目標に頑張っていたのにかい?」



女友「ええ。私がここ独裁都市に向かう直前には宝玉が王国にゲートを開けるために必要な八個は集まっていました。周辺地域に宝玉を差し出すように通知した結果ですね」

女友「しかし、それでも男さんは特に行動を変えませんでした」

女友「帰還のための準備も、これ以上宝玉はいらないともしなかったんです」


女(宝玉は数を集めることで力が増す)

女(八個以上集めて出来ること……それは十個で高位存在を呼び出すか、十二個集めて――)





女「もしかして男君は……魔神を呼び出すつもりなのかな……?」





女(私はポツリと呟く)

女(みんな同じことを考えていたのか、特に反対の意見は上がらなかった)


女友「考えられる可能性ですね」

女友「男さんは魔神の『囁き』スキルによって今の状態になりました」

女友「その上時折虚空に向かって話していたり、おそらく今も魔神とのリンクは切れていないのでしょう」



傭兵「それで少年が絆されたか、懐柔されたか……あるいはスキルの効果で自分を復活させるように命令されたという可能性もあるのか?」

女友「いえ、『囁き』はあくまで対象の欲望を解放するスキルです。魅了スキルのような対象を思い通りにするという効果はないはずです」

傭兵「そうか。ならば少年自身が考えて魔神の復活を私たちに代わって成し遂げるというのか」





女「魔神を復活させたいのは分かったけど、それ自体が最終目的だとは思えない」

女「結局男君は何がしたいの?」

女友「すいません、それは私にも……」



女(私の問いに女友は力無く首を振る)




気弱「王国に内乱を起こして、罪の無い一般人もたくさん巻き込んで」

気弱「そして支配が完了したら周辺地域にも宣戦布告紛いで混乱を招き、さらには魔神を呼び出そうとしている……」

気弱「男さんはそんな悪逆的な振る舞いをするような人では無いと思ってたんですが……僕が何も分かっていなかったって事でしょうか?」





チャラ男「……ん、今気弱何て言ったんか?」

気弱「えっと、男さんはそんな悪虐的な……」

チャラ男「違う違う、その前や。一般人もたくさん巻き込んだとか、どうとか」

気弱「言いましたけど……それの何が問題なんですか?」



チャラ男「いや、俺の知ってる情報と齟齬があったからな」

チャラ男「『組織』の情報網によると、王国で本格的な内乱が起こる前日、不自然に人の流れが誘導されていて、戦闘に巻き込まれた一般人はほとんどいなかったって話や」



気弱「え、ですが内乱の時ちょうど王国にいた秘書さんが言うには、多くの民が巻き込まれたって……」

チャラ男「どういうことや……? あ、言っておくけど、俺が嘘吐いてるわけやないからな」

チャラ男「というかこれくらい王国内の情報を確認すれば分かることやないか」

気弱「王国の警戒が強くて、独裁都市には全く情報が入ってないんです」

気弱「さっきの情報も秘書さんがたまたま……いえ、おそらく男さんの命令で探りに来たときにした話なので」

チャラ男「へえ、遅れとるなー。まあそういう諜報活動の類は『組織』の方が得意か」



女(何気ない会話から判明した帰還派と駐留派が掴んでいる情報の違い)


女「本当なの、女友?」



女(帰還派の私は気弱君と同じ認識だ)

女(幸いにもここにはその出来事を一番近くでみていただろう人がいるので問う)



女友「……そういえばその疑問がありましたね」

女友「ええ、チャラ男さんの言っていることは事実です」

女友「男さんは魅了スキルを駆使して、内乱を起こす前日には一般人の避難を体制側に気づかせないまま完了させましたから。巻き込まれた人はいないでしょう」



女「男君なら可能か……首謀者だから安全地帯とかも分かるだろうし」

女「でも、だったらどうして秘書さんが嘘を吐いたのか……あのとき男君の命令で動いていたわけだし、男君が意図したことなの?」



女友「はい。布石として嘘を吐かせた、と呟いたのは聞きましたが……何の布石なのは私にもさっぱりで……」

女「布石か……」



女(本当は一般人を保護していた男君)

女(なのに秘書さんを通じて私たちに一般人も巻き込んだと嘘を吐いた)

女(その行動に何の意味があるのだろうか?)

女(これも男君の目的とやらに関わってくるのだろうか?)

女(男君の心証を悪くするくらいの効果しかないと思うんだけど…………)


姉御「だぁっもう。分からないことばかり増えるねえ」

姉御「別れ際の言葉からして男は今も女のことを思っている」

姉御「そして傭兵さんたちから聞いた様子からして、男が王国をわざわざ支配した理由も女が絡んでいる」

姉御「何がしたいのか分からないけど、そんなに女のことを思うなら側にいてやることが一番じゃないかい?」



女(姉御の言う通りだ)

女(私は男君の側にいれればそれだけで幸せだったのに……男君は違うっていうのだろうか?)




チャラ男「男は元の世界に戻るつもりはないんやろ?」

チャラ男「それでわざわざ王国を支配したってことは、俺みたいに欲望のままにハーレムを作りたくなったとかやないのか?」



女友「あり得ませんね。私が基本的に側にいましたが、男さんはそのような命令をしたことはありません」

姉御「適当なことを抜かすようならぶっ飛ばすよ」



チャラ男「おお、怖い怖い。じゃぶっ飛ばされない内に俺も話しとこっかな」



女(チャラ男君はおどけるようにして女友と姉御の集中砲火をかわす)

女(駐留派、バックにいる犯罪結社『組織』は何を目的に私たちに接触をもくろんだのか)




チャラ男「俺からの話は提案ってことになるな。独裁都市は戦力を集めて近く王国を攻略にかかるんやろ?」

女「うん、そうだけど」

チャラ男「その作戦に『組織』も一枚噛ませて欲しいってところでな」



女「……続けて」

チャラ男「まずそもそもなんやけど、『組織』は今の王国が支配されて各地にも緊張感が漂うこの状況は歓迎してなくてな。平和ボケしてた方が色々と事も運びやすいし」

女「……是非はともかくとして、王国をどうにかしたいという気持ちは同じと」

女「だけど独裁都市やそれに協力する古参商会にも体面があるから、犯罪結社なんかと協力するわけにはいかないと思うよ」

女「大体協力するフリして裏切るなんて平気でしそうだし」



女(そもそも目の前のチャラ男君だって、最初は仲間面していて裏切った存在だ)


チャラ男「そこらへんは『組織』も理解しているみたいでな」

チャラ男「というか『組織』こそ表の勢力と手を組んだとバレたら裏の世界での求心力が失われるし」



チャラ男「だから協力は最小限、王国に攻め入る日取りを一緒にする、これだけや」

チャラ男「独裁都市側と『組織』側の二正面作戦で、王国の防御を分断出来るだけでもありがたいしな」

チャラ男「『たまたま攻める日が被っただけだ』ってことにすれば体面も保てるやろ?」



女「……姫様や古参会長に相談しないといけないから、今ここで返事は出来ないけど提案はしてみる」

チャラ男「頼むでー。まあ俺なんかに頼む仕事やし、『組織』も是が非でもとは思ってないやろしな」



女(私個人としては魔王城に辿り着けさえすればいいので了承したかったが、そういう事情で返事は保留した)



続く。

乙!

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。




女(その後の会議は細々とした情報の共有や、これから起こり得る事への対策などをやって夕方頃にお開きになった)



女(夕食まで時間があるという事で、姉御が早速傭兵さんに挑戦して善戦こそしたものの返り討ちにあって、それを見ていて大笑いしたチャラ男君に八つ当たりしたり)



女(元々は敵と言っても、女友は男君に操られていただけだし、傭兵さんと魔族さんは使命を捨てたからか取っ付きやすくなっているし、チャラ男君はその持ち前のキャラでなし崩し的に馴染んでいた)



女(みんなで着いた夕食の席では)



チャラ男「なるほどそんなことが……よし、分かった!!」

チャラ男「俺も全面的に女が男のところにたどり着けるように協力するからなっ!!」

姉御「アンタ、よく言ったねえ!!」

気弱「ちょ、ちょっと二人とも酔いすぎですよ」



女(酔ったチャラ男君が調子よくそんなことを言って、姉御がその背中をバシバシ叩く)

女(その間で気弱君がおろおろしていた)



女(そして酔い潰れたチャラ男君は気弱君が介抱するということで部屋に運び)

女(傭兵さんと魔族さんも協力者という事で神殿内の客室が一部屋準備されて)

女(女友は私が寝泊まりしている部屋にやってきた)


女友「こうして二人きりになるのも久しぶりですね」



女(元々私が与えられた部屋は二人用の部屋で、今までそれを一人で使っていたものだ)

女(その今まで使っていなかったベッドに寝転がりながら女友が言う)



女「学術都市にいたとき以来だからそこまで期間は空いてないはずなのに……本当久しぶりって感じ」

女(私もその隣のベッドに寝転がる)



女友「はぁ、今日は本当しゃべり倒しましたね」

女「何か堰を切ったような感じだったね」

女友「王国にいたときはほとんど話なんてして無かったですから。男さんの命令を受けて、行動しての繰り返しで……たまに今後の方針を話し合うときくらいだったでしょうか」



女(おしゃべり好きの女友には地獄の環境だっただろう)



女「そういえば……男君は元気なの?」

女友「体調的なことを言えば元気ですよ。精神的に言うと……いつも無機質な目をしていて、私から言わせると死んでいるようなものでした」

女「……そっか」

女友「本当に男さんは……何を考えているんでしょうか? 立場上近くで行動していた私にも全く分からなくて……」



女「見ても分からない、考えても分からない…………だったら直接問いただすだけだよね」

女「うん、そうだよ。それに結局どんなことを考えていようと、私のすることは変わらないし!!」

女友「そうですね」

女「自分から振って難だけど、もうこの話はやめ、やめ! 違う話しよ、女友。王国で面白いこととかなかったの」

女友「雑なフリですね……。あ、でも面白いことと言えば……」



女(そうして私と女友の話は盛り上がり、どちらからともなく寝始めるまで続いたのだった)




<一方その頃>





気弱「ふぅ……ようやく寝ましたね」

気弱(僕は自室のベッドの前で一息吐く)





チャラ男「んー……だから…………言ってるやろ……」

気弱(寝言を言っているのはチャラ男君。酔った彼をここまで運んで寝かしつけるのは思いの外骨が折れた)



気弱「でも久しぶりに会えて良かったな」



気弱(頑張って手に入れた宝玉を持ち逃げされるという手酷い裏切りを受けたけど、僕はチャラ男君のことを嫌いになれなかった)

気弱(姉御には虫が良すぎる、って呆れられるかもしれないけど)



気弱(もう一つのベッドに寝転がる。もう夜も遅いし、寝ようと思って目をつぶるけど……)




気弱「眠れない……」

気弱(目がさえていた。理由は分かっている。頭の中で渦巻いている思考のせいだ)





気弱(今日の会議でも散々話題になった男さんの目的)

気弱(みんなが分からなくて頭を悩ませていたそれが――――分かったかもしれないということが気になるからだろう)





気弱「…………」

気弱(事の始まりは学術都市だ)

気弱(男さんは女さんに告白された)

気弱(おそらく普段の態度やこれまで聞いた話からして、男さんは女さんのことを好ましく思っている)

気弱(そのまま何もなければカップル成立するはずだったのに……そこに襲撃があった)



気弱(男さんと僕には似た一面がある)

気弱(だから女さんから表面的に話を聞いただけなのに……そのときの男さんの心情が手に取るように分かった)




気弱(不安だ)



気弱(そこに異世界という舞台、魅了スキルという力に魔神の『囁き』スキルまで加わった結果……)

気弱(欲望そのままに、男さんはその不安を払拭するためにここまでのことをしでかした)





気弱(だとしたら……僕は到底男さんのことを責める気にはなれなかった)

気弱(僕だって同じような状況になったらそんなことをしないとは言い切れないから)





気弱「僕は運が良かったんだな……」





気弱(このことを本当はみんなに話すべきなのかもしれない)

気弱(みんな気になっていたし、不安に思っているのだから)

気弱(でも僕は男さんに共感してしまったから)

気弱(裏切りだとしても……誰にも打ち明ける気にはなれなかった) 



気弱「バレたら姉御に怒られるかもな……」



気弱(恋人の顔を思い浮かべてクスっとなって……そうして力が抜けたのが良かったのか、僕は吸い込まれるように眠りに就いた)









 誰も彼もが眠りに就いた夜更けの独裁都市。

 そこに蠢く影があった。





 空中を滑るように動き、時折立ち止まる。

 周囲を見回す仕草からして、どうやら自分がどこにいるかを確認しているようだ。



 そうして辿り着いた先は……何の変哲もない建物だった。

 しかし、その影は知っていた。



 そこは重要な拠点だと。

 古参商会が王国を攻略するためにかき集めて独裁都市に運んだ物資が貯蔵されている、と。

 ここを攻撃されたら損害は量り知れず、立て直すことも難しい。

 故に極少数しかこのことを知らない。



「………………」

 影は手をその建物に向けて。

 口を開き、魔法を紡ごうとして――――。












女「こんなところで何をしているの、女友?」







 いつの間にか影の後ろに竜の翼をはためかせる少女、女がいた。

 影は、女友は振り返って答える。



女友「何って……夜中の散歩ですよ」

女「そう? じゃあ、私を起こさないように細心の注意を払って部屋を抜け出したのは、ただの親切だったってわけ?」



女友「ええ、その通りですよ。結局起こしてしまったみたいでごめんなさいね」

女「いいよ、気にしてないから。それにしてもこの場所に気付くなんてね」



女友「……はて? この場所がどうかしたんですか?」

女「昼間普通に過ごしているように見えて探りを入れてたんだ」



女友「よく分かりませんがユウカもこの場所にいるってことはまさか私を尾行でもしていたんですか、あんまり良い趣味じゃないですよ」

女「ごめんね」

女友「いいえ、気にしてませんよ」



女「………………」

女友「………………」






女「理屈は無い。話して、触れ合ってみての私の直感」

女「ねえ、女友って――今も男君の支配から逃れられてないんじゃないの?」

女「自由になったフリして……独裁都市に潜入して、攻撃するように命令されているんじゃないの?」



女友「……はぁ。男さんの支配から逃れられていないって……何を根拠にそんな……って直感でしたね」

女友「でしたらそうですね……理屈的に考えましょうか。男さんは私にどんな命令をしたっていうんですか?」






女「とりあえず大きなものが『独裁都市に潜入して攻撃しろ』って命令だとして」

女「『怪しまれないように命令を無視したという演技をしろ』『独裁都市の重要拠点を探れ』『信じさせるために指定した情報は開示しろ』『都合の悪い情報は開示するな。ただし疑われそうな場合は臨機応変に』って感じで」

女「後は『裏切るようなことは禁止する』とか『余計なことを話すな』とか……まあそういう命令は元々かけているだろうけど」



女(まだまだ細かいことを考えればキリが無さそうだ)



女友「まるで命令のデパートですね」

女「そうでもしないと女友は本当に命令無視するでしょ」

女友「ですから本当に命令無視を……」



女「そういえば女友が言っていた理由だけど……命令されたのが自分だと認識しなければ無視できる……だったっけ?」

女「そんな初歩的なことに男君が気づかないとは思えないけど」



女友「……うっかりしていたんでしょう」



女「あ、それに女友さ、一般人を巻き込んだかって嘘をチャラ男君が言及するまで口にしなかったでしょ」

女「あれも本当は開示する情報じゃなかったんでしょ?」



女友「……順序ってものがあるでしょう。話題にならなくても、あの後話するつもりでしたよ」

女「本当に?」



女友「………………」

女「………………」



女(無言で視線と視線がぶつかり合う)

女(やがて根負けしたように女友は視線を外すとポツリと呟く)




女友「本当は……私だって女の力になりたいんですよ」

女「……うん、分かっている」



女友「でも女だって知っていますよね、魅了スキルの力を」

女「そりゃあね」



女友「『誰かにバレた場合、即座に帰還しろ』『邪魔された場合は全力で抵抗しろ』『手を抜いて捕まることは禁止する』……と、まあこのような命令もありまして」





女「逃げるつもりなのね。でも逃がすと思う?」

女友「分かっています。全力で行きます」

女友「ですから――どうにか私を逃がさないでください」





女(女友が空中で戦闘態勢に入る)

女(私も構えを取った)




女「ごめん、女友……私こんなときなのにワクワクしているんだ」

女友「そうですか……たぶん、私も同じですよ」





女「そう……なら良かった。じゃあ全力で……初めてのケンカをしよっか」

女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」





女(返事は氷塊の雨で)

女(不意打ち的に放たれた攻撃)

女(卑怯だとも、不躾だとも思わなかった)



女(それが女友の本気だというなら……私は真っ向から迎え撃つ)



女「『竜の闘気(ドラゴンオーラ)』!!」



女(私は全方位に向けて衝撃波を放ち、攻撃を相殺した)

続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女友「『大火球(ビッグファイアーボール)』!!」



女(女友の手からその背丈を優に超える火の玉が放たれる)

女(竜闘士といえど直撃すればひとたまりも無いだろうが、そのような直線的な攻撃に当たるつもりはない)

女(私はその横を竜の翼で通り抜けようとして)



女友「逃がしません!! 『竜巻(トルネード)』!!」



女(女友は新たな魔法を発動)

女(避けた火の玉の進路上に風の渦を起こし巻き込み、炎をばらまきながら風の勢いが増す)

女(複数属性の魔法を使える魔導士の特性を生かす連続した攻撃)



女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」



女(避けきれないと判断した私は防御スキルを発動)

女(エネルギーの球に包まれ炎の渦を完全に遮断してやり過ごす)

女(防御力こそ高いものの、このスキルには使用後動けなくなる弱点があり、当然それは今まで一緒に戦ってきた女友も知っている)




女友「捉えました!! 『雷轟地帯(サンダーエリア)』!!」



女(私の頭上に雷雲を放たれた)

女(それがもくもくと成長しながら広がりきり無数のイカズチを落とすのと、ちょうど同じタイミングで私も動けるようになった)

女(攻撃範囲と密度から私は避けるのは不可能と判断)

女(故に頭上を向いて)



女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放った)

女(それは雷雲の一部を打ち抜き、結果雷は私の周囲に落ちるだけに終わる)


女友「この攻撃も相殺しますか……!」

女「ギリギリだったけどね。女友も良い攻撃するじゃん」



女(戦いが始まって数分が経った)

女(悔しがりながらも女友は微塵の油断もしていないようで、私から十分に距離を取っている)

女(竜闘士相手に接近戦を挑む愚を犯すつもりは無さそうだ)

女(魔導士の本領を発揮できる距離を常にキープしている)

女(私もそれを分かっているから接近を試みているのだが、女友の猛攻により阻まれている)



女(とはいえそれも長く続かないはずだ)

女(格上の私に渡り合うために、先ほどから女友は大魔法を連発している)

女(いくら魔導士の魔力が多いとはいえ、そんなに使っては尽きるのも時間の問題だ)

女(魔力を失った魔導士となればただの人)

女(だから逃走にだけ警戒して、堅実に立ち回ればいずれ女友は立ち行かなくなるだろう)




女友「消極的な立ち回りなのに余裕ですね女。私の魔力を切らす作戦ですか?」

女「……さぁ、どうだろうね?」



女(私はうそぶく。とはいえ親友だ、それくらいのこと分かっているだろう)



女友「魔導士に竜闘士は倒せないと……そう侮っているなら……絶対に後悔させてみせます!!」

女「じゃあやってみせてよ」

女友「いいでしょう! 『巨大(グランド)――――」



女(私の挑発に女友は右手を振り上げながら何かの魔法を発動しようとして)




女「…………?」

女友「ぐっ……駄目です……」



女(女友は左手で右手を掴み、胸元に引き戻しながら苦しむように悶えていた)



女「女友?」

女友「オン……ナ……。おかしい、ですよ……こんなの。親友同士……争う、なんて……」



女(何かに抵抗するようにしながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ女友)



女「もしかして……男君の命令に抗って……」

女友「っ……長く、持ちません…………女、今の内に私を……!!」



女(魅了スキルの命令による強制力に逆らって、自分を討つようにお願いする女友)

女(私はその親友の強かさに感心した)

女(だからこそその苦しみを早めに終わらせるために近づいたり…………せずに)




女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』」

女(フルパワーの衝撃波を放った)





女友「……っ!? やばっ……!」

女(苦しげからギョッとした表情に変わった女友は、慌てるようにその攻撃を避ける)





女「ああもう、やっぱり」

女友「何するんですか、女! 苦しんでいる親友に攻撃を仕掛けるなんて」

女「それが本当なら私だって心配するわよ。命令に抗おうと苦しむ演技、だったんでしょ」

女友「…………」

女「随分上手くなったね。一瞬騙されそうになったよ」

女友「……ふふっ、流石ですね。通用しませんか」



女(非難から一転、けろっと態度を変えた女友は微笑を浮かべる)

女(演技に騙され心配した私が不用意に近づいたところで攻撃でも加える予定だったのだろう)

女(相変わらず人を食ったような態度の親友だ)


女「そもそも最初からして不意打ちだったし正々堂々戦うはずないわよね」

女友「ええ、それも含めて私の全力ですから」

女(皮肉に対して堂々と宣われる)



女「それで小細工は終わり? だったらそろそろ幕を下ろす時間だけど」

女友「そうですね……では最後の大細工と行きましょうか」



女(女友は右手を振り上げて、先ほどは中断した魔法を今度こそ発動する)





女友「『巨大隕石(グランドメテオ)』!!」







女(遠く天上に生成されたのは巨大な隕石)



女友「逃げるだけの魔力を残して、その他全部を注ぎ込みました」

女友「これが私の最後の攻撃……どうか対処してくださいね」

女「いいよ、受けて立つ!!」



女(拳を構えながら私は毛ほどの油断もしていなかった)

女(生成された隕石にはかなりの魔力を感じる。魔力がほとんど残っていないのはおそらく本当だろう)

女(女友自身に何かをする力は無い。隕石だけに注意すればいい)



女(でも、女友のことだ。素直に私に向けて落とすだけ……ということはあり得ないだろう)

女(考えられるのは最初に攻撃目標としていた建物に落とすことで、慌てて守りに入った私に無茶な防御を強いる方法)

女(もしくは市街地に落とす可能性も……いやそんな誰かを巻き込む方法を取るとは思えないけど)



女(何にしろ、どこに隕石を落とされようと対処してみせる)




女(――と、警戒していたのにそれでも私は虚を突かれた)

女(隕石がゆっくりと術者に……女友に向かって落ちていくからだ)



女「っ、何を……!?」

女友「『逃げられない場合は自害しろ』なんて命令が……いや、嘘ですけどね」



女「だったら……!!」

女友「魔法は解除しませんよ。だって……私の親友が守ってくれるって信じていますからね」



女(にっこりと笑う親友)

女(今さらながらに姉御に注意をされたときの自戒を思い出した)



女『女友がもし私に付け込む余地があるとしたら、それは私の親友であるという事』






女「…………」

女(これは攻撃にすらなっていない)

女(ただの自爆だ)



女(どうせ当たりそうになったら解除するに決まっている)

女(わざわざ飛び込むなんて愚の骨頂)



女(だと……分かっているのに)





女「女友ォォォォォォォッ………!!」

女(私は隕石の落下地点に飛び込む)






女(その数瞬後、隕石は大量の破壊を振りまいた)




女友「信じていましたよ、女なら守ってくれるって」

女「女……友……」



女(破壊の中心点で)

女(防御も回避も迎撃も……何も間に合わなかった私は大きくダメージを受けて地べたをはいずくばっていた)



女(一方、隕石が落下する直前、私が攻撃範囲から弾き飛ばした女友は空中に浮き無傷だ)



女友「ごめんなさいね、女の思いをこんな踏みにじるようなマネをして。親友失格です」

女「そんな……ことないよ……。女友は……命令に従っただけでしょ」



女友「確かに全力で、手を抜くなという命令です」

女友「しかし方法までは命令されたわけではありません」

女友「……そうです、こんな最低な方法を思いついたのは私ですから」



女(私に勝ったのに、くしゃくしゃに顔を歪めている女友)

女(魅了スキルは感情まで操ることは出来ない。命令のために非情に徹しろということは出来ない)


女「あはは……何を今さら……」

女友「女……?」



女「私の親友は……初恋に悩む私に既成事実を作るようにアドバイスしたり……いつだってえげつない方法を考えてるような人だよ」



女友「……誰ですか、そんな酷い人」

女「だから……今さらそんなことで見限ったりはしないって」



女(そうだ考えることが罪になるはずがない。その実行を強制させた力の方が問題だ)





女友「おん……っ、いえ……」

女友「追っ手はこれ以上戦闘出来ないと判断。しかし破壊工作を行うだけの時間も魔力もありませんね」

女友「というわけで、これよりすみやかに逃走させてもらいます」



女(女友は何かを言おうと寸前まで出かけた言葉を呑み込んで状況を判断する)


女「早いね。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

女友「私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし」

女「……あ、じゃあ最後に一つ伝言いい?」

女友「何ですか?」





女「男君に。絶対に会いに行くからって伝えといて」

女友「分かりました」





女「ありがと……じゃあまたね」

女友「ええ、また会えるそのときを待っています」



女(隕石の直撃を受けたダメージは大きい)

女(今まで気力を振り絞っていたけど、限界だった)

女(私は去ってゆく親友を見送りながら気を失うのだった)

続く。

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(翌朝)

女(私は神殿の医務室のベッドで目が覚めた)



女(隕石のダメージが大きかった私は女友が去ったのを見た後、気絶していたようだ)

女(騒ぎを聞きつけた巡回兵により私は神殿に運ばれて、そこで治癒魔法を受けた)

女(結果もうすでに回復に向かっていた)



姉御「それで昨夜何があったってんだい?」



女(『癒し手(ヒーラー)』として私の治療をしていた姉御こと姉御筆頭に、集まったみんなに私は事情を説明した)




姉御「女友は魅了スキルの支配から逃れられていなかったか……くそ、気づいていればこんなことには」



傭兵「対象が余りにも限定的で、さらにあまり褒められた戦法ではないが……こうして格上を破った結果が全てか」



魔族「全く。おまえたち『クラスメイト』とやらは本当に一枚岩ではないのだな。一夜にして二人も抜けるなんて」





女「二人……? それってどういうことですか?」

気弱「あ、それなんですけど……今朝部屋に書き置きが残されていて」



女(私の疑問に気弱君が紙を見せる。それには)






『いやー、久しぶりに旨いもん食ったで。ほんとごちそーさん。

 そういうわけで俺はここらで退散させてもらうわ。

 あ、『組織』にも戻らんつもりやからな。

 あっちも色々ひりついてて面倒くさくてな。

 面倒なことはゴメン、が俺のモットーや。適当にこの世界で好き勝手生きさせてもらうで。

 ほな、じゃあな。   チャラ男』





女(とその調子に合わせたような走り書きの言葉が綴られていた)



女「そっか……チャラ男君も」

女(正直元々当てにしていなかったし、心も許していなかったからそんなに感情は動かなかった)


姉御「メッセージを伝えるついでに『組織』から離れて、そのまま逃走する計画だったんだろうねえ」

姉御「ったく、その上、手癖も悪くて懲りちゃいない」

姉御「気弱が個人的に持っていたお金もちゃっかり盗んでいったって話だから、女も何か盗まれたかもしれないよ」



女「あーそっか、昨夜は私部屋にいなかったし……でもあんまり手元にお金持つようにしてなかったし大丈夫だよ」



姉御「ならいいけどね……ああもう、女が男のところにたどり着けるように頑張るとか、あの言葉も嘘だったんだねえ」

女(姉御が歯噛みして悔しがる)



気弱「でも、本当にチャラ男さんらしくて感心さえしました」

女(お金を盗まれたという話の気弱君なのに、のほほんとしたことを言う)





姉御「……まあ、そうだねえ。これだけ世界に危機が迫る問題だって分かっているはずなのに……それでも放り投げて逃げ出せるんだから、ある意味大物なのかもねえ」

女(一時とはいえ一緒に冒険した二人には色々と思うところがあるのだろう)


傭兵「去った者の事を考えても仕方ない。しかし、今回のことで少女の弱点ともいえる面が露呈したな」

女(傭兵さんが話を軌道修正する)



女「弱点ですか?」

傭兵「ああ。魔導士の少女を自爆だと分かっていながら助けた」

傭兵「今後魔王城を攻め入った際に同じ事をされないとは限らない。それは少年も同じ事だ」

女「……そうですね。男君相手でも私は同じ事をしたでしょう」



女(もし男君が自分の首にナイフを当てて、これ以上傷つけられたくなかったら大人しくしろ、と脅しにもならないことを言われたら……それでも私は従ってしまうだろう)



傭兵「その気質は戦場でなければ美点なのだろうがな。さてどうするか……」



気弱「いえ、それなら大丈夫だと思いますよ」



女(傭兵さんの言葉に物申したのは意外にも気弱君だった)


傭兵「どういうことだ?」

気弱「男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです」

傭兵「動機……? 何か知っているのか?」

気弱「えっ……あ、いや……その」



女(気弱君はどうやら独り言くらいのつもりで発言していたようだ。みんなの注目が集まって慌て出す)



女「どういうこと、気弱君? 男君の動機について、何か心当たりでも――」

気弱「あ、僕はちょっとチャラ男さんに他に盗まれた物が無いか確認してくるので失礼します!!」



女(私の問いにあたふたしながら気弱君はその場を去っていった)


傭兵「あの様子……何やら気づいたのか?」

魔族「だったら何故共有しない」



姉御「女、あんたは大人しくしているんだよ。治療こそしたけど、あれだけのダメージだったからね」

女「えー、でも……」

姉御「代わりにアタイが気弱から聞き出しておくからさ。……まあいざとなったときの気弱はかなり頑固だから無理かも知れないけど」



女(ひらひらと後ろ手を振りながら姉御は医務室を出て行く)



女「……まあ、そっか。安静にしておかないとね」

女(女友による襲撃の被害は私だけに止まり、結果的に防げた形だ)

女(独裁都市の戦力は順調に集まっている)

女(決戦は近い、そのときに万全の状態じゃないなんて話にもならない)



女(今の私がするべきことは回復に努めることだと判断して……)

女(そう思うとダメージから来る疲れと、夜更けに起きていたことからそのまま眠りに就いた)






姉御(アタイは医務室を出て左右を見回した)



姉御「ああもう、こういうときはすばしっこいね」



姉御(気弱の姿は近くに見当たらない)

姉御(さて、どこに向かったのか……考えてとりあえず見当は付いた)



姉御「気弱は真面目だから、言い訳のようにして出てきたけど本当にチャラ男からの被害がどれだけあったか確かめている……ってところだろうねえ」



姉御(そうなれば向かうは客室だ)

姉御(この神殿は政治の中枢としても使われる拠点だ)

姉御(そちらの方は今は決戦準備のため24時間体制で動いている)

姉御(そのように人がいるところでは流石にチャラ男も盗みは働けないだろう)

姉御(だから被害があったとしたら客室方面だ。私は足をそちらに向ける)




姉御「さて後はどこに行ったかという問題だが……そういえば……」



姉御(最初に目が付いたのは女が使っている客室だった)



姉御「昨夜はいなかったから入られたかも知れないって言ってたねえ……」



姉御(とはいえ女子が使っている部屋に入る度胸は気弱にはないだろう)



姉御「でもまあ一応、一応。代わりに被害状況を確認するってことで」



姉御(アタイはそう言いながら部屋に入る)



姉御(二人用の客室)

姉御(二つのベッドにはどちらも使用された形跡があった)



姉御「女友も寝るフリだけはしたって言ってたし、そのせいかね……」

姉御(それにしても……未だに歯痒かった)

姉御(女友が命令に従って動いていたことに気づけなかった自分に)

姉御(演技の可能性は思い浮かんでいたのに……それでも自然に振る舞う女友に騙された)



姉御「全く悔しいねえ……女友、あんたも悔しくないのかい」



姉御(ここにはいない人に問いかける)

姉御(女友はおそらくアタイ以上に悔しがっているだろう)

姉御(男の命令通りに動くしかないことに)

姉御(本当はアタイたちに協力したいと、昨夜女にも言ったようだ。それなのに真逆の行動をさせられて…………)




姉御「……ん、あれは」



姉御(そのとき視界の隅に違和感を覚えた)

姉御(正体は枕だ)

姉御(枕カバーのファスナーが閉まりきっていない)

姉御(この神殿の清掃員は都市の中枢であるこの建物に勤めるだけあって丁寧な仕事を心掛けている)

姉御(アタイなら気にしないような細かいことまできっちりする人たちだ)



姉御(こんな雑をするはずがない。だとしたら……その後ベッドを使った人による仕業……?)



姉御(アタイは枕を手にとって枕カバーを取り外す)

姉御(すると中身と一緒に……一枚の紙が滑り落ちた)

姉御(アタイはそれを拾い上げて……そこに書かれた内容を読む)




姉御「……はんっ。なるほどねえ。女友、あんたも中々やるじゃないか」



姉御(メッセージは女友によるものだった)










『女友です。

 申し訳ありません、これを読まれている頃には私はそこにいないでしょう。

 男さんの命令下ではこんなものを残すことが精一杯でした。



 女たちが役立てることを願って、私が独自に掴んだ情報について記します。

 魔王城の抜け道についてです』

続く。

乙ー

乙!

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(翌日)

女(一日安静にしていた私はすっかり元気になった)



女(私、姉御、気弱君、傭兵さん、魔族さんに加えて)

女(ちょうど周辺地域を回って協力を取り付けから帰ってきた姫様と、古参会長も交えて最終確認を行っている)







姫「準備は整いました。決戦は三日後です」



女(姫さんの宣言に、ようやくこの時が来たかという心持ちだ)



女「王国に攻め入って、絶対に魔王城を落としてみせるよ……!!」

姫「一応注意しておきますが、外でそんなこと言わないでくださいね」

姫「今回、名目上は王国解放作戦です。大義名分の無い他国への攻撃はただの侵略ですから」

姫「男さんたちを、王国を乗っ取ったテロリストとして扱い、それから王国を解放することが今回連合軍が結成された目的です」



女(姫さんに注意される)

女(今回の作戦には大勢が関わる。私が分かっていないだけで、色々としがらみや建前と本音が入り交じるドロドロとした物が裏にはあるのだろう)


古参会長「気にすることはない。女君は彼をどう説得するかだけを考えていたまえ」

女「……ありがとうございます」



女(私の微妙な面持ちを見抜いた古参会長に声をかけられる)



傭兵「極論、今の王国は少年の魅了スキル一つで成り立っているようなものだ」

傭兵「少年を攻略することが、そのまま王国を攻略することに繋がる」

魔族「少女よ、そのための策について後で提案したいことがある」



女(傭兵さんに続いて魔族さんが言うけど……策の提案って何だろう……?)



姉御「そうなってくると女友が残してくれた情報が役立ってくれそうだねえ」

女(姉御が拳をもう一つの手にパチンと打ち付ける)


女「そうだね」



女(女友が残してくれた情報)

女(姉御が見つけてくれたそれについては昨日の内に目を通していた)



女(曰く、魔王城には抜け道があると)

女(元は王国の王族が使っていた城だ。有事の際に王族だけでも逃がすために秘密の抜け道が設えられていた)

女(王都の近くの森に出るそれを逆に侵入路として使ってみてはどうか、と)



女(命令が無い間に城を見回っていた女友が見つけたもので、男君はその存在も知らないようだ)

女(おそらく一番防御の堅いだろう王都をスキップして、直接魔王城に侵入できるならありがたい)



女(私としてはその情報の内容以上に、女友が男君の命令の外で残してくれたという事実の方が大きかった)

女(こちらに協力するという証だから)



女(女友が使ったベッドの枕からメモ紙が出てきたって話だったけど……よく考えてみれば襲撃から去る直前)



女友『私だってそうしたいところです。寝心地の良さそうな枕だったのに、あのベッドで結局一睡も出来ませんでしたし』



女(と、自分が使っていた枕を気にするように言葉を残していた)

女(気づけなかった私はニブチンだ)




女「そういえば気弱君。やっぱり男君の動機について気づいたこと、教えてもらえないの?」

気弱「……な、何の話ですか?」



女(私の問いかけに気弱君は目を逸らして答える。嘘を吐いていると誰だって分かる様子だ)



気弱『男さんの動機からして……そんな好意を盾にした行動は取らないはず……ということです』



女(昨日口を滑らせたその言葉の意味は分からないまま)



姉御「ああなった気弱は頑固でねえ。すまんね、女」

女「姉御が謝る事じゃないでしょ」

姉御「まあ流石にアタイたちに大きく不利益が出るようなことなら、気弱だって黙ること無いはずだ」

姉御「黙っていても大丈夫だと判断したことだろうから、気になるだろうけど気にしないでくれ」



女「……はーい」

女(本人よりもすまなそうにしている姉御の姿に免じて、それ以上の追求は止める)


女「『組織』との共闘の話って、どうなったんですか?」



女(気を取り直して私は古参会長に聞く)

女(チャラ男君は去っていったけど、その情報は本物だった……と信じたい)

女(王国をどうにかするために犯罪結社の『組織』と協力するかという話だったけど)



古参会長「『組織』とは特に話をしていないが、三日後連合軍が王国解放作戦を実行することは大々的に報じておる」

古参会長「協力するつもりなら、勝手にあちらの方で日程を合わせるだろう」



女「あ……そっか。二正面作戦をするだけだから、特に連携も取る必要がないと」

古参会長「『組織』が現れようと現れまいとすることに変わりはないからな」


女(私たちの準備は完了した)

女(気になるのは残る二つの勢力の状況)



女(『組織』をバックにイケメン君を筆頭とする駐留派はどう動くつもりなのか)



女(そして王国、支配派である男君はどう応じるつもりなのか)



女「あー……気になるなあ……」




<『組織』本部>





イケメン「三日後、連合軍が動く。僕たち『組織』もその日に合わせて動く事にするよ」





ギャル「三日後? 随分早いわね」

イケメン「ああ、トップがかなり優秀なようでね」

イケメン「生まれ変わった独裁都市の姫、そして古参商会の長の力のおかげだろう」

ギャル「ふーん、まあどうでもいいけど」

イケメン「そうだな、王国の気を引いてくれさえすればいい」



イケメン(僕の頭にあるのは作戦が上手く行くか、否かだけ)

イケメン(すなわち魅了スキルの奪取だ)



イケメン(最初からそれを目的に動いてきた)

イケメン(状況が推移して、やつが積極的に魅了スキルを使用するようになった今も変わりはない)



イケメン(いや、それ以上の旨味が増えたとも言えるだろう)

イケメン(魅了スキルによって王国を支配している現状、僕が魅了スキルを支配することが出来れば、王国もまるっと戴けるということだから)

イケメン(そうして今度こそ女を手に入れる)


ギャル「にしてもチャラ男も薄情者よねえ。ギャルたちや『組織』への恩も忘れて出て行くなんてさ」

イケメン「最近あいつが不満を溜めていたのは分かっていたからな。遅いか早いかの問題だったさ」

イケメン「まあ最後に重要な情報を残してくれた辺り、完全に恩を忘れたわけではないだろう」



イケメン(独裁都市に大使として向かわせたチャラ男から送られてきた手紙)

イケメン(それには情報を伝えたという旨と、『組織』から脱退すること、そして魔王城の抜け道についてが記されていた)



イケメン(最後の情報については、金目の物を探している内に見つけた情報らしい)

イケメン(男に支配されている女友が支配の外で残した情報とやら記されていて、どうやら向こうも向こうで複雑な事情があるようだが関係ない。情報の中身が全てだ)



イケメン(魔王城に直接侵入する通路の存在については喉から手が出るほど欲しかった情報だ)

イケメン(その重要さは、チャラ男が抜けた戦力の穴と十分に釣り合うほど)


イケメン「…………」



イケメン(世界全てが僕の都合のいいように回っている)

イケメン(三日後僕は全てを手に入れる)

イケメン(そうなるとこいつともそろそろおさらばだな)



ギャル「ん、どうしたのギャルの顔を見て? あーそういえば最近恋人らしいことしてなかったもんね。キスでもする?」

イケメン「……そうしたいのはやまやまだけどね。この後ちょっと用事があってね」

ギャル「えー。最近イケメンずっとそんな感じじゃない?」

イケメン「ごめんって、今回の作戦が終わったら思う存分付き合うからさ」

ギャル「……ならいいけど」



イケメン(ギャルは口を尖らせながらも引き下がる)

イケメン(のうてんきな提案に口調を荒げる寸前で、僕がこいつの彼氏であったことを思いだして、聞き当たりの良い言葉を並べる)

イケメン(まだ我慢だ。こいつは僕のためといって、最近ますます力を付けている。魔王城攻略に当たって、有力な駒となる)

イケメン(この脳みそ空っぽ女は、最後の最後まで自分が利用されていることに気づかないのだろう。まあそうやってコントロール出来る自信があったからこいつを選んだとも言える)



イケメン「………………」

イケメン(帰還派の連合軍と支配派の王国はどのように動くか)

イケメン(気にはなるが関係ない)

イケメン(最終的な勝者は僕に決まっている)

イケメン(ああ……三日後が待ち遠しいくらいだ)


<魔王城・謁見の間>



女友「――――というわけです」

男「……まあいいだろう、総合的な首尾は上々だ」



女友(私は独裁都市から帰った魔王城にて、男さんに今回の作戦の経過について報告しました)





女友(今回命じられていたことは大きく分けて三つ)

女友(まず一つは独裁都市の現状を探ること。これについては概ね達成できたと見て構わないでしょう)

女友(もう一つは独裁都市の戦力を削ること。これはユウカに妨害されて失敗)

女友(最後に……一番妖しげな企み)





女友(『男さんの命令の外ではこの情報を残すことが精一杯』という体で、男さんに命令された通りの情報を流すこと)





女友(これについては……最後に枕に注目するように言いましたが、女は気づいたのでしょうか)


女友(魔王城への抜け道)

女友(確かに私が発見した代物ですが、『気づいたことは全て知らせろ』という命令により男さんに共有されその存在は知っています)

女友(こんな嘘の情報を流して、一体何の意味があるのか。いつも通り男さんは命令だけして何の説明もしてくれません)



女友(考えても分かりませんが、いずれにしろ全てが男さんの手の平の上で進行しているようにしか思えなくて恐ろしいばかりです)

女友(男さんはその先に何を見ているのでしょうか?)




男「報告はそれで終わりか?」



女友(男さんが問います)

女友(今回命令されたことについては一通り既に述べたので……最後に大事な伝言を伝えましょう)





女友「女から男さんに伝言をもらいました。『絶対に会いに行くから』だそうです」

男「……そうか。下がっていいぞ」





女友(男さんは何の反応も見せずに、私に退室するよう勧めたのでした)

続く。

乙ー

乙!

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


近衛兵長(私のこれまでの人生は数奇なものだった)



近衛兵長(物心付いたときから王国の工作員としての教育を受け、それも十分となった頃命令により各地を暗躍)

近衛兵長(数年前からは長期ミッションとして元宗教都市、現独裁都市に潜入した)



近衛兵長(傀儡政権を樹立させ、富を王国に横流しする準備と共に都市の弱体化を計るも)

近衛兵長(魅了スキルを持った少年たちによって阻まれる)



近衛兵長(その後命令により王国への逆スパイとして働かせられたと思うと、王国を乗っ取るために利用される)

近衛兵長(結果こうして乗っ取った王国でNo.2としての地位に就いている)


女友「近衛兵長さんは今回の命令についてどう考えますか」



近衛兵長(主との謁見を経て退出したところで、魔導士の少女に声をかけられる)

近衛兵長(同じNo.2の立場として少女とはそれなりに交流がある。元が敵同士であったためかその関係はぎこちないものもあるが)



近衛兵長「抜け道の情報を流したことか」

女友「ええ」

近衛兵長「単純に考えるならば罠だな。抜け道に入った時点でそれを封鎖することで一網打尽にする」

女友「私も一番にそれを考えました……しかし」

近衛兵長「ああ。王国の戦力は十分にある。わざわざ面倒な罠を使わずとも、正面から叩き潰せばいい」

女友「そうなんですよね……」



近衛兵長「故にもう一つ考えられる可能性として……誰かをこの魔王城に誘き出したいのではないか?」

近衛兵長「心当たりはないのか、主の昔からの知己として」



女友「心当たりは何人かいますが……その目的までは」

近衛兵長「少女に分からないことが、私に分かるわけ無かろう」



近衛兵長(それもそうですね、と魔導士の少女は頷いてその場を去っていく)

近衛兵長(独裁都市での戦闘の疲れを癒すために自室待機するように命じられていたはずだ)

近衛兵長(私も護衛を終えて待機を命じられていたため、自室に向かうのだった)




近衛兵長(その夜)

近衛兵長(私は唐突に主に呼び出された)



近衛兵長(別にそれ自体は良くあることだった)

近衛兵長(珍しかったのは呼び出されたのが私だけだったということ)

近衛兵長(二人のNo.2という立場からか、もしくは魅了スキルにかかっているとはいえ未だ私のことを信用していないのか、これまで呼び出すときは必ず魔導士の少女も一緒だったからだ)



近衛兵長「呼び出したのは私だけか?」

近衛兵長(分からないことは素直に問うに限る)





男「はい。決戦を三日後に控えて……個人的に頼みたいことがあるんです」





近衛兵長(主、男の様子はいつもと違った。口を開けば命令ばかりだったのに……頼みとは一体)


近衛兵長「珍しいことが続くな」

男「今回限りです。それより近衛兵長さん、俺について何か気になることがあるんじゃないですか?」



近衛兵長(ここまで命令がない会話も珍しい。私の意見を求めることもだ)

近衛兵長(どういう考えなのかは分からないが、私だって機械ではない。気になることなどたくさんある)



近衛兵長「気になること……と言われると山ほどあるが、一番は……そうだな、何故王国を支配したのかということだ」

男「王国を支配した理由は簡単です。この大陸で一番強大な王国を支配することが、全てを支配する足がかりとしてちょうどいいと判断したからです」



近衛兵長「ならば続けて質問だ。何が目的で全てを支配する?」

男「俺の夢のためです」



近衛兵長「夢とは何だ?」








男「永遠の孤独です。誰にも干渉されず、誰にも邪魔されない、俺一人だけの空間」

男「あっちの世界では諦めた俺の夢が、この世界ならば叶えられる」

男「全てを支配したその中心で、俺は永遠の孤独を享受してやるんです……!」





近衛兵長(少年は両手を広げ意気込んで語る)

近衛兵長(その様子はいつもと違って、年相応に見えた)



近衛兵長「なるほどな……」

男「そんな下らないことのために、って思いましたか?」



近衛兵長「いや、微塵も」

男「本当ですか? 引かれると思ってましたが」




近衛兵長「ならば逆に問うが、どのような理由で世界を支配すれば崇高だと言える?」

男「それは……」



近衛兵長「世界を支配する。そもそもが下らない行為だ」

近衛兵長「ならば理由も下らない物になって当然」

近衛兵長「世界を救うために、などと言われた方がよほど反吐が出る」



男「……ははっ、そうですね。近衛兵長さんにこのことを話して良かったと心底から思いました」



近衛兵長(少年が笑い飛ばす)




近衛兵長「全てを支配するか……なるほどな、全てが繋がった」

近衛兵長「少年がこれまでにしてきた行動、その意味も」



男「分かったんですか?」

近衛兵長「ああ。少年と竜闘士の少女の奇怪な関係については聞いているからな」



男「……女友か。そっちは明かすつもりはなかったんですが」

近衛兵長「論理的に考えてだからな。正直その行為がどのような意味を持つのかは分からん。恋というものを知らずに育ったからな」



男「ハニートラップを仕掛けたこともあると聞いた覚えがありますが」

近衛兵長「あれは欲を理解していれば務まる」



近衛兵長(珍しく軽口の応酬となる。私も少年もどうやらテンションが高まっているようだ)




近衛兵長「それで。私への頼みとは何だ。そういう話だっただろう?」

男「そうでしたね。二つあります。一つは三日後の決戦時に、防衛隊の指揮を取って欲しいということです。ああこれは命令です」

近衛兵長「命令か、当然承った」



男「もう一つは……こちらが頼みですね」

男「決戦を制せば、この世界のほとんどを掌握出来るといっても過言ではないでしょう」

男「そうなったら支配権を俺から近衛兵長さんに委譲したいんです」



近衛兵長「委譲……?」

男「ええ。虜になった人間には『近衛兵長の命令に従うように』という命令を下しますから、その後は好きにお任せします」


近衛兵長「何故そのようなことを?」



男「支配を維持するために一々命令しないといけないなんて、永遠の孤独に程遠いじゃないですか」

男「同じ理由で近衛兵長さんに命令ではなく、頼みとしてお願いしたいんです」

男「世界支配を目的としていた元王国に従っていた身として、そういう欲望は持っていますよね?」



近衛兵長「……何の罠だ? 私が一方的に得するだけに思えるが」

男「言ったとおりですよ。俺の夢のためです」

近衛兵長「そのために支配した世界をまるっと私に譲ると?」

男「はい。……あ、でも最低限の命令として俺を裏切れないようになどの効力はそのままですからね」



近衛兵長(真意は分からないが……今の主に嘘を吐いている様子は感じ取れない)

近衛兵長(ならば私の返事は一つ)



近衛兵長「裏切るものか、私に多大な恵みをくれる主に」

男「承ってくれるんですね」

近衛兵長「もちろんだ」



近衛兵長(成り行きで仕えることになったが、今のやりとりを経て私はこのときのために今までを過ごしてきたのだと思うまでになった)


近衛兵長(と、話が一段落したところで)





幼女「ねえ、パパ。まだ話終わらないの……?」





近衛兵長(そのとき第三者の、幼い声が響いた)




男「……寝ておけって言っただろ」



近衛兵長(少年が不服そうに口を開く)



幼女「嫌。パパと一緒に寝るの」



近衛兵長(しかし幼女に引く様子はない)



男「分かった、すぐに行くから」

幼女「絶対に約束だからね」



近衛兵長(仕方なく少年は折れたようだ)


近衛兵長「苦労しているようだな」

男「ええ、割と。まあリンクしていたときからですから元々です」



近衛兵長「ならば魅了スキルで支配すればいい」



男「駒として見るには関わりすぎましたから」

男「そうなるとあのような幼き者にまで魅力的に思うほど猿でもないですし」



近衛兵長「……まあそうなったら擁護は出来まい」



男「三日後、役割を持ってもらうつもりですから。それまではご機嫌取りしますよ」



近衛兵長(話は終わりだと言わんばかりに少年は手を振りながら、幼女も引っ込んだ寝室に向かう)

近衛兵長(私も部屋を出た)


<寝室>





幼女「すぅ……すぅ……」

男「ようやく寝たか」



男(はぁ、と俺は一息吐く)





男「………………」



男(あの襲撃の日、『囁き』を受けた瞬間に思い描いていた通りに)

男(抱いた感情そのままに、ここまで突き進むことが出来た)



男(順調に進んでいる)

男(誰にも邪魔はさせない)



男(俺の夢を叶えて、理想を諦めるために――)








男「必ず会いに行くから……か」



男「いいだろう。全てを終わらせよう……女」










 そして三日後。

 異世界の命運の賭かった決戦の日を迎える。





続く。

最終章が始まってから4か月。
投稿ペースが遅くなったせいで時間がかかりましたが、ようやくここまで来ました。

次回から最終局面に入ります。
最終章も残り10話前後くらいなので、付き合ってもらえると幸いです。

乙ー

乙!

遅くなりました。
投下します。


姫(私は初めて見るその光景に恐れおののいていました)



姫(武器を手に取り相手を打ち倒さんと迫る者たち、雨霰のように飛び交う魔法、気勢や怒号や悲鳴といった強い感情の籠もった声の響き)

姫(それがいたるところに溢れている場所)

姫(戦場)



姫(前の大戦の際、私は物心が付いていない子供でした)

姫(大陸でそのとき以来に起こった大規模な戦闘だと言えるでしょう)





古参会長「体が震えておるな。悪いことは言わない、今からでも帰っていいのだぞ?」

姫「会長さん……」


姫(私が今いるここは今回の王国解放作戦を実行する連合軍の司令所です)

姫(戦闘中ということで色々な人が立ち替わり入れ替わりで忙しなく動いています)

姫(戦場を見ただけで震える私のような小娘がいるべき場所では無いのでしょう)



姫(それでも私はこの戦いの結末を自分の目で見届けたい、ということで自ら望んでこの場にいました)

姫(正直邪魔だと思われているでしょうが、私は独裁都市の代表であり、今回の作戦の提案者。無碍に扱うことも出来ないのです)



古参会長「全く。何ともなワガママを通したものだ」



姫(動く様子を見せない私に、会長さんは呆れた様子で呟きました)



姫「ええ、ワガママは得意なんです。元は『少女姫』でしたから」

古参会長「話は聞いたことはあるぞ」


姫「私をあの操り人形だった日々から解放してくれたのは男さんです。莫大な恩があるんです」

姫「理由も目的も思惑も分かりません」

姫「それでも今の男さんを、私はおかしいと判断します」

姫「ならばそこから戻すのが私の恩返しです」



古参会長「そうか……各所への交渉、やけにはりきっておるとは思ったが」



姫「本当は直接男さんに言いたいんです。誰にだってその役割を譲りたくない」

姫「……でも、分かるんです。私の想いでは届かないだろうことが」



姫(私は視線を上に向ける)

姫(女さんは戦場上空にて王国のドラゴン部隊と戦闘中だった。数体のドラゴン相手に一歩も引かない立ち回りをしている)


古参会長「あの中に私が売ったドラゴンが何体いるだろうか」

姫「そういえば古参商会はドラゴンの取り扱いもしていましたね」



古参会長「ああ。別にそのこと自体に思うところはない。商人として必要としている人に必要な物を売っただけだからな」

古参会長「だが……直近でドラゴンを取り扱ったのが、少年たちがテイムしたものだったからそれを思い出してな」



姫「男さんの話で聞きました。古参商会のスパイ騒動を解決したことも」

古参会長「秘書を過去や苦しみから解放して、私との絆も守ってくれた少年たちには感謝してもしきれない。そういう意味では姫、そなたと同じだな」

姫「なるほど……腑に落ちました。かき集めても足りなかった今回の作戦の費用。足りなかった分を私財を投入までして補った、会長の気持ちが」

古参会長「少年たちが守ってくれた物を思えばまだまだ足りないくらいだ」



姫(会長は頭を振りますが……独裁都市の一ヶ月分の運営費ほどの額です)

姫(とてつもない額だというのに……いやそれほど男さんたちの行為に感謝しているということでしょうか)


古参会長「いやはや、年を取るとどうにも昔話ばかりしてしまう。大事なのは今だというのにな」

姫(古参会長はポンと手を叩いて話題を変えた)



姫「あ、すいません。会長は補給の責任者。私と無駄話している暇はありませんよね」

古参会長「いや何、本当に余裕が無ければそもそも話しかけてはおらん。次の補給が到着するまで後少しあるから大丈夫だ」

古参会長「それまでに現在の戦況を説明しておこう。ここは指令所。流れ弾が飛ばないように陣の最後衛に位置している分、状況も分かりづらいだろうしな」

姫「ありがとうございます」



古参会長「正直なことを言うと、現在連合軍は王国軍に押され気味だ」

古参会長「想定外なことが二つ発生しているからだろう。戦場に伝説の傭兵殿の姿が無いことと王国軍の数が多いことだ」



姫「傭兵さんがいないんですか?」

古参会長「ああ。元々傭兵殿からは『連合軍の指揮下で動くつもりはない、自分たちの策の下に動くつもりだ』とは聞いている」

姫「策というと魔族さんと女さんと何か打ち合わせをしているのは耳に挟みましたが」



古参会長「何を企んでいるのかは分からないが、とにかく一騎当千の竜闘士が二人いれば盤石だと思っていたところで、戦場に女君一人しかいないため目論見が外れているところが一点」


姫「もう一つ、王国軍の数が多いというのは?」

古参会長「そのままの意味だ。正確には連合軍と戦闘中の数が、ということになるな」



姫(古参会長の曖昧な言い回し)

姫(この場所は連合軍の司令所。二人で話しているが、先ほどから周囲の人の行き来も激しい)

姫(つまりその無関係な人に聞かれるわけには行かない言葉を避けているということで…………)



姫「あれが動いていないというわけですか?」

姫(すなわち犯罪結社『組織』のことだ。元々、二正面作戦によって戦力の分散を計るという話である)



古参会長「その可能性が高いのだろうな」

姫「まだ王国側にあれが動いていることを気づかれていないだけという可能性も……」

古参会長「いや、無いだろう。使者の話を魔導士の少女、女友君は聞いている。王国には筒抜けのはずだ」

姫「あっ、そうでした」



古参会長「だとしてもやることには変わりない。ここを突破して、王都にたどり着き、何としても魔王城までたどり着かねば」



姫(今の戦場は王国の郊外だ。王都にあると言われる魔王城まではまだまだ遠い)


古参会長「さて、時間だな。私は行くぞ」

姫「貴重な時間を割いてくれて、ありがとうございました」

姫(去っていく会長に私は礼をする)



姫「…………」

姫(どうやら戦況は芳しくないようです)

姫(王国の力は強大。それに対抗しうる力をかき集められたのは奇跡で一回限り。作戦を失敗すれば、王国の支配はもはや誰にも止められないでしょう)



姫(戦う力も戦場を動かす権限も持たない私)

姫(唯一出来ることといえば)



姫「お願いします、女神様。私たちを勝たしてください」



姫(願うこと)

姫(それは女神教の大巫女として祈りは欠かしたことが無い私には得意分野でした)


<王都近郊>



女友「はぁ……」

女友(私は空中で溜め息を吐きました)



女友(現在の状況は連合軍による王国解放作戦の進行中です)

女友(男さんの魅了スキルによって王国に味方するしかない私は防衛する側と言えます)



女友(連合軍はかなりの戦力を揃えてきたようですが、王国軍だって盤石の準備をしています)

女友(総司令官を命じられた近衛兵長さんの指揮の下、ほぼ全勢力で以て当たっているはずです)

女友(遅れは取らない、いえこちらが圧倒することもあり得ますね)




女友(――と、想像するしかないのは私がその場にいないからです)

女友(連合軍に王国軍の全力で当たった結果、生じる当然の問題)

女友(すなわち『組織』の攻撃を如何にして防衛するかということです)



女友「うじゃうじゃいますね……」



女友(浮遊魔法で宙を行く私の眼下に見えてきたのは地上を埋め尽くす『組織』の構成員)

女友(ざっと数えて5000人ほどでしょうか。それら全てが王都に向けて進んでいます)

女友(浮遊魔法に加えて透明化魔法をかけているため地上の構成員たちに気づかれていませんが、気づかれた瞬間魔法や矢が飛んできてたちまち危機に陥るでしょう)



女友「『組織』はどうやらかなりの数を揃えてきたようですね」

女友(チャラ男さんの話が嘘だったら、私の仕事も無くなったのですが)


女友(『組織』に対しての防衛は男さんの命令によって私に任されました)

女友(しかし、何度も言っていますが現在連合軍相手にほとんどの戦力を割いていますし、何かあったときのための人員を王都と魔王城にも配置しなければなりません)



女友(結果、『組織』防衛にかけられる人員は――2人)

女友(私ともう1人で5000を越える数を相手しろ、というわけです)



女友(見た感じ『組織』の構成員にそこまでの練度は無いようですので、魔導士である私なら一度に十数人ほどは相手出来るでしょう)

女友(ですがそれが限界で、まともに戦えば一瞬でやられるに決まっています)



女友(男さんが私への嫌がらせにこのような配置にしたのか?)

女友(今の男さんがおかしくなっているとはいえ、そこまでのことをするはずがありません。勝算があっての行動です)



女友(鍵となるのはもう一人の存在)






幼女「空飛んでる!! あ、ねえねえ、お姉ちゃん!! 人がいっぱいいるよ!!」





女友(私の脇に抱えている幼女の発言)

女友(私が独裁都市から帰ってきたときには、集まった宝玉を使い既に呼び出されていた存在)





女友(つまりは――これまで魔神と呼んできた存在です)





女友「ああもう暴れないでください」

女友(空中にいるのに落ちたら一大事です。はしゃぎだした幼女を強く抱えます)

女友(魔神と呼ばれていてもその正体は幼き少女です。戦う力も持っていません)



女友(その身に宿すのは一つのスキルのみ)

女友(固有スキル『囁き』)

女友(この世界を滅ぼす直前まで追い詰めた最凶のスキル)



女友「この辺りで大丈夫ですか?」

幼女「もうちょっと高い方がいいかも」

女友「……本当ですか? 地上からさらに離れることになりますが」



幼女「うん、もうちょっと高いところに行った方が楽しそう…………あ、じゃなくて」

女友「はぁ……真面目にやらないとパパに言いつけますよ」

幼女「ごめんなさい、嘘を吐きました! パパには言わないでください!」


女友(私が出したパパという単語)

女友(幼女は男さんのことをパパと呼んでいます)

女友(召喚されて男さんの姿を見たところ、パパに似ているということからです)



女友(そしてこのように自由に振る舞っているのも男さんの魅了スキルがかかっていないからです)

女友(学術都市でリンクが繋がって以来、頻繁に会話が交わされた結果、男さんは幼女を駒として見ることが出来なくなったそうです)

女友(そうなると幼き少女を魅力的に思うほど腐ってはいないという言い分で、虜に出来ていないのです)



女友(ですから普通に関係を築いた結果、幼女は男さんの言うことだけは聞くようになりました。本当に娘と父のような関係です)


女友「だったら言われたとおりお願いします」

幼女「うん、分かった。お姉ちゃん、透明化解いて。そしてみんなの注目を集めて」

女友「了解です。『不可視(インビジブル)』解除。『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」



女友(私は言われた通り透明化を解除して、氷の雨を地上に降らせてこちらに注目を向けさせます)



構成員1「いたっ……何だいきなり……って、誰だあいつ?」

構成員2「おまえ情報にあっただろ、クラスメイトとかいうくくりに属する魔導士だ」

構成員3「魔導士とかやべえな。でも一人、しかも子連れとか無謀すぎるだろ」



女友(気づいた構成員たちがこちらを見上げだしました)

女友(私と幼女の姿しか見えないことに嘲笑が辺りに満ちます)

女友(犯罪結社の構成員だけあって、下卑で粗野な男たちばかりです)



女友(だからこそこれからの行動の効果が増すでしょう)






幼女「じゃあ行くよ! 『囁き』!!」





女友(幼女が、魔神がその最凶のスキルを発動します)

女友(その条件はお互いに存在を認識すること)

女友(その効果は対象の欲望を解放すること)





構成員たち「「「あっ…………」」」





女友(『組織』の構成員全てに『囁き』がかかった結果起きることは)


構成員1「おまえ前から気に入らなかったんだよ!!」

構成員2「その得物いいな、よこせっ!!」

構成員3「いっつも、いっつも嫌がらせをしやがって!! うんざりなんだよ!!」

構成員4「おまえの女いいやつだよな! おまえが死ねば俺の物になるよな!」

構成員5「いっつも偉そうにしやがってよぉっ!!」





女友(壮絶な同士討ち)

女友(5000の数を1人で自滅に追い込む)



女友(これこそが固有スキル『囁き』の本領)






幼女「ねえ、お姉ちゃん。手退けてよ」



女友(私は自然と目の前の醜い光景を見せないために幼女の目を手で覆っていました)

女友(これまで触れ合って分かったのは、規格外の力を持ってしまっただけのただの幼き少女だということです)

女友(こんなもの見せるわけにはいけません。男さんの命令で禁止されている事項じゃなくて助かりました)



女友「駄目です。見ちゃいけないものがあるんです」

幼女「でも見えないと上手く行ったか分からないじゃん」

女友「それなら完璧ですよ。きっとパパも褒めてくれると思います」

幼女「本当っ!?」

女友「さて仕事も終わりましたし帰りますよ」



女友(命令されたことをこなした私は、次なる命令『魔王城に帰還すること』の実行に移りました)

続く。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


<王都近郊>



イケメン「何だ、この戦闘音は! 接敵はまだだったはずだろう! 一体何が起きた!」 

伝令「そ、それが空に脇に何者かを抱えた王国の魔導士が現れ何らかのスキルを使われた結果、突然我が方が同士討ちを始めたようで……」

イケメン「同士討ちを誘うスキル……まさか」



伝令「そして……俺もいつもいけすかない態度のおまえをぶっ殺したくなったんだよ!!」

イケメン「っ……! 『影の束縛(シャドウバインド)』!!」



イケメン(態度を豹変させた伝令を僕はスキルを使って拘束する)



伝令「くそっ、離せ!!」

イケメン「離すわけ無いだろう。はぁ……面倒なことになったみたいだね」



イケメン(僕は『組織』の王国討伐作戦における全権を受け持っている)

イケメン(組織への貢献から幹部へと昇進しこのような重大な役職も任されるようになった)



イケメン(今回部隊は主に二つに分けている)

イケメン(一つは寄せ集めの大部隊。もう一つは僕が直接指揮する少数精鋭の部隊だ)

イケメン(大部隊が王国軍と正面からやりあい注意を引いている間に僕らが潜入する手はずだったけど、どうもその目論見には陰りが差しているようだ)



ギャル「同士討ち? 何でこの時に? 寄せ集めだとしても馬鹿すぎない?」

イケメン「想像は付く、魔神だろうね。『囁き』のスキルにより欲望を解放された結果、日頃から不満を溜めていた味方に当たり散らかし始めたというところだろう」

ギャル「使えないわね」

イケメン「ああ、全くだ」



イケメン(ギャルの言葉に演技でなく僕は同意する)


イケメン「さてそうなると、注意を引ける時間も限られる。急がないとね」



イケメン(僕は部隊に指示を出して捜索を急がせる)

イケメン(現在位置は王都付近の森の中)

イケメン(チャラ男からの手紙にあった、魔王城への抜け道があるはずの場所だ)

イケメン(今回の作戦に当たって設立された部隊、30人ほどの達人級の使い手が散らばって抜け道の出口を探す)



イケメン(ちなみに当然ながら隊員は全員男性である)

イケメン(女性を支配する魅了スキルの持ち主の根城に乗り込むのに、のこのこと対象となる女性を連れていくはずがない)



ギャル「ほらーきりきり働きなさいよー」



イケメン(唯一の例外が僕の隣に立ったまま捜索をサボっているギャルだ)

イケメン(こいつはそもそも異世界に召喚されたばかりの時に魅了スキルを食らったが虜になっていない)

イケメン(条件である術者が魅力的だと思う異性に当てはまっていないというわけだ)


イケメン(チャラ男の手紙から、今の男がどんな女性も自身の駒だと思えば魅力的だと思える、という考えは知っている)

イケメン(だがそれも以前に関わりの無かった人間に限られるわけで、復活派の魔族が対象外だったようにこいつも対象外という判定になるはず)

イケメン(というわけで魅了スキルを気にしないで良いとなると、十分に力を持ちそして僕に従順と連れて行かない理由がない。そういうわけでこいつも部隊に同行させているのだった)





イケメン(隊員たちには地面の感触を確かめながら捜索させている)

イケメン(抜け道は地下道だ。どこかに空洞があるはず)



隊員「見つかりました!!」



イケメン(程なくして報告が上がった。魔法によって地表を吹き飛ばされた結果ぽっかりと穴が空いている)



イケメン「よくやったね。さて進むよ」



イケメン(僕は隊員を集めて地下へと降りるのだった)


イケメン(地下道はしっかりとした造りだった)

イケメン(元は王族が緊急事態の際に逃げるための物だ。何かあったときに壊れていたりしたら話にならないからだろう)

イケメン(そのため進むのに苦は無いのだが……僕は部隊に警戒させながら歩かせたためスピードは遅かった)



ギャル「急ぐんじゃないの? こんなところでゆっくりしてていーの?」

イケメン(お気楽なギャルの言葉は無視する)



イケメン(ここまではスムーズに潜入できた。だからといってここからも上手く行くなんて思ってはいない)



イケメン「…………」



イケメン(何か出来すぎている。罠ではないのか?)

イケメン(そもそも最初チャラ男からの手紙を見たときから胡散臭いとは思っていた)

イケメン(自分の本拠地にある抜け道に気づかないままなんて間抜けすぎる)

イケメン(それほど抜け道を見つけた女友が優秀だったというだけか? それとも分かっていて泳がせているのか?)


イケメン(しかし僕の警戒も空しく何も起きず、地下道を進み続けた結果目の前に扉が現れた)



ギャル「ほら、何も無かったじゃん」

イケメン「……結果論だ」



イケメン(ギャルの軽口に僕は苦々しい面持ちで返す)

イケメン(扉を開けて地下道を出たところにあったのは部屋だった。食材がごったに転がっている)



イケメン「王城の調理室地下にある食料庫か。どうやら順調に進めているようだな」



イケメン(首尾良く魔王城に潜入することが出来た。だがここからが本番)

イケメン(今もって連合軍と王国軍は正面衝突しているはずだ。だからといって全ての戦力が本拠地であるこの魔王城から出払っているはずがない)

イケメン(チャラ男の手紙による女友からの情報によると、やつは魔王城の最上階、謁見の間にいることが多いらしい。警備の目をどうにか潜り抜けて辿り着いてみせる)




イケメン「作戦通りだ。まずは二人、表に出て警備の目を攪乱してこい」

隊員たち「「はっ!」」



イケメン(調理室へと通じる扉から隊員の二人が出て行く。それを後目に僕らは裏道を進む)

イケメン(この魔王城は元々人目に付かないように移動できる裏道が張り巡らされているようだ)

イケメン(その内の一つはもちろん謁見の間まで繋がっている)

イケメン(そうでなければ緊急事態の際に王族を逃がすことが出来ない)



イケメン(裏道を進んでまた扉に当たる。ここは一階の倉庫か)

イケメン(魔王城の構造は事前に頭に叩き込んでいる。大陸一の犯罪結社である『組織』には、そのような重要な機密情報さえ持っている)




イケメン「次は四人だ」

イケメン(また隊の一部を警備の攪乱のために放つ)



イケメン(そうして進みながら隊を分けていった結果、最終的に謁見の間の前に立ったのは僕とギャルの二人だけとなった)



ギャル「二人きりだね」

イケメン「ああ、そうだね」



イケメン(緊張感に合わない含みは無視して同意する)

イケメン(他の隊員は攪乱のため全て離れた。しかしその結果として辺りに警備の者も見当たらない)

イケメン(この二人きりという状況は想定したパターンの中でも良い方だろう)



イケメン(階下からはかすかに騒ぎとなっている音が聞こえる)

イケメン(いきなり本拠地に敵が侵入したとなれば蜂の巣をつついたようになって当然とも言える)


イケメン「さて、行こうか」

ギャル「うん。魅了スキルを持つあいつをぶっ飛ばして、みんなを解放するために!!」

イケメン「……その通りだ」



イケメン(いきなりギャルが意気込んだ言葉を言うものだから、反応が一瞬遅れた)



イケメン(そうだったな、この脳天気な女は未だに僕が魅了スキルにかかった者を助けるために行動していると思い込んでいる)

イケメン(後少し、全てが手にはいるまでは騙し通さなければ)


イケメン(謁見の間に二人で侵入する)

イケメン(そこにいたのは一人だけ)

イケメン(王座の前に立つその人物は――)





男「ようやく来たか。待っていたぞ」





イケメン(男は僕たちの姿を見ても驚く様子も無く、そのように言った)






ギャル「ようやく? 待っていた? ふん、どうせ強がりでしょ」

イケメン(最初はギャルの言うとおりだと思った)



イケメン(だがそれにしては男は自然体で、僕らの登場に驚いた様子はない)

イケメン(それを見て、地下道に入ったときから抱いていた嫌な予感の正体がようやく掴めた)





イケメン「あの手紙は罠じゃなくて誘いだった……ということかい?」

男「話が早いな」





イケメン(僕らはわざと侵入させられていた。女友に情報を流させれば辿り着けるだろうという読みか)

イケメン(本当なら男の手のひらの上だったということになるかもしれないが……)




ギャル「いやいやアタシだってそれがおかしいことは分かるって」

ギャル「あんた一人で待ってたら何も出来ないじゃん」



イケメン(そうだ、周囲に僕ら以外の存在の気配は感じられない)

イケメン(達人級の使い手であるギャルと最強級の使い手である僕)

イケメン(二人の前に魅了スキルしか持っていない男一人しかいないというこの状況が成立している時点で全てがもう終わっている)





イケメン「何かの計算違いでもあったのかい? まあ、待つつもりはないけどね、『影の束縛(シャドウバインド)』!!」





イケメン(僕は早速拘束スキルを、あの夜に使ったのと同じスキルを使用)

イケメン(男の影が実体化し、その主を縛ろうとする)



イケメン(やつに抵抗する力はない)

イケメン(あのときと同じようになすすべなく立ち尽くしたまま――――)






男「『閃光(フラッシュ)』」





イケメン(――否)

イケメン(男は魔法を発動。辺りを目映い光が埋め尽くし、影が消滅する)





イケメン「……なっ!!」

男「何も計算違いはない。全ては俺の思い描いたままだ」



イケメン(右手を振り払った動作を戻しながら男がのたまう)


イケメン「…………」

イケメン(そういえば情報を見た覚えがある)

イケメン(やつは学術都市で魔法を学んだ結果、基本的な魔法を使えるまでにはなったと)

イケメン(あの夜とは違ってやつには戦うための力がある)



イケメン(だとしても今の光景はおかしい)

イケメン(初級光魔法の『閃光(フラッシュ)』)

イケメン(本来は手元を光らせる程度の魔法のはずで、周囲を光で埋め尽くし影を消し去るほどの力はなかったはずだ)



イケメン(だとしたら今の状況を生みだしたトリックは――――)






男「付加魔法(エンチャント)だ」

イケメン「何……?」



男「今の俺は虜にした魔法使いたち――1000人からエンチャントを受けて強化されている」

イケメン「1000人だと!!」



イケメン(エンチャント)

イケメン(他者の筋力や魔力などを上げることが出来る魔法の一種だ)

イケメン(とはいえその一つ一つの効果はそこまで劇的なものではない。そもそも術者本人以上に強化できるなら、自分で戦う必要が無くなる)



イケメン(しかし、一つ一つの効果は大きくないとはいえ、1000人も集まれば話は別だ)

イケメン(それだけの強化を受ければ……本来はちょっと魔法を覚えただけの素人が最強級と渡り合えるまで強化されてもおかしくはない)






イケメン「でも、随分と回りくどい方法を取るんだね」

イケメン「その1000人で僕らを囲めば簡単に倒せるだろうに」



男「全ては永遠の孤独に至るためだ」

男「おまえの襲撃から全ては始まったんだ」

男「俺に力があれば、おまえの襲撃をはねのけるだけの力があれば、俺は助けられる必要はなかったんだ」



男「誰かに対して執着心を抱いたまま孤独に至れるわけがない」

男「力の使い方を自覚してから、自然とこう思っていたよ。俺の力でおまえを倒したいって」



イケメン「おまえの力じゃなくて、エンチャントを受けた仮の力だよね」

男「おまえの『影使い』だって女神から授かった力だろうが」

イケメン「……」



男「何による力かなんて関係ない。イケメン、おまえを、俺のこの手で倒す」

男「そのためにここまで誘い込んだんだ。そうやって初めて俺はあの夜を乗り越えることが出来る」



イケメン「OK、OK。分かった、そういうことなら慣れているよ。僕はイケメンだからね、男から嫉妬されるのは慣れっこさ」




イケメン(男は王座に立てかけていた剣を手に取り戦闘態勢を取った)

イケメン(剣を扱うようなスキルも無いはずだが、単純に強化された筋力でぶん回されるだけで脅威だろう)



ギャル「結局どういうことなの、イケメン?」

イケメン「やつにも意地があるってことさ。まあ踏みつぶすだけなんだけどね」

ギャル「やることは変わらないってこと?」

イケメン「ああ、魔王を討伐してエンディングと行こう」





イケメン(ギャルと僕も戦闘体勢に入る)

イケメン(大戦の再来とも言える大規模戦闘の最中、支配派と駐留派の将による直接対決が始まった)



続く。

乙ー

乙!

乙ありがとうございます。

投下します。




男「『火球(ファイアーボール)』」



イケメン(元々は野球ボールほどの大きさの炎を発射する魔法)

イケメン(エンチャントで身体能力と魔力共に強化された男が使うとその大きさは桁違いとなる)



イケメン「ちっ……!」

イケメン(僕は身を投げ出すような横っ飛びで回避する)



ギャル「『雷速拳(ライトニングナックル)』!!」



イケメン(僕に魔法を放った後の隙を狙って、男の背後にギャルが回る)

イケメン(身体強化『雷速稼働(ライトニングスピード)』による超速度から繰り出される拳が振り下ろされて)



男「ふっ!」



イケメン(しかし男は剣を掲げることで頭上からの攻撃を受け止めた)




イケメン(魔王城、謁見の間で始まった戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた)

イケメン(エンチャントで強化された男の力は凄まじいことになっていたが、こちらは僕とギャルの二人)

イケメン(二対一でそもそも数が有利な上、やつの弱点も見えている)



イケメン(それがどれだけ強化されていても使えるのは初級魔法だけということだ)

イケメン(初級魔法はシンプルな、直線軌道な攻撃がほとんどだ)

イケメン(故に僕とギャルで挟むように陣取るだけで、男は同時に二人を攻撃することが出来ない)



イケメン(辺り一帯を攻撃する魔法、たとえば魔導士の『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』などをこの魔力で使われたら厄介だった)

イケメン(だがこれなら二人で入れ替わり立ち替わり削っていけばいい)


ギャル「ああもうっ、守ってばっかでムカつく!!」

イケメン(懇親の攻撃を防がれてギャルが地団駄を踏む)



イケメン「落ち着いて、ギャル。あいつは僕たち二人相手に守るしかないんだ」

イケメン「あんな攻撃力の数値だけバグった雑魚敵みたいなやつ、今の状態を維持していればいずれは倒せる」



ギャル「分かってるけど……だったらどうしてあいつは打って出ないのよ」

イケメン「っ、それは……」



イケメン(ギャルの疑問に答えられない)

イケメン(戦闘熟練度がない男は雑魚敵のような単純な挙動しか出来ない)

イケメン(だがやつは人間、思考する生き物だ)

イケメン(だったらどうしてこの不利なやりとりを続けている)

イケメン(何かの狙いが……)






男「やっぱり実戦が一番だな。魔素の取り込み方、魔力の練り方……よく分かってきた」





イケメン(自分の手のひらを見つめながら呟く男)





男「そろそろこちらから行くぞ。『二重火球(ダブルファイアーボール)』」





イケメン(そして両手をこちらに向け、それぞれから炎を放った)




イケメン「ちっ! 戦いの中での成長……それを見越して!」



イケメン(今までと違って二個になった火の玉)

イケメン(大きさは変わらないため、こうなると炎の壁が迫ってきているようなものだ)

イケメン(回避では間に合わないと判断した僕はスキルを発動)



イケメン「『影剣(シャドウソード)』!!」



イケメン(影で作られた剣で炎の壁を一刀両断。迎撃に成功する)

イケメン(炎が二つに分かれて僕らの両脇を通り過ぎて)






男「『風塊(ウィンドブロック)』」



イケメン(その奥から男が魔法を発動しながら飛び込んできた)

イケメン(炎の壁をブラインドに接近という単純な策)

イケメン(攻撃の有効度が上がりこちらが対応しないといけなくなったことで、やつも打って出れるようになったということか)



イケメン(掲げた手に圧縮・収束された風)

イケメン(それが『影剣(シャドウソード)』を使った後隙に硬直する僕をめがけて叩きつけられて)



ギャル「危ない!! っ……!」

イケメン「くそっ……!」



イケメン(その直前でギャルが僕を抱えて高速移動)

イケメン(直撃は免れたが叩きつけられた風の余波に当てられてギャルは転び僕ともども地面を転がる羽目になった)





男「『水の矢(ウォーターアロー)』」

イケメン(男はさらなる追撃を仕掛ける)

イケメン(水を矢のように何本も飛ばして地面に転がる僕とギャルを打ち抜こうとする)

イケメン(怒濤の連撃に対応が間に合わずその身を貫かれて――)




イケメン(身体にノイズが走ったように揺れてその姿が消えた)



男「!?」

イケメン「ようやくその余裕そうな表情が崩れたね」



イケメン(ギャルに助けられた瞬間、僕は『影の投影(シャドウコントロール)』を発動)

イケメン(逃げる方向と反対に僕らの幻影を放っていた)



イケメン(『潜伏影(ハイドシャドウ)』で自分たちの姿を隠すことまでは間に合わなかったけど、幻影を派手に地面に転がせた結果男の注意はそちらの方に向いていたようだ)

イケメン(魔法を無駄撃ちして決定的な隙を晒した男に)



イケメン「『影の装甲(シャドウアーマー)』!!」



イケメン(僕は自身の影を身に纏って身体能力を強化)

イケメン(男に突進してそのバランスを崩し、地面に倒れたところでマウントポジションを取った)




イケメン「弱い癖にちょっと成長したくらいで調子に乗るからこんなことになるんだ」

イケメン「最初から弱者は強者に従っていればいいのにね」



男「くそっ、黙れ!!」

イケメン「そっちこそね」



イケメン(圧倒的有利な状況からタコ殴りにする)

イケメン(男は身体能力こそ強化されているものの、身体の使い方は素人だ)

イケメン(影使いの専門外ではあるが、戦闘スキルの延長上に授けられた技術があるためこちらの方に長がある)


イケメン「ようやく力が抜けてきたか」

男「…………」



イケメン(ボコボコにされた男の抵抗が弱くなってきた)

イケメン(僕の目的、魅了スキルを使う道具とするためにこいつを殺すわけには行かない)

イケメン(誰かを服従させる魔法などあれば簡単だったが、生憎なことにそれに準じるような力も含めて目の前にある魅了スキルくらいしかこの世界に存在しない)

イケメン(故にこいつは力で屈服させるしかない)

イケメン(しかし、身体の抵抗こそ弱まってきたものの、男の目には未だ強い意志が宿っている)





イケメン「全く、そろそろ諦めて欲しいものなんだけどね。助けでも待っているのかい?」

イケメン「残念だけど僕の部下たちが警備を攪乱している。しばらくは誰も来れないと思うよ」



男「他人の手は借りねえよ。言っただろ、おまえは俺の手で倒すって」

イケメン「その状況でも強気な言葉を吐けるところは評価するよ」



イケメン(さてもう少し痛めつけるか、と拳を握り直したところで)




ギャル「そうよ、さっさと女や女友たち、みんなにかけた魅了スキルを解除しなさいよ!!」



イケメン(ギャルが口を挟んできた)



男「……おまえもスキルの説明は見たはずだろ。魅了スキルは解除不可能だ」



ギャル「それは異世界に来たばかりの時の話でしょ」

ギャル「成長してコントロール出来るようになって、オンオフくらい自由に出来るようになってないわけ?」



男「無理だな。そういう類のスキルじゃない」



ギャル「あっそ。じゃあ殺すしかないわね」

男「…………」




ギャル「殺せば流石にスキルの効果も無くなるでしょ」

ギャル「あんたは憎い思いもあるけど、アタシだって積極的にクラスメイトを殺そうだなんて思いたくない」



ギャル「でも本気よ」

ギャル「魅了スキルをかけて女や女友はあんたなんかに惚れさせられて、その自由を奪われた」

ギャル「いわばあんたに殺されたようなものでしょ」

ギャル「それにこうして王国も乗っ取って多くの人に迷惑をかけている。殺されても仕方ない所行でしょ」





男「……まあ他人の自由を奪ってきた俺が、自分の自由を奪われることを拒むのは筋違いだろうな」

ギャル「何だ、覚悟は出来てるのね。じゃあ、イケメン」





イケメン(ギャルは僕に呼びかける)




イケメン「…………」



イケメン(何が『じゃあ』なのだろうか?)



ギャル「あ、それともアタシが殺した方がいい? なら代わるけど」



イケメン(殺す? 僕の欲望を叶えるための魅了スキルの持ち主を?)



ギャル「……? ねえ、イケメン聞いてるの?」



イケメン(ああ、聞いてるさ)



イケメン(本当に、もう……我慢の限界だ)






イケメン「ちょっと黙っててくれないか、ギャル?」

ギャル「え……ご、ごめん。何か気に障った?」



イケメン「何か? おかしいこと言うね。全部だよ、ギャルの言うこと全部が耳に障る」

ギャル「ぜ、全部って……そ、そんなおかしいこと言った?」

ギャル「だってそいつを殺さないとみんな魅了スキルから解放されない……アタシたちの目的はずっとそれで……」



イケメン「たち、じゃない。ギャルだけの目的だろう」

ギャル「……え?」





イケメン「僕の目的は最初から――魅了スキルを手に入れて、全ての女性を支配することだ」






イケメン(ずっと騙してきた)

イケメン(目的を達成するまで騙しきるつもりだった)

イケメン(でももう男はボロボロで圧倒的有利は変わらず、目的達成間近ともいえる)



イケメン「…………」

イケメン(だったらちょっとくらい早くてもいいよね?)



イケメン(ちょうどいい趣向とも言える)

イケメン(今まで調子に乗っていたこいつが絶望する姿を見ながら、目標達成と行こうじゃないか)




ギャル「何……言ってるの、イケメン?」

ギャル「全ての女性って……そんなの必要ないでしょ」

ギャル「だってイケメンには、アタシっていう彼女がいるんだから」



イケメン「そうだね。じゃあ別れようか、僕たち」

ギャル「……っ!? じょ、冗談だよね?」



イケメン「もちろん冗談だよ」

イケメン「だって……僕は最初からギャルのことを彼女だなんて思っていない」

イケメン「付き合ってなければ別れることも出来ないからね」



ギャル「彼女じゃないって……な、何でそんなこと言うの?」

ギャル「アタシたちいっぱいデートもしたし、ちゃんと付き合ってたじゃん!」



イケメン「ああ、本当おまえみたいなやつ相手に彼氏のフリをするのは疲れたよ」



イケメン(今まで貯まっていた鬱憤が晴れていく)




ギャル「……アタシが悪いの? だったらはっきり言ってよ。全部直すから!」



イケメン「そう? じゃああげていこうか。まずはガサツなところが駄目でしょ」

イケメン「独占欲が強いところも駄目。頭が悪いのも駄目だし……」

イケメン「うーん、困ったね。多すぎて手間がかかるよ」



イケメン「あ、そうだ。逆にいいところをあげておこうか」

イケメン「顔だよ、顔。見てくれだけはいいから、キープにはちょうど良かったんだ」



ギャル「な、何それ……う、嘘だよね?」

イケメン「そうやって元彼を疑うところも駄目なところだね。本当にもう駄目駄目さんだ」



ギャル「そ、そんな……」

イケメン「全く、ギャルが女みたいに完璧だったら楽だったんだけどね」




男「あの夜のときも言ってたな……未だに女がおまえの理想の人なのか?」



イケメン(はぁ、と溜め息を吐いたところで、その名前に反応したのかマウントポジションを取られたままの男が言葉をこぼす)



イケメン「当然だろう。貞淑で、スタイルも良くて、気遣いも出来る……完璧な女性だ!」

男「……ふっ」

イケメン(男が鼻で笑う)



イケメン「何がおかしい?」

男「あいつが、女が完璧な女性……? 全くどんな幻想を見ているんだか」



イケメン「自分は分かっているアピールかい? ただ一緒に長く旅していただけな癖に」

男「ああ、俺と女は所詮一緒のパーティーっていうだけの関係だ。少なくとも俺はそう思ってた」



イケメン「……何が言いたい」

男「おまえはイケメンの癖に、全く女性の心が分かってないんだな。それじゃモテねえぞ」



イケメン「女性と付き合ったこともない君には言われたくないね」

イケメン「全く、その良く回る口を閉じる必要がありそうだ」



イケメン(動こうとしたそのとき)






男「おまえが目的を達成して魅了スキルを手中に収めたとしても、おまえが一番に欲しいもの――女は手に入らねえよ」

男「だってあいつには魅了スキルがかかってないんだからな」





イケメン「……………………………………は?」

イケメン(何を……言っている。こいつは……?)



男「ほらな、分かってねえ。俺と同レベルじゃねえか」

イケメン「それは……おかしい。だって女には魅了スキルにかかった素振りが……」

男「フリだとさ。俺に好意を抱いていることがバレないようにするためのな」



イケメン「おまえに好意…………それならば理屈は…………だが、そんなことあり得るはずが……っ!?」



男「ははっ、初めて意見があったかもな」

男「全くその通りだ。どうして俺なんかを好きになったのか……」



イケメン(身体的にマウントを取られている癖に、精神的にマウントを取ってくる男)




イケメン「…………はははっ。なるほど、なるほど」

イケメン「そういうことか。僕としたことが焦ったよ」

イケメン「この状況を逃れるためにまさかここまでの嘘を吐くとはね」



男「嘘だったらいいけどな」



イケメン「黙れ、黙れ、黙れ……!!」

イケメン「仮におまえの言うことが本当だったとしても関係ない」

イケメン「魅了スキルは予定通り手に入れる!!」



男「女は手に入らないのにか?」



イケメン「うるさい! 女が手に入らなくてもだ!!」

イケメン「世界中の女性が手に入るなら十分におつりが来るからな!!」



イケメン(そうだ、例えこいつの言葉が万が一本当でも……!)




男「おまえのこれまでの行いには全く頷けるところがない」

男「だけどな、一つだけ」

男「理想の人を手に入れるためには善悪問わずに何でもするその姿勢だけはすごいな、と思ってたよ」



男「だけど……そうか。その程度で諦められる、代替出来るものだったのか……」

男「本当ガッカリだ」



イケメン(男は嘆息すら吐いてみせた)






イケメン「調子に乗りすぎだ」

イケメン「おまえは死んだ方がマシだ、と思えるような目に合わせる」



イケメン(廃人となるまで追い込むと道具として使い勝手が悪いから遠慮していたが、こいつの図太さだ)

イケメン(ぶっこわすつもりでちょうどいいだろう)



男「あっそ、やってみな」



イケメン(もう軽口には付き合わない)

イケメン(僕は手を出そうとして――)




 ――激情に駆られているようでイケメンはずっと冷静だった。

 男がマウントポジションを解除する方法は一つ。

 肉弾戦が駄目なら、魔法を使えばいい。



 だからこそイケメンはギャルとの会話の間も、男との口論の時も、男が魔素を取り込み、魔力を練らないかの観察を怠っていなかった。

 その傾向が見えた瞬間殴ることで男の集中を阻害、魔法を使わせないつもりだった。



 今この瞬間も男に魔力を練る気配はない。

 故に魔法は使われない、想定外の事態は起きない。



 そのように考えていて。

 ――だからこそ、その行動には虚を突かれた。




男「魅了、発動!!」

イケメン「っ……!!」



 魅了スキル。

 男が授かったただ一つのスキル。

 魔力を練らずとも使えるそのスキルの効果は異性の支配が主で、同姓のイケメンには効かない。



 だが、効果はそれだけではない。

 ピンク色の光。



男「ふんっ……!!」



 イケメンの目が眩んだその隙に男は全力を絞る。



 元々影使いのイケメンとエンチャントを受けた男の身体能力は拮抗していた。

 イケメンが技術により男を押さえつけていたが、一瞬の緩みを突くだけで逆転される程度の差。

 結果男は拘束を振り解き距離を取ることに成功した。




男「油断したな」

イケメン「ちっ、魅了スキルか」



イケメン(やけに大人しくしていると思ったら、このワンチャンスに賭けていたのか)

イケメン(だがダメージは十分にあるはず、面倒だが第二ラウンドの開始……と思って僕は戦闘体勢に入るが)



男「ふぅ……」

イケメン(男は身体から力を抜いてリラックスしていた)



イケメン「何のつもりだ?」

男「今までの問答でよく分かった。俺の手でおまえを倒そうなんて間違っていたってことに」

イケメン「今さら命乞いでもするつもりかい? だが容赦するつもりはない、僕はおまえを――」




男「そういうことじゃない」

男「おまえ程度のやつにこだわる意味をなくしたってことだ」

男「まあそれも戦った結果だから無駄ではなかったんだろうが」



イケメン「はっ、戯れ言を」



男「それにおまえを倒すのに、俺よりふさわしいやつがいる」



男「命令だ、イケメンをやれ」



イケメン(興味を失ったという言葉は本当なのか、男は面倒そうに命令を下す)


イケメン「っ……」



イケメン(命令)

イケメン(それこそずっと警戒していた選択肢だ)



イケメン(ここは魔王城、敵の本拠地)

イケメン(周囲の気配は窺っていたが、その程度では足りるはずがない)

イケメン(伏兵が配置されていてもおかしくはないと思っていた)



イケメン(自分の手で倒す……そんなことにこだわって負けるようでは本末転倒だからね)



イケメン(最初から男の言葉は信じていない)

イケメン(故に男の方針転換を素直に受け取った)

イケメン(そして全力で敵の気配を察知しようと周囲に気を配る)



イケメン(どこからだ……壁は遠い、隠れられるような場所もない、天井は高くもしものときに間に合わない……なら下だ!)








 敵に警戒した――だからこそ。

 イケメンは味方からの攻撃に反応することが出来なかった。





イケメン「ぐふっ……!?」



イケメン(後頭部を思いっきり殴られて派手に倒れる)

イケメン(後頭部……後ろ?)

イケメン(後ろにいたのは――)



イケメン「ギャル!! 何をしている!!」



イケメン(元彼女、縁を切ったはずのその人しかいない)


イケメン(一瞬で状況を理解した)

イケメン(早めに種明かししすぎたか)

イケメン(僕に捨てられたギャルが自暴自棄になって僕を殴ったということだろう)



イケメン(全く女ってやつは非合理的過ぎる)

イケメン(役に立たないどころか、足まで引っ張るとは)

イケメン(僕に貢献するなら手元に置いておくことも考えたというのに)



イケメン(そう思いながら振り向きギャルの姿を見上げて)






ギャル「ち、違うの……わ、私は……その、身体が勝手に……」



イケメン(ギャルが拳を振り切った姿勢のまま――涙を流していることに気づいた)



イケメン「え……?」



イケメン(流石に想定していなかった事態に思考がフリーズする)

イケメン(涙……? どうして自分を切り捨てた僕を憎んでいない?)

イケメン(よく分からないがそれなのにどうして殴って……)



男『命令だ、イケメンをやれ』



イケメン(もしかして……。だが、いや、それこそ――)




イケメン「有り得ない!! ギャルが虜になるはずがない!!」



イケメン(ギャルが意志に反して僕を殴ったのは、男の命令によるものだろう)

イケメン(先ほど目くらましに使用された魅了スキルの範囲にギャルもいて、そのとき虜になったと)



イケメン(だが……そうだ、異世界に召喚された際、暴発した魅了スキルはギャルに効果を発揮しなかった)

イケメン(なのに……どうして今回は成功して……)




男「俺の魅了スキル、効果対象は『魅力的な異性』だ」

男「だが絶世の美女がいたとして……そいつが老いておばあちゃんになっても魅力的かというと、絶対にそうとは限らないだろ?」



イケメン(男が頭の悪い子供に言い聞かせるような調子で話す)



男「魅力的かどうかなんて同じ人だとしてもその時々によって変わる」

男「魅力的じゃなくなることもあるし、逆もまた然りだ」



男「無駄な人間関係をすぐ切り捨てられるおまえには分からないだろうな」

男「最初は嫌な印象を持っていたとしても、ふとしたことで評価がガラリと変わることもあるってことを」



イケメン「つまり今のおまえには、ギャルが魅力的な異性に見えているってことか?」

イケメン「はっ、馬鹿な。それこそ有り得ない。こいつのどこが魅力的だって言うんだ」




男「簡単だ。おまえに裏切られた今このときに涙を流すことが出来るところだ」



イケメン「……?」



イケメン(涙? それに一体何の意味が……?)



男「ギャル、独裁都市での襲撃の際女友と交わしたやりとりは聞いた」

男「おまえは自分がイケメンに愛されてないことを知っていたんだろ」



ギャル「…………」



男「命令だ、質問に答えろ」



ギャル「……はい、その通りです」






イケメン「な、何を言っている……僕はきちんと彼氏のフリをして、騙して――」

男「浅い演技なんてバレていたわけだ」



イケメン「そんなはずあるか! おかしいだろ! 騙されていることが分かっていて、どうして僕に尽くしたんだ!」



男「それでも好きだから、ってことだろ」

イケメン「なっ……」



イケメン(今度こそ僕は絶句する)






男「自分を騙していて、他の女を追っていて」

男「それでも諦めきれなかった。一途に思い続けた」



男「ギャルは十分に魅力的な女の子じゃねえか」

男「そんな子に慕われて……おまえは何が不満だったんだよ? なあ、教えてくれよ」



イケメン「…………」





男「なんて……まあ俺が言えた立場じゃねえか」

男「命令だ、そいつを気絶させて、地下牢まで運べ」



イケメン(男は命令を残し、その身を翻した)




ギャル「ごめん、イケメン」



イケメン(命令を実行するために近づいてきたギャル)



イケメン「…………」



イケメン(僕を殴ってしまったことで、未だに涙を流す彼女に何かを言えるはずもなく)







イケメン(――視界が暗転した)

続く。

乙ー

乙!

待ってるぞ

乙、ありがとうございます。


お待たせしました、投下します。


女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、サトルさんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、カイさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)


女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこではサトルさんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「サトルさん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……リオか」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止にサトルさんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだったサトルさんの治療が始まりました)

あー、変換するの忘れてました。
ちょっと投稿しなおします。


女友(私は魔王城に戻ってすぐにその異変を感じ取りました)

女友(城のあちこちが荒らされているのです)



女友「…………」

女友(心当たりはありました)

女友(今回の作戦、男さんから何をするかは聞かされています)

女友(駐留派、イケメンさんをこの魔王城を誘った際に、その部下がこの魔王城を荒らしたということでしょう)

女友(しかし、既にその動きも警備に残っていた者たちによって沈静化されているようでした)



幼女「お腹減ったー、おやつ!!」

女友(一緒に連れていた幼女、魔神は私の手を離れ食堂めがけて無邪気に走り出します)



女友「転ばないように気を付けてくださいねー」

女友(城の中ならもう安全だろうと、私はその一言だけで送り出しました)


女友(一人になった私は謁見の間を訪れました)

女友(そこでは男さんがボロボロの状態のままぼーっと佇んでいます)



女友「男さん、無事でしたか!?」

女友(私は慌てて駆け寄りました)



男「あー……女友か」

女友「今すぐ回復します! 許可をください!!」

男「……俺に回復魔法をかけることを許可する」



女友(裏切り防止に男さんからかけられた命令『俺の意図する場合以外での魔法の使用を禁ずる』による一手間を置いて、ボロボロだった男さんの治療が始まりました)


女友「だから私は反対だったんですよ。自分自身の手で決着を付けるなんて」

男「…………」



女友(男さんは私の問いかけに反応しません)

女友(無視しているのではなく、どうやらそもそも聞こえていないようです)

女友(心ここにあらずといった様子で物思いに耽っています)



女友(イケメンさんと戦ったことで何か思うところがあったんでしょうか?)

女友(今回の作戦に当たって男さんの目的について私にも説明がありました)

女友(永遠の孤独を目指す、と。その目的は今回の大規模戦闘を制すれば叶うでしょう)



女友(そんなことのために、というのが私の率直な感想でした)

女友(独りただ生きるために生きるなんて寂しすぎます)



女友(出来れば考え直して欲しい)

女友(ですが命令によって説得することを物理的に禁止されている私には止めようがありません)


女友「…………」



女友(女)

女友(私の親友)

女友(ことここに至っては彼女だけが頼みでしょう)

女友(連合軍と王国軍の戦いの行方はどうなっているのか……?)





伝令「失礼します! 戦況の定期報告に窺いました!」

女友(ちょうどいいことに、そのとき謁見の間に伝令が姿を出しました)



男「ああ、頼む」

伝令「はい! では報告します! 連合軍と我が方との戦いはこちらの優勢で押し返しています!」

伝令「『組織』軍は同士討ちが加速し壊滅状態に! 城に侵入した『組織』の部隊も全てを拘束しました!」



男「要注意戦力は?」

伝令「竜闘士の少女は変わらず一人で我が方のドラゴン部隊と渡り合っています!」

伝令「伝説の傭兵、魔族は相変わらず姿を見せません!」



男「……そうか。下がって良いぞ」

伝令「はっ!」



女友(伝令は敬礼すると回れ右して謁見の間を後にします)


女友「…………」



女友(私たち王国軍の優勢)

女友(命令により協力しているとはいえ、心は連合軍の方にある私にとっては絶望の知らせでした)



女友(ですがこの結果も予想出来てはいました)

女友(王国軍 VS 連合軍&『組織』軍)

女友(両者の戦力は開戦時ほぼ同じくらいだったと思われます)



女友(ならばどうしてこのような結果になってしまったのか)

女友(ランチェスターの法則というものがあります)

女友(詳細は省きますが、一対一で個別に戦う近距離戦ではなく、銃や魔法などの遠距離から集団でやりあう戦場では)

女友(弾幕の密度などからして、人数が多くなるほど加速度的に有利になるのです)



女友(私と魔神の働きによって『組織』軍5000人を2人で突破した結果、そこに回さないといけなかったはずの戦力を他に回すことが出来て、じわじわと優位が拡大していった、と)



女友(連合軍がここまでの戦力を集めることが出来るのもこの一回のみでしょう)

女友(その一回限りの希望が費えようとしている)




女友「これは…………もう終わりですか」

男「いいや、まだだぞ」

女友「え……?」



女友(治療を終えて立ち上がった男さんからの反論)



男「おまえが考えていることは大体分かる。戦場での戦力差はもはや決定的だ」

女友「ええ、ですから……!」

男「だがこの戦いの運命は最初からそんなところで推移していない」

女友「……?」



男「結局のところ連合軍の勝利条件は俺を倒すことだからだ」

男「魅了スキルによる極端なワントップ構造でここまでやってきた王国だからこそ、俺をどうにかすれば一瞬で瓦解する」



女友「それは……そうですが」

女友(男さんは何を言いたいのか、今いち把握しかねていると)




男「イケメンたちが来る前に、一度護衛を付けて連合軍方面の戦場を見てきた」

男「女が戦う姿を見て……なるほど賭けに出てきたな、と感心したよ」



女友「何を言って……?」

男「噂をすればだ。来るぞ」



女友(男さんが天井を見上げます)

女友(つられて私も視線を上に向けたところで)






ガッシャーーーーン!!

女友(天窓が破壊されて、超スピードの何かが落ちてきました)



女友「っ……!!」

女友(その音と衝撃に思わず顔を背けます)

女友(落ち着いたところで何が降ってきたのかを見て……)



女友「どうして……?」

女友(疑問が沸き上がりました)



女友(王国軍と連合軍の戦場は王都の郊外で行われている)

女友(先ほどの伝令ではそこで戦っているはずの者が……時間的にこの魔王城に訪れられるわけがない)



女友(無理矢理突破したならしたで、先に警告の方が来るはず)

女友(要注意戦力の動きは重点的に確認するように通達が行われていました)



女友(なのに――)




女友「どうして……ここにいるんですか、女?」



女「ちゃんと『またね』って言ったじゃん。女友」





女友(竜の翼をはためかせる親友は私に一声かけた後、改めてこの城の主と向き合う)





女「さて、伝言は伝わってたかな。会いに来たよ――男君」



男「やっぱり来たのか、女」





女友(魅了スキルにより数奇な関係を築いてきた二人が)

女友(王国軍の魔王と連合軍の勇者となって)

女友(今、再び相対した)


<王都郊外・激戦区>

近衛兵長(私はその報告に最初自分が聞き間違えたのかと思った)



近衛兵長「何だと! 城に竜闘士の少女が現れただと!」

伝令「は、はいっ! 監視の者が超高高度から振ってくる姿を見たと……」



近衛兵長(王国軍の指揮を預かり、連合軍と大規模戦闘を繰り広げる私の元にもたらされた報告)

近衛兵長(なるほど竜闘士ならば地上から確認できないほどの高さまで飛び上がって、直接魔王城に降下することも可能かもしれない)



近衛兵長(だが、可能なだけで有り得るはずがない出来事だった)

近衛兵長(理由は至極簡単なこと)



近衛兵長「だったら今もなお、あのドラゴン部隊と戦っている姿は一体何なんだ!?」




近衛兵長(元々王国に組織されていたドラゴン部隊)

近衛兵長(今回の戦闘でも運用されているが、それに対して開戦当初から竜闘士の少女が一人で立ち向かい制空権の奪い合いとなっていた)

近衛兵長(一人で十数体のドラゴンと渡り合う少女がすごいというべきか、一騎当千の少女の進撃をどうにか止めていると見るべきか……)



近衛兵長(魔王城と戦場。二カ所に現れた少女)

近衛兵長(どちらかが偽物ということか?)

近衛兵長(いやだが報告が間違いでないのならば、超高高度からの降下など竜闘士でなければ出来るはずもないし、ドラゴン十数体と渡り合うことも竜闘士でなければ出来るはずがない)

近衛兵長(ならば――)





近衛兵長「……? 竜闘士?」





近衛兵長(二人の竜闘士)

近衛兵長(気づけば後は簡単だった)



近衛兵長「~~っ!! まさか最初からペテンに引っかかっていたというのか!!」




<激戦区・上空>



魔族「少女の魔王城突入を確認した」

傭兵「そうか……ならばもう細工は必要ないだろう」

魔族「ああ――『変身』解除する」





傭兵(魔族がスキルを解除すると……竜闘士の少女の姿から、褐色角付きのいつもの姿に戻った)





傭兵「『不可視(インビシブル)』の解除も頼む」

魔族「ああ、そうだったな」



傭兵(魔族が魔法を解除すると、私の姿も戦場に現れた)




傭兵(私たちが連合軍に力を貸している理由は一つ)

傭兵(少女を少年のところまで送り届けること)

傭兵(そのための策として考えた結果……私たちが二人一役で少女の姿に扮装することで、少女への警戒を外すのがいいと判断した)



傭兵(魔族の『変身』は変身した者の力を再現するが、竜闘士の力は別格のため再現できない)

傭兵(そのため少女の姿になった魔族の近くで、透明になった私がスキルを使うことでこれまで戦場を欺いてきた)

傭兵(策の提案と同時に、侵入路についても少女に一つアドバイスはした)



女『女友が残した抜け道は使わない方がいいんですか?』

傭兵『ああ。正直罠のにおいしかしない』

女『罠って女友がそんなことを……って思ってたから、この前も騙されたんですよね』

傭兵『それにわざわざそのようなことを竜闘士だから出来る強襲ルートが存在する』



傭兵(そしてそのアドバイス通りに上空から魔王城に侵入したようだ)


魔族「さて、これからどうする?」

傭兵「連中が魔王城に戻って二人の対面の邪魔を阻止するためにも、ここに釘付けにする」

魔族「なるほど……することに変わりはないというわけか。いや、私が少女のフリをする必要が無くなるからその分こちらの戦力追加となるな」

傭兵「気を付けろ。どうやら敵方の指揮は優秀だ。すぐ対応してくるだろう」



傭兵(近衛兵長、だったか。兵の運用などからしてかなりのやり手と見える)



魔族「分かった。とりあえずこのドラゴンたちをどうにかするか」

傭兵「懐に潜り込む。サポートは頼んだ」



傭兵(これまで二人一役の弊害として近距離スキルを使うことは出来なかったのもあるが、多数に囲まれても大変なので遠距離スキルで戦ってきた)

傭兵(遠巻きに削ってきた今なら、各個撃破していくことも可能だろう)



傭兵「行くぞ!!」

魔族「ああ」



傭兵(私たちはドラゴン部隊との戦いに挑む)


<魔王城・謁見の間>





女「あんまり驚かないんだね」

女(天窓をぶち抜いて侵入した私は落ち着いた様子の男君に問いかける)





男「ああ。一度王国軍と連合軍の戦場は見ていたからな。すぐに分かった、女が偽物だって」

女「魔族さんの変身を見破ったの?」

男「ずいぶんと似せるように努力しているのは分かったが、細かい癖が女と全く違ったからな」

女「まあ私も男君なら見抜くと思っていたよ」



女(私も男君も事も無げに言う)





女友「え、何ですか? この信頼しているのか、気持ち悪いのかよく分からないやりとりは?」

女(女友が何か言っているけど、久しぶりの再会に興奮している私の耳を素通りした)




男「それで? 俺の城に何の用だ?」

女「分かんないの?」

男「ああ」



女「告白……したんだから、返事を聞かせて欲しいと思うのは当然でしょ」



女(もう大昔のように思える、二週間ほど前の出来事)

女(学術都市の校舎の屋上で沈みゆく夕日をバックに私は告白した)



男「返事か。なら簡単だ。断らせてもらおう」

女「嘘吐き。ちゃんと答えて」



男「何を言っているんだ? 告白した、断られた。それで終わりの話だろう?」

女「ほらそうやって都合が悪くなると煙に巻く。男君らしいね」



男「話が通じてるのか?」

女「分かってる癖に」

男「……ちっ」



女(男君は舌打ちする。私の言い分を認めた証拠だ)




女「やっぱり答えるつもりはないんだね」

男「だったらどうする?」





女「力ずくで聞き出す」

女「男君の動きからしてすごい強化を受けているのは分かる」

女「でも竜闘士の私に勝てるはずないでしょ」





男「それはやってみないと分からないだろ」

男「……まあいい、どうせ永遠の孤独に至るためにどこかでおまえとは戦わないといけないとは思っていた」





女「永遠の孤独……?」

女(男君の言葉の中、それだけ意味が分からない)






男「今の俺は、おまえに守られていただけの俺じゃない」

男「変わったんだ。そして――全てを終わらせる!!」



女「よく分からないけど……これだけは言える!」

女「終わらせない! ここからが私たちのスタートだから!!」





女(剣を構えた男君が手加減なしに突っ込んでくる)

女(私も今この時は相対する者が愛するものであることを忘れ――否)

女(愛するものだからこそ全力で戦うことを選択する)



男「ふんっ……!!!」

女「『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」





女(剣と拳が交差する)

女(絶対に譲れない戦いの始まりだ)


続く。

続きも近いうちに投げたいです。

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(始まった私と男君との勝負)

女(こうなる予感はあった)

女(私が説得したくらいで頑固な男君が意見を翻すはずがない)

女(力押しがどこかで必要になるとは思っていた)



女(だから想定外なのは二つ)

女(一つは戦う相手が男君自身だということ)

女(大量のエンチャントで強化するというその手段を私は予想していなかった)

女(そのせいで男君は竜闘士の私と勝負になるくらいの力を…………いや)



女「『竜の息吹(ドラゴンブレス)』!!」

男「『風爆(ウィンドブラスト)』!!」

女「くっ……!」



女(放とうとしたエネルギー弾が一足早く放たれていた男君の魔法に当てられて至近距離で誘爆)

女(余波を自分が食らってしまう)



女(二つ目は――男君に私が圧倒されていたことだ)




男「大きく引いてエネルギー弾をばらまく……何度その攻撃パターンを見てきたと思っている」



女(強化されたとはいえ男君の力は、伝説級である私に及ぶまでは行かない)

女(問題なのは私の行動パターンが読まれ切っていることだ)



女(私が次にどのように行動するかを読んで、それに対して完璧な対処をしてくる)

女(読まれていると分かっていつもと行動パターンを変えようと意識しているのに、それでもなお逃れられない)

女(小手先の戦いに対する読みだけじゃない。私という人間性全体を把握した読み)



女(そうだ、この異世界に来てから男君を守るために何度戦ったのか)

女(私の戦いを一番近くで見てきたからこそ)

女(私という人となりを知っている男君だからこそ出来る芸当)




女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」

男「『空石落下(スイケメンストーンフォール)』!!」



女(翼を生やし空中に逃げようという動きを阻止するように、頭上から石が降ってくる)

女(私はダメージ覚悟で石をぶち割りながらどうにか空中に留まる)



女「………………」

女(私だって男君のことは理解している)

女(男君が私の動きを予想するなら、私だって男君の動きを予想すればいい)

女(でも初めて戦う姿を見せる男君に、戦いの中で急成長していく男君にどうにも後手に回っているのが現状だ)



女(いや……本当に理解出来ているのかな?)



女(こうして直接会って話すことさえ出来ればどうにかなると思っていた)

女(何だかんだ話せば分かるんじゃないかと希望的観測を持っていた)

女(でも現実は私に攻撃する手を弛めない)



女(男君のことが分からない)

女(どうしてあの日私を置いて去っていったのか)

女(何を目的に動いているのか)

女(永遠の孤独とやらは何なのか)




女「ねえ、聞きたいことがあるんだけど!!」

男「『氷槍(アイスランス)』」



女(分からないなら問いただせばいい。私はそうやって生きてきた)

女(しかし、男君からの返事は魔法だった)

女(氷の槍を飛びながら避けて、なおも言葉を続ける)



女「どうして私たち戦わないといけないの!?」

男「『光爆弾(ライトボム)』」



女(飛翔ルートを潰すように爆発が私の目の前を覆う)



女「私たち好き同士なのに……戦うなんて間違っているよ!!」

男「…………」



女「男君!!」






男「好き同士だと……勝手に決めつけるな」



女(男君が攻撃の手を止めて言葉で応じる)





女「私の自惚れじゃなければ……そうでしょ」

男「だったらおまえの自惚れだな。俺はおまえのことが嫌いだ」



女「嘘だね」

男「どうしておまえが俺の気持ちを勝手に決めつける」

男「言い続けてれば現実になるとでも思っているのか?」



女「…………」



男「今のおまえにふさわしい言葉を教えてやる」

男「ストーカーだ」

男「不都合な現実を認めず、自分が思い込んだ世界を正しいと思う……たちの悪いストーカーだよ」



女(男君に酷いことを言われて……それでもその言葉は嘘だと思った)

女(これまで一緒に旅してきたから分かる直感だ)



女(でも……それこそが男君の言う思いこみだとしたら?)




女友「惑わされないでください、女!」



女(私の芯がブレようとしたそのとき、声がかかった)



女「女友……」



女(この場にいる三人目、親友である女友の声)

女(ここまで傍観していた女友)

女(おそらく何も出来ないように命令されていたはずなのに……それでも私のピンチに動いた)







女友「ぼんやりとは考えてましたが、今のやりとりで確信しました!」

女友「男さんの目的は――」

男「命令だ、口を閉じろ」

女友「んぐっ……!?」



女(女友の言葉が命令によって遮られる)





男「口出しできないように命令していたはずだが……まだ抜け道を隠していたか。強かなやつだ」

男「……そうだな、ちょうどいい」



女(男君は感心しながら女友の方に向かって進む)



女「何を……するつもりなの」



女(その後ろ姿に今まで見たことがない怖さを感じる)




男「おまえはこれまで命令のせいとはいえ俺のために尽力していた」

男「No.2の肩書きにふさわしい働きだった」

男「有能なやつだった」



男「だがな、肝心なときに裏切るようなやつが配下に必要だと思うか?」



女(そして女友の前に立った男君は)





男「命令だ、一切の抵抗を禁じる」

男「『闇の死神(ダークスカル)』」





女(手のひらから闇の奔流を――即死魔法を放って)





女友「…………」



女(ドサッ、と)

女(直撃を食らった女友は声もなくその場に倒れた)




女「女友!! 『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」



女(衝撃波を放ちながら親友の元に急行する)



男「直線的な攻撃だな」



女(男君は特に防御することなく退いた)



女「ねえ、女友!! しっかりして!!」



女(倒れ込む親友の上半身を抱えて起こす)

女(しかし一切の力が抜けたように首も腕もだらんと垂れ下がる)

女(極め付きに胸元に耳を押しつけると――心臓の鼓動が止まっていた)






女「男君……どうして?」

男「世界の支配も目前、そいつは用済みだ」



女「……」



男「後は俺の支配にあらがう連合軍の旗頭、おまえをどうにかすれば完了する」

男「一時とはいえ一緒に旅した関係だ、殺さずに済まそうと思っていたが――」

男「おまえもそいつと一緒のところに送ってやろうか?」





女(おおよそ私の知る男君からは出てこないだろう言葉)

女(どうしてこんなことに……『囁き』のせいで……でもあれは本来の欲望を解放するもので……男君が本当はこうだった……いや、そんなはずが……何かの勘違い……)




女(動揺、疑問、混乱)

女(揺れ動く私の感情の中、一番表に出てきたのは)






女「よくも女友を――っ!!」





女(憎悪)

女(親友の命を奪った目の前の――敵に、私はもう一切の情けを掛けるつもりはなかった)





女「『竜の狂化(ドラゴンブースト)』!!!!」





女(これまでずっと使わずにいたそのスキルを発動する)

女(ただでさえ強い竜闘士の全ての力を狂化する代わりに、一定時間経つと大きな反動ダメージを受け戦闘不能になる)

女(強力だと分かっていながらも、×君をいついかなるときも守るために、戦闘不能な時間が出来るこのスキルを今まで使うわけには行かなかった)



女(でも……もうそれもいいから)




女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』!!」



女(狂化された今、衝撃波を三発同時に放つことが出来る)

女(敵はどうにか二発の衝撃波を避けるが……逃がすものか、残りの一発が直撃する)



男「ちっ……『妖精の歌(フェアリーコーラス)』!」



女(敵はすぐに回復魔法を使用する。だがのうのうと回復を許すはずがない)



女「『竜の撃滅(ドラゴンブラスト)』!!」



女(狂化された全方位衝撃波)



男「『地の盾(アースシールド)』!!」



女(回避不能のその攻撃に地面からせり出したドーム状の防壁でやり過ごそうとしているが……甘い、その程度の盾は破壊して吹き飛ばす)






男「ぐっ……!」



女「人は誰だって幸せになるために生きている……でもね死んだらもう幸せになれないの!!」

女「おまえが、女友の幸せを奪ったんだ!!」



女「『竜の震脚・狙撃(ドラゴンスタンプスナイプ)』!!」



女(一点狂化された衝撃波を天空から打ち下ろす)

女(吹き飛ばされたその状態では流石に防御も間に合わなかったようで直撃して――その姿が飛沫となって消えた)





男「『火球(ファイアーボール)』!!」

女「『竜の重鱗(ドラゴンスケイルズ)』!!」



女(分身を掴まされたと判断した瞬間、防御スキルを発動)

女(背後から飛んできた火の玉をエネルギー防御で完全にやり過ごす)






男「ちっ、今のを防ぐか」

女「どうして……抵抗するの? 破壊させてよ……ねえ、破壊させてよ!!」



女(衝動が収まらない)

女(でも収める必要も無かった)

女(ちょうど目の前にぶつけるべき敵がいる)

女(その何と幸せなことか)



男「ははっ、そんなものか!? おまえの本気は! もっと憎めよ! 俺を!」



女(挑発してくる敵に返す言葉などない)



女「『竜の咆哮・三連(ドラゴンシャウトトリプル)』」



女(代わりに衝撃波三発を放つ)



女(目の前の敵を滅ぼす。それまで私は止まるつもりはない)

続く。

乙ー

乙、ありがとうございます。

投下します。


『竜の狂化(ドラゴンブースト)』

男(在りし日に、そのスキルの存在は聞いたことがあった)

男(十分間、ただでさえ強い竜闘士の全能力を強化する代わりに、その反動として効果時間が終わると戦闘不能になる)





男『ありがちな暴走技だな』

男(俺は一言で評した)





女『まあそもそもそうやって強化しないといけないレベルの敵がいるとも思えないし』

女『反動で戦えない間男君を守ることも出来ないし、使うことは無いと思うよ』

男(女もそのように言った)





男(それが今はどうだ)

男(その暴走スキルが使われただけでなく、その矛先は守ると言った俺に向けられている)




女「『竜の息吹雨(ドラゴンブレスレイン)』!!」



男(いつもの数倍の量の追尾エネルギー弾が文字通り雨のように降り注ぐ)



男「『磁力球(マグネットボール)』!!」

男(戦いの中で急成長していく俺は、原始的な属性ではない魔法も使えるようになった)

男(打ち出した黒い球にエネルギー弾は吸われていくが……いかんせん数が多すぎる)



男「『重力場(グラビティフィールド)』!!」

男(周囲に重力の濃い力場を展開することでエネルギー弾を叩き落とす)

男(直撃は避けれられたが、その余波までは防げない)



男「くそっ……!」

男(『竜の狂化(ドラゴンブースト)』終わりまでまだ五分もある)

男(残り半分もやり過ごせるか……?)



女「ちょこまかと逃げおって……」



男(女の視線がこちらを向く)

男(込められた憎悪の感情によって反射的に身が竦む)



男(精神的に来るものがある……だけどそれが俺の選択した結果だ)




女「『竜の幻惑軍隊(ドラゴンミラージュアーミー)』!!」



男(武闘大会、決勝戦。傭兵さんとの戦いで一度だけ見せた幻惑スキル)

男(狂化されたことによって、女の分身が十数人と現れる)

男(それぞれが迫ってくる中どれが本物なのか、見抜けさせずに倒すという考えなのだろうが)



男「おまえだ」

男(殴りかかってきた八人目の拳を俺は受け止める。予想通り実体があった)



女「っ、何故……!?」

男「さあな、『音撃(サウンドブラスト)』!!」



男(指向性の音波を放つ。普通に攻撃しても竜闘士には効果が薄い、なら警戒されていないだろう音)

男(三半規管を狂わせてバランスが取れないようにしようとの考えだったが)



女「うるさい……!!」

男(特に効果はなかったようで振り払われる。逆らわずに俺は距離を取った)


男(狂化されているとはいえ、根底の考え方というものはそう安々と変えられるものではない)

男(女ならどうするか、その読みだけでどうにかこれまで凌いできた)

男(とはいえそろそろ限界か)



男(防ぎきれず掠ってきた攻撃の数々によりダメージが蓄積している)

男(さっきだって拳を避けきれずに受け止めた手のひらが未だに痺れている)



男(残り三分ほど)

男(もちろん暴走技を使っている相手を倒そうだなんて端から思っていない)

男(俺の狙いは時間切れによる戦闘不能のみ)



男(逃げ回るだけでいいのだが……果たして逃げきれるだろうか)




女「最初から……逃げ切るつもりか」

男(攻め気の無さに女も勘付いたようだ)



男「残りちょっとだろ。簡単に逃げられそうだな」

男(弱っているところを見せるつもりはない。俺は強がる)



女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』」



男(女は翼を生やして飛び上がる)

男(謁見の間の天井まであがり、最初突入してきた突き破った天窓も通って、さらにさらに上へ)



男(逃げたわけではない)

男(女の狙いは読める。次の一撃で決めるつもりなのだと)

男(そのためには高度が必要なのだろう)



男(『竜の潜行(ドラゴンダイブ)』)

男(高所から急降下して攻撃するスキル)

男(それが狂化された今は――)






女「『竜の隕石(ドラゴンメテオ)』!!!!」





男(高高度から一点、俺をめがけて落ちてくる)

男(避けることはおそらく不可能だろう)

男(余波だけでこの謁見の間を吹き飛ばせる)

男(だったら受け止めるしかない)



男「『筋力強化(マッスルブースト)』」

男「『腕力強化(アームブースト)』」

男「『脚力強化(キックブースト)』!!」



男(エンチャントされた魔力で、ありとあらゆる強化魔法をかける)





男(そして次の瞬間、女が降ってきた)



女「アアアアアアアアッ!!!!」

男「うおおおおおおおっ!!!!」



男(拳を先頭にしたそれを受け止めた瞬間、俺の足が謁見の間の石張りの床を砕きめり込む)

男(それだけの衝撃があった)



男(初動は成功。だが、まだ女のスキルは終わっていない)

男(俺を押し潰さんと勢いを弛めない攻撃に、どうにか踏ん張ってみせる)






女「許せない、許せない、許せない……!!」

男「そうだ、許すな! 俺はおまえの親友の命を奪った男だ!!」



女「おまえなんか、×君なんか…………!!」

男「そうだ……俺なんか好かれる価値もない男だ!!」



男(お互いに意地を通そうと精一杯だ)

男(言葉を考える余裕もない、感情の爆発がそのまま叫びとなる)







男(至近距離でお互いの全てをぶつけ合うが……徐々に差が明確になってきた)

男(女の方が優勢だ)



男(そもそも単純な力勝負だ)

男(強化したとはいえ、狂化された竜闘士に敵うわけがない)



男(『竜の狂化(ドラゴンブースト)』終わりまで粘れればと思ったが……まだ少し時間があるはず)

男(それよりも先に俺の防御は打ち破られてぺっしゃんこだろう)




男(まあ……そういう結末も仕方がない)

男(俺は諦めて力を抜こうとした……そのとき)





男(女の力が先に弛んだ)





男「え……?」

男(どうして?)

男(効果時間終わりまではまだあったはず)

男(なのに……いや、夢中になり過ぎてカウントを間違えたのか?)



男(疑問が頭を埋め尽くす中、女は反動で戦闘不能となり)

男(その場に倒れ伏した)




男「締まらない決着だが……勝ちは勝ちか」



男(埋まっていた足をどうにか引っ張り出す)

男(そして俺は女を見下ろした)





女「………………」





男(息はある……だが立ち上がる力は無いようだ)

男(竜闘士といえどここまで消耗してはどうしようもない、殺そうと思えば簡単に殺せるだろう)



男(まあ、俺の目的はそんなところにはないのだが)







男「今のうちに全てを終わらせておくか」



男(俺自身に宿った唯一のスキル)

男(今度は暴発ではなく、自分の意志で発動する)








男「魅了、発動」







男(ピンク色の光柱の顕現)

男(時刻はもう夕方)

男(最後の攻防のせいで壁がボロボロになった謁見の間には直接夕日が差し込む)



男(光のコントラストが見事だ)

男(異世界冒険譚の終わりにふさわしい光景だった)






男「さて、と。ああ、忘れないうちに……命令を解除する、女友」

男「うーん、ようやく終わったかー……」





男(身を翻し晴れ晴れしい気持ちそのままに大きく伸びをしながら、俺はエピローグという名の余韻に浸って――――)










女「そういうこと……だったんだ」



男(背後で誰かが立ち上がろうとする音がした)










男「……命令だ、口を閉じろ」

男(付き合うつもりはない、俺は早速命令を下して)





女「黙らないよ。残念だったね、私は虜になってないから」

男(それでも口を開く少女に)





男「なっ……!?」

男(俺は心の底から動揺して振り返った)








女「許せない……許せなかった。女友の命を奪った人を――それでも嫌いになれない自分が」



男(ボロボロになった身体に鞭を打って)



女「×君なんか――男君なんか……思っても、想いは消えなかった」



男(立ち上がろうとしながら)



女「中途半端な自分が嫌になる……でもそれは男君も同じだったんだ」



男(言葉を紡ぐ少女)



女「おかげで全部分かった。男君はあの日……私と別れてからずっと――」



男(ヨロヨロと腕を上げ、俺を指さしながら)

男(核心を、真実を、想いを、言い当てる)










女「私に嫌われようと……していたんだね」







続く。

次が最終章、最終話です。

乙ー

乙!

乙、ありがとうございます。

投下します。


女(私には今全てが分かっていた)



女(全ての発端は魅了スキル)

女(最初から最後まで私と男君の関係にこのスキルは付きまとってくるのだ)

女(その詳細を私は思い出す)





 スキル『魅了』

 効果範囲:術者から周囲5m
 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ

・発動すると範囲内の対象を虜にする。
・虜になった対象は術者に対して好意を持つ。
・虜になった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。
・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。
・一度かけたスキルの解除は不可能。






女「男君の真なる目的……永遠の孤独」

女「それって文字通り誰からも干渉されないことを目指したんでしょ」



女「何でそう思うようになったのかは分からないけど……その場合邪魔な存在がいる」

女「それが私」



女「魅了スキルにかかっていないから命令することも出来ないし、男君のことを好きだからどれだけ突き放そうが構ってくる」

女「おまけに竜闘士というとてつもない力を持っているからタチが悪い」



女「どうにかする方法が無いかと思案して……魅了スキルを使うことを考えたんだよね」



女「『効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ』に私は当てはまる」

女「でも、もちろん私は魅了スキルにかからない」

女「『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』から」




女「だけど裏を返せば……私が男君への好意を無くせば魅了スキルをかけることが出来る」



女「だから男君は私に嫌われようとした」



女「宝玉を手に入れるだけなら過剰とも言えるのに、わざわざ王国を支配したのも」



女「王国の無辜の民を虐殺したって嘘情報を私たちだけに流したのも」



女「そして今の戦い。わざと私の憎悪を煽ったのも」



女「『俺はこれだけ悪いことをした。どうだ嫌いになったか?』ってことだったんだよね?」



女「全部、私に魅了スキルをかけるためだったんだ」








男「いや……違う。そうじゃないんだ」





男(女の言葉に俺は反対する)



女「何が違うっていうの?」

女「倒れた私相手に魅了スキルをかけようとしたこと、さっき私に命令したこと……」

女「全部そうじゃないと辻褄が合わない」



男(女の反論はもっともだ)



男(女の意見は全部当たっている)

男(別に俺も全てが暴かれて抵抗するつもりはなかった)

男(ただ一つだけ、訂正する箇所があった)






男「魅了スキルをかけるために嫌われようとしたんじゃないんだ」

男「嫌われたら魅了スキルをかけることが出来るってことなんだ」





女「……続けて」





男「始まりは……ああ、そうだ。学術都市で女に告白されたことだった」



男「嬉しかったよ。俺も女となら一緒に歩いていける。告白を受けるつもりだったんだ」



男「だけど直後に襲撃があって……俺を守るために傷つく女を見て思ったんだ」






男「俺なんかが女に釣り合うだろうかって」



男「確かに今俺と女は想い合っている。でもそれがずっと続くだろうかって」

男「俺の不甲斐なさは俺自身が一番知っている」

男「付き合うことになって、俺のどうしようも無さを間近で見るようになれば、きっと近い将来女は俺を嫌いになる」



男「いつか必ず訪れるだろうそのときが……俺は怖かったんだ」



男「だから……そんなことになる前に、先に嫌われようと思ったんだ」



男「今の内に嫌われれば受けるダメージは少なくて済む」



男「魅了スキルをかけることが出来れば、嫌われたという証明になる」



男「そうなって俺は『ははっ、やっぱりそうだよな』と思いながら、今度こそ誰にも関わらずに生きていく」



男「『永遠の孤独』……何も得られることが無い代わりに、何も失わないで済む世界で……ただただ生きて、そのまま朽ち果てるつもりだった」




男(骨の髄から陰湿してジメジメとした生き方)

男(自分から嫌われようとしたのに、やっぱり嫌いになったのかと見返そうという考え方)

男(どうしようもなく嫌になる俺なんかを――)





女「それでも私は男君のことを好きなままだった」

男「…………」





男(女は太陽のように照らす)




男「………………」

女「………………」



男(お互いがお互いを見つめ合う)

男(無言でともすれば切迫しているとも取られるかもしれないが、不思議と居心地は悪くない)



男(いつまでもこうでもいいと思い始めたところで――)






女友「だぁっもう、じれったいですね」



男(そんな雰囲気を壊すように、第三者の声が上がった)



女「女友……って、ええっ!? どうして!? 死んだんじゃなかったの!?」

女友「勝手に殺さないでください……って言いたいところですが、実際死んでましたよ。仮ですけどね」

女「仮?」





男(そう、俺は女友を殺していない)

男(即死魔法を打った闇の奔流の中で女友に仮死状態になるように命令して、さっきその命令を解除したから起きたというわけだった)



男(そもそも魔導士は魔法抵抗力が高いため無防備なところに即死魔法を受けても効果が発揮することはない)

男(女に嫌われるための策として咄嗟に思いついた方法だった)



女「よく分かんないけど……生きてて本当に良かったよ!!」

女友「ああもう、抱きつかないでください!!」

男(抱きつく女に揉みくちゃにされる女友)




男「女友、おまえにかけられた全ての命令を解除する」

男「……今まで、そして最後まで済まなかったな」



女友「男さん……謝れば許されると思ってますか?」



男「思っていない。どんな罰でも受ける覚悟だ」



男(俺は女友に、いや魅了スキルで支配して強制してきた全ての人に対して償いをしなければならないだろう)


女友「はぁ……とりあえずそれは置いておきます」

女友「さっさとやらないといけないことがありますから」



女友「私は今から軍の方に出向いて戦闘行為の停止を申告してきますね」

女友「男さんももう戦う理由が無くなったでしょうし、いいですよね」

男「ああ、頼む」



女友「了解しました。では私がまた帰ってくるまでにお二人も決着を付けておいてくださいね」



男「け、決着って……な、何を」



男(女友は人を食ったような笑みを浮かべている)

男(久しぶりに見る表情だ)




女友「分かってるでしょうに」

女友「今回の騒動は結局のところ異世界をまたに掛けた痴話喧嘩だったってことじゃないですか」

女友「ちゃんとケリを付けないとオチが付かないですよ」



男「だ、だが……」



女友「言い訳は聞きたくありません」

女友「帰ってきたときに何も進んでなかったら、この魔王城を吹き飛ばしますからね」



男(女友は物騒な発破をかけるとボロボロになった謁見の間を出て行った)

男(これで正真正銘女と二人きりになったわけだ)




女「男君」

男「……」



女「私からはもう何も言わないからね。だってもう伝えているから」

男「ああ、そうだな」 



男(俺は既に女から告白されている)

男(その返事をさっさとしろ、というのが女友も言いたかったことだろう)

男(どのように返事をするか考える)





女「………………」

男(待ちきれなくなった女はボロボロになった謁見の間を手持ちぶさたに歩き回る)

男(俺はその後ろを付いていきながら口を開いた)



男「なあ、女。その何言ってるんだって思われるかもしれないんだけど……」

女「うん」



男「あのときの告白……無かったことに出来ないかな」

女「……どういう意味?」



男「ああいや断るとかそういうんじゃなくて…………その、な」

男「こういうのって本当は男の方からびしっと言うべきだろ」

男「でも俺が不甲斐ないから女に言わせてしまって」

男「いや、やり直したってその何かが変わるわけじゃないかもしれないけど……」



女「もう……男君はズルいな」

男「いや、本当におっしゃる通りで」



女「違うよ。男君は私のツボをしっかり押さえていて……本当にズルいってこと」

男「……?」






女「うん、分かった。私はあの日何も言っていない」

女「それで男君は何を伝えたいの?」





男(女が振り返る)

男(話している間も俺たちの足は動いていて、ちょうどベランダに出たところだった)

男(眼下に王都を一望出来る絶好のロケーション)

男(正面にはあの日と同じく夕日が沈みゆく最中だ)



男(いざとなると決心も思考も必要なかった)

男(驚くほど自然に、するりと俺の想いを伝えるための言葉が紡がれる)






男「好きだ、女。これからもずっと俺の隣を一緒に歩いて欲しい」









女(ずっとずっと夢に描いていたものと一致していた)

女(お互いに落ち着いていて)

女(男性の方から言い出したのもプラス)

女(ちゃんと等身大の言葉で伝えてくれたのもプラスだ)

女(場所も完璧。沈みゆく夕日はどうしてこうも心の原点を浮き彫りにしてくれるのだろうか)





女(男君は頭を下げ、私に手を差し出して返事を待っている)

女(ここまで待たされたのだ)

女(少しイジワルでもしようかと思ったけど)



女(……駄目だ、もう私の心を抑えきれない)








女「男君、私も好きだよ。これからもずっとずっとよろしくね!」








女(その手を握ると感極まったように男君も顔を上げた)

女(ニコりと微笑んでみせると男君にぐいっと引っ張られて強く抱きしめられる)





男「ああ! ずっと、ずっと大切にするからな……!!」










こうして魔王君臨を発端に大戦とまで至った一連の騒動は決着を迎えたのだった。






終章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

投稿間隔が大幅に広がり、内容もグダったところが散見されましたが、思い描いていた結末までどうにか辿り着きました。



物語はこれで終わりではなく、エピローグへと続きます。
色々と取りこぼした要素を拾うのとその後を短く描いて今度こそ終わる予定です。



乙ー

乙!

乙!

エピローグとは一体

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