【艦隊これくしょん】提督「初月と」初月「食べる」 (12)

提督「初月、そろそろ昼飯にするか」

初月「ひる……めし……? そうか。船ならぬこの身は生物を殺し、口にすることでのみ維持できるのだな。罪深いことだ」

提督「なに急に艦船擬人化みたいなこと言ってるんだ。昨日、おれのおごりでステーキを3枚も食っただろうが」

初月「たまには着任当初の純朴キャラを押し出そうと思って」

提督「すっかりスレてしまったな、初月も」

初月「で、今日はどこに連れていってくれるんだ。寿司か天ぷらか」

提督「うるさい。今日はラーメン屋だ。自分で払え」


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○ラーメンのふぶき


吹雪「いらっしゃいませー……うわ」

提督「やあ、退役してラーメン屋をはじめた吹雪。繁盛してるか」

初月「なんだか嫌そうな顔をしているようだが。何かあったのか」

吹雪「い、いえべつにー。ご注文をどうぞー」

初月「ふぶきラーメン大盛り全部のせをひとつ」

提督「おごらないからな」

初月「けち提督め」

提督「いやしんぼ艦娘」

初月「なんだとあほ司令」

提督「たかり駆逐艦が何か言ってるな」

吹雪(またはじまった……)

吹雪「おまたせしましたー」


○ふぶきラーメン・全部のせ 1300円
(本体800円、大盛り100円、トッピング400円)

 さっぱり魚介系の透明なしょうゆスープ。
 麺は細めのストレートタイプ。量は400グラム。
 チャーシュー5枚に味付け卵と温泉卵がひとつずつ、海苔が3枚。
 トッピングのネギと香味油は別添え。


初月「いただきます」ツルツル

初月「ふむ、スープを変えたな」

吹雪「わ、わかりますか」

初月「もちろんだ。かつお節とまぐろ節の比率が7:3から6:4になっている」

吹雪「そ、そのとおりです」

初月「そして醤油ダレにエビの殻を加えているな。この香りは甘エビか。素揚げにしたものを煮立つ直前に入れて、そのまま冷ました後に取り除いている」ツルツル

吹雪「……はあ。相変わらずすごいね……。麺を一口すすっただけでそこまで……」

初月「二口すすったらもうひとつわかったぞ。チャーシューのハチミツも変えたか。産地は東北かな」

吹雪「えー……スープに浮かべただけのチャーシューまで……。なんでわかっちゃうんだろう」

提督「気にするな吹雪、こいつはちょっとおかしいんだ」

初月「うるさい。印象としてはわずかな変化だが、味のランクが1つ上がっている。さすがだな、吹雪」ツルツル

吹雪「はあ、どうも……」

初月「だからこそだ。吹雪」ズイッ

吹雪「は、はい?」

初月「その才能をぜひ、味噌トンコツこってり背脂系に活かさないか。きっと今よりずっとお客さんも入る」

吹雪「(ほらきた)……そのー、私は今のラーメンで満足してるから」

初月「吹雪……。確かにこれはハイレベルなラーメンだが、やはり時代はトンコツ、そして味噌なんだよ」

提督「お前が好きなだけだろ」

初月「違う! この前出たラーメンムックのランキング、その第四位にもちゃんとこの組み合わせが入っている」

提督「おれも読んだ。第一位は魚介しょうゆだったぞ」

初月「それは……集計期間のアレとか、そういうのだ……きっと……」

吹雪(私のラーメンを一番理解してくれるのは初月ちゃんなのに、どうしてこうも好みが合わないんだろう)

初月「大体、そういうお前はなぜ、つけ麺を食べているんだ。ラーメン屋に入ると必ずつけ麺を頼んでいるのはなぜだ」

提督「好きなんだよ、つけ麺が」


○ふぶきつけ麺・特盛 950円
(本体750円、特盛200円)

 つけスープはラーメンのものをベースに、甘みと酸味が加わっている。
 麺はラーメンと同じで冷たいもの。量は700グラム。
 チャーシュー1枚と海苔が1枚。
 ネギと香味油は別添え。


初月「ラーメン屋なのだからラーメンを食べるべきだ」

提督「おれはつけ麺がいい。麺をじっくり味わえるからな」

初月「ラーメンの本質はスープだ。麺は重要でも本題ではないぞ」

提督「そんなことはない。ラーメンは麺料理なんだから、麺こそがラーメンだ」

初月「しかしつけ麺の味を決めているのもスープだろう」

提督「だからといって、ラーメンを頼んでスープだけ飲んで帰るやつはいない」

初月「それは極論だ」

提督「だとしても事実だ。スープを残すやつは多いけどな」

初月「ぐぬぬぬ」

吹雪(よそでやってほしい)

提督「吹雪も気にすることはないぞ。初月は自分の好みを主張してるだけだ」

吹雪「えっ。ええ、まあ。もうぜんぜん気にしてませんけど」

初月「何を言う。吹雪、僕を信じてくれ。とんこつ味噌はこれからのラーメンのスタンダードだ」

提督「とんこつと言えば魚介と醤油の組み合わせじゃないか」

初月「それはもはや過去の話だ! というか、つけ麺こそとんこつだろう!」

提督「確かにそういう風潮はあったが、今はつけ麺のスープにも多様性が……」

吹雪(早く帰ってくれないかなあ)

ガラガラ

叢雲「吹雪ー、司令官と初月が来てるって?」

吹雪「えっ、叢雲ちゃんに……初雪ちゃん!? なんでそれを……」

初雪「白雪に……聞いた……」

厨房の白雪「さきほどメールしました」ヒョイ

吹雪「何やってるの……」

白雪「たまにはみんなで集まるのもいいかと思いまして。この時間はひまですし」

初月「おお、むらふもに、はふゆひくぁ」ギリギリ

提督「ひさしうりらな。げんきにひへはは」グイー

叢雲「まあね。で、なんで二人は頬をひっぱりあっているの」

初雪「聞くまでもない……どうせラーメンでもめてる……」

初月「この味オンチ提督があまりにもラーメンをわかっていないだけだ。二人からも何かいってやれ。具体的には味噌トンコツこってり背脂系こそ至高だと」

提督「具体的すぎるだろ」

叢雲「私、カレーラーメンが好きなのよねー。吹雪、こんどメニューに入れない? 裏メニューでいいからさ」

吹雪「やりません」

初雪「私は……ボンゴレが好き……吹雪、スパゲッティ……」

吹雪「やりません」

初月「では味噌ト……」

白雪「やりません」

初月「むう……」

提督「久しぶりに二人に会ったんだ。せっかくだからおごるよ」

叢雲「あら、うれしい。ありがとね」

初雪「らっきー……。遠慮なく……おごられる……」

初月「さすが提督、太っ腹ですね! ごちそうさまです!」

提督「お前は自分で払え」

初月「くそ。ケチめ」

吹雪(二人とも、これを期待して来たんだろうなあ……司令官もわかってるんだろうけど)


………………


吹雪「おまたせしましたー」


○ふぶきラーメン・950円
(本体750円、特盛200円)

 麺の量は300グラム。
 チャーシュー2枚に味付け卵半分、海苔が1枚。
 ネギは別添え。

○ふぶき餃子・250円

 4つセットの焼き餃子。豚肉。
 皮は自家製。


叢雲「吹雪の作る餃子もおいしいのよね」

初月「うん。焼売もいけるんだが……」

提督「こっちみんな、しっしっ」


○ふぶき塩ラーメン・850円

 魚介系の透明な塩スープ。
 麺以下トッピングはふぶきラーメンと同じ。


初雪「吹雪の塩……好き。あさりが浮かんでいると……なおよかった……」

吹雪「うーん、それならできるかも……」

白雪「今度試作してみましょうか」

提督「トンコツ味噌は試作しないぞ、初月」

初月「じゃあトン……何も言わないうちに全部先回りされた」

叢雲「最近の鎮守府はどう?」

提督「暇だな。深海棲艦はあの決戦以来出てこないし。おかげでこうしてのんびり食事もできる」

初月「優秀な秘書艦がついているおかげでもある。感謝するといい」

提督「ほう、ならばそろそろごくつぶしを優秀な秘書艦と交替するか」

初月「提督、自分をごくつぶしだなどと卑下するものではないぞ。おっとこれは事実だったか」

提督「交替はがらくた防空駆逐艦を解体する仕事を終わらせてからだな」

初月「やってみろ。解体資源を食わせてやる」

叢雲「全然変わってないみたいね。よくわかった」

初雪「ところで初月って……私とキャラがかぶっている……気がする…。クールだし…名前も似てるし……」

初月「なるほど! 確かに! 僕はクールだ」

吹雪「それはないよ」

白雪「ないですね」

叢雲「ハッ」

提督「客観性を獲得できていないな。自我が未熟な証拠だ」

初雪「そうかなあ……」

初月「言われたい放題だ。呑まなければやっていられない。吹雪、酒を出してくれ」

吹雪「うちはアルコールはやってないので。ラーメン食べ終わったなら帰ってくださーい」

初月「名前の通りの冷たい女になったな、吹雪……」

提督「吹雪の言う通りだ。帰るぞ、初月。昼休みをだいぶ超過している」

初月「なに、それはいけないな。仕方ない、帰るか」ダッ

提督「払え」ガシッ

吹雪「ありがとうございましたー」

提督「それじゃ、また来るよ。ごちそうさま」

初月「方針転換をしたくなったら連絡をしてくれ。いつでも僕が専属フードプロデューサーになる」

吹雪「ハハハ……」

叢雲「またね。今度、みんなでゆっくり会いましょ」

初雪「いい店……知ってるから……」

白雪「その時は、他の姉妹も呼んでおきます」

提督「ああ、いずれな。でもさすがに全員には奢らないからな」

白雪「では姉妹を呼ぶのはやめておきます」

提督「おーい」

初雪「冗談……あんまり奢られると……初月みたいになるから……」

吹雪「あー」

白雪「なるほど」

叢雲「それは避けたいわねー」

初月「どういう意味だ、それは」

提督「そのまんまの意味だろ。ほら、いくぞ」

初月「まて、提督。おぼえていろよお前ら」

叢雲「ザコっぽい捨て台詞ね……」

吹雪「またのご来店おまちしてまーす」

提督「吹雪たちは元気だったな」

初月「ああ。安心した」

提督「さて、明日は……」

初月「瑞鶴の店へ行こう。久しぶりに会いたい」

提督「あいつらはすき焼き屋をやってるからだろ」

初月「そうだったっけー、忘れちゃったなー」

提督「俺のサイフの背中と腹がひっつくからダメだ。……明日は初月に用意してもらおうかな」

初月「えー。麦飯と缶詰でいいなら」

提督「こんだけ贅沢なものを食わせてやってるのにそれかよ。たまにはまともに料理をしろ」

初月「食べるのと作るのは別だぞ、提督よ。それくらいわかれ、大人だろ」

提督「なるほど。そういや俺のサイフとお前のサイフも別だよな。明日は瑞鶴の店にしよう」

初月「あー、急に料理がしたくなってきた。自慢の手料理を提督に振舞ってあげることにしよう。泣いて喜べ」

提督「ほんとスレたよな、お前」

初月「ふん、ひねくれた提督の下で働くと苦労するんだ」

提督「そうかもな。感謝してるよ」

初月「………………や、やめろ」

提督「何照れてんだ、バカだなー」

初月「うるさい」

提督「ばーかばーか」

初月「うるさいうるさい。……ん。お前もちょっと顔赤くないか」

提督「そんなわけないだろ、ばーか」ダッ

初月「子供か! まて!」ダッ


おわり

3年半前に書いてそのままになっていた作品でした。
本当は二人が艦娘の店を巡る話にしようと思っていたのですが、大変すぎて挫折した覚えがあります。

読んでいただき、ありがとうございました。


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まるで成長していない…

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