提督「なぜか叢雲が眼鏡をかけていた」 叢雲「文句あるわけ?」(艦これ) (27)

めがねの日というのがあったらしいので
普段かけてないけどめがねがめが似合う艦娘ランキングナンバーワン(当社調べ)の叢雲をかいてみました


「叢雲? どうしたんだ、それ」

 部屋に入ると、パソコンで事務作業をしている叢雲がいた。
 そして、なぜか眼鏡をかけている。
 ずいぶんと大きな丸いレンズのふちなしメガネ。少し色が着いているように見えた。

「なに。文句でもあるわけ?」

「いや、無いけど……似合ってるな」

「……はあ?」

 叢雲が眉をひそめてこっちを見た。変なことを言っただろうか。

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「どうしたんだ、それ」

「別に。気が散るなら外すわよ」

「いや、似合ってるし、別に外さなくても」

「……あっそ」

 それを最後に叢雲は作業を再開したので、自分もまた机に着いて仕事を開始する。
 今日も書類は多い。

 しばらく、お互いに無言で作業を続ける。
 叢雲のキーボードを叩く音とマウスクリックの音、自分が書類をめくる音とサインをする音だけが響いていた。
 しかし、急に眼鏡をかけ始めるなんて、視力に問題があったのだろうか。

「……眼が疲れるのよ」

「ん」

 独り言のように叢雲がつぶやいたので、そっちを見る。彼女はモニターから視線を外さずに続けた。

「艦娘は眼が敏感だから、モニターをずっと見ていると疲れるの」

「ああ、なるほど」

 広い海で、目を頼りに敵を探す能力は、人間的な日常の中では不利に働くこともある。
 だから、余計な光をカットするための眼鏡を試作してみたのだという。
 そういえば、そんな書類を見かけた覚えがある。事務作業用の装備とかなんとか。

「効果はどうだ」

「まあまあね」

「いいものなら、量産してもいいかもしれないな」

「……そういう趣味があったわけ」

「何のことだ」

「……別に」

 叢雲はモニターに視線を向けたまま、少し目を細めた。



「ねえ、この眼鏡なんだけど、もう一つのほう」

「そう、こっち。こっちを貸して」

「……なんとなくよ。両方試したほうがいいって言ってたのはあんたでしょ」

「……気まぐれよ、気まぐれ。うるさいわね」

「ん? 叢雲、それ」

「何よ」

 部屋に入ると、叢雲が昨日と違う眼鏡をかけていた。
 銀色のフレーム、細いレンズ。そしてレンズのフレームは上側にしかない、軽い印象の眼鏡。

「昨日と違うな」

「……デザインが違うだけで中身は同じよ」

「ほうほう」

「見た目なんかどうでもいいと思うんだけど」

「いや、昨日のよりも似合ってるよ。いいと思う」

 銀色のフレームが彼女の髪に溶け込むようで、それでいて夕日色の瞳を際立たせていると感じた。
 形と色が違うだけで、大分印象が変わるものだ。

「…………あっそ」

 一言で会話を終わらせて、叢雲は再びモニターに顔を戻した。

 自分も作業を開始する。キーボード、マウス、書類、サイン。しばらくの間、聞きなれた音だけが部屋に響いていた。
 何枚目かの書類を脇に置いて、次の書類に眼を落とす……その前に、なんとなく叢雲を見た。
 眼鏡をかけて机に向かう彼女は、大人びて見える。彼女の細い指が眼鏡に触れて、位置を直した。

「なによ」

 叢雲は視線も動かさずに言った。……書類をめくる音が止まったからか。

「ああ、いや。少し気になることがあっただけだ」

「そ」

 叢雲の声はそっけなく、キーボードを叩く音も止まりはしなかった。
 真面目に仕事をする彼女をじっと見つめていたというのも悪い気がしたので、自分も仕事に戻ることにする。

 ……またしばらく後。時計の短針と長身がぴたりとそろう。12時。そろそろ休憩にするか。

「叢雲」

「……なに?」

「昼食にしよう」

「……ああ、そんな時間。わかったわ」

 自分と叢雲は二人で食事をしている。会話の内容は休憩半分、仕事半分といったところ。
 立ち上がって、部屋の扉を開けて廊下へ出た。並んで歩き出し、そこで気づく。

「あれ、眼鏡はかけたままなのか」

「……そっか。忘れてた」

 叢雲が眼鏡に手を近づけた。

「別にいいんじゃないか、かけたままでも」

 新しい装備に慣れるという意味でもそうだし、もう少しいつもと違う彼女を見ていたいという気持ちもあった。
 叢雲は手を下ろして、横目でフレーム越しにこちらを見た。

「やっぱりそういう趣味なんでしょ」

「そのつもりはないんだけどな」

 まあ、ひょっとしたらそうかもしれない。
 叢雲は、俺を置いてすたすたと前を歩いていく。




「こっちのほうがよかったかもね」

「……使い心地? 大して変わらなかったわよ」

「ならデザインがいいにこしたことはないかな、って思っただけ」

「……だから、これでいいって……なに、これ?」

「……わかったわよ、試せばいいんでしょ」


「あれ?」

 部屋に入ると、なぜか叢雲は眼鏡をかけていなかった。

「何」

「いや、眼鏡はどうしたのかと思って」

 叢雲は無言で眼を指差した。……そういえば、少し瞳の色が違う気がする。

「コンタクトレンズか」

「そういうこと」

 もうそんなものができているのか。
 眼鏡はどうしても視界を塞ぐし重さもある。コンタクトレンズで済ませられるなら、そのほうがいいのかもしれないな。
 そう思いながら、俺は座って仕事を始める。始めようとした、のだが。

 なぜか、叢雲がこちらを、じっと見ている。
 ……何か言いたそう。あるいは、何か言ってほしそう。

「……どうした」

「別に、なんでも……」

 と、叢雲が途中で言葉を切って、何か決めたような顔になる。
 机の上に置いてあった、細長いケースに手を伸ばす。
 中に入っていたのは、昨日の眼鏡だった。

 両手でツルを開き、顔にかける。そして、頭とツルの間にはさまった髪を抜く。
 眼鏡の叢雲が、もう一度こちらを見た。

「……」

 レンズ越しの、何か言ってほしそうな視線。
 ……なんでコンタクトレンズの上から眼鏡をかけたんだ?

 いや、違うな。そうじゃない。
 こうだ。

「似合ってる」

「………………あっそ」

 ふい、と顔を背けた叢雲は少し、紅かった。



おわり

読んでくださった方、ありがとうございました
自分は眼鏡萌えは、ほぼ全くないのですが、普段眼鏡かけてないキャラが眼鏡かけてる萌えはあります
TPOにあわせてかけたり外したりするのがいいですね

逆に普段かけてるキャラがかけてない萌えはあんまりないのが不思議なのですが…
こっちのパターンなら男性キャラのほうが好きかもしれませんね

というわけでそんな感じでした
ありがとうございました

長いおまけ


「うおっ」

 部屋に入ると叢雲が顔に不思議なものをつけていた。
 金属で構成された機械の面が、鼻を含めた顔の上部分を覆っている。彼女の顔はその下、口元と顎、その上の髪しか見えない。
 これでは前が見えないのではと思ったが、眼の部分に一応スリットは入っている。……蛍光色に発光していたが。

「……なによ、もう」

 自分の声に反応したか、こちらを向いた叢雲は片手でなにやら操作をした。
 すると、見る間に機械的な音を立てながら機械面が花開くように展開し、叢雲の顔が現れる。

「な、なんだそれ」

「サイバーバイザーよ」

 叢雲が語るところによると、こうだ。
 発想としては、そもそも人間用に作られたPCに対応するより、眼に入れる情報と光の量を調節してしまえばいいのではないか、というところから。
 これを装備しパソコンと同期することで、眼を保護しつつ適切な情報だけを表示し、さらに視線入力をも可能とし、仕事の能率も向上する……とか。

「……便利そうではあるな」

「まあ、そこそこね」

 とりあえず俺も座る。
 叢雲は変わったものをつけていたが、それはそれでよしとして、自分は自分の仕事をする。

 ……やっぱり気になる。ちらちらと見てしまう。叢雲はバイザーをかけたまま、腕を組んで座っている。寝ているわけではない。
 艦娘が可能とする高度な視線入力によって、仕事は進行しているのだ。動作の証拠に、忙しくあちこちが点滅している。直接見てはいないのだろうが、モニターの中の情報も動き続けていた。

「……なによ、さっきから」

「え」

 叢雲の方を見ていたのがバレてしまったようだ。叢雲の視線は覆い隠されていてわからない上に、このバイザーは内臓カメラによって艦娘に、より広い視界を提供できるらしい。

「鬱陶しいなら、外すけど」

「……いや、その必要はない」

 俺は立ち上がった。

「ど、どうしたの?」

 突然動きを見せた俺に、叢雲が慌てたように顔をこちらに向け、バイザーを上げて顔を露出させる。

「叢雲」

「う、うん」

「かっこいいな、それ」

「……はあ?」

………………

「私のデュアルアイタイプ、かっこいいですよ!」

「僕のモノアイタイプのほうが味がある」

「不知火の無眼式の良さがわからないようではまだまだですね」

 あの後、すぐにサイバーバイザーの試作型を何個も製作し、データを集めた。提出したデータの有用性が認められ、量産体制に入るまでは早かった。
 そしてついに、今日こうして艦娘たち全員にサイバーバイザーが支給されたのだった。
 希望のデザインを事前に聞き取りをしてあったため、それぞれが自分の好みのバイザーをかけている。
 誰も彼もが機械の仮面ではしゃぐ様子は、仮面舞踏会にも似ていたかもしれない。そうでないかもしれない。

「なんなのよ、これ……」

 叢雲が難しい顔で腕を組んでいた。彼女はバイザーをしていない。

「事務作業だけでなく、視界サポートや情報共有の面で、戦闘でも強力な装備となることを証明できたおかげだな」

 大変に満足な結果だ。

「これも叢雲のおかげだ」

「私は何もしてないでしょ……」

「最初にかけたのは叢雲だったからな」

「それはそうだけど、あんまり関係ないような……」

 そういうわけで。

「これが叢雲の分だ」

「……私はあんまり気が進まないんだけど。……あれ、これって」

 叢雲に渡したバイザーは、機械的なフレームとレンズが組み合わさったタイプ。……叢雲がかけていた眼鏡に似ている。

「よく似合っていたからな。強度的には少し劣るかもしれないが、その分軽いはずだ」

「……そう。まあ、もらっておいてあげるわ」

 叢雲が自分のサイバーバイザーを手に取って、顔にかけた。
 自分の主を認識して、光を点す。

「うん、ぴったりだ。かっこいいぞ、叢雲」

「……はいはい」

 叢雲は口元を少しだけゆるませて、仕方ないな、という眼を、レンズ越しに覗かせた。
 よかった。
 ……彼女の綺麗な眼が隠れるのだけは、もったいないと思っていたのだ。



おわり

バイザー萌えです
ありがとうございました

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