【艦これ】高雄「夏祭り防衛任務」 (95)


とある鎮守府の夏のお話。

※以下の物語の続きという設定となっています。予めご承知おきください。
【艦これ】高雄「クリスマス」
【艦これ】高雄「クリスマス」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1545549292/)




大淀「『〇〇鎮守府管内で実施される夏祭り及び花火大会中の海域警備任務を命ずる。詳細は添付の資料の通り』。資料はこちらです」スッ

提督「はいありがとう」

大淀「『なお、本任務については特段の事情が無い限り司令官も艦隊に同行するものとする』以上です」

提督「そうか。ふーむ……」

高雄「とりあえず、神通さんと長良さんを呼びますか?今ならお二人とも手空きのようですけど」

提督「……いや、今回は任務が任務だから、先に志願者を募ろう。編成はその後だ」

高雄「了解しました」


提督「それに、『司令官も艦隊に同行せよ』か」

高雄「珍しいですね」

提督「うん。基本的に司令官は鎮守府を離れないものとされているんだがな」

提督「だが、わざわざ命令してきたなら行かない理由はないね」

高雄「あー……」

提督「どうかした?」

高雄「その……提督まで前線に出られるのはいささか危険度が高いのではないかと思うのですが」

提督「作戦海域がここより後方の鎮守府近海だとしてもかい?」

高雄「ええ」


提督「とはいえ、慣例を破ってでも司令官が同行せよとわざわざ言ってきているからな」

高雄「それに足る理由がある、ということですか?」

提督「うん。ひょっとしたら海軍内部だけの事情では説明できないことだろうから、行くべきだと思うよ」

高雄「そういうことでしたら……分かりました。任務遂行と同時に提督の身をお守りできるよう全力を尽くします」

提督「ありがとう」


高雄「提督もいらっしゃるなら、遠洋航海形態で出撃することになりますね」

提督「そうだね。いずれにしても任務海域まで距離もあるし、その方が君たちも楽じゃないかな」

高雄「そう思います」

※遠洋航海形態

いわゆる「メンタルモデル方式」

イメージできない方は検索してください。


提督「それと、我々が出撃している間の近海の警戒は、近隣の鎮守府がやってくれるのかな?」

大淀「はい。私たちへの命令と同時に発令されたと連絡がありました」

提督「分かった」

提督「とはいえ、万が一に備えて司令官代理を立てておいたほうがいいだろうね」

大淀「ええ。そう思います」

高雄「こちらも志願を募りますか?」

提督「うん。誰もいなければこちらから指名するが、基本的に志願者にやってもらおう」


翌日

提督「……以上が概要だ。通常の管轄海域を離れた任務のため、志願者のみで艦隊を編成する。志願する者は本日中に神通に伝えておくように」

ザワザワ

高雄(いつにも増して変わった任務だもの。話したくもなるわよね)



提督「なお、今回の任務は私も旗艦に座乗し同行する」

「「「ええっ!?」」」

提督「ど、どうした」

金剛「て、テートクも出撃するんデスカ!?」

提督「ああ、そのつもりだ。命令書にも『特段の事情が無い限り同行する』とあったしね」

榛名「危険です!提督はいつものように執務室で私たちの帰還をお待ちください!」

高雄(やっぱり。そう考えるのが私だけではないと思ったわ)


提督「それは私も考えたが、上から出ろと言われるのはよっぽどのことだ。それに、今回の任務海域はこの鎮守府よりも後方で脅威度は低い」

赤城「だとしても提督にまで出撃を命ずるのは異例ですね。そこまでする理由があると?」

提督「あると思っているよ。少なくとも今回に関してはね」

五月雨「他の鎮守府でも司令官が艦娘と出撃することはあるんですか?」

提督「あるにはある。ただ、実際どんな事例があったかまでは私は把握していないんだ」

青葉「では、そのあたりは青葉が調べてもいいですか?」

提督「ああ。頼むよ」


数日後

神通「お待たせしました。夏祭り防衛任務の編成案です」

提督「ありがとう」

神通「旗艦は高雄、直衛には五月雨をつけています」

筑摩「高雄さんを旗艦にしたのは提督との意思疎通が最も適切に取れると考えたため。五月雨ちゃんは駆逐艦で一番練度が高いためです。他意はありませんよ」ウインク

提督「はいはい。お気遣いありがとう」カタスクメ

筑摩「第一艦隊は他に金剛、榛名、武蔵、島風で編成しています」

高雄「武蔵さんもですか……」

神通「はい。志願していただけましたので今回はその力を存分に活かしていただこうと思います」


神通「第二艦隊は夜戦を想定して川内以下磯波綾波敷波白露時雨を配置しました。潜水艦と遭遇した際にもこの艦隊が排除にあたります」

筑摩「第三艦隊は機動部隊です。翔鶴、瑞鶴を基幹として、鈴谷と熊野で索敵を補佐。トンボ釣りと空母の直衛は秋月と照月を充てます」

神通「第四艦隊では我が鎮守府に所属する潜水艦を全艦投入します。この艦隊で第一段の哨戒線を構成することを想定しています」

提督「なるほど。全員投入とは思い切ったね」

筑摩「潜水艦の娘たちから熱烈な出撃希望があったんですよ。現行の運用システムだと単独哨戒には出せませんし、私たちのところでは演習や駆逐艦に混じっての遠征が主任務になっていたので、今回は戦場で役に立てるまたとない機会だって」

提督「それもそうだ。今回は最前線で頑張ってもらおうか」


神通「ご意見があれば変更いたしますが」

提督「いや。この編成で申し分ないよ。会議は……明日の午後なら大丈夫?」

高雄「明日の午後なら……大丈夫です。全員鎮守府にいますね」

提督「ではそこで具体的な行動計画を話し合おうか」


翌日午後 執務室

提督「何か気になることはあるかい?」

鈴谷「……これさ、わざわざ四個艦隊も出す必要ある?」

熊野「鈴谷……それ、今言う必要ありましたの?」

鈴谷「それは思ったけど、だってうちらのとこより後方なんだよ?」

瑞鶴「それに鎮守府の近海なんでしょ?四個艦隊が守りを固めるような海域じゃないとは思うのよね」

提督「そういう考えになるのはもっともだろうね」


武蔵「実際のところ、提督の考えはどうなんだ?」

提督「正直に言うと、この海域に布陣するには過剰ではあると思うよ」

鈴谷「やっぱり?」

提督「そりゃそうだよ。この鎮守府の近海でもこんな艦隊で出撃することなんてないからね」

提督「でも私たちがわざわざこんな大勢で出張っていく一番の理由は、敵艦隊を排除するためではないんだよ」

五月雨「え?あ、そっか」

金剛「そうですよネ。それはあくまで敵が来た場合だけですものネ」

提督「うん。今回の任務は私たちが出せるだけの艦隊に加えて、司令官を伴ってまで出撃することに意味があるわけだ」


鈴谷「何となく分かったけど、もうちょっと聞きたいかも」

提督「じゃあもうちょっと話そうか」

提督「今回の任務の最大の目的は、戦闘行為ではなく一種の示威行為だ。我が海軍、艦娘部隊はこういうこともできるんだということを、いろんなところに向けて示せるんだよ」

鈴谷「具体的にはどんなこと?」

提督「どんなことだと思う?」

鈴谷「えーっと」


鈴谷「まずこれだけの艦隊を動かせるってことは見せられるよね」

翔鶴「しかも鎮守府の近隣だけではなくて、ある程度離れた海域でも十分活動できることもアピールできますね」

川内「つまり、どこかの鎮守府が危機にあるときに他の鎮守府が応援に駆けつけられるってことも示せるでしょ」

時雨「そうか。今まで以上の信頼を得るための任務と編成、ということなんだね」

綾波「そしたら私たちも、国民のみなさんから協力してもらいやすくなるかもしれませんね」

白露「この作戦、そんなにいろんな意味があったんだ」

提督「みんなの理解がよくて助かる。そういうことだから、私としてもできるだけ多くの戦力をこの任務に投入したいわけだ」

鈴谷「なるほどね。そういうことなら納得かな」


提督「他には?」

金剛「テートク。作戦行動には直接関係ないんデスけど質問していいデスカ?」

提督「いいよ。何かな?」

金剛「今回の任務、夏祭りがある管区の鎮守府がやらないのはなぜデスカ?」

提督「ああ、それなんだがな」


提督「我々の鎮守府はもともと無人島だったところに作られていて、民間人と接触する機会はまずないだろう?」

金剛「そうネ。あっても船団護衛ぐらいカナ」

提督「うん。だが全ての鎮守府がそうではない。住民や自治体からの請願を受けて、人里の近くに鎮守府が設置された例もあるわけだ」

白露「ということは、この夏祭りする管区の鎮守府もそうなんだ?」

提督「そういうこと。ここは以前から地元の人たちとの交流が活発な鎮守府らしくて、今回の夏祭りには艦娘たちも参加しないかと声がかかったらしい」

榛名「それは、参加しないわけにはいきませんね」


五月雨「じゃあ向こうの提督も夏祭りに行くんですか?」

提督「そう聞いたよ」

鈴谷「提督もお人好しだよねー。よその提督と艦娘がお祭り楽しめるためにわざわざ出撃するなんてさ」

提督「向こうだって任務の一環だ。地元の人たちの招きに応じて一緒に祭りを楽しむのだって、我々を信頼してもらうためには大事なことだよ」

提督「それに、外部の人と会って良い印象を与えるのは私は苦手だし得意じゃないんだよ。こういう任務のほうがむしろ性に合ってる」

瑞鶴「そして私たちはそれに付き合うしか選択肢はない、と」

提督「そういうことだ。残念だが、こんな司令官のところに生を受けてしまったことを悔やむんだな」ニッ

高雄(せっかく真面目なお話だったのに、冗談を挟んで私たちの緊張をほぐそうとするのは忘れないのですね)クスッ

高雄(でも忘れないでください。私たちは後悔など全くしていないのですよ)


高雄(という言葉をこの場では私以外の方から言ってもらえるとありがたいのですけど……)

武蔵「おっと。私たちが全員志願だということを忘れてもらっては困るぞ」ニッ

高雄(!)

伊401「そうそう。私たち、やるときはちゃんとやるんだからね」

秋月「それに、提督と一緒に出撃できるなんて、私たちからすれば夢みたいです!」キラキラ

金剛「涙をのんで居残り組に志願した陸奥や祥鳳たちの分も頑張るネ」グッ

高雄(みなさん、ありがとうございます……!)

提督「そうか……そうだな。頼むぞ」


大淀「提督。任務終了後について先方から連絡がありました」

大淀「『任務終了後、弊鎮守府にて補給及び休息の用意あり。弊鎮守府艦隊と交代の後立ち寄られたし』とのことです」

提督「了解。『厚意に感謝する。無事会見出来るよう全力で任務に当たるものなり』と返しておいてくれ」

大淀「了解しました」


青葉「司令官、お待たせしましたっ。過去に司令官が出撃した事例をまとめてきました」

提督「ありがとう。何か分かったことや気になることはあったか?」

青葉「気になるのは司令官も出撃したという事実しか公表されてないことですかね。司令官の出撃に至る経緯が全然公表されてないんですよ」

高雄「機密なのですか?」

青葉「どうも機密みたいです。経緯が知られるとそれを理由に司令官の出撃を求められるから、という噂はありますがそれ以上の確認はできてないんですよね」

提督「ならそれ以上は調べなくていいよ。わざわざ我々の立場を危うくする必要はないからね」

青葉「了解です」

高雄「つまり、上としてはできるだけ司令官を出撃させたくはないのですね?」

青葉「そう考えて間違いないと思います」


青葉「ただ、面白いことも分かりましたよ」

提督「ほほう。何を見つけたんだ?」

青葉「今回の任務海域を管轄する鎮守府、他の鎮守府みたいに提督の着任を初期艦が迎えるスタイルじゃなかったんですよ」

高雄「どういうことですか?」

青葉「提督が初期艦に座乗して鎮守府に着任したんですよ。しかもそれを地元の人たちが出迎えてます」

提督「よくそんなの分かったな」

青葉「地域の広報が見つかったんですよね。これです」

提督「ほんとだ。結構丁寧に記事にしてある」


高雄「これはもしかして、地元の方たちがこのような形を望んだということですか?」

青葉「その可能性は高いですね。広報のバックナンバーを調べてみたんですけど、この鎮守府の開設以降毎回鎮守府の動向について記事にしてますし」

青葉「それに、鎮守府にこんなことを要望したとか、鎮守府から要望を受けたとかいう内容が時々載っているんですよ」

高雄「なかなか興味深いですね」

青葉「興味深いですよね。青葉からの報告はこんなところですけど、いいですか?」

提督「十分だ。助かったよ」

青葉「いえいえ。お力になれて何よりです」


提督「それと青葉。もう一つ頼みがあるんだが」

青葉「何です?」

提督「水偵の妖精たちに写真の撮り方を教えてほしいんだ」

青葉「写真の撮り方を?しかも妖精たちにですか?」

提督「うん。できるかな」

青葉「できるとは思いますけど、どうしてそんなことを?」

提督「ちょっと妖精たちにしか撮れない写真を撮ってもらいたいんだよ」

青葉「はあ……」


夜 提督の私室

高雄「青葉さんに頼んでいらした件ですけど、どういった事情なのですか?」

提督「せっかくだからこの写真みたいなことをやりたいと思ってね」

高雄「これは……艦隊の集合写真ですか?」

提督「うん。PHOTEXと呼ばれているやつだ」

高雄「これを私たちの艦隊でもする、と?」

提督「そういうこと。自分たちの記念に撮るのはもちろんだけど、できれば向こうの提督にデータを渡して広報にでも使ってもらおうかと思ってるんだよ」

高雄「それは面白いですね。私たちのところでは広報することもできませんし、いい案だと思います」

提督「そう言ってくれてよかった」


高雄「あ。まさか、PHOTEX見たさに出撃したかったなんてこと、あったりします?」

提督「残念ながらあったりするんだよなあ」

高雄「やっぱり」クスクス

提督「そもそも私が陸や空じゃなくて海を選んだの自体、海や艦が好きだったからだしね」

高雄「あら。それは初耳ですよ」

提督「そういや言ってなかったね」

高雄「では今回の出撃も楽しみにしていらっしゃるのですね?」

提督「そりゃもう」


提督「それに、命を失うリスクをみんなだけに背負わせるのも不本意だしね。本音を言えば毎回みんなと出撃したいぐらいだ」

高雄「やはり、そうお思いでしたか」

提督「気づいてた?」

高雄「気づいていたというほどではありませんけど、私たちが任務の間はいつも執務室にいらっしゃるので何か思うところがあるのだろうとは考えていました」

提督「なるほどね。多分だけど、同じように考えている提督も少なくないんじゃないかな」

提督「このことは口外無用で頼むよ」

高雄「分かりました。私たちだけの秘密ですね」クスッ

提督「そういうこと」ニッ


訓練日

高雄「ようこそ、高雄艦橋へ」

提督「おお……」

高雄「ど、どうかなさいましたか?」

提督「いやあ……すごいな。過去の提督方が高雄型を旗艦にしたのがよくわかるよ」

高雄「ありがとうございます」ニコッ

提督「出港用意は?」

高雄「全て整っています」

提督「上々だ。では、出港しようか」

高雄「はい」

シュッコーヨーイ


高雄「艦隊、集合しました」

提督「よし。予定通り訓練を開始する。各艦、記録は取れるだけとっておくようにな」

ハーイ リョーカーイ



執務室

祥鳳「提督が執務室にいらっしゃらないのって、すごく違和感がありますね」

陸奥「本当にね」クスッ

陸奥「それじゃ、何からやる?」

祥鳳「まず工廠関係からですかね」


数日後

提督「不在の間、指揮権は陸奥に預ける」

陸奥「預かるわ。気をつけてね」

提督「そっちもな。いってくる」

陸奥「いってらっしゃい」

イッテラッシャーイ ワーワー



提督「……ふふっ」

高雄「何か、気になることがございますか?」

提督「いや、いつもは見送る側だから変な気分になってね」カタスクメ

高雄「そうでしょうね。私も提督が隣にいらっしゃるのは不思議な気分です」クスッ


伊401「第四艦隊、集合完了」

翔鶴「第三艦隊、集合よし。第一艦隊後方に展開しました」

川内「第二艦隊、集合及び展開完了」

高雄「第一艦隊、集合よし。艦隊集合、完了しました」

提督「了解。ではこれより任務海域に向かう。全艦、警戒を厳に」


高雄「提督。水偵一番機より発艦要請がきています」

提督「敵の情報でもあったかい?」

高雄「いえ。PHOTEXのために写真撮影の練習をしたいとのことでして。撮りたくてうずうずしているようです」クスッ

提督「分かったよ。許可しよう」クスクス

高雄「ありがとうございます」

提督「全艦に告ぐ。水偵が一機艦隊近傍を飛行するが、気にせず警戒に当たってくれ」

高雄「水偵一番機。用意でき次第発艦しなさい」


提督「綺麗な夕焼けだな」

高雄「ええ」

提督「これを見られただけでも一緒に出撃出来てよかった」

高雄(私もあなたと一緒に見られてよかったわ)

高雄(……って言えれば良いのだけど、任務中なのよね。でも、任務でもなければ海に沈む夕陽を提督と一緒に見られることはないし、複雑な気持ちね)


提督「妖精たちにはこういう風景も撮ってもらえるといいんだが、どこかにいるかな」

高雄「どうでしょうか。ええと……」キョロキョロ



高雄「いましたよ。あそこでカメラを構えています」

提督「ほんとだ。熱心で助かるよ」

高雄「専業カメラ妖精になる、などと言わないか心配になるほどです」クスッ

提督「だね。そうなったらまた偵察してくれる妖精を育ててもらわないと」フフッ


数日後

翔鶴「警備艦隊、帰投していきます」

提督「了解。これより警戒態勢に入る。第四艦隊は当初予定通り三隊に分かれ、担当の海域に向かえ」

伊401「了解っ」

提督「第一、第二、第三の各艦隊は予定通りの航路で本海域の哨戒を開始する」


翔鶴「……!提督。索敵機の一機が機関不調です。作戦行動を中断し帰投させたいのですが、よろしいでしょうか」

提督「どの機だ?」

翔鶴「南東方面の1番機です」

提督「了解。帰投を許可する」

翔鶴「ありがとうございます」

提督「伊8と伊19は警戒レベルを上げておいてくれ。敵艦隊が接近してくるとすれば索敵しきれなかったそっちの方角からの可能性が高い」

伊19「了解なの。しっかり見張っておくのね」


瑞鶴「索敵機、全機収容完了。接敵及び敵艦隊発見の報告は無しよ」

提督「了解」

高雄「今のところ平穏ですね」

提督「だね。このあたりはいつもこんな感じなのかもな」

提督「このまま何もなければいいんだが……」

高雄「ええ……」


提督「月が出たね」

高雄「ええ。花火の打ち上げ開始まであと30分です」

提督「あと30分か」


提督「第四艦隊各艦、現状を報告せよ」

伊401「伊401、異常なし」

伊26「伊26、異常ないよ」

伊58「伊58、花火を見る漁船が集まってるぐらいでち」

伊168「伊168、花火を見に来た商船が何隻かいるだけよ」



伊26「イク?そっちは?」


伊19「ちょっと待つのね……」





伊19「!伊19!スクリュー音聴知なの!」

伊8「伊8、伊19に同じく。まだ結構遠いけど……一隻や二隻ではなさそうね」

提督「それは妙だな。高雄、AIS情報の確認を」

高雄「AIS情報……当該海域に船舶情報なし」

提督「敵味方識別反応は?」

高雄「敵味方識別……反応ありません」

提督「反応なし了解」


提督「直接確認する必要がありそうだな」

高雄「ええ。水偵を送り、目視で確認すべきだと考えます」

提督「同感だ。熊野、水偵を向かわせられるか?」

熊野「ええ。艦隊近傍の索敵が少し不安ですけど」

鈴谷「じゃあ艦隊のそばは鈴谷の水偵出そうか?」

提督「そうしてくれ。熊野の水偵を伊19、伊8の展開海域へ」

熊野「承りましてよ」

伊58「提督。ゴーヤたちもイクの応援に行くほうがいいでちか?」

提督「いや、今の持ち場にいてくれ。万が一他にも艦隊がいた場合、捕捉して足止めするには君たちが分散している必要がある」

伊58「了解でち」

伊168「みんな、気をつけてね!」


熊野「敵味方不明艦隊、発見しましたわ。敵味方識別反応なし。外洋航行形態で航行中」

提督「編成は?」

熊野「戦艦ないし重巡が8、空母4、軽巡2、駆逐が……16ですわね」

提督「了解。多いな……」

高雄「いかがいたしますか?」

提督「みすみす敵艦隊を通すという選択肢はないよ。全艦、戦闘用意」

高雄「戦闘用意!」

提督「翔鶴、瑞鶴。君たちも最悪の場合に備えておいてくれ」

翔鶴「了解です。攻撃隊、全機発艦用意!装備、対艦兵装!」

提督「艦隊、第一戦速。針路を敵艦隊へ」

提督「それと管轄鎮守府に暗号電を打て。『敵艦隊発見セリ。戦端開キ次第連絡ス』」

高雄「了解。暗号電を打ちます」


熊野「あっでも……」

提督「どうかしたか?」

熊野「戦艦や重巡もいますのに横に長い陣形ですわ。戦闘を想定しているとは思えませんわね」

提督「横に長い?外洋航行形態でか?」

熊野「ええ」

高雄「それは妙ですね」

提督「妙だな」

熊野「それに速力が遅いですわ。10ノットも出ていないと見えます」

提督「遅すぎるな」

高雄「潜水艦を警戒して……いたらもう少し出すでしょうね」

提督「だよね」


熊野「敵艦隊、速力ゼロ。完全に停泊してしまいましたわ」

伊8「潜望鏡深度まで浮上してみたけど……攻撃してくる感じはないわね」

伊19「あいつら、戦う雰囲気がまるでないのね。航海灯も消さずに停船なんて、当ててくれって言ってるようなものなの」

提督「何を考えているんだ……」

高雄「さあ……」

金剛「テートク、どうしマスカ?」

榛名「奇襲の好機であるとは思いますが……」

提督「うん……」


提督「熊野、敵艦隊はどこに停泊している?」

熊野「夏祭りの会場からみて南東に60海里ほどの海域ですわ」

提督「会場から南東60海里……このあたりか。高雄、今の時刻は?」

高雄「19:57です」

提督「となると、花火まであと三分だな」


提督「……今日この時間にこんな近海に来て、しかも停泊……?」

高雄「提督、まさかあの艦隊は……」

提督「確証はない。だが……いずれにせよ向こうが停船しているのなら、我々が速力を落としても対処は間に合うだろう」

高雄「ええ」

提督「……よし。全艦、速力を落とせ。前進最微速」

高雄「前進最微速、宜候」

提督「鎮守府に暗号電。『敵艦隊停止セリ。コレヨリ距離ヲ取リ警戒監視ニ当タル』以上」

高雄「了解です」


武蔵「我敵艦隊発見せり。十二時から一時の方向にかけて展開しているぞ。距離四万」

提督「本当か?全然見えないんだが」

高雄「艦橋高さの関係ですね。それに、私たち艦娘は測距儀の映像も認識できますから」

提督「それもそうか。武蔵、敵艦隊に動きはないか?」

武蔵「ないな。島風、敵からの電探発信は確認できるか?」

島風「今のところなーし」

提督「了解。なら我々も今は静観しておこう」


敷波「!五時の方向に閃光!……じゃなかった、花火を視認!」

提督「花火視認了解。時間か」

高雄「ええ。ちょうど花火大会が始まったところですね」

提督「こんなに離れているのに見えるのはなかなか変な感じだな」

高雄「まったくです。近くではかなり大きく見えているのでしょうね」

提督「だろうね。あるいは、ここからは見えない大きさの花火も打ち上げられているんじゃないかな」


提督「伊19、伊8。そこから花火は見えているか?」

伊8「さっきの大きいのは上半分だけ見えたね」

伊19「上の方まで打ち上げられた花火はギリギリ見えるのね」

高雄「……あの艦隊は、本当に花火を見に来たのでしょうか」

提督「だとしたらいろいろと厄介なことになりそうだ」

高雄「そう……ですね」

提督「……」




提督「今これ以上考えるのはやめておこうか。考えてもどうしようもないよ」カタスクメ

高雄「同感です」カタスクメ


高雄「提督。通信が入りました」

提督「我々にか?」

高雄「この海域に居る全船舶に向けてですね。花火大会の実行委員会から『花火大会は終了。気をつけて帰港されよ』とのことです」

提督「そうか。それは良かった」


島風「!逆探に感あり!敵艦隊動きそう!」

提督「連続か?」

島風「連続じゃない……けど複数の艦が電波出してるよ」

提督「了解。全艦、砲撃戦用意」

高雄「砲撃戦用意!」

熊野「!敵艦隊、動きますわ!」

提督「第一戦速。全速即時待機」

高雄「第一戦速。全速即時待機宜候」


熊野「水偵でも確認しましたわ。確かに転針中ですわね」

提督「転針?どの方角にだ」

熊野「取り舵で西方向に向かいつつありますわ」

伊19「こっちに向かってくるのね。一旦潜航して退避するの」

伊8「速力は……先頭の艦で15ノットぐらいかな」

武蔵「本艦も敵艦隊の転針を確認。こちらに向かってくる艦はいないようだぞ」

高雄「このまま進みますか?」

提督「このまま進もう。これだけ長い間水偵を張り付けていたんだ。向こうも我々の存在は気づいているだろう」

高雄「ごもっともです」


榛名「見えました!」

金剛「本艦も敵艦隊を捕捉しマシタ。1時の方向、距離三万デス」

提督「こちらでも確認した。我々に背を向けようとしているな」

高雄「もう少し追尾しますか?」

提督「もう少しだけ追尾しよう。全艦前進原速」

高雄「前進原速、了解です」


武蔵「敵艦隊最後尾の戦艦のマストも水平線外に……今消えたぞ」

提督「了解。戦闘配置解除。警戒配置に」

高雄「戦闘配置解除」

提督「熊野。敵にはりつけた水偵の燃料はあとどのくらいもつ?」

熊野「15分が良いところですわね。それ以上はこちらから回収しにいかないといけなくなりますわ」

提督「ではあと10分間追尾させておいてくれ。敵の動きに変化がなければ引き上げさせよう」

熊野「了解ですわ」


熊野「敵艦隊、針路速力そのまま。水偵は引き上げさせますわ」

提督「ああ。島風、逆探の反応は?」

島風「反応消失。他の艦隊もいないみたいだね」

提督「了解。鎮守府に暗号電。『敵艦隊撤退ノ模様。引キ続キ警戒監視ニ当タル』。以上」

提督「念を押しておくが、まだ任務は終わっていない。夜が明けて警戒を引き継ぐまでは、この海域の安全は我々にかかっている。引き継ぎ警戒を続ける」

高雄「了解です」


提督「夜明けか」

高雄「ええ。あの後は平穏そのものでしたね」

提督「だね」

川内「川内より翔鶴。艦隊針路上に敵潜なし」

翔鶴「翔鶴了解。索敵機、発艦させます」

提督「了解」


瑞鶴「索敵機から連絡。海域警備に向かう友軍艦隊と接触」

提督「了解。警備を引き継ぎ、鎮守府に向かう。全艦、第五航行序列」

川内「第五航行序列了解」

提督「高雄。水偵一番機を発進させてくれ」

高雄「了解。準備でき次第発進させます」


伊401「第四艦隊合流。配置につきました」

高雄「了解。提督、艦隊集合完了です」

提督「了解。全艦、針路速力そのままで艦列を維持せよ」

高雄「始めますか?」

提督「うん。始めてくれ」

高雄「了解。水偵、撮影を開始して」


翔鶴「提督。間もなく索敵に出ていた艦攻隊がすべて艦隊上空に戻ります」

提督「了解。艦攻隊には編隊を組んだまま艦隊上空を低空で通過させてくれ。その後で収容するように」

翔鶴「了解しました」

高雄「では、艦攻隊通過のタイミングでも撮影を?」

提督「うん。そう伝えてくれ」

高雄「分かりました」


高雄「撮影完了しました」

提督「よし。では艦列はこのまま現地の鎮守府に向かおう」

高雄「はい」



瑞鶴「やっぱり花火いいなー。任務じゃなかったらもっと近くで見たかった」

鈴谷「提督ー。うちでも花火できないのー?」

提督「技術的に出来るかは、帰ってから明石とか妖精さんたちに聞かないと分からないな」

高雄「技術的に出来るかより、法的に出来るかのほうが問題になりそうな気もします」クスッ

提督「それは言えてるな」フフッ


榛名「花火まで出来なくても浴衣パーティーとかできると楽しそうですよね」

金剛「Good ideaネ。帰ったら相談しようかナ」

五月雨「はい。また漣ちゃんとかに声かけて実行委員会作りましょうか」

高雄「またイベントが始まりそうな雰囲気になってきましたね」

提督「うん。楽しみが増えるのはいいけど、浴衣パーティーって何するんだろうね」

高雄「さあ。蓋を開けてのお楽しみでしょうか」クスッ


現地鎮守府

現地提督「お久しぶりです。ようこそ我が鎮守府へ」スッ

提督「元気そうだな。噂はいろいろ聞いてるぞ」ガシッ

現地提督「恐いこと言わないでくださいよ。どうぞ、こっちです」

提督「ありがとう」


執務室

現地提督「改めて、今回の任務を引き受けてくださってありがとうございます」

提督「どういたしまして。私たちにも良い経験になったよ」


現地提督「どうでした?実際に艦上で指揮を取ってみての感想は」

提督「戦闘指揮だけを考えるとあんまり良くはないと思う。それ以外は楽しかったから、また一緒に海に出たいけどな」ハハッ

榛名「だめです。そう何度も提督の身を危険に晒すわけにはいきません」

高雄「それに、まだ帰りもありますからね」

提督「じゃあ帰り道でしっかり楽しむとしようか」


提督「それはそうと、一つ聞きたかったんだが」

現地提督「何です?」

提督「今回の任務は地元の方からの依頼だったのか?」

現地提督「ご名答です」


現地提督「今回の任務、実行委員会の方から他の鎮守府に警備の依頼をするよう頼まれたのがきっかけなんですよ」

現地提督「その時に、司令官自身が来るぐらいの覚悟で引き受けてくれるところに頼んでくれと言われたんです」

提督「なるほど。確かに鎮守府や艦娘の事情に疎いと、そう考えてもおかしくはないか」

現地提督「ええ。とはいえ、もちろんうちの艦娘たちからはそんな鎮守府あるはずないと言われました」

提督「確かに普通の鎮守府はわざわざ司令官まで出てこないだろうし、だいたい、自分のところの戦果にもならなさそうな任務には協力したがらないだろうな」

現地提督「そうなんですよね」


現地提督「でも先輩ならこういう地味で戦果の上がらなさそうな任務でも来てくれると思ったので、先輩のところにまず依頼するよう上に頼んだんです」

提督「そういう事情だったのか」

現地提督「そういう事情だったんです。先輩には申し訳ないですが、こちらの希望通り来てもらえて助かりました」

高雄「提督は私たちの提督のことをよくご存知のようですけど、どのような関係だったのですか?」

現地提督「あなたたちの提督の、学校時代の一つ後輩です。入学していろいろ教えてもらったのが先輩だったんですよ」

提督「鎮守府への着任は同期なんだけどね」

現地提督「そうですけど、私たちの世界では最初の関係が重要ですからね」

提督「それは言えてるな」


現地提督「私のほうからも聞きたいことがあるんですが」

提督「なんだ?」

現地提督「今回先輩たちが遭遇した敵艦隊の目的、何だったんですかね」

提督「さっぱり分からんな。一番自然な説明が花火見物なんだが、信じられるか?」

現地提督「しれっと言ってますけど、信じられると思います?」

提督「だよなあ」

金剛「信じられないのも無理はないネ」

瑞鶴「私たちもあれは夢だったんじゃないかと思うぐらいだもん」

現地提督「でも花火前にやってきて、終わったら帰っていったんでしょ?」

提督「そうだ。一緒に見たのがここに20人はいるぞ」

現地提督「よりによって先輩が部下巻き込んで嘘ついてるなんて思いませんよ」


現地提督「とはいえ、そうなると敵に対する認識を変えないとまずいですね」

提督「まずいだろうな。だからといって我々だけでどうにかできる問題でもないし」

現地提督「大人しく上に丸投げですかね」

提督「丸投げだな。会敵したのは私たちだし、報告はこっちでやっとくよ」

現地提督「じゃあお願いします」


提督「そうだ。そこのパソコン、外部メモリー繋いでも大丈夫か?」

現地提督「大丈夫ですよ」

提督「じゃあこいつのデータを取っておいてくれ」スッ

現地提督「これは?」

提督「読み込めば分かるよ」

現地提督「では早速」


「「おおー!」」

鈴谷「これ鈴谷たち!?ちょーかっこいいじゃん!」

翔鶴「第五航行序列はこのためだったのですね」

提督「そういうこと。せっかく大艦隊で出かけるんだから撮っておこうと思ってね」

武蔵「素晴らしいな。次の機会があれば戦艦揃い踏みの集合写真も撮ってもらいたいものだ」

瑞鶴「ずるい。それだったら空母の集合写真も撮ってほしいんだけど」

提督「私だって撮りたいよ。そんなことできる燃料を用意できればね」カタスクメ

磯波「遠征、頑張らなきゃ……」

白露「燃料あれば駆逐艦全員集合も撮ってもらえるかな」

時雨「駆逐艦全員集合なんてできるのかな……」

敷波「すごい数になるよね……」


現地提督「このあたりの、艦上から他の艦を撮った写真もいいですね」

提督「だろ。全部水偵の妖精が撮ってくれたんだよ」

現地提督「偵察の技術をそう使ったんですね」

提督「ああ。さすがに任務中の写真はないが、広報に使えそうなら使ってくれ」

現地提督「使わせていただきましょう」

現地提督「あ。そういうことなら、今集合写真撮らせてもらえます?」

提督「もちろん」


青葉(現地)「はい、チーズ」パシャッ


現地提督「では、お気をつけて」

提督「そっちもな。それじゃ、また」

現地提督「ええ。また」



高雄「出港準備、整いました」

提督「よし。では鎮守府に帰投する。全艦、出港せよ」


数日後 鎮守府

陸奥「おかえりなさい」

提督「ただいま。留守を守ってくれてありがとうな。変わりはなかったかい?」

陸奥「ないわ。あるとすれば、暇すぎてバレーボール大会をしちゃったぐらいかしらね」

提督「それはむしろ見たかったな。とにかく無事でなによりだ。さ、執務室に戻ろう」

祥鳳「お休みにならなくても大丈夫ですか?」

提督「うん。疲労感はないし、やる気もあるうちに片付けられるだけ片付けてしまおう」

提督「出撃した者はこの後全員一度執務室に集合してくれ。記録の確認をしてもらいたい」


提督「よし。これで終わりだな」

高雄「ええ。お疲れさまでした」

提督「ありがとう。高雄もお疲れさま」

陸奥「全部終わった?」

提督「ああ」

陸奥「悪いんだけど、これも決裁してもらっていい?」

提督「ああ。これは……うん?」





『鎮守府夏祭り計画』





提督「ふんふん。他の鎮守府だけ夏祭りを楽しむのはずるいのでうちでも自前でやってしまおう、と」

陸奥「そういうこと」

提督「いいじゃないか」


提督「……ちょっと待て」

提督「期日……今日?」

陸奥「今日よ」

提督「今日って……準備は今からするのか?」

陸奥「会場のセッティングは提督の決裁が下りてからね」

提督「わざわざ自分で自分の首絞めなくてもいいのに」



提督「よーし読み終わった。許可する」

陸奥「ありがとう」

陸奥「漣ー。決裁下りたわよー」

漣「はーい。すぐ準備してきますよー」タタタッ


提督「これだけでいいのか?」

陸奥「いいわ。残りは司令官代理権限で私が決裁しておいたから」ウインク

提督「なんて準備の良さだ。この調子だと反乱企てられても対応できないぞ」

陸奥「大丈夫よ。反乱なんてするときは提督も一緒だから」クスッ

提督「それはそれで笑えないんだよなあ」ニッ


提督「今度こそ終わりだな」

高雄「ええ」

陸奥「それじゃ、提督は部屋に行ってくれる?」

提督「ん?私の部屋にか?」

陸奥「そうよ。ちょっと準備してもらわないといけないから」

提督「そうか。分かった」

陸奥「高雄も自分の部屋に戻ってね。ここの片付けはやっておくから」

高雄「?分かりました」


高雄型の部屋

高雄「ただいま」ガチャ

愛宕「おかえり~」

高雄「あら。もう浴衣に着替えたの」

愛宕「祥鳳さんが着付けしてくれたのよ」

祥鳳「高雄さんの浴衣もありますよ。もう着替えてもらって大丈夫ですか?」

高雄「ええ。お願いするわ」


祥鳳「これでよし、と」

高雄「ありがとうございます。和服もいいですね」

祥鳳「でしょ。浴衣では出撃できないのが残念ですけどね」

祥鳳「それじゃ、準備が終わったら連絡しますから、それまで提督のところにいてくださいね」ウインク

高雄「分かりました」クスッ


愛宕「なになに?提督のところでナニするの?」ニヤニヤ

高雄「なっ、何もしないわよっ。準備ができるまで提督のお相手をするだけだから」

鳥海「一体ナニのお相手をするのでしょうか……?」

高雄「だーかーら!何もしないって言ってるでしょ!」

摩耶(そうやって言い返すからなおさらいじられるんだよなあ)

高雄「じゃあ行ってくるわね」

愛宕「いってらっしゃ~い」


提督の私室

鳳翔「はい。終わりました」

提督「ありがとう。浴衣なんていつ以来だろうな」

鳳翔「いつも着ているのかと思うほどお似合いですよ。夏の間だけでも和服で過ごされてはいかがですか?」

提督「嬉しいお誘いだけど、そのうちばれて上に怒られるまでがセットだな」カタスクメ

鳳翔「それは困りますね」クスクス



鳳翔「準備にもう少しかかると思いますので、それまでごゆっくりしていてください。高雄さんもすぐに来ると思いますので」ニコニコ

提督「分かったよ」クスッ

鳳翔「では、失礼します」

バタン


テクテク

高雄(もう、本当にあの二人はああいう話が大好きなんだから)

高雄(第一、浴衣でそんなことしたら着崩れたり汚れたりして外に出られなくなるじゃない)

高雄(……でも、せっかく浴衣を着ているのだし、一度くらいやってみてもいいかしら……///)



鳳翔「あら。高雄さんも着付け終わったのですね」

高雄「!え、ええ。祥鳳さんが着付けてくれました」

高雄「もしかして、他の方の浴衣も空母のみなさんが着付けを手伝っていらっしゃるのですか?」

鳳翔「空母の中でもいつも和服を着ている面々ですね。多少なりとも慣れていますから」

鳳翔「そうそう。提督の着付けも終わっていますからね」ニコッ

高雄「分かりました」クスッ


コンコン 

高雄「高雄です」

提督「入って」

ガチャ

高雄「失礼します」

提督「おお……」

高雄「提督……浴衣、お似合いですね。素敵です」ニコッ

提督「ありがとう……いや、そんなことより」

高雄「?」

提督「きれいだ……とても素敵だよ」スッ


チュッ


高雄「もう。どうなさいました?///」ムギュッ

提督「どうもこうも、君が美しすぎるのが悪いんだよ」ギュッ

高雄「あっ///」


……


……



提督「はあ……ふう……」

高雄「はあ……はあ…………」

提督「高雄……大丈夫か……?」

高雄「ええ……何とか……」


高雄「汚れていないでしょうか……?」

提督「見たところ汚れていなさそうだが」

提督「私のほうは大丈夫かな」

高雄「大丈夫……みたいです」


高雄「もう……汚れたらどうなさるおつもりだったんですか?」クスッ

提督「ごめんごめん。今やるべきじゃないのは分かっていたんだけどな」ポリポリ

高雄「でも、お気持ちは分かりますよ。私もちょっと期待してしまっていましたから」

提督「なんだ。高雄もすぐそういうこと考えるんだな」ニッ

高雄「あなたに言われたくはありませんよ」クスクス


ジリリリリン

提督「おっと」

提督「私だ」ガチャン

漣『お待たせしました。夏祭りの準備できましたので、いつでも来てくださいね』

提督「分かった。すぐ行くよ」ガチャン

高雄「ある意味いいタイミングでしたね」クスッ

提督「そうだね。では」

提督「お手をどうぞ」スッ

高雄「ありがとうございます」スッ

ギュッ


広場

提督「おお……!」

高雄「すごい……!」

漣「ふふーん。どうですかな?」

提督「いやはや、屋台まで出して本当の夏祭りみたいだな。いつ準備したんだ?」

漣「ご主人さまたちが出撃した次の日からですね。実はその前からこっそり計画だけは進めてたわけですが」ニヒヒ

提督「暇だったわけでもないのに、よくやるよ」

高雄「真ん中にある櫓は何に使うの?」

漣「夏祭りと言えば盆踊りじゃないですか。そのための櫓ですよ」

提督「盆踊りまでやるのか」

漣「そりゃもう、やれるものはなんでもやりますよ。なんといっても夏祭りですからね」

漣「ささ。屋台組もご主人さまが来るのを待ってますから、早くいってあげてくださいな」

提督「そうだな。いってくるよ」


黒潮「おいしいたこ焼きやで~」

提督「一つもらおうか」

黒潮「はいな」

提督「君たちはもてなす側でいいのか?」

黒潮「途中で交代するから大丈夫やで」

陽炎「それに、任務に出てた司令やみんなの慰労みたいなものだから、気にしないで楽しんでよね」

提督「じゃあ遠慮なく楽しませてもらうよ。ありがとうな」


提督「こういう言い方をするのもなんだが、ある意味普通の夏祭りより楽しいかもしれないな」

高雄「そうですか?」

提督「もてなす側まで含めて全員身内だから。普通ならそんなことありえないんだけどね」

高雄「鎮守府内の夏祭りだからこそですね」

提督「ああ。残ってくれたみんなにお礼しないといけないことがまた増えたよ」


漣「それではいよいよ盆踊り!」

漣「の前にー」

マエニー?

漣「踊りの練習しまーす」

漣「お手本は四駆のみなさんでーす。踊りの説明は那珂ちゃんさん、お願いしまーす」

那珂「はーい。それじゃ説明しますねー」

……


提督「これで終わりかな」

漣「用意した演目は終わりですね。残念ながら花火は上げられなかったわけですが」

提督「花火なしでも十分すぎるぐらい楽しめたよ」

漣「それは何より。じゃあ来年も企画するとしますかね」

高雄「だんだんイベントの運営が板についてきたわね」

漣「そうなんですよね~。このままイベント運営専属にしてくれてもいいんですよ?」

提督「検討しておこうか。後ろ向きにな」

漣「ズコー」

提督「ともかく、ありがとう」

漣「いえいえ。これからのイベントにもご期待くださいな」


提督「それじゃ、戻ろうか」

高雄「ええ」

ギュッ

漣(!青葉さん!シャッターチャンス!)

青葉(任せて!)カシャカシャカシャカシャ

漣(いや~最後の最後にいいもの見れましたなあ)ニヤニヤ


提督の私室


提督「やれやれ。久しぶりの自分のベッドだ」ボフッ

高雄「長い間お疲れさまでした」

提督「高雄もお疲れさま。ここまで長く鎮守府を離れるのは初めてだったね」

高雄「ええ。でも、終わってみると意外とあっという間でした」

提督「さっきの夏祭りで日付の感覚がずれた気はしないでもないけどね」ニッ

高雄「それは否めませんね」クスッ


高雄「今日は早めにおやすみならないといけませんね」

提督「だね」

提督「でもその前にっ」ギュッ

高雄「きゃっ///」

提督「今朝までの埋め合わせをしないとね」

高雄「埋め合わせだなんて、私はずっとあなたと一緒に居られたから幸せだったんですよ」ギュッ

提督「奇遇だね。僕もだよ。でもそれをちゃんと示すことができなかったのは残念だったな」

高雄「そんなことをしたらみんなに丸聞こえになってしまいますものね」クスッ

提督「そうなんだよね」


提督「いっそ開き直ってみんなに見せつけたら良かったかな」

高雄「あなたの良心と羞恥心がそんなことをお許しになるとは思えませんよ」スリスリ

提督「高雄の言う通りなんだよなあ」

提督「そういう高雄は我慢してなかったのかい?」

高雄「我慢していなかったとお思いですか?」ムギュッ

提督「そんなことはないんだね」ギュッ

提督「そういうことなら、じっくり埋め合わせさせてもらおうかな」ニコッ

高雄「うふふっ……いいですよ」ニコッ


チュッ


まさかの高雄編の続きでしたが、お楽しみいただけましたでしょうか。

他の過去作は以下の通り。

【艦これ】衣笠「指輪の行方」
【艦これ】衣笠「指輪の行方」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1547568374/)

【艦これ】憲兵と艦娘
【艦これ】憲兵と艦娘 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1554455519/)

例によって次回作の予定は全くないのですが、また他のスレでお会いすることがあれば、その時はよろしくお願いします。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom