【艦これ】憲兵と艦娘 (146)


とある鎮守府の憲兵と艦娘たちの物語。

※過去作との関係はありません。

※割と長いです。あらかじめご了承ください。


着任初日

憲兵隊員「敬礼!」ビシッ

憲兵隊長(以下憲兵)「」スッ

憲兵「直れ」

憲兵「研修と訓練を終えた君たちに私から改めて言うことはない。我が国を守る提督と艦娘が後顧の憂い無く戦えるために、今日より任務に精励すること。以上だ」


電「司令官さんが着任されたのです」

憲兵「敬礼っ」ビシッ

隊員「」ビシッ

提督「直れ」

提督「君たちに務めてもらう任務は、率直に言って地味で、あまり国防に貢献しているという実感が得られないかもしれない。だが、艦娘が戦ううえで必要不可欠な任務だ。どうか彼女たちの背中を守ってほしい」

提督「……以上。これからよろしく」

憲兵「はっ!」


隊員A「あの提督、だいぶ若いですね」

隊員B「お前が言う台詞じゃないけどな。隊長より若いんじゃないっすか?」

憲兵「私よりは若いだろうな。間違いない」

隊員C「年下の上官持つのってどんな感じです?」

憲兵「正直、変な気分だな。だが、年下のためと思えばむしろやる気も出ようというものだ」

隊員B「隊長ほんと年下贔屓で敬老精神ないっすよね。だから階級上がらないんでしょ」

憲兵「言ってろ。お前たちもここにいる限り同じ運命だからな」

隊員C「しゃーないですね。隊長についてきたのが運のつきでしたし」

隊員A「階級がどうだろうと国防の一翼に変わりはありませんよ。やるべきことをやるだけです」

憲兵「その通りだ」


夕刻 憲兵詰め所

コンコン

憲兵(ん?誰だ?)

憲兵「入れ」

提督「邪魔するよ」ガチャ

憲兵「提督!?」ガタッ

憲兵「敬礼っ!」ビシッ

憲兵隊員「」ガタガタッビシッ

提督「ん。楽にしてくれ」


提督「君たちは、夕食はまだだね?」

憲兵「は。提督や艦娘のみなさんの後にいただくことになっております」

提督「それなんだけどね。良かったら私たちと一緒に食べないか?」

憲兵「は?同じ時間にですか?」

提督「うん。嫌なら無理にとは言わないが」

憲兵「それは……我々としてはむしろありがたいお誘いでありますが、艦娘の方は我々が同席してよろしいのですか?」

提督「その艦娘の電が言い出したのだよ」

電「せっかく同じ鎮守府にいるのですし、みなさんのことも知りたいし、電たちのことも知ってもらいたいのです」

憲兵「そういうことでしたら、喜んでご一緒させていただきます」

提督「よし。決まりだな」

憲兵「ただ、現在当直中の班だけは規定通り交代後の食事とさせてください」

提督「分かっている。毎日同じ班が同じ時間帯の警備に当たるわけではないんだろう?」

憲兵「は。日によって担当する時間帯は違います」

提督「なら良いね。行こうか」


食堂

ガチャ

憲兵(席の埋まり方がまばらだな。艦娘でまとまって座るというわけではないのか)

提督「できれば君たちにも艦娘と話してほしいから、空いているところにばらけて座ってほしい」

憲兵「は、はあ。了解いたしました」

憲兵(なるほどな。さて、どこに座ったものか)キョロキョロ

憲兵(……あの艦娘と目が合ってしまったな。ええい、なるようになれ)

憲兵「構わないか?」

???「いいわよ」

憲兵「ありがとう」

憲兵「お前たちも行け。解散」

隊員「はっ」

憲兵「失礼する」ガタッ

???「どうぞ」

憲兵(あとの奴らも……席は決まったか。よし)


???「あなたが隊長さん?」

憲兵「そうだ。貴女は?」

五十鈴「軽巡洋艦、五十鈴よ。よろしくね」

憲兵「よろしく」

提督「全員揃ったね。あ、当直の憲兵隊はいないけど」

アハハ

憲兵(締まらんなあ。窒息しそうなほど厳しいよりかはよっぽど良いが)

提督「では夕食としようか。いただきます」

イタダキマース


五十鈴「憲兵隊も今日着任したの?」

憲兵「ああ。提督に少し先んじて到着して業務に入った」

五十鈴「それまでの警備は?」

憲兵「鎮守府建設の間は施設隊がいたんだが、同じ師団の普通科連隊から警備部隊が編成されていたのだ」

五十鈴「じゃあ今より警備厳重だったの?」

憲兵「厳重とは言いかねるが、今よりはまだ多かったな」


五十鈴「憲兵隊って名前なのに主業務は基地警備なのよね」

憲兵「そう。本来憲兵隊と名の付く組織の任務は基地内の治安維持なんだがな」

五十鈴「そっちはしないの?」

憲兵「必要があれば関与はする。基地内の巡回も業務に入っているしな。できればそういう事態にはならないでほしいが」

五十鈴「そりゃそうよね。私たちのほうでも頑張るわ」

ガヤガヤ


ゴチソウサマデシター

五十鈴「この後は?」

憲兵「明日に備えて休む。残念ながら予備兵力がほとんどないのでね」

五十鈴「大変そうね」

憲兵「と言っても、拘束時間が長いだけだがな。鎮守府に外部から来る人も通りかかる人も少ないし、今朝までの警備隊長はどうあがいても暇と言ったぐらいだ」

五十鈴「ふ~ん。じゃあ暇な時にでも遊びに行こうかしら」

憲兵「気が向いたら来てやってくれ。下手をすると退屈で死にかねないからな」

五十鈴「ふふっ。そこまで言うなら前向きに検討するわ」

憲兵(前向きに検討、か。期待はできんが、会って1時間でこの回答は十分だ)

憲兵「そうしてくれ。では失礼する」

五十鈴「ええ。またね」

憲兵「ああ」


一週間後

隊員B「予想してましたけど……やっぱヒマっすね、この仕事」

憲兵「軍人なんぞ暇なのが一番だ」

隊員B「にしてもここまでヒマな部隊ってあります?訓練やってるとはいえ、歩哨と今みたいな定期的な巡回、それに一日一回あるかないかの出入りの車両の確認だけって」

憲兵「気持ちは分かるが、だからといってこれ以上やることを増やすわけにもいかん。増えることなんてまずないがな」

隊員B「ですよねー」


五十鈴「ほら。いたわよ」

睦月「ほんとだ。隊長さーん」

憲兵「お。どうした?」

睦月「退屈してるかもしれないから睦月たちが遊びにきたのです!」

憲兵(なんと。ただの挨拶かと思っていたが、本当に来てくれたのか)

隊員B「やったぜ」

憲兵「ありがとう。詰め所にも何人かいるから、そっちにも声をかけてくれるか?」

皐月「まっかせてよ!」

五十鈴「大丈夫?今暇だった?」ニッ

憲兵「逆に聞くが、暇じゃなかったらどうするつもりだったんだ」

五十鈴「その時は大人しく出直すわよ」フフッ


憲兵「連れてきたのは五十鈴か?」

五十鈴「連れてきただけよ。行きたいって言ったのはあの子たちだからね」

憲兵「ふーん。わざわざこんなとこに来るとは物好きなものだ」

五十鈴「素直じゃないわね。暇なら来いって言ったのはどの口だったの?」フフッ

憲兵「言ってくれるものだな」フッ


憲兵「やれやれ、詰め所からもほとんど出てきたじゃないか」

五十鈴「良いの?放っておいて」クスクス

憲兵「んー……」

憲兵(外にいるのがあいつとあいつと……よし、D(デルタ)-2班は詰め所で待機しているな)

憲兵「大丈夫だ。少なくとも二人は詰め所に残っている」

五十鈴「よく分かるわね」パチクリ

憲兵「わずか一個小隊の部隊だ。把握していないほうがおかしい」

五十鈴「……そういえば三日月と文月も外にはいないわね」

憲兵「その二人も詰め所か」

五十鈴「多分ね。よく気を遣う子たちだから」


ワーワー

五十鈴「みんな楽しそうね」フフッ

憲兵「一応任務中なんだがなあ」

五十鈴「とか言いながら止める気ないでしょ」ニヤニヤ

憲兵「止めても何にもならんだろ。大体、私も蒔いた種だ。もう成り行きを見守るぐらいしかできんよ」

五十鈴「そうね。ご愁傷様」ププッ

憲兵「まったく、他人事だと思って」フッ


五十鈴「本当に迷惑なら来るのは自重するけど」

憲兵「迷惑がるような奴はまず鎮守府の憲兵隊員にならんだろう。それに、今のところ迷惑がるほど任務も忙しくない」

五十鈴「結局前評判通り暇なのね」クスッ

憲兵「幸か不幸か分からんがな」カタスクメ

憲兵「何にせよ、この調子なら時々来てもらえるとあいつらも任務に張り合いが出るだろう」

五十鈴「隊長は?」

憲兵「隊長が見返りを求めるわけにはいかん。私のことは気にするな」

五十鈴「素直じゃないの。じゃあまた勝手に来るわ」フフッ

憲兵「そうしてくれ」


憲兵(それからというもの)


榛名「もしよければ一緒にお茶しませんか?」

隊員A「ええ、喜んで。どうぞ中へ」


古鷹「最中もらったんですけど、良かったら一緒に食べませんか?」

隊員C「あーありがとうございます。上がってください」


五十鈴「暇になったから妹連れて来たわよ」

名取「お、お邪魔します……」

憲兵「おお。大したもてなしはできんが、ゆっくりしてってくれ」


憲兵(といった具合に、週二、三回は艦娘が連れだって詰め所を訪ねてくるのが日常になった)


翌月

提督「少し先の話になるが、地元住民向けに鎮守府公開をするつもりだ。警備計画を立てておいてくれないか」

憲兵「は。承知しました」




隊員A「計画案作ってみましたけど……どう思います?」

憲兵「……これはまずいな」

隊員A「そう言われると思いました」

憲兵「だろうな。いくらなんでも手薄すぎる」

隊員A「では……艦娘の方たちに協力してもらいます?」

憲兵「やっぱりそうなるか」

隊員A「はい」


憲兵「お前は気にしないのか?」

隊員A「何をです?」

憲兵「艦娘の力を借りるなどもってのほかだーとか、憲兵隊のプライドはないのかーとかそういうあれだ」

隊員A「気にしてたら提案しませんよ。隊長こそ気にしないんですか?」

憲兵「気にする奴が鎮守府の憲兵隊長に志願するわけないだろう」フッ

隊員A「さすがですね」ニッ

憲兵「そうと決まれば第二案を考えるぞ」

隊員A「はいっ」


翌日 執務室

憲兵「こちらが警備計画の甲案であります」スッ

憲兵「ん。何か問題はあるかい?」

憲兵「有り体に申し上げると、これでは手薄です。何か問題が発生した場合に対応するだけの人員がありません」

提督「我が国なら大丈夫だろう……と言いたいけど、そうはいかないよな。どうする?」

憲兵「乙案も用意してきました。ただ、これには提督の許可が必須でして」

提督「なぜ?」

憲兵「申し上げにくいのですが、警備要員に艦娘の協力が必要なのです」

提督「そういうことか。構わないよ」

憲兵「よろしいのですか?」

提督「うん。とりあえず志願を募っておこう。人数が集まったらそっちに行ってもらうよ」

憲兵(こんなにあっさり許可してくれるとは……いや、この提督のことだ。他意は無い。ありがたく頭を下げておこう)

憲兵「了解しました。ありがとうございます」

憲兵(それに、本当の問題は何人志願があるかだからな。それによって多少の計画変更もやむを得まい)


翌日 夕刻

コンコン

憲兵「入れ」

五十鈴「失礼するわよ」ガチャ

憲兵「おおっと」

五十鈴「今忙しい?」

憲兵「いや、大丈夫だ。そこに座ってくれ。何か飲み物は?」

五十鈴「お構いなく。ありがとう」


五十鈴「早速本題よ。鎮守府公開の時の警備部隊、艦娘側は二十四名が参加するわ」

憲兵「そんなに多いのか。ありがたい」

憲兵(計画人数ちょうどではないか。そんな都合のいいことが……)

五十鈴「本当はもう少し少なかったんだけど、中途半端な数よりは人数揃えたほうが良いと思って何人か捕まえてきたのよ」

憲兵「そこまで気を遣わせてしまっては、これからそっちに足を向けて寝られんな」

五十鈴「いいのいいの。いつも守ってもらってる上に構ってもらってるお礼と思えば安いものよ」

憲兵(守ってもらってるのも構ってもらってるのもこっちなんだがな。相手の人格が出来すぎているのもなかなか困る)

憲兵「恩に着る。メンバーの一覧はあるか?」

五十鈴「持ってきたわ。これよ」スッ

憲兵「助かる」


五十鈴「ブリーフィングとかやる?」

憲兵「全員参加のブリーフィングは行わない。というか、行えないという方が正しいな」

五十鈴「警備中の班もあるものね。じゃあどうするの?」

憲兵「明日の午後に班長でブリーフィングをする。その時に何名か参加してほしい」

五十鈴「分かったわ。訓練は?」

憲兵「午前の日次訓練の中に想定訓練と指揮所演習を組み込むことにしている。毎日でなくても良いが、警備に参加する艦娘の方には最低二回程度参加してほしい」

五十鈴「なるほどね。了解」

憲兵「それと今さらだが、警備部隊の艦娘側統括は五十鈴と思って構わないな?」

五十鈴「構わないわ。私もそのつもりよ」

憲兵「なら今後は週に一回程度はこっちに来てもらいたいが問題ないか?定期的に情報を共有する必要があるからな」

五十鈴「問題ないわ。隊長が私たちのとこには来づらいものね」

憲兵「そういうことだ。手間をかけるが頼む」

五十鈴「いいわよ」


翌日

憲兵「先日決定した乙案をもとにした人員配置図だ」

古鷹「なるほど。四名で一班を構成するんですね」

隊員C「全部憲兵隊と艦娘側二人ずつなのは何か意図ありますか?」

憲兵「ある。艦娘だけの班を作ると、責任の所在が不明確になる恐れがある。起こったことの責任は我々憲兵隊で取れる体勢にはしておきたい」

五十鈴「異議無し。ただ、どっちにしても憲兵隊と艦娘の連携をきっちり取れるようにしておかないといけないわね」

憲兵「そうだ。訓練回数を稼げない組み合わせはできれば避けたいんだが」

五十鈴「そうなんじゃないかと思って、鎮守府公開までの艦娘側の配置表持ってきたわよ」バサッ

憲兵「準備がいいな。ならこっちも配置表を出そう」バサッ


憲兵五十鈴「えーっと……」ジー

憲兵「こことここは入れ替えだな」

五十鈴「こことここも入れ替えね。あとは……ここ、どうする?」

憲兵「入れ替えよう。訓練できる回数は少しでも多いほうがいい」

古鷹「そんなに入れ替えて大丈夫ですか?」

隊員C「多分大丈夫だよ。班は無視してるけど組単位ではいつも組んでるペアだからね」

五十鈴「じゃあ訓練も基本組単位でやるのね?」

憲兵「そうだ」


憲兵「よっぽど相性が悪いようなら組み合わせを変えることも考えてはいるが」

隊員C「その声をどうやって吸い上げます?」

憲兵「私に直接は言いづらいだろう。憲兵隊側はお前に一任する」

隊員C「了解。一任されます」

憲兵「艦娘のほうは五十鈴に任せていいか?」

五十鈴「私よりは古鷹さんのほうが適任だと思うわ」

憲兵「では古鷹、艦娘のほうに不満や気がかりがあれば共有してくれ」

古鷹「分かりました。お任せください」


一週間後

憲兵「全組み合わせ終わったが、気になる組はあったか?」

隊員C「いえ。こっちから見た感じどの組も良好ですし、不満の声もありません。古鷹とも話しましたけど、艦娘から見ても好感触らしいですよ」

憲兵(指示してはいなかったがそこも情報交換をしているのか。いい傾向だ)

憲兵「それなら良かった。ではこの組み合わせで確定だ」


隊員C「にしても、古鷹と話せば話すほど五十鈴がこの役に適任と言ったわけが分かりますよ」

憲兵「そうか?どのあたりが?」

隊員C「どう言えばいいですかね……彼女、お姉さん力が半端ないんですよ。ついつい頼りたくなる雰囲気が全身から放たれてる感じで、人の悩みや不安を聞き出すのにここまでの人はそういませんよ」

憲兵「そ、そうか」

隊員C「ええ。隊長ももっと彼女と話したほうがいいですよ。話せば話すほど魅力が分かってきますから」

憲兵(こいつがここまで他人をベタ褒めするなんて珍しいな)

憲兵(いい傾向……なのか?)


五十鈴「同じ組に苦手な人いなさそう?」

古鷹「全員声かけてみたけど、大丈夫そうだったよ。隊員もみなさん優しい人みたいだし」

古鷹「班長さんの話だと隊員さんも今の組み合わせで良いみたいだから、今回はこのままでいいと思うよ」

五十鈴(あら。そこもちゃんと連絡取ってるのね。窓口が私と隊長だけじゃないのはいい傾向だわ)


古鷹「それにね」

五十鈴「ん?」

古鷹「あの班長さん、何となくいろいろ話したくなるんだよね。どう言ったらいいのかな、何話しても受け止めてくれそうっていうか、隊長があの人を相談係にしたのほんと適任だと思う」

五十鈴「そ、そうなの」

古鷹「うん。あの人と話してるとほんとに落ち着くし、このままずっと話していられたらなあ……なんて思っちゃうこともあったりなかったりして、ね?」

古鷹「……ふふっ。私何言ってるんだろね。じゃあね」ニコニコ

五十鈴「う、うん」

五十鈴(古鷹さん、なんかいつもと雰囲気違うわね……)

五十鈴(いい傾向……なのかしら?)


五十鈴「隊長からみて今回の合同警備、上手くいきそう?」

憲兵「上手くいくと思うぞ。艦娘のほうがいろいろ話してくれているおかげでどこもよく連携が取れている」

五十鈴「あら。艦娘のほうは憲兵隊の人たちがいろいろ声をかけてくれるって言ってるわよ」

憲兵「ほう。お互い適度に気を遣ってやれているようだな」

五十鈴「いい傾向よね。警備するには威圧感が足りないんじゃないかって心配してる子もいるにはいるけど」

憲兵「その心配は無用だろう。威圧感を出すのは我々だけで十分だからな。逆に我々はどうあがいても威圧感を消すのは難しいから」

五十鈴「そこは私たちが補えばいいということね」

憲兵「そういうことだ」


五十鈴「あと、ちょっと話しておきたいことがあるのよ」

憲兵「何だ?」

五十鈴「班長と古鷹さんのことなんだけど」

憲兵「あー……あの二人な」

五十鈴「やっぱりちょっと気になるわよね」

憲兵「気にならないと言うと嘘になる。だが、まだ基地内規定には抵触していないだろう?」

五十鈴「基地内規定は多分心配しなくていいわよ。提督が「憲兵と艦娘の関係性についての条項はいくつか無効にする」って言ってたらしいし」

憲兵「は?それは本当か?」

五十鈴「秘書艦の大淀から聞いたから大淀が嘘をついてない限り本当よ。三項から五項を無効にするようかけあってみるって」

憲兵(いいのか提督。鎮守府のように閉じられた空間での色事はこじれると厄介だぞ)

憲兵(それとも、その懸念を上回る利点があると確信しているのか。あの人もどうも一筋縄ではいかんな)


ジリリリリン

憲兵「ちょっと失礼」ガチャン

憲兵「憲兵隊詰め所」

提督「司令官だ。隊長かな?」

憲兵「は。私です」

提督「基地内規定のことなんだけど、憲兵と艦娘についての条項のうち第四項と第五項を無効にしたから共有しておいてほしい」

憲兵「第四項と第五項が無効ですね。了解しました」

憲兵(本当になくしたのか。これで情緒的関係と肉体関係の制限が消滅したぞ)

提督「本当は第三項もなくしたかったんだけど、それは上が許可してくれなかったからこれだけで妥協してほしい」

憲兵(そらそうよ。恋愛関係肉体関係を認めて憲兵寮と艦娘寮を行き来自由になんてしたらどうなるか分かったもんじゃない)

憲兵「は、はあ」

提督「じゃ、そういうことでよろしく」

ガチャン


五十鈴「言った通りでしょ」

憲兵「ああ。提督はどういうお考えなんだ?」

五十鈴「さあね。私も本人から聞いたわけじゃないから分からないわ」カタスクメ

憲兵「それもそうだな」

五十鈴「まあ、規定がなくなったところで気になることには違いないんだけど」

憲兵「うむ……しかし、今のところ任務に支障を来しているわけでもないからな」

五十鈴「しばらくは様子見かしらね」

憲兵「だろうな。介入するにしても、状況が悪化しそうになってからでよかろう。あまり口を出すのも野暮というものだ」

五十鈴「そうね。隊長もそう言うなら見守るだけにしておくわ」


鎮守府公開前日 憲兵詰め所

隊員A「戻りました」ガチャ

憲兵「おう……その袋は何だ?」

隊員A「警備隊の識別用腕章です。明石さんが作ってくれたそうで、榛名さんから預かってきました」

憲兵「ん?腕章は艦娘用ではなかったか?」

隊員A「そうなんですが、せっかくなので憲兵隊にもつけてもらいたいと我々の人数分もらってしまいまして……どうしましょう」

憲兵「分かった。ありがたく我々も全員着用しよう。明日の集合時に全員に渡してくれ」

隊員A「了解です」


鎮守府公開日

隊員A「警備部隊、配置完了です」

憲兵「配置完了了解。提督、警備部隊配置完了しました」

提督「了解。大淀、こっちも全員配置完了したかい?」

大淀「はい。いつでも始められます」


カチ……カチ……カチッ

提督「時間だね。開門してくれ」

憲兵「は。開門せよ」

隊員C『了解。開門します』


隊員C「C(チャーリー)班各組、D(デルタ)班と交代完了」

憲兵「交代完了了解」

五十鈴「順調ね」

憲兵「今のところな。でもそろそろ迷子の一人ぐらい出てもおかしくないぞ」

隊員B『本部、B(ブラヴォー)-3。一人でいた子どもを保護しました。本部まで連れて行きます』

憲兵「本部了解」

五十鈴「本部待機班、受け入れ用意をお願いね」

隊員A「了解。予定通り我々で対応します」

五十鈴「隊長が変なこと言うから迷子出ちゃったじゃない」

憲兵「私は無実だ」

五十鈴「はいはい」フフッ


隊員A「その子ですか」

隊員B「ああ。後は頼むぜ」

隊員A「了解。預かります」

鈴谷「それじゃ、お父さんとお母さんが来るまでは、ここのお兄さんお姉さんたちと一緒にいてね」

子ども「うん」

榛名「こんにちは。お名前を教えてくれますか?」

子ども「○○△△です」

榛名「△△さんね。どこから来ましたか?」

子ども「えっと、◇◇です」

榛名「お父さんかお母さんの名前は分かりますか?」

子ども「えっと、おとうさんは~」

ピーンポーンパーンポーン

隊員A「ご案内します。◇◇市からお越しの~」


子ども「おねえさんもかんむす?」

榛名「そうですよ」

子ども「おにいさんは?」

隊員A「お兄さんは憲兵隊だよ」

子ども「けんぺーたい?」

隊員A「そうだよ」

子ども「けんぺーたいは、なにしてるの?」

隊員A「悪い人が入ってこないように番をしているんだよ」

榛名「私たちが戦いに集中できるように守ってくれているんですよ」

子ども「そうなんだ~」


母「△△?」

子ども「おかあさん!」トタタタ

母「良かった!大丈夫だった?」

子「うん!おにいさんとおねえさんがいっぱいおはなししてくれた!」

父「すみません、ご迷惑をおかけしました」

隊員A「いえいえ。すぐ来ていただけて良かったです」

榛名「この後も楽しんでくださいね」

母「ありがとうございます。さ、行きましょ」

子ども「うん」


隊員B「来場者、全員退出を確認」

憲兵「全員退出確認、了解。提督、来場者の全員退出を確認しました」

提督「了解。鎮守府公開の終了を宣言する」

憲兵「は。現時刻をもって合同警備隊の解散を宣言する。憲兵隊は通常配置につけ」

隊員B「了解。これより通常配置につきます」

五十鈴「合同警備隊解散了解。以後警備隊所属の艦娘は提督の指揮下に戻ります」

提督「了解。艦娘は各自持ち場の撤収作業を開始せよ」


大淀「提督。撤収作業完了しました」

提督「了解。鎮守府公開態勢を終了する。解散」

大淀「了解です」




五十鈴「お疲れさま」

憲兵「お疲れ。君たちのおかげでいろいろ助かった」

五十鈴「お互い様よ。来場者の誘導とか、私たちだけじゃあんなにテンポ良くできなかったわ」

憲兵「どうかな。ノウハウがあるだけだ」

五十鈴「じゃあそのノウハウもいずれ教えてもらわないといけないわね」

憲兵「いずれな。いつになるか分からんが」



ビーッ ビーッ ビーッ

憲兵「ん?第二種か」

五十鈴「ええ。ちょっと厄介なことになりそうだわ」

大淀『各戦隊旗艦は直ちに執務室に集合してください。繰り返します。各戦隊旗艦は~』

五十鈴「今すぐじゃないけど、近いうちに出撃がありそうね。戻って準備しておくわ」

憲兵「ああ。無理はするなよ」

五十鈴「大丈夫よ。提督は無理させる人じゃないから。じゃあね」


翌日

憲兵「聞いての通りだ。大規模な深海部隊の接近に伴い、本鎮守府は厳戒態勢に入った」

憲兵「我々の任務の重要性はこれまでになく高まっている。提督や艦娘たちが戦場に集中できるよう、一層任務や訓練に精励せよ」




隊員A「隊長、気合い入ってますね」

隊員B「そりゃ、愛しの五十鈴さんを守らなきゃいけないからな」ニシシ

隊員B「あれ?どこ行くんです?」

隊員C「ちょっと自主トレしてくる」

隊員B「えっ」

隊員A「お伴します」

隊員B「えっちょっ」

隊員B「……じゃあ俺も行くか」


二週間後

ジリリリン

憲兵「憲兵隊詰め所」

提督「司令官だ。今話しても大丈夫?」

憲兵「は。問題ありません」

提督「先日から続いていた大規模作戦が終了した。作戦は成功。本鎮守府所属艦娘の喪失もない」

憲兵「了解しました。作戦成功おめでとうございます」

憲兵(全員無事か。良かった……)

提督「ありがとう。君たちが昼夜問わず任務に当たってくれたおかげで私たちも目の前の敵に集中できた。感謝している」

憲兵「恐縮であります」


提督「それでだ。夜に大規模作戦終了を祝って打ち上げをするんだが、君たちも来てもらえるかい?」

憲兵「お呼びいただけるのでしたら喜んで。当直の部隊以外はお邪魔させていただきます」

提督「分かった。じゃあまた後で」

憲兵「は」

ガチャン

隊員A「提督は何と?」

憲兵「大規模作戦は無事終了した。今夜打ち上げをするから憲兵隊も来てくれ、だそうだ。非番の奴らに伝えてきてくれるか?」

隊員A「了解です」ガタッ


夜 食堂

提督「では、大規模作戦の完遂を祝って……乾杯!」

カンパーイ!

ワイワイガヤガヤ


一時間後 鎮守府正門

隊員A「……隊長」

憲兵「どうした?」

隊員A「……腹、減りません?」

憲兵「…………減ってきた」

隊員A「何か食べておけばよかったですね」

憲兵「だな。歩哨中だし、今さら言ってもどうしようもないが」

憲兵(恋愛漫画ならヒロインが差し入れ持って登場するような場面だろうな。そんなこと現実ではありえんが)フッ










五十鈴「じゃあこれでも食べる?」

憲兵「うおっ」


憲兵「どうした。まだ打ち上げの最中だろ」

五十鈴「ちょっと抜けてきたのよ」

榛名「良かったらこれ、召し上がってください」

隊員A「あああすいません、ほんとありがとうございます」

五十鈴「隊長もどう?」

憲兵「ありがたいが、先に詰め所の連中に渡してきてやってほしい。あいつらも昼前から何も食べてない」

五十鈴「安心して。そっちにも何人か行ってるから」

憲兵「まったく、頭が上がらんな。では、いただこう」パクッ


憲兵「大規模作戦完遂おめでとう」

五十鈴「ありがとう。私は最前線に出たわけじゃないけど」

憲兵「それでも何らかの形で戦果に貢献したのだろう?」

五十鈴「まあね。でもそれも背中を守ってくれるあなたたちがいるからよ」

憲兵「君たちの口からその言葉をもらえるとは、本当にありがたいことだ」

五十鈴「そう?お望みならいくらでも言ってあげるわよ」ニッ

憲兵「!……私はそこまで求めてはいないがな。だが部下たちには耳にタコができるぐらい聞かせてやってほしいところだ」

五十鈴「大丈夫よ。そこにいる榛名さんに雷電と、そういうことを言いそうなメンバーで来たから」

憲兵「なんでそんなに用意がいいんだ」

五十鈴「任務中の憲兵隊にご飯を差し入れるような世話焼きを集めたら結果的にそうなっただけよ」フフッ


五十鈴「こういうこと聞くのもあれだけど、やっぱり国防に貢献してるっていう実感はあんまりないの?」

憲兵「正直言って、自分の貢献を実感することはまずないな。ここのように、地元の理解もあって治安も良い地域ならなおさらだ」

五十鈴「私たちの遠征組と同じような感じかしらね。直接戦闘をしないと、どうしても自分のやってることの意義を肌で感じることは少ないのよね」

憲兵「艦娘でさえなのか」

五十鈴「ええ。海上に出る私たちでもそうなんだし、鎮守府の持ち場を離れられない憲兵隊はもっと実感は薄いのでしょうね」

憲兵「だからこそ君たち自身の声が大きな意味を持つわけだ。いくら私が彼らに任務の意義を説いたところで、自己満足にしか聞こえんからな」

憲兵「もっとも、本来なら称賛や感謝など受けずともやらねばならないわけだが」カタスクメ

五十鈴「でも難しいわよね」

五十鈴「私たちが感謝を示せば多少は代わりになるかしらね」

憲兵「十分すぎるぐらいだ。で、見返りは?」

五十鈴「また暇に任せて構ってもらいに来るわ」

憲兵「相手できるのがこんな連中でいいのなら、いつでも相手させてもらうとも」

五十鈴「決まりね」フフッ


五十鈴「それと、まだ私たち当分食堂で飲んでると思うけど、交代した後には来るでしょ?」

憲兵「邪魔にならないならな」

五十鈴「邪魔になるわけないわよ。今だって当直以外の憲兵隊はみんな食堂にいるんだから」

憲兵「それもそうだ。交代したら行こう」

五十鈴「待ってるわね」

憲兵「私が行くまでに潰れるなよ」

五十鈴「ふふっ。心配無用よ」


五十鈴「榛名さん、そろそろ戻る?」

榛名「そうね。では、私はこれで」

隊員A「はい。また、後で」

榛名「ええ」

五十鈴「じゃ、また後でね」

憲兵「ああ」



憲兵「……」


憲兵(まったく、どうしたもんかな……)

憲兵(いかんいかん。今は任務に集中だ。私がこれでは部下に示しがつかんぞ)チラッ

隊員A「……」ボー

憲兵(……やれやれ。私よりも重症ときたか)

憲兵「おーい」

隊員A「はい?……はっ!失礼しました!」

憲兵「気立ての良い美人に惚れるのは分かるが、歩哨の間ぐらいは気を張っておいてくれ」

隊員A「はっ!」ビシッ

憲兵(私自身もだぞ。気を引き締めねば)


二時間後 食堂

ガチャ

隊員A「まだだいぶ盛り上がってますね」

憲兵「ああ」

憲兵(五十鈴はどこにいるかな……)

五十鈴「あ。隊長ー、こっちこっちー」ブンブン

憲兵「おう」

憲兵「お前はどうする?」

隊員A「そうですね……」

霧島「あなたはこっちですよ。榛名が待っていますからね」

隊員A「え?は、はあ、分かりました」

霧島「では隊長、彼のことはお借りしますよ」

憲兵「分かった。お手柔らかに頼むぞ」

隊員A「失礼します」

憲兵「ん」



憲兵「あ~、うまい」

名取「憲兵のみなさんは大変ですよね」

長良「一個小隊で毎日警備しないといけませんもんね」

憲兵「他も似たようなものだよ。予算や人員の関係で振り向ける隊員はどこも最小限だ」

名取「それって、私たちの維持に予算がかかるから、とかですか?」

憲兵「そういうわけではない。他に比べると重要度は低いが、置いておかないわけにはいかないから最低限を配置している、というのが憲兵隊の状態だな」


五十鈴「前から思ってたんだけど、憲兵隊と艦娘の連携を強めておいたほうが良くない?いくら待機班がいても、対応には限界もあるでしょ」

憲兵「こっちとしてはありがたいが、そんなことをしてそっちは大丈夫か?」

五十鈴「出撃規定の関係で同時に動かせる艦隊は最大でも四個艦隊二十四隻までなのよ。しかも艦娘の在籍数は増える一方で、時間に余裕のある艦娘は増えつつあるわ」

憲兵「そういうことなら検討してもいいな。少なくとも、こっちにデメリットはない」

五十鈴「……提案しといてなんだけど、職権侵されるとか憲兵隊のプライドとか気にならない?大丈夫?」

憲兵「気にしてくれるのは嬉しいが、今更だぞ。出世コース外の憲兵隊に来るような我々だし、共同警備のときにそんなプライドは塀の外に捨てたから大丈夫だ」

五十鈴「あははっ。そういうことなら心配なさそうね」


長良「でも五十鈴はしばらく忙しくなるんじゃないの?改二にするって言われてるし」

五十鈴「あっ、そうだった」

憲兵「改二、とは?」

五十鈴「第二次改装のことよ。第一次改装は能力が全体的に強化されるだけなんだけど、第二次改装では艦娘によって強化されるところが違うのよ」

長良「姉妹艦でもある者は火力が頭一つ抜けていたり、対空性能が他の姉妹より高かったり様々ですね」

憲兵「ふむふむ」

五十鈴「ただ、第二次改装を受けるためにはその特殊な能力を使いこなせるだけの練度が必要なのよ。そのためにこれからは集中的に訓練や演習に参加することになると思うわ」

憲兵「なるほどな。とりあえず理解はした」


五十鈴「だから、話出しておいてなんだけど、しばらくは取りかかれないかも」

憲兵「どうせ急ぐことではない。五十鈴が落ち着いてからゆっくりやればいいだろう」

五十鈴「そうね。しばらくそっちにも顔出せなくなるかもしれないけど、寂しがらないでよね」

憲兵「余計なお世話だ」フフッ

憲兵(そうか……)


長良「あっ。もうこんな時間」

五十鈴「あら。隊長さんどうする?」

憲兵「あー……私はもう一杯だけ頂こう」

五十鈴「じゃあ付き合うわ。先戻ってて」

長良「おっけー。では私たちはこれで」

名取「失礼します」ペコリ

憲兵「ああ。お疲れさま」


隊員C「隊長、お先です」フラッ

憲兵「おい、大丈夫か?」

隊員C「まあ……何とか。酔い醒ましたら、戻り、ます」

古鷹「私もついてますから、隊長はゆっくりしていってください」

憲兵「いや、あー……すまない、頼む」

古鷹「はい」

隊員C「ではっ」ユラリ

古鷹「失礼します」ペコリ

バタン


五十鈴「……前から怪しかったけど、もう確定でいいわよね」ズイッ

憲兵(近い。近いぞ五十鈴。嫌とは言わんが)

憲兵「ああ。あれは言い逃れできないだろう」

五十鈴「何がきっかけだったと思う?」

憲兵「あいつの場合は、確か古鷹が最初に詰め所を訪ねてきた時に応対したんじゃなかったか」

五十鈴「ああ、そういうあれがあったの」

憲兵「だが前進したのは間違いなく鎮守府公開の共同警備だろ」

五十鈴「そうね。あの時、隊員の情報交換もやってたし当日も同じ組だったものね」

五十鈴「……もしかして、狙った?」

憲兵「冗談はよしてくれ。私は仲人じゃないぞ」

五十鈴「分かってるわよ」フフッ


五十鈴「なんなら他にも怪しいところあるわよね」

憲兵「あるな。基地内規定も無効になったから止める理由もほとんどないが、目に入ると気になるものだな」

五十鈴「そうなのよねー。まあ、今のところ上手くいってそうだから大丈夫でしょ」

憲兵「上手くいっている間はな。上手くいかなくなった時が厄介だ」

五十鈴「じゃあ止める?」

憲兵「……いや。止めたら止めたで面倒な未来しか見えんな」

五十鈴「もう流れに任せるしかないわよ。少々面倒なことになるとしてもね」


五十鈴「万が一状況が悪くなったら、あなたも恋愛相談聞かなきゃいけなくなるのかしらね」ププッ

憲兵「勘弁してくれ。恋愛はからきしだ」

五十鈴「隊長なんだから、かわいい部下のために頑張らないといけないでしょ」クスクス

憲兵「専門外のことに対応しろなんてどうかしてる。それか、いっそ五十鈴に丸投げするか」

五十鈴「おあいにく様。私も恋愛は専門外よ」カタスクメ

憲兵「まったく、こういう時に限って役に立たんなあ。任務の話をしている時は最高に頼もしいくせに」

五十鈴「!……あははっ。その言葉そのまま返してあげるわ」ケラケラ


千歳「……」

那智「……隼鷹。あれをどう見る?」

隼鷹「どう見るったって……他人事みたいに言ってるけど、あそこも確定でしょ」

千歳「よね。どう見てもただの仕事仲間とは思えない近さだけど……」

那智「あれで本当に何もないなら、それはそれですごいがな」

隼鷹「いやー、あそこまでいってるならこのままゴールインしてほしいねー。そのほうが面白いし」ニシシ


一カ月後

憲兵(あの時以来五十鈴とはろくに話せてないな。まあ、話す用事も特にないのだが……)

憲兵(向こうが忙しくないなら、久しぶりに飲むぐらいはしたいところだ)






コンコン

憲兵「入れ」

五十鈴「入るわよ」ガチャ

憲兵(五十鈴か!)

憲兵「ああ……おおっ!?」

隊員A「ど、どうしたんですか?」

五十鈴「ん?ああ、今日第二次改装をしたのよ」ニッ

憲兵「前に言っていた改二というやつか」

五十鈴「それ。思ったより派手に変わってびっくりしたわ」フフッ

憲兵(派手というか何というか……いや、何も言うまい。いわゆる人類とは違うのだからそういうこともあるだろうよ)


五十鈴「良かったら晩ご飯の後で飲まない?」

憲兵「飲もうか。交代後だから少し遅くなるぞ」

五十鈴「いいわ。決まりね」

五十鈴「それと、あなたに榛名さんから伝言よ」

隊員A「榛名さんから?」

五十鈴「「良かったら今夜飲みましょう」だそうよ」

隊員A「分かりました。ありがとうございます」


夕食後

五十鈴「しばらく行けなくてごめんなさいね」

憲兵「謝る必要はない。もともと君たちが我々のところに来てくれるほうがイレギュラーだ」

五十鈴「そのスタンスは意地でも崩さないのね」

憲兵「当然だろう。着任前に聞いた話ではここみたいに憲兵と艦娘の距離が異常に近い鎮守府などそうそうないぞ」

五十鈴「でしょうね。それに全鎮守府に憲兵がいるわけじゃないんでしょ?」

憲兵「ああ。無人島などは外部からの侵入者を警戒する必要がほぼないから憲兵は配置されていないな」

五十鈴「なら私はここに着任できて良かったわ。他所ならこんな風にあなたと並んで飲むなんてことはなかったものね」ニッ

憲兵(そういうところだぞお前……)

憲兵「それはそうだな。着任したのがここで良かったというのは私も思う」

五十鈴「ふふっ。そう言ってくれると思ったわ」


憲兵「ともあれ、改二おめでとう」

五十鈴「ありがとう。こんなに変わるとは思わなかったけどね」

憲兵「本当にな。慣れそうか?」

五十鈴「戦闘のほうは何とでもなるわ。特性を覚えてもう少し訓練を積めば、十分特長を活かせられるようになるんじゃないかしら」

憲兵「個人によって戦い方が変わるというのも人間からしたら変な感じだがな」

五十鈴「でしょうね。でも艦娘って性能の違いを意識して戦うこと多いから、その延長線上だと思えばそんなに気にはならないわね」

憲兵「なるほど」


五十鈴「むしろ今は日常生活に慣れるほうが問題だわ」

憲兵「そんなに問題か?」

五十鈴「徐々にならともかく急に変わったからね。隊長はあり得ないと思うけど、この体だと階段を上下するときに足元が見えないのよ」

憲兵「それは、さすがに想像もできんな」

五十鈴「でしょうね。改装前の私もそうだったし。私の姉妹だと名取が前からよく階段とか段差で躓いてたけど、もう笑えなくなっちゃったわ」

憲兵「ちょっとした災難だな。あるいは副作用か」

五十鈴「どっちかしらね。まあ、今更前の状態には戻れないから何とか慣れるわ」

憲兵「だな。頑張ってくれ」フフッ


隊員A「あの……良かったら少し歩きませんか?」ヒソヒソ

榛名「はい。喜んで」ヒソヒソ

ガタッ



隊員A「隊長。お先です」

憲兵「おう」

榛名「失礼します」

ギィ……バタン





憲兵「……あいつらも最近距離近いな」

五十鈴「近いわね。というか、最近憲兵隊と艦娘でくっついてるとこまた増えてない?」

憲兵「増えた。いや、悪いこととは言わんし、むしろ任務に気合いが入っているようだから都合は良いぐらいなんだがな」

五十鈴「こっちも状況は似たような感じね。大規模作戦の時も憲兵隊に迷惑かけられないって気合い入ってた子もいるし」


五十鈴「ただねえ……」

憲兵「ただ、何だ?」

五十鈴「」キョロキョロ

五十鈴「ちょっと言いにくいんだけど」ススッ

憲兵(おわっ。近い近い近い)

憲兵(いかんいかん、内容に集中せねば)




五十鈴「実は艦娘にも性欲があるのよね」ヒソヒソ

憲兵「!?」

憲兵「……本当なのか?」

五十鈴「本当なのよ」

憲兵(断言したということはまさか五十鈴も……?)

憲兵(……さすがにないか。私にこんな話を振るぐらいだからな)

憲兵「しかし、性欲とは……じゃあ艦娘も出産するのか?」

五十鈴「それが出産はしないはずなのよね。少なくとも人間の女性にある生理は艦娘にはないわ」

憲兵「となると出産する可能性は低そうだな」

五十鈴「私も不思議なんだけど、明石さんとかに聞いても理由は分からないそうよ」

憲兵「明石でも分からないなら、分かる人間は相当限られるだろうな」


憲兵「……何となく嫌な予感がしてきたんだが」

五十鈴「でしょ」

五十鈴「もう大体想像できたと思うけど、憲兵隊と近い一部の艦娘からはシたいって声も出はじめてるのよ」

憲兵「それは……いよいよまずいな」

五十鈴「憲兵隊の中ではそんな話出てないの?」

憲兵「風呂に入ったらそんな話ばっかりだからな。男しかいないとそんなもんだ」

五十鈴「なんかごめんなさい。私の想像が甘かったわ」

憲兵「お互い様だろう。私も艦娘のほうからもそんな声が出ているとは想像もしてなかった」


憲兵「しかし現状がそこまできているなら、早めに対策を打っておかないともっと面倒なことになるぞ」

五十鈴「そうなのよ。でもそんなことできる場所がないのよね」

憲兵「ないな。万が一このまま対策がなされないまま我慢の限界を超えるようなことになれば……」

五十鈴「……考えたくないわ」フルフル

憲兵「全くだ」フルフル

五十鈴「理想としては『そういう部屋』があればいいんだけど、現状そんな空間は鎮守府のどこにもないわけで」

憲兵「問題にならないようにするには『そういう部屋』を作るしかないわけか」


五十鈴「作ること自体は大した問題じゃないのよ。妖精たちが尋常じゃない早さでやってくれるから」

憲兵「そ、そうか」

憲兵(妖精というものも相変わらず謎な存在だな)

五十鈴「ただ、それを誰が提督に意見するのかが問題よね」

憲兵「うん。憲兵隊が絡む以上私から提督に意見するのが筋だろうが……正直あんまり良い気分ではないな」

五十鈴「憲兵っていう立場上、率先して言いたくはないわよね」

憲兵「その通りだ。規定の一部が無効になっているとしてもな」カタスクメ


五十鈴「……じゃあ、艦娘側からの根回しがあればどう?」

憲兵「君たちからも提督に意見してみるということか?」

五十鈴「そうよ。両方からの意見なら提督も無視するわけにはいかないでしょ」

憲兵「もっともだ。ここの提督なら艦娘からの意見だけでも動きそうだがな」

五十鈴「それは同感だわ」

憲兵「だが、確かに両方から意見が上がるということが重要だ」

五十鈴「でしょ」


五十鈴「じゃあこっちも提督に上申する準備をしましょうか」

憲兵「五十鈴が直接提督に言うのか?」

五十鈴「ううん。もっと言いやすい人から言ってもらうわ。具体的に言うと大淀ね」

憲兵「あー……やっぱり、提督と『そういう関係』なのか」

五十鈴「『そういう関係』なのよ。そんな感じしてたでしょ?」

憲兵「何となくだがな。提督と親密そうなのは大淀に限った話ではないが」

五十鈴「そりゃ艦娘が提督と親密になりたいってのは普通だからね。それだけ提督には負担もかかってるでしょうし」


憲兵「……提督が憲兵隊と艦娘の関係を認めているのは、提督自身に集中する負担を軽減する目的もあるのだろうか」

五十鈴「可能性はあるわね。あるいは提督が関われる人数には限界があるから、男女として結ばれたいっていう艦娘の願いを憲兵隊の手も借りて叶えたいとか?」

憲兵「そっちのほうが、提督が考えそうではあるな。提督の代わりと思うと荷が重いが」

五十鈴「実際憲兵隊の人と仲良くしてる人たちは、あなたたちを提督の代わりなんて思ってないでしょうけどね」

憲兵「ならありがたいが、それならそれであいつらには責任の重さを自覚してもらわねばならんな」

五十鈴「相変わらずそういうところは真面目ね」

憲兵「真面目というか当然の考えだ。君たちの安全を守る部隊が君たちに迷惑をかけるわけにいかんだろ」

五十鈴「あなたらしいわね。ほんと隊長があなたで良かったわ」

憲兵(だからそういうことをさらっと言うなよ……)

憲兵「そこまで持ち上げてくれるのは君ぐらいのものだよ」フッ

五十鈴「そ、そうかしらね」



鈴谷「……」

熊野「……」

鈴谷「……熊野、どう思うよあれ。さっきからずっと頭突き合わせてるんだけど」

熊野「鈴谷、パーソナルスペースという言葉は聞いたことがあって?」

鈴谷「うん。知ってるけど……あっ」

熊野「まあ、そういうことですわね……」


鈴谷「は~……鈴谷もなんか面白いことないかな~」

熊野「……ところで鈴谷」

鈴谷「なに?」

熊野「あなた、最近B隊員とはどうなんですの?」

鈴谷「ぶふっ///」


憲兵「そろそろ出るか」

五十鈴「そうね」

バタン



五十鈴「話を振っておいてなんだけど、隊長も楽じゃないわね」

憲兵「まあな。とはいえ、面倒を無闇に部下に押しつけるわけにはいかんからな。肩書がある以上、責任は取らねばならん」

五十鈴「私生活に関するようなことでも?」クスッ

憲兵「そうだ。鎮守府内で起こったことは私の責任にもなるのだよ」カタスクメ

五十鈴「それを分かって志願したのならあなたもなかなかの変わり者ね」

憲兵「私の愚痴を積極的に聞く五十鈴には言われたくないぞ。聞いてくれるのは嬉しいがな」フフッ

五十鈴「……聞くぐらいでいいならいつでも聞いてあげるわ」

憲兵「まったく酔狂だな……ありがとう」

五十鈴「どういたしまして……」



憲兵「じゃあな」

五十鈴「ええ。おやすみなさい」

憲兵「おやすみ」


数日後 執務室

大淀「……ということなのですが」

提督「なるほどね。じゃあ明石や妖精たちに話を通そうか」

大淀「ありがとうございます」

提督「ただ、できれば憲兵たちの意見も聞きたいところだね」

大淀「そうですよね。五十鈴さんから隊長にそう伝えておいてもらいます」

提督「うん……あ、いや」

大淀「何か?」

提督「隊長からは私が直接聞き出すよ。五十鈴に伝言してくれないかな」

大淀「分かりました。どのような内容を?」


夕刻 憲兵詰め所

コンコン

五十鈴「隊長いる?」ガチャ

憲兵「いるぞ。どうした?」

五十鈴「提督から伝言なんだけど、今晩暇なら私室に来てほしいって」

憲兵「私室に?分かった。交代して夕食の後に参上すると伝えてもらえるか?」

五十鈴「伝えるわ。あ、提督の私室の場所分かる?」

憲兵「把握はしている。大丈夫だろう」




憲兵(さて……行くか)



憲兵(ん?玄関にいるのは五十鈴?)

憲兵「どうかしたか?」

五十鈴「それが、私も一緒に私室に来いって言われたのよ」

憲兵「それは初耳だぞ」

五十鈴「そりゃ私もさっき言われたところだし」

五十鈴「……なんか、びみょーに嫌な予感がするのよね」

憲兵「同感だ。だが、行かないわけにはいかんな」

五十鈴「そうね」


コンコン

提督「はい」

憲兵「憲兵隊長及び五十鈴であります」

提督「ああ」

ガチャ

提督「隊長は入ってくれ。大淀、」

大淀「はい。隊長、五十鈴さんをお借りしますね」 

憲兵「は?はあ」

大淀「五十鈴さんはちょっと私の部屋に」

五十鈴「え?う、うん。じゃあね」

憲兵「ああ」




憲兵「失礼します」

提督「ん。楽にして」

憲兵「は」



提督「そのうちあなたともこうしてゆっくり話したかったんだけど、遅くなってしまって申し訳ない」

憲兵「とんでもない。提督にはいつも我々にまでいろいろと気を遣っていただいて、とても気持ちよく任務に就けています。感謝の念に堪えません」

提督「お節介かとも思っていたけど、そう言ってくれて良かった」

提督「まあ、飲んで飲んで」トクトクトク

憲兵「ありがとうございます」


提督「憲兵隊と艦娘の関係は良好みたいだね」

憲兵「おかげさまで良い関係を築かせていただいています。一部、近すぎる節がないでもありませんが」

提督「それでもお互いの存在を意識して毎日を送れるのは良いことだと思うんだ」

提督「確かに、憲兵隊と艦娘の距離を近づけるリスクがないとは言えない。でも、提督以外の人間からあまりに距離を取ってしまうと、艦娘は独力で提督のために戦っていると錯覚してしまうこともあるんだよ」

憲兵「その問題を避けるために、提督は艦娘と我々憲兵隊の距離を縮めようとしたのですか?」

提督「したかはともかく、両者の距離を縮めたいとは思っていたね。で、初日の夕食の前に電が憲兵隊とも食事を共にしたいと言ってきたから、その提案に乗っかることにしたわけだ」


提督「でも、本当に重要だったのはその後だ。あなたと五十鈴がいろいろな場面で憲兵隊と艦娘の間を取りもってくれた」

憲兵「五十鈴の功績はありますが、私の功績ではありません。それに、艦娘も皆、憲兵隊に好意的に接してくれました」

提督「それでも、最初に憲兵隊員と艦娘でチームを組ませることに決めたのはあなただ。それがきっかけになって、いろいろと縁が結ばれたのはあなたの力だよ」

憲兵「ありがとうございます」

憲兵「まあ、今となってはあれで良かったのかと思わないでもありませんが……」

提督「さっきも言っていた、一部の特に距離が近い憲兵隊員と艦娘の関係についてだね」

憲兵「はい」


憲兵「提督は、その……艦娘と憲兵隊員が結ばれることについてはどうお考えです?」

提督「賛否いろいろあるけど、私は良いことだと思っているよ」

提督「艦娘は戦闘艦の魂と同時に女性としての心を宿しているから、愛する者と愛し合いたいという願望はあるみたいなんだ。もともと持っているのか、人との関わりの中で得るのかまでは分からないけどね」

提督「多くの場合それは司令官たる提督に向かう。だが、提督は一人しかいないため、その願い全てにはとても応えきれない」

提督「あなたたちを提督の代わりとみるわけではないけど、憲兵隊員と艦娘が結ばれて幸せを手にできるなら、私としてはむしろありがたいぐらいだ」

憲兵「なるほど」

憲兵(私が提督なら「私の艦娘に手を出すな」ぐらい思ってしまいそうなものだが、この人はすごいものだな。これもまた将器ということか)


提督「ただまあ……いくらなんでも、それによって鎮守府内の風紀が乱れては、いささか厄介なことになるよね」

憲兵「ええ。その通りです」

提督「しかし、このままいくと艦娘でも愛情や性欲が、言うなれば暴走する懸念はあると思うんだ。憲兵隊員のほうはどうだろうか」

憲兵「ありません……と言いたいところですが、正直ないとは言い切れませんね」

提督「だろうね。あなたなら正直に言ってくれると思った」

憲兵「それは提督があなただからですよ。そう誰にでも言えることではありません」


憲兵「そういうわけで、立場上申し上げにくいことではありますが、その……暴走させても問題のない場所があるとありがたいとは思うわけであります」

提督「なるほどね」

提督「あなたも知っているとは思うけど、同じ意見が艦娘の側からも上がっている。憲兵隊もそうなら、憲兵隊員と艦娘の両方が入って一夜を明かせるような部屋、というか建物を正式に用意しよう」

憲兵「感謝します」


提督「ただ、個人的には一つ条件があるんだ」

憲兵「何でしょう」

憲兵(提督にしては珍しいな。気になるぞ)











提督「最初にその建物を君と五十鈴に使ってもらいたい」






憲兵「はい?」


憲兵「……失礼しました。聞き間違えたようなのでもう一度言っていただけませんか?」

提督「聞き間違えではないと思うよ。そういう建物ができたら、君と五十鈴に最初に使ってもらいたいんだ」

憲兵「……どういう風の吹き回しです?」

提督「どういうもなにも、君と五十鈴は好き合っているんじゃないの?」

憲兵「まさか。確かに五十鈴は任務の時は非常に頼れる相棒ですし我々のことをいつも気にかけてくれていてとても素敵な女性だと思いますが、それとこれとは別です」

提督「つまり抱きたくないと?」

憲兵「それは抱きたくならないほうがおかしいです」

提督「だろうね。改二でスタイルも変わったし」

憲兵「そう、ですね……正直、目をやらないようにするのに必死でして……」


憲兵「それはともかく、なぜ私と五十鈴なのです?艦娘と恋愛関係にある憲兵は何名もおりますし、それこそ提督が最初に使ってもよろしいのでは?」

提督「それではよくないんだよ」

提督「まず、新設する建物は憲兵隊と艦娘のためのものだろう。私も使うことはあるかもしれないが、最初に私が使うのでは本末転倒もいいところだ。わざわざ最初に使う者を指定するなら、憲兵隊員と艦娘でなければ意味がない」

提督「次に憲兵隊からみても、以前いくつかの基地内規定を無効にしたとはいえ、出来れば最初に本番行為に手を出すのは避けたいだろう」

提督「だから申し訳ないけど、部隊のトップであるあなたが最初に事に及べば、他の隊員も少しは気が楽になると思うわけだ」

憲兵「なるほど。それは一理あります」


提督「そして何より、憲兵隊と艦娘の間をそれこそ着任当初から取りもってきたあなたと五十鈴には幸せになってほしいんだ」

提督「確かに、他に恋愛関係にある憲兵隊員と艦娘がいるのは私も知っている。でもあなたと五十鈴は自分の感情を抑え込んで、憲兵隊と艦娘全体のことにばかり気を配っているように見える。あなたたちもそろそろ自分たちの幸せのことを考えるべきだ」

憲兵「……確かに、私は自分の感情を多少なりとも抑えているのは否定しません。しかし、五十鈴がどうかは私は知りませんよ」

提督「確かに、五十鈴がどう思っているかはあなたは分からないだろうし、私も知らない」

提督「ではあなたはこの条件を受け入れてはくれないかな?」

憲兵「……いえ、提督のおっしゃる理由には納得しましたし、断る理由はありません。五十鈴がどう答えるかによりますがね」

提督「分かってる。五十鈴の答えは大淀から聞くから安心してほしい」

憲兵(やはりそういうことか)

憲兵(ということは、今頃五十鈴も大淀から同じようなことを言われているのだろうかな)


同時刻 大淀の部屋

五十鈴「……ごめん。聞き間違えたみたいだからもう一回言ってもらえる?」

大淀「聞き間違えではないと思いますよ。その建物ができたら、最初に五十鈴さんと隊長に使ってほしいんです」

五十鈴「……ちょっと意味が分からないわね」

大淀「どうしてですか?五十鈴さんは隊長と好き合っているんですよね?」

五十鈴「まさか。確かに隊長は堅苦しそうな割にフランクだし部下思いだし私たちへの感謝もよく口にしてくれるし、好きか嫌いかで言えば私は断然好きだけどね。でもそれとこれとは別よ」

大淀「つまり抱かれたくないと?」

五十鈴「何言ってんのよ。抱かれたいに決まってんでしょ」

大淀「五十鈴さん、性欲強いですものね」クスクス

五十鈴「提督と毎晩ヤってるような人に言われたくないわ」


五十鈴「言いたいことは分かってると思うわ。少なくとも隊長が最初に使うべきなのは同感よ」

大淀「じゃあ艦娘側は五十鈴さんで確定ですよね」

五十鈴「いやだから何でそうなるの?」

大淀「隊長のパートナーといったら五十鈴さんしかいませんよ」

五十鈴「仕事上ではそうだけど私生活までそうとは限らないじゃない」

大淀「何言ってるんですか。隊長と個人的な付き合いがあるのは五十鈴さんだけですよ」

五十鈴「それは……そうかしら」

大淀「ええ」


五十鈴「でもあの人は私のこと女だと思ってないような気がするのよね」

大淀「まさか。改二でそんなにおっぱい大きくなったのに見られないんですか?」

五十鈴「それが隊長は全然見ないのよね。私たちに性欲があるって話したときもびっくりはしたけど興奮した様子は全然なかったし、私のことは何とも思ってないんじゃないかしら……」

大淀「……五十鈴さんに嫌われないように下心を見せないようにしてるという可能性はありませんか?」

五十鈴「あー……それは大いにありうるわね」


大淀「それか、五十鈴さんが私たちに性欲があるかもという話をしたから、異性として意識してないと捉えられたのかもしれませんよ」

五十鈴「あっ……そう言われたらいろいろ下手打った気がしてきたわ。改二で胸が大きくなって慣れないとかいう話もしちゃったし」

大淀「それ、どんな雰囲気で話しました?」

五十鈴「普通に、さらっと話したわね」

大淀「じゃあ、五十鈴さんは脈なしと考えて友人や仲間として接するようにしている可能性も十分ありますね」

五十鈴「あー……だめだわ、絶対あの人そう考えてるどうしよう」


大淀「大丈夫ですって。その建物ができたらそこでちゃんと話せばいいんですよ」

五十鈴「そう?でも隊長がこの条件を受け入れると思う?」

大淀「じゃあ聞きますけど、隊長の相手が五十鈴さんかどうかは置いといて、隊長がその建物を最初に使うという条件を、隊長が受け入れない可能性はどのくらいあると思いますか?」

五十鈴「……かなり低いわね。部下のためとか何とか言ったらあの人は断れないだろうし」

大淀「ですよね?その上で、隊長がその相手に五十鈴さんを選んだら、五十鈴さんはそれを断りますか?」

五十鈴「断るわけないでしょ。隊長が私を選んだらの話だけど」

大淀「分かってますよ。そう提督に伝えますね」ニコニコ


提督の私室

ジリリリリン

提督「司令官だ。……ああ、そっちは終わったかい?」

憲兵(通話の相手は大淀だな)

提督「……なるほど。分かった。ありがとう」ガチャン



提督「もう一度だけ確認させてほしい」

提督「相手は置くとして、あなたが最初に例の建物を使うということに異論はない?」

憲兵「ありません」

提督「そしてその相手をあなたが選べるとしたら、誰を選ぶ?」

憲兵「無論、五十鈴です。彼女が構わないならですが」

提督「分かった。ありがとう」


コンコン

大淀「大淀です。入ってもよろしいですか?」

提督「大丈夫だよ」

ガチャ

大淀「戻りました」

提督「おかえり」

憲兵(この二言だけで二人の関係が分かるというものだな)

大淀「五十鈴さん、お返しします」

憲兵「はあ。まあ、私のものではないのですが」

五十鈴「……帰りましょうか」

憲兵「ああ。今日はありがとうございました」

提督「こっちこそ」

憲兵「では、失礼します」

提督「うん」


ガチャ

テクテク

憲兵(うーむ……この状況で何を話したものか)

五十鈴「……ねえ」

憲兵「……どうした?」

五十鈴「その……」

五十鈴「……ごめんなさい、何でもないわ」

憲兵「そうか」

憲兵(これは、五十鈴も同じような心持ちか)


憲兵(結局何も話せないまま提督のいる建物を出てしまった)

憲兵「……送ろうか?」

五十鈴「ここでいいわよ。気持ちだけもらっておくわ」

憲兵「そうか……じゃあ、また」

五十鈴「ええ、また。おやすみなさい」

憲兵「おやすみ」


一週間後

ジリリリン

隊員A「憲兵隊詰め所」

隊員A「……はい、おります。お待ちください」

隊員A「隊長。提督からです」

憲兵「分かった」

憲兵「代わりました。憲兵隊長であります」

提督「今から執務室に来てもらってもいいかな?」

憲兵「問題ありません。すぐ参ります」

提督「よろしく」

ガチャン

隊員A「何かありましたか?」

憲兵「何かは分からんが呼び出しだ。ちょっと行ってくる」


コンコン

提督「誰か」

憲兵「憲兵隊長であります」

提督「入れ」

憲兵「は。失礼します」

ガチャ


憲兵(ん?五十鈴もいるのか?)

憲兵(これはもしや……)

提督「こっちに来てくれ」

憲兵「は」


提督「二人も知っていると思うけど、例の建物が完成した。極端な話、今からでも使うことができる」

憲兵(やはりな)

提督「そういうわけで、二人には今夜あの建物の中で一晩過ごしてほしい。壊さない限り何をしてくれてもいいから」

憲兵「」チラッ

五十鈴「」チラッ

憲兵五十鈴「了解」

憲兵(ということは、五十鈴もあの条件を受け入れたというのか?いやいや、そんなまさか……)

憲兵(だが、そうだとしたら…………)




憲兵「行くか」

五十鈴「ええ」

テクテク

憲兵(見たところ五十鈴はいつもと変わらんか……あるいは、別に同衾や本番に及ばなくてもよいと考えて条件を受け入れたのかもしれんな)

憲兵(まあ、なるようになるだろう。一晩同じ部屋にいても構わないと思われているなら悪い話ではあるまい)


ガチャ

五十鈴「見た感じは普通ね」

憲兵「ああ。見取図は……そこか」

五十鈴「ふーん……なんか、明らかに布団もベッドもなさそうな部屋があるんだけど」

憲兵「完全に本番行為に及ぶだけの部屋だな……」

憲兵「部屋の希望は?」

五十鈴「横になれるならどこでも」

憲兵「同じく。なら……ここにしよう」

五十鈴「いいわ。部屋の鍵は……これね」カチャ


ガチャ

憲兵「ほう……なるほどな」

五十鈴「良い感じじゃない?えーっと、こっちが洗面所で、こっちが浴室ね」ガチャ ガチャ

憲兵「クローゼットはここか」

五十鈴「でもこっちにもクローゼットあるわよ」

憲兵「そっちは何だろうな」

五十鈴「開ければ分かるでしょ」バタン

ズラーッ

憲兵「」

五十鈴「」

憲兵(こ、コスプレの衣装だと!?)

憲兵(この空気、どうするか……)


五十鈴「……ねえ」

憲兵「……なんだ」

五十鈴「……隊長って、その……ど、どんなコスプレが好き、なの?」

憲兵「!?」

憲兵「ま、待て待て待て。ここにあるからといって着なければならないということはないんだからな?」

五十鈴「そうね。分かってる……分かってるわ」

憲兵「分かっているなら……」

五十鈴「……やっぱり、言わなきゃだめ?」ウルウル

憲兵「!」

憲兵(そんな目で見られては……)

五十鈴「……そうね、言った方がいいわよね。由良の読んでた雑誌にも女性から告白したほうが良いって書いてあったし、うん」

憲兵「五十鈴……まさか」


五十鈴「ふぅー……」

五十鈴「……落ち着いて聞いてね」

憲兵「あ、ああ……」バクバク
















五十鈴「……好きよ」












憲兵(な!ほ、本当か!?これは、夢ではないのか!?!??)






憲兵「……私もだ。愛している」




憲兵(考える前に口が動いてしまった……)

憲兵(……これが、本心だったのだな)


五十鈴「…………」ギュッ

憲兵「五十鈴……」ギュッ

五十鈴「ごめんなさい、全然言えなかった……」

憲兵「それは私もだ。すまない……」

憲兵(やっと、やっとお互いのことを分かり合えたのか……)

憲兵(ああ……暖かい……)













五十鈴「……はあ」スッ

憲兵(ようやく離れたな。まだ抱き合っていてもよかったのだが……いや、それでは話しづらいか)

五十鈴「ごめんなさいね」

憲兵「いや、構わない。……安心したか?」

五十鈴「安心したわ。とてもね」


憲兵「一体いつから、その……私に好意を持っていてくれたんだ?」

五十鈴「全然分かんないわ。あなたと話するの楽しかったし、気がついた時には好きだったんだもの」

憲兵「ほとんど仕事の話しかしなかったのにか?」

五十鈴「そうよ。我ながら変な話よね」カタスクメ

五十鈴「あなたこそ、いつ私のことを好きになってくれたの?」

憲兵「さあな。私も気がついたら好きだったから全然分からん」カタスクメ


憲兵「ただ、自分の感情をはっきり意識した時は覚えている。大規模作戦の打ち上げを五十鈴が抜け出してきた時だ」

五十鈴「ああ、あの時。そんなこともあったわね」

憲兵「本当にどうして抜けてきたんだ?」

五十鈴「だって、打ち上げで盛り上がってる中にあなたがいなくて寂しかったんだもの。抜け出して会いに行きたくもなるわ」

憲兵「はあぁ…………あのなあ、」

五十鈴「な、なに……?」ビクッ

憲兵「……そういうところだぞお前」ギュッ

五十鈴「なになに。そんなに嬉しかったの?」フフッ

憲兵「嬉しかったに決まっているだろ」

五十鈴「良かった。あなたに喜んでもらえて」ギュッ


憲兵「だがそれからもお前の態度が変わらないから、私のことは仕事仲間としか思っていないのかと思っていたんだぞ」

五十鈴「今さら思わせぶりな態度を取るのもあざといかと思って、あなたへの接し方を変えられなかったのよ。ごめんなさい」

憲兵「いいんだよ。私だって五十鈴にずっと好意を示せず、すまなかった」

五十鈴「いいのよ。だって私たちは……」

憲兵「私たちは……何だ?」

五十鈴「こ……恋人、ってことでいい、のよね??」

憲兵「あ、ああ。そう思っている」

五十鈴「じゃあもういいじゃない」ギュッ

憲兵「……ああ、そうだな」ギュッ


憲兵「あー……あの、な、五十鈴」

五十鈴「ん?どうしたの?」

憲兵「その……すまないが、少し放してくれないか?」

五十鈴「えっ?なんで??」ウルウル

憲兵「いや、その……さっきからお前の胸がずっと当たってるんだが」

五十鈴「ぷっ」

五十鈴「なに?抱き合いながら私のおっぱい意識してたわけ?」ニヨニヨ

憲兵「そういうわけではないが、落ち着いてきたらどうしても気を取られるというかだな……」

五十鈴「ふ~ん」ニヨニヨ


五十鈴「あなたも、女の人の胸は大きいほうが好きなの?」ニヨニヨ

憲兵「う……まあ、小さいよりは」

五十鈴「じゃあ……触ってみる?」

憲兵「!?」

憲兵「いい、のか?」

五十鈴「良くなかったら言わないわよ」

五十鈴「それに、胸があっても戦闘には全然関係ないし、どうせあなたに触ってもらう以外に使い道ないし……」

憲兵「そ、それはそうか……」

五十鈴「だから……私の身体、あなたの好きにして?///」

憲兵「五十鈴……」


チュンチュン チュンチュン

憲兵「…………」

五十鈴「…………」

憲兵五十鈴( や ら か し た )

憲兵(何でもう5時回ってるんだ……一睡もできてないぞ)

五十鈴(今日非番で良かった……昼間は部屋で寝てよ……)

憲兵(そう言えば、部屋に置いてある衣装は全く使わなかったな)

五十鈴(コスプレは次回以降かしらね)

五十鈴「……シャワー、浴びる?」

憲兵「ああ……いや、五十鈴が先に浴びてこい。私はすぐ済むから後でいい」

五十鈴「ありがとう」スクッ


憲兵「ふう……これで出られるな」

五十鈴「そうね。ちょっと早いけど直接食堂行く?」

憲兵「いや、一旦部屋に戻る」

五十鈴「じゃあ私もそうするわ」

憲兵「よし……忘れ物はないな」

五十鈴「ええ。じゃあ、出る?」

憲兵「ああ……いや、待て」

五十鈴「え?」






チュッ





憲兵「……よ、よし。出よう」

五十鈴「う、うん……///」


長良型の部屋

ガチャ

長良「あら。おかえり」

五十鈴「ただいま……」

名取「だ、大丈夫?なんか疲れてるし、それに声も変じゃない?」

五十鈴「大丈夫よ……でも、昼間は寝てるわ……」

長良「うん。そうしたほうがいいよ」

五十鈴「……あ。由良ー」

由良「なに?」

五十鈴「見せてくれた雑誌、役に立ったわ。ありがと」

由良「雑誌?……ああ!良かった!おめでとう!」ニコニコ

長良「え?あ、そっか!良かったね!」

五十鈴「ありがと……」フフッ




隊員A「隊長」

憲兵「ん?」

隊員A「結局、昨夜は五十鈴さんとどうなったんです?」

憲兵「なるようになったよ。やることはやってきたし、恋人にもなった」

隊員A「本当ですか!?」

憲兵「ああ……お前、そんなでかい声出すようなことじゃないだろ」

隊員A「いやいや、これは一大事ですよ。憲兵隊を挙げてお祝いしないといけないぐらいです」

隊員B「何のお祝いだって?」ガチャ

隊員C「野暮なこと聞いてやりなさんな」

憲兵「お前ら何しに来た」


隊員B「つまり、やーっと隊長と五十鈴さんが名実ともにくっついたと」

隊員A「そういうことです」

隊員C「長かったなあ」

憲兵「そんなしみじみするようなことか?」

隊員C「しみじみもしますよ。一体どれだけ待ったと思ってるんですか」

隊員B「鈴谷なんて鎮守府公開の時点で隊長と五十鈴さんが付き合ってるのかと思ってましたからね」

憲兵「その時は何と言ったんだ」

隊員B「どっちも無自覚だからまだ付き合うどころじゃないって言いましたよ」

隊員C「なんだ。普通に返したのか」

隊員B「そのころはまだ軽口叩いたり嘘教えてからかったりするほどの仲ではなかったんでね」


隊員C「隊長もくっついたことだし、お前もようやく前進できるな」

隊員A「ですね。今は今で悪くありませんけど、早いうちにけじめをつけます」

隊員B「は?お前、まだ付き合ってなかったの?」

隊員A「はい。告白しようかとは思ったんですけど、榛名さんは隊長と五十鈴さんより先に幸せになっていいのか迷ってたんで、まだです」

憲兵「なんでお前らはそうなんだ……」

隊員C「まあ、多少なりとも自重はしますよ。いくら無効になったとはいえ、もともと憲兵隊と艦娘は積極的に関わるものじゃないですからね」

憲兵「お前ら二人とも榛名や古鷹と堂々と出歩いてるから自重なぞ全くしてないと思ってたぞ」

隊員C「隙あらば五十鈴さんと一緒にいる隊長には言われたくないです」

隊員A「隙あらば隊長に会いに来る五十鈴さんも大概だと思いますけどね」

隊員C「でも好きなら仕方ないよな」ニッ

隊員A「仕方ないです」ウンウン

憲兵「そんな風に見られてたのか……」


隊員B「で?結局昨日は何時に寝たんすか?」ニヤニヤ

憲兵「昨夜は寝てない」

隊員A「えっ……ええっ!?」

隊員C「じゃあ……徹夜ですか?」

憲兵「そういうことだ」

隊員B「うわあ……」

憲兵「お前、自分から聞いておいてその反応はないだろ」

隊員B「いや、いくらなんでも徹夜はないっすよ。どんだけ溜まってたんすか」

憲兵「さあな。昨日の私に聞いてくれ」


隊員C「こりゃ五十鈴さんもいじられるだろうなあ」

隊員A「姉妹にですか?」

隊員C「いや。古鷹とか榛名さんとか大淀さんに」

隊員B「なんでです?」

隊員C「鈴谷さんから聞いてないのか?そのあたりが集まって隊長と五十鈴さんの恋愛成就祝いやるって言ってたぞ」

憲兵「向こうも向こうで物好きだな」

隊員B「まあ恋愛ネタは面白いっすからね。女の子なら余計でしょ」

隊員C「だな。今頃向こうも盛り上がってるんじゃないですかね」


艦娘寮

五十鈴(はー……頭はだいぶすっきりしたけど、声はまだおかしいままね)

五十鈴(大淀、自分の部屋に来いって何かしら)

コンコン

大淀「はい」

五十鈴「五十鈴よ」

大淀「入ってください」

五十鈴「お邪魔するわ」ガチャ

鈴谷「入って入ってー」

榛名「これで揃いましたね」

雷「五十鈴さんの席はこっちよ」

五十鈴(あれ?なんでこんなにいるの?)

大淀「では」


大淀「五十鈴さんと憲兵隊長の恋愛成就を祝って、乾杯!」

カンパーイ

五十鈴「……なにこれ」

鈴谷「何って、五十鈴のお祝いに決まってるじゃん?」

榛名「由良から聞いたわよ。おめでとう!」

古鷹「班長さんともずっと話してたんですよ。あの二人はいつになったら結ばれるのかなーって」

雷「五十鈴さんも隊長も全然くっつこうとしないから、見ててやきもきしてたのよ」

電「でもハッピーエンドで本当によかったのです」

五十鈴「それは……何か、悪かったわね」


古鷹「じゃあ五十鈴のほうからいったんだ」

五十鈴「うん。何か、言えそうな雰囲気だったから」

大淀「そこで自分から言うのは五十鈴さんらしいです」

鈴谷「でも、五十鈴が言うのを待つとか隊長も結構ヘタレじゃん?」

古鷹「それは失礼だよ。奥手とか職務に忠実とか、もっと言い方あるんじゃない?」

榛名「隊長は立場もありますし、自分からは言いにくいんじゃないかしら」

鈴谷「ここまで仲良くなっても?」

五十鈴「っていうか、仲良いって思ってなかったんじゃない?私もそうだったけど」

鈴谷「うっそお!」

雷「じゃあどう思ってたの?」

五十鈴「陸上任務での最高の相棒って感じ?」

榛名「でも五十鈴だって隊長のことずっと好きだったんでしょ?」

五十鈴「好きだったわよ。でも私が一方的に好意持ってるだけだと思ってたわ」

古鷹「五十鈴ってそんなに鈍かったっけ」

大淀「五十鈴さんも自分のこととなると意外と鈍くなるタイプだったということですね」ウンウン

雷「五十鈴さん『も』?」

鈴谷「ということは大淀も?」

大淀「どうですかね。私のことは置いておいて、今日は五十鈴さんのことを話しましょうよ」

電「話をそらされちゃったのです」

鈴谷「むぅ……でも確かに今日は五十鈴に聞く日だもんね」

榛名「うんうん」


鈴谷「で?二人は昨日何時に寝たの?」ニヤニヤ

五十鈴「昨夜は寝てないわ」

鈴谷「はい?」

榛名「つまり、徹夜……?」

五十鈴「そうね」

鈴谷「……まじ?一晩中ヤッてたわけ?」

大淀「五十鈴さんやりますねえ。初夜から隊長のことを寝かせないなんて」

古鷹「それとも隊長さんのほうが……?」

五十鈴「別にどっちかがどっちかを寝かせなかったってわけじゃないのよ。ただ気がついたら5時過ぎてただけで」

鈴谷「いやいやいや。あそこ入ったの夜の8時とか9時でしょ?」

五十鈴「そうね」

鈴谷「一体何したらそんなに時間経つの」

五十鈴「分かんないわよ。話してキスして抱き合ってたら朝になってたんだから」


大淀「……五十鈴さん、ちゃんとやったんですよね?」

五十鈴「やってなかったらこんなひどい声になってないわよ」

古鷹「えっ、ずっとそんなに激しくやってたの……?」

五十鈴「さすがにずっとじゃない……いや、声出してない時間のほうが短かったかも」

古鷹「う、うわあ……///」

榛名「すごい……///」

鈴谷「さすがに引くわー……」

五十鈴「よってたかって聞いてきたくせにひどくない?」

雷「でも、そもそも普通はどのくらいなのかしら」

電「大淀さんはどうだったのです?」

大淀「次の日が仕事というのもありましたけど、日付が変わる頃には寝ましたよ」

鈴谷「やっぱ五十鈴は溜まってたんだって」

五十鈴「そうなのかしら……」


大淀「そのうち落ち着くんじゃないですか?二人で並んで寝るのもいい気分ですよ」

古鷹「それに、好きな人の寝顔を見るのも悪くないよ」

雷「……古鷹さんの言葉、妙に説得力があるわね」

鈴谷「あれ?もしかして、実はもうやっちゃった感じ?」ニヤニヤ

古鷹「えっ!?う、ううん。そうじゃなくて、一回班長さんが深酔いして寝ちゃった時に膝枕しただけd」

榛名「膝枕したの!?」ガタッ

電「古鷹さん積極的なのです!」

古鷹「あっ……ごめん、今の忘れて……///」


榛名「どんな流れで膝枕したの?」

古鷹「えっと、班長さんが横になりたいって言ったから、それなら私の膝使ってくださいって」

五十鈴「班長さんはすぐ膝枕されたの?」

古鷹「うん。酔いが深かったからだと思うけど」

榛名「膝枕して喜んでもらえた??」

古鷹「う、うーん……起きた時にありがとうって言われたからこのぐらいならまたいつでもとは言いましたけど」

榛名「くぅぅぅうらやましい!私も膝枕したい!」バンバン

五十鈴「なんか榛名さんが大丈夫じゃないんだけど」

榛名「だって膝枕したいもん!」

鈴谷「榛名さんほとんど飲んでないのに酔ってない?」

大淀「恋すること自体、酔うようなものですからね。仕方ないです」クスクス


榛名「五十鈴は?膝枕したくないの?」

五十鈴「え?わ、私は……」

五十鈴(膝枕か……でも、隊長を膝枕するのも変な感じだし、そもそも胸が邪魔で見えなさそうよね)

五十鈴(逆に隊長に膝枕してもらう?それなら……あり、かも?今度頼んでみようかしらね)

鈴谷「ニヤニヤしちゃって、何考えてんの?」

五十鈴「な、なんでもないわよ」

大淀「そうそう。男性に膝枕してもらうのも気持ちいいですよ」

五十鈴「」ドキッ

雷「じゃあ隊長が五十鈴さんのことを膝枕するのね!……あんまりイメージできないけど」

電「膝枕されてる五十鈴さん、見てみたいのです」キラキラ

五十鈴「み、見なくていいわよ」

ワイワイ


一週間後

五十鈴「みたいな感じだったわ」

憲兵「恋愛話が好きなのは人間も艦娘も変わらんか」フフッ

五十鈴「女の体と心持ったら、まあそうなるわよね」カタスクメ

五十鈴「というわけで……」ジー

憲兵「な、なんだ」

五十鈴「なんだと思う?」ニッ

憲兵「あー……そうだな。構わないぞ」ポンポン

五十鈴「ふふっ。ありがと」ポスッ

憲兵「寝心地はどうだ?」

五十鈴「さすがに結構固いわね」

憲兵「職業柄だ。残念だがこれで妥協してくれ」

五十鈴「残念なんて言ってないじゃない。私は好きよ」スリスリ

憲兵「そ、そうか……」ポリポリ

五十鈴「あー……幸せ」

憲兵「ああ……幸せだな」フッ


五十鈴「……ねえ」

憲兵「ん?」

五十鈴「私たち、こんなふうに幸せになっていいのかしらね」

憲兵「気にかかるか?」

五十鈴「ちょっとね」

憲兵「そうか」

五十鈴「真面目な話、あなたはどう考えてるの?」

憲兵「そうだな……」

憲兵「私たちは軍人だから、ある程度私生活が犠牲になるのは致し方ないことだ」

憲兵「それでも、任務に支障がなく他人に迷惑をかけない範囲内なら幸せを手にしても問題はないだろう。士気も上がるしな」

五十鈴「そう言ってくれて安心したわ」フフッ

憲兵「なら良かった」フッ


憲兵「それに」

五十鈴「それに?」

憲兵「こうなった以上、私たちがちゃんと幸せを掴んでおかんと、他の連中がやりにくいだろう?」ニッ

五十鈴「それもそうね」ニッ

五十鈴「じゃあ……もっと幸せになっちゃう?」ムクッ

憲兵「そうだな。あいつらのためにも幸せになっておいてやらんと。仕方ない仕方ない」フフッ

五十鈴「その割には嬉しそうね」ニコニコ

憲兵「嬉しいからな」ニコッ


憲兵「五十鈴……愛している」

五十鈴「ありがとう。私も、愛しているわ」ギュッ

憲兵「ありがとう」ギュッ




チュッ


以上でこの物語はおしまいです。お楽しみいただけましたでしょうか。


以下、過去作です。

高雄「賑やかな執務室」
高雄「賑やかな執務室」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527074369/)

【艦これ】高雄「大規模作戦を越えて」
【艦これ】高雄「大規模作戦を越えて」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531139090/)

【艦これ】高雄「秋の日々は混乱のうちに」
【艦これ】高雄「秋の日々は混乱のうちに」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1543204477/)

【艦これ】高雄「クリスマス」
【艦これ】高雄「クリスマス」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1545549292/)

(以上四作セット。未読の方は上から順に読むのがお勧め)

【艦これ】衣笠「指輪の行方」
【艦これ】衣笠「指輪の行方」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1547568374/)


例によって次回作の予定はありません。
が、オチまでたどり着ければ投稿したい話はいくつかあるので、完結の目途が立ったらまた投稿したいと思っています。その時はまたお会いしましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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