苗木「絶望裁き?」(20)
「…ぎ」
苗木「zzz」
「…えぎ」
苗木「ぅ~ん…」ムニャムニャ
「苗木!」
苗木「はっ!」パチッ
苗木「ここは…?」
苗木(教室…窓から西陽が差してる…)
苗木(そうか、ボク放課後まで寝ちゃってたんだ)
朝日奈「あ、やっと起きた!もうみんな帰っちゃったよ~」
苗木「朝日奈さん!待っててくれたの?」
朝日奈「そりゃそうだよ!一緒に食堂でドーナツ食べに行く約束したんだしさ」
苗木「あれ?」
苗木(そうだっけ?)
苗木(…なぜか思い出せない)
朝日奈「その顔!苗木ったら寝ぼけてるの?もう、しっかりしてよね!」
苗木「ご、ごめん」
朝日奈「さ、早く行こっ」ダッ
苗木「あっ待ってよ朝日奈さん!速いよ!」ガタッ
朝日奈「ド~ナッツ♪ド~ナッツ♪」ルンルン
苗木「相変わらずだね朝日奈さんは」
朝日奈「苗木と約束した後はドーナツの事ばっかり考えてたからね♪授業もほとんど手につかなかったよ~」テヘヘ
苗木「そ、それは流石にいかがなものかと…」
朝日奈「む!そういう苗木だって居眠りしてたじゃん!」ビシッ
苗木「あはは…そうだったね」
朝日奈「ずいぶんぐっすり寝てたよね。なんとか呼びかけても起きなかったし」
朝日奈「ムニャムニャ寝言みたいなの言ってたし、なんかニヤニヤ笑ってるかと思ったら今度は苦しそうにしてたり、なんか表情豊かだったよ!」
苗木「え、そんなことになってたのボク!?恥ずかしいな…」
朝日奈「ねぇねぇ、なんの夢みてたの?」
苗木「ゆ、夢かぁ…」
苗木(……ダメだ、さっぱり思い出せない)
苗木「う~ん、思い出せないや。特になにも見てなかったんじゃないかな?」
朝日奈「え~~!?」
朝日奈「そんなわけないよ!苗木ぜっったい夢見てたって!!」
苗木「え」
朝日奈「よく思い出してよ!気になるじゃん!」
苗木「そ、そう言われても…」
苗木(ダメだ、やっぱり思い出せない)
苗木「覚えてないもんは覚えてない、かな…」
朝日奈「…もしかして、隠してない?」ジロッ
苗木「えぇ!?」
朝日奈「なんか隠したいことがあるんでしょ?絶対そうだよ!」
朝日奈「私に言えないような後ろめたい夢だったりするの!?」
苗木「いやいや!本当だって!」
朝日奈「あ~や~し~い~」ジ-ッ
苗木(どうしちゃったの朝日奈さん!?)
苗木(なんか怖いし話題をそらさないと…!)
苗木「ほ、ほら、ボクの夢なんかよりさ、早くドーナツ食べに行こうよ!ね?」
朝日奈「今はこっちの方が大事なの!」プンスコ
苗木(まさかドーナツにも勝ろうとは!)
苗木「どうしよう」
石丸「そこ!なにを騒いでいるのかね!」
苗木「石丸クン!」
石丸「む?苗木くんに朝日奈くん!校内見回りのために通りかかってみれば…君達が揉め事とは珍しいな。なにがあったか僕に話してみたまえ!」
苗木「そ、それが…かくかくしかじかで…」
石丸「ふむふむ」
石丸「それは朝日奈くんに非があるぞ!」
朝日奈「え~!」
石丸「見ていない夢を教えろというのも無理な話だ。苗木くんが困惑してしまうだろう」
朝日奈「むむむ…」
石丸「良い高校生が夢を見ただの見てないだので言い争うとは情けないぞ!少し頭を冷やしたまえ!」
朝日奈「わ、わかったよ」ショボ-ン
朝日奈「今日はもう帰るね…」トボトボ
苗木「あそこまで言わなくても」
石丸「ときに厳しく言いつけることも必要だろう。クラスメイトだからといって手加減していては示しが付かんからな!」
苗木「そ、そういうものなのかな。でもありがとう石丸クン、助かったよ」
石丸「はっはっは!礼には及ばないさ!ところで…」
石丸「本当のところ、どんな夢を見ていたのかね?」
苗木「…え?」
石丸「もう隠さなくても大丈夫だぞ!」
苗木「えーと、あの…」
石丸「一般の生徒になら話しづらいこともあるだろうが、僕は風紀委員。相談事の守秘義務はしっかりと守る!だから包み隠さず僕に言ってみたまえ!だいたい、ここまで聞いたら気になるじゃあないか!」
苗木「だから、覚えてないんだってば!石丸クンもさっき言ってたけど覚えてないものを教えろだなんて無理だよ!」
石丸「むっ!?黙秘する気かね!?」
苗木「いや黙秘って」
石丸「ぐっ…ぐぬぬぬ…悔しい!悔しいぞ苗木くん!!うぉおおおおお!!ドバアアア
苗木「な、泣いてる!?」
石丸「僕はッ…僕はクラスメイトの信頼すら得ることができていなかったのか!?夢の内容すら打ち明けられないなんて…なにが超高校級の風紀委員だッ…己が情けないッ!!」
苗木「あまりに大袈裟だよ!落ち着いてよ!」
石丸「くっ…こうなったら…!もう、希望ヶ峰学園を辞めるしかない!」キッ
苗木「」
石丸「これから学園長に直談判してくる!!苗木くん!短い付き合いだったが…今までどうもありがとう!!」ダダッ
苗木「ちょっと!?待ってってば!」ダッ
苗木「くっ速い……誰か止めて!!」
十神「おいやかましいぞ」
苗木「十神クン!」
十神「フンッ!」ゲシッ
石丸「うぉあああ!?」スッテ-ン
ドンガラガッシャーン
石丸「」
苗木(掃除道具入れに突っ込んで気絶してる…)
苗木「なにも足払いしなくたって」
十神「…廊下を走るなといつも口煩く喚いている奴がなにごとだこれは」
苗木「か、かくかくしかじかで」
十神「夢の内容だと?」
十神「やはり貴様ら愚民の考えることは理解できんな。そんなものを知ってどうする」
苗木「いやぁ、ボクにもさっぱり。なんで2人してあんなに興奮してたんだか……っていうか石丸クンを保健室に運ばないと!」
十神「放っておけばいいだろう。自業自得極まりない」
苗木「そうも言ってられないよ!よいしょっと」グイッ
苗木「くっ…重いな…」フラフラ
十神「チッ…貴様のお人好しは見ていて不愉快だ」グイッ
苗木「あ、ありがとう」
罪木「大丈夫ですよぉ!このくらいなら、明日には元気になってます!」
苗木「本当ですか!?ありがとうございます!」ペコッ
十神「おい終わったか?さっさと帰るぞ」
苗木「十神クンは…本を持っているあたり、図書室からの帰りかな?」
十神「あぁそうだ。ここには俺から見ても珍しい本が揃っていてな、それなりに興味深い」
苗木「へぇ~。やっぱり政府公認の学園ともなると違うもんなんだね」
十神「その有意義な読書に水を差すような騒ぎ声が聞こえてきたから来てやったのだ」
苗木「そ、そっか」
苗木(と言ってる間に十神クンの部屋の前に着いた)
苗木「とにかく、ありがとう十神クン!じゃあボクはこれで…」
グイッ
苗木「グェッ!?」
十神「待て。話さないまま帰るつもりか」
苗木「ゲホッ…な、なにを…」
十神「決まっているだろう」
十神「貴様が見た夢の話だ」
苗木「ッ…十神クンまで!?」
十神「ここではなんだ。俺の部屋に入れ」ゲシッ
苗木「わぁ!!」ドテッ
苗木「いててて…さ、さっきから手荒すぎない!?」
十神「さて、話を戻すか」
十神「…いつもなら愚民が見た夢など気にも留めないんだがな…なぜか今日は知りたくて仕方がない」
十神「今はミレニアム懸賞問題より、図書室にある珍しい書物の数々より…貴様の夢の方が興味深い」
苗木(お、おかしい…さっきからクラスメイトのみんながおかしいぞ!?)
十神「実に腹立たしいな」
十神「超高校級の完璧であるこの俺が、愚民の中でも特に平々凡々たる貴様の、それも夢ごときに惹かれるなどあってはならないんだがな」ギロッ
苗木「ヒエッ…そ、そんなこと言われても!」
十神「というわけで俺は今すこぶる機嫌が悪い。さっさと話せば、なにごともなく帰れるぞ」
苗木(どうすればいい!?これまでの例からして十神クンもおそらく今はまともじゃない!切り抜けられるならいっそ適当にでっち上げるか?にしたってどんな内容を…)
十神「フン。やはり口を割らないつもりか」
十神「まぁいい。凡人1人、拷問にかけたくらいでどうということはない」
苗木「ご、拷問ン!?」
十神「ジェノサイダーのやつから盗んでおいたこのハサミが御誂え向きだな。切れ味も申し分ない」シャキン
十神「俺を苛立たせた罰も兼ねて…まずは指を3本ほど切り落としておこうか」
苗木「あわわわわ…」
苗木(まずいまずいまずい!!逃げないと…)
苗木(!!)
苗木(ドアが閉め忘れて半開きになってる!今だ!)ダッ
十神「しまった!?」
十神「おい、待て!!」ダダッ
十神「クソッどこへ行った!?」キョロキョロ
苗木「はぁっはぁっ」
苗木(なんとか空き教室に飛び込んで…机の陰に隠れられたけど…)
苗木(よく考えたらそのまま自分の部屋に逃げ帰ったらよかったな…)
十神「どこに行った苗木ィ!?四肢を切り落としてやる!出てこい!!」
苗木(なんのホラーゲームだよ)
江ノ島「ちょっと十神~、さっきから廊下でなに騒いでんのさ」
苗木(江ノ島さん!?)
十神「…江ノ島か」
十神「苗木を見なかったか?用があって探している」
江ノ島「苗木ィ?授業終わってからは見てないけど…なんでまた?」
十神「チッ、ならば帰れ。貴様に構っている暇はない」
江ノ島「…十神さ、ずいぶん物騒なもの持ってるんだね」
江ノ島「上着の内ポケットに隠してるそれ、あの殺人鬼が使ってるハサミでしょ?」
十神「!?」
江ノ島「あははは!図星?」
江ノ島「そんなアブないもん隠し持ってる奴が可愛いと評判の苗木きゅんに何の用なのかな~?なんてね」ウププ
十神「……」ギロッ
江ノ島「そう怖い顔で睨みなさんなって!なんで探し回ってるのか教えてくれたら協力してやってもいいよ」
苗木(!?)
十神「フン、いいだろう」
十神「こういうわけだ」
江ノ島「ふーん。夢ねぇ~」
十神「さあ教えてやったぞ。ここからは手分けして苗木の場所を…」
江ノ島「そこの空き教室」
十神「なに?」
江ノ島「さっき通りかかったときよりいくつか机の角度がズレてる。特にあの端っこのところ」
十神「ほう…」ガラッ スタスタスタ ガンッ
苗木「あ、うぅ…」ズリズリ
十神「はっはっは。貴様、愚民にしてはなかなかの観察力を持っているようだな」
江ノ島「えへへ~すごいでしょ~」
苗木(お、終わった…)
十神「さぁ罰を受けてもらうぞ苗、ぎ、、よ……?」バタンッ
苗木「……え?」
戦刃「とりあえず気絶させたけど…これでいいの?」
江ノ島「ナイスおねぇちゃん!」
苗木「い、戦刃さん!?」
戦刃「あ!苗木くんこんにちは」ペコリ
苗木「えっ?こ、こんにちは…」ペコリ
江ノ島「なにやってんのあんたら」
苗木「それはこっちのセリフだよ!」
江ノ島「いや~通りかかってみたら十神がお目目ギンギンでヤバそうだったからさ。とりあえず私が話を聞きつつ、残姉ちゃんに隙を伺わせてたんだよね~」
苗木「そっか、2人ともたまたま通りかかったんだね」
苗木「助かったよ!本当にありがとう!!必ずこのお礼はするから…」
戦刃「そんな、お礼なんていいよ…」
江ノ島「そーそー!私らクラスメイトじゃん?お互い様だって!」ニカッ
苗木「戦刃さん…江ノ島さん…」ジ-ン
江ノ島「それにさ~」
ガクッ
苗木(あ……れ…?)
苗木(いし、き、が…)
江ノ島「私らも聞きたいし!」
戦刃「夢の話」
苗木「あ……う…?どこだ、ここ…」
ガッシャン
江ノ島「あっ苗木起きた~?」
ガッシャン
苗木(椅子?に座ったまま動けない…ここは教室…じゃないな。床がベルトコンベアーになってるのか、後ろへ流れてる…)
ガッシャン
苗木「というかこの規則的な轟音は一体」
ガッシャン
苗木(…ッ!!?後ろにあるアレは…プレス機!?)
江ノ島「あははは!なかなかのサプライズでしょー??」
苗木「え、え、江ノ島さん!?これはどういう!?」
江ノ島「さっきも言ったでしょ?十神が話してるの聞いてて、私様も気になっちゃったわけよ、あんたが見た夢。
江ノ島「これ例の計画のために作らせたマシンだからさ、本当はあんまり起動させたくないんだけどね。壊れたら面倒だし」
戦刃「でもやっちゃうんだね。盾子ちゃんったら、お姉ちゃんより残念かもしれないね!」ドヤッ
江ノ島「うるせぇワラジ虫が!」ゲシッ
戦刃「あぐぅ!」
ガッシャン
苗木「なっ…!?だから、覚えてないし、そもそも夢を見たかもわからないんだって!!」
ガッシャン
江ノ島「またまた~そういうこと言っちゃう~」
苗木「本当だってば!!」
戦刃「強情だなぁ」
ガッシャン
江ノ島「ほらほら、早く言わないとミンチ肉にされて食堂で提供されちゃうぞ~?」
苗木「なんなんだよ…なんなんだよこれ!?」
ガッシャン
戦刃「顔が真っ赤になったり真っ青になったり…そんな苗木くんもかわいいなぁ」ニコニコ
江ノ島「あああぁぁ~死を目前にしたその表情…やっぱりサイコーだわぁ!苗木ィ、夢のこと吐いても吐かなくてもいいわよ!!どっちにしても美味しすぎるから!!」ジュルリ
苗木「ちょっと、まっ……言うよ!言うから!」
ガッシャン
ガッシャン!!
ぐちゃっ
「…ぇぎくん」
苗木「ぅ~ん…い、嫌だ…」ムニャムニャ
「…えぎくん」
苗木「ミンチは…ミンチはやめてぇ…」ムニャムニャ
「苗木君!」
苗木「はっ!」パチッ
苗木「こ、ここは…?」
舞園「あ、起きましたね苗木君!」
苗木「ま、舞園さん!」
苗木(教室…窓から西陽が差してる…)
苗木(そうか、ボク放課後まで寝ちゃってたんだ)
苗木「待っててくれてたの?」
舞園「えぇ、ずいぶんうなされてたようだったので、心配で…」
苗木「うなされてた…ってボクが?」
舞園「はい…とても苦しそうでした」
舞園「苗木君」
舞園「いったいどんな夢を見てたんですか?」
おわり
元ネタは古典落語の「天狗裁き」
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