【たぬき】早坂美玲「ウチの七日間妖怪戦争」 (136)


 モバマスより早坂美玲と小日向美穂(たぬき)達のSSです。
 独自解釈、ファンタジー要素、一部アイドルの人外設定などありますためご注意ください。


 前作です↓
【たぬき】小日向美穂「お弁当戦線異状なし」
【たぬき】小日向美穂「お弁当戦線異状なし」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530984089/)

 最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
小日向美穂「こひなたぬき」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1531413482



 夏だった。


 どこもかしこもバカみたいに暑くて、新幹線から降りるなりウンザリだ。
 セミがミンミン鳴いてる。その鳴き声にまでも熱があるような気がした。

 東京。

 ヤツはここにいる。


「――よしッ」

 ふん、と気合を入れ直す。


 ウチは、ここに遊びに来たんじゃない。

 戦いに来たんだッ。



  ◆◆◆◆


  ―― 7月某日 事務所


P「事務所のエアコン蛾物故割れた」

周子「のっけからバグっとるやないかい」

P「のうみそがゆだる」

ちひろ「お決まりの展開ですねー」

P「あぁあぁあぁ! 暑い! 暑すぎる!! 空調の整備もできんで何がクールビズか!!」

楓「プロデューサー。クールビズというのは、暑い夏の日にぐいっとビールを一気飲みすることですよ」

P「それはビールクズです戻してきなさい」

楓「あら、いいんですか? 冷凍庫で凍る寸前まで冷やした缶ビール……」ピトッ

P「キンキンに冷えてやがる……っ」

P「……じゃない! ノー! ビールクズダメ!」

楓「あら残念♪」



美穂「ぽこ」タヌキ

紗枝「こん」キツネ

智絵里(グテー)ウサギ


P「あのキュートどうぶつトリオは揃って何してんの」

周子「冷たい床にべたーって伸びて涼をとってるんやって」

P「かわいいなおい」

P「はぁ……確か冷凍庫に買い置きのアイスがあったはず……」

周子「あゴメンあたしが今食べてるので最後だわ」ペロペロ

P「…………」

周子「……いる?」

P「それは色々と際どいのでいいです……」


 ミーン ミーン


P「あ゙づい゙」

周子「暑いねー……」

ちひろ「ですねぇ……」

楓「壊れたエアコンは、ホットけませんね……」



小梅「涼しくなる話、してあげよっか……」ニュッ

P「ぬおっ出たな夏の風物詩」

周子「あーいいかもしれんね怪談。お願いしていい?」

小梅「わかった……。それじゃあ――――」

 ~(怖い話)~

小梅「――――それでこの話を聞いた人のもとには三日以内に」

P「わかった! よくわかりました!! もういいッス!!」ゾワゾワゾワ

周子「ゾクゾク来るけど手加減してや! 夜眠れんくなるわ!!」オゾオゾオゾ

小梅「んぇへへ……♡」


P「は~ぁ……仕事すっかぁ」

ちひろ「そうしてください」

P「…………………………」

P「あっちぃ! 汗が! 汗がダダ洩れるッ!」

ちひろ「んもー。そうやって暑い暑い言うから余計暑くなっちゃうんじゃないですか」

P「ちひろさんそのUSB扇風機俺にも貸してください」

ちひろ「いーやーでーす。買えばいいじゃないですか自分で」


 ミーン ミーン



   〇


  ガチャ

アーニャ「ドーブラエ・ウートラ……おはようござ」


P「アーニャぁぁああああああああ!!!」

アーニャ「シトー? ど、どうしましたか、プロデューサー?」

P「アーニャ! 頼む! 後生だ! この通り!」

周子「神様仏様雪娘様!!」

ちひろ「このままじゃ仕事ができないんです!」

楓「クールにしてくれる子が来ーるー♪」

美穂「ぽこー!」

紗枝「こーん!」

智絵里(シュバババババババババババババ)



  ひんやり~


P「オォウ……天国ゥ……」

美穂「涼しいですねぇ~……」

アーニャ「おカゲン、いかがですか?」

周子「ちょうどいぃ~ん……さいこぉ~……」

紗枝「極楽とはこのことやなぁ~……」

小梅「わぁ……きもちいい……♡」

智絵里「生き返った気分です……♪」


ちひろ「ごめんなさいねアーニャちゃん、エアコンが壊れちゃったばっかりに……」

アーニャ「ニェット、謝らないでください。みんなの役に立ててとっても、嬉しいですね♪」

楓「アーニャちゃん、前より力を制御できてるようになってますね」

アーニャ「ダー! シキの家で、たくさんプラクティカ……練習、しました!」

P「アーニャは志希んちに居候してるからな。どうあいつ? ちゃんと家いる?」

アーニャ「アー、今朝、思い付きで一人でオキナワに行きました」

P「連絡つかねぇと思ったら!!」



P「しかしアーニャ様々だなぁ。めちゃくちゃありがたいよ」

アーニャ「フフッ。そんなに褒められると、アーニャ浮かれてしまいます……♪」

P「いやいや、ほんとほんと。しかも完璧に力をセーブできてるじゃないか」

アーニャ「ダー! いっぱいがんばりましたっ」ヒュオオ

P「よっ、氷属性! カッコいい! 美人! 最高!」

アーニャ「ウフフフッ、プロデューサーはお上手ですねっ」ヒョオオオオ


P「」カチコチーン


美穂「プロデューサーさーんっ!!?」

小梅「わぁああ……『シャイニング』の最後のジャック・ニコルソンみたい……!」キラキラ

アーニャ「アア……ッ! イズヴィニーチェ! ついやりすぎてしまいました……!」


周子「テンション上がると出力も上がるんやなやっぱ」

智絵里「ふ、冬ごもりしちゃいそうですぅ……」



   〇


P「お湯かけたら戻った」

周子「プロデューサーさんもだいぶ人間離れしてきてない?」

P「そんなことはないぞ。啓蒙だって低い」

こずえ「のうにひとみをー……」

P「今こずえいなかった?」

美穂「? こずえちゃんだったら、寮でお昼寝してましたけど」


周子「しっかし、エアコンが壊れたからアーニャちゃんの力に頼る、とは……」

ちひろ「いよいよ非日常が日常って感じになってますねー」

紗枝「ええやない。うちらにとってはこれが当たり前どす~♪」コンコン



 プルルルル プルルルルル


ちひろ「あら内線。はい、こちら第〇〇芸能課」

ちひろ「はい。……はい? え? はぁ、わかりました……」

P「なんですか?」

ちひろ「ええと……プロデューサーさんに、お客様が来てるそうなんですが」

P「客?」

ちひろ「アポありました?」

P「いや全然」

ちひろ「ですよねぇ」



   〇


  ―― エントランス


??「…………」


P「…………えーと」

??「ふ~~ん……」ジロジロ

P「あのー」

??「なんだ。フツーの人間じゃんかッ」

P「あたりめーだ。啓蒙もゼロだわ」

こずえ「ちをおそれたまえー……」

P「ねえやっぱりこずえいない?」


P「って違う、そもそも誰だ君。どっかで会った?」

??「ふんッ。オマエみたいな冴えないオッサン、ウチが知るもんか」

P「それじゃますます何なんだよ……」



   〇


  ―― 物陰


美穂「誰なんだろ、あの子……」

周子「ずいぶんパンキッシュな子が来たねぇ」

紗枝「またぞろ、プロデューサーはんがどこかで引っ掛けてきた子なんちゃいます?」

周子「言い方」


小梅「………………」


美穂「小梅ちゃん?」

小梅「あの目……」

美穂「目? 目がどうかしたの?」


周子「てか、エントランスなのに静かすぎない? あの子とプロデューサーさんの二人しかおらんやん」

紗枝「……これは……人払いのまじないやろか?」

美穂「え? まじないってどういう――」



   〇


P「えーっとアイドル志望の子かな? それなら後日ちゃんと審査するから、相応の手順をだね」

??「はぁ? アイドルぅ? 何言ってんだよ、ウチがアイドルとかありえないだろ」

??「って、そんなことどうでもいいんだよッ。オマエに聞きたいことがある!」ビシッ

P「はぁ」

??「オマエんとこに女がいるだろ」

P「アイドルなら多数在籍しておりますですよ」

??「そういうことじゃないッ。最近、宮城から来た女だッ!」

P「宮城? それって――」


  ウイーン


まゆ「あら? 人が少ないですねぇ……」

まゆ「あ♡ おはようございます、プロデューサーさ――」



??「いた……! おい、オマエッ!!」

まゆ「え?」

??「ようやく見つけたぞッ。ここで会ったが百年目だ――佐久間の蚕娘ッ!!」

P(まゆの正体を……!?)

まゆ「……」

??「宮城から追ってきたんだ! ウチのこと、知らないとは言わせないぞッ!」

まゆ「…………えぇと。すみません、どちら様でしょうかぁ?」キョトン

??「ずこーーーッ!!」

P(古典的にずっこけた!)

??「な、な、な……ッ!!」

まゆ「えぇとごめんなさい。まゆ、仙台にいた頃はあんまり人に興味がなくって……」

??「う、うぅう……」


美玲「美玲だ! 早坂美玲ッ!!」


まゆ「早坂――」

美玲「もういい、話は終わりだ! 行くぞッ!」



  ザワ ザワ ザワ
   ワイ  ワイ


美玲「!?」

P「人が集まってきた……」

美玲「な、なんでだ!? 人払いの結界は張ってるのに……っ」


周子「――それってこれのことー?」ヒラヒラ

美玲「あ、それ……!」

周子「周りの壁に貼ってあったけど。てかシールなんだ。こういうのって普通お札じゃない?」

美玲「か、返せッ! ウチのだッ!」

周子「はい高い高ーい」ノビー

美玲「ああっこのっ、ずるいぞッ!」ピョンピョンピョンピョン



P「…………えーっと。知り合い?」

まゆ「では、ないんですけど……」

まゆ(早坂は、確か……)

P「早坂さんだったかな。とにかく、ちょっと話をしてみるってわけにはいかないか?」


美玲「…………ふん、わかったよッ」

美玲「オマエら、そいつに誑かされてるみたいだからな。目を覚ましてやるッ」

まゆ「どっちかっていうと、まゆの方が誑し込まれちゃったんですけど……///」

P「人聞きの悪いこと言わない」ホッペプニ

まゆ「ひゃんっ♡」



  ◆◆◆◆


 ……そう。ウチは遊びに来たんじゃない、戦いに来たんだ。

 悪い奴は絶対にやっつけてやる。どんな相手にも負けるもんかッ。

 って思って、ここまで来たけど――――


  ◆◆◆◆



美玲「……」

アーニャ「チャーイ……お茶、ぬるかったら言ってください。すぐに冷やし直しますから」カチャ

美玲「…………」

芳乃「おせんべいをどうぞー」

美玲「………………」

うえきちゃん(…………)

美玲「……………………」

ひまわり星人(…………………………)


美玲「どーゆーことだこれはーッ!!」ウガーッ!!


P「わぁ!? な、何が!?」



美玲「何がもナマハゲもあるかッ!! なんで同じとこに――」

美玲「化け狸とッ!」

美穂「ぽこ!?」

美玲「化け狐とッ!」

紗枝「こんこ~ん♪」

美玲「化け兎とッ!」

智絵里(・x・)

美玲「あとなんだ、雪女か!?」

アーニャ「ニェット、少し違いますね? アーニャ、ドゥフ……精霊の、孫です」

美玲「あとあと……なんか、この、なんなんだこいつらは!!」

ひまわり星人(ニョロニョロニョロニョロニョロ)

うえきちゃん(シパシパシパシパシパシパ)



美玲「どんな人外魔境だよ! 恐山か何かかここは!?」

P「東京の普通のアイドルプロダクションです……」

美玲「ンなワケあるかぁーッ!!」ガオーッ!!

P「ふぇぇ……」

ちひろ「思わぬところで常識的ツッコミを喰らっちゃいましたね……」

美玲「大体オマエらは何なんだ!? なんでこんなとこにいてヘーキなんだよッ!?」

P「慣れ……ッスかね……」

ちひろ「一応凡人のつもりなんですけどね私達」



芳乃「ふむー。驚かれるのも、無理からぬことでしょうー」

楓「問題はあなたが何者で、どうしてここに来たのか。ということですね」

美玲「はぁ、はぁ……そんなの決まってるだろッ」





美玲「ウチは……コイツらみたいな妖怪を、祓いに来たんだッ!!」





P「祓う!?」

紗枝「それはまた、思い切りのええことどすなぁ」

まゆ「……じゃあ、やっぱり……あなたが早坂家の当代なんですねぇ」

美玲「当代? ……ふん、家のことなんか知らないモン。ウチは自分で決めてここに来たんだッ」

美穂「ちょちょちょ、ちょっと待って! は、祓うってそんなっ! 私達は悪いことなんて――」

美玲「うっさい、てい!」ペタシ

美穂「ぽこーっ!?」ポンッ!

P「ああっ美穂の変化が解けた!?」

周子「おでこにシール貼っただけで!?」

美穂「ぽっぽこ、ぽこ~っ!」サササッ

P「おおよしよし。今おでこのシール剥がして……あ、これ毛ぇちょっと抜けるな」

美穂「ぽん!?」フルフルフル


まゆ「……両親に言われたことがあります。早坂の者には気を付けろって」

まゆ「早坂家は退魔の家系。目を付けられれば祓いに来る、と……」


周子(蘭子ちゃん大喜び案件やん!)

P(この場にいなくて良かったのやら悪かったのやら……)



楓「宮城の早坂といえば、源氏に起源を持つ退魔師ですね。代々、仙術や妖術を巧みに操るといいます」

芳乃「宮城と山形にはー、蔵王山を修験の場とする山伏の血族が多くあると聞き及んでおりまするー」

芳乃「それらが分派し、降魔の術を究めし家が生まれるもまた、自然のなりゆきかとー」

楓「刈田嶺には蔵王権現様が祀られていました。元はきっとそれを御本尊とする流派でしょう」



ちひろ(……わかります?)

P(ぜんぜんわからん)

周子(京の晴明公みたいなもんかいな)

紗枝(蔵王権現像いうたら、今は奈良にありましたなぁ)

智絵里(奈良にも凄い人がいるって聞いたことがあります……こわい)フルフル



楓「それなりに長い家筋でしょうけど、こんなにお洒落で可愛い女の子がそうだというのは意外ですね」

美玲「おしゃれ……」ニヘッ

美玲「って違う! なんだよ、やけに詳しいな。どこのどいつだッ?」

楓「あ、申し遅れましたね。私は高垣楓といいます」

芳乃「わたくし依田は芳乃でしてー」

美玲「ヨリタ……ひょっとして鹿児島の依田か? なんか聞いたことあるぞ」

芳乃「大したことはありませぬー。ただの巫でしてー」

美玲「……タカガキは知らない。なんだオマエッ」

楓「それはそうでしょう。私はただの一般人なので♪」


周子「しっかし、見た目全然そんな感じに思えないんやけど」

P「ともかく……美穂、じっとしてろよ」ペリペリ

美穂「くーん……」ペリペリ

  ポンッ!

P「剥がれた!」



美穂「ぷはっ! ま、まさかシールにこんな力があるなんて……」

芳乃「ほー……よく見れば、確かに相応の妖力が込められておりまするー」

楓「あ、ひょっとして封印(シール)とかけてます?」

P「なんで嬉しそうなんですか」

美玲「どうだッ。ウチなりのアレンジだ!」

美玲「お札バサバサとか数珠ジャラジャラとかホラ貝ぶおおおおとか、今どきダサすぎてやってらんないからなッ」


芳乃「」ガビーン


周子「芳乃ちゃんに流れ弾が!?」

美穂「すごいショック受けてる!?」

芳乃「法螺貝は、なういのではないのでして……?」

美穂「そ、そんなことないよ! すっごくイケてるよ!」

周子「ナウいも化石レベルの死語やけどね」


芳乃「」ガビガビーーン


美穂「しゅ、周子ちゃん~!」

周子「あ、ごめんつい……」



美玲「――さて、もういいだろ」


  ダンッ!


美玲「話は終わりだ! オマエらみんな祓ってやるから、そこになおれッ!!」

P「そっかー……え!? 今から!?」

美玲「当たり前だッ! 佐久間の娘が宮城を出たっていうから、どこで何をしてるのかと思えば……」

美玲「まさかこんな伏魔殿で群れてたなんてなッ。どうせロクでもないこと企んでたに決まってるんだ!」

まゆ「…………」

美穂「そんな、まゆちゃんは悪いことなんて……!」

美玲「問答無用ッ! まとめて片付けてやるッ!!」バサァッ


楓「……そうですか」

P「まずい! みんな伏せっ――――」


  シュルルルルッ




  ニョロニョロニョロニョロニョロニョロ


美玲「な!? のわぁぁぁああああーーーーーーッッ!!?」

うえきちゃん(シュルシュルシュルシュルシュルシュル)

ひまわり星人(ウニョウニョウニョウニョウニョウニョ)

まゆ「あら、触手……」

ちひろ「あ、ごめんなさい。手持ち無沙汰だったんで、ついついお水あげすぎちゃいました」

P「やったぜちひろさん有能!」

美玲「んなッ、このッ、離せよッ! なんなんだコイツらッ!?」

P「花屋さんから買ったから多分花」

美玲「そんなワケな、あっちょっ、やめッ! くっくすぐった! ひゃひッ!? どどどどこ触ってんだぁッ!!」


 ウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネ……



   〇


美玲「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」グッタリ


P「退魔師も変な花には相性が悪かったようだな」

ちひろ「思いっきり不意打ちでしたしね」

うえきちゃん(♡)

ひまわり星人(♪)

智絵里(;・x・)


まゆ「美玲ちゃん……あなたの言いたいことはわかります。でもまゆは……」

美玲「う……うるさい近寄るなッ! 今日は不覚を取ったけど、次は絶対負けないぞ!」


美玲「オマエら全員祓うまで諦めないからなッ! 首洗って待ってろーーーッ!!」


  タタタタタタ……


美穂「……行っちゃった」




  ……タタタタタッ


P「あ、戻ってきた」

美玲「この辺にしばらく泊まれるとこ無いか?」

P「そこノープランなの!!?」

美玲「うるさいッ」

まゆ「驚きの体当たりっぷりですねぇ……」

P「お前が言うな」

まゆ「うふ♡」



P「えぇ~、でも飛び込みでこの辺だろ? しかも連泊?」スマホスマホ

P「……駄目だ全然無いぞ。どこも今日から埋まりまくりだ」

美玲「どっか無いのかよッ」

P「なぜ俺がホテルの検索を……お、あったあった。一拍のお値段こんなんですが」ゴージャスゥー

美玲「はぁ!? こっこっ、こんなに高いのか!? ウチ払えないぞ!」

美玲「帰りの新幹線代もあるし、動物園行きたいし、原宿にだって行くつもりだしッ!」

P「思ったより観光気分だった」

美玲「せっかくの夏休みだからなッ」フンス

美玲「……じゃない! じゃあウチどうすればいいんだ!? 野宿かッ!?」

P「うーん……あ、そうだ」


P「あのさ、この子寮に泊めてやってくんない?」



美穂「!?」

紗枝「あらぁ」

智絵里「ふぇっ」

美玲「……なッ!? りょ、寮ってコイツらが……!?」

P「うん。この子らが集まって暮らしてるとこ。芳乃、いいか?」

芳乃「よろしきかとー」


美穂(で、でもプロデューサーさん、危ないんじゃ……!)ヒソヒソッ

P(芳乃がいるから大丈夫だ。それに、これまでの会話でわかったけど――)

P(悪い子じゃない。少なくとも、寝首を掻くようなことはしないだろう)

美穂(それは……そうかもしれませんけど……)

P(突き放して放っておくわけにもいかない。お互い敵同士のまんまってのも嫌じゃないか)

美穂(……ですね。わかりましたっ)



美穂「ねえ美玲ちゃん、もし良かったらうちに来ない?」

美玲「な……う、ウチに敵のアジトまで来いっていうのか!?」

美穂「私達は敵じゃないよっ。寮のみんなも良い子ばっかりだし、ね、まゆちゃん?」

まゆ「……ええ、そうですねぇ。まゆが保証します」

まゆ(この子が何を考えてるのかは、そばにいないとわからない……)

周子「ま、ええんちゃう? 女の子一人を夏の東京にほっぽり出すわけにもいかんでしょ」

周子(どっかから襲撃されるよか、近くで見てるのが得策かねぇ)

小梅「私も……賛成……」

小梅(きっとその方がいいから……あなたも、そう思うでしょ……?)

あの子(コクコク)フヨフヨ

美玲「う……うるさい! その手には乗らないからな! 祓うぞ、封じるぞ、ひっかくぞッ!!」


  グゥ~


美玲「あ……」



P「……腹減ってんの?」

美玲「減ってないッ! ずっと探してたから何も食べてないなんてことないぞッ!」

ちひろ「語るに落ちまくりですね」

紗枝「せや、今日のお夕飯は何やったやろか?」

智絵里「えっと確か夏キャベツを使った冷しゃぶと、カレーコロッケ……ですよね、まゆちゃん」

まゆ「新鮮な夏野菜がたくさん買えましたからねぇ♪」

美玲「ううっ」ググゥ~

芳乃「美玲さんー……。お役目を持つ者として、あるいは譲れぬ一線もあるやもしれませぬがー」

芳乃「せめて夕餉の時は、互いに心穏やかでありたいものですー」

楓「ディナータイムは、敵味方無しでなー……ですね。ふふっ」


美玲「………………わかったよ」

美玲「オマエらが何企んでるのか、この目で見てやるッ」



  〇


  ―― しばらくして 女子寮


美玲「」


こずえ「おかえりー……」ヒョコッ

イヴ「お外、暑くありませんでしたか~?」

ブリッツェン「ブモフー」ブルルンッ

菜帆「冷たい麦茶がありますよ~♪」


美玲「」


みく「そのコが電話で言ってたお客さん?」

響子「いらっしゃい! 今からご飯作りますからねっ」

小梅「入って……大丈夫、みんな友達だから……」


美玲「ウ……ウチは……」

美玲「ウチは負けないッ! ゼッタイ負けないんだからなーーーーーッ!!」ウガーーーッ!!



   〇


  ―― 食堂


一同「いただきまーすっ!」

響子「はいっ、召し上がれ!」

まゆ「たくさん食べてくださいねぇ♡」

美穂「うん、おいしいっ! ……でも」


美玲「…………」ウー


みく「……すみっこでめっちゃ威嚇してるにゃ」

美穂「やっぱりまだ警戒してるのかなぁ……」


由愛「……」ガタッ

美玲「わ。な、なんだオマエ! 近付くなッ」

由愛「あの……これ、カレーコロッケです」スッ

由愛「カレー味で……新鮮なコーンとか、チーズも入ってるんです。おいしいですから……ね?」

美玲「ごくり……」

美玲「そ、そんなに言うなら……食べてやんないこともない」パクッ


美玲「!!!」



美玲「はむっ、はふはふッ、んふっ、もぐもぐもぐ……ごっくん!」

周子「おー、ええ食べっぷり」

美玲「なんだこれウマッ……あ、いやそのッ」

まゆ「うふ。それ、まゆが揚げたんです♪」

由愛「おなかすいてたんですよね。あの、まだたくさんあるから……」

由愛「良かったら……座って一緒に食べませんか?」

美玲「あ……えと……」


美玲「……う、ウン」


輝子「フヒ……どうぞお隣へ……」ガタッ

小梅「……♪」



  ◆◆◆◆


 誤算も誤算。大誤算だ。

 佐久間のヤツを追ってきたつもりなのに、アイツらときたらまるで百鬼夜行じゃないか。

 ……フン、でもいいさ。
 狙い通り(狙い通りだモン)敵の本距離に潜り込めたわけだしなッ。

 これからじっくりヤツらを監視してやる。何してんのかとか、弱点は何かとか……。
 あのうさんくさい事務所もいろいろ調べなきゃならなそうだし……やること尽くめだ。
 まあ、時間はたっぷりあるんだ。全部暴き出してやる。

 その後で改めて、正面からぶっ飛ばしてやるんだッ。

 全てはウチこそが一番カッコいい、最強の退魔師だってみんなに証明する為……。


 ――こうして、ウチの夏休みが始まった。


  ◆◆◆◆

 一旦切ります。

 限定美玲ちゃん引けませんでした(血涙)。



 【 一日目 】

  ―― 事務所


美玲「……」ジーッ

P「……」カタカタカタ

美玲「…………」ジーーーッ

P「後頭部にハチャメチャに視線を感じる……」

楓「ふふ。懐かれてしまいましたね」

美玲「なついてないッ」


美玲(一番よくわかんないのはコイツだ)

美玲(その……なんだっけ、プロデューサー? で、つまり、群れのアタマってことっぽい)

美玲(エラいヤツな筈なのに、全然ふつーのオッサンじゃないか)

美玲(一体何がどうなって、コイツのとこにあんだけのヤツらが集まったんだ……)


  ガチャ

莉嘉「いたっ! ねえねえ、美玲ちゃんだよね!?」

美玲「!?」



莉嘉「わーっかわいいー! みんなが言ってた通りだーっ!」

美玲「な、お、オマエ……!?」

莉嘉「この髪ってメッシュ!? ちょーカッコいいじゃん! あ、アタシのこれって地毛なんだー☆ いいっしょー!」

莉嘉「あっそうだ、ねえねえ凄いシール使えるってホント!? 見せて見せてっどんななのっ!?」

美玲「わわわっ、急になんだよッ! ウチの法具に勝手に触んなってば!」

美嘉「こーら、莉嘉。美玲ちゃん困ってるでしょ」


美玲「!!」バババッ


美嘉「わっ、とと……いやいや、別に何かしようってんじゃないってば」

美玲「オマエら、混ざりモノだな。どっから来た? 外国か?」

美嘉「ん~~~。そういう話がしたいんじゃなくて……」

美嘉「それ、ガルモンでしょ?」

美玲「へっ」キョトン



美嘉「今人気上昇中って感じのパンクブランドだよね。似合ってんじゃん★」

美玲「え、あ、え」

莉嘉「原宿にショップあるよね? アタシも気になってたんだー!」

美玲「あ……そ、そうなんだッ。地元にお店がなくて、だから通販に頼るしかなくて……」

美嘉「でも現物見ないとわかりにくいこともあるもんねー。サイズ感とか、シルエットとかさ」

美玲「そうッ! ウチもそれで何回か失敗して……!」

莉嘉「わかるー! なんか思ってたのと違ーう! ってなるよね!」

美嘉「それに、パンクってアクが強くて難しいじゃん? なのにばっちりキマってるし! 凄いじゃん!」

美玲「キマっ……あ……ほ、ホントか? へへへ……」テレテレ

莉嘉「ねえねえいつまでこっちいられるの? 今度アタシと原宿回ろーよー!」

美玲「う、ウン。しばらくはいるから……はっ」

P「……」ニヤニヤ

楓「……」ニヤニヤ

美玲「な、なに見てんだよッ! ニヤニヤすんなッ!!」



 【 二日目 】

  ―― 女子寮 リビング


美玲「ふう。今日もあっついな……」

??(……)ジーッ

美玲「?」

??(…………)ジーッ

美玲「な、なんか後頭部に視線が……」

美玲「誰だ!? こそこそしてないで出てこいよなッ」


蘭子「!」ピコーン


美玲「えっとオマエは確か……」

蘭子「クックックッ……我が名を知りたいと申すか」

蘭子「ならば答えよう――我は神崎蘭子! この地に堕天せし悪姫にして、闇を統べる魔界の王なるぞっ!」ジャジャーン

美玲「……。いやオマエ人間だろ」

蘭子「ぴぇっ」ガビーン



蘭子「こ……こほんっ。聞けば汝は、闇に潜む魔物を祓う『異能者』のようだが……」

美玲「異能? ああ、言いようによってはまあ……」

蘭子「……!」ズズイッ

美玲「って近ッ! なんだよいきなり!?」

蘭子「……!!」ワクワク

蘭子「その、その目、その目はっ」

蘭子「もしや封じられし禁断の『混沌の魔眼(カオス・アイ)』なのでは……っ!?」ワクワクテカテカ

美玲「!? なんで目のことを……じゃない! これはそのカオスなんとか? なんかじゃないぞ!」

蘭子「ひとみのひみつ!!!」ワクワクワクワク

美玲「わぁ近い近いってば! だいたい、ウチのは遊びじゃないんだッ。ホンキの使命なんだぞ!」

蘭子「うまれもつしめい!!!!」キラキラキラキラキラ

美玲「ガンガン来るなぁッ! わ、わ、倒れ……っ」


  ドシーン



  ガチャ


輝子「ふ、二人とも……ソファーに倒れ込んで、どうしたんだ……?」

小梅「一緒に、遊んでたの……?」

美玲「遊んでないッ」

蘭子「えへへ……退魔の血筋、かぁっこいぃ~……」


小梅「えっと……そろそろご飯だから、呼びに来たんだけど……」

美玲「ん……」モゾモゾ


美玲「きょ……今日のメニューは、何だッ?」



   〇


  ―― 夜 美穂の部屋


美玲「……」 ←みんなの部屋にローテで泊まってる

美穂「んむにゃ……えへぇぇ……ぷろでゅーさーしゃぁん……♡」ムギュムギュ


   『――いいか。お前は、早坂家の大事なお役目を背負っている』

   『――その自覚を持ち、全身全霊で修行に励むことだ』

   『――お前の体質はご先祖様からの授かり物。努々、伝統を重んじ――――』


美玲「……」マエガミイジリ

美玲「……メッシュじゃないモン」ボソッ

美穂「くー……くー……すきぃ……♡」ギュムギュム

美玲「く、苦しい……ッ」



 【 三日目 】

  ―― 女子寮


みく「――それじゃ美玲チャン、お留守番よろしくにゃ!」

美玲「それはいいけど……なんで他に誰もいないんだよッ」

みく「今日はみんなお仕事なの。アイドルだから仕方ないのにゃ」

美玲「だからって、なんでウチが留守番なんて!」

みく「良い子にしてたら、おみやげにダッツ買ってきてあげるね。何味がいーい?」

美玲「ストロベリー!」

みく「ラジャーにゃ! いってきま~す♪」パタン

美玲「はっ……し、しまった、ダッツに釣られちゃったぞ……」


美玲「ふん、良い子になんてしてるワケないだろ。ウチは敵なんだぞッ」

美玲「今のうちに寮中を調べてやる。何か悪だくみの証拠があるハズだ……」コソコソ



  ガサガサ ゴソゴソ

美玲「雑誌……マンガ……お料理のレシピ本……」

美玲「映画のDVDと……お、なんだコレ。アルバムか?」

美玲「この日付……寮ができた日からか。へー……」ペラッ


(最初期、古いアパートをリフォームして女子寮が生まれた頃……)

(一人目の入居者の芳乃と共に、プロデューサー、高垣楓、鷹冨士茄子、千川ちひろが玄関先で並んで写っている……)

(最初は寮周りの景観や内装などが続くが、二人目の入居者、前川みくとのツーショット写真が挟まる)

(続いて遊佐こずえ、イヴ・サンタクロースが入居し、写真は賑やかさを増していき……)

(中期、小日向美穂、白坂小梅、星輝子、神崎蘭子、五十嵐響子が続けて入居。食卓のシーン、リビングの一幕などが増えていく)

(塩見周子、小早川紗枝――と新たなメンバーも続々入り、そして今に至る……)

(資料写真のようだった初期の写真から、物や人が増え、寮内が活気づいていく記録だった。最後のページには――――)


美玲「ん……ウチの写真? いつ撮ったんだこんなものッ」

美玲「……ふん。別に、こんくらいならいいけど……」



美玲「って、アルバムなんか見てる場合かッ。もっと何か無いか、他にそれっぽいもの……」

  ズラァ…

美玲「これ、CD? アイツらの曲か?」

美玲「……ちょっと聴いてみるか。敵を知るにはこういうとこから入らないとな。えーっとCDプレイヤーは……」

美玲「あったあった。まずこれだな」ポチ


『マーーーーッシュ!! アーーーーーップ!!!』


美玲「」 ←ひっくり返った

美玲「こ、この声ショーコか!? どうなってるんだ一体!?」

美玲「……他にも聴いてみよ」ポチ


    スキスキスキアナタガスキー   フーワーリーフーレターシーキンーキョリー

  『サバキヲ…』 イーマーコンチキチンッ  カゼニーフカレーセナカーアズーケーテー

     ニャーニガニャンデモニャキゴトイワニャイニャンビトタリトモカエラレニャイ  


美玲「……♪」




   〇


 ~しばらくして~


みく「ただいまにゃー。美玲チャーン?」

芳乃「遅くなってしまいましてー。約束のおみやげをー……おやー?」

美玲「すぅ……すぅ……」

みく「ヘッドホン付けたまま寝てるにゃ」

芳乃「しーでーを聴いておられたのでしょうかー」

こずえ「すー……すー……」

みく「それでこずえチャンはいつの間に帰ってきてたの……?」

こずえ「……んー……さっきー……」

みく「鍵、みく達が持ってたんだけど」

こずえ「じゃあいまー……」

みく「じゃあて」

芳乃「ふふー。このまま、夕餉まで眠らせておいてあげましょうー」


美玲「すー……」



 【 四日目 】

  ―― 事務所


ライラ「パピコさんを買ってきましたですよー」ガチャ

P「ライラ、おまいだったのか……冷凍庫にいつもアイスを補充していてくれたのは……」

ライラ「日本の夏はアイスの夏でございますですねー」

美玲「わ、ガイジンだ」

ライラ「おー。ミレイさんのお話は聞いておりますですよー」

ライラ「わたくしライラと申しますです。ドバイから参りましたですねー」

フレデリカ「そしてアタシはパリジェンヌ! フランス語わかんないけど♪」ヒョコッ

アーニャ「生まれは北海道ですけど、ロシアにもよく行っていました♪」ヒョコッ


美玲(二人は普通の人間か……)

美玲「オマエんとこ、色んなヤツいすぎだろ」

P「それな」



ライラ「パピコさん、半分どうぞでございます」パキッ

美玲「あ、ウン……さんきゅ」

フレデリカ「それじゃアタシ達は二人で分け合おっか~」

アーニャ「ダー♪」

ライラ「ちゅーちゅー」

美玲「ちゅーちゅー」

フレデリカ「ちゅーちゅー」

アーニャ「ちゅーちゅー」


P(シュール)


美玲「……ドバイって、どの辺なんだ?」

ライラ「海の向こう、大陸を横切って、ずっと遠くでございますねー」

ライラ「ちょうどここに地球儀がありますです。くるくるー」

美玲「うわッ! こんなに遠くなのか!?」



ライラ「わたくしはメイドさんと二人で日本に来たのでございます」

美玲「二人って……親、いないのかよ」

ライラ「ドバイにおりますです。お父様にはナイショですけど、お母様とはたまにメイドさんが連絡してるでございますよ」

美玲「ナイショ!? それって家出じゃないかッ!」

ライラ「そういうことになりますですねー」ニヘ

アーニャ「アー……ライラは、大きなツェーリ……目的が、ありますか?」

ライラ「それを見つける途中でございます。毎日とっても楽しいですねー」

美玲「…………」

美玲「ひょっとして……実家のこと、キライなのか?」


P(……)キキミミ



ライラ「キライ……でございますか?」

美玲「だって、ナイショで家出したわけだろ。何かイヤなことでもあったのか?」

フレデリカ「……」

美玲「もしそうならウチ、話くらいは聞いてやれるかも……」

ライラ「ありがとうございますです。ですが、キライというわけではありませんですね」

ライラ「ほんの少し、見ている場所が違っただけでございます。わかりあうには、時間が必要ですから……」

ライラ「今はちょっとだけ離れようと決めたましたです。いつかは、ちゃんとお話しするつもりでございますねー」

美玲「あ……そ、そうか。そうだよな。家がキライなヤツなんて、いるわけ……」

フレデリカ「美玲ちゃんの髪ふわふわ~♪」ワシャワシャーッ

美玲「わッぷ!? な、何すんだよいきなりッ!?」

アーニャ「ほんとです。まるでサモエドの仔犬みたいですね♪」フワフワ

フレデリカ「なんのフレちゃんも負けてないよ! 触って! 触ってみ! ホレ!」

美玲「なんだこのッ……わ、すごいサラサラ……!」

ライラ「ライラさんもー」ファッサァァァ

美玲「左右から金髪がーッ!?」サラサラフッサァァァァ



美玲「く、悔しいけどなんかキモチ良かったぞ……」ゼェゼェ

フレデリカ「楽しかったー?」

美玲「ん……ちょっとなッ」

フレデリカ「そかそか。それはセシボーン♪」

アーニャ「ミレイ……。わたし達は、ミレイとは少し違うかもしれないです」

アーニャ「ですが、こうして一緒に楽しい気持ちには……なれますね?」

美玲「…………ん」


P(……実家か)

P(そこに何かありそうな……ん? 美玲のリュックが動いて……)


デビキャ(モゾッ)



P「」

デビキャ「……」


P「あの。美玲のリュックからぬいぐるみがひとりでに這い出てきたんだけど」

デビキャ「小さき者よ……(バリトンボイス)」

P「しかも喋ったんだけど!?!?!?」

デビキャ「此の世には、汝の知らぬ理がある。蒙を啓かねば見えぬ道もあると知れ(バリトンボイス)」

P「しかもなんか説教されたんだけど……!!!!」


ライラ「おー。ぬいぐるみさんとお喋りできるでございますですか?」

フレデリカ「ワオ! これってファンタジーものだっけ?」

美玲「あッ……!」



デビキャ「心焉(ここ)に在らざれば視れども見えず……己の身の程を弁えるのだ(バリトンボイス)」

P「さっきからこのいい声で謎の格言を繰り返すぬいぐるみは何なの」

美玲「ウチの相棒。祓い事の時に一緒なんだ。デビキャのぬいぐるみに入ってるけど、中身は違うぞッ」

フレデリカ「おー、かーわいいー♡ おいでおいでー」

デビキャ「蛙よ、大海を知れ……(バリトンボイス)」ヨチヨチ

美玲「勝手に動くなッ。仕事はまだ先だッ!」ムギュ

デビキャ「籠鳥檻猿――ままならぬものよな(バリトンボイス)」ズボー

美玲「うっさい!」

P「いい声で喋るぬいぐるみがリュックに詰め込まれた……」


美玲(……わかってるよッ)

美玲(けどウチだって、楽しい気持ちにくらい……)



 【 五日目 】

  ―― 女子寮


小梅「準備、できた……?」

美玲「ん。ウチはいけるぞッ」

輝子「り、リア充の巣窟……万全の装備を、整えなくては……」モゾモゾ

美玲「って、なんでこんないい天気なのに雨ガッパなんだよ!」

輝子「リア充オーラに、やられてしまわないかと……」フヒ

美玲「やられるか!」


美穂「あれ? 三人とも、今日はお出かけ?」

小梅「うん……莉嘉ちゃんと美嘉ちゃんと、原宿に行くんだ……」

響子「美嘉ちゃんが一緒なら大丈夫ですねっ」

芳乃「原宿にゆけばー……なういふぁっしょんがわかるのでしょうかー……?」

周子「あ、アレ結構引きずってんのね……」


小梅「それじゃ、行ってきまぁす……」



  ―― 原宿


莉嘉「ほらここっ! ガルモンの直営ショップ!」

美玲「おぉお……!!」キラキラ

美玲「こ、これ、見てきていいのか!? ウチしばらく戻ってこないぞッ!?」

美嘉「いーよいーよ、アタシもパンク系は研究したかったし★」

小梅「私も、こういう感じのは好きだから……♪」

輝子「パンク……そっちも、い、いいな……ダムドとか……あ、違う? そうですか……」


 ~物色中~

美玲「これッ! これ実物見たかったんだ! やっぱりウチのイメージ通りだッ!」

莉嘉「わーっすごい! ツメついてる! ライオンみたいでかっこいー!」

小梅「こういう合わせ方……どうかな……」ヒュードロドロドロ…

美嘉「血糊っぽい柄を効果的に使いすぎでしょ……!」ゾゾゾ~

輝子「サイズなんざしゃらくせェエーーーーーッ!! これぞパーーーーーーンクッッ!!!」モゴモゴォオー

美嘉「自由すぎる!!」



 ~数時間後~


美玲「――へへ、大収穫だッ。ここまで来た甲斐があったな♪」

莉嘉「アタシも結構買っちゃった☆ 今月のおこづかいはー……?」チラ

美嘉「お皿洗いとお洗濯たくさんすればママも考えるんじゃない?」

莉嘉「んんっ! が、がんばるーっ!」

輝子「いい感じのパーカーと……巡り会えました……」

小梅「ふぇへへ……この帽子、血みどろっぽくて、気に入っちゃった……♡」


美嘉「けど、美玲ちゃんもしっかりしてるよね」

美玲「え……?」

美嘉「だってさ、その歳でファッションのジャンルをカチッと決めるってそうそう出来ないことだよ?」

美嘉「普通はもっとこう、あちこちフラフラしたり、悩んだりでさ。なんだかんだ決まるのは高校過ぎてからだったりするわけ」

美嘉「今自分に一番似合うのが何かってわかってるのは凄いよ。信念っていうの? それがかっちり通ってる感じ★」



美玲「ん……へへ」

美玲「やっぱし、ウチの目で見てカッコいいって思ったのがいいからなッ」

莉嘉「アタシ、ガルモンっぽいコーデって思い付かなかったんだ! 美玲ちゃんを見てこうすればよかったんだーって思ったもん!」

美嘉「でも、地元にショップ無かったんでしょ? どうやってそこらへん磨いたの?」

美玲「んと、ネットとか雑誌とか見て……好きな感じのデザインを探したりして」

美玲「ほんとに、ウチだけの好みに合うカンジのが欲しかったんだ。誰に言われたんじゃなくてさ」

小梅「…………」

美玲「デントウとかカクシキとか知るもんかッ。ウチは、ウチだけのカッコいいやり方でキメてやるんだって……!」

美玲「だいたい、みんなそうなんだッ。伝統を守れとか、形式を守れとか! ウチは……ウチはそんな枠、知らないモン」

莉嘉「美玲ちゃん……」

美玲「だから決めたんだッ! ウチの好きなファッションで、好きなやり方でッ! 誰も文句言えない結果を出してやるんだって……!」



  モゾ


デビキャ「小さき者よ……(バリトンボイス)」

美玲「! おっオマッ、こんな時に……ッ!!」

美嘉「美玲ちゃん? 何かあったの?」

美玲「なっなんでもないッ! ごめん! ウチちょっと用事が……ッ!!」


  タタタッ



  ―― 路地裏


デビキャ「理解(ワカ)っていよう、汝の立場は……(バリトンボイス)」

デビキャ「何の為に此処まで来たか、わからぬ筈もあるまいて……(バリトンボイス)」

美玲「……そんなのッ! わかってるって言ってるだろ……!」

デビキャ「断じて行えば鬼神も之を避く……汝の決意、この程度ではない筈よ……(バリトンボイス)」

美玲「当たり前だッ! ウチはハンパな覚悟でここまで来たんじゃないッ!」

美玲「でも……でもさ……!」


小梅「――美玲ちゃん……」フラリ


美玲「……!」



小梅「みんな、心配してるよ……。早く、戻ろう……?」

美玲「……ん……ウン」

小梅「使い魔と、ケンカしてるの……?」

美玲「!」

小梅「それは……大丈夫、だよ。自分がちゃんと決めれば……文句は、言わない……」

美玲「オマエの傍にいつもいる、ソイツみたいにか?」

小梅「……なんのこと?」

あの子(…………)

美玲「ウチが知らないと思ってるのか? 兵庫の白坂家はそのスジじゃ有名だぞ」

美玲「最初は、なんか目的があるのかもって思ったんだ。でもそんなんじゃなさそうだった。何でかってずっと考えてた」

小梅「…………」

美玲「ずっと隠してるその目だって――」


 モゾゾ

輝子「そこのコンビニで、なめこの缶詰があった…………」

美玲「うわぁびっくりした!!!」



輝子「あの……あんまし、難しいことは、わからないんだけど」

輝子「私はただのぼっちで……メタルで……オタクで、キノコで……そういう、アレだから……」

輝子「で、でも、そんな私でも……ここは、いいところなんだ」

輝子「色んな子がいて……なんていうか、その、個性……があって……個性のままに、楽しめて……」

輝子「そ……そんな感じなんだ。私は、それが好きなんだ……」


輝子「私は、小梅ちゃんとも、美玲ちゃんとも、一緒にいたいんだけど……ダメ、かな……」フヒ


美玲(……個性……)

小梅「輝子ちゃん……」ナデナデ

輝子「オフォウッフ……ナデナデは、予想外だった……ヘフフ……」

小梅「……美玲ちゃん」

小梅「もし……もし良かったらなんだけど……結論は……待ってくれたら、嬉しい……かな……」

小梅「私、すごく楽しいの。ひとりぼっちだったけど、今はすごく……みんな、大好きで……」

小梅「……もし、ね。もし……美玲ちゃんも、同じ気持ちになれたら……」


美玲「…………」

美玲「そんなの……すぐわかるわけ、ないだろッ」



 【 六日目 】

  ―― 女子寮 庭


響子「それじゃ、流しますよーっ」


一同「おーっ!」


響子「はい、さらさら~っ」

  サララーーーーーッ

周子「よっしゃ一番乗りっ!」サッ

美玲「ああっ、ずるいぞシューコ! 背が高いからって!」

周子「ふふん。流しそうめんには地の利が重要なのだよ」

周子「つるるんっ……んまーい!」


菜帆「二番乗りは私で~……はい美玲ちゃん、どうぞ~♪」

美玲「あ……い、いいのか?」

菜帆「私も自分のは取ってますから~。このツユ、すっごくおいしいんですよ~♪」

美玲「そういえば手作りって言ってたな……つるるっ」

美玲「!! ウマッ!!」

まゆ「まゆが作ったんですよぉ♪」

輝子「トモダチが、ダシに協力してくれました……」



智絵里「みょうが刻んできましたっ」

紗枝「おにぎりも握ってますえ~」

美玲「えと、ウチ何か手伝うことないか?」

芳乃「奥で西瓜を冷やしておりますのでー、持ってきていただきたくー」

美玲「わかった!」タッ


美玲「えーっとスイカスイカ……デカッ! ていうか多いなッ!」

??「ふっふっふ……」ゴゴゴゴ…

美玲「あ、ランコだ。これ手伝って!」

蘭子「魔界の暗幕を引き裂く魔力!?(訳:演出ガン無視!?)」


美玲「ほっほっほっ……」タタタ

蘭子「ひっひっふー……」タタタ



小梅「えへへ……スイカ割りなら、任せて……♡」

みく「小梅チャン小梅チャン! それマチェットにゃ! 13日の金曜日は過ぎてるにゃあ!」

まゆ「普通に切りますねぇ」スココッ

小梅「あっあっあっ……やぁ……あ、赤い汁がぁ……っ♡」

美玲「なんでゾクゾクしてるんだッ」

美穂「みんなにそうめん行き渡ったー? 薬味大丈夫っ?」パタパタ

美穂「おにぎりあるよっ! 食べたらスイカもあるからねーっ」トタトタ

美穂「そうだっ。そろそろイヴちゃん達が……」



  シャンシャンシャンシャン

イヴ「スーパーに花火セットありましたぁ!」

こずえ「ほしのはなびー……」

ブリッツェン「ブモーッ!」

みく「おかえりー! わぁ、大収穫にゃ!」

菜帆「これは全部なくなるまで寝られませんね~♪」

智絵里「あ、あんまり大きな音がするのは怖いです……」

響子「はいはーい、花火は全部食べてからですよーっ」

紗枝「たぁんと作ってますさかい、残さず食べてな~♪」


まゆ「美玲ちゃん、おいしいですかぁ?」

美玲「ん……ウン。この梅干しおにぎりとか、悪くないなッ」

まゆ「それまゆが握ったんです♪」

美玲「ふブっ、けふっけふっ! ……うっ……ぐ……んぐ」

美玲「……おいしいよッ。これで満足だろッ!」

まゆ「うふふっ♪」



美穂「あれ?」

美玲「ん……? なんだ?」


美穂「美玲ちゃん、その髪……」


美穂「赤い部分、増えてない? 染め直したの?」


 一旦切ります。

 限定美玲ちゃん結局引けませんでした(血反吐)。



  ◆◆◆◆


 ――そんなことでは、早坂の当代に相応しくない。


 誰かが言った。

 でも、古臭い家の古臭いしきたりをバカ正直に続けてどうするんだ。
 メンドくさい方法は省略できる。儀式の手順だって無駄だらけだ。
 もっと簡略で効果的で、カッコいい手法は幾らでも考え付くじゃないか。

 だからウチは、ウチが思いつく一番効率的でカッコいいやり方をホンキで考えただけだ。

 だって個性ってそういうモンじゃないか。
 自分だけの方法を見出してこそじゃないのかよ。



 ――稀に見る験(しるし)よ。
 ――この眼に宿りしは、まさに蔵王権現様の霊威に他ならぬ。

 ――なれど、妄(みだ)りに開かぬことだ。
 ――お前の左眼は、遍く悪鬼羅刹の正体を見顕(みあらわ)す真実の光。
 ――だがまだ、お前自身の器が見合っておらぬ。左を封じていたとて霊視は可能。

 ――仮に目を行使しすぎることあらば、その力にお前自身が蝕まれよう。
 ――兆しは、髪の色に現れる。


 知るかそんなこと。持ってるものをフル活用して何が悪いんだ。
 ウチはウチらしさでテッペンまで上り詰めてやる。


 ――才に恵まれても、心は伴わず。
 ――これでは、当家の家業も立ち行かぬ。


 ふざけんな。そもそもウチの生き方を決めようとしたのはそっちだろうが。
 だったら、せめて生まれた頃から繋がれてた鎖で暴れてやろうとしただけだ。

 ……そしたら、佐久間の蚕が東京に行ったっていうじゃないか。

 こんなに好都合なことはない。そう思ってた。

 神様の眷属か何か知らないけど、悪さするならぶっ倒してやる。



 【 七日目 】


 川沿いの土手道はオレンジ色だった。
 そこらを飛んでるたくさんの赤とんぼが、まるで夕陽からの使者みたいだ。
 
 あいつらはいいよな。悩みとかなさそうで。


「お肉が安くて得しちゃいましたねぇ」

 前を歩くマユの右手にはパンパンのエコバッグ。ウチの右手にも同じ。
 今夜はカレーなんだって。

「じゃあ肉だけのカレーができるなッ」
「それじゃ脂っぽくなっちゃいますよぉ。ちゃんと野菜もたくさん入れなきゃ」
「えぇ~、やぁだ。ウチにんじん嫌いだモン」
「ちゃんと食べられたら、ご褒美にメロンソーダにアイス乗せてあげますよぉ」
「…………じゃあ食べる」




 遠くでカラスがカァカァ鳴いてる。
 なんだっけ、アレを思い出した。カラスが鳴くからってヤツ。

 まだちっちゃい頃、そんな感じで帰っていくヤツらの背を見送ってた。

 でもウチは、家に帰るのがイヤだったんだ。

 ……じゃあ、今は?


「美玲ちゃん?」

 いつの間にか先を行っていたマユがこっちを振り返ってる。
 カラスは巣に帰っていく。
 ウチは……みんなのとこに帰るのが、イヤじゃない。

「違う」

 違うだろ。

 こんなのウチじゃない。



 向こうのビル影に沈んでいく陽は、時間切れの合図だった。 

 目的があってここまで来た。
 敵の弱点を見つけて、いつかみんな調伏してやるんだって。

 時間は無限じゃない。

 いつの間にかなんとなく先延ばしにしていた「いつか」は、「今」じゃなくちゃダメなんだ。


「違う……ウチこんなことする為に来たんじゃない」
「美玲ちゃん、一体どうし……」
「うっさい妖怪ッ!」

 マユが目を見開く。エコバッグが道に落ちて、タマネギがころころ転がっていった。
 背中のリュックでデビキャの気配が膨れ上がった。

 左目の眼帯を、一息に引き外した。




 視界がぐあっと広がった。

 薄暗い夕闇が打ち払われて、たちまち世界が「虚」と「実」できっぱり切り分けられる。
 今、人間の姿をしてるはずのマユは、この眼には真っ白もふもふの蚕娘に見えた。

 あんまり使っちゃいけないのは「見え過ぎる」からだ。
 そこらへんにいる幽霊とか妖怪の気配だとかをいちいち捉えて煩わしいし頭が痛くなる。

 それに……今、前髪の何本かがさぁっと赤くなっていくのを感じた。

 ミホに髪のことを言われたのも多分、色んなヤツらを前にして左目が無意識に反応してたからだと思う。


「不意打ちはヒキョー者のすることだッ。構えろよ! 待っててやるから!」
「……そうですか。ここで……」
「もっと早くこうしてたら良かったんだッ! もともとオマエを仕留めに来たんだモン!」



 だけどマユは戦おうとはしなかった。

 ただ、ちょっと寂しそうに笑った。
 それで立ちっぱなしのまま、両腕をすっと広げて。


「いいですよぉ。このまま、祓われてあげます」 


 …………は!?

「お、オマエ何言って……」
「美玲ちゃんは、まゆを追ってきたんですよね。ならいいんです。捧げます」

 目を見てわかった。コイツ、本気だ。




「東京行きを決めた時から、心のどこかで覚悟はしていたんです」

「いつか何かの形で、罰を受ける時が来るって。だってまゆは色んなものを裏切ってしまったから」

「それが美玲ちゃんだっていうなら、納得します。こんなに早かったのは意外だけど……」


「けど、できれば、まゆだけにして欲しいんです。だって他の子には何の罪もありませんもの」



 腹の底からグツグツした感情がせり上がって、それが何なのかわからない。

「違う……違う、違う、違うッ!」
「……美玲ちゃん?」

「聞いてたのと違うじゃないかッ! オマエらは怖くて、強くて、悪いことするヤツらで!
 だから人間が祓わなきゃいけないんだって、ウチはずっと修行してたんだぞッ!!」


 佐久間の家の者に注意しろって言われてた。

 アイツらは思い詰めると何をするかわからないって。 
 
 それが、無抵抗?

 あまつさえ他のヤツを庇う?

 何が違う? どこで何が変わった?

 間違ってるのはどっちだ?




「なのに、最初会った時からずっと、オマエらはのほほんとしてて……」

 鼻の奥がツンとする。
 開けた視界は、見えすぎる筈なのになんでか霞んだ。

「やさしくて、あったかくて……」

 震える息を呑み込んで、叫ぶ。


「オマエがそんなんじゃ、ウチは一体どうすりゃいいんだよッ!!」


 どこかで、またカラスが鳴いた。
 マユはじっとウチを見つめていた。



「美玲ちゃん……」

 マユが一歩踏み出してきて、思わず後ずさる。

「帰りましょう?」
「……ッ」
「どうにもしなくたっていいんです。みんなわかってくれますよぉ」

 言って、手を差し伸べた。
 取れば帰れる。今夜はカレー。足元には転がりっぱなしの日常があって。

「だって美玲ちゃんはもう、まゆ達の……」

 そこから先を言わせちゃいけなかった。

「やめろッ!! ウチは一匹狼なんだッ!!」


 結局、その手は取らなかった。
 大きく飛びすさって眼帯を付け直す。視界が普通に戻って、一房ぶん赤くなった髪が風に揺れる。



「遊びは終わりだッ! 他のヤツらにも言っとけ、ウチはもう敵なんだってなッ!」
「美玲ちゃん……!」

「せいぜい覚悟しろーッ! ばーかばーか! オマエのかーちゃんおしらさまーッ!!」

「ああっ! おおむねその通りですけどぉ!」

 背を向けて、走った。
 ホンキで走った。
 カラスは逆方向に飛んでいた。赤トンボの群れを突き抜けた。


「美玲ちゃん!!」


 走った。走って走って、耳を塞いで走って、どこに行くとも決めないで走って。
 どこかの家から晩ご飯の匂いがして……。 

「――ぐしゅっ」


 こんな顔、誰にも見せられない。



  ◆◆◆◆

  ―― 一方 事務所


P「今日も残業頑張るぞい(死)」

ちひろ「この世のものとは思えぬほど不景気な顔しないでください」

P「だってエアコンまだ直ってないし……アーニャいないし……」

P「あ、知ってます? 女子寮の晩飯ってカレーなんですって」

ちひろ「現実逃避やめろ」

P「ヒィン……カレー食べたい……」

  プルルル プルルル

P「あっ電話だ。まゆから?」

ちひろ「カレーのお誘いですか?」

P「もしそうだったら行かせてくれます?」

ちひろ「……」ニコッ

P「ヒエッ……はいもしもし」ピッ



P「……なんだって? 美玲がいなくなった!?」

ちひろ「……?」

P「どうしたんだ? 喧嘩か? あー……いや、とにかく細かい話は後にしよう」

P「この後すぐ寮に電話するんだ。まず芳乃に声をかけろ。あの子なら探せる」

P「あーあー泣かない泣かない! 俺もすぐ行くから! 車で行くから寮で落ち合おう!」ピッ


P「……ということでちひろさん、後は任せました!!」クワッ

ちひろ「そう言うと思ってましたよ!!」



P「うわもう暗くなっちゃうな、急がないと……」バタバタ

ちひろ「プロデューサーさん」

P「はい?」

ちひろ「美玲ちゃんは、うちのアイドルってわけじゃありませんよ。それでも行くんですか?」

P「? 行きますよ。関係ないでしょ」

ちひろ「そうですか。……そうでしょうね、ふふっ」

ちひろ「あ、帰りにダッツ買ってきてください。これ全部片付けるんだからそれくらいの役得はあっていい筈です」

P「オッスオッス。何味ですか?」

ちひろ「定番のクッキー&クリームとマカデミアナッツと最近出た甘夏とクリスピーのキャラメルクラシック」

P「多いな!!!」

 短めですが一旦切ります。
 次で最後までいくと思います。


  ◆◆◆◆


 美玲……ミレイ。ハヤサカミレイ。 
 験の現れた有望な子に、字を変えて代々与えられる名前。
 先祖代々の御霊(みたま)に護られて在れ、と。


美玲「…………」トボトボ

美玲「どこだっけ、ここ……」

デビキャ「捲土重来の時は遠からぬ。消沈せぬことだ(バリトンボイス)」モゾ

美玲「オマエ、言ってることわかりづらいんだよ」

デビキャ「汝が望む限り、機は幾らでも訪れよう(バリトンボイス)」

デビキャ「堅物共の目を啓かせるには、手柄を立てねばならぬは真理……(バリトンボイス)」

美玲「……オマエはウチのやり方どう思ってんだ?」

デビキャ「是非も無し、従うのみ。汝に与えられし依代は快適なり(バリトンボイス)」

美玲「…………そか」


美玲「でも、楽しかったんだ」

美玲「アイツらといるの……悪くなかったんだ」

美玲「……おなか空いたなぁ」グゥ




  ブロロロロロ バタンtゥ


芳乃「こちらでしてー」

P「あっ、いた!」

美穂「美玲ちゃん!」


美玲「……!!」

美玲(そうか、ヨシノの……!)


まゆ「――美玲ちゃぁん!!」ダキッ

美玲「!?」ムギュッ



美玲「や……やめ、やめろッ! 離せよッ! ウチは慣れ合うつもりなんか……!」

まゆ「ごめんなさい! まゆ、あなたにひどいこと……」

まゆ「美玲ちゃんはたくさん悩んでるのに、そんなことも知らないで……!」

美玲「な、なんでオマエが謝るんだッ! ウチはウチのやりたいようにやっただけだ! なのに……」

美玲「なのに、こんな……」ジワ

美玲「こんなこと教えるなんて、ひどいじゃないかぁ……!」


芳乃「……美玲さんー」

芳乃「そなたの御家の事情は、皆まで語らずともわかりまするー」

芳乃「なれどそれは、お一人で抱えるべきではなきものー……」

芳乃「わたくし達と、分かち合うわけには参りますまいかー」



美玲「…………」ムギュムギュ

まゆ「美玲ちゃん……」

美玲「……それは……できない。これは、ウチのケジメなんだ」

美玲「ここでウンって言ったら、自分で決めたことを自分で捨てることになっちゃう」

美玲「……ウチらしさで、アイツらを見返す。だから…………」

芳乃「…………」


美穂「わかった」

美穂「戦おう、美玲ちゃん。私が相手になるよ!」


P「!?」



P(いやいやいや、急にどうした!? そういうの苦手だろお前!?)ヒソヒソッ

美穂(大丈夫です。その……美玲ちゃんの気持ち、ちょっとわかるんです)ポショポショ

美穂(熊本からここまで来た私と同じです。だから……私なりに、美玲ちゃんと向き合ってみたいんです……!)

P(……そうか。わかった)


美玲「……いいのかよ。ウチは祓うぞ。ホンキだぞッ」

美穂「うん。私も、私のやり方で美玲ちゃんと向き合うから!」

まゆ「美穂ちゃん……」

美穂「大丈夫、まゆちゃん。私に任せて! これでもお姉さんだからねっ!」フンス

芳乃「……」

芳乃「よろしいでしょうー。然らば、わたくし達が立ち合いましてー。まずは、場所を改めましょうー」



   〇


  ―― 女子寮 庭


  ヒュゥゥゥウ……


美穂「……」

美玲「……」


周子「……え、どゆこと?」

輝子「な……なんか、西部劇の……決闘みたい、だけど……」

小梅「…………うん。決闘だね」

みく「ちょちょちょ、大丈夫なの? だってあれ絶対危ないにゃ……!」

デビキャ「狼狽えるなかれ……(バリトンボイス)」

みく「なんか喋っとるねんけど!?!?!?」

P「慌てるなみく。美玲の相棒は喋るのだ」

デビキャ「彼の者らは、己が覇道を突き進まんとする猛者の様……何者とて阻むべきではないのだ(バリトンボイス)」

みく「なんかこのぬいぐるみだけ作風違わない?」

P「俺もそう思う」


まゆ「美穂ちゃん……美玲ちゃん……」



芳乃「合図はわたくしが致しまするゆえー。双方とも、悔いのなきようー」

美玲「わかった。……全力でいくぞッ」ガンタイハズシ

  カッ!


蘭子「ふおおおおおおおお!!!」シャシャシャシャシャシャシャシャ

周子「蘭子ちゃんがめちゃくちゃスケッチしとる!?」

由愛「わぁ……す、すごい……!」シャシャシャシャシャシャシャシャシャ

みく「こっちも!?」


美穂「それじゃあ私も、全力でいくよ……!」

美穂「はぁぁあああああああああっ!!」シュインシュインシュインシュインシュイン


紗枝「なんたることや……美穂はんのたぬきゲージが限界値を越えてはる……!」

智絵里「危険粋です……!」

周子「なんなんたぬきゲージて」

蘭子「はふーっ、はふーっ! か、かっこいい……!!!」シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ

みく「蘭子チャンお水飲んどいた方がいいにゃ」



美玲(たぬきの化け術だって、ナメてかかっちゃいけない……)

美玲(凄いヤツは、でかい虎とか電車とか、山一つにだって化けられるって聞いたことあるからな)

美玲(アイツだって、それだけのヤツじゃないなんて保証はない……!)


芳乃「それではー……」


美玲(だけど、ウチの目があれば見切ることはできるッ)

美玲(どんな姿に化けたって、必ず見通してやる……!)


芳乃「よーい……」


美玲(何が出る、何が……鬼が出るか蛇が出るか、それとも別の……?)

美玲(いや、集中しろッ。油断するな。いつも通りのウチで、やっつけてやるんだ……!)


芳乃「どんっ」


 ポ ン ッ ! !



美穂(たぬき)「ぽこん」キメポーズ


美玲「…………ってたぬきに戻っただけかよッ!!!」ガビーン


美玲「はッ! ついツッコミを……!」

美穂「ぽこ!」キュピーン

まゆ「あぁっ! 美玲ちゃんがついつい突っ込んでしまった隙を……!」



※いかなる達人にも隙は生じます。
 たとえほんの一瞬であれ、それを見極めることこそ遍く武道の神髄。
 畢竟(ひっきょう)立ち合いとは、相手の技の起こり・終わりを見切り、生じた空隙に自らの技を打ち込む「読み」の戦いと言えるでしょう。
 だからこそ、相手の油断を誘い、意図的に隙を作らせるフェイントが活きてくるのです。
 極論すれば、そのフェイントが突飛なものであればあるほど……相手の攻め気を抜くものであればあるほど良いとの見方もあります。
 そう。室町時代を発祥とする、かの有名な武道セクシーコマンドーの教えですね。
 特に突っ込み気質のある相手なら効果はてきめんでしょう。
 たぬきさんの技法はむしろそちらに近いものかもしれません。
 本日は解説にお呼び下さりありがとうございました。押忍っ!

(ゲスト解説員:Y・Nさん)



美玲「しまッ……!!」

  シュバッ!!

美穂「ぽっぽこぽーーーーーーーーーーんっ!!!!」
(顔面突撃!! もふもふおなかプレーーーーーーーースッッ!!!!)


 も っ ふ ぁ ぁ ・ ・ ・


美玲「ふぁっぷ……!?」


※もふもふおなかプレスとは……
 相手の顔面におなかを直接ぶつけ、その魅惑的ふかふかもふもふ感で一瞬にして和みの地平に吹き飛ばすたぬきボディタックル。
 安全第一・早寝早起を信条とする小日向流タヌキカラテの裏奥義である。

(346書房刊:『アニマル奥義五輪書』より)



  ドサッ……


P「け……」

周子「決着……」

芳乃「でしてー」


美玲「…………う……う、うぅうっ」

美玲「たぬきに……たぬきに負けた! 眼帯まで外して! 負けた……ッ!!」

美穂「ぽこ」モゾモゾ

  ポンッ!

美穂「美玲ちゃん……」

美玲「なんだよ! そんな目で見んなッ!」

美玲「けっ……結局、ウチはここまでだったってことだッ! あんだけツッパっといて、カッコ悪い……!」

美穂「かっこ悪くない。正面からちゃんとやったら、私絶対勝てなかったもん」

美玲「……ふざけんなッ! 勝っといて慰めかよッ!」



美玲「大体こんなッ、こんな遊びみたいなやり方で……! バカにして楽しいかよッ! ウチのこと何だと思ってんだよッ!!」


美穂「友達だよっ!!」


美玲「……ッ」

美穂「友達なんだから、かっこいいとか悪いとか無いよ! だから私のやり方でぶつかりたかったんだもん!」

美穂「美玲ちゃんの言うことはわかるよ。でもこうして一緒に過ごして、本当は優しくて、まっすぐな子なんだってわかって……」

美穂「一緒に暮らしてて、すごく楽しくって……」

美穂「……なんにも言わないでいなくなったら、悲しいよ……!」

まゆ「…………」


美玲(友達……)

美玲(それは、言わせちゃいけなかった。だって、一回も言われたことが無かったから……)

美玲(……初めて知った。すごく嬉しいんだ)



美玲「わかったよ。ウチの負けだ」

美玲「ごめんな。もうオマエらに手を出そうなんて思わない」

美玲「……帰るよ。帰って、やり直す。それで、ちゃんと自分を見直して……」


デビキャ「その必要は無い(バリトンボイス)」

小梅「と思う……よ……」

あの子(コクコク)


美玲「え……」

小梅「だって……一回、負けただけだもの」

小梅「美玲ちゃんの、やり方は……その全部が、一回で否定されたわけじゃ、ない……でしょ」

美玲「で、でも、ウチはミホに……」

デビキャ「此は修行なり。汝は未熟なれども、故にこそ越ゆるべき青山(せいざん)は数多く……(バリトンボイス)」

周子「……まあ、実家に思うところがあるってのはなんとなく察せるけどさ」

周子「腕を磨きたいとかだったら、ここほど好都合な場所もないと思うけどねー。だってこんなバラエティ豊かな場所無いでしょ」



美玲「だけどウチ、みんなにひどいこと……!」

まゆ「いいんですよぉ、そんなこと」

デビキャ「此は汝の武者修行。確固たる決意さえあらば、我は主と共に征くことこそ快なり(バリトンボイス)」

みく「いやおめーは結局なんなのにゃ……いい声してるけど……」

美玲「………………」


  パタパタパタ

響子「みんなーっ! ごはんできましたよーっ!」

菜帆「お待たせしました~っ」

イヴ「すっごくおいしいカレーですよぉ!」 ←味見担当

ブリッツェン「ブモンヌ!!!」 ←同じく

響子「はぁ、はぁ……えっと、間に合いましたか!?」

みく「ばっちりにゃ!」



美玲「修行……修行、か」

美玲「でもウチ、それだと、みんなと戦う為にいるってことになっちゃう……」

美穂「うんっ。私で良かったら、いつでも相手になるよ!」

紗枝「最後にどうなるかはわかれへんけど……お稽古やったら、うちもお付き合いできる思います~」

智絵里「その。もし気が変わったら、それでもいいと思いますからっ」

美玲「…………い、いい……のかな。もうちょっと……ここにいても……」

美穂「いいよ。だって、友達だもん!」

美玲「……っ」

まゆ「まゆも、最初は同じでした。自分の目的ありきで、周りが見えなくて……」

まゆ「だから今、言わせてください。美玲ちゃん、あなたはここにいていいんです。……いてくれないと、寂しいですよ」

まゆ「ほら、晩ご飯の時間ですよぉ。一緒に食べましょう?」



響子「はいっ、美玲ちゃん。カレーよそってきましたよ」

美玲「!」

響子「あ、ご飯の量とかこれくらいで良かったかな? 好きみたいだから、粉チーズもかけてきたんだけど……」

美玲「……ウン、ちょうどいい。ウチ、いつもこんくらいチーズかけるし……」

美玲「にんじん、細かく刻んでる……食べやすい……」モソッ


美玲「おいしい。……おいしいよ゙ぅ゙……」グスッ



P「…………うん」

芳乃「これにて一件落着、ということでよろしいのでしてー?」

P「ああ。後はこっちのフォローで済む」

P「あの子がうちにいられるように、色々便宜を図らないとな――」



  ―― 後日 事務所


P「ということで部外者がこれ以上女子寮に居座ることは普通にダメっす」

美玲「はァッ!?」

美穂「え、そ、そんな!?」

P「色々言い訳を付けて上にも納得させてたんだけどね。そろそろ限界っぽいんだ」

ちひろ「ギリギリまで粘りましたけど、やっぱり厳しいんですよ。うちも会社ですから……」

美玲「じゃ、じゃあ、寮は出てかなきゃダメってことか……!?」

美穂「でもそれじゃ、どうすれば……そうだ、ライラちゃんみたいにすれば!」

美玲「そ……そうだ! ウチ、自分で稼いで部屋とか借りるッ!」

P「ライラの場合も特殊なケースだしなぁ。あっちにはメイドさんもいたし」

P「宮城から家出同然で出てきた14歳の女の子に、任せる仕事も貸す部屋もあるかってことでな」

P「そもそも、学校どうするって話でもあるだろ?」

美玲「はうッ! ……う、うう……」

P「だが安心しな。すぐに仕事を紹介してやるぜ」

美玲「!?」



P「その仕事に年齢制限はないんだ。下は9歳、上は今のところ31歳まで確認されている」

美玲「おおッ! なら、ウチもやれるってことか!?」

P「そうとも。これは頑張り次第だが、成果によって儲けもガンガン入るしな」

P「更になんと、この仕事を始めると引き続き女子寮にもいられるし、なんと個室もゲットできちまうんだ!」

美玲「わ、わっ……! ホントにいいのか!? そういうのゴツゴーシュギって言うんじゃないのかッ!?」ソワソワソワ

P「ご都合主義の何が悪い! その全部を実現できる職業が確かにあるのさ!」

美穂(あっ)

ちひろ(♪)


美玲「………………ってオイ、ちょっと待てよ。それって」

P「アイドルやろうぜ」

美玲「ああああああッ! やっぱりかああああああああッ!!」




まゆ「ほんとですかぁ?」ヒョコッ

周子「ええやん」ヒョコッ

蘭子「魂の共鳴を今ここに!」ヒョコッ

小梅「あの子も喜んでる……♪」ヒョコッ

輝子「トモダチたくさん……」ヒョコッ


美玲「おい! すごい勢いで外堀が埋まっていくぞッ!!」

P「はっはっは。はっはっはっはっはっはっは」

美玲「笑うなーッ!!!」

P「まあまあまあ早坂さん、これを見てみなさいよまあまあまあまあまあ」ピラッ

美玲「え……な、なんだこの……デザイン……?」



P「実は最初のステージまで構想が見えててさ。これはその衣装案なんだが」

美玲「えっあっ……わ……すご……っ」

P「パンクでポップで、キュートな感じな。ガルモンのイメージを参考にしてて」

P「この衣装デザインには、美嘉と莉嘉にも協力して貰ってるんだ。こないだ一緒に原宿行ったろ?」

美玲「あ……う、ウン……」クギヅケ

P「これは、美玲にこそ似合う衣装だと思うんだが……」

P「どうだろう。修行がてら、社会勉強もしてみるというのは」

美玲「ぁ……」


美玲「……わ、わかった。他に選択肢なんか無いんだろッ!」

P「よし!!」


周子(あの詰め方よ)

小梅(結局……人間が、一番……ずるいのかもね……)ニヘェ♡



   〇


  ―― しばらくして 事務所


ちひろ「ところで……宮城のご実家には事前に連絡したんですか?」

P「しましたよ。全部説明しました」

ちひろ「それで、何と?」

P「いやぁ、あっさりしたもんでした。文句の一言もありゃしなかった」

P「娘さんがいきなり東京に行って、それでアイドルになるってのに、はいそうですかってなもんで」

P「NG出たらそりゃ従うつもりでしたよ。なんなら向こうまで馳せ参じて一発殴られるくらいのつもりでいたのに」

P「……あっさり見限れるもんですかね。仮に意に沿わないお子さんだったとしても、そんな……」

楓「向こうからすれば、もう勘当しているつもりなんでしょう」

P「楓さ、えっ、いつの間にいたの」

楓「さっきからいました。ビール頂いてます♪」グビー

P「そりゃ事務所で缶ビール冷やしてるのなんてあんたくらいだからな!」

楓「けぷっ」

P「この数秒で一本空いたの?」



楓「ともあれ、旧い家にはそういうところがあるんですよ」

楓「あの子はうちには関係ない、何をしようが家名に響かない、なんて。早坂家も知らぬ存ぜぬの段階に入ったんでしょう。要は切り捨てです」

楓「どうでしょうプロデューサー。今度、早坂さんのお宅にご挨拶に行きませんか?」

P「……やめておきましょう」

楓「あら」

P「思惑は知らんけど、あの子がアイドルになることのお許しは頂いたわけだ。じゃあその世界で成功するよう頑張るのがこっちの仕事だ」

P「いいじゃないですか、それで。うちは芸能事務所なんだから」

楓「…………」

楓「……ふふ♪ そうですね、その通りです」モグモグ

ちひろ「ま、私は私の仕事をこなすだけですよー……」カタカタ

ちひろ「…………ん? 今楓ちゃんが食べてるダッツ、クッキー&クリーム味だったりしません?」

楓「あっ」

ちひろ「あっ」



   〇


  ―― 後日 ライブ会場楽屋


美玲「……」ジャジャーン

美穂「わぁ、かわいいっ!」

まゆ「とってもお似合いですよぉ♪」

小梅「ゴーストハンターみたい……♪」

美玲「そ、そうかッ?」

莉嘉「うん! お姉ちゃんのデザイン、美玲ちゃんのイメージにぴったし!」

美嘉「莉嘉も協力したでしょ? でも……ま、バッチリみたいで良かった★」


美玲「う、ウチ、これで踊るのか……」

美玲「へへッ。カッコいいし、カワイイじゃないか……♪」


幸子「なるほど悪くありませんね!! ボク達の事務所にはありそうでなかったカワイイです!!」ババァーン

美玲「わ!? 誰ッ!?」


桃華「このようなファッションの方向性もありますのね! 新感覚ですわ……!」

藍子「わぁ、色使いがすっごく綺麗ですね! まるで夜のお祭りみたい♪」

奏「ふふ、いいわね。人は何色にでも染まる……真理だわ」



  ワイワイ ガヤガヤ

美玲「おおぅ……!?」

美穂「美玲ちゃん大丈夫?」

まゆ「まだ知らない子もいますから……」

美玲「だ……大丈夫だッ。ウチは負けない! そう決めたんだからなッ!」


デビキャ「七転八起……(バリトンボイス)」

<フギャー!? ヌイグルミガシャベリマセンデシタ!?
<アルアル~
<ナイデスヨソンナノ!!


P「よし。美玲の最初の仕事はバックダンサーだ」

P「いずれ自分がメインに立つステージだ。あそこに立つ感覚を覚えておきなさい」

美玲「すーっ……ふーっ……わ、わかった……!」

美玲(修行の時より、緊張するかも……)



デビキャ「賽は投げられた。武運長久を祈る(バリトンボイス)」

<ヤッパリシャベリマシタヨ!? ヤタライイコエデシタヨ!?
<ハハハコヤツメ
<サチコハンツカレテハリマスナ~


美玲「…………フン。励まし方までドヘタかよッ」

P「いけるか?」

美穂「がんばってね!」

まゆ「ここで待ってますから……!」


美玲「ん。……それじゃあ」

輝子「フヒ……いこうか……」



美玲(ウチは、ウチのやり方でやる。ウチなりの生き方を決める)

美玲(これもまた、その一つなら……全部ホンキでやる。その中で本当の自分らしさを見つけ出すんだ)

美玲(友達が待っててくれるなら、怖くない……ッ!)



輝子『マーーーーーーーーッシュ!!! アーーーーーーーーーーーップ!!!!』


  ビリビリビリビリビリ

美玲「」 ←ひっくり返りそうになる

美玲「――上ッ等ッだッ!」


美玲「行くぞッ!!!」


 ~おしまい~


〇オマケ

  ―― 後日 女子寮


美玲「んー……」

こずえ「んー……?」


美玲「一個、でっかいナゾがまだあるんだよな」

こずえ「なにー……?」

美玲「オマエだよッ。結局なんなのかわかんないままだぞ!」

こずえ「おー……」



美玲「んん……聞くより見るのが手っ取り早いな。コズエ、いいか?」

こずえ「いいよー……」

美玲「あっさりOK出た。よしッ、それじゃ眼帯外して……」

デビキャ「小さき者よ……(バリトンボイス)」モゾ

美玲「うわまた出た! 今度は何だよ!?」

デビキャ「一つの杯に海を収めること能わず……いかなるものにも限界があるのだ……(バリトンボイス)」

美玲「はぁ? どういうことだよッ」

デビキャ「……」

こずえ「……」

デビキャ「……よかろう……それもまた修行……(バリトンボイス)」

美玲「な、なんだよ。聞き分けがいいのか悪いのか……まあいいや」



美玲「それじゃ……見るぞッ」カッ


美玲「……ん?」

美玲「あれ?」

美玲「コズエ? おーい、コズエーッ」

美玲「ど、どこ行っちゃったんだよ!? いないぞ!?」


美玲「なんだよ、やっぱイヤだったんじゃ……」ガンタイツケ

こずえ「みえたー……?」

美玲「うわいた!! び、びっくりさせんなッ、どこ隠れてたんだよ!」

こずえ「ずっと……ここにいたー……」



美玲「いや、そんなすぐにいなくなれるわけ……」

こずえ「みれい……かみのいろ、きれいー……」スッ

美玲「わっ、こ、こら。あんまりそこは触っちゃダメだぞッ」

こずえ「でも……このいろは、だめー……」スルスル

美玲「ダメって……もう、なんなんだよオマエは」

こずえ「こずえは、こずえだよー……」

こずえ「こずえはー……ずっと、ここにいるよー……」ニコ




美玲(その後、洗面所で鏡を見て驚いた)

美玲(赤くなった髪の色が元に戻ってる)

美玲(ちょうど、ここに来て左目を使っただけの分が、時間を戻したみたいに無くなっていた)


美玲(原因はわからない。ウチだって戻し方がわからなかったんだから)

美玲(……アイツ、ほんとに何者なんだ?)


 ~オワリ~

 おしまいです。

 デレステ限定SSR美玲ちゃんの衣装を見て「アニメの妖怪モノとかに出てくる、使い魔連れたゴーストハンターっぽくない?」「YO-KAI Disco(https://www.youtube.com/watch?v=A2ZoG_rBjBs)とか似合いそうじゃない?」と思い浮かび、退魔師美玲ちゃんというネタが浮かび上がってからは止まりませんでした。
 今となっては大人しく復刻を待ちます。

 長くなってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。

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