幼女幽霊「ちょっと昔話でもしようか」 (54)

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▢▢▢▢ 廃病院 ▢▢▢▢



幼女幽霊「HAHAHAHAHAHAHA!!!!」ゲラゲラ



DQN幽霊「……」

DQN幽霊(あの霊能力者が攻めてきて、もうすぐ一年が経つ。幽霊になっても時間が経つスピードは変わらなくて、あっという間に日々は過ぎていった)

DQN幽霊(ただ、あの日を境に先輩には“変化”が起きた)

DQN幽霊(それは先輩の移動タイプが“ジバク”から“フユウ”に変化した)

DQN幽霊(先輩から前に聞いた話だと、土地に縛られている霊が自由に移動出来るようになるという前例はないらしい。でも……)

DQN幽霊(ある日、急に移動範囲が広がっていることに気付いたらしい。今までは町の南側に行くことは出来なかったのに、今では町全体を移動出来るようになった)


DQN幽霊(おかげで本人は映画館に行けるって喜んでいたが、どー考えてもあいつに襲われた影響だよな……?あれから数週間ぐらいでの出来事だし)

DQN幽霊(何がどうなっているんだか。これもオーブと合体して復活したせいなのか、それともあの水をまともに浴びたのが悪かったのか)

DQN幽霊(なんつーか……地味にこれってヤバい現象のような気がするんだよなぁ。あの日以来、先輩の気配?が少し変わったような気がするし)

DQN幽霊(まあ、俺がいくら考えても分からないことなんだがな。当の先輩本人にも直接の原因は分かっていないようだし)



幼女幽霊「おいDQN!この映画めちゃくちゃ面白いぞ!これは久しぶりの当たりだ!!」

幼女幽霊「ネットでもきっと評判がいいに違いない。どれどれ……なにっ!?☆2.5だとっ!?やっぱりレビューサイトは当てにならんわこいつら!!」



DQN幽霊「……」

DQN幽霊「先輩って、結構馬鹿っスよね」

幼女幽霊「あぁ!?いきなりなんだテメェ!!喧嘩売ってんのか!!!!」

幼女幽霊「高卒に馬鹿にされたくないわ!!!!それもお前、名前書けば入学出来る底辺だろうが!!!!バカアホウンコマヌケ!!!!」


DQN幽霊「いや、俺が高卒なら先輩は小卒っスよ。先輩って幼女の時に死んでずっとその姿のままらしいじゃないっスか」

DQN幽霊「あれ?ってことは小学校すら卒業してな――」



幼女幽霊「霊体パンチ!!!!!!」ボゴォ



DQN幽霊「へぶちっ!?」ドゴォ

幼女幽霊「幽霊に学歴なんて関係ないだろうが。学校も試験もないんだから。次にその話題出したら成仏させるぞ」


DQN幽霊「じ、自分が最初に高卒とか言い出したくせに……」ピクピク


幼女幽霊「はー暇だわ。最近はめっきり人も来ないしよぉ。もうそろそろ時期的に忙しくなってもおかしくないんだがなぁ」

DQN幽霊「確かに、最近何か暇っスね。去年の今頃と比べたら」

幼女幽霊「やっぱり、世間が色々騒いでたのが原因なんかなぁ……“アレ”があったし」

DQN幽霊「あー例の集団自殺っすか。確かにあれは色々盛り上がっていたっスね」

幼女幽霊「カルト宗教の集団自殺で100人近く死んだんだよ?まさに事実は小説より奇なりだよ。マジでヤバかったもんなアレ」

DQN幽霊「あれって結局、あの後進展かなんかあったんスか?いつの間にか報道されなくなってましたけど」

幼女幽霊「ないんじゃないの。当事者達はもれなく全員死んだんだし、これ以上の情報は出てこないっしょ」

DQN幽霊「しかしまあ、あれだけ死んだら数人くらいは幽霊だの怪物になって蘇りそうっスよね。規模が規模ですし」

幼女幽霊「復活するのに一番大事なのは未練って言うしねぇ。あの手の信者はもう決断した時点でこの世に何も残すものはないんじゃないの」

幼女幽霊「あ、でも何か変な噂があるんだよねぇ。その集団自殺について」

DQN幽霊「噂?どんなのっスか?」

幼女幽霊「そのカルト共ってさ、何か最終目標は神の復活やらなんやらってことがホームページに書かれていたらしいんだよ。で、自殺はその神を呼び出す為の儀式だったんじゃないかって話」

DQN幽霊「えー何か嘘っぽいっスよ。こじつけじゃないんスか?」


幼女幽霊「それがね、現場にはそれを証明するいくつか不自然な点が残っていたらしいんだよ」

幼女幽霊「まず一つ、あいつらが死んだ施設の昇降口が派手にぶっ壊されていたんだよね。まるで爆弾が爆発したみたいに」

幼女幽霊「でも、その跡には火薬を使った形跡がなかったんだ。外側から鍵がかけられていたみたいで、鑑識によると内側から何かとてつもない力でぶち壊されたみたい」

幼女幽霊「その呼び出された神が壊したんじゃないかって噂があったり、なかったりしてる」


DQN幽霊「確かに不自然っちゃ不自然っスけど……単に椅子とかをぶつけて壊しただけじゃないんスか?」


幼女幽霊「ま、これに関しては何も証拠は残ってないし、そう考えるのが自然だろうね。でもこれは前フリみたいなもんで、大事なのはこっからなんだよ」

幼女幽霊「その施設の地下に……妊婦が監禁されていて、殺されていた。カルトの関係者でもない、二週間前から捜索願が出されていた一般市民の妊婦がね」

DQN幽霊「あ、それは俺も聞いたことあるっス。確か、腹を裂かれて、しかも拳銃で撃たれた形跡もあったってやつっスよね」


幼女幽霊「そう、この妊婦がどうにも一連の事件から浮いているんだよねぇ」

幼女幽霊「現場で見つかった死体の中で、カルトと無関係なのはこの妊婦だけ。なぜかこの人だけを巻き込んで、集団自殺を決行した」

幼女幽霊「その死に方にも不自然な点がいくつもある。なぜ拳銃で撃たれた跡があるのか?なぜ腹を裂かれているのか?」

幼女幽霊「あ、でもこの腹が裂かれていたって話ってね。厳密に言えば違うって説もあるらしいよ」


DQN幽霊「え?どういう意味っスか?」


幼女幽霊「正確に言うとね、裂かれていたんじゃなくて……破かれていたんだよ。“内側からね”」

DQN幽霊「!?」ビクッ


幼女幽霊「おかしな話でしょ。外側からならともかく、内側。エイリアンじゃあるまいし」


DQN幽霊「い、いや……さすがにそれはデマっスよ。内側ってことはつまり、赤ん坊が――ってことに」


幼女幽霊「まあソースはない話だけどね。こんなの警察が発表出来るわけないし」

幼女幽霊「でも、妊婦のお腹から胎児が見つからなかったのは本当。臨月が近かったにも関わらず、大量の死体の山から一人だけ、あるはずのモノが消えた」

幼女幽霊「どう?ゾクゾク来ない?」


DQN幽霊「……」ゴクリ


幼女幽霊「まあ、どこまでが本当かなんて誰にも分らない話だけど。この手の話は尾びれ背びれが付いて当たり前だし、話半分で聞いた方がいいよ。今更だけど」

DQN幽霊「なんつーか……やっぱり、人間が一番怖いのかもしれないっスね。まだ黒幕が化け物だった、とか分かりやすいオチならいいっスけど」

DQN幽霊「ただ純粋な、人間の悪意だったっつーのは……こう、胸糞が悪いっス」


幼女幽霊「本当に去年は色々あったからねぇ。日本刀で辻斬りの通り魔とか、海外だと港で数十人のマフィアが血の海になっていたとか、人が起こす物騒な事件ばっかだったよ」

幼女幽霊「こう悪いことが続くと、何かの前兆のような気がするんだよね。大きな陰謀があったりして」


DQN幽霊「怖いっスねぇ……まあ俺らはもう死んでるし、別におびえる必要はないんスけど」


幼女幽霊「本当、幽霊万々歳だよね」

ピーーーー


幼女幽霊「おっ?客か。まだ真昼間だってのに、珍しい」


DQN幽霊「若い男が一人、珍しいっスね。一人でこんなところに来るなんて」

DQN幽霊(一人か……何かあの女を思い出すが、まあ大丈夫だよな?眼帯もしてないし)


幼女幽霊「ふふふっ、さぁて……久しぶりにやっちゃりますか。パワーアップした私の力をとくと見るがいい!!!!」

幼女幽霊「……ん?」ピクッ


DQN幽霊「どうしたんスか?先輩」


幼女幽霊「いや、こいつ……どこかで見覚えが」

幼女幽霊「――あっ」

幼女幽霊「い、いや……でもなぁ。年齢的にはあのぐらいの年頃になってると思うし、どこか面影もあるような


DQN幽霊「え?どういうことっスか?まさか先輩の知り合いだったりするんスか?」


幼女幽霊「知り合いと言ったら知り合いだけど……もう十年近く前だぞ。私が幽霊になりたての頃の話だし」


DQN幽霊「先輩が幽霊になりたての頃の話って聞いたことないっス。どんなことがあったんスか?」


幼女幽霊「いや、話すと長くなるんだけどさ、まあいいや。ちょっと昔話でもしようか」

幼女幽霊「あれは私がまだぺーぺーの幽霊で、この病院に住んでいたお爺ちゃんの幽霊と暮らしていた頃……」

▢▢▢▢ 十年前 ▢▢▢▢



幼女幽霊「ふぇぇ……」フワフワ



爺幽霊「……」



幼女幽霊「ふぇぇ……お爺ちゃん見てぇ。こんなに高く飛べるよぉ」



爺幽霊「……あぁ、そうだな」



幼女幽霊「ふぁぁ……ふぁぁ……」フワフワ

幼女幽霊「飽きた」スタッ



爺幽霊「……」

幼女幽霊「ねぇ、お爺ちゃん。暇ぁ」

幼女幽霊「何か遊べるおもちゃとかないの?」


爺幽霊「……将棋はどうだ、囲碁もあるぞ」


幼女幽霊「それ難しくてつまんなぁい。私、映画とか見たいよぉ。ホラー映画とか」


爺幽霊「……変わった子だ」



ガツッ



幼女幽霊「!!」ピクッ

幼女幽霊「この足音!もしかして、お客さん!?」

爺幽霊「……どうやらそのようだな」


幼女幽霊「わーい!ちょうど退屈してた頃だったんだ!ねぇ、今日はどんな方法でびっくりさせる?」キラキラ


爺幽霊「……今日は、お前一人でやってみるか?」


幼女幽霊「えっ!?いいの!?前は危ないからダメって言ってたのに!」


爺幽霊「……あぁ、そろそろ幽霊としての心意気も分かってきたようだしな」

爺幽霊「……だが、これだけは約束を守ってくれ。必ず――」


幼女幽霊「必ず危害は加えない!おどかすだけ!でしょ?もう分かってるって!」

幼女幽霊「じゃあいってくるね!よーし、頑張るぞぉ!!」フワッ


爺幽霊「……元気な子だ」

スタスタ スタスタ



幼女幽霊(いたいた……あの男の子だな。年齢は私と同じくらい?)

幼女幽霊(ふふふ、子供だからって容赦しないんだから。おしっこチビらせるくらいびっくりさせてやる)




少年「……」スタスタ




幼女幽霊(何かここからだと角度が悪いな。もうちょっと怖がりやすい位置に移動しよう)

幼女幽霊(目の前を横切ることになるけど、別に大丈夫だよね?普通の人にはこっちから姿を現さないと見えないって、お爺ちゃんも言ってたし)スッ




少年「!!!!」

少年「ねぇ!君!!そこで何してるの!?」

幼女幽霊「!?」


幼女幽霊(え、今こっちを見て……ま、まさか見えてる?)

幼女幽霊(っていうか、声をかけられた?)



少年「ん?どうしたの?ジッと固まって」



幼女幽霊「あ、あわわわわわ……」

幼女幽霊(な、なんで!?人間なのに幽霊が見えているの!?こわっ!)

幼女幽霊(普通逆でしょ!人間が幽霊にビビるならともかく、幽霊が人間にビビるなんて!!)


幼女幽霊「え、あの……一応、確認しとくんだけどさ」

幼女幽霊「わ、私に話しかけているの?」

少年「え?うん。他に誰かいるの?」


幼女幽霊「いや、いないけどさぁ……えぇ……」


少年「それより、こんなところで何をしているの?ここって、有名なおばけ病院なんだよ。そんなところを一人で探検してるなんて……幽霊に襲われちゃうよ?」


幼女幽霊「いや、それはこっちのセリフなんですけど……そっちもなんで一人でいるの?」


少年「僕?僕は……幽霊に会いたいからだよ。友達になりたいんだ、幽霊と」



幼女幽霊「は?」

少年「あはは、やっぱり変だよね。でも、本当なんだ」

少年「ずっと……小さい頃から、本で読んでいたんだ。幽霊が出てくるお話をね」

少年「自由に空を飛んで、好きなように暮らして、人を怖がらせて、悪いように扱われていることも多いけど、僕はそんな幽霊に憧れているんだ」

少年「だから、直接会おうと思ってここに来たんだけど……出てこないんだよね。やっぱり噂は嘘だったのかな」



幼女幽霊(目の前にいるじゃん、本物の幽霊。とは言えないよなぁ)

幼女幽霊(それにしても変わったやつ。幽霊に会いたいなんて……普通は怖いとか思うんじゃないの?意味分かんない)


幼女幽霊(幽霊に憧れてるって……そんないいもんじゃないのに)

幼女幽霊「ひとつ、質問していい?」

幼女幽霊「あなたは霊感というか、幽霊を感じ取れる不思議な力とか……あったりする?」


少年「え?どうして?」


幼女幽霊「いや、なんとなく」


少年「うーん、どうだろ。多分ないんじゃないかな?今までに一度も見たことないし」

少年「心霊写真とかを見ても、どこに何が写っているのか分からないしね」アハハ


幼女幽霊(霊感がない?じゃあなんで私の姿が見えて……ダメだ!さっぱり分からん!)


少年「で、君はどうしてここにいるの?もしかして、君も幽霊を探しに来たの?」

幼女幽霊「うっ……それは……」ギクッ

幼女幽霊(ど、どうしよう。ここに住んでいる、なんてとてもじゃないけど言えないし)

幼女幽霊(て、適当に話合わせとくか)


幼女幽霊「ま、まあ……そんな感じ、かな?」


少年「本当!?」キラキラ

少年「君も幽霊が好きなのっ!?ここにはよく来たりするのっ!?幽霊を見たことがあったりする!?」


幼女幽霊(め、めちゃくちゃ食いついて来るな。というか、こいつ私が幽霊だってまだ気付いてないのか。どう考えても不自然じゃん)

幼女幽霊(うぅ、でも今更おどかすなんて出来ないし……どうしよ)

幼女幽霊「ってことになったんだけど」


爺幽霊「……そうか」


幼女幽霊「一体どうなってるわけぇ……なんであいつ私が見えてるの。おかげで全然怖がらせられなかったし。それどころか一緒に遊ぶことになったし」

幼女幽霊「挙げ句の果てにはまた会う約束までしちゃったしぃ……意味分かんない」


爺幽霊「……恐らく、その子が見えたのは年齢のせいだろうな」


幼女幽霊「え?子供だからってこと?」


爺幽霊「……霊感がある人間は僅かにだが存在する。だが、姿をはっきり視認するとなると、それらの者は更に限られてくる」

爺幽霊「……だが幼子なら話は別だ。彼らは生命のエネルギーの塊だ。一時的にだが、それに反発する力を持っている我々のような死者を感じ取れると聞いたことがある」

爺幽霊「大半は赤子の時点でその力が失われるのだがな。あの子はかなり長持ちしている方だ」


幼女幽霊「ってことは……そのうち見られなくなるってこと?」


爺幽霊「……あぁ。だが、元々彼には霊感があるのかもな。もっとも、その可能性はゼロに等しいが」


幼女幽霊「うぅ、面倒だなぁ。さっさと見えなくなればいいのに。また明日もくるって言ってたし」


爺幽霊「……本当にそう思っているのか?満更嫌じゃないようにも見えるが」


幼女幽霊「は、はぁ!?い、嫌に決まってるし!!!!幽霊と友達になりたいとか言ってるやつか気持ち悪いだけじゃん!!!!もう二度と会いたくないよ!!!!!」

幼女幽霊「私は子供っぽいやつは嫌いなの!!!!」


爺幽霊「……そうか」

……………………………………………………
………………………………………



幼女幽霊「はー疲れた。ガキの相手するのってダルいなぁ」

幼女幽霊「今日なんてゲームに付き合わされたし。あ、でも最近のゲームってすごいリアルなんだね。お爺ちゃん、今度携帯ゲーム機持って来てくれる?」


爺幽霊「……ずいぶんご機嫌そうだな。そんなにあの子と遊ぶのは楽しいか?」


幼女幽霊「ち、ちげーし!!!!向こうがやりたいって言ってくるから付き合ってあげてるだけだし!私は全然楽しくないし!」

幼女幽霊「ほら、あいつってあんな性格だから私以外に友達いないんだって、だからかわいそうだと思って私が遊んであげてるんだよ!偉いなぁ、私って」


爺幽霊(……友達がいない、か)

爺幽霊「……幼女、一つだけ忠告しておくぞ」


幼女幽霊「ん?何?」



爺幽霊「……あまり、情を持たないようにな。別れがつらくなるぞ」



幼女幽霊「……っ」

爺幽霊「あの子もいずれ……見えなくなるだろう。その時はじきにやってくる。必ずな」



爺幽霊「……覚悟はしておいた方がいい。儂ら幽霊は……もう人間ではないのだから」




幼女幽霊「……」



幼女幽霊「……分かってるよ、そんなこと」

▢▢▢▢ 翌日 ▢▢▢▢



幼女幽霊「なぁ、私たちって知り合ってからどんくらい経った?」

少年「どうしたの急に」

幼女幽霊「別に、気になっただけ」

少年「えーっと、四か月ぐらいじゃない?」

幼女幽霊「そっか、まだそれだけしか経ってないのか」


幼女幽霊(……四か月か。幽霊になってまだ一年ぐらいだけど、こんなに楽しく過ごした時間はなかったな。死んでから同年代の友達なんて出来なかったし、生きていた頃を思い出す)

幼女幽霊(でも……いつか、この子も見えなくなる時が来るんだ。何となくだけど、私にも分かる。それがそう遠くないってことも)


幼女幽霊「ねぇ、もし私がいなくなったら……どうする?」


少年「――えっ?」

少年「ど、どういう意味?それってまさか、引っ越しでもするの?」


幼女幽霊「……まあそうだね。するかもしれない」


少年「い、嫌だよ。僕……せっかく仲良くなったのに……」ウルウル


幼女幽霊「な、泣くなよ。そんなことで」



少年「うっ……うぅ……でもぉ……」ウルウル



幼女幽霊「あ、あーもうっ!!嘘だって!!!引っ越さないから!どこにも行かないから!!」

少年「ほ、本当?」

幼女幽霊「当たり前だろ!ちょっとからかってみただけだよ!本気にしないでよ」

少年「よ、よかった……うぅっ……」ゴシゴシ

幼女幽霊(はぁ、こりゃ正直に言うのは無理だな。私が幽霊だって知ったらショック死でもするんじゃないの)

幼女幽霊(――もう、時間がないのに)


少年「そうだ!ねぇ、今度の日曜日に出掛けない?ちょうど家族と遊園地に行くんだけど、一緒に行こうよ!」

幼女幽霊「えっ、遊園地?」

少年「いつも遊ぶのはここの病院だし、たまにはいいでしょ?」

幼女幽霊「うーん……遊園地かぁ。それってこの町じゃないよね?」

少年「うん、車で一時間ぐらいはかかるかな」


幼女幽霊(私の移動範囲を超えているな。一緒には無理か)


幼女幽霊「悪いんだけど、その日は予定が――」

少年「えっ……」ピクッ



幼女幽霊(うぐっ、さっきの流れ的に断りづらい)

幼女幽霊(ま、まあ……当日にやっぱり行けなくなったってことで、ドタキャンすればいいか。今はこいつに合わせておこう)



幼女幽霊「――予定があった気がしたけど、特に大したもんでもなかったから、別にいいよ。行っても」


少年「やったー!じゃあどこで待ち合わせする?君の家に直接車で行こうか?それとも駅前にする?」

幼女幽霊「あー……ここに迎えに来てもらうのってあり?私の家ここから近いからさ、そっちの方が分かりやすいと思う」

少年「うーん、じゃあ当日にちょっと早く僕が迎えに来るよ。そこから歩いて僕の家まで行って車で行こうか」

幼女幽霊「じゃあそれで」



少年「約束だよ!今度の日曜日!一緒に遊園地!」



幼女幽霊「……うん、約束」

▢▢▢▢ 日曜日 ▢▢▢▢



幼女幽霊「うぅっ、とうとうこの日が来てしまったか」

幼女幽霊「やっぱりあの日のうちに断っておくべきだった……あいつきっと残念がるだろうな。また泣くかもしれないぞ」

幼女幽霊「あーもうっ!!!!私の馬鹿ぁ!!!!」バタバタ



爺幽霊「……」

爺幽霊「……ん、あの子が来たみたいだぞ」



幼女幽霊「あぁ……仕方ない。行くか、気が滅入るなぁ」フワフワ







少年「迎えよに来たよー!!どこにいるのー?」

幼女幽霊「よ、よう」ヒョコッ


幼女幽霊「じ、実はさ……今日のことなんだけど……実は外せない予定が出来て」

幼女幽霊「い、一緒に行けないや。本当にごめんね」




少年「…………」

少年「あれぇ?おかしいなぁ。まだ来てないのかな」




幼女幽霊「――――えっ?」

幼女幽霊(あ、あれ……おかしいな。目の前にいるのに)

幼女幽霊(まるで……姿が見えていないみたいに)



少年「おーい!いるのー?」



幼女幽霊「な、なぁ!もしかして怒ってるから無視してるのか!?本当にごめんって!」

幼女幽霊「こ、今度は……!ちゃんと行くから!!なぁ!」



少年「……いないや。もしかして、忘れてるのかな。今日のこと」



幼女幽霊「い、いるよ……ここに……」

幼女幽霊「わ、忘れてないよ……」

幼女幽霊「わ、私は……!ここにいるんだよ……!!」

幼女幽霊(っ!!そ、そうだ。いつも怖がらせる時のように、存在を濃くすれば……!)グッ


ガシッ


幼女幽霊「!?」クルッ


爺幽霊「……それだけは駄目だ。自らの存在を表に出すことは許されない」

爺幽霊「……時が来たんだ。もうあの子に関わるのは……よせ」


幼女幽霊「お、お爺ちゃん……!でも……!!」


爺幽霊「言ったはずだ、覚悟はしておけと。これが……境界線なんだ。死者と生者の。これ以上それに踏み込むことは出来ない」


幼女幽霊「そ、そんな……ま、まだお別れも……してないのに」

幼女幽霊「もう遊べないなんて……せ、せっかく出来た――友達なのに」

爺幽霊「……分かってくれ。部屋に戻ろう」

幼女幽霊「……っ。わ、分かった」

爺幽霊「……いい子だ」




少年「まだ時間もあるし、ここでちょっと待ってようかな」

少年「……約束したんだもん。きっと、来てくれる。あの子なら」




幼女幽霊「…………」

幼女幽霊「…………さよなら」クルッ




少年「?」クルッ

少年「……今、何か聞こえたような」


少年「……気のせいかな」

…………………………………………………………
……………………………………………



幼女幽霊「ってことがあったんだよ」

幼女幽霊「多分だけど、あの客はあいつかもしれない。何となく面影があるんだよね。もう十年も前だから気のせいかしれないけど」


DQN幽霊「うぅっ……悲しいラブストーリーっスね。ちょっとジーンときたっス」


幼女幽霊「は?何言ってんだお前。友達ではあったけど、そんな関係じゃないぞ。なに聞いてやがった」


DQN幽霊「それで、その男の子とはそれから会ってないんスか?」


幼女幽霊「まあ、あれから何回かはここに来たけど、向こうが見えなくなっちゃったからね。そのうち来なくなったよ」

幼女幽霊「……あぁ、懐かしいな。本当に」

DQN幽霊「で、これからどうするんスか?いつものようにやります?」


幼女幽霊「今日はいいや、気分じゃなくなった。ここで観察してよう」

幼女幽霊「それにしても……どうして今更ここに来たんだろ。もうずっと会ってないのに」


DQN幽霊「うーん、多分っスけど、もう町を離れるんじゃないっスか?」

DQN幽霊「ほら、先輩と同じ歳ならもう18じゃないっスか。大学やら就職やらで独り暮らしを始めるから、最後のお別れに来たのかも」


幼女幽霊「……そうか。あいつもそんな歳か」

幼女幽霊「もうすっかり立派になって。変わらないのは私だけか」


幼女幽霊「…………」

DQN幽霊「先輩、最後にあの人に会って来たらどうっスか」


幼女幽霊「会うって、向こうが見えないんじゃ意味ないだろ。何言ってんだお前」


DQN幽霊「はァ~分かってないっスね。こういうのは気持ちの問題っスよ。目に見えなくても、伝わるものっス」

DQN幽霊「先輩も、何か言いたいことがあるんじゃないっスか?」



幼女幽霊「……」



幼女幽霊「――じゃあ、ちょっとだけな」フワッ

男「……」

男「やっぱり、いないか」




幼女幽霊「……いるっつの。私はずっとここに」

幼女幽霊「はぁ、ちょっと見ない間に大人になりやがって。私は変わらないってのに」


幼女幽霊「…………」


幼女幽霊「……まあなんだ、久しぶりに会えてよかったよ。元気そうで安心した」

幼女幽霊「頑張れよ。色々つらいこともあるだろうけど、生きていればいいことはあるから」

幼女幽霊「……これで本当にさよなら。ばいばい」スゥ




男「?」クルッ

男「なんだ?今……」


男「――そうか。今思うと、あの女の子は」

男「ありがとう。俺も……頑張るよ」

DQN幽霊「先輩、何話してきたんスか?」

幼女幽霊「別に、何も」

DQN幽霊「またまた~もしかして告白っスか?」ニヤニヤ

幼女幽霊「ぶっ殺すぞワレ」

DQN幽霊「隠さないでいいんスよ。俺と先輩の仲なんスから」ニヤニヤ



幼女幽霊「オラァ!!!!死ね腐れDQN!!!!土に還してやる!!!!!」

DQN幽霊「え、ちょ、先輩……冗談ですって……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」






おわり






……………………………………………………………
……………………………………………




グチュ……グチャァ……





「はァ。物足りないなァ……もう人間を刈るのも飽きちゃった」



「お肉もそこまで美味しくないし……お菓子の方が全然いいや」ペッ



「あァ……いつになったら私達を狩りに来てくれるの?もう待ちくたびれちゃうよ。ねぇ……」





「“影の王子様”」




プルルルルルルル……プルルルルルルル……



幼女幽霊「もしもし?」

幼女幽霊「あ、口裂け女さん。どうしたんですか?」


幼女幽霊「えっ、女子会って……まだその企画生きていたんですか?何だかんだでみんなの予定が合わないから、もう自然消滅したかと」


幼女幽霊「え、今度こそは日程が決まった?」

幼女幽霊「はぁ、まあそれはいいですけど、メンバーは変わらないんですよね?」

幼女幽霊「メリーさんに、テケテケちゃん、こっくりさんに花子さん。そして……ひきこさんちゃん」


幼女幽霊「……本当にメリーさんとひきこさんちゃんも呼ぶんですか?嫌ってわけじゃないですけど、あの二人って私達の世界でも相当“ヤバい”部類じゃないですか」

幼女幽霊「いや、ひきこさんちゃんはまだ性格がアレなだけでいいですけど……問題はメリーさんの方ですよ」



幼女幽霊「……正確に言うと刈人の“メア”の方ですけど」



幼女幽霊「来るのは“リリー”だけだから大丈夫?うーんでもなぁ……まあ確かに、一番ヤバい状況はあの人達をハブったことがバレた時ですよね」

幼女幽霊「……分かりましたよ。で、いつになったんですか?」









おわり?

終わりです
エピローグとプロローグに過去編を挟んだみたいな感じになったのでいつもよりは短編になりました
本番は…夏が始まるくらいになる予定です

人間、幽霊、怪物のなかで人間サイドの優遇率が半端ないんだよなぁー

~人間~
SS シャドウ(霊能少女妹?)
S 霊能少女
B+ 魔女
B ハンター達、和尚
D 和尚弟子

~幽霊~
A+ 幼女幽霊
D DQN 幽霊

~怪物~
A+ 吸血鬼少女
B 屍男

その他、怪物、妖怪
口裂け女さん、ひきこちゃんさん、花子ちゃん、メリーさん
描写なしのため不明だがひきこちゃんさん強いらしい

EX かみかま

>>49
大体自分が考えていた通りのバランスですごいです
人間側が強いのは理由があって意図的に書いているつもりなんですが次からは幽霊怪物サイドもだいぶ掘り下げられると思います

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