霊能少女「本当の戦いはこれからってやつかな」 (384)

▢▢▢▢ 一日目 ▢▢▢▢



女「…」

女「…」ソワソワ



ピンポーン



女「」ピクッ

女「は、はーい!」ダッ



ガチャッ



女「お、お待ちしておりました。どうぞ、入ってください」



和尚「…失礼します」ペコリ

弟子「…」ペコリ

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女「あの…お茶です。良かったらどうぞ」スッ


和尚「これはご丁寧に、どうも」

和尚「…」チラチラ


女「…や、やっぱり何か感じたりします?」


和尚「…そうですね。これは何か憑いていると見て、間違いないと思います」


女「そ、そうなんですか…やっぱり」


和尚「では、いつ頃から…怪奇現象が起き始めたか、お話してもらえますか?原因究明の糸口があるかもしれませんので」

女「は、はい…最初に変だなって思ったのはちょうど一か月くらい前だったと思います」

女「急に真夜中に…人の声みたいなのが聞こえて。聞き間違えかと思ったんですけど、母も同じような声を聞いたらしくて」

女「それから…お皿が急に割れたり、変な叩く音みたいなのが聞こえたり…私も体調をちょっと崩したりして、気味が悪い出来事が続いていたんですよね...」

女「一週間前には母が仕事中に倒れて入院したんです。病院は過労で疲れが溜まっていたんじゃないかって言っていたんですけど、私にはどうも信じられなくて」

女「…そして、母が入院したその日の夜…就寝中に金縛りに遭いました」

女「体が動かなくなって…本当に怖くて、辺りを見回してみたら…部屋の隅に人の影のようなものが見えて…」ブルブル

女「…その後のことはよく覚えていません。目が覚めたら朝で、金縛りも解けていました」


女「…で、これはもうダメだと思って、霊能者の方に頼ることにしたんです」

和尚「…大変な思いをしましたね。お母様の方は大丈夫ですか?」

女「はい。あと数日もしたら退院できるみたいです」


和尚「そうですか…それは良かった」

和尚「話を聞く限り、風水的な理由があるのかもしれません」


女「風水…ですか?」


和尚「はい、時々あるんですよ。悪い気の流れの進行が変わって、その影響を人が受けるんです」

和尚「少し、試してみましょうか。コップと水とタオルを用意してもらえますか?」


女「わ、分かりました。取ってきます」スッ

女「はいっ、これで大丈夫ですか?」


和尚「ありがとうございます。ではそれをテーブルの中心に置いてもらえますか」


ゴトッ


和尚「悪い気というのは水に反応します。水場は霊が集まりやすいとよく言われているでしょう?あれは正確に言えば間違いで、悪い気に影響された水に、霊が寄ってきているんです」

和尚「このコップの上に手をかざすと…」スッ



コトッ…

ガタッ!!!



女「コ、コップが倒れた!?」

和尚「えぇ、私の気に反発して、コップが動きました」フキフキ

和尚「…これは相当、気が集まっていますね。ここまで動いたのは初めて見ました」


女「あ、あの…これって私がやってみても何か起こったりするんですか?」


和尚「いえ、力がないと反応しません。お試しになってみますか?」


女「いえ!だ、大丈夫です!だって私、ここで毎日ご飯食べても何も起こっていないので」




和尚「今日のところは盛り塩をして、気の流れを逆に追い返すように処置しましょう。普通ならこれで解決するはずです」

女「そ、そうですか…良かった、安心しました」

和尚「あと、影を見たという部屋を一応確認させてもらってもよろしいですか?」

女「はい、寝室はこっちです」スクッ

スタスタ スタスタ


女「ここです」


和尚「…」


女「あの…どうですか?」



和尚「…」



女「…?あの…」

弟子「すみません。先生は今、この部屋で何かを感じているようです。少し見守っていてください」

女「そ、そうなんですか?」

和尚「…」

和尚「…ふう」


女「ど…どうでしたか?」


和尚「…この部屋にカメラを置かせてもらっても大丈夫ですか。機材は全てこちらで手配しますので」


女「カ、カメラですか?」


和尚「えぇ、申し訳ないのですが…まだ直接的な原因は分かっていません。しかし、その片鱗はこの部屋から感じることが出来ました」

和尚「ここの部屋が一番、瘴気が強いようです。カメラというのは人の目に写らないモノを捉えることがあります。上手く行けば手掛かりが掴める可能性がある」


女「わ、分かりました…お願いします」

和尚「それと、今日はこの部屋で寝てもらっても大丈夫ですか」


女「えっ!?で、でもっ…」


和尚「はい…先程申したようにここで過ごすと貴女に危害が及ぶ可能性もあります。ですが安心してください。私達がお祓いをしておきますので、今晩だけは直接何かが起こるようなことはないです」


女「…ぜ、絶対安全ですよね?」


和尚「はい、少なくとも命に関わるようなことは万に一つもありません」


女「…」

女「わ、分かりました」

▢▢▢▢ 二日目 ▢▢▢▢



ピンポーン


ガチャ



女「…」ブルブル



和尚「…連絡がありましたので、様子を伺いに来たのですが…」

弟子「…」



女「あうっ…カ、カメラに……」ブルブル

女「わ、私…何が映ってるか確認したんです…そ、そうしたら…うつっ…」ブルブル

和尚「…映っていたんですね。貴女の家に憑りついているナニかが」

和尚「一人でさぞ恐ろしかったと思います…今回は私のやり方が強引過ぎました。もっと慎重に、貴女の心境も配慮するべきでした」

和尚「…では、昨日、何が映っていたのか見せてもらえませんか。大丈夫です、今日中に決着がつきます」


女「は、はい…」ブルブル




カチッ

ザッ…ザザザッ…ザァ-




女「き、昨日は11時に寝たので、そこから始まってます」

和尚(…既にカメラにノイズがある。もう干渉しているのか?)

女「で…最初の数時間は何もなかったんです。で、でも…夜中の3時頃から…」ブルブル

和尚「…大丈夫です。落ち着いて、ここから先の操作は私がやります」ピッ



『3:09』



女「こ、ここです!ここで何か白くて丸いものが窓のところに!」


和尚「…」

和尚(玉響…ではないな。あれはもっと小さい。だが霊にしては姿がハッキリしていない)

和尚(ということは…呪詛の類いか。しかし見たことがない色だな)



女「……」

女「こ、ここから先は…」ブルブル

和尚「無理はしないでください。貴女は別の部屋で休んでいた方がいい」

和尚「ここから先は私が一人で見ます。おい、彼女に付いていてやりなさい」


弟子「承知しました」

女「で、でも…」


和尚「…これを言うと取り乱すと思って言い出せなかったのですが、貴女には既にナニかが憑いているんです。恐らく、お母様に憑りついたのと同じモノが」

和尚「昨日と比べてその症状が酷くなっている、原因はこのビデオに映っているのを見たせいでしょう。このままだと取り込まれてしまいます」

和尚「これは警告です。どうか安静にしていてください。私が何とかしますから」

女「…っ!?」

女「わっ、分かりました…終わったら、呼んでください」

弟子「さっ、こちらへ」



スタスタ スタスタ



和尚「…」



和尚(映像を見ただけで影響を及ぼす、か。どうやら一筋縄ではいかないらしいな)

和尚(ここから先はかなり危険な領域だろう。あの二人では耐えられない程の)ピッ

ザザザッ……ザァー……



『3:15』




女『…』スゥ




ズズズズッ…




和尚「…!」

和尚(…部屋の隅から黒い人影が。なんだこいつは)

和尚(これも霊ではない…呪詛なのか?しかし人型の呪詛など…)

ズズズズッ

ガパッ



女『…!んっ』モゾッ




和尚(彼女の口から何かを入れている…状態が悪化していたのはこの為か)

和尚(…生霊の線も出てきたな。明らかにこの影からは意思を感じる。誰かが操っているはずだ)

和尚(だが、昨日…この部屋は祓い、彼女には結界を張ったはずだ。それにまったく動じていないのはどういう…)



ズズズズッ…



女『んっ…』スゥ

和尚(…終わったようだな。影が消えてゆく)




ズズズズッ……



和尚「…」

和尚「…!」




『カ………ミ………カ…………マ…………』ジロッ





和尚「!?」ゾワッ

和尚(こ、こいつっ…カメラに気付いて…)

和尚「ふぅっー…ふぅっー…」ダラダラ

和尚「な、何年振りだ…冷や汗をかいたのは。あの感覚…これは早急に手を打たないと不味い」

和尚「いや…もう全て手遅れかもしれないな。その時は―――」









ガチャ



和尚「…」

女「ど、どうでした…?」

和尚「あの映像はどこまで見ましたか?」

女「えっ…あ、あれですか?黒い物が見えた辺りで気分が悪くなって…すぐに和尚さんのところに連絡したんですけど」

和尚「そうですか、良かった」

和尚「今からすぐにお祓いをします。この家に住み着いている"モノ"を追い出すので、準備を」

弟子「はっ」


女「えっ、今すぐにですか?」


和尚「はい、事態は一刻の猶予を争います。日が昇っている今ならまだ…間に合うかもしれません」

和尚「任せてください。必ず貴女を守って見せます」


女「…わ、分か…りました。お願いします」

チリーン チリーン



和尚「…」ブツブツ

弟子「…」ブツブツ



女(…念仏かお経のようなものを唱えているけど、これが本当のお祓い)

女(昨日は部屋に塩を盛って、少し唱えた程度で終わったけど、今回は仏壇や色々な道具が置いてあって…この場にいるだけで圧迫されそうになる)

女(こ、これなら…何とかなるかも。そんな安心感がどこか湧いてくる)



和尚「…!」ブツブツ

弟子「…!」ブツブツ



女(唱える速度が上がった…すごい迫力、さっきまでの優しそうな人とは思えない)

女(あれ?なんだろ、この感覚。何か、来るような)

ドンッ!!!!



女「」ビクッ

女「ろ、蝋燭が落ちた!?」



和尚「落ち着いてください!決して取り乱さないように!!」

和尚「来るぞ!気を張れよッ!!」


弟子「ハイッ!」グッ




女「…っ!」グッ




ズズズズッ……




女「!?」

女(な、に……黒い影みたいなのが天井に…)

女(あれって……ビデオに映ってた…!)

和尚「お出ましたか…!一気に畳みかけるぞッ!!!」

弟子「は、はいっ…!!」



ズズズズッ……

ズズッ……



弟子「うグッ…あぐッ……」フラッ

和尚「しっかりしろッ!取り込まれるぞ!」

弟子「は、イッ…」



女(か、影が…和尚さんのお付きの人のところに…)

女(これって…かなり危ない状況なんじゃ)

弟子「」フラッ


バタッ


和尚「おいっ!しっかりせんか!おいっ!!」

和尚「く…駄目か。ならば」スッ

和尚「スー…」クイッ


和尚「セイッ!!!!!」クンッ




ズズズズッ…ズズズズッ…




女(…!影が怯んでいるように見える!効いてるのっ!?)

和尚「スーッ…セイッ!!!!スーッ…セイッ!!!!」

和尚「セイッ!!!!セイッ!!!!!」



ズズズズッ……



女(か、影が消えかけて…!これなら!)



和尚「スーッ」

和尚「セイイイイイイイイイイイッッッッッ!!!!!!!!」グンッ



ズズズズッ…

シュンッ



女「!!!!」

女(か、影が消えた!!!!)

和尚「フーッ…フーッ...」

和尚「お、おい…意識を保て、私の声が聞こえるか?」

弟子「あっ…は、はい……」フラッ

和尚「そうか…これで…」


女「あ、あの!成功したんですか?」


和尚「はい、何とか…祓うことに成功しました。これで解決したはずです」


女「よ、良かった…終わったんですね。これで」

和尚「えぇ、かなり手強い相手でした…一歩間違えば、こちらも…」

和尚「後は…仕上げに結界を張れば、いつも通りの生活に戻れると思います」


女「あの、今回は本当にありがとうございました!和尚さんがいなかったらと思うと!」


和尚「いえ…これが私達の仕事ですので。今日のところはお休みさせてもらっていいでしょうか。こちらもかなり力を使わされたので」

和尚「明日の昼に…結界を張りに伺います」


女「はい!本当にありがとうございました!!」

▢▢▢▢ 三日目 ▢▢▢▢



チッ…チッ…チッ…



女「…」ソワソワ

女(…和尚さんたち遅いな。昼に来るって言っていたけど、もう夕方、何か急用でもあったのかな)

女(それにしても…昨日の夜は本当によく眠れた。あそこまで熟睡出来たのは久しぶりかも。またお礼言っておかないと)



ピンポーン



女「…来た!」ダッ

女「はーい」ガチャ




霊能少女「…」




女「?」

女(あ、あれ?和尚さんじゃない?眼帯を付けた、中学生くらいの女の子)




霊能少女「…どうも、和尚の代わりに来た」




女「か、代わり?和尚さんに何かあったんですか?」







霊能少女「和尚は死んだ。今朝にぽっくり」






女「………えっ」





女「えっ…う、嘘だよね?和尚さんが、なんで…...」

女「だ、だって昨日は私の家でお祓いしてくれたのに……そのお祓いも成功して」



霊能少女「結果的に言うとお祓いは成功した。でもその元を絶つまでには届かなかったってこと」

霊能少女「和尚は…ここの家に憑いている何かに取り込まれて死んだ…お弟子さんも一緒にね」



女「お、お弟子さんって…あの人も一緒に…...」ブルッ

女「そ、そんなことって、だって昨日は何も起きなかったのに…!どうしてっ…!」

霊能少女「簡単なこと。アナタがゆっくり寝ている間に、ソイツは和尚のところに行っていた」

霊能少女「…あの人をいとも簡単に憑き殺すなんて、かなり強力な力を持っている。和尚も計算外だったと思う、まさか自分のところにまで被害が出るなんて」



女「うあっ…ど、どうすれば……お、和尚さんたちも死んだってことは…つ、次は私か、お母さんの番」

女「あ、ああああああああっっっっっっ!!!!!!!」グッ







スッ…


女「」ピクッ

霊能少女「落ち着いて、アナタとその家族には手出しさせない。そのためにワタシが来た」

霊能少女「和尚に跡を継ぐように託されたからね…あの人には何度かご飯をご馳走になったし、恩がある」

霊能少女「必ず、この件はワタシが解決する。そしてアナタたちを守る」


女「っ…!」

女(な、なんだろう…この子の瞳は…凄く綺麗)

女(…確かな意思と力が感じられる。言葉では説明できない、でもそこには…恐怖にすら近い安心感が湧いてくる)



霊能少女「とりあえず、家の中を案内して。色々見ておきたいものがある」

今日はここまで
恐らくスレタイとここまでの展開で分かる人は元ネタに気付くと思います
大体あんな感じで進みます

ガチャ


女「こ、こっちです」

霊能少女「…」

女「ここがお祓いをした部屋で…お祓いの最中に弟子の人が倒れて、もうダメかと思ったんですけど、最後は和尚さんが」

霊能少女「…」

女「な、何か感じたりします?」

霊能少女「別に」


女「…そうですか」

女「ここが…和尚さんが一番力を感じた部屋だと言っていました。それでここの部屋でカメラを回して」

霊能少女「その映像ならワタシも見た…今までに見たことのない種類だったから、色々興味深いモノだった」

霊能少女「あの影は呪詛の一部で間違いない。でも呪いの類いにしては意思があった。ってことは…誰か黒幕が存在するはず。この家に呪詛を飛ばして、和尚も殺した黒幕がね」

女「く、黒幕って…!誰がそんなことを!」

霊能少女「…さあ、そこまではワタシも分からない。でも直に、そう遠くないうちに真相が分かると思う」


女「…」

女「あの、この部屋を見て何か感じませんか?和尚さんはしばらく立ち尽くしていたんですけど」


霊能少女「別に、フーンって感じ」


女「フーンって…」

女「一通り部屋は見回りましたけど…何か感じたりしました?」


霊能少女「特に何も」


女「そ、そうですか…」

女(な、なんだろう。この子…初めて会った時は只者じゃない気がしたけど、よく見ると普通っていうか)

女(和尚さんは人とは違うオーラ…?っていうのかな。そんなのが感じられたけど、この子からはそんな感じがない)

女(っていうか、さっきから気になっていたけど…なんで眼帯してるんだろ、ものもらい?)

霊能少女「何か?」


女「あ、あのっ…えっと…」ピクッ

女「な、なんで眼帯してるのかなぁ…って。目の病気か何かだったりするんですか?」


霊能少女「…あぁ、これ」スッ

霊能少女「別に、そこまで深い意味はない。ただこれを付けていると気付かれにくいってだけ」


女「…気付かれにくい?」



霊能少女「それより、手伝ってもらえると助かる。今からこれを設置するから」ドサッ

女「えっ…な、なんですかそれ」

霊能少女「監視カメラ、とりあえずお風呂とトイレ以外の全て部屋に置かせてもらう」

霊能少女「敵はどこから来るか分からない。目はなるべく多い方がいい」


女「は、はぁ。分かりました」




カチャカチャ カチャカチャ




女(監視カメラ…か。和尚さんも使っていたけど、そんなに便利なのかなこれ)

女(確かにあの時はバッチリ撮れてた。でもカメラに幽霊みたいな超常的なモノが映るなら…もっと本物っぽい心霊動画とかあってもおかしくないと思うんだけど)

女(…あれ?全部の部屋に付けたけどカメラが余ってるな)

女「すみませーん。カメラが余っているんですけど、まだ設置する場所とかあります?」


霊能少女「あぁ、それは玄関先のところにお願い」


女「玄関先って…外にも監視カメラを置くんですか?」


霊能少女「念のために、ね」



女(念のために、か。あの影みたいなのが正面の玄関からこんにちはでもしてくるのかな)

女(場所は…ここでいいかな?…ん?)ピクッ

婆「…」ガサゴソ







女(…またあの人、家の前をウロウロしてる。不気味だなぁ)

女(まるで幽霊みたい…って、笑えないな。今の状況だと)







婆「…」ガサゴソ

女「カメラ全部設置完了しましたー」

霊能少女「…ありがと。後はパソコンに繋いで」ッターン



パチッ



女「おぉ…すごい」

霊能少女「これでこの家を24時間監視できる。どんな隙も見逃さない」

女「な、何か結構ハイテクなんですね。霊能者の人ってもっとアナログ的な感じだと」

霊能少女「…あいつらも時代に合わせて変化している。今のご時世だとこのくらいは機械に頼らないとやっていけない」

女「でも一つのモニターで全部の部屋を見るって大変じゃないですか?そこの下の方の部屋とか一瞬何かが映っても見逃しちゃいそうですし」


霊能少女「問題ない。例え玉響の一つでも、ワタシの目は見逃すことはない」


女「…たまゆら?」


霊能少女「俗に言うオーブ、ってやつ」


女「あー…あの埃みたいのですか」

女「まだ監視カメラには何も映ってないですけど、オーブって普通の家にもいるものなんですか?」

霊能少女「視認出来るタイプは一般家庭にはあんまりいないけど、小さいやつならごまんといる。それこそ埃と同じくらいに」

女「えっ…そ、そんな身近に?」

霊能少女「悪影響はほぼないから気にすることはない。精々リモコンを隠すくらいの悪戯しか出来ないから」


女(…あれってオーブの仕業だったのか)




霊能少女「…さて、一段落済んだことだし、さっそく始めよう」


女「始める?何を?」







霊能少女「除霊、アナタの中にいるモノを追い出す」






女「えっ」





女「え、えっ…わ、私にまだ何か憑いているんですか!?」

霊能少女「和尚に言われなかった?ワタシにも具体的には分からないけど、アナタには変なモノが憑いている」

霊能少女「大丈夫、すぐ終わるから。服を脱いで」

女「え、ふ…服を脱ぐって、何をす―――」


ヌギィ


女「ひぃ!?」


霊能少女「っ!」グッ



ニュルッ

女「えっ!?ちょっ…!は、入って…これ!?背中に腕がぁ!!!!」

女「どうなっているんですかぁ!!!!!!」


霊能少女「落ち着いて、別に変なことはしていない。すぐ戻る」グイッ


女「い、いやすぐ戻るって!!!めちゃくちゃ体内で動いてる感触がするんですけどぉ!!!」


霊能少女「…捕まえた」グイッ


ニュルッ

パッ


女「っ!?」ビクッ

女「あ、あれ…ほ、本当に何でもない。確かに腕が体の中に入ってた感覚があったのに」サワッ

霊能少女「…こいつか」ポイッ



ピチピチッ ピチピチッ



女「!?」ビクッ

女「え、な、なにこれ…これが私の中に?」



シュゥッ…



女「き、消えた…」

女「さっきの黒いピチピチしてたミミズみたいなのが私の中に入ってたんですか!?一体何なんですかあれ!!」

霊能少女「さあ、ワタシにもアレが何なのか分からない。あれも今まで見たことがないタイプだった」

霊能少女「…面白い、これを仕掛けたやつがどんなヤツか知らないけど、いい度胸してる」


女「面白い?」ピクッ


霊能少女「…」

霊能少女「ごめん、今の言葉は不謹慎だった。訂正する」



女「…っ!」ハッ

女「ちょ、ちょっと待ってください!私にもあの変なのが憑いていたってことは…病院にいるお母さんは大丈夫なんですか!?」

霊能少女「…恐らく、アナタよりも影響を受けている可能性が高い。和尚もあの呪詛にやられたと見て間違いないと思う」

女「そ、そんな…は、早く病院に行かないと」ダッ

霊能少女「待って、もう病院の面会時間は過ぎているはず。今から行っても間に合わない」


女「で、でも…!」フラッ

女「!?」バタッ


女(な、なに…立ちくらみが。それに何だか身体がすごく重い)

霊能少女「強制的に追い出したから、アナタの身体にも負担がかかっている。今日はすぐに休んだ方がいい」

霊能少女「…明日にはすぐ病院に向かうから、今は自分を休めることを先決にしてほしい」


女「…っ!わ、分かりました」






霊能少女「そうだ、ひとつ言い忘れていた」

霊能少女「これから事象が解決するまで、この家に住み込みさせてもらうけど…構わない?」


女「えっ…?ここに泊まるんですか?」

霊能少女「そう、何か問題はある?」

女「いえ…こちらとしては一人だと不安だったので、むしろ嬉しいんですけど」




霊能少女「それなら良かった。じゃあこれから短い間だけどよろしく」

女「は、はい…よろしくお願いします」










女(…私はまだ気付いていなかった)

女(今まで起きた現象すらも序章に過ぎない…想像を遥かに超えた、狂気と絶望が、この先に待っていたということに…)

今日はここまで

面白かったです、後質問ですけど更新は1日1回のペースと考えて良いのでしょうか?

>>58
書き溜めが終わるまでは大体そんな感じになると思います

▢▢▢▢ 四日目 ▢▢▢▢



女「あの、すみません。面会に来たんですけど」

霊能少女「…」



女(あの後、自分でも驚くほどに、まるで死んだようにすぐ眠りについた)

女(その間に怪奇現象等は起きていなかったらしい。新しく結界を張ったらしいから、向こうも様子見していると)

女(…このまま何事もなく、解決してほしいんだけどな)


女「お母さん?入るよ」コンコン

母「」スースー



女「寝てる…起こした方がいいですか?」



霊能少女「いや、むしろ眠っていてくれた方が都合がいい。あまり人に見せるものでもないし」スッ

霊能少女「…っ」ピクッ


女「…あの、どうかしました?ジッと固まって」


霊能少女「…これは、かなりマズい状況かもしれない」


女「えっ…ど、どういうことですか!」

霊能少女「呪詛が魂を喰らってる。このまま引き剥がすと、この人の魂まで傷付いてしまう」

霊能少女「…それに、アナタ以上に状態が酷い。このままだと…あと十日で命を落とす」


女「!?」

女「と…10日って!!!!母は過労で入院してて、明後日には退院予定ですよ!?」


霊能少女「…アナタも薄々気付いているはず。自分の母の命が危ないことに」

霊能少女「これは紛れもない事実、どうにかして呪詛を飛ばしてきた犯人を特定して、拘束しないと…最悪の結果は避けられない」


女「そ、そんな…」

霊能少女「でも、その結末はあり得ない。なぜなら…ここにワタシがいるから」

霊能少女「昨日も言ったけど、アナタたちは必ず守る。この命に代えても…だから安心してほしい」


女「…ほ、本当ですか?」

女「本当に……は、母は助かるんですか」


霊能少女「それだけは断言できる。今はとりあえず、この水を毎食後に飲ませてほしい」ガサゴソ


女「み、水?」


霊能少女「この水は私の力で清められている。本来ならこれを飲むだけで呪詛が消えるはずだけど…多分、今回は通じないと思う」

霊能少女「それでも…症状を和らげるくらいには使えると思うから、使ってほしい」

女「あ、ありがとうございます…あの…無料、ですよね?」


霊能少女「もしかして、疑っている?」


女「い、いえ!全然水とかちょっと詐欺っぽいなとか思ってないです!ありがたく使わせていただきます!」


霊能少女「…じゃあ、ワタシは先に家に帰らせてもらう。録画してあるカメラの映像も確認しておかないといけない」

霊能少女「アナタはもう少し、母親に付いていてあげてほしい。本人も少なからず異変には気付いているはず…不安だと思うから、一緒に居てあげて」



女「わ、分かりました!ありがとうございます!」

女(な、なんだろ…ドライな性格かと思ったら、結構優しいような…)


女「…...」


女(そりゃそうか。自分の身を挺してまで私たちを守ってくれる。そんな仕事をしてる人が…優しくないわけないもんね)

…………………………………………………………………
……………………………………………



女「すみませーん!遅くなりました!」ガチャ


霊能少女「…ん」ジー


女「母と話してたら、こんな時間になっちゃって…あの!まだご飯食べてないですよね?」


霊能少女「…まだ、だけど」


女「じゃあ私が作りますね!こう見えても料理だけは得意なんで!」


霊能少女「…ありがと」


女(こんなに私たちのことを思ってくれているんだ。私も少しは役に立たないと)

モグモグモグモグ モグモグモグモグ



霊能少女「…」モグモグ



女「…」

女「よ、よく食べますね…」



霊能少女「力を使うとエネルギーが不足する。食べて蓄えないと」モグモグ



女(…そんなに食べて太らないなんて羨ましい)

女「…あの、先生」



霊能少女「…先生?」ピクッ



女「あっ、すみません。なんて呼べばいいか分からなくて…先生じゃダメですか?」

霊能少女「…別にいいけど。アナタはワタシより歳が上、そんなに謙遜する必要はない」


女「い、いえ!お世話になっているんですから…先生で行かせてもらいます!」


霊能少女「そう、まあ好きにしたらいい」



女「…」


霊能少女「…」モグモグ



女「…ひとつ、質問してもいいですか?」


霊能少女「何?」


女「先生は…どうしてこの仕事を?まだ学生ですよね」

女「こんな…和尚さんみたいに、自分も犠牲になる可能性もあるのに…普通の人はやらないと思うんですけど」

霊能少女「…別に、人に語れるような大層なモノは持ち合わせてない」

霊能少女「ワタシが力を持っていたから、それを人の役に立てているだけ。それがこの仕事を続けている理由…あとは…」

霊能少女「…いや、何でもない。本当にただこれだけ」


女「…それでも立派だと思いますよ。現に私の命の恩人みたいなものですし


霊能少女「そう言われると…ちょっと照れる」

霊能少女「ん」ピクッ



霊能少女「…来たか」



女「…え?」

ドンッ!!!!!!!ドンッ!!!!!!!



女「!?」ビクッ

女(な、なに…壁を叩くような音が)

霊能少女「向こうが痺れを切らして出てきた。どうやら私も一緒に呪い殺す気らしい」

女「えっ!?」

霊能少女「ちょうどいい。こっちから誘う気だったけど、向こうから攻めてくるなら手間が省ける」

霊能少女「そこに座って。アナタを囮にして、呪詛を捕獲する」

女「ほ、ほかくっ!?それに囮って…だ、大丈夫なんですか!?」

霊能少女「問題ない、ワタシを信じて」



女「…」



女「わ、分かりました。失敗しないでくださいね」

霊能少女「任せて」キュッ

霊能少女「…」ブツブツ


女「…」ゴクリ


女(呪文みたいなのを唱えた瞬間に、壁を叩く音が止まった)

女(これで終わり…じゃないよね。絶対に)


霊能少女「…気を付けて、姿を現す。アナタを取り込もうとしてくるから、絶対に意識を渡さないで」ボソツ

女(意識を…渡す?)



ズズズズッ…



女「」ビクッ

女(あ、あの影だ…ビデオの…お祓いの時にも現れた…!)

女(うっ…こ、怖い。全身に鳥肌が立つ…警戒信号のようなものが頭の中で鳴り響いている)

霊能少女「今から目をつぶって、大丈夫、ワタシが付いているから。眠るように一点に意識を集中して」

女(集中…)グッ



スウッ……











ザワザワザワザワザワザワッッッッッッ!!!!!!!!!!!!


女「!?」

女「い、いやっ…こ、来ないで!やぁっ!!!!」バタバタ


女(か、影がこっちに…いやっ、怖い!!!!!)

霊能少女「目を逸らさないで、ちゃんとしっかり姿を捉えて」

霊能少女「今、ワタシはアナタの意識を通さないと呪詛を認識できない。狙われているアナタだからこそ、そいつと対面できる」

霊能少女「正面から見て、どんな姿をしているか教えてほしい。人間の形をしている?」


女「うぁっ…あっ…」

女(い、いやっ…あ、あれをまともに見るなんて…で、出来ないっ!!無理いっ!!!)ブンブン


霊能少女「…しっかりして、アナタがやらないと…母親が死ぬことになる。勇気を出すのは一瞬だけでいい。その一瞬が、アナタの一生になる」


女(…ッ!)

女(い、一瞬…一瞬だけ見れば…)チラッ

ギョロ!!!!!!!!





女「う、うわあああああああああああああ!!!!!!!」




『……ケテ………テ………』




霊能少女「落ち着いて、何が見えたの?」

女「お、女の人っ…か、髪が長くて…お腹が膨れていて!やっ…見返して来たっ!!こ、来ないでぇ!!!!!」

霊能少女「…お腹が膨れている…妊婦?」

霊能少女「…もうこれ以上は無理か。仕方ない、ちょっと強引だけど捕まえる」

霊能少女「」ブツブツブツブツ

霊能少女「…もう目を開けてもいい。今度はワタシの目をよく見て。瞳の奥まで」スッ


女「え…?」パチッ

女(…あれ、眼帯を外して―――っ!?)





ゾクッ!!!!!!





女「うぷッ!?うっ…うっ……」グッ

女「お、おえええええええええええ!!!!!!」ビチャッ


霊能少女「よし、成功」スッ

霊能少女「こいつが憑いていた呪詛か」グイッ

女「はぁっ…はぁっ…な、何が……」

女「わ、私…吐いて……」ハァハァ


霊能少女「そう、憑いていた呪詛を吐き出した。これがアナタの中にいたやつ」グイッ



『』ピチピチ



女「!?」


霊能少女「捕獲は成功、こいつはこの瓶の中に入れておけば逃げ出せない。後で調べて、呪いを実行した人物の居場所を特定する」キュッ

霊能少女「アナタも休んだ方がいい。何と言っても二日連続で体内から異物を取り除いたから…かなり負担になっているはず。無理をさせて申し訳ない」


女「そ、そうですか…成功したんですね。良かった…」

女「…あの、また一つ聞いてもいいですか」

霊能少女「何か?」


女「その眼帯って…力を抑えておくものだったりするんですか?」

女「さっき眼帯を外した方の目を間近で見た時に…何ていうか、今までに体験したことがない物凄い圧迫感を感じたような気がして」


霊能少女「あぁ、これ。昨日も言ったけど、そこまで深い意味はない」スッ

霊能少女「ただ、ワタシ達のような仕事をしていると、目には不思議な力が宿るようになる」

霊能少女「霊的な存在はそれを見るだけで警戒してくるから、油断させる為のカモフラージュみたいなもの」

女「へ、へぇ…じゃあ目を隠すものなら何でもいいんですか?眼鏡とか、サングラスとか…」


霊能少女「それでも構わない。直接見られなければいいだけだから」

霊能少女「それが何か?」


女「いや…眼帯って結構目立つから変えた方がいいんじゃないかなーとか思ったり。本当にどうでもいいことなんですけど」


霊能少女「…そんなに目立つ?」


女「えぇ、かなり…」


霊能少女「…検討する」

今日はここまで

▢▢▢▢ 五日目 ▢▢▢▢



女「Zzz…Zzz…...」

女「Zzz……ん」パチッ


女「ふわぁ……あー…よく寝た…今何時だろ……」チラッ


『13:00』


女「!?」



ダダダダダダダダダッ!!!!!



女「す、すみません!!!!寝過ぎましたっ!!!!」


霊能少女「…ん、気にする必要はない。ここ二日はずっと忙しかったし、半日以上寝込んでても不思議じゃない」

女「あの…先生は今日どれぐらい休んだんですか?」

霊能少女「…3時間ぐらい?今は休んでいた時のビデオと、現在進行形のを同時でチェックしている」

女「ご、ごめんなさい…何か自分だけこんなに寝ちゃって…何か手伝えることはないですか?」

霊能少女「気にする必要はない。アナタは依頼者であり、被害者なんだから。私もお金を貰ってこの仕事をしているわけだし」

霊能少女「それより、今日も母親のお見舞いには行った方がいい。帰ってきたら話したいことがある」


女「え…今じゃダメなんですか?」


霊能少女「少し長くなるからいい。それに、少なからずアナタの心境に変化を与える可能性があるから」


女「…!」

女「わ、分かりました…いってきます」


霊能少女「…ん、いってらっしゃい」

……………………………………………………………………
………………………………………………



女「……」スタスタ


女(今日もお母さんは変わらずに元気そうだった。残りがあと9日しかなんて信じられないぐらいに)

女(先生はきっと、気を使ったんだと思う。私ってすぐ顔に出るタイプだし、不安な顔をしているところをお母さんに見せないために)

女(…話って何だろう。あの影に関することで何か分かったのかな)


女(……ん?)




婆「…」




女(…まただ。向かいのお婆さん。何の意味があるわけでもなく、家の周りをウロウロしたり、水を撒いたりしている)

女(…お母さんの話によると、昔は普通の人だったらしい。でもある時期から宗教にハマったみたいで、私が物心付いた頃にはもう変なおばさんという認識だった)

女(…目を合わせないように行こう)スタスタ




婆「…」ジー











ガチャ


女「今帰りましたー」


霊能少女「…ん、おかえり」

女「母の様子はいつもと変わりなかったです。体調も、特に変化はないそうで…一応水は飲ませておきました」

霊能少女「そう、それは良かった。とりあえず、病院にいる間は期限が来ない限りは安全ってことになるか」

女「…本当に母はあと9日で…死ぬんですか?とてもそんな風には…...」

霊能少女「それだけは間違いない。今は時限爆弾を付けているのと同じ状態だから、わざわざ手を下すまでもないって考えているんだと思う…どうにかしてその爆弾を外さないと」


女「…そうですか」

女「あ、作っておいたお昼は食べてくれました?」

霊能少女「…ん、結構美味しかった。ありがとう、ただちょっと量が足りなかった」チラッ


女(二人分は作ったのに…あれでも足りないのかぁ…)

女「わ、分かりました!明日はもっといっぱい作ります!」


霊能少女「別に無理に作る必要はない。アナタも身を削る日々を過ごしている。食事くらいは自分で何とかできる」


女「いえ、私が作ります!私だって…何かお手伝いしたいですし」

女「それに、自分の手料理を人に食べてもらうのって結構楽しいもんですよ」


霊能少女「…そう」

女「あのそれで…話ってなんなんですか?帰ってきたら教えてくれるって言ってた…」

霊能少女「あぁ、その件。今から私も話そうと思っていた」

霊能少女「まずこれを見てほしい」スッ


女「…?それって…昨日、先生が私が吐いたやつを中に入れた瓶ですよね?」


霊能少女「そう、昨日の夜、アナタが休んだ後にこいつを調べようとしたら…」キュポン

霊能少女「…いなくなっていた。不覚だった、これはワタシのミス。申し訳ない」


女「えっ…なくなったんですか?」


霊能少女「この瓶は霊的な存在を封じ込める道具、一度閉じたら、外部から干渉することなんて出来ないはず」

霊能少女「…と、なると、消えた理由は二つにまで絞り込める」

霊能少女「消滅したか、自力で逃げたか…どちらにしても、アナタが見た妊婦のような姿をしている女が手引きしたに違いない。その女に心当たりはある?」


女「…すみません。まったくと言ってないです」

女「顔は…髪で隠れて見えませんでしたし、知り合いに妊婦の人もいませんし…」


霊能少女「…そう、まあこれで誰か分かれば苦労はしない。じゃあ次の話に行こう」


女「え?まだあるんですか?」


霊能少女「昨日、あの呪詛を捕獲した時刻と…その次の日の朝五時に、カメラに奇妙なものが映っていた」


女「!?」

霊能少女「これを見てほしい。まずは捕獲時の映像、外は暗いけど明度を弄って見えやすいようにしてある」カチカチ




『』ジー




女「あれ、これって…うちの庭…」





『』ユラッ





女「!?」ビクッ

女「あ、あれ!!!誰かが庭に入って…!私達を見ている!?」


霊能少女「どうやらそうみたい。私も気付かなかった。あの時、私達は誰かに外から見られていた」

霊能少女「そして朝の五時…もう一度、それらしき人物が庭に入ってきている」カチッ

『』ユラッ




女「ひっ…」

女「こ、この人が…!私達に呪いをかけた人物なんですか!?」


霊能少女「その可能性が高い。こちらも本人が直接やってくるとは思わなかった」

霊能少女「さて、もうちょっとここの映像の明度を上げてみる」カチッ

霊能少女「そうすると…ここのカメラの位置からだと、本人の顔は見えないけど…窓に反射している姿がハッキリ写るようになる」


カチッ


霊能少女「はい、この人物に心当たりは?」



女「…!!!!」

女「こ、この人って…!」







婆『…』






女「む、向かいに住んでる…お婆さん…!」





今日はここまで

▢▢▢▢  六日目  ▢▢▢▢



女「……」

女「まさか…あのお婆さんが……」






……………………………
…………………………………………………




霊能少女『…向かいに住んでいる人?』

女『は、はい…近所でも有名なちょっとおかしい人で…』

女『でも全然怨まれるようなことはしてないです…本当に、ただ向かいに住んでいるってだけの認識で…』

霊能少女『そう、とりあえず犯人が特定できて良かった。これで後は本人に追及するだけ』

女『い、今から行くんですか?あの人の家に…』

霊能少女『…いや、少し様子を見ようと思う。次はその向かいの家を見張る』

霊能少女『ここ数日の動きを見るに、必ず近いうちにまた動き出す。その現場を押さえて、言い逃れができないように追い詰める』

霊能少女『アナタにも少し手伝ってもらうことになるけど…構わない?』


女『……』

女『…分かりました。私は何をすればいいんですか?』






………………………………………………………
…………………………………………




女「…」ジー

女(…私の仕事は…あの家を見張ること。不審な動きをしているかどうかを…)

女(先生は外であの人についての情報がないか、聞き込みに行った。もし動きがあったら、すぐに連絡するように言われてある)

女(…なんで私達に呪いなんか…何もしてないのに)

女(何か理由があるのか、それとも―――)





婆「…」ユラッ





女「…!」

女(そ、外に出てきた!先生に知らせないと!)ポチポチ


『お婆さんが出てきました。どうすればいいですか?』

『行動は全てカメラで撮っておいて。まだ日が昇ってるし大丈夫だとは思うけど、もしこちらに危害を加えるような動きが見られたらすぐ私に知らせて』


女「…」ゴクリ

女(…そうだ。今、私は一人…先生がいないと無抵抗のまま何も出来ない…)

女(そう考えたら急に怖くなってきた…!お願い!何もしてこないで…!)ギュッ





婆「…」フラフラ

婆「…」パシャパシャ





女「…?」

女(あれは…自分の家の水を撒いている?まだそんな季節でもないのに)

女(そういえば…あの人、どの季節でもよく家の周りに水を撒いてたな。意識をしてなかったから気にも留めてなかったけど、よく考えるとおかしい)


女(一体、何を考えているんだろう…)

女「…」


女(水撒きをしたら、すぐ家の中に入って行った。それから数時間は何も動きはない)

女(…見張りって結構体力を使うな。今までやったことがなかったから分からなかったけど、時間が経つたびに神経がすり減っていくのが実感できる)

女(もう体感的には半日近く経っている気がする。まだその半分も経ってないのに)

女(そもそも…あの人が外出をしている姿なんて滅多に見たことがないような。いつも家の辺りをウロウロしていた印象だし…)

女(…このまま私はずっとあの不気味な家を見ていないとダメなのかな。頭がどうにかなりそう)


女(…先生の方は何か情報があったのかな)ポチポチ

『こちらは水撒きから動きがありません。先生は成果がありましたか?』

『ぼちぼち、夕方にはそっちに戻れると思う』



女(ぼちぼち…どっちにも取れる言い方だな。っていうか、どこで聞き込みなんてしてるんだろ)

女(あの人に友達がいるとは思えないし…警察の人にでも聞いているのかな)

女(…はぁ、不安で押し潰れそう。早く終わらないかな)






婆「」ユラッ

女「…ッ!!」

女(で、出た!今度は何をしに出てきた!?)




婆「…」スタスタ




女(…どこかに行くのかな?手さげのバッグも持ってるし…どうしよう、追った方がいいのかな、これ)ポチポチ


『どこかに出かけるみたいです。私はどうすればいいですか?』

『尾行して、気付かれないように。どこに行くか気になる』


女「…や、やっぱりそうなるよね」ダッ

女(び、尾行か…そんなのやったことないんだけど…気付かれたらどうしよう)コソッ





婆「…」スタスタ





女(距離は…20メートルくらい離れてるかな?見失うかギリギリの距離だけど、ここからなら気付かれないはず…)

女(…どこに行くんだろう。ここからの道だと…あそこしかないような気がするけど)




婆「…」スッ




女「…!」

女(や、やっぱり!スーパーだ!買い物するんだ…あの人でも)

女(何買うか気になるな。でも…そうなると、かなり接近する必要がある。10メートル、いや7メートルは近付かないと)

女(…どうする?正直に言うとあんまり近付きたくない。呪いを仕掛けてる張本人だし、もし尾行がバレたら何をしてくるか分からない)

女(店の外で待ってるか、それとも…)



女「……」



女(恐らく、今までの尾行はバレていない。かなり距離があったし、一度も振り返らなかったから…私が跡をつけていたなんて夢にも思っていないはず)

女(それに、あそこは近所でもかなり大型のスーパー。もし私に気付いたとしても、別に何も不思議なことはない。ただ買い物をしているように装えばいい)

女(…よし、行こう!)ダッ

ウィーン



女(あの人はどこに…)キョロキョロ




婆「…」




女(い、いた…まだこっちには気付いてないかな?よし、私も買い物をするように…あくまで自然に)




婆「…」スッ




女(あそこは精肉コーナー?何かずいぶん買い込んでいるように見えるな…一人暮らしのお婆さんなのに)

女(ん?次は…お菓子か。まあこれは別に変なところはないな)

婆「…」スタスタ





女(トイレットペーパーやティッシュの日用品、それに…お酒?あんな歳になってもまだ飲むんだ)




婆「…」クルッ




女(あ、曲がった。もうレジに行くのかな?最後に何を買ったか確認しないと)ダッ






クルッ








婆「…」ジー


女「…っ!?」ビクッ







女(なっ…!?レ、レジに行っていない!?なんでこんなところで突っ立って…!!)

女(ま、まずい…!鉢合わせたっ…ど、どうしよう!)



女「…っ」スタスタ


婆「…」ジー


女「…」スタスタ





ドクンッ…ドクンッ…




女「…」スタスタ

女「はぁっ…はぁっ…」サッ


女(ど、どうにか自然に通り過ぎることが出来た!…バレてないよね?)

女(うっ…も、もうこれ以上は無理か。一度出会ったら、どうしても私の存在を覚えられる)

女(もしこれで帰り道に私の姿を見られたら…監視自体に気付かれる可能性がある)

女(そうなると常に向かいの私の家を意識されて、先生の思う通りにいかなくなるかもしれない…それだけは避けないと)

女(…尾行は中止か。先に帰ってよう)スタスタ










婆「…」ジー






………………………………………………
…………………….................



女(あの後…私が帰宅してから一時間ほどで、あのお婆さんも帰ってきた)

女(買い物の時間にしては明らかにおかしいし、途中にどこか寄っていたのは確実。あの時、私がもっと慎重に行動していたら…何か手掛かりがあったかもしれないのに)

女(…先生に謝らないと。はぁ…ダメダメだな。私って)

女(時刻は夕方…少し日が落ち始めてきた。もうそろそろ先生の方も帰ってくるはず)

女(結局、見張りの成果は…ほぼなかった。どうしよう、あと8日もないのに)


女(あっ、今日お母さんのお見舞いに行けなかったな…後でメール送っておかないと)

女「…お母さん」ウルッ




ガチャ




霊能少女「今帰った」




女「…!」フキフキ

女「あ、先生、おかえりなさい」

女「ごめんなさい…私の方は途中にメールで送った内容が全てです」


霊能少女「いや、かなり有力な知らせもあった。ありがとう、一日見張ってくれて」

霊能少女「こちらも…それなりの成果があった。晩ご飯を食べながら話そう」

モグモグ モグモグ



霊能少女「まず、あそこに住んでいるお婆さんは元々姉妹で住んでいたらしい。と言っても、もう15年近く前の話。妹の方はいつの間にかいなくなっていたと聞いた」モグモグ

霊能少女「あの家は二人の親が死んだ時の保険金で買ったらしく、姉妹は二人揃って精神を病んでいた。だからずっと前から生活保護で暮らしていたみたい。恐らく今もね」



女「は、初めて知りました…そんな情報どこで聞いたんですか?」



霊能少女「どこの近所にも無駄に人の家庭事情に詳しいおばさんがいる。で、話の続きだけど…」

霊能少女「妹がいなくなった辺りに宗教にハマったらしい。それまではわりと挨拶を返すくらいは社交的な人だったらしいけど、人が変わったみたいに今の状態になったと言っていた」


女「…」

霊能少女「でも、ちょっとは交流があった人もいる。ここ十年は行ってないみたいだけど、駅前のカフェのマスターとは世間話をするぐらいは仲が良かった」

霊能少女「で、そこのマスターに話を聞きに行ったら…興味深い発言をしていた」


霊能少女「…私は選ばれた人間、私は人を呪い殺すことができる」


霊能少女「…そういった節のことを言っていたらしい。それからその店に来ることはなかったようだけど」


女「そ、それって…!」

霊能少女「ここである疑問が出てきた。もし、今回の騒動の犯人があのお婆さんだとして、今回の事件が初犯なのかどうか」

霊能少女「過去に…アナタ達みたいに呪われた家があったんじゃないかなってね


女「…」ゴクリ


霊能少女「ここら一帯で原因不明の不審死やら、それに関係する事件がないか調べてみた。過去15年の記録を辿ってね」

霊能少女「すると…」ガサゴソ

霊能少女「出てきた、過去に三件。今回のと似たような事象が」スッ


女「っ!?」ビクッ

霊能少女「一人目はOL。10年前にこの近くのアパートで独り暮らしをしていたみたい」

霊能少女「同僚にも上司にも慕われ、順風満帆な暮らしをしていた。でもある日、突然自殺した。首を吊ってね」

霊能少女「死ぬ前に友人に電話をかけていたみたい。何かに追われている、部屋に誰かいるから助けてといったようなことを話していたらしい」

霊能少女「この証言で、警察はストーカー殺人の可能性もあるとみて捜査したけど…結局は本人の自殺ということで終了。真実は迷宮入り」


女「…」

霊能少女「そして二人目は21歳のフリーター。8年前に運転中のバイクで事故を起こし死亡」

霊能少女「県外の事故で死んでいるし、一見今回の件とは関係ないように見えるけど…本人の部屋から謎の怪文書が大量に見つかっているのが当時の週刊誌の記事で分かっている」

霊能少女「OLと同じように、誰かに狙われているような節の文がね。恐らく呪いから逃走しようとして殺されたんだと思う」


女「に、逃げることは許されないってことですか…?」


霊能少女「そして三件目は…4年前に起こった、一家が惨殺された殺人事件。この事件は当時のニュースで結構取り上げられたから、記憶に残っているはず」

女「…!し、知ってます!それ!ひきこもりの男が強盗目的で殺したってやつですよね?」

女「すぐ近くで起きた事件だったので…学校でも話題になりましたし、報道用のヘリもいっぱい飛んでいました」

女「で、でも…それが呪いと関係しているんですか?殺人事件…なんですよね」


霊能少女「恐らく、呪いの影響を受けたのは家族ではなく、犯人の方」

霊能少女「普段は家に引き籠っていた人が、急にお金が欲しくなって泥棒に入って、その拍子に三人も殺すなんてあまり考えられない。その証拠に犯人の男は逮捕されてから三日後に留置場で自殺している」

霊能少女「そして…この男の家からも、謎の怪文書が発見されている」ガサゴソ

霊能少女「それがこれ、コピーして取ってきた」







『かみかま つぎ あとすこし はじまる 4ね』





霊能少女「この文章自体はマスコミには取り上げられていない。意味が分からないし、あまり取り上げる必要のないものだと判断されたんだと思う」

霊能少女「この写真自体も、ワタシが男の部屋を写した写真から見つけて拡大コピーしたもの」

霊能少女「きっと…ワタシが見つけなかったら、誰の目に留まることもなく、埋もれていたと思う。でもこのメッセージには…何か意味があると思う」


女「な、なんなんですか?これ…意味が分からないんですけど…」

女「かみかま…次、あと少し、始まる…4ね…死ね?って書いてあるんですかね。これって…」

霊能少女「かみかま、と書かれている部分の意味は分からない。調べてもそれらしき単語は出てこなかった。恐らく何かの固有名詞だと思われる」

霊能少女「でも、それ以降の文は何となくだけど解読出来る」


女「えっ、ほ、本当ですか?どういうことが書いてあるんですか?」


霊能少女「まず、最後に書かれてある『4ね』という部分。これは『死ね』とも読めるけど、私には中断されたように見える」


女「中断って…途中で書くのを辞めたってことですか?」


霊能少女「そう。この事件が起きたのが四年前…そして、この『4ね』という部分が途切れた部分だと仮定する。ではもし本来の文だったら、どんな言葉になっていたのかと考えると…」

霊能少女「…ワタシは、4年後が一番しっくりくると思う」

女「そ、それって…まさか…」


霊能少女「…今回の件も含め、過去に起きた呪いは…作為的に起こされている可能性がある。何かの意図があるのかもしれない」



女「」ビクッ

女「…つ、つまりこういうことですか?もしこの『4ね』が『4年後』だとすると…本来の形は…」ブルブル



『かみかま つぎ あとすこし はじまる 4年後』



女「こ、こうなるわけですよね…これって…まさか……」


霊能少女「…次の4年後、つまり今年の呪いで、これまでの過去にはない何かが起きると読み取ることが出来る」

今日はここまで

▢▢▢▢  七日目  ▢▢▢▢



女「…」ジュージュー


女(…そういえば、もうあの日から一週間が経ったんだ)

女(…最初は、何かの幽霊が家に住み着いていると思っていた)

女(でも和尚さんが来て、これが誰かの呪いだってことが分かって…先生がやってきた)

女(そして隣のお婆さんがその呪いに関わっていて、何かを起こそうとしている…)

女(うぅっ…頭が痛くなる。何でこんなことに…)

女(…残された時間はあと7日、それまでにお母さんは…私は…生きているのかな)


ジュッ…ジュッ…


女「…あっ!こ、焦げてるっ!」

女「す、すみません。ちょっと焦がしちゃいました」

霊能少女「気にすることはない。誰にでもミスはある」モグモグ

女「…先生、今日は何をするんですか?」

霊能少女「昨日と同じ様子見、監視を続ける」


女「…こんなゆっくりしていいんでしょうか。残りはあと一週間しかないのに……」

女「やっぱり、直接向かいの家に行きませんか?あなたが私の家を呪っていることは分かっているんです。やめてくださいって面と向かって言えば…」


霊能少女「もし、それを言ったとして、どうなると思う?」モグモグ


女「え?どうなるって…それは……」

霊能少女「ハッキリ言う。呪いなんて行為に手を染めている相手に、言葉での対話は何も意味を持たない」

霊能少女「何とかするにはその呪いを返すしかない。呪詛返しをすれば、相手は手を引くしかなくなる」


女「呪詛返し…?」


霊能少女「人を呪わば穴二つ、っていうでしょ?呪いというのは何らかのリスクがあるからこそ成立するもの。ノーリスクの呪いというものは存在しない」

霊能少女「呪詛返しはその特性を利用して、呪いをそのまま相手に返す方法。これを行えばアナタへの呪いは全てなくなる」

霊能少女「ただ、呪詛返しをするにはその呪いの起爆剤と爆弾本体を見つける必要がある。だから、相手が動いてくれないと、こちらも動けない」

女「起爆剤に爆弾って…どんなものなんですか?」


霊能少女「分かりやすい例だと、丑の刻参り。あれは藁人形という媒体を通して呪いをかけている」

霊能少女「ワタシの勘だと、この家のどこかに現象を引き起こしている物があるはず…次に相手が攻めてきた時にそれを特定する」


女「物…ですか。どこにそんなのが…」キョロキョロ


霊能少女「探しても無駄。普段は何の変哲もなく、日常の景色に紛れているはずだから」


女「…」

女「あの、呪詛返しって…それをかけられた相手はどうなるんですか?」


霊能少女「今までの呪いが全て返る。過去現在全てのね」


女「それって…まさか…」

霊能少女「…まあ、もし返されたら死ぬだろうね。過去三人も殺しているし」

霊能少女「でも安心していい。こちらもそのまま呪詛返しをするつもりはない。それを交渉材料にして、この町から出て行ってもらう」


女「…」


霊能少女「…納得がいかない?間接的殺人も含めたら六人も殺した相手が、罪に問われることなく、のうのうと暮らすのが」


女「いえ、そんなことは…」

女「…ごめんなさい。ちょっとはそういう気持ちがあります」


霊能少女「それは歪んだ感情じゃない。正常な人間なら誰でもそう思う。もちろん、ワタシも含めて」

霊能少女「だけど、現在の司法では呪殺は認められていない。あの人を裁けるのは地獄の閻魔だけ。大人しくそれを受け入れるしかない」


女「…先生なら」

女「先生なら、出来るんじゃないですか?あの人を裁くことが」


霊能少女「…ワタシに出来るのは死者をあるべきところに還すことだけ。人間にそれを施行する力はない」


女「じゃあ先生は…もし、善良な幽霊がいたとしても、それを祓うことが出来るんですか?」


霊能少女「……」

霊能少女「…霊に限ったことじゃないけど、ワタシたちの世界ではアナタの言う『善良な幽霊』という奴等は存在しない」

霊能少女「人間は肉体という枷があるから、欲望や凶暴性を抑えることが出来る。だから、肉体がない霊などは…いつかは人を殺すと言われている。どんな温厚で、優しい性格だったとしても」

霊能少女「ワタシはそれを防ぐ為に、この仕事を続けている。今までに何も悪行はしてない幽霊や怪物は何人もいた。でもワタシはそれを平等に還してきた。今までも…これからも」

霊能少女「それが…ワタシの、力を持った者の役目だと思っている。死は誰にでも訪れる。その死をあるべき元に戻し、社会の均衡を保つのが…ワタシの役目」


女「…」

女「ご、ごめんなさい。変なこと言っちゃって…先生の覚悟も知らずに」


霊能少女「…いや、気にする必要はない」

霊能少女「―――ひとつ、質問してもいい?」


女「えっ…なんですか?」

女(先生から私になんて…初めてだ)

霊能少女「アナタは…死後の世界が存在すると思う?天国とか、地獄とか」


女「死後の…世界ですか。む、難しいですね」

女「…」

女「私は…正直に言うと、あんまり信じてない方かもしれません。天国はあったらいいとは思っていますけど…地獄があったら怖いですし、ならない方がいいのかなって」



霊能少女「…そう」

霊能少女「ワタシは天国というものは信じていない。でも地獄はあると思っている」


女「えっ…ど、どうしてですか?」

霊能少女「仮に、殺人を犯した人間がいたとする。でも、もしその殺人が社会に漏れることがなく、本人しか知らなかったとしたらどうなる?」


女「どうなるって…そのまま何事もなく、過ごすとか?」

女(あれ?これってさっきの…)


霊能少女「そう。被害者がいるのに、そいつは何の罰を受けることもなく、平穏に過ごすことになる」

霊能少女「…そんなのが許されてもいいものなのか。ワタシは…許せない。罪には必ず罰が与えられるべきだと思う。それが例え神だとしても」

霊能少女「だから…ワタシは、地獄は存在すると思っている。そう思わないと…この世界はあまりに不平等だから」

女「…」

女(…そうか。先生は…今までに何度もあのお婆さんのように、罪に問われない人間を何人も見てきたんだ)

女(それでも、その人達に手を下すことはなく、ただこの仕事を続けてきたんだ…一体どれほどの経験をしたんだろう。私には…想像することすら出来ない)



霊能少女「…まあ、もし地獄が存在したら、ワタシは真っ先に地獄行きだと思うけどね」


女「…そんなことないですよ」

女「私は…先生は天国に行くと思います。だって、先生は私を含めて…大勢の人を救っているんですから」


霊能少女「…」

霊能少女「…あ、ありがと」クルッ

……………………………………………………
…………………………………



『23:03』



霊能少女「…」


女「もう11時…結局、向かいは家から一歩も出てきませんでしたね」

霊能少女「…」

女「…今日は何も動いてこないんでしょうか。と言っても、夜はまだまだこれからですけど」

霊能少女「…」

女「先生?」


霊能少女「…用心して、もうすぐ来る。そんな気配がする」


女「えっ…?」

霊能少女「今度は…前の時と比較にならない。大きな気配がする」

女「お、大きな気配って…大丈夫なんですか!?」

霊能少女「…ちょっと、やばいかも」



ドンッ!!!!!!!

カチッ



女「て、停電!?」ビクッ

女「そ、それに、二階から音が…!!」

霊能少女「…ワタシから離れないで、降りてくる」




ゴトッ…ゴトッ……

ゴトトッ………

女(か、階段を一段ずつ降りてくる音が聞こえる…?一体何が…?)




ゴトンッ……

ガチャッ

ギィィィィィィ……





影『』ズズズズズッ





女「ひぃっ!?」

女(お、大きい…天井近くまである、巨大な影…!)

霊能少女「…面白い。真っ向から殺りに来た…こちらも少し、本気を出す」スッ

霊能少女「んっ…んっ…」ゴクゴクッ


女(水を…飲んでいる?あれって先生が持ってきたお祓いの水…)


霊能少女「ふぅ。あーまずい」ポイッ

霊能少女「…さぁ、来い。相手になってやる」





影『』ズズズズズッ




女(こ、こっちに手を伸ばしてきた)

女(な、なにこれ…あの影、物凄く深い闇…辺りの暗さと比べても、一層黒く見える漆黒…)

女(ふ、震えが止まらなっ…息が出来ないっ……)ブルブル


霊能少女「はぁぁぁぁ……」スッ




ピカッ




女「!?」

女(せ、先生の手から光が!)


霊能少女「あああああああっ……」スゥゥ





影『』ズズズズッ

影『』ズズズッ

女(う、嘘…光が、影を吸い込んで……)




影『』ズズズ゙ッ

影『』ズズッ



シュンッ




女「…!」

女「か、完全に吸い込まれた!影が消えた!」


霊能少女「…ふぅ」スッ


女「や、やったんですか!?先生!」


霊能少女「…ちょっと庭に出る。着いてきて」スタスタ


女「えっ?庭?」

ガチャ



霊能少女「恐らく、起爆剤と爆弾はこの庭のどこかにある。間違いない」

霊能少女「でも…ワタシはあまり探知が得意ではない。だからアナタの力を貸してもらいたい」


女「えっ!?わ、私ですか!?」


霊能少女「長年、この家に住んでいたアナタなら、異物を発見することが出来るはず。さぁ目を閉じて」

女「そ、そんなこと言われても…何も感じないですよ?」ギュッ

霊能少女「本当に勘でいい。何となく、光とか見えない?」

女「光って言われても…」

霊能少女「なら気持ち悪い方は?どんな些細な感覚でもいいから」

女「…じゃ、じゃあこっちで」スタスタ

霊能少女「どう?この辺り?」

女「は、はい…そこの…下、辺りですかね?」

霊能少女「…分かった。もう目を開けてもいい」

女「や、やっぱり何もないですよね。ごめんなさい」


霊能少女「…いや、当たり。ビンゴ」ガサゴソ

霊能少女「この鉢植えの裏に…」ゴソッ

霊能少女「…あった。この瓶が呪いの起爆剤」スッ


女「えっ!?本当にあったんですか!?」


霊能少女「中は…」キュポン



ポトンッ

女「何か落ちましたけど…なんですか?これ」


霊能少女「これは…」スッ

霊能少女「猫の足、だにゃー」


女「うっ…!?」ウプッ


霊能少女「…ごめん、少しでも気分を紛らわせようとしたけど、逆効果だった」

霊能少女「とにかく、これで起爆剤の方は見つかった。あとは本体だけ」

霊能少女「まだ何か感じる?きっと本体も庭のどこかに埋まってある」


女「そ、そういえば…同じような気持ち悪さが、あっちの方から感じたような」


霊能少女「ここ?」スッ


女「あっ、はい。その辺りです」

霊能少女「…」ザッザッ

霊能少女「…あった。ここに埋められてあったのか」スッ



箱『』



女「その箱みたいなのが…呪いの爆弾なんですか?」

霊能少女「間違いない。後は…」チラッ







婆「…!」ピシャッ







女「!?」ビクッ

女「えっ…さ、さっき見てましたよね!?あのお婆さん、こっちを!」

霊能少女「…ハァッ!!!!」ブンッ






ガンッ!!!!!



ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!






霊能少女「行くよ。最終決戦ってやつに」スタスタ

女(な、投げた…向かいの家に、呪いの爆弾を…)

ピンポン!!!!ピンポン!!!!ピンポンピンポン!!!!!



霊能少女「…出てこない。居留守なんて使いやがって」

霊能少女「あ、そこに落ちてる箱取っておいて」

女「えっ!?い、いやっ…だ、大丈夫なんですか?触っても…呪いの爆弾ってさっき」

霊能少女「問題ない。火薬がないと爆弾なんて何の役にも立たないから。早く」


女「う、うぅっ…わ、分かりましたよ」トコトコ



箱『』



女「え、えいっ!」ギュッ

女「は、はいっ!早く受け取ってください!」サッ


霊能少女「ん、ありがと」

霊能少女「…出てくる気配がないな。仕方ない、強硬手段を…」スッ

ガチャ


霊能少女「…ん?鍵が…」

女「あ、開いてる…」

霊能少女「…」スタスタ


女「えぇっ!?ちょ、ちょっと!」

女「い、いいんですか?勝手に入っても」


霊能少女「こんな状況だし仕方ない。それより、早くあの老婆を見つけ…」

霊能少女「うっ…この臭いは」サッ


女「臭い…?」クンクン

女「うっ!?く、臭いっ…!な、なにこれ!?」


霊能少女「…何かが腐っている。それも大量に」

霊能少女「…」スタスタ


女(こ、こんな臭いでも先に行くんだ…は、鼻が曲がりそう)

女(…わ、私もっ!)ダッ


霊能少女「…見つけた」





婆「ああああっ…あああああっ…」コクコクッ





霊能少女「…これは」

女「な、なに…あれ…何かに祈っている?」






婆「あああああっ…あああああああっ…」コクッコクッ

霊能少女「…聞いて、アナタが起こした悪事は全て把握している」

霊能少女「この人の家にかけた呪いと、その母親にかけた呪い…全部今すぐ解除して。さもないと…されたくないでしょ?呪詛返し」スッ




婆「…」ピクッ

婆「ウアアアアアアアアアア…アアアアアアアアアアア……」ギロッ




女「っ…!」

女(こ、こっちを見て…け、獣みたいに唸っている。これが…ほ、本当に同じ人間なの?)




婆「あっ…あっ…」

婆「カミッ…カマ…」ボソッ

霊能少女「」ピクッ

霊能少女「…かみかま、それは何?アナタは何をやろうとしている」




婆「ハハッ…ハハハハハハハ」

婆「もう遅い…始まっている。止めることは…出来ない」




霊能少女(もう遅い…?)

女(は、始まっているって…)




婆「アアッ!!!!!」ジャキ




霊能少女「!!!!!!」

霊能少女「ワタシの後ろに隠れてっ!!!刃物を持っている!!!!」

女「!?」

婆「アアアアアアアアアッ!!!!!!!」ブンッ






グサッ!!!!!!






霊能少女「…っ!?」

女「う、うそ…」





ポタッ…ポタッ…





婆「アガギィッ…グッ……ハハハ」グチャッ






霊能少女「自分で…首を…」

女「い、いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

婆「わたっ…じは…!道しるべにな、るッ…!!!」グサッ

婆「ごのっ…大いなる旅路のッ…礎にッ…!!」グイッ


グラッ


婆「」バタッ




女「いやっ…やっ…!」ブルブル

霊能少女「…死んだ。自分で、首を刺して…自殺した」

霊能少女「…ん?」ピクッ




像『』




霊能少女(この像…神棚に置かれている。 まるで崇めているように)

霊能少女(…名前が彫られてある。まさか、これが…)







『神彁混』







霊能少女「かみ…かま?」





今日はここまで
これで大体全体の半分だと思います
書き溜めが尽きたので次の投下は明後日頃になると思います

作者様質問を良いでしょうか?
この霊能少女最初に出てきた和尚より腕が立つ霊能者というのは分かりましたが、和尚と比べて霊能者としての腕はどのくらい違うのでしょうか?
和尚の腕が10としたら、霊能少女の腕が100 とか?作者様の予想で良いので教えてください

>>157
あんまり考えてないですけどイメージとしては和尚は中の上くらいはあると思います
霊能少女は上の上の上の…くらいですかね

▢▢▢  八日目  ▢▢▢▢



女「…」

霊能少女「…」

女「…先生、今って…何時ですか?」

霊能少女「…18時、ちょっと過ぎくらい」

女「…そうですか」



女(あれから…私たちはすぐに警察に連絡をして、事情聴取を受けた)

女(最初は犯人かと疑われていたかもしれないけど…私と向かいの家には何も接点がなかったこと、近所でもあの人がかなりの変人で有名だったこと、そして遺体の状況からして…私たちが自殺とは全く関係がないことが分かったらしい)

女(なぜ自殺の現場に居合わせたのかは…向かいの家から叫び声が聞こえてきて、何かあったのかと思い家の中に入った…と、先生が説明してくれた)

女(…だって、正直にこれまでのことを話しても信じてくれるわけがないもんね。私だって…夢だと思いたい)

女(それから、先生が警察の人たちに何かを話して…お昼過ぎくらいには解放された。一晩中拘束されていたから、疲れも眠気もあったけど…あれから一睡もしていない)

女(どうしても…あの時の光景が目から離れない。初めて、人が目の前で死ぬのを見た)

女(今まで自分に敵意を持っていた人間が、数秒後には大量の血を流して…動かなくなっていた。苦痛の表情、血が喉で溢れて聞こえてきた嗚咽のような音、そして…あの家の腐乱臭)

女(私の五感は一生この体験を忘れることはないと思う。恐らくこれから長い先ずっと…一生付き合って行くんだ)

女(…結局、あのお婆さんは私を呪うことに成功したことになる。自分の死を犠牲に、私の体と記憶にその身を刻んだ)




霊能少女「体の方は大丈夫?もう丸一日以上起きているけど」

女「…大丈夫、とは言えないかもしれません。あんなものを見てしまったら…」ブルッ

霊能少女「…そう、まあそう気に病むことはない。悪い夢だと思ってすぐ忘れるのが吉」

女「せ、先生は…平気なんですか?目の前で…人が死んだのに」

霊能少女「…」

霊能少女「…まあ、ワタシは『死』という体験に慣れている。多少は動揺したけど、それでどうということはない」


女「す、凄いですね…羨ましいです。そんな強い心を持っていて」

女「私はもうだいぶ参ってしまいました…今日、眠るのが怖いくらいに…絶対夢に出てきそうで」

女「…やっぱり、先生は凄いです。昨日、家にあの大きな影が現れた時も…怖気づくこともなく、勇敢に立ち向かって…どうしたら先生のようになれるんでしょうか」


霊能少女「アナタの心が弱いとは言わない。あんな現場に立ち合わせたら、大体の人間は心を病む」

霊能少女「ワタシが特別なのは…これまで霊に触れ、それを祓ってきたから、別に死が特別なものだと認識していないせいだと思う。誰にでも訪れるものだから、それを見て何か感じるということはない」

霊能少女「…あと、恐怖に耐える訓練を幼い頃からしていたのもある」

女「恐怖に耐える訓練…ですか?」


霊能少女「人間が恐れるものは理解出来ないものだと言われている。闇を恐れるのは何があるか見えないから、霊を恐れるのは存在を認識出来ないから、死を恐れるのは死の先を知らないから」

霊能少女「だから…ワタシはそれを理解しようとした。暗闇の中では目ではなく耳に頼れば空間を把握することが出来る。霊も倒せると分かれば何も恐れることはない」

霊能少女「まあハッキリ言うと、感覚が麻痺しているんだろうね…異常者と何ら変わらない」


女「…お、お化け屋敷とかホラー映画を見ても、何も感じないんですか?」


霊能少女「…お化け屋敷は現実のおばけを知っているから何も、でもホラー映画は…」

霊能少女「…あれは音響で怖がらせて来ることが多い。だからありとあらゆる映画を見まくって…パターンを把握したら慣れた」


女「…ぷっ。な、なんですかそれ…」クスッ


霊能少女「仕方ない…あれは現実の幽霊より怖い。だから慣れるしかない」


女「げ、現実の幽霊より怖いんですか?ホラー映画って…何かおかしいですね」クスクス


霊能少女(…やっと笑ってくれたか。これなら後に引きずることもないだろう)

女「あー…何か久しぶりに笑った気がします。この一週間は…ずっと怖いことばっかりでしたから」

女「…」

女「…これで本当に終わったんでしょうか。全部…」


霊能少女「…」

霊能少女「…呪いをかけた張本人は自殺した。操縦士がいない飛行機が飛ぶことはない。これで呪いは全て消滅した」

霊能少女「今日、家の隅々を見回ってみたけど、何も感じなかった」


女「…数時間前にお母さんからメールが来たんです。何だか急に肩の荷が下りたみたいに気分が良くなったって」

女「私も…これで終わりだと思いたいんです。でも…何か残っているような気がして」


霊能少女「…」

女「結局、あのお婆さんは何がしたかったんでしょうか。それに、私が見た妊婦の姿をした髪の長い女の人や、かみかまって…」


霊能少女「…呪いをかけた動機は分からない。本人が死んでしまった今、それを知る術はワタシ達にはない」

霊能少女「妊婦の女も…呪い自体が消滅してしまった。恐らく、何らかの怨念が具現化した姿だとは思うけど…真意は分からない」

霊能少女「ただ『かみかま』という言葉の意味は何となく分かるかもしれない」


女「えっ、本当ですか?どうやって?」


霊能少女「これ、あの老婆の家にあった像、警察にバレないように持ってきた」ゴトッ

霊能少女「ここに、しっかり名前が刻まれている。『神彁混』と。これが、かみかまの正体だと思う」

女「!?」バッ

女「ちょ、ちょっと!!!な、なんてもんを盗んできたんですか!!!!捨ててきてくださいよ!!!!」


霊能少女「人聞きの悪い言い方はやめてほしい。今は所有者がいないんだから、これは誰のものでもない。だから盗んだではなく拾ったと言った方が正しい」

霊能少女「それに、この像自体には何の力もない。ただの木彫りで出来た人形、怖がることは何もない」


女「い、いやでも…あの家にあった物なんですし、何もないってことは…!」ビクビク


霊能少女「そう、そこが不思議なところ。ワタシも絶対にこの像には何かあると思って綿密に、隅から隅まで調べたけど…本当に何もなかった」

霊能少女「恐らく、偶像に近いものだと思う。何かを模って、この像は作られた」

女「そ、その何かが…『神彁混』なんですか?」


霊能少女「そうだと思われる。でも…この『神彁混』という字は…明らかに不自然なところがある」

霊能少女「名には必ず意味がある。かみかま、という聞き覚えがない単語にも意味はある。だから…漢字さえ分かればどのような物なのか推測出来ると思っていた」


女「ど、どういう意味ですか…?それじゃまるで…その神彁混という字に意味がないって聞こえるんですけど…」


霊能少女「…この『神』と『混』という部分はそのままだと思う。神と何かが混じった物か、混ざった物が神になるという意味になると思う」

霊能少女「問題はこの『彁』の部分…ここだけは…分からない」

女「わ、分からないって、そんなことはないんじゃないですか?どんな漢字にも意味はあるんですし」


霊能少女「…じゃあ逆に聞いてみる。この『彁』という字に見覚えはある?」


女「えっ…そ、そういえば見かけない文字ですね。普段の生活では使わないような」

女「で、でも私って漢検三級ですし、ただ知らないだけだと…」


霊能少女「…この『彁』は幽霊文字の一つ、意味は誰にも分からない」

霊能少女「漢検一級を持っていたとしても、大学の偉い先生でも、クイズ王でもね」


女「ゆ、幽霊文字…?」

霊能少女「意味がなく、なぜ存在するのかも分からないものだと思っていい。典拠が不明で、歴史上から葬り去られた文字」

霊能少女「だから…何を指しているのか分からない。『神彁混』の謎が余計に深まった」

霊能少女「神と混ざって何かになるのか、『彁』が神になるのか…そもそも人物を指すのか、事象なのかも分からない」

霊能少女「なぜこの字を使ったのか意図すらも掴めない。こんなことは初めて」


女「そ、そんなものがあるんですか…何だか怖いですね。意味が存在しないなんて…」

女「で、でも…もう事件は解決したんですよね?ならそんなに気にすることも…」


霊能少女「…そうだといいんだけど」

今日はここまで
ちょっと遅れて申し訳ないです

▢▢▢▢  九日目  ▢▢▢▢



『アガギィッ…グッ……ハハハ』

『わたっ…じは…!道しるべにな、るッ…!!!』

『ごのっ…大いなる旅路のッ…礎にッ…!!』



女「!?」ガバッ

女「はぁっ…はぁっ…」キョロキョロ

女「や、やっぱり、夢に出てきた。あーもう……やだなぁ」




女「おはようございます…先生」

霊能少女「ん、おはよう」カキカキ

女「あれ?何を書いているんですか?」

霊能少女「今回の事件の報告書、みたいなの」

女「報告書…ですか?」


霊能少女「一応、仕事をしたらこれを出さないといけない。記録にもなるし…もし、本人が死んだ時にも他の人に託すことが出来るから」


女「…!」

女「…和尚さんも、それを書いていたんですよね」


霊能少女「…そう、あれを事前に読んでいたから、ワタシも十分に対策が出来た。あの人たちの死は無駄じゃない」


女「…」

女「…ちょっと、私にも見せてもらっていいですか?」


霊能少女「別にいいけど、今はワタシが書いているから横から見て」カキカキ


女「どれどれ…」

女「ん?」

女「すみません。この最初に書いてある強:狂ってなんですか?」


霊能少女「分かりやすく言うと、怪異の強さの目安。ワタシたちの世界では『強』という言葉を使ってどれほどの脅威があるか表している」

霊能少女「レベルは三段階あって、順番に『恐』『叫』『狂』これが後ろに行くほど危険度が上がる」


女「ということは…私の家って最強レベルに危なかった、ってことですか?」


霊能少女「まあそういうことになる。でもこれはあくまで目安に過ぎないから、そこまで信用出来るものでもない。仕方なく割り振っている状態に近い」


女「へぇ…どういう基準で決められるんですか?」

霊能少女「まずは『恐』これは人を驚かしたり、怖がらせたりする幽霊などが該当する」

霊能少女「でも、精々出来るのはそれだけ。要するに人を殺す力がない下級霊やオーブかな」


女「害はそこまでないってことですか?」


霊能少女「まあそういうことになる。こいつらは放っておいても近いうちに自然消滅するから、そこまで危険なモノではない。勿論、依頼を受けたら祓うけど」

霊能少女「次は『叫』依頼が来るのは大体このレベルからになる。人に危害を加え、精神に異常をもたらす怪異が該当する」

霊能少女「死に至る、というケースは多くはないけど決してないわけではない。見つけたら即刻祓うべき対象」


女「何だか急に怖い感じになりましたね…と、なると最後の『叫』は…」

霊能少女「お察しの通り『狂』は人を狂わせる程の精神汚染、そして積極的に殺戮を繰り返す怪異。危険度は最高で返り討ちに遭う霊能者も多い」

霊能少女「でも最近はこの『狂』に該当するモノは少なくなっている。あっても年に数件ぐらい」


女「えっ…そんなに少ないんですか?」


霊能少女「まず、現代が非常に死者が蘇りにくくなっていて、全体数が少なくなっていることが挙げられる。昔と比べてね」

霊能少女「原因は色々説があるけど…ワタシはこの世界に『生』が溢れているからだと思う。世界の人口はもう70億を超えている。死者は生気を吸い過ぎるとすぐ消滅するから、今の社会はとても厳しい環境なんだと思う」


女「確かに…最近オカルト系の話題ってすっかりなくなりましたよね。心霊系の番組も減りましたし」

霊能少女「そして、もう一つは『狂』の奴等はある程度の知能を持っている。だから、中々尻尾を見せない」

霊能少女「ワタシたちは依頼を受けて、怪異を祓っている。依頼があるということは、何らかの目撃証言や被害に遭った人がいるということ」

霊能少女「…もし、目撃されることがなく、被害者の口を全員封じているとすれば…依頼が届くこともなく、安全に暮らすことが出来る」


女「そ、それって、私達の世界にそんな危険なのが紛れ込んでいるかもしれない…ってことですか?」


霊能少女「そういうことになる。現に、過去に都市伝説で有名だった『花子さん』『口裂け女』『ひきこさん』などは…実際に存在する怪異として有名。今でもどこかで潜んでいるはず」

霊能少女「まあ…今でも人殺しをしているやつは少ないと思うけどね。殺人はどうしても死体が残るから、証拠を消しにくいし」

女「じ、実際にいるんですか?口裂け女って…昔に警察が動いたくらいの騒動になっていたのは知っていますけど」


霊能少女「こいつらは幽霊とは違って、肉体が存在する死者。怪物と呼ばれている存在」

霊能少女「噂で有名なのは大体オリジナルが存在する。あいつら自分の力を誇示するのが大好きだから」


女「じゃ、じゃあ…その実際にいる怪物の中で、一番強いのって誰なんですか?」

女「先生でも…勝てなかったりします?」


霊能少女「……」

霊能少女「…ワタシも、これらの相手とは対峙したことないから、どれだけの強さなのかは分からない。でも…」

霊能少女「この業界で、最も危険な怪異と呼ばれているモノは存在する。そいつは…『強』のどれらにも当てはまらない、専用の呼称で呼ばれている」


女「えっ…だ、誰なんですか?それ…」

霊能少女「アナタも一度は聞いたことがある都市伝説だと思う。そいつは『凶』と分類されていて、誰にも倒すことは出来ないと言われている」

霊能少女「名は―――」



プルルルルルルル…プルルルルルルル…



女「あっ…ご、ごめんなさい!ちょっと失礼します」


女『もしもし?お母さん?…えっ!?』

女『ちょ、ちょっと!どういうこと?勝手に決め……』プツッ


女「あ…切れた」



霊能少女「どうしたの、何かあった?」

女「ど、どうしましょう…先生。お母さん、元気になったからもう今日退院するって…大丈夫なんですかね」

霊能少女「…一応、まだ少し様子見をした方がいいと思う。まだ呪詛が体内に残っている可能性もあるし、あと一週間は安静にさせた方がいい」

女「で、ですよね!私、病院に行って、もうちょっと入院するように説得しに行ってきます!」ダッ

霊能少女「ん、いってらっしゃい」



バタンッ



霊能少女「…さて、ワタシも続きを書くか」スッ

霊能少女「…」ピクッ

霊能少女「…いや、その前に…確かめておこう。ちょうど一人だし」スクッ


霊能少女「本当に…これで終わったかどうかを」

霊能少女「...」キョロキョロ

霊能少女(警察はいないか。あの家も、立ち入り禁止のテープが貼られているけど、恐らく鍵はそのまま開いているはず)



ガチャ



霊能少女「…当たり」




バタンッ



霊能少女(あの老婆が亡くなって、もう真実を知る者はいない。でも…)

霊能少女(何かの証拠が残っているかもしれない。『神彁混』に繋がる何かが…)

スタスタ


霊能少女(…それにしても酷い臭いだ。何を腐らせたらこんな刺激臭になる?悪性のガスが発生してもおかしくない)

霊能少女(…ん?あそこにある黒い物って…もしかして、あれが臭いの元か)



肉『』プーン



霊能少女(…腐った肉だ。なるほど、これを放置していたせいか)

霊能少女(でも、これは何の肉?まさか人間、ということはないか。動物にしても、毛皮は残っていない)

霊能少女(そういえば…スーパーで肉を大量に買っていたと、尾行の時に言っていたな。食べるわけではなく、こうやって使っていたのか)

霊能少女(…何の意味がある?)

霊能少女「…ふぅ」


霊能少女(ある程度探したけど…何も出てこない。本当にここで暮らしていたのか不思議なくらいに生活感がない家だ)

霊能少女(それに、私の他にも何者かが捜し回った跡がある。恐らく警察が身元を調べる為に触った跡か。この様子だと、向こうも何も見つからなかったと思うけど)

霊能少女(こうなると、どこかに隠している可能性があるな。でもどこに?)

霊能少女(…ひとつだけ、心当たりがあった)





霊能少女(この神棚だ。あの像が置いてあった…ここだけは掃除がされていて、埃が一つもない)

霊能少女(何かあるとしたら、ここのはず…とりあえず解体してみるか)

パコッ


霊能少女「…!」

霊能少女(あった。奥の方に、紙のような物が挟まっている)

霊能少女(これが…最後の手掛かり。さて…何が書いてある?)



ペラッ



霊能少女「…」

……………………………………………………
………………………………………



ガチャ



女「今帰りましたー」

女「何とかお母さんを説得させるのに成功しました!いやー本当に大変でしたよ」


霊能少女「…そう」


女「あ、今から晩ご飯作りますね。何か食べたい物ありますか…?」


霊能少女「何でもいい。それと、ちょっと大事な話がある」


女「?」

霊能少女「もう事件は解決した。だから…」

霊能少女「ワタシは明日、この家を出て別の仕事に向かう。今まで世話になった。ありがとう」




女「……えっ」



今日はここまで

▢▢▢▢  十日目  ▢▢▢▢



女(…いつかは、こんな日が来るとは思っていた。いや、願っていた)

女(全部片付いて、先生が家からいなくなる日が…でも、まだどこか心の片隅で不安が残る)

女(本当に、終わったのか、先生がいなくなっても大丈夫なのか…と)

女(…駄目だ、どうしてもマイナス方向に考えてしまう。気持ちを切り替えよう)

女(もう…全て終わったのだから)



霊能少女「どうしたの?」

女「…いえ、何でもないです。あ、そろそろ新幹線が来る時間ですね」

霊能少女「わざわざ駅まで見送りに来なくてもいいのに」

女「今までお世話になったんですから、これぐらいはさせてください」

女「あの…この一週間、本当にありがとうございました。何とお礼を言っていいか、先生がいなかったら、今頃は…」

霊能少女「ワタシは出来ることをしたまで。アナタも頑張った。もっと胸を張っていい」

霊能少女「これ、残りの分の水。お母さんに飲ませてあげて」

女「あっ、ありがとうございます」


霊能少女「それと…アナタにこれを」スッ


女「何ですか?これ?」


霊能少女「清めの塩、厄払いの効果がある」

霊能少女「万が一、危険な状態に陥ったら…ワタシに連絡して。なるべくすぐ駆け付ける」


女「…!わ、分かりました!」

ブゥゥゥン



霊能少女「ん、来たみたい」

霊能少女「じゃあ、さようなら。幸運を祈っている」フッ



女「先生も…!頑張ってくださいね!」



ウィーン

ブゥゥゥン



女「…」

女「…行っちゃったか」


女「私も…帰るか」

ブゥゥゥン



霊能少女「幕の内弁当と牛鍋弁当、あの鮭弁ひとつ」



霊能少女「」モグモグ

霊能少女「」モグモグ




霊能少女(…家までは大体四時間ぐらい)

霊能少女(そこから準備で一日以上はかかるか、出発したとしても…)


霊能少女(何とか、間に合うかな)

ガチャ



女「ただいま…って、今は誰もいないのか」


女(お母さんも入院してるし…またしばらくは私一人だな。何だかちょっと寂しい)



女「はぁ~…」ゴロン

女「あーカメラもないし、久しぶりにゆっくりのびのび出来るなぁ…」

女「大学も…しばらく休んでたし、そろそろ行かないと…」


女「……やっと、日常に戻れたんだな」


女「…………すぅ」

……………………………………………………
………………………………………



女「…ん」パチッ

女「ふわぁ…昼寝しちゃった。もう外が暗くなってるや」

女「お腹空いたし、ご飯作るか」スッ


ガチャ


女「…そうだった」

女「昨日…先生との最後の夜ってことで、冷蔵庫の中を全部使っちゃったんだった」

女「本当に何もないな…仕方ない。コンビニで何か買いに行こっと」



バタンッ

スタスタ スタスタ



女「明日は買い物に行かないとなぁ…」

女「あと、お母さんの退院祝いも準備しておかないと。強引に入院進めちゃったし、ちゃんと後で謝っておこう」



スタスタ スタスタ



女(…ん?)

女(あれ、後ろに誰かいる?)クルッ



シーーーーン



女「…誰もいない」

女(き、気のせいだよね。うん、きっと)

スタスタ スタスタ



女(…気のせいじゃない。確実に、誰かが後ろにいる)

女(歩幅を変えてみよう…もし、私を尾行しているのなら…!)ダッ



タッタッタ!!!!タッタッタ!!!!



女「はぁっ…!はぁっ…!」

女(お、追ってきている!私を!?誰がっ!?)

女(あのお婆さんはもう死んだはずっ…!!私を狙う人なんてもう誰も…!)


女(っ!家が見えてきた!!あと少し!!)



ガチャ

バタンッ



女「はぁっ…はぁっ…」ペタン

女「に、逃げ切った…早く、先生に連絡を……」フラッ



ドンドンドンッ!!!!!!ドンドンドンッ!!!!!!



女「ひぃっ!?」ビクッ

女「ド、ドアを叩く音が…や、やめて…」ビクビク



ドンドンドンッ!!!!!!ドンドンドンッ!!!!!!



女「うぅっ…も、もうやめてよぉ……お願いだからぁ……」ブルブル



シーーーーン



女「…や、止んだ?」

女「な、何がどうなって…一体、誰が……」

今日はここまで

▢▢▢▢  十一日目  ▢▢▢▢



チュンチュン……チュン……



女「……」


女(先生に連絡を送ってから、半日が経った。あれから一睡もしていない)

女(まだ返事は来ていない。それどころか、既読も付いていない)

女(先生は別の仕事に向かうと言っていた。その仕事が忙しくて、携帯を見る余裕もないのか、それとも―――)


女(和尚さんと同じように、あの影に殺されたか)


女(…いや、それだけはないと断言できる。先生がやられるわけがない。絶対に、何があっても、それだけは断言できる)

女(恐らく、何らかの事情があって、連絡が取れない状況になっているんだ。きっと、先生は気付いたらすぐ飛んで来てくれるはず。それまで、私は持ちこたえないといけない)

女(今、この場には私一人しかいないんだ…誰も、守ってくれる人がいない)

女(…怖い、死ぬほど怖い。一人でいることが。今すぐ逃げ出したいほどに)

女(でも…今、私が逃げたら…お母さんは一人になる。それに、過去の呪いで逃げ出そうとした人も事故で死んだ。私に残された道は…一つしかない)



女(先生のように、立ち向かわないと。背を見せたら殺される)



女(私が…この家を守るんだ)

ガチャ



女「」コソッ

女(…人の気配はない。さすがに昼には襲ってこないのかな)

女(とりあえず…買い物に行こう。食べるものが何もないし)






女「これと、これと…あとこれも」ガサゴソ

女「これも買っておこう」



女(前に、ここのスーパーに来た時は…あのお婆さんを尾行してたんだったな)

女(ふっ、そして今の私は誰かに狙われているのか…笑えないよ、本当に)

女(…あのお婆さんは何がしたかったんだろう。私たちを呪った理由、そして…なぜ自ら命を絶ったのか)

女(精神が錯乱していた、と言えば済む話だけど…何だかそれだけじゃない気がする)

女(三人目の犠牲者の人が書いた手記には…『かみかま つぎ あとすこし はじまる 4ね』と書いてあった。相変わらず『かみかま』の意味は分からないけど…何か、このメッセージは重要な鍵になる気がする)

女(そういえば…あのお婆さんが自殺する前に、何か言っていたな。確か…)



『わたっ…じは…!道しるべにな、るッ…!!!』

『ごのっ…大いなる旅路のッ…礎にッ…!!』



女(道しるべ、ってなんだろう?何かを残そうとしていた?)

女(大いなる旅路の礎、っていうワードも気になる。どこかに行こうとしているようにも読み取れるな。でも、死んで行く場所と言ったら…あの世しかない)

女(…頭が痛くなってくるな。いずれにしても、不確定の情報が多すぎて…考えるだけ無駄かも)


女「…はぁ、大体買うものは買ったし、そろそろ帰るか」スタスタ


女(…あ、ここの曲がり角で鉢合わせしたんだったな。あの時は驚いたなぁ)




クルッ







婆「」ユラッ

女「!?」ビクッ


女「えっ…う、うそ……あり得なっ……」

女(い、今さっき…あのお婆さんが角を曲がって…あ、あり得ない!なんでっ!?)バッ



女「…!…!」キョロキョロ

女(い、いない…どこに行った?)



女(そもそも…本当にいたの?あの人は間違いなく、私の目の前で死んだ。それがまた現れるなんて…幽霊じゃあるまいし)

女(っ…!ま、まさか本当に幽霊にっ!?)


女「…み、見間違いだよね。きっと…今日まだ寝てないし」

女「つ、疲れが溜まっているんだ…きっと、そうに違いない」


女「…!!!!」ダッ

…………………………………………………
………………………………………



女「…もう日が沈んでいる。夜か…」

女(結局…何も出来ずに、時間だけが経って行った。唯一、私が持っている武器は…先生から貰った、この塩だけ)

女(一応、玄関に盛り塩をしておいたけど…どれぐらいの効果があるのか分からない。効くのかな、これ)


女(…先生がくれた物だもん。きっと、役に立つはず)


女(さぁ、来るなら来い。私は絶対に…負けない!)

……………………………………………………………
…………………………………………



女「」コクッコクッ

女「……っは」パチッ

女「あ、危ない。寝ちゃうところだった。今何時だろ…」


『1:08』


女「一時か…もうとっくに昨日のドアを叩いてきた時間は過ぎてる。今日は攻め来ない…?」

女「…油断しちゃダメだ。もし寝込みを襲われたら…そのまま殺されるかもしれない。朝まで起きてないと」

女(こんなことなら…仮眠を取っておけばよかった。あー眠い、な…………)



女「……Zzz」スゥ






ゾロゾロゾロ……ゾロゾロゾロ……



ズズズズズッ……




女(…ん)

女(あれ、なんだろ…この感覚。沈んで行くみたいな)


女(…?あれ、ここってどこ?私は確か…自分の家に)


女(な、なに…?ここ…地下室みたいな雰囲気がするけど)


女(…奥に扉がある。どこかに繋がっているのかな)

ゾクッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!



女「!?」ビクッッ

女「あうぅ…あっ…あっ……」ブルブル


女(だ、めだ…これ……こ、この中には…入っちゃいけない。ぜ、絶対に……)

女(い、今まで見てきたモノとは比較にならない…あの巨大な影でさえもくすむほどの…嫌な感じがする)


女(は、早く……ここから……離れないと)




女(うぐぅっ!?)ビクッ




女(な、何…急に息が……苦しくッ…がはっ……)

女(はぁっ…はぁっ…あっ…………)

女「!?」パチッ



女(え、なに…ここは……私の家?今のは…夢?)

女(ゆ、夢にしては…リアリティがあった。汗もかいているし…ただの夢とは思えない)

女(…あれ?体が動かない。これって…金縛り?)




ズズズズズッ……




女「!?」ビクッ

女(へ、部屋の隅に……あの影がッ!?ど、どうしよっ…動けっ、ない)




影『』ズズズズズッ

女(ち、近付いてきている!!そ、そうだっ!あの塩を…!少し、手を伸ばせば届くっ!!)

女(お願いっ…!動いて!)ピクッ



影『』ズズズズズッ



女(もう少しでっ……届くっ…!間に合えっ―――)プルプル


ガシッ


女「!!!!!」

女「う、うわあああああああああああ!!!!!!!」バサッ



影『』シュンッ

女「はぁっ……はぁっ……」

女「塩を撒いたら…か、影が消えた?助かった、の……?」



ドサッ



女「!?」ビクッ

女「に、庭から物音がっ!?誰かいるっ!!」ダッ

ガチャ



女「…誰もいない」



ジャリッ



女「…ん?何か踏んだ」ピクッ

女(これって…私が玄関に盛って置いた塩だ。それが倒されている)

女(間違いない…さっきまで誰かいたんだ。ここに)


女(この事件の…真犯人が)

今日はここまで

ごめんなさい今日は更新出来ないです

▢▢▢▢  十二日目  ▢▢▢▢



女「…よし、出来た」カチャカチャ


女(家の中に置いてあった監視カメラは全部先生が持って帰っちゃったけど…こうやって、庭の植木鉢のところに見えないようにカメラを置いて、録画ボタンを押せば…簡易監視カメラの完成)

女(これで、犯人の顔が分かるはず。まあ…人間だったらの話だけど)

女(あとは…もう一度、買い物に行こう。今度はアレを買わないと)








女(防犯グッズ…これなら非力な私でも、攻撃手段になるはず)

女(何がいいのかな…このスプレー型のは扱いやすそうだしいいかも。あとは…)

女(あ、スタンガンだ。値段はちょっと高いけど…一発当てるだけで相手を行動不能にさせる、か。うーん…)


女(一応買ってみるかな)





女(よし、これで装備は万全。あとは夜が来るのを待つのみ)

女(…そうだ。先生からの返事は来たかな)スッ


女(…変わらず、か)


女(ここまで来たら、一人でやるしかない。私だけで…捕まえてやる)

…………………………………………………………
………………………………………………



『1:10』



女(…来た。昨日の同じ時刻。もし今日も来るなら、大体この前後のはず)

女(昨日は寝ちゃったけど…今日は大丈夫。朝まで起きていられる)

女(準備も万端、玄関先には昨日より多く塩を盛ったし、屋内にもいくつか設置してある)

女(何も恐れるものはない。私ならやれる、自信を持て)




ガタッ




女「」ビクッ

女(も、物音がした?外じゃない、家のどこからか)

女(来たの…?でもそんな気配は感じなかった。いつも嫌な感じがするのに)

ガタッ



女「!!!!」


女(き、聞こえた。今度は庭から、昨日と同じ位置からだ)

女(いる、確実に、今この瞬間に、数メートル以内に)

女(行こう!こっちには武器もあるし、塩も持っている。戦況的にはかなり有利のはず!ここを逃すわけにはいかない!)ダッ




ピクッ



女(…ッ!?)

女(なっ…ま、また金縛りッ!?う、動けなっ……)




ズズズズズッ

女(!!!!!)

女(き、昨日と同じパターン!いや、違う。昨日より…力が強い!!!指一本すらも動かせない!)


女(こ、これ…かなりまずい展開なんじゃ……)





影『』ズズズズズッ





女(か、影が現れた…!動けっ…!動け!!)

女(ダ、ダメだ……これ、もう……)




影『』ズズズズズッ




女(だ、誰かっ……助けっ……)

「…...」

「……」ニヤッ





「ようやく尻尾を見せたか。やっぱり…こういうことだったか」スタスタ





「「!?」」クルッ





霊能少女「警告したはず、呪いを解除しないと呪詛返しをするって」

霊能少女「じゃあ…これ、約束の呪詛返し」スッ




ズズズズズッ





「……アッ!」ビクッ

「あ、ああああああ…」ダッ





霊能少女「…さて」クルッ

影『』ズズズズズッ

影『』シュンッ




女「!?」ピクッ

女「あ、あれ…消えた?それに、動けるようになった」

女「な、何がどうなって…もうダメかと思ったのに」




ガチャ



女「」ビクッ

女(だ、誰か家に入ってきた。どうしよう…まさか、直接私を殺しに来たの?)


女(…!こ、これはチャンスだ。一対一なら、私でもまだ勝てる可能性がある)

スタスタ




女(…来る。姿が見えた瞬間に…スタンガンを喰らわせてやる)




スッ




女「今だあああああああああ!!!!!!!」ダッ

霊能少女「ん?」

女「死ねえええええええええええええええ!!!!!!」スッ



ビリビリビリビリビリィィィィィィ!!!!!!!



霊能少女「ッッッ!?!?!?」ビリビリ



バタッ



女「はぁっ…はぁっ…や、やった。倒した」

女「…ん?」


霊能少女「」ピクピクッ


女「…………えっ、先生?」

……………………………………………………………
………………………………………………



女「ほ、本当にっっっっっっ!!!!!!ごめんなさいっっっっ!!!!!!」


霊能少女「…いや、もういい。紛らわしいことをしたワタシも悪かった」


女「いや!!!!全面的に私が悪いです!!!!!本当に、本当に、本当にごめんなさい!!!!!!」


霊能少女「…いい加減に頭を上げてほしい。これじゃあまともに話も出来ない」

霊能少女「アナタに作戦を伝えずに、囮のように使ったワタシにも非がある。だから、もう謝るのはやめて」


女「申し訳なっ……え?作戦?囮?」

霊能少女「そう、別の仕事に行くというのは嘘。一度帰ったのは本当だけど、またすぐ戻ってきた」

霊能少女「奴等が…ワタシが居なくなった頃合いを見て、アナタの家に来るのは目に見えていたから、一網打尽にしたかった」


女「そ、そうだったんですか…でも、それならメールの返事くらいくれても…」


霊能少女「…メール?」スッ

霊能少女「…あっ、ごめん。素で忘れていた。忙しくて、普段あまり触らないから」


女「何のための携帯なんですか…連絡よこせって言っていたのに」

女「…あの、それで…さっきから私の家を呪っていたやつの正体が分かっていたような口振りですけど…結局誰なんですか?」

霊能少女「それはこれを見た方が早いと思う。アナタが庭に置いていたカメラ。ここに姿がバッチリ映っている」


女「えっ、よく見つけましたね。それ…ちゃんと見つからないように隠していたのに」


霊能少女「…隠していた?庭に置いてあるだけのように見えたけど」


女「…もういいです」


霊能少女「そう、ならさっそく再生する。時間は…この辺りか」ピッ






ジー……

男『』ユラッ







女「…!こ、こいつが…黒幕?」


霊能少女「…違う、もっとよく見て」







男『…』

爺『…』ユラッ







女「!?」ビクッ

女「えっ…ふ、二人っ!?ど、どういうことですか?これ!!」

霊能少女「…二人だけじゃない。もっといる」






ゾロゾロゾロ……ゾロゾロゾロ……






女「う、うそ…十人近くいる……こ、これって本当に私の家の前…?」

霊能少女「そう、ほんの十分前のアナタの家の光景。こいつらは幽霊でも何でもない、実体が存在する人間」






『『『……!……!』』』ユラユラ





女「な、なにこれ…手招きしている。これってちょうど、影が現れた時間…」

女「あ、先生が出てきた…ん?この持っている箱って…」


霊能少女「呪いの爆弾。あいつらに呪詛返しする約束だったから」スッ

女「うわっ!?そ、そんな気持ち悪いのここで出さないでくださいよ!!」

女「あ、あれ。でも呪詛返しって…返された人は死ぬんじゃ…」


霊能少女「あれだけの数なら、一人にかかる負担は少ない。だから死ぬことはない。多分ね」





ダッ





女「あっ!に、逃げた……ここで先生が家に入って……あの流れになったんですね」

女「ど、どういうことですか。私はてっきり…個人の仕業だと思っていました。あのお婆さんと同じように、でも、これは…」

女「どう見ても異常です。十人近い人が、私の家に集まって呪いをかけていたなんて……真犯人は、黒幕は…誰なんですか?」

霊能少女「ざっくり言うと、この一連の事件を操っていたのはあの老婆ではなかった、ということ。さっき集まっていた奴等の一員だろうね」

霊能少女「本当の黒幕は……『カルト』だった」




女「カ、カルト…?」

霊能少女「名前くらいは聞いたことがあるはず。邪悪な神を信仰してたり、社会に敵対するような行為をしている宗教団体ってやつ。ようは頭のイカれた危ないやつら」

霊能少女「…これ、あの老婆の家から見つけた紙切れ。そのカルトが老婆に宛てて書いた指令書のようなものだった」

霊能少女「呪いを行う手順と日程が事細かく、説明書付きで記載されている」


女「あのお婆さんが宗教にハマっていた、という話は聞きましたけど…その宗教団体が黒幕だった、ってことですか……まさか、そんな……」


霊能少女「まあこれで倒すべき敵がはっきりした。この地域周辺を調べたら、すぐそれらしき組織の名前が出てきた」

霊能少女「『天国の扉』こいつらをぶっ潰せば、それで全てが解決する」


女「天国の…扉?」

今日はここまで

▢▢▢▢  十三日目  ▢▢▢▢



女「おはようございます……ごめんなさい、寝過ぎました」


霊能少女「…ん、大丈夫」カチャカチャ


女「あれ?何してるんですか?部屋いっぱいに変な道具広げてますけど」


霊能少女「仕事道具の手入れ、これを持ってくる為に家に帰っていた」


女「道具って…今まで使ってた水とか塩みたいなやつですか?」


霊能少女「あれは持ち運びが容易で、手軽に使えるもの。普通ならあれで十分だけど、今回のケースは別」

霊能少女「ワタシも…本気を出す。これが完全装備の道具。過去に使ったのは一回だけしかない。用意するのにも時間がかかるし、並みの『狂』相手でも、ここまでする必要はない程の業物だから」

女「…」ゴクリ

女(ほ、本気の道具って……一体、どれほどの……)



プルルルルルルル……プルルルルルルル……



女「あ、電話…」スタスタ

女「もしもし?はい、はい…えぇ、そうですけど」

女「えぇっ!?ほ。本当ですか!?」ビクッ



霊能少女「…」



女「わ、分かりました!す、すぐに行きます!」ガチャ



霊能少女「…何かあったの?」

女「そ、それが…!お母さんの容態が悪くなってみたいで…!意識がないそうなんです!」

女「だ、だから…!すぐ病院に来るようにって!!」


霊能少女(…そうか、本来のリミットは十日、もう今日で九日目…時間は残っていないということか)

霊能少女「…すぐに病院に行ってあげて」


女「はい!!!!」ダッ




バタン




霊能少女「…モタモタしている暇はないか。こちらから仕掛けるしかない」

霊能少女「向こうも…それを待っているはず。いいよ、全面戦争といこうか」ピッ


プルルルルルルル…プルルルルルルル…

ガチャ



霊能少女「…もしもし?そちら『天国の扉』?」

…………………………………………………
……………………………………



ガチャ



女「……ただいま、戻りました」


霊能少女「どうだった?母親の様子は」


女「…よくないそうです。昨日までは普通だったのに、急に意識を失って…昏睡状態に」

女「原因もまったく分からないみたいで……もしかしたら今夜が山かもしれないって……」ポロッ

女「ど、どうしたらっ、どうしたらいいんですか…先生…」ポロポロ


霊能少女「…ワタシがアナタの母親の命が残り十日だって言ったの、まだ覚えてる?」

霊能少女「今日が…その日からちょうど九日目。あの老婆が死んで、アナタの母の呪いは自然に取れたと思っていたけど…呪いをかけていたのはカルトの方だったみたい」

霊能少女「現代医学ではどうすることも出来ない。残りあと一日で…どうにかしないといけない」

女「そ、そんな…!あと一日だなんて…!」


霊能少女「…安心して。言ったはずナタたちは必ず守ると」

霊能少女「病院に行っている間に、そのカルトの連中と連絡が取れた。明日、奴等の施設に行くことになった」

霊能少女「そこで…全てを終わらせる。これならギリギリ間に合うはず」


女「えっ…ほ、本当ですか!?」


霊能少女「でも…奴等はひとつだけ、条件を出してきた」

霊能少女「…アナタが同行するなら、話をしていいと」


女「…!わ、私も一緒に…ですか?」

霊能少女「…正直、かなり危険だと思う。ワタシ一人だけなら、襲われても対処出来るけど、集団で来られたら他人を守る余裕はないかもしれない」

霊能少女「ワタシは行くべきではないと―――」



女「行きます。先生と一緒に」



霊能少女「……え?」



女「こんな目に遭わされて…お母さんのことを苦しめている連中が、自ら会いたいと言ってきているんです」

女「なら…一発、いえ二発ぶん殴ってやります。そうしないと…私の腹の虫が治まりませんから」


霊能少女「……」

霊能少女「分かった。その目を見たら、来るなとは言えない。明日、一緒に行こう」


女「はいっ!」

……………………………………………………………
……………………………………………



女「……」

女「…眠れない」スッ


女(う、うっ…せ、先生の前では大口を叩いて、威勢のいいことを言ってしまったけど…やっぱり不安だ。明日…カルトのところに行くなんて)

女(私を指名してきたってことは…何か意味があるはず。もしかして、今度こそ殺されるんじゃ……)


女「…水飲も」スッ




スタスタ




霊能少女「……」カチャカチャ


女「あれ?先生まだ起きているんですか?」


霊能少女「最終確認。それに、今日に奴等が攻めてこないとも限らないし」

霊能少女「アナタは十分に睡眠を取った方がいい。恐らく明日は…一番長い日になるだろうから」

女「……」

女「…先生、ちょっと話しませんか?」スッ


霊能少女「話?」


女「はい、先生にちょっと聞きたいことがありまして」

女「先生の…家族って今は何をしているんですか?」


霊能少女「…」


女「私のお母さんのことになると…何だか、先生がいつもより優しく見えるような気がして。何か思い出があるのかなって」

女「あっ…言いたくないなら大丈夫ですよ。すぐ部屋に戻りますから」


霊能少女「…両親は、もう既に亡くなっている。残っているのは妹が一人だけ」

女「……」

女「そう、だったんですか。ごめんなさい、無神経なこと聞いちゃって」


霊能少女「…いや、そこまで気にしていない。両親が亡くなったのは15年も前のこと、その頃のワタシはまだ幼かったから、親の記憶はひとつもない」


女「…やっぱり、先生と同じ仕事をしていたんですか?ご両親は…」


霊能少女「そう聞いている。夫婦二人揃ってやり手で結構有名だったらしい」

霊能少女「まあ…最後は仕事に失敗して死んだんだけど」


女「失敗って…殺されたってことですか?」


霊能少女「…恐らくそう。でも、誰に殺られたのかは分からない」

霊能少女「依頼された仕事は無事に成功したらしい。けど、そこに何らかの介入があった。そいつに…父と母は殺された」

霊能少女「仲間の人たちも、必死になって二人を殺したヤツを探したけど…結局は見つからなかったと聞いている」

女「…もしかして、先生がこの仕事を続けているのって、仇討ちのためだったりします?」


霊能少女「それは…どうだろう。正直、あまり親という存在を知らないから、直接の関係はないと思う」

霊能少女「ただ、受け継がれているのかもしれない。父や母の…想いが、私の中で。この仕事を続けて行けば、いつか会えるような気が……」

霊能少女「…いや、何でもない。忘れて」


女「い、妹さんの方はどうなんですか?もしかして、先生と同じ仕事をしてたり…」


霊能少女「…妹も広い意味で言えばワタシと同じ仕事をしている。ただ…それは海の向こうでだけど」


女「海の向こうって、海外に住んでいるんですか?」


霊能少女「そう、12の時に家を飛び出して、そのまま向こうで生活している」

女「どうして海外に?」


霊能少女「…多分、ワタシと比べられるのが嫌だったんだと思う。あまり仲は良くなかったし、嫌われていた」

霊能少女「電話をしても、数秒で切られるし、ワタシの顔も見たくないんだと思う」


女「…そんなことないと思いますよ。私は一人っ子で、姉妹という関係はあんまり分からないですけど」

女「私の家も…父親が小さい頃に病気で亡くなって、今いる家族は母親一人だけなんです。そりゃたまには喧嘩しますけど…血の繋がった家族というものは早々断ち切れないですよ」

女「妹さんも…思春期とかで接し方が分からないだけだと思います。心の中では先生と同じように、家族のことを心配していますよ」


霊能少女「……そう、なのかな」

霊能少女「……ありがと」

女「…やっぱり、話してよかったです」

女「正直に言うと、私…心のどこかで、まだ先生のことを恐れていたのかもしれません」

女「先生の…その力が。味方だけど怖かったんです」



霊能少女「……」



女「…でも、今は違います」

女「先生も言っていたじゃないですか。人間は理解出来ないものを恐れるって。ちょっとだけですけど…先生の心を理解出来た気がします。これでもう、心残りはありません」

女「…明日、決着をつけに行きましょう。先生」


霊能少女「……うん」

今日はここまで
あと二回の更新で終わると思います

すみませんちょっと長くなったので今日中に更新は無理そうです

▢▢▢▢  十四日目  ▢▢▢▢



ブゥゥン


霊能少女「ここで止めて」

女「…」


キキーッ

バタンッ

ブゥゥン


女「こんな山の中に…施設があるんですか?とてもじゃないですけど、信じられませんね」

霊能少女「教祖が山奥の廃校になった小学校を買い取って、そこを改築して暮らしているらしい」

霊能少女「タクシーで来られるのはここまで、ここから先は歩いて行こう」

女「え?でも道路は続いてますよ?」

霊能少女「…何が起こるか分からない。無関係の人を巻き込むわけにはいかないから」

女「…」ゴクリ

スタスタ スタスタ



女「その…天国の扉って、どういう団体なんですか?何を信仰しているだとか」

霊能少女「ホームページがあったので、覗いてみたけど、あまり具体的なことは分からなかった。やれこの世界は腐敗しているだの、天国には救いがあるだの、眠たくなるようなことばかり書いてあった」

女「全く未知ってことですか…不気味ですね」

霊能少女「小学校では100人前後が一緒に集団生活をしているらしい。中には子供もいる」

霊能少女「…向こうに着いたら、警戒は怠らないで。周り全てが敵だと思っていい」

女「ひゃ、ひゃくにんって…そんなに規模が大きいんですか」

霊能少女「…ワタシも驚いた。今のご時世、新興宗教というものは所詮金稼ぎの道具にしているところが大半。いや、全てと言っていい」

霊能少女「だから、わざわざ学校を買い取って、直接一緒に暮らすなんて行動はあまりにも不自然。金を貢がせる為にしては面倒過ぎるやり方」

霊能少女「…それに、奴等は呪いという異形の力にも手を出している。金ではない何かの目的…いや信念があるんだと思う」


女「……」

女「い、一体…何をしようとしているんでしょうか」


霊能少女「…それを今から確かめに行く」

…………………………………………………………………
…………………………………………………



スタスタ スタスタ



霊能少女「…見えてきた。あそこが…天国の扉」

女「うわぁ…本当に小学校に住んでいるんですね」


女(廃校になったにしては外装が結構整理されているように見える。改築したおかげなのかな)

女(学校の前には車やバイクがいくつも止まっている…信者の人たちの物なんだろうか)


女「…あれ?入口に誰か人がいますよ」






信者「…」ニコニコ

信者「ようこそおいで下さいました。さぁ、司祭様がお待ちかねです。どうぞ、中に」



霊能少女「…」

女「…」




スタスタ スタスタ



信者「ここは穢れがない神聖な場所なのです。俗世間の空気は私達には毒なので、我が兄弟の司祭様が特別に用意してくれました」


霊能少女「…アナタは、その司祭様の娘なの?」


信者「いえ、血縁関係はありません。ですが、魂は繋がっています」


霊能少女「…」

女「…」

女「…ん?」チラッ




子供『『『  』』』




女「あれって…」


信者「あぁ、あれは学びの時間です。ここには十数人の子供がいるので、その子たちの教育をしているんです」

信者「ちょうど、ここは小学校でしたので、教室はいっぱいありますしね」


女「…普通の学校には行っていないんですか?」


信者「えぇ、それがどうかしましたか?」


女「…いえ、何もありません」

信者「ここが司祭様の部屋です。では、私はこれで」スタスタ



女「…先生、どう思いますか?」

霊能少女「…どうって、何が?」

女「だって…子供を学校にも行かせないで、こんなところに閉じ込めているんですよ?そんなこと許されて…」

霊能少女「確かに。傍から見たら異常な光景。でも、今はそれを気にしている時間はない」

霊能少女「…この部屋に、アナタたちを苦しめ、呪いで何人も殺した黒幕がいる。気を付けて、何をしてくるか分からないから」

女「…!わ、分かりました」

霊能少女「…開けるよ」スッ




ガチャ






司祭「おぉ、ようこそ来てくださいました。さぁ、お座りください」






霊能少女(こいつが…)

女(すべての元凶…!)




司祭「どうぞ、狭い部屋で申し訳ありませんね」

司祭「お茶はどうですか?この茶の葉は裏の農園で収穫したものなのですよ。きっと気に入るはずだ」スッ



霊能少女「…」

女「…」



司祭「ここでは出来るだけ全ての食事を自家栽培で作るようにしていてね、俗世間で売っているものと比べたら鮮度が違うのですよ」

司祭「農薬も、保存料などの添加物も入っていない。そのままの栄養を取ることが出来る。これ以上に幸福なことは中々ない」

司祭「そうだ、ランチも持ってこさせましょうか…」



霊能少女「いい加減にして、ワタシたちはそんなどうでもいいことを聞きに来たんじゃない」

霊能少女「さっさと本題に行こう。アナタはなぜここにいる彼女とその家族、そして…過去に何人も呪いで殺したの?」


女「…」

司祭「…呪い、ですか。貴女達では儀式のことをそう言うのですね」

司祭「少し、不服です。聖なる儀式を、呪いなどという穢れた言葉で表現されるのは…」



霊能少女「…は?あれが呪いじゃないって言うの?」



祭司「えぇ、そうです。私達が行っていたのは使者を送らせる儀式。天の国への使者をね」

司祭「選ばれた者ではないと、天の国へ行くことは出来ないのです。だから、私が裁定して、使者を送りました。彼らは今頃、天国で祝福されているはずです」

司祭「…お嬢さん、貴女も…選ばれた人間なのですよ?もっと誇りなさい。とても名誉のあることなのですから」



女「…っ」

霊能少女「…そう、その天国やら、使者やらの意味は理解出来ないし、したくもない」

霊能少女「でも、アナタは確実に人を呪い殺していた。この道具を使ってね」スッ

箱『』



女(呪いの…爆弾!)



司祭「おぉ、それはあの方に渡していた祭具ではないですか。わざわざ届けてくれたのですか?ありがとうございます」スッ



霊能少女「近寄らないで。それ以上こちらに来たら、呪詛返しをさせてもらう。されたくはないでしょ」



司祭「…フフッ、呪詛…ですか。面白いことを言う人だ」

司祭「ならば、どうぞ。やってみてください。我々が本当に呪いなどということをしていたなら、出来るはずだ」



霊能少女「…」

女「せ、先生…」

霊能少女「…死んでも、知らないから」スッ




ズズズズズッ

女(は、箱の中から影が!これが…呪詛返し)



司祭「」ニコニコ



ズズズズズッ…

シュンッ



霊能少女「!?」

霊能少女(じゅ、呪詛が消えた…なぜ?一昨日はちゃんと機能していたのに)



司祭「だから言ったでしょう。それは呪いの道具ではない。神から与えられた力の一つなのです」



霊能少女(こいつ…何をした?)

霊能少女(…この呪詛には不可解なことが多すぎる。見たことがない種類だったし、どこか遠くから意思が感じられた。何か仕掛けが…)

司祭「間違いは誰にでもあります。気にすることはない。大事なのは己を恥じ、反省することです」


女「あ、あの!」


司祭「おや、どうかしましたか?」


女「わ、私の…私の母に憑いている呪いを今すぐ解除してください…!そうしないと、母は今日中に命が…!」


司祭「…ですから、呪いではないと言っているでしょう。分からない人達だ」

司祭「貴女の母君は天の国へと渡る使者の一人に選ばれたのですよ?天国というのは我々家族以外では、辿り着けない場所なのです。先程言ったように、とても名誉なことだ」

司祭「人には遅かれ早かれ、誰にでも死が訪れる。大事なのはそれから先のことだ。楽園で永遠の時を過ごすか、無になるのか…今一度、よく考えてみてください」


女「ッ!」

女「そ、それでも…母は死なせませんっ!もし、解除してくれないなら…!」


司祭「どうするというのです?」


女「そ、それは……」

司祭「…野蛮な人だ。結局は暴力に頼ろうとする。これだから俗世間は好かないのだ」

司祭「そこまで拒否するのなら、いいでしょう。分かりました」パンッ

司祭「はい、これで使者の資格は失いました。これで満足ですか?」



女「…え?」

霊能少女「…本当に、解除したの?」



司祭「はい、私は嘘はつきません。残念です…このようなことになるとは」



女(こ、こんな簡単に、あっけなく…お母さんが助かった?)



司祭「…おや、もう時間がないようだ」

司祭「すみませんが、我々はこれから成すべきことがあるので、もうあまり時間が残ってないのです。用はこれだけですか?」

霊能少女「…いや、聞きたいことはまだある」

霊能少女「『神彁混』ってなに?アナタは…これを使って、何をしようとしている」




司祭「……」

司祭「…どこで、その言葉を?」




霊能少女「自殺したここの信者の老婆の家にあった像に名前が彫ってあった」

霊能少女「それに、四年前にアナタの犠牲になった人も、この言葉を残している。偶然とは言わせない」




司祭「……ふぅ」

司祭「恐らく、言葉で伝えても理解出来ないでしょう。神彁混様は…我々の神なのですから」




霊能少女「…神?」

司祭「えぇ、そうです。扉の向こう側、天の国にいる兄弟」

司祭「我々は…扉を開けたいのです。天の国への扉を、だから旅路を続けている」



霊能少女「旅路…」



司祭「えぇ、過去に多くの家族が扉を開けようとしましたが…成功したのは最初だけだった」

司祭「ですが、今度こそ扉は開きます。鍵を使うことによって、我々は次のレベルに上がることが出来た」

司祭「今日、この日に…扉は開きます。貴女方を呼んだのは、その為。見届け人が必要なのです」



霊能少女「…ちょっと待って。さっきから何を言って」







キーンコーンカーンコーン





女「」ビクッ

女「チャ、チャイム…?」





司祭「……時間だ」フラッ





霊能少女「ちょっと待って、まだ話は途中…」



司祭「静かに」スッ


ピッ


司祭「…聞こえるか。我が家族達よ。時が来た。天の国へと渡る時が」



女(な、なに…あのマイクで放送しているの?)

霊能少女(…まさか)

司祭「不安、恐怖、苦悩、様々な想いがあると思うが…我々は一つだ。何も恐れる必要はない。共に旅立とう」

司祭「今、この時…扉は開かれる。慈悲深き父や母の元に…約束の地へ」



女「せ、先生…これって…」

霊能少女「…...」



司祭「さぁ、子供達よ。一杯ずつ取って、飲み干しなさい。穢れは全て浄化される」

司祭「姉妹、兄弟達よ。私達の時代が来た。先人達の骸を道しるべに…行こう」

司祭「別れの言葉と共に、この祈りを捧げる。アーメン」カチッ


司祭「……」スッ



霊能少女「今の放送はなに?アナタ、本当に何を企んで……」

司祭「…別れの時だ。貴女方はこれを見届けなければならない。その目と心に刻み付けるのだ」

司祭「これが…我々の旅路なのだから」カチャ





霊能少女「拳銃ッ!?」

女「!!!!」






バンッ!!!!!!








司祭「」バタッ

女「あっ…あっ…そ、そんな…ま、また……」

霊能少女「自殺、した…あの老婆の時と同じ」

霊能少女「旅路……まさか、こいつ……さっきの放送で……信者達に」

女「せ、先生……」

霊能少女「…嫌な予感がする。これまでに起きたことがない…狂気の渦を感じる」

霊能少女「…ここを出よう。今すぐに」

女「わ、分かり…ました」



霊能少女「…」チラッ



紙『』

拳銃『』



霊能少女「…」スッ




司祭「」




バタンッ

霊能少女「早く、走って。急いでここを出る」ダ

女「せ、先生っ!あの放送って…!ま、まさか」

霊能少女「考えている時間はない。教祖のあいつが自殺した今、もうここにいる理由はなくなった。早く出よう」

女「…は、はいっ」



ピタッ



霊能少女「……」

女「先生?どうしたんですか?」

霊能少女「…死んでいる」

女「えっ?」





信者「」

女「ひっ……」

女「こ、この人って…!案内してくれた…!」

霊能少女「…どうやら、最悪の状況みたい。何が…起こっている」




タッタッタ!!!!タッタッタ!!!!




信者「」

信者「」



女(み、みんな死んでいる…出会う人みんな…)

女(この人たちって…このカルトの信者の人なんだよね。それがみんな、あの老婆や司祭と呼ばれていた人と同じように、自殺している)


女(ここは天国なんかじゃない…地獄だ)

女「」ピタッ

霊能少女「どうしたの?」

女「せ、先生…あれって……」




子供『『『 』』』




霊能少女「……」


女「っ!!!!」ダッ


霊能少女「待って!」

女「ねぇ、起きて。ここは危ないよ。一緒に逃げよう」

子供「」

女「ね、ねぇ!!」


霊能少女「…やめて、もう死んでいる」


女「う、ううっ…な、なんでこんな子供までっ…!」ポロポロ

子供「」


霊能少女(…このコップ。自ら毒を飲んだのか…)

霊能少女(っ…今は前に進まないと)


霊能少女「立って、早く行こう」


女「うぅっ……」ポロポロ

タッタッタ!!!!タッタッタ!!!!



霊能少女「ここの階段を降りれば、昇降口に出るはず」

女「……」

霊能少女「…大丈夫?」

女「…いえ、相当参ってます」

霊能少女「…今は思考するのをやめた方がいい。何も考えないで」

女「…はい」



霊能少女「っ…!これは…」





信者「「「 」」」




女「こ、こんなに沢山の人が……そんな……」

霊能少女「…ダメだ。全員死んでいる」

女「こ、この教団にいた人は…みんな自殺したってことですか。こんなのって…ただの集団自殺じゃないですか」


霊能少女「……」

ゾクッッッッッッッッッッッ!!!!!!!



霊能少女「っ!?」クルッ


女「…?先生?」


霊能少女「…先に逃げて。私は後から追いかける」ダッ


女「えっ!?せ、先生!?どこへ!?」




タッタッタ!!!!




霊能少女「…!」

霊能少女(…昇降口は一階。今、私が降りているのは…地下へ進む階段)

霊能少女(普通、小学校に地下なんてものはない。これは改装した際に作ったものと考えるのが道理。何の為に?)

霊能少女(…さっき、とてつもなく邪悪な気配を感じた。ワタシでも…鳥肌と冷や汗を感じるほど)

霊能少女(このワタシにあんな感覚を味合わせるなんて…何がある。この地下に)

霊能少女「…この部屋からだ」


女「せ、先生っ!!待ってください!!」


霊能少女「…先に行ってと言ったはずだけど」


女「そ、そんなこと出来るわけないじゃないですか!!どうしたんですか、急に走って」

女「こ、ここって…地下ですよね?この部屋に何かあるんですか?」


霊能少女「…恐らく、この部屋に全ての真実がある」


女(し、真実?あれ、私…ここ、見覚えがあるような)

ガチャ

モゾモゾ モゾモゾ




霊能少女「……」

女(な、なにこの部屋…酷い臭い。まるで、あのお婆さんの家のような)

女(そ、それに…中央の台座に何かいる。布をかけられていて、姿が見えないけど…モゾモゾ蠢いている)


霊能少女「……」スタスタ

霊能少女「…!」バサッ





妊婦「あっ…あっ…」モゾモゾ





女「!?」




霊能少女「…!!!!」チャキッ

バンバンッ!!!!!!!バンバンッ!!!!!!!





妊婦「アガッ!?」ビクッ





女「!?」

女「せ、先生!?その拳銃って…!いや、それよりなんで撃ったんですか!!!!」


霊能少女「ハァッ…ハァッ…なに……これ……!!」

霊能少女「中に……何がいる?」


女「な、中…?」





妊婦「アグゥ!!!!アアッッッ!!!!た、助けてエエエエエエエエエ!!!!!!」

妊婦「う、動いてッ……出てくるゥ!!!!!」

ボゴォ



女「!?」

女「お、お腹が膨らんでっ…!?」


霊能少女「……逃げるよ」ダッ


女「えっ!?先生!?」


霊能少女「早くッッ!!!!!もう出てくる!!!!!」






妊婦「ヒィッ…ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」



ブチッ



女「!?」ビクッ

女(お、お腹の中から……手がっ!?)


霊能少女「何をボケっとしているの!!!死にたいの!?」ギュッ


女「あっ…」グイッ






妊婦「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」





ブチブチッ…グチャ





『…………』




ダダダダダダダダッ!!!!!



女「せ、先生!!!今のって何なんですか!?中から…何かが!!」

霊能少女「……分からない。あれは……生者でも、死者でもない。ワタシにも、何が起きたか分からない」

霊能少女「あんな感覚、初めてだった。人間としての防衛本能が、全開で警鐘を鳴らしていた。あれはヤバい、今まで出会った幽霊も怪物も、比べ物にならいないほど異質…」

女「そ、そんな……」




霊能少女「…着いた。ここを開ければ、外に…!」



ガチッ


霊能少女「!?か、鍵が…」

女「う、うそ……」

ドンドンッ ドンドンッ



霊能少女「ダメだ。開かない」

女「べ、別の出口を……」





ドスッ…ドスッ…




女「」ビクッ

女「こ、この音って…地下から」

霊能少女「…どうやらワタシたちを追って来たみたい。他の出口を探している時間はない」

女「…っ!な、ならその拳銃で壊して!」


霊能少女「…時間がない。これを飲んで」ガサゴソ


女「え、な、なんですか?これ」

霊能少女「ワタシは…道がないと飛ぶことが出来ない。だから、この距離でも失敗するかもしれないけど、背に腹は代えられない。早く」


女「な、何がなんだか分からないですけど……これで、いいんですか?」ゴクンッ


霊能少女「よし、ワタシの手を握って」

女「は、はい」ギュッ

霊能少女「…行くよ」








シュンッ

女「!?」バタッ

女「えっ…い、今何が起きて……ここって外?」キョロキョロ


女「うぷっ!?おえええええええええええええ!!!!!!!」ゲロゲロ



霊能少女「…瞬間移動ってやつ。慣れてないと吐く」

霊能少女「急いで。この車を使って、ここから離れる」ブンッ



パリンッ

カチッ



女「く、車って…先生、免許持ってるんですか?」



霊能少女「運転の仕方なら知っている。キーは…あった。ここか」カチッ

ブロロン……



霊能少女「よし動いた、乗って」


女「いや乗ってって…だから免許……」


霊能少女「…命と免許、どっちが大事?」


女「わ、分かりましたよ。乗ります」スッ





グシャアアアアン!!!!!!!!





女「!?」クルッ

女「あ、あの音って…鍵が閉まっていた昇降口の扉が壊された…?」

霊能少女「出すよ。シートベルト閉めて」




ブゥゥゥン!!!!!









「…………」

霊能少女「…これで、ひとまずは安全」


女「せ、先生…何が起こったんですか?あそこで…」

女「教祖が自殺して、信者の人までみんな……」

女「あのお婆さんも、最後は自殺しましたし…何か、理由があるんですか?」


霊能少女「…恐らく、集団自殺と呪いでの殺人は、儀式の一つ」

霊能少女「あの…妊婦の腹から出てきた化け物を呼び出すためのね」


女「儀式に化け物って……」


霊能少女「…ワタシにも、全容が分からない。酷く混乱している」

霊能少女「ただひとつ、理解るのは…あの化け物が『神彁混』と呼ばれる存在だということ」


女「あ、あれが…神彁混?」

ドンッ!!!!!!!!!!!!!!




女「!?」

霊能少女「!?」



女「せ、先生!今…く、車の上に何かが!!!!」

霊能少女「…追ってきやがった。掴まって、振り落とす」




キィィィィィィ!!!!!!

キィィィィィィ!!!!!



女「…!…!」ギュッ

霊能少女「チッ……離れない」

女「ど、どうするんですか!?」

霊能少女「…これを使って」ポイッ


拳銃『』

女「こ、これって…あの教祖が持っていた拳銃じゃないですか!!!!撃てませんよ!」


霊能少女「…撃ち方は簡単。安全装置を外して、引き金を引けばいい」

霊能少女「ワタシは今、運転で手が離せない。お願い」


女「…っ」

女「あ、安全装置ってどこに―――」




グイッ……



霊能少女「!?ま、まずい!!!!あいつ、上から車体を引っ張って…!片方の車輪が浮いている!!!!」


女「えっ!?それって不味くないですか!?」


霊能少女「ぐっ…!ダメだ!!あいつの力の方が強いッ!バランスが崩れてっ…掴まって!!!!横転する!!!!!」



女「う、うわあああああああああああああ!!!!!!」ギュッ







グシャアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!






今日はここまで
次で終わります

…………………………………………………………
…………………………………………



女「うっ…」クラツ

女「あ、あれ…私は、確か……」


霊能少女「……」シー


女(あっ…先生…)


霊能少女「……」ポチポチ

霊能少女「……」スッ


『怪我はない?』


女(そ、そうだ…あの神彁混が…車の上に乗ってきて、そして…)

女「……」ポチポチ


『はい、ないです』


霊能少女「……」ポチポチ


『気を付けて、まだ上にいる』

女「!?」ビクッ

女(う、うそ…まだいるの?だから声を出さずに…)


霊能少女「……」ポチポチ


『私が囮になって、アイツを引き付ける』

『アナタはその隙に逃げて』


女「…っ」

女(囮って…車を力ずくで倒すような化け物相手に無謀過ぎる…)


霊能少女「……」ポチポチ


『安心して、勝算はある』

『でも、もし私が一日を過ぎても帰らなかったら、この封筒を宛先の住所に送ってほしい』


霊能少女「……」スッ

女「……」

女(先生は…死を覚悟している。それほどの相手なんだ。あの神彁混という化け物は…)

女(それでも、先生は戦おうとしている。私を守る為に……先生は……)

女(…無力な私には、先生を止める権利もあの神彁混をどうにかする力もない。ただ…無事を祈ることしか出来ない)


女「……」ポチポチ


『分かりました。必ず、帰ってきてください』


霊能少女「…」コクッ


『ワタシが外に出て、あいつが車から離れる音がしたら、その正反対の方向に逃げて』

『道なりを行けば、道路に出ると思う』

『それと、そこに落ちている拳銃はアナタが持って行って。もしかしたら、信者の残党がいるかもしれないから武器はあった方がいい。安全装置は右上にある』

女(…右上、これかな?)


『じゃあ、行ってくる。町に出たら、急いで警察を呼んで。公衆電話を使って匿名で』


女「……」ポチポチ


『先生、御武運を祈っています』


霊能少女「……」コクッ

霊能少女「……ッッッ!!!!!!」ゴンッ



ダッ!!!!!



ドンッ



女(…!何かが飛び移る音がした。あれが…神彁混)

女(…先生、どうか―――生きて帰ってきてください)

ダダダダダダダダッ!!!!!



霊能少女「……ッ!!」ダダッ

霊能少女(よし、引き付けは成功。あとは走るだけ)

霊能少女(…不幸中の幸いだった。昨日、下見に来ておいて正解だった…この近くにはアレがある。アレなら…アイツをどうにか出来るかもしれない)チラッ


霊能少女(……あれが『神彁混』か)







神彁混「……......」バサッバサッ







霊能少女(身長は三メートル近くあるか、かなりでかい。尻尾を含めると四メートルはある。そして…あの翼、あれを使って追跡してきたのか)

霊能少女(闇より深い極黒の体色、羊の骸骨を彷彿とさせる頭部、そして、禍々しく、吐き気を催すほどのオーラ……)

霊能少女(あれのどこが神なんだ。どう見たって悪魔そのもの……あいつら、本当に何を呼び出しやがった)

霊能少女(この感覚、あいつは幽霊だとか、怪物だとかの類いではない。人外の魔物…ってところか。いや、魔物なんて生易しいモノならまだマシか)

霊能少女(ワタシなら、見ただけでその色から生きているか、死んでいるかを判別出来る。でも、あいつの色は…そのどちらでもない)

霊能少女(例えるなら、虚ろな色。こんなの初めて見た。生命のエネルギーを全く感じない。かと言って、死者特有の臭いがするわけでもない)

霊能少女(…恐らく、アイツを殺すことは出来ない。あれは災厄そのものと言っていい。個体ではなく事象に近い存在)

霊能少女(…なら、残る手はひとつ)






神彁混「…………」グンッ







霊能少女(ッ!来たか)サッ

ブゥゥン!!!!!!!!!


ザンッ!!!!!!!!






神彁混「…………」






霊能少女(…自分から降りて来てくれたか。そっちの方がやりやすいから助かった)

霊能少女(…例の地点まではあと数百メートルはある。そこまでは戦いながら、この化け物をやり過ごすしかない)

霊能少女(面白い。ワタシの力がどこまで通じるか…確かめさせてもらう)スッ






神彁混「…………」

……………………………………………………………………
…………………………………………………


ダダダダダダダダッ!!!!!




霊能少女「ハァッ……ハァッ……」ダダッ





神彁混「…………」




霊能少女(チッ…もう追ってきたか)

霊能少女(やっぱり、ワタシの道具だと殺せない。いや…正確に言うと、ダメージは与えられているけど…決定打にならない)

霊能少女(そこそこの効果はある。でも、すぐに動けるようになる。痛みは与えられるけど、ただそれだけ。致命傷にはならない)

霊能少女(戦って理解った。あの神彁混という化け物は…殺意の塊だ。ワタシたち人間が生から産まれ、生きるように…あいつは死の渦から産まれ、死を求めて彷徨う)

霊能少女(あんなやつを野放したら、何千、何万の命が犠牲になる。絶対にここで止めなくては……)

ブンッッッッ!!!!!!!!



霊能少女「!?」サッ



神彁混「…………」



霊能少女(くっ…!やはりこの身体能力は驚異的だ。的確に急所を狙ってくる)

霊能少女(あーもう…こういう飛んだり跳ねたりするのはワタシの専門外なのに、つくづく相性が悪い)

霊能少女(残りあと50メートルくらいか。そろそろ見えてくるはず。準備をしておかないと)



神彁混「…………」グッ



霊能少女(…っ!攻撃が来る。爆弾を使って時間稼ぎを…)ガサゴソ

霊能少女(―――っ!?しまった、もうストックが切れたのか。他の道具もほとんど来る途中で使い捨ててしまった。これは不味い)

霊能少女(…仕方ない。鎖を使うか)スッ


霊能少女「ッッッ!!!!!」ブンッ

ジャララララララ!!!!!!!



神彁混「…………」グッ



グルグルグルグルグルグル……




霊能少女(これでしばらくは動けないはず。あの鎖は過去に連続殺人鬼の怪物が絞殺に使用していた鎖。そいつの死後も、鎖は意識を持ち、目の前にある物体に所構わず纏わりつく)

霊能少女(ワタシたち人間に異形の力は使えない。でもそれを扱うことは出来るということ)




神彁混「…………」グイッ


ブチブチブチブチブチッ……



霊能少女「!?」

霊能少女(あ、あれを引き千切っているのか。なんてやつだ…)

霊能少女(でも、十数秒だけど時間は稼げた。これならっ…もうすぐっ…!)








井戸『』







霊能少女(あった…!あの井戸を使って神彁混を封印するッ!!)






霊能少女(殺すことは出来なくとも、封印するなら幽霊や怪物と変わらない。狭間で永久に隔離してやる)

霊能少女(下準備はしてある。万が一の為に…備えて正解だった)

霊能少女(あとは…あいつにマーキングを刻むだけ。そうすれば自動的に封印が始まる)

霊能少女(まあ…これが一番難しいんだけどね。あいつに接近しなくてはならない)

霊能少女(…やるか。これが最後の攻防だ)


ダッ!!!!!!!





神彁混「…………」





霊能少女(…目の前にすると、一層不気味だ。眼球がない、視覚がないのか?)

霊能少女(ワタシの位置をどうやって把握している。嗅覚か、聴覚か、それとも第六感に近い何か)

霊能少女(…瞳がない相手とやり合うのは初めてだな。眼を視れば…ある程度は相手の動きを予測出来るけど、それが通用しない。)


霊能少女(…やるしかない。もう逃げることは許されない)

ブンッ



霊能少女(…ッ!疾いな、まずは水で動きを止めるか)ブンッ



パシャッ



神彁混「…………」ビシャッ

神彁混「…………」ピクッ



霊能少女(来たっ…もらった!)ブンッ





ビュンッ





霊能少女「ガハッッ!?」ボゴォ

霊能少女(何が…起こった。い、息が……)

霊能少女(そうか…!尻尾で死角からの攻撃っ…まずい、まとも、に…食らっ―――)




神彁混「…………」ビュンッ




霊能少女(よ、避けられっ―――死)






















バンッ!!!!!!!!

神彁混「…………」ドンッ




霊能少女「!?」クルッ






女「はぁっ…はぁっ…」

女「う、うわああああああああああ!!!!!!!」カチッ






バンバンッ!!!!!!!バンッ!!!!!






神彁混「…………」ドンドンッ

神彁混「…………」ユラッ




霊能少女(な、んで…逃げてって言った、のに……)

霊能少女(…バカ、でも……助かった)


霊能少女「ハァッ!!!!!」ブンッ

神彁混「…………」ギュウン



霊能少女(これで…終わりっ!!!!)バンッ




ギュウウウウウウウウウン‼‼‼‼‼



神彁混「…………」ガッ

神彁混「…………」バサッ



霊能少女「逃げようとしても無駄。呑まれろ…!」グッ




神彁混「…………」ググッ

神彁混「…………」グイッ




井戸『』




神彁混「…………」ヒュンッ





女「い、井戸の中に…吸い込まれた」

女「せ、先生!やったんですか!?」

霊能少女「閉めてっ!そこの井戸の前にある蓋を使って!!」





女「ふ、ふたっ!?」

女「あっ…こ、これか!」グイッ





バタンッ





霊能少女「……はぁ」フッ

霊能少女「終わった…あー疲れた」ゴロン



女「やりましたね!!先生!!」ダッ



霊能少女「……」

霊能少女「…なんで来たの。先に逃げてって指示したでしょ」

霊能少女「一歩間違えたら…アナタも一緒に死ぬところだった。賢い判断とは言えない」

女「えっ…うっ、そ、それは……」

女「……私、この二週間ずっと、逃げてばかりでした」

女「和尚さんや先生にずっと助けられてて、自分でも足手まといだと自覚してます」


霊能少女「…アナタは依頼者なんだから、守られて当然。むしろ前に出られるとこっちが困るんだけど」


女「そ、そう言われると返す言葉がないんですけど……」

女「…どこか、自分の中で、追われるのが嫌になっていたんだと思います。ずっと、ずっと、狙われて死にかけて、また狙われるのを繰り返すのが」

女「もし、ここで先生が死んでしまって、私だけが生き残る結果になってしまったら…耐えられる自信がありませんでした。これからの人生に、ずっとその十字架を背負っていきそうで」

女「私は特別な力もないし、臆病で何の役にも立ちませんけど…反抗することは出来ると、和尚さんたちに教えられました。結果がどうであろうとも、最後まで立ち向かったあの人たちはとても立派だと思います」


霊能少女「…」


女「分かっているんです。下手に手を出すより、何もしないことの方がいいって。でも…少しでも、私もそっち側に立ってみたかったんです。あの人たちの勇気を、私も受け継ごうと」

女「先生の力に…少しでもなりたいと思いました。そうしたら、自然と足が違う方向に…」


女「…ごめんなさい、危ない真似をして。和尚さんは先生に、私を託したのに…自分勝手なことをして」

霊能少女「…」

霊能少女「確かに、アナタは和尚の願いを無視して、行動した」

霊能少女「でも…あの人はそれを咎めることはしないだろうね。結果的に言えばワタシの命を救ったのは他でもないアナタだし」



霊能少女「…ありがとう。アナタの勇気を、ワタシは一生忘れない。敬意を表する」ペコリ



女「えっ…そ、そんな!やめてくださいよ!頭を上げてください!お礼を山ほど言いたいのはこっちなんですし!」

女「…本当に終わったんですよね。これで」


霊能少女「うん、間違いない。これで…全てが終わった」

霊能少女「…帰ろうか」


女「…はいっ!」

▢▢▢▢  15日目  ▢▢▢▢



母「……」スゥ



霊能少女「…呪詛が完全に取れている。これでもう心配はいらない」

霊能少女「まだ二三日は体が回復するまで眠りが続くだろうけど、その後はいつもと同じ健康体に戻るはず」


女「ほ、本当ですか?よかった…」

女「昨日、あの教祖が死んだ時刻と同じくらいに…病院から連絡があったんです。母の意識が戻ったと…これで、もう呪いはなくなったんですね」


霊能少女「…そう、アナタたち家族は助かった」チラッ




『ここが天国の扉という宗教団体が集団自殺を遂げた現場です。この団体には総勢100人余りの信者が所属しており、現在その全ての身元の死亡が確認されています』

『これは、日本史上においても異例の事件であり、警察は捜査を―――』

女「…何かえらい事件になってますね。昨日からニュースがずっと取り上げてますし」

女「ネットも…すごい騒ぎになっていますよ。日本中があのカルトに注目しているなんて」


霊能少女「そりゃ、三桁近くの人間が一斉に死んだら…大騒動になるだろうね。隠しきれる規模じゃないし」

霊能少女「でも、一か月も経てば自然と落ち着いて来るよ。人間なんてそんなもの」


女「私たちだけなんですよね。あいつらが本当は何をしていたかも、神彁混の存在も…知っているのは私たちだけ」

女「…マスコミとかの取材が来ないですかね?一応、あの現場にいたんですし」


霊能少女「ワタシたちとあのカルトに接点はない。あの場にいたということを知っている人物は全員死んでしまった。よっぽどのことがない限りは来ないよ」

霊能少女「まあ一応、こっちもそういうのが来ないように手を回しておくから、安心していい」

女「安心していいって…何するつもりなんですか」


霊能少女「色々コネがあるってこと。さて…行くか」スッ


女「え?行くってどこに?」


霊能少女「もう一度、あそこに戻る」




女「えっ……」

……………………………………………………...
……………………………………………



女「だ、大丈夫ですか?先生…さっきすぐそこで警官が見張っていましたし、ここら一帯って立ち入り禁止なんじゃ」


霊能少女「そんなの知らない。もし見つかったらワタシが何とかする」


女「何とかするって…強引な」

女「…本当に、あの井戸に行くんですか?正直、行きたくないんですけど…」

女「私があの神彁混をまともに見たのは、銃を撃った一瞬だけですけど…全身から血が噴き出したみたいに、固まりました。家で見た影も怖かったですけど…アレに比べたら百倍マシです」


霊能少女「大丈夫、あの封印式は中から破ることは絶対に出来ない。神彁混が自力で出てくる可能性は万に一つもない」

霊能少女「…でも、外からなら蓋を開けるだけで簡単に出ることが出来てしまう。だから、それを防ぐ為に補強をしないといけない。二度とあいつがこの世界に出てこないように」

霊能少女「昨日は道具が足りなくて、そこら中に警察がウロウロしていたから無理だったけど、一晩経った今なら平気」


女「先生がそこまで言うならいいですけど…場所は覚えているんですか?」


霊能少女「ワタシは一度通った道は絶対に忘れない。もうじき見えてくる」

霊能少女「…あった。あそこに―――」






霊能少女「!?」ビクッ






女「どうしたんですか―――ッッ!?」

女「う、うそ…そんな……」ブルブル







井戸『』ボロボロ









女「い、井戸が壊されている……」





霊能少女「ッ!!」ダッ


女「あっ!先生!」



霊能少女(なんだ!?この惨状は…!まるでダンプカーでもぶつけたみたいに、井戸が破壊されている)

霊能少女(…ダメだ。もう中には誰もいない……逃がしてしまった。ワタシの失態だ)

霊能少女(…でも誰が逃がした?あのカルトに所属している奴等は全員死んだはず。他にも残党がいたのか?でもどうやって…...)



女「せ、先生……これって……」



霊能少女「…………どうやら」









霊能少女「本当の戦いはこれからってやつかな」










おわり













……………………………………………………………
………………………………………………





▢▢▢▢  16日目  ▢▢▢▢



女「あっ、もうすぐ新幹線が来るみたいですね」


霊能少女「うん、もうお別れ」


女「もう少しゆっくりしていったらどうですか?先生もかなり体力を消耗しましたし、もう一週間は家で休んでも…」


霊能少女「…ごめん、それは出来ない」

霊能少女「神彁混が世に放たれてしまった今、急いでそのことを知らせないといけない。対策も練らないといけないし、ゆっくり休んでいる暇はない」


女「…そう、ですよね。ごめんなさい」

女「あの、先生。今回は本当にお世話になりました。私、先生にこの二週間ちょっとで何回助けられたか…先生は命の恩人です」

女「あれ?前にもこんなこと言ったような…」

霊能少女「…私も礼を言わせてもらう。アナタがいなければ、あの神彁混に殺されていたかもしれない。アナタの勇気が、私を救ってくれた」

霊能少女「ワタシには力がある。でもアナタは力を持たずにあの化け物に立ち向かった。どれほどの恐怖や葛藤があったのかはワタシには想像がつかない。アナタのことは…一生忘れない」


霊能少女「ありがとう。アナタに出会えて本当に良かった」


女「…!そ、そんな真顔で恥ずかしいこと言わないでくださいよ。こっちが恥ずかしいです」

女「あ、これ……先生にいつか渡そうと思っていたんですけど、機会がなくて。はい、どうぞ」スッ


霊能少女「…?なにこれ」


女「今回のお礼というか…依頼料みたいなものです。さすがに何も渡さないのは私の気が晴れないので、黙ってもらってください」


霊能少女「…ちょっと手貸して」


女「え?手って…はい、これでいいですか?」

グイッ



女「うわっ!?」ギュッ

霊能少女「…お礼はこの握手でいい。ワタシは…人を守る為にこの仕事をしている。アナタのこの温もりこそが、何よりの褒美」

霊能少女「それに、既に私には和尚から指名料としてお金が振り込まれている。もうこれ以上は必要ない。そのお金で、母親と温泉旅行にでも行ってほしい」

女「…!わ、分かりました!来週さっそくいってきます!」

霊能少女「それでいい。楽しんでね」フッ




ピーッ




霊能少女「…ん、もう時間か。じゃあこれで本当にお別れ」

女「…あの!先生!最後にお願いしてもいいですか」


霊能少女「お願い?」


女「私が言うのもなんですけど…あんまり無茶はしないでください。先生にこんなことを言っても効かないって分かっています。でも…自分の身は大事にしてください」

女「もし先生が死んだら私、すごく…ものすごく悲しいですから」


霊能少女「……」

霊能少女「…ごめん、それだけは守れない」

霊能少女「ワタシは…戦わなければいけない。今までも、これからも、それが私の役目だと思っているから」

霊能少女「その過程で命を落とすことになったとしても、何の後悔もない」


女「…っ。そ、そうですよね。ごめんなさい」

女「じゃ、じゃあ…!たまに、たまにでいいですから、連絡してもいいですか?」

女「無事を確認したいっていうか、友達になりたいっていうか…あーっ!ご、ごめんなさい。何言ってるんだろ自分、忘れてください!」


霊能少女「…どうだろ。ワタシは忙しいから、あまり返事が出来ない」

霊能少女「それに……そういうことをするのに慣れていないというか、やり方が分からない」


霊能少女「……でも」


霊能少女「たまに…本当にたまにでいいなら……構わない」



女「!」

女「分かりました!また落ち着いたらメール送りますね!」

プルルルルルルル…


霊能少女「…じゃあこれで、さようなら」


女「はい!先生もお元気で!」

女「あっ…そうだ。妹さんとも仲良くやってくださいね!」


霊能少女「……善処する」




プーーーー

バタンッ


ブオオオオオオオオオオ




女「…!」フリフリ

女「…行っちゃった。これで本当に…お別れか」


女「…ありがとうございました。先生」







女(こうして、私が体験した恐怖の二週間は終わりを告げた)

女(でも、まだ全てが終わったわけではない。先生はこれからも…戦い続けるんだろう。その身を犠牲にしたとしても)

女(―――先生の顔を直接見たのは、この日が最後だった)





…………………………………………………………
………………………………………



霊能少女「牛鍋弁当と、そぼろ弁当ひとつ。あ、あとお茶も」


霊能少女「…さて」モグモグ


霊能少女(…この紙、あの自殺した教祖の部屋で見つけた物。拳銃と一緒に落ちていたから、その時は何となく、ついでに回収しておいたけど)ペラッ

霊能少女(…正解だった。これは......とても重要な鍵になる)

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 1978 ○ קין

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2000 ×





 To the next level.


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霊能少女「……」


霊能少女(これは恐らく、奴等の計画の一部。もっとも、最後の文…『次のレベルへ』と書かれていることから、最新のものではないと思われるけど)

霊能少女(気になるのは…この数字と○×)

霊能少女(数字の方はこの並びだと西暦か…?この年に何かあったという意味か)

霊能少女(…上にある文字のような記号も分からない。後で調べてみるか)


霊能少女(とにかく、これを手に入れられたのは大きな収穫だ。『天国の扉』…奴等の計画がこれで終わりだとは思えない)

霊能少女(あの教祖は…この世界に扉を開けると言っていた。ワタシの勘だと、扉というものが開いたのは一瞬でしかない。その一瞬に…『神彁混』は出てきた)


霊能少女(…いや、元々あの『神彁混』しか呼び出す予定はなかったのか?地下に閉じ込められていたあの妊婦…あの人は助けを求めていた、教団の関係者ではない可能性が高い)

霊能少女(『神彁混』を呼び出す方法は…まず妊婦を用意して、その周辺で多くの死を起こす。そして、その妊婦の腹が扉となり、『神彁混』が出てくる…)

霊能少女(…つまり、死を産み堕とすことによって、扉は開かれる…?)

霊能少女(さしずめ、『堕死者』と言ったところか。あー…頭が痛くなる)

霊能少女(…もし、次にあの『神彁混』と対峙する時が来たら…今度は簡単にはいかないな。ワタシと殺り合ったのは、まだ扉から出てきてすぐの状態。言うなれば、この世界に馴染んでいない状態であの強さだった)

霊能少女(誰か…協力者がいる。ワタシと同等の力を、いやそれ以上の力を持っている者ではないと、仕留められない)



霊能少女「…ちょっと相談してみようかな。デッキに行こう」スッ

プルルルルルルル…


ピッ



霊能少女「あ、もしもし…ワタシだけど」



プツッ

ツーツーツー



霊能少女「……」

霊能少女「…やっぱり切られた。当分は仲良くなんて無理か」



プルルルルルルル…



霊能少女「ん、誰だ」ピッ

霊能少女「…もしもし?」

霊能少女「あーうん、今朝メールで送った通り、無事に依頼は終わった。今は帰りの新幹線に乗っている」

霊能少女「…え?追加の依頼?ちょっと待って、そんなことをしている時間はない。急いで知らせたいことが……」

霊能少女「…廃病院に住み着く霊?だから待ってって言っているでしょ。そもそも、もう道具を使い果たしてもほとんど残ってない。ボトルが数本と塩くらい」

霊能少女「ただの幽霊だから大丈夫だって……はぁ、分かった。で、場所は―――」











おわり…?

ってことで終わりです
実はこれ一年半くらい前に書いた

幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」
幼女幽霊「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」DQN幽霊「!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466012540/)

の前日譚みたいな内容になってます。本当はもっと早く投下する予定だったんですけど…いつの間にかこんなに伸びてました


吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」
吸血娘「死なないハゲってさ、不老不死ってより不毛不死だよね」屍男「…」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1507896137/)

ついでに関連作としてこんなのもあります。これで人間幽霊怪物3つの視点で一つの物語になると思います

多分この三作を読んでもらえたら、散らばってるある程度の内容は把握してもらえると思うんですが…予定だと全体でまだ半分以上あるので、かなり長くなると思います
しかもこの春からかなり書きづらくなる環境になるので、続きが出来るまでだいぶ時間がかかるかもしれません…
次は幼女幽霊の方を書こうと思っているので気長に待ってくれると嬉しいです

ごめんなさい最後に自分の専ブラだと>>370のところがバグっているので分かりにくいことになっているかもしれないです

https://i.imgur.com/DotvkKw.jpg

画像だとこんな感じになってます
特に深い意味はないです

あ、ごめんなさいこれで本当の本当に最後なんですけどこのSSには元ネタになってる二つの映画があります

序盤から中盤は『カルト』終盤は『VHS ネクストレベル』の『Safe Haven』という作品からかなり影響受けてます
多分知っている人から見たら思った以上にまんまだと思います
とても面白い映画だと思うのでもし良かったら見てください

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