【ときめきアイドル】希少「高級抹茶プリン?」 (46)


午後9時ごろ、プリンセスリパブリック音楽学院アイドル科専用寮 春子の部屋

春子「ごめんなさいね。希少もプロデューサーも、こんな時間に呼び出したりして」

希少「構わない。どうしたの?春子」

P「何か困ったことでもあったかな?」

春子「困ったこと……ではないんですけど、ちょっとお話を聞いてもらいたくて……」

春子「まず、これを見てください」スッ

P「これは……」

希少「高級抹茶プリン?」

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P「あっ、このプリン知ってるかもしれない。ひびきの市の有名な茶店の期間限定お土産だ!」

希少「………」

春子「そうなんです!ひびきの市でロケがあったから、ついでに買ってきて、お風呂上りに食べようとしたんです」

P「食べようとした?見たところ中身はからっぽだけど、春子が食べたんじゃないの?」

春子「違うんです……」

春子「食べられたんですっ!誰かに!」バンバン

P「え……」

希少「………」

春子「私は今日このプリンを買ってきて、帰った瞬間冷蔵庫に入れてたんです」


時はさかのぼり、午後5時ごろ―――

春子「ふふっ、期間限定高級抹茶プリン!今日が販売最終日なのよね♪」

春子「今日がちょうどひびきの市のロケ日でよかった。ギリギリだけど購入することができたわね。ふふっ♪」

春子「どうせならお風呂上がりにのんびりと食べたいから、冷蔵庫に入れておきましょう」

春子「あ、いずみちゃんや奈々菜ちゃんに勝手に食べられないように注意書きしておかなきゃ」

春子「えっと……」


『お願いだから勝手に食べないでください。食べたら自殺します。 春子』


春子「自分の命を冒涜するような気がして、ちょっと気が引けるけど」

春子「それだけ大事なのよね。このプリン」

春子「とりあえずこのメモをプリンに貼って」

春子「うん!これで誰も盗み食いはしないはずね!」


今日の午後8時半ごろ―――

春子「さて、お風呂も上がったことだし、お楽しみの高級抹茶プリンを食べようかしら♪」

春子は冷蔵庫を開けた。しかし―――

春子「あら……」

春子「あら……あら?」

春子「ない?」

春子「プリンがないわ……」

絶望に打ちひしがれていた春子が、ふと辺りを見渡す。

そして、たまたま隅っこのゴミ箱に目を向けたのだ。

そこには―――

春子「!!?」

春子「そんな……」

そこには、空になった高級抹茶プリンと、春子の書いた重いメモが―――


春子「――と、言うことが……」

P「………」

希少「………」

P「ま、まぁそれほど春子には大切なものだったんだね……」

希少「春子、新しいプリン、今度買ってあげる」

春子「駄目なのよ……」

春子「あのプリンはもう二度と食べられないのよ!!」バンバンポロポロ

希少「春子……」

P(な、なにも泣きながら机をたたかなくても……)

P「もしかして、春子は犯人を捜したいのかな?プリンを食べた……」

春子「そうなんです!プロデューサーと、希少には犯人捜しの手伝いをしてほしくて……!」

春子「それのお願いを頼もうと部屋に呼んだんです……!」

P「はは……構わないよ。多分朱音かいずみだろうけど」

希少「………」

春子「プロデューサー、希少……!2人とも、ありがとうございます……」

P(まだ希少は返事してないのに……まぁそれほどこの2人の絆は強いってことなのかな?)

希少「で、どうするの?」

春子「よく聞いてくれたわ。希少」

春子「実は、もう犯人を捜すシナリオはできているの」

P「んー、でもプリンを盗み食いしそうなメンバーはそう簡単に白状しないんじゃない?」

春子「その点も大丈夫ですよ。白状しないんなら、白状させればいいんです」

P「えっと、つまり……?」

希少「……白状させた後は、その子をどうする気?」

春子「うふふ、ちょっとだけきつーく叱るだけよ、ちょっとだけ、ね?うふふふ……」

希少「………」

P(怖い……)


翌日、午前6時ごろ―――


P「さて、春子さんの作戦では、まず自分が希少以外の誰かを連れて食堂に行けばいいんだっけ」

P「さすがに春子の気持ちもわかるからな。よし、頑張るか!」

P「おっ、ちょうど誰かがきたぞ、あれは……」

美翠「あっ、プロデューサー!おはようございます!」

P「やぁ、おはよう美翠」

美翠「プロデューサーは今日も朝早いんですね。私も今からランニングに行くところなんですよ」

P「うんうん、努力家だな、美翠は」

美翠「えへへ……」

美翠「あっ!今からスポーツドリンクを作るために一旦食堂に行くんです!プロデューサーも行きますか?」

P「うん、ちょうどいいから行こうかな」

P(ちょうどいい。美翠を連れて食堂まで行こう)


食堂―――

P(さて、食堂まで来たけど……)

美翠「あっ、春子さん、寝てますね」

食堂の入ってすぐの席に、春子が座っている。

顔を伏せているので、端から見たら寝ているように見えるのだろう。

P「本当だ、食堂で何かしてたんだろうね。春子は影で色々とがんばってくれてるから」

美翠「ブランケットが落ちてますね。かけてあげなきゃ」

そう言って、美翠が落ちたブランケットを春子にかけてあげようとする。

しかし―――

P「………」

美翠「え……」

美翠「春子、さん……?」

美翠「プ、プロデューサー……」

P「どうしたの?」

美翠「春子さん……」ガクガク

P「春子……?」

P「!!?」

春子が顔を伏せているすぐそばには、コップに入った少量の水と、何かの薬が置かれてある。

そして、伏せているわずかな隙間から、やや明るい「赤い液体」が見えた。

P「春子っ!?春子!!!」

Pが春子の身体を揺らす。

しかし、返事はない。

揺らされた春子の身体を、美翠はただ震えてみていることしかできなかった。

「これは夢だ」「嘘だ」と、美翠は震えながら自分に言い聞かせているのだが―――

ついに見てしまった―――

春子の「顔」を―――

美翠「いー――」

美翠「いやぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


その叫び声に釣られて、他のメンバーたちが食堂へ集まる。

夏海「ど、どったの!?そんな大声出して」

美奈都「ど、どうしたんですか!?美翠ちゃん腰を抜かして……」

美翠「あ……いや……」

フラニー「春子さんが、どうかしたの?」

P「………」

紀子「ねぇ、もしかして……プロデューサー、春子さん……」

P「………」

Pは、力なく首を横に振った―――

みさき「うそ……春子さん……?」ポロポロ


ガシャーーーーン

音のした食堂の入り口に、何人かが振り向く。

そこには、コーヒーを淹れようとマグカップを持っていた希少がいた。

しかし、その手にはマグカップはない。滑るように手から落ちたのだ。

希少「春子……?」

希少「春子っ!?春子!?」ダッ

希少が座っている春子の元へ駆けだす。

Pを押しのけ、懸命に春子の身体を揺さぶりながら、「春子!」と何度も問いかけるが―――

ついに返事を得ることは叶わなかった―――



―――――――――――――――――

P「あと、30分ほどで警察が来るみたいだ」

秋葉「うぅ……そんな……春子さん……」ポロポロ

いずみ「うえぇえええ!!!なんで、なんでっ!!」ポロポロ

朱音「こんなのってないよ……ハルるん……」ポロポロ

P「………」

希少「………」

春子は、椅子に座らせたままだ。

「死んだフリ」を続けている。

P(全貌を知っているだけあって、なんとなくつらいものがあるな……)

希少「………」

全てを知っている2人(春子を合わせたら3人だが)からしたら、申し訳なさでいっぱいになるのは致し方ないだろう。

なぜなら、この場にいる全員が、企画された偽りの死のために涙を流してくれているのだから。

つばさ「この薬は、毒なんですか……」ポロポロ

P「あぁ……そのことなんだけど……」

P「春子は、自殺したんだと思う」

奈々菜「どうして?Pちゃん」

P「春子が座っている隣のイスに、こんなものがあった」

小雪村「それはなんですか?プロデューサー」

野乃香「手紙……?もしかして、遺書ですか?」

P「うん……」

P「自分はみんなの字は見慣れているからわかるけど、この字は春子の文字だ」

P「この紙には、こう書いてある」


『誰かに私の大切な、大切な高級抹茶プリンを食べられてしまいました。こんなに辛いことは他にありません』

『お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください』

『みんな、ごめんね。メロディアスライブ、がんばって』

『春子』


P「って、書かれてある」

秋葉「プリンを食べられたって……そんな理由で!?」

希少「そんな理由……?」

希少「結城……そんな理由って言った?」

秋葉「え……」

希少「確かにくだらない理由かもしれない……でも……」

希少「春子にとってはつらかったのよ……!?」

秋葉「ご、ごめんなさい……考えなしでした……」ポロポロ

希少「誰……」

P「………」

希少「誰っ!!?誰が春子のプリンを食べたのっ!!!」

ものすごい剣幕で、希少がみんなを見渡す。

希少のこんな形相は、アイドル科の誰も見たことがないだろう。

当然、希少はPと同様、春子が本当に死んだわけではないことを知っているので、これは「演技」ということになる。

演技でここまで怒りを表現できる希少を見て、Pは「すごい」と思った。

少なからず、みんなを騙している自責の念が、Pにはあったのだ。

P(春子の考えたドッキリでは、ここで罪の意識に耐えかねた犯人がカミングアウトするということになっているが……)

小雪村「うぅ……春子さん……」グスッ

いずみ「いずみ、食べてないのに……なんでデスか……」ポロポロ

P(誰も名乗り出ようとはしない。悲しみのほうが勝っているんだろうか)


希少「みんな、どれだけ春子がプリン好きで、和菓子も好きなのか知っているはず……!」

希少「なのにどうしてっ!!!」

希少の問いかけには、誰も答えない。

いや、答えないものもいるのだろうが、答えられないというのが正解だろうか。

少なくとも、そこにいる13人のうち12人はプリンを食べていないのだ。

P(ここで、犯人が名乗りでなかったら、プランBを実行するんだったな……)

希少「誰が、プリンを食べたのよっ!!!」ポロポロ

希少の声が枯れはじめた頃―――


つばさ「あ、あのっ……」

希少「青山……」

つばさ「希少さんの気持ち、すごくわかります……私も、本当に悲しいです……」

つばさ「それを承知で、聞いてくれませんか……」

希少「………」

つばさが口を開く。

Pと希少、そして死んだフリをしている春子は、つばさの次の言葉に集中する。

他のみんなも、泣きながらではあるが、つばさに注目している者もいたが、やはりショックを拭いきれていない者もいる。

つばさが犯人なのだろうか―――

Pたちは意外に思いながらも、そう答えが返ってくると思っていたが、つばさから出た声は、Pたちが思っているそれとは違った。

つばさ「い、今は……やめましょう……?」

希少「……なぜ?」

つばさ「みんなを、見てくださいよ……」ポロポロ

つばさ「突然こんなことが起こって……みんな辛いんです……」ポロポロ

つばさ「確かに、プリンを食べたことはいけないことです……」

つばさ「でも、食べた子だって、まさかこんなことになるとは思わなかっただろうし……」

つばさ「言い出しにくいと思うんです……だから、今は……」ポロポロ

泣きながら、しかし力強く、つばさは言った。

彼女らしい、広い視野を持った提案だ。

しかし―――

希少「春子はもっと辛かった!!!!」ガンッ!!!!

つばさ「―――っ!!?」

希少が側にあった机を叩き反論したことで、つばさが怯む。

他のみんなも、少なからからず今の希少に恐怖を感じている者もいるだろう。

希少「私は、許せない……春子をこんな目に遭わせた犯人が……許せないわ……」ポロポロ

希少「青山はそんな犯人を擁護するのね……」

夏海「れ、希少さん、つばさはそういうつもりで言ったんじゃ……」

夏海が割って入ろうとする。しかし―――

希少「あぁ、そういうことなのね、青山……」

希少「あなたが犯人なの……?」

つばさ「え……」

希少「だってそうでしょう……!春子を殺した犯人を擁護しようとしているんでしょ?それも、話しを逸らそうとして……」

希少「自分の罪を認めるのが怖いからじゃないの!」

つばさ「ひっ……」

力強い、と言うと表現がおかしいかもしれない。

そんな言葉は生ぬるいくらいの眼光を、つばさに向ける希少

少なからず、つばさは怯えている。ヘビに睨まれたカエルとはこのことを言うのだろう。

希少「人殺し……っ!」

希少「人殺しっ!!!!返してよ!!!春子を!!」ガッ

つばさ「違いますっ!!私はそんなことしてません!!」

夏海「希少さんっ!!!」

希少が、つばさに掴みかかる。つばさも抵抗するのだが、希少の力は生半可な抵抗では振り切ることができなかった。

割って入ろうとして近くにいた夏海が止めに入るが、それでも止まらない。他のメンバーも、それに続いて希少を抑えようとする者もいた。

希少「返してよっ!!!!私の春子を返して!!!!!」

夏海「止めてくださいっ!!!つばさはそんなことをするような子じゃありません!!」

フラニー「止めてくださいまし!!希少さん、お願いですから!!」ポロポロ

希少「返してよ!!!春子ぉおお!!!!」ポロポロ

つばさ「してません……私じゃありません……!」ポロポロ

野乃香「もういや……やめてよ……」ポロポロ

高校生組が希少を抑えようとしても、希少は手を止めることはなかった。

つばさも抵抗を見せ、もはや乱闘と言わざるを得ない状況になってしまった。

美奈都「プロデューサー!プロデューサーも手伝ってください!」

P「………」

P(つばさがしっかりしているのは嬉しい事なんだけど……)

P(計画がちょっと狂っちゃったな)

Pはチラッと春子の方を見る。

春子は動かない。そのまま作戦を続行しろと言っているようだった。

奈々菜「Pちゃんっ!!!聞いてんの!?」

朱音「Pくんっ!!!」

P「待ってくれ!!!!!!」

Pは、出したことのないような大きな声を食堂に響き渡らせる。

希少の動きがピタリと止まる。

激しくつばさを責めたてていた希少、抵抗していたつばさ、止めていたみんな、泣いていたみんな。

全員がPに注目する。

Pは、なるべく自然に演技をするために小さく深呼吸をし、全員を見渡した。

そして、自分が今立っている床に、そのまま手を付け、頭を下げた―――

P「ごめんなさいっ!!!!自分が……プリンを食べたんだっ!!!」

一同「!!?」

いわゆる「土下座」だ。

大の大人の土下座を見て、まるで時間が止まったかのような感覚が、全員を襲う。

P(プランBは、俺が「プリンを食べた」と言うことからはじまる……)

これも、春子が考えたドッキリの一部であり、Pもそれを承諾している。

偽りの土下座ではあるが、場の状況や普段とは違うPの声に、仕掛け人の2人以外は全員を信じ込ませることができただろう。

みさき「プロデューサー……」ポロポロ

紀子「どういう、ことですか……?」

P「言葉通りだ……」

P「自分が……春子の高級抹茶プリンを食べたんだ……」

P「仕事で疲れていて、デザートがあると思って、つい……」ポロポロ

P「まさか……まさかこんなことになるなんて……」ポロポロ

P「うわぁあああああああ!!!!!!許してくれ!!!許してくれ春子ぉおおおお!!!!!!」ポロポロ

Pの立場は「プロデューサー」であるが、もしかしたら俳優になれるのではないだろうか。

演技の中で涙まで流すことができる自分を見つめ直し、そう思うPだった。

つばさ「………」

夏海「………」

美翠「………」

一同「………」

涙を流す者、ただ俯く者、様々な様子が食堂を支配していたが、Pを責めることができる者はひとりもいなかった。

ただひとりを除いて。

その一人は、厨房へと足を運ばせる。抑えていた夏海は手を放していたようだ。

そして、あらかじめ忍ばせていた作り物の包丁を手に取る―――

つばさ「希少さんっ!!!」

希少「殺してやる……」

希少「殺してやるっ!!!!!!」

偽の包丁を持ってPに襲いかかる希少。

当然演技だが、例の如く、周りのメンバーを騙すには充分な演出だったようだ。

秋葉「やめて!!!希少さんっ!!!」

つばさ「そんなことしちゃだめです!!プロデューサーだって悪気はなかったんです!!!」

希少「黙れっ!!!!殺すっ!!!!殺してやる!!!!春子、春子ぉおおおお!!!!!」

P「………」

Pは床に這いつくばったまま動かない。泣く演技のせいで、土下座は自分から崩してしまっていた。

そんな中、希少は偽りの怒りをPにぶつけようとしている。

それを身体をはって止めにかかるつばさや秋葉は、肝が据わっているという言葉ではもったいないくらい勇敢に映っただろう。

希少は矛を収める様子は見られない。

それは、その場にいる全員がわかっていた。

そんな中―――



「待ってくださいっ!!!!!」

P「!!?」

希少「!!?」

声を上げたのは、美翠だった。

P「美翠……」

希少「………」

全員が、美翠を見る。

美翠はすでに泣いている。しかし、そこからさらに涙が溢れ出るのではないかと言わんばかりの表情をしていた。

美翠は震える身体を庇うかのように、歯を食いしばって、ワンテンポ置いてから、Pたちが待っていた言葉を口にする―――



美翠「プロデューサーじゃないです……」

美翠「私なんです……」

美翠「春子さんのプリンを食べたの、私、なんです……っ!」ポロポロ

美翠の目から、再び大量の涙が頬を伝う―――

朱音「美翠……うそ……」ポロポロ

美翠「………」

全員が美翠を見る。凝視といってもいいくらいだった。

Pと美翠、2人の言うことが本当ならば、犯人が2人いることになる。

しかし、Pは犯人ではない。「仕掛け人」のひとりだ。

他のみんなからはわからないが、Pと希少、春子にとっては犯人が確定したも同然だったのだ。

美翠「プロデューサーじゃないんです……本当は私が……」ポロポロ

美翠「つい出来心で、えっと……とにかく、食べてしまいました……」ポロポロ

美翠「プロデューサーは、きっと、私を庇って……」

美翠「悪いのは私なんです……だから、プロデューサーを殺すなんて、やめてください……希少さん……」ポロポロ

P「………」

希少「………」

希少はまず、手に持っていた包丁をその場に落とした。

そして、美翠に歩みよる。

抑えていた秋葉とつばさは落ちた包丁を見て、希少を止めなかった。

思うところはあったのだろう。そして、意外な真犯人を目に、全員が固まらざるをえなかったのだ。

希少が美翠の目の前まで来る。

頬を引っ叩こうと思えばすぐに行動に移すことができる距離感だ。

そして、希少が腕を上げる―――

美翠「―――っ!?」ビクッ











希少「よく言ってくれたわね。本当にありがとう、立川妹」ナデナデ

美翠「え……?」

美翠は涙に溢れながらも「きょとん」とした顔をしていた。その様子がかわいらしい。

周りのみんなも、その希少の様子を見て何が何だかわからないようなうろたえを見せた。

希少「もう充分でしょう、春子」

春子「えぇ、そうね」スクッ

一同「!!!?」

いずみ「ひ、ひえぇええ!!!おばけ!?おばけデスか!?!?ゴエモンのスーファミに出るようなお化けデスか!!?」

奈々菜「何なに!!?どういうことなのさ!!」

春子「うふふ、ごめんね。実は……」

P「全部ドッキリです!!!!!!すみませんでしたっ!!!!!」土下座




「ええーーーーーーーーーーーーー!!!!!??」

メンバー全員の声が、甲高く響いた―――

その後の状況に関しては、想像が容易だろう。

ドッキリを仕掛けた春子、希少、Pは正座をさせられ、メンバー全員からギャーギャーと文句を言われた。

紀子「さて、ここで問題です。私たちの怒りは何%でしょうか?」

紀子「① 100% ② 200% ③ 300% ④ 400%」

奈々菜「紀子、甘いよ、スイートだよ!私は1000%くらいかなぁ~」

秋葉「まったくもう!!やりすぎですよ!!私たちの涙返してください!!」

朱音「私たちほんっとうに悲しかったんだよ!!!」

春子「は、反省してます……」

P「二度としません……」

希少「本当にごめんなさい……」

フラニー「もう!!プリンを食べられたからって、これはやりすぎです!!」プンスカ

みさき「うぅ……」ポロポロ

みさき「うわぁあああああん!!!!」ポロポロ

春子「みさきちゃん……」

みさき「えぐっ……えぐっ……」ポロポロ

みさき「春子さん、死んじゃってなくて、よかった……本当によかったよ……」ポロポロ

春子「………」

正座をしていた春子が立ち上がり、泣きじゃくるみさきの目の前に立つ。

そして、その仔猫のような体を、優しく包み込んだ。

春子「ごめんね、みさきちゃん、みんな。私は死んだりしないわ」ギュッ

春子「一緒にメロディアスライブに出るんだから、死んだりしないわ。安心して。ね?」ナデナデ

みさき「う……うわぁあああああああん!!!!春ちゃん!!!春ちゃんっ!!」ビエーーン

いずみ「うぅ……ごめんなさいっ!!今回は違うけどいずみもプリン盗み食いしたことあるんデス!!もうしません!!」ポロポロ

野乃香「プリンなら私も作れるから、いなくなったりしないでください!!!」ポロポロ

みさきを抱きしめている春子に、いずみと野乃香が後ろから抱きつく。

気づけば、さっきのように全員が泣いているようだった。

さっきと決定的に違うのは、「悲しみ」による涙ではないということ。

本当に温かい空気が、食堂全体を包み込んでいた。

その空気の中心にいる春子を見て、本当にいいお姉さんなんだなと、Pは再認識した。

つばさ「あ、あの……希少さん……」

つばさ「さっきは、すみませんでした、生意気なこと言って……」

夏海「ボクも、つい熱くなっちゃって……」

希少「………」

希少「正しいことをきちんと言えること、周りみんなの気持ちを考えられること」

希少「そして、そのために行動できること」

希少「全て、あなたたちのいいところよ」

希少「私には持っていないわ。大切にして」

希少「私たちが悪かったの。ごめんなさい」

希少のささやかな笑顔、つばさと夏海はどれだけ安心することができたのだろうか。

少なくとも、今まで希少が見せた笑顔の中では、一番安心したはずだ。

2人の目から、滝のように流れ落ちる雫たちが、それを物語っていた。

希少も、先輩として、後輩の強みをしっかりと理解している。影ながらアイドル科を支える心強い先輩なのだ。

Pは、淡泊な印象を持っていた希少への評価を変えざるをえないだろう。

美翠「あ、あの……」

美翠「春子さん……」モジモジ

春子「美翠ちゃん……」

春子「何も言わなくていいわ」

春子「わかってるわ。直接みたわけじゃないけど、あなたの気持ち、私にも届いたから」

春子「もうしないわよね?」

みんなのお姉さんは、モジモジしている美翠に対して微笑んだ。

きっと、美翠は春子に謝罪がしたかったんだろう。全員がそう思っていた。

美翠「あの……その……」

希少「………」

希少「立川妹、そこから先は言わないで……」

美翠「ち、違うんですっ……!」













美翠「本当は、私、プリン食べてないんですっ!!!!」


春子「えっ」

P「えっ」

一同「えっ」

夏海「え?どゆこと?」

朱音「た、確かに……美翠がそういうことするとは思えないけど……」

温かい空気は一転。「疑惑」という霧によって隠されてしまった。

春子「え?えっ……?どういうことなの?美翠ちゃん?」

美翠「わ、私……あの時、本当にプロデューサーが希少さんに殺されるんじゃないかって思って……」

美翠「私、それが怖くて……自分がやったことにすればプロデューサーは刺されないんじゃないかなって思って……」

美翠「それで、つい咄嗟に嘘ついちゃったんです……」ポロポロ

美翠「ごめんなさい春子さん……私じゃないんです……」ポロポロ

春子「」

希少「」

P「………」

Pは立ち上がる。そして、泣きじゃくる美翠に近づいた。

美翠は気づいていない。

P「………」ギュッ

美翠「……っ!?」

泣いている美翠をギュッと、力強く抱きしめるP。

春子の抱き方は優しさで満ち溢れていたが、こちらはどちらかというと「力強く」抱きしめていた。

Pの中で、感情が抑えられなくなっていた証拠でもある。

P「今日ほど美翠をプロデュースしててうれしく思ったことはないよ」

P「ありがとう、美翠。心配かけてごめんな」ギュッ

美翠「プロデューサー……///」

美翠「ありがとうございます……///」ギュッ



春子「ちょ、ちょっと待って!それじゃ……プリンは一体だれが……!」


しーん


再び訪れる疑惑。そして沈黙。

そんな春子を見て、希少が彼女の肩をポンと置いたのだった。

希少「春子、もういいじゃない」

希少が春子に言った。

うろたえる春子をなだめるように……

希少「プリンは残念だったけど、みんなもう、きっと盗み食いなんてしないわ」

希少「誰が食べたのかはわからないのだけれど、許してあげましょう」

希少「もう、誰もあなたのプリンを食べたりしないから。私にはわかる」

自信に満ち溢れる希少は想像が難しいところがあるだろうが、今の希少を表わす言葉は「自信」だった。

それほどまでにしっかりとした目をしている。

みんなを信じているのだ。

その気持ちは、春子にも伝わったようだった。

春子「……そうね」

春子「みんな、もう私のプリン、勝手に食べたりしないでね」

春子「その代わり、みんなの分も買ってきてあげるから」

そう言った春子は、爽やかな優しそうな顔をしている。

みんな、春子の気持ちがしっかりと伝わったのだろう。全員が返事をしたように思えた。

P「さて、今日はライブの最終確認だ!みんな、一致団結してがんばろう!」

一同「おーーーーー!!!」

希少「………」

希少(あれは……昨日の7時頃だった……春子がまだお風呂に入っている時間―――)


――――――――――――――――――


希少「ふぅ、今日は寝ずにラグナロクを楽しもう」

希少「そのためにはコーヒーは欠かせない。私の栄養源なのよ」

希少はコーヒーメーカーに手を伸ばそうとしたが、気分的に「ホット」より「アイス」が勝ったのだった。

従って、コーヒーメーカーには用はない。冷蔵庫に冷やされているコーヒーを求めたのだ。

希少「コーヒーコーヒー、あった」

希少「ん?これは……」

希少「高級抹茶プリン?」

希少「メモがある。『お願いだから勝手に食べないでください。食べたら自殺します。 春子』」

希少「………」



ペリッ ポイッ

希少は春子が書いた重い書き置きをそのまま隅にあったゴミ箱に捨てた。

希少「大丈夫、私の春子はこんなことで自殺したりしない」

希少「春子のことは一番わかってるつもり」

希少「それに、伊澄や立川姉だっていつも盗み食いしてる。いざとなったら罪を被ってもらおう」モグモグ

希少「あらおいしい」

希少「さすが春子、センスがいい」モグモグ

希少「おいしかった」

希少「立川姉が私のinを待っている。行こう」

食べた高級抹茶プリンの空をそのままゴミ箱に捨て、自分の部屋に戻る希少。

このあと、まさか春子にプリンを食べた犯人を言及するようなドッキリを仕掛ける相談をされるとは思いもよらなかっただろう。

希少「………」

希少「立川妹が罪を被ってくれたとき、作戦成功と思ったのに」

希少「まさか後で撤回するだなんて……」

希少「でも、なんとかごまかせてよかった」

希少「人生には、知らなくていいことだってあるのよ。春子」

希少「怒られなくて、よかった」ホッ





HAPPY END

終わりです。

ここ最近ときめきアイドルが生活の一部に溶け込んでしまっているのでその勢いで書いた。
もっと流行らないか

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