学生「資格欲しいし、教習所通って勇者免許を取るとするか!」 (31)

学生「そろそろ就職のこと考えなきゃいけない時期だし、なんか資格欲しいな」

友人「だったら勇者免許なんかどうだ?」

学生「勇者免許?」

友人「国や人々を守るための≪勇者≫を名乗るための国家資格だよ」

友人「もちろん履歴書には書けるし、勇者免許必須の職業も多い」

友人「教習所みっちり通えば、わりとすぐ取れるらしいし」

友人「優れた勇者は≪神勇者≫だなんて呼ばれて、すっげえ年収稼いでんだぜ」

学生「取って損はなさそうだな……よし、勇者免許を取るとするか!」

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~勇者免許教習所~

ワイワイ… ガヤガヤ…

学生「わっ、混んでるなぁ~」

友人「みんな考えることは同じみたいだな」

学生「大学生活のうちに、勇者免許を取ってやろうってことか」

学生「ふう、教習所入学の手続きは済んだぞ」

学生「さっそく、技能講習の予約をしたいけど……」

友人「うわぁ~、ほとんど満杯じゃん! 全然予約なんか取れないぞ!」

学生「毎日のように通って、なるべく早く取りたかったのに……」

女「教習所の講習は、朝早くか夜遅くの時間が予約取りやすいわよ」

学生「わっ!」

女「それと、予約を入れるだけ入れてキャンセルする人も多いから、それを狙うのもいいかもね」

友人「もしかして、君も勇者免許を取ろうとしてる人?」

女「うん! お互い頑張ろうね!」

学生(なるほど、こういう出会いもあるのか……)

講習が始まった……。



教官「今日は剣の握り方を覚えましょう」

教官「こうです」ギュッ

学生「こ、こうですか?」ギュッ

教官「そうです! はい、合格! ハンコ押しておきますねー」ポンッ

学生(なんだ……楽勝じゃないか。この調子で、最短合格目指すぞ!)

ところが……。



学生(あれ? 今日の講習は昨日の人と違う……)

中年教官「今日は素振りをやってもらう!」

学生「は、はいっ!」

学生「たあっ!」ヒュオッ

中年教官「なぁーにやってんだ! そんなへっぴり腰で勇者になんかなれるかよォ!」

学生「ひっ!」

学生「えいっ! えいっ! えいっ!」ブンッブンッブンッ

中年教官「もっと脇締めろ、脇をォ! オラ、そうじゃねえよォ!」

学生「くっ……」

学生(なんだこの教官……いちいち怒鳴りつけてくる……)

学生(こっちは金払ってんだぞ? なんでこんな扱いされなきゃならないんだよ!)

中年教官「オラ、もう一度だ!」

学生「いやぁ~、なんとかハンコはもらえたけど、最悪だったよ……」

学生「一時間、おっさんにずっと怒鳴られっぱなし」

友人「災難だったなぁ。俺も素振りだったけど、俺の教官はメチャクチャ優しかったぜ」

女「教官って当たり外れ大きいからねえ」

女「私達でストレス解消でもしてるんじゃないのってくらい、厳しい教官もいるし」

学生「もう二度とあのおっさんには当たりたくない……」

学生(さて、今日の講習は、と)

馬「ヒヒィ~ン!」

学生「え、乗馬もやるんですか!?」

教官「そりゃそうさ。勇者たる者、馬くらいには乗れないとね」

教官「まず、ゆっくりと前進させてみようか」

学生「は、はいっ!」

パッカパッカ… パッカパッカ…

学生(坂道で馬を停止させて……)グイッ

ピタッ

教官「さあ、坂道発進してもらおう」

学生(えぇと、ゆっくりと手綱を……)グイッ

馬「ヒヒヒヒィ~ン!」ブルルル…

学生「わわっ!」

教官「おっと失敗だ。さ、もう一度!」

学生(難しい……。これは時間がかかりそうだ……)

~教室~

学生(実技だけじゃなく普通の授業もあるんだな……ま、そりゃそうか)

眼鏡教官「さて、本試験でも出る問題を紹介します」

眼鏡教官「『魔物に人間が捕らわれている時は、必ずすぐ人間を助けなければならない』……○か×か?」

学生(こんなもん、○に決まってるだろ)

眼鏡教官「答えは×です」

学生「え!?」

眼鏡教官「なぜなら、無理に救出しようとすれば、かえって人質を危険に晒すこともあるからです」

眼鏡教官「他にも、捕らわれている人間が、実は化けてる魔物というケースもありますからね」

眼鏡教官「まあ、問題文に『必ず』という言葉が出たら、まず×だと思っていいでしょう」

学生(こういう引っかけ問題もあるのか……メモメモ)カリカリ…

『このように振り回した剣が、歩いてた人に当たり、数億もの損害賠償を請求されたケースもあります』

『勇者免許を取ったら、“剣保険”には必ず入りましょう!』



学生(剣を振ったら、人生を棒に振ることになるとは……)

学生(やたら生々しくて、トラウマになりそうなドラマだったな……)

学生(やっぱり勇者ってのは、帯剣が許されるんだからそれなりのリスクも背負うんだな……)

友人「よぉ、調子はどうだ?」

学生「乗馬で手こずってるよ。S字クランクもう一回だし。お前は?」

友人「俺は技能は余裕なんだけど、学科がなぁ~」

学生「学科なんか受けるだけでいいんだから、とっとと受けちゃえよ」

友人「俺、昔から授業受けるの嫌いだからさ~」

学生「んなこといってたら、免許どころか、大学卒業も危うくなるぞ」

友人「お、脅すなよ……」

……

……

教官「よし、仮免許試験合格だ!」

学生「ありがとうございます!」

教官「これからは、実際に剣で戦うような講習をしてもらうから、気を引き締めてくれ!」

学生「はいっ!」

学生(これでようやく折り返し地点ってとこか……)

中年教官「今日はスライムを倒してもらう!」

学生(ひええ……よりによってこの教官に当たるなんて……)

中年教官「オラ、ビビってんじゃねえ! 剣を構えろ!」

学生「は、はいっ!」ジャキッ

スライム「プルルルルン…」

学生「だあっ!」

ザシュッ!

学生(あれ、全然強くない……。そりゃ教習所で戦わせられるスライムだしな)

中年教官「なかなかいい一撃だった。やるようになったな!」ニヤッ

学生「ありがとうございます!」

学生(馬車を操って高速走行可能な馬車道を走る、高速教習か……)

学生(他の生徒とも一緒に乗るんだよな……緊張する……)

女「あ、学生君と一緒なんだ! よろしくね!」

学生「よろしく!」

学生(ラッキー、まさか女さんと一緒だなんて!)

学生(もし、教習中にいいムードになったら、ちょっと口説いてみようかな……なんて)

ドカラッ! ドカラッ! ドカラッ!

女「イヤッホーッ!」

学生「ひいい……!」

教官「コ、コラ! もう少しスピードを緩めなさい!」

女「あ~……風が気持ちいい! さぁ、もっと走って!」バシッバシッ

学生「わわっ、まだスピード上げるの……!?」

女「ヒャッホーッ!」

学生(うん……百年の恋も冷めたな……)

~勇者免許試験場~

学生「いよいよ最後の学科試験だな……」

友人「問題は○×とはいえ、落ちる奴結構いるらしいし、油断するなよ!」

学生「おう!」

女「みんなで合格しましょ!」

学生「う、うん……合格しよう」

女(学生君、なんだかちょっとよそよそしくなったな……)

学生「いやったーっ! 合格だ!」

女「私も!」

学生「これで晴れて、履歴書に≪第一種勇者免許≫って書けるわけだ」

学生「これからは、勇者免許を生かしてガンガン活躍しよう!」

女「うん!」

友人「……」

学生「どうした?」

友人「……」

学生「あの、もしかして……」

友人「やっちまった……さすがにノー勉じゃ無理だった……」

学生(油断するなっていってた奴がこれだよ!)

学生「ま、まあ、チャンスは一度きりじゃないし……」

女「今度は勉強し直して、頑張って!」

友人「またここに来るのめんどくせぇぇぇぇぇ!!!」

数年後……。



社会人(あれから時は流れ、学生だった俺も社会人になった)

社会人(今日は久しぶりに友人と女さんに会うんだ……楽しみだな)

社会人「お、来た来た!」

友人「オッス、久しぶり! お疲れ~!」

女「お疲れ様~!」

社会人「お疲れ~!」

社会人「さ、そこらの店で飲もうか!」

ワイワイ… ガヤガヤ… ハハハ…

社会人「みんな、元気そうでなによりだ」

社会人「……ところで」

友人「ん?」

社会人「勇者免許って、使ってる?」

友人「いや……仕事でも必要ないし、ほぼ身分証明にしか使ってないな」

女「私も~、せっかく苦労して取ったのに。魔物と戦う機会なんてまるでなし」

社会人「実は俺もなんだよね……。正直、剣の振り方も馬の乗り方も忘れつつあるよ」

友人「こういうのを、あれだな。ペーパー免許っていうんだよな」

社会人「俺たちは神勇者どころか、≪紙勇者≫になっちゃったみたいだな」





― 終 ―

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