学生「そろそろ就職のこと考えなきゃいけない時期だし、なんか資格欲しいな」
友人「だったら勇者免許なんかどうだ?」
学生「勇者免許?」
友人「国や人々を守るための≪勇者≫を名乗るための国家資格だよ」
友人「もちろん履歴書には書けるし、勇者免許必須の職業も多い」
友人「教習所みっちり通えば、わりとすぐ取れるらしいし」
友人「優れた勇者は≪神勇者≫だなんて呼ばれて、すっげえ年収稼いでんだぜ」
学生「取って損はなさそうだな……よし、勇者免許を取るとするか!」
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~勇者免許教習所~
ワイワイ… ガヤガヤ…
学生「わっ、混んでるなぁ~」
友人「みんな考えることは同じみたいだな」
学生「大学生活のうちに、勇者免許を取ってやろうってことか」
学生「ふう、教習所入学の手続きは済んだぞ」
学生「さっそく、技能講習の予約をしたいけど……」
友人「うわぁ~、ほとんど満杯じゃん! 全然予約なんか取れないぞ!」
学生「毎日のように通って、なるべく早く取りたかったのに……」
女「教習所の講習は、朝早くか夜遅くの時間が予約取りやすいわよ」
学生「わっ!」
女「それと、予約を入れるだけ入れてキャンセルする人も多いから、それを狙うのもいいかもね」
友人「もしかして、君も勇者免許を取ろうとしてる人?」
女「うん! お互い頑張ろうね!」
学生(なるほど、こういう出会いもあるのか……)
講習が始まった……。
教官「今日は剣の握り方を覚えましょう」
教官「こうです」ギュッ
学生「こ、こうですか?」ギュッ
教官「そうです! はい、合格! ハンコ押しておきますねー」ポンッ
学生(なんだ……楽勝じゃないか。この調子で、最短合格目指すぞ!)
ところが……。
学生(あれ? 今日の講習は昨日の人と違う……)
中年教官「今日は素振りをやってもらう!」
学生「は、はいっ!」
学生「たあっ!」ヒュオッ
中年教官「なぁーにやってんだ! そんなへっぴり腰で勇者になんかなれるかよォ!」
学生「ひっ!」
学生「えいっ! えいっ! えいっ!」ブンッブンッブンッ
中年教官「もっと脇締めろ、脇をォ! オラ、そうじゃねえよォ!」
学生「くっ……」
学生(なんだこの教官……いちいち怒鳴りつけてくる……)
学生(こっちは金払ってんだぞ? なんでこんな扱いされなきゃならないんだよ!)
中年教官「オラ、もう一度だ!」
学生「いやぁ~、なんとかハンコはもらえたけど、最悪だったよ……」
学生「一時間、おっさんにずっと怒鳴られっぱなし」
友人「災難だったなぁ。俺も素振りだったけど、俺の教官はメチャクチャ優しかったぜ」
女「教官って当たり外れ大きいからねえ」
女「私達でストレス解消でもしてるんじゃないのってくらい、厳しい教官もいるし」
学生「もう二度とあのおっさんには当たりたくない……」
学生(さて、今日の講習は、と)
馬「ヒヒィ~ン!」
学生「え、乗馬もやるんですか!?」
教官「そりゃそうさ。勇者たる者、馬くらいには乗れないとね」
教官「まず、ゆっくりと前進させてみようか」
学生「は、はいっ!」
パッカパッカ… パッカパッカ…
学生(坂道で馬を停止させて……)グイッ
ピタッ
教官「さあ、坂道発進してもらおう」
学生(えぇと、ゆっくりと手綱を……)グイッ
馬「ヒヒヒヒィ~ン!」ブルルル…
学生「わわっ!」
教官「おっと失敗だ。さ、もう一度!」
学生(難しい……。これは時間がかかりそうだ……)
~教室~
学生(実技だけじゃなく普通の授業もあるんだな……ま、そりゃそうか)
眼鏡教官「さて、本試験でも出る問題を紹介します」
眼鏡教官「『魔物に人間が捕らわれている時は、必ずすぐ人間を助けなければならない』……○か×か?」
学生(こんなもん、○に決まってるだろ)
眼鏡教官「答えは×です」
学生「え!?」
眼鏡教官「なぜなら、無理に救出しようとすれば、かえって人質を危険に晒すこともあるからです」
眼鏡教官「他にも、捕らわれている人間が、実は化けてる魔物というケースもありますからね」
眼鏡教官「まあ、問題文に『必ず』という言葉が出たら、まず×だと思っていいでしょう」
学生(こういう引っかけ問題もあるのか……メモメモ)カリカリ…
『このように振り回した剣が、歩いてた人に当たり、数億もの損害賠償を請求されたケースもあります』
『勇者免許を取ったら、“剣保険”には必ず入りましょう!』
学生(剣を振ったら、人生を棒に振ることになるとは……)
学生(やたら生々しくて、トラウマになりそうなドラマだったな……)
学生(やっぱり勇者ってのは、帯剣が許されるんだからそれなりのリスクも背負うんだな……)
友人「よぉ、調子はどうだ?」
学生「乗馬で手こずってるよ。S字クランクもう一回だし。お前は?」
友人「俺は技能は余裕なんだけど、学科がなぁ~」
学生「学科なんか受けるだけでいいんだから、とっとと受けちゃえよ」
友人「俺、昔から授業受けるの嫌いだからさ~」
学生「んなこといってたら、免許どころか、大学卒業も危うくなるぞ」
友人「お、脅すなよ……」
……
……
教官「よし、仮免許試験合格だ!」
学生「ありがとうございます!」
教官「これからは、実際に剣で戦うような講習をしてもらうから、気を引き締めてくれ!」
学生「はいっ!」
学生(これでようやく折り返し地点ってとこか……)
中年教官「今日はスライムを倒してもらう!」
学生(ひええ……よりによってこの教官に当たるなんて……)
中年教官「オラ、ビビってんじゃねえ! 剣を構えろ!」
学生「は、はいっ!」ジャキッ
スライム「プルルルルン…」
学生「だあっ!」
ザシュッ!
学生(あれ、全然強くない……。そりゃ教習所で戦わせられるスライムだしな)
中年教官「なかなかいい一撃だった。やるようになったな!」ニヤッ
学生「ありがとうございます!」
学生(馬車を操って高速走行可能な馬車道を走る、高速教習か……)
学生(他の生徒とも一緒に乗るんだよな……緊張する……)
女「あ、学生君と一緒なんだ! よろしくね!」
学生「よろしく!」
学生(ラッキー、まさか女さんと一緒だなんて!)
学生(もし、教習中にいいムードになったら、ちょっと口説いてみようかな……なんて)
ドカラッ! ドカラッ! ドカラッ!
女「イヤッホーッ!」
学生「ひいい……!」
教官「コ、コラ! もう少しスピードを緩めなさい!」
女「あ~……風が気持ちいい! さぁ、もっと走って!」バシッバシッ
学生「わわっ、まだスピード上げるの……!?」
女「ヒャッホーッ!」
学生(うん……百年の恋も冷めたな……)
~勇者免許試験場~
学生「いよいよ最後の学科試験だな……」
友人「問題は○×とはいえ、落ちる奴結構いるらしいし、油断するなよ!」
学生「おう!」
女「みんなで合格しましょ!」
学生「う、うん……合格しよう」
女(学生君、なんだかちょっとよそよそしくなったな……)
学生「いやったーっ! 合格だ!」
女「私も!」
学生「これで晴れて、履歴書に≪第一種勇者免許≫って書けるわけだ」
学生「これからは、勇者免許を生かしてガンガン活躍しよう!」
女「うん!」
友人「……」
学生「どうした?」
友人「……」
学生「あの、もしかして……」
友人「やっちまった……さすがにノー勉じゃ無理だった……」
学生(油断するなっていってた奴がこれだよ!)
学生「ま、まあ、チャンスは一度きりじゃないし……」
女「今度は勉強し直して、頑張って!」
友人「またここに来るのめんどくせぇぇぇぇぇ!!!」
数年後……。
社会人(あれから時は流れ、学生だった俺も社会人になった)
社会人(今日は久しぶりに友人と女さんに会うんだ……楽しみだな)
社会人「お、来た来た!」
友人「オッス、久しぶり! お疲れ~!」
女「お疲れ様~!」
社会人「お疲れ~!」
社会人「さ、そこらの店で飲もうか!」
ワイワイ… ガヤガヤ… ハハハ…
社会人「みんな、元気そうでなによりだ」
社会人「……ところで」
友人「ん?」
社会人「勇者免許って、使ってる?」
友人「いや……仕事でも必要ないし、ほぼ身分証明にしか使ってないな」
女「私も~、せっかく苦労して取ったのに。魔物と戦う機会なんてまるでなし」
社会人「実は俺もなんだよね……。正直、剣の振り方も馬の乗り方も忘れつつあるよ」
友人「こういうのを、あれだな。ペーパー免許っていうんだよな」
社会人「俺たちは神勇者どころか、≪紙勇者≫になっちゃったみたいだな」
― 終 ―
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