死神「でも残念、君は死ねないの」
男「どうして?」
死神「君が死ぬのはまだ先だから」
男「そうなんだ」
死神「全ての生き物には生まれた時から死ぬべき時が決まっている。それが運命ってやつだよ」
男「そんなのおかしいよ」
死神「じゃあ死んでみたら? どうせ無駄だと思うけど」
男「じゃあ定番中の定番。首吊りで」
死神「椅子もってきてあげるね」
男「ありがとう」
死神「縄は?」
男「こんなこともあろうかと」スッ
死神「用意がいいね」
男「死にたいからね」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1523760135
男「準備できたよ」
死神「本当にやるの?」
男「やるよ。僕は死ぬんだ」
死神「どうせ無駄なのに」
男「首に縄を括り付けて、後は椅子を蹴っ飛ばしたら首吊りの完成―。じゃあ死神ちゃん、あとはよろしく」
死神「はいはい」
男「でりゃ」
ガコンッ! ブチッ!
男「ぐえっ」ゴシャッ
死神「大丈夫? 背中思いっきりぶつけてたけど」
男「いてて……まさか縄がちぎれるなんて」
死神「だから言ったでしょ。どうせ無駄だって」
男「むぅ……死神ちゃん、僕が死ぬのは何日後なんだい?」
死神「死ぬべき時に死ぬから安心しなさい」
男「それじゃあ答えになってない。僕が知りたいのは明日死ねるのか明後日死ねるのかってことなんだ」
死神「前にも言ったけどそういうことは教えられない決まりになってるの。安心してよ、人間なんて勝手に生きて勝手に死ぬもんだから」
男「そんなの待てないよ。僕は今すぐにでもこの世から消えてなくなりたいんだ」
死神「どうして?」
男「この世界は僕には生きづらいから
死神「なにそのこじれた中学二年生みたいな理由」
男「とにかく僕は死ぬから。付きまとっても無駄だから」
死神「あっそ。あんまり運命に逆らわない方がいいよ」
男「僕の命は僕だけのもんだ。運命なんて関係ないよ」
死神「だからなにそのこじれた中学二年生みたいなセリフ」
男「隙あれば逝くから」
死神「何言ってんのこの人」
男「それー!」バッ
死神「え!? ちょっ!? 馬鹿!」
キキーッ!! ガシャァァン!!
「事故だぁぁ!」「救急車、早く!!」
男「ちっ、また死に損なった」
死神「君は! なにをしているの!?」
男「トラックに轢かれそうになった青年を助けるために命を賭して飛び出しました。君、大丈夫かい? ケガはない?」
青年「あ、ありがとうございます!」
男「未来ある青年は助かり、僕は英雄として死ぬことができる……自殺志願者としてはなんとも喜ばしいシチュエーション」
死神「自殺に喜ばしいもなにもない!」
チッチッチッチッチ……
隊員「隊長! もう爆発まで時間がありません! ここから離れましょう!」
隊長「お前たちは先に行け! 俺はぎりぎりまでこの爆弾の解体を続ける!」
隊員「しかし!」
隊長「行け!!」
隊員「隊長……」
隊長「もし俺が戻らなかった時は家族に愛していたと伝えてくれ」
隊員「……はい!」
隊長「……これでいい。犠牲になるのは俺一人で十分だ。さぁ、残ったコードは赤と青。どっちを切る?」
男「隊長さんはどっちの色が好きですか?」
隊長「俺はどっちかって言うと赤かなぁ」
男「あー、赤ねー」
死神「おい」
男「じゃあ赤にします?」
隊長「待って、昔見た映画で赤い糸は切らない方がいいって言ってたんだった!」
男「隊長さん、そんないかつい顔してコ〇ンとか見るんですね」
隊長「あ、やっぱりわかる?」
男「わかりますよ、僕も大好きですし」
隊長「コ〇ンは俺の青春だよ。蘭姉ちゃんの年齢を追い越したときは悲しくて1日動けなかったほどだ」
死神「おいってば!」
男「あー、その気持ちわかります。じゃあ、赤残しておきましょうか。映画みたいに」
隊長「そうだな、どうせ死ぬならそういうの大事にしておきたいもんな」
男「ねー」
ブチッ!
隊長「え?」
男「切っちゃった☆」
隊長「なにしてんのぉぉぉ!! ま、まだ心の準備が!!」
男「はいドッカァァン!!……ってあれ?」
隊長「……爆発しない」
男「ちっ、また死に損なった」
死神「うん、色々おかしいな。どう考えても!」
男「家族に愛しているって言うのは自分の口で伝えてあげてください。隊長」
隊長「ああ……ところで君は誰だ?」
男「あはは」
死神「笑ってる場合じゃ無い!」
男「ちょっと聞いてもいい?」
死神「ん?」
男「僕の死因ってなんなの?」
死神「……心臓が止まって死ぬ」
男「いやそりゃ心臓止まれば死ぬでしょ。もっと具体的な」
死神「これ以上は教えられませーん」
男「ヒントになると思ったのに」
死神「ヒントって君ね……」
優男「このノートに名前を書かれた人間は……死ぬ?」
リンゴ好き「そうだ。俺たち死神はこれを「デスノ……」
男「え? マジで!? じゃあ俺の名前書いて書いて!」
優男「え? あ、ああ……これでいいか?」サラサラサラ
男「よっしゃ!」
優男「説明書によると死因を指定しなければ40秒後に死ぬらしいんだが……」
死神「なにさらしてくれてんじゃボケがぁ!!」ドゴォッ
リンゴ好き「グハァ!!」
死神「おいお前! どこの管轄の死神じゃい!」
リンゴ好き「あ、あなた様は!」
死神「そんなのどうでもいい! さっさとキャンセルせんかこらぁ!」
リンゴ好き「い、いやノートに名前を書かれたら取り消しは……」
死神「ああん!?」
リンゴ好き「します! 取り消しさせていただきます!」
死神「ったく……」
優男「40秒経過……どうやら本当にただのいたずらだったみたいだな」
男「ちっ、今回も死に損なった」
男「死神ちゃんがボコボコにしてたのも死神なの?」
死神「ええ、まぁこの世界には死神は一杯いるからね」
男「あなた様は!? って言われてたけど君って結構偉いの?」
死神「人が死のうとしているのに待ったをかける死神は中々いないということだけはお伝えしておきましょうかね」
男「今からでもさっきの人と担当変えてもらっても……」
死神「そんなことしません」
男「ちぇー」
女刑事「追い詰めたわよ! 犯人!」
犯人「追い詰められたのはどっちかなぁ!?」ジャキッ
女刑事「あれは!? 盗まれた拳銃!?」
犯人「丸腰の刑事なんて俺にとっちゃなんも怖くねぇ! 10年前にやったようにお前もぶち殺してやる!」
女刑事「10年前!? じゃあお父さんを殺したのも……」
犯人「なんだお前、あん時の刑事の娘か! こりゃ皮肉な因果だ。親子共々天国でよろしくやってな!」
女刑事(お父さん……!)
犯人「死ねっ!」
男「とーう!!」バッ
死神「またこのパターン!?」
バァン!! バァン!! バァン!!
男「………」
犯人「く、くそっ!」
女刑事「はぁぁぁぁ!!!」ブンッ
犯人「ガッ!!」ドサッ
女刑事「4時44分。殺人及び強盗の容疑で逮捕する!!」ガチャッ
死神「き、君……大丈夫かい……?」プルプル
男「……うん、大丈夫」
死神「まさか全部外すとはねぇ!」クスクス
男「普通あの距離で全部外すかね!?」
死神「そういう運命なんだから諦めなさいって」
男「ちっ、また死に損なった」
女刑事「あの人達は誰なんだろう……?」
男「ロシアンゲームイエェェェイ!!!」
死神「……イエェェェイ?」
男「リボルバーに銃弾六発入れてぇぇ!!」
死神「それ全部に入れてるんじゃ……」
男「こめかみにセットしてぇぇ! 引き金を!」
死神「いやなにそのシンプルな自殺!?」
男「渾身の力を込めて引きます! アディオス今生!」
死神「なにその適当なスペイン語!?」
男「いえぇぇぇぇい!!」
死神「やめてぇぇえ!!」
ガチッガチッガチッ!!
男「不発か……」
死神「ちょっと貸して」
男「はい」
死神「本当に六発入ってるの?」ジャキッ
バァン! バァン! バァン!
男「死神ちゃん! 今だよ、僕に向かって撃って!」
死神「撃つか!! 運命だから諦めろ!」
男「ちっ、また死に損なった」
死神「今までで一番焦ったわ……」
死神「ところでこの拳銃どうしたの?」
男「この間の犯人が落としたから拾った」
死神(拳銃ってどこで処分すればいいんだろう……)
男「とりあえず、これ預かっとくねー」
死神「う、うん……大丈夫かな?」
男「冗談じゃない! 僕は部屋に戻らせてもらう!」
探偵「男さん! まだ屋敷に殺人犯がいるかもしれないんだ! 一人でいるのは危険です!」
男「お前達のことなんか信用できるか! 自分の身は自分で守る!」
探偵「男さん!!」
男「………」
死神「朝になっちゃったね」
男「ね」
死神「探偵君が犯人見つけたってさ」
男「いつ来てもいいように部屋の鍵開けておいたんだけどな」
死神「だから何度も言ってるじゃない。君はまだ死なないんだって」
男「これ以上無いくらいの死亡フラグだと思ったんだけどな……」
死神「人生ってうまくいかないねぇ」クスクス
仮面男「お集りの皆様、今からあなた達に命を賭けたデスゲームを行っていただきます」
男「ふざけんな! なんで僕たちがそんなことをしなきゃならないんだ!」
仮面男「ゲームの参加を拒否するということですか?」
男「こんなことやってられるか! すぐにお前をとっ捕まえて警察に突き出してやる!」
仮面男「男様、残念です。あなた方にはこのゲームを拒否する権利など無いというのに」ピッ
男「な、なにをした!? 僕になにをした!?」ピピピピピピ
仮面男「参加者の方々には首輪が取り付けられております。ルールを無視、またはゲームの進行を著しく妨害した方は失格となり、首輪に取り付けられた爆弾が爆発しあなた様の命を奪う仕組みとなっているのです」
男「マジで!? やったぁぁあ!」ピピピピピピ
仮面男「……ん?」
男「どしたの?」
仮面男「あれ? 首輪が……え?」
男「爆発するんじゃないの?」
仮面男「……故障したみたいです」
男「ま、また死に損なった……」
仮面男「なんていうか……ごめんなさい」
死神「私が言うのもおかしな話なんだけど……なんで生きてるの?」
男「ほんと、なんでだろうねぇ……」
死神「というより君は本当になんで色々なことに巻き込まれるの?」
男「なんでだろうねぇ……」
死神「まだ死にたい?」
男「死にたいねぇ……」
死神「なんでそういう風に思うようになったの?」
男「目の前が灰色なんだ」
死神「なにそれ?」
男「いつの間にか見えるもの全てが色を失った。僕はみんなみたいに色鮮やかな世界を見ることができない。灰色の写真を見続ける世界なんて苦しいと思わないかい?」
死神「それは……」
男「僕はもう、世界を美しいとは思えなくなってしまった。だから僕は死にたいんだ」
死神「男……」
男「だから運命なんて言わないで、せめて君の手で僕を殺してくれないか? この灰色の世界を終わらせるために」
死神「でも君、爆弾解除した時にどっちが赤か青かわかってたよね?」
男「ねー」
死神「流れるように嘘を吐かないでよ」
男「今度はエンゼルフォールから飛び降りるってのはどうだろう?」
死神「話を聞きなさい!」
駅員「まもなく3番線に快速電車が参ります」
女性「………」
駅員「危ないですので黄色い線の内側まで下がってお待ちください」
女性「………」グッ
男「やめておいた方がいいですよ」
女性「え?」
男「迷ってるんでしょ? 迷ってるならやらない方がいい。自殺なんてろくな事じゃない。色々な人に迷惑かかっちゃうしね」
女性「でも、私なんて……」
男「じゃあ死ぬってことがどういうことなのか、特等席で見ておくといいよ」
女性「特等席?」
男「さよなら」
女性「え? ちょっと……」
死神「させるかぁぁぁ!!」ダッ
女性「きゃあ!」
ガシッ!
男「ぐえっ!」
ガタンゴトンガタンゴトン………
死神「ちょっと目を離すとこれなんだから! 心配したでしょ!」
男「また死に損ねた……」
女性「だ、大丈夫ですか!? ケガはありませんか!?」
死神「ああ、大丈夫大丈夫。いつものことだから。ごめんね。ほら、さっさと歩く!」
男「あはは……」
女性「迷ってるならやらない方がいい……か」
死神「あの人となに話してたの?」
男「自殺はやめておいた方がいいですよーって」
死神「どの口が言うの……」
男「中途半端に迷って死のうとしても死にきれないからね。だから忠告してたってわけ」
死神「ふーん、あんたは迷わないの?」
男「迷わないよ。死のうって決めたその日から僕は毎日そのことだけを考えてきた」
死神「ほんと、君のなにがそうさせるのかなぁ」
男「これが僕が出した結論だから。そこは譲れないんだ」
死神「それでも私は君に何度でも言うわよ。君は今死ぬべきじゃない」
男「じゃあ僕は死ぬべき場所で死ぬために生きているってこと?」
死神「そう。それは君だけの話じゃない。みんなそうなのよ」
男「そんなのおかしいじゃないか。そんなのおかしいよ」
死神「……それが世界のルールなの。運命ってそういうものなの」
男「なおさら運命って奴に逆らいたくなった」
死神「……好きにすればいい。ろくな結果にならないと思うけどね」
男「えーっと、この辺に……あ、あった」
死神「なにしてんの? ビデオデッキ?」
男「いやー、探してたものがようやく手に入ってね。年代物だから大変だったよ」
死神「今時VHSって……中身は?」
男「まぁ、見ればわかるって。再生っと」
死神「……ん? 井戸? まさかこれって」
男「うん、呪いのビデオ。これ見たら近いうちに死ねるんだって。凄くない?」
死神「君はまた性懲りも無く……」
男「あ、ほら井戸の中から何か出てきたよ!」
亡霊「うぁぁぁぁぁ……!」
男「こっち近づいてくる! どうなるのかな!? 僕、どうなるのかな!?」
死神「なんで君はそんなに嬉しそうなの!?」
亡霊「うぁぁぁぁ!!」
男「うひょぉ! テレビから出てきたぁ! さぁ、僕を呪い殺して! プリーズキルミー!」
亡霊「うあああああ……あ」
男「ん?」
亡霊「あ、いやこ、これは違うんですよ……まさかあなた様を呪おうなんて思ってなくてですね?」
死神「……今なら見逃してあげるからさっさと自分のいたところに帰りなさい。いいわね?」
亡霊「か、かしこまりましたぁ!」ブチッ
男「ちょっ! ちょっと待ってよ! まだ僕呪われてない! 呪われてないよ!?」
死神「残念だけど今回も死ねなかったわね」
男「カムバーック! キルミーベイベー!!」
男「そろそろネタが無くなってきた」
死神「それはいいことだね」
男「このままじゃちゃんと死ねない」
死神「だから死ななくていいんだって」
男「じゃあ、死神ちゃんはどうしたら僕が死ぬのを認めてくれるの?」
死神「何度も言ってるでしょ? 死ぬべき時は必ず来るから」
男「僕は今すぐ死にたいんだよ」
死神「わがまま言わないの! 君に今死なれたら困るんだよ」
男「それはどうして?」
死神「それは……答えられないけど」
男「死神が取り憑いてるのに死ねないなんてこんなのおかしいよ!」
死神「あんた! 自分の命をなんだと思ってるの! なんでそう簡単に死のうとするのよ! もっと自分を大事にしなさい!」
男「自分を大事にしてなんになるって言うのさ。大事にした自分がなにをするって言うのさ。ただただ毎日が流れていくだけじゃないか。なにも変わらない。生きてたってなにも残らない。だったら生きてるってなんなのさ?」
男「生きてたってなにも残らない。だったら今すぐ死んだってなにも問題はないんじゃないの?」
死神「……君には生きる意味がある。だから私は今、君が自らの命を絶とうとするのを止めなければならないの」
男「わからないよ、死神ちゃんの言っていること、全然わからないよ」
死神「わからなくてもいい。だけど今は。今だけは生きていて」
男「………」スタスタスタ
死神「ごめんね、私も死神のルール上、君がなぜ生きなきゃいけないのかを教えることができないんだ」
男「………」ガラララ
死神「だけどこれだけは信じて欲しい。私は君が自分の運命を全うしないで死ぬことを見過ごすことはできないんだよ」
男「よいしょっと」
死神「なにしてんの? 窓なんて開けて」
男「バーイ☆」ピョンッ
死神「ちょっとぉ! ここ6階!」
男「……ちっ、また死に損なった」
住民「あんた、運がよかったよ。周りの気がクッションになって助かるなんて」
男「この場合、運が悪かったと言いますかなんといいますか」
住民「しかし、足を滑らして落っこちるなんてあんたみたいなおっちょこちょいは初めて見たよ」
男「あはははは!!」
死神「あははは! じゃなぁぁぁい!!」
男「あ、死神ちゃん。また死に損なっちゃった」テヘペロ
死神「君って奴は……」ダキッ
男「おっ……」
死神「馬鹿……」
住民「いい彼女じゃないか、兄ちゃん」
男「いや、彼女じゃないんですけど……なんていうか、ごめんね。死神ちゃん」ポンポン
死神「………馬鹿。君ってほんと馬鹿」
死神「………」
閻魔「どうしました? 随分と浮かない顔をしていますが」
死神「ああ、閻魔さん。いや別になんでもないよ」
閻魔「あなたがそんな顔をしているのも珍しい。となると、死にたがりの彼のことですかな?」
死神「まぁ、そんなところだね」
閻魔「もういっそのこと伝えたらどうですか? そんなに急がなくてもすぐに彼は死ぬことになるのでしょう?」
死神「それはこの世界のルールに反しているでしょ」
閻魔「ですが勝手に死なれればそれこそ大変なことになるでしょう」
死神「わかってる。全部わかってるんだよ、閻魔さん。だからこそ迷っているんだよ」
死神「……とにかく、彼を今死なせるわけにはいかない。しかるべき時にしかるべき死を。それがこの世界の秩序だから」
閻魔「ならばなぜそのような悲しそうな顔をしているのですかな?」
死神「この私が? 冗談でしょ?」
閻魔「まさか、彼に情が移ったとか?」
死神「無い無い、ありえない。私は彼にしかるべき時に死んでもらうために彼に憑いているの。そんなことは絶対にない」
閻魔「あなたがそういうのならそうなのでしょう、運命には逆らえない」
死神「………」
男「今日は洗濯洗剤を一気飲みしようと思いまーす!」
死神「あー、うん」
男「さすがにこれ一気したら死ぬでしょー。一気まーす! なんてw」
死神「あー、うん」
男「あれ? 止めないの?」
死神「ん?」
男「まぁいいや。えい」ゴキュッゴキュッ
男「うーん、まずい! もういっぱ……」バターン
死神「……え? あ、ちょっと君! 何してるの! きみぃぃぃ!!!」
医者「君、馬鹿でしょ?」
男「サーセン」
医者「今後、こんな無茶はしないように。親御さんが泣くからね」
男「ッス」
医者「態度悪いな!?」
男「ちっ、また死に損なった」
死神「………」
男「……どうしたの? 死神ちゃん。元気無いね。なんかあった?」
死神「いや、別になにも無いよ」
男「そう? 僕が死のうとしても止めないし。あ、もしかしてもう死んでいいの?」
死神「いいわけ無いでしょ」
男「ちぇー」
死神「君はさ、死んだらどうしたいの?」
男「なにそれ? 死んだら?」
死神「そりゃ、死神なんて私みたいな存在がいるんだもの。死後の世界だってちゃんと存在するよ。君が死んだら魂だけの存在になってそこへ行くんだ」
男「へぇ、考えたこともなかった。とにかく死ぬことしか考えてなかったから」
死神「これは君が良ければの話なんだけどさ……死んだら私の仕事を手伝ってくれないか?」
男「仕事って、死神?」
死神「ああそうだ。全ての魂が運命に従ってしかるべき時に生き、しかるべき時に死ぬ。そのサポートをする仕事だ。大変だがやりがいはある。どうだ?」
男「んー、死んでからのことなんて考えてもみなかったよ」
死神「こ、答えは今すぐ出さなくてもいい。死んだ後でも全然かまわないからな」
男「うん、わかった。でもあれだね、死んでからも死神ちゃんと一緒にいられるなんて僕は幸せ者だね」
死神「きゅ、急になにを言い出すんだよ君は///」
男「ただ自殺するだけのはずだったのに君が来てからなんだか楽しいや。これって変だよね?」
死神「変じゃないよ。変じゃない」
男「そっか」
男「ねぇ、死神ちゃん」
死神「なーに?」
男「こういうことだったんだね。運命ってさ」
死神「……そうだね」
男「僕、うまくやれたかな?」
死神「うん、君はうまくやった。君が守ったあの子はとある国の王女様でね。彼女が死んでいたらこの国を巻き込んで大きな戦争が起きていた」
男「そっか」
死神「君は彼女を守るために今日まで生きてきたんだよ。君は英雄になるために生まれてきたんだ。全てはこの日のために。だから今日まで君を死なせるわけにはいかなかった。運命がそう判断したんだ」
男「英雄になんて、別になりたくないんだけどね」
死神「傷、痛むかい?」
男「うん。お腹の中をグチャグチャにされた気分だよ。すっごく痛い……」
死神「待ってて」パァァ
男「お……」
死神「痛覚をシャットアウトしておいた。これで苦しまずに死ぬことができるはずだよ」
男「そうかー、やったぁ……」アハハ
男「死神ちゃんも早く逃げた方がいいよ? って言っても出口がふさがれちゃって逃げられそうにないけど」
死神「優しいな、君は。私は死神だ。私は大丈夫だ。君が死ぬまで君の傍にいよう」
男「……悪いね」
死神「今まで、よく頑張ったね」
男「うん? 頑張ったのかな? 僕はただ死にたいって思っただけなんだけど」
死神「私と出会ってから、君は多くの人を救った。自分が死にたいと言いながらそれでも色々な人の命を救ったのは事実だよ」
男「まぁ、成り行きでそうなっただけで……大して誇れるようなことでもないけどね」
死神「君はまだ、死にたいのかい?」
男「僕は今日、死ぬ運命なんでしょ? 今更それをどうこうしようなんて思わないよ」
死神「なぜ? なぜ君はそうなってしまったんだ? なにが君を死にたがりにしてしまったんだ?」
男「例えば僕がここで『恋人が通り魔に殺されて生きる気力を失った』とか『小さなころからの夢が破れて生きる意味を亡くした』とか、そういうもっともらしいことを言えばいいのかな?」
男「残念ながらそういうドラマチックなものはどこにも無い。悲しいけど僕にはなにもない。なにもないからこうなったんだ。僕の人生に意味は最初から、そしてこれからも意味は無いと思ったんだ。そしてそんな意味が無い人生を自覚しながら生きていくのはどうしてもできないんだよ」
男「僕はどこまで行っても僕だ。そして僕はそんな僕がたまらなく嫌いなんだ。嫌いな奴とずっと生きていくなんて、耐えられないよ」
死神「……男」
男「だからね、死神ちゃん。僕は君と一緒にいることはやっぱりできないよ。だって僕は僕のことが嫌いだから。君と一緒にいることは楽しいけど、僕は僕が嫌いだから。嫌いな奴とこれからずっと一緒にいたくないからさ」
死神「……フラれちゃったね」
男「もう少し、僕が僕のことを好きになれたら君と一緒にいるのも良かったんだけどね」
死神「君の答えはわかったよ。スカウトはまた今度にするね」
男「今度?」
死神「要は君が君自身を好きになれればいいんだよね?」
男「それってどういう?」
ダァァァン!!
隊員「要救助者、発見しました! 意識もあります!」
隊長「この国の英雄だ。絶対に死なせるなよ!」
隊員「はい!」
男「え? え?」
隊長「よう、また会ったな。青年」
男「あれ? 爆弾の時の……どうして?」
隊長「安心しろ、俺たちが来たからには君を絶対に助ける」
男「あ、いやそういうの頼んでないんですけど……」
隊長「頼まれてなくても君は俺を助けてくれただろう?」
男「ええ……そういうのいらないですって……僕今日死ぬ運命だったんですけど……」
死神「……」クスッ
隊長「要救助者救出しました!」
青年「意識はありますか?」
隊長「ああ、馬鹿みたいに元気そうだ。傷は深いがな!」
青年「わかりました。あとはこちらで対処します!」
隊長「頼んだぞ、俺の命の恩人だ」
青年「僕もです!」
男「あー、僕、今日死ぬ運命なんですけど……」
青年「何言ってるんですか!? 命の恩人をこのまま死なせるわけにはいきません! まだ新人ですが医師の誇りにかけて、あなたを救ってみせます!」
男「そこまで頑張らなくていいから! 大丈夫だから!」
――数日後――
男「……また死に損なってしまった。どうしてこうなった?」
看護師「なにを馬鹿なことを言ってるんですか? そこまで回復したのは奇跡って言ってもいいくらいなんですよ?」
男「奇跡なんて別にいらないよ……僕は死にたかったのにさ」
看護師「変わってませんね、初めて会った時から。相変わらず死にたがりなんですね」
男「あー、見た顔だと思ったら電車に飛び込もうとしてた……お元気でした?」
看護師「はい。今はなんとか毎日頑張ってます」
男「それはよかった」
看護師「友達にあの時のことを話したら泣かれちゃいました。馬鹿なことをしたなぁって思いましたよ」
男「あはは……じゃあ、僕も馬鹿ですかね」
看護師「ええ、馬鹿でしょうね」
男「人に馬鹿って思われるのは嫌ですねぇ」
看護師「嫌ならちゃんとここで大人しく元気になってくださいね?」
男「はは……」
死神「やぁ」
男「死神ちゃん、久しぶり」
死神「その分だとまた死に損なったみたいだね」
男「僕って死ぬ運命だったんじゃないの? あの日」
死神「運命だったよ? でも君が助けた人たちがその運命を捻じ曲げちゃったんだもの。しょうがないじゃない」
男「そんなバカな話、ある?」
死神「それはこっちのセリフだよ。そんなことで変われるなら、運命も死神もいらないじゃない」
男「だよねー……」
死神「今日は君にお別れを言いに来たんだ。もう運命の日も終わったし、君に付きまとう必要も無くなったし」
男「そっか……」
死神「今度、君に会う時は君が寿命を迎えて死んだ時になるだろうね。その時、またスカウトさせてもらうよ」
男「それって何年後の話?」
死神「さぁ?」
男「さぁって……運命でわかんないの?」
死神「運命を見たところで君なら、そんなもの簡単に乗り越えてしまうだろう? だったらわからないのと一緒でしょ?」
男「………」
死神「楽しかったよ、男。またね」スゥゥゥ
男「……またね、死神ちゃん」
女刑事「具合の方はどうですか?」
男「ああ、女刑事さん。ご無沙汰しています」
女刑事「すみません、お見舞いが遅れてしまいまして」
男「いやいや、気にしないでください。今日は別の用事で」
女刑事「別の用事?」
男「これ、返そうと思って。処分に困っちゃって」スッ
女刑事「この拳銃は……」
男「あなたのお父様が使っていた拳銃ですよね。事件のごたごたで僕が預かってたんですけど返す機会が無くて……弾は3発ちゃんと全部入ってます」
女刑事「本当だったら銃刀法違反ですよ?」
男「あはは……」
女刑事「とりあえず、預かっておきますね」
男「あ、ちょっと待った」
女刑事「はい?」
男「これをこうして……」シュルルル
女刑事「な、なにをしているんですか? それじゃまるでロシアンルーレットじゃ……」
男「よっ!」ガッ
女刑事「やめて!!」
カチッ!
男「………」
女刑事「は、はは……」
男「また死に損なった」
女刑事「……悪い冗談ですよ、男さん」
男「ごめんなさい」
女刑事「冗談でも自殺なんてやめてください」
男「まったくその通りです。自殺なんてするもんじゃありませんね」アハハ
以上です。お付き合いありがとうございました。
>>1です。
感想いただけて嬉しいです。
ちょくちょく書いていますがまた妄想が溜まったら別の話を投下していこうと思います。ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
本当に死にたいなら息しないだけで簡単に逝けるんだけどな
普通に息止めれないなんて死ぬき全くないやんけ
知り合いは死にたいからといって普通に息するの止めて死んだぞ