千歌「ぽかぽかデート」ダイヤ「バスの中にて」 (16)

ラブライブ!サンシャイン!!SS
ダイちか

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三寒四温。春の訪れを感じさせる寒暖差のある日が続く今日この頃。

本日はその中でも四温の日のようで、麗かで心地の良い日和です。

そんな今日、朝方掛かって来た電話にて──意中の人と待ち合わせしている真っ最中です。

せっかく暖かい日なので、服装もややラフめに、お気に入りのデニムのホットパンツを着て、デートを満喫しようと思って意気込んで外に出たのはいいのですが──


ダイヤ「潮風があると、今日みたいな日でも少し寒いですわね……」


待ち合わせ場所である、長浜と言うバス停留所──まあ、簡潔に言うとわたくしの自宅から出て一番近いバス停です──は内浦地区特有の駿河湾に面しているバス停なので、

桜の花々が春の訪れを感じさせる今日のような日でも、海からは冷たい風が吹いてきて、わたくしの身を縮こまらせます。

加えて、海沿い故に風が強い。


ダイヤ「……海の気温は2ヶ月遅れるなんて言いますが……内浦はなかなか春を感じさせてくれないのですわね……」


そのようなことをぼやいていると、追い討ちを掛けるようにまた冷たい風が吹き付け、古びたバス停の雨よけをガタガタと揺らす。


ダイヤ「……くしゅっ!」


思わず、口元に手を当ててくしゃみをしてしまう。

そのとき──ふわり、と


千歌「風邪ひいちゃうよ?」


上着を掛けられる。


ダイヤ「あ、ありがとうございます……///」

千歌「えへへ、おはよっ ダイヤさん」


待ち人のロマンチックな登場の仕方に思わず、わたくしの乙女部分がキュンとしてしまう。不覚。

普段は妹っぽさを前面に押し出して、ベタベタとくっついてくるのに、こういうとき突然カッコイイことをするのですから、


ダイヤ「……ずるいですわよね……」

千歌「ほぇ? なにが?」


いつものように小首を傾げる千歌さん。

小さく花のあしらわれたのやや短めフレアスカートに白いブラウス。

恐らくあわせであったであろう、ピンクのカーディガンは今わたくしが羽織らせていただいています。


千歌「海がすぐそこだから、内浦の春先は寒いんだよ~? ダイヤさんあんまり外に出ないから知らなかったのかもしれないけど」

ダイヤ「うっ……別にそこまで出不精と言うわけではないのですが……」


なにかと室内でこなさないといけない行事が多いため、外気の上下に疎いと言うのは否めないかもしれません。


千歌「……でもまあ」

ダイヤ「?」

千歌「可愛いから、ありかなっ」

ダイヤ「……/// そ、そうでしょう?///」

千歌「あーダイヤさん顔真っ赤だ~ 照れてるな~? ダイヤさんは可愛いな~」

ダイヤ「ち、ちがっ/// わ、わたくしが選んだ服なのですから、似合っていて当然……というか……その……」

千歌「うんうん それでそれで?」

ダイヤ「うっ……/// そ、そんなことより、千歌さんこそお洋服、とても似合ってますわよ……///」

千歌「あ、誤魔化したな? でも、まあ嬉しいからいっか」


……今日はペースを崩されていますわね。


ダイヤ「千歌さんこそ……寒くないのですか? カーディガンを貸してもらっている手前、難なのですが……」

千歌「んー? チカは平気だよ! キソタイシャ高いから!」

ダイヤ「……意味わかって使ってますか?」

千歌「体温が高いって意味でしょ?」

ダイヤ「……じゃあ、まあ……それでいいですわ」

千歌「今日もちかちーのおててはぽかぽかなんだぞ~♪」


そう言って、わたくしの手をぎゅっと握る。


千歌「……だから、ダイヤさんの冷たいおててはこうしてチカが温めちゃうのだ」


おどけて言う口振りとは打って変わって、その表情はとても穏やかで慈しみに溢れた温もりを感じる。


ダイヤ「ふふ……ありがとうございます」


わたくしも釣られて、はにかむ。

──本当に貴女の隣にいると、笑顔が溢れてしまいますわね。

二人で手を握りながら、ぼんやりとしていると、


千歌「あ、バス来た」


浦女のある方向からバスが来ました。

わたくしたちを沼津に連れて行ってくれるバスです。


千歌「じゃ、いこっか」

ダイヤ「ええ」


千歌さんに手を引かれ、わたくしたちはバスへと乗り込みました。





    *    *    *




時刻は11時前。10時54分のバスに乗ったので到着は11時半過ぎ頃になるでしょう。

風の入り込まないバス車内は春の陽光がストレートにその温もりを主張していて、とても温かい。

一人で乗っていたら、うたた寝でもしてしまいそうね。


千歌「よっし! 一番後ろ確保ー!」


千歌さん一緒にいる以上考える必要もないかもしれませんけれど。


ダイヤ「こら、あまり騒がしくしてはだめよ?」

千歌「はぁい」


バスの中にはご老人が一人二人いる程度ですが、もちろんここは公共の場なので。

閑散としたバス内を奥に進む。


ダイヤ「千歌さん、一番後ろの席、好きですわね」

千歌「うん! なんか広いし、得した気分になるっ!」

ダイヤ「ふふ、貴女らしいですわ」


笑って、横に腰を降ろす。



千歌「……それで今日は何しようか?」

ダイヤ「……貴女から誘ったのに、決めてないのですか」

千歌「いやだって、今日あったかいなーダイヤさんとお出かけしたいなーって思ってメールして、すぐ来たもん」

ダイヤ「まあ、確かに何かするなら沼津に出てしまう方がいいけれど……」

千歌「むしろ、沼津行かなかったら選択肢ほぼピクニックしかないし!」

ダイヤ「……しかないは言いすぎですが。と言うか、ピクニックでもよかったのでは?」

千歌「んー……仕込みが、ね」


──仕込み。お弁当のことですわね。

最近は料理に目覚めたのか、お弁当も随分凝ったものを作るようになってきていて、即席速攻で完成させたお弁当じゃ本人が納得しないようです。

わたくしとしては、千歌さんの作ってくれるお弁当は、手軽に作ったサンドイッチでも、わたくしの舌に合う様に一工夫も二工夫も凝らしてくれているので、それでも全然嬉しいのですが……。

ただ、こういうことを口にするのは少しデリカシーに掛ける気がしたので、


ダイヤ「言ってくれればたまにはわたくしが用意しましたのに」


折衷案でわたくしが作る、という可能性を提示する。


千歌「ダイヤさんこそ、料理出来るけど、作ると時間掛かるタイプじゃん」

ダイヤ「む……ま、まあ、それは否めませんが……」


即封殺されてしまいました。

別に料理は嫌いではないし……むしろ、好きなのですが、少し凝り性なところがあるせいか、作ることに熱中して時間を忘れてしまうのよね。



千歌「そうなると、とりあえず沼津行きのバス一択だったわけですよ!」

ダイヤ「……11時台になると1時間に一本しかバスも来ませんしね」


即断即決なら、とりあえずバスに乗るという判断はあながち間違ってないと言うことですわね。


千歌「これが沼津っ子なら、その場で『じゃあ、駅集合~』でいいんだけど……曜ちゃんと善子ちゃんが羨ましい」

ダイヤ「確かに内浦組はどうやっても沼津に出るためにはバスですからね……」

千歌「しかも片道780円! うぅ……高校生には辛い出費だよぉ……それこそ定期のある二人はここ一帯はほぼ行き来自由みたいなもんだよね、羨ましい……」

ダイヤ「それでは……デートの回数を減らしますか?」

千歌「ない!! それはない!! って言うか、わかってて言ってますよね、ダイヤさん!?」

ダイヤ「ないものねだりしてもしょうがないもの」

千歌「それはそうだけどぉ……」

ダイヤ「お小遣いも貰ってるんでしょう? それに家の手伝いで多少お駄賃を貰えると前に言っていたではありませんか」

千歌「ホント雀の涙くらいだからね? お母さんチカがどんなに頑張って仕事しても、全然お小遣い増やしてくれないしっ!」


そのとき、ガタンとバスが大きく揺れる。


千歌「うわわっ!?」


千歌さんがバランスを崩してこちらにもたれかかる形になる。

わたくしは反射的に千歌さんの上半身を支えるように、両の手で肩を抱く。



ダイヤ「大丈夫ですか?」


そのまま、引き寄せる。


千歌「……え、あ、ち、ちか……///」

ダイヤ「千歌だけに?」

千歌「せ、説明しなくていいからっ!!/// って、そうじゃないっ!!///」

ダイヤ「もう……滅多なこと言うものでは在りませんよ。親御さんが汗水垂らして稼いだお金を頂いているのですから」

千歌「ぅ……わ、わかってるよぉ……」

ダイヤ「そのような不謹慎なことを言うから、罰が当たったのかもしれないですわね」


内浦から沼津への道程は道路の道幅も狭く、路面も凸凹が多くバスがよく揺れる。

それに加えて内浦地区を抜けるまでは海沿いなので、横から風が吹き付けるため、尚更です。


千歌「あ、あの、ダイヤさん……///」

ダイヤ「はい?」

千歌「もう……平気だから……///」


肩を抱かれたまま、紅くなって身をすぼめる千歌さん。

──可愛い。



ダイヤ「……また騒ぎ出さないように、しばらくこのまま見張っておきますわ」

千歌「えぇ!?///」

ダイヤ「……大人しくしてて、ね?」

千歌「ぅ……///」


千歌さんは俯いて、もにょもにょと何か言いたそうにしながらも、最終的に諦めたのか、わたくしの腕の中で大人しくなった。

ふふ、年下彼女をあやすのは得意なのよ。だって、わたくし15年も姉として生きてきたのですから。

……あ、でも、千歌さんは16年間妹をやっているから……わたくしの姉暦よりも先輩になるのかしら?

などと、変なことを考えていると──


千歌「あ、あの、さ……///」

ダイヤ「?」


千歌さんが少しだけ顔を後ろに向けて、目の端でわたくしを捉えている。


ダイヤ「どうかしたの?」

千歌「いや、えっと……/// あ、あったかいね……///」

ダイヤ「? ええ、そうね。車内は風がないから日向ぼっこが出来そうなくらい」

千歌「ぅ、ぅんー こ、こんなにぽかぽかだと、ね、ねむくなっちゃうかもね?」


──噫、なるほど。



ダイヤ「ふふ……眠ってもいいですわよ」

千歌「え!?/// あ、ホント?///」

ダイヤ「ええ、着いたら起こしてあげますから……」


そう言いながら千歌さんの頭を撫でて、そのまま流れるように、寝かしつける。自らの膝に。


千歌「~~///」


耳まで真っ赤じゃない。


ダイヤ「変なところで素直じゃないんだから……」

千歌「ぅ……///」

ダイヤ「……ふふ、おやすみなさい」

千歌「……目、覚めちゃうよ……///」


千歌さんがぼそっと零した、言葉ですが……

正直、この状況は面白いので聴こえない振りをしましょう。


わたくしは千歌さんを眠りに誘う予定の陽光へと目を向ける。

バスの窓から差し込む、温もりを。

デートは始まったばっかりなのに、今日は本当に温かい一日になりそうですわね。

春の麗かな日差しを見上げながら、わたくしたちはバスに揺られる。

ふふ、あと20分強ほどでしょうか……春は曙なトラブル、頑張って乗り越えてくださいませね?

わたくしは胸中で最愛の人へ、そう伝えるのでした。

終わりです。お目汚し失礼しました。


バスでの一時でした。


またダイちか書きたくなったら来ます。

よしなに。


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