結城友奈「これは勇者たちの物語」 (95)

すみません、前スレで終了の予定でしたが唐突に最終話を投下していきます
(需要がないのは理解しているのですが、何となく最後まで書きたくなってしまいまして……)

高嶋友奈の章・第一話「出会い」:郡千景「結城友奈は勇者である」
郡千景「結城友奈は勇者である」 - SSまとめ速報
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高嶋友奈の章・第二話「心の平安」:高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」(前スレ)
高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」 - SSまとめ速報
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高嶋友奈の章・第三話「純潔」:結城友奈「これは勇者たちの物語」(このスレ)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515762648


*大赦本部前

高嶋友奈「風先輩を止められるならこれくらい! だって私は勇者だから」

友奈(それはどこかで聞いた言葉で、結城ちゃんなら言っただろう台詞。……私は勇気ある人じゃないけど、この世界で二年を過ごした結城友奈であることにも間違いないから、自然とその言葉が出てきたのだと思う)

犬吠埼風「ゆう、な……」

友奈(『結城ちゃんは勇者である』で言うと確か九話の場面。風先輩の姿がとても心に刺さって、泣いてしまったことを辛うじて私は覚えている。あの場面と同じ光景の今、目の前で風先輩は私の名前を小さく呟いてくれた。そして──)

三ノ輪銀「……!」

三好夏凜「……ぁ……」

ギュッ

犬吠埼樹「……」

風「……いつき……」

友奈(樹ちゃんが風先輩の背中を抱きしめる。泣きそうな顔で、だけど泣いたりなんかしないで、強く強く、風先輩を抱きしめていた)

風「あ、あぁ……っ……ああぁ……ッ」

友奈(……風先輩は泣き崩れてしまったけれど……大丈夫。今はそばに樹ちゃんが居る)

風「……ごめん……ごめん、皆……」

友奈(私と夏凜ちゃんと銀ちゃんは、ただ静かに風先輩と樹ちゃんのやり取りを見つめている。樹ちゃんが風先輩にスマホの画面を見せているところだった)

樹『私達の戦いは終わったの。もうこれ以上、失うことはないから』

風「でも! 私が勇者部なんて作らなければ──!」

樹「……」フルフル

友奈(樹ちゃんはポケットから一枚の紙を、私たちが書いたあの時の寄せ書きを……取り出して、ペンを走らせる。……いつも大事に持っていてくれたんだね……)

樹『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ』

友奈(……うん。そうだね、樹ちゃん)

友奈「風先輩、私も同じです。だから、勇者部を作らなければ、なんて言わないで下さい」

風「……っ……」

風「……あぁ……あぁぁあぁぁぁ……っ!」

友奈(風先輩の握った拳はどこにもぶつけられることはなくて、風先輩の全てを樹ちゃんの小さい身体が包み込み、決して離さないように抱きしめていた)

友奈(……確か九話のタイトルは"心の痛みが分かる人"でアマドコロの花言葉。今の樹ちゃんにこそ相応しい植物の名前、だったんだね……)




友奈(泣き続ける風先輩を樹ちゃんがなぐさめ続けている。風先輩の優しさが起こしてしまった出来事だから悲しい光景だけど、それでも確かに、あたたかい時間はそこにあって──)

友奈(突然、目の前に私たちのスマホが現れた。緊急速報のような不快な異音が鳴り響く。見ると、この場に居る全員、夏凜ちゃんと銀ちゃんのスマホも同じ状態だった)

銀「特別警報発令……と言うことは──!?」

パァーッ

友奈("私が行かないと!"と思った時には、鮮やかな色が世界に広がり、私たちは樹海の中に居た。……風先輩を止めることはできた。なら、私が今行うべきことは──)

夏凜「──しっかりしなさい、私! 緊急事態だとしても、まずは状況確認よ。バーテックスの一体や二体私が──え……? なによ、これ……」

友奈(皆の居場所を示すいつものスマホの画面は、半分近くが真っ赤に染まっていて、その赤い点全てがバーテックスだと私は知っている。──東郷さんの名前は画面の一番端、私たちと最も離れた場所にあった)

友奈「東郷さん……!」ダッ

夏凜「待ちなさい! 友奈!」

友奈(いても立ってもいられず、私は駆け出していた。後ろに夏凜ちゃんの気配は感じていたけど振り返る余裕なんてなかった)

友奈(進み、大量のバーテックスが壁の穴から侵入してくる姿を目の当たりにする。アニメで見た時よりとは比べ物にならない、本能に訴えかけてくるような恐怖があった。心臓の中で冷たい感触だけが広がっていく。──でも、壁のそばには私が探していた人も確かに居て)

友奈「東郷さん! ──え……?」

友奈(アニメで見た覚えのある武器を構えた東郷さんの後ろ姿。そこからさらに奥、私のよく知る人が……壁の上で、東郷さんを見守るように立っていた)

友奈「ぐん、ちゃん……?」

友奈(勇者姿になったぐんちゃんが、何故か目の前に居て──今更ぐんちゃんの端末が私たちのスマホに表示されていないことに気付いてしまう──違う! 今はそんなことはどうでも良くて──!)

夏凜「何やっているのよ東郷! まさか千景もなの!?」

郡千景「……」

東郷美森「……見ての通りよ、夏凜ちゃん。壁を壊したのは、私よ」

夏凜「な……っ! 何を言っているのか、分かっているのあんた!?」

友奈(夏凜ちゃんはもう追い付いていて、夏凜ちゃんの言葉に東郷さんはアニメで聞いた覚えのある言葉を返している。でも、そんなやり取りすら満足に私の耳へは入って来なくて……ただ私は、ぐんちゃんに向かって)

友奈「ぐんちゃん……どうして、ここに居るの……?」

友奈(私の口から辛うじて出た問いに、ぐんちゃんが初めて目を合わせてくれる。いつものぐんちゃんの優しい瞳だった。だから安心してしまう。……だけど)

郡千景「……そうね、言葉にするなら物語の行く末を見届けるために、かしら。……私は東郷美森を止めることなく、こうして今も見過ごし続けている。言わば彼女の共犯者と言っても過言ではないのでしょうね」

友奈(……ぐんちゃんの言っていることが理解できない……したく、なかった)




友奈「ぐんちゃん、何を言って──」

シュタッ

銀「すみません樹さん、運んでもらっちゃって。……まったく千景さんったら今更そんな悪ぶらなくても良いでしょう?」

友奈(銀ちゃんが樹ちゃんに抱えられて、私の隣までやって来る。その後ろには──頭がごちゃごちゃな私だけど、これだけは本当に……本当に"良かった"と、心の底から思えて……私は嬉しかったんだ)

千景「事実を言っているまでよ、三ノ輪さん。……それにしても、まさかあなたまでこの早期に姿を見せてくれるとはね」

千景「……ねぇ、風先輩?」

友奈(今やって来たのは樹ちゃんと銀ちゃんだけじゃない。風先輩も居て、自分の足でこの場に立っていた)

風「……」

風「……みっともない姉で、本当にどうしようもない部長だけど……樹が、私の妹が、前を向いているのよ……。あの樹がよ……? だったら……姉であるアタシが、ずっと下を向いて座っているわけには、いかないでしょ……!」

千景「……そう。少なくとも私の知っている同じ時間の風先輩よりも大分マシな顔になっているようね」

風「……私が道を間違えたら皆が正してくれた。本当に言われた通りになったのよ。……あんたから貰った言葉にもアタシは勇気づけられた。だから、アタシにもう一度前を向かせる、そのきっかけをくれたのは、間違いなく千景なのよ!」

千景「……相変わらず素直過ぎて、お人好しも過ぎる人ね」

友奈(……私は風先輩に頼ってばかりだったけど、風先輩は、ぐんちゃんにだけは弱音を見せていて……いつも敵わないなって勇者部の皆はこっそり思っていたんだよ……? 多分形は違うけど、二人は私と東郷さんの関係に近くて……ぐんちゃんは風先輩にこうして何かを行ってくれたから、風先輩は立ち上がったんだ……)

友奈(……まだ何もできていない私と違って、ぐんちゃんはもう……風先輩を守っていたんだね……。……それなら私は? 風先輩を止めたのが本当はぐんちゃんなら、何もできなかった私は今東郷さんに何ができるの? そう思った瞬間、頭の中にもやが掛かり、アニメの結城ちゃんがどんな行動をしていたのか、私は何故だか思い出すことができなくなってしまう)

風「で、これは千景の望む未来に必要なことなの?」

千景「……さぁ、どうなのかしらね? ただ一つ言えることがあるとすれば」

千景「──それを決めるのは私でなくてあなたたちよ」

友奈(ぐんちゃんの強い意志を感じる瞳が、私を含めた全員を見た。──ここでようやく私は気付く。ぐんちゃんがいつものぐんちゃんで、何も変わっていないことに今更気付いたんだ。……本当に遅すぎるね、私……。だから自分が行わなければならないことも思いつかないし、こうして黙っていることしかできないんだ……。頭の中はさらにグチャグチャになり、私は自分自身がよく分からなくなっていく)

千景「東郷さん。全員が揃ってしまった以上、私も不干渉と言うわけにもいかなくなったわ」

東郷「元々私一人が始めたことよ。それに何があっても私は成し遂げてみせるつもりだけれど……そう言う意味の言葉ではないのよね?」

千景「理解が早くて助かるわ。特別に、犬吠埼姉にも伝えた言葉を聡いあなたにプレゼントしてあげる」

千景「──あなたの信じる道を進みなさい、東郷美森。間違っていたらあなたの仲間が何度だって正してくれるわ」

友奈「……っ……!?」

友奈(ぐんちゃんの言葉にドキリとした)

友奈(だって、私が行うべきことを今教えてもらった気がするのだから。……もやが掛かっていた記憶は少しずつだけど晴れていき、私がここに居る意味をゆっくりと確実に、思い出していく。──私の記憶は私の心に左右されているようだった)

美森「……ありがとう。千景ちゃんはやっぱり優しいのね」

千景「あなたに言われると嫌味にしか聞こえないわ」ハァ…

美森「くすっ。……そうなのね、私はまだ笑えるのね」

友奈(東郷さんから次に私へと、ぐんちゃんの視線は移動する。ぐんちゃんの優しい口調が聞こえてきた)

千景「正直、詳しい事情は分からないわ。けれどね、私も私の願いを叶えるために今ここに立っているの。……元の世界に帰りたいと言う願いは初めから変わっていないのよ。そして、その願いはいつだって──」






千景「あなたと共にあるのよ、高嶋さん」






友奈(真っすぐに私を見つめて、ぐんちゃんは宣言する。私の行うべきことはまた少しずつ見えてきて『ああ、そっか』と思った。ぐんちゃんは、私の正体に……気付いていたんだね……)




美森「……千景ちゃん、あなたに貰った言葉通り私は私の信じる道を進むわ」

千景「ええ。私もあなたのその選択を否定しないわ」

美森「……やっぱり優しいじゃない……」

友奈(東郷さんは小さくそう言って、ぐんちゃんに向けていた視線を別のところへ、銀ちゃんへと向ける)

美森「銀。あなただけは何があっても今一時は絶対にそこから動かないで。一生で一度だけの……東郷美森と鷲尾須美からのお願いよ」

銀「……須美にまで頼まれちゃ、それは聞いてあげるしかないよな」

美森「ありがとう、銀。私の精霊二体を置いていくわ。絶対にバーテックスには手出しをさせないよう厳命しているから安心して」

友奈(東郷さんが銀ちゃんにしたお願い事の理由を、私は多分理解していたのだと思う。今度は私たちに向かって東郷さんは言った)

美森「──私が壁を壊した理由を知りたい人はついて来てください」

友奈(東郷さんとぐんちゃんが壁に向かって進んで行く。すぐに姿は見えなくなった。壁を越えたんだと思う。銀ちゃん以外の全員は二人を追いかけて行き、そして──)

友奈(炎とバーテックスしか存在しない世界が、目に飛び込んできた)

夏凜「……なによ、これ……?」

樹「……!」

風「……まさか、樹海化の時みたいに、アタシたちどこかに飛ばされたの……?」

美森「違いますよ、風先輩。これが世界の真実の姿なんです」

千景「……この神樹と言う箱庭世界は揶揄抜きに箱庭だったのよ。世界規模の結界にこの四国は覆われていて、そのまやかしがなくなってしまえば……今、あなたたちの目に映っているありのままの日本、地球の姿が見えてしまうのよ」

夏凜「……う、そ……」

美森「偽りであったのならどれだけ良かったか……。神樹によって私たちは都合の良い世界だけを見せられていたに過ぎないの」

友奈(知っていたはずの私でさえ思わず絶句してしまうほどの光景。太陽のような大地と、無数にうごめくバーテックスたちの群れに鳥肌が自然と立ち、地獄と呼んでしまいたくなる程の世界が、どこまでも延々と続いていた)




美森「……分かってもらえたと思います。世界は滅んでいるに等しく、偽りの小さな世界を守るためだけに私たちは戦い……これからも散華を繰り返していく。そんな救いのない物語の真っ只中に私たちは居るんです!」

友奈(もしかしたら私は、今の東郷さんに返せる言葉を持っていたのかもしれない。だけど、本来なら知るはずのない未来を知っているからこそ言える言葉であって、あまりにも無責任と卑怯が過ぎているように思った)

友奈(私は出かけた言葉を飲み込む。すると……。ふと、何故私がここに居るのか、その理由をまた思い出せなくなりかける。今も思い出している途中なのに! 必死に奥歯を噛みしめてこらえた。……何を決意して、ここに居るのかもう一度思い出すんだ! そして、自分の行うべきことを行え! 高嶋友奈!)

夏凜「そ、それでも……私たちは世界を守らなくちゃいけなくて──」

美森「夏凜ちゃん! あなたは大赦の道具にされていたのよ!? それでもまだ大赦のために戦うの!?」

夏凜「私が、大赦の、道具……?」サァー

風「……アタシも大赦には思うところがあるし、今も全然許せてない。だけどね! それでもアタシはこの世界を守るわ! だって、アタシたちの住む世界には樹や皆、東郷あんただって生きて生活していることに変わりはないのだから!」

美森「……っ……!」

美森「わ、私たちは生き地獄をこれからも味わい続けるんですよ! そんな生き方のどこに幸福なんてあるんですか!?」

樹「……」フルフル!

千景「そう、樹さんは東郷さんの考えを否定するのね……」

美森「樹ちゃん……。こんな目にあってまで何故、この世界を守ろうとするの……?」

友奈(皆が自分の意思を示していた。私は自分の知識を卑怯だからと言って、このまま黙っているの? ここに居る意味はそんなことのためなの? 高嶋友奈はそれで良いの? ……良いはずがない! 私は高嶋友奈だけど、間違いなくこの世界で二年間、結城友奈として生きてきたのだから! だから、私は思い出す、思い出した! 自分がここに居るその意味を! 私は──)



友奈(私は東郷さんの心を守るために! ここに居るんだっ!)



友奈「──東郷さん。私は皆と、東郷さんと暮らしているこの世界が、本当に好きなんだ。皆と過ごした勇者部が、その活動で出会ってきた人々が、友達が、クラスの皆が、近所の人が、お義父さんお義母さんが……みんなみんな、あたたかくて優しくて、こんな私を受けて入れてくれて……だから! だからね!  心の底から私は皆が大好きなの!」

友奈「私はこの世界を守りたい、ううん、守るよ。東郷さんが居る私たちの生きる世界を、私は守りたいんだ!!」

美森「どうして分かってくれないの、友奈ちゃん……? 戦い続ければ、大切な人との記憶さえ忘れてしまうのよ! どれだけの宝物であっても、幸福な思い出であっても全部、全部! 私たちは忘れてしまうのよっ! 私は忘れたくなかったはずなのに!!」

友奈「……っ……!」

友奈(心で強く決意していてもその言葉は痛かった。本当なら東郷さんにきちんと"違うよ"と返したかった。だけど、私は忘れることの怖さを多分誰よりも知ってしまっていて、今だってポロポロと記憶はこぼれてしまっている。一秒後には自分が高嶋友奈であることを忘れてしまうかもしれない。だから、東郷さんの気持ちが痛いほど分かってしまうから、私はどうしても言葉を作ることができない……。でも……東郷さん止めたいと思う気持ちは本当で……私は、私は……っ!)

ポン

友奈(いつの間にか隣まで来ていたぐんちゃんが、私の背中を優しく叩いてくれる。不思議と心が穏やかになり、頭の中が落ち着いていく。……きっと私はぐんちゃんに力を貰ったんだ)

千景「おそらくね、私と結城さんほど東郷さんの気持ちを分かる人は……そうね、後は三ノ輪さんくらいのものでしょうね。……そのことだけは覚えておいて欲しいものだわ」

美森「何を、言っているの……?」

友奈(東郷さんには答えず、ぐんちゃんは私にだけ聞こえる小さな声でささやいてくれた)

千景「高嶋さん、"こちらのこと"はお願いするわね。だから"あちらのこと"は私に任せておいて」

友奈(そして、ぐんちゃんは一瞬だけど、一緒に暮らしていた時の懐かしい、あのいつもの日常のように──)

千景「……」フッ

友奈(ささやかな笑顔で、確かに笑ってくれたんだ。──多分、私とぐんちゃんの歩いてきた道がもう一度交わった、そんな瞬間だった)




千景「世界の真相は分かったのだから、ひとまず壁の中に戻りましょう。あまりにもバーテックスだらけで生きた心地がしないわ」

美森「……そうね」

友奈(バーテックスを倒しながら、私たちは壁の内側に戻ってくる。壁の中のバーテックスは神樹様を目指しているのか、私たちには見向きもしていないようだった)

銀「ありがとな、お前たち。東郷さんの元に帰りな」

友奈(樹海に残る銀ちゃんを守っていた精霊たちが東郷さんの元にやって来て、そのまま消える)

銀「千景さん。バーテックスの進み具合的にはまだ余裕はありますけど……もしかしてそろそろ出番ですか?」

千景「ええ、もうすぐよ。何なら準備運動でもしておきなさい」

銀「へへっ。ようやくかー」イッチニーサンシー

友奈(ぐんちゃんと銀ちゃんはまるで部室に居る時のような会話をしていた。だけど、樹海の中に戻ってきても、外の世界の惨状と目の前の光景はそれほど変わっていない。そして、東郷さんと私たち、お互いが向かい合う姿も一切変わっていなかった。……ううん、私の心は確かに変わっていて、今度こそ東郷さんと向かい合える自分になれると思った。思い込むことにした)

友奈(だって、もう一度同じ道に立ってくれたぐんちゃんと一緒だから、私はもう揺るがないはずだから! ……昔のように私はもう逃げ出したりなんか、しない……!)




千景「──さて」

友奈(私が心を決めたのと同じ頃、不思議と通るぐんちゃんの一声が皆の視線の集めていた)

千景「それぞれの想いがあり、世界を守るか壊すかの二論があることは全員理解出来ているのでしょう? なら、勇者部らしく話し合いをして結論を出すことがあなたたちのそれこそらしさだと私は思うわ。悩んだら相談、五箇条に掲げている以上その言葉を否定するような無粋な人は居ないことでしょうし……」

友奈(最後の言葉はあえて言ったのだと、ここに居る皆は多分理解している。でも、ぐんちゃんがこうして話している理由を誰も理解できていないと思う。私もそうだった)

千景「話し合いの時間制限としてはおそらく十分ともう少々……その程度しか与えてあげられないことだけは申し訳なく思うから謝っておくわ」

風「千景……? あんた何を言って……?」

友奈(風先輩の疑問には答えず、ぐんちゃんは話を続けていく)

千景「この世界の大人はバーテックスとの戦いに勇者と言う名の子供を使っている。大人は勇者になれないと言う理屈はあるのでしょうが、私が過ごしたこの一ヶ月でさえ分かってしまうことは多々あるのよ。代表的なものを挙げれば、全てのやり取りをメール一つで済ますと言う悪癖。聞こえの良い言葉を使うのであれば、勇者部に全てを一任しているのでしょう」

夏凜「……千景……?」

友奈(言葉は冷静なのに、ぐんちゃんは怒っているんだと私は思った)

千景「つまり、この世界の運命は大人ではなく子供の手に全てが委ねられていると言っても過言ではないわ。……正直そこにも色々思うところはあるのだけれど、私見はこの際置いておきましょう。──委ねられているのだから、ここから先の未来を決める権利はあなたたち勇者にあるのよ。犠牲を払って戦い続ける勇者部にその権利がないとは絶対に言わせない。今更大赦ごときに口は挟ませないわ」

樹「……」コクン

友奈(もしかしたら樹ちゃんはぐんちゃんの言いたいことを理解していたのかもしれない。ぐんちゃんの言葉に頷いていたのは樹ちゃんだけだった)

千景「……樹さん、あなたは本当に強いわね。勇者部の中で誰よりも成長して、勇者部で育んできたものを強さとした。私はそれをとても尊いことだと思うわ。……どうか、その心の強さを皆の出すであろう結論の手助けとしてあげて。きっとどちらの結論になったとしても傷つく人は生まれてしまうはずだから」

友奈「……」

友奈(私はまだぐんちゃんの言おうとしていることを半分も理解できていないだろう。だけど、私はぐんちゃんを信じていて、ぐんちゃんはこんなにも何もできていない私を今も支え続けてくれている。だから、私が訊ねることはたった一つ、これだけだ)

友奈「ねぇ、ぐんちゃん。何かを、行う気なんだよね?」

千景「……」

友奈(ぐんちゃんは答えてくれなかったけど、それが答えだった。なら、私はぐんちゃんの手助けをして、その上で私の決意を果たすことにした)

千景「……中学生くらいの大人になりきれていない子供に、世界の命運を託すなんて頭がどうかしていると思うし、今こうして結論を出さなければならないあなたたちは本当に良い迷惑でしょう。そして同時に、酷い役回りだとも思うわ」

千景「それでも、ここに居るのは勇者部のメンバーだけしかいないのよ。無責任を押し付けられた立場であっても、結論を下す重圧が如何に過酷であったとしても、最早あなたたちが決めるしかない状況よ。……世界を壊すか、それとも守るか、どちらの結論になろうとも、あなたたちが出した答えであれば……私は全て受け入れるし、それが正当な私の立場とも言えるわ」




風「……ごめん、千景。アタシはあんたの言っていることを半分くらいしか理解できていないと思うけどさ、一つだけ聞いても良い? さっきから"あなたたち"って、何で千景だけ他人事みたいになっているの? 千景は間違いなく勇者部の部員で、私たちの友達でしょう?」

銀「あー、その、すみません……。実はアタシも千景さん側になってしまうで、それに関してはアタシも一緒なんですよ。……でも、アタシも千景さんも風先輩の言っていることはちゃんと理解しているんで、今は信じてもらえるとその、助かります」

風「……信じることも部長の役目って、アタシも中々に大変なものよね。……良いわ、信じてあげる。と言うかいつだって信じているわよ、千景のことも銀のこともね!」

千景「……まったく恥ずかしい台詞だこと」

銀「いやー、さっきまでの千景さんの台詞も中々でしたよ?」

千景「三ノ輪さん!」

銀「やばっ! 口が滑った!?」

美森「……待って、待ってよ千景ちゃん! あなたは銀を巻き込んでいるの……? ……本当に何をする気、なのよ……!」

千景「少なくとも誰の損にもならないことよ。……そして、あなたはこの状況においても力づくに出ることはなかった。一番の不安要素であった東郷美森が話し合いの場に立ってくれることを今になってようやく確信出来たことは、僥倖よ。……おかげで最悪の選択をしなくても済んだわ」

美森「……」

千景「沈黙は許容と捉えるわよ? ……では、話を戻しましょう。バーテックスの大群は鈍足ながら今も進軍を続けている。目測であっても、神樹へたどり着くまで多くの時間があるわけではないことは明らかね」

千景「とは言っても、こうして言葉を交えることが出来るだけの時間は何とか許されている。でなければこうして悠長に私たちは言葉を交わしていないわ。それでも、そろそろ戦闘に移らなければいけない頃合いであることも事実。一方で、戦闘をしていては話し合いなんてまともに出来ないことは自明の理でしょう?」

千景「……いい加減私らしくない長台詞にも飽き飽きしてきたわね。そんなわけで、ここでようやく本題よ。あなたたちがどちらの結論を出すにしても、今この時世界が滅びてしまうことだけは誰の本意でもない。──だから、これは役割分担の話になるのよ」

友奈(……私にも話が見えてきた。正直、ぐんちゃんが心配でないと言えば嘘になる。だけど、私はぐんちゃんと銀ちゃんを信じていて、ぐんちゃんも私を信じて"こちら"を任せてくれた。だから、私は私が行うべきこと行ってぐんちゃんに応えよう)




銀「ってことで、アタシと千景さんがバーテックスを食い止めます。だから、皆は話し合って、一番良い結論をどうか出してください。アタシと千景さんだけ話し合いに参加しない理由は他にもあるんですが──今はこれで納得してもらえると助かります」

美森「銀っ! 何を言っているの!? そんなこと……いえ、そもそもあなたは変身すら出来ないのだから──」

銀「東郷さん、今度はアタシの一生に一度のお願いを聞いてもらう番ですよ? アタシがこれから行うことを見逃してください。──もう嫌だな、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それにこれは、アタシたち、三ノ輪銀と鷲尾須美、乃木園子がもう一度未来を掴むために必要な、折角のチャンスになるんですから、逃す手はないってね!」

美森「……っ……銀、あなた……」

友奈(東郷さんはそれ以上何も言えず、銀ちゃんは何故か夏凜ちゃんの前に進んだ)

銀「夏凜さん。申し訳ないですけど、刀を一本お借りできますか?」

夏凜「……あんたまさか、それで戦うつもりなの? 無謀よ! そんなことに貸せるわけないでしょ!」

銀「いくらなんでもアタシもそこまでじゃないですよ。それに今のバーテックスが神樹様だけを目指して進んでいるとは言っても、流石に護身用の武器くらいないとアタシの身も危ないです。そうは思いませんか? さっきみたいに精霊を借りるのって、本格的な戦闘中だと無理でしたよね?」

夏凜「……一理は、あるわね。……はい、一刀預ける。私の判断で、刀を消すことができるってことは覚えておきなさい。あと、それはちゃんと返してもらうから」

銀「あはは、最後の部分はちょっと約束できないです。でも、その代わりと言ってはなんですが──お見せしますよ」

友奈(そして、銀ちゃんの顔がいつもの元気な女の子のそれから、──のそれへと変わる)



銀「"今の"三ノ輪銀が行う、最初で最後の変身を!」



友奈(……ああ……)

友奈(どうして私は今の今まで忘れていたんだろうか……? 少し前までの私なら覚えていたのかな? でも、少なくとも、今の私がこの瞬間思い出したことに何も変わりはないんだよね……。銀ちゃんの強い意志を秘めた瞳を見て私は、はっきりと思い出していた。……二年前、同じ瞳をした勇者に……そうだ、私は強く憧れたんだ!)



銀「行くぞ──鈴鹿御前」



夏凜「見たことのない精霊……! 何で? 何で銀のところに!?」

千景「私の手甲は精霊の集合体なのだそうよ。なら、その一片は一精霊程度になってもおかしくはないでしょう? 破片しか取り出せなくて、繰り返し使うことの出来ない消耗品にはなってしまったけれど、この一幕で使うのならそれで十分。精霊と"本来の三ノ輪銀"が所有した勇者装束の一部、その媒体さえあれば、勇者への変身は十分可能となるのよ。……初代勇者が残していた書物からもそれは明確な事実で、すでに実証も済んでいる」

千景「だから」



銀「──これがアタシたちの初陣だッ!」



バシューッ!

千景「三好夏凜、目に焼き付けておきなさい。先代勇者三ノ輪銀のその姿を!」

夏凜「ま、まさか……銀が、私の……!?」

友奈(銀ちゃんの全身が一瞬にして炎に包まれる。だけど、その火はさっきまで見ていた地獄のような炎じゃなくて、力強くて優しい赤。銀ちゃんの魂のように美しい炎がさらに激しさを増した。三つの勾玉模様が宙に浮かび上がり、回転しながら炎をさらにまき散らしどんどん加速していく)

友奈(そして、炎の中から人影は現れた。赤い装束に身を包んだ──そういうことだったんだね──夏凜ちゃんと同じ服の勇者が、そこには立っていて……)



銀「──今度こそ守ってみせる! そしてアタシは、皆と一緒に帰るんだッ!」



友奈(二つの大斧を構えた勇者としての銀ちゃんが、目の前に居る。それは、私が憧れた勇者との二年ぶりの再会、だった)




銀「やっぱり懐かしい感じがするんだよな……。こう言うのが身体で覚えているってやつかな?」

友奈(銀ちゃんは一瞬だけ複雑な表情を見せたけど、すぐに勇者の顔へと戻ると)

銀「千景さん、先陣はアタシに任せてくれるって約束でしたよね?」

千景「ええ、約束を違えるつもりはないわ。私もすぐに後を追うつもりだけれど……少しの間だけ任せても良いかしら?」

銀「……はい! 三ノ輪銀、確かに任されました!」

友奈(そして、銀ちゃんはぐんちゃん以外の全員に向かって)

銀「みんなの出す結論、アタシも全部受け入れますよ。だから、ここはアタシに任せてください──ねっ!」タタッ!

美森「銀っ!」

風「待ちなさい銀! あんた一人じゃ──!」

友奈(銀ちゃんは振り返らず、横顔だけで笑って、真っすぐに駆けていった。……大丈夫、私の知っている銀ちゃんは誰よりも強い人で、私が憧れた人なんだ)

千景「あなたたちが追いかけてしまったら三ノ輪さんの想い、その全てが無駄になってしまうのよ。増して、話し合いの出来なかった原因が自分だったら尚更ね」

友奈(ぐんちゃんはこの場に居る誰よりも銀ちゃんを信頼しているんだね……。銀ちゃんの後ろ姿を決して見ることなく、ぐんちゃんは言葉を続けた)

千景「それにあの勇者服、消耗品の力とは言え、以前の私が行った切り札開放時、その五割増し以上の力が今の三ノ輪さんには宿っているのよ。いえ、消耗品と割り切ったからの力と言えるのかもしれないわね。さらに、本来の自身の武器も加味したことで戦闘能力が向上しているようにも見えたわ。……とは言っても、多勢に無勢では限界が見えていることも確か。──だから、私も参戦するのよ」




友奈(ぐんちゃんは私に一度だけ視線を向けた。壁の外で伝えてくれたことの再確認だったと思う。私は頷く。ぐんちゃんは満足そうに少しだけ口元を一瞬だけ緩めていた。すぐに元のぐんちゃんに戻り)

千景「風先輩。酷な話だとは思うけれど、時間にして十分程度で勇者部の結論を出しなさい。その間、私と三ノ輪さんで何があっても神樹を死守してみせるわ」

風「……夏凜みたいに無謀だって言いたくなるけど、千景のことだから考えあってのことよね?」

千景「……あなたにしては分かっているじゃない」

風「ふふーん、アタシもそろそろ千景マスターを名乗れるかもしれないわねー」

千景「過言ね」

風「もう、相変わらずつれないわね……。……冗談は置いておくにしても、死守なんて言葉は使わないで。どうしても戦うんだったら、絶対に生きてアタシたちと再会すること! それ以外のことに関してはこの際目をつむるわ。……いいえ、違うわね。……どうかお願いね、千景」

千景「……分かったわ、約束しましょう。こう見えても私は約束を守る性質なのよ」

風「……ええ、良く知っているわ……。それと、アタシを風先輩と呼ぶ理由、帰ってきたら教えなさいよ?」

千景「……善処するわ」

夏凜「盛り上がっているところ悪いけど、戦うなら私も行くわ!」

千景「この話し合いはきっと三好夏凜、あなたにとっても大切なものとなるはずよ。それに、前までのあなただったら有無を言わずに、今頃バーテックスへと突撃していたはずでしょう? ここは私と三ノ輪さんに任せておきなさい」

夏凜「……くっ……! わ、私は──」

樹「……」クイクイ

夏凜「樹……? ……何よ、あんたまで千景の言う通りにしろって? ……はぁ。私はいったいどうしちゃったのかしらね……?」

千景「それが答えなのでしょ?」

夏凜「ああ、もう! あんたたちに任せる! 以上!」

千景「ええ、任されたわ。樹さん、この完成型勇者の面倒もお願いね」

樹「……!」ハイ!

千景「──もう油を本当に売っている暇はないのだけれど、東郷さんにも最後に一言だけ。あなたの考えはもしかしたら退廃的な思考なのかもしれない。だけど、神樹に与えられるだけの世界で、一人の人間として決断を下したことは誇っても良いことのはずよ。少なくとも、私はそう思うわ」

美森「……」

美森「……ずるいわ。これじゃあ、何もかも千景ちゃんの手のひらの上じゃない……」

千景「世の中何事も自分の思惑通りにいかないわよ。でも、私がずるいのは認めるわ。……そして、あなたの大切にしている三ノ輪さんをあなたの元に無事返すことも約束しましょう」

美森「……銀のことをお願いね」

千景「ええ──その代わり皆で結論を出しなさいよ?」

美森「……」

美森「……結論は見えているのでしょうけれど……分かったわ」

千景「そう。それじゃあ、行ってくるわ」ダッ!

友奈「……」コクン

友奈(いってらっしゃい、ぐんちゃん。こっちのことは私に任せておいて。──だから、絶対に無事でいてね……)




*樹海・郡千景

千景(当初の計画より、現状は穏やかに進行していた。最悪の想定である東郷さんとの武力でのぶつかり合いは無事回避された。だから、計画の最善パターンを進んでいると思っても間違いないだろう。マイナス思考が標準の私だからその先のしっぺ返しも想像してしまうけれど、現時点ではキリのない雑念にしか過ぎない。今は差し迫ったことだけを考えることにしよう)

千景(目の前には夜空の星に等しいの数のバーテックスたち。前方では激しい金属音と共に三ノ輪さんの激戦が伝わってくる)

千景(ここから先は、三好夏凜が満開を繰り返してなおギリギリだった戦場。それを私と三ノ輪さんだけで何とかしのぐことになる)

千景(先陣を切った三ノ輪さんは鈴鹿御前の力で一気にバーテックスの先頭まで駆けて、神樹前の最前線で戦闘を繰り広げている。精霊の力で強化された視力で三ノ輪さんが約束通り自分を犠牲にしない戦い方をしてくれていることは見て取れた。……でも、双斧の破壊力で何とか留めているが、やはり物量が違う。二分も持たずに押し切られてしまう予想は多分的中するだろう)

千景(だから私も、出し惜しみはせず前回同様最初から切り札を切っていく)

千景(ただし、以前の戦闘でバーテックスに七人御先がほとんど通用しないことは分かっているのだから、それ以上の力の行使でなければ時間稼ぎすらまともに行うことが出来ないのが現状だった)

千景(……手甲の真相を知って以降、この大鎌の内部で何らかのアンロックが行われたらしいと言うのが私の見解。今の私の自力で通常時が切り札発動時と同等程度となっているのが、一つ目の幸運と言えた)

千景(三ノ輪さんの戦闘力もそれに引きずられているからこそ、この瞬間も彼女は戦線を維持出来ているのだ。だから私も──いえ、今は理屈よりも実用的な力が最重要ね。難しいことは放り投げて、さっさと実行することにしましょう)

千景(今から行使するのは七人御先の最奥。切り札のさらにその上の力を私はすでに掴んでいた。上里家の御記で気付いたことが二つ目の幸運で、乃木園子との計画立案時よりも強大な力を振るえる予感がある。──これは自覚が最重要となってくる)




千景「……さぁ、泣いても笑ってもこれが最後の戦いね」

千景(バーテックスたちは私を無視して神樹へと進んで行く。こいつらの注意が向いていない今だからこそ、私は自身に集中出来た。これが三つ目の幸運。勇者同士の戦闘が起きていないせいか、アニメよりもバーテックスたちは大人しかった)

千景「でもね、バーテックス。それがあなたたちの不幸よ。──勇者部にほだされた私の力、甘く見ないことね」

千景(切り札に面倒な文言等は最早必要ない。私はすでに知っているのだから。切り札の最奥はすでに開かれていた)

千景(そして)

千景(これこそが真なる七人御先の力。──今こそ私はその言葉を高らかに叫ぶ!)






千景「──満開! 七人御先!!」






千景(切り札を満開すること、それは手甲にまとめられた精霊の力を消費し、転じて犠牲にする諸刃に等しい禁忌を超えた何か。おそらく、この戦闘が終わるかその前に私は二度と変身が叶わなくなり、同時に自分自身も──いえ、今は考えないことにしていたのだったわね)

千景(……こうして私の中で封じられていた扉は開かれ、郡千景と言う"一"は今、"七"へと姿を増す。けれど、それは明確にかつての七人御先のあり方とは違っていて──)



??「流石のタマも驚いたけど、あえて言うからな! タマに任せタマえ!」

??「もう、タマっち先輩は変わらないんだから……」

??「……中々に不快な状況のようね」

??「でも、私はぐんちゃんにまた会えて嬉しいよ?」

??「……まさか私までお呼びいただけるとは思ってもいませんでした」

千景(私と同じ姿をした者は一人だけ。残りの六は似ても似つかない存在。そして、七つ目の人影は私を見てすぐに)

??「──すまない、千景。私は……」

千景「……謝罪なら後で聞くわ。今は目の前の敵に集中しなさい。あなたも同じ立場ならそう言ったのでしょう。ねぇ──」



千景「乃木さん?」



乃木若葉「……ああ、その通りだ。まったくその通りだったな」

千景(彼女は頷き、かつての、バーテックスと戦ったあの戦場と同じように、自身の存在を鋭い声でこう示し出した。……相変わらず偉そうなことで)

若葉「──勇者たちよ! 私に続け!」

千景(彼女……乃木若葉は、初代勇者と呼ばれた者たちと共に、今再び戦場へと舞い戻って来た。これが七人御先の真なる力にして、与えられていた本来の役割。そして)

千景(──郡千景《私》が選ばれた理由の全てだった)



続く

皆さんのお言葉、本当にありがたく思います。力づけられる思いです

一方で、友奈視点はある程度意図的ではありますが、それも読み手に伝わらなければ意味のないことで、その他全体的に読みづらい文章であるという自覚もあります
全て私の力不足で申し訳なく思いますが、小説ではなく自分自身が気軽に書いているSSであることを少しだけ許容いただけましたら幸いです

続きを投下していきます


千景(手数が七となり、戦闘は急激に拡大していく。七人御先の分身機能ゆえか、呼び出した六人の思考もある程度私の中に入ってきており随時情報を共有出来るようであった)

千景(……この他人の思考が入ってくる感覚、覚えがあるわ。それこそ私が変身する度、切り札を使用した時に感じていた不快極まりないアレと一緒ね。……でもそれでいて、そこに安心感すら覚えてしまうのだから、随分と私も飼いならされてしまったらしいわ)

千景(自分自身に小さく苦笑し、ようやく視点を各自の戦場へと移していた)

土居球子「──旋刃盤! おぉっ!? 昔よりスパスパ敵が斬れるようになってるじゃないか!」

伊予島杏「私の金弓箭も凄い連射性能……! 三百年でここまで進化したってことなんだよね……?」

千景(右翼でバーテックスと距離を取りながら戦うのは土居さんと伊予島さんのペア。七人御先の行使者特権で私は二人の視点を覗いている。どうやら西暦時代から格段に進化した武器性能に驚いているようだった)

球子「それにしても杏。タマたちはずっと眠っていたはずなのに、何で色々分かってしまうんだろうな?」ヤァッ!

杏「タマっち先輩も本当は分かっているんだよね? 私たちは本物の私たちじゃなくて、コピーのような存在だって。だからこうして、必要な知識は千景さんのものを共有しているんだよ」ハァッ!

球子「やっぱりタマの勘違いってわけにはいかないのかぁ……。でも! タマたちがやることは変わらないよな、杏!」

杏「うん。こっちの千景さんが頑張ってくれたんだから、今度は私たちが頑張る番だよ!」

球子「おっ! 杏も言うようになったじゃないか!」

杏「……今度こそ皆の足手まといになりたくないから。私もタマっち先輩たちと一緒に戦うんだ!」

千景(……)

千景(これ以上は無粋なようね。戦況確認を済ませ、私は次の視点に移る。反対方向、左翼には──)




もう一人の郡千景「……自分がもう一人居るなんてほんと忌々しいことだわ。その上、私のドッペルゲンガーの手足になって戦わされるなんて不快の極みね」

もう一人高嶋友奈「もう、ぐんちゃんは素直じゃないんだから……。こっちに居るぐんちゃんのこと、本当は嫌いじゃないよね?」

もう一人の千景「……いくら高嶋さんでもその言葉は聞き捨てならないわ」

もう一人の友奈「前に言っていたどーぞくけんおってやつなのかな、もしかして? でもね、ぐんちゃん。私はここに来ることができてとっても感謝しているんだよ? さっきも言ったけど、また皆と……ぐんちゃんに会えたんだから」

もう一人の千景「……」

もう一人の千景「……高嶋さんともう一度会えた、そのことだけは……そうね、感謝しなくもないわよ……」ハァッ! ─ズバッ!

もう一人の高嶋友奈「……うん。本物の私たちは最期に会うことさえ出来なかったものね」ヤァーッ!

千景(言葉を交わしながら、私と高嶋さんに瓜二つの二人が、拳と大鎌で密集するバーテックスたちを殲滅していく。……いいえ、乃木園子の言った枝分かれした可能性論がもしも正しいのだとしたら、どちらも私たち自身と言えるのかもしれないわね……)

もう一人の千景「──郡千景」

もう一人の千景「私たちを盗み見ているのでしょう? そう言う下劣なところが、私は生まれた時から嫌いなのよ。だから覚えておきなさい。私はあなたのことが大嫌いよ」

千景『……奇遇ね。私も同じ容姿をしたあなたが大嫌い。これで東郷さんに次ぐ二人目よ、光栄に思いなさい』

千景(距離は離れていたけれど、私はもう一人の郡千景と会話をしていた。これも行使者特権の一つだ)

もう一人の千景「……心の中で自分と同じ声を別人から聞くなんて、気持ち悪いことこの上ないわね」

千景『それに関しても同意見ね』

もう一人の友奈「ぐんちゃんがお世話になっています! 高嶋友奈です! ……あれ? でも、どっちもぐんちゃんだよね? あ、あれ……? 私、ぐんちゃんのことは何て呼べば良いのかな?」

千景・もう一人の千景『ぐんで構わないわ』

千景・もう一人の千景『……ちっ……』

もう一人の友奈「わっ、凄い! ぐんちゃんの声が二人分重なったよ!」

千景『……あなたたち二人のことはもう確認する必要さえないわね。そちらの高嶋さん、私の出来損ないのことを後はよろしくお願いするわ』

もう一人の友奈「うん! こっちのぐんちゃんのことは任せてね。もう一人のぐんちゃん!」

もう一人の千景「た、高嶋さん……。あなた、高嶋さんをダシに使って恥ずかしくないの?」ギロッ

千景『うるさいわね。同じ私なら自分の仕事を黙して実行なさい。……健闘だけは祈ってあげなくもないわ』

もう一人の千景「口の減らない奴! ……私と高嶋さんがここに居る意味を無駄にすることは絶対に許さない。肝に銘じておきなさい」

千景『……当然でしょ。いい加減視点を移すわよ。……精々頑張りなさい』

もう一人千景「ふん……」

千景(もう一人の自分の不服そうな音を最後に聞き、私は視点を最後の一組へと向ける。……口が減らないのはどっちよ?)

千景「……」

千景(それでもドッペルゲンガーを相手にして自分の口元が僅かに緩んでしまうのだから、ほんと私も変わったものよね……)




千景(戦場の最前へと向かっているのは乃木さんと巫女である上里さんだった。巫女の性質上、実質乃木さん一人で道を切り開いている形となる)

上里ひなた「……若葉ちゃん、ここまでですね。これ以上は私の存在が邪魔になってしまいます」

若葉「……すまないな、ひなた。この先に居る相手には私も全力を尽くさなければならないようだ」

ひなた「良いんです。こうして、再び若葉ちゃんと会えたことが何よりの喜びだったのですから。……後はよろしくお願いしますね」

若葉「ああ、任せておけ」

ひなた「……そして、千景ちゃん。直接謝罪することができなかったことも含めてお詫びいたします。本当にごめ──」

千景『上里さん、その謝罪はいらないわ。……どうやら私自身が、ここまでのことをそれなりに悪くない……と私らしくなく、その、思っているようだから……ね』

ひなた「……そうでしたか。それなら私からは感謝の言葉を。ありがとうございます、千景ちゃん」ペコリ

千景(私の姿は見えていないでしょうに、最敬礼とは律儀なことね)

千景『……機会があればまたどこかで、上里さん』

ひなた「はい。その際は良しなに」

千景(これが私たちの短い別れの言葉だった。そして、巫女である上里さんが消えることで七人御先は六になってしまうと私は思っていたのだが──)

ひなた「では、若葉ちゃん。私はあの方と交代します。……どうか、その想いを必ず果たしてください」

若葉「……ああ、約束する」

千景(上里さんが最後に笑んで消える。けれど、入れ替わるように別の人影はすでに立っていて、その人は……)

??「……それで私が呼び出されたわけですか。これは不思議な体験と言ってしまっても良いのでしょうか?」

若葉「そうですね。ですが、これは縁ゆえの必然です」

??「……こうして直接お会いするのは初めてですね。あなたが乃木若葉さんですか?」

若葉「はい。お初にお目にかかります、乃木若葉です」

若葉「そして、諏訪を守った偉大な勇者にこうしてお会いできて光栄に思います」

白鳥歌野「……それはあまりにも過大評価ですよ、乃木さん。ですが、私もあなたに会えたことを嬉しく思います。改めまして、諏訪の勇者──白鳥歌野です」

千景(……そうか! 諏訪の勇者! その名前だけは聞いたことがある。私たちが調査で向かった頃には壊滅していたけれど、諏訪を最期まで守り続けた勇者は確かに居たのだ。それが、白鳥歌野。──たった一人で戦い切った、知られることのなかった英雄が、今戦線へと加わった)




若葉「白鳥さん。旧知を確かめたいところではあるが、状況が状況だ、私たちの置かれている現状は千景の知識で把握しているな?」

歌野「はい。私たちが西暦時代のかつてのコピーであることも今受け入れました。そして、私がこれから行うべきことも理解しています」

若葉「流石白鳥さんだ。──では、正面のあいつらが見えるな?」

歌野「……特に強いのが四体居ますね」

若葉「やはり分かりますか。あれは進化体と呼ばれています。西暦時代は一体だけでも勇者五人がかりが窮地に陥った強敵です。……それがこうも勢揃いとは、な」

千景(二人の前に居並ぶのは四体のバーテックス。十二星座の名前が名付けられた、そこらに大量に居る雑魚とは本来なら比べ物にならない明らかな強敵である。……勇者部がそれほど苦戦なく多数を倒していたためその印象は薄いが、それは現代の勇者システムが強力過ぎるだけの話だった)

歌野「私自身はどれも見たことのない相手になるようです」

若葉「……言われてみれば当然の話でしたね。白鳥さんの時には存在していても不完全な進化体が関の山と言ったところだったのでしょう。──あれらは別格の強さです。十二分に注意してください」カチャ!

歌野「ご忠告感謝します。確かに、一筋縄ではいかない相手のようです」シュン!

千景(乃木さんと白鳥さんが刀と鞭を用いて戦闘態勢へと移行する。……土居さんたちが弱いとは言わないが、この二人は明らかに発している気配が違う。それはある種のスペシャリストだけが持つ特別な気配)

若葉「正直、白鳥さんとこうして肩を並べて戦う日が来るとは思ってもいませんでした」

歌野「ふふっ、私もです。これが運命のいたずらというものなのかもしれません」

若葉「……そうですね。──今日あなたと出会えた幸運に感謝を」

歌野「やはり私たちは同じ気持ちを持つ者同士だったようですね。──乃木さんの隣に立てたことを誇りに思います」

千景(二人の強者はそのまま跳躍の構えに移る)

若葉「では、白鳥さん。行きましょうか」

歌野「はい」

千景(そして、二人は一歩を踏み出し、前方へと飛び込んで行った)




千景(乃木さんと白鳥さんは一度の跳躍で進化体と呼んだバーテックスたちとの距離を大きく詰める。もはや彼女たちの獲物はその射程範囲にあった)

歌野「さぁ、覚悟しなさい! 農業王のプライドに懸けて! 私がお相手してあげるわ!」

千景(……なるほど、先ほどまでの口調はよそ行きだったのね)

歌野「──これが私のオニオンスライスよッ!」ズシャ!!

千景(……驚いた。七人御先で顕界している者たちの戦闘能力は等しく五分のはずである。一人一人で言えば勇者部の勇者一人に大きく劣り、現状の三ノ輪さんと同じ程度の実力と言っても良い。最前線を今も維持する三ノ輪さんであるが、どちらかと言えばそれは回避に注力した戦闘を行っているから成り立つことで、本来中型以上のバーテックスを撃退する際は百を超える手数が最低でも必要だと以前の戦闘から私は割り出していた)

千景(それをたった一撃。経験と技術だけで中型のバーテックスの胴体を両断した。もちろんそれで撃破出来るだけ甘い相手ではないが、それでも強力無比な実力であることに違いはないようだ)

若葉「……野菜の名前とは白鳥さんらしいな。……ふっ、私も負けてはいられない! はぁっ! 一閃緋那汰!!」ザシュッ!!

千景(……)

千景(乃木さんの実力もどうやら白鳥さんに劣らないようだけれど、上里さんの名前を技名として叫ぶなんて……あなたも大概ね……)

千景(呆れもする場面はあったが、こうして六の勇者たちの戦闘は過熱し──目の前にバーテックスの存在しない、一本の道筋が出来ていた)

千景「……行きましょう」

千景(そして、最後の一である私も、七人御先を維持しながら三ノ輪さんの待つ最前線へと向かって行った──)




*樹海の壁前・高嶋友奈

風「なんか知らない人がいっぱい居るわよね……?」

夏凜「あれが、千景の満開……なの?」

美森「友奈ちゃんが、もう一人……? それに千景ちゃんも……」

友奈(……今の私は思い出すことがなくなってしまっていたけど、この世界に来た最初の頃は、よく皆の姿を記憶の中で見ていた。……若葉ちゃん、ひなたちゃん、タマちゃん、アンちゃん……ぐんちゃん、そして、私……)

友奈(ぐんちゃんが満開を行った瞬間、私の頭の中は今までにないくらいスッキリしていた。多分、今の私は全部を思い出せている。……そうなんだね、若葉ちゃん。最初からこうなる予定だったんだね……)

友奈(私が本来知らないはずだったこともどんどん分かっていく。……私が二年前に送られたことは手甲の不具合だったようで、本来ならこの時間に合わせて全てが進行していく予定のはずだったんだ)

友奈(だから、私の記憶がおかしくなってしまったことは、若葉ちゃんが立てた計画に全くなかったことで……ちょっとだけ若葉ちゃんのおっちょこちょいに困ってしまうけど、こうして皆の姿を見ることができて私の心は本当に晴れやかだった)

樹「……?」

友奈「え? さっきまでの私と少し違って見える気がするって? ……そうだね、樹ちゃん。私はようやく本来の私に戻ることができたんだよ。──さぁ、ぐんちゃんたちの頑張りを無駄にしないためにも、私たちは私たちの行うべきことを行おう! そして、世界の、私たちの未来を皆で話し合って決めるんだ!」

樹「……」コクン

友奈(樹ちゃんが頷くのを見てから、私はこの場に居る勇者部の皆へ向かって、もう決して揺るがない私の気持ちを示すように、はっきりと告げた)

友奈「──皆、話し合いを始めよう!」

友奈(ぐんちゃん、私たちの結論が出るまでもう少しだけ待っていて。終わったらすぐに皆で駆け付けるから!)



続く


*神樹前にて・先代勇者『三ノ輪銀』

銀「……すげえ……綺麗に一直線で、バーテックスが居なくなってる……」

シュタッ

千景「待たせたわね」

銀「いえいえ、アタシはまだまだ余裕ですよ! ……ふぅ、はぁっ……! ま、まぁ流石に呼吸はマラソン後みたいですけど……でも、バーテックスの進行が一気に遅くなって大分楽できています」

千景「西暦時代の勇者たちが責任を果たすために戦っているのよ。星座名を持つバーテックス以外は彼女たちの討ち洩らしが神樹前まで来ているだけのようね」

千景(最前線の戦況は落ち着いている。けれど、三ノ輪さんのボロボロの勇者服と、荒れ果てた大地がここで行われた激戦が如何に過酷であったかを物語っていた)

千景「……本当に頑張ったわね、三ノ輪さん。……それでも、申し訳ないけれど、もう少しだけいけるかしら?」

銀「無粋なことは言いっこなしッスよ、千景さん! アタシは最後まで戦い抜くって決めているんです」

千景「……そうだったわね」

千景「──中型以上で一体だけここまで進行してきたバーテックスが居るわ。私たちで討つわよ!」

銀「了解ですッ!」

千景(地面の中を潜り進行してきたのは以前私も対峙した魚座のバーテックス。それが今、地表から浮かび上がりその巨体をもって私たちに向かってくる)

千景「──乱れ裂き地獄花」ヒュン!

銀「わっ! すっげー速さ!? ……アタシも負けていられないってね! ──闘魂星砕き!!」ドカーン!

千景(残像を生じさせる速度の大鎌による連撃と、巨大双斧で一点を叩き切る鮮烈な強打。その挟撃が魚座の長く伸びている白い髭のようなものを両断していた)

千景「どうやら今の私の攻撃力は一から百程度に大幅上昇しているようね。紙を切り裂くよりまだ容易いわ」

銀「へへっ、何でか分からないけどアタシの攻撃力も大幅アップしていますね。おかげで──双斧焔王舞!!」ズシャー!

銀「こうしてこいつの身体さえ叩き斬れるようになったんですから!」

千景(炎を纏う回転を軸にした斧の連撃が魚座の身体を半分に切り裂く)

千景「手甲から生じた精霊ゆえに、本体が近くにあるからこうして強化されていると言うことかしら……? ……っ……!?」

千景(どうやら私の推測は間違っていないようだ。その証拠に私の持つ大鎌から精霊の力の一部が喪失したことを感じ取る。西暦時代の勇者の維持に、三ノ輪さんの強化、私自身の能力の向上……これで代償がなければそれこそ詐欺の類だろう)

千景「けれど、この程度で魚座を撃破出来るのなら安いものよ」



銀「お前のような奴らにアタシたちは絶対に負けない! これでッ! 終わりだぁー!!」



千景(魚座の無機質な胴体は四方に裂かれ、その御霊も光となって神樹へと吸われていく。安堵を一瞬覚えてしまったが、すぐさま気を引き締め直す。──最終防衛ラインである私たちが負けることは世界の終わりに等しいのだから)




*樹海右広域にて・今度こそあなたを『土居球子・伊予島杏』

球子「はぁ……はぁ……大分敵の数が減ってきたんじゃないか?」

杏「……ふぅ……皆が、タマっち先輩が頑張っているおかげだよ」

球子「そんなこと言っている杏のほうがタマよりたくさん敵を倒しているだろ? 相変わらず杏は──っ……!?」

杏「タマっち先輩……? ……ひっ……!」

球子「……サソリ型の、バーテックス!」ギリッ

杏「……っ……」ガクガクガク

球子(……本物のタマたちはこいつに殺された。だから、杏はその時のことを思い出して震えて動けなくなっているんだ……)チラリ

球子「なら!」

球子「ここはタマに任せタマえ!!」

杏「……タマっち、せんぱい……?」

球子「安心しろ、杏。タマがあんな奴すぐに倒してしまうから。──今の強くなったタマならできる!」ダッ!

杏「待って……待って! タマっち先輩!」

杏(……タマっち先輩はまた私を守るために一人で飛び出していってしまった。それなのに私の身体は震え続けていて今も動くことさえできていない。……旋刃盤が弧を描いて蠍座の身体を斬りつける。西暦の頃と違って着実に傷を増やしていくのが見えた)

杏(……タマっち先輩はこのまま勝てるかもしれない。……でも、私はこのままで良いの? 一緒に戦うってさっき言ったばかりなのに私は──)

球子「杏ッ!!」

杏(ハッとして思考から返ると目の前に蠍座の尾が迫っていた。タマっち先輩の旋刃盤が宙を舞っている。蠍座はおそらくその攻撃を回避して、旋刃盤が手から離れた隙を狙ったんだ。迫る鋭い針の光景に私の身体は縮こまってしまい、先ほどよりもさらに動くことができないでいる。……私は前と一緒で何もできないんだね……。あの時みたいな不意ではないから、再び訪れる死がどうしようもなく怖くて──)

球子(タマはまた杏を守れないのか……? ──そんなの嫌に決まっているだろ!!)

球子「輪入道!!」

杏(蠍の尾は私の身体を貫いて──)

ガキン!

杏(……え?)

杏(私の身体は全然痛くなくて、それで、それで──!)



球子「──今度は守れた。大丈夫か、杏?」



杏「……どうして? だって……あれ……?」

球子「旋刃盤もやっぱり凄くなっていたんだな。呼んだらすぐにタマの手元にあったんだ。だから……こうして杏を守ることができた」

杏(私の目の前にはタマっち先輩の小さいけど誰よりも大きくて大好きな背中がある。タマっち先輩の切り札『輪入道』によって大きくなった旋刃盤が盾となって敵の攻撃を防いでくれていた。……タマっち先輩に助けられたのはこれで何度目だろう。もう数えきれないよ……)




球子「杏! チャンスだ! こいつは尻尾がなければマトモな攻撃ができないみたいだ!」

杏(蠍座は防がれてもなお力圧しで旋刃盤を貫こうとしているようで、タマっち先輩の身体にさらに力が入る)

球子「ぐぐっ……! 杏! タマが抑えている間に! 早く!」

杏(……ここまで来ても私はまだ蠍座に恐怖を抱いている。だけど、目の前にタマっち先輩が居て、こうして一生懸命に私を守ってくれていて……)

杏(──だから……だから!!)



杏「今度こそ! 私もタマっち先輩の隣に! 立つんだっ!!」



杏「──雪女郎、私に力を貸して」

杏(身体は動き、精霊憑依による切り札を開放する。金弓箭に急激な冷気が漂う。クロスボウに装填された矢は絶対零度の理を超えて、タマっち先輩と私を除いた周囲の全てを凍らせていく。そして、その絶対零度の塊を私は──蠍座に向けて放つ!)

球子「……なんだよ、やっぱり杏はタマよりも強いじゃないか」

杏「もし私に強さがあるとしたら、それはタマっち先輩が隣に居てくれるからだよ」

球子「……まったく、似たもの同士って奴だな、タマたちは。──よし! 他の敵もタマたちで倒してしまうぞ! 行くぞ、杏!」

杏「うん! タマっち先輩!」

杏(──私たちの後ろでは全てを凍らせた蠍座が、光となってその存在を天に還していた)



杏とタマにはゆゆゆいでも特にお世話になっています
個人的に書きたかった場面でしたので、とりあえず今回はここまでで


*樹海左密集地帯・あなたと一緒だから『もう一人の二人』

もう一人の千景「──七人御先」

もう一人の千景(かつてと同じ感触で切り札は発動された。射手座から放たれた矢の豪雨を、七人御先にて生じた七の私たちがその全てを狩り取っていく。三百年前であれば私の数体は失っていた攻撃。それも今や、一人の私を失っただけで防ぎきることが出来ていた。そして、豪雨の中に一瞬の空白が生まれる。……その隙を待っていたのよ)

もう一人の千景「さぁ、塵殺してあげるわ」シュン!

ザシュ…
ザクザシュザシュザクリ─

もう一人の千景(急速接近のそれ以降、六の私が白の巨体に斬撃を浴びせ続けている。至近距離では敵の得意とする連射も大した脅威とならない。大葉刈は一斬ごとに速度を増し続け、高速はやがて光速へ。黒の光と化した私の斬撃は敵である白の全てを斬り刻み、間もなく射手座は消滅に辿り着く。……御霊とやらもこの状態の私であればそのまま打ち滅ぼせる程度のものようね)フゥ…

もう一人の千景(一息だけつき、私は誰も聞いていないことを理解していてなお、何もなくなった空間に向かって──)

もう一人の千景「……変身解除さえされなければ、私は誰よりも強いのよ」

もう一人の千景(それはかつての恨み言。現身を得たのであれば発してやろうと考えていた台詞)

もう一人の千景(……大社への恨みは今も変わらないが、今が私怨に走るような場面でないことくらい理解している。だからこれくらいの愚痴は良いでしょう? ……かつてと違い穢れを生じさせないこの泡沫の身ゆえ、私の精神はどこまでも健常を保っていて──それが少々以上に憎かった)




もう一人の友奈「わぁ! ぐんちゃん、カッコよかったよ!」

もう一人の千景「高嶋さん……。でも、あなたも瞬く間に乙女座型を倒してしまったのでしょう?」

もう一人の千景(視界の隅で雑魚を倒しながらも、乙女座型を撃破する高嶋さんの姿が先ほど見えていた。おかげで周囲からは一時的に敵の姿が消え失せている。……やっぱり高嶋さんは昔も今も私より──)

もう一人の友奈「なんかね! すっごく良く動けたんだ! 身体の調子がとっても良いよ!」グルグル

もう一人の千景(腕を回して好調をアピールしてくる高嶋さん、可愛い!)

もう一人の千景「……とても気にくわないことだけれど、"アレ"が私たちの力を高めてくれているようね。……ほんと忌々しいドッペルゲンガーだこと)

もう一人の友奈「もう、ぐんちゃんも本当に素直じゃないんだから……って、いっぱい出てきちゃったね?」

もう一人の千景(周囲から消え失せていたはずの敵がまた湧いてきた。ゲームの無限湧きポイントでも気取っているつもりかしら? なら……)

もう一人の千景「丁度良いわ。物足りないと思っていたところなのよ」カチャ!

もう一人の千景(射手座と乙女座の後に雑魚と言う点が不満ではあるが、それでも星に届きそうなくらいの量なのだからこれはこれで難敵と言えるだろう。……ただ、今になってこれだけ敵が増したと言うことは──まぁ良いわ。それこそそれはあちらの私が担う役割よ)

もう一人の友奈「……」

もう一人の友奈「ぐんちゃん。私の背中を任せても良い?」

もう一人の千景(高嶋さんが拳を敵に構え、その背中を……私に、預けて、くれた……)

もう一人の千景「……」

もう一人の千景「こちらこそ私の背中をお願いするわ、高嶋さん」

もう一人の千景(私も高嶋さんに背中を預ける。触れてはいないのに何よりもあたたかい温もりを私の背中は感じていた。……きっと私は、三百年前のあの頃から高嶋さんとこうして戦いたかったのね……)

もう一人の友奈「うん! 行こうぐんちゃん!」

もう一人の千景「ええ! 私と高嶋さんが揃えば敵う者など居ないことを見せつけてあげましょう!」

もう一人の千景(白の大群の中へと私と高嶋さんは一切の躊躇なく突き進む)

もう一人の千景(──まるで負ける気がしなかった)




*樹海中央・強者たちの約束『乃木若葉・白鳥歌野』

若葉「その鞭はもしや、敵を枯れさせているのですか? ──はぁっ!」ザンッ!

歌野「ご名答です。私の藤蔓が化け物への特効を持っているからこそ、私一人であっても諏訪を守ることができました。──やぁっ!」バシッ!

若葉「それは謙遜ですよ、白鳥さん。これだけの実力があると言うのに、武器だけの功としたらあなたの相棒があまりにも負担を感じることになる。──化け物ども、乃木家に伝わる居合い、味わってみるか?」─ヒュン!

歌野「そう言った考え方を持ったことはありませんでした。……藤蔓、ベリーソーリーだったわ。だから、もう少しだけ私に付き合ってちょうだい。ねぇ! マイパートナー! ──必殺! ストロベリィーパニッシュ!」ドゴン!

若葉「鞭一つで広域殲滅とはやるな白鳥さん! それと、ふふっ……私に対してもその話し方で構いませんよ?」

歌野「……それは全てが終わってからにしましょう。乃木さんとこうして話していると、あの頃を思い出してせっかく身が引き締まっているのですから」

若葉「……」

若葉「では、私たちの戦いが終わった時に。……その時は一人の中学生としてお互い言葉を交わしましょう」

歌野「……ええ、約束です」

若葉(それは、互いに理解している果たされることのない約束)

歌野「やぁっ!」バシッ!

若葉「はぁっ!!」ザン!

若葉(それでも、交わされた確かな約束は私たちに力を与え、私の太刀も過去最高の速度で敵を斬り裂いていった──)




*樹海の壁前

球子「なんだ? 敵が引き返していくぞ? さてはタマに恐れをなしたんだな!」

杏「タマっち先輩を怖がったのかはともかく……この辺りの敵は全部あそこに集まっていっている……?」

もう一人の友奈「やっほー、アンちゃんタマちゃん。あっちの敵は全部倒してきたよ」

もう一人の千景「……迂闊だったわ。七人御先を五まで減らされるなんて……」チッ

杏「お二人ともご無事で何よりです。友奈さんと千景さんも敵の撤退でこちらに?」

もう一人の千景「ええ。奴ら、自分たちの窮地を知ったら尾を巻いて一斉に逃げ出したわ」

球子「おっ、千景も怖がられたのか? 千景はいっつも怖い顔をしているからな!」

もう一人の千景「はぁ!?」ギロ

もう一人の友奈「抑えて抑えてぐんちゃん。でも、何でいきなり逃げ出したんだろう?」

杏「……敵のあの動き、明らかに何かしようとしているように見えます」

球子「嵐の前の静けさってやつだな!」

もう一人の千景「……伊予島さんと同意見よ。壁の上に敵が留まり出したわ」

もう一人の友奈「それなら、何かされるまえに私たちで倒したほうが良いよね?」

球子「でも、あいつらって数はいるけど弱い奴らだろ? タマに恐れをなして逃げたやつなんか放っておいて、若葉たちの加勢にでも行くか?」

杏「……」




もう一人の千景「……」

もう一人の千景「……伊予島さんはどう考えているの?」

杏「えっ!? わ、私ですか!」

もう一人の友奈「そうだよ! アンちゃんだったら一番良い方法をいっつも考えてくれていたもんね!」

球子「ふっふーん! 杏はタマに負けないちせー派だからな! タマも杏の考えにだったら乗るぞ!」

もう一人の千景「……土居さんに知性? ……はっ」

球子「なんで鼻で笑った千景!? タマに喧嘩を売っているのか!」

杏「た、タマっち先輩落ち着いて」

もう一人の友奈「ぐんちゃんもタマちゃんのことをからかっちゃ駄目だよ?」

もう一人の千景「……高嶋さんがそう言うのなら」

球子「た、タマは大人だからな! ここは杏に免じて許してやるぞ!」

もう一人の千景「……身体も頭も子供の人の話はともかく、私たちはかつての伊予島さんの実績を今でも信頼している。だから、遠慮なく言ってちょうだい。それが現状の最適解よ」

もう一人の千景(……まったく私らしくない台詞ね。あのドッペルゲンガーの影響でも受けているのかしら……?)

球子「絶対喧嘩売っているだろ千景!? でも後のほうは千景の言う通りだ!」

友奈「ねぇ、アンちゃん。私たちはこれからどうすれば良いかな?」

杏「皆さん……」

杏「……」キッ

杏「分かりました。私たちが次に行うべきことは──」




*神樹前

若葉「敵が撤退しているのか?」

歌野「見たところこの辺りの進化体は全て倒してしまったようです。……指揮官を失ったからでしょうか?」

千景「──違うわね。アレは前兆よ」

若葉「千景か! 気付かないうちに私たちはこんなにも後退してしまっていたと言うことか……」

千景(確かに乃木さんの言った通りではあるのだけれど──)

銀「いやいや! 凄かったですって! たった二人でバーテックスを四体、と言うか後から加わった奴も入れれば五体倒したんですよ! 千景さんが加勢は必要ないって言いましたけどほんとでしたよ。──あ、アタシ、三ノ輪銀って言います。一応先代勇者ってやつらしいです」

若葉「乃木若葉だ。一応初代勇者と呼ばれている。──先代勇者三ノ輪銀、礼を言わせて欲しい。君がこうして最前線で戦い続けてくれたからこそ今があり、私たちにも気合が入った。……ありがとう」ペコリ

銀「え、え? えぇ!?」

歌野「白鳥歌野です。西暦の諏訪で勇者を務めていました。私からもお礼を言わせて下さい。……ありがとう、銀くん! ──私たちが歩んできた道が三百年後にも確かに繋がっていたのね……」

銀「あ、その、どうもです……。……な、なんかすっごく恥ずかしくなってきた! 勇者ってこんなに照れくさいもんなの? と言うかアタシすげー! 初代勇者の人たちと今話しているし!?」

千景「正直私は白鳥さん、あなたのことを全く知らないけれど、その確かな実力を頼りにさせてもらうわ」

歌野「はい、微力ながらお力添えさせていただきます。郡千景さん、あなたのことは知識として存じ上げています。……そして、大丈夫なのですか?」

若葉「……」

千景「……お見通しと言うことね。おそらくもって全開の二分。それがタイムリミットよ」

銀「……千景さん、まさか……! 鎌が半分透けている!?」

千景(手甲、私の持つ大鎌は精霊の塊であり、現状までその力を消費して戦闘を行ってきた。それを七人分、いえ、八人分だ。今も七人御先の維持で力は消費され続け、その残量はもう僅か。鎌が透明に近づいていることが分かりやすいタイムリミットを示している。……もっとも、作中で三好夏凜が満開を用いて倒した再生バーテックスを全て撃破したのだから、上出来と言えば上出来なのだろう)

千景「……どうやら僥倖も巡ってきたようね。──物語はすでに佳境に入ったわ」

千景(前方を示すと、三ノ輪さんが振り返り、初代勇者の二人も視線を向けた)

銀「なんだ、あれ……?」

若葉「巨大バーテックス……だが、あれは──」

歌野「不可全な状態なのかしら? いえ! 敵が集まって形になっている!?」

千景(……僥倖であっても、時間はどうしても足りないのでしょうね。だから、申し訳ないけれど、ここがタイムリミットよ、高嶋さん──)




*樹海の壁西端

風「──これが勇者部としての結論よ。異論はないわね、東郷?」

美森「……異論も何も、最初からこうなることは見えていました」

風「そうね……。千景は絶対にそのつもりでアタシたちに話し合わせたのよね……」

樹「……」コクコク

夏凜「……でも、私はこうして皆と話し合えて良かったと思う。過程が何よりも大事だったということなのよね……。東郷、あんたもそうなんでしょ?」

美森「……そうね、その通りよ。……だからこそ、千景ちゃんが少し憎いわ」ギリッ

友奈「あはは……。できればぐんちゃんのことを悪く言わないで欲しいかなって……」

夏凜「千景うんぬんよりも友奈が大ごとだったじゃない! なにサラリと別の世界から来ましたとかカミングアウトしてんのよ!?」

風「あー、アタシは逆に納得がいったと言うか、千景に色々とヒントは貰っていたわけだしね……」

美森「……友奈ちゃんは絶対に私のことを忘れない、と約束してくれたわ。けれど、それは共に歩んでくれることを約束してくれたわけじゃない。……でも、許される限りは一緒に居てくれるのよね、友奈ちゃん?」

友奈「うん。東郷さんとの約束は絶対に破らない。この世界で、東郷さんは私の一番の友達なんだから!」

美森「友奈ちゃん……」

風「でも、それって別の世界を入れたら違うってこ──」

樹「……!」オネエチャン! デリカシー!

美森「……」

美森「友奈ちゃん。別の世界も含めて私が一番なのよね?」ニコリ

友奈「……ええと」

美森「一番なのよね?」グイ

友奈「……え、ええと……それは、その……」

夏凜「ねぇ……? もしかして友奈がさっき言っていた、太陽みたいなバーテックスってあれのこと……?」

風「でかっ!? ……なるほど、かなりヤバそうな感じじゃないの?」

樹「……」コクン

美森「……バーテックスまで私の邪魔をするのね。良いわ、その喧嘩買ってあげる!」ギロリ

風「と、東郷がかつてないほど怖い感じなんだけど!?」

夏凜「いやいや、最初に火をつけたのはあんたでしょうに……」

友奈(……ちょっとホッとしてしまったのは内緒だけど、大きなバーテックスが樹海の壁の上を今通り過ぎるようとしていて──)




*樹海の壁前

杏「私たちを人間以外だと誤認させている……ですか?」

千景『ええ。私たちが悠長に会話をしながら戦闘開始を可能な限り伸ばしていた理由がそれに当たるわ。どうにもまだ元の精霊の研究が不完全で、一度戦闘が始まってしまえばほとんど無効となってしまうのが欠点だそうよ。……隣でそれを作った人が謝っているけれど、そう言った話も後回しよ』

杏「……色々と納得がいきました。となれば、やはり作戦は先ほどのものでいくのが最善かと思います」

千景『……そうなるでしょうね。……感謝するわ』

杏「はい。必ず成功させてみせます!」

杏(後方に居るあちらの千景さんとの会話を終え、私はタマっち先輩たちの顔を見渡した。そして、口を開く)

杏「作戦に変わりありません。私たちが今より防波堤となります。──皆さんの命、私に預けて下さい」

球子「元々タマたちは死んでいるらしいからな。ま、それでもタマの命、杏に預けた!」

もう一人の千景「アレの話によれば時間がないのでしょう? 私の残機は五。伊予島さん、あなたに預けるわ」

もう一人の友奈「アンちゃんならできる! 大丈夫、私たちも居るよ!」

杏「皆さん……」

杏「……」

杏「行きましょう」

球子・もう一人の友奈『おー!』

もう一人の千景「……ええ」

もう一人の千景(とても癪だけれど、一番おいしいところはあなたに譲ってあげるわ。……だから、絶対に成功させなさい、郡千景)




杏「敵影に火球を確認! 行動に移ってください!」

球子(でっかい奴が現れたかと思ったら小さい奴らがいっぱい引っ付いていって、あっという間にアレができあがったんだ。見たこともない大きさでちょっとビックリしたけど、タマたちは事前に知っていたからな、だからやってやる!)

球子「本当にあっちの千景の言う通りになったな! タマに任せタマえ!」

もう一人の友奈「……ぐんちゃん、信じているよ」

もう一人の千景「ええ。高嶋さんの期待に応えるわ!」

杏「火球前進! タマっち先輩! 千景さん!」

球子(来た! 杏の作戦通りまずはタマがあいつに突っ込む!)

球子「輪入道!! フルパワーッ!!」

球子(輪入道で旋刃盤をでっかくして、滅茶苦茶でっかい火の球を受け止める!!)

ドガッ!!

球子「ぐ、ぐぐっ……! 暑いし! 重い! けどッ! タマをなめるなぁー!!」

球子(こんなものタマが押し返してやる!! ──くそっ! 全然前に進まない! むしろタマが押されて──!)

もう一人の千景「力が全く足りていないじゃない? 情けないわね。──私たちで押し返すわよ」

球子(千景はいつも一言多いんだよ! ……でも、旋刃盤を押すのに五人の千景も加わってパワーがたくさんアップしたぞ! でも、まだまだ足りない!)

球子「千景! もっと踏ん張れ!!」

もう一人の千景「土居さんこそ! もっと力を入れなさい!!」

球子「ぐぐっ……!!」

もう一人の千景「くっ……!」

球子(気のせいか今火の玉が止まらなかったか? 違う! タマたちが少しずつ押しているんだ!)

杏「火球の減速を確認! タマっち先輩! 千景さん! 退避してください!」

球子(退避、退避か……。輪入道を使ったのと力いっぱい押していたからタマにもう力は……)

もう一人の千景「掴まりなさい。くっ! 二人持っていかれた! 早く!!」

球子「……千景……」

もう一人の千景「荒くなるけれど我慢しなさい。……七人御先の最後の一人も消えたのね。アレも限界ってことかしら?」

球子(……命からがらっていう言葉があったかな? タマは千景に引っ張られて何とか火の玉のところから逃げ出すことができていた)




杏「雪女郎! お願い!!」

球子(タマたちが逃げ出したすぐ後に杏から物凄い吹雪が飛んできて、旋刃盤と一緒に火の玉を氷漬けにしていく──前に旋刃盤が元の大きさになってしまった! 火の玉が全く凍らない!)

杏「思っていた以上に力の枯渇が早い!? でも──!」

球子(杏も雪女郎の力を使い過ぎたのかもうフラフラでそこに居ることすら精一杯に見えた。だから、今あの火の玉と戦えるのは一人だけで)

もう一人の友奈「……」コクン

もう一人の友奈「──来い! 酒呑童子!!」

球子(その瞬間、すっごい力を友奈から感じた。友奈の籠手から鬼の手みたいなものが出ていて、その右手が火の球を殴る! やってしまえー! 友奈!!)

もう一人の友奈「私が! 押し返すっ!!」

球子(いけるか!? ──と思ったのに、友奈が押されている!? あれだけ凄い力なのにか!?)

もう一人の友奈「くぅ……っ……!!」

杏「そ、そんな……友奈さんの酒呑童子でも駄目なの……?」

球子(タマたちの作戦は最後の友奈の酒呑童子で火の玉をどこかにやってしまうこと。なのに、火の玉は曲がるどころか友奈を押して、神樹の方向へ進んでいて──)

もう一人の千景「高嶋さん!!」

球子「友奈! 逃げろ!!」

もう一人の友奈「……私がっ……! やらない、と……!!」

球子(駄目だ駄目だ! このままだと友奈が火の玉に焼かれて──!)






風「──行くわよ! 友奈! 樹!!」






風「私たちだけ人任せってわけにはいかないでしょ!!」ハァッ!

樹「……!!」エーイ!!

友奈「はぁっ!! 勇者パーンチッ!!」ドゴォ!



球子「……千景見たか今の……? ……なんだだろうな、あれ……?」

もう一人の千景「……最早、スペック差どころの話じゃないわね……」

球子(突然現れた三人が火の玉を攻撃して、すると火の玉は反対方向に飛んで行って……タマたちも強くなっていると思ったけど、それどころの話じゃないぞ、あいつら!?)

風「……いやー、本当に友奈がもう一人居るとはね」

球子(火の玉をどっかに飛ばした奴の一人が近くにやって来た。……タマには似ていないけど、何となくタマに似ている奴だなって思う)

風「……その、随分と待たせてしまったわね、千景?」

球子(なんだ、千景の知り合いだったのか。……ん? でも、確かこっちの時代の勇者とかいっていなかったか?)

もう一人の千景「……生憎私はあなたの知っている郡千景ではないわ。その言葉は後方で偉そうにふんぞり返っているアレに言ってあげなさい」

風「え? ……マジで!? あんた別人なの!?」

球子(なんだ人違いか……。……でもまぁ、何であれ良かった、かな? ……なにせタマたちはもう限界で……。だからな……後は頼むぞ、若葉──)



続く
そろそろクライマックスが見えてきています


*神樹前

千景(……火球の軌道が大きく逸れていく。伊予島さんたちは見事に役目を果たし、あちらには話し合いを終えたのだろう高嶋さんたちが合流している)

千景(──そして、七人御先の半分以上が今……消失した)

千景(……ありがとう、そしてどうか安らかに)

千景「……」

千景(……どうやら風先輩たちが混乱してしまっているようだった。火球の脅威はなくなったが、代わりに巨大バーテックスが高速で前進を始めている。今までのバーテックスと桁違いの速さだった。あちらの誰もが対応出来ていない)

千景「──私にもう余力は残されていないわ! 全員最初から全力でいきなさい!!」

千景(叫ぶ! 土居さんたちの消失からも分かるように、私に残された時間は最早三十秒も残されていない。大鎌が限りなく透き通ってしまっていた)

若葉「その力使わせてもらうぞ──大天狗!」

歌野「マイパートナー! あの太陽に私たちの連携を見せてあげましょう!」

銀「鈴鹿御前! ここがアタシたちの踏ん張りどころだッ!!」

千景(四人、全力で宙を駆ける。前方にはもう巨大バーテックスが迫っていた。くっ! 神樹からそれほど距離を取ることが出来ていない。なら!)

千景「ここで絶対に止めてみせる!!」

千景(合図がなくても全員の呼吸は合っていた。それぞれの最高火力が一斉に放たれ、巨大バーテックスへと降り注いだ。……今までのバーテックスであれば御霊ごと一瞬で消滅していたであろう、間違いなく今までで最高の火力。……けれど、それをもってしても──)

銀「あいつの勢いが……! 全然止まらない!?」

若葉「くっ……大天狗の憑依も解けたのか!?」

歌野「全く歯が立たないなんて……けど! それでも! 私は足掻くわ!!」

若葉「よく言った白鳥さん! ──義経! 今度はお前の全力を見せてみろ!!」

銀「アタシはッ! 諦めない!!」

千景「……くっ……!!」

千景(彼女たちの心に呼応したのか三人の力が増す。同時に、今すぐにでも七人御先が解除されそうになり……奥歯を噛み締め耐える! まだだ! まだこんなところで! 私は、終わるわけには……)

千景「いかないのよ!!」

千景(本当に最後の最後の力を振り絞って、残った精霊の力を目の前の三人に託す。そして、力は一瞬、それでも確かにブーストされて──)

若葉「一閃緋那汰!」シュン!

歌野「オニオンスライス!!」ズシャ!

銀「これが! 人間様の──魂ってやつよォオォォォーッ!!」ドゴーン!

千景(まさに私たちの死力を尽くした全力攻撃が、巨大バーテックスへとぶつかっていく。──それでも、ここまでで最高の攻撃であっても、敵は減速すらしてくれず……私たちの身体は、その巨体に押しつぶされて──)






夏凜「待たせたわね! それにやるじゃない、先輩! 私も負けていられない、ってのよ! ──満開!!」






千景(──窮地に、確かな大輪が咲いた)




千景「……まったく、遅いのよ……」

千景(私の隣にはその人も居て)

美森「……」

美森「私からも色々言いたいことはあるけれど、今は素直に謝るわ。遅れてごめんなさい、千景ちゃん」ダッ

千景(それだけ告げて、満開した東郷さんと三好夏凜が巨大バーテックスに向かって行く。そして──)

友奈「ぐんちゃん!? ご、ごめんね、遅くなっちゃって……」

千景「……良いのよ。……答えは出たのでしょう?」

風「……ええ。千景たちが作ってくれた時間のおかげよ。……それに、私たちはあの子たちにも託された!」

樹「……」コクン

千景(決意をにじませた表情で犬吠埼姉妹も巨大バーテックスへと立ちふさがって行く。……伊予島さんたちの想いをあなたたちも引き継いだのね……)

千景「……高嶋さん、あなたも行ってあげて。私は大丈夫だから」

銀「……千景さんのことはアタシに任せてください。アタシはほら、夏凜さんの影響でまだまだ元気ですからね!」

友奈「……」

友奈「……うん。今度は私たちが頑張る番だもんね。──満開っ!!」

千景(高嶋さんも行き、五つの満開が巨大バーテックスの前に大輪の壁を作る。それを私は見届けた。……もう安心しても、良いのかしら……?)

千景(乃木さんと白鳥さんはすでに消え失せ、三ノ輪さんの勇者装束も不完全なものになってしまっている。……今、私の大鎌がその姿を失った。……私はきっとやり遂げたのでしょう……)

千景(──だから、満足よ)

千景(勇者服は消え失せ、七人御先の力で浮いていた私の身体も……そのまま地上へと、落下していった──)



銀「こんなところで楽になるなんて! アタシは絶対に許しませんからね!!」



千景(──落下の中、三ノ輪さんの声が近くで聞こえたような気がした)




千景(……三ノ輪さん、もう良いのよ。あなただけでも逃げて)

千景(辛うじて勇者服を保っている三ノ輪さんでは、私一人でさえ受け止めることが出来ずにいた。それだけ力は枯渇し、勇者の力も切れかかっていると言うことなのだろう。落下はさらに加速していく)

銀「止まら……ないッ! くそっ!!」

千景(私のことなんて放っておいて、と伝えたいのに口を開くことさえ私には叶わない。精霊の力を全て使い果たした上、恐らく自身の命すらそこにつぎこんでしまったのね。仮にここで助かったとしても、私の先はもう長くないはずだった。だから、だからもう良いのよ……三ノ輪さん……)ドンッ!

銀「……っ……!?」

千景(不意に遠くの高嶋さんと目が合い、彼女だけが巨大バーテックスを捨て置いて私のほうへ向かって来ようとしているのが見える。……駄目よ、高嶋さん。アレはあなたも居ないと止めることが出来ないのよ……)

千景(……それに、この泡沫のような刹那の時間なのだ、どれだけ勇者が速くても追い付くことは決して叶わない。だから私は、どこにそんな力がまだあったのか、三ノ輪さんを先ほど突き飛ばしたところだった。私の最期に三ノ輪さんを巻き込んで良いはずはないのだから)

銀「──!!」

千景(三ノ輪さんが多分、私の名前を呼んだ。……ありがとう、三ノ輪さん。あなたと過ごした時間、とても楽しかったわ)

千景(そして私は、地面へと激突した──)









??「それは流石に目覚めが悪いかにゃー? メンドーだけど死なない程度に征っときますかね」

??「後は私たちに任せておけ」







千景(……ふ、ふふっ……。誰よ、あなたたち? ……おかげで死にそびれてしまったじゃない?)

銀「千景さん! 良かった!!」ギュッ

千景(私は謎の二人組によって、静かに地面へと降ろされ、三ノ輪さんに何とも情けない表情で抱き着かれてしまう)

千景「──けほっ……。あ、あなたたちは一体……?」

??「んー? 別に誰でもいいって、いいって。そう長居はしませんからね~」

??「玉藻前に呼ばれて私たちはやって来た。……戦闘なら任せてくれ」

千景(……)

千景(……そう言うこと。またしてもやってくれたわね──)



千景「乃木さん!」ケホッ



若葉「……七人御先が完全に消失した時、玉藻前は発動する。そう私はアレに細工をしていた。だが、これは賭けだったんだ。望むことすら無謀と呼べる確率で、もはや賭けにすらなっていないと自分でも理解していた。……だが、その賭けに千景は見事勝利してくれたんだ。改めて言わせて欲しい。──ありがとう、千景。だからここからは、私たちが千景のバトンを受け取る番だっ!」

千景(……いけしゃあしゃあと乃木さんは、私の目の前に立っていて──その周りには……)



若葉「勇者たちよっ! 私に続けぇー!!」

複数の人影『おぉー!!』



千景(散っていったはずの──)

球子「これが本当に最後だな。タマにまかせタマえ!」

杏「私もタマっち先輩と、皆と一緒に最後まで戦います!」

歌野「乃木さんに渡したバトンが再び私に巡ってくるなんてね……。みーちゃん、私の活躍を見ていてね!」

もう一人の友奈「……」

もう一人の千景「地面に横たわって、無様ね、郡千景? けれど、ここまでのことを多少は認めてあげなくもないわ」

千景(……土居さんたちは当然として、うるさいドッペルゲンガーも復活してしまったようね)

??「いやー、ここまで賑やかだと逆に諦めがつくわー」

??「役目を果たそう」

千景(加えて、眼鏡と褐色肌の見知らぬ少女たちまで居て──)

千景(私を入れて、再び集ったのは七を超えた九人。彼女たちは乃木さんを先頭にして巨大バーテックスの方角へと突き進んで行く。……その姿はあたかも百鬼夜行のようで……本当にここまでくると壮観としか言いようがない光景ね……)



千景(これが私の切り札の最奥……をさらに超えた先に存在した奇跡の体現『玉藻前』──俗に、九尾の狐と呼ばれる大妖怪の力だった)



ようやくこれを言えるところまできました
このシリーズは厳密にはゆゆゆいのSSとなります。その本当の意味は後々分かってくるかもしれません
次回に続きます!

もしかしたらアレにも気付いている人が居るかもしれませんね
続きを投下していきます


友奈「え? え……? あれ!?」

千景(高嶋さんが戸惑いながらこちらにやって来る。結局、戦いから一時離脱してしまったらしい。ちょうど彼女は乃木さんたちとすれ違ったところだった。……私のことは放っておいてくれて良かったのに……)

銀「見ましたか! 友奈さん!? あれだけの数の勇者を千景さんがまた呼び出してくれたんですよ!」スッゲー

千景「……ただの偶然よ。……それとごめんなさい。私の存在が高嶋さんに迷惑をかけてしまったわね」

千景(近くまでやって来た高嶋さんに、巨大バーテックスとの対峙を邪魔してしまったことを詫びた。──けれど)

友奈「何言っているの、ぐんちゃん!? それは絶対に違う! 私こそぐんちゃんにいっぱい迷惑をかけて……ここに来たのだって! 全部私の我がままだよ!!」ガシッ!

千景「……」ポカーン

千景(……高嶋さんに、ここまで感情的に肩を掴まれたことなんてあったかしら? ……この世界で私が変わっていったように、高嶋さんにも確かな変化は訪れていたのかもしれないわね……)

もう一人の友奈「……」

もう一人の友奈「三ノ輪……銀ちゃん、だったかな? ごめんだけど、あっちがまだまだ人手不足なようだから力を貸しに行ってもらっても良いかな? ……だから、こっちのことは私たち三人に任せてもらいたいんだ」

銀「……」

銀「……はい。三ノ輪銀、了解しました! 後のことは頼みます! もう一人の友奈さん!」タタッ

もう一人の友奈「……うん。任されたよ」

千景(西暦組で唯一こちらに残っていたもう一人の高嶋さん、彼女と言葉を交わした三ノ輪さんが巨大バーテックスへと向かって行く。再度私の手の中に現れていた大鎌の影響なのか、彼女の勇者服も完全復活を遂げていた。その速度は先ほどよりも遙かに早く、ほどなく先陣組と合流したようだ)

千景「……もう一人の高嶋さん。あなたは一体誰なの?」

千景(口から出てきた言葉はただ一つの疑問。もう一人の高嶋さんの瞳を見て抱いた疑惑である。彼女は先を、その綺麗な瞳で私よりも先の未来を見ているのではないか、そう思ってしまった)

もう一人の友奈「私の名前は高嶋友奈。西暦時代に若葉ちゃんたちと戦った勇者の一人」

千景(もう一人の高嶋さんは、私と高嶋さんを優しく見つめ……こう続けた)



もう一人の友奈「そして──本来の"結城友奈になるはずだった"友奈なんだ」




*巨大バーテックス至近距離

ガシン!!

若葉「ここから先、我らも戦線に参加させてもらう!」ハァッ!

樹「……!?」

杏「……先ほどお伝えした言葉を思い出すと……その、恥ずかしいのですが……」

風「──おかえり。多分私はあなたたちの帰りを待っていたのよ。……一緒に戦ってくれる?」

杏「……は、はい!」─ヤァッ!

球子「むむっ……杏の奴、すっかり懐いて……何だかムカムカしてきたぞ!」テリャー!

もう一人の千景「嫉妬? 土居さんにしては可愛らしいことね」ハッ!

美森「千景ちゃん……? いえ、違うわね、あなたが別の千景ちゃんなの?」

もう一人の千景(……何故かしら、この子とは特に馬が合わない気がするわ)

球子「タマは嫉妬なんかしていないぞ! 勝手なこと言うな千景!」

夏凜「はいはい喧嘩しなさんな。……そこのあんたらも援軍ってこと?」

??「一応ねー。それなりに頑張るからよろ~」

??「ああ。腕が鳴るな」

夏凜「……両極端な奴らね。でも助かる!」

風「援軍も来てくれたことだし! もう一回いくわよ! ──勇者部っ!!」

全員『ファイトーッ!!』

パァー!!

もう一人の千景(大輪が十を超えて咲き、それが巨大バーテックスを食い止める。……けれど)

夏凜「……くぅっ!! これでも私たちのほうが押されているって言うの!? ──ふざけんな!!」



銀「そうですよ! 勇者は根性ってね!」




夏凜「銀!?」

銀「赤の勇者の系譜、ここで見せつけてやりましょう、夏凜さん!」

夏凜「……ええ!」スゥー

夏凜「──ここからが大見せ場! 遠からんものは音に聞け! 近くばよって目にも見よ!」

銀「これが讃州中学! 勇者部部員! 三ノ輪銀と──」

夏凜「三好夏凜の実力だぁー!!」

銀・夏凜『勇者部の力! 思い知れぇええぇぇぇッ!!』

─ザシュザシュザシュ!!

もう一人の千景(双剣と双斧の斬撃が巨大バーテックスの両横を斬り裂く)

球子「おぉっ! デッカイやつの動きが止まったぞ!! あとな! 赤の勇者ならタマを忘れてもらっちゃ困るな!!」ワニュウドウ!

風「樹! アタシたちも負けてられないわよ!」

樹「……!」コクン

風「犬吠埼姉妹の女子力を見せてあげるわッ!!」ヤァー!!

もう一人の千景(姉妹と思われる二人が片方は大胆に、もう片方が繊細に巨大バーテックスの動きを狩っていく)

美森「……この事態は私が引き起こしたこと」

もう一人の千景「……さぁ、どうかしらね。郡千景の知識からすればこの事態は必然でしかありえないように思うのだけれど?」

美森「……もしそうであったとしても、私にはけじめが必要なのよ……。だから! 私がこの悲劇を終わらせてみせる!」

もう一人の千景(馬の合わなそうな女のビーム兵器と、私の七斬がさらに敵の勢いを削っていく)

??「皆して青春しちゃってまあ……少しだけ羨ましい、かな……?」

杏「巨大バーテックスを押し返すにはまだ力が足りないようです。お力を貸していただけますか?」ユキジョロウ!

??「任せろ!」ガンガンガンガンッ!

??「……まぁ、こういうのもたまには良いかな。──槍撃神威!」バシュー!

もう一人の千景(ヌンチャクによる神速の連撃と投げ槍による一撃必殺、それはさらなる追撃となり……)

もう一人の千景(総勢十一名による総攻撃がこうして為されていく。その結果、巨大バーテックスの動きは止まり、その姿は太陽のような姿と化していた。姿は変われど力は変わらないのか、敵が徐々に後退して行っているのは間違いない。……けれども、炎に包まれている故か、致命打を与えることは決して叶わず──)

もう一人の千景(いえ!)

もう一人の千景「例えそうであったとしても!」

もう一人の千景「私は高嶋さんのことを! いつも信じているのよ!!」

もう一人の千景(無責任と言われても良い。私の全てはすでに高嶋さんに託していて、私たちはどこまでも一緒に居ると約束したのだから!)




*巨大バーテックス直下地表

千景「本来の結城さん……? それはどう言う意味──」

ドゴーン!

友奈「大きなバーテックスの動きが止まった! でもあの姿、アニメと同じ太陽!?」

もう一人の友奈「……今がチャンスのようだね。ごめんね、こちらのぐんちゃん。詳しい話はまた後でかな」

千景「……そのようね。あれだけの数が居ても、太陽と化したバーテックスにまともな傷をつけられているようには思えない。ここから先は……アレの核を如何に叩くかの勝負よ」

もう一人の友奈「牛鬼の隠し機能を使えれば多分本来の歴史通りに倒すことはできると思う。けど、今その条件は満たされていないんだ」

千景(……そう言うこと。この高嶋さんも"彼女"と同じ境遇と見て間違いない。なら、過程は違えど目的は同じ。一切の疑惑を抱く必要なんてなかった)

千景「何か考えがあるの?」

もう一人の友奈「……うん。ここには二人の友奈が居る。それなら出来るはずなんだ! いけそうかな、高嶋ちゃん?」

友奈「大丈夫! いけるよ、結城ちゃん!」

千景(……全く、元の世界に居た頃からだけれど、高嶋さんにも謎が多いことで。けれど、それが高嶋さんの素敵なところなのよ!)

千景「……七人御先? 九尾の狐なんかに居場所を奪われているけれど、あなたはそれで良いの? 不服があるのなら、私にその最後の輝きくらい見せてみなさい!!」



友奈『一目連っ!』

千景「七人御先ッ!」



友奈「──行こう! ぐんちゃん!」

千景「ええ! 高嶋さん!」

千景(切り札を纏い、私と高嶋さんは真っすぐ目の前の太陽へと向かって行く。──もう一人の高嶋さんの姿は消え、二人の高嶋さんが今一つに重なっていた)




千景「くっ! 今更火球で攻撃してくるなんて!」

千景(私たちを邪魔するように太陽は火球をあられのように飛ばしてくる。勇者総がかりでその動きを止めていると言うのに、余裕があることで!)

千景(切り札を使用出来るくらいには回復している私だが、それもやはりリミットが存在し、その時間が長くないことは最早察している。だから、この程度の移動で力を消耗したくないと言うのが本音だが……やるしかないわね)

千景(私と高嶋さんが火球を避けつつ、避けきれなかったものを攻撃しようと──)

ズシャッ!!

千景(予想もしていなかった方向からソレは"しなる"ように飛んできて、火球の方角を大幅に変えた)



歌野「千景さん! 露払いは私に任せてちょうだい!」



千景「白鳥さん!?」

千景(……道理で一人だけ姿が見えないと思っていたのよ!)

歌野「乃木さんにここを任されました。ですから、格好の悪い姿は見せられませんね。──行って!」

友奈「……」コクン

千景(……流石高嶋さん。一瞬で最適な選択をするのね。それなら私も)

千景「……ありがとう」

千景(言葉はそれだけ伝えた。後は全てを彼女に託し、私と高嶋さんは火球を潜り抜けていく。攻撃は苛烈になっていくが、その全てを白鳥さんが撃ち落としてくれた)




歌野「邪魔はさせない!」ズバッ!

歌野「素晴らしい人たちの居るこの時代を!」

歌野「諏訪のようになんか絶対にさせない!!」ヤァー!!

歌野「私たちが望んでいた未来を! あなたたちなんかに──!?」

歌野「打ち洩らし!? 届か──」



パァー

銀「──満開!!」



歌野「銀くん!?」

ドカーン!

銀「──限定満開、鈴鹿御前。これだけ巨大な双斧になればお前らなんて!」

歌野「どうして……?」

銀「……すみません、アタシ一人を寄越すだけで精一杯でした。あいつを止めるのと、あっちも火の玉に追われてしまっていて……。でも! 皆に託された以上、絶対にあの二人をあそこまで届けます! ──歌野さん、アタシに力を貸してもらえますか?」

歌野「……センキューベリマッチ、銀くん。私こそお願いするわ!」

銀「はい行きましょう!」

歌野「諏訪の農業王! 白鳥歌野が相手よ!!」

銀(千景さんと視線が一瞬だけ合う。それだけできっとアタシたちは通じ合えた。頷く。もう少しで千景さんと友奈さんはあの太陽に辿り着いてくれる。その"あと一歩を"アタシが手助けするんだ!)



銀「それがきっと! アタシがここに居た理由だからッ!!」



続きます
予告の台詞もここまででほとんど回収となりました

最終話投下していきます


千景(……まったく、出会った頃から美味しいところばかり持っていくんだから……。……でも、あなたも居てくれたから私は──)

友奈「ぐんちゃん! 一気にいくよ!」

千景「ええ! 合わせるわ高嶋さん!」

千景(三ノ輪さんと白鳥さん……いいえ、このデカブツを抑えてくれている全ての勇者たちの力で、私と高嶋さんは太陽へと辿り着く。全ての攻撃を寄せ付けなかったコロナ層が御霊表面に広がっている。──ここまで力を温存してきたのはこれを破る、ただそれだけのために)

友奈「……」スゥー

千景(高嶋さんの満開から生じているその巨大な拳に、彼女の渾身が注ぎ込まれていく。……これが正真正銘の最終決戦! 私も抑えていた七人御先の力を解放し、自らの姿を七に増加させる。その大鎌の全ては敵の一点へ向けて! 私の得意とする精密連撃を叩きこんであげるわ!)

友奈「千回っ! 勇者ぁー!」

千景(高嶋さんの拳が構えられ、私もそれに合わせる)

千景「七人御先・奥義!」



友奈「パァーーーンチッ!!」

千景「紅蓮ノ業火ッ!!」



千景(千に届く高嶋さんの勇者パンチと、高速を超えて業火と化した七斬が太陽のただ一点を攻撃する)

千景(現状の私たちが持てる最大火力が今も振るわれている。──それでもまだ足りない!)

千景「七人御先! その程度なの? あなたの死に物狂いはその程度!? ──ええ、そうよ。今だけはあなたも死力を尽くしなさい!」

千景(風先輩には申し訳なくあるが、死力で行かなければここまでの全てが水の泡となる!)

千景「──紅凶冥府!!」

千景(七の大鎌を纏う炎が赤を超えて青へ化す。業火を超えた灼熱が太陽を少しずつ侵していく)

ミシミシ…

友奈「うぉぉおぉぉおぉぉぉーっ!! 熱血!! 勇者ーっ!! パーーーーーンチィィィッッ!!!」

パリ…

千景(私と高嶋さん、二人の炎が太陽のそれを、今──凌駕した!)

ガシャーン!

千景(ガラスが割れるような音と共に、太陽を纏っていたコロナ膜が消失。そのまま私は七の郡千景で連撃を決して切らさない。──いける! 膜で覆われていなければこのバーテックス、太陽御霊は倒すことが出来る!)

千景(そう確信した瞬間だった)

フッ

千景(隣で白い花の光が消える)

千景「高嶋さん!?」

千景(高嶋さんの満開が消失し、いえ! それどころか! 勇者装束さえ高嶋さんは着ていなくて……!)

千景(手を伸ばす! このままでは高嶋さんが太陽に焼かれてしまう!)

千景(なのに……高嶋さんは口元だけで、確かに──)



千景(笑ったんだ)




友奈(今の攻撃で多分私は力を使い果たしてしまった。満開はなくなり、服も勇者服から制服に戻ってしまっている)

友奈(ぐんちゃんが心配そうな顔で、必至な顔で、私に手を伸ばす)

友奈(……またぐんちゃんにそんな顔をさせてしまったね……)

友奈(でも、今度は大丈夫。私は大丈夫だから、そんな顔をしないで。ねぇ、ぐんちゃん?)

友奈(……)

友奈「結城ちゃん! ここからだよ!」

もう一人の友奈『うん、高嶋ちゃん! 私たちがここから頑張らないと!』

友奈(結城ちゃんの姿はもう私にしか見えていないと思う。私は結城ちゃんで、結城ちゃんが私になってしまったから)

友奈(私たちは重なっていて、同じ友奈で、違う友奈なんだ)

友奈(だから)

友奈(だから! 私には二人分の友奈の力がある!)

パァー

友奈(……懐かしい。これは初めて変身した時と同じ感触。スマホなしで、一目連だけの力で変身したあの時と全部一緒だった)

友奈(ありがとね、一目連。結城友奈になってからもずっと私を支えてくれていたんだよね? ──もう少しだけ私の我がままに付き合ってもらっても良いかな?)

友奈(一目連の力が身体を巡っていく。あはは、一目連もやる気になってくれたんだね。もう一度ありがとう。……私は一目連の力全てを解放するため、あの言葉を叫んだ!)



友奈「満開!! 一目連!!」



友奈(いつもの満開のように大きな腕が背中から生える。そこに一目連の誰にも負けない速さが加わった!)

友奈(今の私の拳なら、どんなバーテックスだって倒してしまうことができる。──でも、これだとさっきと何も変わらない!)

友奈「結城ちゃん!!」

もう一人の友奈『大丈夫。二人ならこの子も言うことを聞いてくれるよ!』

友奈(私と結城ちゃんは私の奥の奥、切り札の更のその先にある扉に触れた。全身の肌で鳥肌が立つ。けど! 私の隣には結城ちゃんが居て……二人の友奈が居るから乗り越えられる!! 頑丈な扉を友奈二人で押し開けていく!! ──力を今、掴む!)

友奈『加えてっ!』

友奈(私と結城ちゃんの声が重なった。ううん、今ので力だけを残して結城ちゃんは消えてしまったんだ。……ありがとう結城ちゃん。後は私に任せてね……)

友奈(満開、一目連、それに加えて──これが私たちの最後の力!!)






友奈『連続満開!! ──酒呑童子ッ!!!」






友奈(私の背中から生える大きな白い腕に、鋭く巨大な鬼の手が今、加わった──)




千景「一目連と酒呑童子……二つの精霊を、自分の意思で満開したの……?」

友奈「えへへ……ぐんちゃんの真似っ子になっちゃったかな?」

千景「……もう、私のは偶発的なものなのよ? ……それに、高嶋さん無理をしてしまっているのでしょう?」

友奈「それはお互い様だよね?」

千景「……ぐうの音も出ないわ」

友奈「ふふっ」

友奈「……」

友奈「……終わらせよう、ぐんちゃん」

千景「ええ。私たち二人の手で、この不毛な神々との戦いをね」

友奈(私とぐんちゃん、どちらが示し合わせたわけじゃないけど、お互いの動きはぴったり息が合っていて……本当にぐんちゃんには敵わないなと思う。だって、私が今からどうするかお見通しなんだから)

友奈「……」スゥー

千景「……」ハァー

友奈(これが本当に本当の最後! 私たちはそれぞれ右足と左足に全力を込めて! そして──!)

友奈・千景『勇者ッ!!』






友奈・千景『キィィィィィィィッッックッッッ!!!!』






友奈(私とぐんちゃん、二人の勇者キックは太陽を貫き、そのまま中心にある核へと──)




友奈「──ごめんね、ぐんちゃん」

千景「高嶋さん……?」

友奈(目の前に太陽の核が迫っている。……多分、これに触れると私たちはアニメの結城ちゃんと同じ状態になってしまうのだと思う。だから、私は背中の満開を外し、その大きな手でぐんちゃんを掴み、ここに固定してしまった)

千景「な、何を!?」

千景「何をやっているのよ! 高嶋さん!!」

友奈「……バイバイ、ぐんちゃん。また会えて嬉しかったよ」

友奈(結城ちゃんの話によれば、アニメの最終回であっちの結城ちゃんが戻って来れたのは奇跡よりもさらに低い可能性の話なのだそうだ。結城ちゃんの知っている本来の歴史では、あそこで結城友奈の物語は……終わるんだって……。だから、奇跡よりも低い可能性にぐんちゃんは巻き込めないよね?)

友奈(……ごめんね、ぐんちゃん。勇者部の皆もごめんなさい。……お義父さん、お義母さん、こんな私を娘として育ててくれて、ありがとう……)

友奈(少しだけ目の前がかすんでしまったけど! 今から勇者になる私が泣いてちゃ駄目なんだ!)

友奈(勇気のない私だけど、皆を困らせるこのバーテックスを倒して……私は本当の勇者になる!!)

友奈(だから、今だけで良いから私に勇気を下さい!)

友奈(怖がる心を無理やり押しやって)

友奈(私の右足が、太陽の核に触れる。……これでお終い、なんだね。私はその瞬間が来るのを震えながら──)






千景「ふざけないでよっ!!」







友奈「……ぐんちゃん……」

千景「英雄気取りなんてやめてよ!! あなたが本当になりたかったのは勇者なんでしょ!! 勇者は自分の命を投げ出して諦めたりなんかしない!! 勇者は最後の最後まで絶対に足掻くのよ!!」

友奈(……ぐんちゃんが泣いている。見たこともないくらいに怒っている。そして)

千景「──初代勇者たちの姿を見て! あなたは何も思わなかったの!?」

友奈「……っ……!」

友奈(その瞬間、若葉ちゃんたちの……気高く戦う姿を、思い出していた)

千景「私だって……最初は自分の命一つで、友達が救われるならそれで良いと思った。それを前提に計画して実行にも移した。……けれどね、けれどね! 私はあのバカ正直な勇者たちの姿を直で見てしまったのよ! 勇者部の皆もそう! 私は知らず知らずのうちに、無為に命を投げ出せない呪縛にかけられてしまっていたの!!」

友奈(ぐんちゃんの言葉が、何と言えば良いのか……私の魂みたいなものを震わせ続けている)

千景「その呪縛が玉藻前なんて奇跡すら起こした! このまま死んでも仕方がないと思ってもなお! 私には未練があった! 勇者部よ! 当然高嶋さんあなたもよ! そもそも私をこう変えていったのはあなたじゃない! あなたと出会ったから私はほだされた! 人に甘えることを覚えてしまった! 耐えるだけの日々が嫌になってしまった!」

千景「責任取りなさいよっ! 私をこうした責任を取りなさいよ!! ……ねぇ……高嶋さん……」

友奈(私の満開の手はとっくに緩んでいて……ぐんちゃんが私の前でしがみついている。……その暖かさが、重さが、私の心に堪えた……)

友奈「……ぐんちゃん……私、私……」

友奈(言葉が形にならない。……でも、ぐんちゃんはやっぱりぐんちゃんで、私よりも遙かに早く立ち直って……前を向いていた)

千景「……高嶋さん。私はまだ何も諦めていないわ」

友奈(目の前の太陽の核を見る。……不思議なことに私たちの周りの時間がひどくゆっくりに見える。まるで止まっているかのようだ)

千景「根拠は何もないけれど、高嶋さんと二人なら例えどんなことになったとしても、その先にハッピーエンドが待っていると、そう願っている。……そうであると私はいつも信じているのよ!」

千景「──だから大丈夫よ、高嶋さん。どんなに重い荷物であっても二人で半分こしましょう」

友奈(ぐんちゃんの瞳がとても優しくて、私は……)

千景「あなたが背負おうとしているその重荷、私にもどうか背負わせて」

友奈「……」…コクン

友奈「……本当に、私は馬鹿だったんだね……」

千景「ええ、バカよ。大バカ者よ。……でも、それが愛くるしいのよ」

友奈(ぐんちゃんが即答して、少しだけクスリと笑った。私の心がほわほわしてくる)

千景「高嶋さん」

友奈「ぐんちゃん」

友奈(お互いに頷き、私たちの想いは言葉となり!)



友奈・千景『私たちは! 勇者に──なるっ!!』



友奈(ぐんちゃんの指と私のそれを一本一本絡めていく。私たちの固く結ばれたこの手なら、きっと──!)






友奈・千景『届けぇぇぇぇえぇぇぇぇぇー!!!』






友奈(そして、バーテックスの核に、私たちの指が──触れた)

友奈(世界が白に染まっていく──)




千景「……どう、なったの……?」

友奈「何も、なくなっている……?」

友奈(下に広がるのは間違いなく樹海だけど、私たちが居る宙には何もなくて、バーテックスも、私たち以外の勇者も居な──)


若葉「二人のおかげだ。あのバーテックスは今、天に還って行った」



千景「乃木さん?」

友奈(目の前にはいつの間にか若葉ちゃんが居た。少しホッとして……気付く!)

友奈「ぐんちゃん! 私たちの身体何ともないよ!?」

千景「……本当だわ」

友奈(アニメの通りだと御霊に触れた後すぐに意識がなくなっていたはずなのに、私たちは会話さえ交わしている!)

若葉「……本来の歴史であれば、あの御霊に触れた者は天の神の世界に幽閉されてしまっていたのだろう。……そこで私は、それを逆手に取ることにしたんだ」

友奈(……そっか、若葉ちゃんも結城ちゃんみたいに別の歴史を知っていたんだね)

千景「……あなた、もしかしてそこまでの全てを計算だったとでも言いたいの?」

若葉「そんなことは口が裂けても言えないだろうな。……結果として上手くいっただけと言うのが、正直なところなんだ。そもそもの話……全ては今この瞬間、この時間から始まった。だから、全ての物事は逆に流れている……と言えば千景なら理解してくれるだろうか?」

千景「……ようやく最後の一本が繋がったわ。要するに、今回のこの騒動、"彼女"が発端ね?」

若葉「……その通りだ」

友奈「彼女? ……ええと、誰?」

友奈(話についていけていない自覚はあったけど、それでも今のぐんちゃんの言葉は気になってしまった)

千景「ふふっ……高嶋さんは気付いていなかったのね? とは言っても私も気付いたのは大分後の話になるのだけれど。実はね、勇者部には──二周目の人が居たのよ」




友奈「二周目?」

千景「そう。人生の二周目。簡単に言えば、同じ人生を記憶保持したままもう一度送っている人のことね。ループ、逆行と言う言葉を使うこともあるわ」

友奈「……え? えぇ!?」

友奈(それって例えば、勇者部としての同じ日常を二回繰り返しているってこと!?)

若葉「……私は晩年、彼女と出会うことが出来た。そして、千景と友奈を巻き込んだこの一幕を計画したんだ。……恨んでもらって構わない。それが二人の当然の権利だ」

千景「……今更怒りすら湧かないわよ。謝るのならうちの七人御先にでも謝ってちょうだい? 私たちをここに呼んだ技術……七人御先を研究して得た成果なのでしょう?」

友奈(ぐんちゃんの七人御先で私たちがこの世界に……?)

若葉「……精霊は過去の実績から危険視されていたため、封印に近い状態にあった。だが、彼女と出会い、多数の可能性が眠っていることに気付かされた。複製体の技術は七人御先に備えられている、自己の完全なる複製から発展させたものだ」

千景「複製体、つまりコピーのことね? それがあったからこそ、あなたたち初代勇者が私の七人御先で顕現出来ていたのでしょう?」

若葉「それもある。だが、最も重要だったのは……千景と友奈の複製体、つまり今の千景たちを存在させている事象、それ自体に意味があった」

千景「……待ちなさい。もしかして……私と高嶋さんは!?」

若葉「そうだ。その身体は元の世界の──複製に過ぎない」

千景「……待ってよ、待ちなさいよ! それじゃあ、私たちは元の世界に帰れないと言うこと!? いえ! そもそも帰ると言う発想自体が間違いだったの!?」

若葉「……それについては安心して欲しい。身体は複製体であっても、精神は元の世界のものと共有、いや、より正しい言い方をすれば元の世界の時間は流れていないんだ。だから、問題なく千景と友奈は帰れる、と……ひなたが言っていた」

友奈(最後だけ若葉ちゃんがばつの悪そうな顔をしていた気がする。……でも、そっか、私たちは帰れるんだね……)




千景「……呆れた。あなた自身、原理を分かっていないってことじゃないの? ……ただ、今の話を聞いた限りだと、随分と都合が良いとは思うけれど、SF的解釈の範囲にはあるようだから何とか理解は出来たわ」

友奈(やっぱり凄いな、ぐんちゃんは……)

友奈「私はあんまりよく話が理解できていないけど、もし元の世界に今帰ってしまうんだったら……東郷さんや勇者部の皆にお別れを言って来ないといけないよね?」

友奈(正直帰れるとは思っていなかったから実感がわかなかったけど、お別れの挨拶が必要なことは理解していた。……だけど)

若葉「……すまない。それはもう叶わないんだ」

友奈(若葉ちゃんが言葉通りに、本当に申し訳なさそうな顔をした)

千景「……おそらくは、私と高嶋さんが御霊の核に触れるその直前、その辺りから時間の流れがおかしかったわ。その時にはもう、私と高嶋さんは元の世界へと帰還する間際となっていたと言うことかしら?」

友奈(言われてみれば覚えがある。御霊に触れる前、私たちの時間はひどくゆっくりだったんだ)

若葉「……流石千景だな。その通りだ。あのバーテックスを倒した瞬間、二人は元の世界へと帰還する、それが当初からの予定だった。だから今は、千景と友奈がこの世界から消える直前、その一瞬の刹那にしか過ぎない。私たちは会話を交わしているようで、実のところ一方的に私からのメッセージを二人が頭の中で再生しているだけ、というのが本来的には意味が近い。高速再生されたビデオでも想像してもらえれば良いか」

友奈(え、ええと……?)

千景「……ビデオって、あなた一応私と同世代よね? つまるところ、私たちはもう何も出来ず、後はただ元の世界へ帰るのを待つしかないと言うことでしょう?」

友奈「そんな!? ……そうだ! 今から皆のところへ行けば──身体が動かない……?」

若葉「……そうだ、友奈。今、私たちの時間は動いていない。だから、ここに居る者以外とは言葉を交わすことはできないし、触れ合うことも……できないんだ。すまない」

友奈「……」

友奈(若葉ちゃんの泣きそうなくらいのその姿に、私はそれ以上我がままを言うことができなかった)




千景「それで、"すまぬ"さん? 用件はそれでおしまいなのかしら?」

若葉「……いや、もう二つある」

友奈(そう言って、若葉ちゃんは続けた)

若葉「一つは、我々から感謝を。同胞たちはすでに消えてしまったが、皆、この戦場に立てたことを誇りに思い、晴れやかな気持ちで旅立つことができた。その感謝を代表して伝えさせてもらう。──本当にありがとう」

友奈「……ううん。ありがとうは私の言葉だよ。……皆が力を貸してくれたから、私たちはここまで来れたんだ。ね、ぐんちゃん?」

千景「……土居さんたちに感謝はしているわ。……それでこの話は終わりで良いでしょう?」

若葉「友奈……千景……」

千景「しんみりするなんてあなたらしくもない。それで、もう一つは?」

若葉「……もう一つは、複製体の今後についてだ。これがある意味で本題になる」

千景「……私たちの精神が帰ってしまえば、複製体は消えるのではないの?」

友奈(寂しいけど私もぐんちゃんと同じように考えていた。でも、若葉ちゃんは首を振る)

若葉「……残念ながらそう上手いことにはならない。二人の精神が存在しなくなっても、肉体はこの世界に残り続ける。千景たちを呼んだ瞬間にこの世界に複製体は生まれ、肉として存在してしまった故、世の理に複製体も囚われる。それが複製体と呼ばれる由縁だ」

友奈(それってつまり……)

千景「……ここに来て、私たちが帰りづらくなることをよくも言えたわね? フォローは当然あるのでしょう?」

若葉「ああ。ややこしくはあるが……二人とも姿を見せてくれ」

友奈「あぁ!」

千景「……ちっ」

友奈(若葉ちゃんの両隣にスゥーっと現れたのは──!)

もう一人の千景「また会ったわね、ドッペルゲンガー?」

もう一人の友奈「高嶋ちゃん、やっほー!」

友奈(高嶋ちゃんともう一人のぐんちゃん!)




千景「……あなた、正気なの?」

若葉「すでにこちら側の千景と友奈には了承を得ている。……ここまで含めて初めて私の計画は満了するんだ」

友奈「え、ええと? 結城ちゃんともう一人のぐんちゃんにまた会えたのは嬉しいけど、これって一体……?」

千景「私たちの身体にドッペルゲンガーたちの精神を入れるそうよ」

友奈「えー!?」

友奈(ぐんちゃんのとっても分かりやすい言葉に私は思わず大声を出してしまった)

もう一人の千景「こんな奴の身体になんて……不快極まりなくて、反吐が出てくるわ」

もう一人の友奈「もう、そんなこと言っちゃ駄目だよ、ぐんちゃん? ……ごめんね、高嶋ちゃん。高嶋ちゃんの身体をこれから私が使わせてもらうことになっちゃうんだ……」

友奈「そ、それって……」

友奈(私は思わずこう言っていた!)

友奈「良かった! 本当に良かったよ!!」

友奈(だって)

友奈「私とぐんちゃんはもう直接お別れを皆に伝えることはできないけど、高嶋ちゃんたちにお願いすれば伝えてもらうことができるってことだよね?」

友奈(私のその解釈は間違っていなかったようで)

もう一人の友奈「……うん。高嶋ちゃんの想い、私が必ず伝えるよ」

もう一人の千景「……こちらの高嶋さんも随分と前向きなのね……」

千景「ね、素敵でしょう?」

もう一人の千景「ふっ……そうね。私の高嶋さんには負けるでしょうけれど」

千景「……さぁ、それはどうかしらね」

もう一人の千景「……ここで反論するのが郡千景でしょう? ……あなた、一体何を知っているの?」

千景「二人の高嶋さんの正体よ」

友奈(あ、あはは……)

もう一人の千景「教えなさい」

千景「……それは、あなた自身の手で知っていきなさい」

友奈(もう一人のぐんちゃんは不満そうな顔をしたけど、最後には納得したのか小さく頷いた)

千景「……三ノ輪さんや風先輩のことを頼んだわよ」

もう一人の千景「……約束は出来ないけれど、それなりに善処はしてあげるわ」

友奈(良かったね、ぐんちゃん。そして、ありがとう、もう一人のぐんちゃん)

若葉「……時間だな。刹那の時間を限りなく延ばしていたはずだが、それも限界のようだ。これにて、最後の邂逅は終わりとなる。……何か伝えておきたいことはあるか? なるべく応えられるものには応えようと思う」

友奈(私とぐんちゃんは顔を合わせて)

千景「……いえ、特にはないわ。私はある意味、皆と別れは済ませてあったもの」

友奈「……私も結城ちゃんに託せたから満足だよ。……またね、結城ちゃん! そっちのぐんちゃんも!」

もう一人の友奈「うん! またね! 高嶋ちゃん!」

もう一人の千景「……まぁ精々平和に暮らすことね」

千景「相変わらず口が減らないこと。……そちらこそ精々頑張りなさい。あとは任せたわよ」




友奈(目の前がかすんでいく)

友奈(皆の姿がぼやけていく)

友奈(多分、私たちのほうが世界から居なくなっているのだろう)

友奈(そして)



若葉「……ありがとう……千景、友奈……」



友奈(若葉ちゃんの綺麗なお辞儀)

友奈(──それが、この世界で見た私たちの最後の光景だった)







*エピローグ『高嶋友奈』

千景「いってきます、高嶋さん」

友奈「……うん。いってらっしゃい、ぐんちゃん」

友奈(懐かしく感じるアパートの玄関。私はぐんちゃんを見送っていた。……もしかしたらぐんちゃんよりも私のほうが緊張しているのかもしれない。だって、ぐんちゃんはいつもの歩調で前へと進んで行ったのだから)

友奈(今日は休日。そして、ぐんちゃんがご両親と再び向き合おうと決めていた日)

友奈(色々な事情があって私とぐんちゃんは一緒に住んでいる。その一方で、ぐんちゃんの家の事情は出会った時から何も進展していなかった。……ううん、一緒に住んでいるからこそ進展も後退もしなかったんだ)

友奈「……」

友奈(正直、ぐんちゃんはたくさん悩んだろうし、今だってとっても怖いんだと思う)

友奈(それでも、ぐんちゃんはご両親ともう一度だけ向かい合おうと決心していた。──しかも、誰の手も借りずぐんちゃん一人の力だけで。……とっても偉いよね)

友奈(実を言うと、私も着いて行こうとしたら『偉そうな口をきいてしまったのよ、こんなことくらい一人で成し遂げなければ犬吠埼姉たちに顔向けが出来なくなってしまうわ』と言ってやんわり断られてしまった。……本当にぐんちゃんは立派だよ……)

友奈(……ぐんちゃんの背中が完全に見えなくなったね。家の中に戻らないと……)

友奈(ドアを閉めようとしたところで、郵便受けに荷物が届いているのが見えた)

友奈「あれ? ……便箋? 珍しいな」

友奈(手紙とかを入れる白い便箋を手に取る。ガス料金とかの封書とは全然違うデザインで、それが一層物珍しさを思わせた。裏返して差出人を確認する)

友奈「え……?」

友奈(私は動きを止め、多分、目を見開いていた)

友奈(もう一度見返す。……見間違いじゃない!)

友奈「でも、この住所って!?」

友奈(絶対に届くはずのない住所。差出人も絶対に届くはずのない人で──)

友奈(私は身体を震わせながら、早足でリビングに入って行く)

友奈(扉を閉め、椅子に座り、テーブルの上に便箋を置き、ただその白を見つめる)



友奈(──それは、時間も世界さえも超えて届いた手紙であった)




友奈(長い時間手紙と見つめあって、私はようやく便箋を開き、そのうちの一枚を取り出していた)

友奈(そこには──)

『私は人として母として最悪の人間です。今になって娘の遺品を整理しましたら、机の奥に隠すようにこの手紙が置かれていました。私共に思うことはたくさんあるでしょうが、それでもどうか、あなたに受け取っていただければと思い、送らせていただきました』

友奈(一通目は、あの子のお母さんの書いた手紙)

友奈(当時の私は知らなかったけど……あの子の家庭環境はグチャグチャだったらしい。だから、私は最期の時まで気付いてあげることはできなくて……私はどうしようもなく子供で……)

友奈「……」

友奈(……一枚目の手紙を置き、私は震える手でもう一枚の手紙を便箋から取り出そうとする。上手く掴めない。それでも、何度目かでようやく手の中に収めることができて……ゆっくりと、恐る恐る──私は開いた)

友奈「……っ……」

友奈(そこにはたった一言)

友奈(だからこそ、何よりも伝わる気持ちが、几帳面なのに優しい文字で──)



『本当にごめんなさい、高嶋さん。もし仲直りが出来たら、また二人で一緒に遊びましょう』



友奈「……私こそ……」

友奈「……ぐすっ……」

友奈「……ごめん……っ! ……ごめん、なさい……っ……!」

友奈(とめどなく私の気持ちが頬を伝ってこぼれていく)

友奈(それは遠い過去に置き去りにしてしまった気持ち)

友奈(ずっと心の中で痛みを抱えていた気持ち)

友奈(私を延々縛ってきた鎖が少しずつ音を立てて、崩れていく)

友奈(私が手にしているそれは)

友奈(……喧嘩別れしてしまった友達からの、最後の手紙)

友奈「……ああっ……あ、あぁぁぁぁ……」

友奈(顔をただ手でおおい隠す。嗚咽だけが私の口から洩れている)

友奈(その手紙はあまりにも温もりに溢れていたから……)

友奈(私の涙はいつまでも止まることがなくて──)






友奈(ごめんなさい。そして、ありがとう──郡千景ちゃん)












https://youtu.be/BFRb6pLWZlk








*その後のその子たち

友奈「来年からぐんちゃんも大学生かぁ……」

千景「安心して高嶋さん! 私はいつだって高嶋さんと一緒に居るわよ!」

友奈「あはは……それだとどっちかが学校に行けないよね?」

千景「はっ!? ……浪人、そうよ! その手があったわ!」

友奈「わー! 駄目駄目! 駄目だってば! せっかくぐんちゃん推薦入学が取れたんだから!」

千景「うっ……」

千景(……何を間違ったのか私は推薦枠を取ってしまい、高校三年、十二月の今、大学への入学が決まってしまっている。……人生本当に何があるか分からないものね)

友奈「でも、ぐんちゃん、大学だってここから通うんだよね?」

千景「それとこれとは話が別よ! 高嶋さんと一時でも離れているのが嫌なの!」

友奈「嬉しいけど、それはもう一年だけ我慢してね?」

千景「……高嶋さんがそう言うなら」

友奈「あ、そーだそうだ! 昨日の『鷲尾須美は勇者である』の続きを見ようよ!」

千景「続きと言っても、鷲尾須美の章は昨日の分で終わりで、今回が一期の総集編、次からが勇者の章だったかしら?」

友奈「勇者の章楽しみだよねぇー」

千景「いえ、どちらかと言うと何かしでかしてきそうで恐怖すら感じるのだけれど……」

千景(私と高嶋さんがあの世界から帰ってきて三年が経っていた。その月日の密度は膨大で、ゆゆゆ関連だけを見ても、のわゆの小説化、わゆすの映画に花結いのきらめきの配信開始、さらには推薦入学関係で見ることの出来ていなかったアニメの二期を昨日から見ている始末。……そう言えば、ゆゆゆいの北海道枠と沖縄枠にも私は会ったことがあったわね)

友奈「結城ちゃんたちだったら何があっても大丈夫だよ!」

千景「多分私たちの知っている人たちとは別人のお話だとは思うのだけれどね……」

千景(その証拠に二期とあの世界の話は繋がっていない。そして、私たちの世界にはバーテックスの襲来がなかったのだから、あの世界とのつながりは完全に消失していると言っても間違いはない。……まぁ、思い出だけは今も色あせていないのだからそれで良いのだろう)




ピンポーン

友奈「あ、私が行ってくるね」

千景「……どうやら今回はコノザマにならなかったようね」

友奈「ぐんちゃん! くめゆの小説が届いたよ!」

千景「早速開けてしまいましょう。封入特典の三ノ輪さんのSRが欲しいのよ!」

友奈「銀ちゃんを集めているもんね、ぐんちゃんは」

千景「攻撃速度が速いのよ。それに重ねるほど強くなるのだから特定の勇者を集めるほうが効率的でしょう?」バリッ

友奈「たまに豪快に開けるよね? カッターそこにあるのに……」

千景「……」…ハァ

千景「……高嶋さん。既視感と言う言葉は知っているわよね? いえ、性格にはデジャヴとは違うのだけれど」

友奈「前にあったようなことが起こる時の話だっけ? って、あー!」

千景「……勘弁して欲しいわ」マッタク…

千景(ダンボールの中にあったのは『楠芽吹は勇者である』のノベライズと──)

友奈「今回は色々準備してから行こっか?」

千景「……はぁー」

千景(大きなため息を吐き、私は天井を見上げる。……私が高嶋さんの言葉に反対するわけがないでしょう!)

千景「……今度は流石に文句の一つでも言ってあげようかしら?」

千景(誰かさんの顔を思い出して、私は独り言で愚痴る)

千景(あれから三年経っても私と高嶋さんはゆゆゆ漬けの毎日。……きっとこれからもそうなのだろう。それでいて嫌いになんて決してなれないのだから本当に性質が悪い)

千景「……」ハァ

千景(まったく困ったものね。この……)



千景「結城友奈は勇者である」



千景(──と言う物語は)






                           どうか幸福な日々を 高嶋友奈の章・終







これにて『結城友奈「これは勇者たちの物語」』及び『高嶋友奈の章』は終了となります
ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました
また、今回戦闘メインと言う無謀に挑戦してしまったため、色々分かりづらい部分が多く本当に申し訳ございません

内容に関しては、九尾の狐と二周目の彼女は『郡千景「結城友奈は勇者である」』を書く前から決まっていましたので、所々にそれを匂わす記載があったりします
その他若干謎が残りそうな部分も何となく想像できる範囲かと思いますので、想像してみるのも良いかもしれませんよ

今回も長編かつ読みづらく誤字脱字等が多い中お読みいただいた方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです
(誤字等を多少を修正したものはいつものところに上げておきます)

色々と書きたいこともありますがひとまずこの辺で
今まで本当にありがとうございました!


YouTubeの動画て自作?

>>79
どうもです
一応自作ですが、そのうち消すかもしれません


面白かったよ、お疲れ様

完結おめでとう
面白かったよ

>>81 >>82
ありがとうございます。そのお言葉だけで全てが救われる心地です
皆さんにレスをいただけていたからこそ、ここまで書くことができました。改めて感謝、感謝です
また、自分としては、あのラストこそが友奈と千景のベストに近い結末ではあったのですが、意図した説明不足感も強いため受け入れてもらえるか実は不安でした。それでも、何となく受け入れてもらえているのなら書き手としてこれ以上のことはありません

あと、動画の再生数を見た感じですとおそらく4人くらいはこのSSをお読みいただけているようで本当に嬉しく思います(本音を言いますと、第2話中盤から多分2人の方だけにお読みいただけていたのかなと自覚がありました)

ただ、実際このスレを見ている方が少ないことは事実だと思いますので、今回だけこの場を借りて個人的な話を書かせていただきます
このSSの内容には関係なく、長文かつ本当に個人的なものなので適当に流していただけると幸いです



昔から今回のゆゆゆのようにSSは色々書いていたのですが、こうして本格的にSSを投下し始めたのは2014年のゆゆゆ年からだったりします
ゆゆゆを見てから心に熱が入って、とにかく何か書きたいという衝動があったことを今でも何となく覚えています
その衝動のまま完成した初(二度目)の投下SSは当然と言うか何と言うか、ゆゆゆの影響がかなり入っていましたね
以降、気付けば毎年一本は長編SSを書いていたようです
一応自作長編SSの主なものだけ挙げていくと下記のようなものを書いています

2014年:穂乃果「悲しみに二つの祝福を」(番外編でゆゆゆも少々)
2015年:星空凛「おやじさんと凛」+2期・穂乃果「これがラブライブの選択だよ」
2016年:神谷奈緒「チャット」「オフ会」
2017年:郡千景「結城友奈は勇者である」高嶋友奈の章シリーズ

とまぁ、FAガールとかも入れれば多分百近く色々なSSを書いてきたのですが、今回は一区切りとして小説一冊程度に該当する長編のみを挙げさせていただきました

そんなわけで四年以上長編SSを毎年書いてきましたが、おそらく今回のゆゆゆSSで長編は最後になるかと思います

上記含めここまでお読みいただいた皆様、今まで本当にありがとうございました!

おやじさんと凛の人だったのかあれも面白くて好きだった
また気が向いたらなにか書いて欲しいな

個人的な要望で悪いんだけど、>>1が書いた作品のなかで心に残ってるものとかあったら教えて欲しいな

>>84
おやじさんと凛は書いていてとても楽しかったですね。あと、このSSを知っている方が居ることに…感謝です!
一応番外編で『穂乃果「亜里沙ちゃん式タイムスリップ」』と言うものがあったり、非公開ですけど劇場版はハッピーエンドだったりします

>>85
心に残っているとなると上に挙げた長編たちが断トツとなってしまいますね。全て渾身で書いていましたし、自分が読み直しても面白いと感じます(シリアスとか時間遡行とか大好きなので)
一応「選択だよ」がループもの、「おやじさん」が一話完結式、「チャットシリーズ」が無限に書けるSSとしての自分自身の到達点でしょうか

それ以外だとスッキリサックリ書けた『星空凛「部長!」』とかコンマが神掛かっていた『穂乃果「恋愛チェッカー?」』、テンポの良かった『穂乃果「皆、神経質すぎるよ!?」』
趣味を詰め込んだチャット番外編『北条加蓮「最近、肩こるんだよね」』、意外と好評をいただいた『源内あお「今日はバーゼを作るよ」』『轟雷「何をしてるのですか、あほ!」』あたりでしょうか

そのFAガールの2作品もあなただったのか!

教えてくれてありがとう
今度読んでみるわ

>>87
FAガールSSはグシオンとか含めてここに投下された大半が私だったりするので……

>>88
ありがたいお言葉をありがとうございます
一応面白さ的には長編なのでしょうが、1シリーズ10万文字~15万文字(ラノベ1冊分)くらいあるのでそれ以外で挙げた短編のほうが手軽に読めるかとは思います

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