郡千景「結城友奈は勇者である」 (110)


あらすじ:ぐんちゃんにびっくりする事がおきる

郡千景という名前の少女が『結城友奈は勇者である』の世界に行くお話です
『乃木若葉は勇者である』の内容も含むためそこまで把握されている方は多くないかもしれませんが、お付き合いいだけましたら幸いに思います(ゆゆゆいでもOKです)





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*プロローグ

郡千景(私の家庭環境は最悪だった)

千景(だけれど、逃げ道は潜在的な恐怖により塞がれ、ゴミクズのような日々は私を縫い付けていく)

千景(あいつらが存在する限り、私の地獄は終わらない)

千景(その日もいつもと変わらない陰鬱な気持ちで帰路に着いていた)

千景(切っ掛けは覚えていない。気付けば私は建物と建物の間にある薄汚れた路地裏で座り込んでいた)

千景(動けないと思った。おそらく動きたくないのだと思った。限界は疾うに超えていた)

千景(体育座りのままただ時間は過ぎていき、辺りは闇に包まれていく)

千景(このままこうしていればいつかは死ねるのだろうか、と考えた)

千景(同時に、あいつらが今にも現れることを想像して恐怖に身体が凍えた)

千景(最低の行為ばかりするあいつらであっても世間の体裁は整えようとする。自然、私はあの家へ帰ることになるのだろう。あいつらの手によってか私の脚かの違いだけであり、後者のほうが余程マシに思えた)

千景(辺りに積もる夕闇は一層濃くなり、自身のこれまでとこれからを示しているようで、いつも以上の絶望に真っ黒を超えた黒が胸を塗りつぶしていく。だから、もう私に残された手段は自発的な■だけであり、そうすることが唯一の救いなのだと──)



少女「大丈夫?」



千景(闇よりも深い私の内部に、正反対なひだまりのような声が聞こえてきた)

千景(表情のない私の顔は自然と声の方向に向き──そこには、山桜のような可愛らしい少女の少し困ったような表情があって……)



少女「もし行くところがないんだったら、もし良ければだけど、うちに来る?」



千景(──それが、彼女との出会いだった)




*アパート

千景(2014年の夏もいつの間にか終わり、気が付けば暦の上では冬の時期。体感的にはまだまだ秋物の洋服で十分なくらいのよくある移り変わりの季節)

少女「ぐんちゃーん! 何見てるの?」

千景「録画していた深夜アニメよ、高嶋さん」

千景(同居人である彼女、正しくは私が居候であるのだが──高嶋友奈さんに偽りなくそう答えた。嘘のような汚いもので高嶋さんを汚してしまってはならないから、私は必要悪以外の嘘は彼女につかないようにしている)

友奈「え? アニメって深夜にも放送しているの?」

千景「ええ、私たちが生まれた頃には多くのアニメが深夜帯で放送されるようになっていたらしいわ。深夜に行っている海外ドラマと同じような感覚と言っても良いかしら」

友奈「あはは、私深夜まで起きていたことってほとんどないから、深夜ドラマとかも分からないや」

千景「ふふっ、高嶋さんは十時にはぐっすりだものね」

友奈「寝る子はよく育つんだよ、ぐんちゃん」

千景「はいはい、そうね」クスッ

千景(自分でも驚くほど自然に笑顔が出てきた。やはり高嶋さんとの会話は私を穏やかなひだまりへと運んでくれる)




千景(あの日、私は高嶋さんの手を取り、このアパートへと連れて来られた)

千景(後に知るのだが彼女にも"理由"があり、中学生にしてほとんど一人暮らしに近い生活をしていたらしい)

千景(そのおかげでこの半年間、私は居候をすることが出来ているので状況に感謝するべきなのだろう)

千景(……思い出したくもないが、あいつらとはその間で一度だけ顔を合わせた。そこでも私は高嶋さんに救われ、自身の人生を全て捧げても足りないくらいの恩を受けた。少しずつでも返していきたくはあるのだが、日々恩が膨らみ続けていくばかりで人生が十度あっても足りないくらいなのである)

友奈「どんなアニメなのぐんちゃん?」

千景(無邪気に高嶋さんが訊ねてくるが、返答に関しては少しだけ困ってしまう。何と言うかこのアニメを見始めたきっかけがきっかけであり、何と言うか気恥ずかしさがあった。今日もこっそり一人で見ようとしていた理由はそれである。だけれど、聞かれたからには答えないわけにもいかないだろう)

千景「……は……である」

友奈「あ、ごめんね。よく聞き取れなかったかな?」

千景(……覚悟を決めよう)スーハー

千景「ゆ、『結城友奈は勇者である』よ」

千景(照れくささから声が上擦るのを痛いくらいに自覚した。……消えてなくなりたい心地とはこういうものなのね……)




千景(切り替えよう。視聴のきっかけはネットでこのアニメのタイトルを目にする機会があったから、これに尽きる。元々私はゲームがメインでアニメをそこまで見るタイプではなかったのだが、これだけは別であった)

千景(高嶋さんと同じ名前のタイトルである以上、郡千景がチェックしないはずはないのである)

千景(驚くことにこのアニメ、ゆゆゆとファンの間で呼ばれているのでゆゆゆと呼ぶが、ゆゆゆの主人公結城友奈は高嶋さんと瓜二つの容姿をしていた)

千景(もちろん二次元と三次元の違いはあるのだが、全ての特徴がとにかく高嶋さんに似ていたのだ)

千景(舞台を四国にしていることからも製作スタッフが高嶋さんをモデルにした可能性は十二分にあると私は見ている。高嶋さんの愛くるしい容姿が人目を惹かないはずはないので仕方がないと言えば仕方がないのだが、高嶋さんは正式にモデル料を貰う権利があるだろう。高嶋さんという世界の宝に無許可は決して許されないのだ。でも、高嶋さんのことだから許してしまうに違いない。それを分かっていたからこそこんな風に私は今日まで行動に移していなかったくらいなのだ。いえ、たった一つだけ行った行動はあるわね。何かのモデルになったことはないかと高嶋さんに聞き『モデル!? わ、私じゃそんな大役務まらないよぉ……!』と答えてくれた様子は今でも脳内再生が余裕である。控え目な高嶋さんも可愛い)

友奈「同じ名前がアニメのタイトルって少し不思議な感じかも」

千景「何となく分かるわ、その気持ち。でも、『高嶋友奈は勇者である』というタイトルも悪くないと思うの」

友奈「えぇ!? それは流石に恥ずかしいよ。あ! アニメの名前が恥ずかしいんじゃないよ? 自分のフルネームが恥ずかしいんだからね?」

千景「もちろん冗談よ、高嶋さん。私も自分のフルネームが入ったアニメなんて見たくないもの」

千景(想像すればすぐに分かることだった。郡千景という別の人間が活躍するアニメなんてゾッとするどころの話ではなかった)




友奈「『結城さんが勇者である』ってどんなお話なのかな? 今から見ても私ついていける?」

千景「ふふっ、結城さんは良いわね。内容は普通の中学生の女の子たちが勇者と呼ばれる姿に変身して敵と戦うお話よ。戦闘シーンは女の子向けのアニメというよりは男子が好きそうだけれど、日常にも力が入れられているから女性でも楽しく視聴できると思うわ。ただ──」

千景(今視聴していたのは八話冒頭。前回の七話はまさに日常系というお話だったけれど、どうにも六話から不穏なものを随所に感じるのだ。五話で最終決戦だったのも気になるし、風先輩が先ほどバーテックスの生き残りと言っていたところも気になる。もしかしたらこの後の展開は──)

友奈「ごめんね、困らせちゃったよね。やっぱり物語は一番最初からちゃんと見ていかないと駄目だもんね……」エヘヘ

千景(いけない! 高嶋さんに気を遣わせてしまっている!)

千景「いえ、高嶋さんが良ければ一緒に見ましょう! 私が隣で補足するから何とかなるはずよ」

友奈「良いの?」

千景「当然よ。私も本当は高嶋さんと一緒に見たかったもの」

友奈「やったー!」

千景(高嶋さんのその笑顔が私を狂わせる。この日常にすっかり馴染んでしまった私が証左だ。本当の私はこんな風であってはいけないはずなのに、いつの頃からか私は──)

千景(……頭を振って思考を打ち切る。そんなことより、高嶋さんと一緒に今はゆゆゆを楽しもう)




友奈「凄かったね! 勇者キック! 流石に私も炎までは出せないや」

千景「炎以外はできるのね……」

千景(武術の経験がある高嶋さんだから戦闘シーンを楽しんで見てくれていたものの、アニメに漂う不穏な空気は一層濃いものとなっていた)

友奈「あれ? 結城ちゃんと東郷さんが居ないような……」

千景(──そして、ゆゆゆの本質が語られていく)




千景(私と高嶋さんは発することも忘れて、その光景を見ていた)

千景(あまりにも残酷な真相に、少女たちの悲惨な未来に、物語をほとんど把握できていないはずの高嶋さんが涙をこぼす)

千景(その姿があまりにも痛ましかったからか、自身が熱中し過ぎていたからなのか、ただ茫然と目の前のモニターを見つめている私が居た)

千景(三好夏凜を除く勇者部全員は五感のいずれかを失ってしまっている。特に主人公の結城友奈の味覚に関しては痛いくらいに分かるため、私はアニメでの出来事を我が事のように思ってしまっていたのだろう)

千景(……ああ、そうだ。認めなければならない。私がこのアニメに魅せられたのはただ友奈の名を冠するからだけではない。精神的な苦悶が、肉体的な苦悶が自分に重なるから勝手に共感して、まだ私に訪れていない結末を敏感に感じ取り、彼女たちを通して行く末を模範解答のように見れると、どこかで期待している私が確かに居たのだ──)




*2014年12月・アパート

友奈「ぐんちゃん! 届いたよ!」

千景「……噂のコノザマをまさか私が味わうことになるなんてね」

友奈「で、でも! 楽しみに待っている時間が増えてお得だったんじゃない、かな……?」

千景(あの八話以降、高嶋さんは私と共にゆゆゆを視聴するようになった。そして、先日最終回を見届け、予約していた前日譚である『鷲尾須美は勇者である』の小説がコノザマをくらいながらも先ほど届いたのだった)

友奈「ええと、ちょっと大きいダンボールだね? テープをはがして開けて、っと──あ、小学生の時の東郷さんが表紙なんだね! ……あれ? なんで手甲が入っているんだろう? ぐんちゃん、一緒に頼んだ?」

千景(それは日本式のグローブという例えが正しいのだろうか、ゲームに出てくるような手甲が小ぶりな姿でダンボールの中に収まっていた)

千景「……いえ、手甲なんて注文していないわ。コノザマに続きまさかの誤配かしら?」

友奈「あ、そうなんだ。じゃあ、ちゃんと返品しないといけないね。……でも、この手甲カッコ良いかも。って、あれ……?」グラッ

千景「高嶋さん!?」

千景(高嶋さんが手甲に触れた瞬間、彼女の身体が揺らいだように見えた。いえ! 気のせいなんかじゃない!? いけない! 高嶋さんが消えてしまう!! ──そう、根拠もなく私は思いながら咄嗟に高嶋さんへと手を伸ばした)

千景(そして──)




*???

??「お姉ちゃん、大変だよ!」

??「どうしたの? そんなに慌てて?」

??「あ、あそこに──」

??「えぇ!? この時代にまさかの行き倒れー! ……なんて冗談を言っている場合じゃないみたいね。ええと、こういう時は──」

千景「……う……うぅ……」

千景(──あいつらが追ってくる。どこまでも私を追ってくる。……やめて、もうやめて……。……どうして私は、あいつらの元に生まれてきてしまったの……? ……近所の人にもそんな目で見られて……口撃されて……もう、私は──)

??「だ、大丈夫ですか!?」

千景「たか、しま……さん……?」

??「意識が戻った……いえ、まだ虚ろのようね」

??「早く救急車を呼ばないと!」

??「分かってる。今呼ぶから」

千景(救急車……? ──おぼろげだった意識が少しずつはっきりしてくる。それに伴って、目の前の人の姿もクリアになっていき……)

千景(それは知っている人の姿で、その人の名前は、そう──)

千景「ふう、せんぱい……?」

??「安心して、今救急車を呼んだわ。アタシの名前を知っているってことはうちの生徒ってこと? あ、ごめん、答えなくて大丈夫だから安静にしていて」

千景(その声は確かに彼女の声に聞こえる。……夢なのかと思おうとしたけれど、育った環境故か虚構と現実の区別は昔からはっきりとしている。彼女の横を見ると、ホッとした様子の女の子の姿まで見えた。同様に見知った顔である)

千景(……認めたくはないが、事実としては受け入れざるを得ないのだろう)



千景(──目の前には、ゆゆゆの登場人物であるはずの風と樹、犬吠埼姉妹が揃って存在していた)



千景(その非現実的な光景のせいで、もっとも大切なことを思い出すのに少しだけ時間が必要だった)



導入が終了しましたので一旦休憩です
多分続きは明日になるかと思います

読み返してみると誤字脱字、特に重複になっている部分が目立ちますね
特に冒頭が酷かったのでこれだけ修正版を上げておきます。他の部分は脳内補完で何とかお願いします……


>>2
*プロローグ

郡千景(私の家庭環境は最悪だった)

千景(だけれど、逃げ道は潜在的な恐怖により塞がれ、ゴミクズのような日々は私を縫い付けていく)

千景(あいつらが存在する限り、私の地獄は終わらない)

千景(その日もいつもと変わらない陰鬱な気持ちで帰路に着いていた)

千景(切っ掛けは覚えていない。気付けば私は建物と建物の間にある薄汚れた路地裏で座り込んでいた)

千景(動けないと思った。おそらく動きたくないのだと思った。限界は疾うに超えていた)

千景(体育座りのまま時間は過ぎていき、辺りは闇に包まれていく)

千景(こうしてじっとしていればいつかは死ねるのだろうか、と考えた)

千景(同時に、あいつらが今にも現れることを想像して恐怖に身体が凍えた)

千景(最低の行為ばかりするあいつらであっても世間の体裁は整えようとする。自然、私はあの家へ帰ることになるのだろう。あいつらの手によってか、私の脚か、の違いだけで後者のほうが余程マシに思えた)

千景(辺りに積もる夕闇は一層濃くなり、自身のこれまでとこれからをあたかも示しているかのようだ。絶望がいつも以上に胸を黒く塗りつぶしていく。だから、もう私に残された手段は自発的な■だけしかなくて、そうすることが唯一の救いなのだと──)



少女「大丈夫?」



千景(闇よりも深い私の内部に、正反対のひだまりのような声が聞こえてきた)

千景(表情のない私の顔は無意識に声の方向を向き──そこには、山桜のような可愛らしい少女の、少し困った表情があって──)



少女「もし行くところがないんだったら、良ければなんだけど……うちに来る?」



千景(──それが、彼女との出会いだった)




犬吠埼樹「あ、あの! 急に動かれては危ないですよ!」

犬吠埼風「さっきまで倒れていたのよ!? 安静にしていなさいって!」ガシッ

千景「離して! ──高嶋さん! 高嶋さんはどこっ!!」

千景(なんてことなの! いくら非現実的な出来事を目の当たりにしたと言えども、高嶋さんのことを失念してしまうなんて! 最低の薄情者よ私は!!)

風「こら、落ち着きなさいって! ……大丈夫、大丈夫だから、そのタカシマさんって人のことなら大丈夫だから」

樹「お姉ちゃん……?」

千景「……もしかして、高嶋さんの居場所を知っているの?」ピタリ

風「え、ええ! し、知っていますとも! ……だからね、安心してここで少しジッとしていなさいな」

千景(風先輩の意志の強い瞳が真っすぐに私を見つめてくる。……まったく、アニメの通りお人好しも良いところね。遅れながらに私は周囲の状況を確認してみる。どうやら今居るここは浜辺のようだ。再び姉のほうに視線を戻す)

千景「あなた、そういうの向いていないわよ?」

風「と、突然何のこと? でも、落ち着いてくれたようね。……良かった」

千景「嘘をつくならもっと理路整然と言葉を並べて、目は決して泳がせないことね。あなた、高嶋さんのことなんて全く知らないのでしょう?」

風「ぎくっ!」

樹「そ、その! お姉ちゃんのことを悪く思わないでください! きっと、今の嘘は──」

千景「私を落ち着けるための方便だったのでしょう? ……安心して、もう醜態はさらさないわ」

樹「良かったです……」ホッ

千景(自ら泥を被ろうとする姉に、その姉を気遣う妹。そして何より、互いの心根が真っすぐ過ぎる。……本当にアニメ通りの姉妹ね。犬吠埼姉の下手くそな嘘から得た沈静は、私に平常の思考力を戻してくれているようだった)




千景(考えることは多いだろうが、まず受け入れなければならないことは、高嶋さんがここに居ないこと。落ちていた"それ"を拾い、砂をはらう)

千景(小ぶりの手甲だった。覚えている高嶋さんとの最後の記憶はこの手甲に触れた場面。これが私の近くにあり見通しの良い浜辺に三人以外人影がないということは『大切な彼女がこの状況に巻き込まれていないかもしれない』という希望を抱かせてくれる)

千景(全く理由は分からない。けれどこの手甲が、ここに居る犬吠埼姉妹と同姓同名、容姿すら同様の人物との遭遇を起こした原因であることは間違いないだろう)

千景(それにこの浜辺、見れば見るほど三好夏凜が修練で利用していた浜辺にそっくりだった。……やはりここは──)

千景「一つ、いえ、二つ質問しても良いかしら?」

風「答えられることなら答えるわよ? と言うか具合とか大丈夫なの? それと、さっきは嘘をついてしまってごめん」

千景「そうね、あなたはもう嘘をつかないほうが賢明でしょうね。気分に関してはご心配なく。早速、質問なのだけれど──」

樹「あはは、だって? お姉ちゃん」

風「ううううぅっ! そ、そんなにアタシの嘘は下手なんかい……!」

千景(……雑音は無視しましょう。半ば確信しながらも私は彼女にこう質問した)

千景「ここは、この町は、何という名前で今は"神世紀"何年なの?」

風「……へ?」




千景「大丈夫と言っているでしょう?」

風「いやいや、あんた! 記憶喪失なのよ!? 大人しく救急車に運ばれていきなさいって! 何、自然な感じでどっかに去ろうとしてんの!?」

千景(犬吠埼姉が答えた町の名前はやはりゆゆゆの舞台であり、今が"西暦"でなく"神世紀"三百年であるということも分かった。当然、彼女の言葉に下手くそな嘘は含まれていないことは明白である)

千景(……こんな絵空事のようなあり得ない事態、巻き込まれるのは私一人で十分だった。私ですら頭がおかしくなってしまいそうなのに、心優しい彼女だったらどうなることか。精神に多大なダメージを受けてしまってもおかしくないだろう)

千景(ここに高嶋さんが居ないことを、彼女が西暦に取り残された結果であると信じよう。……信じたい。そうであって欲しいし、そうでなくてはならないと思った。彼女は堂々とひなたを歩ける人なのだから──)

千景(……でも、高嶋さんは私が居なくなったことを悲しんでくれているだろうか? ……愚問が過ぎるわね。出来れば彼女のもとに帰りたいけれど、この場所は未来であるのか、はたまた異世界であるのか、それとも予測通りアニメの中の世界なのか。いずれにしろ帰還が容易でないことは確かだろう)

千景(これでもノベルゲームの経験はそれなりある。だからこその現状の適応力と言っても良い。ゆえに、定番に従って犬吠埼姉妹には私が記憶喪失であると嘘をついていた。素直な姉妹はあっけないほど簡単に信じ込んでしまっている)

千景(まさか、アニメの中の登場人物として毎週見ていましたなどと言えるはずもないし、言ってしまったら本格的に頭がおかしいと思われて面倒が起きることは必至だ)

千景(そして、現状最も困ってしまっていることは、救急車をすでに呼ばれてしまっていたこと。当たり前だがこの世界に保険証も戸籍もあるはずはないので病院に行くことは非常に良くない。しかしながら、この流れだと逃げることはできそうにないので、記憶喪失設定を上手く使っていくしかないだろう)

千景(……それにしても笑える話だ。自認さえする現状への適応力は、思えばかつての生活から逃避するために頭で描いていた妄想から生じたものである。あいつらに感謝することなど決してあり得ないが、その経験が役に立った初めての事態と言えるかもしれない)

千景(──さて。滅多に目にする機会なんてない救急車内部の天井を見上げながら、今後へと思考を巡らせていくことにしよう。救急車に乗ってしまった以上、なるようにしかならないのだから)




*一週間後・病院

風「お勤めご苦労である!」

千景「……あなた、今日も来たの?」

風「ひどっ!? 出会った頃は風先輩って呼んで慕ってくれていたのに今では……よよよ」

樹「お姉ちゃん、千景さんを困らせないの。でも、お姉ちゃんの名前を憶えていたことは元の記憶への大切な手がかりかもしれませんよね?」

千景「……そうかもしれないわね。樹さん、今日も手をわずらわせてしまうわね」

樹「い、いえ! 私が来たくて来ているだけなのでそんな……」

風「ちょっと! アタシと樹への態度違いすぎない!? 大体なんで樹が樹さんでアタシが犬吠埼さんなのよ!?」

千景「うるさいわね。どちらも犬吠埼さんだと区別がつかないでしょう? ただそれだけの話よ」

風「絶対に他意があるでしょ!?」

通りすがりの看護婦「犬吠埼さん、病院では静かにお願いしますね」

風「……はい、しゅみましぇん……」シュン

樹「あははは……」

千景(……)




*アパート前

千景(神世紀の医療技術が発展しているかは不明であるが、ひとまず一週間が経ち異常が見当たらないということで今日をもって退院となった)

千景(私がこのゆゆゆの世界──ひとまずそう結論付けることにした──に来て初めて出会った犬吠埼姉妹はこの一週間、欠かさず私を見舞ってくれていた。時間帯から察するに勇者部の活動が終わってから来ていたのだろう。……真摯な人柄が流石の勇者であり、それが面倒でもあった)

樹「でも、お姉ちゃん。大赦は千景さんを知っている様子なんだよね?」

風「多分ね。じゃないと、この待遇は考えられないわよ」

千景(病院からようやく解放されて四半刻。私は犬吠埼姉妹と共にタクシーで真新しいアパートの前に来ていた。この中の一部屋が今日から私の自室になるとのことである。……キナ臭いことこの上ないわね。だけれど、戸籍のない私に他の手立てなどあるはずもない)

風「それでいて、千景に関しての質問は一切答えてくれないし、この子を家に帰させてくれるわけでもない。ただ、こうしてアパートの一部屋を与えるだけ。……あんたもしかして、訳あり名家のお嬢様だったりするんじゃない?」

千景「はっ」

風「鼻で笑われた!?」

千景(当然この明らかな大赦からの優遇には必ず裏がある。それに関してはこのお節介な先輩と意見が一致していた)




風「大赦の人から預かった鍵の番号は、と……。ここが今日から千景の部屋になるわ」

樹「と言うかお姉ちゃん、この部屋って……」

千景「……三好……」

風「まぁ、大赦絡みだもの、夏凜の部屋の隣にもなるわよねー」

千景(この表札、やはり三好夏凜の部屋のものなのね……)

ガチャ

三好夏凜「騒々しいのが来たと思ったら、やっぱり風たちだったわね」

風「騒々しいとは何よ? ああ、千景、紹介するわね。この子は三好夏凜。いつも話している私たち勇者部の一番の新参者にしてにぼっしーよ」

夏凜「にぼっしー言うな! それに、私はあんたらの監視に来ているだけで別に部員ってわけじゃ……」

風「あら、照れちゃってもう」

夏凜「うっさい! 事実を言っているだけでしょうに!」




千景「三好、夏凜……」

千景(見舞い話で聞かされてはいたが、こうして三人目のゆゆゆの登場人物を見ると不思議な感慨のような気持ちも浮かぶわね……。そして、犬吠埼姉の性格を考えるのであれば──)

東郷美森「皆。共同通路での立ち話は他に住んでいる方のご迷惑となります。お部屋の中で話しましょう。──初めまして、東郷美森と申します。ここは夏凜ちゃんのお部屋ですので、どうか遠慮なさらずお入りくださいね」

千景「……郡千景よ」

千景(犬吠埼姉が生活用品を後で買いに行くなどと言っていたから嫌な予感はしていたが、案の定勇者部の他の部員が居たわね。……東郷さんが居るとなると……駄目だ、急に動悸がしてきた。……あの人は彼女ではないのよ、郡千景?)

千景(そう言い聞かせても動悸は鎮まらず、場の流れが三好夏凜の部屋へと誘って行く。だから、必然として──)

結城友奈「あなたがぐ、じゃないや……こおり千景さん、だよね? 私は結城友奈です。お話は風先輩と樹ちゃんからいつも聞かせてもらっていて、会えるのをとっても楽しみにしていたんだー! よろしくね!」ギュッ

千景(暖かな手が、私のそれを包み込む。……この人は結城友奈。高嶋さんじゃない。だけれど……目の前の人はどうしても高嶋さんにしか見えない。容姿、発声、仕草、香り、体温、そのどれもが私の知っている彼女と一致してしまう。違うはずなのに、本当の彼女は遥か遠い西暦に居るはずなのに……)

風「友奈、はしゃぐ気持ちは分かるけどね、千景は人見知りなのよ? いつも言っていたでしょ?」

友奈「あ、ごめんね!」パッ

千景「あ……」

夏凜「……悪いわね。まったく、全員馴れ馴れし過ぎるのよ」

風「ともかく自己紹介はとりあえず皆終わったわね? 千景、この子たちが讃州中学勇者部の──」





??「あの、アタシの自己紹介がまだなんですけど……」



風「あ、ごめーん! てっきりもう済んでいると思っていたわぁ」

??「ひどいッス、部長!」



千景「な……っ!?」

千景(──結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹、三好夏凜……私の知っているゆゆゆの勇者部はこの五人で間違いない。そう、推測通りここがアニメと同じ世界であるのなら間違いないはずなのだ。それなのに──)

千景("六人目"の少女は当たり前のように目の前に居て……)



少女「アタシは三ノ輪銀……です! 樹さんと同じ一年で、その、千景さんと同じ記憶喪失仲間ってことになるようです。不思議な縁? ってやつになるのかな? って感じですけど、どうかよろしくお願いしますッ!」



千景(──見知らぬ少女は爽やかな笑顔と共に、そう言った)



とりあえず今回はここまでです


千景(ここは紛れもないゆゆゆの世界である。入院中の約一週間で出した結論だった)

千景(犬吠埼姉妹はもちろんのこと、各種情報媒体の至る所で架空の組織であったはずの大赦の姿を見ることが出来る。つまり政治規模で大赦は存在していた。そのスケールになってしまえば最早疑う余地など残されているはずもない)

千景(しかしここにきて、勇者部六人目の部員と思わしき人物が現れてしまった。私の知るアニメの登場人物の中に彼女は確かに居なかったはずだ。そもそもゆゆゆは登場人物を極端に絞った箱庭世界として描いているため見落としようがない。だとすれば……いえ、待って! みのわ、三ノ輪銀ですって!?)

千景(僅かに聞き覚えのある名前。手元に届いた直後不運を招くこととなった『鷲尾須美は勇者である』のノベライズ、そのあらすじを私は多少なりとも知っている。ネタバレ防止のため可能な限り情報遮断はしていたが、ネット社会である以上、あらすじ程度は嫌でも耳に入ってしまうものだ)

千景(私の記憶違いでなければ彼女はその中の登場人物の一人、しかも──三人目の先代勇者にあたるはずだった)

風「千景? おーい、千景さんやーい? ……あんたまさか、立ったまま眠っているとか言わないでしょうね? 夏凜みたいに」

夏凜「そんなことした記憶一切ないわよ!?」

千景「……うるさいわね、何?」

風「それはこっちの台詞でしょ? どったのボーっとして? ……はっ! もしやこやつも銀に魅惑されおったのかー!?」

銀「ちょ、風先輩! 変なこと言わないでくださいよぉ! 千景さんも困ってしまいますって!」

美森「いけない! 照れている銀も記録に残しておかなくちゃ……!」カシャカシャ

樹「友奈さん、私のクラスでも銀ちゃんに憧れている子がとっても多いんですよ」

友奈「銀ちゃん可愛くてカッコいいもんねー」

銀「あー! 皆、勘弁してくださいよぉ……。ほら、千景さんに呆れられていますって」

千景「……」



千景(……ゆゆゆの時代に三ノ輪銀の姿かたちがなかったのだから十中八九そう言うことになる。しかし、そうであるとしたら、……困った顔で、だけれど満更でもない苦笑を浮かべるこの三ノ輪銀という少女は、一体何者だと言うのだろうか──?)




友奈「……」

友奈「さっきは突然ごめんね。ええと、こおりさん……ぐんちゃんって呼んでも良いかな?」

千景「っ!?」

千景(疑惑に支配されていた思考は全てが強制破棄され、代わりに心臓が急激に高鳴った。その呼び名はあまりにも不意打ちが過ぎる)

千景「……どうして、ぐんちゃん、なの……?」

千景(声が僅かに震える。もしかしたら、という期待があったのかもしれない。……だけれど、それの可能性は潰えている。彼女が高嶋さんならこの世界で疾うに出会っていたはずなのだから)

友奈「あ、えっとね、風先輩にこおりって字をどう書くのかなって聞いたら住所とかの郡だって言われて、それからずっと心の中でぐんちゃんって呼んじゃっていたんだ。……ごめんね、失礼だよねこんなこと」

千景(……)

千景「……いいえ、ぐんで構わないわ」

友奈「ほんと? やったー!」

千景(……僅かな期待はやはり外れる。それにしても、思考まで高嶋さんと一緒なのね……。複雑と言えば複雑ではあるのだけれど、彼女の声で耳慣れた呼び方を聞くと酷く安心を抱く。反面、ここまで高嶋さんと彼女が一致している以上、何らかの"意思"が介入していると見るのが自然だった)

美森「良かったわね、友奈ちゃん。私は千景ちゃんと呼んでも大丈夫かしら?」

千景「好きに呼べば良いわ」

千景(東郷さん、東郷美森か……。物語の前半では私という人間から最もかけ離れている性格だと思っていたけれど、物語の終わりまで見てしまえば何て言うことはない、彼女はこちら側の人間だった。……この気持ちは、もしかしたら同族嫌悪なのかもしれないわね)

夏凜「それじゃあ、私は千景って呼ぶわ」

風「じゃあ、アタシもぉ、ぐんちゃんって呼ん──」

千景「はぁ!? 煉獄に蹴り落とすわよ」

風「怖っ!? 明らかな冗談なのに煉獄ってあんたねぇ……」

友奈「あはは、ぐんちゃんと風先輩ってとっても仲良しなんだね」

千景(……その評価は酷く心外ではあるのだけれど、高嶋さんと同じ顔をした彼女に反論できるはずもなかった)




*少し時間が経ち・夏凜の部屋

銀「アタシと東郷さんはどうも同じ事故に巻き込まれてしまったようなんですよ。もちろん記憶喪失なんで何も覚えてはいないんですけどね」

千景(腰を落ち着け例のぼたもちが出された頃、三ノ輪銀の記憶喪失についての話題へと移っていた。遅かれ早かれ避けては通れない話題なのだから早いうちに済ませたほうが良いと言う判断なのだろう)

東郷「私は両足の麻痺とおよそ一年ほどの記憶が飛んでしまっています。今の世はばりあふりーが進んでいますし、記憶自体も短期間のもので日常への支障は見た目ほど大きくありません。それに友奈ちゃんや皆の配慮にも助けられていますので。ですが、銀は──」

銀「いやー、全然実感はないんッスけどねぇ……。どうもアタシ、全ての記憶がなくなってしまっているようなんですよ」アハハッ

千景「なっ……!?」

銀「あ、いえいえ、これが全然大丈夫なんですって! 記憶と知識は違うっぽいっていうのが病院の先生の話で、実際学校の授業とかには全然ついていけてますし。……まぁ、勉強はあんまり得意じゃないんですけどねー」

樹「銀ちゃんは私と同学年なんですけど、本当は友奈さんたちと同い年なんです。事故の影響で一年学校に通うことができなくて……」

夏凜「そう、だったわね……」

銀「あーあーもう! 前にも言ったじゃないですか、アタシの記憶のことで暗くなるのは駄目だって。……それに記憶は確かに失われてしまったかもしれないですけど、こうして皆と、勇者部の皆で、掛け替えのない思い出を作ることができているんですから、アタシは絶対幸せ者で──って何を言わせるんですか!」モー!

風「うぅ……銀坊は本当に良い子や……」ウルウル

友奈「うぅ、ぎんちゃーん」ギュッ

銀「ゆ、友奈、さんの、抱きしめ方が、い、意外と……力が入って、いて……ぎぶ、ぎぶッス……!」バタバタ

美森「銀ったら羨ましい限りだわ」

銀「と、東郷さん……た、助け……」

夏凜「……あのさ、この流れ何回目? アタシですらかれこれ七回くらい見た記憶があるんだけど?」

樹「あはは、もう半分ギャグみたいな流れになっていますよね」



千景(場に流れるのは和やかな雰囲気。だけれど──)

千景(私は、私だけは本当の原因に心当たりがある)

千景(それが実際に、本当に……"満開"に原因があるのだとすれば──彼女は一体"何度"散華を繰り返したのだろうか──?)




*千景の部屋

千景「はぁ……流石に疲れたわね」

千景(考えてみれば高嶋さん並みのお人好しが六人も居たのだ。日の光も過ぎれば火傷となり、毒となる。夜を迎えた今、私は疲労によってグッタリしていた)

千景(……今日はもうシャワーで良いわね……)

千景(毒性の高かった先ほどまでの時間ではあるが、その一方で知り得た情報も多かった。神世紀でもITは日常に溶け込んでいる以上、今の世で有効となる資源は情報である。……困ったことに入院中の予測を覆す情報もそれなりにあったため、かみ砕くまでにはもう暫く時間が掛かってしまうのでしょうけれどね)

千景「……三ノ輪銀」

千景(勇者部で唯一詳細を知らない部員の名前を口の中で転がす。快活な性格と中性的な容姿、おそらく成長途中のやや高めの身長を持つ彼女は、ここ数日の非現実的な事態の中でもとびきりのイレギュラーであった)

千景(私には私の描くシナリオがある。それをあなたのようなイレギュラーで塗りつぶされるのは──ごめんなのよ)

千景(だから、私が高嶋さんの元へ帰るためには……きっと彼女を──)

千景(……頭を振る。思考ばかりで脳もガタが来ているのだろう。いい加減シャワーを浴びて、今日の疲れをとってしまおう)

千景(浴室まで行き、その前に置いてあるパステル色のバスタオル類が目に入る。同性に人気のありそうな見た目のくせにこんな家庭的な配慮まで出来るなんてね……。生活必需品の多くは三ノ輪銀と犬吠埼姉によるものだった)

千景(自身ではここまで気が回らなかったことだろうし、こうして事前に用意しておくことなどまずありえない。鬱陶しい一日ではあったけれど、もしかしたら、それなりに、本当にそれなりにだが、成果と呼べるものが情報以外にも存在していたのかもしれないわね……)

千景(暑い湯に打たれながら、私の新居での一日はこうして過ぎていった)




*学校

千景(……何故私は、西暦の時代でもない場所でこうして学校に来ているのだろうか?)

夏凜「大丈夫よ、千景。私はこう見えて転入生としてはあんたの先輩よ。分からないことがあったら何でも聞きなさい!」

千景(勇者部から一歩引いている素振りを見せている三好夏凜であるが、中身はアニメ通り根っからの善人だ。だから、今日の朝一から必要のない世話を度々焼かれていた。……それはもうサプリメントからにぼしに至るまで本当に色々と、ね……)

千景(にぼし星人を適当に追いやってから、私は教職員用の入り口へと向かう。──今日から讃州中学で、望んでもいない学校生活が……始まって、しまう)



*三学年教室

千景「郡千景です。よろしくお願いします」

千景(本当に煩わしい。最低限のあいさつで自己紹介を終わらせ、指示された席へと向かう。……もちろん意図的なのだろう、隣には)

風「相変わらず愛想のない子よねぇ。ま、とりあえずよろしくねー」

千景「他を当たってちょうだい」プイ

風「他ってあんた以外居るはずがないでしょうが! ……はぁ、風先輩と呼んで慕ってくれていた可愛いあの子はどこに行ったのかしらね? でも、よくよく考えれば同い年なのに先輩っておかしくない?」

千景(ため息を吐きたいのはこちらよ……。高嶋さんがとても恋しい……。隣の席の人は無視して、黙って着席する)

千景(……)

千景(一体、私はこんなところで何をやっているのだろうか……?)




*勇者部部室

友奈「ようこそ、勇者部へ!」

千景「ひ、久しぶりね、結城さん……!」

風「なんか今日一番で声が明るくなかった、あんた?」

千景「……気のせいよ」

千景(休み時間の度に犬吠埼姉に付きまとわれ、こうして放課後も彼女のペースで勇者部部室に連行されてしまっていた。結城さんが居なければ当然無視を決め込むつもりであった)

美森「風先輩、友奈ちゃんは人を明るくする天才ですよ? 当然のことじゃないですか」

風「あ、はい。東郷がそう言うんだったらそうなんでしょうね……」

樹「私も友奈さんにはいつも元気を貰っています」

銀「アタシも負けていられないなぁ。改めてよろしくッス! 千景さん!」

夏凜「あんたら暑苦しいわね……。まぁ、千景は私の家のお隣さんだし、ここでも困ったら私に頼りなさいな」

千景「……それで、私をここに連れて来てどうしたいの?」

風「いや、普通に勇者部への勧誘しかないでしょ? と言うか、さっき説明したはずよね!?」

千景(犬吠埼姉による勇者部の話題は見舞い話時代から始まり、帰りのホームルーム直後までの長い歴史を誇る。当然私は情報収集以外は軽く流し続けていた。ゆゆゆを好んで視聴していたとは言え、それはあくまでも物語としてであり、本来勇者部というひなたは私と正反対の道に存在しているはずのもの。だから)

千景「あなた正気なの?」

千景(私のような人間を勇者部に誘うなんて、お人好しも過ぎれば本当に病気ね。……いいえ、違うわね。これはもしかしたら──)

千景「大赦の命令というわけ?」

千景(忘れてはならない犬吠埼姉は大赦に属する人間。私に対する不自然な優遇。当然、大赦からの指示が彼女はそれに従うだろう。だが)

風「んなわけないでしょうが。アタシはあんたを勇者部に誘いたかった、ただそれだけ。エンドユー?」

千景「……頭痛がしてくるわ」

風「何でよ!?」




友奈「でも、嬉しいな。ぐんちゃんも勇者部に入ってくれるなんて」

千景「あの、結城さん……? 私は一言も入るとは──」

美森「これで三年生が二人、二年生が三人、一年生が二人。勇者部も大所帯になりましたね。そして、良い人数配分です」

千景「ちょっと──」

銀「いやー! 先輩がまた一人増えちゃったなぁ。よーし、いっぱい甘えるぞー!」

樹「もう、銀ちゃんったら……。でも、来年は私たちが先輩になる番なんだよ? 今のうちにしっかりしておかなくちゃ」

風「……うぅ、樹が立派にお姉ちゃんぶちゃってもう……」

美森「樹ちゃんと銀が居れば勇者部も安泰ね」

千景「……」

ポン

夏凜「諦めなさい。私の時もこうだったわ」

千景「……はぁ……」

千景(深い、深いため息をつく。アニメでも見知っていたが、改めて思い知らされる。この人たち、自分たちが成し遂げようと思ったことは何があっても成し遂げなくては気が済まないのね……ほんと厄介)




風「……千景。本当に嫌だったら断っても良いのよ? だけどね、アタシたちはこうしてあんたと出会った。そんでもってあんたの人柄が気に入ったから、同じ時間を少しでも共有したいと思った。それがアタシの本音よ」

千景(……本当に性質が悪い。更に悪いのが、全員の瞳がこの部長と同じ色を持っていること)

千景「……とても卑怯ね、そういうの」

風「あら、何のことかしら?」

千景「はぁ……」

千景(実質的に選択肢はない。……考え方を変えてみれば私が高嶋さんのところへ帰る手がかりを得られる最善への近道になるかもしれない。毒を食らわば何とやら、もしくは虎穴、かしらね? ……いずれにしろ、この選択が効率的であることはまず間違いない……のが些か悔しくはあるわね)

千景「……改めて三年の郡千景よ。……よろしく」

友奈「こちらこそ改めてよろしくね、ぐんちゃん!」

美森「一緒にお国のため励んでいきましょう」

銀「こっちこそよろしくお願いしますっ!」

樹「よ、よろしくお願いします」

夏凜「まぁ、こうなるわよね。よろしく」

風「うんうん。これで勇者部も総勢七人か……ほんと感慨深いわね……」

千景(遠い目をする部長の横、私はこうして勇者部の部員となった)



キャンサー自体は弱いですけど画面操作が利かなくなるのが最大の敵ですよね……
とりあえずここまで(ここまでが導入部分なので堅苦しくて申し訳ないッス)


風「ああ、そうそう千景。事後承諾になってしまって申し訳ないんだけどさ──」

千景(不自然なほど"そのこと"に触れて来なかったのは、私が勇者部の部員ではなかったからなのだろう。しかし、私と言う部外者が今この時入部してしまった以上、それも過去の話だった)

風「実は、アタシたち勇者部はこの世界を守る勇者というお役目を神樹様から授かっているのよ。だから、あんたの目の前で唐突にアタシたちが消えてしまうこともあるかもしれないけど、あんまり驚かないでもらえると助かるわ。そんな感じでよろしくね~」

千景(……説明が雑過ぎるし、やけに口調が軽い。重苦しくならないための配慮とでも考えれば良いのだろうか?)

千景「……結城さん、この軽い口調の犬吠埼姉が言っていることは本当なのかしら?」

友奈「うん、本当の話だよ。樹海化が始まると突然消えたように見えると思うけど、私たちは絶対に帰って来るから、だからぐんちゃんには安心して待っていてもらえると嬉しいな」

千景「……ええ、当然よ」

千景(高嶋さんと同じ顔であるなら、真剣な顔よりも笑顔を見せて欲しい。だから、勇者についての話題はこの程度にして適当に誤魔化してしまっても良いだろう)

千景「つまり、私たち一般人の時間が止まっている間、勇者に選ばれた結城さんたちは世界を守っているために戦っているのね。了解したわ」

千景(我ながら読解力の高すぎる台詞であることを自覚していたが──)

美森「千景ちゃんの行間を読む力、素晴らしい限りだわ! 私も見習わなきゃ」

夏凜「あんたさ、この二人の抽象的な説明でよくそこまで理解できたわよ……」

銀「千景さんの理解力マジ凄いッス!」

千景(……怖いくらいに理解を示してくれる人ばかりね……)




美森「──これを入れて、後は設定に従って進めていくのだけれど、千景ちゃんなら大丈夫そうね」

千景(西暦のSNSの代わりとなるアプリを東郷美森の指示で新品のスマホへと入れる。昨日量販店で契約を済ませたばかりの端末であった)

樹「ねぇ、お姉ちゃん。アプリのインストールはできたけど、千景さんは変身できないのかな?」

風「んー、銀もそうなんだけどさ、どうも勇者システムって夏凜までの先着五名までしか機能していないっぽいのよ。大赦の人もなんかそれっぽいこと言っていたし」

銀「あー、やっぱりそうなんですか……。ほんと皆に守ってもらうばかりで申し訳ないッス……」

友奈「銀ちゃんは気にしなくて良いんだよ」

千景「グループへの登録も完了したわ。……先ほどニュアンスだと、三ノ輪さんも勇者として戦っていると思っていたのだけれど?」

銀「いやー、実を言うとですね、皆と一緒に樹海の中に行くのは良いんですけど、アタシだけ何故だか変身できなくって……。その原因が今風先輩の口から語られまして……ほんと申し訳ないッス……」ガックシ

美森「それは神樹様の思し召しだもの気にしても仕方がないわ。大丈夫、銀のことは私が守るもの」

夏凜「そうよ、銀。あんたはこの完成型勇者の勇士を黙って見ていれば良いのよ。……それに三好夏凜の名に懸けてバーテックスに手出しなんかさせてやらないわ!」

樹「変身できない銀ちゃんが一番辛いよね……。だから私が銀ちゃんの分まで頑張らないと!」

千景(……三ノ輪さんを除く全員がやたらと気迫に溢れている。彼女が変身できないという部分には引っかかりを覚えるものの、この状況は何とも──)

銀「千景さ~ん……見ての通り、皆いっつもこんな感じなんですよ……」

千景「……あなたも大変ね」

千景(やはり善良さも過ぎれば毒、と言うかこの場合いたたまれない気分になってくるわね……)




*夜・自宅

千景(まさかぼたもちbotを実際に目の当たりにできるなんて……)

千景(慣れない勇者部で猫探しのビラを整頓し初日の活動は終了となった。三好夏凜を見習いコンビニ弁当で夕食を済ませ余暇を過ごしていると、SNSに各々からのメッセージが届いている。アニメで見たようなぼたもちbotもその一つだ)

千景(それにしても十五分で十五ぼたもちって……やっぱりどこか思考がぶっ飛んでいるわよね、あの子……)

千景(適当に返信し、手に馴染んでいないスマホを卓上に転がす)

千景(……差し当たっての問題は次のバーテックスの襲来時期。アニメの描写上分かりづらくはあったが、実際には一話で週か月単位の時間が流れていたと見て取れる)

千景(勇者部の現状の様子から考えるに、まず間違いなく今はあの決戦よりも前の時期に当たるはずだった。作中で具体的な日付を示してくれれば悩まなくても済んだが、ここで言っても仕方がない)

千景(しかし、夏休みが過ぎている以上決戦までそれほどの時間は空かないはず。つまり彼女たちの一つの目の運命の日が近く、もうじき……満開、を経験してしまう、わけね……)

千景(頭を振る)

千景(究極的には、彼女たちがどうなろうと私は構わないはずだ。勇者部に入部したのはいずれ訪れる乃木園子との接触を容易にするため。高嶋さんの元へ帰る希望を作中の八話に見ていたからだ。……そう、都合が良いから勇者部に関わった、それだけのはずで──)

千景「……」

千景(……ねぇ、高嶋さん。私は何をしたくて、そして、どうすれば良いのかしらね……?)




*一週間後・勇者部部室

友奈「結城友奈、来ましたー!」ガラッ

千景「結城さん、こ、こんにちは……」

友奈「あ、ぐんちゃんだー。こんにちはー!」

風「東郷と夏凜も来たわね~。今日は一年生組遅くない?」

美森「樹ちゃんと銀は掃除当番で遅れるとのことでした」

風「なーる」

友奈「ぐんちゃーん、はいたーっち!」イエーイ

千景「ええと、タッチ……?」イエーイ?

夏凜「何だか千景もすっかり馴染んだわよね……」ニボシパクパク

風「まぁ、一週間になるからねー。でも、あんたには言われたくないと思うわよ?」

夏凜「はぁ? 私はあんたらの監視のため仕方なく来てあげてるのよ!」

風「はいはい、聞き飽きたって」

友奈「……はっ!? そう言えばぐんちゃんって三年生なんだよね……?」

千景「ええ……? 一応そうだけれど」

友奈「じゃあ私、本当はぐんちゃん先輩って呼ばないといけないのかな!?」

千景「ただのぐんで大丈夫よ! 結城さん!」

友奈「本当に大丈夫……? 気を遣わせていない?」

千景「むしろ結城さんに先輩と言われたら少しショック、かもしれないわ……」シュン

友奈「わぁー!? ぐんちゃん、落ち込まないでー!」

夏凜「と言うか、友奈と千景が互いに馴染み過ぎなのよね……」

風「それについては同意見だわぁ」

美森「……いけないわ、私。そんな罰当たりなことを考えてはいけない。でも、でも! 友奈ちゃんが……だけれど、新しい交友関係を認めてあげるのも私の役目で──」ブツブツ

夏凜「私さ、千景が来てから初めて東郷が嫉妬するとこ見たわよ?」

風「いや、東郷はあれで前から嫉妬深いわよ?」

友奈「勇者パンチは、こうね、しっかり拳を握りしめて──」

千景「こう、かしら……?」

美森「友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん友奈ちゃん──」ブツブツ

友奈「上手いよ、ぐんちゃん! それでね、ここから──」

風「平和、ねぇ……」

夏凜「いやいや! 今不穏な連呼している奴が約一名居たわよ!?」




銀「ちわーッス!」

樹「掃除当番で少し遅れちゃいました」

風「おぉっ! 若人たちよ! よくぞ来た!」

夏凜「そんなに年変わらないでしょうに」

美森「待っていたわ、銀! 愛でさせて!」ギュッ

銀「ちょっ、東郷さん!?」

夏凜「また始まったわね、東郷の銀への可愛がり」

千景「……あの二人は昔からの知り合いだったりするの?」

風「お、友奈劇場から解放されたようね、千景。まぁ、あの二人は同じ事故に遭ったようだから入院中に仲良くなったらしいわよ」

樹「東郷先輩が記憶喪失だったこともあって、親近感が凄くあったって前に銀ちゃんが言っていました」

美森「そうなの、銀? ああ、とっても可愛いわ!」ナデナデナデ!

銀「東郷さん! キャラぶれどころの話じゃなくなっていますって!」

友奈「東郷さーん! 私も入れてー!」

美森「友奈ちゃん!? もちろんよ!!」

銀「うわー! 友奈さんまでー!?」

千景「……三ノ輪さんて、実は勇者部のいじられ役なのかしら?」

夏凜「いや、あれは東郷だけでしょう。友奈は参加する風に見せてしっかり東郷を抑えているし」

風「へー、夏凜にしてはよく分かってるじゃない? 流石は勇者部の本来のいじられ役よね~」

夏凜「はぁっ!? 誰がよ!?」




風「さてと、夏凜がうるさいけど、今度の土日の劇の打ち合わせを早いところしておかないとね」

美森「今週末は福祉施設での演劇の予定でしたね」

夏凜「全く風の奴ったら……。それはそうと、トリップしていた東郷がようやくこっちの世界に帰って来たわね」

樹「銀ちゃん、大丈夫?」

銀「メッチャ撫でられた……」

友奈「でも、銀ちゃん、それは東郷さんの愛なんだよ?」

樹「あ、愛ですか!?」

千景「……」

風「今回の劇は文化祭の劇の予行練習にもなるし、なにより! 千景の勇者部での初めての本格的な活動になるわ!」

千景「……十分ゴミ拾いもネコの飼い主探しもやっているつもりなのだけれど」

銀「あ、千景さん。普段と比べるとどっちも半分くらいの量しかなかったッス」

千景「!? ……嘘、でしょ……?」

友奈「何だかこの一週間依頼件数がやけに少なかったもんね?」

美森「先週あたりは夏凜ちゃんの頑張りのおかげでほとんどの依頼が片付いていたからかしら?」

夏凜「……なんか良いように使われた記憶があるのよね、私……」




風「今週末で千景が入部してから約二週間になるわ。今回の劇の成功は千景のその存在を不動のものとしてくれるはずよ! はずよぉ!」

千景「……心の底からに要らないし、約二週間を記念日のような扱いにされても困るのだけれど」

友奈「ぐんちゃん、一緒に劇を成功させようね!」

千景「結城さんがそう言うのであれば……」

夏凜「なんかさ、千景って友奈に弱くない?」

銀「あー、その台詞を夏凜さんが言いますか、って感じもしますけど……」

美森「前にも言った記憶があるのだけれど、友奈ちゃんに敵う人なんて存在しないのよ」

風「言い切るわね、あんた……。まぁ良いわ。それよりも件の劇よ」

樹「そう言えばお姉ちゃん、台本って──」

風「……今日は良い天気ね。そうね、海に行きましょうか」トオイメ

夏凜「あんた、もしかして……!?」

銀「あ、こんなところに今回の台本が! ええと……!? た、大変です! 白紙でナッシングですよ、これぇ!!」

夏凜「やっぱり……。また若先生、脚本に詰まったんでしょう?」

風「ち、違うのよ! ちょっと英気を養っているだけで、ピンとくるものがあればズババァーンって書けるのよ!! ほら、こっちのネームはそこそこ書けているし!」

夏凜「大先生みたいなこと言っている暇があれば、そのネームをちゃんと台本に仕上げておきなさいよ」

風「ぐぅ!」

樹「ぐぅの音だけは出たね、お姉ちゃん……」




風「で、よ! 今日の勇者部の活動はこの台本を仕上げることです!」

友奈「確かにあと五日もないし、今日中に仕上げないと大変かも……」

千景「まさか、劇まで五日程度しか時間がないの……?」

美森「今までの経験上、十五分程度の寸劇なら五日もあれば大丈夫よ。だけれど、これ以上となると後の準備に響いてきてしまうわね」

夏凜「そうは言っても、ここの大先生が書かないと始まらないわけでしょ? 台本を仕上げるって、私たちは応援でもすれば良いわけ?」

風「そこなのよ、夏凜!!」グイッ

夏凜「ちょ、暑苦しいから引っ付くな!」

風「ネームは大方完成。だけど、登場人物たちのみずみずしい台詞が今のこの台本に不足しているの! ええーい! 想像力が足りーん! ……ってわけ」

夏凜「……つまり、何が言いたいのよ?」



風「あんたら実際に演技してみなさいよ! そうすればアタシの想像力がそれはもう大爆発よッ!!」




千景「……読み合わせ用の台本が用意できているのなら、これで劇を作れば良いのではないの?」

銀「いや、千景さん。アタシには分かるッス。ここに書かれている台詞にはいつものような魂を感じない! やっぱり部長はまだまだスランプってことで、このままだと劇の幕を上げることは出来ないと思います」

千景「そ、そうなの……?」

友奈「確かに、いつもの風先輩のお話じゃないかも」

千景「結城さんがそういうのだったら間違いないわね」

美森「ええ、間違いないわ」

風「友奈イエスマン約二名も納得したわね。じゃあ、汝ラノ演技ヲ我ニ見セテ見ヨッ!」、

樹「お姉ちゃん、それじゃあ魔王だよ……。その役気に入ってるの?」

千景(一向に気が向かないけれど、とりあえず配役を確認して──!?)

千景「……何、この配役?」

風「バッチシでしょ! さぁ、千景よ、華麗に演じて見せよ!」

千景「……明るい性格で若干ルー語のハーフアイドル? ──あなた、舐めてるの? 今すぐにでも煉獄の炎に焼かれて朽ちてしまえば良いのに」ギロッ

樹「ち、千景さんが、怖いです……」ヒィッ

結城「でも私、ぐんちゃんがアイドルだったらいっぱい応援しちゃうかも」

千景「!?」

千景「……」

千景「『えええ?っ!私がアイドルに!? でも、それってとっても心がシャイニー☆』」

風「っ!?」

銀「!?」

美森「!?」

夏凜「んなっ……!?」

友奈「すっごいよ! ぐんちゃん!! 本当にアイドルみたいだったよ、今!」

千景「そ、そうかしら……?」

千景(昔プレイしたゲームのキャラクターを意識してみたけれど、それなりに上手くできていたようね)

友奈「ぐんちゃんって凄いなぁ」キラキラ

千景(結城さんの興奮冷めやまぬ様子に私は満足したのだった)

千景(……)

千景(……)

千景(……)

千景「……わすれて……お願いだから……忘れて……ちょうだい……!」

千景(熱から覚め、私は我に返っていた)

友奈「えっ? 何で? ぐんちゃんとってもアイドルだったのに?」

千景(……誰か、私を殺して……)

風「よ、良かったわよ、千景……」

千景(──わたしを! 私を殺したいんでしょ……!!)




風「割り振ったのは私だけどさ、正直演じてもらえるとは思っていなくて一瞬言葉が浮かばなかったわ……」

千景「離して結城さん! あの女を窓から放り投げられない!!」ジタバタ

友奈「だ、駄目だよ、ぐんちゃん!」

夏凜「……風。いつか刺されるんじゃない?」

風「と言うか、千景の目がマジもマジで今にも刺されそうなんだけど!?」

銀「ち、千景さんの勇士を見せてもらった以上、アタシも続かないわけにはいかないんだろうけど──」

銀「風先輩、流石にこれはないッスよ!? 何ですか! 痛いキャラづくりを自覚しているけど引くわけにはいかなくなったアラサーアイドルって!? さっきからキャラ設定絶対におかしいですって!?」

樹「本格的にスランプだったんだね、お姉ちゃん……」

美森「……」

美森「風先輩」

風「な、何よ!? あんたもアタシを刺すつもりなの!? だって、絶対に銀にハマり役だって思って──」

美森「いいえ」

美森「私もありだと思います!」

風「でしょー!」

銀「東郷さんッ!?」ガーン



とりあえずここまでです
のわゆキャラで、しかもこういう内容のSSは流石に厳しかったかな……

ありがとうございます。見てくれている人が居るようで嬉しいです
続きを投下していきます


美森「銀の新たな可能性を感じます」

友奈「銀ちゃんのアイドル姿も私見てみたいな!」

樹「銀ちゃんがアイドル……何だか私も興味が湧いてきました!」

体育座りの千景「……ふふっ……皆同じ目にあえば良いのよ……」

夏凜「怖いし暗っ!?」

風「うんうん、やっぱりアタシの見立ては完璧だったってわけね」

銀「え、あれ……? も、もしかしてアタシの感性のほうが間違っている、とか……?」

夏凜「いや、間違っちゃいないわよ。でも、こいつらがこうなってしまった以上、私の手には負えないわね」

銀「そんな夏凜さん! アタシを助けてくださいよ! 頼れるのはもう夏凜さんだけなんです!!」

夏凜「……悪いわね、銀。私は私でこのにぼっしーとか言うゆるキャラの役で頭を抱えているのよ……」

風「え? にぼっしーは普段の夏凜のことだからいつも通りで良いわよ」

夏凜「誰がにぼっしーよッ!?」

銀「だ、駄目だ……。このままだとアタシはこのアラサーアイドルを演じるはめに──」

美森「ふふっ、銀には一番可愛らしい洋服を着せてあげなくちゃ!」

樹「銀ちゃんはフリルの付いた白のワンピースかな? でも、男装に近いカッコいい路線も良いかも……」

友奈「銀ちゃんがテレビの前で輝いている姿が、私見えるよ!」

美森「さぁ、銀。今日からアイドルになるため特訓よ!」キコキコ←車椅子が近いづいてくる音

銀「ひぃっ!? お、お助け──!」

千景(……それから東郷さんによる地獄のようなレッスンが行われた。そして、半年後、三ノ輪さんは見事アイドルとして世に羽ばたいていった──)

千景(などと言うことはもちろんなく、落としどころとしては)



銀「『はぁ~い♪ アナタのぎんいろをスリスリーリングゥ☆ みのわぎんことすりーりんぐしるばーだよぉ☆ あたしに出逢えたことをよろこべよ☆』……ぐはっ!!」



千景(……と、犬吠埼姉作の正気とは思えない台詞を読んで轟沈していた。……私の隣に、体育座り仲間が増えてしまったわね)




夏凜「死屍累々ね……。で、若先生、良いアイデアは浮かんだの?」

風「うーん、正直全く──」

千景・銀「……」ギロッ

風「も、もちろん! ものすごくたくさんアイデアが湧き出てきました!! はい!」

夏凜「はぁ、とりあえず一件落着かしら?」

美森「銀は当然白無垢を着るべきよ」

樹「私はウェディングドレスも良いなって思いますけど……」

友奈「銀ちゃんならどっちも絶対似合うよ!」

夏凜「あんたら、話が脱線の上、飛躍し過ぎじゃないの……?」



体育座り銀「……千景さん」

体育座り千景「……何?」

体育座り銀「アタシ、不思議なことに……着せ替え人形になる未来が見えるんッスよ……」ハハ・・・

体育座り千景「……奇遇ね、私も未来視してしまったわ」

体育座り銀「……はぁ。ですよね……」

体育座り千景「……」

体育座り千景「あなた、実は苦労人だったのね……」

体育座り千景(私は三ノ輪さんに少しだけ同情したのだった)




*下校時間・校門

夏凜「それじゃあ、私と樹でこの大先生を監視しておくから、明日には台本を持ってくるわ」

風「いやー、アタシって、ほら? 樹のご飯を作らないといけないし……?」

美森「それでは私が樹ちゃんのご飯を作ります」

友奈「あ、私もお手伝いするね」

風「え、あ、いや、そんな悪いし……」アセアセ

夏凜「はいはい、諦めが悪いわね。あんたへの包囲網はすでに敷かれてんのよ」

風「うぐぐ……! ア、アタシの自由よ、カムバーック!!」

銀「流石にこれ以上は風先輩の家がパンクしますよね……。あ、千景さん。今日もゲームをしに行っても良いですか? 夕食作りますんで」

千景「ええ、構わないけれど」

銀「やったぁ! 今日は何のゲームをしようかな~」

千景(勇者部で唯一ゲームの嗜みがある三ノ輪さんだから、こうした誘いは今回で三度目となる。対人ゲームをプレイできる上、夕飯を作ってもらえるのだから断る理由はなかった)

友奈「それじゃあ、ぐんちゃん、銀ちゃん。また明日ね~。ばいばーい!」

千景「ええ、結城さん、また明日」

銀「部長のことをよろしくお願いするッス!」

美森「任せておいて、銀」

風「アタシは自由に空を羽ばたきたいのよぉー!」

樹「また訳の分からない事を言って……」

夏凜「はいはい、連行っと」

風「いーやー!」

千景(まるでドナドナね……)




*千景の部屋

銀「えい! たあっ!」

千景「やるわね……でも、これならどうかしら?」

銀「うわっ!? 何連続コンボッスかこれ!? あぁ……」

千景(家庭的な夕食を終え、三ノ輪さんと格闘ゲームに興じる。ふふっ、まだまだね)

銀「あー! もう少しだったのに」

千景「どうかしら? ……さて、次はジャンルを変えてみる?」

銀「ええと……相変わらず凄い数のソフトですよね、これ」

千景「全て中古品よ。十本百円セールが丁度行われていたから運が良かったわ」

銀「マジッスか!? アタシもゲーム買い揃えようかな……」

千景(設定上は西暦の三百年後だけあって、見知らぬゲームばかりで新品だろうが中古だろうが正直構わなかった。どれもそこそこ楽しめることに違いないのだから。ただ、ゲームの進歩は完全に止まっており、クオリティは西暦のそれとほとんど変化ないのが残念であった)

千景(……一応大赦からそれなりの生活費援助を受けているとは言え、金銭的には中古商品が今の私に適当だという理由もあることにはあったが)




銀「千景さん、これとか面白そうじゃないですか?」

千景「それはノベルゲームね。平穏な日常を送っていた普通の女子高生が、未来視の出来るメル友からのメールによって運命を激変させていく───と言うのがあらすじよ」

銀「おぉ! なんか凄そうな話ですね!」

千景「実際に遊んでみると良いわ。三ノ輪さんはこういったゲームはプレイするほうなの?」

銀「いやー、アタシってそんなに文章読むのとか得意じゃないんですけど、ほら、隣に千景さんが居るから断念しないで読んでいけるかな~って」

千景「教科書に乗っているような固い文章ではないから大丈夫だとは思うわ。まずはプレイヤーの名前を付けて──」

銀「ええと、三ノ輪、ギン……と」ポチポチ

モニター『ギン「ええと、タイトル未来です? 迷惑メールかな? わっ、開いちゃった」』

銀「……自分の名前にしたのは失敗だったかも。アタシのキャラじゃないこのむず痒さ!」

千景「それを乗り越えて皆立派なゲーマーとなるのよ」

銀「な、なるほど、奥が深いんですね。あ、なんか出てきましたよ?」

千景「こういった選択肢を選ぶことで物語は分岐して、エンディングが変わってくるのよ。好きなものを選ぶと良いわ。ただし、明らかにおかしいものを選び続ければ大体バッドエンドね」

銀「勉強になるッス! ええと、これかな? ふむふむふむ」ポチ

千景(一見すると今のところは日常系学園もののような物語が展開されている。しかし、割と早期から死者が続出し、実はループものであることが後々判明する。さて、三ノ輪さんはどう反応するのかしら?)フフフ

銀「あ、この主人公の知り合いの先輩……弟が、居るんですね……」

千景(それは何気ない日常の一場面だったけれど、僅かに悲しそうな表情を三ノ輪さんは一瞬だけ浮かべていた。……平穏な日常シーンが自身の心をえぐる、それは私にも経験のあることで──)




銀「……実はアタシって弟が二人居るんですよ」

千景(ポツリと、呟くように三ノ輪さんは言った。それは、普段決して見せることのない彼女の弱さの体現だったのだろう)

銀「多分事故のせいだと思うんですけど、どうしても上の弟と、うまく……いかなかったんです。それでも誤魔化して、誤魔化して誤魔化して……その結果かなりギクシャクして、その頃には弟の学校生活にも影響が出て……親は気にしなくて良いって言ってくれたんですけどやっぱりアタシには無理で……。結局、アタシだけ実家を離れて、こうして一人暮らしみたいな感じになって……」

銀「あ、あはは……すみません。聞きたくないですよね、こんな人んちの事情。……変だな、何でアタシ、こんなことペラペラ喋ってしまったんだろう──」

千景(あまりにも弱々しい彼女の姿が■■■と重なる。考えるよりも先に私の身体は動いていた)



千景「──分かるわ、あなたの気持ち」ギュッ



銀「ち、千景さん……?」

千景「一番近い他人が一番怖くて、だけれど逃げることも容易でなくて。苦しんで苦しんで、それでも私たちは自立した大人では決してないから、現状を受け入れることしか出来なくて……まさに、この世の地獄としか言いようがない」

千景(無意識は三ノ輪さんをさらに強く抱きしめる)

千景「だけれど……けれども、私はあの人と出会えた。だから、"それ"がどんなに救いになるのかを、誰よりも私は知っている。恩返しにすらならない、模倣にすらならないかもしれない。それでも、それでも……あなたの弱音くらい、私がいつでもこうして聞いてあげることは、出来るわ」

銀「……」

銀「……ははっ……」

銀「……ああ、もう……! 千景さん……って、ほんと、あったかいなぁ……」ギュッ




千景(それなりの時間、三ノ輪さんと身を寄せ合って過ごしてしまった……。こんなの私のイメージではないのに……)

銀「よしっ! 三ノ輪銀、大復活! ってね」バンッ!

千景(自分の頬を叩きこちらを向けば、彼女はすでにいつもの三ノ輪銀だった)

銀「あはは、すみません、お見苦しいところを見せてしまって。でも、おかげさまで……ほんと千景さんのおかげで、こうして元気になりました!」

千景「……さっきのことは、忘れて」

銀「え……? あ……。……で、ですよね……アタシの弱音なんて、やっぱり迷惑ですもんね……」ショボン

千景「あ、いえ、それは別に撤回しないわ。わ、私が、忘れて欲しいのは……その、あなたをだ、抱きしめた、ことで……」

銀「……」パチクリ

銀「……」ホッ

銀「……千景さん、最初に謝っておきます。ごめんなさい。でも、それを、忘れることはできないッスよ!」

千景「!?」

千景(ま、まさか!? 先ほどの私の行動をバラされたくなければ、と何かを要求するつもりなの!? 三ノ輪銀、何たる鬼畜の所業……!)

銀「いや、千景さん? なんか物凄い勢いで誤解をされているような感じがしますが、アタシが言いたいのは」



銀「──ありがとうございます。千景さんのおかげで……アタシは大分救われました」



銀「ってことですよ!」ニカッ!

千景「……」

千景(……まったく、良い笑顔をしてくれるじゃないの、このイケメン女子は)




ピピッ! オフロガワキマシタ

銀「千景さーん、お風呂沸きましたよー」

千景「後で入るわ。三ノ輪さんが先に入って良いわよ」ピコピコ

銀「もう……。アタシが言うのもアレですけど、ゲームのやりすぎも良くないですからね」

千景(……何だか懐かしい台詞ね。もっとも、高嶋さんは三ノ輪さんほど直接的な言い方ではなかったと思うけれど)

銀「じゃあ、ふしょう三ノ輪銀、一番風呂をいただかせていただきます!」

千景「ええ、あなたが上がったら私も入るわ」

銀「言質とりましたからね?」

千景「はいはい」ピコピコ

千景(夜に女の子を一人帰らせるわけにもいかず、増してや先ほど話を聞いてしまった以上、今日も三ノ輪さんは私の部屋に泊まることになっていた)

千景(彼女が絡むと私らしくない行動になるのは先ほど自覚したが……それでもか、そうであるからか、こういうのも悪くないと思う私がここに居た)

千景(……イレギュラーな存在である彼女を疎ましく思っていた私も、最早過去の存在なのかしらね……)

千景(三ノ輪さんがお風呂から上がった頃、目の前の画面ではちょうど最高スコアの更新となっていた)



とりあえずここまで


*放課後・勇者部部室

千景「で、台本は出来上がったの?」

風「ふっふっふ、アタシを誰だと思っているのよ?」

千景「……」

千景「うどん専用バキュームカー?」

夏凜「ぶはっ!」

風「残ったうどんはアタシが全部吸い込んでやるんだから! ──って! 誰がはたらく車かぁッ!?」

千景「ごめんなさい。神聖なうどんに対して失礼だったわね」

風「謝るとこそこじゃないでしょ!? ……まぁ、良いわ。全然良くはないけど良いわ。──東郷!」

美森「了解しました」

美森「台本は各自一部ずつになりますので、自分の分を取りましたら隣の人に渡して下さい」ハイ

友奈「わぁ! 私まだ読んでいないから楽しみだなー。はい、ぐんちゃん!」ドウゾ

千景「ありがとう、結城さん。どうぞ、三ノ輪さん」ハイ

銀「あ、どうもッス」

風「全員に行き渡ったわね? まずは一回読んで内容を把握してちょうだい。あまりの傑作に腰を抜かさないことよ!」

千景「やたらと自信満々ね……ええと、タイトルは──」

『演目名:かぐや姫』

千景・銀「……」ブチッ

夏凜「……まぁ、あんたら二人は怒るわよね」




千景「あなた、頭がわいているの? うどんではなくて地獄にバキュームしてもらいなさい!」ギロ

銀「アタシが昨日演じたアラサーアイドルは何だったんですかッ!? 影も形もないタイトルじゃないッスか!!」グワッ

風「ひぃっ!」

夏凜「どうどう。あんたら落ち着きなさいって。怒りたい気持ちは分かるけど、一応昨日の配役は活かされているから騙されたと思って読んでみなさいよ」

千景「……本当でしょうね? 嘘だったら、実行するわよ?」

風「何を!?」

夏凜「ええ、犬先輩をかけても良いわ!」

風「勝手にアタシを賭けるな!」

友奈「わっ! かぐや姫なのにアイドルが出てきたよ!?」ペラッ

銀「……」

千景「……」

銀「千景さん、アタシ嫌な予感しかしないッス……」

千景「同意見よ……」




樹「光る竹からかぐや姫は生まれました。かぐや姫はすくすくと成長し、やがてその美しさは都中に知れ渡ることになったのです」

千景(そう、導入自体はありふれたおとぎ話のかぐや姫)

美森「かぐや姫の美貌を聞きつけた若者たちは次々に彼女の元へと訪れます。いずれも劣らぬ眉目秀麗ばかりで、皆、かぐや姫を婿へと迎え入れるために必死です」

銀「……アタシの耳おかしくなったのかな? 婿とお嫁さんを聞き違えちゃったなぁー」ハハ…

樹「東のアイドルから西の魔法少女まで、名だたる女性一同がかぐや姫の屋敷に並ぶその姿は、まさに圧巻の一言でした!」

銀「……出てきちゃったよ、アイドル……。て言うか、魔法少女!?」

美森「かぐや姫は彼女たちに向かってこう告げました。『護国のために最も尽力したお方に私は嫁ぎたいと考えております。いえ、断言しましょう! この国を脅かす魔王を打ち取った者に私は嫁ぎましょう! 富国強兵! 国防万歳!』と」

銀「まるっきり、東郷さんじゃないッスか!? このかぐや姫!」

友奈「一人の勇者はかぐや姫の宣言にこう答えます。『任せてください姫! 私が必ず魔王を打ち取って見せましょう!』と。──ここから、かぐや姫をかけた列国の強者たちと魔王との戦いの火ぶたが切って落とされたのです!」

夏凜「ちなみにオチは、かぐや姫がステゴロで魔王を倒すわ」

千景「……」

千景(頭が痛い……。あまりにも酷くてもうどこから突っ込んで良いのやら──)

友奈「流石風先輩です! ちょー面白そうです!!」

千景「ええ、私もそう思うわ、結城さん!」

銀「千景さぁーんッ!?」ガビーン




銀「と言うか! 風先輩を止める人は誰も居なかったんですか!?」

樹「お姉ちゃん、本当に楽しそうに書いていたから……」ツイ…

美森「私の相手役を友奈ちゃんにしてくれると風先輩は約束してくれましたから」ワイロ

友奈「風先輩の肩もみしたよ!」モミモミ

夏凜「いや、私たちって脚本書けるわけじゃないでしょ? 風が一人で書いてくれているのだと思ったら、その、偉そうなこと言えなくなって……」

銀「何で夏凜さん、そこで良心に苛まれちゃったかな、もう!」

風「安心しなさいって! 昨日のことも踏まえて千景と銀の台詞は大分マイルドにしてあるから!」

千景「……」

千景(三ノ輪さんの抵抗空しく、その場の勢いで今週末の劇の台本はゴーサインが出された。……正気を疑うシナリオではあるのだけれど、結城さんが楽しそうだったので私は認めざるを得ない……認めざるを、得な、かったのだ……!)

銀「千景さん!? 目から光が消えて無我の境地みたいになっていますって! アタシより先に納得したんじゃなかったんスか!?」

友奈「ぐんちゃん、絶対に劇成功させようね!」

千景「もちろんよ、結城さん!」

銀「え、えぇ……それで良いんですか、千景さん……」




*日曜日・福祉施設

樹「──こうして、かぐや姫は富国強兵に努めましたとさ。めでたし、めでたし?」

パチパチパチ!

千景(予想外、と言うより予想を遙かに超えた拍手の数ね……。福祉施設ということもあって東郷さんをかぐや姫役に収めたのが成功の一因、かしらね?)

風「いやー大成功だったわね!」

千景「……そうね、魔法少女」

風(魔王兼魔法少女)「アタシの女子力溢れる魔法少女の演技は中々だったでしょう?」

千景「ごめんなさい。おかん力溢れる魔法淑女が何かしら?」

風(おかん)「あんたと同じピチピチの十代よ!」

夏凜(おじいさん兼おばあさん)「にしてもまともな配役って私くらいだったわよね、この劇。いや、私の二役もおかしいと言えばおかしいんだけど。千景は千景でいつの間にか黒魔女役に変わっていたし」

千景(アイドル改め黒魔女)「きっと私の熱意が伝わったのでしょうね」

銀(アラサーアイドル)「酷いッスよ、千景さーん! 部長を脅して一人だけアイドルから脱退するなんて……」

風(脅された時の心境)「ぐえー」

千景(腹黒魔女)「三ノ輪さん、覚えておきなさい。所詮この世はコネとずる賢さよ」

銀(売れ残りアイドル)「くっ! 大人って汚い!」




美森(かぐや姫)「東郷美森、ただ今帰還しました」

友奈(勇者)「凄かったね、東郷さんの人気! 本物のアイドルみたいだったよ!」

銀(偽アイドル)「……」グハッ!

樹(ナレーター)「東郷先輩、ご年配の方から特に熱心に声をかけてもらっていて、その受け答えまで完璧でした!」

夏凜「まぁ、東郷は見た目だけなら大和撫子だからね」

風「うむ、皆よくやった! おかげさまで大成功よ! それじゃあ、この後は皆で祝賀会でもやりますかね。今回は特別に部長のアタシが……なんと!」

銀「もしかしておごりッスか!? さっすが部長、太っ腹!」

風「誰の腹が太いって!? ……まぁ、今回だけ特別よ。ドリンクバーを好きに飲みまくるが良い!」

友奈「やったー!」

夏凜「微妙にセコイ感じがするけど、普通におごられるとこっちも気が引けるし妥当なんじゃない?」

風「では、皆の衆! 打ち上げにしゅっぱ──」

樹「あっ、マイクが……!」ツルッ

ピタリ

千景(──これは……まさか!? 世界が光って──!)



*???

風「つ……とは、どうもいかなくなったようね。──皆! 疲れているとは思うけど、もう一仕事頑張るわよ!」

樹「うん。覚悟はできていたよ、お姉ちゃん」

夏凜「まぁ、この完成型勇者が居ればバーテックスの一体や二体すぐに殲滅してあげるわ!」

美森「神託通りであるなら……気を引き締めて事に当たりましょう!」

友奈「うん、バーテックスを倒して皆でお疲れ様会をしよう! って、あれ? 銀ちゃん、と──!?」

銀「なんで……千景、さんが……」



千景「……これが、樹海化、なの……?」

千景(私の目の前に広がるのは、アニメで見た──あの非現実的で色彩溢れる樹の海だった)



ここまで
勇者たちの決戦が今始まる


友奈「風先輩! なんで、ぐんちゃんまで樹海の中に居るんですか!?」

風「分からない……本当に分からないのよ! 千景に勇者適性があるなんて大赦は一言も、言ってなかった……」

夏凜「……私も大赦から聞かされていないわね。銀の時には事前通告があったから、これはいわゆるイレギュラーってやつなんでしょう。でも──」

美森「ええ、いつもと行うことは何も変わりません。銀と千景ちゃんに絶対手出しはさせない」

夏凜「まぁ、そう言うことね。……しっかりしなさいよ、部長。年上の言うことに従えって言ったのはどの口?」

風「……ごめん、少し動揺した。夏凜と東郷の言う通り、アタシたちはバーテックスを倒して全員無事で帰るのよ! ……ほんといつもと何も変わらないわね」

銀「千景さん……大丈夫ですか?」

千景「……あ……あぁ……」ブルブル

友奈「ぐんちゃん、大丈夫、大丈夫だから。私が、私たちがここに居るよ」ギュッ

樹「千景さん……。──お姉ちゃん、来たよ」キッ!

風「残りの全部がお出ましとは、流石最悪の状況と言われていただけあるわね。気合も入れずに当たったら、マズイか……。──銀。悪いけど、少しだけ千景のことを頼むわ」

銀「は、はい!」

友奈「ぐんちゃん……」

千景「……っ……」ブルブル

風「……ごめんね、千景」

風「よしッ! 皆、アレいっとくわよ!」パンッ!

夏凜「……アレ? アレってどれのこと?」

美森「友奈ちゃん、心配は分かるけれど、風先輩の気持ちも察してあげて、ね?」

友奈「……うん、分かってる。──夏凜ちゃん! こうするんだよ」サァキテ

夏凜「ちょ、ちょっと!」




*樹海にて勇者部円陣

風「敵さんも本気の本気で総力戦のつもりよ。だけどね、アタシたちは絶対に負けない!」

友奈「はい、絶対に守りたい人たちが居るから!」

美森「一緒に帰りたい人たちが傍に居るから」

樹「皆の前で叶えたい夢があるから」

夏凜「……」

夏凜「え? これって私も何か言う流れなの!?」

風「全く空気が読めなくて困るわね、この完成型勇者は~」

夏凜「うっさいわね! ……あ、あいつら倒して、風にドリンクバーおごって貰うわよ!」

風「ええ! 皆で劇の祝賀会を帰ったらやりましょう。……あんたたち、絶対死ぬんじゃないわよ!」

風「よぉーし! 勇者部ファイトー!」

友奈・美森・樹・夏凜『オーッ!!』



銀「大丈夫ッスよ、千景さん! 皆、メッチャ強いんですから!」

千景(……アレが、あの異形が、バーテックス……! アニメで見ていた時は何も感じなかったのに……何で皆はアレを見て平気でいられるの!? 私たちとあまりにも存在が違い過ぎる上、生物でも無機物でもない異形……ッ……気持ち、悪い……)

銀「──絶対口には出さないですけど、滅茶苦茶怖いはずなんですよ、皆」

千景「……え……?」

銀「ほら、アタシだってこれで何度目かって話なのに、手の震えが止まりませんし。……アタシは見ていることしか出来なくて、東郷さんたちが死にそうな目に遭う瞬間を何回もただ無力に見てきました」

銀「それなのに、今だって円陣組んで必至に震えを誤魔化して……怖くても、どんな怖くても世界を守らなきゃいけないから……アタシと千景さんも守ろうとしてくれているから、ああやって戦おうとしている」

銀「……守られている立場で生意気って思われるかもしれないですけど、勇者部の皆はほんとアタシの誇りで、アタシの大切な友達で仲間なんです!」ニコッ




千景「……」

千景(身体の震えは依然として止まらない。化け物の無機質さが元の世界のアイツらと被る。刷り込まれてきた恐怖がその異形と相まって、恐怖の象徴の極限にしか見えない)

千景(だけれど、私と同じくらい震えながら、それでも、彼女たちを誇りだと言った三ノ輪さんは笑って、何より誇りと呼ばれたその彼女たちは、自らを懸けて化け物と戦おうとしている。……情けない……自分が本当に、情けない……!)

千景「……わ、私は、バーテックスの存在を知った時……私が、勇者だったらと想像して……か、彼女たちのように、いえ……誰よりも上手く戦えると、こ、根拠もなく、信じて、いたの……」

千景(笑われると思った。軽蔑されるかもしれないと思った。怖かった。だけれど、三ノ輪さんは)

銀「分かりますよ、その気持ち。アタシだって、もし戦えたとしたら自分が強い勇者であるって思いますもん。……でも、実際にこの光景を見てしまえば、ああ、自分はなんてバカだったんだなぁ、ってつくづく思います」

千景「……」

千景「そう、あなたも同じだったのね……」

銀「はい、アタシたちは似た者同士です。そんでもって、お互いここでは何の役にも立たないことを自覚しています。だからこそ、皆が絶対に勝つんだって信じて、願って、やっぱり生意気ですけど応援しているんです。……だって、アタシたちも同じ勇者部の部員で仲間ですから」ニッ




千景「……後輩がそこまで言っているのに、私一人が震えているなんて……本当恥ずかしい限り、よね」

銀「……やっと顔を上げてくれましたね。大丈夫ッスよ、アタシも最初はそんなもんでした。だから、似たもの同士、皆の戦いをしっかり目に焼き付けましょう。なんせ世界を守ってくれているのに、その戦いを誰も知らないなんて、ちょっと酷すぎますからね」

千景「……ええ」コクン

美森「──東郷美森配置につきました! ……千景ちゃん、大丈夫?」

千景「無様な姿を見せてしまったわね。……そ、その……と、東郷さん……が、頑張って、ください……」カァッ

美森「……ふふっ、ますます負けられない理由が出来ちゃったわね。──樹ちゃん、死角は後方で私が援護するわ。樹ちゃんは中衛位置をできるだけ維持して」

樹『はい! 東郷先輩、よろしくお願いします!』

千景(スマホを通して東郷さん以外の勇者部たちの状況も聞こえてくる)

風『一番すばしっこい夏凜は遊撃でお願い! まずは友奈とアタシであいつらに切り込む!』ズバッ

夏凜『了解。今回はあんたの作戦に乗ってあげるわ。私の使い方もよく分かっているようだしね!』ハァッ!

友奈『東郷さん、樹ちゃん、二人のことお願いするね。──だから、私が! あいつらを倒す! 勇者キィーック!!』ヤァーッ!

千景(……アニメで見た時よりも明らかに連携が上手くなっている。三ノ輪さんが居たから? ……そして、私が居るからでもあるわけか)




銀「やった! まずは一匹目!」

美森「でも、今の敵の動き……まるで叩いてくれと言わんばかりの突出……」

千景「東郷さん! あのバーテックスの鐘を狙って! 早く! ──くっ!?」

ゴーンゴーン、ゴーン

銀「あ、頭が……ッ!?」

美森「っ!? 二人とも勇者装束じゃないからこの距離であっても──! あの鐘か! ……こんな時に地面から新手!?」

樹「音は……音は、皆を幸せにするもの……! こんな音ぉーっ!!」エーイ!

風「まずは! お前らぁーッ!!」ザシュッ!

千景(樹さんのワイヤーがバーテックスの鐘から音を奪い、他方の二体を風先輩が切り裂く。敵の進行具合に合わせて一時的に勇者部の全員が後方に揃っていた)

友奈「大丈夫!? ぐんちゃん、銀ちゃん!」

千景「え、ええ……」

銀「まだ耳がぐわんぐわんする……けど! 大丈夫です!」

美森「樹ちゃん、風先輩、助かりました」

風「こちらこそナイス援護射撃! そんじゃあ! 三体まとめて封印の──」

夏凜「……待って! 様子がおかしい」

風「え? バーテックスが撤退していく……?」

千景「いえ、違うわ! あの巨大なバーテックスが他のバーテックスと融合している!」

美森「あれは……良くない! くっ、射撃の有効範囲外……!」

友奈「絶対に! させないッ!!」タァー!

風「友奈! 一人だけだとマズイ! 夏凜、アタシたちも友奈と一緒に前線に出るわよ!」

夏凜「言われなくても!」

千景(思い出せ……思い出せ! ゆゆゆの五話で敵はどう攻撃してきた?)




銀「合体したバーテックスから大量の火の玉が!?」

樹「お姉ちゃん!!」

千景(樹さんが前衛たちの後を全力で駆けていくが、今からでは間に合わない!)


風『うわッ!』

樹『きゃああぁっ!』

友奈『追尾するなら、このまま返す! ──きゃっ!?』

夏凜『くっ! 刀が……! きゃあーっ!!』パキン


美森「皆!? ──おのれ!」

千景(合体バーテックスに今度は東郷さんの射撃が届くが──)

美森「弾かれた!? いけない!!」ドンッ!

銀「がぁっ! と、東郷さん!?」

千景「ぐッ!?」

千景(東郷さんによって私たちは後方へと力づくで押し飛ばされ──)

美森「うああぁーっ!!」

千景(彼女の悲鳴が聞こえた)




千景「……くっ……皆は!?」

千景(辛うじて見える距離に、倒れて動かなくなった東郷さんの姿。火球が迫る中、無理やりにでも突き飛ばしてくれたから、私たちは助かった。だから、その直撃を彼女はまともに受けてしまっていた──!)

銀「友奈さん! 風先輩! 樹さん! か、夏凜さん!!」

千景(誰も動かない。動ける者は勇者でない生身の私たち二人だけ。その身体も地面との衝突で立つことさえおぼつかない)

千景「……私が、悪いんだ……」

銀「なに……何言っているんですか!? 千景さんが悪いわけなんてないでしょう!」

千景「違う、違うのよ……」

千景(私はこの状況を知っていた。私だけは、知っていた! ……私が助言を与えられれば、傷を負わせることなく勝つことさえ彼女たちならできたはずなのに。それなのに! 恐怖して、混乱して、思考が定まらなくて、何もできなかった! ……私が居たから、記憶にある彼女たちよりも傷が深くなり、状況は悪化してしまった……!)

銀「千景さん……くっ、でも今は考えないと……。まずは、東郷さんを介抱しに……いや、駄目だ、足手まといになる……なら、アタシが今すべきなのは──千景さん! アタシたちは逃げないと! 守ってくれた東郷さんたちの想いを無駄にしちゃいけないんです!」

千景(三ノ輪さんに腕を引かれ、私の脚はよろめきながらも前へと進む)ヨロヨロ

銀「マズッ!? あいつ、アタシたちに気付いた! 早く、早く逃げないと! だから、頼むから動いてくれよアタシの足!!」

千景(全てを知っているのに、私はこの場で誰よりも足手まといで──無力、だった)




銀「!? 火の玉が──ッ!!」

千景(そして、無力な私にバーテックスの火球が近づいてきて──)

銀「……」…コクン

銀「……どうもアレは、追尾弾のように追いかけてくるように出来ているようッスね。──だから、アタシが引き受けます。千景さんは全力で走って!!」

千景「な、何を、言って……」

銀「早くッ!!」

千景(言葉を交わす時間は最早なく、火球は前方へ出た三ノ輪さんを飲み込み──!)

千景「……っ……」

千景「……け……な……」



千景「ふざけるなっ!!」



千景(何で三ノ輪さんが犠牲にならなくちゃいけない!)

千景(私のような無意味な人間の代わりにならなくちゃいけない!)

千景(彼女は! 彼女たちは! 私と違ってひなたを歩く側の人間なのよ!!)



千景「こんなこと! 許せるわけがないでしょーっ!!」




銀「……ははっ、天国ってあっついんだな──って! あれ……? アタシ、生きて、る……?」

千景「まさか、これは……」

銀「良かった……千景さんも無事だったんですね。って何じゃこりゃ!? 手が宙に浮かんで火の玉を押さえてる!?」

千景「手甲……あの手甲が何故ここに……?」

銀「手甲って……確かに言われてみれば時代劇とかで見る、手に着ける鎧的なあれに見える気がするけど……」

千景(火球は見る見る打ち消され、消滅の後、私の目の前にその手甲は落ちてくる)

銀「これって、一体……」

千景(……分かる。分かってしまう。この手甲は私に言っている。自分を、目の前の手甲を手に取れと)

千景「……」

千景(視線の先には無機質で巨大なバーテックス。私の身体が再び震え出すのが分かる)

千景「けれど」

千景(私を守ってくれた東郷さん、世話を焼き続けてくれた風先輩、親身にしてくれた樹さん、おせっかいで優しい三好夏凜)

千景(そして、高嶋さんと何もかもがそっくりな結城さん。高嶋さんの居ない日常の空虚を彼女が埋めてくれた)

千景(……倒れ動かなくなってしまった勇者部の、私の……大切な、いつの間にか大きな存在になってしまっていた、仲間たち、が目に入り──)

千景(戦う力はないのに、私をかばって犠牲になろうとした三ノ輪さんが、今も決意を瞳に滲ませて私を見ている──)

千景(だから)

千景「だからっ!」

千景(例え、物語の行きつく先を知っていようと、ここが本来の居場所でなかったとしても、私は、私はっ!)



千景「大切な人たちにこれ以上傷ついて欲しくなんてない!!」



千景(その手甲に──触れた)




銀「え? 手甲が……大きな、鎌、に……?」

千景(東郷さんではないけれど、コレを手にした瞬間心が落ち着いた)

銀「ち、千景さん、それって! その姿って……!?」

千景(昏い光が私の身体を覆っていく。……分かる。"この力"の使い方が。私がなせることが、分かる)

千景(火球が再度私たちを追ってくる。けれど、もう逃げない。逃げる必要はない)

銀「くっ、また!」

千景(三ノ輪さん、今度は私があなたを守る番よ)

千景「はぁ──ッ!!」ザシュッ!

千景(身の丈以上ある大鎌は火球を真っ二つにし、炎を容易く打ち消していた。得物に一切の重量は感じていない)

千景(そして、昏い光は転じて完全なる衣となり、それは黒を生成する。長い裾が消火の風圧の中、静かにそよぎ、死神はここに降臨した)



千景「大丈夫? 三ノ輪さん、怪我はない?」

銀「………」

銀「ははっ」

銀「……もう、ずるいなぁ。一人だけアタシを追い越して先にいっちゃうなんてさ……」

千景「……ふふっ、前にも言ったでしょう? 私はズルいのよ」

千景「さて」

千景(バーテックスを正面から見据える。恐怖に、もう目は逸らさない)



千景「さぁ、化け物」

千景「──塵殺してあげるわ」




千景(讃州中学三年、郡千景。今より私は、勇者を為す──!)



続く


千景(視界の光景が高速で流れていく。人間では決して出すことの出来ない速度をもって私は駆ける)

千景(これなら、数秒後にあの合体バーテックスと接敵可能だろう、が……)

千景「──そう易々と通してくれるつもりはないみたいね」

千景(地中に潜っていたもう一体のバーテックスが上昇、そのままの勢いで体当たりを仕掛けてくる)

千景「くっ……!」

千景(裾が僅かに白の巨体と接触、触れた一部分が消滅していた。もし少しでも回避に遅れていたら──ゾッとする)

千景(……こうして対峙してようやく理解するなんてね……。人間を超えた力を手に入れた今の私であっても、あの異形共の力に遠く及んでいない──)

千景「はぁッ!!」ザシュッ!

千景(こうやって火球を斬り裂けるのは、おそらく相性の問題。元々の性能差であれば立ち向かうことさえ絶望的なスペック差であることは明白だった)

千景(そもそもがこのイレギュラーな勇者の力は、本来の勇者システムとは理の違う劣化版にしか過ぎないのだ。認めたくはないが、最初から私に勝機などなかった)

千景「……」

千景「──けれど、それが何だと言うの?」

千景(テレビゲームであれば絶対に勝者となることを望むが、今この時においてだけは勝者である必要はない。ただ、敗者でなければ良い)

千景(何故なら、私はこの先の未来を知っているから。化け物を倒せる人たちを知っているから。……そう、これは元から時間稼ぎでしかない行為)

千景(この物語の主人公たちへと繋ぐバトンを、その渡す時間を作ることだけが私の役割に違いない)

千景「はぁッ!」ズサッ!

千景(三ノ輪さんの方向へ飛んでいく火球を切り裂く。直後、地中から白のバーテックスが再度現れ、勇者装束の一束が持っていかれる)

千景「……人の柔肌を暴くなんて良い趣味しているわ。──ねぇ、化け物?」

千景(行く手を阻む白いバーテックスに私はただただ冷酷に笑いかける)

千景(そして、告げる)

千景「──最初から出し惜しみは、無しで行くわよ」




千景(自分の遙かなる底から"それ"を呼び出す。その影響なのか、心の奥の隙間から声が私の色で紡がれていく。《光の存在しない紫色の闇よ。我が中から湧き昇れ。闇は底から奔流となりて喉元から競り上がり。暴力のみの存在は純粋な力となりて、人の身全てを巡らせよう》)

千景(それは満開ゲージの存在しない私に与えられた、満開とは異なる畏怖であり畏敬の力。《人は怯え、神は見落とし、自然は許容を黙し、存在は闇夜にただ蠢く。やがて其れは伝聞をもって信仰と化し、伝承は災いと恵みに命を吹き込んだ》)

千景(強大な力を無償で扱えるなどと言う都合の良い話は決してなく、辿るのは彼女たちと同じ未来か、それ以上の地獄だろう。生まれ落ちた時から私が知っていたこの世の摂理だった。《力は災いと呼ばれ、神と呼ばれ、妖怪と呼ばれ、あるいは後の世で──精霊と呼ぶ》)

千景(冷静に思い出してみれば私のこの命は高嶋さんに捧げたモノ。そうであるから、私は本来恐怖に恐れる必要はなく、高嶋さんに謝罪をするだけの存在であったはず。私にとってそれは十二分の罰となるのだから。《生を喪いし数多の亡者よ、郡千景なる人の身に、大いなる力をもって我と一つにならん。其は──!》)

千景(今、契約は成る。……身に余る強大な力が溢れ出すのを感じる。私の底の底から湧き上がるのは、高嶋さんたちが振るう神聖なる力とは真逆の、純粋な暴力と呼ばれる力。……地面に潜っていたバーテックスが再三の浮上を果たす。私はすでに真正面から化け物を見据えていた)

千景(──この強大な力に名前を付けるとしたら、そう──)

千景("切り札")

千景(切り札開放のため、私はただ一度だけ叫んだ。《其は、神言の結び。其である我の名は──》)









千景「七人御先《しちにんみさき》っ!!」







千景「はあァッ!!」

ザシュ!

千景(斬撃音は"一"。同時に、化け物の身体に"七斬"が奔る)

銀『……ッ!?』

千景(それなりの距離があるはずなのに、三ノ輪さんの息を呑む音が聞こえたような気がした)

千景(白いバーテックスはすぐさま身を隠そうと地中に潜り込もうとするが、"私の一人"がまた一刀。"もう二人"が挟撃。"更なるもう一人"が奴の尾の一つを刈り取っていく)

千景(そして、"私"と"隣のもう一人"が先ほどの三斬の付けた傷跡に刃を重ねていく)

千景「「ハァッ!!」」ザクッ! ザシュ!

千景(一の斬撃が効かないのなら二の斬撃。二の斬撃で傷つかないのなら三の斬撃。それでも及ばないのであれば──)

千景(奴の顔と思われる場所の左、そこに総勢七の大鎌で斬り込みをかける。化け物には僅かな傷しかつかない。けれども、かすり傷であっても同じ場所に傷を重ねていけばいずれ重症と化す。精密に、冷静に、同じ箇所へ刃を振るい続ける。──私はただそれだけを繰り返した)

ズバッ!
…ゴトリ

千景(時間にして数秒足らず、化け物はその顔の左三分の一を地表に落とし、ようやく地面の中に消えていった。──私はようやく一息吐き)



千景「……まだまだ塵殺には遠く届かないわね」



千景(自身の述べた大言を思い出し一度だけ苦笑した)




銀『ち、千景さんが……ッ! ごぅ、ろく、しち! 七人に増えたぁーッ!?』

千景(バーテックスが完全に地面に隠れてしまったところで、三ノ輪さんの絶叫に似た声が響いていた)

千景(──そう、今の私は七人。その手数でバーテックスにようやく傷を負わせたのである)ハァ…ハァ…

千景(切り札名である『七人御先』とは、災いを呼ぶ集団亡霊を具現化した精霊のこと。その伝承、由来から使役者の姿を七人に増加させる異能を持つ。増殖した七は全てが幻影であり実像。ゆえに、七から放たれる攻撃は全て凶刃であり、七の幻影が滅ぼされない限り私を仕留めることは決して叶わない)

千景(まさに切り札と呼ばれるに相応しい性能。ゲーム的に言えば、低い身体性能を特殊能力と手数で補い、強キャラへと上り詰めているタイプだろうか)ハァ…

千景(……でも、問題は想像以上に体力の消耗が激しいことね。……私はあとどれくらい、持つの……?)ハァハァ…

千景(自問の答えがどうであろうと、ここで休んでいるわけにはいかない。呆けている間にも火球は絶え間なく襲い掛かってきており、不覚にも七のうちの一体を今しがた消し炭にされたところだった)

千景(残機は残り六。……我ながら考え方が実にゲーム的で、何だか笑えてくるわ)ハハ…

千景「……はぁ、はぁ……!」ギリッ!

千景(奥歯を噛みしめ、自身の様々を誤魔化しながら私は再び駆けて行く。三ノ輪さんへの火球を防ぎ、かつ地中のバーテックスを抑えるためにこの場へ二人残し、四の私はひたすらに突き進む。やがて、私たちは大鎌の射程範囲に合体バーテックスを捉えた)




ガキンッ!

千景「くっ!」

千景(硬触が奔る。折角接近出来たと言うのに、先ほどのバーテックスと強度が違い過ぎる! これではかすり傷一つ負わせることができない……!)

千景(DEFが高すぎる敵であっても一ダメージくらい入っても良いでしょうに! これでは単なるクソゲーじゃない!)

千景(心中で愚痴りながらも斬撃は止ませない。多少の成果はあったのか、火球のほとんどがこちらを向く)

ボッ!

千景「……ちっ!」

千景(一気に二人持っていかれた……! 遠方からもう一人をこちらへ向かわせるが、ぐっ!? ──集中力が欠けてきている! こっちもやられた!)

千景(自分のことながら持久力のなさに苛立ちしか覚えない。次いで、攻撃精度すら落ちていき、大鎌の一つが至近距離からの火球に呑まれた。……ここが、私の限界、だとでも言うの……!?)

クッ…ハァッ!

千景(さらに悪いことに後方の私が地中に潜っていたバーテックスから攻撃を受けていた。最早回避すら怪しい状況まで衰弱しているらしく、あちらの私から肉片が散る。……まさに万事休す──」

千景(それでも)

千景(それでも!)

千景(私が作った一分にも足りるかどうかの時間は──)






風『──さっさとくたばるなんて……! 出来るわけがないでしょーッ!!』






千景(確かな希望へと繋いでいた)




銀『この光って!? 風先輩!?』

千景(樹海の地面は力と共に光をもたらし、その根は勇者へと繋がる。そして、それは彼女たちの開花の奇跡を起こす)

パアーッ!

風『……これは……。……溜め込んだ力を解放する……勇者の切り札……』

樹『げほっ……お、お姉ちゃん……?』

友奈『……た、立たないと……! ……風、せんぱい……?』

夏凜『くぅっ……こんなところで私は──あれって……まさか!? ……あれが、満開……?』



風『はぁっ!!』ドカッ!!

千景(私の最高速以上の速度で風先輩がこちらに近づいてくる。そして、技術も何もない単なる体当たりが合体バーテックスに見事に決まった。単純ゆえに、その威力は絶大で、あれだけの巨体が大きく傾く!)

風「これなら行ける! ──って!? 何で千景が二人居るのよぉ!?」

千景「……あっちにももう一人居るわよ。それはともかく、……後は、頼んだわよ」

風「何だかよく分からないけど……ええ! 任せておきなさい!!」

千景「……そう、するわ……私は、疲れたから……少し、休んで……」フラッ

夏凜「千景っ!!」

風「夏凜!? ナイスキャッチ!」

千景(……不覚、ね……まさか、三好、夏凜に……抱き……かかえ、られることに……なる、なんて、ね……)

千景(……でも……あとはもう、……既定路線、かしら……)



銀『東郷さん!? 良かった意識が戻って──駄目ですよ! 無理に起き上がったら!』

美森『……大丈夫よ、銀……。そして、見てて──」

パアッー!

銀『東郷、さんも……満開……』ブルッ

美森『──もう、許さない。我、敵軍ニ総攻撃ヲ実施ス!』




ジュッ!

千景(……東郷さんから、放たれたレーザーは……あの白いバーテックスを爆散……。二撃目で……残った頭部、を……蒸発……。……ははっ……あれだけ私が、苦労……したのに、ね……)

千景(……でも……)

千景(……これで、もう……安心、ね……)ウトウト

夏凜「千景?! 千景っ! 駄目よ、眠っちゃ! 何かヤバい予感がするのよ!! ねぇ!?」

千景(……まった、く……おせっかいな……人、ね……ゆっくり、ねむれ……ない、じゃない……)



美森『あのバーテックス速い!』

パァーッ!

樹『そっちに行くなぁーっ!!』

風『樹、よくやったわ!!』



夏凜「バーテックスの封印を──! で、でも千景! ねぇ、千景ったら!!」

千景(……ああ……でも……皆……まんかい、の……ふくさよう……)

千景(……ごめん、ね…………)

友奈「ぐんちゃんっ!!」

千景「…………たか、しま……さん…………」

友奈「こ、こんな、に……ボロボロに、なって……」

千景(……わたし、がんばった、でしょ……? ……ねぇ、たかしま、さん……ほめ、て……)

友奈「うん……うんっ! ぐんちゃんは、偉いよ……! よく……頑張ったね!」ポロポロ…



友奈「……」ナデナデ



千景(……ああ……)

千景(…………たかしまさん、の……手……あたた、かい…………)

千景(……)

千景(…………)

千景(………………)




*三日後・病院

千景「……」

千景「ああぁあああぁーっ!!」ゴロゴロ

友奈「わっ! ぐんちゃん!? びっくりしちゃったよ!」ビクッ

千景(あの時のことを思い出して、私はのた打ち回る。何よ……あの如何にも最期って感じの恥ずかしいやり取り!? 私史例にないくらい極限の恥ずかしさ! その体現!! これはもう──)

千景「私を殺したいんでしょ!!」

友奈「何言ってるの!? ぐんちゃん!?」



SSで戦闘シーンを書くのはやっぱり大変ですね
あと、雷で投下中何回か停電が起きたよ……
最後にシリアスブレイクして次回へ続く


風「お? 千景、目を覚ましていたのね?」

夏凜「病み上がりだからでしょうけど、まだぐったりしている様子ね。こういう時こそ、にぼしとサプリよ!」

美森「皆、確かに今日から面会解禁だけれど、千景ちゃんに負担はかけちゃ駄目よ?」

銀「うす! でも千景さん、これだけは言わせてください。アタシを守ってくれてありがとうございました!」ペコリ

樹『この前の戦いに勝てたのも千景さんのおかげです!』キュッキュッ

千景(続々と勇者部の一同が私の病室に姿を現わす。……そして、何かが変わっていた人も居て……アニメで見た時よりも……堪えた)

千景「……樹さん、そのスケッチボードは?」

千景(我ながら白々しい……だけれど、ここで訊ねたいのはあまりにも不自然)

友奈「あ、ぐんちゃん……樹ちゃんはね、今ちょっとだけ話せなくなっていて……」

風「アタシの左目の視力もそうなんだけどさ、お医者様が言うのには疲労が極端に現れてしまっているんだって。一時的だからすぐ治るそうよ」

樹『そうなんです』キュッキュッ

千景「……そう、だったのね」

千景(……知っていて何も出来なかった私に、今更かけられる言葉など、何もなかった)




夏凜「疲労と言えば千景よ。あんたこそ何ともないの?」

千景(バーテックスとの戦いの途中、私は意識を失い、気が付いた時には二日が過ぎていた。極度の体力低下による昏睡の影響で、緩解までさらに二日ほど必要とされ、ようやく今日一般面会が許されていた)

千景「まだ多少ダルさはあるけれど、別段体に異常はないわ」

友奈「良かった……」ホッ

美森「でも、病み上がりなんだから無理しては駄目よ、千景ちゃん?」

千景「その言葉、そのまま返してあげるわ。あなたもまだ入院しているのでしょう?」

千景(一人だけ制服姿と異なる姿から、何も知らないはずの私が指摘しても不自然ではないはずだった)

美森「私の場合、以前事故で入院したこともあってか検査が長引いているようなの。でも、今のところ肉体的な外傷は一切ないと、おすみ付きをもらっているわ」

千景(『肉体的な外傷は』ね……。その様子では、話していても一番の親友までの範囲にしか耳のことを明かしていないようね。……ゆゆゆの時系列を考えれば当然のことではあるのでしょうけれど)




美森「むしろ銀の外傷のほうが酷いくらいで、今日も処方箋を貰うために銀は通院していたのよ」

銀「薬って言っても擦り傷の軟膏とかだけで、全然軽症ですけどね!」

千景(確かによく見て見れば三ノ輪さんの健康的な柔肌から少しだけ大き目の絆創膏が覗いている。樹海の中に生身で居たことを考えれば、かなりの軽症と言えるのかもしれない。……そう言えば私も裂傷等を負っていたはずだけれど──)

銀「それよりもですよ! 千景さんのあれって結局何だったんですか!?」グイッ

千景「……随分と身を乗り出してきたわね……」

夏凜「いやいやいや、銀じゃなくても気になるでしょ、あれ」

樹『あれって、勇者に変身したってことですよね?』

千景「多分、そうなのでしょうね」

風「……もしかして、千景本人もよく分かっていないとか?」

千景「……ええ、実はそうなのよ」

千景(本当はそれなりに理解している。けれど、記憶喪失同様、必要悪の嘘は必要だ。それをついた時、何故だか胸の奥が少しだけ痛んだ)

風「やっぱり、か。……実はね、大赦のほうも千景の変身を把握していなかったようなのよ」

夏凜「本当の本当にイレギュラーってやつ?」

銀「あ、つまりですよ、アタシの変身が神樹様に華麗にスルーされていたわけじゃなかった! ってわけですよね!?」

美森「きっとそうよ、銀。五人しか変身できないという前提を神樹様は決して破っていなかったのよ」

風「それはそれで、千景のあの勇者姿は何だったのか、って話になるんだけどねぇ……」




千景「……私の変身の話なんて面白くも何ともないでしょう。別の話にしない?」

銀「いえ! 千景さんが七人に増えたところなんてアタシ! メッチャ! 心が震えましたもん!」

風「……千景が居なかったら、アタシらの誰かが犠牲になっていても不思議じゃなかった。改めて部長として、いえ、アタシ個人としても言わせてもらうわ。──ありがとう、千景」

千景(……感謝と慈愛、自責の混ざった少しだけ複雑な風先輩の表情が私に向けられる。それが妙にむず痒くて──)

千景「……急に改まったりして、似合わないわよ?」

風「あはははっ、やっぱり?」

千景(なんて笑って彼女は誤魔化したけれど、気持ちは確かに受け取ってしまっていて……私の胸は高嶋さんに触れた時と同じように、あたたかく、なっていた……)

千景(そこでふと、思い出す)

千景「ああ、そうそう高嶋さん。そう言えばなのだけれど──」

千景(気持ちはやっと落ち着き、私は先ほどから疑問に思っていたことを傍らの彼女に訊ねようとして……周囲が無言になったことに気付く)

友奈「……」

美森「……千景ちゃん。もしかして、友奈ちゃんに話しかけているの?」

樹『たかしまさんって、確か前にも千景さんが言っていたような?』キュッキュッ

夏凜「そのタカシマって言う人、もしかして友奈に似ているとかなんじゃないの?」

風「千景の記憶が戻ってきている前兆、だったりして?」



千景「……え……?」

千景(皆が、何を言っているのか……理解、できなかった)




千景(ここに居るのは確かに高嶋さんで、それは確かで間違いないなくて! おかしいのはここに居るこの人たちで! それで……それでっ──!)

千景「そ、そうよ! 高嶋さん!! 皆はあれからどうなったの!? 乃木さんは!? 土居さんと伊予島さんもいないじゃない! ああ、分かったわ……! きっと乃木さんがまた先走ってあの二人に──!?」

ギュッ

友奈「落ち着いて、ぐんちゃん」

千景「たか、しま、さん……?」

千景(私は彼女に抱きしめられる。何が何だか分からないけれど、彼女の温もりを感じて私は次第に気持ちを整えていく)

友奈「私は……結城友奈、だよ。ぐんちゃん、大丈夫? 思い出せる? 今、何でぐんちゃんがここに居るのか、思い出せる?」

千景「……あ……」

千景(……そうだ、そうだった。この人は"結城"友奈さん。高嶋さんに似ているけれど、違う人。そして、私のことを心配そうな目で見てくれている人たちは、勇者部の仲間で……私の、友達……だった、はずで……)

千景(思い出す。思い出した。いや、違う。散り散りだった思考が元に戻っただけだ)

千景「……」

千景「……ごめんなさい。少しだけ寝ぼけてしまっていたようね」

風「……もう、いきなり変なことを言い出すから焦ったわよ!」

銀「あははは、クールな千景さんでも寝ぼけることってあるんですね」

千景「ええ……本当に、ね」



 ──何だか千景もすっかり馴染んだわよね……



千景(……思い返してみれば、この時にはもう始まっていた、と言うこと、なのね……)



 ──どうしても上の弟と、うまく……いかなかったんです



千景(……それは、弟さんが誰よりも三ノ輪さんのことをいつも真正面から見てくれていたからに違いない。"そう言うこと"なのだと今綺麗に理解できた。……そして、これが私に負わされた──代償、なのでしょう、ね……)




*エピローグ『郡千景』

風「皆ー? グラスは持ったわね? ──それじゃー! かんぱーい!!」

皆『かんぱーい!!』

風「アタシのおごりよ、ジャンジャン飲みなさーい!」

夏凜「ドリングバーでそんな大袈裟な……」

銀「見てくださいよ、東郷さん! アタシの、このオリジナル醤油サイダーの出来栄えを!」

美森「食べ物や飲み物を粗末にする子は柱にはりつけです」

銀「いや! ちゃんと飲みますって! ……うん、美味い!」ゴクゴク

樹『えぇー?』キュッキュッ

友奈「わぁ! 銀ちゃんの美味しそう! 私にも飲ませてー」

千景「やめておきなさいって、結城さん。あれは人の飲み物じゃないわ」

銀「アタシは人ですよ!?」




夏凜「え? 樹……? そのドリンクって何のジュースなの!?」

樹『普通のオレンジジュースですけど?』キュッキュッ

夏凜「その紫色のが!?」

風「うぅ……何で我が妹は機械からただ注ぐだけでそんな色を生成できるのやら……」

千景「最早才能の一種ね……」



千景(奇しくも私と東郷さんの退院日は同じ日となり、中一日を空けた今日、随分延期となっていた劇の祝賀会が行われていた)

夏凜「風。このからあげ頼むわよ?」

風「ひっく! 良いわよ~。まったく、ひっく、夏凜は肉食系なんだから~」ヒック

銀「あの、風先輩? もしかして酔ってます?」

樹『たぶん雰囲気に、よっているんじゃないかな?』キュッキュッ

風「そう、それよ!」ヒック

美森「はいはい、風先輩。お水を飲みましょうね」

風「アタシは酔ってないんだかねぇー!」ヒック

銀「いや、あの……ほんとにお酒とか飲んでないんですよね……?」




千景「……流石に犬吠埼姉もそんなものは飲まないでしょう?」

友奈「お酒は大人になってからだもんね」

千景「ええ、あの馬鹿正直な人ならまずありえない話なのだけれどね」

千景(出会った頃からひなたを歩く風先輩なのだから、誰かが悲しむような行為は決してしないだろう)

友奈「うん。……ぐんちゃん、このヨーグルトパフェとっても美味しいよ!」

千景「……結城さん。でも、あなたは味が、その……」

友奈「あれ? ぐんちゃんも気付いていたんだ? 東郷さんも気付いていたし、私ってそんなに分かりやすいのかな……?」

千景「いえ、多分他に気付いている人はいないと思うわ。東郷さんは偏執的なところがあるから別として、私は──」

友奈「あははは、今のは東郷さんに聞かせられないかも」

千景「……」

千景(そう、過去の影響から私も味覚がほとんどなくなっている。無味の時期よりは大分マシになったけれど、味覚がないと言うのは中々に苦痛なのだ。それを私は嫌と言うくらい知っていた)

千景(……けれど、それを明かしたところで結城さんが悲しむだけなのは目に見えている。だから──)

千景「結城さん、知っている? 人の味覚と言うものは大分いい加減で、匂いを感じないと味の区別すらほとんどつかないのよ」

友奈「え、そうだったの?」

千景「ええ。だからね、こうして十二分に香りを堪能してから、スプーンでここのアイスをすくって、口に運ぶと……」

友奈「わっ、甘くて爽やかな味がした!?」

千景「……慰めにもならないかもしれないけれど、これも一つの食の楽しみ方よ」

友奈「ありがと! ぐんちゃん! おかげで私、どんどん食べることが出来そう!」バクバク

千景「ふふっ、ほどほどにね」




千景(これから先の彼女たちの困難を、私は知っている)

千景(未来を知っていながら彼女たちを今の状況に陥らせた私は、その先を目にする義務があるに違いない)

千景(例え、訪れる結末にハッピーエンドが待ち受けているとしても、免罪符には一切ならないのだから)

千景(それに)

千景(訪れる困難は決して他人ごとではない。混濁した記憶に存在していた見知らぬ光景がそれを私に教えてくれていた。……同時に、私がこのゆゆゆの世界に飛ばされたのは、きっと偶然ではないことも)

千景(私と言う異分子は、もしかしたらこれからの結末に多大な影響を与えるかもしれないし、あるいは、何も変わらないのかもしれない)

千景(それでも)

千景(今の気持ちが意図的に与えられたものだとしても、私はもう暫く仲間たちと、友人たちとこの時間を共有したいと願う)

千景(似合わないことは自覚しているけれど、これが偽らざる私の本音)

千景(高嶋さんと同じあたたかな心を持つ、彼女たちと共に、私は歩んで行きたい)

千景(だから)

千景(だからね。もう少しだけ、私が帰るのを待っていて欲しいの)

千景(この私の我がままを、あともう少しだけ許して)

千景(ねぇ、高嶋さん?)

千景(ひだまりのようなあたたかな時間を、今こうして、友達と共に、私は過ごしている──)






                                 郡千景「結城友奈は勇者である」終







【次回予告】

まさか、この場所って!?

           いやー先輩たちには敵わないな~

玉藻前とは、随分大層な名前ね

                うん、それが上里家

待っててね友奈ちゃん

      勇者部五ヶ条!! ひとおお~つ!

      これが人間様の魂ってやつよォーッ!!

                   友奈!?

友奈さんッ!?



      私は讃州中学勇者部、結城友奈!



        私が……勇者になる!!






      高嶋友奈の章 第二話「心の平安」







これにて『郡千景「結城友奈は勇者である」』は終了となります
ここまでお付き合いただき誠にありがとうございました

いやー、ゆゆゆいがあるからいけるかな? と思い書いていましたが、流石にぐんちゃん主人公SSは冒険が過ぎましたね
ぐんちゃんの変身シーンが書けて個人的には満足であるのですが
その他色々と読みづらかったと思いますが、本当にここまで読んでいただき感謝感謝です!

あと、毎回投下の少し前に即興で書いていたため、誤字脱字が多くて申し訳ありません
下記の>>469(結局消していないと言う……)からのリンクから多少誤字脱字の修正をしたものを上げていますので、もし読み直したいという奇特な方がいらっしゃいましたらこちらをどうぞ
神谷奈緒「チャット」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473564844/)

それではまたどこかで(小ネタ解説だけ次に投下しておきます)





【ちょっとだけ小ネタを解説】
・ハーフアイドル→ぐんちゃんの中の人の某アイドル役から
・アラサーアイドル→銀ちゃんの中の人の某アイドル役から
・私を殺したいんでしょう!→=ネタ的な意味でラジオ勇者部活動報告から
・銀ちゃんが遊んでいたノベルゲーム→三年前に書いたゆゆゆが多少関係するSSより
・身体能力が低いのに手数で強キャラ→ゆゆゆいのぐんちゃんの性能から
・火球を斬ることができた→ゆゆゆいでぐんちゃんは現状赤、青、紫属性だから
・ぐんちゃんの台詞全体的に難しい言葉多めじゃない?→ゆゆゆいの技名とかから想像爆発した結果、なんです……
・友奈関連→意図的です

他にも色々仕込んでいますので探してみるのも一興かもしれません



お読みいただきありがとうございます
二話に関しては……



*一人傷つきながらも戦う少女に、敵からの致命的な一撃が与えられるその寸前

友奈「やめろぉおぉぉぉーッ!!」

友奈(身体が勝手に動いていた)

友奈(敵うはずはないと分かっていたのに、それでも私はあいつらの前に飛び出して、拳を固く握り、思いっきり右手をぶつけていた)

友奈(……良かった。あいつらの注意だけは私に向いてくれて。うん、あの子は無事だ)

友奈(ホッとしながら、多分私はここで死んでしまうのだと思った。あんな化け物に私の攻撃が効くはずはないのだから)

友奈(それなのに──)

少女「……はぁ、はぁ……ま、まさか! ……アタシたち……っ……以外にも……勇者、が……?」ヨロヨロ

友奈(──私の右腕の先から桜色が広がり、私の服が一瞬で変わっていた。動きやすい、装束のような、どこか神聖な服──ううん、衣に)

友奈(気付くと右拳にはあの手甲がはめられていて、不思議なことに私がどうなったのか、これからどうすれば良いのかが、全部分かった。手甲は言っている、あの子も言ったように私が──)

友奈(勇者に、なったんだって!)

友奈「……すぅ……はぁ……」

友奈(だけど、ばーてっくすに私の攻撃は全く効いていない。一瞬だけ攻撃はやんだけど、また雨のような攻撃が再開されようとしていた。──これも分かる、今の私じゃ力が全く足りていない)

友奈(だから、自分の中のとても深いところから"それ"を呼び出し、拳にまとわせた。その瞬間、私の身体が風のように軽くなり、世界がゆっくりに見えていく。速さはどんどん加速していき、私は"それ"を完全に捉える!)

友奈(お願い! 力を貸して──!)



友奈「一目連《いちもくれん》っ!!」



友奈(疾風になった私はばーてっくすたちに何度も何度も攻撃を繰り出していき──)

友奈「これで! どぉーだっ!!」

友奈(頭の中ではっきりと思い浮かべる。今の私なら出来るはずなんだ!)



友奈「勇者ーっ! キィーーック!!」



友奈(アニメで見た結城ちゃんの鋭く綺麗な蹴り技を私は再現し──)



              冒頭『切り札のさらにその最奥』より一部抜粋




と、一応こんな感じで続きはするんですが、一話より確実に長くなってシリアス度も増すので多分一話分で完結になるかと
(もし続く場合はどこかでアナウンスしておきます)

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