勇者「パーティかあ」(22)
王「自分の命を預ける存在だからな、信用できる人間でなければパーティを組んではいかんぞ」
勇者「はあ」
王「資金については心配するな、こちらで用意するから。もちろん王国軍から物資の支援もうけられるようにする」
勇者「はあ、どうも」
王「だから君はまずパーティをつくることに専念してくれ、パーティは2人でもかまわない。そもそも絶対の信頼の置ける人間なんてそんなにいるものじゃないからな」
勇者「はあ」
勇者「わかりました」
勇者「とは言ったものの……」
勇者「確かに考えてみると難しいな。金の問題は国が負担してくれるから心配ないとして、それで釣れる人間なんて後でどんなことで裏切られるかわかったもんじゃないし……」
勇者「だからって、無償で魔王討伐についてきてくれる人間なんているわけないし……」
勇者「困ったなあ……」
勇者「友達……ねえ」
勇者「そんなのいないし、いたとしても(知り合い程度)みんな国を出たくないわな」
勇者「とりあえず酒場に行ってみるか」
酒場から退出
勇者「確かに、みんなすごいひとたちなんだろうけど……」
勇者「魔王討伐って感じじゃないよな、小銭稼ぎしかいない。まあ当然か、その日暮らしの連中だし」
勇者「酒場じゃまともなのはいないな」
勇者「となると政府に雇われてるような魔法使いとか、教会に囲われてるような僧侶とか、そのあたりがいいのかもしれないな。腕は認められてるわけだろうし」
勇者「まずは王国軍に掛け合ってみるか」
軍師「うちからは貸せないね」
勇者「王様は協力させるって言ってましたよ」
軍師「まあこっちも事情があるからね、物資は援助させてもらうよ」
勇者「魔法使いとか剣士とか、優秀な方いらっしゃるでしょう?」
軍師「いるけど無理だな、国防に回すから。貴重な戦力を討伐隊になんか参加させられんよ」
勇者「それじゃあこっちは捨て駒みたいじゃないですか」
軍事「……そうかもね」
勇者「はあ……、駄目だこりゃ」
勇者「教会に行ってみるか」
司教「はい?」
勇者「いや、だから魔王討伐のパーティにですね……」
司教「なんでうちから生贄を差し出さないかんのですか?」
勇者「生贄ってそんな」
司教「そうでしょう? あんたが討伐できる保証はあるんです? こっちに何のメリットが?」
勇者「保証はありませんが平和のためです、国民の犠牲を増やさないためですよ。それに国から補助金を出してもらえるはずです」
司教「金? いらんいらん。僧侶は今人手不足でね、金より人なんだよ。だから貴重な人材を流出させるわけにはいかないわけ」
勇者「はあ、そうですか」
王国中央広場のベンチ
勇者「まったくやってられないな」
勇者「この国滅ぶんじゃねーか?」
勇者「ま、知ったこっちゃないかべつに」
魔法使い「どうしたの?」
勇者「あ、よう。どうしたこんなところで」
魔法使い「勇者こそ」
勇者「パーティが集まらなくてな、このままじゃ一人で魔王討伐に行くことになるかもしれん」
魔法使い「わたしは? 誘われてないんだけど」
勇者「いやお前は……」
勇者(そうだ。確かに5歳も年下だからって、こいつは魔法使いとして十分に素質を持っている。優秀でもある。なのにどうして今まで候補に考えていなかった?)
勇者(……多分、無意識の内にこいつを除外していたんだ。危険な目に合わせたくないから。)
勇者(……そうか、だから断られたのか。今更わかった。どこぞの馬の骨とも知らん勇者がいきなり来て、魔王討伐に仲間を駆り出そうとする。そんなの、はいそうですかって仲間を差し出せるか? できるわけがない)
魔法使い「おーい、どうしたの? ぼうっとして」
勇者「……なんでもない」
魔法使い「わたし、ずっと準備してきたんだけど」
勇者が「は?」
魔法使い「勇者と、魔王討伐するために」
勇者「いや、だからお前は……」
魔法使い「八つ裂きにされても恨まない、殺されても恨まない、そんな人がいる? どんなことになっても、わたしは勇者を恨まない。一緒にいる」
魔法使い「そう決めて、ずっと準備してきたんだよ」
魔法使い「冒険ってね、どんどん人が狂っていくんだって。ずっと生きるか死ぬかの瀬戸際でギリギリで生活してなおかつ戦闘もして、移動する」
魔法使い「仲間同士の不和もしょっちゅうで、殺し合いになったりする」
魔法使い「だからね……」
勇者「俺はお前を連れて行かない」
魔法使い「どうして?」
勇者「悪いが足手まといは連れて行けんわ、お前の実力はまだ魔王討伐の域にはない」
魔法使い「そうかな」ぴらっ
勇者「なんだその紙切れ」
魔法使い「アカデミーの修了証明書、首席の印章もあるけど」
勇者「は? お前まだ14歳だろ!? 13歳で入学して修了するのに22歳までかかるんだぞ」
魔法使い「飛び入学して3年で修了したから」
勇者「い、いやアカデミーは実戦向きの技術を教えてくれるわけではないだろ、詳しくは知らないが……」
魔法使い「そうだね」
勇者「自分で言うのもあれだけど俺は王国軍でも最上位クラスのロイヤルガードで10年間訓練してきたわけよ、やっぱ机の上で魔法理論学んできただけの奴は連れて行けんなあ」
魔法使い「……」むっ
勇者「だけどよく頑張ったな、すごいよお前は」
魔法使い「……」ぶつぶつ
勇者「おい何してる」
魔法使い「……」ぶつぶつ
勇者「がっ……、ぐぐぎっ、あっ、やめ、やめっ、ろ!!」
魔法使い「やめた」ぴたっ
勇者「は、はっあー、し、死ぬっ、かと思った」
勇者「おい、そんなピンポイントで人体の首絞める魔法なんてあるのか?」
魔法使い「ないけど、できるから」
勇者「できるってお前……」
魔法使い「どう? 連れて行く気になった?」
勇者「……何をしてもダメなものはダメだ、それじゃあな」
勇者「俺は忙しい、俺は忙しいんだ」
ひとりごとを繰り返す。街に入り、後ろを振り返ると、魔法使いの姿はなかった。
勇者(予定では明朝に発つことになってるけど、今夜に早めるか。準備自体はとっくに終わってるからな)
勇者(とっとと王国を出よう。出立式なんぞすっぽかせばいい、とにかく魔法使いを撒くことを考えないと。夜逃げみたいになるのは気に食わんが……)
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