女騎士「くっ、殺せ!」 オーク「お前料理できるか?」(119)

女騎士「へっ? りょ、料理?」

オーク「ああ。うちの飯炊き番がいなくなっちまってな……まぁ、ろくなメシも作れねぇ奴だったが。人間は器用だからな。お前、俺らの飯炊きをしろ」

女騎士「め、飯炊き……」

オーク「そうすりゃ命だけは助けてやる。どうだ、悪い話じゃないだろう」

女騎士「……」

……

オーク「調理場はここだ」

女騎士(思いのほか綺麗に整理整頓されている……が、あちこちに鳥獣の骨や死骸が……)

オーク「もういい加減、生肉ばかりのメシには飽きた。じゃあ、頼んだぞ」

女騎士「あっ、ちょっ……」

女騎士「……行ってしまった」

女騎士(しかし、敵に炊事版を任せるとは魔族の神経は今一つ分からん。毒でも盛られたらおしまいではないか)

女騎士(あるいはそれだけ私が見くびられているということか……屈辱だな……)

女騎士(いっそ取り入ったフリをして毒殺を……いや、やめておこう。そんなことをしても騎士の恥になるだけだ)

女騎士(今は雌伏の時……いつか必ずこの屈辱を晴らしてみせる!)

女騎士「……とはいえ、いったい何から始めればいいものやら……」

……

オークA「おい聞いたか。こないだ捕えた人間、なんでも新しい飯炊き番にしたらしい」

オークB「飯炊き番? 食材の間違いじゃねえのか?」

オークC「人間なんて美味くねえよー食うとこほとんど無ぇもん」

オークA「まあ、あいつら手先だけは器用だからな。せいぜいコキ使って……おっ? なんかいい匂いがしねえか?」

オークB「……本当だ、調理場からだな」

オークC「行ってみようぜ」

女騎士「こんなものか……」グツグツ

オークA「おい人間!! メシはまだか!!」

女騎士「い、今ちょうどできたところだ……口に合うかは知らんが」ドン

オークB「ほぉ、なかなか美味そうじゃねえか」

オークC「どれどれ……こっ、これは!!!!」

女騎士「……ん?」

オークA「……何てことだ」プルプル

女騎士「えっ」

オークB「こんな美味いもん初めてくった……」ガクガク

女騎士「えっえっ」

オークC「うおおおおお!! 止まらねえぜ!! おい、こいつはまだあるんだろうな!?」ガツガツ

女騎士「あ、ああ……」

……

オークA「げふっ……あー食った食った」

オークB「毎回こんなメシが食えるなら働き甲斐もあらぁな!!」ガハハ

オークC「前の奴はクソ不味いメシしか作れなかったからなぁ……なんだか体の底から力がみなぎってくるぜ!!」ウオオオオオ

女騎士「」ポカーン

オーク3人「また来るからな!!」

女騎士「あ、はい」

その後、女騎士の料理はオークのみならず魔界全体に知れ渡った!!

母ゴブリン「病弱だった息子が、あそこの料理を食べた途端元気になったんです!!」

老ガーゴイル「老いてなおあそこの料理だけは不思議と喉を通る……また食うまで死ねるかと、ガラにもなく長生きをしてみたくなったわい。かっかっか」

リザードマン「人間なんざ、単なる狩りの獲物くらいにしか考えてなかったんだがな……アレを食ったら、そんな考えは吹き飛んだ。アイツの料理が食えなくなるなんて考えたくもねえ」

オーク戦士長「俺たちゃメシに関しちゃ量さえあればそう文句はいわねぇ。だが、あの人間のメシは質も量も最高だ。おかげで隊全体の士気も上がっている。まったく、良い人材を手に入れたもんだ」

ゴーレム「ウオオオオオオオオオオオン!!」

<ワイワイガヤガヤ

女騎士「ど、どうしてこうなった……」

女騎士(しかし、魔族にも食の嗜好があるのだな。これは意外だった)

オークA「よっ! 今日も食いに来たぜ!!」

オークB「やっと入れたぜー。ここんとこ、行列できてっからなー」

オークC「あー腹減った!! おい、大盛りで頼むぜ!!」

女騎士「あ、ああ」

女騎士(正直ここまで喜んでもらえると悪い気はしない……こともない、のだが)

女騎士(私がこうして魔族に活力を与えてしまうと、その分人間の仲間が犠牲になってしまうのでは?)

オーク戦士長「おい人間、いるか?」

オークA「ありゃ? 戦士長じゃないっすか。戦士長もここでメシを?」

オークB[ここのメシ美味いっすからねー」モグモグ

オークC「おかわり! 大盛りで!!」

女騎士「あ、はい」

オーク戦士長「あー……皆よく聞け。本日をもって、魔族と人間との間に和平条約が結ばれた」

女騎士「えっ」

オークA「えっ」

オークB「和平って……人間との戦争が終わるってことかよ……?」

オーク戦士長「ああ、そうだ」

オークC「もぐもぐ」

オーク戦士長「ついては戦中に捕えた捕虜は、その返還義務が条文に明記された」

オークA[え……ってことは戦士長、もしかして!?」

オークB「コイツ(女騎士)もいなくなっちまうのか!?」

オーク戦士長「そういうことになるな」

女騎士「!!」

オークC「むぐむぐ……ごくん、そいつはひでえ! コイツのメシがもう食えなくなっちまうのかよ!!?」

母ゴブリン「そんな! ここの料理がなくなったら、息子が……」

老ガーゴイル「ここの料理だけが生きる楽しみだったのはが……」ションボリ

リザードマン「人間……お前だけは特別だ。お前がいなくなると、俺は……困る」

ゴーレム「ウオオオオオオオオオオオオン……」

女騎士「お、お前たち……」

オーク戦士長「皆の気持ちもよく分かる。何せ俺もここの常連だったからな……ここはひとつ、魔王様に相談してみることにしよう」

しえん

【魔王城】

魔王「捕虜を残してほしいと嘆願が?」

側近「はい。この者です」

魔王「ふむ、そうかオークの所の……噂には聞いていたが、人間が魔族に料理を振る舞っているとは俄かには信じられんな。そもそも魔族と人間では味覚はおろか料理に対する価値観も大きく異なっているであろう?」

側近「私もそう思ったのですが、そうやら件の捕虜が作る料理は我々の好みにフィットしているようですね」

魔王「とはいえ条約を結んだ以上、捕虜の返還拒否は無用な諍いの元となる」

側近「そうですね。ですので、返還後に正式に登用してしまえば問題ないのでは?」

魔王「む?」

側近「前例はありませんが、魔王軍として正式にあの人間と雇用契約を結べばよいのです。戦争はもう終わったわけですから」

魔王「ふむ……いずれにせよ、こちらの一存だけで即断できる話ではあるまい」

側近「ええ。交渉の余地もあるでしょうし、いったんは捕虜を変換しましょう」

魔王「うむ」

側近「オークたちには私の方から説明しておきます」

魔王「ああ、頼んだぞ」

側近「お任せください」

……

側近「ということで、魔王軍としても返還後の彼女を再度雇い入れるのに全力を尽くすことを約束する」

オーク戦士長「ということだ。残念だが、いったんコイツの作るメシはお預けだ」

オークA「絶対戻ってこいよ! その時まで腹空かして待ってるからな!!」

オークB「あーあ、また生肉ばっかのメシが続くなあ……何なら俺もコイツに料理を習っとけばよかったかな?」

オークC「ガッハッハ、お前にゃ無理な話だ!!」

子ゴブリン「人間のおねえちゃん……おねえちゃんのつくるごはん、美味しかったよ」

母ゴブリン「おかげでこの子も友達と遊べるまでになりました……ありがとう」

老ガーゴイル「長生きはしてみるもんじゃの……気を付けなされよ」

リザードマン「竜人の鱗だ、持って行け。いざとなれば我が一族がいつでもお前の元へ駆けつける……フン、本当なら無理矢理さらってやってもいいんだがな」

ゴレーム「ウオオオオオオオオオオオオオン……」

女騎士「あ、ありがとう、皆……」

騎士団長「国王軍の使者だ!! 捕虜を迎えにきた!!」

オーク戦士長「迎えが来たようだ。それでは達者でな。人間」

女騎士「……世話になった」

子ゴブリン「またね!おねえちゃん!!」

女騎士「……」ニコ

>>15

あっ ありがとう

【国王城】

女騎士「陛下、ただいま帰参いたしました!」

国王「うむ。よく戻ってきてくれた。苦労をかけたな……」

女騎士「そんな。もったいなきお言葉にございます……」

国王「此度の戦では両陣営とも多くの者が犠牲となった。結果、互いに何も得るものはなかったわけだがな……」

女騎士「申し訳ございません。我々が力及ばなかったばかりに」

国王「もともと、双方が望んで争いを続けていたわけではないのだが……和平を早め、新たな犠牲を増やすことなくこうして何人かの捕虜を取り戻せたことは、せめてもの救いかもしれぬ」

女騎士「……」

国王「これからも、国のために忠誠を尽くしてもらいたい」

女騎士「はっ!!」

国王「そなたの働きに期待しておるぞ」

……

後輩騎士「先輩! 生きてたんですね!!」

女騎士「ああ。心配をかけたな」

後輩騎士「よかった……! 私、先輩が死んだらどうしようかと……食事ものどを通らなくてっ……!!」ポロポロ

女騎士「国に忠誠を尽くす以上、任務の中での死は覚悟している。お前もそれを承知で騎士になったのだろう?」

後輩騎士「それは……そうですけど……でも、さびしかった、です……」メソメソ

騎士団長「女騎士よ」

女騎士「はっ!」

騎士団長「これから、お前には査問委員会による取り調べを受けてもらう」

女騎士「承知しました」

後輩騎士「査問って……! べ、別に先輩が何か悪いことをしたわけでは!!」

女騎士「囚われの身だったとはいえ、一時的に敵に加担する行為を行ったわけだからな。その間の説明責任を果たすのは当然のことだ」

騎士団長「そういうことだ。なにも懲罰を前提とした取り調べというわけではない。査問などと堅苦しい言い方だが、要は捕虜になっていた間の様子を聞くことがその目的なのだ」

後輩騎士「そんな……先輩はオーク達に囲まれて……に、肉体的にも、精神的にも辛い思いをしたんじゃ……」

女騎士「ああ、いや……私はオーク達の中で、飯炊きをさせられていただけだ」

後輩騎士「えっ」

騎士団長「えっ」

後輩騎士(だ、団長! 聞きましたか!? いま『飯炊き』って!!)ヒソヒソ

騎士団長(あ、ああ、聞いた。間違いない)ヒソヒソ

後輩騎士(あの先輩が!! ご飯作ってたっていうんですか!?)ヒソヒソ

騎士団長(これは……なんとも恐ろしい。逆にこちら側の過失を問われることにならなければ良いのだが……)ヒソヒソ

女騎士「どうしたのです?」

騎士団長「あ、ああ、なんでもない。それでは、こちらの部屋へ来てもらおうか」

女騎士「わかりました」

後輩騎士「せ、先輩が……料理……」ピクピク

女騎士「む、どうした? 顔色が悪いようだが?」

後輩騎士「ひっ! あっ、な、なんでもないです! と、取り調べが終わるまで営舎で待ってますね……」

女騎士「……?」

【その夜】

女騎士「ふふ……まさか生きて自分の部屋に戻ってこれるとはな」

後輩騎士「先輩、おかえりなさい!!」

女騎士「ただいま!」

後輩騎士「取り調べの方はどうでした?」

女騎士「うん。つつがなく終わったよ」

後輩騎士「それで……本当なんですか?」

女騎士「え? 何が?」

後輩騎士「オーク相手に、食事を作ってたって話です!!」

女騎士「ああ……ごめんね。生き延びるためとはいえ、私のせいで一時的に敵を利する結果になっちゃって……」

後輩騎士「いや……なんていうか、それってむしろ浸透作戦に近いというか、かえってオークの方が大丈夫だったのかなって……」

女騎士「えっ、それどういう意味?」

後輩騎士「先輩、今まで一度も騎士団の炊事演習に参加したことありませんよね?」

女騎士「う、うん。なぜかいつも衛兵当番とかぶっちゃって……」

後輩騎士「実はあれ……団長の判断で外していたんです……」

女騎士「えっ」

後輩騎士「先輩の作る料理があまりにも猟奇的すぎるという理由で」

女騎士「」

後輩騎士「ごめんなさい……黙ってようと思ったんですけど……」

女騎士「えっ……? ちょ……それ本当なの?」

後輩騎士「本当です」

女騎士「わ、私の料理って猟奇的なの?」

後輩騎士「正直ジャイアンシチューが宮廷料理に見えるレベルです」

女騎士「」

後輩騎士「というかあの、調理過程からして料理を作っているというよりは……何かよくないものを召喚しているようにしか……」

女騎士「え、そんな、だって、オークはおいしいって……」

後輩騎士「きっと先輩の感覚は人間より魔族寄りなんですねぇ……」

女騎士「」ガーン

後輩騎士「ご、ごめんなさい」

女騎士「そ、そっか……それで査問委員会でも同じことを何度も聞かれたんだ……」

後輩騎士(あ、やっぱみんなそこ気にしてたんだ)

女騎士「皆やけにオークの心配をしていたので、かえって私の方がこれはワナじゃないかって勘ぐったくらいだったんだけど……」

後輩騎士「お悔やみ申し上げます……」

女騎士「……それは、どっちに?」

後輩騎士「オーk・・・…もちろん先輩にですよ」

女騎士「おい」

後輩騎士「で、でも先輩はそれ以外のところは素晴らしいですから!! 騎士としても女としても、先輩は私の目指すべきひとです!!」

女騎士「あ……うん、あ、ありがとう?」

後輩騎士「さぁさぁ! せっかく帰ってこれたんですし、今夜は久しぶりにベッドでゆっくり休みましょう!!」

女騎士「う、うん……」

後輩騎士「そ、それで、あの……久しぶりということで、できれば一緒に寝ちゃったりしてもいいですか?」モジモジ

女騎士「えっ、嫌……」

後輩騎士「ですよね」ションボリ

女騎士「……そうだ。実はさっきから後輩ちゃんに聞きたいことがあったんだけど」

後輩騎士「はいっ、なんでしょう?」

女騎士「ひょっとして……太った?」

後輩騎士「」

女騎士「というか後輩ちゃんだけじゃなくて……帰ってきたら何人か『あれ、こんな太ってたっけ?』って人がいて……」

後輩騎士「な……内緒にしててくれますか?」

女騎士「えっ……何か悪いことしてたの?」

後輩騎士「わ、悪いことというか……実は最近、このあたりに美味しい出前の店ができたんです」

女騎士「出前?」

後輩騎士「はい! 夜遅くまでやってるんで、みんな部屋に戻ってからこっそり夜食に頼んでたんです」

女騎士「頼んでたって……門限を過ぎたら営門開かないでしょ?」

後輩騎士「それが、転送魔法で配達してくれるんですよ」

女騎士「えっ、魔法で!?」

後輩騎士「はい。なんでも王立魔法協会の方が運営してるらしくて……」

女騎士「へえー、私がいうのもなんだけど、魔道士たちが食事を作ってるっていうのも意外だね」

後輩騎士「それがすごくちゃんとした料理なんですよ! 出前とは思えないくらい! 先輩の料理とは大違いですね!!」

女騎士「ひどい……」

後輩騎士「あっごめんなさい一緒に寝ます?」

女騎士「いいです」

後輩騎士「チッ」

女騎士「そっかー……私が捕虜になってる間にそんなことになってたんだ」

後輩騎士「そうなんです! こんど先輩も一緒に食べましょうね!!」

女騎士「……ていうか後輩ちゃん、さっき私のことが心配で食事ものどを通らなかったって言ってたよね?」

後輩騎士「う」

女騎士「本当に心配してたの?」

後輩騎士「してました……してましたとも……」ダラダラ

女騎士「ホントかなぁ……」ジトー

後輩騎士「あ、ていうか私も先輩に聞きた……き、聞きたくな……聞きたいことがあるんですけど」

女騎士「なんでちょっと躊躇したの?」

後輩騎士「……先輩、オークの捕虜になってた時、どんな料理を作ってたんです?」

女騎士「はは……やっぱそれか。査問委員会でも同じこと聞かれたんだよね」

後輩騎士(そりゃやっぱみんな気になるよなぁ)

女騎士「例えば……そうだなあ、髑髏蔓の脳味噌和えとか」

後輩騎士「!?」

女騎士「魔獣の内臓と煉獄茸一緒に焼いたのとか……」

後輩騎士「」

女騎士「あとは……人面魚の塩辛とか……」

後輩騎士「あ、もう大丈夫です……」ゲンナリ

女騎士「や、やっぱりそんなにおかしいの? 査問委員会の人たちにもドン引きされたんだけど……」

後輩騎士「およそ人間の発想じゃないです……」

女騎士「」ガーン

後輩騎士「ていうか、煉獄茸とか触っただけでもヤバイ系の猛毒キノコじゃないですか……」

女騎士「う、うん……たしかにあれはアーマー越しでもちょっとかぶれた……かな? 最初のうちだけ」

後輩騎士「なんでちょっとかぶれる程度で済むんですか!? そしてなんで順応してるんですか!? 化け物ですか!?」

女騎士「ひどい」

後輩騎士「ああ……やっぱり寝る前にこんなこと聞くんじゃなかった……うっ、ちょっと吐き気が……」オエ

女騎士「だ、大丈夫?」

後輩騎士「だ、大丈夫です……しかし、そんなもの食べてまで生き延びなきゃならなかったんですね……」

女騎士「え、私は食べてないよ?」

後輩騎士「え?」

女騎士「普通に食糧庫に小麦粉とか置いてあったから、私はそれ煮て食べてたよ?」

後輩騎士「えっ? だ、だって、作った料理の味見とか……」

女騎士「味見?」

後輩騎士「あっ……ふーん」(察し)

女騎士「な、なになに? どうしたの? えっ? それどういう反応?」オロオロ

後輩騎士「まぁ……なんとなく納得いきました。先輩らしいというか、なんというか……」

女騎士「それどういう意味なの……?」

後輩騎士「それにしても、なんでオーク達の食糧庫に人間が食べられるような穀物が置いてあったんですかね?」

女騎士「私以外にも何人か人間の捕虜がいたみたいだし、多分奪った食糧を捕虜用に保管してたんだと思う」

後輩騎士「ま、まさか先輩!? 他の捕虜の人たちにまで手料理を振る舞ったりしてませんよね!?」

女騎士「い、いや……私は専ら魔族向けの料理だけで……」

後輩騎士「よかった……犠牲は最小限に抑えられたのね……」ホッ

女騎士「ううう、さっきから後輩ちゃんがひどい」

後輩騎士「大丈夫です……料理以外は私の尊敬すべき先輩です……一緒に寝ましょう」

女騎士「嫌です……」

【数日後】

騎士団長「なに? 魔王軍から特使が?」

後輩騎士「はい。なんでも魔王直々に、先輩を登用したいと申し出があったそうで……」

騎士団長「馬鹿な。なぜ魔族が人間を?」

後輩騎士「それが……是非先輩に魔族向けの料理店を開いてほしいとのことで……」

騎士団長「そんなバナナ!?」

側近「王立騎士団長殿ですね。お初にお目にかかります。私が魔王様の側近です。以後、お見知りおきを」

騎士団長「う、うむ……それで、本気なのかね?」

側近「彼女のことですか? 既に和平条約は締結しましたし、人間と魔族の間で正式な雇用契約を結ぶことに問題はないはずです」

騎士団長「そ、それに関しては陛下のご意向ということで依存はないのだが……なぜ、彼女に料理を?」

側近「それはもちろん、彼女の作る料理が魔族を魅了したからですよ」

騎士団長「ほ、ほう……」

後輩騎士「せ、先輩……行っちゃうんですか?」

女騎士「私は騎士であり料理人ではない。そう簡単に国に誓った忠誠を破りはしないつもりだ」

側近「ですが、あなた方の国王陛下もこの件に関してはご理解を示されていますよ」

女騎士「陛下が……?」

側近「『本人の意向次第ではあるが、彼女が魔族と人間との橋渡しになれる可能性があるというのであれば、それを拒む理由はない。むしろ今後の双方の関係発展にとっては喜ばしいことだと思う』とのことです」

騎士団長「間違いない。陛下自らのご発言だ」

女騎士「陛下がそんなことを……?」

騎士団長「女騎士よ。お前はどうしたいのだ?」

女騎士「団長……私は……」

側近「こちらは皆、あなたの料理を心待ちにしていますよ」

騎士団長(マジで……)

後輩騎士(そんなにガッツリ魔族の胃袋掴んじゃったんだ……)

女騎士「…………少し、猶予をいただけないだろうか」

側近「わかりました。それでは来週またこちらに参ります。その時までに決めておいてください」

女騎士「承知した」

騎士団長「……ゆっくり考えるといい。陛下の仰ったとおりだ。お前の判断に委ねる」

女騎士「はっ……」

……

後輩騎士「せ、先輩! 騙されちゃだめですよ! いったらきっと洗脳された魔族にされちゃいますよ!!」

女騎士「……」

後輩騎士「私、嫌ですよ……先輩に剣を向けることになるかもしれないなんて……」

女騎士「後輩ちゃん……」

後輩騎士「それに何かの間違いで、先輩の料理が人間相手に炸裂する可能性もありますし……」

女騎士「……」

後輩騎士「大体、捕虜にまでされたっていうのに、いまさら戻ることなんてないじゃないですか!!」

女騎士「それは……そうだけど……」

後輩騎士「いい思い出なんてないはずでしょう!? それなのになんでまた自分から戻ろうなんて思えるんですか!! 悩むまでもないじゃないですか!!」

女騎士「……」

『こんな美味いもん初めてくった……』

『うおおおおお!! 止まらねえぜ!! おい、こいつはまだあるんだろうな!?』

『絶対戻ってこいよ! その時まで腹空かして待ってるからな!!』

『おねえちゃんのつくるごはん、美味しかったよ』

後輩騎士「先輩ってば!」

女騎士「あ、ああ……そうだよね。後輩ちゃんの言うとおり……かな?」

後輩騎士「よかった……もし行くっていうのなら私、騎士団を辞めてでも止めるつもりでしたから!」

女騎士「う、うん……いや、別にそこまでしなくても……」

後輩騎士「魔王の側近が来るのは来週って言ってました! 丁重にお断りしてやりましょう!!」フンス

女騎士「……」

【そして次の週】

側近「結論は出ましたか?」

女騎士「ああ」

後輩騎士(ふふーんだ! 先輩は魔族のところになんて行きませんよーだ!!)

側近「我々としても、有能な人材には最大限の配慮をするつもりです。もしあなたが望むのであれば、王国騎士団との兼務も許可しますが」

女騎士「いや、騎士と料理人を両立することはできない。……団長、お世話になりました。私は今日を以って王国騎士団を退きます」

後輩騎士「そうよ! 先輩はこれからも騎士として……って、えええええええええええ!!! そそそそそそそそそそんな!?」

騎士団長「承知仕った。……君の行く先に、神のご加護があらんことを」

女騎士「……ありがとうございます。お世話になりました」

後輩騎士「ちょっと待って先輩!? どうしてなんです!!? えっ……そんなんアカンて!!」

女騎士「ごめんね、後輩ちゃん……」

後輩騎士「嫌ァァァァァァ!! そんな部屋で2人っきりの時のテンションでマジ謝りしないでくださいよ!! 騎士なら騎士らしく『すまん……』とか言ってくださいよおおおお!!」

側近「面白い方ですね」

女騎士「では身支度を……」

後輩騎士「い、行かせませんよ!! どうしても行くというのならこの私を倒してかr」

側近「せいっ」ドトスッ

後輩騎士「う゛っ」バタン

女騎士「後輩ちゃん!?」

側近「大丈夫。すぐに気が付きます。さ、今のうちに準備を……」

……

元女騎士「……というわけで、私は戻ってきた」

<ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

元女騎士「かつては敵同士ではあったが……これからは人間と魔族の橋渡しとなれるべく、皆に喜ばれるような料理を提供していければいい……と思う」

<ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

元女騎士「……こ、これからもよろしく」

オークA「へへっ、やっと戻ったか! もう腹が減って待ちきれねえぜ!!」

オークB「能書きはいいから早くメシ作ってくれよ!!」

オークC「腹いっぱい食いたし」

側近「皆喜んでいますね。これなら正式にあなたを登用した甲斐があったというものです」

元女騎士「……よし、すぐに準備を始めよう!!」

こうして女騎士は、正式に魔族の料理人となったのでした。

彼女の開いた店には連日多くの魔族が押し掛け、その料理に舌鼓をうちました。

彼女の料理は人間から見れば猟奇的な物体X以外の何物でもありませんでしたが、自らの料理を心から喜んでくれる魔族たちを見て、彼女は騎士だった頃とはまた違った充足感を感じていたのでした。

子ゴブリン「おねえちゃん! 今日もきたよ!!」

元女騎士「お、いらっしゃい。今日は一人?」

子ゴブリン「うん!!」

元女騎士「おー、えらいえらい。じゃあカエルの脳みそおまけでつけたげる」

子ゴブリン「やったー!!」

リザードマン「よぉ」

元女騎士「あ、いらっしゃい」

リザードマン「……いつもの」

元女騎士「はいはい」

子ゴブリン「そういえば、最近ガーゴイルのお爺ちゃん見ないね?」

元女騎士「そうねぇ……先月まで毎日のようにいらしてたんだけど」

リザードマン「……あのジジイ、なんでも羽根をいわしたらしいぞ」

元女騎士「えっ」

子ゴブリン「大丈夫なの?」

リザードマン「さぁなぁ。何せもう歳だかんな……」

元女騎士「そんなに思わしくないの? ガーゴイル翁の具合は」

リザードマン「ガーゴイルが羽根をやったとなっちゃあなぁ。もうほとんど動けんだろうし、あとは弱ってく一方だろう」

元女騎士「うーん……だったらせめて私の料理を届けてあげられればいいんだけど」

子ゴブリン「あっ! じゃあ僕が届けてきてあげるよ!!」

リザードマン「やめとけ小僧。ガーゴイルの棲む山はそこいらの山とは訳が違う。あいつら以外近づくのは無理だ」

元女騎士「ふーむ……あ、そうだ!!」

子ゴブリン「どうしたの? おねえちゃん」

元女騎士「いいことを思いついた! リザードマン、ちょっと店番頼んでいい? 前に飲みたがってた洞穴蠍のお酒、サービスするからさ!」

リザードマン「は? おいちょっと待てよふざけんな!!」

元女騎士「夜までには戻るから!!」

リザードマン「おい!!」

オークA「うぃーす、なんだ、あいついないのか」

オークB「でも店は開いてんだろ? おーい、いつものくれ」

オークC「大盛りで。3つな」

子ゴブリン「おじちゃん、注文とらなくちゃ」

リザードマン「ちっ……なんだって俺がこんなことを……」

【王立騎士団営門前】

後輩騎士「ふっふーん♪ 今日は久しぶりの非番だ~」

元女騎士「あ、出てきた。おーい、後輩ちゃーん! 久しぶr」

後輩騎士「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

元女騎士「」ビクッ

後輩騎士「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」ドドドドド

元女騎士「ひっ……久しぶり……」

後輩騎士「先輩ッ! 先輩! 先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩クンカクンカスーハスーハー……」ギュー

元女騎士「あ、あの……」

後輩騎士「はぁん……」ウットリ

元女騎士「……」

後輩騎士「はっ! 先輩! 久しぶりですねっ!!」ツヤツヤ

元女騎士「う、うん」

後輩騎士「一体どうしたんですか!? まさか、私に会いに!?」

元女騎士「そ、そうだよ」

後輩騎士「なるほど……そうですよね。先輩もそろそろ我慢できなくなる頃ですもんね……」ヌギヌギ

元女騎士「えっ、何が?」

後輩騎士「さあ! 存分に嗅いでください!! 私の匂いを!!」ババーン

元女騎士「あ、そういうのじゃなくて……」

後輩騎士「じゃ、じゃあ一体何を……ま、まさか! 匂いだけじゃ飽き足らず私の身体を!? いいですよ、先輩なら……私……」モジモジ

元女騎士「いったん距離を置いてみると、この子こんなに面倒くさい子だったんだなぁ……」

後輩騎士「さぁどうぞ! 私を食べてください!!」ウェルカム

元女騎士「い、いや……食べないよ」

後輩騎士「えっ」

元女騎士「食べないよ」

後輩騎士「えっ……じゃあひょっとして……逆に先輩の料理を……? 私に……食べさせ……いっ、嫌あああああああああああああああ!!!」ガクガク

元女騎士「ちょ、ちょっと落ち着いて」

後輩騎士「いくら先輩の手料理でもそれだけは嫌ああああああああああ!!」

元女騎士「どうすればいいんだろうこれ……」

……

後輩騎士「へ? 例の出前の話?」

元女騎士「そうそう。前に王立魔法協会で転送魔法を使った出前をやってるって言ってたよね?」

後輩騎士「あー、あれですか……実は先輩が騎士団を辞めるのと同じくらいに閉店してしまって……」

元女騎士「えっ!? そうなの!?」

後輩騎士「はい。なんでも魔法を使った出前っていうのが魔法協会内では違反行為だったとからしくて……」

元女騎士「え、許可とってたんじゃないんだ……でも、美味しくて人気だって言ってたよね?」

後輩騎士「それで噂が広まりすぎて逆にばれちゃった、ということみたいですね」

元女騎士「そうなんだ……」

後輩騎士「いっそのこと正式に許可してあげればいいのに、魔法協会も融通が利きませんよねー」

元女騎士「うーん、そっか。困ったなあ、ちょっとその出前をしていた魔道士に相談したいことがあったんだけど」

後輩騎士「相談?」

元女騎士「うん。いまうちの常連さんで、体動かせない人……じゃなかった、魔物がいてね。例の転送魔法で私の料理を届けてあげられたら~って思ったんだけど……」

後輩騎士「トドメ刺す気ですか!?」

元女騎士「ち、違うよ!! なんでそうなるの!?」

後輩騎士「あっ……ごめんなさい、つい人間の尺度で考えちゃいました」

元女騎士(この子ヒドイ……)

後輩騎士「でも、そういうことならちょっと調べてみますよ! 例の出前やってた魔道士のこと」

元女騎士「えっ、ホント!?」

後輩騎士「もちろん! ほかならぬ先輩の頼みですから!!」

元女騎士「ごめんね……でも後輩ちゃん、今日非番だったんだよね?」

後輩騎士「先輩が騎士団にいた頃から色んな意味でお世話になりましたからねえ……せめてこうやって恩返しできるなら、かるいもんです!!」

元女騎士「(色んな意味で?)……ありがとう! 今度なんかご馳走するね!!」

後輩騎士「嫌あああああああああああああああああああ!!! 殺さないでええええええええええええ!!!」

元女騎士「わ、私の手料理以外で……」ションボリ

後輩騎士「はいっ! じゃあ何かわかったら連絡しますねっ!!」

【数日後】

後輩騎士「どうやら例の魔道士ですが、違反がばれて王立魔法協会から追放されていたようですねー」

元女騎士「えっ」

後輩騎士「ふふふ、けれどご安心ください。先輩の名前を出したら、王国管理事務局を通じてその方の現在の住所を入手することができましたから!」

元女騎士「えっ、私の名前でそんなことできるの!?」

後輩騎士「そりゃもう、先輩はいまや王国の在魔界親善大使みたいな扱いですからねー」

元女騎士「わ、私そんなにすごいことになってたんだ……」

後輩騎士「元騎士団員でもありますし、国王陛下の許可もあるのでこれぐらいなら朝メシ前ですよ!!」

元女騎士「み、身に余る光栄……って言っていいのかな……?」

後輩騎士「はい、これがその方の住所です。一応個人情報なので、厳秘でお願いしますね!」

元女騎士「ありがとね、後輩ちゃん!」

後輩騎士「いやぁ、そんなぁ……いいんですよぉ」デレデレ

元女騎士「もしよかったら、今度ウチの店に来てね! サービスするから!!」

後輩騎士「嫌あああああああああああああああああああああああああああ!!!」ガクガク

元女騎士(おもしろい)

【とある荒野の一軒家】

元女騎士(こんな城下から離れたところに一人で住んでるんだ……魔道士っていうのは、変わり者が多いのかな?)

男「誰だ」

元女騎士「あ、これは失礼……ひょっとして、ここの家主の方ですか?」

男「そうだが?」

元女騎士「初めまして。私、元王立騎士団所属で……現在は魔族向けの料理人をしている者なのですが……」

男「……そうか、君が例の」

元女騎士「あの、あなたが以前城下で転送魔法を使って料理を出前をされていた魔道士さんときいて伺ったのですが、お間違いありませんか?」

男「ああ……そうだが」

元女騎士「実は、その転送魔法のことでご相談したいことがありまして……」

男「いいだろう。中へ入ってくれ」

元女騎士「一人で暮らされているのですか?」

男「ああ。魔法協会を追放されると同時に、相棒も失ってしまってな……」

元女騎士「あ……す、すみません」

男「いや、構わない。それで、話とは?」

元女騎士「実は……貴方が出前に使っていた転送魔法について、ご協力いただきたいことがあるのです」

男「協力? 具体的には何を?」

元女騎士「実は……今、私の店の常連のうち一人が、怪我で身動きが取れなくなっているのです。なんとか彼の元に私の料理を届けたいのですが……」

男「なるほど……君は、魔族に料理を振る舞っているといったな?」

元女騎士「はい……元は敵同士とはいえ、料理を食べさせるのに、人も魔物もありませんから……」

男「人も魔物もない、か……俺もそう思うよ」

元女騎士「なんとかご協力いただけませんでしょうか?」

男「……よし、分かった。例の転送魔法の術符を作って君に渡そう」

元女騎士「本当ですか!?」

男「ああ。これを使えば、魔道士でなくとも転送魔法を使うことができるはずだ」

元女騎士「ありがとうございます!!」

……

【数日後】

老ガーゴイル「いやあー!! お前さんのメシのおかげ様で羽根の傷もすっかり癒えたわい!!」バッサバッサ

元女騎士「それはよかった」

リザードマン「なんだジジイ、まだくたばってなかったのか」

老ガーゴイル「ここのメシが美味いウチゃまだまだ死ねんて!!」

元女騎士「はは、ありがとうございます」

オークA「おー、やってっかー」

元女騎士「あ、いらっしゃい」

オークA「やれやれどっこいしょ……いつものくれ」

元女騎士「はいはい」

オークB「おっ、なんだ爺さん。動けるようになったのか?」

老ガーゴイル「うむ。こんな美味いメシを毎日届けてもらっちゃあ、治らん怪我なんてないわな!」ワッハッハ

オークA「メシを届けるって……なんだ、いつの間にそんなこと始めたんだ?」

元女騎士「特別だよ。ちょっと、昔の伝手でねー」

オークC「なんだよー、そんなんできるんだったら俺んとこにも届けてくれよ」

元女騎士「贅沢言わないの。それに、お店で出来たてを食べたほうが美味しいでしょ?」

オークC「ま、それもそうだなー。あ、大盛りな」

<ドササッ

元女騎士「ん?」

後輩騎士「」パクパク

元女騎士「あれ、後輩ちゃん!? 一体どうして!?」

リザードマン「なんだ人間かよ……」

オークA「お前の知り合いか?」

元女騎士「うん。前の職場の後輩」

後輩騎士「先輩が……先輩がっ……」プルプル

オークB「なんか震えてるぞ」

元女騎士「ど、どうしたの?」

後輩騎士「先輩が魔物相手に食堂のおばちゃんやってる!!」ガクガク

元女騎士「おい」

ゴーレム「ウオオオオオオオオオオオオオオン」

後輩騎士「ひいっ!? ゴ、ゴーレム!?」

元女騎士「あら、久しぶり。いらっしゃい」

後輩騎士「しかもこなれた女将感まで出しちゃってる!? うわああああああああああああ!!」ガクガクガク

オークA「なんだこいつ」

元女騎士「ごめんね。この子昔からこんな感じで」

リザードマン「やかましい奴だ……」

ゴーレム「ウオオオオ、オ、オオオオオン! ウゴゴゴゴゴ……」ゴソゴソ

<キシャアアアアアア!! キシャキシャアアアアアアアアア!! ビタンビタンビタン!! ウネウネウネウネウネ……

元女騎士「え、どうしたのこれ?」

リザードマン「生きのいい地獄コウモリと砂漠オオトカゲがたくさん手に入ったから料理してくれ、だとよ」

後輩騎士「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいい!!?」ガクガクブルブル

元女騎士「あー、はいはい。活け造りでいい?」

ゴーレム「ウオオオオオオオオン」コクコク

後輩騎士「」

元女騎士「うーん、結構数が多いなあ……あ、ちょうどいいや。後輩ちゃん、ちょっと手伝ってくr」

後輩騎士「絶対無理ですううううううううううううううう!!!」ビクビク

オーク戦士長「おー、なんだ? 今日は一段と盛り上がってるじゃないか!」

オークA「あっ、戦士長!! 今日はもう上がりですか!?」

オーク戦士長「ガーゴイル翁の傷が癒えたと聞いたものでな。元気が出たようで、安心しましたぞ」

老ガーゴイル「かっかっか。やっと戦争が終わったというのに、そう簡単には死ねんよ」

オーク戦士長「よし、それじゃあ今日はガーゴイル翁の快気祝いと行くか! おい、酒を持ってきてくれ!! 今日は俺のオゴリだ!!」

<ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

【調理場】

後輩騎士「……みんな、楽しそうですね」

元女騎士「魔族とはいえ、食べる楽しみは変わらないんだよ」ゴキゴキ

後輩騎士「……というか、よく素手で触れますね」

元女騎士「もう慣れたからね。トゲさえ気を付ければ大丈夫だよっ!」ブチブチ

後輩騎士「そんなカワイイ笑顔を浮かべながらトカゲの首もぎ取らないでください……怖いです……」

リザードマン「チッ……向こうは騒がしくてかなわねぇや」

後輩騎士「ひっ! りゅ、竜人……」ビクッ

リザードマン「あぁ? なんだ? 別にお前を取って食おうなんざ思っちゃいねえよ。そんなことよりこないだの約束、覚えてんだろうな?」

元女騎士「ハイハイ、店番してくれたお礼ね」ドロリ

リザードマン「ん」

後輩騎士「ひっ!? な、何ですかソレ……?」

元女騎士「あぁ、コレ? 蠍をすり潰してから腐らせて造ったお酒だよ」

後輩騎士「き、聞かなきゃよかった……」ゲンナリ

リザードマン「……ふぅー。おい、代わりをよこせ」

元女騎士「飲みすぎんなよー」

後輩騎士「よ、よく竜人と平気で会話できますね先輩……」

元女騎士「この(竜)人、酔っぱらうと結構甘え上戸だから」

後輩騎士「えっ」

リザードマン「う、うるせえ! 殺すぞ!!」

元女騎士「私を殺したらもうお酒も料理も出せなくなるけど?」

リザードマン「……チッ」

後輩騎士(完全に魔族を手なずけてはる……怖いお人やでぇ……)ガクガク

元女騎士「それで、後輩ちゃんは何でここに?」

後輩騎士「じっ、実は……私! 騎士団を辞めてきたんです!!」

元女騎士「えっ」

後輩「戦争も終わったし……騎士でいるよりは転職したほうがいいかな、って……」

元女騎士「そ、そうだったんだ」

後輩「そ、それに先輩のこと心配だったしっ……一緒に居たかったし……」モジモジ

元女騎士「そっかー」ナデナデ

リザードマン「……俺もお前が居なくなると、困るからさ……頼むから、長生きしてくれよ……ヒック」

後輩(うわ酔うの早ッ! しかもめっちゃデレとるやんけ!!)

元女騎士「はいはい」ナデナデ

後輩「わ、私も頑張りますから!! お願いですから先輩のそばにいさせてくださいっ!!」

元女騎士「うん、もちろん。いいよいいよー」

後輩「ホントですか!?」

元女騎士「じゃ、まずは魔界生物を〆られるようになろうね!」ニッコリ

後輩「うっ……が、がんばります……」

リザードマン「Zzz……」

こうして彼女たちは魔族の料理人として、その後も長きにわたって彼らに大切にされましたとさ。

おわり

明日に続きます

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