時は中世、とある王国で…
貴族「王様、反乱軍はすぐそこに!間もなく城に火が放たれます!」
王「もはやこれまでか…娘よ、お前はこの服を着て逃げろ」
姫「お父様…!でも!」
女王「あなただけでも逃げるのよ…安心して、また会えるから」
姫「…」タタタッ
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姫「はぁ…はぁ…ここは…どこ…?」
姫「随分走った気がするわ…」
姫「でも…もう…ダメ…」バタリ
???「こんなところに行き倒れか…?珍しいこともあるものだ…」
姫「はっ!ここは?!」
騎士「お嬢ちゃん、ようやく起きたかい。3日3晩昏々と眠り続けていたから、
もう死んでるのかと冷や冷やしたもんだ」
姫「ここはどこなのよ?」
騎士「ここは城下町の自警団の塒。まあ、そっちも疲れてるんだろ?
急に立ち上がれば体に毒だ。ゆっくりしていきなよ」
姫(自警団…お父様から話は聞いたことあるけれど、いったい何をしているのかしら)
女騎士「ようやく起きたみたいだな」
騎士「団長!」
女騎士「戻っていいぞ、彼女の面倒は私が見よう」
姫「あなたは…?」
女騎士「聞いての通り、ここの団長だ。それ以外でもそれ以下でもない。
性別のことなら聞かないでくれ。私も好きで女に生まれたわけじゃない」
姫「そうじゃなくて…」
女騎士「我々は町を守るのが仕事だ。だから城下町の前で行き倒れていたお前も
放っておけなかった、というわけだ」
姫「そ、それはどうも…ありがとう」
女騎士「しかしお前が寝ている間に世はすっかり変わってしまったな」
姫「え…?」
女騎士「聞くより見た方が早いだろう」
姫「新聞?…嘘!」
姫(お父様とお母様が…処刑?!)
女騎士「仕方のないことだな。王は国民に重税を強いていたと言うし、
それによる身分による格差はさらに広がっていたと聞く」
姫「おと…王様をそんなに悪党みたいに!」
女騎士「城下町に住んでいる一般国民ならそう思うのも無理はないかもな。
城下町は税が免除されていたのだから」
姫「あなただって…!」
女騎士「私は元々別の地方の出身だから分かるんだ。
それに王族のことで、お前がそこまで怒る道理はないだろう」
姫「それはそう…だけど」
女騎士「少し落ち着け。まず風呂にでも入るんだ」
姫「わかったわ…ありがたく」
姫(礼儀正しくしてはダメ、身分がばれちゃう…それにお父様のこともこれ以上は)
女騎士「…」
姫「…お父様、お母様」チャポン
女騎士「」ボソボソ
姫「…何を話しているのかしら」キキミミ
女騎士「だから私は政治には関わらんと言っているだろう」
姫「…え?」
女騎士「私は英雄でもなんでもないのだ。分かったらさっさと帰れ。二度と来るなよ」バタン
騎士「…またですか」
女騎士「ああ、いい加減にしてほしいものだよ」
騎士「私も彼に賛成ですよ。団長が政治に参加してくだされば、国民の代表としての支持は十分。
我々が王家を討ったかいもあるというものです」
姫(こいつらが…お父様たちを…!)
姫「…あがったわ」
女騎士「そうか、私も入るとするかな」スルスル
騎士「では、私はこれで」
女騎士「別にいてもいいぞ」
騎士「いえいえ…」
姫(何これ、もしかしてチャンスなの?)
姫(いくらこいつでも鎧を脱げば丸腰…そこを剣で突き刺せば…)
姫(丁度この部屋には剣が沢山ある…お父様たちの仇…!)カチャリ
女騎士「どうした?剣が珍しいか?」
姫(くっ…気付かれた…あわててはダメ…あれ?)
姫「あなた…その背中…!」
女騎士「ああ、これか。昔の古傷。大したものじゃないさ」
姫「大したことあるわよ!それって奴隷の焼き印じゃない!」
女騎士「ああそうだな。
だが金髪碧眼に白い肌、王族の姫が目の前にいる方がよっぽど大したことあると思うが」
姫「気付いてたの…?」
女騎士「ああ、先ほど風呂から出たあたりからずっと…おっと、
奴隷ごときが王族に敬語を使わないのはおかしかったか」
姫「馬鹿にしないで頂戴…野蛮人」
女騎士「否定はしない…」スッ
姫「何のつもりよ?」
女騎士「お前が望むならその剣で私を刺せ。それで仇を討てると思うならの話だが」
姫「何処までもふざけた女ね!」ガシャァン
女騎士「ふざけた話さ…殺された親の仇が誰かも分からない、私も同じだ」
姫「あんたが殺したんでしょうが!」
女騎士「反乱軍の一員に私がいただけだ。リーダーはここの前の団長の男だが…
彼も私も王の処刑には反対だった。民衆が王の処刑を望んでいた」
姫「嘘よ!お父様は民に人気だと貴族院では…!」
女騎士「それはお前から見える世界の話だ」
姫「納得できないわ!」
女騎士「できなければ私を刺すがいいさ」
姫「ぐっ…」
姫(こいつの言うことには妙な説得力があるわ…)
姫「私をどうするつもり?」
女騎士「さあな、少なくとも今の王宮に引き渡すつもりはない。
お前が望むならこれから一般の市民としてかくまってやる」
姫「どうしてそこまで私の意見を尊重してくれるわけよ?」
女騎士「さっきも言ったが…私は別の地方、いや、元は別の国の人間だった。
だがこの国の軍に攻められ、親を殺された挙句奴隷になったのだ」
姫「そんな…」
女騎士「さてと、そろそろ冷えるから服を着るが…」バサッ
姫「随分ぼろぼろな服を着るのね、今の私が言うのもなんだけど」
女騎士「ああ、奴隷だったころを忘れないためさ。
奴隷と言っても愛玩用だ。お前には言いたくないが、金持ちの男に慰み者にされる役割のな」
姫「何よそれ…じゃああなたは」
女騎士「お生憎だな。私はそういう体験をしていない」
姫「どういうこと?」
女騎士「私はある男に買われてな…それが今の騎士団の元団長だ。
彼は私を買って自由の身にしたんだ。剣の稽古をつけるという代償に。
だが私はそれでも…親の仇を諦めていなかった」
姫「当然よね」
女騎士「そうだな…ちょうどそれが、お前の親、前の王だったのだ」
姫「ちょっと待ってよ!頭を整理させて!」
女騎士「簡単なことだ…私の国に攻めろと命令を下したのがお前の親。
彼の判断が民への重税をもたらした。我々を奴隷にした。
私は彼を殺せばすべてが終わると思った」
姫「そんなこと!」
女騎士「…その通りなのだったのだ」
女騎士「彼は彼なりに政務を遂行していた。ただ、上手く噛み合わなかっただけなのだ。
と言っても、私は政治のことなんててんで分からないのだがな…。
だが処刑直前、私は貴族たちの話を聞くうちにそのことにうすうす気が付いた。
時すでに遅し、だがな」
姫「私もお父様がそんな風に思われていたなんて、思いもしなかった…」
女騎士「本当はこんな話をしたくなかったのだが…許してくれ。
奴隷の身分で王族にこんな無礼な…」
姫「もうその話はいいわ」
女騎士「済まない…」
姫「謝んなくていいわよ…私が世間知らずだっただけだから」
女騎士「これからどうするつもりだ?」
姫「あなたがかくまってくれるなら、しばらくは甘えさせてもらうとするわ」
女騎士「そうか…だが、条件がある」
姫「何?」
女騎士「私と共に、剣術の訓練をしてくれないか」
姫「剣術って私は何にも」
女騎士「身分を隠すにも訓練生という方がやりやすい。
それに、護身術としても剣術は役立つはずだ」
姫「分かったわ」
女騎士「では、出るとしようか」
姫「どこへ?」
女騎士「城下町さ。何か危険がないか見回りに行く。
国民の様子を確かめるにも丁度いいのではないか、姫には?」ザッ
ギィィィ…
騎士「何処へ行かれるのです?団長」
女騎士「今日は私が彼女を連れて見回りに行く。留守を頼んだぞ」
―城下町
町人「騎士団長、いつもお疲れ様です」
女騎士「大したことはない」
町人「そちらの方はどなたで?」
姫「え、いや、あの、その」
女騎士「ああ、新しく来た見習いだ。何か変わったことはあるか?」
町人「それが…」
―
姫「新しい王がここに来る…って?」
女騎士「まずいことになったな…」
姫「その男がお父様を殺したの?」
女騎士「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
姫「どういうことよ?」
女騎士「しっ!少しここらに隠れていてくれないか」
姫「あなた一人で王に会うなんていくらなんでも」
女騎士「まあ見ていればわかるさ」
王「止めろ」
護衛官「はっ」
王「久し振りだな…団長」
女騎士「よしてください。私にとっての団長はいつまでもあなたです」
王「相変わらずだな。ところで、俺が何故ここに来たのかはもう分かるだろう?」
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