どうしても突破できない難所を、攻略本を読んで突破する。
何度挑んでも倒せない強敵を、攻略サイトを参考にして打倒する。
ゲームをやったことがある人間なら、おそらく誰もが経験したことがあるだろう。
そして、中にはこう思ったことがある人もいるはずだ。
もしも、人生にも攻略本があったなら――
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俺は人気のない路地裏を歩いていた。
なぜそんなところを歩いていたかというと、仕事で大きなミスをしてしまい、
傷心で帰宅している最中だったからだ。
なるべく人のいない場所を歩きたかった。
俺はなぜあんなミスを……。
おかげで職場での信用をすっかり失ってしまった。
これを取り返すのは、並大抵の努力では不可能だろう。
ああ、仕事にも、いや人生にも攻略法があればな、とかそんなことを考えていたかもしれない。
すると、突如声をかけられた。
「人生の攻略本……欲しくありませんか?」
声がした方向に振り返ると、そこには全身に布をかぶった怪しい男がいた。
間違いなく男だとは思うが、どことなく女っぽい雰囲気もある。
若そうでもあり、年寄りそうでもある。
不気味だが、どこか神秘的でもある。
不思議な気配をまとった男であった。
「今、なんていったんだ?」
「人生の攻略本、欲しくはありませんか?」
男は微笑みを浮かべた。
俺は興味を持ちつつも、男のいうことを一笑に付すことに決めた。
「バカバカしい。人生はゲームじゃないんだぞ」
「いいえ、人生はゲームですよ」
「え」
「正確にいえば、ゲームのようなものです」
「生まれ持った能力、手札、環境を武器に、経験値を集め、無数のイベントに挑んでいく。
山あり谷あり、時には喜び、時には泣き、運が悪ければ死亡という名のゲームオーバー。
その結果、ある者は大成功を収め、ある者は落ちぶれていく。
まるでゲームのようではありませんか」
「まあ、たしかに……」
仕事の失敗で心が弱っていたこともあり、男の言葉には妙な説得力を感じられた。
俺はだんだんと男に飲まれつつあった。
「ゲームである以上、攻略本があるのは当然だと思いませんか」
「うん……そうかもしれない」
「そして、その攻略本が……これなのです」
男は古びた書物を取り出した。
もし、この状況がゲームならば「買う」「買わない」の選択肢が出ただろう。
しかし、俺の中では選択肢はすでに一択になっていた。
もちろん、「買う」だ。
「いくらだ」
男が口にした金額は決して安いものではなかったが、無理をすれば出せない額でもなかった。
「いいだろう、買おう」
自宅に戻った俺はさっそく本を開く。
すると、
早寝早起きを心がけよう、とか。
ストレスは万病のもとになるから発散しよう、とか。
野菜はしっかり食べよう、とか。
食べすぎ飲みすぎに注意、とか。
ヘルシーな料理の作り方、とか。
こんなことばかり書いてある。具体的な方策まで記してあった。
為になるといえばなるのだが、思ってたのと違う……そう思わずにはいられなかった。
真ん中らへんまで読み進めていくと、俺はようやくお目当てといえるページにたどり着いた。
≪あなたの人生の攻略法≫
今までのページとは明らかにオーラが違う。
ここから先のページには、きっと「俺の人生」の攻略法が書かれているに違いない。
これこれ、こういうのを求めてたんだよ。
俺は期待に胸をふくらませて、ページを開いた。
≪ここから先は君の目で確かめてくれ!≫
やられた、と思った。
笑いが止まらなかった。
そういや昔の攻略本ってこういうの多かったよな、なんて思った。
ちなみにこの攻略本、前半部分はわりと本当に為になるので、
俺は今でも愛読していて、そこそこ豊かな人生を歩めてます。
― 終 ―
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