星輝子「ぼっち・ばーすでー・とぅー・みー」 (23)


真夜中の十二時きっかり。女子寮は完全消灯の時間をとっくに過ぎて、どの子もみんなすやすやと寝息を立てている頃だろう。

「フヒ、日付が変わった……」

シイタケくんを先頭に、私の部屋をぐるりと23種類のトモダチがぽこぽこと顔を出している。
お気に入りのキノコ型ランプが真っ暗な部屋を優しいオレンジ色に照らしている。じめじめなキノコたちもボッチにさせない優しい光だ。

優しい光を放つランプの前にぺたりと座り込む。
そして、他の部屋に聞こえないように、だけどトモダチには届くように、小さく息を吸い込んだ。

「ボッチバースデートゥーミー……♪」



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六月六日。今日は私の誕生日だ。

ボッチの私は、誕生日でも関係なくボッチだった。
リア充みたいなお誕生日会なんてこれっぽっちも縁がなかった。
私を祝ってくれるのは家族くら。
それで充分すぎるほど幸せだ。

それでも、誕生日ということを誰かに聞いてほしかった。
昔は押入れや物置でこっそりトモダチとこんな感じにボッチの誕生日を歌っていた。

ヘンなヤツだからひっそり日陰にいるのが当たり前。
ずっとずっとそう思っていた。

ぼんやりとオレンジが包む部屋の中で日陰者のささやかなお誕生日会が過ぎていく。

「ボッチバースデーディア……ショーコチャーン!」

ボッチだけど、私のそばにはいつもトモダチがいてくれた。

キノコは私の支えでもあるし、変わるきっかけになった親友と会わせてくれた大事なトモダチだ。

スカウトだって、キノコを探してうろうろしてたときだった。

……今思うと、結構な笑い話だな。アイドルオーディションを「キノコのオークション」と間違えて行くなんて。フヒッ。

だけど、あのときキノコを探していたからあの出会いがあって、あの出会いがあったから私はアイドルになったんだ。

親友は私みたいなジメジメした変なヤツでもイキイキするのは変じゃないって言ってくれた。
あの言葉は、今でも力強く胸の中で響いている。思い出すとちょっと気恥ずかしくてキモい笑いが出ちゃいそうだ。親友は今でも覚えているのかな?

親友と出会って、アイドルをやっていくうちに、アイドルが楽しくなってきた。
トモダチといっしょにキノコとしてジメジメするのも悪くなかったけど、イキイキとキノコたちのぶんまで頑張りたかった。
せっかく変じゃないって背中を押してくれた親友のためにも、ね。


アイドルをやっていたら、色々なことが、ぽこぽこ生えるキノコみたいにいっぱいあった。

日陰でジメジメした誰かのために叫べるようになった。
好きなものを好きだと思いっきり歌って輝けるって知った。
ボッチでもリア充でも、一緒くたに巻き込んで楽しめるようになった。

今でも、リア充の雰囲気は苦手だけど……

でも、そんなことも全然気にならないくらいに最高なのは。



トモダチが増えた。


キノコだけじゃなくって、私をボッチノコじゃない……ただのノコ? フヒ、それは変だな。
日陰者の変なヤツだけど、私に友達が出来たんだ!

KBYZKDのみんながいてくれたから、ゾンビとキノコのパレードはより一層カワイくなって、にぎやかになった。二人っきりじゃできないような元気があって、それでもやっぱり真っすぐで、すごく楽しかった。

インディヴィジュアルズのときは、ユニットとして強くなるために、みんなで殻を捨てて挑戦した。
みんなで頑張って頑張って、三人が出した答えの一つを歌えた。……答えに限りはないから、まだまだ頑張れる、はず……

NEX-USは、メタルでもキノコでもない、新しい自分を探した。クールでかっこよく。ジメジメとは違うけど、あれも私だ。あのときも、一人ボッチじゃ絶対に出来なかったかな……



キノコたちに支えられて、親友がいて、ユニットの仲間たちがいて……
ずっとボッチバースデーだったけど、もしかしたら、もしかして、ちゃんとハッピーバースデーってお祝いしてくれるんじゃないかな……?

キノコがいっぱいのお部屋で、お誕生日会をする。
大変だ。ボッチどころじゃない。これは、完全にリア充というヤツだ。

「フ、フヒ、フヒヒヒヒ……!」

想像したら、気持ち悪い笑いが止まらなくなってしまった。
いくら夜型とはいえ、みんなはもう寝てる時間なのにこれはまずい。
オレンジに照らしてくれてたキノコ型ランプに、ふうっと息を吹く。
蝋燭じゃないんだから消えるわけがないんだけど、吹きかけたタイミングでコンセントを抜いた。

優しいオレンジの明かりから元の真っ暗な部屋に逆戻り。キノコたちだってもう見えない。
明日の朝、誰かハッピーバースデーって祝ってくれたらいいな。
そんな淡い期待を胸の内にしまいこんでもぞもぞと布団に潜り込む。




――かどうかというタイミングで、ドアを激しく叩く音が聞こえた。

「ショーコッ! 起きてるんだろ! 出てこーいッ!!」
「輝子さん! 起きてるんでしょ! 出てきてください!」

何だ何だ!? な、何かやっちゃったのかな……!?
スリッパも履かずはだしのままドアに駆け寄った。

「な、なに……どうしたんだ……!?」

扉の外にいたのは、幸子ちゃんと美玲ちゃんだった。
慌てて問いかけると、外はねをぴょこんと可愛らしくとがらせながら、フフーンと自慢げな顔をして言った。

「やっと出てきましたね! カワイイボクを待たせるなんてどういうことですか! まあ輝子さんだから許してあげますよ! ああっ、心が広いボクもまたカワイイ……!」

「え、えっと……?」

「サチコ、ショーコが困ってるだろ! 早く本題に入れ!」

フードについた爪を尖らせながら美玲ちゃんは怒ったようにツッコミを入れる。
……ん? 本題?

「そ、そうでしたね! 輝子さん! 目をつぶってついてきてください!」

「い、いや……目を閉じてたら、着いていけないけど……だって見えないし」

「あっ」

「ええいもういい! ウチのフード被って足元だけ見てろッ! 手引っ張ってくぞッ!」


間抜けな声を出す幸子ちゃんをほっといて美玲ちゃんがむりやりフードを被せてきた。
完全に視界を奪われたまま、手を引かれてどこかへ連れてかれていく。

女子寮の廊下をぺたぺた歩く自分の足を眺めながら、幸子ちゃんと美玲ちゃんにぐいぐい引っ張られていく。

「フヒー……! な、なんなんだ……!?」

「いいからついてきてください!」

「いいからついてこいッ!」

それしか言わないのか……な、何をされるんだ……!?


「ここです!」

「ここって……なんだ、食堂……?」

わざわざ目隠しをする必要もなかったんじゃないか?

「なんか気付かないか?」

なんか、と聞かれるほどわからないものではない。どころかどう考えてもおかしい。

「なんで真夜中なのに、食堂に電気がついてるんだ……?」

当然の疑問のはず。私はそれをそのまま口にした。
幸子ちゃんと美玲ちゃんは正解だと言わんばかりにお互いの顔を見てにやりと笑った。

「それじゃ早速!」

「入れ、ショーコ!」

二人がドアを開けた瞬間、思いっきり手を引かれ食堂に放り込まれた。
その瞬間だった。


あちこちから何かが破裂するような音がして紙テープが空中を跳ねまわる。

「輝子ちゃん!! お誕生日おめでとう!!」

食堂には、テーブル一つを丸々占領してお菓子とケーキが並んでいた。

「やっと来たねー! いやー待ちくたびれちゃったよ! 乾杯しよ! はい、かんぱーい!」

「ちょ、ちょっと! 輝子さんがまだ何も持ってませんよ!」

「ふふ、ほな、はよ注いでやらんとあきまへんなぁ」

「あ、あの……輝子ちゃん……お、おおお、お誕生日、おめでとう、ございます、けど……」

「ノノッ! お祝いなんだからあのときみたいに殻を捨てた声出せよ!」

「あうう……」

「ふふっ、乃々ちゃんの言葉はちゃんと輝子ちゃんに伝わったみたいですよ?」

「まゆさん……」

「そうそう! お祝いはパーッと盛り上がるべきにゃ! だからネコミミつけよ!」

「アー、день рождения……誕生日には、ネコミミつける、ですか?」

「いやいやいや! そんなの無いだろ!? とにかく輝子! へへーん、すごいだろ? プレゼントもいっぱいあるぞ!」

「輝子ちゃんのために、みんなで気合い入れて準備しました!」

「ケーキは私たちが焼いたんですよ~♪ 焼いてたら、熱くなっちゃって」

「熱いですか! 熱いですよね! だってこんな素敵な日なんですものね!
うー……ボンバーッ!」

「私も! サイキックでお手伝いしましたよ! テレポーテーション・ダッシュで買い物に行くとか!」

「輝子ちゃん、今日はいっぱい写真撮るからね♪」


全く止まらずにあちこちから言葉の雨が降ってくる。結構な人数が、こんな時間にいるけど……
もうちょっとしたパニックだ。何だコレ。何だコレ!!

「えへへ……びっくりした? 輝子ちゃん」

「こ、小梅ちゃん……!? これ、どういう……」

皆がわいわい話してる隙間を抜けて小梅ちゃんが隣に来ていた。

「すごいでしょ……? 真夜中なのに、みんな楽しそう……!」

「う、うん……だ、だけどこれ、一体、なに……?」

小梅ちゃんはキラキラした笑顔をしながら答える。

「プロデューサーさんと相談してね、輝子ちゃんをびっくりさせようって思ったの……サプライズだよ……?」

「ぷ、プロデューサーの仕業か……」

「もうすぐ、来るはずなんだけど……」

丁度、食堂のドアが開いた。

「お、もうやってるな?」

「遅いぞプロデューサーッ!」

「はは、ごめんって」

親友が集まったみんなに軽く挨拶しながら、隙間を抜けてまっすぐにこっちにくる。

「輝子、びっくりしただろ! 俺と小梅企画のサプライズバースデーパーティーだ!」

「あ、ああ……もう、さっきから……ビックリするダケだ……フヒ」

事実そうだった。色々と思う気持ちはあるのだが、驚きが全部を上回ってるだけで、さっきからぽかんとするしかない。


「いやあ、結構大変だったんだぞ? スケジュール合わせて、ここの食堂の使用許可申請して、結局断られたけど無理やりに勝手に使って……」

「え゛っ!?」

「説教が怖くてパーティーができるか!」

……ムチャクチャだ……

「で、でも……さすが親友だ……」

「ん?」

「これだけの人数を、集められるんだからな……親友の人徳、すごい……リア充……」

「待った、それは違うぞ?」

「えっ?」

「確かに、サプライズの企画して何人かに声かけたよ。だけどな、ここにいる全員一人一人に声かけたわけじゃないんだ」

「……つまり?」


「単純な話だよ。声かける前にみーんな『私もお祝いしたい!』って自分から参加してきたんだ。輝子の誕生日って聞いてな」

私は、それを聞いてまた呆然としてしまった。
確かに、友達が増えたとは思うけど、お祝いを一言もらえたら十分だと思ってたのに。
こんな、テーブルいっぱいに集まったみんなが、ボッチで変なヤツの私のために?

「とりあえずはこのくらいの人数だけどな、輝子の誕生日を祝いたい人はまだまだいるぞ」

「ま、まだいるのか!?」

この短い時間で何度驚けばいいんだ!

「当たり前だろ! ウチの事務所のアイドル、スタッフだけじゃないぞ! お前のファンが出した手紙が今日たっぷり届いてるんだ! 今日はあっちこっちからお祝いが飛んでくるすごい一日になるぞ!」

その整理で遅れたんだけどな、と親友は鼻を掻く。


「で、でも、私は、ボッチで変なヤツだから……誕生日も、キノコと、親友と、あと……」

「あと?」

あと。続けようとして言葉に詰まったことに気付いた。大切な人がいてくれればそれでいいと思ってたのに、次から次へと名前が湧き出てくる。
そして、湧き出てくる名前がどれもこれも、今この場にいてくれた。
みんな、私のことを祝ってくれて、私はみんなのことを大切に思っている。
それって、つまり……





「……私、ボッチじゃ、ない……?」

「おう、今更気づいたか?」

気付いてなかったわけじゃない。
だけど、親友の言葉で、なんとなく思っていたことが真実に変わった。

私は友達に誕生日を祝ってもらっている。

実感したら、一気に色々と込み上げてきた。

驚きのあまり受け止めきれなかったことが、今になって膨らんでくる。

気づいたら胸がいっぱいになって、涙が流れた。



「しょ、輝子!? ど、どうした? やりすぎちゃったか!?」

「ち、違う、違うんだ親友……! もう、胸がいっぱいで……!」

ずっと独りぼっちだった誕生日。
キノコたちはいつも支えてくれた。
でも、今年はもっといっぱいの人に囲まれている。
それが、どうしようもないほどあったかくて溢れるのがもったいないけれど目から溢れるくらいに。

「私、今……!すごく嬉しいんだ……! ありがとう……みんな……!」

涙で顔がぐっしゃぐしゃだし、0時をすぎた真夜中で裸足のまま。おとぎ話どころか笑い話にもならない恰好だけど、少しでもこの気持ちをみんなに伝えたかった。
嬉しくて、感謝の気持ちでいっぱいのいまの私を精一杯伝えようとした。

たぶん、ひどい顔だったと思う。だけど、私は嬉しいからずっと笑っていた。

「どういたしまして」

親友は、私のぐしゃぐしゃの笑顔を見て、笑ってくれた。
誕生日って、こんなに嬉しい日なんだな……

「よし。みんな!」

親友がみんなに声をかける。

「解散する前に、ケーキのロウソク吹き消すヤツやるか!」

「わ、わかりました……」

「電気消しますよ!」


にぎやかだった食堂が、一瞬だけ暗く静かになる。

真っ暗の中、一本ずつロウソクに火が灯されていく。

ロウソクはあたりをぼんやりと優しいオレンジに包み込んだ。

ぼんやりとした灯りに包まれ、親友は大げさに指揮者のポーズを取った。

そして、みんなで息を揃えて――








 Happy Birthday to You!



担当の誕生日なのでこうなりました。
輝子誕生日おめでとう!!!!!

>>2

四行目 

×私を祝ってくれるのは家族くら。
〇私を祝ってくれるのは家族くらい。

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