飛鳥「素直になれないボクとキミ」 (15)
二宮飛鳥ちゃんのSSです。
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ボクはプロデューサーが嫌いだ。大嫌いだ。
自分の仕事もあるに決まってるのに、わざわざボクのレッスンに付き合ってくれる所も、ボクが自分の仕事を優先してほしいと言ったら、へらへらと笑いながら「これも仕事の内だ」と無視するのも、ボクがミスをしてしまって怒られてる時に何故かプロデューサーが涙目になっているのも、仕事のしすぎで寝落ちするまで事務所に残っていることが少なくないことも。
とにかく、ボクはプロデューサーが嫌いだ。
僕は二宮飛鳥が嫌いだ。大嫌いだ。
キツいであろうレッスンの後にわざわざ居残って自主レッスンに励むところも、身体を休めることもレッスンの内だと指摘したら、不敵に笑いながら「ふっ、ボクなら大丈夫さ。それくらい、キミなら分かるだろう?」と否定するのも、ミスして怒られた後、頼ってくれればいいものの誰にも弱音を吐かずに1人でこっそりと泣いていたのも、残業する僕に付き合って事務所に残り、寝落ちしてしまうところも。
とにかく、僕は二宮飛鳥が嫌いだ。
それでも事務所には行かないといけない。
アイドルとしての活動は嫌ではないし、プロデューサーや他のアイドルの皆と話すのは楽しい。ああ、惜しむらくはプロデューサーがまたレッスンに着いてくることだろうか。ボクは何度も来なくていいと言っているのに。ボクのレッスンを見る暇があるなら少しでも事務仕事を片付けて早く休んで欲しいんだけれど。
それでも事務所に行かないわけにはいかない。
僕が担当するのは飛鳥だけではないし、アイドルの皆と話すのは楽しい。ああ、惜しむらくは飛鳥がまたレッスンをしすぎることだろうか。一生懸命なのはいいことだけれど、頑張りすぎて体を壊しては元も子もないだろうに。休むこともレッスンの内だって言ったのに。
今日も今日とて、事務所の前で一つ息を吐き出してからドアノブを捻る。
おはようございますと挨拶をしながらドアをくぐって事務所へと入る。中にいたのはプロデューサーだけのようで、いつものように「おはよう、飛鳥」と挨拶される。ボクはそんな彼に、「今日も早いんだね」なんて言いながら珈琲を淹れる。朝は濃い目に砂糖は二つ。飲みやすいようにと息を吹きかけ少し冷ましてから彼に手渡す。すっかり慣れたこの行いは、いつも働き詰めなプロデューサーに対する細やかな手伝いとして始めたものだった。
今日も今日とて、大きく深呼吸をしてから事務所の鍵を開ける。
まだ誰もいない事務所ではあるけどもおはようございますと挨拶をしてからデスクへとつく。飛鳥が事務所に来るまであと少しなことを確認すると今日のスケジュールを確かめる。そうしているとガチャリとドアが開く音と共に飛鳥の「おはようございます」の声が事務所へと響く。僕はいつものように「おはよう、飛鳥」と声をかける。「おはよう、プロデューサー。今日も早いんだね」とした声のした後、珈琲の香りが漂ってきた。いつからだったか、このように飛鳥に珈琲を淹れてもらうことが毎朝のルーティーンとなっていた。
ボクとプロデューサー以外に誰もいなくなった事務所にプロデューサーが立てるパソコンを叩く音だけが満ちる。時計を確認すると二人きりになってから暫く経っていた。
白磁器のティーカップに一杯のハーブティー。プロデューサーがこちらを見る前にソファへと戻る。静かな空間にプロデューサーのハーブティーを飲む音が小さく。ちらりと彼の顔を盗み見るとほっとしたような表情をしているので安心する。何度も繰り返したことだけれど毎回緊張してしまう。
プロデューサーがハーブティーを飲み終えるとそれが帰りの合図。彼からティーカップを受け取ると給湯室の流しで洗って戻ると帰り支度を終えた彼と共に事務所から帰路へと着いた。
僕と飛鳥以外に誰もいなくなった事務所で自分が叩くパソコンの音だけが満ちていく。昼間の賑やかさとは異なり静まりかえった事務所だけれど不思議と居心地は悪くない。事務作業が一段落したところで、コトリと音を立てたデスクに目を向けると白磁器のティーカップ。ふわりと香る心地よい匂いに今日の仕事が終わったのだと認識する。最近知ったのだが、このハーブティーは飛鳥独自のブレンドらしくハーブティーらしさはなく、緑茶っぽいため非常に飲みやすく、またどこか落ち着く味がする。
ゆっくりとハーブティーを味わって飲み干すと飛鳥にティーカップを渡して帰り支度を済ませると、片付けを終えた飛鳥と共に帰路へと着いた。
「プロデューサー」と声をかける。ベッドへと潜ってそこまで経っていないにも関わらず眠そうな声で「どうした、飛鳥」と返事が帰ってくる。
「キミに出会えて良かった」と微睡みに身を任せながら言葉を紡ぐ。想いを、感謝を、不満を。微睡みの中、プロデューサーの暖かさを感じるように抱きしめながら言葉を紡いでいく。素面なら決して言えないような気恥しい言葉も口から流れ出てしまう。こうでもしないと、言えないから。嫌いだなんて心にもないことを言って取り繕っていた鎧を脱ぎ捨てるように。
言葉を紡ぐ中、気付かない内に泣いていたけれど、一番大事なことを伝えていなかったことに気付いてプロデューサーの顔を見つめる。
「ありがとう」と「大好き」という言葉と唇が重なり、プロデューサーの温もりを感じながらボクの意識は微睡みの底へと沈んでいった。
「プロデューサー」と声をかけられる。疲れから今にも眠りにつきそうだったけれど、飛鳥のその真剣な声に目が冴える。「どうした、飛鳥」と声をかけると飛鳥から抱きしめられた。
「キミに出会えて良かった」と飛鳥が呟く。思いがけない言葉に何も言えなくなる。飛鳥の口から感謝が、不満が、想いが吐露される。しがみつくように抱きついてくる飛鳥を抱きしめかえす。飛鳥の言葉を聞く毎に涙が溢れ、今まで偽っていた心が剥がれていく。誰よりも一生懸命な飛鳥のことを見てきたから言えなかった言葉の数々が漏れ出てしまう。
飛鳥の言葉が止まり、どうしたのかと思い彼女を見つめる。目と目が合い、どちらからともなく「ありがとう」と「大好き」という言葉と唇が重なり、飛鳥の温もりを感じながら僕の意識は微睡みの底へと沈んでいった。
ボクはプロデューサーが好きだ。大好きだ。
自分の仕事もあるのにわざわざボクのレッスンに付き合ってくれる所も、ボクが自分の仕事を優先してほしいと言ったら、真面目な顔で「愛する相手の頑張りを無視できるわけないだろ?」と無視するのも、ボクらアイドルのために仕事に打ち込みすぎて寝落ちしてしまうのも……本当はやめてほしいけれど。
とにかく、ボクはプロデューサーが大好き……じゃなく、愛している。
僕は二宮飛鳥が好きだ。大好きだ。
キツいであろうレッスンの後にわざわざ居残って自主レッスンに励むところも、身体を休めることもレッスンの内だと指摘したら、不敵に笑いながら「ふっ、ボクなら大丈夫さ。それくらい、ボクが愛するキミなら分かるだろう?」と否定するのも、自分のことだけではなく他のアイドルに親身になっているところも、残業する僕に付き合って事務所に残り、寝落ちしてしまうところも……本当はやめてほしいけれど。
とにかく、僕は二宮飛鳥が大好き……じゃなく、愛している。
以上です。
読んでくださりありがとうございました。
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