昨日の蔵での練習は、いつもより大分長くなって、帰りが遅かった。
何度も何度も同じ曲を練習して、疲れなかったわけじゃないんだけど。
それでもなんか、楽しかった。
ふと気がついたら、夜の9時を回ってて。みんな、慌てて帰った。
有咲は大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり悪かったな。
後でちゃんと謝ろう。
誰か、お母さんとかに怒られたりしていなければいいんだけど……。
その練習終わりの、今朝。やっぱりまだ、大分眠い。
こうして学校までの道のりを歩くだけでも、既に2回はあくびをしている。
みんなで練習していると、時間が過ぎるのを忘れてしまうから、
昨日の事も仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
それで次の日の練習に支障が出たら、本末転倒だし……。
これからは、時間もある程度は気にしようかな。
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「おっはよー沙綾!」
「わっ! ……びっくりした、香澄かー」
突然声をかけてきたのは、ボーカル兼ギター担当の戸山香澄。
いつか、私をバンドに誘ってくれたのも彼女だった。
「ったく、沙綾を見た途端いきなり走っていきやがって……」
後ろからトテトテと追いついてきて、今もなおハアハアと肩を上下させている、
明るい色のツインテールの女の子。
彼女は、キーボード担当の市ヶ谷有咲。
見た目は清楚なお嬢様なのに、素直ではない所が玉に傷だ。
「おはよう、香澄、有咲。朝から二人とも元気だねー」
「私は全然元気じゃねえ」
有咲が不満を口にしているが、香澄はそんなことお構いなしだ。
「んー! 今日も沙綾、いい匂い!」
「え? ――ちょ、香澄っ!?」
香澄が突然、私の腕に抱き着いてきた。
「……お前なあ、誰彼構わず抱き着くなっつーの」
有咲は呆れ気味にため息をつく。
「えっへへー、パンの匂いがするー」
ニコニコと小動物のように笑う香澄を見ていると、私は何も言えなくなってしまう。
「私ねー、沙綾が傍にいると、見えなくてもすぐわかっちゃうんだあ、すごいでしょー」
私の腰の辺りに手を回しながら、子犬のように鼻をクンクンとさせる香澄。
――それって……見えなくても分かってしまうくらい、私の匂いは特徴的ってこと?
「そ……そんなに匂いする……かな?」
聞くと、香澄は既に明るい表情を、更にパアッとキラキラさせて。
「するよー? 沙綾が通ったって、私すぐにわかるもんっ!」
「……そっか、そんなに……匂いするんだ」
「……パンの匂い……か」
教室に到着して、みんなとの会話を終えて席に着いた私は、それとなく自分の二の腕に鼻を近づけた。
正直、自分からどんな匂いがするかなんて、自分では全然分からない。
私の家は『山吹ベーカリー』という店名でパン屋を営んでいる。
私は、いつもお父さんの仕事を手伝っているから、パン屋の匂いが身体に染み込んでいても不思議ではない。
それにパンは大好きだし、身体から仕事場の匂いがすると言われれば、悪い気はしない。
……でも、私だって年頃の高校生だ。
身体から食べ物の匂いがするなんて……傍から見たら、どう映るんだろう。
言いようのない不安感が、胸の奥底にドッと溢れてくる。
2つの見慣れた影が、いつの間にか私の座る席の目の前まで近づいていたことに、
ボーっと考え事をしていた私は全く気が付かなかった。
「沙綾? どうしたの、元気ないね」
「沙綾ちゃん、何かあった?」
おたえとりみりんが、私の顔を覗き込んできた。
机に座って木面をじっと見つめていただけなのに、私は二人を心配させてしまったらしい。
「う……ううん、何でもないよ。
そ、それよりも……今日の放課後も、蔵で練習するんだよね! また、みんなで頑張ろ!」
適当に言葉を取り繕い、いつもの私を演じることで、どうにか2人には隠すことができたけど。
胸に居座る黒い何かは、違和感として1日中残り続けた。
放課後、私はまっすぐ有咲の家の蔵に向かった。
最近はお母さんも、お父さんがいるから心配いらないと言ってくれていて。
それでも、ホントは心配で。普段は、家に寄ってから向かうんだけど。
――今日は、もう一つの理由があった。
もやもやしている今の気分を、ドラムを叩くことで忘れたかったんだ。
「おっ、早いじゃん」
階段を下りた先には、一足先にキーボードの練習をしていたらしい、ツインテールの女の子。
「有咲……他のみんなは?」
「さあ? まだ来てないんじゃねーの」
「そっか……」
荷物を置いて、ドラムの椅子に腰かける。
「随分と白けた顔してんなー。……朝の事、気にしてんのか?」
スティックを鞄から取り出すと、何だか優しい声が、私の耳に届いた。
「え……何だ、気づかれてたんだ」
顔を上げると、有咲はキーボードに目を向けたまま。
「……そりゃあ気づくって。別に気にすることじゃねえ。
あいつ、絶対そんなに深く考えて発言してねーよ。
考えたことをそのまま言ってるだけだから、こっちが考えるだけムダ」
「あー……まあ、それは分かってるんだけどね。
ただ、そんなに私、匂いしてるのかな……って思っちゃって」
「私は全然わかんねー。香澄の嗅覚は犬並みだからな。
初めて会った時、沙綾の家がパン屋だって気が付いたのは、香澄だけだったじゃん?」
言葉も、言い方も。全部が全部、私に気を遣ってくれている。
――本当に、優しいんだから。
「……フフッ。ありがとね、有咲」
「っ!! 別に、そんなんじゃねえっつーの! ったく沙綾はホント……ああもう暑い!
ちょっと飲み物取ってくる!」
そう言うと、有咲は蔵を出て行ってしまった。
……可愛いな、有咲は。彼女と話していると、どういうわけか元気が湧いてくる。
彼女の言う通り、余り考え込んでも仕方がない。ドラムを叩いて、全部忘れよう。
――ふと足音が聞こえたような気がして。
顔を上げると、階段状に積み重なった棚の上に、香澄が立っていた。
「……聞いてたの?」
「……うん、何か、聞こえちゃった」
先程の会話を、全て香澄に聞かれてしまったのだろうか。
もしもそのせいで、香澄が今、少しでも負い目を感じているとしたら……。
「ごめんね香澄、全然そんなんじゃないから。私の思い違い。ドラム叩けばすぐに――」
次の瞬間、香澄の身体が私に密着した。
階段から下りてきた彼女が、突然私に抱き着いたのだ。
「かっ、香澄!?」
いきなりの出来事に、心臓の鼓動が高鳴っていく。
蔵の密室に2人きりで抱き合っているという状況を意識してしまったせいか、顔が熱くなってくる。
「えへへ……いい匂い」
耳元で囁かれ、彼女の甘ったるい声が私の脳を蕩けさせる。
今の私は、耳まで真っ赤になってしまっているに違いない。
背中に回された両手が解かれ、香澄の顔が鼻先まで近づく。
「……私ね、沙綾の匂いが好きなんだ。
パンの匂いに交じって、パンとは違う、沙綾の甘い匂いがするの。だから、近くにいるとすぐに分かっちゃう」
「へ……へえ、そう……なんだ」
どう返せばいいのか……分からない。
香澄は、私の事を変だと思っていないだろうか。
抱き着かれて顔が真っ赤になってしまった私を見て、引いていないだろうか。
香澄の顔が見れない。無意識に両手で顔を隠してしまう。
「その……香澄? 別にね、何でもないから、これ。放っておけばすぐ直るから」
不意に、両手に温かい感触を感じ……優しい手つきで、隠していた顔から離される。
目の前で、香澄が私の顔を凝視していた。
お願い……そんなに見ないで。
こんなに真っ赤になった顔、見られたくない……。
「……かす……み……?」
「私、さーやのこと大好き!!」
……え?
だい……すき?
「~~~~~~~~~~~!!」
顔から火が出るのではないかと思うほど、全身の温度が上昇していく。
ヤバい。胸のドキドキが止まらないっ……!!
分かってるんだ……香澄が、深く考えていないことくらい。
私だって、香澄をどう思っているのかと言われたら、友達で、同じバンドを組む仲間だと答えるしかない。
――でも、今この瞬間だけは……違った。
「……あんたら、何してんの?」
ふと見上げると、みんなの飲み物を御盆に載せて持ってきてくれたらしい有咲が、
階段から私達二人を見下ろしていた。
「あ……有咲、戻ったんだ」
その後ろから、りみりんとおたえが顔を見せる。
「ごめん、遅くなっちゃって~」
「オッチャンに夢中になってたら、こんな時間になった」
有咲の後ろに続く形で降りてきたりみりんは、何やら不思議そうな表情で、私の顔を凝視する。
「……なんか沙綾ちゃん、顔が赤いような……熱?」
「……? 風邪でも引いた?」
そんなりみりんを見て、おたえまでもが私を心配し始める。
「さ、さーて、練習始めるぞ」
話の流れを切ろうとしてくれたらしい有咲は、何だか頼もしく見えて。
……私は。
「……練習しようだなんて、珍しいね、有咲」
「なっ……いいんだよ! ……ほら、さっさと練習!」
私の言葉に怒ったのか、赤面する有咲。
結局、その日の私は動揺してて、上手く演奏できなくて。
あんまり、練習にならなかった。
沙綾視点はここまで。ありさあやを期待して来られた方、何だか申し訳ありません。
明日、有咲視点で書くつもりです。見かけ次第、覗いてくださると幸いです。
期待
だけどどこかで読んだかな?
>>13
その通りです、以前pixivで投稿したことがあります。同じ作者ですので安心なさってください。
現在そのアカウントは削除しており、その続編を書いていこうと考えております。
――昨日、蔵で見たあの光景は、一体何だったんだろう?
みんなの飲み物を持って蔵に戻ったら、沙綾が顔を赤らめていて。
彼女の目の前には、いつも通りにニコニコした香澄が立っていて。
何もなかったとは、とても誤魔化しきれない。そんな雰囲気だった。
「有咲? どーしたの、ボーっとして」
香澄が、あたしの顔を覗き込んで言う。
「は……はあっ!? ボーっとなんかしてねえ!」
「そう? 何かあったら言ってね!」
「なんもねえ!」
「有咲、考え事? 悩んでるなら、オッチャン見に来る?」
「行かねえから!」
今朝は、香澄だけでなく、おたえまで朝ご飯を食べに来て、にぎやかだった。
朝から勘弁してくれとは思ったけど、心底嫌だったわけではない。寧ろ……。
「そういえば香澄。昨日の練習、何かあった?」
「え? 昨日って?」
おたえが、香澄に尋ねた。
声音は、いつもと何ら変わりない。表情も、いつも通りにあっけらかんとしている。
ただ……雰囲気が少し変わったように思うのは、あたしの考え過ぎなのだろうか?
――いや、違う。
きっと、あたし自身が動揺してしまっているから、そう感じるんだ。
おたえの、その質問に。
「何かって何?」
本当に何一つ心当たりが内容で、香澄がキョトンと首を傾げる。
「何か……ただならぬ雰囲気って感じだった。沙綾も顔が赤かった」
「――ブッ」
思わず吹き出してしまった。
おたえは、何も考えていないようで、意外と鋭い。
「ただならぬ……雰囲気? んー……あ! そうだ!」
思い当たる節があったようで、香澄は右手の人差し指をピンと立てる。
「何か、沙綾の様子が変だった! ドラムの調子が、なんかおかしかった!」
「それだっ! わたしも、何だか沙綾が、心ここにあらずって感じに見えた!!」
香澄に同調するおたえを見て、あたしは何故か……ヤバい、と思って。
「そ……そそそーだ! 香澄! 今日の宿題何だっけ!?」
「宿題? んー……何だっけ?」
誤魔化すように投げかけたあたしの質問に、香澄は何ら不自然を感じることなく考え込む。
「宿題なら、今日は英語だけじゃない?」
「あっ! 忘れてた!」
おたえが言うと、香澄は慌ててスクールバッグからノートを取り出す。
「香澄……何してんの?」
「歩きながら宿題!」
「止めなってば! 学校着いてからでも間に合うっつーの!」
「歩きながら……いいね、今度わたしもやってみる!」
「そこっ! 関心すんな!!」
誤魔化せてんのか……これ。
何だか楽しそうに笑う二人を見ると、一応は誤魔化せているのかもしれない。
本当に、何考えてんのか分からない奴ら。
――それより、さっきから胸の中に溜まっている、この淀みは何?
分からない……この正体が何なのか。
昨日の練習前、蔵で変な雰囲気を醸し出していた香澄と沙綾を見てから、
ずっと溜まってるこの淀みが、胸の奥をギュッと締め付けてくる。
香澄とは、友達だ。
あの赤いギターを見せた時から、しつこくあたしに付きまとってきて。
いつの間にか、あたしは香澄と話すようになって。
だからきっと……友達なんだ。
なら、沙綾とはどうだろう。
彼女も同じだ。
昼食を一緒に食べるようになってから、沙綾とも普通に話せるようになっていた。
たまに、二人でショッピングに行ったりすることもあるけど……それは香澄もそう。
まあ、香澄の場合は大体振り回されてばっかで、
どっちかっていうと仕方なく付き合ってやってるって感じだけど。
とにかく、二人で出かけてても、そんなの女子高生ならよくある事で。
だから、友達。
なんだ……二人とも、ただの友達じゃん。
友達同士が仲良くしている所を、たまたま目撃しただけだ。
普通なら、何かを感じる所じゃない。寧ろ、喜ぶべき所だろ?
あたしとの関係よりも、二人の関係の方がずっと長くて、深いのは、元々知っていた事だし。
今更、あたしは何を動揺しているんだろう?
「……有咲? 具合悪い?」
「うわあ!? ちけえよっ!!」
びっくりした……いきなり、おたえの顔が鼻先まで来てたから。
ったく、おたえってば、もう少し自分の行動を省みたらどうなんだ。
こんなんじゃ、誰に勘違いされてもおかしくない。
今の、りみが見たらどう思うんだろう……苦労しそうだ、彼女も。
……苦労? 苦労ってなんだろう。
おたえとりみが、友達以上の関係だって事は分かってる。
だから、今の光景を見たりみは、嫉妬するに違いない。
あたしだって、多分そう。
好きになった相手が、他の人と仲良くしていたら、きっと……。
――なら、この淀みも嫉妬?
……まさか。あたしが誰かを好きになるなんて、そんなことあり得ない。
「あーりーさっ!」
「……ん? ――ちょっ!!」
考え事をしている間に、いつの間にか香澄が後ろにいて。
背中から思いっきり抱き着いてきた。
その勢いで軽く前のめりになったけど、どうにか踏ん張って倒れるのだけは我慢した。
「フフ……あーりさ!」
「バカッ! あっぶねえだろぉ!」
「だって、有咲が何だか落ち込んでるように見えたんだもん!」
「落ち込んで……?」
あたしが……落ち込んでいた?
一体、何に落ち込んでいたというのだろう。
そんなの……まるであたしが……
「あ! 沙綾!!」
その名前を聞いた途端、あたしの胸がドクンと跳ねた。
そんなことに香澄が気付くはずも無く、あたしの身体から離れ、
前方で振り返る女の子の下へと駆けていく。
ポニーテールを揺らしてこちらに顔を向ける彼女は、本当に華憐だ。
その桜色の艶やかな唇が、ゆっくりと開いて。
目元が柔らかく緩んで、温かな瞳を私達に向ける。
「あ、香澄ー! おはよう!」
「沙綾おはよう!!」
駆けたままの勢いで、香澄は沙綾の華奢な身体に抱き着いて。
「うわあ! ……もう、危ないよ香澄ー」
「今日もパンのいい匂い!」
「香澄……あんまり女の子にそういう事言っちゃダメなんだよ?」
「えっ、そうなの? じゃあ、次から気を付ける!」
「うん、ならよし!」
沙綾……案外普通だ。昨日のアレが、嘘のように。
ただ、香澄が沙綾に抱き着いているのを見ていると……また胸が苦しくなってくる。
一体、この気持ちの正体は何?
「……香澄」
「ん? どうしたの、有咲」
「前から言ってんだろ、誰彼構わず抱き着くなって」
「あ、そーだった!」
沙綾に抱き着いていた香澄は、スッと彼女から離れて。
それを見たあたしは……僅かに胸の淀みが晴れた気がした。
「私は別にいーけど? もう慣れちゃったし」
言いながら、沙綾が苦笑する。
何でもなさそうな彼女の表情を見ていると……無性にイライラしてきて。
「っ……あたしがよくねーんだよっ!!」
――はっ。
勢いに任せて、叫んでしまった。
顔をあげると……香澄も沙綾も、黙ってあたしの顔を見つめていて。
「……ごめん、あたし……先、行くから……」
その場から逃げ出すように、あたしは速足で教室へと向かった。
「はあ……やっちまった」
放課後、誰にも会わないように、走って帰宅したあたしは、気分を紛らすように盆栽を眺めていた。
「今日もタマガワは可愛いなー……それに比べて、あたしは……」
分かってる……この、黒い感情の正体は。
多分……嫉妬してるんだ、あたし。それも、沙綾に。
「はあ……情けねー」
自分の勝手な気持ちを沙綾に押し付けて。香澄にまでイライラをぶつけて。
最悪だ……あたし。
二人が来たら……ちゃんと謝ろう。
それで、あの事は……無かったことに……
「有咲」
不意に聞こえた声。
胸を、締め付けられるような……優しい声。
こんな所に、こんな時間に、彼女が一人で来るはずがない。
だってここは、蔵から離れてて。
彼女も、いつもは一度自分の家に寄ってから蔵に来るから、こんなに早く来るはずがなくて。
それでも……分かってても、期待している自分がいて。
彼女の声を、聴き間違えるはずがなくて。
「沙綾……どうして」
「どうしてって、まー……たまたま?」
「たまたまって、お前な……」
自分の唇に指先を当てて軽く首を傾げる仕草は、それだけで胸がギュッと締め付けられる。
香澄みたいに……自分に素直になれたらいいのに。
どうしても、そうなれない自分がいる。
拒絶されたらどうしようって。
拒絶はされないまでも、内心嫌だと思われたらどうしようって。
怯えてしまう、自分がいる。
いつまでたっても臆病な、情けない自分がいる。
「有咲は、こんな所で何してるの?」
「何って言われても、タマガワ……じゃなかった! 盆栽! 見てただけっ!」
盆栽に名前つけてるなんて知られたら……。
ただでさえ香澄とりみに知られて恥かいたってのに、沙綾にまで知られたくない……!
「タマガワ? ……ああ、その盆栽の名前か。可愛いじゃん」
「ちっ、ちが……」
「ん?」
「っ!! ……そう! 可愛いんだよタマガワ!」
もうヤケクソだ。こんなの、引かれるに違いない。終わった……
「フフッ……有咲ったら、可愛い」
「……へ?」
沙綾が口にした一言の意味を理解した途端、あたしはメーターが上がるように全身の体温が急激に上昇した。
「そんな……何も耳まで真っ赤にしなくても……」
今度は、沙綾までもが顔を赤くする。
その様子を見て……自分を抑えきれなくなって。
彼女の身体を、抱きしめていた。
「あっ……有咲!?」
「うるせー……ちょっと黙ってろ」
あたしの腕の中に収まっている沙綾の身体は柔らかくて、でも腰がすごい細くて、
今にも壊れてしまうのではないかと思うくらいに儚くて……愛しい。
――あたしは……沙綾が、好きなんだ。
さっきからずっと黙ったままの沙綾は、
グングンと体温が上昇しているみたいで、その温かさが服越しにも伝わってくる。
……どれくらい経ったんだろう。
多分、10秒ちょっとのその時間は、あたしには永遠にも感じられた。
でも、流石にずっとそのままってわけにはいかない。
そっと沙綾の身体から離れたあたしは、顔を見られないようにすぐに背中を向けた。
「……練習、行くから」
本当に、小さな声しか出なかったけれど。確かに伝わったみたいで。
彼女の苦笑が、返事として聞こえてきた。
たったそれだけのやり取りでも嬉しくなって、つい表情が緩んでしまう。
そんなみっともない顔を見られないように、速足で蔵へと向かった。
――その時。
「さっ……沙綾!?」
後ろから、ギュッと抱きしめられた。
その抱擁は、これ以上ないほどに温かく、優しい。
胸がクシャクシャに締め付けられる。切なさでいっぱいになる。
「有咲……ありがとう」
耳元で囁かれた沙綾の声は、チョコレートよりも甘ったるい。
それだけで脳が蕩けそうで、全身の奥底から溢れ出す何かに、ドクンと揺さぶられた。
「……この……ばかぁ……」
時間が止まったように感じた、その瞬間は。
あたしにとって……最高に幸せだった。
胸元に回された二本の細くしなやかな腕が、静かに解かれて。
隣に並んだ彼女の表情は……一輪の花が咲いたかのように、素敵だった。
「行こうか、有咲」
「……うん」
何も言ってないのに、お互いに手を差し出して、指を絡め合う。
まるで、この世界に二人だけしか存在していないかのような、そのひと時を。
わたしはきっと……いつまでも忘れない。
有咲sideはこれで終了。次回、たえsideか沙綾sideで迷ってる。
いいね
すきだよ
順番が違うだけでどっちサイドもやるんだよね?
>>33
沙綾sideの場合ありさあやの続編。
たえsideの場合たえさあや。時系列は同じ。
話の流れ的には沙綾sideからの方がいいかな。
「沙綾、今日も遅かったわね」
家に帰ると、お母さんが明るい表情で出迎えてくれた。
「あ、うん。今日も、練習長引いちゃって……ごめん」
「いいのよ。沙綾がやっと自分に優しくなれたみたいで、お母さん嬉しい」
「うん……ありがとう、お母さん」
「夜ご飯はどうする?」
「すぐ食べるよ。でも、一旦部屋で着替えてくるね」
「あー……ヤバいかも」
今日の練習の直前、私は有咲と色々あって。
「もー! なんであんな恥ずかしい事しちゃったかなー!」
思い出すだけで、体温がグングンと上昇してくる。
有咲に抱き締められ、私からも抱きしめて。
その時に感じた感情は、弟や妹が抱きついてきた時とは全然違うものだった。
触れた部分から温かさが伝わってきて、幸せが溢れてくるような。
そして、胸の奥底がギュッと締め付けられるような。
苦しいけれど、心地いい。そんな感覚だった。
「私……有咲のこと、好きなのかも」
あり得ない話ではない。
有咲と接する時の私は、自分でも分かってしまうくらい挙動不審だから。
香澄達と話している時と比べて、明らかに違う。
有咲の匂いを感じるだけで。
有咲の声を聴くだけで。
有咲の顔を見るだけで。
彼女の存在を感じるだけで……胸が高揚する。どうしようもなく。
ふと、さっきの出来事を思い出す。
いきなり、有咲が私の胸元に抱きついてきて。
『あっ……有咲!?』
『うるせー……ちょっと黙ってろ』
有咲の、温かい体温。背中に強く回された、細くて綺麗な腕。
私の方から抱きしめた時に感じた、彼女の身体の柔らかさ。
明るい色のツインテールから漂ってくる、柑橘系の甘い匂い。
絡めあった指先の感触。
控えめながらも、ギュッと求め合うように握った小さな手のひら。
「~~~~~~~~~~!!」
考えただけで、耳まで真っ赤になってしまう。
私はさっき……有咲と、そんな恥ずかしいことを……。
ベッドの上を、頭の悪い女の子みたいに、グルグルと左右に転がり回る。
ひとしきりはしゃいで、息が整ってきた私は、少しだけ冷静さを取り戻した。
「……いやいや、おかしいって」
とたんに、現実へと引き戻される。
だって……同じ女の子だよ?
ドキドキするなんて……絶対おかしい。
「……うん、勘違い勘違い。絶対そう」
でも……友達としてなら、いいよね?
どうしよう。とりあえず、映画にでも誘ってみようか?
ショッピングモールに2人で出かけることなんて、今までにもあったことだし。
別に、不自然ではないよね。
スマートフォンを操作して。
彼女のアイコンをタップする。
「日曜日、映画でも見に行かない?……っと」
……これ、普通だよね。
意味深なこと、言ったりとかしてないよね。
「……送信」
――送ってしまった。
「うぅー……落ち着かない」
いつ返信が帰ってくるだろう。
5分後? 10分後? それとも、1時間後?
今日は、返ってこなかったりして。
有り得る話だ。
有咲、グループチャットとかあまり返信しないから。
「沙綾ー、夕食の準備できてるよ」
「あ、うん! 今行く!」
お母さんを待たせるのも申し訳ないし……先にご飯食べちゃおう。
スマートフォンをベッドの上に置いたまま、私は急いでリビングに降りた。
「ふー……お腹いっぱい」
でも正直……何を食べたか記憶が怪しい。
有咲からの返信のことで、頭の中が埋め尽くされてたから。
部屋に入って、ほとんど無意識にスマホを手に取り、胸をドキドキさせながら電源を入れる。
画面に表示された、新着メッセージのアイコン。
有咲からだった。
「……やっば」
心臓がドクンと跳ねる。胸の奥が、クシャリと締め付けられる。
本文は……
『ごめん、日曜はむり』
「――ッ」
…………仕方ない……よね。
……うん、そんなこともあるよ。
親指を動かして、メッセージを入力。
『わかった!また誘うね!』
笑っている絵文字を文末に入れて、送信。
「……はあー」
スマートフォンをベッドに放り投げ、自分もその横に倒れ込んだ。
まるで、波が引いていくかのように。
頭の温度が、胸の温度が、急激に下がっていく。
高鳴っていたはずの心臓は、一瞬止まったような錯覚を覚えた後、
いつの間にか平常運転に戻っていた。
――どうして、こんなにも落ち込んでいるのだろう。
友達に、遊びの誘いを断られただけなのに。
たった……それだけなのに。
翌朝。登校の途中、香澄に出会った。
会う場所、会うタイミング。全ていつも通りのはずだった。
いつもと違ったのは……香澄の隣に、彼女がいないこと。
「香澄……有咲は?」
「有咲? あー……えっと」
香澄は、少しだけ肩を落として言った。
「何かね、今日は行かない日なんだって」
そんな……。香澄と登校するようになってから、
一度だって休んだことなんか無かったのに。
「……そっか」
――もしかして。
私のせい……なのかな?
「沙綾? どうかしたの?」
香澄が、大きな二つの瞳で私を見つめてくる。
まるで、何一つ汚れを知らないかのような、純粋な瞳だ。
「……ううん、何でもない!」
一瞬頭をよぎった香澄に相談するという選択肢を、無理やり打ち消した。
私の黒い感情を、香澄に打ち明けるのは申し訳ない。そう思ったから。
放課後になり、私は一度家に帰ることにした。
理由の一つは、店の様子を見るため。
でも、一番の理由は……有咲と極力二人きりにはなりたくなかったから。
メールの誘いを断られただけなのに、どういうわけか、今はちょっと気まずい。
「あら、沙綾。おかえり」
「ただいま、お母さん。お店どう?」
「大丈夫よ。お父さんもいるし、最近お母さん調子いいから」
笑顔は可愛らしいけど。いつ体調を崩したっておかしくないのだ。
「沙綾、今日も練習に行くんでしょ?」
「うん、もう少ししたらね」
するとお母さんは、表情を少しだけ緩めて、「フフッ」と微笑んだ。
「沙綾……最近、好きな人でもできた?」
「ふえっ!?」
突拍子もないことを言われ、胸がドクンと跳ねる。
やがて、その言葉の意味を理解した私は、何故か頭の中で有咲の顔が浮かんできて。
体温が、グーンと上昇するのがわかった。
「べべっ、別に、そんなんじゃないよ!」
「もう、わかりやすいんだから。顔真っ赤にしちゃって」
「これはっ……その……」
目線を左右にさ迷わせ、落ち着かない心を鎮めようとして、制服の裾をギュッと握り締めた。
そんな私を見たお母さんは、私の頭に優しく手を置いて撫で始める。
でも……優しくナデナデするだけで、何も言わない。
「……お母さん?」
顔はそのまま、上目でお母さんの表情を伺うけれど。
笑顔を浮かべるお母さんの真意は、私には掴めなかった。
「……じゃあ、いってらっしゃい」
ナデナデしていた手を下ろし、いつもの温かい口調でそう言った。
「うん……行ってきます、お母さん」
胸の中の黒い感情が、少しだけ晴れた気がした。
今だったら、有咲の前でも素直になれるかもしれない。
そう思ったけど、一度家に帰ってから蔵に来ると、大抵メンバーの殆どが既に練習を始めている。
だから今日は、有咲と二人きりにはならなかった。
中に入ると、有咲の姿がそこにあって。
どうやら学校は休んでも、練習は休みたくないらしい。
「あ、いらっしゃい沙綾!」
「ここ、お前ん家じゃねーから!」
階段を降りた途端、香澄と有咲の漫才が始まった。
「沙綾も来たし、みんなで通して練習する?」
「そうだね、おたえちゃん」
おたえとりみりんが頷き合った。
私はというと、さっきから有咲の視線ばかりが気になって……
なのに、彼女の顔を直視することすら出来ずにいた。
だからといって、私の都合で練習を止めるわけにはいかない。
「……うん、分かった! 通して練習ね!」
何曲も通して演奏し、休憩を挟んで。それを幾度となく繰り返す。
再び演奏を始めて、十数曲は通しただろうか。
みんな、大分息が上がってきた頃。
「疲れたー! ちょっと休憩!」
香澄が、ピックをテーブルに置いて傍のペットボトルを手に取った。
「わたしも。すごく疲れたよ」
「ふふっ、おたえちゃん、汗すごいね。良かったらこれ使う?」
りみりんが、制服で汗を拭おうとしたおたえを制すように、持っていたハンカチを差し出した。
「そうかな? りみりん、汗拭いてくれる?」
「ええっ! あの……その……」
「冗談」
「もっ、もう、おたえちゃんったらー!」
両手を伸ばしてハンカチを突き出すりみりんに、おたえは愛くるしいものを見るような視線を向ける。
「りみりん! 私の汗も拭いて!」
香澄が、りみりんに跳びかからん勢いで駆けていく。
「香澄ー、よしなって」
こういう時は、大抵真っ先に有咲がツッコミを入れるんだけど……
さっきからキーボードを見つめていて、動かない。
代わりに私が言ったけど。さっきから、有咲が気になって仕方がなかった。
一体、どうしたんだろう。
もしかして……私のせい?
それは流石に、自意識過剰かな。
「あっ! もうこんな時間!」
香澄の声に、みんなが反応して壁の時計を見ると、既に7時を回っていて。
「じゃあ、今日はここで終わろうか。前みたいに遅くなったらヤバいしさ」
「私、この前お母さんに心配されちゃった」
りみりんが、舌っ足らずな声で呟いた。
こんなか弱い女の子が夜遅くまで出歩いているだなんて、親の不安は計り知れない。
「そっかー。じゃあ、なおさら早く帰らないとね」
放っておくとほぼ確実に香澄が練習を始めるので、私が言い出さないと練習は終わらない。
「えー、もう? ……でも、仕方ないかー」
予想通り、不満そうに声を上げる香澄。
「仕方ないよ香澄。どうせ明日は休みだし、たっぷり練習できるじゃん!」
言うと、香澄はパアッと表情を輝かせる。
「そっか! なら安心!」
何に安心したのかよく分からないけど、ひとまず納得してくれたみたいだ。
有咲にさよならを言いながら蔵を後にして。
扉の前で不自然な笑顔を浮かべる彼女が、なんだか気になって仕方がなかったけど。
「また明日」と挨拶を交わし、今日の練習は終了となった。
――のだが。
「やばっ!スティック忘れた!」
あれが無いと、自主練できない……わけでもないけれど。
前に使っていたスティックが部屋にあるから、それを使えばいいだけだし、
明日もまた有咲ん家に行くから、大丈夫と言えば大丈夫なんだけど。
やっぱ……傍にないと、何となく落ち着かない。
なんだかんだ言って、相棒だからね。
走って蔵まで戻り、扉を開く。
地下へと繋がるハッチのすぐ傍まで近づいた時……微かに聞こえた、キーボードの音。
ハッチを開き、足を踏み入れると、キーボードの音はピタッと止んだ。
「沙綾……どうしたんだよ」
「アハハ……スティック忘れちゃってさ」
ドラムの周辺に視線をやると、棚の上に探し物が見つかった。
「……バカだな」
「私、変なとこドジなんだよねー。ま、あんま気にしてないけど」
「……ごめん」
それは、今にも消え入りそうな声だった。
「それって……昨日の、メールのこと?」
目の前で俯く女の子は、キーボードを見つめたまま答えない。
「……あれなら、全然気にしてないって! また誘うからさ! その時に――」
「あたしっ……最近、調子悪くて……」
「え……?」
調子が悪いって……何のこと?
もしかして、体調を崩したのだろうか。
今日学校を休んだのも、本当は仮病じゃなかったのかな?
「その……練習中、何度も同じとこで間違えたりとか。最近多いんだ、本当に……」
良かった。体調が悪いわけではなかったみたいだ。
「……もしかして。今日学校休んだのって、そのため?」
再び訪れた沈黙。
でも、彼女の浮かべる悲痛な表情が、私の問いかけを肯定していた。
「そんな……スランプなんて、誰にだって――」
「スランプじゃねえっ!」
その叫び声は、怒りの感情など欠片も込められていないように感じた。
ずっと俯いていた有咲は、この時初めて顔を上げ。
酷く紅潮していて……よく見ると、耳まで真っ赤になっていた。
「あ……あたし……沙綾の事、考えると……ダメなんだ」
「私のこと……って……まさか」
メーターが振りきれるかのように、全身の体温が上昇するのが分かった。
――もしかして、練習中に私の事考えて、集中できてなかったとか……そういう事?
ヤバい……嬉しい。
バンドメンバーの不調を嬉しく感じるとか、最低だと分かってるけど。
有咲が、私の事でこんなにも悩んでくれているってことが、私の胸の奥をギュッと締め付けた。
有咲の瞳に、私が映る。
その中の私は、きっとみっともなく顔を紅潮させているのだろう。
恥ずかしいけど……嬉しい。
こんな感情に、私は未だかつて出会った事がなかった。
有咲に出会う、その日まで。
「沙綾のこと……考えると……手元がくるうっつーか。
昼間に散々練習したはずなのに、沙綾が来てから……結局ミスばっかで。あたし……」
胸元で、両手を忙しなく動かす有咲。
目元には涙が浮かんでいて……可愛いと思ってしまう。
「有咲」
耐え切れなくなって……気が付いた時には、私は彼女に向かって飛び出していた。
背中に腕を回し。強く……優しく抱き締める。
有咲の体温が、服越しにじんわりと感じられる。
細く、柔らかいその身体は、私の母性をくすぐったらしい。
「キャッ……さあっ……や……」
耳元で一瞬聞こえた、可愛らしい声。
声も、匂いも、感触も、温かさも。
有咲の全てが、愛おしい。
気が付くと、私の背中に有咲の腕が回っていた。
お互い、一方的に抱き締めるのは、一回ずつあったけど。
ちゃんと抱き締め合うのは、これが初めてだった。
「有咲……いいんだよ。いっぱい、私のこと考えて」
「沙綾の……こと?」
「私も、ずっと有咲のこと考えてる。朝登校するときも、
授業受けてるときも、放課後練習してる時も……一日中、ずっと」
「……ホント?」
「ハハ……ごめん、流石にびっくりするよね」
背中に回された腕の力が、少しだけ強くなった。
「ううん……嫌じゃない」
「……だからね。有咲だって、私のこと考えていいんだよ?」
「そっか……うん、そーする」
それを最後に、暫く無言の状態が続いて。
それ以上の事はせず、ただ抱き締め合ったまま。
結局私は、9時を過ぎてから帰宅する事になってしまった。
「じゃあ、行ってきまーす」
ローファーをつっかけて、玄関の扉に手をかける。
「今日も、昨日と同じくらいの時間に帰ってくるの?」
お母さんは、穏やかな笑顔を浮かべてそう言った。
「いやー……流石に、今日は早く帰ってくるようにするよ」
昨晩は、いくら何でも遅すぎた。というか、最近そんな日が続きっぱなしだ。
「……お母さんは、別にいいけど?」
「アハハ……まあ、早く帰ってこれるようにするよ」
扉を押そうとした時、お母さんが「沙綾」と声をかけてきた。
「ん? どうしたの?」
「……良かったね、うまくいったみたいで」
瞬間、顔が耳まで真っ赤に染まっていくのが分かった。
「いっ……行ってきます!」
慌てて飛び出した私を、お母さんは苦笑しながら、「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
「よーし! じゃあ、早速練習始めよう!」
「香澄、気が早えよ」
香澄の突拍子の無い言動に、今日の有咲はツッコミ全開だ。
「わたしは準備できてるよ」
「私もー」
おたえとりみりんが、それぞれギターとベースを構えて言った。
「私も! 準備できてます!」
みんなに続いて、私もスティックを用意する。
――ふと、視線を感じて。
キーボードの方に、視線を向けた。
有咲と、目が合って。
彼女の目元が柔らかく緩む。
「あたしも。準備オッケー」
……良かった。いつもの調子、取り戻したんだね。
「私も準備オッケー! でも、始める前に……いつもの!」
「……いや、もうみんな楽器用意してっから無理だろ」
「え!? ……あ、そっか! まあいいや、そのままで!」
「このままやんのかよ!?」
香澄と有咲の、いつものコント。今日はなんだか、いつもよりキレがいい。
「まあまあ、有咲。いいじゃん、やろーよ」
「さ……沙綾が、そう言うなら……」
語尾を小さくしながら呟く有咲を見て、香澄が口を尖らせる。
「有咲ー! なんか、沙綾にだけ優しくない? 私と全然違うよ!」
「うっ、うるせー! やんだろ、いつもの!」
尚もブーブー文句を言う香澄も、渋々承知したらしい。
香澄が腕を前に伸ばしたのを合図に、みんなが中心に向かって手を伸ばす。
「いくよー! ポピパ!ピポパ!ポピパパ!ピポパー!」
沙綾sideはひとまず終了です。有咲×沙綾とは言いつつも、友情の域からはまだ出てないつもり。そのうち書くかも?
次回はたえ×沙綾を想定していますが、書き溜めは一切ないのでご容赦を。気長にお待ちくださると幸いです。
今更ですが、前作のリンクを貼っておきます。
沙綾「卒業?」香澄「そんなの私達にあるわけないじゃんwww」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52197926.html
長く更新していないため、このスレはとりあえず完結として、html化依頼を出そうと思います。
次回作が書き上がったらまた新しく立てますので、その時はどうぞよろしくお願いします。
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