シンジ「アンケート?」完結編 (243)
■前スレ
シンジ「アンケート?」
シンジ「アンケート?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491130975/)
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【ネルフ本部 来賓室】
ミサト「さ、三号機をうちに、ですか?」
大統領「日本政府と必要な詰めは全て済ませてある。あとはこの書類に責任者のサインを書くだけだ」
ミサト「しかし、ネルフは既に三体のエヴァを保有しています。過剰な戦力になるのでは……」
大統領「政治的な話だよ。現在、我が国では経済的に不安定な状態が続いている。それに伴い、市民の暴動や生活水準の低下が懸念されていてね」
ミサト「つまり、予算がないと?」
大統領「情けない話だが、その通りだ。貧困層は医薬品でさえ手に入れるのが困難な状況になりつつある。そのような経済で、軍備にまわす余裕はない」
ミサト「WHOに支援を求めては……」
大統領「スイスのジュネーブ本部には発展途上国から連日問い合わせが殺到しているよ。大国たるアメリカが世界に恥部を晒すわけにはいかん」
ミサト「……受け入れるにしても理由が必要になると思われますが」
大統領「その点については問題ない。先ほど君がいったが、日本は既にエヴァを三体も保有している」
ミサト「はい」
大統領「過剰な戦力ではなく、実績があると捉え、アメリカと日本、友好国という建前を使えばどうとでもなるだろう」
ミサト「お話は承知いたしました……私の一存では決めかねます。碇司令の判断を仰いでからになりますが、よろしいでしょうか」
大統領「キミの言う碇とは、碇ゲンドウかね?」
ミサト「は? はぁ、そうですが」
大統領「彼は本日付けで退任してある」
ミサト「え、えぇっ⁉︎」
大統領「後任を務めるのは、彼の妻である、碇ユイ博士だ。なにも聞いていないのか?」
ミサト「ぞ、存じません。事実なのでしょうか?」
大統領「嘘をついてなんになる。碇ゲンドウ氏はアラスカにて調査を行うと私は聞いている」
ミサト「どなたの意向でしょうか?」
大統領「私が知るのは結果のみだ」
ミサト「(左遷? いいえ、それはないわ。ネルフは治外法権よ。日本政府でさえ特権を与えられてるネルフに人事の口だしできないはず……ゼーレ?)」
大統領「作戦司令」
ミサト「は、はっ!」ビシッ
大統領「余計な詮索はしないことだ」
ミサト「ですが、ユイ博士は、たしか、資料によると亡くなっているのでは……納得のいく説明を求めます」
大統領「ネルフの上層組織によるゼーレの決定だ。キミも噂ぐらいは聞いたことがあるはずだな?」
ミサト「やはり……ですが、ゼーレの実態はほとんど存じません」
大統領「私も同じだ。世界は、一部の組織が動かしているに等しい。まったく、なにが大統領だ、傀儡だよ。これではな」
ミサト「……」
大統領「ともかく、命が惜しかったら、私の忠告を受け入れた方がいい。これは善意だ」
ミサト「はっ、ご忠告、痛み入ります」
【シンジ宅】
加持「よっと」
シンジ「……」ゴロン
加持「やけに軽いな。ちゃんと食ってんのか?」
ユイ「そこに寝かせて」
加持「はいはい、しかし、良かったんですか?」
ユイ「なにが」
加持「父親の死という本人にとって、衝撃的な結末を見せつけられてます。ショックで気絶してますが、意識を取り戻した際にパニックになる恐れも」
ユイ「そうね」
加持「心を閉ざしたまま……エヴァに乗ってくれますか」
ユイ「シンジの意向をできるだけ汲み取ってあげたいけど、やるべきことはやってもらう」
加持「それはつまり、多少強引な手段をとってでも?」
ユイ「……この子は純粋ですもの。ショックは大きいだろうけど、乗り越えて立ち向かう勇気を持ってくれる」
加持「我が子可愛さに買い被りすぎでは? トラウマを乗り越えるのはそう簡単には……」
ユイ「私たちはネルフを掌握したのよ。シンジが父親の死と向き合いやすいように、環境を作ってあげればいい」
加持「どういう意味です?」
ユイ「嫌われてる者が元気をださせる必要はないの。直接手をくださずとも、間接的にそうなるようにする」
加持「なるほど、裏方に徹するわけすか」
ユイ「トリガーはこの子なのよ。私の夫は初号機に固執するあまり、シンジをないがしろにしてしまったけど、私は違う」
加持「(これもまた、狂気だな)」
ユイ「シンジさえ無事であれば、世界の創造は始められる。他はどうなってもいい。そう、どうなってもね」
加持「ふぅ……それで、具体的には誰を当てがるんです? やはり、アスカを?」
ユイ「そう気を急かさないで。私が今すべきは、ネルフへの就任の挨拶ね」
加持「シンジくんをこのまま一人に?」
ユイ「そうよ。少し、観察をしたいから」
加持「了解。それじゃ、俺もまた自由に動かせてもらいますよ」
【ネルフ本部 執務室】
ユイ「失礼いたします」
冬月「……もう済んだのかね」
ユイ「はい、滞りなく」
冬月「ならばもうすでに」
ユイ「ひとつの終わりを迎えました」
冬月「……この世にはいないか。人の生き死には儚いものだな。死とは、突然訪れる」
ユイ「忍び寄る影に気がついていなかっただけです。先生ほど長生きされても死が恐ろしいですか?」
冬月「ふっ、年寄りには良い冗談だ」
ユイ「私はこわくはありません。ですが、志し半ばで死ぬのは辛い」
冬月「碇もそうだっただろう。まさか、キミの手で葬りさられるとはな」
ユイ「来世、というのは変ですが、またきっかけはあります。あの人の願いは、死の間際に私とシンジに託されました」
冬月「そうか、では少なからず救われたのかもしれんな……これからどうする」
ユイ「補完計画をよりはやく、そして完遂します。使徒の襲来を待つ必要はありません。彼ら個体が目指すべきはアダムであり、種の生存闘争がなくなればどうなるか……」
冬月「お手並み拝見させてもらうよ」
ユイ「先生には、夫の時と同様に私の右腕として補佐をして頂きます」
冬月「ああ、その為に俺を生かしておいたんだろう。それでは、行こうか」
ユイ「はい、よろしくお願いします」
【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】
アスカ「えぇ~~~⁉︎ 三号機ぃ~~⁉︎」
レイ「ええ」
アスカ「エヴァ三体が配備されてるのにまだ増えるのぉ⁉︎」
レイ「葛城一尉から連絡があった。セカンドチルドレンへの通達を指示されたから伝えただけ」
アスカ「やれやれね。使徒が来ないのにエヴァばかり増えてどうすんのよ。それでパイロットは? なんか言ってた?」
レイ「聞いてない」
アスカ「肝心なところでしょ! なんで聞かないのよ!」
レイ「言われなかったから。それともうひとつ、伝達事項がある」
アスカ「……はぁ、なに?」
レイ「司令が交代になった」
アスカ「は、はぁ⁉︎」
レイ「碇司令はアラスカに。後任になったのは碇ユイ司令だそうだよ」
アスカ「碇? ファミリーネーム?」
レイ「碇司令の奥さん。碇くんの母親」
アスカ「……そう。あいつのママって生きてるんだ。なによ、恵まれた環境じゃない」
レイ「詳しいことはネルフに行ってから。私達にも就任の挨拶があるそうよ」
アスカ「わかった。それで、シンジがまた学校にきてないのもそれが理由? 家族水入らずで談笑でもしてるのかしら」
レイ「碇くんについてはなにも……」
アスカ「それも言われなかったからってわけね」ガックシ
トウジ「シンジの話か?」
アスカ「なんであんたがしゃしゃりでてくんのよ」
トウジ「いや、妹からさっき連絡があってな。昨日、シンジが病室に帰ってきとらんみたいなんや」
アスカ「妹? 学校にわざわざ連絡してきたの?」
トウジ「ワイも驚いたんやが、えらい心配しとってのー。なんや様子がおかしいとこがあるっちゅうて、手を気にしとったそうや」
レイ「……」
アスカ「ちょっと待って。そもそもなんであんたの妹がシンジの状態知ってるの?」
トウジ「そら同じ病室に入院しとるからな。そんなにひどい怪我なんか?」
アスカ「そうなの? ……酷い感じには見えなかったけど? どうせママのおっぱい吸いたくて浮き足立ってたんじゃないの?」
ケンスケ「それより、さっきの三号機の話って本当か?」ズイ
アスカ「げっ、次から次へと」
ケンスケ「なぁ、パイロットってもう決まったのか? どうなんだよ?」
アスカ「あぁ、もう、うっとーしい! 決まってないか知らない!」
ケンスケ「……そうかぁ」
トウジ「なんでケンスケがそないなこと気にするんや?」
ケンスケ「いや、なんでも」
レイ「それじゃ、放課後。ネルフに」
アスカ「はいはい、了解。ほら、あんた達も散って、シッシッ」
トウジ「ち、ワシ達を犬猫と同じにすなっ!」
【ネルフ本部 発令所】
マコト「……どうなってるんだよ……」
シゲル「あぁ……変だな」
マヤ「い、生きてたというのも驚きね」
冬月「お前達、新司令に対して失礼だろう」
マコト「し、失礼いたしました!」
ミサト「二点、質問をしてもよろしいでしょうか?」
ユイ「どうぞ」
ミサト「まず、今回の異動はあらかじめ決められていた? それとも……」
ユイ「……」チラ
冬月「……葛城一尉。上層部の決定は作戦司令たる君の与り知るところではない。立場をわきまえろ」
ミサト「失礼いたしました。では、次の質問ですが、資料によると碇司令は初号機に取り込まれたとあります。実験中の不幸な事故は、末端の職員ですら把握している有名な話です」
ユイ「ええ」
ミサト「しかし、碇司令は現にこうしてここにいらっしゃいます。この相違点についてご説明を求めます」
ユイ「それは、今後の円滑な業務内容に関わる質問?」
ミサト「いえ、個人的な質問です」
ユイ「仕事に関わる話でないのならば、差し控えてもらえると助かる。プライベートを詮索されるのは好きじゃないの」
ミサト「ですが、職員全体が困惑しているのも事実です」
ユイ「そう、全く関係ないとは言えないのね。であるならば、データを開示します。気になる職員は後で見なさい」
ミサト「……承知しました」
ユイ「私達の目的は使徒殲滅。皆、忘れないで。夫であろうと私であろうと、それは不変だということを」
マヤ「……」
ユイ「命をかける覚悟をもってここに立っています。あなた達が自分の仕事に誇りを持っているように、私も人類の為に働く一員なのです」
マコト「……」
冬月「彼女の能力については、私が保証しよう。碇に負けず劣らずのキレものだよ、敬うようにしたまえ」
ミサト「(そのようね)」
ユイ「では、バタバタして申し訳ないけど、赤木博士」
リツコ「はい」
ユイ「最初の命令になります。零号機を現時点をもって凍結」
ミサト「と、凍結っ⁉︎ 待ってください! 零号機はようやく予備のパーツを換装し終えた所で!」
リツコ「指示に従います」
ミサト「リツコっ⁉︎」
リツコ「ミサト? 副司令のお言葉を忘れたの? 最初から命令違反を犯すつもり?」
ミサト「命令違反なんかするつもりはないわ! 必要な戦力でしょ⁉︎」
ユイ「……葛城一尉も三号機が配備される話は聞いているわね」
ミサト「はい」
ユイ「アメリカ側がなんと言おうと、過剰な戦力にはかわりない。周辺国からの反発を抑える為、建前上だと思ってくれる?」
ミサト「では、使徒が襲来した有事の際には解除されるのでしょうか?」
ユイ「投入やむなしと判断した場合にはね。その采配は、作戦司令たるあなたに一任します」
ミサト「なぜ、零号機を? それなら三号機でもよろしいのでは」
ユイ「零号機はプロトタイプ。試作品なのよ、弐号機で完成したエヴァシリーズの後継機が三号機」
リツコ「なるほど、研究の為にもデータを取るならば三号機の方が都合が良いというわけですわね」
ユイ「その通り、他に不明な点は? 葛城一尉」
ミサト「いえ、ありません……取り乱してしまい、失礼いたしました」
ユイ「以上よ、業務をはじめなさい」
【1時間後 ネルフ本部 テラス】
シゲル「しっかし、あの見た目で碇司令の妻とは信じられないねぇ」
マヤ「たしかに。若作りしてるっていうメイクでもないみたいだけど」
シゲル「あれは着痩せするタイプだぜぇ? 服の下はけっこうなボインと……」
マヤ「う、不潔」
マコト「だけど、やっぱり妙じゃないか?」
マヤ「そう?」
マコト「公開されたデータに目を通してみたけど、サルベージに成功していたとあるだろ?」
マヤ「ええ」
マコト「こんなの伏せておいた目的はなんだ? エヴァに取り込まれて生還した事例も初だが、研究としても歴史に残る成果だろ?」
マヤ「だからこそ非公開にしておいたんじゃない?」
マコト「どういう意味だ?」
マヤ「MAGIもそうだけど、重要な情報はほとんど開示されてないじゃない。多くに知らす必要はなく、水面下で研究すると判断されたのよ」
マコト「そうかなぁ……」
ミサト「好意的な受け取り方ね」
マコト「か、葛城さん」
ミサト「昼食中にごめんなさい。私も相席させてもらっていい?」
シゲル「……まぁ、俺たちは」
マヤ「どうぞ?」
マヤ「ここのラーメンおいしいですよね」
ミサト「え? ええ、そうね」コト
マヤ「私、味噌ラーメンが好きで」
マコト「マヤちゃん」
マヤ「あ、ごめんなさい。なにかご用件があるんですか?」
ミサト「かまわないわ。私もさっきの話に加わりたかっただけだから」
マコト「と、いうと、新司令の話ですか?」
ミサト「ちょっち、気になるのよ。あまりにも用意周到すぎない?」
マヤ「人事ですか?」
ミサト「ええ。それもあるけど、業務の引き継ぎに関しても、堂々としすぎてるというか」
マヤ「私はそうは思いません。ネルフの代表ですから、有能であるのは当然だと考えます」
ミサト「……そうね」
マコト「素性に何点か疑問が残るのを除けば、経歴については文句のつけようがありませんよ。ネルフ創設者の一人ですし、エヴァ研究の第一人者でもあります」
シゲル「加えて、副司令の口添えもあるんすから」
ミサト「だぁっ! 私の考えすぎかしらん?」ガシガシ
マヤ「なにか、他に気になる所でも?」
ミサト「うまく説明できないけど、女のカンよ」
マコト「またですか……」
ミサト「そーよ。でもね、なんかヤバそうな気がする」
シゲル「やばいって言ったって使徒が来るのが一番やばいっすよ」
ミサト「そう……なんだけどねぇ」
【ネルフ本部 ラボ】
ミサト「お邪魔してるわよん」
リツコ「……サボるなら自分のデスクを使ったら?」
ミサト「まぁまぁ。勝手知ったるなんとやら、でしょ?」
リツコ「親しき仲にも礼儀あり、とも言うわよ。不在の時に勝手に入られるのは勘弁願いたいわね」
ミサト「新しい司令についてなんだけどさ」
リツコ「ふぅ、どうせそのことだろうと思ったわ」
ミサト「さっすがリツコ。私の内心を察するのがお上手」
リツコ「怪しい点は見受けられないわよ」
ミサト「……ふぅん……」
リツコ「情報の開示は既に目を通しているだろうけど、あとは時間が解決してくれる」
ミサト「行動で見ろってこと?」
リツコ「ミサトの抱く不信感は状況の変化に対する戸惑いでもあるのよ。ついていけない、と言ったら正しいかしらね。そうならないように事前に周知されればよかったけど、今回はそうじゃなかった」
ミサト「……」ギシ
リツコ「私たちは仕事をしているのよ。納得できることばかりだと思わないで。組織というのは有り体にそういうものでしょう?」
ミサト「そうね……」
リツコ「新参者は基盤が不安定だわ。多くの職員が彼女の性格や方針を真に理解しているとは言えない、それがわかるのは、もっと時間が必要。あなたに限った話ではなくてね」
ミサト「うぅん」
リツコ「葛城一尉。いたずらに邪推するのはやめなさい。あなたと新司令が対立すれようであれば、部下に不安をひろげるわ」
ミサト「……そうよね、わかった」
【ネルフ本部 第三ゲート前】
アスカ「よっと」カシャ
シーン
アスカ「……あれ?」カシャカシャ
アスカ「ちょっと? なんで反応しないのよこれぇ⁉︎ このカードキーぶっ壊れてんじゃないのぉ⁉︎」
ユイ「そのカードキーじゃ開かないわよ」ピッ
アスカ「……えっと」
ユイ「はじめまして。お母さんそっくりね」
アスカ「誰?」
ユイ「あなたの母親の古い友人よ」
アスカ「ママのっ⁉︎」
ユイ「行きましょうか、新司令の元に案内するように言われてるの」
アスカ「待って! ママの古い友人ってどういうこと? ママを知ってるの⁉︎」
ユイ「ええ。知ってる、一緒に研究していたんだもの」
アスカ「はん、それじゃあ、ママを軽蔑してるのね」
ユイ「どうして?」
アスカ「どうして⁉︎ 大人達は私を哀れんだわ! ママは頭がおかしくなったって! みんなが同情の視線を向けてきた!」
ユイ「私はそう思ってない。キョウコは頭の回転がはやく、聡明な女性よ」
アスカ「嘘よ! 甘い言葉を囁いて信じさせようして結局、パパもママを見捨てたわ!」
ユイ「あなたは見捨てなかったの?」
アスカ「見捨てるわけない! ママを辞めないでほしかっただけ!」
ユイ「……危ういバランスで成り立っているのね、あなた」
アスカ「カードキーちょうだい!」バシ
ユイ「あっ」
アスカ「新司令には挨拶する! もう二度と会わないことを願うわ! じゃあね!」タタタッ
ユイ「……ふぅん……」
【ネルフ本部 エレベーター内】
ミサト「アスカ、機嫌悪いの?」
アスカ「別に。司令って更迭になったの?」
レイ「……」
ミサト「詳しい理由についてはわからない」
アスカ「どうして?」
ミサト「……そうね。特務機関ネルフは、軍隊でも民間企業でもない。でも規則や階級は重んじているの、発令には絶対遵守。さしたる例としてはこれがある」
アスカ「……」
ミサト「ネルフの前身は研究所だったと聞いてるわ。軍隊色が濃くなったのはセカンドインパクトと使徒のせい。各国政府による後ろ盾によって強固な地盤になっていったの」
アスカ「……」
ミサト「だから、一国が内部事情に口を挟むことは禁じられてる。さらに上の各国代表団、ゼーレという組織に決定権がある」
アスカ「軍隊でいいのに。ミサトの襟にだって階級章のピンバッチついてるじゃない」
ミサト「私たちは戦争をするための軍隊じゃない。あくまで対使徒用の集団なのよ。職員の多くは、拳銃の射撃訓練を受けていても、実際に人を撃った経験はない、だから、銃器の扱いについては戦自に協力をしてもらってる」
アスカ「要するに前司令の異動については機密扱いってこと?」
ミサト「そうじゃない、すこし、ややこしい話になるけど、普通の企業だって異動については辞令がでるだけ。理由についてまで説明されるなんて通常はなかったりすんのよ」
アスカ「結局、サラリーマンみたいなものね、なんだか現実的で嫌な感じ」
ミサト「幻滅した?」
アスカ「すこしね。軍隊を動かす力があるのに、組織の内部は民間と変わらないなんてさぁ」
ミサト「民間と軍隊の融合体みたいなものね。使徒に関係すると判断されれば、外部に対して影響力や発言力はかなりのものよん?」
アスカ「わかってるわよ。弐号機運搬の時に連合軍の艦隊を護衛にしてたじゃない」
アスカ「新司令ってどんな人?」
ミサト「初対面の印象はそうね、柔らかい人ってところかしら」
アスカ「もっと具体的なのないのぉ?」
ミサト「前の碇司令よりはとっつきやすそうって感じ?」
アスカ「あの人以上だったら驚くわよ……。経歴は?」
ミサト「データによると、エヴァの開発責任者はリツコだけど、システムを作りあげたのは現司令みたい。自分自身が率先して実験台になったり、貢献については計り知れないわ」
アスカ「あぁ、そういえば取り込まれたっていうの?」
ミサト「この業界では有名な話よね。まるで悲劇のヒロインだもの」
アスカ「よく戻ってこれたわね」
ミサト「サルベージ計画が成功していたらしいの。なんで伏せてあったのかは機密扱いだけど」
アスカ「……」
ミサト「もし、アスカやレイが取り込まれたとしても帰ってこれる方法が見つかってよかったわね」
アスカ「うげっ、そんなのないほうがいいんですけどぉ」
ミサト「もちろんないにこしたことはないわ。だけど、万が一って話もあるし、暴走されたら制御は難しいのよねぇ」
アスカ「赤木博士よりエヴァに詳しい人か」
ミサト「そ。さ、そろそろ執務室のあるフロアにつくわ。失礼のないようにね」
【ネルフ本部 執務室】
ミサト「失礼します。セカンドチルドレンとファーストチルドレンの両二名を連れてまいりました」
冬月「ごくろう、下がっていいぞ」
ミサト「はっ!」ビシッ
アスカ「ちょっと、帰っちゃうの?」ぼそ
ミサト「とって食われたりはしないわよ。いつも通りやんなさい」ポン
アスカ「はぁ……」
冬月「葛城一尉、どうした?」
ミサト「いえ! では、失礼いたします」スタスタ
冬月「パイロット両二名は近くに来たまえ」
アスカ&レイ「はい」
冬月「此度、司令が交代となった。前司令であるゲンドウ氏はアラスカで調査を開始している。新司令は彼の妻であり、ネルフに多大な貢献をしているユイ氏が就任した」
ユイ「……どうも」ギシ
アスカ「いっ⁉︎ あ、あ、あ、あ」パクパク
レイ「……」
冬月「セカンドチルドレン。なにを驚いている?」
アスカ「だ、だって、さっき」
ユイ「騙すつもりはなかったんだけど、改めてよろしく。あなた達パイロットには人類の希望として期待しています」
アスカ「……了解」
ユイ「どうしたの? 最初みたいにくだけた態度でもかまわないわよ?」
冬月「ユイ君、それでは他に示しが」
ユイ「この子達はパイロットですわ。それにまだ中学生でもあります。上下関係については多少、容赦してあげましょう」
アスカ「……馴れ合いは必要ないわ。私は私のやるべきことをやる、それだけよ」
ユイ「やるべきはエヴァに乗るだけ?」
アスカ「はぁ?」
ユイ「今言ったけど、あなたは中学生でもあります。エヴァに乗るばかりで他を疎かにしないように」
アスカ「ぶっ、あたしはこれでも大卒なのよ! 資料読んでないの⁉︎」
冬月「口のききかたに……」
ユイ「いいんです、先生」スッ
アスカ「……」
ユイ「なにも勉強ばかりが全てじゃないわ。たくさん遊び、友達を作り、恋をしなさい。必要な経験よ」
アスカ「それも命令?」
ユイ「斜めに構えないで、あなたの母親の古い友人として言っているだけ。おばさんのお節介ね」
アスカ「公私混同してるんじゃないの? ママの話題はだされたくない」プイ
ユイ「……そっちの子は、綾波レイね?」
レイ「はい」
ユイ「身体の調子はどう?」
レイ「赤木博士に診てもらっています。問題ありません」
ユイ「そう。二人ともよく聞いて、私は前司令の妻であり、サードチルドレンの母親でもあります」
アスカ「……」
ユイ「しかし、職務に関して血縁は一切関係はありません。エヴァパイロットとしての義務を果たしなさい」
アスカ「ふん、そうは言ってもシンジを特別扱いするんじゃ?」
ユイ「立場は理解しています。ナナヒカリ扱いはしないと約束しましょう」
アスカ「……」
ユイ「口約束だけでは信用できない? なら、こうしましょう。副司令、セカンドチルドレンのシンクロ率は?」
冬月「50前半だ」
ユイ「……70にまで高めることができれば、私の権限で希望をひとつ叶えてあげます」
アスカ「もので釣ろうって魂胆?」
ユイ「私としても良い成績を望んでいるし、あなたにとっても悪い話ではないはずよ。なにもないよりは」
アスカ「……いらない。私はプライドを持ってエヴァに乗ってるのよ、良い成績を残し、エースパイロットでいたい。それがなによりの褒美だわ」
ユイ「誰に褒められたいの?」
アスカ「……」ピクッ
ユイ「あなたの母親はもういないのよ」
アスカ「やめて、聞きたくない」
ユイ「……いいわ。もし、希望を思いついた時にほしくなったら言ってちょうだいね。ただし、好調を維持しているのが条件。台風と同じで最大瞬間風速だけ高めても意味はないからそのつもりで」
冬月「ユイ君、そろそろ」
ユイ「ええ。二人とも、下がっていいわ」
アスカ&レイ「……了解」
冬月「じゃじゃ馬め、可愛げのないやつだ」
ユイ「ふふ、あの年頃の子は思春期が重なっています。色々、繊細なんですよ」
冬月「レイはともかくとして、セカンドチルドレンの資料は事前に把握してあるのだろう?」
ユイ「ここに」パサ
冬月「では、なぜトラウマをつつくようなマネを?」
ユイ「赤木博士がまとめてくれた書類は簡潔明瞭、幼少期にあった母親の自殺。その目撃が、その後の人格形成に強い影響を及ぼしたと記載されています」
冬月「ああ」
ユイ「精神の脆さと危うい均衡のバランス、どれほどの拒絶を見せるのか、その確認をしたかったんです」
冬月「それで、ユイ君はどう見る?」
ユイ「想像以上の嫌がり方ですね……」
冬月「ふむ」
ユイ「あの子の大人への強い憧れは、幼い自分に対する嫌悪感の裏返しでもあります。最初はそれだけだったでしょう、しかし、いつしか嫌悪感は強迫観念へと変わり自身を追いつめはじめます」
冬月「では、それがエースパイロットに誇りという部分かね」
ユイ「成績は良いにこしたことはないですけど、エヴァの場合は違いますもの。A10神経で接続している以上、生身の人間では波がある。でも、あの子は不調な自分を許せない。なぜならば……」
冬月「今は亡き母親の影を追い求めているからか」
ユイ「……恐ろしいのでしょう、自分が必要とされなくなるのが。母親亡き後、残ったのは努力と虚栄心という拠り所。パイロット候補に選出された時、母親は喜んだそうですわ」
冬月「だが、パイロットに選ばれたからこそ、母親を死に追いやってしまった。コアにいるからな」
ユイ「キョウコがおかしくなってしまったのにも理由があります。どちらにせよ、あの子の運命です」
冬月「いっそ、母親がコアにいると打ち明けてしまったらどうだ?」
ユイ「面白い考えです。弐号機の覚醒、そして精神の安定化につながるでしょう。ですが、懸念がないわけでもありません」
冬月「なんだ?」
ユイ「先ほども申しあげましたが、エヴァはA10神経、つまり多幸感がシンクロの鍵です。数値を高めるには深く深く、一体感を求めコアに近づかなければなりません」
冬月「潜りすぎるのか?」
ユイ「歯止めがきかなくなれば、取り込まれるのみ。つまり、数値が高くなるにつれてその危険深度に近づいていくのです」
冬月「諸刃の刃か」
ユイ「L.C.Lには麻薬に似た成分が入っています。あくまでも補助的にですが、いずれ身体に害をなすことも」
冬月「……わかった、判断はユイ君次第だ。候補はあやつにするのか?」
ユイ「いえ、その点はまだ検討中です。私がほしいのはエースパイロットではない、英雄はいりません。ふさわしい伴侶です」
冬月「息子はどうしてるんだ?」
ユイ「そろそろ目を覚ましていてもおかしくないのですが……寝坊してるのかしら」
【シンジ宅 夢の中】
ゲンドウ「シンジ、起きろ」
シンジ「と、父さん⁉︎ ぼ、僕の身体、十三年前の時と同じ、子供の頃に戻ってる……はっ⁉︎ 待ってよ! どこに行くの⁉︎」
ゲンドウ「お別れだ」
シンジ「なんでだよ! 僕たち、ようやく、ようやく話はじめたところだったじゃないか! 僕がちゃんとできるか見なきゃいけないんじゃないの⁉︎」
ゲンドウ「すまなかったな」
シンジ「嫌だよ! 僕は父さんに褒められたかったんだ! こんなの、はやすぎるよっ!」
ゲンドウ「俺に縋るな、後ろを振り返るのはいつでもできる。今は前に進め」
シンジ「消えないで! お願いだよ! 僕は父さんがいなきゃ目的がまたわからなくなっちゃうんだ! だから、お願い!」
ゲンドウ「ふ、こんな嫌われ者の父親でもか」
シンジ「そんなの関係ないよ! 僕にとっては父さんなんだ!!」
ゲンドウ「その情熱を、まわりに向けろ。いなくなってしまった喪失感に耐えきれず、勘違いしているだけだ」
シンジ「と、父さん……」ポロポロ
ゲンドウ「十三年前も、蝉が鳴いていたな」
シンジ「どうしてだよ」
ゲンドウ「顔を上げろ。前を向け、最後に俺はお前に賭けた。どういう結果になってもいい。後悔はするなよ」
シンジ「……ぐす、父さんは、後悔してないの?」
ゲンドウ「していないというとウソになるが、信じた道を突き進んできたこと自体に間違いはないと今でも思っている。人は迷いながらも正しいと思う道を選ぶしかないのだ」
シンジ「僕には、難しくてわからないよ」
ゲンドウ「いずれわかる時がくる。いや、受け入れられる時がな」
シンジ「大人って、なんでもわかるんだね」
ゲンドウ「目の前だけに捉われすぎるな。わかったな」
シンジ「うん……」
ゲンドウ「さぁ、もう起きろ」
【シンジ宅】
シンジ「父さんっ!」ガバッ
ミーンミンミンミンミーン……
シンジ「……蝉の鳴き声、ここは、アパート? そうか、あの後、僕は気絶して……」
ゲンドウ『ユイ、シンジを頼む』パァンッ
シンジ「うっ」バタバタ
シンジ「げぇっ……うぇぇ……」ビチャビチャ
カヲル「……大丈夫かい?」
シンジ「はぁ、はぁ……き、きみは……うぇぇっ!」
カヲル「胃の中にあるものは全て吐き出すといい。とてもショックな光景だっただろう?」
シンジ「ふーっ、ふーっ」
カヲル「そんなに死にそうな顔をしないで。やはり、純粋なんだね、キミは」
シンジ「う、うぷっ」
カヲル「吐けるものがなくなったようだ。胃液しかでなくなってるね」
シンジ「……はぁ、はぁ……」
カヲル「水でうがいをするといい。口の中に匂いが残っているとまた吐き気がせりあげてくるよ」スッ
シンジ「あ、ありがとう……」
カヲル「お安い御用さ。少しは落ち着けそうかい?」
シンジ「……ん……おかげさまで。君は、たしか」
カヲル「カヲルだよ、シンジくん」
シンジ「……カヲルくんは、どうしてここに」
カヲル「お父さんのところに向かったシンジくんのことが心配でね、様子を見にきたところだったんだ」
シンジ「なんで、僕がここに住んでるのが?」
カヲル「ネルフの関係者だから。といっても、僕が関係するのはゼーレだけど」
シンジ「……そっか」
カヲル「ゼーレを知ってる?」
シンジ「知らない。けど、そんなことはどうだっていいんだ。僕がわからないなんてたくさんあるから」
カヲル「急すぎた父親の死。それはシンジくんにとって理解できない現実ばかりだっただろうね」
シンジ「父さんは、なんで死ななくちゃいけなかったんだろう」
カヲル「辛い?」
シンジ「つらいよ。僕は、父さんのことがこわかったんだ。向き合うにもどうしたらいいか、わからなくて。だけど、かまってほしかった」
カヲル「世間的に良い父親ではなかったようだけど、シンジくんは父親を追い求めていたんだね」
シンジ「父さんは、不器用なだけだったんだ。いなくなってしまうと、もう会えないとわかると、もっと他になにかできたんじゃないかって思う」
カヲル「……ボクは、君に会うために生まれてきたのかもしれない」
【ネルフ本部 エスカレーター】
アスカ「嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ、嫌なやつ!」ズンズン
レイ「……」
アスカ「あれのどこがとっつきやすい感じだってのよ⁉︎ いちいち癪にさわる言い方しちゃってさ! ねぇ、そう思わな……」
レイ「……なに?」
アスカ「……あんたに言ったところで無駄よね……」
レイ「……」
アスカ「はぁ、司令が変わるのはいいんだけどさぁ、なんでこうめんどくさいんだろ。シンジって恵まれてるわよね」
レイ「碇くんが?」
アスカ「だってそうでしょ。前の司令は性格に難ありだったけど、父親だし。次の司令も嫌なやつだけど、母親だし」
レイ「家庭事情は、一見だけじゃわからないわ」
アスカ「両親が健在だってだけで贅沢よ。嫌な思いをするとしても、親がいるからできる……私のママは、もういないのに」
レイ「……私は、碇くんはかわいそうだと思う」
アスカ「はっ、人形のあんたがどういう理由があってそう言うのよ」
レイ「碇くんは、生き方を強いられているから。私と同じ」
アスカ「シンジが?」
レイ「ええ。選択肢をあたえられているようで、実際は誘導され、ひとつしか選ばせてもらえていない」
アスカ「……なんの話?」
レイ「流れの話」
アスカ「わっけわかんない。それって神の選択肢みたいね」
レイ「神?」
アスカ「あー、選択肢をあたえられてるようで、ひとつしか選ばせてもらえてないってやつ。神様はね、いつもそうなのよ」
レイ「……?」
アスカ「汝、主を愛せ。これが根底にあるの。だからどの選択肢を選んでも、神様は尊いになってしまうのよ」
レイ「……そう」
アスカ「ま、シンジが迫られてる選択肢なんて夕飯の献立ぐらいの話ね」
【ネルフ本部 第一開発部技術室】
マヤ「よいしょっと……」パタン
リツコ「マヤ、お疲れ様」
マヤ「あ、先輩。めずらしいですね、ラボにいかないでここに寄るなんて」
リツコ「様子を見にね」
マヤ「嬉しいです。それに、少し安心しました」
リツコ「安心?」
マヤ「なんだか、最近の先輩を見てると張りつめている雰囲気を感じたので」
リツコ「……」
マヤ「でも、大丈夫みたいですね、私の取り越し苦労だったのかな」
リツコ「誰にでもそういう波はあるものよ。マヤでも私生活に限らず、仕事でストレスがたまるのってあるでしょ」
マヤ「はい、そう、ですね」
リツコ「……以前話した、シンジくんのアルバイトの件、いいかしら」
マヤ「あ、その件ですか……」
リツコ「命令ならば引き受けると言ったわね」
マヤ「はい……たしかに、言いましたが」
リツコ「納得はできないでしょうけど、まずはお試し期間だけでもいいから受け入れてもらえない?」
マヤ「……はい」
リツコ「なにかあれば報告して。できるだけ対応できるようにさせてもらう」
マヤ「あの、いつからなんでしょうか?」
リツコ「質問に質問で返すけど、なぜ?」
マヤ「男の子に部屋を見られるので。ちょっと片付けをしておこうかなと……」
リツコ「シンジくんの仕事を奪うつもり?」
マヤ「いえ、そんなつもりは」
リツコ「ある程度散らかしておきなさい」
マヤ「あぁ、はい……了解」
リツコ「司令から指示があったら伝える。それまではいつも通りで」
マヤ「はい、わかりました。あの、先輩」
リツコ「なに?」
マヤ「シンジくんって、私物、漁ったりしませんよね……?」
リツコ「……ふぅ」
【第三新東京市内 教会】
神父「あのような子にこそ、手を差し伸べなければ」
修道女「ですが、なんだか、気味が悪くって。私、こわいんです」
神父「はぁ……どうしろと言うんです」
修道女「ご存知のはずです。あの子の赤い瞳はなに吉凶を孕んでいます」
神父「私は、まだ諦めたくはありません」
修道女「先延ばししているだけでは?」
神父「例えあの子が誰の子でも、私たちは……」
カヲル「……ただいま」
修道女「ひっ」
神父「おかえり。遅かったじゃないか」
カヲル「友達を連れてきたんです。上がらせてもいいですか?」
神父「友達? 君が?」
シンジ「……」こそっ
修道女「あら」
神父「そうだったか……何もない寂れた教会だが、ゆっくりしていってくれ」
シンジ「……はい」
カヲル「ありがとうございます、神父さま」
神父「私たちは失礼するよ。さ、早く君もこちらに来なさい」
修道女「は、はい」
シンジ「さっきの人たち、なんだか、よそよそしかったね」
カヲル「……」
シンジ「カヲルくんは、ここにすんでるの?」
カヲル「そうだよ。僕はここの屋根裏部屋を使わせてもらってる」
シンジ「そっか。大変、みたいだね」
カヲル「そうでもない。大変なのはあのヒト達の方さ」
シンジ「そうなの?」
カヲル「ヒトは理解できないものを恐れるからね。ボクという超常的な存在を受け入れようとすればするほど、恐ろしいんだよ」
シンジ「え……?」
カヲル「シンジくん、あれを見てごらん」
シンジ「あれって……」
カヲル「そう、十字架に磔にされたままの聖人。ヒトは生まれながらにして罪を背負ってしまう」
シンジ「……」
カヲル「死によってでしか罪を浄化できないんだ。生き続ける限り罪を犯してしまうからね」
シンジ「救いだって言いたいの?」
カヲル「……そう言ってるのはボクじゃない。死という概念から逃れたいヒト達さ」
カヲル「シンジくんは父親の死に悲しいという感情を持った」
シンジ「……うん」
カヲル「だけど、ヒトはいつか死ぬだろう?」
シンジ「そ、そうだけど」
カヲル「ほしかったのかい? 寂しい時、反芻できる思い出が」
シンジ「誰だって、突然の不幸には悲しむよ」
カヲル「どうやって乗り越えるの? 加持リョウジや母親に対してどう接する?」
シンジ「そ、それは」
カヲル「シンジくんはまだ、割り切れていない。だから、ボクについてきたんだろう。大人達に対する不信感が強くて」
シンジ「……」
カヲル「思い出がほしかったと素直になればいいのに、自分自身が、純粋に悲しい気持ちだけではいられなくなるからだろう?」
シンジ「……違う」
カヲル「寂しさを埋める為、父親を利用しようとしていた。縋り、泣きつきたかった自分を認められないんだ」
シンジ「違うっ!」
カヲル「手をかして」スッ
シンジ「……な、なに……?」
カヲル「ふぅー……心臓の鼓動が、わかるかい?」
シンジ「う、うん」
カヲル「心の壁は見えないものだ。殻に閉じこもるか、勇気をもって開くか。シンジくん次第だよ」
シンジ「……わからないんだ。誰を信じたらいいのか」
カヲル「こわいんだね」
シンジ「そう、なのかな」
カヲル「シンジくんの手にあるアダム。そしてボクはいずれひとつになれなければならない」
シンジ「ひとつに?」
カヲル「生と死は等価値なんだ。ボクにとってはね」
シンジ「カヲルくん、キミがなにを言ってるかわからないよ……」
カヲル「お願いだよ。シンジくん、いつかキミの手で、ボクを殺してくれ」
シンジ「や、やめてよ!」バッ
カヲル「ボクはね、いずれ滅ばなければならない運命にある。そうしなければ、人類が滅んでしまうんだ」
シンジ「……もうたくさんだ」
カヲル「救いは誰しもに訪れる。シンジくんに会えた、それがボクにとっての救いであるように」
シンジ「みんな意味がわからないよっ! なんで、なんで僕にばっかり押しつけるんだよ……押しつけないでよ……」
カヲル「……」
シンジ「誰か、誰か、優しくしてよ……」
カヲル「シンジくん」スッ
シンジ「もういいよ!」バチッ
カヲル「……行っちゃったか」
ピリリリリ ピッ
カヲル「はい」スッ
ユイ「ファーストインプレッションは失敗したみたいね」
カヲル「……」
ユイ「監視がついてるのを忘れてない? 一部始終はモニタリングさせてもらってたわ」
カヲル「すみません」
ユイ「あなたはシンジの為に存在するのよ。あなたもそれが身に染みてわかったはず」
カヲル「はい。ボクは彼の為にいます」
ユイ「アダム本体に対する帰省本能は抗えるものではない。わかっていると思うけど、必ず、シンジに殺されなさい」
カヲル「わかっています。どちらにしろボクは死ぬ。ゼーレかシンジくんならば彼の手にかかって死にたい」
ユイ「良い返答です」
カヲル「次はなにを?」
ユイ「まだ嫌われたわけではないわ。電話を切ってすぐに追いかけなさい」
カヲル「わかりました」
ユイ「タブリス。ヒトの心を学ぶと同時に、あなたにも救いがあると願っています」
カヲル「……」ピッ
カヲル「勝手だね。シンジくんの気持ちが少しわかった気がするよ」
あら、帰巣本能のミス
マイペースで書いてるので大丈夫すよ、ちゃんと完結はさせます
ちなみ今日は書かないっす眠いんで
【ネルフ本部 情報二課】
シゲル「ふんふんふ~ん」
マコト「なぁ」
シゲル「ん?」
マコト「やっぱり、おかしい」
シゲル「なにが?」
マコト「新司令だよ。葛城さんもひっかかるようなこと言ってたから調べてみたんだ」
シゲル「お暇なこって」
マコト「……冷やかすな。経歴については特に問題はない。これまでどこにいたのか、その点について調べていると情報規制がされてた」
シゲル「あぁん? プライベートを詮索するのはよくないって教わらなかったのか?」
マコト「それでもだ。変じゃないか? どうして隠すんだ?」
シゲル「さぁて、教える必要がないからじゃね?」
マコト「アクセスに必要な権限は特Sクラスだ。つまり、重要機密扱いになってるんだそ」
シゲル「そうゆうのはさ、知りたきゃクラックするしかない。だが、やめといた方がいいぜぇ?」
マコト「どうして?」
シゲル「もし、本当に隠したかったなにかがあった場合、どうするんだよ」
マコト「どうするって……」
シゲル「秘密を知るには相応の覚悟が必要ってこった。関係のない事案には無関心が一番ってね」
マコト「気にならないのか?」
シゲル「ぜぇ~んぜん。司令としての能力があり給料さえ払ってもらえれば、ネルフは最高」
マコト「俺たちは人類を守る仕事をしてるんだぞ!」
シゲル「野次馬根性と混ぜるなよ。俺だって仕事にプライドがないわけじゃない。こう見えて、プロだからな」
マコト「……」
シゲル「司令の能力があればって言ってるだろ? 俺たちの上に立つんだから、リーダーシップが重要……そうだろ?」
マコト「だから、怪しい点には目を瞑るのか?」
シゲル「お上の考えなんて現場の俺たちにはわからないさ、ほら、余計なこと考えるヒマあるなら仕事しろよお前も。愛しの葛城さんのたまってる書類」
マコト「……はぁ、わかったよ」
【第三新東京市 ビジネスホテル】
加持「お久しぶりです」
国防大臣「新司令はどうなっている?」
加持「突然の連絡になってしまい申し訳ありません。なにしろ電撃的に着任されたようで」
国防大臣「碇、ユイか」
加持「ご存知の通り、戸籍上は前司令である碇ゲンドウ氏の妻です」
国防大臣「党の幹事長や総理も極めて驚かれていたよ。ゼーレから一方的な通知、いや、脅迫だったからな」
加持「心労がかさんでいるようで」
国防大臣「胃が痛いよ……裏があるのもわかりきっているからな。まったく、碇という一族はなんなのだ。両夫妻、そしてパイロットに至るまで、身内固めではないか」
加持「調べますか?」
国防大臣「あぁ。しかし、キミだけでは心許ない」
加持「やれやれ、窓際に追いつめられるとは」
国防大臣「そうは言ってない。キミの働きぶりには感心させられている。だが、ひとりよりもふたりの方が動きやすいと思わんかね?」
加持「どうせ決定してるんでしょ。組む相手のデータを貰えますか」
国防大臣「……」スッ
加持「……」ペラ
国防大臣「彼女には、パイロットの監視を行ってもらう。戦略自衛隊からの派遣だ」
加持「こりゃあ、まいったな、中学生ですか。腕は信用できます?」
国防大臣「ひよっこと聞いているが、なに、相手も素人同然だ。問題はなかろう」
加持「……霧島、マナね」
国防大臣「保険はかけてある。これでキミは、これまで以上に自由に動けるはずだ。期待しているよ」
【第三新東京市 雑居ビル前】
シンジ「はぁ、雨ふってきた。濡れちゃうな。このままじゃ……はは、どうでもいいや」
猫「にゃあ~ん」
シンジ「野良猫か……」
猫「にゃ~」すりすり
シンジ「……」なでなで
猫「ごろごろ」
シンジ「ごめんよ、今はあげられるものがなにもないんだ」
猫「んにゃあ~ん」
シンジ「僕は……。なにやってるんだろう」なでなで
「あの……」
シンジ「……?」
「その、よかったら、牛乳ならありますけど」
シンジ「あ、猫にあげたいんですか?」
「ごめんなさい。いつもこの時間になると餌をあげてるんです」
シンジ「すいません。邪魔しちゃいましたね」
「いいえ、そんな。私が勝手にあげているだけですから」コト
猫「にゃあ」ぺろぺろ
シンジ「……よかったね」
「あの、濡れますよ」
シンジ「いいんです。僕は別に」
「風邪ひきます。傘、狭いですけど、よかったら」
シンジ「悪いですよ。雨宿りできるところに行きますから」
「あ、ふふっ。そうですね。ここから移動したらいいんだ。やだ、私ったら」
シンジ「はは」
「制服、第壱中学校ですか?」
シンジ「はい、そうですけど」
「そうなんだ。私、今度そこに転校するんです」
シンジ「えっ、そうなんですか? てことは、歳が近いのかな」
「14歳です」
シンジ「僕と同い歳だ。偶然ですね」
「ほんと。凄い偶然……はやく移動しないと」
シンジ「ふぅ……雨、ひどくならないといいですね」
「ええ。本が濡れたら困るし」
シンジ「読書が好きなんですか」
「あっ、その、ちょっとだけですけど……」
猫「にゃあ~」すりすり
「……もういらないの? お腹すいてなかったのかな」
シンジ「優しいんですね。餌あげるなんて」
「最初は気まぐれだったんですけど。いつのまにか日課になってて」
シンジ「……」なでなで
「あの、私、そろそろ行かないと。あんまり遅くなるといけないから」
シンジ「どうぞ。あ、そうだ、名前聞いてもいいですか」
「えっ?」
シンジ「あっ、いや、学校で会うかもしれないから」
「あ……そうですね。私、山岸マユミっていいます」
シンジ「僕は、碇シンジです」
マユミ「碇、くんですか」
シンジ「はい」
マユミ「わかりました。もしまた会ったら。それじゃ」タタタッ
カヲル「……行っちゃったね」
シンジ「わぁっ⁉︎」バッ
カヲル「どうしたの?」
シンジ「か、カヲルくん⁉︎ いつからいたの⁉︎」
カヲル「シンジくんがうなだれてから。やはり、元気がないときは異性との触れ合いが効果的なんだね」
シンジ「そ、そんなんじゃないよ!」
カヲル「そうかい? 同じクラスになれるといいね」
シンジ「……追いかけてきたの?」
カヲル「(綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー、鈴原サクラ、霧島マナ、山岸マユミ、そしてボクを含めて運命を仕組まれたチルドレンがついに集う)」
シンジ「……カヲルくん、どうしたの?」
カヲル「(ユイ博士、あなたはリリンの王としてシンジくんに裁定させるつもりなのか)」
シンジ「あの……」
カヲル「嫌われたくなかったからだよ。シンジくんに。さっきみたいなことは言わないから、もう戻ろう。それとも、自分の部屋に帰るかい?」
シンジ「どうしようかな」
カヲル「(アダムの分身であるボクにとって、シンジくんは至上たる存在。僕は死すべき運命にある。僕ができるのは……)」
シンジ「今日は、帰るよ」
カヲル「……わかったよ。これ、傘」スッ
シンジ「ありがとう」
カヲル「いいさ。シンジくん」
シンジ「なに?」
カヲル「必ず……。キミを幸せにしてみせるよ」
【ネルフ本部 執務室】
オペレーター「通信終了。サードチルドレンは帰路についたようです」
ユイ「ご苦労さま」
冬月「あの山岸マユミと名乗った娘は何者だ?」
ユイ「嫌ですわ、どうして私に聞くんです?」
冬月「下手な誤魔化しはよしてくれ。どうせまたキミが送りこんだんだろう」
ユイ「ただの一般人です。今は、という前置きが必要ですが」
冬月「やはりか。候補者を一同に集めるつもりなのか?」
ユイ「先生。あの子たちの様子を見るといっても待つだけでは数年かかってしまいます」
冬月「……」
ユイ「恋愛をしろと言われてできるはずないでしょう?」
冬月「なんの話をしている。キミが選定した者をイヴに見立てて補完計画を進めるのではないのか?」
ユイ「候補は用意しますが、最終的に選ぶのはシンジです。できれば、恋をして、人を好きになる喜びを知ってほしい」
冬月「バカな。おままごとをしている時間はないのだぞ」
ユイ「ですから、あの子たちの成長を見守るつもりもありません」
冬月「では、どうしようと言うのだ」
ユイ「私たちは裏方です。舞台の演出を担当しますが、壇上は子供たちにまかせます」
冬月「私には、キミの考えがわからんよ」
ユイ「ふふ、いずれにしろ構成はフィナーレに近づいています。最後こそ、もっとも賑やかに終わるべきでしょう」
このSSなりの収集ていう感じですかね
【厚木基地 戦自】
司令官「今回のターゲットは特務機関ネルフ、そのパイロットであるサードチルドレンだ」
マナ「……」ペラ
司令官「ネルフはこれまで治外法権を理由に、都合の良い振る舞いを行なってきた。我々はいつも犠牲を払って足止めをしているに過ぎない」
マナ「はい」
司令官「本作戦は、ネルフ内部における組織図の明確な調査をするとともに、碇一族と委員会についての癒着を暴く足がかりとなる重要な任務だ」
マナ「……」
司令官「忌々しいが、使徒に有効な兵器は、あのエヴァとかいう玩具なのは事実である。だが、我々には我々の得意とする分野がある。それを政府にアピールする良い機会でもあるのだ。わかるな?」
マナ「はい」
司令官「友人達については、君の働き次第で、優遇を約束しよう。状況は全て整っている。あとは君次第だ」
マナ「もし、有用な情報を引き出せなければ……」
司令官「使えない者を贔屓するわけにもいくまい。そうなったら、どうなるか。想像にまかせよう」
マナ「(私が失敗したら、ムサシとケイタは戦場に戻ることになる。そういう意味なのね……)」
司令官「今回の任務は極秘事項だ。政府の一部高官、及び戦自内部においても知る者は少ない。万一、君の正体が明るみにでても一切関与はしない」
マナ「そ、そんな……」
司令官「君は今、この時点で死ぬ。戦自のデータベースからも全ての記録を抹消する。霧島マナであるのは変わりないが、存在しない人間になるのだ」
マナ「は、はい」
司令官「影となって生きろ。スパイの鉄則だ」
マナ「(碇、シンジ……シンジ、くん)」
司令官「友人達は今は忘れろ。24時間、ターゲットだけを考えろ。そうすれば全てうまくいく」
マナ「……はい」
司令官「対象の資料を持ってさがりたまえ。一字一句全てを暗記するつもりで」
マナ「了解、しました」
- マナ 自室 -
マナ「(ターゲット……情報を集めるべき相手……大丈夫よ、マナ。私はかわいい)」
加持「……鏡を見るのは趣味なのか?」
マナ「わひやぁっ⁉︎」ばっ
加持「失礼。鍵が空いてたんでね、勝手に邪魔させてもらったよ」
マナ「か、かってにって。だ、誰なんですか⁉︎ ここは女子寮ですよ⁉︎」
加持「まぁ落ち着けよ。そこの書類に載ってる相手の関係者と言えばわかるかな?」
マナ「……っ! てことは、あなたも?」
加持「キミとはこれからツーマンセルで監視すると俺は聞いてるが」
マナ「そ、そうなんですか?」
加持「はぁ、まったく。話が通じてないじゃないか」ポリポリ
マナ「あ……す、すみません」
加持「余計な謝罪はしなくていい。これまでに潜入した経験は?」
マナ「あの、ありません」
加持「それでよく引き受けたな」
マナ「私には、やらなくちゃいけない理由があるんです」
加持「そうか。なんだか知らないが大変だな」
マナ「……」
加持「しかし、キミが考えているほど甘くはないかもしれないぞ。任務を達成するのが簡単だとなめてないか」
マナ「そうじゃありません……私は、なんだってやります」
加持「だから、鏡を見ていたのか?」
マナ「そうです」
加持「なるほど。自分を犠牲にするのもいとわないキミの覚悟、たしかに見させてもらった」
マナ「あの、あなたも私とターゲットは同じですか?」
加持「いや、俺は母親さ」
マナ「(そういうこと。なら、私達は親子それぞれを担当するって話ね)」
加持「お互い気持ちよく仕事ができるのを願っているよ」スッ
マナ「はい……。あのお名前は?」
加持「加持リョウジ。ネルフでは特別監査官という役職になっている。ま、詳しくはデータを見てくれ。霧島マナちゃん」
【第三新東京都市第壱中学校 HR前】
トウジ「シンジはまだこんのかっ⁉︎」ドン
ケンスケ「はぁ……。さっきからずっとそればっかりだな。なんでそんなに碇を気にするんだ?」
トウジ「だあっとれ! ワシはのぉ、ワシは、ワシは」
ケンスケ「聞いてもコレだしなぁ」
ヒカリ「……鈴原、ちょっといい?」
トウジ「なんやっ⁉︎ て、いいんちょか」
ヒカリ「碇くん、今日も来ないの?」
トウジ「……」ピクッ
ケンスケ「あちゃ~、委員長。今のトウジに碇の話題は」
トウジ「ワシが知りたいわ!」
アスカ「うっさいわねぇ!」バンッ
ヒカリ「あ、アスカ」
アスカ「朝っぱらからギャーギャーわめいちゃってさぁ。こちとら寝不足なのよ! 機嫌悪いのに騒がないでくれる⁉︎」
ケンスケ「……ほうほう、ドイツ娘は朝に弱い。メモメモ」
アスカ「そこのメガネ、あとで殴る。ヒカリ? 用があるならさっさと済ませなさいよ」
ヒカリ「うーん、でも。あ、アスカは今日碇くんが来るか知らない?」
アスカ「シンジ? さぁ、知らない」
ヒカリ「……困ったな。三者面談のプリント渡したいんだけど。ねぇ、碇くんに渡してもらえない?」
アスカ「めんどくさいからパス。引っ越しちゃったから住所もわからないし」
ヒカリ「鈴原は?」
鈴原「ワシも聞いとらん!」
アスカ「あんたはなんでそんなに機嫌悪いのよ」
鈴原「関係ないやろ。ほっとけ」
アスカ「なんですって?」
鈴原「なんや?」
アスカ「あんたのその偉そうな態度が気に入らない」ビシ
鈴原「人を指差すなや。お前が言うとはのぉ、センセがここにおったら鼻で笑うんとちゃうか」
アスカ「シンジ、シンジ。金魚のフンにでもなってるつもり? 男のくせに気持ち悪い」
鈴原「ええ加減にせぇよ。ワシは妹のヒカリが心配で」
アスカ「妹?」
鈴原「あっ」
ケンスケ「妹って入院してるあの子だろ? なにかあったのか?」
完結はさせますよ
少し忙しかったので停滞してますがマイペースで続けていきます
妹の名前はサクラですね、ヒカリとよく名前を打ち間違えます
見たらトウジも名前の所が鈴原になったりしてますね
寝ぼけながら書いたからグダグダだ
>>54は修正してレスしなおします
【第三新東京都市第壱中学校 HR前】
トウジ「シンジはまだこんのかっ⁉︎」ドン
ケンスケ「はぁ……。さっきからずっとそればっかりだな。なんでそんなに碇を気にするんだ?」
トウジ「だあっとれ! ワシはのぉ、ワシは、ワシは」
ケンスケ「聞いてもコレだしなぁ」
ヒカリ「……鈴原、ちょっといい?」
トウジ「いいんちょか、どないした」
ヒカリ「碇くん、今日も来ないの?」
トウジ「……」ピクッ
ケンスケ「あちゃ~、委員長。今のトウジに碇の話題は」
トウジ「ワシが知りたいわ!」
ヒカリ「ど、怒鳴ることないでしょ⁉︎」
アスカ「うっさいわねぇ!」バンッ
ヒカリ「あ、アスカ」
アスカ「朝っぱらからギャーギャーわめいちゃってさぁ。こちとら寝不足なのよ! 機嫌悪いのに騒がないでくれる⁉︎」
ケンスケ「……ほうほう、ドイツ娘は朝に弱い。メモメモ。いや、もしかしてあの日か?」
アスカ「そこのメガネ、あとで殴る。ヒカリ? 用があるならさっさと済ませなさいよ」
ヒカリ「そうしたいのはやまやまなんだけど。あ、アスカは今日碇くんが来るか知らない?」
アスカ「シンジ? さぁ、知らない」
ヒカリ「……困ったな。三者面談のプリント渡したいの。ねぇ、アスカから碇くんに渡してもらえない?」
アスカ「えぇ~……めんどくさいからパス。引っ越しちゃったから住所もわからないし」
ヒカリ「鈴原は?」
鈴原「ワシも聞いとらん!」
アスカ「あんたはなんでそんなに機嫌悪いのよ」
鈴原「けっ、関係ないやろ。ほっとけ」
アスカ「なんですって?」
トウジ「……」
アスカ「あんたのその偉そうな態度が気に入らない」ビシ
トウジ「人を指差すなや。お前が言うとはのぉ、センセがここにおったら呆れるんとちゃうか」
アスカ「シンジ、シンジ。金魚のフンにでもなってるつもり? 男のくせに気持ち悪い」
トウジ「ええ加減にせぇよ。ワシは妹のサクラが心配で」
アスカ「妹?」
トウジ「あ、いや」
ケンスケ「妹って入院してるあの子だろ? なにかあったのか?」
あら?まだ鈴原になってる所があるw
ごめんもう一回修正します
【第三新東京都市第壱中学校 HR前】
トウジ「シンジはまだこんのかっ⁉︎」ドン
ケンスケ「はぁ……。さっきからずっとそればっかりだな。なんでそんなに碇を気にするんだ?」
トウジ「だあっとれ! ワシはのぉ、ワシは、ワシは」
ケンスケ「聞いてもコレだしなぁ」
ヒカリ「……鈴原、ちょっといい?」
トウジ「いいんちょか、どないした」
ヒカリ「碇くん、今日も来ないの?」
トウジ「……」ピクッ
ケンスケ「あちゃ~、委員長。今のトウジに碇の話題は」
トウジ「ワシが知りたいわ!」
ヒカリ「ど、怒鳴ることないじゃない⁉︎」
アスカ「うっさいわねぇ!」バンッ
ヒカリ「あ、アスカ。おはよう」
アスカ「朝っぱらからギャーギャーわめいちゃってさぁ。こちとら寝不足なのよ! 機嫌悪いのに騒がないでくれる⁉︎」
ケンスケ「……ほうほう、ドイツ娘は朝に弱い。メモメモ。いや、もしかしてあの日か?」
アスカ「そこのメガネ、あとで殴る。ヒカリ? 用があるならさっさと済ませなさいよ」
ヒカリ「そうしたいのはやまやまなんだけど。あ、アスカは今日碇くんが来るか知らない?」
アスカ「シンジ? さぁ、知らない」
ヒカリ「……困ったな。三者面談のプリント渡したいの。ねぇ、アスカから碇くんに渡してもらえない?」
アスカ「えぇ~……めんどくさいからパス。引っ越しちゃったから住所もわからないし」
ヒカリ「鈴原は?」
トウジ「ワシも聞いとらん!」
アスカ「あんたはなんでそんなに機嫌悪いのよ」
トウジ「けっ、関係ないやろ。ほっとけ」
アスカ「なんですって?」
トウジ「……」
アスカ「あんたのその偉そうな態度が気に入らない」ビシ
トウジ「人を指差すなや。お前が言うとはのぉ、センセがここにおったら呆れるんとちゃうか」
アスカ「シンジ、シンジ。金魚のフンにでもなってるつもり? 男のくせに気持ち悪い」
トウジ「ええ加減にせぇよ。ワシは妹のサクラが心配で」
アスカ「妹?」
トウジ「あ、いや」
ケンスケ「妹って入院してるあの子だろ? なにかあったのか?」
見直してるつもりなんすけど一度レスしたら修正きかないのがつらいっす
落ち着いたんで続けます
トウジ「サクラが今日、手術なんや」
ケンスケ「あぁ、やるっていったな。でも、大丈夫そうなんだろ?」
トウジ「医者の先生はそう言うとるが、本人は不安がっとる。いうてもまだ小学生なんや」
ケンスケ「……」
アスカ「その話とシンジに何が関係あるのよ?」
ケンスケ「鈍いなぁ。碇に元気づけてもらいたいんじゃないのか?」
アスカ「はぁ」
ケンスケ「トウジの妹は碇に懐いているみたいだし。そうしてやりたいっていうのが兄としての気持ちってもんだろ」
アスカ「そうなの?」
トウジ「まぁ、当たりや。朝のうちにシンジからなにか声をかけてもらえたら」
アスカ「妹可愛さに必死になってるってわけ。でも、シンジがそこまでする義理はあんの?」
トウジ「ぎ、義理やと?」
アスカ「入院先は手配してるし。費用も負担してる。怪我させたのはそれでチャラでしょ」
トウジ「な、なんつー血も涙もないことを言いよるんやこの女はっ! お前、それでも人間か!」
アスカ「あんたの言い分はさ、シンジの都合を考えてない。妹だけ。そんなあんたが私を非難するつもり?」
トウジ「ぬぐっ、せ、せやけど。別にそんな大層な頼みちゃうやろ! シンジもサクラをかわいがっとる!」
アスカ「はん、感情論ね。理屈ではあんたのワガママでしかない。……ま、シンジがどうするかは自由だけど、まわりに当たり散らすのはやめなさいよ、みっともない」
トウジ「なんやとぉっ⁉︎」ガタ
アスカ「席に行きましょ、ヒカリ」
ヒカリ「う、うん」
ヒカリ「……アスカ、さっきのはひどいんじゃないかな」
アスカ「そう?」
ヒカリ「鈴原も妹さんのことが心配なだけなんだよ」
アスカ「わかってるけど。そうね、ま、気にしなくても平気でしょ」
ヒカリ「うん……寝不足だって言ってたけど、なにか悩み事でもあるの? 機嫌悪いみたいだし」
アスカ「ふぅ、寝不足なわけじゃない。昨日の夜からあの日なのよ」
ヒカリ「あ、もしかして。生理?」
アスカ「……そ。女だからってなんでこんな思いしなくちゃいけないのかしら。子供なんて産むつもりないのに」
ヒカリ「最初は辛いよね。重いの?」
アスカ「なんか、下腹部あたりがずっとチクチクしてる」
ヒカリ「痛み止めならあるよ。いる?」
アスカ「もらう」
ヒカリ「私、いつも持ち歩くようにしてるんだ。アスカもそうしたら?」ゴソゴソ
アスカ「うん、そうした方がいいかも」
ヒカリ「はい」スッ
アスカ「ありがと。お礼といっちゃなんだけど、シンジのプリント渡しておいてあげる」
ヒカリ「え? いいの?」
アスカ「よく考えたらミサトに聞けば住所わかるだろうし、ネルフで会うかもしれないしね」
ヒカリ「よかった。助かる、えへへ」
【ネルフ本部 ラボ】
ミサト「三号機の搬入スケジュールはもう決まった?」
リツコ「司令の承認が降りているから、そう時間はかからないそうよ。三日後には空輸機が米基地を出発するわ」
ミサト「いくらなんでもはやすぎない? そんなに焦ってるの?」
リツコ「一刻もはやく押しつけたいんでしょ。米国の内部を安定させるのが急務であると考えているようね」
ミサト「人員的にこっちも余裕があるわけじゃない。司令はどうお考えなのかしら」
リツコ「エヴァが増えるけれど、零号機は凍結扱いなのよ。恐らく、その点も踏まえてのことじゃないかしら」
ミサト「しかし、裏を返せば実質的な運用はこれまでと同じとも受け取れるわ。戦力の増強と素直に喜べないわね」
リツコ「それは、ミサトの管轄。私にふられても困る」
ミサト「パイロットは?」
リツコ「マルドゥック機関の選定によると、この子みたいね」スッ
ミサト「……渚、カヲル。この子がフォースチルドレン?」
リツコ「ええ。シンジ君たちと同じ年齢」
ミサト「また、子供なのね」
リツコ「仕方ないわ。エヴァに適合する者は我々が選べるものではないから」
ミサト「いつからこっちに来るの?」
リツコ「もうついてるそうよ。司令が直接、管理下に置いている」
ミサト「直接? パイロットにしては破格の待遇ね」
リツコ「それと、もうひとつ。彼についてのデータは、一切公表されない」
ミサト「どういうこと?」
リツコ「私にもわかりかねるわ。司令の権限で決定されたそうよ」
ミサト「……出自不明の少年、か」
【ネルフ本部 執務室】
ユイ「……それで、葛城一尉は怪しんでいた?」
リツコ「不信には思うでしょう。よろしいのですか?」
ユイ「タブリスの情報は偽装するにしても不明な点が多すぎる。いずれ気がつかれるわ、それならばレイと同じ扱いでいいでしょう、夫にとってレイがそうであったように、私にとってのカヲルがそう」
リツコ「扱いを間違えれば危険です」
ユイ「パイロットに必要なのはエヴァに乗れる、その認識のみです。誰でも乗れるわけじゃない、だからこそ活きるの」
リツコ「ですが、司令を完全に受け入れているわけではありません。根底にある疑惑が成長する前に対処するべきかと」
ユイ「葛城一尉になにかできる力はない。夫でもこういうでしょう、ほうっておけ、と」
リツコ「……渚カヲルはご子息と同じクラスでよろしいでしょうか」
ユイ「ええ。ふふ、計画は全てうまくいっている、三号機に仕込みを忘れないでね」
リツコ「……」
ユイ「赤木博士も夫と情を交わした相手。私は承知の上で質問するわ。人類のために、裏切らないと信じていい?」
リツコ「はい、全てを見届ける。私はその為に生きる選択肢を選びました」
ユイ「MAGIの管轄はこれまで通り、あなたに一任します。ナオコ博士の面倒をよろくし頼むわね」
リツコ「コンピューターですが、三つの脳からなる思考制御は女であり、母さんそのものです。私が最後まで調整をします」
ピリリリリ
ユイ「……」ピッ
オペレーター「加持特別監査員が面会を希望されています。定例ブリーフィング中だとお伝えしたのですが、緊急の用件だと伝えろと」
ユイ「そう。なにか動きがあったのね。通して」
オペレーター「了解」
加持「よっ、リッちゃん。持ち直したようでなによりだ」
リツコ「その態度は死ぬまで変わらないのかしら」
加持「こういう性分なんでね。これも俺の魅力のひとつさ」
ユイ「緊急の用件とは?」
加持「戦自からネズミが一匹送りこまれます。かわいいもんですが」パサ
ユイ「……霧島、マナ。女の子?」
加持「司令就任について、相当な不信感を持っているようっすね。つつけるところはついておきたい、そういう腹づもりもありますよ。いかがなさいます?」
ユイ「なにも」
加持「では、これまで通り、泳がせておくということで」
ユイ「むしろ、この子は今の状況を動かす良いカンフル剤になりえるかもしれない」
加持「そうですか、俺はマナちゃんもあなたが仕組んだのかと思ってましたがね」
ユイ「買い被りすぎよ。私は全てを見通せるわけではない。知っていることだけ」
リツコ「この子もシンジくんと同じクラスに?」
加持「あぁ、監視が目的だからな。ただ、俺たちネルフ側からではない、戦時と政府が手をまわして編入させる形になるが」
ユイ「それと、もう一人、この子もシンジのクラスに」
リツコ「山岸マユミ? この子は……?」
ユイ「ただの一般人よ」
加持「信じられませんね。なにか裏があるんでしょ?」
ユイ「ふふ、なにもない、今はね」
加持「……」
ユイ「全てを、シンジの為にやるのよ。あなた達もそれを忘れないでちょうだい。あの子が人類の未来を左右する」
【第壱中学校 放課後】
ヒカリ「結局、今日も碇君こなかったね。なにかあったわけじゃないんでしょ?」
アスカ「なんであたしに聞くのよ」
トウジ「そら、なんて言うたかて、お前らは夫婦みたいなもんやからなぁ」
アスカ「……あんた達三バカの中の一人と夫婦だなんて鳥肌モノね」
ケンスケ「うしし。妹さんの手術うまくいったんだってさぁ。それからはもう、この様子」
トウジ「まぁ、シンジならなぁ~んも心配いらへん! さ、ワシはサクラの様子を見に行かへんとあかんから、またなっ!」
ケンスケ「お、おい、まてよ、トウジ! それじゃあな!」
アスカ「はぁ、どっと疲れるわ」
ヒカリ「妹さん、本当に心配だったのね」
アスカ「じゃなきゃあそこまで必死にならないわよ」
ヒカリ「いいなぁ」
アスカ「ヒカリ……?」
ヒカリ「あ、ううん。なんでもない。そうだ、碇くんのプリント、渡してもいい?」
アスカ「そういえば朝に言ってたわね。わかった、もら……」
レイ「……」スッ
アスカ「……今度はファースト?」
レイ「それ、碇くんのプリント?」
ヒカリ「う、うん、そうだけど……」
レイ「私が渡す」
ヒカリ「え? でも、いいの?」
レイ「かまわないわ」
アスカ「ちょ、ちょ、ちょっと、なんであんたがしゃしゃり出てくんのよ!」
レイ「別に」
アスカ「別にってあんたねぇ、これ私が頼まれたんだけど?」
ヒカリ「あの、アスカ。めんでくさいって」
アスカ「ヒカリは黙ってて!」
ヒカリ「……はい」
アスカ「それでぇ? なんの権利があってあんたが出てくんの?」
レイ「碇くんに用事があるから、ついで」
アスカ「用事? あやしいわね」
レイ「……プリントはこれ?」
ヒカリ「あ……」
アスカ「なんで無視すんのよ! あたしが届けるって言ってんでしょ!」
レイ「あなたが、届けたいの?」
アスカ「な、な、な、なんでそうなるの⁉︎ 私はヒカリに頼まれたから仕方なく!」
レイ「そう。なら、代わりに私がいく」
ヒカリ「あ、あのぉ~、二人で行ったら……」
アスカ「ヒィカァリィ~」
ヒカリ「は、はい」
アスカ「ヒカリは私に頼んだのよねぇ? どうしてもこのあたしに行ってもらいたいわよねぇ?」
ヒカリ「わ、私はどっちでも」
アスカ「あぁん?」
ヒカリ「アスカに頼みました」
アスカ「そうよね。てなわけだから、ファースト。私は仕方なく、シンジにそれを届けないといけないの……あれ?」
ヒカリ「あ、プリントなくなってる」
アスカ「えぇっ⁉︎」
ヒカリ「私たちのやりとりの間に行っちゃったみたい」
アスカ「ば、バカにしてる! ファーストのやつ~っ!」
ヒカリ「どうする? 追いかければまだ間に合うと思うけど」
アスカ「ちっ、もういい! シンジがそんなに心配なら仲良くやってればいいのよ! やってらんないわ!」
ヒカリ「はぁ……アスカも心配だったくせに」
アスカ「なんか言った?」
ヒカリ「……なにも。いつまでこうしててもしかたないし、私たちも帰ろうか」
アスカ「そうね、帰りにアイス食べてく?」
ヒカリ「買い食いはだめよ」
アスカ「まぁまぁ、いいじゃない。奢るからさ」
ヒカリ「んもぅ」
【ネルフ本部 テラス】
加持「ふぅ」シュボ
リツコ「……」カラン
加持「タバコ、吸わないのか?」
リツコ「禁煙するわ」
加持「リッちゃんが? めずらしいな。明日は雪か?」
リツコ「加持くんもやめたら? 百害あって一利なしよ」
加持「たとえプラセボ効果だとしても息抜きは必要なんでね。やめた理由を聞いても? 長生きしたいからってわけじゃないだろう?」
リツコ「髪を切ろうかと迷った、と言えば察しがつく?」
加持「やはり、碇司令との決別が原因か」
リツコ「わかってて聞くなんて酷い男ね」
加持「俺も不思議に思ってはいたさ。男と女の関係はロジックじゃない。リッちゃんの言葉だぞ」
リツコ「ええ」
加持「立ち直るにしてもはやすぎる。もっとも、碇司令がその程度の男だった、というのならわからないでもないが。リッちゃんにとってはそうじゃなかった。違うか?」
リツコ「愛していた。あの人の為ならどんな辛い命令でも我慢できた」
加持「……」
リツコ「だけどね、加持くん。愛と憎しみは紙一重なのよ。好きの反対は嫌いにはならないように、裏切られた、と感じた時、私の胸に受けた傷の深さがわかる?」
加持「いや」
リツコ「わかる、なんて言えないわよね。時間も私自身もあの人に捧げてきた。私の気持ちがわかるなんて言ったら殺してやるわ」ギリ
加持「まだ、碇司令を恨んでるのか?」
リツコ「恨んでる? 当たり前じゃない。恨んでも恨んでも足りないぐらいよ。でも、心のどこかであの人が恋しいと感じる」
加持「……やりきれないな」
リツコ「今は、妻だった人に良い顔をしてる。なにがしたいのかしらね、私は」
加持「リッちゃんが、リッちゃんの考えを持っていると俺は信じてるよ」
リツコ「ふふ、それが復讐のためだとしても?」
加持「俺も他人をとやかく言える立場じゃない。真実を、そしてこの補完計画を見届ける為に利用しているからな」
リツコ「なぜ、加持くんはそこまで執着するの?」
加持「……それが、俺の、弟たちへの贖罪だからだ」
リツコ「加持くんにとっても復讐なのね」
加持「……」
リツコ「私はまだ死ぬことはできない。新しい目的を見つけたから」
加持「あぁ、それについては俺も同意見さ」
ミサト「おっまたせぇ~」ガバッ
加持「おっと」
リツコ「ミサト、危うくこぼすところだったじゃない」
ミサト「いいじゃない、また注文すれば*」
リツコ「軽いノリはあいかわらずね、ちっとも変わらない」
ミサト「なになにぃ~? お邪魔しちゃった?」
加持「学生の頃を思い出すな。こうして俺と葛城とリッちゃんとよくつるんだもんだ」
ミサト「あんたは勝手に混ざってただけですよーだ」
リツコ「あら? ミサトもまんざらではなかったでしょ? キャンパスで加持くんの……」
ミサト「だぁ~っ! ちょっとちょっとタンマぁ! リツコ! なに言うつもりなのよぉ⁉︎」
加持「気になるな。続きは?」
ミサト「あんたも悪ノリしてんじゃないわよ!」
リツコ「……人はいつまでも子供じゃいられない。でも、たまにはこうして童心にかえってみるのもいい」
加持「そうだな。許されるのが当たり前じゃなくなってしまったが、許される時があるならば、甘えることも重要だ」
ミサト「……なに? 私だけ除け者?」
リツコ「いいえ。この空間は、私達三人、誰か欠けても成立しないわよ」
加持「ほら、葛城も飲め」
ミサト「なぁ~んか誤魔化された気がするけど。ま、いっか。仕事も終わったし! 今日はじゃんじゃん飲むぞーっ!」
【シンジ宅 アパート前】
レイ「いつまでここにいるの?」
レイ(少女)「まだ起きてる」
レイ「部屋の明かりはついてない」
レイ(少女)「いいえ、起きてる。アダムを感じるもの」
レイ「そう」
レイ(少女)「寝るまで待ちましょ。ヒトはなにもしていなくても起きてるだけで疲れるもの。気絶するまで起きていられても、眠らないなんてできない」
レイ「どうやってはいるの?」
レイ(少女)「くすくす、そこの石を使って窓ガラスを割ればいい」
レイ「起きてしまうわ」
レイ(少女)「大丈夫。眠りに落ちてしまえばアダムと通じ合える」
レイ「……」
レイ(少女)「誰も私の中の私に気がついてない。ばあさんに勘づかれる前に、碇くんに私達を知ってもらわなくちゃ」
レイ「……そう」
レイ(少女)「碇くんもあのばあさんにはうんざりしてる。わかるもの」
レイ「ばあさんって誰?」
レイ(少女)「二人。一人目のばあさんは、発狂して私の首を絞めた赤木ナオコ。二人目のばあさんは碇ユイ」
レイ「碇くんは、私達を受け入れてくれる?」
レイ(少女)「うふ、うふふ。それはもうしばらくしたらわかる」
レイ&レイ(少女)「眠るのを待ちましょう」
【シンジ宅】
ジー カチ
シンジ「……」カチ カチ
シンジ「ウォークマンの電池きれちゃったのか。今日は一日中聴いてたからな……」
シンジ「はぁ……」ゴロン
シンジ「なにもする気が起きない。なにもしたくない。父さん、僕はまた逃げてるのかな」ゴソ
ゲンドウ『エヴァに乗れ。でなければ、帰れ』
シンジ「乗るよ。だから、死んだなんて言うのはやめてよ」
ゲンドウ『シンジ、逃げてはいかん』
シンジ「だけど、どうしていいかわからないんだ。誰か、教えてよ。僕は誰に縋ればいいの」
ユイ『シンジ』
シンジ「母さん。本当に僕の母さんなの? なんで父さんを殺したんだよ⁉︎」
ユイ『あなたの為なのよ』
シンジ「うそだうそだうそだうそだっ!! 僕の為なら父さんは生きているべきだっ! そうでしょ⁉︎」
ユイ『いずれわかるわ』
シンジ「母さんっ!」ガバッ
シンジ「あ……あれ、また、幻覚か」
シンジ「はぁ……なんなんだよ、もう。この手もいったい。僕はどうしたら……」ゴロン
ピンポーン
シンジ「チャイム? 時間は……もう夜中の一時……一時? 深夜の一時に誰が来るんだよ」
ピンポーン
シンジ「……」ムクッ
ピンポーンピンポーン
シンジ「しつこいな。不審者? まさかね」
ドンッ!
シンジ「……っ! ドアを叩いてる、のか。これって、もしかして幽霊……」
ドンドンッ!
シンジ「ひっ」
「碇くん」
シンジ「だ、誰?」
「碇くん、中にいれて」
シンジ「この声は、綾波なの?」
レイ「碇くん。ドアを開けて」
シンジ「こ、こんな時間にどうしたの? 用なら明日でも」
ガチャ ガチャガチャッ
レイ「はやく開けて」
シンジ「い、いやだ」
レイ「どうして」
シンジ「こんなの非常識だよ。こんな時間に」
レイ「あなたはもう眠ってしまっている」
シンジ「え……?」
レイ「深層心理の中にいる。碇くんは夢を見ているの」
シンジ「な、なに言ってるんだよ。とにかく今日はもう帰ってよ」
レイ「帰らない」
シンジ「綾波、僕、疲れてるんだ。お願いだから」
レイ「……だって、私はもう、部屋の中にいるもの」
シンジ「えっ」
レイ(少女)「あは、あははははっ、はいれたはいれたぁ!」
とりあえずここまで
定番的要素ですがセリフの元ネタはそうです
とても好きなホラーSSの一つでなのでネタとしていれてみました
――カチ、カチ、カチッ
シンジ「うわぁぁぁっ⁉︎」ガバッ
カチ カチ カチ
シンジ「あ、あれ……綾波?」
シーン
シンジ「……夢、夢だったのか。今、何時だろう」チラ
シンジ「午前三時か。どうしてあんな夢」
ゴト
シンジ「……誰?」
ガタン
シンジ「な、なんだよ。誰かいるの?」
レイ「碇くん」
シンジ「わ、わぁっ⁉︎ あ、ああああ綾波、やっぱり⁉︎ そ、そんな部屋の隅でなにをやって⁉︎」
レイ「ごめんなさい」
シンジ「え?」
レイ「怖がらせるつもりはなかった」
シンジ「あ……」ポカーン
レイ「落ち着いた?」
シンジ「ど、どうやってここに?」
レイ「あそこ」
シンジ「……ま、窓が割れてる⁉︎ 割って入ってきたの⁉︎」
レイ「そう」コクリ
シンジ「な、なに考えてるんだよ⁉︎」
レイ「ごめんなさい」
シンジ「あ、謝られても」
レイ「でも、碇くんは受け入れてくれた」
シンジ「受け入れた?」
レイ「さっきの夢」
シンジ「夢って……なんで、綾波が知ってるんだよ。そんなことありえるはずないのに」
レイ「夢だけど、夢じゃない」
シンジ「……僕になにをしたの」
レイ「わからない。私は何もしてない」
シンジ「だったら、どうして⁉︎」
レイ「なにかしたのは、もう一人の私」
シンジ「もう一人?」
レイ「碇くんは見たわ。私のパーツ」
シンジ「あ……」
レイ「あれも私。これも私。私には代わりがいるもの」
シンジ「もう一人の綾波って」
レイ「――そう、私の中にいる。前の私」
シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ。僕がなにを受け入れたっていうの?」
レイ「夢に入れてくれた」
シンジ「中にって勝手に入ってきたんじゃないか」
レイ(少女)「違うわ。碇くんが受け止めるのを選んでくれた。うふ、うふふっ」
シンジ「わ、笑った? 綾波、どうしたの?」
レイ(少女)「気がつかない? 綾波レイにいるもう一人の私」
シンジ「二重人格?」
レイ(少女)「精神疾患じゃない。本当に二人いるの。一つの肉体の中に」
レイ「そう。私達は二人」
シンジ「そ、そんな……」
レイ(少女)「アダムがきっかけだった。碇くんに移植されてから私は目覚めた」
レイ「声が聞こえだしたのはその頃」
シンジ「あ、綾波っていったいなんなんだよ」
レイ&レイ(少女)「私達は器。その為に作られた」
シンジ「……リツコさんが言ってたのは……」
レイ「碇くん、私達とひとつになりましょう」
レイ(少女)「くすくす、それはとても気持ち良いことなのよ」
シンジ「ひっ」
レイ「アダムとリリス。全てはひとつになるべき」
レイ(少女)「私はその為に生まれた」
シンジ「あ、綾波⁉︎ ちょ、ちょっと!」
――パキーーン
レイ(少女)「……ATフィールド」
シンジ「いっ⁉︎ な、なんだこれ、手が勝手に」ポカーン
レイ「碇くんに拒絶された?」
レイ(少女)「いいえ。拒絶したのはアダム」
シンジ「な、なんで僕の手からATフィールドが⁉︎」
レイ「そう」ホッ
レイ(少女)「アダムはまだ準備ができていない」
レイ「安心、安心してるのね、私」
シンジ「ねぇっ! なんで僕の手からATフィールドが⁉︎」
レイ(少女)「ATフィールドは誰もが持っている心の壁だから。アダムが私たちを拒絶した」
シンジ「わけわかんないよ! わかるように説明してよっ!」バンッ
レイ(少女)「手は生きている。もう一人の碇くん」
シンジ「そ、そんな、生きてる⁉︎」シュルシュル
レイ「包帯を剥がさない方が……」
シンジ「……っ⁉︎ な、なんだよこれ、なんなんだよこれぇっ⁉︎ なんで脈うって」
レイ(少女)「アダム。最初の存在。碇くんに随分馴染んでる。けど、まだ安定してない」
シンジ「く、こんなのって! 母さん、僕になにをしたんだよ!」
レイ「……碇くん」
シンジ「もう出てってよ!!」
レイ(少女)「行きましょう。アダムはまだ時間が必要」
シンジ「はっ、や、やっぱり、ちょっと待って。この手どうしたら元に戻せる⁉︎」
レイ(少女)「知らない」
シンジ「知らないって……それはないんじゃないの……なにしに来たんだよ……」
レイ「ごめんなさい」
シンジ「みんな何を考えてるんだよ。なんで、僕ばっかりこんな目に……」ギロッ
レイ(少女)「いけない。アダムの侵食が進んで凶暴性がでてきてる」
シンジ「綾波も、リツコさんも、加持さんも、母さんもッ!」バンッ
レイ「……」
レイ(少女)「行きましょう」
シンジ「……全部、壊してやる」ボソ
レイ(少女)「はやく。時間がたてば衝動はおさまる」
レイ「……」
シンジ「みんな、みんな、勝手すぎる。自分の都合ばかりで。だったら、僕はそんなのいらない!」
レイ「……また、逃げるの?」
シンジ「……!」
レイ「見たくない現実から、そうやって目を背けるのね」
シンジ「わからないんだよ! 僕はなんのためにいるのか、自分に自信なんてない! 自分の価値を見出せないのに考えられる余裕があると思う⁉︎」
レイ「わかろうとしたの?」
シンジ「わかろうとした! わかろうとしたんだよ! 母さんが言ってることも、リツコさんが言ってることも! 父さんだって……」
レイ「勝手なのはあなたも同じ。自分で精一杯」
シンジ「みんなが僕を振り回すからじゃないか! 僕だって一生懸命やってるんだ!」
レイ「頼りにされてる」
シンジ「なんで僕なんだよ! 僕がこうなりたいっていつお願いしたの⁉︎」
レイ「……」
シンジ「僕には僕のペースがあるんだ! なんでまわりがとやかく言うんだよ! おかしいじゃないか⁉︎」
レイ「……そう」
シンジ「……なんだよ、なんでそんな悲しそうな顔をするんだよ。作り物のくせに。勝手に期待して勝手に失望してるんだろ⁉︎」
レイ「そうじゃない」
シンジ「――違うなら僕を責めればいいだろっ! 僕を責めればっ!!」
レイ(少女)「このままじゃ自我が保てなくなる」
シンジ「う……ぐすっ……みんな、嫌いだよ……みんな」
レイ「碇くん……」
シンジ「さっさと帰ってよ……。僕が望む答えをだせないなら帰ってくれよ!」
【ミサト宅】
ミサト「たっだいま~~んっ!」
ペンペン「クェ~ッ」
ミサト「あらぁ? ペンペンったらこんな時間まで起きてて悪い子ねぇ。あ、お土産あるわよ?」
ペンペン「クエッ! クエックエ~!」
ミサト「ぬっふっふ~……じゃじゃーん! 今日はお刺身! 二軒目にいった所が美味しくてねぇ~ついつい奮発しちゃった! どぉ? 嬉しい?」
ペンペン「クア~!」バタバタ
ミサト「そっかそっか! アスカは……もうさすがに寝ちゃってるか。夜中の三時だもんね……ん?」ペラ
『冷蔵庫に作り置きしたのがはいってる。アスカより』
ミサト「アスカ、料理覚えたのね……。かわいいとこあんじゃない。わざわざ作ってくれてたなんて……」
ペンペン「クェー!」
ミサト「あ、ごみん。酔いもさめてきたし、私、ご飯あんまり食べてないんだ。ペンペン、ちょっち遅いけど一緒に食べましょっか?」
ペンペン「クエッ!」
ミサト「どれどれ、冷蔵庫はーっと……うっ!」
ペンペン「クエ⁉︎」
ミサト「な、な、なに、この、腐ったような強烈な匂いは⁉︎」
ペンペン「クエー!」バタバタ
ミサト「ま、まさか、これは……アスカ、私にこれを食べろって言うの……」ガックシ
【第三新東京都市立第壱中学校 HR前】
トウジ「……なんや、今日もシンジはこぉへんのかいな」
ケンスケ「今日で三日目だろ? さすがにおかしいじゃないか?」
トウジ「せやかて、エヴァのパイロットやしなぁ。ネルフの用事でもあるんとちゃうか?」
ケンスケ「他の二人は来てるのに?」
トウジ「おぉ、まぁ」チラ
アスカ「それでさぁ……」
ヒカリ「えぇ? そうなの?」
ケンスケ「……やっぱり、変だよ。綾波にでも住所を聞いて様子を見に行ってみないか?」
トウジ「綾波、なぁ」
ケンスケ「碇のところに行きたくないのか?」
トウジ「いや、そうゆうわけやあらへんけど。たまにシンジに距離を感じることがあるからのぉ」
ケンスケ「らしくないね。遠慮してるってこと?」
トウジ「忙しかったら悪いやろが。妹も世話になっとるしな」
ケンスケ「このままほおっておく方が冷たいと思うぜ」
トウジ「……たしかに。それもそやな」
ケンスケ「なにもないならそれがいいさ。だけど、他のパイロットも知らないんじゃなにかあるかもしれないだろ?」
トウジ「わかったわかった。ほんで? 綾波はどこや?」
ケンスケ「綾波は……あれ? 綾波も来てないのか?」
トウジ「なんやねん。とりあえず、少し待とか」
【ネルフ本部】
マヤ「ハーモニクス正常値。誤差はありますが、起動指数問題ありません」
リツコ「誤差が0コンマ3増えてるわね。バグかしら」
レイ「……」ゴポゴポ
リツコ「レイ? 気分でも悪い?」
レイ「……いえ」
リツコ「なにも考えないように努めて。もう一度、最初からスタートするわよ」
オペレーター「了解。計測値をリセットします。プラグ深度クリア」
レイ「(碇くん……)」
マヤ「テスト再開、ヒトヒトマルサンまでプロセスを省略します」
レイ「(碇くんは拒絶した?)」
マヤ「……クリア。深度、下げます」
レイ(少女)「(大丈夫。私たちは受け入れられてる)」
レイ「(そう?)」
レイ(少女)「(せめぎ合ってる。碇くんは揺れてる)」
レイ「……違うわ」
リツコ「レイ……? どうしたの?」
レイ「なんでもありません」
リツコ「マヤ、シンクロ率と精神汚染の報告」
マヤ「若干の波がありますが、まだいけます」
レイ「(絆……)」
レイ(少女)「(ヒトとヒトを結ぶものがない私たちには碇くんがそう)」
レイ「(だから、碇くんを……ひとつになりたいのは、私?)」
【ネルフ本部 ラボ】
リツコ「ふぅ……」コト
ミサト「リツコぉ~? いる?」カシャ
リツコ「やっときた」
ミサト「ごめんごめん。来る途中、ちょっち捕まっちゃって。仕事の話でしょ? どうかした?」
リツコ「司令の指示で予備パイロットとしてレイのシンクロを試してみたけど」
ミサト「これが、そのデータ? ……ふむ」
リツコ「良いとは言えはないわね。初号機で起動指数ギリギリ。弐号機にいたっては、起動すらしないわ」
ミサト「三号機の予備、てわけでもないの?」
リツコ「パイロットが一人浮くのよ? 有用な活用法を考えれば、どの機体にも合うという条件が好ましいのではなくて?」
ミサト「たしかに、それはそうね……。乗るのは生身の人間だし、病気や怪我の可能性だってある」
リツコ「その為の予備として、レイを当てがう。その実験」
ミサト「にゃるほど。んで、その結果がコレ。……ふぅ~ん、予備としては使い物にならない、か」
リツコ「望みがあるとすれば、三号機ね」
ミサト「まだ試してないからって言いたいんでしょ? あくまで可能性の話として」
リツコ「ええ。結果、合わなければそういう結論になるわ」
ミサト「……良くない結果を想定すると、パイロットを遊ばせておくのはもったいないわねぇ~、なにか良い考えない?」
リツコ「あら、私にとってはそれほど悪い話でもないわよ?」
ミサト「なんでよ?」
リツコ「空き時間が増えるならば、それだけ実験に参加できる時間が増えるということだもの。こっちとしてはむしろ願ったりかなったりね」
ミサト「ぐっ、作戦司令にもちったぁ協力しなさいよ……!」
リツコ「日頃からお釣りがくるぐらい協力してるつもりだけど?」
ミサト「あぁ……ソウデスネ」
リツコ「昨日、ミサトに伝え忘れていたけど、シンジくんのアルバイトの件。マヤに話したわ」
ミサト「よく話てくれる気になったわね。……それで、なんて?」
リツコ「承諾したわ」
ミサト「ほんとぉ⁉︎ よかったぁ~、大丈夫よ。シンちゃんの料理は抜群なんだからっ!」
リツコ「あなた、昔から超がつく味音痴だったわよね」
ミサト「いやぁ、まぁ、そうなんだけど、昨日は三途の川を渡りかけたのよね……」
リツコ「なんの話? 飲んで帰った後?」
ミサト「あは、あはは。そこは喋るのやめとくわ。……そうね、アスカに伝えてもらおうかしら。学校で会ってるはずだし」
リツコ「ミサトが持ちかけてきた話だから判断はまかせる」
ミサト「おっけー。とりあえず、マヤちゃんにもあったらお礼言っておくわ」
リツコ「……あまり気にしなくていいわよ」
ミサト「へ?」
リツコ「いえ、好きになさい」
ミサト「……はぁ、変なリツコ……」
【第三新東京都市立第壱中学校 昼休み】
トウジ「食事中すまんのぉ、ちょっとええか?」
アスカ「……なによ、あんたたち?」
ヒカリ「……?」
ケンスケ「綾波も今日は来ないみたいだからさぁ」
トウジ「シンジは、まだ引っ越しで忙しいんかいな?」
アスカ「だから、どうしてあたしに聞くのよ」
ケンスケ「まぁまぁ、パイロット同士なんだろ? 僕たちは友達を心配してるんだ」
トウジ「せやせや! いくらなんでも三日も音沙汰ないなんておかしいやろがいっ!」
アスカ「はぁ、私に聞いたって知るわけないでしょ? なんでいちいちシンジの行動を私が把握してなくちゃいけないっての」
ケンスケ「ミサトさんに聞いたらわかるんじゃないか?」
アスカ「私の話聞いてた? シンジの行動なんかこれっぽっちも興味ないんですけどぉ?」
ヒカリ「……アスカ」
アスカ「ん?」
ヒカリ「本当はアスカだって、心配してるんでしょ?」
アスカ「はぁ? なんでぇ?」
ヒカリ「今朝だって、チラッと碇くんの席見てたじゃない」
アスカ「そ、そうだっけ?」
ヒカリ「私、見てたもの。無意識だとしても、気にかけてるんだと思う。アスカは、そんな冷たい人じゃないよ」
アスカ「うっ……」
トウジ「なぁ、頼むわ。ちょっとでもいいからミサトはんに住所聞くなり、様子を聞くなりしたってくれんか?」
ケンスケ「そんなに無理なお願いじゃないだろ?」
アスカ「ちっ、わかった! わかったわよ!」
放送「……2-A、惣流・アスカ・ラングレーさん。保護者の方から連絡が入っています。職員室まで来てください」
アスカ「保護者?」
ヒカリ「……誰?」
アスカ「わかんない。ちょっと職員室行ってくる」
【職員室】
アスカ「アルバイトぉ?」
ミサト「そ♪ シンジくんもこれから一人暮らしだしなにかと物入りでしょ? 生活費が足らなくなるといけないから」
アスカ「司令は許可をだしたの?」
ミサト「もちのろんよ。パイロットに支障をにきたすようじゃ困るから」
アスカ「……だったら、最初から生活費ぐらいだしてやればいいじゃない。ケチくさいわねぇ」
ミサト「まぁ、そこはほら、子育ての方針とかあるゆじゃない?」
アスカ「なにが方針よ。パイロットなんだからそれだけでも優遇されるべきでしょ」
ミサト「やけにつっかかるわねぇ。この間の顔合わせでなにか言われたの?」
アスカ「別に」
ミサト「そう? というわけだから、アスカからシンジくんに伝えてほしいのよ。シンジくん、学校にきてるわよね」
アスカ「なんでどいつもこいつも私でワンクッション挟もうとするわけ……。来てると思うんだったらシンジを呼び出しなさいよ」
ミサト「アスカからのサプラァ~イズの方がシンちゃん喜ぶわよ?」
アスカ「うげっ、気持ち悪い。……シンジなら、きめないわよ」
ミサト「……へ?」
アスカ「だから、来てない」
ミサト「ちょ、ちょっと? なんで?」
アスカ「知らないわよ。え? ミサトも知らないの?」
ミサト「……」
アスカ「……もしもし?」
ミサト「いつから来てないの?」
アスカ「えっと、引っ越してからすぐ。入院してるって話だったじゃない」
ミサト「そうね。でも一日だけじゃなかったの?」
アスカ「あたしが知るわけないでしょ」
ミサト「……胸騒ぎがする」
アスカ「はぁ?」
ミサト「アスカ、今日は電話を切ったらそのまま早退していいから。シンジくんのアパートに行ってみてくれる?」
アスカ「ちょ、ちょって私まだ、昼ごはん」
ミサト「こっちでも司令に確認してから必要があれば折り返しするわ。住所言うわね」
アスカ「人の話を聞きなさいよっ!」
【シンジ宅】
ピンポーン
シンジ「……」ノソ
ピンポーン
シンジ「……」チラ
ピンポーンピンポーン
シンジ「……しつこいな」
ピンポピンポピンピンピンピンポーン
シンジ「なんなんだよもう! 誰だよ連打してるの!」バタバタ
ピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピン
ポーン
シンジ「うるさい! でるよ! でる!」ガチャガチャ
アスカ「……なによ、いるんじゃない」
シンジ「……アスカ?」
アスカ「はぁ、ったく。いるならさっさと出なさいよ。この私様を待たせるなんてなに様のつもり?」
シンジ「そ、そんなに待たせたわけじゃ……」
アスカ「Shut up! あんたが一秒でも待たせるなんて数十光年はやいの。いい? わかった? わかってんの? バカシンジ」
シンジ「……はぁ」
アスカ「風邪でもひいたの? 顔が土色じゃない」
シンジ「いや……」
アスカ「そ、なんでもいいからいれなさいよ。女の子を玄関先に立たせておくつもり?」
シンジ「あぁ、ど、どうぞ」
アスカ「なにこれ、荷解きも全然進んでないの? あんた、なにやってたのよ」
シンジ「あ……」
アスカ「カーテンも閉め切っちゃってさあ。陰気くさい。あけるわよ」シャ
シンジ「う、まぶし」
アスカ「体調が悪くてもお日様は浴びるようにしときなさい。循環サイクルが崩れるから」
シンジ「う、うん」
アスカ「きったな。こんな埃ぽい部屋によく女の子あげられたわねぇ」
シンジ「アスカが勝手にはいってきたんじゃないか」
アスカ「いつ来てもいいように清潔感を保っておけって言ってんのよ。あいかわらずバカね。……窓、割れてるわよ?」
シンジ「いや、その、ちょっと」
アスカ「破片大丈夫なの?」
シンジ「えっと、たぶん。近づかなければ」
アスカ「あんた、私が立ってる場所、見えてないの?」
シンジ「うん、窓際に立っちゃってるねぇ……」
アスカ「刺さってたらどうしてくれんのよっ! もぉ! あんたから家事をとったらなにも残らないんだからしっかりしなさいよぉ!」
シンジ「……とりあえず、そこは危ないからこっちにおいでよ」
アスカ「その布団のところ?」
シンジ「警戒しなくても、そんなに不潔なわけじゃないよ」
アスカ「変な匂いしたら首絞めるわよ」
シンジ「わかったよ。とにかく、そこホウキではくから。それまではこっちで」
シンジ「……」サッサッ
アスカ「……なんで、学校に来なかったの? 熱?」
シンジ「……」サッサッ
アスカ「鈴原たちが心配してたわよ。聞いてる?」
シンジ「うん、聞いてるよ」トントン
アスカ「ちょっと痩せたんじゃない? 倒れてたの?」
シンジ「色々、あったんだ。アスカは、なにも知らないんだね」
アスカ「……?」
シンジ「いいんだ。今はそのほうが安心できるから」
アスカ「よくわからないけど、ミサトには報告しときなさいよ」
シンジ「ありがとう、アスカ。いつも通りでいてくれて」
アスカ「なにが?」
シンジ「わからなくていいんだ。僕がお礼を言う意味をわからないのがいいんだ」
アスカ「び、病院、いく?」
シンジ「いや、そんなんじゃないよ。なんだか、アスカと久しぶりに会った気がする。もっとアスカと話したい」
アスカ「は、はぁ?」
シンジ「アスカは嫌? 僕と話するの」
アスカ「な、なに言いだしてんのよ」
シンジ「自己完結してばかりだったから、話相手がほしいんだ」
アスカ「はぁ、なんだか調子くるっちゃうわ。あたし、お昼途中で抜けてきたからお腹すいた」
シンジ「……?」
アスカ「なんか作れって意味よ。バカシンジ」
シンジ「ペペロンチーノしか作れなかったけど」コト
アスカ「この部屋に必要なのはテーブルね」
シンジ「ダンボールをかわりにすれば……」
アスカ「あんたねぇ、引っ越したばかりだからしょうがないけど、そんなの続けてるようじゃドン引きされるわよ」
シンジ「どっちみち、僕の部屋に女の子なんか来ないよ」
アスカ「……は?」
シンジ「え?」
アスカ「あたしは女の子じゃないって言いたいわけね?」
シンジ「えっ! いや、だって、アスカは、たまたまっ」
アスカ「なにキョドってんのよ。そんなに頻繁に来るわけじゃないけどあんたはスキルがあるでしょうが」カチャ
シンジ「スキルって?」
アスカ「もぐもぐ……こふぇの」
シンジ「これって……料理?」
アスカ「んぐ……そうよ、あんたの作るものはまぁまぁおいしい。それは認めてあげる」
シンジ「それは、どうも」
アスカ「バイト先でもしっかりやんなさいよ」
シンジ「……アルバイト?」
アスカ「ミサトから連絡があった。その為に今日はわざわざきたのよ。もっと駅近なかったの? 駅からバスってさぁ」もぐもぐ
シンジ「ミサトさんが?」
アスカ「オペレーターのマヤ少尉のとこ。あんたはそこで家政婦」
シンジ「……そうなんだ、ミサトさんが……」
アスカ「ミサトも抜けてるところあるけど悪いやつじゃないし、善意でしょ」
シンジ「うん、そうだね」
アスカ「……」もぐもぐ
シンジ「……」
アスカ「……なにか喋りたいんじゃなかったの?」ごくん
シンジ「いや、おいしい?」
アスカ「まぁ……」カチャ
シンジ「そっか」
アスカ「……」もぐもぐ
シンジ「……」
アスカ「見られたままだとすっっごく食べづらい」
シンジ「あぁ、ごめん」
今日は書かないのでネタバレになりますがお答えします
つけいる隙がなく完璧なユイだと、ミサトだけが浮いたままになっちゃうんです
なんで、ユイはミサトを舐めているということになりますねこの時点では
舐めているので傲慢になりがちです
>>68でそのあたりは少しわかるかと思います
今後の続きを読むとミサトの出番を含めてわかるかと思いますよ
アスカ「ふぅ、ごちそうさま」
シンジ「……」
アスカ「……料理を作れるのはいいけど、その辛気臭い顔なんとかしなさいよ」
シンジ「……」
アスカ「喋るなら喋る。喋らないんだったら、わざわざ引き止めないでくれない? 食べた心地しないのよね」
シンジ「……アスカは」
アスカ「はぁ、なに?」
シンジ「大切だと思っている人との別れがきたら、どうする?」
アスカ「……」
シンジ「大切……僕にとって、かけがえのない人と別れなくちゃいけなかったんだ。僕は、その現実を受け入れられなくて」
アスカ「……なんかあったの?」
シンジ「うん、まぁいろいろ。たくさんのことが一度に起こって。いや、僕が知らなかっただけなんだろうけど」
アスカ「要領を得ないわね。なにも死んだわけじゃ」
シンジ「……」ピク
アスカ「……え? 誰か死んだ?」
シンジ「いや、あの、お世話になってた人が」
アスカ「そうなんだ……それってこっちに来る前の?」
シンジ「うん、ごめん。詳しくは話できないんだ、その、アスカに迷惑がかかるかもしれないから」
アスカ「……? あんたは、その人が亡くなったから学校に来なかったの?」
シンジ「納得できないんだ。なぜ死ななくちゃいけなかったのか、いきなりいなくなってしまった。僕は、自分が許せなくて、まわりも許せない。受け入れる為には時間が必要だって頭ではわかってるつもりなんだけど」
アスカ「……」
シンジ「この、胸に、どうしても。どうしても、気持ちが蠢いてしまって」ギュウ
アスカ「……なんで受け入れようとすんの?」
シンジ「え?」
アスカ「死んだ人は帰ってこない。それはどうしようもない。だけど、悲しんだっていいじゃない」
シンジ「……」
アスカ「あんたの心の中で生きていた証拠なのよ。悲しいのは。テレビのニュースで他人が死んで感情がわく?」
シンジ「……」
アスカ「そりゃ、まぁ、惨殺事件とかならかわいそうとか思うかもしれない。だけど、あんたはショックだったんでしょ? いなくなってほしくなかった」
シンジ「……うん」
アスカ「生きてきた人の証は、関わった人の中で生き続ける。私は、ママを忘れてなんかない」
シンジ「アスカのお母さん?」
アスカ「あんたは両親が健在だからわからないだろうけど」
シンジ「……」
アスカ「大切な人ってのに代わりはいないもんなのよ」
シンジ「こわい人で、目標でもあったんだ」
アスカ「……」
シンジ「認められたい、そう思ってた」
アスカ「だったら、簡単ね。その人に恥ずかしくない生き方をする。それだけよ」
シンジ「……」
アスカ「大事な人だと思うんなら、情けない姿を見せないようにしなさい。あんたの心の中では、その人はまだ生きてるんでしょ?」
シンジ「やっぱり、アスカはすごいね」
アスカ「私は、ママが大好きだっただけよ。この世の誰よりも」
シンジ「……乗り越えてきたんじゃないの?」
アスカ「ううん、乗り越えたっていうか……ってぇ、なんであんたにこんな話しなくちゃいけないのよ⁉︎」
シンジ「あ、あはは」
アスカ「ったく、今日は鈴原たちも心配してたし、ついつい引きずられちゃったじゃない!」
【ネルフ本部 執務室】
冬月「まったく、退屈せんな」
ユイ「戦自のバックについているのは、いうまでもなく政府です」
冬月「わかっている。ネルフ職員は組織という建前上納得させられても、外部はどうしようもない」
ユイ「政治にはとかくお金がかかるものですからね」
冬月「ああ。叩けば埃が出てくると踏んでいるのかもしれんな。ゼーレ、委員会の弱みを握られればこれ以上ない優位性がある」
ユイ「……将棋でもさされます?」
冬月「結構だ。キミと指しても面白くない」
ユイ「ふふ、たしかに私では相手になりませんね」
冬月「おごりはいつか、足元をすくわれるやもしれんぞ」
ユイ「承知しています。政府には餌をちらつかせましょう、食いつきやすいものを」
ピリリリリッ
冬月「……」ピッ
オペレーター「失礼いたします。葛城一尉が面会を希望されていますが」
冬月「今は忙しい。後にしたまえ」
オペレーター「しかし、サードチルドレンの件で緊急だと」
冬月「なに……?」
ユイ「通してちょうだい」
冬月「おい、まだ我々の話は……」
ユイ「先生、何事も焦りは禁物です。まずは、葛城一尉です」
ミサト「失礼いたします」
冬月「……」
ユイ「サードチルドレンになにかあったみたいね」
ミサト「三日ほど前になります。同チルドレンが付属病院に入院していたのをご存知でしょうか?」
ユイ「報告は受けているわ」
ミサト「……では、その後の行動については?」
ユイ「学校に行ってない、その件かしら」
冬月「(自ら話を切り出したか。葛城一尉は追求の出鼻を挫かれたな)」
ミサト「ご存知だったのですか?」
ユイ「ええ。逐一監視させているわけではないけど、把握した後、静観しています」
ミサト「パイロット管轄は私の責務では? 連絡して頂かないと困ります」
ユイ「……葛城一尉」
ミサト「はっ」
ユイ「私はまだ、就任して間もない。言い訳になるかもしれないけど、私たちはお互いをよく知るべきではない?」
ミサト「どういう意味でしょうか。発言の真意がわかりかねます」
ユイ「誤解のないよう、お互いにスムーズに取り組める環境を作り上げたいの。もちろん、上下関係は尊重してもらうけど」
ミサト「……司令の発令は遵守いたします。我々は使徒殲滅という任務がありますので」
ユイ「そう……。答えはNOなのね。残念」
ミサト「碇シンジくんについて説明を求めます」
ユイ「……心身ともに疲労していると判断して様子を見ています」
ミサト「私個人としては、そのような状態であるという認識はありませんでしたが……問題でも?」
ユイ「ええ。若いから、悩みも多いのよ」
ミサト「いつ判断されたのでしょうか?」
ユイ「ふふ、まるで尋問ね。副司令」
冬月「気になるのならば報告書にまとめておく」
ミサト「……お手数おかけします」
冬月「……それで? 報告書にはどう記載する」
ユイ「一人暮らしをはじめたばかりで精神が不安定だと」
冬月「そんな言い分が通用する相手かね。疑惑は積もれば確信へと変わっていくぞ。本人に直接ヒアリングをされたらどうする」
ユイ「シンジは言いません、いえ、言えないでしょう」
冬月「ううむ」
ユイ「あの子は、流れを理解していませんが、現場でなにが起こったかは見ています。私があの人を、殺したと思っているでしょう」
冬月「全てがキミのせいだというわけではないがな」
ユイ「ふふ、ありがとうございます。……しかし、その側面もまた、事実なのです。シンジは主人と違う種類の畏怖を私に抱いているでしょう」
冬月「と、いうと」
ユイ「突然現れた母親と名乗る人物が場をとりしきって、絶対的存在であった父親を追い詰めてしまったんですよ? 有り体にいって抱く感情は……」
冬月「恐怖か」
ユイ「はい。もし、自分が話をしてしまえば、無関係な人間が父親と同様に消されるかもしれない。そんな考えが頭をよぎり不安で言い出せなくなってしまうのです」
冬月「(しかし、葛城一尉から歩みよった場合は話が変わるな)」
ユイ「葛城一尉には作戦司令の業務に従事してもらい、今後も蚊帳の外にいてもらいます」
冬月「……承知した。しかし、俺は俺で危惧している点がある。個人の判断で動いてもかまわんかね?」
ユイ「おまかせします」
【ネルフ本部 発令所】
ミサト「心神喪失と心神耗弱にあり、精神の障害等の事由により事の是非善悪を弁識する能力、又はそれに従って行動する能力を失いつつあった……ふぅん、なるほど、舐めてるのね」ペラ
マコト「は?」
ミサト「司令よ。私を、完っ全に舐めてる」
マコト「なにかあったんですか?」
ミサト「う~ん……」コンコン
マコト「葛城さん……?」
ミサト「日向くん、危ない橋、渡ってみる気ない?」ニコ
マコト「……か、勘弁してくださいよ……」
ミサト「男でしょ? たまには命がけのチャレンジしてもバチ当たらないんじゃない?」
マコト「犬死ににならなきゃいいんですけどねぇ。はぁ……。一体なにをするつもりなんですか」
ミサト「シンジくんが入院してたのよ」
マコト「は? 入院?」
ミサト「日向くんはパイロットの健康面まで管理しなくていいから知らなくても不思議ではない。その入院してた事実を私も前司令は知らなかったのが問題」
マコト「それは、ご存知なかったのはおかしいですね」
ミサト「……なにかあるわ。加持特別監査官の行動ログを調べて」
マコト「それって服務規程違反に、クビになりませんか?」
ミサト「まだ大丈夫。あいつの身辺を調べるぐらいなら、バレても私達にお咎めはないはずよ」
マコト「わかりました。いつまで遡ります?」
ミサト「一週間。シンジくんの誘拐事件から加持の足取りを掴んで」
マコト「了解。……はっ、まさか、加持特別監査官と司令に繋がりが?」
ミサト「どうなってるのやら。確認する為に調べるのよ。……前司令はもしかしたら……もしかしたら、ネルフは私達が思っているほど甘い組織じゃないのかもしれないわ」
マコト「……」ゴクリ
ミサト「私はアスカの様子を見にシンジくんのアパートに行ってくる。それじゃ、よろしく頼んだわよ」ポン
【車内 運転中】
ミサト「もしもし、アスカ?」
アスカ「ミサト? どうしたの?」
ミサト「シンジくんの様子はどう?」
アスカ「あぁ……まぁ、へこんでたけど。今は洗い物してる」
ミサト「……そう。私も今からそっちに行くから。それまではアスカも待機してて」
アスカ「かまわないけど。あ、それなら甘いもの買ってきてくれない?」
ミサト「わかったわ。アイスでいい?」
アスカ「いいけど、ハーゲンダッツじゃないと嫌よ」
ミサト「はいはい。シンジくんのも同じの?」
アスカ「ちょっと待って。……シンジィ~~! アイスなにがいい~? ……ミサトが来るって……そう……え? 代わるの? いいけど、はい」
シンジ「もしもし、ミサトさん、ですか?」
ミサト「あら、シンジくん。声にはりがないようだけど、大丈夫?」
シンジ「いえ、僕は別に。それより、どうして突然?」
ミサト「引っ越し祝いまだしてなかったじゃない? パァーッっとやろうかと思ってぇ♪」
シンジ「すみません、今はそんな気分じゃ、わ、わぁっ、アスカ、ちょっと、なにするんだよ⁉︎」
アスカ「うっさいわねぇ! その携帯は私の支給品なの! はやく返しなさいよ!」
ミサト「……」
アスカ「ミサト? 引っ越し祝いするなら出前とるの?」
ミサト「え、えぇ。そうしようかな?」
アスカ「こんなことならさっき食べなきゃよかった。シンジの気分なんかこの際どうでもいいわ」
ミサト「もうご飯済ませちゃった?」
アスカ「ついさっきね。アイスは別腹だからいいけど」
ミサト「なにもすぐにはじめなくてもいいから、ね?」
アスカ「わかった。とりあえず待ってる」
ピッ
ミサト「(シンジくんは以前、加持が病室にきたと言っていた。そして、新司令はシンジくんが入院していたのを把握している……。いつ知ったの? シンジくんが退院した後? いいえ、嘘、欺瞞なのね)」
ミサト「……舐められっぱなしじゃ、終われないわよ」
【シンジ宅】
ピンポーン
アスカ「ミサトもう来たの?」
シンジ「思ったよりはやかったね。……はぁ~い」ガチャ
加持「――こんにちは」
シンジ「……っ!」
アスカ「え⁉︎ 加持さぁんっ!」ダダダ
加持「近くにいたもんでね。副司令から葛城がくると連絡があって寄ったんだ」
アスカ「副司令? そうなの?」
加持「あぁ。俺もあがらせてもらっていいかな?」
シンジ「……」
アスカ「もっちろんよ! 狭い所だけど遠慮しないで」
加持「突然おしかけて悪いな。それじゃ、お邪魔するよ」
アスカ「ねえ、シンジ。クッションぐらいないの?」
シンジ「……うん」
加持「俺は気にしない。アスカもシンジくんは引っ越したばかりだ。少しは気遣えよ」
アスカ「加持さんがそう言うなら……」
加持「葛城は時間かかりそうなのか?」
アスカ「一時間しない内に来るとおもうけど」
加持「なにしに?」
アスカ「引っ越し祝いするとか。でも、私もう食べちゃった。ねぇねぇ、加持さん、このままどこか連れて行ってくれない?」
加持「また今度な」
アスカ「んもー、いつもそうやって誤魔化すんだからぁ」
加持「シンジくんは、少しは落ち着けたか?」
シンジ「……」
加持「例の件に関して言っていないようだが、良い判断だ」
アスカ「……?」
シンジ「余計な話をしていないか見に来たんですか?」
加持「いや? 葛城から俺に用事が出来ただろうと思ってな」
アスカ「なんの話?」
加持「男同士の話だよ。な? シンジくん」ポン
シンジ「……はい」
アスカ「いつのまに仲良くなったの?」
加持「ちょくちょく会ってはいたさ。パイロットはシンジくんだけが唯一の男性だからな」
アスカ「あぁ、そうゆうこと。でも、女性だってたった二人よ? しかももう一人は人形だし」
シンジ「……」ピクッ
加持「人形扱いはちと酷いぞ」
アスカ「だってなにも感情が無さそうなんだもん」
加持「そう感じるのなら仲良くしろだの無理は言わないが、同じパイロット同士だ。いがみ合わないようにな」
アスカ「はぁ~い」
シンジ「ちょっと、外の空気を吸ってきてもいいですか?」
加持「かまわないよ」
【アパート 駐車場】
シンジ「(どうして、加持さんはいつも通りにできるんだろう……リツコさんも、母さんも、そうなんだろうな)」
ブロロロッ キキーッ
シンジ「う、うわぁ⁉︎ けほっ、ごほっ」
ミサト「――おっまたせぇ~! シンちゃぁ~ん! 元気してた?」バタン
シンジ「み、ミサトさん」
ミサト「あらら? 大丈夫?」
シンジ「けほっ、あいかわらず、すごい運転ですね」
ミサト「アイスが溶けちゃったらいけないと思ってかっとばしてきたのよぉ~? それにしてもあっついわね~」
シンジ「夏ですから……。加持さん、来てますよ」
ミサト「なんですって? いつ?」
シンジ「ついさっきです」
ミサト「あいつっ、先回りしたってわけね。いい根性してんじゃないっ……!」
【シンジ宅】
加持「ワンルームにこの人数は無理があるな」
アスカ「だから、片付けとけばよかったのに」ジトー
シンジ「……」
ミサト「……場所、変えましょうか?」
加持「いや、それも手間だ。話を先に済まそう」
ミサト「あんた、なにコソコソ動きまわってるの」
加持「飲みの帰りの話なら――」
ミサト「とぼけてるんじゃないわよ! 私だっておかしいってぐらいわかるんだからね⁉︎」バンッ
アスカ「ミ、ミサト?」
加持「話せば長くなる。いろいろとこっちも事情が立て込んでいてね。黙って引き下がれとは頼むわけにはいかないか?」
ミサト「口を閉じろとでも言うつもり⁉︎ やっぱり、司令とあんたは繋がってるのね⁉︎」
加持「俺だって職員だからな。組織の上に立つ者と従事する者の間柄程度さ」
ミサト「シンジくん⁉︎ どうして入院していたの⁉︎ 本当に、怪我だったの⁉︎」
シンジ「……」
ミサト「どうして黙ってるの⁉︎ 言わなくちゃ、なにも伝わらないことだってあるのよ⁉︎」
加持「……葛城。事情があると言っただろう。シンジくんを問い詰めるな」
ミサト「私だって、聞きたくて聞いてるわけじゃないわよ! あんた、どうして今まで黙ってたの⁉︎ 昨日だって、ううん、言う機会ならいくらでもあったはずよ⁉︎」
加持「……どうやら、童心に戻れた時間は終わったみたいだな」スッ
ミサト「ちょっと、立ち上がってどこに行くつもり⁉︎」グイッ
加持「子供たちの前だ。サシで話そう」
アスカ「な、なにがどうなってるの?」
シンジ「……」
【ミサト 車内】
ミサト「……」
加持「ふぅ、どう話たもんかね」
ミサト「私は……司令とあんたが裏でなにを企んでいてもかまわない。だけどね、使徒を倒すのに命をかけてる。わかってるでしょ⁉︎」
加持「……」
ミサト「その目的の為なら、黙っていてもいいわ。正直に話して。包み隠さず。いつから司令と繋がっていたの?」
加持「知れば、後戻りできなくなるぞ」
ミサト「それほど隠したいなにかがあるってわけね」
加持「俺が言えた義理じゃないが、引き返すなら今だ。副司令にはうまくごまかしておく」
ミサト「……」
加持「使徒を倒す。専念したいのなら、なにも言うな」
ミサト「司令は、私を甘く見てる。能力をひけらかすつもりはないけど、このまま引き下がるのは癪だわ」
加持「全てがユイ司令の計画通りに進んでいるからな。就任というひと山を越えた安堵で気が緩んでしまっているのかもしれない」
ミサト「答えは充分でしょ。……教えて。ネルフは、司令は、一体なにを考えているの? 前司令はアラスカにいるの?」
加持「ちなみに、俺が答えなかった場合は?」
ミサト「証拠を掴んで日本政府に提出させてもらう」
加持「おいおい……、そりゃちょっと待ってくれ」
ミサト「そうはされたくないでしょ?」
加持「やれやれ。脅しをかけようとしている相手がわかって言ってるのか? 心配されるのはこっちじゃい。キミの方だ」
ミサト「つまり、政府でさえ相手にならないと?」
加持「政府のお役人どもを過信しすぎるな。あるのは保身、最後に利がある陣営につくだけだぞ。お前みたいな個人は利用するだけされて簡単に切り捨てられる」
ミサト「……」
加持「なぁ、葛城。悪いことは言わない。今ならまだ間に合うんだ」
https://youtu.be/0iXIj63C99A
ミサト「そう。あんたはまたそうやって私をおいてきぼりにするつもりなのね」
加持「……ラジオか。いい曲じゃないか、これ。……俺からはなんとも言えないな」
ミサト「……いいわ。だったらこっちにも考えがある」
加持「さっきも言ったが脅しはやめとくんだな。どうしてもやるんなら、相手とタイミングを選んでやれ」
ミサト「お願い。ひとつだけ答えて」
加持「……」
ミサト「シンジくんは、どこまで関わってるの?」
加持「……肩までつかってるよ」
ミサト「……っ!」ギュウ
加持「葛城がなにをするにしても、シンジくんはしばらくそっとしておいてやれ。なに、使徒がきたらあの子もきちんとやるさ」
ミサト「約束はしないわ。シンジくんにも」
加持「(ややこしくなってきたな……)」
【シンジ宅】
アスカ「……」ぱく
シンジ「……」
アスカ「アイス、溶けるわよ」
シンジ「……」カサ
アスカ「はぁ……。ミサトも来たと思ったらいきなりなんなの? あんた、なにか知ってるの?」
シンジ「……」
ガチャ
ミサト「アスカ、帰るわよ」
アスカ「えぇ⁉︎ もう⁉︎」
ミサト「ちょっと急な用事がはいっちゃったのよ。シンジくん、引っ越し祝いはまたの機会でもいいかしら?」
シンジ「はい」
アスカ「加持さんは?」
ミサト「……車を降りてすぐにふらふらとどっかに行っちゃったわ」
アスカ「えぇ~~⁉︎」
ミサト「私に文句を言わないでね? ほら、エンジンかけっぱなしにしてあるから、先に車いってなさい」
アスカ「急になんなのよ! もお!」
シンジ「アスカ、行きましたけど……」
ミサト「シンジくん」
シンジ「……はい」
ミサト「あなたが今、なにを抱えていて、なにを喋れないのか私にはわからない。けど、きっと私たちの身を考えて喋らないのよね?」
シンジ「……」
ミサト「ごめんなさい。もっとはやく気がつくべきだった。……気がつかないフリをしていただけだったのかもしれない」
シンジ「……」
ミサト「ネルフが、危険な組織であるという認識が足りなかったのね。でも、それ以上に私は現状のぬるま湯が好きだった。父の復讐ができればいい、そう考えていたわ」
シンジ「……」
ミサト「黒幕は、ユイ司令なのね?」
シンジ「……」
ミサト「……ふぅ。学校はちゃんと行きなさい。殻に閉じこもってばかりいても変わらないわ。気分転換になるわよ」
シンジ「ミサトさん」
ミサト「……」
シンジ「アスカが、待ってますよ」
ミサト「……」ギリッ
シンジ「……」
ミサト「……あんたねぇっ! ちったぁ子供らしいとこ見せたらどうなの⁉︎ そうやってまわりに気をつかってばかりいて!」バンッ
シンジ「……」
ミサト「助けを求めるのだって必要なのよ⁉︎ きちんとまわりを見てる⁉︎ 案じてくれるのが優しさ⁉︎ 自分だけで考えたって答えはでてこないわよ!」
シンジ「……僕も、少しずつでも、前を向かなきゃいけないってわかってます」
ミサト「……」
シンジ「母さんに……父さんにも。僕はあの人たちの息子ですから」
ミサト「……そう」
シンジ「学校には、明日から行きます」
【加持 車内 運転中】
冬月「それで、どうだった?」
加持「やはり、副司令の危惧していた通りの形になりましたね。葛城一尉は少なくとも俺とユイ司令の関係性に目星をつけていたようです」
冬月「……まったく」
加持「彼女なら、おそらく自力でも俺たちが隠しているところまで辿り着きますよ」
冬月「俺は当然として、赤木博士との繋がりを悟られるまでにはどれぐらい時間を稼げそうだ?」
加持「あまり。こういうのは芋づる式でっすからね。ひとつわかると次々と繋がっていきます。葛城はバカじゃない」
冬月「キミの情報に関するアクセスの権限を引き上げておくか」
加持「よりいっそう疑惑を集めると思われますが……」
冬月「こうなってしまったのに今更なんだというのだ。これ以上、真実に近づけるわけにはいかん。情報を与えなければそれでいい」
加持「いっそこちらに引き込んでみては?」
冬月「我々のようにかね? 葛城一尉が応じるとは思えん」
加持「……葛城を甘くみましたね。ユイ司令にはご報告いたしますか?」
冬月「私から直接伝えよう。ユイくんとて人の子だ。これまでは夫である碇が陣頭指揮をとっていて、裏で考えるだけでよかったが、矢面に出なければいけなくなった」
加持「なんにせよ、失敗には代償がつきものです」
冬月「承知している。話は変わるが、戦自のネズミはいつ編入してくる?」
加持「それなら――」
どこらへんが貶してると見受けられたのでしょ?
アスカはこの時点では話の役割的にキーパーソンではありませんよ
まぁ特定のカップリング要素あるの否定しないですよ
俺は贔屓にしたり貶したりしてるつもりはなかったんすが、そう感じるところがあったのかな?そこはあれ?と思って意外な意見でした
アスカは前のヤンデレSSが俺の中でやりきった感があるんすよね・・・
とりあえず今日はやることあるのでここまでで
進行遅くてすんません
自分がどういうもの書いてるのか客観的な把握は大事だと考えているので質問で無駄なレスを消費してしまいましたすんまへん
【桃源台中央駅】
アナウンス「桃源台中央駅。桃源台中央駅。ネルフ職員のお客様は、こちらでお乗り換えです。お忘れ物のないよう、ご注意ください」
プシュー
マナ「うわぁ……すごい人……。これって、全部ネルフ職員なの……」
アナウンス「ケーブルカーへのお乗り換えは三番線になります。Please change here forーー」
ガヤガヤ
男性「おっと」ドンッ
マナ「きゃ⁉︎」ドサ
男性「ちょっと、駅のホームで突っ立てちゃ危ないじゃないか」
マナ「す、すみません。来たばかりなもので」
男性「田舎者か。旧市街から来たんじゃないだろうな?」
マナ「ち、ちがいます! あの、親戚の叔父さんを訪ねて」
男性「……そうだったのか。てことはネルフ関係者の血縁だね」
マナ「は、はい。一応……」
男性「すまないね。第三新東京都市はネルフ職員の関係者しか住所登録ができないから。ついつい疑ってしまって」
マナ「いえ、こちらこそ。立ち止まっててごめんなさい」
男性「人の流れがあるから。急に立ち止まっては危ないよ? それじゃ」
マナ「……はぁ」
マナ「(いきなりやっちゃった……よしっ。がんばろっ!)」
【改札口】
マナ「ええと……」キョロキョロ
プップー
マナ「あっ……」タタタッ
加持「迷子にならずに来れたじゃないか。上出来だ」
マナ「か、からかわないでくださいよ」
加持「わざわざ人の往来が多い玄関口を選ぶとはな」
マナ「あ、す、すみません。地理に疎くて」
加持「トラベルマップはあらかじめ貰っているはずだろ? 何を見て来たんだ?」
マナ「あ、あはは。あの、碇、シンジくんのデータばかり読んでたので……」
加持「……ターゲットに夢中になるのはいいが、その他もそれなりにな」
マナ「はい、今日中にでも頭に叩きこんでおきます」
加持「そうしてくれ。さ、乗れよ」
マナ「はい、お邪魔します」ガチャ
【車内 運転中】
マナ「うわぁ……」キョロキョロ
加持「……そんなにめずらしいか?」
マナ「す、すみません。こんなに高層ビルが立ち並んでいるの、はじめて見たので」
加持「中には武器そのものがはいっていたりする兵装ビルも多い。ほら、あそこ見てみろ」
マナ「なにか書いてある……。LARGE CALIBER AUTOMATIC CANNON PLATFORM STRUCTURE?」
加持「自動砲塔。ああいう建物が各所に点々としているのさ」
マナ「そうなんですね……。それじゃぁ、全てエヴァのための」
加持「対使徒の為のもの」
マナ「あ……そっか」
加持「少し観光でもしてくか? ジオフロントはまだ見てないんだろう?」
マナ「い、いいえ! あの、とりあえず、私の住居にお願いします」
加持「それを聞いて安心したよ。遊びにきてるわけじゃない」
マナ「試したんですかっ⁉︎」
加持「試す理由はある。これから俺たちは情報を共有するパートナーになる。もし身分がバレた場合はどうなるか聞いているだろう?」
マナ「あっ、そ、そうですね……。命、かけますもんね」
加持「そうだ。最悪、そういう結末もありうる。それだけは忘れないでくれ」
マナ「はい。わかりました」
加持「ここの治安について把握してるか?」
マナ「はい、一応」
加持「聞こう」
マナ「……第三新東京都市は治外法権です。日本領地ですが管轄は政府ではなく国連軍。治安維持は国連軍とネルフ諜報部、そして政府の旧警察機構が担当しています」
加持「戦自の役割は?」
マナ「表向きは自衛の為の軍隊です。対使徒、並びに国外勢力への抑止力に当たります」
加持「そうだな。では、裏の顔は?」
マナ「……ネルフに対する牽制です。国内にこれほどの規模と資金を投入しているのを政府は怖れています」
加持「なにせ50兆という投資で作られからな、ここは」
マナ「はい。ですので、怖れていますけど、委員会の国を動かせる資金力は魅力でもあります」
加持「……いいだろう。合格点だ」
マナ「き、基本ですよ」
加持「何事も基本が大事だって言うだろ? ま、これぐらい知らないようじゃここで車から降ろしてた。それだけの話さ」
マナ「な、なるほど……あ、あはは……」
加持「付け加える形になるが、旧市街には入るなよ?」
マナ「えっと」
加持「復興したといっても急ピッチで進められてる建造途中なのさ。スラム街と言ったらわかりやすいか、治安も悪い。建物の崩壊の危険性もまだある」
マナ「……はい、わかりました」
加持「マナちゃんのマンションは、セカンドチルドレンと同じ棟にある一室だ。コンビニはローソンが近いから不自由はないだろう」
マナ「セカンドチルドレン? あの、ターゲットは、サードチルドレンじゃ? なのに、住居はセカンドチルドレンの傍なんですか?」
加持「主目的はサードチルドレンだが、他のチルドレンに接触を試みてほしい。セカンドとファーストは同年代の女の子だ」ゴソゴソ
マナ「……了解」
加持「これが、同二名のチルドレンに関する資料だ」パサ
マナ「……」ペラ
加持「登校日はいつからか聞いてるか?」
マナ「ええと、明日から、ですよね」
加持「そうだ。すぐにチルドレン達と顔合わせになる。第一印象は大事だぞ」
マナ「制服は?」
加持「既に部屋に用意してある。着いたらサイズを合わせとみるといい」
【ネルフ本部 執務室】
ユイ「あら、先生。どうなされました?」
冬月「キミの失態を叱りにきた」
ユイ「ふふ、こわいですね」
冬月「……今回は明らかにキミが判断を誤った。我々は回避できた敵を作ってしまったのだからな」
ユイ「どなたの話でしょう?」
冬月「内部の人間の話だよ。これは。葛城一尉だ。彼女の疑惑はもう拭い去れんだろう」
ユイ「……つまり、我々の企みに気がついたと?」
冬月「ああ。まだたどり着けてはいないようだが、いや、たどり着いてるのやもしれん。確信を得た人間の行動ははやいぞ。証拠集めをはじめるだろう」
ユイ「そうですか」
冬月「責任を感じないのかね⁉︎」バンッ
ユイ「少なからず。ただ、フェーズは次に発展しています。葛城一尉が気がついたのならば、彼女をどう対処するのかという問題です」
冬月「それはそうだが……」
ユイ「謝罪でよければいくらでも。しかし、今は反省よりも決断力がものを言います。行動力のある相手なら尚更です。失態は挽回せねばなりません」
冬月「う、ううむ。加持監査官のアクセス権限を引き上げようと思うのだが」
ユイ「……必要ありません」
冬月「なぜだ? 葛城一尉は奴を手始めと考えているぞ。奴をきっかけに我々を引きずりだすつもりだ」
ユイ「協力者がいるはずです。葛城一尉には権限がありません」
冬月「……こちらから炙り出すのか?」
ユイ「まだまだ我々が有利です。その点にかわりはありません。見えない盤面の前にようやく座ったのです。私達は相手のだす駒をわざと確認することにしましょう」
冬月「……」
ユイ「ふふ、葛城一尉が使える駒が何人いるのか。そう多くはないはずですから……」
リツコ「――お呼びでしょうか」
ユイ「少々、トラブルが起きたの。敵、という言葉は幼稚かしらね」
冬月「ふん……」
リツコ「……?」
ユイ「第二発令所へのMAGIバックアップは順調?」
リツコ「え、ええ。作業工程は今の所問題ありません。元々あったOSを移すだけですから。量が量ですので、転送速度の都合上、時間を要しますが……」
ユイ「結構です」
リツコ「お呼びしたのはこの件でしょうか?」
ユイ「いいえ。ひとつ確認をしたくて」
リツコ「なんでしょう?」
ユイ「――あなた、葛城一尉を殺せる?」
リツコ「み、ミサトを⁉︎ ……ど、どういう意味でしょうか」
ユイ「覚悟が聞きたいの」
リツコ「……く、ミサトは、何の関係も……」
ユイ「関係ができてしまったら? 邪魔な存在になった時に、あなたは非情な判断ができる? むしろ、進んで行える?」
リツコ「……」
ユイ「あなたも、そしてここにいる副司令も私についてくる選択をした。でもね、人間ってワガママなのよ。状況が変われば、簡単に判断を覆してしまう。一時の判断が常に正しいとは限らないから」
冬月「……」
ユイ「あなた達は常に迷い、選んでいる。私についていっていいのか、私という人間の行動を、考え方を見ている」
リツコ「……」
ユイ「夫は優秀だった。あなた達という資産を残してくれたのだから。でも、あなた達自身が、私を見限らないとは限らない」
リツコ「……私は……」
ユイ「赤木博士にとって、私がどういう存在でもいい。ただ、あなたにとって利があるのならば。それだけで逆らえないはず」
リツコ「……」
ユイ「もう、私たちは後戻りはできない。超えてはいけない一線は、夫を死に追いやった時点で超えてしまっているの」
リツコ「……み、ミサトを……」
ユイ「近々、彼女の家に小型のプラスチック製爆弾をしかけようと思います」
リツコ「……っ⁉︎」
冬月「おい、先ほどは出方を見ると……」
ユイ「保険として設置すべきです。――起爆装置は、赤木博士。あなたに渡しましょう」
リツコ「私に……?」
ユイ「爆破できるのかどうか。私が信用に足るかどうか、結果で示してもらいます」
【シンジ宅】
シンジ「……」シュルシュル パサ
シンジ「これが、アダム」
アダム「……」ドクン
シンジ「綾波が、綾波「達」が言っていた通りなら、母さんが言っていた神話が本当なら、僕も絵本で知ってる、あの、アダムなのか」
アダム「……」ドクン ドクン
シンジ「逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだっ! ……そう……逃げちゃ、だめだ」スゥ
アダム「……」ドクン ドクン ドクン
【ネルフ本部 執務室】
加持「……いやはや、危険な賭けですな」
ユイ「そう?」
加持「葛城についてもそうですが、かわいいネズミも戦自と日本政府がバックについている以上、辻褄合わせは必要になります」
ユイ「得られるものもあります」
加持「ご子息に?」
ユイ「もちろん。シンジは、損得だけを切り離して考えられるほど擦れてないから。繊細で純粋な子にもっとも効果的な接し方は、なんだと思う?」
加持「俺たちゃ、得られるものがあればある程度は目を瞑りますがね、検討もつきませんな」
ユイ「共感よ」
加持「……」
ユイ「勘違いしないで、唯一絶対の条件ではない。人は満足や心地よい充たされ方を好む。年相応の精神年齢をしていれば、他人をおもいやる気持ちよりも自己を優先してしまうもの」
加持「たしかに、利得を優先するのはわかります。人間社会において、いかに好かれるかよりも、嫌われないか、を考えた方がラクだったりしますからね」
ユイ「日本人的な考え方ね。いえ、ここは日本なのだから当然なのだけれど。私たちは、取り巻く環境に適応して生きているから」
加持「……」
ユイ「……霧島、マナちゃん、きっとシンジに共感するわ」
加持「ふぅ……。わかりませんね、なぜです?」
ユイ「気がつかない? 資料にある少年兵達とシンジの境遇が似ていることに。ムサシとケイタ、だったかしら。この子達は自ら志願して入隊しているようだけど。霧島マナには、シンジがだぶって見えるはず」
加持「なるほど……。そうなれば、我々としても話がはやい」
ユイ「あなたから見てどうだった? この子は」
加持「ただの中学生っすよ。スパイといえども、任務に就かせた上層部の神経を疑いますね」
ユイ「そう。……ゆっくりと観察してみましょう」
カヲル「……」スッ
加持「誰だ」カチャ
ユイ「銃をおろして、敵意はない」
カヲル「……そうやって、リリンはアダムを、シンジくんを利用しようとしているのか……」
加持「こいつは、まさか。タブリスッ? アダムのコピー?」
カヲル「答えろ! シンジくんを、アダムをキミ達はどうするつもりなんだっ!!」
ユイ「タブリス、私達はアダムと、そしてシンジにとってより良い結果になる方法を模索しています。今はその準備期間だと考えてほしいの」
カヲル「ヒトは勝手だね……。つくづく救えない生き物だ」
ユイ「あなたにヒトをどうこうと言えないはずよ。シンジに殺されるのを望むあなたが」
カヲル「くっ……!」ギリッ
加持「いつからここに……?」
ユイ「月のタブハベースからつい最近。委員会の皆様方にお願いして、予定を繰り上げてもらった」
加持「驚いたな」
カヲル「……僕をシンジくんの傍に行かせてくれ」
ユイ「まだ時期がはやいわ。あなたはまだ、本格的に壇上に立つべきでは。物事には優先順位というのがあるの」
カヲル「だったら、綾波レイの元に向かう」
ユイ「レイ? なぜ?」
カヲル「気になることがあるんでね。どうせ暇なんだ。かまわないだろう?」
ユイ「……許可します。予備はパーツがあるけど、壊さないように」
カヲル「いったいボクをなんだと思ってるんだ。なにもしないよ」
ユイ「なにをしてもかまわないという意味よ。それであなたを抑えられるのならば」
カヲル「……好きにするさ。言われなくてもね」スタスタ
【弐号機 格納庫】
カヲル「(アダムの分身。そしてリリンの僕。真っ赤に染め上げた塗料は、さしあたり道化師と言ったところか。そう、ボクと同じ……)」
レイ「……」スタスタ
カヲル「待ってたよ……。やはり、キミも僕と同じだね」
レイ「……私は同じじゃない」
カヲル「ふっ、ボクは下等な種じゃないから手荒な真似はしないよ」
レイ「そう」
カヲル「君の中のモノは、目覚めているんだろう? ボクにも感じられる。最初は気のせいかと思ったが、日増しに強くなってゆく」
レイ「……」
カヲル「どうして、なにも喋らないんだい?」
レイ「……不快だわ。あなた。紛い物のくせに」
カヲル「それはボクが重々承知しているよ。ボクはシンジくんと対を成す存在だからね。双極性の磁場を発生させるN極とS極のようなものさ」
レイ「あなたも、碇くんとひとつになりたいのね」
カヲル「いや。ボクは殺されることで存在の証明になる。救いになるんだ」
レイ「……」
カヲル「あの女は気がついているのかい?」
レイ「いえ」
カヲル「そうか、だったら黙っておくよ」
レイ「……いいの?」
カヲル「そのかわり、シンジくんを守ってくれ」
レイ「……」キョトン
カヲル「僕たちが持つ強力なATフィールドは、外部からの干渉を完全にシャットアウトさせられる。ただ、それぐらいの規模になると影響も大きい」
レイ(少女)「うふ、うふふふっ。わかった。その先は言わなくてもいい」
カヲル「安心したよ。間近に搬入される三号機にはボクが乗る、亡き後の処理は、頼んだからね」
手直しできない不満はありますが台本SSのが圧倒的にラクなんす
エヴァだと語り部のいないセリフだけでも脳内再生力をもってる原作なんでっていうのは言い訳で
小説形式だと物量が10万字を軽く超えてしまうだろうと
要するに終わる目処がつかないのでやりたくないんす
語り部じゃなく語り手ですな
こういう変換候補の選択ミスや誤字脱字はもう諦めてます
途中までを入力するとすぐに変換してしまうので誘発してしまってるよーです
例えば「かた」を入力すると「語り手」と「語り部」などが変換候補に並びます
ここで選択を間違えてるんすよね
ひとレス分を書き終えた後の見直しでも見落としてるのが致命的欠陥
では、また後日~
そうですね
台本形式に向いてるので書きやすいし読み手の方々の想像力に助けられてる部分は多々あると思います
練っているといえば聞こえはいいですが、物作りはこだわりだすとキリがありません
同様に当SSも雑な部分は少なくありません
色んな人の書いてるSSを見ても勢いを重視してたりそれぞれ良さがありますよ
他のも他ので面白いのたくさんありますね
【ネルフ本部 初号機ケージ】
冬月「……」コツコツ
シンジ「……」
冬月「……君は……こんな場所でなにをしている。今日は来る予定日ではないだろう」
シンジ「……知りたくなったんです。誰に聞けばいいのか、わからなくて。そしたら足がここに向きました」
冬月「……知りたいとは、なにをかね?」
シンジ「僕は、なにをすれば、僕になにをしてほしいんですか。父さんを犠牲にしてまで」
冬月「……」
シンジ「エヴァってなんなんですか。使徒がこなくなったら、僕たちは、エヴァはどうなるんですか。……教えてください」
冬月「……ネルフがどうやってできたか、君は知っているか?」
シンジ「どうやって?」
冬月「おかしいとは思わないかね? 地上の下にこのような巨大な球体の空洞がある。……ここは、ガフの部屋だった」
シンジ「……」
冬月「君たちチルドレンが知っているネルフ本部、さらにその下の第七層まで主要な整備、及び研究施設に全ての答えがある……ついてきたまえ」クル
シンジ「……」
冬月「どうした? エヴァの存在理由について知りたいのではないのか?」
シンジ「……はい」
【ネルフ本部 エレベーター内】
カチ カチ カチ
冬月「……」
シンジ「……」
冬月「……はじまりは、セカンドインパクトより前にさかのぼる。世界はあるひとつの結末に向かって進みだした」
シンジ「……」
冬月「碇の死は、過程にすぎん。決められた終わりに向かうまでの分岐路がズレただけだ。流れを、水を手で汲み取ろうとしても指の隙間から溢れ落ちるのと同意だからな」
シンジ「……」
冬月「人類補完計画。これを誰かの口から聞いたか?」
シンジ「聞いたかもしれません……聞いてないかもしれません……」
冬月「ふん、情報量が多すぎてついていけんか。それも、致し方あるまい」
シンジ「……人類補完計画の為に、色んな人が血を流すんですか? そんなことのために」
冬月「そんなことではない。君には理解ができんだろうが、人類の可能性、そして次のステージに移行する為に必要な条件なのだ」
シンジ「……次のステージっていったいなんなんですか……!」ギリッ
冬月「心の隙間を埋める。我々は互いに補完され、足りない所を、充たされない空虚から解放されるのだよ。それは、魂の解放に等しい」
シンジ「みんながそんなの望んでるっていうんですか⁉︎」
冬月「時が来ればわかる。ユイくんは君に人類の裁定をまかせているようだからな」
シンジ「……」
チーン ガチャン
冬月「ついたぞ。降りたまえ」
【ネルフ本部 第六層】
冬月「……」コツコツ
シンジ「……」スタスタ
冬月「ここは、ダミーシステムの研究所だ」カチ
ゴポゴポ
シンジ「……」
冬月「エヴァは既に十三号機までの製造が進められている。ここにあるのはその基となるパイロットの研究施設、つまり無人機だよ」
シンジ「……え? エヴァってパイロットがいらなくなるんですか?」
冬月「既にある四号機までを除いた、五号機から続く型番タイプはその予定だ」
シンジ「……」
冬月「補完計画の発動に依り代は不可欠だ。アダムとリリスの融合、その力を通すには媒体が必要になる」
シンジ「……えっと、力を通すのが量産機?」
冬月「パイプのようなものと考えたまえ。中心に位置するのは初号機だ。全てのエネルギーは初号機に集められる」
シンジ「初号機に……」
冬月「パイロットはサードチルドレン、君だ。つまり、君の願いを叶える、その為にふさわしい舞台が用意される」
シンジ「……」
冬月「君が最初の一人になれるのだ。先ほど、君はエヴァの存在理由を聞いたな。使徒が全て滅びれば、いや、使徒が滅ばずとも補完計画の為に存在する、同時に君の為にもな」
シンジ「どうして、僕なんですか」
冬月「運命だからだ。君の意思なぞ関係ない。もはや、そういうものが及ばぬ力が働いている」
シンジ「……」
冬月「納得できんか。……そうだろうな。だが、抗えるものではない。碇の死も、そしてユイくんの選択も、我々誰しもが君の為に存在している。受け入れようと受けいれまいと、その根底があるだけなのだよ」
シンジ「……僕がなにもしなければ、避けられますか」
冬月「言っただろう。抗えるものではないと。もはや、変えられる時期はとうの昔に過ぎ去っている。我々は進む歩を止められん」
シンジ「どうしようもないって、そんなの、じゃあ、僕はどうすれば……」
冬月「綾波レイについては?」コツコツ
シンジ「……」
冬月「聞くまでもないか。報告によると、赤木博士からバイオ水槽を見せられたのだったな」
シンジ「綾波は、どうして作られたんですか」
冬月「……クローンを作る技術は既に確立されているが、道徳上の理由で医学、化学の両点から禁じられている。なぜだかわかるかね?」ピタ
シンジ「傲慢だから、かな」
冬月「その通りだ。人は創造主たる神にはなれんからな。人間社会には禁忌にまつわる暗黙のルールというものがある。その枠からはみ出して生きるには少々不自由だ」ガコン
シンジ「……」
冬月「我々はその禁じられた決まりを破ったが、綾波レイは単なるクローンではない。リリスの魂を一時的に保管するための器が必要だったのだよ」
シンジ「器……綾波の中に、その、リリスっていうのの魂が?」
冬月「全てではないがな。綾波レイは綾波レイであり、リリスではない。あの娘に感情が見受けられないのはそれが理由だ」
シンジ「やっぱり、人形だったんですね」
冬月「外見は用意されたパーツの中から自由に選んで作成できる。キミが水槽の中に見た物は、現行の綾波の予備だよ」
シンジ「……感情は生まれないんですか」
冬月「理論上はな。我々は、神にはなれん」
シンジ「……」
冬月「ーーしかし、決まっていることだからと諦めてしまっては化学は意味のないものになってしまう。可能性を見いだすのもまた、ゼロではない」
シンジ「……?」
冬月「理論上では不可能でも、可能性がないわけではないと言っているのだ。計算を覆す例なぞいくらでもある」
シンジ「そ、それじゃあ……綾波は」
冬月「さてな。私にもわからんよ。言い切ってしまえる「絶対」なんてものは、この世に少ない」
シンジ「……」
冬月「サードチルドレン。私はキミに多少なりとも同情している。中学生に老人たちの贖罪の片棒を担がせるには、あまりに重たすぎる」
シンジ「……」
冬月「なにをできるかわからない、そう言ったな。その答えたる選択肢は少ない。実現可能範囲で考えているからだ。だが、なにをやろうともキミの自由ではある」
シンジ「……」
冬月「決まっているのだとしても結果を求めすぎるな。なにも考えず、身動きがとれなくなる前に行動をしろ。まずは……やってみる。それだけでいいんじゃないのかね」
シンジ「……」
冬月「ふぅ……手のかかるところは父親にそっくりだな。なにもそんなところを似なくてもよかろうに」
シンジ「あ……」
冬月「ケツを叩かれなきゃわからんのかね。自分を守りたいのか、他人を守りたいのか、はっきりしたまえ」
シンジ「他人を……誰かを守る……」
冬月「キミはキミが思っている以上にまわりから頼りにされているよ。同時に子供扱いもされているだろうがな。それは、キミが頼りないからだ。しかし、キミには力がある。頼りたくなる力が」
シンジ「それって、なんなんですか? 僕の力って」
冬月「碇ゲンドウ、碇ユイの息子であること。初号機のパイロットであることだ」
シンジ「でも、そんなの僕の能力じゃない」
冬月「キミは既に持っているのだよ。生まれながらにして他人が手に入れられない優位性を。キミが疎ましく思おうと、ナナヒカリであろうと、キミの力だ」
シンジ「……」
冬月「プライドが邪魔をするか……。がむしゃらにやろうという気概が足らんな」
昔エタっちゃったけどキャラの人気をコンマで決めるスレで冬月が高コンマ連発して
人気ランキング上位になってたのをふと思い出した。普通に話してくれるだけでいいんだよなぁ
シンジ「……」シュルシュル
冬月「……?」
シンジ「これも、力ですか?」パサ
冬月「……っ⁉︎ アダムか、随分同化が進んでいるな」ギョ
シンジ「……知らなかったんですか?」
冬月「聞いてはいたが。しかし、その侵食具合は……」
シンジ「僕は、父さんに恥ずかしくない、褒められる生き方をするために、なにかをやろうと思いました」
冬月「死して尚、呪縛から逃れられんか」
シンジ「心の中で生きてるんです……! あの無表情な感じも、冷たい感じも。良い思い出なんかないけど、これからだったのに……」
冬月「憎しみは、なにも生みはせん」
シンジ「みんながそう仕向けたんでしょうっ⁉︎ 大人達みんながっ!!」
冬月「亡き父に褒められる為にどう生きる」
シンジ「……いいですよ。母さんの、加持さんやリツコさん達の望み通り、僕が初号機にのります。僕が、エヴァのパイロットです」
冬月「……」
シンジ「だから、もう、まわりを巻き込まないでください」
冬月「それで、碇に褒められると思うか」
シンジ「やるだけやってみます。父さんは、僕に逃げ出すなと言いました。逃げるのは、全てが終わってからにします」
冬月「よかろう、もう地上に戻るぞ。ここでの出来事はユイ君に報告をしないでやろう。オフレコだ」
シンジ「……はい」
冬月「さあ、電源を落とすぞ。歩きだしたまえ、サードチルドレン」ガコン
>>156
コンマスレてはじめて聞きました
高コンマてのはどういう意味なんでしょ?
【ネルフ本部 発令所】
ミサト「……停電が仕組まれてるぅっ⁉︎」
マコト「しーっ!! 声が多いですよ! 葛城さん!」
ミサト「ど、どういうことっ⁉︎ 加持の足取りを掴んでってお願いからどうして停電が⁉︎」
マコト「僕もそのつもりだったんが、アクセスしている途中で急に思い立ったんです」
ミサト「なにを?」
マコト「加持監査官が調べていたのは、ネルフだったんじゃないかって」
ミサト「ごめん、話がさっぱりわからない」
マコト「……ここ見てください。シンジくんが誘拐された時、同氏はMAGIのメインコンピューターにアクセスしています」
ミサト「それが?」
マコト「雑なんですよ。隠したいようには見えません。むしろログを残しすぎていて妙です。そこで僕は、さらに解析を進めました」
ミサト「……うわ、文字ばかりで頭痛くなりそう」
マコト「解析コードはそんなもの、と、話が逸れるところだった。えーと、ここです。ここの中継地が最も不自然でした」
ミサト「ううん、つまり、加持は、シンジくんの誘拐の裏でネルフの構造を調べていた。そして、停電をさせようとしている? って感じ?」
マコト「概ね間違いではありません。正副予備の三系統が一度に落ちるように予定日がセットされています。電源が三つであることを突き止めたんじゃないですかね?」
ミサト「でも、一体なんのために? 加持がネルフの電源を落としてなんの意味が?」
マコト「……それは、落ちた時にわかるんじゃないですか?」
ミサト「落ちた時って、まずいわよ……。それじゃ」
マコト「そ、そうですね」
ミサト「予定日は書き換えられそう?」
マコト「無理です。強固なプログラムが組まれています、パスワードが設定されていますが、解除するまでに時間がたりません」
ミサト「いつなの?」
マコト「日付けは明日のヒトニマルマル……正午、ぴったりです」
ミサト「ぬわぁんですってぇっ!?」バンッ
>>158
エヴァキャラが人気投票の結果についてあれこれ語るって内容のSSで、キャラの人気をコンマで決めてたんよ
十代、二十代、三十代と年齢ごとの支持率をコンマで出してランキングするんだけど冬月がやたら
人気高くて「ちゃんと話してくれる所がいいんでしょうね~」「大人の対応だもんね」みたいな
分析になってたのを今回のシンジとのやりとりで思い出して。直接関係なくてゴメンね
マコト「司令がご存知ないのなら報告すべきですよ、これは」
ミサト「ちょ、ちょっと話が突然すぎて思考が……でも、司令と加持は繋がっているはずなのよ」
マコト「そうなんですか? こちらではまだ証拠があるわけではありませんが」
ミサト「ええと、電源が落ちてしまえばどうなるの?」
マコト「復旧作業が終わるまでは、文字通りローカルになります。全てです、ライフライン、設備に至るまで」
ミサト「しゃ、シャレになってないわよ……!」
マコト「はい、ですから、司令にご報告を。内輪揉めしている場合ではありませんよ、葛城さん」
ミサト「で、でも、司令はなにか企んでて……えぇい! どーなってんのよ⁉︎ かぁじぃ~~~!!」
>>160
そんなスレがあったんですね
LASもそうだったんですけど知らなかったらググるまではしてるんす
ググっても高コンマまではでてこなかったんで聞いちゃいました
教えてくれてどうもありがとう
【ジオフロント スイカ畑】
ピリリリリ ピッ
加持「明日には、ネルフの断面図を送れそうです」
政府高官「ようやくかね。首を長くして待っていたよた」
加持「準備に時間がかかりましてね。本部構造の全体把握をされる理由は、やはり直接掌握を視野にいれていると?」
政府高官「それ以上の詮索はしないほうがいい」
加持「バレてないとも言えないんでね」
政府高官「そうなった場合はキミの落ち度だ。心配でもあるのか?」
加持「上が助けてくれそうにないのが心配ですよ」
政府高官「はは、たしかに、違いない。キミがいなくなったとしても代わりの人間を送りこむだけだからな。トカゲの尻尾はまた再生できる」
加持「哀れと思って教えちゃくれませんか? 政府はネルフをどうするつもりです」
政府高官「布石だよ。今はまだ、ネルフは目の上のたんこぶで済んでいるが、使徒とかいうのがいなくなれば、害をなす存在である場合には、武力行使もやむを得まい」
加持「(やはりな)」
政府高官「もう一つ、教えてやろう。我々、日本政府の間ではキミの工作に疑問符がでている。キミがネルフ寄りの人間じゃないかとね」
加持「おだやかじゃありませんな」
政府高官「キミの信頼を試すためにも、断面図、構造の具体的な把握は不可欠だ。……ネルフ本部にある、セキュリティホール(欠陥)を探せ」
【ネルフ本部 執務室】
ミサト「失礼します!」
ユイ「あなたが来るときはいつも緊急の用件なのね……赤木博士も苦労されてるでしょう」
ミサト「今はそれどころじゃありません! 明日、ネルフ本部が停電になります! ご存知でしたか⁉︎」
ユイ「……承知しています」
ミサト「ご、ご存知なのですか? 知っていてなぜ、なにも対策をたてずに……」
ユイ「必要ないから。次は私の質問の番ね。なぜ、それをあなたが知っているの?」
ミサト「あ、いえ、それは……」
ユイ「これは極秘作戦です。黙認していたわけでも、放置していたわけでもありません。あなたは、越権行為を行ったのね」
ミサト「し、しかし。細工をされたのはシンジくんの誘拐時点での話で、ユイ司令が着任される前なんですよ⁉︎」
ユイ「夫から引き継いだだけの話です。私の質問に答えなさい。葛城一尉」
ミサト「(餌だったの……し、しまった、やらかした……!)」
ユイ「誰の指示で行ったの? それとも、あなたが誰かを使ったの?」
ミサト「……把握しているのならば、問題はないという認識でよろしいでしょうか」
ユイ「質問に答えなさい! 葛城一尉!!」バンッ
ミサト「わたくしの越権行為です。懲罰はお受けいたします」
ユイ「ネルフの危機であると判断して即座に行動したのは評価に値します。協力したのは誰?」
ミサト「……」ギリッ
ユイ「調べればわかるのよ。自白すれば罪は軽い。協力者にとってもね」
ミサト「私が、全ての責任を負います」
ユイ「一歩間違えば造反行為であるのよ? 軽く見ていては困る。組織を乱す者を、私は欲しくはない」
ミサト「……」キッ
ユイ「なぁに? その反抗的な目つきは。組織の規定に準ずる者が、大の大人がする姿勢ではないわよ」
ミサト「腹を割って話ませんか? 加持特別監査官との
関係性を疑っています」
ユイ「ふふ、あなた、自分の立場を理解していない。聞けたとして、それが最後になるかもしれないのに」
ミサト「私は、ネルフで働く一員でありますが、なにを目的で働くのか。その点が曖昧では命をかけられません」
ユイ「サードインパクトを阻止する為に私達は存在しています。その大義を忘れたの?」
ミサト「それだけではないはずです。なぜ、ネルフは使徒の出現を予期できたのですか、シンジくんたちパイロットをエヴァをどうするおつもりなんです?」
ユイ「……なるほど。舐めていたのね、危険因子になりうる」ボソ
ミサト「……」
ユイ「さがりなさい。停電については、口外しないように、処罰は追って通達があります」
ミサト「し、しかし……」
ユイ「これ以上、背信行為を重ねないで。協力者の命が惜しいのなら」
ミサト「……はい、承知しました」ギュウ
ピリリリリ ピッ
ユイ「もしもし」
加持「政府のお偉方はかなりピリピリしてますな。今にも攻めてきそうな勢いですよ」
ユイ「構造内部という餌は与えたわ。食いついて当然でしょう、あなたの保険になるし」
加持「感謝します、それで、葛城も食いついたんですか? 俺に対するアクセス権限をあえて引き上げず、操作したという痕跡を見せつけたんでしょ」
ユイ「ええ。よく食いついてくれた。安易ではあるけれど、行動力はあるのね」
加持「そりゃそうっすよ。おそらく、今頃葛城は猛省してるんじゃないですかね。俺がアクセスしたのでさえ偽装だと気がついてるはずです。ひとつの餌で二匹の獲物を釣るとはね」
ユイ「停電は明日、起こるわ」
加持「わかってます。辻褄合わせは必要、でしょ?」
ユイ「問題なのは、葛城一尉の処分ね。どうしたものかしら」
加持「……はやめに勝負がつきましたし、脅威にならないのでは?」
ユイ「いいえ、本来ならここまでたどり着ける予定すらなかったのだもの。私が舐めていた。失態は認める。だからこそ、もう二度と、甘くは見ない」
加持「しかし、葛城はまだ必要な存在では」
ユイ「だから迷っているのよ。泳がせるべきか、始末するべきか……」
【ネルフ本部 中央施設】
マコト「あ、葛城さん、どうでし……」
ミサト「くぅ~~~っ! やられた!! まんまと釣られちゃったわよ!!」
マコト「へ? ど、どうして」
ミサト「日向くんのせいでもあるんだかんね!? 私の不安を仰ぐようなこと言うから! ぐ、ぐ、ぐ、ぐやじい!!」
マコト「いったい、どういう……司令、ご存知だったんですか?」
ミサト「そうよ! おそらく、アクセスした日時が書き換えられたものだったのよっ!」
マコト「あ……そんな、でも、まさか……」
ミサト「余裕っぷりは間違いないわ! なんてこと! 冷静になるべきだったわ!」ガンッ ゴロゴロ
マコト「ゴミ箱が、お、落ち着いてください。加持監査官が不正アクセスしたのが作られたログだってことですか?」
ミサト「十中八九ね……! ユイ司令が予定を組み込むには時期が不自然よ。私達が加持を調べるだろうと踏んで、嘘のデータを流していたのよ! まんまとやられたわ!」
マコト「す、すみません。そうとは知らず、僕も慌ててしまって……」
ミサト「……はぁ、済んだから仕方ない。日向くんのことは私が守ってみせるから」
マコト「……すみません、本当に」
ミサト「まだ挽回の機会はあると信じましょう、今はそれしか方法がないわ」
【ネルフ本部 執務室】
冬月「忙しいようだな」
ユイ「……先生、どこに……シンジ……?」
シンジ「……」
ユイ「またかけなおすわ」ピッ
シンジ「母さん」
ユイ「……シンジ、もういいの? 先生、シンジと一緒だったんですね」
シンジ「僕は、初号機に乗るよ。僕は、エヴァンゲリオン初号機パイロット、「碇」シンジだから」
ユイ「……? どうしたの?」
シンジ「考えたんだ。この手のことも。父さんのことも。母さんのことも。みんなになにが一番いいのか」
ユイ「……」
シンジ「僕はなにもしないほうがいいんじゃないかってそう考える時もあった。だけど、そうしない。僕は逃げないよ」
ユイ「……先生、お話が」
シンジ「母さん! やめてよ! 誰かの犠牲の上になる幸せなんて僕はほしくない! 望んでないんだ!」
ユイ「やめられないのよ。もう」
シンジ「……だったら、人類補完計画っていうのが発動するまで、誰も殺さないで」
ユイ「私だってそうしたくはないのよ? 刻々と移り変わる状況がそうさせるの」
シンジ「次に誰かを巻き込めば、僕は自分で死を選ぶよ……!」
ユイ「し、シンジ……!」ガタッ
シンジ「僕は守らなくちゃいけない、母さんから。色んな人達を」
冬月「……」
シンジ「今日はこれで帰るよ。明日から学校に行く。それじゃ」クル
ユイ「シンジ、待ちなさい! 」
シンジ「……」ピタ
ユイ「あなたはきっと感謝するわ! あなたが望む世界ができるのよ! 今は辛いかもしれない! でもそれも過去になる! 人は忘れながら生きているの! いつしか、私に感謝する日が、きっと……!」
シンジ「……」スタスタ
冬月「やはり、キミも親か」
ユイ「先生、余計なことをしてくれましたね……」
冬月「いずれ説明せねばならんだろう。問題を先延ばしにしなかっただけだ」
ユイ「シンジが自発的に考えるのはいい。私が恨まれても、この胸が張り裂けそうになってもいい」
冬月「……」
ユイ「たったひとりの息子なのですから。先生、あなたはなぜ話たのですか」
冬月「……」
ユイ「同情でしょうか? 私があの子を愛していないとでも? ずっとお腹にはいっていたんですよ!?」
冬月「(歪んでいる)」
ユイ「私がコアから還ってきたのもシンジの為に……! そうよ、世界は、すべて、シンジの為にあるべきなのよ……! そうすれば、私の願いも」
冬月「思う所があるだろうが、事実をサードチルドレンに話しただけだ。俺を処分するならいかようにもしたまえ」
ユイ「ふ、ふふ。いいでしょう。ですが、今はまだ、その時ではない。これからも私の為に働いていただきます」
冬月「(……狂気の一端か。ユイくんもまた、いつからか狂っていたのだな)」
ユイ「……明日、例のスパイとシンジが会います」
冬月「そうだったな。だが、すぐにどうこうするという話でもなかろう」
【翌日 第三新東京都市立第壱中学校 HR前】
トウジ「おっ! シンジやないか! えらい心配したで!」
シンジ「うん、心配かけてごめん」
ケンスケ「ネルフでなにかあったのか? そういや、三号機が搬入されるって話を聞いたけど」
シンジ「三号機……? ケンスケ、それ、本当?」
ケンスケ「あ、あぁ。知らなかったのか?」
シンジ「僕はなにも聞いてない……」
ケンスケ「ま、まぁ、ミサトさんも忙しいんじゃないか? そんなに気にする話じゃないさ。碇、変なこと聞いて悪かったな」
アスカ「はっ、聞いてないのはあんたがまともに学校に来ないで引きこもってたからよ」
シンジ「アスカ、おはよう」
トウジ「引きこもっとった? なんや、どゆことや」
アスカ「詳しく知りたいなら本人に直接聞けば? あんた達、仲良いんでしょ」
シンジ「トウジ、ケンスケ。後で説明するよ、アスカもアパートまで来てくれてどうもありがとう」
アスカ「あ、あたしは別に」
ヒカリ「アスカ、もう少し素直になりなさいよ」
アスカ「ひかりぃ~、余計なのはその口?」
ヒカリ「んもぅ。でも、何事もなくてよかった。使徒が攻めてきたんじゃないかって、私も不安だったから」
トウジ「いいんちょ、そらないで。使徒っちゅーんはどでかい生き物やからのぉ、来たらすぐにわかるわ」
シンジ「そうとも言えないんじゃないかな」チラ
ケンスケ「碇? 手がどうかしたのか?」
シンジ「……いや、なんでもない。それよりもうすぐホームルームがはじまるよ、みんな席に戻らないと」
トウジ「おぉ、そもそやな……せや、サクラの手術、うまくいったで」ポン
シンジ「ほ、本当?」
トウジ「ああ……! シンジには謝らんといかんことがある。後で少し時間くれや」
ヒカリ「鈴原……」
シンジ「いいよ」
ケンスケ「いったいいつになったら僕に会わせてくれるんだ?」
トウジ「そやな……。ケンスケにも、紹介したらなあかんな」
アスカ「ふん」
【HR中】
教師「えぇ~、今日はみなさんにお知らせがあります。霧島、マナさん、入りなさい」
ガララ
マナ「はい」
トウジ「なんや、転校生かいな」
ケンスケ「こりゃまたビックニュースだねぇ、ビジネスの匂いがするぞぉ!」
男子生徒「……」ゴクリ
ザワザワ
マナ「……」スタスタ
教師「親族の都合でこちらに越してきた、霧島マナさんだ。諸君、慣れない環境で戸惑わないように、仲良くするように」
マナ「……(あれが、碇シンジくん)」チラ
シンジ「……?」
教師「自己紹介を」
マナ「はい、霧島マナです。叔父の所でお世話になるので越してきました。これからよろしくお願いします」ペコ
男子生徒「おお~」
ケンスケ「いい! いいぞぉ! かなりのルックスだ!」
トウジ「まったく、お前は」
教師「席は、そうですね……」
マナ「あの、先生。私、目があまりよくないのであまり後ろだと授業に……」
教師「お、おぉ。そうかね。では……」
マナ「真ん中のあたりだと嬉しいんですけど……」
教師「ふむ。んーと、では、そこの碇くんの隣の席の。誰だったかな、出席番号17番。変わってあげなさい」
女生徒「えぇ? ……教師が番号で覚えてるってやばくない?」
教師「キミ、聞こえとるぞ。後ろに行きたくはないのか?」
女生徒「やた! サボれる! いいえ、行きます行きます! 喜んで!」
教師「ふぅ、不真面目な生徒で助かったな、それでは碇くんの隣に」
マナ「はい!」スタスタ
男子生徒「か、か、か、かわいい」デレー
マナ「……」ガタ
シンジ「……」
マナ「よろしく、碇くん」ニコ
【昼休み】
男子生徒A「ねぇねぇ、どこから来たの?」
マナ「え、えっと……」
男子生徒B「なにか困ったことあったら言ってよ! なんでも力になるから!」
ヒカリ「あ~あ。男子達って結局見た目なのよね。今までアスカばかりだったのに」
アスカ「どうせガキだし私は気にしない」
ケンスケ「そうとも言えない!」ズィ
アスカ「わ、わぁっ⁉︎」
ケンスケ「これはゆゆしき問題だよ! 主に僕らの財布にな!」
アスカ「あんた、なにか悪どいことやってんじゃないでしょうねぇ?」
ケンスケ「ご、ごほん! いいか! ドイツ人ハーフと」
アスカ「クォーターよ、私は」
ケンスケ「おっと、そうなのか。メモメモ」
トウジ「おい、ケンスケ」
ケンスケ「いけない、いけない。ゔぅんっ! ドイツ人クォーターとクールビューティー! この二大巨頭は今や戦国時代を迎えたのだ!」
アスカ「はぁ?」
ケンスケ「ううむ、また男子達の間で意見が分かれるな!」
アスカ「頭でもおかしくなったんじゃないのコイツ」
シンジ「……アスカ、購買パンにしたの?」
アスカ「そうよ。ミサトもあたしも料理なんかしないし」
ヒカリ「私がついでにって言ってるのに」
アスカ「だめ。それは悪いもん」
シンジ「そっか、だったら僕が作ってこようか?」
アスカ「え、いいの?」
シンジ「うん、僕だったら前から作ってたし、アスカも気兼ねしないんじゃないかな」
ヒカリ「わぁ、いいなぁ。アスカ」
アスカ「う……」
男子生徒C「お昼なんだけどさ」
マナ「ちょ、ちょっとごめんなさい」
男子生徒C「え……」
マナ「……」スタスタ
トウジ「お?」
ケンスケ「ん?」
ヒカリ「へ?」
マナ「あの……」ピタ
シンジ「……?」
マナ「その、席が隣になった、霧島です。授業中は端末見せてくれてありがと。まだ間に合ってなくて」
シンジ「あぁ、いや。いいよ」
アスカ「……あ……」パクパク
マナ「私、まだ教室の場所がわからなくて、あの教えてもらったら」
ヒカリ「そ、それなら私が、いたぁ!?」ビシ
トウジ「いいんちょは黙っとれ! たしかにわからんのは不便やな。シンジ、案内したれ」
ヒカリ「は、はたかなくたっていいじゃない!」
トウジ「ケンスケ」
ケンスケ「はぁ、また碇か。碇なのか。いいよ、こっちはまかせて行ってこい」
シンジ「トウジ、ケンスケ?」
ケンスケ「ほら、そこで固まってるドイツ人が正気を取り戻す前に、はやくしろよ」
シンジ「う、うん。わかった。それじゃ行こうか、霧島さん」
マナ「碇くんって優しいんだね! 嬉しいっ!」ギュウ
アスカ「……」ピシッ
シンジ「ち、近いよ。そんな、腕組まなくとも」
マナ「あ、ごめんなさい。馴れ馴れしかった? えへへ。ねぇ! はやくいこっ!」
【第壱中学校 構内】
シンジ「ここが理科準備室。当番になったら授業前に先生の指示で器具を用意するんだ」
マナ「うんうん」
シンジ「それじゃ、次に……」
マナ「ねぇねぇ、シンジくんって、なんていったかな。あっ! 怪獣だ! それと戦ってるって本当?」
シンジ「……誰から聞いたの?」
マナ「さっき、歩いてたときに話てるのが聞こえちゃった。すごいね。みんなのヒーローなんだ?」
シンジ「そんなにたいしたものじゃないよ」
マナ「……嬉しくないの?」
シンジ「次に行こう」ガララ
マナ「あっ、ま、待ってよ」タタタッ
【屋上】
マナ「きれい……」
シンジ「ここからの景色はいいんだ。でもみんな使わない」
マナ「どうして? お昼食べたら気持ちよさそうなのに」
シンジ「見慣れた景色だから。僕も数ヶ月前に転校してきたからそう思うけど。元々、住んでた人達には有り難みがないんじゃないかな」
マナ「そうなの、もったいないね」
シンジ「夕焼けはもっときれいだよ」
マナ「ねぇ、どうして、そんなに悲しそうに街並みを見つめるの?」
シンジ「悲しそう?」
マナ「私がそう感じるだけなのかな。碇くんは、みんなにチヤホヤされて嬉しくないの?」
シンジ「僕が望んでるわけじゃないから、アスカは誇りに思うかもしれない。だけど誰もがパイロットになりたくてなってるわけじゃないんだよ」
マナ「えっ? だって、碇くんは親が……はっ、そ、そうなんだ……」
シンジ「……?」
マナ「ご、ごめんなさい。もったいないね、この景色」
シンジ「うん……そうだね」
マナ「(情報だと、私、てっきり望んで乗ってるんだと。違うの?)」
シンジ「そろそろ、昼休みが終わるよ。案内しきれてない体育館とかは誰かに聞けばすぐにわかるから」
マナ「あ。……ありがとう。あの、シンジくん、って呼んでもいい?」
シンジ「どうして?」
マナ「友達がまだいないから。その第一号になってもらえないかな?」
シンジ「……僕でよければ」
マナ「ありがとう! 私はマナって呼んで!」
シンジ「マナ、さん、でいいのかな」ポリポリ
マナ「呼び捨てでいいよ! ね?」
シンジ「わかったよ、マナ」
マナ「でも、なんだか、静かだね。街が、まるで……停止してるみたい」
シンジ「……?」
マナ「電車の音も聞こえないし。なんだろう、なにか違和感があるような……」
シンジ「たしかに、変だ」
バァンッ
アスカ「シンジっ!」
シンジ「アスカ?」
アスカ「第三新東京市の電力が落ちてる!」
シンジ「なんだって?」
アスカ「使徒の仕業かもしれない、ネルフに行くわよ!」
レイ「携帯電話も繋がらない」
シンジ「……! でも、ネルフに行くまでのアシはどうするの?」
アスカ「ちっ、そうだった。ええと」
シンジ「職員室に行って先生達の中で車を運転できる人がいないか聞いてみよう。綾波、携帯電話の表示は圏外になってる?」
レイ「電波はたってる。回線が混雑しているのかもしれない」
シンジ「電力が落ちてるなら、公衆電話は使えない。だから回線がパンクしてるのかもしれないね」
マナ「……あ、あの……」
シンジ「マナはこのまま指示があると思うから、それまで待機してるといいよ。誘導に従って、わからないことがあればトウジ達に聞けばいいから」
アスカ「ミサトも渡すんなら衛星電話にしときなさいよねぇ、肝心な時に使えないんだから」
シンジ「しかたないよ。重くなっちゃうから。とにかく、職員室に急ごう」
【ネルフ本部 発令所】
ミサト「電力を落とすのはブラフじゃなかったってわけ」
マコト「……」
ミサト「マヤ少尉、外部からなにか連絡は?」
マヤ「なにも。シャットアウトされています。電力に頼りきっている部分が多すぎますから。三系統が一度に落ちるなんて……」
リツコ「それにしても暑いわね。エアコンも?」
シゲル「はい。当たり前の話ですが、空調も電力を使っていますから」
リツコ「ふぅ、復旧作業はどれくらいの見込み?」
マヤ「現在、技術部が総出で原因解明にあたっています。本日未明では、ないでしょうか。なんにせよ原因をつきとめないことには、なおしようも」
リツコ「MAGIは今、無防備になっている。回復したらOSだけはとにかく急いで立ち上げるのよ」
マヤ「了解」
ミサト「(予定通りってわけね。でも、落とした目的はなに? ユイ司令はなんの目的があってネルフを危険に晒すの?)」
リツコ「……ミサト?」
ミサト「はぁい?」
リツコ「私も現場に行ってくるから、あとは頼んだわよ」
ミサト「はいは~い」ヒラヒラ
リツコ「そんな態度でいいの? 左遷させられるわよ?」
ミサト「するつもりなら昨日の時点でされてるわよ」
リツコ「……?」
【職員室】
先生「おお、来ると思っとったよ。使徒というやつか?」
シンジ「まだわかりません。先生方の中で運転できる方いますか? ネルフまで乗せていただきたいんですが」
先生「あー、そうだな。私が行こう。キーをとってくるから少し待ってくれ」
シンジ「綾波。ネルフには連絡ついた?」
レイ「いいえ。ずっと繰り返しかけているけど繋がらない」
シンジ「……どこにかけてるの?」
レイ「どこって?」
シンジ「えっと、ネルフのどこに?」
レイ「守秘回線が原則だから、総合本部……あっ」
シンジ「向こうが電力落ちてるなら、繋がらないよ。ミサトさんにかけてみてもらっていいかな」
レイ「了解、ごめんなさい」
アスカ「シンジ?」
シンジ「……?」
アスカ「いや、なんでもない」
レイ「……碇くん、繋がった」
シンジ「貸して」
レイ「はい……」スッ
ミサト「レイ、もしもし?」
シンジ「ミサトさん、どうなってるんですか」
ミサト「シンジくん? レイの携帯電話から、ああ、そっか、かりたのね。今、第三新東京都市の電力が落ちてるのよ」
シンジ「使徒ですか?」
ミサト「うーん、違う、かな。今は学校よね? そっちでなにか異常ある?」
シンジ「僕たちもさっき気がついた所です。屋上で景色を眺めていたら静かすぎたので。そういえば、アスカと綾波はどうやって気がついたの?」
アスカ「あんたは屋上にいたから気がつかなったんでしょうけど。先生達が電気が使えないって気がついて」
ミサト「アスカも一緒にいるの?」
シンジ「はい。今、僕たちは職員室にいます。これからネルフ本部に向かおうとしてたんですけど」
ミサト「……そうね。形だけでも非常時の備えは必要だわ。迎えよこす?」
シンジ「先生に送迎をお願いしたところです」
ミサト「あら、シンジくん、なんだかはりきってる?」
シンジ「いえ、そんな。僕にできるのはなにか、見つけてしているだけです」
ミサト「……そう。えらいわね」
シンジ「このまま僕たちはネルフに向かいます。ゲートのセキュリティはどうなってますか?」
ミサト「あっ、そうだった。緊急用の非常階段があるけど、道わかる?」
シンジ「ミサトさんと初めて会った時に使った通路ですか?」
ミサト「あはは。よく覚えてたわねぇ。あ、そっか。あの頃、迷っちゃったんだっけ」
シンジ「……携帯電話が通じるならナビしてくれるという手もありますし、大丈夫だと思いますよ」
ミサト「そうね、わかった。私ももっとはやくに連絡すべきだったわ。アスカにも謝っておいて」
シンジ「わかりました、それじゃ着いたら連絡します」
ミサト「ええ、気をつけてね」ピッ
アスカ「……」
レイ「……」
シンジ「どうしたの? 二人とも」
先生「おう、待たせたね。……急ぐんだろ?」
【ネルフ本部 発令所】
ミサト「全職員に通達! 携帯電話をあるだけ集めて!」
マヤ「……あっ! そっか! どうして見落としてたんだろう!」
ミサト「基地局は生きているわ。回線がパンクする前に、我々が必要なラインは確保します。戦自にも連絡、急いで」
マコト「了解!」
シゲル「あー、あー、マイクテス、マイクテス。聞こえるか? ええい、まどろっこしい! 通達が聞こえる範囲にいる職員は、速やかに携帯電話を提出!」
オペレーター「了解。各自、手動でハッチ開け。速やかに移動を開始せよ」
冬月「……予備バッテリーの確保にも走らせろ。外部への通信手段がなくなると孤立してしまうぞ」
マヤ「ええと、モバイルバッテリーって乾電池よね? 単三? 単四?」
マコト「両方集めてしまえばいい!」
ミサト「これは訓練ではないわ。只今の時刻をもって、第一種戦闘配置へ移行します」
【ネルフ本部 執務室】
ユイ「……」
加持「いい予行練習になりそうじゃないすか」
ユイ「……仕事は終えたの?」
加持「おかげさまで。誰の邪魔もはいらず完遂できましたよ。このMOデータはそのまま政府に渡してもよろしいので?」
ユイ「ふふ、それでは困るわ。なにも丸裸になるほどサービスしなくていい、ダミーデータを用意してあるから、代わりにこれを」スッ
加持「言うまでもないと思いますが、政府はネルフの占拠を目論んでいます。MAGIが心臓であると勘づいていますよ。だからこそ、潜入路を、構造を知りたがっているんです」
ユイ「システムの欠陥は機械ではなく、往々にして使う側にあるものだもの。麻痺させるのは……そう、最後の敵は、人間なのよ」
加持「この、俺が集めたデータは?」ピッ
ユイ「それはこちらで使わせてもらうわ」
加持「あいかわらず抜け目ないっすね。いざ攻めてきた時に対する処置ですか」
ユイ「ただ指をくわえてまっているのはバカな女なだけよ。自分で引き寄せなくては」
加持「復旧させるのはいつごろにされますか」
ユイ「様子を見ましょう」
加持「……なにか気になることでも?」
ユイ「シンジが気になる」
加持「(つけいる隙があるとすれば、息子の存在か)」
ユイ「なにかよからぬ考えを抱いてない?」
加持「いいえ。なにも」
ユイ「……」
加持「それじゃ、俺はこのまま政府にコレを渡しに行きます。はやい方がいいでしょうしね」
ユイ「ええ。くれぐれも、あなたが二重スパイだと悟られてはだめよ。そのためにこうしたのだから」
【ネルフ本部 非常用通路】
レイ「こっちよ」
アスカ「なんでファーストが先頭を立って歩いてるのよ……」
シンジ「道がわかるっていうんだからいいじゃないか。まかせようよ」
アスカ「あんただってそれぐらいわかるんじゃないのぉ!? さっきの電話ではえらそーなこと言ってたくせにさぁ!」
シンジ「誰が案内したってつくのは同じじゃないか」
アスカ「……あたしは……ファーストよりあんたが……」ブツブツ
レイ「――待って」
アスカ「うぷっ! 鼻打っちゃったじゃなぁ~い!」
シンジ「シッ、誰か来る」
アスカ「どうせ職員か誰かでしょ」
レイ「……」
シンジ「……」
アスカ「……?」ヒョイ
レイ「碇くん」
シンジ「うん。アスカ、アスカ走るよ」グイ
アスカ「え、えぇ!? ちょっと! もぉっ、なんなのぉ~!」タタタッ
アスカ「――はぁっはぁっ、ちょっと、もう、離して! 離してってばぁっ!」ブン
シンジ「あ、ごめん」
アスカ「シンジもファーストもなんだっての!? わかるように説明しなさいよ! なにが来たの!?」
レイ「わからない」
アスカ「はぁ?」
シンジ「なにか危険な気がしたんだ。だから、急ぎたくて」
アスカ「なによそれぇ? たかだかなにも根拠のない勘のせいでわざわざ走らせたの?」
シンジ「でも、はやく発令所につけそうだし」
アスカ「そんなのは結果論でしょ! 歩いて行ったってよかったわけだし、その理屈はおかしいわよ!」
シンジ「アスカを、守りたくて」
アスカ「守る!? あんたが! このあたしを!? いきなり何様のつもり!?」
レイ「危険は事前に回避してこと意味があるわ。碇くんはなにも悪くない」ズイ
アスカ「なんで人形が出てくんのよ。……うっとおしい! 今はあたしとシンジが話をしてるでしょ!? 見てわかんないの!?」
レイ「口論をしている時間はないわ」
アスカ「余計な口出しをしなきゃすぐに終わって……ふーん、そう、シンジの点数稼いできたいんだ。あんた」
レイ「…なに?」
アスカ「ファーストってばシンジが好きなんだぁ~? 愛しい王子様の前で良いとこ見せたいってはりきっちゃってるのかしらねぇ~」
シンジ「アスカ……」
アスカ「シンジは黙ってて! ……なんとか言ったらどうなの!?」
レイ「…………好きって、なに?」キョトン
シンジ「(そうか……綾波は本当にわからないんだ……器、だから……)」
アスカ「ば、バカにしてんの?」ピクピク
レイ「いいえ」
アスカ「そうとしか思えないじゃない! あんたの行動は気に入られようとしてしてるんでしょ!?」
レイ「違うわ。私がよく構造を把握しているから」
アスカ「……あたし、嘘つきは嫌いよ」
レイ「嘘じゃない」
アスカ「私たちの年齢になって好きってなに? は、ふざけてんじゃないわよ!」
シンジ「(そうじゃない……綾波は、知らないんだ……本当に……)」
レイ「ふぅ、どうすればいいの?」
アスカ「……っ!」ギリッ
レイ「どうすれば、納得するの?」
シンジ「綾波、だめだ。それじゃ、火に油を」
バチンッ!
レイ「……」キッ
アスカ「……なによ、先に煽ったのはあんたでしょ。なんの文句があるっての!」
レイ「……」フッ
アスカ「なによ、なによ、なによなによなんなのよ! あんた何なの!?」
シンジ「あぁ……」
レイ「……やりとりに真実はありはしないわ。解釈の仕方が違うだけ」
アスカ「意味わかんない! なんでこんなやつがパイロットなのよ!」
シンジ「アスカ、綾波……」
レイ「あなたは、受け入れられないだけ。いいえ、見ようともしていない。私は、嘘つきじゃない」
アスカ「私のどこが見ようとしてないって!? あんたの表現が乏しいからでしょ! 理解してほしいなら喜怒哀楽をはっきりさせなさいよっ!」
レイ「……」
アスカ「……」
シンジ「二人とも……」
アスカ「シンジ、選んで」
シンジ「えっ?」
レイ「……!」キッ
アスカ「私とファースト、どっちが正しい?」
シンジ「ぼ、僕が?」
アスカ「あんたは第三者の立場から見てる。贔屓なしで、どっちの言い分が正しいか選んでよ」
レイ「なぜ、碇くんを巻き込むの?」
アスカ「……! もともとあんたが首をつっこんできたんじゃない」
シンジ「(……どうしよう、どうすれば……)」
レイ「……」
シンジ「(綾波は本当に好きって感情がわからないんだ……だけど、アスカは? アスカは綾波がリリスの器だって知らないんじゃないの……)」
アスカ「……」
シンジ「(アスカは綾波を同年代の変わった子として見ている。お互いに、空回りしてるんだけなのかもしれない。決定的に違うって知っていれば、もう少し接し方があるはずなのに)」
アスカ「こんの優柔不断! はっきり決めなさいよ! やっぱり、あんたはファーストを選ぶの?」
レイ「……」
シンジ「……どちらも選べないよ」
アスカ「は、はぁ? そんなの……」
シンジ「僕が本当に公平ならどっちにも非があるんだと、思う。アスカは、煽られたと思って頭に血が上ってるし、綾波も考えた言い方があるんじゃないかな」
レイ「……」
アスカ「……」
シンジ「僕たちはそれぞれ性格があるんだ。受け入れられないと思うのも当たり前だよ。合わないのなら、やりようがある。そうだろ、アスカ、綾波」
アスカ「喧嘩両成敗ってわけ……?」
シンジ「アスカは、僕に判断を委ねたんだ。贔屓なしでって言ったじゃないか。これが、僕のだした答えだよ」
アスカ「あんた……」グッ
シンジ「僕は、アスカの、理不尽な気持ちがわかる気がするんだ。僕もなにも知らなかったから……アスカは、無意識におかしいって気がついているんだね」
レイ「……」ピク
シンジ「綾波、アスカはなにも知らないんだ」
レイ「……ええ」
アスカ「そう。……なぁ~んだ。シンジとファーストって、もうできちゃってんじゃない」
シンジ「そうじゃないよ、僕はただ」
アスカ「なんで言い訳しようとしてんの!? 別にあんたが誰と仲良くなってたって私が気にするわけないのにっ!」
シンジ「……僕は、アスカに誤解が……」
ドドォーンッ!
レイ「……っ!」
アスカ「な、なに? 地震?」
シンジ「なんだ? ……ぐっ!?」ドサッ
アスカ「し、シンジ? なんなの?」
シンジ「なんだ、手が、痛い……うぐぅぅっ」
【発令所】
ミサト「なに!? 今の揺れ! 使徒!?」
マヤ「だめです! 電力が回復してません! 信号の解析の為の立ち上げがっ!」
シゲル「職員から集めた携帯電話を使い、ありったけの回線を本部に集めていますが、なにぶん細すぎて、データ量を転送するのに時間が足りません!」
ミサト「戦自は!? あっちの電力も落ちてるの!?」
マコト「たった今、戦自より通達あり! アメリカを出発していた輸送機が何者かの手によりハイジャックされていた模様!」
ミサト「聞いてないわよ!? まさか……!?」
マコト「輸送引き渡しを予定されていた三号機です! 管制塔からの報告によるとその後の空路は、第三新東京都市に向けて舵をきっています!」ガタッ
マヤ「そんなっ!? 三号機はまだテスト段階じゃ!」
ミサト「誰が操縦してるかわからない輸送機が、三号機を乗せたままここにきてるってわけ!? 今の揺れもそのせい!?」
シゲル「い、以前として不明! 」
オペレーター「電話連絡入りました! 地上にいる職員からの目撃情報によると、第一階層に物理攻撃を確認!」
ミサト「しゃ、シャレになってないわ! ネルフは今、無防備なのよ!? シンジくんたちは!? エヴァの発信準備! 技術班達は、復旧作業を一時中断して!」
リツコ「ミサトっ!? なにが起こってるの!?」タタタッ
ミサト「ちょっと待って! 私たちも今それを解明しようとしてるの!」
リツコ「……マヤ! ノートパソコンは使えるでしょう!」
マヤ「は、はい。ですけど、アプリケーションの処理が重くて」
リツコ「貸しなさい!」カタカタッ
シゲル「MAGIが機能停止しているので、外部のクラウドサーバーに処理を負担してもらっています、モバイル回線では」
リツコ「できたわ!」
シゲル「えっ?」
マヤ「す、すごいっ! 先輩、どうやったんですか!?」
ミサト「さっすがリツコっ! 持つべきものは優秀な学友ね!」
リツコ「無駄口はいい! この信号は……ネルフ本部への攻撃ではないわ、連合軍が輸送機を追撃している」サッ
ミサト「流れ弾がこっちにきてるの?」
ユイ「状況を報告して」コツコツ
ミサト「……現在、連合軍と何者かにハイジャックされた輸送機が第三新東京都市上空で」
ドドォーン
ミサト「……! また!?」
ユイ「ここにまで衝撃波が届くのは異常よ。三号機の引き渡し予定日はまだ先ではなかった?」
マコト「どうやら、燃料を補給する際の中継地で事の発端が起こったようです。詳しい経緯については、情報が錯誤しすぎて」
ユイ「予定外ね。電力を普及させるには今すぐにできない。シンジ達は?」
ミサト「……こちらに向かっているはずです、今頃は、通路を進んでいるはずと思われますが」
ユイ「エヴァの内部電源と、加えて予備をいつでもいれられるように」
オペレーター「了解。各自作業に取りかかれ。電力の使用は知っての通り不可だ、手動でハッチを開け」
技術班「いよーいしょ! いよーいしょ!」
アスカ「シンジ⁉︎ ねぇ、シンジってばぁ! 立てないの⁉︎」ゆさゆさ
シンジ「(手が、熱い! まるで燃えてるみたいだ!)」
レイ「共鳴してるのね」
アスカ「……っ⁉︎ あんたなにか知ってるの⁉︎」
レイ「……」
アスカ「使徒の仕業⁉︎ なんでシンジはこうなってるのよ⁉︎」
レイ「私からはなにも言えない」
アスカ「どうして⁉︎」
レイ「……言えば、きっと碇くんは悲しむと思うから」
ドドォーンッ
アスカ「……! また衝撃波⁉︎ 地下まで届いてるんじゃ、地上は……」
シンジ「ぐっ、アスカ、綾波、先を急がなくちゃ」
アスカ「あんた、すごい汗だけど、平気なの?」
シンジ「今は僕よりも、トウジたちを、街のみんなを守らなくちゃ」
レイ「……」コクリ
アスカ「……ぐずぐずしてらんないのわかってる、だけど、シンジはすこし休んでから来なさい! ファースト!」
レイ「了解」
シンジ「二人とも、ご、ごめん」
アスカ「気にすることないわ、愚民を守るのはエリートの義務ってやつ! 走るわよ!」タタタッ
レイ「先に行ってる、無理しないで」タタタッ
【シェルター内】
ズズーン
ケンスケ「けっこう揺れてるな、やっぱり、使徒が来たのか」
ヒカリ「大丈夫かしら……」
トウジ「心配あらへん。シンジ達がなんとかしてくれるに決まっとる」
マナ「……」
ヒカリ「あっ、霧島さん、こわい?」
マナ「うぅん、大丈夫」
トウジ「なんや? ビビっとるようには見えへんな」
ケンスケ「最初は現実感ないんじゃないか?」
マナ「……ねぇ、みんなはシンジくんと、仲良いんだよね?」
トウジ「もう名前呼びかいな、センセはさすがやのー」
マナ「あの」
トウジ「あぁ、仲良いかって話か? まぁ、せやな。仲悪くはないな」
マナ「どうして、言い切ってあげないの?」
ケンスケ「僕たちも碇と知り合ってまだそんなに経ってるわけじゃないからさぁ」
ヒカリ「私は、アスカとは仲良しだけど、碇くんとはあまり……」
マナ「そう、なんだ……」
ケンスケ「勘違いするなよ? 僕らだって仲悪いとは言ってない。ただ、たまに距離を感じるというか、よそよそしいというか」
トウジ「この前はワシに遠慮するのはらしくないとか言うとったくせに。ケンスケもやっぱりそう感じとったんやないか」
ケンスケ「碇が僕らに距離をとってるように感じるのは事実さ。あいつ、積極的じゃないからなぁ」
トウジ「せやのぉ。たまになに思うとるのか、自己主張をせんというとも考えものやな」
マナ「自己主張を、しないって? 受け身ってこと?」
トウジ「ワシらが難しく考えとるだけかもしれんが、煮えきらんというか、溜め込むっていうかのー」
ケンスケ「人の顔色を伺うタイプって感じだね」
マナ「パイロットなのに顔色を? みんなからチヤホヤされるでしょう? 調子に乗っちゃってもいいと思うけど」
トウジ「……まぁ」
ケンスケ「……それがなぁ」
ヒカリ「碇くんは、そういう人じゃないわよ。私もわかったような顔して言えないけど、違うと思う」
マナ「……?」
トウジ「シンジは、乗りたくて乗ってるわけやないからな」
マナ「……データと相違点があるの……?」ボソ
ケンスケ「ん? データってなんの?」
マナ「あっ! な、なんでも! えへ、えへへっ!」
トウジ「しっかし、えらいシンジを気にするのぉ。転校してきたばかりやのに」
ケンスケ「碇に一目惚れでもしたのかぁ?」ニヤニヤ
マナ「うーん(……どうしよう。なんて答えるべきかな。シンジくんに接触しやすくなるには、この人たちとも仲良くなっておいた方がいいし、他のパイロットとは恋愛関係にないってあったし……)」
ケンスケ「……お、おい? なんで考え込むんだ? 冗談のつもりだったんだけど」
ヒカリ「ま、まさかぁ、相田くん、それはないわよ。まだ会ったばかりだし」
マナ「……そうかな? 私は、シンジくん、謙虚でかっこいいと思うな」
トウジ「ま、マジで言うとるんか⁉︎」
マナ「うん? 変?」
ヒカリ「だって、ほんの数時間前に会ったばかりなのに」
マナ「第一印象は優しそうだし、頼れるって感じがしたってだけだよ?」
ケンスケ「そ、それだけ?」
マナ「うん、でも、みんなの話を聞いてもっと興味がわいてきたかも! えへへ」
トウジ「し、しかし、シンジにはサクラが」
マナ「……サクラ? だれ、それ」
ケンスケ「シスコン! なに言ってるんだよ! そこは綾波とかじゃないのか!」
トウジ「誰がシスコンや! 誰が!」
ケンスケ「認めないのかよ!」
ヒカリ「ちょっと待って、アスカは⁉︎」
マナ「……あや、なみ? あすか? いろんな子の名前がでてくるね。シンジくんって、モテるんだ?」
ケンスケ「あ、あぁ、綾波とアスカっていうのは同じパイロットで……」
マナ「シンジくんを好きなの?」
トウジ「あー……うーん?」
ケンスケ「す、好き? なのか、あれは」
ヒカリ「ど、どうなんだろう……悪く思ってはない、と思うけど」
マナ「お友達?」
ケンスケ「改めて考えてみたら、よく、わからないな。僕らより仲良いのは間違いないけど」
トウジ「それもパイロット同士と考えたら……うーん」
マナ「(吊り橋効果はありえるかな……)」
ヒカリ「あの、霧島、さん」
マナ「マナって呼んで! なに?」
ヒカリ「あ、うん。私もヒカリでいいよ。……あの、本気、なの?」
マナ「シンジくん?」
ヒカリ「うん」
マナ「会ったばかりだし、よくわからない部分も多いのはみんなが思ってる通り、私もそう思う」
ヒカリ「……」
マナ「だけど、最初ってみんなそうじゃないかな? 時間をかけてゆっくり知り合っていくのも大事だけど」
ヒカリ「は、はやすぎない?」
マナ「うん、ちょっと、そう思う。幻想を抱いてるのか、これからもっともっと好きになるのかなんてわかんないよ。厚かましいお願いだってわかってるけど、みんなとも仲良くしたいし」
トウジ「ワシらもか?」
マナ「うん!」ギュ
トウジ「お、おぉ、ワシらでよかったら」
ケンスケ「あーあ、鼻の下のばしちゃって……」
ヒカリ「すぅ~ずぅ~はぁ~らぁ~っ!」
トウジ「なんやいいんちょ! 今、友情を」
ヒカリ「問答、無用っ!」
【ネルフ本部 発令所】
アスカ「ミサトっ! 状況は⁉︎」ズザザ
ミサト「待ってました! 良いタイミングだわぁ! エヴァの発信準備がもう少しで終わるからスーツに着替えてすぐにエントリーして!」
アスカ「了解!」タタタッ
レイ「……ふぅ……ふぅ……」
ユイ「待って。レイ、初号機パイロットの姿が見えないけど、どうしたの?」
レイ「……碇くんは、疲れていたので遅れています」
ユイ「ここまで走るのに体力がもたなかった?」
レイ「はい」
ユイ「……準備が終えたエヴァから自力でロックボルト解除。順次、発信スタンバイ」
ミサト「了解! 最初に地上へ出たエヴァに詳しい状況がどうなってるのか報告させるわ! 伊吹少尉!」
マヤ「ノート端末に必要なアプリケーションの準備は既に終えています! いけます!」
リツコ「ミサト、わかっていると思うけどバッテリーの予備はあくまで補助的なものよ。エヴァの活動時間は6分。それ以上になったら全機能は停止」
ミサト「承知しているわよ! レイも急いでプラグスーツに着替えて……っと、司令、今回の出撃は、零号機の凍結がないものと考えてよろしいですね?」
ユイ「もちろん」
ミサト「はっ! ……各ブロックに残っている職員は、緊急発進に備えて避難して! 通達漏れがないように、余計な怪我人をださないようにするのよ!」
シゲル「五分の避難時間を設けます!」
冬月「それでは遅いな。電力が使用できない以上、オペレーターに人数は必要ない、第一から第七ブロックまで手分けして走らせろ。エヴァの発信準備が整い次第、避難は完了したものとする」
マコト「りょ、了解! こりゃあ、時間がないぞ! 急げ!」
【弐号機 エントリープラグ内】
アスカ「よっと」カチ カチ ゴポゴポ
ミサト「アスカぁっ! 聞こえるぅ~⁉︎」
アスカ「い、今時拡張器ってダサ……学校の備品じゃあるまいし」
ミサト「聞こえてないのぉ~⁉︎ 聞こえてたら外部への音声出力をオンにして返事して~!」
アスカ「聞こえてるわよ」
ミサト「よかった! 電源は滞りなくはいったのね! アスカの弐号機が一番はやくスタートできそうなのよ~! 発進できそうなの~!」
アスカ「どうやって? 固定具はまだかかってる状態だけど」
ミサト「手で押しのけちゃって! あ、壊さないようにね! 高いんだから!」
アスカ「ボルトで固定されてるじゃない。押したらはずれる、っていうか、折れるわよ……」
ミサト「ボルトはしかたないけど! そぉーっとよ! そぉーっと!」
アスカ「まったく、急がせるのか慎重にさせるのかどっちかにしてよぉ!」
ミサト「慎重に急いで! 内部電源スタート!」
アスカ「注文が多いの、よっ!」ググッ
ミサト「職員は退避! 弐号機がでるわ!」
アスカ「いがいと重い……!」グググッ
技術部「あぁっ⁉︎ レフ版が折れる折れる折れるー!」
アスカ「ぬぐぐ、こんなものぉー!」ザパーン、ギギィー
技術部「わああっ⁉︎」ドタバタ
ミサト「いい感じ! そのままカタパルト、は、出れないからぁ……カタパルト使えないの忘れてたぁっ!」
アスカ「……」ガックシ
リツコ「アスカ、聞こえる?」
アスカ「……通信?」
リツコ「端末からアクセスしています。地上までの経路はこちらからデータを送るわ」
アスカ「通信が使えるならミサトにも教えてあげたら?」
リツコ「……後でね」
【第三新東京都市 上空】
国連空軍指揮官「ジーザス! なぜこちらの通常弾頭がことごとく無効化されるのだ!」
オペレーター「電磁波にも似た強力なATフィールドが輸送機より展開!」
国連空軍指揮官「輸送機1機に150機の戦闘機を投入しているのだぞ! こんな光景が現実に起こるとは、あ、悪夢を見ているのか……」
オペレーター「イージス艦より解析入電! 目標を中心とした半径5キロメートル四方にて磁場による歪みを確認! 衝撃波……きますっ!」
キィーン ドドーン
オペレーター「計器に異常! 復旧のため再起動!」
国連空軍指揮官「ぐっ……! また電磁妨害か! まさに結界ではないか、ATフィールドとはここまで鉄壁な代物なのか……」
オペレーター「過去のデータによると、かろうじて有効な火力兵器はN2ですが、侵攻を止めるので精一杯です」
国連軍指揮官「デタラメなシールドだな……! だが、実害は衝撃波だけだ! とにかくありったけのミサイルを撃ち続けろ! こんなバカな話があってたまるか!」
オペレーター「復旧作業を終えました! ネルフ本部から通達! エヴァンゲリオン各機、出撃段階に移行!」
国連空軍指揮官「ようやくか! 忌々しいが、今はやつらが頼みだ、はやく来てくれ……!」
オペレーター「180秒後に厚木基地より航空機の応援が到着予定です! 」
国連空軍指揮官「時間を稼げ! 撃ちつくした航空機は母艦に帰投さ補填を終えたら再度出撃!」
オペレーター「イエッサー!」
国連空軍指揮官「しかし……輸送機は上空でぐるぐるとなにをやっているのだ、皆目見当がつかん」
オペレーター「……なにかを待っているとか?」
国連空軍指揮官「発言は許可していないぞ!」
オペレーター「し、失礼しました!」
【三号機 輸送機内】
https://youtu.be/Rk8_jqMRAN0
カヲル「やはり、歌は心を潤してくれる。……常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じる」
カヲル「だからなのかい? ガラスのように繊細な心を守ろうとして、補完への道を選ぶのは。……人の宿命(さだめ)か。ヒトは希望でさえ悲しみに綴られているね」
カヲル「愚かだね、誠の友なる存在を、心を通じ合えた喜びを分かち合おうともせずに。……遅いな、シンジくん」
キィーン ドォーーンッ
カヲル「ん……? あれは、弐号機……EVAシリーズ。アダムより生まれし人間にとって忌むべき存在。それを利用してまで生き延びようとするリリン。ボクにはわからないよ」
【弐号機 エントリープラグ内】
アスカ「なんなの……あれ」
ミサト「アスカ! どうなってる⁉︎」
アスカ「戦闘機が輸送機に群がってる……ように見えるけど」
ミサト「映像で見えないのが痛いわね。電源に余裕がないわ! 速攻でカタをつけて!」
キィーン ドォーーン
アスカ「きゃああっ……! 衝撃波⁉︎ そんな、ウソ? あれって、ATフィールド? 使徒ぉ⁉︎」
ミサト「使徒⁉︎ アスカ⁉︎ どうなったの⁉︎」
アスカ「……輸送機からATフィールドを肉眼で確認! どう見てもまともじゃない!」
ミサト「そんなっ⁉︎ 最悪じゃない! 使徒の形状は⁉︎ なにか見える⁉︎」
アスカ「……残り時間は」チラ
ミサト「アスカ⁉︎」
アスカ「使徒は上空で旋回中。ここからじゃ形まで視認できない。バックパックを積んだままじゃ重くてこっちが不利、パージしていい?」
ミサト「まかせるわ! レイを急いで地上にあがらせるから、なんとか持ちこたえて!」
アスカ「必要ないわ! 先に予備電源から使ってるし内2分もあればじゅうぶんよ!」ガコンッ
アスカ「……行くわよ! 私の弐号機!」グッ
【ネルフ本部 発令所】
ミサト「アスカ! 兵装ビルの装備は手動でも取り出しできるようになってるわ! 中にパレットライフルがあるはずだから! 零号機の準備はまだ⁉︎」
マコト「エントリースタンバイ! バックパックの装備に手間取っています! 」
リツコ「規格外だもの。プロトタイプがここにきて裏目にでたわね」
冬月「使徒、タブリスの仕業か――。フォースとして選定される前に、ことを起こしにかかるとはな」
ユイ「壇上にあがる順番をはやめるつもりのようですね。自らの手で」
冬月「時計の針は元には戻らん。だからこそ、我々がふさわしい舞台を用意すると伝えたつもりだったが」
ユイ「また、計画を修正しなければなりません」
冬月「……」
ユイ「タブリスは「自由」を欲しているのです。彼自身が、魂の解放を願っています」
冬月「碇と同様、また、ひとつの終わりを迎えるのか」
ユイ「セントラルドグマに侵入されると厄介でした。そうならなかっただけでも良しとすべきですね」
冬月「タブリスの死は先のはずだ。委員会が黙っては……そうか、それが狙いか」
ユイ「我々が葛城一尉と政府への牽制をしているタイミングを見計らってまんまとしてやられました、ふふ」
冬月「笑っている場合かね、やつは委員会へキミの過失を見せつけようとしているのだぞ」
ユイ「無駄なあがきです。川の流れは小さな石では止められないでしょう」
冬月「……」
ユイ「――シンジは? 初号機パイロットはまだここにつかないの?」
オペレーター「いまだ、お見えになっては……」
ユイ「作戦司令」
ミサト「はっ!」
ユイ「初号機を最優先。零号機はあとまわしでいい、シンジを探して」
ミサト「し、しかしっ! 弐号機の活動時間が残りすくなく、使徒の対応に……!」
ユイ「命令よ」
ミサト「りょ、了解、いたしました」
【弐号機 エントリープラグ内】
アスカ「こんのぉ~~~ッ!」┣¨┣¨┣¨┣¨ドッ
アスカ「ちょこまかとぉ! 降りてきて戦いなさいよぉ!」カチカチ
マヤ「ライフルの残弾が! アスカ! 考えて撃たないと!」
アスカ「考えてって、あ、あれ? 弾切れっ⁉︎」ブンッ
リツコ「距離が遠すぎる。強力なATフィールドはライフルでは破ることができないわよ」
アスカ「チィッ! 次ッ!」ガコン
リツコ「バズーカでも無理ね。陽電子砲でもない限り、そのまま活動限界を迎えて終わり」
アスカ「1分を切ってる! どうすんのよ! あたしは嫌よ! このままなにもできないなんてぇ!」
ミサト「相手は高度数千フィートか……! これじゃ他のエヴァをだしたところで……」
アスカ「ずるい、ずるいずるいずるいずるいぃぃいっ! あぁん、もう! 降りてきたらすぐにぎったぎったにしてやるのにぃ~~~っ!」ドンッ ドンッ ドンッ
キィーン ドォーーン
アスカ「くっ……まって、目標になにか動きが、あれって、エヴァ?」
ミサト「それって、輸送機に積まれてた三号機じゃ……⁉︎」
アスカ「……」ジー
ミサト「まさか、三号機が使徒⁉︎」
リツコ「ありえないわ。今までなんの兆候もなかったのよ」
アスカ「……来るっ!」
【ネルフ本部 非常用通路】
シンジ「うっ……」ヨロヨロ ドサッ
職員「ん? あれは……! おい! こっちだ! こっちにサードチルドレンがいたぞ!」タタタッ
シンジ「はぁ……はぁっ」
職員「どうしたんだ⁉︎ おい、しっかりし――あっつっ! ひどい熱だ!」
シンジ「誰、ですか」
職員「……司令の命令でキミを迎えにきた! 使徒がきてる!」
シンジ「そうですか、やっぱり、使徒、だったんですね」ググッ
職員「お、おい、大丈夫なのか?」
シンジ「綾波とアスカは、今はどうなってますか」
職員「弐号機がたった今交戦状態にはいったところだ! だが、電源供給ができないから残り稼働時間が少ない!」
シンジ「わかり、ました」ヨロヨロ
職員「……ほら」
シンジ「……?」
職員「おぶってやるから! 乗っかれ!」
【ネルフ本部 発令所】
アスカ「きゃああっ!」
ミサト「アスカ⁉︎ アスカ、大丈夫⁉︎」
マヤ「弐号機、左腕損傷!」
アスカ「ATフィールドは中和しているはずなのに……! な、なんなの、この力、こんなの、聞いて、ないわよっ!」
ミサト「リツコ! 三号機って基本仕様は同じはずでしょ⁉︎ どうして押し負けてるの⁉︎」
リツコ「差があるとすれば、操縦系統ね」
アスカ「私はエリートパイロットなのよ! この私が世界一なの! あたしが、負けてたまるかぁ~~っ!」
マヤ「弐号機、シンクロ率が微弱ではありますが増加!」
アスカ「こんちくしょぉ~~っ! ぐぐぅぅっ! なんで力で押し負けてるのよ、なんでやられないよー!」
マコト「だめです! 三号機に腕を捕縛されています!」
ミサト「活動時間は⁉︎」
シゲル「残り30秒!」
ミサト「活動停止とともに全神経をカット!」
アスカ「ぬぅぅぅっ! ATフィールド、全開!」
職員「――サードチルドレンを連れてきました!」
ユイ「……!」ガタ
シンジ「はぁ……はぁ……」
ミサト「シンジくん⁉︎ なにがあったの⁉︎」
職員「そ、それが、発見した時にはすごい高熱で……」
ユイ「エントリースタート。スーツは着なくていい、はやく」
ミサト「この状態で⁉︎ 無茶です! 零号機の出撃を進言します!」
ユイ「司令権限を発動します。ただ今をもって、作戦司令を降格。現場の判断はすべて私が直接指揮を執ります」
ミサト「……っ!」
リツコ「……承知しました。一刻の猶予を争う、行くわよ、急ぎなさい」
職員「了解!」
【弐号機 エントリープラグ】
キーン ドォーーン
カヲル「……それでは、ボクには勝てない」
アスカ「極秘回線⁉︎ 人が乗ってるの……?」
カヲル「キミとその弐号機の魂は殻にこもってしまっているね。人から必要とされなくなるのが、母親の死を受け入れるのがこわいのかい?」
アスカ「み、ミサト! 三号機に人が! ……ミサト⁉︎」
カヲル「すまないが、通信手段を断たせてもらったよ。ボクも本位ではないけど、キミにはシンジくんへの生贄になってもらう」
アスカ「シンジの……? あんた、いったい……」
カヲル「自己紹介は必要ない。すぐに終わるから――」
【ネルフ本部 発令所】
マコト「こ、これは……⁉︎ これまでにない強力な磁場が発生しています!」
シゲル「光波、電磁波、粒子も遮断しています! 外部との通信が途絶えました! パイロットとの連絡がとれません!」
ミサト「ぬぁんてインチキ! こちらからの制御は⁉︎」
マヤ「だ、だめです! 端末もノイズが……!」
ミサト「まずい! 神経カットができない!」
オペレーター「パイロットエントリー! 初号機、発進いけます」
ユイ「パイロットの意識は?」
オペレーター「朦朧としているようですが、かろうじて保っています」
ユイ「こちらからの指示はできない、シンジに判断をすべてまかせる。では、初号機、発進をさせて」
【第三新東京市 市街地】
シンジ「――あ、あれは、エヴァ? 弐号機は? アスカは?」
カヲル「待っていたよ、シンジくん」
シンジ「その声は……この感じ、カヲルくんなの?」
カヲル「体調が悪いだろうに、他人の心配かい? 今一度問おう。キミはなんの為にエヴァに乗るの?」
シンジ「アスカッ! どこにいるんだ!」
カヲル「ボクの質問に答えた方がいい。この手の中にあるのが見えないのかい?」
シンジ「それは、エントリープラグ? まさか……」
カヲル「そう。この入れ物には「中身」がある。なにが入っていると思う? シンジくん、僕はもっとキミと話がしたいだけなんだ」
シンジ「アスカがその中に⁉︎」ググッ
パキーン
シンジ「くっ、ATフィールド……!」
カヲル「そう、君たちリリンはそう呼んでるね。なんぴとにも侵されざる聖なる領域、心の光。シンジくんの父親にも聞いたけど、キミもわかっているんだろ? ATフィールドは誰もが持っている心の壁だということを」
シンジ「そんなの分からないよ、カヲル君! アスカを、返せっ!」ギギギッ
カヲル「アダム……われらの母たる存在……アダムより生まれしものはアダムに還らねばならない。人を滅ぼしてまで……そう思っていた。だけど、アダムはシンジくんとともに在る」
シンジ「うぐぐっ!」
カヲル「……まだ、答えを聞いていない」
シンジ「カヲルくん……どうして……カヲルくん! キミがなにをいってるのか、わからないよ!」
カヲル「単純な話だよ。キミがなんの為に、エヴァに乗るのか」
シンジ「僕は、守れる人がいるなら守りたい! それだけだ!」
カヲル「結果、自分を犠牲にしてまで?」
シンジ「僕はどうなったっていい! ワガママでもいい! 助けられなかったからきっと後悔してしまうから、だから、僕は逃げない!」
カヲル「……そうか。じゃぁ、ボクを殺してくれ」
シンジ「な、なんでそうなるんだよ」
カヲル「ボクが生き続けるのがボクの運命だからだよ。シンジくんの守りたい人達を犠牲にしてでもね」
シンジ「もうそんなこと言わないって言ったじゃないか!」
カヲル「ごめんね、シンジくん。だけど、ボクは死ななくちゃいけない。これは変えられない既定路線なんだ。キミが罪悪感を抱くことはない……。ボクにとって自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」
シンジ「……また、なんだね」
カヲル「立ち直りかけたところに辛い選択をさせてしまうね、さぁ、僕かそれとも弐号機パイロットか、シンジくんが選んで決めてくれ。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ」
シンジ「……」
カヲル「三号機とのシンクロを限界にまで高めてあげるよ。首を締めれば、ボクの首も締まる」
シンジ「……」チラ
カヲル「エントリープラグを握りつぶすのは、一瞬だよ。……わかるね?」
シンジ「ぐ、ぐすっ……」ポロポロ
カヲル「僕を、シンジくんの手で、解放してくれ。」
シンジ「……」
カヲル「……」
シンジ「……」ググッ
カヲル「そう、それでいい。これで、このパイロットも、僕も救われるんだ。シンジくんはなにも悪くない」
シンジ「……」グググッ
カヲル「かはっ」
シンジ「……」グググッ
――――ゴキンッ
シンジ「うっ、うっう……誰か、助けてよ……どうして、僕ばっかり……こんな思いしなくちゃいけないんだよぉぉおっ!」ガンッ
【ネルフ付属病院 201号室】
アスカ「……」パチ
リツコ「……」カキカキ
アスカ「……消毒液くさい……」ムク
リツコ「目が覚めたのね」
アスカ「ん……三号機は?」
リツコ「初号機によって活動を停止」
アスカ「シンジが? 三号機のパイロットはどうなったの?」
リツコ「絶命したわ」
アスカ「こ、殺したの?」
リツコ「あなたを、守るためだった。なにがあったか覚えてない?」
アスカ「たしか、あの後すぐに羽交い締めにされて、それから、プラグを揺らされて……」
リツコ「外傷が見受けられないのはそういう経緯ね」カキカキ
アスカ「わたし、気絶してたんだ。そんな、私が、シンジに助けられたっていうの?」
リツコ「あなたは人質になっていたのよ。結果だけを言えばね。助けられたどころか、足手まといね」
アスカ「……!」ギュウ
リツコ「一応、脳に異常はないか検査はするから」パタン
アスカ「シンジは、どこ」
リツコ「会ってなにを言うつもり?」
アスカ「文句言ってやる! 私は、助けてなんて!」
リツコ「……ふぅ、感謝しなさい、とは言わない。あなた、あそこで終わりたかったの?」
アスカ「……」
リツコ「まだ若いんだから。助かったのを素直に喜んだら?」
アスカ「私はエヴァが全てなのよぉ、私は一番じゃなきゃいけないの、バカシンジに助けられたなんて……」ポロポロ
リツコ「あなたが許せないのは、シンジくん? 本当に許せないのは、自分なんじゃなくって?」
アスカ「だったらなんなの!」キッ
リツコ「爆発してしまいそうな感情の行き場がわからないのね。……だからこそ、シンジくんにぶつけたい」ギシ
アスカ「……」
リツコ「私もヤキがまわってるわね。子供の面倒なんてガラじゃないわ」
アスカ「子供扱いしないで!」
リツコ「あなたは頭が良い。努力もしてる。だからこそ、わかるはずよ。シンジくんに、なにを言うべきなのか」
アスカ「……素直になんかなれない……」ギュウ
リツコ「……私も同じよ。人は誰しも仮面を被り、装って生きる。自分に嘘をつかないで済む相手が1人いる、それだけで救われるわ」
アスカ「……」
リツコ「さてと、もうしばらくしたら呼ぶから。シンジくんなら、隣の病室で寝てるわよ」
【ネルフ付属病院 202号室】
アスカ「……う、うーん……」うろうろ
アスカ「し、シンジ! 助けてくれてありが、ありがとぅ……べ、別に私が頼んだわけじゃ!」
レイ「……あなた、病室の前でなにしてるの?」
アスカ「わ、わぁっ⁉︎」ビクゥ
レイ「……?」
アスカ「な、なんにも! バカシンジが寝てるって言うからからかってやろうと思ってさぁ!」
レイ「……そう」ガラガラ
アスカ「ちょ、ちょっと待ちな」
シンジ「……すぅー……すぅー……」スヤァ
レイ「……」スタスタ
アスカ「な、なんだ。ぐっすりじゃない」
レイ「……」スッ
アスカ「どっか怪我してるの?」
レイ「外傷はないわ。傷ついたのは……」ピッ
アスカ「胸? あ……パイロットを……」
レイ「今は強めの睡眠薬で眠っている」
アスカ「そうなの……?」
レイ「錯乱状態だった、自殺しかねないほどに。碇くんは強くないってあなたも知っているはず」
アスカ「こいつ、立ち直れないかも」
レイ「あなたは、なにをしてあげるの?」
アスカ「……?」
レイ「碇くんに借りができたわ」
アスカ「……それは、たしかにそうだけど」
レイ「……」
アスカ「……」
シンジ「……すぅー……すぅー……」スヤァ
【シンジ 夢の中 電車】
カン カン カン
ガタンガタン
シンジ「また、まただ。なぜ僕だけがこんなに辛い思いをしなくちゃいけないの」
シンジ(少年)「くすくす、自分で選んだから」
シンジ「選択肢なんか少ないじゃないか!」
シンジ(少年)「……だったら、エヴァに乗らなければいいのに。みんなを守るために自分が傷つくのはかまわないんでしょ?」
シンジ「……」
シンジ(少年)「全部、自分で選んだ選択肢なんだよ。守りたいのなら、自分を犠牲にしなくちゃ」
シンジ「わかってるよ! でも! つらくて、誰かに優しくしてほしくて……」
シンジ(少年)「矛盾を抱えて生きていくのは辛い?」
シンジ「父さんに褒められたい、最初はそれだけだったんだ! それなのに、僕が知らないところで色んな人達が」
シンジ(少年)「それは知らなかっただけ。知らないだけでそこに在る世界」
シンジ「……」
シンジ(少年)「受け入れる決意は揺らいでしまったの?」
シンジ「……違う!」
シンジ(少年)「揺らいでないと自分に言い聞かせて生きていくの?」
シンジ「それも違うっ!」
シンジ(少年)「楽しいことだけを反芻して生きてはいけない。辛いことがあるから楽しい」
シンジ「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ! 黙ってよ! ……いつっ! また手がっ⁉︎」
シンジ(少年)「……くすくす、あは、あはははっ」
シンジ『僕は、どうなったっていい! ワガママでもいい! 助けられなかったらきっと後悔してしまうから、だから、僕はもう逃げない!』
シンジ「やめてよ……こんなの、思い出させないでよ」
シンジ(少年)「どうなってもいいって言ってるじゃないか」
カヲル『……そうか。じゃぁ、ボクを殺してくれ』
シンジ「聞きたくないっ!」ガバッ
シンジ(少年)「キミが選んで、キミが殺したんだ」
シンジ「ああするしかなかったんだ! じゃないと、アスカがっ!」
シンジ(少年)「正しいと思うのなら胸をはればいいのに」
シンジ「違うんだ、違う」
シンジ(少年)「選ばされた? 少ない選択肢の中から……本当に、二人とも救う方法はなかったの?」
シンジ「なかった! アスカしか救えなかった!」
シンジ(少年)「また同じ時になったらどうするの?」パチン
アスカ『シンジ、助けてっ!』
レイ『碇くん、助けて!』
シンジ(少年)「どちらかしか助けられないとしたら……「今度は」、どう選ぶの?」
シンジ「もうやめてよ……! なんでこんなの見せるんだよ! なんで僕なんだよぉおおおおっ!」
カヲル「……シンジくん。君だけは幸せにしたかった」
シンジ「はっ! カヲルくんっ! 生きてたの⁉︎」
カヲル「……いいや。僕はもう、シンジくんたちの世界にはいない。お礼を言いたくてきたんだ」
シンジ「そんな、やっぱり」
カヲル「ありがとう……。筋書き通りに来てくれて」
シンジ「どうしてあんなことしたんだよ⁉︎ 仲良くなりたいって言ってたじゃないか!」
カヲル「ボクもキミも仕組まれた子供だからだよ」
シンジ「……ウソ、だったんだね。みんな、みんな」
カヲル「……」
シンジ「裏切ったな……。僕にウソをついて裏切ったな……みんな、僕を利用したいだけだ!」
カヲル「ボクに何を期待したんだい」
シンジ「なにも、ただ、僕の気持ちを踏みにじった!」
カヲル「……」
シンジ「なんで、僕を傷つけようとするの? 僕が、なにしたっていうの?」
カヲル「キミが僕という存在を知っただけ。傷つけたつもりはないよ。全ては、リリンの流れのままに」
シンジ「……うっ、ぐすっ……」
カヲル「ボクは使徒としての価値を与えられた。それが、ボクが存在する理由だったんだよ」
シンジ「……ぐすっ……」
カヲル「死ぬ必要があったんだ。シンジくんの手のひらにあるアダムのために」チラ
シンジ(少年)「くすくす」
カヲル「ボクの魂はアダムの半身だからね。ボクの肉体がただの器に戻った今、シンジくんとアダムは真にひとつになる」
シンジ(少年)「手……」
シンジ「……? な、なんだ、手が光って……あたたかい……嫌な熱さじゃない」
カヲル「次はきっと幸せになれる。必ず、キミは幸せになるんだよ……」
シンジ「……っ! 待って! カヲルくん!消えちゃうの⁉︎」
カヲル「始まりがあれば、終わりは必ずくる。悲しまないで……。キミの純粋な心の中で、ボクは生き続けるよ」
シンジ「僕をおいていかないでよ! 父さんみたいに! 僕を捨てないで!!」
カヲル「キミも、弐号機パイロットのように捨てられるのがこわいんだね。でも、誰も捨ててなんかいないよ」
シンジ「嘘だッ! 父さんは僕を捨てたんだ!」
カヲル「それはキミが逃げだしたから」
シンジ「……!」
カヲル「思い出すんだ。碇ゲンドウの最後の言葉を。そして、歩み寄ろうとした気持ちを」
シンジ「いやだよ……もう、こんなに辛いなら、もう」
カヲル「キミは自身で、みんなを守ると決めた。最後までやりとげなくちゃ」
シンジ「カヲルくん」
カヲル「さようなら、シンジくん」チラ
シンジ(少年)「ばいばい」
カヲル「……アダム、シンジくんと供にあらんことを」
【ネルフ付属病院 202号室】
シンジ「……」パチ
シンジ「……また、この天井だ……」ムク
アスカ「……すぅー……すぅー……」スヤァ
シンジ「アスカ……?」
アスカ「ん……」スヤァ
シンジ「そうか……。アスカは助かったんだ」
アスカ「……うぅん……ん……? 起きたの」
シンジ「あ、うん」
アスカ「そ。……ふぁ~ぁ。病院のベットって固いわよね。よっかかって寝てたから肩こっちゃった」ノビー
シンジ「……」
アスカ「食事は?」
シンジ「……いまは、いいかな」
アスカ「あっそ。……なんか口にいれときなさいよ」
シンジ「うん……」
アスカ「はぁ」クシャクシャ
シンジ「アスカ、頭痒いの?」
アスカ「違う! いい⁉︎ あんたは自分に責任を感じることなんてない! あのパイロットが誰だかしらないけど、悪いことをしてああなったんだもの!」
シンジ「……」
アスカ「その、あの、お、おかげで私は助かった! 今いれるのはあんたのおかげ!感謝してあげるわ!」
シンジ「……ぷっ」
アスカ「な、なにがおかしいのよっ⁉︎」
シンジ「いや、アスカが元気そうでよかった」
アスカ「元気、だしなさいよ。辛いなら、私がいてあげてもいいのよ」
シンジ「……アスカ?」
アスカ「借りができたから! 返さないと、気持ち悪いじゃない!」
シンジ「ああ、うん……」
アスカ「……こ、こんなに……恥ずかしいなんて」もごもご
シンジ「大丈夫だよ。なんだか、夢を見ていた気がするんだ」
アスカ「夢……?」
シンジ「うん、悲しいけど、なんでだろう、不思議と、そこまで落ちこんでない」
アスカ「取り乱してたって聞いたけど」
シンジ「うん、それは事実だよ。死にたいと思った……わからないけど、こわかった、んだ」
アスカ「……」
シンジ「誰かを失うのが。これ以上、僕が知ってる人を失いたくないんだ」
アスカ「……」
シンジ「アスカが生きていてくれて、ホッとした」
アスカ「このあたしが死ぬわけないでしょ!」
シンジ「だけど、そうなってもおかしくなかったから」
アスカ「……」
シンジ「アスカ、僕はアスカにも生きていてほしい」
アスカ「あ、あたし?」
シンジ「うん」
アスカ「えっとぉ……その」
ミサト「じゃんじゃじゃ~~~んっ! おっじゃましまーす!」ガラガラ
アスカ「うえぇっ⁉︎」
ミサト「あら、アスカったら面白い驚きかたね」
アスカ「ノックぐらいしなさいよ! 常識でしょ! 日本人には気遣いというものがないの⁉︎」
ミサト「そりゃ失敬」
アスカ「せ、せっかく……」
ミサト「おやぁ~? おやおやおやぁ~ん? もしかして、お邪魔しちゃったかしらん?」
アスカ「ミサト!」キッ
ミサト「おお、こわ。リツコみたい。……シンジくん、目が覚めたのね」
シンジ「……はい」
ミサト「どぉ? 気分は。少しは落ち着いた?」
シンジ「いまは、平気です」
ミサト「少し検査があるから、付き合ってほしいんだけど、大丈夫そう?」
シンジ「……はい」
ミサト「アスカ、シンジくん借りても平気?」
アスカ「な、なんで私に聞くの⁉︎ 好きにすればいいでしょ!」
ミサト「それもそっか。じゃ、ちゃちゃっと済ませちゃいましょ」
【ネルフ本部 執務室】
ゼーレ03「一体、どういうことだね。タブリスを早々に失うとは」
ゼーレ05「左様。これではタイムスケジュールに大幅な修正が必要だ」
ユイ「タブリスが独自に判断し、行動に移したようです」
ゼーレ02「キミが裏で操作していたのではないかね? 前任者同様、君達夫婦はどうやらコソコソするのが好きなようだな」
キール「ユイ博士……。タブリスは、我々との約束の時に必要なピースだった。この責任、どう始末をつけるつもりだ」
ユイ「代わりのものを用意させます」
ゼーレ04「バカなことを……。第壱使徒のかわりなど用意できるはずがない。我々がどれほどの時と金をかけて準備してきたのか、しらぬわけではあるまい
に」
ユイ「二言はございません」
キール「かわりのものとは、なんだ?」
ユイ「息子を……。サードチルドレンをみなさんの悲願にお役立てください」
ゼーレ02「ついに狂ったようだな。生身の人間をアダムスの器にするつもりかね」
ユイ「正気ですわ、予定を繰り上げねばなりません。残りの使徒を待つ時間はなくなりました。それはみなさまもご理解のはず、我々に残された手段は多くありません」
ゼーレ一同「……」
キール「……よかろう。君が息子を差し出すというのならば、本件の失態については不問とする」
ユイ「……」
キール「だが、前任者から引き継いでいる時点で、我々の計画には加筆が加えられている。これ以上の修正は許されん」
ユイ「承知しております」
キール「次の失敗はない。タブリスの教訓を活かし、息子に首輪をつけておけ。……補完計画は必ず遂行する。以上だ」
ここまでで中編ということで
前スレにて前~中編が終わり現行スレで後編という告知だったんですけども膨らんでます、かなり
誤字脱字があんまりにも目に余るので全体を一度修正したいっす
連投失礼
今後の投稿なんですがこのスレはもう一度HTML化依頼を出そうと思います
前スレと現行スレを統合化します
んで、また続き部分で誤字脱字がほぼ間違いなく出るんでそれはどうしようかなあ
良い方法がないかちょっと考えます
場所も含めて考えます
立てたら告知はまたこのスレでします
そこは事前に調べています
・二ヶ月レスがつかないと自動でHTML
・1000まで行くと自動でHTML化
になっており、新スレや中断する場合は放置ではなくHTML化依頼をする必要があるようです
運営が仕事をしているしていないに関わらず、HTML化スレッドに依頼をしなければなりません
要するに立て逃げ厳禁という趣旨だと思います
例)
1.スレタイを間違えた場合や間違えて二つ立ててしまった場合
2.立て直しの場合
これらに関しても同様に依頼する形になっています
なので形式上の依頼さえ出しておけば、問題ないと思われます
※
ただし、これらの記載が公式か非公式かまではわかりません
速報板にある総合スレの情報を個人的解釈の元、まとめたものです
別版権になりますが、速報板に初投稿する前にハーメルンや理想郷などの小説投稿サイトで活動していた経験があります
ここの長所はレス単位で区切りができる(場面の転換がラク)=話数単位で構成する必要がない、推敲をあまりする必要がないところだと個人的には思っています
短所は手直し不可なところですね
レスを投稿する直前の校閲で見落としがなければ済む話なんですけど、どうしても誤字脱字が出てしまっているのが抱える問題点です
今の所、書きたいことと文字数の都合上、小説形式は考えておりません
10万字~20万字になってしまうのでそこまで続けられる気がしないからです
気にしないというのも読む側に立ってみると流し読みしかしてなかったりするというのも理解してます
やるならなるだけ綺麗にまとめあげたいって感じですかね
一銭の得にもならない趣味と暇つぶしでやるという上ではじめてますので、ただの個人的なこだわり部分です
もう少し考えます
次にレスする時は今後について決定した時のみとします
▫️お知らせ
スレを立て直すかこのまま続けるかで迷いましたが決めました。タイトル変更と加筆修正をしながら立て直しを行います。
それに伴い、過去ログを全てまとめて一本化します。スレ立てするのは次で最後にします。
単なる自己満につき、それでもかまわないと言う方は引き続き暇つぶしにでもお使いください。
・このスレはHTML化依頼をだします。
・新スレに関しては18の板で立てます。
・現行に追いついたら改めて告知します。
現行に追いついたら誘導しようと考えていました。
リクエストがあったので貼っておきます。
尚、注意事項ですが、一本化するために現在は修正作業中です。
シンジ「その日、セカイが変わった」
シンジ「その日、セカイが変わった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1498276417/)
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