シンジ「アンケート?」 (329)

・時間軸はTV版第九話『瞬間、心、重ねて』の終了後

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491130975

【ミサト宅 シンジの部屋】


[ご意見をお聞かせください]

この度は、恵まれない子供達への募金サイトにアクセスしていただき、誠にありがとうございます。簡単なアンケートにお答えいただきますと、提携先企業様から弊社に代金が支払われ、支援団体に寄付させていただきますので、ご協力をお願い致します。
次へ、をクリックしていただくとアンケートが開始されます。


シンジ「――ネットサーフィンしてたら変なのに飛んだと思ったけど、これなら、少しやってみようかな。どんな内容なんだろう……?」カチカチ

設問にお答えください。該当するお答えのチェックボックスをクリックしていただくと、画面が自動的に切り替わっていきます。進みますか?

シンジ「ここで、クリックしたらいいのかな」

1.あなたの性別をお答えください。

シンジ「お、でたでた。男、と」カチ

2.あなたの年齢をお答えください。

シンジ「10代だね」カチ

3.あなたは今、好きな人はいますか?

シンジ「えっ? うーん、いないから、あれ? YESしかチェックボックスがない……? まぁ、ただの質問だからなんでもいいや」カチ

4.好きな人は同級生ですか?

シンジ「今度はYES/NO両方ある。でも、いないってないから答えようがないんだよなぁ。……適当にYESで」

5.好きな人がいる。と答えた方に質問です。どのようなところに惹かれましたか? 該当する項目をお選びください。

シンジ「ひとつしか選択肢なかったじゃないか。それとも僕が見落としたのかな……」

・気立てがよかった。
・落ち着いてる雰囲気がよかった。
・優しいところがよかった。
・見た目がタイプだった。

シンジ「うぅん、どれにしてもいいけど、僕が付き合うとしたら……いや、そんなこと考えるだけ無駄だ。僕を好きになってくれる人なんかいるわけないし。見た目にしておこう」カチ

6.あなたは、願いが叶うとしたら、その子と付き合ってみたいですか?

シンジ「……まただ。またYESしか選択肢がない。どうなってるんだこれ? 見落としもあるようなインターフェイスじゃないのに」カチ

以上で質問は終了です。
あなたのご協力に感謝します。碇シンジさん。

シンジ「えっ? なんで、僕の名前」

尚、このコンピューターは20秒後に自動的に爆発します。端末を窓から投げ捨ててください。

シンジ「はぁ?」

カウントスタートします。20、19、18――。

シンジ「いきなりブルースクリーン⁉︎ ……ウィルスサイトだったの⁉︎」

13、12。

シンジ「ノートパソコンから煙? え? 熱っ⁉︎ そんな、まさか……?」

自爆までテンカウント、10、9――。

シンジ「う、うそでしょ⁉︎」

5秒前。レッドアラート。

シンジ「ケースが溶けてきてる……⁉︎ この端末、学校でも使うのに!!」ガシッ

ドォオンッ!!


シンジ「うぐっ! ……いっつつ。咄嗟に投げだけど、まさか、ほんとに爆発するなんて」

ミサト「シンジくん⁉︎ 今の音はなに⁉︎」

シンジ「あ、あの」

ミサト「開けるわよ⁉︎」

ガラガラ

ミサト「――なによ、これ。部屋の中に手榴弾でも投げ込まれたの?」

シンジ「僕にもなんでこうなったのか、さっぱり」

アスカ「あんた、変な体勢で転がってなにしてんの……?」

シンジ「あ、あはは」

【ミサト宅 リビング】

ミサト「シンジくんがアンケートに答え終わったらメッセージがでたのね?」

シンジ「はい。それからあとはそのメッセージ通り、20秒後に爆発しました」

ミサト「おかしいわね。エヴァパイロットを狙うにしてもやり方がまわりくどすぎるわ」

アスカ「アンケートで端末を爆破とかあんたが嘘ついてんじゃないの?」

シンジ「そんなわけないだろ。僕が嘘をつく必要なんてないよ」

ミサト「……とにかく、私はちょっとネルフ本部へ行くわ。このマンションには、警備をつけておくから。シンジくんとアスカは何も心配しないで」

アスカ「アホくさ。私はバカシンジみたいに引っかからないわよ」

ミサト「それでも用心するにこしたことはないはずよ。シンジくん、これからは無闇にそういうサイトを開かないでくれる?」

シンジ「僕は、善意で。……でも、すみません。」

アスカ「またすぐ謝る。そういうとこがさぁ――」

ミサト「やめなさい、2人とも。URLはわかるかしら?」

シンジ「いえ、たまたま飛んだサイトですから。だけど、ネット上から遠隔操作で爆破なんて可能なんですか?」

ミサト「普通に考えれば無理ね。アンケートに答えるように誘導され、答え終わるのが合図となるようにあらかじめ仕組まれていたのかもしれない」

シンジ「あ……」

アスカ「ほら見なさい。やっぱりあんたがまぬけなだけだったんじゃない」

シンジ「そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」

アスカ「ふん。だったら問題を起こさないでよね」

シンジ「僕だって起こしたいわけじゃないよ!」

アスカ「ガキ。結果が全てだっつってんのよ。犯罪をやるつもりがなかったなんて言い訳が通るなら警察なんていらない」

ミサト「とにかく、もう今夜は寝なさい。シンジくんは私の部屋を使っていいから」

シンジ「すみません」

アスカ「よかったわねぇ~。女の部屋で寝るからって下着を漁ったりするんじゃないのぉ?」

シンジ「いい加減にしろよ! するわけないだろ!」

ミサト「今のはアスカが悪いわ」

アスカ「ちっ、なによ。シンジばっかり」

ミサト「今夜は帰らないと思うから。それじゃ、もう行くわね」

【30分後 リビング】

シンジ「はぁ……。どうしてこんなことになったんだろう」

ペンペン「クエ~」

ガラガラ

アスカ「お風呂あがったわよ」

シンジ「あぁ、うん」

アスカ「あんた、まだ座ってうなだれてたの。いい加減切り替えなさいよ、うっとうしい」

シンジ「色々迷惑をかけたら申し訳ないって思うのは当然じゃないか」

アスカ「あいかわらず内罰的ね。そういう時は、そもそも爆弾を仕組んだやつが悪いって開きなおるのよ」

シンジ「そんなに、簡単じゃないよ」

アスカ「ぐちぐち悩んでるよりずっとマシじゃない。そんなんだからあんたはダメなのよ」

シンジ「そうだね……」

アスカ「呆れて開いた口が塞がらないわ。あたしにここまで言われて悔しいとか思わないわけぇ?」

シンジ「思ったって、アスカには口でかなわないじゃないか」

アスカ「ぷっ、なによ、諦めてんの?」

シンジ「僕だって、ちゃんとしてるつもりなんだ」

アスカ「ひとりよがりで?」

シンジ「うるさいなぁ。もういいだろ。アスカだって、口ではどうでもいいとか言っておきながら僕に文句ばかり言ってくるじゃないか」

アスカ「あんたがあまりにも情けないからよ」

シンジ「それは僕がよくわかってるよ。だけど、変わろうとしてるんだ」

アスカ「無理ね」

シンジ「なんでアスカにわかるんだよ!」バンッ

アスカ「根本的な問題よ。あんたは悪いと思った、で? 変わろうとしてるってなにを?」

シンジ「それは……もっと前向きになれるように」

アスカ「そこがズレてるのよ。いい? 開きなおるにしてもそれだけじゃただのクズ。人間、なにをやるかで価値が決まる」

シンジ「ど、どういうことだよ」

アスカ「前向きになったら? その先は? とりあえず目先のことしか考えてないあんたはすぐ壁にぶち当たる。そしてまた悩みだすんでしょ」

シンジ「……」

アスカ「またダンマリ。癖ってのは、簡単に治るものだったら苦労しないのよ。あんたはそこを理解してない」

シンジ「そうかもしれないけど」

アスカ「断言してやるわ。あんたはそう。悔しかったら私を見返すぐらいの根性見せるのね」

ペンペン「クエクエッ」

アスカ「ん? なに? ペンペン」

ペンペン「クエ~」スッ

アスカ「なにこれ? 牛乳? くれるの?」

ペンペン「クエッ!」コクコク

アスカ「ありがと」ヒョイ

ペンペン「クエ~」

アスカ「それじゃ、私は寝るから。あんたはそうやっていつまでも悩んでなさい」

シンジ「(僕は……)」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「まったく、こんな夜中に叩き起こされるなんて思わなかったわよ」

ミサト「ごみ~ん。今度なにか奢るからさ」

リツコ「あなた、いつもそう言うけど奢ってくれたの大学の学食以来ないのわかってる?」

ミサト「そうだったっけぇ?」

リツコ「はぁ……。それで? これが爆発したというノートパソコンの残骸?」

ミサト「人を使ってできるだけ集めさせたけど、かなり粉々になっちゃってるのよね~」

リツコ「ミサト? HDDもこの破片の中のどれかなの?」

ミサト「でへへ。たぶん」

リツコ「帰るわ」

ミサト「ちょ、ちょっと待ってよう!」

リツコ「パソコンの仕組みぐらい理解しているものだと思っていたけど。どうやら私の思い違いだったようね。義務教育からやり直したら?」

ミサト「わかってるってぇ! だけど、その、リツコならなんとかならないかなぁ~って」

リツコ「この有様で復元できるわけないでしょ。爆発物のデータは?」

ミサト「あ、それはこっちです、どーぞ」

リツコ「……」ペラ

ミサト「マイクロチップ型の爆弾だと確認されたわ。シンジくんのパソコンにいつ細工したのかしら」

リツコ「素人には手に入らない代物ね」

ミサト「プロの仕業ってわけか」

リツコ「えぇ。わかることはそれぐらい。証拠隠滅まで完璧だもの」

ミサト「また接触あると思う?」

リツコ「なんとも言えないわね。必要な情報が揃ったのならもうないのかもしれないし、そうであっても断定はできない」

ミサト「まさに、雲を掴む話、か」

リツコ「他のチルドレンに対しても警護レベルを引き上げることを提案します」

ミサト「なぜ?」

リツコ「質問の内容がアナグラムではないとしたら、好きな相手を特定する為に接触してくるかもしれない」

ミサト「まさか。本気でシンジくんの好きな子の情報を知りたいってわけ?」

リツコ「額面通りに受けとるとそういうことになるわね」

ミサト「……わかった。そんな理由はないと思うけど、備えは必要ね」

おお、エヴァssが続くのはいいことだ。ただ、

これ本当にユニゾン後か?8話直後の方がまだ納得できる。

>>14
ユニゾン直後で間違いありませんよ。
八話というとアスカ来日時点になりますので、出会ってすぐに内罰的だとかそういう性格を指摘していると知りすぎていておかしくなります。TV版でも指摘するのはもっと後なんですけどね。

ツンケンしすぎているという所なのかもしれませんが、アスカにとってイライラさせる行動であることを考えたらこんなもんかなと。
参考にしているのはTV版でいうところのシンジがシンクロ率でいい成績を残しはじめ、アスカを追い抜いた辺りから。その時のアスカの態度からです。

【ネルフ本部 初号機格納庫】

冬月「やぁ、三年ぶりだね」

「ご無沙汰しております」

冬月「生活に不自由はないかね? 困ったことがあれば、なんでも言うといい」

「お気遣い、ありがとうございます。すみません、夜更けに」

冬月「気にすることはない。ちょうど起きようと思っていたところだ。碇には、まだ何も言うつもりはないのか?」

「はい……。その方があの人にとっても、私にとってもいいんです」

冬月「――しかし、君たちの息子はもう中学生になる。ユイくん自身が、死んでいると思われて平気なわけないだろう」

ユイ「シンジには……。いずれ、対面することになります。あの子が、子供達が幸せに暮らせる世界。それこそが追い求める理想ですもの」

冬月「その為に、己を殺してもか」

ユイ「……この初号機も、そしてゼーレも実験材料でしかありません。先生には、ご迷惑をおかけしますが」

冬月「その顔には、君がまだ学生の頃から敵わんよ。碇には、これまで通り黙っておこう」

ユイ「ありがとうございます」

冬月「ユイくん、ひとつだけ聞いてもいいかな?」

ユイ「はい?」

冬月「君の科学者としての信条は、あの日、初号機に取り込まれてからサルベージされるまでに変化があったのか?」

ユイ「なにも。昔から、いえ、志した時から変わってはいません」

冬月「そうか。……それならばいい」

ユイ「先生もお元気で。シンジのこと、よろしくお願いします」

冬月「あぁ。君の息子については心配することはない。もっとも、EVAの中が一番安全だと知っているだろうがな」

ユイ「ふふっ。そうですね。では、失礼します」

【第三新東京都市立第壱中学校】

シンジ「おはよう」

トウジ「よっ、センセー。おはよーさん」

ケンスケ「むぐぐっ! ネジがバカになってしまったぁ」カチャカチャ

シンジ「ん? ケンスケ、部品広げてなにやってるの?」

トウジ「見ての通り、いつものカメラいじりや」

シンジ「あぁ、調子でも悪いんだ?」

トウジ「さぁなぁ。何回も分解したり組み立てたりで何が楽しいん――」

ケンスケ「この楽しさがわからないだってぇ⁉︎」ガバッ

トウジ「お、おう? なんや、聞こえとったんかいな」

ケンスケ「はぁ……。まったく、これだから凡人は。いいかい? 物作りっていうのは技術ひとつひとつの集大成でもあるんだ」

シンジ「うん」

ケンスケ「新しいパーツの進歩は凄いんだぞ! そりゃ、まぁ、同じ技術の進化をなぞっているものだけど。その中で取捨選択をして、自分だけの物をプロデュースするおもしろさ。このロマンがわかるよなぁ⁉︎」

トウジ「ぜんっぜんわからんのお。そら組み立てるチョイスはあるやろけど、市販されてる物であるんなら誰かと被ったりするやろ」

ケンスケ「いいや! そんなことが重要じゃないんだ。自分で作り上げるという達成感はなにものにも変えられないね!」

トウジ「はぁ」

ケンスケ「碇だったらわかるよな⁉︎」

シンジ「ん、えーと、なにかにそこまで熱中できるのは凄いと思うよ」

トウジ「オタクなだけちゃうか?」

ケンスケ「妬みだね! 打ちこめるものがない大衆はそうやって僕みたいな人をバカにするのさ!」

トウジ「こじらせとるのぉ」

シンジ「でも、いいんじゃないかな」

トウジ「それはそうとシンジ。今日の放課後、時間あるか?」

シンジ「うん。あるよ」

トウジ「それなら、ちょっとワシに付き合ってくれ。寄りたいところがあるんや」

シンジ「わかった。あ、そうだ。ケンスケってパソコンにも詳しいの?」

ケンスケ「ん? まぁ、ある程度なら」

シンジ「実は僕、昨日、授業で使うパソコンが壊れちゃって。帰りに買って帰ろうと思うんだけど」

ケンスケ「あぁ、選ぶのは簡単だけど。でも駄目だ。学校指定の端末になってるから、新しく買い直すしかないね」

シンジ「そうなの?」

ケンスケ「授業で使うドライバとかアプリケーションなりがプリインストールされてるものじゃないとな。一台ずつやってたら手間だろ?」

シンジ「たしかに、そうかも」

トウジ「ワシらにやらせてくれればいいのに」

ケンスケ「一括で管理する方が簡単だからね。個々に任せると怠けて入れてない連中もでるだろうし」

シンジ「それじゃ、事務で頼まなきゃ駄目なんだ」

ケンスケ「そうゆうこと。……前の端末の時にやらなかったのか?」

シンジ「うーん、僕が直接やったわけじゃなかったから。リツコさんが全部用意してくれてたし」

レイ「碇くん」

シンジ「綾波? どしたの、めずらしいね」

レイ「赤木博士から、渡すように頼まれたから」ゴトン

シンジ「これって……」

レイ「新しい端末。ないと授業に困るだろうからって」

シンジ「あ……」

トウジ「いたれりつくせりやのぉ」

ケンスケ「エヴァのパイロットってだけでアフターケアはバッチリか……! うらやましい! うらやましすぎるぅ!」

レイ「それと、伝言。インターネットの閲覧はもうできないようになっているからって」

シンジ「そっか、うん、わかった」

レイ「それじゃ、席、行くから」スッ

シンジ「あの、待って! 綾波!」

レイ「なに……?」

シンジ「重かったよね? 持ってきてくれてありがとう」

レイ「別に、いい」

【授業中】

教師「え~、ですから、セカンドインパクトはこのように巨大隕石の衝突によって」

シンジ「(ん……? ポップアップ? なんだろう?)」カチ

先日は、弊社が行なっている調査に関するご協力をしていただきありがとうございました。つきましては、恵まれない子供達のために引き続き回答をお願い致します。
アンケートを開始しますか?

シンジ「いっ⁉︎」

アンケートを開始する場合は、次へをクリックしてください。自動的に画面が切り替わります。

シンジ「(これって、昨日のじゃないか……。インターネットには繋いでないのに)」キョロキョロ

可否の有効時間が経過しました。まもなく、アンケートが開始されます。

シンジ「(えっ、まだなにも選択してないよ⁉︎)」

1.あなたの好きな人を出席番号で答えてください。

シンジ「(な、なんなんだよ……。しかも、また、選ぶしか選択肢がない)」カチ

エラー。回答してください。

シンジ「(ブラウザを閉じることはできないのか。コマンドキーで強制終了はどうだろう)」カチャ

エラー。試行回数は、残り二回です。

シンジ「(やばいんじゃないのこれ。まさか、また爆破するなんてこと)」

有効時間をカウントします。

シンジ「(ゆっくり選ばせてもくれないの? ちょっと待って、よく考えるんだ、落ち着いて。深呼吸)」

20秒前。

シンジ「(ふぅ……。試行回数があるってことは回避に有効な方法があるのか、それとも、ちゃんと答えるしかないのか。どっちなんだろう)」

15秒前。

シンジ「(そもそも、なんで僕なんだ? ……だめだ。考えてもわかりっこない)」

12秒前。

シンジ「(選ぶしかないのか)」

テンカウントスタート。

シンジ「(いや、でも、どうせ爆破する可能性がある。だってこの端末を操作してる人は証拠を残したくないはず、だよね)」

5秒前。

シンジ「(――決めた。放置だ)」

教師「今のところを、あー、今日は何日だったかな? ……ふむ。では、洞木さん。わかりますかな?」

ヒカリ「はい」ガタン

シンジ「(なにも起こらない?)」カチ

エラー。試行回数は残り一回です。

シンジ「(そうか。もう一回あったんだ。ってことは、これも放置したらいいのかな)」

警告。回答いただけない場合、教室にいるクラスメイトを狙撃します。左手の屋上をご覧ください。

シンジ「はぁ?」

キラン

シンジ「(なんだ? キラキラ光ってるのがある……ん? システムメッセージ更新?)」

スコープに反射している太陽の光です。

シンジ「あ……ぁ……」

残り試行回数は、一回です。

シンジ「(ちょっ、ちょっと待ったっ! ど、どうしたらいいんだ! こんなの!)」

有効時間のカウントを開始します。

シンジ「(だめだ! 僕じゃ対処しきれない! こうなったら大声を上げて――!)」

不審な動きを見せた時点で、立って授業を受けている女子を撃ちます。残り20秒前。

シンジ「(ほ、洞木さん⁉︎ 見張ってるってこと⁉︎)」

残り15秒前。

シンジ「(仕方ない、誰か選ばないと。でも、誰を……)」

残り10秒前。

シンジ「(迷ってる時間はない。こうなったら知ってる人の中で誰かを選ぶしか、アスカか綾波か)」

残り5秒前。

シンジ「(……ごめんっ!)」カチ

教師「よろしい、では席について」

シンジ「(だ、大丈夫だったのかな……)」

2.好きの度合いを次の中から該当するものを選んでください。

シンジ「(……なんだこれ)」

・彼女のためなら、死んでもいい。
・彼女のことを愛している。
・たまらなく好き。

シンジ「(どれ選んでも同じじゃないかぁ!)」

有効時間のカウントをスタートします。

シンジ「(くそっ! バカにしてる! たまらなく好き、で)」カチ

3.たまらなく好きと選んだので、彼女に向かって消しゴムのカスを投げてください。

シンジ「(アンケートですらないよ……)」

有効時間のカウントをスタートします。

シンジ「(でも、やらなきゃ。クラスの誰かが狙撃されるかもしれないんだ。僕が、やらなきゃ)」

残り20秒前。

シンジ「(まずは消しゴムのカスを作らないと)」ゴシゴシ

残り10秒前。

シンジ「(僕が選択したのは――)」コネコネ

アスカ「(ん? なんか髪に違和感が。……なに? ゴミ?)」キョロキョロ

シンジ「……」ポイ ポイ

アスカ「(あんのバカ……っ! なにしてくれてんのよ!)」

シンジ「(ご、ごめんよ)」」パクパク

アスカ「(今さら謝っても遅いのよ! さては、昨日の仕返しのつもり? 上等じゃない!)」パクパク

シンジ「(今日はアスカの好きなハンバーグを作るよ)」パクパク

アスカ「(それで誤魔化されると思ってるわけぇ⁉︎ ちょっと待ってなさい。やられたら百倍返しにしてやるんだから!)」ゴシゴシ



トウジ「おい、見ろケンスケ」ガタ

ケンスケ「あぁ、見えてるよ」

トウジ「あいつら口パクで会話しとるで」

ケンスケ「さっきから碇がソワソワしてると思ったらそういうことか……」

シンジ「(消しゴムのカスでよかった。アスカが投げてきてるけど、当てられてもあまり痛くないし)」

距離感は確認いたしました。アンケートへのご協力を感謝します。尚、このパソコンは20秒後にショートします。

シンジ「(ば、爆発じゃないんだ。よかったぁ)」

強い電磁波を発します。電子機器及び、周囲への干渉がありますので、できるだけ教室から離れてください。

シンジ「せ、先生っ!」ガタッ

カウントスタートします。

教師「なにかね? 碇くん」

シンジ「あの! お腹が痛くて! トイレ行ってもいいですか⁉︎」

教師「かまわんが、そんなに大声で叫ぶほど急を要するのかな?」

女子生徒A「くすくす、なぁにぃ? あれぇ?」

女子生徒B「わ、わらっちゃ、かわいそうだよ。く、くっくっ」

シンジ「あ……」

残り20秒前。

シンジ「ま、まずい、じゃなかった! すぐに行きたいんです! お願いします!!」

【男子トイレ】

シンジ「はぁ……パソコンの電源つかなくなっちゃったな。しかたない、ミサトさんに報告しておこう」

ピッ プルルルルッ

ミサト「はい?」

シンジ「あ、ミサトさんですか?」

ミサト「あらぁ~シンちゃんから電話なんて初めてじゃない? 私が渡した携帯電話。やっと使ってくれたのね」

シンジ「いえ、そんな。持ち歩いてはいたんですけど」

ミサト「あは、そっか。プレゼントした側としては嬉しいわ」

シンジ「それで、新しいパソコンについてなんですけど」

ミサト「あぁ、リツコから? そういえばシンジくん、今は授業中の時間じゃない?」

シンジ「緊急だと思ったので、電話したんです。実は、また昨日と同じアンケートが」

ミサト「――なんですって?」

シンジ「今度は、質問が終わると爆発じゃなくショートしました」

ミサト「シンジくんに怪我はないのね?」

シンジ「僕は大丈夫でしたけど、質問に答えないとクラスメイトの誰かが狙撃されてたかもしれなくて」

ミサト「脅迫してきたってわけ?」

シンジ「よく、わかりません。電磁波か周囲に影響するとシステムメッセージが出たので、先生に嘘をついてトイレにいるんです」

ミサト「よくやったわ、シンジくん。的確な判断よ」

シンジ「この端末、どうしたらいいですか?」

ミサト「ちょっち待ってて。すぐにネルフ関係者を送る。詳しく経緯を聞きたいから警護がきたら同行して本部まできてもらえる?」

シンジ「わかりました。このままトイレにいた方がいいですか?」

ミサト「そうね。教室にもどると危険かもしれない。五分で寄越すわ」

【ネルフ本部】

ミサト「それで?」

保安部「はっ、我々が到着した頃には既にサードチルドレンの姿はなく――」

ミサト「そんなことが聞きたいんじゃないわよっ! その後の消息は⁉︎」バンッ

保安部「し、失礼いたしました! 目下、捜索中です!」

ゲンドウ「作戦司令、どういうことだ」

ミサト「はっ! サードチルドレンよりヒトヒトマルマルに連絡がありました。そこで、保安部を使いにださせたのですが……」

冬月「いるはずの場所にいなく、行方不明。つまり、こういうことかね」

ミサト「はい、申し訳、ありません」

リツコ「会話は録音してあります。経緯はこちらの資料に」

ゲンドウ「……」ペラ

冬月「責任問題だぞ。もしなにかあれば、パイロットを選ぶのは容易ではない」

ミサト「承知、しております」

冬月「君のクビで済むと思っているのかっ!」バンッ

ミサト「はい……」

ゲンドウ「アンケートをとったのは、誰の仕業だ」

ミサト「そ、それは」

ゲンドウ「もういい。保安部の総力をあげてシンジを探せ。諜報部も使ってもいい」

ミサト「了解しました!」ビシッ

【ネルフ本部 ラボ】

プルルルルッ

ミサト「もしもし、サードチルドレンの捜索はどうなってるの?」

保安部「現在、検問も実地中です。上空からヘリ5機で怪しい車両がないか監視しています」

ミサト「近隣への聞き込みは?」

保安部「200人体制で行っています」

ミサト「本部の第三会議室に特別捜索チームを結成したわ。人員をあと300人増やして」

保安部「了解」

ミサト「報告があればオペレーターに繋いで。それと、諜報部への連絡も。全ての情報をかき集めるのよ」

ピッ

リツコ「首の皮一枚で繋がったわね」

ミサト「なんとかね」

リツコ「時間の猶予はあまり残されていないわよ。副司令がカンカンなんだから」

ミサト「わかってる。私の失態だわ」

リツコ「目星はついてるの?」

ミサト「まったくついてないわ。でも、シンジくんが自分で離れたとは考えにくい。だとしたら、拉致されたのよ」ギリッ

リツコ「そうね……」

ミサト「端末を操作できると考えられる可能性は? 赤木博士」

リツコ「考えられるのは3つ。私の手にある内にがひとつ。レイに渡してからシンジくんの手に渡るまでがひとつ。渡ってからがひとつね」

ミサト「シンジくんに渡してから仕組む時間ある? たしか、電磁波がでるってシンジくんが言ってたわよね……」

リツコ「こういう場合は辻褄合わせをしようと思うと闇に片足いれるようなものよ。考えるのはひとつずつでいい」

ミサト「つまり?」

リツコ「端末を操作できる状況下にあったのは、授業をしてた教師じゃないかしら」

ミサト「疑わしくは罰せよと?」

リツコ「チルドレンは人類の希望でもあるのよ。個人と天秤にかけるつもり?」

ミサト「……わかったわ。学校関係者、全員に事情聴取を取り行います」

リツコ「残りのチルドレンも保護しておきなさい」

ミサト「えぇ」

【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

アスカ「えぇ~~~~っ⁉︎ 家に帰れないぃ⁉︎」

マヤ「ネルフの中なら、安全だから。コンテナの中で寝泊まりしてもらうけど」

アスカ「狙われてるのはシンジなんでしょ⁉︎ なんで私までとばっちりくうのよ!」

マヤ「犯人の目的がわからないらしいの。もしかしたら、他のチルドレンも……」

レイ「碇くんは、大丈夫なんですか?」

マヤ「今は、なんとも……」

アスカ「自分の身は自分で守らないからよ。自業自得ってやつね」

マヤ「こら、アスカ、そんな言い方しないの。シンジくんは、クラスメイトを守ろうとしてたみたいよ?」

アスカ「そうなの?」

マヤ「トイレに行ってたらしいじゃない」

アスカ「あぁ。……それであいつあんなに慌ててたんだ」

レイ「赤木博士は?」

マヤ「先輩なら、葛城一尉に協力してるわよ」

【第三会議室】

冬月「どうなっている! サードチルドレンが学校からでるまでに目撃者すらいないのか!」バンッ

保安部「近隣への聞き込みを行なった結果、不自然なほど目撃情報がなく……」

冬月「貴様はもういい! 諜報部! 報告しろ!」

諜報部「はっ! こちらでも同じく足取りを掴もうとしましたが、その時刻に車両を目撃したという情報はありませんでした」

冬月「別の手段でサードチルドレンを運んだのではないのか⁉︎」

諜報部「身長と体重を考えれば、その可能性は充分に考えられます。しかし」

冬月「人ですら目撃情報がないのか!」

諜報部「はい。まだ全世帯への聞き込みは終えていないので」

冬月「3時間以内に人海戦術で徹底的に探し出せ! プロファイリングの専門家も呼んで犯人が複数なのかどうなのかもあらゆる面から検討したまえ!」

保安部&諜報部「了解!」



ミサト「副司令が熱くなるのなんて珍しいわね」コショ

リツコ「神経が図太いのは結構。だけど、あなたの失態だってさっきの言葉を思い出したら?」

ミサト「とほほ」

リツコ「万が一、死体にでもなってたら、あなたもコンクリートで固められて海に沈むわよ」

ミサト「や、やめてよ~。……え? ちょっと、やだ、目が笑ってない。マジ……?」

リツコ「危機感を持ちなさい、葛城一尉。今後のためにね」

加持「よっ、おふたりさん」

ミサト「うげっ、うっとーしいのがでた」

加持「ツレないね。シンジくんがいなくなったらしいじゃないか」

リツコ「加持くんはなにかわかる?」

加持「間違いなくプロの仕業だな。それもかなり用意周到に計画されたものだね」

ミサト「あの場で拉致するのが?」

加持「いや、それはどうかね。タイミング次第だったのかもしれない。プロと確信してるのは場所じゃなくやり口だからな」

ミサト「結局、あんたもわからないってことね」

加持「おいおい、そうは言ってないだろう?」

ミサト「えっ⁉︎ なにかわかったの⁉︎」

加持「目撃情報がひとつある。このまま副司令に渡してもいいが……。この情報がほしいか?」

ミサト「ぐっ! な、なにを要求するつもり?」

加持「そうだなぁ。海の見える見晴らしのいい展望台でディナーでもいかがかな?」

ミサト「……わかった。それで手を打つ」

リツコ「あら? 私は連れていってくれないの?」

加持「リッちゃんならいつでも歓迎さ。なんなら、今夜でも……」スッ

ミサト「わかったから! はやく教えなさいよ!」

今日はここまでにしときます

加持「まずはこれを見てくれ」ペラ

ミサト「なにこれ?搬入業者の日程表? ……購買にパンの仕入れが行われてるわね」

加持「調べを進めていっても怪しい人影の姿が見えない。それどころか、あえて人の往来の少ない時間帯を選んでいるとさえ思える」

ミサト「それが?」

加持「葛城。完全犯罪というのは、いかに逃げ切るかが目的じゃない。いかに気がつかせないがかキモなのさ」

リツコ「業者に扮していたということ?」

加持「この時間帯に目撃されず、かつ不自然じゃない外部からの侵入ルートは限られている。ま、そう考えるのが妥当だろうね」

ミサト「業者の出発時刻は?」

加持「パートのおばちゃんによると、いつも通り昼休み前には作業を終えて帰ったそうだ。時間にしておよそ20分にも満たない。ただし、帰る前に男子トイレに寄ったそうだがね」

リツコ「怪しいわね」

加持「まだなんとも言えないがな。ろくな目撃情報がない以上、これが現時点での有力な情報になる」

ミサト「うぅん……でも、弱いわね」

加持「行動に結果はつきものだ。なにかしらほころびを見つけてその小さな隙間から目星をつけていくしかない」

リツコ「加持くん、警察官にでも転職したら?」

加持「よしてくれよ。ネルフは元々技術畑の人間の集まりだからな。保安部や諜報部の連中が場慣れしてない分、多少は俺に慣れがあるっていうだけさ」

ミサト「とりあえず、業者に連絡をとって担当していたドライバーを確認してみる」

加持「こっちでも引き続き調べてみるよ。最悪の事態だけは避けたいんでね」

リツコ「それは、シンジくんの安否? それとも……」

加持「両方さ。用意周到に進めたプロの犯行で、身代金の連絡がないとしたら……雇い主が、いや、やめよう。憶測の域をでない」

ミサト「シンジくんは人類の希望を担うパイロットよ。彼の安否を最優先事項とします」

加持「りょーかい」

【第三新東京都市第壱中学校 放課後】

トウジ「なんや、学校の中がごったがえしとるのー」

ケンスケ「シンジもいなくなっちゃったしな」

トウジ「また使徒かいな?」

ケンスケ「いや、使徒だったら学校にネルフの人達が来ないんじゃないか?」

トウジ「せやかて、綾波もゴリラ女も昼休み前には呼びだされていなくなったし」

ケンスケ「うーん」

トウジ「なんかあったんやろか?」

ケンスケ「僕たちが考えてもわからないさ。……そういやトウジ、碇に帰り用事あったんじゃないのか?」

トウジ「あぁ、妹がお礼を言いたいから一度連れてきてくれってうるさいからのぉ」

ケンスケ「あぁ……トウジが碇を殴って怒られたって例の」

トウジ「エヴァのパイロットちゅーのは、ヒーローなんやと。ま、ワシ達の生活の守ってくれとんのは事実やしな」

ケンスケ「僕でよかったら行こうか?」

トウジ「はぁ? お前が行ってなにすんねん?」

ケンスケ「なにってべつに」

トウジ「妹はまだ小学生やぞ? ま、まさか、オタクなだけやなくて、ロリコン?」

ケンスケ「バカなこというなよ!」

トウジ「じゃあかあしい! 妹にもお前は絶対に近づけへんぞ!」

ケンスケ「偏見だね! そうやってオタクを変な趣味と結びつける誇大妄想だ!」

トウジ「見た目からして怪しいと思っとったんじゃ!」

ケンスケ「なんだと⁉︎」

ドンッ

トウジ「誰や⁉︎」

「あら、ごめんなさい。まわりをよく見てなくって」

ケンスケ「お、おい。トウジ」

トウジ「あ……」

ケンスケ「あの、すいません。僕たちこそ」

「いいえ、気にしないで。それよりもなんだか騒がしいわね?」

トウジ「なんか、ネルフから人がぎょーさんきとるみたいです」

「そう……。なにがあったのかしら。なんだかこわいわね」

ケンスケ「使徒ってことはないと思いますけど。あ、職員室にご用ですか?」

トウジ「こらケンスケ! 美人だからって抜け駆けすな!」

「ふふっ。……ありがとう」

トウジ「い、いえっ! 滅相もありません!」

ケンスケ「顔真っ赤にしててよく言うよ」

「忙しそうだから、また日を改めることにするわ」

トウジ「たしかに、今やと取り次ぐのも時間かかりそうですもんね」

「それじゃぁ、私はこれで……。お友達と仲良くね?」

トウジ&ケンスケ「は、はいっ!」ビシッ

トウジ「はぁ~。べっぴんさんやったの~。誰かの母親やろか」

ケンスケ「どこかで会ったことがあるような……」

トウジ「あないな美人を会ったら忘れるわけがないっ!」

ケンスケ「いや、似てるっていうか……」

トウジ「あん?」

ケンスケ「あ⁉︎ そうだよっ! 綾波だ! 綾波に顔立ちが似てるんだ!」

トウジ「そうかぁ? 綾波とは髪の色も」

ケンスケ「いいや! 盗撮をしている僕は被写体のパーツを鮮明に思い出すことができるんだ! 間違いないね!」

トウジ「また変な特技を」

ケンスケ「綾波の母親かな?」

トウジ「聞いたことないで?」

ケンスケ「他人の空似なのかな。似てると思ったんだけどなぁ」

トウジ「まぁ、しかし、ええ匂いやったな」

ケンスケ「たしかに……トウジ、ぶつかったのは肩か? ここなのか?」

トウジ「さわんな! 残り香が薄れるやろ! ぺっぺっ!」

ケンスケ「ツバとばすなよ!」

【ネルフ本部 コンテナ内】

アスカ「こ、ここで寝泊まりしろっていうの?」

マヤ「一時的な処置だから……個室だとここしかなくて」

アスカ「家具は⁉︎ ベットは⁉︎」

マヤ「職員が使ってる布団ならあるわよ? それと必要なものがあれば言ってくれたら買い出しにも」

アスカ「こんな空調もきいてないような倉庫で寝泊まりなんて嫌よ!」

マヤ「なら、仮眠室に……」

アスカ「それはもっと嫌! 職員が使ってるってことは不特定多数ってことでしょ⁉︎ 不衛生よ!」

マヤ「私、潔癖症だからその気持ちわからなくもないけど」

レイ「私の部屋は?」

マヤ「レイは隣のコンテナ。大丈夫そう?」

レイ「問題ありません」

アスカ「ちっ、なによ? ポイント稼いでるつもり? これだから優等生気取りは」

レイ「別に。そんなつもりじゃない」

アスカ「こんな無機質な空間の中で不満がでないわけないじゃない! あたしを悪者にしようって魂胆なんでしょ⁉︎」

レイ「……」

アスカ「なんとか言ったらどう⁉︎」

レイ「いつも通りだもの」

アスカ「え?」

レイ「私の部屋。これと変わらないから」

アスカ「はぁ? あんた、こんな部屋で寝てるっていうの?」

レイ「ええ」

アスカ「信じらんない。自分でなんとかしたらいいのに」

レイ「どうして?」

アスカ「住みやすい環境を作るのは当たり前のことでしょ。毎日自分が寝泊まりするんだから」

レイ「寝れればいいんじゃないの?」

アスカ「無関心もここに極まれりね。好きなグッズとかそういうのないわけぇ? 寝るだけにしたってねごごちがいい枕とかお気に入りがあるものでしょ?」

レイ「よく、わからない」

アスカ「はぁ……。もういいわ。それで? 何日ここで寝ればいいの?」

マヤ「少なくとも、今回の事案に折り合いがついて、安全が確認されるまでは」

アスカ「わからないってことじゃなぁい!」

マヤ「まぁ、その……」

アスカ「あのねぇ! 先の見えない不安ってのもあるのよ⁉︎ エヴァパイロットのそこらへんの精神安定はどうしてくれるわけ?」

マヤ「薬なら、先輩に言えば」

アスカ「どいつもこいつも! そういうこと言ってるんじゃないわよ!」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「アスカたちの様子はどうだった?」

マヤ「レイは大丈夫そうです。アスカは……」

リツコ「まぁ、文句がでるでしょうね」

マヤ「そうですね……」

リツコ「不自由には変わりがないもの。人はリラックスできる場所を求める。自分の部屋というものは、好きにしてもいいという空間でもあるのよ」

マヤ「気を使っちゃいますもんね」

リツコ「そうね。加えて私達女性は巣作りをするという本能でもあるけど。はい、コーヒー」コト

マヤ「先輩、シンジくんの件はなにか進展ありそうですか?」

リツコ「いいえ。まだなにも。上層部は可及的速やかに事態の解決を試みて人材を投入しているけれど、足取りが掴めないのよ」

マヤ「パイロットを狙うなんて、信じられません」フーフー

リツコ「警護の認識が甘かったわね。普段から気をつけてはいた。しかし、網をかいくぐれるプロにとっては施錠ですらなかったのかも」

マヤ「シンジくん達がいなければ人類は滅んでしまうのに」

リツコ「その日暮らしをしている者にとっては、明日人類が滅びようが関係のない人達だっているのよ」

マヤ「理解、できません」

リツコ「考えすぎないほうがいいわよ。理解できないものはいつまでたっても理解できないまま終わることも多いから」

マヤ「無事だと、いいですね……」

リツコ「さて、今頃はなにしているのかね。シンジくん」

【第三新東京都市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ……」

「気がついた?」

シンジ「(ここは? 真っ暗でなにも見えない)」

「いつまでも寝てるから心配になったわよ」

シンジ「どこですか? ここ。なんで真っ暗なんですか?」

「それは麻袋を被せているせい。あたりも陽が沈んでる時間帯だけど」

シンジ「誰ですか? 僕にどうしてこんなことするんですか?」

「苦しくない?」

シンジ「質問に答えてくださいよ!」ガタタッ

「あまり暴れると縄が食い込んで痛むわよ」

シンジ「ぐっ! なんなんだよ! いったい!」

「もういいの?」

シンジ「えっ?」

「本当はEVAに乗りたくなかったんでしょう?」

シンジ「……」

「私はその手助けをしているだけ。あなたが望むなら、このまま消えさせることもできるのよ」

シンジ「なに言ってるんですか……」

「大人達の都合を押しつけてしまったんですもの。今までよく頑張ったわね」

シンジ「……いったい……」

「シンジ。あなたが思っている以上に、計画は進んでしまっている。いいえ、あなたが乗るように仕組まれた時点で、全ての準備は終わっていたの」

シンジ「なにを言ってるのか」

「好きにしていいのよ。あなたが選ぶ未来は、あなたが選択するの」

シンジ「わ、わけがわからないよ」

「そうね、ごめんなさい。戸惑う気持ちもあるわよね」

シンジ「とりあえず、縄を解いてくれませんか?」

「いずれ解いてあげる。ただ、今夜はこのままで。トイレがしたくなったら言いなさい」

シンジ「えぇ⁉︎」

「なにも恥ずかしがることはないのよ」

シンジ「そ、そんな! 嫌ですよ!」

「ふふっ。緊張はあまりしていないようで、安心したわ」

シンジ「あ……」

「灯台下暗し。先生はいつか気がつくわね、それまでは少し、お話をしましょう」

シンジ「話?」

「古い、古い、昔の話よ」

「シンジは神話を知ってる?」

シンジ「はぁ?」

「アダムとイヴは聞いたことがあるかしら? 知恵の実を食べて、エデンの園から追放された話」

シンジ「あぁ、まぁ、少しなら」

「似たような話が現実に起こっていたとしたら、と、考えたことはない?」

シンジ「そんなの、あるわけないじゃないですか」

「そうね」

シンジ「だって、神話ですよ。聖書だって人の都合で後から書き加えられたが多いって聞いたことがあります」

「それも事実。だけど、元となった話は、たしかにあるの。そしてそれらに関連する物も実在する」

シンジ「そんなのウソだ」

「いいえ、これが真実なのよ。よく気をつけて見てみなさい。ネルフのマークも、使徒という呼称も。それら全てがある点に繋がっていくの」

シンジ「なにを言いたいのか、わかりません」

「破滅の日が、現実に起こるうると仮定してみて。人類が生き残る為に計画が進められているのが、あなたがエヴァに乗らされている理由なのよ」

シンジ「……おかしいよ」

「信じられない?」

シンジ「信じられるわけないでしょうっ! いきなりこんな状況になってるだけでもわけがわからないのに!」

「大昔にね、人類創生の七日間という話があるんだけど、現代に至るまで、人類が誕生した謎はほぼ解明されていないのよ」

シンジ「……」

「研究は進められてるわ。理論で固められて、これなら間違いないという域にまで高めていくけど、それも新しい発見があれば、簡単に塗り替えられてしまう。その程度しかないの」

シンジ「僕に、僕にいったい、なにを説明しているんですか」

「真実を知ってほしいのよ。シンジ」

シンジ「……」

「その上で、あなたがどうしたいのか、判断してほしいの」

シンジ「僕は、わかりません」

「わからなくても、人は生きている以上は、なにかを選んで生きているのよ。物を食べる、何時に寝る、そういった必要な選択肢はありふれてる」

シンジ「どうして、僕が選ぶんですか……?」

「あなたはもうどっぷりと巻き込まれてしまっているから。中心にいると言ってもいいぐらい。最初に仕向けたのは、私」

シンジ「えっ?」

「元気に育ってくれて嬉しいわ。シンジ」

シンジ「だ、誰なんですか?」

「少し、眠りなさい」

シンジ「寝ろって言ったって、今まで……」

「子守唄、いる?」

シンジ「いりませんよっ!」

「そう。それなら、注射でいいわね」

シンジ「えっ? ……いっ!」プス

「おやすみ」

シンジ「ぼ、僕の聞きたいことにまだ答えて……!」

「ゆっくり眠りなさい」

シンジ「う……」


ユイ「あの人にも、会わなくちゃいけないわね」

とりあえずここまで

ユイって母ちゃんだっけ?

どうせまたモチベが…って言って放り出すんでしょ?

>>48
そうです

>>49
今回は最後まで手を抜かずやりきりますよw
というのも、前のSSのようなTV版の最後までやりきるという前提したものではないので長い話にはならない予定です

【第三会議室】

冬月「ふぅ……」

リツコ「副司令、まだ残られていたんですか」

冬月「なんだ、君か」

リツコ「報告はいたしますので、そろそろあがられた方が……。お身体にもさわります」

冬月「年寄り扱いはしないでくれ」

リツコ「申し訳ありません。お気に障ったのなら」

冬月「いや、かまわんよ。……そうだな、たしかに歳には夜更かしは堪える」

リツコ「お茶は飲まれますか?」

冬月「うん、頼もう」

リツコ「はい」

冬月「君は、赤城ナオコ博士の娘だったね」

リツコ「そうですが……」トクトク

冬月「親娘でネルフに勤務とは、因果なものだな」

リツコ「私は、ここで働けることに誇りを持っております。碇司令と副司令のお側にお仕えできることは光栄ですわ」

冬月「ふん、おだててもなにも出やしないぞ」

リツコ「本心です、どうぞ」コト

冬月「ありがとう」

リツコ「副司令が、サードチルドレンにここまでご執心なされるのは、やはり計画のためでしょうか」

冬月「ん?」グビ

リツコ「いえ、気になったものですから」

冬月「……それもある。私たちには目的があるからな。しかし、ある教え子からの頼みでもある」

リツコ「と、言いますと」

冬月「碇がまだ、学生だった頃の話だが。生物学者を目指す女生徒がいてね」

リツコ「それは、あの、失礼ですが」

冬月「あぁ。君も名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。碇ユイ。あの男の妻になった女だ」

リツコ「……」

冬月「不思議な魅力を持つ女だったよ。掴みどころがなく、それでいて、慈愛に満ちていた」

リツコ「E計画の実験で初号機のコアに取り込まれたと聞きました」

冬月「それが彼女の望みだったからな」

リツコ「初号機に取り込まれることが、ですか?」

冬月「女の考えることは理屈ではない。彼女は常に慈愛に満ちていた。しかし、それと同時に、とても頭が良かったのだよ」

リツコ「どういうことでしょう?」

冬月「私にも不確定な部分がある。もしかすると、彼女の頭の中では、碇でさえ計画の一部だったのかもしれんな」

リツコ「あ、あの碇司令を手駒に?」

冬月「その通りだ。……少し、話すぎたかもしれんな。老人の戯言だと思って聞き流してくれ」

リツコ「はぁ、それはかまいませんが」

冬月「しかし、身代金の要求はまだないのか?」

リツコ「依然として、なんの連絡も。戦自や各国政府が秘密裏に拉致したという可能性が」

冬月「いや、それは考えにくい。パイロットは各国にとっても資産だからな。ゼーレがそれを許すはずがない、得をするとすれば……いや……待てよ」

リツコ「どうかなされました?」

冬月「女は理屈で動くものでは……」

【ネルフ本部 シャワールーム】

アスカ「つめたっ! もぉ! なんで湯の加減が一定じゃないのよ!」

レイ「……」ゴシゴシ

アスカ「おまけにこいつと一緒になにが楽しくて」

レイ「音、反響してうるさい」

アスカ「悪かったわねぇ! うるさくて!」

レイ「石鹸、使う?」

アスカ「くっ! 使う!」

レイ「あなた、碇くんのこと、心配じゃないの?」

アスカ「……まぁ、少しはね。そういうあんたは心配なの?」

レイ「よく、わからない。死ぬってこわい?」

アスカ「あたしはこわいというより嫌。ただ、まぁ、世の中には自[ピーーー]る人だっているのは子供でも知ってることだしさ、こわくない人もいるんじゃない?」ゴシゴシ

レイ「碇くんは、死ぬのがこわい?」

アスカ「あいつは自分のことだけでいっぱいいっぱいだもの。きっとこわがるんじゃない?」

レイ「そう……」

アスカ「バカシンジはもうちょっと頼りがいってものがあればいいんだけどさぁ」

レイ「どうして?」

アスカ「守ってもらいたいって思うのは、女なら誰しも持ってる幻想じゃない。自分でやろうと思えば何だってできる。けど、頼れる人がいると安心するもの」

レイ「安心……」

アスカ「ま、ガキのあいつには望むだけ無理な話ね」

レイ「……」

アスカ「それに、私たちはパイロットなんだから。死ぬ覚悟はしておくべきよ」

レイ「あなたは、死んでもいいの?」

アスカ「だからぁ、そうじゃないんだってば。私はやりたいことがたくさんある。だから死ぬのがこわいんじゃなくて、嫌なの。でも第一線で戦うのは私たちでしょ?」

レイ「えぇ」

アスカ「心構えの問題よ。死と隣合わせだからこそ、そうなってもおかしくないと考えていなくちゃ」

レイ「でも、碇くんは、今はエヴァに乗っているわけじゃないわ」

アスカ「……」

レイ「使徒が相手じゃない。ヒトが相手だもの」

アスカ「それはあんたの言う通り、私たちは、色んな所から狙われてるのかもしれない」

レイ「使徒が相手じゃなくても、死んで、いいの?」

アスカ「ずぅ~~ぇったいに嫌!」パシャ

【第三新東京都市 繁華街】

ミサト「はぁ、これで何件目?」

マコト「20件目になりますね、今日だけでですけど」

ミサト「なんで高層マンションばっかりあるのよ! この土地は!」

マコト「仕方ありませんよ。武装都市ですから。有事の際には地下に格納できるようになってますし」

ミサト「人口が多すぎるのよ。いっそN2でもぶちこんでやろうかしら」

マコト「またそんなこと言って」

ミサト「諜報部から業者の件、なにか連絡は?」

マコト「はい、マヤちゃんからの通達によりますと、たしかに業者は搬入作業にはいっていましたが正規の者でした」

ミサト「えぇ?」

マコト「シロですね。怪しい点は見受けられません」

ミサト「またふりだしに戻っちゃったじゃない」

マコト「どうします? 近隣への聞き込みを続けますか?」

ミサト「うーん、ネルフでも大規模操作を実地してるし、私たちがやったところで意味なんてないんだけどねぇ」

マコト「会議室は副司令がいるから居づらいんでしょ?」

ミサト「そうなのよぉ~。まさに針のむしろって感じ」

マコト「……使徒が来てないのが不幸中の幸いですね」

ミサト「本当にね、今はネルフのほとんどを操作にあててるからエヴァに関する業務は事実上、停止しているし」

マコト「もし、使徒がきたら」

ミサト「とんでもないことになるわよ、間違いなく、ね」

あらら変換ミスが目立ってきたんで今日はここまで

【シンジ 夢の中】

男「君の母親は実験中に亡くなった。父親は、妻を殺した疑いがある」

シンジ「違う!」

男「実験の為に、自分の妻を殺したんだ!」

シンジ「違う! ……母さんは、笑ってた……」

ユイ「シンジ……」

シンジ「母さん! どうしていなくなるの⁉︎」

ゲンドウ「シンジ、逃げてはいかん」

シンジ「自分の楽しいことばかりで人は生きてはいけないんだ。逃げたいことから逃げてなにが悪いんだよ⁉︎」

ゲンドウ「よくやったな、シンジ」

シンジ「エヴァに乗ればみんなが褒めてくれるんだ! 父さんだって、あの、父さんが、僕のことを褒めてくれたんだ……」

ユイ「それを反芻するの?」

シンジ「そうだよ! 思い出せば辛いことがあっても生きていける!」

ユイ「シンジ、世の中にはもっと素晴らしいことがあるのよ」

ゲンドウ「だが、それを得るには自分が前に進まなければならない」

シンジ「簡単に言わないでよ。僕には無理なんだ」

ゲンドウ「待つだけではなにも得られはしない。傷つくのがこわいか?」

シンジ「こわい、たまらなくこわいんだ……」

ユイ「殻に閉じこもるのは自分を守ることではないわ。追い詰めているだけ」

シンジ「そう、なのかな……」

ゲンドウ「勝ちとったものは何ものにも得難い成果がある。そうなった時に、それがわかる」

シンジ「僕には、わからないよ」

ユイ「さぁ、もう顔をあげなさい」

シンジ「父さん、母さん」

ゲンドウ「お前の人生だ。お前が選び、お前が決めろ」

ユイ「しっかりね、シンジ」

【第三新東京市 郊外 廃工場】

シンジ「うっ……こ、ここは?」

「起きたのね」

シンジ「あ……そうか、僕はまだ……」

「寒くない?」

シンジ「いや、別に。というか、なんだか人肌の感触が……うわあぁぁっ⁉︎」

「どうしたの?」

シンジ「なんだ⁉︎ これ、抱きしめられてますよね⁉︎」

「そうね、寒そうだったから」

シンジ「い、いや! いいですよ!」ジタバタ

「そう?」

シンジ「はい! お願いですから、離れて……!」

「わかったわ」スッ

シンジ「……はぁ。なんなんですか、本当に」

「なに、聞かれても困るんだけど」

シンジ「僕はいったいこれからどうなるんです?」

「もう少し、時間があるわ」

シンジ「時間って……それに、あなたは誰なんですか? たしか、僕のこと知ってるみたいな」

「小さい時に会ったことがあるの」

シンジ「……ネルフの関係者ですか?」

「ふふっ、そうね。そう言えば間違いではないのかもしれない」

シンジ「僕を攫っても、父さんは、顔色なんて変えませんよ」

「ええ」

シンジ「僕にはパイロットとしての価値しかありませんから」

「あなたの父親の話を聞かせてもらえる?」

シンジ「そんなこと聞いて……」

「知りたいだけ。不器用な人だとはわかっているけど」

シンジ「ぷっ、父さんが、不器用ですか?」

「あら? 違う?」

シンジ「よく、わかりません。父さんとは僕がまだ小さい時に離れて暮らしましたから」

「あまり話ができなかった?」

シンジ「はぁ……。そうですね」

「話そうとはしたの?」

シンジ「はは」

「どうかした?」

シンジ「いえ、綾波というクラスメイトがいるんですけど、同じことを聞かれたので」

「……そう」

シンジ「どうなんだろう。話そうとはしました。けど、幼い頃の記憶ですし、その後のことは、努力が足りなかったのかもしれません」

「親子でも難しいのね?」

シンジ「他の家庭がどうかなんてわかりません。だけど、父さんは、僕にとって、難しい人です」

「母親は?」

シンジ「母さんは……ほとんど記憶にないんです。思い出といえることはなにも。ただ、父さんは母さんのことを今でも忘れてないんだと思います」

「なぜ?」

シンジ「毎年、墓参りに行ってるから」

「お母さんのことを恨んでる?」

シンジ「いえ、不慮の事故で亡くなったらしいんです。ただ、かわいそうだな、としか」

「他人事でしかないのね」

シンジ「実感がわかないんです。母さんがいたというだけで」

「興味深いわ」

シンジ「え?」

「あぁ、ごめんなさい。癖みたいなものだから」

シンジ「……」

「人は、誰しもが孤独感を抱いて生きているの。自分が自分であるという証明ね。何事にも二面性があるように、良いところと、悪いところがある。なにかわかる?」

シンジ「色んなことが当てはまると思いますけど」

「あなたの母親は、永遠の存在になりたかったのよ」

シンジ「永遠の?」

「えぇ。裏死海文書に記載されている意味を、真に理解しているのは、彼女だけだったんじゃないかしら」

シンジ「う、うら?」

「昨日の神話の話の続き」

シンジ「また、その話ですか」

「シンジ。母親があなたを、そして夫を捨てたことに後悔をしていないとしたらどう思う?」

シンジ「え? だって、事故で亡くなったのに」

「目に見えるだけが全てじゃないわ。あなたのことも、夫のことも愛してはいた。でも、罪悪感なく捨てていたとしたら?」

シンジ「まただ。言ってる意味がわかりません」

「あなたはまだ何も知らない。教えたとしても、理解できる受け皿がないわよね。でも、それも仕方のないこと。そうやって生きてきたんだから」

シンジ「……」

「時は残酷ね。個人の都合とはかけ離れた概念で動いている」

シンジ「はぁ」

「あなたの話に戻しましょう。エヴァパイロットになってよかったことは?」

シンジ「……僕は、みんなに迷惑をかけてばっかりです」

「それでも人類を守っているのでしょう?」

シンジ「みんな、そう言ってくれます。ミサトさんも。だけど、僕はみんながそう言ってくれてるのに、エヴァパイロットの価値しかないって」

「自分自身の価値を見つけられないのね」

シンジ「わがままですよね」

「いいえ。当たり前のことよ。だけど、エヴァパイロットの価値も含めて、あなたの価値だと思わない?」

シンジ「……」

「なぜ選ばれたのか、なぜ乗れるのか。それは理由のひとつにしか過ぎない。あなたが乗れる、そして、あなたが守っている。その事実を周囲の人は認めてくれているのよ」

シンジ「やっぱり、僕には関係のないことじゃないですか」

「ジレンマを抱えるのはわかるわ。でも、あなたがあなたを認めてあげなくちゃ。そんな自分でもいいって」

シンジ「そんな、自分でも、いい」

「えぇ。正解はひとつじゃないのよ。あなたが選んだものが正解になる、正解にしてしまうの。誰だって突き詰めれば自分の為に生きているんだもの」

シンジ「そうでしょうか?」

「愛する人の為に、なんて建て前を言っても、愛する人の喜ぶ姿が見たい自分の為でもあるでしょう?」

シンジ「そうかも、しれません」

「無数の可能性であふれている。だから、選ぶのに迷うし、こわい」

シンジ「もし間違っていたら……」

「良くても悪くても、結果はでる。悪かった場合の結果が、他人を傷つけ、自分を傷つけるのがこわい」

シンジ「う……」

「だからと言って、なにもしない、というの?」

シンジ「そ、そんな……」

「それも選択のひとつなのよ。シンジ。あなたがなにもしないことを決めたことになるの」

シンジ「僕がなにかしたって……」

「なにかしても、なにもしなくても悪くなるのなら、同じことではない?」

シンジ「……」

「決めたことに責任を持ちなさい。あなたが選んだという自覚から逃げてはだめ」

シンジ「耐えきれなかったら、どうしたらいいんですか」

「可能性はあくまで可能性。考えうる限りでは天文学的数字になるでしょう。持ち札は多くないと割り切れる?」

シンジ「できそうもありません」

「シンジはまだ若いから。でも、こわがっちゃだめよ。可能性を閉ざすことに繋がる。これなら、言っている意味わかるわよね?」

シンジ「はい」

「シンジ……」スッ

シンジ「え……」

「あなたならきっとできる。あなたが持つDNAはそこらの凡人に負けるはずない、サラブレッドですもの」

シンジ「……」

「お母さんの血筋を信じなさい」

シンジ「なんだか、懐かしい匂いがします」

「……覚えがある?」

シンジ「なんとなく、そう思っただけで。変ですよね。僕、誘拐されてるのに、こんなこと話するなんて」

「話してくれて嬉しいわ」

シンジ「いえ……」

「まだ、エヴァに乗り続ける?」

シンジ「ふぅ……。すぐには、答えがだせそうもないや。だけど、乗ってみんなが笑顔に……自分の為に僕は乗るべきだと思います」

「そう」

シンジ「ありがとうございました」

「いいのよ」

シンジ「あんまり、考えを話せる人いないから」

「また会う機会はあるわ。その時がきたら、麻袋無しで会いましょう」

シンジ「え? いっ! また……⁉︎」プス

「おやすみ」

【第三新東京市 繁華街】

ミサト「あぁ~結局、ビジネスホテルで夜を明かすなんて」

マコト「今日は成果がでるといいですね」

ミサト「そうね、誘拐から身代金の要求がないいままに時間だけが経過すると、生存率が低くなる」

マコト「大丈夫ですかね……」

ミサト「マジにやばいかも」

マコト「シンジくんだけじゃないかもしれませんしね、ひょっとしたら他のチルドレンも」

ミサト「今はシンジくんよ」

マコト「はい、わかってます」

ピリリリリッ

ミサト「日向くん、携帯、鳴ってるわよ」

マコト「誰だろ? なにかあったのかな?」

ピッ

マコト「はい、もしもし……あぁ、葛城さんなら、ここに……うん……なんだって⁉︎ わかった! すぐに本部に戻る!」

ミサト「どうしたの⁉︎ ま、まさか、死体が……」

マコト「違いますよ! って、シンジくんが見つかったのは違ってないですが! 生きてます!」

ミサト「よっしゃあっ!」グッ

マコト「急ぎましょう!」

ミサト「おっけー! 駐車場に私の車があるから! 飛ばすわよ」

マコト「いっ⁉︎」

ミサト「どうしたの? 日向くん! 行くわよ」

マコト「葛城さん、運転荒いんだもんなぁ……」ガックシ

とりあえずここまで

時間まだあいたんでもうちょい続けます

【総合病院 病室】

シンジ「……う……ここは……」

レイ「起きた……?」

シンジ「え?」

アスカ「はぁ、まったく、人騒がせなやつね」

シンジ「アスカ? 綾波?」

アスカ「あんたがいなくなったおかげにこちとら大迷惑よ」

レイ「気分はどう?」

シンジ「あぁ、大丈夫。特になんともないよ」

アスカ「拷問とかされなかったの?」

シンジ「うん、そんなんじゃない」

アスカ「心配して損した」

シンジ「心配してくれたの?」

アスカ「あ、あたしは別にっ! ファーストがうるさいからよ!」

レイ「私?」キョトン

アスカ「そうでしょ⁉︎」

レイ「違うわ。心配してたのは、あなた」

アスカ「うぐっ! 気がきかないんだからぁ!」

シンジ「心配かけてごめん」

アスカ「ふんっ!」

レイ「起きたら、連絡するように赤木博士に言われてるけど平気?」

シンジ「うん、そうだね、大丈夫だよ」

アスカ「……ん? シンジ、あんたなんか顔つきがすっきりしてない?」

シンジ「そう?」

アスカ「気のせい、よね。なにも食べてないとか?」

シンジ「そんな。たしかに食べてないと思うけど、1日かそこらじゃないか」

アスカ「ま、それもそうか。ならやっぱり気のせいね」

レイ「なにか食事は?」

シンジ「……りんご、食べようかな」

レイ「いいわ」

アスカ「はっ! 起きたらさっそくいちゃついちゃってさぁ」

シンジ「アスカ」

アスカ「なによ」

シンジ「変わる意味がわかった気がする」

アスカ「はぁ? 頭でも打ってきた?」

シンジ「よくわからないけど」

アスカ「……どっちなのよ」

シンジ「僕はこわがってちゃいけないんだね」

アスカ「熱あるの?」

シンジ「違う、いけないってわけじゃない。それが、自分の為にも、いつか、誰かの為にもなるんだろうね」

アスカ「あんた、人の話聞いてる?」

シンジ「アスカ」

アスカ「だからなによ⁉︎」

シンジ「アスカは、僕とは違う」

アスカ「はぁ」

シンジ「よっと」ギシ

アスカ「ちょっと、あんた、いきなり立って大丈夫――」

シンジ「こうしたら、どうなるんだろう」スッ

アスカ「んなっ⁉︎ ななぁっ⁉︎」

シンジ「アスカのほっぺた、やわらかいね」ムニムニ

アスカ「ふんっ!!」

バチンッ!

アスカ「エッチバカ変態っ! 信じらんないっ!」

シンジ「ぷっ、あは、あはははっ、ジンジンして、痛いや」

アスカ「え……? ちょ、ちょっと?」

シンジ「そうだよね。なにかをしたら、なにかが返ってくる。当たり前の話なんだ」

アスカ「し、シンジ?」

レイ「碇くん?」

シンジ「くっくっくっ。だめだ、おかしくて、あははっ」

アスカ「ファースト、はやく赤木博士に連絡して精密検査受けさせて」

レイ「え、えぇ」

【第三会議室】

シンジ「失礼します」

冬月「楽にしたまえ」

シンジ「はい」スッ

冬月「災難だったな」

シンジ「なにかされたわけではありませんけど」

冬月「赤木博士から検査の報告は受けている。書類で確認してもいいが、直接話を聞きたくてね」

シンジ「かまいません」

冬月「君は、将棋は打つかね?」

シンジ「あ……いえ……」

冬月「ふむ。山崩しならできるだろう」ガシャカシャ

シンジ「それなら知ってます」

冬月「聞きたいのは、君を誘拐した相手だ。女だったそうだな」スッ

シンジ「はい。声を聞いたので」

冬月「麻袋を被せられ、両手両足を縛られていたと聞いたが?」

シンジ「間違いありません」

冬月「やけにはっきりと答えるな」

シンジ「え……あの、なにか?」

冬月「老人と2人きりでは息苦しいのではないかと思ったのだが」

シンジ「……はい、息苦しいです」

冬月「ん?」

シンジ「でも、望んでるのは副司令ですから」

冬月「この席をかね?」

シンジ「はい」

冬月「それは違いない。多少の無礼は許そう」

シンジ「質問に答えるかわりといいますか、ひとつお願いしてもいいですか?」

冬月「なんだ?」

シンジ「父さんと、少し、話がしたいんです」

冬月「碇と?」

シンジ「はい。母さんのことを聞きたくて」

冬月「なぜかね? もしや、君を誘拐した相手はやはり――」

シンジ「え?」

冬月「いや、なんでもない」

シンジ「誘拐した相手は、僕にも誰だかわかりません。ただ、小さい頃に会ったとは言ってましたけど」

冬月「やはり、我々は彼女の手のひらで遊ばれていただけなのか」

シンジ「彼女?」

冬月「聞きたかったのはそれだけで充分だ。碇には会わせてやろう」

シンジ「あ、ありがとうございます」

冬月「今なら、多少の時間もあるはずだ。ついてきたまえ」

とりあえずここまで

【ネルフ本部 発令所】

ゲンドウ「どうした?」

シンジ「あ、あの……」

ゲンドウ「ぐずぐずするな。用件があるならさっさと言え」

冬月「母親について知りたいそうだ」

ゲンドウ「なに?」

シンジ「母さんって、どんな人だったの?」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「親のことを知りたいのって、おかしいかな……」

ゲンドウ「そうではない。なぜ今なのだ」

シンジ「気になったんだ。父さんは、母さんのことを大切に思ってるのは知ってるから」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「無駄な話に時間を割くな」

シンジ「そ、そんなこと言わなくたって」

冬月「――サードチルドレン、面白い話をしてやろう」

シンジ「えっ?」

冬月「ここにいる男はな。昔、私の教え子だった」

シンジ「と、父さんが?」

ゲンドウ「……」

冬月「大学の頃の話だがね。当時からこいつは、一匹狼を気取っていてな。変わり者の類だった」

ゲンドウ「冬月」

冬月「大学内では孤立していたよ。しかし、そんな折に、君の母親に出会った。最初は疎ましそうにしていたな」

シンジ「そ、それで?」

冬月「しかし、ユイ君の態度に、この男の心もやがて氷解していった。いつのまにやら、なくてはならない存在になっていたのだ」

ゲンドウ「つまらない御託はやめろ」

冬月「やがて、2人は付き合うようになった。男女の仲というやつだ。そして、ユイくんは君を身篭った」

シンジ「あ……」

ゲンドウ「いいかげんにしろ!」

冬月「碇。もういいのではないか」

ゲンドウ「なんのつもりだ?」

冬月「俺もお前も、やり方を間違えていたのだ。お前は言ったな。ゼーレと死海文書の存在にはじめて気がついた時、俺にこれを世間に公表すると」

ゲンドウ「昔の話だ。なぜ今蒸し返す」

冬月「ネルフがまだゲヒムだった頃、お前は人が変わったようになって、決意を滲ませて帰ってきた。人類補完計画を遂行するために」

ゲンドウ「冬月、シンジを連れてさがれ」

冬月「ここから見える景色を見たまえ」


マヤ「あ、ここの解析間違ってる」
シゲル「じゃんじゃんじゃかじゃ~ん♪ いぇ~い♪」
マコト「はぁ、仕事が終わらない」


ゲンドウ「それがどうした?」

冬月「誰しもが、夢にも思うまい。人類の可能性に賭けて、人類が滅ぶ手助けをしているとはな」

ゲンドウ「滅ぶのではない。進化だ。必要な――」

冬月「お前の息子は、お前ではないよ」

ゲンドウ「なにを言っている?」

冬月「認めたらどうだ。お前は息子から逃げている。俺もお前も。いや、ここにいる誰もが、逃げているのかもしれん」

シンジ「……あ、あの」

冬月「俺は降りる、とは言わない。だが、親子の時間を取り戻せ。破滅の日まで、まだ時間はある」

ゲンドウ「必要ない。思い出は心の中で生き続ける。今はそれでいい」

冬月「歳というものは難儀だな。若い発想と柔軟性が羨ましいよ」

ゲンドウ「冬月、今日は休め」

シンジ「父さん」

ゲンドウ「なんだ⁉︎」

シンジ「僕は、幼いころ、父さんから逃げ出したんだ」

ゲンドウ「……子供の戯言には」

シンジ「父さんはあの時、僕に、わからないけど、なにかに失望したんじゃないの?」

ゲンドウ「それは違う。お前が逃げ出したのはお前の選択だ」

シンジ「そうかもしれない。父さんは何を選択したの? やっぱり母さんの――」

ゲンドウ「もうやめろ!」

冬月「碇、今日中の仕事は俺が引き継いでやる。息子と飯でも食ってこい」

ゲンドウ「……先生」

冬月「ふん、はねっかえりはあいかわずだな。老人のたまに見せるわがままだ。ここは俺の顔を立てろ」

【ネルフ本部 初号機格納庫】

ミサト「たらりらったらぁ~ん♪」

リツコ「そこ、踏みはずすとL.C.L漬けの完成になるわよ」カキカキ

ミサト「わかってるってぇ~」

リツコ「ふぅ……。相変わらず現金ね。シンジくんに外傷もなく見つかったからといって今回の失態が無くなったわけではないのよ?」

ミサト「ま、それも事実だけど。左遷もなさそうだし」

リツコ「リーチがかかっているの、忘れないようにね」

ミサト「実験は明日から再開するの?」

リツコ「えぇ。シンジくんに問題はないし、そうなるでしょうね。そこのアンビリカルブリッジの固定具、締めつけが甘いわよ」

作業班「え! どっちすかぁ⁉︎」

リツコ「二番よ」

ミサト「使徒が相手ならなんとかなるんだけどさぁ。さすがにああいうやり方されるとちょっちねぇ~」

リツコ「あなた、戦闘訓練も受けているでしょう? 優秀な成績だったはずだけど」

ミサト「今回の件では、形無しよ」

リツコ「そう……あら? あれは、碇司令と、シンジくん?」

ミサト「あらまっ! 本当だ! 2人で歩いてるのなんてめずらしい光景ね!」

リツコ「なにかあったのかしら?」

ミサト「気になるぅ?」

リツコ「ミサト? なによその目は」

ミサト「いんやぁ~? リツコって碇司令のこと目で追ってない?」

リツコ「馬鹿なことを言うのはやめなさい」

【ネルフ本部 レストラン】

シンジ「……」チラ

ゲンドウ「どうした? お前が望んだ会食だ」

シンジ「あ、うん。そうだね」

ゲンドウ「俺の顔色を伺ってないではやく決めろ」

シンジ「はは。父さんでも、わかるんだ」

ゲンドウ「くだらん」

シンジ「だけど、僕は嬉しいよ」

ゲンドウ「……そうか」

シンジ「父さんと、こうして食事できるのは本当に何年ぶりになるだろう」

ゲンドウ「13年ぶりだ」

シンジ「やっぱり、僕が逃げ出した時からだね」

ゲンドウ「ああ。だが、それ以前も俺は研究に没頭していたからな」

シンジ「父さんがしていた研究ってやっぱりエヴァの?」

ゲンドウ「様々な研究だ。基礎構造に関わっている人員は万をゆうに超えている。俺はそのタスクの一部を担当していたにすぎん」

シンジ「凄いんだね。母さんも……?」

ゲンドウ「ユイは、エヴァに子供達の夢を託していた。シンジ――」

シンジ「なに?」

ゲンドウ「お前にとって母親とはなんだ?」

シンジ「うーん、会ったことのない、人、かな」

ゲンドウ「だが、お前の母親はたしかに生きていた」

シンジ「うん」

ゲンドウ「ユイはかけがえのないものを俺に教えてくれた。俺の心の中で生き続けている」

シンジ「もし、もし今も母さんが生きていたしとたら何かが変わっていたのかな」

ゲンドウ「そんな話は無駄だ」

シンジ「そうだね、ごめん」

ゲンドウ「俺は、お前に何もしてやれない」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「だが、ユイの願いはお前に対する願いでもある」

シンジ「父さん、なに言って……」

ゲンドウ「シンジ。二度は言わん。よく聞け」

シンジ「う、うん」

ゲンドウ「俺は父親失格なのだろう。この手は、血で汚れてしまっている。もう後には引き返せない」

シンジ「……」

ゲンドウ「犠牲があまりにも多すぎるのだ。俺だけの話ではない、関わってきた者、志半ばにして倒れてきた全ての者たちの願いが託されている」

シンジ「うん」

ゲンドウ「俺は、お前に嫌な思いしかさせていないのだろうな」

シンジ「そ、そんなこと!」

ゲンドウ「初号機のパイロットは、ユイの願いでもあるお前がやり遂げるのだ」

シンジ「あ……」

【ネルフ本部 発令所】

冬月「(ユイくん、これでよかったのだろう?)」

リツコ「副司令」

冬月「なんだね?」

リツコ「さきほど、碇司令とご子息をお見受けしましたが」

冬月「ああ。たまにはいいだろう。なに、ただの親子の食事だ」

リツコ「お、親子の食事……?」

冬月「どこの家庭でも見受けられる、日常的な光景だよ」

リツコ「あの2人にとっては、その、大変、申し上げにくいのですが……」

冬月「言わんとしているのはわかる。だが、誰しもにきっかけは必要だ」

リツコ「は、はぁ」

冬月「我々は手助けをしているだけにすぎん。どうするかは、当事者が決める」

リツコ「今さら、関係の修復などありえるのでしょうか?」

冬月「遅いというのはないが、歳をとれば、臆病になる。息子の頑張り次第だな」

リツコ「サードチルドレンもかなり受け身だと思われますが……」

冬月「ふっ。期待しよう」

【ネルフ本部 レストラン】

ウェイター「お待たせいたしました。ハンバーグセットとアメリカンコーヒーでございます」コト

シンジ「い、いただきます」

ゲンドウ「……」

シンジ「父さん、僕は、やっぱり、父さんと母さんに何があったのかわからないよ」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だけど、母さんの願いも、父さんの願いも、実現したらいいと思う」

ゲンドウ「お前に心配される覚えはない」

シンジ「そうじゃないんだ。僕は、父さんと母さんの息子だから」

ゲンドウ「……形だけだ。お前が母親に抱いている感情と俺に対する感情になにが違う」

シンジ「父さんからしたら、バカみたいな話かもしれないけど、僕は父さんに褒められるためにエヴァに乗ってるんだ」

ゲンドウ「……」

シンジ「父さんはこう思ってるんでしょう? 乗れればいいって。僕にだってわかるよ。そう、父さんは切り捨ててきたんだね」

ゲンドウ「そうだ」

シンジ「父さんの手がなにかで汚れていても、命の尊さは変わらない。僕には、今が大事なんだ。だから――」

ゲンドウ「シンジ。会食は一度きりだ。冬月の顔を立てて話をしている」

シンジ「だけど! 父さんが話してくれたのは本心だったんでしょう⁉︎」

ゲンドウ「……」

シンジ「普段なら絶対に言わない話をしてくれたのを僕は聞いてたよ!」

ゲンドウ「はやく食え」

シンジ「はぁ……なんでそうなんだよ」

「ご一緒してもよろしいですか?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「……っ!」ガタッ

「お久しぶり」

シンジ「あ、えっと」

ゲンドウ「ば、バカな! そんなはずは!」

「立ち上がってないで席に座ったらどう? 注目を浴びるわよ。碇司令」

ゲンドウ「な、なぜ……っ!」

「シンジ。ハンバーグセットを頼んだの? おいしそうね」

シンジ「あの……?」

ゲンドウ「ゆ、ユイ……君なのか……」

ユイ「シンジ、飲み物は?」

シンジ「――え、えぇっ⁉︎」

ユイ「……ふぅ」

ゲンドウ「ど、どうなっている。キミはたしかにサルベージに失敗して」

ユイ「バカね。私はいつもあなたのそばにいたのに」

ゲンドウ「なぜだ……」

ユイ「シンジを育てずになにをしていたの?」

ゲンドウ「お、俺は、キミに会うために」

ユイ「時がくれば会えたのよ。私達の息子がそれを叶えてくれたの」

シンジ「お、お母さん?」

ユイ「えぇ、そうよ。シンジ。麻袋無しで会えたわね」

シンジ「えぇ⁉︎ ってことはあの人が⁉︎」

ユイ「まったく、うちの男どもは。もう少し落ち着くことはできないの?」

ゲンドウ「初号機のコアはどうなっている⁉︎」

ユイ「それなら心配ないわ。手は打ってあるから。シンジのシンクロに問題はなかったでしょう?」

シンジ「あ、あ……」

ユイ「ハンバーグ冷めるわよ?」

ゲンドウ「本物か?」

ユイ「失礼ね……なんなら学生時代のあなたの恥ずかしい話を列挙してあげましょうか?」

ゲンドウ「なぜだ……」

ユイ「私はあなた達を捨てたのよ。いいえ、私の望みの為に進んで初号機に取り込まれたの」

ゲンドウ「……」

ユイ「生き続ける限り、孤独感はあるもの。人類補完計画は心の壁を取り除き完全な個体になる、あなたも知っているでしょう?」

ゲンドウ「ならば、計画の完遂を待てば……」

ユイ「いいえ、それでは永遠にはなり得ない。私はね、この大地に還りたかったの。だから、形を変えるだけ」

ゲンドウ「……」

ユイ「なんの罪悪感もなかったわ。だって、この大地の土となり、木になり、緑となって、一緒にいるんですもの」

ゲンドウ「人ではないぞ?」

ユイ「それがなに? 私はこの星の一部として誰よりも近く、あなた達のそばにいられるのよ? 終わりのない、永遠に」

ゲンドウ「星にも寿命はある」

ユイ「そうね、それに気がついたからここにいるわけだけど」

ゲンドウ「き、キミは……」

ユイ「そんなことよりも、あなた。話を戻すけど、シンジを育てないでなにやってるの?」

ゲンドウ「し、しかし……」

ユイ「さっきのやりとりは聞かせてもらったわ。自分に酔っているつもり?」

ゲンドウ「俺はだな」

ユイ「この子は私達の息子なのよ。あなたの手を、はじめて握ったあの頃の感覚を忘れたの?」

ゲンドウ「……」

ユイ「シンジの言う通り、命は尊いものよ。あなたは力強い鼓動を、この子から学ばなかったのね」

シンジ「(す、すごいな。父さんのこの表情はもう見れないかもしれない)」

ユイ「シンジ」

シンジ「は、はいっ⁉︎」

ユイ「勉強はちゃんとしてる? 授業の成績はどれぐらいなの?」

シンジ「えーと、中間ぐらいの」

ユイ「あなたは頭がいいはずよ? 私は当然として、この人も成績は悪くなかったから」

シンジ「え、えぇ?」

ユイ「勉強のノウハウを教える人がいなかったのね、いえ、生き方を」

シンジ「いや、その……」

ユイ「でもね、シンジ。与えられるだけが当たり前だと思わないで。過酷な環境でも、生きて、自分で考えている子供はたくさんいるわ」

シンジ「す、すみません……」

ユイ「あなた」

ゲンドウ「な、なんだ」

ユイ「また私は姿を消します。私に会いたかったら、父親の背中を見せるのね」

ゲンドウ「そ、それは……」

ユイ「浮気をしているのも知っているのよ?」

ゲンドウ「……」

ユイ「そろそろ行くから。シンジ、ハンバーグゆっくり食べなさい。それと、あなたの為に用意してあるの計画はたくさんあるから。しっかりね」

シンジ「は、はぁ」

ユイ「シンジも私が永遠となるDNAを宿してるんだもの。次の世代へのバトンね」

ゲンドウ「お、おい」

ユイ「追いかけてきたら二度と会わないわよ」

ゲンドウ「……」

ユイ「それじゃ、元気でね」

シンジ「い、行っちゃった」

ゲンドウ「……」

シンジ「と、父さん」

ゲンドウ「なにも言うな。あれはお前の母親だ」

シンジ「い、生きてたんだね……」

ゲンドウ「あぁ」

シンジ「どうするの? これから、僕たち」

ゲンドウ「葛城一尉を呼び出す。お前もついてこい。それと、ハンバーグをはやく食べろ」

【ネルフ本部 発令所】

ゲンドウ「冬月」

冬月「どうした?」

ゲンドウ「ユイが生きていた」

冬月「あぁ、そうか。ようやく姿を見せたのだな」

ゲンドウ「……どういうことだ」

冬月「ずっと黙っていてすまなかったな。俺はお前の悩む姿を見て、内心でほくそえんでいたよ」

ゲンドウ「……」

冬月「嫉妬していたのかもしれん。だが、それぐらいはお釣りがくるだろう」

ゲンドウ「俺たちの目的が、補完計画の目的がなくなってしまったとわかっているのか?」

冬月「いずれ、ゼーレによって、補完計画は発動される。それまでは時間を取り戻すといい」

ゲンドウ「だが、ユイの血筋はゼーレそのものだろだ」

冬月「そういうと語弊がある」

ゲンドウ「これからどうすればいい」

冬月「子供じゃあるまいし、俺に聞くな。お前がやってきた十字架は消えやせんよ」

ミサト「碇司令! ご用でしょうか?」

ゲンドウ「……」

ミサト「あら? シンジくんも?」

シンジ「どうも、ミサトさん」

ゲンドウ「シンジ、葛城一尉に不満はあるか?」

ミサト「は、はい⁉︎」

ゲンドウ「どうだ?」

シンジ「いや、ミサトさんはよくしてくれてるよ」

ゲンドウ「そうか」

ミサト「い、碇司令、いったい、これは」

冬月「碇、過保護はちと違うぞ」

ゲンドウ「レイと同じ扱いではだめか?」

冬月「それでは育たん」

ミサト「な、なんなの、いったい」

冬月「気にせんでいい。中年の病気だ」

【ミサト宅 リビング】

ミサト「それじゃ~、シンジくんの帰還祝いをかねてぇ! かんぱぁ~い!」

ペンペン「クエ~ッ!」

アスカ「はいはい」

シンジ「はぁ……」

アスカ「えぇい、うっとうしい! あんたもため息ばっかりつくな!」

シンジ「そうだね……」

アスカ「どうせまたくだらない悩みなんでしょ?」

シンジ「まあ、くだらないかはわからないけど」

ミサト「シンちゃんだってお年頃なんだもの。悩みのひとつやふたつ、あるわよ」

アスカ「はん、私に悩みがないみたいじゃない」

ミサト「アスカはアスカでないとは言わないわ。だけど処理の仕方がそれぞれあんのよん」

シンジ「アスカ」

アスカ「なによ」

シンジ「アスカってお母さんいる?」

アスカ「やぶからぼうになんなのこいつ」

シンジ「いや、別に」

アスカ「だったら聞くんじゃないわよ」

今日はここまで

おっつー
これTV版のどこまでやんの?

>>97
当たり障りのない範囲で答えるとそんなに長くはありませんよ

【ネルフ本部】

冬月「やれやれ、まだ悩んでいるのか」

ゲンドウ「そうではない。今さらどう向き合えと言うのだ」

冬月「考えることかね」

ゲンドウ「親としての接し方がわからないのだよ」

冬月「そうではないだろう。お前は、息子のことを愛しているのかさえわかっていない。ユイくんに向けている情のカケラでさえ持ち合わせているのか、自信がないのだろう」

ゲンドウ「……」

冬月「まったく、お前たちはまぎれもない親子だよ」

ゲンドウ「シンジに親として接するのがユイのためであるのは明白だ」

冬月「自分の為だ。履き違えるな。お前の望みを叶える道具として扱うから、道具を愛するのはどうしたらいいかわからんのだろうが」

ゲンドウ「……」

冬月「ユイくんが生きているからといって、当然のように手に入ると自惚れるなよ? 見捨てられんように、せいぜい気をつけるんだな」

ゲンドウ「ああ」

冬月「ひとつだけ助言をしてやろう。……「家」とは帰る場所でもある。チルドレン達に帰る場所はあるのか?」

ゲンドウ「生活に不自由はないはずだ。規定にのっとって」

冬月「そうではない。現代社会はたしかに物に溢れ、便利になった。必要な設備を整えれば、不自由はないだろう。だが、心が貧しくなっているのではないか?」

ゲンドウ「人は、与えられた道具をどう使うか選ぶ、娯楽でさえも溢れている。選択肢は多いにこしたことはない。……使う側の問題だ」

冬月「MAGIのような市政を行える極めて効率的なコンピューターという例もある。機械という電子製品に頼り良い結果が得られる、それは同意する」

ゲンドウ「……」

冬月「しかし、それだけでは満たされない。人の心は人でしか埋められないからな。人類補完計画もそこに起因する」

ゲンドウ「俺がやるのは性に合わん」

冬月「昔と今では価値観が違うがね。昔の人が不便だから、生活ができていなかったから、幸せでなかったかと言うと違う」

ゲンドウ「なにが言いたい」

冬月「答えを言っているようなものだ。わからなければ自分で考えろ」

【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

ケンスケ「どうしたんだよ、ずっと窓の外見て黄昏ちゃって」

シンジ「あ、いや」

トウジ「センセはめずらしくはないやろ」

シンジ「……なんでもないよ」

ケンスケ「碇がなんでもないって言うときは大抵なにかある時だよなぁ」

トウジ「せや、シンジ、この前はうやむやになったが放課後時間あるか?」

シンジ「あぁ、この前はごめん。でも、そんなに大事な用事?」

トウジ「妹がなぁ」

ケンスケ「碇にお礼を言いたいんだとさぁ」

シンジ「僕のせいで怪我したっていう……」

トウジ「まぁ、シンジのせいやないのはワシもわかっとる。サクラや、妹の名前は」

シンジ「わかったよ。そういうことなら」

ケンスケ「僕も一緒に行っていいんだろう?」

トウジ「お前は連れ行くわけないやろっ!」

ケンスケ「仲間外れにする気か⁉︎」

トウジ「ワシは兄として妹の身の安全を確保しとるんや!」

ケンスケ「トウジ! 僕は変態じゃないぞ!」

トウジ「お前が普段やっとる盗撮は変態行為じゃないんかい!」

ケンスケ「ブロマイドはビジネスさ! トウジだって儲けに一枚噛んでるだろ!」

トウジ「ぐっ!」

ケンスケ「僕の趣味はあくまでカメラなんだからな!」

トウジ「はたからみたら女の尻追っかけとるストーカーやないか!」

ケンスケ「妹のことになるとそうなのかよ! 見損なったよ! 僕たちの友情はそんなものだったんだな!」

シンジ「ちょ、ちょっと2人とも」

【放課後 第三新東京市】

シンジ「トウジ、ケンスケはよかったの?」

トウジ「まぁ、大丈夫やろ。なんかあるんやったら拳で語りゃええ」

シンジ「ケンスケは、変態じゃないと思うけど」

トウジ「……それはワシもわかっとる。妹がな。そんなに長く話せる状態やないんや」

シンジ「あ……」

トウジ「暗い話にさせてすまんの」

シンジ「いいんだ。まだ、回復してないの?」

トウジ「目処はたってない……。病院の先生からは、もっと設備の揃った病院に転院を薦められるが、そんな金、どこにあるっちゅーねん」

シンジ「……」

トウジ「あいつが笑顔になれるんなら、今はそれでええ。シンジ、すまんが励ましたってくれ。お前の活躍の話をすると、ほんま嬉しそうな顔するんや」ペコ

シンジ「やめてよ! 僕のせいなんだ! 僕ができるのはなんでも」

トウジ「お前なら、そう言ってくれると思ったわ。怪我は事故やが、エヴァのパイロットがシンジみたいなやつでよかったとワシも思う。どうしようないクズやったらやるせないだけやからな」

シンジ「……」

【小田原病院】

看護師「あら、鈴原くん」

トウジ「お世話になっとります」

看護師「めずらしいわね。友達も一緒だなんて」

シンジ「はじめまして」

看護師「はい、こんにちは」

トウジ「サクラは、変わりないでしょうか?」

看護師「えぇ。今日は落ち着いてる」

トウジ「そうですか……」ホッ

看護師「あんまり根を詰めすぎないようにね? 毎日来るのはいいけど、鈴原くんが倒れたら……」

シンジ「え? トウジ、毎日来てるんですか?」

看護師「えぇ。よっぽどサクラちゃんがかわいいのね。新聞配達もしてるんでしょう? 今時えらいわ~」

トウジ「あ、その」

シンジ「知らなかった……」

トウジ「まぁ、その、な」

看護師「あら? ……言っちゃまずかった?」

トウジ「サクラ、はいるで」

コンコンッ ガララッ

サクラ「……」ニコ

トウジ「起きんでええから。呼吸器つけたまま、ラクにしとけ」

サクラ「お兄ちゃん、今日はお友達、連れてきたの?」

シンジ「……」ギリッ

トウジ「せや、誰やと思う?」

サクラ「うーん?」

トウジ「お前にいつも話を聞かせてたやつや」

サクラ「えぇ?」

シンジ「はじめまして、サクラちゃん」

サクラ「わぁっ! 怪獣をやっつけてくれてるシンジさん⁉︎」

トウジ「そうや。どや? 嬉しいか?」

サクラ「うんっ! とっても嬉しい!」

トウジ「そうか、よかったな、ほんまに、よかったな」

シンジ「(だめだ、トウジが我慢してるのに僕が泣いちゃだめだ)」

ヒカリ「どうぞ、座ってください。なにもないとこで申し訳ないわ」

シンジ「……ごめん、ごめんね。本当に、怪我をさせてしまって……うっ、うぅ……」ポロ

トウジ「泣くやつがあるかぁ! サクラ、シンジも会えて嬉し泣きしとるみたいやぞ」

サクラ「エヴァっていうんでしょう? あないにおっきなものに乗ってたらしかたないよ」

シンジ「ぐすっ、ごめん、僕が、もっとちゃんとしていれば……ごめんよ……」ポロポロ

【小田原病院 通路】

シンジ「トウジ……」

トウジ「どした?」

シンジ「今まで、本当にごめん。僕は、自分がなにをしたのかわかってなかった」

トウジ「泣くとは思わんかったな。サクラもびっくりしとったぞ」

シンジ「もっと、はやくお見舞いにくるべきだったんだ」

トウジ「それは違うで。もしシンジがきたいと言ってもワシは断ったやろう」

シンジ「そうじゃないんだ。もっとはやく言うべきだった。来れる来れないんじゃないんだ」

トウジ「まぁ、そんな深刻に考えんなや」

シンジ「僕がなんとかしてみせる」

トウジ「はぁ?」

シンジ「僕の力じゃないかもしれないけど。今から、父さんのところに、ネルフ本部に行かなくちゃ」

トウジ「お、おい。せやかて、もう時間も遅くなるゆちゃうか?」

シンジ「ジッとしていられないんだ。大丈夫、なにかあったらすぐに言うよ」

ヒカリになってる変換候補選択ミスは脳内でサクラに変換してください

【ネルフ本部 発令所】

シンジ「はぁっ……はぁっ……」

マコト「シンジくんじゃないか? どうしたんだい、息を切らせて。シンクロテストなら明日だよ?」

シンジ「ひゅ、日向さん……ふぅ……父さんは?」

マコト「碇司令なら、いつもの定位置に」

シンジ「ならはやく会わないと!」

マコト「待った!」ガシッ

シンジ「えっ?」

マコト「今は対応中だ。後にしたほうがいい」

シゲル「なにかを頼むつもりならタイミングを考えたほうがいいぜぇ~?」

マコト「……横からなんだよ」

シゲル「かまやしないだろ?」

マヤ「碇司令は邪魔されるの嫌うから」

マコト「マヤちゃんまで」

シンジ「わかりました。何分ぐらいで終わりそうですか?」

マコト「ここで待つといい。なに、俺たちも暇してたころさ」

シゲル「かっこつけちゃって。に~あわねぇセリフ」

【30分後】

シンジ「父さんっ!」

ゲンドウ「シンジか。お前と話している……いや、どうした?」

シンジ「忙しいのはわかってるよ。ごめん。頼みがあるんだ」

ゲンドウ「言ってみろ」

シンジ「僕が、初めて初号機に乗って出撃したときに、怪我をした子がいるんだ。その子がとても重い怪我みたいで」

ゲンドウ「……」

シンジ「ネルフの付属病院に転院させるのは無理かな?」

ゲンドウ「シンジ。望みは自分で勝ち取れ」

シンジ「でも、僕じゃできる範囲が」

ゲンドウ「考えろ」

シンジ「……なんだってするよ。エヴァにだって乗り続ける。それならどう?」

ゲンドウ「なぜ、助けたいと思った?」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「我々は使徒を相手に戦っているのだ。怪我人はこれからも出続ける」

シンジ「そうかもしれないけど!」

ゲンドウ「クラスメイトだからか」

シンジ「友達の妹なんだ! 僕のせいで怪我したんだ!」

ゲンドウ「誰しもに救済はない。お前は、友達だからという理由で選ぶのか?」

シンジ「……っ!」

ゲンドウ「どうした? この程度で揺らぐのか? もう一度だ。お前が怪我をさせる人々はこれからも出続ける。エヴァに乗り続けるとはそういうことだ」

シンジ「ぼ、僕は……」

ゲンドウ「シンジ! 答えろ!」

シンジ「う……」

ゲンドウ「お前は目先しか考えて発言していない。責任を持てないのならば帰れ、目障りだ」

冬月「ほう」

シンジ「自分の目の届く範囲は、守りたいんだ。だって、それが僕がエヴァに乗りたい理由だから!」

ゲンドウ「俺に褒められたいからというのはウソだったのか」

シンジ「違う! ……ひとつじゃないんだ。僕が乗り続ける理由は誰かに嬉しいと思ってほしいから」

ゲンドウ「多様性はある、だが、お前が望む未来は実現に程遠い」

シンジ「お願いだよ、父さん。どうか、転院させてやってほしいんだ」

ゲンドウ「ふっ、次は拝み倒しか」

シンジ「どうしたらいいかわからないんだよ!」

ゲンドウ「もうさがれ」

シンジ「くっ!」ギリッ

ゲンドウ「シンジ。お前がやっているのは弱者の行動だ。求めている結果を得るために犠牲にできるのはなにか、よく考えておけ」

とりあえずここまで

【ミサト宅 リビング】

司会(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」

芸人(TV)「ほんまでっか⁉︎ うさんくさいわぁ~」

司会(TV)「それが本当! さぁ、登場してもらいましょう! 新潟からお越しの、天才ワンワン、ハナちゃんです!」

シンジ「アスカ」

アスカ「ん~?」

シンジ「前に僕に、目先のことしか考えてないって言ったの覚えてる?」

アスカ「あぁ? あったよーな、なかったような」

シンジ「覚えてなくてもいいんだけど、僕は、どうしたらいいのかな?」

アスカ「はぁ、また病気が発症したの?」

シンジ「病気って……」

アスカ「今の時点で目先だけじゃない。人に聞く前に自分で考えようとした?」

シンジ「考えたよ。考えたけどわからないんだ」

アスカ「そうやってつまずくとすぐ人の力に頼ろうとする」

シンジ「……」

アスカ「なにを考えたのよ? 具体的に! 言ってみなさい!」

シンジ「トウジ知ってるだろ? 妹さんが僕のせいで怪我したから父さんに転院を頼みに行ったんだ」

アスカ「それでぇ?」ジトー

シンジ「そしたら、父さんは、僕がエヴァに乗り続ける限り、怪我人はでるって。なにを犠牲にするのか考えろって言うんだ」

アスカ「はぁ」

シンジ「あ、僕が、エヴァに乗るならいいかって聞いたからなんだけど……」

アスカ「アホくさ」

シンジ「そ、そうかな」

アスカ「なんでそんなこともわからないのよ」

シンジ「えっ?」

アスカ「あんた、碇司令が死ねって対価を要求してきたらどうするつもりだったの?」

シンジ「そ、そんなこと、できるわけ」

アスカ「そうよね。じゃあなんでいちいち真に受けて返すわけ?」

シンジ「ど、どういう……」

アスカ「ホントにバカね……。いい? 碇司令が考えろっていうのはね、なにかを犠牲に差し出せっていうものじゃないわ」

シンジ「そうなの?」

アスカ「他には? なにか言われてない?」

シンジ「えっと、なんだったかな。責任をもたないなら、帰れとか、あとは……」

アスカ「それね」

シンジ「え?」

アスカ「あんたさぁ、自分では責任持ってるつもりかもしれないけど、全部丸投げしてんのよ」

シンジ「う、うん」

アスカ「怪我人にしてもそうだし、面倒についてもそう。一人を助ける為に何人が動くか考えないのぉ?」

シンジ「うーん」

アスカ「はぁ……権力があるのは結構よ。それは力だし、お金もそう。だけどね、それで不幸になるかもしれない人がいるってことよ」

シンジ「ど、どうして不幸になるのさ」

アスカ「急な仕事が入って、娘の誕生日に帰れない人がいるのかもしれない。他ならないあんたの頼みのせいで」

シンジ「あ……」

アスカ「その子に、あんたはなんて謝るのよ? 僕は友達の妹を助ける為にって言い訳すんの? 大層な理由よね。許してくれるかもしれない、だけど、あんた、それでいいの?」

シンジ「でも、それだってその人にとっては仕事で……」

アスカ「ふん。ラチがあかない」

シンジ「うぅ……」

アスカ「あぁんもうっ! よーするに! 信念を持てって話よ! 自分で決めた結果に! 悪くても良くても受け入れる覚悟が、あんたにはあったの⁉︎」

シンジ「……」

アスカ「どうせ、一時のテンションに身をまかせたとかなんじゃないの? ガキにありがちな話ね」

シンジ「そうか、だから父さんは僕に念をおして聞いてきたのか……」

アスカ「やっとわかったの?」

シンジ「うん、僕はやっばりバカだね」

アスカ「またすぐそうやって自虐に走る――」

シンジ「だけど、アスカに聞いてよかった。ありがとう」

アスカ「な、なによ。……ま、愚民を助けるのもエリートの義務ってやつよ。あんたにしちゃ、悪くない選択だったわね」

シンジ「うん、僕はまだまだ子供で、すぐには大人になれない」

アスカ「……」

シンジ「階段を一段目から十段目にはいけないように、すぐに結果なんてでないんだね」

アスカ「このあたくし様は凡人とは違ってすっ飛ばしてきたけど」

シンジ「アスカは努力をしてきたんだと思う」

アスカ「な、なに」

シンジ「だけど、僕は何もしてこなかった。いつでもできたのにしなかった。だから今という結果があるんだ」

アスカ「……少しはわかってきたみたいね」

シンジ「トウジの妹にしても、なんとかしてみせるって根拠のない約束をしてしまった。僕に、そう言い切れるはずがないのに」

アスカ「言い切ってもいい。それを必ず達成するなら」

シンジ「うん」

アスカ「あんたは、ちゃんと約束を守れる男になりなさいよ」

シンジ「守ってみせるよ……! 必ず! 僕、ちょっと出かけてくるから!」

アスカ「えぇ? 晩ご飯はぁ⁉︎」

シンジ「冷蔵庫にあるタッパーに入ってるよ!」

アスカ「いっちゃった……。あいつどこに行ったんだろ。もう終電の時間もないのに。バカを通り越して大バカね」

ペンペン「クゥゥゥ~」

アスカ「お腹すいちゃったわね、ペンペン。冷蔵庫のタッパーはっと……」ガチャ

ペンペン「クエ~ッ! クエッ!」

アスカ「ロールキャベツか。さ、チンして食べましょ」

ペンペン「クエッ!」

アスカ「不器用だけど、少しはマシになってきてるのかも」

ペンペン「クエ?」

アスカ「大人の男性もいいけど、育てるってのもありかもしれないわね……。どう思う? ペンペン」

ペンペン「クエッ! クェクァッ!」

アスカ「足りない部分は補ってやればいいわけだし。……うーん……はっ! な、なに考えてるの⁉︎ しっかりしなきゃ! アスカ!」

【初号機格納庫】

ゲンドウ「(ユイ……)」

リツコ「碇司令、こちらにいらっしゃったのですか」

ゲンドウ「君か」

リツコ「本日は泊まりですか?」

ゲンドウ「あぁ」

リツコ「私もですわ」

ゲンドウ「まだ終電はあるだろう」

リツコ「地下拡張工事の為、ダイヤの改定が行われています。二時間前に運休となっておりますわ」

ゲンドウ「……そうか」

リツコ「近くのラウンジでお酒でもいかがですか?」

ゲンドウ「いや……」


シンジ「はぁっ……はぁっ……父さんっ!!」


リツコ「シンジくん? あなた、まだ帰ってなかったの?」

ゲンドウ「……」

シンジ「トウジの妹を! 転院させてやってくださいっ!」

ゲンドウ「なぜだ?」

シンジ「僕がそうしてほしいんだ! それ以外に理由なんてないよ!」

ゲンドウ「では、お前はなにを差し出す?」

シンジ「差し出せるものはない! だって、僕にはなにもないから!」

ゲンドウ「ふざけるな。そんな都合が――」

シンジ「僕にはこうするしかないんだ! 何度ダメと言われても諦めずにお願いするしか!」

リツコ「なに?」

シンジ「父さんは僕に考えろと言った! だけど、僕はトウジに約束したんだ! なんとかしてみせるって!」スッ

リツコ「無様ね。立ち上がりなさい、シンジくん。土下座なんて不恰好なまねを中学生が――」

シンジ「お願いだよ、僕は父さんの言う通り弱者だ。父さんのように権力があるわけでも、お金があるわけでも、人脈があるわけでもない」

ゲンドウ「……」

シンジ「でも、僕は! 願いを叶えるためにあがいてみせる!」ガシッ

リツコ「シンジくん、いい加減にしなさい。碇司令の足を離すのよ」

シンジ「お願いします。父さん、今はこれが僕にできる精一杯なんだ。拝み倒しでもなんでもいい、それしかできないのなら、格好悪くても」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「……」

ゲンドウ「転院したとしても回復しなかったらどうするのだ?」

シンジ「それでも、なにもしないよりはいいっ!」

ゲンドウ「お前が勉強し、救おうという気持ちがあるか? 諦めなければいけない機会は必ず訪れる」

シンジ「なにかをやらなくちゃわからない! そうなる時もあるかもしれない! 怪我人だって、これからも……」

ゲンドウ「そうだ。お前が乗り続ける限り、大なり小なり、犠牲はつきものだからな」

シンジ「守れた人達だっていたんだ!」

ゲンドウ「全員は無理だ。どうやって選び、切り捨てる?」

シンジ「そ、それは……」

冬月「碇、もうそれぐらいでいいだろう」

リツコ「ふ、副司令」

冬月「若いとはそういうものだ。詰めが甘い」

ゲンドウ「口を挟むな」

冬月「ふぅ……。子育てにハリきりすぎだ。メリハリをつけんと、潰れてしまうぞ」

ゲンドウ「……シンジ」

シンジ「はい」

ゲンドウ「お前が全ての手続きをしろ。わからなくてもお前が頼め。赤木博士」

リツコ「は、はい」

ゲンドウ「全職員に通達。サードチルドレンを現時点よりエヴァパイロット扱いするな。部外者として扱え。いかなる時もだ」

リツコ「碇司令?」

ゲンドウ「葛城一尉にも連絡して、同居を解消させろ。全て、自分でやらせるのだ」

冬月「おい、碇」

シンジ「いいんです。それでトウジの妹の転院を認めてくれるんだね?」

ゲンドウ「ああ」

シンジ「だったら、僕はそれでいい」

ゲンドウ「口だけならなんとでも言える。結果で示せ」

冬月「不器用な親子だ……」

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「マジに言ってんの?」

リツコ「ええ。これがシンジくんの支給される生活費」ペラ

ミサト「……ちょっとこれ、10万ぽっち? 家賃を含めたらギリギリの生活じゃない! ワンルームに住まわせる気⁉︎」

リツコ「碇司令が直々にお決めになったわ」

ミサト「厳しすぎるわ! 私が直訴します!」

リツコ「無駄よ」

ミサト「シンジくんはまだ中学生なのよ⁉︎ こんなはした金でどうやって生活しろって! エヴァに支障をきたすかもしれない!」

リツコ「そうなったら、どうなるのかしらね」

ミサト「情がないからってあんまりよ! やりすぎだわ!」

リツコ「そうは見えなかったけど」

ミサト「え……? というか、なんであんた、むくれてんの?」

リツコ「なんでもないわ」

ミサト「とにかく、碇司令に話をしないと!」

リツコ「やめなさい。左遷させられるわよ」

ミサト「どうしてよ! シンジくん、なにもしてないわよ⁉︎」

リツコ「シンジくんが望んだのだから、あなたも従いなさい」

ミサト「はぁ? シンジくんがぁ?」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「マジ……?」

ミサト「マジよ」

アスカ「え? だって、私たちエヴァのパイロットなのよ? それに、パイロット扱いしないって……」

ミサト「逆にこっちが気を使うわよねぇ」

アスカ「シンジがそれでもいいって言ったの?」

ミサト「明日には全職員に通達されるわ。碇司令の発令は特Aクラスよ。絶対遵守、組織である以上、規則には逆らえない」

アスカ「なにやってるのよ……! あのバカっ!」

ミサト「アスカもなにか訳知りみたいね」

アスカ「少しね。……それで、どこに住むかもう決まったの?」

ミサト「三日の猶予を与えられたわ。それまではネルフで寝泊まりするようになってる」

アスカ「どこに?」

ミサト「シンジが誘拐された時にあなた達も寝泊まりしたコンテナよ」

アスカ「エヴァのシンクロはどうするの?」

ミサト「通常通り、行ってもらうわ。全て、シンジくんも了承済みの決定よ」

アスカ「……」

ミサト「はぁ……」

【ネルフ付属病院】

シンジ「あの、転院の手続きに必要な書類を教えてもらいたいのですが」

受付「……お父さんかお母さんは?」

シンジ「えっと、今、手が離せないから話を聞いといてくれって言われて」

受付「えらいのね。でも、わかる?」

シンジ「説明だけでもしてもらえれば、ありがたいんですけど」

受付「紹介状が必要になります。担当医に話を通さないとだめよ」

シンジ「それって、ここのじゃないですよね」

受付「もちろん。ここは紹介状を受け取って、中に記載されてる医師の判断を引き継ぐところ」

シンジ「わかりました。必要なのは、それだけでしょうか?」

受付「患者の状態にもよるけど、まずはそれからね」

シンジ「(なんだ、わりと簡単じゃないか)」

受付「あとはお金の話なるから、お父さんかお母さんを連れてきてね」

シンジ「はい、ありがとうございます」

【第三新東京都市立第壱中学校 昼休み】

トウジ「よ、シンジ。昼休みからか。ネルフの用事か?」

シンジ「トウジ、サクラちゃんなんだけど」

トウジ「あん?」

アスカ「ちょっと待ちなさい」

シンジ「アスカ?」

アスカ「シンジ。あんた、どういうつもり?」

シンジ「どうもしないよ」

アスカ「それでエヴァのパイロットをやっていけると思ってんの?」

シンジ「やると決めたんだ。最後までやってみせる」

アスカ「あたしも昨日はああ言ったけど、無理よ。まだ中学生なのよ? 身分証だって社会的に認められてない」

シンジ「無理でもやってみる」

アスカ「根性は認めてやるから。撤回しなさいよ」

トウジ「なんや?」

ケンスケ「……ふん」

シンジ「まだなにもやってない内から撤回はできない」

アスカ「くっ! この私が心配してやってんのよ⁉︎」

シンジ「ありがとう、アスカにも助けてもらってばかりで。だけど、やらせてほしいんだ」

アスカ「好きにすれば⁉︎ 知らないっ!」

今日はここまで

【中学校 屋上】

シンジ「父さんに頼んだら、転院が認められたんだ」

トウジ「はぁ?」

シンジ「サクラちゃんが治るかもしれないんだ!」

トウジ「……やっぱり、サクラに会わせたのは失敗やったのぉ」

シンジ「え?」

トウジ「シンジ、話はありがたい。やけどな、頼んでほしいなんて、ワシがお前にひとことでも言うたか?」

シンジ「い、いや、でも……」

トウジ「こうなると思うたから会わせたくなかったんや。ワシがお前がきたいと言うても断るというたのは」

シンジ「治るかもしれないんだよ?」

トウジ「人間ってのは複雑やな。ワシはサクラを心配やけど、お前も心配や」

シンジ「どうしてだよ⁉︎」

トウジ「……治療費は、ネルフが負担してくれるんか?」

シンジ「そうだよ、なにも心配することはないんだ」

トウジ「なぜ、ワシに一言、聞いてくれへんかったや」

シンジ「それは、僕のせいだから」

トウジ「お前がやっとるんは押しつけや。どうにもならんと判断したらワシから相談する」

シンジ「ご、ごめん、だけど……!」

トウジ「ワシがお前に感謝の気持ちがなくても、ええんか?」

シンジ「いいよ、考えが足りなかったのは僕が悪い。トウジの気持ちを」

トウジ「はぁ……。いや、ええよ。転院させてもらうわ」

シンジ「よ、よかった! 転院には紹介状が必要で!」

トウジ「それぐらいワシも知っとるわ。必要な手続きは全て調べ終わってるからの。万が一、転院となった時の為に」

シンジ「そうだよね。転院させるのは考えたりするよね」

トウジ「必要な書類は近日中に渡す。それでええか?」

シンジ「うん、受け取ったらすぐに父さんに話て、金銭的な詰めにはいるよ」

トウジ「わかった……。シンジは先に教室に戻っておいてくれ。ワシは少し、風に当たって戻る」

トウジ「シンジならもういったぞ。隠れてないで出てこいや」

アスカ「……」スッ

トウジ「やっぱりお前やったか。教室からコソコソ人影がついてきてたんわ」

アスカ「よくわかったわね」

トウジ「お前の頭の色は目立つからのぉ」

アスカ「あんた、打算したわね……?」

トウジ「なんの話や……?」

アスカ「こうなるのがわかってて、シンジを妹に会わせたんでしょ⁉︎」

トウジ「……」

アスカ「転院させるために! あんたは言わずとも最初からシンジに頼んでたのよ! 妹の状態を見せつけることで!」

トウジ「憶測はやめぇ」

アスカ「なぜ今になってシンジに会わせたの!」

トウジ「……お前は、シンジのことが心配なんやな」

アスカ「話をすり替えないで!」

トウジ「妹が会いたがったからや」

アスカ「シンジがこうなるとわかってて、妹の頼みを断らなかったのは、そういうことでしょ⁉︎」

トウジ「だから、なんや!」

アスカ「開き直るつもり!」

トウジ「こうでもしない限り、どうしようもなかったんや! シンジが自分自身で選んだ選択や! ワシたちを見捨てることもできた!」

アスカ「友達でしょ⁉︎ だったらなんで素直にお礼のひとつも言えないのよ!」

トウジ「あいつは……」

アスカ「怪我させたのをまだ根に持ってるんじゃないの⁉︎ 心のどこかで!」

トウジ「ワシはシンジを友達と思っとる! せやけど!」

アスカ「……」

トウジ「サクラをなんとかしてあげたいんや!」

アスカ「だったら、シンジに最初からそう言いなさいよ」

トウジ「妹が治ったら、言おうと考えとる」

アスカ「あんた、シンジがこれからどういう生活を送るか知らないのね」

トウジ「なんの話や」

アスカ「いい。……あんたには私から言う権利はない」

トウジ「……」

アスカ「だけど、覚えておきなさい。誰かを助けるには、誰かが辛い思いをしなくちゃいけないってこと」

トウジ「あ? なにを言うとるんや。シンジはお偉いさんの息子やろ」

アスカ「そうよ……。それじゃ、私、戻るから」

【放課後 書店】

シンジ「ええと、家賃は収入の3分の1が目安か。となると、3万円ぐらいのところ……」ペラ

マヤ「あら? シンジくん?」

シンジ「あ、こんにちは」

マヤ「こんにちは。なに見てるの? ……あぁ、部屋、探してるんだ?」

シンジ「はい。これからネルフですか?」

マヤ「えぇ。技術書を買いに寄ったの。シンジくんもよかったら一緒に……あ、だめ」

シンジ「……」

マヤ「ごめんね? 碇司令からの通達で。シンジくんは……」

シンジ「いいんです。僕も納得してますから」

マヤ「私たちもこれから、どう接していいのか。シンジくんをパイロット扱いするなって命令だけど、パイロットなんだもの」

シンジ「気を使わせてすみません」

マヤ「ううん、シンジくんが悪いわけじゃ」

シンジ「シンクロテストには間に合いように行きますから。どうぞ、気にせず」

マヤ「あ……。うん、わかった。それじゃまた後でネルフで」

【不動産会社】

シンジ「すみません、お伺いしたいんですが」

店員「はぁ? なんでしょう?」

シンジ「家賃が3万円ぐらい物件ってなにかありますか?」

店員「失礼ですけど、制服着てますが学生さんですか?」

シンジ「あ、はい」

店員「ご年齢をお伺いしても?」

シンジ「14歳です」

店員「うちは、中学生に紹介できるような物件は……」

シンジ「両親は健在です。あのっ! 社会勉強させるために一人で聞いてこいって言われてて」

店員「あぁ、なるほど。そういう訳ですか。立派な親御さんですね」

シンジ「いえ……」

店員「ご予算は3万円ジャストですか?」

シンジ「はい。月の収入に対して3分の1が目安と雑誌で見たんですけど」

店員「それだとギリギリの生活になってしまうのが現実ですがね。しかし、3万円以下の物件はありませんので。必然的に3万円からになります」

シンジ「なるほど……」

店員「ご両親にお願いして予算のアップは見込めそうにない?」

シンジ「無理、だと思います」

店員「ふーん……そうなるとかなりボロい物件になりますよ?」

シンジ「えっ?」

店員「築30年などを前提に考えていただかないと。駅近くはもちろん無理なので、交通の便も悪くなります」

シンジ「はぁ」

店員「リフォーム物件もなくはないんですが。今はすべて先約で埋まっておりまして」

シンジ「あの、別の不動産に聞いても一緒なんでしょうか?」

店員「担当している物件は違うんですけどね、今、私が見ているデータベースは総合の情報なんですよ」

シンジ「へぇ」

店員「というわけでして、どこの不動産に行っても同じです」

シンジ「そ、それじゃぁ、3万円で住めるところって何件ぐらいありますか?」

店員「第三新東京の郊外になってしまいますね。田舎です。ご両親の収入が低ければ集合住宅という手も……」

シンジ「それはありません」

店員「そんなにお金持ちなんです?」

シンジ「あ、いえ、あの……」

店員「んー、六件ぐらいしか該当しませんね。これぐらいなら間取りのコピーを渡しますよ」

シンジ「ありがとうございます」

店員「いえいえ。お金持ちのご両親によろしくお伝えください。単身赴任などの際には是非、我が△◯不動産へ」ニコッ

【ネルフ本部 男子ロッカールーム】

シンジ「ワンルームしかないな。うーん、これはコンビニまで徒歩20分か、こっちは……」ペラ

加持「よっ。部屋探しは順調かい?」

シンジ「どうも」

加持「発令を聞いて驚いたよ。シンジくんと話をしてみたいと思ってね。まだ、時間あるだろ?」

シンジ「はい、いいですけど」

加持「単刀直入に聞くよ。なにがあった?」

シンジ「父さんにお願いを聞いてもらうかわりにこうなってるだけです。簡単な話ですよ」

加持「俺が驚いたのはシンジくんの変化さ。以前のキミなら、頼みごとをするにも強くでれなかったんじゃないかと思ってね」

シンジ「僕が怪我させたってことを人聞きでしか理解していなかった。そういうこともあったんだって、その程度の認識で」

加持「実際に現実を目の当たりにし、何かやらなければならないと?」

シンジ「きっかけはそうです。でも、それ以上に、僕は自分の決めた結果と向き合わなくちゃいけないって思ったから」

加持「そうか……」

シンジ「色々な人と関わって、そう、なにかをやればなにかが返ってくるのが当たり前だとわかったような気がします」

加持「そうだな」

シンジ「はい、それだけです」

加持「しかし、これも当たり前だか、言うのは簡単だが実行するのは難しいぞ? 両立できるのか?」

シンジ「壁は生きていれば誰にでもあります。みんながそう思っていても、僕は約束を守るためにやらなくちゃいけないんです。自分の為に」

加持「なるほどね」

シンジ「もういいですか?」

加持「あぁ。キミのチャレンジがうまくいくように祈ってるよ」

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「あんた、こんなところでブラついてて仕事はどうしたのよ、仕事は」

加持「葛城に言われるとは心外だな」

ミサト「わたしはねぇ! リツコに話があって!」

加持「リッちゃんなら、今はシンクロテストの最中さ。知ってるだろう?」

ミサト「……」

加持「俺は葛城に会いにきた。ここで待っていれば会えるんじゃないかと思ってね」

ミサト「はぁ……」

加持「ふっ。葛城もそうなんだろう?」

ミサト「自惚れんじゃないわよっ! 誰があんたなんかにっ!」

加持「シンジくんのことが気になるか?」

ミサト「気にならないわけがないでしょ。あの子、まだ中学生なのよ。使徒と戦うだけでも重荷なのに」

加持「いいんじゃないか? それがシンジくんの意思なら」

ミサト「純粋すぎるだけよ。まわりに利用されるわ」

加持「それも勉強さ」

ミサト「あんたねぇ……! そうなってからじゃ遅いのよ⁉︎」

加持「心配してるのは、エヴァに乗れなくなることか? それともシンジくん自身の?」

ミサト「両方よ!」

加持「シンジ君は今、現実と歩きだそうとしている。向き合う準備をしている段階なのさ」

ミサト「わかったような顔しちゃって」

加持「蝶は芋虫からサナギへ、そして羽ばたいていく。人間も成長は一緒さ。いずれ通る道だ」

ミサト「潰れるわよ、シンジくん」

加持「セカンドインパクトを経験した俺たちは、地獄を見た。それに比べれば、どんな環境でも今は恵まれてるよ」

ミサト「価値観が違うわ!」バンッ

加持「……」

ミサト「今の子供たちはみんな、セカンドインパクトを教科書でしか知らない! シンジくんたちはその変わりはじめた世代なのよ!」

加持「与えられた環境でしか生きていけないのはみんな同じだ。子は親を選べないのと同じでね」

ミサト「……なにが言いたいの」

加持「なにも」

ミサト「私は納得がいかない! 生活にもすぐに行き詰まるわよ!」

加持「切り詰めるか、新聞配達なり手段はあるぞぉ? 中学生でも事情を話せば雇ってくれるしな」

ミサト「パイロットなのよ⁉︎ 人類を守るかたわらで、そんなことさせるの⁉︎」

加持「しちゃいけないって決まりはないだろう?」

ミサト「もういい。ストレスがたまるだけだったわ……!」

加持「おいおい、そりゃないんじゃないか。……俺も心配なのは一緒さ。どことなく弟に似てるからな」

ミサト「え?」

加持「さて、そろそろ俺は行くよ。アスカにも話をしておきたいんでね」

【ネルフ本部 自販機前】

アスカ「あっ! 加持さぁ~んっ!」

加持「よう」

アスカ「私に会いに来てくれたのね! 嬉しいっ!」

加持「元気にしてたか?」

アスカ「も~! 日本に来てから全然顔見せてくれないんだもの!」

加持「悪い。仕事が立てこんでいてな」

アスカ「私の為に時間を作ってくれなきゃや~よ」

加持「シンジくんともうまくやってるそうじゃないか」

アスカ「うげっ、バカシンジの話?」

加持「一人暮らしをするから、寂しくなるな」

アスカ「平気よ。むしろせーせーするわ」

加持「いなくなってはじめてわかることもあるさ」

アスカ「そんなのわからなくていい!」

加持「アスカは今回のシンジくんの判断をどう思う?」

アスカ「まぁ、バカはバカなりに根性見せたって感じ。ただ、ここまでするとは思ってなかった」

加持「そうだな」

アスカ「めんどくさいからほっとけばいいのに」

加持「だが、シンジくんはそれを選ばなかった。立派じゃないか」

アスカ「ふん。どうせ三日坊主でしょ」

加持「みんなが無理だと、厳しいと言うが、シンジくんは挑戦しようとしている。彼は歩き出したんだよ」

アスカ「……私だって、そんなことぐらいやれと言われればできるわ」

加持「アスカは大学に飛び級で合格し、卒業してるしな。しかし、シンジくんは今なのさ」

アスカ「……」

加持「誰しもに最初がある。アスカが決意した日を思い出してみろ。その時と同じ気持ちでシンジくんが立ち上がったとしたら……」

アスカ「まだ、なにもわからないわ」

加持「あぁ。だから、まわりが無理だと判断していても、アスカは可能性に賭けてやれ」

アスカ「分の悪い賭けね。でも、私しか賭けないのなら見返りは大きいかな?」

加持「なんでも自分でやる辛さを経験したアスカだからこそ賭けられるはずだ。違うか?」

アスカ「……ふぅ。わかった。なにを賭けるの?」

加持「アスカがもういいと認めた時に、ただ一言、よくやったと褒めてやれ」

とりあえずここまで

アスカ「それがあたしの賭けの取り分?」

加持「ダメかい?」

アスカ「えぇ⁉︎ シンジが頑張ったら褒めるだけが⁉︎」

加持「かわいいもんじゃないか」

アスカ「まぁ……大それたものを言われても困るけど、でも、ちょっと面白みに欠けるっていうか。あ、そうだ! 私が勝ったら加持さんがデートしてくれるっていうのは⁉︎」

加持「かまわない」

アスカ「ほんと⁉︎ それなら、そっちがいい!」

加持「アスカが負けた時はどうする?」

アスカ「うーん、それってシンジが中途半端に投げだした時ってことよね」

加持「こうしよう。そうなったら、シンジくんとまた一緒に暮らしはじめる」

アスカ「えぇ~~⁉︎ なんで、途中で投げだすようなやつと!」

加持「罰だからな」

アスカ「わかった……。そのかわり、約束、ちゃんと守ってよね」

加持「その時に、アスカが希望するなら俺は応えるよ」

【ネルフ本部 発令所】

ゲンドウ「次の使徒は近い」

冬月「なぜそう思う?」

ゲンドウ「裏死海文書に記されているのは順番だけだ。日付けの指定はない」

冬月「わかっている。だから理由を聞いているのだ」

ゲンドウ「だが、ゼーレは着工の催促をはじめている」

冬月「ああ、それも承知している。妙だと思ってはいたが」

ゲンドウ「我々が知らされていない項目があるはずだ」

冬月「ゼーレはわかっているのか?」

ゲンドウ「辻褄は合う」

冬月「どうするつもりだね?」

ゲンドウ「ユイが生きている、推し進める補完計画の意味はなくなった」

冬月「我々にとってはだがな。ゼーレの計画に今のところ変更は見受けられん」

ゲンドウ「ああ」

冬月「このまま手足となって動くのか?」

ゲンドウ「検討中だ。なにをするにしてもまだ残りの使徒が多い」

冬月「はやめに結論を聞かせてもらいたいものだな。遅くなれば遅くなるほど、ゼーレの計画は進行する」

ゲンドウ「わかっている」

冬月「ふぅ……。話は変わるが息子はいいのか?」

ゲンドウ「好きにさせろ」

冬月「お前が抑えつけているようなものではないか」

ゲンドウ「シンジが自分の力で這い上がるのを待つ」

冬月「まだ中学生だぞ」

ゲンドウ「補完計画がはじまればすべてはひとつとなる個体になる。我々に残された時間は少ない」

冬月「うぅむ、しかし……」

ゲンドウ「シンジが産まれた時、俺はユイにこういった。この地獄のような世界でこの子は生きていくのか、と」

冬月「……」

ゲンドウ「ユイは私に、生きていれば幸せになる機会は誰しもにあると言ったのを思い出した」

冬月「そうか」

ゲンドウ「幸せは誰かに与えられるものではない。また、その度合いも個人の尺度によるものだ」

ゲンドウ「人は思い出のすべてを覚えておくことはできない」

冬月「ああ」

ゲンドウ「シンジはまだこれからだ」

冬月「せめて、成人するまでの時間が残されていればな」

ゲンドウ「成長するにしてもすぐに、というわけにもいかん」

冬月「では、お前は息子に何を教える?」

ゲンドウ「世間の厳しさだ」

冬月「愛情ではないのか」

ゲンドウ「それはユイの役目だ。俺は俺のやり方でやる」

冬月「まったく……」

【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「あの、先輩」

リツコ「どうしたの?」

マヤ「シンジくん、どう接したらいいんですかね……」

リツコ「いつも通りでかまわないわ」

マヤ「えっ。でも、それじゃ、命令違反になるんじゃ」

リツコ「私はあの子に仕事以上の感情はないもの。マヤはあるの?」

マヤ「え! いや、そういうわけじゃ……」

リツコ「特別優しくしていたわけでもないし」

マヤ「先輩は、フラットなんですね。どこまでも科学者で尊敬します。私は、どうしても感情的に考えちゃって」

リツコ「私だってうわべだけよ……」ボソ

マヤ「なにか、言いました?」

リツコ「いいえ。部外者として扱うといってもエヴァパイロットとしての業務はいつも通りなのよ。これまで通り、普通にしなさい」

マヤ「はい」

リツコ「ただし、馴れ合いすぎないようにね。子供が頑張っていたら褒めてあげたり、気づかってあげたくなるのをやめればいいだけ。仲間意識は捨てなさい」

マヤ「……わかりました」

【ネルフ本部 男子ロッカールーム前】

シンジ「あれ? ミサトさん?」

ミサト「……」

シンジ「どうしたんですか?もう今日はシンクロテスト終わりましたけど」

ミサト「碇シンジくん」

シンジ「は、はい?」

ミサト「軽々しくミサトさん、なんて呼ばないでもらえる?」

シンジ「あ……すみません」

ミサト「今日のシンクロテストの結果、あまりよろしくなかったと聞いたわ」

シンジ「えっ、でもいつもとあんまり変わり」

ミサト「子供の玩具だと思ってるの? 一位を目指さないで乗るような意識の低さじゃ困るのよ」

シンジ「す、すみません」

ミサト「あなたは、部外者になった。もう私に馴れ馴れしくしないで。作戦本部長と呼びなさい」

シンジ「はい」

ミサト「(シンジくん、わかってるの? あなたが選んだのは、いつこうなってもおかしくない話なのよ?)」

シンジ「シンクロテストの件はすいません。それでは、失礼します。作戦本部長」

ミサト「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

シンジ「はい?」

ミサト「住む場所は⁉︎ 決まったの⁉︎」

シンジ「いえ、まだ。コンテナに戻って条件を照らし合わせて煮詰めてみます」

ミサト「残りの猶予は2日よ。決まったら、報告しなさい」

シンジ「了解しました」

【コンテナ内】

シンジ「うーん、やっぱりどこを選んでも自転車は必要になるな」

加持「よ、せいがでるな」

シンジ「加持さん? 今日はよく会いにきますね」

加持「ネルフ内にいると聞いてね、俺は気にしないでくれ。勝手にラクにしてるから」

シンジ「はぁ」

加持「メモをとろうとしてたんだろ? 続けないでいいのか?」

シンジ「それじゃ、遠慮なく」

加持「……」

シンジ「(自転車が1万円ぐらいで、引っ越し費用は負担してもらえるだろうから、これは必要ないと)」

加持「ふっ」

シンジ「え?」

加持「いや、昔を思い出してしまってね」

シンジ「昔?」

加持「俺も昔、コンテナで過ごしてた。もっともあちこちサビだらけで野晒しだったが」

シンジ「家出でもしてたんですか?」

加持「いや、帰る家がなかったのさ」

シンジ「帰る、家が?」

加持「セカンドインパクト。未曾有の大災害は、世界に大きな影響を与えた。気候の変動、生態系への影響。俺たち人間社会にもね」

シンジ「そっか……」

加持「孤児だったのさ。俺は。とにかく毎日の生活が大変でね。守ってくれる人も、頼れる人もいなかった。俺は運悪く、特に治安の悪い地区にいてね」

シンジ「……」

加持「食料の不足。誰しもが誰かを疑い生きている。人間の汚いところを幾度となくみてきた」

シンジ「教科書でしか、知らないから」

加持「だが、今のシンジくんなら、想像しようとするだろう。だから俺は話してるのさ」

シンジ「……」

加持「聞きたくないかもしれないが、俺からすれば君は恵まれている。生まれた時から人はみな平等ではないからね」

シンジ「加持さんがセカンドインパクトを体験したのっていくつぐらいの時なんですか?」

加持「まだ小さかったよ」

シンジ「どうやって生活を」

加持「盗みさ」

シンジ「えぇ?」

加持「軽蔑するかい?」

シンジ「いえ、そんなこと。だけど、想像がつかなくて。今は復興してるから」

加持「日本はそうだが、発展途上国はまだ復興には程遠いのが現実だ。紛争はいつの時代でも行われている。気にしないものだろう? 外に目を向けない限りは」

シンジ「うぅん」

加持「もっと、シンジくんには世界を見てもらいたいがな。それも難しい」

シンジ「世界、ですか。僕は自分の生活で手一杯ですよ」

加持「実際に見るのと、想像は違うぞぉ?」

シンジ「あはは。でも、毎日盗んでたんですか?」

加持「孤児同士で集まって生活をしていたから。食料はいつもかかえている問題だった」

シンジ「……」

加持「ある時、俺が失敗してね。 その相手がヤバかった……拷問をね」

シンジ「え……」

加持「俺はこわかった。でも、相手は許しちゃくれない。残りの孤児の居場所を聞かれて、どうしたと思う?」

シンジ「わ、わかりません」

加持「俺は喋った。自分が助かりたい。その一心で」

シンジ「一緒に暮らしてた人達は……」

加持「縄を解かれたあと、しばらくして、俺は、おそるおそる戻ったよ」

シンジ「……」

加持「みんな殺されてた。弟も。誰も生きちゃいなかったのさ」

シンジ「あ……」

加持「俺は自分を責めた。しかし、この世の中が悪いという考えもあった。セカンドインパクトを呪った」

シンジ「僕なら、立ち直れないだろうな」

加持「そうなってみなければなんとも言えないだろう。現実は理不尽で残酷な瞬間もある。運命、なんて一言では片付けられないほどにね」

シンジ「……」

加持「みんながそんな経験をするわけじゃないさ。今は世代も違う。シンジくんは、なにが起こっても、諦めないで前に進むんだ」

シンジ「はい」

加持「重い話をしてすまなかったね」

シンジ「いえ、そんな……」

加持「金がなくなったらパンの耳でもかじるといい。揚げたらうまいからな」

シンジ「そうですね、最初は出費も多いだろうし、そうします」

加持「ま、生きてりゃなんとかなるさ」ポン

シンジ「……はい」

【第三新東京市立第壱中学校】

シンジ「おはよう」

トウジ「おう、待っとったで」

シンジ「どうしたの?」

トウジ「紹介状の発行なんやけどな、すぐにできそうなんや。してもかまわへんか?」

シンジ「確認をとるから、少し待ってもらっていい?」

トウジ「おう、かまへんぞ」

シンジ「そうだ。作戦本部……ミサトさんから貰ってる携帯電話があるから、ちょっと聞いてくるよ」

トウジ「そんなに急かすつもりは……」

シンジ「いいんだ。いつ暇なのかもわからないし」

ケンスケ「妹さん、転院するのか?」

トウジ「そや」

ケンスケ「ふん。まだ僕は仲間外れかよ」

トウジ「またお前は……」

【学校 屋上】

オペレーター「サードチルドレン。どうされましたか?」

シンジ「すみません。碇司令に取り次いでもらいたいのですが」

オペレーター「ご約束はございますか?」

シンジ「いえ、ありません」

オペレーター「了解。確認いたしますのでこのままお待ちください」

シンジ「(ふぅ……父さんに話をするのは、慣れないな)」

ゲンドウ「シンジか。どうした?」

シンジ「あっ、父さん。よかった、でてくれて」

ゲンドウ「用件を言え!」

シンジ「……はい。約束の件の転院の準備が済みそうなんだ。それで、お金の工面と、手続き上の詰めをお願いしたくて」

ゲンドウ「お前はなにをした?」

シンジ「えっと、病院にいって紹介状が必要だって聞いて、友達に話をしたよ」

ゲンドウ「……わかった。中学生では無理な詰めはこちらで処理する」

シンジ「ありがとう」

ゲンドウ「以上だ」プツッ

シンジ「(これで、大丈夫だ。あとは、僕が頑張れば……)」

【昼休み】

シンジ「ケンスケ、そろそろ機嫌をなおしたら?」

ケンスケ「碇もトウジ側なんだろ? 妹のお見舞いに行ってるしな」

シンジ「そんな。どっち側とかないよ」

ケンスケ「はぁ。……なんでトウジは会わせてくれないんだろう。碇、なにか聞いてないか?」

シンジ「長く喋れる状態じゃなかったよ。呼吸器もつけてたし、少し喋ったら苦しそうにしてた」

ケンスケ「そうなのか?」

シンジ「だからだよ」

ケンスケ「言えばいいのにさぁ。トウジは変なところで頑固だからなぁ。職員室に呼び出されてたけど、なにやったんだか」

シンジ「そういえば、帰ってくるの遅いね」

今日はここまで
誤字脱字が目立つので修正したいけど一度投稿したら手を加えられないのが

どんぐらいで終わる予定?

>>160
レスにどんぐらいやりとりを詰めこむかで変わりますけどだいたい>>300を目処にしてますよ

レイ「碇くん」

シンジ「ん?」

レイ「住むところ、決まった?」

シンジ「まだ考えてるところだけど」

ケンスケ「碇、引っ越しでもするのか?」

シンジ「うん、ネルフの中で色々あってね」

レイ「私の住んでるマンション、空き部屋ならたくさんあるわ」

シンジ「そうなの?」

レイ「元々、ネルフを開発する作業員が使っていたみたい。今は、ボロボロの団地。赤木博士に聞いてみる?」

シンジ「うーん、父さんが許してくれるかな」

レイ「……」

シンジ「でも、そこなら学校にも近いし、家賃はいくらぐらいか聞いてもらってもいい?」

レイ「えぇ」

シンジ「そこに住めたら、掃除ぐらいは手伝うよ」

トウジ「かーっ! 掃除なんか男のすることやないぞっ!」

シンジ「おかえり」

トウジ「シンジ、すまんかったな」

シンジ「どうしたの?」

トウジ「今、小田原病院から連絡がきてな。ワシもなんやろと思ったけど、ネルフが転院の手続きを終えてくれたっちゅー話やった」

シンジ「えっ、だって、午前中に電話したばかりだったのに」

トウジ「さすがやのーセンセは。エヴァパイロットは頼みごとすればこんなにスムーズにいくんやな」

レイ「……」

シンジ「僕も驚いてるけど、それでいつ転院するか決まったの?」

トウジ「ドクターヘリで移送してくれたらしい」

シンジ「ってことはもう……」

トウジ「あぁ。サクラは付属病院についとる」

シンジ「そっか。……よかった。これで治るかもしれないね」

トウジ「どういう治療をするかを聞いたわけやない。まだ、過度な期待はできへんけどな」

シンジ「それでも転院しないよりは……できる治療が増えたわけだし」

トウジ「せやな。シンジの言う通りや。今日、ワシは学校が終わったら病院に向かう。一緒に来るか?」

シンジ「そうしたいけど、僕、ちょっと時間がおしてて」

トウジ「そうか……。ま、いつでも来れるからな。きたいときにまた言うてくれ」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「却下」

レイ「……」

リツコ「碇司令がお許しにならないわ。余計な口出しはしないで、用件が済んだなら、下がっていいわよ」

レイ「赤木博士」

リツコ「なに?」

レイ「碇くんは、どうして引っ越しするのを選んだんですか?」

リツコ「シンジくんは、意地を張らず、人の間で流れるように生きようとする他人指向型の子よ。ことなかれ主義とも言うわね。人の指図には逆らわず、波風が立つのを嫌う」

レイ「……」

リツコ「ヒトは変わっていくものよ。どこまでいっても自分という概念に変わりはないけれど、それぞれが持つイメージを覆せるかどうか。その一点に集約される」

レイ「碇くんは、変わろうとしてるんですか?」

リツコ「シンジくんは、問題を放置する消極的な姿勢をやめて、解決しようと試みた。それを変化というのならそうなるわね」

レイ「……」

リツコ「どちらにしろ、あなたには興味のない話でしょ?」

レイ「……はい」

リツコ「私から見れば、碇司令の変化が気になるけど」

レイ「碇司令、ですか?」

リツコ「言ってもしょうがない……いえ、レイなら誰かに言われる心配もないし、いいかもしれない。レイなら感情ないから」

レイ「……」

リツコ「変、なのよね。以前の碇司令ならば、シンジくんと話をする機会すら設けなかったはずよ。なのに、最近はシンジくんが話をしたいと言えば応えている」

レイ「碇司令が……」

リツコ「今まで徹底して無関心、放任主義を貫いてきていた。……今になって、導いているとすら思える節があるわ。親子の関係が似合わないイメージだからこそ、強烈な違和感がある」

レイ「……」

リツコ「副司令がなにか企んでいるのかしら」

レイ「……」

リツコ「条件付きとは言え、碇司令がシンジくんの頼みを聞くに値する価値はどこにもないわ。泣き落としが通用するような人ではないもの」

マヤ「先輩、はいってもいいですか?」コンコンッ

リツコ「……はいっていいわよ」

マヤ「失礼します。あ、レイもいたのね」

リツコ「なにか問題?」

マヤ「はい、技術部からパーソナルデータについて不備があるという指摘を受けまして」

リツコ「どの数値?」

マヤ「ここです。計算したみたところ、たしかに誤差がマイナス0.03ほど発生しています」

リツコ「通常ならばありえないわ。MAGIのシステムデータ更新は?」

マヤ「新しい更新プログラムを適用したばかりですが……そちらが原因でしょうか」

リツコ「バグかもしれない。発令所に行って確かめてみましょう」

【ネルフ本部 発令所】

ミサト「あぁ~~、もう! イライラするぅ!」

マコト「葛城さん、仕事してくださいよ……」

ミサト「なんでこう、スカーッとしたいときに使徒は来ないのよ! こんなにも待ち遠しいなんて!」

リツコ「更年期障害にはまだはやいんじゃなくて? それとも欲求不満?」

ミサト「うっさいわねぇ! リツコこそ、ラボに引きこもってないでなにしてんのよ!」

リツコ「MAGIの確認よ。ミサトも給料泥棒と言われない内に仕事をしたら?」

ミサト「わかってるってばぁ。ねぇ、シンジくん、やっぱり、うちで」

リツコ「しつこいわね。シンジくんに惚れてるの?」

ミサト「じょーだん言うんじゃないわよ! 私は家族として!」

リツコ「ごっこでしょ。ミサトのは」

ミサト「ぐぬぬぅ!」

リツコ「本物の親子の決定に他人が口をだすのは筋違いよ。シンジくんの為を思うのなら見守りなさい」

ミサト「親子って言えるぅ⁉︎」

リツコ「はぁ。なにがあなたの中でひっかかってるの?」

ミサト「だって、まだ中学生だし、今回の決定はあんまりっていいますかぁ」

リツコ「余計なお世話なのよ。シンジくんが納得しているのなら、それで話は終わりでしょ」

ミサト「でもぉ」

リツコ「ミサト、これ以上の追求はあなたが自分が納得したいだけだと見なすわよ」

ミサト「はぁ、シンジくんはもう帰ってきてるの?」

リツコ「見に行ってきたら? 私も邪魔されるより、そうしてくれた方が助かるわ」

【ネルフ本部 コンテナ】

ミサト「シンジくーん? はいるわよ?」

シンジ「あ、作戦本部長」

ミサト「忘れてた。いけないいけない」

シンジ「どうしたんですか?」

ミサト「ごほんっ……碇シンジくん、部屋は決まったの?」

シンジ「あ、すみません。まだ……」

ミサト「なにグズグズしてるのよ!」

シンジ「あの、今、綾波のマンションの空き部屋に住めるかの回答待ちで」

ミサト「レイのマンション?」

シンジ「はい。家賃との相談にもなるからまだ、なんとも言えないんですけど。綾波がリツコさんに聞いてくれるって話なんです」

ミサト「さっきリツコなにも言ってなかったわね。他に候補は?」

シンジ「不動産でだしてもらった部屋があるんですけど、その中でこれ」ペラ

ミサト「……やっぱりワンルームね。内見はしたの?」

シンジ「内見?」

ミサト「実際に見て、確かめることよ。あなたはまだ一人暮らしをした経験がないからわからないでしょうけど、近辺の様子や、汚さとか立て付けとか、あと何畳という記載に至るまで見るまでわからない部分が多いわ」

シンジ「なるほど……」

ミサト「それにここ、学校まで電車で通うの?」

シンジ「それなら自転車で」

ミサト「シンジくん、頭で考えるよりも実際に行うのは大変よ? 毎日の話だってほんっとーにわかってる?」

シンジ「はい、わかってるつもりですけど。やらなきゃわからないのもわかります」

ミサト「期日通り、明日まで待つ。立地条件をよく吟味するのよ」

とりあえずここまで

カップリングではなく親子と主人公の成長が主題なのは合ってます。
ゲンドウは不器用なんで素直さを見せすぎるとキャラが崩壊します。
そうなるとシンジがどうしてこういう性格になったか、という象徴的存在が消えてしまうと同義なので。どこかにゲンドウらしさを感じられるように注意しながら書いてます。

【ミサト宅 リビング】

アスカ「またスーパーの惣菜ぃ?」

ミサト「やっぱ、だめ?」

アスカ「はぁ。まだいいけどさぁ、こう毎日じゃいつか飽きるわよ」

ミサト「アスカ、料理とか覚える気ない?」

アスカ「パイロットにそんなことさせるのぉ? あたしは嫌よっ!」

ミサト「う~ん、私も味音痴だし……」

アスカ「毎回これじゃ、食費もかさむわよ」

ミサト「うっ。……今月はカードの支払いが」

アスカ「ミサトは外飲みばかりしてるからでしょ。居酒屋とかバーとか」

ミサト「うぅ。だってぇ、お酒ぐらいいいじゃなぁ~い」

アスカ「よくアル中にならないわよね」

ミサト「まぁ、肝臓は丈夫だし♪」

アスカ「……ほかには? なんかないの?」ガサガサ

ミサト「枝豆とジャーキーでしょ。あとチーズと。するめと……」

アスカ「いい加減にしてよね! 全部ツマミじゃない! しかもなにこれぇ? ビール、ビール、ビール、チューハイ」トントントントン

ミサト「アスカは唐翌揚げが……」

アスカ「それもツマミ! 窓から投げ捨ててやる!」

ミサト「ひぃぃぃっ⁉︎ や、やめてぇっ!」

アスカ「くっ! 離しなさいよ! 往生際がわるいんだからぁっ!」

ミサト「ら、ラーメンで手を打たない⁉︎」

アスカ「[ピザ]になるだけよ!」

ミサト「シメにはラーメンって……」

アスカ「そこをどきなさい。全部捨ててだめな大人を躾てあげるわ」

ミサト「ストップ! わかった! 出前とりましょう!」

アスカ「今日はそれでよくても今後どうするつもりなのよ……」

ミサト「とほほ。シンちゃん、帰ってきて……」

アスカ「まさかこんな形でシンジがいなくなったのが痛手とはね」

ミサト「アスカもやっぱりシンちゃんいた方がいいわよね?」

アスカ「どういう意味?」ジトー

ミサト「アスカも希望するなら、碇司令に……」

アスカ「やめてよね! 加持さんと賭けしてるのよ!」

ミサト「かぁじぃ? なんで今の話であいつが出てくるのよ?」

アスカ「あ、しまった……」

ミサト「ったく! どうせまた良からぬ遊びでも吹きこんだんでしょ! あのバカはっ!」

アスカ「ヤキモチぃ?」

ミサト「じょーだん。アスカは結婚するとしても、あんなの選んじゃだめよ。そうねぇ……シンジくんみたいなタイプが合ってると思う」

アスカ「シンジがぁ? ぜんっぜん、実感わかないんですケドぉ?」

ミサト「たしかに、シンちゃんは付き合うと考えたら、面白味にかけるわね。一緒にいて楽しいというより、落ち着く感じだもの」

アスカ「だから?」

ミサト「付き合うのと結婚は別って話よ。シンちゃんは家庭的だし、いい夫になるんじゃないかしら」

アスカ「はぁ、あのねぇ、私まだ中学生なのよ?」

ミサト「そっか。そりゃ失敬」

アスカ「ミサトこそ、加持さんはいいの?」

ミサト「まぁ、大人には色々あるのよ」

アスカ「ふん、言い訳ね。歳を重ねてるだけじゃない」

ミサト「うぐっ! い、痛いとこつくわね」

アスカ「料理もできないのがその証拠よ。ぐーたら酒飲み!」

ミサト「す、すみませぇん」

アスカ「ミサトってさ、なんでそこまでシンジに気をかけるの?」

ミサト「ん?」

アスカ「変な意味じゃなくて、ミサト、シンジに肩入れしすぎじゃない?」

ミサト「……見透かされてるのはこっちだったか」ボソ

アスカ「なにか理由あるの?」

ミサト「シンジくんは、私と似てるの。性格がじゃないわよ?」

アスカ「見ればわかるわよ」

ミサト「私の父も、放任主義でいつもひとりぼっちだったから。私は、家庭を考えない父さんが大嫌いだった」

アスカ「シンジに自分を重ねてんの……?」

ミサト「不満がないわけじゃないわ。あの子の人の顔色を伺う態度は、私は好きになれない。だけど、肩入れしてるのも事実ね」

アスカ「ふぅ~ん、でも、ミサトは作戦司令なんだから、成績で扱ってよね!」

ミサト「公私混同は厳禁ね。わかってる」

【ネルフ本部 ターミナルドグマ】

レイ「碇司令」

ゲンドウ「どうした?」

レイ「あの、碇くんが住む場所を探してると聞きました」

ゲンドウ「ああ」

レイ「マンションなら空きが」

ゲンドウ「シンジがそう言ってきたのか?」

レイ「いえ……」

ゲンドウ「どうなのだ?」

レイ「私から聞きました」

ゲンドウ「それで、シンジはなんと言っていた」

レイ「空きがあるならば、家賃と相談すると」

ゲンドウ「そうか」

レイ「あの……」

ゲンドウ「マンションは許可しない」

レイ「……はい」

ゲンドウ「レイ。シンジをあまり甘やかすな」

レイ「はい」

ゲンドウ「俺がやってきた過去は消えはしない。これからも態度が変わることはない」

レイ「……」

ゲンドウ「今日はあがっていい」

レイ「はい。失礼します」

【ネルフ本部 コンテナ内】

シンジ「そろそろ寝ようかな」

コンコン

シンジ「また加持さんかな? はぁ~い?」

レイ「……こんばんは」

シンジ「綾波? こ、こんばんは」

レイ「碇司令から許可、降りなかったわ」

シンジ「あ、あぁ。時間遅いから明日でもよかったのに」

レイ「明日は期日」

シンジ「うん、そうだね……でも、大丈夫だよ」

レイ「……」

シンジ「わざわざありがとう。今から帰るの?」

レイ「ええ」

シンジ「時間遅いから、送っていこうか?」

レイ「いい。赤木博士に送ってもらうから」

シンジ「そっか、それなら安心だね」

レイ「碇くん」

シンジ「ん?」

レイ「変わるのって、楽しい?」

シンジ「えっと……?」

レイ「赤木博士が言っていたわ。碇くんは変わろうとしているって」

シンジ「……自分では、よくわからないよ。ただ、僕はそうするべきだって思うから」

レイ「そう……」

シンジ「うん、うまく言えなくてごめん」

レイ「いい」

シンジ「……ひとつだけ言えるのは楽しいかって思うと、楽しくはないかな」

レイ「ヒトは楽しくないのに変わるの?」キョトン

シンジ「うん、僕はそうだね」

レイ「よく、わからない」

シンジ「言葉にするのが難しいんだ。きっと、今の僕じゃ地に足がついてないならだと思う」

レイ「浮いてる?」

シンジ「あはは。風に流されて、そのまま流れに乗るのもいいと思う。僕はこれまでの生き方を否定できないから。でも、そこに少しだけ、たしてみようって思うんだよ」

レイ「そう……変わるって継ぎ足していくのね」

シンジ「そうなのかな……よくわからないや」

レイ「私、そろそろ行く。それじゃ、また明日。学校で」

シンジ「うん、おやすみ。気をつけてね」

今日はここまで

【第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

男子生徒「なぁ、聞いたか? 社会科の先生、過労で倒れたんだってよ」

女子生徒「この前のネルフからかなり絞られたつて噂だけど、あれ本当?」

男子生徒「職員室で黒服をきた男達に囲まれてるのを見たってやつがいるんだよ」

女子生徒「やだぁ。エヴァのパイロットになにかあったら、私達が真っ先に疑われるの?」

男子生徒「関わらない方がいいな」

ヒソヒソ

シンジ「なんだか、クラスの中が変な雰囲気だね」

ケンスケ「あぁ……。まぁ、変な噂がたってるからな」

トウジ「かまへんかまへん。ほっときゃええねん。ゴリラ女と綾波を見てみぃ」

アスカ「ヒーカリっ! 一緒に食べましょ!」

綾波「……」

トウジ「な? いつも通りやろ?」

シンジ「そうだね。……トウジは昨日、病院に行って、どうだった?」

トウジ「設備は申し分なかった。せやけど、整った環境といえども、すぐに治るわけやない。手術を行うらしい」

シンジ「そっか……難しい手術なのかな」

トウジ「あぁ。手術は難しい、術後の峠さえ超えれば、安心できるていうとった。サクラの体力がもつかどうか……」

シンジ「僕もまたお見舞いに行かせてよ」

トウジ「おう。サクラも喜ぶやろうからな」

【放課後 屋上】

シンジ「(今日がいよいよ期日だな。決めたアパートは、学校から13km……。自転車でどれくらい時間かかるんだろう)」

男子生徒A「おい、お前か? ロボットのパイロットって」

シンジ「えっ?」

男子生徒A「お前だろ。ネルフだかなんだかしらねぇけどお前何様だよ?」

シンジ「えっと、誰?」

男子生徒A「うるせぇ。気にくわねぇんだよ、お前みたいな調子にのってるやつ」スッ

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ。僕がいったいなにしたって――」

男子生徒B「おい、なぁ、やっぱりやめようぜ? こいつに何かしたら、俺たちが……」

男子生徒A「あ? ビビってんのかよ?」

男子生徒B「ビビってねーよ⁉︎」

男子生徒A「度胸試しにちょうどいいじゃん。ロボットのパイロットをボコしたって言えば、ハクがつくし」

シンジ「ど、度胸試しって……」

男子生徒A「ま、そういうわけだから、お前には踏み台になってもらう。覚悟しろよ」

【ネルフ本部 発令所】

オペレーター「碇司令。諜報部から内線が入っております。お繋ぎいたしますか?」

ゲンドウ「繋げ」カチャ

オペレーター「はい、しばらくお待ちください」

諜報部「――ご報告いたします」

ゲンドウ「……」

諜報部「ゴマルマルにてサードチルドレンが学校の屋上で暴力を受けたようです」

ゲンドウ「理由はなんだ?」

諜報部「以前にあった誘拐の件が発端のようです。取り調べを行なった折、授業を担当していた教師が心労で倒れました」

ゲンドウ「……」

諜報部「一般生徒が我々の動きに恐れを抱く一方で、不良グループの間で度胸試しという遊びに火がついた形になるかと」

ゲンドウ「くだらん」

諜報部「いかがなさいますか。ファーストチルドレンとセカンドチルドレンに被害が及ぶ可能性も」

ゲンドウ「両2名に関しては警護レベルを上げて警戒しておけ。有事の際にはすぐに駆けつけられるように。サードチルドレンはそのままでいい」

諜報部「はっ? し、しかし」

ゲンドウ「質問は許さん。以上だ」ガチャ

冬月「おい、碇。いい加減にしたらどうだ。いくらなんでも過酷すぎるぞ」

ゲンドウ「これでいい」

冬月「エスカレートしたらどうするつもりだ。対処できるとは思えん」

ゲンドウ「そうなったら、それまでのやつだ」

とりあえずここまで

そういった「◯◯のせい」という理由は起因にすぎません。
重要なのは「起こってしまった」というどうしようもない現実に、対処できるかどうかという適応力と打開力です。なので丸投げをするのはおかしいというのは理屈として考えるともっともなのですが、
ゲンドウにとってはシンジがどういったやり方を選びどこまでやれるのか見るという目的がある以上、良い機会のひとつなんですね。
あんまり解説してしまうとネタバレに繋がるのでここまでにしときます。

とりあえず今日は投下ありません。あと、基本的に反応はなんでもいいです。
暇つぶし感覚で読むか合わなかったらまわれ右でお願いします。

あと、みなさんもエヴァSS書いていいのよ?
俺が読みたい展開ではあるのですが、意外性がなにもないのです。
自分への自給自足では想像の範囲を超えない。
感想よりもこれが不満です。まったく関係ない話になっちゃいましたけど。
古い版権なのでやり尽くされてる感もありますが、もっといろんな新作が増えたらいいっすね。

新劇はいろんな意味で完結されないとなんとも言えないですね。

では続けます

【第三新東京都市立第壱中学校 屋上】

ヒカリ「誰かいるの……?」キィィ

シンジ「いつっ……」

ヒカリ「碇くん? どうしてこんなところに」

シンジ「洞木さん?」

ヒカリ「えっ、血がでてるじゃない⁉︎ 大丈夫⁉︎」

シンジ「……平気だよ。ちょっと殴られただけだから」

ヒカリ「殴られたって……平気? 保健室、行く?」

シンジ「いや、やめとく。そろそろネルフに行かなくちゃいけないし」

ヒカリ「誰に、やられたの?」

シンジ「わからない。名前を聞く暇もなかったんだ」

ヒカリ「そんな……やっぱり、噂のせい」

シンジ「噂って、ケンスケも言ってたけど、どんなの?」

ヒカリ「碇くんがいなくなった時に、ネルフの人達が学校にきて、すごく騒がしかったの。だから、それでちょっとこわいねって。でも、三年生達は遊びが」

シンジ「そんな噂が……」

ヒカリ「誰かに言ったほうがいいんじゃない? 」

シンジ「言っても、どうせなんともならないよ」

ヒカリ「そうなの? 碇くんならエヴァパイロットなんだし」

シンジ「僕がなんとかしなくちゃいけないんだと思う。自分でやりはじめてわかったんだ。僕はきっと、父さんに試されてる」

ヒカリ「試す……?」

シンジ「これまで自分の耳も目も塞いで生きてきた。だから辛くて僕がまた逃げださないか、父さんはきっと……洞木さんは、こわくないの?」

ヒカリ「私は、アスカとも友達だし。よくわからないから、軽々しくは言えないけど。孤立しちゃったら、かわいそうじゃない」

シンジ「僕たちは、何も危害をくわえるつもりはないよ」

ヒカリ「わかってる……。でも、力ってこわいの。それが権力でもなんでも。私達が、弱い人達が危ないと思うものに近づかないようにしようって思うのは普通でしょ?」

シンジ「うん」

ヒカリ「きっと、こわがる必要ないんだと思う。けど、まわりがこわいって言ったら本当にこわいのかもって、目に見えない不安っていうのもある……ごめんね。こんな話、私達を守ってくれてるのに」

シンジ「僕もパイロットじゃなかったら、そうかもしれない。関わろうとはしないよ」

ヒカリ「……アスカには、今の話、言わないで。友達でいたいの」

シンジ「わかったよ」

ヒカリ「でも、その腫れた顔でネルフに行ったら、わかると思うよ?」

シンジ「あ、そうだね。でも、すぐにひくようなものじゃないし……」

ヒカリ「やっぱり、保健室に行こう? アイシングしてあげる。気休めでも腫れがおさまるかもしれないから」

シンジ「あ……。ありがとう」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「あら、加持くん」

加持「よっ。仕事は順調かい?」

リツコ「順風満帆とは言えないけど」

加持「ネルフという船は不安定だからなぁ。世間の荒波に揉まれてゆ~らゆら」

リツコ「加持くんこそ、仕事はいいの?」

加持「ここの所、政府にも動きがなくてね。暇なもんさ」

リツコ「いつ忙しくなるとも限らないわよ? そうなった時の為に、準備を進めるのがプロではなくて?」

加持「万全を期す、と言えば体裁はいいがね。俺の前世は怠け者なのさ」

リツコ「だから手当たり次第に口説いてまわってるの?」

加持「さすが。情報の鮮度がいいようで」

リツコ「ネルフといっても組織ですもの。他人の俗話はあっというまにひろがるわ」

加持「ふっ。ま、俺はそんな噂ぐらいなんとも思ってないけどね」

リツコ「ミサトに怒られるわよ?」

加持「付き合ってたのは学生の頃の話さ。今はとやかく筋合いはないだろう?」

リツコ「本気?」

加持「さて、ね。どうだい? 今夜の予定は……」

リツコ「やめとく……。親友を敵にまわしたくはないもの」

加持「そうかい? 俺は話したい案件があったんだが」

リツコ「加持くん……?」

加持「碇司令の変化について。リッちゃんは不思議に思わないかい?」

リツコ「……」ピクッ

加持「碇司令とサードチルドレンの間になにかがあったのは明白だ。関係性に変化が見受けられるからな。だが、きっかけはなんだ?」

リツコ「意外ね。加持くんも若い職員と同じように俗話に興味があったなんて」

加持「この話がただの一般人なら、俺は見向きもしなかったろう。だが、相手はあの碇司令だぞ? リッちゃんも興味がわくだろう?」

リツコ「どういう意味?」

加持「恋愛感情について野暮なことは言いやしないさ。だが、今後に大きな影響を与えるような、そんな気がしてね」

リツコ「加持くん、私は別に」

加持「今夜、20時にホテルのバーを予約してある。そこで待ってるよ」

リツコ「……行くとは言ってないけど」

加持「好きにすればいい。俺は待ってる、伝えたのはそれだけだ。それじゃ、また」

【ネルフ本部 作戦会議室】

アスカ「ぷっ、あっはっはっはっ! なぁ~によ、その顔ぉっ?」

シンジ「仕方ないだろ、階段で転んだんだから」

アスカ「く、くくっ。転んだって、あんた本当に間抜けね」

ミサト「アスカ、それぐらいにしときなさい」

レイ「作戦司令……。今日はなぜ集合を」

ミサト「みんなのシンクロ率がなかなか上がらないからちょっち、ヒアリングをね」

アスカ「私はトップでしょ! なんで私まで受けなきゃならないのよ!」

ミサト「言ったでしょ? 問題は順位ではなく、伸び代。アスカも日本に来てから上昇が見受けられないけど」

アスカ「ぐっ! 私はっ、まだ慣れてないからよ!」

ミサト「そう、それじゃ、いつまでに慣れるの?」

アスカ「そんなの、いつまでとか……」

ミサト「具体的に提示できなければ、甘えでしかないわ。もっとも提示するからには守ってもらいますけど」

アスカ「だったらもっとパイロットのケアをちゃんとしてよね! 満足に行き届いてるなんて一度も思ったことないわよ!」

ミサト「規定にのっとって必要な待遇は、すべて管理されています。今は使徒が来ていないから、遅くならないようにこうして話を聞く機会を設けているのよ」

レイ「私は、現状に不満はありません」

アスカ「またあんたはっ! いつもそうやって優等生ぶる!」

ミサト「レイは環境とは他に原因があると思い当たる点はある?」

レイ「いえ」

ミサト「アスカは?」

アスカ「私はもっと、最高のスタッフを揃えてほしい! それさえしてくれるのなら最高の結果を残してあげるわ!」

ミサト「考慮します。シンジくんは?」

シンジ「いえ、僕もなにかがあると言うわけじゃ」

ミサト「シンジくん。それはあなたに上昇志向がないという考え?」

シンジ「いえ、そういうわけじゃ」

ミサト「この際だから言っておくわ。みんなよく聞きなさい」

シンジ&レイ&アスカ「……」

ミサト「使徒を倒す。あなた達はエヴァに乗るのが仕事ではないわ。全てはひとつの目的の為に、ネルフ全体が、いいえ、人類全体が協力しあっているの」

アスカ「わかってるわよ!」

ミサト「シンクロ率の上昇は作戦の成功率を高めるにも有効な手段のひとつよ。ここまでで満足なんて低い意識ではなく、しっかりと自覚を持ってテストにも取り組んで」

レイ「了解」

ミサト「いいわね? シンジくん」

シンジ「……はい」

【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

アスカ「ムカつくっ!」ガンッ

レイ「……」

アスカ「はん、なぁ~にが人類全体よ。私達が最前線にでなきゃどうしようもないくせに!」

レイ「わめいたって何も変わらないわ」

アスカ「なんですって!」

レイ「あの場でそう発言すればよかった」

アスカ「言っても暖簾に腕押しでしょ。結局ねぇ、自分達の正当性を主張してそれで終わるのよ!」

レイ「エヴァに乗らなければいい」

アスカ「そんな話じゃないのよっ! 私はっ! 私は! やらなくちゃいけないんだから!」

レイ「……そう」

アスカ「はぁ……シンジもなにか言ってやればいいのに」

レイ「どうして、碇くんがでてくるの?」

アスカ「あんた、人形みたいなやつね。気がつかなかったの? 転んだってウソついてたけど、あれ。どう見ても人から殴られた腫れ方よ」

レイ「……」

アスカ「ミサトが気がついてないはずない」

レイ「あなた、笑ってたわ」

アスカ「気にするのそこぉ? ……あいつがウソつくんだから、合わせてやっただけよ」

レイ「合わせる……」

アスカ「かっこつけたいんじゃないの? 男ってのはそういうのあるみたいだから」

レイ「経験があるの?」

アスカ「な、ないけど! 雑誌で見たの! いいでしょ、別に!」

【ネルフ本部 作戦会議室】

ミサト「碇シンジくん、あなただけ残ってもらったのは今日が約束の期日だからよ。住む場所は決まった?」

シンジ「はい。この物件に決めました」ペラ

ミサト「ワンルーム、学校までの距離は13km、ね。本当にここでいいのね?」

シンジ「よく悩んで決めました。これで手続きをお願いします」

ミサト「……シンジくん。あなたが望むのなら、また一緒に暮らすのもできるのよ?」

シンジ「いえ、それをしたら父さんの期待を裏切りますから」

ミサト「どこに期待があるっていうの⁉︎ こんなの、ただの横暴じゃない!」

シンジ「幼い時、僕は一度逃げました。今回も逃げ出したら、父さんは次、いつ向き合おうとしてくれるか」

ミサト「シンジくん、私は、あなたの為を思って!」

シンジ「ありがとうございます。……でも、決めたんです。僕は、やらなくちゃいけない」

ミサト「辛いわよ?」

シンジ「僕も、そして、父さんも不器用なんです。辛い選び方をしているのかもしれません。だけど、手探りでも前に進みます」

ミサト「バカ……」

シンジ「すみません」

ミサト「男はすぐになんでも自分でやりたがるのね」

シンジ「ミサトさん……?」

ミサト「わかったわ。これ以上はもうなにも言わない。ただし、最後までやりとげるのよ。いい?」

シンジ「はい、わかりました」

【ネルフ本部 執務室】

ミサト「失礼いたします」

ゲンドウ「作戦司令。どうした?」

ミサト「はっ。サードチルドレンの住居についてご報告が」

ゲンドウ「手短に済ませろ」

ミサト「申告により、住所が決定いたしました。こちらがそのアパートになります」ペラ

冬月「……ふぅ。安全とはもちろん言いいがたいな」

ミサト「警護はいかがいたしますか?」

ゲンドウ「最低限にとどめておけ。サードチルドレンの自主性にまかせる」

ミサト「し、しかしっ! それでは使徒迎撃に支障をきたす恐れが」

ゲンドウ「命令だ。黙って従っていればいい」

ミサト「……っ!」ギリッ

冬月「葛城一尉。復唱はしたまえ」

ミサト「はい。警護は最低限にとどめます」

ゲンドウ「ご苦労だった。さがっていい」

ミサト「碇司令。ひとつだけ、ご質問をよろしいでしょうか?」

ゲンドウ「なんだ」

ミサト「あの子、いえ、シンジくんをどうなされるおつもりです?」

ゲンドウ「どうもしない。あいつの人生だ」

ミサト「エヴァに乗るのもですか⁉︎」

ゲンドウ「愚問だ。シンジが選び、決めた話だ。どうなるか答えは時がだす」

ミサト「了解、いたしました」

ゲンドウ「以上だ」

【第三新東京都市 繁華街】

トウジ「なぁ、ケンスケ。いい加減に機嫌なおせって」

ケンスケ「いいや。僕がなぜ怒ってるかわからなきゃだめだね」

トウジ「そんなん、ロリコン扱いしたからに決まっとるやろが」

ケンスケ「そうじゃないよ! トウジと僕の付き合いだ! 会わせない理由を考えた!」

トウジ「……」

ケンスケ「碇に聞いたよ。妹さん、ひどいとは知ってたがまだ回復してなかったんだな」

トウジ「ち、シンジのやつ、言うてしもうたんかいな」

ケンスケ「碇も板挟みになって心配したんだろ。なんで僕に正直に言わないんだよ」

トウジ「ワシは余計な心配をやなぁ!」

ケンスケ「ウソをつかれるなら心配してたほうがいいよ!」

トウジ「ぬぐ」

男子生徒A「ロボットのパイロットってたいしたことねぇな」

男子生徒B「あぁ、ビビってそんしちまったよ」

男子生徒A「なんだ、お前、やっぱりビビってたんじゃねぇかよ」

トウジ「……おい、ケンスケ。ちょい待て。あれ、うちの上級生やんな」

ケンスケ「あ、あぁ。なんで、ロボットってエヴァの……?」

男子生徒A「殴った手がヒリヒリするぜぇ」

男子生徒B「お前、言うほど喧嘩慣れしてないから」

男子生徒A「うるさいな!」

トウジ「おい、まさか……」

ケンスケ「噂のせいかっ!」

とりあえずここまで

【ミサト宅 玄関】

ピンポーンッ

シンジ「いよいよ、引越しか……」

アスカ「はぁ~い」ガチャ

シンジ「こんばんは」

アスカ「バカシンジじゃない。なにしに来たの?」

シンジ「必要な荷物を取りにきたんだ」

アスカ「あぁ、あんたの荷物ならダンボールにまとめて廊下にだしてあるわよ」

シンジ「うん。それを受け取ったらすぐに帰るよ」

アスカ「……ちょっと待ちなさい」

シンジ「なに?」

アスカ「あんた、夕飯は?」

シンジ「えっ、まだ、だけど」

アスカ「そ、そう。あたしもまだなのよ。少しあがってゆっくりしていったら」

シンジ「脈絡がよくわからないよ。まだなら、すぐにおいとましないと」

アスカ「冷蔵庫には、まだ食材があるから! 作っていくのを特別に許可してあげる!」

シンジ「えぇっ⁉︎」

アスカ「なによ! 断る気⁉︎」

シンジ「なんで僕が作らなくちゃ……普通、逆じゃないか……」

アスカ「このあたくし様に作らせようって言うの⁉︎ あんたはっ!」

シンジ「はぁ……わかった。これが最後の機会だろうし、お邪魔するよ」

【リビング】

シンジ「なにがあるんだろう」ガチャ

アスカ「買い足しはしてないけど、まだそんなに日数たってないから。腐ってないでしょ?」

シンジ「そうだね……お肉は冷凍していたのがあるし、野菜も少し痛んでるけど、うん、これなら食べられそうだ」

アスカ「げっ、本当に大丈夫?」

シンジ「匂いを嗅げば大抵わかるよ。牛乳は、新しいね。トマトもあるし、これならホワイトソースが作れそうだ」

アスカ「な、何日か日持ちするやつお願い」

シンジ「なら、トマトソースを作っておくよ。瓶にいれておくから。パスタにでもあえて食べたらいい」

アスカ「うん、わかった」

シンジ「エプロンはっと」

アスカ「あんたさ……」

シンジ「ん?」

アスカ「不安とかないの?」

シンジ「へ?」キョトン

アスカ「べ、別に。気になったわけじゃない。ただ、ぬくぬく育ったお坊ちゃんじゃない?」

シンジ「おぼっちゃ……て、そうでもないけど」

アスカ「まぁ、そりゃ誰だって生きてりゃなにかしらあるだろうけど、あたしに比べたらお坊ちゃんって話よ。なんたって、このあたしは天才とか神童とか言われてたんだし」

シンジ「そう、だね。アスカに比べたら」

アスカ「新しい目的を掲げてはじめる不安は私だからわかる。……本当は、泣きたいんじゃないの?」

シンジ「そんな、一人暮らしするだけだよ」

アスカ「ふぅ……。それもそうね。シンジ、少し変わったわね」

シンジ「そうかな?」トントントン

アスカ「少し前のあんたなら、ただの一人暮らしなんて言えなかったと思う」

シンジ「それは、アスカが僕のことを知らないからだよ。元々、ミサトさんと住みはじめた時だって、僕は一人暮らしを希望してたんだ」

アスカ「そうなの?」

シンジ「父さんへの当てつけもあったけどね。先生の所にいる時は、そうして生きてきたから」

アスカ「ふぅ~ん。なんか、意外」

シンジ「僕たちはパイロットっていう繋がりがあるけど、身の上話をほとんどしないからねぇ」

アスカ「当たり前ね。エヴァがなければ、あたしは日本にすら来てない、うぅん、きっとママの時に……」

シンジ「アスカのお母さん?」

アスカ「なんでもない」

シンジ「そう言えば、寝言で」

アスカ「また蒸し返す気⁉︎ ユニゾンの時に襲われかけたの! 忘れてるわけじゃないのよ!」

シンジ「だからそれは違うって言ってるじゃないかぁ!」

アスカ「ふん、どーだか。ガキなんて盛りのついたサルと一緒よ。ヤリたいだけの下心見え見えで……あー、やだやだ」

シンジ「はぁ……」ジュージュー

アスカ「ガキってさ。なんで自分の身しか考えないのかしらね」

シンジ「さぁ。……やりたいこととできることの区別がつかないんじゃないかな」

アスカ「えっ」

シンジ「最近考えたというか、こういうことなのかなって思う時が多くて」

アスカ「言ってみなさい」

シンジ「あぁ、そんなたいした話じゃ」

アスカ「いいから!」

シンジ「アスカの言うガキって、自分でいっぱいいっぱいの人なんじゃないかなって。他人から良く思われたい、自分のしたいようにしたい、みんな誰だって持ってる話だよね」

アスカ「……」

シンジ「できないってわかった時に、駄々をこねたり、いろんな反応があると思う。僕もできるのは少ないから」

アスカ「それで?」

シンジ「うまく話せないけど、僕はたぶん、アスカにとってパイロットっていう繋がりがあるのと同時に身近な子供なんだと思う。でも、子供なのは、アスカも同じ」

アスカ「……」

シンジ「アスカはなんでもできる。すごいよ。努力も、きっと僕には想像つかないぐらいしてきたんだろうね。……だからと言って、アスカが大人だとは僕には思えない」カンカン

アスカ「あたしのどこが子供だっていうの?」

シンジ「うぅん、僕が抱く大人のイメージって経験からきてるものだと思うんだ。アスカは、背伸びしてるように見える、のかな」

アスカ「……ガキ」

シンジ「うん?」

アスカ「そうやって悪気なく、ズケズケ言えるのがまだまガキだって言ってんの!」

シンジ「そりゃ、だって僕まだ中学生だし」

アスカ「女の子の扱い方がまったくわかってないじゃない! そんなんだったらあんた、童貞のままハタチを迎えるわよ!」

シンジ「はぁ?」

アスカ「いい? 諭すのは結構だけど、ロマンチックにしてくれなきゃ。指摘するにも認めて受け入れてくれるのが条件なのよ!」

シンジ「で、でも」

アスカ「でももヘチマもないの! 誰だって完璧じゃない。あたしだって完璧にできる自分を装いたいだけよ。プライドが認めさせないわけ! わかる⁉︎ わかってんの⁉︎ バカシンジっ!」

シンジ「あぁ、はぁ……」

アスカ「例え間違ってなくても、正解はそうじゃないの! あたしが言ったら正解になるの! 受け入れてくれなきゃいやなの!」

シンジ「な、なんだそりゃ……」

アスカ「女の子はお姫様なのよ! そういう扱いを受けたいっていう願望があるの! 大切にされたいの!」バンッ

シンジ「は、はい」

アスカ「はぁ、あんたねぇ……ちょっとぐらい変わったからってちょーし乗ってんじゃないわよ!」

シンジ「別に、僕は、そんなっ!」

アスカ「はやく作りなさいよ! 手が止まってるでしょ⁉︎」

シンジ「な、なんなんだよ!」

【1時間後】

シンジ「そ、それじゃぁ。僕はそろそろ。作り終えたのは冷ましてから冷蔵庫にいれてね」

アスカ「ふん」むっすぅ

シンジ「はぁ……よっと」ガシャ

アスカ「そういえば、あんたの部屋にやたらおっきな荷物がひとつだけあったけど。あれはどーすんの?」

シンジ「ん、と……」

アスカ「ミサトも困ってたわよ。ひとつだけじゃ業者が引き受けてくれないって。宅急便使っていいの?」

シンジ「あぁ、チェロか」

アスカ「チェロぉ?」

シンジ「うん。先生の所から届いてたの、すっかり忘れてた」

アスカ「あんたが弾くの?」

シンジ「そうだよ。ミサトさんには宅急便を使っていいって伝えてもらっていいかな」

アスカ「はっ、どうせウソでしょ。それか、ちょっとさわったぐらいでやめたとか」

シンジ「うまいかはわからないけど、弾けるよ」

アスカ「証明してみなさいよ。論より証拠っていうでしょ」

シンジ「えぇ。まだぁ?」

アスカ「あっそ。やっぱりウソなのね」

シンジ「むっ、ちゃんと弾けるよ」

アスカ「な・ら・ど・う・ぞ?」

シンジ「……はぁ」ガックシ

シンジ「チューニングは終わったけど、なにを弾けばいいの?」カチャ

アスカ「きらきら星とかでいいんじゃない? どうせ弾けると言ってもそこらへんでしょ?」

シンジ「変奏曲か。モーツァルトはあんまり好きじゃないんだけどな」

アスカ「通ぶっちゃって」

シンジ「そんなつもりはないってば」

アスカ「ハードルが上がっただけね。好きなやつ弾いてみなさい」

シンジ「バッハの無伴奏でいいかな」

アスカ「ドイツで活躍した作曲家じゃない。本当に弾けるのぉ?」

シンジ「うん、練習曲によく使ってた」

アスカ「へぇ」

シンジ「第1番~プレリュードでいいかな。……それじゃ、いくよ」スッ

【ホテル バー】

加持「はやかったじゃないか」

リツコ「クラシックがかかっているバーなんて」

加持「リッちゃんは嫌いかい?」

リツコ「いいえ」

加持「バッハの無伴奏。1人舞台は演奏者によって聞く耳の解釈が違う。弾き語りみたいなものさ、なにを想うか、それで心に響く度合いが違う」

リツコ「ちょうどよかったのかもしれない。気分を高めたいわけではないから」

加持「昂りがあるなら、それはそれで俺としちゃ歓迎なんだが?」

リツコ「やめて。今日はそんな話をしにきたんじゃないの」

加持「わかってる。ここなら誰かに聞かれる心配もない。リッちゃんは碇司令とシンジくんについてどう考える?」

リツコ「わからないわ。私にもなにか頂ける?」

加持「山崎18年のウィスキーでかまわないか?」

リツコ「ええ」

加持「あの2人の間に誰かが介入したのは間違いない。それも影響力のある誰かだ」

リツコ「……誰だと思う?」

加持「想像もつかないよ。シンジくんだけならわかるが、碇司令、と推察すると副司令以上には。リッちゃんだと思ってたんだが、アテがはずれたな」

リツコ「タバコ、吸ってもかまわないわよね」スッ

加持「もちろん」

リツコ「いつから私と碇司令の関係に気がついていたの?」

加持「いつからがいい?」

リツコ「ふざけないで!」

加持「そう怒るなよ。最近さ」

リツコ「加持くん、これはプライベートな問題よ」

加持「ああ。悪かったよ」

リツコ「碇司令との関係は詮索しないで……っ!」

加持「しかし、どうにも気になってね。悪癖だな。自分の目でたしかめないと気がすまない」

リツコ「あなたが確かめたいのはもっと別の件ではなくて? 好奇心は猫をも殺すわ」

加持「おっと、これは手痛いしっぺ返しだ」

リツコ「ちゃんと聞いて。これは友人としての忠告。ゼーレに消されてからじゃ遅いのよ」

加持「謎は暴かないと面白くないだろう?」

リツコ「碇司令も勘づいてる。いつか身動きがとれなくなっても……」

加持「そうなったら、葛城をよろしく頼むよ」

リツコ「自分でやりなさい」

加持「学生時代が懐かしいな。あの頃に戻りたいよ」

リツコ「なにも考えず、夢と希望に溢れ、若さで生きていた。でも、誰しもが汚れて大人になっていくのよ」

加持「難儀なもんだ」

リツコ「話を戻しましょう。私も、気になってはいる」

加持「そうだろうな。だからここにいる」

リツコ「わからないのも事実よ。碇司令以上の特権階級というと思い当たる人物はゼーレぐらいしかいないもの」

加持「シンジくんの身辺調査はしているんだろう?」

リツコ「ふぅー。ええ」

加持「きっかけは誘拐事件だ。犯人は捕まっていない。それどころか、捜査に消極的な姿勢が見られる」

リツコ「パイロットが無事に戻ったからでは?」

加持「なぜだ? なぜシンジくんは無事に戻ってきた? 誘拐した目的が見えないんだよ」

リツコ「痕跡がないのだから、わかりようも」

加持「いや、痕跡ができたのさ。シンジくんを帰した、そして碇司令との関係の変化でね」

リツコ「……」

加持「誘拐までは完璧だった。足取りも掴めず、証拠を全て抹消するには明らかな悪手だ。と、なると、目的はそうではない」

リツコ「……シンジくんにもう一度聞いてみる?」

加持「その必要はないさ。そうすれば、碇司令が止めるだろう。俺には確信に似たなにかがあるね」

リツコ「つまり……」

加持「ここまでの経緯を話すと、碇司令とシンジくんを取り持つことができ、尚且つ碇司令にとってかなりの影響力を持つもの。それは権力じゃない。脅しが通用する相手とも考えにくい」

リツコ「2人にとって、親しい者?」

加持「リッちゃんだと思った理由がわかったか? それが、誘拐犯の正体さ」

リツコ「でも、そんな人が……」

加持「先入観を捨てて考えるんだ。俺は少し調べてみるよ」

リツコ「まさか、そんなはず……ありえないわ……」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「なかなかにやるもんね。あんたのこと、ちょっと見直した」

シンジ「……ふぅ」ポリポリ

アスカ「弾けるってなんで今まで言わなかったの?」

シンジ「たいしたことないよ。これぐらい弾ける人はたくさんいるし」

アスカ「はぁ? 誰と比べてんの?」

シンジ「プロとかだけど」

アスカ「あんたねぇ、まわりちゃんと見てる? 吹奏楽部でさえ、中学生では、なんか、ボェ~って音色してるじゃない」

シンジ「まぁ、それもそうだけど」

アスカ「高校生とかがあんたぐらい弾けるのは当たり前の話なのよ。それだけ長い時間打ちこんでるんだから。でも、まだ中学生だし、もっと幼い時から弾けてたんじゃ?」

シンジ「はぁ?」

アスカ「このっ! 私が褒めてやってるっていうのに! なんで頭の回転がトロいのよ!」

シンジ「いや、でも、それも日本だからじゃないかな。僕ぐらいヨーロッパに行けば同年代でも」

アスカ「私たちの価値観っていうのはねぇ! そんなにみんながみんな広くないの! 同年代の世界なんてものは、友達とかクラスメイトで埋まる、そんな程度しかないのよ」

シンジ「そうかな」

アスカ「プロとかに比べてたいした話じゃないなんて、あったり前の話じゃない。日本で! 中学生で! 第壱中学校でのあんたは相当なハイクラスなものだって言ってんの!」

シンジ「あ、ありがとう」

アスカ「自己評価が低すぎるのよ。だいたい、それほどの腕前があるならコンクールにだって」

シンジ「僕のは趣味だから」

アスカ「……なんであんたは肝心なところでそうなのよ……!」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「加持特別監査官。かけたまえ」

加持「いやはや、驚きましたよ。夜分遅くに、まさか副司令直々のお呼び出しとは」

冬月「無駄口を叩かんでいい。なにやら、こそこそと嗅ぎ回っているみたいだが」

加持「さて」

冬月「下手な小細工はやめるんだな」パサッ

加持「……」

冬月「ここにある写真には、君の姿がはっきりと確認できる。MAGIの配線管理室でなにを傍受していた」

加持「碇司令もご存知っすか?」

冬月「報告するかどうかは詳細を聞いてから決める」

加持「なぜ、すぐに報告しないんです?」

冬月「碇も暇ではないのでな。こういった雑務はどの道、私にまわされる」

加持「苦労してますね」

冬月「まったくだよ。だが、問題を生みだしているのはキミだ」

加持「サードチルドレンと碇司令の変化が気になったもので」

冬月「それだけのためにキミは命を危険に晒すのか」

加持「裏を返せば、俺の命よりも重い価値があるということでは?」

冬月「勘違いするな。キミの命など、道端に転がる石ころと同じだ。とるにたらんよ」

加持「それもそうだ。……俺はあるひとつの仮説を立てています」

冬月「言ってみたまえ」

加持「2人の仲を取り持とうとしているのは、死んだはずの人間の亡霊なんじゃないかとね」

冬月「……なぜ、そこまでこだわる」

加持「碇ユイ。彼女が生きているとすれば、セカンドインパクトの真実にもっとも近い。ある意味では、ゼーレや碇司令よりも。それは俺にとっても、魅力的なんすよ」

冬月「キミは、後悔はしないのか」

加持「するならとっくにやめてますよ」

冬月「そうか」カチャ

加持「副司令に拳銃は似合わないっすね」

冬月「ああ。似合わないことをするのも仕事というものだ」

パァンッ

【ネルフ本部 コンテナ】

シンジ「はぁ、疲れた……」ガチャ

ユイ「おかえり。シンジ」

シンジ「わ、わぁっ⁉︎」

ユイ「そんなところで立ってないで、はやく中に入りなさい」

シンジ「はぁ……」バタン

ユイ「一人暮らしをするのね」

シンジ「えぇ、まぁ……はい」

ユイ「どうしたの? 正座なんかして」

シンジ「いや、なんでいるのかなって」

ユイ「いちゃだめだった?」

シンジ「いえ、そういうわけじゃ……」

ユイ「どう接していいかわからないのも無理がないわね。いきなり現れて母親なんて言われても」

シンジ「あ、いや、そのっ」

ユイ「それでかまわないわ。親子の縁は簡単に断ち切れないものだから。私たちは血が繋がっているという事実さえあれば、やりなおす機会はある」

シンジ「……そうですね」

ユイ「ええ。あなたは冷たくされた父親に自身の価値を認めてほしいと追い縋り、そして死んだと思っていた母である私にはなにをしてほしいの?」

シンジ「……」

ユイ「愛情? 思いきり甘えたい?」

シンジ「わかりません」

ユイ「おいで、シンジ」スッ

シンジ「あ……」

ユイ「反動は誰にだってあるものよ。シンジは頑張ってないわけじゃなかった。ただ、自信がなかった。そうよね?」

シンジ「……僕は、そんな」

ユイ「頭を撫でてほしいの? 抱きしめてほしい?」

シンジ「その、僕はもう中学生ですから」

ユイ「母親にとってはいくつになっても息子なのよ。それとも……母ではない、異性にそうしてほしい?」

シンジ「あの、なんて呼べば……」

ユイ「好きなように呼びなさい。どんな呼び方をされても私は怒ったりはしないわ」

シンジ「そ、それじゃぁ、ユイさん?」

ユイ「やっぱり母さんとは呼んでくれないのね」シュン

シンジ「え、だって今どんな呼び方をされても」

ユイ「怒らないとは言ったけど、悲しまないとは言ってない。それに、残念そうな素ぶりが見えないと愛していると伝わらないでしょう?」

シンジ「あ、愛してるって……」

ユイ「前にも言ったけど、物事には必ず二面性があるわ。それぞれ的確に対処するのは大変。……私にとってもシンジにどう接したらいいかわからないの。だから、時にはストレートに伝えないとね?」

シンジ「ひとつ質問していいですか……」

ユイ「ええ」

シンジ「なんで、今になって戻ってきたの?」

ユイ「シンジに会いたかったから」

シンジ「……」ギリッ

ユイ「本当よ」

シンジ「そんなのウソだっ! だったらもっとはやく戻ってきてくれたってよかったじゃないかっ!」

ユイ「そうね。私が愚かだった。こんなにも簡単な答えに行き着けないなんて」

シンジ「答え?」

ユイ「ええ。私の望みは、この星と共に永遠の存在になる。でも私はすでに、望みを叶えていた。あの人を利用してシンジを産むことができたんだもの」

シンジ「なに言ってるのかわからないよっ!」

ユイ「知恵の輪は既に出来上がっていたの。あなたの選択で人類に、生きとし生けるもの全てに、福音をもたらしなさい」

シンジ「ほ、本当になに言ってるんだよ!」

ユイ「あぁ、シンジ。私の望みは全てあなたにある。あなたが私の願いそのもの」

シンジ「な、なんなんだよ。この人が、本当に母さん?」

ユイ「紛れもなく、あなたの母親よ。六分儀という性もあなた。さぁ、少しの間眠りましょう」

シンジ「えっ」

ユイ「大丈夫。起きたらまたいつも通り。眠りなさい、かわいいかわいい私のシンジ」プス

【ネルフ本部 執務室】

ユイ「お世話になっております、お取り込み中でしたか?」

冬月「キミか。問題ない、かたはついた」

ユイ「はい。まずは感謝の言葉を。シンジを守っていただき、ありがとうございました」

冬月「私は、あの子を守っていたのではない。キミを守っていたつもりだった」

ユイ「それでも結果には相違ありません」

冬月「全てはキミの計画の内だったのだろう」

ユイ「いいえ。私はこれまでの人生で計画など考えたこともありません」

冬月「キミのその笑顔に、俺もすっかり騙されたよ。ただ、純粋なだけだと思っていた」

ユイ「私は願いに対して真っ直ぐでいたい。それだけです」

冬月「そのために、どれだけの人間を欺いてきた!」

ユイ「かわいそうな人。あなたは、自分が思っていた理想像と違う私に幻滅なさっているんですね」

冬月「キミに振り回されるのはもうたくさんだっ!」

ユイ「いいえ。あなたはもう引き返せない。私から解放されたい? それとも、愛されたい?」

冬月「う、き、キミは」

ユイ「感謝しています。あの人から私を守ってくれた。私のために自分を押し殺し、耐えてきたのですね」

冬月「碇の悩む姿も、キミは気にもとめなかったんだろう。俺のようにざまあみろとほくそえんでいたんじゃない。興味がなかったんだ、違うかね?」

ユイ「いいえ。愛情を注いでいました。ただ、形が変わるだけなのです」

冬月「詭弁だな」

ユイ「ふふっ、先生。もうひとつ、最後のお願いを聞いてくださいますか」

冬月「聞くだけならな。言ってみろ」

ユイ「……シンジをください」

冬月「今度は自分の息子を翻弄するつもりか」

ユイ「私の願いの成就は、あの子にとっても幸せな結末になります」

冬月「人を操り、行き先を誘導する。形だけの意思になんの意味がある」

ユイ「重要なのは、自分で選んだという事実のみですわ。それだけで簡単に納得してしまう」

冬月「あくまで己に責任はないと言い張るつもりか。キミのやっているのはただの刷りこみだぞ」

ユイ「そうかもしれませんね。幸せは、掴みとることもできますし、作為的に用意することもできる」

冬月「息子を籠の中の小鳥にするのかね」

ユイ「籠の中の世界が全てであるならば、それは何よりの幸せです」

冬月「間違っている! 人は外を見なければ中の有り難みを実感できん!」

ユイ「シンジならば価値を見い出せるはず」

冬月「なんたる言い草だ! これまでの計画を全て無に帰すのかっ!」バンッ

ユイ「元々、裏死海文書をゼーレに渡したのは私。……全ての発端は私なんです」

冬月「始まりはきっかけにすぎん。直接的にも、間接的にも関わってきた多くの人間の運命が狂わされてしまっている!」

ユイ「修正させてもらいます。補完計画をあるべき姿に」

冬月「ば、バカな。今さらそんな話が」

ユイ「先生、許してください。全ては願いの為に」

キール「そこまでだ」コツコツ

冬月「その声は」

キール「久しぶりだな。こうやって対面するのは」

冬月「……キール議長。やれやれ、私の命運もこれまでとはな」

キール「いや、そうはならない」

ユイ「ええ。先生にはまだ使い道がありますもの」

キール「鈴はいくつあってもいい」

冬月「俺が嫌だと言ったら?」

キール「ユイ博士が帰ってきた以上、その選択肢は用意されていない。ネルフはもはや形骸だけの姿にすぎん」

冬月「……」

キール「キミが選ぶのは、ラクに死ぬか、悶え苦しんで死ぬかのどちらか」

冬月「沈黙をもって答えよう」

キール「そうか。加持リョウジ」

加持「……」ピクッ

キール「いつまでそうしている」

加持「ふぅ。……もうよろしいので?」

冬月「お前はっ、さっきたしかに撃ったはすだっ!」

加持「その拳銃、空砲っすよ。あとはタイミングよく血のりをね」

冬月「まさか、私をここにおびき出すために」

加持「まんまと罠にかかってくれましたね。いつも碇司令と一緒にいるんで、遠回りしましたが」

冬月「そうか、最初から狙いは俺だったか。拉致すればいいものを。キール議長もまわりくどいやり方をなさる」

キール「まだ碇に全てを悟られるわけにはいかない」

冬月「残りの使徒が多いからか」

キール「……さぁ、選択の時だ」

ユイ「先生、賢い選択をなさってください。あなたもあの人に嫉妬していた。そうでしょう?」

冬月「違うっ! あれは気の迷いだった!」

ユイ「そうやって逃げるのですね。私をなかったことにするつもりですか?」

冬月「魔性の女め!」

ユイ「ふふっ。生きてきた時間を取り戻すには、先生はあまりにも遅すぎた。そうでしょ?」

冬月「……」

ユイ「私のために汚れた手も、包みこんであげます」

冬月「なぜだ? どうしてこうなってしまったのだ」

ユイ「先生はなにも悪くありません。悪いのは、私です」スッ

冬月「………」

ユイ「何も考えなくていいのよ、全て、私のせいにしてしまえば、先生はラクになれます」

【ミサト宅 リビング】

ミサト「たっだいま~ん!」

アスカ「うっ、酒くさ」

ミサト「よっ! おてんば娘! 元気にしてたか~?」ぐりぐり

アスカ「ちょっ、ちょっと! 元気もなにも数時間前に会ったばかりでしょーがっ!」

ミサト「スキンシップってやつよ♪」

アスカ「酔っ払いのは絡まれるっていうのよ」

ミサト「くんくん……あら? なんだかいい匂いするわねぇ」

アスカ「シンジが来てたから作らせた」

ミサト「シンちゃんが? ……そっか、荷物とりにきたのね」

アスカ「そ。といってもダンボールひとつぶんだけど」

ミサト「これから、アスカと2人ね」

アスカ「そーね。あいつがいてもいなくても変わらないわよ。ムードメーカーってタイプじゃないし」

ミサト「ほんとにぃ~? 寂しくなったんじゃない?」

アスカ「だぁれがっ! そういうのウザい!」

ミサト「……私は寂しくなった」

アスカ「ミサト?」

ミサト「なぁ~んちゃってぇ? 驚いたぁ?」

アスカ「はぁ……じょーだんじゃないんでしょ」

ミサト「やっぱり、アスカには見透かされちゃうか」

アスカ「なんで?」

ミサト「私ね、リツコには家族ごっこなんて言われるんだけど、今の生活、けっこう楽しんでた」

アスカ「……」

ミサト「仮初めとは言え、家族ってこういうものなのかなって、ちょっち思っちった」

アスカ「ふん、まだあたしがいるでしょ」

ミサト「……あ、アスカぁ~」

アスカ「えぇいっ! なつくな! うっとしーわねぇ!」

ミサト「男ってさぁ、ある日いきなりなんでも自分でやるなんて宣言してさぁ、女の都合なんかかえりみちゃくれないんだからぁ~」

アスカ「なんの話なのよ……」

ミサト「はぁ……。みんな大人になっていくのねぇ。大人になりきれない大人はどうしたらいいの⁉︎ 教えてよ!」

アスカ「わ、わわわっ、つ、つつつかんだら、ゆれれるっ」

ミサト「大人だってさぁ、色々あんだから! ねぇ! わかる⁉︎」ゆさゆさ

アスカ「お、おおおちつきなさい、よっ!」パカーン

【ネルフ本部 ラボ】

マヤ「先輩? まだ残って……だ、大丈夫ですかっ⁉︎」

リツコ「マヤ」ゴト

マヤ「お、お酒の匂い。ちょ、ちょっと飲み過ぎなんじゃ……」

リツコ「ふっ、かまわないでしょ。どれぐらい飲もうと、あの人は、心配すらしないんだもの」トクトク

マヤ「いったい、誰の話……こ、こぼれますっ! こぼれてます!」

リツコ「あの人はね、今だにいなくなった人のことが忘れられないのよ。私はいったい、なんなの……なんだっていうの!」ガシャンッ

マヤ「きゃあ⁉︎」

リツコ「いつまでも過去の出来事にとらわれて。そんなに恋しいのかしらね……」

マヤ「せ、先輩、もうそれぐらいに」

リツコ「加持くんは言ったわ。先入観を捨てろって、もし彼女が生きているとしたら……これまでの私はどうなるの?」

マヤ「あの?」

リツコ「許せるわけない……私を捨てるなんて……許せるわけがないのよっ!」ブンッ

マヤ「ひっ⁉︎」

リツコ「でも、まだ可能性のひとつにすぎない。仕事、しなくちゃ。あの人のために。MAGIのメンテナンス、母さん、待ってて」スッ

マヤ「先輩⁉︎ そんなフラフラの状態でいったいどこに⁉︎」

リツコ「かまわないで!」ドンッ

マヤ「あぅっ!」ドサ

リツコ「1人にして……」

【ネルフ本部 モニター室】

加持「まさか、リっちゃんがこうも疑心暗鬼になってくれるとはね」

ユイ「不倫なんて報われない恋だと頭でわかっていても、希望を抱かずにはいられない。ましてや、死んだと思っていた人間が相手だもの」

加持「勉強になりますよ。これもあなたの計画通りですか? ユイ博士」

ユイ「いいえ。どう選ぶかは個人が決める」

加持「リッちゃんをこれからどうなさるおつもりで?」

ユイ「私はどうもしない。当事者が決めるの」

加持「しかし、碇司令は権力こそあれど、実態は孤独です。副司令とリッちゃんという腹心を失えば、丸裸も同然だ」

ユイ「そうね」

加持「その先に、あなたの、ネルフを乗っ取るという行き先があるのでは?」

ユイ「あの人が気がついた時には外堀は全て埋まっているのが理想。それまで、私は疑われてはいけないし、あの人のイメージの中にある私を壊してはいけない」

加持「碇司令が折れれば、後ろ盾にはゼーレがいる。争いはなく、ほぼ無傷でネルフが手に入るわけですか。のぼりつめたらどうするんです?」

ユイ「表舞台に立ったら、シンジにふさわしい相手を用意させる。候補はほぼ決まっているけどね」

加持「まさか、アスカですか?」

ユイ「なんの為にアンケートをとったと思ってるの? 極限状態で、シンジは選んだ。創世の時にイヴは必要なの」

加持「肝心の碇司令はご子息への教育にご執心のようですしね、それもあなたに会いたいという願いの為に」

ユイ「ええ。シンジにとって父親にかわりはいないからそうしたの。向き合うようになったのは私がきっかけ。……でも、状況は常に変化するわ。あの人自身がシンジに関心を抱くようになる」

加持「子育て放棄を理由に、シンジくんには父親を。……そして、碇司令には目くらましを。まさに一石二鳥ってわけですか。正直、全てがあなたの手の内でおそろしくさえあります」

ユイ「あなたも私を罵る?」

加持「やめときますよ、出来過ぎているとは思いますがね」

ユイ「そう」

加持「特殊ベイクラフトで固められた、アダムの処置については?」

ユイ「……ゆっくりやりましょう。見届けたいのならそうしなさい。先走ると見れないまま死んでしまうわよ」

あら、硬化ベークライトだった
とりあえず今日はここまで

【箱根 芦ノ湖】

ゲンドウ「全ては、ここが出発地点か」

カヲル「……夜分遅くに1人で出歩くとは感心できませんね」

ゲンドウ「……」

カヲル「はじめまして。お父さん」

ゲンドウ「その制服は、第壱中学校のものか」

カヲル「はい。と、言っても通ってすらいませんが」

ゲンドウ「どこの所属だ」

カヲル「どこでもありませんよ。ボクはヒトではないからね」

ゲンドウ「……」

カヲル「大昔、ここにリリスの黒き月が落ちてファーストインパクトが起こった。そして、僕たちアダムから生まれた使徒は、眠りについた」

ゲンドウ「ゼーレから直接送りこまれてきたか。目的はなんだ」

カヲル「言ったでしょ? どこでもないって。目的は生き残る、わかりやすい話です」

ゲンドウ「使徒か」

カヲル「その呼び名はおかしい。リリンも気がついているんだろ? ヒトも十八番目の使徒であるということを」

ゲンドウ「……」

カヲル「リリンはリリスから生まれ、僕たちはアダムから生まれた。悲しいね。種を残す為に僕たちはどちらか一方が滅ぶ運命にある」

ゲンドウ「なぜここにいる」

カヲル「ヒトの可能性を見にきたんですよ。……リリンに問いたい。なぜ、ヒトは生まれ死んでいく」

ゲンドウ「他の使徒とは違い、次の世代へのバトンを紡ぐためだ。人は完璧にはなれない。だが、それでいい」

カヲル「なぜ?」

ゲンドウ「人は群れ無しでは生きられない。個として見れば脆弱な生物だ」

カヲル「完璧な生命体は救済なのでは?」

ゲンドウ「むなしいだけだ。群れを捨てれば、完璧であるにこしたことはないだろう。だが、それでは生きる意義を失う」

カヲル「死ぬ価値とはなんだ?」

ゲンドウ「死とは個の終着点に過ぎない。魂の解放とも言えるが、それまでになにをやるかという過程次第だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「俺からも問おう。お前は何番目の使徒なのだ」

カヲル「ボクは渚カヲル。第壱使徒です」

ゲンドウ「……そうか」

カヲル「ボクたちはお互いに不完全な生命体だ。アダムより生まれしヒト以外の使徒はリリンを滅ぼし、完全な個体になろうとしている。わからないのは、リリン。キミ達だよ」

ゲンドウ「それが、今の質問か」

カヲル「そうさ。リリンは自ら進化の可能性を閉ざそうとしている。科学の力を使い、EVAというデッドコピーを作り、使徒を撃退する一方で、滅びの道を歩んでいる」

ゲンドウ「ふっ」

カヲル「……なぜだ? なぜ、リリンは生き残りたいと願うのに、群れを放棄しようとする? 今の話と辻褄が合わないじゃないか」

ゲンドウ「人の心が気になるか」

カヲル「……」

ゲンドウ「人類はいまや、一部の意向により全てが方向づけられ、操作されている。個としての意思は尊重されない」

カヲル「ヒトをまとめるためにかい?」

ゲンドウ「ああ。人は増えすぎてしまった。数千年の歴史の中で様々な人種に別れ、国という領地を持った。統治するには指導者が必要だったのだ」

カヲル「ヒトの歴史は悲しみに綴られている。だからなのかい? 個を選び、群れを捨てるのは」

ゲンドウ「その通りだ。人は感情を捨てて生きていけない。理性だけでは生きられないからな」

カヲル「幻滅したよ」

ゲンドウ「どう受けとってもらってもかまわん。どの道、どちらかは滅ぶ。お前たちと戦うのは人にとって決定項目だ」

カヲル「……」

ゲンドウ「用件はそれだけか?」

カヲル「そうですよ。……あぁ、それと、もうひとつだけ」

ゲンドウ「なんだ」

カヲル「キミたちリリンがネルフと呼んでいる地下施設にあるのは、本当にアダムの本体?」

ゲンドウ「その問いには、俺も同じ疑問がある。お前はコピーか?」

カヲル「ふふっ。わかりました。お互いの来たる時までとっておきましょう」

ゲンドウ「……」

カヲル「本当に悲しい。歌という文化の極みを残せる美しさを持っているのに、それでもダメなんだね」

【ネルフ本部 コンテナ】

シンジ「うっ……いてて……」

加持「変な格好で寝てたからどこか痛めたか?」

シンジ「あれ……加持さん……」

加持「俺も朝は弱くてね。今日は引っ越しだろ? 荷物はそこにあるダンボールひとつだけかい?」

シンジ「あぁ、そうですけど、でもどうしてここに?」

加持「暇だからどんな物件か見に行こうかと思ってな。布団なんかはもう先に送られてるはずだ」

シンジ「はぁ、あの、加持さんが来た時に誰かいませんでした?」

加持「いや? 誰も見てないが。誰かと一夜を過ごしたのか?」

シンジ「いやっ、そんな。……いないなら、いいんですけど」

加持「寝ぼけてんのか? ……まぁ、まずは顔を洗ってくるといい。俺はここでのんびり待ってるよ」

【車内 移動中】

加持「どうしたんだ? ボーっとしてるが、まだ目が覚めないか?」

シンジ「いや、ちょっと考え事を」

加持「好きな子でもできたかい?」

シンジ「ち、違いますよっ!」

加持「そうか。若い内は、色んな子にアタックするのもいいと思うけどな」

シンジ「ミサトさんと同じようなこと言うんですね。僕は、加持さんみたいにはなれません」

加持「なにも俺になれと言ってるわけじゃない。経験がものを言うのさ。本当に好きな子ができた時に、距離の測り方を知ってるのと知らないとでは違う。そうだろ?」

シンジ「それは、そうですけど……僕は、自信がないし」

加持「勇気とは別物だ。自信はあとからついてくる。ないんだったらまずは作ろうとしなきゃな」

シンジ「……はい」

加持「そう難しく考えるなよ。俺はシンジくんが自分のために1人暮らしを選んだのはその第一歩だと思ってるさ」ポン

シンジ「そう、ですか」

加持「流されず、キミの意思で決めた。責任を受け入れたのはウソだったのか?」

シンジ「いえ、それは違います。僕は自分で決めました」

加持「だったらまずはそこからだ。シンジくんは自信をもつ、そのハードルが高いんだろうな」

【第三新東京市立第壱中学校】

アスカ「なにこれ……?」ペラ

ヒカリ「アスカ、おはよう」

アスカ「ああ、ヒカリ、おはよ。ちょっと聞きたいんだけど、この、張り紙なに?」

ヒカリ「えっ? えーと、学内新聞? ロボットのパイロットであります、碇シンジに手をだしたら、停学になる? 先生に怒られてる写真までついてる……なにこれ?」

アスカ「こっちが聞きたいわよ」

ヒカリ「ネルフの人達がやってるんじゃないの?」

アスカ「こんな幼稚な手段するわけないわ。シンジが怪我してたのと関係あるのかしら」

ヒカリ「あっ。……碇くん?」

アスカ「ん、そうか、ヒカリは知らないのよね」

ヒカリ「う、うん」

アスカ「昨日、なんか顔が腫れてきてたのよね。応急処置はされてるみたいだったけど」

ヒカリ「……なんか言ってた?」

アスカ「階段で転んだってさ。丸わかりのウソついちゃって。ああいうやつって浮気とかしたら一発でバレそう」

ヒカリ「そっか。本当の話しなかったんだ」ぼそ

アスカ「だから、この文面見るとそのことと関係あるのは間違いないんだけど。シンジにこんなことしてくれるやつって言ったら……」

ヒカリ「もしかして、鈴原たち?」

【体育館裏】

トウジ「どや? 不良グループの様子は」

ケンスケ「……どうやら沈静化になりそうだ。僕たちが密告したのもバレてないね」

トウジ「はぁ、うまくいったか。しかし、よく考えついたのぉ」

ケンスケ「碇の誘拐でこっぴどくネルフに絞られたのは僕たち生徒じゃない、教員だからなぁ。パイロットになにかあれば自分達の身が危ない」

トウジ「せやから、密告しよう言うたんか」

ケンスケ「ああ、例の2人は停学一週間だってさ。親まで呼びだされちゃって。全校集会開くらしいぞ」

トウジ「そ、そこまでやるんか?」

ケンスケ「碇は無抵抗だったって話だし、徹底的に周知するつもりなんだろ。なにしろエヴァのパイロットは人類を守るという名目がある、そんなのを敵にまわしちゃ生きていけないよ」

トウジ「さ、さすがやな」

ケンスケ「なによりも恐ろしいのはな、情報だよ。村社会村八分という感じで、同級生だけじゃなく保護者からも、今度は逆に自分達が噂される番になった」

トウジ「ワシとしてシンジに手出しができんようになるんなら」

ケンスケ「この相田ケンスケにかかればこの程度はなんてことないね!」

【昼休み】

アスカ「で? それで解決ってわけ? 甘い、甘すぎる」

ケンスケ「な、なんでだよ」

アスカ「不良なんてものはねぇ、元々、世間からのはみだし者なのよ。俺たち悪いだろ、かっこいいだろってもん」

ケンスケ「だから?」

アスカ「あんたの考え方は一般人に対するダメージじゃない。不良を目立たせても喜ぶだけじゃないの?」

ケンスケ「あのなぁ、ここの中学校は世紀末のモヒカンがうろついてる場所じゃないんだよ。そりゃ悪い学校はその通りだろうさ。けどここは、不良って言っても先生に反発してちょっと悪さするだけ」

アスカ「悪さって?」

ケンスケ「例えば、校則で持ち込み禁止のもの隠してたり、ジャージで登校したり」

トウジ「さりげなくワシを一緒にすなっ!」

アスカ「そんだけ?」

ケンスケ「他校と喧嘩したりはもちろんないし、ここって平和なんだぜ?」

アスカ「……バッカみたい。シンジが殴られたのだって草食動物のじゃれ合いみたいな感じじゃない」

ケンスケ「まぁ、そうだけど。エスカレートしないとも限らないだろ」

アスカ「あっそ。問題ないんならそれでいいけど」

トウジ「えらいシンジを心配するやないか」

アスカ「ふん、野次馬根性が働いただけよ」

【シンジ宅】

加持「ダンボールはここに置いとくよ」ガシャ

シンジ「はい、ありがとうございます」

加持「どうだい? 新居のご感想は」

シンジ「内見をしなかったので、不安だったんですけど、パッと見はそこまで悪くはなさそうです」

加持「はじめての一人暮らしだからな。住んでいればいろいろと不満に気がつくだろう、ここの立てつけが悪いとか、な」ギシギシ

シンジ「ほんとだ、気がつかなかった」

加持「どちらにせよここはシンジくんの城だ。誰だって最初はこんなもんさ、金を稼いで歳を重ねれば、持ち家も夢じゃないよ」

シンジ「それはまだ気がはやいと思いますけど」

加持「将来設計ははやければはやいほどいい。なにかと急かす物言いかもしれないが、今を一生懸命に生きろ、言いたいのはそれだけだ」

シンジ「はい」

加持「ペットでも飼ったらどうだい?」

シンジ「ペット可の物件じゃないので」

加持「植物でもかまわないぞぉ。生き物を育てるのはいい。いざとなったら、非常食にもなるしな」

シンジ「そうですね、考えてみます」

加持「どうせだ、必要なものがあれば買い出しに車をだすが?」

シンジ「そうですね……」

ユイ「あら、もう出かけるの?」スッ

シンジ「あっ! ど、どうしてここに⁉︎」

ユイ「こんにちは。シンジ」

加持「はやいご到着で」

ユイ「ええ。息子に会うためだもの。シンジを送り届けてくれてありがとう、感謝します」

加持「いいっすよ。どうせなにかしてくれるわけじゃないんでしょ」

シンジ「か、加持さん?」

加持「シンジくん。俺はこの人に頼まれてキミを送ってきたんだ」

シンジ「えっ」

ユイ「シンジ。あなたを取り巻く環境は、今日から少しずつ変わっていくわ」

シンジ「な、なに言ってるんだよ。昨日はいったい……」

ユイ「疑問がつきないわね。だけど、あなたが納得してもしなくても時間は残酷に、それでいて平等に流れている。あなたが知るべきは、限られているの」

シンジ「いい加減にしてよっ!」バンッ

ユイ「理解を待ってる時間がないのよ。強引かもしれないけど、全てが理解できる頃になれば、きっとあなたは私に感謝をするでしょう」

加持「もう俺は帰っても?」

ユイ「かまわないわ。あの人にはうまく言っておいてね」

シンジ「ど、どうなって……」

加持「シンジくん、すまない」

シンジ「加持さん、な、なんで……?」

ユイ「さぁ、これを受けとって」カシャ

シンジ「なんなんだよそれ……」

ユイ「使徒の目指すモノ。アダムよ」

マグマダイバーまでに役者がほぼ出揃ってしまってる
使徒戦はあるの?

>>252
ユニゾンからマグマダイバーの間に原作の流れから逸脱し分岐してます
尺をとるので使徒戦をやるつもりはありません

読んでもらえればわかる部分もあるのでとりあえず続けます

【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「おじゃま~……って、ちょっとリツコ」

リツコ「あぁ、ミサト」

ミサト「ひどいクマじゃない、それにここ、ひどい有様だしなにがあったの?」

リツコ「年増の癇癪よ」

ミサト「あんたねぇ! 私達同い年なんだからね! それにまだ30にもなってないのに、なに言ってんのよ!」

リツコ「25を過ぎれば下り坂とも言うし、男は若い女の方がいいじゃない」

ミサト「気持ちの問題よ! 見た目だって、まだまだ……」

リツコ「ホント、あっという間よね。ハタチを超えてからは」

ミサト「まぁ、それはそうだけど。めずらしいじゃなぁい、センチメンタルになるなんて」

リツコ「少し、感傷に浸りたいだけ」

ミサト「ふぅん……。リツコがそうなるのって、やっぱり男絡み?」

リツコ「どうかしらね」

ミサト「どうせ私みたいにペラペラ喋るようなのと違ってあんたは喋らないわよね」

リツコ「大学で会った時を思い出すわ」

ミサト「え? いつだったっけ?」

リツコ「呆れた。学食であなたが私に話しかけてきたでしょ」

ミサト「あー、はいはい。そうだったわね」

リツコ「妙に馴れ馴れしく話しかけてきたから、最初は仲良くなれないと思ったりもしたけど」

ミサト「でへへー。その節はどーも」

リツコ「あの頃はまだ、色んなことが楽しくて、私もスレてなかった。いつからかしら。楽しかったはずの遊びや研究に居場所を見つけられなくなったのは」

ミサト「……誰だって、飽きるわよ」

リツコ「いいえ。むなしいの」

ミサト「……」

リツコ「新しい発見があると、価値観が一変し、私は、その時に生きていると実感できた。でも、それだけでは、私は物足りない」

ミサト「どちらか一方ではない、両方、か」

リツコ「叶わない望みを抱くのは、辛いのね」

【ネルフ本部 発令所】

冬月「次の使徒に関する情報はまだなにもなしか」

ゲンドウ「いや、そうでもない」

冬月「なに?」

ゲンドウ「老人達は計画に変更を加えたようだ」

冬月「どういうことだ」

ゲンドウ「アダムの分身に会った」

冬月「な、なんということだ。それでは、死海文書の記載と」

ゲンドウ「だが、重要なのは順番ではない。レイのダミーを急がねばならん」

冬月「しかし、ダミープラグはまだテストが必要だぞ」

ゲンドウ「ロンギヌスの槍とアダムが手中にある。時に迫られているわけではない」

冬月「(違う、それは違うぞ……既に我々は……)」

ゲンドウ「シンジの様子はどうだ?」

冬月「……今頃はアパートについている頃だろう。荷ほどきと掃除で忙しいやもしれんな」

ゲンドウ「そうか」

冬月「息子が最初に初号機に乗らなかったらどうするつもりだった?」

ゲンドウ「ふっ、そうはならんよ」

冬月「なぜだ? なぜそう言い切れる?」

ゲンドウ「重傷のレイをわざわざ見せたのだ。ただ、座ればいい、それだけの条件だった」

冬月「それでも断っていたとしたら?」

ゲンドウ「シンジは乗った。そう誘導されたにしろそれが今の結果に繋がっている」

冬月「お前達夫婦は、どこか似ているのかもしれんな」

ゲンドウ「……」

冬月「変わり者の父と母を持った、子が不憫でならんよ」

ゲンドウ「今さらだ。一線を越えたら二度と後戻りすることはできん」

冬月「まだ遅くはない。息子と時間を取り戻せ」

ゲンドウ「シンジにばかりかまってもいられはしない。ユイが生きていたとしても動きだした歯車は止められん」

冬月「では、どうするつもりだ?」

ゲンドウ「老人達が変更を加えたのならば、合わせるだけだ。こちらも当初の予定を繰り上げ、ロンギヌスの槍を月の外周に向けて破棄する」

冬月「……口実を作ってしまうな」

ゲンドウ「牽制は行うべきだ」

冬月「警告はしたぞ。命取りにならなければいいが」

【シンジ宅】

シンジ「うっ……気味がわるい」

ユイ「怯えなくていいわ。シンジが初号機に乗ったのがはじまりだとすれば、アダムは通過点に過ぎない」

シンジ「アダムっていったい……」

ユイ「これは肉体だけ。いいえ、半身だけと言った方が正しいのかも」

シンジ「もういいよ……出てってよ! 今すぐに!」

ユイ「シンジ……。あなたの為なのよ」

シンジ「うそだっ! 今さら現れて、母親だって言われて……挙句にアダムだの神話だのわけがわからなすぎる!」

ユイ「強制はしたくない。お願いだから、アダムを受け入れて。そうすれば、リリスとの融合を済ますと究極の生命体になれる。どんな願いも叶うのよ?」

シンジ「僕は普通に暮らせればそれでいい! エヴァも使徒もいない、みんなが笑って過ごせるような……そんな生活がおくれればそれで……」

ユイ「できないの」

シンジ「どうしてだよ! 父さんだって、今ならきっと!」

ユイ「大きな流れが許してはくれない」

シンジ「僕にお願いするんだろ! だったら、僕のお願いもきいてくれたっていいじゃないかっ!」

ユイ「全てが終われば、自ずと答えが、シンジの望んだ世界が待ってるわ。あなたがそう望むのなら……きっと!」

シンジ「……なんなんだよっ……そればっかりじゃないか」

ユイ「シンジ、聞きなさい」

シンジ「いやだっ!」

ユイ「黙って聞くの!」

シンジ「……っ!」

ユイ「いい? アダムとリリスは融合することで本来あるべき姿へと還る。でも、その状態では、魂に耐えられず、長い時間肉体を保持できないの」

シンジ「……」

ユイ「あなたの願いを叶える、そのために全てのエネルギーを使い魂は再び還元される。形が変わるだけなのよ」

シンジ「願いを叶えてくれるっていうなら、今叶えてよ!」バンッ

ユイ「……無理なのよ、段階を踏まなければ」

シンジ「頭がどうにかなりそうだ!」

ユイ「そう、やっぱり理解を求めるのは難しいのね」

シンジ「そうだよ、僕たちは時間がたりない」

ユイ「でも、時は待ってはくれない」ピッ

シンジ「……どこに電話してるの」

ユイ「シンジ、これだけは忘れないで。私は、あなたのことを愛している」

シンジ「だったら、もっと親らしいことしてよ……!」

ユイ「ごめんなさい。あなたが世界を創造すればそうなるでしょう」

【ネルフ本部 執務室】

リツコ「お呼びでしょうか」

ゲンドウ「ダミープラグを急ぎたい。レイのパーソナルデータ収集の報告をしろ」

リツコ「必要な情報は既にMAGI上で計算を終えております。しかし、なぜでしょうか?」

ゲンドウ「ゼーレに対する牽制を行いたいのだ」

リツコ「……」

ゲンドウ「試験運用までにはどれぐらいの期間を要する」

リツコ「不確定な要素が多過ぎます。計算を終えているといっても、実際にシステムに最適化をして組み込むにはまだまだですわ」

ゲンドウ「では、質問を変えよう。全体の何パーセントまで完了している」

リツコ「60といったところでしょうか、完璧を望まれるのであれば残り30にさしかかった辺りがもっとも時間を要します」

ゲンドウ「……」

リツコ「レイのデータはダミーと照らし合わせ、細かい誤差の調整が必要になります。急ぎすぎると制御不可になる可能性も」

ゲンドウ「かまわん、動けばそれでいい」

リツコ「なぜ、牽制になると」

ゲンドウ「秘密裏に十三号機までの建造を世界各地で進めている」

リツコ「……では、ゼーレもやはりダミーの採用を」

ゲンドウ「ああ。やつらはパイロットという不安定な要素を排除しているのだ。我々も保険はかけなければならん」

リツコ「承知いたしました、それと、ご子息誘拐の件ですが……」

ゲンドウ「シンジの件は、もういい」

リツコ「理由をお伺いしてても?」

ゲンドウ「やつは生きて帰ってきた、パイロットとしての価値があれば充分だ。余計な人手をまわす余裕はない」

リツコ「犯人の目的は依然として不明です。なぜ生きて返してたのでしょうか」

ゲンドウ「……」

リツコ「誘拐犯にとって傷つけたくはなかった、あるいは、傷つけることが目的ではなかっとしたら」

ゲンドウ「……もういい、下がれ」

リツコ「母さんも、私も……あなたにとってなんなの……!」

ゲンドウ「……」

リツコ「さぞや気分がいいでしょう! 母娘揃って1人の男に!」

ゲンドウ「赤木博士、君には期待している」

リツコ「ふざけないでっ! この後に及んでまやかしをして、隠し事をするつもり⁉︎ シンジくんをさらったのが誰かわかってるんじゃなくて⁉︎」

ゲンドウ「……」

リツコ「ねぇ、私を、愛してる?」

ゲンドウ「…………ああ」

リツコ「うそつき」ぼそ

【ネルフ本部 エレベーター】

アスカ「げっ」

レイ「……」

アスカ「ふん」カツカツ

レイ「何階?」

アスカ「行き先は一緒でしょ。ファーストもシンクロテストしに行くんじゃないの?」

レイ「いいえ。私は赤木博士に別件で呼ばれてる」

アスカ「またエコヒイキぃ? 碇司令のお気に入りだからってたいして成績よくないのにさぁ。あんたずるいわよねぇ」

レイ「羨ましいの?」

アスカ「誰が! 私は正当な評価をしてほしいだけよ!」

レイ「テストで良い結果をだしたとしても、実戦で反映されるとも限らないわ」

アスカ「喧嘩売る気⁉︎ 私はテストも実戦も常に100%の成果をだしてみせる!」

レイ「ヒトに褒められたいのね」

アスカ「あったり前でしょ! 頑張ったらなにかご褒美を欲しくなるのが、避けられない人の習性ってもんでしょー」

レイ「そう」

アスカ「はっ、あんた、そんなことも思わないの。人形だわ」

レイ「私は人形じゃない」

アスカ「人形よっ! 喜怒哀楽を表現するのが苦手なのかと思ったけど、なにも感じないんじゃ生きてないじゃない!」

レイ「生きてるって、呼吸をしていればいいんじゃないの?」

アスカ「あんたの目に世界はどう見えてんのかって話よ! 感動は⁉︎ 嬉しい、こわい、なんだっていい! あんたはそう感じる時あんの⁉︎」

レイ「……わからない」

アスカ「ほら見なさい、やっぱり人形じゃない」

レイ「あなたは、ヒトからの承認願望が強いのね」

アスカ「それのなにがいけないの⁉︎」

レイ「悪いなんて言ってない。過敏に反応するのは、なにかしこりがある証拠」

アスカ「あんたに指摘されるのが我慢ならないだけよ!」

レイ「エヴァに乗れるのが誇らしい?」

アスカ「人類を代表して選ばれたエリートなのよ! 私はあんたみたいなエコヒイキでも、シンジみたいなナナヒカリでもない、自分の力で……」

レイ「どうして、そう言い切れるの?」

アスカ「事実だからよ! ずっと努力してきたんだから!」

レイ「頑張ったのね、でも」

アスカ「なに⁉︎」

レイ「それで、今あなたは幸せなの?」

アスカ「幸せに決まってるわ! 自分で自分を褒めてあげたいくらいよ!」

レイ「そう思いたいのね」

アスカ「ぐっ、あんたなんかに私の何がわかるっていうの⁉︎」

レイ「わからない、なにも。そう見えるだけ」

アスカ「……」

レイ「信じられないの? 自分のことが」

アスカ「違うっ。私は誰よりも自分を信じてる!」

レイ「だったら、揺らがなければいいのに。なぜあなたは今、揺らいだの?」

アスカ「……う、うるさいっ、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」

【ホテル】

ミサト「ここから見る景色も、悪くないものね」

加持「そうか? 俺は自然な緑が好みだね」

ミサト「人類の英知を集結させた武装都市。地下にビル丸ごとを格納するなんて、たいしたものじゃない?」

加持「中身はEVA用の武器だが」

ミサト「それでもよ。人が何かを作る、そして、その作ったものは、美しいわ」

加持「計算された造形的な美しさよりも、不自然な姿が尊い」

ミサト「……」

加持「不規則にあつまった色合いが、山の紅葉のように、華やいで色艶を帯びて見るものの心を惹きつける。計算されたものが美しくないとは言わない」

ミサト「だけど?」

加持「ありのままでも美しいものは美しいのさ」

ミサト「相変わらずキザね」

加持「ま、俺は俺だからな。シンジくんみたいなのがタイプだったか?」

ミサト「あの子はまだ中学生だもの。何色に染まるのであれ、まだこれからよ」

加持「……彼らから見れば大人といえるほどの歳をとった。だが、俺たちの時間は止まったままだ」

ミサト「大人になっても、望むように生きられるとは限らない」

加持「そうさ。ずっと繰り返していく、あの子たちは、どんな未来を想像しているんだろうな」

ミサト「使徒のいない世界?」

加持「生きていく上では使徒がいないに越したことはないが、人は誰だって孤独だ」

ミサト「……」

加持「(どうなってるかね、今頃は)」

【付属病院】

ユイ「うまくいった?」

医師「手のひらへの移植手術は問題なく終わりました」

ユイ「そう、目が覚めたら暴れるかもしれないから念のため拘束具をつけておいて」

医師「了解」

ユイ「……いえ。やっぱりつける必要はない。ここの病院に鈴原トウジの妹が入院していたわね?」

医師「は? は、はぁ、私は存じませんが、総合に問い合わせれば」

ユイ「確認が済み次第、その子と相部屋にして。個室であろうとかまわないから割りこんで」

医師「わかりました、すぐに手続きを終えます」

ユイ「入院期間は……そうね、一週間としましょう。シンジの傷ついた心のリハビリにちょうどいい」

医師「ネルフに気がつかれませんか?」

ユイ「大丈夫。七日で全てカタをつける。シンジが退院してくるころには終わってるわよ」

医師「ゼーレにはそのように報告を致します」

ユイ「いえ、私から直接出向く。お願いしたい案件もあるし」

【ネルフ本部 加持デスク】

加持「ふぅー」カタカタ

アスカ「かぁ~じさんっ!」カシャ

加持「アスカ? まだ帰ってなかったのか?」

アスカ「加持さんを待ってたの。どこ行ってた……この香水の匂い、誰?」

加持「こら、おいっ、抱きつくな」

アスカ「なにしてきたの……?」

加持「大人の付き合いさ。少し、酒を飲んできただけだ」

アスカ「そ。相手はミサト?」

加持「……」

アスカ「やっぱりそうなんだ。なに見てたの? パソコン?」ヒョイ

加持「いや。これは……」

アスカ「なにこれ、シンジ? なに? なによこれぇ⁉︎ どうしてあたしとあいつが⁉︎」

加持「はぁ」

アスカ「どうして⁉︎ なんで私とシンジのDNA配列を調べてるの⁉︎」

加持「実験に関係するからだ」

アスカ「うそ! だって、これ、重なりあってるじゃない!」

加持「近い内に弐号機と初号機で互換性のチェックを予定しているのさ」

アスカ「互換性ぃ? それとなんの関係が?」

加持「ぶっちゃけちまうと、相性が悪いかどうかだな」

アスカ「そんなのわかるはずない!」

加持「自分の精神は遺伝子の制約をあまり受けないと思っているだろうが、そうでもないのさ。食べ物の好み、顔の好み、そういったものはDNAによって操作されているという分析がある」

アスカ「そうだとしても! あくまで一説よ!」

加持「間違っちゃいない。しかし、可能性は想定するものだ。そうだろ?」

アスカ「……」

加持「結果を聞きたいか?」

アスカ「いい……っ! 聞きたくなんかない!」

加持「そうか? ここ見てみろ。なかなか良い数値で」

アスカ「やめて! そんなの聞きたくなんかないの!」

加持「……」

アスカ「どうして? どうして加持さんは振り向いてくれないの? 私が子供だから?」

加持「本当に子供扱いしなくていいのか……?」

アスカ「えっ」

加持「男を甘く見るな」スッ

アスカ「え、あの、そのっ! か、加持さん?」

加持「どうした? 大人の関係になりたいんだろう」

アスカ「ちょ、ちょっと、急で、今日は、その」

加持「ふっ、今夜はもう遅い。葛城のマンションまで送ってくよ」

【車内 移動中】

加持「どうした? 元気がなくなっちまったか?」

アスカ「加持さんって、意外といじわるなのね」

加持「そうか?」

アスカ「そうよ」

加持「アスカが俺に何を求めているのかわかってしまうからな。少し、からかってみただけさ」

アスカ「……誰かに縋っちゃだめなの?」

加持「だめとは言ってない。ただ、アスカが相手にしてるのは人間だ。思い通りにいくとも限らない。……大人の階段を駆け上がるのもいいが、本当に望んでいるのか?」

アスカ「やってみなくちゃわからないじゃない」

加持「シンジくんと足して二で割ったらちょうどいいのかもな。アスカは焦りすぎている」

アスカ「そうやって、わかるようになりたいの。人の行動とか、この人だったらこうだって」

加持「……」

アスカ「みんな誰だって、色んな一面を持ってるものだもの。シンジにガキだって言ってたけど子供なのは私も同じ」

加持「そうだな」

アスカ「抑えきれないの。感情の波を。あたし、どうしたらいいの?」

加持「自分で考えるんだ」

アスカ「なによ……突き放すだけじゃない……」

【ミサト宅 リビング】

アスカ「……」ペラ

『弁当買っておいたから、帰ってきたら食べてねん♪ ミサトより』

アスカ「……」ゴト

ペンペン「クェ~」トコトコ

アスカ「シンジの作ったのって、もうないんだっけ」ガチャ

ペンペン「クァ~」ヒョイ

アスカ「ミサトが食べちゃったのね、残ってるのは、トマトソースか。ペンペン、このお弁当食べる?」

ペンペン「クェッ!」

アスカ「……はぁ。なーにやってんだろ、あたし」

【ミサト宅 駐車場】

加持「こんな時間にお電話してしまって申し訳ない。報告してもかまいませんか?」

ユイ「緊急な用件?」

加持「いや、明日でもよかったんですがね。セカンドチルドレンの精神状態が、不安定になりつつあります」

ユイ「と、いうと?」

加持「思春期にありがちな話っすよ。若いってだけで無駄に悩みますからね。自分の立ち位置がわからなくなる。今ならご子息との関係構築にも良い条件だと思われますが」

ユイ「そう。それで、調査の件は?」

加持「データ上は特に。短い期間ですが一緒に暮らしていた間柄ですし、相性が良くても悪くても外的要因でいくらでも変化します」

ユイ「個人間ですもの。どんなに仲の良い関係であれ少なからず、すれ違いはあるでしょう。シンジは我慢するでしょうけど、セカンドチルドレンはそういうタイプではない」

加持「ごもっとも。発散させる場を設けなければ、人格形成に深い影響を与えます」

ユイ「うまくいきそう?」

加持「当人達次第ですけどね。ま、やるだけやってみますよ」

ユイ「まかせたわ」

加持「それで、シンジくんは今どこに?」

ユイ「付属病院にいる」

加持「アダムの移植も?」

ユイ「気になるのなら見てきたら? あなたは自分の目で確かめたいでしょ?」

加持「いやはや、かないませんな」

ユイ「あなたは特等席で成り行きを見守っていてもいい。その代わり、協力はしてもらう」

加持「わかっています。その為に、行動してますよ」

ユイ「そうね……だけど、釘は刺しておかなきゃ。余計なマネはしないようにね」

【付属病院】

シンジ「う、ここは……」

サクラ「あっ! 目ぇ覚めました?」ヒョイ

シンジ「えっ、サクラちゃん?」

サクラ「夜中にうるさいなぁと思うてたら、シンジさんが入ってきてびっくりしましたよ」

シンジ「夜中に? そうだ……僕はたしか、母さんに……いつっ」

サクラ「痛みます? 麻酔切れてしもたんでしょか? その手」

シンジ「手……? なんだこれ、包帯?」スッ

サクラ「私も術後は痛むから辛さわかります。あの、起きたら水分とるように言われてますけど、飲めます?」

シンジ「そんな……なんだ、なにをしたんだ!」

サクラ「シンジさん?」

シンジ「さ、サクラちゃん、ちょっと離れてもらっていいかな。この包帯はずしたいから」

サクラ「そんなんダメに決まってます! 傷口が開きますよ!」

シンジ「で、でも」

サクラ「なにがあったか知りませんけど、安静にしとかなあきまへん。シンジさんになにかあったら、誰が怪獣から私たちを守ってくれるんですか」ポロポロ

シンジ「あっ」

サクラ「ひくっ……うっ……」

シンジ「ごめん、少しびっくりしたよね。包帯をとるのはやめとくよ」

サクラ「ほんまですか? ……約束してくれます?」

シンジ「うーん」

サクラ「指切りしてくれたらええですよ!」

シンジ「指切り……?」

サクラ「お兄ちゃんとよくやるんです。なにかを約束するとき、こうやって、小指と小指を」スッ

シンジ「……」

サクラ「ゆーびきりげぇーんまん、ウソついたら、はりせんぼーんのーますっ、指切った」

シンジ「そうなんだ、トウジと」

サクラ「うんっ、指切りしましたからね? 約束破っちゃだめですよ?」

シンジ「サクラちゃんの手術は……?」

サクラ「私は、明々後日、やるそうです。難しい手術やって先生も言ってたから、不安で。シンジさんが来てくれて嬉しい」

シンジ「僕がいると、安心する?」

サクラ「もちろんですよっ! わわっ、また泣くんですか? もう、泣き虫なんですね」

シンジ「いや、いいんだ。僕がいていいのなら」ゴシゴシ

サクラ「変なシンジさん。それで、その手、どうしたんですか?」

シンジ「……僕が聞きたいぐらいだよ」

加持「アダムだよ」

シンジ&サクラ「えっ?」

加持「失礼。扉が空いてたから勝手に入らせてもらってた。鈴原サクラちゃんだね、はじめまして」

サクラ「はぁ、はじめまして?」キョトン

シンジ「加持さん、アダムって昨日母さんが見せてくれたあの……!」

加持「その通りだ」

シンジ「な、なんでそんなことしたんですか⁉︎ 加持さんも母さんも何やって……」

加持「あまり興奮するとよくない。魂は別だが、シンジくんは今後攻撃性が強くなるかもしれないからな」

シンジ「意味がわからないって言ってるでしょ⁉︎」キッ

加持「場所を変えようか。その子を巻き込むつもりか?」

サクラ「え? あ、あの……」

シンジ「いいですよ。どこにでも行きます」

加持「ついてこい。男と男の話だ」

【付属病院 屋上】

加持「どこから聞きたい?」

シンジ「どうなってるのかなんてどうでもいいんですよ……! 僕にいったい何をさせようって言うんですか⁉︎」

加持「ある終着点があるとして、そこに至るまでに最良の手段を選択しようとしているだけだ」

シンジ「僕に関係ないところでやってくださいよ!」

加持「シンジくんは紛れもなく中心にいるが、関係ない人なんていないのさ。人類全体、いや、地球上にいる全ての生命体にとっての話でもある」

シンジ「……母さんも加持さんも、僕の気持ちを裏切って楽しいですか」

加持「運命なんだよ。シンジ君が碇司令と碇ユイ博士の息子である、たったそれだけの話なんだがね」

シンジ「これまで僕に加持さんがしてくれてきたのは、成長だって言ってくれたのは、全部ウソだったんですか⁉︎」

加持「ああ、そうだ。俺は目的の為にキミを利用している」

シンジ「……っ!」ギリッ

加持「それで、どうする? 腹を割って話をしているが、シンジ君はまた塞ぎこむのか?」

シンジ「勝手すぎるじゃないかっ!」

加持「みんな勝手なもんさ。自分さえよければそれでいい、そう思う人間だってごまんといる、だが、それがどうした? 大事なのは自分がどうありたいか。貫き通す信念だ」

シンジ「都合が良いだけだ!」ギュゥ

加持「俺を殴りたいか?」

シンジ「……それで解決するんですか」

加持「ふっ、アダムの影響があるかと思ったが、そうじゃないみたいだな」

シンジ「なんで、なんで僕ばっかり」

加持「これ、なんだと思う?」カチャ

シンジ「そ、それって、なんでそんなもの」

加持「おいおい、質問の答えになってないぞ。これはUSPっていう拳銃だ。見るのは初めてかい?」

シンジ「……」

加持「俺の過去の話については真実だ。話をしたのはシンジ君に近づく為という下心がなかったとは言わないが」

シンジ「だから、なんだって言うんですか」

加持「どうしても舞台から降りたいのなら、今、この場で殺してやってもいい」

シンジ「えっ」

加持「それもひとつの方法だからな。キミが抗う手段で最も有効的なのは、主役の死という選択肢だ」

シンジ「今度は突然、[ピーーー]って?」

加持「ああ。そうなれば計画のすべては破綻する。残された俺たちに待っているのは破滅だが、どの道、世界は作り変えられてしまうしな」

シンジ「勝手にしたらいいじゃないですか。もうどうだっていいよ」

加持「……やはり、短期間でそう簡単に人は変わらないな」

シンジ「こんな風にされて変われるわけないでしょ⁉︎」

加持「そうだな。だが、この状況でもシンジ君は成長を見せなければならない。望む環境では無理なんだよ、キミは」チャキ

シンジ「……そうですか、僕はもう、母さんも、加持さんも信じません」

加持「少しは抵抗してみたらどうだ?」

シンジ「ひと思いにやってください」

加持「死ぬというのは逃げだ。今生きている人たちを見捨てるのか?」

シンジ「死ねと言ったのは加持さんじゃないかっ!」

加持「そんなことは一言も言ってないぞ」

シンジ「拳銃を手に持って、言ってるのと同じですよ! 僕に何ができるって言うんですか!」

加持「考えてみたのか?」

シンジ「……頑張ろうと思ったんだ……嫌な自分と向き合って、僕がエヴァに乗れば助かるひともいるってわかったから……!」

加持「シンジ君がこのまま流れに乗るだけじゃ、人類の救世主であると同時に破滅をもたらす者でもある」

シンジ「わけがわからないんですよっ! 僕はエヴァに乗って使徒と戦えばいいんじゃなかったんですか⁉︎」

加持「残念だが、考えるべきはそれだけではない」

シンジ「サクラちゃんが、僕がいてくれてよかったって言ってくれたんだ。それだけを考えて、まずは一歩ずつ踏み抜いて何が悪いんだよ!」

加持「やれやれ、これじゃ堂々巡りだな。そうだな……あの子も殺そう。シンジくんは死ぬんだ。かまわないだろ?」

シンジ「な、何言ってるんですか」

加持「死んだあとまで心配するのか? 気苦労が耐えないね」

シンジ「やめてくださいよ! 僕だけでいいでしょう⁉︎」

加持「立場というのを考えてみろ。決定権はどちらにある? 殺す道具を持ってるのは俺だ」

シンジ「ぐっ」

加持「そこはようやく理解してくれたみたいだな。ピンチだぞ? どうする?」

シンジ「どうすれば……」

加持「ふっ、自分についてとなると自暴自棄になりふてくされるのに、そんなにあの子が大切か?」

シンジ「今考えてるんですよ! 余計な茶々をいれないでください!」

加持「こいつは失敬、ごゆっくりどうぞ」

【10分後】

加持「タバコきれちまったな」カサカサ

シンジ「……」

加持「そろそろなにか考えついたかい?」

シンジ「待ってください! もう少しですから!」

加持「よっこいせっと……いくら待っても無駄だろ。考えつかないものは」

シンジ「さっきからめちゃくちゃですよ! 考えつかなくちゃ[ピーーー]んでしょ⁉︎」

加持「気が変わった。やめる」

シンジ「……は?」

加持「俺の気まぐれだよ。振り回されてみてどうだった?」

シンジ「く、このっ!」ガシッ

加持「……それでいい。時には暴力もありだ。考えなくていい、今必要だったのは後先考えずやる行動だ」

シンジ「バカにしてますよ!」

加持「気がついたか?」

シンジ「……っ!」ブンッ

バキッ

加持「……」クイ

シンジ「はぁ、はぁ」

加持「シンジ君はまず考えようとする。自分が傷つくのが、そして他人を傷つけるのがこわいんだろう。だが、誰かを守るにはそれらを強いられる場面もある」

シンジ「……」

加持「自分を犠牲にするという意味を履き違えちゃいけない。エヴァに乗り命をかけるだけが能とは限らないだろう?」

シンジ「僕は……」

加持「さて、ここまでかな。こわい人に釘をさされてるのにこんなことしてるんでね」

シンジ「……母さんですか」

加持「シンジ君は、このまま葛城のマンションに行ってくれ。夕方までに帰ってくれば大丈夫だ」

シンジ「ミサトさんの?」

加持「今日は日曜日だからな。行けばわかるよ」

【ミサト宅 玄関】

アスカ「はぁ~い」ガチャ

シンジ「こんにちは」

アスカ「なんだシンジか、なにしにきたの? いきなりホームシック?」

シンジ「いや、そうじゃないけど」

アスカ「別にどーでもいいけど。ミサトに用事なら今は寝てるわよ」

シンジ「……足元にあるゴミなに?」

アスカ「片付けめんどくさくって。あがってくの?」

シンジ「そ、そうだね。そうしようかな」

アスカ「あっそ、それなら何かご飯作ってよ。どうせ待ってる間、暇でしょ」

シンジ「……はぁ、お邪魔します」

【リビング】

シンジ「う、うわぁ……」

アスカ「ソファーにミサトが脱ぎ散らかした衣服があるから。それと、台所の洗い物もやって」

シンジ「ちょ、ちょっと離れただけなのに」

アスカ「女同士だけっていうのも考えものよね。気遣いとかないから下着も普通に置いてあるし、ほら」ピラ

シンジ「うわぁ⁉︎」

アスカ「……あんた、なに今さら顔赤くしてんの?」

シンジ「い、いいからはやく洗濯機にいれてきてよ! それミサトさんのだろ!」

アスカ「当たり前よ。私のを見せるわけないじゃない」

シンジ「なんで片付けしようとしないんだよ」

アスカ「私はパイロットなんだし、する必要がないもの。役割分担も一応決めてあるけど、ミサトは帰ってこなかったりするしね」

シンジ「した方が住みやすいに決まってるじゃないか」

アスカ「うっるさいわねぇ。正直に言うとめんどくさいのよ」

シンジ「……はぁ」

アスカ「ほらほら、あんたの数少ない役立つポイントなんだから……あれ? シンジ、手どしたの?」

シンジ「あぁ……ちょっと、切っただけだよ」

アスカ「またどうせボーっとしてたんでしょ。とりあえずお腹すいたから何か作って」

シンジ「その前に、テーブルの上の空き缶とか弁当箱の空とか捨てないと……」

アスカ「待てないぃ~! あたしがなにかしてって言ったらあんたは頷くだけでいいのよ!」

シンジ「と、とにかく、座っててよ。急いで作るから……ご飯は炊いてるの?」

アスカ「炊いてると思う?」

シンジ「パ、パンは?」

アスカ「消費期限きれてるやつならそっち。パンってそんなに日持ちしないのよね」

シンジ「このままじゃゴミ屋敷じゃないか……」

アスカ「ネルフなんだから家政婦でも雇えばいいのにさぁ、経費で落とすとかなんとかいって」

シンジ「ミサトさんは、なにも……言うはずがないか。部屋はいつも散らかってるし」

アスカ「あたしも別に神経質な感じじゃないけど。あ、そうだ。あんたたまに来なさいよ」

シンジ「えぇ? いやだよ、なんで僕が」

アスカ「適材適所ってやつよ。私が使徒を倒すかわりに、あんたはこのあたくし様に住みやすい環境を提供するってわけ」

シンジ「僕だってパイロットなのに」

アスカ「弐号機の添え物みたいなやつでしょ」

シンジ「はぁ……とりあえず、冷凍してあった鶏肉があるからこれでなにか作るよ」

アスカ「はやくね!」

【調理中】

シンジ「ねぇ、アスカ」カチ

アスカ「ん?」

シンジ「アスカだったら、拳銃持ってる相手にどうやって対処する?」

アスカ「はぁ?」

シンジ「もしもの話だよ、作ってる間は暇だろ」

アスカ「どこからきたもしもかは知らないけど状況によるでしょ」

シンジ「例えば、人質みたいな人がいて、力で敵わない相手が銃まで持ち出して脅してきたとしたら」ジュー

アスカ「とりあえず考える時間を稼ぐでしょうね」

シンジ「いきなり掴みかかったりする?」

アスカ「あんたバカぁ? 圧倒的にこっちが不利なのにそんなのするわけないじゃない」

シンジ「そうだよねぇ」

アスカ「どこのサイコパスに言われたの?」

シンジ「さ、サイコパス?」

アスカ「そんなの言い出すなんてきっと異常者に決まってるもの」

シンジ「(加持さんなんだけどなぁ)」

アスカ「それとも、本当に思いついただけ?」

シンジ「うん、まぁ。……そうだよ」

アスカ「なら、あんたの頭がおかしいって話ね。常識でものを考えなさいよ」

シンジ「あは、あはは……はぁ」

【30分後】

シンジ「はい、できたよ」コト

ミサト「なんかいい匂いするぅ~」ガラガラ

アスカ「犬っころか」

ミサト「おやぁ~シンジくんじゃない。いらっしゃい」

シンジ「作戦本部長。おはようございます」

アスカ「ぶっ、さくせんほんぶちょおぉ?」

ミサト「あぁ、もういいわ。今まで通りミサトさんに戻しましょ」

シンジ「え、でも」

ミサト「いいの。私が悪かった、ごめんね。シンジくん」

シンジ「僕は別に」

アスカ「ふん、いただきまぁ~す」

ミサト「あら? アスカがシンちゃんの作った料理にいただきますなんて言うのはじめて?」

アスカ「……別に、ぬぁんてことぬぁいわよ」もごもご

ミサト「おいしいものね、手料理は」

シンジ「そんなに上手じゃないと思いますけど」

ミサト「真心がこもっているもの。家庭で作る料理は、スーパーの惣菜や外食とはまた違ったものなのよ」

シンジ「はぁ」ポリポリ

ミサト「さぁ~てっ、それじゃ私もいただきましょうか!」

シンジ「あ、すいません。ミサトさんの分は」

ミサト「……えぇっ⁉︎ ないのぉ⁉︎」

シンジ「鶏肉が一枚しかなかったので」

アスカ「あふぇないわよ」もごもご

ミサト「あげないって言いたいのね、食べ物の恨みはこわいわよ」

アスカ「みふぁとが、んっ、自分で作ればいいじゃない」

ミサト「いいじゃない! ちょっとぐらい分けてくれたって!」

アスカ「ここは陸の孤島よ。食べ物がほしいんだったら調達するのね、サバイバルの基本よ」

ミサト「アスカ、私のマンションをなんだと思ってるの」

ミサト「シンジくん、手、どしたの?」

アスカ「少し切ったんだって」

ミサト「……そう、病院には行った?」

シンジ「付属病院で治療を受けてます」

ミサト「そっか! なら問題ないかな、なにかあったらキチンと報告してね?」

シンジ「はい、わかりました」

アスカ「過保護すぎ、男なんだからちょっとの傷がなによ」

ミサト「そういうアスカだって、シンジくんが来たら元気になってるじゃない」

アスカ「へ?」

ミサト「はぁ、自覚なし、か。いつもの環境に戻ったからなのかもしれないわね」

アスカ「元気じゃなかったわけじゃないし、べつにシンジが来たからってなにも……」

ミサト「突然の変化は、なにもシンジくんだけではないわ。今まで一緒に暮らしいた私達に起こりうる話よ」

アスカ「あ、あたしが! このバカがいなくなったのに動揺してるってーの⁉︎」

ミサト「そうは言ってない。だけど、変化は常にあるってこと。私達にも、そして、シンジくんにもね」

アスカ「うえぇ……」ジトー

シンジ「なんだよ、こっち見て」

アスカ「ふんっ!」プイッ

【ネルフ本部 培養液の中】

レイ「……」ゴポゴポ

リツコ「関節部に異常は?」

レイ「問題ありません」

リツコ「そう、あと一時間浸かったら出ていいわよ」

レイ「はい、あの、赤木博士」

リツコ「なに?」カタカタ

レイ「ヒトと使徒の違いってなんですか?」

リツコ「……どういう意味かしら」ピタ

レイ「弐号機の人から、私は人形だって言われました。どう捉えていいのかわからなくて」

リツコ「アスカがあなたを?」

レイ「はい」

リツコ「ぷっ……くっくっくっ」

レイ「おかしいですか?」

リツコ「的を得ているわね。あの子、見る目がある」

レイ「……」

リツコ「レイは存在価値を探ろうとしているの? それは、人として? それともリリスという使徒として?」

レイ「よく、わかりません」

リツコ「いいえ。あなたはわかっているはずよ、器でしかないくせに……!」

レイ「……あの」

リツコ「自己を確立させてどうするつもり? ……まさか、碇司令に目をかけてもらおうって魂胆? 今以上に」

レイ「……」ゴポゴポ

リツコ「人にも、使徒にもなれないのよ! ただの魂の入れ物でしかないわ! 中間の存在があなた!」

レイ「はい」

リツコ「培養液という生命のスープに浸らなければ、長期間生きられない身体が物語っているでしょう? まわりを見てごらんなさい。機能に不備があれば、いくらでも変わりはいる」

レイ「私は、人形?」

リツコ「私達は神ではないのよ! 人の創造はできない! くだらない質問はやめて!」バンッ

レイ「……はい」

リツコ「ふぅ……私、あなたが嫌いになりそうなのよ。その顔を見る度に、誰をモデルにしてるか確認させられてしまうから」

レイ「……」

リツコ「安心なさい。すすんで壊すようなマネはしないわ、いくら変わりがいると言ってもね」

レイ「私は、死んだらどうなりますか」

リツコ「無になるだけよ、その先に希望でもあると?」

レイ「今の、記憶は……」

リツコ「引き継ぐのは不可能よ」

レイ「……」

リツコ「なに? 不満?」

レイ「どうしてなのか、知りたいだけです」

リツコ「人のフリがうまくなったのね……いいわ、感情が芽生えたという前提で答えてあげる」

レイ「感情が芽生えた?」

リツコ「興味から全てははじまるの。知恵の実を食べたのも唆されたとはいえ、好奇心のせいだしね」

レイ「……」

リツコ「質問は、死ぬとどうして引き継ぎができないのか? でいいのかしら」ギシ

レイ「はい」

リツコ「魂が借りものだからよ。芽生えようとしている感情は、リリスの見ている夢みたいなもの」

レイ「夢……」

リツコ「幻を見ている時は鮮明だけれど、次の場面に切り替わったら前に見てた映像は覚えていられない。もちろん、覚えている、という例外がないわけでもない」

レイ「はい」

リツコ「しかし、100%に限りなく近い確率で覚えていないでしょうね。魂を新しい器に入れ替えるというのはそういう話よ」

レイ「……」

リツコ「あなたという生命はもともとないの。これでわかった?」

レイ「わたしは、いないのと同じ」

リツコ「ええ、そうなるわね」

【人類補完計画委員会 特別収集会議】

ゼーレ02「生きていたとはな」

ユイ「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」

ゼーレ04「なぜ我々に接触してきたのだ?」

キール「その問いには私から答えよう。ユイ博士は、我々に最も有力な協力者として戻ってきた」

ゼーレ02「真意は?」

キール「補完計画の完遂に他ならない。証明として、碇が別のシナリオを目論んでいた事実を得たらしめた」

ゼーレ03「中間報告書には目を通してある。本当なのかね? 抜粋すると、碇ゲンドウがキミに会う為に我々とは違う、別の結末を用意していたとは」

ゼーレ05「信じがたい話だよ。人類と個人を天秤にかけるだけでも正気とは思えない」

ユイ「事実ですわ。側近である冬月副司令からのインサイダー(内部告発)です」

ゼーレ06「ふん、まったく愚かな男だ。生きているのならば、目的は水泡と化しているではないか」

ゼーレ02「奴には然るべき罰を与えねばならない」

キール「……異議はなし……だが、タイムスケジュールに問題があってはならない」

ゼーレ03「それでは、私の国から」

ゼーレ02「君の国は責任が嫌いだろう? なにかあった時にゴタゴタするのではないかね」

キール「ネルフの後任者は碇ユイ博士に一任する」

ゼーレ一同「……」

ユイ「懸念は心中お察しします。私がもし、もっとはやく姿を現していたら、夫はこのような算段をしなかったでしょう」

ゼーレ06「察しがついているならば問おう。キミが我々に死海文書とは違う、裏死海文書を渡した時にこうなると予想できていたのでは?」

ユイ「私は、自分の願いを叶えようとするだけで余裕はありませんでした」

ゼーレ02「薄っぺらい戯言を信じろと? なぜ夫を蹴落としてまで後釜に座ろうとする」

ユイ「取るに足らない言葉よりも結果を。私に皆様方の意向に背く意思はありません、必要であると判断なされば監視をつけてくださっても結構です」

キール「もうよい。ユイ博士、キミが戻ったのは願いの成就の形が変わったということであろう」

ユイ「はい」

キール「では、その願いは我々の悲願と一致するものか?」

ユイ「相違ありません」

キール「以上だ。異議のあるものは?」

ゼーレ一同「……」

キール「約束の時はそう遠くはない。ユイ博士、初号機による計画の遂行を望むぞ」

ユイ「承知いたしました、コアの問題も既に手をうっております。それと、もう一つ、皆様方に報告させていただきたいことが……」

【ネルフ本部 女子ロッカールーム】

レイ「作り物の人形。この鏡にいるのは……」

レイ(少女)「あなたはあなた」

レイ「あなた誰?」

レイ(少女)「くすくす、私は一人目のあなた、同じものがいっぱいいるのも私。いらないのも私」

レイ「なぜ、あなたがわたしの中にいるの? 残っているはずのない、あなた誰、あなた誰、あなた誰」

レイ(少女)「いらないものがいっぱい、赤いヒトは嫌い」

レイ「私は誰、私はなに、私は何、私は何」

レイ(少女)「心の入れ物。それは魂の座」

レイ「そう、ひとつになりたいの?」

レイ(少女)「それはとても気持ちの良いこと」

レイ「ひとつなりたいのは誰」

レイ(少女)「私じゃない、ひとつになりたいのはもう一人の私」

レイ「還りたいのね」

レイ(少女)「うふふっ、あなたは変化している、私もあなたも同じ」

レイ「変化?」ポト

レイ(少女)「顔を鏡でよく見て」

レイ「これは、水? 涙……泣いてる、ないてるのは、わたし……?」

【ミサト宅 リビング】

シンジ「それじゃぁ、僕はそろそろ……」ガタ

ミサト「もっとゆっくりしていけばいいのに。なんなら夕飯の支度もお願いしようかしらん?」

シンジ「病院に夕方までに帰ってくるように言われてるので」

ミサト「病院? 日帰りじゃなくて入院してるの?」

シンジ「……よくわからないんですけど、病室が用意されていたのでたぶん」

ミサト「どうゆうこと? 私はなにも聞いてないわよ?」

シンジ「加持さんに聞いてください」

ミサト「なんでまたあいつの名前が出てくるわけ……!」

アスカ「入院するほどひどい怪我に見えないけどねぇ」

シンジ「うん、僕もそう思う。もしかしたら、1日だけなのかもしれない」

アスカ「あ、そうだ。それはそうと、ミサト」

ミサト「ん?」

アスカ「シンジに時給を払って家政婦にしたらどう?」

ミサト「シンジくんを?」

アスカ「私達は掃除炊事洗濯をする人材を確保できるし、シンジは生活のお小遣いを稼げるでしょ。我ながらナイスアイディアね」

ミサト「ふぅ~む」

シンジ「でも、父さんが許してくれるかな」

ミサト「シンジくんの言う通り。碇司令からはシンジくんを部外者として扱えと命令がある。意図するところは厳しい環境に置きたいからだと推測できるわ」

アスカ「こいつは既に引っ越してる、とっくに無関係よ。雇用主として雇うのに何がいけないの?」

ミサト「甘えられる環境に招き入れるのが問題なのよ。私達はシンジくんをよく知っているし、甘やかしてしまうでしょ?」

アスカ「私は甘やかしたりしないわよ。時給分の働き以上に馬車馬のようにこきつかってやる」ビシ

シンジ「はぁ……」ガックシ

ミサト「ア、アスカはそれでいいとしても碇司令から見たら、やっぱり、ね」

アスカ「あーもう! めんどくさいわねぇ! イライラするぅ!」

ミサト「ふむ、でも、家政婦か。シンちゃんは学業もあるし、肉体労働に向いてるようにも見えないし……いいヒントもらったかも」

アスカ「そんなの与えたつもりないんだけどぉ? 私が問題視してるのはあ・た・し・の! 生活クオリティよ」

ミサト「えっ? なにか不満あるの?」

アスカ「あるに決まってるでしょ! 食事! どうするか話してたのもう忘れたの!」バンッ

ミサト「あ、あぁ~そうだった。う、うーん。それはまた別件でウチに家政婦を雇うと検討するとして」

アスカ「ミサトに任せて大丈夫か不安しかないわ……」

シンジ「あの、僕はそろそろ」

ミサト「わかった。入院の件も含めてネルフに行くから送っていきましょうか?」

シンジ「いえ。父さんの言いつけもありますし」

ミサト「真面目ね、バレなきゃ問題ないわよ」

アスカ「それが甘やかしてるっていうんじゃないの」ジトー

ミサト「うっ」

アスカ「はぁ、シンジはひとりで帰りなさい」

シンジ「うん、そうする。……アスカ」

アスカ「なに?」

シンジ「パスタなら茹でるだけだから、あと、毎日は無理かもしれないけど、料理で困ったら言ってよ。僕でよければ作りにくるから」

アスカ「……なによ、突然」

シンジ「困ってるんだろ?」

アスカ「ぐっ、ま、まぁ、そうだけど?」

シンジ「だったら、気にすることないよ」

アスカ「しゅ、殊勝な心がけね!」

ミサト「こぉら。アスカ、そういう時は、ありがとう、でしょ?」

アスカ「ふんっ!」プイ

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「シンジくんを?」

ミサト「そ。末端の職員の中からパイロットと個人的に接点が少ないのを見繕ってやればいいんじゃないかと思って」

リツコ「それでも、建前上は碇司令のご子息という肩書きがあるのよ。お許しになるかしら」

ミサト「これまでだって、無関心を貫き通してきた人だもの。何かあっても知らぬ存ぜぬであれば、肩書きは重要視しないんじゃない?」

リツコ「末端というと、作業員の誰かになるわね」

ミサト「女性相手の方がいいんじゃないかしらね。そう思わない?」

リツコ「ミサトのその口ぶりは目星をつけた人がいるのね、誰?」

ミサト「マヤちゃん」ニコ

リツコ「マヤに?」

ミサト「そぉ! どうかしら? あの二人合うと思うのよね」

リツコ「合うって、やめなさい。近所のおばさんじゃあるまいし」

ミサト「お、おばっ……⁉︎ 今のは聞き捨てならないわよ⁉︎」

リツコ「マヤは嫌がると思うわよ。命令であれば従うでしょうけど、シンジくんは年頃の子だってわかってる?」

ミサト「まだまだガキんちょよ。そんなに意識しなくてもいいんじゃない?」

リツコ「ふぅ、どちらにせよ、碇司令のご意向を伺ってからになる」

ミサト「ええ、その点については同意する。それと、シンジくんなんだけど、入院してるってなにか聞いてる?」

リツコ「……入院? まさか」

ミサト「マジみたいなのよねぇ。手を怪我したって聞いたけど、そんなにひどいようにも見えないし」

リツコ「ありえないわ。報告はなにもきていない」

ミサト「リツコも初耳か。加持はどこにいるのかしら……」

リツコ「なぜそこで加持くんが?」

ミサト「シンちゃんから言われたの。加持さんに聞いてみてくれって」

リツコ「それは、つまり……」ガタ

ミサト「リツコ、どしたの?」

リツコ「いえ。なんでもない、なんでもないわ。碇司令には私から報告しておく」

ミサト「そう?」

リツコ「ええ。シンジくんの家政婦の件も合わせて伺っておくから、後で連絡するわ」

【数時間後 ラボ】

加持「お邪魔しても?」

リツコ「……どうぞ」コト

加持「コーヒーを俺ももらっていいかな?」

リツコ「ええ、冷めてるから、暖めなおすまでに少し話でもしない?」

加持「かまわないよ」

リツコ「ミサトが探してたわよ。なんでも、シンジくんが怪我したんですって?」

加持「ああ。引っ越しの時の荷ほどきでね」

リツコ「それはウソね」

加持「どうしてかな?」

リツコ「私達に報告が上がってきていないのは不自然だもの。碇司令でさえ知らないんじゃなくって?」

加持「だとしたら?」

リツコ「加持くんはなにを知っている、いえ、どこまで状況を把握しているの。碇司令の奥様は本当に生きているの?」

加持「ああ、生きてるよ」

リツコ「……そんな、どうやって」

加持「ユイ博士が初号機に取り込まれた際に試みたサルベージは失敗した。だが、彼女は自力で戻ってきたんだよ」

リツコ「まさか、ありえないわ! コアに取り込まれてしまったのよ⁉︎ 肉体はなくなってしまっているはず!」

加持「どうやってやったのか方法はわからないが、俺は会ってるんでね」

リツコ「うそ、うそよ」

加持「このことを碇司令も知っているとしたら?」

リツコ「……っ!」キッ

加持「睨んでも碇司令とリッちゃんのこじれた関係は、俺が悪いわけじゃないぞ」

リツコ「今は、時間がほしい」

加持「恋愛というものは、どちらか一方に責任の全てが偏るわけじゃない。行動をするのは男だが、受け入れるのは女だ。双方合意の上で成り立っているからな。強制された関係でもないんだろう?」

リツコ「わかってるわ! ロジックじゃないのよ!」

加持「現実から逃げるのをやめたらどうだ? 碇司令がどちらを選ぶか、リッちゃんを選ぶはずが……」

リツコ「やめて!」

加持「……自分一人で抱える前に、俺かミサトに相談してくれれば」

リツコ「今さら友人面するつもり⁉︎ バカにしないで! 加持くんは最初から生きているって知っていたんでしょう⁉︎」

加持「そうだがね、騙したのはお互い様だ。リッちゃんが碇司令の企みに加担しているのも俺は知っている」

リツコ「そう……。奥様が生きているのなら、きっと不倫相手を殺したいのでしょうね」

加持「ユイ博士はなんとも思ってないさ。いずれ滅んでしまう世界だからな」

リツコ「加持くんは、ユイ博士側にいるのね」

加持「ああ。今は彼女の手足となって色々調査している最中でね、地下にある大量のクローンも見せてもらった」

リツコ「そこまで……」

加持「あれがダミー計画の正体か?」

リツコ「黙秘をさせてもらうわ」

加持「ふっ、かまわないが、俺も手荒いマネはしたくない。リッちゃんは誰のために黙ろうとしているんだ?」

リツコ「それは」

加持「いつもの冷静沈着、頭脳明晰な姿からは想像もつかないな。その自信のない、揺れた瞳は」

リツコ「……」

加持「リッちゃんは利用されていたんだ。碇司令がユイ博士に会うために。補完計画の真の目的がそうだと知っていたか?」

リツコ「うそ、うそだわ、そんなのうそよ」

加持「ここに、副司令の肉声を録音したテープがある」カチ

『碇ゲンドウは、碇ユイに会うために補完計画のシナリオを修正し、別の結末を用意した』

加持「……」カチ

リツコ「副司令が、なぜ……」

加持「合成はしていない。あとでいくらでも検証してもらっても、なんなら副司令に直接聞いてもいい……どちらの側にいるのかもね。それでも、碇司令に忠誠を誓うのか?」

リツコ「……」

加持「もういいだろ。悪いようにはしない、正直に話してくれ」

【付属病院 病室】

トウジ「な、ななな、なんでシンジがここにおるんや⁉︎」

シンジ「ん? ああ、トウジ。来てたんだ」

サクラ「もぉ、お兄ちゃんおっきな声でやめてよ! 恥ずかしい!」

トウジ「ま、まさか、うちの妹のかわいさにこうしてちょくちょくこっそ……」

サクラ「お兄ちゃん! 変なこと言うのやめてっ!」

シンジ「ち、違うよ、僕も昨日からこの病室に入院してるんだ」

トウジ「そ、それやったら、このベットで運ばれてきたやつって」

サクラ「ごめんなさい、今説明しようと思ってたんやけど」

トウジ「まてまてまてぇい! 説明になっとらへんやないか! なぜたくさんある病室でここなんや⁉︎」

シンジ「あ、そ、それは、僕にも……」

サクラ「……私が、お願いしたの」

トウジ「さ、サクラが?」

シンジ「えっ」

サクラ「せやから! もうシンジさんに問い詰めるのやめて!」

トウジ「うーん、サクラの頼みやったら、うーんうーんうーん」

サクラ「ほんますいません、シンジさん」

シンジ「いや、僕は。でも、あの」

サクラ「いいんです、私嬉しかったのは本当ですし」

トウジ「シンジっ! ワシはお前がロリコンやないって信じとるぞ! しっかりしとるように見えても小学生なんやからな!」ガシッ

サクラ「お兄ちゃん! だからやめてってばぁっ!」

サクラ「それはそうと、遅かったですね、外出許可がでるなんて羨ましい」

トウジ「そういやぁ、シンジはどこが悪くて入院なんかしとるんや」

シンジ「手、なんだけど。ちょっと切って」

トウジ「それで入院か? 縫うような深い切り傷でも普通なら日帰りやろ? 」

サクラ「入院して治るならそれでええやんっ!」

トウジ「いや、ワシはやな。友達を心配して」

サクラ「ウソや! なんでそんなシンジさんに近いの!」

トウジ「ぐぬぬぅっ!」

シンジ「……トウジ、サクラちゃんには僕も救われてるんだ。もし、嫌だったら今からでも病室を変えてもらうのも」

トウジ「それはあかん! サクラが希望したことや! そうやろ⁉︎」

サクラ「あ、う、うん」

トウジ「男と女が一緒の病室になるなんて聞いた試しないが、小学生やからなぁ、問題はないやろ。シンジ、すまん、サクラをよろしく頼む」

シンジ「うん、僕でできるならなんでもする」

トウジ「……ああ! サクラが転院できたのもシンジのおかげや。ワシは信じとるで」

サクラ「もう、本当に恥ずかしい」

トウジ「しかしやな、センセ。綾波とゴリラ女に加えてサクラをハーレムにいれるのだけは許さんぞ?」

シンジ「は、ハーレムって何言ってるんだよ」

トウジ「いいや! ワシは言わなあかんのや! サクラと付き合いたいんなら、お互いに歳を重ねてやな、そんでもって色々関係を清算してから、きちんと申し出を……」

シンジ「僕は付き合いたいだなんて一言も!」

トウジ「なんやと、ワレェ⁉︎ 妹じゃ不満やって言うんか⁉︎」

サクラ「お兄ちゃん!」

【病室 深夜】

サクラ「あの、シンジさん、起きてます?」

シンジ「うん? どしたの?」

サクラ「結局、面会時間ギリギリまで騒がしくてごめんなさい」

シンジ「いいよ、それにしても、サクラちゃんだいぶ調子いいみたいだね。前は長時間話するのきつそうだったのに」

サクラ「あ、はい。波があるんですけど、ここは鎮痛剤の融通を少し聞いてくれるので」

シンジ「そうなんだ? 前の病院は良くなかったの?」

サクラ「いえ、そんなわけでは。ただ、ちょっと、ちょっとだけ先生がこわい人で。うちの設備じゃどうしようもないって言うばっかりやったから」

シンジ「……そっか。それなら安心だね」

サクラ「シンジさんがこの病室にきた本当の理由ってなんですか?」

シンジ「ごめん、僕にもわからないんだ」

サクラ「そうなんですか」

シンジ「うん、たぶん、母さんの仕業なんだろうけど……いつっ!」

サクラ「ど、どうしたんですか? 痛みます?」

シンジ「なんだ? 手が動いたような……」

サクラ「シンジさん?」

シンジ「この感じ、綾波レイ? 綾波が近くにいる?」

サクラ「えっ、ど、どうしたんですか、急に」

シンジ「(綾波を感じる、なんだ、この手……)」

サクラ「あの……?」

シンジ「ごめん、なんでもない、そろそろ寝よう。夜更かしは身体に悪いよ」

サクラ「は、はい、わかりました」

【付属病院 駐車場】

レイ(少女)「うふ、うふふっ、気がついた気がついたぁ」

レイ「そう」

レイ(少女)「もっと喜ばないとだめよ。アダムに気がついてもらえたんだから」

レイ「アダムは碇くんの手に?」

レイ(少女)「間違いない。くすくす、波長でわかるもの」

レイ「碇くんも、私と同じ?」

レイ(少女)「私たちとは違う。でも、いずれひとつになる。それはとてもとても気持ちの良いこと」

レイ「そう……」

レイ(少女)「そろそろ私たちも行きましょう」

レイ「ええ、わかったわ」

警備員「あの、ちょっとキミ」

レイ「……なに?」

警備員「こんな深夜にひとりごとをブツブツと言って、なにをやっとるんだね、着てるのは制服か?」

レイ「なんでもない」

警備員「それならいいが、気味悪いからやめてくれよ」

レイ「もう行きます、それじゃ」

警備員「……なんだったんだ」

【ネルフ本部 発令所】

冬月「おはよう」

マヤ「おはようございます、今日はお早いんですね」

冬月「ああ、上の連中と定例会議があるからな。キミたちも早朝から精がでるね」

シゲル「いえ、俺たちは給料もらってますから」

マコト「人類が生き残る為にやっている仕事ですからね、やり甲斐はありますよ」

冬月「……そうか。碇はまだ来ていないのか?」

マヤ「はい、まだお見えになっていません」

冬月「やれやれ、良い上司とは言えんな」

マヤ「そんな。ネルフは、碇司令がいてこそです」

冬月「不満はあるだろう?」

シゲル「そりゃあまあ、不満がないわけじゃないっすけど、一般企業に比べたら天国みたいなもんですよ」

マコト「お前は給料面だけだろう」

シゲル「あったりまえ。充分な手当てがついてれば多少の無理難題なんてどうだっていいね」

マコト「……まったく」

マヤ「いけない、忘れるところだった。副司令に伝達が」

冬月「なにかね?」

マヤ「こちらの資料を赤木博士から渡すように頼まれました」ペラ

冬月「封筒? 手紙、というわけではないようだが」

マヤ「重要なデータらしいので、私も中身までは」

冬月「ふむ」カサ

マコト「おい、露骨な点数稼ぎはやめろよな」こそ

シゲル「陰湿だねぇ、俺はご機嫌とりなんかしてるつもりはないぜぇ?」

冬月「これは……なるほど。赤木博士に会うかね?」

マヤ「はい、この後、ラボに向かいますが」

冬月「君の好きにやりたまえと伝えてくれ。それだけ言えば伝わる」

マヤ「了解」

【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「そう、わかったわ」

マヤ「……あの、先輩。昨日もあまり寝てないんですか? ひどい顔色をしてますけど」

リツコ「そう?」

マヤ「MAGIの調整をやらなきゃいけないのは重々承知してますが、根を詰めすぎですよ」

リツコ「ふ、ふふふっ。問題はMAGIじゃない、私自身よ」

マヤ「それはどういう意味でしょうか……」

リツコ「さぁね、それと、マヤに確認しておきたいんだけど」

マヤ「はい?」

リツコ「部屋の掃除は行き届いてる?」

マヤ「掃除、ですか? そうですね、できてるとは言いませんけど、それなりには」

リツコ「炊事、洗濯は?」

マヤ「今の所は、使徒が来ていませんし、ちゃんと帰れてますよ」

リツコ「そう、それじゃやはり、いらないわね」

マヤ「あの、話がよく……」

リツコ「シンジくんのアルバイト先を探しているのよ。私じゃなくミサトなんだけど」

マヤ「シンジくんですか?」

リツコ「えぇ。マヤの所はどうかって」

マヤ「あ、私はあまり……男の子を家に入れるのは抵抗があります」

リツコ「でしょうね」

マヤ「女性職員よりも男性職員に頼まれては?」

リツコ「考えておくわ、でも、命令だったら?」

マヤ「それが仕事だと仰られるのだったら……でも、納得はできません」

リツコ「もう結構よ、さがっていいわ」

マヤ「は、はい。わかりました……」

【第三新東京都市 郊外】

加持「もしもし」

ユイ「どうしたの?」

加持「赤木リツコがおちました、これで碇司令は孤立無援の状態です、いつでも裏をかけ出し抜けます」

ユイ「はやかったのね。なにか動いた?」

加持「少しばかりね。旧知の間柄でもあるんです、それぐらいはかまわないでしょ?」

ユイ「……それで?」

加持「例の元は、やはり本部のさらに地下にあります。綾波レイのクローンが大量に生産されているのを発見しました」

ユイ「あれはただの器。リリスの魂はひとつしかない、欲しいのは製造方法という技術的な話よ。データはもらえる?」

加持「驚きましたよ、ダミーの正体、そして、EVAの正体にね……近日中にディスクに全てを記録し渡すそうです」

ユイ「まるで遺書ね」

加持「碇司令への最後通達はいつ頃を予定されていますか?」

ユイ「そうね、少し予定をはやめましょう。死人を出す前に。赤木リツコは有能な人材だし、失うのは惜しい」

加持「わかりました、では、帰国後すぐにでも」

【ネルフ本部 発令所】

ミサト「あー、まったく」

マコト「葛城さん、なにかあったんですか?」

ミサト「加持が捕まらないのよ、どこほっつき歩いてんのかしら、あのバカは」

マコト「加持特別監査員ですか? それなら諜報部に聞けば……」

ミサト「とっくにやってるわよ! それでもどこにいるかわかんないわけ!」

マコト「はぁ、諜報部ですら行方がつかめないと。なんだか、怪しくないですかね」

ミサト「……隠れんぼが得意なだけでしょ」

マコト「足取りを掴ませないのはなにかやましいことをしてるからじゃ?」

ミサト「日向くん、思うところがあるのはわかる。だけど、疑って生きてちゃ楽しくないわよ」

マコト「しかし、火のないところに煙はたちませんよ」

シゲル「男の嫉妬は見苦しいねぇ」

マコト「なっ⁉︎」

ミサト「もういいわ。こちらこそ、ごめんなさい」

マコト「あぁ、いえ、そんな」

ミサト「二人に聞きたいんだけど……シンジくんが入院してるって知ってる?」

マコト「いえ?」

シゲル「俺たちにまでは話が降りてきていませんが」

マコト「なにかあったんですか?」

ミサト「いえ、となると、碇司令はご存知なのかしら」

シゲル「司令が知らないってことはないんじゃないすかぁ」

マコト「ご本人に確認されてみては?」

ミサト「そうね。簡単な話だわ」チラ

ゲンドウ「……」

マコト「今なら時間に余裕があるんじゃないですかね」

ミサト「ありがと。ちょっち聞いてくるわ」

ミサト「碇司令、お時間よろしいでしょうか」ビシ

ゲンドウ「なんだ」

ミサト「はっ! 作戦司令として一点お伺いしたい件がございます」

ゲンドウ「手短に済ませ」

ミサト「……サードチルドレンがネルフの付属病院に入院しているそうですが、ご存知でしょうか?」

ゲンドウ「……」

ミサト「あ、あの」

ゲンドウ「詳細を聞かせろ」

ミサト「は?」

ゲンドウ「グズグズするな。報告だ、葛城一尉」

ミサト「は、はっ! 本人による申告ですと手のひらを怪我したようで、病院で治療を受けていると」

ゲンドウ「なぜ入院している」

ミサト「そ、それが……その理由が不明なので」

ゲンドウ「手続きは誰がした?」

ミサト「……」

ゲンドウ「どうした? 続きを話せ」

ミサト「現時点で判明しているのは、加持特別監査員が関わっているのみです。こちらもサードチルドレンよりの申告になります」

ゲンドウ「……わかった。さがっていい」

ミサト「あの、やはり、ご存知なかったのでしょうか」

ゲンドウ「葛城一尉」

ミサト「はっ!」

ゲンドウ「少し、席を外す。代理の指揮系統はまかせる、以上だ」

【ネルフ本部 執務室】

冬月「どうした? いつもと雰囲気が違うな」

ゲンドウ「シンジが入院しているのを知っていたか?」

冬月「どう答えたら満足する?」

ゲンドウ「ふざけるのはよせ。なぜ俺に報告があがっていない」

冬月「雑務を俺に押しつけておいて、報告ひとつ怠っただけでその態度か? とるにたらんだろう。少し怪我をしただけだ」

ゲンドウ「情報の掌握は重要だ。子飼いの鈴が関わっているのも気になる」

冬月「ふん、どうだ? 久しぶりに将棋でもうたんか?」

ゲンドウ「……」

冬月「上の連中の愚痴に付き合って疲れていてね。息抜きがしたい、勝手にひろげさせてもらうよ」ジャラジャラ

ゲンドウ「冬月、どういうつもりだ」

冬月「とりあえず座りたまえ」パチ パチ

ゲンドウ「……」スッ

冬月「本将棋というのは戦略の駆け引きだ。時には百手先を読み合い、駒を駆使して「玉」を目指す。玉は王だ」

ゲンドウ「……」

冬月「気がつかぬままに囲まれている場合もある。このようにな」パチ パチ

ゲンドウ「……」

冬月「そうなると退路はない。逃げ道を塞ぐまでを計算に入れているからだ。待っているのは「詰み」という終わり」

ゲンドウ「まだ詰んではいない」

冬月「いや、もう投了しているのだよ。後は、答え合わせを残すのみ」

ゲンドウ「アダムとEVA三体は我々の手の中にある」

冬月「そういう話ではない、我々は伏兵に内部から崩壊させられたのだ」

ゲンドウ「なに……?」

冬月「いずれわかる時がくる、そう遠くない近い内にな」

ゲンドウ「……」

冬月「仕事が残っているので失礼させてもらうよ。盤面はそのままにしておいてくれればいい」スッ

ゲンドウ「……裏切ったのか」

冬月「相手が悪かったのだ。我々の手の内を知り尽くしている相手がな」

ゲンドウ「……」

冬月「付き合いは楽しいものではなかったが、礼を言わせてくれ。これまで、ありがとう」コツコツ

ゲンドウ「……」ガシャン!

【ネルフ本部 発令所】

シゲル「戦自より入電。ヒトゴマルマルに航空機の格納許可がきています」

ミサト「戦自から? 物資の搬入かしら?」

シゲル「いえ、違うみたいですが、なにやらVIPが来るみたいですね」

ミサト「ぶいあいぴー? お偉いさん?」

マコト「誰でしょうか? 政府関係者かな?」

ミサト「困ったわね。碇司令から指揮権はまかされたけど、対応してもいいのかしら。識別信号はわかる?」

マヤ「シグナルは……エアフォースワン? だ、大統領専用機です」

ミサト「だ、大統領ぉ⁉︎ アメリカの⁉︎」

マヤ「は、はい。間違いありません」

ミサト「大国のトップがお客様じゃない。日本政府じゃなくネルフに何の用なの?」

マコト「さぁ……」

ミサト「なんだかきな臭い感じがするわ……とにかく、滑走路の使用許可は出しておいて。あと日本政府にも確認を」

オペレーター「了解、内閣総理大臣へのホットライン開きます」

ミサト「予定時刻になったら、私がお出迎えに行きます」

【付属病院 屋上】

シンジ「(なんだったんだろう、昨日の感覚。綾波を近くに感じた。やっぱりこの手が原因なのかな)」

カヲル「見晴らしがいいね、ここは」

シンジ「……?」

カヲル「こんにちは」

シンジ「え、えっと……」

カヲル「気にしなくていいよ。その手は、キミに害をなすものじゃない」

シンジ「え?」

カヲル「……キミは、僕と同じだね」

シンジ「だ、だれ?」

カヲル「僕は渚カヲル。よろしく、碇シンジくん」

シンジ「……」

カヲル「そんなに警戒しないでくれ。僕はキミと友達になりたいだけなんだ」

シンジ「その制服、僕と同じ中学校?」

カヲル「そうだよ。同級生なら、少しは安心できるかいな」

シンジ「どうしてここに?」

カヲル「少し、身体が弱くて。定期的に医師に診てもらわないといけないんだ」

シンジ「そうなんだ……」

カヲル「純粋だね、キミは」スッ

シンジ「いっ⁉︎」バッ

カヲル「こわいのかい? 人との接触が」

シンジ「い、いきなり触ろうとされたら、誰だって驚くよ」

カヲル「なら、僕は今からキミに触れる。こうすれば、いきなりじゃなくなる」スッ

シンジ「ちょ、ちょっとまってよ!」

カヲル「どうしたの?」

シンジ「なんなんだよいきなり」

カヲル「人との接触を極端に嫌がるね」

シンジ「みんなそうだと思うよ」

カヲル「心の壁か。他者が自分のテリトリーに入るのを気持ち悪いと思うのは、どうしてだと思う?」

シンジ「さぁ、なんでだろう」

カヲル「自分で完結している世界を誰しもが持っているからだよ」

シンジ「そうかな……入るとしても手順を踏めば、態度は柔らかくなるよ」

カヲル「それすらもこうしてほしいという願望と、こうするのが普通という常識があるから。凝り固まった無意識は、線引きを招いてしまう……強引なのは嫌いかい?」

シンジ「そ、そういう話じゃ……」

カヲル「ここから見える景色は、こんなにも素晴らしい。だけど、ヒトは争いをやめない」

シンジ「……」

カヲル「ネルフ本部に行ってみるといい。父親に会えなくなる前にね」

シンジ「ネルフ? 父さんに?」

カヲル「お父さんは、もうすぐ消える」

シンジ「消えるって……なに言ってるんだよ、父さんが消えるわけないじゃないか」

カヲル「舞台から姿を消すというのは、脇役につきものなんだ。主役じゃないからね」

シンジ「父さんになにか起こるっていうの?」

カヲル「黒幕の交代だよ。そうなると前任者は退場を余儀なくされ、その踏み台にされる。さ、遅くならない内に」

シンジ「キミはいったい……」

カヲル「カヲルでいいよ。シンジくん」

【ネルフ本部 第三ゲート前】

シンジ「なんだか、ネルフに来るのも久しぶりな気がするな」カシャ

保安部「……」スッ

シンジ「え?」

保安部「サードチルドレンですね。お静かに願います」

シンジ「な、なんなんですか、いったい……」

保安部「こちら第三ゲート。サードチルドレンの身柄を確保しました」ピッ

シンジ「確保って」

リツコ「私がお願いしたのよ」

シンジ「リツコさん?」

リツコ「ちょうど近くにいて助かった。任務お疲れ様」

保安部「はっ」

シンジ「僕を探してたんですか?」

リツコ「ええ。見せたいものがあるの。ついてきてもらっていいかしら?」

シンジ「……わかりました」

【ネルフ本部 エレベーター内】

リツコ「……一人暮らしはどう?」

シンジ「感想といえるものはなにも。すぐに入院しましたし、荷解きも済んでません」

リツコ「そう。自分自身になにか変わったと思える部分はある?」

シンジ「それもありません。まだはじまったばかりですから」

リツコ「小さな積み重ねが変化になる。ごもっともな見解ね」

シンジ「……あの、今日はテストはないはずじゃ」

リツコ「言ったでしょ? 見せたいものがあるって。テストとはなんら関係ないわ」

シンジ「めずらしいですね、リツコさんが」

リツコ「普段見られない部分を知る良い機会だと思ってちょうだい。あなたが今から目にするのは、最深部に近く、そして、私の復讐でもある」

シンジ「復讐、ですか」

リツコ「巻き込んでしまって申し訳ないとは思うわ。けど、こうなったのもあなたのお父さんが全て悪いのよ」

シンジ「父さん?」

リツコ「このカード、見たことある?」スッ

シンジ「……いえ」

リツコ「これは、機密保持権限が最も高い者にのみ渡されている鍵よ。ミサトでさえ持っていない」

シンジ「……」

リツコ「シンジくん、ネルフの真実を教えてあげる」

【ネルフ本部 地下施設】

リツコ「どうぞ」カシャ

シンジ「真っ暗ですよ。なにも見えない」

リツコ「今、明かりをつけるわ」カチ

シンジ「……こ、これは……!」

リツコ「どう? ここが彼女のパーツを生産する工場よ」

シンジ「綾波、綾波、レイ。なんでこんなにたくさん」

リツコ「……」

シンジ「ど、どうなってるんですかこれ⁉︎」

リツコ「クローンだから。彼女のパーツを生産する生命のスープよ。中で浮かんでいるのは第二、第三の綾波レイでもある」

シンジ「……う、うそだ……こんなのうそだっ!!」

リツコ「目のあたりにしているのにどこを疑うというの? あなたが人間だと思っていたのは、ただの人形なのよ」

シンジ「あ、うあ……」

リツコ「もっとも、リリスの魂がはいっているのは活動している綾波レイただ1人のみ。ここにあるのは自我をもたない肉の塊にしか過ぎない」

シンジ「……そ、そんなっ……綾波が……」

リツコ「十五年前。セカンドインパクト時に人は神を手に入れたと喜んだ。でも、神はすぐに去ってしまったのよ。そこで人類は神に似た人型兵器を作ろうとした。それがEVA」

シンジ「う、うえっ……」ビチャ

リツコ「極度の緊張とストレスで吐くのはかまわないけど、話を続けるわ。レイはリリスをいれる器として作られた、ダミーなの。モデルはあなたもよく知っている人物」

シンジ「ま、まさか……」

リツコ「――そう、あなたのお母さんよ」

シンジ「……そんな……」

リツコ「あなたのお父さんが企んだ計画でもある。ゼーレというさらに上の組織があるけれど、レイの容姿をユイ博士に似せたのは個人的な話」

シンジ「綾波が、母さんの? 父さんが?」

リツコ「事実よ……! 私を利用したのもすべて……!」

ゲンドウ「そこまでだ。赤木博士」

リツコ「……碇司令⁉︎」バッ

ゲンドウ「ここでなにをしている」

シンジ「と、父さん」

ゲンドウ「お前はさがっていろ」

リツコ「復讐よ! あなたが企んでいたのを全て息子にぶちまけてやる!」

ゲンドウ「ふっ、それがなんになる」

リツコ「理由なんかないわ! 気が済まないのよ! これまで辛いことがあっても、どんなことでも私は耐えてきた!」

ゲンドウ「……」

リツコ「振り向いてほしかったから! 最初に犯されたあの日はこうなるなんて夢にも思ってなかった、ただ嫌悪感があるだけだっのよ。でも、回数を重ねるにつれていつしか、愛されたいと願うようになった」

ゲンドウ「……目はかけていた」

リツコ「道具でしょ⁉︎ 補完計画の目的を聞いたわ!」

ゲンドウ「……」

リツコ「あなたが幸せになるのなんて許せない。許してはならない。だから、壊すの。今さら息子と奥様を取り戻して仲良くするだなんて、虫が良すぎると思わない?」

ゲンドウ「残念だ」カチャ

リツコ「……そう、用済みになったら消すのね」

ゲンドウ「ああ。障害は排除しなければならない」

シンジ「と、父さんっ!」

ゲンドウ「シンジ、黙っていろ」

加持「そこまでです、碇司令」カチャ

シンジ「か、加持さん?」

加持「よっ、あいかわらず巻きこまれてるみたいだな」

ゲンドウ「ネズミが。どこからはいってきた」

加持「隙間があればどこからでも。身軽なのが取り柄なんでね。拳銃を下ろしてもらえますか、引き金を引いてもかまいませんが……その時は、あなたも死にますよ」

ゲンドウ「……断る、要求を飲むのは愚かな行為だ」

加持「このまま睨み合いを続けるつもりですか?」

リツコ「……」

加持「リッちゃんもうなだれてないで加勢してくれるとありがたいんだが、期待できそうにないな」

シンジ「な、なんで、こんなことに」

加持「シンジくん。全ては仕組まれていたのさ。チルドレンの選出も、そしてエヴァもね。仕組んだのは、ゼーレと碇司令、そして――」

ユイ「わたし」

シンジ「か、母さん……」

ユイ「シンジ、術後の経過は良好みたいで安心したわ」

ゲンドウ「……ユイ」

ユイ「あなた、もうおしまいよ。ネルフの権限と担当している業務は私が引き継ぐ。安心して退陣してもらっていいわ」

ゲンドウ「なぜだ、なぜこのような真似をする」

ユイ「さっきの赤木博士の説明は、間違いがある」

リツコ「なんですって?」

ユイ「セカンドインパクトは、アダムが覚醒する前に封印するための儀式だったの。しかし、中途半端に覚醒してしまったアダムは大規模なエネルギーが漏れ、アンチATフィールドを生みだした」

リツコ「バカな……」

ユイ「葛城調査隊を利用して封印を試みたのは、ここにいる私の夫と、ゼーレ」

リツコ「それじゃ、ミサトのお父さんが死んだのは……」

ゲンドウ「必要な犠牲だった。世界のリセットは免れたのだからな」

ユイ「計画には修正が必要なの。それはあなたでは完遂できない、黙って見ていてもよかったのだけど」

ゲンドウ「……」

ユイ「引き際も肝心だとわかってちょうだい。大丈夫、私たちの息子がきっと良い方向に持っていってくれる」

ゲンドウ「このような子供に託せというのか」

ユイ「未来を担うのはいつだって次世代よ。私たちはバトンを紡いでいくだけ、シンジもいつかは次の世代を希望を託すことになる」

ゲンドウ「……」スッ

加持「ふぅ……」

シンジ「……と、父さん」

ゲンドウ「シンジ」

シンジ「なに……?」

ゲンドウ「愚かな父親だった、すまない」

リツコ「……!」ギリッ

シンジ「と、父さん、やめてよ、そんな謝るなんてらしくないよ」

ゲンドウ「いや、これでいい。もう機会もないだろうからな」

ユイ「父親の最後の言葉よ。よく聞いて噛み締めなさい」

シンジ「い、いやだよ、なんで、僕たちまだなにも親子らしいことしてないじゃないかっ!」

ゲンドウ「時は残酷だ。経過があり、そして今の結果がある。受け入れがたい真実を目の前にしても逃げてはいかん」

シンジ「逃げないよ! もう! だから、やめてよ!」

ゲンドウ「しばしのお別れだ。シンジ」カチャ

シンジ「と、父さん、拳銃を自分に当ててなにしてるの? ……なんでまわりも誰も止めないんだよっ!! 誰か止めてよっ!!!」

ゲンドウ「ユイ、シンジを頼んだ」

ユイ「ええ。わかったわ」

――パァンッ!

シンジ「ひっ⁉︎」ベチャ

はい、というわけでこれにて前半~中盤までが完です

※お知らせ

これからユイがゲンドウに代わって司令の立場になるわけですが、以降は18禁板に移行します
これまでの流れをまとめて貼りつけはしないので続きからのスタートになります
スレ立てした際にこのスレにURLとスレタイを告知します

※お知らせ

シンジ「アンケート?」完結編
シンジ「アンケート?」完結編 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1493961977/)

速報R板にスレ立てしましたので告知です。
続きはあちらのスレに投稿します。

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