「今日も頑張るよ、千早ちゃん」

私がガッツポーズをすると

「ええ、がんばりましょう」

如月千早は、えぇ、と頷く。

「先生、今日もよろしくお願いします」

「よし、気合いは十分ね。それじゃいくわよ」

レッスンの先生は、よし、と気合いを入れると、
その後は手拍子の声と、返事をする声が部屋中に響き渡った。

「ありがとうございました。」

レッスンが終わり、いつものように私は家に帰る準備をしていた。

事務所には、ぬいぐるみや誰かの手作りお菓子など、様々な私物が置いてあった。

事務所を出ようとすると、ドアの所に如月千早が立っていた。

「一緒に帰りましょう」

如月千早は耳にイヤホンをつけ、音楽を聴いているようだった。

「うん、帰ろう」

私は事務所に向かって挨拶をすると、如月千早と事務所を後にした。

「今日もがんばったね、千早ちゃん」

こう言うのは日課のようなものだ。
社交辞令のようなものではなく、なんとなく、いつもそう言ってしまうのだった。

如月千早も、えぇと頷いてはいつものように音楽を聴いていた。

外は薄暗くなっていて、道路のあちこちに電気がつき始めていた。

私は、いつものように如月千早に聴いてみた。

「何聴いてるの」

「今話題になってる、Meeting togetherという曲よ」

「えぇ、そうなの？」

「あら、知らなかったのかしら。この曲は今大人気よ」

「へぇ、今日も新しい人気の曲を知ったよ。千早ちゃんいつも詳しいよね」

「そうね。春香、この曲なかなか良いと思うわよ。ちょっと聴いてみたらどうかしら」

「うん、そうする」

私は、如月千早から音楽プレーヤーを渡してもらった。

曲はなかなか良い曲だった。

「確かに、テンポも良くて聴いてて楽しくなる曲だね。なんかこの感じ、ダンスに取り入れてみたいな」

「あら、ならちょうど喫茶店があるし、そこで話し合わない？」

「うん、そうしよう」

私は、すぐ近くにあった喫茶店に入った。

「飲み物は何にする？」

「そうだね。私はりんごジュースにする」

「そう。私はオレンジジュースにするわ」

りんごジュースをひとくち飲んでみると、少し甘めのりんごの味がした。

「少し甘くて、このジュースなんだか凝ってるよ、千早ちゃん」

「そうね。私が飲んだオレンジジュースも、少し甘めよ。

如月千早は、静かにオレンジジュースをテーブルに置いた。

「何か食べる、千早ちゃん？」

「そうね。ちょうどレッスンも終わって、小腹が空いてるところだし、何か食べましょう」

「うん、そうしよう」

私は続けてオーダーを頼んだ。

手元に渡されたのは、ピザだった。

如月千早は、ナイフでピザを半分に切ると、それぞれ皿に移して、片方を私に手渡した。

「ありがとう」

ピザをひとくち千切って食べてみると、少しモチモチとしたチーズの味が口の中に広がった。

「うん、ピザも美味しいね」

「そうね、どんどん食べましょう」

私はピザをひとくち、ひとくち、口に運んでは食べた。

「さっき聴いた曲だけど、やっぱりテンポが良いと思うんだよね」

「サビに入る前のリズム感かしら」

「そうそう、そのリズム感がダンスを踊ってるみたいで、なんだか楽しいダンスを踊ってるような気がしてくるんだよね」

「うんうん」

如月千早は、オレンジジュースをひとくち飲むと、カバンからごそごそと何かを取り出した。

「これが、その曲のCDなんだけど」

「うわー。鮮やかで良いデザインだね」

「そうね。私も良いデザインだと思うわ」

如月千早は、テーブルの上にCDを置いた。

「うーん。やっぱり、楽しいダンスを踊っているような気がするよ、千早ちゃん。今度、何かレッスンに取り入れてみるのも良いと思うよ」

「ええ。私もそれは良いと思うわ。春香、今度試してみましょうか」

「うん。今度先生に話してみよう」

「ええ。そうしてみましょう」

私は、残っていたピザを次々と口に運んだ。

「千早ちゃん、今日は何か良いものを得た気がするよ」

「ふふ、そうね。この喫茶店もおいしくて、良い店だったわ。また来るのもいいかもしれないわね」

「それも、そうだね」

私は、如月千早と喫茶店を後にした。
外はだいぶ暗くなっていて、道は電気で照らされていた。

「今度のレッスンいつだっけ」

「明後日の今日と同じ時間よ」

如月千早は、イヤホンを耳につけ、音楽を聴きながら歩いている。

それはいつもの光景だった。

その横で、私は歩きながら如月千早と話をする。

「千早ちゃん、いつもそうして音楽を聴いてるよね」

私はいつもレッスンを受けて歌やダンスに励み、
いつかライブで歌ったり踊ったりして、小さな頃に見たアイドルのように、私もなってみたいなぁと、偶にそういうことを私は考えた。

「ええ、そうね。春香もこうして音楽を聴いてみたらどうかしら」

そう言って、如月千早はイヤホンを調節する。

「ふふ。いつもレッスンを受けて、千早ちゃんと頑張ったりして、いつと千早ちゃんから音楽の話を聞いたり、何か教えてもらったりすることもあるけど、偶に沢山の人の前で歌ったり、踊ったりしたいなと思うことがあるんだ」

「そう。私もそう思うことはあるわ。それは、春香と同じものかはわからないけど、アイドルたるもの、皆そういうことは考えるんじゃないかしら」

「そうじゃなくて、私はあまり大きな仕事をしたことがなくて、アイドルとして沢山の人の前で歌ったり踊ったりすることがなかったから、いつかそうなれるかなと思うことがあるんだ」

「春香。さっきの話でダンスに気合いが入るのはいいけど、まだ私達はそんなことができるほど、歌もダンスも上手ではないと思う。今日のダンスの話は良かったと思うわ。また一緒にがんばりましょう」

「うん。そうだね」

私は帰る道が分かれるところが近づいたところで、ぐっと手を伸ばして背伸びをした。

「ああ、今日は良い一日だったよ千早ちゃん。明日も朝早くから学校で忙しいけど、また、頑張ろうね」

「えぇ、そうね。私も明日は朝早くて忙しいの。だから、今日は早めに寝ないといけないわ」

「えぇ、そうだったの。いろいろ話して良かったのかな、ごめんね千早ちゃん。今日はありがとね」

「えぇ、レッスンに関する話は大事だと思ったからいいわ。今度のレッスンがんばりましょう」

「うん。じゃあまたね、千早ちゃん」

私は家に帰宅すると、明日に備え早めに寝床についた。

次の日

今日は朝早くから学校があった。

「行ってきます」

私は家を出ると、学校に向かう。

自転車に乗ったり、電車に乗ったり、学校まで少し遠いけれど、毎日ちゃんと通っている。

学校では、私がアイドルとして活動していることが周りの人に知れているけれども、
特別アイドル活動をしていることが、注目の的になることはなく、私は至って普通に過ごしていた。

私の他にも、絵を描いたり、スポーツに励んだりする、熱心な人が沢山いて、凄いなと思う人が沢山いたので、特別アイドルであることが、学校で先生することに何か関わることはなかった。

「えぇと、今日の朝自習は数学かぁ」

私が通っている学校は、朝早くから自習といって
自主勉強のようなものを行う時間があった。

今日は数学の先生から与えられた課題を解いて、丸つけをし、復習をするというメニューだった。

私は配られた紙に目を通して問題を見た。

そこには、最近習ったばかりの問題が並んでいた。

でも、なかなか理解ができなかった私には、少し難しく見えた。

「えぇ、これはどう解けばいいんだっけ。うーん。習った通りに解こうとしても、難しくてなかなか解けないなぁ」

「あら、春香さん。ここをこうすればいいんですよ。ほらここの5という数字を6にかけて計算すればいいんですよ」

丸つけの際、私は隣に座っていた同じクラスの人と一緒に、丸つけを行っていた。

私は、ノートに書いた自分の回答を見て、教えてもらった通り、字を書き写す。

すると、先生が皆の前で大きく話をするのたった。

「いいか、大学生になったら、自分で授業を選択して授業を受けるようになる。数字は理系の分野では基本になるからしっかりと学ぶように。また、そうでない人も、学んで無駄になることはないから、しっかりと勉強した方が良いと思います」

「はい」

私は返事をして、授業が始まる前に準備を始める。

学校生活は楽しいものだった。

学校に通って、勉強して、放課後に音楽ショップに入ってみたり、喫茶店に入ってみたり、小さなお店に入ってみたり、そして、家に帰って宿題をする。

次の日、また学校に向かい、同じクラスの人に、前の日にあった出来事を話し、何処の喫茶店の何が美味しかった。新しくお店ができていたと、話したり

私はそういうふうに過ごしていた。

「あ、そうだ。授業まで時間あるし、昨日千早ちゃんと話したダンスについて考えよう」

ても、私はアイドル。

学校生活を送る中で、自分がアイドルであることを忘れることはあまりなかった。

アイドルとして、私は学校で生活していることがあった。

そんな私は、偶に学校生活に憧れのようなものを感じることがあった。

「さっきはありがとう。今日もがんばろうね」

私は隣に座っている人にそう言った。

その言葉は本心であり、私は普通にそう声をかけていた。

さっ、今日もがんばろう。そう思って、黒板に顔を向けた時、教卓から先生の大きな声が響き渡った。

「おい、皆。ちょっと聞いてくれないか」

注目が集まる中で、先生は静かに口を開いた。

「突然だが、今日、転校生が来ることになった。皆、暖かく迎え入れようか。それじゃあ拍手」

「えぇ、転校生が来たんだ」

私はパチパチと手を鳴らした。

そうして、教卓の前へと、姿を現わす人に顔を向ける。

すると、そこに現れたのは

「初めまして、如月千早です」

私の親友である、同じアイドル活動をしている如月千早だった。

「先週、この街に引っ越して来ました。趣味は音楽鑑賞です。よろしくお願いします」

「よろしく、千早ちゃん」

気がつけば、私は如月千早にそう言っていた。

如月千早は、私の方に顔を向けると
驚いた顔をして少しすっとんきょうな声で言った

「…春香」

「お、天海。お前、知り合いなのか？」

そのとき、先生少し安心したように一息ついて、言った。

「ちょうど良かった。如月さんか。まだ転校して来たばかりで緊張するだろう。天海の隣に席を移すことにしよう」

「よし、転校生も来たことだし、今日は席替えを行う。実行委員、紙クジを用意しろ」

私は、如月千早と隣の席に座っていた。

いつも通って、いつものように過ごそうとしていた学校の場には、いつの間にか如月千早がいた。

如月千早は私に向かって話しかけていた。

「春香、この学校に通ってたのね」

「うん。急でびっくりしたけどよろしくね、千早ちゃん。ここじゃ、私は通い慣れてるから、分からないこととかあったらどんどん聞いていいからね」

「ふふ。えぇ、ありがとう」

「春香。お弁当、一緒に食べましょう」

昼休み。如月千早は授業が終わるとすぐカバンから弁当箱を取り出して、そう言った。

「うん。食べよう」

私もカバンから弁当箱を取り出して、如月千早と机を向かい合わせるのだった。

「いつも、事務所で一緒にご飯を食べることはあったけど、
こうして食べると何か緊張するね」

「えぇ、そうね」

如月千早は、弁当箱からおにぎりを取り出して、ひとくち、ふたくちと口にした。

それは、事務所で見る姿とあまり変わらなかった。

そこで、私はあることに気がついた。

「千早ちゃん。お弁当、自分で作ってるの？」

「えぇ、そうよ」

如月千早は、おにぎりをひとくち食べると、卵焼き、ウインナーと口にしていく。

弁当箱のなかには、規則正しく料理されたものが並んでいた。

「へぇ～。私、毎日お母さんに作ってもらってるから、自分で作るのすごいと思う」

「あら、そう。私はあまり両親に作ってもらうことはなかったから、自分で作ることをあまり特別に思うことはないわ」

如月千早は、水筒からお茶をコップについで、すすっと口ですする。

「自分で作るのも、楽しいものよ」

そう、如月千早はふふっと笑みを浮かべた。

「へぇ～。千早ちゃんって結構大人なんだね。私も偶にお家で何か作ることはあるけど、毎日自分のお弁当を作るのは大変だなぁ」

「あまり上手ではないし、いろいろなものを作ろうとしても、おいしいと思うようなものは作れないんだよね。千早ちゃんは、毎日作っていて困ったりしないの？」

「う～ん。私も最初は自分で作ることに苦労したわ。でも、何か食べたいなと思ったものを、本を買ったりしてその通りに作ったりしているうちに自分で作って食べるようになっていたの。
沢山作り置きして、弁当にすることが多いけど、あっこれもいいかもしれないと新しいものを作ったりしているうちに、いろいろなものを作るようになっていたわ」

「へぇ～…」

そういえば、千早ちゃんとあまり料理の話をすることはなかったかな

私はそう思って、今週、クラスである企画があることを思い出した。

「あっ、そういえば。今週、料理実習があるよ」

「え？そうなの？」

「うん。千早ちゃん、いろんな話聞いたし一緒に何か作ろうよ。私、よくお家でお菓子作ってるんだ」

「あら。それはいいわね」

如月千早は、少し楽しそうに笑みを浮かべた。

千早ちゃんが料理の話で楽しそうにしてるの、事務所ではあまり見ることはなかったなぁ

ふと、私はそう思った。

そのとき、ふと、横から図太い声がした。

「ほう。そうか。如月、自分で料理作ってるのか。今度調理実習があるからら何か作ったらどうだ。先生は嬉しいぞ。如月もちゃんと学校に馴染めそうだからな」

「えぇ。ありがとうございます」

私のクラスの担任の先生が、はっはっと大きな声で笑うのだった。

「いやぁ如月。私はまだ如月が転校してきたばかりで、如月のことをよく知らないんだ。クラスのみんなも、そう思ってると思うぞ。せっかくだから、みんなで輪になろうじゃないか」

「おい、皆。今日の昼休みはみんなで弁当会だ。輪になれ」

「ああ、それいいですね。如月さん、天海さんと知り合いのようですけど、如月さんもアイドルやってるんですか」

「私にも話聞かせてよ」

「えぇと、私は…」

如月千早は少し戸惑うように何かを言っていたが、クラスの元気な人達が、如月千早を輪のなかへと連れていく。

その様子を眺めていると、輪のなかから声がするのだった。

「天海さんもおいでよ」

「あっ。うん」

完全なifストーリーか

外は夕暮れになり、空もほんのりと赤みが差していた。

放課後、一緒に帰りましょうと言う如月千早と一緒に下校し、近くのスーパーに寄っていた。

私は様々に並んでいる食材を眺めながら、頭を悩ませているのだった。

「千早ちゃん。料理実習何つくろうか」

「う～ん。身近な食材で作れるものがテーマだったわね。ここにあるものなら、何処でも手に入りそうだし、身近なものになるわよね。
お肉にキャベツににんじん…。肉とキャベツの炒めなんかどうかしら、これなら、私よく作って弁当にすることがあるわ」

「へぇ～、いいね。ご飯がとても進みそうだよ。じゃあ私は…私は、うーん。千早ちゃん何か食べたいものは…あっそうだ。先に何を作るのか考えよう。その料理をここにあるもので作るの」

「それは、いいわね。私はご飯のおかずになるものを作るから、何かちょっとした甘いものがあるといいわ」

「じゃあケーキなんかどうかな」

「ふふ、本格的なデザートね」

「せっかくの料理実習だし、いいと思う。食材探してくるね」

私はフルーツコーナーへと向かっていた。

そこには、イチゴ、オレンジ、パイナップル…。
他にも数々の果物が並んでいた。

転校してきた千早ちゃんの歓迎祝いに、美味しいケーキを作ろう

果物を選んでいるうちに、いつしか私はそれを楽しんでいた。

「えへへ。いろいろ選んで買ったよ」

私は買いもの袋をじゃらじゃらと鳴らして如月千早に見せていた。

「ふふ。それは料理が楽しみね」

「うん、美味しいものつくるよ」

私は片手を上げてぐっと背伸びをした。

「あ～久しぶりに買いもの楽しんだ気がする。こんなふうに買いものするのも久しぶりかな」

「今日、千早ちゃん、学校に転校して来たんだよね。何か、もうしばらく同じ学校に通っているような気がしてた」

「それは、私もそうよ。といっても、いつも事務所で顔を合わせていたから、それは、そんなに不思議なことではないのかもしれないわね」

「たしかに、それもそうかもね」

私は暫く黙ったまま歩いていた。

事務所ではレッスンが終わったあと、如月千早と分かれ道まで一緒に歩いて帰ることが多かった。

今もいつも通り、私は千早ちゃんと帰っている

何となくそんな気がした

「千早ちゃん。どうして、学校を転校したの？」

ふと、私はそう聞いていた。

如月千早は、少しだけ浮かない顔をして、こう答えるのだった。

「それは…家の仕事の都合で引っ越すことになったの」

「ふーん。千早ちゃん大変なんだね。学校にも転校して来たばかりだし、慣れないこともあるよね。私でよかったら話聞くよ。一緒にがんばろうね、すぐ学校にも慣れると思うし、お友達もできると思うよ」

「えぇ、ありがとう」

如月千早の、えぇという声が横から聞こえて来た。

「私、ここから電車に乗って帰るから、また明日ね。明日のレッスンがんばろうね」

「そうね。ダンスの話、レッスン担当の先生に聞いてみましょう」

「うん。じゃあ」

如月千早はふふっと笑みを浮かべると、背を向けて歩いていく。

私は駅の方へと、階段を駆け上がった。

次の日、朝早く起きた私は、パンとミルクを朝食にとると支度をしてすぐ学校へと向かっていた。

自転車、電車、そして学校まで歩いて登校するのはいつものことだが、少し違う気がしていた。

それは、私の親友である如月千早が同じ学校に通っているからだった。

私は学校に着くと、先に着いていた如月千早に声をかけた。

「おはよう。千早ちゃん」

椅子に座っていた如月千早は、ふっと私の方に顔を向けた。

「おはよう。春香」

如月千早は少し眠そうにふふっと笑うのだった。

「どうしたの、千早ちゃん。少し眠そうだね」

「ええ、ちょっと昨日あまり眠れなくて」

そう言って、如月千早は軽く顔をポンポンと叩いた。

「でも、大丈夫よ。この学校、自習というものがあるのね。私が通ってた学校には無かったわ。結構、勉強熱心ね」

「そうなんだ。千早ちゃんが通ってた学校には、自習は無かったんだね。私もこの学校に通って、朝早くから自習があることに少しびっくりしたんだ」

「そう。春香もそうなのね」

如月千早はカバンからノートを取り出して、配られている課題に目を向けた。

慣れない仕草で課題に目を向ける姿に、私は如月千早が昨日学校に転校して来たことを思い出すのだった。

「千早ちゃん。課題がんばろうね」

私は如月千早に、そう声をかけた。

放課後。私は如月千早と共に事務所へと向かった。
いつも顔を合わせているものの、一緒に事務所まで通うのは初めてのことだった。

私は、如月千早が学校に転校してきてからの生活にまだ戸惑いを感じていた。

如月千早は事務所に着くと、少し話があるから先にレッスンに向かってて、と、プロデューサーさんの所に歩いて行くのだった。

レッスンが始まる前、私はレッスンの先生に、
ダンスの練習に如月千早に紹介してもらった曲を取り入れて練習してみたいという話をした。

先生は、あーそーなの。やる気があるのは良いことだわ。
と、了承した。

私は、話を終えてきた如月千早に、そのことを報告した。

「千早ちゃん。ダンスに曲、取り入れることになったよ！」

「そう。それはよかったわ」

如月千早は、がんばりましょ。と言うのだった。

「ワン、ツー、スリー。ワン、ツー、スリー」

いつもの掛け声に合わせたステップの練習のあと、

如月千早が紹介した、Meeting Togetherという曲がレッスン場に流れた。

「ラー。ララララー。ラララララー」

曲が流れ出すと、レッスンの先生は、ふふっと笑みを浮かべた。

「何だが楽しそうな音楽ね」

「はい。千早ちゃん。踊るよ！」

「ええ。」

私はいつもと違うレッスンに何か期待のようなものを胸に膨らませていた。

レッスンは上出来といえるものだった。

体もいつもより動いていた気がした。

「先生！」

私はレッスンの先生に聞いていた。

「今日のレッスン、どうでしたか？」

「ええ。よかったわ。また、取り入れても良いんじゃないかしら」

先生の返事も、上出来と言えるもので、
私は如月千早にも、このことを報告しようとしていた。

私は、如月千早を探していた。

「千早ちゃん？」

レッスン場には、如月千早の姿は見当たらなかった。

「先生、千早ちゃんは？」

「千早なら、多分事務所の方に戻ったと思うわ。春香も今日はもう帰りなさい」

「あ。はいっ」

私は事務所の方へ向かう。

千早ちゃん。もう帰ったのかな。

いつもは事務所まで一緒に帰る通路を、私は1人で歩いていた。

事務所に着くと、如月千早の姿が目に映った。

そうして私は如月千早に呼びかけようとした。

「あっ。千早ちゃ…」

でも、そこにはプロデューサーさんも居て、如月千早は少し真剣な表情で何かを話しているのだった。

話を終えて来た如月千早に、私は聞いた。

「どうしたの。千早ちゃん」

「ちょっと。話があっただけよ」

如月千早は、少しぼうっとした顔をして、カバンに荷物を詰め込み始める。

それは、朝眠そうにしていた時の姿に似ていた。

「千早ちゃん。」

私は如月千早が学校に転校して来たばかりだったことを、また思い出すのだった。

「学校大変だったりしない？何かあったら、言っていいからね」

「…え？あ。 ええ。今日はゆっくり休むわ。また、明日学校で会いましょう」

そういって、如月千早はふふっと笑みを浮かべるのだった。